「重要問題集」徹底解説(51〜55問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題51 (大阪市大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、万有引力下での物体の運動をテーマにしています。前半は地上からの打ち上げと等速円運動、後半はだ円運動と、物体が地球の引力圏を脱出したり、逆に地球に衝突したりしないための条件を扱います。ケプラーの法則や力学的エネルギー保存則など、天体力学の基本的な法則を総合的に理解しているかが問われます。

与えられた条件
  • 物体: 質量 \(m\) [kg]
  • 地球: 半径 \(R\) [m], 質量 \(M\) [kg], 一様な球
  • 定数: 地上での重力加速度 \(g\) [m/s²], 万有引力定数 \(G\) [N·m²/kg²]
  • 運動の状況:
    • (1)-(2): 地上から鉛直上方に打ち上げ、点A(中心からの距離 \(2R\))で速度が0になる。
    • (3): 点Aで速さ \(v\) を与え、等速円運動させる。
    • (4): 点Aで速さ \(v\) を与え、点B(中心からの距離 \(6R\))を遠地点とするだ円運動をさせる。
    • (5): 点Aで与える速さ \(v\) の条件を考える。
問われていること
  • (1) \(g\) を \(R, M, G\) で表す式。
  • (2) 点Aで速度が0になるための初速度 \(v_0\)。
  • (3) 半径 \(2R\) の等速円運動をするための速さ \(v\) とその周期。
  • (4) だ円運動について
    • (a) 遠地点Bでの速さ \(V\)。
    • (b) 近地点Aでの速さ \(v\)。
    • (c) だ円運動の周期。
  • (5) 物体が地球に衝突せず、無限遠にも飛び去らないための速さ \(v\) の範囲。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力とケプラーの法則」です。天体の運動を解析するための基本的な法則を順に適用していきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則: 物体と地球の間に働く力を記述します。地上の重力も万有引力の一つの現れです。
  2. 力学的エネルギー保存則: 万有引力は保存力なので、物体の力学的エネルギー(運動エネルギー+万有引力による位置エネルギー)は保存されます。
  3. ケプラーの法則:
    • 第2法則(面積速度一定の法則): 中心力である万有引力だけが働く場合、惑星(物体)と中心(地球)を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定です。これは角運動量保存則に対応します。
    • 第3法則: 惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例します。
  4. 円運動の運動方程式: 物体が円運動をする場合、中心に向かう力(向心力)が万有引力によって供給される、という関係式を立てます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)で地上の重力と万有引力の関係から、\(GM\)を\(g\)と\(R\)で表す関係式を導出します。この関係式は後の計算を大幅に簡略化するため非常に重要です。
  2. (2)では、地上と点Aの間で力学的エネルギー保存則を適用します。
  3. (3)では、点Aでの円運動の運動方程式を立てます。
  4. (4)のだ円運動では、(a)で面積速度一定の法則、(b)で力学的エネルギー保存則、(c)でケプラーの第3法則と、各法則を適切に使い分けます。
  5. (5)では、無限遠に飛び去る条件(力学的エネルギー \(\ge 0\))と、地球に衝突する条件(近地点の距離 \(\le R\))をそれぞれ考え、その間の範囲を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
地上の物体に働く「重力」が、地球とその物体の間に働く「万有引力」に等しい、という関係から式を立てます。これは、重力加速度\(g\)と万有引力定数\(G\)を結びつける基本的な関係式です。

この設問における重要なポイント

  • 地上の物体に働く重力は \(mg\)。
  • 地上の物体に働く万有引力は、地球の中心からの距離が\(R\)であることから \(G\frac{Mm}{R^2}\)。
  • これら2つの力が等しいとおく。

具体的な解説と立式
地上にある質量\(m\)の物体が地球から受ける力は、重力\(mg\)として表される一方、万有引力の法則によれば\(G\frac{Mm}{R^2}\)と表されます。これらは同じ力を異なる視点から表現したものなので、等しいとおくことができます。
$$mg = G\frac{Mm}{R^2}$$

使用した物理公式

  • 重力: \(F=mg\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

上記の方程式の両辺を\(m\)で割ります。
$$g = G\frac{M}{R^2}$$
この式は、\(g\)を\(G, M, R\)で表したものです。問題では、この関係を逆の形で利用することが多いので、\(GM\)について整理しておくと便利です。
$$GM = gR^2$$

計算方法の平易な説明

私たちが普段「重さ」と呼んでいる力は、地球が私たちを引っぱる「万有引力」そのものです。この2つが同じものである、という等式を立てることで、重力加速度\(g\)の正体がわかります。

結論と吟味

地上での重力加速度の大きさ\(g\)は、\(g = \displaystyle\frac{GM}{R^2}\)と表されます。この式は、惑星の質量\(M\)と半径\(R\)がわかれば、その表面での重力加速度が計算できることを示しており、天文学などで広く利用される重要な関係式です。

解答 (1) \(g = \displaystyle\frac{GM}{R^2}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
地上から打ち上げた物体が、地球の中心から\(2R\)の距離にある点Aでちょうど速度が0になる、という状況を考えます。この運動の間、物体に働く力は万有引力のみなので、力学的エネルギー保存則が成り立ちます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を適用する。
  • 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\) を正しく使う。
  • (1)で導いた関係式 \(GM=gR^2\) を利用して計算を簡略化する。

具体的な解説と立式
地上(中心からの距離\(R\))と点A(中心からの距離\(2R\))の間で、力学的エネルギー保存則を立てます。

  • 地上:
    • 初速度を\(v_0\)とすると、運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)。
    • 位置エネルギーは \(U_{地上} = -G\frac{Mm}{R}\)。
  • 点A:
    • 速度が0になるので、運動エネルギーは 0。
    • 位置エネルギーは \(U_A = -G\frac{Mm}{2R}\)。

力学的エネルギー保存則より、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right) = 0 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_i + U_i = K_f + U_f\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\)
計算過程

式①を\(v_0\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= G\frac{Mm}{R} – G\frac{Mm}{2R} \\[1.5ex]\frac{1}{2}mv_0^2 &= G\frac{Mm}{2R}
\end{aligned}
$$
両辺を\(m\)で割り、2を掛けると、
$$v_0^2 = \frac{GM}{R}$$
ここで、(1)で求めた関係式 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$v_0^2 = \frac{gR^2}{R} = gR$$
\(v_0 > 0\)なので、
$$v_0 = \sqrt{gR}$$

計算方法の平易な説明

地上で物体が持っていた「運動エネルギー」と「(万有引力による)位置エネルギー」の合計が、上空のA点でのエネルギーの合計と等しくなります。このエネルギーの等式を解くことで、必要な初速が計算できます。万有引力による位置エネルギーは、無限遠を基準にしているので負の値になることに注意が必要です。

結論と吟味

初速度の大きさは \(v_0 = \sqrt{gR}\) です。この速さは、地球の引力を振り切って無限遠に行くための速さ(第二宇宙速度 \(\sqrt{2gR}\))よりは小さいですが、人工衛星になるための速さ(第一宇宙速度 \(\sqrt{gR}\))と同じ大きさです。ただし、打ち上げ方向が異なるため、意味合いは異なります。

解答 (2) \(\sqrt{gR}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
点A(中心からの距離\(2R\))で、地球を中心とする等速円運動をさせるための速さ\(v\)と周期を求めます。等速円運動をするためには、物体に働く万有引力が、円運動の向心力としてちょうど機能する必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式を立てる。
  • 向心力の役割を、地球が物体を引く万有引力が担っていることを理解する。
  • 周期の公式 \(T = \frac{2\pi r}{v}\) を使う。

具体的な解説と立式
速さ\(v\)の導出:
点Aにおいて、円運動の運動方程式を立てます。円の中心Oに向かう向きを正とします。

  • 向心力: 物体に働く力は万有引力のみなので、これが向心力となります。\(F = G\frac{Mm}{(2R)^2}\)。
  • 向心加速度: \(a = \displaystyle\frac{v^2}{2R}\)。

運動方程式 \(ma=F\) より、
$$m\frac{v^2}{2R} = G\frac{Mm}{(2R)^2} \quad \cdots ②$$
周期\(T\)の導出:
周期は、円周の長さを速さで割ることで求められます。
$$T = \frac{2\pi (2R)}{v}$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{Mm}{r^2}\)
  • 周期の公式: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

速さ\(v\)の計算:
式②を\(v\)について解きます。
$$m\frac{v^2}{2R} = \frac{GMm}{4R^2}$$
$$v^2 = \frac{GM}{2R}$$
ここに、\(GM = gR^2\) を代入します。
$$v^2 = \frac{gR^2}{2R} = \frac{gR}{2}$$
\(v > 0\)なので、
$$v = \sqrt{\frac{gR}{2}}$$
周期\(T\)の計算:
求めた\(v\)を周期の公式に代入します。
$$T = \frac{4\pi R}{v} = \frac{4\pi R}{\sqrt{gR/2}} = 4\pi R \sqrt{\frac{2}{gR}} = 4\pi \sqrt{\frac{2R^2}{gR}} = 4\pi \sqrt{\frac{2R}{g}}$$

計算方法の平易な説明

物体がちょうど円を描いて回り続けるためには、外に飛び出そうとする勢い(慣性)と、地球が内側に引っぱる力(万有引力)が釣り合っている必要があります。この力の釣り合いの式(運動方程式)を解くと、円運動に必要な速さがわかります。周期は、その速さで円を一周するのにかかる時間です。

結論と吟味

等速円運動をするための速さは \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{gR}{2}}\)、周期は \(T = 4\pi \sqrt{\displaystyle\frac{2R}{g}}\) です。速さ\(v\)は、地表すれすれの円運動(第一宇宙速度 \(\sqrt{gR}\))よりも遅く、軌道半径が大きくなるほど円運動の速さは遅くなるという一般的な性質と一致しています。

解答 (3) 速さ: \(\sqrt{\displaystyle\frac{gR}{2}}\), 周期: \(4\pi \sqrt{\displaystyle\frac{2R}{g}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
点A(近地点、距離\(2R\))と点B(遠地点、距離\(6R\))を結ぶだ円軌道を考えます。だ円運動では、ケプラーの法則と力学的エネルギー保存則が重要な役割を果たします。

この設問における重要なポイント

  • (a) ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)を適用する。
  • (b) 力学的エネルギー保存則を適用する。
  • (c) ケプラーの第3法則を適用する。

具体的な解説と立式
(a) 点Bでの速さ\(V\)の導出
ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)より、近地点Aと遠地点Bでの面積速度は等しくなります。面積速度は \(\frac{1}{2}rv\) で表されるので、
$$\frac{1}{2} r_A v_A = \frac{1}{2} r_B v_B$$
この問題の記号に合わせると、\(r_A=2R, v_A=v, r_B=6R, v_B=V\) なので、
$$\frac{1}{2} (2R) v = \frac{1}{2} (6R) V$$
(b) 速さ\(v\)の導出
点Aと点Bの間で、力学的エネルギー保存則を立てます。
$$\frac{1}{2}mv^2 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) = \frac{1}{2}mV^2 + \left(-G\frac{Mm}{6R}\right)$$
(c) 周期\(T’\)の導出
ケプラーの第3法則 \(\frac{T^2}{a^3} = \text{const.}\) を用います。(3)で求めた半径\(2R\)の円運動と、このだ円運動を比較します。

  • 円運動: 周期\(T\), 半径(長半径)\(a_1 = 2R\)
  • だ円運動: 周期\(T’\), 長半径 \(a_2 = \frac{2R+6R}{2} = 4R\)

したがって、
$$\frac{T^2}{(2R)^3} = \frac{T’^2}{(4R)^3}$$

使用した物理公式

  • ケプラーの第2法則(面積速度一定): \(r_1 v_1 = r_2 v_2\) (近地点・遠地点の場合)
  • 力学的エネルギー保存則
  • ケプラーの第3法則: \(\frac{T_1^2}{a_1^3} = \frac{T_2^2}{a_2^3}\)
計算過程

(a)の計算:
$$Rv = 3RV$$
$$V = \frac{1}{3}v$$
(b)の計算:
エネルギー保存の式に \(V=\frac{1}{3}v\) と \(GM=gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 – \frac{mgR^2}{2R} &= \frac{1}{2}m\left(\frac{v}{3}\right)^2 – \frac{mgR^2}{6R} \\[1.5ex]\frac{1}{2}v^2 – \frac{1}{2}gR &= \frac{1}{18}v^2 – \frac{1}{6}gR \\[1.5ex]\left(\frac{1}{2} – \frac{1}{18}\right)v^2 &= \left(\frac{1}{2} – \frac{1}{6}\right)gR \\[1.5ex]\frac{8}{18}v^2 &= \frac{2}{6}gR \\[1.5ex]\frac{4}{9}v^2 &= \frac{1}{3}gR \\[1.5ex]v^2 &= \frac{9}{4} \cdot \frac{1}{3}gR = \frac{3}{4}gR
\end{aligned}
$$
よって、\(v = \sqrt{\frac{3gR}{4}} = \frac{\sqrt{3gR}}{2}\)。
(c)の計算:
$$\frac{T’^2}{(4R)^3} = \frac{T^2}{(2R)^3}$$
$$T’^2 = T^2 \left(\frac{4R}{2R}\right)^3 = T^2 \cdot 2^3 = 8T^2$$
$$T’ = \sqrt{8}T = 2\sqrt{2}T$$
(3)で求めた \(T = 4\pi \sqrt{\frac{2R}{g}}\) を代入すると、
$$T’ = 2\sqrt{2} \left( 4\pi \sqrt{\frac{2R}{g}} \right) = 8\pi \sqrt{\frac{4R}{g}} = 16\pi \sqrt{\frac{R}{g}}$$

計算方法の平易な説明

だ円軌道を描く物体の運動は、一見複雑ですが、3つの便利な法則で解析できます。(a)は「面積速度一定」という法則で、地球に近い点Aでは速く、遠い点Bでは遅くなる関係を表します。(b)は「エネルギー保存」で、どの点でもエネルギーの合計は同じです。(c)は「ケプラーの第3法則」で、軌道の大きさが分かれば、別の軌道の周期と比較して周期を計算できます。

結論と吟味

(a) \(V = \frac{1}{3}v\), (b) \(v = \frac{\sqrt{3gR}}{2}\), (c) \(T’ = 16\pi \sqrt{\frac{R}{g}}\) です。
(b)の速さ \(v \approx 0.866\sqrt{gR}\) は、(3)の円運動の速さ \(v \approx 0.707\sqrt{gR}\) より速く、無限遠に飛んでいく速さ \(\sqrt{gR}\) よりは遅い、妥当な値です。

解答 (4) (a) \(V = \frac{1}{3}v\), (b) \(v = \frac{\sqrt{3gR}}{2}\), (c) \(T’ = 16\pi \sqrt{\frac{R}{g}}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
物体がだ円軌道を描き続けるための、点Aで与える速さ\(v\)の範囲を求めます。これには2つの条件があります。

  1. 無限遠に飛び去らない(上界条件): 物体の力学的エネルギーが負であること (\(E<0\))。エネルギーが0以上になると、物体は地球の引力を振り切ってしまいます(放物線・双曲線軌道)。
  2. 地球に衝突しない(下界条件): 軌道のどの点も、地球の中心からの距離が地球の半径\(R\)以上であること。だ円軌道で最も地球に近づくのは近地点です。この軌道では、点Aが遠地点または近地点のいずれかになります。\(v\)が小さすぎると、点Aが遠地点となり、反対側の近地点が地球内部に入り込んでしまう可能性があります。そのギリギリの条件は、近地点の距離がちょうど\(R\)になるときです。

この設問における重要なポイント

  • 軌道の種類が力学的エネルギーの符号で決まることを理解する。
  • 衝突条件を、近地点の距離と地球半径の関係で考える。
  • 衝突の限界となる軌道を、エネルギー保存則と面積速度一定の法則で解析する。

具体的な解説と立式
1. 上界条件(無限遠に飛び去らない)
力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{2R}\) が負である必要があります。
$$\frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{2R} < 0$$
2. 下界条件(地球に衝突しない)
衝突するギリギリの状況は、点A(距離\(2R\))を遠地点、地球表面上の点C(距離\(R\))を近地点とするだ円軌道を描く場合です。このときの点Aでの速さを\(v_{min}\)とします。
点Aと点Cで、面積速度一定の法則と力学的エネルギー保存則を立てます。

  • 面積速度一定: \((2R)v_{min} = R v_C\)。これから \(v_C = 2v_{min}\) となります。
  • エネルギー保存: \(\frac{1}{2}mv_{min}^2 – G\frac{Mm}{2R} = \frac{1}{2}mv_C^2 – G\frac{Mm}{R}\)

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー: \(E = K+U\)
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定)
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

上界の計算:
$$\frac{1}{2}mv^2 < G\frac{Mm}{2R}$$
$$v^2 < \frac{GM}{R}$$
\(GM=gR^2\) を代入して、
$$v^2 < gR$$
よって、\(v < \sqrt{gR}\)。
下界の計算:
エネルギー保存の式に \(v_C = 2v_{min}\) と \(GM=gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_{min}^2 – \frac{mgR^2}{2R} &= \frac{1}{2}m(2v_{min})^2 – \frac{mgR^2}{R} \\[1.5ex]\frac{1}{2}v_{min}^2 – \frac{1}{2}gR &= 2v_{min}^2 – gR \\[1.5ex]\frac{1}{2}gR &= \frac{3}{2}v_{min}^2 \\[1.5ex]v_{min}^2 &= \frac{gR}{3}
\end{aligned}
$$
よって、衝突しないためには \(v \ge v_{min} = \sqrt{\frac{gR}{3}}\) である必要があります。
(等号成立時は地球表面をかすめるだ円軌道なので、衝突はしないと解釈します)
範囲の結合:
以上2つの条件を合わせると、
$$\sqrt{\frac{gR}{3}} \le v < \sqrt{gR}$$

計算方法の平易な説明

物体が地球の周りを回り続けるためには、速すぎても遅すぎてもいけません。速すぎると、地球の引力を振り切って宇宙の彼方に飛んで行ってしまいます。その限界の速さは、物体のエネルギーがちょうどゼロになるときです。逆に遅すぎると、軌道が地球にぶつかってしまいます。その限界は、軌道がちょうど地球の表面に接するときです。この「速すぎる限界」と「遅すぎる限界」の間の速さであれば、物体はだ円軌道を描き続けることができます。

