発展例題
発展例題21 連星の質量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 別解1: 速さ\(v\)を用いて運動方程式を立てる解法
- 模範解答が角速度 \(\omega\) を用いて立式するのに対し、別解では円運動の速さ \(v\) を用いて運動方程式 \(m\frac{v^2}{r}=F\) を立てて解きます。
- 別解2: ケプラーの第3法則(2体問題)を用いる解法
- 模範解答が個別の天体の運動方程式から出発するのに対し、別解では連星系全体に適用できる「ケプラーの第3法則の一般形」を用いて、より簡潔に質量を求めます。
- 別解1: 速さ\(v\)を用いて運動方程式を立てる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 円運動を記述する物理量(角速度 \(\omega\) と速さ \(v\))の関係や、個別の天体の運動方程式が、より普遍的な天体法則(ケプラーの法則)にどのようにつながるかを理解することで、力学への洞察が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 同じ現象に対して、異なる物理法則や公式を適用する訓練になり、問題解決能力の幅が広がります。
- 解法の選択肢拡大: 特にケプラーの法則の一般形を知ることで、天体力学に関するより複雑な問題にも対応できる強力な視点を得ることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「連星の運動解析と万有引力」です。2つの天体が互いの引力によって共通の重心の周りを円運動するという、天体力学の基本的なモデルを扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 2つの天体の間に働く引力の大きさを \(F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\) と正しく計算できること。
- 等速円運動の運動方程式: 円運動する物体には中心向きの力(向心力)が働いており、その運動を \(ma=F\) の形で記述できること。向心加速度は \(a=r\omega^2\) または \(a=\frac{v^2}{r}\) と表される。
- 円運動の運動学的関係式: 周期 \(T\) と角速度 \(\omega\) の関係 (\(\omega = \frac{2\pi}{T}\)) や、周期 \(T\) と速さ \(v\) の関係 (\(v = \frac{2\pi r}{T}\)) を理解していること。
- 重心の概念: 質量の等しい2物体の場合、その重心は2物体を結ぶ線分の中点にあり、両天体はこの重心を中心として円運動することを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、2つの天体のうちの1つに着目します。
- この天体に働く力は、もう一方の天体からの万有引力のみです。この力が、円運動の向心力となります。
- 円運動の半径が、天体間距離 \(R\) の半分である \(\frac{R}{2}\) であることを確認します。
- 周期 \(T\) を使って角速度 \(\omega\)(または速さ \(v\))を表し、等速円運動の運動方程式を立てます。
- 立てた式を、求める物理量である質量 \(M\) について解きます。
思考の道筋とポイント
この問題の核心は、2つの天体が互いに及ぼし合う万有引力を「向心力」として、それぞれが共通重心の周りを等速円運動していると捉えることです。1つの天体に着目し、その円運動の運動方程式を立てることで、未知の質量 \(M\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 2つの天体の質量は等しく \(M\) である。
- 天体間の距離は常に \(R\) である。
- 各天体は、2天体の共通重心(この場合は中点)を中心とする、半径 \(r = \frac{R}{2}\) の円軌道を運動する。
- 向心力は、もう一方の天体から受ける万有引力 \(F = G\frac{M \cdot M}{R^2}\) である。
- 周期が \(T\) なので、角速度は \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) と表せる。
具体的な解説と立式
1つの天体(質量 \(M\))に着目します。
この天体は、共通重心を中心として半径 \(r = \frac{R}{2}\) の等速円運動をしています。
この円運動に必要な向心力は、もう一方の天体(質量 \(M\)、距離 \(R\) の位置にある)から受ける万有引力によって供給されます。
万有引力の大きさ \(F\) は、
$$
\begin{aligned}
F &= G\frac{M^2}{R^2}
\end{aligned}
$$
一方、この天体の角速度を \(\omega\) とすると、周期 \(T\) との関係から、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \frac{2\pi}{T}
\end{aligned}
$$
この天体の等速円運動の運動方程式は \(m r \omega^2 = F\) と表せます。ここに、\(m=M\), \(r=\frac{R}{2}\), \(\omega = \frac{2\pi}{T}\), および万有引力の式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
M \left(\frac{R}{2}\right) \omega^2 &= G\frac{M^2}{R^2}
\end{aligned}
$$
さらに \(\omega\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
M \left(\frac{R}{2}\right) \left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 &= G\frac{M^2}{R^2} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
これで、質量 \(M\) を求めるための方程式が立てられました。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
- 等速円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
- 周期と角速度の関係: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\)
式①を \(M\) について解きます。
