原子範囲 36~40
36 原子核反応
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答の別解で採用されている解法を主たる解説としつつ、模範解答の主たる解法を以下の別解として提示します。
- 提示する解法
- 主たる解法: 反応エネルギー(Q値)を先に計算する解法
- まず、反応前後の結合エネルギーの差から、この核反応自体がどれだけのエネルギーを放出するか(反応エネルギーQ値)を計算し、その後、エネルギー保存則を適用します。
- 別解: エネルギー準位の考え方で一気に立式する解法
- バラバラの核子の状態をエネルギーの基準とし、各原子核を結合エネルギーの分だけ低いエネルギー準位にあると考え、運動エネルギーと準位エネルギーの和が保存されるとして直接立式します。
- 主たる解法: 反応エネルギー(Q値)を先に計算する解法
- 上記の解法が有益である理由
- 思考プロセスの明確化: 主たる解法は、「反応によるエネルギー発生」と「運動エネルギーの保存」という2つのステップに分けて考えるため、思考のプロセスが明快で理解しやすいです。
- 物理的本質の深化: 別解は、結合エネルギーが原子核のポテンシャルエネルギー(エネルギー準位)とどのように関係しているか、より本質的なエネルギー保存の概念への理解を促します。
- 思考の柔軟性向上: 一つのエネルギー保存則に対して、異なる視点からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「結合エネルギーを用いた核反応のエネルギー計算」です。反応に関わる粒子の質量が直接与えられていない代わりに、結合エネルギーが与えられている場合に、核反応におけるエネルギー保存則を正しく適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 核反応におけるエネルギー保存則: 「反応前の全エネルギー(静止エネルギーの和+運動エネルギーの和)」と「反応後の全エネルギー(静止エネルギーの和+運動エネルギーの和)」は等しくなります。
- 結合エネルギーと静止エネルギーの関係: 原子核の静止エネルギーは、その原子核を構成するバラバラの核子(陽子と中性子)の静止エネルギーの和よりも、結合エネルギーの分だけ小さくなります。
- 反応エネルギー(Q値)と結合エネルギーの関係: 核反応によって放出または吸収されるエネルギー(Q値)は、反応前後の結合エネルギーの総和の差から計算できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、反応前後の結合エネルギーの差を計算することで、この反応自体でどれだけのエネルギーが生成されるか(反応エネルギーQ値)を求めます。
- 次に、反応後に生成された粒子が持つ運動エネルギーの総和は、この反応エネルギーQ値と、最初に入射した粒子が持っていた運動エネルギーの総和に等しい、というエネルギー保存則の式を立てて解を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題の核心は、反応後の全運動エネルギーが、2つの源泉から供給されるエネルギーの合計であると理解することです。
一つは、反応前の粒子がもともと持っていた運動エネルギーの合計です。
もう一つは、この核反応自体が「発熱」反応であるために、質量の減少によって新たに生み出されるエネルギー(反応エネルギーQ値)です。
前問(35)では、このQ値を質量欠損から計算しましたが、今回は「結合エネルギー」の値が与えられています。ここでのポイントは、反応エネルギーQ値が「反応後の結合エネルギーの総和」と「反応前の結合エネルギーの総和」の差で計算できる、という関係を導き、利用することです。
この設問における重要なポイント
- 反応エネルギー \(Q\) は、結合エネルギーの差で計算できる: \(Q = (\text{反応後の結合エネルギーの総和}) – (\text{反応前の結合エネルギーの総和})\)
- 核反応におけるエネルギー保存則: \((\text{反応後の運動エネルギーの和}) = (\text{反応前の運動エネルギーの和}) + Q\)
- 結合エネルギーが大きいほど、原子核は安定で、その分だけ静止エネルギーが小さい。
具体的な解説と立式
この核反応の反応式は、\({}_{1}^{2}\text{H}\) 2個が衝突し、\({}_{2}^{3}\text{He}\) 1個と中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\) 1個が生成されるので、
$$
\begin{aligned}
{}_{1}^{2}\text{H} + {}_{1}^{2}\text{H} \rightarrow {}_{2}^{3}\text{He} + {}_{0}^{1}\text{n}
\end{aligned}
$$
となります。
まず、この反応で放出されるエネルギー \(Q\) を計算します。これは、反応前後の質量欠損に相当するエネルギーであり、結合エネルギーの差として計算できます。
$$
\begin{aligned}
Q &= (\text{反応後の結合エネルギーの総和}) – (\text{反応前の結合エネルギーの総和})
\end{aligned}
$$
反応前は \({}_{1}^{2}\text{H}\) が2個、反応後は \({}_{2}^{3}\text{He}\) 1個と、単独の核子である中性子1個です。中性子はそれ以上分解できないので、結合エネルギーは \(0\) と考えます。
$$
\begin{aligned}
Q &= (B_{^3\text{He}} + B_{\text{n}}) – (B_{^2\text{H}} + B_{^2\text{H}})
\end{aligned}
$$
次に、核反応全体のエネルギー保存則を考えます。反応後の全運動エネルギーを \(K_{後}\)、反応前の全運動エネルギーを \(K_{前}\) とすると、
$$
\begin{aligned}
K_{後} &= K_{前} + Q
