基本例題
基本例題18 仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 仕事とエネルギーの関係を用いる解法
- 模範解答が仕事の定義式から直接計算するのに対し、別解では「ゆっくりと」動かしたために運動エネルギーが変化しないことに着目し、力\(F\)がした仕事と重力がした仕事の和がゼロになる、という仕事とエネルギーの関係から求めます。
- 設問(3)の別解1: 位置エネルギーの変化から求める解法
- 模範解答が仕事の定義式 \(W=Fx\cos\theta\) を用いるのに対し、別解では重力が保存力であることを利用し、その仕事が位置エネルギーの変化量から計算できることを用いて求めます。(この別解は模範解答にも示されていますが、より詳細に解説します。)
- 設問(3)の別解2: 重力を成分分解して仕事を計算する解法
- 模範解答が重力ベクトルそのものと変位ベクトルのなす角から計算するのに対し、別解では重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解し、それぞれの成分がする仕事の和として全体の仕事を求めます。
- 設問(2)の別解: 仕事とエネルギーの関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 仕事の定義(\(W=Fx\cos\theta\))、仕事と運動エネルギーの関係、保存力の仕事と位置エネルギーの関係という、仕事とエネルギーに関する3つの重要な概念の関連性を多角的に理解することができます。
- 思考の柔軟性向上: 同じ「仕事」を求める問題でも、力の定義から直接計算する方法、エネルギーの収支から考える方法、力を分解して考える方法など、複数の視点からアプローチする訓練になります。
- 解法の選択肢拡大: 特に、重力のような保存力の仕事は位置エネルギーの変化から求められる、という考え方は、経路が複雑な問題などで計算を大幅に簡略化できる強力な武器となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜面上の物体にはたらく力のつりあいと仕事の計算」です。力学の基本である力のつりあいと、エネルギーの概念の入り口となる仕事の定義を正確に理解し、適用することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 「ゆっくりと」物体を動かす場合、加速度が \(0\) とみなせるため、物体にはたらく力はつりあっていると考えます。
- 力の分解: 斜面上の問題では、力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して考えるのが基本です。
- 仕事の定義: 仕事 \(W\) は、力の大きさ \(F\)、物体の移動距離 \(x\)、そして力と移動方向のなす角 \(\theta\) を用いて、\(W = Fx \cos\theta\) と表されます。特に、角度 \(\theta\) を正しく見極めることが重要です。
- 保存力の仕事と位置エネルギー: 重力のような保存力がする仕事は、物体の位置エネルギーの変化量から求めることができます (\(W = -\Delta U\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず物体にはたらく力をすべて図示します。「ゆっくりと引き上げた」という条件から、力がつりあっていると考え、斜面に平行な方向の力のつりあいの式を立てて、力 \(F\) の大きさを求めます。
- (2)では、(1)で求めた力 \(F\) の大きさと、問題で与えられた移動距離 \(10\,\text{m}\) を使って、仕事の定義式 \(W = Fx \cos\theta\) から力 \(F\) がした仕事を計算します。
- (3)では、物体にはたらく重力の大きさと移動距離、そして重力の向き(鉛直下向き)と移動の向き(斜面に沿って上向き)のなす角を正確に求めて、仕事の定義式から重力がした仕事を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
この問題の鍵は、「ゆっくりと引き上げた」という記述を物理的にどう解釈するかです。これは、物体の速度がほとんど変化しない、つまり加速度が \(0\) の状態で動かしたことを意味します。したがって、物体にはたらく力はつりあっていると考えることができます。斜面上の運動なので、力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解し、平行方向の力のつりあいを考えます。
この設問における重要なポイント
- 「ゆっくりと」は「力のつりあった状態で」と同じ意味と捉える。
- 物体にはたらく力は、引き上げる力 \(F\)、重力 \(mg\)、斜面からの垂直抗力 \(N\) の3つである。
- 重力 \(mg\) を、斜面に平行な成分 \(mg \sin 30^\circ\) と、斜面に垂直な成分 \(mg \cos 30^\circ\) に分解する。
- 斜面に平行な方向で、引き上げる力 \(F\) と重力の平行成分 \(mg \sin 30^\circ\) がつりあっている。
具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、そして引き上げる力 \(F\) です。
斜面上の運動を考えるため、重力 \(mg\) を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。
- 斜面に平行な成分: \(mg \sin 30^\circ\)(斜面下向き)
- 斜面に垂直な成分: \(mg \cos 30^\circ\)(斜面に垂直で下向き)
物体は斜面に沿ってゆっくりと引き上げられるので、斜面に平行な方向の力はつりあっています。
(斜面上向きの力の和)=(斜面下向きの力の和)
という関係から、
$$ F = mg \sin 30^\circ $$
使用した物理公式
- 力のつりあい
上の式に、\(m=40\,\text{kg}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\), \(\sin 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= 40 \times 9.8 \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 40 \times 9.8 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 196\,\text{N}
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字は2桁なので、答えは \(2.0 \times 10^2\,\text{N}\) となります。
斜面に置いた物がずり落ちようとするのは、重力の一部が斜面に沿って下向きに働いているからです。物を「ゆっくり」上に引き上げるためには、このずり落ちようとする力とちょうど同じ大きさの力で、逆向きに引っ張り続ければよいわけです。この問題では、まずその「ずり落ちようとする力」の大きさを計算しています。
引き上げる力の大きさは \(F=196\,\text{N}\)(有効数字2桁で \(2.0 \times 10^2\,\text{N}\))と求まりました。
物体の重さそのものは \(mg = 40 \times 9.8 = 392\,\text{N}\) です。斜面を使うことで、物体を真上に持ち上げるよりも小さな力で済むという、日常的な感覚と一致する結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
仕事は、物理の定義では「どのくらいの力で、力の向きにどれだけ動かしたか」を表す量です。公式は \(W = Fx \cos\theta\) で、\(F\) が力の大きさ、\(x\) が移動距離、\(\theta\) が力と移動方向のなす角です。(1)で求めた力 \(F\) の向きと、物体の移動方向が同じであることに注意して、この公式に値を当てはめます。
この設問における重要なポイント
- 仕事の公式 \(W = Fx \cos\theta\) を用いる。
- 力 \(F\) の向きは、斜面に沿って上向きである。
- 物体の移動方向も、斜面に沿って上向きである。
- したがって、力 \(F\) と移動方向のなす角 \(\theta\) は \(0^\circ\) である。
具体的な解説と立式
力 \(F\) がした仕事 \(W_F\) は、仕事の定義式 \(W = Fx \cos\theta\) を用いて計算します。
ここで、
- 力の大きさ: \(F = 196\,\text{N}\) ((1)で計算)
- 移動距離: \(x = 10\,\text{m}\)
- 力と移動方向のなす角: \(\theta = 0^\circ\)
であるから、
$$ W_F = 196 \times 10 \times \cos 0^\circ $$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx \cos\theta\)
\(\cos 0^\circ = 1\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_F &= 196 \times 10 \times 1 \\[2.0ex]
&= 1960\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(2.0 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
仕事は「力 × 力の向きに動いた距離」で計算できます。今回は、(1)で求めた \(196\,\text{N}\) の力で、ちょうどその力の向きに \(10\,\text{m}\) 物体を動かしました。ですから、単純にこの2つの数値を掛け合わせるだけで仕事が計算できます。
力 \(F\) がした仕事は \(1960\,\text{J}\)(有効数字2桁で \(2.0 \times 10^3\,\text{J}\))と求まりました。仕事が正の値であることは、力 \(F\) が物体の運動を助ける向きに働き、物体にエネルギーを与えたことを意味しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
物理学には「物体にされた仕事の合計は、物体の運動エネルギーの変化に等しい」という重要な関係があります。この問題では物体を「ゆっくりと」動かしているので、速さは変化せず、運動エネルギーも変化しません。つまり、運動エネルギーの変化は \(0\) です。したがって、物体にされた仕事の合計も \(0\) になるはずです。このことを利用して、力 \(F\) がした仕事を求めます。
この設問における重要なポイント
- 仕事とエネルギーの関係: (仕事の合計)=(運動エネルギーの変化量)
- 「ゆっくりと」動かすので、運動エネルギーの変化量は \(0\)。
- 物体にはたらく力のうち、仕事をするのは「引き上げる力 \(F\)」と「重力 \(mg\)」である。(垂直抗力は移動方向と垂直なので仕事をしない)
- したがって、(力 \(F\) がした仕事)+(重力がした仕事)= \(0\) となる。
具体的な解説と立式
仕事とエネルギーの関係より、物体にされた仕事の総和 \(W_{\text{全}}\) は運動エネルギーの変化量 \(\Delta K\) に等しくなります。
$$ W_{\text{全}} = \Delta K $$
「ゆっくりと」引き上げたので、速さは変わらず \(\Delta K = 0\) です。
仕事をする力は \(F\) と重力 \(mg\) なので、それぞれの仕事を \(W_F\), \(W_g\) とすると、
$$ W_F + W_g = 0 $$
この式を移項すると、
$$ W_F = -W_g $$
となります。つまり、力 \(F\) がした仕事は、重力がした仕事の大きさが同じで符号が逆のものになります。設問(3)で計算する重力がした仕事 \(W_g\) は \(-1960\,\text{J}\) なので、これを利用します。
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{全}} = \Delta K\)
設問(3)の結果 \(W_g = -1960\,\text{J}\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
W_F &= -W_g \\[2.0ex]
&= -(-1960) \\[2.0ex]
&= 1960\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(2.0 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
物体のスピードが変わらなかったということは、外部から「与えられたエネルギー」と「奪われたエネルギー」がちょうど釣り合って、プラスマイナスゼロになった、と考えることができます。この問題で「与えられたエネルギー」が引き上げる力 \(F\) のした仕事、「奪われたエネルギー」が重力のした仕事にあたります。なので、(3)で計算する重力の仕事(マイナスの値)の符号をひっくり返せば、(2)の答えが求められます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、仕事とエネルギーの関係という、より根本的な物理法則から問題を捉え直す良い練習になります。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)と考え方は同じで、仕事の定義式 \(W = Fx \cos\theta\) を使います。ただし、今回は「重力」がした仕事を考えるので、力の向きは「鉛直下向き」です。物体の移動方向は「斜面に沿って上向き」なので、この2つの方向がなす角 \(\theta\) を正確に図から読み取ることが最も重要です。
この設問における重要なポイント
- 仕事の公式 \(W = Fx \cos\theta\) を用いる。
- 考える力は重力 \(mg\)。その向きは常に鉛直下向きである。
- 物体の移動方向は、傾斜角 \(30^\circ\) の斜面に沿って上向きである。
- 重力の向きと移動方向のなす角 \(\theta\) は、図より \(90^\circ + 30^\circ = 120^\circ\) となる。
具体的な解説と立式
重力がした仕事 \(W_g\) は、仕事の定義式 \(W = Fx \cos\theta\) を用いて計算します。
