「良問の風」攻略ガイド(51〜55問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題51 (関東学院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、万有引力を中心に、地表での重力加速度、人工衛星の円運動(速さと周期)、そして地球からの脱出速度(第2宇宙速度)という、宇宙スケールの物理現象を扱います。それぞれの現象に対して、どの物理法則が適用できるのかを正確に見極めることが重要です。

与えられた条件
  • 地球の質量:\(M\)
  • 地球の半径:\(R\)
  • 万有引力定数:\(G\)
  • 地球の自転や大気の影響は無視する。
問われていること
  1. 地表での重力加速度 \(g\) (\(M, R, G\) を用いて)
  2. 高さ \(h\) で等速円運動する人工衛星の速さ \(v\) と周期 \(T\) (\(h, M, R, G\) を用いて)
  3. 地表すれすれを等速円運動する人工衛星の速さ \(v_1\) (\(R, g\) を用いて)、およびその数値計算 (\(R=6.4 \times 10^3 \text{ km}\), \(g=10 \text{ m/s}^2\))
  4. 物体を地表から無限遠へ到達させるための最小打ち上げ速度 \(v_2\) (\(R, g\) を用いて)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、万有引力の法則円運動の力学、そして 力学的エネルギー保存則 が中心となるテーマです。問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 万有引力の法則: 質量を持つ物体同士が引き合う力。その大きさは \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\) で与えられます。
  • 円運動: 物体が円軌道を描いて運動する現象。向心力(円の中心に向かう力)が必要です。
  • 力学的エネルギー保存則: 保存力(この問題では万有引力)のみが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。

全体的な戦略としては、まず地表での重力と万有引力の関係を整理し (問1)、次に人工衛星の円運動を運動方程式(または力のつりあい)から解析し (問2, 問3)、最後に地球からの脱出問題を力学的エネルギー保存則を用いて解き明かします (問4)。

問1

思考の道筋とポイント

地表にある質量 \(m\) の物体が受ける「重力」は、地球(質量 \(M\))とその物体(質量 \(m\))の間に働く「万有引力」そのものです。この問題設定では地球の自転による影響は無視するため、これら二つの力が等しいとして等式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 地表にある物体が地球中心から受ける万有引力を考える際、地球中心からの距離は地球の半径 \(R\) であると捉えます。
  • 物体の重さ \(mg\) が、その物体と地球との間の万有引力 \(G\frac{Mm}{R^2}\) に等しい、という関係式を立てます。

具体的な解説と立式

地表にある質量 \(m\) の物体に働く重力の大きさを \(mg\) とします。この力は、地球(質量 \(M\))と物体(質量 \(m\))の間に働く万有引力に等しいと考えられます。地球の中心と物体の間の距離は、地球の半径 \(R\) です。
万有引力の法則 \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\) を用いると、地表での力の関係は次のように表せます。
$$mg = G \frac{Mm}{R^2}$$
この式を \(g\) について解くことで、地表での重力加速度を求めることができます。

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
  • 重力: \(F_g = mg\)
計算過程

上記で立てた \(mg = G \frac{Mm}{R^2}\) という式の両辺には、物体の質量 \(m\) が共通して含まれています。これを利用して式を簡単にしていきましょう。

  1. 力の関係式を立てる:
    $$mg = G \frac{Mm}{R^2}$$
  2. 両辺を物体の質量 \(m\) で割る:
    $$\frac{mg}{m} = \frac{1}{m} \left( G \frac{Mm}{R^2} \right)$$
    これにより \(m\) が消去され、
    $$g = G \frac{M}{R^2}$$
    となります。
計算方法の平易な説明

地球の表面にある物体(例えばリンゴ、質量 \(m\))が地球から受ける力を考えてみましょう。私たちはこれを「重力」(大きさ \(mg\))と呼んでいますが、その正体は地球とリンゴがお互いに引き合う「万有引力」です。万有引力の公式は \(G \frac{Mm}{R^2}\) (ここで \(R\) は地球の半径、\(M\) は地球の質量)なので、これらが等しい、つまり \(mg = G \frac{Mm}{R^2}\) という式が成り立ちます。この式の両辺からリンゴの質量 \(m\) を取り除く(数学的には \(m\) で割る)と、求めたい重力加速度 \(g = \frac{GM}{R^2}\) が得られます。

結論と吟味

地表での重力加速度 \(g\) は \(g = \frac{GM}{R^2}\) と表されます。この式は、地表の重力加速度が地球の質量 \(M\) と半径 \(R\)、そして万有引力定数 \(G\) によって決まることを示しており、物体の質量 \(m\) にはよらないという重要な性質を持っています。単位の確認も大切です。\(G\) の単位は \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\)、\(M\) は \(\text{kg}\)、\(R\) は \(\text{m}\) ですから、\(\frac{GM}{R^2}\) の単位は \(\frac{(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2) \cdot \text{kg}}{\text{m}^2} = \frac{\text{N}}{\text{kg}}\) となります。\(\text{N}=\text{kg}\cdot\text{m/s}^2\) なので、\(\frac{\text{N}}{\text{kg}} = \text{m/s}^2\) となり、加速度の単位として正しいことが確認できます。

解答 (1) \(g = \displaystyle\frac{GM}{R^2}\)

問2

思考の道筋とポイント

地表から高さ \(h\) の軌道を等速円運動している人工衛星について考えます。人工衛星が地球に落下せず円軌道を保てるのは、地球からの万有引力が円運動に必要な向心力として働いているためです。この力の関係から運動方程式を立てるか、人工衛星と共に回転する座標系で遠心力と万有引力のつり合いを考えます。ここでは慣性系(静止した座標系)から見た運動方程式で進めます。

この設問における重要なポイント

  • 人工衛星の円運動の軌道半径は、地球の半径 \(R\) と地表からの高度 \(h\) の和、すなわち \(r = R+h\) である点を正確に把握します。
  • 人工衛星が円運動を続けるために必要な向心力は、地球と人工衛星の間に作用する万有引力によって供給されていると考えます。
  • 人工衛星の速さ \(v\) が求められた後、周期 \(T\) は軌道の円周 \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで、\(T = \frac{2\pi r}{v}\) として計算できます。

具体的な解説と立式

人工衛星の質量を \(m_{\text{衛星}}\) とします。この人工衛星は、地球の中心から \(r = R+h\) の距離にある円軌道を、速さ \(v\) で等速円運動しています。
この円運動を持続させるために必要な向心力の大きさは \(m_{\text{衛星}} \frac{v^2}{r}\) で表されます。
この向心力は、地球(質量 \(M\))と人工衛星(質量 \(m_{\text{衛星}}\))の間に働く万有引力 \(G \frac{M m_{\text{衛星}}}{r^2}\) によって供給されています。
したがって、円運動の運動方程式は以下のように立てられます。
$$m_{\text{衛星}} \frac{v^2}{r} = G \frac{M m_{\text{衛星}}}{r^2}$$
ここで、軌道半径 \(r = R+h\) を代入すると、
$$m_{\text{衛星}} \frac{v^2}{R+h} = G \frac{M m_{\text{衛星}}}{(R+h)^2}$$
この方程式を \(v\) について解くことで、人工衛星の速さが求まります。
周期 \(T\) は、円軌道の円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることにより、次のように求められます。
$$T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi (R+h)}{v}$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式(向心力): \(m \frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
  • 周期と速さの関係: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

まず、人工衛星の速さ \(v\) を求めます。

  1. 運動方程式を立てる(軌道半径 \(R+h\) を用いて):
    $$m_{\text{衛星}} \frac{v^2}{R+h} = G \frac{M m_{\text{衛星}}}{(R+h)^2}$$
  2. 両辺を人工衛星の質量 \(m_{\text{衛星}}\) で割る:
    $$\frac{v^2}{R+h} = G \frac{M}{(R+h)^2}$$
  3. 両辺に軌道半径 \((R+h)\) を掛ける:
    $$v^2 = G \frac{M}{(R+h)^2} \cdot (R+h)$$
    整理すると、
    $$v^2 = G \frac{M}{R+h}$$
  4. \(v\) について解く(速さ \(v\) は正なので、正の平方根をとる):
    $$v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}}$$

次に、周期 \(T\) を求めます。

  1. 周期の定義式に軌道半径 \((R+h)\) を用いる:
    $$T = \frac{2\pi (R+h)}{v}$$
  2. 上記で求めた速さ \(v\) の式を代入する:
    $$T = \frac{2\pi (R+h)}{\sqrt{\frac{GM}{R+h}}}$$
  3. 分母にある平方根を整理する(\(\frac{A}{\sqrt{B}} = A \sqrt{\frac{1}{B}}\) の関係を利用):
    $$T = 2\pi (R+h) \sqrt{\frac{R+h}{GM}}$$
    これは、\((R+h) = \sqrt{(R+h)^2}\) と考えて平方根の中に入れると \(T = 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^3}{GM}}\) とも書けます。
計算方法の平易な説明

人工衛星が地球の周りを安定して回り続けるためには、地球が人工衛星を引っ張る力(万有引力)が、ちょうど人工衛星を円軌道に留めるための力(向心力)として機能する必要があります。この力のバランスを表す式 \(m \frac{v^2}{r} = G \frac{Mm}{r^2}\) (ここで \(r\) は地球中心からの距離で、\(R+h\) にあたります)を立てます。この式から人工衛星の速さ \(v\) を求めると \(v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}}\) となります。周期 \(T\) (衛星が軌道を一周するのにかかる時間)は、軌道の円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割れば計算できるので、\(T = \frac{2\pi (R+h)}{v}\) となります。この式に先ほど求めた \(v\) を代入すれば、周期 \(T\) が求められます。

結論と吟味

地表から高さ \(h\) を周回する人工衛星の速さ \(v\) は \(v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}}\)、周期 \(T\) は \(T = 2\pi (R+h) \sqrt{\frac{R+h}{GM}}\) です。速さ \(v\) の式からは、高度 \(h\) が高いほど(つまり地球の中心から遠いほど)、分母の \(R+h\) が大きくなるため速さ \(v\) は小さくなることがわかります。これは、遠くの軌道を回る衛星ほどゆっくりと運動するという事実に合致します。周期 \(T\) についても、\(h\) が大きいほど軌道長半径が大きくなり、周期も長くなります。これはケプラーの第3法則(\(T^2 \propto r^3\)、ここで \(r = R+h\))と整合性があります。実際に \(T = 2\pi \sqrt{\frac{(R+h)^3}{GM}}\) の形に変形すると、この関係がより明確に見て取れますね。

解答 (2) 速さ: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\), 周期: \(T = 2\pi (R+h) \sqrt{\displaystyle\frac{R+h}{GM}}\) (または \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{(R+h)^3}{GM}}\))

問3

思考の道筋とポイント

「地表すれすれ」という条件は、地表からの高さ \(h\) がほぼ \(0\) と見なせることを意味します。したがって、問2で導出した人工衛星の速さ \(v\) の一般式に \(h=0\) を代入することで、地表すれすれを飛ぶ人工衛星の速さ \(v_1\) を求めることができます。さらに、この \(v_1\) を \(R\) と \(g\) を用いた形で表すためには、問1で確立した関係式 \(g = \frac{GM}{R^2}\) (これを変形すると \(GM = gR^2\))を活用します。

この設問における重要なポイント

  • 「地表すれすれ」という条件を、数学的に \(h=0\) として扱います。
  • 問1で得られた \(GM = gR^2\) という関係式を用いて、式中の \(GM\) を \(g\) と \(R\) を使った表現に置き換えます。
  • 数値計算を行う際には、与えられた値の単位を国際単位系(メートル、秒、キログラム)に統一すること(特に km から m への変換)と、有効数字の扱いに注意を払います。

具体的な解説と立式

地表すれすれを等速円運動する場合、円運動の軌道半径は地球の半径 \(R\) にほぼ等しいと考えられます(つまり \(h \approx 0\))。
問2で求めた人工衛星の速さの式 \(v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}}\) に \(h=0\) を代入すると、地表すれすれを飛ぶ速さ \(v_1\) は、
$$v_1 = \sqrt{\frac{GM}{R+0}} = \sqrt{\frac{GM}{R}}$$
と表せます。
次に、この \(v_1\) の式を \(R\) と \(g\) を用いて表現し直します。問1の結果 \(g = \frac{GM}{R^2}\) から、両辺に \(R^2\) を掛けることで \(GM = gR^2\) という重要な関係式が得られます。この \(GM = gR^2\) を上記の \(v_1\) の式に代入すると、
$$v_1 = \sqrt{\frac{gR^2}{R}}$$
となり、これで \(v_1\) を \(R\) と \(g\) で表すことができました。

数値計算には、\(R=6.4 \times 10^3 \text{ km}\) と \(g=10 \text{ m/s}^2\) の値を使用します。計算実行前に、単位を揃える作業が必要です。地球の半径 \(R\) をメートル単位に変換します。
\(1 \text{ km} = 1000 \text{ m} = 10^3 \text{ m}\) なので、
\(R = 6.4 \times 10^3 \text{ km} = 6.4 \times 10^3 \times 10^3 \text{ m} = 6.4 \times 10^6 \text{ m}\) となります。

使用した物理公式

  • 問2で求めた速さの式: \(v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}}\)
  • 問1の結果から導かれる関係式: \(GM = gR^2\)
計算過程

まず、\(v_1\) を \(R\) と \(g\) で表す式を整理します。

  1. \(GM = gR^2\) を \(v_1 = \sqrt{\frac{GM}{R}}\) の式に代入する:
    $$v_1 = \sqrt{\frac{gR^2}{R}}$$
  2. 式中の \(R\) で約分を行う:
    $$v_1 = \sqrt{gR}$$

次に、具体的な数値を用いて \(v_1\) を計算します。

  1. 与えられた値を代入(単位をメートル(m)と秒(s)に統一):
    \(R = 6.4 \times 10^6 \text{ m}\)
    \(g = 10 \text{ m/s}^2\)
    $$v_1 = \sqrt{10 \text{ [m/s}^2\text{]} \times 6.4 \times 10^6 \text{ [m]}}$$
  2. 括弧内の積を計算する:
    $$v_1 = \sqrt{64 \times 10^6 \text{ [m}^2\text{/s}^2\text{]}}$$
  3. 平方根を計算する:
    \(\sqrt{64} = 8\)
    \(\sqrt{10^6} = 10^3\)
    なので、
    $$v_1 = 8 \times 10^3 \text{ [m/s]}$$
  4. 有効数字を2桁に調整する(与えられた \(g=10 \text{ m/s}^2\) と \(R=6.4 \times 10^3 \text{ km}\) が2桁なので、結果も2桁で表すのが適切です)。
    \(8 \times 10^3 \text{ m/s}\) を有効数字2桁で表すと \(8.0 \times 10^3 \text{ m/s}\) となります。
計算方法の平易な説明

(2)で導いた人工衛星の速さの式において、高さをゼロ(\(h=0\))とすることで、地球のすぐそばを飛ぶ場合の速さ \(v_1\) が \(v_1 = \sqrt{\frac{GM}{R}}\) と求められます。(1)で得た関係 \(g = \frac{GM}{R^2}\) を変形すると \(GM = gR^2\) となります。この \(GM\) を \(v_1\) の式に代入すると、\(v_1 = \sqrt{\frac{gR^2}{R}} = \sqrt{gR}\) という、よりシンプルな形に整理できます。この式に、実際の地球の半径 \(R = 6.4 \times 10^3 \text{ km} = 6.4 \times 10^6 \text{ m}\) と重力加速度 \(g=10 \text{ m/s}^2\) を代入して計算すると、 \(v_1 = \sqrt{10 \times 6.4 \times 10^6} = \sqrt{64 \times 10^6} = 8 \times 10^3 \text{ m/s}\) となります。これは秒速 8 km という、非常に速いスピードです!

結論と吟味

地表すれすれを周回する人工衛星の速さ \(v_1\) は \(v_1 = \sqrt{gR}\) と表され、数値計算の結果は \(v_1 = 8.0 \times 10^3 \text{ m/s}\) (または \(8.0 \text{ km/s}\)) となります。この速さは「第1宇宙速度」として知られており、物体が地球の周回軌道に乗るために必要な最小の速さ(地表すれすれの場合)を意味します。模範解答に示されている通り、これは音速(およそ \(340 \text{ m/s}\))の20倍以上にも達する極めて大きな値です。計算結果の単位は \(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \sqrt{\text{m}^2/\text{s}^2} = \text{m/s}\) となり、速さの単位として正しいことが確認できます。

解答 (3) \(v_1 = \sqrt{gR}\), \(v_1 = 8.0 \times 10^3 \text{ m/s}\)

問4

思考の道筋とポイント

物体を地表から打ち上げて無限の彼方へ、つまり地球の重力圏から完全に脱出させる状況を考えます。この場合、物体が無限遠点に到達した時点でちょうど速さが \(0\) になる(つまり、ギリギリ到達する)ような打ち上げ速度が、求めるべき最小値となります。このような問題では、力学的エネルギー保存則の適用が非常に有効です。打ち上げ時(地表)の力学的エネルギーと、無限遠点での力学的エネルギー(運動エネルギー + 万有引力による位置エネルギー)が等しいとして式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を利用します。
  • 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\) を正しく使用します(この式は無限遠方を位置エネルギーの基準点 \(U(\infty)=0\) とした場合のものです)。
  • 「無限の遠くへ飛び去らせるための最小値」という条件は、無限遠点において物体の速さが \(0\)(したがって運動エネルギーも \(0\))、かつ位置エネルギーも \(0\)(基準点なので)となる状態を指すと解釈します。
  • ここでも \(GM = gR^2\) の関係を利用して、最終的な結果を \(R\) と \(g\) を用いて表します。

具体的な解説と立式

打ち上げる物体の質量を \(m\) とします。
まず、地表(地球中心からの距離 \(R\))で物体を速さ \(v_2\) で打ち上げる瞬間を考えます。
この時点での物体の力学的エネルギー \(E_{\text{地表}}\) は、運動エネルギー \(K_{\text{地表}} = \frac{1}{2} m v_2^2\) と、万有引力による位置エネルギー \(U_{\text{地表}} = -G\frac{Mm}{R}\) の合計です。
$$E_{\text{地表}} = \frac{1}{2} m v_2^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right)$$
次に、物体が無限遠点に到達した状況を考えます。無限遠点では、地球からの距離 \(r \rightarrow \infty\) となります。
万有引力による位置エネルギーは、無限遠点を基準(\(U=0\))としているため、\(U_{\text{無限遠}} = 0\) です。
また、打ち上げる速さが「最小値」であるという条件から、物体は無限遠点でちょうど速度が \(0\) になると考えます。つまり、無限遠点での運動エネルギー \(K_{\text{無限遠}} = 0\) です。
したがって、無限遠点での力学的エネルギー \(E_{\text{無限遠}}\) は、
$$E_{\text{無限遠}} = K_{\text{無限遠}} + U_{\text{無限遠}} = 0 + 0 = 0$$
万有引力は保存力であるため、力学的エネルギーは保存されます。すなわち、\(E_{\text{地表}} = E_{\text{無限遠}}\) が成り立ちます。
$$\frac{1}{2} m v_2^2 – G\frac{Mm}{R} = 0$$
この式を \(v_2\) について解き、最後に \(GM = gR^2\) の関係を用いて \(R\) と \(g\) で表現します。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\) (無限遠基準)
  • 関係式: \(GM = gR^2\)
計算過程
  1. 力学的エネルギー保存則から式を立てる:
    $$\frac{1}{2} m v_2^2 – G\frac{Mm}{R} = 0$$
  2. 位置エネルギーの項 \(G\frac{Mm}{R}\) を右辺に移項する:
    $$\frac{1}{2} m v_2^2 = G\frac{Mm}{R}$$
  3. 両辺を物体の質量 \(m\) で割る:
    $$\frac{1}{2} v_2^2 = G\frac{M}{R}$$
  4. 両辺に \(2\) を掛ける:
    $$v_2^2 = \frac{2GM}{R}$$
  5. \(v_2\) について解く(速さ \(v_2\) は正なので、正の平方根をとる):
    $$v_2 = \sqrt{\frac{2GM}{R}}$$
  6. 問1で得た関係式 \(GM = gR^2\) を代入する:
    $$v_2 = \sqrt{\frac{2(gR^2)}{R}}$$
  7. 式中の \(R\) で約分を行う:
    $$v_2 = \sqrt{2gR}$$
計算方法の平易な説明

ボールを真上に投げ上げると、ある高さまで達してから落ちてきます。もし、もっと速く投げれば、もっと高く上がりますね。では、地球の引力を完全に振り切って、宇宙の遥か彼方まで飛んでいってしまうためには、どれくらいの速さで投げ上げる必要があるでしょうか?これがこの設問のテーマです。
ここではエネルギーの考え方を使うと便利です。物体を打ち上げる瞬間の「運動エネルギー」と「万有引力による位置エネルギー」の合計は、物体が無限の遠くまで飛んで行ったときのエネルギーの合計と等しくなります(これを力学的エネルギー保存の法則といいます)。
無限の遠くでは、もはや地球の引力はほとんど働かないので位置エネルギーはゼロと考え、ギリギリたどり着く最小の速さを考えるので、そこでの速さもゼロ(したがって運動エネルギーもゼロ)とします。
そうすると、打ち上げ時のエネルギー \(\frac{1}{2}mv_2^2 – \frac{GMm}{R}\) がゼロになればよい、という条件から打ち上げ速度 \(v_2\) を求めます。計算すると \(v_2 = \sqrt{\frac{2GM}{R}}\) となります。
ここで、(1)や(3)でも使った \(GM=gR^2\) という関係を利用すると、\(v_2 = \sqrt{2gR}\) という、より見慣れた形に書き換えられます。

結論と吟味

物体を地表から無限遠へ飛び去らせるために必要な最小の打ち上げ速度 \(v_2\) は \(v_2 = \sqrt{2gR}\) と表されます。この速さは「第2宇宙速度」(または脱出速度)として知られています。
問3で求めた第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR}\) と比較すると、\(v_2 = \sqrt{2} \cdot v_1 \approx 1.414 v_1\) となり、第1宇宙速度のおよそ 1.4倍の速さが必要であることが分かります。具体的な数値を計算してみると、\(v_2 = \sqrt{2} \times (8.0 \times 10^3 \text{ m/s}) \approx 1.414 \times 8.0 \times 10^3 \text{ m/s} \approx 11.3 \times 10^3 \text{ m/s}\) となり、これは秒速約 11.3 km に相当します。これもまた、私たちの日常感覚からはかけ離れた、とてつもなく大きな速さです。この速度以上で物体を鉛直上向きに打ち上げれば(空気抵抗や他の天体の影響を無視すれば)、その物体は地球の重力を振り切って二度と地球に戻ってくることはありません。

