「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 13】Step 2

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Step 2

184 気体の圧力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ピストンにはたらく力のつり合いと圧力の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力のベクトル和は0になります。特に鉛直方向のつり合いでは、「上向きの力の総和」と「下向きの力の総和」が等しくなります。
  2. 圧力と力の関係: 圧力 \(p\) の流体(気体や液体)が面積 \(S\) の面に及ぼす力 \(F\) は、面に垂直に \(F=pS\) という大きさで働きます。
  3. 力の図示: 問題を解く上で、着目する物体(この場合はピストン)にはたらく力をすべて正確に図示することが最も重要です。
  4. 作用点を明確にする: 大気圧による力も、内部気体の圧力による力も、ピストンの面に作用します。重力はピストンの重心に作用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、図1の状況でピストンにはたらく力(内部気体の圧力による力、大気圧による力、重力)をすべて図示し、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。
  2. (2)では、図2の状況で同様にピストンにはたらく力を図示し、力のつり合いの式を立てます。シリンダーの向きが変わることで、力の向きの関係がどう変化するかに注意します。
  3. それぞれのつり合いの式を、求めたい圧力について解き、与えられた数値を代入して計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
図1の状態で静止しているピストンに着目します。ピストンが静止しているということは、ピストンにはたらく力がつり合っていることを意味します。したがって、ピストンにはたらく力をすべて洗い出し、鉛直方向の力のつり合いの式を立てることで、未知の圧力 \(p_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 圧力 \(p\) が面積 \(S\) に及ぼす力は \(F=pS\) である。
  • 力のつり合いの基本は「上向きの力の合計 = 下向きの力の合計」。
  • ピストンにはたらく力は「内部気体がピストンを押し上げる力」「大気圧がピストンを押し下げる力」「ピストン自身の重力」の3つである。

具体的な解説と立式
求める気体の圧力を \(p_1\) とします。ピストンにはたらく力は以下の3つです。
1. 内部の気体がピストンを押し上げる力: \(F_1 = p_1 S\) (上向き)
2. 大気圧がピストンを押し下げる力: \(F_0 = p_0 S\) (下向き)
3. ピストンの重力: \(W = mg\) (下向き)

ピストンは静止しているので、これらの力はつり合っています。力のつり合いの式は、
$$ (\text{上向きの力の合計}) = (\text{下向きの力の合計}) $$
と表せるので、
$$ p_1 S = p_0 S + mg $$
となります。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\text{合力} = 0\)
  • 圧力による力: \(F = pS\)
  • 重力: \(W = mg\)
計算過程

上記で立式した力のつり合いの式を、求める圧力 \(p_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p_1 S &= p_0 S + mg \\[2.0ex]p_1 &= p_0 + \frac{mg}{S}
\end{aligned}
$$
この式に与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
p_1 &= 1.0 \times 10^5 + \frac{40 \times 9.8}{9.8 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 + \frac{40}{10^{-3}} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 + 40 \times 10^3 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 + 0.4 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 1.4 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ピストンがその場で静止しているのは、ピストンを押し上げる力と押し下げる力が等しいからです。この場合、押し上げているのは「中の気体」の力です。一方、押し下げているのは「外の空気(大気圧)」の力と「ピストン自身の重さ」の2つです。したがって、「中の気体の圧力」は、「大気圧」に「ピストンの重さ分の圧力」を足したものになります。まずピストンの重さが生み出す圧力 \(\displaystyle\frac{mg}{S}\) を計算し、それを大気圧 \(p_0\) に加えます。

結論と吟味

閉じ込められた気体の圧力は \(1.4 \times 10^5 \text{ Pa}\) です。ピストンの重さの分だけ、内部の気体は余計に押し返す必要があるので、その圧力は大気圧 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) よりも大きくなります。計算結果はこの考察と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (1) \(1.4 \times 10^5 \text{ Pa}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
図2の状態で静止しているピストンに着目します。シリンダーが逆さまになったことで、各力の向きの関係がどう変わるかがポイントです。今回もピストンは静止しているので、はたらく力をすべて図示し、力のつり合いの式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • シリンダーの向きが変わると、力の向きの関係性が変化する。
  • 図2では、大気圧がピストンを「上向き」に押し、内部気体と重力が「下向き」に作用する。
  • 力のつり合い: (上向きの力の合計) = (下向きの力の合計) の関係は変わらない。

具体的な解説と立式
求める気体の圧力を \(p_2\) とします。ピストンにはたらく力は以下の3つです。
1. 大気圧がピストンを押し上げる力: \(F_0 = p_0 S\) (上向き)
2. 内部の気体がピストンを押し下げる力: \(F_2 = p_2 S\) (下向き)
3. ピストンの重力: \(W = mg\) (下向き)

ピストンは静止しているので、これらの力はつり合っています。力のつり合いの式は、
$$ (\text{上向きの力の合計}) = (\text{下向きの力の合計}) $$
と表せるので、
$$ p_0 S = p_2 S + mg $$
となります。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\text{合力} = 0\)
  • 圧力による力: \(F = pS\)
  • 重力: \(W = mg\)
計算過程

上記で立式した力のつり合いの式を、求める圧力 \(p_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p_2 S &= p_0 S – mg \\[2.0ex]p_2 &= p_0 – \frac{mg}{S}
\end{aligned}
$$
この式に与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
p_2 &= 1.0 \times 10^5 – \frac{40 \times 9.8}{9.8 \times 10^{-3}} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 – 4.0 \times 10^4 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 – 0.4 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 0.6 \times 10^5 \\[2.0ex]&= 6.0 \times 10^4 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

今回もピストンは静止しているので、押し上げる力と押し下げる力が等しくなっています。押し上げているのは「外の空気(大気圧)」の力だけです。一方、押し下げているのは「中の気体」の力と「ピストン自身の重さ」です。つまり、「大気圧」の力が、「中の気体の力」と「ピストンの重さ」の合計とつり合っています。したがって、「中の気体の圧力」は、「大気圧」から「ピストンの重さ分の圧力」を引いたものになります。

結論と吟味

閉じ込められた気体の圧力は \(6.0 \times 10^4 \text{ Pa}\) です。今度はピストンの重さが内部気体と同じ下向きに作用するため、大気圧が両方を支える形になります。したがって、内部気体の圧力は、大気圧 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) よりも小さくなります。計算結果はこの考察と一致しており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(6.0 \times 10^4 \text{ Pa}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつり合い:
    • 核心: この問題は、熱力学のカテゴリにありますが、その本質は力学の「力のつり合い」です。ピストンが静止しているという事実から、ピストンにはたらく全ての力の合力がゼロである、という一点に尽きます。
    • 理解のポイント:
      • 鉛直方向のつり合いを考え、「上向きの力の総和 = 下向きの力の総和」という等式を立てることが全ての出発点です。
      • シリンダーの向きが変わると、各力の向きが変化するため、つり合いの式の形も変わります。
  • 圧力と力の関係 (\(F=pS\)):
    • 核心: 気体や大気は「圧力」という形で状態が記述されますが、力のつり合いの式で扱うのは「力」です。圧力 \(p\) [Pa] と力 \(F\) [N] を結びつける変換式 \(F=pS\) を正しく使えるかが、もう一つの核心です。
    • 理解のポイント:
      • 圧力は単位面積あたりの力です。したがって、面積 \(S\) の面全体にはたらく力は、圧力と面積の積で計算されます。
      • 力のつり合いの式には、圧力 \(p\) をそのまま入れるのではなく、必ず力 \(pS\) の形に変換してから代入する必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • シリンダーが斜めに置かれた場合: ピストンにはたらく重力 \(mg\) を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する必要があります。力のつり合いは、ピストンが動く可能性のある「斜面に平行な方向」で立てます。
    • U字管内の液体のつり合い: U字管に閉じ込められた気体の圧力を、左右の液面の高さの差から求める問題。液柱の重さが生み出す圧力 (\(\rho h g\)) を考慮して、同じ高さでの圧力が等しいという原理(パスカルの原理)から式を立てます。
    • 熱力学第一法則との融合: (1)の状態から(2)の状態へ変化させるとき、気体の温度や体積がどう変わるかを問う問題。まず本問と同様に力のつり合いから各状態の圧力を求め、その後ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{PV}{T}=\text{一定}\)) を使って状態変化を追跡します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 着目物体を明確にする: まず「何にはたらく力のつり合いを考えるか」を決めます。この問題では、動く部分である「ピストン」です。
    2. 力を漏れなく図示する: 着目物体(ピストン)にはたらく力をすべて矢印で書き出します。「①内部気体が押す力」「②外部の大気が押す力」「③重力」の3つです。接触しているものと、離れていてもはたらく力(重力)をリストアップする癖をつけましょう。
    3. 力の向きを正確に判断する: 圧力による力は必ず面に垂直です。重力は常に鉛直下向きです。図1と図2でシリンダーの向きが変わったときに、特に大気圧と内部気体の圧力が及ぼす力の向きがどう変わるかを慎重に判断することが、正解への鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 圧力と力の混同:
    • 誤解: 力のつり合いの式に、力 \(pS\) ではなく圧力 \(p\) をそのまま代入してしまう。(例: \(p_1 = p_0 + mg\) のような式を立てる)
    • 対策: 「力のつり合い」の式は、その名の通り「力 [N]」の式です。圧力 [Pa] とは単位(次元)が異なるため、直接足したり引いたりはできません。「圧力に面積を掛けて力に直す」という操作を絶対に忘れないようにしましょう。
  • 力の図示漏れや向きの間違い:
    • 誤解: (1)で大気圧を忘れたり、(2)で重力の向きを上向きにしてしまったりする。
    • 対策: 設問ごとに必ず簡単な図を描き、力を一つずつ書き込む習慣をつけましょう。(1)では「上向きは気体、下向きは大気と重力」、(2)では「上向きは大気、下向きは気体と重力」というように、状況をリセットして考え直すことが重要です。
  • 単位の換算ミス:
    • 誤解: 断面積が \(\text{cm}^2\) で与えられた場合に、\(\text{m}^2\) への換算を忘れる、または間違える。
    • 対策: 計算を始める前に、すべての物理量が基本単位(Pa, m, kg, s)に揃っているかを確認する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = 0\)):
    • 選定理由: 問題文に「(ピストンが静止して)気体を閉じ込めた」とあり、ピストンが静止していることが明記されています。力学において、物体が静止している(=加速度が0)場合、その物体にはたらく合力は0である、というニュートンの運動法則の基本形そのものです。
    • 適用根拠: 求める物理量が「圧力」であっても、その圧力が決まる状況が「力のつり合い」という力学的な条件に基づいているため、この法則を選択するのが最も直接的かつ合理的です。
  • 圧力と力の関係式 (\(F=pS\)):
    • 選定理由: 力のつり合いの式を立てるには、気体や大気が及ぼす「力」が必要です。しかし、問題で与えられているのは「圧力」です。この両者をつなぐために、この変換式が必要不可欠となります。
    • 適用根拠: 圧力の定義そのものが「単位面積あたりの力」であるため、面積 \(S\) の面全体にはたらく力を求めるには、圧力 \(p\) に \(S\) を掛ける必要があります。これは、力のつり合いという「力」の土俵に、「圧力」という物理量を乗せるための翻訳ルールと言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の整理: \(1.0 \times 10^5 – 4.0 \times 10^4\) のような計算では、指数を揃えるのが定石です。\(1.0 \times 10^5 – 0.4 \times 10^5 = (1.0 – 0.4) \times 10^5 = 0.6 \times 10^5\) とすることで、桁の間違いを防ぎます。
  • 約分に気づく: この問題では、重力加速度 \(g=9.8 \text{ m/s}^2\)、断面積 \(S=9.8 \times 10^{-3} \text{ m}^2\) と、意図的に \(9.8\) という数字が揃えられています。これにより、\(\displaystyle\frac{mg}{S}\) の項は \(\displaystyle\frac{40 \times 9.8}{9.8 \times 10^{-3}}\) となり、\(9.8\) を約分することで計算が大幅に楽になります。与えられた数値にこのような意図がないか探す癖をつけると、計算時間を短縮し、ミスを減らせます。
  • 物理的な妥当性の確認(検算):
    • (1)では、ピストンの重さがかかるので、内部の圧力は当然大気圧より高くなるはずです。計算結果が \(1.0 \times 10^5\) Pa より大きいことを確認します。
    • (2)では、ピストンの重さが大気圧を助ける形になるので、内部の圧力は大気圧より低くなるはずです。計算結果が \(1.0 \times 10^5\) Pa より小さいことを確認します。
    • このような簡単なチェックで、符号の間違いなどの致命的なミスに気づくことができます。

185 ボイル・シャルルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の状態変化とボイル・シャルルの法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイル・シャルルの法則: 気体の圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)が変化する際、気体の量が一定であれば、\(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
  2. 絶対温度: 気体の状態方程式に関する計算では、日常で使うセルシウス温度 \(t [^\circ\text{C}]\) ではなく、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) を用いる必要があります。変換式は \(T = t + 273\) です。
  3. 状態量の整理: 状態が変化する前と後で、圧力、体積、温度の値がそれぞれどうなっているかを正確に把握し、整理することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、変化の前(初期状態)と後(最終状態)の気体の圧力、体積、温度を問題文から抜き出します。
  2. 次に、与えられているセルシウス温度をすべて絶対温度に変換します。
  3. 最後に、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) に整理した値を代入し、未知の体積について解きます。

解説

思考の道筋とポイント
この問題では、閉じ込められた気体の圧力、体積、温度の3つの状態量がすべて変化します。このような最も一般的な状態変化を扱うには、ボイルの法則(定温変化)やシャルルの法則(定圧変化)を個別に適用することはできず、これらを統合したボイル・シャルルの法則を用いる必要があります。計算を正確に行うための第一歩は、変化の前後における各状態量を整理し、特に温度を物理計算の基本である絶対温度(ケルビン)に変換することです。
この設問における重要なポイント

  • 圧力、体積、温度がすべて変化する場合は、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) を適用する。
  • 計算に用いる温度は、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) に変換する。\(T = t + 273\)。
  • 変化の前後で、シリンダー内の気体の物質量(量)は一定に保たれていることが、この法則の適用の前提となる。

具体的な解説と立式
変化前の気体の状態を状態1、変化後の状態を状態2として、それぞれの状態量を整理します。
状態1(初期状態):

  • \(P_1 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • \(V_1 = 6.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
  • \(t_1 = 27^\circ\text{C}\)

状態2(最終状態):

  • \(P_2 = 4.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • 求める体積を \(V_2\)
  • \(t_2 = 77^\circ\text{C}\)

次に、セルシウス温度を絶対温度に変換します。
$$ T_1 = 27 + 273 = 300 \text{ K} $$
$$ T_2 = 77 + 273 = 350 \text{ K} $$
これらの値を、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) に代入して立式します。
$$ \frac{(2.0 \times 10^5) \times (6.0 \times 10^{-2})}{300} = \frac{(4.0 \times 10^5) \times V_2}{350} $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した方程式を、求める体積 \(V_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \frac{P_1 V_1}{T_1} \times \frac{T_2}{P_2} \\[2.0ex]&= \frac{(2.0 \times 10^5) \times (6.0 \times 10^{-2})}{300} \times \frac{350}{4.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= \frac{12 \times 10^3}{300} \times \frac{350}{4.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= 40 \times \frac{350}{4.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= \frac{10 \times 350}{10^5} \\[2.0ex]&= \frac{3500}{10^5} \\[2.0ex]&= 3.5 \times 10^3 \times 10^{-5} \\[2.0ex]&= 3.5 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

