問題131 (関東学院大+九州大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)(イ)の別解: 微積分を用いた体系的解法(磁束の微分)
- 模範解答が「変化量 \(\Delta \Phi / \Delta t\)」として平均の変化率を計算するのに対し、別解では「磁束 \(\Phi(t)\) の時間微分 \(d\Phi/dt\)」として瞬間の誘導起電力を定義から直接導出します。
- 設問(1)(エ)の別解: 電力の時間積分による解法
- 模範解答が「一定の電流 \(I_0\)」であることを利用して単純な掛け算でジュール熱を求めているのに対し、別解では「電力 \(P(t) = R I(t)^2\) を時間 \(t\) で積分する」という一般的な定義に基づいた計算を行います。これにより、電流が一定でない場合にも対応できる汎用的な視点を提供します。
- 設問(1)(イ)の別解: 微積分を用いた体系的解法(磁束の微分)
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分の解法: 物理現象の変化を「傾き(微分)」や「面積(積分)」として捉える視点は、グラフの読み取りや複雑な時間変化を扱う問題において不可欠なスキルです。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「時間変化する磁場による電磁誘導」です。
コイル自体は動かず、外部磁場 \(B\) が時間とともに変化することで、コイルを貫く磁束 \(\Phi\) が変化し、誘導起電力が生じる現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 磁束の定義: 一様な磁場 \(B\) が面積 \(S\) を垂直に貫くとき、磁束は \(\Phi = BS\) です。
- ファラデーの電磁誘導の法則: 誘導起電力 \(V\) は、磁束の時間変化率に比例します。\(V = -\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) または \(V = -\frac{d\Phi}{dt}\)。
- レンツの法則: 誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きに流れます。
- ジュール熱: 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるとき、単位時間に発生する熱(電力)は \(P = RI^2\) です。総熱量は電力の時間積分(一定なら積)で求まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、グラフから磁場 \(B\) の時間変化を読み取り、磁束 \(\Phi\) の式を立てます。そこから誘導起電力、電流、ジュール熱を順に計算します。
- (2)では、各区間(I, II, III)ごとの磁場の変化率(グラフの傾き)に着目し、誘導電流の大きさ向きを決定してグラフを描きます。
問(1)(ア)
思考の道筋とポイント
磁束 \(\Phi\) は磁束密度 \(B\) とコイルの面積 \(S\) の積です。
図2のグラフから、時間帯 I (\(0 \le t \le 2t_0\)) における \(B\) を時間 \(t\) の関数として表す必要があります。
この設問における重要なポイント
- グラフの読み取り: 図2のグラフは原点を通り、点 \((2t_0, B_0)\) を通る直線です。
- コイルの面積: 一辺 \(L\) の正方形なので、面積は \(S = L^2\) です。
具体的な解説と立式
まず、コイルの面積 \(S\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
S &= L^2
\end{aligned}
$$
次に、時間帯 I における磁束密度 \(B(t)\) を求めます。
グラフは原点を通り、傾きが一定の直線です。
\(t = 2t_0\) のとき \(B = B_0\) なので、傾きは \(\frac{B_0}{2t_0}\) です。
よって、\(B(t)\) は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
B(t) &= \frac{B_0}{2t_0} t
\end{aligned}
$$
磁束 \(\Phi(t)\) は \(B(t)\) と \(S\) の積です。
$$
\begin{aligned}
\Phi(t) &= B(t) \cdot S \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 磁束の定義: \(\Phi = BS\)
- 直線の式: \(y = ax\)
式①に \(B(t)\) と \(S\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Phi(t) &= \left( \frac{B_0}{2t_0} t \right) \cdot L^2 \\[2.0ex]
&= \frac{B_0 L^2}{2t_0} t
\end{aligned}
$$
磁石の強さ(磁束密度)が、時間とともに一定のペースで強くなっています。
コイルの面積は変わらないので、コイルを貫く磁力線の総数(磁束)も、磁石の強さに比例して増えていきます。
グラフの傾きから「1秒あたりどれくらい強くなるか」を読み取り、それに時間を掛けることで、ある時刻の磁束を式にしました。
答えは \(\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) です。
\(t=0\) で \(0\)、\(t=2t_0\) で \(B_0 L^2\) となり、グラフと整合します。
問(1)(イ)
思考の道筋とポイント
誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、ファラデーの電磁誘導の法則により、単位時間あたりの磁束の変化量で決まります。
(ア)で求めた \(\Phi\) が \(t\) に比例しているため、変化率は一定です。
この設問における重要なポイント
- ファラデーの法則: \(V = \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\)
- 変化率: 一次関数 \(y = ax\) の変化率(傾き)は \(a\) です。
具体的な解説と立式
誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、磁束の時間変化率の絶対値です。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
ここで、\(\Phi(t) = \frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) なので、時間 \(\Delta t\) の間の変化量 \(\Delta \Phi\) は、係数(傾き)に \(\Delta t\) を掛けたものになります。
あるいは、単に \(\Phi(t)\) の式の \(t\) の係数が変化率そのものです。
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\)
\(\Phi(t)\) の傾きを読み取ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} &= \frac{B_0 L^2}{2t_0}
\end{aligned}
$$
これを式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{B_0 L^2}{2t_0}
\end{aligned}
$$
