Step 2
1 速さ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平均の速さ」の正しい定義と計算です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 平均の速さの定義: 平均の速さは、移動した距離の合計(総移動距離)を、移動にかかった時間の合計(合計時間)で割ることで求められます。
- 等速直線運動: 行きと帰りの運動は、それぞれ速さが一定の等速直線運動です。そのため、距離・速さ・時間の関係式 \(x = vt\) を利用できます。
- 算術平均との違い: 速さが異なる区間がある場合、平均の速さは各区間の速さの単純な平均(算術平均)にはなりません。各区間にかかった時間も考慮する必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 行きと帰りの各区間について、与えられた距離と速さから、等速直線運動の公式を用いて所要時間をそれぞれ計算します。
- (2) 往復の総移動距離(行きと帰りの距離の和)と、合計時間(行きと帰りの時間の和)を求めます。
- (3) 平均の速さの定義式「(総移動距離)÷(合計時間)」に値を代入して、全体の平均の速さを算出します。
思考の道筋とポイント
この問題は、往復運動における「平均の速さ」を求めるものです。ここで最も重要なのは、平均の速さを「速さの平均」と混同しないことです。単純に \(6.0 \text{ m/s}\) と \(4.0 \text{ m/s}\) を足して2で割る(\((6.0+4.0)/2 = 5.0 \text{ m/s}\))という計算は誤りです。物理における平均の速さは、常に「総移動距離を合計時間で割ったもの」と定義されます。したがって、まずは往復にかかった合計時間を求めることが計算の第一歩となります。
この設問における重要なポイント
- 平均の速さ \(=\) (総移動距離) \(/\) (合計時間)
- 各区間の所要時間は、等速直線運動の公式 \(x=vt\) を変形した \(t = \displaystyle\frac{x}{v}\) で計算する。
- 速さの算術平均 \(\displaystyle\frac{v_1+v_2}{2}\) とは異なる値を正しく導出する。
具体的な解説と立式
往復運動全体の平均の速さを \(\bar{v}\) とします。平均の速さの定義に従い、総移動距離 \(x_{\text{合計}}\) と合計時間 \(t_{\text{合計}}\) を用いて立式します。
$$ \bar{v} = \frac{x_{\text{合計}}}{t_{\text{合計}}} \quad \cdots ① $$
総移動距離 \(x_{\text{合計}}\) は、片道の距離が \(300 \text{ m}\) の往復なので、
$$ x_{\text{合計}} = 300 + 300 = 600 \text{ [m]} $$
合計時間 \(t_{\text{合計}}\) は、行きにかかった時間 \(t_1\) と帰りにかかった時間 \(t_2\) の和です。
$$ t_{\text{合計}} = t_1 + t_2 $$
行きと帰りはそれぞれ等速直線運動なので、公式「距離 = 速さ × 時間」を用いて \(t_1\) と \(t_2\) を求めます。
行きの運動について、距離を \(L=300 \text{ m}\)、速さを \(v_1 = 6.0 \text{ m/s}\) とすると、
$$ L = v_1 t_1 \quad \cdots ② $$
帰りの運動について、距離を \(L=300 \text{ m}\)、速さを \(v_2 = 4.0 \text{ m/s}\) とすると、
$$ L = v_2 t_2 \quad \cdots ③ $$
②式と③式から \(t_1\) と \(t_2\) を求め、①式に代入することで平均の速さ \(\bar{v}\) を計算します。
使用した物理公式
- 平均の速さ: \(\bar{v} = \displaystyle\frac{\text{総移動距離}}{\text{合計時間}}\)
- 等速直線運動: \(x = vt\)
まず、行きにかかった時間 \(t_1\) と帰りにかかった時間 \(t_2\) を計算します。
式②より、行きの時間 \(t_1\) は、
$$
\begin{aligned}
300 &= 6.0 \times t_1 \\[2.0ex]
t_1 &= \frac{300}{6.0} \\[2.0ex]
&= 50 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
式③より、帰りの時間 \(t_2\) は、
$$
\begin{aligned}
300 &= 4.0 \times t_2 \\[2.0ex]
t_2 &= \frac{300}{4.0} \\[2.0ex]
&= 75 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
次に、これらの値を使って平均の速さ \(\bar{v}\) を計算します。
総移動距離は \(x_{\text{合計}} = 600 \text{ m}\)、合計時間は \(t_{\text{合計}} = t_1 + t_2 = 50 + 75 = 125 \text{ s}\) です。
式①に代入すると、
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{x_{\text{合計}}}{t_{\text{合計}}} \\[2.0ex]
&= \frac{600}{125} \\[2.0ex]
&= \frac{120 \times 5}{25 \times 5} \\[2.0ex]
&= \frac{120}{25} \\[2.0ex]
&= \frac{24 \times 5}{5 \times 5} \\[2.0ex]
&= \frac{24}{5} \\[2.0ex]
&= 4.8 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
「平均の速さ」を求めるには、「全部でどれだけの距離を、全部でどれだけの時間かけて進んだか」を考えます。
まず、行きと帰りにそれぞれかかった時間を計算しましょう。
行き:距離 \(300 \text{ m}\) を速さ \(6.0 \text{ m/s}\) で進んだので、かかった時間は \(300 \div 6.0 = 50\) 秒です。
帰り:同じく距離 \(300 \text{ m}\) を速さ \(4.0 \text{ m/s}\) で進んだので、かかった時間は \(300 \div 4.0 = 75\) 秒です。
これで、往復運動の全体像が見えました。
合計の移動距離は、行きの \(300 \text{ m}\) と帰りの \(300 \text{ m}\) を合わせて \(600 \text{ m}\) です。
合計のかかった時間は、行きの \(50\) 秒と帰りの \(75\) 秒を合わせて \(125\) 秒です。
最後に、平均の速さの公式「合計距離 ÷ 合計時間」に当てはめて、\(600 \div 125 = 4.8 \text{ m/s}\) と計算できます。
この往復運動における平均の速さは \(4.8 \text{ m/s}\) です。
この結果は、速さの単純な算術平均 \((6.0 + 4.0) / 2 = 5.0 \text{ m/s}\) よりも小さい値です。これは、速さが遅い帰り道(\(4.0 \text{ m/s}\))の方が、速さが速い行き道(\(6.0 \text{ m/s}\))よりも長い時間(\(75\) 秒 vs \(50\) 秒)をかけて移動しているためです。平均の速さは、滞在時間の長い方の速さの影響をより強く受けるため、算術平均よりも遅い方の値に近づきます。したがって、\(4.8 \text{ m/s}\) という結果は物理的に妥当であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 平均の速さの定義:
- 核心: この問題の全ては、「平均の速さ」を物理的に正しく定義できるかにかかっています。平均の速さは、単に各区間の速さを平均(算術平均)したものではなく、「移動した総距離を、かかった合計時間で割ったもの」です。
- 理解のポイント:
- 公式: \(\bar{v} = \displaystyle\frac{x_{\text{合計}}}{t_{\text{合計}}}\)
- なぜ算術平均ではダメなのか?:速さが遅い区間は、同じ距離を進むのにより長い時間がかかります。平均の速さは、この「時間の重み」を考慮した値になるため、単純な算術平均とは異なります。今回の問題では、遅い \(4.0 \text{ m/s}\) で進む時間の方が長いため、平均の速さは算術平均の \(5.0 \text{ m/s}\) よりも遅い方に引き寄せられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 複数区間の移動: A→B→Cのように、3つ以上の区間に分かれて速さが変わる問題。どの区間でも「距離÷速さ=時間」を計算し、最後に全ての距離と時間を合計して定義式に代入するという基本は同じです。
- 休憩を含む移動: 途中で休憩を挟む場合、その休憩時間も「合計時間」に含める必要があります。休憩中の移動距離は0ですが、時間は経過しているため、平均の速さは低下します。
- 文字式での一般化: 片道 \(L\)、行きが \(v_1\)、帰りが \(v_2\) の場合、平均の速さ \(\bar{v}\) は \(\bar{v} = \displaystyle\frac{2L}{\frac{L}{v_1} + \frac{L}{v_2}} = \displaystyle\frac{2v_1v_2}{v_1+v_2}\) となります。この形(調和平均)を覚えておくと検算に役立ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「速さ」か「速度」かを確認: 問題が「平均の速さ」を問うているのか、「平均の速度」を問うているのかを最初に確認します。「速さ」はスカラー量(総移動距離ベース)、「速度」はベクトル量(変位ベース)です。この問題で「平均の速度」を問われた場合、出発点に戻ってくるので変位は0となり、答えは \(0 \text{ m/s}\) になります。
