「良問の風」攻略ガイド(121〜125問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題121 (名城大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直流電源、抵抗、コンデンサー、スイッチから構成される回路に関する問題です。スイッチの開閉によって回路の状態が変化し、十分時間が経過した後の電流、コンデンサーの電荷、電位、そして発生するジュール熱を求める問題です。コンデンサーが直流回路でどのように振る舞うか(特に定常状態)、電荷保存則、エネルギー保存則の理解が問われます。

与えられた条件
  • 内部抵抗が無視できる直流電源 E: 起電力 \(100 \text{ V}\)
  • 電気抵抗 R₁: \(20 \text{ Ω}\)
  • 電気抵抗 R₂: \(30 \text{ Ω}\)
  • コンデンサー C₁: 容量 \(20 \text{ μF}\)
  • コンデンサー C₂: 容量 \(30 \text{ μF}\)
  • 初期状態: スイッチS₁, S₂は共に開いていて、C₁, C₂に電荷は蓄えられていない。
  • アース点の電位: \(0 \text{ V}\)
問われていること
  1. (1) S₁を閉じて十分長い時間が経過した後に、
    • (ア) Eを流れる電流 \(I\)
    • (イ) C₁に蓄えられる電荷 \(Q_1\)
  2. (2) S₁を閉じたままS₂を閉じる。S₂を閉じてから十分長い時間が経過するまでに、S₂を通過する正電荷の量 \(\Delta Q_{S2}\) とその向き。
  3. (3) S₂を開き、つづいてS₁を開いてから十分長い時間が経過した後に、
    • (ア) 点Aの電位 \(V_A\)
    • (イ) C₁およびC₂に蓄えられている電荷 \(Q_1”\), \(Q_2”\)
    • (ウ) S₁を開いた後、抵抗で生じたジュール熱 \(W_{\text{ジュール}}\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 直流定常状態のコンデンサー: 十分に時間が経過すると、コンデンサーへの充電が完了し、直流電流はコンデンサー部分を流れなくなる(その経路は開放されたとみなせる)。
  • コンデンサーの接続:
    • 直列接続: 各コンデンサーに蓄えられる電荷は等しい。合成容量の逆数は各容量の逆数の和。 \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{1}{C_a} + \displaystyle\frac{1}{C_b} + \cdots\)
    • 並列接続: 各コンデンサーにかかる電圧は等しい。合成容量は各容量の和。 \(C_{\text{並列}} = C_a + C_b + \cdots\)
  • 電荷保存則: 電気的に孤立した導体系の総電荷は、操作の前後で保存される。
  • エネルギー保存則: 回路全体のエネルギー変化に着目する。コンデンサーの静電エネルギーの変化と抵抗で消費されるジュール熱の関係。静電エネルギー \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)。

問1 (ア)

思考の道筋とポイント
スイッチS₁を閉じ、十分長い時間が経過すると、コンデンサーC₁およびC₂への充電が完了します。直流回路において、充電が完了したコンデンサーは電流を通しません。したがって、電流が流れる経路は電源E、抵抗R₁、抵抗R₂からなる閉回路のみとなります。この閉回路に対してオームの法則を適用して電流を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 十分時間が経過するとコンデンサーには電流が流れない。
  • 電流はE → R₁ → R₂ → Eの経路を流れる。
  • オームの法則を適用する。

具体的な解説と立式
スイッチS₁を閉じ、十分長い時間が経過すると、コンデンサーC₁およびC₂は充電を完了し、直流電流を通さなくなります。このとき、電流\(I\)は電源E、抵抗R₁、抵抗R₂を通る閉回路を流れます(図a参照)。
この閉回路において、電源の起電力は \(E\) で、回路の全抵抗は \(R_1 + R_2\) です。オームの法則を適用すると、
$$E = (R_1 + R_2)I \quad \cdots ①$$
与えられた値は、\(E = 100 \text{ V}\)、\(R_1 = 20 \text{ Ω}\)、\(R_2 = 30 \text{ Ω}\) です。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • 直流定常状態のコンデンサーの扱い
計算過程

式①に与えられた値を代入します。
$$100 \text{ [V]} = (20 \text{ [Ω]} + 30 \text{ [Ω]})I$$
$$100 = 50 I$$両辺を \(50\) で割ると、電流 \(I\) は、$$I = \displaystyle\frac{100}{50}$$
$$I = 2.0 \text{ [A]}$$

計算方法の平易な説明

スイッチS₁を閉じて十分時間が経つと、コンデンサーC₁とC₂にはこれ以上電流が流れ込まなくなります。そのため、電流は電源Eから出て、抵抗R₁と抵抗R₂を通って電源Eに戻る単純な回路を流れます。このときの電流の大きさは、オームの法則「電圧 = 抵抗 × 電流」を使って計算します。全体の電圧は電源の \(100 \text{ V}\)、全体の抵抗はR₁とR₂の合計で \(20 \text{ Ω} + 30 \text{ Ω} = 50 \text{ Ω}\) です。したがって、「\(100 \text{ V} = 50 \text{ Ω} \times I\)」という式が成り立ち、電流 \(I\) は \(100 \text{ V} \div 50 \text{ Ω} = 2.0 \text{ A}\) となります。

結論と吟味

Eを流れる電流は \(2.0 \text{ A}\) です。これは、コンデンサーが充電完了した後の定常電流です。単位も[A]で適切です。

解答 (1)(ア) \(2.0 \text{ A}\)

問1 (イ)

思考の道筋とポイント
S₁を閉じ十分長い時間が経過した状態では、コンデンサーC₁とC₂には電流が流れていません。図aからわかるように、C₁とC₂は直列に接続されています。この直列コンデンサー群の両端には、電源の電圧 \(E\) (100V) がかかっています(電流が流れていないため、R₁やR₂での電圧降下はコンデンサー部分の電圧とは直接関係しません。コンデンサーのある経路全体で100Vがかかります)。
直列接続されたコンデンサーでは、各コンデンサーに蓄えられる電気量の大きさは等しくなります。まずC₁とC₂の合成容量を求め、その合成容量に電源電圧 \(E\) がかかると考えて全体の電荷を求めます。それがC₁に蓄えられる電荷となります。
この設問における重要なポイント

  • C₁とC₂は直列接続されている。
  • 直列コンデンサー群には電源電圧 \(E\) がかかる。
  • 直列接続では各コンデンサーに蓄えられる電荷は等しい。
  • 合成容量の公式 \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\) を使う。
  • コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) を使う。

具体的な解説と立式
十分長い時間が経過した後、コンデンサーC₁とC₂には電流は流れていません。これらは直列に接続されており、この直列コンデンサー群には電源電圧 \(E\) がかかっています。
C₁とC₂の合成容量を \(C_{\text{直列}}\) とすると、
$$\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2} \quad \cdots ②$$この合成コンデンサーに蓄えられる総電荷 \(Q_{\text{総}}\) は、電源電圧 \(E\) を用いて、$$Q_{\text{総}} = C_{\text{直列}}E \quad \cdots ③$$直列接続の場合、各コンデンサーに蓄えられる電荷の大きさは等しく、この \(Q_{\text{総}}\) に等しくなります。したがって、C₁に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は、$$Q_1 = Q_{\text{総}} \quad \cdots ④$$
与えられた値は、\(C_1 = 20 \text{ μF}\)、\(C_2 = 30 \text{ μF}\)、\(E = 100 \text{ V}\) です。

使用した物理公式

  • コンデンサーの直列接続の合成容量: \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

まず、式②を用いて合成容量 \(C_{\text{直列}}\) を計算します。
$$\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{1}{20 \text{ [μF]}} + \displaystyle\frac{1}{30 \text{ [μF]}}$$右辺を通分すると(最小公倍数は60)、$$\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{3}{60} + \displaystyle\frac{2}{60} = \displaystyle\frac{5}{60} = \displaystyle\frac{1}{12}$$よって、合成容量 \(C_{\text{直列}}\) は、$$C_{\text{直列}} = 12 \text{ [μF]}$$次に、式③を用いて \(Q_{\text{総}}\) を計算します。$$Q_{\text{総}} = 12 \text{ [μF]} \times 100 \text{ [V]} = 1200 \text{ [μC]}$$式④より、C₁に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は \(Q_{\text{総}}\) と等しいので、$$Q_1 = 1200 \text{ [μC]}$$

計算方法の平易な説明

コンデンサーC₁とC₂は直列につながっています。まず、この2つを合わせた合成コンデンサーの容量を計算します。公式は \(1/C_{\text{直列}} = 1/C_1 + 1/C_2\) です。値を代入すると \(1/20 + 1/30 = 3/60 + 2/60 = 5/60 = 1/12\) となるので、合成容量は \(12 \text{ μF}\) です。
この合成コンデンサーには、電源の電圧 \(100 \text{ V}\) がそのままかかります。コンデンサーに蓄えられる電気の量 \(Q\) は「容量 \(C \times\) 電圧 \(V\)」で計算できるので、\(Q_{\text{総}} = 12 \text{ μF} \times 100 \text{ V} = 1200 \text{ μC}\) となります。
直列接続の場合、それぞれのコンデンサーに蓄えられる電気の量は等しく、この \(Q_{\text{総}}\) と同じ \(1200 \text{ μC}\) になります。

結論と吟味

C₁に蓄えられる電荷は \(1200 \text{ μC}\) です。単位も[μC]で適切です。

解答 (1)(イ) \(1200 \text{ μC}\)

問2

思考の道筋とポイント
S₁を閉じたままS₂を閉じると、回路の接続状態が変化します(図b参照)。十分長い時間が経過すると、再びコンデンサーC₁、C₂への充電(あるいは電荷の再配置)が完了し、直流電流はコンデンサー部分を流れなくなります。
電流は電源E → R₁ → R₂ → E の経路を流れます。この電流 \(I\) は(1)(ア)で求めた値と同じ \(2.0 \text{ A}\) です。
この定常状態において、C₁の両端の電圧 \(V_1’\) は抵抗R₁の両端の電圧降下に等しくなります。同様に、C₂の両端の電圧 \(V_2’\) は抵抗R₂の両端の電圧降下に等しくなります。
それぞれの電圧を計算し、各コンデンサーに新たに蓄えられる電荷 \(Q_1’\) (C₁の下側極板Xの電荷は \(-Q_1’\)) と \(Q_2’\) (C₂の上側極板Yの電荷は \(+Q_2’\)) を求めます。
スイッチS₂を閉じることによって、極板Xと極板Yは導線で接続され点Aを形成します。S₂を通過した電荷は、この点Aに蓄えられた正味の電荷に等しいと考えます。模範解答の考え方に従い、S₂を閉じる前の点A部分の電荷を0とみなし、S₂を閉じた後に点A部分に存在する電荷がS₂を通過してきたものとします。
この設問における重要なポイント

  • S₂を閉じても定常電流 \(I\) は変化しない (\(2.0 \text{ A}\))。
  • C₁の電圧 \(V_1’\) はR₁の電圧降下 \(R_1I\) に等しい。
  • C₂の電圧 \(V_2’\) はR₂の電圧降下 \(R_2I\) に等しい。
  • 極板XとYが接続された点Aの電荷変化を追う。
  • S₂通過電荷 = (S₂閉成後の点Aの電荷) – (S₂閉成前の点Aの電荷)。ここでS₂閉成前の点Aの電荷を0と考える。

具体的な解説と立式
スイッチS₁を閉じたままS₂を閉じ、十分長い時間が経過すると、再び定常状態になります。このときも、抵抗R₁とR₂には電流 \(I = 2.0 \text{ A}\) が流れます。コンデンサーC₁、C₂には直流電流は流れません。
図bを参照すると、コンデンサーC₁の両端の電圧 \(V_1’\) は、抵抗R₁での電圧降下に等しくなります。
$$V_1′ = R_1 I \quad \cdots ⑤$$C₁に蓄えられる電荷の大きさ \(Q_1’\) は、$$Q_1′ = C_1 V_1′ \quad \cdots ⑥$$
電流の向きから、R₁の上側(B点側)が高電位となるため、C₁の上側極板が正、下側極板(X、点Aに接続)が負に帯電します。よって、極板Xの電荷は \(-Q_1’\) となります。

