基本例題
基本例題34 惑星の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1), (2)の別解: 角速度 \(\omega\) を用いる解法
- 模範解答が惑星の運動を速さ \(v\) を用いて記述するのに対し、別解では角速度 \(\omega\) を用いて記述し、ケプラーの第3法則を導きます。
- 設問(1), (2)の別解: 角速度 \(\omega\) を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 等速円運動を記述する物理量には速さ \(v\) と角速度 \(\omega\) があり、両者は \(v=r\omega\) の関係で結びついています。どちらのアプローチでも同じ物理法則(ケプラーの法則)が導かれることを確認することで、円運動に対する理解が多角的になります。
- 思考の柔軟性向上: 問題に応じて、速さ \(v\) と角速度 \(\omega\) のどちらを使うと立式や計算が簡潔になるかを考える良い訓練になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「万有引力を向心力とする等速円運動」です。天体の運動という壮大な現象が、地上で学んだ力学の法則(運動方程式)で説明できることを示す典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の法則(運動方程式): 円運動の中心に向かう力を向心力として、\(ma=F\) の関係式を正しく立てられること。
- 万有引力の法則: 2つの質点の間に働く引力の大きさが \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) で与えられることを理解していること。
- 等速円運動の加速度: 向心加速度の大きさが、速さ \(v\) を使うと \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\)、角速度 \(\omega\) を使うと \(a=r\omega^2\) と表せることを知っていること。
- 周期と速さ・角速度の関係: 周期 \(T\) と速さ \(v\)、角速度 \(\omega\) の間に \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) および \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係があることを理解していること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、惑星に働く万有引力が、等速円運動の向心力となっていると考え、運動方程式を立てます。
- (2)では、(1)で立てた運動方程式と、周期と速さの関係式 \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) を連立させ、速さ \(v\) を消去することで、周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) の関係式(ケプラーの第3法則)を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
惑星が太陽の周りを回り続けられるのは、太陽と惑星の間に常に万有引力が働いているからです。この万有引力が、惑星の進行方向を常に内側(太陽の中心方向)に曲げ続ける役割、すなわち「向心力」の役割を担っています。この関係を運動方程式 \(ma=F\) に当てはめて立式します。
この設問における重要なポイント
- 惑星に働く力は、太陽からの万有引力のみである。
- この万有引力が、等速円運動の向心力となる。
- 運動方程式 \(ma=F\) の加速度 \(a\) には向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を、力 \(F\) には万有引力の大きさ \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) を代入する。
具体的な解説と立式
惑星(質量 \(m\))に働く力は、太陽(質量 \(M\))からの万有引力のみです。その大きさ \(F\) は、惑星と太陽の距離が \(r\) なので、
$$ F = G\frac{Mm}{r^2} $$
と表されます。
一方、惑星は速さ \(v\)、半径 \(r\) の等速円運動をしているので、その向心加速度の大きさ \(a\) は、
$$ a = \frac{v^2}{r} $$
となります。
惑星の運動方程式 \(ma=F\) において、向心力 \(F\) が万有引力であることから、これらの式を代入すると、
$$ m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2} $$
これが求める運動方程式です。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
この設問は運動方程式を示すことが目的なので、これ以上の計算は不要です。
ボールに紐をつけてぐるぐる回すとき、手が紐を引く力がボールを円軌道上にとどめています。この手の力が「向心力」です。惑星の運動では、太陽の重力(万有引力)がこの「紐」の役割を果たしています。惑星がまっすぐ飛んでいかずに太陽の周りを回り続けるのは、万有引力が常に向心力として働いているからです。この「惑星の運動の勢い(質量×加速度)」と「太陽が引っぱる力(万有引力)」が釣り合っている状態を表したのが、この運動方程式です。
得られた式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) は、左辺が円運動に必要な向心力を、右辺がその原因である万有引力を表しており、物理的に正しい関係式です。
思考の道筋とポイント
等速円運動は、単位時間あたりに進む距離である速さ \(v\) だけでなく、単位時間あたりに回転する角度である角速度 \(\omega\) を用いても記述できます。向心加速度は角速度 \(\omega\) を用いると \(a=r\omega^2\) と表されるため、これを用いて運動方程式を立てることも可能です。
この設問における重要なポイント
- 向心加速度は \(a=r\omega^2\) とも表せる。
- 運動方程式 \(ma=F\) の加速度 \(a\) に \(a=r\omega^2\) を代入する。
具体的な解説と立式
万有引力の大きさ \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) は主たる解法と同じです。
一方、惑星の向心加速度の大きさ \(a\) を角速度 \(\omega\) を用いて表すと、
$$ a = r\omega^2 $$
となります。
したがって、運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2} $$
と表すこともできます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- 向心加速度: \(a = r\omega^2\)
この設問は運動方程式を示すことが目的なので、これ以上の計算は不要です。
惑星の運動の激しさを表現する方法として、「速さ」の代わりに「回転の速さ(角速度)」を使う考え方です。例えば、レコードプレーヤーは回転の速さ(回転数)で指定されますが、外側の点ほど速い速度で動いています。このように、円運動では「速さ」と「角速度」は異なるものですが、どちらを使っても運動の様子を正しく数式で表現することができます。
