「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 3】基本例題~基本問題67

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基本例題

基本例題8 力のつり合い

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 別解1: 力の三角形に正弦定理を用いる解法
      • 模範解答が力を成分に分解して連立方程式を解くのに対し、別解では力のベクトルを繋いでできる三角形の辺と角の関係に、数学で学習する「正弦定理」を適用して弾性力を計算します。
    • 別解2: 力のベクトルが作る直角三角形の三角比を利用する解法
      • 別解1をさらに特殊な場合に単純化したもので、力のベクトルが作る三角形が「直角三角形」であることに着目し、より簡単な三角比(\(\tan\))を用いて幾何学的に解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 1つの「力のつり合い」という現象を、成分分解(代数的)、正弦定理の適用(解析的)、三角比の利用(幾何学的)という複数の視点から捉え直すことで、その本質的な意味への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 問題の状況に応じて、計算が最も楽になるアプローチは何かを判断し、最適な解法を選択する能力が養われます。
    • 知識の連携: 物理の問題を解くために、数学で学んだ「正弦定理」や「三角比」といった知識をどのように活用できるかを具体的に体験できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「3つの力のつり合い」です。静止している物体にはたらく複数の力を正しく分析し、つり合いの条件式を立てて解く、静力学の基本問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合いの条件: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力のベクトル和はゼロになること。これは、任意の方向について、力の成分の和がゼロになることを意味します。
  2. 力の分解: 斜め方向を向いた力(今回は糸の張力)を、計算しやすいように互いに直交する2方向(通常は水平・鉛直)の成分に分解する考え方。
  3. 力の図示: 問題となっている物体(小球)にはたらく全ての力(重力、張力、弾性力)を、過不足なく正確に図示できること。
  4. フックの法則: ばねの弾性力の大きさが、ばねの自然の長さからの伸び(または縮み)に比例するという関係式 \(F=kx\) を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、小球にはたらく全ての力を図示します。
  2. 次に、斜めを向いている糸の張力を、水平成分と鉛直成分に分解します。
  3. 「水平方向の力のつり合い」と「鉛直方向の力のつり合い」の2つの式を立てます。
  4. この連立方程式を解いて、ばねの弾性力の大きさ \(F\) を求めます。
  5. 最後に、フックの法則 \(F=kx\) を用いて、ばねの伸び \(x\) を計算します。

思考の道筋とポイント
小球が「静止している」という記述から、これは「力のつり合い」の問題であると判断します。まず、小球にはたらく力を全てリストアップします。それは「重力(鉛直下向き)」「ばねの弾性力(水平右向き)」「糸の張力(左斜め上向き)」の3つです。このうち、張力だけが斜めを向いていて扱いにくいため、これを水平方向と鉛直方向の2つの力に分解するのが、問題を解くための定石です。分解した後は、「右向きの力の合計と左向きの力の合計が等しい」「上向きの力の合計と下向きの力の合計が等しい」という2つのつり合いの式を立て、連立させて解くことで答えにたどりきます。

この設問における重要なポイント

  • 小球にはたらく3つの力(重力、張力、弾性力)を正しく図示できること。
  • 糸の張力 \(T\) を、鉛直方向とのなす角 \(60^\circ\) を用いて、水平成分 \(T\sin 60^\circ\) と鉛直成分 \(T\cos 60^\circ\) に正しく分解できること。
  • 力のつり合いの式を、物理的な意味が分かりやすい「(右向きの力の和)=(左向きの力の和)」および「(上向きの力の和)=(下向きの力の和)」の形で立てること。

具体的な解説と立式
小球にはたらく力は、重さ \(W=2.0\,\text{N}\)、ばねの弾性力 \(F\)、糸の張力 \(T\) の3つです。

このうち、糸の張力 \(T\) を水平成分 \(T_x\) と鉛直成分 \(T_y\) に分解します。

糸は鉛直方向と \(60^\circ\) の角をなしているので、

  • 水平成分(左向き): \(T_x = T \sin 60^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}T\)
  • 鉛直成分(上向き): \(T_y = T \cos 60^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}T\)

となります。

小球は静止しているので、水平方向と鉛直方向のそれぞれで力がつりあっています。

水平方向の力のつり合い

(右向きの力)=(左向きの力)より、
$$
\begin{aligned}
F &= T_x \\[2.0ex]
F &= \frac{\sqrt{3}}{2}T \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
鉛直方向の力のつり合い

(上向きの力)=(下向きの力)より、
$$
\begin{aligned}
T_y &= W \\[2.0ex]
\frac{1}{2}T &= 2.0 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの条件: 各方向について、力の成分の和は \(0\) になる。
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