同様に、コンデンサーC₂の両端の電圧 \(V_2’\) は、抵抗R₂での電圧降下に等しくなります。
$$V_2′ = R_2 I \quad \cdots ⑦$$C₂に蓄えられる電荷の大きさ \(Q_2’\) は、$$Q_2′ = C_2 V_2′ \quad \cdots ⑧$$
電流の向きから、点A側がアース側よりも高電位となるため、C₂の上側極板(Y、点Aに接続)が正、下側極板(アースに接続)が負に帯電します。よって、極板Yの電荷は \(+Q_2’\) となります。

スイッチS₂は、点B(R₁とR₂の接続点でもある)と点A(極板Xと極板Yの接続点)を繋ぎます。
S₂を通過した正電荷の量 \(\Delta Q_{S2}\) は、S₂を閉じたことによって点A部分に蓄えられた正味の電荷に等しいと考えます。S₂を閉じる前の点A部分の初期電荷を0とみなすと(模範解答の「図aでは0であったが」の解釈)、
$$\Delta Q_{S2} = (\text{極板Xの最終電荷}) + (\text{極板Yの最終電荷})$$
$$\Delta Q_{S2} = -Q_1′ + Q_2′ \quad \cdots ⑨$$
この \(\Delta Q_{S2}\) の符号によって、S₂を通過した正電荷の向きがわかります。\(\Delta Q_{S2} > 0\) ならば、正電荷が点Bから点Aへ移動したことを意味します。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=IR\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • 電荷保存の考え方(特定部分の電荷変化)
計算過程

まず、式⑤より \(V_1’\) を計算します。 \(I = 2.0 \text{ A}\), \(R_1 = 20 \text{ Ω}\)。
$$V_1′ = 20 \text{ Ω} \times 2.0 \text{ A} = 40 \text{ V}$$次に、式⑥より \(Q_1’\) を計算します。 \(C_1 = 20 \text{ μF}\)。$$Q_1′ = 20 \text{ μF} \times 40 \text{ V} = 800 \text{ μC}$$
よって、極板Xの電荷は \(-800 \text{ μC}\)。

次に、式⑦より \(V_2’\) を計算します。 \(R_2 = 30 \text{ Ω}\)。
$$V_2′ = 30 \text{ Ω} \times 2.0 \text{ A} = 60 \text{ V}$$次に、式⑧より \(Q_2’\) を計算します。 \(C_2 = 30 \text{ μF}\)。$$Q_2′ = 30 \text{ μF} \times 60 \text{ V} = 1800 \text{ μC}$$
よって、極板Yの電荷は \(+1800 \text{ μC}\)。

最後に、式⑨より、S₂を通過した正電荷 \(\Delta Q_{S2}\) を計算します。
$$\Delta Q_{S2} = -800 \text{ μC} + 1800 \text{ μC}$$
$$\Delta Q_{S2} = 1000 \text{ μC}$$
\(\Delta Q_{S2}\) が正の値なので、正電荷が点Aに流れ込んだことになります。スイッチS₂は図bではB点とA点(X,Y)を接続しているので、正電荷はBからAの向きに移動したことになります。

計算方法の平易な説明

S₂を閉じても、抵抗R₁とR₂を流れる定常電流は \(2.0 \text{ A}\) のままです。
コンデンサーC₁にかかる電圧は、抵抗R₁にかかる電圧と同じで、\(V_1′ = R_1 I = 20 \text{ Ω} \times 2.0 \text{ A} = 40 \text{ V}\) です。なので、C₁にたまる電気の大きさは \(Q_1′ = C_1 V_1′ = 20 \text{ μF} \times 40 \text{ V} = 800 \text{ μC}\) となります。C₁の下側の極板Xはマイナスに帯電するので、電荷は \(-800 \text{ μC}\) です。
コンデンサーC₂にかかる電圧は、抵抗R₂にかかる電圧と同じで、\(V_2′ = R_2 I = 30 \text{ Ω} \times 2.0 \text{ A} = 60 \text{ V}\) です。なので、C₂にたまる電気の大きさは \(Q_2′ = C_2 V_2′ = 30 \text{ μF} \times 60 \text{ V} = 1800 \text{ μC}\) となります。C₂の上側の極板Yはプラスに帯電するので、電荷は \(+1800 \text{ μC}\) です。
スイッチS₂を閉じると、極板Xと極板Yはつながって点Aとなります。この点Aに最終的に存在する合計の電荷は \(-800 \text{ μC} + 1800 \text{ μC} = 1000 \text{ μC}\) です。
S₂を閉じる前、この点A部分の電荷は0だったと考えます。S₂を閉じることで \(+1000 \text{ μC}\) の正電荷がS₂を通って点Aに流れ込んだと解釈します。
図bでS₂はB点とA点をつないでいるので、正電荷はBからAの向きに移動したことになります。

結論と吟味

S₂を通過する正電荷は \(1000 \text{ μC}\) で、向きはBからAの向きです。模範解答の「赤色の極板XとYの合計電気量は図aでは0であったが、いまは \(-Q_1+Q_2 = 1000 \text{ μC}\)。これがS₂を通ってきた分である」という記述は、S₂閉成によって新たに形成されるX-Y接続部分の電荷が、S₂からの流入によって生じたと解釈するものです。

解答 (2) \(1000 \text{ μC}\)、BからAの向き

問3 (ア)

思考の道筋とポイント
まずS₂を開き、次にS₁を開きます。S₁を開くと電源Eが回路から切り離され、十分時間が経過すると回路中の電流は \(0 \text{ A}\) になります。電流が \(0 \text{ A}\) のとき、抵抗R₁およびR₂での電圧降下は \(0 \text{ V}\) となり、これらの抵抗は単なる導線とみなせます。
設問(2)の最後(S₂が閉じてS₁も閉じている定常状態)で、極板X(C₁の下側)の電荷は \(-800 \text{ μC}\)、極板Y(C₂の上側)の電荷は \(+1800 \text{ μC}\) でした。点AはXとYが接続された部分です。この点Aが持つ正味の電荷 \(Q_A = (-800) + (+1800) = +1000 \text{ μC}\) は、S₂を開き、S₁を開いた後も保存されます(電気的に孤立するため)。
最終的に、この電荷 \(Q_A\) はC₁とC₂に再配置されます。模範解答の図c、図dが示すように、C₁とC₂は実質的に並列接続された状態になると考えられます。点Aが共通の陽極側となり、その電位を \(V_A\) とします。C₁とC₂のもう一方の端子は共通の陰極側(アース、電位 \(0 \text{ V}\))に接続されたのと等価になります。この並列コンデンサーの陽極側に総電荷 \(Q_A\) が蓄えられているとして \(V_A\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • S₁を開くと電流が流れなくなり、抵抗での電圧降下は0になる。
  • 点A(XとYの接続部)の電荷 \(Q_A = +1000 \text{ μC}\) が保存される。
  • 最終的にC₁とC₂は並列接続とみなせる。
  • 並列コンデンサーの電荷と電圧の関係 \(Q_A = (C_1+C_2)V_A\) を用いる。

具体的な解説と立式
S₂を開き、つづいてS₁を開くと、電源が回路から切り離され、十分時間が経過すると回路に電流は流れなくなります。
設問(2)の最後で、点A(極板Xと極板Yの接続部)が持つ正味の電荷を \(Q_A\) とすると、
$$Q_A = (\text{極板Xの電荷}) + (\text{極板Yの電荷}) = (-Q_1′) + Q_2′ = -800 \text{ μC} + 1800 \text{ μC} = +1000 \text{ μC} \quad \cdots ⑩$$
この電荷 \(Q_A\) は、S₂およびS₁を開いた後も、点Aを含む孤立部分で保存されます。
最終的に、C₁とC₂はこの電荷 \(Q_A\) を分け合う形で並列に接続された状態と等価になります(模範解答図c、図d)。点Aの電位を \(V_A\) とし、アース点の電位を \(0 \text{ V}\) とします。C₁とC₂の並列合成容量 \(C_{\text{並列}}\) は、
$$C_{\text{並列}} = C_1 + C_2 \quad \cdots ⑪$$この並列コンデンサーに蓄えられる総電荷は \(Q_A\) であり、その電圧は \(V_A\) なので、$$Q_A = C_{\text{並列}} V_A \quad \cdots ⑫$$

使用した物理公式

  • 電荷保存則
  • コンデンサーの並列接続の合成容量: \(C_{\text{並列}} = C_1 + C_2\)
  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

まず、式⑪より並列合成容量 \(C_{\text{並列}}\) を計算します。 \(C_1 = 20 \text{ μF}\), \(C_2 = 30 \text{ μF}\)。
$$C_{\text{並列}} = 20 \text{ μF} + 30 \text{ μF} = 50 \text{ μF}$$次に、式⑫に \(Q_A = 1000 \text{ μC}\) と \(C_{\text{並列}} = 50 \text{ μF}\) を代入して \(V_A\) を求めます。$$1000 \text{ [μC]} = (50 \text{ [μF]}) V_A$$$$V_A = \displaystyle\frac{1000 \text{ μC}}{50 \text{ μF}}$$$$V_A = 20 \text{ [V]}$$

計算方法の平易な説明

S₂とS₁を順番に開くと、回路は電源から完全に切り離されます。設問(2)の最後に、点A(C₁の下側極板とC₂の上側極板がつながった部分)には合計で \(+1000 \text{ μC}\) の電気が蓄えられていました。この電気の量は、スイッチを開いて孤立状態になった後も変わりません。
最終的に、この \(+1000 \text{ μC}\) の電気は、C₁とC₂が並列につながったような形で再配置されます。点Aがプラス側になり、もう片方の極板(アースにつながる)がマイナス側(電位 \(0 \text{ V}\))になります。
C₁とC₂を並列に接続したときの合成容量は、単純に足し算で \(C_{\text{並列}} = C_1 + C_2 = 20 \text{ μF} + 30 \text{ μF} = 50 \text{ μF}\) です。
この \(50 \text{ μF}\) の並列コンデンサーに \(+1000 \text{ μC}\) の電気が蓄えられているので、電圧 \(V_A\) はコンデンサーの基本式 \(Q=CV\) から \(1000 \text{ μC} = 50 \text{ μF} \times V_A\) となります。
これを解くと、\(V_A = 1000 \div 50 = 20 \text{ V}\) となります。これが点Aの電位です。

結論と吟味

点Aの電位は \(20 \text{ V}\) です。アース点の電位を \(0 \text{ V}\) としています。この結果は、孤立部分の電荷が保存され、それが最終的な並列コンデンサーの電圧を決定するという考えに基づいています。

解答 (3)(ア) \(20 \text{ V}\)

問3 (イ)

思考の道筋とポイント
設問(3)(ア)で、最終状態における点Aの電位 \(V_A = 20 \text{ V}\) が求まりました。このとき、C₁とC₂は点A(電位 \(V_A\))とアース(電位 \(0 \text{ V}\))の間に並列に接続された状態と等価になっています。したがって、C₁とC₂の両端にかかる電圧はともに \(V_A\) です。
各コンデンサーに蓄えられる電荷は、コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) を用いて計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 最終状態ではC₁とC₂は並列で、両端の電圧は \(V_A = 20 \text{ V}\)。
  • コンデンサーの基本式 \(Q=CV\) を用いる。

具体的な解説と立式
(3)(ア)で求めたように、S₂とS₁を開いて十分長い時間が経過した後、点Aの電位は \(V_A = 20 \text{ V}\) です。このとき、コンデンサーC₁とC₂は、それぞれ両端の電位差が \(V_A\) となるように接続されています。
C₁に蓄えられる電荷を \(Q_1”\) とすると、
$$Q_1” = C_1 V_A \quad \cdots ⑬$$C₂に蓄えられる電荷を \(Q_2”\) とすると、$$Q_2” = C_2 V_A \quad \cdots ⑭$$
与えられた値は、\(C_1 = 20 \text{ μF}\)、\(C_2 = 30 \text{ μF}\)、そして求めた \(V_A = 20 \text{ V}\) です。

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
計算過程

式⑬に値を代入して \(Q_1”\) を計算します。
$$Q_1” = 20 \text{ μF} \times 20 \text{ V} = 400 \text{ μC}$$式⑭に値を代入して \(Q_2”\) を計算します。$$Q_2” = 30 \text{ μF} \times 20 \text{ V} = 600 \text{ μC}$$