解答 (4) \(v_2 = \sqrt{2gR}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力の法則 (\(F = G \frac{Mm}{r^2}\)): 質量を持つ物体間に普遍的に働く引力の法則です。距離の2乗に反比例し、それぞれの質量に比例するという特徴をしっかりと理解しましょう。この法則が、地表での重力や天体運動の原動力となります。
  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)): 人工衛星のように、ある中心天体の周りを円運動する物体のダイナミクスを記述する上で不可欠です。この問題では、向心力が万有引力によって供給されるという関係を正確に立式できるかが鍵となります。
  • 力学的エネルギー保存則 (\(K+U = \text{一定}\)): 特に万有引力のような保存力のみが仕事をする系において、非常に強力な解析ツールとなります。万有引力による位置エネルギー \(U = -G\frac{Mm}{r}\) (無限遠方を基準 \(U(\infty)=0\) とした場合)の形とその符号(負であること)を正確に記憶し、適切に適用できるようにすることが重要です。物体の速さを求めたり、ある地点まで到達可能かどうかを判断したりする際に活躍します。
  • 重力加速度と万有引力の関係 (\(g = \frac{GM}{R^2}\)): 地表における重力加速度 \(g\) が、地球の物理的特性(質量 \(M\)、半径 \(R\))および万有引力定数 \(G\) とどのように関連付けられるかを示す、基本的かつ重要な関係式です。この関係を用いることで、式中の \(GM\) という積を \(gR^2\) で置き換えることが可能になり、問題の見通しを良くしたり計算を簡略化したりするのに役立ちます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 他の惑星(例:火星や木星)や月における表面重力加速度や脱出速度の計算。
    • 異なる高度や軌道長半径を持つ人工衛星の速さや公転周期の比較、あるいはそれらの比の計算。
    • 二重星(連星系)の運動解析など、複数の天体が相互に万有引力を及ぼし合いながら運動する系の問題(これは大学入試レベルではより発展的な設定となることが多いです)。
    • (発展的な内容として)ブラックホールの事象の地平面(シュバルツシルト半径)に関連するような、光でさえ脱出できない条件を考察する問題。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 中心となる力は何か?: 問題の状況において、物体に作用している主要な力、特に運動を支配している中心的な力は何か(この問題群では一貫して万有引力)を特定します。
    2. 運動の形態はどのようなものか?: 対象となる物体が静止しているのか、等速直線運動をしているのか、等速円運動をしているのか、あるいはそれ以外のより複雑な運動(例えば楕円運動や放物運動、双曲線運動)をしているのかを判断します。円運動であれば向心力は何か、エネルギーは保存されるか、といった点を考察します。
    3. エネルギー保存則は適用可能か?: 保存力(万有引力、ばねの弾性力など)のみが仕事をしている状況か、それとも摩擦力や空気抵抗といった非保存力が働いているかを確認します。保存力のみが働く系であれば、力学的エネルギー保存則が強力なツールとなります。
    4. 位置エネルギーの基準点はどこに設定されているか(あるいは、どこに設定すべきか)?: 万有引力ポテンシャルエネルギーを考える場合、慣例として無限遠点を基準(\(U=0\))とすることが多いですが、問題によっては異なる基準点が設定されることや、自分で設定する必要がある場合もあります。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 距離の正確な把握: 万有引力の法則や万有引力による位置エネルギーを計算する際に用いる距離 \(r\) は、常に力を及ぼし合う二つの物体の「中心間」の距離であることに注意が必要です。地球の半径 \(R\) と地表からの高度 \(h\) を混同したり、足し忘れたりしないように気をつけましょう(例:人工衛星の軌道半径は \(R+h\))。
    • \(GM\) の置き換えの有効性: \(GM = gR^2\) という関係式は、地表での重力加速度 \(g\) が既知または与えられている場合に非常に便利です。この置き換えを適切に行うことで、式の形が簡単になったり、物理的な見通しが良くなったりすることがあります。ただし、この \(g\) はあくまで「その天体の地表(半径 \(R\) の位置)での重力加速度」である点に注意が必要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 万有引力と「重力」という言葉の使い分けや理解に関する誤解:
    • 日常的に使う「重力 \(mg\)」という表現は、多くの場合、地表付近で物体に働く鉛直下向きの力を指し、その本質は地球との間の万有引力です。重力加速度 \(g\) の値自体が、地球の質量 \(M\) や半径 \(R\) に依存していることを理解しておくことが重要です。
    • この問題では地球の自転による遠心力の影響は無視されていますが、より精密な議論や一部の応用問題では、この遠心力も考慮に入れた「見かけの重力」を扱うことがあります。
  • 円運動における軌道半径 \(r\) の誤認識: 特に人工衛星の問題で、軌道半径を地球の半径 \(R\) そのものとしてしまうミスが散見されます。地表からの高度 \(h\) が与えられている場合、軌道半径は \(r = R+h\) となります。
  • 万有引力による位置エネルギーの符号の誤り: 万有引力による位置エネルギーは \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と、負の符号がつきます。このマイナス符号を忘れたり、誤ってプラスにしてしまったりするミスが多いです。これは、無限遠方を位置エネルギーの基準点(\(U=0\))とした場合、それよりも引力圏内(束縛された状態)にある物体はエネルギーが低い(負の値を持つ)ことを意味しています。
  • 第1宇宙速度と第2宇宙速度の混同、または式のうろ覚え: 第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR} = \sqrt{\frac{GM}{R}}\)(円軌道に乗るための速さ)と、第2宇宙速度 \(v_2 = \sqrt{2gR} = \sqrt{\frac{2GM}{R}}\)(地球の重力圏を脱出するための速さ)の違いを明確に区別しましょう。数式上は係数 \(\sqrt{2}\) の有無だけの違いに見えますが、それらが持つ物理的な意味は大きく異なります。
  • 対策:
    • 問題の状況を図で正確に表現し、特に距離関係(どこからどこまでの距離か)を明確に書き込む習慣をつけましょう。
    • 重要な公式については、その導出過程を一度は自分の手で追い、それぞれの記号が何を意味し、なぜその形になるのかを理解するよう努めましょう。
    • エネルギーの問題では、エネルギー図(ポテンシャルエネルギーの概形と、物体の持つ力学的エネルギーのレベルを書き込んだ図)を描いてみることで、位置エネルギーの正負や大小関係、運動可能範囲などを視覚的に捉える助けになります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の表現:
    1. 力のベクトル図: 人工衛星に働く万有引力(これが向心力として機能する)を、力の作用点(人工衛星)から地球の中心へ向かう矢印で示す。地表の物体に働く重力(これも万有引力)を同様に図示する。
    2. 軌道の模式図: 人工衛星が描く円軌道と、その中心(地球の中心)および軌道半径 \(R+h\) を明確に記入する。地球の半径 \(R\) と高度 \(h\) の区別も図上で明確にする。
    3. エネルギー状態の概念図: 特に問4(脱出速度)のような問題では、地表でのエネルギー状態(運動エネルギー \(K_{\text{地表}}\) と位置エネルギー \(U_{\text{地表}}\))と、無限遠点でのエネルギー状態(\(K_{\text{無限遠}}=0, U_{\text{無限遠}}=0\))を、エネルギーのレベルとして比較するような図を頭の中で描く(あるいは実際に描いてみる)と理解が深まります。
  • 図を描く際の一般的な注意点:
    • 地球や人工衛星などの天体の大きさの比率は、必ずしも正確に描く必要はありませんが(模式図なので)、中心間の距離 \(r\) が図中のどこからどこまでを指しているのかは明確に示しましょう。
    • 力のベクトルは、その力が働く作用点から描き始め、力の向きと(おおよその)大きさがわかるように表現します。
    • 円運動の場合、速度ベクトルは常に軌道の接線方向を向き、向心力ベクトルは常に円の中心を向くため、この二つのベクトルは常に垂直である、といった関係も意識しておくと良いでしょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問1 (\(g = GM/R^2\)): 「地表で物体が受ける重力は、地球とその物体との間の万有引力である」という物理的な洞察(問題設定より自転の影響は無視)に基づき、力の等式 \(mg = G \frac{Mm}{R^2}\) を選択しました。
  • 問2 (人工衛星の速さ \(v\) と周期 \(T\)): 「人工衛星が等速円運動をしている」という情報から、「円運動を続けるためには向心力が必要である」と考え、さらに「その向心力は地球と人工衛星の間の万有引力によって供給されている」という思考プロセスを経て、円運動の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) を選定しました。周期 \(T\) は、円周の長さを速さで割るという基本的な定義 \(T = 2\pi r / v\) から導かれます。
  • 問3 (地表すれすれの速さ \(v_1 = \sqrt{gR}\)): 問2で得られた一般式の結果を、特殊な場合(高度 \(h=0\))に適用するという方針で導出しました。最終的に結果を \(g\) と \(R\) で表すために、問1で確立した \(GM = gR^2\) という関係式の利用が必要と判断しました。
  • 問4 (脱出速度 \(v_2 = \sqrt{2gR}\)): 「物体が地球の重力を振り切って無限遠へ到達する」という条件から、「これはエネルギーの観点から考えるのが有効である」と判断し、「力学的エネルギー保存則」を選択しました。その際、万有引力による位置エネルギーの公式 \(U = -GMm/r\) (無限遠基準)の適用が必須でした。
  • 論理的な思考を鍛える訓練の重要性: なぜその公式がこの特定の場面で適用できるのか、その公式が成り立つための前提条件(例えば、力学的エネルギー保存則が成り立つのは保存力のみが仕事をする場合、など)は何なのか、といったことを常に自問自答する習慣は、物理の問題解決能力、特に初見の問題に対する応用力を高める上で非常に重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題文の読解と状況把握: まず、何が起きていて、具体的に何を問われているのかを正確に把握します。与えられた図があればそれを活用し、なければ自分で簡単な状況図や力の図を描くことから始めます。
  2. 適用すべき物理法則の選択: 把握した状況に最も適した物理法則(運動の法則、運動量保存則、力学的エネルギー保存則、単振動の条件、など)を選択します。
  3. 具体的な立式(数式化): 選択した物理法則に基づいて、問題中の物理量を記号で表しながら数式を立てます。この際、各記号が何を意味するのか(例:\(M\) は地球の質量、\(R\) は地球の半径、など)を自分の中で明確にしておきます。座標系を設定する必要があれば、それも行います。
  4. 数学的な計算・変形プロセス: 立てた式を、求めたい量について解いたり、指定された変数で表すために変形したりします。代数計算、方程式を解く、約分、平方根の処理、三角関数の利用などを、ミスなく慎重に行います。
  5. 得られた結果の吟味と検証: 計算によって得られた答えの単位は物理的に正しいか、値の大きさは常識的に考えて妥当か(極端に大きすぎたり小さすぎたりしていないか、符号の向きは適切かなど)を確認します。可能であれば、別の方法で解いてみたり、極端な条件下でどうなるかを考えたりして、結果の信頼性を高めます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認の徹底: 計算の各ステップや最終結果において、単位が物理的に正しいものになっているかを常に意識します。特に、問題中で与えられている単位が基本単位(m, kg, s)でない場合(例:km や g)の換算は、計算の初期段階で正確に行うことが重要です。
  • 可能な限り文字式のまま計算を進める: 具体的な数値を計算の初期段階で代入してしまうと、途中の計算ミスを発見しにくくなったり、式が持つ物理的な意味が見えにくくなったりすることがあります。できるだけ計算の最後まで文字式の形で進め、最後の最後に数値を代入する方が、間違いを減らし、理解を深める上で有効です。
  • 関係式 (\(GM = gR^2\)など) の有効活用と注意点: \(GM = gR^2\) のような便利な関係式は、計算を簡略化するのに役立ちますが、それがどのような条件下で成り立つのか(この場合は、地表(半径\(R\))での重力加速度が\(g\)であるという条件)を正しく理解して使うことが大切です。
  • 平方根や分数、指数の扱いの正確性: \(\sqrt{A/B} = \sqrt{A}/\sqrt{B}\) や \(\sqrt{AB} = \sqrt{A}\sqrt{B}\)、あるいは分数の分母分子の整理、指数の計算(例:\(10^3 \times 10^3 = 10^6\))といった基本的な数学的操作を、焦らず正確に行うことが求められます。
  • 有効数字の意識: 問題文で与えられた数値の有効数字の桁数を確認し、最終的な計算結果もそれに合わせた適切な有効数字で示すように心がけましょう。
  • 日頃からの練習方法:
    • 計算過程の途中式を省略せずに、一つ一つのステップを丁寧にノートに書く癖をつけましょう。
    • 計算が終わった後、時間があれば検算をする習慣をつけましょう(例えば、式の次元[単位]が合っているかを確認する、簡単な値で試してみる、別の角度からアプローチできないか考えてみるなど)。
    • もし計算間違いをした場合は、どこで間違えたのか、なぜその間違いを犯したのかを徹底的に分析し、同じ種類のミスを繰り返さないようにするための具体的な対策を考えることが重要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の検討:
    • 今回得られた第1宇宙速度 \(v_1\) と第2宇宙速度 \(v_2\) の関係について、\(v_2 > v_1\) となっていますが、これは直感的に正しいでしょうか?(地球の周りを回るよりも、地球の引力を完全に振り切る方がより大きな速度が必要そうなので、妥当と考えられます)。
    • もし地球の半径 \(R\) が非常に大きくなった場合(他の条件は同じとして)、重力加速度 \(g\)、第1宇宙速度 \(v_1\)、第2宇宙速度 \(v_2\) はそれぞれどのように変化するでしょうか?(例えば \(v_1=\sqrt{gR}\) ですが、\(g=GM/R^2\) なので \(v_1=\sqrt{GM/R}\) とも書けます。この形から、\(R\) が大きくなると \(v_1\) は小さくなることが予想されます)。
    • もし地球の質量 \(M\) が非常に大きくなった場合(他の条件は同じとして)、これらの値はどうなるでしょうか?(\(g, v_1, v_2\) はいずれも大きくなるはずです)。
  • 単位の整合性の再確認: 導出した各物理量の最終的な答えの単位が、その物理量が持つべき正しい単位(例:速度なら m/s、周期なら s)と一致しているか、必ず最後に確認しましょう。
  • 既知の事実や法則との比較: もし第1宇宙速度や第2宇宙速度という言葉とその大まかな意味を知っていれば、自分が計算して得た結果がそれらの既知の概念と整合しているか(例えば、第2宇宙速度が第1宇宙速度より大きい、など)を確認することができます。
  • 極端なケースや特殊な値を代入して考えてみる: 例えば、問2の人工衛星の高度 \(h\) が無限に大きくなったと仮定すると、その速さ \(v\) は \(0\) に近づき、周期 \(T\) は非常に大きくなる(無限大に発散する)はずだ、といった極限状態を考えてみることで、式の妥当性や物理現象の理解を深めることができます。
  • 問題を解き終わった後に「これで終わり」とすぐに次の問題に移るのではなく、少し立ち止まって得られた結果が何を意味しているのか、物理的に見ておかしくないか、といったことを考える習慣をつけることで、物理現象に対する洞察力が養われ、ケアレスミスにも気づきやすくなります。

問題52 (新潟大+大阪公立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、静止衛星の基本的な条件から始まり、特定の軌道での運動、さらにはロケットのようにガスを噴射して加速するという、よりダイナミックな状況までを扱います。万有引力、円運動の力学、力学的エネルギー保存則、そして運動量保存則という、高校物理における重要な柱となる法則を総合的に活用する能力が試されます。

与えられた条件
  • 地球の質量:\(M\)
  • 万有引力定数:\(G\)
  • (1) 地球の自転周期:\(T\)
  • (2) 物体Aは初期状態では地球の中心Oから距離 \(r\) の位置で静止している。
  • (2)(ウ) 噴射前のガスを含めた物体Aの質量:\(m_0\)
問われていること
  1. 地球の自転周期を \(T\) として、静止衛星の円軌道の半径 \(r\) を \(M, G, T\) で表せ。
  2. 地球の中心Oから距離 \(r\) の位置で静止している物体Aがガス噴射をして静止衛星になろうとする。
    • (ア) 静止衛星となるための速さ \(v\) を \(r, M, G\) で表せ。
    • (イ) 噴射したガスが無限遠に達するのに必要な速さ \(u\) を \(r, M, G\) で表せ。
    • (ウ) 噴射前のガスを含めたAの質量を \(m_0\) とし、噴射するガスの速さを (イ)の \(u\) とする。噴射すべきガスの質量を \(m_G\) で表せ。(解説では、\(m_G\) を \(m_0\) を用いて表します)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、主に以下の物理法則を理解し、適用することが求められます。

  • 万有引力の法則: 質量を持つ物体同士が引き合う力。
  • 円運動の力学: 物体が円軌道を描くための条件、特に向心力。
  • 静止衛星の条件: 地球の自転と同じ周期で同じ向きに回転し、地上から見て静止して見える衛星。
  • 力学的エネルギー保存則: ガスが地球の引力を振り切って無限遠に達する条件を考える際に用います。
  • 運動量保存則: 物体Aがガスを噴射して自身が加速する、いわゆる「分裂」や「ロケットの原理」と同じ状況で用います。

全体的な戦略としては、まず静止衛星の軌道条件を整理し(問1)、次に特定の軌道 \(r\) での円運動に必要な速さ(問2(ア))と、その軌道からガスが脱出する速さ(問2(イ))を求めます。最後に、これらの結果を用いて、物体がガスを噴射して加速する際の運動量保存則から必要なガス質量を導き出します(問2(ウ))。

問1

思考の道筋とポイント

静止衛星は、地球の自転と同じ周期 \(T\) で、地球の自転と同じ向きに、赤道上空を円運動します。このため、地上から見ると常に同じ位置に静止しているように見えます。この円運動を実現するためには、地球と衛星の間に働く万有引力が、衛星の円運動に必要な向心力として作用している必要があります。衛星の質量を \(m_{\text{衛星}}\)、円軌道の半径を \(r_{\text{静止}}\)(問題文の(2)で使われる \(r\) と区別するため、ここでは \(r_{\text{静止}}\) とします)、角速度を \(\omega\) とすると、\(\omega = \frac{2\pi}{T}\) の関係があります。

この設問における重要なポイント

  • 静止衛星の公転周期は、地球の自転周期 \(T\) に等しい。
  • 円運動の向心力が万有引力と等しいという関係式 \(m_{\text{衛星}} r_{\text{静止}} \omega^2 = G\frac{Mm_{\text{衛星}}}{r_{\text{静止}}^2}\) を用いる。
  • 角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) の関係 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を代入し、\(r_{\text{静止}}\) について解く。

具体的な解説と立式

静止衛星の質量を \(m_{\text{衛星}}\)、その円軌道の半径を \(r_{\text{静止}}\) とします。
静止衛星は地球の自転と同じ周期 \(T\) で円運動するため、その角速度 \(\omega\) は、
$$\omega = \frac{2\pi}{T}$$
と表されます。
この衛星が円運動を続けるためには向心力が必要であり、その大きさは \(F_{\text{向心力}} = m_{\text{衛星}} r_{\text{静止}} \omega^2\) です。この向心力は、地球(質量 \(M\))と衛星(質量 \(m_{\text{衛星}}\))の間に作用する万有引力 \(F_{\text{万有引力}} = G\frac{Mm_{\text{衛星}}}{r_{\text{静止}}^2}\) によって供給されます。
したがって、これらの力が等しいとおくと(または運動方程式を立てると)、
$$m_{\text{衛星}} r_{\text{静止}} \omega^2 = G\frac{Mm_{\text{衛星}}}{r_{\text{静止}}^2}$$
という関係式が成り立ちます。この式に \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を代入し、\(r_{\text{静止}}\) について解きます。

使用した物理公式

  • 角速度と周期の関係: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\)
  • 円運動の向心力: \(F = mr\omega^2\)
  • 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
計算過程
  1. 運動方程式(または向心力と万有引力のつり合いの式)に \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を代入する:
    $$m_{\text{衛星}} r_{\text{静止}} \left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 = G\frac{Mm_{\text{衛星}}}{r_{\text{静止}}^2}$$
  2. 両辺から衛星の質量 \(m_{\text{衛星}}\) を消去する:
    $$r_{\text{静止}} \frac{4\pi^2}{T^2} = \frac{GM}{r_{\text{静止}}^2}$$
  3. \(r_{\text{静止}}\) について整理するため、まず両辺に \(r_{\text{静止}}^2\) を掛ける:
    $$r_{\text{静止}}^3 \frac{4\pi^2}{T^2} = GM$$
  4. 次に、両辺に \(\frac{T^2}{4\pi^2}\) を掛けて \(r_{\text{静止}}^3\) の形にする:
    $$r_{\text{静止}}^3 = \frac{GMT^2}{4\pi^2}$$
  5. 最後に、両辺の3乗根をとって \(r_{\text{静止}}\) を求める:
    $$r_{\text{静止}} = \left(\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{\frac{1}{3}}$$
計算方法の平易な説明

静止衛星は、地球が1回転するのと同じ時間(周期 \(T\))で、地球の周りをちょうど1周します。このとき、衛星が円軌道を保つためには、地球が衛星を引きつける力(万有引力)が、衛星が円運動をするのに必要な力(向心力)と等しくなっている必要があります。この力のバランスを表す式 \(m r \omega^2 = G\frac{Mm}{r^2}\) (ここで \(\omega = 2\pi/T\) は衛星の回転の速さ(角速度)です)を立てます。この式を軌道の半径 \(r\)(この設問では \(r_{\text{静止}}\) としています)について解くと、\(r_{\text{静止}} = \left(\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{\frac{1}{3}}\) が得られます。

結論と吟味

静止衛星の円軌道の半径 \(r_{\text{静止}}\) は \(r_{\text{静止}} = \left(\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{\frac{1}{3}}\) と表されます。この結果から、静止衛星の軌道半径は、地球の質量 \(M\) と自転周期 \(T\) (そして万有引力定数 \(G\) と円周率 \(\pi\)) によって一意に決まり、衛星自身の質量には依存しないことが分かります。実際に地球の \(M\) と \(T\) (約24時間) の値を代入すると、この半径は地表から約36,000 km の高度に相当し、実際の通信衛星や放送衛星がこの軌道を利用しています。

解答 (1) \(r = \left(\displaystyle\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{\frac{1}{3}}\)

問2 (ア)

思考の道筋とポイント

この設問では、地球の中心Oから特定の距離 \(r\) にある物体Aが円運動をして「静止衛星」になるための速さ \(v\) を求めます。ただし、ここでいう「静止衛星」は(1)で求めた特定の軌道半径 \(r_{\text{静止}}\) を持つものとは限らず、任意の距離 \(r\) で円運動するために必要な速さ、と解釈するのが自然です(もし(1)の \(r\) ならば、速さは \(r\omega\) で一意に決まってしまいます)。質量 \(m_{\text{A}}\) の物体Aが半径 \(r\) の円軌道を速さ \(v\) で等速円運動するためには、地球からの万有引力が向心力として働く必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 物体A(衛星となった後)の質量を \(m_{\text{A}}\)(噴射後の質量)とします。
  • 円運動の軌道半径は、問題文で与えられた \(r\) です。
  • 向心力の大きさ \(m_{\text{A}}\frac{v^2}{r}\) が、万有引力の大きさ \(G\frac{Mm_{\text{A}}}{r^2}\) と等しいという関係式を立てます。