\end{aligned}
$$
が成り立ちます。ここに、与えられた値を代入して \(K_{後}\) を求めます。
使用した物理公式
- 反応エネルギーと結合エネルギーの関係: \(Q = B_{後} – B_{前}\)
- 核反応におけるエネルギー保存則: \(K_{後} = K_{前} + Q\)
1. 反応エネルギー \(Q\) を計算します。
- 反応前の結合エネルギーの総和: \(B_{前} = B_{^2\text{H}} + B_{^2\text{H}} = 2.7 + 2.7 = 5.4 \, (\text{MeV})\)
- 反応後の結合エネルギーの総和: \(B_{後} = B_{^3\text{He}} + B_{\text{n}} = 8.8 + 0 = 8.8 \, (\text{MeV})\)
$$
\begin{aligned}
Q &= B_{後} – B_{前} \\[2.0ex]
&= 8.8 – 5.4 \\[2.0ex]
&= 3.4 \, (\text{MeV})
\end{aligned}
$$
この反応は、\(3.4 \, \text{MeV}\) のエネルギーを放出する発熱反応であることがわかります。
2. 反応後の全運動エネルギー \(K_{後}\) を計算します。
反応前の運動エネルギーの和は \(K_{前} = 2.0 + 2.0 = 4.0 \, (\text{MeV})\) です。
$$
\begin{aligned}
K_{後} &= K_{前} + Q \\[2.0ex]
&= 4.0 + 3.4 \\[2.0ex]
&= 7.4 \, (\text{MeV})
\end{aligned}
$$
この問題を、お金のやり取りに例えてみましょう。「結合エネルギー」は、各原子核が持っている「貯金」のようなものです。
- 反応前の貯金総額を計算します。\({}_{1}^{2}\text{H}\) が2個なので、\(2.7 + 2.7 = 5.4 \, \text{MeV}\) です。
- 反応後の貯金総額を計算します。\({}_{2}^{3}\text{He}\) が1個なので \(8.8 \, \text{MeV}\) です(中性子はバラの硬貨のようなもので貯金はゼロ)。
- 反応によって、貯金が \(5.4\) から \(8.8\) へと、\(3.4 \, \text{MeV}\) 増えました。この増えた貯金は、どこからか湧いてきたわけではなく、質量がエネルギーに変わったことで生まれた「利益」です。この利益は、運動エネルギーとして放出されます。
- 最終的に、生成物が持つ運動エネルギーの合計は、この「利益」(\(3.4 \, \text{MeV}\))と、反応前に粒子が持っていた「元手」の運動エネルギー(\(2.0 + 2.0 = 4.0 \, \text{MeV}\))を合計したものになります。
よって、\(3.4 + 4.0 = 7.4 \, \text{MeV}\) が答えです。
\({}_{2}^{3}\text{He}\) と中性子の運動エネルギーの和は \(7.4 \, \text{MeV}\) となりました。これは、反応で発生したエネルギー \(3.4 \, \text{MeV}\) と、入射した2個の重陽子の運動エネルギーの和 \(4.0 \, \text{MeV}\) の合計に等しく、エネルギー保存則を正しく適用した妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
バラバラの陽子と中性子(核子)が持つ静止エネルギーの状態をエネルギーの基準点(高さ0)とします。原子核は、核子が結合して安定化しているため、結合エネルギー \(B\) の分だけエネルギー的に低い状態にあると考えられます。これを、位置エネルギーのように「エネルギー準位が \(-B\) である」と解釈します。
この考え方を用いると、「(準位エネルギー)+(運動エネルギー)」の総和が、反応の前後で保存される、という一つの式で立式することができます。
この設問における重要なポイント
- 原子核のエネルギー準位は、その結合エネルギーを用いて \(-B\) と表現できる。
- エネルギー保存則:
$$
\begin{aligned}
(\text{反応前の準位エネルギーの和}) &+ (\text{反応前の運動エネルギーの和}) \\[2.0ex]
= (\text{反応後の準位エネルギーの和}) &+ (\text{反応後の運動エネルギーの和})
\end{aligned}
$$
具体的な解説と立式
エネルギー保存則を、エネルギー準位の考え方を用いて立式します。
- 反応前の準位エネルギーの和: \(-B_{^2\text{H}} – B_{^2\text{H}}\)
- 反応前の運動エネルギーの和: \(2.0 \, \text{MeV} + 2.0 \, \text{MeV}\)
- 反応後の準位エネルギーの和: \(-B_{^3\text{He}}\) (中性子は基準状態なので準位エネルギーは0)
- 反応後の運動エネルギーの和: \(K_{後}\) (求めたい値)
したがって、保存則の式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
(-B_{^2\text{H}} – B_{^2\text{H}}) + (2.0 + 2.0) &= (-B_{^3\text{He}}) + K_{後}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則(エネルギー準位の観点から)
立式した方程式に、与えられた結合エネルギーの値を代入します。
- \(B_{^2\text{H}} = 2.7 \, \text{MeV}\)
- \(B_{^3\text{He}} = 8.8 \, \text{MeV}\)
$$
\begin{aligned}
(-2.7 – 2.7) + (2.0 + 2.0) &= -8.8 + K_{後} \\[2.0ex]
-5.4 + 4.0 &= -8.8 + K_{後} \\[2.0ex]
