「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学66〜70問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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力学範囲 66~70

66 摩擦熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(仕事とエネルギーの関係を用いる)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 摩擦力によって振動中心がずれた単振動とみなす解法
      • 模範解答が運動の始点と終点でのエネルギー収支を計算するのに対し、別解ではこの運動を「振動中心がずれた単振動」として捉え、その幾何学的な性質(始点と終点が、ずれた振動中心に対して対称な位置にあること)を利用して、より直接的に答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 摩擦力が働くと単振動の振動中心が移動するという、より高度な物理モデルに触れることで、単振動への理解が深まります。
    • 解法の効率化: このモデルを理解していると、エネルギー計算や2次方程式を解く手間を省き、非常に簡潔な計算で答えにたどり着ける強力な手法を学ぶことができます。
    • 思考の拡張性: この考え方は、空気抵抗を受けながら振動する振り子など、他の減衰振動の問題を考える上での基礎となります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「摩擦のある面上でのばね振り子の運動とエネルギー損失」です。はじめにばねに蓄えられた弾性エネルギーが、運動の過程で摩擦によって熱エネルギーに変換され、力学的エネルギーが失われていく様子を定量的に解析します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事とエネルギーの関係: 非保存力(摩擦力)が仕事をする場合、その仕事の分だけ力学的エネルギーは変化(この場合は減少)する。
  2. エネルギー収支: 「はじめの力学的エネルギー」=「あとの力学的エネルギー」+「摩擦によって失われたエネルギー(摩擦熱)」というエネルギーの収支関係が成り立つ。
  3. 動摩擦力がする仕事: 動摩擦力がした仕事の大きさは、\((\text{動摩擦力}) \times (\text{移動距離})\) で計算される。
  4. 運動の端点: 物体を放した始点と、ばねの伸びが最大になった終点では、どちらも物体の速さは一瞬0になる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 始状態(ばねの縮みが\(a\))と終状態(ばねの伸びが\(l\))を定義します。
  2. 始状態の力学的エネルギー(弾性エネルギーのみ)を計算します。
  3. 終状態の力学的エネルギー(弾性エネルギーのみ)を計算します。
  4. 始状態から終状態までの移動中に、動摩擦力がした仕事(摩擦熱)を計算します。
  5. エネルギー収支の式を立て、ばねの最大の伸び\(l\)を求めます。

思考の道筋とポイント
摩擦のある面上での運動なので、力学的エネルギーは保存されません。はじめにばねに蓄えられていた弾性エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}ka^2\) は、運動の過程で摩擦力によって熱として失われていきます。
物体は自然長の位置を通り過ぎ、ばねを伸ばしながら減速し、伸びが最大になった点(距離\(l\))で一瞬静止します。この終状態では、ばねには \(\displaystyle\frac{1}{2}kl^2\) の弾性エネルギーが蓄えられています。
はじめのエネルギーと、あとのエネルギーの差額が、途中で摩擦によって失われたエネルギー(摩擦熱)に等しい、というエネルギー収支の式を立てることが、この問題を解く鍵となります。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー収支の式: \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}} + W_{\text{摩擦熱}}\)。
  • 始状態(縮み\(a\)): \(K=0, U=\frac{1}{2}ka^2\)。
  • 終状態(伸び\(l\)): \(K=0, U=\frac{1}{2}kl^2\)。
  • 摩擦熱: 動摩擦力の大きさは \(\mu mg\)。移動距離は、縮んだ位置から伸びた位置までなので \(a+l\)。よって、摩擦熱は \(\mu mg(a+l)\)。

具体的な解説と立式
エネルギー収支の式「(はじめの力学的エネルギー)=(あとの力学的エネルギー)+(摩擦熱)」に基づいて立式します。

1. はじめの力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\)
ばねを\(a\)だけ縮めて静かに放すので、運動エネルギーは0。弾性エネルギーのみ。
$$ E_{\text{前}} = \frac{1}{2}ka^2 $$