まず、式①の両辺を \(M\) で割ります(\(M \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{R}{2}\right) \left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 &= G\frac{M}{R^2} \\[2.0ex]
\frac{R}{2} \cdot \frac{4\pi^2}{T^2} &= G\frac{M}{R^2} \\[2.0ex]
\frac{2\pi^2 R}{T^2} &= G\frac{M}{R^2}
\end{aligned}
$$
次に、両辺に \(\frac{R^2}{G}\) を掛けて \(M\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
M &= \frac{2\pi^2 R}{T^2} \cdot \frac{R^2}{G} \\[2.0ex]
M &= \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}
\end{aligned}
$$
お互いに引き合いながら、手をつないでぐるぐる回っている2人の人を想像してみてください。この2人が離れずに回り続けるためには、お互いを引っ張る力(万有引力)が、ちょうど円運動をするのに必要な力(向心力)と等しくなっている必要があります。この「力のつりあい」の考え方(運動方程式)を使って、2人の重さ(天体の質量)を計算する問題です。周期(1周する時間)がわかっているので、どれくらいの速さで回っているかがわかり、そこから必要な向心力が計算でき、最終的に質量が求まります。
天体1つの質量は \(M = \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}\) と求まりました。
この結果は、周期 \(T\) が短いほど(速く回転しているほど)、また天体間距離 \(R\) が大きいほど、質量 \(M\) が大きいことを示しており、物理的に妥当な関係です。例えば、同じ距離でより速く回るためには、より強い引力、すなわちより大きな質量が必要となります。
思考の道筋とポイント
円運動の運動方程式は、角速度 \(\omega\) を用いる \(mr\omega^2=F\) の他に、速さ \(v\) を用いる \(m\frac{v^2}{r}=F\) という形もあります。ここでは後者を用いて立式します。まず、周期 \(T\) と円運動の半径 \(r=\frac{R}{2}\) から天体の速さ \(v\) を求め、それを運動方程式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 各天体は、半径 \(r = \frac{R}{2}\) の円軌道を運動する。
- 円運動の速さ \(v\) は、円周の長さ \(2\pi r\) を周期 \(T\) で割ることで求められる。\(v = \frac{2\pi(R/2)}{T} = \frac{\pi R}{T}\)。
- 向心力は、万有引力 \(F = G\frac{M^2}{R^2}\) である。
具体的な解説と立式
1つの天体(質量 \(M\))に着目します。
この天体は、半径 \(r = \frac{R}{2}\) の円周上を速さ \(v\) で等速円運動しています。
速さ \(v\) は、周期 \(T\) を用いて次のように表せます。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{\text{円周の長さ}}{\text{周期}} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi r}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi (R/2)}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{\pi R}{T}
\end{aligned}
$$
この天体の等速円運動の運動方程式は \(m\frac{v^2}{r} = F\) と表せます。ここに、\(m=M\), \(r=\frac{R}{2}\), \(v = \frac{\pi R}{T}\), および向心力である万有引力 \(F = G\frac{M^2}{R^2}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
M\frac{v^2}{R/2} &= G\frac{M^2}{R^2}
\end{aligned}
$$
さらに \(v\) を代入して、
$$
\begin{aligned}
M\frac{(\pi R/T)^2}{R/2} &= G\frac{M^2}{R^2} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これで、質量 \(M\) を求めるための方程式が立てられました。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
- 等速円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F\)
- 周期と速さの関係: \(v = \frac{2\pi r}{T}\)
式②を \(M\) について解きます。
まず、式②の左辺を整理します。
$$
\begin{aligned}
M \frac{\pi^2 R^2 / T^2}{R/2} &= G\frac{M^2}{R^2} \\[2.0ex]
M \cdot \frac{\pi^2 R^2}{T^2} \cdot \frac{2}{R} &= G\frac{M^2}{R^2} \\[2.0ex]
\frac{2M\pi^2 R}{T^2} &= G\frac{M^2}{R^2}
\end{aligned}
$$
両辺を \(M\) で割ります(\(M \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\frac{2\pi^2 R}{T^2} &= G\frac{M}{R^2}
\end{aligned}
$$
最後に、両辺に \(\frac{R^2}{G}\) を掛けて \(M\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
M &= \frac{2\pi^2 R}{T^2} \cdot \frac{R^2}{G} \\[2.0ex]
M &= \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}
\end{aligned}
$$
主たる解法では「回転のペース(角速度)」を使いましたが、こちらは「直線的な速さ(速さ)」を使って同じ問題を解いています。どちらを使っても、天体を円運動させるために必要な力(向心力)と、実際に働いている力(万有引力)が等しい、という物理の根本は同じです。結果も当然同じになります。
