「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 10】Step3

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150 2本のばねによる単振動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、両側をばねで固定された物体の単振動を扱う問題です。単振動の基本である復元力の概念と、複数のばねが関わる場合の「合成ばね定数」の考え方を理解しているかが問われます。
この問題の核心は、物体に働く合力が、変位\(x\)に比例し中心を向く「復元力」の形 \(F=-Kx\) で表せることを見抜き、その式から振動の特性(周期、振幅)を導き出すことです。

与えられた条件
  • 物体の質量: \(m\) [kg]
  • ばねAのばね定数: \(k_1\) [N/m]
  • ばねBのばね定数: \(k_2\) [N/m]
  • 初期状態: \(x=0\)で、ばねA, Bはともに自然の長さ(つり合いの位置)。
  • 操作: 物体を \(x=d\) [m] の位置までずらし、時刻 \(t=0\) [s] で静かに手をはなす。
  • 座標軸: 右向きを正とする。
問われていること
  • (1) 物体の位置が \(x\) [m] のときの合力。
  • (2) 振動の周期と振幅。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「2本のばねによる単振動(ばねの並列接続)」です。物体に働く力を正しく合成し、単振動の基本法則に当てはめることが解析の基本となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. フックの法則: ばねの弾性力は、ばねの自然長からの変位に比例します (\(F=-kx\))。力の向き(符号)を正しく扱うことが重要です。
  2. 単振動の復元力: 物体に働く合力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例し、常につり合いの位置を向く力 (\(F=-Kx\)) であるとき、物体は単振動します。
  3. 合成ばね定数: 複数のばねが働く系では、それらをあたかも1本のばねであるかのように見なしたときの「合成ばね定数」\(K\)を求めることが解析の第一歩です。
  4. 単振動の周期と振幅: 周期は公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で、振幅は振動の中心から端までの距離で決まります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体が任意の位置\(x\)にあるとき、2本のばねから受ける力をそれぞれフックの法則を用いて表します。そして、それらの合力を計算します(問1)。
  2. 次に、(1)で求めた合力が単振動の復元力の形 \(F=-Kx\) になっていることを確認し、合成ばね定数\(K\)を特定します。この\(K\)を用いて周期の公式を適用し、初期条件から振幅を求めます(問2)。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体の位置が\(x\)のときに、物体に働く力の合力を求める問題です。ばねAとばねBがそれぞれ物体に及ぼす力を考え、それらを足し合わせます。力の向きを符号で正しく表現することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 振動の中心: 問題の設定より、\(x=0\)の位置で両方のばねが自然長です。したがって、この位置が力のつり合い点であり、単振動の中心となります。
  • ばねAからの力: 物体が位置\(x\)にあるとき、ばねAは自然長から\(x\)だけ伸びています。したがって、ばねAは物体を左向き(負の向き)に引きます。その力は \(-k_1x\) です。
  • ばねBからの力: 物体が位置\(x\)にあるとき、ばねBは自然長から\(x\)だけ縮んでいます。したがって、ばねBは物体を左向き(負の向き)に押します。その力は \(-k_2x\) です。
  • 力の合成: 2つの力はともに同じ向き(負の向き)に働くため、単純に足し合わせます。

具体的な解説と立式
物体の位置が\(x\)のとき、ばねAとばねBが物体に及ぼす力をそれぞれ \(F_A\), \(F_B\) とします。
ばねAは自然長から\(x\)だけ変位しているので、フックの法則より、
$$ F_A = -k_1 x \quad \cdots ① $$
ばねBも自然長から\(x\)だけ変位(縮み)しているので、物体を左向きに押します。その力は、
$$ F_B = -k_2 x \quad \cdots ② $$
物体に働く力の合力\(F\)は、これらの和で与えられます。
$$ F = F_A + F_B \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • フックの法則: \(F = -kx\)
計算過程

式③に①と②を代入して、合力\(F\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (-k_1 x) + (-k_2 x) \\[2.0ex]
&= -(k_1 + k_2)x
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体を右にずらすと、左のばねAは「伸びて」物体を左に引っ張り、右のばねBは「縮んで」物体を左に押します。どちらの力も物体を元の位置(中心)に戻そうとする向き(左向き)に働きます。この2つの力を足し合わせたものが、物体に働く全体の力(合力)となります。

結論と吟味

物体に働く合力は \( -(k_1+k_2)x \) [N] です。
この力の形は、変位\(x\)に比例し、常に原点(\(x=0\))の方向を向く力(復元力)になっています。これは、物体が単振動することを示唆しています。

解答 (1) \( -(k_1+k_2)x \) [N]

問(2)

思考の道筋とポイント
物体の振動の周期と振幅を求める問題です。(1)で求めた合力の式を、単振動の復元力の一般式 \(F=-Kx\) と比較することで、この振動系全体の「合成ばね定数」\(K\)を特定します。周期は公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を用いて計算できます。振幅は、振動の初期条件から決定します。
この設問における重要なポイント

