「良問の風」攻略ガイド(131〜135問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題131 (関東学院大+九州大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、時間的に変化する一様な磁場中に置かれた正方形コイルに生じる電磁誘導について扱います。磁束密度の時間変化がグラフで与えられており、各時間帯におけるコイルを貫く磁束、誘導起電力、誘導電流、ジュール熱、そして誘導電流の時間変化のグラフを求める問題です。ファラデーの電磁誘導の法則、レンツの法則、オームの法則といった電磁気学の基本法則の理解と応用が問われます。

与えられた条件
  • 一辺の長さ \(L\) の正方形コイル ABCD が紙面に置かれている。
  • 紙面に垂直で裏から表に向かう向きの一様な磁場がコイルを貫いている。
  • 磁束密度の大きさ \(B\) が時間 \(t\) とともに図2のように変化する。
  • コイルの電気抵抗は \(R\) である。
  • 電流の向きは A→B の向きを正とする。
問われていること
  1. (1) 時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) について、
    • (ア) コイルを貫く磁束 \(\Phi\) を、時間 \(t\) の関数として表す。
    • (イ) コイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) を \(B_0, L, t_0\) を用いて表す。
    • (ウ) コイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) を求め、\(B_0, L, t_0, R\) を用いて表す。
    • (エ) この時間内でコイルに生じるジュール熱 \(Q_J\) を求め、\(B_0, L, t_0, R\) を用いて表す。
  2. (2) コイルを流れる誘導電流 \(I\) の時間変化をグラフに描く。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1)(エ) ジュール熱の別解: 電力と時間の積を用いる解法
      • 主たる解法が、電流の2乗と抵抗、時間の積 (\(I^2Rt\)) で計算するのに対し、別解では起電力と電流、時間の積 (\(VIt\)) で計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 計算の選択肢: 異なる電力の公式を用いることで、検算が可能になります。また、問題によっては一方の公式の方が計算が簡潔になる場合があり、状況に応じて最適な計算方法を選択する練習になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 磁束 \(\Phi\): \(\Phi = BS\)。この問題では磁場は紙面に垂直です。
  • ファラデーの電磁誘導の法則: 起電力の大きさは \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) (コイル1巻きの場合)。
  • レンツの法則: 誘導電流は、誘導電流が作る磁場が元の磁束の変化を妨げるような向きに流れます。
  • オームの法則: \(V = RI\)。
  • ジュール熱: \(Q_J = Pt = I^2Rt\)。

問(1)(ア)

思考の道筋とポイント
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) における磁束 \(\Phi\) を求めます。まず、図2のグラフから磁束密度 \(B\) を時間 \(t\) の関数で表し、次にコイルの面積 \(S\) を用いて磁束 \(\Phi = BS\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 図2のグラフの領域Iから、磁束密度 \(B\) が時間 \(t\) の一次関数として表されること。
  • 磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) とコイルの面積 \(S\) の積で与えられること。

具体的な解説と立式
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) において、図2のグラフは原点 \((0,0)\) と点 \((2t_0, B_0)\) を通る直線です。
したがって、この時間帯の磁束密度 \(B(t)\) は、
$$
\begin{aligned}
B(t) &= \frac{B_0}{2t_0} t \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
コイルの面積は \(S = L^2\) です。コイルを貫く磁束 \(\Phi(t)\) は、
$$
\begin{aligned}
\Phi(t) &= B(t) S \\[2.0ex]
&= B(t) L^2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 磁束: \(\Phi = BS\)
計算過程

式①を式②に代入すると、
$$
\begin{aligned}
\Phi(t) &= \left(\frac{B_0}{2t_0} t\right) L^2 \\[2.0ex]
&= \frac{B_0 L^2}{2t_0} t
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、図2のグラフから、時間帯Iの磁束密度 \(B\) は \(B(t) = \displaystyle\frac{B_0}{2t_0} t\) と表せます。コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、磁束密度 \(B\) とコイルの面積 \(S=L^2\) の掛け算で求められるので、\(\Phi(t) = B(t) \times S = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) となります。

結論と吟味

コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、時間 \(t\) の関数として \(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) と表されます。\(t=0\) で \(\Phi=0\)、\(t=2t_0\) で \(\Phi = B_0 L^2\) となり、物理的な状況と一致しています。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\)

問(1)(イ)

思考の道筋とポイント
時間帯Iにコイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) を求めます。ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = \left| \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) を用います。(ア)で求めた磁束 \(\Phi(t)\) が時間に比例しているので、その時間変化率を計算します。
この設問における重要なポイント

  • ファラデーの電磁誘導の法則を正しく適用すること。
  • 磁束 \(\Phi(t)\) の時間変化率(グラフの傾き)が誘導起電力の大きさに対応すること。

具体的な解説と立式
ファラデーの電磁誘導の法則より、コイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、磁束 \(\Phi(t)\) の時間変化の割合の絶対値で与えられます。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \left| \frac{d\Phi(t)}{dt} \right| \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
(ア)で求めた \(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) は \(t\) の一次関数なので、その時間変化率は一定です。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| \displaystyle\frac{d\Phi}{dt} \right|\)
計算過程

式③を用いて計算します。\(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) を \(t\) で微分すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{d\Phi(t)}{dt} &= \frac{B_0 L^2}{2t_0}
\end{aligned}
$$
したがって、誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \left| \frac{B_0 L^2}{2t_0} \right| \\[2.0ex]
&= \frac{B_0 L^2}{2t_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コイルに発生する誘導起電力の大きさは、磁束がどれくらいの速さで変化するかに比例します。(ア)で求めた磁束の式 \(\Phi(t) = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0} t\) の \(t\) の係数が、磁束の「変化の速さ」を表しています。したがって、誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、この係数そのものになります。

