今回の問題
wave#17【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「うなり」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- うなりの公式: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に鳴らしたとき、音の強弱が周期的に変化する現象を「うなり」といいます。1秒あたりのうなりの回数(うなり振動数)\(f_b\) は、2つの音の振動数を \(f_A\), \(f_B\) とすると、\(f_b = |f_A – f_B|\) で与えられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文で与えられた2つの条件(標準おんさとのうなり、スピーカーとのうなり)を、それぞれ「うなりの公式」を用いて立式します。
- 1つ目の条件式から、未知である弦の振動数 \(f_1\) の候補を2つ求めます。
- 2つの候補のうち、どちらが2つ目の条件式を満たすかを検証し、\(f_1\) の値を特定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
未知の振動数を持つ弦の音と、既知の振動数を持つ2つの音源(おんさ、スピーカー)との間で生じるうなりの回数がそれぞれ与えられています。この2つの情報を手がかりに、弦の振動数を特定する問題です。うなりの公式 \(f_b = |f_A – f_B|\) をそれぞれの条件に適用し、両方の条件を同時に満たす振動数を見つけ出すことが解法の骨子となります。
この設問における重要なポイント
- うなりの公式 \(f_b = |f_A – f_B|\) の絶対値の扱いが鍵となります。この式は \(f_A – f_B = f_b\) または \(f_A – f_B = -f_b\) を意味し、未知の振動数には2つの可能性があることを示唆します。
- 2つの独立した条件を使って、これらの可能性の中から唯一の解を絞り込む論理的な思考が求められます。
具体的な解説と立式
求める弦の音の振動数を \(f_1\) [Hz] とします。
まず、標準おんさとのうなりについて考えます。
おんさの振動数は \(f_{\text{おんさ}} = 440\) Hz で、うなりは毎秒2回なので、うなり振動数は \(f_{b1} = 2\) Hz です。
うなりの公式を適用すると、
$$ |f_1 – f_{\text{おんさ}}| = f_{b1} $$
$$ |f_1 – 440| = 2 \quad \cdots ① $$
次に、スピーカーからの音とのうなりについて考えます。
スピーカーの音の振動数は \(f_{\text{スピーカー}} = 445\) Hz で、うなりは毎秒3回なので、うなり振動数は \(f_{b2} = 3\) Hz です。
同様にうなりの公式を適用すると、
$$ |f_1 – f_{\text{スピーカー}}| = f_{b2} $$
$$ |f_1 – 445| = 3 \quad \cdots ② $$
これら2つの式①と②を同時に満たす \(f_1\) の値を求めます。
使用した物理公式
- うなり振動数の公式: \(f_b = |f_A – f_B|\)
まず、式①から \(f_1\) の候補を求めます。
絶対値を外すと、
$$ f_1 – 440 = 2 \quad \text{または} \quad f_1 – 440 = -2 $$
これを解くと、\(f_1\) の候補は、
$$ f_1 = 442 \text{ [Hz]} \quad \text{または} \quad f_1 = 438 \text{ [Hz]} $$
となります。
次に、この2つの候補が式②を満たすかどうかをそれぞれ検証します。
(i) \(f_1 = 442\) Hz の場合
式②の左辺に代入すると、
$$ |f_1 – 445| = |442 – 445| = |-3| = 3 \text{ [Hz]} $$
これは式②の右辺の値と一致するため、この候補は条件を満たします。
(ii) \(f_1 = 438\) Hz の場合
式②の左辺に代入すると、
$$ |f_1 – 445| = |438 – 445| = |-7| = 7 \text{ [Hz]} $$
これは式②の右辺の値である 3 Hz と一致しないため、この候補は条件を満たしません。
したがって、(i), (ii)より、両方の条件を満たす弦の振動数は \(f_1 = 442\) Hz です。
