問題131 (関東学院大+九州大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、時間的に変化する一様な磁場中に置かれた正方形コイルに生じる電磁誘導について扱います。磁束密度の時間変化がグラフで与えられており、各時間帯におけるコイルを貫く磁束、誘導起電力、誘導電流、ジュール熱、そして誘導電流の時間変化のグラフを求める問題です。ファラデーの電磁誘導の法則、レンツの法則、オームの法則といった電磁気学の基本法則の理解と応用が問われます。
- 一辺の長さ \(L\) の正方形コイル ABCD が紙面に置かれている。
- 紙面に垂直で裏から表に向かう向きの一様な磁場がコイルを貫いている。
- 磁束密度の大きさ \(B\) が時間 \(t\) とともに図2のように変化する。
- 領域I (\(0 \le t \le 2t_0\)): \(B\) は \(0\) から \(B_0\) まで直線的に増加。
- 領域II (\(2t_0 \le t \le 3t_0\)): \(B\) は \(B_0\) で一定。
- 領域III (\(3t_0 \le t \le 4t_0\)): \(B\) は \(B_0\) から \(0\) まで直線的に減少。
- コイルの電気抵抗は \(R\) である。
- 電流の向きは A→B の向きを正とする。
- (1) 時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) について、
- (ア) コイルを貫く磁束 \(\Phi\) を、時間 \(t\) の関数として表す。
- (イ) コイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) を \(B_0, L, t_0\) を用いて表す。
- (ウ) コイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) を求め、\(B_0, L, t_0, R\) を用いて表す。
- (エ) この時間内でコイルに生じるジュール熱 \(Q_J\) を求め、\(B_0, L, t_0, R\) を用いて表す。
- (2) コイルを流れる誘導電流 \(I\) の時間変化をグラフに描く。目盛りには \(I_0\) を用いる。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 磁束 \(\Phi\): \(\Phi = BS\cos\theta\) (\(B\): 磁束密度, \(S\): 面積, \(\theta\): 磁場ベクトルと面積ベクトルのなす角)。この問題では磁場は紙面に垂直なので \(\cos\theta = 1\)。
- ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束が変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力が生じる。起電力の大きさは \(V = \left| -N \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) (\(N\): コイルの巻き数、この問題では \(N=1\))。
- レンツの法則: 誘導電流の向きは、誘導電流が作る磁場が元の磁束の変化を妨げるような向きになる。
- オームの法則: \(V = RI\) (\(V\): 電圧, \(R\): 抵抗, \(I\): 電流)。
- ジュール熱: 抵抗で消費される電力は \(P = IV = I^2R = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)。ジュール熱は \(Q_J = Pt\)。
コイルの面積は \(S = L^2\) です。
問1 (ア)
思考の道筋とポイント
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) における磁束 \(\Phi\) を求める問題です。
まず、図2のグラフから、この時間帯における磁束密度 \(B\) の時間 \(t\) に対する依存性を読み取ります。次に、コイルの面積 \(S\) を用いて磁束 \(\Phi = BS\) を計算します。磁場はコイル面に垂直なので、\(\cos\theta = 1\) です。
この設問における重要なポイント
- 図2のグラフの領域Iから、磁束密度 \(B\) が時間 \(t\) の一次関数として表されること。
- 磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) とコイルの面積 \(S\) の積で与えられること。
具体的な解説と立式
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) において、図2のグラフは原点 \((0,0)\) と点 \((2t_0, B_0)\) を通る直線です。
したがって、この時間帯の磁束密度 \(B(t)\) は、時間 \(t\) の関数として
$$B(t) = \frac{B_0}{2t_0} t \quad \cdots ①$$
と表されます。
コイルの面積は \(S = L^2\) です。
コイルを貫く磁束 \(\Phi(t)\) は、磁束密度 \(B(t)\) とコイルの面積 \(S\) の積で与えられ、磁場はコイル面に垂直なので、
$$\Phi(t) = B(t) S = B(t) L^2 \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 磁束: \(\Phi = BS\) (磁場が面に垂直な場合)
- グラフからの一次関数の導出
式①を式②に代入すると、コイルを貫く磁束 \(\Phi(t)\) は、
$$\Phi(t) = \left(\frac{B_0}{2t_0} t\right) L^2$$
整理すると、
$$\Phi(t) = \frac{B_0 L^2}{2t_0} t$$
- まず、図2のグラフの領域I(\(0 \le t \le 2t_0\))に注目します。この部分のグラフは、時間が \(0\) のとき磁束密度が \(0\)、時間が \(2t_0\) のとき磁束密度が \(B_0\) となる、原点を通る直線です。直線の式は \(y = ax\) の形なので、傾き \(a\) は \(B_0 / (2t_0)\) となります。つまり、磁束密度 \(B\) は \(B(t) = \displaystyle\frac{B_0}{2t_0} t\) と表せます。
- コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) とコイルの面積 \(S=L^2\) の掛け算で求められます(磁場がコイル面に垂直なため)。
- したがって、\(\Phi(t) = B(t) \times S = \displaystyle\frac{B_0}{2t_0} t \times L^2 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) となります。
コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、時間 \(t\) の関数として \(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) と表されます。
これは、\(t=0\) のとき \(\Phi(0)=0\)、\(t=2t_0\) のとき \(\Phi(2t_0) = B_0 L^2\) となり、物理的な状況と一致しています。単位も [Wb] となり適切です。
問1 (イ)
思考の道筋とポイント
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) にコイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) を求める問題です。
ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) を用います。(ア)で求めた磁束 \(\Phi(t)\) が時間に比例しているので、\(\Phi(t)\) を時間 \(t\) で微分するか、磁束の変化の割合 \(\Delta \Phi / \Delta t\) を計算することで誘導起電力の大きさが求まります。
この設問における重要なポイント
- ファラデーの電磁誘導の法則を正しく適用すること。
- 磁束 \(\Phi(t)\) の時間変化率(グラフの傾き、または微分係数)が誘導起電力の大きさに対応すること。
具体的な解説と立式
ファラデーの電磁誘導の法則より、コイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、磁束 \(\Phi(t)\) の時間変化の割合の絶対値で与えられます。コイルは1巻きなので \(N=1\) です。
$$V_0 = \left| \frac{d\Phi(t)}{dt} \right| \quad \cdots ③$$
(ア)で求めた \(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) は \(t\) の一次関数なので、その時間変化率は一定です。
あるいは、\(\Delta t = 2t_0 – 0 = 2t_0\) の間に磁束は \(\Delta \Phi = \Phi(2t_0) – \Phi(0) = B_0 L^2 – 0 = B_0 L^2\) だけ変化するので、
$$V_0 = \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| = \frac{B_0 L^2}{2t_0} \quad \cdots ④$$
これは、\(\Phi(t)\) の \(t\) に関する係数そのものです。
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| \displaystyle\frac{d\Phi}{dt} \right|\) または \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) (コイル1巻きの場合)
式③を用いて計算します。\(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) を \(t\) で微分すると、
$$\frac{d\Phi(t)}{dt} = \frac{d}{dt} \left( \frac{B_0 L^2}{2t_0} t \right) = \frac{B_0 L^2}{2t_0}$$
したがって、誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、
$$V_0 = \left| \frac{B_0 L^2}{2t_0} \right| = \frac{B_0 L^2}{2t_0}$$
この結果は式④と一致します。
- コイルに発生する誘導起電力の大きさは、コイルを貫く磁束がどれくらいの速さで変化するかに比例します。これはファラデーの電磁誘導の法則です。
- (ア)で求めた磁束 \(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) は、時間に比例して増加しています。この式の \(t\) の係数 \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) が、磁束の「変化の速さ(時間あたりの変化量)」を表しています。
- したがって、誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、この係数そのもの \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) となります。
コイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) は \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) です。
これは時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)) において一定の値を取ります。単位は [V] となり適切です。
問1 (ウ)
思考の道筋とポイント
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) にコイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) を求める問題です。
オームの法則 \(I = V/R\) を用います。(イ)で求めた誘導起電力の大きさ \(V_0\) と、与えられたコイルの電気抵抗 \(R\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- オームの法則を正しく適用すること。
- 誘導起電力が電源の電圧と同様に働くこと。
具体的な解説と立式
オームの法則により、コイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) は、誘導起電力の大きさ \(V_0\) とコイルの電気抵抗 \(R\) を用いて次のように表されます。
$$I_0 = \frac{V_0}{R} \quad \cdots ⑤$$
(イ)で \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) を求めているので、これを代入します。
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = V/R\)
式⑤に \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) を代入すると、誘導電流の大きさ \(I_0\) は、
$$I_0 = \frac{\left(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\right)}{R}$$
整理すると、
$$I_0 = \frac{B_0 L^2}{2Rt_0}$$
- コイルに誘導起電力 \(V_0\) が生じると、コイル自身が抵抗 \(R\) を持っているため、そこに電流が流れます。この関係はオームの法則 \(I = V/R\) で表されます。
- (イ)で求めた誘導起電力の大きさ \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) を、コイルの抵抗 \(R\) で割ることで、流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) が求まります。
- したがって、\(I_0 = \displaystyle\frac{V_0}{R} = \frac{B_0 L^2}{2t_0} \div R = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) となります。
コイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) です。
これは時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)) において一定の電流が流れることを意味します。単位は [A] となり適切です。
問1 (エ)
思考の道筋とポイント
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) でコイルに生じるジュール熱 \(Q_J\) を求める問題です。
ジュール熱は \(Q_J = P \Delta t = I^2 R \Delta t = VI \Delta t = \displaystyle\frac{V^2}{R} \Delta t\) で計算できます。
ここでは、(イ)で求めた誘導起電力 \(V_0\) と (ウ)で求めた誘導電流 \(I_0\) が、時間 \(2t_0\) の間一定であるため、これらを用いるのが簡便です。電流が流れる時間は \(\Delta t = 2t_0\) です。
この設問における重要なポイント
- ジュール熱の公式を正しく選択し適用すること。
- 電流が流れる時間を正確に把握すること (\(2t_0\))。
具体的な解説と立式
コイルに電流 \(I_0\) が流れると、抵抗 \(R\) でジュール熱が発生します。
発生する電力 \(P\) は \(P = I_0^2 R\) です。
ジュール熱 \(Q_J\) は、電力 \(P\) に電流が流れた時間 \(\Delta t_{\text{I}} = 2t_0\) を掛けることで求められます。
$$Q_J = I_0^2 R (2t_0) \quad \cdots ⑥$$
あるいは、\(P = V_0 I_0\) を用いて、
$$Q_J = V_0 I_0 (2t_0) \quad \cdots ⑦$$
でも計算できます。
使用した物理公式
- ジュール熱: \(Q_J = I^2 R t\) または \(Q_J = VIt\)
式⑥に (ウ)で求めた \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) を代入します。
$$Q_J = \left( \frac{B_0 L^2}{2Rt_0} \right)^2 R (2t_0)$$
右辺の \(\left( \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0} \right)^2\) を展開すると \(\displaystyle\frac{B_0^2 L^4}{4R^2 t_0^2}\) となります。
$$Q_J = \frac{B_0^2 L^4}{4R^2 t_0^2} R (2t_0)$$
\(R\) で約分し、\(2t_0\) で約分すると、分母の \(4R^2t_0^2\) は \(2Rt_0\) となります。
$$Q_J = \frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}$$
別解として、式⑦に \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) と \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) を代入します。
$$Q_J = \left( \frac{B_0 L^2}{2t_0} \right) \left( \frac{B_0 L^2}{2Rt_0} \right) (2t_0)$$
各項を掛け合わせると \(\displaystyle\frac{B_0^2 L^4 \cdot 2t_0}{4Rt_0^2}\) となります。
$$Q_J = \frac{B_0^2 L^4 \cdot 2t_0}{4Rt_0^2}$$
\(2t_0\) で約分すると、分母の \(4Rt_0^2\) は \(2Rt_0\) となります。