結論と吟味

だ円軌道を描き続けるための速さ\(v\)の範囲は \(\sqrt{\displaystyle\frac{gR}{3}} \le v < \sqrt{gR}\) です。
この範囲には、(3)の円運動の速さ \(v=\sqrt{gR/2}\) や、(4)のだ円運動の速さ \(v=\sqrt{3gR/4}\) が含まれており、整合性が取れています。速さが\(\sqrt{gR}\)に達すると第二宇宙速度(この地点での脱出速度)となり、放物線軌道で無限遠に飛び去ります。速さが\(\sqrt{gR/3}\)より小さいと、軌道が地球にめり込んでしまい、衝突します。

解答 (5) \(\sqrt{\displaystyle\frac{gR}{3}} \le v < \sqrt{gR}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力による力学的エネルギー保存則:
    • 核心: 万有引力は保存力であるため、物体がその引力圏内を運動する際、物体の力学的エネルギー(運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和)は一定に保たれます。
    • 理解のポイント: 万有引力による位置エネルギーは \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\) と表され、無限遠を基準(0)としています。この負号と距離\(r\)に反比例する形を正確に理解することが、エネルギー保存則を正しく適用する上での大前提となります。また、\(GM=gR^2\) という関係式を用いて、問題を\(g\)と\(R\)で表現し直すテクニックは、この分野の計算を簡略化する上で非常に重要です。
  • ケプラーの法則:
    • 核心: 万有引力のような中心力の下での運動は、ケプラーの3つの法則に従います。この問題では特に第2法則と第3法則が活躍します。
    • 第2法則(面積速度一定の法則): 物体と中心天体を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定である、という法則です。これは角運動量保存則と等価であり、特に近地点と遠地点では \(r_A v_A = r_B v_B\) というシンプルな形で適用できます。
    • 第3法則(調和の法則): 惑星の公転周期の2乗は、軌道の長半径の3乗に比例する (\(T^2 \propto a^3\)) という法則です。これにより、一つの天体を周回する異なる軌道の周期を比較することができます。
  • 円運動の運動方程式:
    • 核心: 物体が等速円運動をするためには、中心に向かう力(向心力)が必要です。万有引力下での円運動では、この向心力の役割を万有引力が担います。
    • 理解のポイント: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\) という運動方程式の右辺に、万有引力の式 \(G\frac{Mm}{r^2}\) を代入することで、円運動の速さや周期を求めることができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工衛星の軌道変更: ある円軌道から別の円軌道へ、あるいは円軌道からだ円軌道へ移る問題。ロケットを噴射する瞬間はエネルギーが非保存となりますが、噴射前後のそれぞれの軌道上ではエネルギー保存則やケプラーの法則が適用できます。
    • 二重星や惑星と衛星の運動: 2つの天体が互いの引力によって共通の重心の周りを運動する問題。系全体の運動量保存則や角運動量保存則、エネルギー保存則を考える必要があります。
    • 宇宙探査機のスイングバイ: 探査機が惑星の引力を利用して加速・減速する問題。惑星から見た探査機の運動(相対運動)と、太陽から見た運動(絶対運動)を考える必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 軌道の形状を特定する: 問題文から、物体がどのような軌道(直線、円、だ円、放物線、双曲線)を描くのかを読み取ります。
    2. エネルギー状態を確認する:
      • \(E < 0\): 中心天体に束縛されただ円軌道(円軌道を含む)。
      • \(E = 0\): ちょうど脱出できる放物線軌道。
      • \(E > 0\): 脱出して無限遠に達する双曲線軌道。

      力学的エネルギーの符号が、軌道の種類を決定します。

    3. 保存則の適用を検討する:
      • 異なる2点間の速さと距離の関係を知りたい \(\rightarrow\) 力学的エネルギー保存則。
      • だ円軌道の近地点と遠地点の速さの関係を知りたい \(\rightarrow\) 面積速度一定の法則。
      • 異なる軌道の周期を比較したい \(\rightarrow\) ケプラーの第3法則。
    4. \(GM=gR^2\) の活用: 問題に\(g\)と\(R\)が登場する場合、この関係式を使って\(GM\)を消去することで、見通しの良い計算ができることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 位置エネルギーの符号ミス:
    • 誤解: 万有引力による位置エネルギーの負号を忘れたり、基準点の意味を理解せずに使ってしまう。
    • 対策: 位置エネルギー \(U = -G\frac{Mm}{r}\) は、「無限遠から距離\(r\)まで物体を運ぶのに、万有引力がする仕事」の負の値と定義されます。無限に遠い点が基準(0)であり、そこから引力に引かれて近づくほどエネルギーは低くなる(より負の大きな値になる)とイメージしましょう。
  • ケプラーの第3法則の適用の誤り:
    • 誤解: 軌道の「長半径 \(a\)」を使うべきところで、単なる距離や半径\(r\)を使ってしまう。
    • 対策: ケプラーの第3法則は \(T^2 = k a^3\) です。だ円軌道の場合、\(a\)は長軸の半分の長さ(\(\frac{r_{近地点}+r_{遠地点}}{2}\))であることを正確に覚えておきましょう。円軌道の場合は、長半径\(a\)が半径\(r\)と一致します。
  • 面積速度一定の法則の誤解:
    • 誤解: 面積速度が \(\frac{1}{2}rv\) であることを知らず、\(rv=\text{一定}\) を任意の点で使おうとしてしまう。
    • 対策: 面積速度一定の法則は、一般的には \(\frac{1}{2} r^2 \dot{\theta} = \text{一定}\)(角運動量保存則)です。速度ベクトルが動径ベクトルと垂直になる近地点と遠地点においてのみ、速さ\(v\)を用いて \(\frac{1}{2}rv = \text{一定}\) というシンプルな形になります。任意の点では使えないことに注意が必要です。
  • 脱出速度と円運動の速さの混同:
    • 誤解: ある地点からの脱出速度と、その地点を半径とする円運動の速さを混同する。
    • 対策:
      • 円運動の速さ: \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) より \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\)。
      • 脱出速度: \(\frac{1}{2}mv_{esc}^2 – G\frac{Mm}{r} = 0\) より \(v_{esc} = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\)。

      脱出速度は円運動の速さの\(\sqrt{2}\)倍である、という関係を覚えておくと便利です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギー準位図: 縦軸に力学的エネルギーを取り、横軸に中心からの距離\(r\)を取ったポテンシャルエネルギーのグラフ (\(U(r) = -1/r\) の形) を描きます。物体の全力学的エネルギー\(E\)を水平線で示すと、運動エネルギー\(K\)が \(E-U(r)\) として視覚化できます。\(E<0\)なら物体はポテンシャルの「井戸」に束縛され、\(E \ge 0\)なら脱出できることが一目瞭然です。
    • 軌道図: 円軌道とだ円軌道を正確に図示します。だ円軌道では、中心天体(地球)がだ円の中心ではなく「焦点」の一つに位置することを明確に描くことが重要です。近地点で速く、遠地点で遅くなる様子を速度ベクトルで示すと、面積速度一定の法則が直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力のベクトル: 物体に働く万有引力は、常に地球の中心を向くことを矢印で正確に示します。
    • 速度ベクトル: 速度ベクトルは常に軌道の接線方向を向きます。円運動では常に半径と垂直ですが、だ円運動では近地点と遠地点以外では垂直になりません。
    • 幾何学的関係: だ円の長軸、短軸、焦点、長半径といった幾何学的な要素を正しく図示し、問題の数値(\(2R, 6R\)など)を対応させることが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(GM=gR^2\) (関係式):
    • 選定理由: 問題に登場する物理定数が\(G, M\)と\(g, R\)の2種類ある。計算を簡略化し、最終的な答えを問題の要求する文字で表すために、これらを結びつける必要がある。
    • 適用根拠: 地表での重力が万有引力と等価であるという物理的な事実。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: 異なる2点間の速さと距離(位置エネルギー)を関連付けたい場合。特に、軌道が円かだ円かわからない場合や、軌道の途中の点を考える場合に有効。
    • 適用根拠: 万有引力が保存力であり、他に非保存力が働いていないという物理的状況。
  • 面積速度一定の法則:
    • 選定理由: だ円軌道における、異なる2点(特に近地点と遠地点)の速さと距離を関連付けたい場合。エネルギー保存則と連立させることで、未知数を解くことができる。
    • 適用根拠: 万有引力が中心力であるため、角運動量が保存されるという物理的状況。
  • ケプラーの第3法則:
    • 選定理由: 同じ中心天体を周回する、異なる2つの軌道(円軌道やだ円軌道)の「周期」と「大きさ(長半径)」を関連付けたい場合。
    • 適用根拠: 万有引力の法則から数学的に導出される、中心力による運動に普遍的な法則。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) \(g\)と\(GM\)の関係: 地表での力のつり合い \(mg = G\frac{Mm}{R^2}\) から \(GM=gR^2\) を導出。これは以降の計算の「道具」となる。
  2. (2) 鉛直打ち上げ: エネルギー保存則(地上 \(\leftrightarrow\) 点A)を立て、\(v_0\)を求める。
  3. (3) 円運動:
    • 速さ\(v\): 円運動の運動方程式(向心力=万有引力)を立て、\(v\)を求める。
    • 周期\(T\): \(T = \frac{2\pi r}{v}\) の公式に、求めた\(v\)と軌道半径\(r=2R\)を代入。
  4. (4) だ円運動:
    • (a) 速さ\(V\): 面積速度一定の法則(点A \(\leftrightarrow\) 点B)を立て、\(V\)を\(v\)で表す。
    • (b) 速さ\(v\): エネルギー保存則(点A \(\leftrightarrow\) 点B)を立て、(a)の結果を代入して\(v\)を求める。
    • (c) 周期\(T’\): ケプラーの第3法則を用い、(3)の円運動と比較して\(T’\)を求める。
  5. (5) 軌道の条件:
    • 上界(脱出しない): 力学的エネルギー \(E < 0\) の条件から\(v\)の上限を求める。
    • 下界(衝突しない): 近地点距離 \(\ge R\) となる条件を考える。ギリギリの軌道(近地点距離=R, 遠地点距離=2R)を想定し、エネルギー保存則と面積速度一定の法則を連立させて、そのときの速さ\(v_{min}\)を求め、これが下限となる。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • \(GM=gR^2\) の早期適用: 計算の早い段階で\(GM\)を\(gR^2\)に置き換えることで、文字の種類が減り、計算の見通しが格段に良くなります。
  • 分数の計算: 万有引力の計算では、分母に距離の2乗が来るなど、分数の計算が多くなります。通分や約分を慎重に行いましょう。
  • 単位の確認: 最終的な答えの次元が、求められている物理量(速さなら[L/T]、周期なら[T])と一致しているかを確認する習慣は、基本的なミスを発見するのに有効です。
  • 平方根の扱い: 速さを求める計算では平方根が頻出します。\(v^2\)の形で計算を進め、最後に平方根をとるようにすると、計算が楽になることが多いです。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3)と(4b)の比較: だ円運動の近地点での速さ\(v = \frac{\sqrt{3gR}}{2} \approx 0.866\sqrt{gR}\) は、同じ距離\(2R\)を半径とする円運動の速さ \(v_{円} = \sqrt{\frac{gR}{2}} \approx 0.707\sqrt{gR}\) よりも速いです。これは、だ円軌道の方がエネルギーが高い(より潰れていない)ことに対応しており、妥当です。
    • (5) 範囲の確認: 求めた範囲 \(\sqrt{\frac{gR}{3}} \le v < \sqrt{gR}\) に、(3)の円運動の速さや(4)のだ円運動の速さが含まれていることを確認します。含まれていれば、計算結果に整合性があると言えます。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • (4)の軌道: もし\(v\)が(3)で求めた円運動の速さと等しければ、軌道は円になり、\(V=v\)となるはずです。しかし、(4b)の\(v\)は円運動の速さより大きいので、\(V\)は\(v\)より小さくならなければならず、(4a)の \(V=v/3\) という結果と整合します。
    • (5)の上限: \(v=\sqrt{gR}\) は、距離\(2R\)の地点での脱出速度の\(\sqrt{2}\)倍ではありません。地上での脱出速度が\(\sqrt{2gR}\)です。距離\(r\)の地点での脱出速度は \(\sqrt{2GM/r}\) なので、点A(\(r=2R\))での脱出速度は \(\sqrt{2GM/2R} = \sqrt{GM/R} = \sqrt{gR}\) となります。したがって、\(v\)の上限が脱出速度と一致しており、物理的に正しいことがわかります。

問題52 (関西学院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球と月の二体問題を扱っており、2つの異なるモデルで考察を進めます。
パート[A]では、地球が静止していると仮定した単純な「中心力による円運動」モデルを扱います。
パート[B]では、地球も月も動く、より現実に近い「共通重心の周りの円運動(連星系)」モデルを扱います。
この2つのモデルを比較することで、万有引力と天体の運動についての理解を深めることができます。

与えられた条件
  • 地球: 質量 \(M\)
  • 月: 質量 \(m\)
  • 地球と月の距離: \(r_0\)
  • 万有引力定数: \(G\)
  • モデル[A]: 地球は静止、月は地球のまわりを等速円運動。
  • モデル[B]: 地球と月は、共通の中心Oのまわりを同じ角速度で等速円運動。
    • Oから月までの距離: \(r_1\)
    • Oから地球までの距離: \(r_2\)
    • \(r_0 = r_1 + r_2\)
問われていること
  • [A] (1) 万有引力の大きさ。
  • [A] (2) 周期。
  • [A] (3) 運動エネルギー。
  • [A] (4) 力学的エネルギー。
  • [A] (5), (6) エネルギーが減少したときの距離と速さの変化。
  • [B] (1) 月の向心力の大きさ。
  • [B] (2) 月の角速度。
  • [B] (3) 距離 \(r_1\)。
  • [B] (4) 周期。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「万有引力」と「二体問題」です。地球を固定して考える単純なモデルと、地球も動く現実的なモデルを比較しながら、天体運動の法則を適用していきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則: 2つの天体の間に働く引力を記述します。この力が、円運動の向心力の源となります。
  2. 円運動の運動方程式: 「向心力 = 万有引力」という関係式を立てることで、天体の速さや角速度、周期などを求めることができます。
  3. 力学的エネルギー: 運動エネルギーと、万有引力による位置エネルギーの和で表されます。万有引力は保存力なので、この系の力学的エネルギーは保存されます(ただし、[A](5)のように外部からエネルギーが奪われる場合を除く)。
  4. 共通重心: 2つの天体が互いの引力だけで運動する場合、それらは共通の重心の周りを回ります。この視点がパート[B]を解く鍵となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. パート[A]: 地球を固定した1体問題として扱います。円運動の運動方程式を立て、そこから周期、運動エネルギー、力学的エネルギーを順に導出します。
  2. パート[B]: 地球と月を1つの系と見なす2体問題として扱います。月と地球、それぞれについて円運動の運動方程式を立てます。「角速度が同じ」という条件を用いてこれらを連立させることで、軌道半径\(r_1, r_2\)の関係を求めます。あるいは、より簡潔に「共通重心」の考え方を用いることもできます。最終的に、系全体の周期を求めます。

〔A〕地球が静止しているモデル

問(1)

思考の道筋とポイント
万有引力の法則の公式をそのまま適用します。地球と月の間の距離が\(r_0\)であることに注意します。

この設問における重要なポイント

  • 万有引力の法則の公式 \(F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\) を正しく覚えていること。

具体的な解説と立式
質量\(M\)の地球と質量\(m\)の月が、距離\(r_0\)だけ離れているときに及ぼし合う万有引力の大きさ\(F\)は、万有引力の法則より、
$$F = G\frac{Mm}{r_0^2}$$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
計算過程

公式を適用するのみであり、これ以上の計算はありません。

計算方法の平易な説明

二つの物体が互いに引き合う万有引力の大きさは、それぞれの質量の積に比例し、距離の2乗に反比例します。この法則の公式に、問題で与えられた文字を当てはめるだけです。

結論と吟味

月が地球から受ける万有引力の大きさは \(G\frac{Mm}{r_0^2}\) です。これは定義そのものです。

解答 (1) \(G\frac{Mm}{r_0^2}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
月の周期を求めます。周期を求めるには、速さ\(v_0\)または角速度\(\omega_0\)が必要です。これらは、月が等速円運動をしているという条件から、円運動の運動方程式を立てることで求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 円運動の運動方程式を立てる(向心力=万有引力)。
  • 周期の公式 \(T = \frac{2\pi r}{v}\) または \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) を使う。

具体的な解説と立式
月の速さを\(v_0\)、角速度を\(\omega_0\)とします。月は地球を中心とする半径\(r_0\)の等速円運動をしています。この円運動の向心力は、地球からの万有引力によって供給されます。
円運動の運動方程式は、
$$m\frac{v_0^2}{r_0} = G\frac{Mm}{r_0^2}$$
または、\(v_0 = r_0 \omega_0\) の関係を用いて角速度で表すと、
$$mr_0\omega_0^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\) または \(mr\omega^2 = F_{\text{向心力}}\)
  • 周期の公式: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) または \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

角速度を用いた運動方程式から\(\omega_0\)を求めます。
$$mr_0\omega_0^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}$$
$$\omega_0^2 = \frac{GM}{r_0^3}$$
$$\omega_0 = \sqrt{\frac{GM}{r_0^3}}$$
周期\(T\)は \(T = \frac{2\pi}{\omega_0}\) なので、
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{GM}}$$
別解: 速さ\(v_0\)を用いて周期を求める
具体的な解説と立式
周期は \(T = \frac{2\pi r_0}{v_0}\) という公式でも求められます。まず運動方程式から速さ\(v_0\)を求め、それを周期の公式に代入します。
速さ\(v_0\)を用いた運動方程式は、
$$m\frac{v_0^2}{r_0} = G\frac{Mm}{r_0^2}$$
これを\(v_0\)について解きます。
$$v_0^2 = \frac{GM}{r_0}$$
$$v_0 = \sqrt{\frac{GM}{r_0}}$$
周期の公式 \(T = \frac{2\pi r_0}{v_0}\) にこの\(v_0\)を代入します。

計算過程

$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi r_0}{v_0} = \frac{2\pi r_0}{\sqrt{GM/r_0}} \\[1.5ex]&= 2\pi r_0 \sqrt{\frac{r_0}{GM}} = 2\pi \sqrt{r_0^2 \cdot \frac{r_0}{GM}} \\[1.5ex]&= 2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{GM}}
\end{aligned}
$$
これは角速度を用いた場合と同じ結果になります。