具体的な解説と立式

物体Aがガスを噴射し、衛星となった後の質量を \(m_{\text{A}}\) とします。この物体Aが、地球の中心から距離 \(r\) の円軌道を速さ \(v\) で等速円運動していると考えます。
この円運動に必要な向心力の大きさは \(F_{\text{向心力}} = m_{\text{A}}\frac{v^2}{r}\) です。
この向心力は、地球(質量 \(M\))と物体A(質量 \(m_{\text{A}}\))の間に働く万有引力 \(F_{\text{万有引力}} = G\frac{Mm_{\text{A}}}{r^2}\) によって供給されます。
したがって、力のつり合いから次の運動方程式が成り立ちます。
$$m_{\text{A}}\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm_{\text{A}}}{r^2}$$
この式を \(v\) について解けば、求めたい速さが得られます。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m \frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
計算過程
  1. 運動方程式を立てる:
    $$m_{\text{A}}\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm_{\text{A}}}{r^2}$$
  2. 両辺から物体Aの質量 \(m_{\text{A}}\) を消去する(\(m_{\text{A}} \neq 0\)):
    $$\frac{v^2}{r} = \frac{GM}{r^2}$$
  3. 両辺に軌道半径 \(r\) を掛ける:
    $$v^2 = \frac{GM}{r}$$
  4. \(v\) について解く(速さ \(v\) は正であるため、正の平方根をとる):
    $$v = \sqrt{\frac{GM}{r}}$$
計算方法の平易な説明

ある高さ(地球の中心からの距離が \(r\))で物体が地球の周りを安定して円運動するためには、特定の速さが必要です。この速さを \(v\) とすると、物体が円運動を続けるために必要な中心向きの力(これを向心力といいます)の大きさは \(m v^2 / r\) と表せます(ここで \(m\) は物体の質量です)。この向心力は、地球と物体の間に働く万有引力 \(GMm/r^2\) によって供給されています。これらの力が等しいという関係式 \(m v^2 / r = GMm/r^2\) から、速さ \(v = \sqrt{GM/r}\) が求められます。

結論と吟味

地球の中心から距離 \(r\) の位置で円運動するための速さ \(v\) は \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\) と表されます。これは、その軌道におけるいわゆる「第1宇宙速度」に相当する速さです(地表すれすれの場合を特に第1宇宙速度と呼ぶことが多いですが、任意の軌道半径 \(r\) での円運動速度も同様の形で表されます)。この式から、軌道半径 \(r\) が大きいほど、必要な円運動の速さ \(v\) は小さくなることがわかります。

解答 (2)(ア) \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\)

問2 (イ)

思考の道筋とポイント

噴射されたガスが、噴射された地点(地球中心から距離 \(r\))から無限遠に到達するために必要な最小の速さ \(u\) を考えます。これは、ガスが地球の重力ポテンシャルエネルギーの束縛から逃れて無限の彼方へ飛び去るための速さ、すなわちその地点における脱出速度を求める問題です。この種の問いには、力学的エネルギー保存則が非常に有効です。ガスの質量を \(m_G\) とし、噴射直後のガスの運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和が、ガスが無限遠点に到達してちょうど静止したと仮定したときのエネルギー(運動エネルギー0、位置エネルギー0)と等しくなる、という条件で式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を適用します。
  • 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U = -G\frac{Mm_G}{r_{\text{距離}}}\) を用います。この式は、無限遠方を位置エネルギーの基準点(\(U=0\))とした場合のものです。
  • 「無限遠に達するのに必要な速さ」の最小値を考えるため、無限遠点ではガスの運動エネルギー \(K=0\)、かつ位置エネルギー \(U=0\) となる条件を設定します。

具体的な解説と立式

噴射されたガスの質量を \(m_G\) とします。
ガスが地球の中心から距離 \(r\) の地点で噴射され、速さ \(u\) を持った瞬間を考えます。
このときのガスの力学的エネルギー \(E_{\text{噴射時}}\) は、その運動エネルギー \(K_{\text{噴射時}} = \frac{1}{2}m_G u^2\) と、万有引力による位置エネルギー \(U_{\text{噴射時}} = -G\frac{Mm_G}{r}\) の合計です。
$$E_{\text{噴射時}} = \frac{1}{2}m_G u^2 – G\frac{Mm_G}{r}$$
ガスが無限遠点に到達したとき、その速さがちょうど \(0\) になるときの噴射速度 \(u\) が、求めるべき最小の速さとなります。無限遠点では、位置エネルギーの基準の取り方から \(U_{\text{無限遠}} = 0\) であり、また最小速さを考えるので運動エネルギーも \(K_{\text{無限遠}} = 0\) とします。
したがって、無限遠点でのガスの力学的エネルギーは \(E_{\text{無限遠}} = 0\) となります。
万有引力は保存力なので、力学的エネルギーは保存されます。すなわち、\(E_{\text{噴射時}} = E_{\text{無限遠}}\) ですから、
$$\frac{1}{2}m_G u^2 – G\frac{Mm_G}{r} = 0$$
この方程式を \(u\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U(r_{\text{距離}}) = -G\frac{Mm}{r_{\text{距離}}}\) (無限遠基準)
計算過程
  1. 力学的エネルギー保存則に基づいて式を立てる:
    $$\frac{1}{2}m_G u^2 – G\frac{Mm_G}{r} = 0$$
  2. 位置エネルギーの項 \(G\frac{Mm_G}{r}\) を右辺に移項する:
    $$\frac{1}{2}m_G u^2 = G\frac{Mm_G}{r}$$
  3. 両辺からガスの質量 \(m_G\) を消去する(ガスが噴射されるので \(m_G \neq 0\)):
    $$\frac{1}{2}u^2 = \frac{GM}{r}$$
  4. 両辺に \(2\) を掛ける:
    $$u^2 = \frac{2GM}{r}$$
  5. \(u\) について解く(速さ \(u\) は正であるため、正の平方根をとる):
    $$u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}$$
計算方法の平易な説明

ガスが地球の強力な引力を振り切って、はるか遠くの無限の彼方まで飛んでいくためには、ある一定以上の速さで噴射されなければなりません。この「ギリギリ無限遠まで到達できる最小の速さ」を求めるには、エネルギーの考え方を使うのが有効です。噴射された瞬間のガスの「運動エネルギー」と「地球の引力による位置エネルギー(これはマイナスの値を持ちます)」の合計が、ガスが無限遠に到達してちょうど速度がゼロになった(つまり運動エネルギーもゼロ、無限遠なので位置エネルギーもゼロ)ときのエネルギーと等しくなる、というエネルギー保存の式 \(\frac{1}{2}m_G u^2 – \frac{GMm_G}{r} = 0\) を立てます。この式から、噴射速度 \(u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\) が求められます。

結論と吟味

噴射したガスが無限遠に達するのに必要な最小の速さ \(u\) は \(u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\) と表されます。これは、地球中心から距離 \(r\) の地点における脱出速度に相当します。(ア)で求めた同じ距離 \(r\) での円運動の速さ \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\) と比較すると、\(u = \sqrt{2} v\) という関係があることが見て取れます。つまり、同じ軌道上から脱出するためには、その軌道を円運動する速さの \(\sqrt{2}\) 倍の速さが必要になるわけです。

解答 (2)(イ) \(u = \sqrt{\displaystyle\frac{2GM}{r}}\)

問2 (ウ)

思考の道筋とポイント

噴射前の物体A(ガスを含む、質量 \(m_0\))は静止しています。この物体Aからガス(質量 \(m_G\))を図の左向きに速さ \(u\) で噴射すると、残りの部分(衛星本体、質量は \(m_0 – m_G\) となる)は反動で図の右向きに速さ \(v\) で動き出します。この現象は、物体が内力(噴射の力)によって複数の部分に分かれて運動を始める「分裂」と見なすことができ、このような系では外力が働かない(または働いていても噴射の前後で無視できるほど短時間である)とすれば、系の全運動量は保存されます(運動量保存則)。図から、噴射されるガスと衛星本体は互いに逆向きに運動することが示されているため、運動量保存則を立式する際には、これらの速度の向き(符号)に注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則を適用します。噴射の前後で、物体A全体(ガス+衛星本体)からなる系の全運動量は等しく保たれます。
  • 噴射前の系の全運動量は \(0\) です(物体Aは静止しているため)。
  • 噴射後、ガスと衛星本体は互いに逆向きに運動します。それぞれの運動量の大きさを \(m_G u\) と \((m_0 – m_G)v\) とし、これらの運動量のベクトル和が噴射前の運動量(ゼロ)と等しくなるように式を立てます。
  • (ア)で求めた衛星の速さ \(v\) と、(イ)で求めたガスの速さ \(u\) の結果を代入し、未知数であるガスの質量 \(m_G\) について解きます。

具体的な解説と立式

噴射前の物体Aの全質量は \(m_0\) であり、静止しているため、その運動量は \(P_{\text{前}} = 0\) です。
ガス(質量 \(m_G\))を図の左向き(これを負の向きとしましょう)に速さ \(u\) で噴射すると、ガスの運動量は \(-m_G u\) となります。
その結果、残りの衛星本体(質量は \(m_{\text{衛星}} = m_0 – m_G\))は、図の右向き(これを正の向きとしましょう)に速さ \(v\) で運動します。衛星本体の運動量は \(+(m_0 – m_G)v\) となります。
運動量保存則 \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) より、
$$0 = -m_G u + (m_0 – m_G)v$$
この式は、ガスの運動量の大きさと衛星本体の運動量の大きさが等しい、すなわち \(m_G u = (m_0 – m_G)v\) と同値です。模範解答ではこちらの「大きさのつり合い」の形で立式しており、速さ \(u\) と \(v\) が既に正の値(スカラー)として求まっているので、この方が扱いやすいでしょう。
この式に、(ア)で求めた \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\) と、(イ)で求めた \(u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\) を代入して \(m_G\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\)
  • 運動量: \(p = mv\)
  • (ア)の結果: \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\)
  • (イ)の結果: \(u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\)
計算過程
  1. 運動量保存則の式を立てる(運動量の大きさで比較):
    $$(m_0 – m_G)v = m_G u$$
  2. (ア)で求めた \(v\) と (イ)で求めた \(u\) を代入する:
    $$(m_0 – m_G)\sqrt{\frac{GM}{r}} = m_G \sqrt{\frac{2GM}{r}}$$
  3. 両辺に共通して含まれる因子 \(\sqrt{\frac{GM}{r}}\) で割る(この因子は \(0\) ではないので割り算が可能):
    $$m_0 – m_G = m_G \sqrt{2}$$
  4. \(m_G\) を含む項を右辺に集め、含まない項(\(m_0\))を左辺に残す:
    $$m_0 = m_G + \sqrt{2}m_G$$
  5. 右辺を \(m_G\) でくくり出す:
    $$m_0 = m_G(1 + \sqrt{2})$$
  6. \(m_G\) について解く:
    $$m_G = \frac{m_0}{1 + \sqrt{2}}$$
  7. 分母を有理化するために、分母と分子に \((\sqrt{2}-1)\) を掛ける:
    $$m_G = \frac{m_0(\sqrt{2}-1)}{(\sqrt{2}+1)(\sqrt{2}-1)} = \frac{m_0(\sqrt{2}-1)}{(\sqrt{2})^2 – 1^2} = \frac{m_0(\sqrt{2}-1)}{2-1}$$
    したがって、
    $$m_G = (\sqrt{2}-1)m_0$$
計算方法の平易な説明

物体が静止している状態から、その一部(この場合はガス)を勢いよく噴射すると、残りの部分(衛星本体)は反動で反対方向に動き出します。これは、例えばスケートボードに乗って静止している人がボールを前に投げると、人は後ろに動くのと同じ「分裂」の現象です。このようなとき、「(系全体の)運動の勢い」のような量である運動量は、噴射の前後で保存されます(変わらない)。
はじめ、物体A全体は止まっているので、運動量はゼロです。ガスを噴射すると、ガスが得る運動量の大きさと、衛星本体が得る運動量の大きさが等しくなります(ただし向きは正反対)。この関係を表す式 \((m_0-m_G)v = m_G u\) を立てます(ここで \(m_0-m_G\) は衛星本体の質量、\(v\) はその速さ、\(m_G\) はガスの質量、\(u\) はガスの速さです)。この式に、(ア)で求めた衛星の速さ \(v\) と、(イ)で求めたガスの速さ \(u\) を代入し、噴射すべきガスの質量 \(m_G\) について解くと、\(m_G = (\sqrt{2}-1)m_0\) という結果が得られます。

結論と吟味

噴射すべきガスの質量 \(m_G\) は \(m_G = (\sqrt{2}-1)m_0\) と表されます。
ここで、\(\sqrt{2} \approx 1.414\) ですから、\(m_G \approx (1.414-1)m_0 = 0.414 m_0\) となります。
これは、衛星が目標の速度 \(v\) を得るためには、噴射前の全質量の約41.4%に相当する質量のガスを噴射する必要があることを意味しています。残りの衛星本体の質量は \(m_{\text{衛星}} = m_0 – m_G = m_0 – (\sqrt{2}-1)m_0 = (1 – \sqrt{2} + 1)m_0 = (2-\sqrt{2})m_0 \approx 0.586 m_0\) となります。
計算結果として得られたガスの質量 \(m_G\) は正の値であり、かつ元の全質量 \(m_0\) よりも小さい(なぜなら \((\sqrt{2}-1) \approx 0.414 < 1\) だから)ため、物理的に妥当な範囲の値であると言えます。

解答 (2)(ウ) \(m_G = (\sqrt{2}-1)m_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 静止衛星の成立条件: 静止衛星が地球の自転と同じ周期 \(T\) で円運動し、その結果、地上から見て静止して見えるという物理的条件を正確に理解することが、問1を解く上での出発点です。この条件から、角速度 \(\omega = 2\pi/T\) を用いて軌道半径が一意に定まります。
  • 万有引力と円運動の関連性: 天体の周りを物体が円運動する場合、その向心力は万有引力によって供給されます。この基本的な関係から運動方程式 \(mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2}\) または \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) を立てる能力は、この種の問題で繰り返し問われます。
  • 力学的エネルギー保存則(特に脱出速度の概念): 物体が天体の重力圏を脱出して無限遠に到達するための最小速度(脱出速度)を考察する際には、力学的エネルギー保存則が極めて有効なツールとなります。無限遠点を位置エネルギーの基準(\(U=0\))とし、そこで運動エネルギーもゼロになるという条件を設定するのが定石です。万有引力による位置エネルギー \(U = -GMm/r\) の正確な理解(特に負号の意味)が不可欠です。
  • 運動量保存則(特に分裂やガス噴射の現象): ガス噴射のように、系が内部からの力(内力)によって複数の部分に分裂し、各部分が運動を開始する際には、その系全体の運動量が保存されます。特に、噴射前の全運動量と、噴射後の各部分の運動量のベクトル和が等しくなるという法則を適用します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 他の惑星(例えば火星や木星)における静止衛星の軌道半径や周期の計算。
    • ロケットが多段式で燃料を段階的に噴射しながら加速していく、より複雑な運動量保存の問題(運動量保存則の繰り返し適用が必要になることがあります)。
    • 宇宙探査機が惑星の重力を利用して軌道変更や加速・減速を行うスイングバイ航法の基本的な原理の理解。
    • 衝突や合体だけでなく、「分裂」も運動量保存則が適用できる典型的な現象であることを再認識し、様々な分裂問題へ応用する。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 「静止衛星」というキーワードが出てきたら: 地球(または中心天体)の自転周期と公転周期が同期していることを意味します。角速度 \(\omega\) が重要な役割を果たすことが多いです。
    2. 「円運動」という記述があれば: 向心力は何か?を自問します。多くの場合、万有引力がその役割を担っていないか確認します。
    3. 「無限遠に達する」「脱出する」といった表現があれば: 力学的エネルギー保存則が使えないか?脱出速度の概念が関連していないか?を疑います。
    4. 「ガス噴射」「分裂」「衝突」「合体」といった現象が記述されていれば: 運動量保存則が適用できないか?を考えます。噴射や分裂の前後での運動量を比較します。
    5. どの力が働いているか、保存力か非保存力か: どの物理法則を選択するかの重要な判断基準です。万有引力のみが仕事をする場合は力学的エネルギー保存則が有効ですが、ガス噴射による加速のような内力による運動量の変化は、運動量保存則で捉えるのが適切です。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 複数の異なる \(r\) の区別: 問1で求める静止衛星の軌道半径と、問2で用いられる任意の距離 \(r\) を混同しないように注意が必要です。問題文をよく読み、必要であれば自分で記号に添え字をつけるなどして区別しましょう(例: \(r_{\text{静止}}\))。
    • 質量の変化の追跡: 問2(ウ)のようにガス噴射が伴う問題では、噴射によって衛星本体の質量が \(m_0\) から \(m_0-m_G\) へと変化することに注意し、各時点での質量を正確に把握することが大切です。
    • 速度のベクトルとしての性質: 運動量保存則を扱う際には、速度がベクトル量であることを常に意識し、その向きを考慮して立式する必要があります(一直線上の運動の場合は、符号によって向きを区別します)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 静止衛星の周期の扱い: 地球の自転周期 \(T\) を正しく用いることを忘れたり、あるいは別の周期の値で誤って考えてしまったりするミス。
  • 運動量保存則における符号の取り扱いミス: ガスと衛星本体が互いに逆向きに進むため、一方の速度(または運動量)を正の向きと定義した場合、もう一方は負の向きとして扱わなければなりません。模範解答のように運動量の「大きさ」で等式を立てる場合は、速度の向きが逆であることを別途図や文中で考慮していることを意識する必要があります。
  • 力学的エネルギー保存則と運動量保存則の適用場面の混同:
    • 力学的エネルギー保存則は、主に物体がある状態から別の状態へ変化する際の速さや、ある地点まで到達できるか否かといった「エネルギー的な変化」を議論するのに適しています(例:脱出速度の計算)。
    • 運動量保存則は、複数の物体が互いに力を及ぼし合う系(衝突、合体、分裂など、内力が主となる現象)において、各物体の速度変化の関係や、相互作用後の各部の速度を議論するのに適しています。
  • 対策:
    • 問題を解き始める前に、状況を正確に把握するために図を描き、力の向きや速度の向きを矢印で明確に書き込む習慣をつけましょう。特にベクトル量は、その方向性が重要です。
    • 保存則を適用する際には、「何が(どの物理量が)」「いつからいつまでの間で(あるいはどの相互作用の前後で)」保存されるのかを、常に明確に意識することが大切です。
    • 質量の変化が伴うような問題(ロケットの噴射など)では、相互作用の各時点での質量がどうなっているのかを正確に把握し、式に反映させる必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の表現:
    1. 問1(静止衛星): 地球と、その周りを同じ角速度で公転する静止衛星の軌道を描く。地球の自転周期 \(T\) と衛星の公転周期が等しく、角速度 \(\omega\) が共通であることを書き込むと理解が深まります。
    2. 問2(ア)(円運動速度), (イ)(脱出速度): 地球の中心からの距離 \(r\) の点での物体の運動をイメージする。円運動の場合は接線方向の速度 \(v\)、脱出の場合はその点から無限遠へ向かう初速度 \(u\) を矢印で示す。
    3. 問2(ウ)(ガス噴射): この設問では図が最も重要です。噴射前の物体A(静止しており、質量は \(m_0\))。噴射直後に、ガス(質量 \(m_G\)、速さ \(u\) で一方へ)と衛星本体(質量 \(m_0-m_G\)、速さ \(v\) で反対方向へ)が互いに逆向きに運動を開始する様子を、速度ベクトルと質量の情報を添えて明確に描くことが、立式の助けになります。
  • 図を描く際の一般的な注意点:
    • 速度や力のベクトルは、その向きと(おおよその相対的な)大きさが伝わるように矢印で表現しましょう。
    • 「分裂」や「噴射」といった現象の場合、作用・反作用の法則により、ガスと衛星本体が互いに力を及ぼし合って加速する(運動量変化が生じる)という物理的なイメージを持つことが大切です。
    • 運動量保存則を扱う際、一次元の運動であれば座標軸を設定し、速度の正負を明確に定義することで、立式をより機械的かつ正確に行うことができる場合があります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問1 (静止衛星の軌道半径 \(r_{\text{静止}}\)): 問題文の「静止衛星」というキーワードから、「地球の自転と同期した円運動」を連想し、「周期が \(T\) である」という条件を抽出します。円運動であることから「向心力が必要」と考え、その供給源が「万有引力」であると結びつけます。角速度 \(\omega\) を用いた向心力の表現 \(mr\omega^2 = F_{\text{向心力}}\) が、周期 \(T\) との関連で便利であると判断します。
  • 問2(ア) (円運動の速さ \(v\)): 「距離 \(r\) で円運動」という条件から、ここでも「向心力が必要」であり、それが「万有引力」であると考えます。速さ \(v\) を直接求めるため、向心力の表現として \(mv^2/r = F_{\text{向心力}}\) の形を選択します。
  • 問2(イ) (ガスが無限遠に達する速さ \(u\)): 「無限遠に達する」および「必要な速さ(最小値)」というキーワードから、「エネルギー的な観点での条件」を考え、「力学的エネルギー保存則」が適用できると判断します。脱出の条件として、無限遠での運動エネルギーと位置エネルギーをゼロと設定します。
  • 問2(ウ) (噴射ガスの質量 \(m_G\)): 「ガス噴射」という現象は、系が内力によって「分裂」する過程と捉えられます。このような相互作用による速度変化を扱う際には、「運動量保存則」が最も基本的な法則であると判断します。
  • 適切な法則選択のための判断基準: 問題文中に含まれるキーワード(例えば、「静止衛星」「円運動」「無限遠へ到達」「噴射・分裂」など)や、問われている物理量(半径、速さ、エネルギー、質量など)の種類から、どの物理法則がその状況を記述するのに最も適しているかを判断する訓練が、物理の問題解決能力を高める上で極めて重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 現象の正確な把握と物理モデルの単純化: まず、問題文が記述している物理現象を正確に理解します。例えば、地球や衛星を、その大きさを無視できる質点として扱うといったモデル化(単純化)を行います。
  2. 各問いにおける未知数と既知数の確認: 各設問で何を求めなければならないのか(未知数)、そしてそのために利用できる情報は何か(既知の物理量、定数、および前の設問で得た結果など)を明確にします。
  3. 具体的な思考の流れ:
    • 問1: 静止衛星の条件(周期 \(T\)) \(\rightarrow\) 角速度 \(\omega\) の導出 \(\rightarrow\) 円運動の運動方程式(向心力 = 万有引力) \(\rightarrow\) 軌道半径 \(r_{\text{静止}}\) の導出。
    • 問2(ア): 与えられた軌道半径 \(r\) \(\rightarrow\) 円運動の運動方程式(向心力 = 万有引力) \(\rightarrow\) 速さ \(v\) の導出。
    • 問2(イ): 与えられた噴射点(距離 \(r\)) \(\rightarrow\) 力学的エネルギー保存則(無限遠への到達条件) \(\rightarrow\) 脱出速度 \(u\) の導出。
    • 問2(ウ): 噴射前の状態(静止、全質量 \(m_0\))と噴射後の状態(ガスと衛星本体が分裂し運動)を明確化 \(\rightarrow\) 運動量保存則の適用 \(\rightarrow\) (ア)と(イ)で求めた \(v, u\) を代入 \(\rightarrow\) ガスの質量 \(m_G\) の導出。
  4. 連鎖的な思考: 各設問で得られた結果が、後続の設問を解くための重要な入力情報として使われることがある(この問題では特に(ウ)が(ア)(イ)の結果を利用する)ことを意識し、問題全体としての流れを把握することが大切です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 記号の混同を防ぐ: \(r\), \(v\), \(u\) のように、同じ記号が問題の異なる部分で異なる物理量や条件を表すために使われる場合があります。これを混同しないよう、問題文を注意深く読み、必要であれば自分で添え字(例えば \(r_1, r_2\) や \(v_{\text{衛星}}, v_{\text{ガス}}\) など)を付けて区別するなどの工夫をしましょう。
  • 平方根の計算と変形の正確性: \(\sqrt{A}\sqrt{B}=\sqrt{AB}\) や、分数の平方根 \(\sqrt{A/B} = \sqrt{A}/\sqrt{B}\) といった変形を、符号も含めて正確に行うことが求められます。特に問2(ウ)の計算過程では、\(\sqrt{2}\) という因子が現れるため、その扱いには注意が必要です。
  • 分母の有理化の確実な実行: 計算結果の最終的な形を整えるために、分母に無理数が含まれる場合は有理化を行うのが一般的です。例えば、\(1/(1+\sqrt{2})\) のような形の分数の有理化は、物理の問題でも頻出するパターンの一つです。
  • 代数計算の丁寧さと正確性: 特に問2(ウ)のように、複数の式を代入し、未知数について整理していくような多段階の代数計算では、符号のミス、展開や因数分解のミスを犯さないように、一つ一つのステップを慎重に進めることが重要です。
  • 日頃からの練習で心がけること:
    • 複雑な文字式を含む計算問題にも積極的に取り組み、計算力を養いましょう。
    • 計算過程をノートに丁寧に書き出し、後から見直したときに自分の思考プロセスが追えるようにしておくと、ミスを発見しやすくなります。
    • 計算結果が出たら、それが物理的にあり得る範囲の値か(例えば、質量が負の値になったり、光速を超えるような速度になったりしていないかなど)を簡単にチェックする習慣をつけると良いでしょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の確認:
    • 問1の静止衛星の軌道半径 \(r_{\text{静止}}\): 地球の自転周期 \(T\) が大きいほど \(r_{\text{静止}}\) は大きくなるか?(式を見ると \(T^{2/3}\) に比例しているので、大きくなります。これは直感的にも、ゆっくり回るためにはより遠くの軌道が必要そうです)。地球の質量 \(M\) が大きいほど \(r_{\text{静止}}\) は大きくなるか?(\(M^{1/3}\) に比例しているので、大きくなります。これも、引力が強いならより遠くでも回れる、と解釈できます)。
    • 問2(ア)の円運動速度 \(v\) と(イ)の脱出速度 \(u\) の関係: \(u=\sqrt{2}v\) という関係は、同じ軌道半径 \(r\) での比較であれば常に成り立ちます。脱出するためには円運動するよりも大きな速度が必要である、というのは直感的にも理解できます。
    • 問2(ウ)の噴射ガスの質量 \(m_G = (\sqrt{2}-1)m_0\): 計算結果として得られたガスの質量 \(m_G\) は、元の全質量 \(m_0\) よりも小さいか?(\((\sqrt{2}-1) \approx 0.414\) であり、これは \(1\) より小さいので、\(m_G < m_0\) となり妥当です)。また、質量である以上 \(m_G > 0\) であるか?(\(\sqrt{2}-1 > 0\) なので、これも妥当です)。
  • 単位の一貫性のチェック: 各計算ステップや最終的に得られた結果の単位が、その物理量が持つべき正しい単位(例えば、半径ならメートル[m]、速さならメートル毎秒[m/s]、質量ならキログラム[kg]など)と一致しているかを確認しましょう。
  • 極端な条件下での振る舞いを考察する: 例えば、もし地球の質量 \(M\) がゼロだったと仮定すると、万有引力が働かないため、静止衛星の軌道半径 \(r_{\text{静止}}\) は意味をなさなくなり(式の上では無限大に発散するか、定義できなくなります)、円運動速度 \(v\) や脱出速度 \(u\) もゼロになるはずです。このように、物理法則が適用される限界や特殊な状況を考えてみることで、導出した式の妥当性や物理現象への理解をより深めることができます。

