問題6 (宮崎大 + 神奈川工大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、床から斜め上方に投げ上げられた小球が、途中で鉛直な壁に衝突し、はね返ってさらに運動を続けるという、複数の物理現象が組み合わさった状況を扱います。「斜方投射」の基本的な解析(水平方向と鉛直方向の運動の独立性)と、「壁との衝突」における反発係数の正しい適用がポイントとなります。各運動フェーズと衝突の瞬間を丁寧に追っていくことが重要です。
- 小球: 鉛直な壁より \(l\) だけ離れた点Aから、壁に向かって初速 \(v_0\)、角度 \(\theta\) で投射
- 壁: 滑らかな鉛直面、点Bで衝突
- 衝突: 反発係数 \(e\)
- 重力加速度: \(g\)
- (1) 壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) と衝突点Bの高さ \(h\)
- (2) 投げられてから最高点Hに達するまでの時間 \(t_2\) とその高さ \(H\)
- (3) 最高点に達する前に壁に衝突するための \(v_0\) の条件
- (4) はね返った小球が床に落ちた点と壁との距離
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 高さ\(h\)の別解: 軌跡の式を利用する解法
- 主たる解法が、壁への到達時間\(t_1\)を求めてから鉛直変位の式に代入するのに対し、別解では時間\(t\)を消去した軌跡の式に直接、水平距離\(x=l\)を代入して高さ\(h\)を求めます。
- 問(3) 条件式の別解: 衝突時の鉛直速度に着目する解法
- 主たる解法が「壁への到達時間 < 最高点到達時間」という時間の比較で条件を立てるのに対し、別解では「壁に衝突する瞬間に、まだ上昇中である(鉛直速度が正である)」という物理的な状態から直接、条件式を導出します。
- 問(4) 落下距離の別解: 衝突点を新たな起点として解く正攻法
- 主たる解法が、鉛直運動の連続性を利用して全体の滞空時間から計算するのに対し、別解では衝突点Bを新たな運動の起点とみなし、そこからの投射運動として鉛直、水平方向の運動をゼロから解き直します。
- 問(1) 高さ\(h\)の別解: 軌跡の式を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「軌跡の式」が時間を含まない空間的な関係を表すことや、「最高点に達する前」という条件が「鉛直速度が正」という状態に対応することなど、物理現象の多角的な理解が深まります。
- 解法の選択肢の学習: 特に問(4)では、エレガントで計算が簡単な解法(主たる解法)と、基本的だが計算が煩雑になる解法(別解)を比較することで、問題に応じて最適なアプローチを選択する判断力を養うことができます。
- 計算の効率性の比較: 別解を通じて、どの解法が最も計算ミスを減らし、効率的に答えにたどり着けるかを体験的に学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、「斜方投射」と「壁との斜め衝突」という2つの重要な物理現象を組み合わせたものです。それぞれの現象における基本的な法則を理解し、適用していくことが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 斜方投射における運動の独立性: 運動を水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(鉛直投げ上げ運動)に分解して考えます。両運動に共通するパラメータは時間です。
- 壁との衝突における反発係数の適用: 滑らかな壁との衝突では、壁に平行な速度成分は変化せず、壁に垂直な速度成分の速さが\(e\)倍になり、向きが反転します。
- 最高点の条件: 斜方投射の最高点では、速度の鉛直成分が一時的に\(0\)になります。
- 鉛直運動の連続性: 滑らかな鉛直壁との衝突では、鉛直方向の運動は影響を受けず、一連の投げ上げ運動として扱うことができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、水平方向の運動から壁に衝突するまでの時間\(t_1\)を求め、その時間を用いて鉛直方向の運動から衝突点の高さ\(h\)を計算します。
- 問(2)では、壁を無視した純粋な斜方投射として、鉛直方向の運動のみに着目し、最高点の条件から時間\(t_2\)と高さ\(H\)を求めます。
- 問(3)では、「最高点に達する前に壁に衝突する」という条件を、時間を用いて\(t_1 < t_2\)という不等式で表し、これを解きます。
- 問(4)では、鉛直運動は壁衝突の影響を受けないことを利用して、投げ上げから床に落ちるまでの全滞空時間を計算し、衝突後の運動時間と衝突後の水平速度から、壁からの落下距離を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球が点Aから投げられて壁上の点Bに衝突するまでの運動を考えます。時間は水平方向の運動から、高さは鉛直方向の運動から求めます。水平方向は等速直線運動、鉛直方向は重力による等加速度直線運動(鉛直投げ上げ)として扱います。
この設問における重要なポイント
- 運動を水平方向と鉛直方向に分けて考える「運動の独立性」の原則を適用する。
- 水平方向は等速直線運動、鉛直方向は鉛直投げ上げ(等加速度直線運動)として、それぞれの運動に適した公式を用いる。
- 水平方向と鉛直方向の運動に共通するパラメータが時間\(t_1\)であることを利用する。
具体的な解説と立式
初速度\(v_0\)を水平成分\(v_{0x} = v_0 \cos\theta\)と鉛直成分\(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)に分解します。点Aを原点とし、水平右向きを\(x\)軸正、鉛直上向きを\(y\)軸正とします。
壁に衝突するまでの時間\(t_1\)は、水平方向の運動から求めます。水平距離\(l\)を一定の速度\(v_{0x}\)で進むので、
$$ l = (v_0 \cos\theta) t_1 \quad \cdots ① $$
衝突点Bの高さ\(h\)は、鉛直方向の運動から求めます。時間\(t_1\)後の鉛直変位は、
$$ h = (v_0 \sin\theta) t_1 – \frac{1}{2}gt_1^2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(x = v_x t\)
- 等加速度直線運動(変位): \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\)
式①より、\(t_1\)を求めます。
$$ t_1 = \frac{l}{v_0 \cos\theta} $$
この\(t_1\)を式②に代入して\(h\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
h &= (v_0 \sin\theta) \left( \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) – \frac{1}{2}g \left( \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right)^2 \\[2.0ex]
&= l \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{gl^2}{2v_0^2 \cos^2\theta} \\[2.0ex]
&= l \tan\theta – \frac{gl^2}{2v_0^2 \cos^2\theta}
\end{aligned}
$$
小球が壁に当たるまでの時間をまず考えます。横方向(水平)には、小球は最初\(v_0 \cos\theta\)という速さで、ずっと同じ速さで進みます。壁までの水平距離は\(l\)なので、壁に到達するまでにかかる時間\(t_1\)は、「距離\(l\) ÷ 水平の速さ\(v_0 \cos\theta\)」で求めることができます。
次に、その時間\(t_1\)の間に、ボールがどれくらいの高さまで上がったかを計算します。縦方向(鉛直)の動きは、初めの速さが\(v_0 \sin\theta\)で上に投げ上げられ、重力によってだんだんスピードが遅くなる運動です。時間\(t_1\)後の高さは、鉛直投げ上げの公式を使って計算できます。
時間\(t_1\)は\(\displaystyle\frac{l}{v_0 \cos\theta}\)、高さ\(h\)は\(\displaystyle l \tan\theta – \frac{gl^2}{2v_0^2 \cos^2\theta}\)となります。これらの式は、各物理量の単位を考慮すると、次元的にも正しくなっています。
