「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 1】基本問題15~22

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基本問題

15 平面運動の相対速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解1: 特別な直角三角形の辺の比 (\(1:2:\sqrt{3}\)) を用いる解法
      • 模範解答の主たる解法が三角比(\(\tan\))を計算するのに対し、別解1では角度が\(30^\circ, 60^\circ\)であることに着目し、より直感的な辺の比の関係から答えを導きます。
    • 別解2: 成分計算を用いる解法
      • 主たる解法がベクトル図という幾何学的なアプローチを取るのに対し、別解2では座標を設定し、ベクトルを成分で表して代数的に計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の柔軟性向上: 幾何学的なアプローチ(三角比、辺の比)と代数的なアプローチ(成分計算)の両方を学ぶことで、問題に応じて最適な解法を選択する能力が養われます。
    • 解法の効率化: 別解1のように、問題の特性(特別な角)を見抜くことで、計算を大幅に簡略化できる場合があります。
    • 解法の汎用性: 別解2の成分計算は、ベクトルが直交しない、より複雑な角度の問題にも対応できる汎用性の高い手法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「平面上での相対速度のベクトル解析」です。動いている観測者から見た物体の運動(相対運動)を、ベクトル図を用いて正しく解析し、未知の速度を求めることが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 相対速度のベクトル関係式: 観測者Aから見た物体Bの速度 \(\vec{v}_{AB}\) は、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) で表されること。
  2. ベクトルの引き算の作図: \(\vec{v}_B – \vec{v}_A\) は、\(\vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) というベクトルの足し算として作図できること。
  3. 三角比の利用: 作図によって現れる直角三角形の辺の長さの関係を、三角比(特に\(\tan\theta\))を用いて数式で表現できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 地面に対する電車の速度 \(\vec{v}_A\)、地面に対する雨の速度 \(\vec{v}_B\)、電車内の人から見た雨の相対速度 \(\vec{v}_{AB}\) の関係式 \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) を立てます。
  2. この関係式を、ベクトルの和の形 \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) と解釈し、ベクトル図を描きます。
  3. \(\vec{v}_B\)(鉛直下向き)と \(-\vec{v}_A\)(水平方向)が直交することから、図が直角三角形になることを見抜きます。
  4. 問題文で与えられた角度の情報を用いて、この直角三角形に三角比を適用し、未知の速さ \(v_B\) を計算します。

思考の道筋とポイント
「電車内の人から見ると」という記述から、これは相対速度の問題です。また、「水平」「鉛直」「鉛直と\(30^\circ\)」という方向が出てくるため、平面上のベクトルとして考える必要があります。
相対速度の公式は \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) です。このベクトルの引き算は、\(\vec{v}_B\) と \(-\vec{v}_A\) の足し算、つまり \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) と考えるのが作図しやすいです。

  • \(\vec{v}_A\) は水平方向なので、その逆ベクトル \(-\vec{v}_A\) も水平方向です。
  • \(\vec{v}_B\) は鉛直下向きです。

この2つのベクトルは直交しているので、これらの和である \(\vec{v}_{AB}\) を斜辺とする直角三角形を描くことができます。この三角形の角度と辺の長さの関係から、未知の速さ \(v_B\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 相対速度の関係式: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)
  • ベクトルの引き算は、逆ベクトルの足し算 \(\vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) として作図すると考えやすい。
  • 水平方向のベクトルと鉛直方向のベクトルは直交する。
  • 直角三角形における三角比の関係: \(\tan\theta = \frac{\text{対辺}}{\text{底辺}}\)

具体的な解説と立式
地面に対する電車の速度を \(\vec{v}_A\)、地面に対する雨の速度を \(\vec{v}_B\)、電車内の人から見た雨の相対速度を \(\vec{v}_{AB}\) とします。

  • \(\vec{v}_A\) は水平方向に大きさ \(v_A = 5.0 \, \text{m/s}\)。
  • \(\vec{v}_B\) は鉛直下向きに大きさ \(v_B\)(未知)。
  • \(\vec{v}_{AB}\) は鉛直方向と \(30^\circ\) の角をなす。

相対速度の関係式 \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) を、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) と考えてベクトル図を描きます。
\(\vec{v}_B\)(鉛直下向き)の終点に、\(-\vec{v}_A\)(水平方向)の始点をつなぐと、\(\vec{v}_B\) の始点から \(-\vec{v}_A\) の終点まで引いたベクトルが \(\vec{v}_{AB}\) となります。
このとき、\(\vec{v}_B\) と \(-\vec{v}_A\) は直交するため、直角三角形ができます。
この三角形において、\(\vec{v}_{AB}\) と \(\vec{v}_B\)(鉛直方向)のなす角が \(30^\circ\) です。
したがって、三角形のもう一方の内角(\(\vec{v}_{AB}\) と \(-\vec{v}_A\) のなす角)は \(60^\circ\) となります。
この直角三角形に三角比を適用すると、
$$
\begin{aligned}
\tan 60^\circ &= \frac{(\text{対辺})}{(\text{底辺})} = \frac{v_B}{v_A}
\end{aligned}
$$
この式を \(v_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= v_A \tan 60^\circ
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 相対速度の関係式: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)
  • 三角比: \(\tan\theta\)
計算過程

上記で立てた式に、\(v_A = 5.0 \, \text{m/s}\) と \(\tan 60^\circ = \sqrt{3}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_B &= 5.0 \times \sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
v_B &\approx 5.0 \times 1.73 \\[2.0ex]
&= 8.65
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(8.7 \, \text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

もし電車が止まっていれば、雨は真下に降ってきます。しかし、電車が水平に動いているため、電車内の人にとっては、自分自身が静止していて、周りの景色(雨も含む)が逆方向に動いているように感じます。
つまり、雨には本来の「真下に落ちる動き」に加えて、「電車と逆向き(水平)の動き」が合成されて見えるのです。この結果、雨は斜めに降ってくるように見えます。
この関係を図にすると、直角三角形が現れます。電車の速さが分かっていて、雨が見える角度が分かっているので、三角比という数学の道具を使って、雨が本当に落ちる速さを計算することができます。

結論と吟味

地面に対する雨滴の落下速度は \(8.7 \, \text{m/s}\) となります。電車が動くことで雨が斜めに見えるという現象は日常的に経験することであり、その見かけの角度から元の雨の速さを逆算するという問題設定は物理的に妥当です。

解答 \(8.7 \, \text{m/s}\)
別解1: 特別な直角三角形の辺の比を用いる解法

思考の道筋とポイント
主たる解法で描いたベクトル図が、内角 \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の特別な直角三角形であることに着目します。この三角形の辺の長さの比は常に \(1:2:\sqrt{3}\) であるという幾何学的な性質を利用して、比例計算で答えを導きます。
この設問における重要なポイント

  • 角度が \(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の直角三角形の辺の比は、\(30^\circ\)の対辺 : \(60^\circ\)の対辺 : \(90^\circ\)の対辺 = \(1 : \sqrt{3} : 2\) である。
  • この問題のベクトル図では、\(v_A\) が \(30^\circ\) の対辺、\(v_B\) が \(60^\circ\) の対辺に対応する。

具体的な解説と立式
ベクトル図の直角三角形において、各辺の長さの比は、
$$
\begin{aligned}
v_A : v_B : v_{AB} &= 1 : \sqrt{3} : 2
\end{aligned}
$$
となります。この比例関係のうち、\(v_A\) と \(v_B\) の関係に着目します。
$$
\begin{aligned}
v_A : v_B &= 1 : \sqrt{3}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 特別な直角三角形の辺の比 (\(1:2:\sqrt{3}\))
計算過程