まず、式②から糸の張力 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}T &= 2.0 \\[2.0ex]
T &= 4.0\,\text{N}
\end{aligned}
$$
次に、この \(T\) の値を式①に代入して、ばねの弾性力 \(F\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{\sqrt{3}}{2} \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 2.0\sqrt{3}\,\text{N}
\end{aligned}
$$
最後に、フックの法則 \(F=kx\) を用いて、ばねの伸び \(x\) を求めます。ばね定数 \(k=10\,\text{N/m}\) です。
$$ x = \frac{F}{k} $$
この式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{2.0\sqrt{3}}{10} \\[2.0ex]
&= 0.20\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて計算すると、
$$
\begin{aligned}
x &\approx 0.20 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 0.346\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、小数第3位を四捨五入して \(0.35\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールが空中でピタッと止まっているので、ボールを引っ張っている全ての力がちょうど良いバランスを取っている状態です。この力は、「真下に引っ張る重力」「真横(右)に引っ張るばねの力」「左斜め上に引っ張る糸の力」の3つです。
このままだと計算が難しいので、「左斜め上の糸の力」を、「真左に引っ張る力」と「真上に引っ張る力」の2つに分解して考えます。
すると、力のバランスは「右向きの力と左向きの力が同じ強さ」「上向きの力と下向きの力が同じ強さ」という2つのシンプルな関係に分けられます。この2つの関係式を解くことで、ばねがどれくらいの力で引っ張っているかが分かります。最後に、その力の強さとばねの性質(ばね定数)から、ばねが何メートル伸びているのかを計算することができます。

結論と吟味

計算の結果、ばねの伸びは \(0.35\,\text{m}\) と求まりました。ばねの弾性力は \(F = 2.0\sqrt{3} \approx 3.46\,\text{N}\) であり、ばね定数が \(10\,\text{N/m}\) なので、伸びは \(x = F/k \approx 3.46/10 = 0.346\,\text{m}\) となり、計算結果は妥当であると言えます。

解答 \(0.35\,\text{m}\)
別解1: 力の三角形に正弦定理を用いる解法

思考の道筋とポイント
物体にはたらく3つの力がつりあっているとき、3つの力のベクトルを矢印でつなぐと、始点と終点が一致する閉じた三角形を描くことができます。この三角形の辺の長さは、それぞれの力の大きさに対応します。この「力の三角形」に対して、数学で学習した「正弦定理」を適用することで、未知の力の大きさを求めることができます。この解法では、力を成分分解する代わりに、力のベクトルが作る三角形の内角を求めることが出発点となります。

この設問における重要なポイント

  • 3つの力のベクトル(重力 \(\vec{W}\)、弾性力 \(\vec{F}\)、張力 \(\vec{T}\))を繋いで、閉じた三角形を正しく描くこと。
  • 描いた三角形の内角を、力の向きの情報から正しく特定すること。
  • 正弦定理「\(\displaystyle\frac{a}{\sin A} = \displaystyle\frac{b}{\sin B} = \displaystyle\frac{c}{\sin C}\)」を、力の大きさと対角の関係に正しく適用すること。

具体的な解説と立式
力のつり合いの条件 \(\vec{W} + \vec{F} + \vec{T} = \vec{0}\) をベクトル図で考えます。重力 \(\vec{W}\)(下向き)、弾性力 \(\vec{F}\)(右向き)、張力 \(\vec{T}\)(左上向き)のベクトルを順に繋ぐと、閉じた三角形ができます。

このとき、\(\vec{W}\) と \(\vec{F}\) は鉛直と水平なので、なす角は \(90^\circ\) です。

また、張力 \(\vec{T}\) は鉛直方向と \(60^\circ\) の角をなします。ベクトル図では、\(\vec{W}\) が鉛直方向そのものなので、\(\vec{T}\) と \(\vec{W}\) のベクトルのなす角が \(60^\circ\) となります。

したがって、力の三角形の内角は \(90^\circ\), \(60^\circ\), そして残りが \(180^\circ – 90^\circ – 60^\circ = 30^\circ\) となります。

この三角形の辺の長さは力の大きさ \(W, F, T\) に対応し、それぞれの辺が向かい合う角(対角)は、

  • 辺 \(F\) の対角は \(60^\circ\)
  • 辺 \(W\) の対角は \(30^\circ\)
  • 辺 \(T\) の対角は \(90^\circ\)

となります。

この三角形に正弦定理を適用すると、
$$ \frac{F}{\sin 60^\circ} = \frac{W}{\sin 30^\circ} = \frac{T}{\sin 90^\circ} $$
求めたいのは弾性力 \(F\) なので、\(F\) と \(W\) の関係式を用います。
$$ \frac{F}{\sin 60^\circ} = \frac{W}{\sin 30^\circ} $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いのベクトル表現: \(\vec{W} + \vec{F} + \vec{T} = \vec{0}\)
  • 正弦定理
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

上記で立式した式を \(F\) について解きます。
$$ F = W \times \frac{\sin 60^\circ}{\sin 30^\circ} $$
ここに、\(W=2.0\,\text{N}\), \(\sin 60^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\), \(\sin 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= 2.0 \times \frac{\frac{\sqrt{3}}{2}}{\frac{1}{2}} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times \sqrt{3} \\[2.0ex]
&= 2.0\sqrt{3}\,\text{N}
\end{aligned}
$$
この \(F\) の値は、主たる解法で求めたものと完全に一致します。