磁束が一定のペースで増えているので、発生する電圧(誘導起電力)も一定の値になります。
その値は、先ほど求めた磁束の式の「傾き」の部分と同じです。
答えは \(\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) です。
定数となっており、時間帯 I では一定の電圧が発生し続けることを意味します。
思考の道筋とポイント
ファラデーの法則を微分形式 \(V = -\frac{d\Phi}{dt}\) で適用します。
磁束 \(\Phi(t)\) を時間 \(t\) で微分することで、瞬間の誘導起電力を求めます。
この設問における重要なポイント
- 微分の意味: 時間変化する物理量の「瞬間の変化率」は、その関数を時間で微分することで求まります。
- 一次関数の微分: \(\frac{d}{dt}(at) = a\) です。
具体的な解説と立式
誘導起電力 \(V\) の大きさは、磁束 \(\Phi(t)\) の時間微分の絶対値で与えられます。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \left| \frac{d\Phi}{dt} \right| \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
(ア)の結果 \(\Phi(t) = \frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) を用います。
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則(微分形): \(V = -\frac{d\Phi}{dt}\)
- 微分の公式: \(\frac{d}{dx}(cx) = c\)
\(\Phi(t)\) を \(t\) で微分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{d\Phi}{dt} &= \frac{d}{dt} \left( \frac{B_0 L^2}{2t_0} t \right) \\[2.0ex]
&= \frac{B_0 L^2}{2t_0}
\end{aligned}
$$
これを式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{B_0 L^2}{2t_0}
\end{aligned}
$$
磁束の式を時間 \(t\) で微分しました。
微分とはグラフの傾きを求める操作のことです。磁束のグラフは直線なので、どこで微分しても傾き(電圧)は一定の値になります。
メインの解法と同じ結果が得られました。
磁束が \(t^2\) など複雑な関数で変化する場合、この微分の手法が唯一の解法となります。
問(1)(ウ)
思考の道筋とポイント
誘導起電力 \(V_0\) と抵抗 \(R\) がわかっているので、オームの法則を用いて誘導電流 \(I_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\)
具体的な解説と立式
コイルを流れる誘導電流 \(I_0\) は、オームの法則より以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{V_0}{R} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\)
式④に(イ)の結果 \(V_0 = \frac{B_0 L^2}{2t_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{1}{R} \cdot \frac{B_0 L^2}{2t_0} \\[2.0ex]
&= \frac{B_0 L^2}{2 R t_0}
\end{aligned}
$$
発生した電圧を抵抗で割るだけで電流が求まります。
電圧が一定なので、流れる電流も一定です。
答えは \(\frac{B_0 L^2}{2 R t_0}\) です。
問(1)(エ)
思考の道筋とポイント
ジュール熱 \(Q_{\text{J}}\) は、消費電力 \(P\) と時間 \(t\) の積(電力が一定の場合)で求まります。
時間帯 I の長さは \(2t_0\) です。
この設問における重要なポイント
- 消費電力: \(P = R I^2\)
- ジュール熱: \(Q = P \times (\text{時間})\) (\(P\) が一定のとき)
具体的な解説と立式
単位時間あたりの発熱量(消費電力)\(P\) は、抵抗 \(R\) と電流 \(I_0\) を用いて \(P = R I_0^2\) です。
電流 \(I_0\) は時間帯 I (\(0 \le t \le 2t_0\)) の間、一定です。
したがって、この間に発生する総ジュール熱 \(Q_{\text{J}}\) は、電力と時間の積になります。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{J}} &= P \times (2t_0) \\[2.0ex]
&= R I_0^2 \cdot 2t_0 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ジュール熱: \(Q = RI^2 t\)
式⑤に(ウ)の結果 \(I_0 = \frac{B_0 L^2}{2 R t_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{J}} &= R \left( \frac{B_0 L^2}{2 R t_0} \right)^2 \cdot 2t_0 \\[2.0ex]
&= R \cdot \frac{B_0^2 L^4}{4 R^2 t_0^2} \cdot 2t_0 \\[2.0ex]
&= \frac{B_0^2 L^4}{2 R t_0}
\end{aligned}
$$
一定の電流が流れているので、1秒あたりの発熱量も一定です。
それに電流が流れていた時間(\(2t_0\) 秒)を掛け算して、トータルの熱量を計算しました。
答えは \(\frac{B_0^2 L^4}{2 R t_0}\) です。
別解として \(Q_{\text{J}} = V_0 I_0 \times 2t_0\) で計算しても同じ結果になります。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{J}} &= \frac{B_0 L^2}{2t_0} \cdot \frac{B_0 L^2}{2 R t_0} \cdot 2t_0 = \frac{B_0^2 L^4}{2 R t_0}
\end{aligned}
$$
思考の道筋とポイント
電力が時間変化する場合にも適用できる、積分の定義に基づいた解法です。
\(Q = \int P(t) dt\) を計算します。今回は \(P(t)\) が定数なので結果は積と同じになりますが、思考プロセスとして重要です。
この設問における重要なポイント
- ジュール熱の定義: \(Q = \int_{t_1}^{t_2} R \{I(t)\}^2 dt\)
具体的な解説と立式
時刻 \(t\) における電流を \(I(t)\) とすると、瞬間の消費電力は \(R \{I(t)\}^2\) です。
時間帯 I において \(I(t) = I_0\) (定数)です。
総熱量 \(Q_{\text{J}}\) は以下の積分で表されます。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{J}} &= \int_{0}^{2t_0} R I_0^2 \, dt \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ジュール熱(積分形): \(Q = \int RI^2 dt\)