上記で立てた比例式に \(v_A = 5.0 \, \text{m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
5.0 : v_B &= 1 : \sqrt{3}
\end{aligned}
$$
比例式の性質(内項の積 = 外項の積)より、
$$
\begin{aligned}
1 \times v_B &= 5.0 \times \sqrt{3} \\[2.0ex]
v_B &= 5.0\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 8.65
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(8.7 \, \text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

この問題で作られる直角三角形は、角度が \(30^\circ\) と \(60^\circ\) の、分度器セットに入っている特別な三角形です。この三角形は、辺の長さの比が「\(1 : \sqrt{3} : 2\)」になることが決まっています。
一番短い辺(比が「1」)の長さが、電車の速さ \(5.0 \, \text{m/s}\) にあたります。求めたい雨の速さは、中間の長さの辺(比が「\(\sqrt{3}\)」)にあたるので、その長さは \(5.0 \times \sqrt{3} \approx 8.7 \, \text{m/s}\) と、簡単な掛け算で計算できます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。角度が \(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\) の場合は、三角比の計算よりもこちらの方法が速く、直感的に理解しやすいため非常に有効です。

解答 \(8.7 \, \text{m/s}\)
別解2: 成分計算を用いる解法

思考の道筋とポイント
ベクトルを図形としてではなく、座標上の数値(成分)として代数的に扱う方法です。水平右向きを\(x\)軸、鉛直上向きを\(y\)軸と設定し、各ベクトルを成分で表します。そして、相対速度の式 \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) を成分ごとに計算し、相対速度ベクトルの向きの情報(角度)から、未知の成分を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 座標軸を最初に設定する(例:水平右向きが\(x\)軸正、鉛直上向きが\(y\)軸正)。
  • 電車の速度は\(x\)成分、雨の速度は\(y\)成分(負)で表される。
  • 相対速度ベクトルの成分と、そのベクトルの傾き(角度)の関係を利用する。

具体的な解説と立式
水平右向きを\(x\)軸の正方向、鉛直上向きを\(y\)軸の正方向とします。

  • 地面に対する電車の速度 \(\vec{v}_A\):
    $$
    \begin{aligned}
    \vec{v}_A &= (5.0, 0)
    \end{aligned}
    $$
  • 地面に対する雨の速度 \(\vec{v}_B\): 鉛直下向きなので、\(y\)成分が負になります。速さ \(v_B\) は未知の正の値です。
    $$
    \begin{aligned}
    \vec{v}_B &= (0, -v_B)
    \end{aligned}
    $$

電車内の人から見た雨の相対速度 \(\vec{v}_{AB}\) は、
$$
\begin{aligned}
\vec{v}_{AB} &= \vec{v}_B – \vec{v}_A \\[2.0ex]
&= (0, -v_B) – (5.0, 0) \\[2.0ex]
&= (-5.0, -v_B)
\end{aligned}
$$
この相対速度ベクトル \(\vec{v}_{AB}\) が、鉛直方向(\(y\)軸負の方向)となす角が \(30^\circ\) です。
\(\vec{v}_{AB}\) の \(x\)成分 \(v_{ABx} = -5.0\)、\(y\)成分 \(v_{ABy} = -v_B\) の大きさの関係から、
$$
\begin{aligned}
\tan 30^\circ &= \frac{|v_{ABx}|}{|v_{ABy}|} = \frac{5.0}{v_B}
\end{aligned}
$$
この式を \(v_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_B &= \frac{5.0}{\tan 30^\circ}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 相対速度の式(成分表示)
  • ベクトルの成分と角度の関係
計算過程

上記で立てた式に、\(\tan 30^\circ = \frac{1}{\sqrt{3}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_B &= \frac{5.0}{1/\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 5.0\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 8.65
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(8.7 \, \text{m/s}\) となります。

この設問の平易な説明

運動を水平方向と鉛直方向に分けて、数字のペアで表します。

  • 電車の動きは「(\(x, y\)) = (\(5.0, 0\))」。
  • 雨の本当の動きは「(\(x, y\)) = (\(0, -v_B\))」。

電車から見た雨の動きは、これらを引き算して「(\(x, y\)) = (\(-5.0, -v_B\))」となります。これは、水平左向きに \(5.0\)、鉛直下向きに \(v_B\) の動きが合わさったものです。
この斜めの動きが、鉛直方向と \(30^\circ\) の角度をなすという情報から、三角比を使って未知の \(v_B\) を逆算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この成分計算は、ベクトル図を描くのが難しい複雑な角度の問題にも対応できる、非常に汎用性の高い方法です。