思考の道筋とポイント
斜方投射の運動方程式から時間\(t\)を消去すると、物体の描く放物線の軌跡を表す式が得られます。この式に、壁の位置である水平座標\(x=l\)を代入することで、そのときの高さ\(y=h\)を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 斜方投射の軌跡の式を導出、または記憶している。
- 軌跡の式が時間を含まない、空間座標だけの関係式であることを理解している。
具体的な解説と立式
時刻\(t\)における小球の位置\((x, y)\)は、
$$ x = (v_0 \cos\theta) t \quad \cdots ③ $$
$$ y = (v_0 \sin\theta) t – \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ④ $$
式③から \(t = \displaystyle\frac{x}{v_0 \cos\theta}\) を導き、これを式④に代入して\(t\)を消去します。
$$ y = (v_0 \sin\theta) \left( \frac{x}{v_0 \cos\theta} \right) – \frac{1}{2}g \left( \frac{x}{v_0 \cos\theta} \right)^2 $$
これが軌跡の式です。壁に衝突する点は、水平座標が\(x=l\)のときなので、この式に\(x=l\)を代入すると、そのときの高さ\(y=h\)が求まります。
使用した物理公式
- 斜方投射の軌跡の式: \(y = x \tan\theta – \displaystyle\frac{g}{2v_0^2 \cos^2\theta}x^2\)
軌跡の式に\(x=l\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
h &= l \tan\theta – \frac{g}{2v_0^2 \cos^2\theta}l^2
\end{aligned}
$$
上記の立式がそのまま計算過程となります。
ボールが飛んでいく道筋(軌跡)は、数学の放物線の式で表すことができます。この式を使えば、「横に\(x\)メートル進んだとき、高さは\(y\)メートルになる」という関係が直接わかります。今回は壁までの横の距離が\(l\)なので、この軌跡の式に\(x=l\)を代入するだけで、壁にぶつかる点の高さ\(h\)を計算できます。時間を求める手間が省ける方法です。
結果は主たる解法と完全に一致します。軌跡の式を知っていれば、時間を経由せずに直接高さを求めることができ、計算が簡潔になる場合があります。
問(2)
思考の道筋とポイント
壁への衝突は一旦考えずに、純粋な斜方投射として小球が最高点Hに達するまでの時間\(t_2\)と、そのときの床からの高さ\(H\)を求めます。最高点では、速度の鉛直成分が一時的に\(0\)になるという条件を使います。
この設問における重要なポイント
- 斜方投射の最高点では、鉛直方向の速度成分が\(0\)になるという重要な条件を理解している。
- 鉛直投げ上げ運動に関する等加速度直線運動の公式を適切に適用する。
具体的な解説と立式
鉛直方向の運動に着目します。初速度は\(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)、加速度は\(-g\)です。
最高点では鉛直方向の速度\(v_y\)が\(0\)になります。
速度と時間の関係式 \(v_y = v_{0y} + a_yt\) より、
$$ 0 = v_0 \sin\theta – gt_2 \quad \cdots ⑤ $$
最高点の高さ\(H\)は、時間を含まない速度と変位の関係式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2a_y y\) を使うと効率的です。
$$ 0^2 – (v_0 \sin\theta)^2 = 2(-g)H \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動(速度): \(v_y = v_{0y} + a_yt\)
- 等加速度直線運動(速度と変位): \(v_y^2 – v_{0y}^2 = 2a_y y\)
式⑤を\(t_2\)について解きます。
$$ gt_2 = v_0 \sin\theta $$
$$ t_2 = \frac{v_0 \sin\theta}{g} $$
式⑥を\(H\)について解きます。
$$ -(v_0 \sin\theta)^2 = -2gH $$
$$ H = \frac{(v_0 \sin\theta)^2}{2g} = \frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g} $$
もし壁がなかった場合、ボールは放物線を描いて飛び、やがて一番高いところ(最高点)に達します。
その最高点に達するまでの時間\(t_2\)を考えます。縦の動きだけを見ると、最高点では縦の速さが一瞬\(0\)になります。この時間は「初めの縦の速さ ÷ 重力加速度」で計算できます。
次に、その最高点の高さ\(H\)を考えます。これも縦の動きの公式から計算できます。
時間\(t_2\)は\(\displaystyle\frac{v_0 \sin\theta}{g}\)、高さ\(H\)は\(\displaystyle\frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g}\)となります。これらは斜方投射における最高点到達時間と最高点の高さの標準的な公式であり、物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
小球が最高点に達する「前」に壁に衝突するということは、壁に衝突するまでの時間\(t_1\)が、もし壁がなかった場合に最高点に達するまでの時間\(t_2\)よりも短い(\(t_1 < t_2\))ということを意味します。この不等式に、問(1)と問(2)で求めた式を代入し、初速\(v_0\)について解きます。
この設問における重要なポイント
- 問題文の物理的な条件を、時間\(t_1\)と\(t_2\)の間の数学的な大小関係(\(t_1 < t_2\))に正しく置き換える。
- \(v_0\)に関する不等式を正確に解き、三角関数の倍角公式を用いて結果を整理する。
具体的な解説と立式
最高点に達する前に壁に衝突するための条件は、\(t_1 < t_2\)です。
問(1)より \(t_1 = \displaystyle\frac{l}{v_0 \cos\theta}\)
問(2)より \(t_2 = \displaystyle\frac{v_0 \sin\theta}{g}\)
したがって、条件式は次のようになります。
$$ \frac{l}{v_0 \cos\theta} < \frac{v_0 \sin\theta}{g} $$
使用した物理公式
- \(t_1\)の式 (問(1)より)
- \(t_2\)の式 (問(2)より)
不等式の両辺に\(g \cdot v_0 \cos\theta\)を掛けます(これらの量はすべて正です)。
$$ lg < v_0^2 \sin\theta \cos\theta $$ \(v_0^2\)について整理すると、 $$ v_0^2 > \frac{lg}{\sin\theta \cos\theta} $$
\(v_0\)は速さなので正ですから、両辺の正の平方根をとって、
$$ v_0 > \sqrt{\frac{lg}{\sin\theta \cos\theta}} $$
ここで、三角関数の倍角の公式 \(2\sin\theta \cos\theta = \sin 2\theta\) を利用すると、\(\sin\theta \cos\theta = \frac{1}{2}\sin 2\theta\)と書けます。これを代入すると、
$$ v_0 > \sqrt{\frac{lg}{\frac{1}{2}\sin 2\theta}} = \sqrt{\frac{2lg}{\sin 2\theta}} $$
ボールが一番高いところに上がる「前」に壁にぶつかるということは、壁にぶつかるまでにかかる時間(\(t_1\))の方が、一番高いところに上がるまでにかかる時間(\(t_2\))よりも短い、ということです。つまり、\(t_1 < t_2\)という関係が成り立てばよいわけです。この不等式に問(1)と問(2)で求めた時間の式を入れて、初速\(v_0\)が満たすべき条件を計算します。
