「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 6】基本問題151~158

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基本問題

151 速さと仕事率

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)および(3)の別解: 仕事率の定義式 \(P=W/t\) を用いる解法
      • 模範解答が仕事率の公式 \(P=Fv\) を用いて直接計算するのに対し、別解では、仕事率の基本定義である「単位時間あたりの仕事」という考え方(\(P=W/t\))に立ち返って計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 仕事率の便利な公式 \(P=Fv\) が、より基本的な定義式 \(P=W/t\) から導かれる関係(\(P = W/t = Fx/t = F(x/t) = Fv\))であることを確認でき、公式の丸暗記ではなく、その成り立ちから深く理解することができます。
    • 思考の柔軟性向上: 問題の条件に応じて、\(P=W/t\) と \(P=Fv\) のどちらの公式を使っても解けることを学ぶことで、解法の選択肢が広がり、思考の柔軟性が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「力のつりあいと仕事率の公式 \(P=Fv\) の活用」です。物体が一定の速さで運動している状況から、物体にはたらく力の関係を読み取り、仕事率を計算する典型的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 「一定の速さ」という言葉から、物体の加速度が \(0\) であり、物体にはたらく力がつりあっていると判断できること。
  2. 動摩擦力: 物体が運動しているときに、その運動を妨げる向きにはたらく摩擦力。この問題では、その大きさが直接与えられています。
  3. 仕事率の公式 \(P=Fv\): 力 \(F\) を加え続けて物体を一定の速さ \(v\) で動かすとき、その力がする仕事の仕事率 \(P\) は \(P=Fv\) と表されること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「一定の速さ」という条件から、水平方向の力のつりあいを考え、加えた力の大きさを求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた力の大きさと、与えられた速さを用いて、仕事率の公式 \(P=Fv\) から仕事率を計算します。
  3. (3)では、(1)で求めた力の大きさと、与えられた仕事率を用いて、仕事率の公式 \(P=Fv\) を逆算し、物体の速さを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
この問題の最大のヒントは「一定の速さ \(10\,\text{m/s}\) で引いた」という記述です。速さが一定ということは、加速度が \(0\) であることを意味します。ニュートンの運動の法則によれば、加速度が \(0\) のとき、物体にはたらく力の合力は \(0\) となります。つまり、力がつりあっている状態です。
水平方向には、人が「加えた力」と、運動を妨げる「動摩擦力」がはたらいています。これらがつりあっていることから、加えた力の大きさを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 「一定の速さ」は「力がつりあっている」ことを意味する。
  • 水平方向にはたらく力は、加えた力と動摩擦力のみである。
  • したがって、(加えた力の大きさ) = (動摩擦力の大きさ) となる。

具体的な解説と立式
物体に加えた力の大きさを \(F\)、物体が受ける動摩擦力の大きさを \(F’\) とします。
物体は水平方向に一定の速さで運動しているので、水平方向の力はつりあっています。

(右向きの力の和)=(左向きの力の和)

という関係から、
$$
\begin{aligned}
F &= F’
\end{aligned}
$$
問題文より、動摩擦力の大きさは \(F’ = 4.0\,\text{N}\) なので、
$$
\begin{aligned}
F &= 4.0\,\text{N}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
計算過程

上記の立式により、計算は不要です。

加えた力の大きさは \(4.0\,\text{N}\) となります。

この設問の平易な説明

物体がスピードアップもスピードダウンもせずに、同じ速さで動き続けているということは、前に進めようとする「アクセル」の力と、それを邪魔する「ブレーキ」の力(この場合は摩擦力)が、ちょうど同じ強さで押し合っている状態を意味します。問題で摩擦力が \(4.0\,\text{N}\) と与えられているので、加えた力も同じ \(4.0\,\text{N}\) になります。

結論と吟味

加えた力の大きさは \(4.0\,\text{N}\) と求まりました。動摩擦力と等しい大きさであり、物理的に妥当です。

解答 (1) \(4.0\,\text{N}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
仕事率を求める問題です。仕事率 \(P\) は、力 \(F\) と速さ \(v\) の積で計算できる公式 \(P=Fv\) を使うのが最も簡単です。(1)で加えた力 \(F\) の大きさを求め、速さ \(v\) は問題文で与えられています。これらの値を公式に代入するだけで答えが求まります。
この設問における重要なポイント

  • 仕事率の公式 \(P=Fv\) を用いる。
  • 力の大きさ: \(F = 4.0\,\text{N}\) ((1)で計算)
  • 速さ: \(v = 10\,\text{m/s}\)

具体的な解説と立式
加えた力がする仕事の仕事率 \(P\) は、公式 \(P=Fv\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
P &= Fv
\end{aligned}
$$
(1)で求めた \(F=4.0\,\text{N}\) と、問題文の \(v=10\,\text{m/s}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
P &= 4.0 \times 10
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事率の公式: \(P=Fv\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
P &= 4.0 \times 10 \\[2.0ex]
&= 40\,\text{W}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

仕事の効率(仕事率)は、「どれくらいの力で」物体を動かし、「どれくらいの速さで」動かしているか、の掛け算で計算できます。今回は \(4.0\,\text{N}\) の力で、\(10\,\text{m/s}\) の速さで動かしているので、この2つを掛け合わせるだけで仕事率が求められます。

結論と吟味

仕事率は \(40\,\text{W}\) と求まりました。これは、この力が \(1\) 秒あたりに \(40\,\text{J}\) の仕事をしていることを意味します。

解答 (2) \(40\,\text{W}\)
別解: 仕事率の定義式 \(P=W/t\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
仕事率の基本定義である \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)(仕事率 = 仕事 ÷ 時間)に立ち返って計算する方法です。具体的な時間を設定し(例えば \(1.0\) 秒間)、その間にした仕事の量を計算して、時間で割ります。
この設問における重要なポイント

  • 仕事率の定義 \(P=W/t\) を用いる。
  • 仕事 \(W\) は \(W=Fx\) で計算する。
  • 例えば \(t=1.0\,\text{s}\) の間を考えると、移動距離 \(x\) は \(x=vt\) で計算できる。

具体的な解説と立式
\(t=1.0\,\text{s}\) の間に物体が動く状況を考えます。

速さが \(v=10\,\text{m/s}\) なので、この間に動く距離 \(x\) は、
$$
\begin{aligned}
x &= vt \\[2.0ex]
&= 10 \times 1.0 \\[2.0ex]
&= 10\,\text{m}
\end{aligned}
$$
この間に加えた力 \(F=4.0\,\text{N}\) がした仕事 \(W\) は、
$$
\begin{aligned}
W &= Fx \\[2.0ex]
&= 4.0 \times 10 \\[2.0ex]
&= 40\,\text{J}
\end{aligned}
$$
したがって、仕事率 \(P\) は、
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{W}{t} \\[2.0ex]
&= \frac{40}{1.0}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事率の定義: \(P=W/t\)
  • 仕事の定義: \(W=Fx\)
  • 等速直線運動: \(x=vt\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
P &= \frac{40}{1.0} \\[2.0ex]
&= 40\,\text{W}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