  • 合成ばね定数: (1)で求めた合力 \(F=-(k_1+k_2)x\) を、単振動の復元力の一般式 \(F=-Kx\) と比較します。これにより、この系の合成ばね定数が \(K=k_1+k_2\) であることがわかります。
  • 周期の公式: 単振動の周期は、質量\(m\)と合成ばね定数\(K\)を用いて \(T=2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) と表されます。
  • 振幅の定義: 振幅は「振動の中心から振動の端(折り返し点)までの距離」です。物体は \(x=d\) の位置から「静かに」はなされるため、この点が速さ0の折り返し点となります。したがって、振幅は\(d\)です。

具体的な解説と立式
(1)で求めた合力の式 \(F = -(k_1+k_2)x\) は、単振動の復元力の式 \(F=-Kx\) と同じ形をしています。
両者を比較することで、この振動系の合成ばね定数\(K\)は、
$$ K = k_1 + k_2 \quad \cdots ④ $$
となります。
単振動の周期\(T\)は、質量\(m\)と合成ばね定数\(K\)を用いて、次の公式で与えられます。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \quad \cdots ⑤ $$
一方、振幅は振動の中心(つり合いの位置 \(x=0\))から振動の端(速さが0になる位置)までの距離です。問題文より、物体は \(x=d\) の位置から静かに手をはなされるので、この位置が振動の端点です。したがって、振幅は\(d\)となります。

使用した物理公式

  • 単振動の復元力: \(F = -Kx\)
  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\)
計算過程

周期の公式⑤に、④で求めた合成ばね定数 \(K=k_1+k_2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k_1+k_2}}
\end{aligned}
$$
振幅は、初期条件から \(d\) です。

計算方法の平易な説明

周期の計算: この問題の2つのばねは、まるで1本の強力なばね(ばね定数が \(k_1+k_2\) の合成ばね)のように振る舞います。この「合体したばね」のばね定数を使って、単振動の周期を公式から計算します。
振幅の計算: 振幅とは「振動で物体が中心から最大でどれだけ離れるか」という距離のことです。物体は最初に右へ\(d\)だけずらした位置から動き始めるので、そこが振動の最大地点(端)になります。したがって、振幅はそのまま\(d\)となります。

