「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 2】基本例題~基本問題33

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

基本例題

基本例題4 自由落下

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている自由落下の公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が運動の公式 \(v=gt\) を用いるのに対し、別解では運動の前後でのエネルギー保存の関係から速さを導出します。
    • 設問(3)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が運動の公式 \(v^2=2gy\) を用いるのに対し、別解では同様にエネルギー保存則を用いて速さを導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動を「時間とともにどう変化するか(運動の法則)」という視点と、「状態の変化でエネルギーがどう移り変わるか(保存則)」という二つの異なる、しかし根源的な視点から捉える経験ができます。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なる物理法則からアプローチすることで、問題解決能力の幅が広がります。特に、時間の情報がない、あるいは不要な問題でエネルギー保存則が強力な武器になることを実感できます。
    • 物理法則の普遍性の確認: 計算過程で質量\(m\)が消去されることから、「物体の落下運動は、その質量によらない」というガリレオの発見を数式の上で再確認できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「自由落下運動の基本法則の適用」です。物体が重力だけを受けて初速度ゼロで落下する、最も基本的な運動モデルを扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自由落下の定義: 初速度が \(0\)、加速度が重力加速度 \(g\) の等加速度直線運動であることを理解していること。
  2. 等加速度直線運動の3公式: 速度、変位、時間の関係を表す以下の3つの公式を正しく選択し、適用できること。
    • \(v = v_0 + at\)
    • \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
    • \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
  3. 力学的エネルギー保存則: 重力のみが仕事をする場合、物体の「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和が一定に保たれるという法則を理解していること。
  4. 有効数字: 問題文で与えられた数値の桁数(この場合は2桁)に合わせて、最終的な答えを処理できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、与えられた時間 \(t\) から落下距離 \(y\) を求めるため、時間と変位の関係式を用います。
  2. (2)では、与えられた時間 \(t\) における速さ \(v\) を求めるため、時間と速度の関係式を用います。
  3. (3)では、特定の落下距離 \(y\) における速さ \(v\) を求めます。この地点までの時間は不明なため、時間を含まない関係式を用いるのが効率的です。

問(1)

思考の道筋とポイント
問題文で与えられているのは、水面に達するまでの時間 \(t=2.0\,\text{s}\) です。求めたいのは「水面から橋までの高さ」、つまり小球が \(2.0\,\text{s}\) の間に落下した距離 \(y\) です。初速度 \(v_0=0\) の自由落下運動において、時間 \(t\) と変位(距離) \(y\) を結びつける公式を選択することが出発点となります。
この設問における重要なポイント

  • 自由落下は、初速度 \(v_0=0\)、加速度 \(a=g\) の等加速度直線運動である。
  • 変位の公式 \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を利用する。
  • 座標軸は、運動の向きである鉛直下向きを正とすると計算がしやすい。

具体的な解説と立式
小球の運動は自由落下なので、初速度 \(v_0=0\,\text{m/s}\) です。鉛直下向きを正の向きとすると、加速度は重力加速度 \(a=g=9.8\,\text{m/s}^2\) となります。
等加速度直線運動の変位(移動距離)を表す公式は、
$$ y = v_0t + \frac{1}{2}at^2 $$
です。ここに、\(v_0=0\)、\(a=g\) を代入すると、自由落下の変位の式が得られます。
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
計算過程

上記で立式した \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) に、問題文で与えられた \(g=9.8\,\text{m/s}^2\)、\(t=2.0\,\text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times 9.8 \times 4.0 \\[2.0ex]
&= 19.6
\end{aligned}
$$
問題文の数値が有効数字2桁(\(2.0\)、\(9.8\))なので、答えも有効数字2桁で表します。\(19.6\) を四捨五入して \(20\) となります。
したがって、水面から橋までの高さは \(20\,\text{m}\) です。

この設問の平易な説明

「静かに落とす」というのは、初速度ゼロで物体が重力に引かれて落ち始める運動のことです。この運動では、落ちる距離は「時間の2乗」に比例してどんどん増えていきます。物理の公式に、重力加速度 \(g=9.8\) と時間 \(t=2.0\) を当てはめることで、2秒間でどれだけの距離を落下したか(=橋の高さ)を計算することができます。

結論と吟味

計算結果は \(19.6\,\text{m}\) となり、有効数字を考慮して \(20\,\text{m}\) となります。これはおよそビル5〜6階の高さに相当し、物理的に妥当な値です。

解答 (1) \(20\,\text{m}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と同様に、水面に達するまでの時間 \(t=2.0\,\text{s}\) が与えられています。ここで求めたいのは「水面に達する直前の速さ」\(v\) です。初速度 \(v_0=0\) の自由落下運動において、時間 \(t\) とそのときの速さ \(v\) を結びつける公式を選択します。
この設問における重要なポイント

  • 速度の公式 \(v = v_0 + at\) を利用する。
  • 自由落下なので \(v_0=0\)、\(a=g\) である。
  • 重力加速度 \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) の物理的意味は「1秒あたり \(9.8\,\text{m/s}\) ずつ速くなる」ということ。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとすると、初速度 \(v_0=0\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=g=9.8\,\text{m/s}^2\) です。
等加速度直線運動の速度を表す公式は、
$$ v = v_0 + at $$
です。ここに、\(v_0=0\)、\(a=g\) を代入すると、自由落下の速度の式が得られます。
$$ v = gt $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した \(v = gt\) に、\(g=9.8\,\text{m/s}^2\)、\(t=2.0\,\text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= 9.8 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 19.6
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、\(19.6\) を四捨五入して \(20\) となります。
したがって、水面に達する直前の速さは \(20\,\text{m/s}\) です。

この設問の平易な説明

重力加速度が \(9.8\,\text{m/s}^2\) というのは、「1秒経つごとに、速さが \(9.8\,\text{m/s}\) ずつ増えていく」という意味です。今回は \(2.0\) 秒後の速さを知りたいので、単純に掛け算をして \(9.8 \times 2.0\) で計算できます。

結論と吟味

計算結果は \(19.6\,\text{m/s}\) となり、有効数字を考慮して \(20\,\text{m/s}\) となります。時速に換算すると約 \(72\,\text{km/h}\) であり、十分な高さから落ちた物体の速さとして妥当な値です。

解答 (2) \(20\,\text{m/s}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の始点(橋の上)と終点(水面直前)の2点間で、力学的エネルギーが保存されることを利用して速さを求めます。この方法では、運動の途中経過である時間 \(t\) を使う必要がありません。
この設問における重要なポイント

  • 空気抵抗を無視すれば、重力だけが仕事をするので力学的エネルギーは保存される。
  • 力学的エネルギー \(=\) (運動エネルギー) \(+\) (位置エネルギー)。
  • 始点(橋の上)では、速さが \(0\) なので運動エネルギーは \(0\)。
  • 終点(水面直前)では、高さを基準 \(0\) とするので位置エネルギーは \(0\)。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\,\text{[kg]}\) とし、水面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\,\text{m}\))とします。
(1)で求めた橋の高さは \(h = 19.6\,\text{m}\) です。

– 始点(橋の上)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)

運動エネルギー: \(0\)

位置エネルギー: \(mgh\)

よって、\(E_{\text{始}} = mgh\)

– 終点(水面直前)での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\)

速さを \(v\) とすると、運動エネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)

位置エネルギー: \(0\)

よって、\(E_{\text{終}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)

力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した \(mgh = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の両辺を \(m\) で割り、\(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
gh &= \frac{1}{2}v^2 \\[2.0ex]
v^2 &= 2gh \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
この式に \(g=9.8\,\text{m/s}^2\)、\(h=19.6\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{2 \times 9.8 \times 19.6} \\[2.0ex]
&= \sqrt{19.6 \times 19.6} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(19.6)^2} \\[2.0ex]
&= 19.6
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて \(20\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

物理では、「高さ」を「速さ」に変換できると考えます。これをエネルギーの考え方と呼びます。橋の上で持っていた「高さのエネルギー」が、水面に落ちたときにはすべて「速さのエネルギー」に変わっているはずです。この「エネルギーの量が等しい」という関係式を立てることで、時間を考えなくても速さを計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(19.6\,\text{m/s}\) という結果が得られました。計算の途中で質量 \(m\) が消えることから、この運動が物体の質量によらないことが数式上からも確認できます。これは、運動の公式から解く方法とは異なる視点から物理現象の本質に迫るアプローチです。

解答 (2) \(20\,\text{m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
求めたいのは「橋の高さの中央を通過するときの速さ」です。これは、ある特定の落下距離 \(y\) における速さ \(v\) を求める問題です。この地点を通過するまでの時間は直接与えられていません。もちろん時間を計算してから速さを求めることも可能ですが、時間 \(t\) を含まない公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を使えば、より直接的に計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 「橋の高さの中央」とは、落下距離が(1)で求めた全高 \(h\) の半分、つまり \(y = h/2\) の地点である。
  • 時間 \(t\) の情報が不要なため、\(v^2 – v_0^2 = 2ay\) を利用するのが最も効率的。
  • 速さは時間に比例するが、距離には比例しない。高さが半分になっても速さは半分にはならないことに注意。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正とします。初速度 \(v_0=0\,\text{m/s}\)、加速度 \(a=g=9.8\,\text{m/s}^2\) です。
(1)で求めた橋の高さは \(h=19.6\,\text{m}\) でした。したがって、高さの中央までの落下距離は、
$$ y = \frac{h}{2} = \frac{19.6}{2} = 9.8\,\text{m} $$
となります。
時間を含まない等加速度直線運動の公式は、
$$ v^2 – v_0^2 = 2ay $$
です。ここに \(v_0=0\)、\(a=g\) を代入すると、
$$ v^2 = 2gy $$
となります。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の時間を含まない式: \(v^2 – v_0^2 = 2ay\)
計算過程

上記で立式した \(v^2 = 2gy\) に、\(g=9.8\,\text{m/s}^2\)、\(y=9.8\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 9.8 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 2 \times (9.8)^2 \\[2.0ex]
v &= \sqrt{2 \times (9.8)^2} \\[2.0ex]
&= 9.8\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 9.8 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 13.818
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、小数第2位を四捨五入して \(14\) となります。
したがって、求める速さは \(14\,\text{m/s}\) です。

この設問の平易な説明

全行程のちょうど半分の距離まで落ちてきたときの速さを求める問題です。この地点まで何秒かかったかは分かりませんが、物理には「何メートル落ちたら、速さはいくらになるか」を直接計算できる便利な公式があります。その公式を使えば、時間を計算する手間を省いて答えを出すことができます。

結論と吟味

計算結果は約 \(13.8\,\text{m/s}\) となり、有効数字を考慮して \(14\,\text{m/s}\) となります。この速さは、初速度 \(0\,\text{m/s}\) と最終速度 \(20\,\text{m/s}\) の間にあり、妥当な値です。
ここで重要なのは、落下距離が半分でも、速さは最終速度の半分(\(10\,\text{m/s}\))にはならない点です。運動の後半は前半よりも速いため、同じ距離を進むのにかかる時間が短くなります。

解答 (3) \(14\,\text{m/s}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の始点(橋の上)と中間点(高さの中央)の2点間で、力学的エネルギーが保存されることを利用します。
この設問における重要なポイント

  • 始点(橋の上)での力学的エネルギーと、中間点(高さの中央)での力学的エネルギーが等しい。
  • 中間点では、位置エネルギーと運動エネルギーの両方を持つ。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\,\text{[kg]}\) とし、水面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\,\text{m}\))とします。
橋の高さは \(h = 19.6\,\text{m}\) です。

– 始点(橋の上)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)

\(E_{\text{始}} = (\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = 0 + mgh = mgh\)

– 中間点(高さの中央)での力学的エネルギー \(E_{\text{中}}\)

この地点の高さは \(h/2\)、速さを \(v\) とすると、

\(E_{\text{中}} = (\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg\frac{h}{2}\)