条件は\(v_0 > \sqrt{\displaystyle\frac{2lg}{\sin 2\theta}}\)です。初速\(v_0\)が大きいほど、水平方向に速く進むため、最高点に達する前に壁に到達しやすくなるという直感と一致します。
思考の道筋とポイント
「最高点に達する前に壁に衝突する」という条件は、「壁に衝突する瞬間、小球はまだ上昇中である」ことと同じです。これは、壁に衝突する時刻\(t_1\)における鉛直方向の速度\(v_y(t_1)\)が正である(\(v_y(t_1) > 0\))ことを意味します。この物理的条件から不等式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 時間的な条件を、その瞬間の物理的な状態(速度の正負)に置き換えて考える。
- 鉛直速度の式に、壁への到達時間\(t_1\)を代入して条件式を導く。
具体的な解説と立式
時刻\(t\)における鉛直方向の速度\(v_y(t)\)は、
$$ v_y(t) = v_0 \sin\theta – gt $$
壁に衝突する時刻は\(t_1 = \displaystyle\frac{l}{v_0 \cos\theta}\)です。この時刻に上昇中であるための条件は\(v_y(t_1) > 0\)なので、
$$ v_0 \sin\theta – g \left( \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) > 0 $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動(速度): \(v_y = v_{0y} + a_yt\)
- \(t_1\)の式 (問(1)より)
不等式を整理します。
$$ v_0 \sin\theta > \frac{gl}{v_0 \cos\theta} $$
両辺に\(v_0 \cos\theta\)を掛けると(これらは正)、
$$ v_0^2 \sin\theta \cos\theta > gl $$
これは主たる解法の途中で現れた不等式と全く同じです。以降の計算も同様で、
$$ v_0 > \sqrt{\frac{2lg}{\sin 2\theta}} $$
となります。
ボールが一番高い点に達する前というのは、つまり「まだ上に向かって飛んでいる途中」ということです。壁にぶつかった瞬間に、ボールの縦方向の速度が上向き(つまりプラス)であれば、この条件を満たします。この考え方で不等式を立てて計算しても、同じ答えが得られます。
結果は主たる解法と完全に一致します。時間の大小関係で考えるか、その瞬間の速度の向きで考えるか、という視点の違いであり、どちらも物理的に正しいアプローチです。
問(4)
思考の道筋とポイント
壁ではね返った後の小球の運動を追跡し、最終的に床に落下した地点が壁からどれだけ離れているかを求めます。滑らかな鉛直壁との衝突では鉛直方向の運動は影響を受けないため、投げ上げから床に落ちるまでの全滞空時間は、壁がない場合と同じになります。この性質を利用するのが最も効率的です。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の運動は、壁衝突によっては影響されず、一連の投げ上げ運動として捉えることができる。
- 壁との衝突による水平方向の速度変化(向きの反転と大きさの\(e\)倍)を正しく考慮する。
- 全体の滞空時間から衝突までの時間を引くことで、衝突後の運動時間を求める。
具体的な解説と立式
1. 壁がない場合の全滞空時間\(t_3\):
鉛直投げ上げ運動の対称性から、最高点到達時間\(t_2\)の\(2\)倍になります。
$$ t_3 = 2t_2 = \frac{2v_0 \sin\theta}{g} $$
2. 壁衝突後の床に落ちるまでの時間\(t_{\text{衝突後}}\):
全滞空時間\(t_3\)から、壁に衝突するまでの時間\(t_1\)を引きます。
$$ t_{\text{衝突後}} = t_3 – t_1 = \frac{2v_0 \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_0 \cos\theta} $$
3. 壁ではね返った直後の水平速度\(v’_x\):
衝突直前の水平速度は\(v_0 \cos\theta\)です。衝突後は向きが逆になり、速さが\(e\)倍になるので、壁から離れる向きの速さは、
$$ v’_x = e (v_0 \cos\theta) $$
4. 壁からの落下距離\(L\):
この水平速度\(v’_x\)で時間\(t_{\text{衝突後}}\)だけ等速直線運動をするので、
$$ L = v’_x \times t_{\text{衝突後}} = e (v_0 \cos\theta) \left( \frac{2v_0 \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) $$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げの全滞空時間: \(t_3 = 2t_2\)
- 壁衝突時の水平速度の変化: \(v’_x = e v_x\)
- 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
\(L\)の式を展開します。
$$
\begin{aligned}
L &= e v_0 \cos\theta \cdot \frac{2v_0 \sin\theta}{g} – e v_0 \cos\theta \cdot \frac{l}{v_0 \cos\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2e v_0^2 \sin\theta \cos\theta}{g} – el
\end{aligned}
$$
ここで、\(2\sin\theta \cos\theta = \sin 2\theta\)の倍角公式を用いると、
$$ L = \frac{e v_0^2 \sin 2\theta}{g} – el = e \left( \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l \right) $$
ボールが壁ではね返った後、床のどの地点に落ちるかを考えます。
まず、もし壁が全くなかったとしたら、ボールが飛んでいる時間(全滞空時間)を計算します。これは最高点に達するまでの時間のちょうど2倍です。
次に、実際に壁にぶつかるまでにかかった時間を引けば、壁にぶつかってから床に落ちるまでの時間がわかります。
壁にぶつかると、横方向の速さは、ぶつかる前の速さの\(e\)倍になり、向きが反対になります。
最後に、「はね返り後の横の速さ × 壁衝突後の時間」を計算すれば、壁からの距離が求まります。
落下点は壁から\(e \left( \displaystyle\frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l \right)\)の距離になります。ここで\(\displaystyle\frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g}\)は壁がない場合の水平到達距離\(R\)なので、この結果は\(e(R-l)\)と書けます。これは、壁がなければ壁を越えて進むはずだった距離\(R-l\)に相当する運動が、はね返りによって水平方向の”勢い”が\(e\)倍になって現れた、と解釈でき、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
主たる解法のように鉛直運動の連続性を利用せず、衝突点Bを新たな運動の起点として、そこからの運動をゼロから解析します。計算は煩雑になりますが、物理の基本に忠実なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 衝突点Bの座標\((l, h)\)を新たな運動の初期位置とする。
- 衝突直後の速度ベクトル(水平成分\(v’_x\)、鉛直成分\(v_{By}\))を新たな運動の初速度とする。
- 新たな起点からの運動で、床(\(y=0\))に到達するまでの時間を求め、その時間を使って水平移動距離を計算する。
具体的な解説と立式
1. 衝突点Bでの初期条件:
- 初期位置の高さ: \(y_B = h = l \tan\theta – \displaystyle\frac{gl^2}{2v_0^2 \cos^2\theta}\)
- 初期速度(衝突直後):
- 水平成分: \(v’_x = e v_0 \cos\theta\) (壁から離れる向きを正とする)
- 鉛直成分: \(v_{By} = v_0 \sin\theta – gt_1 = v_0 \sin\theta – g\displaystyle\frac{l}{v_0 \cos\theta}\)