主たる解法で得られた式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) に、速さと角速度の関係式 \(v=r\omega\) を代入すると、\(m\displaystyle\frac{(r\omega)^2}{r} = mr\omega^2\) となり、この別解で立てた運動方程式 \(mr\omega^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) と一致します。両者は表現が違うだけで、同じ物理現象を表しています。ただし、問題文では物理量が \(v\) を用いて与えられているため、最終的な解答も \(v\) を用いた式で示すのが適切です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で導いた運動方程式は、惑星の速さ \(v\) と軌道半径 \(r\) の関係式です。一方、求めたいケプラーの第3法則は、公転周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) の関係式です。そこで、速さ \(v\) と周期 \(T\) を結びつける関係式 \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) を利用して、運動方程式から \(v\) を消去し、\(T\) と \(r\) の関係を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 等速円運動では、周期 \(T\) は円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ったものに等しい (\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\))。
- この関係式を \(v\) について解いた \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) を、(1)で立てた運動方程式に代入する。
- 式を \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = (\text{定数})\) の形に整理する。
具体的な解説と立式
(1)で導いた運動方程式は、
$$ m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2} \quad \cdots ① $$
です。
惑星の公転周期を \(T\) とすると、速さ \(v\) は軌道の円周 \(2\pi r\) を周期 \(T\) で割ったものなので、
$$ v = \frac{2\pi r}{T} \quad \cdots ② $$
という関係が成り立ちます。
式②を式①に代入して \(v\) を消去し、\(T\) と \(r\) の関係式を導きます。
使用した物理公式
- 等速円運動における速さと周期の関係: \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\)
式②を式①に代入すると、
$$
\begin{aligned}
m \frac{1}{r} \left( \frac{2\pi r}{T} \right)^2 &= G\frac{Mm}{r^2} \\[2.0ex]
m \frac{1}{r} \frac{4\pi^2 r^2}{T^2} &= G\frac{Mm}{r^2} \\[2.0ex]
\frac{4\pi^2 m r}{T^2} &= G\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$
この式を \(T^2\) について解くために、両辺に \(T^2 r^2\) を掛け、\(GMm\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
(4\pi^2 m r) \times r^2 &= (GMm) \times T^2 \\[2.0ex]
4\pi^2 m r^3 &= GMm T^2 \\[2.0ex]
T^2 &= \frac{4\pi^2 m r^3}{GMm} \\[2.0ex]
T^2 &= \frac{4\pi^2}{GM} r^3
\end{aligned}
$$
両辺を \(r^3\) で割ると、
$$ \frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM} $$
ここで、\(G\), \(M\), \(\pi\) はすべて定数なので、\(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) とおくと、\(k\) は定数となります。
したがって、
$$ \frac{T^2}{r^3} = k $$
となり、ケプラーの第3法則が導かれます。
(1)で求めた式は、惑星の「速さ」に関するルールでした。今度は、惑星が「1周するのにかかる時間(周期)」に関するルールを導きます。「速さ」と「周期」は、「(周期)=(道のり)÷(速さ)」という関係でつながっています。この関係を使って、(1)の式の「速さ」を「周期」に書き換える作業を行うと、自然とケプラーの第3法則の形 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) が現れます。これは、太陽系のどの惑星でも「周期の2乗」を「軌道半径の3乗」で割った値が、いつも同じになるという驚くべき法則です。
導かれた関係式 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) は、ケプラーの第3法則として知られています。この式の右辺の定数 \(k\) は、中心天体である太陽の質量 \(M\) のみによって決まり、惑星自身の質量 \(m\) には依存しないことがわかります。これは、太陽系のすべての惑星(水星、金星、地球、…)について \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) の値が等しくなることを意味しており、観測事実とも一致します。
\(m \displaystyle\frac{1}{r} \left( \frac{2\pi r}{T} \right)^2 = G\frac{Mm}{r^2}\)
これを整理して、
\(\displaystyle\frac{4\pi^2 m r}{T^2} = G\frac{Mm}{r^2}\)
\(T^2\) について解くと、
\(T^2 = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM} r^3\)
よって、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\)
\(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) は定数であるため、ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) が導かれた。
思考の道筋とポイント
問(1)の別解で立てた角速度 \(\omega\) を用いた運動方程式から出発します。ケプラーの第3法則は周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) の関係式なので、角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) を結びつける関係式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を利用して、運動方程式から \(\omega\) を消去します。
この設問における重要なポイント
- 等速円運動では、角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) の間に \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係がある。
- この関係式を、(1)の別解で立てた運動方程式に代入する。
- 式を \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = (\text{定数})\) の形に整理する。
具体的な解説と立式
問(1)の別解で導いた運動方程式は、
$$ mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2} \quad \cdots ③ $$
です。
惑星の公転周期を \(T\) とすると、角速度 \(\omega\) は \(1\) 周 (\(2\pi\) ラジアン) を周期 \(T\) で割ったものなので、
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} \quad \cdots ④ $$
という関係が成り立ちます。
式④を式③に代入して \(\omega\) を消去し、\(T\) と \(r\) の関係式を導きます。
使用した物理公式
- 等速円運動における角速度と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
式④を式③に代入すると、
$$