気体の圧力・体積・温度がすべて変わる、少し複雑な状況です。このようなときは、3つの量をまとめて扱える万能な公式「ボイル・シャルルの法則」を使います。この法則は「(圧力 × 体積) ÷ 絶対温度」の値が、変化の前後で変わらない、というものです。
まず、計算の準備として、摂氏温度(℃)を絶対温度(K)に直します。27℃は300K、77℃は350Kです。
あとは、変化の前と後で「(P × V) ÷ T」が等しくなるように式を立て、わからない体積 \(V\) を計算で求めるだけです。

結論と吟味

最終的な気体の体積は \(3.5 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) です。
今回の変化では、圧力は \(2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) から \(4.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) へと2倍に増加しています。これは体積を縮める効果があります。一方、絶対温度は \(300 \text{ K}\) から \(350 \text{ K}\) へと \(\frac{350}{300} = \frac{7}{6} \approx 1.17\) 倍に増加しており、これは体積を膨張させる効果があります。圧力による縮小効果(2倍)が温度による膨張効果(約1.17倍)よりも大きいので、最終的な体積は元の \(6.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) よりも小さくなるはずです。計算結果の \(3.5 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) は元の体積より小さくなっており、物理的に妥当な結果と言えます。

解答 \(3.5 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ボイル・シャルルの法則:
    • 核心: 閉じ込められた一定量の気体の状態が変化するとき、変化前の状態量(\(P_1, V_1, T_1\))と変化後の状態量(\(P_2, V_2, T_2\))の間には、常に \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) という関係が成り立つ、という法則が全てです。
    • 理解のポイント:
      • この法則は、圧力・体積・温度のうち、どの物理量が変化しても(あるいは一定でも)使える、最も一般的で強力な法則です。
      • ボイルの法則(\(T\)が一定)、シャルルの法則(\(P\)が一定)、ゲイ=リュサックの法則(\(V\)が一定)は、すべてボイル・シャルルの法則の特殊な場合として導かれます。
  • 絶対温度の利用:
    • 核心: 気体の状態変化を記述する法則では、温度は必ず絶対温度 \(T\) [K] を用いなければなりません。
    • 理解のポイント:
      • 気体の圧力や体積は、分子の熱運動の激しさに比例します。その物理的な尺度となるのが絶対温度です。セルシウス温度 \(t\) [℃] は、\(0^\circ\text{C}\) を基準とした日常的な尺度であり、そのまま物理法則の計算に用いると、比例関係が成り立たず、正しい結果が得られません。
      • 変換式 \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\) は、計算の前に必ず行うべき必須の準備作業です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ピストンと力のつり合いとの組み合わせ: 前の例題のように、ピストンに重さがあったり、大気圧が作用したりする問題。まず力のつり合いから変化前後の圧力を求め、その上でボイル・シャルルの法則を適用して体積や温度の変化を計算する、という2段階の問題。
    • コックでつながれた容器: 2つの異なる状態の気体が入った容器をコックでつなぐ問題。この場合、気体が混合するため、物質量(モル数)の和が保存されることを利用して、状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて解くのが一般的です。
    • グラフ問題: \(P-V\)グラフや\(P-T\)グラフ上で、ある状態点から別の状態点へ変化するときの状態量を問う問題。グラフから変化前後の \(P, V, T\) を読み取り、ボイル・シャルルの法則を適用します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状態変化の前後を明確にする: 問題文を読み、「初期状態」と「最終状態」がそれぞれどのような圧力、体積、温度なのかを明確に区別し、情報を整理します。\(P_1, V_1, T_1\) と \(P_2, V_2, T_2\) のように記号を割り振ると間違いが減ります。
    2. 未知数を特定する: 6つの状態量(\(P_1, V_1, T_1, P_2, V_2, T_2\))のうち、5つが既知で1つが未知数になっていることを確認します。この問題では \(V_2\) が未知数です。
    3. 絶対温度への変換を最優先: 問題文に「℃」を見つけたら、他のどの計算よりも先に、まず「K」に変換する作業を済ませてしまいましょう。この一手間が、最も頻繁に起こるミスを防ぎます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 絶対温度への変換忘れ:
    • 誤解: ボイル・シャルルの法則の式に、\(T_1=27\), \(T_2=77\) のようにセルシウス温度の値をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 「気体の計算、温度は絶対!」とスローガンように覚えてください。問題用紙の「27℃」という記述の横に、すぐに「→300K」と書き込む癖をつけるのが最も効果的です。
  • 式の変形ミス:
    • 誤解: \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) を \(V_2\) について解く際に、分母と分子を逆にしてしまうなど、代数的な変形でミスをする。
    • 対策: 焦らずに、まず \(V_2 = \dots\) の形に文字式で変形してから数値を代入するのが安全です。\(V_2 = V_1 \times \displaystyle\frac{P_1}{P_2} \times \frac{T_2}{T_1}\) のように、元の体積 \(V_1\) に「圧力の変化率の逆数」と「温度の変化率」を掛ける、と物理的な意味を考えながら変形すると、間違いにくくなります。
  • 単位の混同:
    • 誤解: 体積が \(\text{L}\) (リットル) や \(\text{cm}^3\) で与えられているのに、他のSI単位(Pa, m^3)と混ぜて計算してしまう。
    • 対策: この問題では単位が揃っていますが、単位が混在している場合は、計算前にすべてSI基本単位系(Pa, m^3, K)に統一するのが原則です。ただし、ボイル・シャルルの法則では両辺で同じ単位を使えば約分されるため、例えば体積を両辺とも \(\text{L}\) のままで計算しても結果は変わりません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)):
    • 選定理由: この問題は、閉じ込められた一定量の気体の状態が、初期状態から最終状態へと変化する典型的なシナリオです。圧力、体積、温度という3つの主要な状態量がすべて変化しているため、これら3つを同時に関係づけることができるボイル・シャルルの法則が、この問題を解くために最も直接的で適切な公式となります。
    • 適用根拠: この法則が成り立つ大前提は「気体の物質量(モル数 \(n\))が一定であること」です。問題文では「シリンダー内に閉じ込められた気体」とあり、気体の出入りがないことが明らかなので、この法則を安心して適用できます。もし気体の出入りがある場合は、状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて、物質量の変化を考慮する必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 数値の整理: 計算を始める前に、以下のように値を書き出すと、代入ミスを防げます。
    • \(P_1 = 2.0 \times 10^5\), \(V_1 = 6.0 \times 10^{-2}\), \(T_1 = 300\)
    • \(P_2 = 4.0 \times 10^5\), \(V_2 = ?\), \(T_2 = 350\)
  • 指数の計算をまとめる: \(10^5\) や \(10^{-2}\) のような指数部分は、係数部分(\(2.0, 6.0\) など)とは分けて計算し、最後にまとめるのが安全です。
    \(\displaystyle\frac{(2.0 \times 6.0) \times (10^5 \times 10^{-2})}{300} = \frac{12 \times 10^3}{300} = 40\)
  • 簡単な比に直す: 計算の途中で、大きな数字の割り算をする前に、簡単な比に直せないか考えます。
    \(\displaystyle\frac{P_1}{P_2} = \frac{2.0 \times 10^5}{4.0 \times 10^5} = \frac{1}{2}\)
    \(\displaystyle\frac{T_2}{T_1} = \frac{350}{300} = \frac{35}{30} = \frac{7}{6}\)
    これらを使って \(V_2 = V_1 \times \displaystyle\frac{P_1}{P_2} \times \frac{T_2}{T_1} = (6.0 \times 10^{-2}) \times \frac{1}{2} \times \frac{7}{6} = 3.5 \times 10^{-2}\) と計算すると、見通しが良くなり、計算ミスも減ります。
  • 物理的な妥当性の確認(検算): 圧力は2倍(体積を1/2にする効果)、絶対温度は7/6倍(体積を7/6倍にする効果)になっています。したがって、体積は元の \(V_1\) の \(\frac{1}{2} \times \frac{7}{6} = \frac{7}{12}\) 倍になるはずです。\(6.0 \times \frac{7}{12} = 3.5\) となり、計算結果と一致することを確認できます。

186 ボイル・シャルルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コックで連結された容器内の気体の状態変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイルの法則: 温度が一定のとき、気体の圧力\(P\)と体積\(V\)の積は一定になります (\(PV = \text{一定}\))。
  2. ボイル・シャルルの法則: 気体の量が一定のとき、圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
  3. 絶対温度: 気体の状態を扱う計算では、セルシウス温度 \(t [^\circ\text{C}]\) ではなく、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) を用います。関係式は \(T = t + 273\) です。
  4. 気体の混合: コックを開いて気体を混合させると、気体は容器全体の体積に広がります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、コックを開ける前後で温度が一定であるため、ボイルの法則を適用します。気体が広がる後の体積が、容器AとBの容積の和になる点に注意します。
  2. (2)では、コックを開けてさらに温度も変化させるため、ボイル・シャルルの法則を適用します。体積の変化と温度の変化を同時に考慮して計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
コックを開ける前の容器A内の空気を「初期状態」、コックを開けて容器AとB全体に広がった後を「最終状態」として考えます。問題文に「全体の温度を27℃に保つ」とあるため、初期状態から最終状態への変化は温度が一定の「定温変化」です。したがって、ボイルの法則を適用します。このとき、気体の体積が初期の容器Aの容積から、最終的には容器AとBを合わせた容積に変化することが最大のポイントです。
この設問における重要なポイント

  • 定温変化ではボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) が成り立つ。
  • コックを開くと、気体は容器AとBを合わせた全体の体積 (\(V_A + V_B\)) に広がる。
  • 初期状態の気体は容器Aにしか存在しないため、初期体積は \(V_A\) である。

具体的な解説と立式
初期状態(コックを開ける前)と最終状態(コックを開けた後)の状態量を整理します。
初期状態:

  • \(P_1 = 3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • \(V_1 = V_A = 4.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
  • \(t_1 = 27^\circ\text{C}\)

最終状態:

  • 求める圧力を \(p\)
  • \(V_2 = V_A + V_B = (4.0 + 8.0) \times 10^{-2} = 12.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
  • \(t_2 = 27^\circ\text{C}\)

温度が一定(\(t_1 = t_2\))なので、ボイルの法則 \(P_1V_1 = pV_2\) が成り立ちます。
$$ (3.0 \times 10^5) \times (4.0 \times 10^{-2}) = p \times (12.0 \times 10^{-2}) $$

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(P_1V_1 = P_2V_2\)
計算過程

上記で立式した式を、求める圧力 \(p\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{(3.0 \times 10^5) \times (4.0 \times 10^{-2})}{12.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{12.0 \times 10^3}{12.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^{3 – (-2)} \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

温度が変わらないので、「圧力 × 体積」の値が一定になるというボイルの法則を使います。コックを開ける前、空気は体積 \(4.0 \times 10^{-2}\) の部屋にいました。コックを開けると、隣の \(8.0 \times 10^{-2}\) の部屋にも広がれるので、全体の体積は \(4.0 + 8.0 = 12.0\) (\(\times 10^{-2}\)) となり、元の3倍の広さになります。体積が3倍になったので、圧力は逆に3分の1になります。元の圧力 \(3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) を3で割って、\(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) となります。

結論と吟味

コックを開けた後の圧力は \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) です。気体が広がる体積が3倍になったため、圧力が3分の1になるという計算結果は物理的に妥当です。

解答 (1) \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と同様に、コックを開ける前の容器A内の空気を「初期状態」としますが、今回はコックを開けた後に全体の温度を \(127^\circ\text{C}\) に変化させます。このように、圧力・体積・温度の3つの状態量がすべて変化するため、ボイル・シャルルの法則を適用する必要があります。計算の前提として、セルシウス温度を絶対温度に変換することが不可欠です。
この設問における重要なポイント

  • 圧力・体積・温度がすべて変化する場合は、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) を用いる。
  • 温度の計算は、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) で行う。
  • 初期状態は(1)と同じく、容器A内の気体のみを考える。

具体的な解説と立式
初期状態(コックを開ける前)と最終状態(コックを開けて加熱後)の状態量を整理します。
初期状態:

  • \(P_1 = 3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • \(V_1 = 4.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
  • \(t_1 = 27^\circ\text{C}\)

最終状態:

  • 求める圧力を \(p’\)
  • \(V_2 = V_A + V_B = 12.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
  • \(t_2 = 127^\circ\text{C}\)

セルシウス温度を絶対温度に変換します。
$$ T_1 = 27 + 273 = 300 \text{ K} $$
$$ T_2 = 127 + 273 = 400 \text{ K} $$
これらの値を、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{p’V_2}{T_2}\) に代入して立式します。
$$ \frac{(3.0 \times 10^5) \times (4.0 \times 10^{-2})}{300} = \frac{p’ \times (12.0 \times 10^{-2})}{400} $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\)
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した式を、求める圧力 \(p’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p’ &= \frac{P_1V_1}{T_1} \times \frac{T_2}{V_2} \\[2.0ex]&= \frac{(3.0 \times 10^5) \times (4.0 \times 10^{-2})}{300} \times \frac{400}{12.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{12.0 \times 10^3}{300} \times \frac{400}{12.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= 40 \times \frac{400}{12.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{16000}{12.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{4}{3} \times 10^4 \times 10^2 \\[2.0ex]&= \frac{4}{3} \times 10^6 \approx 1.333… \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(1.3 \times 10^5 \text{ Pa}\) となります。

計算方法の平易な説明

今度は温度も変わるので、ボイル・シャルルの法則「(圧力 × 体積) ÷ 絶対温度 = 一定」を使います。
(1)で、体積が3倍になって圧力が \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) になったのは、温度が \(27^\circ\text{C}\) (300K) のままだった場合の話です。
今回はそこからさらに温度を \(127^\circ\text{C}\) (400K) に上げます。体積が一定のまま温度を上げると、圧力は絶対温度に比例して上がります。温度が \(300\text{K}\) から \(400\text{K}\) へと \(\frac{400}{300} = \frac{4}{3}\) 倍になるので、圧力も \(\frac{4}{3}\) 倍になります。(1)で求めた圧力 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) を \(\frac{4}{3}\) 倍して、約 \(1.3 \times 10^5 \text{ Pa}\) を求めます。

結論と吟味

コックを開けて加熱した後の圧力は、約 \(1.3 \times 10^5 \text{ Pa}\) です。(1)で求めた圧力 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) からさらに加熱しているため、気体分子の運動が激しくなり、圧力が上昇します。計算結果は(1)の値より大きくなっており、物理的に妥当です。