力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{中}}\) なので、
$$ mgh = \frac{1}{2}mv^2 + mg\frac{h}{2} $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、整理して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
gh &= \frac{1}{2}v^2 + g\frac{h}{2} \\[2.0ex]
\frac{1}{2}v^2 &= gh – g\frac{h}{2} \\[2.0ex]
\frac{1}{2}v^2 &= \frac{1}{2}gh \\[2.0ex]
v^2 &= gh \\[2.0ex]
v &= \sqrt{gh}
\end{aligned}
$$
この式に \(g=9.8\,\text{m/s}^2\)、\(h=19.6\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{9.8 \times 19.6} \\[2.0ex]
&= \sqrt{9.8 \times (2 \times 9.8)} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2 \times (9.8)^2} \\[2.0ex]
&= 9.8\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いて計算すると、
$$
\begin{aligned}
v &\approx 9.8 \times 1.41 \\[2.0ex]
&= 13.818
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて \(14\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

エネルギーの考え方を使うと、この問題は「橋の上で持っていた『高さのエネルギー』のうち、半分が『速さのエネルギー』に変わったのはいつか?」という問いに読み替えられます。失われた高さのエネルギー(半分)が、そのまま運動エネルギーになった、という等式を立てることで、速さを計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(14\,\text{m/s}\) という結果が得られました。この解法では、「失われた位置エネルギーが運動エネルギーに変換される」という物理的なイメージがより明確になります。\(mg(h/2) = \frac{1}{2}mv^2\) という途中式は、まさにこの関係を表しています。

解答 (3) \(14\,\text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 等加速度直線運動の法則
    • 核心: この問題の根幹は、重力による運動が「加速度が一定の直線運動」であると理解し、その運動を記述する3つの公式を状況に応じて正しく使い分けることにあります。
    • 理解のポイント:
      • 運動のモデル化: 現実の複雑な現象(空気抵抗など)を無視し、「自由落下」という理想的な物理モデル(初速度\(0\)、加速度\(g\))に置き換えて考えることが物理の第一歩です。
      • 3公式の役割分担:
        • \(v = v_0 + at\): 時間 \(t\) から速さ \(v\) を知りたいときに使う。
        • \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\): 時間 \(t\) から距離 \(y\) を知りたいときに使う。
        • \(v^2 – v_0^2 = 2ay\): 時間 \(t\) を介さずに、距離 \(y\) と速さ \(v\) の関係を知りたいときに使う。
      • 物理的意味: 加速度 \(g\) は、単なる計算上の定数ではなく、「1秒あたりに速度が \(g\) だけ増加する」という物理的な意味を持っています。この意味を理解していると、(2)のような問題は公式を思い出すまでもなく直感的に解けます。
  • 力学的エネルギー保存則
    • 核心: 運動を時間で追跡する「運動方程式」的な視点とは別に、「エネルギー」という量に着目し、その総和が保存されるという視点からも運動を解析できることを理解するのが重要です。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの変換: 自由落下は、「位置エネルギー」が「運動エネルギー」に変換されていくプロセスと見なすことができます。
      • 保存則の適用条件: この法則が使えるのは、重力やばねの力のような「保存力」だけが仕事をする(または、仕事をする力が存在しない)場合に限られます。空気抵抗や摩擦力が働く場合は、エネルギーは保存されません。
      • 解法の選択: 時間が問われていない問題、特に運動の始点と終点の状態だけが重要な問題では、エネルギー保存則を用いると計算が大幅に簡略化されることが多く、強力な解法ツールとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直投げ上げ・投げ下ろし: 初速度 \(v_0\) が \(0\) でないだけで、本質は同じ等加速度直線運動です。運動の向きと重力加速度の向きに注意して、符号を正しく設定することが鍵となります(例:上向きを正とすると \(a = -g\))。
    • 斜方投射: 運動を水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(鉛直投げ上げと同じ)に分解して考えます。最高点での速さ(水平成分のみになる)や、地面に落下するまでの時間などを求める問題に応用できます。
    • 摩擦のない斜面を滑り落ちる運動: 重力加速度 \(g\) の代わりに、斜面に沿った方向の加速度 \(g\sin\theta\) を用いることで、自由落下と全く同じ公式で解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類を特定する: まず、問題文から「静かに落とした(自由落下)」「投げ上げた(鉛直投げ上げ)」「斜めに投げた(斜方投射)」など、どのような運動モデルを適用すべきかを判断します。
    2. 座標軸と正の向きを設定する: 計算ミスを防ぐため、最初に「どの向きを正とするか」を自分で明確に決めます。通常は、物体の初速度の向きや、運動の主たる向きを正とすると符号の扱いが楽になります。
    3. 与えられた量と求めたい量を整理する: 問題文で与えられている物理量(\(v_0, t, y, g\) など)と、求めたい物理量(\(v, y, t\) など)をリストアップします。
    4. 最適な公式を選択する: 整理した物理量を見比べて、等加速度直線運動の3公式のうち、どの式を使えば最も少ないステップで答えにたどり着けるかを考えます。「求めたい量を含み、未知数が最も少ない式」を選ぶのが基本です。特に、「時間 \(t\) が関係ない」場合は、\(v^2 – v_0^2 = 2ay\) かエネルギー保存則を第一候補とします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 速さと距離の関係の誤解:
    • 誤解: 落下距離が半分になれば、速さも半分になるだろうと直感的に考えてしまう。
    • 対策: (3)で見たように、速さは時間の1乗に比例し、落下距離の平方根に比例します(\(v = \sqrt{2gy}\))。したがって、速さと距離は単純な比例関係にはありません。常に公式に基づいて考える癖をつけ、直感だけに頼らないようにしましょう。
  • 有効数字の処理ミス:
    • 誤解: 計算の途中で出てきた数値をそのまま答えにしてしまう。あるいは、どの桁数に合わせればよいか分からない。
    • 対策: 物理の問題では、計算の精度は元となるデータ(問題文で与えられた数値)の精度を超えられません。原則として、計算結果は「問題文中の数値で、最も有効数字の桁数が少ないもの」に合わせます。この問題では \(2.0\,\text{s}\) と \(9.8\,\text{m/s}^2\) がどちらも2桁なので、答えも2桁にします。
  • 平方根の計算での混乱:
    • 誤解: \(\sqrt{19.6}\) のような計算で、どう手計算すればよいか分からなくなり、時間を浪費する。
    • 対策: ルートの計算では、中の数値を闇雲に計算するのではなく、素因数分解や平方数を見つける意識を持つことが重要です。(3)の計算過程 \(\sqrt{2 \times 9.8 \times 9.8} = \sqrt{2 \times (9.8)^2} = 9.8\sqrt{2}\) のように、同じ数が2回掛かっていればルートの外に出せる、という性質を最大限に活用しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)と(2)での公式選択:
    • 選定理由: (1)では「時間 \(t\) が分かっていて、距離 \(y\) を求めたい」、(2)では「時間 \(t\) が分かっていて、速さ \(v\) を求めたい」という明確な目的がありました。等加速度直線運動の3公式の中で、これらの変数(\(t, y\) や \(t, v\))を直接結びつけるのは、それぞれ \(y = \frac{1}{2}gt^2\) と \(v=gt\) です。他の公式を使うと、余計な計算が必要になるため、これらが最適な選択となります。
    • 適用根拠: これらの公式は、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を、重力 \(F=mg\) の下で積分することによって導出される、数学的に厳密な関係式です。したがって、自由落下という物理モデルが適用できる状況下では、常に正しく成り立ちます。
  • (3)での公式選択(\(v^2=2gy\)):
    • 選定理由: (3)では「距離 \(y\) が分かっていて、速さ \(v\) を求めたい」という状況でした。この地点までの時間 \(t\) は不明です。もちろん、\(y=\frac{1}{2}gt^2\) から \(t\) を計算し、その \(t\) を \(v=gt\) に代入する、という2段階の解法も可能です。しかし、\(v^2=2gy\) という公式は、これら2つの式から \(t\) を消去して作られたものなので、これを使えば1回の計算で済み、時間短縮と計算ミスのリスク低減につながります。
    • 適用根拠: この公式は、力学的エネルギー保存則 \(mgh = \frac{1}{2}mv^2\) の両辺を \(m\) で割った式 \(gh = \frac{1}{2}v^2\) と全く同じ形をしています(\(h\) を \(y\) と読み替えれば)。つまり、運動の公式とエネルギー保存則は、異なる表現でありながら同じ物理現象を記述している、という深い関係性があるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を書き込む習慣: 計算式の各数値に単位を書き込みながら計算を進めることで、次元のチェックができます。例えば、\(v = 9.8 \, \text{m/s}^2 \times 2.0 \, \text{s} = 19.6 \, \text{m/s}\) のように、単位の部分も計算(\(\text{s}^2\) と \(\text{s}\) が約分されて \(\text{s}\) が残る)することで、最終的に求めるべき速さの単位 \(\text{m/s}\) と一致するかを確認でき、間違いに気づきやすくなります。
  • 有効数字の処理は最後に: 計算の途中では、有効数字より1桁多く残して計算を進め、最後の最後で答えを四捨五入するようにしましょう。途中で丸めてしまうと、誤差が蓄積して最終的な答えが変わってしまう可能性があります。(例:\(9.8 \times 1.41 = 13.818\) を計算する際、\(1.41\) を \(1.4\) に丸めてから計算すると \(9.8 \times 1.4 = 13.72\) となり、最終的な答えがずれてしまいます。)
  • ルート計算のパターン化: 物理でよく使う平方根の近似値(\(\sqrt{2} \approx 1.41\), \(\sqrt{3} \approx 1.73\), \(\sqrt{5} \approx 2.23\) など)は暗記しておくと計算が速くなります。また、(3)の計算のように、ルートの中に \(9.8\) のような数値が出てきた場合、\(9.8 = 2 \times 4.9 = 2 \times 7^2 \times 0.1\) のように分解できないか試すなど、計算を楽にする工夫を意識しましょう。この問題では \(v = \sqrt{9.8 \times 19.6} = \sqrt{9.8 \times 2 \times 9.8} = 9.8\sqrt{2}\) という変形が最もスマートです。

基本例題5 鉛直投げ上げ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている運動の公式を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が運動の公式から高さを求めるのに対し、別解では屋上と最高点でのエネルギー保存の関係から直接高さを導出します。
    • 設問(2)および(3)の別解: 運動の対称性を利用する解法
      • 模範解答が投げ上げてから \(3.0\,\text{s}\) 後の運動として一体的に扱うのに対し、別解では運動を「屋上から最高点を経て屋上に戻るまで」と「屋上から地面まで」の2段階に分割して考え、より単純な落下運動として解析します。
    • 設問(3)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が変位の公式を用いるのに対し、別解では(2)で求めた速さを利用して、屋上と地面の間でのエネルギー保存則からビルの高さを導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動の対称性やエネルギー保存則といった、運動の公式とは異なる切り口からアプローチすることで、物理現象に対する多角的な理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 複雑に見える運動も、適切に分割したり、別の法則を適用したりすることで、より単純な問題に帰着させられることを学びます。これは応用問題への対応力を養う上で非常に重要です。
    • 解法の選択肢拡大: 問題の条件に応じて、最も計算が楽でミスの少ない解法を選択する判断力を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直投げ上げ運動の解析」です。初速度を持って重力に逆らって運動し、やがて落下に転じるという、等加速度直線運動の代表的な応用例です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 鉛直投げ上げ運動のモデル化: 初速度 \(v_0\) を持ち、重力加速度 \(g\) によって減速・加速する等加速度直線運動であることを理解していること。
  2. 座標軸の設定と符号の扱い: 鉛直上向きを正とするか、下向きを正とするかを最初に明確に決め、速度・変位・加速度の符号を正しく扱うことが重要です。
  3. 最高点の物理的条件: 物体が最高点に達した瞬間、その速度は一瞬 \(0\) になる (\(v=0\)) という条件を数式に適用できること。
  4. 変位と道のりの区別: 「変位」は位置の変化(符号あり)、「道のり」は実際に動いた距離の合計(常に正)です。特に(3)では、最終的な位置(変位)とビルの高さ(大きさ)の関係を正しく理解する必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、「最高点では速度が \(0\) になる」という条件を速度の公式に適用して時間を求め、その時間を使って変位の公式から屋上からの高さを計算します。
  2. (2)では、与えられた全体の時間 \(t=3.0\,\text{s}\) を速度の公式に代入し、地面に達する直前の速度を求めます。
  3. (3)では、全体の時間 \(t=3.0\,\text{s}\) を変位の公式に代入し、屋上を原点としたときの地面の座標を求め、その大きさからビルの高さを特定します。

