問題6 (宮崎大+神奈川工大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)〜(4)共通の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 模範解答が等加速度運動の公式を既知として適用しているのに対し、別解では運動方程式を立式し、それを時間で積分することで位置や速度の式を導出します。
- 設問(4)の別解: 「仮想的な到達点」を用いた解法
- 「もし壁がなかったらどこまで飛んでいたか」を考え、その「壁を越えた分の距離」と反発係数の関係から、幾何学的・直感的に答えを導きます。
- 設問(1)〜(4)共通の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分の解法: 「公式を覚える」のではなく、「力から運動が決まる」という物理学の根本原理(因果関係)を理解するのに最適です。特に、水平・鉛直方向の運動がなぜ独立なのかが数式から自然に理解できます。
- 仮想的な到達点の解法: 複雑な時間の計算を回避し、現象全体を俯瞰する視点を養います。「衝突後の軌道は、壁がない場合の軌道を水平方向に \(e\) 倍に縮小して折り返したもの」という物理的直感は、検算にも非常に役立ちます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜方投射と壁面での跳ね返り」です。一見複雑に見えますが、水平方向と鉛直方向の運動を分解して考えることで、基本的な運動の組み合わせとして解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の独立性: 水平方向と鉛直方向の運動は互いに影響せず、独立して扱えます。
- なめらかな壁との衝突: 壁がなめらか(摩擦がない)であるため、衝突時に小球が受ける力は水平方向の垂直抗力のみです。したがって、鉛直方向の速度成分は変化しません。
- 反発係数(はね返り係数): 衝突によって、壁に垂直な方向(水平方向)の速さは \(e\) 倍になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(鉛直投げ上げ)それぞれの式を立てて解きます。
- (2)では、鉛直方向の運動が壁との衝突の影響を受けないことに着目し、通常の斜方投射と同様に扱います。
- (3)では、(1)と(2)で求めた時間の大小関係を比較します。
- (4)では、衝突後の水平方向の運動(速さが変化)と、滞空時間(鉛直方向の運動で決まる)を組み合わせて距離を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球は重力(鉛直下向き)のみを受けて運動しています。
水平方向には力が働かないため「等速直線運動」、鉛直方向には重力が働くため「等加速度直線運動(鉛直投げ上げ)」となります。
まずは、初速度 \(v_0\) を水平成分と鉛直成分に分解します。
この設問における重要なポイント
- 速度の分解:
- 水平成分 \(v_{0x} = v_0 \cos\theta\)
- 鉛直成分 \(v_{0y} = v_0 \sin\theta\)
- 水平方向の運動: 壁までの距離 \(l\) を、一定の速さ \(v_{0x}\) で進みます。
- 鉛直方向の運動: 時間 \(t_1\) の間にどれだけ上昇するかを考えます。
具体的な解説と立式
1. 衝突までの時間 \(t_1\)
水平方向の運動に着目します。右向きを正とします。
等速直線運動の式「距離 \(=\) 速さ \(\times\) 時間」より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
l &= (v_0 \cos\theta) \cdot t_1
\end{aligned}
$$
2. 衝突点Bの高さ \(h\)
鉛直方向の運動に着目します。上向きを正とします。
等加速度直線運動(鉛直投げ上げ)の位置の公式より、時刻 \(t_1\) における高さ \(h\) は以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
h &= (v_0 \sin\theta) \cdot t_1 + \frac{1}{2}(-g)t_1^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \(x = vt\)
- 等加速度直線運動(位置): \(y = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
まず、水平方向の式から \(t_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{l}{v_0 \cos\theta}
\end{aligned}
$$
次に、この \(t_1\) を鉛直方向の式に代入して \(h\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= v_0 \sin\theta \cdot \left( \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) – \frac{1}{2}g \left( \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right)^2 \\[2.0ex]
&= l \frac{\sin\theta}{\cos\theta} – \frac{g l^2}{2 v_0^2 \cos^2\theta} \\[2.0ex]
&= l \tan\theta – \frac{g l^2}{2 v_0^2 \cos^2\theta}
\end{aligned}
$$
まず、ボールが壁に届くまでの時間は、横方向のスピードだけで決まります。横方向には邪魔する力がないので、一定のペースで進み続けます。「距離 \(l\) を速さ \(v_0 \cos\theta\) で割る」だけで時間が求まります。
次に、その時間の間にボールがどれくらいの高さまで上がったかを計算します。縦方向には重力がブレーキとして働くので、単純な掛け算ではなく、ブレーキがかかった分(\(\frac{1}{2}gt^2\))を引く必要があります。
\(t_1 = \frac{l}{v_0 \cos\theta}\) は、距離を速度で割った形であり、次元は \([\text{L}]/[\text{L}\cdot\text{T}^{-1}] = [\text{T}]\) で正しいです。
\(h = l \tan\theta – \frac{g l^2}{2 v_0^2 \cos^2\theta}\) は、軌道の式 \(y = x \tan\theta – \frac{g}{2v_0^2 \cos^2\theta}x^2\) に \(x=l\) を代入した形そのものであり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
最高点Hに達するまでの運動を考えます。
ここで最も重要なのは、「壁との衝突によって鉛直方向の運動は変化しない」という点です。