以降の計算は主たる解法と同じであり、フックの法則 \(F=kx\) から、
$$
\begin{aligned}
x &= \frac{F}{k} \\[2.0ex]
&= \frac{2.0\sqrt{3}}{10} \\[2.0ex]
&\approx 0.346\,\text{m}
\end{aligned}
$$
となり、有効数字2桁で \(0.35\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールが3つの力で引っ張り合いをして静止しているとき、それぞれの力の矢印を順番につなげると、ぴったり元の場所に戻ってくる「三角形」を描くことができます。この三角形に、数学で習った「正弦定理」という道具を使うと、辺の長さ、つまり力の大きさを計算することができます。面倒な力の分解をしなくても、三角形の角度を調べるだけで、ばねの力の大きさを計算できる便利な方法です。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。この方法は、力のつり合いを幾何学的な図形の問題として捉え直すもので、数学の知識を応用して物理問題を解く良い例です。成分分解が複雑な場合に特に有効な解法となります。

解答 \(0.35\,\text{m}\)
別解2: 力のベクトルが作る直角三角形の三角比を利用する解法

思考の道筋とポイント
別解1と同様に、力のベクトルが閉じた三角形を作ることを利用しますが、今回はその三角形が「直角三角形」であるという、より特別な性質に着目します。直角三角形であれば、正弦定理のような一般的な公式を用いなくても、より単純な「三角比(\(\sin, \cos, \tan\))」を使って辺の長さの関係を直接表すことができます。

この設問における重要なポイント

  • 力のベクトルが作る三角形が、重力(鉛直)と弾性力(水平)によって直角三角形になることを見抜くこと。
  • 三角形の辺と角の関係を、問題文の \(60^\circ\) という情報から正しく特定すること。
  • 直角三角形の三角比、特にこの場合はタンジェント(\(\tan\))を正しく適用して、辺の長さ(力の大きさ)を計算すること。

具体的な解説と立式
力のつり合いの条件 \(\vec{W} + \vec{F} + \vec{T} = \vec{0}\) をベクトル図で表現します。

  1. 始点から鉛直下向きに、力の大きさ \(W\) に対応する長さのベクトル \(\vec{W}\) を描きます。
  2. \(\vec{W}\) の終点から水平右向きに、力の大きさ \(F\) に対応する長さのベクトル \(\vec{F}\) を描きます。
  3. \(\vec{F}\) の終点から、最初の始点に向かってベクトル \(\vec{T}\) を描くと、三角形が閉じます。

この三角形は、\(\vec{W}\)(鉛直)と \(\vec{F}\)(水平)が直交しているため、直角三角形です。

また、糸の張力 \(\vec{T}\) は鉛直方向と \(60^\circ\) の角をなします。ベクトル図において、\(\vec{W}\) のベクトルは鉛直方向を表しているので、\(\vec{T}\) のベクトルと \(\vec{W}\) のベクトルのなす角が \(60^\circ\) となります。

したがって、この直角三角形において、辺 \(W\) と辺 \(F\) の関係はタンジェントを用いて次のように表せます。
$$ \tan 60^\circ = \frac{(\text{対辺})}{(\text{底辺})} = \frac{F}{W} $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いのベクトル表現: \(\vec{W} + \vec{F} + \vec{T} = \vec{0}\)
  • 三角比
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

上記で立式した \(\tan 60^\circ = \displaystyle\frac{F}{W}\) を \(F\) について解きます。
$$ F = W \tan 60^\circ $$
ここに、\(W=2.0\,\text{N}\), \(\tan 60^\circ = \sqrt{3}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= 2.0 \times \sqrt{3} \\[2.0ex]
&= 2.0\sqrt{3}\,\text{N}
\end{aligned}
$$
この \(F\) の値も、主たる解法で求めたものと完全に一致します。

以降の計算は主たる解法と同じであり、ばねの伸び \(x\) は \(0.35\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

3つの力がバランスを取っているとき、それぞれの力の矢印を順番につなげていくと、ぴったり元の場所に戻ってくる「三角形」を描くことができます。今回は、重力(下向き)とばねの力(横向き)が直角なので、きれいな「直角三角形」になります。糸の角度が \(60^\circ\) だと分かっているので、この三角形の全ての角度が分かります。あとは、中学校で習った三角比(タンジェント)を使えば、重力の大きさから、ばねの力の大きさを図形的に計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。力のつり合いを代数的な式だけでなく、幾何学的な図形として捉えるこの方法は、物理現象を直感的に理解する上で非常に役立ちます。特に、力が直交する成分を持つ場合は、この解法が最も迅速かつ簡単です。