問(1)

思考の道筋とポイント
この設問は2つの問いからなります。「最高点に達するまでの時間」と「屋上から最高点までの高さ」です。物理における「最高点」とは、鉛直方向の速度が一瞬だけ \(0\) になる点です。この \(v=0\) という条件を、等加速度直線運動の公式に適用することが解法の鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸を明確に設定する。ここでは、模範解答と同様にビルの屋上を原点(\(y=0\))とし、鉛直上向きを正の向きとする。
  • 上記の設定では、初速度は \(v_0 = +9.8\,\text{m/s}\)、重力加速度は常に下向きなので \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\) となる。
  • 「最高点に達する」という条件を「速度 \(v=0\) となる」と数式化する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とすると、初速度 \(v_0 = 9.8\,\text{m/s}\)、加速度 \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\) です。
最高点では速度が \(0\) になるので、\(v=0\) です。
時間 \(t\) と速度 \(v\) の関係式 \(v = v_0 + at\) に、これらの条件を代入します。
$$ 0 = v_0 – gt $$
この式を解くことで、最高点に達するまでの時間 \(t\) が求まります。

次に、屋上から最高点までの高さ \(h_1\) を求めます。これは、時間 \(t\) の間の変位 \(y\) に相当します。変位の公式 \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用います。
$$ h_1 = v_0t – \frac{1}{2}gt^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
計算過程

まず、最高点までの時間 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= 9.8 – 9.8t \\[2.0ex]
9.8t &= 9.8 \\[2.0ex]
t &= 1.0\,\text{s}
\end{aligned}
$$
次に、この時間 \(t=1.0\,\text{s}\) を使って、屋上からの高さ \(h_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
h_1 &= 9.8 \times 1.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (1.0)^2 \\[2.0ex]
&= 9.8 – 4.9 \\[2.0ex]
&= 4.9\,\text{m}
\end{aligned}
$$
したがって、最高点までの時間は \(1.0\,\text{s}\)、屋上からの高さは \(4.9\,\text{m}\) です。

この設問の平易な説明

ボールを真上に投げると、重力に邪魔されてだんだん遅くなり、てっぺんで一瞬止まってから落ちてきます。この「てっぺんで一瞬止まる」というのがポイントです。
まず、「速さがゼロになるのは何秒後か?」を計算します。それが \(1.0\) 秒後でした。
次に、「じゃあ、その \(1.0\) 秒間でボールはどれくらいの高さまで上がったのか?」を計算します。それが \(4.9\,\text{m}\) というわけです。

結論と吟味

最高点までの時間は \(1.0\,\text{s}\)、屋上からの高さは \(4.9\,\text{m}\) と求まりました。初速度が \(9.8\,\text{m/s}\) で、重力加速度が \(9.8\,\text{m/s}^2\)(1秒で \(9.8\,\text{m/s}\) ずつ減速する)なので、ちょうど1秒で速度が0になるというのは直感的にも理解しやすく、妥当な結果です。

解答 (1) 時間: \(1.0\,\text{s}\), 高さ: \(4.9\,\text{m}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法(高さのみ)

思考の道筋とポイント
屋上から最高点までの高さは、時間を使わずに力学的エネルギー保存則からも求めることができます。運動の始点(屋上)と終点(最高点)で、(運動エネルギー) + (位置エネルギー) が等しいという式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 始点(屋上)を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とする。
  • 始点では運動エネルギーを持ち、位置エネルギーは \(0\)。
  • 終点(最高点)では速度が \(0\) なので運動エネルギーは \(0\) となり、位置エネルギーのみを持つ。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\) とします。屋上を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。

– 始点(屋上)での力学的エネルギー \(E_{\text{屋上}}\)

$$
\begin{aligned}
E_{\text{屋上}} &= \frac{1}{2}mv_0^2 + mg \cdot 0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv_0^2
\end{aligned}
$$
– 終点(最高点)での力学的エネルギー \(E_{\text{最高点}}\)

屋上からの高さを \(h_1\) とすると、最高点での速度は \(0\) なので、

$$
\begin{aligned}
E_{\text{最高点}} &= \frac{1}{2}m \cdot 0^2 + mgh_1 \\[2.0ex]
&= mgh_1
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{屋上}} = E_{\text{最高点}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = mgh_1 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、\(h_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
h_1 &= \frac{v_0^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{(9.8)^2}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{9.8}{2} \\[2.0ex]
&= 4.9\,\text{m}
\end{aligned}
$$
この方法は、時間 \(t\) を経由せずに直接高さを求めることができる点で効率的です。

この設問の平易な説明

ボールが屋上を飛び出した瞬間に持っていた「速さのエネルギー」が、最高点に達したときにはすべて「高さのエネルギー」に姿を変えた、と考える方法です。このエネルギーの総量は変わらないはずなので、「最初の速さのエネルギー = 最後の高さのエネルギー」という等式を立てることで、高さを計算できます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した \(4.9\,\text{m}\) という結果が得られました。エネルギー保存則が運動の公式と同じ結果を導くことを確認できます。

解答 (1) 高さ: \(4.9\,\text{m}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
求めたいのは、投げ上げてから \(3.0\,\text{s}\) 後に「地面に達する直前の速さ」です。これは、時刻 \(t=3.0\,\text{s}\) における速度 \(v\) を計算し、その大きさ(絶対値)を答えればよい、ということになります。速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用います。
この設問における重要なポイント

  • 速度は向きを持つ量(ベクトル)であり、計算結果の符号が向きを表す。
  • 速さは速度の大きさなので、常に正の値(または0)である。
  • (1)と同様に、鉛直上向きを正とする。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とすると、初速度 \(v_0 = 9.8\,\text{m/s}\)、加速度 \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\) です。
時刻 \(t=3.0\,\text{s}\) における速度 \(v\) を、速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用いて求めます。
$$ v = v_0 – gt $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した式に、\(v_0 = 9.8\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\), \(t=3.0\,\text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= 9.8 – 9.8 \times 3.0 \\[2.0ex]
&= 9.8 \times (1 – 3.0) \\[2.0ex]
&= 9.8 \times (-2.0) \\[2.0ex]
&= -19.6\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
ここで計算された \(v = -19.6\,\text{m/s}\) は「速度」です。負の符号は、小球が鉛直下向きに運動していることを示しています。
求められているのは「速さ」なので、この速度の大きさ(絶対値)をとります。
速さは \(|-19.6| = 19.6\,\text{m/s}\) です。
問題文の有効数字は2桁なので、四捨五入して \(20\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

投げ上げてから3秒後のボールの速さを知りたい、という問題です。速度の公式に \(t=3.0\) を入れて計算すると、答えがマイナスで出てきます。これは、ボールが下向きに動いていることを意味しています。「速さ」は向きを考えない大きさのことなので、マイナスを取った \(19.6\,\text{m/s}\) が答えになります。

結論と吟味

地面に達する直前の速さは \(20\,\text{m/s}\) と求まりました。初速度 \(9.8\,\text{m/s}\) よりも速くなっており、ビルの高さ分だけ余計に落下して加速したことを考えると、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(20\,\text{m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
求めたいのは「地面からのビルの高さ」です。これは、屋上を原点(\(y=0\))としたときの、地面の \(y\) 座標を求めることで分かります。投げ上げてから \(3.0\,\text{s}\) 後に地面に達したので、時刻 \(t=3.0\,\text{s}\) における小球の変位 \(y\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 屋上を原点、鉛直上向きを正としているため、屋上より下にある地面の座標は負の値になる。
  • ビルの高さは、この負の変位の大きさ(絶対値)に等しい。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とすると、初速度 \(v_0 = 9.8\,\text{m/s}\)、加速度 \(a = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\) です。
時刻 \(t=3.0\,\text{s}\) における変位 \(y\) を、変位の公式 \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いて求めます。
$$ y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
計算過程

上記で立式した式に、\(v_0 = 9.8\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\), \(t=3.0\,\text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 9.8 \times 3.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (3.0)^2 \\[2.0ex]
&= 29.4 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times 9.0 \\[2.0ex]
&= 29.4 – 4.9 \times 9.0 \\[2.0ex]
&= 29.4 – 44.1 \\[2.0ex]
&= -14.7\,\text{m}
\end{aligned}
$$
変位 \(y = -14.7\,\text{m}\) は、小球が時刻 \(t=3.0\,\text{s}\) に原点(屋上)から下向きに \(14.7\,\text{m}\) の位置にあることを示しています。これが地面の位置なので、ビルの高さは \(14.7\,\text{m}\) です。
有効数字2桁にそろえるため、四捨五入して \(15\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

スタート地点である屋上を「高さ0メートル」の基準点とします。3秒後にボールがどこにいるかを計算すると、「マイナス14.7メートル」という結果が出ました。これは「基準点より14.7メートル下にいる」という意味です。つまり、ビルの高さが \(14.7\,\text{m}\) だと分かります。

結論と吟味

ビルの高さは \(15\,\text{m}\) と求まりました。およそ5階建てのビルに相当し、物理的に妥当な高さです。座標設定と変位の符号の意味を正しく理解できているかが問われる問題です。

解答 (3) \(15\,\text{m}\)
別解: 運動の対称性を利用する解法(設問(2), (3))

思考の道筋とポイント
投げ上げ運動は対称的な性質を持っています。この性質を利用して、複雑な運動をより単純な運動に分割して考えるアプローチです。具体的には、運動全体を「屋上から最高点を経て、再び屋上の高さに戻るまでの運動」と「屋上から地面まで落下する運動」の2つに分けます。
この設問における重要なポイント

  • 投げ上げ運動では、同じ高さを通過するときの速さは、上りのときと下りのときで等しい。
  • 屋上から最高点までにかかる時間と、最高点から屋上まで戻るのにかかる時間は等しい。
  • したがって、屋上に戻ってきたときの小球は「下向きに初速度と同じ速さ \(9.8\,\text{m/s}\) を持つ」状態とみなせる。

具体的な解説と立式
(1)より、屋上から最高点までにかかる時間は \(t_1 = 1.0\,\text{s}\) でした。
運動の対称性から、最高点から再び屋上の高さまで戻ってくる時間も \(1.0\,\text{s}\) です。
よって、小球が屋上の高さに戻ってくるのは、投げ上げてから \(1.0 + 1.0 = 2.0\,\text{s}\) 後です。
このとき、小球の速度は、下向きに初速度と同じ大きさ、つまり \(-9.8\,\text{m/s}\) となっています。

全行程の時間は \(3.0\,\text{s}\) なので、屋上から地面まで落下するのにかかった時間は、
$$ t_2 = 3.0 – 2.0 = 1.0\,\text{s} $$
です。
したがって、設問(2)と(3)は、「屋上から初速度 \(9.8\,\text{m/s}\) で鉛直下向きに投げ下ろした小球が、\(1.0\,\text{s}\) 後に地面に達する」という、より単純な問題に置き換えることができます。