仕事率とは「\(1\)秒あたりの仕事量」のことです。そこで、試しに「\(1\)秒間」だけ物体を動かした場合を考えてみます。速さが \(10\,\text{m/s}\) なので、\(1\)秒間では \(10\,\text{m}\) 進みます。この間に \(4.0\,\text{N}\) の力がした仕事は「\(4.0 \times 10 = 40\,\text{J}\)」です。これがちょうど \(1\)秒あたりの仕事量なので、仕事率は \(40\,\text{W}\) となります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、\(P=Fv\) という公式が、仕事率の基本定義から自然に導かれることを示しています。

解答 (2) \(40\,\text{W}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)と考え方は同じですが、今度は仕事率 \(P\) と力 \(F\) がわかっていて、速さ \(v\) を求める逆算問題です。仕事率の公式 \(P=Fv\) を \(v\) について解き、値を代入します。
この設問における重要なポイント

  • 仕事率の公式 \(P=Fv\) を用いる。
  • 力の大きさは(1)と同じ: \(F = 4.0\,\text{N}\)。
  • 仕事率: \(P = 60\,\text{W}\)。

具体的な解説と立式
仕事率の公式 \(P=Fv\) を、速さ \(v\) について変形します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{P}{F}
\end{aligned}
$$
この式に、\(P=60\,\text{W}\) と \(F=4.0\,\text{N}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{60}{4.0}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事率の公式: \(P=Fv\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v &= \frac{60}{4.0} \\[2.0ex]
&= 15\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(2)の逆の計算です。同じ力(\(4.0\,\text{N}\))で物体を引いているのに、仕事の効率(仕事率)が \(40\,\text{W}\) から \(60\,\text{W}\) に上がったということは、それだけ物体のスピードが上がったことを意味します。仕事率を力で割り算することで、そのときの速さを求めることができます。

結論と吟味

物体の速さは \(15\,\text{m/s}\) と求まりました。仕事率が \(40\,\text{W} \rightarrow 60\,\text{W}\) と \(1.5\) 倍になったので、同じ力で引いているならば速さも \(10\,\text{m/s} \rightarrow 15\,\text{m/s}\) と \(1.5\) 倍になる、という比例関係が成り立っており、妥当な結果です。

解答 (3) \(15\,\text{m/s}\)
別解: 仕事率の定義式 \(P=W/t\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
仕事率 \(P=60\,\text{W}\) というのは、「\(1\)秒あたりに \(60\,\text{J}\) の仕事をする」という意味です。力 \(F=4.0\,\text{N}\) で \(60\,\text{J}\) の仕事をするには、どれだけの距離を動かす必要があるかを計算します。その距離が \(1\)秒あたりの移動距離になるので、それがそのまま速さになります。
この設問における重要なポイント

  • \(P=60\,\text{W}\) は、\(t=1.0\,\text{s}\) のとき \(W=60\,\text{J}\) であることを意味する。
  • 仕事 \(W=Fx\) の関係から、このときの移動距離 \(x\) を求める。
  • 速さ \(v\) は、\(1\)秒あたりの移動距離 \(x\) に等しい。

具体的な解説と立式
仕事率が \(P=60\,\text{W}\) なので、\(t=1.0\,\text{s}\) の間にする仕事は \(W=60\,\text{J}\) です。

仕事の定義 \(W=Fx\) より、この間に動いた距離 \(x\) は、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{W}{F} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{4.0}
\end{aligned}
$$
これは \(1.0\,\text{s}\) の間に動いた距離なので、速さ \(v\) はこの \(x\) の値と等しくなります。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{x}{t} \\[2.0ex]
&= \frac{x}{1.0} \\[2.0ex]
&= x
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事率の定義: \(P=W/t\)
  • 仕事の定義: \(W=Fx\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
x &= \frac{60}{4.0} \\[2.0ex]
&= 15\,\text{m}
\end{aligned}
$$
したがって、速さは \(v=15\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

仕事率が \(60\,\text{W}\) ということは、\(1\)秒間に \(60\,\text{J}\) の仕事をしているということです。一方、加えている力は \(4.0\,\text{N}\) です。\(4.0\,\text{N}\) の力で \(60\,\text{J}\) の仕事をするには、何メートル動かせばよいかを計算すると、「\(60 \div 4.0 = 15\,\text{m}\)」となります。これを \(1\)秒で動かしたわけですから、速さは \(15\,\text{m/s}\) です。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法も、仕事率の基本的な意味に立ち返って考える良い練習になります。