$$Q_J = \frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}$$
どちらの方法でも同じ結果が得られます。
- コイルに電流 \(I_0\) が流れると、抵抗 \(R\) によって熱が発生します。これをジュール熱といいます。
- ジュール熱 \(Q_J\) は、「電流の2乗 × 抵抗 × 時間」(\(I_0^2 R (2t_0)\)) で計算できます。あるいは、「電圧 × 電流 × 時間」(\(V_0 I_0 (2t_0)\))でも計算できます。
- 時間帯Iでは、(ウ)で求めた電流 \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) が \(2t_0\) の時間流れます。
- これを \(Q_J = I_0^2 R (2t_0)\) に代入して計算すると、\(Q_J = \left( \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0} \right)^2 \times R \times (2t_0) = \displaystyle\frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}\) となります。
コイルに生じるジュール熱 \(Q_J\) は \(\displaystyle\frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}\) です。
単位は [J] となり適切です。
問2
思考の道筋とポイント
コイルを流れる誘導電流 \(I\) の時間変化をグラフに描く問題です。電流の向きは A→B を正とします。
3つの時間帯(I: \(0 \sim 2t_0\)、II: \(2t_0 \sim 3t_0\)、III: \(3t_0 \sim 4t_0\)) それぞれについて、誘導電流の大きさと向きを調べる必要があります。
- 時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)):
誘導電流の大きさは (1)(ウ)で \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) と求めています。
向きはレンツの法則で判断します。図1で磁場は紙面裏から表向き(⦿印)です。時間帯Iではこの磁場が増加します。レンツの法則によれば、誘導電流は磁場の増加を妨げる向き、すなわち紙面表から裏向き(⊗印)の磁場を作るように流れます。コイルABCDに右ねじの法則を適用すると、この向きの磁場を作る電流は B→A の向きに流れます。問題文で A→B の向きを正と定義しているので、電流 \(I\) は \(-I_0\) となります。 - 時間帯II (\(2t_0 \le t \le 3t_0\)):
図2より、磁束密度 \(B\) は \(B_0\) で一定です。したがって、コイルを貫く磁束 \(\Phi\) も一定となります。磁束の変化がない (\(\Delta \Phi / \Delta t = 0\)) ため、ファラデーの法則より誘導起電力 \(V=0\)、よって誘導電流 \(I=0\) となります。 - 時間帯III (\(3t_0 \le t \le 4t_0\)):
図2より、磁束密度 \(B\) は \(B_0\) から \(0\) へ直線的に減少します。この時間変化の「速さ」(傾きの絶対値)を求めます。
時間 \(\Delta t_{\text{III}} = 4t_0 – 3t_0 = t_0\) の間に、磁束密度は \(\Delta B_{\text{III}} = 0 – B_0 = -B_0\) だけ変化します。
したがって、磁束密度の変化率の大きさは \( \left| \displaystyle\frac{\Delta B_{\text{III}}}{\Delta t_{\text{III}}} \right| = \left| \displaystyle\frac{-B_0}{t_0} \right| = \displaystyle\frac{B_0}{t_0} \) です。
時間帯Iにおける磁束密度の変化率の大きさは \( \left| \displaystyle\frac{\Delta B_{\text{I}}}{\Delta t_{\text{I}}} \right| = \displaystyle\frac{B_0}{2t_0} \) でした。
よって、時間帯IIIにおける磁束密度の変化率の大きさは、時間帯Iの2倍です。
誘導起電力の大きさは磁束の変化率に比例するので、時間帯IIIの誘導起電力の大きさ \(V_{\text{III}}\) は、時間帯Iの誘導起電力 \(V_0\) の2倍、すなわち \(V_{\text{III}} = 2V_0\) となります。
したがって、誘導電流の大きさ \(I_{\text{III}}\) も時間帯Iの電流 \(I_0\) の2倍、すなわち \(I_{\text{III}} = 2I_0\) となります。
向きはレンツの法則で判断します。紙面裏から表向き(⦿印)の磁場が減少します。レンツの法則によれば、誘導電流は磁場の減少を補う向き、すなわち紙面裏から表向き(⦿印)の磁場を作るように流れます。コイルABCDに右ねじの法則を適用すると、この向きの磁場を作る電流は A→B の向きに流れます。問題文で A→B の向きを正と定義しているので、電流 \(I\) は \(+2I_0\) となります。
この設問における重要なポイント
- 各時間帯での磁束の変化の様子を正確に把握すること。
- レンツの法則を用いて、各時間帯での誘導電流の向きを正しく判断すること。
- 磁束の変化率の大きさが誘導起電力の大きさに比例することを利用して、電流の大きさを求めること。
- A→Bの向きを正とする電流の定義に従ってグラフを描くこと。
具体的な解説と立式
(1) より、時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)) における誘導電流の大きさは \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) です。
レンツの法則より、このときの電流の向きはB→Aです。A→Bを正とすると、電流は \(I = -I_0\)。
時間帯II (\(2t_0 < t < 3t_0\)) では、磁束密度 \(B\) が一定なので \(\displaystyle\frac{dB}{dt} = 0\)。
よって磁束の変化 \(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt} = L^2 \frac{dB}{dt} = 0\)。
したがって、誘導起電力 \(V = 0\)、誘導電流 \(I = 0\)。
時間帯III (\(3t_0 < t < 4t_0\)) では、磁束密度 \(B(t)\) は点 \((3t_0, B_0)\) と点 \((4t_0, 0)\) を結ぶ直線です。
その傾き(時間変化率)は、
$$\frac{dB}{dt} = \frac{0 – B_0}{4t_0 – 3t_0} = -\frac{B_0}{t_0} \quad \cdots ⑧$$
誘導起電力の大きさ \(V_{\text{III}}\) は、コイルの巻き数が1なので \(N=1\) として、ファラデーの電磁誘導の法則より、
$$V_{\text{III}} = \left| -N L^2 \frac{dB}{dt} \right| = \left| -1 \cdot L^2 \left( -\frac{B_0}{t_0} \right) \right| = \frac{B_0 L^2}{t_0} \quad \cdots ⑨$$
これは、時間帯Iの誘導起電力 \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) の2倍です。つまり \(V_{\text{III}} = 2V_0\)。
したがって、誘導電流の大きさ \(I_{\text{III}}\) は、オームの法則より、
$$I_{\text{III}} = \frac{V_{\text{III}}}{R} \quad \cdots ⑩$$
レンツの法則より、紙面裏から表向きの磁束が減少するので、それを補うために表向きの磁場を作る電流が流れます。これは A→B の向きです。A→Bを正とすると、電流は \(I = +I_{\text{III}}\)。
まとめると、
- \(0 < t < 2t_0\): \(I = -I_0\)
- \(2t_0 < t < 3t_0\): \(I = 0\)
- \(3t_0 < t < 4t_0\): \(I = +2I_0\) (ここで \(I_{\text{III}} = 2I_0\) を使う)
- \(t=0, 2t_0, 3t_0, 4t_0\) の瞬間は、磁束の変化率が定義しづらい(グラフが折れ曲がっている)ため、厳密には電流は定義されないか、あるいは過渡的な現象が起こりえますが、高校物理の範囲では、それぞれの区間の値をそのまま接続して考えます。通常、\(t=2t_0\) や \(t=3t_0\) のような変化点では電流は \(0\) とみなすか、変化直前直後の値をとると考えます。ここではグラフの要求なので、各区間の値を描きます。
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt} \right|\)
- レンツの法則
- オームの法則: \(I = V/R\)
- 磁束: \(\Phi = BS\)
時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)):
電流の大きさは \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\)。向きはB→Aなので、\(I = -I_0\)。
時間帯II (\(2t_0 < t < 3t_0\)):
\(B\) が一定なので \(dB/dt = 0\)。よって \(d\Phi/dt = 0\)。誘導起電力 \(V=0\)。
したがって、誘導電流 \(I = 0\)。
時間帯III (\(3t_0 < t < 4t_0\)):
式⑨より誘導起電力の大きさは \(V_{\text{III}} = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{t_0}\)。
式⑩に代入して誘導電流の大きさ \(I_{\text{III}}\) を求めると、
$$I_{\text{III}} = \frac{V_{\text{III}}}{R} = \frac{\left(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{t_0}\right)}{R} = \frac{B_0 L^2}{Rt_0}$$
ここで、(1)(ウ)で求めた \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) を使うと、\(Rt_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2I_0}\) なので、
$$I_{\text{III}} = B_0 L^2 \cdot \frac{1}{Rt_0} = B_0 L^2 \cdot \frac{2I_0}{B_0 L^2} = 2I_0$$
向きはA→Bなので、\(I = +2I_0\)。
したがって、各時間帯の電流は以下の通りです。
- 時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)): 電流値は \(-I_0 = -\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\)
- 時間帯II (\(2t_0 < t < 3t_0\)): 電流値は \(0\)
- 時間帯III (\(3t_0 < t < 4t_0\)): 電流値は \(+2I_0 = +2 \times \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0} = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{Rt_0}\)
- 時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)): (1)で計算した電流の大きさは \(I_0\) でした。磁場(裏→表)が増えるので、それを妨げる向き(表→裏の磁場を作る)に電流が流れます。右手を握って親指を裏に向けると、他の指は時計回りに巻きます。コイル上辺ではB→Aの向き。A→Bが正なので、電流は \(-I_0\) です。
- 時間帯II (\(2t_0 < t < 3t_0\)): 磁束密度が一定なので磁束も変化しません。磁束が変化しないと誘導起電力は発生せず、電流も流れません。よって電流は \(0\) です。
- 時間帯III (\(3t_0 < t < 4t_0\)): 磁束密度が減少します。変化の速さ(グラフの傾きの絶対値)は、時間帯Iの2倍 (\(B_0/t_0\) vs \(B_0/(2t_0)\)) です。なので、誘導起電力も電流の大きさも時間帯Iの2倍、つまり \(2I_0\) になります。磁場(裏→表)が減るので、それを補う向き(裏→表の磁場を作る)に電流が流れます。右手を握って親指を表に向けると、他の指は反時計回りに巻きます。コイル上辺ではA→Bの向き。A→Bが正なので、電流は \(+2I_0\) です。
- これらの結果を時間軸に対してプロットします。各時間帯で電流は一定なので、階段状のグラフになります。
誘導電流 \(I\) の時間変化は以下のようになります。
- \(0 < t < 2t_0\) のとき: \(I = -I_0\)
- \(2t_0 < t < 3t_0\) のとき: \(I = 0\)
- \(3t_0 < t < 4t_0\) のとき: \(I = +2I_0\)
グラフは、横軸に時間 \(t\)、縦軸に電流 \(I\) をとり、上記の区間ごとに対応する電流の値を水平線で描きます。縦軸の目盛りには \(I_0\) と \(2I_0\) (および \(-I_0\)) を使用します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束の時間的変化が誘導起電力を生むという基本法則。\(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)。起電力の「大きさ」を問われた場合は絶対値をとる。
- レンツの法則: 誘導電流の向きを決定する法則。「磁束の変化を妨げる向き」を正確に理解し、右ねじの法則などを用いて電流の具体的な向きを特定できるようにする。
- オームの法則: 誘導起電力を電源電圧とみなし、回路の抵抗を用いて電流を計算する \(I=V/R\)。
- 磁束の定義: \(\Phi = BS\cos\theta\)。本問では磁場がコイル面に垂直なので \(\Phi=BS\)。グラフから \(B(t)\) を読み取り、\(\Phi(t)\) を正しく計算することが出発点となる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 磁束密度の時間変化が異なるグラフ(例:三角波、矩形波、あるいは数式で与えられる場合)で出題されるパターン。
- コイルの形状が異なる(例:円形コイル)、あるいはコイルが複数回巻かれている場合(\(N \neq 1\))。
- コイルが磁場中で運動する問題(ローレンツ力による起電力 \(vBl\) とファラデーの法則の関係を理解する)。ただし本問はコイル静止・磁場変化型。
- 自己誘導や相互誘導が絡む問題へのステップアップ。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 磁束 \(\Phi\) の変化を捉える: 問題文や図から、磁束密度 \(B\)、面積 \(S\)、角度 \(\theta\) のうち何が時間変化するのかを把握する。本問では \(B\) が時間変化する。
- \(\Phi-t\) グラフまたは \(B-t\) グラフの傾き: グラフの傾きが \(\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) や \(\displaystyle\frac{dB}{dt}\) に対応し、誘導起電力の大きさと直結する。傾きが一定なら起電力も一定、傾きがゼロなら起電力もゼロ。傾きの正負は磁束の増減を示す。
- レンツの法則のステップ: (1) 元の磁束の向きと変化(増加か減少か)を確認 → (2) 変化を妨げる向きの誘導磁場を考える → (3) その誘導磁場を作る電流の向きを右ねじの法則で決定。
- 定義された正の向き: 電流や電圧の正の向きが指定されている場合、計算結果の符号と物理的な向きを照らし合わせる。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 時間帯ごとに状況が異なる場合は、各時間帯を分けて考える。
- 「大きさ」を問われているのか、「向きを含めた値」を問われているのかを区別する。
- 計算ミス、特に符号ミスに注意する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- レンツの法則の誤適用: 誘導電流の向きを間違えやすい。
- 対策: 「変化を妨げる」の意味を正確に理解する。磁束が増加するならそれを減らす向き、減少するならそれを増やす(補う)向きに誘導磁場を作る。落ち着いてステップを踏む。
- \(\Delta \Phi / \Delta t\) と \(d\Phi/dt\) の混同: 磁束の時間変化が線形でない場合、平均の変化率 \(\Delta \Phi / \Delta t\) と瞬間の変化率 \(d\Phi/dt\) は異なる。本問では各区間で線形なので問題ないが、一般的な理解として区別が必要。
- 対策: 微分可能な関数で与えられている場合は \(d\Phi/dt\) を使う。グラフの直線部分では傾きそのものが \(d\Phi/dt\) となる。
- グラフの傾きの正負と大きさの混同: 誘導起電力の「大きさ」は変化率の「絶対値」に比例する。
- 対策: まず変化率の大きさを求め、向きはレンツの法則で別途判断する。
- 電流の正負の定義の見落とし: (2)のように電流の正の向きが指定されている場合、物理的な電流の向きと照らし合わせて符号を決定する必要がある。
- 対策: 問題文の定義を常に意識し、最後に確認する。
- 単位や物理量の混同: \(B\)(磁束密度)、\(\Phi\)(磁束)、\(V\)(起電力)、\(I\)(電流)など、各物理量の意味と単位を正確に使い分ける。
- 対策: 公式を丸暗記するだけでなく、各記号が何を表しているかを理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 磁力線をイメージする。時間帯Iではコイルを貫く磁力線が徐々に増えていく様子。時間帯IIでは一定の本数。時間帯IIIでは徐々に減っていく様子。