計算方法の平易な説明

月が地球の周りを回り続けるためには、地球が月を引く力(万有引力)が、月が円運動をするのに必要な力(向心力)と等しくなっている必要があります。この力のつり合いの式から、月の回転ペース(角速度)や速さがわかります。1周の距離(\(2\pi r_0\))を速さで割るか、1周の角度(\(2\pi\))を角速度で割れば、1周にかかる時間(周期)が計算できます。

結論と吟味

月の運動の周期は \(T = 2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{GM}}\) です。この式を2乗すると \(T^2 = \frac{4\pi^2}{GM} r_0^3\) となり、周期の2乗が半径の3乗に比例するという「ケプラーの第3法則」の形になっていることがわかります。

解答 (2) \(2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{GM}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
月の運動エネルギー\(K\)を求めます。\(K = \frac{1}{2}mv_0^2\) なので、月の速さ\(v_0\)を求める必要があります。これは(2)で用いた円運動の運動方程式から簡単に導出できます。

この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの公式 \(K = \frac{1}{2}mv^2\) を使う。
  • 円運動の運動方程式から \(mv^2\) の形を導き出す。

具体的な解説と立式
(2)で立てた円運動の運動方程式(速さ\(v_0\)を用いた形式)を考えます。
$$m\frac{v_0^2}{r_0} = G\frac{Mm}{r_0^2}$$
この式から、運動エネルギーの計算に必要な \(mv_0^2\) の項を直接求めることができます。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 円運動の運動方程式
計算過程

運動方程式の両辺に\(r_0\)を掛けると、
$$mv_0^2 = G\frac{Mm}{r_0}$$
運動エネルギー\(K\)は \(\frac{1}{2}mv_0^2\) なので、
$$K = \frac{1}{2} \left( G\frac{Mm}{r_0} \right) = \frac{GMm}{2r_0}$$

計算方法の平易な説明

運動エネルギーを求めるには速さが必要ですが、わざわざ速さ\(v_0\)を計算しなくても、運動方程式を少し変形するだけで、運動エネルギーの部品である「\(mv_0^2\)」の塊を直接求めることができます。

結論と吟味

月の運動エネルギーは \(K = \frac{GMm}{2r_0}\) です。常に正の値であり、物理的に妥当です。

解答 (3) \(\frac{GMm}{2r_0}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
月の力学的エネルギー\(E\)を求めます。力学的エネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギーの和です。万有引力による位置エネルギーの基準は無限遠にとるので、その公式を正しく適用します。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー \(E = K + U\)。
  • 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U = -G\frac{Mm}{r}\) を使う。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー\(E\)は、(3)で求めた運動エネルギー\(K\)と、万有引力による位置エネルギー\(U\)の和で与えられます。
$$E = K + U$$
無限遠を基準とした、距離\(r_0\)の点での位置エネルギー\(U\)は、
$$U = -G\frac{Mm}{r_0}$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー: \(E = K + U\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\frac{Mm}{r}\)
計算過程

\(E = K + U\) の式に、(3)で求めた\(K\)と位置エネルギー\(U\)の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \left( \frac{GMm}{2r_0} \right) + \left( -G\frac{Mm}{r_0} \right) \\[1.5ex]&= \frac{GMm – 2GMm}{2r_0} \\[1.5ex]&= -\frac{GMm}{2r_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

力学的エネルギーは、運動エネルギーと位置エネルギーの「合計」です。(3)で求めた運動エネルギーと、公式からわかる位置エネルギーを単純に足し合わせます。位置エネルギーがマイナスの値であることに注意が必要です。

結論と吟味

月の力学的エネルギーは \(E = -\frac{GMm}{2r_0}\) です。円運動やだ円運動のように、天体が中心天体に束縛されている場合、力学的エネルギーは必ず負の値になります。これは、物体が無限遠(エネルギーが0)に自力で到達できないことを意味しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (4) \(-\frac{GMm}{2r_0}\)

問(5), (6)

思考の道筋とポイント
月の力学的エネルギー\(E\)が減少した場合に、軌道半径\(r_0\)と速さ\(v_0\)がどう変化するかを考察します。(4)で求めた力学的エネルギーの式と、(2)または(3)の運動方程式から導かれる速さの式を用いて、それぞれの関係を分析します。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギーの式 \(E = -\frac{GMm}{2r_0}\) から、\(E\)と\(r_0\)の関係を読み取る。
  • 速さの式 \(v_0^2 = \frac{GM}{r_0}\) から、\(r_0\)と\(v_0\)の関係を読み取る。

具体的な解説と立式
(5) 距離の変化
(4)で求めた力学的エネルギーの式は、
$$E = -\frac{GMm}{2r_0}$$
この式から、\(E\)と\(r_0\)の関係を考えます。\(G, M, m\)は定数なので、\(E \propto -\frac{1}{r_0}\) の関係にあります。
問題の条件より、力学的エネルギー\(E\)が「減少」します。エネルギーはもともと負の値なので、減少するということは、より負の大きな値になることを意味します(例: -100J \(\rightarrow\) -120J)。
\(E\)がより負の大きな値になるためには、右辺の \(-\frac{GMm}{2r_0}\) もより負の大きな値になる必要があります。そのためには、分母の\(r_0\)が小さくなる必要があります。
したがって、地球と月との距離は「小さくなる」。
(6) 速さの変化
(2)の運動方程式から導かれた速さの式は、
$$v_0^2 = \frac{GM}{r_0}$$
この式から、\(v_0\)と\(r_0\)の関係を考えます。\(v_0^2 \propto \frac{1}{r_0}\) の関係にあります。
(5)の考察から、距離\(r_0\)は小さくなることがわかりました。分母の\(r_0\)が小さくなるので、\(v_0^2\)は大きくなります。
したがって、月の速さは「速くなる」。

計算方法の平易な説明

エネルギーが減ると、月は地球の引力に少し負けて、より内側の軌道に落ち込みます(距離が小さくなる)。内側の軌道ほど、地球の引力が強くなるため、それに釣り合って円運動を続けるには、より速く回る必要があります。

結論と吟味

エネルギーが減少すると、月はより地球に近い軌道に移り、その速さは増加します。これは、人工衛星がわずかな空気抵抗でエネルギーを失うと、徐々に高度を下げながら加速し、最終的に大気圏に再突入する現象と同じ原理です。直感(エネルギーを失うなら遅くなりそう)とは逆の結果に見えますが、位置エネルギーの減少分が運動エネルギーの増加分を上回るため、このような現象が起こります。

解答 (5) ② 小さくなる, (6) ① 速くなる

〔B〕地球と月が共通重心の周りを回るモデル

問(1)

思考の道筋とポイント
月の向心力を求めます。パート[B]では、月は点Oを中心として、半径\(r_1\)、角速度\(\omega\)で等速円運動をしています。向心力の公式 \(F=mr\omega^2\) に、これらの値を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 向心力の公式 \(F=mr\omega^2\) を使う。
  • 月の運動の半径が\(r_1\)であることを正しく認識する。

具体的な解説と立式
質量\(m\)の月が、中心Oから距離\(r_1\)の位置を、角速度\(\omega\)で円運動しているので、向心力の大きさ\(F_{月}\)は、
$$F_{月} = mr_1\omega^2$$

使用した物理公式

  • 向心力: \(F = mr\omega^2\)
解答 (1) \(mr_1\omega^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
月の角速度\(\omega\)を求めます。月の円運動の運動方程式を立てます。この円運動の向心力は、地球からの万有引力によって供給されています。万有引力が働く距離は、地球と月の中心間距離である\(r_0\)であることに注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 月の運動方程式を立てる(向心力=万有引力)。
  • 万有引力の距離は\(r_0 = r_1+r_2\)である。

具体的な解説と立式
月の運動方程式を立てます。

  • 向心力: (1)で求めた \(mr_1\omega^2\)。
  • 万有引力: 地球との距離が\(r_0\)なので、\(G\frac{Mm}{r_0^2}\)。

これらが等しいので、
$$mr_1\omega^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式
  • 万有引力の法則
計算過程

上記の方程式を\(\omega\)について解きます。
$$\omega^2 = \frac{GM}{r_1 r_0^2}$$
$$\omega = \sqrt{\frac{GM}{r_1 r_0^2}}$$

解答 (2) \(\sqrt{\frac{GM}{r_1 r_0^2}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
距離\(r_1\)を求めます。未知数として\(r_1\)と\(r_2\)がありますが、\(r_1+r_2=r_0\)という関係式があります。もう一つ式が必要なので、地球の運動に着目します。地球も月と同様に、点Oを中心として、半径\(r_2\)、角速度\(\omega\)で円運動をしています。地球の運動方程式を立て、月の運動方程式と連立させることで、\(r_1\)を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 地球も円運動していることに着目し、その運動方程式を立てる。
  • 地球と月の角速度\(\omega\)が共通であることを利用する。
  • 重心の考え方を用いると、より簡潔に解ける。

具体的な解説と立式
方法1: 運動方程式を連立する

  • 月の運動方程式 (問(2)より): \(mr_1\omega^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}\)
  • 地球の運動方程式: 地球の向心力は月からの万有引力によって供給される。
    \(Mr_2\omega^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}\)

この2つの式から、左辺と右辺はそれぞれ等しいので、
$$mr_1\omega^2 = Mr_2\omega^2$$
\(\omega^2 \neq 0\) なので、両辺を\(\omega^2\)で割ると、
$$mr_1 = Mr_2$$
これと、\(r_2 = r_0 – r_1\) の関係を使って\(r_1\)を求めます。
別解: 共通重心の考え方を用いる
具体的な解説と立式
地球と月の系には外力が働かないため、その重心は動きません。初期状態で静止していたとすれば、回転の中心Oはまさに地球と月の共通重心の位置にあります。重心の公式から\(r_1\)と\(r_2\)の関係を直接導くことができます。
共通重心の考え方を用いると、中心Oは地球と月の共通重心と一致します。点Oを原点とすると、重心の公式より、
$$M(-r_2) + m(r_1) = 0$$
$$mr_1 = Mr_2$$
となり、運動方程式から導いたのと同じ関係式が得られます。この後の計算は同じです。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式
  • 共通重心の公式
計算過程

\(mr_1 = Mr_2\) と \(r_2 = r_0 – r_1\) を連立します。
$$
\begin{aligned}
mr_1 &= M(r_0 – r_1) \\
mr_1 &= Mr_0 – Mr_1 \\
(m+M)r_1 &= Mr_0 \\
r_1 &= \frac{M}{M+m}r_0
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

地球と月は、シーソーのように、お互いの「重心」を中心にして回っています。重い地球は重心のすぐ近くを、軽い月は重心から遠いところを回ります。この「てこの原理」のような関係(\(mr_1 = Mr_2\))と、2つの半径の合計が地球と月の距離(\(r_1+r_2=r_0\))になるという関係を組み合わせることで、それぞれの回転半径がわかります。

結論と吟味

距離\(r_1\)は \(\frac{M}{M+m}r_0\) です。これは、共通重心が、2つの天体の質量を逆比に内分する点にあることを示しています。重い地球(\(M\))のほうが重心に近く(\(r_2\)が小さい)、軽い月(\(m\))のほうが重心から遠い(\(r_1\)が大きい)という直感とも一致します。

解答 (3) \(\frac{M}{M+m}r_0\)

問(4)

思考の道筋とポイント
系の周期\(T\)を求めます。周期は \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) で計算できます。角速度\(\omega\)は、(2)で求めた式に(3)の結果を代入することで、与えられた文字だけで表すことができます。

この設問における重要なポイント

  • (2)と(3)の結果を組み合わせて\(\omega\)を確定させる。
  • 周期の公式 \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) を使う。

具体的な解説と立式
(2)で求めた角速度の2乗の式は、
$$\omega^2 = \frac{GM}{r_1 r_0^2}$$
ここに、(3)で求めた \(r_1 = \frac{M}{M+m}r_0\) を代入します。

使用した物理公式

  • 周期の公式: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{GM}{r_0^2} \cdot \frac{1}{r_1} \\[1.5ex]&= \frac{GM}{r_0^2} \cdot \frac{M+m}{Mr_0} \\[1.5ex]&= \frac{G(M+m)}{r_0^3}
\end{aligned}
$$
よって、角速度\(\omega\)は、
$$\omega = \sqrt{\frac{G(M+m)}{r_0^3}}$$
周期\(T\)は、
$$T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{G(M+m)}}$$

計算方法の平易な説明

(2)と(3)で、月の回転ペース(角速度\(\omega\))を計算するための部品が揃いました。これらを組み合わせることで、角速度が完全に求まります。1周の角度(\(2\pi\))をその角速度で割れば、1周にかかる時間(周期)が計算できます。

結論と吟味

周期は \(T = 2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{G(M+m)}}\) です。これは「ケプラーの第3法則の一般形」として知られています。中心天体の質量\(M\)だけでなく、伴星の質量\(m\)も周期に影響を与えていることがわかります。もし \(m \ll M\) であれば、\(M+m \approx M\) となり、パート[A]の(2)で求めた周期 \(T = 2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{GM}}\) と一致します。これは、地球に比べて月が非常に軽いという現実の状況では、地球を固定して考えても良い近似になることを示しています。