ここで、
- 力の大きさ: \(F = mg = 40 \times 9.8 = 392\,\text{N}\)
- 移動距離: \(x = 10\,\text{m}\)
- 力と移動方向のなす角: \(\theta = 120^\circ\)
であるから、
$$ W_g = (40 \times 9.8) \times 10 \times \cos 120^\circ $$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx \cos\theta\)
\(\cos 120^\circ = -0.5 = -\displaystyle\frac{1}{2}\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_g &= 392 \times 10 \times \left(-\frac{1}{2}\right) \\[2.0ex]
&= -1960\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(-2.0 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
重力は常に真下に物体を引っ張っていますが、物体は斜め上に動いています。このように、力が物体の動く向きとは違う方向(特に、動きを邪魔するような方向)を向いているとき、その力がする仕事はマイナスの値になります。重力は物体が坂を上るのを邪魔する働きをしたので、その仕事はマイナスになる、というわけです。
重力がした仕事は \(-1960\,\text{J}\)(有効数字2桁で \(-2.0 \times 10^3\,\text{J}\))と求まりました。仕事が負の値になったのは、重力が物体の運動を妨げる向きの成分を持っていたことを意味し、物理的に妥当です。また、(2)で求めた力 \(F\) がした仕事 \(W_F = 1960\,\text{J}\) と比較すると、大きさが等しく符号が逆になっています。これは、(2)の別解で用いた仕事とエネルギーの関係 \(W_F + W_g = 0\) とも一致しており、計算の正しさを裏付けています。
思考の道筋とポイント
重力は「保存力」と呼ばれる特殊な力で、その仕事は物体がどのような経路をたどったかには関係なく、始点と終点の高さの差だけで決まります。具体的には、「重力がした仕事 \(W_g\)」は「位置エネルギーの変化量 \(\Delta U_g\)」の符号を逆にしたもの (\(W_g = -\Delta U_g\)) に等しくなります。この関係を使えば、角度を計算することなく仕事を求められます。
この設問における重要なポイント
- 重力は保存力であり、その仕事は \(W_g = – \Delta U_g = – (U_{\text{後}} – U_{\text{初}})\) で計算できる。
- 始点Aを位置エネルギーの基準点、つまり高さ \(h=0\) とする。
- 終点Cの高さを求める。斜面の長さが \(10\,\text{m}\)、傾斜角が \(30^\circ\) なので、高さは \(h = 10 \sin 30^\circ\)。
- 位置エネルギーの公式 \(U_g = mgh\) を使う。
具体的な解説と立式
始点Aの高さを基準(\(0\,\text{m}\))とします。このとき、始点Aでの位置エネルギーは \(U_A = 0\)。
終点Cは、始点Aから斜面に沿って \(10\,\text{m}\) 移動した点なので、その高さ \(h\) は、
$$
\begin{aligned}
h &= 10 \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 10 \times 0.5 \\[2.0ex]
&= 5.0\,\text{m}
\end{aligned}
$$
したがって、終点Cでの位置エネルギー \(U_C\) は、
$$
\begin{aligned}
U_C &= mgh \\[2.0ex]
&= 40 \times 9.8 \times 5.0
\end{aligned}
$$
重力がした仕事 \(W_g\) は、位置エネルギーの減少量に等しいので、
$$
\begin{aligned}
W_g &= U_A – U_C \\[2.0ex]
&= 0 – mgh
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 保存力の仕事と位置エネルギーの関係: \(W = -\Delta U\)
- 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
$$
\begin{aligned}
W_g &= -(40 \times 9.8 \times 5.0) \\[2.0ex]
&= -1960\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(-2.0 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
物を高いところに持ち上げると、その物は「位置エネルギー」というエネルギーを蓄えます。重力は、物体にこのエネルギーを蓄えさせる代わりに、マイナスの仕事をします。つまり、どれだけ位置エネルギーが増えたかを計算し、その数値にマイナスをつければ、それが重力のした仕事になります。今回は高さが \(5.0\,\text{m}\) 増えたので、その分の位置エネルギーの増加量を計算し、符号を逆にしています。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。仕事の定義式で必要だった角度(\(\cos 120^\circ\))の計算が不要で、代わりに高さという直感的に分かりやすい量で計算できるため、非常に強力で間違いの少ない解法です。
思考の道筋とポイント
仕事の定義 \(W = Fx \cos\theta\) に立ち返りつつ、力を分解して考える方法です。重力を、物体の移動方向である「斜面に平行な方向」と、それに「垂直な方向」に分解します。それぞれの力の成分がした仕事を計算し、それらを合計することで、重力全体の仕事を求めます。
この設問における重要なポイント
- 重力を斜面に平行な成分 \(F_{\text{g//}} = mg \sin 30^\circ\) と、垂直な成分 \(F_{\text{g⊥}} = mg \cos 30^\circ\) に分解する。
- 垂直な成分 \(F_{\text{g⊥}}\) は、移動方向と \(90^\circ\) の角度をなすため、仕事をしない (\(\cos 90^\circ = 0\))。
- 平行な成分 \(F_{\text{g//}}\) は、斜面下向きにはたらき、移動方向(斜面上向き)とは真逆(なす角 \(180^\circ\))である。したがって、この成分は負の仕事をする。
具体的な解説と立式
重力がした仕事 \(W_g\) は、斜面に平行な成分がした仕事 \(W_{\text{g//}}\) と、垂直な成分がした仕事 \(W_{\text{g⊥}}\) の和で表せます。
$$ W_g = W_{\text{g//}} + W_{\text{g⊥}} $$
まず、垂直成分の仕事 \(W_{\text{g⊥}}\) は、力の向きと移動方向が垂直なので \(0\) です。
$$ W_{\text{g⊥}} = 0 $$
次に、平行成分の仕事 \(W_{\text{g//}}\) を計算します。
- 力の大きさ: \(F_{\text{g//}} = mg \sin 30^\circ\)
- 移動距離: \(x = 10\,\text{m}\)
- 力と移動方向のなす角: \(\theta = 180^\circ\)
よって、
$$ W_{\text{g//}} = (mg \sin 30^\circ) \times 10 \times \cos 180^\circ $$
したがって、重力全体の仕事は \(W_g = W_{\text{g//}}\) となります。
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx \cos\theta\)
- 力の分解
\(\cos 180^\circ = -1\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_g &= (40 \times 9.8 \times \sin 30^\circ) \times 10 \times (-1) \\[2.0ex]
&= \left(40 \times 9.8 \times \frac{1}{2}\right) \times 10 \times (-1) \\[2.0ex]
&= 196 \times 10 \times (-1) \\[2.0ex]
&= -1960\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(-2.0 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
重力を「斜面を滑り落ちさせようとする力」と「斜面を垂直に押す力」の2つに分解して考えます。「押す力」は物体を動かしていないので、仕事はゼロです。一方、「滑り落ちさせようとする力」は、物体が坂を上っていくのを常に邪魔しています。この邪魔する力がした仕事だけを計算すれば、それが重力全体のした仕事になります。
他の解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、力の分解という力学の基本的な操作を仕事の計算に応用するものであり、物理現象の理解を深める上で有益です。計算内容は、設問(1)で求めた力 \(F\) の大きさに移動距離 \(10\,\text{m}\) を掛け、符号をマイナスにするのと同じことであることがわかります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつりあい
- 核心: この問題の出発点は、「ゆっくりと引き上げた」という日本語の表現を「力がつりあった状態(加速度が\(0\))」と正しく物理的に解釈できるかどうかにあります。斜面上の物体にはたらく力をすべて見つけ出し、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して、力のつりあいの式を立てるという、静力学の基本的な手続きを正確に実行することが求められます。
- 理解のポイント:
- 力の分解: 斜面の問題では、重力を「斜面を滑り落ちさせようとする成分」と「斜面を垂直に押す成分」に分解するのが定石です。この分解ができないと、力のつりあいの式を立てることができません。
- つりあいの意味: 物体を引き上げる力 \(F\) が、重力の滑り落ちさせようとする成分 \(mg \sin 30^\circ\) とちょうど等しくなることで、物体は一定の(極めて遅い)速度で動き続けることができます。
- 仕事の定義と計算
- 核心: 仕事の公式 \(W = Fx \cos\theta\) を正しく理解し、適用することです。特に、力 \(F\) の向きと物体の移動方向 \(x\) の「なす角 \(\theta\)」を、それぞれの状況に応じて正確に見極める能力が問われます。
- 理解のポイント:
- 角度 \(\theta\) の重要性: (2)では力と移動方向が同じなので \(\theta=0^\circ\) ですが、(3)の重力では、力の向き(鉛直下向き)と移動方向(斜面上向き)が一致しないため、なす角 \(\theta=120^\circ\) を図から正確に読み取る必要があります。ここが最大のポイントです。
- 仕事の正負の意味: 仕事が正の値になるのは力が運動を「助ける」場合、負の値になるのは力が運動を「妨げる」場合です。計算結果の符号が物理的な状況と合っているかを確認する癖をつけると、ミスを発見しやすくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 摩擦のある斜面での運動: 今回は「なめらかな」斜面でしたが、もし動摩擦係数 \(\mu’\) の摩擦があれば、引き上げる力 \(F\) は重力の斜面成分に加えて動摩擦力 \(\mu’N = \mu’mg\cos\theta\) にも打ち勝つ必要があります。力のつりあいの式は \(F = mg\sin\theta + \mu’mg\cos\theta\) となります。
- 一定の加速度で引き上げる運動: もし「ゆっくり」ではなく「加速度 \(a\) で」引き上げる場合、力のつりあいではなく運動方程式を立てます。斜面上向きを正とすると、\(ma = F – mg\sin\theta\) となります。
- 仕事と運動エネルギーの関係を使う問題: 「斜面を \(10\,\text{m}\) 引き上げたら速さが \(v\) になった。このとき力 \(F\) がした仕事はいくらか?」のように、速度の変化が伴う場合は、「(された仕事の合計)=(運動エネルギーの変化量)」という関係を使います。\(W_F + W_g = \frac{1}{2}mv^2 – 0\)。
- 力学的エネルギーと非保存力の仕事: 摩擦力が働く場合、力学的エネルギーは保存しません。その場合、「(力学的エネルギーの変化量)=(非保存力(摩擦力など)がした仕事)」という関係式が成り立ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは運動の状態を確認する: 問題文中の「ゆっくりと」「等速で」「静止させた」などの言葉は「力のつりあい」を示唆します。「加速度 \(a\) で」とあれば「運動方程式」です。何も書かれていなければ、状況から判断します。
- 斜面が出てきたら、まず力を分解する: どんな斜面問題でも、登場する力をすべて図示し、重力を斜面に平行・垂直な成分に分解することが第一歩です。
- 「仕事」を問われたときの思考フロー:
- 原則: まずは仕事の定義式 \(W = Fx \cos\theta\) で解けないか考えます。力、距離、角度の3要素がわかるかを確認します。
- 選択肢1: もし問われているのが「重力」や「ばねの弾性力」など「保存力」の仕事であれば、位置エネルギーの変化 \(-\Delta U\) から求める方が簡単な場合が多いです。特に経路が複雑な場合に有効です。
- 選択肢2: もし速度の変化が関わっているなら、「仕事と運動エネルギーの関係」を考えます。
- 選択肢3: もし摩擦力など非保存力が関わっているなら、「力学的エネルギーの変化と非保存力の仕事の関係」を考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の角度 \(\theta\) の誤解:
- 誤解: (3)で重力がした仕事を計算する際、重力の向き(鉛直下向き)と移動方向(斜面上向き)のなす角を、斜面の角度である \(30^\circ\) や、直角の \(90^\circ\) と勘違いしてしまう。
- 対策: 必ず「力のベクトル(矢印)」と「移動方向のベクトル(矢印)」の始点をそろえた図をフリーハンドで描き、2つの矢印の間の角度を視覚的に確認する癖をつけましょう。重力は真下、移動は斜め上なので、その間の角は \(90^\circ\) よりも大きい \(90^\circ+30^\circ=120^\circ\) であることが一目でわかります。
- 仕事の正負の判断ミス:
- 誤解: 重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\) を使って仕事を計算する際に、移動方向と逆向きであることを忘れ、\(W_g = (mg\sin\theta) \times L\) と正の値で計算してしまう。
- 対策: 仕事を計算したら、必ずその符号が物理的に妥当か吟味しましょう。重力は物体が坂を上るのを「妨げる」力なので、その仕事は必ず負になるはずです。計算結果が正になっていたら、どこかで符号の考慮が漏れている証拠です。
- 位置エネルギーと仕事の関係の符号ミス:
- 誤解: 「重力がした仕事は、位置エネルギーの変化に等しい」と覚え、\(W_g = \Delta U_g\) と間違えてしまう。
- 対策: 具体的な状況で覚えましょう。「物体が下に落ちる(重力が正の仕事をする)」と、「位置エネルギーは減少する」。このように、仕事とエネルギーの変化は符号が逆の関係です。したがって、正しい式は \(W_g = -\Delta U_g\) です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(力のつりあい):
- 選定理由: 求めたい物理量は「力 \(F\) の大きさ」です。問題の条件として「ゆっくりと」動かす、つまり「加速度が \(0\)」という運動状態が与えられています。力と運動状態(加速度)を結びつける法則は運動の法則(\(ma=F\))ですが、\(a=0\) の特別な場合が「力のつりあい」です。したがって、力のつりあいの式を立てることが、この問いに答えるための最も直接的な方法となります。
- 適用根拠: 物体には複数の力が作用しており、それらが合わさって加速度 \(0\) の状態を作り出しています。斜面上の問題であるため、力を斜面に平行・垂直な成分に分解し、それぞれの方向で力の和が \(0\) になるという条件を適用することで、未知の力 \(F\) を求めることができます。
- (2)での公式選択(仕事の定義式):
- 選定理由: 求めたいのは「力 \(F\) がした仕事」です。物理における「仕事」という量を定義する、まさにそのものである公式 \(W = Fx \cos\theta\) を使うのが最も自然な選択です。
- 適用根拠: (1)で力の大きさ \(F\) が求まっており、問題文で移動距離 \(x\) が与えられています。また、力 \(F\) の向きと移動の向きは同じ(なす角 \(\theta=0^\circ\))であることが明らかです。公式を適用するための3つの要素(\(F, x, \theta\))がすべて揃っているため、この公式を適用する根拠は十分です。
- (3)でのアプローチ選択(定義式 vs 位置エネルギー):
- 選定理由(定義式): (2)と同様に、仕事の定義から直接計算するアプローチです。重力の大きさ \(mg\) は既知、移動距離 \(x\) も既知、そして力の向きと移動方向のなす角 \(\theta=120^\circ\) も図から読み取れます。したがって、定義式を適用する条件は整っています。
- 選定理由(位置エネルギー): 求めたいのが「重力」という「保存力」の仕事である点に着目したアプローチです。保存力の仕事は、経路によらず始点と終点の「位置エネルギーの差」だけで決まる、という非常に便利な性質があります。この物理法則 \(W_{\text{保存力}} = -\Delta U\) を知っていれば、角度 \(\theta\) という少し厄介な要素を考えずに、より直感的な「高さの変化」だけで計算できます。
- 思考法: まずは定義式で解けないか考えるのが基本です。しかし、対象の力が重力や弾性力であることに気づいたら、「位置エネルギーを使った方が楽に計算できないか?」と別のアプローチを検討する癖をつけると、より効率的でミスの少ない解法を選択できるようになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を意識する:
- 力は \(\text{N}\)、距離は \(\text{m}\)、仕事は \(\text{J}\) です。\(1\,\text{J} = 1\,\text{N} \cdot \text{m}\) という関係を常に意識し、計算結果の単位が合っているかを確認しましょう。
- よく使う三角関数の値は正確に:
- \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\cos 30^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\cos 120^\circ = -1/2\), \(\cos 180^\circ = -1\) など、物理で頻出する三角関数の値は、単位円をイメージして素早く正確に出せるようにしておきましょう。
- 有効数字のルールを徹底する:
- 問題文で与えられた数値(\(40\), \(9.8\), \(10\))はすべて有効数字2桁です。計算の途中では \(196\) や \(1960\) のように3桁や4桁で計算を進め、最終的な答えを出すときに「上から3桁目を四捨五入して2桁にする」というルールを適用します。\(196 \rightarrow 2.0 \times 10^2\), \(1960 \rightarrow 2.0 \times 10^3\)。
- 概算で検算する:
- \(g \approx 10\,\text{m/s}^2\) として大まかな値を暗算してみましょう。
- (1) 力 \(F = mg\sin30^\circ \approx 40 \times 10 \times 0.5 = 200\,\text{N}\)。計算結果の \(196\,\text{N}\) と非常に近いので、大きな間違いはなさそうです。
- (2) 仕事 \(W_F = F \times 10 \approx 200 \times 10 = 2000\,\text{J}\)。計算結果の \(1960\,\text{J}\) と近い。
- このように、数秒でできる概算が、桁の間違いなどの致命的なミスを防いでくれます。
- 物理的な妥当性を吟味する:
- (2)の力 \(F\) は運動を助ける向きなので、仕事は正になるはず。
- (3)の重力は運動を妨げる向きなので、仕事は負になるはず。
- また、「ゆっくり」動かしているので、力 \(F\) がした仕事と重力がした仕事は、大きさが等しく符号が逆になるはず (\(W_F + W_g = 0\))。計算結果がこの関係を満たしているかを確認することで、(2)と(3)の両方の答えを同時に検算できます。
基本例題19 仕事率
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 仕事の定義式 \(W=Fx\) を用いる解法
- 模範解答が「重力に逆らう仕事」を「位置エネルギーの増加分」と捉えて計算するのに対し、別解ではポンプが水にかける力 \(F\) と移動距離 \(h\) を考え、仕事の定義式 \(W=Fh\) から直接計算します。
- 設問(2)の別解: 設問(1)の結果を利用する解法
- 模範解答が単位時間(\(1\)秒)あたりの仕事量を計算して仕事率を求めるのに対し、別解では設問(1)で計算した \(2\)分間全体の仕事量を、かかった時間(\(120\)秒)で割って平均の仕事率を求めます。
- 設問(1)の別解: 仕事の定義式 \(W=Fx\) を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「重力に逆らう仕事」と「位置エネルギーの増加」が等価であること、またそれらが仕事の基本定義 \(W=Fx\) からも導かれることを確認でき、仕事とエネルギーの関係についての理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 仕事率を求める際に、単位時間で考える方法と、ある区間全体で考える方法の両方が有効であることを学び、問題に応じて効率的な計算手順を選択する力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「仕事と仕事率の計算」です。特に、連続的に物体(この場合は水)を移動させる場合の仕事の考え方と、単位時間あたりの仕事量を表す仕事率の概念を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量の計算: 体積(リットル)と密度(または\(1\,\text{L}\)あたりの質量)の関係から、扱っている水の総質量を正しく計算できること。
- 重力に逆らう仕事と位置エネルギー: 重力に逆らって物体をある高さまで持ち上げる仕事は、その物体の位置エネルギーの増加分に等しい (\(W = \Delta U = mgh\))。
- 仕事率の定義: 仕事率 \(P\) は、単位時間あたりにする仕事のことであり、かかった時間を \(t\)、その間にした仕事を \(W\) として \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) と表される。単位はワット(\(\text{W}\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず \(2\)分間にくみ上げられる水の総量をリットルからキログラムに換算します。次に、その質量の水全体が \(5.0\,\text{m}\) の高さまで持ち上げられたと考え、位置エネルギーの増加量 \(mgh\) を計算することで、ポンプが重力に逆らってした仕事を求めます。
- (2)では、仕事率の定義 \(P = W/t\) に従って計算します。\(1\)分間(\(60\)秒)にする仕事(\(1\)分間にくみ上げる水の質量を使って \(mgh\) を計算)を求め、それを時間(\(60\,\text{s}\))で割ることで、\(1\)秒あたりの仕事、すなわち仕事率を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
この問題は、ポンプがした「重力に逆らう仕事」を問うています。これは、くみ上げられた水が得た「位置エネルギー」と等しくなります。したがって、まず \(2\)分間でどれだけの質量の水がくみ上げられたかを計算し、その水が \(5.0\,\text{m}\) 高い位置に移動したことによる位置エネルギーの増加量を求めれば、それが答えとなります。
この設問における重要なポイント
- \(2\)分間にくみ上げる水の総質量を求める。
- 単位の換算に注意する(分 → 秒、L → kg)。
- 「重力に逆らってした仕事」は「位置エネルギーの増加分 \(\Delta U = mgh\)」に等しい。
- 高さ \(h\) は、移動した高さの差である \(5.0\,\text{m}\) を使う。
具体的な解説と立式
まず、\(2\)分間にくみ上げる水の質量 \(m\) を求めます。
ポンプは毎分 \(30\,\text{L}\) の水をくみ上げ、水 \(1\,\text{L}\) の質量は \(1.0\,\text{kg}\) なので、\(2\)分間では、
$$
\begin{aligned}
m &= (30\,\text{L/min} \times 2\,\text{min}) \times 1.0\,\text{kg/L} \\[2.0ex]
&= 60\,\text{kg}
\end{aligned}
$$
重力に逆らってした仕事 \(W\) は、この質量の水の位置エネルギーの増加分に等しくなります。貯水池の水面を高さの基準(\(h=0\))とすると、仕事 \(W\) は、
$$ W = mgh $$
使用した物理公式
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
- 重力に逆らう仕事と位置エネルギーの関係: \(W = \Delta U\)
上の式に、\(m=60\,\text{kg}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\), \(h=5.0\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= 60 \times 9.8 \times 5.0 \\[2.0ex]
&= 2940\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(2.9 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
ポンプが \(2\)分間かけて、合計 \(60\,\text{kg}\) の水を \(5.0\,\text{m}\) 高い場所へ運びました。水を高いところに運ぶと、水はその高さに応じた「位置エネルギー」というエネルギーを蓄えます。ポンプが頑張ってした仕事の量は、この水が蓄えたエネルギーの量とちょうど同じになります。ここでは、そのエネルギー量を \(mgh\) という公式で計算しています。
ポンプがした仕事は \(2940\,\text{J}\)(有効数字2桁で \(2.9 \times 10^3\,\text{J}\))と求まりました。\(60\,\text{kg}\) の物体(成人男性一人分くらい)を \(5\,\text{m}\)(ビルの2階くらい)まで持ち上げるのに必要な仕事として、妥当な値です。
思考の道筋とポイント
仕事の基本定義である「仕事=力×距離」から直接計算する方法です。ポンプが水を持ち上げるために加えている力 \(F\) の大きさを考え、その力で水を \(5.0\,\text{m}\) 持ち上げた、と考えて仕事を計算します。
この設問における重要なポイント
- ポンプが水にかける力 \(F\) は、水の重力 \(mg\) に逆らって持ち上げるため、少なくとも重力と同じ大きさが必要である。ゆっくり持ち上げると考え、\(F=mg\) とする。
- この力で水を持ち上げた距離は \(h=5.0\,\text{m}\) である。