計算方法の平易な説明

(3)(ア)で、点Aの最終的な電圧は \(20 \text{ V}\) であることがわかりました。C₁とC₂は、この \(20 \text{ V}\) の電圧がかかるように並列につながっているのと同じ状態です。
したがって、C₁にたまる電気の量は \(Q_1” = C_1 V_A = 20 \text{ μF} \times 20 \text{ V} = 400 \text{ μC}\) です。
同様に、C₂にたまる電気の量は \(Q_2” = C_2 V_A = 30 \text{ μF} \times 20 \text{ V} = 600 \text{ μC}\) です。

結論と吟味

C₁に蓄えられている電荷は \(400 \text{ μC}\)、C₂に蓄えられている電荷は \(600 \text{ μC}\) です。
これらの電荷の合計は \(400 \text{ μC} + 600 \text{ μC} = 1000 \text{ μC}\) となり、(3)(ア)で点A部分に保存されるとした電荷 \(Q_A\) と一致します。これは計算の整合性を示しています。

解答 (3)(イ) C₁: \(400 \text{ μC}\), C₂: \(600 \text{ μC}\)

問3 (ウ)

思考の道筋とポイント
S₁を開いた後は、回路は電源から切り離され、外部からのエネルギー供給はありません。このとき、コンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが、電荷の再配置に伴って抵抗R₁およびR₂で消費され、ジュール熱となります。
エネルギー保存則を考えると、発生したジュール熱の総量 \(W_{\text{ジュール}}\) は、S₁を開く直前の系全体の静電エネルギー \(U_{\text{前}}\) と、S₁を開いて十分時間が経過した後の系全体の静電エネルギー \(U_{\text{後}}\) の差に等しくなります。
\(W_{\text{ジュール}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}}\)
静電エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を用いて、各状態のエネルギーを計算します。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: (初期の静電エネルギー) – (最終の静電エネルギー) = (発生したジュール熱)。
  • S₁を開く直前の状態は、設問(2)の最後(S₂閉、S₁閉の定常状態)。
  • S₁を開いた後の状態は、設問(3)(ア)(イ)の最終状態。
  • 静電エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)。
  • 計算時には単位を基本単位(F, V, J)に統一する。

具体的な解説と立式
S₁を開いた後は、回路は電源から切り離され、系全体のエネルギーは保存されます(ただし、一部は熱エネルギーに変わる)。抵抗で生じるジュール熱 \(W_{\text{ジュール}}\) は、S₁を開く前のコンデンサーの総静電エネルギー \(U_{\text{前}}\) から、S₁を開いた後のコンデンサーの総静電エネルギー \(U_{\text{後}}\) を引いたものに等しくなります。
$$W_{\text{ジュール}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}} \quad \cdots ⑮$$

S₁を開く直前(設問(2)の最後の状態):
C₁の電圧は \(V_1′ = 40 \text{ V}\)、C₂の電圧は \(V_2′ = 60 \text{ V}\)。
このときの静電エネルギーの合計 \(U_{\text{前}}\) は、
$$U_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}C_1 (V_1′)^2 + \displaystyle\frac{1}{2}C_2 (V_2′)^2 \quad \cdots ⑯$$

S₁を開いて十分時間が経過した後(設問(3)(ア)(イ)の状態):
C₁とC₂の電圧はともに \(V_A = 20 \text{ V}\)。
このときの静電エネルギーの合計 \(U_{\text{後}}\) は、
$$U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}C_1 V_A^2 + \displaystyle\frac{1}{2}C_2 V_A^2 = \displaystyle\frac{1}{2}(C_1+C_2)V_A^2 \quad \cdots ⑰$$
値は、\(C_1 = 20 \text{ μF} = 20 \times 10^{-6} \text{ F}\), \(C_2 = 30 \text{ μF} = 30 \times 10^{-6} \text{ F}\), \(V_1′ = 40 \text{ V}\), \(V_2′ = 60 \text{ V}\), \(V_A = 20 \text{ V}\) です。

使用した物理公式

  • エネルギー保存則(静電エネルギーとジュール熱)
  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
計算過程

まず、式⑯より \(U_{\text{前}}\) を計算します。
$$U_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}(20 \times 10^{-6} \text{ F})(40 \text{ V})^2 + \displaystyle\frac{1}{2}(30 \times 10^{-6} \text{ F})(60 \text{ V})^2$$$$U_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2} \times 20 \times 10^{-6} \times 1600 + \displaystyle\frac{1}{2} \times 30 \times 10^{-6} \times 3600$$$$U_{\text{前}} = (10 \times 1600 + 15 \times 3600) \times 10^{-6}$$
$$U_{\text{前}} = (16000 + 54000) \times 10^{-6} = 70000 \times 10^{-6} \text{ J} = 7.0 \times 10^{-2} \text{ J}$$

次に、式⑰より \(U_{\text{後}}\) を計算します。
$$U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}(20 \times 10^{-6} \text{ F} + 30 \times 10^{-6} \text{ F})(20 \text{ V})^2$$$$U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}(50 \times 10^{-6} \text{ F})(400 \text{ V}^2)$$$$U_{\text{後}} = 25 \times 10^{-6} \times 400 = 10000 \times 10^{-6} \text{ J} = 1.0 \times 10^{-2} \text{ J}$$

最後に、式⑮よりジュール熱 \(W_{\text{ジュール}}\) を計算します。
$$W_{\text{ジュール}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}} = (7.0 \times 10^{-2} \text{ J}) – (1.0 \times 10^{-2} \text{ J})$$
$$W_{\text{ジュール}} = 6.0 \times 10^{-2} \text{ J}$$

計算方法の平易な説明

S₁スイッチを開くと、回路は電源から切り離されます。このとき、コンデンサーC₁とC₂には前の状態で蓄えられた電気エネルギーがあります。この後、コンデンサーの中の電気が回路内で再配置される際に、抵抗R₁やR₂を通って電流が流れ、熱が発生します。この熱がジュール熱です。
発生するジュール熱の総量は、S₁を開く直前にコンデンサーたちが持っていた合計のエネルギーから、最終的に落ち着いた状態でのコンデンサーたちが持つ合計のエネルギーを引いた差になります。
エネルギーの計算式は \(U = (1/2)CV^2\) です。
S₁を開く前:
C₁のエネルギーは \((1/2) \times (20 \times 10^{-6} \text{ F}) \times (40 \text{ V})^2 = 0.016 \text{ J}\)。
C₂のエネルギーは \((1/2) \times (30 \times 10^{-6} \text{ F}) \times (60 \text{ V})^2 = 0.054 \text{ J}\)。
合計の初期エネルギー \(U_{\text{前}} = 0.016 \text{ J} + 0.054 \text{ J} = 0.070 \text{ J}\)。
S₁を開いた後(最終状態):
C₁とC₂の電圧は共通で \(20 \text{ V}\) になります。
合計の最終エネルギー \(U_{\text{後}} = (1/2) \times ((20+30) \times 10^{-6} \text{ F}) \times (20 \text{ V})^2 = (1/2) \times (50 \times 10^{-6}) \times 400 = 0.010 \text{ J}\)。
したがって、発生したジュール熱は \(W_{\text{ジュール}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}} = 0.070 \text{ J} – 0.010 \text{ J} = 0.060 \text{ J}\) となります。これは \(6.0 \times 10^{-2} \text{ J}\) です。

結論と吟味

S₁を開いた後、抵抗で生じたジュール熱は \(6.0 \times 10^{-2} \text{ J}\) です。
この値は、系の静電エネルギーの減少分に等しくなります。
(注: 模範解答の数値 \(6 \times 10^{-3} \text{ J}\) とは一桁異なります。こちらの計算過程と模範解答の立式を照らし合わせた結果、\(6.0 \times 10^{-2} \text{ J}\) が妥当であると判断しました。)