壁は滑らかなので、摩擦力が働きません。つまり、小球には水平方向の力(垂直抗力)しか働かず、鉛直方向の速度成分には一切影響を与えません。
したがって、最高点に達するまでの時間や高さは、壁がない場合の通常の斜方投射と全く同じになります。
この設問における重要なポイント
- 鉛直方向の独立性: 壁との衝突前後で、鉛直方向の速度 \(v_y\) は連続的に変化します(不連続な変化はない)。
- 最高点の条件: 最高点では、鉛直方向の速度成分が \(0\) になります(\(v_y = 0\))。
具体的な解説と立式
1. 最高点に達するまでの時間 \(t_2\)
鉛直方向の速度の式を立てます。上向きを正とします。
最高点では速度が \(0\) になるので、
$$
\begin{aligned}
0 &= v_0 \sin\theta + (-g)t_2
\end{aligned}
$$
2. 最高点の高さ \(H\)
鉛直方向の速度と位置の関係式(時間を含まない公式)を用います。
最高点(速度 \(0\))と投げ上げ点(速度 \(v_0 \sin\theta\))の間で、
$$
\begin{aligned}
0^2 – (v_0 \sin\theta)^2 &= 2(-g)H
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動(速度): \(v = v_0 + at\)
- 等加速度直線運動(速度と変位): \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
まず、時間の式から \(t_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
g t_2 &= v_0 \sin\theta \\[2.0ex]
t_2 &= \frac{v_0 \sin\theta}{g}
\end{aligned}
$$
次に、高さの式から \(H\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-(v_0 \sin\theta)^2 &= -2gH \\[2.0ex]
H &= \frac{(v_0 \sin\theta)^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g}
\end{aligned}
$$
壁にぶつかっても、ボールの「上がり下がり」のリズムは変わりません。壁はツルツルなので、ボールを上下にこする力がないからです。
だから、「真上に \(v_0 \sin\theta\) で投げ上げたボールが、いつ最高点に達するか」という単純な問題として解くことができます。最高点では一瞬だけ縦方向の動きが止まるので、その条件を使って計算します。
\(t_2 = \frac{v_0 \sin\theta}{g}\) は、重力加速度 \(g\) が大きいほど短くなり、初速の鉛直成分が大きいほど長くなるため、直感と一致します。
\(H = \frac{v_0^2 \sin^2\theta}{2g}\) は、エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}m(v_0 \sin\theta)^2 = mgH\) からも導ける有名な結果であり、正しいです。
問(3)
思考の道筋とポイント
「最高点に達する前に壁に衝突する」という状況を、時間の関係に翻訳します。
これは、「壁に衝突する時刻 \(t_1\)」が、「最高点に達する時刻 \(t_2\)」よりも早い(小さい)ことを意味します。
この設問における重要なポイント
- 条件の数式化: 「Aする前にBする」 \(\rightarrow\) 「Aの時刻 \(<\) Bの時刻」。
- 不等式の立式: \(t_1 < t_2\) となります。
具体的な解説と立式
求める条件は、衝突時刻 \(t_1\) が最高点到達時刻 \(t_2\) より小さいことです。
$$
\begin{aligned}
t_1 &< t_2
\end{aligned}
$$
これに(1)と(2)の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{l}{v_0 \cos\theta} &< \frac{v_0 \sin\theta}{g}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 不等式による条件処理
\(v_0\) について解くために式変形します。\(v_0 > 0\), \(\cos\theta > 0\), \(g > 0\) なので、分母を払っても不等号の向きは変わりません。
$$
\begin{aligned}
\frac{l}{\cos\theta} &< \frac{v_0^2 \sin\theta}{g} \\[2.0ex] v_0^2 &> \frac{gl}{\sin\theta \cos\theta}
\end{aligned}
$$
ここで、三角関数の倍角の公式 \(\sin 2\theta = 2\sin\theta \cos\theta\) より、\(\sin\theta \cos\theta = \frac{1}{2}\sin 2\theta\) を用いて整理します。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &> \frac{gl}{\frac{1}{2}\sin 2\theta} \\[2.0ex]
v_0^2 &> \frac{2gl}{\sin 2\theta}
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) より、平方根をとります。
$$
\begin{aligned}
v_0 &> \sqrt{\frac{2gl}{\sin 2\theta}}
\end{aligned}
$$
「最高点に行く前にぶつかる」ということは、「ぶつかるまでの時間」の方が「最高点に行くまでの時間」より短いということです。
計算した2つの時間を比べて、初速度 \(v_0\) が満たすべき条件(ある値より速くなければならない)を求めました。スピードが遅いと、壁に届く前に最高点に達して落ち始めてしまうからです。
\(v_0 > \sqrt{\frac{2gl}{\sin 2\theta}}\) という結果が得られました。
距離 \(l\) が大きいほど、必要な初速度 \(v_0\) は大きくなります。これは遠くの壁に上昇中に当てるには速く投げる必要があることを意味し、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
はね返った後の小球が床に落ちる位置を求めます。
まず、床に落ちるまでの「全滞空時間」を求め、次に「衝突してから床に落ちるまでの時間」を求めます。
最後に、衝突後の水平速度(反発係数 \(e\) を考慮)を用いて、壁からどれだけ戻るかを計算します。
この設問における重要なポイント
- 滞空時間の対称性: 鉛直方向の運動は投げ上げ運動そのものなので、上がってから落ちてくるまでの全時間 \(t_3\) は、最高点までの時間 \(t_2\) の2倍です。
