問題6 (宮崎大 + 神奈川工大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、床から斜め上方に投げ上げられた小球が、途中で鉛直な壁に衝突し、はね返ってさらに運動を続けるという、複数の物理現象が組み合わさった状況を扱います。「斜方投射」の基本的な解析(水平方向と鉛直方向の運動の独立性)と、「壁との衝突」における反発係数の正しい適用がポイントとなります。各運動フェーズと衝突の瞬間を丁寧に追っていくことが重要です。
- 小球は、水平な床面上の点Aから、壁に向かって初速 \(v_{\text{初}}\)、仰角 \(\theta\) で投げ上げられる。
- 点Aから水平距離 \(l\) の位置に鉛直な壁があり、小球は壁面上の点Bで衝突する。
- 壁は滑らかである(衝突時に壁に平行な方向の速度成分は変化しないことを意味します)。
- 壁との衝突の際の反発係数は \(e\)。
- 重力加速度の大きさを \(g\) とする。
- 座標軸の取り方の指定は明示的ではないが、慣例に従い、水平右向きを \(x\) 軸正、鉛直上向きを \(y\) 軸正として解説を進める。
- 小球が投げられてから壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) と、衝突点Bの床からの高さ \(h\)。
- 小球が投げられてから(壁衝突を無視した場合の)最高点Hに達するまでの時間 \(t_2\) と、その最高点Hの床からの高さ \(H\)。
- 小球が最高点に達する「前」に壁に衝突するために、初速 \(v_{\text{初}}\) が満たすべき条件。
- はね返った小球が最終的に床上に落ちた点と、壁との間の水平距離。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、「斜方投射」と「壁との斜め衝突」という2つの重要な物理現象を組み合わせたものです。それぞれの現象における基本的な法則を理解し、適用していくことが求められます。
- 斜方投射: 小球の初速度 \(v_{\text{初}}\) を水平成分 \(v_{\text{初}x} = v_{\text{初}} \cos\theta\) と鉛直成分 \(v_{\text{初}y} = v_{\text{初}} \sin\theta\) に分解して考えます。
- 水平方向: 空気抵抗を無視すれば、初速度の水平成分 \(v_{\text{初}x}\) を保ったままの「等速直線運動」をします。
- 鉛直方向: 初速度の鉛直成分 \(v_{\text{初}y}\) による「鉛直投げ上げ運動」(重力下での等加速度直線運動)をします。加速度は鉛直下向きに \(g\) です。
これら水平方向と鉛直方向の運動は、互いに影響を与えずに独立しているとして扱うことができます。
- 壁との衝突(反発係数 \(e\)):
- 壁に平行な方向の速度成分(この問題では鉛直成分): 滑らかな壁との衝突では変化しません。
- 壁に垂直な方向の速度成分(この問題では水平成分): 衝突直前の速さの大きさを \(|v_x|\) とすると、衝突直後の速さの大きさは \(e|v_x|\) となり、向きは衝突前と逆向き(壁から離れる向き)になります。
これらの基本原理をしっかりと押さえて、運動の各段階を丁寧に解析していきましょう。
まず、初速度 \(v_{\text{初}}\) を水平成分と鉛直成分に分解しておきます。
- 水平成分: \(v_{\text{初}x} = v_{\text{初}} \cos\theta\) (右向きを正とする)
- 鉛直成分: \(v_{\text{初}y} = v_{\text{初}} \sin\theta\) (上向きを正とする)
鉛直方向の加速度は、上向きを正とすると \(a_y = -g\) となります。
問1:AからB(壁衝突)までの時間 \(t_1\) と衝突点Bの高さ \(h\)
思考の道筋とポイント
小球が点Aから投げられて壁上の点Bに衝突するまでの運動を考えます。
- 時間 \(t_1\): 水平方向の運動に着目します。点Aから壁までの水平距離は \(l\) です。小球は水平方向には速度 \(v_{\text{初}x} = v_{\text{初}} \cos\theta\) で等速直線運動をするため、「距離 = 速さ × 時間」の関係から \(t_1\) を求めます。
- 高さ \(h\): 鉛直方向の運動に着目します。小球は鉛直方向には初速度 \(v_{\text{初}y} = v_{\text{初}} \sin\theta\) で鉛直投げ上げ運動をします。時間 \(t_1\) が経過した後の鉛直方向の変位(床からの高さ)\(h\) を、等加速度直線運動の公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) を用いて求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動を水平方向と鉛直方向に分けて考える「運動の独立性」の原則を適用する。
- 水平方向は等速直線運動、鉛直方向は鉛直投げ上げ(等加速度直線運動)として、それぞれの運動に適した公式を用いる。
- 水平方向と鉛直方向の運動に共通するパラメータが時間 \(t_1\) であることを利用する。
具体的な解説と立式
- 壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) の計算:水平方向の移動距離は \(l\)、水平方向の速度は一定で \(v_{\text{初}} \cos\theta\)。したがって、「距離 = 速さ × 時間」より、$$ l = (v_{\text{初}} \cos\theta) t_1 $$これを \(t_1\) について解くと、$$ t_1 = \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta} $$
- 衝突点Bの床からの高さ \(h\) の計算:鉛直方向の初速度は \(v_{\text{初}} \sin\theta\)、加速度は \(-g\)(上向きを正とした場合)。時間 \(t_1\) 後の鉛直方向の変位(高さ)\(h\) は、等加速度直線運動の公式 \(y = v_{\text{初}y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\) より、$$ h = (v_{\text{初}} \sin\theta) t_1 + \frac{1}{2}(-g)t_1^2 $$上で求めた \(t_1 = \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\) を代入します。$$ h = (v_{\text{初}} \sin\theta) \left(\frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\right) – \frac{1}{2}g \left(\frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\right)^2 $$整理すると、
$$ h = l \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{gl^2}{2v_{\text{初}}^2 \cos^2\theta} $$
ここで、\(\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \tan\theta\) なので、
$$ h = l \tan\theta – \frac{gl^2}{2v_{\text{初}}^2 \cos^2\theta} $$
使用した物理公式
- 等速直線運動(水平方向): \(x = v_x t\)
- 等加速度直線運動(鉛直方向、変位と時間): \(y = v_{\text{初}y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\)
上記の立式がそのまま計算過程となります。特に \(h\) の計算では、\(t_1\) の代入と三角関数の整理が含まれます。
小球が壁に当たるまでの時間をまず考えます。横方向(水平)には、小球は最初 \(v_{\text{初}} \cos\theta\) という速さで、ずっと同じ速さで進みます。壁までの水平距離は \(l\) なので、壁に到達するまでにかかる時間 \(t_1\) は、「距離 \(l\) ÷ 水平の速さ \(v_{\text{初}} \cos\theta\)」で求めることができます。
次に、その時間 \(t_1\) の間に、ボールがどれくらいの高さまで上がったか(つまり壁の衝突点Bの高さ \(h\))を計算します。縦方向(鉛直)の動きは、初めの速さが \(v_{\text{初}} \sin\theta\) で上に投げ上げられ、重力によってだんだんスピードが遅くなる(あるいは下向きに速くなる)運動です。時間 \(t_1\) 後の高さは、鉛直投げ上げの公式 \(h = (\text{初めの縦の速さ}) \times t_1 – \frac{1}{2} \times (\text{重力加速度}) \times t_1^2\) を使って計算できます。
小球が投げられてから壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) は \(\displaystyle \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\)、衝突した点Bの床からの高さ \(h\) は \(\displaystyle l \tan\theta – \frac{gl^2}{2v_{\text{初}}^2 \cos^2\theta}\) です。これらの式は、各物理量の単位(時間、長さ、速度、加速度)を考慮すると、次元的にも正しくなっています。
問2:Aから最高点Hまでの時間 \(t_2\) と最高点Hの高さ \(H\)
思考の道筋とポイント
ここでは、壁への衝突は一旦考えずに、純粋な斜方投射として小球が最高点Hに達するまでの時間 \(t_2\) と、そのときの床からの高さ \(H\) を求めます。
- 最高点到達時間 \(t_2\): 最高点では、速度の鉛直成分が一時的に \(0\) になります。鉛直方向の運動(初速度 \(v_{\text{初}y} = v_{\text{初}} \sin\theta\)、加速度 \(-g\))に着目し、公式 \(v_y = v_{\text{初}y} + a_yt\) から \(t_2\) を求めます。
- 最高点の高さ \(H\): 同様に鉛直方向の運動について、時間を含まない公式 \(v_y^2 – v_{\text{初}y}^2 = 2a_yH\) を用いるか、または求めた時間 \(t_2\) を用いて公式 \(H = v_{\text{初}y}t_2 + \frac{1}{2}a_yt_2^2\) から \(H\) を求めます。模範解答では前者(時間を含まない公式)を使用しています。
この設問における重要なポイント
- 斜方投射の最高点では、鉛直方向の速度成分が \(0\) になるという重要な条件を理解している。
- 水平方向の速度成分は最高点でも変化しないが、この設問の計算には直接的には用いない。
- 鉛直投げ上げ運動に関する等加速度直線運動の公式を適切に適用する。
具体的な解説と立式
- 最高点に達するまでの時間 \(t_2\):鉛直方向の初速度は \(v_{\text{初}} \sin\theta\)。最高点での鉛直方向の速度は \(0\)。鉛直方向の加速度は \(-g\)。公式 \(v_y = v_{\text{初}y} + a_yt\) より、$$ 0 = (v_{\text{初}} \sin\theta) + (-g)t_2 $$これを \(t_2\) について解くと、$$ gt_2 = v_{\text{初}} \sin\theta $$$$ t_2 = \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g} $$
- 最高点の床からの高さ \(H\):鉛直方向の初速度は \(v_{\text{初}} \sin\theta\)、最高点での鉛直方向の速度は \(0\)、加速度は \(-g\)、鉛直方向の変位(高さ)は \(H\)。公式 \(v_y^2 – v_{\text{初}y}^2 = 2a_yH\) より、$$ 0^2 – (v_{\text{初}} \sin\theta)^2 = 2(-g)H $$$$ -(v_{\text{初}} \sin\theta)^2 = -2gH $$これを \(H\) について解くと、$$ H = \frac{(v_{\text{初}} \sin\theta)^2}{2g} = \frac{v_{\text{初}}^2 \sin^2\theta}{2g} $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動(鉛直方向、速度と時間): \(v_y = v_{\text{初}y} + a_yt\)
- 等加速度直線運動(鉛直方向、速度と変位): \(v_y^2 – v_{\text{初}y}^2 = 2a_yH\)
上記の立式がそのまま計算過程となります。
もし壁がなかった場合、ボールは放物線を描いて飛び、やがて一番高いところ(最高点)に達します。
その最高点に達するまでの時間 \(t_2\) を考えます。縦の動きだけを見ると、初めの縦の速さ \(v_{\text{初}} \sin\theta\) で上に打ち上げられ、重力でだんだん遅くなり、最高点では縦の速さが一瞬 \(0\) になります。この時間は「初めの縦の速さ ÷ 重力加速度」で計算でき、\(t_2 = \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\) となります。