解答 (3)(ウ) \(6.0 \times 10^{-2} \text{ J}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 直流定常状態におけるコンデンサーの振る舞い: 十分に時間が経過すると、コンデンサーは充電を完了し、直流電流を通さなくなる(開放とみなせる)。これが各設問の初期条件や最終状態を考える上での基本となる。
  • オームの法則 (\(V=IR\)): 回路の抵抗部分における電圧と電流の関係を記述する基本法則。
  • コンデンサーの基本式 (\(Q=CV\)): コンデンサーの容量、電荷、電圧の関係を示す。
  • コンデンサーの接続(直列・並列): 回路の状態に応じてコンデンサーがどのように接続されているかを見抜き、合成容量や電荷・電圧の分配を正しく計算することが重要。
    • (1)(イ)ではC₁とC₂が直列。
    • (3)では最終的にC₁とC₂が並列とみなせる。
  • 電荷保存則: 電気的に孤立した部分系において、操作の前後で電荷の総和が保存される。特に(2)でS₂を通過する電荷を考える際や、(3)で点Aの電荷が保存されると考える際に重要。
  • エネルギー保存則: 電源が切り離された後、コンデンサーの静電エネルギーの変化が抵抗でのジュール熱として消費される。(3)(ウ)で利用。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • スイッチの切り替えによって回路構成が変化し、過渡現象を経て新しい定常状態に至る問題。
    • 複数のコンデンサーや抵抗を含む複雑な直流回路。
    • コンデンサーの充電・放電過程における電荷やエネルギーの変化を問う問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. スイッチの状態と時間経過: 「スイッチを閉じた直後」「十分時間が経過した後」など、どのタイミングでの状態を問われているかを正確に把握する。
    2. 定常状態の回路図の単純化: 十分時間が経過した後のコンデンサーは開放されているとみなし、電流が流れる経路を特定する。
    3. 電圧の基準点(アース)と各点の電位: アースを基準(\(0 \text{ V}\))として、回路の各点の電位を考える。特に抵抗やコンデンサーの電圧(電位差)を正しく求める。
    4. 孤立部分の特定と電荷保存: スイッチ操作によって電気的に孤立する部分がないか探し、あれば電荷保存則の適用を検討する。
    5. エネルギー収支: 回路全体のエネルギーがどのように変化するか(電源がする仕事、コンデンサーの静電エネルギーの変化、抵抗でのジュール熱)を考える。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 図を丁寧に描く: 回路の状態が変わるたびに、等価回路図を描き直すと理解しやすい。
    • 極板の電荷の符号: 電位の高低関係から、コンデンサーの各極板に蓄えられる電荷の符号を間違えないようにする。
    • 単位の換算: μF (マイクロファラド) などをF (ファラド) に換算して計算する場合、指数計算を間違えないように注意する。特にエネルギー計算では基本単位(J, F, V, C)で行う。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • コンデンサーへの電流の流れ方の誤解: 定常状態ではコンデンサーに電流は流れないが、過渡状態(充電中や放電中)では電流が流れることを理解する。
    • 対策: 「十分時間が経過した後」という言葉に注目し、定常状態の回路と過渡状態の回路を区別する。
  • 直列・並列接続の判断ミス: 回路図が複雑になると、コンデンサーの接続関係を誤ることがある。
    • 対策: 電流の分岐点や合流点、電位の等しい箇所などを丁寧に見極め、単純な形に描き直してみる。
  • 電荷保存則の適用範囲の誤り: 孤立していない部分に電荷保存則を誤って適用してしまう。
    • 対策: スイッチの開閉によって、どの部分が外部と電気的に切り離されるのかを正確に把握する。
  • エネルギー計算での単位ミス: μFのままエネルギー計算をしてしまい、桁を間違える。
    • 対策: エネルギー計算 (\(U=(1/2)CV^2\)) では、\(C\)をファラド(F)、\(V\)をボルト(V)の基本単位に直してから計算する習慣をつける。
  • (2)のS₂通過電荷の考え方: スイッチ通過電荷を、単にスイッチ前後のコンデンサーの電荷の差として単純に計算しようとして混乱する。
    • 対策: スイッチによって接続される部分全体の電荷収支を考える。模範解答のように、スイッチが接続する部分に流れ込んだ電荷の総量を考えるアプローチを理解する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • (1) S₁を閉じる → C₁, C₂が充電される(直列なのでかかる電圧は容量の逆比で分配、蓄える電荷は等しい)。抵抗には定常電流が流れる。
    • (2) S₂を閉じる → C₁, C₂の接続状況が変わり、電圧のかかり方が変わる(それぞれ並列な抵抗の電圧に等しくなる)。電荷が再配置され、S₂を電流が一時的に流れる。
    • (3) S₂を開き、S₁を開く → 電源から切り離され、孤立した電荷を持つコンデンサー群ができる。電荷がさらに再配置され、最終的にC₁, C₂が並列のような状態になり、共通の電圧を持つ。この過程でエネルギーがジュール熱として失われる。
  • 図示の有効性:
    • 各設問の状況変化に応じて、回路図を描き直すことが非常に有効。特に、十分時間が経過した後の定常状態では、コンデンサー部分を「開放(断線)」として描いたり、電流が \(0 \text{ A}\) の抵抗を「導線」として見なせることを図に反映させると、回路が単純化されて見通しが良くなる。
    • コンデンサーの極板に \(+,-\) の符号と電荷量を書き込む、各点の電位を書き込むなどすると、立式しやすくなる。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • スイッチの開閉状態を正確に反映させる。
    • 電流の流れる向き、コンデンサーの電圧のかかる向き(極性)を明確にする。
    • アースの場所を常に意識する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E = (R_1+R_2)I\) (問1(ア)): 定常状態でコンデンサーに電流が流れないため、E, R₁, R₂からなる単純な直列回路と見なせる。ここにオームの法則を適用。
  • \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\) と \(Q_1 = C_{\text{直列}}E\) (問1(イ)): C₁とC₂が直列で、全体に電圧Eがかかる。直列コンデンサーの性質を利用。
  • \(V_1′ = R_1I\), \(Q_1′ = C_1V_1’\) など (問2): S₂が閉じることでC₁ (C₂) の電圧がR₁ (R₂) の電圧と等しくなる。定常電流Iは既知。
  • \(\Delta Q_{S2} = -Q_1′ + Q_2’\) (問2): S₂通過電荷を、S₂によって接続された部分の電荷変化(初期電荷0からの変化)と捉える考え方。
  • \(Q_A = (C_1+C_2)V_A\) (問3(ア)): 孤立部分の電荷 \(Q_A\) が保存され、最終的に並列接続されたC₁, C₂に分配される。
  • \(W_{\text{ジュール}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}}\) (問3(ウ)): エネルギー保存則。電源から切り離された回路で、失われた静電エネルギーがジュール熱になる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) S₁閉、定常状態:
    1. (ア) 電流経路特定 (E→R₁→R₂→E)。オームの法則で \(I\) 計算。
    2. (イ) C₁, C₂は直列、電圧 \(E\)。合成容量計算。\(Q=CV\) で \(Q_1\) 計算。
  2. (2) S₁閉のままS₂閉、定常状態:
    1. 電流 \(I\) は(1)(ア)と同じ。
    2. \(V_1′ = R_1I\), \(V_2′ = R_2I\) 計算。
    3. \(Q_1′ = C_1V_1’\), \(Q_2′ = C_2V_2’\) 計算。極板X, Yの電荷 \(-Q_1′, +Q_2’\) を得る。
    4. S₂通過電荷 \(\Delta Q_{S2} = -Q_1′ + Q_2’\) 計算。符号から向き判断。
  3. (3) S₂開、S₁開、定常状態:
    1. (ア) 点Aの電荷 \(Q_A = -Q_1′ + Q_2’\) (問2の値) が保存。最終的にC₁, C₂は並列で電圧 \(V_A\)。\(Q_A = (C_1+C_2)V_A\) より \(V_A\) 計算。
    2. (イ) \(Q_1” = C_1V_A\), \(Q_2” = C_2V_A\) 計算。
    3. (ウ) S₁を開く前の総静電エネルギー \(U_{\text{前}} = \frac{1}{2}C_1(V_1′)^2 + \frac{1}{2}C_2(V_2′)^2\) 計算。S₁を開いた後の総静電エネルギー \(U_{\text{後}} = \frac{1}{2}(C_1+C_2)V_A^2\) 計算。ジュール熱 \(W_{\text{ジュール}} = U_{\text{前}} – U_{\text{後}}\) 計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の確認と換算:
    • 特にコンデンサー容量のμF (マイクロファラド、\(10^{-6}\text{ F}\)) の扱い。電荷はμC、エネルギーはJで求めることが多いので、計算途中で適切に基本単位(F, C, V, J)に直すか、μの扱いを間違えないようにする。
    • \(1 \text{ μF} \times 1 \text{ V} = 1 \text{ μC}\)
    • \(1 \text{ μF} \times (1 \text{ V})^2 = 1 \text{ μJ}\) (\(10^{-6}\text{ J}\))
  • 数値計算の正確性:
    • 特にジュール熱の計算では、各項のエネルギーを正確に計算し、最後に引き算をする。桁の大きい数値や小数が絡む場合は慎重に。
    • 分数の計算(合成容量など)も通分や逆数計算を間違えないように。
  • 中間結果の確認:
    • 各小問で得られた値が物理的に妥当な範囲か、符号は正しいかなどを都度確認する。例えば、電荷や電圧が極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか。
    • (3)(イ)で求めた電荷の和が(3)(ア)で用いた保存電荷と一致するか確認する(自己チェック)。
  • 日頃の練習:
    • 同様の回路問題を複数解き、計算プロセスに慣れる。
    • 計算過程を省略せずに丁寧に書く癖をつける。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との整合性:
    • (1)(イ) C₁とC₂が直列なので、容量の小さいC₁に大きな電圧がかかり、容量の大きいC₂に小さな電圧がかかるはず(電荷は等しいので \(V=Q/C\))。合計で100Vになるように分配される。
    • (2) S₂を閉じることで、C₁とC₂の電圧がR₁とR₂の電圧降下にそれぞれ固定される。この変化によって電荷が移動する。
    • (3)(ア) 電源から切り離された後、電荷が再配置される。並列になることで全体の容量が増加(または減少)し、電荷一定なら電圧が変化する。
    • (3)(ウ) エネルギー保存則から、静電エネルギーが減少すれば、その分がジュール熱になる。必ず正の値になるはず。もし負になったら計算ミスや考え方の誤りを疑う。
  • 単位の確認:
    • 電流なら[A]、電荷なら[C]または[μC]、電位・電圧なら[V]、エネルギーなら[J]。最終的な答えの単位が問われている物理量と一致しているか必ず確認する。
  • 極端な場合の考察(可能であれば):
    • 例えば、ある抵抗値が0Ωだったら? あるコンデンサー容量が非常に大きかったら? といった極端なケースを考えると、式の妥当性が見えてくることがある。
  • 模範解答との比較(学習時):
    • 自分の答えと模範解答が異なった場合、どこで考え方を間違えたのか、計算ミスはなかったかなどを徹底的に分析する。今回の(3)(ウ)のように模範解答の数値と異なる場合、自分の計算過程を複数回見直すことが重要。

問題122 (愛知工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、xy平面に垂直に置かれた2本の長い直線導線を流れる電流が作る磁場(磁界)に関するものです。電流の向きは互いに逆向きで、強さは同じです。原点Oと点Aにおける磁場の強さを求め、さらに点Aと同じ強さの磁場となるx軸上の点Bの位置を求める問題です。

与えられた条件
  • 2本の長い直線導線がxy平面に垂直に置かれている。
  • 一方の導線は点\((a, 0)\)を通り、もう一方の導線は点\((-a, 0)\)を通る。
  • 両方の導線には同じ強さの電流が流れているが、向きは互いに逆向きである。
    • 点\((-a, 0)\)を通る電流はxy平面の手前から奥へ(図では紙面に垂直奥向き、\(\bigotimes\)で表される)。
    • 点\((a, 0)\)を通る電流はxy平面の奥から手前へ(図では紙面に垂直手前向き、\(\bigodot\)で表される)。
  • これらの電流による原点Oでの磁場の強さを\(H_0\)とする。
  • 点Aの座標は\((0, \sqrt{3}a)\)である。
問われていること
  1. (1) 点A\((0, \sqrt{3}a)\)での磁場の強さ\(H_1\)を\(H_0\)を用いて表す。
  2. (2) (1)の\(H_1\)と同じ強さの磁場となる、正のx軸上の点Bのx座標。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 直線電流が作る磁場(アンペールの法則): 長い直線導線を流れる電流\(I\)が、導線からの距離\(r\)の位置に作る磁場の強さ\(H\)は、\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)で与えられる。
  • 右ねじの法則: 直線電流が作る磁場の向きは、電流の向きに右ねじを進めたとき、ねじが回転する向きで与えられる。あるいは、電流の向きを親指とすると、残りの指が巻く向き。
  • 磁場の重ね合わせの原理: 複数の電流が作る磁場は、それぞれの電流が単独で作る磁場をベクトル的に合成することで得られる。

電流の強さを\(I\)と仮定して話を進めます。

問1

思考の道筋とポイント
まず、原点Oにおける磁場\(H_0\)を求めます。点\((-a,0)\)を通る電流と点\((a,0)\)を通る電流がそれぞれ原点Oに作る磁場の向きと大きさを考え、ベクトル合成します。
次に、点A\((0, \sqrt{3}a)\)における磁場\(H_1\)を求めます。同様に、各電流が点Aに作る磁場の向きと大きさを計算し、ベクトル合成します。点Aではx軸方向の成分が打ち消しあい、y軸方向の成分が強め合う形になります。
最後に、\(H_1\)を\(H_0\)で表します。

この設問における重要なポイント

  • 直線電流の作る磁場の公式 \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) を正しく使う。
  • 右ねじの法則を用いて、各電流が作る磁場の向きを正確に把握する。
  • 磁場のベクトル合成を正しく行う。対称性にも注目すると計算が楽になる場合がある。
  • 幾何学的な関係(距離や角度)を正確に求める。

具体的な解説と立式
電流の強さを \(I\) とします。
点\((-a,0)\) を通る電流(紙面奥向き)と点\((a,0)\) を通る電流(紙面手前向き)を考えます。

原点Oにおける磁場 \(H_0\):
点\((-a,0)\) の電流から原点Oまでの距離は \(a\) です。右ねじの法則より、この電流がO点に作る磁場の向きはy軸の正の向きです。その強さは、
$$H_{\text{O左}} = \displaystyle\frac{I}{2\pi a}$$点\((a,0)\) の電流から原点Oまでの距離も \(a\) です。右ねじの法則より、この電流がO点に作る磁場の向きもy軸の正の向きです。その強さは、$$H_{\text{O右}} = \displaystyle\frac{I}{2\pi a}$$したがって、原点Oでの合成磁場 \(H_0\) は、これらの和となります。$$H_0 = H_{\text{O左}} + H_{\text{O右}} = \displaystyle\frac{I}{2\pi a} + \displaystyle\frac{I}{2\pi a} = \displaystyle\frac{2I}{2\pi a} = \displaystyle\frac{I}{\pi a} \quad \cdots ①$$
この磁場の向きはy軸正の向きです。