-1.4 &= -8.8 + K_{後}
\end{aligned}
$$
この式を \(K_{後}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
K_{後} &= 8.8 – 1.4 \\[2.0ex]
&= 7.4 \, (\text{MeV})
\end{aligned}
$$
地面(バラバラの核子の状態)を高さ0mの基準とします。「結合エネルギー」は、その原子核がどれだけ深い「穴」に落ちているかを表す「深さ」だと考えます。
- 反応前:深さ2.7mの穴にいる粒子が2個います。なので、位置エネルギーは合計で \(-5.4 \, \text{m}\) です。さらに、それぞれが \(2.0 \, \text{m}\) の高さまでジャンプしている(運動エネルギー)ので、合計 \(4.0 \, \text{m}\) の高さが加わります。反応前のトータルの高さは \(-5.4 + 4.0 = -1.4 \, \text{m}\) です。
- 反応後:深さ8.8mの穴にいる粒子が1個と、地面にいる粒子(中性子)が1個います。位置エネルギーは \(-8.8 \, \text{m}\) です。これに、生成物が持つ運動エネルギーの合計 \(K_{後}\) という高さが加わります。反応後のトータルの高さは \(-8.8 + K_{後}\) です。
- 反応の前後でトータルの高さは変わらないので、\(-1.4 = -8.8 + K_{後}\) という式が成り立ちます。これを解くと、\(K_{後} = 7.4 \, \text{m}\)、つまり運動エネルギーの和は \(7.4 \, \text{MeV}\) と求まります。
主たる解法と完全に同じ \(7.4 \, \text{MeV}\) という結果が得られました。この別解は、結合エネルギーをポテンシャルエネルギー(エネルギー準位)として捉え、力学のエネルギー保存則と同じような感覚で立式できる、より統一的で本質的なアプローチです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 結合エネルギーと核反応エネルギー保存則の関係:
- 核心: この問題の根幹は、原子核の「結合エネルギー」が、その原子核の「静止エネルギー」とどのように関係しているかを理解し、それを核反応全体のエネルギー保存則に組み込むことです。質量欠損が与えられていなくても、結合エネルギーの差から反応エネルギー(Q値)を計算できることがポイントです。
- 理解のポイント:
- 結合エネルギーは「安定度の指標」: 結合エネルギーが大きいほど、その原子核はより強く結びついており、安定な状態にあります。物理学では、安定な状態ほどエネルギーが低いと考えます。
- 結合エネルギーと静止エネルギーは逆の関係: バラバラの核子の静止エネルギーを基準とすると、ある原子核の静止エネルギーは、その基準から結合エネルギーの分だけ低くなっています。つまり、「結合エネルギーが大きい \(\Leftrightarrow\) 静止エネルギーが小さい」という関係が成り立ちます。
- 反応エネルギー(Q値)の計算: 核反応で放出されるエネルギー \(Q\) は、反応前後の静止エネルギーの差です。\(Q = (\text{反応前の静止エネルギーの和}) – (\text{反応後の静止エネルギーの和})\)。上記の逆の関係を使うと、これは \(Q = (\text{反応後の結合エネルギーの和}) – (\text{反応前の結合エネルギーの和})\) と書き換えられます。この式変形を理解し、使えることがこの問題の鍵です。
- 最終的なエネルギー保存則: 反応後の全運動エネルギーは、反応前の全運動エネルギーに、この反応エネルギー \(Q\) を加えたものになります。\(K_{後} = K_{前} + Q\)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 核子1個あたりの結合エネルギーが与えられる問題: 各原子核の結合エネルギーそのものではなく、「核子1個あたりの結合エネルギー」が与えられる場合があります。その場合は、まず各原子核の質量数を掛けて、原子核全体の結合エネルギーを算出し、その後で本問と同じ計算を行います。
- 光核反応: ガンマ線(光子)を原子核に吸収させて原子核を分解する反応。「重陽子にエネルギー \(E\) のガンマ線を当てたら陽子と中性子に分解された。\(E\) の最小値はいくらか?」といった問題。これは \(E + (\text{重陽子の静止エネルギー}) = (\text{陽子の静止エネルギー}) + (\text{中性子の静止エネルギー})\) となり、\(E\) の最小値は重陽子の結合エネルギーに等しくなります。
- 初見の問題での着眼点:
- 与えられているエネルギーの種類を特定する: 問題文で与えられているエネルギーが「運動エネルギー」なのか「結合エネルギー」なのかを明確に区別します。
- 反応エネルギーQ値を求める方針を立てる:
- 各粒子の「質量」が与えられていれば、質量欠損から \(Q\) を求めます。
- 各原子核の「結合エネルギー」が与えられていれば、結合エネルギーの差 (\(B_{後} – B_{前}\)) から \(Q\) を求めます。
- エネルギー保存則の全体像を把握する: `(反応後の運動エネルギーの和)=(反応前の運動エネルギーの和)+ Q` というエネルギー収支の全体像を常に意識します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反応エネルギーQ値の計算での引き算の順番ミス:
- 誤解: 反応エネルギー \(Q\) を、うっかり「反応前の結合エネルギー」から「反応後の結合エネルギー」を引いてしまう (\(B_{前} – B_{後}\))。
- 対策: 「結合エネルギーが大きいほど安定で、静止エネルギーは小さい」という関係を思い出しましょう。反応によってより安定な原子核が生成される(結合エネルギーが増加する)場合、その差額分がエネルギーとして放出されます。したがって、放出エネルギー \(Q\) は必ず「後の結合エネルギーの和」から「前の結合エネルギーの和」を引く、と覚えましょう。\(Q = B_{後} – B_{前}\) です。
