「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 4】プロセス

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プロセス

1 慣性の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「慣性の法則(ニュートンの第一法則)」です。物体の運動状態と、それに働く力の合力との関係を正しく理解しているかを問う、力学の基本中の基本となる概念問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 慣性の法則(ニュートンの第一法則): 物体に力が働かない(または働く力の合力がゼロである)場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は等速直線運動を続ける。
  2. 運動方程式(ニュートンの第二法則): 物体に働く力の合力 \(F\) は、物体の質量 \(m\) と生じる加速度 \(a\) の積に等しい (\(F=ma\))。
  3. 等速直線運動の定義: 速度が一定で、まっすぐ進む運動。速度が変化しないため、加速度はゼロ (\(a=0\)) である。
  4. 合力: 物体に働くすべての力をベクトル的に合成した力。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文のキーワード「等速直線運動」に着目する。
  2. 「等速直線運動」がどのような運動状態(特に加速度)を意味するかを考える。
  3. 運動方程式 \(F=ma\) を用い、加速度と力の合力の関係から結論を導く。

思考の道筋とポイント
この問題は、多くの初学者が「物体が動いているのだから、動いている向きに力が働いているはずだ」と直感的に考えてしまい、①の「右向き」を選んでしまう典型的な誤解を突いています。
物理学の重要な考え方は、「力は運動そのものの原因ではなく、運動の変化(=加速度)の原因である」という点です。
問題文では、物体は「等速直線運動」をしています。これは「速度が一定で変化しない」運動、つまり「加速度がゼロ (\(a=0\))」の運動です。
ニュートンの運動方程式 \(F=ma\) に \(a=0\) を代入すると、力の合力 \(F\) もゼロでなければならないことがわかります。
したがって、物体が動いているか止まっているかに関わらず、「等速直線運動」または「静止」というキーワードが出てきたら、その物体に働く力の合力は必ずゼロになります。

この設問における重要なポイント

  • 慣性の法則: 「静止」と「等速直線運動」は、物体に働く力の観点からは全く同じ状態(合力がゼロ)である。
  • 力と加速度の関係: 力の合力が存在すれば、必ず加速度が生じる。逆に、加速度がゼロならば、力の合力も必ずゼロである。
  • 日常の感覚とのギャップ: 日常生活では、動いている物体は摩擦や空気抵抗によって減速するため、動き続けるためには力を加え続ける必要があります(例:自転車をこぎ続ける)。このため、「運動=力が必要」と誤解しがちです。物理の問題では、摩擦がない滑らかな面を考えることが多く、この場合は一度動き出せば力を加えなくても等速で動き続けます。

具体的な解説と立式
この問題は計算ではなく、物理法則の適用によって解きます。

  1. 運動状態の分析: 物体は「等速直線運動」をしています。
  2. 加速度の特定: 等速直線運動は、速度が変化しない運動なので、加速度 \(a\) はゼロです。
    $$
    a = 0 \, \text{m/s}^2
    $$
  3. 運動方程式の適用: ニュートンの運動方程式 \(F=ma\)(ここで \(F\) は合力)に \(a=0\) を代入します。
    $$
    F = m \times 0 = 0 \, \text{N}
    $$

したがって、物体にはたらく力の合力は \(0\) です。

使用した物理公式

  • 慣性の法則(ニュートンの第一法則)
  • 運動方程式: \(F = ma\)
計算過程

この問題には計算過程はありません。上記の法則の適用そのものが解答プロセスとなります。

この設問の平易な説明

「物体が動いているからには、力が働いているはずだ」と思ってしまいがちですが、物理では少し考え方が違います。
物理のルールでは、「力」は物体を「加速させる(スピードを変化させる)」ために必要なものです。
この問題の物体は「等速直線運動」をしています。これは「スピードも向きも変わらず、ずっと同じペースで進んでいる」状態です。つまり、加速していません(加速度がゼロです)。
加速していないということは、スピードを変化させるための「力」も必要ない、ということです。
したがって、物体に働いている力の合計(合力)はゼロになります。
例えば、宇宙空間で一度押された物体が、何にも邪魔されずにスーッとまっすぐ進み続ける様子をイメージすると分かりやすいかもしれません。

解答

2 運動方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動方程式の基本的な適用」です。力学の根幹をなすニュートンの運動方程式(\(ma=F\))を用いて、物体に力が働いたときに生じる加速度を計算する、最も基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式(ニュートンの第二法則): 物体に働く力の合力 \(F\) は、その物体の質量 \(m\) と生じる加速度 \(a\) の積に等しい (\(F=ma\))。
  2. 力の図示: 物体に働くすべての力を正しく見つけ出し、図に描くこと。
  3. 鉛直方向の力のつりあい: 物体が水平面上を運動する場合、上下方向には動かないため、鉛直方向の力はつり合っている。
  4. 合力: 運動を引き起こすのは、物体に働くすべての力を合わせた「合力」である。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体に働くすべての力(重力、垂直抗力、加えられた力)をリストアップし、図示する。
  2. 運動に関係する水平方向と、つり合っている鉛直方向に分けて考える。
  3. 運動方向である水平方向について、運動方程式 \(ma=F\) を立てる。
  4. 方程式に与えられた数値を代入し、加速度 \(a\) を求める。