次に、その最高点の高さ \(H\) を考えます。これは「(初めの縦の速さ)\(^2\) ÷ (2 × 重力加速度)」で計算でき、\(H = \frac{(v_{\text{初}} \sin\theta)^2}{2g}\) となります。
小球が投げられてから最高点Hに達するまでの時間 \(t_2\) は \(\displaystyle \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\)、最高点Hの床からの高さ \(H\) は \(\displaystyle \frac{v_{\text{初}}^2 \sin^2\theta}{2g}\) です。これらは斜方投射における最高点到達時間と最高点の高さの標準的な公式であり、物理的に妥当です。
問3:最高点に達する前に壁に衝突するために \(v_{\text{初}}\) が満たすべき条件
思考の道筋とポイント
小球が最高点に達する「前」に壁に衝突するということは、壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) が、もし壁がなかった場合に最高点に達するまでの時間 \(t_2\) よりも短い (\(t_1 < t_2\)) ということを意味します。この不等式に、問1で求めた \(t_1\) の式と問2で求めた \(t_2\) の式を代入し、初速 \(v_{\text{初}}\) について解くことで条件を導きます。
この設問における重要なポイント
- 問題文の物理的な条件「最高点に達する前に壁に衝突する」を、時間 \(t_1\) と \(t_2\) の間の数学的な大小関係 (\(t_1 < t_2\)) に正しく置き換えて考察する。
- 導出した \(t_1\) と \(t_2\) の式を代入し、\(v_{\text{初}}\) に関する不等式を正確に解く。
- 三角関数の性質(倍角公式など)を適切に用いて結果を整理する。
具体的な解説と立式
最高点に達する前に壁に衝突するための条件は、壁に衝突するまでの時間 \(t_1\) が、最高点に到達するまでの時間 \(t_2\) よりも短いこと、すなわち \(t_1 < t_2\) です。
問1より \(t_1 = \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\)
問2より \(t_2 = \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\)
したがって、条件式は次のようになります。
$$ \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta} < \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g} $$
使用した物理公式
- \(t_1\) の式 (問1より)
- \(t_2\) の式 (問2より)
$$ \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta} < \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g} $$
分母を払うために、両辺に \(g \cdot v_{\text{初}} \cos\theta\) を掛けます(これらの量はすべて正であると仮定します)。
$$ lg < v_{\text{初}}^2 \sin\theta \cos\theta $$ \(v_{\text{初}}^2\) について整理すると、 $$ v_{\text{初}}^2 > \frac{lg}{\sin\theta \cos\theta} $$
\(v_{\text{初}}\) は速さなので正ですから、両辺の正の平方根をとって、
$$ v_{\text{初}} > \sqrt{\frac{lg}{\sin\theta \cos\theta}} $$
ここで、三角関数の倍角の公式 \(2\sin\theta \cos\theta = \sin 2\theta\) を利用すると、\(\sin\theta \cos\theta = \frac{1}{2}\sin 2\theta\) と書けます。これを代入すると、
$$ v_{\text{初}} > \sqrt{\frac{lg}{\frac{1}{2}\sin 2\theta}} = \sqrt{\frac{2lg}{\sin 2\theta}} $$
ボールが一番高いところに上がる「前」に壁にぶつかるということは、壁にぶつかるまでにかかる時間 (\(t_1\)) の方が、もし壁がなかった場合に一番高いところに上がるまでにかかる時間 (\(t_2\)) よりも短い、ということです。つまり、\(t_1 < t_2\) という関係が成り立てばよいわけです。
問1で求めた \(t_1 = \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\) と、問2で求めた \(t_2 = \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\) をこの不等式 \(t_1 < t_2\) に入れて、初速 \(v_{\text{初}}\) がどのような条件を満たせばよいかを計算します。
最高点に達する前に壁に衝突するために \(v_{\text{初}}\) が満たすべき条件は \(\displaystyle v_{\text{初}} > \sqrt{\frac{2lg}{\sin 2\theta}}\) です。
この条件は、初速 \(v_{\text{初}}\) がある一定の値よりも大きい場合に、小球がより速く水平距離 \(l\) を進み、その結果として鉛直方向の運動で最高点に達する前に壁に到達することを示唆しており、物理的な直観とも一致します。また、\(\sin 2\theta\) が分母にあるため、投射角度 \(\theta\) によっても条件が変わることがわかります(\(\sin 2\theta\) が最大となるのは \(2\theta = 90^\circ\)、つまり \(\theta = 45^\circ\) のときです)。
問4:はね返った小球が床上に落ちた点は、壁からどれだけ離れた距離にあるか
思考の道筋とポイント
この設問では、壁ではね返った後の小球の運動を追跡し、最終的に床に落下した地点が壁からどれだけ離れているかを求めます。模範解答のアプローチが効率的です。
- 全体の滞空時間 \(t_3\): まず、もし壁がなかった場合に、小球が点Aから投げ上げられて再び床(高さ \(0\))に落ちるまでの全滞空時間 \(t_3\) を求めます。鉛直投げ上げ運動の対称性から、これは最高点に達するまでの時間 \(t_2\) の2倍、すなわち \(t_3 = 2t_2 = 2 \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\) となります。
- 壁衝突後の運動時間 \(t_{\text{衝突後}}\): 壁に衝突するまでの時間は \(t_1\) なので、壁に衝突してから床に落ちるまでの時間は \(t_{\text{衝突後}} = t_3 – t_1\) となります。
- 壁ではね返った直後の水平速度 \(v’_{x}\): 衝突直前の水平速度は \(v_{\text{初}} \cos\theta\) (壁に向かう向き) でした。衝突直後は向きが逆(壁から離れる向き)になり、大きさが反発係数 \(e\) 倍になるので、\(v’_{x} = e (v_{\text{初}} \cos\theta)\) となります。
- 壁からの水平距離 \(L_{CD}\): このはね返り後の水平速度 \(v’_{x}\) で、時間 \(t_{\text{衝突後}}\) だけ等速直線運動をするので、壁からの距離は \(L_{CD} = v’_{x} \times t_{\text{衝突後}}\) で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 壁との衝突による水平方向の速度変化(向きの反転と大きさの \(e\) 倍)を正しく考慮する。
- 鉛直方向の運動は、壁衝突(滑らかな鉛直壁)によっては影響されず、投げ上げから床への落下までの全体の運動として捉えることができる。
- 衝突後の運動の初期条件(衝突点Bの位置と、はね返り直後の速度)を正確に設定し、そこからの運動を解析する。模範解答のように、全体の滞空時間を利用するアプローチは、衝突後の鉛直運動を別途解く手間を省くことができる。
具体的な解説と立式
- 壁がない場合の全滞空時間 \(t_3\):鉛直方向の運動は、初速 \(v_{\text{初}} \sin\theta\) の鉛直投げ上げです。床から投げて床に戻るまでの時間は、最高点到達時間 \(t_2\) の2倍です。$$ t_3 = 2t_2 = 2 \times \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g} = \frac{2v_{\text{初}} \sin\theta}{g} $$
- 壁衝突後の床に落ちるまでの時間 \(t_{\text{衝突後}}\):壁に衝突するまでの時間は \(t_1 = \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta}\) でした。したがって、壁に衝突してから床に落ちるまでの時間は、$$ t_{\text{衝突後}} = t_3 – t_1 = \frac{2v_{\text{初}} \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta} $$
- 壁ではね返った直後の水平速度の大きさ \(|v’_{x}|\):衝突直前の水平速度の大きさは \(|v_{\text{初}} \cos\theta|\) です。壁との反発係数が \(e\) なので、はね返り直後の水平速度の大きさは、$$ |v’_{x}| = e |v_{\text{初}} \cos\theta| = e v_{\text{初}} \cos\theta \quad (\text{ここで } v_{\text{初}}>0, \cos\theta>0 \text{ と仮定}) $$向きは壁から離れる向きです。
- 壁からの落下距離 \(L_{CD}\):この水平速度 \(|v’_{x}|\) で時間 \(t_{\text{衝突後}}\) だけ進むので、$$ L_{CD} = |v’_{x}| \times t_{\text{衝突後}} = (e v_{\text{初}} \cos\theta) \left( \frac{2v_{\text{初}} \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta} \right) $$展開すると、$$ L_{CD} = e v_{\text{初}} \cos\theta \cdot \frac{2v_{\text{初}} \sin\theta}{g} – e v_{\text{初}} \cos\theta \cdot \frac{l}{v_{\text{初}} \cos\theta} $$$$ L_{CD} = \frac{2e v_{\text{初}}^2 \sin\theta \cos\theta}{g} – el $$ここで、\(2\sin\theta \cos\theta = \sin 2\theta\) の倍角公式を用いると、
$$ L_{CD} = \frac{e v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g} – el = e \left( \frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g} – l \right) $$
使用した物理公式
- 鉛直投げ上げの全滞空時間: \(t_3 = 2t_2 = \frac{2v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\)
- 壁衝突時の水平速度の変化: \(v’_x = -e v_x\) (壁から離れる向きを正とした場合、\(v_x\) は壁に向かう速度) または、速さの大きさで \(|v’_x| = e |v_x|\)
- 等速直線運動: 距離 = 速さ × 時間
上記の立式と展開が計算過程となります。
最終的な形は \(L_{CD} = e \left( \frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g} – l \right)\) です。
ここで、\(\frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g}\) は、壁がない場合に小球が水平方向に到達する最大距離(レンジ \(R\))を表します。
したがって、\(L_{CD} = e(R – l)\) と書くこともできます。これは、「もし壁を通り抜けて \(R\) まで飛ぶとしたら、壁の位置を通過してからさらに \(R-l\) だけ進むはずだった距離。実際には壁ではね返り、その後の水平距離が元の \(e\) 倍になった」という物理的な解釈ができます。
ボールが壁ではね返った後、床のどの地点に落ちるか(壁からの距離)を考えます。
まず、もし壁が全くなかったとしたら、ボールがA点から投げられて再び床に落ちるまでに飛ぶ時間(全滞空時間 \(t_3\))を計算します。これは、最高点に達するまでの時間 \(t_2\) のちょうど2倍です。
次に、実際に壁にぶつかるまでにかかった時間は \(t_1\) でした。なので、壁にぶつかってから床に落ちるまでの時間は、\(t_3 – t_1\) となります。
壁にぶつかると、横方向の速さは、ぶつかる前の速さ (\(v_{\text{初}} \cos\theta\)) の \(e\) 倍になり、向きが反対(壁から離れる向き)になります。つまり、はね返り後の横の速さは \(e v_{\text{初}} \cos\theta\) です。