解答 (3) \(15\,\text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつりあい
    • 核心: この問題の全ての設問の基礎となるのが、「一定の速さ」という記述から「力がつりあっている」と判断することです。物体を前に進める「加えた力」と、それを妨げる「動摩擦力」が大きさが等しく、向きが逆であるという関係を見抜くことが、問題を解く上での第一歩となります。
    • 理解のポイント:
      • 「一定の速さ」の意味: 物理において「一定の速さ」または「等速直線運動」という言葉は、加速度が \(0\) であることを意味します。運動方程式 \(ma=F_{合力}\) に \(a=0\) を代入すると、\(F_{合力}=0\) となり、これが力のつりあいを表す式となります。
  • 仕事率の公式 \(P=Fv\)
    • 核心: この問題のメインテーマは、仕事率を「力と速さの積」で計算できる公式 \(P=Fv\) を使いこなすことです。仕事率の定義である \(P=W/t\) から一歩進んで、その瞬間の力と速さから直接仕事率を計算できるこの公式の便利さを理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 公式の導出: この公式は、仕事率の定義 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) と仕事の定義 \(W=Fx\) から簡単に導くことができます。\(P = \displaystyle\frac{Fx}{t} = F \times \left(\frac{x}{t}\right)\)。ここで、\(\displaystyle\frac{x}{t}\) は速さ \(v\) なので、\(P=Fv\) となります。
      • 適用条件: この公式は、力 \(F\) の向きと物体の速度 \(v\) の向きが同じ場合にそのまま使えます。力が一定で、速さも一定の運動では特に有効です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面を一定の速さで引き上げる/引き下ろす運動: この場合も力のつりあいを考えますが、重力の斜面成分も考慮に入れる必要があります。仕事率を計算する際は、引き上げる力と速さの積を計算します。
    • 空気抵抗がはたらく落下運動(終端速度): 雨粒などが落下するとき、速度が上がるにつれて空気抵抗が大きくなり、やがて重力と空気抵抗がつりあいます。このつりあった状態で一定の速さ(終端速度)で落下します。このとき、重力がする仕事率と空気抵抗がする仕事率(負の値)は大きさが等しくなります。
    • 仕事率が一定のモーター: 「仕事率 \(P\) が一定のモーターで物体を引く」という設定では、\(P=Fv\) の関係から、速さ \(v\) が大きくなるほど、モーターが出せる力 \(F\) は小さくなる(反比例の関係)という性質を使います。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の状態を表す言葉(「一定の速さ」など)を最優先でチェック: これが、力のつりあいを使うのか、運動方程式を使うのかを決定する最大のヒントです。
    2. 「仕事率」を問われたら、\(P=Fv\) が使えないかまず検討する: 力と速さが簡単にわかる問題では、\(P=Fv\) が最も速く計算できます。特に「一定の速さ」という条件がある場合は、この公式が使える可能性が非常に高いです。
    3. 力が未知数なら、力のつりあいを考える: 仕事率の計算には力 \(F\) が必要です。もし \(F\) が与えられていなければ、(1)のように、力のつりあいや運動方程式から \(F\) を求めるステップが必ず必要になります。
    4. 速さが未知数なら、\(P=Fv\) を逆算する: (3)のように、仕事率 \(P\) と力 \(F\) がわかっている場合は、\(v=P/F\) の形で速さを求めることができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「一定の速さ」の条件を見落とす:
    • 誤解: (1)で、加えた力の大きさがわからず、問題が解けないと勘違いしてしまう。
    • 対策: 物理の問題文では、「一定の速さ」「なめらかな」「静かに」といった何気ない言葉が、使用すべき物理法則を指定する重要なキーワードです。これらの言葉に印をつけ、その物理的な意味(力がつりあっている、摩擦がない、初速度が0など)を考える癖をつけましょう。
  • \(P=Fv\) の適用条件の誤解:
    • 誤解: 力の向きと速度の向きが異なっている場合にも、単純に \(P=Fv\) を使ってしまう。
    • 対策: 正確には、仕事率は \(P=Fv\cos\theta\)(\(\theta\) は力と速度のなす角)です。この問題では、加えた力と速度の向きが同じなので \(\theta=0^\circ\) であり、\(\cos0^\circ=1\) となるため \(P=Fv\) が使えます。力の向きと運動方向が同じであることを確認してから公式を使いましょう。
  • 動摩擦力は速さによらないことの誤解:
    • 誤解: (3)で速さが変わったので、動摩擦力も変わり、加える力も変わるのではないかと考えてしまう。
    • 対策: 高校物理の範囲では、動摩擦力の大きさは(よほど高速でない限り)物体の速さによらず一定であると扱います。したがって、(1)と同じ大きさの力を加えている限り、(3)の状況でも力のつりあいは保たれ、一定の速さで運動することができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(力のつりあい):
    • 選定理由: 求めたいのは「力」の大きさです。そして、問題の条件として「一定の速さ」という運動状態が与えられています。力と運動状態(加速度)を結びつける法則は運動の法則(\(ma=F\))ですが、加速度 \(a=0\) の特別な場合が「力のつりあい」です。
    • 適用根拠: 物体にはたらく水平方向の力が、加えた力と動摩擦力のみであり、それらが合わさって加速度 \(0\) の状態を作り出しているため、力のつりあいの式を立てて未知の力 \(F\) を求めることができます。
  • (2)での公式選択(\(P=Fv\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「仕事率」です。仕事率を計算する公式は \(P=W/t\) と \(P=Fv\) の2つが基本ですが、この問題では力 \(F\) と速さ \(v\) が直接わかっています。したがって、仕事 \(W\) を計算するステップを省略できる \(P=Fv\) を選択するのが最も効率的です。
    • 適用根拠: 力 \(F\) と速さ \(v\) がどちらも一定値であり、かつ両者の向きが同じであるため、\(P=Fv\) を適用する上で最も理想的な条件が整っています。
  • (3)での公式選択(\(P=Fv\) の逆算):
    • 選定理由: 求めたいのは「速さ」であり、力と仕事率が与えられています。これら3つの物理量 \(P, F, v\) を直接結びつける公式は \(P=Fv\) 以外にありません。
    • 適用根拠: (2)と同様に、力が一定で、運動も一定の速さであるという条件が与えられているため、この公式を適用できます。今回は \(v\) が未知数なので、\(v=P/F\) と変形して用います。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を意識する:
    • 仕事率の単位ワット(\(\text{W}\))は、力の単位ニュートン(\(\text{N}\))と速さの単位メートル毎秒(\(\text{m/s}\))の積(\(\text{N} \cdot \text{m/s}\))と等価であることを確認しましょう。\(1\,\text{W} = 1\,\text{J/s} = 1\,(\text{N} \cdot \text{m})/\text{s}\)。単位の関係を理解していると、公式を忘れにくくなります。
  • 比例関係で検算する:
    • (2)と(3)を比較してみましょう。加える力 \(F\) は \(4.0\,\text{N}\) で一定です。公式 \(P=Fv\) から、仕事率 \(P\) と速さ \(v\) は比例関係にあることがわかります。
    • (2)では \(v=10\,\text{m/s}\) のとき \(P=40\,\text{W}\)。
    • (3)では \(P=60\,\text{W}\) と仕事率が \(60/40 = 1.5\) 倍になっています。したがって、速さも \(1.5\) 倍になるはずです。\(10\,\text{m/s} \times 1.5 = 15\,\text{m/s}\)。計算結果と一致しており、答えの確信度が高まります。
  • 物理的な意味から考える:
    • (1) なぜ加えた力と動摩擦力は等しいのか? → もし加えた力が大きければ「加速」するはず。小さければ「減速」するはず。「一定の速さ」なのだから、つりあっているに違いない。
    • (2) なぜ仕事率は \(40\,\text{W}\) なのか? → \(4.0\,\text{N}\) の力で \(1\) 秒間に \(10\,\text{m}\) 動かすのだから、\(1\) 秒あたりの仕事は \(4.0 \times 10 = 40\,\text{J}\)。だから仕事率は \(40\,\text{W}\)。
    • このように、公式を機械的に使うだけでなく、その背景にある物理的な意味を言葉で説明できるか確認することで、理解が深まりミスが減ります。

152 運動エネルギーと仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
      • 模範解答が仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理)を用いて一気に力を求めるのに対し、別解では、まず等加速度直線運動の公式を使ってブレーキ中の加速度を計算し、次に運動方程式 \(ma=F\) を用いて動摩擦力を求めます。
    • 設問(2)の別解: 運動エネルギーと制動距離の比例関係を用いる解法
      • 模範解答が(1)と同様に仕事とエネルギーの関係式を立てて具体的に計算するのに対し、別解では、仕事とエネルギーの関係から導かれる「制動距離は初速度の2乗に比例する」という物理法則を利用して、比例計算によって一気に答えを求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: エネルギーの視点(仕事とエネルギーの関係)と、力の視点(運動方程式)という力学における2大アプローチが、結局は同じ結論を導くことを確認でき、両者の関連性についての理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 物理法則から導かれる比例関係(この場合は \(x \propto v^2\))を見抜くことで、問題をより抽象的・本質的に捉え、計算を大幅に簡略化するテクニックを学ぶことができます。これは応用力を高める上で非常に重要です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「仕事と運動エネルギーの関係」です。物体がされた仕事の分だけ、その物体の運動エネルギーが変化するという、エネルギーに関する最も重要な法則の一つ(エネルギー原理)を適用する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事と運動エネルギーの関係: (物体がされた仕事の総和)=(運動エネルギーの変化量)。数式では \(W = \Delta K = K_{後} – K_{初}\) と表されます。
  2. 負の仕事: 力の向きと運動の向きが逆の場合、その力がする仕事は負の値になります。動摩擦力は常に運動を妨げる向きにはたらくため、その仕事は常に負です。
  3. 運動エネルギーの公式: 質量 \(m\)、速さ \(v\) の物体の運動エネルギー \(K\) は \(K = \frac{1}{2}mv^2\) で計算されること。
  4. 単位の換算: 自動車の速さが時速(\(\text{km/h}\))で与えられている場合、計算に使うために秒速(\(\text{m/s}\))に正しく変換できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず自動車の運動エネルギーが、はじめの状態から停止した後(運動エネルギー \(0\))までにどれだけ変化したかを計算します。この変化の原因は、動摩擦力が自動車に対して「負の仕事」をしたことによるものです。したがって、「動摩擦力がした仕事 = 運動エネルギーの変化量」という式を立て、未知数である動摩擦力の大きさを求めます。
  2. (2)では、(1)と同様のアプローチを取ります。速さが変わったことで、はじめの運動エネルギーが変化します。動摩擦力の大きさは(1)と同じであると仮定し、「動摩擦力がした仕事 = 運動エネルギーの変化量」の式を立てることで、停止するまでの距離を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
自動車がブレーキをかけて停止するまでの間に、自動車の運動エネルギーはすべて失われます。このエネルギーはどこへ行ったのかというと、タイヤと路面の間の摩擦によって熱エネルギーに変換されたのです。これを物理的に表現するのが「仕事と運動エネルギーの関係」です。つまり、「動摩擦力がした負の仕事」によって、自動車の「運動エネルギーが減少した」と考えます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K = K_{後} – K_{初}\) を用いる。
  • はじめの状態: 質量 \(m=1000\,\text{kg}\)、速さ \(v_0=10\,\text{m/s}\)。
  • あとの状態: 停止したので速さ \(v=0\)。
  • された仕事 \(W\): 動摩擦力 \(F’\) が、運動と逆向きに距離 \(x=10\,\text{m}\) の間はたらいたので、その仕事は \(W = -F’x\)。