被積分関数 \(R I_0^2\) は定数なので、積分の外に出せます。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{J}} &= R I_0^2 \int_{0}^{2t_0} dt \\[2.0ex]
&= R I_0^2 \left[ t \right]_{0}^{2t_0} \\[2.0ex]
&= R I_0^2 (2t_0 – 0) \\[2.0ex]
&= 2 R t_0 I_0^2
\end{aligned}
$$
これに \(I_0\) を代入すれば、メイン解法と同じ式になります。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{J}} &= \frac{B_0^2 L^4}{2 R t_0}
\end{aligned}
$$
熱量の計算を「電力のグラフの面積」として捉えました。
電力はずっと一定なので、グラフは横一直線になり、面積は長方形(縦×横)の計算と同じになります。
積分の計算からも同じ結果が得られました。
もし電流が時間とともに変化する場合でも、この方法なら正確に熱量を求めることができます。
問(2)
思考の道筋とポイント
各時間帯(I, II, III)における磁束の変化率(グラフの傾き)を調べ、誘導起電力と電流の大きさを求めます。
さらに、レンツの法則を用いて電流の向き(正負)を決定し、グラフを描きます。
この設問における重要なポイント
- グラフの傾き: \(B-t\) グラフの傾きが誘導起電力に比例します。
- レンツの法則: 磁束が増えるときは減らす向き(逆向き磁場)、減るときは増やす向き(同方向磁場)に電流が流れます。
- 電流の正の向き: 問題文より \(\text{A} \rightarrow \text{B}\) が正です。図1を見ると、これは反時計回りです。
具体的な解説と立式
各区間について検討します。
- 時間帯 I (\(0 \le t \le 2t_0\))
- 変化: 磁場 \(B\) は一定の割合で増加しています。
- 大きさ: (1)で求めた通り、電流の大きさは \(I_0\) です。
- 向き: 紙面表向き(\(\odot\))の磁束が増加しています。レンツの法則より、これを妨げる「裏向き(\(\otimes\))」の磁場を作る向きに電流が流れます。右ねじの法則より、これは「時計回り」です。
- 符号: 正の向き(\(\text{A} \rightarrow \text{B}\)、反時計回り)とは逆なので、電流値は \(-I_0\) です。
- 時間帯 II (\(2t_0 \le t \le 3t_0\))
- 変化: 磁場 \(B\) は一定(\(B_0\))です。変化率は \(0\) です。
- 大きさ: 誘導起電力は発生せず、電流は \(0\) です。
- 時間帯 III (\(3t_0 \le t \le 4t_0\))
- 変化: 磁場 \(B\) は一定の割合で減少しています。
- 大きさ: グラフの傾きを考えます。時間 \(t_0\) の間に \(B_0\) だけ減少しているので、変化率の大きさは \(\frac{B_0}{t_0}\) です。これは時間帯 I の変化率 \(\frac{B_0}{2t_0}\) の 2倍 です。よって、誘導起電力も電流も大きさは2倍の \(2I_0\) となります。
- 向き: 表向き(\(\odot\))の磁束が減少しています。レンツの法則より、これを補う「表向き(\(\odot\))」の磁場を作る向きに電流が流れます。右ねじの法則より、これは「反時計回り」です。
- 符号: 正の向き(\(\text{A} \rightarrow \text{B}\))と一致するので、電流値は \(+2I_0\) です。
使用した物理公式
- ファラデーの法則: \(V \propto -\frac{\Delta B}{\Delta t}\)
- レンツの法則
上記の分析をまとめると、
- \(0 \le t \le 2t_0\): \(I = -I_0\)
- \(2t_0 \le t \le 3t_0\): \(I = 0\)
- \(3t_0 \le t \le 4t_0\): \(I = +2I_0\)
これらをグラフにプロットします。
磁石の強さの変化グラフ(図2)を見ながら、その「傾き」に注目します。
- 最初はゆっくり登り坂(傾き一定) \(\rightarrow\) 一定の逆電流(時計回り)。
- 次は平坦(傾きゼロ) \(\rightarrow\) 電流なし。
- 最後は急な下り坂(傾きが最初の2倍) \(\rightarrow\) 2倍の強さの正電流(反時計回り)。
「登り」か「下り」かで電流の向きが逆転し、「坂の急さ」で電流の大きさが決まります。
グラフは以下のようになります。
- \(0 \sim 2t_0\): \(-I_0\) の一定値
- \(2t_0 \sim 3t_0\): \(0\)
- \(3t_0 \sim 4t_0\): \(+2I_0\) の一定値
磁束の変化が急なほど大きな電流が流れること、増減が逆転すると電流の向きも逆転することが反映されており、物理的に妥当です。
(グラフの形状)
縦軸に \(I\)、横軸に \(t\) をとる。
- \(0 \le t < 2t_0\) の区間: \(I = -I_0\) の水平な直線
- \(2t_0 \le t < 3t_0\) の区間: \(I = 0\) の水平な直線
- \(3t_0 \le t \le 4t_0\) の区間: \(I = 2I_0\) の水平な直線
(※不連続点は点線などでつなぐか、白丸・黒丸で区別するのが一般的ですが、物理のグラフとしては値の推移が明確であればよいです)
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ファラデーの電磁誘導の法則とグラフの傾き
- 核心: 誘導起電力 \(V\) は磁束 \(\Phi\) の値そのものではなく、「時間変化率(グラフの傾き)」で決まるという点が全てです。\(V = -\frac{d\Phi}{dt}\) という数式が、グラフ上では「傾き」として視覚化されることを深く理解する必要があります。
- 理解のポイント:
- 値と変化率の区別: 磁束が最大(\(B_0\))のとき、変化率はゼロ(平坦)なので起電力はゼロになります。逆に、磁束がゼロから立ち上がるときに変化率(傾き)が存在すれば起電力が発生します。「値が大きい=起電力が大きい」という直感的な誤解を捨てることが重要です。
- レンツの法則による符号の決定
- 核心: 「変化を妨げる」という自然界の慣性を表す法則です。数式上のマイナス符号(\(V = -\frac{d\Phi}{dt}\))の意味を、物理的な現象(電流の向き)として翻訳するプロセスです。
- 理解のポイント:
- 2段階の判定: ①磁束が増えているか減っているか(変化の向き)、②その変化を打ち消す磁場はどっち向きか(誘導磁場の向き)、③その磁場を作る電流はどっち回りか(右ねじの法則)。この3ステップを省略せずに踏むことがミス防止の鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コイルが磁場中を移動する問題: 今回は磁場 \(B\) が時間変化しましたが、コイルが動いて面積 \(S\) が変化する場合(\(V = -B\frac{dS}{dt}\))も全く同じロジック(傾き=電圧)で解けます。
- 交流電源: 磁束が \(\Phi = \Phi_0 \sin \omega t\) で変化する場合、その傾き(微分)は \(\cos \omega t\) となり、位相が90度ずれた電圧が発生します。これも「傾き」の概念の延長です。