この速さで、\(t_3 – t_1\) の時間だけ進むので、壁からの距離は「はね返り後の横の速さ \(\times\) 壁衝突後の時間」で計算できます。
計算結果は \(e \left( \frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g} – l \right)\) となります。これは、\(e \times (\text{壁がない場合の全水平到達距離} – \text{壁までの距離})\) という意味になります。
はね返った小球が床上に落ちた点は、壁から \(\displaystyle e \left( \frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g} – l \right)\) だけ離れた距離にあります。
この結果は物理的に意味があります。\(\frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g}\) は壁がない場合の水平到達距離 \(R\) です。\(R-l\) は、もし壁がなければ壁を通過した後に進むはずだった水平距離です。壁ではね返ることで、この「残り進むはずだった距離」に相当する運動の水平方向の”勢い”が \(e\) 倍になって現れる、と解釈できます。ただし、これは衝突後の運動時間が \(R-l\) を元の水平速度で進む時間と等しいという仮定ではなく、あくまで結果の式の解釈です。正しくは、衝突後の水平速度で衝突後の時間(\(t_3-t_1\))だけ進んだ距離です。
もし \(l > R\) (つまり壁に届く前に床に落ちる)場合は、この式は物理的に意味をなさなくなるため、壁に衝突するという前提が成り立っている必要があります。また、\(L_{CD}\) が正の値を取るためには、\(\frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g} > l\) である必要があります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜方投射における運動の独立性:
- 水平方向: 等速直線運動。速度 \(v_x = v_{\text{初}} \cos\theta\)、変位 \(x = (v_{\text{初}} \cos\theta)t\)。
- 鉛直方向: 鉛直投げ上げ運動(等加速度直線運動)。初速度 \(v_{\text{初}y} = v_{\text{初}} \sin\theta\)、加速度 \(-g\)。速度 \(v_y = v_{\text{初}} \sin\theta – gt\)、変位 \(y = (v_{\text{初}} \sin\theta)t – \frac{1}{2}gt^2\)。
- 本質: 重力下での投射運動は、水平方向と鉛直方向の運動が互いに影響を与えることなく独立して進行すると考えて扱うことができます。両運動に共通するパラメータは時間 \(t\) です。
- 壁との衝突における反発係数 \(e\) の適用ルール:
- 壁に平行な速度成分(本問では鉛直成分): 滑らかな壁との衝突では変化しません。
- 壁に垂直な速度成分(本問では水平成分): 衝突直後の速度の「大きさ」は、衝突直前の速度の「大きさ」の \(e\) 倍になり、向きは衝突前と逆向きになります。数式で表現すると、壁から離れる向きを正とした場合、衝突直前の壁に向かう速度を \(v_x\)(\(v_x > 0\))とすると、衝突直後の壁から離れる速度は \(e v_x\) となります(模範解答の図もこれを反映)。より一般的には \(v’_x = -e v_x\)。
- 本質: 反発係数は、衝突の際の力学的エネルギーの損失の度合いを巨視的に示す指標です(\(0 \le e \le 1\))。
- 最高点の物理的条件:
- 斜方投射や鉛直投げ上げにおいて、軌道の最高点では鉛直方向の速度成分が一時的に \(0\) となります。
- 鉛直投げ上げ運動の対称性:
- 壁がない場合の単純な鉛直投げ上げや斜方投射では、投げ上げてから最高点に達するまでの時間と、最高点から元の高さに落ちてくるまでの時間は等しくなります。したがって、全滞空時間は最高点到達時間の正確に2倍となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 床との連続的なバウンドを繰り返す物体の運動(各バウンドで鉛直速度成分が \(e\) 倍になる)。
- 複数の壁との衝突が連続して起こる場合。
- ビリヤードの球の運動のように、角度のついた壁との衝突(この場合は、速度ベクトルを壁に平行な成分と垂直な成分に分解して考える必要があります)。
- 反発係数が異なる複数の面との衝突。
- 初見の問題への着眼点:
- 運動のフェーズ(区間)を明確に分割する: 投射開始から最初の衝突まで、衝突の瞬間(速度変化)、衝突直後から次のイベント(例:最高点到達、床への再落下)まで、というように運動を時間的・空間的に区切って考えます。
- 各フェーズにおける運動の種類を特定する: 分割した各フェーズが、斜方投射(またはその一部としての鉛直投げ上げ、自由落下など)、等速直線運動のいずれに該当するのかを正確に判断します。
- 衝突点における速度変化のルールを正確に把握し適用する: 反発係数 \(e\) を用いて、衝突直前と衝突直後の速度成分(特に衝突面に垂直な成分)がどのように変化するのかを正しく計算します。面に平行な成分は(滑らかな面なら)変化しないことも忘れないようにします。
- 座標軸の適切な設定と一貫した使用: 問題文で指定がない場合は、自分で計算しやすいように座標軸(原点の位置、各軸の正の向き)を設定します。鉛直上向きを正とすることが一般的ですが、状況に応じて最適な設定を選び、一度設定したらその定義を一貫して用いることが重要です。
- ヒント・注意点:
- 水平方向と鉛直方向の運動は、それぞれ独立して扱うことができます。両運動に共通の媒介変数は「時間 \(t\)」であることを常に意識しましょう。
- 反発係数 \(e\) は「速度の比」ではなく「速さの比」であり、衝突後の速度の「向き」が衝突前と逆転することも含めて理解しておく必要があります。
- 壁に「垂直な」速度成分と「平行な」速度成分を、衝突面に対して正確に区別して扱うことが極めて重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反発係数 \(e\) の適用方向の誤り:
- ありがちな誤解: 壁に平行な速度成分(本問では鉛直成分)にも誤って反発係数を掛けてしまう。
- 対策: 反発係数 \(e\) は、衝突面に「垂直な」方向の速度成分にのみ作用し、その速さの大きさを \(e\) 倍にし、向きを反転させる、というルールを正確に記憶し、適用しましょう。滑らかな面との衝突では、面に平行な速度成分は変化しません。
- 衝突後の水平速度の向きの処理ミス:
- ありがちな誤解: 壁からはね返るのだから水平速度の向きが逆になることを見落とす、または計算上の符号処理を間違える。
- 対策: 衝突前後の速度ベクトルを図で明確に描き、壁に向かう方向と壁から離れる方向を正しく区別しましょう。座標軸を設定している場合は、それに応じた符号をつけます。
- 鉛直方向の運動の連続性に関する誤解(壁衝突時):
- ありがちな誤解: 滑らかな鉛直壁との衝突によって、鉛直方向の運動が中断されたり、リセットされたりすると誤解する。
- 対策: 滑らかな鉛直壁との衝突では、壁が物体に及ぼす力は水平方向の垂直抗力のみであり、鉛直方向には力を及ぼしません(摩擦がなければ)。したがって、鉛直方向の運動は壁衝突の影響を受けず、衝突の前後で連続している(同じ投げ上げ運動の一部)と見なせます。
- 最高点到達時間と全滞空時間の混同や安易な適用:
- ありがちな誤解: 特に問4のように衝突後の運動時間を考える際に、単純な鉛直投げ上げの対称性(上昇時間=下降時間)がどこまでそのまま使えるのかを注意深く吟味せずに適用してしまう。
- 対策: 各時間パラメータ(\(t_1\), \(t_2\), \(t_3\) など)が、運動のどの区間の時間を表しているのかを常に明確に定義し、区別して扱いましょう。模範解答のように、壁がない場合の全滞空時間から壁衝突までの時間を引くといったアプローチは、鉛直運動の連続性をうまく利用した有効な方法です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題で有効だった図の活用法:
- 運動全体の軌跡図 (問題文に示されている図): まず、小球がA点から投げ出され、壁のB点で衝突し、その後最高点Hを経て床のどこかに落下する、という一連の運動の全体像を視覚的に把握します。
- 初速度のベクトル分解図 (点A): 投げ上げの初速度 \(v_{\text{初}}\) を、水平成分 \(v_{\text{初}} \cos\theta\) と鉛直成分 \(v_{\text{初}} \sin\theta\) に分解する図は、解析の第一歩として必須です。
- 衝突点Bにおける速度ベクトル図 (模範解答に示されている図): この図は極めて重要です。衝突直前の速度ベクトル(水平成分、鉛直成分)と、衝突直後の速度ベクトル(水平成分、鉛直成分)を並べて描くことで、水平成分の向きが反転し大きさが \(e\) 倍になる様子、および鉛直成分は変化しない様子を視覚的に明確に理解できます。これにより、反発の法則の適用が具体的にイメージできます。
- 図を描く際に注意すべき共通のポイント:
- 速度はベクトル量なので、矢印を用いてその「向き」と(相対的な)「大きさ」を表現するように心がけます。
- 角度 \(\theta\) の位置や、それがどのベクトルとどの線の間の角度なのかを正確に図中に示しましょう。
- 衝突の「直前」と「直後」で、何が変化し(例:水平速度の向きと大きさ)、何が変化しないのか(例:鉛直速度、運動エネルギーの一部は熱になるなど)を、図を用いて明確に区別して整理することが理解を助けます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(l = (v_{\text{初}} \cos\theta) t_1\) (問1、A-B間の水平運動):
- 選択理由: A-B間の水平運動は「初速度 \(v_{\text{初}} \cos\theta\)、加速度 \(0\) の等速直線運動」であり、水平距離 \(l\) と時間 \(t_1\) の関係を知りたいので、この公式が適切。
- 適用根拠: 等速直線運動の定義そのもの。
- \(h = (v_{\text{初}} \sin\theta) t_1 – \frac{1}{2}gt_1^2\) (問1、A-B間の鉛直運動):
- 選択理由: A-B間の鉛直運動は「初速度 \(v_{\text{初}} \sin\theta\)、加速度 \(-g\) (上向き正) の等加速度直線運動」であり、時間 \(t_1\) 後の変位 \(h\) を知りたいので、この公式が適切。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の基本公式 \(y = v_{\text{初}y}t + \frac{1}{2}a_yt^2\) に、この状況の初期条件と加速度を代入した形。
- \(t_2 = \frac{v_{\text{初}} \sin\theta}{g}\) (問2、Aから最高点Hまでの時間):
- 選択理由: 鉛直投げ上げ運動において、最高点(鉛直終速 \(0\))に達するまでの時間を求めたい。
- 適用根拠: 等加速度直線運動の基本公式 \(v_y = v_{\text{初}y} + a_yt\) に、初期条件(鉛直初速 \(v_{\text{初}} \sin\theta\)、加速度 \(-g\))と最高点の条件(\(v_y=0\))を代入して解いた結果。
- \(H = \frac{(v_{\text{初}} \sin\theta)^2}{2g}\) (問2、最高点Hの高さ):
- 選択理由: 鉛直投げ上げ運動において、時間が直接関与しない形で最高到達点の高さ \(H\) を求めたい。
- 適用根拠: 等加速度直線運動における速度と変位の関係を示す公式 \(v_y^2 – v_{\text{初}y}^2 = 2a_yH\) に、初期条件と最高点の条件を代入して解いた結果。
- \(t_1 < t_2\) (問3、最高点前に壁衝突する条件):
- 選択理由: 「最高点に達する前」という時間的な前後関係を不等式で表現するため。
- 適用根拠: 時間の定義そのもの。
- 衝突後の水平速度の大きさ \(|v’_{x}| = e(v_{\text{初}} \cos\theta)\) (問4):
- 選択理由: 壁との衝突における、壁に垂直な速度成分の変化を記述するため。
- 適用根拠: 反発係数 \(e\) の定義(衝突面に垂直な速度成分の、衝突後の速さと衝突前の速さの比が \(e\) であり、向きが反転する)。
- 全滞空時間 \(t_3 = 2t_2\) (問4、壁がない場合):
- 選択理由: 鉛直投げ上げ運動の対称性を利用して、床から投げて床に戻るまでの全時間を計算するため。
- 適用根拠: 鉛直投げ上げ運動では、上昇にかかる時間と下降にかかる時間が等しいという性質。
- 壁からの落下距離 \(L_{CD} = |v’_{x}| (t_3 – t_1)\) (問4):
- 選択理由: 壁衝突後、小球は新たな水平速度で等速直線運動をしながら、残りの時間 (\(t_3-t_1\)) だけ飛行するため。
- 適用根拠: 等速直線運動における「距離 = 速さ × 時間」の関係。
各公式が持つ意味と、それが適用できる物理的状況や前提条件(例:加速度が一定、滑らかな面、空気抵抗無視など)を正確に理解することが、適切な公式選択とミスのない立式の鍵となります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 運動の初期条件設定(初速度の分解): 問題解決の出発点として、初速度 \(v_{\text{初}}\) を水平成分 \(v_{\text{初}} \cos\theta\) と鉛直成分 \(v_{\text{初}} \sin\theta\) に分解します。
