問題51 (関東学院大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、万有引力を中心に、地表での重力加速度、人工衛星の円運動(速さと周期)、そして地球からの脱出速度(第2宇宙速度)という、宇宙スケールの物理現象を扱います。それぞれの現象に対して、どの物理法則が適用できるのかを正確に見極めることが重要です。
- 地球の質量:\(M\)
- 地球の半径:\(R\)
- 万有引力定数:\(G\)
- 地球の自転や大気の影響は無視する。
- (1) 地表での重力加速度 \(g\) (\(M, R, G\) を用いて)
- (2) 高さ \(h\) で等速円運動する人工衛星の速さ \(v\) と周期 \(T\) (\(h, M, R, G\) を用いて)
- (3) 地表すれすれを等速円運動する人工衛星の速さ \(v_1\) (\(R, g\) を用いて)、およびその数値計算 (\(R=6.4 \times 10^3 \text{ km}\), \(g=10 \text{ m/s}^2\))
- (4) 物体を地表から無限遠へ到達させるための最小打ち上げ速度 \(v_2\) (\(R, g\) を用いて)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 人工衛星の速さ\(v\)の別解: 慣性系における運動方程式を用いる解法
- 模範解答が人工衛星と共に回転する座標系(非慣性系)で遠心力とのつり合いを考えるのに対し、別解では静止した宇宙空間の座標系(慣性系)で、万有引力が向心力として働くという運動方程式を立式します。
- 問(2) 人工衛星の速さ\(v\)の別解: 慣性系における運動方程式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「向心力」という概念と、それが具体的な力(この場合は万有引力)によって供給されるという、円運動の動力学的な本質への理解が深まります。
- 異なる視点の学習: 非慣性系(遠心力とのつり合い)と慣性系(運動方程式)という、二つの異なる視点から同じ現象を解析することで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、立式の考え方が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、万有引力の法則 と 円運動の力学、そして 力学的エネルギー保存則 が中心となるテーマです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 質量を持つ物体同士が引き合う力。その大きさは \(F = G \displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\) で与えられます。
- 円運動: 物体が円軌道を描いて運動する現象。向心力(円の中心に向かう力)が必要です。
- 力学的エネルギー保存則: 保存力(この問題では万有引力)のみが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず地表での重力と万有引力の関係を整理します (問(1))。
- 次に人工衛星の円運動を運動方程式(または力のつりあい)から解析します (問(2), (3))。
- 最後に地球からの脱出問題を力学的エネルギー保存則を用いて解き明かします (問(4))。
問(1)
思考の道筋とポイント
地表にある質量 \(m\) の物体が受ける「重力」は、地球(質量 \(M\))とその物体(質量 \(m\))の間に働く「万有引力」そのものです。この問題設定では地球の自転による影響は無視するため、これら二つの力が等しいとして等式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 地表にある物体が地球中心から受ける万有引力を考える際、地球中心からの距離は地球の半径 \(R\) であると捉える。
- 物体の重さ \(mg\) が、その物体と地球との間の万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) に等しい、という関係式を立てる。
具体的な解説と立式
地表にある質量 \(m\) の物体に働く重力の大きさを \(mg\) とします。この力は、地球(質量 \(M\))と物体(質量 \(m\))の間に働く万有引力に等しいと考えられます。地球の中心と物体の間の距離は、地球の半径 \(R\) です。
万有引力の法則より、地表での力の関係は次のように表せます。
$$ (\text{重力}) = (\text{万有引力}) $$
$$ mg = G \frac{Mm}{R^2} $$
この式を \(g\) について解くことで、地表での重力加速度を求めることができます。
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G \displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
- 重力: \(F_g = mg\)
力の関係式から始めます。
$$ mg = G \frac{Mm}{R^2} $$
両辺を物体の質量 \(m\) で割ると、
$$ g = G \frac{M}{R^2} $$
地球の表面にある物体(例えばリンゴ)が地球から受ける力を、私たちは「重力」(大きさ \(mg\))と呼んでいます。その正体は、地球とリンゴがお互いに引き合う「万有引力」です。万有引力の公式を使うと、この力は \(G \frac{Mm}{R^2}\) と表せるので、これらが等しい、つまり \(mg = G \frac{Mm}{R^2}\) という式が成り立ちます。この式の両辺からリンゴの質量 \(m\) を消去すると、求めたい重力加速度 \(g\) の式が得られます。
地表での重力加速度 \(g\) は \(g = \displaystyle\frac{GM}{R^2}\) と表されます。この式は、地表の重力加速度が地球の質量 \(M\) と半径 \(R\) によって決まり、物体の質量 \(m\) にはよらないという重要な性質を示しています。この関係式は、後の設問で \(GM\) を \(g\) と \(R\) で書き換える際に非常に役立ちます。
問(2)
思考の道筋とポイント
地表から高さ \(h\) の軌道を等速円運動している人工衛星について考えます。人工衛星が地球に落下せず円軌道を保てるのは、地球からの万有引力が円運動に必要な向心力として働いているためです。模範解答では、人工衛星と共に回転する座標系(非慣性系)で、万有引力と遠心力がつり合っていると考えて立式します。
この設問における重要なポイント
- 人工衛星の円運動の軌道半径は、地球の半径 \(R\) と地表からの高度 \(h\) の和、すなわち \(r = R+h\) である点を正確に把握する。
- 人工衛星から見たとき、万有引力と遠心力がつり合っていると考える。
- 人工衛星の速さ \(v\) が求められた後、周期 \(T\) は軌道の円周 \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで、\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) として計算できる。
具体的な解説と立式
人工衛星の質量を \(m\) とします。この人工衛星は、地球の中心から \(r = R+h\) の距離にある円軌道を、速さ \(v\) で等速円運動しています。
人工衛星と共に回転する座標系から見ると、人工衛星には軌道の中心から遠ざかる向きに大きさ \(m \displaystyle\frac{v^2}{r}\) の遠心力が働いているように見えます。
この遠心力と、地球の中心に向かう万有引力 \(G \displaystyle\frac{M m}{r^2}\) がつり合っているため、人工衛星は静止して見えます。
力のつり合いの式は、
$$ (\text{遠心力}) = (\text{万有引力}) $$
$$ m \frac{v^2}{r} = G \frac{M m}{r^2} $$
ここで、軌道半径 \(r = R+h\) を代入すると、
$$ m \frac{v^2}{R+h} = G \frac{M m}{(R+h)^2} $$
この方程式を \(v\) について解くことで、人工衛星の速さが求まります。
周期 \(T\) は、円軌道の円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることにより、次のように求められます。
