問題56 (都立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水熱量計を用いた複数の実験結果から、熱容量や比熱といった物質の熱的性質を求める典型的な問題です。また、熱の移動に関する考察も含まれており、物理現象の丁寧な理解が求められます。
- 共通:
- 銅製容器の質量: \(m_{\text{銅}} = 250 \, \text{g}\)
- 「断熱容器によって外部との熱の出入りはなく、抵抗線で消費された電力は、水と容器の温度上昇に全て使われたものとする」という理想的な条件(問(4)以外)。
- 実験1:
- 水の質量: \(m_{\text{水1}} = 100 \, \text{g}\)
- 初期温度 (水および容器): \(T_{\text{初1}} = 10 \, \text{℃}\)
- ヒーターの消費電力: \(P_1 = 10.0 \, \text{W}\)
- 加熱時間と水温の関係: 図2の「実験1」のグラフ
- 実験2:
- 水の質量: \(m_{\text{水2}} = 200 \, \text{g}\)
- 初期温度 (水および容器): \(T_{\text{初2}} = 10 \, \text{℃}\)
- ヒーターの消費電力: \(P_2 = 9.0 \, \text{W}\)
- 加熱時間と水温の関係: 図2の「実験2」のグラフ
- 実験3:
- 銅製容器と水の初期状態: 実験2の初期状態と同じ (水 \(200 \, \text{g}\) 、初期温度 \(10 \, \text{℃}\))
- 金属球の質量: \(m_{\text{金属}} = 100 \, \text{g}\)
- 金属球の初期温度: \(T_{\text{金属初}} = 80 \, \text{℃}\)
- 熱平衡後の水温: \(T_{\text{平衡}} = 17 \, \text{℃}\)
- 問(4)の条件:
- 断熱容器を外す。
- 室温: \(T_{\text{室}} = 25 \, \text{℃}\)
- その他は実験3と同じ。
- (1) 実験1および実験2における、銅製容器と水の合計の熱容量 \(C_1\) と \(C_2\)。
- (2) 水の比熱 \(c_{\text{水}}\) と銅の比熱 \(c_{\text{銅}}\)。
- (3) 実験3で用いた金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\)。
- (4) 断熱容器を外して実験3と同様の操作を行った場合、最終水温は \(17 \, \text{℃}\) と比べてどうなるか。また、その際に外部との熱の出入りがないと仮定して計算される金属球の比熱は、実験3で求めた値と比べてどうなるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 水と銅の比熱の別解: 実験間の差分に着目する解法
- 主たる解法が、実験1と2の結果から得られる2つの熱容量の式を連立方程式として代数的に解くのに対し、別解では、実験1と2の条件の違い(水の質量のみが異なる)と結果の違い(熱容量の差)が物理的に何に対応するかを考察し、より直接的に比熱を求めます。
- 問(2) 水と銅の比熱の別解: 実験間の差分に着目する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 連立方程式の「引き算」という代数的な操作が、「共通部分を消去し、差異のみを比較する」という物理的な思考プロセスに対応していることを深く理解できます。
- 計算の効率化: 機械的な代入計算を避け、より少ないステップで水の比熱を求めることができ、計算ミスを減らす効果も期待できます。
- 思考の柔軟性: 複数の実験結果が与えられた際に、それらの「差」に着目するという問題解決の有効な視点を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「熱量計算」と「熱量保存則」です。ヒーターによる加熱や、異なる温度の物体間での熱のやり取りについて、エネルギーの関係式を正しく立てることが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ジュールの法則: ヒーターが消費する電力 \(P\) [W] が時間 \(t\) [s] の間に発生させる熱量 \(Q\) [J] は、\(Q = Pt\) で与えられます。
- 熱量と温度変化: 物体が得たり失ったりした熱量 \(Q\) と、それによる温度変化 \(\Delta T\) [K または ℃] の間には、\(Q = C\Delta T\) の関係があります。ここで \(C\) は物体の熱容量 [J/K] です。
- 熱容量と比熱: 熱容量 \(C\) は、物体の質量 \(m\) と比熱 \(c\) [J/(g・K)] を用いて \(C = mc\) と表せます。比熱は物質固有の値です。
- 熱量保存則: 断熱された系内で物体間で熱の移動がある場合、「高温物体が失った熱量の総和」は「低温物体が得た熱量の総和」に等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、グラフから加熱時間と温度上昇を読み取り、ジュールの法則と熱量と温度変化の関係式を組み合わせて、全体の熱容量を求めます。
- 問(2)では、問(1)で求めた2つの熱容量が、それぞれ「水の熱容量」と「容器の熱容量」の和であることを利用して、連立方程式を立てて水と銅の比熱を求めます。
- 問(3)では、高温の金属球と低温の水・容器の間で熱量保存則が成り立つとして式を立て、金属球の比熱を求めます。
- 問(4)では、断熱されていない状況を考え、外部(室温)との熱のやり取りが最終的な温度や計算結果にどのような影響を及ぼすかを定性的に考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
実験1と実験2では、ヒーターによって水と銅製容器が温められます。「抵抗線で消費された電力は、水と容器の温度上昇に全て使われた」という条件から、ヒーターが発生した熱量 \(Q\) が、そのまま水と容器全体の温度を \(\Delta T\) だけ上昇させたと考えることができます。この関係は \(Q = C\Delta T\) で表され、この \(C\) が求める合計の熱容量です。ヒーターの発生熱量 \(Q\) は、電力 \(P\) と時間 \(t\) から \(Q = Pt\) で計算できます。したがって、グラフから各実験における加熱時間 \(t\) とそれに対応する温度上昇 \(\Delta T\) を読み取ることが第一歩となります。
この設問における重要なポイント
- グラフから、計算しやすい格子点を選んで加熱時間 \(t\) と温度上昇 \(\Delta T\) を正確に読み取ること。
- 電力 \(P\) [W] と時間 \(t\) [s] から発生熱量 \(Q\) [J] を \(Q=Pt\) で計算すること。
- 発生した熱量がすべて温度上昇に使われるという関係式 \(Pt = C\Delta T\) を正しく適用すること。
具体的な解説と立式
実験1について
図2の実験1のグラフより、読み取りやすい点として、加熱時間 \(t_1 = 500 \, \text{s}\) のときに水温が \(20 \, \text{℃}\) になっていることがわかります。初期水温は \(10 \, \text{℃}\) なので、温度上昇 \(\Delta T_1\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta T_1 &= 20 \, \text{℃} – 10 \, \text{℃} \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{K}
\end{aligned}
$$
となります。この間にヒーターが発生した熱量 \(Q_1\) は、消費電力 \(P_1 = 10.0 \, \text{W}\) を用いて \(Q_1 = P_1 t_1\) と計算できます。この熱量がすべて、合計の熱容量 \(C_1\) を持つ水と容器の温度上昇に使われたので、以下の関係式が成り立ちます。
$$
P_1 t_1 = C_1 \Delta T_1 \quad \cdots ①
$$
実験2について
同様に、実験2のグラフより、読み取りやすい点として、加熱時間 \(t_2 = 400 \, \text{s}\) のときに水温が \(14 \, \text{℃}\) になっていることがわかります。初期水温は \(10 \, \text{℃}\) なので、温度上昇 \(\Delta T_2\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta T_2 &= 14 \, \text{℃} – 10 \, \text{℃} \\[2.0ex]
&= 4 \, \text{K}
\end{aligned}
$$
となります。この間にヒーターが発生した熱量 \(Q_2\) は、消費電力 \(P_2 = 9.0 \, \text{W}\) を用いて \(Q_2 = P_2 t_2\) と計算できます。この熱量がすべて、合計の熱容量 \(C_2\) を持つ水と容器の温度上昇に使われたので、以下の関係式が成り立ちます。
$$
P_2 t_2 = C_2 \Delta T_2 \quad \cdots ②
$$
使用した物理公式
- ジュールの法則: \(Q = Pt\)
- 熱量と熱容量の関係: \(Q = C\Delta T\)
実験1の熱容量 \(C_1\) の計算
式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
10.0 \times 500 &= C_1 \times 10 \\[2.0ex]
5000 &= 10 C_1
\end{aligned}
$$
したがって、\(C_1\) は、
$$
\begin{aligned}
C_1 &= \frac{5000}{10} \\[2.0ex]
&= 500 \, \text{J/K}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(C_1 = 5.0 \times 10^2 \, \text{J/K}\) となります。
実験2の熱容量 \(C_2\) の計算
式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
9.0 \times 400 &= C_2 \times 4 \\[2.0ex]
3600 &= 4 C_2
\end{aligned}
$$
したがって、\(C_2\) は、
$$
\begin{aligned}
C_2 &= \frac{3600}{4} \\[2.0ex]