結論と吟味

周期は \(2\pi\sqrt{\frac{m}{k_1+k_2}}\) [s]、振幅は \(d\) [m] です。
周期の式を見ると、ばね定数\(k_1, k_2\)が大きい(ばねが硬い)ほど周期は短く(振動が速く)なり、物体の質量\(m\)が大きいほど周期は長く(振動がゆっくりに)なることがわかります。これは物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (2) 周期: \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k_1+k_2}}\) [s] , 振幅: \(d\) [m]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 単振動の成立条件:
    • 核心: 物体に働く合力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例し、常につり合いの位置を向く力、すなわち「復元力 \(F=-Kx\)」で表されることです。この形に整理できるかどうかが、単振動問題の最初の関門です。
    • 理解のポイント: この問題では、2つのばねの力を合成した結果が \(F=-(k_1+k_2)x\) となり、見事にこの条件を満たしています。
  • 合成ばね定数の概念:
    • 核心: 複数のばねが関わる系では、まず全体の復元力を求め、\(F=-Kx\) の形に整理することで、系全体の「実効的なばね定数(合成ばね定数)」\(K\)を求めることが最優先です。
    • 理解のポイント: この問題の接続方法は「並列接続」に相当し、合成ばね定数は単純な和 \(K=k_1+k_2\) となります。公式として覚えるだけでなく、なぜそうなるのかを力の合成から毎回導出できるようにしておくことが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばねの直列接続: 2つのばねを直列につないで物体を吊るす場合など。このときの合成ばね定数は \(\frac{1}{K} = \frac{1}{k_1} + \frac{1}{k_2}\) となります。
    • 鉛直ばね振り子: ばねを鉛直に吊るし、重力とのつり合いの位置を中心に振動させる問題。振動中心が自然長の位置からずれる点がポイントです。
    • U字管内の液体の振動: U字管に入れた液体を一方に押し下げて放すと、液面が単振動します。このとき、液柱全体の重さが復元力として働きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 振動の中心はどこか?: まず、物体に働く力がつり合う位置を探します。そこが単振動の中心です。この問題では\(x=0\)が中心です。
    2. 復元力を求める: 振動の中心からの変位を\(x\)として、その位置で物体に働く合力(復元力)\(F\)を\(x\)の関数として表します。
    3. \(F=-Kx\)の形になっているか?: 求めた\(F\)が\(F=-Kx\)の形になっていれば、その運動は単振動です。係数\(K\)が合成ばね定数となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の向き(符号)の間違い:
    • 誤解: ばねの力を常に \(-kx\) と機械的に書いてしまう。座標の取り方や、ばねが伸びているか縮んでいるかによって、力の向きは変わります。
    • 対策: 必ず図を描き、物体が正の方向に変位したとき、各ばねから働く力はどちら向きかを考え、符号を決定しましょう。この問題では、物体が右(\(x>0\))に行くと、ばねAもばねBも物体を左(負)向きに動かそうとするため、両方の力が負となります。
  • 合成ばね定数の公式の混同:
    • 誤解: 並列接続と直列接続の公式を混同して覚えてしまう。
    • 対策: 公式を丸暗記するのではなく、「並列は力が分担され、変位が共通」「直列は力が共通で、変位が分担される」という物理的なイメージを持つことが重要です。最も確実なのは、毎回力のつり合いから復元力を導出し、\(F=-Kx\)の\(K\)を求める方法です。
  • 振幅の誤解:
    • 誤解: 物体をずらした距離\(d\)を2倍して、振幅を\(2d\)としてしまう。
    • 対策: 振幅は「中心から端まで」の片道の距離です。往復の距離(=\(2 \times\)振幅)と混同しないようにしましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: 物体が任意の位置\(x\)にあるときの図を描き、ばねAからの力 \(F_A\) とばねBからの力 \(F_B\) を矢印で明確に描きます。物体が右にずれた場合、\(F_A\)も\(F_B\)も左向きの矢印となり、合力が大きな左向きの矢印になることが視覚的に理解できます。
    • 「合成ばね」への置き換えイメージ: 2本のばねが両側から物体を支えている状況を、ばね定数が \(K=k_1+k_2\) である1本の強力なばねが物体を支えている、というシンプルなモデルに頭の中で置き換えてみると、周期の計算などが見通しやすくなります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸と原点を明確に: 右向きを正とするx軸と、つり合いの位置である原点\(x=0\)を必ず描き入れます。
    • 変位を記入: 物体が任意の位置\(x\)にある状態を図示し、原点からの距離が\(x\)であることを示します。
    • 力の矢印: 各ばねからの力の矢印を、物体の中心から描き、その大きさを \(k_1x\), \(k_2x\) などと書き添えると、立式が容易になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • フックの法則 (\(F=-kx\)):
    • 選定理由: (1)で、ばねの弾性力という具体的な力を計算するため。
    • 適用根拠: ばねの性質を記述する最も基本的な法則です。
  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 選定理由: この問題の根底にある法則です。(1)で求めた合力\(F\)を運動方程式に代入すると、\(ma = -(k_1+k_2)x\) となります。これは単振動の運動方程式そのものです。
    • 適用根拠: 力(原因)と加速度(結果)を結びつける、力学の根幹をなす法則です。
  • 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
    • 選定理由: (2)で、単振動であることがわかった系の周期を計算するため。
    • 適用根拠: この公式は、単振動の運動方程式を解くことで導出される結論です。運動方程式 \(a = -\frac{K}{m}x\) と、角振動数\(\omega\)の関係式 \(a = -\omega^2 x\)、周期と角振動数の関係式 \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) を組み合わせることで得られます。問題を解く上では、この公式を知識として適用します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 合力の計算:
    • 戦略: 任意の位置\(x\)で、各ばねが及ぼす力をフックの法則で求め、ベクトル的に合成する。
    • フロー: ①つり合いの位置を原点と確認 → ②位置\(x\)でのばねAの力 \(F_A = -k_1x\) を求める → ③位置\(x\)でのばねBの力 \(F_B = -k_2x\) を求める → ④合力 \(F = F_A + F_B = -(k_1+k_2)x\) を計算。
  2. (2) 周期と振幅の計算:
    • 戦略: 合力の式を \(F=-Kx\) と比較して合成ばね定数\(K\)を求め、周期の公式に代入。振幅は初期条件から読み取る。
    • フロー: ①(1)の結果から \(K=k_1+k_2\) を特定 → ②周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に代入して\(T\)を計算 → ③「\(x=d\)から静かに放す」という初期条件から、振幅が\(d\)であることを判断。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号のダブルチェック: 計算の各段階で、力の向きや変位の符号が物理的に正しいかを確認する習慣をつけましょう。「右にずらしたら(\(x>0\))、力は左向き(\(F<0\))になるはず」といった直感的なチェックが有効です。
  • 文字式の整理: \( -k_1x – k_2x \) を \( -(k_1+k_2)x \) のように、共通因数でくくる計算は基本ですが、丁寧に行いましょう。これにより、合成ばね定数\(K\)が一目でわかります。
  • 公式の正確な記憶: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) は、分子が\(m\)、分母が\(K\)であることを混同しないように、意味(重いほどゆっくり、硬いほど速い)とともに正確に覚えておきましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k_1+k_2}}\)。もし、ばねBがなかったら(\(k_2=0\))、周期は \(2\pi\sqrt{\frac{m}{k_1}}\) となり、ばねAだけの単振動の式と一致します。また、ばねが硬くなる(\(k_1, k_2\)が大きくなる)と周期は短くなり、物体が重くなる(\(m\)が大きくなる)と周期は長くなる。これらは物理的な直感と一致しており、妥当です。
    • 振幅: 振幅は\(d\)。これは、物体を最初にずらした距離です。もし、\(x=d\)の位置で初速を与えたら、振幅は\(d\)より大きくなるはずです。このように、与えられた条件を変えた場合どうなるかを考えることで、答えの妥当性をより深く吟味できます。