主たる解法と完全に同じ結果 \(M = \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}\) が得られました。角速度 \(\omega\) を使うか、速さ \(v\) を使うかは、問題の条件や好みによって使い分けることができます。どちらのアプローチでも解けるようにしておくことが重要です。
思考の道筋とポイント
太陽のように非常に重い天体の周りを惑星が回る場合、ケプラーの第3法則 \(\frac{T^2}{a^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) が成り立ちます。これは、中心天体が動かないと近似した場合の法則です。
しかし、この問題のように同程度の質量の天体が互いに回り合う「2体問題」では、法則が少し修正され、中心天体の質量 \(M\) が2つの天体の質量の合計 \((M_1+M_2)\) に置き換わった形 \(\frac{T^2}{a^3} = \frac{4\pi^2}{G(M_1+M_2)}\) となります。ここで \(a\) は天体間の距離に相当します。この一般化された法則を直接適用することで、運動方程式を立てずに質量を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 2体問題におけるケプラーの第3法則は \(\frac{T^2}{a^3} = \frac{4\pi^2}{G(M_1+M_2)}\) と表される。
- この問題では、2つの天体の質量は \(M_1=M_2=M\) である。
- 天体間の距離は常に \(R\) で一定なので、軌道の長半径に相当する \(a\) は \(R\) となる。
具体的な解説と立式
連星系のような2体問題に適用できる、一般化されたケプラーの第3法則は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
\frac{T^2}{a^3} &= \frac{4\pi^2}{G(M_1+M_2)}
\end{aligned}
$$
ここで、\(T\) は公転周期、\(a\) は軌道の長半径(この問題では天体間の距離 \(R\))、\(M_1\) と \(M_2\) は2つの天体の質量です。
この問題の条件を代入します。
- \(M_1 = M\)
- \(M_2 = M\)
- \(a = R\)
すると、法則の式は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
\frac{T^2}{R^3} &= \frac{4\pi^2}{G(M+M)} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi^2}{G(2M)} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi^2}{GM} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
この式には求めたい質量 \(M\) と、問題で与えられている量(\(T, R, G\))だけが含まれているため、これを解けば答えが求まります。
使用した物理公式
- ケプラーの第3法則(2体問題の一般形): \(\frac{T^2}{a^3} = \frac{4\pi^2}{G(M_1+M_2)}\)
式③を \(M\) について解きます。
まず、式③の両辺の逆数をとると、
$$
\begin{aligned}
\frac{R^3}{T^2} &= \frac{GM}{2\pi^2}
\end{aligned}
$$
次に、両辺に \(\frac{2\pi^2}{G}\) を掛けて \(M\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
M &= \frac{R^3}{T^2} \cdot \frac{2\pi^2}{G} \\[2.0ex]
M &= \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}
\end{aligned}
$$
惑星の運動には「ケプラーの法則」という便利な法則があります。その法則を、この問題のような「お互いがぐるぐる回る」状況に合わせて少しだけバージョンアップさせた公式があります。その公式に、問題で与えられた周期 \(T\) や距離 \(R\) をポンと代入するだけで、運動方程式という面倒な計算をすっ飛ばして、一気に答えが出せてしまう、というエレガントな解き方です。
他の解法と完全に同じ結果 \(M = \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}\) が得られました。運動方程式を立てて物理現象の根本から解く方法も重要ですが、このように一般化された法則を知っていると、見通しよく、かつ素早く問題を解くことができます。特に「発展例題」として、このようなより広い視点からの解法は非常に有益です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力を向心力とする等速円運動の運動方程式
- 核心: この問題の物理的状況は、「2つの天体が、互いに及ぼし合う万有引力を向心力として、共通重心の周りを等速円運動している」という一文に集約されます。この物理モデルを、運動方程式 \(ma=F\) という数学的な言葉に翻訳することが全ての出発点です。
- 理解のポイント:
- 力の特定: 1つの天体に着目したとき、それに働く力はもう一方の天体からの万有引力 \(F = G\frac{M^2}{R^2}\) のみです。この力が円運動を引き起こす「向心力」の正体です。
- 運動の特定: 天体は等速円運動をしています。その軌道半径は、天体間距離 \(R\) そのものではなく、共通重心までの距離 \(r=R/2\) です。また、周期 \(T\) が与えられていることから、向心加速度は \(a = r\omega^2 = (\frac{R}{2})(\frac{2\pi}{T})^2\) と具体的に計算できます。
- 立式: 上記の力と運動を、運動方程式 \(ma=F\) に代入することで、\(M \cdot \left(\frac{R}{2}\right)\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 = G\frac{M^2}{R^2}\) という、未知数 \(M\) を含む関係式を導き出すことができます。この一連の思考プロセスが、この問題の根幹をなします。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 質量が異なる連星 (\(m_1 \neq m_2\)): この場合、共通重心の位置が2天体を結ぶ線分の中点からずれます。重心の性質から \(m_1 r_1 = m_2 r_2\) が成り立ち、これと \(r_1 + r_2 = R\) を連立させることで、各天体の軌道半径 \(r_1, r_2\) を求める必要があります。運動方程式を立てる手順は同じですが、この最初の幾何学的な考察が加わります。