$$ T = \frac{2\pi r}{v} = \frac{2\pi (R+h)}{v} $$
使用した物理公式
- 遠心力: \(F_{\text{遠心力}} = m \displaystyle\frac{v^2}{r}\)
- 万有引力の法則: \(F = G \displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
- 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
まず、人工衛星の速さ \(v\) を求めます。
力のつり合いの式から、
$$ m \frac{v^2}{R+h} = G \frac{M m}{(R+h)^2} $$
両辺を \(m\) で割り、\((R+h)\) を掛けると、
$$ v^2 = G \frac{M}{R+h} $$
\(v > 0\) なので、
$$ v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}} $$
次に、周期 \(T\) を求めます。
$$ T = \frac{2\pi (R+h)}{v} $$
上記で求めた速さ \(v\) の式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi (R+h)}{\sqrt{\frac{GM}{R+h}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi (R+h) \sqrt{\frac{R+h}{GM}}
\end{aligned}
$$
人工衛星に乗っている宇宙飛行士の視点から考えてみましょう。宇宙飛行士は、カーブを曲がる車で外側に押し付けられるように、「遠心力」という力を感じます。この外向きの遠心力と、地球が引っ張る内向きの「万有引力」がちょうど釣り合っているため、人工衛星は安定して回り続けることができます。この力のつり合いの式を解くことで、人工衛星の速さがわかります。周期(一周にかかる時間)は、軌道の円周の長さをその速さで割れば計算できます。
地表から高さ \(h\) を周回する人工衛星の速さ \(v\) は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\)、周期 \(T\) は \(T = 2\pi (R+h) \sqrt{\displaystyle\frac{R+h}{GM}}\) です。速さ \(v\) の式からは、高度 \(h\) が高いほど速さ \(v\) は小さくなることがわかります。周期 \(T\) についても、\(h\) が大きいほど軌道が長くなり、速さも遅くなるため、周期は長くなります。これはケプラーの第3法則(\(T^2 \propto r^3\))と整合性があります。
思考の道筋とポイント
静止した宇宙空間の座標系(慣性系)から人工衛星の運動を観測します。この場合、人工衛星は地球からの万有引力を向心力として等速円運動をしている、と捉えます。この関係を運動方程式として立式します。
この設問における重要なポイント
- 円運動を持続させるためには、中心に向かう力(向心力)が必要であることを理解する。
- この問題では、向心力が万有引力によって供給されていることを認識する。
具体的な解説と立式
静止した座標系から見ると、人工衛星(質量\(m\))は、地球からの万有引力を受けて、地球の中心を中心とする半径 \(r=R+h\) の円運動をしています。
この円運動に必要な向心力の大きさは \(m \displaystyle\frac{v^2}{r}\) です。
この向心力は、万有引力 \(G \displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) によって供給されているので、運動方程式は、
$$ (\text{向心力}) = (\text{万有引力}) $$
$$ m \frac{v^2}{r} = G \frac{M m}{r^2} $$
軌道半径 \(r=R+h\) を代入すると、
$$ m \frac{v^2}{R+h} = G \frac{M m}{(R+h)^2} $$
この式は、主たる解法(遠心力とのつり合い)で立てた式と全く同じ形になります。したがって、以降の計算と結果も同じになります。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式(向心力): \(m \displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
- 万有引力の法則: \(F = G \displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
主たる解法と全く同じ計算過程を経て、同じ結果が得られます。
$$ v = \sqrt{\frac{GM}{R+h}} $$
$$ T = 2\pi (R+h) \sqrt{\frac{R+h}{GM}} $$
宇宙の動かない場所から人工衛星を見ていると想像してください。人工衛星はまっすぐ進もうとしますが、地球が万有引力で常に内側に引っ張るので、結果として円を描いて運動します。この「内側に引っ張る力」が「向心力」です。つまり、「向心力=万有引力」という運動の法則を立てることで、人工衛星の速さを計算できます。
主たる解法と完全に一致した結果が得られました。遠心力(非慣性系)で考えるか、向心力(慣性系)で考えるかは、観測者の視点の違いであり、物理的には等価な現象を記述しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
「地表すれすれ」という条件は、地表からの高さ \(h\) がほぼ \(0\) と見なせることを意味します。したがって、問(2)で導出した人工衛星の速さ \(v\) の一般式に \(h=0\) を代入することで、地表すれすれを飛ぶ人工衛星の速さ \(v_1\) を求めることができます。さらに、この \(v_1\) を \(R\) と \(g\) を用いた形で表すためには、問(1)で確立した関係式 \(g = \displaystyle\frac{GM}{R^2}\) (これを変形すると \(GM = gR^2\))を活用します。
この設問における重要なポイント
- 「地表すれすれ」という条件を、数学的に \(h=0\) として扱う。
- 問(1)で得られた \(GM = gR^2\) という関係式を用いて、式中の \(GM\) を \(g\) と \(R\) を使った表現に置き換える。
- 数値計算を行う際には、与えられた値の単位を国際単位系(メートル、秒)に統一する。
具体的な解説と立式
問(2)で求めた人工衛星の速さの式 \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\) に \(h=0\) を代入すると、地表すれすれを飛ぶ速さ \(v_1\) は、
$$ v_1 = \sqrt{\frac{GM}{R}} $$
次に、この式を \(R\) と \(g\) を用いて表現し直します。問(1)の結果 \(g = \displaystyle\frac{GM}{R^2}\) から、\(GM = gR^2\) という関係式が得られます。これを上記の \(v_1\) の式に代入すると、
$$ v_1 = \sqrt{\frac{gR^2}{R}} $$
となります。
数値計算には、\(R=6.4 \times 10^3 \text{ km}\) と \(g=10 \text{ m/s}^2\) の値を使用します。計算前に、地球の半径 \(R\) をメートル単位に変換します。
$$ R = 6.4 \times 10^3 \text{ km} = 6.4 \times 10^6 \text{ m} $$
使用した物理公式
- 問(2)で求めた速さの式: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R+h}}\)
- 問(1)の結果から導かれる関係式: \(GM = gR^2\)
まず、\(v_1\) を \(R\) と \(g\) で表す式を整理します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= \sqrt{\frac{gR^2}{R}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{gR}
\end{aligned}
$$