結論と吟味

コイルに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) は \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) です。磁束が一定の割合で増加するため、起電力は時間帯Iにおいて一定の値を取ります。

解答 (イ) \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\)

問(1)(ウ)

思考の道筋とポイント
時間帯Iにコイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) を求めます。オームの法則 \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\) を用います。(イ)で求めた誘導起電力の大きさ \(V_0\) と、与えられたコイルの電気抵抗 \(R\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント

  • オームの法則を正しく適用すること。
  • 誘導起電力が電源の電圧と同様に働くこと。

具体的な解説と立式
オームの法則により、コイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) は、誘導起電力の大きさ \(V_0\) とコイルの電気抵抗 \(R\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{V_0}{R} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
計算過程

式④に(イ)で求めた \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{\frac{B_0 L^2}{2t_0}}{R} \\[2.0ex]
&= \frac{B_0 L^2}{2Rt_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

コイルに誘導起電力 \(V_0\) が生じると、コイル自身が抵抗 \(R\) を持っているため、そこに電流が流れます。この関係はオームの法則 \(I = V/R\) で表されます。(イ)で求めた \(V_0\) を \(R\) で割ることで、電流の大きさ \(I_0\) が求まります。

結論と吟味

コイルを流れる誘導電流の大きさ \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) です。時間帯Iにおいて一定の電流が流れることを意味します。

解答 (ウ) \(\displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\)

問(1)(エ)

思考の道筋とポイント
時間帯I (\(0 \le t \le 2t_0\)) でコイルに生じるジュール熱 \(Q_J\) を求めます。ジュール熱は \(Q_J = P \Delta t = I^2 R \Delta t\) で計算できます。電流が流れる時間は \(\Delta t = 2t_0\) です。
この設問における重要なポイント

  • ジュール熱の公式を正しく選択し適用すること。
  • 電流が流れる時間を正確に把握すること (\(2t_0\))。

具体的な解説と立式
コイルに電流 \(I_0\) が流れると、抵抗 \(R\) でジュール熱が発生します。発生する電力 \(P\) は \(P = I_0^2 R\) です。
ジュール熱 \(Q_J\) は、電力 \(P\) に電流が流れた時間 \(\Delta t = 2t_0\) を掛けることで求められます。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= I_0^2 R (2t_0) \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ジュール熱: \(Q_J = I^2 R t\)
計算過程

式⑤に(ウ)で求めた \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= \left( \frac{B_0 L^2}{2Rt_0} \right)^2 R (2t_0) \\[2.0ex]
&= \frac{B_0^2 L^4}{4R^2 t_0^2} R (2t_0) \\[2.0ex]
&= \frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ジュール熱 \(Q_J\) は、「電流の2乗 × 抵抗 × 時間」で計算できます。時間帯Iでは、(ウ)で求めた電流 \(I_0\) が \(2t_0\) の時間流れるので、これらを公式に代入して計算します。

結論と吟味

コイルに生じるジュール熱 \(Q_J\) は \(\displaystyle\frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}\) です。

別解: 電力と時間の積を用いる解法

思考の道筋とポイント
ジュール熱は \(Q_J = V_0 I_0 \Delta t\) でも計算できます。
この設問における重要なポイント

  • ジュール熱の別公式 \(Q_J = VIt\) を利用する。

具体的な解説と立式
ジュール熱 \(Q_J\) は、起電力 \(V_0\)、電流 \(I_0\)、時間 \(\Delta t = 2t_0\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
Q_J &= V_0 I_0 (2t_0) \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ジュール熱: \(Q_J = VIt\)
計算過程

式⑥に \(V_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2t_0}\) と \(I_0 = \displaystyle\frac{B_0 L^2}{2Rt_0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_J &= \left( \frac{B_0 L^2}{2t_0} \right) \left( \frac{B_0 L^2}{2Rt_0} \right) (2t_0) \\[2.0ex]
&= \frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ジュール熱は「電圧 × 電流 × 時間」でも計算できます。この方法でも、主たる解法と同じ結果が得られます。

結論と吟味

主たる解法と完全に一致し、計算の妥当性が確認できます。

解答 (エ) \(\displaystyle\frac{B_0^2 L^4}{2Rt_0}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
コイルを流れる誘導電流 \(I\) の時間変化をグラフに描きます。3つの時間帯(I, II, III) それぞれについて、誘導電流の大きさと向きを調べます。
この設問における重要なポイント

  • 各時間帯での磁束の変化の様子を正確に把握すること。
  • レンツの法則を用いて、各時間帯での誘導電流の向きを正しく判断すること。
  • 磁束の変化率の大きさが誘導起電力の大きさに比例することを利用すること。
  • A→Bの向きを正とする電流の定義に従ってグラフを描くこと。

具体的な解説と立式

  • 時間帯I (\(0 < t < 2t_0\)):
    大きさは \(I_0\)。向きは、裏から表向きの磁束が増加するため、それを妨げる表から裏向きの磁場を作る電流、すなわちB→Aの向きに流れます。A→Bを正とすると、電流は \(I = -I_0\)。
  • 時間帯II (\(2t_0 < t < 3t_0\)):
    磁束が一定なので変化せず、誘導起電力は0。よって電流は \(I = 0\)。
  • 時間帯III (\(3t_0 < t < 4t_0\)):
    磁束密度の変化率の大きさは \(|\frac{0-B_0}{4t_0-3t_0}| = \frac{B_0}{t_0}\) で、時間帯Iの \( \frac{B_0}{2t_0} \) の2倍です。よって電流の大きさは \(2I_0\)。向きは、裏から表向きの磁束が減少するため、それを補う裏から表向きの磁場を作る電流、すなわちA→Bの向きに流れます。A→Bが正なので、電流は \(I = +2I_0\)。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則
  • レンツの法則
  • オームの法則
計算過程