2. あとの力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\)
ばねの伸びが最大値\(l\)になったとき、物体は一瞬静止するので、運動エネルギーは0。弾性エネルギーのみ。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}kl^2 $$

3. 摩擦熱(動摩擦力がした仕事の大きさ) \(W_{\text{摩擦}}\)
動摩擦力の大きさは \(\mu N = \mu mg\)。
物体は、ばねの縮みが\(a\)の位置から伸びが\(l\)の位置まで、合計 \(a+l\) の距離を移動します。
したがって、摩擦熱は、
$$ W_{\text{摩擦}} = (\mu mg) \times (a+l) $$

以上の3つの項を、エネルギー収支の式に代入します。
$$ \frac{1}{2}ka^2 = \frac{1}{2}kl^2 + \mu mg(a+l) $$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係
  • 弾性エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
  • 動摩擦力がする仕事: \(W = f’ \times (\text{距離})\)
計算過程

上記で立式したエネルギーの式を、\(l\)について解きます。
まず、\(\displaystyle\frac{1}{2}kl^2\) の項を左辺に移項します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}ka^2 – \frac{1}{2}kl^2 &= \mu mg(a+l) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}k(a^2 – l^2) &= \mu mg(a+l)
\end{aligned}
$$
左辺を因数分解します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}k(a+l)(a-l) &= \mu mg(a+l)
\end{aligned}
$$
物体は運動するので \(a+l > 0\) です。したがって、両辺を \(a+l\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}k(a-l) &= \mu mg
\end{aligned}
$$
この式を\(l\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
a-l &= \frac{2\mu mg}{k} \\[2.0ex]
l &= a – \frac{2\mu mg}{k}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

最初にばねに蓄えられていたエネルギー(\(\frac{1}{2}ka^2\))は、運動が終わった後、どこへ行ったのでしょうか?
一部は、反対側でばねを伸ばすためのエネルギー(\(\frac{1}{2}kl^2\))として、まだばねの中に残っています。そして、残りのエネルギーは、物体が床を滑る間に発生した摩擦熱として、空気中に逃げてしまいました。
このエネルギーの収支を「はじめのエネルギー = あとのエネルギー + 逃げた熱」という式で表し、これを解くことで、ばねがどれだけ伸びたか(\(l\))を計算できます。

結論と吟味

ばねの伸びの最大値\(l\)は \(a – \displaystyle\frac{2\mu mg}{k}\) となります。
この結果は、摩擦があるために、反対側での折り返し地点(最大の伸び)が、最初の縮みの位置よりも内側になることを示しています。その「縮んだ量」は、摩擦力\(\mu mg\)が大きいほど大きくなります。もし摩擦がなければ(\(\mu=0\))、\(l=a\)となり、対称的な往復運動になるはずで、物理的に妥当な結果です。

解答 \(a – \displaystyle\frac{2\mu mg}{k}\)
別解: 摩擦力によって振動中心がずれた単振動とみなす解法

思考の道筋とポイント
この運動を、より高度な物理モデルである「振動中心がずれた単振動」として捉えます。物体が右向きに運動している間、ばねの復元力(右向き)と動摩擦力(左向き)が働くため、力のつり合いの中心は自然長の位置からずれます。始点と終点は、この「ずれた振動中心」に対して対称な、振動の両端点であるという性質を利用して解きます。
この設問における重要なポイント

  • 物体が右向きに運動している間、働く力は \(F = -kx – \mu mg\)。
  • この運動の「見かけの振動中心」は、力がつりあう \(F=0\) の点ではなく、\(F = -k(x + \frac{\mu mg}{k})\) と変形できることから、\(x_c = -\frac{\mu mg}{k}\) の位置となる。
  • 始点(\(x=-a\))と終点(\(x=l\))は、この振動中心\(x_c\)を挟んで対称な位置にある、振動の両端点である。
  • したがって、「始点と終点の間の距離」は「振幅の2倍」に等しい。