解答 \(8.7 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 相対速度のベクトル的引き算
    • 核心: この問題の根幹は、電車内の人から見た雨の速度 \(\vec{v}_{AB}\) が、地面に対する雨の速度 \(\vec{v}_B\) から、地面に対する電車の速度 \(\vec{v}_A\) を「ベクトルとして」引き算したもの (\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)) であることを理解し、それを図で表現できるかにあります。
    • 理解のポイント:
      • ベクトルの引き算は、\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) という「逆ベクトルの足し算」として作図すると考えやすくなります。つまり、「真下に降る雨の動き」に「電車と逆向きの水平な動き」を合成したものが、電車内の人から見た「斜めに降る雨の動き」になる、という物理的イメージに対応します。
  • ベクトル図と三角比の連携
    • 核心: ベクトルで表された物理法則を幾何学的な図(ベクトル図)に変換し、その図形の性質を数学的な道具(三角比)を用いて解く、という物理学の王道的な問題解決プロセスを体験することです。
    • 理解のポイント:
      • この問題では、\(\vec{v}_B\)(鉛直)と \(-\vec{v}_A\)(水平)が直交するため、ベクトル図は必然的に「直角三角形」になります。
      • この直角三角形の辺の長さ(速さ)と角度の関係を、三角比(特に\(\tan\))を用いて数式化することで、未知の速さを求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 川を横断する船: 「対岸の真向かいの点に到着するためには、船首をどれだけ上流に向けるべきか?」という問題。この場合、岸から見た船の速度(合成速度)が岸に垂直になるように、\(\vec{v}_{\text{船,岸}} = \vec{v}_{\text{船,静水}} + \vec{v}_{\text{川}}\) のベクトル図を描き、三角比で船首の角度や静水に対する速さを求めます。本問と非常によく似た構造をしています。
    • 風の中を飛ぶ飛行機: 「東へ向かいたいが、北風が吹いている。機首をどちらに向けるべきか?」という問題も同様の考え方で解けます。
    • 動く観測者と音源: 「静止している音源からの音を、動いている観測者が聞く」場合、観測者から見た音波の伝わる向きと速さは、相対速度の考え方で解析できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「〜から見る」と「2次元的な方向」: 「電車内の人が見る」という言葉で相対速度の問題だと判断し、「鉛直」「水平」「30°」といった方向の情報から、平面ベクトルの問題だと確定します。
    2. 3つの主役ベクトルを特定: \(\vec{v}_A\)(観測者=電車)、\(\vec{v}_B\)(物体=雨)、\(\vec{v}_{AB}\)(相対速度)を特定します。この問題では、\(\vec{v}_A\)の大きさと向き、\(\vec{v}_B\)の向き、\(\vec{v}_{AB}\)の向きが分かっており、\(\vec{v}_B\)の大きさが未知数です。
    3. 関係式を立て、ベクトル図を描く: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) または \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\) に基づいて、分かっている情報をベクトル図に書き込みます。未知のベクトルも、向きが分かっていれば矢印で描くことが重要です。
    4. 図形の性質と角度の特定: 描いた図がどのような三角形(特に直角三角形)になるかを見抜きます。問題文の角度(鉛直と30°)が、三角形のどの内角または外角に対応するかを正確に特定します。
    5. 数学的道具の選択: 直角三角形なら三角比や三平方の定理。特別な角(\(30^\circ, 60^\circ\))が含まれているので、辺の比の関係も有効な選択肢になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ベクトル図の作図ミス:
    • 誤解: \(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\) を作図する際に、ベクトルの足し算と混同して、矢印のつなぎ方を間違える。あるいは、どのベクトルが斜辺になるかを取り違える。
    • 対策: 引き算は「\(\vec{v}_B + (-\vec{v}_A)\)」の足し算と考えるのが最も安全です。まず\(\vec{v}_A\)の逆ベクトル\(-\vec{v}_A\)を描き、それと\(\vec{v}_B\)を「しりとり」のようにつなぎます。始点と終点を結んだものが\(\vec{v}_{AB}\)になります。
  • 角度の取り違え:
    • 誤解: 問題文の「鉛直方向と30°の角」を、ベクトル図の直角三角形のどの角に対応させるかを間違える。例えば、\(60^\circ\)ではなく\(30^\circ\)のまま\(\tan\)を計算してしまう。
    • 対策: 大きく正確な図を描き、問題文の情報を丁寧に図に書き込むことが不可欠です。特に、どの線が「鉛直方向」なのかを明確にし、それと\(\vec{v}_{AB}\)のなす角が\(30^\circ\)であることを図示すれば、三角形の内角が\(60^\circ\)であることが自然に導かれます。
  • 三角比の選択ミス:
    • 誤解: \(\tan, \sin, \cos\)のどれを使えばよいか混乱する。
    • 対策: SOH-CAH-TOA(サインは対辺/斜辺、コサインは底辺/斜辺、タンジェントは対辺/底辺)を思い出しましょう。この問題では、分かっている辺(\(v_A\))と求めたい辺(\(v_B\))が、角度\(60^\circ\)に対して「底辺」と「対辺」の関係にあるため、\(\tan\)を選択するのが最も合理的です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 相対速度の式 (\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\)) を用いる理由:
    • 選定理由: 問題文に「電車内の人が見る」という、動いている観測者からの視点が含まれているためです。この状況を記述する物理法則が相対速度の公式だからです。
    • 適用根拠: この公式は、基準系の変換という物理操作を数式化したものです。電車内の人の基準系では、自分は静止しており、地面が逆向きに動いているように見えます。雨の速度も、この「地面の動き」の影響を受ける(つまり、雨に地面の逆向きの速度が加わる)と考えることができます。その結果が、地面に対する雨の速度から電車の速度をベクトル的に引いたものになるのです。
  • 三角比(\(\tan\))を用いる理由:
    • 選定理由: ベクトル図を描いた結果、直角三角形が現れ、その中で「角度」と「直角を挟む2辺」の関係が問題になっているからです。この3つの要素(角度、対辺、底辺)を結びつける数学的道具が\(\tan\)であるため、これを選択します。
    • 適用根拠: 直角三角形における三角比の定義は、数学的に証明された普遍的な関係です。物理的なベクトル量を辺の長さとする図形にも、この数学的関係をそのまま適用することができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • ベクトル図の丁寧な作図: この種の問題の成否は、作図の正確さにかかっています。フリーハンドでも良いので、各ベクトルの向き(水平、鉛直)と、それらの関係(足し算か引き算か)を正確に反映した図を大きく描くことが、ミスを防ぐ最大のポイントです。
  • 角度情報の正確な転記: 問題文の「鉛直方向と30°」という情報を、図の中に正確に書き込みましょう。錯角や同位角、三角形の内角の和といった中学校の幾何学の知識を使い、計算に必要な角度(この場合は\(60^\circ\))を確実に導き出すことが重要です。
  • 特別な角の利用: 角度が\(30^\circ, 60^\circ\)と出てきたら、別解1で示した「辺の比 \(1:2:\sqrt{3}\)」が使えないか、常に意識しましょう。これにより、三角比の値を思い出したり、複雑な計算をしたりする手間が省け、ミスも減ります。
  • 近似値の精度: \(\sqrt{3} \approx 1.73\) を使う計算では、途中で丸めずに \(5.0 \times 1.73 = 8.65\) と計算し、最後に有効数字(この問題では2桁)に合わせて四捨五入(\(8.7\))するようにしましょう。
  • 答えの吟味: 電車の速さが \(5.0 \, \text{m/s}\) で、雨が鉛直から \(30^\circ\) 傾いて見える状況を考えます。もし雨の速さが非常に速ければ、角度はほとんど鉛直に近いはずです。もし雨の速さが非常に遅ければ、ほとんど水平に近く見えるはずです。\(30^\circ\) という中間の角度なので、雨の速さも電車の速さと同程度か、それより少し速いくらいだろう、と大まかな見当をつけることができます。計算結果の \(8.7 \, \text{m/s}\) はこの予測と合致しています。

16 運動の解析

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(3)の別解: \(v-t\)グラフを描かずに数値データから直接加速度を求める解法
      • 主たる解法が(2)で作成したグラフの傾きという幾何学的なアプローチで加速度を求めるのに対し、別解では(1)で計算した平均速度の数値リストから、区間ごとの加速度を算出し、その平均値として全体の加速度を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: グラフ化という視覚的なアプローチだけでなく、数値データを直接処理する代数的なアプローチを学ぶことで、データ解析への理解が深まります。また、各区間の加速度がほぼ一定であることを確認するプロセスを通じて、この運動が等加速度運動であることの確からしさを検証できます。
    • 思考の柔軟性向上: 実験データに対して、グラフを用いる方法と、数値のまま計算する方法の両方を経験することで、問題解決の選択肢が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「実験データの解析による運動の探求」です。離散的な位置と時刻のデータから、平均の速度を算出し、\(v-t\)グラフを作成して、最終的に加速度という運動の法則性を導き出す、物理学の実験における基本的な解析手法を学びます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 変位と平均の速度の定義: 変位が位置の変化量 (\(\Delta x\)) であり、平均の速度がそれを経過時間 (\(\Delta t\)) で割ったもの (\(\bar{v} = \frac{\Delta x}{\Delta t}\)) であること。
  2. 平均の速度と瞬間の速度の関係: ある短い時間区間における「平均の速度」は、その区間の「中央時刻」における「瞬間の速度」と近似できる、という重要な考え方。
  3. \(v-t\)グラフと加速度の関係: \(v-t\)グラフの「傾き」が加速度を表すこと。
  4. 単位の換算: 問題で使われている単位(cm)と、最終的に問われている単位(m)を正しく変換できること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、表の位置データから隣り合う時刻間の位置の変化(変位)を計算し、それを時間間隔 \(0.1 \, \text{s}\) で割って各区間の平均の速度を求め、表を完成させます。
  2. (2)では、(1)で求めた各区間の平均の速度を、その区間の中央の時刻における瞬間の速度とみなして、\(v-t\)グラフ上に点をプロットし、それらの点を通る直線を引きます。
  3. (3)では、(2)で描いた\(v-t\)グラフの傾きを計算して加速度を求め、最後に単位を \(\text{cm/s}^2\) から \(\text{m/s}^2\) へ換算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
表の空欄を埋める問題です。定義に従って、一つずつ丁寧に計算していきます。
「\(0.1 \, \text{s}\) ごとの変位 \(\Delta x\)」は、隣り合う時刻の位置の差を計算します。例えば、時刻 \(0 \, \text{s} \sim 0.1 \, \text{s}\) の間の変位は、\(t=0.1 \, \text{s}\) の位置から \(t=0 \, \text{s}\) の位置を引くことで求められます。
「平均の速度 \(\bar{v}\)」は、上で求めた変位 \(\Delta x\) を、時間間隔である \(0.1 \, \text{s}\) で割ることで計算します。
この設問における重要なポイント