2. 衝突後の運動方程式(壁を\(x=0\)、床を\(y=0\)とする):
衝突後の時刻を\(t’\)とすると、床に落下するとき\(y(t’)=0\)となるので、
$$ 0 = h + v_{By} t’ – \frac{1}{2}g(t’)^2 $$
これは\(t’\)に関する2次方程式です。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式
- 2次方程式の解の公式
まず、床に落下するまでの時間\(t’_{\text{fall}}\)を求めます。2次方程式 \(\frac{1}{2}g(t’)^2 – v_{By} t’ – h = 0\) を解の公式で解くと、\(t’ > 0\)より、
$$ t’_{\text{fall}} = \frac{v_{By} + \sqrt{v_{By}^2 + 2gh}}{g} $$
ここで、根号の中身を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_{By}^2 + 2gh &= \left(v_0 \sin\theta – \frac{gl}{v_0 \cos\theta}\right)^2 + 2g\left(l \tan\theta – \frac{gl^2}{2v_0^2 \cos^2\theta}\right) \\[2.0ex]
&= \left(v_0^2 \sin^2\theta – 2v_0 \sin\theta \frac{gl}{v_0 \cos\theta} + \frac{g^2l^2}{v_0^2 \cos^2\theta}\right) + \left(2gl \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{g^2l^2}{v_0^2 \cos^2\theta}\right) \\[2.0ex]
&= \left(v_0^2 \sin^2\theta – \frac{2gl\sin\theta}{\cos\theta} + \frac{g^2l^2}{v_0^2 \cos^2\theta}\right) + \left(\frac{2gl\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{g^2l^2}{v_0^2 \cos^2\theta}\right) \\[2.0ex]
&= v_0^2 \sin^2\theta
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
t’_{\text{fall}} &= \frac{v_{By} + \sqrt{v_0^2 \sin^2\theta}}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{\left(v_0 \sin\theta – g\frac{l}{v_0 \cos\theta}\right) + v_0 \sin\theta}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0 \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_0 \cos\theta}
\end{aligned}
$$
この時間は、主たる解法で求めた\(t_{\text{衝突後}}\)と完全に一致します。
壁からの落下距離\(L\)は、
$$ L = v’_x \times t’_{\text{fall}} = (e v_0 \cos\theta) \left( \frac{2v_0 \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) $$
この式は主たる解法と全く同じなので、計算結果も同じになります。
$$ L = e \left( \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l \right) $$
別の考え方として、ボールが壁にぶつかった瞬間を「スタート」として、そこからボールがどう飛んでいくかを改めて計算する方法があります。
まず、スタート地点の高さと、スタート時点の速度を正確に求めます。次に、この新しいスタート条件で、ボールが床に落ちるまでにかかる時間を計算します。これは少し複雑な2次方程式を解くことになりますが、計算を進めると驚くほどきれいな形になります。最後に、求めた時間と横向きの速さから、壁からどれだけ離れた場所に落ちるかを計算します。計算は大変ですが、物理の基本に忠実な方法です。
この正攻法は、物理の基本法則を直接適用するものであり、論理的には完全に正しいアプローチです。計算は複雑ですが、最終的に主たる解法と同じ結果にたどり着くことで、両方のアプローチの正しさが確認できます。また、主たる解法がいかに効率的であるかも示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜方投射における運動の独立性:
- 核心: 重力下での投射運動は、互いに影響を与えない2つの単純な運動、すなわち水平方向の「等速直線運動」と鉛直方向の「等加速度直線運動(鉛直投げ上げ)」に分解して考えることができます。両方の運動に共通するパラメータは時間\(t\)のみです。
- 理解のポイント: この原則を適用することで、複雑な2次元の運動を、扱いやすい1次元の運動の組み合わせとして解析できます。水平方向の出来事(壁への到達)と鉛直方向の出来事(最高点到達、落下)を、時間\(t\)という共通の物差しで結びつけることが問題解決の鍵となります。
- 壁との衝突における反発係数\(e\)の適用ルール:
- 核心: 反発係数は、衝突面に「垂直な」速度成分の変化を表す指標です。滑らかな壁との衝突では、以下の2点が重要です。
- 壁に平行な速度成分(本問では鉛直成分)は、衝突の前後で全く変化しません。
- 壁に垂直な速度成分(本問では水平成分)は、衝突後に向きが反転し、速さ(大きさ)が衝突前の\(e\)倍になります。
- 理解のポイント: この法則を正しく適用することが、衝突後の運動を正確に予測する鍵となります。特に、滑らかな鉛直壁との衝突では鉛直方向の運動は全く影響を受けない、という点が問(4)を効率的に解くための重要な洞察に繋がります。
- 核心: 反発係数は、衝突面に「垂直な」速度成分の変化を表す指標です。滑らかな壁との衝突では、以下の2点が重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 床との連続的なバウンド: 床との衝突では、鉛直速度成分が\(e\)倍になり向きが反転し、水平速度成分は(摩擦がなければ)変化しません。
- 角度のついた壁との衝突(ビリヤードなど): 速度ベクトルを、壁に「平行な成分」と「垂直な成分」に分解して考えます。垂直成分にのみ反発係数の法則を適用します。
- 複数の壁との衝突: 各衝突イベントごとに、運動のフェーズを区切り、衝突の法則を順次適用していきます。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動のフェーズを分割する: 「投射開始から衝突まで」「衝突の瞬間」「衝突後から着地まで」のように、物理的なイベントが発生する点で運動を区切って考えます。
- 各フェーズの運動の種類を特定する: 各区間が「等速直線運動」「等加速度直線運動」「自由落下」などのどの運動に該当するかを明確にします。
- 座標軸と原点を適切に設定する: 計算が最も簡単になるように座標系を設定します。多くの場合、投射点を原点とし、水平・鉛直方向に軸を取ると見通しが良くなります。
- 時間以外の関係式(軌跡の式)の利用を検討する: 問(1)の別解のように、時間\(t\)を媒介としない空間座標だけの関係式(軌跡の式)を使うと、計算が簡略化できる場合があります。「ある水平位置に来たときの高さは?」といった問いに対して特に有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反発係数\(e\)の適用方向の誤り:
- 誤解: 壁に平行な速度成分(本問では鉛直成分)にも、誤って反発係数を掛けてしまう。
- 対策: 反発係数は、衝突面に「垂直な」方向の速度成分にのみ作用する、というルールを徹底します。図を描いて、速度ベクトルを面に平行・垂直な成分に分解する習慣をつけると、このミスを防げます。
- 鉛直方向の運動の連続性に関する誤解:
- 誤解: 滑らかな鉛直壁との衝突によって、鉛直方向の運動が中断されたり、リセットされたりすると考えてしまう。