- 「合計」を意識する: 「総移動距離はいくつか?」「合計時間はいくつか?」と常に自問自答します。そのために必要な各区間の距離と時間を、問題文から一つずつ整理していくことが解法の第一歩です。
- 時間の計算を優先: 平均の速さの計算では、多くの場合、各区間の所要時間が直接与えられていません。まずは各区間の時間を求めることが最優先タスクとなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速さの算術平均を計算してしまう:
- 誤解:行きと帰りの速さを単純に足して2で割ってしまう。 \((6.0 + 4.0) \div 2 = 5.0 \text{ m/s}\)
- 対策:「平均の速さ」という言葉を見たら、機械的に「総距離 ÷ 合計時間」の定義式を思い出す訓練をします。「速さの平均」という安易な考えは物理では罠であることが多い、と肝に銘じましょう。
- 平均の速度と混同する:
- 誤解:往復運動で元の位置に戻るから、変位はゼロ。よって平均の速さもゼロだと考えてしまう。
- 対策:「速さ(scalar)」と「速度(vector)」の定義を明確に区別します。速さは道のり(実際に動いた距離)に関係し、常に正の値またはゼロです。速度は変位(始点から終点への直線距離と向き)に関係し、負の値もとり得ます。
- 距離の合計を忘れる:
- 誤解:合計時間 \(125 \text{ s}\) を計算した後、片道の距離 \(300 \text{ m}\) で割ってしまう。 \(300 \div 125 = 2.4 \text{ m/s}\)
- 対策:定義式の分子は「総」移動距離であることを忘れないようにします。往復であれば、片道距離の2倍になります。計算の直前に、\(x_{\text{合計}}\) と \(t_{\text{合計}}\) の値を書き出してから代入する癖をつけると、このミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 平均の速さの定義式 (\(\bar{v} = \displaystyle\frac{\text{総移動距離}}{\text{合計時間}}\)):
- 選定理由:問題が「平均の速さ」を求めることを要求しているため、その定義式をそのまま用いるのが最も直接的で論理的なアプローチです。
- 適用根拠:この公式は、運動の過程(速さがどう変化したか)によらず、最初と最後の結果(どれだけ進んで、どれだけ時間がかかったか)だけから全体の平均的な速さを表すことができる、普遍的な関係式です。
- 等速直線運動の公式 (\(x = vt\)):
- 選定理由:平均の速さの定義式を適用するには「合計時間」を知る必要があります。問題文には各区間の時間は書かれておらず、距離と速さが与えられています。行きと帰りはそれぞれ「速さが一定」なので、等速直線運動の公式を使って未知の時間 \(t\) を計算することができます。
- 適用根拠:公式 \(x=vt\) を \(t\) について解く(\(t = x/v\))ことで、既知の情報である距離 \(x\) と速さ \(v\) から、必要な情報である時間 \(t\) を導き出すことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の割り算を丁寧に行う: \(600 \div 125\) のような、一見して割り切れるかわかりにくい計算は、焦らずに約分を繰り返します。
- 両端が0と5なので、まず5で割る: \(\displaystyle\frac{600}{125} = \displaystyle\frac{120}{25}\)
- 再び両端が0と5なので、もう一度5で割る: \(\displaystyle\frac{120}{25} = \displaystyle\frac{24}{5}\)
- ここまで来れば、暗算でも \(4.8\) と計算できます。大きな数での筆算を避けることで、計算ミスを大幅に減らせます。
- 概算で答えを予測する: 計算を始める前に、答えがどのくらいの値になるか予測する習慣をつけましょう。今回は \(6.0 \text{ m/s}\) と \(4.0 \text{ m/s}\) の間の値になるはずです。さらに、遅い \(4.0 \text{ m/s}\) で進む時間の方が長いので、平均は真ん中の \(5.0 \text{ m/s}\) よりは \(4.0 \text{ m/s}\) に近くなるはずです。計算結果の \(4.8 \text{ m/s}\) はこの予測と一致しており、答えの妥当性を確認できます。
- 単位を意識した立式: 時間を求める際に \(t_1 = 300/6.0\)、\(t_2 = 300/4.0\) と数字だけで計算するのではなく、頭の中で「(m) / (m/s) = (s)」という単位の計算も同時に行い、求めている物理量が正しく「時間」になっているかを確認する癖をつけましょう。
2 等速直線運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「等速直線運動」の基本的な関係式の理解と応用です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 変位の定義: 物体の位置の変化を表すベクトル量で、「後の位置」から「前の位置」を引くことで計算されます。
- 速度の定義: 単位時間あたりの変位のことで、変位を経過時間で割ることで求められます。等速直線運動では、速度は常に一定です。
- 等速直線運動の公式: ある時刻 \(t\) における物体の位置 \(x\) は、初期位置を \(x_0\)、速度を \(v\) とすると、\(x = x_0 + vt\) という式で表されます。
- 変位、速度、位置、時刻の関係性: これらの物理量が互いにどのように関連しているかを理解することが、問題を解く上で不可欠です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、変位の定義式 \(\Delta x = x_{\text{後}} – x_{\text{前}}\) に与えられた値を代入して変位を求めます。
- (2)では、(1)で求めた変位と問題文で与えられた経過時間を用いて、速度の定義式 \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) から速さを計算します。
- (3)では、(2)で求めた速さと初期位置を等速直線運動の公式 \(x = x_0 + vt\) に代入し、指定された位置を通過する時刻を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
「変位」を求める問題です。変位は、単なる距離ではなく、向きを含んだ「位置の変化量」である点を正確に理解しているかが問われます。定義に従って、「後の位置」から「前の位置」を引くことで計算します。
この設問における重要なポイント
- 変位の定義は \(\Delta x = x_{\text{後}} – x_{\text{前}}\) である。
- 変位はベクトル量であり、計算結果の符号がx軸上の向き(正または負)を表す。
具体的な解説と立式
求める変位を \(\Delta x\) とします。問題文より、時刻 \(t_1 = 0 \text{ [s]}\) のときの初期位置は \(x_1 = 3 \text{ [m]}\)、時刻 \(t_2 = 8 \text{ [s]}\) のときの後の位置は \(x_2 = 7 \text{ [m]}\) です。
変位の定義に従って立式します。
$$ \Delta x = x_2 – x_1 $$
使用した物理公式
- 変位の定義: \(\Delta x = x_{\text{後}} – x_{\text{前}}\)
与えられた値を代入して変位 \(\Delta x\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= 7 – 3 \\[2.0ex]
&= 4 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
計算結果が正の値であるため、変位の向きはx軸の正の向きです。
「変位」とは、「位置がどれだけ変わったか」を表す量です。数直線の上で、スタート地点が「3」で、ゴール地点が「7」だったと考えてみましょう。どれだけ動いたかは、ゴールの座標からスタートの座標を引けばわかります。つまり、\(7 – 3 = 4\) です。答えがプラスなので、これは「正の向きに4m動いた」ことを意味します。
\(t=0 \text{ [s]}\) から \(t=8 \text{ [s]}\) の間の変位は、x軸の正の向きに \(4 \text{ m}\) です。計算結果の符号が正であり、問題文の「正の向きに運動している」という記述と一致するため、この答えは妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体の「速さ」を求める問題です。問題文に「一定の速さで運動」とあるため、これは等速直線運動です。したがって、(1)で求めた変位とその間の経過時間を使えば、速度の定義式から一定の速さを計算することができます。
この設問における重要なポイント
- 速度の定義は \(v = \displaystyle\frac{\text{変位}}{\text{経過時間}} = \frac{\Delta x}{\Delta t}\) である。
- 等速直線運動では、どの時間区間をとって計算しても速度(速さ)は一定になる。
具体的な解説と立式
求める速さを \(v\) とします。速度は変位を経過時間で割ることで求められます。
(1)より、変位 \(\Delta x\) は \(4 \text{ m}\) です。
この変位が生じた間の経過時間 \(\Delta t\) は、\(t=0 \text{ [s]}\) から \(t=8 \text{ [s]}\) までなので、\(8 – 0 = 8 \text{ [s]}\) です。