この新しい問題設定で、鉛直下向きを正として計算します。
初速度 \(v_{0}’ = 9.8\,\text{m/s}\)、時間 \(t_2 = 1.0\,\text{s}\)、加速度 \(a=g=9.8\,\text{m/s}^2\) です。

設問(3) ビルの高さ \(H\) の計算

変位の公式 \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用います。
$$ H = v_{0}’ t_2 + \frac{1}{2}gt_2^2 $$
設問(2) 地面直前の速さ \(v\) の計算

速度の公式 \(v = v_0 + at\) を用います。
$$ v = v_{0}’ + gt_2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

ビルの高さ \(H\) の計算
$$
\begin{aligned}
H &= 9.8 \times 1.0 + \frac{1}{2} \times 9.8 \times (1.0)^2 \\[2.0ex]
&= 9.8 + 4.9 \\[2.0ex]
&= 14.7\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて \(15\,\text{m}\) となります。

地面直前の速さ \(v\) の計算
$$
\begin{aligned}
v &= 9.8 + 9.8 \times 1.0 \\[2.0ex]
&= 19.6\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて \(20\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールが上がって下がり、再び屋上の高さに戻ってくるまでをワンセットと考えます。(1)で最高点まで1秒と分かったので、屋上に戻ってくるまでには倍の2秒かかります。
問題全体では3秒かかったので、残りの1秒間で屋上から地面まで落ちたことになります。このとき、ボールは下向きに最初のスピード(\(9.8\,\text{m/s}\))を持っています。
この「屋上からボールを投げ下ろす1秒間の運動」として考え直すと、ビルの高さも地面での速さも簡単に計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。運動の対称性を見抜くことで、往復運動を含む複雑な設定を、単純な片道(投げ下ろし)の運動として捉え直すことができ、計算の見通しが良くなります。これは応用問題を解く上で非常に強力な考え方です。

解答 (2) \(20\,\text{m/s}\)
解答 (3) \(15\,\text{m}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法(設問(3))

思考の道筋とポイント
設問(2)で地面に達する直前の速さ \(v=19.6\,\text{m/s}\) が求まっているので、これを利用して力学的エネルギー保存則からビルの高さを逆算します。運動の始点(屋上)と終点(地面)でエネルギーの式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 地面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とする。
  • 始点(屋上)では、運動エネルギーと、未知の高さ \(H\) による位置エネルギーの両方を持つ。
  • 終点(地面)では、位置エネルギーは \(0\) となり、(2)で求めた速さによる運動エネルギーのみを持つ。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\)、ビルの高さを \(H\) とします。地面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。

– 始点(屋上)での力学的エネルギー \(E_{\text{屋上}}\)

初速度 \(v_0=9.8\,\text{m/s}\)、高さ \(H\) なので、
$$ E_{\text{屋上}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgH $$
– 終点(地面)での力学的エネルギー \(E_{\text{地面}}\)

(2)で求めた速さ \(v=19.6\,\text{m/s}\)、高さ \(0\) なので、
$$ E_{\text{地面}} = \frac{1}{2}mv^2 + mg \cdot 0 = \frac{1}{2}mv^2 $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{屋上}} = E_{\text{地面}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + mgH = \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、\(H\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v_0^2 + gH &= \frac{1}{2}v^2 \\[2.0ex]
gH &= \frac{1}{2}v^2 – \frac{1}{2}v_0^2 \\[2.0ex]
gH &= \frac{1}{2}(v^2 – v_0^2) \\[2.0ex]
H &= \frac{v^2 – v_0^2}{2g}
\end{aligned}
$$
この式に \(v=19.6\,\text{m/s}\), \(v_0=9.8\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{(19.6)^2 – (9.8)^2}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{(2 \times 9.8)^2 – (9.8)^2}{19.6} \\[2.0ex]
&= \frac{4 \times (9.8)^2 – 1 \times (9.8)^2}{19.6} \\[2.0ex]
&= \frac{3 \times (9.8)^2}{2 \times 9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{3 \times 9.8}{2} \\[2.0ex]
&= 3 \times 4.9 \\[2.0ex]
&= 14.7\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて \(15\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

(2)で地面にぶつかる直前の速さがわかったので、エネルギーの考え方を使ってビルの高さを逆算する方法です。「屋上にいたときのエネルギー(速さの分+高さの分)」と「地面に着いたときのエネルギー(速さの分だけ)」が等しいはずだ、という式を立てます。この式で唯一わからないのがビルの高さなので、計算で求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した \(15\,\text{m}\) という結果が得られました。この解法は、運動の公式とエネルギー保存則という二つの異なる物理法則が、互いに矛盾なく同じ現象を記述していることを示す良い例です。

解答 (3) \(15\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 座標系を伴う等加速度直線運動の法則
    • 核心: この問題の根幹は、鉛直投げ上げ運動を「座標軸上の運動」として捉え、物理量(位置、速度、加速度)の「向き」を「符号(プラス・マイナス)」に正しく変換して、等加速度直線運動の公式に適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 座標系の設定: 物理現象を数式に落とし込むための最初の、そして最も重要なステップです。原点(基準点)と正の向きを自分で決めることで、全ての物理量が意味を持ちます。
      • 符号の意味:
        • 速度の符号: 正の向きに進んでいるか、負の向きに進んでいるかを示す。
        • 変位の符号: 原点から見て、正の向きにいるか、負の向きにいるかを示す。
        • 加速度の符号: 常に重力の向き(この問題では負)を反映する。
      • 最高点の条件: 「最高点に達する」という日本語の表現を、「速度 \(v\) の鉛直成分が \(0\) になる」という物理の言葉(数式)に翻訳できることが不可欠です。
  • 変位と道のりの概念的区別
    • 核心: 「変位」と「道のり(距離や高さ)」は似て非なるものです。特に往復運動では、この違いを明確に意識することがミスを防ぐ鍵となります。
    • 理解のポイント:
      • 変位 (\(y\)): 結果が全て。スタート地点とゴール地点を直線で結んだベクトル量です。途中経過は問いません。屋上から出て地面に着いた場合、変位は屋上から地面への下向きのベクトルになります(計算結果は負)。
      • 道のり: 過程が全て。実際に物体が動いた軌跡の総距離です。常に正の値を取ります。
      • 問題との対応: (3)で求める「ビルの高さ」は、大きさなので正の値です。これは、計算で求めた最終的な「変位」の絶対値に相当します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射: 鉛直方向の運動は、この問題の鉛直投げ上げと全く同じです。最高点の高さやそこまでの時間、同じ高さに戻るまでの時間などを求める問題は、この問題の考え方をそのまま応用できます。
    • 動く座標系からの投射(気球など): 上昇中(または下降中)の気球から物体を放す問題では、物体の初速度は「地面に対する速度」で考える必要があります。つまり、「(気球の速度)+(気球から見た物体の初速度)」が、運動方程式を立てる上での真の初速度 \(v_0\) となります。
    • 衝突問題: 投げ上げた物体が、ある高さから自由落下してくる別の物体と衝突する時刻や位置を求める問題。それぞれの物体の位置を時間の関数(\(y_A(t)\), \(y_B(t)\))として表し、\(y_A(t) = y_B(t)\) となる時刻 \(t\) を解くことで求められます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 原点と正の向きを宣言する: 計算を始める前に、必ず図の隅にでも「原点は屋上、鉛直上向きを正とする」のように、自分のルールを書き込みます。これが全ての計算の基準となります。
    2. 運動のフェーズを分割する: 複雑な運動は、区切り目で分割して考えると見通しが良くなります。例えば、「上昇段階」「下降段階」「出発点より下への落下段階」のように分ける、あるいは別解のように「対称性を利用して往復運動と片道運動に分ける」といった視点が有効です。
    3. 物理的条件を数式化する: 「最高点に達する \(\rightarrow v=0\)」「地面に達する \(\rightarrow y = -H\)」「再び同じ高さに戻る \(\rightarrow y=0\)」のように、問題文のキーワードを数式条件に変換するリストを頭の中に持っておくと、スムーズに立式できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 加速度の符号ミス:
    • 誤解: 上昇中は減速するから加速度はマイナス、下降中は加速するからプラス、と考えてしまう。
    • 対策: 加速度は「力の向き」で決まります。物体に働く重力は、運動のどの段階(上昇中、最高点、下降中)であっても、常に鉛直下向きです。したがって、鉛直上向きを正と定めた以上、加速度は常に \(a=-g\) で一定です。これは等加速度直線運動であることの根幹なので、絶対に揺らいではいけません。
  • 最高点での加速度の誤解:
    • 誤解: 最高点では速度が \(v=0\) になるので、一瞬力が働かず、加速度も \(a=0\) になると思ってしまう。
    • 対策: 加速度は「速度の変化の度合い」です。最高点の前後で速度の向きは「上向き」から「下向き」へと劇的に変化しています。つまり、速度変化は最大級に起きています。力が働いているからこそ速度が変化するのであり、重力が働き続けている以上、加速度も最高点で \(a=-g\) のままです。
  • 変位と高さの混同:
    • 誤解: (3)で変位を計算して \(y=-14.7\,\text{m}\) と出たときに、符号の意味が分からず混乱したり、マイナスのまま答えてしまったりする。
    • 対策: 常に自分の設定した座標系に立ち返りましょう。「原点は屋上、上向きが正」なので、\(y\) がマイナスということは「屋上より下にいる」ことを意味します。「ビルの高さ」は長さなので、正の値で答えなければなりません。したがって、変位の大きさ(絶対値)をとって \(15\,\text{m}\) と答える必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(\(v=v_0+at\)):
    • 選定理由: 問題文の「最高点」というキーワードから、物理条件「\(v=0\)」を導き出します。求めたいのは「時間 \(t\)」です。既知の量 \(v_0, a\) と、条件 \(v=0\)、そして未知数 \(t\) を結びつける最も直接的な公式がこれだからです。
    • 適用根拠: この公式は、速度が時間 \(t\) の1次関数として変化するという、等加速度運動の定義そのものです。速度に関する条件から時間を求める際には、最も基本的な出発点となります。
  • (3)での公式選択(\(y=v_0t+\frac{1}{2}at^2\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「ビルの高さ」であり、これは「時刻 \(t=3.0\,\text{s}\) における変位 \(y\)」から分かります。既知の量 \(v_0, a, t\) と、未知数 \(y\) を結びつける公式がこれだからです。
    • 適用根拠: この公式は、物体の位置が時間の2次関数として変化することを示しており、途中で運動の向きが変わるような往復運動であっても、出発点からの最終的な位置(変位)を正しく計算できる普遍性を持っています。
  • 別解での対称性やエネルギー保存則の選択:
    • 選定理由: 運動の公式を一体的に適用すると計算が複雑になる場合や、異なる視点から検算したい場合に有効です。特に「運動の対称性」は、往復運動の時間を半分に短縮し、問題を単純な「投げ下ろし」に変換できるため、思考のショートカットとして非常に強力です。「エネルギー保存則」は、時間を含まない関係式なので、始点と終点の速さと高さの関係だけを知りたい場合に役立ちます。
    • 適用根拠: 「対称性」は、重力加速度が一定であることから数学的に保証される性質です。「エネルギー保存則」は、運動中に働く力が重力という保存力のみであるため、物理学の大原則として成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の指差し確認: 立式した \(y = v_0t – \frac{1}{2}gt^2\) のような式に対し、「初速度は上向き(正)だから \(+v_0t\)。加速度は下向き(負)だから \(-\frac{1}{2}gt^2\)。よし。」というように、各項の符号が自分の設定した座標系と物理現象に合致しているか、一つ一つ確認する癖をつけましょう。
  • 共通因数での整理: (2)の \(9.8 – 9.8 \times 3.0\) や (3)の \(9.8 \times 3.0 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (3.0)^2\) のような計算では、共通の数値(この場合は \(9.8\))でくくることで、計算の手間を減らし、ミスを防ぐことができます。例えば(3)は \(9.8 \times 3.0 \times (1 – \frac{1}{2} \times 3.0) = 29.4 \times (1 – 1.5) = 29.4 \times (-0.5) = -14.7\) と計算できます。
  • 別解による検算の習慣: もし時間に余裕があれば、主たる解法で得た答えを、別解(エネルギー保存則や運動の対称性)を使って検算してみましょう。例えば(3)で求めた高さ \(H=14.7\,\text{m}\) と(2)で求めた速さ \(v=19.6\,\text{m/s}\) が、エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 + mgH = \frac{1}{2}mv^2\) を満たすか確認する、といった作業です。答えが一致すれば、その解答に対する信頼度は格段に上がります。
  • 物理的な妥当性の吟味: 計算結果が出たら、それが物理的にあり得るかを考えます。「ビルの高さが負になる」「地面での速さが初速度より遅くなる」「最高点までの時間が全時間より長くなる」といった結果は明らかに間違いです。最後に簡単なチェックを行うことで、致命的なミスに気づくことができます。