- 相互誘導: 隣のコイルの電流 \(I_1\) が変化して磁束が変わる場合も、\(V_2 = -M\frac{dI_1}{dt}\) となり、やはり「電流グラフの傾き」が電圧になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 縦軸と横軸の確認: グラフが出たら、まず軸の物理量を確認します。\(B-t\) グラフなら傾きは電圧、\(v-t\) グラフなら傾きは加速度、面積は距離など、グラフの幾何学的意味(傾き・面積)を物理量と結びつけます。
- 区間ごとの挙動分析: グラフが折れ曲がる点(\(2t_0, 3t_0\) など)で区切り、それぞれの区間で「傾きは正か負か?」「急か緩やかか?」を言語化します。
- 定義への立ち返り: ジュール熱を求めるとき、電流が一定なら \(RI^2 t\)、変化するなら \(\int RI^2 dt\) と、常に定義式からスタートする癖をつけます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電流の向き(符号)のミス:
- 誤解: 「磁場が正だから電流も正」「磁場が増えているから正」といった安易な結びつけをしてしまう。
- 対策: 必ずレンツの法則(増えたら減らす、減ったら増やす)を経由してください。また、問題文で指定された「正の向き(\(\text{A} \rightarrow \text{B}\))」が時計回りか反時計回りかを、図に矢印で書き込んで視覚化しましょう。
- 変化率の計算ミス:
- 誤解: 区間 III の傾きを計算する際、時間幅が \(t_0\) であることを見落とし、区間 I と同じ \(2t_0\) で割ってしまう。あるいは、減少しているのに大きさ(絶対値)ではなくマイナスのまま計算して混乱する。
- 対策: 「横にいくつ進んで、縦にいくつ変化したか」を指差し確認します。区間 III は「横に \(1t_0\)、縦に \(-B_0\)」なので、傾きの大きさは \(B_0/t_0\) です。
- ジュール熱の計算範囲:
- 誤解: 全区間の熱量を求める問題と勘違いし、電流がゼロの区間や変化する区間も含めて計算してしまう。
- 対策: 問題文の「この時間内で(\(0 \le t \le 2t_0\))」という指定を見落とさないように、設問の条件部分にアンダーラインを引く習慣をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(1)(イ)での公式選択(平均の変化率 vs 微分):
- 選定理由: 模範解答(平均の変化率 \(\Delta/\Delta\))は、グラフが直線(一次関数)であるため、数学的に厳密な微分を使わなくても正確な値が出せる、最も簡易な方法です。別解(微分 \(d/dt\))は、曲線グラフの場合にも対応できる汎用的な方法です。
- 適用根拠: 磁束 \(\Phi\) が \(t\) の一次関数であるため、\(\Delta \Phi / \Delta t\) は定数となり、瞬間の変化率 \(d\Phi/dt\) と一致します。
- 問(1)(エ)での公式選択(積 vs 積分):
- 選定理由: 電流が一定値 \(I_0\) であるため、単純な掛け算 \(P \times t\) が最短ルートです。積分は、電流が時間変化する場合(例:交流や過渡現象)に必須となる考え方です。
- 適用根拠: 定積分の幾何学的意味は「面積」であり、高さ一定の長方形の面積は「底辺×高さ」で求まることと同義です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の感覚を持つ:
- 区間 I と III を比較するとき、「時間は半分、変化量は同じ」\(\rightarrow\)「だから傾き(電圧)は2倍」と、計算する前に直感で当たりをつけます。計算結果が \(2I_0\) になったとき、「予想通り」と確信を持てます。
- 単位の確認:
- \(V_0 = \frac{B_0 L^2}{2t_0}\) の単位を確認します。\([\text{T}] \cdot [\text{m}]^2 / [\text{s}] = [\text{Wb/s}] = [\text{V}]\) となり正しいです。
- \(I_0\) の式に \(R\) が分母にあるか(オームの法則 \(I=V/R\))、\(Q\) の式に \(R\) が分母にあるか(\(V^2/R \times t\) の形)などをチェックします。
- グラフの概形チェック:
- 自分で描いたグラフが、物理的なストーリー(増える\(\to\)一定\(\to\)減る)と合致しているか確認します。特に、磁束の変化が急なところでグラフの背が高くなっているか(\(|I|\)が大きいか)は重要なチェックポイントです。
問題132 (共通テスト)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(3)の別解1: 重心速度と相対速度を用いた解法
- 2つの導体棒の運動を、「重心の等速運動」と「相対速度の減衰運動」に分解して解析します。
- 模範解答が運動量保存則のみで最終状態を求めるのに対し、この解法では過渡現象(途中経過)も含めて理解します。
- 設問(3)の別解2: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式と回路方程式の連立)
- 運動方程式と回路方程式を連立微分方程式として立式し、速度の時間変化 \(v_{\text{P}}(t), v_{\text{Q}}(t)\) を数学的に厳密に導出します。
- 設問(3)の別解1: 重心速度と相対速度を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 重心・相対速度: 2体問題における物理的な構造(内力のみが働く系の重心保存など)を直感的に理解するのに役立ちます。
- 微積分: グラフの形状がなぜ指数関数的になるのか、なぜ対称になるのかを数式から完全に説明でき、物理現象の深い理解につながります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「磁場中を運動する2本の導体棒の相互作用」です。電磁誘導によって生じた電流が、磁場から力を受けて運動を変化させるという、電気と力学が融合した現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 誘導起電力(ローレンツ力による解釈): 磁場中を動く導体棒内の自由電子はローレンツ力を受け、これにより導体棒に起電力が発生します。大きさは \(V = vBl\) です。
- 電磁力(電流が磁場から受ける力): 磁場中を流れる電流は、\(F = IBl\) の力を受けます。向きはフレミングの左手の法則に従います。
- 運動量保存則: 水平方向の外力が働かない(または外力の和が0である)系では、全体の運動量の総和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、導体棒Pの運動によって生じる誘導起電力を求め、オームの法則から電流を計算します。
- (2)では、その電流が磁場から受ける力を、PとQそれぞれについて考えます。
- (3)では、力が導体棒の運動をどう変化させるかを考え、最終的な定常状態(等速度運動)を運動量保存則を用いて求めます。また、初期状態の運動方程式からグラフの接線の傾き(加速度)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
時刻 \(t=0\) において、導体棒Pだけが速度 \(v_0\) で動いています。
導体棒P内の自由電子が磁場からローレンツ力を受けることで、Pは電池(起電力)として振る舞います。
回路全体の抵抗を正しく見積もり、オームの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 誘導起電力の向き: ローレンツ力(電荷 \(q\) が速度 \(\vec{v}\) で磁場 \(\vec{B}\) 中を動くときに受ける力)の向きから判断します。