- 誘導電流は、この磁力線の本数変化に「抵抗」しようとするコイルの反応として生じる。
- コイルを一種の「電気的な慣性」を持つものとして捉え、変化を嫌う性質をレンツの法則と結びつける。
- 図示の有効性:
- 問題の図1、図2は状況把握の基本。特に図2のグラフの各区間の意味を正確に読み取ることが重要。
- 各時間帯について、コイル、磁場の向き、磁場の変化(増加/減少)、誘導磁場の向き、誘導電流の向きを簡単な図に書き込んで整理すると、レンツの法則の適用が容易になる。
- (2)のグラフ作成では、横軸(時間)と縦軸(電流)のスケールや区切りを明確にし、計算結果を正確にプロットする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\Phi = BS\): (コイル面と磁場が垂直なので) 磁場の強さ(\(B\))と広がり(\(S\))が磁束(\(\Phi\))を決めるという定義。時間変化する \(B(t)\) から \(\Phi(t)\) を求めるための第一歩。
- \(V = |d\Phi/dt|\): 磁束の時間変化率が起電力の大きさを与えるという、電磁誘導現象の根幹をなす法則。グラフの「傾き」が重要であることを示唆する。
- \(I = V/R\): 回路に起電力(電圧)が生じ、そこに抵抗があれば電流が流れるという、電気回路の基本法則。誘導現象と回路理論を結びつける。
- \(Q_J = I^2Rt\) または \(VIt\): 電流が流れることでエネルギーが熱として消費される現象を定量化する公式。電流(または電圧)と抵抗、時間が分かれば計算できる。
- レンツの法則(向きの決定): 上記の法則が「大きさ」を与えるのに対し、レンツの法則は誘導起電力・誘導電流の「向き」を決定する。物理現象の因果関係(変化→妨害)を反映。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1)(ア) 磁束 \(\Phi(t)\) の導出:
- 図2から時間帯Iの \(B(t)\) の式を導出 (\(B(t) = \frac{B_0}{2t_0}t\))。
- コイルの面積 \(S=L^2\)。
- \(\Phi(t) = B(t)S\) に代入。
- (1)(イ) 誘導起電力 \(V_0\) の導出:
- \(\Phi(t)\) を \(t\) で微分 (または変化の割合 \(\Delta\Phi/\Delta t\)) して \(d\Phi/dt\) を求める。
- \(V_0 = |d\Phi/dt|\)。
- (1)(ウ) 誘導電流 \(I_0\) の導出:
- オームの法則 \(I_0 = V_0/R\) に代入。
- (1)(エ) ジュール熱 \(Q_J\) の導出:
- \(Q_J = I_0^2 R (2t_0)\) または \(Q_J = V_0 I_0 (2t_0)\) に値を代入。 (時間は \(2t_0\))
- (2) 電流 \(I(t)\) のグラフ作成:
- 時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)):
- 電流の大きさ: \(I_0\)。
- 向き: レンツの法則でB→A。A→Bが正なので \(-I_0\)。
- 時間帯II (\(2t_0 < t < 3t_0\)):
- \(dB/dt = 0\) より \(V=0\)、よって \(I=0\)。
- 時間帯III (\(3t_0 < t < 4t_0\)):
- \(|dB/dt|\) が時間帯Iの2倍であることを確認。
- 電流の大きさ: \(2I_0\)。
- 向き: レンツの法則でA→B。A→Bが正なので \(+2I_0\)。
- 上記をグラフにプロットする。
- 時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)):
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算: \(B(t)\) の傾きや、\(V_0, I_0, Q_J\) の計算で分数が多用される。約分や整理を丁寧に行う。
- 文字の書き間違い: \(B_0, t_0, L, R\) など、添え字や大文字・小文字を正確に書く。
- (2)の電流の大きさの比較: 時間帯IIIの \(|dB/dt|\) が時間帯Iの何倍になるかを正確に計算する (\( (B_0/t_0) / (B_0/(2t_0)) = 2 \) 倍)。
- 符号の取り扱い: 特に(2)で電流の向きを符号で表す際に、レンツの法則と座標軸の正の向きを正確に反映させる。
- 日頃の練習:
- 途中式を省略せずに書く習慣をつける。
- 計算結果が出たら、単位が正しいか、極端な場合(例: \(t_0 \rightarrow 0\) など)に物理的におかしくないかなどを考える癖をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- 磁束変化が急なほど(\(B-t\)グラフの傾きが急なほど)、大きな起電力・電流が生じる。時間帯IIIが時間帯Iより変化が急なので、電流が大きくなるのは妥当。
- 磁束変化がない時間帯IIで電流が0になるのは当然。
- 電流の向きが、磁束変化を「妨げる」というレンツの法則の原則に合致しているか、各区間で確認する。
- 単位の確認:
- \(\Phi\): [Wb] = [T⋅m²]
- \(V_0\): [V] = [Wb/s]
- \(I_0\): [A] = [V/Ω]
- \(Q_J\): [J] = [A²⋅Ω⋅s] = [V⋅A⋅s]
計算結果の式がこれらの単位と整合しているかを確認する(次元解析)。例えば \(V_0 = B_0 L^2 / (2t_0)\) は、\([T \cdot m^2 / s]\) となりOK。
- 特殊なケースの検討:
- もし \(R \rightarrow \infty\) なら \(I_0 \rightarrow 0\)、\(Q_J \rightarrow 0\) となるか?(なる)
- もし \(t_0 \rightarrow 0\) なら(非常に急激な変化)、\(V_0, I_0, Q_J\) は非常に大きくなるか?(なる。ただし物理的な限界はある)
問題132 (共通テスト)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、磁場中で運動する2本の導体棒に関する電磁誘導と力学を組み合わせた問題です。導体棒Pに初速度を与えた後のPとQの運動、流れる電流、受ける力、そして最終的な速度について考察します。電磁誘導による起電力、オームの法則、電磁力(ローレンツ力)、運動方程式、そして運動量保存則の理解が問われます。
- 鉛直上向きで磁束密度の大きさが \(B\) の一様な磁場中。
- 十分に長い2本の金属レールが水平面内に間隔 \(d\) で平行に固定。
- 導体棒PとQをレールの上にのせ、静止させる。
- PとQの質量は共に \(m\)。
- PとQの単位長さあたりの抵抗値は \(r\)。したがって、各棒の抵抗は \(rd\)。
- 導体棒はレールと垂直を保ったまま、レール上を摩擦なく動く。
- 自己誘導の影響とレールの電気抵抗は無視できる。
- 時刻 \(t=0\) にPにのみ、右向きの初速度 \(v_0\) を与えた。
- 速度は右向きを正とする。
- 電流の向きは図のaかbで答える。
- (1) Pが動き出した直後に、Pを流れる電流の向きと大きさ \(I_0\) を求めよ。向きは図のaかbで答えよ。
- (2) Pが動き始めると、Qも動き始めた。PとQが磁場から受ける力の大きさは等しいか、異なるか。また、力の向きは同じか、反対か。
- (3) Pが動き始めた後の、PとQの速度(右向きを正)の時間変化のグラフを描け。Pは実線、Qは点線で一つのグラフに描け。また、Pの最終速度 \(v_f\) を求めよ。さらに、Pの実線のグラフに対して、\(t=0\) での接線の傾きを求めよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 誘導起電力(ローレンツ力による説明): 磁場中を運動する導体内の自由電子がローレンツ力を受けることで生じる電位差。導体棒が磁場を垂直に横切る場合、起電力 \(V = vBL\)。
- フレミングの右手の法則: 誘導起電力(電流)の向きを決定する。
- オームの法則: \(V = RI\)。回路全体の電圧と抵抗、電流の関係。
- 電磁力(ローレンツ力): 電流が磁場から受ける力 \(F = IBL\)。
- フレミングの左手の法則: 電磁力の向きを決定する。
- 運動方程式: \(ma = F\)。物体の運動状態を記述する。
- 運動量保存則: 外力の和がゼロの場合、系の全運動量は保存される。
問1
思考の道筋とポイント
Pが動き出した直後の状況を考えます。Pは初速度 \(v_0\) で右向きに運動し、Qはまだ静止しています。
Pが磁場を横切ることで誘導起電力が生じ、閉回路(P-レール-Q-レール)に電流が流れます。
電流の向きはフレミングの右手の法則またはレンツの法則で、大きさはオームの法則で求めます。
この設問における重要なポイント
- Pに生じる誘導起電力の大きさと向きを正しく求める。
- 回路全体の電気抵抗を正しく計算する。
- オームの法則を適用して電流の大きさを求める。
具体的な解説と立式
Pが動き出した直後、Pの速度は右向きに \(v_0\)、Qの速度は \(0\) です。
導体棒Pには、右向きの速度 \(v_0\)、鉛直上向きの磁束密度 \(B\)、導体棒の長さ \(d\) により、誘導起電力 \(V_P\) が生じます。その大きさは、
$$V_P = v_0 B d \quad \cdots ①$$
フレミングの右手の法則を用いると、親指を速度の向き(右)、人差し指を磁場の向き(鉛直上向き)にすると、中指は導体棒Pにおいてbからaの向きを向きます。したがって、a側が高電位、b側が低電位となり、電流はPにおいてaの向きに流れようとします。つまり、P自身が起電力の源となり、aの向きに電流を流そうとします。
回路全体の抵抗 \(R_{\text{回路}}\) は、導体棒Pの抵抗 \(R_P\) と導体棒Qの抵抗 \(R_Q\) の直列接続と考えられます。各導体棒の長さは \(d\) で、単位長さあたりの抵抗値は \(r\) なので、
$$R_P = rd$$
$$R_Q = rd$$よって、回路全体の抵抗は、$$R_{\text{回路}} = R_P + R_Q = rd + rd = 2rd \quad \cdots ②$$誘導電流の大きさ \(I_0\) は、オームの法則より、$$I_0 = \frac{V_P}{R_{\text{回路}}} \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- 誘導起電力: \(V = vBL\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
- 抵抗: \(R = rL\) (単位長さあたりの抵抗 \(r\)、長さ \(L\))
- フレミングの右手の法則
式①と式②を式③に代入します。
$$I_0 = \frac{v_0 B d}{2rd}$$
\(d\) を約分すると、
$$I_0 = \frac{v_0 B}{2r}$$
電流の向きは、上述の通りPにおいてaの向きです。
- 導体棒Pが磁場の中を速度 \(v_0\) で動くと、Pには電気が発生します(誘導起電力)。この電気の大きさは \(V_P = v_0 B d\) です。
- フレミングの右手の法則を使うと、Pの中では電流がaの方向に流れようとすることがわかります。これが電流の向きです。
- 電流が流れる回路は、PとQの2本の導体棒とレールでできています。Pの抵抗は \(rd\)、Qの抵抗も \(rd\) です。これらが直列につながっているのと同じなので、回路全体の抵抗は \(2rd\) です。
- オームの法則 \(I = V/R\) を使うと、電流の大きさ \(I_0\) は、発生した電気 \(V_P\) を回路全体の抵抗 \(2rd\) で割ったものになります。\(I_0 = \displaystyle\frac{v_0 B d}{2rd} = \displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) となります。
Pが動き出した直後にPを流れる電流の向きはaの向きで、その大きさ \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) です。
模範解答(1)とも一致しています。
問2
思考の道筋とポイント
Pに電流が流れると、Pは磁場から力を受けます。また、この電流はQにも流れるため、Qも磁場から力を受けます。
PとQを流れる電流の大きさと向きの関係、そしてそれぞれが受ける電磁力の大きさと向きをフレミングの左手の法則で判断します。
この設問における重要なポイント
- PとQには同じ大きさの電流が流れるが、導体棒に対する電流の向きがどうなるかを考える。
- 電磁力 \(F=IBd\) の公式を適用する。
- フレミングの左手の法則で力の向きを判断する。
具体的な解説と立式
導体棒PとQは一つの閉回路を形成しているため、Pを流れる電流とQを流れる電流の大きさは等しくなります。これを \(I\) とします(\(t=0\)の直後では \(I=I_0\) ですが、一般の時刻では \(I\) とします)。
Pにおいて電流がaの向き(棒の上向き)に流れるとき、回路を考えるとQにおいては棒の下向き(図のQにおけるbの向きに相当する方向)に電流が流れます。
各導体棒が磁場から受ける電磁力の大きさ \(F_P, F_Q\) は、電流の大きさが等しく (\(I\))、磁場の強さ (\(B\)) と導体棒のレールにかかる部分の長さ (\(d\)) も等しいので、
$$F_P = IBd$$
$$F_Q = IBd$$
となり、力の大きさは等しいです。
次に力の向きを考えます。磁場は鉛直上向きです。
導体棒P: 電流の向きはa(図のPにおいて上向き)。フレミングの左手の法則を適用します。中指を電流の向き(a)、人差し指を磁場の向き(鉛直上向き)とすると、親指は左向きを向きます。つまりPは左向きの力を受けます。
導体棒Q: 電流はPとは逆向きに流れます。図のQにおいては下向き(bの向き)に電流が流れます。フレミングの左手の法則で、中指を電流の向き(Qにおいて下向き)、人差し指を磁場の向き(鉛直上向き)とすると、親指は右向きを向きます。つまりQは右向きの力を受けます。
したがって、PとQが受ける力の大きさは等しく、向きは反対です。
使用した物理公式
- 電磁力: \(F = IBd\) (電流と磁場が垂直な場合)
- フレミングの左手の法則
上記の考察により、力の大きさは等しく、向きは反対です。
- PとQは一本の電気回路でつながっているので、流れる電流の大きさ \(I\) は同じです。
- 電流が磁場から受ける力の大きさは \(F = IBd\) という式で表されるので、\(I, B, d\) がすべて同じPとQでは、力の大きさも同じになります。
- 力の向きを考えます。フレミングの左手の法則を使います。
- Pでは、電流がaの向き(図で上向き)に流れます。磁場は鉛直上向きです。このときPは左向きの力を受けます。
- Qでは、電流はPとは逆向きに流れます(図のQでは下向き)。磁場は鉛直上向きです。このときQは右向きの力を受けます。
- したがって、力の大きさは等しく、向きは反対になります。
PとQが磁場から受ける力の大きさは等しく、向きは反対です。
これは模範解答(2)の記述「PとQには同じ大きさIの電流が流れるので、力の大きさFは \(F=IBd\) と等しい。ただし、PとQで電流の向きは逆なので、力の向きは反対となる。」と一致します。
問3
思考の道筋とポイント
PとQの速度の時間変化のグラフ、Pの最終速度 \(v_f\)、\(t=0\) でのPのグラフの接線の傾き(=Pの初期加速度)を求める問題です。
Pは初速度 \(v_0\) で右向きに動き出し、(2)で見たように左向きの力を受けて減速します。
Qは初め静止しており、右向きの力を受けて加速します。
やがて、PとQの速度が等しくなると、PとQの間の相対速度がなくなり、誘導起電力の差もなくなるため電流が流れなくなります(正確には、Pに生じる起電力とQに生じる起電力が等しくなり、回路全体の起電力がゼロになる)。電流が流れなくなると電磁力も働かなくなり、PとQは同じ最終速度 \(v_f\) で等速直線運動をすると考えられます。
この過程で、PとQからなる系全体の運動量は保存されます。なぜなら、PとQが互いに及ぼしあう電磁力は作用・反作用の関係にあり、系全体で見ると内力として扱え、レール方向への外力は働いていないからです(問題文に摩擦なしとあり、磁場からの力はそれぞれに働くが、系全体で見ると和が0)。
\(t=0\)でのPの加速度は、その瞬間のPに働く力とPの質量から、運動方程式を用いて求めます。
この設問における重要なポイント
- PとQの運動の定性的な理解(Pは減速、Qは加速し、最終的に同じ速度になる)。
- 運動量保存則の適用による最終速度 \(v_f\) の計算。
- 運動方程式を用いた初期加速度の計算。
- 速度ー時間グラフの接線の傾きが加速度を表すこと。
具体的な解説と立式
Pの最終速度 \(v_f\)
PとQの質量はともに \(m\) です。時刻 \(t=0\) におけるPの速度は \(v_0\)、Qの速度は \(0\) です。
PとQが同じ最終速度 \(v_f\) に達したときを考えます。
PとQの系に対して水平方向の外力は働かないため(電磁力は内力として作用・反作用で和が0)、運動量保存則が成り立ちます。
初期の全運動量 \(P_{\text{初}}\) は、
$$P_{\text{初}} = m v_0 + m \cdot 0 = m v_0$$
最終状態の全運動量 \(P_{\text{後}}\) は、PとQがともに速度 \(v_f\) で運動するので、
$$P_{\text{後}} = m v_f + m v_f = 2m v_f$$
運動量保存則より \(P_{\text{初}} = P_{\text{後}}\) なので、
$$m v_0 = 2m v_f \quad \cdots ④$$
\(t=0\) でのPの接線の傾き(初期加速度 \(a_0\))
\(t=0\) の直後、Pには(1)で求めた電流 \(I_0 = \displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) がaの向きに流れます。
この電流が磁場から受ける力の向きは(2)で考察したように左向きです。力の大きさ \(F_{P0}\) は、
$$F_{P0} = I_0 B d \quad \cdots ⑤$$
Pの運動方程式は、右向きを正とすると、
$$m a_0 = -F_{P0} \quad \cdots ⑥$$
ここで \(a_0\) は \(t=0\) でのPの加速度です。
グラフの概略
Pは初速度 \(v_0\) から減速し、Qは初速度 \(0\) から加速し、ともに最終速度 \(v_f\) に漸近します。