うなりは「振動数の差」によって起こります。まず、440 Hz の音と鳴らして毎秒2回うなるということは、弦の振動数は 440 Hz よりも「2だけ高い」か「2だけ低い」かのどちらかです。つまり、442 Hz か 438 Hz のはずです。
次に、もう一つのヒントを使います。445 Hz の音と鳴らすと毎秒3回うなる、という条件で、先ほどの候補をチェックします。
もし弦が 442 Hz なら、445 Hz との差は \(|442 – 445| = 3\) で、条件に合います。
もし弦が 438 Hz なら、445 Hz との差は \(|438 – 445| = 7\) となり、条件に合いません。
したがって、弦の振動数は 442 Hz だとわかります。
2つのうなりの条件を立式し、連立して解くことで、弦の振動数は \(f_1 = 442\) Hz であると一意に定まります。計算結果は物理的に妥当な値です。
思考の道筋とポイント
代数的な計算の代わりに、数直線を用いて視覚的に解を求めるアプローチです。2つの条件を「基準点からの距離」として解釈し、両方の条件を満たす点を数直線上で探します。直感的でミスが起こりにくい方法です。
この設問における重要なポイント
- うなりの公式 \(f_b = |f_A – f_B|\) を、数直線上での2点 \(f_A\) と \(f_B\) の間の「距離」が \(f_b\) であると解釈する。
- 2つの条件から導かれる候補点を数直線上にプロットし、共通の点を見つけ出す。
具体的な解説と立式
数直線を考え、その上に振動数をとります。
基準となる音源の振動数、440 Hz と 445 Hz の位置を定めます。
条件1: 弦の振動数 \(f_1\) と 440 Hz とのうなりが毎秒2回。
これは、数直線上で点 \(f_1\) と点 440 の間の距離が 2 であることを意味します。
したがって、\(f_1\) の位置は \(440 + 2 = 442\) または \(440 – 2 = 438\) のどちらかです。
条件2: 弦の振動数 \(f_1\) と 445 Hz とのうなりが毎秒3回。
これは、数直線上で点 \(f_1\) と点 445 の間の距離が 3 であることを意味します。
したがって、\(f_1\) の位置は \(445 + 3 = 448\) または \(445 – 3 = 442\) のどちらかです。
使用した物理公式
- うなり振動数の公式: \(f_b = |f_A – f_B|\) (数直線上での距離として解釈)
条件1から導かれる \(f_1\) の候補は、集合で表すと \(\{438, 442\}\) です。
条件2から導かれる \(f_1\) の候補は、集合で表すと \(\{442, 448\}\) です。
両方の条件を同時に満たす \(f_1\) は、2つの集合の共通部分です。
両方の集合に含まれている値は 442 のみです。
したがって、求める弦の振動数は \(f_1 = 442\) Hz となります。
数直線を思い浮かべてください。まず「440から距離が2の点」を探します。すると、438と442が見つかります。次に「445から距離が3の点」を探します。すると、442と448が見つかります。両方の探し方で共通して見つかった点は442だけなので、これが答えです。
メインの解法と同様に、弦の振動数は 442 Hz であるという結論が得られました。数直線を用いることで、問題の構造を視覚的に把握しやすくなり、直感的な理解を助けます。
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【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- うなりの公式の絶対値の理解:
- 核心: この問題の全ては、うなり振動数の公式 \(f_b = |f_1 – f_2|\) を正しく適用できるかにかかっています。特に重要なのは、この式が \(f_1 = f_2 \pm f_b\) という2つの可能性を含んでいることを理解している点です。
- 理解のポイント: うなりは振動数の「差」で決まるため、相手より振動数が高くても低くても同じうなりが生じ得ます。この「2つの可能性」を常に念頭に置き、他の条件を使って真の値を絞り込む、という思考プロセスがこの種の問題を解く上での普遍的な鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 物理的変化を伴う問題: 「弦の張力を強くしたら、うなりの回数が減った」のような条件が加わる問題が頻出です。弦の基本振動数は張力の平方根に比例する(\(f \propto \sqrt{S}\))ため、「張力を強くする」→「振動数 \(f_1\) が上がる」と分かります。この大小関係の情報を使うと、最初の候補2つのうちどちらが正しいかを、第2の音源なしで特定できます。