151 摩擦のある斜面上での単振動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、摩擦のある斜面上に置かれた、ばねにつながれた物体の運動を扱います。特に、力のつり合いの位置と、その位置を基準とした単振動、そしてエネルギーの関係が問われる、力学の総合問題です。
この問題の核心は、物体に働く複数の力(重力、弾性力、垂直抗力、動摩擦力)を正確に把握し、それらの合力によって物体の運動がどのように記述されるかを理解することです。

与えられた条件
  • 斜面の傾斜角: \(30^\circ\)
  • ばね定数: \(k\) [N/m]
  • ばねの自然の長さ: \(L\) [m]
  • 物体の質量: \(m\) [kg]
  • 動摩擦係数: \(\mu’\)
  • 重力加速度: \(g\) [m/s\(^2\)]
  • 条件: \(\mu’ < \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\)
問われていること
  • (1) 物体に働く合力が0になるときのばねの長さ \(L’\)。
  • (2) (1)の位置を原点としたとき、座標 \(x\) で物体に働く合力 \(F\)。
  • (3) 物体の速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「摩擦のある斜面上での単振動」です。動摩擦力が常に運動方向と逆向きに働くため、通常の単振動とは少し異なる側面も持ちますが、基本的な考え方は共通しています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力の図示と分解: 物体に働く4つの力(重力、垂直抗力、弾性力、動摩擦力)を正しく図示し、斜面に平行・垂直な方向に分解します。
  2. 力のつり合い: 特定の条件下(合力が0)での力のつり合いの式を立てます。これは単振動の「振動中心」を決定します。
  3. 運動方程式: 斜面に平行な方向について運動方程式 \(ma=F\) を立て、物体の運動がどのようなものであるかを解析します。
  4. 単振動の性質: 運動が \(F=-Kx\) の形の復元力によるものであることを確認し、角振動数 \(\omega\)、振幅 \(A\)、最大速度 \(v_{\text{最大}}=A\omega\) などの公式を適用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、物体に働く力をすべて図示し、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。(1)では、これらの力がつり合う条件(合力が0)から、そのときのばねの長さ \(L’\) を求めます。
  2. 次に、(1)で求めたつり合いの位置を原点として、そこから \(x\) だけずれた位置での合力を計算します。この結果、運動が単振動であることが示されます。
  3. 最後に、運動の開始点と振動中心の位置関係から振幅 \(A\) を求め、単振動の公式を用いて速さの最大値を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
初めに物体にはたらく合力が0となるときのばねの長さを求める問題です。合力が0ということは、力がつり合っている状態を指します。したがって、物体に働くすべての力を図示し、斜面に平行な方向での力のつり合いの式を立てることが目標となります。
この設問における重要なポイント

  • 力の図示: 物体に働く力は、鉛直下向きの「重力 \(mg\)」、斜面から垂直に受ける「垂直抗力 \(N\)」、ばねから受ける「弾性力」、そして斜面から受ける「動摩擦力 \(\mu’N\)」の4つです。
  • 力の分解: 重力 \(mg\) を斜面に平行な成分 \(mg \sin 30^\circ\) と、斜面に垂直な成分 \(mg \cos 30^\circ\) に分解します。
  • 動摩擦力の向き: 問題文より、物体は斜面を下り始めているため、動摩擦力は運動を妨げる向き、すなわち「斜面上向き」に働きます。
  • 斜面方向の力のつり合い: 斜面下向きの力(重力の分力)と、斜面上向きの力の和(弾性力+動摩擦力)が等しくなる、という式を立てます。