- 惑星と衛星(太陽と地球など): 片方の天体の質量が他方に比べて圧倒的に大きい場合、共通重心は重い天体のほぼ中心に位置します。そのため、重い天体は「静止している」と近似でき、軽い天体が重い天体を中心として、軌道半径 \(R\)(天体間距離そのもの)で円運動すると考えられます。これは、ケプラーの第3法則の基本形につながるモデルです。
- ボーアの原子模型: 原子核の周りを電子が回るモデルも、構造は全く同じです。万有引力が、原子核と電子の間に働く静電気力(クーロン力)に置き換わるだけで、静電気力を向心力として円運動の運動方程式を立てるという解法は完全に共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは図を描き、回転の中心と半径を特定する: 誰が、何を、どこを中心に回っているのかを明確にします。特に「軌道半径」が「天体間距離」と一致するのか、それともその一部(\(R/2\) など)なのかを見極めることが最初の重要なステップです。
- 向心力の源は何かを考える: 円運動しているからには、必ず中心に向かう力があるはずです。それが万有引力なのか、静電気力なのか、はたまた糸の張力なのか、問題の状況から力の正体を突き止めます。
- 運動の記述方法を選択する: 問題で与えられている量に応じて、最も計算が楽になる変数を選びます。周期 \(T\) が与えられていれば角速度 \(\omega\) (\(=2\pi/T\)) が、速さ \(v\) が与えられていれば \(v\) を使うのが定石です。
- より上位の法則が使えないか検討する: 運動方程式から解くのが基本ですが、「天体の周期運動」というキーワードから、ケプラーの法則(特に2体問題の一般形)が適用できないか考えてみましょう。適用できれば、計算を大幅にショートカットできる可能性があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 軌道半径 \(r\) と天体間距離 \(R\) の混同:
- 誤解: 運動方程式 \(mr\omega^2 = F\) の軌道半径 \(r\) に、天体間距離 \(R\) をそのまま代入してしまう。
- 対策: 「半径」とは「回転中心からの距離」です。この問題では、各天体は「共通重心」を中心に回転しています。質量が等しいので重心は中点にあり、回転半径は \(r=R/2\) となります。\(R\) はあくまで2つの天体の間の距離であり、回転半径ではないことを図を描いて常に意識しましょう。
- 万有引力の公式に代入する距離の誤り:
- 誤解: 万有引力の公式 \(F = G\frac{M^2}{(\text{距離})^2}\) の「距離」に、回転半径 \(r=R/2\) を代入してしまう。
- 対策: 万有引力は、2つの質点の「中心間距離」で決まる力です。したがって、ここでの距離は常に天体間の距離 \(R\) となります。運動方程式を立てる際には、左辺の向心力の式に含まれる \(r\) (\(=R/2\)) と、右辺の万有引力の式に含まれる \(R\) が、物理的に異なる意味を持つことを明確に区別してください。
- ケプラーの第3法則の安易な適用:
- 誤解: 惑星の運動で習ったケプラーの第3法則 \(\frac{T^2}{R^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) を、連星の問題にそのまま使ってしまう。
- 対策: この基本形の公式は、中心天体 \(M\) が静止しているとみなせる場合にのみ成り立ちます。連星のように、両方の天体が運動している「2体問題」では、中心力の源が \(M\) だけでなく、両方の質量の合計 \((M_1+M_2)\) に依存すると理解してください。したがって、適用するなら \(\frac{T^2}{R^3} = \frac{4\pi^2}{G(M_1+M_2)}\) という一般形を使わなければなりません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (主たる解法での)公式選択(運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは「質量 \(M\)」です。質量は、物体に働く「力」と、その結果生じる「運動(加速度)」とを関係づける根源的な物理量です。この力と運動の因果関係を記述する物理学の基本法則が、運動方程式 \(ma=F\) です。したがって、この問題の根幹に迫るには、運動方程式の立式が最も直接的かつ論理的な選択となります。
- 適用根拠: 問題の状況は「等速円運動」であると特定できます。したがって、一般形 \(ma=F\) の \(a\) には向心加速度 \(a=r\omega^2\) を、\(F\) には向心力として働く万有引力 \(F=G\frac{M^2}{R^2}\) を具体的に代入することができます。これにより、物理現象を数学的な方程式に落とし込むことが可能になります。
- (別解2での)アプローチ選択(ケプラーの第3法則):
- 選定理由: 求めたい量と与えられている量が、周期 \(T\)、距離 \(R\)、質量 \(M\) であり、これはまさにケプラーの第3法則が関係づける物理量そのものです。運動方程式を立てて式変形を行うプロセスは、実はケプラーの法則を導出する過程と同じです。したがって、この法則を既知の「公式」として利用すれば、途中の導出過程を省略して結論に直接至ることができます。
- 適用根拠: この問題は、2つの天体が万有引力のみを及ぼし合って周期運動している系であり、ケプラーの法則が適用できる典型的な状況です。ただし、太陽と惑星のような主従関係ではなく、対等な2物体が運動しているため、単なる \(M\) ではなく質量の和 \((M+M)\) を用いる「2体問題の一般形」を適用することが、物理的に正しい根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま最後まで計算する:
- \(M, R, G, T\) などの文字を使って式の変形を行い、最後に求める \(M\) についての式 \(M = \dots\) を導出しましょう。最初から数値を代入する癖があると、式変形の途中で物理的な意味を見失いやすく、間違いに気づきにくくなります。
- 式の両辺を一つずつ丁寧に整理する:
- \(M \left(\frac{R}{2}\right) \left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 = G\frac{M^2}{R^2}\) のような複雑な式では、まず両辺の共通因子(この場合は \(M\))を約分する、左辺のカッコを展開して \(\frac{2\pi^2MR}{T^2}\) のように簡単化するなど、一歩一歩進めましょう。焦って一度に移項しようとすると、分母と分子を逆にするなどのミスが起こりがちです。
- 次元解析で検算する:
- 最終的に得られた答え \(M = \frac{2\pi^2 R^3}{GT^2}\) の単位(次元)が、質量の単位になっているかを確認する癖をつけましょう。