具体的な解説と立式
物体が右向きに運動している間の、見かけの振動中心を\(x_c\)とします。運動方程式は \(ma = -kx – \mu mg\) となり、これは \(x_c = -\displaystyle\frac{\mu mg}{k}\) を中心とする単振動を表します。

  • 始点: \(x_{\text{始}} = -a\)。これは、この単振動の一方の端点です。
  • 終点: \(x_{\text{終}} = l\)。これは、この単振動のもう一方の端点です。

振動の端点は、振動中心に対して対称な位置にあります。したがって、始点と終点の間の距離は、振幅の2倍に等しくなります。
振幅\(A\)は、中心から端点までの距離なので、
$$
\begin{aligned}
A &= x_c – x_{\text{始}} \\[2.0ex]
&= \left(-\frac{\mu mg}{k}\right) – (-a) \\[2.0ex]
&= a – \frac{\mu mg}{k}
\end{aligned}
$$
始点と終点の間の距離は \(x_{\text{終}} – x_{\text{始}} = l – (-a) = l+a\)。
この距離が振幅の2倍に等しいので、
$$ l+a = 2A $$
$$ l+a = 2\left(a – \frac{\mu mg}{k}\right) $$

使用した物理公式

  • 単振動の性質(振動中心と端点の関係)
計算過程

上記で立式した式を、\(l\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
l+a &= 2a – \frac{2\mu mg}{k} \\[2.0ex]
l &= 2a – a – \frac{2\mu mg}{k} \\[2.0ex]
l &= a – \frac{2\mu mg}{k}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

摩擦がある床でのばねの運動は、まるで常に「向かい風」が吹いている中でブランコを漕ぐようなものです。
右に行くときは、左向きの風(摩擦力)が吹いているので、ブランコの「つり合いの中心」が少し左にずれます。最初にいた場所と、反対側で止まった場所は、この「ずれた中心」に対してちょうど対称な位置になります。この幾何学的な対称性の関係を使うと、エネルギーの難しい計算をしなくても、止まる位置をスマートに計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この別解は、摩擦力が働く振動を単振動の応用として捉える、非常に強力な考え方です。ただし、往路と復路で摩擦力の向きが逆になるため、振動中心も移動することに注意が必要です。