- 第1フェーズ (A点からB点への運動、壁衝突まで) の解析:
- 水平方向の等速直線運動から、壁に到達する時間 \(t_1\) を \(l, v_{\text{初}}, \theta\) を用いて表現します。
- 鉛直方向の鉛直投げ上げ運動から、時間 \(t_1\) における高さ \(h\) を \(v_{\text{初}}, \theta, g, t_1\)(または \(l\) も用いて)表現します。
- 最高点の運動の解析 (壁が存在しないと仮定した場合):
- 鉛直方向の鉛直投げ上げ運動から、最高点に到達する時間 \(t_2\) を \(v_{\text{初}}, \theta, g\) を用いて表現します。
- 同様に、最高点の高さ \(H\) を \(v_{\text{初}}, \theta, g\) を用いて表現します。
- 壁衝突条件の立式と解析 (問3):
- 「最高点に達する前に壁に衝突する」という条件を \(t_1 < t_2\) という不等式で表現します。
- この不等式に、上で求めた \(t_1\) と \(t_2\) の具体的な表現を代入し、\(v_{\text{初}}\) に関する条件式を導出します。
- 第2フェーズ (B点での壁衝突と、その後の床への落下まで) の解析 (問4):
- 壁との衝突における速度変化を適用します:水平速度成分は向きが反転し大きさが \(e\) 倍 (\(v’_{x} = e v_{\text{初}} \cos\theta\))、鉛直速度成分は変化しません(衝突直前の鉛直速度 \(v_{By} = v_{\text{初}} \sin\theta – gt_1\) が衝突直後の鉛直初速度となる)。
- (模範解答のアプローチ)壁がない場合の全滞空時間 \(t_3 = 2t_2\) を計算します。
- 壁衝突後の運動時間 \(t_{\text{衝突後}} = t_3 – t_1\) を計算します。
- この時間 \(t_{\text{衝突後}}\) の間に、はね返り後の水平速度 \(v’_{x}\) で進む水平距離 \(L_{CD}\) を計算します (\(L_{CD} = v’_{x} \cdot t_{\text{衝突後}}\))。
- 代数計算と結果の整理: 導出した各式について、三角関数や文字式を整理し、最終的な答えの形にします。
このように、複雑に見える運動も、論理的なステップに分解し、各ステップで基本的な物理法則を適用し、計算を丁寧に進めることで、確実に解答にたどり着くことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の正確な扱いに習熟する: \(\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta\) の相互関係(例: \(\tan\theta = \sin\theta / \cos\theta\))や、倍角の公式(例: \(\sin 2\theta = 2\sin\theta \cos\theta\))などを、必要に応じて正確に使いこなせるようにしておきましょう。
- 分数の計算、特に繁分数の処理を丁寧に行う: 計算途中で分母にさらに分数が含まれるような形(繁分数)が出てきた場合は、慌てずに一つ一つ順序立てて処理しましょう。例えば、\(\frac{A}{B/C} = A \times \frac{C}{B}\) のような変形を正確に行います。
- 根号(ルート)を含む計算の正確性: \(\sqrt{A/B} = \sqrt{A}/\sqrt{B}\) や \(\sqrt{AB} = \sqrt{A}\sqrt{B}\) といった平方根の性質を用いた変形や、根号内の因数を外に出す操作などを正確に行いましょう。
- 文字式が複雑な場合の整理と確認の徹底: この問題のように多くの文字記号(\(v_{\text{初}}, \theta, l, h, H, t_1, t_2, t_3, g, e\) など)が登場する場合は、計算の各段階で、どの文字が何を表しているのか、式の各項がどのような物理的意味を持つのかを常に意識し、確認しながら計算を進めることが、混同や書き間違いを防ぐ上で重要です。
計算過程をノートに丁寧に書き出し、各ステップでの仮定や用いた公式を明確にすることで、見直しが容易になり、計算ミスを早期に発見しやすくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直観や既知の極端なケースとの整合性確認:
- 反発係数 \(e\) の極端な値での挙動を考察してみましょう。
- もし \(e=1\) (完全弾性衝突) であれば、壁ではね返った後の水平方向の“勢い”は失われません。問4の答え \(L_{CD} = e (R – l)\) (ここで \(R = \frac{v_{\text{初}}^2 \sin 2\theta}{g}\) は壁がない場合の全水平到達距離)は、\(L_{CD} = R – l\) となります。これは、「壁がなければ壁を越えて \(R-l\) だけ進んだはずの距離をそのまま進む」という、あたかも壁が鏡のようにはね返すイメージと一致し、物理的に妥当です。
- もし \(e=0\) (完全非弾性衝突、壁にくっつくか、水平方向の勢いを完全に失う) であれば、はね返り後の水平速度は \(0\) となり、\(L_{CD}=0\) となるはずです。問4の式はこれと一致します。
- 投射角度 \(\theta\) の極端な値(例:\(\theta=0\) や \(\theta=90^\circ\))を考えたとき、各式が物理的に意味のある形になるか(ただし、分母が \(0\) になる場合は定義できないため注意が必要)を考察してみるのも、理解を深める一助となります。例えば、\(\theta=90^\circ\)(真上に投げる)なら \(l=0\) でないと壁に当たらず、水平到達距離も \(0\) になるはず、など。
- 計算結果として得られた時間や距離が負の値になっていないか、といった基本的な確認も怠らないようにしましょう。
- 反発係数 \(e\) の極端な値での挙動を考察してみましょう。
- 単位の一貫性の最終確認: 計算の最終結果として得られた各物理量の単位が、その物理量として正しい単位(例:時間は[s]、距離や高さは[m]、速度は[m/s]など)になっているかを必ず確認します。
- 各物理量への依存性の考察: 例えば、壁からの落下距離 \(L_{CD}\) が反発係数 \(e\) に比例し、初速 \(v_{\text{初}}\) が大きいほど(あるいは投射角 \(\theta\) が適切であるほど)大きくなり、重力加速度 \(g\) が大きいほど小さくなる傾向があるか、といった依存関係が物理的に自然であるかどうかを考察します。
これらの吟味を行う習慣は、計算ミスや立式の誤りを早期に発見する手助けとなるだけでなく、物理現象そのものへの理解をより一層深める上で非常に重要です。
問題7 (慶應大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な棒におもりをつるし、糸で支えてつり合わせる状況について、力のモーメントのつり合いと力のつり合いの条件を用いて未知の質量や張力を求める、剛体のつり合いに関する典型的な問題です。2つの異なるつり合いの状況(図1と図2)から情報を段階的に得る必要があります。
- 密度と太さが一様な長さ \(1 \, \text{m}\) の棒がある。
- これは、棒の重心が棒の中央(端から \(0.5 \, \text{m}\) の位置)にあることを意味します。
- 図1の状況:
- 棒の一端(ここでは右端と解釈)に質量 \(2 \, \text{kg}\) のおもりAをつるす。
- 棒の右端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置(つまり左端から \(0.6 \, \text{m}\) の位置)で糸によりつるしたところ、つりあった。(模範解答の解釈に基づき、支点の位置をこのように設定)
- 図2の状況:
- 棒のもう一端(左端)に別のおもりBをつるす。おもりAは引き続き右端につるされている。
- おもりBをつるした端(左端)から \(0.4 \, \text{m}\) のところで糸Sによりつるしたところ、つりあった。
- 重力加速度の大きさを \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) とする。
- おもりBの質量 \(m_B\)。
- 図2での糸Sの張力 \(T\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは、「剛体のつり合い」です。物体が静止し続ける(つり合っている)ためには、以下の2つの条件が同時に満たされる必要があります。
- 力のつり合い: 物体に働く全ての力のベクトル和が \(0\) であること (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。これにより、物体は並進運動を始めません。
- 力のモーメントのつり合い: ある任意の点のまわりの力のモーメントの代数和が \(0\) であること (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動を始めません。力のモーメントは、「力の大きさ × 回転軸から力の作用線までの垂直距離(うでの長さ)」で計算され、回転の向き(時計回りか反時計回りか)によって符号を付けて扱います。
この問題では、まず図1のつり合い条件から棒の質量を特定し、次にその結果を利用して図2のつり合い条件からおもりBの質量と糸の張力を求めていきます。
ステップ1:棒の質量 \(m\) の決定(図1の解析)
思考の道筋とポイント
図1の状況で棒が静止しているため、力のモーメントがつり合っています。回転の軸(支点)は、糸でつるされている点P(問題文と模範解答の整合性から、おもりAをつるした右端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置と解釈)と考えます。この点を軸にすると、糸の張力のモーメントが \(0\) となり計算が簡略化されます。棒は一様なので、その重心Gは棒の中央(全長 \(1 \, \text{m}\) なので、どちらの端からも \(0.5 \, \text{m}\) の位置)にあります。各力のモーメント(時計回りか反時計回りか)を計算し、その和が \(0\) になるという式を立てて棒の質量 \(m\) を求めます。
このステップにおける重要なポイント
- 力のモーメントの定義(力 × うでの長さ)を正しく理解し適用する。
- 「うでの長さ」とは、回転軸から力の作用線までの「垂直」距離である。
- 一様な棒の重心の位置を正しく特定する(中央)。
- 回転軸を適切に選ぶことで計算を簡略化できる場合がある(未知の力が作用する点を軸に取ると、その力のモーメントが \(0\) になる)。
具体的な解説と立式
棒の長さを \(L_0 = 1 \, \text{m}\) とします。棒の質量を \(m\) とすると、棒の重力 \(mg\) が重心G(棒の中央、つまり左端から \(0.5 \, \text{m}\) の位置)に働きます。
おもりAの質量は \(m_A = 2 \, \text{kg}\) なので、その重力は \(m_A g = 2g\) です。これは棒の右端(左端から \(1 \, \text{m}\) の位置)に働きます。
模範解答の解釈に従い、支点Pを「おもりAをつるした右端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置」とします。
したがって、支点Pは、左端からは \(1.0 \, \text{m} – 0.4 \, \text{m} = 0.6 \, \text{m}\) の位置にあります。
支点Pから各力の作用点までのうでの長さを計算します。
- 棒の重力 \(mg\) の作用点Gまで:Gは左端から \(0.5 \, \text{m}\) の位置。Pは左端から \(0.6 \, \text{m}\) の位置。よって、GはPより \(0.6 \, \text{m} – 0.5 \, \text{m} = 0.1 \, \text{m}\) だけ左側にあります。この重力 \(mg\) は、Pのまわりに反時計回りのモーメントを生じさせます。モーメントは \(mg \times 0.1\)。
- おもりAの重力 \(2g\) の作用点(右端)まで:Aは右端。Pは右端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置。よって、PからAまでの距離は \(0.4 \, \text{m}\) です。この重力 \(2g\) は、Pのまわりに時計回りのモーメントを生じさせます。モーメントは \(2g \times 0.4\)。
力のモーメントのつり合いの式(反時計回りのモーメントの和 = 時計回りのモーメントの和)より、
$$ mg \times 0.1 = 2g \times 0.4 $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\) (力 × うでの長さ)
- 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
$$ mg \times 0.1 = 2g \times 0.4 $$
両辺から重力加速度 \(g\) を消去します (\(g \ne 0\))。
$$ m \times 0.1 = 2 \times 0.4 $$
$$ 0.1m = 0.8 $$
$$ m = \frac{0.8}{0.1} = 8 $$
よって、棒の質量 \(m = 8 \, \text{kg}\)。
図1の状況で、棒が回転せずに静止しているのは、糸で吊るした点Pのまわりで「棒を回そうとする力の影響(モーメント)」が釣り合っているからです。