次に、具体的な数値を用いて \(v_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_1 &= \sqrt{10 \times (6.4 \times 10^6)} \\[2.0ex]
&= \sqrt{64 \times 10^6} \\[2.0ex]
&= 8 \times 10^3
\end{aligned}
$$
有効数字を2桁に調整すると、
$$ v_1 = 8.0 \times 10^3 \, [\text{m/s}] $$
(2)で導いた人工衛星の速さの式において、高さをゼロ(\(h=0\))とすることで、地球のすぐそばを飛ぶ場合の速さ \(v_1\) が求められます。さらに、(1)で得た関係 \(GM = gR^2\) を利用すると、\(v_1 = \sqrt{gR}\) という、よりシンプルな形に整理できます。この式に、実際の地球の半径と重力加速度を代入して計算すると、秒速 8.0 km という、非常に速いスピードが求まります。
地表すれすれを周回する人工衛星の速さ \(v_1\) は \(v_1 = \sqrt{gR}\) と表され、数値計算の結果は \(v_1 = 8.0 \times 10^3 \text{ m/s}\) となります。この速さは「第1宇宙速度」として知られており、物体が地球の周回軌道に乗るために必要な最小の速さ(地表すれすれの場合)を意味します。
問(4)
思考の道筋とポイント
物体を地表から打ち上げて無限の彼方へ、つまり地球の重力圏から完全に脱出させる状況を考えます。この場合、物体が無限遠点に到達した時点でちょうど速さが \(0\) になるような打ち上げ速度が、求めるべき最小値となります。このような問題では、力学的エネルギー保存則の適用が非常に有効です。打ち上げ時(地表)の力学的エネルギーと、無限遠点での力学的エネルギーが等しいとして式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則を利用する。
- 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U(r) = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を正しく使用する(この式は無限遠方を位置エネルギーの基準点 \(U(\infty)=0\) とした場合のもの)。
- 「無限の遠くへ飛び去らせるための最小値」という条件は、無限遠点において物体の速さが \(0\)、かつ位置エネルギーも \(0\) となる状態を指すと解釈する。
- ここでも \(GM = gR^2\) の関係を利用して、最終的な結果を \(R\) と \(g\) を用いて表す。
具体的な解説と立式
打ち上げる物体の質量を \(m\) とします。
地表(地球中心からの距離 \(R\))で物体を速さ \(v_2\) で打ち上げる瞬間の力学的エネルギー \(E_{\text{地表}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{地表}} &= (\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} m v_2^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right)
\end{aligned}
$$
物体が無限遠点に到達したとき、地球からの距離 \(r \rightarrow \infty\) となります。
無限遠点での位置エネルギーは、基準点なので \(U_{\text{無限遠}} = 0\) です。
また、打ち上げる速さが「最小値」であるため、物体は無限遠点でちょうど速度が \(0\) になると考えます。したがって、運動エネルギーも \(K_{\text{無限遠}} = 0\) です。
無限遠点での力学的エネルギー \(E_{\text{無限遠}}\) は、
$$ E_{\text{無限遠}} = K_{\text{無限遠}} + U_{\text{無限遠}} = 0 + 0 = 0 $$
万有引力は保存力であるため、力学的エネルギーは保存されます。
$$ E_{\text{地表}} = E_{\text{無限遠}} $$
$$ \frac{1}{2} m v_2^2 – G\frac{Mm}{R} = 0 $$
この式を \(v_2\) について解き、最後に \(GM = gR^2\) の関係を用いて \(R\) と \(g\) で表現します。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 万有引力による位置エネルギー: \(U(r) = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
- 関係式: \(GM = gR^2\)
力学的エネルギー保存則の式から始めます。
$$ \frac{1}{2} m v_2^2 – G\frac{Mm}{R} = 0 $$
移項すると、
$$ \frac{1}{2} m v_2^2 = G\frac{Mm}{R} $$
両辺を \(m\) で割り、2倍すると、
$$ v_2^2 = \frac{2GM}{R} $$
\(v_2 > 0\) なので、
$$ v_2 = \sqrt{\frac{2GM}{R}} $$
ここで、関係式 \(GM = gR^2\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
v_2 &= \sqrt{\frac{2(gR^2)}{R}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gR}
\end{aligned}
$$
ボールを真上に投げ上げると、ある高さまで達してから落ちてきます。地球の引力を完全に振り切って、宇宙の遥か彼方まで飛んでいってしまうためには、どれくらいの速さで投げ上げる必要があるでしょうか?
ここではエネルギーの考え方を使います。打ち上げ時の「運動エネルギー」と「万有引力による位置エネルギー」の合計が、物体が無限の遠くでちょうど止まったときのエネルギー(ゼロ)と等しくなれば、ギリギリ脱出できたことになります。
このエネルギーの等式を解くと、必要な打ち上げ速度 \(v_2\) が \(\sqrt{2gR}\) であることがわかります。
物体を地表から無限遠へ飛び去らせるために必要な最小の打ち上げ速度 \(v_2\) は \(v_2 = \sqrt{2gR}\) と表されます。この速さは「第2宇宙速度」(または脱出速度)として知られています。
問(3)で求めた第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR}\) と比較すると、\(v_2 = \sqrt{2} \cdot v_1\) となり、第1宇宙速度のおよそ 1.4倍の速さが必要であることが分かります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力の法則 (\(F = G \frac{Mm}{r^2}\)):
- 核心: 質量を持つ物体間に普遍的に働く引力の法則です。距離の2乗に反比例し、それぞれの質量に比例するという特徴をしっかりと理解しましょう。この法則が、地表での重力や天体運動の原動力となります。
- 理解のポイント:
- 重力の正体: 地表での重力 \(mg\) は、地球と物体との間の万有引力そのものである、という関係 (\(mg = G \frac{Mm}{R^2}\)) が全ての出発点です。
- 中心間距離: 万有引力の式で使う距離 \(r\) は、常に物体の「中心間」の距離です。人工衛星の問題では、地球の半径\(R\)と高度\(h\)を足し合わせる(\(r=R+h\))ことを忘れないようにしましょう。
- 円運動の力学:
- 核心: 人工衛星のように、ある中心天体の周りを円運動する物体のダイナミクスを記述する上で不可欠です。
- 理解のポイント:
- 向心力: 円運動を続けるためには、常に円の中心を向く力(向心力)が必要です。
- 向心力の供給源: この問題では、向心力は万有引力によって供給されています。この関係を運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{万有引力}}\)) として立式することが鍵となります。
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: 万有引力のような保存力のみが仕事をする系において、運動エネルギーと位置エネルギーの総和は一定に保たれます。