各時間帯の電流値をまとめます。

  • \(0 < t < 2t_0\): \(I = -I_0\)
  • \(2t_0 < t < 3t_0\): \(I = 0\)
  • \(3t_0 < t < 4t_0\): \(I = +2I_0\)
この設問の平易な説明
  1. 時間帯I: (1)で計算した電流 \(I_0\) が、レンツの法則によりB→Aの向き(負の向き)に流れます。
  2. 時間帯II: 磁場が変化しないので電流は流れません。
  3. 時間帯III: 磁場の変化の速さが時間帯Iの2倍なので、電流の大きさも2倍の \(2I_0\) になります。磁場が減少するので、レンツの法則によりA→Bの向き(正の向き)に流れます。

これらの結果を時間軸に対してプロットします。

結論と吟味

グラフは、横軸に時間 \(t\)、縦軸に電流 \(I\) をとり、\(0\) から \(2t_0\) までは \(-I_0\)、\(2t_0\) から \(3t_0\) までは \(0\)、\(3t_0\) から \(4t_0\) までは \(+2I_0\) の値をとる階段状のグラフになります。

解答 (2) (模範解答の図を参照し、横軸を \(t\)、縦軸を \(I\) とする。\(0 < t < 2t_0\) の区間で \(I = -I_0\) の水平線、\(2t_0 < t < 3t_0\) の区間で \(I = 0\) の水平線、\(3t_0 < t < 4t_0\) の区間で \(I = +2I_0\) の水平線を描く。)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則:
    • 核心: コイルを貫く磁束の時間的変化が誘導起電力を生むという基本法則です。数式 \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) がその核心を表します。この問題では、コイルが静止して磁場が時間変化するパターンであり、\(B-t\)グラフの「傾き」が誘導起電力の大きさに直結します。
    • 理解のポイント:
      1. 磁束 \(\Phi\) の計算: まずは磁束 \(\Phi = BS\) を正しく計算することが出発点です。
      2. 時間変化率の把握: 次に、\(\Phi\) が時間 \(t\) の関数としてどう表されるかを考え、その時間変化率(微分またはグラフの傾き)を求めます。傾きが一定なら起電力も一定、傾きがゼロなら起電力もゼロです。
  • レンツの法則:
    • 核心: 誘導電流の向きは「磁束の変化を妨げる向き」に決まります。これは自然界の安定性を保とうとする性質の現れです。
    • 理解のポイント: 「増えたら減らす、減ったら補う」という考え方が基本です。①元の磁場の向きと変化(増加/減少)を確認し、②それを打ち消す向きの「誘導磁場」を考え、③その誘導磁場を作る電流の向きを右ねじの法則で決定する、という3ステップで確実に判断できます。
  • オームの法則とジュール熱:
    • 核心: 電磁誘導によって生じた起電力は、回路の中では電池と同じ「電圧源」として機能します。そのため、回路に流れる電流や消費されるジュール熱は、オームの法則や電力の公式を用いて、直流回路と全く同じように計算できます。
    • 理解のポイント: 電磁誘導現象と電気回路理論を結びつける架け橋として、これらの法則を適用します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 磁束密度の時間変化が異なるグラフ(例:三角波、矩形波、あるいは数式で与えられる場合)で出題されるパターン。
    • コイルの形状が異なる(例:円形コイル)、あるいはコイルが複数回巻かれている場合(\(N \neq 1\))。
    • コイルが磁場中で運動する問題(ローレンツ力による起電力 \(vBl\) とファラデーの法則の関係を理解する)。ただし本問はコイル静止・磁場変化型。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁束 \(\Phi\) の変化の原因を特定する: 問題文や図から、磁束密度 \(B\)、面積 \(S\)、角度 \(\theta\) のうち何が時間変化するのかを把握します。本問では \(B\) が時間変化するパターンです。
    2. グラフの「傾き」に注目する: \(B-t\)グラフや\(\Phi-t\)グラフが与えられた場合、その傾きが誘導起電力の大きさと直結します。傾きが急な区間ほど、大きな起電力が生じます。
    3. 定義された「正の向き」を確認する: 電流や電圧の正の向きが指定されている場合、レンツの法則で判断した物理的な向きと照らし合わせて、最終的な答えの符号を決定します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • レンツの法則の誤適用:
    • 誤解: 誘導電流の向きを間違える。特に、磁束が増える場合と減る場合で向きが逆になることを混同しやすい。
    • 対策: 「変化を妨げる」という原則に立ち返り、「増えたら逆向き、減ったら同じ向き」の磁場を作ると覚えるのが有効です。必ず図を描いて、元の磁場、誘導磁場、誘導電流の向きを一つずつ確認しましょう。
  • グラフの傾きの大きさと符号の混同:
    • 誤解: 誘導起電力の「大きさ」を求める際に、グラフの傾きの符号(プラスかマイナスか)まで含めて考えてしまい、混乱する。
    • 対策: 起電力の「大きさ」は、傾きの「絶対値」に比例すると割り切りましょう。向き(符号)は、レンツの法則を使って独立して判断するのが最も確実でミスが少ない方法です。
  • 電流の正負の定義の見落とし:
    • 誤解: 問(2)のように電流の正の向きが指定されているのに、物理的な向き(例:時計回り)だけで答えてしまい、符号を間違える。
    • 対策: 問題文の定義(「A→Bの向きを正」など)に下線を引くなどして、解答の最終段階で必ず確認する癖をつけましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\Phi = BS\):
    • 選定理由: 磁束密度が一様で、コイル面に垂直な場合の磁束を計算するため。
    • 適用根拠: 問題文に「一様な磁場」「紙面に垂直」と明記されており、磁束の定義を最も単純な形で適用できる状況。
  • \(V = |d\Phi/dt|\):
    • 選定理由: 磁束が時間変化するときに生じる誘導起電力を求めるため。
    • 適用根拠: ファラデーの電磁誘導の法則そのものであり、磁束の時間変化という物理現象から起電力を導く根源的な法則。
  • \(I = V/R\):
    • 選定理由: 回路に生じた起電力(電圧)と抵抗から電流を求めるため。
    • 適用根拠: 誘導起電力を電圧源とみなした閉回路が形成されており、オームの法則が適用できる状況。
  • \(Q_J = I^2Rt\):
    • 選定理由: 抵抗を持つ導体に一定電流が流れた際に発生する熱エネルギーを計算するため。
    • 適用根拠: ジュール熱の法則。時間帯Iでは電流 \(I_0\) が一定時間 \(2t_0\) 流れるため、この公式を直接適用できる。
  • レンツの法則(向きの決定):
    • 選定理由: 誘導起電力や誘導電流の「向き」を決定するため。
    • 適用根拠: 電磁誘導現象においてエネルギー保存則が成り立つために要請される普遍的な法則。磁束の変化に対して、それを妨げる反作用が生じるという物理的状況。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 問(2)で電流の向きを符号で表す際に、レンツの法則で判断した物理的な向きと、問題文で定義された座標軸の正の向きを正確に反映させること。
    • 日頃の練習: 物理的な向き(例:時計回り)と、数式上の符号(+/-)を分けて考え、最後に結びつける習慣をつける。
  • 分数の計算:
    • 特に注意すべき点: \(B(t)\) の傾きや、\(V_0, I_0, Q_J\) の計算で分数が多用されます。約分や整理を丁寧に行うこと。
    • 日頃の練習: 途中式を省略せずに書く。特に、2乗の計算(例:\(I_0^2\))では、分子と分母の両方を正しく2乗する。
  • グラフの読み取り:
    • 特に注意すべき点: 問(2)の電流の大きさの比較で、時間帯IIIの \(|dB/dt|\) が時間帯Iの何倍になるかを正確に計算すること (\( (B_0/t_0) / (B_0/(2t_0)) = 2 \) 倍)。
    • 日頃の練習: グラフの傾きを計算する際は、\((\text{yの変化量}) / (\text{xの変化量})\) を丁寧に計算する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 磁束変化が急なほど(\(B-t\)グラフの傾きが急なほど)、大きな起電力・電流が生じる。時間帯IIIが時間帯Iより変化が急なので、電流の大きさが2倍になるのは妥当です。
    • 磁束変化がない時間帯IIで電流が0になるのは当然です。
    • 電流の向きが、磁束変化を「妨げる」というレンツの法則の原則に合致しているか、各区間で確認します。増加時は逆向きの磁場を、減少時は同じ向きの磁場を作るように電流が流れるはずです。
  • 単位の確認:
    • \(\Phi\): [Wb] = [T⋅m²]
    • \(V_0\): [V] = [Wb/s]
    • \(I_0\): [A] = [V/Ω]
    • \(Q_J\): [J] = [A²⋅Ω⋅s]