解答 (2) \(1.3 \times 10^5 \text{ Pa}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ボイル・シャルルの法則とその特殊形:
    • 核心: 閉じ込められた一定量の気体の状態変化を記述する \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という法則を、問題の条件に応じて正しく使い分けることが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 問(1)のように温度が一定の状況では、ボイル・シャルルの法則はより単純なボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) に帰着します。
      • 問(2)のように圧力・体積・温度がすべて変化する状況では、ボイル・シャルルの法則そのものを適用します。
  • 体積変化の正しい認識:
    • 核心: 「コックを開く」という操作が、物理的に「気体が占める体積が、容器AとBの合計容積にまで膨張する」ことを意味すると理解できるかが、式を正しく立てるための鍵となります。
    • 理解のポイント: 気体は、与えられた空間全体に一様に広がろうとする性質があります。したがって、コックを開けた後の体積は \(V_{\text{後}} = V_A + V_B\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 異なる気体の混合: 容器AとBに、それぞれ異なる状態(異なる圧力、温度、物質量)の気体が入っている状態でコックを開く問題。この場合、ボイル・シャルルの法則を直接使うのではなく、「混合の前後で物質量の合計は変わらない」という原則から、状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて解きます。具体的には、\(n_{\text{後}} = n_{A\text{前}} + n_{B\text{前}}\) より、\(\displaystyle\frac{P_{\text{後}}V_{\text{後}}}{T_{\text{後}}} = \frac{P_{A\text{前}}V_{A\text{前}}}{T_{A\text{前}}} + \frac{P_{B\text{前}}V_{B\text{前}}}{T_{B\text{前}}}\) という式を立てます(気体定数Rは消去)。
    • 化学反応を伴う場合: 混合した気体が化学反応を起こす問題。化学反応式の係数比に従って物質量が変化するため、熱力学だけでなく化学の知識も必要になります。
    • 断熱変化: 容器が断熱材でできており、コックを「急に」開く場合。これは断熱自由膨張と呼ばれ、理想気体の場合は温度が変化しないという特徴があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状態変化の種類を特定する: 問題文のキーワード「温度を…に保つ」→定温変化、「温度を…にする」→温度変化あり、を読み取り、ボイルの法則かボイル・シャルルの法則かを選択します。
    2. 初期状態と最終状態の体積を明確にする: 「コックを開ける前」の体積は気体が入っている容器の容積のみ。「コックを開けた後」の体積は、連結されたすべての容器の容積の和になることを確認します。
    3. 保存量を確認する: この問題では、容器に閉じ込められた気体の「物質量(モル数)」が、コックを開ける前後で変化していません。これが、ボイル・シャルルの法則が適用できる根拠です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 体積の扱いを間違える:
    • 誤解: コックを開けた後の体積を、容器Bの容積 \(V_B\) だけだと勘違いしたり、なぜか引き算をしてしまったりする。
    • 対策: 気体は「与えられた空間全体に広がる」という基本性質を常に念頭に置きます。簡単な図を描いて、コックを開けたら気体分子がどこまで動けるようになるかをイメージすれば、体積が \(V_A + V_B\) になることは直感的に理解できます。
  • (2)の初期状態を(1)の最終状態と勘違いする:
    • 誤解: (2)を解く際に、(1)で求めた圧力 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) を初期圧力として計算を始めてしまう。
    • 対策: 各設問は、特に断りがない限り、問題文の「初め」の状態からスタートすると考えます。設問ごとに、「どこからどこへの変化を問われているのか」を問題文で再確認する癖をつけましょう。
  • 絶対温度への変換忘れ:
    • 誤解: (2)で、温度の項に \(T_1=27\), \(T_2=127\) をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 「気体の計算では、温度は絶対温度(K)が絶対ルール」と肝に銘じましょう。問題文のセルシウス温度を見つけたら、即座に「+273」して絶対温度の値を横にメモする習慣が有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ボイルの法則 (\(PV = \text{一定}\)) とボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)):
    • 選定理由: この問題は、閉じ込められた一定量の気体の状態変化を扱っており、気体の出入りがないため物質量 \(n\) が一定です。このような場合に、圧力・体積・温度の関係を記述するのがこれらの法則です。
    • 適用根拠:
      • 問(1): 「温度を27℃に保つ」という条件から、\(T\)が一定です。したがって、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) の分母 \(T_1, T_2\) が等しいため、これを消去した \(P_1V_1 = P_2V_2\)(ボイルの法則)を適用するのが最も効率的です。
      • 問(2): 今度は温度も \(27^\circ\text{C} \rightarrow 127^\circ\text{C}\) と変化します。圧力、体積、温度の3つすべてが変化するため、これらを包括的に扱えるボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) をそのまま用いる必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比で考える:
    • 問(1): 体積が \(V_1 = 4.0 \times 10^{-2}\) から \(V_2 = 12.0 \times 10^{-2}\) へと「3倍」になる。温度は一定なので、ボイルの法則から圧力は「1/3倍」になるはず。よって \(p = (3.0 \times 10^5) \times \frac{1}{3} = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)。
    • 問(2): 体積は「3倍」に、絶対温度は \(T_1=300\text{K}\) から \(T_2=400\text{K}\) へと「4/3倍」になる。ボイル・シャルルの法則 \(p’ = P_1 \times \frac{V_1}{V_2} \times \frac{T_2}{T_1}\) から、圧力は元の \(p’ = (3.0 \times 10^5) \times \frac{1}{3} \times \frac{4}{3} = \frac{4}{3} \times 10^5 \approx 1.3 \times 10^5 \text{ Pa}\) となる。このように比で考えると、大きな桁の数値を扱う手間が省け、計算が速く正確になります。
  • 有効数字を意識する: (2)の計算結果は \(1.333…\times 10^5\) と割り切れません。問題文で与えられている数値(4.0, 8.0, 3.0, 27, 127)の有効数字は2桁または3桁です。解答では、最も信頼性の低い有効数字2桁に合わせて \(1.3 \times 10^5\) とするのが一般的です。解答の形式を問題の指示や慣例に合わせましょう。

187 定圧変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の定圧変化とシャルルの法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. シャルルの法則: 圧力が一定のとき、気体の体積は絶対温度に正比例します。この関係は \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) と表されます。
  2. ボイル・シャルルの法則: より一般的な法則として \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) があり、圧力が一定の条件下ではシャルルの法則に帰着します。
  3. 絶対温度: 気体の状態変化に関する法則では、温度は必ず絶対温度(単位: K)を用います。この問題では、最初から絶対温度で与えられています。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文から「圧力一定」という条件を読み取り、適用すべき法則がシャルルの法則であることを特定します。
  2. 変化の前と後で、体積と絶対温度の値を整理します。
  3. シャルルの法則の式に値を代入し、未知の体積を計算します。

解説

思考の道筋とポイント
この問題は、理想気体の状態変化の中でも最も基本的なものの一つです。最大のポイントは、問題文にある「圧力一定で」というキーワードを見逃さないことです。この条件により、気体の状態変化は「定圧変化」であると特定でき、体積と絶対温度の関係を表す「シャルルの法則」を適用すればよいことがわかります。温度はすでに絶対温度(K)で与えられているため、セルシウス温度からの変換は不要で、直接計算に入ることができます。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化ではシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 「圧力一定」という記述が、シャルルの法則を選択する直接的な根拠となる。
  • シャルルの法則は、気体の体積\(V\)が絶対温度\(T\)に比例すること (\(V \propto T\)) を意味する。

具体的な解説と立式
変化前の気体の状態を状態1、変化後の状態を状態2として、それぞれの状態量を整理します。
状態1(初期状態):

  • \(V_1 = 6.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
  • \(T_1 = 300 \text{ K}\)

状態2(最終状態):

  • 求める体積を \(V_2\)
  • \(T_2 = 400 \text{ K}\)

「圧力一定」の条件下での変化なので、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) が成り立ちます。この式に各値を代入して立式します。
$$ \frac{6.0 \times 10^{-2}}{300} = \frac{V_2}{400} $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (圧力が一定のとき)
計算過程

上記で立式した式を、求める体積 \(V_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \frac{6.0 \times 10^{-2}}{300} \times 400 \\[2.0ex]&= (6.0 \times 10^{-2}) \times \frac{400}{300} \\[2.0ex]&= (6.0 \times 10^{-2}) \times \frac{4}{3} \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

圧力が一定のとき、気体は温められると膨らみ、冷やされると縮みます。シャルルの法則は、「絶対温度が何倍になったか」と「体積が何倍になったか」が等しくなる、という単純な比例関係を表す法則です。
この問題では、絶対温度が300Kから400Kに、つまり \(\displaystyle\frac{400}{300} = \frac{4}{3}\) 倍になっています。したがって、体積も同じく \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になります。元の体積 \(6.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) を \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍して、答えを求めます。

結論と吟味

温度を上げた後の体積は \(8.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) です。定圧下で気体を加熱したため、気体は膨張します。計算結果は元の体積 \(6.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) よりも大きくなっており、物理的に妥当な結果であると言えます。

解答 \(8.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • シャルルの法則:
    • 核心: 圧力が一定に保たれた状態で、気体の体積\(V\)は絶対温度\(T\)に正比例する、という法則が全てです。数式で表現すると \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) となります。
    • 理解のポイント:
      • この法則は、温度が上がって分子の熱運動が激しくなると、圧力を一定に保つためには分子が動き回る空間(体積)を広げる必要がある、という物理的イメージと結びついています。
      • 「体積が絶対温度に比例する」という関係は、\(V-T\)グラフを描くと原点を通る直線になることを意味します。
  • 絶対温度の概念:
    • 核心: シャルルの法則をはじめとする気体の法則は、セルシウス温度ではなく、必ず絶対温度を基準にしなければ成り立ちません。
    • 理解のポイント:
      • 絶対零度(0K)は、理論上、気体分子の熱運動が停止し、体積がゼロになる温度です。この物理的な基準点から測ることで、体積と温度のきれいな比例関係が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ピストン付きシリンダーの問題: 「なめらかに動くピストン」で閉じ込められた気体を加熱・冷却する問題は、ピストン内外の圧力がつり合って一定に保たれるため、典型的な定圧変化(シャルルの法則)の問題となります。
    • 熱力学第一法則との組み合わせ: 定圧変化で気体がした仕事 \(W = P\Delta V\) や、気体に加えた熱量 \(Q\) を求める問題。シャルルの法則で体積変化 \(\Delta V\) を計算し、それを使って仕事や熱量を求めます。
    • グラフの読み取り問題: \(V-T\)グラフが与えられ、グラフ上の2点間の状態変化について問う問題。グラフが原点を通る直線であれば、定圧変化であると判断できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状態変化の条件を特定する: 問題文から「圧力一定」「定圧」といったキーワードを探し、シャルルの法則が適用できるかを確認します。
    2. 温度の単位を確認する: 温度がセルシウス温度(℃)で与えられていたら、計算を始める前に必ず絶対温度(K)に変換します。この問題では最初からKで与えられているため、その手間は不要です。
    3. 変化の前後を整理する: 変化前の状態(\(V_1, T_1\))と変化後の状態(\(V_2, T_2\))を明確に書き出し、どの値が未知数かを確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • セルシウス温度での計算:
    • 誤解: もし温度が \(27^\circ\text{C}\) と \(127^\circ\text{C}\) で与えられた場合に、\(\displaystyle\frac{V_1}{27} = \frac{V_2}{127}\) のように、セルシウス温度のまま計算してしまう。
    • 対策: 「気体の法則は絶対温度で」と徹底的に覚え込みます。問題文に℃が出てきたら、機械的に「+273」する癖をつけましょう。
  • ボイルの法則との混同:
    • 誤解: 圧力が一定なのに、温度が一定のときに使うボイルの法則(\(PV=\text{一定}\))を誤って適用してしまう。
    • 対策: 「ボイルは温度が一定」「シャルルは圧力が一定」と、法則と条件をセットで正確に記憶することが重要です。迷ったら、万能なボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T}=\text{一定}\) を書き出し、「圧力が一定だからPを消去する」と考えれば、自然とシャルルの法則が導かれます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)):
    • 選定理由: 問題文に「圧力一定で」と、状態変化の条件が明確に指定されています。シャルルの法則は、まさにこの「定圧変化」における体積と絶対温度の関係を記述するために発見された法則であり、この問題を解く上で最も直接的かつ適切な公式です。
    • 適用根拠: この法則は、より一般的なボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) において、圧力 \(P\) が一定(\(P_1=P_2\))であるという特殊なケースに相当します。両辺の \(P\) を約分することで、\(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) が導かれます。したがって、ボイル・シャルルの法則から出発し、問題の条件を適用して特殊化するという思考プロセスも非常に有効です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比の関係で解く:
    • シャルルの法則は \(V \propto T\) という単純な比例関係です。絶対温度が \(T_1=300\text{K}\) から \(T_2=400\text{K}\) へと \(\displaystyle\frac{400}{300} = \frac{4}{3}\) 倍になっています。
    • したがって、体積も \(\displaystyle\frac{4}{3}\) 倍になるはずです。
    • \(V_2 = V_1 \times \frac{4}{3} = (6.0 \times 10^{-2}) \times \frac{4}{3} = 8.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)。
    • このように、まず変化の比率を計算してから元の値に掛ける方法を使うと、立式や代入の手間が省け、計算が速く、ミスも少なくなります。
  • 物理的な妥当性の確認:
    • 「圧力が一定のまま気体を温めたら、体積はどうなるか?」と自問します。答えは「膨張する(体積が増える)」です。
    • 計算結果が、元の体積 \(6.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) よりも大きくなっているかを確認します。\(8.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) は確かに大きくなっているので、結果は妥当だと判断できます。この簡単なチェックで、分数の掛け算を逆にするといったケアレスミスを防げます。

188 ボイル・シャルルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「条件に応じて変化する理想気体の状態変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ボイル・シャルルの法則: 気体の量が一定のとき、圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
  2. ゲイ=リュサックの法則(定積変化): 体積が一定のとき、\(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) となります。
  3. ボイルの法則(定温変化): 温度が一定のとき、\(PV = \text{一定}\) となります。
  4. シャルルの法則(定圧変化): 圧力が一定のとき、\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) となります。
  5. 絶対温度: 気体の計算では、セルシウス温度 \(t [^\circ\text{C}]\) ではなく、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) を用います。関係式は \(T = t + 273\) です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、容積が一定のまま温度を上げる「定積変化」なので、ゲイ=リュサックの法則を適用して、安全弁が作動する圧力 \(p_0\) を求めます。
  2. (2)では、温度が一定のまま容積を変える「定温変化」なので、ボイルの法則を適用して、圧力が \(p_0\) に達するときの容積を求めます。
  3. (3)では、圧力が一定のまま温度を上げる「定圧変化」なので、シャルルの法則を適用して、容積が \(2V_0\) になるときの温度を求めます。
  4. 各設問で「何が一定か」を問題文から正確に読み取ることが重要です。

問(1)

思考の道筋とポイント
初期状態(容積\(V_0\), 温度\(17^\circ\text{C}\), 圧力\(1.0 \times 10^5\) Pa)から、安全弁が作動する瞬間の状態への変化を考えます。「容積を\(V_0\)に保ちながら」という記述から、これは体積が一定の「定積変化」です。安全弁が作動する瞬間の温度は \(307^\circ\text{C}\) であり、このときの圧力が求める \(p_0\) です。体積が一定なので、圧力は絶対温度に比例します(ゲイ=リュサックの法則)。
この設問における重要なポイント

  • 定積変化では、ゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 安全弁が作動する瞬間の圧力と温度を、変化後の状態量として捉える。
  • 温度は必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) に変換して計算する。

具体的な解説と立式
初期状態を状態1、安全弁が作動する瞬間を状態2とします。
状態1: \(P_1 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_1 = V_0\), \(t_1 = 17^\circ\text{C}\)
状態2: \(P_2 = p_0\), \(V_2 = V_0\), \(t_2 = 307^\circ\text{C}\)

まず、セルシウス温度を絶対温度に変換します。
$$ T_1 = 17 + 273 = 290 \text{ K} $$
$$ T_2 = 307 + 273 = 580 \text{ K} $$
体積 \(V\) が一定なので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) において \(V_1=V_2=V_0\) となり、ゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{P_1}{T_1} = \frac{P_2}{T_2}\) が導かれます。
$$ \frac{1.0 \times 10^5}{290} = \frac{p_0}{580} $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) (またはゲイ=リュサックの法則: \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\))
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した式を、求める圧力 \(p_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p_0 &= (1.0 \times 10^5) \times \frac{580}{290} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times 2 \\[2.0ex]&= 2.0 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

体積が一定のまま気体を温めると、中の空気分子の運動が激しくなり、壁を押す力が強まって圧力が上がります。このとき、圧力は絶対温度に比例します。絶対温度が \(290\text{K}\) から \(580\text{K}\) へとちょうど2倍になっているので、圧力も元の \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) から2倍の \(2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) になります。

結論と吟味

安全弁が作動する圧力 \(p_0\) は \(2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) です。定積下で加熱したため、圧力が上昇するという結果は物理的に妥当です。