&= 900 \, \text{J/K}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(C_2 = 9.0 \times 10^2 \, \text{J/K}\) となります。
ヒーターが加えた熱エネルギーは「電力 × 時間」で計算できます。この熱によって、水と容器を合わせた全体の温度がどれだけ上がったかをグラフから読み取ります。「加えた熱エネルギー」を「上がった温度」で割ることで、その物体が「1℃上がるのにどれだけの熱が必要か」を示す「熱容量」を求めることができます。
実験1における銅製容器と水の合計の熱容量は \(C_1 = 5.0 \times 10^2 \, \text{J/K}\)、実験2における合計の熱容量は \(C_2 = 9.0 \times 10^2 \, \text{J/K}\) となります。実験2は実験1よりも水の量が多い(温まりにくい)ため、熱容量が大きくなるという結果は物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問(1)で求めた合計の熱容量 \(C_1\) と \(C_2\) は、それぞれ「水の熱容量」と「銅製容器の熱容量」の和で構成されています。熱容量は「質量 × 比熱」で計算できるので、水の比熱を \(c_{\text{水}}\)、銅の比熱を \(c_{\text{銅}}\) とすると、2つの実験について以下の関係式を立てることができます。
実験1: \(C_1 = m_{\text{水1}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}}\)
実験2: \(C_2 = m_{\text{水2}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}}\)
未知数が \(c_{\text{水}}\) と \(c_{\text{銅}}\) の2つで、式が2本あるため、これを連立方程式として解くことで、それぞれの比熱を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 全体の熱容量が、構成要素である水と容器の熱容量の和で表されることを理解していること。(\(C_{\text{合計}} = C_{\text{水}} + C_{\text{容器}}\))
- 熱容量と比熱の関係式 \(C = mc\) を正しく適用できること。
- 2つの未知数(\(c_{\text{水}}, c_{\text{銅}}\))に対して2つの式を立て、連立方程式を解く数学的な処理能力。
具体的な解説と立式
水の比熱を \(c_{\text{水}}\) [J/(g・K)]、銅の比熱を \(c_{\text{銅}}\) [J/(g・K)] とします。
実験1では、水の質量 \(m_{\text{水1}} = 100 \, \text{g}\)、銅製容器の質量 \(m_{\text{銅}} = 250 \, \text{g}\) で、合計の熱容量は \(C_1 = 500 \, \text{J/K}\) でした。したがって、
$$
500 = 100 c_{\text{水}} + 250 c_{\text{銅}} \quad \cdots ③
$$
実験2では、水の質量 \(m_{\text{水2}} = 200 \, \text{g}\)、銅製容器の質量 \(m_{\text{銅}} = 250 \, \text{g}\) で、合計の熱容量は \(C_2 = 900 \, \text{J/K}\) でした。したがって、
$$
900 = 200 c_{\text{水}} + 250 c_{\text{銅}} \quad \cdots ④
$$
これで、\(c_{\text{水}}\) と \(c_{\text{銅}}\) に関する連立方程式が立てられました。
使用した物理公式
- 熱容量の加法性: \(C_{\text{合計}} = C_{\text{水}} + C_{\text{容器}}\)
- 熱容量と比熱の関係: \(C = mc\)
式④から式③を引くことで、\(250 c_{\text{銅}}\) の項を消去します。
$$
\begin{aligned}
(900 – 500) &= (200 c_{\text{水}} – 100 c_{\text{水}}) + (250 c_{\text{銅}} – 250 c_{\text{銅}}) \\[2.0ex]
400 &= 100 c_{\text{水}}
\end{aligned}
$$
したがって、水の比熱 \(c_{\text{水}}\) は、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{水}} &= \frac{400}{100} \\[2.0ex]
&= 4.0 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式③に代入して \(c_{\text{銅}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
500 &= 100 \times 4.0 + 250 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
500 &= 400 + 250 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
250 c_{\text{銅}} &= 500 – 400 \\[2.0ex]
250 c_{\text{銅}} &= 100
\end{aligned}
$$
したがって、銅の比熱 \(c_{\text{銅}}\) は、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{銅}} &= \frac{100}{250} \\[2.0ex]
&= 0.40 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
全体の熱容量は「水の熱容量+銅容器の熱容量」です。実験1と実験2を比べると、銅容器は同じで、水だけが \(100 \, \text{g}\) から \(200 \, \text{g}\) に増えています。この「水 \(100 \, \text{g}\) の増加」によって、全体の熱容量が \(500 \, \text{J/K}\) から \(900 \, \text{J/K}\) へと \(400 \, \text{J/K}\) 増加しました。つまり、この増加分 \(400 \, \text{J/K}\) は、水 \(100 \, \text{g}\) の熱容量に相当します。ここから水の比熱がわかり、それを使えば銅の比熱も計算できます。
水の比熱は \(c_{\text{水}} = 4.0 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)、銅の比熱は \(c_{\text{銅}} = 0.40 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) となります。水の比熱の有名な値 \(4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) や銅の比熱の有名な値 \(0.39 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) に近い値であり、実験結果として妥当であると考えられます。
思考の道筋とポイント
実験1と実験2の条件を比較すると、銅製容器の質量は同じで、水の質量だけが \(100 \, \text{g}\) から \(200 \, \text{g}\) へと、\(100 \, \text{g}\) 増加しています。この条件の違いによって、合計の熱容量は \(C_1 = 500 \, \text{J/K}\) から \(C_2 = 900 \, \text{J/K}\) へと、\(400 \, \text{J/K}\) 増加しました。この熱容量の増加分は、増加した水 \(100 \, \text{g}\) の熱容量に他なりません。この物理的な考察から、まず水の比熱を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 複数の実験結果を比較し、条件の「差」と結果の「差」を対応させる物理的な洞察力。
- 熱容量の差 \(\Delta C = C_2 – C_1\) が、質量の差 \(\Delta m_{\text{水}} = m_{\text{水2}} – m_{\text{水1}}\) によるものであると見抜くこと。
具体的な解説と立式
実験1と実験2の合計熱容量の差 \(\Delta C\) を考えます。
$$
\begin{aligned}
\Delta C &= C_2 – C_1
\end{aligned}
$$
一方、熱容量の定義式はそれぞれ、
$$
\begin{aligned}
C_1 &= m_{\text{水1}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
C_2 &= m_{\text{水2}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}}
\end{aligned}
$$
であるから、これらの差を取ると、
$$
\begin{aligned}
C_2 – C_1 &= (m_{\text{水2}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}}) – (m_{\text{水1}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}}) \\[2.0ex]
&= (m_{\text{水2}} – m_{\text{水1}}) c_{\text{水}}
\end{aligned}
$$
となります。この式は、熱容量の差が水の質量の差による熱容量に等しいことを示しています。
使用した物理公式
- 熱容量の加法性: \(C_{\text{合計}} = C_{\text{水}} + C_{\text{容器}}\)
- 熱容量と比熱の関係: \(C = mc\)
まず、上記の式に数値を代入して水の比熱 \(c_{\text{水}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
900 – 500 &= (200 – 100) c_{\text{水}} \\[2.0ex]
400 &= 100 c_{\text{水}}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{水}} &= \frac{400}{100} \\[2.0ex]