- 単独の核子の結合エネルギーの扱い:
- 誤解: 反応式に出てくる中性子(\(\text{n}\))や陽子(\(\text{p}\))にも、何か結合エネルギーがあるのではないかと考えてしまう。
- 対策: 結合エネルギーは、複数の核子が集まって原子核を形成する際に生じるものです。陽子や中性子は、それ以上分解できない基本粒子(この文脈では)なので、それ自体の結合エネルギーは \(0\) として扱います。
- エネルギー保存則の立式ミス:
- 誤解: \(K_{後} + Q = K_{前}\) のように、\(Q\) を移項する場所を間違えてしまう。
- 対策: \(Q\) が正の値の場合、それは反応によってエネルギーが「生成」されたことを意味します。したがって、そのエネルギーは反応後の生成物の運動エネルギーを「増やす」方向に働きます。よって、\(K_{後} = K_{前} + Q\) という形が物理的に正しい、と意味から理解することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 反応エネルギーの式 \(Q = B_{後} – B_{前}\):
- 選定理由: この問題では、質量欠損を直接計算するための各粒子の質量が与えられておらず、代わりに結合エネルギーが与えられています。したがって、反応エネルギー \(Q\) を求めるためには、結合エネルギーから算出するこの公式を選択する必要があります。
- 適用根拠: この公式は、質量とエネルギーの等価則 \(E=mc^2\) と結合エネルギーの定義から導かれます。
- 静止エネルギー \(E_0\) は、\(E_0 = (\text{核子の総質量})c^2 – (\text{結合エネルギー}B)\) と表せます。
- 反応エネルギー \(Q\) は、\(Q = (\text{反応前の静止エネルギーの和}) – (\text{反応後の静止エネルギーの和})\) です。
- これらを組み合わせると、核子の総質量部分は反応前後で相殺され、\(Q = (-B_{前}) – (-B_{後}) = B_{後} – B_{前}\) が導かれます。
- エネルギー保存則の式 \(K_{後} = K_{前} + Q\):
- 選定理由: 入射粒子が運動エネルギーを持ち、かつ反応によってエネルギーが生成される、という一般的な状況を扱うため、この包括的なエネルギー保存則を選択します。
- 適用根拠: これは、質量エネルギー(静止エネルギー)まで含めた全エネルギーが、反応の前後で保存されるという物理学の大原則に基づいています。この式は、その大原則を運動エネルギーと反応エネルギー(静止エネルギーの変化分)という、観測しやすい量で書き直したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- エネルギー収支の図を描く: 別解で示したような、エネルギー準位図を描いてみると、エネルギーの流れが視覚的に理解でき、立式ミスを防ぐのに役立ちます。
- 縦軸にエネルギーをとります。
- 反応前の状態(準位 \(-B_{前}\)、運動エネルギー \(K_{前}\))と、反応後の状態(準位 \(-B_{後}\)、運動エネルギー \(K_{後}\))を書き込みます。
- 反応前後の全エネルギー(準位+運動)が等しくなるように矢印などで関係づけることで、正しい式を立てやすくなります。
- 計算をステップに分ける:
- まず \(Q\) だけを計算する。
- 次に \(K_{前}\) を計算する。
- 最後に \(K_{後} = K_{前} + Q\) を計算する。
このように計算を明確に分離することで、一度に多くのことを考えずに済み、ミスを減らすことができます。
37 原子核反応
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 後半の問い(α粒子の運動エネルギー)の別解: 運動量保存則とエネルギー保存則から連立して導出する解法
- 模範解答が「運動エネルギーは質量の逆比で配分される」という結論を公式として利用するのに対し、別解では、なぜその公式が成り立つのかを「運動量保存則」と「エネルギー保存則」という2つの基本法則から数学的に導出します。
- 後半の問い(α粒子の運動エネルギー)の別解: 運動量保存則とエネルギー保存則から連立して導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「質量の逆比」という結果が、運動量保存則という、より根源的な物理法則から必然的に導かれることを理解できます。これにより、公式の丸暗記から脱却し、現象の背後にある物理を深く把握することができます。
- 思考の柔軟性向上: 公式を忘れてしまった場合でも、基本法則に立ち返って自力で答えを導き出す能力が身につきます。
- 応用力の養成: この導出プロセスは、衝突や分裂といった他の様々な物理現象にも応用できる、非常に汎用性の高い思考法です。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点や計算の詳しさが異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「α崩壊におけるエネルギーと運動量の保存」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量欠損と発生エネルギーの関係: 反応前後の質量の差(質量欠損)が、アインシュタインの公式 \(E=mc^2\) に従ってエネルギーに変換されること。
- エネルギー保存則: 質量から変換されたエネルギー \(Q\) が、崩壊後に生成された粒子(ラドン原子核とα粒子)の運動エネルギーの和に等しくなること。