    計算結果の式がこれらの単位と整合しているかを確認する(次元解析)ことで、式の誤りを発見できることがあります。

  • 特殊なケースの検討:
    • もし抵抗 \(R \rightarrow \infty\)(断線)なら \(I_0 \rightarrow 0\)、\(Q_J \rightarrow 0\) となるか?(なります)
    • もし \(t_0 \rightarrow 0\) なら(非常に急激な変化)、\(V_0, I_0\) は非常に大きくなるか?(なります)

    これらの極端なケースを考えることで、式の物理的な意味合いをより深く理解できます。

問題132 (共通テスト)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中で運動する2本の導体棒に関する電磁誘導と力学を組み合わせた問題です。導体棒Pに初速度を与えた後のPとQの運動、流れる電流、受ける力、そして最終的な速度について考察します。電磁誘導による起電力、オームの法則、電磁力(ローレンツ力)、運動方程式、そして運動量保存則の理解が問われます。

与えられた条件
  • 鉛直上向きで磁束密度の大きさが \(B\) の一様な磁場中。
  • 十分に長い2本の金属レールが水平面内に間隔 \(d\) で平行に固定。
  • 導体棒PとQをレールの上にのせ、静止させる。
  • PとQの質量は共に \(m\)。
  • PとQの単位長さあたりの抵抗値は \(r\) である。したがって、各棒の抵抗は \(rd\)。
  • 導体棒はレールと垂直を保ったまま、レール上を摩擦なく動く。
  • 自己誘導の影響とレールの電気抵抗は無視できる。
  • 時刻 \(t=0\) にPにのみ、右向きの初速度 \(v_0\) を与えた。
  • 速度は右向きを正とする。
問われていること
  1. (1) Pが動き出した直後に、Pを流れる電流の向きと大きさ \(I_0\) を求めよ。向きは図のaかbで答えよ。
  2. (2) Pが動き始めると、Qも動き始めた。PとQが磁場から受ける力の大きさは等しいか、異なるか。また、力の向きは同じか、反対か。
  3. (3) Pが動き始めた後の、PとQの速度の時間変化のグラフを描け。Pは実線、Qは点線で一つのグラフに描け。また、Pの最終速度 \(v_f\) を求めよ。さらに、Pの実線のグラフに対して、\(t=0\) での接線の傾きを求めよ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3) グラフの概形に関する別解: 運動方程式を解くことによる定性的な考察
      • 主たる解法が、運動量保存則から最終状態を求め、初期状態からグラフを類推するのに対し、別解ではPとQの速度に関する連立微分方程式を立て、その解が指数関数的に最終速度に漸近することを示し、グラフの形状をより厳密に考察します。(高校範囲を超えるため、あくまで参考としての提示)
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 2つの物体の相互作用が連立微分方程式として記述されることや、その解が物理現象(緩和現象)とどう対応するかを理解することで、より高度な物理モデルへの橋渡しとなります。
    • グラフ形状の根拠: なぜグラフが直線ではなく曲線になるのか、なぜ最終速度に「漸近」するのかといった、形状の数学的な根拠が明確になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えやグラフの概形は模範解答と完全に一致します。