問題53 (大阪公立大+東京理科大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地表から打ち上げられた物体の運動を、万有引力の影響下で考察するものです。鉛直打ち上げから円運動、さらには楕円運動へと展開し、それぞれの運動形態で重要となる物理法則(力学的エネルギー保存則、円運動の条件、ケプラーの法則)を総合的に活用する力を試されます。宇宙の壮大なスケールでの物体の振る舞いを、基本法則から丁寧に解き明かしていきましょう。

与えられた条件
  • 小物体の質量:\(m \, \text{[kg]}\)
  • 地球の半径:\(R \, \text{[m]}\)
  • 地球の質量:\(M \, \text{[kg]}\)
  • 万有引力定数:\(G \, \text{[N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\text{]}\)
  • 物体は地表から鉛直上方に打ち上げられる。
  • 点Aは地球の中心Oから \(2R\) の距離にある。
  • 点Bは地球の中心Oから \(6R\) の距離にあり、ABは楕円軌道の長軸となる。
  • 地球の自転や大気の影響は無視してよい。
問われていること
  1. 物体の速度が地球の中心Oから \(2R\) の距離にある点Aで \(0\) となるための初速 \(v_0 \, \text{[m/s]}\)。
  2. 物体が点Aで静止した瞬間、物体にOAに垂直な方向の速度 \(v \, \text{[m/s]}\) を与え、Oを中心とする半径 \(2R\) の等速円運動をさせるための \(v\) とその周期 \(T_0 \, \text{[s]}\)。
  3. 点Aで物体に与える速さ \(v\) が問(2)で求めた値からずれた場合に描く楕円軌道(ABを長軸とし、点BのOからの距離は \(6R\))について、
    • (ア) 点Aと点Bにおける面積速度に注目し、点Bにおける速さ \(V \, \text{[m/s]}\) を \(v\) を用いて表す。
    • (イ) その楕円軌道を描くための点Aでの速さ \(v\) を \(M, R, G\) を用いて表す。
    • (ウ) この楕円軌道の周期 \(T \, \text{[s]}\) を、(2)で求めた円運動の周期 \(T_0\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。

  • 万有引力の法則: 質量を持つ物体間に働く引力で、\(F = G\frac{Mm}{r^2}\) と表されます。
  • 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準として \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と定義されます。
  • 力学的エネルギー保存則: 万有引力のような保存力のみが仕事をする場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定に保たれます。
  • 円運動の運動方程式: 物体が等速円運動をするためには、中心に向かう向心力が必要です。この向心力が万有引力によって供給される場合の関係式 \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{万有引力}}\) を用います。
  • ケプラーの法則: 惑星の運動(一般には中心力による運動)に関する法則で、特に以下の2つがこの問題で重要です。
    • 第2法則(面積速度一定の法則): 動径ベクトル(中心Oから物体へのベクトル)が単位時間に掃く面積(面積速度)は一定です。
    • 第3法則: 惑星の公転周期の2乗は、軌道の半長軸の3乗に比例します (\(T^2 \propto a^3\))。

全体的な戦略としては、まず(1)で鉛直打ち上げの最高点の問題をエネルギー保存則で解き、(2)で円運動の条件から速さと周期を求めます。(3)では楕円運動を扱い、面積速度一定、エネルギー保存則、ケプラーの第3法則を順に適用して未知数を解決していきます。

問1

思考の道筋とポイント

物体が地表から打ち上げられ、万有引力のみを受けて運動する場合、その力学的エネルギーは保存されます。打ち上げ時の地表での力学的エネルギーと、点A(地球中心から \(2R\) の距離)で速度が \(0\) になった瞬間の力学的エネルギーが等しいという関係式を立てて解きます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を適用します。
  • 地表での地球中心からの距離は \(R\)、点Aでの地球中心からの距離は \(2R\) です。
  • 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\) (無限遠方を基準とした場合)を正確に用います。
  • 点Aで物体の速度が \(0\) になるという条件から、点Aでの運動エネルギーは \(0\) となります。

具体的な解説と立式

地表で小物体を初速 \(v_0\) で打ち上げる瞬間を考えます。このときの小物体の力学的エネルギーを \(E_{\text{地表}}\) とすると、運動エネルギー \(K_{\text{地表}} = \frac{1}{2}mv_0^2\) と、万有引力による位置エネルギー \(U_{\text{地表}} = -G\frac{Mm}{R}\) の和で表されます。
$$E_{\text{地表}} = \frac{1}{2}mv_0^2 – G\frac{Mm}{R}$$
次に、小物体が地球の中心Oから \(2R\) の距離にある点Aで速度が \(0\) になった瞬間を考えます。このときの小物体の力学的エネルギーを \(E_{\text{A}}\) とすると、運動エネルギーは \(K_{\text{A}} = 0\)(速度が0なので)、位置エネルギーは \(U_{\text{A}} = -G\frac{Mm}{2R}\) となります。
$$E_{\text{A}} = 0 – G\frac{Mm}{2R}$$
万有引力のみが仕事をするため、力学的エネルギーは保存されます。したがって、\(E_{\text{地表}} = E_{\text{A}}\) ですから、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 – G\frac{Mm}{R} = -G\frac{Mm}{2R}$$
この方程式を \(v_0\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\)
計算過程
  1. 力学的エネルギー保存則から方程式を立てる:
    $$\frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{GMm}{R} = -\frac{GMm}{2R}$$
  2. 位置エネルギーの項 \(\frac{GMm}{R}\) を右辺に移項する:
    $$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{GMm}{R} – \frac{GMm}{2R}$$
  3. 右辺の項を通分して計算する (\(\frac{GMm}{R} = \frac{2GMm}{2R}\) を用いる):
    $$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{2GMm}{2R} – \frac{GMm}{2R} = \frac{GMm}{2R}$$
  4. 両辺に \(2\) を掛ける:
    $$mv_0^2 = \frac{GMm}{R}$$
  5. 両辺を小物体の質量 \(m\) で割る(\(m \neq 0\) なので可能):
    $$v_0^2 = \frac{GM}{R}$$
  6. \(v_0\) について解く(初速 \(v_0\) は正の値を考えるので、正の平方根をとる):
    $$v_0 = \sqrt{\frac{GM}{R}}$$
計算方法の平易な説明

物体を真上に投げ上げると、重力に逆らって上昇し、やがて速度がゼロになって最高点に達します。この運動の間、物体の「運動エネルギー」と「万有引力による位置エネルギー」の合計である力学的エネルギーは一定に保たれます。
打ち上げ直後の地表での力学的エネルギー(速さ \(v_0\) なので運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\)、位置エネルギー \(-GMm/R\))と、点Aで速度がゼロになったときの力学的エネルギー(運動エネルギー \(0\)、位置エネルギー \(-GMm/(2R)\))が等しいという式を立てます。このエネルギー保存の式を解くことで、初速 \(v_0 = \sqrt{GM/R}\) が求められます。

結論と吟味

物体が地球の中心から \(2R\) の距離にある点Aで速度が \(0\) となるための初速 \(v_0\) は \(v_0 = \sqrt{\frac{GM}{R}}\) です。この速さは、実は地表すれすれを円運動する人工衛星の速さ(第1宇宙速度)と同じ値になります。これは、物体がちょうど地球の引力圏を振り切れずに特定の高さまで到達するためのエネルギー的な条件と、円軌道を維持するためのエネルギー的な条件が関連していることを示唆しています。

解答 (1) \(v_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\)

問2

思考の道筋とポイント

物体が点A(地球中心からの距離 \(2R\))で静止した状態から、OA(動径方向)に垂直な方向に速さ \(v\) を与えられ、地球の中心Oを中心とする等速円運動を開始します。この円運動を持続させるためには、地球と物体の間に働く万有引力が向心力として正確に機能する必要があります。この力のつり合い(または運動方程式)から速さ \(v\) を求め、その後、周期 \(T_0\) を「円周の長さ / 速さ」という基本的な関係式から計算します。

この設問における重要なポイント

  • 円運動の軌道半径は \(2R\) です。
  • 向心力の大きさ \(m\frac{v^2}{2R}\) が、万有引力の大きさ \(G\frac{Mm}{(2R)^2}\) と等しいという運動方程式を立てます。
  • 周期 \(T_0\) は、軌道の円周 \(2\pi \times (\text{軌道半径})\) を速さ \(v\) で割ることで、\(T_0 = \frac{2\pi (2R)}{v}\) として求められます。

具体的な解説と立式

物体が点Aで速さ \(v\) を与えられ、地球の中心Oを中心とする半径 \(r_A = 2R\) の等速円運動をすると仮定します。
この円運動に必要な向心力の大きさは \(F_{\text{向心力}} = m\frac{v^2}{r_A} = m\frac{v^2}{2R}\) と表せます。
この向心力は、地球(質量 \(M\))と物体(質量 \(m\))の間に作用する万有引力 \(F_{\text{万有引力}} = G\frac{Mm}{r_A^2} = G\frac{Mm}{(2R)^2}\) によって供給されなければなりません。
したがって、運動方程式は次のようになります。
$$m\frac{v^2}{2R} = G\frac{Mm}{(2R)^2}$$
この方程式を \(v\) について解きます。
速さ \(v\) が求まれば、円運動の周期 \(T_0\) は、軌道の円周 \(2\pi(2R)\) を速さ \(v\) で割ることによって計算できます。
$$T_0 = \frac{2\pi(2R)}{v} = \frac{4\pi R}{v}$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m \frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
  • 周期と速さの関係: \(T = \frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

まず、円運動の速さ \(v\) を求めます。

  1. 運動方程式を立てる:
    $$m\frac{v^2}{2R} = G\frac{Mm}{(2R)^2}$$
  2. 右辺の分母 \((2R)^2\) を計算する: \((2R)^2 = 4R^2\)。
    $$m\frac{v^2}{2R} = G\frac{Mm}{4R^2}$$
  3. 両辺から小物体の質量 \(m\) を消去する (\(m \neq 0\)):
    $$\frac{v^2}{2R} = \frac{GM}{4R^2}$$
  4. 両辺に \(2R\) を掛けて \(v^2\) について整理する:
    $$v^2 = \frac{GM}{4R^2} \cdot 2R = \frac{GM}{2R}$$
  5. \(v\) について解く(速さ \(v\) は正なので、正の平方根をとる):
    $$v = \sqrt{\frac{GM}{2R}}$$

次に、周期 \(T_0\) を求めます。

  1. 周期の定義式 \(T_0 = \frac{4\pi R}{v}\) に、上で求めた \(v\) を代入する:
    $$T_0 = \frac{4\pi R}{\sqrt{\frac{GM}{2R}}}$$
  2. 分母にある平方根を整理する(一般に \(\frac{A}{\sqrt{B}} = A\sqrt{\frac{1}{B}}\) の関係を利用):
    $$T_0 = 4\pi R \sqrt{\frac{2R}{GM}}$$
計算方法の平易な説明

物体がある軌道(この場合は地球中心から \(2R\) の距離にある円軌道)を安定して回り続けるためには、その軌道に適した特定の速さが必要です。速すぎると物体は遠くへ飛び去ってしまい、遅すぎると地球に引き寄せられてしまいます。この「ちょうど良い速さ \(v\)」は、物体が円運動をするために必要な中心向きの力(向心力)と、地球が物体を引きつける万有引力が等しくなるという条件から決定されます。この力のバランスを表す式 \(m v^2 / (2R) = GMm / (2R)^2\) を解くと、速さ \(v = \sqrt{GM/(2R)}\) が得られます。
周期 \(T_0\)(物体が軌道を一周するのにかかる時間)は、円軌道の円周の長さ(この場合は \(2\pi \times 2R = 4\pi R\))をこの速さ \(v\) で割ることで求められます。

結論と吟味

点A(地球中心からの距離 \(2R\))で物体が等速円運動するための速さ \(v\) は \(v = \sqrt{\frac{GM}{2R}}\) であり、その周期 \(T_0\) は \(T_0 = 4\pi R \sqrt{\frac{2R}{GM}}\) です。
この速さ \(v\) を、問1で求めた初速 \(v_0 = \sqrt{\frac{GM}{R}}\) と比較すると、\(v = v_0 / \sqrt{2} \approx 0.707 v_0\) となり、問1の \(v_0\) よりも小さい値です。これは、より遠くの軌道(地球中心から \(2R\) の距離)を円運動するためには、地表から \(2R\) の高さまで到達するだけの初速よりも、むしろより小さい特定の速さが必要であることを示しています。

解答 (2) 速さ \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{2R}}\), 周期 \(T_0 = 4\pi R \sqrt{\displaystyle\frac{2R}{GM}}\)

問3 (ア)

思考の道筋とポイント

物体が楕円軌道を描く場合、ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)が成り立ちます。面積速度とは、物体と中心天体(この場合は地球の中心O)を結ぶ線分(動径)が単位時間に掃く面積のことです。この法則は、角運動量保存則の別の表現形と考えることができます。特に、軌道上で動径と速度ベクトルが垂直になる点(例えば、近日点や遠日点、あるいは問題文にあるように長軸の端点である点Aと点B)では、面積速度の大きさは \(\frac{1}{2}rv\) と非常にシンプルな形で表せます。ここで \(r\) は中心からの距離、\(v\) はその点での速さです。

この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則)を適用します。
  • 点A(地球中心からの距離 \(2R\)、その点での速さ \(v\))と点B(地球中心からの距離 \(6R\)、その点での速さ \(V\))は、楕円軌道の長軸の両端であるため、これらの点では速度ベクトルと動径ベクトルは垂直であると解釈できます(問題の図もこれを支持しています)。
  • 面積速度が一定であることから、点Aでの面積速度 \(\frac{1}{2} (2R) v\) と、点Bでの面積速度 \(\frac{1}{2} (6R) V\) が等しいという関係式を立てます。

具体的な解説と立式

物体が点Aと点Bを含む楕円軌道を描くとき、その面積速度は軌道上のどこでも一定に保たれます。
点Aにおける地球の中心Oからの距離は \(r_A = 2R\) であり、その点での速さは \(v\) です。ABが長軸であることから、点Aでは速度ベクトルは動径OAと垂直であると考えられます。したがって、点Aにおける面積速度の大きさは \(\frac{1}{2}r_A v = \frac{1}{2}(2R)v\) となります。
同様に、点Bにおける地球の中心Oからの距離は \(r_B = 6R\) であり、その点での速さは \(V\) です。点Bも長軸の端であるため、速度ベクトルは動径OBと垂直です。したがって、点Bにおける面積速度の大きさは \(\frac{1}{2}r_B V = \frac{1}{2}(6R)V\) となります。
面積速度一定の法則により、これら二つの面積速度は等しいので、次のような関係式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}(2R)v = \frac{1}{2}(6R)V$$
この方程式を \(V\) について解きます。

使用した物理公式

  • ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): \(\frac{1}{2}r_1 v_1 = \frac{1}{2}r_2 v_2\) (ただし、\(v_1, v_2\) はそれぞれ距離 \(r_1, r_2\) の点において動径と垂直な速度成分、または動径と速度ベクトルが垂直な点での速さ)。この問題では後者のケースに該当します。
計算過程
  1. 面積速度一定の法則から方程式を立てる:
    $$\frac{1}{2}(2R)v = \frac{1}{2}(6R)V$$
  2. 両辺に共通して含まれる因子 \(\frac{1}{2}R\) を消去する(\(R \neq 0\) なので可能):
    $$2v = 6V$$
  3. \(V\) について解く:
    $$V = \frac{2v}{6} = \frac{1}{3}v$$
計算方法の平易な説明

惑星や衛星が太陽や地球の周りを楕円軌道で回るとき、面白い性質があります。それは「面積速度一定の法則」と呼ばれるもので、ケプラーが見つけた法則の一つです。簡単に言うと、物体が中心の天体に近いところを通過するときは速く動き、遠いところを通過するときはゆっくり動く、という現象を定量的に表したものです。「面積速度」とは、物体と中心天体を結ぶ線が一定時間に「掃く」ように描く扇形の面積のことで、この面積を稼ぐ速さが常に一定なのです。
特に、楕円軌道で中心天体に最も近い点(近日点)や最も遠い点(遠日点)、あるいは今回の問題の点Aや点Bのように長軸の端にあたる点では、物体の動く向き(速度の向き)と中心天体からの距離を示す線(動径)が直角になります。このような点では、面積速度は「(1/2) × (中心からの距離) × (その点での速さ)」という簡単な形で表せます。
点Aでは地球中心からの距離が \(2R\)、速さが \(v\) であり、点Bでは距離が \(6R\)、速さが \(V\) です。面積速度が一定なので、\((1/2) \cdot (2R) \cdot v = (1/2) \cdot (6R) \cdot V\) という等式が成り立ちます。この式を \(V\) について解くと、\(V = v/3\) が得られます。

結論と吟味

点Bにおける速さ \(V\) は \(V = \frac{1}{3}v\) と表されます。これは、地球の中心からより遠い点B(距離 \(6R\))では、より近い点A(距離 \(2R\))よりも速さが小さくなる(具体的には \(1/3\) 倍になる)ことを示しています。この結果は、面積速度一定の法則からの直感的な帰結(遠くでは遅く、近くでは速く運動する)と完全に一致しており、物理的に妥当です。

解答 (3)(ア) \(V = \displaystyle\frac{1}{3}v\)

問3 (イ)

思考の道筋とポイント

物体が楕円軌道を描いている間も、作用している力は保存力である万有引力のみなので、その力学的エネルギーは軌道上のどの点でも一定に保たれます。したがって、点Aでの力学的エネルギーと点Bでの力学的エネルギーが等しいという関係式を立てることができます。この際、点Bでの速さ \(V\) については、(ア)で導出した関係 \(V=v/3\) を用いることで、未知数を点Aでの速さ \(v\) のみに絞り込むことができます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を適用します。
  • 点Aでの力学的エネルギー \(E_A = \frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{2R}\) を計算します。
  • 点Bでの力学的エネルギー \(E_B = \frac{1}{2}mV^2 – G\frac{Mm}{6R}\) を計算します。
  • \(E_A = E_B\) という等式に、(ア)で求めた関係式 \(V = \frac{1}{3}v\) を代入し、未知数 \(v\) について解きます。