- 衝突後の水平速度: 壁との衝突により、水平方向の速さは \(e\) 倍になります。向きは壁から離れる方向(左向き)です。
- 衝突後の速さ \(v’_x = e \cdot (v_0 \cos\theta)\)
具体的な解説と立式
1. 床に落ちるまでの全時間 \(t_3\)
鉛直投げ上げ運動の対称性より、
$$
\begin{aligned}
t_3 &= 2 t_2 \\[2.0ex]
&= \frac{2 v_0 \sin\theta}{g}
\end{aligned}
$$
2. 衝突してから床に落ちるまでの時間 \(\Delta t\)
全時間から、衝突するまでの時間を引きます。
$$
\begin{aligned}
\Delta t &= t_3 – t_1
\end{aligned}
$$
3. 壁から落下点までの距離 \(x’\)
衝突後の小球は、速さ \(e v_0 \cos\theta\) で、時間 \(\Delta t\) の間、壁から離れる方向に進みます。
$$
\begin{aligned}
x’ &= (e v_0 \cos\theta) \cdot \Delta t \\[2.0ex]
&= e v_0 \cos\theta (t_3 – t_1)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 対称性: \(t_{\text{落下}} = 2 t_{\text{最高点}}\)
- 反発係数の定義: \(v’ = e v\)
式に \(t_1, t_3\) を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
x’ &= e v_0 \cos\theta \left( \frac{2 v_0 \sin\theta}{g} – \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) \\[2.0ex]
&= e \left( v_0 \cos\theta \cdot \frac{2 v_0 \sin\theta}{g} – v_0 \cos\theta \cdot \frac{l}{v_0 \cos\theta} \right) \\[2.0ex]
&= e \left( \frac{2 v_0^2 \sin\theta \cos\theta}{g} – l \right)
\end{aligned}
$$
ここで、倍角の公式 \(2\sin\theta \cos\theta = \sin 2\theta\) を用いて整理します。
$$
\begin{aligned}
x’ &= e \left( \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l \right)
\end{aligned}
$$
ボールが空中にいる時間の合計は、最高点までの時間のちょうど2倍です。
壁にぶつかった後、地面に落ちるまでの「残りの時間」は、合計時間からぶつかるまでの時間を引けば分かります。
ぶつかった後は、横方向のスピードが \(e\) 倍(少し遅くなる)になって跳ね返ります。「新しいスピード \(\times\) 残りの時間」で、壁からどれくらい戻ったところに落ちるかが計算できます。
答えは \(e (\frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l)\) です。
ここで \(\frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g}\) は、壁がなかった場合の水平到達距離 \(R\) に相当します。つまり、答えは \(e(R – l)\) という形をしています。これは「壁を越えて進むはずだった距離 \(R-l\) が、跳ね返りによって \(e\) 倍になって戻ってきた」と解釈でき、物理的に非常に美しい結果です。
思考の道筋とポイント
運動方程式から出発し、積分によって位置と速度の式を導きます。
この方法は、公式を忘れても自力で導出できる強力なツールです。
水平方向と鉛直方向の運動方程式をそれぞれ立て、初期条件(\(t=0\) での位置と速度)を用いて積分定数を決定します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の立式: 力が働くのは鉛直方向(重力)のみです。
- 初期条件:
- \(t=0\) で \(x=0, y=0\)
- \(t=0\) で \(v_x = v_0 \cos\theta, v_y = v_0 \sin\theta\)
具体的な解説と立式
小球の質量を \(m\) とし、水平方向を \(x\) 軸(右向き正)、鉛直方向を \(y\) 軸(上向き正)、原点を点Aとします。
働く力は重力 \(-mg\) (\(y\) 成分)のみです。
1. 運動方程式の立式
$$
\begin{aligned}
m a_x &= 0 \\[2.0ex]
m a_y &= -mg
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、加速度は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
\frac{d^2x}{dt^2} &= 0 \\[2.0ex]
\frac{d^2y}{dt^2} &= -g
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 微分の定義: \(v = \frac{dx}{dt}, a = \frac{dv}{dt}\)
1. 速度の導出
加速度を \(t\) で積分して速度を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_x(t) &= \int 0 \, dt \\[2.0ex]
&= C_1
\end{aligned}
$$
初期条件 \(v_x(0) = v_0 \cos\theta\) より、\(C_1 = v_0 \cos\theta\) です。
$$
\begin{aligned}
v_x(t) &= v_0 \cos\theta
\end{aligned}
$$
同様に \(y\) 成分について、
$$
\begin{aligned}
v_y(t) &= \int (-g) \, dt \\[2.0ex]
&= -gt + C_2
\end{aligned}
$$
初期条件 \(v_y(0) = v_0 \sin\theta\) より、\(C_2 = v_0 \sin\theta\) です。
$$
\begin{aligned}
v_y(t) &= -gt + v_0 \sin\theta
\end{aligned}
$$
2. 位置の導出
速度を \(t\) で積分して位置を求めます。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= \int v_0 \cos\theta \, dt \\[2.0ex]
&= (v_0 \cos\theta)t + C_3
\end{aligned}
$$
初期条件 \(x(0) = 0\) より、\(C_3 = 0\) です。
$$