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 誘導起電力(ローレンツ力による説明): 導体内の自由電子が磁場中を運動することで受けるローレンツ力によって生じる電位差。起電力の大きさは \(V = vBL\)。
  • オームの法則: \(V = RI\)。回路全体の電圧と抵抗、電流の関係。
  • 電磁力(ローレンツ力): 電流が磁場から受ける力 \(F = IBL\)。
  • フレミングの左手の法則: 電磁力の向きを決定する。
  • 運動方程式: \(ma = F\)。物体の運動状態を記述する。
  • 運動量保存則: 外力の和がゼロの場合、系の全運動量は保存される。

問(1)

思考の道筋とポイント
Pが動き出した直後の状況を考えます。Pは初速度 \(v_0\) で右向きに運動し、Qはまだ静止しています。Pが磁場を横切ることで、P内部の自由電子がローレンツ力を受け、Pの両端に電位差(誘導起電力)が生じます。これにより閉回路に電流が流れます。電流の大きさはオームの法則で求めます。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力による起電力の発生原理を理解する。
  • 回路全体の電気抵抗を正しく計算する。
  • オームの法則を適用して電流の大きさを求める。

具体的な解説と立式
Pが動き出した直後、Pの速度は右向きに \(v_0\)、Qの速度は \(0\) です。
導体棒Pが右向きに速度 \(v_0\) で動くと、P内部の自由電子(電気量 \(-e\))も同じ速度で運動します。磁場は鉛直上向きなので、自由電子はローレンツ力を受けます。
フレミングの左手の法則を適用します。電流の向きを速度の向き(右向き)と考えると、中指を右、人差し指を上に向けると、親指は図の奥から手前(aの向き)を指します。これは正電荷が受ける力の向きです。自由電子は負電荷なので、逆のbの向きに力を受けます。
その結果、自由電子はb側に偏り、a側は電子不足で正に帯電します。これにより、a側が高電位、b側が低電位となり、誘導起電力 \(V_P\) が生じます。その大きさは、
$$
\begin{aligned}
V_P &= v_0 B d \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この起電力により、回路には a→Q→b→P→a という向き、すなわちPにおいてはaの向き(図の奥から手前向き)に電流が流れます。

回路全体の抵抗 \(R_{\text{回路}}\) は、導体棒Pの抵抗 \(R_P = rd\) と導体棒Qの抵抗 \(R_Q = rd\) の直列接続と考えられます。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{回路}} &= R_P + R_Q \\[2.0ex]
&= 2rd \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
誘導電流の大きさ \(I_0\) は、オームの法則より、
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{V_P}{R_{\text{回路}}} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = vBL\)
  • オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
  • ローレンツ力(向きの判断)
計算過程

式①と式②を式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{v_0 B d}{2rd}
\end{aligned}
$$
\(d\) を約分すると、
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \frac{v_0 B}{2r}
\end{aligned}
$$
電流の向きは、Pにおいてaの向きです。

この設問の平易な説明

導体棒Pが磁場の中を動くと、棒の中の電子が磁場から力を受けます。フレミングの左手の法則を使うと、電子はbの側に集められ、逆にaの側はプラスになります。これにより、Pはa側がプラス極、b側がマイナス極の電池のようになります。この電圧の大きさは \(V_P = v_0 B d\) です。この電圧によって、PとQでできた回路に電流が流れます。電流の向きはプラス極(a側)から出て、Qを通り、マイナス極(b側)に戻るので、Pの中ではaの向き(奥から手前)に流れます。電流の大きさは、オームの法則を使って計算します。

結論と吟味

Pが動き出した直後にPを流れる電流の向きはaの向きで、その大きさ \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) です。

解答 (1) 向き: a, 大きさ: \(\displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
Pに電流が流れると、Pは磁場から力を受けます。また、この電流はQにも流れるため、Qも磁場から力を受けます。PとQを流れる電流の大きさと向きの関係、そしてそれぞれが受ける電磁力の大きさと向きをフレミングの左手の法則で判断します。
この設問における重要なポイント

  • PとQには同じ大きさの電流が流れるが、向きは回路全体でループを形成する。
  • 電磁力 \(F=IBd\) の公式を適用する。
  • フレミングの左手の法則で力の向きを判断する。

具体的な解説と立式
導体棒PとQは一つの閉回路を形成しているため、Pを流れる電流とQを流れる電流の大きさは常に等しくなります。これを \(I\) とします。
各導体棒が磁場から受ける電磁力の大きさ \(F_P, F_Q\) は、
$$
\begin{aligned}
F_P &= IBd
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
F_Q &= IBd
\end{aligned}
$$
となり、力の大きさは等しいです。

次に力の向きを考えます。磁場は鉛直上向きです。

  • 導体棒P: 電流の向きはa(図における導体棒Pの奥から手前向き)。フレミングの左手の法則を適用すると、中指を電流の向き(手前向き)、人差し指を磁場の向き(上向き)とすると、親指は左向きを向きます。
  • 導体棒Q: 電流は回路を一周してQを流れるため、Pとは逆向きになります(図における導体棒Qの手前から奥向き)。フレミングの左手の法則で、中指を電流の向き(奥向き)、人差し指を磁場の向き(上向き)とすると、親指は右向きを向きます。