具体的な解説と立式

物体が楕円軌道上を運動している間、その力学的エネルギーは保存されます。
点A(地球中心からの距離 \(2R\)、その点での速さ \(v\))における力学的エネルギー \(E_A\) は、
$$E_A = \frac{1}{2}mv^2 + \left(-G\frac{Mm}{2R}\right) = \frac{1}{2}mv^2 – \frac{GMm}{2R}$$
と表されます。
点B(地球中心からの距離 \(6R\)、その点での速さ \(V\))における力学的エネルギー \(E_B\) は、
$$E_B = \frac{1}{2}mV^2 + \left(-G\frac{Mm}{6R}\right) = \frac{1}{2}mV^2 – \frac{GMm}{6R}$$
と表されます。
力学的エネルギー保存則により \(E_A = E_B\) ですから、
$$\frac{1}{2}mv^2 – \frac{GMm}{2R} = \frac{1}{2}mV^2 – \frac{GMm}{6R}$$
この式に、(ア)で求めた \(V = \frac{1}{3}v\) を代入して \(v\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{A}} + U_{\text{A}} = K_{\text{B}} + U_{\text{B}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U(r) = -G\frac{Mm}{r}\)
  • (ア)の結果: \(V = \frac{1}{3}v\)
計算過程
  1. 力学的エネルギー保存則の式に、(ア)で得た \(V = \frac{1}{3}v\) を代入する:
    $$\frac{1}{2}mv^2 – \frac{GMm}{2R} = \frac{1}{2}m\left(\frac{v}{3}\right)^2 – \frac{GMm}{6R}$$
  2. 右辺の運動エネルギーの項を計算する: \(\left(\frac{v}{3}\right)^2 = \frac{v^2}{9}\)。
    $$\frac{1}{2}mv^2 – \frac{GMm}{2R} = \frac{1}{18}mv^2 – \frac{GMm}{6R}$$
  3. 両辺の全ての項に小物体の質量 \(m\) が共通して含まれているため、\(m\) で割る (\(m \neq 0\)):
    $$\frac{1}{2}v^2 – \frac{GM}{2R} = \frac{1}{18}v^2 – \frac{GM}{6R}$$
  4. \(v^2\) を含む項を左辺に、\(GM/R\) を含む項(位置エネルギーに関連する項)を右辺に集める:
    $$\frac{1}{2}v^2 – \frac{1}{18}v^2 = \frac{GM}{2R} – \frac{GM}{6R}$$
  5. 左辺の \(v^2\) の係数を通分して計算する (\(\frac{1}{2} = \frac{9}{18}\)):
    $$\left(\frac{9}{18} – \frac{1}{18}\right)v^2 = \frac{8}{18}v^2 = \frac{4}{9}v^2$$
  6. 右辺の項を通分して計算する (\(\frac{GM}{2R} = \frac{3GM}{6R}\)):
    $$\frac{3GM}{6R} – \frac{GM}{6R} = \frac{2GM}{6R} = \frac{GM}{3R}$$
  7. これにより、方程式は次のように整理される:
    $$\frac{4}{9}v^2 = \frac{GM}{3R}$$
  8. \(v^2\) について解くために、両辺に \(\frac{9}{4}\) を掛ける:
    $$v^2 = \frac{GM}{3R} \cdot \frac{9}{4} = \frac{3GM}{4R}$$
  9. \(v\) について解く(速さ \(v\) は正なので、正の平方根をとる):
    $$v = \sqrt{\frac{3GM}{4R}} = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3GM}{R}}$$
計算方法の平易な説明

物体が楕円軌道を描いている間も、外部から仕事をされたりエネルギーを失ったりしない限り、その力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの合計)は一定に保たれます。したがって、軌道上の点Aでの力学的エネルギーと、点Bでの力学的エネルギーは等しくなります。
点Aでは、地球中心からの距離が \(2R\) で速さが \(v\) です。点Bでは、距離が \(6R\) で速さが \(V\) ですが、この \(V\) は(ア)の結果から \(v/3\) であることがわかっています。
これらの情報を用いて、「点Aでの運動エネルギー + 点Aでの位置エネルギー = 点Bでの運動エネルギー + 点Bでの位置エネルギー」というエネルギー保存の式(具体的には \(\frac{1}{2}mv^2 – \frac{GMm}{2R} = \frac{1}{2}m(v/3)^2 – \frac{GMm}{6R}\))を立てます。この式には未知数が \(v\) しか含まれていないため、これを \(v\) について丁寧に解いていくと、\(v = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3GM}{R}}\) という結果が得られます。

結論と吟味

楕円軌道を描くための点Aでの速さ \(v\) は \(v = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3GM}{R}}\) です。
この速さを、問(2)で求めた半径 \(2R\) の円運動をするための速さ \(v_{\text{円}} = \sqrt{\frac{GM}{2R}} = \frac{1}{\sqrt{2}}\sqrt{\frac{GM}{R}} \approx 0.707\sqrt{\frac{GM}{R}}\) と比較してみましょう。
楕円軌道の場合の \(v = \frac{\sqrt{3}}{2}\sqrt{\frac{GM}{R}} \approx \frac{1.732}{2}\sqrt{\frac{GM}{R}} \approx 0.866\sqrt{\frac{GM}{R}}\) です。
したがって、\(v > v_{\text{円}}\) となっています。これは物理的に何を意味するでしょうか?同じ点A(距離 \(2R\))において、円軌道を描くよりも大きな初速 \(v\) を与えると、物体はより遠くまで到達できるエネルギーを持つことになり、その結果として \(6R\) の距離にある点Bまで到達するような、より大きな楕円軌道を描くことになる、と解釈でき、これは妥当な結果です。

解答 (3)(イ) \(v = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{\frac{3GM}{R}}\)

問3 (ウ)

思考の道筋とポイント

ケプラーの第3法則は、同一の中心天体の周りを公転する異なる天体(または、同一の天体が描く異なる軌道)の公転周期 \(T\) とその軌道の半長軸 \(a\) との間に、\(\frac{T^2}{a^3} = \text{一定}\) という普遍的な関係が成り立つことを示しています。この法則を利用して、(2)で求めた円軌道(周期 \(T_0\)、軌道半径 \(2R\))と、(3)で考えている楕円軌道(周期を \(T\) とし、長軸が \(2R+6R=8R\))の周期を比較します。円軌道の場合、半長軸はその軌道半径自身と考えることができます。楕円軌道の半長軸は、長軸の長さの半分として計算されます。

この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則 \(\frac{T^2}{a^3} = \text{一定}\) を適用します。
  • 問(2)で考えた円軌道について、周期は \(T_0\)、軌道半径は \(2R\) です。この場合、半長軸 \(a_0\) は \(a_0 = 2R\) となります。
  • 問(3)で考えている楕円軌道について、周期は \(T\)(求めたい値)です。長軸の長さは、点Aまでの距離 \(2R\) と点Bまでの距離 \(6R\) の和である \(2R+6R = 8R\) です。したがって、この楕円軌道の半長軸 \(a\) は \(a = \frac{8R}{2} = 4R\) となります。
  • これらの値を \(\frac{T^2}{a^3} = \frac{T_0^2}{a_0^3}\) という関係式に代入し、\(T\) を \(T_0\) を用いて表します。

具体的な解説と立式

ケプラーの第3法則によれば、同じ中心天体(この場合は地球)の周りを公転する二つの異なる軌道について、それぞれの周期を \(T_1, T_2\)、軌道の半長軸を \(a_1, a_2\) とすると、
$$\frac{T_1^2}{a_1^3} = \frac{T_2^2}{a_2^3} \quad (\text{または } \frac{T^2}{a^3} = \text{一定})$$
という関係が成り立ちます。
この問題において、軌道1を(2)で考えた円軌道、軌道2を(3)で考えている楕円軌道とします。
軌道1(円軌道):
周期は \(T_1 = T_0\)。
軌道半径が \(2R\) であり、円軌道の場合の半長軸は軌道半径に等しいので、\(a_1 = 2R\)。
軌道2(楕円軌道):
周期は \(T_2 = T\)。
長軸の長さは、地球中心Oから点Aまでの距離 \(2R\) と、Oから点Bまでの距離 \(6R\) の和で与えられ、\(2R + 6R = 8R\) です。
楕円軌道の半長軸は長軸の長さの半分なので、\(a_2 = \frac{8R}{2} = 4R\)。
これらの値をケプラーの第3法則の式に代入すると、
$$\frac{T^2}{(4R)^3} = \frac{T_0^2}{(2R)^3}$$
この方程式を \(T\) について解きます。

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則: \(\frac{T_1^2}{a_1^3} = \frac{T_2^2}{a_2^3}\)
  • 楕円の半長軸の定義: \(a = \frac{\text{長軸の長さ}}{2}\)
  • 円軌道の場合の半長軸は、その円の半径に等しい。
計算過程
  1. ケプラーの第3法則に基づいて関係式を立てる:
    $$\frac{T^2}{(4R)^3} = \frac{T_0^2}{(2R)^3}$$
  2. 分母の3乗を計算する:
    \((4R)^3 = 4^3 \cdot R^3 = 64R^3\)
    \((2R)^3 = 2^3 \cdot R^3 = 8R^3\)
    これにより、式は次のようになる:
    $$\frac{T^2}{64R^3} = \frac{T_0^2}{8R^3}$$
  3. \(T^2\) について解くために、両辺に \(64R^3\) を掛ける:
    $$T^2 = \frac{T_0^2}{8R^3} \cdot 64R^3$$
  4. 両辺の \(R^3\) を消去し、数値部分を計算する:
    $$T^2 = \frac{64}{8} T_0^2 = 8 T_0^2$$
  5. \(T\) について解く(周期 \(T\) は正の値なので、正の平方根をとる):
    $$T = \sqrt{8 T_0^2} = \sqrt{8} \sqrt{T_0^2} = \sqrt{4 \times 2} \, T_0 = 2\sqrt{2} T_0$$
計算方法の平易な説明

ケプラーさんという天文学者が見つけた法則の中に、「惑星(や衛星)が中心の星の周りを一周するのにかかる時間(周期 \(T\))の2乗は、その軌道の大きさ(正確には軌道の半長軸 \(a\) と呼ばれる量)の3乗に比例する」というものがあります。数式で書くと、\(T^2/a^3\) が一定の値になる、ということです。
この法則を使うと、(2)で考えた円運動(周期 \(T_0\)、軌道の大きさは半径 \(2R\) なので \(a_0=2R\))と、(3)で考えている楕円運動(求めたい周期を \(T\) とします。この軌道は、中心から一番近い距離が \(2R\)、一番遠い距離が \(6R\) なので、長軸の長さは \(2R+6R=8R\)。半長軸 \(a\) はその半分の \(4R\) です)を比較することができます。
「楕円軌道の \(T^2/(4R)^3\) = 円軌道の \(T_0^2/(2R)^3\)」という関係式を立てて、これを \(T\) について解くと、\(T = 2\sqrt{2}T_0\) という結果が得られます。

結論と吟味

楕円軌道の周期 \(T\) は \(T = 2\sqrt{2}T_0\) と表されます。
ここで、\(\sqrt{2} \approx 1.414\) ですから、\(T \approx 2 \times 1.414 T_0 = 2.828 T_0\) となります。
楕円軌道の半長軸 \(a = 4R\) は、比較対象である円軌道の軌道半径(半長軸に相当)\(a_0 = 2R\) の2倍です。ケプラーの第3法則から周期 \(T\) は半長軸 \(a\) の \(3/2\) 乗に比例する(\(T \propto a^{3/2}\))ので、半長軸が2倍になると、周期は \(2^{3/2} = (2\sqrt{2})\) 倍になります。この計算結果は、法則から期待される値と完全に一致しており、妥当な結果であると言えます。物理的にも、楕円軌道の方が円軌道よりも「大きな」軌道(半長軸が大きい)なので、一周するのに時間が長くかかるというのは直感とも合致します。

解答 (3)(ウ) \(T = 2\sqrt{2}T_0\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 万有引力下での力学的エネルギー保存則: 物体が万有引力(保存力)のみを受けて運動する場合、その運動エネルギーと万有引力による位置エネルギー(\(U = -GMm/r\)、無限遠基準)の和である力学的エネルギーは、運動のどの時点でも一定に保たれます。これは、物体の速さの変化や到達可能な最大(最小)距離を求める際に非常に強力な法則です。
  • 円運動の成立条件(万有引力が向心力): 物体が中心天体の周りを等速円運動するためには、中心に向かう一定の大きさの向心力が必要です。万有引力がこの向心力の役割を担う場合、運動方程式は \(mv^2/r = GMm/r^2\) となります。この関係から、円運動の速さや周期を求めることができます。
  • ケプラーの第2法則(面積速度一定の法則): 中心力を受けて運動する物体の動径ベクトル(中心天体から物体へ引いたベクトル)が単位時間に掃く面積(面積速度)は、軌道上のどこでも一定であるという法則です。特に、近日点や遠日点など、動径と速度ベクトルが垂直になる点では、面積速度は \(\frac{1}{2}rv\) と簡単に表せるため、異なる点での速さの比較に利用できます。これは角運動量保存則の現れでもあります。
  • ケプラーの第3法則(周期と半長軸の関係): 同一の中心天体を公転する複数の天体(あるいは同一天体の異なる軌道)について、公転周期 \(T\) の2乗と軌道の半長軸 \(a\) の3乗の比 (\(T^2/a^3\)) が一定であるという法則です。この法則を用いることで、一方の軌道の情報から他方の軌道の周期や大きさを推定することができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 惑星や彗星が太陽の周りを楕円軌道で運動する際の、近日点での速さと遠日点での速さの関係(面積速度一定の法則と力学的エネルギー保存則の組み合わせで解く)。
    • 人工衛星が、ある円軌道から別の円軌道へ、あるいは円軌道から楕円軌道へと遷移する際の軌道変更(ホーマン遷移軌道など)に必要なエネルギーや速度変化の計算(発展的な内容)。
    • 二つ以上の天体が互いに万有引力を及ぼし合う多体問題の初歩的な考察(例えば、二重星系で各星が共通重心の周りをケプラー運動として近似的に捉える)。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 「鉛直上方へ打ち上げ、最高点で速度が \(0\) になる」という条件があれば: 力学的エネルギー保存則を用いて、初速や到達高度を求める典型的なパターンです。
    2. 「等速円運動」というキーワードがあれば: 万有引力が向心力として働いていると考え、運動方程式 \(mv^2/r = F_{\text{万有引力}}\) や周期の定義 \(T=2\pi r/v\) を使うことを想起します。
    3. 「楕円軌道」「長軸」「短軸」といった言葉が出てきたら: ケプラーの法則(特に面積速度一定の法則や \(T^2/a^3=\text{一定}\) の関係)が適用できる可能性が高いと考えます。
    4. 軌道上の異なる2点での速さや中心からの距離の関係が問われたら: 力学的エネルギー保存則や面積速度一定の法則が使えないか検討します。これらは軌道上の2点を結びつける強力なツールです。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 位置エネルギーの基準点の取り扱い: 万有引力による位置エネルギーを考える際は、通常、無限遠点を基準(\(U=0\))とします。その場合、有限の距離 \(r\) における位置エネルギーは \(U = -GMm/r\) と負の値をとることに注意が必要です。
    • 半長軸 \(a\) の正確な定義: 楕円軌道において、ケプラーの第3法則で用いられる \(a\) は、長軸の長さの「半分」であることに注意しましょう。円軌道の場合は、その円の半径が半長軸 \(a\) に相当します。
    • 面積速度一定の法則 (\(rv=\text{一定}\) の適用条件): このシンプルな形が成り立つのは、速度ベクトル \(v\) と動径ベクトル \(r\) が互いに垂直な点(近日点、遠日点、あるいは長軸・短軸の端点など)での比較の場合です。より一般の点では、速度の動径に垂直な成分 \(v_{\perp}\) を用いて \(rv_{\perp}=\text{一定}\) となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 万有引力による位置エネルギーの符号ミス: \(U = -GMm/r\) のマイナス符号を忘れる、あるいは誤ってプラスにしてしまうと、力学的エネルギー保存則を用いた計算が根本から誤ってしまいます。束縛状態のエネルギーは負である、という概念をしっかり持ちましょう。
  • ケプラーの第3法則における「半長軸 \(a\)」の混同や誤解: 円軌道の半径と楕円軌道の半長軸を正しく区別し、それぞれの値を正確に式に代入する必要があります。長軸の長さをそのまま \(a\) としてしまうミスなどに注意しましょう。
  • 面積速度一定の法則の安易な適用: \(rv=\text{一定}\) という関係は、速度ベクトルと動径ベクトルが垂直な点(近日点、遠日点、長軸の端など)でのみ直接的に成り立ちます。軌道上の任意の点でこの関係を誤って適用しないように注意が必要です。
  • 力学的エネルギー保存則と運動量保存則の適用場面の使い分け: この問題では運動量保存則は直接的には用いられませんでしたが、天体系の運動を扱う問題では両方の法則が登場することがあります。一般に、衝突や合体・分裂といった複数の物体が相互作用する現象では運動量保存則が、一方、単一の物体が保存力(万有引力など)の場を運動する際の速さや位置の変化を追うには力学的エネルギー保存則やケプラーの法則が主に用いられます。
  • 対策:
    • 各物理公式の意味を正確に理解し、それがどのような条件下で適用できるのかを常に意識しましょう。
    • 問題を解く際には、まず状況を図で正確に表現し、特に距離関係、速度ベクトル、力のベクトルなどを視覚的に整理することが有効です。特に楕円軌道では、焦点、長軸、短軸、半長軸といった幾何学的な要素を意識することが理解を助けます。
    • 複数の物理法則が絡む複雑な問題では、どの法則をどの順序で、どの部分に適用するかを、問題文の誘導や設問の構成に沿って冷静に判断する訓練を積みましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の表現:
    1. 問(1) 鉛直打ち上げの状況: 地球を描き、そこから物体が鉛直上方に上昇していく軌跡をイメージします。地表の位置(中心からの距離 \(R\))と、速度がゼロになる点Aの位置(中心からの距離 \(2R\))を明確に図示すると良いでしょう。
    2. 問(2) 円軌道の状況: 地球を中心とし、半径が \(2R\) である円軌道と、その軌道上を運動する物体を描きます。物体の速度ベクトルは常に軌道の接線方向を向き、万有引力(これが向心力となる)は常に地球の中心方向を向いていることを図で確認します。
    3. 問(3) 楕円軌道の状況: 問題に与えられている図が非常に有効です。地球(楕円の一つの焦点Oに位置する)と、物体が運動する楕円軌道を描きます。点A(中心からの距離 \(2R\))と点B(中心からの距離 \(6R\))を軌道上にプロットし、これらが長軸の端点であることを示します。各点での速度ベクトルのおおよその向き(点Aおよび点Bでは動径と垂直)と、その大きさの相対的な関係(点Aで速く、点Bで遅い)をイメージすることが重要です。また、長軸の長さ (\(8R\)) と半長軸 (\(4R\)) を図に書き込むと、ケプラーの第3法則の適用が容易になります。
  • 図を描く際の一般的な注意点:
    • 距離関係をできるだけ正確に(少なくとも大小関係や比率がわかるように)描くことが、立式の助けになります。
    • 速度ベクトルや力ベクトルを矢印で示し、その向きを常に意識しましょう。
    • 楕円軌道の場合、中心天体(この問題では地球)が楕円の中心ではなく、二つある焦点のうちの一つに位置するという基本的な事実を理解しておくことが大切です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問(1) 初速 \(v_0\) の決定: 「最高点で速度が \(0\) になる」という条件は、「運動エネルギーが位置エネルギーに変換される」というエネルギーの観点から捉えるのが自然です。したがって、「力学的エネルギー保存則」を選択します。
  • 問(2) 円運動の速さ \(v\) と周期 \(T_0\) の決定: 「等速円運動」というキーワードから、「向心力と万有引力がつり合っている(運動方程式の形)」という条件を導き、運動方程式を立てます。周期は、円周の長さを速さで割るという定義 \(T = 2\pi r/v\) から求めます。
  • 問(3)(ア) 点Bでの速さ \(V\) の決定: 「楕円軌道」であり、「軌道上の異なる2点(AとB)での速さの関係」が問われていることから、「面積速度一定の法則(ケプラーの第2法則)」が有効であると判断します。特に点Aと点Bが長軸の端であるため、\(rv=\text{一定}\) の形が使えます。
  • 問(3)(イ) 点Aでの速さ \(v\) の決定: 楕円軌道上の異なる2点(AとB)における状態を結びつける法則として、ここでも「力学的エネルギー保存則」が適用できます。(ア)で得た \(V\) と \(v\) の関係を用いることで、未知数を \(v\) のみにできます。
  • 問(3)(ウ) 楕円軌道の周期 \(T\) の決定: 「楕円軌道の周期」を、「既知の円軌道の周期 \(T_0\) と比較して求める」という設問の流れから、「ケプラーの第3法則(\(T^2/a^3 = \text{一定}\))」が最も適切な法則であると判断します。
  • 物理法則選択の判断訓練: 各物理法則がどのような物理現象や特定の条件下で成り立つのかを普段の学習から意識し、問題文に含まれるキーワードや問われている物理量から、それらを的確に読み取る練習を積むことが、問題解決能力の向上に不可欠です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題文の読解と物理的状況の把握: まず、問題文を丁寧に読み、描かれている物理的な状況と、与えられている既知数・未知数を正確に把握します。
  2. 問(1)の論理フロー: 地表と最高点である点Aの2つの状態で力学的エネルギー保存則を立式し、未知数である初速 \(v_0\) について解きます。
  3. 問(2)の論理フロー: 点Aにおける円運動の条件から運動方程式(向心力 = 万有引力)を立式して速さ \(v\) を求め、次に周期の定義式 \(T_0 = 2\pi r_A/v\) を用いて周期 \(T_0\) を計算します。
  4. 問(3)(ア)の論理フロー: 楕円軌道上の点Aと点Bにおいて面積速度一定の法則を適用し、点Bでの速さ \(V\) を点Aでの速さ \(v\) を用いて表します。
  5. 問(3)(イ)の論理フロー: 楕円軌道上の点Aと点Bにおいて力学的エネルギー保存則を立式し、(ア)で得られた \(V\) と \(v\) の関係式を代入することで、未知数である点Aでの速さ \(v\) について解きます。
  6. 問(3)(ウ)の論理フロー: (2)で得られた円軌道(周期 \(T_0\)、半長軸 \(2R\))と、(3)の楕円軌道(周期 \(T\)、半長軸 \(4R\))の関係をケプラーの第3法則(\(T^2/a^3 = \text{一定}\))で結びつけ、楕円軌道の周期 \(T\) を \(T_0\) を用いて表します。
  7. このように、問題が複数のステップに分かれている場合、各ステップで得られた結論が、後続のステップを解く上での重要な前提条件や既知の入力値となることを意識し、問題全体の論理的な流れを正確に追うことが大切です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の計算の丁寧な処理: 特に力学的エネルギー保存則を扱う際には分数が多く出現するため、通分や約分といった基本的な計算操作を、焦らず慎重に行うことが重要です。例えば、\(\frac{GMm}{R} – \frac{GMm}{2R} = \frac{GMm}{2R}\) のような計算は頻出します。
  • 平方根の計算と変形の正確性: 速度などを求める際に最後に平方根をとる計算が多いため、\(v^2 = X \Rightarrow v = \sqrt{X}\) (速さは正なので正の平方根)という処理を間違えないようにしましょう。また、\(\sqrt{A/B} = \sqrt{A}/\sqrt{B}\) や \(\sqrt{AB} = \sqrt{A}\sqrt{B}\) といった平方根の性質を用いた変形も正しく行う必要があります。
  • 文字式の整理と見通しの確保: 例えば \(GM/R\) のような物理的に意味のある組み合わせを一つの塊として捉えながら計算を進めると、式全体の構造が見やすくなり、計算ミスを減らすのに役立つことがあります。
  • ケプラーの第3法則における比の計算の正確性: \((4R)^3 = 64R^3\) や \((2R)^3 = 8R^3\) のような指数計算、およびその後の比の計算(例えば \(64/8 = 8\))を正確に行うことが求められます。
  • 日頃からの練習で心がけること: 途中式を省略せずに丁寧にノートに書くことで、計算過程が明確になり、間違いを発見しやすくなります。また、複雑な代数計算に慣れるために、同様の計算を含む問題を数多くこなし、落ち着いて一つ一つのステップを正確に処理する練習を積むことが大切です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の検討:
    • \(v_0\) (問1) と \(v\) (問2の円運動速度 at \(2R\)) の比較: \(v_0 = \sqrt{GM/R}\) であり、円運動速度 \(v = \sqrt{GM/(2R)}\) です。地表から \(2R\) の高さまで到達するのに必要なエネルギーを持つ \(v_0\) が、\(2R\) の軌道を円運動するのに必要な速度 \(v\) よりも大きい(具体的には \(\sqrt{2}\) 倍)というのは、より高いポテンシャルエネルギーを持つ地表からスタートしていることを考えれば物理的に妥当です。
    • \(v\) (問3(イ)の楕円軌道 at \(2R\)) と \(v\) (問2の円軌道 at \(2R\)) の比較: 楕円軌道の場合の速さ \(v_{\text{楕円}} = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3GM}{R}} \approx 0.866\sqrt{GM/R}\) は、円軌道の場合の速さ \(v_{\text{円}} = \sqrt{\frac{GM}{2R}} \approx 0.707\sqrt{GM/R}\) よりも大きくなりました。これは、同じ点A(距離 \(2R\))において、円軌道に留まるよりも大きな初速を与えることで、物体がより遠くまで(この場合は \(6R\) の距離にある点Bまで)到達できる、よりエネルギーの大きな楕円軌道を描くことになる、という物理的な状況と整合しており、妥当な結果と考えられます。
    • 楕円軌道の周期 \(T\) と円軌道の周期 \(T_0\) の比較 (\(T=2\sqrt{2}T_0\)): 楕円軌道の半長軸 \(a=4R\) は、円軌道の軌道半径(半長軸に相当)\(a_0=2R\) よりも大きいです。ケプラーの第3法則によれば、周期は半長軸が大きいほど長くなる(\(T \propto a^{3/2}\))ため、\(T\) が \(T_0\) よりも長くなるのは自然な結果です。
  • 単位の一貫性の確認: 計算の各段階や最終的に得られた物理量の単位(例えば、速度であれば [m/s]、周期であれば [s] など)が、その物理量が持つべき正しい単位と一致しているかを必ず確認する習慣をつけましょう。
  • 極端な条件下での振る舞いの考察(思考実験): 例えば、もし地球の質量 \(M\) がゼロに近づいたと仮定すると、万有引力はほとんど働かなくなり、初速 \(v_0\) はほぼゼロでも \(2R\) の高さ(あるいはそれ以上)に到達できるはずです(実際、式の上では \(v_0 \rightarrow 0\) となります)。このように、物理法則が適用される限界に近い状況や、パラメータを極端な値にした場合の振る舞いを考えてみることで、導出した式の形が物理的な直感と整合しているかどうかを確かめる手がかりになることがあります(ただし、この問題における \(R\) は地球の半径なので固定値として扱われます)。