  • 変位 \(\Delta x = (\text{後の時刻の位置}) – (\text{前の時刻の位置})\)
  • 平均の速度 \(\bar{v} = \displaystyle\frac{\text{変位 } \Delta x}{\text{経過時間 } \Delta t}\) (ここで \(\Delta t = 0.1 \, \text{s}\))

具体的な解説と立式
各時間区間について、変位 \(\Delta x\) と平均の速度 \(\bar{v}\) を計算します。

  • 時刻 \(0 \, \text{s} \sim 0.1 \, \text{s}\) の区間:
    $$
    \begin{aligned}
    \Delta x &= 4.2 – 1.2 = 3.0 \, \text{cm} \\[2.0ex]
    \bar{v} &= \frac{3.0}{0.1} = 30 \, \text{cm/s}
    \end{aligned}
    $$
  • 時刻 \(0.1 \, \text{s} \sim 0.2 \, \text{s}\) の区間:
    $$
    \begin{aligned}
    \Delta x &= 9.1 – 4.2 = 4.9 \, \text{cm} \\[2.0ex]
    \bar{v} &= \frac{4.9}{0.1} = 49 \, \text{cm/s}
    \end{aligned}
    $$
  • 時刻 \(0.2 \, \text{s} \sim 0.3 \, \text{s}\) の区間:
    $$
    \begin{aligned}
    \Delta x &= 16.1 – 9.1 = 7.0 \, \text{cm} \\[2.0ex]
    \bar{v} &= \frac{7.0}{0.1} = 70 \, \text{cm/s}
    \end{aligned}
    $$
  • 時刻 \(0.3 \, \text{s} \sim 0.4 \, \text{s}\) の区間:
    $$
    \begin{aligned}
    \Delta x &= 25.1 – 16.1 = 9.0 \, \text{cm} \\[2.0ex]
    \bar{v} &= \frac{9.0}{0.1} = 90 \, \text{cm/s}
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 変位の定義
  • 平均の速度の定義: \(\bar{v} = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
計算過程

上記の計算結果を表に記入します。

この設問の平易な説明

この作業は、ストップウォッチとものさしを使った実験のデータ整理と同じです。
まず、「\(0.1\)秒の間にどれだけ進んだか?」を計算します。これは、表の「位置」の欄で、隣り合う数字の引き算をするだけです。これが「変位 \(\Delta x\)」です。
次に、その区間の「平均の速さ」を計算します。これは「進んだ距離(変位)÷ かかった時間(\(0.1\)秒)」で計算できます。

結論と吟味

計算結果をまとめた表は、模範解答の通りとなります。平均の速度が \(30, 49, 70, 90\) と、時間とともにおよそ一定の割合で増加していることが見て取れます。これは、物体が等加速度運動をしていることを示唆しています。

解答 (1) 模範解答の表の通り。

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で計算した「平均の速度」を使って、\(v-t\)グラフを描きます。ここで最も重要な考え方は、ある短い時間区間(例えば \(0 \sim 0.1 \, \text{s}\))における平均の速度(\(30 \, \text{cm/s}\))は、その区間の真ん中の時刻(\(t = 0.05 \, \text{s}\))における「瞬間の速度」とみなせる、という近似です。この近似は、等加速度運動の場合には厳密に成り立ちます。
したがって、計算した4つの平均の速度を、それぞれの中央時刻に対してプロットしていきます。
この設問における重要なポイント

  • 区間 \(t_1 \sim t_2\) の平均の速度は、中央時刻 \(t = \frac{t_1+t_2}{2}\) における瞬間の速度とみなす。
  • プロットする点の座標を正しく求める。
  • 点がほぼ一直線上に並ぶことを確認し、定規などを使って直線を引く。

具体的な解説と立式
(1)で求めた各区間の平均の速度を、その区間の中央時刻の瞬間の速度とみなして、グラフにプロットする点を決定します。

  • 区間 \(0 \sim 0.1 \, \text{s}\) → 中央時刻 \(0.05 \, \text{s}\), 速度 \(30 \, \text{cm/s}\) → 点\((0.05, 30)\)
  • 区間 \(0.1 \sim 0.2 \, \text{s}\) → 中央時刻 \(0.15 \, \text{s}\), 速度 \(49 \, \text{cm/s}\) → 点\((0.15, 49)\)
  • 区間 \(0.2 \sim 0.3 \, \text{s}\) → 中央時刻 \(0.25 \, \text{s}\), 速度 \(70 \, \text{cm/s}\) → 点\((0.25, 70)\)
  • 区間 \(0.3 \sim 0.4 \, \text{s}\) → 中央時刻 \(0.35 \, \text{s}\), 速度 \(90 \, \text{cm/s}\) → 点\((0.35, 90)\)

これらの点をグラフ用紙にプロットし、最もよく当てはまる直線を引きます。

使用した物理公式

  • 平均の速度と瞬間の速度の関係(中央時刻での近似)
計算過程

プロットした点は、ほぼ一直線上に並びます。これらの点を通るように直線を引くことで、\(v-t\)グラフが完成します。

この設問の平易な説明

(1)で計算した「平均の速さ」は、例えば「\(0\)秒から\(0.1\)秒の間の平均」といった、ある区間の代表値です。これをグラフに描くとき、横軸の時刻はどこに点を打てばよいでしょうか?答えは「区間のど真ん中」です。
例えば、\(0\)秒から\(0.1\)秒の間の平均の速さ\(30 \, \text{cm/s}\)は、その真ん中の時刻である\(0.05\)秒のときの速さと考えるのが最も自然です。このようにして、4つの点をグラフに打っていくと、きれいな直線になります。

結論と吟味

作成したグラフは、原点を通らない右上がりの直線となります。これは、物体が初めからある程度の速度を持ち、その後一定の加速度で加速し続けたことを示しています。

解答 (2) 模範解答のグラフの通り。

問(3)

思考の道筋とポイント
物体の加速度の大きさは、(2)で作成した\(v-t\)グラフの傾きに等しくなります。グラフは直線なので、どの2点を選んで傾きを計算しても同じ値になるはずです。実験データには誤差が含まれる可能性があるため、一般的にはグラフの両端に近い、なるべく離れた2点を使って傾きを計算すると、誤差の影響が小さくなり、より正確な値が求まります。
最後に、単位の換算を忘れないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 加速度 \(a = (v-t\text{グラフの傾き}) = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
  • グラフから求まる加速度の単位は \(\text{cm/s}^2\) である。
  • 単位換算: \(1 \, \text{m} = 100 \, \text{cm}\) より、\(1 \, \text{m/s}^2 = 100 \, \text{cm/s}^2\)。

具体的な解説と立式
(2)のグラフの傾きを計算して、加速度 \(a\) を求めます。グラフの始点と終点の座標を用います。

  • 点1: \((t_1, v_1) = (0.05 \, \text{s}, 30 \, \text{cm/s})\)
  • 点2: \((t_2, v_2) = (0.35 \, \text{s}, 90 \, \text{cm/s})\)

傾きの定義より、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 加速度と\(v-t\)グラフの傾きの関係
計算過程

上記で立てた式に、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{90 – 30}{0.35 – 0.05} \\[2.0ex]
&= \frac{60}{0.30} \\[2.0ex]
&= 200 \, \text{cm/s}^2
\end{aligned}
$$
これを \(\text{m/s}^2\) に単位換算します。\(100 \, \text{cm} = 1 \, \text{m}\) なので、
$$
\begin{aligned}
a &= 200 \, \frac{\text{cm}}{\text{s}^2} \times \frac{1 \, \text{m}}{100 \, \text{cm}} \\[2.0ex]
&= 2.0 \, \text{m/s}^2
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で \(2.0 \, \text{m/s}^2\) となります。