具体的な解説と立式
まず、斜面に垂直な方向の力のつり合いを考えます。この方向には物体は運動しないので、力の合力は0です。
$$ N – mg \cos 30^\circ = 0 $$
よって、垂直抗力の大きさ \(N\) は次のように求められます。
$$ N = mg \cos 30^\circ \quad \cdots ① $$
したがって、動摩擦力の大きさ \(f\) は、
$$ f = \mu’ N = \mu’ mg \cos 30^\circ \quad \cdots ② $$
次に、斜面に平行な方向の力のつり合いを考えます。求めるばねの長さを \(L’\) とします。斜面下向きを正として力のつり合いの式を立てます。斜面下向きの力は重力の分力 \(mg \sin 30^\circ\)、斜面上向きの力は動摩擦力 \(\mu’mg \cos 30^\circ\) と弾性力 \(k(L-L’)\) です。
$$ mg \sin 30^\circ – k(L-L’) – \mu’ mg \cos 30^\circ = 0 \quad \cdots ③ $$
この式は、下向きの力(重力成分)と上向きの力(弾性力と動摩擦力)がつり合っていることを示しています。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 弾性力: \(F=kx\)
  • 動摩擦力: \(f’=\mu’N\)
計算過程

③式を \(L’\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
k(L-L’) &= mg \sin 30^\circ – \mu’ mg \cos 30^\circ \\[2.0ex]
L-L’ &= \frac{mg}{k} (\sin 30^\circ – \mu’ \cos 30^\circ) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{k} \left( \frac{1}{2} – \mu’ \frac{\sqrt{3}}{2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{2k} (1 – \sqrt{3}\mu’)
\end{aligned}
$$
したがって、ばねの長さ \(L’\) は、
$$
\begin{aligned}
L’ &= L – (L-L’) \\[2.0ex]
&= L – \frac{mg}{2k}(1 – \sqrt{3}\mu’) \text{ [m]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体が斜面を滑り下りようとする力(重力の分力)と、それにブレーキをかける2つの力(ばねが引き戻そうとする力と、斜面の摩擦力)がちょうど釣り合う瞬間を探します。この「力のつり合い」の関係を数式にして、そのときのばねの長さを計算します。

結論と吟味

合力が0になるときのばねの長さは \(L’ = L – \displaystyle\frac{mg}{2k}(1 – \sqrt{3}\mu’)\) [m] です。
問題の条件 \(\mu’ < \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) より、\(1 – \sqrt{3}\mu’ > 0\) となります。したがって、\(L’\) は自然長 \(L\) よりも短い、つまりばねは縮んだ状態でつり合うことがわかります。これは、重力の斜面下向き成分が動摩擦力よりも大きいため、ばねが縮んで下向きの弾性力を加えないとつり合えないことを意味しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(L – \displaystyle\frac{mg}{2k}(1 – \sqrt{3}\mu’)\) [m]

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた力のつり合いの位置を原点 \(x=0\) とし、斜面下向きを正として座標 \(x\) を設定します。この座標 \(x\) の位置にある物体に働く合力 \(F\) を求める問題です。ここでの目標は、すべての力を考慮して運動方程式の右辺(合力)を計算することです。
この設問における重要なポイント

  • 座標の設定: つり合いの位置が原点 \(x=0\)、斜面下向きが正。
  • ばねの長さと伸び: 座標 \(x\) の位置でのばねの長さは \(L’ + x\) となります。したがって、自然長 \(L\) からの伸び(または縮み)は \((L’ + x) – L\) です。
  • 力の計算: 座標 \(x\) における弾性力を計算し、重力成分、動摩擦力と合わせて合力を求めます。動摩擦力は物体が斜面を下っている間は常に一定で、斜面上向きに働きます。
  • 式の整理: 合力の式を計算する際、(1)で導いたつり合いの条件式を利用すると、式が劇的に簡単になります。

具体的な解説と立式
斜面下向きを正として、座標 \(x\) の位置にある物体に働く合力 \(F\) を求めます。
働く力は、重力の斜面下向き成分 \(+mg \sin 30^\circ\)、動摩擦力(斜面上向き)\(-\mu’mg \cos 30^\circ\)、そして弾性力です。
座標 \(x\) のとき、ばねの長さは \(L’+x\) なので、自然長 \(L\) からの変位は \((L’+x)-L\) です。弾性力はばねの伸びに比例し、自然長に戻ろうとする向きに働くので、その大きさは \(k((L’+x)-L)\) で向きは上向きです。
よって、合力 \(F\) は、
$$ F = mg \sin 30^\circ – k((L’+x)-L) – \mu’mg \cos 30^\circ \quad \cdots ① $$
この式が、座標 \(x\) における合力を表します。

使用した物理公式

  • 力の合力
  • 弾性力: \(F=kx\)
計算過程

①式を展開し、(1)のつり合いの式 \(mg \sin 30^\circ – k(L-L’) – \mu’mg \cos 30^\circ = 0\) を利用します。
$$
\begin{aligned}
F &= mg \sin 30^\circ – k(L’ – L + x) – \mu’ mg \cos 30^\circ \\[2.0ex]
&= (mg \sin 30^\circ – k(L’ – L) – \mu’ mg \cos 30^\circ) – kx
\end{aligned}
$$
ここで、(1)のつり合いの式 \(mg \sin 30^\circ – k(L-L’) – \mu’mg \cos 30^\circ = 0\) を利用すると、上式の括弧内は0になります。
したがって、
$$ F = -kx \text{ [N]} $$