解答 (4) \(2\pi \sqrt{\frac{r_0^3}{G(M+m)}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力の法則:
    • 核心: 2つの質量を持つ物体が互いに及ぼし合う引力であり、その大きさは \(F = G\frac{Mm}{r^2}\) で与えられます。この力が、天体運動のすべての原動力(向心力)となります。
    • 理解のポイント: この法則は、地球と月の間に働く力だけでなく、地球と地球上の物体の間に働く力(重力)も説明します。問題に応じて、どの物体間に働く力を考えているのかを明確にすることが重要です。
  • 円運動の運動方程式:
    • 核心: 物体が円運動をするためには、中心に向かう力(向心力)が必要です。天体の円運動では、この向心力の役割を万有引力が担います。したがって、「向心力 = 万有引力」という等式が、天体の運動を解析する上での基本方程式となります。
    • 理解のポイント:
      • モデル[A](地球固定): 月の運動方程式 \(m\frac{v_0^2}{r_0} = G\frac{Mm}{r_0^2}\) を考えます。
      • モデル[B](共通重心): 月と地球、それぞれについて運動方程式(例:月の場合は \(mr_1\omega^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}\))を立てる必要があります。向心力の半径(\(r_1\))と、万有引力の距離(\(r_0\))が異なる点に注意が必要です。
  • 力学的エネルギー保存則(万有引力):
    • 核心: 万有引力は保存力なので、他に非保存力が働かなければ、系の力学的エネルギー(運動エネルギー + 万有引力による位置エネルギー)は保存されます。
    • 理解のポイント: 万有引力による位置エネルギーは \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\) であり、無限遠を基準(0)とします。天体が束縛されている状態(円運動やだ円運動)では、力学的エネルギーは必ず負の値 (\(E<0\)) になります。このエネルギーの符号が、天体が束縛されているか、脱出するかを判断する指標となります。
  • 共通重心の運動:
    • 核心: 互いに万有引力を及ぼし合う2つの天体(二体問題)は、外部から力が働かなければ、その共通重心の周りを同じ周期(同じ角速度)で公転します。
    • 理解のポイント: 共通重心は、2つの天体の質量を逆比に内分する点にあります。この考え方を用いることで、それぞれの天体の軌道半径(\(r_1, r_2\))の関係を、運動方程式を連立させるよりも簡潔に導くことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工衛星の運動: この問題のモデル[A]は、人工衛星の運動を考える際の基本的なモデルです。第一宇宙速度、第二宇宙速度、周期の計算などに応用されます。
    • 連星系(二重星): モデル[B]は、2つの恒星が互いの周りを回る連星系の運動そのものです。それぞれの星の質量や軌道半径、周期を求める問題に応用できます。
    • 惑星と衛星: 太陽と惑星、あるいは惑星とその衛星の関係も、質量に大きな差がある二体問題として、モデル[B]の考え方でより精密に解析できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. モデルの特定: まず、問題が「中心天体が固定された1体問題」なのか、「両方の天体が動く2体問題」なのかを把握します。
    2. 力の特定: 運動の原因となっている力は何かを特定します。天体運動では、それは万有引力です。
    3. 運動形態の特定: 円運動なのか、だ円運動なのか、あるいは別の運動なのかを問題文から読み取ります。
    4. 法則の選択:
      • 速さ、周期、半径の関係を知りたい \(\rightarrow\) 円運動の運動方程式。
      • エネルギーについて問われている \(\rightarrow\) 力学的エネルギーの式。
      • エネルギーが減少した後の変化を問われている \(\rightarrow\) エネルギーの式と運動方程式を連立させて関係を分析。
      • 2つの天体が動いている \(\rightarrow\) 共通重心の考え方や、それぞれの運動方程式を立てる。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 半径と距離の混同:
    • 誤解: モデル[B]で、月の運動方程式を立てる際に、向心力の半径を\(r_0\)、万有引力の距離を\(r_1\)のように、取り違えてしまう。
    • 対策: 「向心力」は回転運動の半径(この場合は\(r_1\))で決まり、「万有引力」は2つの物体の中心間距離(この場合は\(r_0\))で決まる、という基本を常に意識しましょう。図を描いて、どの長さがどの物理量に対応するかを明確にすることが重要です。
  • エネルギーの減少の解釈ミス:
    • 誤解: (5)で「エネルギーが減少する」と聞いて、運動エネルギーが減る、つまり速さが遅くなると直感で判断してしまう。
    • 対策: 力学的エネルギーは運動エネルギーと位置エネルギーの和です。天体系では位置エネルギーが負で、その絶対値が大きいため、全体のエネルギーが減少すると、位置エネルギーがより大きく減少し(より地球に近づき)、その結果として運動エネルギーはむしろ増加(速くなる)することがあります。必ず数式(\(E = -GMm/2r_0\))に基づいて論理的に判断しましょう。
  • 1体問題と2体問題の混同:
    • 誤解: 地球も動くモデル[B]なのに、地球が固定されているモデル[A]の公式をそのまま使ってしまう。
    • 対策: 問題設定を正確に読み取り、どちらのモデルを考えているのかを常に意識します。特に周期の式は、モデル[B]では質量が\(M\)から\((M+m)\)に置き換わったような形になり、結果が異なります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • モデル[A]の図: 地球を大きく中心に描き、月がその周りを円軌道で回る様子を描きます。月には常に地球の中心を向く万有引力が働いていることをベクトルで示します。
    • モデル[B]の図: 共通重心Oをまずプロットします。その周りを、月が半径\(r_1\)の円、地球が半径\(r_2\)の円を描いて、互いに反対側を回り続ける様子を描きます。このとき、両者を結ぶ直線は常に重心Oを通ります。月と地球の間に働く万有引力は、それぞれにとっての向心力として機能していることをベクトルで示すと理解が深まります。
    • エネルギー図: 縦軸にエネルギー、横軸に距離\(r\)をとり、\(U = -1/r\) の形のポテンシャルエネルギーの曲線を描きます。円運動の力学的エネルギー \(E = -GMm/2r_0\) は、ポテンシャルエネルギーの極小値の半分の値になることを図で確認すると、束縛状態のイメージが掴みやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 万有引力の法則 \(F=G\frac{Mm}{r_0^2}\):
    • 選定理由: 2つの天体間に働く力を定量的に記述するための基本法則だから。
    • 適用根拠: 質量を持つ物体は互いに引き合うという普遍的な物理法則。
  • 円運動の運動方程式 \(mr\omega^2 = F\):
    • 選定理由: 問題が「等速円運動」という特定の運動形態を指定しており、その運動を維持するための力の条件を記述する必要があるため。
    • 適用根拠: 物体が一定の速さで円軌道を描いているという運動学的な事実。向心力\(F\)に、その原因となる万有引力を代入して使用します。
  • 力学的エネルギーの式 \(E = K+U\):
    • 選定理由: 問題が「エネルギー」について直接問うているため。また、(5)のようにエネルギーが変化した際の影響を考察するため。
    • 適用根拠: エネルギーの定義そのもの。運動エネルギー\(K\)と、万有引力による位置エネルギー\(U = -G\frac{Mm}{r}\)を正しく代入して使います。
  • 共通重心の公式 \(mr_1 = Mr_2\):
    • 選定理由: モデル[B]で、2つの天体の軌道半径\(r_1, r_2\)の関係を知るため。運動方程式を2本立てて連立するよりも、この公式を使った方が直接的で計算が早い。
    • 適用根拠: 2体問題において、外力が働かない系では重心が静止または等速直線運動を続けるという運動量保存則から導かれる帰結。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. パート[A] 地球固定モデル:
    • (1) 万有引力: 公式 \(F=G\frac{Mm}{r_0^2}\) を適用。
    • (2) 周期: 運動方程式 \(mr_0\omega_0^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}\) から\(\omega_0\)を求め、\(T=2\pi/\omega_0\) で周期を計算。
    • (3) 運動エネルギー: 運動方程式から \(mv_0^2\) を求め、\(K=\frac{1}{2}mv_0^2\) で計算。
    • (4) 力学的エネルギー: \(E=K+U\) に(3)の結果と \(U=-G\frac{Mm}{r_0}\) を代入。
    • (5)(6) エネルギー変化: (4)の\(E\)の式と、(2)の\(v_0\)の式から、\(E, r_0, v_0\) の関係を読み解く。
  2. パート[B] 共通重心モデル:
    • (1) 向心力: 公式 \(F=mr_1\omega^2\) を適用。
    • (2) 角速度: 月の運動方程式 \(mr_1\omega^2 = G\frac{Mm}{r_0^2}\) を立て、\(\omega\)について解く。
    • (3) 軌道半径: 地球の運動方程式も立てるか、共通重心の考え方を用いて \(mr_1=Mr_2\) を導き、\(r_1+r_2=r_0\) と連立して\(r_1\)を求める。
    • (4) 周期: (2)の\(\omega\)の式に(3)の\(r_1\)を代入して\(\omega\)を確定させ、\(T=2\pi/\omega\) で周期を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の添え字の区別: \(r_0, r_1, r_2\) や \(\omega_0, \omega\) など、似たような記号が複数出てきます。どの記号がどの物理量を表しているのかを、図と対応させながら慎重に使い分けましょう。
  • 分母の次数: 万有引力は\(r^2\)に反比例、位置エネルギーは\(r\)に反比例します。運動方程式を立てる際に、これらの次数の違いを間違えないように注意が必要です。
  • 平方根の計算: 周期や速さの計算では平方根が多用されます。\(T=2\pi/\omega\) に \(\omega = \sqrt{A/B}\) を代入する際は、\(T=2\pi\sqrt{B/A}\) となるなど、逆数の扱いに注意しましょう。
  • 結果の比較: パート[A]とパート[B]の結果を比較し、\(m \ll M\) の場合に[B]が[A]に近づくことを確認する(吟味する)ことは、計算ミスを発見する良い機会になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4) 力学的エネルギー: \(E = -K\) という関係(ビリアル定理)が円運動では成り立ちます。実際に(3)と(4)の結果を比べると \(E = -K = -\frac{GMm}{2r_0}\) となっており、計算の正しさを裏付けています。
    • (5)(6) エネルギー減少: エネルギーを失うと、より強く束縛される(近づく)ため、位置エネルギーはより大きく減少します。その減少分の一部が運動エネルギーに変換されるため、速くなる、という物理的描像は他の現象(空気抵抗を受ける人工衛星など)とも共通しており、妥当です。
    • [B](3) \(r_1\): \(r_1 = \frac{M}{M+m}r_0\) という結果は、\(M\)が\(m\)より大きいほど、\(r_1\)が\(r_0\)に近づく(重心が地球に近づく)ことを意味しており、直感と一致します。
  • モデル間の比較:
    • 周期の比較: モデル[B]の周期の式の分母は \(G(M+m)\)、モデル[A]では \(GM\) です。分母が大きい[B]の方が周期は短くなります。これは、地球も動くことで、実質的に引力が強まった(あるいは、同じ引力でより小さな半径の軌道を回っている)と解釈でき、興味深い結果です。ただし、これは\(r_0\)が同じという仮定の下での比較です。
    • 近似の妥当性: 実際の地球と月では \(M \gg m\) なので、\(M+m \approx M\) と近似できます。このとき、モデル[B]の結果がモデル[A]の結果とほぼ一致することから、地球を固定して考えるモデル[A]が、多くの場合で良い近似であることがわかります。

問題53 (東北大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、半球の内面という曲面上で運動する物体の力学を、様々な状況設定で考察する総合問題です。
(1)ではxz平面内に束縛された単振り子のような運動、(2)では水平面内での等速円運動(円錐振り子)、(3)では慣性力が加わった状況での円運動、(4)では糸で吊るされた状態での円運動と、多角的な視点から円運動と振動の物理を深く掘り下げます。
特に、力のつり合い(あるいは運動方程式)、力学的エネルギー保存則、単振動の条件、見かけの重力といった、力学の重要概念を的確に使い分ける能力が問われます。

与えられた条件
  • 半球: 内半径\(R\)、固定されている((3)を除く)。
  • 小球: 質量\(m\)、大きさは無視。
  • 座標系: 半球の中心Oが原点、z軸が鉛直上向き、xy平面が半球の切り口。
  • 重力加速度: \(g\)。
  • 状況設定:
    • (1) xz平面内での運動。角度\(\theta_0\)から静かにはなす。
    • (2) 水平面内での等速円運動。回転半径\(r\)。
    • (3) 半球を載せた台車が水平方向に加速度 \(a = \frac{5}{12}g\) で運動。その上で小球が水平面内で等速円運動。
    • (4) 小球が点P(0, 0, R)から長さ\(l\)の糸で吊るされ、半球内面に接しながら円運動。
問われていること
  • (1a) xz平面内の運動で、角度\(\theta\)での速さ\(v\)と接線加速度\(a\)。
  • (1b) (1a)で\(\theta_0\)が小さいときの周期\(T_1\)。
  • (2a) 水平円運動の角速度\(\omega_1\)。
  • (2b) (2a)で\(r\)が小さいときの周期\(T_2\)。
  • (3a) 加速中の円運動の軸がz軸となす角\(\phi\)の\(\sin\phi\)。
  • (3b) (3a)の状況での角速度\(\omega_2\)。
  • (4a) 糸で吊るされた円運動で、内面から離れないための最小角速度\(\omega_{min}\)。
  • (4b) 糸で吊るされた円運動で、糸がたるまないための最大角速度\(\omega_{max}\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「円運動と振動」、そして「慣性力」です。一見複雑な設定ですが、各設問でどの物理法則を適用すべきかを見極めることが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: 垂直抗力や張力は仕事をしないため、エネルギーが保存される場面で速さを求めるのに有効です。
  2. 運動方程式と力のつり合い: 円運動では、向心力(または慣性力を含めた力のつり合い)を考えることが基本です。力を正しく図示し、適切な方向に分解して立式します。
  3. 単振動への近似: 微小な振動では、復元力が変位に比例する形 \((F=-kx)\) になり、単振動とみなせます。運動方程式を \(a=-\omega^2 x\) の形に変形し、周期を求めます。
  4. 見かけの重力: 加速する座標系(非慣性系)では、慣性力を考慮する必要があります。重力と慣性力の合力を「見かけの重力」と捉えると、静止系での問題と同じように扱える場合があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)は、エネルギー保存則と運動方程式(接線方向)を使い分けます。単振動の周期は、運動方程式を近似して導きます。
  2. (2)は、水平面内の円運動なので、力のつり合い(静止系なら向心力、回転系なら遠心力)を考えます。
  3. (3)は、非慣性系での力のつり合いを考えます。見かけの重力の概念を導入すると、(2)の問題に帰着させることができます。
  4. (4)は、小球に働く力が複数(重力、張力、垂直抗力)になる状況です。「離れない」「たるまない」という条件を、それぞれ「垂直抗力\(N \ge 0\)」「張力\(T \ge 0\)」と読み替え、その限界(\(N=0, T=0\))で角速度を求めます。

問(1a)

思考の道筋とポイント
速さ\(v\)は、始点(角度\(\theta_0\))と任意点(角度\(\theta\))の間での力学的エネルギー保存則から求めます。加速度の進行方向成分\(a\)は、運動方程式\(ma=F\)の接線方向成分を考えることで求められます。

この設問における重要なポイント

  • 速さはエネルギー保存則、加速度は運動方程式から求めるという使い分け。
  • 位置エネルギーの基準点を明確にすること。
  • 運動方程式を立てる際、力を接線方向と半径方向に分解すること。

具体的な解説と立式
速さ\(v\)の導出
力学的エネルギー保存則を適用します。位置エネルギーの基準をxy平面(z=0)とします。

  • 始点(角度\(\theta_0\)):
    • 静かにはなすので速さは0。運動エネルギーは0。
    • 高さは \(-R\cos\theta_0\)。位置エネルギーは \(-mgR\cos\theta_0\)。
  • 任意点(角度\(\theta\)):
    • 速さを\(v\)とすると、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\)。
    • 高さは \(-R\cos\theta\)。位置エネルギーは \(-mgR\cos\theta\)。

エネルギー保存則より、
$$0 – mgR\cos\theta_0 = \frac{1}{2}mv^2 – mgR\cos\theta$$
加速度\(a\)の導出
小球に働く力は、重力\(mg\)と垂直抗力\(N\)です。運動方程式を立てるため、力を軌道の接線方向と半径方向に分解します。加速度の進行方向成分(接線加速度)に関係するのは接線方向の力のみです。

  • 接線方向の力: 重力の接線成分。図aより、\(-mg\sin\theta\)。

運動方程式 \(ma=F_{接線}\) より、
$$ma = -mg\sin\theta$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_i + U_i = K_f + U_f\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
計算過程

速さ\(v\)の計算:
エネルギー保存の式を\(v\)について解きます。
$$\frac{1}{2}mv^2 = mgR\cos\theta – mgR\cos\theta_0 = mgR(\cos\theta – \cos\theta_0)$$
$$v^2 = 2gR(\cos\theta – \cos\theta_0)$$
$$v = \sqrt{2gR(\cos\theta – \cos\theta_0)}$$
加速度\(a\)の計算:
運動方程式 \(ma = -mg\sin\theta\) の両辺を\(m\)で割ると、
$$a = -g\sin\theta$$
加速度の大きさは、この絶対値なので、
$$|a| = g\sin\theta$$
(問題文の「進行方向成分」は、速さが増加する向きを正とすると \(a=-g\sin\theta\) となりますが、ここでは大きさで答えるのが一般的です。)

計算方法の平易な説明

速さは、エネルギーが保存されることを利用して、「失われた高さのエネルギーが速さのエネルギーに変わる」という関係から計算します。一方、加速度は、その瞬間に物体に働いている力(この場合は重力の斜面成分)をニュートンの運動方程式に当てはめて計算します。

結論と吟味

速さ\(v\)は \(\sqrt{2gR(\cos\theta – \cos\theta_0)}\)、加速度の進行方向成分の大きさ\(a\)は \(g\sin\theta\) です。加速度は最下点(\(\theta=0\))で0となり、両端(\(\theta=\pm\theta_0\))で最大となる、単振り子と同様の性質を示します。

解答 (1a) \(v = \sqrt{2gR(\cos\theta – \cos\theta_0)}\), \(a = -g\sin\theta\) (大きさは \(g\sin\theta\))

問(1b)

思考の道筋とポイント
\(\theta_0\)が十分小さいとき、小球の運動は単振動とみなせます。単振動の条件は、復元力が変位に比例することです。運動方程式を \(a = -\omega^2 s\) の形に変形し、角振動数\(\omega\)を求めて周期 \(T_1 = 2\pi/\omega\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 運動方程式を単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 s\) と比較する。
  • 近似式 \(\sin\theta \approx \theta\) を用いる。
  • 弧長と中心角の関係式 \(s = R\theta\) を用いる。

具体的な解説と立式
(1a)で求めた接線方向の運動方程式は、
$$ma = -mg\sin\theta$$
\(\theta\)が十分小さいとき、\(\sin\theta \approx \theta\) と近似できます。
$$ma \approx -mg\theta$$
ここで、最下点Pからの変位(弧長)を\(s\)とすると、\(s=R\theta\) なので \(\theta = s/R\)。これを代入すると、
$$ma \approx -mg \frac{s}{R}$$
$$a \approx -\frac{g}{R} s$$
これは、単振動の加速度の式 \(a = -\omega^2 s\) と同じ形をしています。

使用した物理公式

  • 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
  • 周期と角振動数の関係: \(T = 2\pi/\omega\)
  • 近似式: \(\sin\theta \approx \theta\)
計算過程

\(a = -\frac{g}{R} s\) と \(a = -\omega^2 s\) を比較すると、
$$\omega^2 = \frac{g}{R}$$
$$\omega = \sqrt{\frac{g}{R}}$$
周期\(T_1\)は、
$$T_1 = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}$$

計算方法の平易な説明

振り子の振れ角が小さいとき、その運動はバネの振動と同じ「単振動」と見なせます。運動方程式を「加速度 = -(定数) \(\times\) 変位」という単振動の式の形に無理やり変形し、その定数部分から周期を計算します。

結論と吟味

周期\(T_1\)は \(2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}\) です。これは、長さ\(R\)の単振り子の周期の公式と完全に一致します。半球の内面を滑る微小振動は、単振り子と等価であることがわかります。

解答 (1b) \(2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}\)

問(2a)

思考の道筋とポイント
小球は水平面内で、半径\(r\)の等速円運動をしています。これは「円錐振り子」と同じ状況です。小球に働く力(重力と垂直抗力)のつり合いを考えます。静止系で向心力を考える方法と、小球とともに回転する系で遠心力を考える方法があります。

この設問における重要なポイント

  • 水平面内での円運動であり、鉛直方向の力はつり合っている。
  • 水平方向の力の合力が向心力となっている。
  • 図から、角度\(\theta\)と半径\(R, r\)の幾何学的関係を読み取ること。

具体的な解説と立式
小球とともに回転する座標系で考えます。この系では、小球に働く力はつり合っています。
働く力は、

  • 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
  • 垂直抗力 \(N\)(半径方向、中心O向き)
  • 遠心力 \(mr\omega_1^2\)(水平外向き)

垂直抗力\(N\)を水平成分と鉛直成分に分解します。図cより、垂直抗力\(N\)が鉛直方向となす角は\(\theta\)です。

  • \(N\)の鉛直成分: \(N\cos\theta\)
  • \(N\)の水平成分: \(N\sin\theta\)

力のつり合いの式は、

  • 鉛直方向: \(N\cos\theta = mg \quad \cdots ①\)
  • 水平方向: \(N\sin\theta = mr\omega_1^2 \quad \cdots ②\)

別解: 静止系(向心力)で考える
具体的な解説と立式
静止系では、小球に働く力は重力\(mg\)と垂直抗力\(N\)です。

  • 鉛直方向の力のつり合い: \(N\cos\theta = mg\)
  • 水平方向の運動方程式: 水平方向の力は\(N\sin\theta\)のみで、これが向心力となります。
    \(mr\omega_1^2 = N\sin\theta\)

これらは、慣性力を用いた場合と全く同じ連立方程式になります。

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 円運動の運動方程式(または遠心力)
計算過程

式②を式①で割ることで、\(N\)を消去します。
$$\frac{N\sin\theta}{N\cos\theta} = \frac{mr\omega_1^2}{mg}$$
$$\tan\theta = \frac{r\omega_1^2}{g}$$
$$\omega_1^2 = \frac{g\tan\theta}{r}$$
ここで、図cの直角三角形より、\(\tan\theta = \frac{r}{\sqrt{R^2-r^2}}\)。これを代入します。
$$\omega_1^2 = \frac{g}{r} \cdot \frac{r}{\sqrt{R^2-r^2}} = \frac{g}{\sqrt{R^2-r^2}}$$
$$\omega_1 = \sqrt{\frac{g}{\sqrt{R^2-r^2}}}$$

計算方法の平易な説明

小球が同じ高さを保ったままクルクル回る(等速円運動する)ためには、力がつり合っている必要があります。ただし、回っている物体から見ると、外向きに「遠心力」という見かけの力が働いています。この遠心力と、重力、そして半球が押し返す力(垂直抗力)の3つが、上下方向も横方向もぴったりつり合うときの回転の速さ(角速度)を計算します。

結論と吟味

角速度\(\omega_1\)は \(\sqrt{\frac{g}{\sqrt{R^2-r^2}}}\) です。回転半径\(r\)が大きくなるほど、分母の\(\sqrt{R^2-r^2}\)(円運動の中心から半球の中心までの距離)が小さくなり、角速度\(\omega_1\)は大きくなることがわかります。

解答 (2a) \(\sqrt{\frac{g}{\sqrt{R^2-r^2}}}\)

問(2b)

思考の道筋とポイント
(2a)で求めた角速度\(\omega_1\)を用いて、周期 \(T_2 = 2\pi/\omega_1\) を計算します。その際、\(r\)が\(R\)に比べて十分小さい(\(r \ll R\))という近似を用います。