- 対策: 滑らかな壁が及ぼす力(垂直抗力)は壁に垂直な方向(水平方向)のみです。したがって、鉛直方向の運動は壁衝突の影響を全く受けず、一連の投げ上げ運動として連続していると見なせます。この理解が問(4)の効率的な解法に繋がります。
- 物理的条件の数学的表現への置き換えミス:
- 誤解: 「最高点に達する前に衝突する」という条件を、どう数式で表現すればよいか分からなくなる。
- 対策: このような条件は、複数の視点から数式化できます。①時間で比較する(壁への到達時間 \(t_1\) < 最高点到達時間 \(t_2\))、②その瞬間の状態で判断する(壁衝突時の鉛直速度 \(v_y(t_1) > 0\))。両方のアプローチを知っておくと、思考の柔軟性が増します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 水平運動に \(x = v_x t\):
- 選定理由: 水平方向には力がはたらかないため、加速度は\(0\)。したがって、最も単純な「等速直線運動」の公式を選択します。
- 適用根拠: 等速直線運動の定義そのものです。
- 鉛直運動に \(y = v_{0y}t – \frac{1}{2}gt^2\) や \(v_y = v_{0y} – gt\):
- 選定理由: 鉛直方向には常に重力(一定の力)がはたらくため、加速度が一定値\(-g\)の「等加速度直線運動」となります。問題で問われている量(位置か、速度か)と、分かっている量(時間など)に応じて、適切な公式を選択します。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の基本公式に、この状況の初期条件と加速度を代入した形です。
- 時間を含まない関係式 \(v_y^2 – v_{0y}^2 = -2gy\):
- 選定理由: 問(2)の高さ\(H\)を求める際のように、「時間は問われていないが、初速と終速から変位を知りたい」場合に極めて有効です。時間を計算する手間を省き、計算ミスを減らすことができます。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の基本公式から時間を消去して導かれる関係式です。
- 軌跡の式 \(y = x \tan\theta – \dots\):
- 選定理由: 問(1)の別解のように、「時間は問われておらず、水平位置\(x\)と鉛直位置\(y\)の直接的な関係を知りたい」場合に有効です。運動の時間的な経過を追う必要がない場合に強力な道具となります。
- 適用根拠: 水平・鉛直方向の運動方程式から時間\(t\)を消去して得られる、物体の経路そのものを表す式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 鉛直方向の運動を扱う際、上向きを正とするか下向きを正とするかを最初に明確に決め、重力加速度\(g\)や初速度の符号を一貫して適用することが重要です。途中で定義を変えると必ず混乱します。
- 日頃の練習: 問題を解き始める前に、必ず座標軸の図を描き、正の向きを明記する習慣をつけましょう。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: 多くの文字(\(v_0, \theta, l, g, e\))が登場するため、式が長くなりがちです。展開や代入の際に項を書き漏らしたり、符号を間違えたりしないよう、途中式を丁寧に書くことが不可欠です。
- 日頃の練習: 一つの問題を複数の解法で解いてみる。問(4)のように、エレガントな解法と正攻法(計算が煩雑)の両方を実際に計算してみることで、計算力が鍛えられるだけでなく、どの解法が効率的かを見抜く力が養われます。
- 代入のタイミング:
- 特に注意すべき点: 問(4)の別解のように、複雑な式を別の式に代入する際は、計算の見通しが悪くなりがちです。代入する前に各項が相殺されるなど、式が簡単になる可能性がないかを見極める癖をつけると良いでしょう。
- 日頃の練習: 計算の最終段階だけでなく、途中の式が物理的にどのような意味を持つかを考える習慣をつける。例えば、問(4)の別解の計算途中で出てきた\(v_{By}^2 + 2gh = v_0^2 \sin^2\theta\)という関係は、衝突点Bでの力学的エネルギーと床での力学的エネルギーの関係(の一部)を表しており、このような物理的意味を考えることで、計算ミスに気づきやすくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 問(3)の条件 \(v_0 > \sqrt{\dots}\):
- 吟味の視点: 初速\(v_0\)が大きいほど、また壁までの距離\(l\)が短いほど、最高点に達する前に衝突しやすくなる、という直感と一致するか? → 一致する。
- 問(4)の落下距離 \(L = e(\dots)\):
- 吟味の視点:
- 反発係数\(e\)に比例しているか? → している。\(e\)が大きいほど遠くまで飛ぶのは妥当。
- 壁までの距離\(l\)が大きくなるとどうなるか? → \(L\)は小さくなる。壁が遠いと、はね返った後の水平飛行距離が短くなるのは妥当。
- 吟味の視点:
- 問(3)の条件 \(v_0 > \sqrt{\dots}\):
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- 反発係数\(e\)の極端な値を考える:
- \(e=1\) (完全弾性衝突) の場合: \(L = \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l\)。これは、壁がない場合の水平到達距離\(R\)から壁までの距離\(l\)を引いたもの、つまり\(R-l\)に等しい。壁が鏡のように運動を反射させると考えると、物理的に非常に妥当な結果です。
- \(e=0\) (完全非弾性衝突) の場合: \(L=0\)。はね返りの水平速度が\(0\)になるので、壁の真下に落下することになり、これも妥当です。
- 投射角度\(\theta\)の極端な値を考える:
- \(\theta \rightarrow 90^\circ\) (鉛直投げ上げ) の場合: \(\cos\theta \rightarrow 0\) となり、\(t_1 \rightarrow \infty\) となって壁に到達しません(ただし\(l=0\)の場合を除く)。式が物理的な状況を正しく反映していることがわかります。
- 反発係数\(e\)の極端な値を考える:
問題7 (慶應大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な棒におもりをつるし、糸で支えてつり合わせる状況について、力のモーメントのつり合いと力のつり合いの条件を用いて未知の質量や張力を求める、剛体のつり合いに関する典型的な問題です。2つの異なるつり合いの状況(図1と図2)から情報を段階的に得る必要があります。
- 密度と太さが一様な長さ \(1 \, \text{m}\) の棒がある。
- これは、棒の重心が棒の中央(端から \(0.5 \, \text{m}\) の位置)にあることを意味します。
- 図1の状況:
- 棒の一端(右端)に質量 \(2 \, \text{kg}\) のおもりAをつるす。
- 棒の右端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置で糸によりつるしたところ、つりあった。
- 図2の状況:
- 棒のもう一端(左端)に別のおもりBをつるす。おもりAは引き続き右端につるされている。
- おもりBをつるした端(左端)から \(0.4 \, \text{m}\) のところで糸Sによりつるしたところ、つりあった。
- 重力加速度の大きさを \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) とする。
- おもりBの質量 \(m_B\)
- 図2での糸Sの張力 \(T\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 図2の別解: 棒の左端を回転軸として解く方法
- 主たる解法が、まず支点Qまわりのモーメントで質量\(m_B\)を求め、次に力のつり合いで張力\(T\)を求めるのに対し、別解では棒の左端を回転軸とすることで、まずモーメントのつり合いから張力\(T\)を直接求め、その後に力のつり合いから質量\(m_B\)を求めます。
- 図2の別解: 棒の左端を回転軸として解く方法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の多様性の理解: 「回転軸はどこに取ってもよい」というモーメントの原理を具体的に体験でき、問題に応じて最も計算が楽になる軸を戦略的に選ぶ視点が養われます。