解答 \(0.35\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつり合いと力の分解
    • 核心: この問題の根幹にあるのは、「静止している物体にはたらく力はつりあっている」という物理学の大原則です。しかし、力が斜めを向いていると、そのままでは計算が複雑になります。そこで、「斜めの力(ベクトル)を、互いに直交する2方向の成分に分解して考える」という「力の分解」の技術が決定的に重要になります。
    • 理解のポイント:
      • 力のつり合い: 物体が静止している、または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。
      • 力の分解: このベクトル方程式を、私たちが計算しやすいスカラー(大きさ)の方程式に変換する操作が力の分解です。通常は水平方向(x軸)と鉛直方向(y軸)に分解します。
      • 独立性: 分解された各方向の力は、互いに独立してつり合います。つまり、「水平方向の力の和がゼロ(右向きの力 = 左向きの力)」かつ「鉛直方向の力の和がゼロ(上向きの力 = 下向きの力)」という、2つの単純な方程式として扱うことができます。
      • 結論: この問題は、複雑な力のつり合いの問題を、単純な2方向のつり合いの問題に分割して解く、という静力学の最も基本的な思考プロセスを試すものです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 壁と天井から2本の糸で物体を吊るす問題: ばねがもう1本の糸に変わっただけで、未知数が張力 \(T_1, T_2\) の2つになるだけです。根本的な解法(力の分解と2方向のつり合い)は全く同じです。
    • 斜面上で物体が静止している問題: この場合は、重力を「斜面に平行な成分」と「斜面に垂直な成分」に分解します。これも「力の分解」と「力のつり合い」の応用であり、どの力を、どの方向に分解するかの判断が重要になります。
    • 3つ以上の力がつりあう問題: 例えば、1点に3本のロープを結び、それぞれを異なる方向に引いて静止させるような状況です。どの力を分解しても解けますが、計算が最も楽になるように座標軸を選ぶのがポイントです(一般に、分解する力の数が最も少なくなるように軸を選びます)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「静止」「つりあって」「ゆっくり」「一定の速さで」を探す: これらは全て「力のつり合いの法則が使える」ことを示す重要なキーワードです。
    2. 主語(着目物体)を明確にする: 「何が」静止しているのかをはっきりさせます。この問題では「小球」です。そして、その物体にはたらく力だけを図示します。
    3. 力を漏れなく図示する: 着目物体に「触れているもの」から受ける力(接触力:張力、弾性力、垂直抗力など)と、「離れていてもはたらく」力(非接触力:重力、静電気力など)を全て書き出します。
    4. 座標軸を設定し、斜めの力を分解する: ほとんどの場合は水平・鉛直に軸をとります。そして、その軸からずれている斜めの力だけを、軸に沿った成分に分解します。分解したら、元の斜めの力は計算に使わないように斜線を引くとミスが減ります。
    5. 3つの力だけがつりあっているか確認する: もし力が3つだけなら、別解で示した「力の三角形」を描き、正弦定理や三角比で解く方が計算が速い場合があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力の分解における \( \cos \) と \( \sin \) の混同:
    • 誤解: 水平成分はいつでも \(T\cos\theta\)、鉛直成分はいつでも \(T\sin\theta\) だ、と機械的に覚えてしまう。
    • 対策: 角度 \(\theta\) が「どの軸となす角か」を毎回図で確認する癖をつけましょう。「角度 \(\theta\) を挟む辺が \(\cos\theta\)」「角度 \(\theta\) の向かいの辺が \(\sin\theta\)」と、直角三角形の図形的な位置関係で覚えるのが最も確実です。この問題では、角度 \(60^\circ\) は鉛直方向との角なので、鉛直成分が \(T\cos 60^\circ\)、水平成分が \(T\sin 60^\circ\) となります。
  • 力の書き忘れ・二重計上:
    • 誤解: 力を分解した後に、分解前の元の力(この問題では斜め向きの張力 \(T\))もつり合いの式に入れてしまう。
    • 対策: 力を成分に分解することは、1つの力を2つの力に「変身」させる操作です。分解したら、元の力はもう存在しないと考えるのがコツです。力の図示の段階で、分解した元の力に斜線を引いて消しておくことで、こうした二重計上のミスを防げます。
  • 作用・反作用との混同:
    • 誤解: 「小球が糸を引く力」と「糸が小球を引く力(張力)」が同じ物体にはたらいていると勘違いし、つり合いの式に入れてしまう。
    • 対策: 「力のつり合い」は、必ず1つの物体にはたらく複数の力についての関係です。一方、「作用・反作用」は、物体Aと物体Bの2つの物体の間で相互に及ぼしあう力の関係です。常に「誰が、誰から、どの向きに」力を受けているのか、力の主語を明確に意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつり合いの式の選択(成分分解による立式):
    • 選定理由: 問題文の「静止している」というキーワードから、根本原理である「力のつり合い(物体にはたらく力のベクトル和がゼロになる)」を適用することをまず決定します。しかし、ベクトルのままでは扱いにくいため、これを計算可能なスカラー(大きさ)の方程式に落とし込む必要があります。そのための最も強力で一般的な手法が「成分分解」です。特に、互いに直交する水平・鉛直方向に分解することで、1つのベクトル方程式を、2つの独立した単純な代数方程式(「右=左」「上=下」)に変換できます。これは、複雑な問題をより単純な部分問題の集まりに分割するという、物理学における王道の問題解決法です。
    • 適用根拠: あるベクトルがゼロベクトルであるならば、その任意の座標軸への正射影ベクトル(成分)もゼロになる、という数学的な事実に基づいています。物理的に言えば、どの方向から見ても力が偏っていない、ということです。
  • フックの法則の選択:
    • 選定理由: この問題の最終的なゴールは「ばねの伸び \(x\)」を求めることです。一方で、力のつり合いの式から直接求まるのは「ばねの弾性力 \(F\)」です。この \(F\) と \(x\) という2つの物理量を結びつける関係式が、ばねの性質を表す「フックの法則 (\(F=kx\))」です。したがって、力のつり合いを解いた後に、この法則を選択するのは論理的に必然です。
    • 適用根拠: 問題文に「ばね定数 \(10\,\text{N/m}\)」という具体的な値が与えられていることから、このばねがフックの法則に従う理想的なばね(弾性体)であることが前提とされています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角比は記号のまま計算を進める: \(\sin 60^\circ\) や \(\cos 60^\circ\) を、計算の早い段階で \(0.866\) や \(0.5\) のような小数に直さないようにしましょう。\(\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\) や \(\displaystyle\frac{1}{2}\) のように、根号や分数のまま計算を進めることで、途中で約分ができたり、式が簡潔になったりして、結果的に計算ミスが減ります。数値の代入は、文字式を整理した後の最終段階で行うのが鉄則です。
  • つり合いの式の形式を統一する: 常に「(右向きの力の和)=(左向きの力の和)」、「(上向きの力の和)=(下向きの力の和)」という形で式を立てる習慣をつけましょう。全ての項を片側に寄せて「\(\dots = 0\)」とする形式よりも、それぞれの項が持つ物理的な意味(力の向き)が直感的に分かりやすく、符号ミスを劇的に減らすことができます。
  • 概算による検算の習慣化:
    • 図をよく見ると、張力 \(T\) の鉛直成分が重力 \(2.0\,\text{N}\) とつりあっています。張力 \(T\) 本体は、この鉛直成分よりも長いはずなので、\(T > 2.0\,\text{N}\) であると予測できます。計算結果の \(T=4.0\,\text{N}\) はこの予測と合致します。
    • 同様に、力の三角形をイメージすると、水平成分 \(F\) は鉛直成分 \(2.0\,\text{N}\) よりも大きいことが分かります(\(60^\circ\) の角が向かい合う辺は \(30^\circ\) の角が向かい合う辺より長いため)。計算結果 \(F = 2.0\sqrt{3} \approx 3.46\,\text{N}\) は、\(2.0\,\text{N}\) より大きく、妥当です。
    • このように、計算結果が図から読み取れる大小関係と矛盾しないかを確認するだけで、大きなミスを発見できます。
  • 単位を意識する: 最後に求めるのは「伸び」なので、単位はメートル \([\text{m}]\) になるはずです。計算式 \(x = F/k\) の単位を確認すると、\([\text{N}] / [\text{N/m}] = [\text{N}] \times [\text{m/N}] = [\text{m}]\) となり、正しく長さの単位になっていることが確認できます。単位のチェックは、立式の誤りを発見する有効な手段です。