\begin{aligned}
mr \left( \frac{2\pi}{T} \right)^2 &= G\frac{Mm}{r^2} \\[2.0ex]
mr \frac{4\pi^2}{T^2} &= G\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$
この式を \(T^2\) について解くために、両辺に \(T^2 r^2\) を掛け、\(GMm\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
(4\pi^2 m r) \times r^2 &= (GMm) \times T^2 \\[2.0ex]
4\pi^2 m r^3 &= GMm T^2 \\[2.0ex]
T^2 &= \frac{4\pi^2 m r^3}{GMm} \\[2.0ex]
T^2 &= \frac{4\pi^2}{GM} r^3
\end{aligned}
$$
この後の計算は主たる解法と全く同じです。
$$ \frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM} $$
\(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) とおくと、\(k\) は定数となり、
$$ \frac{T^2}{r^3} = k $$
が導かれます。
主たる解法では惑星の運動を「速さ」で考えましたが、こちらは「回転の速さ(角速度)」で考える方法です。「角速度」と「周期(1周にかかる時間)」も簡単な関係式で結びついているので、それを使って運動方程式を書き換えると同じ結論にたどり着きます。どちらの道具(速さ or 角速度)を使っても、同じ山の頂上に登れる、というイメージです。
速さ \(v\) を用いた主たる解法と全く同じ結果が得られました。これは、角速度 \(\omega\) を用いたアプローチの正当性を示しています。問題によっては、角速度を用いた方が計算が簡潔になる場合もあるため、両方のアプローチに慣れておくと便利です。
\(mr \left( \displaystyle\frac{2\pi}{T} \right)^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
これを整理して、
\(\displaystyle\frac{4\pi^2 m r}{T^2} = G\frac{Mm}{r^2}\)
\(T^2\) について解くと、
\(T^2 = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM} r^3\)
よって、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\)
\(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) は定数であるため、ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) が導かれた。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力を向心力とする運動方程式の立式
- 核心: この問題の根幹は、天体の円運動が、その中心天体からの万有引力によって引き起こされているという物理的状況を、運動方程式という数学的な言葉に翻訳する能力です。具体的には、運動方程式 \(ma=F\) の左辺の加速度 \(a\) には円運動の向心加速度 (\(a=v^2/r\)) を、右辺の力 \(F\) にはその原因である万有引力 (\(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)) を正しく代入することです。
- 理解のポイント:
- 向心力は「役割」の名前: 「向心力」という特別な力が存在するわけではありません。この問題では、万有引力が円運動を維持するための「向心力」という役割を担っています。
- 力のつりあいではない: 惑星は常に進行方向を変えながら運動しているため、加速しています(加速度がゼロではない)。したがって、力がつり合っているわけではなく、運動方程式を立てる必要があります。
- 運動学的関係式を用いた法則の導出
- 核心: 運動方程式から得られる関係(力学的関係)と、円運動そのものの性質から決まる関係(運動学的関係)を結びつけて、新たな物理法則を導き出すプロセスです。
- 理解のポイント:
- 異なる法則の連携: (1)で立てた運動方程式は力学の法則ですが、(2)で用いる \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) は、速さ・半径・周期の定義からくる純粋な運動学(図形と時間の関係)の式です。これら異なる起源の式を組み合わせることで、ケプラーの第3法則という、より深い洞察が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 人工衛星の運動: 地球(質量 \(M_E\))のまわりをまわる人工衛星(質量 \(m\))の運動。中心天体が太陽から地球に変わるだけで、運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\frac{M_E m}{r^2}\) となり、全く同じ考え方で周期や速さを計算できます。
- 原子模型(ボーアモデル): 原子核(電荷 \(+Ze\))のまわりをまわる電子(質量 \(m_e\), 電荷 \(-e\))の運動。向心力の正体が万有引力ではなく、静電気力(クーロン力)に変わります。運動方程式は \(m_e\displaystyle\frac{v^2}{r} = k\frac{(Ze)e}{r^2}\) となりますが、立式の構造は全く同じです。
- 連星: 2つの恒星が、互いの万有引力によって共通の重心のまわりを円運動する問題。それぞれの星について運動方程式を立てる必要がありますが、向心力が相手の星からの万有引力であるという基本は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- まずは向心力の正体を特定する: 何の力が物体を円運動させているのか?(万有引力か、静電気力か、糸の張力か、ばねの弾性力か、など)これが運動方程式の右辺 \(F\) に入ります。
- 運動を記述する量を選ぶ: 問題で与えられている、あるいは問われている量に応じて、速さ \(v\) で考えるか、角速度 \(\omega\) で考えるかを決めます。これが運動方程式の左辺 \(ma\) の \(a\) (\(v^2/r\) または \(r\omega^2\)) に影響します。
- 周期 \(T\) が関係するか確認する: もし周期 \(T\) を求めたり、使ったりする必要があるなら、必ず運動学的関係式(\(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) や \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\))を使うことになります。運動方程式とこの関係式を連立させるのが定石です。
- 定数 \(k\) の中身を意識する: ケプラーの法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}=k\) が出てきたら、その定数 \(k\) が何によって決まるのか(この問題では \(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\))を常に意識します。この定数の中身を問う問題も頻出です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力という未知の力を追加してしまう:
- 誤解: 万有引力とは別に、「向心力」という力が外から加わっていると考えて、\(ma = F_{\text{万有引力}} + F_{\text{向心力}}\) のような誤った式を立ててしまう。
- 対策: 向心力は力の「種類」ではなく「役割」であると理解しましょう。円運動している物体に働く力をすべて図示し、その合力の「中心方向成分」が向心力です。この問題では、働く力は万有引力しかないので、「万有引力=向心力」となります。
- 運動方程式の \(r\) の次数を混同する:
- 誤解: 向心加速度の分母は \(r\)、万有引力の分母は \(r^2\) ですが、これを逆にしたり、両方とも \(r\) や \(r^2\) にしてしまったりする。