基本例題6 水平投射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている運動を水平・鉛直成分に分解する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が速度の水平成分と鉛直成分をそれぞれ計算し、三平方の定理を用いて合成するのに対し、別解では運動の始点(屋上)と終点(地面)におけるエネルギー保存の関係から、地面に達する直前の速さを直接導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 運動を「各成分の時間変化の積み重ね」として捉える視点(運動の公式)と、「系全体のエネルギー状態の変化」として捉える視点(保存則)という、二つの異なるアプローチを学ぶことで、物理現象への理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 運動の途中経過(各時刻での速度や位置)が不要で、始点と終点の状態だけが重要な問題において、エネルギー保存則がいかに強力な解法ツールであるかを実感できます。
    • 解法の効率化: 成分の計算やベクトルの合成といった手順を省略し、スカラー量であるエネルギーの計算だけで速さを求められるため、問題によっては計算を大幅に簡略化できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「水平投射の運動解析」です。物体を水平方向に投げ出した後の放物運動を扱います。この運動を、互いに独立した2つの単純な直線運動の組み合わせとして捉えることが解析の鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解: 水平投射の運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「自由落下運動」という2つの運動に分解して考えること。
  2. 運動の独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、互いに影響を及ぼさないという原理を理解していること。
  3. 時間の共通性: 水平方向と鉛直方向の運動は、時間 \(t\) という共通の変数によって関連付けられていること。鉛直方向に落下する時間と、水平方向に進む時間は等しい。
  4. 速度の合成: ある時刻の物体の速さは、その時刻における水平方向の速度成分と鉛直方向の速度成分を、ベクトルとして合成(三平方の定理を利用)することで求められること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、地面に達するまでの時間は鉛直方向の運動だけで決まるため、高さ \(19.6\,\text{m}\) の自由落下運動として時間を計算します。
  2. (2)では、(1)で求めた時間を使って、その間に水平方向(等速直線運動)にどれだけの距離を進んだかを計算します。
  3. (3)では、(1)で求めた時間における鉛直方向の速度を計算し、常に一定である水平方向の速度と合成して、地面に達する直前の速さを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
投げ出してから地面に達するまでの時間を求めます。この時間は、物体の鉛直方向の運動のみによって決まります。水平方向にどれだけ速く投げ出されたとしても、地面に達するまでの時間は、同じ高さから真下にそっと落とした場合と全く同じです。したがって、この問題は「高さ \(19.6\,\text{m}\) からの自由落下」として考えることができます。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直方向の運動は、初速度 \(0\) の自由落下運動である。
  • 水平方向の初速度 \(14.7\,\text{m/s}\) は、この設問の計算には影響しない(運動の独立性)。
  • 座標軸は、投げ出した点を原点とし、鉛直下向きを正とすると計算が簡潔になる。

具体的な解説と立式
投げ出した点を原点とし、鉛直下向きを \(y\) 軸の正の向きとします。
この設定では、鉛直方向の運動は初速度 \(v_{0y}=0\)、加速度 \(a_y = g = 9.8\,\text{m/s}^2\) の等加速度直線運動(自由落下)となります。
地面に達したとき、鉛直方向の変位はビルの高さに等しいので \(y = 19.6\,\text{m}\) です。
変位の公式 \(y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}a_y t^2\) にこれらの値を代入します。
$$ y = \frac{1}{2}gt^2 $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
計算過程

上記で立式した \(y = \displaystyle\frac{1}{2}gt^2\) に、\(y=19.6\,\text{m}\)、\(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入して \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
19.6 &= \frac{1}{2} \times 9.8 \times t^2 \\[2.0ex]
19.6 &= 4.9 \times t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{19.6}{4.9} \\[2.0ex]
t^2 &= 4.0
\end{aligned}
$$
\(t>0\) なので、
$$ t = 2.0\,\text{s} $$
したがって、地面に達するまでの時間は \(2.0\,\text{s}\) です。

この設問の平易な説明

ボールを真横に投げても、真下にそっと落としても、地面に落ちるまでの時間は同じです。これは物理の面白い法則です。なので、この問題は単純に「高さ\(19.6\,\text{m}\)のビルから物を落としたら何秒で地面に着くか?」という問題と同じように解くことができます。

結論と吟味

計算結果は \(2.0\,\text{s}\) となりました。これは物理的に妥当な時間です。水平投射の問題では、まず鉛直方向の運動に着目して時間を求める、という流れが基本となります。

解答 (1) \(2.0\,\text{s}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小球がビルの前方何mの地点に達するか、つまり水平方向の到達距離を求めます。水平方向には重力のような力が働かないため、小球は投げ出されたときの速さ \(14.7\,\text{m/s}\) のまま飛び続けます(等速直線運動)。(1)で求めた時間 \(t=2.0\,\text{s}\) の間に、この一定の速さでどれだけ進んだかを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 水平方向の運動は、力が働かないため等速直線運動である。
  • 水平方向の速さは、常に初速度の \(v_x = 14.7\,\text{m/s}\) で一定。
  • (1)で求めた落下時間 \(t\) を用いる。

具体的な解説と立式
投げ出した点を原点とし、水平右向きを \(x\) 軸の正の向きとします。
水平方向の運動は、初速度 \(v_x = 14.7\,\text{m/s}\)、加速度 \(a_x = 0\) の等速直線運動です。
水平到達距離 \(x\) は、時間 \(t\) の間に速さ \(v_x\) で進んだ距離なので、
$$ x = v_x t $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の距離の式: \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\)
計算過程

上記で立式した \(x = v_x t\) に、\(v_x = 14.7\,\text{m/s}\)、\(t=2.0\,\text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x &= 14.7 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 29.4\,\text{m}
\end{aligned}
$$
問題文で与えられた数値の有効数字は2桁または3桁ですが、模範解答の形式に合わせて2桁とすると、\(29\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールは、空中にいる \(2.0\) 秒の間、水平方向には秒速 \(14.7\,\text{m}\) のスピードでずっと進み続けます。なので、単純な「距離=速さ×時間」の計算で、ビルからどれだけ離れた場所に着地したかがわかります。

結論と吟味

水平到達距離は \(29.4\,\text{m}\) と求まりました。有効数字を考慮して \(29\,\text{m}\) となります。このように、水平投射の運動は、時間 \(t\) を共通のパラメータとして、鉛直方向と水平方向の運動を独立に扱うことで解析できます。

解答 (2) \(29\,\text{m}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
地面に達する直前の小球の「速さ」を求めます。この瞬間の小球の速度は、水平方向の速度成分 \(v_x\) と鉛直方向の速度成分 \(v_y\) の両方を持っています。\(v_x\) は常に一定ですが、\(v_y\) は自由落下によって時間とともに増加します。これら2つの速度成分をベクトルとして合成し、その大きさ(速さ)を三平方の定理を用いて求めます。
この設問における重要なポイント

  • 地面直前の速度は、水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を持つ。
  • 水平成分 \(v_x\) は、初速度と同じ \(14.7\,\text{m/s}\) で一定。
  • 鉛直成分 \(v_y\) は、時間 \(t=2.0\,\text{s}\) 後の自由落下の速度。
  • 速さ \(v\) は、\(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) で計算する。

具体的な解説と立式
地面に達する直前の時刻は \(t=2.0\,\text{s}\) です。

水平方向の速度成分 \(v_x\)

等速直線運動なので、常に一定です。
$$ v_x = 14.7\,\text{m/s} $$
鉛直方向の速度成分 \(v_y\)

自由落下運動の速度の式 \(v_y = gt\) を用います。
$$ v_y = gt $$
速さ \(v\) の合成

\(v_x\) と \(v_y\) は互いに直交しているので、三平方の定理を用いて合成後の速さ \(v\) を求めます。
$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
  • 三平方の定理
計算過程

まず、鉛直方向の速度成分 \(v_y\) を求めます。\(g=9.8\,\text{m/s}^2\)、\(t=2.0\,\text{s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_y &= 9.8 \times 2.0 \\[2.0ex]
&= 19.6\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
次に、\(v_x = 14.7\,\text{m/s}\) と \(v_y = 19.6\,\text{m/s}\) を合成して速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(14.7)^2 + (19.6)^2}
\end{aligned}
$$
ここで、数値の計算を工夫します。\(14.7 = 3 \times 4.9\)、\(19.6 = 4 \times 4.9\) であることに気づくと、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(3 \times 4.9)^2 + (4 \times 4.9)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{3^2 \times (4.9)^2 + 4^2 \times (4.9)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(3^2 + 4^2) \times (4.9)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{(9 + 16) \times (4.9)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{25 \times (4.9)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{5^2 \times (4.9)^2} \\[2.0ex]
&= 5 \times 4.9 \\[2.0ex]
&= 24.5\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(25\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

地面にぶつかる瞬間、ボールは「前に進む速さ(\(14.7\,\text{m/s}\))」と「下に落ちる速さ(\(19.6\,\text{m/s}\))」の両方を持っています。この2つの速度は直角をなしているので、ピタゴラスの定理(三平方の定理)を使って、斜め方向の合成された本当の速さを計算することができます。

結論と吟味

地面に達する直前の速さは \(24.5\,\text{m/s}\)(有効数字2桁で \(25\,\text{m/s}\))と求まりました。投げ出したときの速さ \(14.7\,\text{m/s}\) よりも大きくなっており、落下によって加速したことがわかります。物理的に妥当な結果です。

解答 (3) \(25\,\text{m/s}\)
別解: 力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
運動の始点(屋上)と終点(地面)の間で、力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が保存されることを利用して、地面に達する直前の速さ \(v\) を直接求めます。この方法では、運動を成分に分解したり、時間を計算したりする必要がありません。
この設問における重要なポイント

  • 空気抵抗を無視すれば、重力のみが仕事をするため力学的エネルギーは保存される。
  • 位置エネルギーの基準点を明確に設定する(ここでは地面を基準とする)。
  • 始点(屋上)では、運動エネルギーと位置エネルギーの両方を持つ。
  • 終点(地面)では、位置エネルギーが \(0\) になり、すべてが運動エネルギーに変換される。

具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\) とします。地面を位置エネルギーの基準(高さ \(0\))とします。
ビルの高さは \(h = 19.6\,\text{m}\)、屋上での初速の速さは \(v_0 = 14.7\,\text{m/s}\) です。

始点(屋上)での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\)

運動エネルギーと位置エネルギーの和なので、
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh $$
終点(地面)での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\)

地面直前の速さを \(v\) とすると、
$$ E_{\text{終}} = \frac{1}{2}mv^2 $$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) なので、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + mgh = \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = (\text{一定})\)
計算過程