\begin{aligned}
x(t) &= (v_0 \cos\theta)t
\end{aligned}
$$
同様に \(y\) 成分について、
$$
\begin{aligned}
y(t) &= \int (-gt + v_0 \sin\theta) \, dt \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{2}gt^2 + (v_0 \sin\theta)t + C_4
\end{aligned}
$$
初期条件 \(y(0) = 0\) より、\(C_4 = 0\) です。
$$
\begin{aligned}
y(t) &= v_0 \sin\theta \cdot t – \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
これにより、(1)で使用した等速直線運動と等加速度直線運動の公式が自然に導かれました。
以降の計算手順はメインの解法と同様です。
「力」からスタートして、数学の力(積分)を使って「速度」と「位置」の式を作りました。
横方向には力が働かないので速度は一定、縦方向には重力が働くので速度がどんどん下向きに変化していく様子が、数式から自動的に出てきます。
公式を暗記していなくても、この手順さえ知っていればどんな運動でも式を作ることができます。
導出された式 \(x(t) = (v_0 \cos\theta)t\) と \(y(t) = v_0 \sin\theta \cdot t – \frac{1}{2}gt^2\) は、高校物理の教科書にある公式と完全に一致します。
このことから、運動方程式が力学の最も基礎的な原理であることが確認できます。
思考の道筋とポイント
「もし壁がなかったら」という仮想的な状況を考えることで、複雑な時間の計算を省略できます。
壁による跳ね返りを、空間的な「折り返し」として捉えます。
壁がない場合の水平到達距離 \(R\) を求め、壁を越えた部分の距離 \(R-l\) が、跳ね返りによって \(e\) 倍になって戻ってくることを利用します。
この設問における重要なポイント
- 仮想的な水平到達距離 \(R\): 壁がない場合に、小球が再び \(y=0\) に戻ってくる地点までの距離。
- 幾何学的な関係: 実際の落下点は、壁から \(e(R-l)\) だけ戻った位置になります。
具体的な解説と立式
もし壁がなかった場合、小球が再び床(\(y=0\))に落下する地点までの水平距離 \(R\) は、公式(または \(y(t)=0\) の解)より以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g}
\end{aligned}
$$
この距離 \(R\) は、壁までの距離 \(l\) よりも大きいです(問(3)の条件より)。
つまり、壁がなければ小球は壁を越えて、さらに \(R – l\) だけ進んだ地点に落下していたはずです。
実際の運動では、壁の位置で水平速度の大きさが \(1\) から \(e\) に変化し、向きが逆転します。
時間は共通して流れるため、壁から先の「進むはずだった距離」が \(e\) 倍に縮小されて「戻る距離」になります。
したがって、壁から落下点までの距離 \(x’\) は、以下の式で表されます。
$$
\begin{aligned}
x’ &= e \times (\text{壁から先へ進むはずだった距離}) \\[2.0ex]
&= e (R – l)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 水平到達距離の公式: \(R = \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g}\)
- 反発係数による距離の縮小: \(x_{\text{戻り}} = e \cdot x_{\text{行き}}\)
\(R\) の値を代入するだけで答えが得られます。
$$
\begin{aligned}
x’ &= e \left( \frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l \right)
\end{aligned}
$$
壁がなかったら、ボールはずっと遠くの \(R\) という場所まで飛んでいきます。
壁があるせいで、壁から先の \(R-l\) という距離を進めなくなりました。
その代わり、壁に当たって跳ね返ります。跳ね返ると勢いが \(e\) 倍になるので、進めなかった距離の \(e\) 倍だけ、逆向きに戻ってくることになります。
この考え方を使うと、時間を計算しなくても、距離の引き算と掛け算だけで答えが出せます。
この方法で得られた結果 \(e (\frac{v_0^2 \sin 2\theta}{g} – l)\) は、時間を計算して求めたメイン解法の結果と完全に一致します。
計算量が圧倒的に少なく、計算ミスのリスクを減らせるため、検算用としても非常に有効な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の独立性と分解
- 核心: 斜方投射のような2次元の運動は、互いに直交する2つの方向(水平方向と鉛直方向)に分解することで、単純な1次元運動の組み合わせとして扱えます。
- 理解のポイント:
- 水平方向: 力が働かないため、等速直線運動(\(a_x = 0\))をします。
- 鉛直方向: 重力のみが働くため、等加速度直線運動(\(a_y = -g\))をします。
- 時間の共有: 2つの運動をつなぐ唯一の共通変数は「時間 \(t\)」です。水平方向で求めた時間を鉛直方向の式に代入する(あるいはその逆)のが定石です。
- なめらかな壁との衝突特性
- 核心: 壁がなめらか(摩擦がない)であるため、衝突時に小球が受ける力は壁に垂直な方向(水平方向)のみです。
- 理解のポイント:
- 鉛直成分の保存: 鉛直方向には力が働かないため、衝突の前後で鉛直方向の速度 \(v_y\) は変化しません。つまり、上昇・下降のリズムは壁がない場合と全く同じです。
- 水平成分の変化: 水平方向の速度 \(v_x\) は、反発係数 \(e\) に応じて大きさが \(e\) 倍になり、向きが逆転します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 床でのバウンド: 今回は壁(垂直面)での衝突でしたが、床(水平面)でのバウンドも原理は同じです。床の場合は、水平成分が保存され、鉛直成分が \(e\) 倍になって逆転します。
- 斜面への衝突: 斜面の場合は、速度を「斜面に平行な成分」と「垂直な成分」に分解します。なめらかな斜面なら平行成分は保存され、垂直成分のみが跳ね返ります。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の向きを確認する: 重力は常に鉛直下向きです。他に力が働いていないか(空気抵抗や摩擦など)を確認し、運動方程式をイメージします。
- 「変わらないもの」を見つける: この問題では「鉛直方向の運動」が衝突の影響を受けません。このように保存される量や変化しない運動成分を見つけることが、問題を簡単にする鍵です。