解答 \(a – \displaystyle\frac{2\mu mg}{k}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事とエネルギーの関係(摩擦によるエネルギー損失):
    • 核心: この問題の根幹は、摩擦力という非保存力が仕事をする場合に、その仕事の分だけ力学的エネルギーが熱に変換され、失われるという「仕事とエネルギーの関係」を正しく適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの保存則は成り立たない: 摩擦が存在するため、単純な力学的エネルギー保存則(\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\))は成り立ちません。
      • エネルギー収支: 運動の前後でエネルギーを比較する場合、「(はじめの力学的エネルギー)=(あとの力学的エネルギー)+(途中で摩擦熱になったエネルギー)」というエネルギー全体の収支関係を考える必要があります。
      • 摩擦熱の計算: 摩擦熱は、動摩擦力がした仕事の大きさに等しく、\(W_{\text{摩擦}} = (\text{動摩擦力}) \times (\text{移動した道のり})\) で計算されます。この問題では、道のりが \(a+l\) となる点に注意が必要です。
  • 運動の端点の物理的意味:
    • 核心: ばね振り子の運動において、物体を放した最初の点と、反対側で一瞬静止する点は、どちらも運動の「端点」であり、速度が0になるという共通の性質を持っています。
    • 理解のポイント:
      • 始状態: ばねを縮めて放した瞬間は、速度が0なので運動エネルギーは0です。系のエネルギーはすべて弾性エネルギー \(\frac{1}{2}ka^2\) として存在します。
      • 終状態: ばねの伸びが最大になった瞬間も、速度が0なので運動エネルギーは0です。このとき、系の力学的エネルギーはすべて弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kl^2\) として存在します。
      • エネルギーの差: 始状態と終状態のエネルギーの差 \(\frac{1}{2}ka^2 – \frac{1}{2}kl^2\) が、その間に摩擦によって失われたエネルギーに等しくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 減衰振動: 摩擦や空気抵抗を受けながら振動する物体は、一往復するごとにエネルギーを失い、振幅がだんだん小さくなっていきます。何回振動したら止まるか、といった問題に応用できます。
    • 摩擦のある斜面でのばね運動: 摩擦のある斜面でばね振り子を運動させる場合。重力による位置エネルギーの変化、弾性エネルギーの変化、そして摩擦熱の3つを考慮したエネルギー収支の式を立てる必要があります。
    • 非弾性衝突: 物体が衝突してエネルギーの一部が熱や音に変わる場合も、エネルギー損失を伴う現象として、同様の考え方を適用できます(この場合は運動量保存則と併用します)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 非保存力(摩擦力)の有無を確認する: 問題文に「摩擦」「動摩擦係数\(\mu\)」とあれば、エネルギーが保存しないことを即座に認識します。
    2. 始状態と終状態を特定する: 「放した」瞬間が始状態、「伸びが最大」になる瞬間が終状態です。両方の状態で速度が0になることを見抜くのがポイントです。
    3. エネルギー収支の式をイメージする: 「はじめのエネルギーが、あとのエネルギーと熱に分配された」という物理的なストーリーを頭に描きます。
    4. 移動「距離」を正確に把握する: 摩擦熱の計算に必要なのは、物体が実際に動いた「道のり」です。始状態の座標が\(-a\)、終状態の座標が\(+l\)なので、道のりは \(l – (-a) = l+a\) となります。この計算を間違えないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力学的エネルギー保存則を誤って適用する:
    • 誤解: 摩擦があるにもかかわらず、\(\frac{1}{2}ka^2 = \frac{1}{2}kl^2\) というエネルギー保存則の式を立ててしまい、\(l=a\) という誤った結論を導いてしまう。
    • 対策: 摩擦力が仕事をする場合、力学的エネルギーは必ず減少します。したがって、保存則は使えません。「仕事とエネルギーの関係」または「エネルギー収支」の考え方に切り替える必要があります。
  • 摩擦熱の計算で移動距離を間違える:
    • 誤解: 摩擦熱を計算する際の移動距離を、\(l\) や \(a\)、あるいは \(l-a\) などと間違えてしまう。
    • 対策: 物体がどこからどこまで動いたかを、数直線上でイメージしましょう。座標\(-a\)から出発し、原点を通り過ぎて座標\(+l\)まで動いたので、総移動距離は \(a+l\) です。
  • 2次方程式を真正面から解こうとする:
    • 誤解: エネルギー収支の式 \(\frac{1}{2}ka^2 = \frac{1}{2}kl^2 + \mu mg(a+l)\) を、\(l\)に関する2次方程式とみて、解の公式を使ってしまい、計算が複雑になる。
    • 対策: 式を整理する際に、\(a^2-l^2\) のような形が出てきたら、すぐに因数分解 \((a+l)(a-l)\) を試みましょう。多くの場合、共通因子 (\(a+l\)) が両辺に現れ、割り算することで1次方程式に単純化できます。これは、この種の問題で頻出する計算テクニックです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー収支):
    • 選定理由: この問題は、運動の始状態と終状態(どちらも速度0)の関係を問うています。途中の時間や速度は不要です。さらに、非保存力である摩擦力が仕事をするため、単純な力学的エネルギー保存則は使えません。このような状況で、始状態と終状態のエネルギーを、その間に失われたエネルギー(摩擦熱)と結びつける「エネルギー収支」の考え方が、最も本質的で効率的な解法となります。
    • 適用根拠: エネルギー保存則は、熱エネルギーなども含めた「すべてのエネルギーの総和は不変である」という、物理学の最も基本的な法則の一つです。この問題のエネルギー収支の式は、この普遍的な法則を、力学的なエネルギー(運動エネルギー、弾性エネルギー)と熱エネルギーに限定して適用したものです。
  • 単振動モデル(別解):
    • 選定理由: 摩擦力が一定の場合、ばねの運動は振動中心がずれた単振動と見なせる、という発展的な知識を用いることで、エネルギー計算を回避し、幾何学的な関係だけで問題を解くことができます。これは、単振動の性質を深く理解している場合に非常に強力なショートカットとなります。
    • 適用根拠: 運動方程式 \(ma = -kx – \mu mg\) は、\(x’ = x + \frac{\mu mg}{k}\) と変数変換することで、\(ma = -kx’\) という標準的な単振動の形に書き直すことができます。これは、運動の中心が \(x=0\) から \(x’ = 0\)、すなわち \(x = -\frac{\mu mg}{k}\) の位置にずれたことを意味します。この数学的な背景により、単振動の性質(中心に対する端点の対称性など)を適用することが正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 因数分解の活用: \(a^2-l^2 = (a+l)(a-l)\) の因数分解は、この問題の計算を劇的に簡単にする鍵です。2乗の差の形を見たら、因数分解を試みる癖をつけましょう。
  • 文字の整理: 式を解く際には、求めたい変数(この場合は\(l\))が含まれる項を片方の辺に、それ以外の項をもう片方の辺に集めると、見通しが良くなります。
  • 物理的な意味の確認: 答え \(l = a – \frac{2\mu mg}{k}\) が出たら、その意味を考えましょう。\(l\)は、最初の縮み\(a\)から、摩擦力とばね定数に関係する量だけ減少しています。これは、摩擦によってエネルギーが失われた分、反対側での折り返し地点が内側に入り込むことを意味しており、物理的に正しいです。
  • 滑り出す条件の確認: そもそも物体が動き出すためには、始点での弾性力\(ka\)が最大静止摩擦力\(\mu mg\)より大きい必要があります(\(ka > \mu mg\))。また、求まった\(l\)は正の値でなければならないので、\(a > \frac{2\mu mg}{k}\) という条件も必要になります。これらの条件が満たされているか、といった考察も重要です。