これらの値を速度の定義式に代入します。
$$ v = \frac{\Delta x}{\Delta t} $$
使用した物理公式
- 速度の定義: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
値を代入して速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{4}{8 – 0} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{8} \\[2.0ex]
&= 0.5 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
「速さ」とは、「1秒あたりにどれだけ進むか」ということです。(1)の結果から、この物体は「8秒間」で「4m」進んだことがわかっています。では、1秒あたりではどれだけ進むでしょうか。これは、\(4 \text{ m} \div 8 \text{ s}\) を計算すればよく、答えは \(0.5 \text{ m/s}\) となります。
物体の速さは \(0.5 \text{ m/s}\) です。速さは正の値であり、物体がx軸の正の向きに運動していることと矛盾しません。
問(3)
思考の道筋とポイント
特定の「位置」を通過する「時刻」を求める問題です。物体の運動は等速直線運動であることがわかっているので、位置と時刻の関係を表す公式 \(x = x_0 + vt\) を利用します。初期位置 \(x_0\) と速さ \(v\) はすでに判明しているため、目標の位置 \(x\) を代入すれば、未知数である時刻 \(t\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 等速直線運動の位置と時刻の関係式 \(x = x_0 + vt\) を利用する。
- \(x_0\) は時刻 \(t=0\) における初期位置である。
具体的な解説と立式
求める時刻を \(t\) とします。等速直線運動における任意の位置 \(x\) と時刻 \(t\) の関係は、次の公式で表されます。
$$ x = x_0 + vt $$
ここで、各値は以下の通りです。
- 目標の位置: \(x = 5 \text{ [m]}\)
- 初期位置(\(t=0\) の位置): \(x_0 = 3 \text{ [m]}\)
- 速さ((2)で計算): \(v = 0.5 \text{ m/s}\)
これらの値を公式に代入して、\(t\) に関する方程式を立てます。
$$ 5 = 3 + 0.5 \times t $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = x_0 + vt\)
上記で立てた方程式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
5 &= 3 + 0.5t \\[2.0ex]
0.5t &= 5 – 3 \\[2.0ex]
0.5t &= 2 \\[2.0ex]
t &= \frac{2}{0.5} \\[2.0ex]
t &= 4 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
この物体は、スタート地点である位置「3」から、秒速 \(0.5 \text{ m}\) で進んでいきます。目標地点は位置「5」です。まず、目標地点までどれだけの距離を進む必要があるかを考えます。それは \(5 – 3 = 2 \text{ m}\) です。この \(2 \text{ m}\) の距離を、秒速 \(0.5 \text{ m}\) で進むには何秒かかるでしょうか。これは「時間 = 距離 ÷ 速さ」で計算できるので、\(2 \div 0.5 = 4\) 秒となります。
物体が \(x=5 \text{ [m]}\) の位置を通過する時刻は \(4 \text{ s}\) です。この時刻は観測区間である \(0 \text{ s} \sim 8 \text{ s}\) の間にあり、その位置 \(x=5 \text{ m}\) も初期位置 \(x=3 \text{ m}\) と最終位置 \(x=7 \text{ m}\) の間にあるため、物理的に考えて妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等速直線運動の包括的理解:
- 核心: この問題は、等速直線運動を記述するための3つの基本的な物理量(変位、速度、位置)と時刻の関係性を、それぞれ正しく理解し、使い分ける能力を試しています。
- 理解のポイント: 以下の3つの関係式は、すべて「等速直線運動」という一つの現象を異なる側面から見たものであり、互いに密接に関連しています。
- 変位: \(\Delta x = x_{\text{後}} – x_{\text{前}}\) (位置の変化量を計算する)
- 速度: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) (変位と時間から速度を定義する)
- 位置と時刻の関係: \(x = x_0 + vt\) (初期位置と速度から未来の位置を予測する)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(x-t\)グラフの読解・作成問題: この問題の運動を\(x-t\)グラフで表現すると、点(\(0, 3\))と点(\(8, 7\))を結ぶ直線になります。グラフの「傾き」が速度\(v\)を、「y切片」が初期位置\(x_0\)を表すことを利用して、グラフから物理量を読み取ったり、逆に物理量からグラフを作成したりする問題に応用できます。
- 2物体のすれ違い・追い越し問題: もう1つの物体Bが異なる初期位置や速度で運動する場合、「AとBが出会う(すれ違う)時刻と位置」を問う問題。それぞれの物体の位置を表す式 \(x_A(t) = 3 + 0.5t\) と \(x_B(t)\) を立て、\(x_A(t) = x_B(t)\) という連立方程式を解くことで求められます。
- 初期時刻が0でない問題: 例えば「時刻\(t=2 \text{ s}\)に\(x=4 \text{ m}\)を通過」のような条件が与えられた場合。\(x = x_0 + vt\) の \(t\) を「基準となる時刻からの経過時間」と解釈し、\(x – x_1 = v(t – t_1)\) のように式を立てて対応します。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動の種類を特定する: 問題文中の「一定の速さで」というキーワードを見つけ、即座に「等速直線運動」の公式群を頭に思い浮かべます。これにより思考の範囲が絞られます。
- 物理量を整理する: 問題文で与えられている情報(\(t=0\)で\(x=3\)、\(t=8\)で\(x=7\)など)と、各設問で求められている未知の物理量((1)変位、(2)速さ、(3)時刻)を明確にリストアップします。
- 適切な公式を選択する: 整理した「既知の量」と「未知の量」を見比べ、どの公式を使えば未知数を一つだけ含む方程式を立てられるかを考えます。例えば(1)では位置が2つわかっているので変位の定義式、(2)では変位と時間がわかったので速度の定義式、というように連鎖的に解いていきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 公式 \(x=vt\) の無条件な使用:
- 誤解: (3)で、初期位置を考慮せず \(x=vt\) の公式を使い、\(5 = 0.5t\) と計算して \(t=10 \text{ s}\) と答えてしまう。
- 対策: \(x=vt\) は、初期位置 \(x_0=0\) の場合にのみ成り立つ特別な式だと認識します。初期位置がある場合は、必ずフルバージョンの \(x = x_0 + vt\) を使う癖をつけましょう。「現在の位置 = スタート位置 + スタートからの移動距離」と日本語で意味を理解すると、このミスは防げます。
- 位置と変位の混동:
- 誤解: (1)で「変位はいくらか」と問われているのに、後の位置である \(7 \text{ m}\) や、移動距離の \(4 \text{ m}\) ではなく、単に位置 \(x=4 \text{ m}\) と答えてしまう。
- 対策: 「位置」は数直線上の特定の”点”(座標)、「変位」は2点間の”差”(ベクトル)であることを明確に区別します。変位を答える際は「どちらの向きにどれだけ」という情報が含まれていることを意識しましょう。
- 引き算の順序ミス:
- 誤解: 変位を計算する際に、うっかり「前の位置 – 後の位置」(\(3-7=-4\))と計算してしまう。
- 対策: 変位は常に「後 – 前」であると徹底します。計算結果の符号は運動の向きを表す重要な情報です。今回は「正の向きに運動」と問題文にあるので、計算結果も正になるはずだと予測することで、ミスに気づくことができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 変位の定義式 (\(\Delta x = x_{\text{後}} – x_{\text{前}}\)):
- 選定理由: (1)で問われているのが「変位」という物理量そのものであり、その計算に必要な「前の位置」と「後の位置」が問題文で与えられているため、定義式を直接適用するのが最も合理的です。
- 速度の定義式 (\(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)):
- 選定理由: (2)で「速さ」を求める必要があり、その計算に必要な「変位 \(\Delta x\)」が(1)で求まり、「経過時間 \(\Delta t\)」も問題文から読み取れるため、これらの既知の量から未知の量を導出できるこの公式を選択します。
- 等速直線運動の公式 (\(x = x_0 + vt\)):
- 選定理由: (3)では「特定の”位置”を通過する”時刻”」が問われており、これは位置と時刻の関係性を表す式を使う典型的な場面です。