- 理解のポイント:
- 万有引力による位置エネルギー: 無限遠方を基準(\(U=0\))としたとき、位置エネルギーは \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と負の値になります。このマイナス符号は、物体が引力によって束縛されている状態を表す重要な意味を持ちます。
- 脱出の条件: 物体が天体の重力圏を脱出するための最小条件は、無限遠点でちょうど止まること、すなわち無限遠点での力学的エネルギーがゼロになることです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の惑星や月での物理現象: 火星の表面重力や、月から脱出するための速度など、中心天体の質量\(M\)と半径\(R\)を変えるだけで同じ考え方が適用できます。
- 異なる軌道の衛星: 楕円軌道を周回する衛星のエネルギー保存則(ケプラーの第2法則に関連)や、異なる円軌道間の移動に必要なエネルギー計算などに応用されます。
- 二重星(連星系)の運動: 2つの星が共通の重心の周りを回る問題。それぞれの星について運動方程式を立てる必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 中心となる力は何か?: 問題の状況において、物体に作用している主要な力は何か(この問題群では一貫して万有引力)を特定します。
- 運動の形態はどのようなものか?: 対象となる物体が静止しているのか、等速円運動をしているのか、あるいは地表から打ち上げられるのかを判断し、それぞれに適した法則(力のつり合い、円運動の運動方程式、エネルギー保存則)を選択します。
- エネルギー保存則は適用可能か?: 保存力である万有引力のみが関わる運動なので、エネルギー保存則は非常に強力なツールになります。特に、速さと位置(距離)の関係を問う問題で有効です。
- \(GM = gR^2\) の置き換え: 問題文で \(M\) や \(G\) が与えられず、代わりに \(g\) と \(R\) が与えられている場合、この関係式を使って式を書き換える必要があることを見抜きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 円運動における軌道半径 \(r\) の誤認識:
- 誤解: 人工衛星の軌道半径を、地球の半径 \(R\) そのものとしてしまう。
- 対策: 地表からの「高さ」\(h\) なのか、地球中心からの「距離」\(r\) なのかを問題文で正確に区別します。必ず \(r = R+h\) の関係を意識し、図を描いて確認する癖をつけましょう。
- 万有引力による位置エネルギーの符号の誤り:
- 誤解: 位置エネルギーを \(U = +G\frac{Mm}{r}\) と正の値にしてしまう。
- 対策: 万有引力は引力なので、無限遠(基準点, U=0)から近づくにつれて位置エネルギーは「減少」します。したがって、必ず負の値になることを理解し、\(U = -G\frac{Mm}{r}\) と覚えます。
- 第1宇宙速度と第2宇宙速度の混同:
- 誤解: \(v_1 = \sqrt{gR}\) と \(v_2 = \sqrt{2gR}\) の式を混同したり、どちらがどちらか分からなくなったりする。
- 対策: 「周回する(第1)」よりも「脱出する(第2)」方が大きな速度が必要、と物理的な意味と結びつけて覚えます。したがって、\(\sqrt{2}\)倍だけ大きい方が第2宇宙速度です。また、導出過程(円運動の運動方程式 vs エネルギー保存則)の違いを理解しておくことも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1) (力のつり合い):
- 選定理由: 「地表での重力」と「万有引力」という2つの力の関係性を問われているため。
- 適用根拠: 「重力」という日常的な力の正体が、物理学の普遍的な法則である「万有引力」であることを結びつけるため、力の等式を立てるのが最も直接的です。
- 問(2) (円運動の運動方程式):
- 選定理由: 「等速円運動」というキーワードから。
- 適用根拠: 円運動を維持するためには向心力が必要です。その向心力が何によって供給されているのか(この場合は万有引力)を特定し、運動方程式 \(m\frac{v^2}{r}=F\) を立てるのが円運動解析の王道です。
- 問(4) (力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 「打ち上げて無限の遠くへ」という、始点と終点の状態が明確な運動であり、途中の経路は問われていないため。
- 適用根拠: 万有引力は保存力なので、運動のどの時点でも力学的エネルギーは一定です。運動方程式を積分して解くよりも、エネルギー保存則を用いる方がはるかに計算が簡単になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一:
- 特に注意すべき点: 問(3)の数値計算で、半径が km 単位で与えられています。これを m 単位に直さずに計算すると、桁が大きくずれてしまいます。
- 日頃の練習: 計算を始める前に、すべての物理量をSI基本単位(m, kg, s)に変換する習慣をつけます。
- 文字式の置き換え:
- 特に注意すべき点: \(GM = gR^2\) の関係式は非常に便利ですが、どのタイミングで使うかを見極めることが重要です。通常は、求められている変数の形(例:「\(R, g\) を用いて表せ」)に合わせて、最終段階で置き換えるのが最も間違いが少ないです。
- 日頃の練習: 複数の関係式がある問題で、どの式をどの順番で代入すれば最も計算が楽になるか、試行錯誤する練習をします。
- 平方根の計算:
- 特に注意すべき点: 問(3)の \(\sqrt{64 \times 10^6}\) のような計算では、\(\sqrt{10^6} = 10^3\) のように、指数部分を半分にすることを間違えないようにします。
- 日頃の練習: 指数計算や平方根の計算を日頃から練習し、スムーズに処理できるようにしておきます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 速さ \(v\): 高度\(h\)が大きくなるほど、速さ\(v\)は小さくなる。これは、遠くを回る惑星ほど公転速度が遅いというケプラーの法則の感覚とも一致します。
- (3)と(4)の比較: 第2宇宙速度 \(v_2 = \sqrt{2gR}\) が、第1宇宙速度 \(v_1 = \sqrt{gR}\) よりも大きい (\(v_2 = \sqrt{2} v_1\)) という結果は、「地球を周回する」よりも「地球から脱出する」方がより大きなエネルギー(速さ)を必要とするという物理的な直観と完全に一致します。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし地球の質量 \(M\) がゼロだったら: 万有引力がなくなり、\(g=0, v_1=0, v_2=0\) となります。これは、引力がなければ衛星は軌道を描かず、脱出するのに速度は不要という状況と一致します。
- もし地球の半径 \(R\) が無限大に大きかったら: \(v_1 = \sqrt{GM/R} \rightarrow 0\), \(v_2 = \sqrt{2GM/R} \rightarrow 0\) となります。これは、非常に大きな天体では、その表面から少し離れるだけでも莫大なエネルギーが必要で、周回や脱出が困難になるというイメージと一致します。
問題52 (新潟大+大阪公立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、静止衛星の基本的な条件から始まり、特定の軌道での運動、さらにはロケットのようにガスを噴射して加速するという、よりダイナミックな状況までを扱います。万有引力、円運動の力学、力学的エネルギー保存則、そして運動量保存則という、高校物理における重要な柱となる法則を総合的に活用する能力が試されます。
- 地球の質量:\(M\)
- 万有引力定数:\(G\)
- (1) 地球の自転周期:\(T\)
- (2) 物体Aは初期状態では地球の中心Oから距離 \(r\) の位置で静止している。
- (2)(ウ) 噴射前のガスを含めた物体Aの質量:\(m_0\)
- (1) 地球の自転周期を \(T\) として、静止衛星の円軌道の半径 \(r\) を \(M, G, T\) で表せ。
- (2) 地球の中心Oから距離 \(r\) の位置で静止している物体Aがガス噴射をして静止衛星になろうとする。