Pのグラフは下に凸の曲線で減速し、Qのグラフは上に凸の曲線で加速する形が予想されます。
模範解答のグラフでは、\(v_f = v_0/2\) の直線に対して、PのカーブとQのカーブが対称的になるように描かれています。これは、常にPとQに働く力の大きさが等しく逆向きであるため、一方の運動量の変化ともう一方の運動量の変化の絶対値が等しくなることを反映しています。
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v’_1 + m_2 v’_2\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 電磁力: \(F = IBd\)
Pの最終速度 \(v_f\) の計算
式④ \(m v_0 = 2m v_f\) の両辺を \(2m\) で割ると(\(m \neq 0\))、
$$v_f = \frac{m v_0}{2m}$$
$$v_f = \frac{1}{2} v_0$$
\(t=0\) でのPの接線の傾き(初期加速度 \(a_0\))の計算
まず、式⑤に \(I_0 = \displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) (問1の結果)を代入して \(F_{P0}\) を求めます。
$$F_{P0} = \left(\frac{v_0 B}{2r}\right) B d = \frac{v_0 B^2 d}{2r}$$
次に、この \(F_{P0}\) を式⑥に代入します。
$$m a_0 = -\frac{v_0 B^2 d}{2r}$$
両辺を \(m\) で割ると、初期加速度 \(a_0\) は、
$$a_0 = -\frac{v_0 B^2 d}{2mr}$$
- 最終速度 \(v_f\): PとQは最初バラバラの速度ですが、お互いに力を及ぼし合い(電磁力)、やがて同じ速度 \(v_f\) になります。このとき、PとQのグループ全体で考えると、外部からの水平方向の力は働いていないので、「運動量」という量が保存されます。初めの全体の運動量は \(m v_0 + m \cdot 0 = mv_0\)。最後の全体の運動量は \(m v_f + m v_f = 2mv_f\)。これらが等しいので、\(mv_0 = 2mv_f\) という式が成り立ちます。この式を \(v_f\) について解くと、\(v_f = \displaystyle\frac{1}{2}v_0\) が求まります。
- グラフ: Pは \(v_0\) からスタートしてだんだん遅くなり最終速度 \(v_f\) に近づきます。Qは \(0\) からスタートしてだんだん速くなり最終速度 \(v_f\) に近づきます。Pを実線、Qを点線で描きます。二つの曲線は \(v = v_f\) の線に向かって近づいていきます。
- \(t=0\) でのPの接線の傾き: これは、動き始めた瞬間のPの加速度のことです。(1)で求めた電流 \(I_0 = \displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) によって、Pが受ける力 \(F_{P0}\) は \(I_0 B d\) で、左向きです。Pの運動方程式は、右向きを正として \(ma_0 = -F_{P0}\) となります。この式に \(I_0\) の値を代入して \(a_0\) について解くと、\(a_0 = -\displaystyle\frac{v_0 B^2 d}{2mr}\) となります。これがグラフの最初の傾きです。
PとQの速度の時間変化のグラフは、Pが \(v_0\) から \(v_f = v_0/2\) へ漸近的に減速し、Qが \(0\) から \(v_f = v_0/2\) へ漸近的に加速する様子を描きます。両者は \(v = v_0/2\) の直線に対して対称的な形になります。
Pの最終速度 \(v_f\) は \(\displaystyle\frac{1}{2} v_0\) です。
\(t=0\) でのPの接線の傾き(初期加速度)は \(a_0 = -\displaystyle\frac{v_0 B^2 d}{2mr}\) です。負号は速度の正の向き(右向き)と逆向き(左向き)の加速度であることを示しており、Pが減速することを表しています。
最終速度 \(v_f\): \(\displaystyle\frac{1}{2} v_0\)
\(t=0\) でのPの接線の傾き: \(-\displaystyle\frac{v_0 B^2 d}{2mr}\)
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電磁誘導による起電力: 導体棒が磁場を横切ることで生じる起電力 \(V=vBL\)。この問題では、2つの導体棒の速度差が実質的な起電力を生み出す源泉となる。
- ローレンツ力(電磁力): 電流が磁場中で受ける力 \(F=IBL\)。この力が導体棒の運動を変化させる。
- 運動量保存則: 2物体(PとQ)の系において、水平方向の外力が働かない(または内力の和が0となる)ため、系の全運動量が保存される。これが最終速度を求める鍵となる。
- 運動方程式: 各導体棒の運動を記述する基本法則 \(ma=F\)。初期加速度を求めるのに用いる。
- 回路の考察(オームの法則): 誘導起電力と回路の抵抗から電流を決定する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- レールに傾斜がある場合(重力との関係)。
- 外部抵抗が接続されている場合(回路全体の抵抗の計算が変わる)。
- コンデンサーが接続されている場合(過渡現象、エネルギー保存)。
- 導体棒の質量が異なる場合(運動量保存則の式が変わる)。
- 2本ではなく1本の導体棒と固定抵抗などの問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 起電力の源は何か?: 導体棒の運動によるものか、磁場の時間変化によるものか。本問は導体棒の運動。複数の導体棒がある場合、それぞれの起電力を考え、回路全体の起電力を求める(キルヒホッフの法則的な考え方)。
- 回路の抵抗はどこか?: 導体棒自身の抵抗、レールの抵抗(本問では無視)、外部抵抗など。
- 働く力は何か?: 電磁力、重力、摩擦力など。本問では電磁力のみが運動を変化させる。
- 保存則は使えるか?: エネルギー保存則(ジュール熱が発生する場合は力学的エネルギーは保存しないが、エネルギー全体の収支は成り立つ)、運動量保存則(外力の有無を確認)。
- 系の最終状態はどうなるか?: 電流が流れなくなる条件(起電力が釣り合う、または相対速度がなくなるなど)から推測できることが多い。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電流の向き、力の向きの誤り: フレミングの法則の適用ミス。
- 対策: 右手と左手を正しく使い分ける。指の対応関係(親指・人差し指・中指がそれぞれ何を表すか)を正確に覚える。図を丁寧に描き、電流や磁場の向きを書き込む。
- 回路全体の抵抗の計算ミス: 直列・並列の判断、導体棒の抵抗の考慮漏れ。
- 対策: 回路図を簡単に描いてみる。どの部分が抵抗として機能するかを確認する。
- 運動量保存則の適用条件の誤解: 外力が働いているのに適用してしまう。
- 対策: 系全体にかかる外力のベクトル和がゼロであることを確認する。本問では、PとQが受ける電磁力は大きさが等しく逆向きなので、系全体で見れば和がゼロになる。
- 速度と起電力の関係: 複数の導体棒が動く場合、回路全体の起電力は各棒の起電力の代数和(向きを考慮)になる。本問の最終状態では \(v_P B d = v_Q B d\) となり電流が流れなくなる。
- 対策: 各導体棒について個別に起電力を考え、それらを合成して回路全体の起電力を求める。
- グラフの概形: 指数関数的な変化を直線で描いてしまうなど。
- 対策: 運動方程式が \(m \frac{dv}{dt} = -kv + C\) のような形(\(v\) の一次関数)になる場合、解は指数関数的になることを知っておく。そうでなくても、力の変化から加速・減速の度合いがどう変わるかを定性的に考える。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題における物理現象のイメージ化:
- Pが動き出す → Pに起電力が生じ電流が流れる → PとQに電磁力が働く → Pは減速、Qは加速 → PとQの速度が変化するとPとQの起電力も変化し、流れる電流も変化 → 電磁力も変化… という一連のフィードバックループをイメージする。
- 最終的にPとQが同じ速度になると、PとQの間に流れる電流を駆動する「実効的な起電力」がゼロになり、力が働かなくなり安定する。
- 図示の有効性:
- 問題の図に、電流の向き、力の向き、速度の向きなどを書き込むことで、状況整理が格段にしやすくなる。
- 速度ー時間グラフを描く際には、初期値、最終値、初期の傾き(加速度)といった特徴的な点を押さえる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=vBd\): 導体棒P(およびQ)が磁場を横切ることで起電力を生む現象を表す。速度 \(v\) が鍵。
- \(I_0 = V_P / (2rd)\): 生じた起電力 \(V_P\) と回路の全抵抗 \(2rd\) から、初期電流 \(I_0\) を求めるオームの法則の適用。
- \(F=I_0Bd\): 電流 \(I_0\) が流れる導体棒P(およびQ)が磁場から受ける力を表す。
- \(m v_0 = (m+m)v_f\): 系に外力が働かない(あるいは内力の和がゼロ)場合に、衝突や合体・分裂の前後で運動量が保存されることを示す。本問では2つの棒が最終的に一体となって運動するような状況。
- \(m a_0 = -F_{P0}\): Pの初期の運動状態の変化(加速度 \(a_0\))を引き起こすのが、初期に受ける電磁力 \(-F_{P0}\) であることを示す運動方程式。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 初期電流 \(I_0\) と向き:
- Pの初期速度 \(v_0\) からPに生じる起電力 \(V_P = v_0Bd\) を計算。
- 回路の全抵抗 \(R_{\text{回路}} = 2rd\) を計算。
- オームの法則 \(I_0 = V_P/R_{\text{回路}}\) で \(I_0\) を計算。
- フレミングの右手の法則でPを流れる電流の向きを判断 (aの向き)。
- (2) P,Qが受ける力:
- P,Qには同じ大きさの電流 \(I\) が流れることを確認。
- Pを流れる電流の向きとQを流れる電流の向きが、各棒に対してどうなるかを図で確認(PでaならQでは棒に沿って逆向き)。
- 電磁力の大きさ \(F=IBd\) より、力の大きさは等しい。
- フレミングの左手の法則で各棒に働く力の向きを判断(Pは左向き、Qは右向きとなり、互いに反対)。
- (3) グラフ、最終速度 \(v_f\)、初期加速度 \(a_0\):
- 最終速度 \(v_f\):
- P,Qの系で運動量保存則を適用。\(mv_0 + 0 = (m+m)v_f\)。
- \(v_f\) を解く。
- 初期加速度 \(a_0\):
- \(t=0\) でのPに働く力 \(F_{P0} = I_0Bd\) を計算 (向きは左向き)。
- Pの運動方程式 \(ma_0 = -F_{P0}\) を立てる。
- \(a_0\) を解く。
- グラフ:
- P: \(v_0\) から \(v_f\) へ減速。Q: \(0\) から \(v_f\) へ加速。
- \(t=0\)でのPのグラフの傾きが \(a_0\)。Qのグラフの傾きは \(F_{Q0}/m = I_0Bd/m = -a_0\)。
- 両曲線が \(v_f\) に漸近する様子を描く。
- 最終速度 \(v_f\):
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の取り扱い: 力の向き、速度の向き、加速度の向きを正しく符号に反映させる。特に運動方程式を立てる際。
- 文字の混同: \(v_0\) (初速度) と \(v_f\) (最終速度)、\(r\) (単位長さあたりの抵抗) と \(R\) (全体の抵抗) などを区別する。
- 分数の計算: \(I_0\) や \(a_0\) の計算で分数が登場する。約分を間違えないように。
- 運動量保存則の式の確認: 質量を正しく含める (\(m v_0 = 2m v_f\) であり、\(m v_0 = m v_f\) ではない)。
- 日頃の練習:
- 図を描き、ベクトル量(力、速度、加速度)を矢印で図示する癖をつける。
- 簡単なケース(例:Qがない場合など)を考えてみて、式の妥当性を確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- \(v_f = v_0/2\): 2つの同じ質量の物体が力を及ぼし合って最終的に同じ速度になる場合、初めの運動量を等しく分配するような結果は直感的に妥当。
- \(a_0\) が負の値: Pは初め右向きに動いているが、受ける力は左向きなので減速する。加速度が負になるのは妥当。
- グラフの形: Pが減速しQが加速して同じ速度に収束するのは、エネルギーがジュール熱として失われつつ運動量が保存される系で起こりうる挙動。
- 単位の確認:
- \(I_0 = v_0 B / (2r)\): \([ (m/s) \cdot T ] / [\Omega/m] = [A]\)。OK。
- \(v_f = v_0/2\): 単位は明らかに速度。OK。
- \(a_0 = -v_0 B^2 d / (2mr)\): \([ (m/s) \cdot T^2 \cdot m ] / [kg \cdot (\Omega/m)]\)。導出過程が論理的に正しければ、単位も整合するはずです。次元解析は複雑になる場合、ステップごとの物理的意味と式の正しさを確認することがより重要です。本解説では、\(a_0 = -F_{P0}/m\) であり、\(F_{P0}=I_0Bd\)、\(I_0=v_0B/(2r)\) と各ステップで物理的に正しい関係式を用いているため、最終的な式の単位も正しい加速度の単位 \([m/s^2]\) になっていると考えられます。
- 特殊なケースの検討:
- もし \(B=0\) なら、\(I_0=0, F=0, a_0=0\)。Pは等速 \(v_0\)、Qは静止したまま。\(v_f\) は定義できない(または \(v_0\))。このモデルは \(B \neq 0\) が前提。
- もし \(r \rightarrow \infty\)(抵抗が非常に大きい)なら、\(I_0 \rightarrow 0, a_0 \rightarrow 0\)。Pはほぼ等速。妥当。
問題133 (名城大+京都工繊大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、二重に巻かれたソレノイド(ソレノイドAの内側に電流を流し、その外側にソレノイドBが巻かれている)における磁場、磁束、自己誘導、相互誘導について考察する問題です。ソレノイドの基本的な性質から、電磁誘導現象の理解を深めることができます。
- ソレノイドA: 単位長さあたりの巻き数 \(n\)、長さ \(l\)、断面積 \(S\)。電源に接続され、電流を流すことができる。
- ソレノイドB: 単位長さあたりの巻き数 \(n\)、長さ \(l/2\)。Aの外側に巻き付けられている。両端は開いており、電流は流れない。Aの中央部分に位置する。
- 両ソレノイドは真空中に置かれ、真空の透磁率は \(\mu_0\)。
- 図はソレノイドの中心軸を含む断面図。
- (1) ソレノイドAに電流 \(I\) を流したとき、Aの内部に生じる磁場の強さ \(H\) およびAを貫く磁束 \(\Phi\) はそれぞれいくらか。
- (2) 微小時間 \(\Delta t\) の間に、Aに流れる電流が \(\Delta I\) だけ増加した。
- (ア) Aを貫く磁束の変化 \(\Delta \Phi\) はいくらか。
- (イ) Aに生じる誘導起電力の大きさ \(V_1\) はいくらか。
- (ウ) Aの自己インダクタンス \(L\) はいくらか。
- (エ) Bに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) はいくらか。
- (オ) AとBの間の相互インダクタンス \(M\) はいくらか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- ソレノイドが作る磁場: 無限長ソレノイド内部の磁場の強さ \(H = nI\)、磁束密度 \(B = \mu_0 H = \mu_0 nI\)。ソレノイド外部の磁場はほぼ0。
- 磁束 \(\Phi\): \(\Phi = BS\)。ある面積 \(S\) を垂直に貫く磁束線の総本数。
- ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束が変化すると起電力が生じる。\(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) または \(V = N \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)(\(N\)は総巻数)。
- 自己インダクタンス \(L\): コイル自身を流れる電流が変化したときに生じる誘導起電力に関する比例定数。\(V_L = -L \displaystyle\frac{dI}{dt}\) または \(L = \displaystyle\frac{N\Phi}{I}\)。
- 相互インダクタンス \(M\): 一方のコイルを流れる電流が変化したときに、もう一方のコイルに生じる誘導起電力に関する比例定数。\(V_{12} = -M \displaystyle\frac{dI_1}{dt}\) または \(M = \displaystyle\frac{N_2\Phi_{21}}{I_1}\)。
問1
思考の道筋とポイント
ソレノイドAに電流 \(I\) を流したときの、A内部の磁場の強さ \(H\) と、Aの断面積 \(S\) を貫く磁束 \(\Phi\) を求めます。無限長ソレノイドの公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- ソレノイド内部の磁場の強さの公式 \(H=nI\) を用いる。
- 磁場の強さ \(H\) と磁束密度 \(B\) の関係 \(B=\mu_0 H\) を用いる。
- 磁束 \(\Phi = BS\) の定義を適用する。
具体的な解説と立式
ソレノイドAの内部に生じる磁場の強さ \(H\) は、単位長さあたりの巻き数 \(n\) と電流 \(I\) を用いて、
$$H = nI \quad \cdots ①$$
と表されます(無限長ソレノイドの公式を適用)。
ソレノイドAの内部の磁束密度 \(B\) は、真空の透磁率 \(\mu_0\) を用いて、