- 適用根拠: (1)と(2)を通じて、この物体の運動を完全に特徴づけるパラメータ(初期位置 \(x_0=3\)、速度 \(v=0.5\))がすべて明らかになりました。これにより、任意の時刻\(t\)における位置\(x\)を予測する万能な方程式が手に入ったことになり、これを使えば未知の時刻\(t\)を逆算できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 小数の割り算は分数に直す: (3)の \(t = 2 \div 0.5\) のような計算は、焦るとミスしやすいポイントです。\(t = \displaystyle\frac{2}{0.5} = \displaystyle\frac{20}{5} = 4\) のように、分母と分子を10倍して整数の割り算に直すことで、確実性が格段に上がります。
- 代入する値を再確認する: \(x = x_0 + vt\) のような複数の文字を含む公式では、どの文字にどの値を代入するかを間違えないように注意が必要です。特に \(x\)(目標の位置)と \(x_0\)(初期の位置)の取り違えに気をつけましょう。
- 答えの妥当性を吟味する: 計算後、出た答えが物理的にあり得るかを考えます。(3)で出た答え \(t=4 \text{ s}\) は、観測時間 \(0 \text{ s} \sim 8 \text{ s}\) の中にあり、その時の位置 \(x=5 \text{ m}\) も、観測位置 \(x=3 \text{ m} \sim 7 \text{ m}\) の間にあります。この簡単なチェックで、大きな間違いをしていないかを確認できます。
3 等速直線運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「x-tグラフの解釈と等速直線運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- x-tグラフと物理量の関係: x-tグラフの「傾き」が物体の速度を、「y切片」が初期位置を表すという、グラフの幾何学的特徴と物理的な意味の対応を理解することが重要です。
- 等速直線運動: x-tグラフが直線であることから、物体の速度が一定である(等速直線運動をしている)と判断します。
- v-tグラフへの変換: 等速直線運動のv-tグラフは、速度が時間によらず一定であるため、横軸に平行な直線になります。
- 等速直線運動の公式: 任意の位置と時刻の関係を表す公式 \(x = x_0 + vt\) を用いて、グラフの範囲外の情報を予測します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、x-tグラフから2点の座標を正確に読み取り、その傾きを計算することで物体の速さを求めます。
- (2)では、(1)で求めた速さが一定であることを基に、縦軸を速度、横軸を時刻とするv-tグラフを作成します。
- (3)では、グラフから初期位置を読み取り、(1)で求めた速さと合わせて等速直線運動の公式に代入し、指定された時刻での位置を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体の速さを求める問題です。与えられたx-tグラフが直線であることに着目します。x-tグラフにおいて、その傾きは物体の速度を表します。したがって、グラフの傾きを計算することが、そのまま速さを求めることにつながります。
この設問における重要なポイント
- x-tグラフの傾きは速度を表す。
- 傾きは、グラフ上の任意の2点の座標を使って「位置の変化量(\(\Delta x\))÷ 時間の変化量(\(\Delta t\))」で計算できる。
- グラフの目盛りを正確に読み取ることが計算の前提となる。
具体的な解説と立式
求める速さを \(v\) [m/s] とします。これはx-tグラフの傾きに等しくなります。グラフから、計算しやすい2点の座標を読み取ります。
- 時刻 \(t_1 = 0 \text{ [s]}\) のとき、位置は \(x_1 = 2.0 \text{ [m]}\)
- 時刻 \(t_2 = 8.0 \text{ [s]}\) のとき、位置は \(x_2 = 6.0 \text{ [m]}\)
これらの値を用いて、傾き(速度)を計算する式を立てます。
$$ v = \frac{x_2 – x_1}{t_2 – t_1} $$
使用した物理公式
- 速度の定義: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) (x-tグラフの傾き)
読み取った値を代入して、速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{6.0 – 2.0}{8.0 – 0} \\[2.0ex]
&= \frac{4.0}{8.0} \\[2.0ex]
&= 0.50 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
グラフの「傾き」が「速さ」を表します。傾きは「縦にどれだけ進んだか ÷ 横にどれだけ進んだか」で計算できます。グラフを見ると、横に \(8.0\) 秒進む間に、縦には位置 \(2.0 \text{ m}\) から \(6.0 \text{ m}\) まで、つまり \(4.0 \text{ m}\) 進んでいます。したがって、速さは \(4.0 \text{ m} \div 8.0 \text{ s} = 0.50 \text{ m/s}\) となります。
物体の速さは \(0.50 \text{ m/s}\) です。グラフの傾きが正であることから、物体はx軸の正の向きに運動していることがわかります。速さが正の値として計算された結果と一致しており、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
物体の運動をv-tグラフで表現する問題です。まず、x-tグラフの形状から物体の運動の種類を判断します。x-tグラフが直線であるため、傾き(=速度)は一定です。この「速度が一定」という情報をv-tグラフでどのように表現するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- x-tグラフが直線の場合、物体は等速直線運動をしている。
- 等速直線運動では、速度 \(v\) は時刻 \(t\) によらず一定の値をとる。
- v-tグラフでは、縦軸の値が一定の、横軸に平行な直線となる。
具体的な解説と立式
x-tグラフが直線であることから、この物体は等速直線運動をしていることがわかります。(1)で計算した通り、その速さは \(v = 0.50 \text{ m/s}\) で一定です。
したがって、縦軸を速度 \(v\)、横軸を時刻 \(t\) とするv-tグラフを描くと、時刻が変化しても速度の値は常に \(0.50\) のままです。これは、縦軸の \(v=0.50\) の点を通り、横軸(t軸)に平行な直線として描かれます。
使用した物理公式
- 等速直線運動の定義(速度が時間によらず一定であること)
この設問は作図が目的であり、(1)で求めた速さ \(v=0.50 \text{ m/s}\) を用いる以外に新たな計算は不要です。
(1)で、この物体の速さはいつでも \(0.50 \text{ m/s}\) で変わらないことがわかりました。この「ずっと同じ速さ」という様子を、縦軸が速さ、横軸が時間のグラフで表します。時間が \(0\) 秒のときも、\(8.0\) 秒のときも、それ以外のどんな時刻でも速さは \(0.50 \text{ m/s}\) なので、グラフは縦軸の \(0.50\) の高さのところを真横にまっすぐ引いた直線になります。
縦軸が \(v \text{ [m/s]}\)、横軸が \(t \text{ [s]}\) のグラフにおいて、\(v=0.50\) の高さで横軸に平行な直線を描きます。これは、速度が一定である等速直線運動のv-tグラフとして正しい表現です。
問(3)
思考の道筋とポイント
特定の時刻における物体の位置を求める問題です。物体の運動は等速直線運動であることがわかっているので、位置と時刻の関係を表す公式 \(x = x_0 + vt\) を利用します。この公式を使うためには、初期位置 \(x_0\) と速さ \(v\) の値が必要です。速さ \(v\) は(1)で、初期位置 \(x_0\) はx-tグラフの \(t=0\) の点(y切片)から読み取ることができます。
この設問における重要なポイント
- 等速直線運動の公式 \(x = x_0 + vt\) を適用する。
- 初期位置 \(x_0\) は、x-tグラフの \(t=0\) における位置(y切片)から読み取る。
- 速さ \(v\) は(1)で求めた値を使用する。
具体的な解説と立式
求める位置を \(x\) [m] とします。物体の運動は等速直線運動なので、公式 \(x = x_0 + vt\) を用います。
各値は以下の通りです。
- 初期位置(\(t=0\) での位置): グラフのy切片より \(x_0 = 2.0 \text{ [m]}\)
- 速さ((1)で計算): \(v = 0.50 \text{ m/s}\)
- 目標の時刻: \(t = 15 \text{ [s]}\)
これらの値を公式に代入して、位置 \(x\) を計算する式を立てます。
$$ x = 2.0 + 0.50 \times 15 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動の公式: \(x = x_0 + vt\)
上記で立てた方程式を計算します。
$$
\begin{aligned}
x &= 2.0 + 0.50 \times 15 \\[2.0ex]
&= 2.0 + 7.5 \\[2.0ex]
&= 9.5 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この物体は、スタート地点である位置 \(2.0 \text{ m}\) から、秒速 \(0.50 \text{ m}\) でずっと進んでいきます。では、\(15\) 秒後にはどの位置にいるでしょうか?