- (ア) 静止衛星となるための速さ \(v\) を \(r, M, G\) で表せ。
- (イ) 噴射したガスが無限遠に達するのに必要な速さ \(u\) を \(r, M, G\) で表せ。
- (ウ) 噴射前のガスを含めたAの質量を \(m_0\) とし、噴射するガスの速さを (イ)の \(u\) とする。噴射すべきガスの質量 \(m_G\) を \(m_0\) で表せ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2)(ア) 静止衛星となるための速さ\(v\)の別解: 慣性系における運動方程式を用いる解法
- 模範解答が人工衛星と共に回転する座標系(非慣性系)で遠心力とのつり合いを考えるのに対し、別解では静止した宇宙空間の座標系(慣性系)で、万有引力が向心力として働くという運動方程式を立式します。
- 問(2)(ア) 静止衛星となるための速さ\(v\)の別解: 慣性系における運動方程式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「向心力」という概念と、それが具体的な力(この場合は万有引力)によって供給されるという、円運動の動力学的な本質への理解が深まります。
- 異なる視点の学習: 非慣性系(遠心力とのつり合い)と慣性系(運動方程式)という、二つの異なる視点から同じ現象を解析することで、思考の柔軟性が養われます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、立式の考え方が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、主に以下の物理法則を理解し、適用することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 質量を持つ物体同士が引き合う力。
- 円運動の力学: 物体が円軌道を描くための条件、特に向心力。
- 静止衛星の条件: 地球の自転と同じ周期で同じ向きに回転し、地上から見て静止して見える衛星。
- 力学的エネルギー保存則: ガスが地球の引力を振り切って無限遠に達する条件を考える際に用います。
- 運動量保存則: 物体Aがガスを噴射して自身が加速する、いわゆる「分裂」や「ロケットの原理」と同じ状況で用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず静止衛星の軌道条件を整理します(問(1))。
- 次に特定の軌道 \(r\) での円運動に必要な速さ(問(2)(ア))と、その軌道からガスが脱出する速さ(問(2)(イ))を求めます。
- 最後に、これらの結果を用いて、物体がガスを噴射して加速する際の運動量保存則から必要なガス質量を導き出します(問(2)(ウ))。
問(1)
思考の道筋とポイント
静止衛星は、地球の自転と同じ周期 \(T\) で、地球の自転と同じ向きに、赤道上空を円運動します。この円運動を実現するためには、地球と衛星の間に働く万有引力が、衛星の円運動に必要な向心力として作用している必要があります。角速度を \(\omega\) とすると、\(\omega = \frac{2\pi}{T}\) の関係があります。
この設問における重要なポイント
- 静止衛星の公転周期は、地球の自転周期 \(T\) に等しい。
- 円運動の向心力が万有引力と等しいという関係式を立てる。
- 角速度 \(\omega\) と周期 \(T\) の関係 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を代入し、軌道半径 \(r\) について解く。
具体的な解説と立式
静止衛星の質量を \(m\)、その円軌道の半径を \(r\) とします。
静止衛星は地球の自転と同じ周期 \(T\) で円運動するため、その角速度 \(\omega\) は、
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} $$
と表されます。
この衛星が円運動を続けるためには向心力が必要であり、その大きさは \(F_{\text{向心力}} = mr\omega^2\) です。この向心力は、地球(質量 \(M\))と衛星(質量 \(m\))の間に作用する万有引力 \(F_{\text{万有引力}} = G\frac{Mm}{r^2}\) によって供給されます。
したがって、運動方程式は、
$$ (\text{向心力}) = (\text{万有引力}) $$
$$ mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2} $$
という関係式が成り立ちます。この式に \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を代入し、\(r\) について解きます。
使用した物理公式
- 角速度と周期の関係: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\)
- 円運動の向心力: \(F = mr\omega^2\)
- 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
運動方程式に \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を代入します。
$$ mr \left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 = G\frac{Mm}{r^2} $$
両辺から衛星の質量 \(m\) を消去し、式を整理します。
$$ r \frac{4\pi^2}{T^2} = \frac{GM}{r^2} $$
\(r\) について整理するため、両辺に \(r^2\) と \(\frac{T^2}{4\pi^2}\) を掛けると、
$$ r^3 = \frac{GMT^2}{4\pi^2} $$
最後に、両辺の3乗根をとって \(r\) を求めます。
$$ r = \left(\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{\frac{1}{3}} $$
静止衛星は、地球が1回転するのと同じ時間で、地球の周りをちょうど1周します。このとき、衛星が円軌道を保つためには、地球が衛星を引きつける力(万有引力)が、衛星が円運動をするのに必要な力(向心力)と等しくなっている必要があります。この力のバランスを表す式を立て、軌道の半径 \(r\) について解くと答えが得られます。
静止衛星の円軌道の半径 \(r\) は \(r = \left(\frac{GMT^2}{4\pi^2}\right)^{\frac{1}{3}}\) と表されます。この結果から、静止衛星の軌道半径は、地球の質量 \(M\) と自転周期 \(T\) によって一意に決まり、衛星自身の質量には依存しないことが分かります。
問(2)(ア)
思考の道筋とポイント
地球の中心Oから特定の距離 \(r\) にある物体Aが円運動をして衛星になるための速さ \(v\) を求めます。質量 \(m\) の物体Aが半径 \(r\) の円軌道を速さ \(v\) で等速円運動するためには、地球からの万有引力が向心力として働く必要があります。模範解答では、人工衛星と共に回転する座標系(非慣性系)で、万有引力と遠心力がつり合っていると考えて立式します。
この設問における重要なポイント
- 円運動の軌道半径は、問題文で与えられた \(r\) である。
- 人工衛星から見たとき、万有引力と遠心力がつり合っていると考える。
具体的な解説と立式
衛星となった後の物体Aの質量を \(m\) とします。この物体Aが、地球の中心から距離 \(r\) の円軌道を速さ \(v\) で等速円運動していると考えます。
人工衛星と共に回転する座標系から見ると、衛星には軌道の中心から遠ざかる向きに大きさ \(m \frac{v^2}{r}\) の遠心力が働いているように見えます。
この遠心力と、地球の中心に向かう万有引力 \(G \frac{M m}{r^2}\) がつり合っているため、力のつり合いの式は、
$$ (\text{遠心力}) = (\text{万有引力}) $$
$$ m \frac{v^2}{r} = G \frac{M m}{r^2} $$
この方程式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
- 遠心力: \(F_{\text{遠心力}} = m \frac{v^2}{r}\)