- 思考の柔軟性: 模範解答とは異なる手順(先に張力を求め、後から質量を求める)で同じ結論に至ることを確認することで、一つの問題に対するアプローチの多様性を学び、思考の柔軟性を高めることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、「剛体のつり合い」です。物体が静止し続ける(つり合っている)ためには、以下の2つの条件が同時に満たされる必要があります。
- 力のつり合い: 物体に働く全ての力のベクトル和が\(0\)であること。
- 力のモーメントのつり合い: ある任意の点のまわりの力のモーメントの代数和が\(0\)であること。
この問題では、まず図1のつり合い条件から棒の質量を特定し、次にその結果を利用して図2のつり合い条件からおもりBの質量と糸の張力を求めていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 剛体のつり合いの2条件: 「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の両方を適用する必要があります。
- 力のモーメントの計算: モーメントは「力の大きさ × 回転軸から力の作用線までの垂直距離(うでの長さ)」で計算します。
- 重心の概念: 一様な棒の重力は、その中心点(重心)に集中して作用すると考えて計算します。
- 回転軸の任意性: 力のモーメントのつり合いは、どの点を回転軸に選んでも成り立ちます。計算が最も簡単になる点を選ぶのが定石です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、図1の状況について、糸のつり下げ点を回転軸として力のモーメントのつり合いの式を立て、棒の質量\(m\)を求めます。
- 次に、図2の状況について、ステップ1で求めた棒の質量\(m\)を用います。
- 糸のつり下げ点を回転軸として力のモーメントのつり合いの式を立て、おもりBの質量\(m_B\)を求めます。
- 最後に、鉛直方向の力のつり合いの式を立て、糸Sの張力\(T\)を計算します。
この問題は設問番号がありませんが、解くべきステップが明確に2段階に分かれています。まず図1から棒の質量を求め、次にその結果を使って図2の問いに答えます。
ステップ1:棒の質量 \(m\) の決定(図1の解析)
思考の道筋とポイント
図1の状況で棒が静止しているため、力のモーメントがつり合っています。回転の軸(支点)は、糸でつるされている点P(おもりAをつるした右端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置)と考えます。この点を軸にすると、糸の張力のモーメントが \(0\) となり計算が簡略化されます。棒は一様なので、その重心Gは棒の中央にあります。各力のモーメントを計算し、つり合いの式を立てて棒の質量\(m\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のモーメントの定義(力 × うでの長さ)を正しく適用する。
- 一様な棒の重心の位置を正しく特定する(中央)。
- 回転軸を適切に選ぶことで計算を簡略化する。
具体的な解説と立式
棒の長さを\(L_0 = 1 \, \text{m}\)とします。棒の質量を\(m\)とすると、棒の重力\(mg\)が重心G(棒の中央、左端から\(0.5 \, \text{m}\)の位置)に働きます。おもりAの質量は\(m_A = 2 \, \text{kg}\)なので、その重力は\(m_A g = 2g\)です。
支点Pは右端から\(0.4 \, \text{m}\)の位置、つまり左端から\(1.0 \, \text{m} – 0.4 \, \text{m} = 0.6 \, \text{m}\)の位置にあります。
支点Pのまわりの力のモーメントを考えます。
- 棒の重力\(mg\)によるモーメント:
- うでの長さ: \(0.6 \, \text{m} – 0.5 \, \text{m} = 0.1 \, \text{m}\)
- 回転方向: 反時計回り
- おもりAの重力\(2g\)によるモーメント:
- うでの長さ: \(0.4 \, \text{m}\)
- 回転方向: 時計回り
力のモーメントのつり合い(反時計回り = 時計回り)より、
$$ mg \times 0.1 = 2g \times 0.4 $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\)
- 力のモーメントのつり合い: (モーメントの和)= 0
$$ mg \times 0.1 = 2g \times 0.4 $$
両辺から重力加速度\(g\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
m \times 0.1 &= 2 \times 0.4 \\[2.0ex]
0.1m &= 0.8 \\[2.0ex]
m &= 8
\end{aligned}
$$
よって、棒の質量は\(m = 8 \, \text{kg}\)です。
ステップ2:おもりBの質量 \(m_B\) と張力 \(T\) の決定(図2の解析)
思考の道筋とポイント
次に図2の状況を解析します。ステップ1で求めた棒の質量\(m=8 \, \text{kg}\)を利用します。新たな支点Q(左端から\(0.4 \, \text{m}\)の位置)のまわりでの力のモーメントのつり合いから\(m_B\)を求め、その後、棒全体の鉛直方向の力のつり合いから糸Sの張力\(T\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- ステップ1で求めた棒の質量\(m\)の値を正しく使用する。
- 図2における各力の作用点と新たな支点Qからのうでの長さを正確に求める。
- 力のモーメントのつり合いと、鉛直方向の力のつり合いの式をそれぞれ立てる。
具体的な解説と立式
支点Qは、棒の左端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置です。
Qのまわりの力のモーメントを考えます。
- おもりBの重力\(m_B g\)によるモーメント (反時計回り):
- うでの長さ: \(0.4 \, \text{m}\)
- 棒の重力\(mg = 8g\)によるモーメント (時計回り):
- うでの長さ: \(0.5 \, \text{m} – 0.4 \, \text{m} = 0.1 \, \text{m}\)
- おもりAの重力\(m_A g = 2g\)によるモーメント (時計回り):
- うでの長さ: \(1.0 \, \text{m} – 0.4 \, \text{m} = 0.6 \, \text{m}\)
力のモーメントのつり合いより、
$$ m_B g \times 0.4 = 8g \times 0.1 + 2g \times 0.6 \quad \cdots ① $$
次に、鉛直方向の力のつり合いを考えます。
上向きの力は張力\(T\)、下向きの力は3つの重力の和です。
$$ T = m_B g + mg + m_A g \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつり合い: (モーメントの和)= 0
- 力のつり合い: (鉛直方向の力の和)= 0
まず、式①から質量\(m_B\)を求めます。両辺の\(g\)を消去して、
$$
\begin{aligned}
m_B \times 0.4 &= 8 \times 0.1 + 2 \times 0.6 \\[2.0ex]
0.4 m_B &= 0.8 + 1.2 \\[2.0ex]
0.4 m_B &= 2.0 \\[2.0ex]
m_B &= 5
\end{aligned}
$$
よっておもりBの質量は\(m_B = 5 \, \text{kg}\)です。
次に、式②から張力\(T\)を求めます。\(m_B=5, m=8, m_A=2\)を代入して、
$$
\begin{aligned}
T &= (5 + 8 + 2)g \\[2.0ex]
&= 15g
\end{aligned}
$$
\(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T &= 15 \times 9.8 \\[2.0ex]
&= 147
\end{aligned}
$$
よって張力は\(T = 147 \, \text{N}\)です。
図1のてこ(シーソー)のつり合いから、棒の重さが\(8 \, \text{kg}\)であることがわかりました。
次に図2の状況を考えます。これも、糸で吊るした点を支点とするてこと考えられます。左側のおもりBが棒を反時計回りに回そうとする効果と、棒自身の重さとおもりAが時計回りに回そうとする効果が釣り合っています。このつり合いの式を解くと、おもりBの質量が\(5 \, \text{kg}\)だとわかります。