具体的な解説と立式
求める動摩擦力の大きさを \(F’\,[\text{N}]\) とします。

仕事と運動エネルギーの関係 \(W = K_{後} – K_{初}\) を適用します。

  • 運動エネルギーの変化量 (\(K_{後} – K_{初}\)):はじめの運動エネルギーは \(K_{初} = \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2} \times 1000 \times 10^2\)。あとの運動エネルギーは \(K_{後} = \frac{1}{2}m(0)^2 = 0\)。よって、変化量は \(0 – \frac{1}{2} \times 1000 \times 10^2\)。
  • 動摩擦力がした仕事 \(W\):動摩擦力 \(F’\) は運動の向きと逆向き(なす角 \(180^\circ\))にはたらくので、その仕事は負となります。
    $$
    \begin{aligned}
    W &= F’ \times x \times \cos180^\circ \\[2.0ex]
    &= -F’x \\[2.0ex]
    &= -F’ \times 10
    \end{aligned}
    $$

したがって、仕事と運動エネルギーの関係式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
-F’ \times 10 &= 0 – \frac{1}{2} \times 1000 \times 10^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事の定義: \(W = Fx\cos\theta\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
-10F’ &= -\frac{1}{2} \times 1000 \times 100 \\[2.0ex]
-10F’ &= -50000 \\[2.0ex]
F’ &= \frac{50000}{10} \\[2.0ex]
F’ &= 5000\,\text{N}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(5.0 \times 10^3\,\text{N}\) となります。

この設問の平易な説明

車が持っていた「速さのエネルギー」(運動エネルギー)が、ブレーキをかけたことで摩擦による「仕事」によってすべて奪われ、ゼロになった、と考えます。摩擦が \(10\,\text{m}\) の距離にわたって奪ったエネルギーの総量が、車が最初に持っていた運動エネルギーの量と等しくなるはずです。この関係から、摩擦力の大きさを逆算します。

結論と吟味

動摩擦力の大きさは \(5.0 \times 10^3\,\text{N}\) と求まりました。これは約 \(500\,\text{kg}\) の物体にかかる重力に相当する大きな力であり、急ブレーキ時にタイヤと路面の間にはたらく力として妥当な大きさです。

解答 (1) \(5.0 \times 10^3\,\text{N}\)
別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
エネルギーを使わずに、力と加速度という力学の基本に立ち返って解く方法です。まず、初速 \(10\,\text{m/s}\) の物体が \(10\,\text{m}\) で停止したという情報から、運動中の加速度(ブレーキによる減速の度合い)を計算します。次に、その加速度を生み出している原因である動摩擦力を、運動方程式 \(ma=F\) から求めます。
この設問における重要なポイント

  • 動摩擦力は一定なので、加速度も一定である。したがって、等加速度直線運動の公式が使える。
  • 時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使うと、加速度 \(a\) を直接求められる。
  • 自動車にはたらく水平方向の力は動摩擦力のみである。運動方程式は \(ma = -F’\) となる。

具体的な解説と立式
まず、ブレーキ中の加速度 \(a\) を求めます。

初速度 \(v_0=10\,\text{m/s}\)、最終速度 \(v=0\)、移動距離 \(x=10\,\text{m}\) を、時間を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
0^2 – 10^2 &= 2 \times a \times 10
\end{aligned}
$$
次に、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。

自動車にはたらく水平方向の力は、運動方向と逆向きの動摩擦力 \(F’\) のみです。運動の向きを正とすると、
$$
\begin{aligned}
ma &= -F’
\end{aligned}
$$
この式を \(F’\) について解くと、\(F’ = -ma\) となります。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

まず、加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-100 &= 20a \\[2.0ex]
a &= -5.0\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
加速度が負の値なのは、減速していることを示しており妥当です。

次に、この加速度 \(a\) を使って動摩擦力 \(F’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F’ &= -ma \\[2.0ex]
&= -(1000 \times (-5.0)) \\[2.0ex]
&= 5000\,\text{N}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(5.0 \times 10^3\,\text{N}\) となります。

この設問の平易な説明

まず、車がどれくらいの勢いで減速したのか(加速度)を計算します。次に、物理の基本法則である「力 = 質量 × 加速度」を使って、その減速を引き起こした「ブレーキ力」(動摩擦力)の大きさを計算します。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、エネルギーという便利な道具を使わずに、力学の基本法則である運動方程式から問題を解くアプローチであり、両者の関係を理解する上で有益です。

解答 (1) \(5.0 \times 10^3\,\text{N}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と考え方は同じで、仕事と運動エネルギーの関係を用います。速さが \(36\,\text{km/h} \rightarrow 72\,\text{km/h}\) と2倍になったことで、はじめの運動エネルギーがどう変わるかに注目します。動摩擦力の大きさは(1)で求めた値と同じであると考え、停止するまでの距離(制動距離)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 速さの単位を変換する: \(72\,\text{km/h} = 20\,\text{m/s}\)。
  • 速さが2倍になると、運動エネルギーは \(v^2\) に比例するため \(2^2=4\) 倍になる。
  • 動摩擦力の大きさは(1)と同じ \(F’ = 5.0 \times 10^3\,\text{N}\) である。
  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(-F’x = K_{後} – K_{初}\)。

具体的な解説と立式
求める制動距離を \(x\,[\text{m}]\) とします。

はじめの速さ \(v_0\) は、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= 72\,\text{km/h} \\[2.0ex]
&= 72 \times \frac{1000\,\text{m}}{3600\,\text{s}} \\[2.0ex]
&= 20\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
(1)と同様に、仕事と運動エネルギーの関係 \(W = K_{後} – K_{初}\) を適用します。
$$
\begin{aligned}
-F’x &= 0 – \frac{1}{2}mv_0^2
\end{aligned}
$$
この式に、\(F’=5.0 \times 10^3\,\text{N}\), \(m=1000\,\text{kg}\), \(v_0=20\,\text{m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
-(5.0 \times 10^3) \times x &= -\frac{1}{2} \times 1000 \times 20^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
-5000x &= -\frac{1}{2} \times 1000 \times 400 \\[2.0ex]
-5000x &= -200000 \\[2.0ex]
x &= \frac{200000}{5000} \\[2.0ex]
x &= 40\,\text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