まず、\(15\) 秒間でどれだけの距離を進むかを計算します。「進んだ距離 = 速さ × 時間」なので、\(0.50 \times 15 = 7.5 \text{ m}\) です。
スタート地点が \(2.0 \text{ m}\) だったので、そこから \(7.5 \text{ m}\) 進んだ場所がゴールです。したがって、ゴールの位置は \(2.0 + 7.5 = 9.5 \text{ m}\) となります。
時刻 \(t=15 \text{ s}\) における物体の位置は \(x=9.5 \text{ m}\) です。グラフは \(t=8.0 \text{ s}\) で \(x=6.0 \text{ m}\) に達しており、その後も同じ速さで進み続けるため、\(t=15 \text{ s}\) ではさらに位置が大きくなるはずです。\(9.5 \text{ m}\) という結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- x-tグラフの物理的解釈:
- 核心: この問題は、x-tグラフという視覚情報から、物体の運動に関する物理量を定量的に読み解く能力を試しています。特に、グラフの幾何学的な特徴である「傾き」と「y切片」が、それぞれ物理的な意味を持つ「速度」と「初期位置」に対応することを理解しているかが全てです。
- 理解のポイント:
- 傾き = 速度 (\(v\)): グラフの傾きが一定(直線)であれば、速度も一定(等速直線運動)です。傾きの急さが速さの大きさを表します。
- y切片 = 初期位置 (\(x_0\)): グラフが縦軸(\(x\)軸)と交わる点の値は、運動の開始点である時刻 \(t=0\) での物体の位置を意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- v-tグラフからの情報読み取り・変換: 逆にv-tグラフが与えられ、そのグラフから加速度(傾き)や移動距離(グラフと軸で囲まれた面積)を求め、x-tグラフを作成する問題。
- 折れ線のx-tグラフ: 途中で速さが変わる運動(例:静止→等速→別の速さで等速)。グラフが折れ曲がる時刻で運動が変化していると読み取り、区間ごとに傾きを計算してそれぞれの運動を分析します。
- 2物体のすれ違い・追い越し: 2つの物体のx-tグラフを同一の座標軸に描き、グラフの交点が「すれ違う」または「追いつく」時刻と位置を表すことを利用する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの軸を確認する: まず、縦軸が位置\(x\)、速度\(v\)、加速度\(a\)のどれなのかを絶対に確認します。これを間違うと全ての解釈が誤りになります。
- グラフの形状を大まかに把握する: グラフが直線か、曲線か、折れ線かを見て、運動の全体像(等速、加速・減速、運動の変化)を掴みます。この問題では直線なので「等速直線運動」と即座に判断します。
- 傾きと切片の値を読み取る: 運動の種類を把握したら、具体的な数値を求めます。「傾きはいくつか?」「y切片はいくつか?」をグラフから正確に読み取ることで、運動を記述するのに必要なパラメータ(\(v\)と\(x_0\))が揃います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 傾きの計算で原点を使ってしまう:
- 誤解: (1)で速さを求める際、y切片が \(2.0\) であるにもかかわらず、原点(\(0,0\))と点(\(8.0, 6.0\))を結ぶ傾きを計算してしまう。
- 対策: 傾きは必ず「グラフ上の2点」を結んで計算することを徹底します。y切片が0でない場合は、原点はグラフ上の点ではないため、絶対に使ってはいけません。「傾き = \(\Delta x / \Delta t = (x_2 – x_1) / (t_2 – t_1)\)」という定義式に忠実に計算する習慣をつけましょう。
- x-tグラフとv-tグラフの形状を混同する:
- 誤解: (2)でv-tグラフを描く際に、x-tグラフの形につられて、同じような右上がりの直線を描いてしまう。
- 対策: 「x-tグラフの傾きが、v-tグラフの縦軸の値になる」という変換ルールを明確に意識します。x-tグラフが直線(傾きが一定)ならば、v-tグラフは水平な直線(縦軸の値が一定)になる、という対応関係をセットで記憶することが有効です。
- 公式 \(x=vt\) を初期位置を無視して使う:
- 誤解: (3)で位置を計算する際に、初期位置 \(x_0=2.0\) の存在を忘れ、\(x = vt = 0.50 \times 15 = 7.5 \text{ [m]}\) と計算してしまう。
- 対策: 公式 \(x=vt\) は、原点(\(x_0=0\))から出発する場合の特殊な形であることを理解します。グラフにy切片がある場合は、必ずフルバージョンの公式 \(x = x_0 + vt\) を使うことを徹底しましょう。「\(t\)秒後の位置 = スタート位置 + スタートから進んだ距離」と日本語で意味を捉えると、初期位置を足し忘れるミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 速度の定義式 (\(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)):
- 選定理由: (1)で速さを求めるため。これはx-tグラフの「傾き」の定義そのものであり、グラフから速度という物理量を抽出するための最も直接的な手段です。
- 適用根拠: グラフから、異なる2つの時刻における2つの位置の座標を読み取ることができます。これにより変位 \(\Delta x\) と経過時間 \(\Delta t\) が確定するため、速度 \(v\) を一意に決定できます。
- 等速直線運動の公式 (\(x = x_0 + vt\)):
- 選定理由: (3)で、グラフに描かれていない未来の時刻における位置を予測するために使用します。
- 適用根拠: x-tグラフが直線であることから、この運動は \(x = x_0 + vt\) という一次関数で完全に記述できることが保証されています。グラフから傾き(\(v\))とy切片(\(x_0\))を読み取ることで、この運動の「設計図」となる式が完成します。この式さえあれば、任意の時刻 \(t\) を代入することで、そのときの物体の位置 \(x\) を知ることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 座標の読み取りを慎重に: グラフから値を読み取る際は、必ず軸の目盛りを確認します。点(\(8.0, 6.0\))やy切片(\(0, 2.0\))など、対応するx軸とy軸の値を指でなぞって確認する癖をつけましょう。
- 有効数字の意識: 問題のグラフや解答例で \(2.0\), \(6.0\), \(8.0\), \(0.50\) のように有効数字2桁で表記されている場合、計算過程や最終的な答えもそれに合わせるのが望ましいです。
- 小数の乗算: (3)の \(0.50 \times 15\) の計算は、\(0.5 = 1/2\) であることを利用して「15の半分」と考えると、\(7.5\) と素早く正確に計算できます。簡単な計算ほど、別の視点から検算する意識を持つとミスが減ります。
- 代入する値のリストアップ: (3)で公式に代入する前に、「\(x_0 = 2.0\), \(v = 0.50\), \(t = 15\)。求めるのは \(x\)。よし、代入しよう」というように、使う値を一度書き出すか頭の中で整理するワンクッションを置くと、代入ミスを防げます。
4 速度の合成
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「速度の合成」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 合成速度: 動いている観測者から見た物体の速度(相対速度)と、その観測者自身の速度を足し合わせることで、静止した観測者から見た物体の速度(合成速度)が求められます。
- 言葉の定義の整理: 「風がないときの速さ」は「空気に対する飛行機の速さ」を意味し、「向かい風の中を飛んだ」結果は「地面に対する飛行機の速さ」を計算するための情報となります。
- ベクトルの和: 速度は向きを持つベクトル量です。一直線上の運動では、向きを正負の符号で表すことで、ベクトルの和を単純な足し算として扱うことができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) まず、向かい風の中で実際に観測された飛行記録(移動距離と経過時間)から、地面から見た飛行機の速さを計算します。
- (2) 次に、「地面から見た速度 = 空気に対する速度 + 風の速度」という速度の合成則の式を立てます。
- (3) 最後に、(1)で求めた速さと、問題文で与えられた「風がないときの速さ」を式に代入して、未知数である風の速さを求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、3つの異なる速度の関係を正しく整理することが鍵となります。
- 空気に対する飛行機の速度: 風が吹いていないときに飛行機が出せる本来の速度です。
- 地面に対する風の速度: いわゆる「風速」です。今回はこれが未知数です。
- 地面に対する飛行機の速度: 風の影響を受けた結果、地面にいる観測者から見て実際に進んでいる速度です。
これらの関係は、速度の合成則によって結びつけられます。問題文の「\(8.0 \text{ s}\) で \(28 \text{ m}\) 飛んだ」という観測事実は、地面から見た実際の運動記録なので、これから「地面に対する飛行機の速度」を計算することができます。この値を合成則の式に代入すれば、未知の風の速さを導き出すことができます。