したがって、PとQが受ける力の大きさは等しく、向きは反対です。

使用した物理公式

  • 電磁力: \(F = IBd\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

上記の考察により、力の大きさは等しく、向きは反対です。

この設問の平易な説明

PとQは一本の電気回路でつながっているので、流れる電流の大きさは同じです。力の大きさは \(F = IBd\) で決まるので、PとQが受ける力の大きさも同じになります。力の向きはフレミングの左手の法則で調べると、Pは左向き、Qは右向きとなり、互いに反対向きになります。

結論と吟味

PとQが磁場から受ける力の大きさは等しく、向きは反対です。これは作用・反作用の関係にあり、2本の導体棒からなる系全体で考えると、これらの力は内力として扱えます。

解答 (2) 大きさ:等しい、向き:反対

問(3)

思考の道筋とポイント
PとQの速度の時間変化のグラフ、Pの最終速度 \(v_f\)、\(t=0\) でのPのグラフの接線の傾き(=Pの初期加速度)を求めます。
Pは左向きの力を受けて減速し、Qは右向きの力を受けて加速します。やがて両者の速度が等しくなると、誘導起電力の差がなくなり電流が流れなくなります。そのときの速度が最終速度です。
この過程で、PとQからなる系全体の運動量は保存されます。
\(t=0\)でのPの加速度は、その瞬間のPに働く力とPの質量から、運動方程式を用いて求めます。
この設問における重要なポイント

  • PとQの運動の定性的な理解(Pは減速、Qは加速し、最終的に同じ速度になる)。
  • 運動量保存則の適用による最終速度 \(v_f\) の計算。
  • 運動方程式を用いた初期加速度の計算。
  • 速度ー時間グラフの接線の傾きが加速度を表すこと。

具体的な解説と立式
Pの最終速度 \(v_f\) の導出
PとQの系に対して水平方向の外力は働かないため、運動量保存則が成り立ちます。
初期の全運動量 \(P_{\text{初}}\) は、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{初}} &= m v_0 + m \cdot 0 \\[2.0ex]
&= m v_0
\end{aligned}
$$
最終状態ではPとQがともに速度 \(v_f\) で運動するので、そのときの全運動量 \(P_{\text{後}}\) は、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{後}} &= m v_f + m v_f \\[2.0ex]
&= 2m v_f
\end{aligned}
$$
運動量保存則より \(P_{\text{初}} = P_{\text{後}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
m v_0 &= 2m v_f \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

\(t=0\) でのPの接線の傾き(初期加速度 \(a_0\))の導出
\(t=0\) の直後、Pには(1)で求めた電流 \(I_0\) が流れ、左向きの電磁力を受けます。力の大きさ \(F_{P0}\) は、
$$
\begin{aligned}
F_{P0} &= I_0 B d \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
Pの運動方程式は、右向きを正とすると、
$$
\begin{aligned}
m a_0 &= -F_{P0} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 電磁力: \(F = IBd\)
計算過程

Pの最終速度 \(v_f\) の計算
式④の両辺を \(2m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
v_f &= \frac{1}{2} v_0
\end{aligned}
$$

\(t=0\) でのPの接線の傾き(初期加速度 \(a_0\))の計算
まず、式⑤に問(1)の結果 \(I_0 = \displaystyle\frac{v_0 B}{2r}\) を代入して \(F_{P0}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
F_{P0} &= \left(\frac{v_0 B}{2r}\right) B d \\[2.0ex]
&= \frac{v_0 B^2 d}{2r}
\end{aligned}
$$
次に、この \(F_{P0}\) を式⑥に代入します。
$$
\begin{aligned}
m a_0 &= -\frac{v_0 B^2 d}{2r}
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割ると、初期加速度 \(a_0\) は、
$$
\begin{aligned}
a_0 &= -\frac{v_0 B^2 d}{2mr}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明
  • 最終速度: PとQのグループ全体で考えると、外部からの力はないので「運動量」が保存されます。初めの運動量は \(mv_0\)、最後の運動量は \((m+m)v_f\) です。これらが等しいことから、最終速度 \(v_f = \frac{1}{2}v_0\) が求まります。
  • グラフ: Pは \(v_0\) から減速し、Qは \(0\) から加速して、ともに最終速度 \(v_f\) に近づきます。
  • \(t=0\) での傾き: これは動き始めた瞬間のPの加速度です。(1)で求めた電流によってPが受ける力 \(F_{P0}\) を計算し、運動方程式 \(ma_0 = -F_{P0}\) から加速度 \(a_0\) を求めます。
結論と吟味

PとQの速度の時間変化のグラフは、Pが \(v_0\) から \(v_f = \frac{1}{2}v_0\) へ漸近的に減速し、Qが \(0\) から \(v_f\) へ漸近的に加速する様子を描きます。Pの最終速度 \(v_f\) は \(\displaystyle\frac{1}{2} v_0\) です。\(t=0\) でのPの接線の傾きは \(-\displaystyle\frac{v_0 B^2 d}{2mr}\) です。負号はPが減速することを示しており、物理的に妥当です。

別解: グラフの概形に関する定性的な考察

思考の道筋とポイント
PとQの速度をそれぞれ \(v_P, v_Q\) とすると、回路に流れる電流 \(I\) は \(I = \frac{(v_P – v_Q)Bd}{2rd}\) と表せます。PとQの運動方程式は \(m\frac{dv_P}{dt} = -IBd\), \(m\frac{dv_Q}{dt} = +IBd\) となります。これらの式から、速度差 \((v_P – v_Q)\) が時間とともに指数関数的に減少することが導かれ、各速度が最終速度に指数関数的に漸近することがわかります。これは、下に凸(P)と上に凸(Q)の滑らかな曲線を描く根拠となります。