基本例題9 ばねと作用・反作用

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本問は、作用・反作用の法則と力のつり合いに関する物理的概念の深い理解を問う問題です。模範解答で示されている思考プロセスが、この問題の核心を突く最も本質的かつ唯一のアプローチとなります。そのため、計算方法の違いといった観点での有益な別解は存在しないと判断し、本解説では模範解答の論理をさらに深く、かつ丁寧に掘り下げることに重点を置きます。

この問題のテーマは「ばねの弾性力と作用・反作用の法則」です。一見すると異なる状況に見える2つのばねが、物理法則に立ち返って分析すると、実は全く同じ状態にあることを見抜く力が試されます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ばねの伸びを決める「張力」: ばねの伸びは、ばねの一端にはたらく力だけで決まるのではなく、ばね全体に生じている「張力」の大きさによって決まること。
  2. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、必ず物体Bも物体Aに、大きさが等しく向きが反対の力を及ぼし返すという法則。
  3. 力のつり合い: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロになること。
  4. フックの法則: ばねの張力の大きさ \(F\) が、ばねの自然の長さからの伸び \(x\) に比例するという関係式 \(F=kx\) を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ばねAとばねB、それぞれについて、ばねの内部に生じている「張力」の大きさを求めることを目標とします。
  2. ばねAについては、おもりがばねを引く力と、壁がばねを引く力を分析します。壁がばねを引く力は、力のつり合い、または作用・反作用の法則から導きます。
  3. ばねBについては、両端のおもりがそれぞればねを引く力を分析します。
  4. ばねAとばねBの張力の大きさを比較し、フックの法則を用いて伸びの関係を結論付けます。