- 「もし〜がなかったら」を考える: 別解で示したように、「もし壁がなかったら」という仮想的な状況と比較することで、複雑な計算を回避できる場合があります。
- 対称性の利用: 投げ上げ運動は最高点を境に対称です。「行き」と「帰り」の時間は等しく、速度の大きさも同じ高さなら等しくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 衝突で鉛直速度も変わるという思い込み:
- 誤解: 壁にぶつかった衝撃で、ボールが下に落ちたり、上昇が止まったりするイメージを持ってしまう。
- 対策: 「力」に着目してください。壁はツルツルなので、縦方向には一切力を及ぼしません。力がなければ速度は変わりません(慣性の法則)。
- 時間の取り違え:
- 誤解: \(t_1\)(衝突まで)、\(t_2\)(最高点まで)、\(t_3\)(落下まで)をごちゃ混ぜにして計算してしまう。
- 対策: タイムライン(時間軸)を描き、それぞれの時刻がどのイベント(衝突、最高点、落下)に対応するかを可視化しましょう。
- 三角関数の計算ミス:
- 誤解: \(\sin 2\theta\) や \(\cos^2\theta\) などの変形で間違える。特に \(\frac{1}{\cos^2\theta} = 1 + \tan^2\theta\) や \(2\sin\theta\cos\theta = \sin 2\theta\) は頻出です。
- 対策: 三角関数の基本公式はいつでも引き出せるようにしておき、計算の最後で形を整える際に活用しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)での公式選択(位置の式):
- 選定理由: 求めたいのが「時間 \(t\)」と「変位(距離・高さ)」の関係だからです。速度 \(v\) を求める必要がないため、\(v\) を含まない \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) の形が最適です。
- 適用根拠: 加速度が一定(水平は \(0\)、鉛直は \(-g\))であるため、等加速度運動の公式が適用可能です。
- 問(2)での公式選択(速度と変位の関係式):
- 選定理由: 最高点の高さ \(H\) を求める際、時間 \(t_2\) を経由せずに直接 \(H\) を求めたい場合は、時間を消去した式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) が便利です。
- 適用根拠: 最高点では \(v=0\) という条件が使えるため、未知数が \(H\) だけになり、一発で解けます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 答えが出たら、単位(次元)を確認しましょう。
- 例えば時間の答えなら \([\text{T}]\)、距離なら \([\text{L}]\) になっているはずです。
- \(t = \frac{l}{v}\) は \([\text{L}]/[\text{L/T}] = [\text{T}]\) でOK。
- \(v^2 = gl\) は \([\text{L/T}^2] \cdot [\text{L}] = [\text{L}^2/\text{T}^2]\) なので、\(v\) は \([\text{L/T}]\) となりOK。
- 極限的なケースでの検算:
- もし \(\theta = 90^\circ\)(真上に投げ上げ)だったら? \(\cos 90^\circ = 0\) なので \(t_1 \to \infty\) となり、壁には永遠に届きません。これは物理的に正しい挙動です。
- もし \(e=0\)(壁に張り付く)だったら? (4)の答えは \(0\) になります。つまり壁の真下に落ちます。これも直感と合います。
- 係数の処理:
- \(2\)倍や \(\frac{1}{2}\) が頻出します。特に \(t_3 = 2t_2\) のような対称性を使うときは、係数を忘れないように注意しましょう。また、\(v_0^2\) のような2乗の計算も丁寧に書き下しましょう。
問題7 (慶應大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 重心の公式(合成重心)を用いた解法
- 模範解答が「力のモーメントのつりあい」で解くのに対し、別解では「全体の重心が支点の直下にある」という条件を用いて解きます。
- 設問(1)の別解: 重心の公式(合成重心)を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 重心の公式の解法: 複数の物体からなる系全体のバランスを考える際、「系全体の質量中心(重心)がどこにあるか」という視点は、物理現象を直感的に捉えるのに役立ちます。また、モーメントのつりあいの式と重心の定義式が数学的に等価であることを確認することで、理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつりあい」です。棒に働く力のバランス(並進運動の静止条件)と、回転のバランス(回転運動の静止条件)の両方を考える必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあい: 物体が移動しないための条件です。
- \((\text{上向きの力の和}) = (\text{下向きの力の和})\)
- 力のモーメントのつりあい: 物体が回転しないための条件です。任意の点を回転軸(支点)として選ぶことができます。
- \((\text{反時計回りのモーメントの和}) = (\text{時計回りのモーメントの和})\)
- 一様な棒の重心: 「密度と太さが一様」な棒の重心は、棒の幾何学的な中心(中点)にあります。重力はすべてこの重心に働くとみなせます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず「図1」の状況から、未知である「棒の質量 \(m\)」を求めます。
- 次に求めた棒の質量を用いて、「図2」の状況におけるモーメントのつりあいを立て、おもりBの質量 \(m_{\text{B}}\) を求めます。
- 最後に、力のつりあいの式から糸の張力 \(T\) を求めます。
おもりBの質量
思考の道筋とポイント
この問題は2段階構成になっています。
まず、図1の情報を使って、問題文で与えられていない「棒の質量 \(m\)」を特定する必要があります。
その後、図2の状況でおもりBの質量 \(m_{\text{B}}\) を求めます。
ステップ1: 図1の解析(棒の質量 \(m\) の導出)
棒の長さを \(L = 1.0\,\text{m}\) とします。
棒は一様なので、重心Gは棒の中央、つまり端から \(0.5\,\text{m}\) の位置にあります。
図1では、糸がついている位置(支点P)で棒がつり合っています。
ステップ2: 図2の解析(おもりBの質量 \(m_{\text{B}}\) の導出)
図2では、左端におもりB、右端におもりAがつるされ、左端から \(0.4\,\text{m}\) の位置(支点Q)でつり合っています。