棒自身の重さ(質量を \(m\) とすると重力 \(mg\))は、棒の中央G(Pから見ると左に \(0.1 \, \text{m}\) の距離)にかかり、棒を反時計回りに回そうとします。このモーメントの大きさは \(mg \times 0.1\) です。
おもりAの重さ(質量 \(2 \, \text{kg}\) なので重力 \(2g\))は、棒の右端(Pから見ると右に \(0.4 \, \text{m}\) の距離)にかかり、棒を時計回りに回そうとします。このモーメントの大きさは \(2g \times 0.4\) です。
これらが釣り合っているので、\(mg \times 0.1 = 2g \times 0.4\) という式が成り立ちます。この式から \(g\) を消して \(m\) について解くと、\(m = 8 \, \text{kg}\) となります。
棒の質量 \(m\) は \(8 \, \text{kg}\) です。この値は次の設問で使用します。
問:おもりBの質量 \(m_B\) と 図2での糸Sの張力 \(T\)
思考の道筋とポイント
次に図2の状況を解析します。棒の左端におもりB(質量 \(m_B\)、未知)をつるし、右端にはおもりA(質量 \(2 \, \text{kg}\))が引き続きつるされています。糸Sは、おもりBをつるした左端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置で棒を支えています。この支点Qのまわりでの力のモーメントのつり合いから \(m_B\) を求め、その後、棒全体の鉛直方向の力のつり合いから糸Sの張力 \(T\) を求めます。棒の質量 \(m=8 \, \text{kg}\) は既知です。
この設問における重要なポイント
- ステップ1で求めた棒の質量 \(m\) の値を正しく使用する。
- 図2における各力の作用点と新たな支点Qからのうでの長さを正確に求める。
- 力のモーメントのつり合いの式を立てて \(m_B\) を求める。
- 鉛直方向の力のつり合いの式を立てて \(T\) を求める。
- 最後に重力加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) を用いて具体的な張力の数値を計算する。
おもりBの質量 \(m_B\) の具体的な解説と立式
支点Qは、棒の左端から \(0.4 \, \text{m}\) の位置です。
各力のモーメントをQのまわりで考えます(反時計回りを正、時計回りを負とします)。
- おもりBの重力 \(m_B g\): 作用点は左端。Qからのうでの長さは \(0.4 \, \text{m}\)。Qの左側にあるので、反時計回りのモーメントを生じさせます。モーメント: \(+ m_B g \times 0.4\)。
- 棒の重力 \(mg = 8g\): 作用点は重心G(左端から \(0.5 \, \text{m}\) の位置)。Qは左端から \(0.4 \, \text{m}\) なので、GはQの \(0.5 \, \text{m} – 0.4 \, \text{m} = 0.1 \, \text{m}\) だけ右側にあります。時計回りのモーメントを生じさせます。モーメント: \(- 8g \times 0.1\)。
- おもりAの重力 \(m_A g = 2g\): 作用点は右端(左端から \(1.0 \, \text{m}\) の位置)。Qは左端から \(0.4 \, \text{m}\) なので、AはQの \(1.0 \, \text{m} – 0.4 \, \text{m} = 0.6 \, \text{m}\) だけ右側にあります。時計回りのモーメントを生じさせます。モーメント: \(- 2g \times 0.6\)。
力のモーメントのつり合いの式 \(\sum M_Q = 0\) より、
$$ (m_B g \times 0.4) – (8g \times 0.1) – (2g \times 0.6) = 0 $$
または、反時計回りのモーメントの和 = 時計回りのモーメントの和として、
$$ m_B g \times 0.4 = 8g \times 0.1 + 2g \times 0.6 $$
糸Sの張力 \(T\) の具体的な解説と立式
図2において、棒全体には鉛直方向に以下の力が働いています。
- 上向き: 糸Sの張力 \(T\)
- 下向き:
- おもりBの重力: \(m_B g\)
- 棒の重力: \(mg = 8g\)
- おもりAの重力: \(m_A g = 2g\)
鉛直方向の力のつり合いの式 \(\sum F_y = 0\) (上向きを正) より、
$$ T – m_B g – mg – m_A g = 0 $$
$$ T = m_B g + mg + m_A g $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\)
- 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
- 力のつり合い(鉛直方向): \(\sum F_y = 0\)
- 重力: \(W = mg\)
まず、おもりBの質量 \(m_B\) を求めます。
$$ m_B g \times 0.4 = 8g \times 0.1 + 2g \times 0.6 $$
両辺から \(g\) を消去します。
$$ m_B \times 0.4 = 8 \times 0.1 + 2 \times 0.6 $$
$$ 0.4 m_B = 0.8 + 1.2 $$
$$ 0.4 m_B = 2.0 $$
$$ m_B = \frac{2.0}{0.4} = \frac{20}{4} = 5 $$
よって、おもりBの質量 \(m_B = 5 \, \text{kg}\)。
次に、糸Sの張力 \(T\) を求めます。
$$ T = m_B g + mg + m_A g $$
\(m_B = 5 \, \text{kg}\), \(m = 8 \, \text{kg}\), \(m_A = 2 \, \text{kg}\) を代入します。
$$ T = (5)g + (8)g + (2)g $$
$$ T = (5+8+2)g = 15g $$
重力加速度 \(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) を代入して、具体的な数値を計算します。
$$ T = 15 \times 9.8 \, \text{N} $$
$$ T = 15 \times (10 – 0.2) = 150 – 15 \times 0.2 = 150 – 3.0 = 147 \, \text{N} $$
おもりBの質量: 図2でも、棒は回転せずに静止しているので、糸Sで吊るした点Qのまわりでの「回そうとする力の影響(モーメント)」が釣り合っています。
おもりB(質量 \(m_B\))は、Qから左に \(0.4 \, \text{m}\) の位置にあり、棒を反時計回りに回そうとします(モーメント \(m_B g \times 0.4\))。
棒自身の重さ(\(8g\))は、Qから右に \(0.1 \, \text{m}\) の位置にあり、時計回りに回そうとします(モーメント \(8g \times 0.1\))。
おもりAの重さ(\(2g\))は、Qから右に \(0.6 \, \text{m}\) の位置にあり、時計回りに回そうとします(モーメント \(2g \times 0.6\))。
「反時計回りのモーメント = 時計回りのモーメントの合計」なので、\(m_B g \times 0.4 = (8g \times 0.1) + (2g \times 0.6)\) という式が成り立ちます。これを \(m_B\) について解くと、\(m_B = 5 \, \text{kg}\) となります。
糸Sの張力: 図2で、棒全体が上下に動かずに静止しているのは、上向きの力と下向きの力が釣り合っているからです。
上向きの力は糸Sの張力 \(T\) のみです。
下向きの力は、おもりBの重さ(\(5g\))、棒自身の重さ(\(8g\))、おもりAの重さ(\(2g\))の合計です。
したがって、力のつり合いから \(T = 5g + 8g + 2g = 15g\) となります。
\(g = 9.8 \, \text{m/s}^2\) なので、\(T = 15 \times 9.8 = 147 \, \text{N}\) (ニュートン) と計算できます。
おもりBの質量は \(5 \, \text{kg}\)、図2での糸Sの張力は \(147 \, \text{N}\) です。
張力 \(T\) は、棒、おもりA、おもりBの全質量 (\(8+2+5=15 \, \text{kg}\)) にかかる重力の合計 (\(15g\)) となっており、力のつり合いの観点から物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合いの二大条件:
- 力のつり合い: 物体に作用する全ての力のベクトル和がゼロであること (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。これにより、物体は並進運動を開始しません(あるいは等速直線運動を継続します)。
- 力のモーメントのつり合い: ある任意の回転軸のまわりでの、物体に作用する全ての力のモーメントの代数和がゼロであること (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動を開始しません。
本質: 物体が静止状態を維持し続けるための、並進運動と回転運動の両方に関する普遍的な条件です。
- 力のモーメントの定義と計算:
- 定義: モーメント \(M\) は、力の大きさ \(F\) と、回転軸からその力の作用線までの垂直距離(うでの長さ \(l\))の積で表されます (\(M = F \times l\))。
- 回転の向き: 時計回りと反時計回りを区別し、一方を正、もう一方を負として符号を付けて計算します(例: 反時計回りを正)。
- 本質: 物体を回転させようとする能力の大きさと向きを表す物理量です。
- 重心の概念とその利用:
- 一様な棒の場合、その重心は棒の幾何学的な中点にあります。
- 物体の質量全体がその一点に集中しているかのように重力が作用すると考えて、力のモーメントを計算することができます。
- 本質: 重力による合力の作用点であり、剛体の運動を考える上で非常に重要な点です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- シーソーのつり合いの問題(異なる位置に異なる質量の人が乗る場合など)。
- 複数の物体が複雑に配置された棒や板のつり合い問題。
- 壁に立てかけられたはしごのつり合い(壁からの垂直抗力や床・壁からの摩擦力も考慮に入れる)。
- 天秤の原理を用いた質量の測定。
- クレーンアームなどの構造物における安定性や部材にかかる力の解析。
- 初見の問題への着眼点:
- 対象となる剛体を明確にする: まず、どの物体(棒、板、はしごなど)のつり合いを考えているのかをはっきりとさせます。
- 作用する力を全て図示する (フリーボディダイアグラムの作成): 対象物体に働く全ての力(重力、接触力としての垂直抗力や張力、摩擦力など)を、作用点と向きを明確にして漏れなく描き込みます。特に、物体の重力はその重心に作用するものとして図示します。
- 回転軸(支点)の戦略的な選定: 力のモーメントのつり合いを考える際、回転軸をどこに取るかによって計算の複雑さが大きく変わることがあります。未知の力が多く作用している点や、うでの長さが計算しやすい点(例:力の作用線が軸を通る点、物体の端など)を回転軸に選ぶのが定石です。特に、力の作用点を軸に取れば、その力のモーメントはうでの長さが \(0\) となるため \(0\) となり、計算から除外できます。
- 力のつり合いの式とモーメントのつり合いの式の両方を考慮する: 通常、未知の物理量が複数ある場合には、力のつり合いの式(多くは鉛直方向と水平方向の2式)とモーメントのつり合いの式(1式)を連立させて解くことになります。問題に応じて必要な式を立てましょう。
- ヒント・注意点:
- 「うでの長さ」とは、回転軸から「力の作用線」に下ろした垂線の長さであることに常に注意してください。力が回転軸に対して斜めに働く場合は、力を回転軸に垂直な成分と平行な成分に分解するか、あるいは作用線までの垂直距離を三角比などを用いて正しく求める必要があります(本問では力は全て鉛直方向に働くため、うでの長さは水平距離となります)。
- 力のモーメントの回転方向の符号の規約(例:反時計回りを正、時計回りを負)を最初に明確に定義し、計算全体を通じてその規約を一貫して用いることが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の図示漏れや作用点・方向の間違い: 特に、棒自身の重力(重心に作用)を忘れてしまう、あるいは作用点の位置を間違えることが多いです。
- 対策: 物体に働く力をリストアップするチェックリストを作るなどして、考えられる全ての力を系統的に洗い出す習慣をつけましょう。各力の作用点と向きを、フリーボディダイアグラムに正確に描き込む練習を重ねることが重要です。
- 回転軸の選定ミスによる計算の不必要な複雑化:
- 対策: 「未知の力が最も多く作用する点を回転軸に選ぶと、それらの力のモーメントが \(0\) となり式が簡単になる」というセオリーを常に意識しましょう。ただし、問題によっては敢えて別の点を軸に取ることで見通しが良くなる場合もあります。
- 「うでの長さ」の誤認: 回転軸から力の作用「点」までの単なる距離を、うでの長さとして誤って用いてしまう(特に力が斜めに働く場合に起こりやすい)。
- 対策: 必ず「回転軸から力の作用線(力が働く直線上)までの最短距離、すなわち垂直距離」がうでの長さであることを徹底的に意識しましょう。図を描いて確認する癖をつけることが大切です。
- 力のモーメントの回転方向の符号の混同やミス:
- 対策: 計算を始める前に、回転の正の向き(例:反時計回りを正とする)を自分で明確に定義し、ノートの隅などにメモしておきましょう。そして、各力のモーメントがどちら向きの回転を生じさせるかを一つ一つ慎重に判断し、定義した符号規約に従って式を立てます。
- 力のつり合いの条件だけで解こうとする、またはモーメントのつり合いの条件だけで解こうとする(必要な式が不足する):
- 対策: 剛体のつり合いには「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」という2つの独立した条件があることを常に念頭に置き、問題で求められている未知数の個数と、立てられる独立な方程式の数を比較し、必要に応じて両方の条件式を適切に用いるようにしましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題で有効だった図の活用法:
- フリーボディダイアグラム(物体に働く全ての力を図示したもの): 対象となる棒に対して、どの点にどのような向きで力が働いているのか(棒の重力、おもりA・Bからの力、糸の張力)を正確に描き込むことが、全ての解析の出発点となります。特に、棒の重力はその重心(中央点)に作用することを明示します。
- 各つり合いの状況(図1、図2)における支点(回転軸)と、そこからの「うでの長さ」の図示: 力のモーメントを計算するためには、選択した支点から各力の作用線までの垂直距離(うでの長さ)を正確に把握する必要があります。これを図中に具体的に長さとして書き込むことで、立式時のミスを大幅に減らすことができます。
- 図を描く際に注意すべき共通のポイント:
- 力はベクトル量なので、矢印を用いてその作用点、向き、そして可能であれば相対的な大きさを表現します。
- 「うでの長さ」が図の上でどこに対応するのかを、力の作用線と回転軸との関係から正確に見極めて図示します。
- 回転軸(支点)の位置を明確にマークし、そこを基準として他の点との位置関係を整理します。
- 力のモーメントの回転方向(時計回りか反時計回りか)を、各力について図を見ながら判断できるようにします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\sum M = 0\) (力のモーメントのつり合いの式):
- 選択理由: 物体(棒)が回転せずに静止しているという条件を数式で表現するため。
- 適用根拠: 物体が回転平衡の状態にあるための物理的な必要条件です。この式は、どの点を回転軸として選んでも成り立ちますが、計算が最も簡単になるように回転軸を選ぶのが賢明です。
- \(\sum F = 0\) (力のつり合いの式):
- 選択理由: 物体(棒)が並進運動をせずに静止しているという条件を数式で表現するため(特に、図2で糸の張力を求める際に使用)。
- 適用根拠: 物体が並進平衡の状態にあるための物理的な必要条件です。ベクトル的な和がゼロであることを意味し、通常は水平方向と鉛直方向(あるいは他の直交する2方向)の成分ごとに分けて立式します。本問では鉛直方向のつり合いのみを考えました。
- \(W = mg\) (重力の大きさの式):
- 選択理由: 質量が与えられた物体(棒やおもり)の重力の大きさを計算するため。
- 適用根拠: 地球表面近くの物体が受ける重力の大きさが、その物体の質量 \(m\) と重力加速度の大きさ \(g\) の積で与えられるという、ニュートンの万有引力の法則の近似形です。
これらの公式は、それぞれが特定の物理的状況や法則を表しています。問題を解く際には、どの法則が現在の状況に適用できるのかを判断し、それに対応する公式を選択することが求められます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 第1段階:図1の解析 (棒の質量 \(m\) の決定)
- 棒に働く力(棒の重力 \(mg\)、おもりAの重力 \(2g\)、糸の張力)を図示し、各力の作用点を確認します。棒の重心は中央です。
- 糸のつり下げ点Pを回転軸として選択します。
- P点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます: (棒の重力による反時計回りのモーメント) = (おもりAの重力による時計回りのモーメント)。
- 各モーメントの「うでの長さ」を、P点と各力の作用点の位置関係から正確に計算し、式に代入します。
- この方程式を解いて、未知数である棒の質量 \(m\) を求めます。
- 第2段階:図2の解析 (おもりBの質量 \(m_B\) と糸Sの張力 \(T\) の決定)
- 棒に働く力(棒の重力 \(mg\)、おもりAの重力 \(2g\)、おもりBの重力 \(m_B g\)、糸Sの張力 \(T\))を図示し、各力の作用点を確認します(ここで \(m\) は第1段階で求めた値を用います)。
- 糸Sのつり下げ点Qを回転軸として選択します。
- Q点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます: (おもりBの重力による反時計回りのモーメント) = (棒の重力による時計回りのモーメント) + (おもりAの重力による時計回りのモーメント)。
- 各モーメントの「うでの長さ」を、Q点と各力の作用点の位置関係から正確に計算し、式に代入します。
- この方程式を解いて、未知数であるおもりBの質量 \(m_B\) を求めます。
- 次に、図2における鉛直方向の力のつり合いの式を立てます: (上向きの力:張力 \(T\)) = (下向きの力の合計:おもりBの重力 + 棒の重力 + おもりAの重力)。
- この方程式に既知の質量(\(m, m_A, m_B\))と重力加速度 \(g\) の値を代入し、糸Sの張力 \(T\) を計算します。
このように、問題を段階的に分け、各段階で適切な物理法則(力のモーメントのつり合い、力のつり合い)を適用し、未知数を一つずつ明らかにしていくことが、複雑なつり合い問題を解く上での基本的なアプローチです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 「うでの長さ」の計算ミスに最大限の注意を払う: 支点(回転軸)から各力の作用点(または作用線)までの距離を計算する際には、棒の全長、重心の位置、支点の位置関係などを図と照らし合わせながら、慎重に正確に求めましょう。特に、端からの距離なのか、中央からの距離なのか、支点からの左右どちら側なのかを明確に区別することが重要です。
- 力のモーメントの回転方向(符号)の判断ミスを防ぐ: 各力が棒をどちら向きに回転させようとするのかを、選択した支点を中心に具体的にイメージし、慎重に判断します。反時計回りを正、時計回りを負など、最初に符号の規約を決めておくと混乱しにくいです。
- 数値代入のタイミングと正確性: 重力加速度 \(g=9.8 \, \text{m/s}^2\) のような具体的な数値を代入するのは、できるだけ計算の最後の段階にすると、文字式のままでの検算や見直しがしやすくなります。代入する際には、単位も含めて間違えないように注意しましょう。
- 方程式を解く際の基本的な代数計算のミスを避ける: 移項時の符号変化、両辺を割る際の割り算の誤りなど、基本的な計算ミスが最終的な答えの誤りにつながります。一つ一つの計算ステップを丁寧に行いましょう。
図を丁寧に描き、各物理量の定義と位置関係を明確にしながら立式することが、計算ミスを防ぐ上で最も効果的です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直観や常識との整合性の確認:
- 計算で得られた質量(棒の質量 \(m\)、おもりBの質量 \(m_B\))が負の値になっていないか、といった基本的なチェックを行います。
- 計算された糸の張力 \(T\) が、棒およびつるされたおもり全体の総重量(にかかる重力の合計)に見合う妥当な値になっているか(本問では、\(T\) は全ての鉛直下向きの力の合計とつり合っているので、\(T = (m_A + m_B + m)g\) となるはずです)を確認します。
- 例えば、図1において、もし支点が棒の中央に非常に近ければ、おもりAがかなり軽くてもつり合いそうである、といった直感的な感覚と、計算結果が大まかに一致しているかを考えてみるのも良いでしょう。
- 単位の一貫性の最終確認: 計算の最終結果として得られた各物理量の単位が、その物理量として正しい単位(例:質量なら[kg]、力なら[N])になっているかを必ず確認します。
- 別の点を回転軸とした場合の検算(発展的な吟味方法): もし時間に余裕があれば、同じつり合いの問題に対して、敢えて別の点を回転軸として選び、力のモーメントのつり合いの式を立てて計算してみるのも有効な検算方法です。物理的に正しい限り、どの点を回転軸に選んでも(計算の複雑さは変わるかもしれませんが)同じ答えが得られるはずです。
これらの吟味を行う習慣は、計算ミスや立式の誤りを早期に発見する手助けとなるだけでなく、物理現象そのものへの理解をより深く、確かなものにする上で非常に重要です。
問題8 (センター試験 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、台の上に置かれた一様な棒の一端または他端をばねで鉛直上方に引っ張ったときに、棒が台の端から離れる瞬間の力のつり合い、特に力のモーメントのつり合いを考察する問題です。棒が台から離れる「瞬間」に、どの点が新たな回転軸(支点)となるかを正確に捉えることが重要になります。
- 長さ \(L\) の一様でまっすぐな棒ABがある。
- これは、棒の重心Gが棒の中央(ABの中点、各端から \(L/2\) の位置)にあることを意味します。
- 初期状態: 棒ABが台の上に置かれ、A端側が台からはみ出している。A端から長さ \(l\) だけ離れた点Pが台の端に当たっている(つまり、P点が台の右端に接している)。
- 状況1:
- 棒のA端にばね定数 \(k\) のばねをつけて鉛直上方に引っ張る。
- ばねが \(\alpha\) だけ伸びたとき、点Pが台の端を離れた。
- 状況2:
- ばねをA端からはずし、B端につけかえて鉛直上方に引っ張る。
- ばねが \(b\) だけ伸びたときにB端が台から離れた。
- 台の上面は十分にあらく、棒は台に対してすべらない(水平方向の動きや摩擦は考慮不要)。
- 重力加速度の大きさを \(g\) とする。
- 条件: \(l < \frac{1}{2}L\) (点Pは棒のA端から重心Gよりも近い位置にある)。
- 状況1において、棒の質量 \(m\) と、点Pが台の端を離れるときに棒が台から受ける垂直抗力 \(N\)。
- 状況2におけるばねの伸び \(b\) は、状況1におけるばねの伸び \(\alpha\) の何倍か。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、剛体のつり合い条件、特に「力のモーメントのつり合い」が中心となります。物体が回転せずに静止している(または回転し始める直前の)状況を扱います。
鍵となる物理法則・概念は以下の通りです。
- 剛体のつり合いの条件:
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
- 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
- 力のモーメント: \(M = F \times d\) (力の大きさ × 回転軸から力の作用線までの垂直距離「うでの長さ」)。回転方向を考慮して符号を付けます。
- 重心: 一様な棒の重心はその中点にあり、棒の全質量がそこに集中しているかのように重力が作用すると考えます。
- ばねの弾性力 (フックの法則): \(F = kx\) (力の大きさ = ばね定数 × 自然長からの変形量)。
特に、棒が台から「離れる瞬間」の解釈が重要です。この瞬間は、離れる点での垂直抗力が \(0\) になると考えるか、あるいは、離れた後は残りの接触点が新たな回転軸(支点)となると考えます。模範解答では後者のアプローチを取っています。
問1:棒の質量 \(m\) と、点Pが離れるときの垂直抗力 \(N\)
思考の道筋とポイント
棒の質量 \(m\) の導出:
「点Pが台の端を離れた」瞬間を考えます。このとき、棒は台のB端のみで支えられていると解釈します(模範解答の考え方)。したがって、回転軸(支点)はB端と考えることができます。
棒に働く力は、A端を鉛直上方に引くばねの力 \(F_A = k\alpha\)、棒の重心Gに働く重力 \(mg\)、そしてB端で台から受ける垂直抗力 \(N\) です。
B点のまわりのモーメントのつり合いを考えます。垂直抗力 \(N\) はB点に作用するため、B点のまわりのモーメントは \(0\) です。ばねの力 \(k\alpha\) によるモーメントと重力 \(mg\) によるモーメントがつり合うことから \(m\) を求めます。
棒の重心GはABの中点なので、B端からのうでの長さは \(L/2\) です。A端はB端からのうでの長さが \(L\) です。
垂直抗力 \(N\) の導出:
点Pが離れる瞬間、棒はB端のみで台に接しており、この点で垂直抗力 \(N\) を上向きに受けます。棒全体の鉛直方向の力のつり合いを考えます。上向きの力(ばねの力 \(k\alpha\)、垂直抗力 \(N\))と下向きの力(棒の重力 \(mg\))がつり合います。
この設問における重要なポイント
- 「離れる瞬間」における支点の位置を正しく特定する(この場合は、残った接触点であるB端)。
- 力のモーメントの「うでの長さ」を、選択した回転軸から各力の作用線までの垂直距離として正確に求める。
- ばねの弾性力の大きさが \(F=k \times (\text{伸び})\) で与えられることを正しく使う。
- 力のつり合いと力のモーメントのつり合いの両方を適切に使い分ける。
具体的な解説と立式
1. 棒の質量 \(m\) の計算:
点Pが台の端を離れる瞬間、棒はB端だけで台に接していると考え、B点を回転軸とします。