- 万有引力の法則 \(F=G\frac{M^2}{R^2}\) から、\(G\) の単位は \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\) です。
- 右辺の単位は \(\frac{(\text{m})^3}{(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2) \cdot (\text{s})^2} = \frac{\text{m}^3 \cdot \text{kg}^2}{\text{N}\cdot\text{m}^2\cdot\text{s}^2}\) となります。
- ここで運動方程式 \(F=ma\) から \(\text{N} = \text{kg}\cdot\text{m/s}^2\) なので、これを代入すると、\(\frac{\text{m}^3 \cdot \text{kg}^2}{(\text{kg}\cdot\text{m/s}^2)\cdot\text{m}^2\cdot\text{s}^2} = \frac{\text{m}^3 \cdot \text{kg}^2}{\text{kg}\cdot\text{m}^3} = \text{kg}\)。
- きちんと質量の単位になったので、式の形は正しい可能性が高いと判断できます。
- 極端な状況を代入して妥当性を確認する:
- もし周期 \(T\) が無限大(ほとんど動かない)なら、互いを引き留める力は不要なので質量 \(M\) はゼロに近いはず。導いた式の分母に \(T^2\) があるので、この関係と一致します。
- もし天体間距離 \(R\) が非常に大きい状態で同じ周期 \(T\) で回るには、とてつもない速さが必要で、それを引き留めるには巨大な引力(=巨大な質量)が必要です。導いた式の分子に \(R^3\) があるので、この関係とも一致します。
- このような思考実験は、答えの物理的な妥当性を直感的にチェックするのに役立ちます。
発展例題22 人工衛星の打ち上げ
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「人工衛星の軌道移行と力学的エネルギー」です。楕円軌道と円軌道という、天体力学における2つの基本的な運動を扱い、それらの間を移る際の条件を考えます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): 惑星(人工衛星)と中心天体(地球)を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定であるという法則。中心力である万有引力のみが働く運動では、角運動量が保存されることを意味します。
- 力学的エネルギー保存則: 人工衛星に働く力は保存力である万有引力のみなので、その運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和(力学的エネルギー)は、軌道上のどこでも一定に保たれます。
- 等速円運動の運動方程式: 円軌道を運動する物体では、中心に向かう力(向心力)が、質量と向心加速度の積に等しいという関係 (\(ma=F\)) が成り立ちます。この問題では、万有引力が向心力の役割を果たします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、楕円軌道上の運動を考えます。未知数が点Pでの速さ \(v_P\) と点Qでの速さ \(v_Q\) の2つなので、方程式が2本必要です。そこで、天体の運動で常に成り立つ「面積速度一定の法則」と「力学的エネルギー保存則」を、近地点Pと遠地点Qについて立式し、連立方程式として解きます。
- (2)では、半径 \(3R\) の円軌道上の運動を考えます。これは等速円運動なので、万有引力を向心力とする運動方程式を立てることで、速さ \(v_3\) を直接求めることができます。最後に、(1)で求めた \(v_P, v_Q\) と合わせて3つの速さの大小を比較します。
問(1)
思考の道筋とポイント
楕円軌道上を運動する物体の速さを求める問題です。未知数が \(v_P\) と \(v_Q\) の2つであるため、独立した関係式が2本必要になります。
天体が中心天体から万有引力(中心力)のみを受ける場合、常に成り立つ2つの重要な保存則があります。それが「面積速度一定の法則(角運動量保存則)」と「力学的エネルギー保存則」です。この2つの法則を、軌道上で特徴的な2点(近地点Pと遠地点Q)について適用し、連立方程式を立てて解くのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 人工衛星に働く力は、保存力である地球の万有引力のみである。
- したがって、人工衛星の力学的エネルギーは保存される。
- また、万有引力は中心力なので、角運動量も保存される(面積速度一定の法則が成り立つ)。
- 近地点Pでは地球中心からの距離が \(R\)、遠地点Qでは距離が \(3R\) である。
- P点とQ点では、速度ベクトルと地球中心からの動径ベクトルが垂直である。
具体的な解説と立式
人工衛星の質量を \(m\) とします。
1. 面積速度一定の法則
近地点Pと遠地点Qでは、速度の向きが軌道の接線方向、すなわち地球中心からの距離ベクトルと垂直になります。したがって、面積速度一定の法則は簡潔な形で表せます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} R v_P &= \frac{1}{2} (3R) v_Q
\end{aligned}
$$
これを整理すると、
$$
\begin{aligned}
v_P &= 3v_Q \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. 力学的エネルギー保存則
万有引力による位置エネルギーの基準点を無限遠にとると、位置エネルギー \(U\) は \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と表せます。
点Pと点Qで力学的エネルギーが等しいことから、
(P点での運動エネルギー) + (P点での位置エネルギー) = (Q点での運動エネルギー) + (Q点での位置エネルギー)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_P^2 – G\frac{Mm}{R} &= \frac{1}{2}mv_Q^2 – G\frac{Mm}{3R} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これで、未知数 \(v_P, v_Q\) を含む2本の式が立てられました。
使用した物理公式
- 面積速度一定の法則: \(\frac{1}{2}rv = \text{一定}\) (動径と速度が垂直な点において)
- 力学的エネルギー保存則: \(K+U = \text{一定}\)