計算方法の平易な説明

物体が「力のつり合いの位置」から \(x\) だけずれたときに、追加で働く力を考えます。つり合いの位置では全ての力が釣り合ってゼロになっています。そこから \(x\) ずれると、ばねの長さだけが変わり、ばねの力が \(kx\) だけ変化します。この変化分が、全体の合力として現れます。

結論と吟味

合力は \(F = -kx\) [N] となります。この式は、合力が変位 \(x\) に比例し、向きが常に原点(つり合いの位置)を向くことを示しています。これは「復元力」の式そのものであり、物体がつり合いの位置を中心として単振動をすることを示唆しています。

解答 (2) \(-kx\) [N]

問(3)

思考の道筋とポイント
物体の速さの最大値を求める問題です。(2)の結果から、物体は力のつり合いの位置を中心とする単振動を行うことがわかりました。単振動において、速さは振動の中心で最大値をとります。速さの最大値の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を用いて計算します。そのためには、この単振動の「振幅 \(A\)」と「角振動数 \(\omega\)」を求める必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の性質: 合力が \(F=-kx\) と表せることから、この運動は角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) の単振動とみなせます。
  • 振幅の決定: 振幅 \(A\) は、振動の中心から振動の端までの距離です。物体は「ばねが自然長の状態で、初速0」で運動を開始します。振動の中心は「力のつり合いの位置」です。したがって、振幅 \(A\) は、運動の開始点(自然長の位置)と振動中心(つり合いの位置)との距離になります。
  • 速さの最大値: 公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) に、求めた \(A\) と \(\omega\) を代入して計算します。

具体的な解説と立式
(2)で求めた合力の式 \(F=-kx\) は、単振動の運動方程式 \(ma = -kx\) と同じ形をしています。
これから、この運動は力のつり合いの位置を中心とする単振動であり、その角振動数 \(\omega\) は、\(m\omega^2 = k\) の関係から求められます。
$$ \omega = \sqrt{\frac{k}{m}} \quad \cdots ① $$
次に、振幅 \(A\) を求めます。運動の開始点はばねが自然長のとき、つまりばねの長さが \(L\) のときです。一方、振動の中心はばねの長さが \(L’\) のときです。
振幅 \(A\) はこの2点間の距離なので、
$$ A = |L – L’| $$
(1)の結果から \(L’ < L\) であることがわかっているので、
$$ A = L – L’ \quad \cdots ② $$
単振動の速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、振動中心(\(x=0\))で実現し、その大きさは次式で与えられます。
$$ v_{\text{最大}} = A\omega \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
  • 単振動の速さの最大値: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
計算過程

まず、振幅 \(A\) を(1)の結果を用いて具体的に計算します。
$$
\begin{aligned}
A &= L – L’ \\[2.0ex]
&= L – \left( L – \frac{mg}{2k}(1 – \sqrt{3}\mu’) \right) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{2k}(1 – \sqrt{3}\mu’)
\end{aligned}
$$
この \(A\) と、①式で求めた \(\omega\) を③式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= A\omega \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{2k}(1 – \sqrt{3}\mu’) \times \sqrt{\frac{k}{m}} \\[2.0ex]
&= \frac{mg(1 – \sqrt{3}\mu’)}{2k} \cdot \frac{\sqrt{k}}{\sqrt{m}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{m} \cdot \sqrt{m} \cdot g(1 – \sqrt{3}\mu’)}{2\sqrt{k} \cdot \sqrt{k}} \cdot \frac{\sqrt{k}}{\sqrt{m}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{m} g(1 – \sqrt{3}\mu’)}{2\sqrt{k}} \\[2.0ex]
&= \frac{(1 – \sqrt{3}\mu’)g}{2} \sqrt{\frac{m}{k}} \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この物体の運動は、一種の「ばね振り子」です。その揺れの中心は力が釣り合う点、揺れの幅(振幅)はスタート地点から中心までの距離です。揺れの速さ(角振動数)は物体の重さ(質量)とばねの硬さで決まります。これらの「揺れの幅」と「揺れの速さ」を掛け合わせることで、最も速くなる瞬間(中心を通過するとき)の速さを計算できます。

結論と吟味

物体の速さの最大値は \(\displaystyle\frac{(1 – \sqrt{3}\mu’)g}{2} \sqrt{\frac{m}{k}}\) [m/s] です。
この結果は、重力 \(g\) が大きいほど、また摩擦 \(\mu’\) が小さいほど速さが増すことを示しており、直感と一致します。また、質量 \(m\) が大きいほど、ばね定数 \(k\) が小さいほど(ばねが柔らかいほど)、\(\sqrt{m/k}\) の項が大きくなり、速さが増すことも物理的に妥当な関係です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{(1 – \sqrt{3}\mu’)g}{2} \sqrt{\frac{m}{k}}\) [m/s]