上記で立式した式の両辺を \(m\) で割り、\(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v_0^2 + gh &= \frac{1}{2}v^2 \\[2.0ex]
v^2 &= v_0^2 + 2gh
\end{aligned}
$$
この式に、\(v_0 = 14.7\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\), \(h=19.6\,\text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= (14.7)^2 + 2 \times 9.8 \times 19.6 \\[2.0ex]
&= (14.7)^2 + 19.6 \times 19.6 \\[2.0ex]
&= (14.7)^2 + (19.6)^2
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法で \(v^2 = v_x^2 + v_y^2\) を計算した式と全く同じ形になっています。
(ここで \(v_x = v_0\)、\(v_y^2 = 2gh\) という関係が成り立っています)
したがって、これ以降の計算は主たる解法と同じです。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(14.7)^2 + (19.6)^2} \\[2.0ex]
&= 24.5\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(25\,\text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

物理には「エネルギー」という便利な考え方があります。屋上にいたときのボールが持っていた「速さのエネルギー」と「高さのエネルギー」の合計は、地面にぶつかる直前の「速さのエネルギー」と等しくなります。この「エネルギーの総量は変わらない」という法則を使うと、運動の途中の様子を考えなくても、最後の速さを一気に計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(25\,\text{m/s}\) という結果が得られました。この別解は、最終的な速さだけを問う問題に対して、エネルギー保存則が非常に有効なアプローチであることを示しています。計算過程もスカラー量のみで完結するため、ベクトルの合成が苦手な場合にも有効な手段です。

解答 (3) \(25\,\text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の分解という思考法
    • 核心: 一見複雑に見える2次元の放物運動を、互いに直交する2つの単純な1次元運動、すなわち水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「自由落下運動」に分解して考えること。これが、水平投射をはじめとする放物運動を解析するための最も根幹的なアプローチです。
    • 理解のポイント:
      • なぜ分解できるのか: 物体に働く力が鉛直下向きの重力のみであるためです。水平方向には力が働かないので、速度は変化せず(等速直線運動)、鉛直方向には常に一定の力(重力)が働くので、一定の加速度で速度が変化します(等加速度直線運動)。
      • 独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、互いに干渉しません。例えば、水平方向の初速度が2倍になっても、地面に落下するまでの時間は全く変わりません。
  • 時間の共通性
    • 核心: 分解された2つの独立した運動は、唯一「時間 \(t\)」という共通の変数によって結び付けられています。
    • 理解のポイント:
      • 解法の流れ: この「時間の共通性」が、問題を解く上でのシナリオを決定します。多くの場合、「① 鉛直方向の運動(自由落下)から、落下時間 \(t\) を求める」→「② その時間 \(t\) を使って、水平方向の運動(等速直線運動)の距離や、その時刻の速度成分を求める」という流れになります。
      • 物理的イメージ: 物体が水平に進んでいる間、同時に鉛直方向にも落下している、というイメージを持つことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜方投射: 水平投射のより一般的なケースです。初速度を水平成分 \(v_0 \cos\theta\) と鉛直成分 \(v_0 \sin\theta\) に分解する点だけが異なります。水平方向は「等速直線運動」、鉛直方向は「鉛直投げ上げ運動」となり、この問題で使った「運動の分解」という考え方がそのまま適用できます。
    • 電場中での荷電粒子の運動: 一様な電場の中に、電場の向きと垂直に荷電粒子を入射させる問題は、数学的には水平投射と全く同じ構造をしています。重力加速度 \(g\) の役割を、電場による加速度 \(a = \displaystyle\frac{qE}{m}\) が担うだけです。物理現象は異なりますが、解法は完全に流用できます。
    • 流水中の船の運動: 川岸に対して垂直に進もうとする船の運動も、船自身の速度(等速)と川の流れの速度(等速)の合成として考えるため、運動の分解という点で共通の思考法を用います。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の設定: まず、原点とx軸(水平方向)、y軸(鉛直方向)の正の向きを定めます。通常、投げ出した点を原点とし、水平方向をx軸の正、鉛直下向きをy軸の正とすると、全ての物理量が正の値となり計算が簡単になります。
    2. 運動の成分別整理: 頭の中を整理するために、水平方向(x)と鉛直方向(y)に分けて、それぞれの運動の種類(等速か、等加速度か)と初期条件(初速度、加速度)を書き出すとミスが減ります。
    3. 「時間」を求めることを第一目標に: 多くの場合、運動時間を求めることが問題を解く鍵となります。水平投射では、鉛直方向の落下高さから時間を求めるのが定石です。
    4. 速度の合成を忘れない: 最終的な「速さ」を問われた場合は、必ず水平成分 \(v_x\) と鉛直成分 \(v_y\) を求めた後、三平方の定理 \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) で合成する、という最後のステップを忘れないようにしましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 水平速度と落下時間の関係の誤解:
    • 誤解: 水平方向の初速度が大きいほど、遠くまで飛ぶので、地面に落ちるまでの時間も長くなるだろう、と直感的に考えてしまう。
    • 対策: 「落下時間は、落下する高さのみで決まる」という原理を徹底して理解しましょう。水平方向の運動と鉛直方向の運動は独立しています。同じ高さから、弾丸を水平に発射するのと同時に、もう一つの弾丸を真下に自由落下させると、両者は同時に地面に到達する、という有名な思考実験をイメージすると記憶に定着しやすくなります。
  • 速度と速さの混同:
    • 誤解: (3)で、地面に達する直前の鉛直方向の速度 \(v_y = 19.6\,\text{m/s}\) を計算した時点で、これを答えとしてしまう。
    • 対策: 「速度」は向きを持つベクトル量、「速さ」はその大きさであるスカラー量であることを常に意識しましょう。2次元の運動において「速さ」を問われたら、それは合成速度の大きさを意味します。必ず、水平成分と鉛直成分を合成するプロセスが必要であることを肝に銘じましょう。
  • 三平方の定理の計算での工夫不足:
    • 誤解: (3)の \(\sqrt{(14.7)^2 + (19.6)^2}\) のような計算を、真正面から筆算して二乗を計算し、時間を浪費したり計算ミスをしたりする。
    • 対策: 物理の入試問題で出てくる数値は、計算が楽になるように作られていることが多いです。特に三平方の定理では、有名な辺の比(3:4:5, 5:12:13, 1:√3:2など)が隠れていないか、まず疑う癖をつけましょう。\(14.7\) と \(19.6\) を見て、両者を割り切れる共通の数(この場合は\(4.9\))を見つけ出し、比を簡単にするというテクニックは非常に有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(鉛直方向の変位式):
    • 選定理由: 目的は「時間 \(t\)」を求めることです。問題で与えられているのは鉛直方向の情報(高さ \(h\))なので、鉛直方向の運動に着目するのは自然な流れです。鉛直方向の運動は自由落下であり、既知の量(\(h, g, v_{0y}=0\))と未知数 \(t\) を結びつける最も直接的な公式が \(h = \frac{1}{2}gt^2\) だからです。
    • 適用根拠: この公式は、鉛直方向の運動が水平方向の運動とは独立に、重力という一定の力の下で行われる等加速度直線運動であることを根拠としています。
  • (2)での公式選択(水平方向の変位式):
    • 選定理由: 目的は水平方向の「距離 \(x\)」を求めることです。水平方向の運動は等速直線運動であり、その速さ \(v_x\) は常に一定です。(1)で求めた「時間 \(t\)」が分かっているので、距離、速さ、時間を結びつける最も単純な公式 \(x = v_x t\) を選択します。
    • 適用根拠: 水平方向には力が作用しない(空気抵抗は無視)ため、運動量保存則から速度は一定に保たれます。これが等速直線運動であることの根拠です。
  • 別解でのエネルギー保存則の選択:
    • 選定理由: (3)で求めたいのは、地面に達する「瞬間」の速さであり、そこに至るまでの時間や軌跡といった途中経過は問いません。このように、運動の始点と終点の状態だけを結びつけたい場合に、エネルギー保存則は非常に強力なツールとなります。速度の成分分解や合成といったベクトル的な操作を回避し、スカラー量であるエネルギーだけで計算できるため、思考がシンプルになります。
    • 適用根拠: 運動の過程で物体に仕事をする力は、保存力である重力のみです。したがって、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は、運動のどの瞬間においても一定に保たれる、という物理学の大原則が適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 運動の成分別・整理表の作成: 計算を始める前に、以下のような簡単な表を問題用紙の隅に書くことを習慣にしましょう。
    水平方向 (x) 鉛直方向 (y)
    運動の種類 等速直線運動 自由落下
    初速度 \(v_x = 14.7\) \(v_{0y} = 0\)
    加速度 \(a_x = 0\) \(a_y = +g\)

    このように情報を視覚的に整理することで、頭がクリアになり、使うべき公式や代入する数値を間違えるリスクを大幅に減らせます。

  • 比の活用を常に意識する: (3)の計算のように、三平方の定理を使う場面では、まず辺の比を考えましょう。\(14.7 : 19.6\) を見て、両方が約 \(5\) で割れそうだと気づけば、\(14.7 \div 4.9 = 3\)、\(19.6 \div 4.9 = 4\) となり、\(3:4\) の比が見つかります。したがって、斜辺の比は \(5\) になるので、実際の速さは \(5 \times 4.9 = 24.5\) と、複雑な二乗計算をせずに求めることができます。
  • 単位による検算: 式を立てた後、単位だけで計算が成り立つかを確認する癖をつけましょう。例えば(1)で \(t = \sqrt{2y/g}\) という式を立てた場合、ルートの中の単位は \([\text{m}] / [\text{m/s}^2] = [\text{s}^2]\) となり、ルートを外すと \([\text{s}]\) となって時間の単位と一致します。もし単位が合わなければ、その時点で式の立て間違いに気づくことができます。

基本例題7 斜方投射

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解1: 水平到達距離の公式を用いる解法
      • 模範解答が最高点までの時間から全飛行時間を計算するのに対し、別解では水平到達距離を直接求める公式に値を代入して一気に計算します。
    • 設問(3)の別解2: y座標が0になる条件から全飛行時間を求める解法
      • 模範解答が運動の「対称性」という物理的性質を利用するのに対し、別解では「地面に達する=\(y\)座標が\(0\)になる」という数学的な条件から二次方程式を解いて全飛行時間を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 公式の導出過程や、物理的性質(対称性)と数学的条件(\(y=0\))が同じ結果を導くことへの理解が深まります。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、複数の視点(時間経過を追う、公式を適用する、数学的条件で解く)からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の効率化: 公式を知っていれば、計算ステップを大幅に削減できる場合があることを学べます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「斜方投射の運動解析」です。水平投射の応用として、初速度が鉛直成分を持つ場合の放物運動を扱います。水平投射と同様に、運動を水平・鉛直の\(2\)方向に分解して考えるのが基本戦略です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 初速度の分解: 三角比を用いて、斜め向きの初速度 \(v_0\) を水平成分 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\) と鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\) に正しく分解できること。
  2. 運動の分解と独立性: 斜方投射の運動を、水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「鉛直投げ上げ運動」の組み合わせとして捉え、両者が互いに影響しないことを理解していること。
  3. 最高点の条件: 最高点では、鉛直方向の速度成分のみが一時的に \(0\) になる (\(v_y=0\)) ことを理解していること。水平方向の速度は最高点でも \(v_{0x}\) のままである。
  4. 運動の対称性: 打ち上げ地点と着地点が同じ高さの場合、上昇にかかる時間と下降にかかる時間は等しく、全飛行時間は最高点到達時間の\(2\)倍になるという性質を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず初速度を\(x\), \(y\)成分に分解します。その後、水平方向は等速直線運動、鉛直方向は鉛直投げ上げ運動の公式に、与えられた時間 \(t=0.20\,\text{s}\) を代入して、各成分の速度と位置を計算します。
  2. (2)では、「最高点では鉛直方向の速度が\(0\)になる」という条件を、鉛直方向の速度の式に適用して時間を求めます。
  3. (3)では、運動の対称性を利用し、(2)で求めた最高点までの時間を\(2\)倍して全飛行時間を求め、その時間と水平方向の一定の速度から水平到達距離を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
斜方投射の解析は、まず初速度を水平(\(x\))成分と鉛直(\(y\))成分に分解することから始まります。分解した後は、\(x\)方向と\(y\)方向の運動をそれぞれ独立に考えます。与えられた時刻 \(t=0.20\,\text{s}\) を、\(x\)方向(等速直線運動)と\(y\)方向(鉛直投げ上げ運動)の各公式に代入することで、その時刻の速度成分と位置座標を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 初速度 \(v_0=40\,\text{m/s}\) を \(v_{0x} = v_0 \cos 30^\circ\)、\(v_{0y} = v_0 \sin 30^\circ\) に分解する。
  • \(x\)方向: 速度は常に \(v_{0x}\) で一定。位置は \(x = v_{0x} t\)。
  • \(y\)方向: 初速度 \(v_{0y}\) の鉛直投げ上げ。速度は \(v_y = v_{0y} – gt\)、位置は \(y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2\)。
  • \(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて計算し、有効数字に注意する。