- 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
力のつり合いの式から始めます。
$$ m \frac{v^2}{r} = G \frac{M m}{r^2} $$
両辺を \(m\) で割り、\(r\) を掛けると、
$$ v^2 = G \frac{M}{r} $$
\(v > 0\) なので、
$$ v = \sqrt{\frac{GM}{r}} $$
ある高さで物体が地球の周りを安定して円運動するためには、特定の速さが必要です。宇宙飛行士の視点から見ると、外向きに感じる「遠心力」と、地球に引かれる「万有引力」がちょうど釣り合っています。この力のつり合いの式を解くことで、必要な速さが計算できます。
地球の中心から距離 \(r\) の位置で円運動するための速さ \(v\) は \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\) と表されます。これは、その軌道におけるいわゆる「第1宇宙速度」に相当する速さです。この式から、軌道半径 \(r\) が大きいほど、必要な円運動の速さ \(v\) は小さくなることがわかります。
思考の道筋とポイント
静止した宇宙空間の座標系(慣性系)から人工衛星の運動を観測します。この場合、人工衛星は地球からの万有引力を向心力として等速円運動をしている、と捉えます。この関係を運動方程式として立式します。
この設問における重要なポイント
- 円運動を持続させるためには、中心に向かう力(向心力)が必要であることを理解する。
- この問題では、向心力が万有引力によって供給されていることを認識する。
具体的な解説と立式
静止した座標系から見ると、衛星(質量\(m\))は、地球からの万有引力を受けて、地球の中心を中心とする半径 \(r\) の円運動をしています。
この円運動に必要な向心力の大きさは \(m \frac{v^2}{r}\) です。
この向心力は、万有引力 \(G \frac{Mm}{r^2}\) によって供給されているので、運動方程式は、
$$ (\text{向心力}) = (\text{万有引力}) $$
$$ m \frac{v^2}{r} = G \frac{M m}{r^2} $$
この式は、主たる解法で立てた式と全く同じ形になります。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式(向心力): \(m \frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
- 万有引力の法則: \(F = G \frac{m_1 m_2}{r^2}\)
主たる解法と全く同じ計算過程を経て、同じ結果が得られます。
$$ v = \sqrt{\frac{GM}{r}} $$
宇宙の動かない場所から人工衛星を見ていると想像してください。人工衛星はまっすぐ進もうとしますが、地球が万有引力で常に内側に引っ張るので、結果として円を描いて運動します。この「内側に引っ張る力」が「向心力」です。つまり、「向心力=万有引力」という運動の法則を立てることで、人工衛星の速さを計算できます。
主たる解法と完全に一致した結果が得られました。遠心力(非慣性系)で考えるか、向心力(慣性系)で考えるかは、観測者の視点の違いであり、物理的には等価な現象を記述しています。
問(2)(イ)
思考の道筋とポイント
噴射されたガスが、噴射された地点(地球中心から距離 \(r\))から無限遠に到達するために必要な最小の速さ \(u\) を考えます。これは、ガスが地球の重力ポテンシャルエネルギーの束縛から逃れて無限の彼方へ飛び去るための速さ、すなわちその地点における脱出速度を求める問題です。この種の問いには、力学的エネルギー保存則が非常に有効です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則を適用する。
- 万有引力による位置エネルギーの公式 \(U = -G\frac{Mm}{r_{\text{距離}}}\) を用いる。この式は、無限遠方を位置エネルギーの基準点(\(U=0\))とした場合のものです。
- 「無限遠に達するのに必要な速さ」の最小値を考えるため、無限遠点ではガスの運動エネルギー \(K=0\)、かつ位置エネルギー \(U=0\) となる条件を設定する。
具体的な解説と立式
噴射されたガスの質量を \(m_G\) とします。
ガスが地球の中心から距離 \(r\) の地点で噴射され、速さ \(u\) を持った瞬間の力学的エネルギー \(E_{\text{噴射時}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{噴射時}} &= (\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}m_G u^2 + \left(-G\frac{Mm_G}{r}\right)
\end{aligned}
$$
ガスが無限遠点に到達してちょうど静止したとき、その力学的エネルギー \(E_{\text{無限遠}}\) は、
$$ E_{\text{無限遠}} = 0 + 0 = 0 $$
力学的エネルギーは保存されるので、\(E_{\text{噴射時}} = E_{\text{無限遠}}\) より、
$$ \frac{1}{2}m_G u^2 – G\frac{Mm_G}{r} = 0 $$
この方程式を \(u\) について解きます。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 万有引力による位置エネルギー: \(U(r_{\text{距離}}) = -G\frac{Mm}{r_{\text{距離}}}\)
力学的エネルギー保存則の式から始めます。
$$ \frac{1}{2}m_G u^2 – G\frac{Mm_G}{r} = 0 $$
移項して、
$$ \frac{1}{2}m_G u^2 = G\frac{Mm_G}{r} $$
両辺からガスの質量 \(m_G\) を消去し、2倍すると、
$$ u^2 = \frac{2GM}{r} $$
\(u > 0\) なので、
$$ u = \sqrt{\frac{2GM}{r}} $$
ガスが地球の引力を振り切って、はるか遠くまで飛んでいくためには、ある一定以上の速さが必要です。この「ギリギリ無限遠まで到達できる最小の速さ」を求めるには、エネルギーの考え方を使います。噴射された瞬間のガスの「運動エネルギー」と「地球の引力による位置エネルギー(マイナスの値)」の合計が、無限遠でのエネルギー(ゼロ)と等しくなる、というエネルギー保存の式を立てて解きます。
噴射したガスが無限遠に達するのに必要な最小の速さ \(u\) は \(u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\) と表されます。これは、地球中心から距離 \(r\) の地点における脱出速度に相当します。(ア)で求めた同じ距離 \(r\) での円運動の速さ \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\) と比較すると、\(u = \sqrt{2} v\) という関係があることがわかります。
問(2)(ウ)
思考の道筋とポイント
噴射前の物体A(ガスを含む、質量 \(m_0\))は静止しています。この物体Aからガス(質量 \(m_G\))を噴射すると、残りの部分(衛星本体、質量は \(m_0 – m_G\))は反動で逆向きに動き出します。この現象は「分裂」と見なすことができ、系に外力が働かない(または内力に比べて無視できる)とすれば、系の全運動量は保存されます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則を適用する。噴射の前後で、物体A全体(ガス+衛星本体)からなる系の全運動量は等しく保たれる。
- 噴射前の系の全運動量は \(0\) である(物体Aは静止しているため)。
- 噴射後、ガスと衛星本体は互いに逆向きに運動する。それぞれの運動量の大きさが等しくなるように式を立てる。
- (ア)で求めた衛星の速さ \(v\) と、(イ)で求めたガスの速さ \(u\) の結果を代入し、未知数であるガスの質量 \(m_G\) について解く。
具体的な解説と立式
噴射前の物体Aの全質量は \(m_0\) であり、静止しているため、その運動量は \(P_{\text{前}} = 0\) です。
ガス(質量 \(m_G\))を速さ \(u\) で噴射すると、ガスの運動量の大きさは \(m_G u\) となります。