- 仕事の定義式 \(W = Fh\) を用いる。
具体的な解説と立式
まず、\(2\)分間にくみ上げる水の総質量 \(m\) は \(60\,\text{kg}\) です。
この質量の水をゆっくりと持ち上げるためにポンプが水に加える力 \(F\) は、水の重力 \(mg\) とつりあう大きさになります。
$$ F = mg $$
この力 \(F\) で、水を高さ \(h=5.0\,\text{m}\) まで持ち上げたので、仕事 \(W\) は、
$$
\begin{aligned}
W &= F \times h \\[2.0ex]
&= (mg)h
\end{aligned}
$$
これは、主たる解法の位置エネルギーの式と全く同じ形になります。
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx\)
- 力のつりあい: \(F=mg\)
$$
\begin{aligned}
W &= (60 \times 9.8) \times 5.0 \\[2.0ex]
&= 588 \times 5.0 \\[2.0ex]
&= 2940\,\text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(2.9 \times 10^3\,\text{J}\) となります。
仕事は「力 × 距離」で計算できます。ポンプは、合計 \(60\,\text{kg}\) の水の「重さ」と同じ大きさの力で、水を上に押し上げています。水の重さは \(mg\) で計算できるので、この力と持ち上げた高さ \(5.0\,\text{m}\) を掛け合わせることで、ポンプがした仕事を直接計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。「重力に逆らう仕事が位置エネルギーの増加に等しい」というのは、この仕事の定義から導かれる関係であることがよくわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
仕事率とは、「\(1\)秒あたりにどれだけの仕事ができるか」という能力を表す量です。単位時間あたりの仕事量を計算すればよいので、例えば「\(1\)分間あたりの仕事量」を計算し、それを \(60\)秒で割ることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 仕事率の定義式 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) を用いる。
- 時間の単位を「秒」に統一する。
- \(1\)分間(\(60\,\text{s}\))にくみ上げる水の質量を求め、その水に対する仕事 \(W\) を計算する。
具体的な解説と立式
仕事率 \(P\) は、単位時間あたりの仕事です。ここでは、\(1\)分間(\(t=60\,\text{s}\))を基準に考えます。
\(1\)分間にくみ上げる水の質量 \(m_{60s}\) は、
$$
\begin{aligned}
m_{60s} &= 30\,\text{L/min} \times 1.0\,\text{kg/L} \\[2.0ex]
&= 30\,\text{kg}
\end{aligned}
$$
この水を \(h=5.0\,\text{m}\) 持ち上げる仕事 \(W_{60s}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{60s} &= m_{60s}gh \\[2.0ex]
&= 30 \times 9.8 \times 5.0
\end{aligned}
$$
したがって、仕事率 \(P\) は、この仕事 \(W_{60s}\) をかかった時間 \(t=60\,\text{s}\) で割ることで求められます。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{W_{60s}}{t} \\[2.0ex]
&= \frac{30 \times 9.8 \times 5.0}{60}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事率の定義: \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{30 \times 9.8 \times 5.0}{60} \\[2.0ex]
&= \frac{1470}{60} \\[2.0ex]
&= 24.5\,\text{W}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(25\,\text{W}\) となります。
仕事率とは、ポンプの「パワー」や「能率」のことです。「\(1\)秒あたりにどれだけの仕事ができるか」を表します。このポンプは \(1\)分(\(60\)秒)で \(30\,\text{kg}\) の水を持ち上げる能力があるので、まず \(1\)分間の仕事量を計算します。そして、その結果を \(60\) で割り算すれば、\(1\)秒あたりの仕事量、つまり仕事率がわかります。
仕事率は \(24.5\,\text{W}\)(有効数字2桁で \(25\,\text{W}\))と求まりました。これは、このポンプが \(1\)秒あたり \(24.5\,\text{J}\) の仕事をする能力があることを示しています。
思考の道筋とポイント
仕事率は、ある時間 \(t\) の間にした仕事の総量 \(W\) を、その時間 \(t\) で割ることでも計算できます。設問(1)で「\(2\)分間」にした仕事の総量をすでに計算しているので、これをかかった時間「\(2\)分間」で割るだけで、平均の仕事率を求めることができます。ポンプの能力は一定と考えられるので、これが求める仕事率になります。
この設問における重要なポイント
- 仕事率の定義式 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) を用いる。
- (1)で求めた仕事 \(W = 2940\,\text{J}\) を使う。
- この仕事にかかった時間は \(t = 2\,\text{min} = 120\,\text{s}\) である。
具体的な解説と立式
設問(1)より、\(2\)分間にした仕事 \(W\) は \(2940\,\text{J}\) です。
この仕事にかかった時間 \(t\) は、
$$
\begin{aligned}
t &= 2\,\text{min} \\[2.0ex]
&= 120\,\text{s}
\end{aligned}
$$
仕事率 \(P\) は、仕事 \(W\) を時間 \(t\) で割ることで求められます。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{W}{t} \\[2.0ex]
&= \frac{2940}{120}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事率の定義: \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{2940}{120} \\[2.0ex]
&= 24.5\,\text{W}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(25\,\text{W}\) となります。
(1)で「ポンプは \(2\)分(\(120\)秒)で \(2940\,\text{J}\) の仕事をした」ということがわかっています。仕事率(\(1\)秒あたりの仕事)を知りたいので、単純に仕事の総量をかかった秒数で割り算すればOKです。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。単位時間あたりの量から計算する方法と、全体の量から計算する方法のどちらでも同じ答えになることを示しており、仕事率の概念をより深く理解するのに役立ちます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重力に逆らう仕事と位置エネルギーの関係
- 核心: ポンプが「重力に逆らってした仕事」は、結果として水が蓄えた「位置エネルギーの増加分」と等しくなります。この物理的な等価性を理解し、\(W = mgh\) の公式を用いて仕事を計算することが、この問題の根幹です。
- 理解のポイント:
- エネルギーの変換: ポンプが電気エネルギーなどを使って仕事をし、そのエネルギーが水の持つ位置エネルギーという形に変換された、と捉えることが重要です。
- 質量の特定: 公式を適用するためには、仕事の対象となる水の「総質量 \(m\)」を正しく求める必要があります。問題文の「毎分\(30\,\text{L}\)」という流量の情報と、「\(1\,\text{L}\)の質量は\(1.0\,\text{kg}\)」という換算情報から、指定された時間内の総質量を計算する前処理が不可欠です。
- 仕事率の定義
- 核心: 仕事率とは、仕事の「効率」や「速さ」を表す指標であり、「単位時間(\(1\)秒)あたりにする仕事」として定義されます。この定義を数式 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) として正しく理解し、適用することが求められます。
- 理解のポイント:
- 時間の単位: 仕事率の単位ワット(\(\text{W}\))はジュール毎秒(\(\text{J/s}\))と等価です。したがって、計算に用いる時間は必ず「秒」に統一しなければなりません。
- 計算のアプローチ: 仕事率を求めるには、①単位時間(例:\(1\)秒)あたりの仕事量を直接計算する方法と、②ある時間 \(t\) の間の総仕事量 \(W\) を求めてから \(t\) で割る方法の2通りがあり、どちらでも同じ結果が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- クレーンやモーターによる物体の引き上げ: ポンプが水をくみ上げる代わりに、クレーンが荷物を引き上げる問題も全く同じ考え方で解けます。仕事は位置エネルギーの増加分、仕事率はその時間効率です。
- 摩擦や空気抵抗がはたらく場合: もし荷物を引き上げる際に摩擦や空気抵抗があれば、モーターがすべき仕事は、位置エネルギーを増やす分に加えて、摩擦などに打ち勝つための仕事も必要になります。したがって、\(W_{\text{モーター}} = mgh + (\text{摩擦力がした仕事})\) となります。
- 運動エネルギーの変化も伴う場合: 例えば、静止している水をくみ上げて、最終的に速さ \(v\) で放出するような場合、ポンプが水に与えるエネルギーは位置エネルギーと運動エネルギーの両方になります。このときポンプがした仕事は \(W = mgh + \frac{1}{2}mv^2\) となります。
- 仕事率 \(P\) が一定の動力源: 「仕事率 \(P\) が一定のモーターで物体を引き上げる」という設定の問題では、\(P = Fv\) (力×速さ)という関係式が非常に重要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 流量や速度の情報を探す: 「毎分〜L」「〜kg/s」「〜m/s」といった、単位時間あたりの量に関する記述は、仕事率を計算するための重要な手がかりです。
- エネルギーの変化に着目する: 「仕事」を問われたら、まず「何のエネルギーがどれだけ変化したか?」を考えましょう。「重力に逆らう仕事」なら位置エネルギーの変化、「物体を加速させる仕事」なら運動エネルギーの変化、と直結させると見通しが良くなります。
- 単位をMKS基本単位に統一する: 問題文を読んだら、計算を始める前に、与えられている数値をすべてメートル(\(\text{m}\))、キログラム(\(\text{kg}\))、秒(\(\text{s}\))に変換する癖をつけましょう。特に「分」は「秒」に直すのを忘れがちです。
- エネルギー損失の有無を確認する: 問題文に「摩擦」「抵抗」「熱」に関する記述がなければ、エネルギーは失われることなく、仕事がそのまま位置エネルギーや運動エネルギーに変換されると考えて構いません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス:
- 誤解: 時間の単位「分」を「秒」に直さずに計算してしまう(例:(2)で仕事量を \(2\) で割ってしまう)。
- 対策: 物理計算の基本はMKS単位系(メートル、キログラム、秒)です。計算を始める前に、問題文中の「\(2\)分間」を「\(120\)秒」、「毎分\(30\,\text{L}\)」を「\(60\)秒あたり\(30\,\text{kg}\)」のように、すべて秒を基準とした数値に書き直す習慣をつけましょう。
- 質量と体積の混同:
- 誤解: 水の体積 \(30\,\text{L}\) を、質量に換算せずそのまま計算に使ってしまう。今回は \(1\,\text{L}=1.0\,\text{kg}\) なので結果的に合いますが、例えば油など他の液体では密度が異なるため間違いの原因になります。
- 対策: 体積(\(\text{L}\)や\(\text{m}^3\))と質量(\(\text{kg}\))は全く別の物理量であることを常に意識しましょう。必ず、問題で与えられた換算率や密度を用いて、体積を質量に変換するステップを踏むことが重要です。
- 仕事と仕事率の混同:
- 誤解: (1)で仕事率を求めてしまったり、(2)で仕事(J)を答えてしまったりする。
- 対策: 問題が何を求めているのか、その物理量の「単位」は何かを常に確認しましょう。「仕事」なら単位はジュール(\(\text{J}\))、「仕事率」なら単位はワット(\(\text{W}\))です。仕事はエネルギーの「総量」、仕事率はエネルギーをやり取りする「速さ」である、というイメージの違いをしっかり持つことが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(\(W=mgh\)):
- 選定理由: 求めたいのは「重力に逆らってした仕事」です。この仕事は、重力という保存力に抗して物体を動かし、その結果として系にポテンシャルエネルギーを蓄える行為を指します。したがって、蓄えられたエネルギーの量、すなわち「位置エネルギーの増加分」を計算することが、この問いに対する最も直接的で本質的な解法となります。