- 対策: これは公式を正確に記憶するしかありません。「加速度は \(r\) に反比例」「力は \(r^2\) に反比例」と、言葉で覚えておくと間違いにくくなります。立式した後に、単位の次元が合っているかを確認するのも有効です。
- ケプラーの法則の定数 \(k\) が普遍的だと誤解する:
- 誤解: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}=k\) の \(k\) が、どんな天体の運動でも同じ値を持つ定数だと思ってしまう。
- 対策: 定数 \(k\) の正体が \(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) であることを常に意識してください。この式からわかるように、\(k\) の値は中心天体の質量 \(M\) に依存します。したがって、太陽系の惑星どうしでは \(k\) は同じ値になりますが、例えば木星とその衛星たちの系では、中心天体が木星(質量が太陽と異なる)になるため、\(k\) の値も太陽系とは異なります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(運動方程式):
- 選定理由: 問題は「惑星の運動」について問うています。運動の状態(この場合は等速円運動の加速度)と、その原因である「力」(万有引力)を結びつける物理学の根本法則は、運動方程式 \(ma=F\) です。したがって、この公式を選択するのは必然です。
- 適用根拠: 惑星は等速円運動をしているので、その加速度 \(a\) は向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) で与えられます。また、惑星に働く力 \(F\) は万有引力 \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) です。これらの物理的な事実を \(ma=F\) に代入することで、この状況を記述する具体的な方程式が得られます。
- (2)での公式選択(\(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\)):
- 選定理由: (1)で得られたのは、速さ \(v\) と半径 \(r\) の関係式です。一方で、(2)で導きたいのは、周期 \(T\) と半径 \(r\) の関係式です。つまり、既存の式から \(v\) を消去し、代わりに \(T\) を導入する必要があります。この \(v\) と \(T\) の「橋渡し」をするのが、等速円運動の運動学的な関係式 \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) です。
- 適用根拠: この公式は、物理法則というよりは「速さ」と「周期」の定義から導かれます。速さとは「距離÷時間」であり、円運動で1周(距離 \(2\pi r\))するのにかかる時間が周期 \(T\) なので、\(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) が成り立ちます。この関係は、等速円運動である限り常に成り立つため、(1)の運動方程式と連立させることが論理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま整理してから代入する:
- この問題は文字式のみですが、例えば \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) の両辺にある惑星の質量 \(m\) は、計算の早い段階で約分して消去しておくと、式がシンプルになり見通しが良くなります。
- 指数の計算を丁寧に行う:
- \(v = \displaystyle\frac{2\pi r}{T}\) を運動方程式に代入する際、\(v^2 = (\displaystyle\frac{2\pi r}{T})^2 = \frac{4\pi^2 r^2}{T^2}\) となります。括弧全体の2乗を、各因子(\(4, \pi, r, T\))に正しく分配するよう注意しましょう。特に \(2\pi\) を忘れて \(2\pi^2\) としたり、\(r\) や \(T\) の2乗を忘れたりするミスが多いです。
- 最終的な式の形をゴールとして意識する:
- (2)では、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) という形を導くことがゴールです。計算の途中で、この形を目指して式を変形していくと、何をすべきかが明確になります。例えば、「まず \(T^2 = \dots\) の形に整理しよう。その後、両辺を \(r^3\) で割ればゴールだ」という見通しを立てることができます。
- 物理的にありえない答えでないか吟味する:
- 最終的に導かれたケプラーの法則の定数 \(k = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) に、惑星自身の質量 \(m\) が含まれていないことを確認します。もし \(m\) が式に残っていたら、どこかで約分を忘れているなどの計算ミスが考えられます。惑星の軌道法則が、その惑星自身の質量によらないというのは、物理的に非常に重要な結論であり、良い検算ポイントになります。
基本例題35 人工衛星の力学的エネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)の別解1: ケプラーの第3法則を用いる解法
- 模範解答が速さ \(v\) と周期の定義式 \(T=2\pi r/v\) から計算するのに対し、別解では前問で導出したケプラーの第3法則を直接適用して周期を求めます。
- 設問(2)の別解2: 角速度 \(\omega\) を用いる解法
- 模範解答が速さ \(v\) を用いて運動を記述するのに対し、別解では角速度 \(\omega\) を用いて運動方程式を立て、周期との関係式 \(T=2\pi/\omega\) から周期を求めます。
- 設問(3)の別解: 運動エネルギーと位置エネルギーの関係性に着目する解法
- 模範解答が力学的エネルギーを個別に計算して足し合わせるのに対し、別解では円運動する物体に特有の運動エネルギーと位置エネルギーの間の関係性(\(K = -U/2\))を利用して、力学的エネルギーをより簡潔に求めます。
- 設問(2)の別解1: ケプラーの第3法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理法則の関連性の理解: 運動方程式から導かれるケプラーの第3法則が、具体的な周期計算に直接使えることを示すことで、法則間のつながりへの理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 等速円運動を速さ \(v\) で捉える方法と角速度 \(\omega\) で捉える方法の両方に慣れることで、問題に応じて最適なアプローチを選択する力が養われます。
- 物理的本質の深化: 円軌道における力学的エネルギーの性質(\(E=-K=U/2\))という、より深い物理的洞察を得ることができます。この関係性は、天体力学のより進んだ問題を考える上での基礎となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「万有引力と力学的エネルギー」です。人工衛星の運動を題材に、運動方程式とエネルギーという力学の2つの柱を用いて、速さ、周期、エネルギーを計算する、万有引力の分野における総合的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の法則(運動方程式): 人工衛星に働く万有引力が、等速円運動の向心力となっていることを理解し、\(ma=F\) の関係式を立てられること。
- 万有引力の法則: 地球と人工衛星の間に働く力の大きさが \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) で与えられること。
- 力学的エネルギー保存則: この系では、働く力(万有引力)が保存力であるため、力学的エネルギーが保存されること。また、その構成要素である運動エネルギー \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と万有引力による位置エネルギー \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) の式を正しく理解していること。