点A\((0, \sqrt{3}a)\)における磁場 \(H_1\):
点\((-a,0)\) の電流から点A\((0, \sqrt{3}a)\) までの距離 \(r_A\) は、三平方の定理より、
$$r_A = \sqrt{(-a-0)^2 + (0-\sqrt{3}a)^2} = \sqrt{a^2 + 3a^2} = \sqrt{4a^2} = 2a$$
同様に、点\((a,0)\) の電流から点A\((0, \sqrt{3}a)\) までの距離も \(2a\) です。
各電流が点Aに作る磁場の強さ \(H’\) は等しく、
$$H’ = \displaystyle\frac{I}{2\pi (2a)} = \displaystyle\frac{I}{4\pi a}$$
点\((-a,0)\)を通る電流(奥向き)が点Aに作る磁場を\(H’_{\text{左}}\)(模範解答の図の赤い実線矢印)、点\((a,0)\)を通る電流(手前向き)が点Aに作る磁場を\(H’_{\text{右}}\)(模範解答の図の黒い実線矢印)とします。
点Aと導線\((-a,0)\)を結ぶ線分がy軸となす角を\(\phi\)とすると、\(\tan\phi = \frac{a}{\sqrt{3}a} = \frac{1}{\sqrt{3}}\) より \(\phi = 30^\circ\)。
磁場\(H’_{\text{左}}\)は、この線分と垂直であり、右ねじの法則から、x軸の正の向きから反時計回りに\(30^\circ\)の方向を向きます。
したがって、\(H’_{\text{左}}\)の成分は、
x成分: \(H’ \cos 30^\circ = \displaystyle\frac{I}{4\pi a} \cdot \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)
y成分: \(H’ \sin 30^\circ = \displaystyle\frac{I}{4\pi a} \cdot \displaystyle\frac{1}{2}\)
同様に、点Aと導線\((a,0)\)を結ぶ線分もy軸と\(30^\circ\)の角をなします。
磁場\(H’_{\text{右}}\)は、この線分と垂直であり、右ねじの法則から、x軸の負の向きから時計回りに\(30^\circ\)の方向(つまり、x軸の正の向きから反時計回りに\(150^\circ\))を向きます。
したがって、\(H’_{\text{右}}\)の成分は、
x成分: \(H’ \cos 150^\circ = \displaystyle\frac{I}{4\pi a} \cdot \left(-\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\right)\)
y成分: \(H’ \sin 150^\circ = \displaystyle\frac{I}{4\pi a} \cdot \displaystyle\frac{1}{2}\)
点Aでの合成磁場\(H_1\)の各成分は、
\(H_{1x} = H’_{\text{左},x} + H’_{\text{右},x} = \displaystyle\frac{\sqrt{3}I}{8\pi a} – \displaystyle\frac{\sqrt{3}I}{8\pi a} = 0\)
\(H_{1y} = H’_{\text{左},y} + H’_{\text{右},y} = \displaystyle\frac{I}{8\pi a} + \displaystyle\frac{I}{8\pi a} = \displaystyle\frac{2I}{8\pi a} = \displaystyle\frac{I}{4\pi a}\)
よって、合成磁場\(H_1\)の強さは、
$$H_1 = \sqrt{H_{1x}^2 + H_{1y}^2} = \sqrt{0^2 + \left(\displaystyle\frac{I}{4\pi a}\right)^2} = \displaystyle\frac{I}{4\pi a} \quad \cdots ②’$$
この磁場の向きはy軸の正の向きです。
これは、模範解答の \(H_1 = \frac{I}{2\pi \cdot 2a} \cos 60^\circ \times 2\) の結果と一致します(ここで \(\cos 60^\circ = 1/2\) は、各磁場ベクトル\(H’\)のy軸への射影をとる際の係数と解釈できます。具体的には、各磁場ベクトルがx軸となす角が\(\pm 30^\circ\)なので、y軸となす角は\(\pm 60^\circ\)。それぞれのy成分は\(H’ \cos 60^\circ\)となり、それが2つ分加算される形です)。

使用した物理公式

  • 直線電流の作る磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場の重ね合わせ
  • 三平方の定理
  • 三角関数(成分分解のため)
計算過程

式①より、原点Oでの磁場の強さ \(H_0\) は、
$$H_0 = \displaystyle\frac{I}{\pi a}$$式②’より、点Aでの磁場の強さ \(H_1\) は、$$H_1 = \displaystyle\frac{I}{4\pi a}$$\(H_1\) を \(H_0\) で表すために、\(H_1\) と \(H_0\) の比を取ります。$$\displaystyle\frac{H_1}{H_0} = \displaystyle\frac{\left(\displaystyle\frac{I}{4\pi a}\right)}{\left(\displaystyle\frac{I}{\pi a}\right)}$$分母分子の \(I\)、\(\pi\)、\(a\) を約分すると、$$\displaystyle\frac{H_1}{H_0} = \displaystyle\frac{1}{4}$$よって、$$H_1 = \displaystyle\frac{1}{4} H_0$$

計算方法の平易な説明
  1. まず、原点Oでの磁場の強さ \(H_0\) を計算します。2つの電流はO点からの距離が同じ \(a\) で、それぞれが作る磁場の向きも同じ(y軸の正の向き)です。各電流が作る磁場の強さは \(\frac{I}{2\pi a}\) なので、合成磁場 \(H_0 = \frac{I}{2\pi a} \times 2 = \frac{I}{\pi a}\) となります。
  2. 次に、点Aでの磁場の強さ \(H_1\) を計算します。点Aから各電流までの距離は \(2a\) です。各電流が点Aに作る磁場の強さは \(\frac{I}{2\pi(2a)} = \frac{I}{4\pi a}\) です。これらの磁場の向きを考えると、x軸方向の成分は互いに打ち消しあい、y軸方向の成分(それぞれ\(\frac{I}{4\pi a} \sin 30^\circ = \frac{I}{8\pi a}\))が同じ向きに加算されます。したがって、合成された磁場の強さ \(H_1\) は \(\frac{I}{8\pi a} \times 2 = \frac{I}{4\pi a}\) となります。
  3. 最後に、\(H_1\) を \(H_0\) で表します。\(H_1 = \frac{I}{4\pi a}\) と \(H_0 = \frac{I}{\pi a}\) の関係から、\(H_1 = \frac{1}{4} H_0\) となります。
結論と吟味

点Aでの磁場の強さ \(H_1\) は \(\displaystyle\frac{1}{4}H_0\) です。ベクトルの成分分解に基づいて計算した結果、模範解答の最終的な比率と一致しました。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{1}{4}H_0\)

問2

思考の道筋とポイント
x軸上の点B\((x,0)\) (ただし \(x>0\)、電流の位置は除く) での磁場の強さが、(1)で求めた \(H_1\) に等しくなるような \(x\) の値を求めます。
点Bにおける磁場を計算します。点\((-a,0)\)を通る電流と点\((a,0)\)を通る電流がそれぞれ点Bに作る磁場の向きと大きさを考え、ベクトル合成します。
模範解答によると、点Bでの各電流による磁場は逆向きとなり、合成磁場はその差で与えられます。 この合成磁場の大きさが \(H_1 = \displaystyle\frac{I}{4\pi a}\) と等しくなるように方程式を立てて解きます。

この設問における重要なポイント

  • 点Bがx軸上にあるため、各電流からの距離の計算が \(x+a\) と \(|x-a|\) となる。
  • x軸上では、各電流が作る磁場はy軸方向を向く。電流の向きとB点の位置関係から、磁場の向きが同じか逆かを判断する。
  • 模範解答では、2つの磁場が逆向きであるとし、その差が合成磁場となるとして立式している。
  • 合成磁場の大きさが \(H_1\) と等しいという条件から方程式を立てる。

具体的な解説と立式
点Bの座標を \((x,0)\) とします(ただし \(x>0\)、電流の位置は除く)。
点\((a,0)\) を通る電流(手前向き)が点B\((x,0)\) に作る磁場を \(H_{\text{B右}}\) とし、点\((-a,0)\) を通る電流(奥向き)が点B\((x,0)\) に作る磁場を \(H_{\text{B左}}\) とします。
模範解答の立式は以下の通りです。
$$\displaystyle\frac{I}{2\pi(x-a)} – \displaystyle\frac{I}{2\pi(x+a)} = \displaystyle\frac{I}{4\pi a} \quad \cdots ③$$
この式は、\(x>a\) の状況で、点\((a,0)\)の電流が作る磁場(距離 \(x-a\))と点\((-a,0)\)の電流が作る磁場(距離 \(x+a\))が逆向きであり、前者のほうが大きいと仮定した場合の合成磁場の大きさを表しています。

使用した物理公式

  • 直線電流の作る磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場の重ね合わせ
計算過程

模範解答に示された式③ の両辺に \(\displaystyle\frac{2\pi}{I}\) を掛けると(ただし \(I \neq 0\))、
$$\displaystyle\frac{1}{x-a} – \displaystyle\frac{1}{x+a} = \displaystyle\frac{1}{2a}$$左辺を通分すると、$$\displaystyle\frac{(x+a) – (x-a)}{(x-a)(x+a)} = \displaystyle\frac{1}{2a}$$
$$\displaystyle\frac{2a}{x^2-a^2} = \displaystyle\frac{1}{2a}$$両辺に \(2a(x^2-a^2)\) を掛けて整理すると(ただし \(x^2-a^2 \neq 0\))、$$2a \cdot 2a = 1 \cdot (x^2-a^2)$$$$4a^2 = x^2-a^2$$$$x^2 = 5a^2$$
\(x>0\) なので、$$x = \sqrt{5}a$$

計算方法の平易な説明

x軸上の点B\((x,0)\)での磁場の強さが、(1)で求めた\(H_1 = \frac{I}{4\pi a}\)と等しくなる条件を考えます。
点\((-a,0)\)の電流がB点に作る磁場の強さは \(\frac{I}{2\pi(x+a)}\)、点\((a,0)\)の電流がB点に作る磁場の強さは \(\frac{I}{2\pi|x-a|}\)です。
模範解答では、これらの磁場が逆向きであるとし、その差の大きさが\(H_1\)に等しいとして次の式を立てています:
\(\displaystyle\frac{I}{2\pi(x-a)} – \displaystyle\frac{I}{2\pi(x+a)} = \displaystyle\frac{I}{4\pi a}\)
この式から \(I\) と \(2\pi\) を消去し、整理すると \(\frac{2a}{x^2-a^2} = \frac{1}{2a}\) となります。
これをさらに変形すると \(x^2 = 5a^2\) が得られます。 \(x\) は正のx軸上の点なので \(x>0\) であり、\(x = \sqrt{5}a\) となります。

結論と吟味

点Bのx座標は \(\sqrt{5}a\) です。
この導出は、模範解答に示された立式とその結果に合わせたものです。
模範解答の補足説明 によると、\(0<x<a\) の範囲では、右側の電流(点\((a,0)\)を通る電流)が作る磁場は \(H_0/2\)(\(=\frac{I}{2\pi a}\))より大きく、かつ左側の電流(点\((-a,0)\)を通る電流)も同じ向き(y軸正方向)の磁場を作るため、合成磁場は \(H_1 = H_0/4\) となることはない、とされています。
これは、\(0<x<a\) の範囲では解が存在しないことを意味します。 したがって、解は \(x>a\) の範囲にのみ存在し、それが \(x=\sqrt{5}a\) となります。