- 適用根拠: ポンプがした仕事は、水の運動エネルギーを(ごくわずかに)増加させる分と、位置エネルギーを増加させる分に分けられますが、通常このような問題では運動エネルギーの変化は無視できるほど小さいと考えます。したがって、ポンプがした仕事のほぼ全てが位置エネルギーの増加に変換されたとみなせます。仕事の対象となる水の質量 \(m\)、重力加速度 \(g\)、高さの変化 \(h\) がすべて特定できるため、\(W=mgh\) を適用する根拠は十分です。
- (2)での公式選択(\(P=W/t\)):
- 選定理由: 求めたいのは「仕事率」です。仕事率の定義そのものが「単位時間あたりにする仕事」であるため、定義式 \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\) を使うのが最も基本的なアプローチです。
- 適用根拠: 問題文には「毎分\(30\,\text{L}\)」という時間あたりの流量が与えられています。この情報を使えば、ある特定の時間 \(t\)(例えば\(60\)秒)の間にした仕事 \(W\) を計算することができます。仕事 \(W\) と時間 \(t\) のペアがわかるので、定義式を適用して仕事率 \(P\) を求めることができます。別解のように、(1)で計算した総仕事量と総時間を使っても、同様に \(W\) と \(t\) のペアがわかっているため、公式を適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算前に単位を統一する:
- 問題文を読んだら、まず与えられた数値をMKS基本単位(m, kg, s)に変換してメモする習慣をつけましょう。「毎分30L」→「\(0.5\,\text{kg/s}\)」、「2分間」→「\(120\,\text{s}\)」。この一手間で、計算途中の単位換算ミスが劇的に減ります。
- 大きな数は指数表記で扱う:
- \(2940\) のような数は、計算途中でも \(2.94 \times 10^3\) と書く癖をつけると、桁数の間違いや有効数字の処理ミスを防ぎやすくなります。
- 計算プロセスを分割する:
- (1)の計算 \(60 \times 9.8 \times 5.0\) を一気に行うのではなく、「① 2分間の総質量を求める: \(30 \times 2 = 60\,\text{kg}\)」「② 位置エネルギーを計算する: \(60 \times 9.8 \times 5.0 = 2940\,\text{J}\)」のように、思考のステップごとに計算を区切ると、間違いを発見しやすくなります。
- 概算による検算:
- \(g \approx 10\,\text{m/s}^2\) として、大まかな値を暗算してみましょう。
- (1) 仕事: 2分で \(60\,\text{kg}\) の水を \(5\,\text{m}\) 上げる。\(W \approx 60 \times 10 \times 5 = 3000\,\text{J}\)。計算結果の \(2940\,\text{J}\) と非常に近いので、大きな間違いはなさそうです。
- (2) 仕事率: 1秒あたり \(0.5\,\text{kg}\) の水を \(5\,\text{m}\) 上げる。\(P \approx 0.5 \times 10 \times 5 = 25\,\text{W}\)。計算結果の \(24.5\,\text{W}\) とほぼ一致します。
- 物理的な妥当性を吟味する:
- 計算結果の仕事率 \(25\,\text{W}\) は、小さな電球を灯す程度のパワーです。人力でも十分可能な範囲の仕事量であり、巨大な工業用ポンプのような非現実的な値ではありません。このように、得られた数値が日常的な感覚と大きくずれていないかを確認するのも有効な検算方法です。
基本例題20 振り子と力学的エネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 仕事と運動エネルギーの関係を用いる解法
- 模範解答が力学的エネルギー保存則を用いて運動の前後2つの「状態」を比較するのに対し、別解ではA点からB点への「過程」に着目し、重力がした仕事が運動エネルギーの変化に等しい、という関係から速さを求めます。
- 設問(2)の別解: B点とC点で力学的エネルギー保存則を立てる解法
- 模範解答が始点Aと最高点Cを比較するのに対し、別解では最下点Bと最高点Cを比較して、B点での運動エネルギーがC点での位置エネルギーに変換されると考えます。
- 設問(1)の別解: 仕事と運動エネルギーの関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 力学的エネルギー保存則が、より普遍的な「仕事と運動エネルギーの関係」において、保存力のみが仕事をする特殊な場合に相当することを理解できます。
- 思考の柔軟性向上: エネルギー保存則を適用する際に、どの2点を比較すれば計算がしやすいか、問題に応じて柔軟に選択する訓練になります。始点と終点だけでなく、途中の点(最下点など)も有効に使えることを学びます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「振り子の運動と力学的エネルギー保存則」です。単振り子の運動において、非保存力である糸の張力が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存される、という典型的な例題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体にはたらく力が重力や弾性力などの「保存力」のみであるか、それ以外の力(非保存力)が仕事をしない場合に、運動エネルギーと位置エネルギーの和(力学的エネルギー)は一定に保たれます。
- 仕事をしない力: 力の向きと物体の移動方向が常に垂直である場合、その力は仕事をしません。振り子の糸の張力はこの典型例です。
- 位置エネルギーの基準点: 重力による位置エネルギーの基準(高さ\(0\)の点)は、計算が最も簡単になるように任意に選ぶことができます。通常、運動の最下点を基準に取ります。
- 三角比を用いた高さの計算: 振り子のよう円弧に沿って運動する物体の高さは、糸の長さと振れ角から三角比を用いて求める必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず糸の張力が仕事をしないことを確認し、力学的エネルギーが保存されることを理解します。次に、最下点Bを位置エネルギーの基準点とし、点Aの高さを求めます。そして、点Aと点Bの2点で力学的エネルギー保存の式を立て、点Bでの速さを求めます。
- (2)では、(1)と同様に力学的エネルギー保存則が成り立つことを利用します。エネルギーは運動のどの点でも保存されているので、点Aと点Cのエネルギーが等しいという式を立てることで、点Cの高さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
おもりには重力と糸の張力がはたらきます。このうち、糸の張力は常におもりの運動方向(円弧の接線方向)と垂直です。したがって、張力は仕事をしません。仕事をする力は保存力である重力のみなので、この振り子の運動では力学的エネルギーが保存されます。
この法則を利用して、点Aでのエネルギーと点Bでのエネルギーが等しいという式を立てます。点Aでは速さが \(0\) で位置エネルギーが最大、点Bでは位置エネルギーが \(0\)(基準点とするため)で速さが最大となります。
この設問における重要なポイント
- 糸の張力は仕事をしないため、力学的エネルギーが保存される。
- 計算を簡単にするため、最下点Bを位置エネルギーの基準(高さ\(0\))とする。
- 点Aの高さは、図と三角比を用いて \(L\) で表す必要がある。
- 点Aでは「静かにはなす」ので、初速度は \(0\) である。
具体的な解説と立式
まず、位置エネルギーの基準を最下点Bの高さとします。
点Aの、基準点Bからの高さ \(h_A\) を求めます。図より、
$$
\begin{aligned}
h_A &= L – L\cos60^\circ
\end{aligned}
$$
点Aでは静かにはなすので、速さ \(v_A = 0\)。
点Bでの速さを \(v\) とします。
点Aと点Bで、力学的エネルギー保存則を立てます。
(点Aでの運動エネルギー) + (点Aでの位置エネルギー) = (点Bでの運動エネルギー) + (点Bでの位置エネルギー)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m v_A^2 + mgh_A &= \frac{1}{2}mv^2 + mg(0)
\end{aligned}
$$
ここに \(v_A=0\) と \(h_A\) の式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
0 + mg(L – L\cos60^\circ) &= \frac{1}{2}mv^2 + 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
まず点Aの高さ \(h_A\) を計算します。\(\cos60^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) なので、
$$
\begin{aligned}
h_A &= L – L \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= \frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
これをエネルギー保存則の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
mg\frac{L}{2} &= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(2\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
gL &= v^2
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{gL}
\end{aligned}
$$
おもりが点Aで持っているのは、高さによる「位置エネルギー」だけです。そこから手をはなすと、おもりは下に落ちながらスピードを上げていき、最下点のBで最も速くなります。このとき、Aで持っていた位置エネルギーが、すべてBでの「運動エネルギー」に変換されたと考えます。「Aでの位置エネルギー = Bでの運動エネルギー」という式を立てて、速さを計算します。
最下点Bでの速さは \(v=\sqrt{gL}\) と求まりました。この結果は、おもりの質量 \(m\) には依存しません。これは、重いおもりも軽いおもりも同じ速さで最下点を通過することを意味しており、ガリレオの落体の法則とも通じる物理的に妥当な結論です。
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則の代わりに、より基本的な「仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー原理)」を使って解く方法です。おもりがAからBへ移動する間に、おもりにはたらく力がした仕事の合計が、おもりの運動エネルギーの変化量に等しい、という関係式を立てます。
この設問における重要なポイント
- おもりにはたらく力は重力と張力。
- 張力は運動方向と常に垂直なので、仕事は \(0\)。
- したがって、おもりにされた仕事は重力がした仕事のみである。
- 重力がした仕事は \(W_g = mg \times (\text{鉛直方向の移動距離})\)。
- 仕事と運動エネルギーの関係: \(W_{\text{全}} = \Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{初}}\)。
具体的な解説と立式
おもりが点Aから点Bへ移動する間に、おもりにされた仕事の合計 \(W_{\text{全}}\) を考えます。
張力がする仕事 \(W_T\) は、力の向きと移動方向が常に垂直なので \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
W_T &= 0
\end{aligned}
$$
重力がする仕事 \(W_g\) は、重力 \(mg\) の向きに物体が移動した距離(鉛直方向の移動距離)を掛けることで求められます。この距離は点Aの高さ \(h_A = \displaystyle\frac{L}{2}\) に等しいです。
$$
\begin{aligned}
W_g &= mg \times h_A \\[2.0ex]
&= mg\frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
したがって、された仕事の合計は \(W_{\text{全}} = W_g + W_T = mg\displaystyle\frac{L}{2}\) です。
一方、運動エネルギーの変化 \(\Delta K\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta K &= K_B – K_A \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 – 0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
仕事と運動エネルギーの関係 \(W_{\text{全}} = \Delta K\) より、
$$
\begin{aligned}
mg\frac{L}{2} &= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K\)
- 仕事の定義: \(W = Fx\)
この式は主たる解法で立てた力学的エネルギー保存則の式と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
gL &= v^2
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{gL}
\end{aligned}
$$
おもりがAからBへ移動するとき、重力が下向きにおもりを引っ張り続けることで「仕事」をします。この重力に仕事をされた分だけ、おもりの運動エネルギーが増加し、スピードが上がります。「重力がした仕事 = 運動エネルギーの増加分」という式を立てて、速さを計算します。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、力学的エネルギー保存則が、仕事とエネルギーの関係から自然に導かれることを示しており、物理法則のつながりを理解する上で非常に有益です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、運動全体を通して力学的エネルギーは保存されます。おもりは点Aから運動を始め、最下点Bを通り、反対側の最高点Cまで上がります。エネルギーの損失がない理想的な状況なので、おもりは最初にいた点Aと同じ高さまで上がることができます。これを力学的エネルギー保存則の式で確認します。点Aと点Cを比較するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 運動全体で力学的エネルギーは保存されている。