- 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\frac{Mm}{r}\)
式①を式②に代入して \(v_Q\) を求めます。
式②の両辺を \(m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v_P^2 – \frac{GM}{R} &= \frac{1}{2}v_Q^2 – \frac{GM}{3R}
\end{aligned}
$$
ここに \(v_P = 3v_Q\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(3v_Q)^2 – \frac{GM}{R} &= \frac{1}{2}v_Q^2 – \frac{GM}{3R} \\[2.0ex]
\frac{9}{2}v_Q^2 – \frac{1}{2}v_Q^2 &= \frac{GM}{R} – \frac{GM}{3R} \\[2.0ex]
\frac{8}{2}v_Q^2 &= \frac{3GM – GM}{3R} \\[2.0ex]
4v_Q^2 &= \frac{2GM}{3R} \\[2.0ex]
v_Q^2 &= \frac{2GM}{12R} \\[2.0ex]
v_Q^2 &= \frac{GM}{6R}
\end{aligned}
$$
\(v_Q > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_Q &= \sqrt{\frac{GM}{6R}}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式①に代入して \(v_P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_P &= 3v_Q \\[2.0ex]
&= 3\sqrt{\frac{GM}{6R}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{9 \times \frac{GM}{6R}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{3GM}{2R}}
\end{aligned}
$$
人工衛星が地球の周りを楕円を描いて回るとき、2つの大事なルールを守っています。一つは「地球に近いときは速く、遠いときは遅く動くことで、扇形を描くペースを一定に保つ」というルール(面積速度一定)。もう一つは「速さのエネルギーと高さのエネルギーの合計は常に同じ」というルール(エネルギー保存)です。この2つのルールを連立方程式として解くことで、地球に一番近い点Pでの速さと、一番遠い点Qでの速さを計算することができます。
点Pでの速さは \(v_P = \sqrt{\frac{3GM}{2R}}\)、点Qでの速さは \(v_Q = \sqrt{\frac{GM}{6R}}\) と求まりました。
地球に最も近いP点の方が、最も遠いQ点よりも速い (\(v_P = 3v_Q\)) という結果は、物理的に妥当です。これは、位置エネルギーが最も低いP点で運動エネルギーが最大になり、位置エネルギーが最も高いQ点で運動エネルギーが最小になることに対応しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
半径が一定 (\(3R\)) の円軌道を動く人工衛星の速さを求めます。これは等速円運動であり、その運動を支えているのは地球からの万有引力です。したがって、万有引力を向心力とする等速円運動の運動方程式を立てることで、速さ \(v_3\) を求めることができます。
その後、(1)で求めた \(v_P, v_Q\) と合わせて3つの速さの大小を比較します。ルートを含む値の比較なので、ルートの中の数値をそろえて比較すると分かりやすいです。
この設問における重要なポイント
- 運動の種類は「等速円運動」である。
- 円運動の半径は \(r = 3R\)。
- 向心力は、地球と人工衛星の間に働く万有引力 \(F = G\frac{Mm}{(3R)^2}\) である。
具体的な解説と立式
人工衛星(質量 \(m\))が、地球(質量 \(M\))の中心から距離 \(3R\) の位置で、速さ \(v_3\) の等速円運動をしていると考えます。
この円運動の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F\) に、具体的な値を代入します。
- 質量: \(m\)
- 速さ: \(v = v_3\)
- 半径: \(r = 3R\)
- 向心力: \(F = G\frac{Mm}{(3R)^2}\)
したがって、運動方程式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_3^2}{3R} &= G\frac{Mm}{(3R)^2} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
この式を解くことで \(v_3\) が求まります。
使用した物理公式
- 等速円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\frac{Mm}{r^2}\)
まず、式③を \(v_3\) について解きます。
両辺の \(m\) を消去し、式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_3^2}{3R} &= \frac{GM}{9R^2} \\[2.0ex]
v_3^2 &= \frac{GM}{9R^2} \times 3R \\[2.0ex]
v_3^2 &= \frac{GM}{3R}
\end{aligned}
$$
\(v_3 > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_3 &= \sqrt{\frac{GM}{3R}}
\end{aligned}
$$
次に、\(v_P, v_Q, v_3\) の大小関係を比較します。
(1)の結果と合わせて、各速度の2乗の値を、分母を \(6R\) にそろえて比較します。
- \(v_P^2 = \frac{3GM}{2R} = \frac{9GM}{6R}\)
- \(v_3^2 = \frac{GM}{3R} = \frac{2GM}{6R}\)
- \(v_Q^2 = \frac{GM}{6R}\)
ルートの中の係数を比較すると \(1 < 2 < 9\) なので、\(v_Q^2 < v_3^2 < v_P^2\) となります。
各速度は正なので、
$$ v_Q < v_3 < v_P $$
人工衛星がきれいな円を描いて回り続けるためには、外側に飛び出そうとする勢いと、地球が中心に引っ張る力(万有引力)が、ちょうど釣り合っている必要があります。この力のバランスの式(運動方程式)を解くことで、その円軌道にちょうど良い速さ \(v_3\) を計算できます。