問題54 (大阪産大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、熱量計を用いて異なる温度の物質を混合し、熱平衡に達したときの温度や、関与する物質の熱容量・比熱を求める典型的な熱量計算の問題です。熱量保存の法則を基本に、各物質が得たり失ったりする熱量を正確に計算することが鍵となります。段階的に条件が変わっていくので、各ステップでの系の状態をしっかり把握しましょう。

与えられた条件
  • 熱量計:銅製、質量 \(m_{\text{熱量計}} = 110 \, \text{g}\)
  • 最初の水(水1):質量 \(m_{\text{水1}} = 50 \, \text{g}\)、初期温度 \(T_{\text{初1}} = 20 \, \text{℃}\)
  • 加えた高温の水(1回目、高温水1):質量 \(m_{\text{高温水1}} = 30 \, \text{g}\)、温度 \(T_{\text{高温1}} = 80 \, \text{℃}\)
  • 1回目の混合後の全体の温度(熱平衡温度1):\(T_{\text{後1}} = 40 \, \text{℃}\)
  • 水の比熱:\(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
  • 外部との熱の出入りはなし(断熱されている)。
問われていること
  1. 1回目に加えた高温の水(高温水1)が失った熱量 \(Q_0\) [J]
  2. 熱量計の熱容量 \(C_M\) [J/K]
  3. 問2の結果を用いた銅の比熱 \(c_1\) [J/(g・K)]
  4. 全体の温度を 40℃ から 50℃ にするために、80℃の高温の水をさらに加える場合の水の質量 \(x\) [g]
  5. 問4の操作後、全体の温度が 50℃ の状態から、さらに100℃に加熱された質量 400g の金属球を入れたとき、全体の温度が 60℃ になった場合の、この金属球の比熱 \(c_2\) [J/(g・K)]

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となる物理法則と概念は以下の通りです。

  • 熱量: 温度変化や状態変化(この問題では状態変化はなし)に伴って移動するエネルギーの一形態です。単位はジュール (J) を用います。
  • 比熱 (Specific Heat Capacity): ある物質 1g の温度を 1K (または 1℃) 上昇させるのに必要な熱量を指します。単位は J/(g・K) や J/(g・℃) です。
  • 熱容量 (Heat Capacity): ある物体全体の温度を 1K (または 1℃) 上昇させるのに必要な熱量を指します。単位は J/K や J/℃ です。熱容量 \(C\) は、物体の質量 \(m\) とその物質の比熱 \(c\) を用いて \(C = mc\) と表されます。
  • 熱量の計算式:
    • 質量 \(m\)、比熱 \(c\) の物質の温度が \(\Delta T\) だけ変化したときに移動する熱量 \(Q\) は、\(Q = mc\Delta T\) で計算されます。
    • 熱容量 \(C\) の物体の温度が \(\Delta T\) だけ変化したときに移動する熱量 \(Q\) は、\(Q = C\Delta T\) で計算されます。
  • 熱量保存則 (熱平衡の法則): 外部と熱のやり取りがない断熱された系内で、複数の物体間で熱の移動がある場合、「高温の物体が失った熱量の総和」と「低温の物体が得た熱量の総和」は必ず等しくなります。この状態を熱平衡といいます。

全体的な戦略としては、各設問の状況に応じて、どの物質が熱を失い、どの物質が熱を得たのかを特定し、それぞれの熱量を計算して熱量保存則の等式を立て、未知数を求めていくことになります。

問1

思考の道筋とポイント

80℃ の高温の水 30g が、最終的に混合されて全体の温度が 40℃ になりました。この温度変化の過程で、高温の水が失った熱量を計算します。熱量の基本的な計算式 \(Q = mc\Delta T\) を用います。

この設問における重要なポイント

  • 熱量を失ったのは、高温の水です。(質量 \(m_{\text{高温水1}} = 30 \, \text{g}\)、水の比熱 \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\))
  • 高温の水の温度変化は、\(80 \, \text{℃}\) から \(40 \, \text{℃}\) への低下です。したがって、温度差 \(\Delta T\) は \(80 \, \text{℃} – 40 \, \text{℃} = 40 \, \text{K}\) (または \(40 \, \text{℃}\)) となります。温度「差」を考える場合、ケルビン(K)とセルシウス度(℃)の目盛りの間隔は等しいため、単位の換算は不要です。

具体的な解説と立式

高温の水(質量 \(m_{\text{高温水1}} = 30 \, \text{g}\)、水の比熱 \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\))が、初期温度 \(T_{\text{高温1}} = 80 \, \text{℃}\) から最終温度 \(T_{\text{後1}} = 40 \, \text{℃}\) に温度が下がりました。
このとき、高温の水が失った熱量 \(Q_0\) は、熱量の公式 \(Q = mc\Delta T\) を用いて、次のように計算できます。
$$Q_0 = m_{\text{高温水1}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{高温1}} – T_{\text{後1}})$$

使用した物理公式
熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\)
計算過程
  1. 与えられた値を代入します:
    \(m_{\text{高温水1}} = 30 \, \text{g}\)
    \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
    温度変化 \(\Delta T = T_{\text{高温1}} – T_{\text{後1}} = 80 \, \text{℃} – 40 \, \text{℃} = 40 \, \text{K}\)
    $$Q_0 = 30 \text{ [g]} \times 4.2 \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]} \times 40 \text{ [K]}$$
  2. 計算を実行します:
    $$Q_0 = (30 \times 4.2) \times 40 = 126 \times 40 = 5040 \text{ [J]}$$
  3. 有効数字を考慮します。問題文中の多くの数値が2桁(例: 50g, 20℃, 30g, 80℃, 40℃, 比熱4.2)で与えられています。したがって、結果も有効数字2桁または3桁で表すのが適切です。模範解答に合わせて \(5.0 \times 10^3 \, \text{J}\) とします。
計算方法の平易な説明

熱いお湯を冷たい水に混ぜると、熱いお湯は冷めてその分の熱を放出します。この「放出された熱の量」を計算するのがこの設問です。熱量を計算する基本的な公式は「熱量 = 質量 × 比熱 × 温度変化」です。
今回の場合、80℃のお湯 30g が 40℃ まで冷めました。水の比熱は 4.2 J/(g・K) と与えられています。
したがって、失った熱量 \(Q_0\) は、\(30 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times (80\text{℃} – 40\text{℃}) = 5040 \text{ J}\) と計算されます。

結論と吟味

高温の水が失った熱量 \(Q_0\) は \(5040 \, \text{J}\) です。有効数字を考慮すると \(5.0 \times 10^3 \, \text{J}\) となります。この熱量が、次に考える低温の水と熱量計によって吸収された(得られた)熱量と等しくなる、というのが熱量保存則の考え方です。

解答 (1) \(5040\) (または \(5.0 \times 10^3\))

問2

思考の道筋とポイント

熱量保存則「高温の物体が失った熱量 = 低温の物体が得た熱量」を適用します。問1で計算した \(Q_0\) が「高温の水が失った熱量」に相当します。この熱量は、「最初に熱量計に入っていた低温の水 (50g) が得た熱量」と「熱量計自身が得た熱量」の合計に等しくなります。熱量計の熱容量を \(C_M\) とし、熱量計も最初の水と同じく 20℃ から 40℃ に温度が上昇したと考えて立式します。

この設問における重要なポイント

  • 熱量保存則の基本式: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\) を用います。
  • 熱を得たのは、最初の低温の水 (50g) と熱量計です。
  • 最初の低温の水の温度変化は \(20 \, \text{℃} \rightarrow 40 \, \text{℃}\) なので、\(\Delta T = 40 \, \text{℃} – 20 \, \text{℃} = 20 \, \text{K}\) です。
  • 熱量計の温度変化も同様に \(20 \, \text{℃} \rightarrow 40 \, \text{℃}\) なので、\(\Delta T = 20 \, \text{K}\) です。
  • 最初の低温の水が得た熱量は \(m_{\text{水1}} c_{\text{水}} \Delta T = 50 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times 20 \text{ K}\) で計算できます。
  • 熱量計が得た熱量は \(C_M \Delta T = C_M \times 20 \text{ K}\) で計算できます(ここで \(C_M\) が未知数です)。

具体的な解説と立式

外部との熱の出入りがないとされているため、高温の水が失った熱量 \(Q_0\) は、低温の水と熱量計が得た熱量の合計に等しくなります。
$$Q_0 = (\text{低温の水が得た熱量}) + (\text{熱量計が得た熱量})$$
低温の水(質量 \(m_{\text{水1}} = 50 \, \text{g}\)、水の比熱 \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\))は、初期温度 \(T_{\text{初1}} = 20 \, \text{℃}\) から最終温度 \(T_{\text{後1}} = 40 \, \text{℃}\) に温度が上昇しました。この水が得た熱量を \(Q_{\text{水1得}}\) とすると、
$$Q_{\text{水1得}} = m_{\text{水1}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{後1}} – T_{\text{初1}})$$
熱量計(未知の熱容量を \(C_M\) とする)も同様に、\(T_{\text{初1}} = 20 \, \text{℃}\) から \(T_{\text{後1}} = 40 \, \text{℃}\) に温度が上昇しました。熱量計が得た熱量を \(Q_{\text{熱量計得}}\) とすると、
$$Q_{\text{熱量計得}} = C_M \cdot (T_{\text{後1}} – T_{\text{初1}})$$
したがって、熱量保存則の式は次のように表されます。
$$Q_0 = m_{\text{水1}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{後1}} – T_{\text{初1}}) + C_M \cdot (T_{\text{後1}} – T_{\text{初1}})$$
この式に、問1で求めた \(Q_0 = 5040 \, \text{J}\) と各数値を代入し、未知数 \(C_M\) について解きます。

使用した物理公式

  • 熱量保存則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た総和}}\)
  • 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\), \(Q = C\Delta T\)
計算過程
  1. 熱量保存則の式に具体的な数値を代入します:
    \(Q_0 = 5040 \, \text{J}\)
    \(m_{\text{水1}} = 50 \, \text{g}\), \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
    温度変化 \((T_{\text{後1}} – T_{\text{初1}}) = 40 \, \text{℃} – 20 \, \text{℃} = 20 \, \text{K}\)
    $$5040 \text{ [J]} = (50 \text{ [g]} \times 4.2 \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]} \times 20 \text{ [K]}) + (C_M \times 20 \text{ [K]})$$
  2. まず、低温の水が得た熱量を計算します:
    $$50 \times 4.2 \times 20 = 210 \times 20 = 4200 \text{ [J]}$$
  3. 計算結果を式に代入して整理します:
    $$5040 = 4200 + 20C_M$$
  4. \(20C_M\) について解くために、4200を左辺に移項します:
    $$20C_M = 5040 – 4200$$
    $$20C_M = 840$$
  5. \(C_M\) について解きます:
    $$C_M = \frac{840}{20}$$
    $$C_M = 42 \text{ [J/K]}$$
計算方法の平易な説明

(1)で計算した「高温の水が失った熱量」(5040 J)は、どこに行ったのでしょうか? この熱は、もともと熱量計に入っていた20℃の低温の水と、熱量計自体によって吸収された(もらった)と考えられます。
まず、20℃の水50gが40℃に温まるために得た熱量は、\(50 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times (40\text{℃}-20\text{℃}) = 4200 \text{ J}\) です。
熱量計も同じように20℃から40℃に温度が上がっています。熱量計が得た熱量は、「熱量計の熱容量 \(C_M\) × 温度変化 (20K)」で表されます。
外部への熱の逃げがないので、「高温の水が失った熱量 5040 J」は、「低温の水が得た熱量 4200 J」と「熱量計が得た熱量 \(C_M \times 20\text{K}\)」の合計に等しくなります。この関係式 \(5040 = 4200 + C_M \times 20\) を \(C_M\) について解くと、熱量計の熱容量 \(C_M = 42 \, \text{J/K}\) が求められます。

結論と吟味

熱量計の熱容量 \(C_M\) は \(42 \, \text{J/K}\) です。これは、この熱量計全体の温度を1K (または1℃) 上昇させるのに42ジュールの熱量が必要であることを意味します。この値は、実験で用いられる一般的な熱量計の熱容量として特に不自然な大きさではありません。

解答 (2) \(42\)

問3

思考の道筋とポイント

熱容量 \(C\) は、その物体を構成する物質の質量 \(m\) とその物質の比熱 \(c\) の積、すなわち \(C=mc\) という関係で表されます。この問題の熱量計は銅製であり、その質量が 110g であることが与えられています。問2で求めた熱量計の熱容量 \(C_M\) の値を用いて、銅の比熱 \(c_1\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 熱容量と比熱の基本的な関係式: \(C = mc\) を用います。
  • 熱量計の質量は \(m_{\text{熱量計}} = 110 \, \text{g}\) です。
  • 熱量計の熱容量は、問2の結果から \(C_M = 42 \, \text{J/K}\) です。
  • 銅の比熱を \(c_1\) とすると、これらの間には \(C_M = m_{\text{熱量計}} \cdot c_1\) という関係が成り立ちます。

具体的な解説と立式

熱量計の熱容量 \(C_M\) は、熱量計を構成する物質(この場合は銅)の質量 \(m_{\text{熱量計}}\) と、その銅の比熱 \(c_1\) の積によって与えられます。
$$C_M = m_{\text{熱量計}} \cdot c_1$$
問2で \(C_M = 42 \, \text{J/K}\) と求められ、問題文から \(m_{\text{熱量計}} = 110 \, \text{g}\) が与えられています。これらの値を上記の関係式に代入し、銅の比熱 \(c_1\) を求めます。

使用した物理公式
熱容量と比熱の関係: \(C = mc\)
計算過程
  1. 熱容量と比熱の関係式に、既知の数値を代入します:
    $$42 \text{ [J/K]} = 110 \text{ [g]} \times c_1$$
  2. 銅の比熱 \(c_1\) について解きます:
    $$c_1 = \frac{42 \text{ [J/K]}}{110 \text{ [g]}}$$
    $$c_1 = \frac{42}{110} \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]}$$
    $$c_1 \approx 0.381818… \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]}$$
  3. 有効数字を考慮します。\(C_M=42 \, \text{J/K}\) は有効数字2桁、\(m_{\text{熱量計}}=110 \, \text{g}\) は有効数字3桁ですが、計算に使われる値の有効数字が少ない方に合わせるのが一般的です。模範解答に従い、有効数字2桁で \(0.38 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) とします。
計算方法の平易な説明

「熱容量」とは、その物体全体を1℃(または1K)温めるのに必要な熱量のことでした。一方、「比熱」とは、その物質1gあたりを1℃(または1K)温めるのに必要な熱量のことです。したがって、これら二つの量の間には「熱容量 = 物体の質量 × その物質の比熱」という単純な関係があります。
この問題の熱量計は銅110gでできており、その熱容量は(2)で \(42 \, \text{J/K}\) と計算されました。
ですから、\(42 \text{ J/K} = 110 \text{ g} \times (\text{銅の比熱 } c_1)\) という式が成り立ちます。この式を銅の比熱 \(c_1\) について解くと、\(c_1 = 42 / 110 \approx 0.38 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) と求められます。

結論と吟味

銅の比熱 \(c_1\) は約 \(0.38 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) です。銅の比熱の一般的な文献値は 約 0.385 J/(g・K) 程度であるため、この実験から得られた値は妥当な範囲内にあると言えるでしょう。

解答 (3) \(0.38\)

問4

思考の道筋とポイント

現在の状態は、熱量計(熱容量 \(C_M=42 \, \text{J/K}\))と、その中にある水(最初の50g と 1回目に加えた30g を合わせて \(50+30=80 \, \text{g}\))が、すべて 40℃ になっています。この全体の温度を 50℃ まで上昇させるために、80℃ の高温の水をさらに \(x\) g加えます。この操作においても、熱量保存則「加えた高温の水 \(x\)g が失う熱量」 = 「(熱量計 + 既存の水 80g)が得る熱量」が成り立ちます。

この設問における重要なポイント

  • 操作前の初期状態: 熱量計(熱容量 \(C_M = 42 \, \text{J/K}\))と既存の水(質量 \(m_{\text{水既存}} = 80 \, \text{g}\))が、共に \(T_{\text{現}} = 40 \, \text{℃}\)。
  • 目指す最終状態: 熱量計、既存の水、そして新た加える水が全て \(T_{\text{後2}} = 50 \, \text{℃}\)。
  • 加える高温の水: 質量 \(x\) [g]、初期温度 \(T_{\text{高温2}} = 80 \, \text{℃}\)。これが \(50 \, \text{℃}\) になるので、失う温度変化は \(\Delta T_{\text{失う}} = 80\text{℃} – 50\text{℃} = 30 \, \text{K}\)。
  • 熱量計が得る熱: 熱量計の温度は \(40 \, \text{℃}\) から \(50 \, \text{℃}\) に上昇するので、温度変化は \(\Delta T_{\text{得る熱量計}} = 50\text{℃} – 40\text{℃} = 10 \, \text{K}\)。
  • 既存の水(80g)が得る熱: 既存の水の温度も \(40 \, \text{℃}\) から \(50 \, \text{℃}\) に上昇するので、温度変化は \(\Delta T_{\text{得る既存水}} = 50\text{℃} – 40\text{℃} = 10 \, \text{K}\)。

具体的な解説と立式

現在の系は、熱量計(熱容量 \(C_M=42 \, \text{J/K}\))と水(合計質量 \(m_{\text{水既存}} = 50\text{g} + 30\text{g} = 80 \, \text{g}\))が、共に \(T_{\text{現}} = 40 \, \text{℃}\) の状態です。
この系に、温度 \(T_{\text{高温2}} = 80 \, \text{℃}\) の高温の水を質量 \(x\) [g] 加え、全体の温度が目標の \(T_{\text{後2}} = 50 \, \text{℃}\) になったとします。
熱量保存則を適用すると、
(新たに追加する高温の水 \(x\)[g] が失った熱量) = (熱量計が得た熱量) + (既存の水80gが得た熱量)
という関係が成り立ちます。

各熱量を具体的に見ていきましょう。

  • 新たに追加する高温の水 \(x\)[g] が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\):
    $$Q_{\text{失}} = x \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{高温2}} – T_{\text{後2}})$$
  • 熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{熱量計得2}}\):
    $$Q_{\text{熱量計得2}} = C_M \cdot (T_{\text{後2}} – T_{\text{現}})$$
  • 既存の水80gが得た熱量 \(Q_{\text{水既存得}}\):
    $$Q_{\text{水既存得}} = m_{\text{水既存}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{後2}} – T_{\text{現}})$$

したがって、熱量保存の式は次のように具体的に書けます。
$$x \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{高温2}} – T_{\text{後2}}) = C_M \cdot (T_{\text{後2}} – T_{\text{現}}) + m_{\text{水既存}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{後2}} – T_{\text{現}})$$
この方程式に、これまでに分かっている値を代入し、未知数 \(x\) について解きます。