この設問における重要なポイント

  • 周期の公式 \(T = 2\pi/\omega\) を使う。
  • 近似 \(r \ll R\) の意味を理解し、式を簡略化する。

具体的な解説と立式
周期\(T_2\)は、
$$T_2 = \frac{2\pi}{\omega_1} = 2\pi \sqrt{\frac{\sqrt{R^2-r^2}}{g}}$$
ここで、根号の中の\(\sqrt{R^2-r^2}\)を近似します。
$$\sqrt{R^2-r^2} = \sqrt{R^2\left(1 – \left(\frac{r}{R}\right)^2\right)} = R\sqrt{1 – \left(\frac{r}{R}\right)^2}$$
\(r \ll R\) なので、\((r/R)^2 \approx 0\) とみなせます。したがって、
$$\sqrt{1 – \left(\frac{r}{R}\right)^2} \approx \sqrt{1} = 1$$
よって、\(\sqrt{R^2-r^2} \approx R\)。

使用した物理公式

  • 周期と角振動数の関係: \(T = 2\pi/\omega\)
  • 近似計算
計算過程

周期の式に近似を適用します。
$$T_2 = 2\pi \sqrt{\frac{\sqrt{R^2-r^2}}{g}} \approx 2\pi \sqrt{\frac{R}{g}}$$

計算方法の平易な説明

(2a)で求めた角速度の式に、\(r\)が\(R\)に比べて「とても小さい」という条件を使って近似計算を行います。\(r^2\)が\(R^2\)に比べて無視できるほど小さいので、式の中の\(r^2\)を0としてしまうと、式が簡単になり、周期が計算できます。

結論と吟味

周期\(T_2\)は、近似的に \(2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}\) となります。これは(1b)で求めた単振り子の周期\(T_1\)と一致します。このことから、円錐振り子の回転半径が非常に小さい場合、その運動は単振り子の微小振動と等価であると見なせることがわかります。

解答 (2b) \(2\pi\sqrt{\frac{R}{g}}\)

問(3a)

思考の道筋とポイント
台車が加速度\(a\)で運動しているため、小球とともに運動する非慣性系で考えると、小球には慣性力\(ma\)が働きます。この慣性力と重力の合力が「見かけの重力」となり、円運動の軸(つり合いの中心)はこの見かけの重力の方向を向きます。

この設問における重要なポイント

  • 非慣性系で考え、慣性力を導入する。
  • 重力と慣性力の合力である「見かけの重力」の方向が、円運動の軸の方向になる。
  • 力のベクトル図を描き、幾何学的な関係から\(\sin\phi\)を求める。

具体的な解説と立式
台車とともに運動する観測者から見ると、小球には以下の力が働きます。

  • 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
  • 慣性力 \(ma\)(加速度と逆向き、水平左向き)

この2つの力の合力が見かけの重力\(mg’\)です。円運動の軸は、この見かけの重力の方向と一致します。
z軸(鉛直方向)と円運動の軸(見かけの重力の方向)がなす角が\(\phi\)です。
力のベクトル図(図d)を描くと、辺の長さが\(mg\)と\(ma\)の直角三角形ができます。
三平方の定理より、見かけの重力\(mg’\)の大きさは、
$$mg’ = \sqrt{(mg)^2 + (ma)^2}$$
この直角三角形において、\(\sin\phi\)は、
$$\sin\phi = \frac{\text{対辺}}{\text{斜辺}} = \frac{ma}{mg’}$$

使用した物理公式

  • 慣性力: \(\vec{F} = -m\vec{a}\)
  • 力の合成(ベクトル和)
計算過程

与えられた加速度 \(a = \frac{5}{12}g\) を代入します。
まず、見かけの重力\(mg’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
mg’ &= \sqrt{(mg)^2 + \left(m \cdot \frac{5}{12}g\right)^2} \\[2.0ex]&= mg\sqrt{1^2 + \left(\frac{5}{12}\right)^2} \\[2.0ex]&= mg\sqrt{\frac{144+25}{144}} = mg\sqrt{\frac{169}{144}} = \frac{13}{12}mg
\end{aligned}
$$
次に、\(\sin\phi\)を計算します。
$$\sin\phi = \frac{ma}{mg’} = \frac{m(\frac{5}{12}g)}{\frac{13}{12}mg} = \frac{5/12}{13/12} = \frac{5}{13}$$

計算方法の平易な説明

加速する台車に乗っている人から見ると、まっすぐ下に働く重力に加えて、進行方向と逆向きに「慣性力」という見かけの力が働いているように感じます。この重力と慣性力を合わせた「見かけの重力」の方向が、この人にとっての「真下」になります。円運動の軸も、この新しい「真下」の方向を向きます。この力の三角形から角度を求めます。

結論と吟味

\(\sin\phi = \frac{5}{13}\) です。これは、辺の比が5:12:13の有名な直角三角形の関係から導かれます。慣性力によって、実質的な「下」の方向が鉛直から\(\phi\)だけ傾いたと解釈できます。

解答 (3a) \(\frac{5}{13}\)

問(3b)

思考の道筋とポイント
(3a)の状況での角速度\(\omega_2\)を求めます。これは、(2a)の円錐振り子の問題において、重力加速度\(g\)が「見かけの重力加速度」\(g’\)に置き換わったものと考えることができます。

この設問における重要なポイント

  • 見かけの重力の概念を適用し、問題を静止系での円錐振り子に帰着させる。
  • (2a)で導出した角速度の公式を流用する。

具体的な解説と立式
(3a)より、見かけの重力加速度\(g’\)の大きさは、
$$g’ = \frac{mg’}{m} = \frac{13}{12}g$$
(2a)で求めた角速度の式は、
$$\omega_1 = \sqrt{\frac{g}{\sqrt{R^2-r^2}}}$$
この式の\(g\)を\(g’\)に置き換えることで、\(\omega_2\)が求められます。
$$\omega_2 = \sqrt{\frac{g’}{\sqrt{R^2-r^2}}}$$

使用した物理公式

  • 見かけの重力加速度
  • (2a)で導出した角速度の公式
計算過程

上記の式に \(g’ = \frac{13}{12}g\) を代入します。
$$\omega_2 = \sqrt{\frac{\frac{13}{12}g}{\sqrt{R^2-r^2}}} = \sqrt{\frac{13g}{12\sqrt{R^2-r^2}}}$$

計算方法の平易な説明

(3a)で、この状況は「重力が少し強くなって、向きが斜めになった」だけだとわかりました。なので、(2a)で使った角速度の公式の「\(g\)」を、この新しい「見かけの重力加速度\(g’\)」に置き換えるだけで答えが求まります。

結論と吟味

角速度\(\omega_2\)は \(\sqrt{\frac{13g}{12\sqrt{R^2-r^2}}}\) です。見かけの重力が大きくなった分、同じ半径で円運動を続けるためにはより大きな角速度が必要になる、という物理的に妥当な結果です。

解答 (3b) \(\sqrt{\frac{13g}{12\sqrt{R^2-r^2}}}\)

問(4a)

思考の道筋とポイント
小球は点Pから長さ\(l\)の糸で吊るされ、半球内面に接しながら円運動をしています。角速度が最小になるのは、小球が下に落ちようとするのを、垂直抗力\(N\)がぎりぎり支えている状態、すなわち\(N=0\)になるときです。

この設問における重要なポイント

  • 「最小角速度」 \(\iff\) 「内面から離れる限界」 \(\iff\) 「垂直抗力 \(N=0\)」。
  • \(N=0\)のとき、働く力は重力と張力のみとなり、この2力と遠心力がつり合う。
  • 図から、回転半径\(r\)、糸の長さ\(l\)、半球の半径\(R\)の間の幾何学的関係を正しく導く。

具体的な解説と立式
小球とともに回転する系で考えます。\(N=0\)のとき、働く力は、

  • 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
  • 張力 \(T\)(糸の方向、点P向き)
  • 遠心力 \(mr\omega_{min}^2\)(水平外向き)

この3力がつり合っています。
張力\(T\)を分解します。糸と鉛直z軸のなす角を\(\phi’\)とすると、

  • 鉛直方向のつり合い: \(T\cos\phi’ = mg\)
  • 水平方向のつり合い: \(T\sin\phi’ = mr\omega_{min}^2\)

2式から\(T\)を消去すると、\(\tan\phi’ = \frac{r\omega_{min}^2}{g}\)。
$$\omega_{min}^2 = \frac{g\tan\phi’}{r}$$
ここで、\(r = l\sin\phi’\) なので、
$$\omega_{min}^2 = \frac{g\tan\phi’}{l\sin\phi’} = \frac{g}{l\cos\phi’}$$
次に、幾何学的関係から\(\cos\phi’\)を求めます。図eの△PQSは、P(0,0,R), Q(小球のz軸への射影), S(小球)からなる直角三角形です。PS=\(l\), QS=\(r\), PQ=\(R-z\)。また、Sは半径Rの半球上にあるので \(r^2+z^2=R^2\)。
△PQSで三平方の定理より \(l^2 = r^2 + (R-z)^2 = (R^2-z^2)+R^2-2Rz+z^2 = 2R^2-2Rz\)。
よって \(z = \frac{2R^2-l^2}{2R}\)。
\(\cos\phi’ = \frac{R-z}{l} = \frac{R – (2R^2-l^2)/2R}{l} = \frac{2R^2 – (2R^2-l^2)}{2Rl} = \frac{l^2}{2Rl} = \frac{l}{2R}\)。

使用した物理公式

  • 力のつり合い(非慣性系)
  • 三平方の定理
計算過程

\(\omega_{min}^2 = \frac{g}{l\cos\phi’}\) に \(\cos\phi’ = \frac{l}{2R}\) を代入します。
$$\omega_{min}^2 = \frac{g}{l \cdot (l/2R)} = \frac{2gR}{l^2}$$
$$\omega_{min} = \sqrt{\frac{2gR}{l^2}} = \frac{\sqrt{2gR}}{l}$$

計算方法の平易な説明

回転が遅すぎると、小球は重力に負けて下にずり落ちてしまいます。ずり落ちずに回転し続けられるギリギリの速さを求めます。その限界は、小球が半球面から浮き上がる(垂直抗力がゼロになる)瞬間です。このとき、小球には重力と糸の張力、そして遠心力の3つだけが働き、それらがつり合っていると考え、そのつり合いの式から角速度を計算します。

結論と吟味

最小角速度は \(\omega_{min} = \frac{\sqrt{2gR}}{l}\) です。糸の長さ\(l\)が長いほど、最小角速度は小さくなります。これは、てこが長くなるように、遠心力がモーメント的に効きやすくなるため、より遅い回転でも重力とつり合えるようになる、と解釈できます。

解答 (4a) \(\frac{\sqrt{2gR}}{l}\)

問(4b)

思考の道筋とポイント
角速度が最大になるのは、小球が半球面に押し付けられる力が弱まり、糸がたるむ限界、すなわち張力\(T=0\)になるときです。このとき、働く力は重力、垂直抗力、遠心力となり、この3力がつり合います。この力のつり合いの状況は、(2a)で考えた円錐振り子と本質的に同じであると解釈できます。

この設問における重要なポイント

  • 「最大角速度」 \(\iff\) 「糸がたるむ限界」 \(\iff\) 「張力 \(T=0\)」。
  • \(T=0\)のとき、働く力は重力、垂直抗力、遠心力。
  • この状況は、(2a)の円錐振り子と本質的に同じであるため、(2a)の角速度の公式を流用できる。
  • 回転半径\(r\)を、糸の長さ\(l\)と半球の半径\(R\)を用いて正しく表現する。

具体的な解説と立式
張力\(T=0\)のとき、小球に働く力は重力\(mg\)、垂直抗力\(N\)、そして回転系で考えたときの遠心力\(mr\omega_{max}^2\)です。この3力がつり合っている状況は、(2a)で考えた円錐振り子と全く同じです。
したがって、(2a)で導出した角速度の関係式がそのまま成り立ちます。
$$\omega_{max}^2 = \frac{g}{\sqrt{R^2-r^2}}$$
ここで、回転半径\(r\)を、与えられた幾何学的関係を用いて\(l\)と\(R\)で表す必要があります。
模範解答の図eとそれに付随するヒントより、糸とz軸のなす角を\(\phi’\)とすると、\(\sin\phi’ = \frac{\sqrt{4R^2-l^2}}{2R}\) という関係が与えられています。
回転半径\(r\)は \(r=l\sin\phi’\) なので、
$$r = l \cdot \frac{\sqrt{4R^2-l^2}}{2R}$$
これを\(\omega_{max}^2\)の式に代入します。

使用した物理公式

  • 力のつり合い(非慣性系)
  • 三平方の定理
計算過程

$$
\begin{aligned}
\omega_{max}^2 &= \frac{g}{\sqrt{R^2 – \left(l \frac{\sqrt{4R^2-l^2}}{2R}\right)^2}} = \frac{g}{\sqrt{R^2 – l^2 \frac{4R^2-l^2}{4R^2}}} \\[2.0ex]&= \frac{g}{\sqrt{\frac{4R^4 – l^2(4R^2-l^2)}{4R^2}}} = \frac{g}{\frac{\sqrt{4R^4 – 4l^2R^2 + l^4}}{2R}} \\[2.0ex]&= \frac{2gR}{\sqrt{(2R^2-l^2)^2}} = \frac{2gR}{|2R^2-l^2|}
\end{aligned}
$$
ここで、模範解答の補足にある通り、この運動が成立するためには \(l > \sqrt{2}R\)、すなわち \(l^2 > 2R^2\) である必要があります。
この条件の下では \(2R^2-l^2 < 0\) となるため、\(|2R^2-l^2| = -(2R^2-l^2) = l^2-2R^2\)。
したがって、
$$\omega_{max}^2 = \frac{2gR}{l^2-2R^2}$$
$$\omega_{max} = \sqrt{\frac{2gR}{l^2-2R^2}}$$

計算方法の平易な説明

回転が速すぎると、小球はどんどん上にせり上がり、やがて糸がたるんでしまいます。その限界となる最大の速さを求めます。この限界は、糸の張力がちょうどゼロになる瞬間です。このとき、小球には重力と垂直抗力、そして遠心力が働いてつり合っていると考えられます。このつり合いの式と、図形的な関係を組み合わせることで、角速度を計算します。

結論と吟味

最大角速度は \(\omega_{max} = \sqrt{\frac{2gR}{l^2-2R^2}}\) です。
この解は、\(l > \sqrt{2}R\) の条件下でのみ物理的に意味を持ちます。これは、糸がたるむという現象が、糸がある程度長くないと(具体的には、点Pから半球のふちまでの距離\(\sqrt{2}R\)より長くないと)、小球が半球の内面にあるうちは起こりえないことを示しています。もし \(l \le \sqrt{2}R\) ならば、糸がたるむ前に小球が半球のふちに達するため、最大角速度は別の条件で決まることになります。