この支点Qのまわりのモーメントのつりあいを考えます。
この設問における重要なポイント
- 腕の長さの正確な把握: モーメントの計算に必要な「支点から力の作用点までの距離(腕の長さ)」を、図から正確に読み取ることが最重要です。
- 座標的な位置関係の整理:
- 棒の左端を基準(\(0\,\text{m}\))とするとわかりやすいです。
- 重心Gの位置: \(0.5\,\text{m}\)
- おもりAの位置(右端): \(1.0\,\text{m}\)
- おもりBの位置(左端): \(0\,\text{m}\)
具体的な解説と立式
1. 図1より棒の質量 \(m\) を求める
棒の質量を \(m\) とします。
支点Pは右端から \(0.4\,\text{m}\) なので、左端からは \(1.0 – 0.4 = 0.6\,\text{m}\) の位置にあります。
- 支点P: 左端から \(0.6\,\text{m}\)
- 棒の重力 \(mg\): 重心G(左端から \(0.5\,\text{m}\))に働く。
- 支点Pからの距離(腕の長さ): \(0.6 – 0.5 = 0.1\,\text{m}\)
- 回転方向: 反時計回り
- おもりAの重力 \(2g\): 右端(左端から \(1.0\,\text{m}\))に働く。
- 支点Pからの距離(腕の長さ): \(1.0 – 0.6 = 0.4\,\text{m}\)
- 回転方向: 時計回り
支点Pのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{反時計回りのモーメント}) &= (\text{時計回りのモーメント}) \\[2.0ex]
mg \times 0.1 &= 2g \times 0.4 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
2. 図2よりおもりBの質量 \(m_{\text{B}}\) を求める
おもりBの質量を \(m_{\text{B}}\) とします。
支点Qは左端から \(0.4\,\text{m}\) の位置にあります。
- 支点Q: 左端から \(0.4\,\text{m}\)
- おもりBの重力 \(m_{\text{B}}g\): 左端(\(0\,\text{m}\))に働く。
- 支点Qからの距離: \(0.4 – 0 = 0.4\,\text{m}\)
- 回転方向: 反時計回り
- 棒の重力 \(mg\): 重心G(\(0.5\,\text{m}\))に働く。
- 支点Qからの距離: \(0.5 – 0.4 = 0.1\,\text{m}\)
- 回転方向: 時計回り
- おもりAの重力 \(2g\): 右端(\(1.0\,\text{m}\))に働く。
- 支点Qからの距離: \(1.0 – 0.4 = 0.6\,\text{m}\)
- 回転方向: 時計回り
支点Qのまわりの力のモーメントのつりあいの式を立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{反時計回りのモーメント}) &= (\text{時計回りのモーメント}) \\[2.0ex]
m_{\text{B}}g \times 0.4 &= mg \times 0.1 + 2g \times 0.6 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\) (力 \(\times\) 腕の長さ)
- モーメントのつりあい: \((\text{反時計回りのモーメントの和}) = (\text{時計回りのモーメントの和})\)
まず、式①より棒の質量 \(m\) を求めます。両辺を \(g\) で割り、計算します。
$$
\begin{aligned}
m \times 0.1 &= 2 \times 0.4 \\[2.0ex]
0.1m &= 0.8 \\[2.0ex]
m &= 8\,\text{kg}
\end{aligned}
$$
次に、求めた \(m = 8\) を式②に代入して \(m_{\text{B}}\) を求めます。両辺を \(g\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
m_{\text{B}} \times 0.4 &= 8 \times 0.1 + 2 \times 0.6 \\[2.0ex]
0.4 m_{\text{B}} &= 0.8 + 1.2 \\[2.0ex]
0.4 m_{\text{B}} &= 2.0 \\[2.0ex]
m_{\text{B}} &= \frac{2.0}{0.4} \\[2.0ex]
m_{\text{B}} &= 5\,\text{kg}
\end{aligned}
$$
シーソー遊びと同じ原理です。
まず図1で、棒の重さがどこにかかっているかを考えます。棒の重さは真ん中(重心)にかかります。支点からの距離を比べると、棒の重心までは \(0.1\,\text{m}\)、おもりAまでは \(0.4\,\text{m}\) です。距離が4倍違うので、つりあうためには棒の重さがAの4倍必要だとわかります。これで棒が \(8\,\text{kg}\) だと判明しました。
次に図2です。新しい支点の左側にはおもりB、右側には「棒の重さ」と「おもりA」があります。それぞれの「重さ \(\times\) 距離」を計算して、左回りの回転力と右回りの回転力が等しくなるようにBの重さを決めました。
おもりBの質量は \(5\,\text{kg}\) です。
直感的な確認として、支点Q(\(0.4\,\text{m}\))の左側にはB(距離 \(0.4\))があり、右側には重い棒(\(8\,\text{kg}\)、距離 \(0.1\))とおもりA(\(2\,\text{kg}\)、距離 \(0.6\))があります。右側のモーメントの合計は \(0.8 + 1.2 = 2.0\) です。左側も \(5 \times 0.4 = 2.0\) となり、つりあいが成立しています。
糸Sの張力
思考の道筋とポイント
物体(棒とおもり全体)が静止しているため、鉛直方向の力もつりあっています。
上向きに引く力(張力)と、下向きに引く力(重力の合計)が等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 系全体に着目: 棒、おもりA、おもりBをひとまとめにした「全体」を考えると、内力(棒がおもりを引く力など)を無視でき、外力のみを考えればよくなります。
- 力の列挙:
- 上向き: 糸Sの張力 \(T\)
- 下向き: おもりBの重力 \(m_{\text{B}}g\)、棒の重力 \(mg\)、おもりAの重力 \(2g\)
具体的な解説と立式
鉛直方向の力のつりあいを考えます。
上向きを正とすると、張力 \(T\) と、すべての物体にかかる重力の和がつりあいます。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力}) &= (\text{下向きの力の和}) \\[2.0ex]
T &= m_{\text{B}}g + mg + 2g \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \((\text{上向きの力の和}) = (\text{下向きの力の和})\)