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合いと運動方程式の連携:
    • 核心: この問題は、まず「力のつり合い」を用いて単振動の振動中心を特定し(問1)、次にその振動中心を基準として「運動方程式」を立てることで、運動が復元力 \(F=-kx\) に支配される単振動であることを証明する(問2)、という二段階の論理構造で成り立っています。
    • 理解のポイント: 物体に動摩擦力が働く場合でも、その力が運動中に一定であれば、力のつり合いの位置がずれるだけで、その新しいつり合いの位置を中心とした単振動と見なせます。この「振動中心のずれ」を正しく計算することが最初の鍵です。
  • 単振動の運動特性:
    • 核心: 運動方程式が \(ma = -kx\) の形に帰着できれば、その運動は角振動数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) の単振動です。そして、速さは振動中心で最大値 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) をとり、両端で0になります。この関係性を利用して速さの最大値を求めるのが(3)の核心です。
    • 理解のポイント: 振幅 \(A\) は「振動の中心」と「運動の端(初速0の位置)」との距離で決まります。この問題では、運動の開始点(ばねが自然長の位置)が振動の一方の端となるため、振幅は「自然長の位置」と「力のつり合いの位置」の間の距離として計算できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直ばね振り子: 重力が常に働く状況でのばねの単振動です。重力と弾性力がつりあう点が振動中心となり、本問題の構造と非常によく似ています。
    • 水平ばね振り子(摩擦あり): 運動方向によって摩擦力の向きが変わるため、往路と復路で振動中心が異なる複雑な問題に応用できます。本問題は「下り続ける」という限定された状況なので、摩擦力の向きは一定でした。
    • 浮力を受ける物体の単振動: 水面に浮いた物体を少し押し下げて放したときの運動。浮力と重力がつりあう点が振動中心となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の全リストアップと図示: まず、物体に働く力をすべて(重力、弾性力、垂直抗力、摩擦力など)漏れなく図示します。
    2. つり合いの位置の探索: 「合力が0になる位置はどこか?」を最初に考えます。この位置が、多くの場合で運動を解析する上での基準点(振動中心)となります。
    3. 運動方程式の立式: つり合いの位置を原点として座標軸を設定し、任意の点 \(x\) での運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
    4. 復元力の確認: 運動方程式の右辺(合力 \(F\))が \(-Kx\) (\(K\)は正の定数)の形になるかを確認します。なれば単振動であり、公式を適用できます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 振動中心の誤認:
    • 誤解: ばねの自然長の位置を振動の中心だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 単振動の振動中心は、常に「力のつり合いの位置」です。重力や摩擦力などが働く場合は、自然長の位置とつり合いの位置は一致しません。必ず力のつり合いの式を立てて、振動中心を正確に求めましょう。
  • 動摩擦力の向きの間違い:
    • 誤解: 動摩擦力の向きを常に一定と考えてしまう、あるいは運動方向と逆に設定し忘れる。
    • 対策: 動摩擦力は「常に物体の運動方向と逆向き」に働きます。物体が斜面を上っているか下っているかで、摩擦力の向きは変わることを意識しましょう。この問題では「下り始めた」とあるため、摩擦力は常に上向きで一定として扱えました。
  • 振幅の計算ミス:
    • 誤解: ばねの「伸び」や「縮み」そのものを振幅 \(A\) と考えてしまう。
    • 対策: 振幅 \(A\) は「振動の中心」から「振動の端」までの距離です。この問題では、\(A = L – L’\) であり、(1)で求めたつり合いの位置 \(L’\) を使って計算する必要がありました。各物理量の定義を正確に理解することが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: 斜面に平行・垂直な座標軸を描き、物体に働く4つの力(重力(分解後)、垂直抗力、弾性力、動摩擦力)をベクトルとして正確に図示します。特に、つり合いの位置と、そこからずれた位置 \(x\) での力の変化を図で比較すると、合力が \(-kx\) となる理由が視覚的に理解できます。
    • エネルギー保存則のグラフ(発展): この問題はエネルギーでも解けますが、動摩擦力が非保存力であるため、仕事とエネルギーの関係 \((\text{後の力学的エネルギー}) – (\text{前の力学的エネルギー}) = (\text{非保存力がした仕事})\) を使う必要があります。横軸に位置、縦軸にエネルギーをとったグラフを考えると、摩擦によって力学的エネルギーが減少していく様子をイメージできます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の作用点を明確に: すべての力は物体の重心から生えているように描きます。
    • 座標軸の設定を明記: 斜面下向きを正とするなど、自分で設定した座標軸の向きを必ず図に書き込みます。これにより、力の符号ミスを防ぎます。
    • ばねの長さを区別: 「自然長 \(L\)」「つり合いの長さ \(L’\)」「位置 \(x\) での長さ \(L’+x\)」を、それぞれ図の中で明確に区別して描くと、混乱を防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
    • 選定理由: (1)で「合力が0となる」という条件が与えられているため、この物理的状況を直接数式で表現するために選択します。これは単振動の振動中心を特定するための必須のステップです。
    • 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)に基づき、力がつりあっている物体は静止し続けるか、等速直線運動を続けます。この問題では、その瞬間の加速度が0であることを意味します。
  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 選定理由: (2)で、つり合いの位置からずれたときの物体の運動(ダイナミクス)を記述するために選択します。合力 \(F\) を求めることで、物体がどのような加速度運動をするかがわかります。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則であり、力(原因)と加速度(結果)の関係を示す、力学の最も基本的な法則です。
  • 単振動の公式 (\(v_{\text{最大}} = A\omega\)):
      • 選定理由: (3)で速さの最大値を求めるため。(2)で運動が単振動であることが判明したため、単振動の運動特性を表すこの公式が適用可能になります。