思考の道筋とポイント
この問題は、力と運動の関係を結びつける最も重要な法則である「運動方程式」を正しく使えるかを問うています。
まず、物体にどのような力が働いているかをすべて洗い出すことが第一歩です。この物体には、①地球が引く「重力」、②床が支える「垂直抗力」、③右向きに加えられた「力」の3つが働いています。
次に、運動の方向(水平方向)と、運動しない方向(鉛直方向)に分けて考えます。物体は上下には動かないので、鉛直方向の力である重力と垂直抗力はつり合っており、互いに打ち消し合っています。
その結果、物体の運動に影響を与えるのは、水平方向の「右向きに \(20 \, \text{N}\) の力」だけとなります。これが運動方程式における力の合力 \(F\) に相当します。
あとは、運動方程式 \(ma=F\) に質量 \(m\) と力 \(F\) を代入すれば、加速度 \(a\) が求まります。

この設問における重要なポイント

  • 運動方程式 \(ma=F\): 力学における最重要公式です。「質量 \(m\) の物体に力の合力 \(F\) が働くと、加速度 \(a\) が生じる」という因果関係を表します。
  • 力の図示の重要性: 物体に働く力をすべて図に描くことで、どの力が運動に関係し、どの力がつり合っているのかを視覚的に整理でき、ミスを防ぐことができます。
  • 「なめらかな」の意味: 物理の問題で「なめらかな」という言葉が出てきたら、それは「摩擦を無視してよい」というサインです。もし摩擦があれば、右向きの力に加えて左向きの摩擦力も考慮する必要があります。
  • 加速度の向き: 加速度の向きは、物体に働く「合力」の向きと常に一致します。この問題では、合力は右向きなので、加速度も右向きになります。

具体的な解説と立式
まず、物体に働く力をすべて考えます。

  1. 重力 \(W\): 鉛直下向きに働く。大きさは \(W=mg\)。
  2. 垂直抗力 \(N\): 水平面が物体を支える力。鉛直上向きに働く。
  3. 加えられた力 \(F_0\): 右向きに働く。大きさは \(F_0 = 20 \, \text{N}\)。

次に、運動方向(水平方向)とそれに垂直な方向(鉛直方向)に分けて考えます。

  • 鉛直方向: 物体は上下に動かないので、力のつりあいが成り立っています。
    $$
    (\text{上向きの力}) = (\text{下向きの力}) \quad \rightarrow \quad N = W
    $$
    これらの力は水平方向の運動には影響しません。
  • 水平方向: 右向きを正(\(+\))とします。物体に働く水平方向の力は \(F_0 = 20 \, \text{N}\) のみです。これが運動方程式における合力 \(F\) となります。

物体の質量を \(m = 5.0 \, \text{kg}\)、生じる加速度を \(a\) として、水平方向について運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
$$
5.0 \times a = 20
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

上記で立てた方程式を、加速度 \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
5.0a &= 20 \\[2.0ex]
a &= \frac{20}{5.0} \\[2.0ex]
a &= 4.0 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
計算結果の符号が正であることから、加速度の向きは、最初に定めた正の向き、すなわち「右向き」であることがわかります。
したがって、生じる加速度は、右向きに \(4.0 \, \text{m/s}^2\) となります。

この設問の平易な説明

物理の基本ルールである「力 \(=\) 質量 \( \times \) 加速度」を使う問題です。この式は、物体を動かすときの「押し方」と「動き方」の関係を表しています。
この式を少し変形すると、「加速度 \(=\) 力 \( \div \) 質量」となります。
これは、「物体の加速の度合いは、加える力が大きいほど大きくなり、物体の質量(重さのようなもの)が大きいほど小さくなる」という、私たちの日常感覚とも合っていますね。
この問題では、力が \(20 \, \text{N}\)、質量が \(5.0 \, \text{kg}\) なので、加速度は単純な割り算で \(20 \div 5.0 = 4.0\) と計算できます。
力は右向きに加えられているので、物体が加速する向きも当然、右向きになります。

解答 右向きに \(4.0 \, \text{m/s}^2\)

3 静止摩擦力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「静止摩擦力と力のつりあい」です。物体が力を受けても動き出さないときに働く「静止摩擦力」が、どのような向きに、どのような大きさで働くのかを、力のつりあいの関係から考察する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、物体に働く力の合力はゼロである。
  2. 静止摩擦力: 物体を動かそうとする力に逆らって、物体が動き出すのを妨げる向きに働く摩擦力。
  3. 静止摩擦力の性質: その大きさは、物体を動かそうとする力の大きさに応じて変化する。向きは、もし摩擦がなければ物体が動き出すであろう向きとは逆向きになる。
  4. 力の図示: 物体に働くすべての力を正しく図示し、力のつりあいを考える。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体に働く水平方向の力をすべてリストアップする(\(F_1\), \(F_2\), 静止摩擦力)。
  2. 物体が「静止したままであった」という事実から、これらの水平方向の力がつり合っていることを確認する。
  3. 加えられた2つの力 \(F_1\) と \(F_2\) の合力がどちらの向きになるかを、条件 \(F_1 > F_2\) から判断する。
  4. 力のつりあいが成り立つためには、静止摩擦力が \(F_1\) と \(F_2\) の合力を打ち消す向きに働かなければならない、と結論付ける。