- 円運動の運動学的知識: 周期と速さの関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) を使いこなせること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、人工衛星の円運動の運動方程式を立て、それを解くことで速さ \(v\) を求めます。
- (2)では、(1)で求めた速さ \(v\) を、周期の定義式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) に代入して周期 \(T\) を計算します。
- (3)では、力学的エネルギーの定義式 \(E = K+U\) に、運動エネルギーと位置エネルギーの具体的な式を代入します。その際、(1)の結果を用いて、速さ \(v\) を消去し、与えられた文字だけでエネルギーを表します。
問(1)
思考の道筋とポイント
人工衛星は、地球からの万有引力を向心力として等速円運動をしています。この物理的な状況を運動方程式 \(ma=F\) で表現し、速さ \(v\) について解きます。これは、万有引力が関わる円運動の問題で最も基本的な立式です。
この設問における重要なポイント
- 人工衛星に働く力は、地球からの万有引力のみである。
- この万有引力が、等速円運動の向心力の役割を担っている。
- 運動方程式の加速度 \(a\) には向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を、力 \(F\) には万有引力の大きさ \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) を代入する。
具体的な解説と立式
人工衛星(質量 \(m\))は、地球(質量 \(M\))からの万有引力を受けて、半径 \(r\)、速さ \(v\) の等速円運動をしています。
このとき、向心力の大きさと万有引力の大きさが等しいので、運動方程式は以下のように立てられます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= G\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
- 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
上記で立てた運動方程式を \(v\) について解きます。
まず、両辺の \(m\) を消去し、\(r\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= G\frac{M}{r}
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、両辺の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{GM}{r}}
\end{aligned}
$$
人工衛星が地球の周りを回り続けられるのは、地球の重力(万有引力)が常に中心に向かって引っ張っているからです。この引っ張る力と、人工衛星が円を描いて運動しようとする勢いがちょうど釣り合っているため、軌道から外れずに運動できます。この力のバランスの式を立てて、人工衛星の「速さ」を計算します。
人工衛星の速さは \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) と求まりました。この式から、速さは軌道半径 \(r\) が大きいほど(地球から遠いほど)小さくなることがわかります。また、人工衛星自身の質量 \(m\) にはよらないという点も重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
周期 \(T\) とは、人工衛星が軌道を1周するのにかかる時間のことです。等速円運動では、「時間 = 道のり ÷ 速さ」の関係が使えます。1周の道のりは円周の長さ \(2\pi r\) であり、速さ \(v\) は(1)で求めたので、これらを代入して周期 \(T\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 周期の定義式は \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) である。
- (1)で求めた \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) を代入する。
具体的な解説と立式
周期 \(T\) は、円周 \(2\pi r\) を速さ \(v\) で進むのにかかる時間なので、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi r}{v}
\end{aligned}
$$
この式に、(1)で求めた \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) を代入します。
使用した物理公式
- 等速円運動における周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi r}{\sqrt{\frac{GM}{r}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi r \times \sqrt{\frac{r}{GM}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{r^2 \times \frac{r}{GM}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{r^3}{GM}}
\end{aligned}
$$
(1)で人工衛星の速さがわかりました。そして、1周の距離は円周の公式 \(2\pi r\) で計算できます。あとは、「時間=道のり÷速さ」という小学校で習った計算をするだけです。これで、人工衛星が地球を1周するのに何秒かかるかがわかります。
周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{r^3}{GM}}\) と求まりました。この式の両辺を2乗すると \(T^2 = 4\pi^2 \displaystyle\frac{r^3}{GM}\) となり、整理すると \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) となります。これはケプラーの第3法則として知られる関係式であり、結果の妥当性を示しています。
思考の道筋とポイント
惑星や衛星の運動では、周期の2乗と軌道半径の3乗の比が一定になるという「ケプラーの第3法則」が成り立ちます。この法則を公式として利用することで、速さ \(v\) を経由せずに直接周期 \(T\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) を適用する。
具体的な解説と立式
地球(質量 \(M\))の周りをまわる天体の運動には、ケプラーの第3法則が適用できます。
$$
\begin{aligned}
\frac{T^2}{r^3} &= \frac{4\pi^2}{GM}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\)
上記の式を \(T\) について解きます。まず、両辺に \(r^3\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
T^2 &= \frac{4\pi^2 r^3}{GM}
\end{aligned}
$$
\(T>0\) なので、両辺の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
T &= \sqrt{\frac{4\pi^2 r^3}{GM}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{r^3}{GM}}
\end{aligned}
$$
天体の運動には、「周期の2乗は、軌道半径の3乗に比例する」という便利な法則(ケプラーの第3法則)があります。この法則の公式を知っていれば、(1)の答えを使わなくても、一発で周期を計算することができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。ケプラーの第3法則は運動方程式から導かれるものであるため、当然同じ結果になります。この法則を知っていると、計算を大幅に短縮できる場合があります。