解答 (1) \(2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
初期状態から、今度は「温度を\(17^\circ\text{C}\)に保ちながら」容積を変化させ、安全弁が作動する状況を考えます。これは温度が一定の「定温変化」なので、ボイルの法則を適用します。安全弁が作動する圧力は、(1)で求めた \(p_0 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) です。この圧力になるまで気体を圧縮したときの容積を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 定温変化では、ボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 安全弁が作動する圧力は、(1)で求めた \(p_0\) の値を用いる。

具体的な解説と立式
初期状態を状態1、安全弁が作動する瞬間を状態2とします。
状態1: \(P_1 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_1 = V_0\)
状態2: \(P_2 = p_0 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), 求める容積を \(V\)

温度が一定なので、ボイルの法則 \(P_1V_1 = P_2V\) が成り立ちます。
$$ (1.0 \times 10^5) \times V_0 = (2.0 \times 10^5) \times V $$

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(P_1V_1 = P_2V_2\)
計算過程

上記で立式した式を、求める容積 \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{(1.0 \times 10^5) \times V_0}{2.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} V_0
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

温度が一定のとき、気体の体積を半分に圧縮すると、圧力は2倍になります。今回は、圧力を \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) から \(2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) へと2倍にする必要があるので、容積を元の \(V_0\) から半分の \(\frac{V_0}{2}\) にすればよいことになります。

結論と吟味

安全弁が作動するときの容積は \(\displaystyle\frac{V_0}{2}\) です。圧力を上げるために気体を圧縮したので、容積が元の値より小さくなるという結果は物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{V_0}{2} \text{ [cm}^3\text{]}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
初期状態から、今度は「圧力を\(1.0 \times 10^5\) Paに保ちながら」温度を上げ、容積を \(2V_0\) にする状況を考えます。これは圧力が一定の「定圧変化」なので、シャルルの法則を適用します。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化では、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 計算は絶対温度で行い、問題の要求に合わせて最後にセルシウス温度に変換する。

具体的な解説と立式
初期状態を状態1、膨張後を状態2とします。
状態1: \(P_1 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_1 = V_0\), \(t_1 = 17^\circ\text{C}\)
状態2: \(P_2 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(V_2 = 2V_0\), 求める温度を \(t\)

まず、初期状態の温度を絶対温度に変換します。
$$ T_1 = 17 + 273 = 290 \text{ K} $$
最終状態の絶対温度は \(T_2 = t + 273\) と表せます。

圧力が一定なので、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) が成り立ちます。
$$ \frac{V_0}{290} = \frac{2V_0}{t + 273} $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\)
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した式を、求める温度 \(t\) について解きます。まず両辺の \(V_0\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{290} &= \frac{2}{t + 273} \\[2.0ex]t + 273 &= 2 \times 290 \\[2.0ex]t + 273 &= 580 \\[2.0ex]t &= 580 – 273 \\[2.0ex]&= 307 \text{ [}^\circ\text{C]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

圧力が一定のとき、気体の体積は絶対温度に比例します。今回は、体積を \(V_0\) から \(2V_0\) へと2倍にしたいので、絶対温度も2倍にする必要があります。元の絶対温度は \(17+273=290\text{K}\) です。これを2倍すると \(580\text{K}\) になります。最後に、これをセルシウス温度に直すために273を引くと、\(580 – 273 = 307^\circ\text{C}\) となります。

結論と吟味

求める温度は \(307^\circ\text{C}\) です。定圧下で気体を膨張させるには加熱する必要があり、温度が上昇するという結果は物理的に妥当です。興味深いことに、この温度は(1)で安全弁が作動した温度と一致します。

解答 (3) \(307^\circ\text{C}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ボイル・シャルルの法則の使い分け:
    • 核心: この問題は、理想気体の状態変化を記述するボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) を、設問ごとの物理的条件に応じて、その特殊な形である「ゲイ=リュサックの法則」「ボイルの法則」「シャルルの法則」に正しく適用し分ける能力を試しています。
    • 理解のポイント:
      • (1) 「容積を…に保ちながら」→ 定積変化 → \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) (ゲイ=リュサックの法則)
      • (2) 「温度を…に保ちながら」→ 定温変化 → \(PV = \text{一定}\) (ボイルの法則)
      • (3) 「圧力を…に保ちながら」→ 定圧変化 → \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (シャルルの法則)
      • このように、問題文のキーワードと適用すべき法則を正確に対応させることが、この問題の全てです。
  • 絶対温度の利用:
    • 核心: 気体の状態変化を扱う法則は、すべて絶対温度 \(T\) [K] を基準としています。セルシウス温度 \(t\) [℃] のまま計算すると、正しい結果は得られません。
    • 理解のポイント: 変換式 \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\) を用いて、計算の前に必ず温度の単位をKに変換することが鉄則です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • P-Vグラフ上での状態変化: グラフ上で、定積変化(縦線)、定温変化(反比例曲線)、定圧変化(横線)を組み合わせたサイクル(循環過程)を考え、各過程での熱の吸収・放出や仕事を計算させる問題。各状態点での \(P, V, T\) を求める際に、本問と同様の法則の使い分けが必要になります。
    • 安全弁とピストンの組み合わせ: 安全弁が作動するまでは定積変化、作動した後は圧力が一定(\(p_0\))に保たれる定圧変化、というように、途中で変化の種類が変わる問題。どの時点でどの法則が適用されるかを正確に見極める必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 初期状態の特定: まず、すべての設問の基準となる「初期状態」の \(P, V, T\) の値を問題文から正確に抜き出します。この問題では「\(P_1=1.0 \times 10^5\) Pa, \(V_1=V_0\), \(T_1=17^\circ\text{C}=290\text{K}\)」です。
    2. 各設問の「不変量」を探す: 各設問の文章を読み、「何を一定に保っているか」というキーワード(「容積を保ち」「温度を保ち」「圧力を保ち」)を見つけ出します。これが、適用すべき法則を決定する最大のヒントです。
    3. 変化の終点を明確にする: 各設問で、変化が終わる瞬間の状態(例えば「安全弁がはたらいたとき」「容積が2V₀になるとき」)がどのような物理的条件に対応するのかを考え、\(P_2, V_2, T_2\) のうち、既知の値と未知の値を整理します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 法則の適用ミス:
    • 誤解: (1)の定積変化なのに、シャルルの法則(\(\frac{V}{T}=\text{一定}\))を適用してしまうなど、条件と法則を取り違える。
    • 対策: 各法則の名前と条件(ボイル→定温、シャルル→定圧、ゲイ=リュサック→定積)をセットで確実に暗記することが基本です。もし不安なら、万能なボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T}=\text{一定}\) を書き出し、問題の条件(例: \(V_1=V_2\))を代入して不要な変数を消去する方法が最も安全で確実です。
  • 絶対温度への変換忘れ・計算ミス:
    • 誤解: \(t=307^\circ\text{C}\) を \(T=307+273=580\text{K}\) と正しく変換できても、最後の(3)で \(T=580\text{K}\) を \(t=580-273=307^\circ\text{C}\) に戻す計算を忘れたり、間違えたりする。
    • 対策: 問題がどの単位(Kか℃か)で解答を求めているかを最後に必ず確認する癖をつけましょう。また、\(273\) の足し算・引き算は単純ですが、焦るとミスしやすいので、落ち着いて検算することが大切です。
  • 初期状態の混同:
    • 誤解: (2)や(3)を解く際に、(1)で求めた \(p_0\) の状態を初期状態として計算を始めてしまう。
    • 対策: 各設問は、特に指示がない限り、すべて問題文冒頭で与えられた共通の初期状態「容積\(V_0\), 温度\(17^\circ\text{C}\), 圧力\(1.0 \times 10^5\) Pa」からスタートします。設問ごとに思考をリセットし、どこからどこへの変化なのかを再確認しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)) とその派生法則:
    • 選定理由: この問題は、閉じ込められた一定量の気体の状態変化を扱っており、物質量 \(n\) が一定です。このような状況下で、状態量 \(P, V, T\) の関係を記述するのがこれらの法則です。
    • 適用根拠: 物理現象をモデル化する際、最も一般的な法則から出発し、個別の問題の特殊な条件を適用して単純化するのが王道です。
      • まず、最も一般的な \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) を考えます。
      • (1)では「\(V\)が一定」という条件が加わるので、両辺の \(V\) を消去して \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) を適用します。
      • (2)では「\(T\)が一定」という条件が加わるので、両辺の \(T\) を消去して \(PV = \text{一定}\) を適用します。
      • (3)では「\(P\)が一定」という条件が加わるので、両辺の \(P\) を消去して \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) を適用します。
      • この思考プロセスにより、なぜその法則が選ばれるのかを論理的に理解できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 比の関係を最大限に活用する:
    • (1) 定積変化なので \(P \propto T\)。絶対温度が \(T_1=290\text{K}\) から \(T_2=580\text{K}\) へ「2倍」になるので、圧力も「2倍」になる。\(p_0 = (1.0 \times 10^5) \times 2 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)。
    • (2) 定温変化なので \(V \propto \frac{1}{P}\)。圧力が \(P_1=1.0 \times 10^5\) から \(P_2=2.0 \times 10^5\) へ「2倍」になるので、容積は「1/2倍」になる。\(V = V_0 \times \frac{1}{2} = \frac{V_0}{2}\)。
    • (3) 定圧変化なので \(V \propto T\)。容積が \(V_1=V_0\) から \(V_2=2V_0\) へ「2倍」になるので、絶対温度も「2倍」になる。\(T_2 = T_1 \times 2 = 290 \times 2 = 580\text{K}\)。これをセルシウス温度に直して \(307^\circ\text{C}\)。
    • このように、比例・反比例の関係を使うと、複雑な分数計算を避けられ、計算が格段に速く、正確になります。

189 理想気体の状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「理想気体の状態方程式と気体の出入り」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 理想気体の状態方程式: 気体の圧力\(P\)、体積\(V\)、物質量\(n\)、絶対温度\(T\)の間には、\(PV=nRT\) という関係が成り立ちます。ここで\(R\)は気体定数です。
  2. ボイル・シャルルの法則との違い: ボイル・シャルルの法則は気体の物質量\(n\)が一定のときに使えますが、この問題のように気体の出入りがある場合は、物質量\(n\)も変数として扱える状態方程式を用いる必要があります。
  3. 絶対温度: 気体の計算では、セルシウス温度 \(t [^\circ\text{C}]\) ではなく、必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) を用います。関係式は \(T = t + 273\) です。
  4. 開放系と平衡状態: コックを開いて容器を大気に開放すると、十分な時間が経てば容器内の圧力は大気圧と等しくなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、コックを開ける前の、気体がすべて容器内に閉じ込められている状態に着目します。このときの圧力、物質量、温度が与えられているので、状態方程式を用いて未知の容積を計算します。
  2. (2)では、コックを開けて放置した後の状態を考えます。このとき、容器内の圧力は大気圧と等しくなります。この最終状態について状態方程式を立て、容器内に残っている気体の物質量を計算し、初めの物質量との差から、出ていった気体の量を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
コックを開ける前の、容器に閉じ込められた気体の初期状態に着目します。この状態の圧力\(P\)、物質量\(n\)、温度\(T\)が問題文で与えられており、未知数は容器の容積\(V\)のみです。これらの4つの物理量を結びつけるのは、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) です。この式に与えられた値を代入することで、容積\(V\)を求めることができます。計算の際には、温度をセルシウス温度から絶対温度に変換することを忘れないようにしましょう。
この設問における重要なポイント

  • 気体の圧力、体積、物質量、温度の関係は、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) で与えられる。
  • 状態方程式を用いることで、4つの状態量のうち3つが分かっていれば、残りの1つを計算できる。
  • 温度は必ず絶対温度 \(T [\text{K}]\) に変換する。

具体的な解説と立式
初期状態の気体の状態量は以下の通りです。
\(P = 3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
求める容積を \(V\)
\(n = 0.30 \text{ mol}\)
\(t = 27^\circ\text{C}\)
気体定数 \(R = 8.3 \text{ J/(mol}\cdot\text{K)}\)

まず、セルシウス温度を絶対温度に変換します。
$$ T = 27 + 273 = 300 \text{ K} $$
これらの値を、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) に代入して立式します。
$$ (3.0 \times 10^5) \times V = 0.30 \times 8.3 \times 300 $$

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
  • 絶対温度: \(T [\text{K}] = t [^\circ\text{C}] + 273\)
計算過程

上記で立式した式を、求める容積 \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{0.30 \times 8.3 \times 300}{3.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= \frac{0.30 \times 8.3 \times 3 \times 10^2}{3.0 \times 10^5} \\[2.0ex]&= \frac{0.30 \times 8.3}{10^3} \\[2.0ex]&= 2.49 \times 10^{-3} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
問題の有効数字を考慮して、\(2.5 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) とします。

計算方法の平易な説明

気体の圧力、体積、量(モル数)、温度の4つの要素の関係を表す万能な公式が「理想気体の状態方程式」です。この問題では、初期状態の圧力、量、温度がわかっていて、体積だけがわかりません。そこで、この方程式にわかっている値をすべて代入すれば、残った体積を計算することができます。温度は摂氏(℃)ではなく絶対温度(K)を使うルールなので、27℃を300Kに直してから計算します。

結論と吟味

容器の容積は約 \(2.5 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) です。これは2.5Lに相当し、一般的な実験室の容器として妥当な大きさです。

解答 (1) \(2.5 \times 10^{-3} \text{ m}^3\)

問(2)

思考の道筋とポイント
コックを開けて放置した後の、容器内に残っている気体の状態を考えます。この操作により、容器内の気体の一部が外に逃げ出し、物質量が変化します。したがって、ボイル・シャルルの法則は使えず、状態方程式で考える必要があります。
「しばらく放置した」結果、容器内の圧力は外の大気圧と等しくなります。この最終状態について状態方程式を立てることで、容器内に残っている気体の物質量 \(n_{\text{後}}\) を計算できます。出ていった気体の量は、初めの物質量 \(n_{\text{前}}\) との差で求められます。
この設問における重要なポイント

  • コックを開けて放置すると、容器内の圧力は外部の大気圧に等しくなる。
  • 気体の出入りがあるため、物質量\(n\)が変化する。このような場合は状態方程式 \(PV=nRT\) を用いる。
  • 出ていった気体の量 = (初めの量) – (後に残った量)。

具体的な解説と立式
コックを開けて放置した後の、容器内に残っている気体の状態量を整理します。
\(P_{\text{後}} = P_{\text{大気}} = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
\(V\) は(1)で求めた容器の容積 \(2.49 \times 10^{-3} \text{ m}^3\) で一定。
\(T_{\text{後}}\) は「温度を27℃に保ったまま」なので、初期状態と同じ \(300 \text{ K}\)。
このときに容器内に残っている気体の物質量を \(n_{\text{後}}\) とします。

これらの値を状態方程式 \(P_{\text{後}}V = n_{\text{後}}RT_{\text{後}}\) に代入します。
$$ (1.0 \times 10^5) \times (2.49 \times 10^{-3}) = n_{\text{後}} \times 8.3 \times 300 $$
出ていった気体の物質量 \(\Delta n\) は、
$$ \Delta n = n_{\text{前}} – n_{\text{後}} $$
で計算できます。ここで \(n_{\text{前}} = 0.30 \text{ mol}\) です。

別解: 比例関係の利用

状態方程式の形 \(n = \displaystyle\frac{PV}{RT}\) に着目します。コックを開ける前後で、容器の容積\(V\)、気体定数\(R\)、温度\(T\)はすべて一定です。したがって、容器内の気体の物質量\(n\)は、圧力\(P\)に比例することがわかります。この比例関係を利用して、より簡単に計算することもできます。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
計算過程