最後に、糸がどれだけの力で引っ張っているかを考えます。糸は、棒とおもりA、おもりBの全ての重さを支えているので、上向きの張力は、下向きにかかる3つの重力の合計と等しくなります。全体の質量は\(5+8+2=15 \, \text{kg}\)なので、張力は\(15 \times 9.8 = 147 \, \text{N}\)となります。
おもりBの質量は\(5 \, \text{kg}\)、図2での糸Sの張力は\(147 \, \text{N}\)です。張力\(T\)は、棒、おもりA、おもりBの全質量にかかる重力の合計と等しくなっており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
力のモーメントのつり合いは、どの点を回転軸に選んでも成り立ちます。そこで、図2において棒の左端を回転軸としてみます。この場合、おもりBの重力によるモーメントが\(0\)になるため、モーメントのつり合いの式には未知数である張力\(T\)のみが含まれることになります。これにより、先に張力\(T\)を求め、その後に力のつり合いの式から質量\(m_B\)を求める、という模範解答とは逆の手順で解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 「回転軸はどこに取ってもよい」という原理を応用する。
- 未知の力が作用する点を回転軸に選ぶと、その力のモーメントが\(0\)になり、式が簡単になる場合がある。
具体的な解説と立式
棒の左端を回転軸とします。
- おもりBの重力\(m_B g\)によるモーメント: うでの長さが\(0\)なので、\(0\)。
- 糸Sの張力\(T\)によるモーメント (反時計回り):
- うでの長さ: \(0.4 \, \text{m}\)
- 棒の重力\(mg = 8g\)によるモーメント (時計回り):
- うでの長さ: \(0.5 \, \text{m}\)
- おもりAの重力\(m_A g = 2g\)によるモーメント (時計回り):
- うでの長さ: \(1.0 \, \text{m}\)
力のモーメントのつり合いより、
$$ T \times 0.4 = 8g \times 0.5 + 2g \times 1.0 \quad \cdots ③ $$
また、鉛直方向の力のつり合いの式は主たる解法と同じです。
$$ T = m_B g + 8g + 2g \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつり合い: (モーメントの和)= 0
- 力のつり合い: (鉛直方向の力の和)= 0
まず、式③から張力\(T\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
T \times 0.4 &= 4g + 2g \\[2.0ex]
0.4T &= 6g \\[2.0ex]
T &= \frac{6g}{0.4} = 15g
\end{aligned}
$$
\(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\)を代入すると、
$$ T = 15 \times 9.8 = 147 $$
よって張力は\(T = 147 \, \text{N}\)です。
次に、この結果を式④に代入して質量\(m_B\)を求めます。
$$ 15g = m_B g + 8g + 2g $$
$$ 15g = (m_B + 10)g $$
両辺から\(g\)を消去して、
$$
\begin{aligned}
15 &= m_B + 10 \\[2.0ex]
m_B &= 5
\end{aligned}
$$
よっておもりBの質量は\(m_B = 5 \, \text{kg}\)です。
てこの支点は、どこに設定して考えても構いません。試しに、棒の左端を支点としてみましょう。この場合、おもりBは支点の真上にあるので、棒を回そうとする効果(モーメント)はゼロになります。
すると、糸が棒を上に持ち上げて回そうとする反時計回りの効果と、棒自身の重さとおもりAが下に引っ張って回そうとする時計回りの効果が釣り合うことになります。このつり合いの式を解くと、先に糸の張力\(T\)が\(147 \, \text{N}\)だと計算できます。
張力がわかったので、次に力のつり合い(上向きの力=下向きの力の合計)を考えます。上向きの力は張力\(147 \, \text{N}\)で、下向きの力はおもりB、棒、おもりAの重さの合計です。この式から、おもりBの質量が\(5 \, \text{kg}\)であることがわかります。
主たる解法と全く同じ答えが得られました。このことから、回転軸をどこに選んでも物理法則は正しく成り立ち、問題によっては軸の選び方で計算の順番や手間が変わることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合いの二大条件:
- 核心: 物体が静止状態を維持し続けるためには、並進運動と回転運動の両方に関する2つの条件を同時に満たす必要があります。
- 力のつり合い: 物体に作用する全ての力のベクトル和がゼロであること (\(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\))。
- 力のモーメントのつり合い: ある任意の回転軸のまわりでの、物体に作用する全ての力のモーメントの代数和がゼロであること((モーメントの和)= 0)。
- 理解のポイント: この問題のように未知数が複数ある場合、モーメントのつり合いの式と力のつり合いの式を連立させることで解が得られます。どちらか一方だけでは解けないことが多いです。
- 核心: 物体が静止状態を維持し続けるためには、並進運動と回転運動の両方に関する2つの条件を同時に満たす必要があります。
- 力のモーメントの計算と回転軸の任意性:
- 核心: 力のモーメントは「力 × うでの長さ」で計算され、物体を回転させようとする能力を表します。そして、そのつり合いは「どの点を回転軸として選んでも」成り立ちます。
- 理解のポイント: この「回転軸の任意性」を理解することが、問題を戦略的に解く鍵となります。別解で示したように、未知の力が作用する点を回転軸に選ぶと、その力のモーメントが\(0\)になり、立式や計算が大幅に簡略化されることがよくあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- シーソーのつり合い: 異なる位置に異なる質量の人が乗る場合など。
- 壁に立てかけられたはしごのつり合い: 壁からの垂直抗力や床・壁からの摩擦力も考慮に入れる必要がありますが、原理は同じです。
- 複数の支持点で支えられた橋や梁の問題: 各支持点が及ぼす力を未知数として、モーメントと力のつり合いから求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 作用する力を全て図示する: 対象物体に働く全ての力(重力、垂直抗力、張力、摩擦力など)を、作用点と向きを明確にして漏れなく描き込みます。特に、物体の重力はその重心に作用するものとして図示します。
- 回転軸(支点)を戦略的に選定する: 計算を最も簡単にする軸はどこかを考えます。定石は「未知の力が最も多く作用する点」や「力の作用点が集中している点」です。本問の主たる解法では支点を、別解では棒の端を軸に選びましたが、どちらも有効な戦略です。
- 未知数の数と立てられる式の数を確認する: 剛体のつり合いでは、通常、水平方向の力のつり合い、鉛直方向の力のつり合い、モーメントのつり合いの3つの独立した式を立てられます。未知数が3つまでなら、原理的に解けるはずだと見通しを立てることができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の図示漏れ(特に剛体自身の重力):
- 誤解: 棒やおもりの重さだけを考え、棒自身の重さを考慮に入れるのを忘れてしまう。
- 対策: 物体に働く力を図示する際に、「①重力、②触れているものから受ける力」という順番で、機械的に力をリストアップする習慣をつけましょう。一様な棒なら、重力は必ずその中心点に作用します。
- 「うでの長さ」の計算ミス:
- 誤解: 回転軸から力の作用点までの距離を、単純に問題文の数値を足したり引いたりして間違える。
- 対策: 必ず図を描き、棒の全長、重心の位置、支点の位置を数直線のように書き込みましょう。そして、各点間の距離を慎重に計算します。例えば、図1の支点Pと重心Gの距離は、\(P_{\text{位置}} – G_{\text{位置}} = 0.6 \, \text{m} – 0.5 \, \text{m} = 0.1 \, \text{m}\) のように、座標の差として計算すると間違いが減ります。