車のスピードが2倍になると、持っている「速さのエネルギー」(運動エネルギー)は \(2^2=4\) 倍になります。ブレーキ力(摩擦力)の強さが同じだとすると、この4倍のエネルギーを奪い去るためには、4倍の距離をすべる必要があります。(1)では \(10\,\text{m}\) で止まったので、今回はその4倍の \(40\,\text{m}\) の距離が必要になります。

結論と吟味

制動距離は \(40\,\text{m}\) と求まりました。速さが2倍になると制動距離が4倍になるという関係は、交通安全教育などでもよく言われることであり、物理的に正しい結果です。

解答 (2) \(40\,\text{m}\)
別解: 運動エネルギーと制動距離の比例関係を用いる解法

思考の道筋とポイント
仕事と運動エネルギーの関係式 \(-F’x = -\frac{1}{2}mv_0^2\) を変形すると \(x = \frac{m}{2F’}v_0^2\) となります。この式から、制動距離 \(x\) は初速度の2乗 \(v_0^2\) に比例することがわかります。この比例関係を利用して、計算を大幅に簡略化します。
この設問における重要なポイント

  • 制動距離は初速度の2乗に比例する (\(x \propto v_0^2\))。
  • (1)と(2)で、速さは \(10\,\text{m/s} \rightarrow 20\,\text{m/s}\) と2倍になっている。
  • したがって、制動距離は \(2^2 = 4\) 倍になる。

具体的な解説と立式
(1)の状況を添字1、(2)の状況を添字2で表します。

(1)では、初速度 \(v_1 = 10\,\text{m/s}\) で、制動距離は \(x_1 = 10\,\text{m}\)。

(2)では、初速度 \(v_2 = 20\,\text{m/s}\) で、制動距離は \(x_2\)。

制動距離が初速度の2乗に比例するので、以下の比例式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
x_1 : x_2 &= v_1^2 : v_2^2 \\[2.0ex]
10 : x_2 &= 10^2 : 20^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係から導かれる比例関係 \(x \propto v_0^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
10 : x_2 &= 100 : 400 \\[2.0ex]
10 : x_2 &= 1 : 4
\end{aligned}
$$
比例式の性質より、
$$
\begin{aligned}
1 \times x_2 &= 10 \times 4 \\[2.0ex]
x_2 &= 40\,\text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

物理法則によれば、車のブレーキが効き始めてから止まるまでの距離は、ブレーキをかけたときの「速さの2乗」に比例します。今回は速さが2倍になったので、止まるまでの距離は \(2 \times 2 = 4\) 倍になります。もともと \(10\,\text{m}\) で止まれたので、その4倍の \(40\,\text{m}\) が答えです。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、具体的な摩擦力の値や質量を使わずに、速さの変化だけで答えを導き出せる非常にスマートな解法です。物理法則の背後にある比例関係を見抜くことの重要性を示しています。

解答 (2) \(40\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー原理)
    • 核心: この問題の根幹は、「物体がされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい」という物理法則を正しく適用できるかどうかにあります。ブレーキによって自動車が減速・停止する現象を、力と加速度で追うのではなく、エネルギーの増減という観点から捉えることが求められます。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの変換: 自動車が持っていた運動エネルギー(\(\frac{1}{2}mv^2\))が、動摩擦力が「負の仕事」をすることによって、すべて熱エネルギーに変換され、失われたと考えます。
      • 関係式: この現象を数式で表したものが \(W = \Delta K\) すなわち \(-F’x = 0 – \frac{1}{2}mv_0^2\) です。左辺が「動摩擦力がした負の仕事」、右辺が「運動エネルギーの変化量(後のエネルギー – 初めのエネルギー)」を表します。
      • 力学的エネルギー保存則との違い: この問題では、摩擦という「非保存力」が仕事をしているため、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されません。このような場合に適用するのが、より普遍的な法則である「仕事と運動エネルギーの関係」です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面を滑り降りる/上る運動: この場合、物体には「重力(正または負の仕事)」と「動摩擦力(常に負の仕事)」が仕事をします。したがって、仕事と運動エネルギーの関係式は \((mg\sin\theta – F’)x = \Delta K\) のようになります。
    • ばねで打ち出された物体が、粗い面で止まる運動: この場合、はじめにばねが物体にする「正の仕事」と、動摩擦力がする「負の仕事」の合計が、運動エネルギーの変化量と等しくなります。
    • 空気抵抗を受けながら落下する物体の運動: 重力がする「正の仕事」と、空気抵抗がする「負の仕事」の合計が、運動エネルギーの増加量となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. まず「速さの変化」があるかを確認する: 問題文に「走っている」「止まった」「速さが〜になった」などの記述があれば、運動エネルギーが変化している証拠です。
    2. 次に、仕事をした力をすべてリストアップする: 運動の始点から終点までの間に、運動方向(またはその逆向き)に成分を持つ力をすべて探し出します。
    3. 各力がした仕事の「正負」を判断する: 運動を助ける向きの力(追い風など)は正の仕事、運動を妨げる向きの力(摩擦、空気抵抗、逆風など)は負の仕事をします。
    4. 「(された仕事の総和)=(運動エネルギーの変化量)」の式を立てる: \(\Sigma W = K_{後} – K_{初}\) の式に、特定した仕事と運動エネルギーを代入します。
    5. エネルギー保存則との使い分け: 摩擦や空気抵抗など、熱を発生させる「非保存力」が仕事をしていたら、力学的エネルギー保存則は使えません。その場合は、この「仕事と運動エネルギーの関係」が主役となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: 動摩擦力がした仕事を、力の大きさ \(F’\) と距離 \(x\) を単純に掛けて \(+F’x\) と計算してしまう。
    • 対策: 力の向き(運動と逆向き)と移動の向きが逆であることを常に意識しましょう。運動を妨げる力がする仕事は、必ず負になります。仕事の定義式 \(W=Fx\cos\theta\) において、\(\theta=180^\circ\) なので \(\cos180^\circ=-1\) となる、と機械的に処理するのも有効です。
  • 運動エネルギーの変化量の計算ミス:
    • 誤解: 運動エネルギーの変化量 \(\Delta K\) を、「大きい方から小さい方を引く」と考えて \(K_{初} – K_{後}\) と計算してしまう。
    • 対策: 物理における「変化量」は、常に「(あとの状態量)-(はじめの状態量)」と定義されています。このルールを徹底しましょう。減速して止まる場合、\(K_{後}=0\) なので、\(\Delta K = 0 – K_{初}\) となり、変化量自体が負の値になることを確認してください。
  • 速さと制動距離の関係の誤解:
    • 誤解: (2)で速さが2倍になったので、運動エネルギーも2倍、したがって止まるまでの距離(制動距離)も2倍だろう、と線形に考えてしまう。
    • 対策: 運動エネルギーの公式は \(K=\frac{1}{2}mv^2\) であり、速さ \(v\) の「2乗」に比例することを強く意識してください。速さが2倍になればエネルギーは4倍、3倍になれば9倍になります。したがって、同じブレーキ力で止めるには、それぞれ4倍、9倍の距離が必要になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(仕事と運動エネルギーの関係):
    • 選定理由: この問題は、物体の「速さの変化」と、その原因である「力(がした仕事)」および「距離」を結びつけるものです。運動方程式と等加速度直線運動の公式を組み合わせても解けますが(別解)、それでは「加速度」という中間の量を計算する必要があります。仕事と運動エネルギーの関係を用いれば、運動の始点と終点の状態(速さ)と、その間の仕事(力×距離)を直接結びつけることができ、より少ないステップで解くことができます。
    • 適用根拠: 「仕事と運動エネルギーの関係」は、運動方程式を変形して導かれる、力学における極めて普遍的で強力な法則です。力が一定でなくても成り立ちますが、この問題のように動摩擦力が一定とみなせる場合は、特にシンプルに適用できます。
  • (2)でのアプローチ選択(比例関係の利用):
    • 選定理由: (1)で立てた関係式 \(-F’x = -\frac{1}{2}mv_0^2\) を整理すると、\(x = \left(\frac{m}{2F’}\right)v_0^2\) となります。ここで、質量 \(m\) と動摩擦力 \(F’\) は一定なので、制動距離 \(x\) は初速度の2乗 \(v_0^2\) に比例することがわかります。この物理的な比例関係を見抜くことで、具体的な数値を代入する複雑な計算を省略し、単純な比の計算だけで答えを導き出すことができます。
    • 適用根拠: (1)と(2)で、自動車の質量とブレーキ性能(動摩擦力)が同じであるという条件が、この比例関係を適用する根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位換算を最初に行う:
    • (2)で与えられた \(72\,\text{km/h}\) は、物理計算で使う \(\text{m/s}\) に真っ先に変換しましょう。\(\text{km/h}\) から \(\text{m/s}\) への換算は、\(\frac{1000}{3600} = \frac{1}{3.6}\) を掛けると覚えておくと便利です。特に、\(36\,\text{km/h} = 10\,\text{m/s}\) は基準として暗記しておくと、\(72\,\text{km/h}\) がその2倍の \(20\,\text{m/s}\) であることが即座にわかります。
  • 符号の確認を徹底する:
    • 仕事とエネルギーの関係式 \(-F’x = 0 – \frac{1}{2}mv_0^2\) では、左辺(仕事)も右辺(エネルギーの変化量)も負の値になります。両辺の符号が一致していることを確認する癖をつけましょう。もし片方だけ正になっていたら、仕事の符号か、変化量の計算(あと-はじめ)のどちらかを間違えている可能性が高いです。
  • 比例関係で検算する:
    • (2)をエネルギーの式で計算した後、別解で示した比例関係を使って検算してみましょう。「速さが2倍になったから、エネルギーは4倍。同じ力で止めるには距離も4倍になるはず。\(10\,\text{m} \times 4 = 40\,\text{m}\)。」この簡単な暗算で、計算結果の妥当性を確認できます。
  • 大きな数は指数表記で扱う:
    • \(1000\) や \(5000\) といった数値は、計算用紙では \(10^3\) や \(5.0 \times 10^3\) のように指数表記を使うと、ゼロの数を数え間違えるといったケアレスミスを防ぐことができます。
  • 物理的な意味を考える:
    • (1)で求めた動摩擦力 \(5000\,\text{N}\) は、質量 \(1000\,\text{kg}\) の物体に \(a = F/m = 5000/1000 = 5\,\text{m/s}^2\) の加速度(減速)を生じさせる力です。これは重力加速度 \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) の約半分であり、急ブレーキとしては妥当な減速の度合いです。このように、計算結果が物理的にどれくらいの現象に対応するのかを大まかに評価する習慣も、ミスを発見するのに役立ちます。