3つの速さを比べるには、計算結果のルートの中の数字が比べやすいように、分数をうまく通分してあげれば、大小関係がはっきりとわかります。
円軌道上の速さは \(v_3 = \sqrt{\frac{GM}{3R}}\)、速さの大小関係は \(v_Q < v_3 < v_P\) と求まりました。
この大小関係は物理的に重要な意味を持ちます。楕円軌道の遠地点Qでの速さ \(v_Q\) は、同じ距離にある円軌道の速さ \(v_3\) よりも遅いことがわかります。これは、点Qで楕円軌道から円軌道に移行するためには、ロケットを噴射して \(v_Q\) から \(v_3\) へと「加速」し、エネルギーを与える必要があることを示しています。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 楕円軌道と円軌道の解析方法の使い分け
- 核心: この問題は、2種類の天体運動を扱っており、それぞれに適した物理法則を選択する能力が問われます。楕円軌道のように速さが変化する運動と、円軌道のように速さが一定の運動では、用いるべき法則の組み合わせが異なります。この違いを明確に理解することが、問題を解く上での最大の鍵となります。
- 理解のポイント:
- 楕円軌道(問(1)): 速さが場所によって変わるため、未知数が近地点の速さ \(v_P\) と遠地点の速さ \(v_Q\) の2つになります。したがって、独立した方程式が2本必要です。万有引力(中心力かつ保存力)のみが働く運動では、常に「力学的エネルギー保存則」と「面積速度一定の法則(角運動量保存則)」が成り立ちます。この2つの法則を連立させるのが、楕円軌道を解くための王道です。
- 円軌道(問(2)): 速さが \(v_3\) で一定の等速円運動です。未知数は速さ \(v_3\) の1つだけなので、方程式は1本で足ります。円運動では、万有引力が向心力として働くという力学的な条件だけで速さが一意に決まるため、「等速円運動の運動方程式」を立てるのが最も直接的で強力な解法となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 異なる軌道への移行問題: 例えば、地表近くの円軌道から、この問題の楕円軌道へ移行するケース。この場合、点Pでロケットを噴射して「加速」し、力学的エネルギーを増やすことで、より遠くまで到達する楕円軌道に乗せることができます。軌道移行は、エネルギーの増減操作と結びついています。
- 地球からの脱出速度: 人工衛星が地球の重力圏を脱出して無限の彼方へ飛び去るための最小初速度を求める問題。これは、地表での力学的エネルギーが、無限遠での力学的エネルギー(運動エネルギー\(0\)、位置エネルギー\(0\))と等しくなる条件として、エネルギー保存則一発で解くことができます。
- 彗星の運動解析: 太陽を一つの焦点として、非常に細長い楕円軌道を描く彗星の近日点での速さと遠日点での速さを比較する問題なども、全く同じ考え方(エネルギー保存則と面積速度一定の法則の連立)で解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- まず軌道の形を特定する: 問題文や図から、対象となる運動が「円軌道」なのか「楕円軌道」なのか、あるいは地球から脱出する「放物線・双曲線軌道」なのかを最初に判断します。
- 必要な法則の数を判断する:
- 円軌道なら、未知数は速さ1つ → 運動方程式のみで解決。
- 楕円軌道なら、未知数は特徴的な2点(近地点・遠地点)での速さ2つ → エネルギー保存則と面積速度一定の法則の2本を連立。
- エネルギーの基準点を確認する: 万有引力を扱う問題では、特に断りがなければ無限遠点を位置エネルギーの基準(\(U=0\))とします。これにより、位置エネルギーは常に \(U = -G\frac{Mm}{r}\) という負の値をとります。
- 軌道移行の物理的意味を考える: 異なる軌道は、異なる力学的エネルギーを持っています。ある軌道から別の軌道へ移るということは、ロケット噴射などの「非保存力」が仕事をして、系の力学的エネルギーを変化させる操作を意味します。今回の大小関係 \(v_Q < v_3\) は、点Qで加速してエネルギーを「追加」しないと、よりエネルギーの高い円軌道には移れない、という物理的な事実を反映しています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 楕円軌道で円運動の運動方程式を誤用する:
- 誤解: 円軌道と同じ感覚で、楕円軌道上の点Pや点Qで \(m\frac{v^2}{r}=F\) という形の運動方程式を立てようとしてしまう。
- 対策: この運動方程式は、軌道中心からの距離 \(r\) が一定の「円運動」である場合にのみ成立する特別な式です。楕円軌道では、万有引力は向心力として完全には機能せず、速度を変化させる接線成分も持つため、この式は使えません。「楕円の解析はエネルギー保存と面積速度一定」と明確に区別して覚えましょう。
- 面積速度一定の法則の適用条件の誤解:
- 誤解: 面積速度一定の法則を \(\frac{1}{2}rv = \text{一定}\) という単純な形で、軌道上のどの点でも使えると考えてしまう。
- 対策: この \(\frac{1}{2}rv\) という簡単な式が成り立つのは、中心天体からの距離ベクトルと衛星の速度ベクトルが「垂直」になる特別な点だけです。楕円軌道では、地球に最も近い「近地点」と最も遠い「遠地点」がそれに該当します。高校物理でこの法則を使うのは、ほぼこの2点に限られると心得ておきましょう。
- 万有引力による位置エネルギーの符号ミス:
- 誤解: 位置エネルギー \(U = -G\frac{Mm}{r}\) の負号(マイナス)を忘れたり、地表付近の重力位置エネルギー \(mgh\) と混同して正の値だと考えてしまう。
- 対策: 万有引力は常に引き合う力(引力)です。エネルギーの基準である無限遠(\(U=0\))から物体を地球に近づけるとき、引力に引かれて自然に落ちてくるので、外部が仕事を加える必要はなく、むしろエネルギーが放出されます。したがって、基準点よりもエネルギーは低い状態、つまり「負」の値になると理解してください。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(エネルギー保存則と面積速度一定の法則):
- 選定理由: 求めたい物理量は、楕円軌道上の2つの異なる点(PとQ)での速さ \(v_P, v_Q\) です。未知数が2つなので、それらを関係づける独立した方程式が2本必要になります。
- 適用根拠:
- 法則1(エネルギー保存則): 人工衛星に働く力は万有引力のみです。万有引力は「保存力」であるため、軌道上のどこであっても力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は一定に保たれます。これが、P点とQ点を結びつける1本目の式を立てる物理的な根拠です。