その結果、残りの衛星本体(質量は \(m_{\text{衛星}} = m_0 – m_G\))は、速さ \(v\) で逆向きに運動します。衛星本体の運動量の大きさは \((m_0 – m_G)v\) となります。
運動量保存則より、噴射後の全運動量も \(0\) でなければならないため、ガスと衛星本体の運動量の大きさは等しくなります。
$$ (\text{衛星本体の運動量の大きさ}) = (\text{ガスの運動量の大きさ}) $$
$$ (m_0 – m_G)v = m_G u $$
この式に、(ア)で求めた \(v\) と、(イ)で求めた \(u\) を代入して \(m_G\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\)
- 運動量: \(p = mv\)
- (ア)の結果: \(v = \sqrt{\frac{GM}{r}}\)
- (イ)の結果: \(u = \sqrt{\frac{2GM}{r}}\)
運動量保存則の式に、(ア)と(イ)の結果を代入します。
$$ (m_0 – m_G)\sqrt{\frac{GM}{r}} = m_G \sqrt{\frac{2GM}{r}} $$
両辺に共通して含まれる因子 \(\sqrt{\frac{GM}{r}}\) で割ると、
$$ m_0 – m_G = m_G \sqrt{2} $$
\(m_G\) を含む項を右辺に集めます。
$$ m_0 = m_G + \sqrt{2}m_G $$
右辺を \(m_G\) でくくり出します。
$$ m_0 = (1 + \sqrt{2})m_G $$
\(m_G\) について解くと、
$$ m_G = \frac{m_0}{1 + \sqrt{2}} $$
分母を有理化するために、分母と分子に \((\sqrt{2}-1)\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
m_G &= \frac{m_0(\sqrt{2}-1)}{(\sqrt{2}+1)(\sqrt{2}-1)} \\[2.0ex]
&= \frac{m_0(\sqrt{2}-1)}{2-1} \\[2.0ex]
&= (\sqrt{2}-1)m_0
\end{aligned}
$$
物体が静止した状態から、その一部(ガス)を噴射すると、残りの部分(衛星)は反動で反対方向に動き出します。このとき、「ガスが後ろに行く勢い」と、「衛星が前に進む勢い」が同じ大きさになります。この「勢いのつり合い」の式を立て、(ア)と(イ)で求めた速さを代入して、必要なガスの質量を計算します。
噴射すべきガスの質量 \(m_G\) は \(m_G = (\sqrt{2}-1)m_0\) と表されます。
\(\sqrt{2} \approx 1.414\) ですから、\(m_G \approx 0.414 m_0\) となります。
これは、衛星が目標の速度を得るためには、噴射前の全質量の約41.4%に相当する質量のガスを噴射する必要があることを意味しています。\(m_G\) は正の値で、かつ元の全質量 \(m_0\) よりも小さいため、物理的に妥当な範囲の値であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力と円運動の関連性:
- 核心: 天体の周りを物体が円運動する場合、その向心力は万有引力によって供給されます。この基本的な関係から運動方程式 \(mr\omega^2 = G\frac{Mm}{r^2}\) または \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) を立てる能力は、この種の問題で繰り返し問われます。
- 理解のポイント:
- 静止衛星の条件: 静止衛星は地球の自転と同じ周期 \(T\) で円運動します。この条件から角速度 \(\omega = 2\pi/T\) が決まり、軌道半径が一意に定まります。
- 向心力: 円運動を維持するためには、常に円の中心を向く力(向心力)が必要です。その供給源が万有引力であることを見抜くことが重要です。
- 力学的エネルギー保存則(特に脱出速度の概念):
- 核心: 物体が天体の重力圏を脱出して無限遠に到達するための最小速度(脱出速度)を考察する際には、力学的エネルギー保存則が極めて有効なツールとなります。
- 理解のポイント:
- 万有引力による位置エネルギー: 無限遠方を基準(\(U=0\))としたとき、位置エネルギーは \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と負の値になります。このマイナス符号は、物体が引力によって束縛されている状態を表す重要な意味を持ちます。
- 脱出の条件: 物体が天体の重力圏を脱出するための最小条件は、無限遠点でちょうど止まること、すなわち無限遠点での力学的エネルギーがゼロになることです。
- 運動量保存則(特に分裂やガス噴射の現象):
- 核心: ガス噴射のように、系が内部からの力(内力)によって複数の部分に分裂し、各部分が運動を開始する際には、その系全体の運動量が保存されます。
- 理解のポイント: 噴射前の全運動量と、噴射後の各部分の運動量のベクトル和が等しくなります。特に、噴射前が静止している場合は、噴射後の各部分の運動量のベクトル和はゼロ、つまり運動量の大きさは等しく向きが逆になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の惑星や月での物理現象: 火星の表面重力や、月から脱出するための速度など、中心天体の質量\(M\)と半径\(R\)を変えるだけで同じ考え方が適用できます。
- ロケットが多段式で燃料を段階的に噴射しながら加速していく問題: 運動量保存則を繰り返し適用することで解析できます。
- 二重星(連星系)の運動: 2つの星が共通の重心の周りを回る問題。それぞれの星について運動方程式を立てる必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「静止衛星」というキーワード: 地球(または中心天体)の自転周期と公転周期が同期していることを意味します。角速度 \(\omega\) が重要な役割を果たすことが多いです。
- 「円運動」という記述: 向心力は何か?を自問します。多くの場合、万有引力がその役割を担っていないか確認します。
- 「無限遠に達する」「脱出する」といった表現: 力学的エネルギー保存則が使えないか?脱出速度の概念が関連していないか?を疑います。
- 「ガス噴射」「分裂」「衝突」「合体」といった現象: 運動量保存則が適用できないか?を考えます。噴射や分裂の前後での運動量を比較します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静止衛星の周期の扱い:
- 誤解: 地球の自転周期 \(T\) を正しく用いることを忘れたり、あるいは別の周期の値で誤って考えてしまったりする。
- 対策: 「静止」衛星という言葉の意味を正確に理解し、地球の自転と公転が同期していること、つまり周期が同じであることを常に意識します。
- 運動量保存則における符号の取り扱いミス:
- 誤解: ガスと衛星本体が互いに逆向きに進むことを考慮せず、運動量を単純に足してしまう。
- 対策: 運動量がベクトル量であることを常に意識し、図を描いて向きを確認します。一直線上の運動では、座標軸を設定し、速度の正負で向きを区別するのが最も確実です。
- 力学的エネルギー保存則と運動量保存則の適用場面の混同:
- 誤解: ガス噴射の問題でエネルギー保存則を使おうとしたり、脱出速度の問題で運動量保存則を使おうとしたりする。
- 対策: エネルギー保存則は「状態の変化(速さや位置が変わる)」を、運動量保存則は「相互作用(衝突や分裂)」を扱うのに適している、と役割を区別して理解します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1) (円運動の運動方程式):
- 選定理由: 「静止衛星」というキーワードから、「地球の自転と同期した円運動」を連想し、「周期が \(T\) である」という条件を抽出します。
- 適用根拠: 円運動であることから「向心力が必要」と考え、その供給源が「万有引力」であると結びつけます。角速度 \(\omega\) を用いた向心力の表現 \(mr\omega^2\) が、周期 \(T\) との関連で便利であると判断します。
- 問(2)(イ) (力学的エネルギー保存則):
- 選定理由: 「無限遠に達する」および「必要な速さ(最小値)」というキーワードから、「エネルギー的な観点での条件」を考えます。