153 運動エネルギーと仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
      • 問題文では「エネルギーの考えを用いて」と指定されていますが、別のアプローチとして、まず運動方程式から物体の加速度を求め、次に等加速度直線運動の公式を用いて停止するまでの距離を計算する解法を提示します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: エネルギーの視点(仕事と運動エネルギーの関係)と、力の視点(運動方程式)という力学における2大アプローチが、結局は同じ結論を導くことを確認でき、両者の関連性についての理解が深まります。
    • 解法の選択肢拡大: 「エネルギーの考え」という指定がない類似問題が出題された際に、運動方程式という基本的なアプローチでも解けることを知り、解法の引き出しを増やすことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「仕事と運動エネルギーの関係を用いた運動解析」です。特に、物体の質量が与えられていない状況で、動摩擦力がする仕事によって運動エネルギーが失われる過程を数式で表現することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事と運動エネルギーの関係: 物体がされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい (\(W = \Delta K\))。
  2. 動摩擦力の仕事: 動摩擦力は常に運動を妨げる向きにはたらくため、その仕事は必ず負の値 (\(W = -F’x\)) になる。
  3. 動摩擦力の公式: 動摩擦力 \(F’\) は、動摩擦係数 \(\mu’\) と垂直抗力 \(N\) を用いて \(F’ = \mu’N\) と表される。水平面では \(N=mg\) となる。
  4. 未知数の扱い: 問題文で与えられていない物理量(この場合は質量 \(m\))があっても、文字として式に導入し、計算の途中で消去されることを見抜く能力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体の質量を \(m\) とおく。
  2. はじめに物体が持っていた運動エネルギーと、停止した後の運動エネルギー(\(0\))を計算し、その変化量を求める。
  3. 動摩擦力がした仕事を、移動距離 \(x\) と質量 \(m\) を用いて表す。
  4. 「動摩擦力がした仕事 = 運動エネルギーの変化量」という関係式を立てる。このとき、両辺に含まれる質量 \(m\) が消去されることに着目し、移動距離 \(x\) を求める。

思考の道筋とポイント
問題文に「エネルギーの考えを用いて求めよ」とあるので、「仕事と運動エネルギーの関係」を利用します。物体が最初に持っていた運動エネルギーが、動摩擦力による負の仕事によってすべて奪われ、最終的に運動エネルギーが \(0\) になった、というエネルギーの収支を考えます。
この問題の面白い点は、物体の質量が与えられていないことです。しかし、運動エネルギーも動摩擦力もどちらも質量 \(m\) に比例するため、立式すると両辺の \(m\) がきれいに消去されます。このことに気づけるかがポイントです。
この設問における重要なポイント

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K = K_{後} – K_{初}\) を用いる。
  • はじめの状態: 質量 \(m\)、初速度 \(v_0=14\,\text{m/s}\)。
  • あとの状態: 停止したので速さ \(v=0\)。
  • された仕事 \(W\): 動摩擦力 \(F’ = \mu’mg\) が、運動と逆向きに距離 \(x\) の間はたらいたので、その仕事は \(W = -F’x = -\mu’mgx\)。
  • 質量 \(m\) は計算の途中で消去される。