- 法則2(面積速度一定の法則): 万有引力は常に地球の中心を向く「中心力」です。中心力のみが働く運動では、回転の勢いを示す「角運動量」が保存されます。面積速度一定の法則は、この角運動量保存則を高校物理の範囲で表現したものです。これが、P点とQ点を結びつける2本目の式を立てる根拠となります。
- (2)での公式選択(等速円運動の運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは、半径が一定の円軌道上での速さ \(v_3\) です。未知数はこの1つだけなので、方程式は1本で十分です。
- 適用根拠: 運動が「等速円運動」であると問題文で指定されています。等速円運動では、その運動を維持するために必要な向心力 \(F\) の大きさが、質量 \(m\)、速さ \(v\)、半径 \(r\) を用いて \(F=m\frac{v^2}{r}\) と一意に決まります。そして、その向心力の供給源が万有引力であるという物理的な事実から、運動方程式 \(m\frac{v_3^2}{3R} = G\frac{Mm}{(3R)^2}\) を立てることができます。この力と運動の因果関係だけで、速さが決定されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算開始前に共通因子を消去する:
- (1)の力学的エネルギー保存則の式では、全ての項に人工衛星の質量 \(m\) が含まれています。計算を始める前に両辺を \(m\) で割ることで、式が \(\frac{1}{2}v_P^2 – \frac{GM}{R} = \dots\) のように格段にシンプルになり、その後の計算ミスを大幅に減らせます。
- 文字式のまま関係式を代入する:
- (1)の連立方程式を解く際、まず面積速度一定の法則から \(v_P = 3v_Q\) という簡単な関係式を導き、これをエネルギー保存則の式に「文字のまま」代入しましょう。これにより、1つの未知数 (\(v_Q\)) だけの式になり、見通しよく計算を進められます。
- 分数の計算は通分を丁寧に行う:
- (1)の計算過程で出てくる \(\frac{GM}{R} – \frac{GM}{3R}\) のような計算では、焦らずに分母を \(3R\) に通分します。\(\frac{3GM – GM}{3R} = \frac{2GM}{3R}\) となり、符号や係数のミスを防げます。
- ルートを含む値の比較は、2乗して分母をそろえる:
- (2)で \(v_P, v_Q, v_3\) の大小を比較する際、ルートがついたままだと間違いやすいです。まず、それぞれを2乗した \(v_P^2, v_Q^2, v_3^2\) の値を求めます。次に、それらの分母を最小公倍数(この場合は \(6R\))にそろえます。
- \(v_P^2 = \frac{9GM}{6R}\), \(v_3^2 = \frac{2GM}{6R}\), \(v_Q^2 = \frac{1GM}{6R}\)
- こうすれば、分子の係数 \(9, 2, 1\) を比較するだけで大小関係が明確になり、確実です。
- 物理的な妥当性を最後に吟味する:
- (1)で得られた結果 \(v_P > v_Q\) は、「地球に近い(位置エネルギーが低い)ほど速い(運動エネルギーが大きい)」という物理的直感と一致するかを確認します。
- (2)で得られた大小関係 \(v_Q < v_3\) は、「楕円軌道の遠地点では、同じ距離の円軌道より速度が遅い」ことを意味します。これは、円軌道の方が楕円軌道よりも高い力学的エネルギーを持つという事実と整合しており、結果が妥当であることを裏付けています。
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発展問題
251 惑星の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(ウ)の別解: 角速度ωを用いる解法
- 模範解答が速さ\(v\)と周期\(T\)の関係式 \(T=2\pi r/v\) を用いるのに対し、別解では角速度\(\omega\)と周期\(T\)の関係式 \(T=2\pi/\omega\) を用いて、ケプラーの第3法則を導出します。
- 設問(ウ)の別解: 角速度ωを用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 円運動を記述する基本的な物理量である速さ\(v\)と角速度\(\omega\)は相互に変換可能であり、どちらのアプローチからでも同じ物理法則が導かれることを体験することで、円運動への理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 問題で与えられている条件に応じて、速さ\(v\)と角速度\(\omega\)のどちらを使う方が計算が簡潔になるかを判断する良い訓練になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「万有引力による円運動とケプラーの法則」です。惑星の運動を等速円運動と近似し、運動方程式からケプラーの第3法則やエネルギーに関する重要な関係を導出する、天体力学の基本を網羅した問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等速円運動の運動方程式: 惑星に働く万有引力が、円運動の向心力として機能していることを \(ma=F\) の形で立式できること。
- ケプラーの第3法則: 惑星の公転周期の2乗が、軌道半径の3乗に比例するという法則 (\(T^2 \propto r^3\))。これは、運動方程式から導出できます。
- 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準としたとき、位置エネルギーが \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と負の値で表されることを理解していること。
- 運動エネルギーと位置エネルギーの関係: 万有引力による円運動では、運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)の間に特別な関係が成り立つことを理解すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)、(イ)では、惑星の等速円運動に着目し、万有引力を向心力とする運動方程式を立て、速さ\(v\)を求めます。
- (ウ)では、周期の定義式 \(T = (\text{円周})/(\text{速さ})\) に(イ)で求めた速さ\(v\)を代入し、式を整理してケプラーの第3法則を導きます。
- (エ)では、(ウ)で導いた法則が、太陽系のどの惑星にも共通して適用できる(\(\frac{T^2}{r^3}\)が一定である)ことを利用して、地球のデータから海王星の周期を計算します。
- (オ)では、運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)をそれぞれ定義式で表し、運動方程式から導かれる関係式を利用して、その比を求めます。