思考の道筋とポイント
この問題の最大の罠は、「ばねBは両側からおもりで引かれているから、ばねAの2倍伸びるのではないか?」という直感的な誤解です。この誤解を乗り越えるためには、「ばねの伸びは何によって決まるのか?」という物理の基本に立ち返る必要があります。

ばねの伸びは、その内部に生じている「張力」の大きさで決まります。そして、張力は、ばねが両端から互いに逆向きに引かれることによって生じます。片方の端だけを引いて、もう片方の端に力がかかっていなければ、ばねは伸びるのではなく、全体が加速して飛んでいってしまいます。

この視点に立てば、問題は「ばねAとばねBの張力の大きさはそれぞれいくつか?」という問いに変わります。ばねAについても、静止している以上、おもりが引く力と反対向きに、壁が同じ大きさで引き返しているはずです。この「壁の役割」を正しく理解することが、この問題を解く鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • ばねAも、おもりから右向きに引かれると同時に、壁から左向きに同じ大きさの力で引かれている(事実上、両側から引かれている)ことを理解する。
  • ばねBの左側のおもりは、ばねAにおける「壁」と全く同じ役割を果たしていることを見抜く。
  • フックの法則 \(F=kx\) の \(F\) は、ばねにはたらく力の「合力」ではなく、ばねの「張力」の大きさであると正しく理解する。

具体的な解説と立式
おもりの質量を \(m\)、重力加速度の大きさを \(g\) とすると、おもり1つにはたらく重力の大きさは \(W=mg\) となります。ばねの伸びは、ばねの内部に生じる張力の大きさによって決まるので、ばねAとばねBの張力の大きさをそれぞれ求めます。

ばねAにはたらく張力の分析

ばねAは、その右端をおもりによって右向きに大きさ \(W\) の力で引かれています。

ばねAは静止しているので、力のつり合いの法則から、ばねAにはたらく力の合力はゼロでなければなりません。したがって、ばねAの左端は、壁から左向きに、おもりの重さと同じ大きさ \(W\) の力で引かれているはずです。

(この壁が及ぼす力は、ばねAが壁を右向きに引く力の「反作用」と考えることもできます。)

結果として、ばねAは両端をそれぞれ大きさ \(W\) の力で互いに逆向きに引かれています。このとき、ばねAの内部に生じている張力の大きさ \(F_A\) は \(W\) となります。
$$
\begin{aligned}
F_A &= W
\end{aligned}
$$
ばねBにはたらく張力の分析

ばねBは、その右端を右側のおもりによって右向きに大きさ \(W\) の力で引かれています。

同時に、その左端を左側のおもりによって左向きに大きさ \(W\) の力で引かれています。

結果として、ばねBも両端をそれぞれ大きさ \(W\) の力で互いに逆向きに引かれています。このとき、ばねBの内部に生じている張力の大きさ \(F_B\) も \(W\) となります。
$$
\begin{aligned}
F_B &= W
\end{aligned}
$$
伸びの比較

ばねAとばねBに生じている張力の大きさは、\(F_A = F_B = W\) で等しいことがわかります。

ばねの伸び \(x\) は、ばね定数を \(k\) として、フックの法則 \(F=kx\) より \(x = \displaystyle\frac{F}{k}\) で与えられます。

ばねA, Bは同じばね定数 \(k\) を持ち、張力の大きさも等しいので、それぞれの伸び \(x_A\), \(x_B\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
x_A &= \frac{F_A}{k} \\[2.0ex]
&= \frac{W}{k}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
x_B &= \frac{F_B}{k} \\[2.0ex]
&= \frac{W}{k}
\end{aligned}
$$
したがって、\(x_A = x_B\) となり、Aの伸びはBの伸びの \(1\) 倍です。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 作用・反作用の法則
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

この問題は物理概念の理解を問うものであり、具体的な数値計算は伴いません。

ばねAの張力を \(F_A\)、ばねBの張力を \(F_B\)、おもりの重さを \(W\) とします。

上記の解説より、
$$
\begin{aligned}
F_A &= W
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
F_B &= W
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
F_A &= F_B
\end{aligned}
$$
ばねの伸びをそれぞれ \(x_A\), \(x_B\)、ばね定数を \(k\) とすると、フックの法則より、
$$
\begin{aligned}
x_A &= \frac{F_A}{k}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
x_B &= \frac{F_B}{k}
\end{aligned}
$$
\(F_A = F_B\) であるから、
$$
\begin{aligned}
x_A &= x_B
\end{aligned}
$$
よって、Aの伸びがBの伸びの何倍かを求める比は、
$$
\begin{aligned}
\frac{x_A}{x_B} &= 1
\end{aligned}
$$
となり、\(1\) 倍であるとわかります。