思考の道筋とポイント
円運動を速さ \(v\) の代わりに角速度 \(\omega\) を用いて記述する方法です。まず運動方程式を \(\omega\) で立てて \(\omega\) を求め、次に周期との関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を使って \(T\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 向心加速度を \(a=r\omega^2\) で表す。
- 周期と角速度の関係式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) を用いる。
具体的な解説と立式
角速度 \(\omega\) を用いた運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
mr\omega^2 &= G\frac{Mm}{r^2}
\end{aligned}
$$
周期 \(T\) と角速度 \(\omega\) の関係は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\) (ただし \(a=r\omega^2\))
- 周期と角速度の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
まず、運動方程式を \(\omega\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{GM}{r^3} \\[2.0ex]
\omega &= \sqrt{\frac{GM}{r^3}}
\end{aligned}
$$
次に、この \(\omega\) を周期の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi}{\sqrt{\frac{GM}{r^3}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{r^3}{GM}}
\end{aligned}
$$
人工衛星の運動を、直進する「速さ」ではなく、回転する速さである「角速度」で考える方法です。まず運動のバランスの式から角速度を求めます。角速度は「1秒あたりに何ラジアン回転するか」なので、それを使えば「1周(\(2\pi\)ラジアン)するのに何秒かかるか」も計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。速さ \(v\) を使うか、角速度 \(\omega\) を使うかは、問題によって計算のしやすさが変わるため、両方の考え方に慣れておくと便利です。
問(3)
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー \(E\) は、運動エネルギー \(K\) と万有引力による位置エネルギー \(U\) の和で定義されます (\(E=K+U\))。それぞれの公式を書き出し、値を代入します。このとき、運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に含まれる \(v^2\) は、(1)の運動方程式から得られる関係式を使って、問題で与えられている文字(\(G, M, m, r\))だけで表せるように変形するのがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー \(E = K + U\)。
- 運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
- 万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)(無限遠基準)。
- (1)の運動方程式から得られる \(mv^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) の関係を利用して \(v\) を消去する。
具体的な解説と立式
人工衛星の力学的エネルギー \(E\) は、運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) の和なので、
$$
\begin{aligned}
E &= K + U \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}mv^2 + \left(-G\frac{Mm}{r}\right)
\end{aligned}
$$
ここで、(1)の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) の両辺に \(r\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
mv^2 &= G\frac{Mm}{r}
\end{aligned}
$$
という関係が得られます。この関係を使って、力学的エネルギーの式から \(v^2\) を消去します。
使用した物理公式
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
\(mv^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を力学的エネルギーの式に代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}(mv^2) – G\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\left(G\frac{Mm}{r}\right) – G\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]
&= G\frac{Mm}{2r} – G\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]
&= \left(\frac{1}{2} – 1\right)G\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]
&= -G\frac{Mm}{2r}
\end{aligned}
$$
人工衛星が持つエネルギーは、その速さによる「運動エネルギー」と、地球に引かれていることによる「位置エネルギー」の合計です。それぞれのエネルギーを計算して足し算します。ただし、位置エネルギーは、地球の重力が及ばない無限に遠い場所を基準(ゼロ)にしているので、それより地球に近い場所ではマイナスの値になります。
力学的エネルギーは \(E = -G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) と求まりました。エネルギーが負の値であることは、人工衛星が地球の重力に束縛されている状態を意味します。つまり、このエネルギーだけでは無限遠に脱出することはできず、地球の周りを回り続けるしかない、ということです。
思考の道筋とポイント
円軌道を運動する衛星では、運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) の間に、常に成り立つ美しい関係性があります。この関係性を導き、利用することで、よりスマートに力学的エネルギーを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式から \(K\) を \(G, M, m, r\) で表す。
- \(K\) と \(U\) の関係を見出す。(結論は \(K = -\displaystyle\frac{1}{2}U\))
- この関係を用いて \(E=K+U\) を計算する。
具体的な解説と立式
主たる解法の計算過程で示したように、運動エネルギー \(K\) は、
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{1}{2}mv^2 = G\frac{Mm}{2r}
\end{aligned}
$$
と表せます。
一方、位置エネルギー \(U\) は、
$$
\begin{aligned}
U &= -G\frac{Mm}{r}
\end{aligned}
$$
です。この2つの式を比較すると、
$$
\begin{aligned}
K &= -\frac{1}{2} \left(-G\frac{Mm}{r}\right) = -\frac{1}{2}U