&= 4.0 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を実験1の熱容量の式 \(C_1 = m_{\text{水1}}c_{\text{水}} + m_{\text{銅}}c_{\text{銅}}\) に代入して、銅の比熱 \(c_{\text{銅}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
500 &= 100 \times 4.0 + 250 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
500 &= 400 + 250 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
100 &= 250 c_{\text{銅}}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{銅}} &= \frac{100}{250} \\[2.0ex]
&= 0.40 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
実験1と2の違いは、水が \(100 \, \text{g}\) 増えたことだけです。その結果、熱容量(温まりにくさ)が \(400 \, \text{J/K}\) 増えました。つまり、この \(400 \, \text{J/K}\) という値は、水 \(100 \, \text{g}\) の熱容量そのものです。ここから、水 \(1 \, \text{g}\) を \(1 \, \text{K}\) 温めるのに必要な熱(比熱)が \(4.0 \, \text{J}\) であることがわかります。この水の比熱がわかれば、実験1の結果から銅容器の比熱も計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この別解は、連立方程式を機械的に解くのではなく、実験条件の差が結果の差にどう結びつくかを物理的に考えるもので、現象の理解を深める上で非常に有効なアプローチです。
問(3)
思考の道筋とポイント
実験3では、高温の金属球と、低温の水および銅製容器との間で熱の交換が行われます。「断熱容器によって外部との熱の出入りはない」という条件から、この系全体で熱量が保存されると考えます。すなわち、「高温の金属球が失った熱量」と「低温の水と容器が得た熱量」が等しいという熱量保存則の式を立てます。水と銅製容器は一体となって温度が変化するため、その合計の熱容量は実験2と同じ条件であることから、問(1)で求めた \(C_2 = 900 \, \text{J/K}\) を利用できます。
この設問における重要なポイント
- 断熱された系における熱量保存則(\(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\))を適用すること。
- 各物体が得た、あるいは失った熱量を \(Q=C\Delta T\) または \(Q=mc\Delta T\) を用いて正しく計算すること。
- 低温側(水と容器)の熱容量として、前の設問の結果 \(C_2\) を巧みに利用すること。
具体的な解説と立式
熱量保存則より、以下の等式が成り立ちます。
(金属球が失った熱量) = (水と銅製容器が得た熱量)
まず、低温側である水と銅製容器が得た熱量 \(Q_{\text{得}}\) を計算します。水と容器の初期温度は \(T_{\text{初}} = 10 \, \text{℃}\)、熱平衡後の温度は \(T_{\text{平衡}} = 17 \, \text{℃}\) です。水と容器を合わせた熱容量は \(C_2 = 900 \, \text{J/K}\) なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{得}} = C_2 (T_{\text{平衡}} – T_{\text{初}})
\end{aligned}
$$
次に、高温側である金属球が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\) を計算します。金属球の質量は \(m_{\text{金属}} = 100 \, \text{g}\)、比熱を \(c_{\text{金属}}\) [J/(g・K)] とします。初期温度は \(T_{\text{金属初}} = 80 \, \text{℃}\) で、熱平衡後の温度は \(T_{\text{平衡}} = 17 \, \text{℃}\) なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{失}} = m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属初}} – T_{\text{平衡}})
\end{aligned}
$$
熱量保存則 \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) より、
$$
m_{\text{金属}} c_{\text{金属}} (T_{\text{金属初}} – T_{\text{平衡}}) = C_2 (T_{\text{平衡}} – T_{\text{初}}) \quad \cdots ⑤
$$
使用した物理公式
- 熱量保存則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\)
- 熱量と温度変化の関係: \(Q = C\Delta T\), \(Q = mc\Delta T\)
式⑤に与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
100 \times c_{\text{金属}} \times (80 – 17) &= 900 \times (17 – 10) \\[2.0ex]
100 \times c_{\text{金属}} \times 63 &= 900 \times 7 \\[2.0ex]
6300 \times c_{\text{金属}} &= 6300
\end{aligned}
$$
したがって、金属球の比熱 \(c_{\text{金属}}\) は、
$$
\begin{aligned}
c_{\text{金属}} &= \frac{6300}{6300} \\[2.0ex]
&= 1.0 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
熱い金属球を冷たい水の中に入れると、金属球は冷え、水と容器は温まります。このとき、「金属球が放出した熱エネルギー」と「水と容器が受け取った熱エネルギー」の量は同じはずです。それぞれの熱エネルギーの量を、温度変化や質量、比熱(または熱容量)を使って計算し、それらが等しいという方程式を立てることで、未知の金属球の比熱を求めることができます。
実験3で用いた金属球の比熱は \(c_{\text{金属}} = 1.0 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) となります。この値は、例えばアルミニウムの比熱(約 \(0.9 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\))などに近い値であり、物理的に妥当な範囲です。
問(4)
思考の道筋とポイント
この設問は、理想的な「断熱」という条件がなくなった場合に何が起こるかを考える定性的な問題です。まず、熱の移動は常に温度が高い方から低い方へ起こるという基本原理を思い出します。実験が行われている間の水熱量計の内部温度(\(10 \, \text{℃}\) から始まり \(17 \, \text{℃}\) 付近で終わる)と、外部の室温(\(25 \, \text{℃}\))を比較します。これにより、外部から系内へ熱が流入するのか、系内から外部へ熱が流出するのかを判断できます。この余分な熱の出入りが、最終的な平衡温度と、その温度を使って計算される比熱の値にどのような影響を与えるかを論理的に考察します。
この設問における重要なポイント
- 熱が高温物体から低温物体へ移動するという、熱力学の基本原理を理解していること。
- 実験系(水熱量計)の温度と外部(室温)の温度を比較し、熱の移動方向を正しく判断すること。
- 外部からの熱の流入という「余分なエネルギー」が、最終的な温度をどう変化させるかを考察すること。
- その変化した温度を用いて(外部からの熱流入を無視して)計算した場合、本来の値からどのようにずれるかを論理的に説明すること。
具体的な解説と立式(考察)
1. 最終水温の比較
実験3では、水と容器の温度は \(10 \, \text{℃}\) から始まり、熱平衡状態で \(17 \, \text{℃}\) になりました。一方、断熱容器を外した場合の室温は \(25 \, \text{℃}\) です。実験中、水熱量計の内部の温度は常に室温 \(25 \, \text{℃}\) よりも低いです。
熱は常に温度の高いところから低いところへ移動するため、この場合、外部の空気(室温 \(25 \, \text{℃}\))から水熱量計の内部へ熱が流入し続けます。
したがって、水と容器は、高温の金属球から熱を受け取るだけでなく、外部の空気からも熱を受け取ることになります。その結果、最終的に到達する平衡温度は、断熱されていた場合の \(17 \, \text{℃}\) よりも高い温度になります。
2. 計算される金属球の比熱の比較
次に、この高くなった最終温度(これを \(T’_{\text{平衡}}\) とします。\(T’_{\text{平衡}} > 17 \, \text{℃}\))を測定し、もし「外部との熱の出入りがない(断熱されている)」と誤って仮定して金属球の比熱 \(c’_{\text{金属}}\) を計算するとどうなるかを考えます。
この誤った仮定のもとでの熱量保存則の式は、
(金属球が失った熱量) = (水と容器が得た熱量)
$$
m_{\text{金属}} c’_{\text{金属}} (T_{\text{金属初}} – T’_{\text{平衡}}) = C_2 (T’_{\text{平衡}} – T_{\text{初}})
$$
この式を \(c’_{\text{金属}}\) について解くと、
$$
c’_{\text{金属}} = \frac{C_2 (T’_{\text{平衡}} – T_{\text{初}})}{m_{\text{金属}} (T_{\text{金属初}} – T’_{\text{平衡}})}
$$
実験3の正しい比熱 \(c_{\text{金属}}\) の計算式と比較します。
$$
c_{\text{金属}} = \frac{C_2 (17 – 10)}{m_{\text{金属}} (80 – 17)} = \frac{C_2 \times 7}{m_{\text{金属}} \times 63}