解答 (3) グラフ:(模範解答の図を参照)、最終速度 \(v_f\): \(\displaystyle\frac{1}{2} v_0\)、\(t=0\) でのPの接線の傾き: \(-\displaystyle\frac{v_0 B^2 d}{2mr}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量保存則:
    • 核心: 2本の導体棒PとQからなる系において、互いに及ぼし合う電磁力は内力(作用・反作用の関係)であり、水平方向の外力は働かないため、系の全運動量が保存されます。これが、複雑な途中の過程を飛ばして最終状態を予測するための最も強力な道具です。
    • 理解のポイント:
      1. 系の設定: 複数の物体が相互作用している場合、「系」としてまとめて考える視点が重要です。
      2. 外力の確認: 運動量が保存されるのは、あくまで外力のベクトル和がゼロの場合です。摩擦力や外部からの力が働いていないかを確認します。
      3. 適用場面: 衝突や合体・分裂だけでなく、本問のように内力によって速度が変化し、最終的に同じ速度になるような問題でも極めて有効です。
  • 電磁誘導と力学の連携:
    • 核心: 「速度差が起電力を生み(\(V=(v_P-v_Q)Bd\))、起電力が電流を生み(\(I=V/R\))、電流が力を生み(\(F=IBd\))、力が速度を変化させる(\(ma=F\))」という一連の因果関係が、この問題の物理現象のすべてを支配しています。
    • 理解のポイント: このサイクルを理解することで、各設問がどの段階を問うているのかが明確になります。特に、速度が変化すれば電流も力も変化するという、動的なフィードバックの構造をイメージすることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • レールに傾斜がある場合: 重力の斜面成分が外力として加わるため、運動量保存則は適用できなくなります(斜面方向の運動量変化が力積に等しい、という形になる)。
    • 外部抵抗やコンデンサーが接続されている場合: 回路全体の電気的特性が変化し、電流の大きさや時間変化の様子が変わります。
    • 導体棒の質量が異なる場合: 運動量保存則の式 (\(m_P v_{P0} = (m_P+m_Q)v_f\)) や運動方程式が変化しますが、基本的な考え方は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 保存則が使えないか?: 複数の物体が絡む力学問題では、まず「エネルギー保存則」と「運動量保存則」が使えないかを検討するのが定石です。本問のようにジュール熱が発生する系では力学的エネルギーは保存しませんが、運動量保存則は適用できます。
    2. 系の最終状態を予測する: 「十分に時間が経過した後」の状態を問われたら、何らかの物理量が一定になる安定状態を考えます。本問では、PとQの相対速度がゼロになり、誘導起電力が生じなくなって電流が流れなくなる状態が最終状態です。
    3. 初期状態を正確に記述する: \(t=0\) の瞬間を問われたら、問題文で与えられた初期条件(\(v_P=v_0, v_Q=0\))を正確に使い、その瞬間の物理量(起電力、電流、力、加速度)を計算します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電流の向き、力の向きの誤り:
    • 誤解: フレミングの法則の適用を誤る。
    • 対策: 図を丁寧に描き、電流や磁場の向きを書き込む。ローレンツ力(\(q\vec{v}\times\vec{B}\))の向きを考えるのが最も基本的で間違いが少ない。
  • 回路全体の起電力の考え方:
    • 誤解: PとQの両方が動いているとき、起電力を単純に足してしまう。
    • 対策: PとQは互いに逆向きの電池のように振る舞います。回路を一周する方向を決め、Pの起電力 \(v_P B d\) とQの起電力 \(v_Q B d\) がその向きに「押し出す」のか「押し戻す」のかを考え、代数和(引き算)をとる必要があります。回路全体の起電力は \(V = (v_P – v_Q)Bd\) となります。
  • 運動量保存則の適用条件の誤解:
    • 誤解: 摩擦力や重力の斜面成分といった外力が働いているのに、運動量保存則を適用してしまう。
    • 対策: 必ず「系全体にかかる外力のベクトル和がゼロか?」を確認する癖をつけましょう。本問では、PとQが受ける電磁力は大きさが等しく逆向きなので、系全体で見れば和がゼロ(内力)になる点がポイントです。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBd\):
    • 選定理由: 磁場中を運動する導体棒に生じる起電力を計算するため。
    • 適用根拠: 導体棒の速度 \(v\)、磁場 \(B\)、棒の長さ \(d\) が互いに垂直であるという、誘導起電力が発生する基本的な物理状況。
  • \(I = V/R_{\text{回路}}\):
    • 選定理由: 回路に生じた起電力と回路全体の抵抗から電流を求めるため。
    • 適用根拠: 誘導起電力を電圧源とみなした閉回路が形成されており、オームの法則が適用できる状況。
  • \(F=IBd\):
    • 選定理由: 電流が流れる導体棒が磁場から受ける力を計算するため。
    • 適用根拠: 電流 \(I\)、磁場 \(B\)、棒の長さ \(d\) が互いに垂直であるという、電磁力が発生する基本的な物理状況。
  • \(m v_0 = (m+m)v_f\):
    • 選定理由: 複雑な相互作用の途中経過を問わず、初期状態と最終状態だけで最終速度を求めるため。
    • 適用根拠: 2つの導体棒からなる系に水平方向の外力が働かず、運動量が保存されるという物理的状況。
  • \(m a_0 = -F_{P0}\):
    • 選定理由: ある瞬間の力から、その瞬間の加速度を求めるため。
    • 適用根拠: ニュートンの運動法則。物体の運動状態の変化(加速度)は、その瞬間に働く力によって決まるという力学の基本法則。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の取り扱い:
    • 特に注意すべき点: 力の向き、速度の向き、加速度の向きを正しく符号に反映させること。特に運動方程式を立てる際に、右向きを正とした座標系で、左向きの力にマイナスをつけることを忘れないようにする。
    • 日頃の練習: 図を描き、ベクトル量(力、速度、加速度)を矢印で図示し、設定した座標軸の正の向きと照らし合わせて符号を決定する習慣をつける。
  • 文字の混同:
    • 特に注意すべき点: \(v_0\) (初速度) と \(v_f\) (最終速度)、\(r\) (単位長さあたりの抵抗) と \(R_{\text{回路}}\) (全体の抵抗) などを明確に区別する。
    • 日頃の練習: 問題文で定義された文字と、自分で設定した文字を明確に区別し、式の意味を考えながら計算を進める。
  • 運動量保存則の式の確認:
    • 特に注意すべき点: 各物体の質量を正しく含めること。\(m v_0 = 2m v_f\) であり、\(m v_0 = m v_f\) ではない。
    • 日頃の練習: 「(Aの運動量)+(Bの運動量)=一定」という基本形を常に意識する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • \(v_f = v_0/2\): 2つの同じ質量の物体が力を及ぼし合って最終的に同じ速度になる場合、初めの運動量を等しく分配するような結果は直感的に妥当です。
    • \(a_0\) が負の値: Pは初め右向きに動いているが、受ける力は左向きなので減速します。加速度が負になるのは妥当です。
    • グラフの形: Pが減速しQが加速して同じ速度に収束するのは、エネルギーがジュール熱として失われつつ運動量が保存される系で起こりうる典型的な挙動です。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし \(B=0\) なら: 磁場がなければ電磁誘導は起こらず、\(I_0=0, F=0, a_0=0\)。Pは初速度 \(v_0\) のまま等速直線運動を続け、Qは静止したままです。
    • もし \(r \rightarrow \infty\)(抵抗が非常に大きい)なら: \(I_0 \rightarrow 0, a_0 \rightarrow 0\)。電流がほとんど流れず、力も働かないため、Pはほぼ等速運動を続けます。
    • もし \(m_Q \gg m_P\) なら: Qはほとんど動かず、Pはほぼ静止するまで減速します。運動量保存則から \(m_P v_0 \approx m_Q v_f\) となり、\(v_f \approx 0\) となります。これも直感と一致します。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