- 回路の全抵抗: 問題文に「単位長さあたりの抵抗値は \(r\)」とあります。回路に含まれる導体棒の長さはレール間隔 \(d\) に相当します。PとQの両方に抵抗があることに注意が必要です。
具体的な解説と立式
まず、導体棒Pに生じる誘導起電力 \(V_0\) の大きさを求めます。
磁束密度 \(B\)、導体棒の長さ(レール間隔)\(d\)、速度 \(v_0\) より、以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= v_0 B d \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、電流の向きを決定します。
導体棒P内の正電荷(キャリア)に着目します。
速度 \(\vec{v}\) は右向き、磁場 \(\vec{B}\) は上向きです。
ローレンツ力の向きは、\(\vec{v}\) から \(\vec{B}\) へ右ネジを回して進む向き(外積 \(\vec{v} \times \vec{B}\) の向き)です。
右から上へ回すと、ネジは手前(図のaの向き)に進みます。
したがって、正電荷はaの向きに力を受け、これが電流の向きとなります。
回路全体の抵抗 \(R\) を求めます。
導体棒PとQの抵抗値は、共に長さ \(d\) なので \(rd\) です。
レールと導体棒P、Qは直列回路を形成しているため、全抵抗はこれらの和となります。
$$
\begin{aligned}
R &= rd + rd \\[2.0ex]
&= 2rd \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
オームの法則より、流れる電流の大きさ \(I_0\) を立式します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{V_0}{R} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 誘導起電力: \(V = vBl\)
- オームの法則: \(I = \frac{V}{R}\)
式①、②を式③に代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{v_0 B d}{2rd} \\[2.0ex]
&= \frac{v_0 B}{2r}
\end{aligned}
$$
磁石の力(磁場)の中で導体棒を動かすと、棒の中の電気が力を受けて動き出し、発電機になります。
このとき発生する電圧は「速さ×磁場の強さ×長さ」で決まります。
回路には2本の棒があり、それぞれが抵抗を持っているので、合計の抵抗は2本分になります。
電圧を合計の抵抗で割ることで、流れる電流の大きさが求まります。向きは「フレミングの左手の法則」や「ローレンツ力」の考え方で、手前向き(a)と分かります。
電流の向きは a、大きさは \(\displaystyle \frac{v_0 B}{2r}\) です。
速度 \(v_0\) や磁場 \(B\) が大きいほど電流が大きくなり、抵抗 \(r\) が大きいほど電流が小さくなるため、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問(1)で求めた電流 \(I_0\) が磁場中を流れることで、導体棒PとQはそれぞれ磁場から力(電磁力)を受けます。
この力の向きと大きさを、フレミングの左手の法則と公式 \(F=IBl\) を用いて特定します。
この設問における重要なポイント
- 電流の連続性: PとQは一つの閉回路を作っているため、流れる電流の大きさは等しく \(I\) です。
- 電流の向きの逆転: 回路を一周するように電流が流れるため、Pを流れる向きとQを流れる向きは、空間的に見ると逆になります(Pは手前向き、Qは奥向き)。
- 作用反作用: PとQに働く力は、系全体の内力として作用・反作用のような関係(大きさ等しく向き逆)になります。
具体的な解説と立式
導体棒P、Qを流れる電流の大きさを \(I\) とします。
磁場から受ける力(電磁力)の大きさ \(F\) は、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、長さ \(d\) を用いて以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
F &= I B d \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
PとQには同じ大きさの電流が流れているため、力の大きさは等しくなります。
次に、力の向きを考えます。
導体棒Pについて:
電流は手前向き(a)、磁場は上向きです。
フレミングの左手の法則より、中指(手前)、人差し指(上)を合わせると、親指は「左向き」を指します。
これは運動方向(右)と逆向きであり、Pを減速させる力です。
導体棒Qについて:
電流はPからレールを通ってQへ流れるため、Qにおいては奥向き(bの逆)になります。
電流は奥向き、磁場は上向きです。
フレミングの左手の法則より、中指(奥)、人差し指(上)を合わせると、親指は「右向き」を指します。
これはQを加速させる力です。
使用した物理公式
- 電磁力: \(F = IBl\)
式④より、PとQが受ける力の大きさは共に \(IBd\) であり、等しいことが分かります。
向きについては、上述の通り、Pは左向き、Qは右向きとなり、反対です。
同じ一本の電流の通り道(回路)なので、PにもQにも同じ量の電気が流れます。だから、磁石から受ける力の強さも同じです。
しかし、電気の流れる向きが行き(P)と帰り(Q)で逆になるため、受ける力の向きも逆になります。
Pは動きを邪魔するブレーキのような力を受け、Qは引っ張られるような力を受けます。
力の大きさは等しく、向きは反対です。
これは、PがQを電磁気的な力で引っ張り、QがPを引っ張り替えしている(作用・反作用)と解釈でき、妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
Pは左向きの力を受けて減速し、Qは右向きの力を受けて加速します。
速度差がある限り誘導起電力が発生し電流が流れますが、最終的に速度が等しくなると電流が止まり、力も働かなくなります。
この過程において、水平方向の外力は働いていないため、2本の棒全体(系)の運動量は保存されます。
この設問における重要なポイント
- 最終状態: 十分時間が経過すると、電流が \(0\) になり、PとQは同じ速度 \(v_f\) で等速運動をします。
- 運動量保存則: 系全体に働く外力の水平成分の和は \(0\) です(Pの受ける力とQの受ける力は相殺し合う)。
- グラフの形状: 加速度は力に比例し、力は速度差(電流)に比例します。速度差が縮まると力も弱まるため、変化は徐々に緩やかになります(指数関数的変化)。
- 初期加速度: \(t=0\) 瞬間の運動方程式から求めます。
具体的な解説と立式
1. 最終速度 \(v_f\) の導出
PとQの質量は共に \(m\) です。
最終的にPとQが同じ速度 \(v_f\) になったとします。
系全体の運動量保存則より、以下の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{後の全運動量}) &= (\text{前の全運動量}) \\[2.0ex]
m v_f + m v_f &= m v_0 + m \cdot 0 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
2. グラフの概形
- Pは初速度 \(v_0\) から減速し、\(v_f\) に近づきます。
- Qは初速度 \(0\) から加速し、\(v_f\) に近づきます。