- 適用根拠: 万有引力は保存力なので、運動のどの時点でも力学的エネルギーは一定です。始点(噴射時)と終点(無限遠)の状態を比較するだけで解けるため、運動方程式を解くよりはるかに簡単です。
- 問(2)(ウ) (運動量保存則):
- 選定理由: 「ガス噴射」という現象は、系が内力によって「分裂」する過程と捉えられます。
- 適用根拠: このような相互作用による速度変化を扱う際には、「運動量保存則」が最も基本的な法則です。噴射の前後で、外力(万有引力)の影響は無視できるほど短時間だと考え、系の全運動量は保存されるとします。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 記号の混同を防ぐ:
- 特に注意すべき点: \(r\), \(v\), \(u\) のように、同じ記号が問題の異なる部分で異なる物理量や条件を表すために使われる場合があります。これを混同しないよう、問題文を注意深く読みます。
- 日頃の練習: 物理量を文字で置く際に、何を表す文字なのかを常に意識する。添え字(例:\(v_{\text{衛星}}\))を省略しすぎないことも有効です。
- 平方根の計算と変形:
- 特に注意すべき点: \(\sqrt{A}\sqrt{B}=\sqrt{AB}\) や、分数の平方根 \(\sqrt{A/B} = \sqrt{A}/\sqrt{B}\) といった変形を、符号も含めて正確に行うことが求められます。特に問(2)(ウ)の計算過程では、\(\sqrt{2}\) という因子が現れるため、その扱いには注意が必要です。
- 日頃の練習: 文字式の計算練習を反復し、基本的な代数計算のルールを体に染み込ませる。
- 分母の有理化:
- 特に注意すべき点: 計算結果の最終的な形を整えるために、分母に無理数が含まれる場合は有理化を行うのが一般的です。
- 日頃の練習: \(1/(1+\sqrt{2})\) のような形の分数の有理化は、物理の問題でも頻出するパターンなので、スムーズに計算できるようにしておきます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 静止衛星の軌道半径 \(r\): 地球の自転周期 \(T\) が大きいほど \(r\) は大きくなるか?(式を見ると \(T^{2/3}\) に比例しているので、大きくなります。これは直感的にも、ゆっくり回るためにはより遠くの軌道が必要そうです)。
- (2)(ア)の円運動速度 \(v\) と(イ)の脱出速度 \(u\) の関係: \(u=\sqrt{2}v\) という関係は、同じ軌道半径 \(r\) での比較であれば常に成り立ちます。脱出するためには円運動するよりも大きな速度が必要である、というのは直感的にも理解できます。
- (2)(ウ)の噴射ガスの質量 \(m_G = (\sqrt{2}-1)m_0\): 計算結果として得られたガスの質量 \(m_G\) は、元の全質量 \(m_0\) よりも小さいか?(\((\sqrt{2}-1) \approx 0.414\) であり、これは \(1\) より小さいので、\(m_G < m_0\) となり妥当です)。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし地球の質量 \(M\) がゼロだったら: 万有引力がなくなり、\(r\)は意味をなさず、\(v=0, u=0\) となります。これは、引力がなければ衛星は軌道を描かず、脱出するのに速度は不要という状況と一致します。
- もし噴射するガスの速さ \(u\) が非常に大きかったら: 問(2)(ウ)の運動量保存の式 \((m_0-m_G)v = m_G u\) から、同じ衛星速度\(v\)を得るのに必要なガス質量\(m_G\)は非常に小さくて済むことがわかります。これは、高性能なロケットエンジンほど燃料効率が良いという事実と一致します。
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問題53 (大阪公立大+東京理科大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、地表から打ち上げられた物体の運動を、万有引力の影響下で考察するものです。鉛直打ち上げから円運動、さらには楕円運動へと展開し、それぞれの運動形態で重要となる物理法則(力学的エネルギー保存則、円運動の条件、ケプラーの法則)を総合的に活用する力を試されます。宇宙の壮大なスケールでの物体の振る舞いを、基本法則から丁寧に解き明かしていきましょう。
- 小物体の質量:\(m \, \text{[kg]}\)
- 地球の半径:\(R \, \text{[m]}\)
- 地球の質量:\(M \, \text{[kg]}\)
- 万有引力定数:\(G \, \text{[N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\text{]}\)
- 物体は地表から鉛直上方に打ち上げられる。
- 点Aは地球の中心Oから \(2R\) の距離にある。
- 点Bは地球の中心Oから \(6R\) の距離にあり、ABは楕円軌道の長軸となる。
- 地球の自転や大気の影響は無視してよい。
- (1) 物体の速度が地球の中心Oから \(2R\) の距離にある点Aで \(0\) となるための初速 \(v_0 \, \text{[m/s]}\)。
- (2) 物体が点Aで静止した瞬間、物体にOAに垂直な方向の速度 \(v \, \text{[m/s]}\) を与え、Oを中心とする半径 \(2R\) の等速円運動をさせるための \(v\) とその周期 \(T_0 \, \text{[s]}\)。
- (3) 点Aで物体に与える速さ \(v\) が問(2)で求めた値からずれた場合に描く楕円軌道について、
- (ア) 点Aと点Bにおける面積速度に注目し、点Bにおける速さ \(V \, \text{[m/s]}\) を \(v\) を用いて表す。
- (イ) その楕円軌道を描くための点Aでの速さ \(v\) を \(M, R, G\) を用いて表す。
- (ウ) この楕円軌道の周期 \(T \, \text{[s]}\) を、(2)で求めた円運動の周期 \(T_0\) を用いて表す。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3)(ウ) 楕円軌道の周期\(T\)の別解: 万有引力定数\(G\)と地球の質量\(M\)を用いて直接計算する解法
- 主たる解法がケプラーの第3法則を用いて、既知の円軌道との「比」で周期を求めるのに対し、別解では楕円軌道の周期の公式に直接、物理定数を代入して計算します。
- 問(3)(ウ) 楕円軌道の周期\(T\)の別解: 万有引力定数\(G\)と地球の質量\(M\)を用いて直接計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 公式の直接的な理解: ケプラーの第3法則の根底にある、周期が中心天体の質量と軌道の半長軸のみで決まるという関係式そのものへの理解が深まります。
- 解法の選択肢の拡大: 比較対象となる軌道がない場合や、周期そのものを物理定数で表すことが求められる問題にも対応できるようになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 質量を持つ物体間に働く引力で、\(F = G\frac{Mm}{r^2}\) と表されます。
- 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準として \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と定義されます。
- 力学的エネルギー保存則: 万有引力のような保存力のみが仕事をする場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定に保たれます。
- 円運動の運動方程式: 物体が等速円運動をするためには、中心に向かう向心力が必要です。
- ケプラーの法則: 惑星の運動に関する法則で、特に第2法則(面積速度一定)と第3法則(周期と半長軸の関係)が重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では鉛直打ち上げの最高点の問題をエネルギー保存則で解きます。
- (2)では円運動の条件から速さと周期を求めます。
- (3)では楕円運動を扱い、面積速度一定、エネルギー保存則、ケプラーの第3法則を順に適用して未知数を解決していきます。