67 力積と運動量

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力積と運動量の関係」です。物体が壁に衝突して跳ね返る際に、壁から受ける力積の大きさを、物体の運動量の変化から求めることが目標です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力積と運動量の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化量に等しい (\(\vec{I} = \Delta\vec{p}\))。力積も運動量もベクトル量であり、向きを考慮することが重要です。
  2. 運動量の定義: 質量\(m\)、速度\(\vec{v}\)の物体の運動量は \(\vec{p} = m\vec{v}\) で与えられる。
  3. 反発係数(はねかえり係数): 衝突の前後での、相対速度の比を表す係数。壁との衝突の場合、\(e = \displaystyle\frac{(\text{衝突後の速さ})}{(\text{衝突前の速さ})}\) となる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 座標軸を設定し、正の向きを決めます(例: 右向きを正)。
  2. 反発係数の式を用いて、衝突後の小球の速度を求めます。向きに注意して、ベクトル量として扱います。
  3. 衝突前後の運動量をそれぞれ計算します。
  4. 「力積 = 後の運動量 – 前の運動量」という関係式を用いて、小球が面から受けた力積を計算します。
  5. 問題では力積の「大きさ」が問われているので、計算結果の絶対値をとります。

思考の道筋とポイント
「力積を求めよ」という問題では、力積の定義 \(I = Ft\) を直接使うことは稀です。なぜなら、衝突時に働く力\(F\)は非常に短い時間で複雑に変化するため、その大きさを知るのが難しいからです。
そこで、常に「力積と運動量の関係」\(\vec{I} = \Delta\vec{p}\) を用いるのが定石となります。つまり、「力積を求める」という問いは、「運動量の変化量を計算せよ」という問いに読み替えることができます。
この問題では、衝突前の速度は与えられていますが、衝突後の速度は与えられていません。そこで、まず反発係数\(e\)の定義を使って、衝突後の速度を求めることから始めます。
この設問における重要なポイント