この設問における重要なポイント
- 合成速度の公式: \(v_{\text{機,地}} = v_{\text{機,気}} + v_{\text{気,地}}\) (飛行機の地面に対する速度 = 飛行機の空気に対する速度 + 風の地面に対する速度)
- 一直線上の運動では、進行方向を正と決め、逆向きの速度を負の値として扱う。
- 「向かい風」とは、飛行機の進行方向とは逆向きに吹く風のことである。
具体的な解説と立式
模型飛行機の進行方向を正の向きとします。各速度を以下のように定義します。
- \(v_{\text{機,地}}\): 模型飛行機の地面に対する速度。
- \(v_{\text{機,気}}\): 模型飛行機の空気に対する速度。問題文より、\(v_{\text{機,気}} = 6.0 \text{ m/s}\)。
- \(v_{\text{風}}\): 風の地面に対する速度。これを求める。
まず、観測された飛行記録から、地面に対する飛行機の速度 \(v_{\text{機,地}}\) を計算します。\(8.0 \text{ s}\) で \(28 \text{ m}\) 進んだので、
$$ v_{\text{機,地}} = \frac{\text{移動距離}}{\text{経過時間}} \quad \cdots ① $$
次に、速度の合成則を立式します。
$$ v_{\text{機,地}} = v_{\text{機,気}} + v_{\text{風}} \quad \cdots ② $$
①で計算した \(v_{\text{機,地}}\) と、与えられている \(v_{\text{機,気}}\) を②に代入することで、\(v_{\text{風}}\) を求めます。
使用した物理公式
- 速度の合成: \(v_{\text{合成}} = v_{\text{相対}} + v_{\text{媒体}}\)
- 等速直線運動: \(v = \displaystyle\frac{x}{t}\)
まず、式①を用いて、地面に対する飛行機の速度 \(v_{\text{機,地}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{機,地}} &= \frac{28}{8.0} \\[2.0ex]
&= 3.5 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果と \(v_{\text{機,気}} = 6.0 \text{ m/s}\) を式②に代入して、風の速度 \(v_{\text{風}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
3.5 &= 6.0 + v_{\text{風}} \\[2.0ex]
v_{\text{風}} &= 3.5 – 6.0 \\[2.0ex]
&= -2.5 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
ここで計算された \(v_{\text{風}}\) は「速度」であり、負の符号は風が模型飛行機の進行方向(正の向き)とは逆向きに吹いていることを示しています。これは「向かい風」という問題の条件と一致します。
問題で問われているのは風の「速さ」なので、速度の大きさ(絶対値)を答えます。
$$ \text{向かい風の速さ} = |-2.5| = 2.5 \text{ [m/s]} $$
まず、向かい風の中で飛行機が実際にどれくらいの速さで地面の上を進んだかを計算します。\(28 \text{ m}\) を \(8.0 \text{ s}\) で飛んだので、地面から見た速さは \(28 \div 8.0 = 3.5 \text{ m/s}\) です。
一方、この飛行機は本来、風がなければ \(6.0 \text{ m/s}\) の速さで飛べるはずでした。しかし、実際には \(3.5 \text{ m/s}\) しか出ていません。
なぜスピードが落ちたかというと、向かい風に邪魔されたからです。どれだけ邪魔された(押し戻された)かは、引き算でわかります。本来の速さ \(6.0 \text{ m/s}\) から、実際の速さ \(3.5 \text{ m/s}\) を引くと、\(6.0 – 3.5 = 2.5 \text{ m/s}\) となります。
この \(2.5 \text{ m/s}\) が、飛行機を押し戻した向かい風の速さということになります。
向かい風の速さは \(2.5 \text{ m/s}\) です。
この結果を確かめてみましょう。飛行機が空気に対して \(6.0 \text{ m/s}\) で進もうとするところを、速さ \(2.5 \text{ m/s}\) の向かい風が押し戻すので、地面に対する速さは \(6.0 – 2.5 = 3.5 \text{ m/s}\) となります。この速さで \(8.0\) 秒間飛ぶと、移動距離は \(3.5 \times 8.0 = 28 \text{ m}\) となり、問題文の記述と完全に一致します。したがって、計算結果は妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 速度の合成則:
- 核心: この問題は、動く媒体(空気)の中を運動する物体(飛行機)の速度を、静止した観測者(地面)から見たときにどうなるか、という「速度の合成」の概念を正しく理解しているかを問うています。
- 理解のポイント: 以下の3つの速度の関係性を整理することが全てです。
- 地面に対する飛行機の速度 (\(v_{\text{機,地}}\)): 観測された結果としての速度。
- 空気に対する飛行機の速度 (\(v_{\text{機,気}}\)): 飛行機が持つ本来の性能(風がないときの速さ)。
- 地面に対する空気の速度 (\(v_{\text{気,地}}\) or \(v_{\text{風}}\)): 風の速度。
これらは、\(v_{\text{機,地}} = v_{\text{機,気}} + v_{\text{風}}\) というベクトルの和で結びつけられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 追い風の問題: 今回は向かい風でしたが、追い風の場合は風の速度が進行方向と同じ向き(正)になります。その結果、地面に対する速度は \(v_{\text{機,地}} = 6.0 + v_{\text{風}}\) のように、本来の速さより大きくなります。
- 川を渡る船(2次元の速度合成): 「川岸に対する船の速度」=「水に対する船の速度」+「川岸に対する水の速度(流れ)」という、2次元ベクトルで考える問題。船が流れに垂直に進む場合、三平方の定理が活躍します。
- 動く歩道上の人の運動: この問題と全く同じ構造を持つ1次元の速度合成問題です。「床に対する人の速度」=「歩道に対する人の速度」+「床に対する歩道の速度」となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場する3つの速度を特定する: 問題文を読み、「誰から見た、誰(何)の速度か」という視点で、登場する速度を3種類(例:Aから見たB、Bから見たC、Aから見たC)に整理します。
- 言葉と物理量を対応させる: 「風がないときの速さ」→ \(v_{\text{機,気}}\)、「向かい風」→ \(v_{\text{風}}\) は進行方向と逆向き、「\(28\text{m}\)を\(8.0\text{s}\)で飛んだ」→ \(v_{\text{機,地}}\) を計算するための情報、というように、問題文の言葉を物理的な変数に正確に翻訳します。
–
- 進行方向を正として立式: 一直線上の運動なので、まずどちらかの向きを「正」と決めます。これにより、逆向きの速度を負の数として扱うことができ、ベクトルの問題を単純な代数計算に落とし込めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- どの速度がどの値かを取り違える:
- 誤解: 「風がないときの速さ \(6.0 \text{ m/s}\)」を、地面に対する最終的な速さだと勘違いしてしまう。
- 対策: 「風がないとき」という条件は、媒体(空気)に対して物体(飛行機)が出せる純粋な速さ \(v_{\text{機,気}}\) を指している、と強く意識します。実際に観測されるのは、風の影響が加わった後の合成速度 \(v_{\text{機,地}}\) です。
- 符号の扱いを間違える:
- 誤解: 向かい風だから引き算、と安易に考え、基本式を立てずに \(6.0 – 3.5\) や \(6.0 + 3.5\) のような場当たり的な計算をしてしまう。
- 対策: 常に基本の形である \(v_{\text{機,地}} = v_{\text{機,気}} + v_{\text{風}}\) から出発する癖をつけます。その上で、各速度の向きを考え、進行方向と逆向きの速度に負の符号を付けて代入します。この手順を踏むことで、追い風でも向かい風でも同じアプローチで解くことができます。
- 速さと速度の答え方の混同:
- 誤解: 計算結果として \(v_{\text{風}} = -2.5 \text{ m/s}\) が出たときに、そのまま「速さは \(-2.5 \text{ m/s}\)」と答えてしまう。
- 対策: 「速度」を問われたら符号を含めて答える(向きの情報も含む)、「速さ」を問われたら大きさのみ(絶対値)を正の値で答える、というルールを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 速度の合成則 (\(v_{\text{機,地}} = v_{\text{機,気}} + v_{\text{風}}\)):