- 点Cは最高点なので、一瞬静止するため速さは \(0\) である。
- 点Aと点Cの力学的エネルギーは等しい。
具体的な解説と立式
最下点Bを位置エネルギーの基準(高さ\(0\))とします。
点Aでの力学的エネルギー \(E_A\) は、(1)で計算した通りです。点Aの高さは \(h_A = \displaystyle\frac{L}{2}\)、速さは \(0\) なので、
$$
\begin{aligned}
E_A &= K_A + U_A \\[2.0ex]
&= 0 + mg\frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
点Cの高さを \(h_C\) とします。点Cは最高点なので速さは \(v_C = 0\) です。
点Cでの力学的エネルギー \(E_C\) は、
$$
\begin{aligned}
E_C &= K_C + U_C \\[2.0ex]
&= 0 + mgh_C
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_A = E_C\) より、
$$
\begin{aligned}
mg\frac{L}{2} &= mgh_C
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
$$
\begin{aligned}
mg\frac{L}{2} &= mgh_C
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
h_C &= \frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
ブランコで遊ぶとき、最初に押してもらった高さ以上に上がることはできません。これと同じで、振り子もエネルギーが途中で増えたり減ったりしない限り、スタート地点と同じ高さまでしか上がることができません。点Aの高さは \(\displaystyle\frac{L}{2}\) だったので、反対側の最高点Cの高さも同じく \(\displaystyle\frac{L}{2}\) となります。
点Cの高さは \(\displaystyle\frac{L}{2}\) と求まりました。これは点Aの高さと等しく、エネルギーが保存されているという前提と矛盾しない、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
力学的エネルギーはどの点でも保存されているので、最下点Bと最高点Cの2点で比較することもできます。最下点Bで持っていた運動エネルギーが、坂を上がるにつれて位置エネルギーに変換され、最高点Cですべてが位置エネルギーに変わった、と考えます。
この設問における重要なポイント
- (1)で求めた最下点Bでの速さ \(v = \sqrt{gL}\) を利用する。
- 点Bと点Cで力学的エネルギーは等しい。
具体的な解説と立式
最下点Bを位置エネルギーの基準(高さ\(0\))とします。
点Bでの力学的エネルギー \(E_B\) は、(1)の結果 \(v^2=gL\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
E_B &= K_B + U_B \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 + 0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}m(gL)
\end{aligned}
$$
点Cの高さを \(h_C\) とすると、点Cでの力学的エネルギー \(E_C\) は、
$$
\begin{aligned}
E_C &= K_C + U_C \\[2.0ex]
&= 0 + mgh_C
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_B = E_C\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mgL &= mgh_C
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mgL &= mgh_C
\end{aligned}
$$
両辺を \(mg\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
h_C &= \frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
最下点Bを通過するときの「速さのエネルギー」を使って、おもりは坂を駆け上がります。持っている速さのエネルギーをすべて使い果たして「高さのエネルギー」に変えたところが、到達できる最高点Cになります。「Bでの運動エネルギー = Cでの位置エネルギー」という式を立てて、高さを計算します。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。どの2点でエネルギーを比較しても同じ結論に至ることから、力学的エネルギー保存則の強力さと便利さがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則
- 核心: この問題の根幹は、振り子の運動において「力学的エネルギーが保存される」ことを見抜けるかどうかです。おもりには重力と糸の張力がはたらきますが、張力は常におもりの運動方向と垂直なため、仕事をしません。仕事をするのが保存力である重力だけなので、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 理解のポイント:
- 仕事をしない力: 「力の向き」と「移動方向」が常に垂直な力は、仕事をしません。振り子の張力や、なめらかな面からの垂直抗力はその代表例です。これらを見抜くことが、エネルギー保存則を適用する第一歩です。
- エネルギーの形態変化: おもりは、最も高い点(AやC)で位置エネルギーが最大(速さ \(0\))、最も低い点(B)で運動エネルギーが最大(位置エネルギー \(0\))となります。この運動は、位置エネルギーと運動エネルギーが相互に形を変えながら、その合計量は一定に保たれる現象の典型例です。
- 位置エネルギーの基準: 位置エネルギーを計算する際の高さの基準(\(h=0\))は、どこに選んでも物理法則は成り立ちますが、計算が最も簡単になる点(通常は最下点)を選ぶのが定石です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- なめらかな斜面や曲面を滑る物体の運動: この場合も、垂直抗力が仕事をしないため、力学的エネルギーが保存されます。ジェットコースターのモデルなどがこれにあたります。
- ばね振り子や鉛直ばね振り子: 重力に加えて、ばねの弾性力も保存力です。この場合は、運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性エネルギーの3つの和が一定に保たれます。
- 空気抵抗や摩擦がある場合: もし空気抵抗や摩擦といった「非保存力」が仕事をする場合、力学的エネルギーは保存されません。その場合、エネルギーは熱として失われ、減少していきます。このときのエネルギー変化は「(力学的エネルギーの変化量)=(非保存力がした仕事)」という関係式で扱います。
- 初見の問題での着眼点:
- まず、はたらく力をすべて図示する: 物体にどのような力がはたらいているかを把握することが全ての基本です。
- 次に、各力が仕事をするかしないかを判断する: 図示した力のうち、保存力はどれか、非保存力はどれか、そして仕事をしない力はどれかを分類します。
- エネルギー保存則が使えるか判断する: 仕事をするのが保存力のみであれば、力学的エネルギー保存則が使えます。これが最も強力な解法候補です。
- 比較する2点を決める: エネルギー保存則を使うと決めたら、どの2つの「状態」を比較するかを考えます。通常、「運動の始点」「速さが最大(または最小)の点」「高さが最大(または最小)の点」「運動の終点」などが候補になります。問題で問われている量と、情報が最も多い点を選ぶのがコツです。
- 位置エネルギーの基準点を設定し、高さを求める: 計算が最も楽になるように基準点を決め、各点の高さを図形的に(三角比などを用いて)正確に求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 高さの計算ミス:
- 誤解: 点Aの高さを、糸の長さ \(L\) そのものや、\(L\sin60^\circ\) と勘違いしてしまう。
- 対策: 必ず自分で図を描き、「高さ」とは「基準点からの鉛直方向の距離」であることを再確認しましょう。この問題では、振り子の支点から鉛直に下ろした線と糸が作る直角三角形に着目し、高さが \(L – L\cos60^\circ\) となることを見抜く必要があります。
- エネルギー保存則の式の立て間違い:
- 誤解: \( \frac{1}{2}mv_A^2 + mgh_B = \frac{1}{2}mv_B^2 + mgh_A \) のように、左辺と右辺で状態Aと状態Bのエネルギー項をごちゃ混ぜにしてしまう。
- 対策: 「(状態Aでの全エネルギー)=(状態Bでの全エネルギー)」という基本形を常に意識し、「左辺はAのことだけ」「右辺はBのことだけ」と決めて、各状態の運動エネルギーと位置エネルギーをセットで書き出す癖をつけましょう。
- 張力の役割についての誤解:
- 誤解: 張力がおもりを引いているので、何らかの形でエネルギーの式に関係するのではないかと考えてしまう。
- 対策: 張力は、おもりが円運動をするための「向心力」の一部としての役割を果たしますが、運動方向とは常に垂直なので「仕事」はしません。エネルギーの収支には関与しない、という点を明確に理解しておくことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 求めたいのは「速さ」です。運動の途中では、おもりにはたらく力の向きも大きさも変化するため、運動方程式を立てて加速度を積分するのは非常に複雑です。一方、力学的エネルギー保存則は、運動の途中の詳細を一切問わず、始点と終点の「状態」だけで速さや高さを結びつけることができる、非常に強力な法則です。
- 適用根拠: 前述の通り、この運動では仕事をする力が保存力である重力のみです。これは、力学的エネルギー保存則が成り立つ完璧な条件です。したがって、この法則を選択するのが最も合理的かつ効率的です。
- (2)での公式選択(力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 求めたいのは「高さ」です。(1)と同様の理由で、運動の2点間の状態を比較するだけで答えが得られる力学的エネルギー保存則が最適な選択肢となります。
- 適用根拠: 運動全体を通してエネルギーは保存されているため、どの2点を選んで式を立てても構いません。模範解答のように、情報が最もシンプルな始点Aと終点Cを比較するのが計算上は最も簡単です。別解のように、(1)の結果を使ってB点とC点を比較することも可能で、どちらでも同じ答えが得られます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める:
- \(h_A = L – L\cos60^\circ\) をすぐに \(0.5L\) と計算するのではなく、まずは文字式のままエネルギー保存則の式 \(mg(L-L\cos60^\circ) = \frac{1}{2}mv^2\) に代入する習慣をつけましょう。これにより、物理的な意味が見通しやすくなり、途中の計算ミスも減ります。
- 両辺で共通の項を早期に消去する:
- 力学的エネルギー保存則の式では、質量 \(m\) が両辺の全ての項に含まれることが非常に多いです。計算を始める前に、まず \(m\) で両辺を割って消去すると、式が \(g h_A = \frac{1}{2}v_B^2\) のように非常にシンプルになり、計算が格段に楽になります。
- 平方根の処理を丁寧に行う:
- \(v^2 = gL\) から \(v = \sqrt{gL}\) を求める際、ルートを付け忘れるケアレスミスに注意しましょう。
- 図を描いて視覚的に確認する:
- 特に高さの計算など、図形的な考察が必要な場合は、問題用紙の図を眺めるだけでなく、必ず自分でフリーハンドでも良いので図を描き直してみましょう。そして、どこが糸の長さ \(L\) で、どこが高さ \(h\) なのかを書き込むことで、関係性を正確に把握できます。
- 物理的にありえない値でないか吟味する:
- (2)で計算した点Cの高さが、点Aの高さより高くなっていたら、外部からエネルギーが供給されない限りありえないので、計算ミスを疑うべきです。エネルギー保存則が成り立つ場合、最高点の高さは最初の高さを超えることはありません。
基本例題21 弾性力による運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)および(2)の別解: 運動を2段階に分けて考える解法
- 模範解答が運動の始点と終点の2点間で直接、力学的エネルギー保存則を立てるのに対し、別解では運動を「ばねで加速される水平面上の運動」と「曲面を上昇する運動」の2段階に分け、それぞれの段階でエネルギーの移り変わりを追跡します。
- 設問(1)および(2)の別解: 運動を2段階に分けて考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: エネルギーが「弾性エネルギー → 運動エネルギー → 重力による位置エネルギー」というように、具体的な物理過程に沿ってどのように移り変わっていくかを段階的に追うことで、エネルギー変換の概念をより深く理解することができます。