- ばねの力 (A端、上向き): \(F_A = k\alpha\)。B点からのうでの長さは \(L\)。この力はB点のまわりに棒を反時計回りに回転させようとします。モーメント: \(M_A = k\alpha \cdot L\)。
- 棒の重力 (重心G、下向き): \(mg\)。重心GはABの中点なので、B点からのうでの長さは \(L/2\)。この力はB点のまわりに棒を時計回りに回転させようとします。モーメント: \(M_G = mg \cdot \frac{L}{2}\)。
B点のまわりの力のモーメントのつり合い (\(\sum M_B = 0\)) より(反時計回りを正とすると)、
$$ k\alpha \cdot L – mg \cdot \frac{L}{2} = 0 $$
$$ k\alpha \cdot L = mg \cdot \frac{L}{2} \quad \cdots ①’ $$
2. 垂直抗力 \(N\) の計算:
点Pが離れる瞬間、鉛直方向の力のつり合い (\(\sum F_y = 0\)) を考えます(上向きを正)。
棒に働く鉛直方向の力は、上向きにばねの力 \(k\alpha\) と垂直抗力 \(N\)、下向きに棒の重力 \(mg\) です。
$$ N + k\alpha – mg = 0 $$
$$ N = mg – k\alpha $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times d\) (力 × うでの長さ)
- 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
- 力のつり合い(鉛直方向): \(\sum F_y = 0\)
- ばねの弾性力 (フックの法則): \(F = kx\)
棒の質量 \(m\):
式 ①’ \(k\alpha \cdot L = mg \cdot \frac{L}{2}\) より、両辺の \(L\) を消去 (\(L \ne 0\)) します。
$$ k\alpha = mg \cdot \frac{1}{2} $$
\(m\) について解くと、
$$ m = \frac{2k\alpha}{g} $$
垂直抗力 \(N\):
\(N = mg – k\alpha\) の式に、上で求めた \(m = \frac{2k\alpha}{g}\) を代入します。
$$ N = \left(\frac{2k\alpha}{g}\right)g – k\alpha $$
$$ N = 2k\alpha – k\alpha $$
$$ N = k\alpha $$
【別解】垂直抗力 \(N\) は、重心Gのまわりのモーメントのつり合いからも求められます。
G点を回転軸とすると、重力 \(mg\) のモーメントは \(0\) です。
- ばねの力 \(k\alpha\) (A端、Gから \(L/2\) の距離、上向き): 反時計回りのモーメント \(k\alpha \cdot \frac{L}{2}\)。
- 垂直抗力 \(N\) (B端、Gから \(L/2\) の距離、上向き): 時計回りのモーメント \(N \cdot \frac{L}{2}\)。
つり合いより、\(k\alpha \cdot \frac{L}{2} – N \cdot \frac{L}{2} = 0\)。
よって、\(N = k\alpha\)。
棒の質量 \(m\): 点Pが台からまさに離れようとするとき、棒はB点のところでギリギリ支えられています。このB点を回転の中心(支点)として考え、棒が回転しないための条件(力のモーメントのつり合い)を考えます。A端にはばねが力 \(k\alpha\) で上向きに作用し、これが棒をB点のまわりに反時計回りに回そうとします(モーメントの大きさは \(k\alpha \times L\))。一方、棒の重さ \(mg\) は棒の中央G(B点から \(L/2\) の距離)に下向きに作用し、これが棒を時計回りに回そうとします(モーメントの大きさは \(mg \times L/2\))。これら二つの回転効果が釣り合っているので、\(k\alpha \cdot L = mg \cdot L/2\) という式が成り立ちます。この式を \(m\) について解くと、\(m = \frac{2k\alpha}{g}\) となります。
垂直抗力 \(N\): このとき、棒全体で見ると、上下方向の力も釣り合っています。上向きに作用する力は、ばねの力 \(k\alpha\) と、B点で台が棒を支える垂直抗力 \(N\) の合計です。下向きに作用する力は棒自身の重さ \(mg\) です。したがって、力のつり合いから \(N + k\alpha = mg\) という式が成り立ちます。ここに先ほど求めた \(m=\frac{2k\alpha}{g}\) を代入すると、\(N = \left(\frac{2k\alpha}{g}\right)g – k\alpha = 2k\alpha – k\alpha = k\alpha\) となります。
棒の質量 \(m\) は \(\displaystyle \frac{2k\alpha}{g}\)、点Pが台の端を離れるときに棒が台から受ける垂直抗力 \(N\) は \(k\alpha\) です。
質量 \(m\) が正の値であり(\(k, \alpha, g\) は全て正)、垂直抗力 \(N\) も正の値(ばねが伸びている限り \(k\alpha > 0\))であるため、物理的に妥当です。垂直抗力が正であることは、B点で実際に接触して支えられていることを意味します。
問2:\(b\) は \(\alpha\) の何倍か
思考の道筋とポイント
次に、ばねをA端からB端につけかえて鉛直上方に引っ張り、ばねが \(b\) だけ伸びたときにB端が台から離れた状況を考えます。
「B端が台から離れた」瞬間には、棒はA端から \(l\) の位置にあるP点のみで台と接触している(支えられている)と解釈します。したがって、この場合の回転軸(支点)はP点となります。
棒に働く力は、B端を鉛直上方に引くばねの力 \(F_B = kb\)、棒の重心Gに働く重力 \(mg\)、そしてP点で台から受ける垂直抗力です。
P点のまわりのモーメントのつり合いを考えます。垂直抗力はP点に作用するため、P点のまわりのモーメントは \(0\) です。ばねの力 \(kb\) によるモーメントと重力 \(mg\) によるモーメントがつり合うことから、\(b\) と \(m\)(および幾何学的な長さ \(L, l\))の関係式を導きます。
この関係式に、問1で求めた \(m = \frac{2k\alpha}{g}\) の関係(あるいは \(mg = 2k\alpha\))を代入し、\(b\) が \(\alpha\) の何倍になるかを求めます。
この設問における重要なポイント
- 新たな状況における支点の位置(この場合はP点)を正しく特定する。
- 各力の作用点と新たな支点Pからの「うでの長さ」を正確に求める。特に重心Gの位置とP点の位置関係に注意する(\(l < L/2\) の条件がここで効いてくる)。
- 問1で得られた棒の質量 \(m\) と \(k, \alpha, g\) の関係を正しく利用する。
具体的な解説と立式
B端が台から離れる瞬間、棒はP点だけで台に接していると考え、P点を回転軸とします。
P点はA端から距離 \(l\) の位置です。
- ばねの力 (B端、上向き): \(F_B = kb\)。P点からB端までのうでの長さは \(L-l\)。この力はP点のまわりに棒を反時計回りに回転させようとします。モーメント: \(M_B = kb(L-l)\)。
- 棒の重力 (重心G、下向き): \(mg\)。重心GはA端から \(L/2\) の位置にあります。P点はA端から \(l\) の位置なので、P点からGまでのうでの長さは \(\frac{L}{2} – l\) です(条件 \(l < L/2\) より \(L/2 – l > 0\) であり、GはP点の右側に位置します)。この力はP点のまわりに棒を時計回りに回転させようとします。モーメント: \(M_G = mg\left(\frac{L}{2} – l\right)\)。
P点のまわりの力のモーメントのつり合い (\(\sum M_P = 0\)) より(反時計回りを正とすると)、
$$ kb(L-l) – mg\left(\frac{L}{2} – l\right) = 0 $$
$$ kb(L-l) = mg\left(\frac{L}{2} – l\right) \quad \cdots ②’ $$
問1の結果から \(mg = 2k\alpha\) という関係が得られています(\(m = \frac{2k\alpha}{g}\) より)。これを式 ②’ に代入します。
$$ kb(L-l) = (2k\alpha)\left(\frac{L}{2} – l\right) $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times d\)
- 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
- ばねの弾性力: \(F = kx\)
- 棒の質量と \(k, \alpha, g\) の関係(問1より): \(mg = 2k\alpha\)
$$ kb(L-l) = 2k\alpha\left(\frac{L}{2} – l\right) $$
両辺からばね定数 \(k\) を消去します (\(k \ne 0\))。
$$ b(L-l) = 2\alpha\left(\frac{L}{2} – l\right) $$
$$ b(L-l) = \alpha(L – 2l) $$
求めたいのは「\(b\) は \(\alpha\) の何倍か」なので、\(\frac{b}{\alpha}\) の形にします。
$$ \frac{b}{\alpha} = \frac{L-2l}{L-l} $$
今度は、ばねを棒のB端につけて鉛直上向きに引っ張ります。ばねの伸びが \(b\) になったときに、B端が台からちょうど離れたとします。この瞬間、棒はP点のところでギリギリ支えられています。なので、このP点を回転の中心(支点)として考えます。
B端をばねが力 \(kb\) で上に引っ張ると、棒はP点を中心に反時計回りに回ろうとします。PからBまでの距離は \(L-l\) なので、このモーメントの大きさは \(kb \times (L-l)\) です。
一方、棒の重さ \(mg\) は棒の中央Gにかかり、これが時計回りに回そうとします。PからGまでの距離は \((\frac{L}{2}-l)\) なので、このモーメントの大きさは \(mg \times (\frac{L}{2}-l)\) です。
これら二つの回転効果が釣り合っているので、\(kb(L-l) = mg(\frac{L}{2}-l)\) という式が成り立ちます。
ここで、問1で求めた関係 \(mg = 2k\alpha\) を使うと、\(mg\) の部分を \(2k\alpha\) で置き換えることができます。
\(kb(L-l) = 2k\alpha(\frac{L}{2}-l)\)。
この式を整理して、\(b\) が \(\alpha\) の何倍か (\(\frac{b}{\alpha}\)) を求めると、\(\frac{L-2l}{L-l}\) となります。
\(b\) は \(\alpha\) の \(\displaystyle \frac{L-2l}{L-l}\) 倍です。
条件として \(l < \frac{1}{2}L\) が与えられているので、\(L-2l > 0\) となります。また、P点はA端から \(l\) の位置にあり、棒の長さは \(L\) なので \(L-l > 0\) も明らかです(P点は棒上にあり、B端とは異なるため)。したがって、この比は正の値をとり、物理的に意味のある結果となります。
例えば、もし \(l\) が非常に小さい(\(l \approx 0\)、つまりP点がほぼA端にある)場合、\(\frac{b}{\alpha} \approx \frac{L}{L} = 1\)、すなわち \(b \approx \alpha\) となります。これは、支点がほぼA端かB端かという違いだけで、重心までのうでの長さが同じ \(L/2\) となるため、対称的な結果となり妥当です。
もし \(l\) が \(L/2\) に非常に近い(P点がほぼ重心Gに一致する)ならば、\(\frac{L}{2}-l\) が非常に小さくなるため、モーメントの式から \(b\) も非常に小さくなるはずです。\(\frac{L-2l}{L-l}\) の分子が \(0\) に近づくので、\(b/\alpha \rightarrow 0\)、つまり \(b \rightarrow 0\) となり、これも直観と一致します(P点が重心なら、ごくわずかな力でB端を浮かせることができる)。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合いの二大条件:
- 力のつり合い: 物体に作用する全ての力のベクトル和がゼロであること (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。これにより、物体は並進運動を開始しません。
- 力のモーメントのつり合い: ある任意の回転軸のまわりでの、物体に作用する全ての力のモーメントの代数和がゼロであること (\(\sum M = 0\))。これにより、物体は回転運動を開始しません。
本質: 物体が静止状態を維持し続けるための、並進運動と回転運動の両方に関する普遍的な条件です。
- 力のモーメントの正確な理解と計算:
- 定義: モーメント \(M\) は、力の大きさ \(F\) と、回転軸からその力の作用線までの垂直距離(うでの長さ \(d\))の積で表されます (\(M = F \times d\))。
- 回転の向き(符号): 時計回りと反時計回りを区別し、一方を正、もう一方を負として代数和を計算します。
- 本質: 物体を特定の軸のまわりに回転させようとする能力の大きさと向きを表す物理量です。回転軸の選び方によって、計算の便宜が図れることがあります。
- 重心の概念:
- 一様な棒の場合、その重心は棒の幾何学的な中点にあります。
- 物体の質量全体がその一点に集中しているかのように重力が作用すると考えて、重力による力のモーメントを計算することができます。
- ばねの弾性力 (フックの法則):
- ばねの弾性力の大きさ \(F\) は、ばねの自然長からの変形量(伸びまたは縮み)\(x\) に比例します (\(F = kx\)、ここで \(k\) はばね定数)。力の向きは変形を元に戻そうとする向きです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 様々な形状の剛体(例:L字型の棒、円盤、三角形の板など)のつり合い問題。
- 複数の支点が存在する場合や、複数の力が複雑に作用する場合のつり合い。
- 壁に立てかけられたはしごが滑り出す条件の解析(この場合は摩擦力も重要な要素となる)。
- クレーンアームや橋などの構造物における、各部材にかかる力や全体の安定性の解析。
- 初見の問題への着眼点:
- 対象とする「剛体」を明確に特定する: まず、どの物体(または物体系)のつり合いを考えているのかをはっきりとさせます。
- 作用する全ての力を正確に図示する(フリーボディダイアグラムの作成): 対象物体に働く全ての力(重力、ばねの力、接触点での垂直抗力、張力、摩擦力など)を、その作用点と向きを明確にして、漏れなく描き込みます。特に、物体の重力はその重心に作用するものとして図示します。
- 「離れる瞬間」の物理的解釈: 特定の接触点が「離れる」という記述がある場合、それはその点での垂直抗力が \(0\) になる瞬間であると解釈するか、あるいは、その点が離れた結果として残りの接触点が新たな回転軸(支点)となると解釈します。本問では後者の解釈が有効でした。
- 回転軸(支点)の戦略的な選択: 力のモーメントのつり合いを考える際、回転軸をどこに取るかによって計算の複雑さが大きく変わります。未知の力が最も多く作用している点や、力の作用線が通る点(その力のモーメントが \(0\) になる点)を回転軸に選ぶのが、計算を簡略化するための一般的なセオリーです。
- 必要なつり合いの式の数を判断する: 未知数の個数と、立てることができる独立な方程式の数(力のつり合いの式:通常は \(x, y\) 方向で最大2式、力のモーメントのつり合いの式:1式)を比較し、解を求めるのに十分な式が立てられているかを確認します。
- ヒント・注意点:
- 「うでの長さ」とは、回転軸から「力の作用線」に下ろした垂線の長さであるという定義を常に念頭に置きましょう。
- 力のモーメントの回転方向の符号の規約(例:反時計回りを正、時計回りを負)を最初に明確に定義し、計算全体を通じてその規約を一貫して用いることが重要です。
- 問題の状況が変化する場合(例:本問のようにばねの取り付け位置が変わる場合)、それに伴って支点の位置や各力のうでの長さがどのように変化するのかを注意深く再評価する必要があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 支点の誤認、特に「離れる瞬間」の扱いの誤り:
- ありがちな誤解: 物体の一部が台から離れる瞬間に、どの点が実質的な支点として機能するのかを間違って判断してしまう。
- 対策: 物体がある点から「離れる」ということは、その点ではもはや支持力を受けていない(垂直抗力が \(0\) である)と解釈できます。その結果、物体が回転し始めるとすれば、それは残りの接触点(または指定された回転軸)のまわりになります。本問のように「離れると同時に他の点で支えられる」場合は、その残りの支持点が新たな支点となります。
- 「うでの長さ」の計算ミスや誤解: 特に、重心の位置や力の作用点が棒の端ではない場合に、回転軸からの距離を正確に求める際に間違いやすいです。
- 対策: 必ず図を丁寧に描き、選択した回転軸から各力の作用線までの「垂直」距離を、幾何学的な関係(棒の長さ、重心の位置、支点の位置など)に基づいて正確に計算しましょう。
- 力のモーメントの回転方向(符号)の判断ミス:
- 対策: 回転軸に仮想的なピンを刺し、各力がそのピンのまわりに棒をどちら向き(時計回りか、反時計回りか)に回そうとするかを、具体的にイメージして判断します。そして、最初に決めた符号の規約(例:反時計回りを正)に従って、各モーメントに符号を付けます。
- 棒自身の重力(重心に作用)の考慮漏れ、または作用点の誤り:
- 対策: 一様な棒であれば、その重心は必ず幾何学的な中点にあり、棒の全質量がそこに集中しているかのように重力が作用すると考えます。これをフリーボディダイアグラムに忘れずに描き込みましょう。
- 力のつり合いの式だけで解こうとしてしまう(回転のつり合いを考慮しない):
- 対策: 剛体のつり合い問題では、物体が並進運動しないための「力のつり合い」と、回転運動しないための「力のモーメントのつり合い」という、2種類の条件を両方とも満たす必要があることを常に意識しましょう。未知数の数と立てるべき式の数を考慮し、必要な条件式をすべて用います。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題で有効だった図の活用法:
- 各状況(状況1、状況2の滑り出し直前)における力の図示(フリーボディダイアグラム): 対象となる棒ABに働く全ての力(ばねの引張力、棒の重力、台からの垂直抗力)を、それぞれの作用点と向きを明確にして正確に描き込むことが、解析の第一歩です。特に、棒の重心の位置(中点)と、そこにかかる重力を明示します。
- 回転軸(支点)とうでの長さの明確化: 各状況で選択した回転軸(状況1ではB点、状況2ではP点)の位置を明確に示し、そこから各力の作用線までの垂直距離(うでの長さ)を図中に具体的に長さとして書き込むことで、力のモーメントの立式が格段に容易になり、計算ミスを防ぐことができます。
- 図を描く際に注意すべき共通のポイント:
- 力はベクトル量なので、矢印を用いてその作用点、向き、そして可能であれば相対的な大きさを表現します。
- 「うでの長さ」が図の上でどこに対応するのかを、力の作用線と回転軸との幾何学的な関係から正確に見極めて図示します。
- 支点が変われば、各力に対するうでの長さも変わることを理解し、状況に応じて図を更新または新たに描くことが重要です。
- 力のモーメントの回転方向(時計回りか反時計回りか)を、各力について図を見ながら判断できるように、力の向きと作用点の位置関係を正確に描きましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\sum M = 0\) (力のモーメントのつり合いの式):
- 選択理由: 棒が回転せずに静止している(または回転し始める直前で角加速度が \(0\) である)という物理的条件を数式で表現するため。
- 適用根拠: 物体が回転平衡の状態にあるための基本的な物理法則です。この式は、どの点を回転軸として選んでも(慣性系内であれば)成り立ちますが、計算が最も簡単になるように回転軸を選ぶのが実用的です(例:未知の力が作用する点)。
- \(\sum F_y = 0\) (鉛直方向の力のつり合いの式):
- 選択理由: 棒が鉛直方向に並進運動をしない(加速度が \(0\) である)という物理的条件を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの運動の第一法則(または第二法則で加速度 \(0\) の場合)に相当し、物体が並進平衡の状態にあるための基本的な物理法則です。
- \(F = kx\) (フックの法則、ばねの弾性力):
- 選択理由: ばねによって棒に加えられる力の大きさを、ばねの伸び(または縮み)とばね定数から計算するため。
- 適用根拠: 理想的なばねの弾性力が、その自然長からの変形量に比例するという実験法則です。
- \(W = mg\) (重力の大きさの式):
- 選択理由: 質量が与えられた物体(棒)の重力の大きさを計算するため。
- 適用根拠: 地球表面近くの物体が受ける重力の大きさが、その物体の質量 \(m\) と重力加速度の大きさ \(g\) の積で与えられるという法則。
これらの公式は、それぞれが特定の物理的状況や法則を表しています。問題を解く際には、どの法則が現在の状況に適用できるのかを的確に判断し、それに対応する公式を選択することが求められます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 状況1の解析 (棒の質量 \(m\) と垂直抗力 \(N\) の導出):
- 点Pが離れる瞬間の回転軸(支点)をB点と特定します。
- B点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます:ばねの力によるモーメント \(k\alpha \cdot L\) と、棒の重力によるモーメント \(mg \cdot L/2\) がつり合うと考え、\(k\alpha \cdot L = mg \cdot L/2\) とします。
- この式から、棒の質量 \(m\) を \(k, \alpha, g\) を用いて表します (\(m = 2k\alpha/g\))。
- 次に、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます:\(N + k\alpha = mg\)。
- 上で求めた \(m\) の表現を代入し、垂直抗力 \(N\) を \(k, \alpha\) を用いて表します (\(N = k\alpha\))。
- 状況2の解析 (ばねの伸びの比 \(b/\alpha\) の導出):
- B端が離れる瞬間の回転軸(支点)をP点(A端から \(l\) の位置)と特定します。
- P点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます:B端のばねの力によるモーメント \(kb(L-l)\) と、棒の重力によるモーメント \(mg(\frac{L}{2}-l)\) がつり合うと考え、\(kb(L-l) = mg(\frac{L}{2}-l)\) とします。
- この式に、状況1の結果から得られる関係 \(mg = 2k\alpha\) を代入します。
- 得られた \(k, \alpha, b, L, l\) を含む関係式を整理し、求めたい比 \(\frac{b}{\alpha}\) を \(L, l\) を用いて表します (\(\frac{b}{\alpha} = \frac{L-2l}{L-l}\))。
このように、問題を段階的に分け、各段階で適切な物理法則(力のモーメントのつり合い、力のつり合い)を適用し、未知数を一つずつ、あるいは関連付けながら明らかにしていくことが、複雑なつり合い問題を解く上での基本的なアプローチです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 「うでの長さ」の正確な計算の徹底: \(L, l, L/2\) などの幾何学的な長さの関係を正しく用い、選択した回転軸から各力の作用線までの垂直距離を間違えずに計算しましょう。特に、P点やG点(重心)の位置を、A端またはB端からの距離として正確に把握することが重要です。
- 代数計算(特に文字式の整理)の丁寧な実行: この問題のように多くの文字記号が登場する場合、移項時の符号ミスや、項の整理、共通因数での括り出し、あるいは比を求める際の割り算などを慎重に行うことが求められます。
- \(k, g, L\) などの共通の文字記号の適切な消去: 式を簡略化し、見通しを良くするために、両辺に共通して存在する文字記号(ゼロでない場合)を適切に消去する操作を正確に行いましょう。
計算過程をノートに丁寧に書き出し、各ステップでの仮定や用いた公式、計算操作を明確にすることで、見直しが容易になり、計算ミスを発見しやすくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の確認:
- 計算で得られた質量 \(m\)、垂直抗力 \(N\)、ばねの伸び \(b\) が、物理的に意味のある正の値になっているかを確認します(特に \(N\) や \(b\) は状況によっては \(0\) になることもあり得ますが、負になるのは通常不自然です)。
- 問題文で与えられた条件 \(l < L/2\) が、計算結果の式の意味(例えば、\(\frac{L}{2}-l\) という項が正であることなど)と矛盾していないかを確認します。
- 極端な場合を考えてみる:
- もし \(l=0\) (つまりP点がA端と同じ位置にある) ならば、問2の答え \(\frac{b}{\alpha}\) は \(\frac{L-0}{L-0} = 1\)、すなわち \(b=\alpha\) となります。これは、棒のA端を引くのもB端を引くのも、重心までのうでの長さが同じ \(L/2\) となるため、ばねの伸びも同じになるという対称的な状況を示唆しており、妥当と考えられます。
- もし \(l\) が \(L/2\) に非常に近い(つまりP点がほぼ重心Gに一致する)ならば、問2の答え \(\frac{b}{\alpha}\) は \(\frac{L-2(L/2)}{L-(L/2)} = \frac{0}{L/2} = 0\)、すなわち \(b \rightarrow 0\) となります。これは、P点が重心であれば、B端を引くモーメントの腕は \(L/2\) ですが、重力によるP点まわりのモーメントは \(0\) になるため、非常に小さい力(ごくわずかなばねの伸び)でB端が浮き始めることを意味し、これも物理的に妥当です。
- 単位の確認: 最終的な答えの単位が、求めようとしている物理量の単位として正しいか(質量なら[kg]、力なら[N]、長さや伸びなら[m]など)を確認します。問2の答えは比なので無次元数となります。
これらの吟味を行うことで、計算ミスや立式の誤りに気づくだけでなく、物理現象そのものへの理解をより深く、確かなものにすることができます。
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