まず、容器内に残った気体の物質量 \(n_{\text{後}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
n_{\text{後}} &= \frac{P_{\text{後}}V}{RT_{\text{後}}} \\[2.0ex]&= \frac{(1.0 \times 10^5) \times (2.49 \times 10^{-3})}{8.3 \times 300} \\[2.0ex]&= \frac{2.49 \times 10^2}{2490} \\[2.0ex]&= \frac{249}{2490} \\[2.0ex]&= 0.10 \text{ [mol]}
\end{aligned}
$$
次に出ていった気体の物質量 \(\Delta n\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta n &= n_{\text{前}} – n_{\text{後}} \\[2.0ex]&= 0.30 – 0.10 \\[2.0ex]&= 0.20 \text{ [mol]}
\end{aligned}
$$

別解による計算

前後で \(V, R, T\) が一定なので、\(n \propto P\) の関係が成り立ちます。
圧力は \(P_{\text{前}} = 3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) から \(P_{\text{後}} = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) へと \(\frac{1}{3}\) 倍になっています。
したがって、容器内の物質量も \(\frac{1}{3}\) 倍になります。
$$ n_{\text{後}} = n_{\text{前}} \times \frac{1}{3} = 0.30 \times \frac{1}{3} = 0.10 \text{ [mol]} $$
出ていった量は、
$$ \Delta n = 0.30 – 0.10 = 0.20 \text{ [mol]} $$

計算方法の平易な説明

コックを開けると、容器の中の圧力が高いために、空気は外に逃げていきます。空気が逃げ切って、中の圧力が外の空気の圧力(大気圧)と同じになったところで、空気の出入りは止まります。
このとき、容器の大きさ(体積)と温度は変わっていません。状態方程式から、体積と温度が同じなら、物質量(モル数)は圧力に比例します。圧力は \(3.0 \times 10^5\) から \(1.0 \times 10^5\) へと、ちょうど3分の1になりました。ということは、容器の中に残っている空気の量も、元の3分の1になったはずです。
初めに0.30molあったので、残っているのは \(0.30 \div 3 = 0.10\) mol。したがって、出ていった量は \(0.30 – 0.10 = 0.20\) mol となります。

結論と吟味

容器から出ていった理想気体は \(0.20 \text{ mol}\) です。初めの物質量のうち、3分の2が外部に流出したことになります。圧力の減少率と物質量の減少率が一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(0.20 \text{ mol}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
    • 核心: この問題の最大のポイントは、気体の出入りがあり、物質量\(n\)が変化する状況を扱う点です。このような場合、物質量\(n\)が一定であることを前提とするボイル・シャルルの法則は使えず、物質量\(n\)を変数として扱える唯一の法則である「理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\)」を用いる必要があります。
    • 理解のポイント:
      • (1)では、閉じ込められた気体の \(P, n, T\) が分かっているので、状態方程式を使って \(V\) を求めます。
      • (2)では、コックを開けて気体が逃げた後の状態を考えます。このとき、容器内に残った気体の物質量 \(n_{\text{後}}\) が未知数となるため、最終状態について状態方程式を立てて \(n_{\text{後}}\) を求めます。
  • 開放系における平衡状態:
    • 核心: 「コックを開き、しばらく放置した」という記述が、物理的に「容器内部の圧力が外部の圧力(大気圧)と等しくなるまで気体の出入りが起こり、最終的に平衡状態に達した」ことを意味すると理解することが重要です。
    • 理解のポイント: (2)で、コックを開けた後の容器内の圧力を、大気圧 \(P_{\text{後}} = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) として計算を進める根拠は、この物理的状況の読解にあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 温度も変化させる場合: コックを開けて放置した後、さらに容器全体の温度を変化させる問題。最終状態の圧力(大気圧)、容積、変化後の温度を使って状態方程式を解き、その温度で容器内に残存する気体の物質量を計算します。
    • ピストン付き容器からの放出: ピストンで圧力を保ちながら、コックを開けて気体を放出させる問題。ピストンにはたらく力のつり合いから容器内の圧力を求め、その圧力と温度、容積から状態方程式を用いて残存する物質量を計算します。
    • 真空容器への拡散: 真空の容器にコックを開けて気体を流入させる問題。流入後の圧力と温度、全体の容積から、流入した気体の物質量を状態方程式で求めます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 気体の出入りの有無を最優先で確認: 問題文を読み、「コックを開く」「穴が空いている」など、気体の物質量\(n\)が変化する可能性を示唆する記述がないかを確認します。\(n\)が変化するなら状態方程式、\(n\)が一定ならボイル・シャルルの法則、という法則選択の分岐点になります。
    2. 各状態を明確に定義する: 「初期状態(コックを開ける前)」「最終状態(コックを開けて放置した後)」など、状態を明確に区別し、それぞれの状態における \(P, V, n, T\) の値を整理します。
    3. 最終状態の圧力条件を特定する: コックを開けて放置した場合、最終的な圧力は「大気圧」に等しくなります。この条件を見落とさないことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ボイル・シャルルの法則の誤用:
    • 誤解: (2)で、気体の出入りがある(物質量\(n\)が変化する)にもかかわらず、物質量一定を前提とするボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{P_2V_2}{T_2}\) を使おうとしてしまう。
    • 対策: 法則の適用条件を常に意識することが不可欠です。「物質量\(n\)が一定か、変化するか」は、気体の問題における最も重要な分岐点です。「コックを開けて気体が逃げる」という状況を読んだ瞬間に、「\(n\)が変化するから、状態方程式 \(PV=nRT\) を使う」と判断できるように訓練しましょう。
  • 出ていった量を直接求めようとする混乱:
    • 誤解: 容器から出ていった気体の物質量 \(\Delta n\) を、一つの式で直接計算しようとして混乱してしまう。
    • 対策: 「出ていった量」を求める問題の定石は、「(初めの量)-(最後に残った量)」という引き算で求めることです。まず、最終状態について状態方程式を立てて容器内に「残った量」\(n_{\text{後}}\)を計算し、その後に引き算を実行する、という2段階の思考プロセスを徹底しましょう。
  • 比例関係の根拠の曖昧さ:
    • 誤解: (2)の別解で、なぜ \(n \propto P\) という関係が使えるのかを理解しないまま、なんとなく比例計算をしてしまう。
    • 対策: 比例関係は便利な計算テクニックですが、その根拠を明確にすることが重要です。状態方程式 \(PV=nRT\) を \(n = \displaystyle\frac{V}{RT}P\) と変形し、「この問題ではコックを開ける前後で容器の容積\(V\)と温度\(T\)が一定だから、\(n\)は\(P\)に比例する」という論理をきちんと説明できるようにしておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
    • 選定理由: この法則は、気体の4つの状態量(圧力\(P\), 体積\(V\), 物質量\(n\), 温度\(T\))をすべて変数として含んでおり、気体の状態を記述する最も包括的で強力な公式だからです。
    • 適用根拠:
      • (1)では、閉じ込められた気体の状態について、\(P, n, T\) が既知で \(V\) が未知という状況です。4つの状態量のうち3つが分かっていれば残りの1つが求まるため、この式が最適です。
      • (2)では、コックを開けることで物質量 \(n\) が変化します。ボイル・シャルルの法則は \(n\) が一定という前提があるため適用できません。\(n\) の変化を扱えるのは状態方程式だけです。したがって、この問題、特に(2)を解くためには、状態方程式を選択することが論理的に必須となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の統一: 気体定数 \(R\) の単位が \(\text{J/(mol}\cdot\text{K)}\) で与えられている場合、圧力は[Pa]、体積は[\(\text{m}^3\)]、温度は[K]に必ず統一して計算します。特に体積の単位(L, cm³, m³)の換算には注意が必要です。
  • 計算の工夫: (1)の計算 \(\displaystyle\frac{0.30 \times 8.3 \times 300}{3.0 \times 10^5}\) では、\(300 = 3 \times 10^2\) と考え、分母の \(3.0\) と分子の \(0.30 \times 3\) を先に処理すると計算が楽になります。
  • 比例計算の活用: (2)では、状態方程式を愚直に解くよりも、比例関係に気づく方が速く、かつ確実です。\(V, T\)が一定であることから \(n \propto P\) の関係を見抜けば、圧力の変化率(\(1/3\)倍)がそのまま物質量の変化率になることがわかります。これにより、複雑な計算を避け、検算も容易になります。
  • 有効数字への配慮: (1)の計算結果は \(2.49 \times 10^{-3}\) となりますが、問題文で与えられた数値の有効数字(2桁または3桁)を考慮し、解答では \(2.5 \times 10^{-3}\) のように適切な桁数に丸めるのが一般的です。解答の形式にも注意を払いましょう。

190 気体の変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「熱量保存則と理想気体の状態変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱量保存の法則: 外部と熱のやり取りがない閉じた系において、高温物体が失った熱量と低温物体が得た熱量は等しくなります。
  2. 熱容量と熱量の関係: 物体の温度を \(\Delta T\) だけ変化させるのに必要な熱量 \(Q\) は、その物体の熱容量を \(C\) として \(Q=C\Delta T\) と表されます。
  3. ボイル・シャルルの法則: 気体の物質量が一定のとき、圧力\(P\)、体積\(V\)、絶対温度\(T\)の間には \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
  4. 定積変化: 体積が一定の変化です。このとき、圧力は絶対温度に比例します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、2つの気体が熱をやり取りし、最終的に同じ温度になる過程を考えます。高温の気体IIが失った熱量と、低温の気体Iが得た熱量が等しいという「熱量保存則」を立てて、最終温度を求めます。
  2. (2)では、気体Iのみに着目します。箱は丈夫で体積が変わらないため、これは「定積変化」です。初期状態と最終状態について、ボイル・シャルルの法則(または圧力と温度の比例関係)を適用して、最終的な圧力を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
しきり板を抜き、金属面を接触させると、高温の気体IIから低温の気体Iへと熱が移動します。容器全体は断熱材で覆われているため、外部との熱のやり取りはありません。したがって、系全体で熱量は保存されます。すなわち、「気体IIが失った熱量」と「気体Iが得た熱量」は等しくなります。十分に時間が経つと、両者は同じ温度 \(T\) に達し、熱平衡状態となります。この関係から式を立てて、最終温度 \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 断熱された系での熱の移動では、熱量保存則(高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量)が成り立つ。
  • 熱容量 \(C\) を用いた熱量の計算式は \(Q = C\Delta T\) である。
  • 温度変化 \(\Delta T\) は、熱量の計算では常に正の値になるように「大きい温度 – 小さい温度」で計算すると考えやすい。

具体的な解説と立式
高温物体は気体II(初期温度 \(T_2\))、低温物体は気体I(初期温度 \(T_1\))です。最終的に両方とも温度 \(T\) になります。問題の条件より \(T_2 > T_1\) なので、最終温度 \(T\) は \(T_1 < T < T_2\) の範囲に収まります。

気体II(高温物体)が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\) は、
$$ Q_{\text{失}} = C_2 (T_2 – T) $$
気体I(低温物体)が得た熱量 \(Q_{\text{得}}\) は、
$$ Q_{\text{得}} = C_1 (T – T_1) $$
熱量保存則より \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) なので、以下の式が成り立ちます。
$$ C_2 (T_2 – T) = C_1 (T – T_1) $$

使用した物理公式

  • 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
  • 熱量と熱容量の関係: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

上記で立式した式を、最終温度 \(T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
C_2 T_2 – C_2 T &= C_1 T – C_1 T_1 \\[2.0ex]C_1 T + C_2 T &= C_1 T_1 + C_2 T_2 \\[2.0ex](C_1 + C_2)T &= C_1 T_1 + C_2 T_2 \\[2.0ex]T &= \frac{C_1 T_1 + C_2 T_2}{C_1 + C_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

温度の違う2つのものを、外に熱が逃げない魔法瓶のような箱の中でくっつけると、熱い方から冷たい方へ熱が移動し、やがて同じ温度になります。このとき、「熱い方が失った熱」と「冷たい方がもらった熱」の量はぴったり同じになります。熱量は「熱容量 × 温度変化」で計算できるので、この関係を使って式を立て、最終的な温度を計算します。この答えの形は、それぞれの熱容量で重みづけをした平均(加重平均)になっており、熱容量が大きい方の物体の初期温度に、より近い温度に落ち着くことを示しています。

結論と吟味

最終的な絶対温度は \(T = \displaystyle\frac{C_1 T_1 + C_2 T_2}{C_1 + C_2}\) となります。これは2物体の熱混合における基本的な公式であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(T = \displaystyle\frac{C_1 T_1 + C_2 T_2}{C_1 + C_2}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
気体Iの状態変化のみに着目します。初期状態(圧力 \(p_1\), 体積 \(V_1\), 温度 \(T_1\))から、最終状態(圧力 \(p\), 体積 \(V_1\), 温度 \(T\))への変化を考えます。問題文の「丈夫な箱」という記述から、気体Iの体積 \(V_1\) は変化しません。このように体積が一定の変化を「定積変化」と呼びます。定積変化では、圧力は絶対温度に比例するという関係が成り立ちます。
この設問における重要なポイント

  • 「丈夫な箱」という記述から、体積が一定(定積変化)であると読み取ることが重要。
  • 定積変化では、圧力と絶対温度は比例関係にある (\(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\))。
  • ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) において、\(V\)が一定であるとして計算しても同じ結果が得られる。

具体的な解説と立式
気体Iの初期状態と最終状態の値を整理します。
初期状態:

  • \(P_{\text{I,初}} = p_1 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • \(V_{\text{I,初}} = V_1\)
  • \(T_{\text{I,初}} = T_1 = 300 \text{ K}\)

最終状態:

  • 求める圧力を \(P_{\text{I,後}} = p\)
  • \(V_{\text{I,後}} = V_1\)
  • \(T_{\text{I,後}} = T = 360 \text{ K}\)

体積が一定なので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_{\text{I,初}}V_{\text{I,初}}}{T_{\text{I,初}}} = \frac{P_{\text{I,後}}V_{\text{I,後}}}{T_{\text{I,後}}}\) を適用します。
\(V_{\text{I,初}} = V_{\text{I,後}} = V_1\) なので、両辺の \(V_1\) を消去でき、圧力と温度の比例関係の式になります。
$$ \frac{p_1}{T_1} = \frac{p}{T} $$
与えられた数値を代入して立式します。
$$ \frac{1.0 \times 10^5}{300} = \frac{p}{360} $$

使用した物理公式

  • ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)
計算過程

上記で立式した式を、求める圧力 \(p\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
p &= (1.0 \times 10^5) \times \frac{360}{300} \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^5) \times 1.2 \\[2.0ex]&= 1.2 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

箱Iの中の気体だけを見ます。箱は頑丈なので、体積は変わりません。体積が一定のまま気体を温めると、気体分子の運動が激しくなるため、圧力は絶対温度に比例して上がります。絶対温度が \(300\text{K}\) から \(360\text{K}\) へと、\(\displaystyle\frac{360}{300} = 1.2\) 倍になったので、圧力も同じく1.2倍になります。元の圧力 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) を1.2倍して、答えを求めます。