使用した物理公式

  • 熱量保存則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た総和}}\)
  • 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\), \(Q = C\Delta T\)
計算過程
  1. 各物理量に具体的な値を代入します:
    \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
    \((T_{\text{高温2}} – T_{\text{後2}}) = 80 \, \text{℃} – 50 \, \text{℃} = 30 \, \text{K}\)
    \(C_M = 42 \, \text{J/K}\) (問2の結果)
    \((T_{\text{後2}} – T_{\text{現}}) = 50 \, \text{℃} – 40 \, \text{℃} = 10 \, \text{K}\)
    \(m_{\text{水既存}} = 80 \, \text{g}\)
    $$x \times 4.2 \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]} \times 30 \text{ [K]} = (42 \text{ [J/K]} \times 10 \text{ [K]}) + (80 \text{ [g]} \times 4.2 \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]} \times 10 \text{ [K]})$$
  2. 方程式を整理します:
    $$126x = 420 + (80 \times 42)$$
    $$126x = 420 + 3360$$
    $$126x = 3780$$
  3. 未知数 \(x\) について解きます:
    $$x = \frac{3780}{126}$$
    $$x = 30 \text{ [g]}$$
計算方法の平易な説明

現在、熱量計と合計80gの水が40℃の状態です。これを50℃まで温めたいと考えています。そのために、80℃の熱いお湯を \(x\)g だけ加えます。
加えた \(x\)g のお湯は、80℃から最終的な温度である50℃まで冷めるので、その間に熱を放出します。放出する熱の量は \(x \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times (80\text{℃}-50\text{℃})\) です。
一方、もともと40℃だった熱量計と80gの水は、50℃まで温まるので、熱を吸収します。熱量計が吸収する熱は \(42 \text{ J/K} \times (50\text{℃}-40\text{℃})\) です。80gの水が吸収する熱は \(80 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times (50\text{℃}-40\text{℃})\) です。
「失った熱量」と「得た熱量の合計」は等しいので、
\(x \times 4.2 \times 30 = 42 \times 10 + 80 \times 4.2 \times 10\)
という方程式が成り立ちます。これを未知数 \(x\) について解くと、\(x=30 \, \text{g}\) となります。

結論と吟味

全体の温度を 40℃ から 50℃ に上昇させるためには、80℃の高温の水をさらに \(30 \, \text{g}\) 加えればよいことがわかりました。加える水の量が常識的な範囲であり、計算プロセスも基本的な熱量保存の法則に基づいているため、この結果は妥当であると考えられます。

解答 (4) \(30\)

問5

思考の道筋とポイント

問4の操作の結果、熱量計の中には水が合計で \(80\text{g} (\text{元々}) + 30\text{g} (\text{問4で追加}) = 110 \, \text{g}\) あり、熱量計とともに全体の温度が 50℃ になっています。この状態の系(熱量計+水110g)に、100℃に加熱された質量 400g の金属球(未知の比熱を \(c_2\) とする)を入れたところ、熱平衡に達して全体の温度が 60℃ になりました。この過程においても、熱量保存則「高温の金属球が失った熱量」 = 「(熱量計 + 水110g)が得た熱量」が成り立ちます。

この設問における重要なポイント

  • 操作前の初期状態: 熱量計(熱容量 \(C_M = 42 \, \text{J/K}\))と水(全質量 \(m_{\text{水全}} = 110 \, \text{g}\))が、共に \(T_{\text{前}} = 50 \, \text{℃}\)。
  • 加える高温の金属球: 質量 \(m_{\text{金属球}} = 400 \, \text{g}\)、未知の比熱 \(c_2\)、初期温度 \(T_{\text{金属球初}} = 100 \, \text{℃}\)。これが最終的に \(T_{\text{後3}} = 60 \, \text{℃}\) になるので、失う温度変化は \(\Delta T_{\text{失う}} = 100\text{℃} – 60\text{℃} = 40 \, \text{K}\)。
  • 熱量計が得る熱: 熱量計の温度は \(50 \, \text{℃}\) から \(60 \, \text{℃}\) に上昇するので、温度変化は \(\Delta T_{\text{得る熱量計}} = 60\text{℃} – 50\text{℃} = 10 \, \text{K}\)。
  • 水(110g)が得る熱: 水の温度も \(50 \, \text{℃}\) から \(60 \, \text{℃}\) に上昇するので、温度変化は \(\Delta T_{\text{得る水}} = 60\text{℃} – 50\text{℃} = 10 \, \text{K}\)。

具体的な解説と立式

現在の系は、熱量計(熱容量 \(C_M=42 \, \text{J/K}\))と水(合計質量 \(m_{\text{水全}} = 110 \, \text{g}\))が、共に \(T_{\text{前}} = 50 \, \text{℃}\) の状態です。
この系に、初期温度 \(T_{\text{金属球初}} = 100 \, \text{℃}\)、質量 \(m_{\text{金属球}} = 400 \, \text{g}\)、未知の比熱 \(c_2\) の金属球を投入し、熱平衡後の全体の温度が \(T_{\text{後3}} = 60 \, \text{℃}\) になったとします。
熱量保存則を適用すると、
(金属球が失った熱量) = (熱量計が得た熱量) + (水110gが得た熱量)
という関係が成り立ちます。

各熱量を具体的に見ていきましょう。

  • 金属球が失った熱量 \(Q_{\text{金属球失}}\):
    $$Q_{\text{金属球失}} = m_{\text{金属球}} \cdot c_2 \cdot (T_{\text{金属球初}} – T_{\text{後3}})$$
  • 熱量計が得た熱量 \(Q_{\text{熱量計得3}}\):
    $$Q_{\text{熱量計得3}} = C_M \cdot (T_{\text{後3}} – T_{\text{前}})$$
  • 水110gが得た熱量 \(Q_{\text{水全得}}\):
    $$Q_{\text{水全得}} = m_{\text{水全}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{後3}} – T_{\text{前}})$$

したがって、熱量保存の式は次のように具体的に書けます。
$$m_{\text{金属球}} \cdot c_2 \cdot (T_{\text{金属球初}} – T_{\text{後3}}) = C_M \cdot (T_{\text{後3}} – T_{\text{前}}) + m_{\text{水全}} \cdot c_{\text{水}} \cdot (T_{\text{後3}} – T_{\text{前}})$$
この方程式に、これまでに分かっている値を代入し、未知数である金属球の比熱 \(c_2\) について解きます。

使用した物理公式

  • 熱量保存則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た総和}}\)
  • 熱量の計算式: \(Q = mc\Delta T\), \(Q = C\Delta T\)
計算過程
  1. 各物理量に具体的な値を代入します:
    \(m_{\text{金属球}} = 400 \, \text{g}\)
    \((T_{\text{金属球初}} – T_{\text{後3}}) = 100 \, \text{℃} – 60 \, \text{℃} = 40 \, \text{K}\)
    \(C_M = 42 \, \text{J/K}\) (問2の結果)
    \(m_{\text{水全}} = 110 \, \text{g}\) (問4までの水の総量)
    \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
    \((T_{\text{後3}} – T_{\text{前}}) = 60 \, \text{℃} – 50 \, \text{℃} = 10 \, \text{K}\)
    $$(400 \text{ [g]} \times c_2 \times 40 \text{ [K]}) = (42 \text{ [J/K]} \times 10 \text{ [K]}) + (110 \text{ [g]} \times 4.2 \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]} \times 10 \text{ [K]})$$
  2. 方程式を整理します:
    $$16000 c_2 = 420 + (110 \times 42)$$
    $$16000 c_2 = 420 + 4620$$
    $$16000 c_2 = 5040$$
  3. 未知数 \(c_2\) について解きます:
    $$c_2 = \frac{5040}{16000}$$
    $$c_2 = \frac{504}{1600} = \frac{126}{400} = \frac{63}{200} = 0.315 \text{ [J/(g}\cdot\text{K)]}$$
  4. 有効数字を考慮します。模範解答に合わせて有効数字2桁で \(0.32 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) とします。
計算方法の平易な説明

今度は、50℃の状態になっている熱量計と110gの水の中に、100℃に熱した金属球(質量400g)を入れます。その結果、全体の温度が60℃で落ち着きました。
このとき、熱い金属球は100℃から60℃に冷めるので、その間に熱を放出します。放出する熱量は \(400 \text{ g} \times c_2 \text{ (金属球の比熱)} \times (100\text{℃}-60\text{℃})\) です。
一方、50℃だった熱量計と110gの水は、60℃まで温まるので、熱を吸収します。熱量計が吸収する熱は \(42 \text{ J/K} \times (60\text{℃}-50\text{℃})\) です。110gの水が吸収する熱は \(110 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g}\cdot\text{K)} \times (60\text{℃}-50\text{℃})\) です。
「失った熱量」と「得た熱量の合計」は等しいという熱量保存の法則から、
\(400 \times c_2 \times 40 = 42 \times 10 + 110 \times 4.2 \times 10\)
という方程式が成り立ちます。この式で未知数となっているのは金属球の比熱 \(c_2\) だけなので、これを解くと \(c_2 = 0.315 \approx 0.32 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) と求められます。

結論と吟味

この金属球の比熱 \(c_2\) は \(0.315 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) であり、有効数字2桁で表すと \(0.32 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\) となります。参考までに、鉄の比熱が約0.45 J/(g・K)、アルミニウムの比熱が約0.90 J/(g・K) です。これらと比較すると、この金属球はこれらの一般的な金属よりも比熱がやや小さい物質である可能性が示唆されますが、値として極端に大きすぎたり小さすぎたりするわけではなく、物理的にあり得る範囲です。

解答 (5) \(0.32\) (または \(0.315\))

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 熱量保存則(熱平衡の法則): 断熱された系内で複数の物体が接触し、熱のやり取り(熱移動)が行われるとき、高温側の物体群が失った熱量の総和と、低温側の物体群が得た熱量の総和は必ず等しくなります (\(Q_{\text{失った熱量の総和}} = Q_{\text{得た熱量の総和}}\))。これが、この問題の全ての設問を貫く基本的な物理原理です。
  • 熱量の計算式 (\(Q=mc\Delta T\) および \(Q=C\Delta T\)): 物質の温度が変化する際に移動する熱量の計算には、その物質の質量 \(m\)、比熱 \(c\)、そして温度変化 \(\Delta T\) を用いる \(Q=mc\Delta T\) の式か、あるいは物体全体の熱容量 \(C\) と温度変化 \(\Delta T\) を用いる \(Q=C\Delta T\) の式を使用します。どちらの公式を選択するかは、問題文で与えられている情報(比熱が与えられているか、熱容量が与えられているか、あるいはそれらを求めるのか)によって判断します。
  • 比熱と熱容量の定義と関係 (\(C=mc\)): 熱容量 \(C\) は、その物体を構成する物質の質量 \(m\) とその物質の比熱 \(c\) の積、\(C=mc\) で与えられます。この関係式は、比熱と熱容量の一方から他方を算出する際に用いられます(本問題の問3がこれに該当します)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 異なる種類の液体(例えば水と油)を混合した場合の最終的な平衡温度の計算。
    • 高温に熱した金属片を水中に投入して、その金属の比熱や初期温度を未知数として求める問題。
    • 氷の融解や水の蒸発など、物質の状態変化(融解熱や蒸発熱が関わる)を伴う熱量計算の問題(この問題には含まれていませんでしたが、熱量保存則の重要な応用例です)。
  • 初見の問題で着目すべき点:
    1. 「断熱されているか?」あるいは「外部との熱の出入りは無視できるか?」: 問題文中に「外部との熱の出入りはないものとする」といった記述があれば、熱量保存則を厳密に適用できるという重要なサインです。
    2. 「どの物質間で熱の移動が発生しているか?」: 高温の物質(熱を失う側)と低温の物質(熱を得る側)を明確に特定し、それぞれの温度変化の向き(温度が上昇したのか、下降したのか)を正確に把握します。
    3. 「各物質の物理量(質量、比熱または熱容量、初期温度、最終平衡温度)は何か?」: これらの情報を問題文から丹念に拾い出し、整理することが、正確な立式の第一歩となります。未知数が何かを明確にすることも重要です。
    4. 「状態変化は伴うか?」: 融解熱(固体→液体)や蒸発熱(液体→気体)が関与する場合は、それらの状態変化に必要な熱量も熱収支の式に含める必要があります(この問題では状態変化は考慮されていません)。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 温度変化 \(\Delta T\) の取り扱い: 熱量を計算する際の温度変化 \(\Delta T\) は、常に温度変化の「大きさ」(つまり正の値)として扱うようにすると、失った熱量と得た熱量の等式を立てる際に符号の混乱を避けやすくなります。具体的には、高温側の温度から低温側の温度を引くか、あるいは変化する前後の温度の差の絶対値をとるようにします。
    • 単位の一貫性の確保: 例えば、比熱の単位が J/(g・K) で与えられている場合、質量はグラム(g)、熱量はジュール(J)、温度変化はケルビン(K)(またはセルシウス度(℃)の差)で計算を一貫して行う必要があります。問題文中で単位が混在している場合は、計算を開始する前に必ず統一しましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 比熱と熱容量の概念の混同: 比熱は物質固有の性質を表す量(通常1gあたり)であり、熱容量はその物体全体が持つ性質を表す量です。公式 \(Q=mc\Delta T\) と \(Q=C\Delta T\) を使う際に、どちらの物理量が与えられているのか(あるいは求められているのか)を正確に区別しましょう。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の計算ミスや符号の誤り: 例えば、温度が \(T_1\) から \(T_2\) へ変化した場合、温度変化の大きさは \(|T_2 – T_1|\) です。特に、複数の物質が関与する複雑な熱平衡の問題では、どの物質がどの温度からどの温度へ変化したのかを混同しやすいため、注意が必要です。
  • 熱量保存の式の立式における項の抜けや符号ミス: どの物質群が熱を得て、どの物質群が熱を失ったのかを正確にリストアップし、「失った熱量の総和」と「得た熱量の総和」を等号で結びます。方程式を立てる際の移項のし忘れや、プラス・マイナスの符号の間違いなどにも細心の注意を払いましょう。
  • 計算途中の状態(物質の総量や温度)の引き継ぎミス: 問4や問5のように、前の操作の結果(例えば、熱量計内の水の総質量や全体の温度)を、次の操作の初期条件として正しく引き継いで計算を進めることが重要です。
  • 対策:
    • 問題を解き始める前に、関与する各物質の初期温度、最終的な平衡温度、質量、そして比熱(または熱容量)を表の形にまとめるなどして、情報を視覚的に整理すると間違いを減らせます。
    • 熱の移動の方向(高温から低温へ)を簡単な矢印などで図示してみるのも有効です。
    • 立式した後は、式の各項が物理的に正しい意味(得た熱量を表しているのか、失った熱量を表しているのか)を持っているか、単位は正しいかなどを再確認する習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題で有効だった図の表現(頭の中で描くものも含む):
    1. 温度変化を示す数直線: 各物質の初期温度と、熱平衡に達した後の最終的な共通温度を一本の数直線上にプロットします。これにより、各物質の温度がどれだけ上昇したか、あるいは下降したか(\(\Delta T\) の大きさ)とその向きを視覚的に把握することができます。
    2. 熱の移動方向を示す矢印: 高温の物体から低温の物体へ熱が移動する様子を、模式図中に矢印で描き加えます。これにより、どの物体が熱を失い(熱源)、どの物体が熱を得たのか(吸収側)の関係が一目でわかるようになります。
    3. 熱量計と内部の水の構成図: 熱量計の容器の中に水が入っているという状況を簡単な模式図で描き、それぞれの物質(熱量計の銅、水)の質量や温度、比熱や熱容量といった物理量を書き込むことで、系の状態を整理しやすくなります。特に複数の物質が混在する場合は有効です。
  • 図を描く(または頭の中で現象をイメージする)際の注意点:
    • 関与する各物質を明確に区別し、それぞれの物理パラメータ(質量、比熱、初期温度など)を正確に関連付けましょう。
    • 熱平衡後の最終的な温度は、熱のやり取りに関与した全ての物質で共通になる、という基本的な原理を常に意識することが大切です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 熱量計算 \(Q=mc\Delta T\): 質量 \(m\) と比熱 \(c\) が分かっている物質(この問題では水や金属球)の温度が \(\Delta T\) だけ変化した際に移動する熱量を計算する場合に、この公式を選択します。
  • 熱量計算 \(Q=C\Delta T\): 物体全体の熱容量 \(C\) が分かっている場合(この問題では熱量計)、または熱容量を求める場合に、この公式を選択します。
  • 熱量保存則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)): 断熱された系内で複数の物体間で熱の移動のみが起こり、最終的に共通の温度(熱平衡温度)に達する場合、エネルギー保存則の一形態としてこの法則が常に成り立ちます。これが全ての熱量計算問題の根幹をなす基本原理となります。
  • 熱容量と比熱の関係 \(C=mc\): 物体の熱容量とその物体を構成する物質の比熱とを結びつける定義式です。一方の値からもう一方の値を算出する必要がある場合にこの公式を用います(この問題の問3)。
  • 公式適用の根拠の明確化: 問題文から読み取れる情報(与えられた物理量:質量、比熱、熱容量、温度変化など)と、求めたい未知数に応じて、これらの公式を適切に組み合わせて連立方程式を解くことになります。基本的には「未知数を求めるために、既知数と未知数を含む方程式を立てる」という数学的な問題解決の考え方に帰着します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 初期状態の正確な把握: まず、熱のやり取りに関与する各物質について、その質量、初期温度、そして比熱(または熱容量)を問題文から正確に読み取り、整理します。
  2. 熱の移動方向の特定: どの物質が高温で熱を失う側に回り、どの物質が低温で熱を得る側に回るのかを判断します。
  3. 最終的な熱平衡状態の温度の確認: 問題文で熱平衡後の温度が与えられているか、あるいはそれを未知数として設定する必要があるかを確認します。
  4. 熱量保存則に基づいた方程式の立式: 「失った熱量の総和 = 得た熱量の総和」という等式を立てます。この際、各熱量は \(mc\Delta T\) または \(C\Delta T\) の形で計算します。
  5. 方程式の求解: 立てた方程式を、求めたい未知数について代数的に解きます。
  6. 段階的な問題における注意点: この問題のように複数の操作が連続して行われる場合、前の設問で求めた値(例えば、問2で求めた熱量計の熱容量 \(C_M\))や、操作によって変化した系の状態(例えば、問4での操作後の熱量計内の水の総量や全体の温度)を、次の設問を解く際の初期条件として正確に引き継いで用いることが極めて重要です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の一貫性の確認: 計算過程で用いる各物理量の単位が一貫しているかを常に意識することが大切です。特に、比熱の単位にジュール(J)とグラム(g)とケルビン(K)(またはセルシウス度℃)が含まれている場合、他の物理量(質量、熱量、温度)の単位もこれらに合わせて計算する必要があります。
  • 数値計算の正確性の確保: 特に小数点を含む掛け算や割り算、あるいは多数の項の足し算・引き算といった算術計算は、焦らず慎重に行うように心がけましょう。試験などで電卓が使用できる場合は、積極的に活用して計算ミスを減らすのも一つの方法です。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の計算方法の統一: 温度変化 \(\Delta T\) を計算する際には、例えば常に「高温側の温度 – 低温側の温度」の形で正の値として計算し、それを「失った熱量」または「得た熱量」の計算に用いるようにすると、式のプラス・マイナスの符号に関する混乱を防ぎやすくなります。
  • 方程式の整理と簡略化: 熱量保存則から立式した後は、未知数について解く前に、可能な範囲で式を整理したり簡略化したりしてから具体的な数値を代入する方が、計算ミスを減らせる場合があります(ただし、どの段階で数値を代入するかは問題の複雑さや個人の好みにもよります)。
  • 有効数字の適切な処理: 問題文で与えられた数値の有効数字の桁数を確認し、計算結果もそれに応じた適切な有効数字で示すようにしましょう(一般的には、計算に用いた数値の中で最も有効数字の桁数が少ないものに合わせます)。
  • 日頃からの練習で心がけること: 計算ミスを防ぐためには、日頃の演習から途中式を省略せずに丁寧に書く習慣をつけることが重要です。また、計算結果が出た後には、それが現実的にあり得る値かどうか(例えば、比熱が負になることはない、など)を大まかに見積もる感覚を養うことも役立ちます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性の確認:
    • 計算によって求めた比熱や熱容量の値が、一般的な物質の値と比較して極端に大きすぎたり小さすぎたりしていないか?(例えば、問3で求めた銅の比熱は約0.38 J/(g・K)であり、これは文献値(約0.39 J/(g・K))に近い妥当な値です)。
    • 温度変化の方向は物理的に正しいか?(熱は必ず高温の物体から低温の物体へ移動するため、高温側の温度は下がり、低温側の温度は上がるはずです)。
    • 計算結果として得られた質量や比熱が負の値になっていないか?(これらは物理的にあり得ないため、もし負になった場合は計算過程に誤りがある可能性が高いです)。
  • 単位の最終確認: 最終的に得られた答えの単位が、求めようとしていた物理量の正しい単位(例えば、熱容量ならJ/K、比熱ならJ/(g・K))と一致しているかを必ず確認しましょう。
  • 極端な条件下での振る舞いを考察する(思考実験): 例えば、比熱が非常に大きい物質は温まりにくく冷めにくい(温度変化しにくい)、熱容量が大きい物体も同様の性質を持つ、といった一般的な物理的性質を理解していれば、得られた計算結果の傾向がこれらの直感的な理解と合致するかどうかを確認することができます。

問題55 (共通テスト)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、熱力学の中でも「熱量の保存」と「比熱・熱容量」の概念を理解し、それらを用いて具体的な数値を計算する能力を問うています。高校物理の熱分野における基本的な計算問題の組み合わせと言えるでしょう。

与えられた条件
  • アルミニウム球A:
    • 比熱 \(c_{\text{A}} = 0.90 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
    • 初期温度 \(T_1 = 42.0 \, \text{℃}\)
    • 質量 \(m_{\text{A}} = 100 \, \text{g}\)
  • 水:
    • 初期温度 \(T_2 = 20.0 \, \text{℃}\)
    • 質量 \(M \, \text{[g]}\) (設問イで具体的な値を求める)
    • 比熱 \(c_{\text{水}} = 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
  • 熱平衡時:
    • アルミニウム球Aと水が接触後、同じになった温度を \(T_3 \, \text{[℃]}\) とする。
  • 熱移動の条件:
    • 熱はAと水の間だけで移動する (外部との熱のやり取りは無視できる)。
  • 設問イの追加条件:
    • 水の温度上昇 \(T_3 – T_2 = 1.0 \, \text{℃}\)
  • 設問ウの追加条件:
    • 熱平衡状態にあるAと水全体に、さらに \(Q_{\text{追加}} = 9.9 \times 10^3 \, \text{J}\) の熱量を加える。
問われていること
  1. ア: 水の質量 \(M\) がどのような場合に、水の温度上昇 \(T_3 – T_2\) が小さくなるか。(「小さく」または「大きく」で答える)
  2. イ: 水の温度上昇が \(1.0 \, \text{℃}\) となるような水の質量 \(M\) の値を、\(a.b \times 10^2 \, \text{g}\) の形で求める (有効数字2桁)。
  3. ウ: 設問イの条件の後、Aと水全体に \(9.9 \times 10^3 \, \text{J}\) の熱量を加えたときの、全体のさらなる温度上昇 \(\Delta T_{\text{全体}}\) を求める (有効数字2桁)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、熱平衡、熱量の計算、熱量保存則、そして熱容量の概念を扱っています。日常生活でも経験する「熱いものを冷たいものに入れると、熱いものは冷め、冷たいものは温まる」という現象を物理法則に基づいて定量的に考えていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 熱量 \(Q\): 物体の温度を変化させたり、状態を変化させたりするエネルギーの移動形態です。
    • 温度変化のみの場合: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量 \(C\): 物体の温度を \(1 \, \text{K}\) (または \(1 \, \text{℃}\)) 上昇させるのに必要な熱量です。 (\(C = mc\)) これを使うと \(Q = C\Delta T\) とも書けます。
  • 熱量の保存則: 外部と熱のやり取りがない閉じた系(断熱系)において、内部で熱の移動があっても、系全体のエネルギーは保存されます。特に、高温物体が失う熱量と低温物体が得る熱量は等しくなります。(\(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\))