この設問の平易な説明

加速度は、(2)で描いた\(v-t\)グラフの「傾き」を計算すれば求められます。グラフの坂道がどれくらい急か、ということです。
グラフの最初の点(時刻\(0.05\)秒、速さ\(30\))と最後の点(時刻\(0.35\)秒、速さ\(90\))を使うと、傾きは「速さの変化 ÷ 時間の変化 = \((90-30) \div (0.35-0.05) = 60 \div 0.30 = 200\)」と計算できます。
ただし、これは「cm」を基準にした計算なので、単位は \(\text{cm/s}^2\) です。問題では「\(\text{m/s}^2\)」で聞かれているので、最後に \(100\) で割って単位を直すのを忘れないようにしましょう。

結論と吟味

物体の加速度の大きさは \(2.0 \, \text{m/s}^2\) となります。これは、重力加速度 \(9.8 \, \text{m/s}^2\) よりも小さい値であり、斜面を滑り降りる運動の加速度として妥当な大きさです。

解答 (3) \(2.0 \, \text{m/s}^2\)
別解: \(v-t\)グラフを描かずに数値データから直接加速度を求める解法

思考の道筋とポイント
\(v-t\)グラフを描く代わりに、(1)で求めた平均速度の数値データから直接、加速度を計算します。隣り合う区間の中央時刻と平均速度のペアを使い、区間ごとの加速度を計算します。もし運動が本当に等加速度運動であれば、これらの値はほぼ同じになるはずです。実験誤差を考慮し、これらの平均値を全体の加速度とします。
この設問における重要なポイント

  • 各区間の加速度は、その区間の平均速度の変化を、中央時刻の変化(\(0.1 \, \text{s}\))で割ることで求められる。
  • 複数のデータから得られた加速度の値を平均することで、より信頼性の高い結果が得られる。

具体的な解説と立式
(1)で求めた平均速度と、それに対応する中央時刻のデータを使います。

  • \(t=0.05 \, \text{s}\) のとき \(v=30 \, \text{cm/s}\)
  • \(t=0.15 \, \text{s}\) のとき \(v=49 \, \text{cm/s}\)
  • \(t=0.25 \, \text{s}\) のとき \(v=70 \, \text{cm/s}\)
  • \(t=0.35 \, \text{s}\) のとき \(v=90 \, \text{cm/s}\)

隣り合うデータ点から、3つの区間の加速度を計算します。

  • 区間1 (\(0.05 \, \text{s} \sim 0.15 \, \text{s}\)):
    $$
    \begin{aligned}
    a_1 &= \frac{49 – 30}{0.15 – 0.05}
    \end{aligned}
    $$
  • 区間2 (\(0.15 \, \text{s} \sim 0.25 \, \text{s}\)):
    $$
    \begin{aligned}
    a_2 &= \frac{70 – 49}{0.25 – 0.15}
    \end{aligned}
    $$
  • 区間3 (\(0.25 \, \text{s} \sim 0.35 \, \text{s}\)):
    $$
    \begin{aligned}
    a_3 &= \frac{90 – 70}{0.35 – 0.25}
    \end{aligned}
    $$

これらの平均値 \(a_{\text{平均}}\) を全体の加速度とします。
$$
\begin{aligned}
a_{\text{平均}} &= \frac{a_1 + a_2 + a_3}{3}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
計算過程

各区間の加速度を計算します。
$$
\begin{aligned}
a_1 &= \frac{19}{0.1} = 190 \, \text{cm/s}^2 \\[2.0ex]
a_2 &= \frac{21}{0.1} = 210 \, \text{cm/s}^2 \\[2.0ex]
a_3 &= \frac{20}{0.1} = 200 \, \text{cm/s}^2
\end{aligned}
$$
これらの値は、実験誤差を考えるとほぼ一定とみなせます。平均値を求めると、
$$
\begin{aligned}
a_{\text{平均}} &= \frac{190 + 210 + 200}{3} \\[2.0ex]
&= \frac{600}{3} \\[2.0ex]
&= 200 \, \text{cm/s}^2
\end{aligned}
$$
最後に単位換算を行い、\(2.0 \, \text{m/s}^2\) を得ます。

この設問の平易な説明

グラフを描かなくても、(1)で計算した速さのリストから加速度を求めることができます。
速さは \(30 \to 49 \to 70 \to 90\) と変化しています。それぞれの変化は \(0.1\) 秒間で起きています。

  • 最初の \(0.1\) 秒間で、速さは \(49-30=19\) 増えました。加速度に換算すると \(190\)。
  • 次の \(0.1\) 秒間で、速さは \(70-49=21\) 増えました。加速度に換算すると \(210\)。
  • 最後の \(0.1\) 秒間で、速さは \(90-70=20\) 増えました。加速度に換算すると \(200\)。

\(190, 210, 200\) と、少しばらつきはありますが、大体 \(200\) くらいだとわかります。これらの平均を取ると \(200 \, \text{cm/s}^2\) となり、グラフから求めた値と一致します。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果 \(2.0 \, \text{m/s}^2\) が得られました。この方法は、グラフを描く手間を省けるだけでなく、各区間の加速度を計算することで、運動が本当に等加速度運動とみなせるかを検証するプロセスを含むため、より丁寧なデータ解析手法と言えます。