解答 (2) \(\sqrt{5}a\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 直線電流の作る磁場(アンペールの法則): \(H = \frac{I}{2\pi r}\)。電流からの距離に反比例する磁場の大きさを計算できることが基本。
  • 右ねじの法則: 電流の向きから磁場の向きを決定する。これがベクトル合成の際に非常に重要。
  • 磁場の重ね合わせの原理: 複数の電流源がある場合、各電流が作る磁場をベクトルとして足し合わせることで全体の磁場が求まる。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 複数の直線電流が作る磁場を求める問題。
    • 円形電流やソレノイドコイルが作る磁場の問題(基本法則は異なるが、重ね合わせの考え方は共通)。
    • 特定の点での磁場の強さや向きを問う問題、あるいは磁場が特定の条件を満たす点の位置を求める問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 電流源の配置と向き: まず、どこにどのような向きの電流が流れているかを図で正確に把握する。
    2. 磁場を求める点と電流源との位置関係: 距離と方向を正確に把握する。三平方の定理や三角関数をよく使う。
    3. 対称性の利用: 電流の配置や磁場を求める点に何らかの対称性があれば、計算を簡略化できることがある(例:特定の成分が打ち消しあうなど)。点Aのケースではx成分が打ち消しあった。
    4. ベクトル量としての磁場: 磁場は大きさと向きを持つベクトル量であることを常に意識し、成分分解やベクトル和を正しく行う。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 磁場の向きの間違い: 右ねじの法則の適用を誤り、磁場の向きを反対にしてしまう。
    • 対策: 右手を実際に使って確認する癖をつける。図に磁場のループを書き込んでみるのも有効。
  • 距離 \(r\) の誤算: 電流から磁場を求める点までの距離を間違える。特に斜めの距離の場合、三平方の定理の計算ミスに注意。
  • ベクトル合成の誤り: 大きさだけを単純に足し引きしてしまう。
    • 対策: 必ずx成分、y成分(あるいは他の適切な成分)に分解してから合成する。図を描いてベクトルの矢印で考える。
  • 問題文の条件の読み落とし: 「電流の向きが逆」「同じ強さ」などの条件を見落とすと、根本的に間違える。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 各直線電流の周りに、同心円状に磁場(磁力線)が発生しているイメージ。
    • 電流の向きによって、その円の回転方向(磁場の向き)が決まる。
    • 磁場を求める点では、これらの同心円の接線方向のベクトルを合成することになる。
  • 図示の有効性:
    • 問題の図に、各電流が作る磁場ベクトルを矢印で書き込むことが非常に有効。その際、ベクトルの始点を磁場を求める点に置く。
    • 距離や角度を求めるために、補助線を引いたり、三角形の辺の長さを書き込んだりする。
    • 模範解答の図は、特に点Aでの磁場の合成を理解する上で重要。 赤い矢印が右側の電流による磁場を示している。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = \frac{I}{2\pi r}\): 長い直線電流が作る磁場の基本公式。問題設定がこれに合致するため、ためらわずに選択する。
  • ベクトル和: 磁場はベクトルなので、複数の源からの磁場を合成する際は必ずベクトルとして足し合わせる必要がある。スカラー和ではない。
  • 三角関数(\(\cos, \sin\)): ベクトルを成分に分解したり、特定の方向の成分を取り出したりするために不可欠。どの角度を基準に \(\cos\) なのか \(\sin\) なのかを正確に判断する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 点Aでの磁場:
    1. 原点Oでの磁場\(H_0\)を計算(これは基準となる)。2つの電流からの寄与をそれぞれ計算し、向きを考慮して合成。
    2. 点Aと各電流との距離を計算(三平方の定理)。
    3. 各電流が点Aに作る磁場の大きさを \(H = I/(2\pi r)\) で計算。
    4. 各磁場ベクトルの向きを右ねじの法則で決定し、成分分解する。
    5. x成分が打ち消しあい、y成分が強めあうことを確認し、合成磁場の大きさ\(H_1\) を得る。
    6. \(H_1\) を \(H_0\) で表す。
  2. (2) 点Bの位置:
    1. 点B\((x,0)\)と各電流との距離を \(x\) を用いて表す。
    2. 各電流が点Bに作る磁場の大きさと向きを計算。x軸上では磁場はy軸方向のみになる。
    3. 模範解答の立式に従い、これらの磁場の差(または適切な符号での和)を合成磁場とする。
    4. 合成磁場の大きさが \(H_1\) に等しいという方程式を立てる。
    5. 方程式を解いて \(x\) の値を求める。\(x>0\) の条件と、電流の位置は除くという条件を考慮する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 距離の計算: \(\sqrt{a^2+b^2}\) のような平方根の計算は慎重に。
  • 分数の計算: 特に磁場の公式や合成の際の通分などでミスしやすい。
  • 三角関数の値: \(\cos 30^\circ, \sin 30^\circ, \cos 60^\circ, \sin 60^\circ\) などの基本的な値は正確に覚えておく。
  • 文字式の整理: \(I, \pi, a\) などの文字が多く出てくるので、整理や約分を丁寧に行う。
  • 方程式の解法: (2)で二次方程式(あるいはそれに類する式)を解く際に、解の公式の適用や符号の扱いに注意する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との整合性:
    • (1) 点Aは2つの電流から等距離にあり、y軸上にある。電流の向きが逆なので、対称性から磁場のx成分は打ち消しあい、y成分が合成される。
    • (2) 点Bが電流に非常に近い場合(例えば \(x \approx a\))、磁場は非常に強くなるはず。逆に非常に遠い場合(\(x \rightarrow \infty\))、磁場は0に近づくはず。求めた解がこれらの極端な場合と矛盾しないか、大まかに確認する。模範解答の補足にもあるように、\(0<x<a\)の範囲では解がないことも確認できる。
  • 単位の確認: 磁場の強さの単位(この問題では特に指定はないが、SI単位系ではA/m)。
  • 解の吟味: (2)で複数の解候補が出た場合、問題の条件(例:\(x>0\))に合うものを選ぶ。

問題123 (九州産大+福井工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場(磁界)中を流れる電流が受ける力(電磁力、ローレンツ力)に関する基本的な理解を問う穴埋め問題です。導線中の自由電子の運動と、それが磁場から受ける力、そして導線全体が受ける力の関係を順を追って考察します。

与えられた条件
  • 磁束密度 \(B \text{ [T]}\) で右向きの磁場(磁界)中に導線が置かれている。
  • 導線内を電流 \(I \text{ [A]}\) が下向きに流れている。
  • 導線の断面積: \(S \text{ [m}^2\text{]}\)
  • 導線の長さ: \(l \text{ [m]}\)
  • 導線内の自由電子の個数密度: \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\)
  • 自由電子の速さ: \(v \text{ [m/s]}\)
  • 自由電子の電荷: \(-e \text{ [C]}\) (\(e\) は電気素量で正の値)
問われていること

空欄(1)から(8)に適切な語句や数式を埋める。

  1. (1) 電流 \(I\) を \(e, n, S, v\) を用いて表す式。
  2. (2) 1つの自由電子が磁場から受ける力の大きさ \(f\)。
  3. (3) (2)の力の名称。
  4. (4) (2)の力の向き。
  5. (5) 導線内の電子の総数 \(N\)。
  6. (6) 導線を流れる電流が磁場から受ける力の大きさ \(F\) を、電子1つが受ける力と電子の総数を用いて表す過程と結果。
  7. (7) (6)の力 \(F\) を \(I, B, l\) を用いて表す式。
  8. (8) (6)の力の向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 電流の定義: 電流は、単位時間に導線の断面を通過する電気量で定義される。自由電子の運動と関連付けて理解することが重要。 \(I = enSv\) の公式。
  • ローレンツ力: 荷電粒子が磁場中で運動するときに受ける力。電荷 \(q\)、速さ \(v\)、磁束密度 \(B\)、速度ベクトルと磁場ベクトルのなす角 \(\theta\) とすると、力の大きさは \(f = |q|vB\sin\theta\)。
  • フレミングの左手の法則: 電流が磁場から受ける力の向き(電磁力の向き)や、ローレンツ力の向きを決定するための法則。
  • 電磁力: 導線を流れる電流が磁場から受ける力。\(F = IBl\sin\theta\)。これは多数の荷電粒子が受けるローレンツ力の合力として理解される。

問1

思考の道筋とポイント
電流 \(I\) の定義は、導線のある断面を単位時間(1秒間)に通過する電気量の大きさです。
自由電子の速さが \(v\) なので、1秒間に長さ \(v\) だけ移動します。断面積 \(S\) を考えると、1秒間に通過する自由電子が含まれる体積は \(Sv\) となります。この体積の中に含まれる自由電子の個数を求め、それらが持つ電気量の総量を計算することで電流 \(I\) が表されます。

この設問における重要なポイント

  • 電流の定義を微視的な視点(自由電子の運動)から理解する。
  • 単位時間あたりに断面積を通過する自由電子の数を正確に求める。
  • 各自由電子の電荷の大きさが \(e\) であることを用いる。

具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、導線のある断面を1秒間に通過する電気量の大きさです。
自由電子は速さ \(v \text{ [m/s]}\) で移動しているので、1秒間に \(v \text{ [m]}\) の距離を進みます。
導線の断面積が \(S \text{ [m}^2\text{]}\) なので、1秒間にこの断面を通過する自由電子の集団は、長さ \(v\)、断面積 \(S\) の円柱(または角柱)の体積 \(V_1 = Sv \text{ [m}^3\text{]}\) を占めます。
この体積 \(V_1\) の中に含まれる自由電子の個数 \(N_1\) は、自由電子の個数密度 \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\) を用いて、
$$N_1 = n V_1 = nSv \text{ [個]}$$各自由電子は \(e \text{ [C]}\) の大きさの電気量を持っているので、1秒間に断面を通過する総電気量 \(Q_1\) は、$$Q_1 = N_1 e = enSv \text{ [C]}$$電流の定義より、\(I = Q_1\) なので、$$I = enSv \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 電流の定義(微視的表現): \(I = enSv\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した通り、導出過程がそのまま計算過程となります。
最終的に得られる式は \(I = enSv\) です。

計算方法の平易な説明

電流とは、1秒間に電線のある場所をどれだけの量の電気が通り過ぎるかを表すものです。
電線の中にはたくさんの自由電子があって、これらが動くことで電流が流れます。
自由電子1個が持つ電気の大きさを \(e\)、電子の速さを \(v\)、電線の太さ(断面積)を \(S\)、1立方メートルあたりにいる電子の数を \(n\) とすると、1秒間に通り過ぎる電気の量、つまり電流 \(I\) は、これらの掛け算で \(I = enSv\) と表すことができます。

結論と吟味

電流 \(I\) は \(enSv\) と表されます。これは電流の微視的表現としてよく知られた公式です。

解答 (1) \(enSv\)

問2

思考の道筋とポイント
1つの自由電子が磁場から受ける力の大きさを求めます。これはローレンツ力の公式 \(f = |q|vB\sin\theta\) を用います。
ここで、\(|q|\) は自由電子の電荷の大きさ \(e\)、\(v\) は自由電子の速さ、\(B\) は磁束密度の大きさです。
電流の向きは下向きであり、自由電子の電荷は負(\(-e\))なので、自由電子の実際の運動方向(速度の向き)は電流の向きと逆で上向きになります。磁場は右向きです。したがって、自由電子の速度の向きと磁場の向きは垂直(\(\theta = 90^\circ\), \(\sin 90^\circ = 1\))です。

この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式 \(f = |q|vB\sin\theta\) を適用する。
  • 自由電子の電荷の大きさが \(e\) であること。
  • 自由電子の速度の向きと磁場の向きが垂直であることを把握する。

具体的な解説と立式
1つの自由電子(電荷 \(-e\)、速さ \(v\))が磁束密度 \(B\) の磁場から受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は、ローレンツ力の公式 \(f = |q|vB\sin\theta\) で与えられます。
ここで、\(|q| = e\)。
電流が下向きに流れているということは、負の電荷を持つ自由電子は上向きに速さ \(v\) で運動しています。磁場は右向きです。したがって、自由電子の速度の向き(上向き)と磁場の向き(右向き)は互いに垂直です。よって、\(\theta = 90^\circ\) であり、\(\sin 90^\circ = 1\) です。
したがって、力の大きさ \(f\) は、
$$f = evB\sin 90^\circ = evB \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = |q|vB\sin\theta\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した通り、\(|q|=e\), \(\theta=90^\circ\) をローレンツ力の公式に代入します。
$$f = e \cdot v \cdot B \cdot \sin 90^\circ$$$$\sin 90^\circ = 1$$ なので、$$f = evB$$

計算方法の平易な説明

磁場の中で電気が動くと、その電気は力を受けます。この力をローレンツ力といいます。
自由電子1個が受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は、電子の電気の大きさ \(e\)、速さ \(v\)、磁場の強さ(磁束密度)\(B\) に比例します。また、電子の動く向きと磁場の向きが垂直なとき、力は最大になります。
この問題では、電子は上向きに動き、磁場は右向きなので、動きと磁場は垂直です。
したがって、力の大きさは単純に \(f = evB\) となります。

結論と吟味

1つの自由電子が磁場から受ける力の大きさは \(evB\) です。

解答 (2) \(evB\)

問3

思考の道筋とポイント
設問(2)で計算した、磁場中を運動する荷電粒子(この場合は自由電子)が受ける力の名称を答えます。

この設問における重要なポイント

  • 荷電粒子が磁場から受ける力の固有の名称を理解しているか。

具体的な解説と立式
磁場中を運動する荷電粒子が磁場から受ける力は、ローレンツ力とよばれます。

結論と吟味

力の名称はローレンツ力です。

解答 (3) ローレンツ

問4

思考の道筋とポイント
設問(2)で求めたローレンツ力の向きを答えます。フレミングの左手の法則を用います。
注意点として、フレミングの左手の法則は「正の電荷が動く向き(電流の向き)」を用います。自由電子は負の電荷を持っているので、その運動の向きと電流の向きは逆になります。
電流の向きは下向き、磁場の向きは右向きです。
あるいは、負電荷のローレンツ力は、正電荷が同じ速度で運動した場合に受けるローレンツ力と逆向きになることを利用します。自由電子の速度は上向き、磁場は右向きです。

この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則を正しく適用する。
  • 電流の向きと自由電子の運動の向きの関係を理解する(自由電子は負電荷)。

具体的な解説と立式
自由電子(電荷 \(-e\))は上向きに速さ \(v\) で運動しています。磁場は右向きにかかっています。
フレミングの左手の法則を適用します。
中指を電流の向き、人差し指を磁場の向きに合わせると、親指が力の向きを示します。
電流の向きは「下向き」です。自由電子の運動方向(上向き)とは逆であることに注意してください。
– 中指(電流 \(I\)): 下向き
– 人差し指(磁場 \(B\)): 右向き
このとき、親指は紙面の裏から表へ向かう向き(手前向き)を指します。
これが自由電子1つ1つが受けるローレンツ力の向きです。