$$
\(T’_{\text{平衡}} > 17 \, \text{℃}\) なので、
- 分子の温度差: \((T’_{\text{平衡}} – 10)\) は \((17 – 10) = 7\) よりも大きくなります。
- 分母の温度差: \((80 – T’_{\text{平衡}})\) は \((80 – 17) = 63\) よりも小さくなります。
計算式の分子が大きくなり、同時に分母が小さくなるため、計算される \(c’_{\text{金属}}\) の値は、実験3で求めた真の値 \(c_{\text{金属}}\) よりも大きくなります。
部屋の温度(\(25 \, \text{℃}\))は、実験装置の中(\(10 \sim 17 \, \text{℃}\))よりも暖かいので、断熱材を外すと、部屋の空気から実験装置へ熱がどんどん入ってきます。この「横やり」の熱のせいで、水の最終温度は本来の \(17 \, \text{℃}\) よりも高くなります。
もし、この「横やり」の熱が入ってきたことに気づかず、「水が温まった熱はすべて金属球からもらったものだ」と勘違いして計算するとどうなるでしょうか。実際よりも水が多く温まったように見えるので、「金属球は、本当はものすごくたくさんの熱を放出できる、つまり比熱が非常に大きい物質なんだな」と、金属球の能力を過大評価してしまうことになります。したがって、計算される比熱は本来の値より大きくなります。
断熱容器を外した場合、外部から熱が流入するため、最終的な水温は \(17 \, \text{℃}\) よりも高くなります。そして、この熱の流入を無視して(断熱されていると仮定して)金属球の比熱を計算すると、水と容器が得た熱量を過大に見積もることになり、その結果、金属球の比熱は実験3で得られた値よりも大きくなります。この論理的な流れは物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱量計算の基本:
- 核心: この問題は、熱エネルギーに関する2つの基本的な計算方法「供給源からの熱量計算(ジュールの法則 \(Q=Pt\))」と「受け手側の熱量計算(\(Q=C\Delta T\) または \(Q=mc\Delta T\))」、そしてエネルギーの移動原理である「熱量保存則」を組み合わせて解く問題です。
- 理解のポイント:
- エネルギーの発生源: ヒーターが供給する熱量は、電力と時間で決まる。
- エネルギーの吸収: 物体が熱を吸収すると、その物体の熱容量(または質量と比熱)に応じて温度が上昇する。
- エネルギーの移動: 断熱された系では、高温物体が失うエネルギーと低温物体が得るエネルギーは等しい。
- 現実の状況: 断熱が不完全な場合、外部環境との間でも熱のやり取りが発生し、エネルギー保存を考えるべき「系」の範囲が変わる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電熱線による比熱測定: 本問の(1)(2)のように、電熱線で液体や固体を加熱し、その温度変化から比熱や熱容量を求める問題。
- 混合による熱平衡: 本問の(3)のように、温度の異なる複数の物体を接触させ、最終的な平衡温度や未知の比熱を求める問題。
- 熱量計の補正: 本問の(4)のように、理想的な断熱状態からのずれ(外部への熱の放出・吸収)が測定結果に与える影響を考察する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「断熱」のキーワード: 問題文に「断熱」とあれば、熱量保存則を使うサインです。逆にその記述がなければ、本問(4)のように外部との熱のやり取りを疑う必要があります。
- グラフの解釈: グラフが与えられた場合、特定の点(特に格子点など読みやすい点)の数値を読み取るだけでなく、グラフの傾きが物理的に何を意味するか(この問題では \(\displaystyle\frac{\Delta T}{t} = \frac{P}{C}\) なので、傾きは熱容量に反比例する)を考えると、より深い理解につながります。
- 複数の実験の比較: 実験が複数ある場合、それらの条件の「違い」が結果の「違い」にどう結びついているかに着目すると、問(2)の別解のように、よりスマートな解法が見つかることがあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電力(W)と熱量(J)の混同:
- 誤解: 電力 \(P\) そのものを熱量として扱ってしまう。
- 対策: 電力は「1秒あたりのエネルギー」(\(\text{J/s}\))であることを常に意識する。熱量 \(Q\) を求めるには、必ず時間 \(t\) を掛ける(\(Q=Pt\))必要があることを徹底する。
- 熱容量と比熱の混同:
- 誤解: \(Q=m\Delta T\) のように、比熱 \(c\) を抜かして計算してしまう。あるいは、熱容量 \(C\) を求めるべきところで比熱 \(c\) を計算しようとする。
- 対策: 熱容量 \(C\) は物体全体の温まりにくさ(\(\text{J/K}\))、比熱 \(c\) は物質 \(1\text{g}\) あたりの温まりにくさ(\(\text{J/(g}\cdot\text{K)}\))という定義を明確に区別する。\(C=mc\) の関係を常に意識する。
- 熱量保存則の温度差のミス:
- 誤解: \(Q=mc\Delta T\) の \(\Delta T\) を、常に「後の温度 – 初めの温度」としてしまい、符号で混乱する。
- 対策: 熱量保存則を「\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)」の形で立てる場合は、\(\Delta T\) は必ず正の値になるように「(高い温度)-(低い温度)」で計算する習慣をつける。
- 考察問題での論理の飛躍:
- 誤解: 問(4)で、「温度が高くなる」から「比熱も大きくなる」と、理由を説明せずに結論だけを書いてしまう。
- 対策: 「なぜそうなるのか」を数式に基づいて段階的に説明する練習をする。「温度が高くなる」→「計算式の分子が大きくなり、分母が小さくなる」→「したがって、計算結果は大きくなる」というように、論理の連鎖を明確にする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=Pt\) を使う理由:
- 選定理由: 問題に「電力 \(P\) [W] のヒーターで \(t\) [s] 加熱した」という記述があるため。これは、系に供給されたエネルギーを計算するための唯一の方法です。
- 適用根拠: 電力量がすべて熱量に変換されるという、ジュールの法則が適用できる物理的状況だからです。
- \(Q=C\Delta T\) や \(Q=mc\Delta T\) を使う理由:
- 選定理由: 問題が「温度変化」と「熱容量・比熱」を結びつけることを要求しているため。熱エネルギーの吸収による物体の状態変化(温度上昇)を記述する基本法則です。
- 適用根拠: 物体が熱を得たり失ったりして、その温度が変化するという物理現象が起きているからです。
- 熱量保存則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)) を使う理由:
- 選定理由: 問題文に「断熱容器」というキーワードがあり、異なる温度の物体間で熱の移動のみが起こる状況が設定されているため。
- 適用根拠: 外部とのエネルギーのやり取りが遮断された閉じた系において、エネルギー保存則が熱エネルギーの移動という形で現れるからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認:
- 特に注意すべき点: この問題では、質量が \(g\) で与えられているため、比熱の単位も \(\text{J/(g}\cdot\text{K)}\) で計算を進めるのが効率的です。もし比熱が \(\text{J/(kg}\cdot\text{K)}\) で与えられていれば、質量を \(\text{kg}\) に変換する必要があります。常に単位系を意識することが重要です。
- 日頃の練習: 式を立てる際に、数値だけでなく単位も書き込んで計算する習慣をつける。例えば、\(Q = 10.0 \, [\text{J/s}] \times 500 \, [\text{s}] = 5000 \, [\text{J}]\) のように書くと、間違いに気づきやすくなります。
- グラフの読み取り:
- 特に注意すべき点: グラフの線が格子点を正確に通っているかを確認し、最も読み取りやすい点を選ぶ。中途半端な点を読むと誤差が大きくなります。また、縦軸と横軸の目盛りの大きさを間違えないように注意する。
- 日頃の練習: 様々な実験データのグラフを読み取る問題に触れ、どこに着目すれば正確な値を得られるかの感覚を養う。
- 連立方程式の処理:
- 特に注意すべき点: 問(2)のように、係数が揃っている項(\(250 c_{\text{銅}}\))があれば、加減法を用いると計算が楽になります。どの方法が最も簡単か、式を立てた段階で見通しを立てることが大切です。
- 日頃の練習: 計算練習を繰り返し、ケアレスミスを減らす。解き終わった後に、得られた答えを元の式に代入して検算する習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 熱容量: 実験2は実験1より水の量が多いので、\(C_2 > C_1\) となるはず。計算結果(\(900 > 500\))はこれを満たしており、妥当です。
- (2) 比熱: 水の比熱 \(c_{\text{水}} = 4.0 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) は、一般的に知られている値 \(4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) に非常に近いです。銅の比熱 \(c_{\text{銅}} = 0.40 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) も、既知の値 \(0.39 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) に近く、実験結果として非常に妥当性が高いと言えます。
- (4) 考察: 「外部から熱が流入する」という原因から、「最終温度は高くなる」「計算される比熱は大きくなる」という結果が導かれています。この因果関係は論理的であり、妥当です。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし金属球の比熱がゼロだったら、熱を全く持てないので、水温は \(10 \, \text{℃}\) のままのはずです。