  • 力積を、運動量の変化として計算する。
  • 速度、運動量、力積はすべてベクトル量なので、座標軸を設定し、符号で向きを表す。
  • 反発係数の式から、衝突後の速度を求める。
  • 力積の「大きさ」を問われているので、最後に絶対値をとる。

具体的な解説と立式
まず、水平右向きを正とします。

ステップ1: 衝突後の速度を求める
衝突前の小球の速度は、右向きなので \(+u\) です。
衝突後の小球の速さは、反発係数の定義より \(eu\) となります。向きは衝突前と逆(左向き)なので、衝突後の速度\(v\)は、
$$
\begin{aligned}
v &= -eu
\end{aligned}
$$

ステップ2: 運動量の変化を計算する

  • 衝突前の運動量 \(p_{\text{前}}\):
    $$
    \begin{aligned}
    p_{\text{前}} &= m(+u) \\[2.0ex]
    &= mu
    \end{aligned}
    $$
  • 衝突後の運動量 \(p_{\text{後}}\):
    $$
    \begin{aligned}
    p_{\text{後}} &= mv \\[2.0ex]
    &= m(-eu) \\[2.0ex]
    &= -meu
    \end{aligned}
    $$

ステップ3: 力積を求める
小球が面から受けた力積を\(I\)とすると、力積と運動量の関係より、
$$
\begin{aligned}
I &= p_{\text{後}} – p_{\text{前}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\)
  • 反発係数: \(e = \displaystyle\frac{|v_{\text{後}}|}{|v_{\text{前}}|}\)
計算過程

上記で立式した力積の式に、各運動量を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= (-meu) – (mu) \\[2.0ex]
&= -meu – mu \\[2.0ex]
&= -(1+e)mu
\end{aligned}
$$
この計算結果は力積というベクトル量であり、マイナスの符号は「力積の向きが左向き」であることを示しています。これは、面が小球を左向きに押し返したことを意味しており、物理的に正しいです。
問題で問われているのは力積の「大きさ」なので、この結果の絶対値をとります。
$$
\begin{aligned}
|I| &= |-(1+e)mu| \\[2.0ex]
&= (1+e)mu
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ボールを壁にぶつけると、壁はボールを押し返します。この「押し返す」という行為が力積です。力積の大きさを知るには、ボールの運動がどれだけ変化したか(運動量の変化)を調べればわかります。
まず、跳ね返った後のボールの速度を計算します。反発係数が\(e\)なので、速さは\(e\)倍になり、向きは逆になります。
次に、衝突前と衝突後のそれぞれの運動量(質量 \(\times\) 速度)を計算します。
最後に、「後の運動量 – 前の運動量」を計算すれば、それが壁がボールに与えた力積になります。向きも考慮して計算するとマイナスがつきますが、これは「左向きに押し返した」という意味です。大きさだけ答えればよいので、マイナスを取ったものが答えです。

結論と吟味

面から受けた力積の大きさは \((1+e)mu\) となります。
この式を吟味すると、

  • もし完全弾性衝突 (\(e=1\)) なら、力積の大きさは \(2mu\)。これは、運動量が\(mu\)から\(-mu\)へと、大きさ\(2mu\)だけ変化したことに対応します。
  • もし完全非弾性衝突 (\(e=0\)) なら、力積の大きさは \(mu\)。これは、運動量が\(mu\)から0へと変化したことに対応し、ボールが壁にへばりついて止まった状況を意味します。