- 思考の柔軟性向上: 複雑な問題において、運動をいくつかの単純な区間に分割して考えるアプローチは非常に有効です。この別解は、その基本的な練習となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「弾性エネルギーを含む力学的エネルギー保存則」です。なめらかな面の上を運動する物体について、運動エネルギー、重力による位置エネルギー、そしてばねの弾性エネルギーの3つの和が保存されることを用いて、物体の速さや高さを求める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体にはたらく力が保存力(この問題では重力と弾性力)のみであるか、非保存力(この問題では垂直抗力)が仕事をしない場合に、力学的エネルギーは一定に保たれます。
- 力学的エネルギーの内訳: この問題での力学的エネルギーは、「運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)」、「重力による位置エネルギー \(mgh\)」、「弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\)」の3つの和で考えます。
- 仕事をしない力: 垂直抗力は常に物体の移動方向と垂直にはたらくため、仕事をしません。
- 状態の比較: エネルギー保存則を用いる際は、運動の中の2つの「状態」(例えば、運動開始時と最高点)を選び、それぞれの状態での力学的エネルギーが等しいという式を立てます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、ばねを縮めてはなした最初の状態と、小球が曲面を上って到達する最高点の状態を比較します。最初の状態では弾性エネルギーのみ、最高点では重力による位置エネルギーのみを持つと考え、力学的エネルギー保存則の式を立てて高さを求めます。
- (2)では、ばねを縮めてはなした最初の状態と、小球が点Cを飛び出す瞬間の状態を比較します。最初の状態では弾性エネルギーのみ、点Cでは運動エネルギーと重力による位置エネルギーの両方を持つと考え、力学的エネルギー保存則の式を立てて速さを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
この運動では、なめらかな面からの垂直抗力は仕事をせず、小球にはたらく力のうち仕事をするのは保存力である重力と弾性力のみです。したがって、運動のどの瞬間においても、力学的エネルギー(運動エネルギー+重力位置エネルギー+弾性エネルギー)の合計は一定に保たれます。
この問題では、運動の「はじめ」(ばねを縮めた点)と「おわり」(曲面上の最高点)の2つの状態で力学的エネルギーが等しいという式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2\) が保存される。
- 水平面ABを重力による位置エネルギーの基準(高さ\(h=0\))とする。
- 「はじめ」の状態: 速さ\(v=0\)、高さ\(h=0\)、ばねの縮みは \(x=0.020\,\text{m}\)。エネルギーは弾性エネルギーのみ。
- 「おわり(最高点)」の状態: 速さ\(v=0\)、ばねは自然長なので \(x=0\)。エネルギーは重力による位置エネルギーのみ。
具体的な解説と立式
水平面ABを重力による位置エネルギーの基準(\(h=0\))とします。
ばねを \(x_1 = 0.020\,\text{m}\) 縮めた点を「はじめ」、曲面上の最高点を「あと」とします。
- はじめの力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\):
速さは \(0\)、高さは \(0\) なので、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + mg(0) + \frac{1}{2}kx_1^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kx_1^2
\end{aligned}
$$ - あとの力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):
最高点では速さは \(0\) になり、ばねからは離れているのでばねの縮みも \(0\) です。求める高さを \(h_1\) とすると、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + mgh_1 + \frac{1}{2}k(0)^2 \\[2.0ex]
&= mgh_1
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx_1^2 &= mgh_1
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U_g+U_e = \text{一定}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
- 弾性エネルギー: \(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
上の式に、\(k=9.8\,\text{N/m}\), \(x_1=0.020\,\text{m}\), \(m=0.010\,\text{kg}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 9.8 \times (0.020)^2 &= 0.010 \times 9.8 \times h_1
\end{aligned}
$$
両辺の \(9.8\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times (0.020)^2 &= 0.010 \times h_1 \\[2.0ex]
\frac{1}{2} \times 0.00040 &= 0.010 \times h_1 \\[2.0ex]
0.00020 &= 0.010 \times h_1 \\[2.0ex]
h_1 &= \frac{0.00020}{0.010} \\[2.0ex]
h_1 &= 0.020\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(2.0 \times 10^{-2}\,\text{m}\) となります。
最初に手で縮めたばねが持っている「ばねのエネルギー」が、小球が動き出したあと、最終的に坂の上の「高さのエネルギー」にすべて変換された、と考えます。エネルギーの形は変わっても量は変わらないので、「はじめのばねのエネルギー = 終わりの高さのエネルギー」という等式を立てて、高さを計算します。
小球が上がる高さは \(0.020\,\text{m}\)(\(2.0\,\text{cm}\))と求まりました。ばねの縮みも \(2.0\,\text{cm}\) であり、数値が物理的に妥当な範囲であることがわかります。
思考の道筋とポイント
運動を2つのステップに分けて考えます。まず、ばねのエネルギーがすべて運動エネルギーに変わるまで(ステップ1)、次にその運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変わるまで(ステップ2)を考えます。
この設問における重要なポイント
- ステップ1: ばねを縮めた点と、ばねが自然長になって小球が離れる点でエネルギー保存則を立て、水平面AB上での速さを求める。
- ステップ2: 水平面AB上と、曲面上の最高点でエネルギー保存則を立て、高さを求める。
具体的な解説と立式
- ステップ1: ばねによる加速
ばねを縮めた点(エネルギー \(E_{\text{初}} = \frac{1}{2}kx_1^2\))と、ばねが自然長になった点(エネルギー \(E_B = \frac{1}{2}mv_B^2\))でエネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx_1^2 &= \frac{1}{2}mv_B^2
\end{aligned}
$$ - ステップ2: 曲面の上昇
ばねが離れた点(エネルギー \(E_B = \frac{1}{2}mv_B^2\))と、最高点(エネルギー \(E_{\text{後}} = mgh_1\))でエネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_B^2 &= mgh_1
\end{aligned}
$$
この2つの式から、中間の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_B^2\) を介して、結局 \(\frac{1}{2}kx_1^2 = mgh_1\) という主たる解法と同じ式が導かれます。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
計算は主たる解法と全く同じになります。
$$
\begin{aligned}
h_1 &= 0.020\,\text{m} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^{-2}\,\text{m}
\end{aligned}
$$
まず、ばねが小球を押し出すことで、小球がどれくらいのスピードになるかを考えます。次に、そのスピードで坂を上り始めたら、どれくらいの高さまで到達できるかを考えます。このように2段階に分けて考えても、結局は「はじめのばねのエネルギー」が「終わりの高さのエネルギー」になる、という同じ結論にたどり着きます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法は、エネルギーが「弾性エネルギー → 運動エネルギー → 位置エネルギー」と移り変わる過程を追うことができ、現象の理解を深めるのに役立ちます。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)と同様に、力学的エネルギー保存則を用います。ばねを縮めた「はじめ」の状態と、点Cから飛び出す「おわり」の状態でエネルギーが等しいという式を立てます。(1)との違いは、「おわり」の状態で速さを持っているため、運動エネルギーが \(0\) ではない点です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2\) が保存される。
- 「はじめ」の状態: 速さ\(v=0\)、高さ\(h=0\)、ばねの縮みは \(x=0.10\,\text{m}\)。エネルギーは弾性エネルギーのみ。
- 「おわり(点C)」の状態: 高さは \(H=0.40\,\text{m}\)、ばねは自然長なので \(x=0\)。エネルギーは運動エネルギーと重力による位置エネルギーの和。
具体的な解説と立式
水平面ABを重力による位置エネルギーの基準(\(h=0\))とします。
ばねを \(x_2 = 0.10\,\text{m}\) 縮めた点を「はじめ」、点Cを飛び出す瞬間を「あと」とします。
- はじめの力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\):
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= \frac{1}{2}kx_2^2
\end{aligned}
$$ - あとの力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):
点Cでの速さを \(v_C\)、高さは \(H=0.40\,\text{m}\) です。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= \frac{1}{2}mv_C^2 + mgH
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx_2^2 &= \frac{1}{2}mv_C^2 + mgH
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U_g+U_e = \text{一定}\)
上の式に、\(k=9.8\,\text{N/m}\), \(x_2=0.10\,\text{m}\), \(m=0.010\,\text{kg}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\), \(H=0.40\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 9.8 \times (0.10)^2 &= \frac{1}{2} \times 0.010 \times v_C^2 + 0.010 \times 9.8 \times 0.40
\end{aligned}
$$
まず各項を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \times 9.8 \times 0.010 &= 0.0050 \times v_C^2 + 0.0392 \\[2.0ex]
0.049 &= 0.0050 \times v_C^2 + 0.0392
\end{aligned}
$$
移項して \(v_C^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0.0050 \times v_C^2 &= 0.049 – 0.0392 \\[2.0ex]
0.0050 \times v_C^2 &= 0.0098 \\[2.0ex]
v_C^2 &= \frac{0.0098}{0.0050} \\[2.0ex]
v_C^2 &= 1.96
\end{aligned}
$$
\(v_C>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_C &= \sqrt{1.96} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1.4^2} \\[2.0ex]
&= 1.4\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
最初にばねに蓄えられた大きな「ばねのエネルギー」が、小球が点Cに到達したときには、一部は「高さのエネルギー」に変わり、残りが「速さのエネルギー」になった、と考えます。エネルギーの収支が合うように、「はじめのばねのエネルギー = Cでの高さのエネルギー + Cでの速さのエネルギー」という式を立てて、速さを計算します。
点Cを飛び出す速さは \(1.4\,\text{m/s}\) と求まりました。ばねの縮みが(1)の5倍(\(0.02 \rightarrow 0.10\))になったことで、弾性エネルギーは25倍(\(x^2\)に比例)になり、\(0.40\,\text{m}\) という高い位置まで上がってもなお速さを持っている、という物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