- 常に力の大きさは等しいため、加速度の大きさも等しく、グラフの傾きの絶対値は常に等しくなります。したがって、\(v_f\) のラインに対して上下対称なグラフになります。
3. \(t=0\) での接線の傾き(加速度 \(a_0\))
\(t=0\) において、Pには左向き(負の向き)の力 \(F_0 = I_0 B d\) が働いています。
Pの運動方程式(右向き正)を立てます。
$$
\begin{aligned}
m a_0 &= – F_0 \\[2.0ex]
&= – I_0 B d \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = \text{一定}\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
最終速度 \(v_f\):
式⑤を解きます。
$$
\begin{aligned}
2m v_f &= m v_0 \\[2.0ex]
v_f &= \frac{1}{2} v_0
\end{aligned}
$$
接線の傾き \(a_0\):
式⑥に、問(1)の結果 \(I_0 = \frac{v_0 B}{2r}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m a_0 &= – \left( \frac{v_0 B}{2r} \right) B d \\[2.0ex]
a_0 &= – \frac{v_0 B^2 d}{2rm}
\end{aligned}
$$
Pはブレーキがかかって遅くなり、Qは引っ張られて速くなります。
最終的には、2つは同じ速さになって、一緒に仲良く進むようになります。
外から邪魔する力がないので、2つの「動きの勢いの合計(運動量)」は変わりません。最初はPだけが \(v_0\) の勢いを持っていましたが、最後は2人で分け合うので、速さはちょうど半分の \(v_0/2\) になります。
グラフは、Pが上から、Qが下から、真ん中の \(v_0/2\) に向かってカーブを描いて近づく形になります。
最初の瞬間のPの減り具合(傾き)は、最初に働くブレーキの強さを質量で割ることで計算できます。
最終速度は \(v_0/2\)、接線の傾きは \(- \frac{v_0 B^2 d}{2rm}\) です。
質量 \(m\) が大きいほど加速しにくくなるため傾きは緩やかになり、磁場 \(B\) が強いほど力が強くなり傾きは急になります。これは式と整合します。
グラフ: (Pは \(v_0\) から、Qは \(0\) から出発し、共に \(v_0/2\) に漸近する曲線。\(v=v_0/2\) の直線に対して対称。)
\(v_f\): \(\displaystyle \frac{1}{2} v_0\)
接線の傾き: \(\displaystyle – \frac{v_0 B^2 d}{2rm}\)
思考の道筋とポイント
2物体の運動を個別に追うのではなく、「重心の運動」と「相対的な運動」に分けて考えます。
外力が働かない系では重心速度は一定であり、相互作用する力は相対速度に依存することに着目します。
この設問における重要なポイント
- 重心速度保存: 外力の和が \(0\) なので、重心速度 \(v_G\) は等速運動をします。
- 相対運動の減衰: 相対速度 \(u = v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}\) は、抵抗力のような作用により \(0\) に収束します。
具体的な解説と立式
P、Qの速度を \(v_{\text{P}}, v_{\text{Q}}\) とします。
運動方程式は以下の通りです(右向き正)。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv_{\text{P}}}{dt} &= -IBd \quad \cdots ⑦ \\[2.0ex]
m \frac{dv_{\text{Q}}}{dt} &= +IBd \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
ここで電流 \(I\) は、その瞬間の起電力 \(V = (v_{\text{P}} – v_{\text{Q}})Bd\) を抵抗 \(2rd\) で割ったものです。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{(v_{\text{P}} – v_{\text{Q}})Bd}{2rd} = \frac{B}{2r}(v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}) \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
1. 重心速度 \(v_G\)
式⑦と式⑧を足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv_{\text{P}}}{dt} + m \frac{dv_{\text{Q}}}{dt} &= 0 \\[2.0ex]
m \frac{d}{dt}(v_{\text{P}} + v_{\text{Q}}) &= 0
\end{aligned}
$$
これは全運動量が保存することを意味し、重心速度 \(v_G = \frac{v_{\text{P}} + v_{\text{Q}}}{2}\) は一定です。
初期条件より、
$$
\begin{aligned}
v_G &= \frac{v_0 + 0}{2} = \frac{v_0}{2} \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
2. 相対速度 \(u\)
式⑦から式⑧を引きます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d}{dt}(v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}) &= -2IBd
\end{aligned}
$$
相対速度 \(u = v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}\) とし、式⑨を代入します。
$$
\begin{aligned}
m \frac{du}{dt} &= -2 \left( \frac{B}{2r} u \right) Bd \\[2.0ex]
\frac{du}{dt} &= – \frac{B^2 d}{rm} u \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式の和と差
- 微分方程式の解法
式⑪は \(u\) に関する1階線形微分方程式であり、解は指数関数になります。
初期条件 \(t=0\) で \(u = v_0 – 0 = v_0\) より、
$$
\begin{aligned}
u(t) &= v_0 e^{-\frac{B^2 d}{rm}t}
\end{aligned}
$$
時間が十分経過すると \(t \to \infty\) で \(u \to 0\) となり、\(v_{\text{P}} = v_{\text{Q}}\) となります。
このとき、\(v_{\text{P}} = v_{\text{Q}} = v_G = \frac{v_0}{2}\) です。
2つの物体の「平均の速さ(重心速度)」と「速度の差(相対速度)」に注目しました。
外から邪魔されないので「平均の速さ」はずっと変わりません。
一方で、「速度の差」は、電磁気的なブレーキによってどんどん小さくなっていきます。
最終的に差がゼロになれば、両方とも平均の速さ(\(v_0/2\))になります。
重心速度一定の考え方からも、最終速度 \(v_0/2\) が導かれました。