- 運動量保存則: もともと静止していた原子核が崩壊する場合、反応の前後で運動量の総和はゼロのままでなければならないこと。これにより、生成された粒子は互いに逆向きに、同じ大きさの運動量で飛び出すことが決まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 発生エネルギーQの計算: まず、反応前後の質量の差(質量欠損)を計算し、それに \(c^2\) を掛けることで、この崩壊で発生する全エネルギー \(Q\) を式で表します。
- 運動エネルギーの分配: 次に、運動量保存則とエネルギー保存則を用いて、全エネルギー \(Q\) がラドン原子核とα粒子にどのように分配されるかを考え、α粒子の運動エネルギーを求めます。
発生するエネルギー Q
思考の道筋とポイント
α崩壊は、原子核が自発的に分裂してエネルギーを放出する現象です。この放出されるエネルギー \(Q\) の源泉は、反応の前後で生じる質量の減少(質量欠損)です。アインシュタインの質量とエネルギーの等価式 \(E=mc^2\) を用いて、この質量欠損をエネルギーに換算します。
この設問における重要なポイント
- 反応前の質量は、静止しているRa原子核の質量 \(M_0\)。
- 反応後の質量の総和は、Rn原子核の質量 \(M_1\) とα粒子の質量 \(m_1\) の和。
- 質量欠損 \(\Delta m = (\text{反応前の質量}) – (\text{反応後の質量の総和})\)。
- 発生エネルギー \(Q = \Delta m \times c^2\)。
具体的な解説と立式
α崩壊の反応式は、\(\text{Ra} \rightarrow \text{Rn} + \alpha\) と書けます。
反応前の全質量は \(M_0\) です。
反応後の全質量は \(M_1 + m_1\) です。
したがって、この反応で失われた質量(質量欠損)\(\Delta m\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta m &= M_0 – (M_1 + m_1)
\end{aligned}
$$
発生するエネルギー \(Q\) は、この質量欠損に光速 \(c\) の2乗を掛けたものなので、
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta m c^2
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 質量とエネルギーの等価式: \(E = mc^2\)
上記の式を組み合わせると、
$$
\begin{aligned}
Q &= \{M_0 – (M_1 + m_1)\} c^2 \\[2.0ex]
&= (M_0 – M_1 – m_1) c^2
\end{aligned}
$$
これ以上の計算は不要です。
原子核が崩壊するとき、パズルのピースが組み変わるようにして、ほんの少しだけ全体の質量が軽くなります。この「減ってしまった質量」は消えてなくなったわけではなく、アインシュタインの有名な公式 \(E=mc^2\) に従って、エネルギーに姿を変えます。この問題で問われているエネルギー \(Q\) は、まさにこの「減った質量」から生まれたエネルギーのことです。計算式は「(減った質量)\(\times c^2\)」となります。
発生するエネルギー \(Q\) は \((M_0 – M_1 – m_1) c^2\) と表せます。自発的な崩壊が起こるためにはエネルギーが放出される必要があるので、\(Q>0\)、すなわち \(M_0 > M_1 + m_1\) でなければなりません。これは物理的に妥当な条件です。
α粒子の運動エネルギー
思考の道筋とポイント
静止していたRa原子核が分裂して、Rn原子核とα粒子が飛び出します。このとき、2つの重要な物理法則が同時に成り立ちます。
- 運動量保存則: 全体の運動量は、分裂前も後も \(0\) のままでなければなりません。
- エネルギー保存則: 発生したエネルギー \(Q\) は、分裂後の2つの粒子の運動エネルギーの和に等しくなります。
この2つの法則から、全エネルギー \(Q\) が2つの粒子にどのように分配されるかが決まります。結論から言うと、「運動エネルギーは、粒子の質量の逆比に分配される」という便利な法則が成り立ちます。
この設問における重要なポイント
- 静止系からの分裂では、生成物の運動量の大きさは等しく、向きは逆になる。
- 発生したエネルギー \(Q\) は、生成物の運動エネルギーの和に等しい。
- 運動エネルギーは質量の逆比に分配される。つまり、軽い粒子ほど多くの運動エネルギーを得る。
具体的な解説と立式
Rn原子核の運動エネルギーを \(K_{Rn}\)、α粒子の運動エネルギーを \(K_{\alpha}\) とします。
エネルギー保存則より、発生したエネルギー \(Q\) はこれらの和に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
Q &= K_{Rn} + K_{\alpha} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
また、静止状態からの分裂なので、運動量保存則より、Rn原子核とα粒子の運動量の大きさは等しくなります。それぞれの運動量の大きさを \(p\) とすると、
$$
\begin{aligned}
p &= p_{Rn} = p_{\alpha}
\end{aligned}
$$
運動エネルギー \(K\) と運動量 \(p\)、質量 \(m\) の間には \(K = \frac{p^2}{2m}\) という関係があるので、
$$
\begin{aligned}
K_{Rn} &= \frac{p^2}{2M_1}, \quad K_{\alpha} = \frac{p^2}{2m_1}
\end{aligned}
$$
この2式から、運動エネルギーの比は、
$$
\begin{aligned}
\frac{K_{Rn}}{K_{\alpha}} &= \frac{p^2/2M_1}{p^2/2m_1} = \frac{m_1}{M_1}
\end{aligned}
$$
となり、運動エネルギーは質量の逆比に分配されることがわかります。