解答 (3) \(2.0 \, \text{m/s}^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 実験データから運動法則を導き出す科学的プロセス
    • 核心: この問題の根幹は、物理実験で得られるような、とびとびの(離散的な)位置と時刻のデータから、変位、平均の速度、瞬間の速度、そして最終的には加速度という、その運動を支配する普遍的な法則(この場合は等加速度運動)を導き出す、という科学の最も基本的な探求プロセスを体験することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 情報の階層: `位置` \(x\) のデータから、その差である `変位` \(\Delta x\) が求まる。
      • `変位` \(\Delta x\) を時間間隔 \(\Delta t\) で割ることで、`平均の速度` \(\bar{v}\) が求まる。
      • `平均の速度` \(\bar{v}\) を「中央時刻の瞬間の速度」とみなすことで、`v-tグラフ` が描ける。
      • `v-tグラフ` の傾きを求めることで、運動の性質を決定づける `加速度` \(a\) が明らかになる。
      • この一連の流れは、微分・積分の考え方の基礎にもなっています。
  • 「平均の速度」と「瞬間の速度」の架け橋
    • 核心: とびとびのデータである「平均の速度」を、連続的なグラフである「\(v-t\)グラフ」に変換するために、「ある区間の平均の速度は、その区間の中央時刻における瞬間の速度に等しい(とみなせる)」という、極めて重要な近似(考え方)を理解し、適用することです。
    • 理解のポイント:
      • この近似は、運動が等加速度直線運動である場合には、数学的に厳密に成り立ちます。
      • この考え方を用いることで、区間 \([t_1, t_2]\) の平均の速度 \(\bar{v}\) を、時刻 \(t = \frac{t_1+t_2}{2}\) のグラフ上の点 \((t, \bar{v})\) としてプロットすることが正当化されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 記録タイマーのテープ解析: 物理実験の定番です。打点の間隔が変位\(\Delta x\)に相当し、打点間の時間(例: 1/50秒や1/60秒)が\(\Delta t\)に相当します。本問と全く同じ手順で、テープの打点から物体の加速度を求めることができます。
    • 自由落下や斜方投射のストロボ写真解析: 連続写真から各時刻の物体の位置(座標)を読み取り、本問と同様の解析を行うことで、重力加速度の大きさを実験的に求める問題に応用できます。
    • \(v-t\)グラフが曲線になる運動: もし加速度が一定でない(力が変化する)運動の場合、(2)でプロットした点は直線状に並びません。その場合、点と点を滑らかな曲線で結び、ある時刻における「接線の傾き」を求めることで、その時刻の「瞬間の加速度」を推定することができます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. データの種類と時間間隔の確認: まず、与えられているのが「位置\(x\)」と「時刻\(t\)」の表であることを確認します。次に、時刻が何秒おきに記録されているか(この問題では \(\Delta t = 0.1 \, \text{s}\))を把握します。これが全ての計算の基準となります。
    2. 設問のステップを追う: この種の問題は、(1)変位と平均の速度、(2)グラフ作成、(3)加速度の算出、というように、データ解析の手順を追って設問が作られています。前の設問の結果を次の設問で使うことを意識して、一つずつ着実に進めます。
    3. 単位に細心の注意を払う: 計算過程で使う単位(cm, cm/s, \(\text{cm/s}^2\))と、最終的に答えとして要求される単位(\(\text{m/s}^2\))が異なることに注意します。どの段階で単位換算を行うか、最初に計画を立てておくとミスを防げます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 平均の速度をプロットする時刻のミス:
    • 誤解: 区間 \(0 \sim 0.1 \, \text{s}\) の平均の速度(\(30 \, \text{cm/s}\))を、区間の終わりである \(t=0.1 \, \text{s}\) の点の値としてプロットしてしまう。
    • 対策: 「平均」は区間全体の代表値なので、その区間の「真ん中」の時刻に対応させる、というルールを徹底しましょう。「\(t_1\)と\(t_2\)の間の平均は、時刻 \(\frac{t_1+t_2}{2}\) の瞬間の値」と覚えることが重要です。
  • 単位換算のミスまたは忘れ:
    • 誤解: (3)で加速度を \(200\) と計算して満足し、単位換算を忘れてしまう。あるいは、\(\text{cm/s}^2\) から \(\text{m/s}^2\) への換算で、100を掛けるか割るかを間違える。
    • 対策: 計算の各段階で単位を明記する癖をつけましょう。\(a = 200 \, \text{cm/s}^2\) と書き、最後に「\(100 \, \text{cm} = 1 \, \text{m}\) だから、100で割る」と、換算のプロセスを丁寧に記述することが確実です。
  • グラフの傾き計算での座標の選択ミス:
    • 誤解: 傾きを計算する際に、グラフ上の点ではなく、元の表の位置データ(例: \((0.4, 25.1)\))など、次元の異なる不適切な座標を使ってしまう。
    • 対策: 傾きを計算するのは、あくまで(2)で描いた「\(v-t\)グラフ」であると強く意識してください。計算に使う2点は、プロットした点(例: \((0.05, 30)\), \((0.35, 90)\))の中から、なるべく離れた2点を選ぶのが最も確実で、誤差も小さくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 平均の速度の定義式 \(\bar{v} = \frac{\Delta x}{\Delta t}\)**:
    • 選定理由: (1)で「平均の速度」を求めるように直接指示されており、位置と時間のデータが与えられているため、その定義式を用いるのが唯一の方法です。
    • 適用根拠: これは物理における「平均の速度」の定義そのものです。離散的な位置データから、速度に関する最初の情報を引き出すための基本的な操作です。
  • 中央時刻の近似:
    • 選定理由: (2)で、区間ごとの「平均の速度」から、特定の時刻における「瞬間の速度」のグラフを描く必要があるためです。この2つの異なる概念を結びつけるための「架け橋」としてこの考え方が必要になります。
    • 適用根拠: 等加速度直線運動では、\(v = v_0 + at\) なので、時間 \(t_1\) から \(t_2\) までの平均の速度は \(\bar{v} = \frac{v(t_1)+v(t_2)}{2}\) となります。これは、中央時刻 \(t_c = \frac{t_1+t_2}{2}\) における瞬間の速度 \(v(t_c) = v_0 + a\frac{t_1+t_2}{2}\) と数学的に厳密に一致します。この背景から、この操作が正当化されます。
  • 加速度の計算に「傾き」を用いる理由:
    • 選定理由: (3)で「加速度」が問われており、(2)で「\(v-t\)グラフ」を作成したからです。この2つを直接結びつける物理法則が「加速度=\(v-t\)グラフの傾き」です。
    • 適用根拠: 加速度は \(a = \frac{\Delta v}{\Delta t}\) で定義されます。一方、\(v-t\)グラフの傾きも \(\frac{\text{縦軸の変化量}}{\text{横軸の変化量}}\) で定義され、両者は完全に同じものを計算していることになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 表計算の徹底: (1)のように、表を埋める計算では、電卓を使うように一行ずつ丁寧に計算しましょう。特に、隣り合う位置データの引き算(変位の計算)でミスをしないように注意が必要です。
  • 中央時刻のメモ: (2)でグラフを描く前に、プロットすべき点の座標「\((0.05, 30)\), \((0.15, 49)\), \((0.25, 70)\), \((0.35, 90)\)」をリストアップしてから作業に移ると、プロットミスが減ります。
  • 傾き計算での桁数注意: (3)の傾き計算 \(\frac{60}{0.30}\) では、小数点の位置を間違えやすいです。分母と分子を100倍して \(\frac{6000}{30} = 200\) と整数に直してから計算するとミスが減ります。
  • 単位換算のプロセス明記: \(200 \, \text{cm/s}^2 = 200 \times (10^{-2} \, \text{m})/\text{s}^2 = 2.0 \, \text{m/s}^2\) のように、cmをmに直すプロセスを式で書くことで、100を掛けるか割るかの混乱を防げます。
  • 別解による検算: 主たる解法(グラフの傾き)で加速度を求めた後、別解のように隣り合う速度データから区間ごとの加速度(190, 210, 200)を計算し、それらがグラフから求めた値(200)と近いことを確認します。これにより、計算の信頼性が大幅に向上します。

17 平均の加速度と瞬間の加速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「\(v-t\)グラフの物理的な解釈」です。物体の速度と時間の関係を表す\(v-t\)グラフから、物理的な量である「平均の加速度」と「瞬間の加速度」を正しく読み取る方法を理解することが目的です。これは、\(x-t\)グラフから速度を求める問題と全く同じ構造をしています。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(v-t\)グラフの基本的な意味: 縦軸が物体の速度 \(v\)、横軸が時刻 \(t\) を表し、グラフ上の点は「ある時刻に物体がどの速度であるか」を示していることを理解していること。
  2. 平均の加速度の定義: 平均の加速度 \(\bar{a}\) は、速度の変化量 \(\Delta v\) を経過時間 \(\Delta t\) で割ったもの (\(\bar{a} = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)) であり、\(v-t\)グラフ上では「2点を結ぶ直線の傾き」に相当することを理解していること。
  3. 瞬間の加速度の定義: 瞬間の加速度 \(a\) は、ある時刻における加速度のことであり、\(v-t\)グラフ上では「その時刻における接線の傾き」に相当することを理解していること。
  4. グラフの傾きの計算: グラフ上の直線の傾きは、その直線が通る2点の座標 \((t_1, v_1)\), \((t_2, v_2)\) を用いて、\(\displaystyle\frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1}\) で計算できることを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、平均の加速度の定義に基づき、指定された2つの時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) と \(t=7.0 \, \text{s}\) における物体の速度 \(v\) をグラフから読み取り、2点を結ぶ直線の傾きを計算します。
  2. (2)では、瞬間の加速度の定義に基づき、指定された時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) におけるグラフの接線の傾きを計算します。傾きの計算には、接線が通る2点の座標をグラフから読み取る必要があります。

問(1)