また、相対速度の式から、速度差が指数関数的に減少していく様子(グラフの形状)も裏付けられました。
思考の道筋とポイント
運動方程式と回路方程式を連立させ、速度 \(v_{\text{P}}(t), v_{\text{Q}}(t)\) を時間の関数として厳密に求めます。
これにより、グラフの形状や任意の時刻での速度、加速度を完全に記述できます。
この設問における重要なポイント
- 連立微分方程式: 物理現象をそのまま数式化し、数学的な操作のみで解を導きます。
- 一般解の導出: \(v_{\text{P}}\) と \(v_{\text{Q}}\) の和と差を利用して変数を分離します。
具体的な解説と立式
別解1と同様に、運動方程式と電流の式を立てます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{dv_{\text{P}}}{dt} &= – \frac{B^2 d}{2r} (v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}) \quad \cdots ⑫ \\[2.0ex]
m \frac{dv_{\text{Q}}}{dt} &= + \frac{B^2 d}{2r} (v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}) \quad \cdots ⑬
\end{aligned}
$$
定数 \(k = \frac{B^2 d}{2rm}\) と置くと、式は見やすくなります。
$$
\begin{aligned}
\frac{dv_{\text{P}}}{dt} &= -k (v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}) \\[2.0ex]
\frac{dv_{\text{Q}}}{dt} &= +k (v_{\text{P}} – v_{\text{Q}})
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式の微分形
- 変数分離形微分方程式の解法
和をとると、
$$
\begin{aligned}
\frac{d}{dt}(v_{\text{P}} + v_{\text{Q}}) &= 0 \\[2.0ex]
v_{\text{P}} + v_{\text{Q}} &= C_1 \quad (\text{定数})
\end{aligned}
$$
初期条件 \(t=0\) で \(v_{\text{P}}=v_0, v_{\text{Q}}=0\) より、\(C_1 = v_0\)。
よって、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{P}} + v_{\text{Q}} &= v_0 \quad \cdots ⑭
\end{aligned}
$$
差をとると、
$$
\begin{aligned}
\frac{d}{dt}(v_{\text{P}} – v_{\text{Q}}) &= -2k (v_{\text{P}} – v_{\text{Q}})
\end{aligned}
$$
\(v_{\text{P}} – v_{\text{Q}} = u\) とおけば、\(u = v_0 e^{-2kt}\)。
よって、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{P}} – v_{\text{Q}} &= v_0 e^{-\frac{B^2 d}{rm}t} \quad \cdots ⑮
\end{aligned}
$$
式⑭と式⑮を連立して \(v_{\text{P}}, v_{\text{Q}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{P}}(t) &= \frac{v_0}{2} \left( 1 + e^{-\frac{B^2 d}{rm}t} \right) \\[2.0ex]
v_{\text{Q}}(t) &= \frac{v_0}{2} \left( 1 – e^{-\frac{B^2 d}{rm}t} \right)
\end{aligned}
$$
ここで \(t \to \infty\) とすると、\(e^{-\dots} \to 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{P}}(\infty) &= \frac{v_0}{2}, \quad v_{\text{Q}}(\infty) = \frac{v_0}{2}
\end{aligned}
$$
となり、最終速度が求まります。
また、\(t=0\) でのPの加速度(接線の傾き)は、\(v_{\text{P}}(t)\) を微分して \(t=0\) を代入することで求まります。
$$
\begin{aligned}
\frac{dv_{\text{P}}}{dt} &= \frac{v_0}{2} \left( – \frac{B^2 d}{rm} \right) e^{-\frac{B^2 d}{rm}t} \\[2.0ex]
\left. \frac{dv_{\text{P}}}{dt} \right|_{t=0} &= – \frac{v_0 B^2 d}{2rm}
\end{aligned}
$$
運動方程式を数学的に解くことで、速度が時間とともにどう変化するかを表す式(関数)を完全に作り出しました。
この式を使えば、最終的な速度だけでなく、途中のどんな時刻の速度も、加速度もすべて計算できます。
結果として、グラフが指数関数的なカーブを描くことや、初期の傾きが正確に求まることが確認できました。
微積分を用いて導出した結果は、定性的な考察や保存則から得られた結果と完全に一致します。
これにより、物理現象の理解がより強固なものとなります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電磁誘導とローレンツ力の微視的理解
- 核心: 導体棒が動くと起電力が発生するのは、棒内部の自由電子が磁場からローレンツ力を受けるためです。この力の向きが電流の向きを決定し、その電流がさらに磁場から力を受ける(電磁力)ことで、導体棒の運動が変化します。
- 理解のポイント: 「動くと発電する(誘導起電力)」→「電流が流れる」→「電流が力を受ける(電磁力)」→「運動が変わる」という因果関係の連鎖を正確に追うことが重要です。
- 系全体での運動量保存則の成立条件
- 核心: 2本の導体棒を一つの「系」として見ると、互いに及ぼし合う電磁力は「内力」となり、相殺されます。水平方向の外力が働かないため、系全体の運動量は保存されます。
- 理解のポイント: 個々の導体棒の運動量は変化しますが、合計値は不変です。これは、最終状態(速度が等しくなる状態)を計算する際の最強のツールとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンデンサーを含む回路: 抵抗の代わりにコンデンサーがつながっている場合、電流は時間とともに変化し、最終的には充電が完了して電流が止まります。この場合、エネルギー保存則や電荷保存則が鍵になります。
- コイルを含む回路: コイルがつながっている場合、自己誘導により電流の変化が遅れます。振動回路のような挙動を示すこともあり、微分方程式(単振動の方程式)への帰着が有効です。
- レールが傾いている場合: 重力が外力として加わるため、運動量は保存しません。代わりに、重力の成分を含めた運動方程式を立て、終端速度(力がつり合う速度)を求めるアプローチになります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「最終状態」の予測: 「十分時間が経過した後」という文言があれば、物理量が一定になった状態(等速運動、電流一定、電流ゼロなど)を想像します。本問では「相対速度ゼロ \(\rightarrow\) 電流ゼロ \(\rightarrow\) 力ゼロ \(\rightarrow\) 等速」というロジックです。