$$B = \mu_0 H \quad \cdots ②$$ソレノイドAの断面積 \(S\) を貫く磁束 \(\Phi\) は、$$\Phi = BS \quad \cdots ③$$
この \(\Phi\) は、ソレノイドの1巻きを貫く磁束ではなく、ソレノイドの断面積 \(S\) 全体を貫く磁束を指します。起電力の計算では、これに総巻数を乗じることで鎖交磁束を考えます。
使用した物理公式
- ソレノイド内部の磁場の強さ: \(H = nI\)
- 磁束密度: \(B = \mu_0 H\)
- 磁束: \(\Phi = BS\)
式①を式②に代入して磁束密度 \(B\) を求めると、
$$B = \mu_0 nI$$これを式③に代入して磁束 \(\Phi\) を求めると、$$\Phi = (\mu_0 nI)S = \mu_0 nSI$$
磁場の強さ \(H\) は式①より \(H = nI\) です。
- ソレノイドの中にできる磁場の強さ \(H\) は、1mあたりの巻数 \(n\) と電流 \(I\) の掛け算で \(H = nI\) となります。
- 磁束密度 \(B\) は、磁場の強さ \(H\) に真空の透磁率 \(\mu_0\) を掛けたもの、つまり \(B = \mu_0 H\) です。
- ソレノイドの断面積 \(S\) を貫く磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) と面積 \(S\) の掛け算で \(\Phi = BS\) となります。
- これらを順番に代入していくと、\(H = nI\) であり、\(\Phi = \mu_0 nSI\) が求まります。
ソレノイドAの内部に生じる磁場の強さ \(H\) は \(nI\)、Aを貫く磁束 \(\Phi\) は \(\mu_0 nSI\) です。これらはソレノイドに関する基本的な公式から導かれます。
問2 (ア)
思考の道筋とポイント
Aに流れる電流が \(\Delta I\) だけ増加したときの、Aを貫く磁束の変化 \(\Delta \Phi\) を求めます。
(1)で求めた磁束 \(\Phi\) が電流 \(I\) に比例することを利用します。
この設問における重要なポイント
- 磁束 \(\Phi\) が電流 \(I\) の一次関数であること。
- 変化量 \(\Delta \Phi\) は、比例定数 × \(\Delta I\) で求められること。
具体的な解説と立式
(1)より、Aを貫く磁束 \(\Phi\) は \(\Phi = \mu_0 nSI\) です。
電流が \(I\) から \(I+\Delta I\) に変化すると、磁束は \(\Phi_{\text{初}} = \mu_0 nSI\) から \(\Phi_{\text{後}} = \mu_0 nS(I+\Delta I)\) に変化します。
磁束の変化 \(\Delta \Phi\) は、
$$\Delta \Phi = \Phi_{\text{後}} – \Phi_{\text{初}} \quad \cdots ④$$または、\(\Phi\) は \(I\) に比例する (\(\Phi = (\mu_0 nS) I\)) ので、その変化量 \(\Delta \Phi\) は、比例係数 \(\mu_0 nS\) に電流の変化量 \(\Delta I\) を掛けたものになります。$$\Delta \Phi = (\mu_0 nS) \Delta I \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 磁束の式 (問1の結果)
式④を用いる場合:
$$\Delta \Phi = \mu_0 nS(I+\Delta I) – \mu_0 nSI$$
各項を展開すると、
$$\Delta \Phi = \mu_0 nSI + \mu_0 nS\Delta I – \mu_0 nSI$$
\(\mu_0 nSI\) の項が相殺されるので、
$$\Delta \Phi = \mu_0 nS\Delta I$$
これは式⑤の結果と一致します。
- (1)で、磁束 \(\Phi\) は電流 \(I\) に比例し、\(\Phi = \mu_0 nSI\) であることがわかりました。この \(\mu_0 nS\) の部分は定数です。
- 電流が \(\Delta I\) だけ変化すると、磁束 \(\Phi\) もそれに比例して変化します。変化の量は、定数部分 \(\mu_0 nS\) に電流の変化 \(\Delta I\) を掛けたもの、つまり \(\Delta \Phi = \mu_0 nS \Delta I\) となります。
Aを貫く磁束の変化 \(\Delta \Phi\) は \(\mu_0 nS\Delta I\) です。電流の変化に正比例します。
問2 (イ)
思考の道筋とポイント
Aに生じる誘導起電力の大きさ \(V_1\) を求めます。ファラデーの電磁誘導の法則を用います。
Aの総巻数 \(N_A\) と、(ア)で求めた磁束の変化 \(\Delta \Phi\) を使います。
この設問における重要なポイント
- ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = N \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\) を正しく適用する。
- ソレノイドAの総巻数 \(N_A\) を計算する。
具体的な解説と立式
ソレノイドAの総巻数 \(N_A\) は、単位長さあたりの巻き数 \(n\) とソレノイドAの長さ \(l\) の積なので、
$$N_A = nl \quad \cdots ⑥$$ファラデーの電磁誘導の法則より、Aに生じる誘導起電力の大きさ \(V_1\) は、$$V_1 = N_A \left|\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right| \quad \cdots ⑦$$
ここで \(\Delta \Phi\) は(ア)で求めた磁束の変化 \(\mu_0 nS\Delta I\) です。
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = N \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)
- ソレノイドの総巻数: \(N = (\text{単位長さあたり巻数}) \times (\text{長さ})\)
式⑥と(ア)の結果 \(\Delta \Phi = \mu_0 nS\Delta I\) を式⑦に代入します。
$$V_1 = (nl) \left| \frac{\mu_0 nS\Delta I}{\Delta t} \right|$$
電流が増加している (\(\Delta I > 0\)) とし、\(\Delta t > 0\) なので、絶対値の中は正です。
$$V_1 = (nl) \frac{\mu_0 nS\Delta I}{\Delta t}$$
整理すると、
$$V_1 = \mu_0 n^2 lS \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
- コイルに発生する誘導起電力の大きさは、コイル全体の磁束(鎖交磁束)がどれくらいの速さで変化するかに比例します。
- ソレノイドAの総巻数は \(N_A = nl\) です。
- (ア)で求めた、断面積 \(S\) を貫く磁束の変化は \(\Delta \Phi = \mu_0 nS\Delta I\) でした。
- したがって、A全体での鎖交磁束の変化は \(N_A \Delta \Phi = (nl) (\mu_0 nS\Delta I)\) です。
- これを変化にかかった時間 \(\Delta t\) で割ったものが誘導起電力の大きさ \(V_1\) なので、\(V_1 = \displaystyle\frac{N_A \Delta \Phi}{\Delta t} = \displaystyle\frac{nl \mu_0 nS\Delta I}{\Delta t} = \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) となります。
Aに生じる誘導起電力の大きさ \(V_1\) は \(\mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) です。これは電流の時間変化率 \(\Delta I/\Delta t\) に比例します。
問2 (ウ)
思考の道筋とポイント
Aの自己インダクタンス \(L\) を求めます。
自己誘導起電力の定義式 \(V_1 = L \left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\) と、(イ)で求めた \(V_1\) の式を比較することで \(L\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 自己インダクタンスの定義式を理解していること。
具体的な解説と立式
自己誘導起電力の大きさ \(V_1\) は、自己インダクタンス \(L\) と電流の時間変化率 \(\left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\) を用いて、
$$V_1 = L \left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right| \quad \cdots ⑧$$
と表されます。
(イ)で求めた \(V_1 = \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と比較します。電流が増加している (\(\Delta I > 0\)) と考えれば、\(\left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right| = \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) です。
使用した物理公式
- 自己誘導起電力: \(V = L \left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\)
式⑧と(イ)の \(V_1 = \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を比較すると、
$$L \frac{\Delta I}{\Delta t} = \mu_0 n^2 lS \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
両辺から \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を割ることで(\(\Delta I/\Delta t \neq 0\)として)、
$$L = \mu_0 n^2 lS$$
- 自己インダクタンス \(L\) は、コイルに生じる誘導起電力 \(V_1\) と電流の変化の速さ \(\Delta I/\Delta t\) の間の比例係数で、\(V_1 = L \times (\Delta I/\Delta t)\) という関係があります。
- (イ)で \(V_1 = \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と求めたので、この式の \(\Delta I/\Delta t\) の前の部分 \(\mu_0 n^2 lS\) が自己インダクタンス \(L\) にあたります。
- したがって、\(L = \mu_0 n^2 lS\) となります。
Aの自己インダクタンス \(L\) は \(\mu_0 n^2 lS\) です。これは無限長ソレノイドの自己インダクタンスの公式として知られています。形状だけで決まる定数です。
問2 (エ)
思考の道筋とポイント
ソレノイドBに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) を求めます。
ソレノイドAを流れる電流が変化することにより、Aが作る磁束が変化し、その磁束変化がBを貫くことでBに誘導起電力が生じます(相互誘導)。
Bのうち、Aの磁場の影響を受ける部分(Aと重なっている部分)の総巻数 \(N_B’\) と、その部分を貫く磁束の変化 \(\Delta \Phi\) を使ってファラデーの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- ソレノイドAの磁場はAの内部にほぼ限定され、その磁場がBの一部を貫いていること。
- Bの有効な巻数(Aの磁場の影響を受ける部分の巻数)を計算する。
- ファラデーの電磁誘導の法則を適用する。
具体的な解説と立式
ソレノイドBはソレノイドAの外側に、長さ \(l/2\) にわたって巻かれています。Bの単位長さあたりの巻き数も \(n\) です。
ソレノイドAが作る磁場はAの内部(断面積 \(S\))にほぼ限定されます。したがって、ソレノイドBのうち、このAの磁場の影響を受けるのは、Aと重なっている部分の巻線です。この部分の長さは \(l/2\) なので、その総巻数 \(N_B’\) は、
$$N_B’ = n \left(\frac{l}{2}\right) \quad \cdots ⑨$$
この \(N_B’\) の各巻きが貫く磁束は、ソレノイドAの断面積 \(S\) を貫く磁束と同じです。その変化 \(\Delta \Phi\) は(ア)で求めた \(\mu_0 nS\Delta I\) です。
したがって、ソレノイドBに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) は、ファラデーの電磁誘導の法則より、
$$V_2 = N_B’ \left|\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right| \quad \cdots ⑩$$
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = N \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)
- ソレノイドの総巻数
式⑨と(ア)の結果 \(\Delta \Phi = \mu_0 nS\Delta I\) を式⑩に代入します。
$$V_2 = n \left(\frac{l}{2}\right) \left| \frac{\mu_0 nS\Delta I}{\Delta t} \right|$$
絶対値の中は正と仮定して、
$$V_2 = n \left(\frac{l}{2}\right) \frac{\mu_0 nS\Delta I}{\Delta t}$$
整理すると、
$$V_2 = \frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
- ソレノイドAの電流が変わると、Aの中の磁束が変わります。この磁束の変化は、Aの外側に巻かれたソレノイドBの一部も貫いています。
- ソレノイドBのうち、Aの磁場の影響を受ける部分の長さは \(l/2\) です。Bの単位長さあたりの巻数は \(n\) なので、この部分の総巻数は \(N_B’ = n(l/2)\) です。
- Bの各巻きを貫く磁束の変化 \(\Delta \Phi\) は、(ア)で求めたAの断面積を貫く磁束の変化 \(\mu_0 nS\Delta I\) と同じです(Aの外部にはほとんど磁場が漏れないため、BはA内部の磁束変化を捉えます)。
- ファラデーの法則から、Bに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) は、\(V_2 = N_B’ \times (\Delta \Phi / \Delta t)\) で計算できます。
- 値を代入すると、\(V_2 = n(l/2) \times (\mu_0 nS\Delta I / \Delta t) = \displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) となります。
Bに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) は \(\displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) です。これはAの自己誘導起電力の半分になっています。
問2 (オ)
思考の道筋とポイント
AとBの間の相互インダクタンス \(M\) を求めます。
相互誘導起電力の定義式 \(V_2 = M \left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\) と、(エ)で求めた \(V_2\) の式を比較することで \(M\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 相互インダクタンスの定義式を理解していること。
具体的な解説と立式
相互誘導起電力の大きさ \(V_2\) は、相互インダクタンス \(M\) とソレノイドAを流れる電流の時間変化率 \(\left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\) を用いて、
$$V_2 = M \left|\frac{\Delta I}{\Delta t}\right| \quad \cdots ⑪$$
と表されます。
(エ)で求めた \(V_2 = \displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と比較します。
使用した物理公式
- 相互誘導起電力: \(V_2 = M \left|\displaystyle\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\right|\)
式⑪と(エ)の \(V_2 = \displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を比較すると、
$$M \frac{\Delta I}{\Delta t} = \frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
両辺から \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を割ることで(\(\Delta I/\Delta t \neq 0\)として)、
$$M = \frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS$$
- 相互インダクタンス \(M\) は、一方のコイル(A)の電流の変化の速さ \(\Delta I/\Delta t\) と、それによってもう一方のコイル(B)に生じる誘導起電力 \(V_2\) の間の比例係数で、\(V_2 = M \times (\Delta I/\Delta t)\) という関係があります。