思考の道筋とポイント
「平均の加速度」が問われているので、その定義を思い出します。平均の加速度は、ある時間区間における速度の変化を経過時間で割ったものです。これは、\(v-t\)グラフ上で、その時間区間の始点と終点を結ぶ直線の傾きに相当します。したがって、グラフから2つの時刻に対応する速度を読み取り、傾きを計算すれば答えが求まります。
この設問における重要なポイント

  • 平均の加速度 \(\bar{a}\) は、速度の変化量 \(\Delta v\) を経過時間 \(\Delta t\) で割ったもの。
  • \(\bar{a} = \displaystyle\frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1}\)
  • \(v-t\)グラフ上では、2点 \((t_1, v_1)\) と \((t_2, v_2)\) を結ぶ直線の傾きに等しい。

具体的な解説と立式
平均の加速度を求めるには、時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) と \(t=7.0 \, \text{s}\) のときの物体の速度をグラフから読み取る必要があります。

  • 時刻 \(t_1 = 2.0 \, \text{s}\) のとき、グラフの曲線から速度は \(v_1 = 10.0 \, \text{m/s}\)
  • 時刻 \(t_2 = 7.0 \, \text{s}\) のとき、グラフの曲線から速度は \(v_2 = 16.0 \, \text{m/s}\)

求める平均の加速度を \(\bar{a}\) とすると、その定義式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\bar{a} &= \frac{\Delta v}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 平均の加速度: \(\bar{a} = \displaystyle\frac{\text{速度の変化}}{\text{経過時間}} = \frac{\Delta v}{\Delta t}\)
計算過程

上記で立てた式に、グラフから読み取った値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\bar{a} &= \frac{16.0 – 10.0}{7.0 – 2.0} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0}{5.0} \\[2.0ex]
&= 1.2
\end{aligned}
$$
したがって、平均の加速度は \(1.2 \, \text{m/s}^2\) となります。

この設問の平易な説明

「平均の加速度」とは、ある時間でのスピードアップの平均的な度合いのことです。
この問題では、時刻 \(2.0\) 秒の時点では速さ \(10.0 \, \text{m/s}\) で、時刻 \(7.0\) 秒の時点では速さ \(16.0 \, \text{m/s}\) になっていたことがグラフからわかります。つまり、\(7.0 – 2.0 = 5.0\) 秒間で、速さが \(16.0 – 10.0 = 6.0 \, \text{m/s}\) だけ増えたわけです。
なので、1秒あたりの平均的なスピードアップ量は「\(6.0 \, \text{m/s} \div 5.0 \, \text{s} = 1.2 \, \text{m/s}^2\)」と計算できます。これはグラフの2点を結んだ直線の傾きを計算することと同じです。

結論と吟味

時刻 \(2.0 \, \text{s}\) から \(7.0 \, \text{s}\) の間の平均の加速度は \(1.2 \, \text{m/s}^2\) となります。グラフは常に右上がりなので、物体は加速し続けており、正の値であるこの結果は妥当です。

解答 (1) \(1.2 \, \text{m/s}^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
「瞬間の加速度」が問われています。これは、ある特定の時刻における加速度のことで、その瞬間のスピードアップの勢いを表します。\(v-t\)グラフ上では、その時刻におけるグラフの「接線の傾き」に相当します。問題では、時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) における接線がすでに描かれているため、この直線の傾きを計算することが目標となります。
この設問における重要なポイント

  • 瞬間の加速度 \(a\) は、ある時刻における加速度のこと。
  • \(v-t\)グラフ上では、その時刻における接線の傾きに等しい。
  • 傾きを計算するためには、接線が通る2点の座標を正確に読み取る必要がある。

具体的な解説と立式
時刻 \(t=2.0 \, \text{s}\) における瞬間の加速度 \(a\) は、この時刻における\(v-t\)グラフの接線の傾きに等しくなります。
問題の図には、この接線が描かれています。この接線の傾きを求めるために、接線が通る2点の座標をグラフから読み取ります。

  • 1点目として、グラフから読み取りやすい点を探すと、\((t_1, v_1) = (0, 6.0 \, \text{m/s})\) を通っていることがわかります。
  • 2点目は接点であり、\((t_2, v_2) = (2.0 \, \text{s}, 10.0 \, \text{m/s})\)

求める瞬間の加速度 \(a\) は、この2点を通る直線の傾きとして計算できます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 瞬間の加速度: \(a = (\text{\(v-t\)グラフのある点における接線の傾き})\)
計算過程

上記で立てた式に、グラフから読み取った接線上の2点の座標を代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{10.0 – 6.0}{2.0 – 0} \\[2.0ex]
&= \frac{4.0}{2.0} \\[2.0ex]
&= 2.0
\end{aligned}
$$
したがって、瞬間の加速度は \(2.0 \, \text{m/s}^2\) となります。

この設問の平易な説明

「瞬間の加速度」とは、その一瞬一瞬のスピードアップの勢いのことです。
グラフで言うと、その瞬間の「坂道の急さ」が瞬間の加速度に対応します。時刻 \(2.0\) 秒の瞬間の勢いを知るには、その点に引かれた「接線」という補助線の傾きを調べればよいのです。この接線は、点 \((0, 6.0 \, \text{m/s})\) と点 \((2.0 \, \text{s}, 10.0 \, \text{m/s})\) を通っているので、この2点から傾きを計算すると \(2.0 \, \text{m/s}^2\) となり、これが時刻 \(2.0\) 秒の瞬間の加速度になります。

結論と吟味

時刻 \(2.0 \, \text{s}\) における瞬間の加速度は \(2.0 \, \text{m/s}^2\) となります。グラフ全体を見ると、時間が経つにつれて傾きが緩やかになっている(加速度が減少している)ことがわかります。(1)で求めた \(2.0 \, \text{s}\) から \(7.0 \, \text{s}\) の間の平均の加速度 \(1.2 \, \text{m/s}^2\) と比較すると、区間の始まりである \(t=2.0 \, \text{s}\) の瞬間の加速度 \(2.0 \, \text{m/s}^2\) はそれよりも大きい値となっており、加速度がだんだん小さくなる運動であるというグラフの様子と矛盾しない、妥当な結果です。

解答 (2) \(2.0 \, \text{m/s}^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • グラフの傾きと物理量の微分的関係
    • 核心: この問題の根幹は、\(v-t\)グラフという数学的な表現が持つ幾何学的な特徴(傾き)と、物理的な量(加速度)とがどのように対応しているかを理解することにあります。これは、\(x-t\)グラフの傾きが速度に対応する関係と全く同じ構造をしています。
    • 理解のポイント:
      • 平均の加速度(区間の情報): 平均の加速度は、ある時間区間 \(\Delta t\) における速度の変化 \(\Delta v\) の割合です。これはグラフ上で、その区間の始点と終点の2点を結ぶ「直線の傾き」に完全に一致します。
      • 瞬間の加速度(点の情報): 瞬間の加速度は、ある特定の時刻における加速度です。これはグラフ上で、その時刻の点における「接線の傾き」に完全に一致します。
  • 運動のグラフ解析における階層構造
    • 核心: 位置(\(x\))、速度(\(v\))、加速度(\(a\))の関係が、グラフ上では「傾き」を計算する操作(数学的には微分)によって、\(x \rightarrow v \rightarrow a\) という階層構造をなしていることを視覚的に理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • \(x-t\)グラフの傾き → 速度 \(v\)
      • \(v-t\)グラフの傾き → 加速度 \(a\)
      • この関係性をセットで覚えることで、どのグラフからどの物理量が求まるかを混同しなくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • \(a-t\)グラフを扱う問題: 加速度 \(a\) と時刻 \(t\) の関係を表す\(a-t\)グラフでは、対応関係が変わります。
      • 面積: \(a-t\)グラフと時間軸で囲まれた部分の面積は「速度の変化量 \(\Delta v\)」を表します。
      • この関係を利用して、\(a-t\)グラフから\(v-t\)グラフを作成したり、ある時刻の速度を求めたりする問題に応用できます。
    • グラフから運動の種類を判断する問題:
      • \(v-t\)グラフが「水平な直線」なら、傾きが0なので「等速直線運動」。
      • \(v-t\)グラフが「原点を通る(または通らない)斜めの直線」なら、傾きが一定なので「等加速度直線運動」。
      • \(v-t\)グラフが「曲線」なら、接線の傾きが変化するので「加速度が変化する運動」。
      • このように、グラフの概形から物体の運動の様子を定性的に読み取る問題に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの軸を最優先で確認: 問題を見たら、まず縦軸と横軸がそれぞれ何を表しているか(\(x-t\)グラフか、\(v-t\)グラフか)を確認します。これが全ての思考の出発点です。
    2. 問われている物理量と時間指定を明確化: 「平均」の加速度なのか、「瞬間」の加速度なのか。また、それは「いつからいつまで」の区間なのか、「どの時刻」の瞬間なのかを問題文から正確に把握します。
    3. 物理量とグラフ上の操作を対応させる:
      • 「平均の加速度」→「2点を結ぶ直線の傾き」
      • 「瞬間の加速度」→「接線の傾き」