結論と吟味

最終的な圧力は \(1.2 \times 10^5 \text{ Pa}\) です。定積下で気体が加熱された(温度が \(300\text{K}\) から \(360\text{K}\) に上昇した)ため、圧力が上昇するのは当然であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(1.2 \times 10^5 \text{ Pa}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 熱量保存の法則:
    • 核心: (1)では、断熱された系の中で2つの物体(気体IとII)が熱を交換する状況を扱います。このとき、「高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量」という熱量保存則が成り立ちます。これが、最終的な平衡温度を決定する唯一の原理です。
    • 理解のポイント:
      • 熱量の計算式 \(Q=C\Delta T\) を用いて、それぞれの気体がやり取りした熱量を立式します。
      • 温度変化 \(\Delta T\) は、高温側では \(T_2 – T\)、低温側では \(T – T_1\) となり、常に正の値になるように設定します。
  • ボイル・シャルルの法則(定積変化への適用):
    • 核心: (2)では、気体Iの状態変化を追跡します。問題文の「丈夫な箱」という記述から、気体Iの体積\(V_1\)は変化しない(定積変化)と読み取ることが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 物質量が一定の気体の状態変化なので、基本となるのはボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\) です。
      • この問題では体積\(V\)が一定なので、この法則の両辺から\(V\)を消去した \(\displaystyle\frac{P}{T} = \text{一定}\) という、より単純な関係式を適用できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 比熱を用いた熱量計算: この問題では熱容量\(C\)が与えられていますが、質量\(m\)と比熱\(c\)が与えられた場合は、熱量を \(Q=mc\Delta T\) として計算します。
    • 状態変化を伴う熱量保存: 氷と水を混ぜる、水に熱した金属球を入れるなど、状態変化(融解・蒸発)を伴う熱量計算。この場合、融解熱や蒸発熱も考慮に入れる必要があります。
    • ピストンが動く場合の熱交換: 仕切りを抜いた後、ピストンが動いて左右の圧力も等しくなるような問題。この場合、熱量保存則に加えて、力学的なエネルギー保存則(または熱力学第一法則)や、最終状態での圧力均一の条件も考慮する必要があり、より複雑になります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系の境界を意識する: 問題が「断熱材で覆われた」系について述べているかを確認します。断熱されていれば、系全体での熱量保存やエネルギー保存を考えることができます。
    2. 変化の前後で何が一定かを見抜く: (2)のように、気体の状態変化を考える際は、圧力・体積・温度のうち、何が一定に保たれているか(あるいは変化しているか)を問題文から正確に読み取ります。「丈夫な箱」→定積、「なめらかなピストン」→定圧、といったキーワードがヒントになります。
    3. どの物体に着目するかを明確にする: (1)では気体IとIIからなる「系全体」に着目し、(2)では「気体Iのみ」に着目します。どの範囲で法則を適用するかを明確にすることが、正しい立式の第一歩です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 熱量計算での温度変化の符号ミス:
    • 誤解: (1)で、熱量保存の式を \(C_2(T-T_2) = C_1(T-T_1)\) のように、温度変化の大小関係を考えずに立ててしまい、符号を間違える。
    • 対策: 熱量はスカラーですが、その計算過程では「高温物体の温度降下」と「低温物体の温度上昇」を正しく表現する必要があります。「失った熱量(正の値)= 得た熱量(正の値)」と意識し、温度変化\(\Delta T\)が常に正になるように「大きい温度 – 小さい温度」で計算する癖をつけると、ミスを防げます。
  • ボイル・シャルルの法則の適用範囲の混同:
    • 誤解: (1)の熱量計算の問題なのに、ボイル・シャルルの法則を使おうとして混乱する。あるいは、(2)で気体IIの情報(\(p_2, V_2, T_2\))を混ぜて計算してしまう。
    • 対策: (1)は熱のやり取りの問題、(2)は気体I単独の状態変化の問題、とテーマが全く異なることを認識しましょう。(2)では、気体Iに関係する状態量(\(p_1, V_1, T_1\) と \(p, V_1, T\))だけを使って式を立てる、と着目する対象を限定することが重要です。
  • 絶対温度への変換忘れ:
    • 誤解: (2)の計算で、与えられた絶対温度 \(T_1=300\text{K}, T=360\text{K}\) ではなく、もしセルシウス温度で与えられていた場合に、変換を忘れて計算してしまう。
    • 対策: 気体の状態変化を扱う問題では、温度は必ず絶対温度(K)で計算する、というルールを徹底しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱量保存則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)):
    • 選定理由: (1)は、断熱された系内での2物体間の熱移動の問題です。外部とのエネルギーの出入りがない場合、エネルギー保存則の一形態として、一方が失った熱エネルギーはもう一方が得た熱エネルギーに等しくなります。これがこの現象を記述する最も基本的な法則です。
    • 適用根拠: 「断熱材でつくられた丈夫な箱」で「素早くしきり板を抜き取って」という記述から、外部との熱のやり取りは無視できると判断します。したがって、気体IとIIの間だけで熱が移動すると考え、熱量保存則を適用するのが合理的です。
  • ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{PV}{T} = \text{一定}\)):
    • 選定理由: (2)は、閉じ込められた一定量の気体(気体I)の状態変化を扱っています。この法則は、そのような状況で圧力・体積・絶対温度の関係を一般的に記述する法則です。
    • 適用根拠: 「丈夫な箱」という条件から、気体Iの体積\(V_1\)は一定であると判断できます。したがって、最も一般的な法則であるボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{P_1V_1}{T_1} = \frac{pV_1}{T}\) を立て、両辺の共通項である\(V_1\)を消去することで、この状況に最適な関係式 \(\displaystyle\frac{p_1}{T_1} = \frac{p}{T}\) を導き出して適用するのが、論理的で間違いのない思考プロセスです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま整理する: (1)の熱量保存の式は、すぐに数値を代入するのではなく、まず \(T\) について文字式のまま解いてから代入する方が、見通しが良く、応用も効きます。\(T = \displaystyle\frac{C_1 T_1 + C_2 T_2}{C_1 + C_2}\) という結果は、混合温度の公式として覚えておくと便利です。
  • 比例計算の活用: (2)は体積が一定の定積変化なので、圧力\(P\)は絶対温度\(T\)に比例します (\(P \propto T\))。絶対温度が \(T_1=300\text{K}\) から \(T=360\text{K}\) へと \(\displaystyle\frac{360}{300} = \frac{6}{5} = 1.2\) 倍になっています。したがって、圧力も1.2倍になるはずです。\(p = p_1 \times 1.2 = (1.0 \times 10^5) \times 1.2 = 1.2 \times 10^5 \text{ Pa}\)。この方法なら、分数の計算をせずに暗算レベルで答えを導き出せます。
  • 物理的な妥当性の確認:
    • (1) 最終温度\(T\)は、必ず初期温度 \(T_1\) と \(T_2\) の間の値になるはずです。
    • (2) 気体Iは加熱されている(\(300\text{K} \rightarrow 360\text{K}\))ので、体積が一定なら圧力は上昇するはずです。計算結果が \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) より大きくなっていることを確認します。

191 気体分子の運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体分子運動論の基礎と圧力の導出」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量と力積の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しいという関係 (\(I = \Delta p\)) を用います。
  2. 作用・反作用の法則: 分子が壁から力を受けるとき、同時に壁も分子から大きさが等しく向きが逆の力を受けます。これは力積についても同様です。
  3. 平均の力と力積の関係: 平均の力\(F\)は、単位時間あたりの力積(単位時間あたりの運動量の変化)に等しくなります。
  4. 圧力の定義: 圧力\(p\)は、単位面積あたりにはたらく力の大きさとして定義されます (\(p = \displaystyle\frac{F}{S}\))。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず1個の分子が壁との1回の弾性衝突で受ける運動量の変化を計算します。壁が及ぼす力積の大きさは、この運動量の変化の大きさから求められます。
  2. (2)では、(1)で求めた1個あたりの力積を、単位時間あたりの衝突回数(\(n\)回)分だけ合計し、単位時間あたりの総力積を求めます。
  3. (3)では、単位時間あたりの力積が平均の力に等しい、という定義を用いて、壁が受ける平均の力\(F\)を導出します。
  4. (4)では、圧力の定義式に(3)で求めた力\(F\)を代入し、圧力\(p\)を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
1個の分子が壁に衝突して跳ね返る、1回の衝突現象に着目します。まず、この衝突によって分子の運動量がどれだけ変化したかを計算します。分子が壁から受けた力積は、この運動量の変化に等しくなります。問題で問われているのは「壁に及ぼす力積の大きさ」なので、作用・反作用の法則を使い、分子が受けた力積と大きさが等しい値を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量の変化 = (衝突後の運動量) – (衝突前の運動量)。運動量はベクトルなので符号に注意する。
  • 弾性衝突なので、壁に垂直に衝突した分子は、同じ速さで逆向きに跳ね返る。
  • 壁が分子に及ぼす力積と、分子が壁に及ぼす力積は、作用・反作用の関係にあり、大きさが等しく向きが逆である。

具体的な解説と立式
壁に衝突する向き(右向き)を正とします。
衝突前の分子の運動量は \(p_{\text{前}} = mv\) です。
弾性衝突後、分子は逆向きに跳ね返るので、速度は \(-v\) となります。したがって、衝突後の運動量は \(p_{\text{後}} = m(-v) = -mv\) です。

1回の衝突で分子が壁から受ける力積 \(I_{\text{分子}}\) は、分子の運動量の変化 \(\Delta p\) に等しくなります。
$$ I_{\text{分子}} = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}} $$
一方、分子が壁に及ぼす力積 \(I_{\text{壁}}\) は、作用・反作用の法則により \(I_{\text{壁}} = -I_{\text{分子}}\) となります。問題ではこの力積の「大きさ」を問われています。

使用した物理公式

  • 運動量: \(p = mv\)
  • 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p\)
計算過程

まず、分子が壁から受ける力積を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{分子}} &= p_{\text{後}} – p_{\text{前}} \\[2.0ex]&= (-mv) – (mv) \\[2.0ex]&= -2mv
\end{aligned}
$$
これは、分子が壁から左向き(負の向き)に大きさ \(2mv\) の力積を受けたことを意味します。
作用・反作用の法則により、分子が壁に及ぼす力積 \(I_{\text{壁}}\) は、
$$ I_{\text{壁}} = -I_{\text{分子}} = -(-2mv) = 2mv $$
したがって、その大きさは \(2mv\) となります。

計算方法の平易な説明

ボールが壁にぶつかって、同じ速さでまっすぐ跳ね返るのをイメージしてください。分子が壁に与える「衝撃」の大きさを求めます。衝突によって分子の運動量は右向きの \(mv\) から左向きの \(-mv\) へと変化しました。この変化の大きさは \(2mv\) です。分子の運動量をこれだけ変化させたのは壁なので、壁は分子に \(2mv\) の大きさの力積を与えました。作用・反作用により、分子も壁に同じ大きさ \(2mv\) の力積を与えます。

結論と吟味

1回の衝突で壁に及ぼす力積の大きさは \(2mv\) です。これは正の値であり、大きさとして妥当です。

解答 (1) \(2mv\)

問(2)

思考の道筋とポイント
単位時間あたりに壁が受ける力積の「総和」を求めます。単位時間あたりに\(n\)個の分子が壁に衝突するという条件を使います。1個の分子が及ぼす力積は(1)で求めたので、これを単純に\(n\)倍すれば、単位時間あたりの総力積が求まります。
この設問における重要なポイント

  • 総力積 = (1個あたりの力積) × (衝突回数)
  • 単位時間あたりの衝突回数が \(n\) である。

具体的な解説と立式
単位時間あたりに壁が受ける力積の総和を \(I_{\text{総}}\) とします。
(1)より、1個の分子が1回の衝突で壁に及ぼす力積の大きさは \(2mv\) です。
単位時間あたりに\(n\)個の分子が衝突するので、これらの分子が壁に及ぼす力積の総和は、
$$ I_{\text{総}} = n \times (1\text{個あたりの力積の大きさ}) $$
と立式できます。

使用した物理公式

  • (特になし)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I_{\text{総}} &= n \times (2mv) \\[2.0ex]&= 2nmv
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)で、分子1個が壁にぶつかると \(2mv\) の衝撃(力積)を与えることがわかりました。問題文から、1秒間に\(n\)個の分子が壁にぶつかると書かれています。したがって、壁が1秒間に受ける衝撃の合計は、1個あたりの衝撃を\(n\)倍すればよいので、\(n \times 2mv = 2nmv\) となります。

結論と吟味

単位時間あたりに壁が受ける力積の大きさの総和は \(2nmv\) です。

解答 (2) \(2nmv\)

問(3)

思考の道筋とポイント
壁が受ける「平均の力」の大きさ\(F\)を求めます。力と力積の関係を理解しているかが問われます。平均の力\(F\)は、単位時間あたりの力積の大きさに等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 平均の力 \(F\) は、力積 \(I\) をその力積がかかった時間 \(\Delta t\) で割ったもの (\(F = \displaystyle\frac{I}{\Delta t}\))。
  • 「単位時間あたりの力積」とは、\(\Delta t = 1\) のときの力積 \(I\) のことであり、その大きさは平均の力 \(F\) の大きさに等しい。

具体的な解説と立式
平均の力 \(F\) の定義は、力積を時間で割ったものです。
$$ F = \frac{\text{力積}}{\text{時間}} $$
(2)で求めた \(2nmv\) は、「単位時間あたりに壁が受ける力積の総和」です。つまり、時間 \(\Delta t = 1\) の間に壁が受ける力積 \(I_{\text{総}}\) が \(2nmv\) であることを意味します。
したがって、平均の力 \(F\) は、
$$ F = \frac{I_{\text{総}}}{\Delta t} = \frac{2nmv}{1} $$
となります。

使用した物理公式

  • 平均の力と力積の関係: \(F = \displaystyle\frac{I}{\Delta t}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= 2nmv
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物理学では、「力」というものは「単位時間(1秒)あたりの力積」として定義されます。(2)で求めたのは、まさに「単位時間あたりに壁が受ける力積の総和」でした。したがって、その値がそのまま壁が受ける平均の力になります。

結論と吟味

壁が受ける平均の力の大きさ\(F\)は \(2nmv\) です。(2)の答えと数値は同じですが、物理的な意味が「単位時間あたりの力積」から「平均の力」へと解釈し直されている点が重要です。

解答 (3) \(2nmv\)

問(4)

思考の道筋とポイント
壁にはたらく圧力\(p\)を求めます。圧力は、単位面積あたりにはたらく力として定義されます。
この設問における重要なポイント

  • 圧力の定義: \(p = \displaystyle\frac{F}{S}\)
  • (3)で求めた平均の力\(F\)を、壁の面積\(S\)で割る。

具体的な解説と立式
圧力 \(p\) は、壁が受ける平均の力 \(F\) を、その力がはたらいている壁の面積 \(S\) で割ることで定義されます。
$$ p = \frac{F}{S} $$
この式に、(3)で求めた \(F=2nmv\) を代入します。

使用した物理公式

  • 圧力の定義: \(p = \displaystyle\frac{F}{S}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
p &= \frac{2nmv}{S}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

圧力とは、壁全体にかかる力を、その壁の面積で割った値です。いわば、力がどれだけ密集しているかを表す量です。(3)で壁全体にかかる力\(F\)がわかったので、これを壁の面積\(S\)で割るだけで圧力が計算できます。