思考の道筋とポイント
この問題の鍵は、「静止したままであった」という一文です。これは、物体に働くすべての力の合力がゼロ、つまり力が完全につり合っている状態であることを意味します。
水平方向には、右向きの力 \(F_1\)、左向きの力 \(F_2\)、そして床からの「静止摩擦力」の3つの力が働いています。
ここで、もし摩擦がなかったら物体はどう動くかを考えてみましょう。\(F_1 > F_2\) という条件から、右向きの力の方が強いので、物体は右に動き出すはずです。
しかし、実際には物体は静止しています。これは、物体が右に動き出すのを妨げる「静止摩擦力」が、床から左向きに働いているからに他なりません。この静止摩擦力が、\(F_1\) と \(F_2\) の力の差をぴったりと埋め合わせることで、水平方向の力の合計がゼロになり、物体は静止を保つことができるのです。

この設問における重要なポイント

  • 静止摩擦力の向き: もし摩擦がなかった場合に物体が動き出す向きとは逆向きに働く。
  • 静止摩擦力の大きさ: 物体を動かそうとする力の大きさと等しくなるように、自動的に調整される(ただし、最大静止摩擦力という上限がある)。
  • 力のつりあい: 静止している物体では、水平方向について「(右向きの力の和)=(左向きの力の和)」が成り立つ。

具体的な解説と立式
物体に働く水平方向の力は以下の3つです。

  1. 加えられた力 \(F_1\)(右向き)
  2. 加えられた力 \(F_2\)(左向き)
  3. 静止摩擦力 \(f\)(向きは不明)

物体は静止しているので、これらの水平方向の力はつり合っています。
力のつりあいの式を立てると、
$$
(\text{右向きの力の和}) = (\text{左向きの力の和})
$$
問題の条件は \(F_1 > F_2\) なので、右向きの力 \(F_1\) の方が左向きの力 \(F_2\) よりも大きいです。
このままでは右向きの力の方が勝ってしまうため、つりあいを成り立たせるためには、静止摩擦力 \(f\) が左向きの力に加勢する必要があります。
したがって、静止摩擦力 \(f\) は左向きに働きます。
つりあいの式は以下のようになります。
$$
F_1 = F_2 + f
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあいの条件
  • 静止摩擦力の性質
計算過程

この問題は向きを答えるものなので、計算過程はありません。上記の考察が解答プロセスとなります。

この設問の平易な説明

綱引きをイメージしてください。右チームが \(F_1\) の力、左チームが \(F_2\) の力で引っ張り合っています。
問題では「右チームの方が力が強い(\(F_1 > F_2\))」と書かれています。このままでは、綱は右に動いてしまいますね。
しかし、「綱は動かなかった(静止したまま)」とあります。これはなぜでしょうか?
それは、左チームに強力な助っ人、「静止摩擦力」が加わったからです。
静止摩擦力は、弱い方のチーム(この場合は左チーム)に味方して、強い方のチーム(右チーム)と引き分けに持ち込もうとします。
したがって、静止摩擦力は左向きに働いた、ということになります。

解答 左向き
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4 最大静止摩擦力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「最大静止摩擦力の計算」です。物体が力を受けても静止し続ける限界、すなわち物体が動き出す瞬間の力の大きさを、静止摩擦係数と垂直抗力から求める方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 静止摩擦力と最大静止摩擦力: 物体が動き出すのを妨げる静止摩擦力には上限があり、その最大値を最大静止摩擦力という。
  2. 最大静止摩擦力の公式: 最大静止摩擦力 \(F_0\) は、静止摩擦係数 \(\mu\) と垂直抗力 \(N\) の積で表される (\(F_0 = \mu N\))。
  3. 垂直抗力: 面が物体を垂直に押し返す力。水平面上に置かれた物体の場合、鉛直方向の力のつりあいから求める。
  4. 力のつりあい: 物体が静止している、または運動していない方向については、働く力の合力はゼロである。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 物体に働く力をすべて図示する(重力、垂直抗力など)。
  2. 物体は上下方向には運動しないため、鉛直方向の力のつりあいの式を立て、垂直抗力 \(N\) の大きさを求める。
  3. 最大静止摩擦力の公式 \(F_0 = \mu N\) に、静止摩擦係数 \(\mu\) と求めた垂直抗力 \(N\) を代入して、\(F_0\) を計算する。
  4. 物体が動き出すのは、水平方向に加える力がこの最大静止摩擦力 \(F_0\) を超えたときである、と結論付ける。

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