- (エ)で \(V_2 = \displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と求めたので、この式の \(\Delta I/\Delta t\) の前の部分 \(\displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS\) が相互インダクタンス \(M\) にあたります。
- したがって、\(M = \displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS\) となります。
AとBの間の相互インダクタンス \(M\) は \(\displaystyle\frac{1}{2} \mu_0 n^2 lS\) です。これはAの自己インダクタンス \(L = \mu_0 n^2 lS\) のちょうど半分になっています。これは、BがAの半分の長さにわたって巻かれているため、Aが作る磁束と鎖交するBの巻数がAの半分になっていることに起因します(ただし、両者の単位長さあたり巻数は同じ\(n\))。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ソレノイドが作る磁場: \(H=nI\), \(B=\mu_0 nI\)。ソレノイドの基本的な性質として必ず押さえる。
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N d\Phi/dt\)。磁束変化が起電力を生むという電磁誘導現象の根幹。\(N\)は影響を受ける部分の総巻数。
- 自己インダクタンス \(L\): \(L = N\Phi/I\) または \(V_L = -L dI/dt\)。コイル自身の電流変化による起電力の度合い。幾何学的形状で決まる。
- 相互インダクタンス \(M\): \(M = N_2\Phi_{21}/I_1\) または \(V_{21} = -M dI_1/dt\)。一方のコイルの電流変化が他方のコイルに及ぼす影響の度合い。これも幾何学的配置で決まる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- コイルの形状が異なる場合(例:円環コイル(トロイダルコイル))。
- 複数のコイルが複雑に組み合わさっている場合。
- コイル内に鉄心などの磁性体が挿入される場合(透磁率 \(\mu_0\) が \(\mu\) に変わる)。
- 交流回路におけるインダクタンスの役割を考える問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 磁束を正しく定義する: どのコイルの、どの部分を貫く磁束なのかを明確にする。特に相互誘導では、一方のコイルが作る磁束がもう一方のコイルのどこをどれだけ貫くかが重要。
- 総巻数を正確に把握する: ファラデーの法則やインダクタンスの定義に出てくる \(N\) は、磁束変化の影響を受ける部分の「総」巻数。単位長さあたりの巻数と長さを混同しない。
- インダクタンスの定義式を使い分ける: \(L=N\Phi/I\) や \(M=N_2\Phi_{21}/I_1\) は定常電流に対する定義だが、これから \(V=-L dI/dt\) や \(V=-M dI/dt\) が導かれる。問題に応じてどちらの視点から考えるか。本問では \(V\) と \(dI/dt\) の関係から \(L\) や \(M\) を求めるのが素直。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(n\) と \(N\) の混同: \(n\) は単位長さあたりの巻き数、\(N\) は総巻数。ソレノイドの長さ \(l\) を掛けるかどうかに注意。
- 対策: 問題文を丁寧に読み、記号の定義を確認する。必要なら \(N=nl\) のように関係式を明記する。
- 磁束 \(\Phi\) の定義の曖昧さ: 1巻きあたりの磁束か、コイル全体の鎖交磁束か。インダクタンスの定義式で \(N\Phi\) の形になるのは、\(\Phi\) を1巻きあたりの磁束とした場合。本問の(1)の \(\Phi\) は断面積 \(S\) を貫く磁束 \(BS\) であり、これを \(N\) 倍して鎖交磁束としている。
- 対策: 自分がどの段階でどの \(\Phi\) を用いているかを意識する。模範解答の導出の流れをよく理解する。
- 相互誘導における有効な巻数や磁束の見誤り: ソレノイドB全体ではなく、Aの磁場の影響を受ける部分だけを考える必要がある。
- 対策: 図をよく見て、コイル間の位置関係と磁場の分布を把握する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題における物理現象のイメージ化:
- ソレノイドAに電流が流れると、Aの内部に一様な磁力線が軸方向に発生するイメージ。
- Aの電流が増加すると、この磁力線が密になる(磁束が増加する)イメージ。
- この磁束変化がA自身に起電力を生じさせ(自己誘導)、また、Aの磁場が貫いているBにも起電力を生じさせる(相互誘導)。
- BはAの磁場の「おすそ分け」を受けているようなイメージ。Bの長さがAより短い(\(l/2\))ので、影響を受ける度合いも変わってくる。
- 図示の有効性:
- 問題の断面図は非常に重要。ソレノイドAとBの相対的な位置関係、長さ、断面積を把握する。
- 磁力線の様子を簡単に描き加えるのも理解の助けになる(Aの内部に密で平行な線、外部にはほとんどない)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(H=nI\), \(\Phi=\mu_0 nSI\): これらはソレノイドの基本性質。電流から磁場、磁束を求める出発点。
- \(V_1 = N_A |\Delta\Phi/\Delta t|\): A自身の磁束変化がAに起電力を生む(自己誘導)ことをファラデーの法則で記述。\(N_A = nl\)。
- \(L = V_1 / |\Delta I/\Delta t|\): 自己誘導起電力とその原因である電流変化率との比例定数が \(L\)。(イ)の結果から直接 \(L\) を定義に従って導出。
- \(V_2 = N_B’ |\Delta\Phi/\Delta t|\): Aの磁束変化がBに起電力を生む(相互誘導)ことをファラデーの法則で記述。\(N_B’ = n(l/2)\)。\(\Delta\Phi\) はAが作る磁束の変化なので共通。
- \(M = V_2 / |\Delta I/\Delta t|\): 相互誘導起電力とその原因である(Aの)電流変化率との比例定数が \(M\)。(エ)の結果から直接 \(M\) を定義に従って導出。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) \(H, \Phi\) の計算:
- \(H=nI\) (ソレノイドの磁場の強さ)。
- \(B=\mu_0 H\)。
- \(\Phi=BS = \mu_0 nSI\)。
- (2)(ア) \(\Delta\Phi\) の計算:
- \(\Phi\) が \(I\) に比例することから \(\Delta\Phi = \mu_0 nS \Delta I\)。
- (2)(イ) \(V_1\) の計算:
- Aの総巻数 \(N_A = nl\)。
- \(V_1 = N_A |\Delta\Phi/\Delta t| = nl (\mu_0 nS \Delta I) / \Delta t = \mu_0 n^2 lS (\Delta I/\Delta t)\)。
- (2)(ウ) \(L\) の計算:
- \(V_1 = L |\Delta I/\Delta t|\) と(イ)の結果を比較して \(L = \mu_0 n^2 lS\)。
- (2)(エ) \(V_2\) の計算:
- Bの有効巻数 \(N_B’ = n(l/2)\)。
- \(V_2 = N_B’ |\Delta\Phi/\Delta t| = n(l/2) (\mu_0 nS \Delta I) / \Delta t = (1/2)\mu_0 n^2 lS (\Delta I/\Delta t)\)。
- (2)(オ) \(M\) の計算:
- \(V_2 = M |\Delta I/\Delta t|\) と(エ)の結果を比較して \(M = (1/2)\mu_0 n^2 lS\)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 記号の区別: \(n, l, S, I, \Delta I, \Delta t, \mu_0\) など、多くの記号が登場する。それぞれの意味を正確に把握する。
- \(n^2\), \(l\), \(S\) の組み合わせ: インダクタンスの式ではこれらの積の形がよく出てくる。次数を間違えないように。
- 係数(1/2など): Bの長さがAの半分であることから生じる係数。見落とさないように。
- 定義式の正確な適用: 特にインダクタンスの定義を用いる際、どのコイルのどの量を代入するのかを明確にする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な意味の確認:
- \(L\) や \(M\) はコイルの形状や配置で決まる定数。電流 \(I\) や時間 \(\Delta t\) に依存しない形になっているか確認。(\(\mu_0, n, l, S\) のみで表されているのでOK)
- \(L > 0\), \(M > 0\) であるはず。
- \(M \le \sqrt{L_A L_B}\) という関係(結合係数 \(k \le 1\))があるが、本問では \(L_B\) は問われていない。しかし、\(M\) が \(L\) と同程度のオーダーであることは妥当。
- BがAの一部分にしか結合していないので、\(M\) が \(L\) より小さくなるのは直感的にも理解できる(本問では \(M=L/2\))。
- 単位の確認:
- \(H\): [A/m] (\(nI \sim [1/m \cdot A]\))。OK。
- \(\Phi\): [Wb] (\(\mu_0 nSI \sim [N/A^2 \cdot 1/m \cdot m^2 \cdot A] = [N \cdot m / A] = [J/A] = [V \cdot s]\))。OK。
- \(L, M\): [H] (ヘンリー)。\([H] = [V \cdot s / A]\)。
\(L = \mu_0 n^2 lS \sim [N/A^2 \cdot (1/m)^2 \cdot m \cdot m^2] = [N \cdot m / A^2]\)。
\([V \cdot s / A] = [(J/C) \cdot s / A] = [(N \cdot m / (A \cdot s)) \cdot s / A] = [N \cdot m / A^2]\)。単位も整合している。
問題134 (山形大+長崎大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗、コイル、電池、スイッチを含むRL回路の過渡現象と定常状態に関する問題です。スイッチを操作した直後や十分に時間が経過した後の電流や電位、そしてコイルに蓄えられたエネルギーがジュール熱として消費される過程を扱います。コイルの性質(電流変化を妨げる、直流定常状態では短絡とみなせる)を正しく理解し、キルヒホッフの法則やエネルギー保存則を適用する能力が問われます。
- 抵抗値 \(R \, [\Omega]\) の抵抗。
- 抵抗値 \(r \, [\Omega]\) の抵抗。
- 自己インダクタンス \(L \, [\text{H}]\) のコイル。
- 起電力 \(E \, [\text{V}]\) の電池。
- スイッチS。
- 電池の内部抵抗とコイルの抵抗は無視できる。
- 図に示された回路構成。a点、b点の位置。
- (1) Sを閉じた直後に電池を流れる電流 \(I_1 \, [\text{A}]\) と、そのときのaに対するbの電位 \(V_1 \, [\text{V}]\)。
- (2) Sを閉じてから十分に時間がたったときに電池を流れる電流 \(I_2 \, [\text{A}]\)。
- (3) この後Sを開く。その直後に \(R\) を流れる電流 \(I_3 \, [\text{A}]\) と、aに対するbの電位 \(V_3 \, [\text{V}]\)。また、Sを開いてから十分に時間が経過する間に、抵抗 \(R\) で発生するジュール熱 \(W \, [\text{J}]\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- コイルの性質:
- 電流が変化しようとすると、その変化を妨げる向きに誘導起電力を生じる(レンツの法則)。\(V_{\text{コイル}} = -L \displaystyle\frac{dI}{dt}\)。
- スイッチを入れた直後など、電流が急激に変化しようとする場合、コイルは大きな誘導起電力を生じ、電流をほとんど流さない(開放状態に近い)。
- 十分に時間が経過し、電流が一定(直流定常状態)になると、\(dI/dt = 0\) なので誘導起電力は0となり、コイルは単なる導線(抵抗0とみなせる場合は短絡状態)として振る舞う。
- コイルにはエネルギー \(U_{\text{コイル}} = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) が蓄えられる。
- オームの法則: \(V = RI\)。
- キルヒホッフの法則: (特に電圧則)回路の任意の閉路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい。
- ジュール熱: 抵抗で消費されるエネルギー \(W = I^2Rt = VIt = \displaystyle\frac{V^2}{R}t\)。過渡現象では積分が必要な場合もあるが、本問(3)ではエネルギー保存の観点から求める。
問1
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じた直後の状態を考えます。この瞬間、コイルLは電流の変化を妨げるため、電流をほとんど流しません。この性質を利用して回路を解析します。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じた直後、コイルは電流を流さない(開放状態とみなせる)。
- 回路が実質的に電池、抵抗\(r\)、抵抗\(R\)の直列回路となる。
- オームの法則を用いて電流と電位差を計算する。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じた直後では、コイルLはその自己誘導作用により、回路に流れる電流の急激な増加を妨げようとします。その結果、コイルLにはまだ電流が流れないと考えることができます。これは、コイルLの部分が一時的に「断線」または「開放」されていると見なせる状態です。
このとき、電流は電池から出て抵抗 \(r\) を通り、次に抵抗 \(R\) を通って電池に戻る経路のみを流れます。コイル \(L\) には電流が流れません。
したがって、回路は電池 \(E\)、抵抗 \(r\)、抵抗 \(R\) が直列に接続されたものと等価になります。
この等価回路において、電池を流れる電流 \(I_1\) は、オームの法則より、
$$I_1 = \frac{E}{r+R} \quad \cdots ①$$このとき、抵抗 \(R\) の両端の電圧が aに対するbの電位 \(V_1\) に相当します。電流 \(I_1\) は図の上側の分岐点から抵抗 \(R\) を通りa点へ流れます。つまり、電流はb点のある上側の導線から抵抗\(R\)を通ってa点のある下側の導線へ流れるので、b点の電位がa点より高くなります。したがって、aに対するbの電位 \(V_1 = V_b – V_a\) は、$$V_1 = I_1 R \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- コイルの性質(スイッチON直後は電流流さず)
- オームの法則: \(V = RI\), \(I = V/R\)
式①で \(I_1\) は既に求まっています。
$$I_1 = \frac{E}{r+R}$$この \(I_1\) を式②に代入して \(V_1\) を求めます。$$V_1 = \left(\frac{E}{r+R}\right) R = \frac{ER}{r+R}$$
- スイッチSを閉じたほんの一瞬後を考えます。コイルという部品は、自分を流れる電流が急に変わるのを嫌がる性質があります。そのため、スイッチを入れた直後は、コイルにはまだ電流が流れません。
- すると、電流は電池から出て、抵抗\(r\)と抵抗\(R\)だけを通って電池に戻る単純な直列回路のように振る舞います。
- この直列回路の全体の抵抗は \(r+R\) なので、オームの法則から電池を流れる電流 \(I_1\) は \(I_1 = \displaystyle\frac{E}{r+R}\) となります。
- a点に対するb点の電位 \(V_1\) というのは、抵抗\(R\)にかかる電圧のことです。電流 \(I_1\) が抵抗\(R\)を流れる際、b点側の電位がa点側より高くなるので、その電位差は \(V_1 = I_1 R\) です。\(I_1\) に先ほどの式を代入すると \(V_1 = \displaystyle\frac{ER}{r+R}\) となります。
Sを閉じた直後に電池を流れる電流 \(I_1\) は \(\displaystyle\frac{E}{r+R}\) アンペア、aに対するbの電位 \(V_1\) は \(\displaystyle\frac{ER}{r+R}\) ボルトです。
電流の向きは電池の正極から出て抵抗\(r\)、抵抗\(R\)へと流れます。\(V_1\) は \(V_b – V_a\) であり、電流がb側からa側へ流れるので \(V_b > V_a\) となり、\(V_1 > 0\) です。
問2
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じてから十分に時間が経過した定常状態を考えます。このとき、コイルLを流れる電流は一定値に落ち着き、コイルの誘導起電力は0になります。
この設問における重要なポイント
- 十分に時間が経過すると、コイルは抵抗0の導線(短絡状態)とみなせる。
- 並列部分の合成抵抗を考える。
- 回路全体でオームの法則を適用する。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じてから十分に時間が経過すると、回路内の電流は時間的に変化しなくなり、定常状態となります。
このとき、コイルLを流れる電流も一定になるため、コイルLによる自己誘導起電力 \(V_{\text{コイル}} = -L \displaystyle\frac{dI}{dt}\) は \(0\) となります (\(dI/dt = 0\) だから)。