(別解:負電荷のローレンツ力)
自由電子の速度 \(\vec{v}\) は上向き、磁場 \(\vec{B}\) は右向きです。
もし正電荷 \(+e\) が上向きに運動する場合、フレミングの左手の法則(電流の向きを上向きとする)より、力は紙面の奥向きになります。
自由電子は負電荷 \(-e\) なので、受ける力はこれと逆向き、つまり紙面の裏から表へ向かう向き(手前向き)となります。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
結論と吟味

1つの自由電子が受ける力の向きは、紙面に垂直で裏から表へ向かう向き(手前向き)です。

解答 (4) 紙面に垂直で裏から表へ向かう(手前)

問5

思考の道筋とポイント
導線内(長さ \(l\)、断面積 \(S\))に含まれる自由電子の総数を求めます。
まず導線の体積を計算し、それに自由電子の個数密度 \(n\) を掛ければ求まります。

この設問における重要なポイント

  • 導線の体積を正しく計算する (\(V = Sl\))。
  • 個数密度 \(n\) の意味を理解し、総数を求めるために体積と掛け合わせる。

具体的な解説と立式
導線の長さは \(l \text{ [m]}\)、断面積は \(S \text{ [m}^2\text{]}\) です。
したがって、導線の体積 \(V_{\text{導線}}\) は、
$$V_{\text{導線}} = Sl \text{ [m}^3\text{]}$$導線内の自由電子の個数密度は \(n \text{ [個/m}^3\text{]}\) なので、導線内の自由電子の総数 \(N\) は、$$N = n V_{\text{導線}} = nSl \text{ [個]} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 体積 = 断面積 × 長さ
  • 総数 = 個数密度 × 体積
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した通り、導出過程がそのまま計算過程となります。
最終的に得られる式は \(N = nSl\) です。

計算方法の平易な説明

導線の中にはたくさんの自由電子が詰まっています。
まず、導線全体の体積を計算します。導線の太さ(断面積)が \(S\) で長さが \(l\) なので、体積は \(S \times l\) です。
次に、1立方メートルあたりに \(n\) 個の自由電子がいるとわかっているので、導線全体の自由電子の数は、この \(n\) に導線の体積 \(Sl\) を掛けて \(N = nSl\) 個となります。

結論と吟味

導線内の電子の総数は \(nSl\) 個です。

解答 (5) \(nSl\)

問6

思考の道筋とポイント
導線を流れる電流が磁場から受ける力の大きさ \(F\) を求めます。
これは、導線内の個々の自由電子が受けるローレンツ力の合力として考えられます。
1つの自由電子が受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は(2)で \(evB\) と求まっています。導線内の自由電子の総数 \(N\) は(5)で \(nSl\) と求まっています。
これらのすべての自由電子が同じ向きに力を受けるので、導線全体が受ける力 \(F\) は単純に \(F = Nf\) で計算できます。

この設問における重要なポイント

  • 導線全体が受ける電磁力は、個々の自由電子が受けるローレンツ力の総和である。
  • すべての自由電子が同じ大きさ・向きのローレンツ力を受けると仮定する。

具体的な解説と立式
導線内の1つの自由電子が受けるローレンツ力の大きさは \(f = evB\) であり((2)の結果)、その向きはすべて同じ((4)で求めた向き)です。
導線内には \(N = nSl\) 個の自由電子が存在します((5)の結果)。
これらの自由電子が受けるローレンツ力の総和が、導線全体が磁場から受ける力 \(F\) となります。
したがって、
$$F = N \times f \quad \cdots ④$$ここに \(N=nSl\) と \(f=evB\) を代入すると、$$F = (nSl) \times (evB) = enSlvB \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • 合力 = (1個あたりの力) × (総数)
  • (2)の結果: \(f=evB\)
  • (5)の結果: \(N=nSl\)
計算過程

式④に、(2)で求めた \(f=evB\) と (5)で求めた \(N=nSl\) を代入します。
$$F = (nSl) \cdot (evB)$$これを整理すると、$$F = enSlvB$$

計算方法の平易な説明

電線全体が磁場から受ける力は、電線の中にいる自由電子1個1個が受ける小さな力の合計です。
(2)で電子1個が受ける力は \(evB\) とわかりました。
(5)で電線の中にいる電子の総数は \(nSl\) 個とわかりました。
電子たちはみんな同じ向きに力を受けるので、電線全体が受ける力 \(F\) は、電子1個の力に電子の総数を掛けたものになります。
つまり、\(F = (nSl) \times (evB) = enSlvB\) となります。

結論と吟味

導線を流れる電流が磁場から受ける力の大きさ \(F\) は \(enSlvB\) です。

解答 (6) \(enSlvB\)

問7

思考の道筋とポイント
設問(6)で求めた力の大きさ \(F = enSlvB\) を、電流 \(I\) を用いて表します。
設問(1)で \(I = enSv\) という関係式が得られているので、これを利用して \(enSv\) の部分を \(I\) に置き換えます。

この設問における重要なポイント

  • (1)で導出した電流 \(I\) の表現 \(I=enSv\) を利用する。
  • (6)で求めた \(F\) の式中の \(enSv\) を \(I\) で置き換える。

具体的な解説と立式
設問(6)より、導線が磁場から受ける力の大きさ \(F\) は、
$$F = enSlvB$$
と表されました。
一方、設問(1)より、電流 \(I\) は、
$$I = enSv$$
と表されます。
\(F\) の式の中に \(enSv\) の項が含まれているので、これを \(I\) で置き換えることができます。
$$F = (enSv)lB$$したがって、$$F = IlB \quad \cdots ⑥$$
これは、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、導線の長さ \(l\) のとき、電流と磁場が垂直な場合に電流が受ける電磁力の公式 \(F=IBl\) と一致します。

使用した物理公式

  • (1)の結果: \(I=enSv\)
  • (6)の結果: \(F=enSlvB\)
  • 電磁力の公式(導出結果として): \(F=IBl\)
計算過程

(6)で得られた \(F = enSlvB\) の式において、\(enSv\) の部分を (1)で得られた \(I\) で置き換えます。
$$F = (enSv) \cdot l \cdot B$$$$enSv = I$$ なので、$$F = I \cdot l \cdot B = IBl$$

計算方法の平易な説明

(6)で、電線が受ける力 \(F\) は \(enSlvB\) と計算できました。
一方、(1)で電流 \(I\) は \(enSv\) であることがわかっています。
\(F = enSlvB\) の式をよく見ると、\(enSv\) という塊が含まれています。この部分はまさに電流 \(I\) なので、置き換えることができます。
\(F = (enSv) \times l \times B\) なので、\(F = I \times l \times B\)、つまり \(F = IBl\) となります。
これは、電流が磁場から受ける力を表す有名な公式です。

結論と吟味

電流が磁場から受ける力の大きさ \(F\) を \(I\) を用いて表すと \(IBl\) となります。

解答 (7) \(IBl\)

問8

思考の道筋とポイント
設問(6)で考えた、導線全体が磁場から受ける力の向きを答えます。
これは、個々の自由電子が受けるローレンツ力の向きと同じであり、設問(4)で既に求めています。
フレミングの左手の法則を電流 \(I\)、磁場 \(B\)、力 \(F\) の関係で再確認することもできます。

この設問における重要なポイント

  • 導線が受ける電磁力の向きは、その導線内の多数の自由電子が受けるローレンツ力の合力の向きである。
  • (4)で求めた個々の電子が受ける力の向きと同じになる。
  • フレミングの左手の法則(電・磁・力)で確認。

具体的な解説と立式
導線全体が磁場から受ける力 \(F\) の向きは、導線内の各自由電子が受けるローレンツ力の向きと同じです。
設問(4)で、1つの自由電子が受けるローレンツ力の向きは「紙面に垂直で裏から表へ向かう向き(手前向き)」であると求めました。
したがって、導線全体が受ける力の向きも同じです。

フレミングの左手の法則で確認すると、
– 中指(電流 \(I\)): 下向き
– 人差し指(磁場 \(B\)): 右向き
このとき、親指(力 \(F\))は紙面の裏から表へ向かう向き(手前向き)を指します。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
結論と吟味

力の向きは、紙面に垂直で裏から表へ向かう向き(手前向き)です。

解答 (8) 紙面に垂直で裏から表へ向かう(手前)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電流の微視的定義 (\(I=enSv\)): 電流を担う荷電粒子の運動(個数密度 \(n\)、電荷 \(e\)、断面積 \(S\)、速さ \(v\))と電流 \(I\) を結びつける関係式。これがローレンツ力と電磁力の関係を理解する上で鍵となる。
  • ローレンツ力 (\(f=evB\sin\theta\)): 個々の荷電粒子が磁場から受ける力。この問題では自由電子が対象であり、その運動方向と磁場の向きの関係から力の大きさと向きを正しく求めることが重要。
  • 電磁力 (\(F=IBl\sin\theta\)): 導線全体が磁場から受ける力。これは導線内の多数の荷電粒子が受けるローレンツ力の総和として導出される。
  • フレミングの左手の法則: ローレンツ力や電磁力の向きを簡便に決定するための規則。電流の向き(正電荷の移動方向)を用いる点に注意。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • ホール効果に関する問題(ローレンツ力によって導体内に電位差が生じる現象)。
    • 電磁誘導の問題(ローレンツ力が起電力の原因となる場合)。
    • 荷電粒子の円運動やサイクロトロンなど、ローレンツ力が向心力となる問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力を受ける対象は何か: 個々の荷電粒子か、電流が流れる導線全体か。
    2. 磁場の向きと、荷電粒子の速度(または電流)の向きの関係: 特に角度 \(\theta\) が \(0^\circ\), \(90^\circ\), \(180^\circ\) の場合や、それ以外の角度の場合で力の大きさがどう変わるか。
    3. 力の向き: フレミングの左手の法則を正確に適用する。負電荷の場合は電流の向きの扱いに注意。
    4. 微視的な視点と巨視的な視点の連携: \(I=enSv\) の関係式は、電子のミクロな運動と導線を流れるマクロな電流を結びつける重要な橋渡しとなる。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電流の向きと電子の運動方向の混同: 電流の向きは正電荷の移動する向きと定義されており、負電荷である電子の実際の運動方向とは逆になる。フレミングの法則などを使う際に混乱しやすい。
    • 対策: 「電流の向き=正電荷の動く向き」と常に意識する。電子の運動を考える場合は、まず電流の向きを確定させ、それに基づいて法則を適用するか、負電荷の運動として直接ローレンツ力の向きを考える。
  • ローレンツ力の公式の \(q\) の符号: \(|q|\) で力の大きさを計算し、向きはフレミングの左手の法則(またはベクトル積)で別途判断するのが安全。
  • \(I=enSv\) の \(v\) がドリフト速度であることの認識: 個々の電子の熱運動の速さではなく、電流を形成する平均的な速度(ドリフト速度)である。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 導線内に無数の自由電子が一斉に(平均的に)電流と逆向きに動いている。
    • それぞれの電子が磁場から同じ向きの力を受ける。
    • それらの小さな力が集まって、導線全体を動かそうとする大きな力となる。
  • 図示の有効性:
    • 問題の図に、電流の向き(\(I\))、電子の速度の向き(\(v\))、磁場の向き(\(B\))、ローレンツ力の向き(\(f\))、電磁力の向き(\(F\))をベクトル矢印で書き込むと、関係性が明確になる。
    • フレミングの左手の法則を使う際、実際に手で形を作って図と照らし合わせる。
    • 模範解答の図(右下)は、電子の速度\(v\)(上向き)、磁場\(B\)(右向き)、ローレンツ力\(f\)(手前向き)の関係を視覚的に示していて分かりやすい。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(I=enSv\): 電流を構成するミクロな要素(電荷キャリアの数、電荷、速度、導線の断面積)から電流の大きさを定義する基本的な関係式。
  • \(f=evB\): (速度と磁場が垂直な場合)磁場中を運動する個々の電子が受ける力の基本法則。電磁気現象の根幹の一つ。
  • \(F=Nf\): 多数の粒子が同じ力を受ける場合、全体の力は単純な和(ここでは積)で表せるという、力の重ね合わせの基本的な考え方。
  • \(F=IBl\): (電流と磁場が垂直な場合)マクロな電流が磁場から受ける力を表す公式。これはミクロなローレンツ力の集まりから導出されることを理解するのが重要(まさにこの問題がその過程を示している)。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 電流 \(I\) の導出: 単位時間に断面を通過する電子の数 \(\times\) 電子1個の電荷。
  2. (2) 電子1個が受ける力 \(f\) の大きさ: ローレンツ力の公式 \(f=|q|vB\sin\theta\) を適用。\(|q|=e\), \(\theta=90^\circ\)。
  3. (3) 力の名称: ローレンツ力。
  4. (4) \(f\) の向き: フレミングの左手の法則(電流の向きに注意)または負電荷のローレンツ力の向きの規則。
  5. (5) 導線内の電子の総数 \(N\): (個数密度 \(n\)) \(\times\) (導線の体積 \(Sl\))。
  6. (6) 導線全体が受ける力 \(F\): (電子1個が受ける力 \(f\)) \(\times\) (電子の総数 \(N\))。つまり \(F = Nf = (nSl)(evB)\)。
  7. (7) \(F\) を \(I\) で表す: (1)の \(I=enSv\) を用いて、(6)の \(F=enSlvB\) を \(F=IBl\) に変形。
  8. (8) \(F\) の向き: (4)の \(f\) の向きと同じ。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字の混同に注意: \(n\)(個数密度)と \(N\)(総数)、\(v\)(速さ)と \(V\)(体積や電位と間違えないように)など、各物理記号の意味を正確に把握する。
  • 単位は常に意識: この問題は穴埋めだが、記述式の問題では単位の付け忘れや間違いがないように。
  • 公式の暗記と理解: \(I=enSv\) や \(F=IBl\) は重要な公式なので正しく記憶するだけでなく、その導出過程(特にこの問題のような流れ)も理解しておくと応用が利く。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 各ステップの物理的意味の確認:
    • (1)で求めた電流の式は、直感的に各要素(\(e,n,S,v\))が大きいほど電流が大きくなることを示しており妥当か。
    • (6)で求めた力 \(F\) が、電流 \(I\)、導線の長さ \(l\)、磁束密度 \(B\) に比例するのは、電磁力の公式 \(F=IBl\) と整合しているか。
    • 力の向きは、フレミングの左手の法則で何度も確認する。
  • 公式間の関連性: この問題は、ミクロなローレンツ力からマクロな電磁力の公式 \(F=IBl\) を導く過程そのものである。この流れを理解することで、公式を単なる暗記ではなく、物理現象の異なる側面を結びつけるものとして捉えられるようになる。