この設問の平易な説明

ばねがどれだけ伸びるかは、「ばねがどれくらいの強さで引っ張られているか」で決まります。

Aのばねは、おもりに右へ引っ張られています。でも、もし壁が左へ引っ張りかえしてくれなかったら、ばねは静止できずに飛んでいってしまいます。静止しているということは、壁も「おもりと全く同じ強さ」で左へ引っ張り返しているのです。つまり、Aのばねは「おもりの重さ」分の力で両側から引っ張られていることになります。

Bのばねは、両側を同じおもりで引っ張っています。つまり、Bのばねも「おもりの重さ」分の力で両側から引っ張られています。

結局のところ、AのばねもBのばねも、全く同じ強さで引っ張られていることになります。だから、伸びは同じになるのです。Bの左側のおもりは、Aの「壁」と全く同じ仕事をしているだけ、と考えることができます。

結論と吟味

Aの伸びはBの伸びの \(1\) 倍です。この問題は、ばねの伸びが「片側から引く力」で決まるのではなく、「両側から引かれ合うことで生じる内部の張力」で決まるという、物理的に重要な概念を教えてくれます。ばねBが2倍伸びると考えがちですが、実はばねAも壁によって同じ力で逆向きに引かれていること、つまり物理的にはAとBは全く同じ状況にあることを見抜くのがポイントです。

解答 \(1\) 倍

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 作用・反作用の法則とばねの張力
    • 核心: この問題の核心は、「ばねの伸びは、そのばねの内部に生じている張力の大きさによって決まる」という一点に尽きます。そして、その張力の大きさを正しく理解するためには、「作用・反作用の法則」が不可欠となります。
    • 理解のポイント:
      • ばねの張力: ばねが伸びているとき、ばねのどの部分をとっても、その断面の両側で互いに引き合う力がはたらいています。この力の大きさを「張力」と呼びます。フックの法則 \(F=kx\) の \(F\) は、この張力の大きさを指します。
      • ケースA(壁とおもり): おもりがばねを右に引く力 \(W\) に対し、ばねは静止しています。これは、ばねの左端で壁がばねを左に引く力 \(W\) を及ぼしているからです(力のつり合い)。この壁がばねを引く力は、「ばねが壁を引く力」の反作用と考えることもできます。結果、ばねAには大きさ \(W\) の張力が生じます。
      • ケースB(両端おもり): 左のおもりがばねを左に \(W\) で引き、右のおもりがばねを右に \(W\) で引きます。この場合も、ばねBには大きさ \(W\) の張力が生じます。
      • 結論: ケースAの「壁」は、ケースBの「左のおもり」と全く同じ役割を果たしています。どちらのばねも、結局は同じ大きさ \(W\) の張力で引かれているため、伸びは等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 天井から吊るしたばね: 天井に一端を固定し、他端におもりを吊るす。これは、今回のケースAを90度回転させただけで、物理的には全く同じ状況です。天井が壁と同じ役割を果たします。
    • 水平な床の上でばねの両端を引く問題: ケースBを90度回転させた状況。これも全く同じです。
    • 2つのばねを直列につなぐ問題: 2つのばねを繋ぎ、一端を壁に、他端をおもりで引く。このとき、2つのばねにはたらく張力はどちらも同じ大きさになります。
    • 綱引きの問題: 2チームが綱を引き合って静止しているとき、綱にはたらく張力は、片方のチームが引く力に等しいです。(両チームの力の合計ではありません!)
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「ばねの伸び」と聞かれたら「張力はいくつか?」と自問する: ばねの問題は、まずそのばねの内部に生じている張力の大きさを求めることから始まる、と考える。
    2. 着目物体を明確にする: 「ばね」にはたらく力だけを考えるのか、「おもり」にはたらく力だけを考えるのかを明確に区別する。この問題では「ばね」に着目するのが正解。
    3. 固定端(壁、天井、床)の役割を考える: 物体が壁などに固定されている場合、その固定点は必ず物体に力を及ぼしている。その力の大きさは、多くの場合、力のつり合いや作用・反作用の法則から求めることができる。「壁は力を及ぼさない」という思い込みは捨てる。
    4. 「両側から」という言葉に惑わされない: ばねや糸の張力は、常に両側から引き合う力の結果として生じます。片側だけから力を受けて静止することはありえません(必ず加速してしまいます)。したがって、「両側から引かれている」のは特別な状況ではなく、張力が生じている物体の常態です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ばねBは2倍伸びる、という誤解:
    • 誤解: ばねAは片側だけおもりで引かれ、ばねBは両側をおもりで引かれている。だから、ばねBには2倍の力がかかり、2倍伸びるはずだ。
    • 対策: この誤解の根源は、ばねAの壁の役割を見過ごしていることにあります。物体が静止している以上、必ず力の合計はゼロです。ばねAがおもりから右に引かれているなら、静止するためには必ずどこかから同じ力で左に引かれなければなりません。その役割を壁が担っています。つまり、ばねAも事実上「両側から」引かれているのです。ばねの伸びは、片方の端に加わる力だけで決まるのではなく、両端から逆向きに加わる力の大きさ(=張力)で決まる、という基本に立ち返ることが重要です。
  • フックの法則の \(F\) を合力だと勘違いする:
    • 誤解: ばねBにはたらく力は、右向きの \(W\) と左向きの \(W\) だから、合力はゼロ。よって \(F=0\) なので、フックの法則から伸びはゼロになる。
    • 対策: フックの法則 \(F=kx\) の \(F\) は、ばねにはたらく合力ではありません。これは、ばねの内部に生じている張力の大きさ(あるいは、ばねがその両端で物体を引く力の大きさ)です。合力がゼロなのは「力のつり合い」の条件であり、ばねが伸びているかどうかとは別の話です。この2つを明確に区別することが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 作用・反作用の法則の選択(ケースAの分析にて):
    • 選定理由: ケースAにおいて、ばねが壁から受ける力を知りたい。直接的には「力のつり合い」から「おもりが引く力とつりあう逆向きの力がはたらいているはずだ」と結論できます。しかし、その力の起源をより深く物理的に説明するのが「作用・反作用の法則」です。「ばねが壁を押す(引く)から、壁がばねを押し返す(引き返す)」という相互作用の観点から考えることで、壁が力を及ぼすことの物理的根拠が明確になります。
    • 適用根拠: 作用・反作用の法則は、ニュートン力学の基本法則の一つであり、あらゆる力の相互作用に適用できる普遍的な原理です。
  • フックの法則の選択:
    • 選定理由: 問題で問われているのは「伸びの比」です。一方、力の分析からわかるのは「張力の大きさ」です。この「張力」と「伸び」という2つの異なる物理量を結びつける唯一の法則が、ばねの性質を表す「フックの法則」です。したがって、張力を求めた後に伸びを議論するためには、この法則の適用が論理的に必須となります。
    • 適用根拠: 問題文に「同じばね定数の2つの軽いばね」とあり、これらのばねがフックの法則に従う理想的なばねであることが前提となっています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式で考える習慣: この問題には具体的な数値がありませんが、おもりの質量を \(m\)、ばね定数を \(k\) などと自分で文字を設定して考えることで、思考が整理されます。「ばねAの張力は \(mg\)。ばねBの張力も \(mg\)。よって張力は等しい。伸び \(x = F/k\) で、\(F\) と \(k\) が両者で等しいから、\(x\) も等しい」というように、数式を介して論理的に結論を導くことで、直感による誤りを防ぐことができます。
  • 極端な状況を想像する(思考実験):
    • 「もし壁が力を及ぼさなかったら?」→ ばねAは右に飛んでいくはずだ。静止しているのだから、壁は必ず力を及ぼしている。
    • 「もしBの左のおもりが壁だったら?」→ これはAの状況と全く同じだ。ということは、Bの左のおもりは壁と同じ役割をしているに過ぎない。
    • このような思考実験は、問題の本質を見抜く上で非常に有効なテクニックです。
  • 図を丁寧に描く: ばねA、ばねBそれぞれについて、フリーボディダイアグラム(物体にはたらく力だけを矢印で図示したもの)を描く。特に、ばねAについて、壁からばねに向かう力の矢印を忘れずに描くことが、誤解を防ぐ第一歩となります。
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基本問題