具体的な解説と立式
物体の質量を \(m\,[\text{kg}]\) とし、静止するまでに移動する距離を \(x\,[\text{m}]\) とします。

仕事と運動エネルギーの関係 \(W = K_{後} – K_{初}\) を適用します。

  • 運動エネルギーの変化量 (\(K_{後} – K_{初}\)):はじめの運動エネルギーは \(K_{初} = \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}m \times 14^2\)。あとの運動エネルギーは \(K_{後} = 0\)。よって、変化量は \(0 – \frac{1}{2}m \times 14^2\)。
  • 動摩擦力がした仕事 \(W\):物体にはたらく垂直抗力 \(N\) は重力 \(mg\) とつりあうので \(N=mg\)。したがって、動摩擦力 \(F’\) の大きさは \(F’ = \mu’N = \mu’mg\)。この力が運動と逆向きにはたらくので、その仕事 \(W\) は、
    $$
    \begin{aligned}
    W &= -F’x \\[2.0ex]
    &= -\mu’mgx
    \end{aligned}
    $$

仕事と運動エネルギーの関係式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
-\mu’mgx &= 0 – \frac{1}{2}mv_0^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 動摩擦力: \(F’ = \mu’N\)
計算過程

立てた方程式の両辺に \(-1\) を掛けて整理します。
$$
\begin{aligned}
\mu’mgx &= \frac{1}{2}mv_0^2
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、質量 \(m\) が消去されます。
$$
\begin{aligned}
\mu’gx &= \frac{1}{2}v_0^2
\end{aligned}
$$
この式を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{v_0^2}{2\mu’g}
\end{aligned}
$$
この式に、\(v_0=14\,\text{m/s}\), \(\mu’=0.50\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{14^2}{2 \times 0.50 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{196}{1.0 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{196}{9.8} \\[2.0ex]
&= 20\,\text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スケートリンクで滑っている人が、摩擦で自然に止まるまでの距離を計算するような問題です。最初に持っている「速さのエネルギー」が、摩擦がする「負の仕事」によってすべて奪われたときに物体は止まります。つまり、「最初に持っていた運動エネルギー = 摩擦に奪われたエネルギー」という式を立てます。面白いことに、この計算をすると物体の重さ(質量)は関係なくなり、答えが一つに決まります。

結論と吟味

移動距離は \(20\,\text{m}\) と求まりました。この結果が物体の質量によらないというのは重要なポイントです。重い物体は運動エネルギーが大きいですが、同時に摩擦力も大きくなるため、ちょうど打ち消し合って同じ距離で止まる、ということを示しています。

解答 \(20\,\text{m}\)
別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
問題ではエネルギーの考えを用いるよう指定されていますが、別のアプローチとして、力と加速度の関係から解くこともできます。まず、物体にはたらく力(動摩擦力)から、運動の加速度を求めます。次に、その一定の加速度で減速した場合に、初速度 \(14\,\text{m/s}\) から静止するまでにどれだけの距離が必要かを、等加速度直線運動の公式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式 \(ma=F\) を用いて加速度を求める。
  • 物体にはたらく水平方向の力は、運動と逆向きの動摩擦力 \(F’ = \mu’mg\) のみ。
  • 加速度 \(a\) が質量 \(m\) によらない一定値になる。
  • 等加速度直線運動の時間を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いる。

具体的な解説と立式
物体の質量を \(m\)、加速度を \(a\) とします。運動の向きを正とすると、物体にはたらく力は負の向きの動摩擦力 \(-\mu’mg\) のみです。

運動方程式 \(ma=F\) より、
$$
\begin{aligned}
ma &= -\mu’mg
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、加速度 \(a\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
a &= -\mu’g
\end{aligned}
$$
次に、初速度 \(v_0=14\,\text{m/s}\)、最終速度 \(v=0\)、加速度 \(a=-\mu’g\) のもとで、移動距離 \(x\) を求めます。

等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) にこれらの値を代入します。
$$
\begin{aligned}
0^2 – v_0^2 &= 2(-\mu’g)x
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 動摩擦力: \(F’ = \mu’N\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

まず、加速度 \(a\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
a &= -0.50 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= -4.9\,\text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
次に、この加速度を等加速度直線運動の公式に代入して \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0^2 – 14^2 &= 2 \times (-4.9) \times x \\[2.0ex]
-196 &= -9.8x \\[2.0ex]
x &= \frac{196}{9.8} \\[2.0ex]
x &= 20\,\text{m}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、摩擦によって物体がどれくらいのペースで減速していくか(加速度)を計算します。面白いことに、この減速ペースは物体の重さには関係ありません。次に、その決まったペースで減速した場合、初速 \(14\,\text{m/s}\) から止まる(速度がゼロになる)までに何メートル進むかを、等加速度運動の公式を使って計算します。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。仕事と運動エネルギーの関係式が、運動方程式と等加速度直線運動の公式を組み合わせることで導出できる、という両者の深い関係性を示しています。