問題133 (名城大+京都工繊大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、二重に巻かれたソレノイド(ソレノイドAの内側に電流を流し、その外側にソレノイドBが巻かれている)における磁場、磁束、自己誘導、相互誘導について考察する問題です。ソレノイドの基本的な性質から、電磁誘導現象の理解を深めることができます。

与えられた条件
  • ソレノイドA: 単位長さあたりの巻き数 \(n\)、長さ \(l\)、断面積 \(S\)。電源に接続され、電流を流すことができる。
  • ソレノイドB: 単位長さあたりの巻き数 \(n\)、長さ \(l/2\)。Aの外側に巻き付けられている。両端は開いており、電流は流れない。Aの中央部分に位置する。
  • 両ソレノイドは真空中に置かれ、真空の透磁率は \(\mu_0\)。
問われていること
  1. (1) ソレノイドAに電流 \(I\) を流したとき、Aの内部に生じる磁場の強さ \(H\) およびAを貫く磁束 \(\Phi\) はそれぞれいくらか。
  2. (2) 微小時間 \(\Delta t\) の間に、Aに流れる電流が \(\Delta I\) だけ増加した。
    • (ア) Aを貫く磁束の変化 \(\Delta \Phi\) はいくらか。
    • (イ) Aに生じる誘導起電力の大きさ \(V_1\) はいくらか。
    • (ウ) Aの自己インダクタンス \(L\) はいくらか。
    • (エ) Bに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) はいくらか。
    • (オ) AとBの間の相互インダクタンス \(M\) はいくらか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2)(ウ) 自己インダクタンスの別解: 鎖交磁束と電流の比から求める解法
      • 主たる解法が、誘導起電力の式を比較して求めるのに対し、別解では自己インダクタンスの定義式 \(L = \frac{N\Phi}{I}\) を直接用いて計算します。
    • 問(2)(オ) 相互インダクタンスの別解: 鎖交磁束と電流の比から求める解法
      • 主たる解法が、誘導起電力の式を比較して求めるのに対し、別解では相互インダクタンスの定義式 \(M = \frac{N_2\Phi_{21}}{I_1}\) を直接用いて計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的定義の深化: インダクタンスが、電流変化と起電力の関係だけでなく、「単位電流あたりの鎖交磁束」という、コイルの幾何学的な性質に根差した量であることを直接的に理解できます。
    • 異なる視点の学習: 同じ物理量を、微分を含む動的な関係式から求める方法と、静的な量の比から求める方法の両方を学ぶことで、思考の柔軟性が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • ソレノイドが作る磁場: \(H = nI\), \(B = \mu_0 nI\)。
  • 磁束 \(\Phi\): \(\Phi = BS\)。
  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = N \left|\displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\right|\)。
  • 自己インダクタンス \(L\): \(V_1 = L \left|\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\right|\) または \(L = \displaystyle\frac{N_1\Phi_1}{I_1}\)。
  • 相互インダクタンス \(M\): \(V_2 = M \left|\displaystyle\frac{\Delta I_1}{\Delta t}\right|\) または \(M = \displaystyle\frac{N_2\Phi_{21}}{I_1}\)。

問(1)

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村