- もし室温が \(10 \, \text{℃}\) だったら、外部との温度差がないため、断熱容器を外しても結果は実験3と変わらないはずです。
- このように、極端な条件を仮定して思考実験を行うことで、自分の結論が物理法則と矛盾していないかを確認できます。
問題57 (北見工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、物質の状態変化(氷から水へ)と温度変化が混在する熱力学の問題です。ヒーターによって一定の割合で熱が供給され、それによって氷の温度上昇、氷の融解、水の温度上昇という3つの段階が起こります。グラフから各段階にかかる時間を読み取り、熱量計算を行うことが中心となります。
- 初期状態: \(-20 \, \text{℃}\) の氷 \(m = 200 \, \text{g}\)
- 容器: 断熱されており、外部との熱の出入りはない。
- 加熱方法: ヒーター(一定電力 \(P\))
- 水の比熱: \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
- グラフから読み取れる情報:
- 氷の温度上昇 (\(-20 \, \text{℃} \rightarrow 0 \, \text{℃}\)): \(0 \sim 40\) 秒 (この区間の時間 \(t_1 = 40 \, \text{s}\))
- 氷の融解 (\(0 \, \text{℃}\)): \(40 \sim 360\) 秒 (融解にかかった時間 \(t_2 = 360 – 40 = 320 \, \text{s}\))
- 水の温度上昇 (\(0 \, \text{℃} \rightarrow 50 \, \text{℃}\)): \(360 \sim 560\) 秒 (この区間の時間 \(t_3 = 560 – 360 = 200 \, \text{s}\))
- (1) \(0 \, \text{℃}\) の水 \(200 \, \text{g}\) が \(50 \, \text{℃}\) になるまでに必要な熱量 \(Q_{\text{水昇温}}\)。
- (2) ヒーターの電力 \(P\)。
- (3) 氷の融解熱 \(L\) [J/g]。
- (4) 氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) [J/(g・K)]。(問題文では \(c_0\) と表記)
- (5) 加熱開始 \(120\) 秒後の残りの氷の質量。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 氷の融解熱\(L\)の別解: 熱量と加熱時間の比例関係を利用する解法
- 主たる解法がヒーターの電力\(P\)を計算してから融解熱を求めるのに対し、別解では、水の温度上昇過程と氷の融解過程で与えられた熱量の比が、それぞれの過程にかかった時間の比に等しいことを利用して、電力\(P\)を計算せずに融解熱を求めます。
- 問(4) 氷の比熱\(c_{\text{氷}}\)の別解: 熱量と加熱時間の比例関係を利用する解法
- 同様に、水の温度上昇過程と氷の温度上昇過程の熱量比と時間比の関係から、電力\(P\)を計算せずに氷の比熱を求めます。
- 問(3) 氷の融解熱\(L\)の別解: 熱量と加熱時間の比例関係を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「一定電力での加熱」とは「時間に比例して熱量が供給される」ことと同義であるという、より本質的な理解が深まります。
- 計算の簡略化: 問題によっては、中間の物理量(この場合は電力\(P\))を計算する必要がなくなり、計算過程がシンプルになる場合があります。
- 検算への応用: 異なるアプローチで同じ答えにたどり着くことを確認することで、計算の確実性を高めることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、物質の温度変化と状態変化(融解)に必要な熱量の計算です。ヒーターは一定の電力で熱を供給するため、加熱時間に比例して熱量が与えられます。グラフの各区間がどの物理過程に対応しているかを正確に読み解き、「比熱」「融解熱」「電力と熱量の関係」といった基本的な物理法則を適用することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 温度変化に必要な熱量: 質量\(m\)、比熱\(c\)の物質の温度を\(\Delta T\)だけ変化させるのに必要な熱量\(Q\)は、\(Q = mc\Delta T\)で計算されます。
- 状態変化に必要な熱量(潜熱): 質量\(m\)の物質を融解させるのに必要な熱量\(Q\)は、融解熱を\(L\)として\(Q = mL\)で計算されます。融解中は温度は一定です。
- 電力と熱量の関係: 電力\(P\)のヒーターが時間\(t\)の間に発生させる熱量\(Q\)は、\(Q = Pt\)で計算されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、水の温度上昇に必要な熱量を\(Q=mc\Delta T\)で計算します。
- 問(2)では、問(1)で求めた熱量と、グラフから読み取った水の温度上昇にかかった時間を用いて、ヒーターの電力を\(P=Q/t\)で求めます。
- 問(3)と(4)では、求めた電力\(P\)とグラフから読み取った各過程の時間から、融解や氷の温度上昇に必要な熱量を計算し、それぞれの物理量(融解熱、氷の比熱)を求めます。
- 問(5)では、指定された時間がどの過程にあるかを判断し、それまでに溶けた氷の量を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
この設問では、\(0 \, \text{℃}\) の水が \(50 \, \text{℃}\) の水に変わる際に必要な熱量を計算します。この過程では、物質の状態は「水」のままで温度だけが変化しています。したがって、温度変化における熱量計算の基本公式 \(Q = mc\Delta T\) を用います。問題文で与えられている水の質量 \(m\)、水の比熱 \(c_{\text{水}}\)、そして温度変化 \(\Delta T\) を正確に代入することが求められます。
この設問における重要なポイント
- 状態変化を伴わない、温度変化のみの場合の熱量計算公式 \(Q = mc\Delta T\) を正しく選択し、使用すること。
- 与えられた物理量(質量、比熱、温度変化)を正確に式に代入すること。
具体的な解説と立式
\(200 \, \text{g}\) の水の温度を \(0 \, \text{℃}\) から \(50 \, \text{℃}\) まで上昇させるのに必要な熱量を \(Q_{\text{水}}\) とします。この熱量は、公式 \(Q = mc\Delta T\) を用いて以下のように立式できます。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水}} &= m c_{\text{水}} \Delta T_{\text{水}}
\end{aligned}
$$
ここで、質量 \(m = 200 \, \text{g}\)、水の比熱 \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)、温度変化 \(\Delta T_{\text{水}} = 50 \, \text{℃} – 0 \, \text{℃} = 50 \, \text{K}\) です。
使用した物理公式
- 温度変化に必要な熱量: \(Q = mc\Delta T\)
上記の式に数値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{水}} &= 200 \times 4.2 \times 50 \\[2.0ex]
&= 840 \times 50 \\[2.0ex]
&= 42000 \, \text{J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で表すと \(4.2 \times 10^4 \, \text{J}\) となります。
水の比熱は「水 \(1 \, \text{g}\) の温度を \(1 \, \text{℃}\) 上げるのに \(4.2 \, \text{J}\) 必要」という意味です。今回は水が \(200 \, \text{g}\) あるので、温度を \(1 \, \text{℃}\) 上げるには \(200 \times 4.2 = 840 \, \text{J}\) が必要です。さらに、温度を \(50 \, \text{℃}\) 上げるので、必要な総熱量は \(840 \, \text{J} \times 50 = 42000 \, \text{J}\) となります。
\(200 \, \text{g}\) の水の温度を \(0 \, \text{℃}\) から \(50 \, \text{℃}\) まで上昇させる間に与えられた熱量は \(4.2 \times 10^4 \, \text{J}\) です。計算は単純な掛け算であり、単位も正しくジュール[J]で得られています。
問(2)
思考の道筋とポイント
ヒーターの電力 \(P\) とは、ヒーターが1秒あたりに供給する熱エネルギーのことです。問(1)で計算した熱量 \(Q_{\text{水}} = 4.2 \times 10^4 \, \text{J}\) は、グラフを見ると、加熱開始後 \(360\) 秒から \(560\) 秒の間に供給されたことがわかります。この加熱時間は \(t_3 = 560 – 360 = 200 \, \text{s}\) です。熱量 \(Q\)、電力 \(P\)、時間 \(t\) の間には \(Q = Pt\) という関係があるので、この式を \(P\) について解くことで、ヒーターの電力を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 電力 \(P\)、熱量 \(Q\)、時間 \(t\) の関係式 \(Q = Pt\) を正しく理解し、適用すること。
- グラフから、問(1)で計算した熱量が供給された区間に対応する時間を正確に読み取ること。
具体的な解説と立式
ヒーターの電力を \(P\) [W] とします。問(1)で求めた、水の温度上昇に必要な熱量 \(Q_{\text{水}} = 4.2 \times 10^4 \, \text{J}\) を供給するのにかかった時間は、グラフより \(t_3 = 560 \, \text{s} – 360 \, \text{s} = 200 \, \text{s}\) です。