- 選定理由: この問題は、動く座標系(空気)と静止座標系(地面)が関わる運動であり、2つの座標系における速度を関係づける速度の合成則を用いるのが最も直接的だからです。
- 適用根拠: この法則は、ガリレイの相対性原理に基づく基本的な運動法則です。地面から見た飛行機の全運動は、「飛行機が空気を基準にして進む運動」と「その空気が地面を基準にして流れる運動」の重ね合わせ(ベクトル和)で表現できる、という物理的描像に基づいています。
- 等速直線運動の公式 (\(v = \displaystyle\frac{x}{t}\)):
- 選定理由: 速度の合成則を解くためには、3つの速度のうち2つが既知である必要があります。問題文には「地面に対する飛行機の速度」そのものは与えられていませんが、それを計算するための「移動距離」と「時間」が与えられています。この情報から速度を算出するために、この公式を選択します。
- 適用根拠: 風も飛行機の推進力も一定であると考えられるため、合成された運動も等速直線運動となります。したがって、距離・速さ・時間の単純な関係式が適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 物理量の添え字を省略しない: 計算に慣れるまでは、\(v_1, v_2\) のような記号ではなく、\(v_{\text{機,地}}\), \(v_{\text{機,気}}\), \(v_{\text{風}}\) のように、物理的な意味がわかる添え字を付けて立式することをお勧めします。これにより、どの変数にどの値を代入すべきかの混乱を防げます。
- 答えの妥当性を吟味する(検算): 答えとして「向かい風の速さが \(2.5 \text{ m/s}\)」と出たら、物語を逆再生してみます。「飛行機が本来の \(6.0 \text{ m/s}\) で進もうとするところを、\(2.5 \text{ m/s}\) の向かい風が邪魔をする。すると、地面から見た速さは \(6.0 – 2.5 = 3.5 \text{ m/s}\) になるはずだ。この速さで \(8.0\) 秒間飛ぶと、\(3.5 \times 8.0 = 28 \text{ m}\) 進む。これは問題文と一致するから、答えは正しい!」この数秒の確認で、確信を持って解答できます。
- 簡単な割り算の工夫: \(28 \div 8.0\) の計算は、分数の形 \(\displaystyle\frac{28}{8}\) にして、4で約分すると \(\displaystyle\frac{7}{2}\) となり、\(3.5\) と簡単に計算できます。
5 速度の合成
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「2次元における速度の合成」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 速度の合成則: 岸から見た船の速度は、「水に対する船の速度」と「水の速度(川の流れ)」のベクトル和で表されます。
- ベクトルの図示と分解: 各速度をベクトル(矢印)で図示し、目的(川を垂直に横切る)に合わせてベクトルを配置・分解して考えることが重要です。
- 三平方の定理と三角関数: 速度ベクトルが作る直角三角形の辺の長さ(速さ)や角度を求めるために使用します。
- 目的からの逆算思考: 「川を垂直に横切る」という最終的な結果から、そのために船がどう動くべきか(船首の向き)を逆算するアプローチが求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 各速度(静水時の船の速さ、川の流速、岸に対する船の速さ)をベクトルとして定義します。
- (2) 「川を垂直に横切る」という条件から、合成速度のベクトルが川岸に垂直になるように、速度の合成図(ベクトル三角形)を描きます。
- (3) 三平方の定理を用いて、川を横切る方向の速度成分(合成速度の大きさ)を計算します。
- (4) 三角関数を用いて、船首を向けるべき角度を求めます。
- (5) 川を横切る速度と川幅から、所要時間を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「川を垂直に横切る」という条件をどう解釈し、数式に落とし込むかです。これは、岸にいる観測者から見た船の最終的な進行方向(合成速度の向き)が、川の流れの方向と垂直になることを意味します。
もし船首をまっすぐ対岸に向けて進むと、船は川の流れに流されて斜め下流に進んでしまいます。目的地である真向かいの岸に到着するためには、流される分を見越して、あらかじめ船首を川の上流側に向けておく必要があります。
この結果、速度のベクトル図を描くと、「水に対する船の速さ(船が自力で進む速さ)」を斜辺とし、「川の流れの速さ」と「岸に対する船の速さ(実際に川を横切る速さ)」を他の2辺とする直角三角形が形成されます。この図形的な関係を利用して、未知の量を解き明かしていきます。
この設問における重要なポイント
- 合成速度の公式: \(\vec{v}_{\text{船,岸}} = \vec{v}_{\text{船,水}} + \vec{v}_{\text{水,岸}}\)
- 「静水上の速さ」は、水に対する船の速さ \(\vec{v}_{\text{船,水}}\) の大きさ(ベクトルの長さ)である。
- 「流速」は、岸に対する水の速さ \(\vec{v}_{\text{水,岸}}\) の大きさである。
- 「川を垂直に横切る」とは、合成速度 \(\vec{v}_{\text{船,岸}}\) の向きが川岸に垂直であることを意味する。
- ベクトル図を描いて視覚的に考えることが極めて重要である。
具体的な解説と立式
各速度ベクトルを以下のように定義します。
- \(\vec{v}_{\text{船,水}}\): 水に対する船の速度(船首が向いている方向の速度)。その大きさは \(v_{\text{船,水}} = 5.0 \text{ m/s}\)。
- \(\vec{v}_{\text{水,岸}}\): 岸に対する水の速度(川の流れの速度)。その大きさは \(v_{\text{水,岸}} = 3.0 \text{ m/s}\)。
- \(\vec{v}_{\text{船,岸}}\): 岸に対する船の速度(合成速度)。この向きが川岸と垂直になる。
速度の合成則は次の式で表されます。
$$ \vec{v}_{\text{船,岸}} = \vec{v}_{\text{船,水}} + \vec{v}_{\text{水,岸}} \quad \cdots ① $$
この関係をベクトル図で描くと、\(\vec{v}_{\text{船,岸}}\) と \(\vec{v}_{\text{水,岸}}\) が直交するため、\(\vec{v}_{\text{船,水}}\) を斜辺とする直角三角形ができます。
三平方の定理より、これらの速度の大きさの間には次の関係が成り立ちます。
$$ v_{\text{船,水}}^2 = v_{\text{船,岸}}^2 + v_{\text{水,岸}}^2 \quad \cdots ② $$
この式から、実際に川を横切る速さ \(v_{\text{船,岸}}\) を求めることができます。
次に、船首を向けるべき向きを考えます。川岸に垂直な向きから、川上に向ける角度を \(\theta\) とすると、ベクトル図から三角関数の関係がわかります。
$$ \tan\theta = \frac{v_{\text{水,岸}}}{v_{\text{船,岸}}} \quad \cdots ③ $$
最後に、対岸に渡るのに要する時間 \(t\) は、川幅 \(L = 100 \text{ m}\) を、川を横切る速度 \(v_{\text{船,岸}}\) で割ることで求められます。
$$ L = v_{\text{船,岸}} \times t \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 速度の合成: \(\vec{v}_{\text{A,C}} = \vec{v}_{\text{A,B}} + \vec{v}_{\text{B,C}}\)
- 三平方の定理: \(c^2 = a^2 + b^2\)
- 三角関数の定義: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{底辺}}\)
- 等速直線運動: \(x = vt\)
まず、式②に値を代入して、岸に対する船の速さ(川を横切る速さ) \(v_{\text{船,岸}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
5.0^2 &= v_{\text{船,岸}}^2 + 3.0^2 \\[2.0ex]
v_{\text{船,岸}}^2 &= 25.0 – 9.0 \\[2.0ex]
&= 16.0 \\[2.0ex]
v_{\text{船,岸}} &= \sqrt{16.0} \\[2.0ex]
&= 4.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式③に代入して、船首を向けるべき角度 \(\theta\) の条件を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{3.0}{4.0} \\[2.0ex]
&= 0.75
\end{aligned}
$$
よって、船首は川岸に垂直な向きから川上へ、\(\tan\theta = 0.75\) となる角度だけ向ける必要があります。