\end{aligned}
$$
という関係が成り立っていることがわかります。
使用した物理公式
- 円軌道におけるエネルギーの関係式: \(K = -\displaystyle\frac{1}{2}U\)
この関係式 \(K = -\displaystyle\frac{1}{2}U\) を使って、力学的エネルギー \(E=K+U\) を計算します。
方法1: \(U\) で表す
$$
\begin{aligned}
E &= K+U \\[2.0ex]
&= \left(-\frac{1}{2}U\right) + U \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}U \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\left(-G\frac{Mm}{r}\right) \\[2.0ex]
&= -G\frac{Mm}{2r}
\end{aligned}
$$
方法2: \(K\) で表す
\(U = -2K\) なので、
$$
\begin{aligned}
E &= K+U \\[2.0ex]
&= K + (-2K) \\[2.0ex]
&= -K \\[2.0ex]
&= -\left(G\frac{Mm}{2r}\right) \\[2.0ex]
&= -G\frac{Mm}{2r}
\end{aligned}
$$
地球の周りを円で回っている人工衛星の場合、実はその「運動エネルギー」の大きさは、常に「位置エネルギー」の大きさのちょうど半分になる、という特別な関係があります。この関係を知っていると、例えば位置エネルギーさえ分かれば、運動エネルギーも合計のエネルギーもすぐに計算できてしまいます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。円軌道における \(K = -\displaystyle\frac{1}{2}U\) という関係、およびそこから導かれる \(E = \displaystyle\frac{1}{2}U = -K\) という関係は、万有引力の問題を解く上で非常に強力なツールとなります。覚えておくと検算にも役立ちます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式とエネルギーの連携
- 核心: この問題は、力学の二大アプローチである「運動方程式(力)」と「エネルギー」の両方を使いこなすことが求められます。まず(1)で運動方程式を立てて運動の状態(速さ)を決定し、その結果を(3)でエネルギーの計算に利用します。このように、異なる物理法則が互いに連携し合って一つの問題を解き明かすプロセスを理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 運動方程式の役割: 人工衛星がなぜその速さで円運動を続けられるのか、という「運動の原因(力)」と「運動の状態(加速度)」の関係を数式で記述します。これにより、軌道半径 \(r\) が決まれば速さ \(v\) が一意に決まる、という力学的な束縛条件が明らかになります。
- エネルギーの役割: 人工衛星がどれだけのエネルギーを持ってその軌道に「束縛」されているか、という系の安定性を記述します。力学的エネルギーが負であることは、衛星が地球の重力圏から自力で脱出できないことを意味します。
- 万有引力による位置エネルギーの理解
- 核心: 地上の物体で慣れ親しんだ位置エネルギー \(mgh\) とは異なり、万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) の概念を正確に理解することです。
- 理解のポイント:
- 基準点は無限遠: この位置エネルギーは、万有引力がゼロになる「無限に遠い点」を基準(\(U=0\))としています。
- エネルギーは負の値: 引力が働くということは、物体は基準点(無限遠)よりもエネルギー的に低い(安定な)状態にあることを意味します。そのため、有限の距離 \(r\) における位置エネルギーは必ず負の値になります。この符号の意味を正しく捉えることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 第二宇宙速度(地球脱出速度): 地上にある物体が地球の重力を振り切って無限遠に到達するために必要な初速度を求める問題。これは、地表での力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)が、無限遠での力学的エネルギー(\(0\))と等しくなる、というエネルギー保存則の条件 \( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{R} = 0 \) から計算できます。(\(R\)は地球の半径)
- 楕円軌道運動: 実際の惑星や衛星の多くは楕円軌道を描きます。この場合、軌道上のどこでも速さは一定ではありませんが、力学的エネルギーは保存されます。近日点(最も地球に近い点)と遠日点(最も遠い点)で力学的エネルギー保存則と面積速度一定の法則(ケプラーの第2法則)を連立させるのが定石です。
- 原子のエネルギー準位: 原子核の周りを回る電子のエネルギーを考える問題。向心力がクーロン力に変わるだけで、力学的エネルギーが負の値をとり、特定の値に量子化されるという考え方は、この問題のエネルギー計算が基礎になっています。
- 初見の問題での着眼点:
- 軌道の形を把握する: 問題文から、軌道が「円」なのか「楕円」なのか、あるいは「地上からの打ち上げ」なのかを正確に読み取ります。円軌道であれば、運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}=F\) が直接使えます。
- 問われている物理量で方針を決める:
- 「速さ」「周期」「力の大きさ」→ まずは運動方程式を立てる。
- 「エネルギー」「〜するのに必要な仕事」「脱出できるか」→ 力学的エネルギー保存則を考える。
- エネルギーの基準点を確認する: 万有引力の問題では、通常は「無限遠」を位置エネルギーの基準点としますが、問題文に特別な指示がないか必ず確認します。
- 円軌道特有の関係式を疑う: (3)の別解で示したように、円軌道では運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) の間に \(K = -\displaystyle\frac{1}{2}U\) という特別な関係が成り立ちます。この関係は計算を大幅に簡略化し、検算にも使えるため、円軌道の問題では常にこの関係を念頭に置くと有利です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位置エネルギーの符号ミス:
- 誤解: 万有引力による位置エネルギーの公式を \(U = +G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) と勘違いしてしまう。
- 対策: 「無限遠(基準点, \(U=0\))から、引力に引かれて近づいてきたのだから、エネルギーは基準より低くなるはずだ」と物理的な意味を考え、符号が負になることを納得しておきましょう。重力位置エネルギー \(mgh\) とは基準の取り方が根本的に違うことを区別することが重要です。
- 力学的エネルギーの計算での符号ミス:
- 誤解: \(E = K+U\) を計算する際に、\(U\) の負号を忘れて \(E = G\displaystyle\frac{Mm}{2r} + G\frac{Mm}{r}\) のように足し算してしまう。
- 対策: 式を立てる際に \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + (-G\frac{Mm}{r})\) のように、負のエネルギーを加えるという意識を明確に持つことが有効です。また、「地球に束縛されている衛星の力学的エネルギーは負になるはず」という最終結果の吟味もミスを防ぎます。
- 運動エネルギーの変形を遠回りしてしまう:
- 誤解: (3)で運動エネルギーを計算する際に、(1)で求めた \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) を \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) にわざわざ代入して \(K = \displaystyle\frac{1}{2}m(\sqrt{\frac{GM}{r}})^2 = \dots\) と計算してしまう。