関係式 \(Q = Pt\) より、電力を求める式は以下のように立てられます。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{Q_{\text{水}}}{t_3}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電力と熱量の関係: \(Q = Pt\)
上記の式に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{4.2 \times 10^4}{200} \\[2.0ex]
&= \frac{42000}{200} \\[2.0ex]
&= 210 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
問(1)で、水を温めるのに \(42000 \, \text{J}\) の熱が必要だとわかりました。グラフを見ると、この過程には \(200\) 秒かかっています。つまり、ヒーターは \(200\) 秒間で \(42000 \, \text{J}\) の熱を供給したわけです。電力とは「1秒あたりの熱量」のことなので、\(42000 \, \text{J}\) を \(200\) 秒で割ると、\(1\) 秒あたり \(210 \, \text{J}\) となり、電力は \(210 \, \text{W}\) とわかります。
ヒーターの電力は \(210 \, \text{W}\) となります。この値は、後の設問で他の物理量を計算する際の基礎となる重要な値です。
問(3)
思考の道筋とポイント
氷の融解熱 \(L\) とは、「単位質量(この場合は \(1 \, \text{g}\))の固体を融解させるのに必要な熱量」のことです。グラフにおいて、温度が \(0 \, \text{℃}\) で一定になっている区間(加熱開始後 \(40\) 秒から \(360\) 秒まで)が、氷が融解している過程に対応します。この融解にかかった時間は \(t_2 = 360 – 40 = 320 \, \text{s}\) です。この間にヒーターが供給した総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) を \(Q = Pt\) で計算し、それを氷の質量 \(m\) で割ることで、融解熱 \(L\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- グラフ上で状態変化(融解)が起きている区間(温度が一定の平坦な部分)を正しく特定すること。
- 融解に必要な総熱量を \(Q = Pt\) で計算し、それを融解熱の定義式 \(Q = mL\) と結びつけること。
具体的な解説と立式
氷が融解している時間は、グラフより \(t_2 = 360 \, \text{s} – 40 \, \text{s} = 320 \, \text{s}\) です。
この間にヒーターが供給した熱量 \(Q_{\text{融解}}\) は、問(2)で求めた電力 \(P = 210 \, \text{W}\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{融解}} &= P t_2
\end{aligned}
$$
と計算できます。一方、質量 \(m = 200 \, \text{g}\) の氷をすべて融解させるのに必要な熱量は、融解熱を \(L\) [J/g] とすると、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{融解}} &= m L
\end{aligned}
$$
と表せます。したがって、これらの式を等しいとおくことで \(L\) を求める式を立てます。
$$
\begin{aligned}
m L &= P t_2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電力と熱量の関係: \(Q = Pt\)
- 状態変化(融解)に必要な熱量: \(Q = mL\)
上記の式を \(L\) について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{P t_2}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{210 \times 320}{200} \\[2.0ex]
&= 210 \times \frac{32}{20} \\[2.0ex]
&= 21 \times 16 \\[2.0ex]
&= 336 \, \text{J/g}
\end{aligned}
$$
グラフから、氷がすべて溶けるのに \(320\) 秒かかったことがわかります。ヒーターは \(1\) 秒あたり \(210 \, \text{J}\) の熱を出すので、\(320\) 秒間では合計 \(210 \times 320 = 67200 \, \text{J}\) の熱が供給されました。この熱で \(200 \, \text{g}\) の氷が溶けたわけですから、氷 \(1 \, \text{g}\) を溶かすのに必要な熱量(融解熱)は、\(67200 \, \text{J}\) を \(200 \, \text{g}\) で割って \(336 \, \text{J/g}\) となります。
氷の融解熱は \(L = 336 \, \text{J/g}\) となります。この値は、水の融解熱として一般的に知られている値(約 \(334 \, \text{J/g}\))に非常に近く、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
ヒーターの電力は一定なので、供給される熱量 \(Q\) は加熱時間 \(t\) に比例します (\(Q \propto t\))。この性質を利用して、電力 \(P\) の具体的な値を計算せずに、物理量同士の比を求めることができます。ここでは、水の温度上昇過程と氷の融解過程を比較します。
この設問における重要なポイント
- 一定電力のヒーターでは、供給熱量と加熱時間が比例関係にあることを利用する。
- 異なる物理過程(水の昇温と氷の融解)の熱量比を、時間比で置き換える。
具体的な解説と立式
水の温度上昇に必要な熱量 \(Q_{\text{水}}\) と、氷の融解に必要な熱量 \(Q_{\text{融解}}\) の比は、それぞれにかかった時間の比に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
\frac{Q_{\text{融解}}}{Q_{\text{水}}} &= \frac{t_2}{t_3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(Q_{\text{融解}} = mL\)、\(Q_{\text{水}} = mc_{\text{水}}\Delta T_{\text{水}}\) です。質量 \(m\) は共通なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{L}{c_{\text{水}}\Delta T_{\text{水}}} &= \frac{t_2}{t_3}
\end{aligned}
$$
この式を \(L\) について解くことで、融解熱を求めることができます。
使用した物理公式
- 熱量と時間の比例関係: \(Q_1 : Q_2 = t_1 : t_2\)
- \(Q = mc\Delta T\), \(Q = mL\)
上記の式に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{L}{4.2 \times 50} &= \frac{320}{200} \\[2.0ex]
\frac{L}{210} &= \frac{32}{20} \\[2.0ex]
L &= 210 \times \frac{32}{20} \\[2.0ex]
&= 21 \times 16 \\[2.0ex]
&= 336 \, \text{J/g}
\end{aligned}
$$
水を温めるのに \(200\) 秒、氷を溶かすのに \(320\) 秒かかりました。かかる時間の比が、必要な熱量の比と同じになります。水を温める熱量は問(1)で \(42000 \, \text{J}\) とわかっているので、氷を溶かす熱量は \(42000 \times \displaystyle\frac{320}{200} = 67200 \, \text{J}\) と計算できます。あとはこれを質量で割れば融解熱が求まります。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。このアプローチは、電力 \(P\) の計算を介さずに直接物理量を求めることができるため、計算の見通しが良くなる場合があります。
問(4)
思考の道筋とポイント
氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めるには、グラフの最初の部分、つまり氷の温度が \(-20 \, \text{℃}\) から \(0 \, \text{℃}\) へと上昇している区間に着目します。この過程にかかった時間は \(t_1 = 40 \, \text{s}\) です。この間にヒーターが供給した熱量 \(Q_{\text{氷}}\) を \(Q = Pt\) で計算し、それを温度変化の式 \(Q = mc\Delta T\) に適用することで、未知の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- グラフ上で氷の温度が上昇している区間を正しく特定すること。
- 氷の温度上昇に必要な熱量を \(Q = Pt\) で計算し、それを比熱の定義式 \(Q = mc_{\text{氷}}\Delta T_{\text{氷}}\) と結びつけること。
具体的な解説と立式
氷の温度が上昇している時間は、グラフより \(t_1 = 40 \, \text{s}\) です。
この間にヒーターが供給した熱量 \(Q_{\text{氷}}\) は、電力 \(P = 210 \, \text{W}\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{氷}} &= P t_1
\end{aligned}
$$
と計算できます。一方、質量 \(m = 200 \, \text{g}\) の氷の温度を \(\Delta T_{\text{氷}} = 0 \, \text{℃} – (-20 \, \text{℃}) = 20 \, \text{K}\) だけ上昇させるのに必要な熱量は、氷の比熱を \(c_{\text{氷}}\) [J/(g・K)] とすると、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{氷}} &= m c_{\text{氷}} \Delta T_{\text{氷}}