(1)の別解と同様に、運動を2つのステップに分けて考えます。まず水平面AB上での速さを求め、その速さで曲面を上った結果、点Cでどれだけの速さが残っているかを計算します。
この設問における重要なポイント
- ステップ1: ばねを縮めた点と、ばねが離れる点でエネルギー保存則を立て、水平面AB上での速さ \(v_B\) を求める。
- ステップ2: 水平面AB上と、点Cでエネルギー保存則を立て、点Cでの速さ \(v_C\) を求める。
具体的な解説と立式
- ステップ1: ばねによる加速
ばねを \(x_2=0.10\,\text{m}\) 縮めた点と、自然長になった点でエネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx_2^2 &= \frac{1}{2}mv_B^2
\end{aligned}
$$ - ステップ2: 曲面の上昇
水平面(エネルギー \(E_B = \frac{1}{2}mv_B^2\))と、点C(エネルギー \(E_C = \frac{1}{2}mv_C^2 + mgH\))でエネルギー保存則を立てます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_B^2 &= \frac{1}{2}mv_C^2 + mgH
\end{aligned}
$$
ステップ1の式をステップ2の式に代入すると、結局 \(\frac{1}{2}kx_2^2 = \frac{1}{2}mv_C^2 + mgH\) という主たる解法と同じ式が導かれます。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
計算は主たる解法と全く同じになります。
$$
\begin{aligned}
v_C &= 1.4\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
まず、ばねの力で小球がどれくらいのスピードで水平面を走り出すかを計算します。次に、そのスピードで坂を上り始めた結果、高さ \(0.40\,\text{m}\) のC点に到達したときに、どれくらいのスピードがまだ残っているかを計算します。このように2段階で考えても、同じ答えにたどり着きます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この方法も、エネルギー変換の過程を追う上で教育的に有益です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 弾性エネルギーを含む力学的エネルギー保存則
- 核心: この問題は、ばねの「弾性エネルギー」が加わったバージョンの力学的エネルギー保存則を正しく使えるかが問われます。なめらかな面の上では垂直抗力が仕事をしないため、仕事をする力は保存力である「重力」と「弾性力」のみになります。その結果、運動のどの瞬間においても、「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「弾性エネルギー」の3つのエネルギーの合計値が一定に保たれます。
- 理解のポイント:
- 3種類のエネルギー: これまでの問題では運動エネルギーと位置エネルギーの2つだけを考えてきましたが、ばねが登場したことで弾性エネルギーも仲間入りします。力学的エネルギー \(E\) は \(E = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2\) という3つの項の和で表されることを理解するのが第一歩です。
- 状態の比較: エネルギー保存則を使う基本は、運動の中の2つの「状態」(瞬間)を選び、それぞれの状態でのエネルギーの合計が等しいという式を立てることです。どの状態を比較すれば最も計算が楽になるかを見極めることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ばねと斜面を組み合わせた問題: 水平なばねで打ち出された物体が、そのまま斜面を上っていく問題。この場合、運動の過程で弾性エネルギー、運動エネルギー、重力による位置エネルギーが複雑に移り変わりますが、始点と終点だけを見ればエネルギー保存則でシンプルに解けます。
- 鉛直ばね振り子: 天井からばねで吊るされたおもりの振動。この運動では、常に重力による位置エネルギーと弾性エネルギーの両方が変化し続けます。つりあいの点や最下点、最高点などでエネルギー保存則を立てることが多いです。
- 摩擦のある面での運動: もし水平面や曲面に摩擦があれば、力学的エネルギーは保存されません。その場合、ばねがした仕事の一部が摩擦熱として失われます。「(力学的エネルギーの変化量)=(摩擦力がした仕事)」という、より一般的なエネルギーの原理を使って解くことになります。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギーの種類をリストアップする: 問題を読んで、関わる可能性のあるエネルギーをすべて書き出します。「速さがあるか?→運動エネルギー」「高さの変化があるか?→重力位置エネルギー」「ばねがあるか?→弾性エネルギー」「摩擦があるか?→熱エネルギー(仕事)」のように確認します。
- エネルギーが保存されるか判断する: はたらく力を考え、摩擦や空気抵抗のような非保存力が仕事をしていないかを確認します。していなければ、エネルギー保存則が使えます。
- 比較する2つの「状態」を明確にする: 「手をはなした瞬間」「ばねが自然長になった瞬間」「最高点」「特定の点を通過する瞬間」など、問題文から特徴的な状態を2つ選び出します。
- 各状態でのエネルギーを書き出す: 選んだ2つの状態それぞれについて、運動・重力位置・弾性の3つのエネルギーの値を、わかっている数値や求めたい変数を使って書き下します。速さや高さが \(0\) になる点を見つけると、式が簡単になります。
- 基準点を設定する: 重力による位置エネルギーの基準(\(h=0\))と、弾性エネルギーの基準(ばねの自然長の位置、\(x=0\))を明確に定めてから立式します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギーの種類の見落とし:
- 誤解: (2)で、点Cには高さがあるので重力による位置エネルギーはあるが、速さもあるので運動エネルギーもある、という点を見落としてしまう。あるいは、始点の弾性エネルギーが、終点の位置エネルギーだけに変わると勘違いしてしまう。
- 対策: 比較する各「状態」について、「速さはあるか? (\(v \neq 0\))」「高さはあるか? (\(h \neq 0\))」「ばねは伸び縮みしているか? (\(x \neq 0\))」と一つずつ指差し確認する癖をつけましょう。どれか一つでも当てはまれば、そのエネルギーの項を式に加える必要があります。
- ばねの縮み \(x\) の2乗忘れ:
- 誤解: 弾性エネルギーの公式 \(\frac{1}{2}kx^2\) を \(\frac{1}{2}kx\) と間違えてしまい、\(x\) を2乗し忘れる。
- 対策: 公式を正確に覚えることが大前提です。また、ばねの縮みが2倍になると、蓄えられるエネルギーは4倍になるという、2乗に比例する関係をイメージとして持っておくと、間違いに気づきやすくなります。
- 単位換算のミス:
- 誤解: 問題文でばねの縮みが \(2.0\,\text{cm}\) のように与えられた場合に、メートルの単位に直さずに計算してしまう。
- 対策: 物理の計算では、必ずMKS基本単位(メートル、キログラム、秒)に統一するのが鉄則です。計算を始める前に、\(2.0\,\text{cm} \rightarrow 0.020\,\text{m}\) のように、すべての単位を変換してから式に代入しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 公式選択(力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 求めたいのは「高さ」や「速さ」です。この問題のように、ばねの力(変位に比例して変化する)や曲面からの垂直抗力(場所によって向きが変わる)が関係する運動では、加速度が一定ではないため、運動方程式を立てて解くのは高校範囲ではほぼ不可能です。一方、力学的エネルギー保存則は、運動の途中の複雑な過程をすべて無視して、始点と終点の「状態」だけで関係式を立てられるため、このような問題では唯一かつ最強の解法となります。
- 適用根拠: 小球にはたらく力のうち、垂直抗力は仕事をせず、仕事をするのは保存力である重力と弾性力のみです。これは、力学的エネルギー保存則を適用するための理想的な条件が整っていることを意味します。
- アプローチ選択(始点と終点の直接比較):
- 選定理由: 模範解答のように、運動の「はじめ(ばねを縮めた点)」と「おわり(最高点や点C)」を直接比較するのが、最も効率的です。途中の「ばねが離れた瞬間」などを考えると、そこで一度速さを計算する必要があり、未知数が増えたり計算ステップが増えたりしてしまいます。
- 適用根拠: 力学的エネルギーは運動のどの瞬間でも保存されているため、どの2点を選んで比較しても物理的には正しいです。その中で、問題文で情報が与えられている点(始点)と、求めたい量が含まれる点(終点)を直接結びつけるのが、最も無駄のない論理的な思考法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式を立ててから数値を代入する:
- まずは \(\frac{1}{2}kx^2 = mgh\) や \(\frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgH\) のように、文字を使って物理法則を記述しましょう。その後で、具体的な数値を代入する方が、式の意味が分かりやすく、検算もしやすいです。
- 小数・指数計算を丁寧に行う:
- \((0.020)^2\) のような計算は、\((2.0 \times 10^{-2})^2 = 4.0 \times 10^{-4}\) のように指数表記を使うと、ゼロの数を間違えるといったケアレスミスを防げます。
- 式全体を眺めて計算を工夫する:
- (1)の計算 \(\frac{1}{2} \times 9.8 \times (0.020)^2 = 0.010 \times 9.8 \times h_1\) では、両辺に \(9.8\) が共通して含まれています。計算を始める前にこれに気づいて両辺から消去すれば、計算が大幅に簡単になります。
- 概算による検算:
- (2)の計算を概算してみましょう。始点の弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}kx^2 \approx 0.5 \times 10 \times (0.1)^2 = 0.05\,\text{J}\)。点Cの位置エネルギーは \(mgh \approx 0.01 \times 10 \times 0.4 = 0.04\,\text{J}\)。残りが運動エネルギーになるので、\(\frac{1}{2}mv^2 \approx 0.05 – 0.04 = 0.01\,\text{J}\)。よって、\(0.5 \times 0.01 \times v^2 \approx 0.01\) となり、\(v^2 \approx 2\) なので \(v \approx 1.41\,\text{m/s}\) となります。計算結果の \(1.4\,\text{m/s}\) とほぼ一致しており、大きな間違いがないことが確認できます。
- エネルギーの収支を吟味する:
- (2)において、始点の弾性エネルギー(\(0.049\,\text{J}\))が、終点の点Cでの位置エネルギー(\(0.0392\,\text{J}\))よりも大きいことを確認します。もし小さければ、そもそも小球は点Cに到達できないはずです。エネルギーの大小関係が、物理的に起こりうる状況と矛盾していないかを確認する癖をつけましょう。
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基本問題
147 仕事
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 別解: 力を移動方向の成分に分解する解法
- 模範解答の主たる解法が仕事の定義式 \(W=Fx\cos\theta\) を直接用いるのに対し、別解では、加えている力を「移動方向(水平方向)の成分」と「それに垂直な成分」に分解し、「仕事 = (移動方向の力の成分) × (移動距離)」という、より仕事の本質に根差した形で計算します。(この別解は模範解答にも示されていますが、より詳細に解説します。)
- 別解: 力を移動方向の成分に分解する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 仕事という物理量が、数ある力の中でも「物体の移動方向に働く力の成分」だけによって決まる、という本質的な意味をより明確に理解することができます。
- 思考の柔軟性向上: 力の分解は力学における最も基本的な操作の一つです。この操作を仕事の計算に応用する良い練習となり、より複雑な問題への対応力が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「仕事の定義式の正しい理解と適用」です。力が物体の移動方向と異なる向きにはたらく場合に、仕事の定義式 \(W=Fx\cos\theta\) を正しく用いて計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事の定義: 仕事 \(W\) は、力の大きさ \(F\)、物体の移動距離 \(x\)、そして力と移動方向のなす角 \(\theta\) を用いて、\(W = Fx \cos\theta\) と表されることを理解していること。
- 角度 \(\theta\) の意味: 公式中の \(\theta\) が、単なる角度ではなく「力の向きと移動方向のなす角」という特別な意味を持つことを正確に把握していること。
- 有効数字の処理: 問題文で与えられた数値の有効数字を考慮して、計算結果を適切な桁数で答えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文と図から、力の大きさ \(F\)、移動距離 \(x\)、そして力と移動方向のなす角 \(\theta\) の値を正確に読み取ります。
- 仕事の定義式 \(W = Fx \cos\theta\) にこれらの値を代入して、仕事 \(W\) を計算します。