具体的な解説と立式
まず、初速度 \(v_0 = 40\,\text{m/s}\) の\(x\)成分と\(y\)成分を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{0x} &= 40 \cos 30^\circ \\[2.0ex]
&= 40 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]
&= 20\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
v_{0y} &= 40 \sin 30^\circ \\[2.0ex]
&= 40 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
&= 20
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いると、\(v_{0x} \approx 20 \times 1.73 = 34.6\,\text{m/s}\) となります。

時刻 \(t=0.20\,\text{s}\) 後の速度と位置を各成分について計算します。

速度の\(x\)成分 \(v_x\): 水平方向は等速直線運動なので、速度は常に一定です。
$$ v_x = v_{0x} $$
速度の\(y\)成分 \(v_y\): 鉛直方向は鉛直投げ上げ運動なので、
$$ v_y = v_{0y} – gt $$
位置の\(x\)座標 \(x\):
$$ x = v_{0x} t $$
位置の\(y\)座標 \(y\):
$$ y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2 $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の公式: \(x = vt\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\), \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

各値を代入して計算します。

速度の\(x\)成分 \(v_x\)
$$ v_x = 34.6\,\text{m/s} $$
有効数字\(2\)桁で \(35\,\text{m/s}\) となります。

速度の\(y\)成分 \(v_y\)
$$
\begin{aligned}
v_y &= 20 – 9.8 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 20 – 1.96 \\[2.0ex]
&= 18.04\,\text{m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で \(18\,\text{m/s}\) となります。

位置の\(x\)座標 \(x\)
$$
\begin{aligned}
x &= 34.6 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 6.92\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で \(6.9\,\text{m}\) となります。

位置の\(y\)座標 \(y\)
$$
\begin{aligned}
y &= 20 \times 0.20 – \frac{1}{2} \times 9.8 \times (0.20)^2 \\[2.0ex]
&= 4.0 – 4.9 \times 0.040 \\[2.0ex]
&= 4.0 – 0.196 \\[2.0ex]
&= 3.804\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で \(3.8\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

斜めに飛ぶボールの動きを、「横に進む動き」と「縦に上がったり下がったりする動き」の\(2\)つに分けて考えます。まず、最初の斜め\(40\,\text{m/s}\)のスピードを、横方向と縦方向のスピードに分解します。
横方向はずっと同じスピードで進み、縦方向は重力でだんだん遅くなります。この\(2\)つのルールに従って、\(0.20\)秒後には「横方向の速さと位置はいくつか」「縦方向の速さと位置はいくつか」をそれぞれ計算すれば答えが出ます。

結論と吟味

計算結果は、速度の\(x\), \(y\)成分がそれぞれ \(35\,\text{m/s}\), \(18\,\text{m/s}\)、位置の\(x\), \(y\)座標がそれぞれ \(6.9\,\text{m}\), \(3.8\,\text{m}\) となりました。打ち上げ直後なので、\(y\)方向の速度はまだ正であり、位置も正の値となっています。物理的に妥当な結果です。

解答 (1) 速度の\(x\)成分: \(35\,\text{m/s}\), \(y\)成分: \(18\,\text{m/s}\), 位置の\(x\)座標: \(6.9\,\text{m}\), \(y\)座標: \(3.8\,\text{m}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
打ち上げてから最高点に達するまでの時間を求めます。「最高点」とは、軌道の最も高い点であり、そこでは鉛直方向の速度成分 \(v_y\) が一瞬だけ \(0\) になります。この物理的な条件を、鉛直方向の速度の式に適用して時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 最高点での物理的条件は \(v_y = 0\) である。
  • 水平方向の速度 \(v_x\) は最高点でも \(0\) にはならず、一定のままである。
  • 鉛直方向の運動(鉛直投げ上げ)にのみ着目して計算する。

具体的な解説と立式
鉛直方向の運動について考えます。初速度は \(v_{0y} = 20\,\text{m/s}\)、加速度は \(a_y = -g = -9.8\,\text{m/s}^2\) です。
最高点では \(v_y = 0\) となるので、速度の式 \(v_y = v_{0y} – gt\) にこの条件を代入します。
$$ 0 = v_{0y} – gt $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

上記で立式した式を \(t\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
gt &= v_{0y} \\[2.0ex]
t &= \frac{v_{0y}}{g}
\end{aligned}
$$
ここに \(v_{0y} = 20\,\text{m/s}\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{20}{9.8} \\[2.0ex]
&= 2.040\dots\,\text{s}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えるため、小数第\(2\)位を四捨五入して \(2.0\,\text{s}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールが一番高い点に達したとき、縦方向のスピードだけが一瞬ゼロになります。縦方向の動きは、初速\(20\,\text{m/s}\)で真上に投げたボールと同じです。このボールのスピードが重力によってゼロになるまでの時間を計算すればよい、というわけです。

結論と吟味

最高点までの時間は \(2.0\,\text{s}\) と求まりました。初速度が \(20\,\text{m/s}\) で、重力加速度が約 \(10\,\text{m/s}^2\) なので、約\(2\)秒で速度が\(0\)になるというのは直感とも一致し、妥当な結果です。

解答 (2) \(2.0\,\text{s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
地面に達したときの水平到達距離を求めます。打ち上げた地点と着地した地点が同じ高さであるため、この運動は対称的な放物線を描きます。したがって、最高点に達するまでの時間と、最高点から地面に落下するまでの時間は等しくなります。この「対称性」を利用して全飛行時間を求め、その時間と一定である水平速度から到達距離を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 運動の対称性から、全飛行時間 \(T\) は最高点までの時間 \(t\) の\(2\)倍になる (\(T=2t\))。
  • 水平方向の速度 \(v_x\) は飛行中ずっと一定である。
  • 水平到達距離 \(R\) は \(R = v_x T\) で計算できる。

具体的な解説と立式
(2)で求めた最高点までの時間 \(t \approx 2.04\,\text{s}\) を用います。(有効数字の処理は最後の計算で行うため、途中計算では多めの桁数を使います)
運動の対称性より、全飛行時間 \(T\) は、
$$ T = 2t $$
この時間 \(T\) の間に、小球は水平方向に速さ \(v_x\) の等速直線運動をします。水平到達距離を \(R\) とすると、
$$ R = v_x T $$

使用した物理公式

  • 等速直線運動の距離の式: \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\)
計算過程

まず、全飛行時間 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= 2 \times 2.04 \\[2.0ex]
&= 4.08\,\text{s}
\end{aligned}
$$
次に、水平到達距離 \(R\) を計算します。\(v_x = 34.6\,\text{m/s}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
R &= 34.6 \times 4.08 \\[2.0ex]
&= 141.168\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えるため、\(1.4 \times 10^2\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

ボールが上がって一番高いところまで行く時間と、そこから地面まで下りてくる時間は同じです。なので、(2)で求めた時間を\(2\)倍すれば、ボールが空中にいた合計時間がわかります。ボールはその間ずっと一定の横スピードで進んでいるので、「横スピード × 合計時間」で、どれだけ遠くまで飛んだかを計算できます。

結論と吟味

水平到達距離は約 \(141\,\text{m}\) となり、有効数字を考慮して \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\) となります。野球のホームランのような飛距離であり、初速\(40\,\text{m/s}\)(時速\(144\,\text{km}\))という設定を考えると、物理的に妥当な値です。

解答 (3) \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\)
別解1: 水平到達距離の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
打ち上げ地点と着地点が同じ高さの場合に限り、水平到達距離 \(R\) を直接計算できる公式 \(R = \displaystyle\frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) があります。この公式を覚えていれば、(2)の計算を経由せずに直接答えを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 公式 \(R = \displaystyle\frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) が適用できる条件(打ち上げ点と着地点が同じ高さ)を満たしていることを確認する。
  • 三角関数の倍角の公式 \(\sin(2\theta)\) を正しく計算する。

具体的な解説と立式
水平到達距離の公式は以下の通りです。
$$ R = \frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g} $$

使用した物理公式

  • 斜方投射の水平到達距離の公式: \(R = \displaystyle\frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\)
計算過程

公式に \(v_0 = 40\,\text{m/s}\), \(\theta = 30^\circ\), \(g=9.8\,\text{m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{40^2 \times \sin(2 \times 30^\circ)}{9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{1600 \times \sin(60^\circ)}{9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{1600 \times \frac{\sqrt{3}}{2}}{9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{800\sqrt{3}}{9.8}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
R &\approx \frac{800 \times 1.73}{9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{1384}{9.8} \\[2.0ex]
&= 141.22\dots\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で答えると \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

物理には、この問題のように「同じ高さから投げて、同じ高さに戻ってくる」という特別な場合にだけ使える、飛距離を一発で計算できる便利な公式があります。初めの速さ、角度、重力加速度をその公式に入れるだけで、時間を計算しなくても答えが出せます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致した結果が得られました。この公式は、時間 \(t\) を消去することで導出されるため、時間を求める必要がない場合に非常に効率的です。

解答 (3) \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\)
別解2: y座標が0になる条件から全飛行時間を求める解法

思考の道筋とポイント
運動の「対称性」を使わずに、より数学的に全飛行時間を求める方法です。「地面に達する」という条件は、\(y\)座標が再び \(0\) になることと同じです。そこで、\(y\)座標の式 \(y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2\) が \(0\) になる時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 地面に達する条件は \(y=0\) である。
  • \(y=0\) となる時間についての二次方程式を解くと、解が\(2\)つ(\(t=0\) と \(t=T\))得られる。

具体的な解説と立式
鉛直方向の変位の式 \(y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2\) において、地面に達する時刻 \(T\) では \(y=0\) となります。
$$ 0 = v_{0y}T – \frac{1}{2}gT^2 $$
この \(T\) についての方程式を解きます。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

上記の方程式を \(T\) で因数分解します。
$$ T \left( v_{0y} – \frac{1}{2}gT \right) = 0 $$
この方程式の解は、
$$ T=0 \quad \text{または} \quad v_{0y} – \frac{1}{2}gT = 0 $$
\(T=0\) は打ち上げた瞬間の時刻なので、求める全飛行時間は後者の式から得られます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}gT &= v_{0y} \\[2.0ex]
T &= \frac{2v_{0y}}{g}
\end{aligned}
$$
この式は、(2)で求めた最高点までの時間 \(t = \frac{v_{0y}}{g}\) のちょうど\(2\)倍になっており、運動の対称性が数式の上からも確認できます。

これ以降の計算は主たる解法と同じです。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2 \times 20}{9.8} \\[2.0ex]
&= \frac{40}{9.8} \\[2.0ex]
&\approx 4.08\,\text{s}
\end{aligned}
$$
水平到達距離 \(R\) は、
$$
\begin{aligned}
R &= v_x T \\[2.0ex]
&= 34.6 \times 4.08 \\[2.0ex]
&\approx 141\,\text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字\(2\)桁で \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\) となります。