最後に、式④に値を代入して、対岸に渡る時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
100 &= 4.0 \times t \\[2.0ex]
t &= \frac{100}{4.0} \\[2.0ex]
&= 25 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
川をまっすぐ横切るには、流される分(秒速 \(3.0 \text{ m}\))を打ち消すように、船首を少し上流に向ける必要があります。このとき、「船の本来の速さ(\(5.0 \text{ m/s}\))」、「川の流れの速さ(\(3.0 \text{ m/s}\))」、そして「実際にまっすぐ進む速さ」の3つで、直角三角形ができます。
これは有名な「3:4:5」の直角三角形なので、計算するまでもなく、実際にまっすぐ進む速さは \(4.0 \text{ m/s}\) だとわかります。(もちろん、三平方の定理 \(\sqrt{5.0^2 – 3.0^2}\) で計算してもOKです。)
船首の向きは、この \(3:4:5\) の三角形の角度で決まります。
川を渡るのにかかる時間は、川の幅 \(100 \text{ m}\) を、実際にまっすぐ進む速さ \(4.0 \text{ m/s}\) で割ればよいので、\(100 \div 4.0 = 25\) 秒となります。
船首を向けるべき向きは、川岸に垂直な向きから川上側へ \(\tan\theta = 0.75\) となる角度であり、このとき対岸に渡るのに要する時間は \(25 \text{ s}\) です。
もし船首をまっすぐ対岸に向けて進んだ場合(最短時間で渡る場合)、川を横切る速度は \(5.0 \text{ m/s}\) となり、時間は \(100 \div 5.0 = 20 \text{ s}\) で済みます。しかし、その間に \(3.0 \text{ m/s} \times 20 \text{ s} = 60 \text{ m}\) も下流に流されてしまいます。垂直に渡る(最短距離で渡る)ためには、速度の一部を流れを打ち消すために使うので、横切る速度が \(4.0 \text{ m/s}\) に落ち、結果として時間が \(25 \text{ s}\) と長くなるのは、物理的に考えて妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 2次元における速度の合成則とベクトル図:
- 核心: この問題は、1次元の速度合成を拡張し、互いに直交する速度成分を持つ2次元の運動として正しくモデル化できるかを試しています。物理的な状況を、ベクトル(矢印)で構成された図形(今回は直角三角形)に正確に翻訳し、その幾何学的な関係から未知の量を解き明かす能力が核心となります。
- 理解のポイント:
- ベクトルの和: 岸から見た船の運動(\(\vec{v}_{\text{船,岸}}\))は、「船が水に対して進む運動(\(\vec{v}_{\text{船,水}}\))」と「水が岸に対して流れる運動(\(\vec{v}_{\text{水,岸}}\))」のベクトル的な重ね合わせで決まる、という合成則を理解することが出発点です。
- 目的からの逆算: 「川を垂直に横切る」という目的(=合成速度の向きが岸に垂直)が与えられているため、その結果になるように各ベクトルを配置する、という逆算的な思考が求められます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 最短時間で対岸に渡る問題: この場合、船首をまっすぐ対岸に向けます。すると、川を横切る速度成分は最大(静水時の速さそのもの)になりますが、下流に流されます。このときの「対岸に到着するまでの時間」と「下流に流された距離」を求める問題は頻出です。
- 風の中を飛ぶ飛行機(2次元): 「地面に対する飛行機の速度」=「空気に対する飛行機の速度」+「風の速度」という、この問題と全く同じ構造を持つ問題。例えば、真東に進みたい飛行機が、北風(南向きの風)に吹かれる場合などが考えられます。
- 斜めに川を渡る問題: 「対岸の特定の地点」を目指す問題。この場合、合成速度のベクトルが、出発点と目標点を結ぶ向きになるようにベクトル図を描き、三角比などを用いて解きます。
- 初見の問題での着眼点:
- ベクトル図を描くことから始める: 2次元の速度合成問題は、頭の中だけで考えると混乱します。まず、問題文の状況をベクトル図に描くことを最優先します。
- 3つの速度ベクトルを特定する: 「静水上の速さ」→ \(\vec{v}_{\text{船,水}}\) の大きさ、「流速」→ \(\vec{v}_{\text{水,岸}}\) の大きさ、「岸に対する船の速さ」→ \(\vec{v}_{\text{船,岸}}\)(合成速度)の3つを明確に区別します。
- 「目的」をベクトル図に反映させる: 問題の条件(例:「垂直に横切る」「最短時間で渡る」「特定の地点に着く」)が、どのベクトルの向きや大きさを規定しているのかを考え、それをベクトル図に書き込みます。今回の場合は「\(\vec{v}_{\text{船,岸}}\) の向きが岸に垂直」という条件です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 「静水上の速さ」を川を横切る速度として使ってしまう:
- 誤解: 対岸に渡る時間を計算する際に、川を横切る速度として、船の本来の速さである \(5.0 \text{ m/s}\) を使ってしまい、\(t = 100 \div 5.0 = 20 \text{ s}\) と計算する。
- 対策: ベクトル図を描けば一目瞭然ですが、船の速さ \(5.0 \text{ m/s}\) は斜め上流を向いた速度です。川をまっすぐ横切る速度成分は、この \(5.0 \text{ m/s}\) の一部であり、それより小さい値(今回は \(4.0 \text{ m/s}\))になります。「最短距離」で渡る場合と「最短時間」で渡る場合とでは、川を横切る速度成分が異なることを明確に区別しましょう。
- ベクトルの足し算をスカラーの足し算と勘違いする:
- 誤解: 速度の大きさを単純に足したり引いたりして、\(5.0+3.0\) や \(5.0-3.0\) のような計算をしてしまう。
- 対策: 速度はベクトル量であり、向きが異なる場合は単純な足し算・引き算はできません。必ずベクトル図を描き、三平方の定理や三角比を用いて幾何学的に解く、という手順を徹底します。
- 3:4:5の直角三角形に気づかない/過信する:
- 誤解: \(5.0\) と \(3.0\) という数字を見ても、有名な直角三角形だと気づかずに複雑な計算をしてしまう。あるいは、どんな数字の組み合わせでも安易にこの比を当てはめようとする。
- 対策: 物理の問題では、計算を簡略化するために \(3:4:5\) や \(1:2:\sqrt{3}\) のような有名な比がよく使われます。これらの数字の組み合わせに敏感になっておくと計算が速くなります。ただし、必ず三平方の定理が成り立つか(\(3^2+4^2=9+16=25=5^2\))を確認する癖をつけ、思い込みで使わないように注意しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 速度の合成則 (\(\vec{v}_{\text{船,岸}} = \vec{v}_{\text{船,水}} + \vec{v}_{\text{水,岸}}\)):
- 選定理由: この問題の物理現象そのものを記述する基本法則です。岸(静止系)から見た船の運動は、水(運動系)を基準とした船の運動と、岸を基準とした水の運動の重ね合わせとして表現されるため、この公式が思考の出発点となります。
- 三平方の定理:
- 選定理由: 速度の合成則をベクトル図で表現した結果、直角三角形が形成されたため。この図形の辺の長さ(速さの大きさ)の関係を数式で表すために、三平方の定理が最も適しています。
- 適用根拠: 「川を垂直に横切る」という条件により、合成速度 \(\vec{v}_{\text{船,岸}}\) と川の流れ \(\vec{v}_{\text{水,岸}}\) が直交することが保証されます。これにより、ベクトル三角形が直角三角形となり、三平方の定理の適用が可能となります。
- 等速直線運動の公式 (\(t = \displaystyle\frac{L}{v}\)):
- 選定理由: 最終的に対岸に渡る時間を求めるため。
- 適用根拠: 川を横切る方向の運動だけに着目すると、船は一定の速度(\(v_{\text{船,岸}}\))で一定の距離(川幅 \(L\))を進む等速直線運動と見なせます。したがって、時間、距離、速さの基本的な関係式が適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- ベクトル図を大きく丁寧に描く: 小さく雑な図は、どの辺がどの速度に対応するのか、どの角度が \(\theta\) なのかを見間違える原因になります。フリーハンドでも良いので、直角やベクトルの向きがはっきりわかるように、大きく丁寧な図を描くことを心がけましょう。
- 求めるものと中間生成物を区別する: この問題では、最終的に「船首の向き」と「時間」を求めますが、その過程で「岸に対する船の速さ \(v_{\text{船,岸}}\)」を計算します。この中間生成物を最終的な答えと混同しないように注意が必要です。
- 単位の確認: 計算の最後に、求めた物理量の単位が正しいかを確認します。時間を求めたのに単位が [m/s] になっていたら、どこかで計算を間違えている証拠です。
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