結論と吟味

壁にはたらく圧力\(p\)は \(\displaystyle\frac{2nmv}{S}\) です。単位時間あたりの衝突分子数\(n\)、分子の質量\(m\)、速さ\(v\)が大きいほど圧力が高くなり、壁の面積\(S\)が広いほど圧力が低くなるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2nmv}{S}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動量と力積の関係 (\(I = \Delta p\)):
    • 核心: 気体の圧力がどのように生じるのか、その根源をミクロな視点から解き明かす問題です。その全ての出発点は、1個の分子が壁に衝突する際に運動量が変化し、その変化量が壁から受けた力積に等しい、という力学の基本法則にあります。
    • 理解のポイント: 圧力というマクロな現象を、個々の分子の衝突というミクロな力学現象に分解して考える、という気体分子運動論の基本的な思考プロセスを体験することがこの問題の目的です。
  • 平均の力と圧力の定義:
    • 核心: 無数の分子による断続的な衝突を、時間的・空間的に平均化することで、「平均の力」や「圧力」という測定可能な物理量に結びつけます。
    • 理解のポイント:
      • 「平均の力」は「単位時間あたりの力積(運動量変化)」として定義されます。
      • 「圧力」は「単位面積あたりの力」として定義されます。
      • この問題は、(1)1回の衝突 → (2)単位時間の衝突の合計 → (3)平均の力 → (4)圧力 という、概念の連鎖を順を追って理解させる構成になっています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 分子の往復運動モデル: この問題では「単位時間あたり\(n\)個衝突する」と簡略化されていますが、より一般的な問題では「一辺\(L\)の箱の中を速さ\(v\)の分子が往復運動する」という設定で、衝突頻度を自分で計算させる場合があります。この場合、1回の衝突から次の衝突までの時間(\(\Delta t = 2L/v\))を求め、その逆数が衝突頻度になります。
    • 斜め衝突モデル: 分子が壁に斜めに衝突する場合、運動量変化に関与するのは壁に垂直な速度成分のみです。速度を壁に垂直な成分と平行な成分に分解して考える必要があります。
    • 全分子を考慮するモデル: 容器内の全分子数\(N\)を考慮し、速度の等方性(\(\bar{v_x^2} = \frac{1}{3}\bar{v^2}\))などを用いて、気体全体の圧力と内部エネルギーを導出する、より発展的な分子運動論の問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 問われている物理量を明確にする: 問題が「力積」を問うているのか、「力」を問うているのか、「圧力」を問うているのかを正確に区別します。これらの定義の違いを理解しているかが試されます。
    2. 時間スケールを確認する: 「1回の衝突」についての問いか、「単位時間あたり」の問いかを区別します。後者の場合は、衝突頻度(この問題では\(n\))を掛ける操作が必要になります。
    3. 作用・反作用の主語を確認する: 「分子が壁から受ける〜」なのか、「壁が分子から受ける〜」なのかを慎重に読み取ります。両者は大きさが等しく向きが逆(符号が逆)になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 運動量の変化の計算ミス:
    • 誤解: (1)で、運動量の変化をスカラーのように考え、\(mv – mv = 0\) や \(mv + mv = 2mv\) のように、向きを考慮せずに計算してしまう。
    • 対策: 運動量はベクトル量であることを常に意識し、「変化量 = 後の量 – 前の量」という定義を徹底します。必ず座標軸(例:右向きを正)を設定し、衝突前は \(+mv\)、衝突後は \(-mv\) と符号をつけて計算する習慣をつけましょう。
  • 力と力積の混同:
    • 誤解: (2)で求めた「単位時間あたりの力積」と(3)で求める「平均の力」が、結果的に同じ式 \(2nmv\) になるため、両者の概念的な違いを理解しないまま解答してしまう。
    • 対策: 「力積」は衝撃の総量を表す量 [N·s]、「力」は単位時間あたりの衝撃の強さを表す量 [N] であり、物理的な次元が異なります。「平均の力とは、単位時間あたりの力積のことである」という定義をしっかり理解することが重要です。
  • 記号の意味の混同:
    • 誤解: この問題の \(n\) は「単位時間あたりに衝突する分子の個数 [個/s]」ですが、他の問題で出てくる \(N\)(容器内の全分子数 [個])や \(n\)(物質量 [mol])と混同してしまう。
    • 対策: 物理では同じ文字記号が異なる意味で使われることがよくあります。必ず問題文の定義を読み、その問題において記号が何を意味しているのかを正確に把握することが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量と力積の関係 (\(I = \Delta p\)):
    • 選定理由: (1)で「力積」を求めるにあたり、衝突前後の速度が分かっているため、運動量の変化を計算することで力積を求めるのが最も直接的です。これは、衝突のような短時間ではたらく力の効果を分析するための、力学における最も基本的なアプローチです。
    • 適用根拠: 圧力の根源である「衝突」というミクロな現象を、力学の言葉(運動量)で記述するために、この関係式が選ばれます。
  • 平均の力と力積の関係 (\(F = I/\Delta t\)):
    • 選定理由: (3)で「平均の力」を求めるために使います。無数の分子による断続的な衝突を、あたかも連続的な一定の力がはたらいているかのように見なす操作が「時間平均」です。
    • 適用根拠: (2)で「単位時間あたり(\(\Delta t=1\))の力積 \(I\))」を求めているため、この定義式に代入すると \(F = I/1 = I\) となり、(2)の答えがそのまま(3)の答えになります。これは、平均の力と単位時間あたりの力積が定義上等価であることを示しています。
  • 圧力の定義 (\(p = F/S\)):
    • 選定理由: (4)で「圧力」を求めるための最終ステップです。
    • 適用根拠: (3)で壁全体にはたらく「力」\(F\)が求まったので、これを力がはたらく「面積」\(S\)で割ることで、圧力の定義に従って\(p\)を算出します。これは、力というベクトル的な量から、圧力というスカラー的な場(場所ごとの強さ)の量へと変換する操作に相当します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の管理を徹底する: (1)の運動量の計算では、まず座標軸の正の向きを自分で決め(例:右向きを正)、衝突前後の速度に `+` と `-` の符号を付けてから計算を始めることで、符号ミスを防ぎます。
  • 言葉の定義に忠実に立式する:
    • (2)「単位時間あたりの力積の総和」→「(1個あたりの力積) × (単位時間あたりの個数)」
    • (3)「平均の力」→「(単位時間あたりの力積)」
    • (4)「圧力」→「(平均の力) ÷ (面積)」

    このように、日本語の設問を数式に翻訳する練習をすることで、立式の精度が上がります。

  • 単位を意識する: この問題では文字式のみですが、それぞれの物理量の単位を意識すると、概念の混同を防げます。力積は[N·s]、力は[N]、圧力は[Pa] = [N/m²]と、単位が異なることを理解しておきましょう。

192 気体分子の速さ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体分子の2乗平均速度と絶対温度、モル質量の関係」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 気体分子の平均運動エネルギーと絶対温度の関係: 分子の種類によらず、気体分子1個の平均運動エネルギーは絶対温度\(T\)のみに比例します。この関係は \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \frac{3R}{2N_A}T\) と表されます。
  2. 2乗平均速度: 分子の速さは様々ですが、その速さの目安として「2乗の平均の平方根」である2乗平均速度 \(\sqrt{\bar{v^2}}\) が用いられます。
  3. モル質量と分子1個の質量の関係: モル質量\(M\) [kg/mol] は、分子1個の質量\(m\) [kg] をアボガドロ定数\(N_A\) [/mol] 倍したものです (\(M = N_A m\))。
  4. 比例・反比例の関係の利用: 2乗平均速度が、絶対温度\(T\)の平方根に比例し、モル質量\(M\)の平方根に反比例することを理解していると、計算が簡潔になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、気体分子の平均運動エネルギーと絶対温度の関係式から、2乗平均速度を絶対温度\(T\)とモル質量\(M\)で表す公式を導出します。
  2. 導出した公式を用いて、水素分子と酸素分子の2乗平均速度の比を計算します。このとき、「同じ温度」という条件から、多くの項が約分されることを利用します。

解説

思考の道筋とポイント
水素分子と酸素分子の2乗平均速度を比較する問題です。気体分子の速さは、その気体の温度と、分子自身の質量(またはモル質量)によって決まります。この問題の最大のヒントは「同じ温度」という条件です。
気体分子運動論によれば、温度が同じであれば、気体の種類(分子の質量)が違っても、分子1個あたりの平均の運動エネルギーは等しくなります。この関係式を出発点として、2乗平均速度をモル質量で表す公式 \(\sqrt{\bar{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M}}\) を導き、それを使って水素と酸素の速さの比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 気体分子1個の平均運動エネルギーは \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \frac{3R}{2N_A}T\) で与えられ、絶対温度\(T\)のみに比例する。
  • 2乗平均速度 \(\sqrt{\bar{v^2}}\) は、絶対温度\(T\)の平方根に比例し、分子の質量\(m\)(またはモル質量\(M\))の平方根に反比例する。
  • モル質量\(M\)と分子1個の質量\(m\)の関係は \(M = N_A m\) である。

具体的な解説と立式
気体分子1個の平均運動エネルギーと絶対温度\(T\)の関係は、分子1個の質量を\(m\)、気体定数を\(R\)、アボガドロ定数を\(N_A\)として、
$$ \frac{1}{2}m\bar{v^2} = \frac{3R}{2N_A}T \quad \cdots ① $$
と表されます。この式を \(\bar{v^2}\) について解くと、
$$ \bar{v^2} = \frac{3RT}{N_A m} $$
ここで、モル質量\(M\)と分子1個の質量\(m\)の関係式 \(M = N_A m\) を使うと、\(N_A m = M\) となるので、
$$ \bar{v^2} = \frac{3RT}{M} $$
したがって、2乗平均速度 \(\sqrt{\bar{v^2}}\) は、
$$ \sqrt{\bar{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M}} \quad \cdots ② $$
と表せます。
水素分子と酸素分子の2乗平均速度をそれぞれ \(\sqrt{\bar{v_{\text{H}}^2}}\), \(\sqrt{\bar{v_{\text{O}}^2}}\)、モル質量を \(M_{\text{H}}\), \(M_{\text{O}}\) とすると、求める比は、
$$ \frac{\sqrt{\bar{v_{\text{H}}^2}}}{\sqrt{\bar{v_{\text{O}}^2}}} = \frac{\sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M_{\text{H}}}}}{\sqrt{\displaystyle\frac{3RT}{M_{\text{O}}}}} $$
となります。

別解: 平均運動エネルギーの等式から

「同じ温度」であることから、水素分子1個の平均運動エネルギーと酸素分子1個の平均運動エネルギーは等しくなります。
$$ \frac{1}{2}m_{\text{H}}\bar{v_{\text{H}}^2} = \frac{1}{2}m_{\text{O}}\bar{v_{\text{O}}^2} $$
この式から、速度の2乗の比を求めることができます。

使用した物理公式

  • 分子の平均運動エネルギー: \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \frac{3R}{2N_A}T\)
  • モル質量と分子質量の関係: \(M = N_A m\)
  • 2乗平均速度: \(\sqrt{\bar{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M}}\)
計算過程

立式した比の式を整理します。「同じ温度」なので、\(3RT\) の項は共通であり、約分できます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\sqrt{\bar{v_{\text{H}}^2}}}{\sqrt{\bar{v_{\text{O}}^2}}} &= \sqrt{\frac{3RT/M_{\text{H}}}{3RT/M_{\text{O}}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{M_{\text{O}}}{M_{\text{H}}}}
\end{aligned}
$$
この式に、与えられたモル質量の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{\frac{M_{\text{O}}}{M_{\text{H}}}} &= \sqrt{\frac{3.2 \times 10^{-2}}{2.0 \times 10^{-3}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{32 \times 10^{-3}}{2.0 \times 10^{-3}}} \\[2.0ex]&= \sqrt{16} \\[2.0ex]&= 4.0
\end{aligned}
$$
したがって、水素分子の2乗平均速度は酸素分子の4.0倍です。

別解による計算

平均運動エネルギーが等しいという関係式から出発します。
$$ \frac{1}{2}m_{\text{H}}\bar{v_{\text{H}}^2} = \frac{1}{2}m_{\text{O}}\bar{v_{\text{O}}^2} $$
これを変形すると、
$$ \frac{\bar{v_{\text{H}}^2}}{\bar{v_{\text{O}}^2}} = \frac{m_{\text{O}}}{m_{\text{H}}} $$
分子1個の質量の比は、モル質量の比に等しいので、\(\frac{m_{\text{O}}}{m_{\text{H}}} = \frac{M_{\text{O}}}{M_{\text{H}}}\) となります。
$$ \frac{\bar{v_{\text{H}}^2}}{\bar{v_{\text{O}}^2}} = \frac{M_{\text{O}}}{M_{\text{H}}} = \frac{3.2 \times 10^{-2}}{2.0 \times 10^{-3}} = 16 $$
両辺の平方根をとると、
$$ \frac{\sqrt{\bar{v_{\text{H}}^2}}}{\sqrt{\bar{v_{\text{O}}^2}}} = \sqrt{16} = 4.0 $$

計算方法の平易な説明

気体分子の速さは、温度が高いほど速く、分子が軽いほど速くなります。
今回は「温度が同じ」なので、分子の運動エネルギーの平均値は水素も酸素も同じです。運動エネルギーは「\(\frac{1}{2} \times \text{質量} \times \text{速さ}^2\)」なので、質量が軽い分子ほど、同じエネルギーを持つためには速さが大きくなる必要があります。
公式によれば、速さはモル質量の平方根に反比例します。水素と酸素のモル質量の比は \(2.0 : 32 = 1 : 16\) です。したがって、速さの比は質量の比の逆数の平方根、つまり \(\sqrt{16} : \sqrt{1} = 4 : 1\) となります。よって、水素分子は酸素分子の4.0倍の速さで動き回っていることになります。

結論と吟味

水素分子の2乗平均速度は酸素分子の4.0倍です。水素は酸素よりはるかに軽い分子なので、同じ温度(同じ平均運動エネルギー)を保つためには、より高速で運動している必要があります。計算結果は物理的な直感と一致しており、妥当なものと言えます。