$$
\begin{aligned}
K_{Rn} : K_{\alpha} &= m_1 : M_1
\end{aligned}
$$
この比例関係を用いて、全エネルギー \(Q\) を分配します。α粒子の運動エネルギー \(K_{\alpha}\) は、\(Q\) を \(m_1+M_1\) で分割したうちの \(M_1\) の分に相当します。
$$
\begin{aligned}
K_{\alpha} &= \frac{M_1}{m_1 + M_1} Q
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則: \(Q = K_{Rn} + K_{\alpha}\)
- 運動量保存則
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \frac{p^2}{2m}\)
立式した \(K_{\alpha} = \displaystyle\frac{M_1}{M_1 + m_1} Q\) がそのまま答えとなります。これ以上の計算は不要です。
静止していた大きな塊が、爆発して2つの破片に分かれる状況を想像してください。
物理のルールで、この2つの破片は必ず正反対の方向に、同じ「勢い(運動量)」で飛び出します。
このとき、爆発のエネルギー \(Q\) は、2つの破片の運動エネルギーに分け与えられます。重要なのは、軽い破片ほど速く飛び、より多くの運動エネルギーをもらう、ということです。その分配の比率は、なんと質量の「逆比」になります。
つまり、α粒子(軽い)とRn原子核(重い)では、軽いα粒子の方が多くのエネルギーをもらいます。その割合は、全体の \(M_1+m_1\) のうち、相手の質量である \(M_1\) の分だけもらう、と計算できます。
α粒子の運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{M_1}{M_1 + m_1} Q\) と表せます。α粒子の質量 \(m_1\) はRn原子核の質量 \(M_1\) に比べて非常に小さい(約4u vs 約222u)ため、分母の \(M_1+m_1\) はほぼ \(M_1\) と等しくなります。したがって、\(\frac{M_1}{M_1+m_1}\) は \(1\) に近い値となり、発生したエネルギー \(Q\) の大部分をα粒子が運動エネルギーとして持ち去ることがわかります。これは実験事実とも一致する、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
「運動エネルギーは質量の逆比に分配される」という便利な結論を知らなくても、物理の基本法則である「運動量保存則」と「エネルギー保存則」の2つを連立方程式として解くことで、α粒子の運動エネルギーを直接導出することができます。
この設問における重要なポイント
- 未知数は、分裂後のRn原子核の速さ \(V_1\) とα粒子の速さ \(v_1\) の2つ。
- したがって、方程式も2つ必要。それが運動量保存則とエネルギー保存則。
具体的な解説と立式
分裂後のRn原子核の速度を \(\vec{V_1}\)、α粒子の速度を \(\vec{v_1}\) とします。
まず、運動量保存則を立てます。分裂前は静止しているので、全運動量は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
0 &= M_1 \vec{V_1} + m_1 \vec{v_1} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、エネルギー保存則を立てます。発生したエネルギー \(Q\) が、2つの粒子の運動エネルギーの和になります。
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{1}{2} M_1 V_1^2 + \frac{1}{2} m_1 v_1^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
(ここで \(V_1, v_1\) は速さを表す)
この2つの式を連立させて、α粒子の運動エネルギー \(K_{\alpha} = \frac{1}{2} m_1 v_1^2\) を求めます。
①式から、\(M_1 \vec{V_1} = -m_1 \vec{v_1}\) となり、2つの粒子は互いに逆向きに飛ぶことがわかります。速さについて、
$$
\begin{aligned}
M_1 V_1 &= m_1 v_1
\end{aligned}
$$
この式を \(V_1\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \frac{m_1}{M_1} v_1
\end{aligned}
$$
これを②式に代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{1}{2} M_1 \left(\frac{m_1}{M_1} v_1\right)^2 + \frac{1}{2} m_1 v_1^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} M_1 \frac{m_1^2}{M_1^2} v_1^2 + \frac{1}{2} m_1 v_1^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \frac{m_1^2}{M_1} v_1^2 + \frac{1}{2} m_1 v_1^2 \\[2.0ex]
&= \left(\frac{m_1}{M_1} + 1\right) \left(\frac{1}{2} m_1 v_1^2\right) \\[2.0ex]
&= \left(\frac{m_1 + M_1}{M_1}\right) K_{\alpha}
\end{aligned}
$$
したがって、\(Q = \displaystyle\frac{M_1 + m_1}{M_1} K_{\alpha}\) となります。