この設問の平易な説明

「地面に戻ってくる」ということは、ボールの高さ(\(y\))が再び\(0\)になるということです。高さの式を「\(=0\)」とおいて、時間を計算します。すると答えが\(2\)つ出てきます。\(1\)つはスタートの「\(0\)秒」、もう\(1\)つが地面に戻ってきたときの時間です。この時間を使っても、飛距離を計算できます。

結論と吟味

主たる解法と同じ結果が得られました。この方法は、運動の対称性が使えない非対称な場合(例えば、崖の上から斜め上に投げ上げる場合など)にも応用できる、より一般的で強力な考え方です。

解答 (3) \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の分解と初速度の成分分解
    • 核心: 斜方投射は、水平投射の考え方を一般化したものです。根幹にあるのは、斜め方向の初速度 \(v_0\) を、水平(\(x\))成分 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\) と鉛直(\(y\))成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\) に分解し、\(2\)つの独立した運動として扱う「運動の分解」の思考法です。
    • 理解のポイント:
      • 水平方向: 力が働かないため、初速度 \(v_{0x}\) のままの「等速直線運動」。
      • 鉛直方向: 重力のみが働くため、初速度 \(v_{0y}\) での「鉛直投げ上げ運動」。
      • 合成: これら\(2\)つの単純な運動が、共通の時間 \(t\) の下で同時に起こることで、放物線という\(2\)次元の軌道が描かれます。
  • 最高点と運動の対称性
    • 核心: 斜方投射の運動を特徴づける重要な物理的性質を理解し、数式に落とし込むことが重要です。
    • 理解のポイント:
      • 最高点の条件: 軌道の頂点では、上昇から下降へと転じるため、鉛直方向の速度成分のみが一時的に \(0\) になります (\(v_y=0\))。この条件は、最高点までの時間を求める上で決定的な役割を果たします。水平方向の速度は最高点でも変化しません。
      • 運動の対称性: 打ち上げ地点と着地点が同じ高さの場合に限り、運動は最高点を軸として左右対称になります。これにより、「上昇時間 \(=\) 下降時間」となり、「全飛行時間 \(=\) \(2 \times\) (最高点までの時間)」という非常に便利な関係が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 崖の上からの斜方投射: 打ち上げ地点と着地点の高さが異なる、より一般的な問題です。この場合、運動の対称性は使えません。しかし、「地面に達する \(\rightarrow\) \(y\)座標が崖の高さ分だけ負になる」という条件を鉛直方向の変位の式に代入し、\(t\) に関する二次方程式を解くことで、全飛行時間を求めることができます(別解2の考え方を応用)。
    • 水平到達距離が最大になる角度: 水平到達距離の公式 \(R = \displaystyle\frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) から、\(\sin(2\theta)\) が最大値 \(1\) をとるとき、つまり \(2\theta=90^\circ \rightarrow \theta=45^\circ\) のときに到達距離が最大になる、という有名な結論を導く問題に応用できます。
    • 特定の点を通過する条件: 「壁に当たるときの高さ」や「特定の座標 \((X, Y)\) を通過できるか」といった問題。まず、水平方向の運動 \(X = v_{0x}t\) から、その地点を通過する時刻 \(t\) を求め、その時刻を鉛直方向の変位の式に代入して高さ \(Y\) を計算する、という手順で解くことができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 何はともあれ初速度の分解: 問題文を読んだら、まず儀式として初速度 \(v_0\) を \(v_{0x}\) と \(v_{0y}\) に分解し、その数値を計算してメモします。これが全ての計算の基礎となります。
    2. 対称性の適用の可否を判断: 打ち上げ地点と着地点の高さが同じかを確認します。同じであれば、(3)のように対称性を利用したシンプルな解法が使えます。異なる場合は、二次方程式を解く一般的なアプローチが必要になります。
    3. 問われている物理量と運動の方向をリンクさせる:
      • 「最高点までの時間」\(\rightarrow\) 鉛直方向の運動(\(v_y=0\))に着目。
      • 「水平到達距離」\(\rightarrow\) 水平方向の運動(\(x = v_{0x}t\))に着目。そのためにはまず全飛行時間 \(t\) が必要。
      • 「最高点の高さ」\(\rightarrow\) 鉛直方向の運動(\(v_y=0\) となる時間での \(y\) 座標)に着目。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 最高点での速度はゼロ、という誤解:
    • 誤解: 鉛直投げ上げの感覚で、最高点では物体が一瞬完全に停止する(速度がゼロになる)と考えてしまう。
    • 対策: 斜方投射では、最高点でも水平方向には飛び続けています。したがって、速度がゼロになるのは鉛直成分 \(v_y\) だけであり、物体の速さ(合成速度の大きさ)は \(v = \sqrt{v_x^2 + 0^2} = v_x\) となり、ゼロにはなりません。スキーのジャンプ競技で、選手が最高点でも前に進んでいる様子をイメージすると分かりやすいです。
  • 三角比の \( \cos \) と \( \sin \) の混同:
    • 誤解: 水平成分と鉛直成分を分解する際に、\(\cos\) と \(\sin\) を逆にしてしまう。
    • 対策: 角度 \(\theta\) を「挟む」辺が \(\cos\theta\)、角度 \(\theta\) の「向かい」の辺が \(\sin\theta\) と、図形的な位置関係で覚えましょう。初速度のベクトルと水平軸(\(x\)軸)、鉛直軸(\(y\)軸)で直角三角形を描き、\(v_{0x}\) は \(\theta\) を挟む辺、\(v_{0y}\) は \(\theta\) の向かいの辺であることを毎回確認する癖をつけるとミスが減ります。
  • 水平到達距離の公式の乱用:
    • 誤解: 水平到達距離を求める公式 \(R = \displaystyle\frac{v_0^2 \sin(2\theta)}{g}\) を、どんな状況でも使える万能なものだと思い込み、崖の上からの投射など、打ち上げ地点と着地点の高さが違う場合にも使ってしまう。
    • 対策: この公式は「対称性」を前提として導出された特別な場合の公式である、と強く認識することが重要です。「打ち上げ地点と着地点が同じ高さ」という条件を満たさない限り、この公式は使えません。迷ったら、基本に立ち返り、飛行時間を計算してから水平距離を求めるという、地道で確実な方法をとりましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(各成分の速度式・変位式):
    • 選定理由: 求めたいのは、特定の時刻 \(t\) における「状態量」(速度と位置)です。運動の公式は、まさに時間 \(t\) の関数としてこれらの状態量を記述するためのものです。水平方向は等速、鉛直方向は等加速度という運動モデルに従い、それぞれの公式に \(t\) を代入するのは、最も直接的で論理的な選択です。
    • 適用根拠: 運動の分解と独立性の原理に基づき、\(2\)つの\(1\)次元運動の公式をそれぞれ独立に適用することが物理的に正当化されます。
  • (2)での公式選択(鉛直方向の速度式):
    • 選定理由: 「最高点」という物理的なキーワードを「\(v_y=0\)」という数式条件に変換することが思考の第一歩です。この条件を使って未知の「時間 \(t\)」を求めたいので、\(v_y\), \(v_{0y}\), \(g\), \(t\) を含む鉛直方向の速度の式 \(v_y = v_{0y} – gt\) を選ぶのが最適解となります。
    • 適用根拠: 鉛直方向の運動は、初速度 \(v_{0y}\) の鉛直投げ上げ運動そのものであり、その速度の時間変化を記述するこの公式を適用するのは当然です。
  • (3)でのアプローチ選択(対称性の利用):
    • 選定理由: 打ち上げ地点と着地点が同じ高さであることから、運動が物理的に「対称」であることを見抜きます。この物理的洞察を利用すれば、(2)で求めた時間を\(2\)倍するだけで全飛行時間が得られ、計算が最も簡単になります。これは、斜方投射の典型問題を解く上での定石であり、最もエレガントな解法です。
    • 適用根拠: 重力加速度が一定であるため、上昇カーブと下降カーブは数学的に完全に合同な放物線の一部となります。この数学的な対称性が、物理的な時間の対称性(上昇時間=下降時間)を保証します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 初速度の分解と数値化を最初に: 問題を読み始めたら、計算用紙の目立つ場所に \(v_{0x} = 40 \cos 30^\circ = 20\sqrt{3} \approx 34.6\)、\(v_{0y} = 40 \sin 30^\circ = 20\) と書き出しましょう。この値を全ての計算の基礎として使うことで、式を立てるたびに分解する手間が省け、ミスも減ります。
  • 有効数字の扱いの徹底: 模範解答のように、途中計算では有効数字より\(1\)桁多く(例: \(34.6\), \(2.04\))残して計算を進め、最終的な答えを出す段階で初めて指定された有効数字(この問題では\(2\)桁)に丸める、というルールを徹底しましょう。最初から \(v_x=35\) として計算すると、誤差が大きくなる可能性があります。
  • 概算による検算:
    • (2) 時間: \(g \approx 10\) とすると、\(t = v_{0y}/g \approx 20/10 = 2\,\text{s}\)。計算結果の \(2.0\,\text{s}\) とほぼ一致し、妥当であることがわかります。
    • (3) 距離: \(v_x \approx 35\)、全飛行時間 \(T \approx 2 \times 2 = 4\,\text{s}\) とすると、\(R = v_x T \approx 35 \times 4 = 140\,\text{m}\)。計算結果の \(1.4 \times 10^2\,\text{m}\) と一致し、桁違いのミスがないことを確認できます。
  • 文字式のまま計算を進める: (3)の別解1のように、いきなり数値を代入するのではなく、まずは文字式のまま公式を書き、最後にまとめて数値を代入する方が、計算の見通しが良くなり、途中の計算ミスを発見しやすくなります。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

基本問題

29. 自由落下

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている自由落下の公式を個別に用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 速さの別解: 高さを先に求め、時間を含まない公式 \(v^2=2gh\) を用いる解法
      • 主たる解法が時間 \(t\) から直接速さ \(v\) を求めるのに対し、別解ではまず時間 \(t\) から高さ \(h\) を求め、その \(h\) を使って時間 \(t\) を含まない公式から速さ \(v\) を導出します。
    • 高さの別解: 速さを先に求め、力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が時間 \(t\) から直接高さ \(h\) を求めるのに対し、別解ではまず時間 \(t\) から速さ \(v\) を求め、その \(v\) を使って運動の前後でのエネルギー保存の関係から高さ \(h\) を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の多角的理解: 運動を記述する公式群(運動法則)と、系の状態を記述する保存則(エネルギー保存則)という、物理学における二大アプローチを体験できます。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問いに対して、求める順番や用いる公式を変えることで、複数の解法ルートが存在することを学び、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の相互関連性の確認: 異なる公式や法則を用いても同じ結論に至ることを確認することで、各物理法則が互いに矛盾なく成り立っていることへの理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「自由落下運動の基本公式の適用」です。与えられた時間から、そのときの物体の速さと落下した距離を、公式を用いて正確に計算することが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 自由落下の定義: 「静かに落とす」という言葉から、初速度が \(0\)、加速度が重力加速度 \(g\) の等加速度直線運動であると正しくモデル化できること。
  2. 等加速度直線運動の公式: 速度、変位、時間の関係を表す以下の\(2\)つの公式を正しく選択し、適用できること。
    • \(v = gt\) (自由落下の場合)
    • \(y = \frac{1}{2}gt^2\) (自由落下の場合)
  3. 有効数字: 問題文で与えられた数値の桁数(この場合は\(2\)桁)に合わせて、最終的な答えを処理できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、地面に達する直前の速さを、時間と速度の関係式を用いて求めます。
  2. 次に、ビルの高さを、時間と変位の関係式を用いて求めます。

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村