- 重力: \(W = mg\)
求めた \(m = 8\,\text{kg}\)、\(m_{\text{B}} = 5\,\text{kg}\) と、与えられた \(g = 9.8\,\text{m/s}^2\) を式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 5g + 8g + 2g \\[2.0ex]
&= (5 + 8 + 2)g \\[2.0ex]
&= 15g \\[2.0ex]
&= 15 \times 9.8
\end{aligned}
$$
筆算を行います。
\(15 \times 9.8 = 15 \times (10 – 0.2) = 150 – 3.0 = 147\)
$$
\begin{aligned}
T &= 147\,\text{N}
\end{aligned}
$$
糸Sは、ぶら下がっているすべての物体の重さを支えています。
おもりB(\(5\,\text{kg}\))、棒(\(8\,\text{kg}\))、おもりA(\(2\,\text{kg}\))の合計は \(15\,\text{kg}\) です。
この \(15\,\text{kg}\) の物体にかかる重力の大きさ(\(15 \times 9.8\))が、そのまま糸が引く力(張力)になります。
張力は \(147\,\text{N}\) です。
単位は力なので \(\text{N}\)(ニュートン)です。質量 \(15\,\text{kg}\) を支える力として妥当な大きさです。
思考の道筋とポイント
「物体がつりあう」ということは、「物体全体の重心が、支点の真下(または真上)にある」ということです。
モーメントの計算をする代わりに、重心の位置を直接計算し、それが支点の位置と一致するという条件式を立てます。
座標軸を設定して考えると非常にすっきりします。
この設問における重要なポイント
- 座標の設定: 棒の左端を原点 \(x=0\) とします。
- 重心の公式: 質量 \(m_1, m_2, \dots\) の物体が位置 \(x_1, x_2, \dots\) にあるとき、全体の重心 \(x_G\) は \(x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \dots}{m_1 + m_2 + \dots}\) で求められます。
具体的な解説と立式
1. 図1の解析
- 棒(質量 \(m\))の重心位置: \(x_{\text{棒}} = 0.5\)
- おもりA(質量 \(2\))の位置: \(x_{\text{A}} = 1.0\)
- 支点Pの位置: \(x_{\text{P}} = 1.0 – 0.4 = 0.6\)
全体の重心 \(x_{G1}\) が支点 \(x_{\text{P}}\) と一致するので、
$$
\begin{aligned}
x_{G1} &= \frac{m \times 0.5 + 2 \times 1.0}{m + 2} \\[2.0ex]
0.6 &= \frac{0.5m + 2}{m + 2}
\end{aligned}
$$
2. 図2の解析
- おもりB(質量 \(m_{\text{B}}\))の位置: \(x_{\text{B}} = 0\)
- 棒(質量 \(8\))の重心位置: \(x_{\text{棒}} = 0.5\)
- おもりA(質量 \(2\))の位置: \(x_{\text{A}} = 1.0\)
- 支点Qの位置: \(x_{\text{Q}} = 0.4\)
全体の重心 \(x_{G2}\) が支点 \(x_{\text{Q}}\) と一致するので、
$$
\begin{aligned}
x_{G2} &= \frac{m_{\text{B}} \times 0 + 8 \times 0.5 + 2 \times 1.0}{m_{\text{B}} + 8 + 2} \\[2.0ex]
0.4 &= \frac{4 + 2}{m_{\text{B}} + 10}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 重心の公式: \(x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \dots}{m_1 + m_2 + \dots}\)
図1の式を解きます。
$$
\begin{aligned}
0.6(m + 2) &= 0.5m + 2 \\[2.0ex]
0.6m + 1.2 &= 0.5m + 2 \\[2.0ex]
0.1m &= 0.8 \\[2.0ex]
m &= 8\,\text{kg}
\end{aligned}
$$
図2の式を解きます。
$$
\begin{aligned}
0.4(m_{\text{B}} + 10) &= 6 \\[2.0ex]
0.4m_{\text{B}} + 4 &= 6 \\[2.0ex]
0.4m_{\text{B}} &= 2 \\[2.0ex]
m_{\text{B}} &= 5\,\text{kg}
\end{aligned}
$$
「モーメントのつりあい」という言葉を使わずに、「全体のバランスの中心(重心)がどこにあるか」だけで考えました。
図1では、棒とおもりAの重心がちょうど糸の位置に来るように棒の重さを逆算しました。
図2では、おもりB、棒、おもりAの3つの重心が新しい糸の位置に来るようにBの重さを決めました。
やっている計算はモーメントと同じですが、「重心」という一つの点に着目することで、現象のイメージが湧きやすくなります。
当然ながら、モーメントのつりあいで求めた結果と一致します。
この方法は、複数の物体が一直線上に並んでいる場合に特に有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体の静止条件(つりあいの2条件)
- 核心: 大きさのある物体(剛体)が静止し続けるためには、以下の2つの条件が同時に満たされる必要があります。
- 並進運動の静止: 力のベクトル和が \(0\) であること(\((\text{上向きの力}) = (\text{下向きの力})\))。
- 回転運動の静止: 任意の点のまわりの力のモーメントの和が \(0\) であること(\((\text{反時計回りのモーメント}) = (\text{時計回りのモーメント})\))。
- 理解のポイント:
- 支点の自由性: モーメントのつりあいの式を立てる際、回転軸(支点)はどこに設定しても構いません。計算を楽にするために、未知の力が働いている点(この問題では糸がついている点)を支点に選ぶのが定石です。
- 重心の役割: 一様な棒の重力は、棒全体に分散して働いていますが、計算上は「重心(中点)に全質量が集中している」とみなして扱えます。
- 核心: 大きさのある物体(剛体)が静止し続けるためには、以下の2つの条件が同時に満たされる必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁に立てかけた棒: 壁や床からの垂直抗力と摩擦力が働きますが、「力のつりあい(上下・左右)」と「モーメントのつりあい」を連立させる基本手順は同じです。