この式を、求めたい \(K_{\alpha}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
K_{\alpha} &= \frac{M_1}{M_1 + m_1} Q
\end{aligned}
$$
となり、主たる解法と同じ結果が得られます。
物理の最も基本的な2つのルール、「運動量の合計は変わらない」と「エネルギーの合計は変わらない」だけを使って、数学的に答えを導き出す方法です。
- 「運動量保存」のルールから、2つの粒子の速さの関係式を作ります。
- 「エネルギー保存」のルールを表す式に、1.の関係式を代入します。
- すると、少し複雑な計算にはなりますが、最終的にα粒子の運動エネルギーを求める式が出来上がります。
これは、公式を覚えていなくても、基本原理だけで問題を解くことができる、ということを示しています。
基本法則である運動量保存則とエネルギー保存則から、主たる解法で用いた「運動エネルギーは質量の逆比に分配される」という法則が数学的に正しく導出できることを確認しました。これにより、公式への理解がより一層深まります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 分裂・衝突現象における2大保存則の適用:
- 核心: この問題の根幹は、原子核の崩壊というミクロな現象が、力学で学ぶ分裂や衝突といったマクロな現象と全く同じ、2つの普遍的な物理法則、「エネルギー保存則」と「運動量保存則」に支配されていることを理解することです。特に、静止状態からの分裂において、これら2つの法則がどのように連動して分裂後の粒子の運動状態を決定するかを問うています。
- 理解のポイント:
- エネルギー保存則(何がエネルギー源か): まず、分裂後の粒子が運動エネルギーを得るための「元手」は何かを考えます。それが、反応前後の質量差から生じるエネルギー \(Q\) です。エネルギー保存則は、\(Q\) が分裂後の全運動エネルギーに変換されること、すなわち \(Q = K_1 + K_2\) を要請します。
- 運動量保存則(どのように分配されるか): 次に、そのエネルギー \(Q\) が2つの粒子に「どのように分配されるか」を決定するのが運動量保存則です。分裂前、系全体の運動量はゼロでした。したがって、分裂後も2つの粒子の運動量のベクトル和はゼロでなければなりません。これは、2つの粒子が互いに逆向きに、同じ大きさの運動量で飛び出すことを意味します (\(p_1 = p_2\))。
- 2法則の連携: 運動エネルギーは \(K = p^2/(2m)\) と表せるので、運動量の大きさが等しい(\(p_1=p_2\))ならば、運動エネルギーの比は \(K_1 : K_2 = 1/m_1 : 1/m_2\)、つまり質量の逆比になります。この「運動エネルギーは質量の逆比に分配される」という重要な結論は、エネルギー保存則と運動量保存則が連携した結果として導かれるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ロケットの分裂: 「宇宙空間で静止していた質量\(M\)のロケットが、質量\(m_1\)の本体と質量\(m_2\)の燃料タンクに分裂した。分裂によって\(Q\)のエネルギーが発生したとき、本体の運動エネルギーはいくらか?」という問題。本問と全く同じ構図であり、答えは \(\frac{m_2}{m_1+m_2}Q\) となります。
- 2粒子衝突: 「質量\(m_1\)、運動エネルギー\(K_0\)の粒子が、静止している質量\(m_2\)の粒子に衝突して合体した。合体後の運動エネルギーはいくらか?」という問題。この場合は、衝突前後で運動量保存則は成り立ちますが、非弾性衝突なので運動エネルギーは保存しません。合体によって失われた運動エネルギーが熱などに変わります。
- 初見の問題での着眼点:
- 初期状態の確認: まず、「静止している…」という記述があるかを確認します。これがあれば、初期の運動量と運動エネルギーがともにゼロであるため、計算が大幅に簡略化されます。
- 保存則の選択:
- エネルギーに関する問い(「エネルギーを求めよ」)があれば、エネルギー保存則を考えます。
- 速度や運動量に関する問いがあれば、運動量保存則を考えます。
- 本問のように、エネルギーの「分配」を問う問題では、エネルギー保存則と運動量保存則の両方が必要になると判断します。
- 結論の公式を思い出す: 「静止からの分裂」というキーワードから、「運動エネルギーは質量の逆比」という便利な結論を思い出せれば、計算時間を大幅に短縮できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則の考慮漏れ:
- 誤解: エネルギー \(Q\) が2つの粒子にどのように分配されるか分からず、\(K_\alpha = Q/2\) のように等分してしまう。
- 対策: 運動エネルギーが等分されるのは、分裂する2つの粒子の質量が等しい場合のみです。質量が異なる場合、分配比率を決めるのは運動量保存則である、ということを強く意識する必要があります。「静止からの分裂」では、軽い粒子ほど速く飛び出し、より多くの運動エネルギーを得る、という物理的イメージを持つことが重要です。
- 質量の逆比の適用の誤り:
- 誤解: α粒子の運動エネルギーを求める際に、分母は \(M_1+m_1\) だが、分子を自分の質量である \(m_1\) にしてしまう。(\(\frac{m_1}{M_1+m_1}Q\) としてしまう)
- 対策: 「逆比」という言葉の意味を正確に理解しましょう。α粒子の運動エネルギーの割合は、相手の質量である \(M_1\) に比例します。つまり、\(K_\alpha : K_{Rn} = M_1 : m_1\) ではなく、\(K_\alpha : K_{Rn} = m_1 : M_1\) の逆比、つまり \(M_1 : m_1\) です。したがって、α粒子がもらう分は、全体の \(M_1+m_1\) のうちの \(M_1\) の部分、となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則 \(Q = K_1 + K_2\):