    – 適用根拠: この公式は、運動方程式 \(ma=-kx\) を解くことによって導かれる結論の一つです。運動が単振動であると確認できた時点で、その性質として利用することができます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) つり合いの位置の計算:
    • 戦略: 斜面方向の力のつり合いを立てる。
    • フロー: ①物体に働く4力を図示 → ②斜面に垂直方向のつり合いから垂直抗力 \(N\) を求める → ③斜面に平行方向の力のつり合いを立式(重力成分 = 弾性力 + 動摩擦力) → ④式をばねの長さ \(L’\) について解く。
  2. (2) 合力の計算:
    • 戦略: (1)のつり合いの位置を原点とし、任意の点 \(x\) での合力を求める。
    • フロー: ①位置 \(x\) での各力(重力成分、動摩擦力、弾性力)を立式 → ②それらの総和(合力 \(F\))を計算 → ③(1)で得たつり合いの条件式を使って式を整理し、\(F=-kx\) の形を導く。
  3. (3) 最大速度の計算:
    • 戦略: 単振動の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を使う。
    • フロー: ①運動方程式から角振動数 \(\omega\) を求める (\(\omega = \sqrt{k/m}\)) → ②振幅 \(A\) を求める(開始点と振動中心の距離 \(|L-L’|\)) → ③(1)の結果を使い \(A\) の値を具体的に計算 → ④ \(A\) と \(\omega\) を公式に代入して \(v_{\text{最大}}\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の計算のように、複数の結果を組み合わせて最終的な答えを出す場合、途中で数値を代入するのではなく、文字式のまま計算を進めるのが有効です。例えば、振幅 \(A\) を \(L-L’\) のまま \(v_{\text{最大}}\) の式に代入し、最後に \(L-L’\) の具体的な表式を代入することで、計算の見通しが良くなります。
  • 三角関数の値の正確性: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\) を正確に使うことが基本です。
  • 符号の確認: 斜面下向きを正とした場合、上向きの力(弾性力、摩擦力)には負の符号がつくことを常に意識します。立式した後に、各項の符号が物理的な力の向きと一致しているかを確認する習慣をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) つり合いの位置: 条件 \(\mu’ < 1/\sqrt{3}\) は、\(\mu’ \cos 30^\circ < \sin 30^\circ\) すなわち \(\mu’mg \cos 30^\circ < mg \sin 30^\circ\) を意味します。これは「最大静止摩擦力(ここでは動摩擦力で代用)が重力の滑り落ちる成分より小さい」ことを示しており、だからこそ物体は滑り落ちます。そして、つり合いの位置が \(L’ < L\)(ばねが縮む)となったのは、この力の大小関係と一致しており妥当です。
    • (3) 速さの最大値: もし摩擦がなければ(\(\mu’=0\))、速さの最大値はより大きくなるはずです。実際に式に \(\mu’=0\) を代入すると、\(v_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{g}{2}\sqrt{\frac{m}{k}}\) となり、\(\mu’>0\) の場合より大きくなります。このように、極端な条件を代入して直感と合うかを確認するのは有効な吟味方法です。
  • 別解との比較:
    • この問題は「仕事とエネルギーの関係」を使っても解くことができます。始点(自然長)とつり合いの位置での力学的エネルギーを比較し、その差が動摩擦力のした仕事に等しいという式を立てます。
      $$ (1/2)mv_{\text{最大}}^2 + (1/2)k(L’-L)^2 + mgL’\sin30^\circ – (mgL\sin30^\circ) = -\mu’N(L-L’) $$
      この式を解くと、同じ結果が得られるはずです。異なるアプローチで同じ答えが出ることを確認できれば、解答の信頼性は格段に高まります。
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152 斜面上での単振動

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