これらの結果は物理的に妥当です。

解答 \((1+e)mu\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力積と運動量の関係 (\(\vec{I} = \Delta\vec{p}\)):
    • 核心: この問題の根幹は、衝突現象を分析する際の最も基本的な法則である「力積と運動量の関係」を正しく理解し、適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • 等価な関係: 「物体が受けた力積」と「物体の運動量の変化」は、原因と結果の関係ではなく、定義上、完全に等価なものです。したがって、一方を求めたいときは、もう一方を計算すればよい、という関係が成り立ちます。
      • ベクトルの計算: この法則はベクトルに関する等式です。したがって、必ず座標軸を設定し、向きを正負の符号で区別して計算する必要があります。「後の量 – 前の量」という変化量の計算では、この符号の扱いが特に重要になります。
      • 力積の向き: 計算の結果、力積が負になれば、それは負の向きに力が働いたことを意味します。この問題では、面が小球を左向き(負の向き)に押し返したことを示しています。
  • 反発係数の定義:
    • 核心: 衝突後の物体の速度を決定するために、反発係数(はねかえり係数)\(e\)の定義を正しく用いることが不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • 相対速度の比: 反発係数は、本来「衝突後の相対速度の大きさ」を「衝突前の相対速度の大きさ」で割ったものです (\(e = \frac{|v_1′ – v_2’|}{|v_1 – v_2|}\))。
      • 壁との衝突: 相手が動かない壁の場合、壁の速度は常に0なので、式は \(e = \frac{|v’ – 0|}{|v – 0|} = \frac{|v’|}{|v|}\) と単純化されます。つまり、「衝突後の速さ = \(e \times\) 衝突前の速さ」となります。
      • 速度の向き: 速さは\(e\)倍になりますが、向きは逆になることを忘れてはいけません。座標軸を設定していれば、衝突後の速度は \(v’ = -ev\) と表せます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜め衝突: ボールが壁に斜めに衝突する場合。この場合は、速度と運動量を壁に平行な成分と垂直な成分に分解して考えます。
      • 垂直成分: 壁から力を受けるため、運動量が変化します。反発係数の式も、この垂直成分に対して適用します。
      • 平行成分: 壁から力を受けない(滑らかなので摩擦がない)ため、運動量は保存されます(速度の平行成分は変化しない)。
    • 2物体の衝突: 動いている物体同士が衝突する場合。この場合は、「運動量保存則」と「反発係数の式」の2つを連立させて、衝突後の各物体の速度を求めます。
    • 撃力(平均の力)を求める問題: 衝突時間が\(\Delta t\)と与えられている場合に、衝突時に働いた平均の力(撃力)\(F\)を求める問題。力積 \(I = F\Delta t\) と運動量の変化 \(\Delta p\) が等しいことを利用し、\(F = \frac{\Delta p}{\Delta t}\) から計算します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「衝突」「撃力」「力積」という言葉に注目: これらのキーワードがあれば、「力積と運動量の関係」を使う問題である可能性が非常に高いです。
    2. 座標軸を設定する: まず最初に、1次元の直線運動であれば正の向きを、2次元の運動であればx軸、y軸を設定します。
    3. 衝突前後の速度を整理する: 衝突前の各物体の速度ベクトル(符号や成分)を書き出します。衝突後の速度は未知数として設定します。
    4. 適用する法則を選ぶ:
      • 壁との衝突なら「反発係数の式」。
      • 物体同士の衝突なら「運動量保存則」と「反発係数の式」。
    5. 力積と運動量の関係式を立てる: \(\vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\) に、計算した運動量を代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 運動量の変化をスカラーで計算する:
    • 誤解: 向きを考えずに、運動量の大きさの変化 \(|p_{\text{後}}| – |p_{\text{前}}| = meu – mu = (e-1)mu\) を力積としてしまう。
    • 対策: 運動量と力積はベクトルである、ということを徹底的に意識しましょう。必ず座標軸を設定し、速度を符号付きで扱う癖をつけます。「変化量=後-前」の計算は、ベクトルの引き算(符号を含めた引き算)です。
  • 衝突後の速度の符号を間違える:
    • 誤解: 反発係数の式から速さが\(eu\)になることはわかっても、ベクトルとして扱う際に符号を付け忘れる、あるいは間違える。
    • 対策: 衝突後の物体の運動方向を物理的にイメージしましょう。壁に当たれば、必ず逆向きに跳ね返ります。設定した座標軸に対して逆向きなので、マイナス符号をつける必要があります。
  • 力積の「大きさ」を答え忘れる:
    • 誤解: 計算結果 \(I = -(1+e)mu\) をそのまま答えとしてしまう。
    • 対策: 問題文の問いかけを最後までよく読み、「大きさ」を問われているのか、「ベクトル量」として問われているのかを確認しましょう。「大きさ」とあれば、計算結果の絶対値をとり、必ず正の値で答えます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力積と運動量の関係:
    • 選定理由: この問題は、衝突時に物体が面から受けた「力積」を問うています。衝突のように、極めて短時間に非常に大きな力が働く現象では、力の時間変化を追跡するのは困難です。しかし、その力の時間的な効果の総和である「力積」は、運動の前後での「運動量の変化」を調べることで簡単に求めることができます。したがって、この関係式を用いるのが、衝突現象を扱う上での最も基本的かつ強力なアプローチです。
    • 適用根拠: この関係式は、運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) を時間で積分することによって導出される、運動方程式と等価な表現です。\(m\frac{d\vec{v}}{dt} = \vec{F}\) の両辺を時間\(t_1\)から\(t_2\)まで積分すると、\(m\vec{v}_2 – m\vec{v}_1 = \int_{t_1}^{t_2} \vec{F} dt\) となります。左辺が運動量の変化\(\Delta\vec{p}\)、右辺が力積\(\vec{I}\)の定義そのものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 正の向きを明記する: 計算を始める前に、答案用紙の隅にでも「右向きを正とする」と矢印付きで書き込むことを習慣にしましょう。これにより、計算途中で符号の基準がぶれるのを防げます。
  • 符号を含めて代入する: \(I = p_{\text{後}} – p_{\text{前}}\) の式に値を代入する際は、\(p_{\text{後}} = -meu\), \(p_{\text{前}} = +mu\) のように、符号を明確に含んだ形で代入しましょう。
  • 括弧を正しく使う: \(I = (-meu) – (mu)\) のように、引き算の際には括弧を適切に使うことで、符号の計算ミスを防ぐことができます。
  • 物理的なイメージで検算する: 小球は右向き(\(+\))から左向き(\(-\))に運動が変化したので、運動量の変化は必ず負の値になるはずです。また、面から受ける力積も左向き(\(-\))のはずです。計算結果の符号が、この物理的なイメージと一致しているかを確認するだけで、多くのミスを発見できます。
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68 力積と運動量