- 選定理由: この式は、反応で発生したエネルギーが、分裂後の粒子の運動にどのように使われたか、というエネルギーの収支を表すために選択します。
- 適用根拠: これは、質量エネルギーまで含めた全エネルギーが保存するという物理学の大原則に基づいています。反応前の静止エネルギー \(M_0 c^2\) が、反応後の静止エネルギーの和 \((M_1+m_1)c^2\) と運動エネルギーの和 \((K_1+K_2)\) に等しい、という式を変形したものです。
- 運動量保存則 \(0 = \vec{p_1} + \vec{p_2}\):
- 選定理由: エネルギー保存則だけでは、エネルギーが2つの粒子にどう分配されるかが一意に決まりません(未知数が2つで式が1つのため)。この分配比率を決定するための、もう一つの独立した条件式として運動量保存則を選択します。
- 適用根拠: この反応では、原子核内部の力(内核力)によって分裂が起こります。外力が働かない系(孤立系)では、その系の全運動量は常に保存される、という力学の基本法則に基づいています。分裂前の運動量がゼロなので、分裂後もゼロでなければなりません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、最終的な答えを文字式で表現する場合は、途中で具体的な数値を代入せず、最後まで文字のまま計算を進めるのが鉄則です。
- 比の計算をマスターする: 「\(Q\) を \(M_1 : m_1\) の比で \(K_\alpha\) と \(K_{Rn}\) に分配する」という計算をスムーズに行えるようにしましょう。\(K_\alpha\) は、全体 \(Q\) を \(M_1+m_1\) 個に分け、そのうちの \(M_1\) 個分を取る、と考えるので、\(K_\alpha = Q \times \frac{M_1}{M_1+m_1}\) となります。
- 物理的な意味で検算する: 最終的に得られた答え \(K_\alpha = \frac{M_1}{M_1+m_1}Q\) を見て、物理的な意味を吟味します。
- \(m_1\) が \(M_1\) よりずっと小さいので、分数の値は1に近くなる。つまり、軽いα粒子がエネルギーの大部分を持っていく。これは直感に合っている。
- もし \(m_1=M_1\) なら、\(K_\alpha = \frac{M_1}{2M_1}Q = Q/2\) となり、エネルギーは等分される。これも妥当。
このような吟味を行うことで、解答の確からしさを高めることができます。
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38 原子核反応
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答の別解で採用されている解法を主たる解説としつつ、模範解答の主たる解法を以下の別解として提示します。
- 提示する解法
- 主たる解法: 反応エネルギー(Q値)を先に計算する解法
- まず、反応前後の結合エネルギーの差から、この核反応自体がどれだけのエネルギーを放出するか(反応エネルギーQ値)を計算し、その後、エネルギー保存則を適用します。
- 別解: エネルギー準位の考え方で一気に立式する解法
- バラバラの核子の状態をエネルギーの基準とし、各原子核を結合エネルギーの分だけ低いエネルギー準位にあると考え、運動エネルギーと準位エネルギーの和が保存されるとして直接立式します。
- 主たる解法: 反応エネルギー(Q値)を先に計算する解法
- 上記の解法が有益である理由
- 思考プロセスの明確化: 主たる解法は、「反応によるエネルギー発生」と「運動エネルギーの保存」という2つのステップに分けて考えるため、思考のプロセスが明快で理解しやすいです。
- 物理的本質の深化: 別解は、結合エネルギーが原子核のポテンシャルエネルギー(エネルギー準位)とどのように関係しているか、より本質的なエネルギー保存の概念への理解を促します。
- 思考の柔軟性向上: 一つのエネルギー保存則に対して、異なる視点からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「運動量ゼロ系における核反応のエネルギー分配」です。前問までの知識を統合し、反応後の粒子「それぞれ」の運動エネルギーを求める、より実践的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 核反応におけるエネルギー保存則: 反応後の全運動エネルギーは、反応前の全運動エネルギーと、反応によって質量から変換されたエネルギー(Q値)の和に等しいこと。
- 運動量保存則: 反応の前後で、系全体の運動量のベクトル和は保存されること。
- 正面衝突と全運動量: 同じ質量、同じ速さ(同じ運動エネルギー)の粒子が正面衝突する場合、互いの運動量が逆向きで同じ大きさのため、系全体の全運動量はゼロになること。
- 運動エネルギーの分配: 全運動量がゼロの系が分裂する場合、生成された2つの粒子の運動エネルギーは、それぞれの質量の逆比に分配されること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、反応前の全運動エネルギーと、与えられた反応エネルギー \(Q\) を足し合わせ、反応後に分配されるべき運動エネルギーの総和を計算します。
- 次に、反応前の状況(同じ運動エネルギーでの正面衝突)から、系全体の全運動量がゼロであることを確認します。
- 運動量保存則により、反応後の全運動量もゼロでなければならないため、生成された2つの粒子は逆向きに同じ大きさの運動量で飛び出します。このことから、「運動エネルギーは質量の逆比に分配される」という法則を適用します。
- 最後に、1で計算した運動エネルギーの総和を、質量の逆比(質量数の逆比で近似)で分配し、それぞれの粒子の運動エネルギーを求めます。