- 天秤やモビール: 複数の棒が連結されている場合でも、それぞれの棒について個別にモーメントのつりあいを立てていけば解けます。
- 初見の問題での着眼点:
- 隠れた情報を読み取る: 「一様な棒」という言葉を見たら、即座に「重心は真ん中」と翻訳し、図に重力 \(mg\) を書き込みましょう。
- 未知数を減らす支点選び: 張力 \(T\) や垂直抗力 \(N\) など、大きさが不明な力が働いている点を支点に選ぶと、その力のモーメントが \(0\) になり、式から消去できます。
- 段階的な解析: 図が複数ある場合(図1、図2)、情報が少ない方(未知数が1つだけの図)から順に解いていくのが鉄則です。今回は図1で棒の質量を求めてから図2へ進む手順でした。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 腕の長さの取り違え:
- 誤解: 棒の端からの距離をそのまま腕の長さとして使ってしまう。
- 対策: 必ず「支点から」力の作用点までの距離を確認してください。図に「支点からの距離」を書き込む習慣をつけるとミスが激減します。
- 例: 図1で棒の重力の腕の長さは \(0.5\) ではなく、\(|0.6 – 0.5| = 0.1\) です。
- 重力加速度 \(g\) の忘れ・消し忘れ:
- 誤解: 質量(\(\text{kg}\))と重力(\(\text{N}\))を混同し、式の中で \(g\) をつけ忘れたり、勝手に消去したりしてしまう。
- 対策: モーメントの式では両辺に \(g\) があるため約分できますが、張力を求める式(\(T = \dots\))では \(g\) が残ります。最終的な答えが「質量(\(\text{kg}\))」なのか「力(\(\text{N}\))」なのかを常に意識しましょう。
- 棒の質量の無視:
- 誤解: 「棒の重さは無視できる」という問題に慣れすぎて、今回のように棒に質量がある場合でも無視してしまう。
- 対策: 問題文の「密度と太さが一様な棒」という記述は、棒に質量があることのサインです。必ず重心に \(mg\) 矢印を描きましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- おもりBの質量を求める際の公式選択(モーメントのつりあい):
- 選定理由: 未知数である張力 \(T\) を求めずに、質量 \(m_{\text{B}}\) だけを求めたいからです。
- 適用根拠: 糸の結び目(支点Q)を回転軸に選べば、張力 \(T\) のモーメントは \(0\) になり、式に含まれません。これにより、質量だけの関係式を作ることができます。
- 張力 \(T\) を求める際の公式選択(力のつりあい):
- 選定理由: すべての質量(\(m_{\text{B}}, m, 2\))が既知となった状態で、上向きの力 \(T\) を求めたいからです。
- 適用根拠: モーメントの式でも \(T\) は求まりますが(例えば端を支点にする)、計算が複雑になります。単なる足し算で済む「力のつりあい」の方が圧倒的に速く、ミスも少ないです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の利用による計算の簡略化:
- モーメントのつりあい式 \(m_1 g l_1 = m_2 g l_2\) では、\(g\) を消去できるだけでなく、距離 \(l\) の単位も揃っていれば \(\text{cm}\) のままでも計算できます(比の関係なので)。
- 例: \(0.1\,\text{m}\) と \(0.4\,\text{m}\) を \(1:4\) として計算すると、小数点のミスを防げます。
- モーメントのつりあい式 \(m_1 g l_1 = m_2 g l_2\) では、\(g\) を消去できるだけでなく、距離 \(l\) の単位も揃っていれば \(\text{cm}\) のままでも計算できます(比の関係なので)。
- 次元確認(単位チェック):
- 質量の答えは \(\text{kg}\)、力の答えは \(\text{N}\) です。
- 特に張力の計算 \(T = 15g\) で、\(g=9.8\) を掛け忘れて \(15\,\text{N}\) と答えるミスが多いです。「質量 \(\times\) 加速度 \(=\) 力」の次元を確認しましょう。
- 図への情報の書き込み:
- 頭の中だけで計算せず、必ず図に「重心の位置」「支点からの距離」「力の大きさ」を書き込みましょう。視覚的に左右のバランス(シーソーのイメージ)を確認することで、明らかな計算間違い(例えば \(50\,\text{kg}\) など大きすぎる値)に気づけます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題8 (センター試験)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の別解: 重心周りのモーメントのつりあいを用いた解法
- 模範解答では、点B(端点)のまわりのモーメントのつりあいと、力のつりあいを連立させて解いていますが、別解では重心Gのまわりのモーメントのつりあいを考えます。
- 設問(1)の別解: 重心周りのモーメントのつりあいを用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 計算の効率化: 重心周りのモーメントを考えることで、重力(重心に作用)のモーメントが \(0\) になり、計算式が単純化される場合があります。
- 物理的直感の養成: 剛体のつりあいにおいては「任意の点」を回転軸として選べることを理解し、未知数を消去できる最適な軸を選ぶ戦略的思考を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「剛体のつりあい」です。棒が台から離れる瞬間の力のつりあいと、力のモーメントのつりあいを扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 剛体のつりあい条件:
- 力のベクトル和が \(0\) であること(並進運動しない)。
- 任意の点のまわりの力のモーメントの和が \(0\) であること(回転運動しない)。
- 「離れる」という条件: 面から離れる瞬間、その面からの垂直抗力(接触力)が \(0\) になります。あるいは、接触点が一点に限定されます。
- 重心の位置: 一様でまっすぐな棒の重心は、棒の中点にあります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点Pが離れる瞬間の棒の状態を図示し、接触点(回転軸となる点)を見極めます。その後、モーメントのつりあいと力のつりあいの式を立てます。
- (2)では、ばねを付け替えた状況で同様に図を描き、新たな支点周りのモーメントのつりあいを考えます。(1)の結果を利用して比を求めます。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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