解答 \(20\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー原理)
    • 核心: この問題は、「物体がされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい」という物理法則を適用することが核心です。動摩擦力という非保存力が仕事をするため、力学的エネルギー保存則は使えません。このような状況で、運動の変化をエネルギーの観点から解析するための最も基本的な法則が「仕事と運動エネルギーの関係」です。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの散逸: 物体が最初に持っていた運動エネルギー(\(\frac{1}{2}mv^2\))が、動摩擦力が「負の仕事」をすることによって、すべて熱エネルギーに変換され、失われていく過程をモデル化しています。
      • 関係式: この現象を数式で表したものが \(W = \Delta K\) すなわち \(-\mu’mgx = 0 – \frac{1}{2}mv_0^2\) です。左辺が「動摩擦力がした負の仕事」、右辺が「運動エネルギーの変化量(後のエネルギー – 初めのエネルギー)」を表します。
  • 質量によらない結果
    • 核心: この問題のもう一つの重要なポイントは、物体の質量 \(m\) が与えられていないにもかかわらず、答えが一つに定まることです。これは、運動エネルギー(\(\propto m\))と動摩擦力(\(\propto m\))がどちらも質量に比例するため、立式すると両辺の \(m\) がきれいに消去されるためです。
    • 理解のポイント: 物理的には、重い物体ほど止めるのに多くのエネルギーを奪う必要がありますが、同時に重い物体ほど摩擦力も大きくなるため、結果的に止まるまでの距離は質量によらなくなる、ということを意味しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面を滑り降りる運動: 初速度 \(0\) で斜面を滑り始めた物体が、距離 \(x\) だけ滑った後の速さを求める問題。この場合、「重力がした正の仕事」と「動摩擦力がした負の仕事」の合計が、運動エネルギーの増加量に等しくなります。
    • 水平ばねで打ち出され、粗い面で止まる運動: ばねの弾性エネルギーが、動摩擦力がする負の仕事によってすべて失われると考え、「はじめの弾性エネルギー = 動摩擦力がした仕事の大きさ」という式を立てます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「エネルギーの考えを用いて」という指示: この指示があれば、「力学的エネルギー保存則」か「仕事と運動エネルギーの関係」のどちらかを使うことが確定します。
    2. 非保存力の仕事の有無をチェックする: 問題の状況で、動摩擦力、空気抵抗、人が加える力など、重力や弾性力以外の力(非保存力)が仕事をしていないかを確認します。もし仕事をしているなら、「仕事と運動エネルギーの関係」を使います。
    3. 質量などの情報が不足していても諦めない: 物理の問題では、一見情報が足りないように見えても、文字で置いて立式すると途中で消去されることがよくあります。まずは未知数を文字のまま導入して、計算を進めてみることが重要です。
    4. 始点と終点の状態を明確にする: 「はじめの状態(初速度 \(v_0\))」と「あとの状態(静止、\(v=0\))」を明確にし、それぞれの運動エネルギーを計算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: 動摩擦力がした仕事を、力の大きさ \(F’=\mu’mg\) と距離 \(x\) を単純に掛けて \(+\mu’mgx\) と正の値で計算してしまう。
    • 対策: 力の向き(運動と逆向き)と移動の向きが逆であることを常に意識しましょう。運動を妨げる力がする仕事は、必ず負になります。仕事の定義式 \(W=Fx\cos\theta\) において、\(\theta=180^\circ\) なので \(\cos180^\circ=-1\) となる、と機械的に処理するのが確実です。
  • 運動エネルギーの変化量の計算ミス:
    • 誤解: 運動エネルギーの変化量 \(\Delta K\) を、「大きい方から小さい方を引く」という感覚で \(K_{初} – K_{後}\) と計算してしまう。
    • 対策: 物理における「変化量」は、常に「(あとの状態量)-(はじめの状態量)」と厳密に定義されています。このルールを徹底しましょう。減速して止まる場合、\(K_{後}=0\) なので、\(\Delta K = 0 – K_{初}\) となり、変化量自体が負の値になります。仕事(負)とエネルギー変化(負)の符号がそろうことを確認しましょう。
  • 質量が与えられていないことへの混乱:
    • 誤解: 質量 \(m\) がわからないので、運動エネルギーも動摩擦力も計算できないと思い込み、手が止まってしまう。
    • 対策: わからない物理量は、とりあえず文字で置いて式を立ててみる、という姿勢が重要です。多くの場合、その文字は両辺でうまく消去されるように問題が作られています。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 公式選択(仕事と運動エネルギーの関係):
    • 選定理由: 問題文に「エネルギーの考えを用いて」と明確な指示があります。さらに、動摩擦力という非保存力が仕事をしているため、力学的エネルギー保存則は使えません。したがって、残されたエネルギーに関する法則である「仕事と運動エネルギーの関係」を選択するのは必然的な流れです。
    • 適用根拠: この法則は、運動方程式から導出される普遍的なものであり、非保存力が仕事をする場合に、運動の状態(運動エネルギー)がどのように変化するかを記述するのに最も適しています。運動の始点と終点の状態と、その間の仕事を結びつけることで、途中の加速度などを計算する必要なく、直接的に距離を求めることができます。
  • 別解のアプローチ選択(運動方程式と等加速度運動の公式):
    • 選定理由: 「エネルギーの考え」という指定がなければ、力学のもう一つの基本アプローチである運動方程式を用いることもできます。力が一定(動摩擦力が一定)であれば、加速度も一定となり、等加速度運動の公式が使えるためです。
    • 適用根拠: 運動方程式 \(ma=F\) は、力と加速度の関係を記述する基本法則です。動摩擦力が \(-\mu’mg\) と計算できるため、加速度 \(a=-\mu’g\) が求まります。加速度が一定なので、等加速度運動の公式 \(v^2-v_0^2=2ax\) を適用して、距離 \(x\) を求めることができます。このアプローチは、エネルギーの概念を使わずに、運動そのものを時々刻々と追跡する方法と言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式で整理してから数値を代入する:
    • まずは \(-\mu’mgx = -\frac{1}{2}mv_0^2\) という文字式を立て、\(m\) を消去し、\(x\) について解いた \(x = \displaystyle\frac{v_0^2}{2\mu’g}\) という形にしてから、最後に数値を代入する習慣をつけましょう。計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
  • 質量 \(m\) が消えることを最初に確認する:
    • 立式した段階で、両辺に \(m\) が含まれていることを確認し、計算を始める前に消去してしまうと、式がシンプルになり、計算が楽になります。
  • 符号の確認:
    • 関係式 \(-\mu’mgx = -\frac{1}{2}mv_0^2\) のように、左辺(仕事)と右辺(エネルギーの変化量)が両方とも負になっていることを確認しましょう。計算の途中で両辺のマイナスを消すときも、消し忘れがないか注意が必要です。
  • 概算による検算:
    • \(g \approx 10\,\text{m/s}^2\) として大まかな値を計算してみましょう。
    • \(x = \displaystyle\frac{v_0^2}{2\mu’g} \approx \frac{14^2}{2 \times 0.5 \times 10} = \frac{196}{10} = 19.6\,\text{m}\)。計算結果の \(20\,\text{m}\) とほぼ一致するため、大きな間違いはないと判断できます。
  • 物理的な意味を吟味する:
    • 計算結果が質量 \(m\) によらない、という事実は物理的に何を意味するのかを考えてみましょう。「重い物体は運動エネルギーが大きいが、その分ブレーキとなる摩擦力も大きい。この2つの効果がちょうど打ち消し合って、止まるまでの距離は質量に関係なくなる」というストーリーを理解しておくと、同様の問題が出たときに自信を持って「質量は消えるはずだ」と予測できます。
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154 仕事と位置エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 位置エネルギーの増加分として仕事を計算する解法
      • 模範解答が仕事の定義式 \(W=Fx\) を用いるのに対し、別解では「一定の速さで持ち上げた場合、加えた力がした仕事は位置エネルギーの増加分に等しい」という関係を用いて \(W=mgh\) から直接計算します。
    • 設問(3)の別解: 位置エネルギーの定義式から直接計算する解法
      • 模範解答が(2)で計算した仕事と等しい、という関係性から答えるのに対し、別解では位置エネルギーの定義式 \(U=mgh\) に直接値を代入して計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 仕事(\(W\))、力(\(F\))、位置エネルギー(\(U\))という3つの重要な物理量の関係性(\(W=Fh\), \(F=mg\), \(U=mgh\))を多角的に理解し、それらがすべて同じ結果を導くことを確認できます。
    • 解法の選択肢拡大: 「重力に逆らう仕事」と「位置エネルギーの増加」が等価であることを学ぶことで、問題に応じてより直接的で計算しやすいアプローチを選択する力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「仕事と位置エネルギーの基本的な関係」です。物体を一定の速さで持ち上げるという単純な状況を通して、力、仕事、そして位置エネルギーという3つの基本概念の関係を正確に理解することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 「一定の速さ」で物体を動かすとき、加えている力とそれに抵抗する力(この場合は重力)はつりあっていること。
  2. 仕事の定義: 仕事 \(W\) は、力の大きさ \(F\) と、力の向きに動いた距離 \(x\) の積 \(W=Fx\) で計算されること。
  3. 重力による位置エネルギー: 高さ \(h\) にある質量 \(m\) の物体が持つ位置エネルギー \(U\) は、基準点からの高さを用いて \(U=mgh\) と表されること。
  4. 仕事とエネルギーの関係: 重力に逆らって物体にした仕事は、その物体の位置エネルギーの増加分に等しいこと。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「一定の速さ」という条件から力のつりあいを考え、持ち上げる力が重力と等しいとしてその大きさを求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた力の大きさと持ち上げた距離を用いて、仕事の定義式 \(W=Fx\) から仕事を計算します。
  3. (3)では、(2)で計算した「重力に逆らう仕事」が、そのまま物体の「位置エネルギーの増加分」になるという関係から、位置エネルギーを求めます。

問(1)

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