- 保存則の探索: 外力が働いていない方向はないか? エネルギーの散逸(抵抗でのジュール熱)はあるか? を確認し、使える保存則(運動量、エネルギー)を選定します。
- グラフの対称性: 作用・反作用の力が働く2体問題では、速度変化のグラフが対称的になることが多いです。これを利用してグラフの概形を素早くイメージします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 起電力の向きと電流の向きの混同:
- 誤解: 「レンツの法則」を適用する際、磁束の変化を妨げる向きを間違えたり、フレミングの法則の手の向きを逆にしてしまう。
- 対策: 必ず「正電荷が受けるローレンツ力 \(q\vec{v} \times \vec{B}\)」の向きを確認する癖をつけましょう。右ネジの法則やフレミングの左手の法則を、図に矢印を書き込みながら慎重に適用します。
- 抵抗値の計算ミス:
- 誤解: 「単位長さあたりの抵抗 \(r\)」を見落とし、抵抗を単に \(r\) としたり、2本の棒があるのに1本分しか計算しなかったりする。
- 対策: 回路図を書き直し、抵抗を記号(ギザギザ線)で明示します。「直列だから足し算」と確認しながら \(R = rd + rd = 2rd\) と立式します。
- 力の向きの思い込み:
- 誤解: 「動いているから摩擦のように常に逆向きの力が働く」と思い込む。
- 対策: 電磁力は電流の向きで決まります。Qのように、動く向きと同じ向きに力を受けて加速する場合もあることを、フレミングの法則で毎回確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(3)での公式選択(運動量保存則 vs 運動方程式の積分):
- 選定理由: 最終速度だけを知りたい場合、運動量保存則が最も速く、計算ミスも少ない「近道」です。一方、速度の時間変化やグラフの形状まで問われている場合は、運動方程式を立てて微分方程式として解く(あるいは定性的に考察する)必要があります。
- 適用根拠: 水平方向の外力がゼロであることは、図から明らか(重力は垂直、摩擦なし)なので、運動量保存則の適用条件を完全に満たしています。
- 問(1)での公式選択(\(V=vBl\) vs ファラデーの法則):
- 選定理由: 導体棒が動く問題では、ローレンツ力由来の \(V=vBl\) が直感的で使いやすいです。ファラデーの法則 \(V = -d\Phi/dt\) も使えますが、回路の面積変化を考える必要があり、少し手間がかかります。
- 適用根拠: 磁場が一様で、導体棒が磁場と垂直に動いているため、\(V=vBl\) がそのまま適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 答えが出たら、単位を確認します。例えば電流 \(I\) の答えが \(\frac{v_0 B}{2r}\) なら、単位は \([\text{m/s}] \cdot [\text{T}] / [\Omega/\text{m}]\) となり、計算すると \([\text{A}]\) になるか確認します(少し高度ですが、少なくとも \(v\) や \(B\) が分母に来ていないか等は直感で分かります)。
- 加速度の答えの分母に質量 \(m\) があるか確認します(\(F=ma\) より \(a=F/m\) なので、質量は必ず分母に来ます)。
- 極限的なケースでの検算:
- もし \(B=0\) (磁場なし)だったら? 力は働かず、加速度は0になるはずです。答えの式に \(B=0\) を代入して \(0\) になるか確認します。
- もし \(r \to \infty\) (絶縁体)だったら? 電流は流れず、力も働かないはずです。答えの式で \(r \to \infty\) とすると \(0\) になるか確認します。
- 符号の確認:
- 「減速する」なら加速度は負、「加速する」なら正になるはずです。計算結果のマイナス符号が、物理的な意味(向き)と一致しているかを常に意識します。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
問題133 (名城大+京都工繊大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(2)全体の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 電流を時間の関数 \(I(t)\) と置き、ファラデーの電磁誘導の法則を微分形 \(V = -N \frac{d\Phi}{dt}\) で適用します。
- 模範解答が微小変化 \(\Delta\) を用いて平均的な起電力を求めるのに対し、別解では瞬時の起電力を数学的に厳密に導出します。
- 設問(2)(ウ)の別解: 磁場エネルギーを用いた解法
- コイルに蓄えられるエネルギー \(U = \frac{1}{2}LI^2\) が、空間の磁場エネルギー密度 \(u = \frac{1}{2}\mu_0 H^2\) の総和に等しいことを利用して、自己インダクタンス \(L\) を導出します。
- 設問(2)全体の別解: 微積分を用いた体系的解法
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分: 物理現象の時間変化を厳密に記述でき、自己インダクタンス \(L\) や相互インダクタンス \(M\) が「電流の時間変化率に対する起電力の比例係数」であることを定義から直接理解できます。
- エネルギー: インダクタンスを「回路の特性」としてだけでなく、「空間に磁場エネルギーを蓄える能力」として捉え直すことができ、電磁気学の統一的な理解を深めます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「ソレノイドコイルの電流と磁場、そして電磁誘導」です。電流が作る磁場、その磁場の変化によって生じる誘導起電力、そして自己誘導・相互誘導という一連の現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アンペールの法則(ソレノイドの磁場): 無限に長いソレノイド内部には一様な磁場 \(H = nI\) が生じます。
- 磁束の定義: 一様な磁場中での磁束は \(\Phi = BS\) です。ここで磁束密度 \(B = \mu_0 H\) です。
- ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束が変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力が生じます。\(N\) 回巻きコイルの場合、起電力の大きさは \(V = N \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) です。
- 自己誘導と相互誘導: コイル自身の電流変化による誘導を自己誘導、隣接するコイルの電流変化による誘導を相互誘導と呼びます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、公式を用いて電流が作る磁場と磁束を求めます。
- (2)では、電流の変化 \(\Delta I\) が磁束の変化 \(\Delta \Phi\) を引き起こし、それが誘導起電力 \(V\) を生むという因果関係を順に計算します。最後に、インダクタンスの定義式と比較して \(L, M\) を決定します。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?