      という対応関係のリストを頭の中から引き出します。

    4. 座標の正確な読み取り: 傾きを計算するために必要な点の座標を、グラフの目盛りから慎重に読み取ります。特に接線の場合は、接点以外に、格子点(目盛りの線が交差する点)や軸との交点など、座標が読み取りやすい点を探すのが計算ミスを減らすコツです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 平均と瞬間の取り違え:
    • 誤解: どちらも「傾き」を求めるという点で同じだと考え、(1)で接線の傾きを、(2)で2点を結ぶ直線の傾きを計算してしまう。
    • 対策: 言葉の定義と操作をセットで覚えることが有効です。「平均」は時間区間(2つの時刻)に対する量なので「2点を結ぶ」。「瞬間」は特定の時刻(1つの時刻)に対する量なので「1点で接する接線」と、関連付けて記憶しましょう。
  • \(x-t\)グラフと\(v-t\)グラフの役割の混同:
    • 誤解: \(v-t\)グラフの傾きが速度を表すと勘違いしたり、\(x-t\)グラフの傾きが加速度を表すと勘違いしたりする。
    • 対策: 「\(x \rightarrow v \rightarrow a\)」の階層構造を意識し、「傾きを取ると一段階進む」と覚えましょう。\(x-t\)グラフの傾きは\(v\)、\(v-t\)グラフの傾きは\(a\)です。
  • 傾きを計算する際の座標の選択ミス:
    • 誤解: (2)で瞬間の加速度を求める際に、接線の傾きではなく、接点と、曲線上の別の適当な点(例えば \(t=7.0 \, \text{s}\) の点)を結んだ直線の傾きを計算してしまう。
    • 対策: 求めるのはあくまで「接線」という一本の「直線」の傾きである、ということを強く意識してください。計算に使う2つの点は、必ずその接線の上から選ばなければなりません。曲線上の他の点は無関係です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 平均の加速度の定義式 \(\bar{a} = \frac{\Delta v}{\Delta t}\)**:
    • 選定理由: (1)で「平均の加速度」を求めるように直接的に指示されているため、その定義式を用いるのが最も論理的です。
    • 適用根拠: この式は、物理における「平均の加速度」の定義そのものです。そして、\(v-t\)グラフにおいて、\(\Delta v\) は縦方向の変化量、\(\Delta t\) は横方向の変化量に相当します。数学における直線の傾きが「(縦の変化量)/(横の変化量)」で定義されることと完全に一致するため、この式を適用することは、グラフの傾きを計算することと物理的にも数学的にも等価です。
  • 瞬間の加速度の概念 \(a = (\text{接線の傾き})\)**:
    • 選定理由: (2)で「瞬間の加速度」が問われており、\(v-t\)グラフが与えられているため、瞬間の加速度と接線の傾きの関係性を利用するのが唯一の解法です。
    • 適用根拠: 物理における「瞬間の加速度」は、数学的には速度 \(v\) を時刻 \(t\) で微分することに相当します。そして、微分係数はグラフの接線の傾きを意味します。高校物理では微分を直接使わない場合でも、この「瞬間の加速度 = 接線の傾き」という対応関係は、運動をグラフで理解するための根幹をなす重要なルールです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 座標のメモ化: グラフから読み取った座標は、計算を始める前に、問題用紙の余白に「点A: \((2.0, 10.0)\)」「点B: \((7.0, 16.0)\)」のように書き出しましょう。視覚的に確認することで、代入ミスを防ぎます。
  • 傾きの計算式の型を守る: 傾きを計算するときは、必ず \(\displaystyle\frac{v_2 – v_1}{t_2 – t_1}\) という分数の形を最初に書き、そこに数値を一つずつ当てはめるようにします。分子と分母を間違えたり、引き算の順序を逆にしたりするケアレスミスが減ります。
  • 単位による検算: 傾きの計算は「(m/s) ÷ (s)」を行っています。したがって、計算結果の単位は自然と「\(\text{m/s}^2\)」になるはずです。もし単位が合わない場合は、計算のどこかで間違いを犯している可能性があります。
  • 答えの吟味: (2)の瞬間の加速度 \(2.0 \, \text{m/s}^2\) が、(1)の平均の加速度 \(1.2 \, \text{m/s}^2\) よりも大きいことを確認します。グラフを見ると、\(t=2.0 \, \text{s}\) 付近の方が、\(t=2.0 \sim 7.0 \, \text{s}\) の区間全体よりも傾きが急です。したがって、瞬間の加速度の方が平均の加速度より大きくなるはずであり、計算結果がこの大小関係を満たしているかを確認することで、大きなミスに気づくことができます。
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18 \(v\) – \(t\) グラフ

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 等加速度直線運動の公式を用いる解法
      • 主たる解法がグラフの傾きから加速度を求めるのに対し、別解では等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) にグラフから読み取った値を代入して加速度を求めます。
    • 設問(2)の別解: 等加速度直線運動の公式を用いる解法
      • 主たる解法がグラフの面積から変位を求めるのに対し、別解では等加速度直線運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) に(1)で求めた加速度などを代入して変位を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: グラフの幾何学的な性質(傾き・面積)から解く視覚的なアプローチと、運動方程式から導かれる代数的な公式から解くアプローチを結びつけ、物理現象への多角的な理解を深めます。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対して、異なるアプローチで同じ結論に至る経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 解法の相互検証: グラフから求めた値と公式で計算した値が一致することを確認することで、検算の手段としても有効です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「\(v-t\)グラフの総合的な解析」です。\(v-t\)グラフが直線であることから、この運動が等加速度直線運動であることを見抜き、グラフの基本的な性質(傾きと面積)や運動の公式を用いて、加速度や変位を求めることが目的です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. \(v-t\)グラフと運動の種類の関係: \(v-t\)グラフが直線の場合、運動は等加速度直線運動であることを理解していること。
  2. \(v-t\)グラフと加速度の関係: \(v-t\)グラフの「傾き」が加速度を表すこと。
  3. \(v-t\)グラフと変位の関係: \(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた部分の「面積」が変位を表すこと。
  4. 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\) や \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) などの公式を正しく使えること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、\(v-t\)グラフの傾きを計算することで、物体の加速度を求めます。
  2. (2)では、\(t=0\) から \(t=6.0 \, \text{s}\) までの\(v-t\)グラフと時間軸で囲まれた台形の面積を計算することで、物体の変位を求めます。

問(1)

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