解答 (4b) \(\sqrt{\frac{2gR}{l^2-2R^2}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式と力のつり合い:
    • 核心: 物体の運動状態(静止、等速直線運動、等速円運動など)に応じて、運動方程式 \(ma=F\) または力のつり合いの式 \(\sum F = 0\) を立てることが、力学の基本です。
    • 理解のポイント:
      • (1a)の接線加速度は、接線方向の運動方程式から求めます。
      • (2a)や(4)の等速円運動では、半径方向の力の合力が向心力になるという運動方程式(または、回転系で遠心力を加えた力のつり合い)を考えます。
      • (3)の非慣性系では、慣性力を加えた上で力のつり合いを考えます。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 核心: 垂直抗力や張力は常に運動方向と垂直なため仕事をしません。摩擦も無視できるため、保存力である重力のみが仕事をし、小球の力学的エネルギーは保存されます。
    • 理解のポイント: (1a)のように、運動の始点と終点の「速さ」と「高さ」を関連付ける際に非常に有効です。加速度のようなベクトル量を介さずに、スカラー量だけで計算できるのが利点です。
  • 単振動への近似:
    • 核心: 振り子などの復元運動において、変位が微小な場合、復元力は変位にほぼ比例します (\(F \approx -kx\))。このとき、運動は単振動とみなすことができます。
    • 理解のポイント: (1b)では、運動方程式 \(ma = -mg\sin\theta\) を、\(\sin\theta \approx \theta\) と \(s=R\theta\) を用いて \(a \approx -\frac{g}{R}s\) という単振動の形に変形します。この \(a=-\omega^2 s\) との比較から、角振動数\(\omega\)を特定し、周期を求めます。
  • 見かけの重力(慣性力):
    • 核心: 加速度\(a\)で運動する観測者から物体を見ると、物体には実際の力に加えて、加速度と逆向きに大きさ\(ma\)の「慣性力」が働いているように見えます。
    • 理解のポイント: (3)では、重力\(mg\)と慣性力\(ma\)のベクトル和を「見かけの重力\(mg’\)」と考えることで、問題が「見かけの重力加速度\(g’\)の下での円錐振り子」という、より単純な問題に帰着します。これにより、(2)の結果を流用して解くことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 円錐振り子: (2)は円錐振り子そのものです。糸の張力と重力のつり合いから角速度や周期を求めます。
    • 単振り子: (1)は単振り子の運動です。エネルギー保存則や運動方程式、微小振動での周期の公式は頻出です。
    • 電車内の振り子: (3)は、加速する電車内で振り子がおもりをつるした状況と本質的に同じです。慣性力によってつり合いの位置が傾き、その周りで振動したり円運動したりします。
    • 曲面上の運動: バイクがバンクのついたカーブを曲がる運動なども、円運動と力のつり合いという点で共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の種類の特定: まず、物体がどのような運動(円運動、単振動、放物運動など)をしているのか、あるいはそれらの組み合わせなのかを把握します。
    2. 座標系(観測者)の選択: 問題を解く上で、静止系で考えるべきか、物体と一緒に動く非慣性系で考えるべきかを選択します。円運動や加速度運動では、非慣性系で考えると問題が単純化されることがあります。
    3. 力の図示と分解: 物体に働く力をすべて(慣性力も含む)図示し、運動に適した方向(例:水平・鉛直、半径・接線、見かけの重力の方向)に分解します。
    4. 条件の数式化: 「離れる」「たるむ」「最小」「最大」といった言葉を、\(N=0\), \(T=0\) などの物理的な数式条件に正確に変換することが、特に(4)のような問題では重要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 単振動の近似の乱用:
    • 誤解: どんな振り子運動でも周期は \(2\pi\sqrt{L/g}\) だと思い込んでしまう。
    • 対策: この公式が成り立つのは、あくまで「振れ角が非常に小さい」という近似の下だけです。振れ角が大きい場合は、周期はこれより長くなります。(1a)のように、振れ角が大きい場合の運動は、単振動ではなく、エネルギー保存則などで解析する必要があります。
  • 慣性力の向きの誤り:
    • 誤解: 慣性力の向きを、台車の加速度と同じ向きにしてしまう。
    • 対策: 慣性力は「加速度と必ず逆向き」に働くと覚えましょう。\( \vec{F}_{慣性} = -m\vec{a} \) というベクトル式がその本質を表しています。
  • 力の分解方向の誤り:
    • 誤解: (2)や(4)で、垂直抗力や張力を水平・鉛直方向に分解すべきか、半径・接線方向に分解すべきか混乱する。
    • 対策: 目的によります。円運動の運動方程式を立てるなら「半径・接線方向」、力のつり合いを考えるなら「水平・鉛直方向」が便利なことが多いです。(2a)では、水平・鉛直方向のつり合いを考えた方が、式が立てやすくなります。
  • (4)の幾何学関係の複雑さ:
    • 誤解: (4)で、回転半径\(r\)と糸の長さ\(l\)、半球の半径\(R\)の関係を正しく導けない。
    • 対策: このような複雑な幾何学的問題では、複数の直角三角形を見つけ出し、三平方の定理を繰り返し適用するのが定石です。図を大きく描き、補助線を引いて、既知の長さと未知の長さを整理しながら式を立てましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: 各設問で、小球に働く力をベクトルで正確に図示することが全ての基本です。(3)では、重力と慣性力を合成して「見かけの重力」のベクトルを描くと、円運動の軸が傾く様子が直感的に理解できます。(4)では、重力、張力、垂直抗力、遠心力の4つのベクトル(回転系の場合)のつり合いを図示することで、複雑な状況を整理できます。
    • 回転座標系の導入: (2)や(3)の円運動では、自分が小球と一緒にグルグル回っている視点(回転座標系)に立つと、小球は静止して見える代わりに、外向きに「遠心力」という見かけの力が働いていると考えられます。この視点では、問題を力の「つり合い」として解くことができ、思考が単純になる場合があります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度の定義: \(\theta\)や\(\phi\)などの角度が、どの線を基準にしているかを常に明確に意識します。角度の取り方によって、力の成分分解で使う三角関数(\(\sin, \cos\))が変わってくるため、注意が必要です。
    • 力の作用点: すべての力は、その力が働く物体(この場合は小球)の重心から矢印を描き始めます。
    • 分解した力の点線表示: 合成前の力(例:重力\(mg\))を実線で、分解後の成分(例:\(mg\sin\theta, mg\cos\theta\))を点線で描くなど、区別がつくように工夫すると、力の数え間違いを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: (1a)で、運動の途中経過(加速度や力)を問わず、始点と終点の状態だけで「速さ」を求めたいから。
    • 適用根拠: 垂直抗力は常に運動方向と垂直で仕事をせず、重力以外の力が仕事をしないという物理的状況。
  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: (1a)で「加速度」という、力の直接的な結果を問われているから。
    • 適用根拠: ニュートンの運動の第二法則そのもの。力を接線方向に限定することで、接線加速度が求まります。
  • 単振動の周期の公式 \(T=2\pi/\omega\):
    • 選定理由: (1b)で「微小振動の周期」を問われているから。微小振動は単振動とみなせるという定石を用いる。
    • 適用根拠: 運動方程式が \(a = -(\text{定数}) \times s\) の形に近似できること。この定数が\(\omega^2\)に相当します。
  • 力のつり合い(非慣性系を含む):
    • 選定理由: (2), (3), (4)の等速円運動では、回転する物体から見ると力がつり合っていると考えることができるため。静止系で運動方程式を立てるよりも、力のベクトルの足し算(つり合い)で考えた方が直感的な場合がある。
    • 適用根拠: 慣性力(遠心力など)を導入すれば、非慣性系でもニュートンの法則に似た力のつり合いの式が成り立つという「ダランベールの原理」。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 単振り子運動:
    • (a) 速さ: エネルギー保存則。加速度: 接線方向の運動方程式。
    • (b) 周期: (a)の運動方程式を \(\sin\theta \approx \theta\) で近似し、\(a=-\omega^2 s\) の形にして\(\omega\)を求め、\(T=2\pi/\omega\) を適用。
  2. (2) 円錐振り子運動:
    • (a) 角速度: 小球に働く力(重力、垂直抗力、遠心力)のつり合いを水平・鉛直方向で立式。2式を連立して\(\omega_1\)を求める。
    • (b) 周期: (a)の結果に \(r \ll R\) の近似を適用し、\(T=2\pi/\omega_1\) を計算。
  3. (3) 加速系での円運動:
    • (a) 軸の傾き: 非慣性系で考え、重力と慣性力の合力(見かけの重力)の方向を求める。力のベクトル図から\(\sin\phi\)を計算。
    • (b) 角速度: (2a)の公式の\(g\)を、(a)で求めた見かけの重力加速度\(g’\)に置き換えて計算。
  4. (4) 糸+半球面での円運動:
    • (a) 最小角速度: \(N=0\)(内面から離れる限界)の条件で、力のつり合い(重力、張力、遠心力)を考える。幾何学的関係から必要な値を導き、\(\omega_{min}\)を求める。
    • (b) 最大角速度: \(T=0\)(糸がたるむ限界)の条件で、力のつり合い(重力、垂直抗力、遠心力)を考える。これは(2a)の状況と同じなので、(2a)の公式を流用し、幾何学的関係から必要な値を代入して\(\omega_{max}\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 幾何学関係の正確な把握: この問題は、力の計算だけでなく、図形から辺の長さや角度の関係(例:\(\tan\theta = r/\sqrt{R^2-r^2}\)など)を導出する能力も重要です。焦らず、直角三角形を探すのが基本です。
  • 近似計算のタイミング: (1b)や(2b)のように、近似を用いる問題では、まず厳密な式を立ててから、最後に指定された条件で近似を行うのが安全です。最初から近似した図で考えると、本質を見誤る可能性があります。
  • 文字の置き換え: (3b)のように、ある状況(\(g\))での結果を、別の状況(\(g’\))に適用する考え方は、計算を大幅に簡略化できる強力なテクニックです。何が何に置き換わるのかを正確に理解しましょう。
  • 根号の扱い: \(\omega^2\)の形で計算を進め、最後に平方根をとるようにすると、計算途中の式がシンプルになります。二重根号などが出てきた場合は、計算ミスを疑いましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1b)と(2b)の周期: 全く異なる運動(単振り子と円錐振り子)が、極限状態(微小振幅、微小半径)では同じ周期 \(2\pi\sqrt{R/g}\) になる、という結果は非常に興味深く、物理学の奥深さを示唆しています。これは、どちらも「長さRの振り子」としての性質が支配的になるためです。
    • (3b)の角速度: \(\omega_2\)が\(\omega_1\)より大きい(\(\sqrt{13/12}\)倍)という結果は、見かけの重力が大きくなったのだから、より速く回さないとつり合わない、という直感と一致します。
    • (4)の大小関係: \(\omega_{min}\)と\(\omega_{max}\)のどちらが大きいか、式の形から判断するのは難しいですが、物理的に「下に落ちないため」の最小値と「上に飛び出さないため」の最大値が存在するという枠組み自体が妥当です。
  • 極端な場合を考える:
    • (2a)で \(r \rightarrow 0\) の極限を考えると、\(\omega_1 \rightarrow \sqrt{g/R}\) となり、(2b)の周期の元になる角速度と一致します。
    • (2a)で \(r \rightarrow R\) の極限を考えると、分母が0に近づくため \(\omega_1 \rightarrow \infty\) となります。これは、半球のふちで水平円運動を続けるには無限の角速度が必要であることを意味し、物理的に妥当な結果です。

問題54 (広島工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平ばね振り子の単振動に関する基本的な性質を問うています。特に、単振動の周期が何に依存し、何に依存しないのかを正しく理解しているかが鍵となります。

与えられた条件
  • ばね振り子: 軽いつる巻きばねと小球からなり、なめらかな水平面上で振動。
  • 物理量: 小球の質量 \(m\) [kg], ばね定数 \(k\) [N/m]。
  • 周期の公式: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) が与えられている。
  • 初期設定:
    • 質量: \(m_0\) [kg]
    • 振幅: \(A\) [m]
    • 周期: \(T_0 = 1.0\) [s]
問われていること
  • (1) 振幅を半分(\(A/2\))にしたときの周期。
  • (2) 質量を4倍(\(4m_0\))にしたときの周期。
  • (3) 質量\(m\)を変化させたときの、周期\(T\)と質量\(m\)の関係を表すグラフの概形。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振動」、特に「ばね振り子の周期」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は、問題文で与えられている周期の公式です。

  1. 周期の公式の解釈: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) という式から、周期が何に依存し、何に依存しないかを正確に読み取ることが全てです。
  2. 周期の等時性: 周期は振幅\(A\)に依存しないという、単振動の最も重要な性質の一つです。
  3. パラメータとの関係: 周期は質量\(m\)の平方根に比例し、ばね定数\(k\)の平方根に反比例します。

基本的なアプローチは、この公式の性質を各設問に適用していくだけです。

  1. (1)では、振幅が変化しても周期は変わらないという「周期の等時性」を用いて答えます。
  2. (2)では、質量が変化したときに周期がどのように変わるかを、公式を用いて具体的に計算します。
  3. (3)では、周期\(T\)と質量\(m\)の間の数学的な関係(\(T \propto \sqrt{m}\))を読み取り、それをグラフとして表現します。

問(1)

思考の道筋とポイント
ばね振り子の周期が何に依存するかを考えます。問題文で与えられている周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) には、振幅\(A\)が含まれていません。これは、単振動の周期が振幅の大きさによらないという重要な性質(周期の等時性)を示しています。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) を正しく解釈する。
  • 周期が振幅\(A\)に依存しないことを理解している。

具体的な解説と立式
問題文で与えられた、ばね振り子の周期の公式は、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}$$
です。この式を見ると、周期\(T\)は小球の質量\(m\)とばね定数\(k\)のみによって決まり、振幅\(A\)には依存しません。
したがって、振幅を半分にしても、振動の周期は変化しません。
初期設定では、周期は \(T_0 = 1.0\) s でした。

使用した物理公式

  • ばね振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\)
計算過程

振幅が変化しても周期は変わらないので、
求める周期 \(T\) は、初期の周期 \(T_0\) と等しい。
$$T = T_0 = 1.0 \text{ [s]}$$

計算方法の平易な説明

ばねの振り子の周期(1往復にかかる時間)は、おもりの重さ(質量)とばねの硬さ(ばね定数)だけで決まります。どれだけ大きく振っても(振幅が大きくても)、小さく振っても、1往復にかかる時間は同じです。この性質を「周期の等時性」と呼びます。今回は振幅を半分にしただけなので、周期は変わりません。

結論と吟味

振幅を半分にしても、周期は 1.0 s のままです。これは単振動の基本的な性質であり、物理的に正しいです。

解答 (1) 1.0 [s]

問(2)

思考の道筋とポイント
小球の質量を\(m_0\)から\(4m_0\)に変えたときの周期を求めます。周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) を用いて、質量が変化したことによる周期の変化を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 周期の公式に、変化後の質量を代入して計算する。
  • 周期が質量の平方根に比例すること(\(T \propto \sqrt{m}\))を理解する。

具体的な解説と立式
初期状態(質量\(m_0\))の周期\(T_0\)は、
$$T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{m_0}{k}} = 1.0 \text{ [s]}$$
質量を\(4m_0\)に変えたときの新しい周期を\(T’\)とすると、公式の\(m\)に\(4m_0\)を代入して、
$$T’ = 2\pi\sqrt{\frac{4m_0}{k}}$$

使用した物理公式

  • ばね振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\)
計算過程

\(T’\)の式を変形して、\(T_0\)との関係を見つけます。
$$
\begin{aligned}
T’ &= 2\pi\sqrt{\frac{4m_0}{k}} = 2\pi\sqrt{4 \cdot \frac{m_0}{k}} \\[1.5ex]&= 2\pi \cdot \sqrt{4} \cdot \sqrt{\frac{m_0}{k}} = 2 \cdot \left( 2\pi\sqrt{\frac{m_0}{k}} \right) \\[1.5ex]&= 2 T_0
\end{aligned}
$$
\(T_0 = 1.0\) s なので、
$$T’ = 2 \times 1.0 = 2.0 \text{ [s]}$$

計算方法の平易な説明

周期の公式を見ると、周期は質量のルート(平方根)に比例します。つまり、質量を4倍にすると、周期は\(\sqrt{4}=2\)倍になります。元の周期が1.0秒だったので、新しい周期は2.0秒になります。

結論と吟味

質量を4倍にすると、周期は 2.0 s になります。質量が大きくなると、物体は動きにくく(慣性が大きく)なるため、1往復にかかる時間が長くなるというのは直感とも一致しており、妥当な結果です。

解答 (2) 2.0 [s]

問(3)

思考の道筋とポイント
周期\(T\)と質量\(m\)の関係を表すグラフの概形を描きます。周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) から、\(T\)と\(m\)の間の数学的な関係を読み取ります。

この設問における重要なポイント

  • \(T\)と\(m\)の関係が \(T \propto \sqrt{m}\) であることを理解する。
  • \(y \propto \sqrt{x}\) の形のグラフがどのような形になるかを知っている。
  • グラフが指定された点(\(m=m_0, T=T_0\))を通るように描く。

具体的な解説と立式
周期の公式は、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}$$
ばね定数\(k\)は一定なので、\(2\pi/\sqrt{k}\)は定数です。この定数を\(C\)とおくと、
$$T = C\sqrt{m}$$
これは、周期\(T\)が質量\(m\)の平方根に比例することを示しています。
グラフの横軸を\(m\)、縦軸を\(T\)とすると、これは \(y = C\sqrt{x}\) の形のグラフになります。
このグラフは、

  • 原点(0, 0)を通る。
  • 上に凸(傾きがだんだん緩やかになる)の曲線を描く。

また、問題の条件から、このグラフは点P(\(m=m_0, T=T_0\))を通る必要があります。
さらに、(2)の結果から、質量が\(4m_0\)のとき、周期は\(2T_0\)になることもわかっているので、点(\(4m_0, 2T_0\))も通ります。

使用した物理公式

  • ばね振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\)
計算過程

グラフを描くための準備として、\(T\)と\(m\)の関係を\(T_0\)と\(m_0\)を用いて表します。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} = 2\pi\sqrt{\frac{m_0}{k} \cdot \frac{m}{m_0}} = \left(2\pi\sqrt{\frac{m_0}{k}}\right) \sqrt{\frac{m}{m_0}} = T_0 \sqrt{\frac{m}{m_0}}$$
この式 \(T = T_0 \sqrt{\frac{m}{m_0}}\) を満たすようにグラフを描きます。

  • \(m=0\) のとき \(T=0\)。
  • \(m=m_0\) のとき \(T=T_0\)。
  • \(m=4m_0\) のとき \(T = T_0 \sqrt{\frac{4m_0}{m_0}} = 2T_0\)。

これらの点を通る、上に凸の曲線を描きます。

計算方法の平易な説明

周期\(T\)と質量\(m\)の関係は、\(T = (\text{定数}) \times \sqrt{m}\) という形をしています。これは、数学で習う \(y = a\sqrt{x}\) のグラフと同じ形です。原点から出発して、だんだん傾きが緩やかになっていくカーブを描けばOKです。問題で指定されている点Pを必ず通るように描きましょう。

結論と吟味

グラフは、原点を通り、点P(\(m_0, T_0\))を通り、上に凸の曲線となります。質量が増えるほど周期は長くなりますが、その増え方はだんだん緩やかになります。これは、\(T^2 \propto m\) という関係、つまり\(T^2\)と\(m\)が比例関係にあることからもわかります。もし縦軸を\(T^2\)にとれば、グラフは原点を通る直線になります。

解答 (3) グラフは本文解説の通り。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 単振動の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\):
    • 核心: この問題は、水平ばね振り子の周期に関する性質を理解しているかを問うており、そのすべてはこの公式から導かれます。
    • 理解のポイント: この公式が示す最も重要な性質は以下の2点です。
      1. 周期の等時性: 周期\(T\)は振幅\(A\)に依存しません。大きく揺らしても小さく揺らしても、1往復にかかる時間は同じです。これが(1)の答えの根拠となります。
      2. 周期の質量・ばね定数依存性: 周期\(T\)は、質量\(m\)の平方根に比例し(\(T \propto \sqrt{m}\))、ばね定数\(k\)の平方根に反比例します(\(T \propto 1/\sqrt{k}\))。おもりが重いほど、またばねが柔らかいほど、周期は長くなります。これが(2)と(3)の答えの根拠となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 単振り子の周期: 単振り子の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g}}\) で与えられます。この場合、周期は振幅によらず(微小振動の場合)、おもりの質量にもよりません。糸の長さ\(l\)と重力加速度\(g\)のみに依存します。ばね振り子との違いを比較しながら理解することが重要です。
    • 鉛直ばね振り子: なめらかな鉛直方向でばね振り子を振動させる場合。重力が常にかかるため振動の中心が自然長の位置からずれますが、周期の公式は水平ばね振り子と全く同じ \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) となります。
    • 電気単振動: コンデンサーとコイルをつないだLC回路で電荷が振動する現象。その周期は \(T = 2\pi\sqrt{LC}\) となり、ばね振り子の周期の公式と非常によく似た形をしています。質量\(m\)が自己インダクタンス\(L\)に、ばね定数\(k\)が電気容量\(C\)の逆数\(1/C\)に対応するアナロジー(類推)が成り立ちます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 周期の公式の確認: まず、対象となる単振動の周期の公式を正確に思い出します。ばね振り子か、単振り子か、あるいは他の振動かで公式は異なります。
    2. 何が変化し、何が不変か: 問題文を読み、質量\(m\)、ばね定数\(k\)、振幅\(A\)などのパラメータのうち、どれが変化させられ、どれが一定に保たれているのかを整理します。
    3. 比例関係の把握: 周期と変化させるパラメータの間の数学的な関係(例:\(T \propto \sqrt{m}\))を公式から読み取ります。これにより、具体的な計算やグラフの概形を予測できます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 周期と振幅の関係の誤解:
    • 誤解: 「大きく振ったら、たくさん動くから時間もかかりそう」という日常的な感覚から、周期は振幅に比例するのではないかと考えてしまう。
    • 対策: 単振動の大きな特徴は「周期が振幅によらない(等時性)」ことです。これは、振幅が大きいほど移動距離は長くなるが、その分、復元力が強くなって平均の速さも速くなるため、結果的に1往復の時間が同じになる、と理解しましょう。公式に\(A\)が入っていないことを根拠に、自信を持って「変わらない」と答えられるようにしましょう。
  • 周期と質量の関係の誤解:
    • 誤解: 周期が質量\(m\)に比例する(\(T \propto m\))と勘違いし、(2)で質量が4倍なら周期も4倍だと考えてしまう。
    • 対策: 公式の形を正確に覚えることが最も重要です。周期は質量の「平方根」に比例します(\(T \propto \sqrt{m}\))。なぜ平方根なのかというと、運動方程式 \(ma=-kx\) から \(a = -(k/m)x\) となり、角振動数が \(\omega = \sqrt{k/m}\)、周期が \(T=2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{m/k}\) と導出される過程を一度は確認しておくと、記憶に定着しやすくなります。
  • グラフの形の誤解:
    • 誤解: (3)で、\(T\)と\(m\)の関係を比例関係だと思い、原点を通る直線を描いてしまう。
    • 対策: \(y=ax\) のグラフは直線ですが、\(y=a\sqrt{x}\) のグラフは上に凸の曲線(放物線を横に倒した形)になります。横軸と縦軸の物理量がどのような関数関係にあるかを正確に把握し、正しいグラフの形を選択しましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 運動方程式の図解: ヒントの図aのように、ばね振り子の任意の点xで働く力を図示することは、運動方程式 \(ma=-kx\) を理解する上で基本となります。復元力\(kx\)が常に中心Oを向き、変位\(x\)と逆向きであることが単振動の本質です。
    • グラフのプロット: (3)のグラフを描く際に、具体的な点をいくつかプロットしてみると、曲線の形がより明確になります。
      • \(m=0 \rightarrow T=0\)
      • \(m=m_0 \rightarrow T=T_0\)
      • \(m=4m_0 \rightarrow T=2T_0\)
      • \(m=9m_0 \rightarrow T=3T_0\)