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜め衝突における力積と運動量」です。前問67の応用として、物体が壁に斜めに衝突する場合の力積を求めます。速度や運動量といったベクトル量を、適切に成分分解して扱えるかが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力積と運動量の関係: 物体が受けた力積は、その物体の運動量の変化に等しい (\(\vec{I} = \Delta\vec{p}\))。
  2. 運動の分解: 斜めの運動は、互いに直交する2つの方向(この場合は壁に平行な方向と垂直な方向)に分解して考えると、それぞれの方向で独立した運動として扱うことができる。
  3. 衝突時に力が働く方向: 滑らかな壁との衝突では、力は壁に垂直な方向にのみ働く。したがって、力積も壁に垂直な向きを持つ。
  4. 反発係数: 反発係数の式は、壁に垂直な方向の速度成分に対してのみ適用される。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 壁に平行な方向(y軸)と垂直な方向(x軸)に座標軸を設定します。
  2. 衝突前後の速度を、それぞれの成分に分解します。
  3. 各成分について、運動がどのように変化するかを分析します。
    • 平行(y)方向: 力が働かないので、速度成分は変化しない。
    • 垂直(x)方向: 壁から力を受けるので、速度成分は変化する。反発係数の式を適用する。
  4. 衝突前後の運動量を、成分ごとに計算します。
  5. 力積と運動量の関係式 \(\vec{I} = \vec{p}_{\text{後}} – \vec{p}_{\text{前}}\) を、成分ごとに適用して力積を求めます。

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