61 重さと質量

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 月面上の重力加速度を求めてから計算する解法
      • 模範解答が地球上での重さとの比例関係を利用して計算するのに対し、別解ではまず月面上の重力加速度の値を具体的に計算し、その値と物体の質量を重さの定義式 \(W=mg\) に代入して直接計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 重さの定義式 \(W=mg\) を直接適用することで、質量、重力加速度、重さという3つの物理量の関係をより根本的に理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: 比例関係で解く方法と、定義式に立ち返って解く方法の2つの視点を持つことで、より複雑な問題への対応力が向上します。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「重さと質量の違いの理解」です。物理学における最も基本的な概念である「質量」と「重さ」を明確に区別し、両者の関係を正しく数式で表現できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 質量の定義: 質量は、物体そのものが持つ固有の量であり、物体がどこにあっても変化しません。単位は \(\text{kg}\) です。
  2. 重さの定義: 重さとは、その物体に働く重力の大きさのことです。これは力の一種であり、測定する場所の重力加速度によって変化します。単位は \(\text{N}\) です。
  3. 重さと質量の関係式: 重さ \(W\)、質量 \(m\)、重力加速度 \(g\) の間には、\(W=mg\) という関係が成り立ちます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、地球上での「重さ」と「重力加速度」が与えられているので、関係式 \(W=mg\) を用いて「質量」を計算します。
  2. (2)では、「質量」は場所に依らないという定義を思い出し、(1)で求めた値をそのまま答えます。
  3. (3)では、月面上の重力加速度が地球上の \(\displaystyle\frac{1}{6}\) であることを利用して、月面での「重さ」を計算します。

問(1)

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