      これらの点を滑らかに結ぶことで、上に凸の曲線であることが視覚的に確認できます。

  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 軸のラベル: グラフを描く際は、横軸と縦軸に必ず物理量と単位(この場合は \(m \text{[kg]}\), \(T \text{[s]}\))を明記します。
    • 通る点: 問題で指定された点(点Pなど)や、計算で求めた点を正確にプロットし、それらの点を通るように曲線を描くことが求められます。
    • 曲線の特徴: 直線ではない場合、その曲線が「上に凸」なのか「下に凸」なのかを意識して描くことが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\):
    • 選定理由: この問題は、ばね振り子の周期に関する設問であり、その性質を議論するための出発点となる最も基本的な公式だからです。問題文でも与えられています。
    • 適用根拠: この公式は、フックの法則 \(F=-kx\) に従う復元力によって起こる単振動に普遍的に適用できる関係式です。運動方程式 \(ma=-kx\) を解く(または \(a=-\omega^2 x\) と比較する)ことで導出されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 振幅と周期の関係:
    • 目的: 振幅を変えたときの周期を求める。
    • 戦略: 周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) を確認する。
    • フロー: 公式に振幅\(A\)が含まれていないことを確認 \(\rightarrow\) 周期は振幅によらないと判断 \(\rightarrow\) 周期は初期値の\(T_0=1.0\)sのままであると結論づける。
  2. (2) 質量と周期の関係(具体的な計算):
    • 目的: 質量を4倍にしたときの周期を求める。
    • 戦略: 周期の公式に新しい質量を代入し、初期状態の周期と比較する。
    • フロー: 初期状態の周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{m_0}{k}}\) を書く \(\rightarrow\) 新しい周期 \(T’ = 2\pi\sqrt{\frac{4m_0}{k}}\) を立式 \(\rightarrow\) \(T’ = 2 \cdot (2\pi\sqrt{\frac{m_0}{k}}) = 2T_0\) と変形 \(\rightarrow\) 具体的な値を代入して \(T’ = 2.0\)s を得る。
  3. (3) 質量と周期の関係(グラフ化):
    • 目的: 周期\(T\)を質量\(m\)の関数としてグラフに描く。
    • 戦略: 周期の公式から、\(T\)と\(m\)の関数形を特定する。
    • フロー: \(T = (\frac{2\pi}{\sqrt{k}})\sqrt{m}\) より、\(T \propto \sqrt{m}\) の関係にあることを把握 \(\rightarrow\) \(y \propto \sqrt{x}\) のグラフが原点を通り上に凸の曲線であることを思い出す \(\rightarrow\) 問題で指定された点P(\(m_0, T_0\))を通り、(2)で確認した点(\(4m_0, 2T_0\))も通るように、概形を描く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 比例計算の習熟: (2)のような問題は、比を使って解くとより速く、間違いにくくなります。
    \(T’ / T_0 = (2\pi\sqrt{4m_0/k}) / (2\pi\sqrt{m_0/k}) = \sqrt{4m_0/m_0} = \sqrt{4} = 2\)。よって \(T’ = 2T_0\)。
    このように、定数部分を約分して変化する部分だけの比を考える練習をすると良いでしょう。
  • 平方根の扱い: 周期の公式には平方根が含まれていることを常に意識します。質量が\(n\)倍になれば、周期は\(\sqrt{n}\)倍になる、という関係をスムーズに使えるようにしましょう。
  • グラフの形状の暗記: \(y=ax\), \(y=ax^2\), \(y=a/x\), \(y=a\sqrt{x}\) など、物理で頻出する基本的な関数のグラフの形は、すぐに描けるようにしておくことが望ましいです。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 周期は不変: 振幅を変えても周期が変わらない「等時性」は、時計(振り子時計など)が成り立つための基本原理です。もし周期が振幅に依存すると、だんだん揺れが小さくなるにつれて時間の進み方が変わってしまい、時計として機能しません。このように、身近な応用例と結びつけて妥当性を確認できます。
    • (2) 周期は増加: 質量\(m\)は物体の「動きにくさ(慣性)」を表します。同じばねの力で動かす場合、おもりが重い(慣性が大きい)ほど、動きがゆっくりになり、1往復にかかる時間(周期)が長くなるのは直感的にも理解できます。
    • (3) グラフの傾き: \(T \propto \sqrt{m}\) のグラフは、\(m\)が大きくなるほど傾きが緩やかになります。これは、質量を増やしても、周期の伸び方がだんだん鈍くなることを意味します。これも物理的な感覚と合致します。

問題55 (香川大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2本のばねに繋がれた物体の単振動をテーマにしています。単振動を等速円運動の正射影として捉える視点や、エネルギー保存則を用いて、位置、速度、加速度、周期、エネルギーといった単振動の様々な側面を解析する、標準的かつ重要な問題です。

与えられた条件
  • 物体P: 質量\(m\)
  • ばねA, B: ばね定数\(k\)(2本とも同じ)、自然長で物体Pと接続。
  • 運動面: なめらかな水平面。
  • 座標: 水平右向きにx軸、つり合いの位置(自然長の位置)を原点Oとする。
  • 初期動作: 原点Oから \(x=-a\) の位置までずらして静かにはなす。
  • 時刻の基準: \(t=0\) で物体Pが原点Oを正の向きに通過する。
問われていること
  • (1) 時刻\(t\)における位置\(x\)と速度\(v\)を、角速度\(\omega\)を用いて表す。
  • (2) 位置\(x\)にあるときの加速度\(\alpha\)と、ばねから受ける合力\(F\)。
  • (3) \(x=a\)に達してから初めて原点Oを通過するまでの時間\(t_0\)と、初めて\(x=a/2\)を通過するまでの時間\(t_1\)。
  • (4) 運動エネルギー\(K\)の最大値とその位置、位置エネルギー\(U\)の最大値とその位置。
  • (5) 速度\(v\)と位置\(x\)の関係式を求め、グラフに図示する。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「単振動」です。2本のばねによる復元力、単振動の運動方程式、等速円運動との関係、エネルギー保存則といった、単振動を理解するための重要な要素が網羅されています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 単振動の基本式: 単振動は、\(x = A\sin(\omega t + \phi)\) という形で表されます。振幅\(A\)、角振動数\(\omega\)、初期位相\(\phi\)を問題の条件から決定することが基本となります。
  2. 運動方程式: 物体に働く復元力を求め、運動方程式 \(ma=F\) を立てることで、単振動の加速度や角振動数を決定できます。この問題では、2本のばねによる復元力を考える必要があります。
  3. 単振動と等速円運動の関係: 単振動は、等速円運動を一つの軸に射影した運動と見なせます。この考え方を用いると、特定の時間経過を、円運動の回転角として直感的に捉えることができ、(3)のような問題を解くのに非常に有効です。
  4. 力学的エネルギー保存則: ばねの弾性力は保存力であり、他に非保存力が働かないため、ばね振り子の力学的エネルギー(運動エネルギー+弾性エネルギー)は保存されます。この法則は、(4)や(5)のように、速さと位置の関係を直接求める際に強力なツールとなります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、\(t=0\)の条件から単振動の基本式の初期位相を決定し、位置と速度の式を求めます。
  2. (2)では、単振動の加速度の公式 \(a=-\omega^2 x\) を用いるか、あるいは2本のばねによる合力を計算し、運動方程式を立てます。
  3. (3)では、単振動の周期を求め、等速円運動の正射影の考え方を用いて、対応する回転角から時間を計算します。
  4. (4)と(5)では、力学的エネルギー保存則を用いて、運動エネルギーと位置エネルギーの関係を解析します。

問(1)

思考の道筋とポイント
時刻\(t\)における位置\(x\)と速度\(v\)を、単振動の一般式から求めます。一般式は \(x = A\sin(\omega t + \phi)\) と表され、振幅\(A\)、角振動数\(\omega\)、初期位相\(\phi\)を問題の条件から特定します。

  • 振幅\(A\): 物体は \(x=-a\) で静かにはなされるので、振動の両端は \(x=\pm a\)。よって振幅は\(a\)。
  • 初期条件(\(t=0\)): 原点O(\(x=0\))を正の向きに通過する。このときの速さは最大になります。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の一般式 \(x = A\sin(\omega t + \phi)\) と \(v = A\omega\cos(\omega t + \phi)\) を理解している。
  • 問題文の初期条件から、振幅\(A\)と初期位相\(\phi\)を決定できる。

具体的な解説と立式
単振動の位置と速度の一般式は、振幅を\(A\)、角振動数を\(\omega\)、初期位相を\(\phi\)として、
$$x(t) = A\sin(\omega t + \phi)$$
$$v(t) = \frac{dx}{dt} = A\omega\cos(\omega t + \phi)$$
と書けます。
問題の条件から、

  • 振幅は\(a\)なので、\(A=a\)。
  • \(t=0\)で\(x=0\)。これを位置の式に代入すると、\(0 = a\sin\phi\)。よって \(\sin\phi=0\) なので、\(\phi=0\) または \(\phi=\pi\)。
  • \(t=0\)で速度は正。速度の式に\(t=0\)を代入すると、\(v(0) = a\omega\cos\phi\)。\(v(0)>0\)であるためには、\(\cos\phi>0\)でなければならない。

\(\phi=0\)のとき\(\cos0=1>0\)、\(\phi=\pi\)のとき\(\cos\pi=-1<0\)なので、初期位相は\(\phi=0\)と決まります。
したがって、位置と速度の式は、
$$x = a\sin(\omega t)$$
$$v = a\omega\cos(\omega t)$$

使用した物理公式

  • 単振動の変位の式: \(x = A\sin(\omega t + \phi)\)
  • 単振動の速度の式: \(v = A\omega\cos(\omega t + \phi)\)
計算過程

上記の立式過程がそのまま計算過程となります。初期条件を代入して、振幅と初期位相を決定しました。

計算方法の平易な説明

単振動の動きは、三角関数のサインカーブやコサインカーブで表せます。\(t=0\)で原点からスタートし、プラスの方向へ動く運動は、最も基本的な「サインカーブ」そのものです。位置がサインで表されるなら、それを微分した速度は「コサインカーブ」になります。

結論と吟味

位置\(x\)は \(a\sin(\omega t)\)、速度\(v\)は \(a\omega\cos(\omega t)\) と表されます。
\(t=0\)で\(x=0, v=a\omega\)(正で最大)、\(t=\pi/2\omega\)で\(x=a\)(正で最大), \(v=0\)となるなど、単振動の基本的な動きと一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) 位置: \(x = a\sin(\omega t)\), 速度: \(v = a\omega\cos(\omega t)\)

問(2)

思考の道筋とポイント
加速度\(\alpha\)は、単振動の加速度の公式 \(a=-\omega^2 x\) から直接求められます。あるいは、(1)で求めた位置の式を2回微分することでも得られます。
合力\(F\)は、物体が位置\(x\)にあるときに、2本のばねから受ける力を合成することで求めます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動の加速度の公式 \(a=-\omega^2 x\) を知っている。
  • 2本のばねが両方とも物体に力を及ぼすことを理解する。
  • ばねの伸び・縮みと力の向きを正しく判断する。

具体的な解説と立式
加速度\(\alpha\)の導出
単振動の加速度は、一般的に \(a = -\omega^2 x\) と表されます。問題文では加速度を\(\alpha\)としているので、
$$\alpha = -\omega^2 x$$
別解: (1)の結果を微分する
具体的な解説と立式
(1)で求めた速度の式 \(v = a\omega\cos(\omega t)\) をさらに時間\(t\)で微分すると加速度\(\alpha\)が得られます。
$$\alpha = \frac{dv}{dt} = \frac{d}{dt}(a\omega\cos(\omega t)) = -a\omega^2\sin(\omega t)$$
ここで、\(x = a\sin(\omega t)\) の関係を用いると、
$$\alpha = -\omega^2 (a\sin(\omega t)) = -\omega^2 x$$
となり、同じ結果が得られます。
合力\(F\)の導出
物体が正の位置\(x\)にあるときを考えます。

  • ばねA: \(x\)だけ伸びているので、物体を負の向き(左向き)に引く。力の大きさは\(kx\)。
  • ばねB: \(x\)だけ縮んでいるので、物体を負の向き(左向き)に押す。力の大きさは\(kx\)。

2つの力は同じ向きなので、合力\(F\)は、
$$F = (-kx) + (-kx) = -2kx$$
これは、物体が負の位置にあるときも成り立ちます。

使用した物理公式

  • 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
  • フックの法則: \(F = -kx\)
計算過程

上記の立式がそのまま計算過程となります。

計算方法の平易な説明

加速度は、単振動の公式「加速度 = – (角速度の2乗) \(\times\) 位置」に当てはめるだけです。物体に働く力は、左右のばねからの力を合計します。右にずれると、左のばねは「伸びて引っ張り」、右のばねは「縮んで押す」ので、両方とも左向きの力になります。したがって、力の合計は\(2kx\)の大きさで、向きは常に中心向き(マイナス)です。

結論と吟味

加速度\(\alpha\)は \(-\omega^2 x\)、合力\(F\)は \(-2kx\) です。
合力が \(F = -(\text{定数})x\) の形をしていることから、この運動が単振動であることが確認できます。また、運動方程式 \(ma=F\) に代入すると \(m(-\omega^2 x) = -2kx\) となり、\(\omega^2 = 2k/m\)、すなわち \(\omega = \sqrt{2k/m}\) という関係が導かれます。これは、ばね定数\(2k\)の1本のばねで振動させた場合と同じ角振動数であり、「合成ばね定数」の考え方とも一致します。

解答 (2) 加速度: \(\alpha = -\omega^2 x\), 力: \(F = -2kx\)

問(3)

思考の道筋とポイント
特定の地点を通過するまでの時間を求めます。単振動の周期\(T\)をまず計算し、単振動を「等速円運動の正射影」と見なして、対応する回転角から時間を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 2本のばねによる単振動の周期を正しく計算する。
  • 単振動と等速円運動の対応関係を理解し、図を用いて考える。
  • 各位置(\(x=a, x=0, x=a/2\))に対応する円運動の位相(角度)を正確に把握する。

具体的な解説と立式
周期\(T\)の計算
この単振動は、ばね定数が\(k_{合成}=2k\)のばね振り子と等価です。したがって、周期\(T\)は、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k_{合成}}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{2k}}$$
時間\(t_0, t_1\)の計算
単振動を、半径\(a\)、角振動数\(\omega\)の等速円運動のx軸への正射影と考えます。
\(t=0\)で原点Oを正の向きに通過したので、対応する円運動は図bのようにy軸負の方向からスタートします。

  • 時間\(t_0\)(\(x=a\)から初めて\(x=0\)まで):
    • 物体が\(x=a\)に達するのは、円運動の点が\(90^\circ\) (\(\pi/2\))の位置に来たときです。
    • そこから初めて\(x=0\)に達するのは、円運動の点が\(180^\circ\) (\(\pi\))の位置に来たときです。
    • したがって、\(x=a\)から\(x=0\)までは、\(180^\circ – 90^\circ = 90^\circ\)回転する必要があります。
    • \(90^\circ\)の回転にかかる時間は、周期\(T\)の\(1/4\)です。
      $$t_0 = \frac{90^\circ}{360^\circ}T = \frac{1}{4}T$$
  • 時間\(t_1\)(\(x=a\)から初めて\(x=a/2\)まで):
    • 物体が\(x=a\)にいるとき、対応する円運動の点の位相は\(90^\circ\)です。
    • 物体が初めて\(x=a/2\)を通過するのは、\(x=a\)から原点Oに向かう途中です。
    • \(x=a/2\)に対応する円運動の点の位相を\(\theta_{円}\)とすると、\(x = a\sin\theta_{円}\)より、\(a/2 = a\sin\theta_{円}\)。
    • \(\sin\theta_{円}=1/2\)となる角度は\(30^\circ\)と\(150^\circ\)です。\(x=a\)から原点に向かう途中にあるのは、\(90^\circ\)より大きい\(150^\circ\)の点です。
    • したがって、\(90^\circ\)の位置から\(150^\circ\)の位置まで、\(150^\circ – 90^\circ = 60^\circ\)回転する必要があります。
    • \(60^\circ\)の回転にかかる時間は、周期\(T\)の\(60/360 = 1/6\)です。
      $$t_1 = \frac{60^\circ}{360^\circ}T = \frac{1}{6}T$$