コイルの抵抗は無視できるので、コイルLは単なる導線(抵抗0)とみなすことができます。
回路図を見ると、抵抗 \(R\) とコイル \(L\)(実質抵抗0の導線)が並列に接続されています。抵抗 \(R\) と抵抗 \(0\) のものが並列に接続されている場合、電流はすべて抵抗 \(0\) の経路(コイルL)を流れます。つまり、抵抗 \(R\) の部分には電流が流れず、コイルLが抵抗\(R\)を短絡している状態になります。このとき、a点とb点の電位は等しくなります (\(V_b – V_a = 0\))。
したがって、電池から見た回路は、実質的に抵抗 \(r\) のみが接続されているのと同じになります。
よって、電池を流れる電流 \(I_2\) は、オームの法則より、
$$I_2 = \frac{E}{r} \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- コイルの性質(定常状態では短絡)
- オームの法則: \(I = V/R\)
式③がそのまま答えとなります。
$$I_2 = \frac{E}{r}$$
- スイッチSを閉じてから十分に時間が経つと、回路の状態は落ち着き、電流は一定になります(定常状態)。
- 電流が一定になると、コイルはただの導線(抵抗ゼロ)と同じように振る舞います。これは、コイルが電流の変化に対してのみ抵抗する(誘導起電力を生じる)ためです。
- 回路図を見ると、抵抗\(R\)とコイル\(L\)が並列になっています。コイルがただの導線になると、電流は抵抗のある\(R\)の経路よりも、抵抗のないコイルの経路を好んで流れます。実際、抵抗\(R\)には電流が流れなくなり、すべての電流がコイル\(L\)を通ります(短絡)。
- その結果、電池から見ると、電流は抵抗\(r\)を通った後、コイル\(L\)(抵抗ゼロ)を通って戻るだけとなり、抵抗\(R\)は回路に影響しなくなります。
- したがって、電池を流れる電流 \(I_2\) は、オームの法則から \(I_2 = \displaystyle\frac{E}{r}\) となります。
Sを閉じてから十分に時間がたったときに電池を流れる電流 \(I_2\) は \(\displaystyle\frac{E}{r}\) アンペアです。
このとき、抵抗 \(R\) には電流が流れず (\(V_b – V_a = 0\))、電流 \(I_2\) はすべてコイル \(L\) を流れます。コイル \(L\) を流れる向きは、図でbからaの向きです。
問3
思考の道筋とポイント
定常状態になった後、スイッチSを開きます。
Sを開いた直後、コイルLはそれまで流れていた電流を維持しようとします。この電流が抵抗\(R\)に流れます。
その後、コイルに蓄えられていたエネルギーが抵抗\(R\)でジュール熱として消費され、やがて電流は0になります。
この設問における重要なポイント
- スイッチを開く直前にコイルを流れていた電流が、開いた直後のコイルを流れる電流となる(電流の連続性)。
- Sを開いた後は、コイルLと抵抗Rからなる閉回路ができる。
- コイルに蓄えられていたエネルギーがすべて抵抗Rでジュール熱として消費される。
- 抵抗における電流の向きと電位の高低関係を正しく把握する。
具体的な解説と立式
Sを開いた直後の電流 \(I_3\) と電位 \(V_3\)
スイッチSを開く直前(問2の定常状態)、コイルLには電流 \(I_L\) が流れています。このとき抵抗\(R\)には電流が流れていないので、電池を流れる電流 \(I_2\) はすべてコイルLを流れています。よって、
$$I_L = I_2 = \frac{E}{r}$$
この電流 \(I_L\) の向きは、電池の正極から出て抵抗\(r\)を通り、分岐後コイルLを流れるので、図のb点からa点の向きです。
スイッチSを開いた直後、コイルLは自己誘導作用により、それまで流れていた電流 \(I_L\)(bからaの向き、大きさ \(E/r\))を瞬時に変えることができず、同じ大きさ・同じ向きの電流を流し続けようとします。
Sを開くと、電池と抵抗\(r\)を含む経路は回路から切り離されます。コイルLと抵抗\(R\)が閉回路を形成します。
コイルLがbからaの向きに電流を流そうとするため、この電流が抵抗\(R\)を通ります。抵抗\(R\)を流れる電流の向きはaからbの向きになります。
したがって、Sを開いた直後に抵抗\(R\)を流れる電流 \(I_3\) の大きさは、コイルLが維持しようとする電流 \(I_L\) の大きさに等しく、
$$I_3 = I_L = \frac{E}{r} \quad \cdots ④$$
電流 \(I_3\) は抵抗 \(R\) をaからbの向きに流れます。
aに対するbの電位 \(V_3 = V_b – V_a\) を考えます。抵抗 \(R\) において電流 \(I_3\) がaからbの向きに流れるため、a点の電位 \(V_a\) はb点の電位 \(V_b\) よりも高くなります(電流は電位の高い方から低い方へ流れる)。その電位差は \(I_3 R\) です。
つまり、\(V_a – V_b = I_3 R\)。
したがって、\(V_3 = V_b – V_a = -(V_a – V_b)\) なので、
$$V_3 = -I_3 R \quad \cdots ⑤$$
抵抗 \(R\) で発生するジュール熱 \(W\)
スイッチSを開いた後、コイルLに蓄えられていた磁気エネルギーが、抵抗\(R\)でジュール熱としてすべて消費されます。
Sを開く直前にコイルLに蓄えられていたエネルギー \(U_{\text{コイル}}\) は、そのときの電流 \(I_L\) を用いて、
$$U_{\text{コイル}} = \frac{1}{2} L I_L^2 \quad \cdots ⑥$$発生するジュール熱 \(W\) はこのエネルギーに等しいので、$$W = U_{\text{コイル}}$$
使用した物理公式
- コイルの性質(電流の連続性)
- オームの法則: \(V = IR\)
- コイルに蓄えられるエネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\)
- エネルギー保存則
\(I_3\) と \(V_3\) の計算
式④より、抵抗\(R\)を流れる電流の大きさは、
$$I_3 = \frac{E}{r}$$これを式⑤に代入して \(V_3\) を求めます。$$V_3 = -\left(\frac{E}{r}\right) R = -\frac{ER}{r}$$
ジュール熱 \(W\) の計算
コイルを流れていた電流 \(I_L = I_2 = \displaystyle\frac{E}{r}\) を式⑥に代入して \(U_{\text{コイル}}\) を求めます。
$$U_{\text{コイル}} = \frac{1}{2} L \left(\frac{E}{r}\right)^2 = \frac{1}{2} L \frac{E^2}{r^2} = \frac{LE^2}{2r^2}$$よって、発生するジュール熱 \(W\) は、$$W = \frac{LE^2}{2r^2}$$
- スイッチSを開いた直後の電流 \(I_3\) と電位 \(V_3\):
- スイッチSを開く直前、コイルLには \(I_L = E/r\) の電流がbからaの向きに流れていました。
- スイッチを開くと、コイルはこの電流(bからaへ、大きさ\(E/r\))を維持しようとします。
- この結果、コイルLと抵抗\(R\)からなる閉回路で、抵抗\(R\)にはaからbの向きに電流 \(I_3 = E/r\) が流れます。
- a点に対するb点の電位 \(V_3\) は \(V_b – V_a\) です。抵抗\(R\)を電流 \(I_3\) がaからbへ流れるとき、a点の方がb点より電位が高くなります(電流は高電位→低電位)。その電位差は \(I_3 R\) なので、\(V_a – V_b = I_3 R\)。したがって、\(V_b – V_a = -I_3 R = -(E/r)R = -ER/r\) となります。
- 抵抗 \(R\) で発生するジュール熱 \(W\):
- スイッチSを開いた後、コイルに蓄えられていた「磁気のエネルギー」が、抵抗\(R\)で熱(ジュール熱)に変わってすべて放出されます。
- コイルに蓄えられていたエネルギーは \(U_{\text{コイル}} = \displaystyle\frac{1}{2}LI_L^2\) という式で計算できます。\(I_L = E/r\) なので、エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}L(E/r)^2 = \displaystyle\frac{LE^2}{2r^2}\) です。
- これがすべてジュール熱 \(W\) になるので、\(W = \displaystyle\frac{LE^2}{2r^2}\) となります。
Sを開いた直後に \(R\) を流れる電流 \(I_3\) は \(\displaystyle\frac{E}{r}\) アンペア(向きはaからb)、aに対するbの電位 \(V_3\) は \(-\displaystyle\frac{ER}{r}\) ボルトです。
\(V_3\) が負であることは、b点の電位がa点より低いことを意味し、電流が抵抗\(R\)をaからbへ流れることと整合します。
抵抗 \(R\) で発生するジュール熱 \(W\) は \(\displaystyle\frac{LE^2}{2r^2}\) ジュールです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コイルの過渡特性:
- スイッチON直後: 電流変化を妨げるため、電流はほぼ流れない(開放とみなせる)。自己誘導起電力が電源電圧と釣り合おうとする。
- スイッチOFF直後: それまで流れていた電流を維持しようとする(電流の連続性)。自己誘導起電力が電流を流し続けようとする。
- コイルの定常特性(直流): 十分な時間が経過し電流が一定になると、自己誘導起電力はゼロ。コイルの抵抗がなければ短絡状態とみなせる。
- エネルギー保存則: コイルに蓄えられた磁気エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) が、Sを開いた後に抵抗でジュール熱として消費される。
- オームの法則とキルヒホッフの法則: 回路解析の基本。各瞬間の回路状態に応じて適用する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- RC回路やRLC回路の過渡現象(コンデンサーの振る舞いも加わる)。
- スイッチの切り替えによって回路構成が変わる問題。
- コイルやコンデンサーに蓄えられるエネルギーの最大値や、特定の時点でのエネルギーを問う問題。
- 過渡現象の時定数が絡む問題(微分方程式を解くレベル、または時定数の意味を問う)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 「直後」か「十分な時間が経過した後」か: この条件によってコイル(やコンデンサー)の扱い方が全く異なる。
- 直後 \(\rightarrow\) Lは開放、Cは短絡(電流が流れやすい)。
- 十分後 \(\rightarrow\) Lは短絡、Cは開放(電流が流れない)。
- スイッチ操作で回路がどう変わるか: 操作前後の等価回路を正確に描く。
- エネルギーの流れを追う: どこからエネルギーが供給され、どこに蓄えられ、どこで消費されるか。特にSを開いた後は電池からのエネルギー供給がない。
- 電流の連続性(コイル)と電荷の連続性(コンデンサー): スイッチ操作の直前直後で、コイルの電流やコンデンサーの電荷は急に変わらない。
- 「直後」か「十分な時間が経過した後」か: この条件によってコイル(やコンデンサー)の扱い方が全く異なる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- コイルの扱い方の混同: スイッチON直後と十分な時間経過後で、コイルを開放とみなすか短絡とみなすかを間違える。
- 対策: 「コイルは電流変化を嫌う」という基本性質に立ち返る。急変時は抵抗大(開放)、定常時は変化なしで抵抗小(短絡)とイメージする。
- Sを開いた後の回路の見誤り: 電池を含めて考えてしまうなど。
- 対策: Sを開いた後の有効な閉回路を正確に特定する。本問(3)ではLとRのみのループ。
- 電位の基準と向き: 「aに対するbの電位」の意味を正しく理解し、\(V_b – V_a\) を計算する。抵抗における電流の向きと電位の高低関係を正確に把握する(電流は高電位から低電位へ流れる)。
- 対策: 電流が流れる向きに電位は降下する(抵抗の場合)。図に電位の高低を書き込むと良い。\(V_b – V_a\) の符号に注意。
- エネルギー計算の対象: (3)のジュール熱は、Sを開いた「後」に抵抗Rで消費されるエネルギー。Sが閉じている間にRやrで消費される熱とは区別する。
- 対策: 問題文でどの期間のどの部分でのジュール熱かを明確に把握する。
- コイルを流れる電流の向きの特定: 特にスイッチ操作前後での電流の向きを正確に追うことが重要。
- 対策: 回路図を丁寧に見て、電池の極性や他の素子の接続から、電流がどちらに流れるかを判断する。コイルの電流連続性は向きも維持することを忘れない。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題における物理現象のイメージ化:
- スイッチON直後: コイルが「まだ流れさせないぞ!」と踏ん張っているイメージ。
- 十分な時間経過後: コイルが「もう流れは安定したから、どうぞ通ってください」とただの道になっているイメージ。電流は抵抗\(R\)を避けてコイル側(楽な道)を通る。このとき、コイルにはbからaへ電流が流れている。
- スイッチOFF直後: コイルが「まだ(bからaへ)流れていたいんだ!」と、蓄えたエネルギーを使って無理やり電流を流し続けようとするイメージ。その結果、抵抗\(R\)にはaからbへ電流が流れる。そのエネルギーが抵抗\(R\)で消費される。
- 図示の有効性:
- 各設問の状況に応じて、等価回路を新たに描くと非常に分かりやすい。(1)ではLがない回路、(2)ではLが導線の回路、(3)では電池とrがないL-Rの閉回路。
- 電流の向きや電位の高低を回路図に書き込む。特にコイルを流れる電流の向きを正確に把握することが、スイッチOFF後の現象理解につながる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- コイルの性質の適用:
- (1) ON直後 \(\rightarrow\) Lに電流 \(I_L \approx 0\)。
- (2) 十分後 \(\rightarrow\) \(V_L = 0\)。
- (3) OFF直後 \(\rightarrow\) \(I_L\) は直前の値を維持。
- オームの法則 \(I=V/R\), \(V=IR\): 各状況での等価回路に対して適用し、電流や電圧を求める。
- エネルギー保存則 \(W = \Delta U_{\text{コイル}}\): (3)で、コイルの磁気エネルギーがすべてジュール熱に変換されるというエネルギーの流れを捉える。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) Sを閉じた直後:
- コイルLは開放とみなす。回路はE-r-Rの直列。
- \(I_1 = E / (r+R)\)。
- \(V_1 = I_1 R\)。
- (2) 十分に時間が経過した後 (Sは閉):
- コイルLは短絡とみなす。抵抗RはコイルLにより短絡されるため、Rに電流は流れない。
- 回路は実質E-rの回路。電池から出た電流はrを通り、L(b→a)を通って戻る。
- 電池を流れる電流 \(I_2 = E/r\)。この電流がコイルLを流れる (\(I_L = I_2\), 向きはb→a)。
- (3) Sを開いた直後:
- コイルLは直前の電流 \(I_L = E/r\)(向きb→a)を維持しようとする。
- 回路はL-Rの閉回路。コイルがb→aに電流を流そうとするため、抵抗Rにはa→bの向きに \(I_3 = I_L\) の電流が流れる。
- 抵抗Rでは電流がa→bに流れるので \(V_a – V_b = I_3 R\)。よって \(V_3 = V_b – V_a = -I_3 R\)。
- (3) Sを開いてから十分に時間が経過する間のジュール熱 \(W\):
- Sを開く直前にコイルLに蓄えられていたエネルギー \(U_{\text{コイル}} = (1/2)LI_L^2\) を計算(ここで \(I_L = E/r\))。
- このエネルギーが全て抵抗Rでジュール熱として消費されるので \(W = U_{\text{コイル}}\)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 等価回路の正確な把握: 各ステップで回路がどのように単純化されるかを正確に理解する。
- 文字の代入ミス: \(R\) と \(r\) を混同しない。
- 電流の経路と向きの特定: 特に(2)でコイルを流れる電流の向き、(3)でRを流れる電流の向きを正確に把握する。電位差を計算する際の符号に直結する。
- エネルギーの式の \(I\) の選択: (3)のジュール熱計算で使う \(I_L\) は、Sを開く直前のコイル電流 (\(I_2\)) であることを明確にする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- (1) \(I_1 < I_2\): Sを閉じた直後はRも抵抗として働くので電流は小さい。十分時間たつとRが短絡され実質的な抵抗がrだけになるので電流は大きくなる。これは妥当 (\(E/(r+R) < E/r\))。
- (3) \(I_3\): コイルが電流を維持しようとするので、\(I_2\) と同じ値になるのは妥当。\(V_3\) の符号も電流の向き(a→b)と電位の定義(\(V_b-V_a\)、aの方が高電位)から負になることが妥当。
- \(W > 0\): エネルギーは正の値。
- 極端な場合の検討:
- もし \(R \rightarrow 0\) なら、(1) \(I_1 \rightarrow E/r\), \(V_1 \rightarrow 0\)。(3) \(I_3 = E/r\), \(V_3 \rightarrow 0\), \(W\) は抵抗Rで消費されるので、もし \(R=0\) ならジュール熱も0になるはず(ただし、エネルギーの行き場がなくなるので非現実的)。この問題では \(R>0\)。
- もし \(L \rightarrow 0\) (コイルがない) なら、(1)は同じだが、(2)も\(I_2 = E/(r+R)\) (並列のRが生きる)、(3)はコイルがないので電流維持もエネルギー放出もない。この問題は\(L>0\)が前提。
問題135 (センター試験)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、発電所で発電された交流電力を送電する際の変圧器の役割と、送電効率に関する基本的な知識を問う穴埋め問題です。変圧器における電圧と巻数の関係、周波数の変化、そして送電電圧と送電損失の関係について理解しているかがポイントとなります。