- 対策: (1)の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) から、両辺に \(r\) を掛けて \(mv^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) という関係式を導き出すのが最も効率的です。この \(mv^2\) という「塊」を \(K = \displaystyle\frac{1}{2}(mv^2)\) に代入する、という手順を身につけましょう。これにより、計算が速く正確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (1)での公式選択(運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは人工衛星の「速さ \(v\)」。速さは運動の状態を表す量であり、その運動(円運動)の原因は「万有引力」です。運動の原因(力)と状態(加速度)を結びつける唯一の基本法則が運動方程式 \(ma=F\) であるため、これを選択します。
- 適用根拠: 運動が「等速円運動」であるという事実から、加速度 \(a\) は向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\) でなければなりません。また、向心力の源が「万有引力」であるという事実から、力 \(F\) は \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) となります。これらの物理的事実を、普遍的な法則である \(ma=F\) に適用しています。
- (2)での公式選択(\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)):
- 選定理由: 求めたいのは「周期 \(T\)」。(1)で「速さ \(v\)」が既知となりました。周期、速さ、半径は、円運動の運動学的な性質を記述する基本的な量であり、これらを結びつける最も直接的な関係式が \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) です。
- 適用根拠: この式は物理法則というより、言葉の定義です。「周期」とは「1周するのにかかる時間」のこと。「速さ」は「単位時間に進む距離」。したがって、「時間 = 距離 ÷ 速さ」という関係から、「周期 \(T\) = 1周の距離 \(2\pi r\) ÷ 速さ \(v\)」が導かれます。これは等速円運動である限り、常に成り立つ関係です。
- (3)での公式選択(\(E=K+U\) と運動方程式):
- 選定理由: 求めたいのは「力学的エネルギー \(E\)」。力学的エネルギーは、定義により「運動エネルギー \(K\) と位置エネルギー \(U\) の和」です。したがって、\(E=K+U\) から出発するのは必然です。
- 適用根拠: \(K\) と \(U\) をそれぞれ \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\), \(U=-G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) という定義式で表します。しかし、このままでは問題で与えられていない文字 \(v\) が残ってしまいます。物理量は、問題で与えられた文字だけで表現するのが原則です。そこで、(1)でこの系の物理的状況を記述した運動方程式に立ち返り、そこから得られる \(v\) と他の文字の関係(\(mv^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r}\))を用いて \(v\) を消去します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 平方根の計算は慎重に:
- (2)の周期計算で、\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi r}{\sqrt{GM/r}}\) のように、分母に平方根が来る計算では、まず分母の平方根を \(\displaystyle\frac{\sqrt{GM}}{\sqrt{r}}\) と分離し、分数の割り算は逆数を掛ける、と考えて \(T = 2\pi r \times \displaystyle\frac{\sqrt{r}}{\sqrt{GM}}\) とすると、間違いが減ります。
- 根号の外の文字を中に入れる際は2乗する(\(r = \sqrt{r^2}\))という基本操作を確実に行いましょう。
- 共通因数でくくる:
- (3)のエネルギー計算 \(E = G\displaystyle\frac{Mm}{2r} – G\frac{Mm}{r}\) では、共通部分である \(G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を一つの塊と見て、\(E = (\displaystyle\frac{1}{2} – 1) \times (G\frac{Mm}{r})\) と計算すると、係数部分の \(\displaystyle\frac{1}{2}-1 = -\frac{1}{2}\) の計算に集中でき、ミスを防げます。
- 物理的な関係式で検算する:
- (3)で力学的エネルギー \(E\) を計算したら、それが運動エネルギー \(K\) や位置エネルギー \(U\) との間に成り立つはずの関係 \(E=-K\) および \(E=\displaystyle\frac{1}{2}U\) を満たしているか確認する癖をつけましょう。
- 例えば、\(K = G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) と計算できているなら、\(E=-K\) のはずだから \(E=-G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) になるはずだ、と予測できます。自分の計算結果がこれと一致すれば、正解である可能性が非常に高まります。これは非常に強力な検算テクニックです。
- 符号の吟味:
- 計算の最終段階で、各物理量の符号が物理的に妥当かを確認します。
- 運動エネルギー \(K\): 質量も \(v^2\) も正なので、必ず正。
- 万有引力による位置エネルギー \(U\): 束縛されているので、必ず負。
- 力学的エネルギー \(E\): 束縛されているので、必ず負。
- もしこれらの符号がおかしくなっていたら、計算のどこかでミスをしています。
- 計算の最終段階で、各物理量の符号が物理的に妥当かを確認します。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
基本問題
240 ケプラーの第3法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ケプラーの第3法則の具体的な適用」です。観測によって発見された法則を用いて、ある惑星のデータから別の惑星の運動を予測するという、天文学的な計算を体験する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ケプラーの第3法則: 同じ中心天体の周りを公転する複数の天体について、「公転周期の2乗」と「軌道半径の3乗」の比が一定になる (\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}=k\)) ことを理解していること。
- 比例計算: 法則が「比が一定」という形で与えられるため、2つの天体の間で比例式を立てて、未知の量を計算できること。
- 指数計算: \(r^3\) やその平方根 (\(r^{3/2}\)) の計算を正確に行えること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 地球と木星は、どちらも太陽という共通の中心天体の周りを公転しているため、ケプラーの第3法則を適用できます。
- 地球と木星それぞれについて \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3}\) の値を書き、それらが等しいという式を立てます。
- その式に、地球の公転周期(\(1\)年)と、地球と木星の軌道半径の比(\(5.2\)倍)を代入し、木星の公転周期を求めます。