- 力のモーメントの回転方向の混同:
- 誤解: 時計回りと反時計回りを混同し、式の符号を間違える。
- 対策: 式を立てる前に、「反時計回りを正とする」など、自分で符号のルールを決め、それをメモしておきましょう。そして、各力が棒をどちらに回そうとするかを、支点にペン先を置いて棒を回すイメージで一つ一つ確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- (モーメントの和)= 0 (力のモーメントのつり合いの式):
- 選定理由: 物体(棒)が「回転せずに」静止しているという条件を数式で表現するため。棒におもりをぶら下げると回転する可能性があるため、この条件は必須です。
- 適用根拠: 物体が回転平衡の状態にあるための物理的な必要条件です。
- \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\) (力のつり合いの式):
- 選定理由: 物体(棒)が「上下に動かずに」静止しているという条件を数式で表現するため。特に、支点が及ぼす力(張力や垂直抗力)を求める際に必要となります。
- 適用根拠: 物体が並進平衡の状態にあるための物理的な必要条件です。
- \(W = mg\) (重力の大きさの式):
- 選定理由: 質量が与えられた物体(棒やおもり)が及ぼす「力」の大きさを計算するため。モーメントや力のつり合いで扱うのは「力」なので、質量を力に変換する必要があります。
- 適用根拠: 質量\(m\)の物体が受ける重力の大きさの定義です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 特に注意すべき点:
- うでの長さの計算: この問題の計算ミスのほとんどは、うでの長さの計算間違いに起因します。図1では支点Pが右端から\(0.4 \, \text{m}\)、図2では支点Qが左端から\(0.4 \, \text{m}\)と、基準点が異なるため特に注意が必要です。必ず図に長さを書き込み、視覚的に確認しながら計算しましょう。
- 数値計算の順序: \(g=9.8\)の代入は、文字式の整理がすべて終わった最後の段階で行うのが鉄則です。途中で代入すると、式が複雑になり計算ミスを誘発します。モーメントの式では\(g\)が両辺から消去できることも多く、計算の手間を省けます。
- 日頃の練習:
- 簡単なシーソーの問題で、回転軸をわざと端や重心など、いろいろな場所にとって計算練習をする。どの軸で計算しても同じ答えになることを体験すると、「回転軸の任意性」への理解が深まり、最も楽な軸を選ぶ応用力が身につきます。
- 計算過程を声に出して説明しながら解く。「この力は時計回りだからマイナスで、うでの長さは0.5引く0.4で0.1だから…」のように、自分の思考プロセスを言語化することで、間違いに気づきやすくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 棒の質量\(m=8 \, \text{kg}\): 図1を見ると、支点は棒の中央より右にあります。おもりA(\(2 \, \text{kg}\))が右端にあるので、それとつり合うためには、棒の重心(重さ)が支点の左側にある必要があります。これは前提と一致します。また、おもりAより棒の方が重いという結果も、支点の位置関係から妥当に思えます。
- 張力\(T=147 \, \text{N}\): これは、全質量\(15 \, \text{kg}\)にかかる重力\(15g\)と等しいです。糸が全ての物体の重さを支えているので、力のつり合いの観点から完全に正しいです。この確認は、モーメントの計算と力のつり合いの計算の両方が正しかったことを示す強力な検算になります。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もしおもりAとBが同じ質量だったら、どこでつり合うか?: もし\(m_A=m_B\)なら、棒の重心(中央)でつり合うはずです。今回の結果\(m_B=5 \, \text{kg}\), \(m_A=2 \, \text{kg}\)で、支点が中央(\(0.5 \, \text{m}\))より左(\(0.4 \, \text{m}\))にずれているのは、重いおもりB側に支点を寄せないとつり合わないということであり、直感と一致します。
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問題8 (センター試験 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、台の上に置かれた一様な棒の一端または他端をばねで鉛直上方に引っ張ったときに、棒が台の端から離れる瞬間の力のつり合い、特に力のモーメントのつり合いを考察する問題です。棒が台から離れる「瞬間」に、どの点が新たな回転軸(支点)となるかを正確に捉えることが重要になります。
- 長さ \(L\) の一様な棒ABがある。
- これは、棒の重心Gが棒の中央(各端から \(L/2\) の位置)にあることを意味します。
- 初期状態: A端から長さ \(l\) の点Pが台の端に当たっている。
- 状況1:
- A端にばね定数 \(k\) のばねをつけて鉛直上方に引っ張る。
- ばねが \(\alpha\) だけ伸びたとき、点Pが台の端を離れた。
- 状況2:
- ばねをB端につけかえて鉛直上方に引っ張る。
- ばねが \(b\) だけ伸びたときにB端が台から離れた。
- 棒は台に対してすべらない。
- 重力加速度を \(g\) とする。
- 条件: \(l < L/2\)
- (1) 棒の質量 \(m\) と、点Pが離れるときの垂直抗力 \(N\)
- (2) ばねの伸び \(b\) は、\(\alpha\) の何倍か
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 質量\(m\)の別解: A点を回転軸として力のつり合いと連立する解法
- 主たる解法がB点を回転軸としてモーメントの式だけで質量を求めるのに対し、別解ではA点を回転軸としたモーメントの式と、鉛直方向の力のつり合いの式を連立させて解きます。
- 問(2) \(b/\alpha\)の比の別解: B点を回転軸として力のつり合いと連立する解法
- 主たる解法がP点を回転軸としてモーメントの式だけで関係を導くのに対し、別解ではB点を回転軸としたモーメントの式と、力のつり合いの式を連立させて解きます。
- 問(1) 質量\(m\)の別解: A点を回転軸として力のつり合いと連立する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 解法の選択肢の学習: 「どの点を回転軸に取るか」で、解法の手順(モーメントの式だけで解けるか、連立方程式になるか)が変わることを具体的に体験できます。
- 物理モデルの深化: 未知数が複数ある場合、モーメントのつり合いと力のつり合いという2つの独立した条件式を連立させて解く、という剛体のつり合い問題の基本的な解法構造への理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、「剛体のつり合い」です。特に、棒が台から離れる「瞬間」に、どの点が新たな回転軸(支点)となるかを正確に捉えることが重要になります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 剛体のつり合いの2条件: 物体が静止するためには、「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の2つを同時に満たす必要があります。
- 力のモーメント: 物体を回転させようとする能力のことで、「力 × うでの長さ」で計算します。
- 重心: 一様な棒の重力は、その中心点(重心)にまとめて作用すると考えて計算します。
- フックの法則: ばねの力は、ばねの伸びに比例します (\(F=kx\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、「点Pが離れる瞬間」の状況を考えます。このとき、棒はB端を支点として回転し始めると考え、B点のまわりの力のモーメントのつり合いから棒の質量\(m\)を求めます。次に、鉛直方向の力のつり合いから垂直抗力\(N\)を求めます。
- 問(2)では、「B端が離れる瞬間」の状況を考えます。このとき、棒はP点を支点として回転し始めると考え、P点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます。
- 問(1)で求めた質量の関係式を利用して、ばねの伸び\(b\)と\(\alpha\)の関係を導き、その比を求めます。