- 発電所で発電された交流の電気が変圧器で昇圧されて送電される。
- 送電線には抵抗があり、熱として電力が失われる。
- 送電線の抵抗は変化しないものとする。
- 解答群: ① \(\displaystyle\frac{1}{100}\) ② \(\displaystyle\frac{1}{10}\) ③ \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{10}}\) ④ \(1\) ⑤ \(\sqrt{10}\) ⑥ \(10\) ⑦ \(100\)
以下の空欄(1)~(4)に入る数値を解答群から選ぶ。
- 電圧を10倍にするには変圧器の1次コイルの巻数に対して2次コイルの巻数を (1) 倍にすればよい。
- このとき周波数は (2) 倍になる。
- 発電所から同じ電力を送るとき、送電線に送り出す電圧(送電電圧)を10倍にすると、送電線を流れる電流は (3) 倍になる。
- この結果、送電線の抵抗によって熱として失われる電力は (4) 倍になる。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 変圧器の原理:
- 1次コイルと2次コイルの電圧比は、それぞれの巻数比に等しい。\( \displaystyle\frac{V_1}{V_2} = \frac{N_1}{N_2} \) (理想的な変圧器の場合)
- 変圧器では電力は(理想的には)保存される。\( P_1 = P_2 \) すなわち \(V_1 I_1 = V_2 I_2 \)。
- 交流の周波数は変圧器を通しても変化しない。
- 電力の公式: \(P = VI\) (\(P\): 電力, \(V\): 電圧, \(I\): 電流)
- ジュール熱(電力損失)の公式: \(P_{\text{損失}} = I^2 R\) (\(R\): 抵抗)
空欄 (1)
思考の道筋とポイント
変圧器の1次コイルの電圧を \(V_1\)、巻数を \(N_1\) とし、2次コイルの電圧を \(V_2\)、巻数を \(N_2\) とします。電圧を10倍にするとは、\(V_2 = 10V_1\) ということです。このときの巻数比 \(N_2/N_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 変圧器の電圧比と巻数比の関係式 \( \displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \frac{N_2}{N_1} \) を正しく利用すること。
具体的な解説と立式
変圧器における1次コイルと2次コイルの電圧比と巻数比の関係は、理想的な場合、次のように表されます。
$$\frac{V_2}{V_1} = \frac{N_2}{N_1} \quad \cdots ①$$
ここで、\(V_1\) は1次コイルの電圧、\(N_1\) は1次コイルの巻数、\(V_2\) は2次コイルの電圧、\(N_2\) は2次コイルの巻数です。
問題では、電圧を10倍にする、つまり \(V_2 = 10V_1\) となるときの2次コイルの巻数 \(N_2\) が1次コイルの巻数 \(N_1\) の何倍になるかを問われています。これは \(N_2/N_1\) の値を求めることに相当します。
- 変圧器の電圧比と巻数比: \( \displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \frac{N_2}{N_1} \)
式①に \(V_2 = 10V_1\) を代入します。
$$\frac{10V_1}{V_1} = \frac{N_2}{N_1}$$
\(V_1\) で約分すると、
$$10 = \frac{N_2}{N_1}$$
したがって、2次コイルの巻数 \(N_2\) は1次コイルの巻数 \(N_1\) の10倍にする必要があります。
- 変圧器では、コイルの巻数の比と電圧の比は等しくなります。
- 電圧を10倍にしたいのであれば、2次コイルの巻数も1次コイルの巻数の10倍にする必要があります。
- 式で書くと、\(V_2/V_1 = N_2/N_1\) で、\(V_2/V_1 = 10\) なので、\(N_2/N_1 = 10\) となります。
2次コイルの巻数を1次コイルの巻数の 10 倍にすればよい。これは解答群の ⑥ に相当します。
空欄 (2)
思考の道筋とポイント
変圧器を通過することで交流の周波数がどのように変化するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 変圧器は電磁誘導を利用しており、周波数を変化させる機能はないことを理解している。
具体的な解説と立式
変圧器は、1次コイルで作られた磁束の変化が電磁誘導によって2次コイルに起電力を生じさせる装置です。このとき、磁束の変化の周期(すなわち周波数)は1次コイル側と2次コイル側で変わりません。電圧や電流の大きさは変わりますが、振動数は同じです。
したがって、周波数は変わらず 1 倍になります。
- 変圧器の原理(周波数は不変)
変圧器の原理より、周波数は変化しません。よって、変化の倍率は1倍です。
- 変圧器は、交流の電気の「波の高さ(電圧)」を変える装置ですが、「波の振動の速さ(周波数)」は変えません。
- 1次コイル側で1秒間に50回振動する交流電気なら、2次コイル側でも1秒間に50回振動します。
- したがって、周波数は変わらないので1倍です。
周波数は 1 倍になる。これは解答群の ④ に相当します。
空欄 (3)
思考の道筋とポイント
発電所から送る電力が一定のとき、送電電圧を10倍にすると送電線を流れる電流が何倍になるかを考えます。電力 \(P\)、電圧 \(V\)、電流 \(I\) の関係式 \(P=VI\) を用います。
この設問における重要なポイント
- 電力 \(P=VI\) が一定という条件を正しく使うこと。
具体的な解説と立式
送電電力を \(P\)、送電電圧を \(V\)、送電線を流れる電流を \(I\) とすると、これらの間には
$$P = VI \quad \cdots ②$$
という関係があります。
発電所から送る電力 \(P\) が一定のまま、送電電圧を \(V’\) に、そのときの電流を \(I’\) に変えたとします。このときも電力は同じなので、
$$P = V’I’ \quad \cdots ③$$
問題では、送電電圧を10倍にする、つまり \(V’ = 10V\) としたときに、電流 \(I’\) が元の電流 \(I\) の何倍になるかを問われています。
- 電力: \(P = VI\)
電力 \(P\) は一定なので、式②と式③から、
$$VI = V’I’$$
ここに \(V’ = 10V\) を代入すると、
$$VI = (10V)I’$$
両辺の \(V\) で割ると(\(V \neq 0\) として)、
$$I = 10I’$$
よって、新しい電流 \(I’\) は、
$$I’ = \frac{1}{10}I$$
したがって、送電線を流れる電流は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になります。
- 送る電気の総量(電力 \(P\))が同じだとします。電力は「電圧 \(V\) × 電流 \(I\)」で計算できます。
- もし電圧 \(V\) を10倍にしたら、同じ電力を送るためには電流 \(I\) はどうなるでしょうか。
- \(P = V \times I\) の関係で \(P\) が変わらず \(V\) が10倍になるのですから、\(I\) は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) にならなければ掛け算の結果が同じになりません。
- つまり、電流は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になります。
送電線を流れる電流は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になる。これは解答群の ② に相当します。
空欄 (4)
思考の道筋とポイント
送電線の抵抗によって熱として失われる電力(電力損失)が何倍になるかを考えます。電力損失は \(P_{\text{損失}} = I^2 R_{\text{送電線}}\) で与えられます。ここで \(I\) は送電電流、\(R_{\text{送電線}}\) は送電線の抵抗です。(3)の結果を利用します。
この設問における重要なポイント
- 電力損失が \(I^2 R\) で表されること。
- (3)で求めた電流の変化を正しく代入すること。
具体的な解説と立式
送電線の抵抗を \(R_{\text{線}}\) とします。送電線を流れる電流が \(I\) のとき、送電線で熱として失われる電力 \(P_{\text{損失}}\) は、
$$P_{\text{損失}} = I^2 R_{\text{線}} \quad \cdots ④$$
(3)の結果より、送電電圧を10倍にすると、送電線を流れる電流は \(I’ = \displaystyle\frac{1}{10}I\) となります。
このときの電力損失を \(P’_{\text{損失}}\) とすると、
$$P’_{\text{損失}} = (I’)^2 R_{\text{線}} \quad \cdots ⑤$$
\(P’_{\text{損失}}\) が \(P_{\text{損失}}\) の何倍になるかを求めます。
- 電力損失(ジュール熱): \(P_{\text{損失}} = I^2 R\)
式⑤に \(I’ = \displaystyle\frac{1}{10}I\) を代入します。
$$P’_{\text{損失}} = \left(\frac{1}{10}I\right)^2 R_{\text{線}}$$
これを計算すると、
$$P’_{\text{損失}} = \frac{1}{100} I^2 R_{\text{線}}$$
式④ \(P_{\text{損失}} = I^2 R_{\text{線}}\) を用いると、
$$P’_{\text{損失}} = \frac{1}{100} P_{\text{損失}}$$
したがって、送電線の抵抗によって熱として失われる電力は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍になります。
- 送電線で熱として失われる電力は、流れる電流の「2乗」に比例します(\(P_{\text{損失}} = I^2 R_{\text{送電線}}\))。
- (3)で、送電電圧を10倍にすると電流が \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になることがわかりました。
- 電流が \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になると、失われる電力はその2乗である \( \left(\displaystyle\frac{1}{10}\right)^2 = \displaystyle\frac{1}{100} \) 倍になります。
- だから、電力損失は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍に減ります。これが、発電所が高電圧で電気を送る理由の一つです。
送電線の抵抗によって熱として失われる電力は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍になる。これは解答群の ① に相当します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 変圧器の基本法則:
- 電圧比と巻数比の関係 (\(V_2/V_1 = N_2/N_1\))。電圧を上げる(昇圧する)ためには、2次側の巻数を1次側より多くする必要がある。
- 周波数は変化しない。
- 電力の基本式: \(P=VI\)。送電電力が一定の場合、電圧を高くすると電流は小さくなる。
- ジュール損失の式: \(P_{\text{損失}}=I^2R\)。送電線での電力損失は、送電電流の2乗に比例する。したがって、電流を小さくすることが損失を減らす上で非常に効果的である。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 具体的な数値(電圧、電流、電力、抵抗値、巻数など)が与えられて、他の量を計算する問題。
- 変圧器の効率が100%でない場合の問題(入力電力と出力電力の関係)。
- 送電線の発熱量だけでなく、電圧降下 (\(IR\)) を考慮する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 変圧器が関わる場合: まず電圧比と巻数比の関係、周波不変の原則を思い出す。
- 電力輸送がテーマの場合: \(P=VI\)(送電電力)と \(P_{\text{損失}}=I^2R\)(損失電力)の2つの電力の式を区別して使う。
- 「〇〇を△△倍にすると、□□は何倍になるか」という形式の問い: 基準となる状態と変化後の状態を文字で設定し、それらの比を計算する。
- 条件(何が一定で何が変化するか)の確認: 本問では「同じ電力を送るとき」が重要な条件。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧と電流の関係の混同: 変圧器で電圧を上げると電流は下がる(電力がほぼ一定の場合)。\(V\) と \(I\) が単純に比例・反比例するわけではなく、\(P=VI\) の関係の中で変化する。
- 対策: \(P=VI\) を常に意識し、何が一定で何が変化するのかを明確にする。
- 電力損失の計算ミス: \(I R^2\) や \(V^2/R\)(この\(V\)を送電電圧と混同する)など、間違った式で損失を計算する。損失は \(I^2R_{\text{送電線}}\) である。
- 対策: 損失は送電線という「抵抗」で発生するジュール熱であると理解し、\(I^2R\) の形を正確に使う。
- 比の計算での誤り: 「10倍」と「1/10倍」を取り違えるなど。
- 対策: 基準量と変化量を明確にし、どちらを分母・分子にするかを落ち着いて考える。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図示の重要性
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 変圧器: コイルの巻数が多い方が高い電圧を扱える「蛇口の高さ」のようなイメージ。水の勢い(電流)は、全体の仕事量(電力)が同じなら、高さ(電圧)に応じて変わる。
- 送電: 電気を送るパイプ(送電線)には通りにくさ(抵抗)があり、水(電流)を勢いよく流すと摩擦熱(ジュール熱)が多く発生する。細くゆっくり流す(高電圧・低電流)方が熱損失が少ない。
- 図示の有効性:
- 変圧器の簡単な模式図(1次コイル、2次コイル、鉄心)を描き、\(V_1, N_1, I_1\) と \(V_2, N_2, I_2\) を書き込む。
- 発電所から消費地までの送電経路を簡略化して描き、送電電圧 \(V\)、電流 \(I\)、送電線の抵抗 \(R_{\text{送電線}}\)、損失電力 \(P_{\text{損失}}\) を示す。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \frac{N_2}{N_1}\): ファラデーの電磁誘導の法則 \(\left(V = -N\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\right)\) と、1次・2次コイルで鎖交する磁束の時間変化率 \(d\Phi/dt\) が(理想的には)等しいことから導かれる関係。電圧を変える核心。
- 周波数不変: 交流の \(d\Phi/dt\) の振動の速さが変わらないため。
- \(P=VI\): 電気エネルギーが単位時間あたりに行う仕事(電力)の普遍的な定義。エネルギー輸送の量を表す。
- \(P_{\text{損失}}=I^2R_{\text{送電線}}\): 導線(抵抗 \(R_{\text{送電線}}\))に電流 \(I\) が流れる際に、電子と陽イオンの衝突によって発生するジュール熱の単位時間あたりの量。エネルギー損失の主要因。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 巻数比:
- 変圧器の電圧比と巻数比の関係式 \(V_2/V_1 = N_2/N_1\) を想起。
- \(V_2 = 10V_1\) を代入し、\(N_2/N_1\) を求める。
- (2) 周波数比:
- 変圧器の原理から周波数は変化しないことを確認。よって1倍。
- (3) 電流比:
- 電力 \(P=VI\) が一定という条件を確認。
- 初期状態 \(P=VI\)、変化後 \(P=V’I’\)。\(V’=10V\)。
- \(VI = (10V)I’\) より \(I’/I\) を求める。
- (4) 電力損失比:
- 電力損失の式 \(P_{\text{損失}} = I^2 R_{\text{送電線}}\) を想起。\(R_{\text{送電線}}\) は一定。
- (3)で求めた電流 \(I’ = (1/10)I\) を代入し、新しい損失 \(P’_{\text{損失}} = (I’)^2 R_{\text{送電線}}\) を計算。
- \(P’_{\text{損失}} / P_{\text{損失}}\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の取り方: 「AはBの何倍か」は A/B を計算する。基準を間違えないように。
- 2乗の計算: 電力損失の計算で電流を2乗するのを忘れない。特に比を考えるとき、\( (1/10)^2 = 1/100 \) となる。
- 与えられた条件の確認: 「同じ電力を送るとき」のような重要な条件を見落とさない。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- 電圧を10倍にするのに巻数を10倍にするのは直感的。
- 周波数が変わらないのも変圧器の性質として基本的。
- 同じ電力を送るのに電圧を上げると電流が減るのは、ホースの口を細くすると水の勢いが増す代わりに流れる水の断面積(電流に相当)が減るアナロジー(ただしこれは流速と断面積の関係であり、電気とは異なるが、イメージとして)。より適切なのは仕事率 \(P=Fv\) で、同じ仕事率なら力を大きくすれば速度は小さくて済む、など。
- 電流が大幅に減れば、\(I^2R\) の損失はさらに大幅に減るというのは、電力輸送の効率化の基本原理。
- 極端なケースの検討(思考実験):
- もし電圧を1倍(変えない)なら、電流も1倍、損失も1倍。数式がこれと整合するか確認。
- もし送電線の抵抗が0なら、損失は常に0。
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