使用した物理公式

  • ばね振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\)
  • 単振動と等速円運動の対応
計算過程

周期\(T\)を代入して、\(t_0, t_1\)を求めます。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{2k}}$$
$$t_0 = \frac{1}{4}T = \frac{1}{4} \cdot 2\pi\sqrt{\frac{m}{2k}} = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{2k}}$$
$$t_1 = \frac{1}{6}T = \frac{1}{6} \cdot 2\pi\sqrt{\frac{m}{2k}} = \frac{\pi}{3}\sqrt{\frac{m}{2k}}$$

計算方法の平易な説明

単振動での時間の計算は、対応する円運動を考えると分かりやすくなります。まず、この振動の1往復の時間(周期)を計算します。次に、\(x=a\)や\(x=a/2\)といった位置が、円盤のどの角度に対応するかを考えます。あとは、その角度だけ円盤が回転するのにかかる時間を、周期との比率で計算すればOKです。

結論と吟味

\(t_0 = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{2k}}\), \(t_1 = \frac{\pi}{3}\sqrt{\frac{m}{2k}}\) です。
単振動では、中心付近では速く、端では遅いため、同じ距離を移動するにも場所によってかかる時間が異なります。\(x=a \rightarrow x=a/2\)(距離\(a/2\))にかかる時間\(t_1=T/6\)が、\(x=a/2 \rightarrow x=0\)(距離\(a/2\))にかかる時間(\(t_0-t_1 = T/4 – T/6 = T/12\))よりも長いことからも、この性質が確認できます。

解答 (3) \(t_0 = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{2k}}\), \(t_1 = \frac{\pi}{3}\sqrt{\frac{m}{2k}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)の最大値を求めます。力学的エネルギー保存則により、エネルギーは運動エネルギーと位置エネルギーの間で移り変わります。

  • \(K\)が最大になるのは、速さが最大になるとき、すなわち振動中心(\(x=0\))です。
  • \(U\)が最大になるのは、ばねの伸び・縮みが最大になるとき、すなわち振動の両端(\(x=\pm a\))です。

力学的エネルギー保存則から、\(K_{最大} = U_{最大}\) の関係が成り立ちます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を理解している。
  • 運動エネルギーが最大になる位置と、位置エネルギーが最大になる位置を把握している。

具体的な解説と立式
この系の力学的エネルギー\(E\)は保存されます。
$$E = K + U = (\text{運動エネルギー}) + (\text{ばねの弾性エネルギー}) = \text{一定}$$
ばねは2本あるので、位置エネルギー\(U\)は、
$$U = \frac{1}{2}kx^2 + \frac{1}{2}kx^2 = kx^2$$
力学的エネルギーの合計値は、振動の端点(\(x=a, v=0\))で考えるとわかりやすいです。
$$E = \frac{1}{2}m(0)^2 + k(a)^2 = ka^2$$
したがって、常に \(\frac{1}{2}mv^2 + kx^2 = ka^2\) が成り立ちます。

  • 運動エネルギー\(K\)の最大値:
    \(K = \frac{1}{2}mv^2\) が最大になるのは、\(x=0\)(振動中心)のときです。このとき、位置エネルギーは0なので、
    \(K_{最大} + 0 = ka^2\)。よって \(K_{最大} = ka^2\)。
    そのときの位置は \(x=0\)。
  • 位置エネルギー\(U\)の最大値:
    \(U = kx^2\) が最大になるのは、\(x\)が最大(または最小)のとき、すなわち \(x=\pm a\)(振動の端点)のときです。このとき、速さは0なので、
    \(0 + U_{最大} = ka^2\)。よって \(U_{最大} = ka^2\)。
    そのときの位置は \(x=\pm a\)。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K+U=\text{一定}\)
  • ばねの弾性エネルギー: \(U = \frac{1}{2}kx^2\)
計算方法の平易な説明

単振動では、運動エネルギーとばねのエネルギーの合計は常に一定です。運動エネルギーが最大になるのは、ばねのエネルギーがゼロになる振動の中心です。逆に、ばねのエネルギーが最大になるのは、運動エネルギーがゼロになる振動の端っこです。そして、それぞれの最大値は、エネルギーの合計値と等しくなります。

結論と吟味

運動エネルギーの最大値は \(ka^2\) で、そのときの位置は \(x=0\)。
位置エネルギーの最大値は \(ka^2\) で、そのときの位置は \(x=\pm a\)。
\(K_{最大} = U_{最大}\) となっており、エネルギー保存則と矛盾しません。

解答 (4) Kの最大値: \(ka^2\) (位置 \(x=0\)), Uの最大値: \(ka^2\) (位置 \(x=\pm a\))

問(5)

思考の道筋とポイント
速度\(v\)と位置\(x\)の関係式を求め、グラフに図示します。これは、(4)で用いた力学的エネルギー保存則の式から直接導くことができます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則の式を、\(v\)と\(x\)の関係式として整理する。
  • 得られた式がだ円の標準形であることを理解する。
  • グラフの軸との交点(最大速度、最大変位)を正しく求める。
  • \(t=0\)の初期条件から、物体がグラフ上をたどる向きを判断する。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則の式は、
$$\frac{1}{2}mv^2 + kx^2 = ka^2$$
この式を、グラフ化しやすいように整理します。両辺を \(ka^2\) で割ると、
$$\frac{\frac{1}{2}mv^2}{ka^2} + \frac{kx^2}{ka^2} = 1$$
$$\frac{v^2}{2ka^2/m} + \frac{x^2}{a^2} = 1$$
$$\frac{x^2}{a^2} + \frac{v^2}{(\sqrt{2k/m} \cdot a)^2} = 1$$
これは、横軸が\(x\)、縦軸が\(v\)のだ円を表す方程式です。

  • 横軸(x軸)との交点: \(v=0\) とすると \(x^2/a^2=1\)、よって \(x=\pm a\)。
  • 縦軸(v軸)との交点: \(x=0\) とすると \(v^2 = 2ka^2/m\)、よって \(v = \pm \sqrt{\frac{2k}{m}}a\)。

グラフ上の運動の向きは、\(t=0\)の条件から判断します。
\(t=0\)で \(x=0, v > 0\)。これは、グラフの縦軸の上側の交点(\(v=\sqrt{\frac{2k}{m}}a\))に対応します。
その後、\(x\)は増加し、\(v\)は減少していくので、グラフ上の点は時計回りに動きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
計算方法の平易な説明

エネルギー保存の式 \(\frac{1}{2}mv^2 + kx^2 = ka^2\) は、速さ\(v\)と位置\(x\)の関係を表しています。この式を数学の「だ円の方程式」の形に整理すると、グラフの形がわかります。横軸との交点が振幅(\(\pm a\))、縦軸との交点が最大速度(\(\pm \sqrt{2k/m}a\))になります。\(t=0\)で原点を正の向きに通過するので、グラフ上の点はv軸のプラス側からスタートし、時計回りに動いていきます。

結論と吟味

グラフは、横軸の切片が \(\pm a\)、縦軸の切片が \(\pm \sqrt{\frac{2k}{m}}a\) となるだ円です。運動の向きは時計回りです。
このグラフは、単振動におけるエネルギー保存を視覚的に表現したものであり、位相空間図とも呼ばれます。面積は系のエネルギーに対応し、保存則が成り立つ限り、物体はこのだ円上を周回し続けます。

解答 (5) 関係式: \(\frac{x^2}{a^2} + \frac{v^2}{2ka^2/m} = 1\), グラフは本文解説の通り。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 単振動の運動方程式 \(ma = -Kx\):
    • 核心: 物体に働く復元力が、つり合いの位置からの変位\(x\)に比例するとき、その物体は単振動をします。この問題では、2本のばねが働くため、復元力は \(F = -kx – kx = -2kx\) となります。したがって、合成ばね定数 \(K=2k\) の単振動と見なせます。
    • 理解のポイント: 運動方程式 \(ma=-2kx\) から、加速度は \(a = -\frac{2k}{m}x\) となります。単振動の加速度の一般式 \(a=-\omega^2 x\) と比較することで、この系の角振動数が \(\omega = \sqrt{\frac{2k}{m}}\) であることがわかります。これが周期や速度を計算する上での基本となります。
  • 単振動と等速円運動の関係:
    • 核心: 単振動は、等速円運動を一直線上に射影(投影)した運動と見なすことができます。
    • 理解のポイント: この対応関係を用いると、単振動における時間の経過を、等速円運動の「回転角」として直感的に捉えることができます。(3)のように「\(x=a\)から\(x=a/2\)まで」といった部分的な時間を求める問題では、対応する円運動の中心角を計算し、周期との比率を求めることで簡単に解くことができます。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 核心: ばねの弾性力は保存力であり、なめらかな水平面上では他の非保存力が働いていないため、系の力学的エネルギー(運動エネルギー+弾性エネルギー)は常に一定に保たれます。
    • 理解のポイント: この問題ではばねが2本あるため、弾性エネルギーは \(U = \frac{1}{2}kx^2 + \frac{1}{2}kx^2 = kx^2\) となります。エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2 + kx^2 = \text{一定}\) は、物体の速さ\(v\)と位置\(x\)の関係を直接結びつける強力なツールであり、(4)や(5)を解く鍵となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばねの並列・直列接続: この問題は、2本のばねが物体を挟んでおり、「並列接続」と等価な状況です。合成ばね定数は \(k_{合成}=k_1+k_2\) となります。ばねを直列につないだ場合の合成ばね定数 \(1/k_{合成} = 1/k_1 + 1/k_2\) との違いを理解しておくことが重要です。
    • U字管内の液体振動: U字管に入れた液体を少しずらしてはなすと、液面は単振動します。この運動も、復元力を求め運動方程式を立てることで解析できます。
    • 浮力による単振動: 水に浮いている物体を少し押し込んで離したときの上下振動。浮力の変化分が復元力となり、単振動します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. つり合いの位置の特定: まず、物体に働く力がつり合う位置(振動の中心)を特定します。この問題では原点Oです。
    2. 復元力の導出: つり合いの位置から\(x\)だけずれたときに、物体に働く力の合力(復元力)を計算します。この力が \(F=-Kx\) の形になるかを確認します。なれば単振動であり、比例定数\(K\)が合成ばね定数となります。
    3. 角振動数の決定: 運動方程式 \(ma=-Kx\) から、角振動数を \(\omega = \sqrt{K/m}\) として決定します。これができれば、周期、速さ、加速度など、ほとんどの量を計算できます。
    4. エネルギー保存則の立式: 速さと位置の関係が問われた場合は、力学的エネルギー保存則を立てるのが近道です。振動の端(\(v=0\))や中心(\(x=0\))でのエネルギーを基準にすると、式が簡単になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 復元力の計算ミス:
    • 誤解: 2本のばねのうち、片方しか考慮しない。あるいは、力の向きを間違える。
    • 対策: 物体が位置\(x\)にあるとき、それぞれのばねが「伸びている」のか「縮んでいる」のかを考え、力の向きを正しく判断しましょう。この問題では、物体が正の\(x\)にあるとき、ばねAは伸びて左向きに引き、ばねBは縮んで左向きに押すため、両方の力が同じ向きに働きます。
  • 時間の計算での混乱:
    • 誤解: (3)で、\(x=a\)から\(x=a/2\)までの時間は、\(x=0\)から\(x=a/2\)までの時間と同じだと考えてしまう。
    • 対策: 単振動では速さが一定ではないため、移動距離と時間は比例しません。必ず等速円運動のモデルに戻り、「回転した角度」で時間を計算する習慣をつけましょう。中心に近いほど速く、端に近いほど遅いことを常に意識することが重要です。
  • エネルギーの式の誤り:
    • 誤解: ばねが2本あるのに、位置エネルギーを \(\frac{1}{2}kx^2\) と計算してしまう。
    • 対策: 系の位置エネルギーは、エネルギーを持つ要素すべての和です。この問題では、ばねAとばねBの両方が弾性エネルギーを持つため、合計して \(U=kx^2\) となります。
  • グラフの向きの判断ミス:
    • 誤解: (5)でだ円のグラフは描けても、運動の向き(矢印)を間違える。
    • 対策: \(t=0\) の初期条件に立ち返ります。\(t=0\)で\(x=0, v>0\)(v軸上の正の点)にいるので、その直後(\(t\)がわずかに増加)には、\(x\)は正になり、\(v\)は最大値から少し減少するはずです。この動き(右上方向)をグラフ上で追うことで、全体の回転方向が時計回りであると判断できます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 対応円: (3)を解く際に、単振動に対応する等速円運動の図(対応円)を描くことは非常に有効です。x軸(またはy軸)に単振動の座標を、円周上に時刻に対応する点をプロットします。\(x=a, x=a/2, x=0\) といった位置が、円周上のどの角度に対応するのかを視覚的に把握することで、時間の計算ミスを防げます。
    • エネルギーのグラフ: 横軸に位置\(x\)、縦軸にエネルギー\(E\)をとったグラフをイメージします。位置エネルギー\(U=kx^2\)は原点を頂点とする放物線、力学的エネルギー\(E=ka^2\)は水平な直線となります。運動エネルギー\(K\)は、この2つのグラフの差 \(K=E-U\) として表され、\(x=0\)で最大、\(x=\pm a\)で0になることが視覚的に理解できます。
    • 位相空間の軌道: (5)のv-xグラフは、物理学で「位相空間」における軌道と呼ばれるものです。エネルギーが保存される系では、物体はこの軌道(だ円)上から外れることはありません。この図は、ある位置\(x\)にあるとき、物体の速度\(v\)がどの値を取りうるかを示しています。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 単振動の基本式 \(x=A\sin(\omega t+\phi)\):
    • 選定理由: (1)で、運動の様子を時間の関数として記述することが求められているため。これは単振動を表現する最も基本的な関数です。
    • 適用根拠: 運動方程式が \(a=-\omega^2 x\) の形で表される運動の解は、数学的にこの形の三角関数になることが知られています。
  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: (2)で、物体に働く「力」を求め、運動の特性(角振動数など)を決定するため。力の法則と運動を結びつける根源的な法則です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。この問題では、復元力 \(F=-2kx\) を代入することで、系の物理的特性が明らかになります。
  • 力学的エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv^2+U=\text{一定}\):
    • 選定理由: (4), (5)で、時間の概念を介さずに、物体の「速さ」と「位置」の関係性を直接問われているため。
    • 適用根拠: 復元力であるばねの弾性力が保存力であり、他にエネルギーを増減させる力(非保存力)が働いていないという物理的状況。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 位置と速度の式:
    • 戦略: 単振動の一般式に初期条件を適用する。
    • フロー: \(x=A\sin(\omega t+\phi)\) を用意 \(\rightarrow\) 振幅\(A=a\)を決定 \(\rightarrow\) \(t=0\)での\(x, v\)の条件から初期位相\(\phi=0\)を決定 \(\rightarrow\) \(x, v\)の式を確定。
  2. (2) 加速度と力:
    • 戦略: 加速度は公式から、力はフックの法則の合成から求める。
    • フロー: \(\alpha = -\omega^2 x\) を適用。\(F = F_A + F_B = -kx – kx = -2kx\) を計算。
  3. (3) 時間の計算:
    • 戦略: 周期を計算し、対応円を用いて角度から時間を求める。
    • フロー: 合成ばね定数\(2k\)から周期\(T=2\pi\sqrt{m/2k}\)を計算 \(\rightarrow\) \(x=a, x=0, x=a/2\)に対応する円運動の角度を特定 \(\rightarrow\) 角度の差を360°で割り、周期Tを掛けて時間を計算。
  4. (4) エネルギーの最大値:
    • 戦略: 力学的エネルギー保存則を利用する。
    • フロー: 全エネルギー\(E\)を振動の端点(\(x=a\))で計算 (\(E=ka^2\)) \(\rightarrow\) \(K_{最大}\)は\(x=0\)のときで、\(E\)に等しい \(\rightarrow\) \(U_{最大}\)は\(x=\pm a\)のときで、\(E\)に等しい。
  5. (5) v-xグラフ:
    • 戦略: 力学的エネルギー保存則の式を\(v\)と\(x\)について整理する。
    • フロー: \(\frac{1}{2}mv^2+kx^2=ka^2\) を立てる \(\rightarrow\) \(\frac{x^2}{a^2} + \frac{v^2}{(\sqrt{2k/m}a)^2}=1\) のだ円の標準形に変形 \(\rightarrow\) 軸との交点を求め、グラフを描く \(\rightarrow\) 初期条件から運動の向きを決定。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 合成ばね定数の意識: この問題のように複数のばねがある場合、まず合成ばね定数を考える癖をつけると良いです。この問題は並列接続と同じで \(k_{合成}=2k\)。周期や角振動数の計算では、この合成ばね定数を用いると、1本のばねの問題として扱え、見通しが良くなります。
  • 三角関数の値: (3)で\(x=a/2\)に対応する角度を求める際、\(30^\circ, 60^\circ, 150^\circ\)など、どの角度を指しているのかを単位円やグラフをイメージして正確に判断する必要があります。
  • 文字の置き換え: \(\omega = \sqrt{2k/m}\) の関係を早期に認識し、式の途中で\(\omega\)と\(k,m\)を適宜置き換えながら計算を進めると、式が簡潔になり、ミスが減ります。
  • 単位の確認: 最終的な答えの単位が正しいか(時間は[s]、エネルギーは[J]など)を確認する習慣は、基本的なミスを防ぐのに役立ちます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 復元力: 合力\(F=-2kx\)は、変位\(x\)に比例し、向きが逆であるため、単振動の条件を満たしています。ばねが2本なので、復元力が強くなっている(ばね定数が2倍になっている)ことも妥当です。
    • (3) 時間: \(x=a \rightarrow a/2\) の時間(\(T/6\))が、\(x=a/2 \rightarrow 0\) の時間(\(T/12\))の2倍になっています。これは、振動の端にいくほど速度が遅くなるという単振動の性質を正しく反映しています。
    • (4) エネルギー: 運動エネルギーの最大値と位置エネルギーの最大値が等しくなる(\(K_{最大}=U_{最大}\))のは、エネルギー保存則が成り立つ単振動の基本的な特徴です。
  • 別解との比較:
    • (2)の加速度は、\(a=-\omega^2 x\) という運動学的な関係からも、\(a=F/m = -2kx/m\) という運動方程式からも導出でき、両者が \(\omega^2=2k/m\) という関係で一致することを確認できます。このように、異なるアプローチで同じ結論に至ることを確認するのは、理解を深め、計算ミスを発見する上で非常に有効です。
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