\end{aligned}
$$
と表せます。したがって、これらの式から \(c_{\text{氷}}\) を求める式を立てます。
$$
\begin{aligned}
m c_{\text{氷}} \Delta T_{\text{氷}} &= P t_1
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電力と熱量の関係: \(Q = Pt\)
- 温度変化に必要な熱量: \(Q = mc\Delta T\)
上記の式を \(c_{\text{氷}}\) について解き、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
c_{\text{氷}} &= \frac{P t_1}{m \Delta T_{\text{氷}}} \\[2.0ex]
&= \frac{210 \times 40}{200 \times 20} \\[2.0ex]
&= \frac{8400}{4000} \\[2.0ex]
&= 2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
グラフの最初の \(40\) 秒間で、氷の温度が \(-20 \, \text{℃}\) から \(0 \, \text{℃}\) まで \(20 \, \text{℃}\) 上がりました。この \(40\) 秒間にヒーターが供給した熱は \(210 \times 40 = 8400 \, \text{J}\) です。この熱量で \(200 \, \text{g}\) の氷の温度が \(20 \, \text{℃}\) 上がったので、熱量の式 \(Q = mc\Delta T\) に当てはめると、\(8400 = 200 \times c_{\text{氷}} \times 20\) となり、ここから氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) が \(2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) と計算できます。
氷の比熱は \(c_{\text{氷}} = 2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) となります。この値は水の比熱 \(4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) のちょうど半分であり、物理の演習問題でよく用いられる代表的な値です。結果は妥当であると言えます。
思考の道筋とポイント
問(3)の別解と同様に、熱量と加熱時間の比例関係を利用します。ここでは、水の温度上昇過程と氷の温度上昇過程を比較します。
この設問における重要なポイント
- 一定電力のヒーターでは、供給熱量と加熱時間が比例関係にあることを利用する。
- 異なる物理過程(水の昇温と氷の昇温)の熱量比を、時間比で置き換える。
具体的な解説と立式
氷の温度上昇に必要な熱量 \(Q_{\text{氷}}\) と、水の温度上昇に必要な熱量 \(Q_{\text{水}}\) の比は、それぞれにかかった時間の比に等しくなります。
$$
\begin{aligned}
\frac{Q_{\text{氷}}}{Q_{\text{水}}} &= \frac{t_1}{t_3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(Q_{\text{氷}} = mc_{\text{氷}}\Delta T_{\text{氷}}\)、\(Q_{\text{水}} = mc_{\text{水}}\Delta T_{\text{水}}\) です。質量 \(m\) は共通なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{c_{\text{氷}}\Delta T_{\text{氷}}}{c_{\text{水}}\Delta T_{\text{水}}} &= \frac{t_1}{t_3}
\end{aligned}
$$
この式を \(c_{\text{氷}}\) について解くことで、氷の比熱を求めることができます。
使用した物理公式
- 熱量と時間の比例関係: \(Q_1 : Q_2 = t_1 : t_2\)
- \(Q = mc\Delta T\)
上記の式に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{c_{\text{氷}} \times 20}{4.2 \times 50} &= \frac{40}{200} \\[2.0ex]
\frac{20 c_{\text{氷}}}{210} &= \frac{1}{5} \\[2.0ex]
100 c_{\text{氷}} &= 210 \\[2.0ex]
c_{\text{氷}} &= \frac{210}{100} \\[2.0ex]
&= 2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}
\end{aligned}
$$
水を \(50 \, \text{℃}\) 温めるのに \(200\) 秒、氷を \(20 \, \text{℃}\) 温めるのに \(40\) 秒かかりました。この時間の比と温度変化の比を使って、水の比熱を基準にして氷の比熱を計算することができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。このアプローチも、電力 \(P\) の計算が正しくできているかの検算として有効です。
問(5)
思考の道筋とポイント
加熱開始から \(120\) 秒後の状態を考えます。グラフから、物理過程は以下のように進みます。
- \(0 \sim 40\) 秒: 氷の温度が \(-20 \, \text{℃}\) から \(0 \, \text{℃}\) に上昇。
- \(40\) 秒以降: 氷が \(0 \, \text{℃}\) のまま融解を開始。
したがって、\(120\) 秒時点では、融解が始まってから \(120 – 40 = 80 \, \text{s}\) が経過したことになります。この \(80\) 秒間にヒーターが供給した熱量によって、どれだけの質量の氷が水に変わったかを計算します。そして、初めの氷の質量から溶けた質量を引くことで、残っている氷の質量を求めます。
この設問における重要なポイント
- 指定された時間が、グラフ上のどの物理過程の途中にあるかを正確に判断すること。
- 融解という状態変化に実際に費やされた時間を正しく計算すること(\(120\) 秒ではない)。
- その時間内に供給された熱量で溶けた氷の質量を計算し、残量を求めるという手順を踏むこと。
具体的な解説と立式
加熱開始 \(120\) 秒後、融解過程に入ってからの経過時間は、
$$
\begin{aligned}
t’_{\text{融解}} &= 120 \, \text{s} – 40 \, \text{s} \\[2.0ex]
&= 80 \, \text{s}
\end{aligned}
$$
です。この \(80\) 秒間に供給された熱量 \(Q’_{\text{融解}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q’_{\text{融解}} &= P \times t’_{\text{融解}}
\end{aligned}
$$
です。この熱量によって溶けた氷の質量を \(m_{\text{溶けた}}\) とすると、融解熱 \(L\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
Q’_{\text{融解}} &= m_{\text{溶けた}} L
\end{aligned}
$$
と表せます。したがって、溶けた氷の質量は、
$$
\begin{aligned}
m_{\text{溶けた}} &= \frac{P \times t’_{\text{融解}}}{L}
\end{aligned}
$$
となります。求めるのは残っている氷の質量 \(m_{\text{残り}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
m_{\text{残り}} &= m – m_{\text{溶けた}}
\end{aligned}
$$
と計算します。
使用した物理公式
- 電力と熱量の関係: \(Q = Pt\)
- 状態変化(融解)に必要な熱量: \(m = Q/L\)
まず、\(80\) 秒間で溶けた氷の質量 \(m_{\text{溶けた}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
m_{\text{溶けた}} &= \frac{210 \times 80}{336} \\[2.0ex]
&= \frac{16800}{336} \\[2.0ex]
&= 50 \, \text{g}
\end{aligned}
$$
初めにあった氷の質量は \(200 \, \text{g}\) なので、残っている氷の質量 \(m_{\text{残り}}\) は、
$$
\begin{aligned}
m_{\text{残り}} &= 200 \, \text{g} – 50 \, \text{g} \\[2.0ex]
&= 150 \, \text{g}
\end{aligned}
$$
加熱を始めて \(120\) 秒後を考えます。最初の \(40\) 秒は、氷がまだ溶けずに温められるだけの「準備運動」の時間です。なので、氷が実際に溶け始めたのは \(40\) 秒後からで、\(120\) 秒後までの \(80\) 秒間だけです。この \(80\) 秒間にどれだけの氷が溶けたかを計算します。問(3)で氷 \(1 \, \text{g}\) を溶かすのに \(336 \, \text{J}\) 必要だとわかりました。\(80\) 秒間に供給される熱は \(210 \times 80 = 16800 \, \text{J}\) です。したがって、溶けた氷の量は \(16800 \div 336 = 50 \, \text{g}\) です。初めに \(200 \, \text{g}\) あったので、残りは \(200 – 50 = 150 \, \text{g}\) となります。
加熱開始 \(120\) 秒後には、容器の中に氷は \(150 \, \text{g}\) 残っています。融解時間の \(320\) 秒の途中の時点であり、残量が \(0\) より大きく \(200\) より小さい妥当な値となっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱量計算の基本三公式:
- 核心: この問題は、熱に関する3つの基本公式を、グラフで示された物理現象の各段階に正しく適用できるかを問うています。
- 温度変化: \(Q=mc\Delta T\)
- 状態変化: \(Q=mL\)
- エネルギー供給: \(Q=Pt\)
- 理解のポイント: グラフの傾きが0でない区間は「温度変化」、傾きが0の平坦な区間は「状態変化」に対応します。そして、横軸の「時間」そのものが、ヒーターからの「供給熱量」に比例していると理解することが、この問題を解く上での最も重要な視点です。
- 核心: この問題は、熱に関する3つの基本公式を、グラフで示された物理現象の各段階に正しく適用できるかを問うています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 多段階の状態変化: 氷から水、さらに水から水蒸気へと、複数の状態変化を含む問題。各段階で必要な熱量を足し合わせる必要があります。
- 冷却曲線: 加熱ではなく、一定のペースで熱を奪っていく場合の温度変化グラフの問題。考え方は加熱曲線と全く同じです。
- 混合問題との融合: 加熱した水に、さらに別の物体を入れるなど、複数の熱のやり取りが組み合わさった問題。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの区切りを特定する: まずグラフを見て、どこで物理現象が切り替わっているか(温度上昇→状態変化→温度上昇など)を明確に区別し、それぞれの時間と温度変化を書き出します。これが問題全体の設計図になります。
- 「一定電力」のキーワード: この言葉があれば、「熱量と時間は比例する」という強力な武器が使えます。問(3), (4)の別解のように、比の関係を使うと計算が楽になったり、検算ができたりします。
- 既知の物理量から攻める: この問題では、水の比熱が唯一与えられていました。したがって、水の温度上昇区間が計算の出発点になると予測できます。未知数が多い問題では、どこから手をつければ解けるかを見極めることが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 状態変化中の温度変化:
- 誤解: 融解中にも温度が上がると考えてしまう。
- 対策: 融解や沸騰などの状態変化中は、供給された熱はすべて状態を変化させるために使われ、温度は一定に保たれる、という大原則をしっかり覚える。グラフの平坦な部分がその証拠です。
- 時間の計算ミス:
- 誤解: 問(3)の融解時間を \(360\) 秒、問(5)の融解に使われた時間を \(120\) 秒としてしまう。
- 対策: 時間は「区間の長さ」であることを意識する。必ず「終了時刻 – 開始時刻」で計算する癖をつける。問(5)のように、複数の過程にまたがる場合は、各過程に費やした時間を正確に分ける。
- 比熱と融解熱の式の混用:
- 誤解: 温度変化の区間で \(Q=mL\) を使ったり、状態変化の区間で \(Q=mc\Delta T\) を使おうとしたりする。
- 対策: \(\Delta T\)(温度変化)があるなら比熱の式、ないなら潜熱(融解熱など)の式、と明確に使い分ける。公式の文字が何を意味するかを正確に理解することが根本的な対策です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q=mc\Delta T\) を選ぶとき:
- 選定理由: グラフの温度が「変化している」区間(傾きがある部分)を分析するため。
- 適用根拠: 物質の状態(氷や水)は変わらず、温度だけが変わるという物理現象を定量的に扱うための基本法則だからです。
- \(Q=mL\) を選ぶとき:
- 選定理由: グラフの温度が「一定」の区間(平坦な部分)を分析するため。
- 適用根拠: 温度は変わらず、物質の状態(氷→水)が変化するという物理現象(相転移)を定量的に扱うための基本法則だからです。
- \(Q=Pt\) を選ぶとき:
- 選定理由: 問題に「ヒーター」や「電力」という言葉があり、供給されたエネルギーの総量を計算する必要があるため。
- 適用根拠: 横軸の「時間」を、物理的に意味のある「熱量」に変換するための橋渡しとなる関係式だからです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 大きな数の計算:
- 特に注意すべき点: \(4.2 \times 10^4\) や \(210 \times 320\) など、ゼロの多い計算が出てきます。ゼロの個数を間違えやすい。
- 日頃の練習: \(10^n\) の形(指数表記)をうまく活用する。例えば、\(210 \times 320 = (21 \times 10) \times (32 \times 10) = (21 \times 32) \times 100\) のように、分けて計算するとミスが減ります。
- 値の引き継ぎ:
- 特に注意すべき点: この問題のように、前の設問で計算した値(電力\(P\)、融解熱\(L\)など)を次の設問で使う場合、計算ミスが連鎖する危険があります。
- 日頃の練習: 設問ごとに求めた値は、単位をつけてはっきりとメモしておく。計算が終わったら、その値が物理的に妥当か(例えば、比熱や融解熱が負になっていないかなど)を軽く吟味する習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (4) 氷の比熱と水の比熱の比較:
- 吟味の視点: 計算結果は \(c_{\text{氷}} = 2.1 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)、\(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) となり、\(c_{\text{氷}} < c_{\text{水}}\) です。これは「氷は水よりも温まりやすい」ことを意味し、既知の事実と一致します。グラフの傾きを見ても、氷の昇温区間の方が水の昇温区間より急であり、同じ時間でより温度が上がりやすい(=比熱が小さい)ことが視覚的にも確認できます。
- (3) 融解熱の大きさ:
- 吟味の視点: 融解熱 \(L=336 \, \text{J/g}\) は、\(1 \, \text{g}\) の水の温度を \(1 \, \text{K}\) 上げるのに必要な熱量 \(c_{\text{水}}=4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) と比べると、\(336/4.2 = 80\) 倍も大きいです。これは「水の温度を \(80 \, \text{K}\) 上げるエネルギーと、氷を溶かすエネルギーが同じ」ということであり、状態変化には非常に大きなエネルギーが必要であることを示しています。グラフでも、融解に非常に長い時間がかかっていることと整合します。
- (4) 氷の比熱と水の比熱の比較:
- 時間配分との整合性:
- 問(5)で、\(120\) 秒後に溶けた氷は \(50 \, \text{g}\) でした。これは全質量 \(200 \, \text{g}\) の \(1/4\) です。一方、融解に費やした時間は \(80\) 秒で、融解全体の時間 \(320\) 秒のちょうど \(1/4\) です。供給熱量と溶ける質量は比例するので、この一致は計算が正しいことを強く裏付けています。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
問題58 (北海道大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、気体分子運動論の基礎的な導出過程を理解しているかを問う穴埋め問題です。理想気体を構成する分子のミクロな運動から、圧力や内部エネルギーといったマクロな物理量を導き出す一連の流れを、数式で正確に追っていくことが求められます。
- 容器: 一辺の長さが \(L\) の立方体
- 気体: 理想気体
- 分子1個の質量: \(m\)
- ある分子の速度の \(x\) 成分: \(v_x\)
- 壁との衝突: 弾性衝突
- 全分子数: \(N\)
- 速度の2乗の平均値: \(\overline{v_x^2}\) (x成分), \(\overline{v^2}\) (速さ)
- 物理定数: 気体定数 \(R\), アボガドロ定数 \(N_A\)
- マクロな物理量: 絶対温度 \(T\), 圧力 \(P\), 内部エネルギー \(U\)
- 気体分子運動論の導出過程における、空欄(1)から(8)に当てはまる適切な数式を記述する。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、気体分子運動論の標準的な導出過程を問うものであり、高校物理の範囲で教育的に有益な別解は存在しないため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「気体分子運動論」です。無数の分子のランダムな運動というミクロな視点から出発し、力積や平均の考え方を用いて、気体の圧力や内部エネルギーといったマクロな性質を導出する物理学の重要な理論展開を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量と力積: 物体の運動量の変化は、受けた力積に等しいという関係 (\(\Delta \vec{p} = \vec{F}\Delta t\))。また、壁と分子の間には作用・反作用の法則が成り立ちます。
- 平均の考え方: 非常に多くの分子を扱うため、個々の分子の速度ではなく、速度の2乗平均値 (\(\overline{v^2}\)) のような統計的な量を用います。
- 分子運動の等方性: 分子の運動は特定の方向に偏りがなく、どの方向にも同等であるという仮定 (\(\overline{v_x^2} = \overline{v_y^2} = \overline{v_z^2}\))。
- 理想気体の状態方程式: 気体の圧力、体積、温度の関係を表すマクロな法則 (\(PV=nRT\))。
- 内部エネルギーの定義: 単原子分子理想気体の場合、内部エネルギーは全分子の並進運動エネルギーの総和に等しいと定義されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
問題文の誘導に従い、以下のステップで論理を展開していきます。
- まず、1個の分子が壁に1回衝突するときに与える力積を求めます。
- 次に、その分子が一定時間内に何回壁に衝突するかを計算します。
- 1と2から、1個の分子が壁に及ぼす平均の力を求め、全分子\(N\)個分に拡張します。
- 壁が受ける全圧力\(P\)を導出し、これを理想気体の状態方程式と結びつけることで、分子の運動エネルギーと絶対温度\(T\)の関係を導きます。
- 最後に、内部エネルギー\(U\)を定義に従って計算します。