解答 4.0倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 気体分子の平均運動エネルギーと絶対温度の関係:
    • 核心: 気体分子1個の平均運動エネルギーは、気体の種類(分子の質量)によらず、絶対温度\(T\)のみによって決まる、という物理学の非常に重要な原理が根底にあります。数式で表すと \(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \frac{3}{2}k_B T\)(\(k_B\)はボルツマン定数)となります。
    • 理解のポイント: この問題の「同じ温度では」という条件は、物理的に「水素分子1個の平均運動エネルギーと酸素分子1個の平均運動エネルギーが等しい」ということを意味しています。この等式を立てることが、問題を解くための最も本質的なアプローチです。
  • 2乗平均速度とモル質量の関係:
    • 核心: 上記の原理から、2乗平均速度 \(\sqrt{\bar{v^2}}\) は、絶対温度\(T\)の平方根に比例し、モル質量\(M\)の平方根に反比例する (\(\sqrt{\bar{v^2}} \propto \sqrt{\frac{T}{M}}\)) という関係が導かれます。
    • 理解のポイント: この関係式を知っていれば、温度が同じなら、速さはモル質量の平方根に反比例する (\(\sqrt{\bar{v^2}} \propto \frac{1}{\sqrt{M}}\)) ことがすぐにわかります。つまり、分子が軽いほど速い、という直感的な理解が数式で裏付けられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 異なる温度での速さの比較: 同じ気体(モル質量が同じ)を異なる温度にしたときの2乗平均速度の比を求める問題。この場合、速さは絶対温度の平方根に比例する (\(\sqrt{\bar{v^2}} \propto \sqrt{T}\)) ことを利用します。
    • 内部エネルギーとの関連: 単原子分子理想気体の内部エネルギー \(U = \frac{3}{2}nRT\) は、分子の平均運動エネルギーの総和です。内部エネルギーから2乗平均速度を計算させる問題や、その逆を問う問題。
    • 拡散速度との関連: 気体の拡散速度は、分子の平均的な速さに比例すると考えられます。したがって、異なる気体の拡散速度の比は、2乗平均速度の比で近似できます(グレアムの法則)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 比較の条件を特定する: 問題文から「何が同じで、何が違うのか」を正確に読み取ります。この問題では「温度が同じ」で「モル質量が違う」ことがポイントです。
    2. 求める量の定義式を思い出す: 「2乗平均速度」とは何か、それがどのような物理量(温度、質量など)と関係しているかを思い出します。出発点となるのは、分子1個の平均運動エネルギーの式です。
    3. 比例・反比例の関係に注目する: 2乗平均速度の公式 \(\sqrt{\bar{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M}}\) を見れば、どの物理量とどのような関係にあるかが一目瞭然です。比を計算する際には、共通の定数(この問題では \(3RT\))は約分されて消えるため、変化する部分(この問題では \(M\))だけに着目すればよいと判断できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 質量とモル質量の混同:
    • 誤解: 分子1個の質量\(m\)と、1molあたりの質量であるモル質量\(M\)を混同して計算してしまう。
    • 対策: 単位を常に意識することが重要です。\(m\)の単位は[kg]、\(M\)の単位は[kg/mol]です。両者の関係は \(M=N_A m\)(\(N_A\)はアボガドロ定数)であり、この変換を正しく行えるようにしておく必要があります。この問題では、モル質量\(M\)で与えられているので、2乗平均速度の公式も \(M\) を使った \(\sqrt{\frac{3RT}{M}}\) の形に統一して使うのが最も安全です。
  • 平方根の計算ミス:
    • 誤解: 速さの比を求めるときに、質量の比の逆数 (\(\frac{M_{\text{O}}}{M_{\text{H}}}=16\)) をそのまま答えとしてしまう。
    • 対策: 2乗平均速度は、運動エネルギーの式 \(\frac{1}{2}m\bar{v^2}\) からわかるように、速さの「2乗」の平均です。したがって、速さそのものを比較するには、最後に平方根をとる操作が不可欠です。\(\bar{v^2}\) の比が16なら、\(\sqrt{\bar{v^2}}\) の比は \(\sqrt{16}=4\) となります。
  • 比の取り方の間違い:
    • 誤解: 水素の速さが酸素の何倍かを問われているのに、計算で \(\sqrt{\frac{M_{\text{H}}}{M_{\text{O}}}}\) を計算してしまい、\(\frac{1}{4}\) 倍と答えてしまう。
    • 対策: 「AはBの何倍か」と問われたら、\(\frac{A}{B}\) を計算するという基本に立ち返りましょう。この問題では \(\frac{\sqrt{\bar{v_{\text{H}}^2}}}{\sqrt{\bar{v_{\text{O}}^2}}}\) を計算します。速さはモル質量の平方根に「反比例」するので、この比は \(\sqrt{\frac{M_{\text{O}}}{M_{\text{H}}}}\) となり、添字が逆になることに注意が必要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 分子の平均運動エネルギーの式 (\(\frac{1}{2}m\bar{v^2} = \frac{3R}{2N_A}T\)):
    • 選定理由: この式は、ミクロな分子の運動(左辺)と、マクロな測定量である温度(右辺)を結びつける、気体分子運動論の根幹をなす公式だからです。分子の速さについて考える問題では、この式が全ての議論の出発点となります。
    • 適用根拠: 問題の「同じ温度では」という条件は、この式の右辺が水素と酸素で等しいことを意味します。したがって、\(\frac{1}{2}m_{\text{H}}\bar{v_{\text{H}}^2} = \frac{1}{2}m_{\text{O}}\bar{v_{\text{O}}^2}\) という等式を立てることができ、これが最も本質的で論理的な解法への入り口となります。
  • 2乗平均速度の公式 (\(\sqrt{\bar{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M}}\)):
    • 選定理由: 上記の基本式を変形し、より直接的に速さとモル質量の関係を表したのがこの公式です。
    • 適用根拠: この公式を覚えていれば、問題の条件(\(T\)が一定)を代入することで、\(\sqrt{\bar{v^2}}\) が \(\frac{1}{\sqrt{M}}\) に比例することが即座にわかり、比の計算に直接移行できます。導出過程を理解した上で、結果の公式を覚えておくと、問題をより速く、効率的に解くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を揃えてから計算する: モル質量が \(2.0 \times 10^{-3} \text{kg/mol}\) と \(3.2 \times 10^{-2} \text{kg/mol}\) のように、指数が異なる場合は、計算前に指数を揃える(例: \(32 \times 10^{-3} \text{kg/mol}\))と、割り算の際のケアレスミスを防げます。
  • 比の計算に集中する: 最終的に比を求める問題では、\(3RT\) のような共通部分の具体的な値を計算する必要は全くありません。これらはどうせ約分で消えるので、変化する部分(この問題ではモル質量\(M\))の比だけを正確に計算することに集中しましょう。
  • 物理的な直感で検算する: 「水素は酸素より軽いから、同じ温度なら速いはずだ」という直感的な予測を立てておきます。計算結果が1より大きい値(この場合は4.0)になったことを確認し、もし1より小さい値(例: 0.25)になっていたら、比の取り方を間違えた可能性が高いと判断できます。

193 気体分子の運動エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単原子分子理想気体の内部エネルギーの導出」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 内部エネルギーの定義: 理想気体では、分子間にはたらく力(位置エネルギー)を無視できるため、内部エネルギーは気体を構成する全分子の運動エネルギーの総和に等しくなります。
  2. 分子1個の平均運動エネルギー: 気体分子1個の平均運動エネルギーは、絶対温度\(T\)に比例し、\(\frac{3}{2}kT\) と表されます。ここで \(k\) はボルツマン定数です。
  3. 物質量と分子数の関係: 物質量\(n\) [mol]、分子数\(N\) [個]、アボガドロ定数\(N_A\) [/mol] の間には、\(N = nN_A\) という関係があります。
  4. 気体定数とボルツマン定数の関係: 気体定数\(R\)とボルツマン定数\(k\)の間には、\(R = N_A k\) という関係があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、内部エネルギー\(U\)が、分子1個の平均運動エネルギーに全分子数\(N\)を掛けたものであることを理解します。
  2. 分子1個の平均運動エネルギーの公式 \(\frac{3}{2}kT\) を用いて、内部エネルギーを \(U = N \times \frac{3}{2}kT\) と表します。
  3. 最後に、分子数\(N\)を問題で与えられている物質量\(n\)とアボガドロ定数\(N_A\)を用いて \(N=nN_A\) と書き換え、最終的な答えの形に整理します。

解説

思考の道筋とポイント
単原子分子理想気体の内部エネルギーを、物質量\(n\)、絶対温度\(T\)、アボガドロ定数\(N_A\)、ボルツマン定数\(k\)を用いて表す問題です。
内部エネルギーは、気体に含まれる全分子の運動エネルギーの合計です。したがって、「分子1個あたりの平均運動エネルギー」に「全分子数」を掛けることで求められます。
分子1個の平均運動エネルギーは \(\frac{3}{2}kT\) と表されることを出発点とし、全分子数を物質量\(n\)を使って表現することで、全体の内部エネルギーを導出します。
この設問における重要なポイント

  • 理想気体の内部エネルギー \(U\) = (全分子の運動エネルギーの総和)。
  • \(U\) = (分子1個の平均運動エネルギー) × (全分子数 \(N\))。
  • 分子1個の平均運動エネルギーは \(\frac{3}{2}kT\) である。
  • 全分子数 \(N\) は、物質量 \(n\) とアボガドロ定数 \(N_A\) を用いて \(N = nN_A\) と表せる。

具体的な解説と立式
単原子分子理想気体の内部エネルギーを \(U\) とします。これは、気体に含まれる全分子の運動エネルギーの総和に等しいです。
気体の全分子数を \(N\) とすると、
$$ U = N \times (\text{分子1個の平均運動エネルギー}) $$
と表せます。
分子1個の平均運動エネルギーは、ボルツマン定数 \(k\) と絶対温度 \(T\) を用いて \(\frac{3}{2}kT\) と与えられます。
$$ U = N \times \frac{3}{2}kT $$
ここで、全分子数 \(N\) は、物質量 \(n\) とアボガドロ定数 \(N_A\) を用いて \(N = nN_A\) と書き換えることができます。これを上の式に代入します。
$$ U = (nN_A) \times \frac{3}{2}kT $$

別解: 気体定数Rを用いた公式から

気体定数\(R\)を用いた内部エネルギーの公式 \(U = \frac{3}{2}nRT\) から出発し、\(R = N_A k\) の関係を用いてボルツマン定数\(k\)の式に書き換える方法もあります。

使用した物理公式

  • 分子1個の平均運動エネルギー: \(\frac{3}{2}kT\)
  • 物質量と分子数の関係: \(N = nN_A\)
  • 気体定数とボルツマン定数の関係: \(R = N_A k\)
計算過程

上記で立式した式を整理します。
$$
\begin{aligned}
U &= (nN_A) \times \frac{3}{2}kT \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}nN_A kT
\end{aligned}
$$

別解による計算

内部エネルギーの公式 \(U = \frac{3}{2}nRT\) を用います。
ここに \(R = N_A k\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
U &= \frac{3}{2}n(N_A k)T \\[2.0ex]&= \frac{3}{2}nN_A kT
\end{aligned}
$$
となり、同じ結果が得られます。

計算方法の平易な説明

気体の内部エネルギーとは、中にいる分子たちが持っている運動エネルギーの合計のことです。
まず、分子1個が平均していくらの運動エネルギーを持っているかを考えます。これは公式で \(\frac{3}{2}kT\) と与えられています。
次に、気体全体では分子が何個あるかを考えます。1molあたり\(N_A\)個(アボガドロ定数個)の分子があるので、\(n\)molの気体には \(n \times N_A\) 個の分子があります。
したがって、内部エネルギーの合計は、「1個あたりのエネルギー」×「個数」で、
$$ U = \left(\frac{3}{2}kT\right) \times (nN_A) = \frac{3}{2}nN_A kT $$
と計算できます。

結論と吟味

物質量\(n\)、絶対温度\(T\)の単原子分子理想気体がもつ内部エネルギーは \(\displaystyle\frac{3}{2}nN_A kT\) です。
この式は、\(U = \frac{3}{2}nRT\) というよく知られた公式と等価であり、物理的に正しい結果です。内部エネルギーが物質量\(n\)と絶対温度\(T\)に比例することを示しています。

解答 \(\displaystyle\frac{3}{2}nN_A kT \text{ [J]}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 内部エネルギーのミクロな定義:
    • 核心: 理想気体の内部エネルギー\(U\)の正体は、それを構成する全分子の運動エネルギーの総和である、という物理的描像を理解することが全てです。理想気体では分子間力がはたらかないと仮定するため、位置エネルギーは考えません。
    • 理解のポイント: したがって、内部エネルギーを求める計算は、「(分子1個あたりの平均運動エネルギー) × (全分子数)」という単純な掛け算に帰着します。
  • 分子1個の平均運動エネルギー:
    • 核心: 単原子分子の気体分子1個が持つ平均の運動エネルギーは、\(\frac{3}{2}kT\) と表されます。ここで \(k\) はボルツマン定数、\(T\) は絶対温度です。
    • 理解のポイント: この式は、分子の運動エネルギーが絶対温度のみに比例することを示す、気体分子運動論の最も重要な結論の一つです。この公式を知識として持っていることが、問題を解く上での出発点となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 気体定数\(R\)を用いた表現: この問題ではボルツマン定数\(k\)を用いていますが、内部エネルギーを気体定数\(R\)を用いて \(U = \frac{3}{2}nRT\) と表させる問題は非常に頻出です。\(R=N_A k\) の関係を使って自在に変換できるようにしておく必要があります。
    • 二原子分子の場合: 問題が「二原子分子」になると、分子は並進運動(3方向)に加えて回転運動(2方向)も行います。エネルギー等分配の法則により、内部エネルギーは \(U = \frac{5}{2}nRT = \frac{5}{2}nN_A kT\) となります。この係数の違いを問う問題は応用としてよく出題されます。
    • 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\): ある状態から別の状態へ変化したときの内部エネルギーの変化量 \(\Delta U\) を求める問題。\(U\)は温度\(T\)のみの関数なので、\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) のように、温度変化 \(\Delta T\) から簡単に計算できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 気体の種類を確認する: まず「単原子分子」なのか「二原子分子」なのかを確認します。これにより、内部エネルギーの式の係数が \(\frac{3}{2}\) なのか \(\frac{5}{2}\) なのかが決まります。
    2. 与えられている定数を確認する: 問題文で与えられている定数が、気体定数\(R\)なのか、ボルツマン定数\(k\)なのかを確認します。解答で用いるべき文字が決まります。
    3. 求める式の構成要素を考える: 内部エネルギー\(U\)を求めるには、「1個あたりのエネルギー」と「個数」が必要だと考えます。「1個あたりのエネルギー」は \(\frac{3}{2}kT\)。「個数」は物質量\(n\)とアボガドロ定数\(N_A\)から \(nN_A\)。この2つを組み合わせればよい、という思考の流れを組み立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 係数の混同:
    • 誤解: 単原子分子なのに、係数を \(\frac{5}{2}\) や \(\frac{1}{2}\) と間違えてしまう。
    • 対策: 「単原子分子はx, y, zの3方向の並進運動しかしない → 自由度は3 → 係数は\(\frac{3}{2}\)」「二原子分子は並進運動(3)+回転運動(2) → 自由度は5 → 係数は\(\frac{5}{2}\)」というように、自由度と係数の関係をセットで覚えておくと間違いにくくなります。
  • 定数の混同(Rとk):
    • 誤解: \(U = \frac{3}{2}nRT\) と \(U = \frac{3}{2}NkT\) の \(n\)(物質量)と \(N\)(分子数)、\(R\)(気体定数)と \(k\)(ボルツマン定数)の組み合わせを混同してしまう。
    • 対策: 「\(n\)と\(R\)はセット(1molあたりの話)」「\(N\)と\(k\)はセット(分子1個あたりの話)」と覚えておくと整理しやすいです。\(R=N_A k\) という関係式は、まさにこの「molあたり」と「個あたり」のスケール変換を表しています。
  • アボガドロ定数\(N_A\)の扱い:
    • 誤解: \(U = \frac{3}{2}nkT\) のように、アボガドロ定数\(N_A\)を式に入れ忘れてしまう。
    • 対策: 各変数の意味を正確に理解することが重要です。\(n\)は[mol]、\(k\)は[J/K](分子1個あたり)、\(T\)は[K]です。\(nkT\)では単位が合いません。分子数\(N=nN_A\)に変換することで、\(NkT = (nN_A)kT\) となり、正しく立式できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 内部エネルギーの定義 (\(U = N \times \frac{1}{2}m\bar{v^2}\)):
    • 選定理由: この問題は「内部エネルギーはいくらか」という、定義そのものを問う問題です。したがって、内部エネルギーの物理的な意味である「全分子の運動エネルギーの総和」から出発するのが最も論理的です。
    • 適用根拠: この定義に、気体分子運動論の成果である「分子1個の平均運動エネルギー \(\frac{1}{2}m\bar{v^2}\) は \(\frac{3}{2}kT\) に等しい」という関係を代入することで、内部エネルギーをマクロな量である温度\(T\)と結びつけることができます。
  • 定数の関係式 (\(N=nN_A\), \(R=N_A k\)):
    • 選定理由: 問題で与えられている文字(\(n, N_A, k, T\))を使って最終的な答えを表現するために、これらの関係式による文字の変換が必要になります。
    • 適用根拠: これらは物理定数の定義そのものです。特に \(R=N_A k\) は、気体現象を「mol」というマクロな単位で見るか、「分子1個」というミクロな単位で見るかの橋渡しをする重要な関係式であり、自在に使えるようにしておく必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理: この問題は数値計算がなく、文字式の変形のみです。どの文字を残し、どの文字を変換するのかを問題文の指示(「\(n, N_A, k, T\)を用いて」)から正確に読み取ることが重要です。
  • 単位での検算: 最終的に得られた式 \(\frac{3}{2}nN_A kT\) の単位がエネルギーの単位 [J] になっているかを確認します。
    • \(n\)[mol] × \(N_A\)[/mol] × \(k\)[J/K] × \(T\)[K] = [J]
  • このように単位が正しくなっていることを確認することで、式の妥当性をチェックできます。例えば、\(N_A\)を忘れて \(nkT\) とすると、単位が [mol·J/K·K] となり、おかしいことに気づけます。
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