全体的な戦略としては、まず設問アで熱容量と温度変化の関係を定性的に考察します。次に設問イでは熱量保存則を用いて具体的な質量を計算し、最後に設問ウでは複数の物体を一体と見なしたときの全体の熱容量を考え、加えられた熱量から温度上昇を求めます。

設問ア

思考の道筋とポイント

水の質量 \(M\) が変化したときに、水の温度上昇 \(T_3 – T_2\) がどのように変わるかを考えます。
高温のアルミニウム球Aから水へ熱が移動します。水が受け取る熱量は、Aが失う熱量と等しくなります(熱量保存)。

直感的に考えると、水の量が多いほど、同じ熱量をもらっても温まりにくい(温度上昇が小さい)はずです。これは、水の熱容量 \(C_{\text{水}} = M c_{\text{水}}\) が質量 \(M\) に比例して大きくなるためです。熱容量が大きいということは、温度を \(1 \, \text{℃}\) 上昇させるのにより多くの熱が必要になる、ということです。

より数式的に考えてみましょう。
熱量の保存則より、アルミニウム球Aが失う熱量 \(Q_{\text{A失}}\) と水が得る熱量 \(Q_{\text{水得}}\) は等しくなります。
\(Q_{\text{A失}} = m_{\text{A}} c_{\text{A}} (T_1 – T_3)\)
\(Q_{\text{水得}} = M c_{\text{水}} (T_3 – T_2)\)
よって、\(m_{\text{A}} c_{\text{A}} (T_1 – T_3) = M c_{\text{水}} (T_3 – T_2)\) です。
この式から \(T_3 – T_2\) を \(M\) の関数として表すと、
$$T_3 – T_2 = \frac{m_{\text{A}} c_{\text{A}} (T_1 – T_2)}{m_{\text{A}} c_{\text{A}} + M c_{\text{水}}}$$
この式の右辺の分子 \(m_{\text{A}} c_{\text{A}} (T_1 – T_2)\) は正の定数です(\(T_1 > T_2\) なので)。分母は \(m_{\text{A}} c_{\text{A}} + M c_{\text{水}}\) であり、\(M\) が大きくなると分母も大きくなります。分母が大きくなると、分数全体の値は小さくなります。
したがって、水の質量 \(M\) が 大きく なるほど、温度上昇 \(T_3 – T_2\) は小さくなります。

この設問における重要なポイント

  • 熱容量の概念: 質量が大きいほど熱容量は大きく、温まりにくい。
  • 熱量保存則からの数式変形による確認も可能。
結論と吟味

水の質量 \(M\) が大きくなると、水全体の熱容量が大きくなります。熱容量が大きい物質は、同じ熱量を受け取っても温度が上がりにくいため、温度上昇 \(T_3 – T_2\) は小さくなります。

解答 (ア) 大きく

設問イ

思考の道筋とポイント

この設問では、具体的な数値を計算します。鍵となるのは「熱量の保存則」です。

  1. まず、与えられた条件から、熱平衡時の温度 \(T_3\) を求めます。
  2. 次に、アルミニウム球Aが失った熱量 \(Q_{\text{A失}}\) を計算します。
  3. 水が得た熱量 \(Q_{\text{水得}}\) を、未知数 \(M\) を使って表します。
  4. \(Q_{\text{A失}} = Q_{\text{水得}}\) という式を立てて、\(M\) について解きます。

この設問における重要なポイント

  • 熱量保存則 \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\) を正しく立式できるか。
  • 各熱量を \(Q=mc\Delta T\) の公式を使って正しく計算できるか。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の取り方(高温側は \(T_{\text{初期}} – T_{\text{平衡}}\)、低温側は \(T_{\text{平衡}} – T_{\text{初期}}\))。

具体的な解説と立式

1. 平衡温度 \(T_3\) の計算:
水の初期温度 \(T_2 = 20.0 \, \text{℃}\)
水の温度上昇 \(T_3 – T_2 = 1.0 \, \text{℃}\)
したがって、熱平衡時の温度 \(T_3\) は、
\(T_3 = T_2 + (T_3 – T_2) = 20.0 \, \text{℃} + 1.0 \, \text{℃} = 21.0 \, \text{℃}\)

2. アルミニウム球Aが失った熱量 \(Q_{\text{A失}}\):
\(Q_{\text{A失}} = m_{\text{A}} c_{\text{A}} (T_1 – T_3)\)

3. 水が得た熱量 \(Q_{\text{水得}}\):
\(Q_{\text{水得}} = M c_{\text{水}} (T_3 – T_2)\)

4. 熱量の保存則:
「熱はAと水の間だけで移動する」ので、\(Q_{\text{A失}} = Q_{\text{水得}}\) が成り立ちます。
$$m_{\text{A}} c_{\text{A}} (T_1 – T_3) = M c_{\text{水}} (T_3 – T_2)$$

使用した物理公式

  • 熱量: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱量の保存則: 高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量
計算過程

上記の熱量保存の式に、与えられた数値を代入していきます。
$$100 \, \text{g} \times 0.90 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} \times (42.0 \, \text{℃} – 21.0 \, \text{℃}) = M \, \text{[g]} \times 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} \times (1.0 \, \text{℃})$$
左辺を計算します:
\(100 \times 0.90 \times (42.0 – 21.0)\)
\(= 100 \times 0.90 \times 21.0\)
\(= 90 \times 21.0\) (まず \(100 \times 0.90\) を計算)
\(= 1890 \, \text{J}\) (次に \(90 \times 21\) を計算。\(90 \times 20 = 1800\)、\(90 \times 1 = 90\)、合わせて \(1890\))

右辺を計算します:
\(M \times 4.2 \times 1.0\)
\(= 4.2 M \, \text{J}\)

したがって、熱量保存の式は次のようになります。
$$1890 = 4.2 M$$
この式を \(M\) について解きます。
$$M = \frac{1890}{4.2}$$
分母分子を10倍して、小数点をなくします。
$$M = \frac{18900}{42}$$
ここで約分を行います。
まず、分子と分母を \(2\) で割ります。
$$M = \frac{9450}{21}$$
次に、分子と分母を \(21\) で割ります。(\(9450 \div 21 = 450\))
$$M = 450$$
したがって、水の質量 \(M\) は \(450 \, \text{g}\) です。
問題では \(\text{イ} \times 10^2 \, \text{g}\) の形で答えるよう指示があるので、
\(M = 4.5 \times 10^2 \, \text{g}\)
よって、イに入る数値は \(4.5\) です。

計算方法の平易な説明
  1. お湯(アルミニウム球)と水が混ざって、最終的に同じ温度になるときのことを考えます。水は最初 \(20.0 \, \text{℃}\) で、指定により \(1.0 \, \text{℃}\) だけ温度が上がったので、最終温度は \(21.0 \, \text{℃}\) です。
  2. アルミニウム球は \(42.0 \, \text{℃}\) から \(21.0 \, \text{℃}\) に冷めました。このとき失った熱量は「\(100 \, \text{g} \times 0.90 \times (42.0 – 21.0) \, \text{℃} = 1890 \, \text{J}\)」です。
  3. 水はこの熱をもらって \(1.0 \, \text{℃}\) 温まりました。水が得た熱量は「\(M \, \text{g} \times 4.2 \times 1.0 \, \text{℃} = 4.2 M \, \text{J}\)」です。
  4. アルミニウム球が失った熱量と水が得た熱量は等しいので、「\(1890 = 4.2 M\)」という式が作れます。
  5. これを \(M\) について解くと、\(M = 1890 \div 4.2 = 450 \, \text{g}\) となります。
  6. 答えの形式に合わせて、\(4.5 \times 10^2 \, \text{g}\) とします。
結論と吟味

水の質量 \(M\) は \(450 \, \text{g}\) と計算できました。これは \(4.5 \times 10^2 \, \text{g}\) に相当し、イは \(4.5\) となります。
単位もグラムで問題ありません。温度変化の計算において、セ氏温度の差はケルビンの差と同じなので、比熱の単位の K はそのまま使って問題ありません。

解答 (イ) \(4.5\)

設問ウ

思考の道筋とポイント

設問イで求めた質量 \(M = 450 \, \text{g}\) の水と、質量 \(m_{\text{A}} = 100 \, \text{g}\) のアルミニウム球Aが、熱平衡温度 \(T_3 = 21.0 \, \text{℃}\) に達しています。このAと水全体を一つの系(物体)と見なします。
この系に \(Q_{\text{追加}} = 9.9 \times 10^3 \, \text{J}\) の熱量を加えたときの、全体の温度上昇 \(\Delta T_{\text{全体}}\) を求めます。

  1. まず、アルミニウム球Aの熱容量 \(C_{\text{A}}\) と水の熱容量 \(C_{\text{水}}\) をそれぞれ計算します。
  2. 次に、Aと水全体の熱容量 \(C_{\text{全体}}\) を、\(C_{\text{全体}} = C_{\text{A}} + C_{\text{水}}\) として求めます。
  3. 加えられた熱量 \(Q_{\text{追加}}\)、全体の熱容量 \(C_{\text{全体}}\)、全体の温度上昇 \(\Delta T_{\text{全体}}\) の関係式 \(Q_{\text{追加}} = C_{\text{全体}} \Delta T_{\text{全体}}\) を用いて、\(\Delta T_{\text{全体}}\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 複数の物体を一体として扱う場合、全体の熱容量は各物体の熱容量の和で計算できること。
  • \(Q = C \Delta T\) の公式を正しく適用できるか。

具体的な解説と立式

1. アルミニウム球Aの熱容量 \(C_{\text{A}}\):
\(C_{\text{A}} = m_{\text{A}} c_{\text{A}}\)

2. 水の熱容量 \(C_{\text{水}}\):
\(C_{\text{水}} = M c_{\text{水}}\)

3. Aと水全体の熱容量 \(C_{\text{全体}}\):
\(C_{\text{全体}} = C_{\text{A}} + C_{\text{水}} = m_{\text{A}} c_{\text{A}} + M c_{\text{水}}\)

4. 全体の温度上昇 \(\Delta T_{\text{全体}}\):
加えられた熱量 \(Q_{\text{追加}} = 9.9 \times 10^3 \, \text{J}\)
\(Q_{\text{追加}} = C_{\text{全体}} \Delta T_{\text{全体}}\)
したがって、
$$\Delta T_{\text{全体}} = \frac{Q_{\text{追加}}}{C_{\text{全体}}}$$

使用した物理公式

  • 熱容量: \(C = mc\)
  • 全体の熱容量: \(C_{\text{全体}} = C_1 + C_2 + \dots\)
  • 熱量と熱容量の関係: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

各値を代入して計算します。
1. \(C_{\text{A}}\) の計算:
\(C_{\text{A}} = 100 \, \text{g} \times 0.90 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)} = 90 \, \text{J/K}\)

2. \(C_{\text{水}}\) の計算:
\(C_{\text{水}} = 450 \, \text{g} \times 4.2 \, \text{J/(g}\cdot\text{K)}\)
\(450 \times 4.2 = 450 \times (4 + 0.2) = 450 \times 4 + 450 \times 0.2\)
\(= 1800 + 90 = 1890 \, \text{J/K}\)

3. \(C_{\text{全体}}\) の計算:
\(C_{\text{全体}} = C_{\text{A}} + C_{\text{水}} = 90 \, \text{J/K} + 1890 \, \text{J/K} = 1980 \, \text{J/K}\)

4. \(\Delta T_{\text{全体}}\) の計算:
\(Q_{\text{追加}} = 9.9 \times 10^3 \, \text{J} = 9900 \, \text{J}\)
$$\Delta T_{\text{全体}} = \frac{Q_{\text{追加}}}{C_{\text{全体}}} = \frac{9900 \, \text{J}}{1980 \, \text{J/K}}$$
分母分子を \(10\) で割ります。
$$\Delta T_{\text{全体}} = \frac{990}{198}$$
ここで、\(198 \times 5 = 990\) であることから、
$$\Delta T_{\text{全体}} = 5$$
単位は K (ケルビン) ですが、温度上昇なので ℃ (セ氏度) と同じ値です。
\(\Delta T_{\text{全体}} = 5.0 \, \text{K} = 5.0 \, \text{℃}\)
問題文では「ウ ℃上昇する」とあるので、\(5.0 \, \text{℃}\) と答えるのが適切です。

計算方法の平易な説明
  1. まず、アルミニウム球と水(設問イで \(450 \, \text{g}\) とわかった)をひとまとめにして、この「まとまり」全体の温まりやすさ(熱容量)を計算します。
  2. アルミニウム球の熱容量は \(100 \, \text{g} \times 0.90 = 90 \, \text{J/K}\) です。
  3. 水の熱容量は \(450 \, \text{g} \times 4.2 = 1890 \, \text{J/K}\) です。
  4. なので、全体の熱容量は \(90 + 1890 = 1980 \, \text{J/K}\) となります。これは「このまとまり全体の温度を \(1 \, \text{℃}\) 上げるのに \(1980 \, \text{J}\) の熱が必要」という意味です。
  5. このまとまりに \(9.9 \times 10^3 = 9900 \, \text{J}\) の熱を加えたので、温度上昇は、
    \(\Delta T_{\text{全体}} = (\text{加えた熱量}) \div (\text{全体の熱容量}) = 9900 \div 1980 = 5.0 \, \text{℃}\)
    となります。
結論と吟味

Aと水全体に \(9.9 \times 10^3 \, \text{J}\) の熱量を加えると、温度はさらに \(5.0 \, \text{℃}\) 上昇します。
ウに入る数値は \(5.0\) です。有効数字も2桁で問題ありません。

解答 (ウ) \(5.0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 熱量 \(Q=mc\Delta T\): 物体の温度変化とそれに伴う熱の出入りを関連付ける基本公式です。比熱 \(c\) が物質固有の性質であり、質量 \(m\) と温度変化 \(\Delta T\) から熱量を計算できることを理解しましょう。
  • 熱容量 \(C=mc\): 物体全体がどれだけ熱を蓄えやすいか、あるいは温度が変化しにくいかを示す量です。比熱と質量から計算され、\(Q=C\Delta T\) とも表せます。
  • 熱量の保存則: 「外部との熱の出入りがない場合、高温物体が失う熱量と低温物体が得る熱量は等しい」という法則は、熱平衡に関する問題を解く際の根幹です。エネルギー保存則の一つの形と理解しましょう。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できるパターン:
    • 異なる物質(固体と液体、液体同士など)を混合し、最終的な平衡温度や一方の物質の量を求める問題。
    • 熱量計(容器)の熱容量が関わる問題。この場合、熱量計も熱のやりとりに参加するものとして扱います。
    • 氷の融解など、状態変化を伴う熱の問題(この場合は融解熱 \(mL_f\) も考慮に入れる)。
  • 初見の問題でどこに着目するか:
    1. まず、系の中でどの物体が高温で、どの物体が低温か、熱はどちらからどちらへ移動するかを把握します。
    2. 「断熱容器」「外部との熱の出入りは無視できる」「熱は~の間だけで移動する」などのキーワードがあれば、熱量保存則の出番です。
    3. 状態変化(融解、蒸発、凝縮、凝固)が起こるかどうかを確認します。起こる場合は、そのための熱量(潜熱)も計算に入れる必要があります。
    4. 複数の物体を一体として扱う場合は、それぞれの熱容量を計算し、それらを合計して全体の熱容量として扱えることが多いです(設問ウのようなケース)。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 単位の統一は非常に重要です。質量をgで扱うかkgで扱うか、エネルギーをJで扱うかcalで扱うか、問題文の指示や与えられた比熱の単位に合わせて計算しましょう。
    • 温度変化 \(\Delta T\) を計算する際、\(Q_{\text{失った}}\) や \(Q_{\text{得た}}\) を正の値として扱うならば、高温側は(高い初期温度 – 平衡温度)、低温側は(平衡温度 – 低い初期温度)となるように差を取ります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 比熱 \(c\) と熱容量 \(C\) の混同: 比熱は \(1 \, \text{g}\) (または \(1 \, \text{kg}\)) あたりの物質の温まりにくさ、熱容量は物体全体の温まりにくさです。\(C=mc\) の関係をしっかり覚えましょう。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の符号: 熱量保存則を \(Q_{\text{高温側が失う熱量}} = Q_{\text{低温側が得る熱量}}\) の形で立式する場合、各熱量は正の値になるように \(\Delta T\) を設定します(例:\(T_{\text{高}} – T_{\text{平衡}}\))。もし、\(Q_{\text{変化量}} = mc(T_{\text{後}} – T_{\text{初}})\) として、代数的に \(\Sigma Q_i = 0\) のような式を立てる場合は符号に注意が必要です。
  • 計算ミス: 特に小数点の計算、分数の計算、大きな数の割り算は慎重に行いましょう。検算する癖をつけると良いです。
  • 有効数字の処理: 問題文の指示(「2桁の小数値を入れよ」など)や、与えられた数値の有効数字を考慮して、最終的な答えの桁数を適切に処理しましょう。

対策: 基本に立ち返り、図を描き、簡単なケースで検算する習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 現象のイメージ: 高温のアルミニウム球を水に入れると、Aの熱振動が周囲の水分子に伝わり、Aの温度が下がり、水の温度が上がる様子を分子レベルで想像してみるのも良いでしょう。やがて両者の間でエネルギーのやり取りが釣り合い、同じ温度(熱平衡状態)に達する、という流れを掴みます。
  • 図示の有効性:
    1. 簡単な図で良いので、初期状態(Aと水のそれぞれの温度、質量など)と最終状態(平衡温度 \(T_3\))を矢印などで結びつけて整理すると、状況把握が容易になります。
    2. 熱の移動方向を矢印で示すのも理解を助けます。
  • 図を描く際の注意点: 各物質の状態(温度、質量、比熱など)を明確に書き込み、未知数を記号で示しておくと、立式の際に混乱しにくくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • なぜ \(Q=mc\Delta T\) を使うのか? \(\rightarrow\) 物体の温度変化に伴う熱の移動量を計算するためであり、状態変化(融解など)は起こっていないからです。
  • なぜ熱量保存則 \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) を使うのか? \(\rightarrow\) 問題文に「熱はAと水の間だけで移動する」とあり、外部との熱のやり取りが無視できる(断熱系とみなせる)からです。このとき、Aが失ったエネルギーはすべて水に移動したと考えられます。
  • なぜ設問ウで全体の熱容量を \(C_{\text{A}} + C_{\text{水}}\) としたのか? \(\rightarrow\) Aと水が一体となって同じ温度変化をするため、それぞれが必要とする熱量を足し合わせることで、全体として必要な熱量が計算できるからです。これは、熱容量が「加法性」を持つ量であることを意味します。

これらの選択・適用の根拠を自問自答する訓練が重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題の理解と条件整理: 何が与えられ、何を求めるのかを明確にする。
  2. 設問ア(定性的理解):
    • 熱容量の概念から、質量大 \(\rightarrow\) 熱容量大 \(\rightarrow\) 温度変化小 と推論。
    • または、熱量保存則から \(T_3-T_2\) を \(M\) の関数で表し、数学的に考察。
  3. 設問イ(熱量保存則の適用):
    • 平衡温度 \(T_3\) を特定。
    • Aが失う熱量 \(Q_{\text{A失}} = m_{\text{A}}c_{\text{A}}(T_1-T_3)\) を設定。
    • 水が得る熱量 \(Q_{\text{水得}} = Mc_{\text{水}}(T_3-T_2)\) を設定。
    • \(Q_{\text{A失}} = Q_{\text{水得}}\) として \(M\) についての方程式を立て、解く。
  4. 設問ウ(全体の熱容量と \(Q=C\Delta T\) の適用):
    • Aの熱容量 \(C_{\text{A}}\) と水の熱容量 \(C_{\text{水}}\) を計算(\(M\) は設問イの値を使用)。
    • 全体の熱容量 \(C_{\text{全体}} = C_{\text{A}} + C_{\text{水}}\) を計算。
    • \(Q_{\text{追加}} = C_{\text{全体}} \Delta T_{\text{全体}}\) の関係から \(\Delta T_{\text{全体}}\) を解く。

この論理の流れを意識しましょう。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位確認: 途中計算や最終結果の単位が物理的に正しいか。
  • 文字式の活用: できるだけ最後まで文字で計算し、最後に数値を代入するのも有効な場合があります(ただし、この問題のように途中で数値を求める場合はその限りではありません)。
  • 符号チェック: 温度変化の向き、熱量の正負など。
  • 数学操作の丁寧さ: 小数点計算、分数計算、約分など、基本的な計算を正確に行う。
  • 概算による検証: 計算結果が常識的な範囲に収まっているか、大まかな計算(オーダーエスティメーション)で確認する。

日頃の練習: 途中式を丁寧に書き、検算し、間違いを分析する習慣をつけましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な妥当性:
    • 設問ア: 水の量を増やせば温まりにくくなるのは直感と一致するか? \(\rightarrow\) Yes。
    • 設問イ: \(M=450 \, \text{g}\)。A(\(100 \, \text{g}\))の初期温度\(42 \, \text{℃}\)、水の初期温度\(20 \, \text{℃}\)。水の比熱はAの約4.7倍(\(4.2/0.9\))。Aが\(21 \, \text{℃}\)温度が下がり、水が\(1 \, \text{℃}\)温度が上がる。熱容量の比は \(m_A c_A : M c_{\text{水}} = 90 : 1890 = 1 : 21\)。温度変化の比の逆数 \(\Delta T_{\text{水}} / \Delta T_A = 1/21\) と一致。妥当。
    • 設問ウ: \(\Delta T = 5.0 \, \text{℃}\)。加えた熱は \(9900 \, \text{J}\)。全体の熱容量は \(1980 \, \text{J/K}\)。もし熱容量が \(2000 \, \text{J/K}\) なら、\(9900/2000 \approx 5 \, \text{℃}\)。オーダーとして妥当。
  • 単位確認: 最終的な答えの単位が、問われている物理量の単位として適切か。
  • 極端な場合を考える (思考実験):
    • もし水の質量 \(M\) が非常に小さかったら、水の温度上昇は非常に大きくなるはず。
    • もし \(M\) が非常に大きかったら、温度上昇はほぼゼロに近くなるはず。設問アの式がこの傾向と合うか確認する。
  • 他の条件との整合性: 設問イで求めた \(M\) の値を使って、設問ウの計算をするなど、問題全体を通して矛盾がないか。

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