- ドップラー効果との融合問題: 音源や観測者が移動している状況でうなりを考える問題もあります。その場合、まずドップラー効果の公式を使って観測される振動数を求め、その後にうなりの公式を適用するという、2段階の思考が必要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- うなりの条件を数式化: まず、問題文中の「〜Hzの音と毎秒〜回のうなり」という記述を、一つずつ \(|f_1 – f_{\text{既知}}| = f_b\) の形に直します。
- 候補の列挙: いずれか一つの条件式を選び、絶対値を外して \(f_1\) の候補を2つ求めます。
- 候補の検証: 求めた2つの候補を、まだ使っていない残りの条件式に代入し、式が成立するかどうかをチェックします。
- 解の確定: 条件を満たした候補が、求める答えとなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 絶対値の無視:
- 誤解: \(|f_1 – 440| = 2\) を \(f_1 – 440 = 2\) とだけ考えてしまい、\(f_1 = 442\) Hz しか候補に出さない。
- 対策: 「うなりは振動数の差」と常に意識し、公式には絶対値がついていることを忘れないようにしましょう。必ず「プラスの場合」と「マイナスの場合」の両方を検討する癖をつけることが重要です。
- 条件の混同:
- 誤解: 焦ってしまい、\(|f_1 – 440| = 3\) のように、おんさの振動数とスピーカーのうなり回数を組み合わせてしまう。
- 対策: 問題文をよく読み、どの音源とどのうなり回数がペアになっているかを、問題用紙に線で結ぶなどして明確に整理してから立式しましょう。
- 単純な計算ミス:
- 誤解: \(440-2=437\) のような、単純な足し算・引き算のミス。
- 対策: 計算は暗算に頼らず、余白に筆算するなど丁寧に行いましょう。特に、別解で示した数直線を描いて視覚的に確認することは、計算ミスを防ぐ有効な手段です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- うなりの公式 \(f_b = |f_1 – f_2|\):
- 選定理由: この問題は「うなり」という現象そのものを扱っており、その定義式であるこの公式を使わない手はありません。問題文に「うなり」というキーワードが出てきた時点で、この公式が主役であると判断します。
- 適用根拠: この公式は、振動数が近い2つの波 \(y_1 = A \sin(2\pi f_1 t)\) と \(y_2 = A \sin(2\pi f_2 t)\) の重ね合わせによって生じる現象を数学的に表現したものです。和積公式を使うと、合成波の振幅が \(2A |\cos(2\pi \displaystyle\frac{f_1-f_2}{2} t)|\) のように時間変化することがわかります。この振幅の変動の周波数が、うなり振動数 \(|f_1 – f_2|\) に対応します。この物理的背景を理解していると、なぜ「差」が重要なのかが腑に落ち、公式を忘れにくくなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 候補を明記する: \(f_1 = 440 \pm 2\) から、\(f_1 = 442\) または \(f_1 = 438\) と、考えられる可能性を全て紙に書き出しましょう。頭の中だけで処理しようとすると、片方の可能性を忘れがちです。
- 体系的な検証: 候補を検証する際は、「(i) \(f_1 = 442\) の場合」「(ii) \(f_1 = 438\) の場合」のように場合分けを明確にし、それぞれについて条件を満たすか(○)、満たさないか(×)を記録していくと、思考が整理されミスが減ります。
- 数直線による検算: 代数的な計算で答えを出した後、検算として簡単な数直線を描いてみましょう。「440からの距離が2」かつ「445からの距離が3」になる点が、自分の出した答えと一致するかどうかを視覚的に確認することで、計算の信頼性が格段に上がります。
- 問題文の情報を整理: 問題文から数値を抜き出す際に、\(f_{\text{おんさ}} = 440\), \(f_{b1} = 2\), \(f_{\text{スピーカー}} = 445\), \(f_{b2} = 3\) のように、記号と値をセットで書き出しておくと、立式時の混乱や数値の取り違えを防げます。
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