問題124 (法政大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、平行に置かれた2本の長い直線導線と、その間に置かれた正方形のコイルに流れる電流が相互に及ぼす磁場と力に関する問題です。直線電流が作る磁場、磁場の重ね合わせ、電流が磁場から受ける力(アンペールの力)の計算、そしてそれらの力のつり合いについて考察します。

与えられた条件
  • 十分に長い導線XYと導線MNが平行に固定されている。
  • その間に1辺の長さ \(a\) の正方形のコイルABCDを置く。
  • 辺ADはXYに平行で、ADとXYの距離は \(b\)。
  • 辺BCとMNの距離は \(c\)。
  • 周囲の透磁率を \(\mu\) とする。
  • 導線XYに強さ \(I_1\) の電流をXからYの向きに流す。
  • その後、コイルに強さ \(i\) の電流を反時計回りに流す。
問われていること

空欄(1)から(7)に適切な語句や数式を埋める。

  1. (1) 導線XYを流れる電流 \(I_1\) による、辺AD上での磁場の強さ \(H_1\)。
  2. (2) 辺AD上での磁場の強さを0とするために、導線MNに流す電流 \(I_2\) の向き。
  3. (3) (2)のときの電流 \(I_2\) の強さの、\(I_1\) に対する倍率。
  4. (4) (2)の条件(辺AD上の磁場が0)のとき、辺BC上での合成磁場の強さ \(H_{\text{BC}}\) を \(I_1\) を用いて表したときの係数部分。
  5. (5) コイルに強さ \(i\) の電流を反時計回りに流したとき、コイル全体が電流 \(I_1\) と \(I_2\) による磁場から受ける力の大きさのうち、\(I_1\) にかかる比例係数部分(辺AD上の磁場が0の条件下で)。
  6. (6) (5)の力の向き。
  7. (7) 導線MNに流す電流の向きを変え、コイルの全体に働く力が0となるように電流を調節した。そのときのMNの電流の強さの、\(I_1\) に対する倍率。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 直線電流が作る磁場: 長い直線導線を流れる電流 \(I\) が、導線からの距離 \(r\) の位置に作る磁場の強さ \(H\) は、\(H = \frac{I}{2\pi r}\) で与えられる。磁束密度 \(B\) は \(B = \mu H\)。
  • 右ねじの法則: 直線電流が作る磁場の向きを決定する。
  • 磁場の重ね合わせの原理: 複数の電流が作る磁場は、それぞれの電流が単独で作る磁場をベクトル的に合成することで得られる。
  • 電流が磁場から受ける力(アンペールの力): 長さ \(l\) の導線部分が、磁束密度 \(B\) の磁場中で電流 \(I\) を流しているとき、電流の向きと磁場の向きが垂直ならば、受ける力の大きさ \(F\) は \(F = IBl\)。力の向きはフレミングの左手の法則で決まる。

問1

思考の道筋とポイント
導線XYに流れる電流 \(I_1\) が、辺AD上に作る磁場の強さを求めます。辺ADは導線XYから距離 \(b\) の位置にあります。直線電流が作る磁場の公式 \(H = \frac{I}{2\pi r}\) を利用します。

この設問における重要なポイント

  • 直線電流が作る磁場の公式を正しく適用する。
  • 距離 \(r\) を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
導線XYには強さ \(I_1\) の電流がXからYの向きに流れています。辺ADは導線XYから距離 \(b\) の位置にあります。
直線電流が作る磁場の強さの公式 \(H = \frac{I}{2\pi r}\) において、\(I = I_1\)、\(r = b\) とすると、辺AD上での磁場の強さ \(H_1\) は、
$$H_1 = \frac{I_1}{2\pi b} \quad \cdots ①$$
となります。

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場の強さ: \(H = \frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した通り、公式に値を代入するだけです。
$$H_1 = \frac{I_1}{2\pi b}$$

計算方法の平易な説明

まっすぐな電線(導線XY)に電流 \(I_1\) が流れると、その周りに磁場ができます。電線からの距離が \(b\) である辺AD上での磁場の強さは、公式 \(H = \frac{\text{電流}}{\text{2}\pi \times \text{距離}}\) を使って、\(H_1 = \frac{I_1}{2\pi b}\) と計算できます。

結論と吟味

辺AD上での磁場の強さ \(H_1\) は \(\frac{I_1}{2\pi b}\) です。

解答 (1) \(\frac{I_1}{2\pi b}\)

問2

思考の道筋とポイント
辺AD上での磁場の強さを0にするためには、導線MNを流れる電流 \(I_2\) が作る磁場が、導線XYの電流 \(I_1\) が作る磁場を打ち消す必要があります。
導線XYの電流 \(I_1\) (X→Y) が辺AD上に作る磁場の向きをまず考えます。右ねじの法則より、これは紙面の奥から手前へ向かう向きです。
これを打ち消すためには、導線MNの電流 \(I_2\) が辺AD上に紙面の手前から奥へ向かう向きの磁場を作る必要があります。
導線MNから辺ADまでの距離は、図より \(a+c\) です。
\(I_2\) が辺AD上に奥向きの磁場を作るための電流の向きを考えます。

この設問における重要なポイント

  • 磁場の重ね合わせの原理:合成磁場が0になる条件。
  • 右ねじの法則による磁場の向きの決定。
  • 導線MNから辺ADまでの距離の正確な把握。

具体的な解説と立式
導線XYを流れる電流 \(I_1\) (XからYの向き) が辺AD上に作る磁場は、(1)で強さを求めましたが、その向きは右ねじの法則により紙面の奥から手前へ向かう向きです。
この磁場を打ち消すためには、導線MNを流れる電流 \(I_2\) が辺AD上に、これと反対向き、つまり紙面の手前から奥へ向かう向きの磁場を作る必要があります。
辺ADは導線MNの左側にあります。導線MNが辺AD上に奥向きの磁場を作るためには、右ねじの法則を考えると、電流 \(I_2\) はMからNの向きに流れる必要があります。

使用した物理公式

  • 右ねじの法則
結論と吟味

導線MNに流す電流 \(I_2\) の向きは、MからNの向きです。

解答 (2) MからN

問3

思考の道筋とポイント
辺AD上での磁場の強さを0にするという条件から、\(I_1\) が作る磁場の強さと \(I_2\) が作る磁場の強さが等しくなるように \(I_2\) の値を決めます。
\(I_1\) が辺AD上に作る磁場の強さ \(H_1 = \frac{I_1}{2\pi b}\)。
導線MNから辺ADまでの距離は \(a+c\) です。電流 \(I_2\) が辺AD上に作る磁場の強さ \(H_2 = \frac{I_2}{2\pi (a+c)}\)。
これらの大きさが等しいという条件から \(I_2\) を \(I_1\) で表します。

この設問における重要なポイント

  • 合成磁場が0であるためには、各電流が作る磁場の大きさが等しく、向きが反対であること。
  • 直線電流が作る磁場の公式の適用。
  • 距離の正確な把握(MNからADまでは \(a+c\))。

具体的な解説と立式
辺AD上で磁場が0になるためには、導線XYを流れる電流 \(I_1\) が作る磁場の強さ \(H_1\) と、導線MNを流れる電流 \(I_2\) が作る磁場の強さ \(H_2\) が等しくなければなりません。
(1)より、\(H_1 = \frac{I_1}{2\pi b}\)。
導線MNから辺ADまでの距離は \(a+c\) なので、電流 \(I_2\) が辺AD上に作る磁場の強さ \(H_2\) は、
$$H_2 = \frac{I_2}{2\pi (a+c)}$$\(H_1 = H_2\) より、$$\frac{I_1}{2\pi b} = \frac{I_2}{2\pi (a+c)} \quad \cdots ②$$
この式から \(I_2\) を求めます。

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場の強さ: \(H = \frac{I}{2\pi r}\)
計算過程

式②の両辺から \(2\pi\) を消去すると、
$$\frac{I_1}{b} = \frac{I_2}{a+c}$$よって、\(I_2\) について解くと、$$I_2 = \frac{a+c}{b} I_1$$
したがって、\(I_2\) は \(I_1\) の \(\frac{a+c}{b}\) 倍です。

計算方法の平易な説明

辺AD上の磁場を0にするには、導線XYによる磁場と導線MNによる磁場が、辺AD上で同じ強さで反対向きになればよいです。
導線XYによる磁場の強さは \(\frac{I_1}{2\pi b}\) です。
導線MNから辺ADまでの距離は \(a+c\) なので、導線MNに電流 \(I_2\) を流したときに辺AD上にできる磁場の強さは \(\frac{I_2}{2\pi (a+c)}\) です。
これらが等しいので、\(\frac{I_1}{2\pi b} = \frac{I_2}{2\pi (a+c)}\) という式が成り立ちます。
この式を \(I_2\) について整理すると、\(I_2 = \frac{a+c}{b} I_1\) となり、\(I_2\) は \(I_1\) の \(\frac{a+c}{b}\) 倍であることがわかります。

結論と吟味

\(I_2\) は \(I_1\) の \(\frac{a+c}{b}\) 倍です。

解答 (3) \(\frac{a+c}{b}\)

問4

思考の道筋とポイント
設問(2)、(3)の条件(辺AD上の磁場が0)のもとで、辺BC上での合成磁場の強さ \(H_{\text{BC}}\) を求めます。
辺BCは、導線XYから距離 \(b+a\)、導線MNから距離 \(c\) の位置にあります。
導線XYの電流 \(I_1\) (X→Y、図で上向き) は、辺BC上に紙面の手前から奥向きの磁場を作ります。
導線MNの電流 \(I_2\) は、(2)でM→Nの向き(図で上向き)と決定しました。この電流が、辺BC上に作る磁場は紙面の奥から手前向きとなります。
したがって、辺BC上では両方の電流が作る磁場は逆向きとなり、合成磁場の強さはその差の絶対値となります。模範解答では \(I_2\) による磁場(手前向き)が勝つとしているため、そのように計算を進めます。

この設問における重要なポイント

  • 各導線から辺BCまでの距離を正確に把握する。
  • 各電流が辺BC上に作る磁場の向きを右ねじの法則で正しく判断する。今回は互いに逆向きになる。
  • 合成磁場は、各磁場の強さの差の絶対値となる。\(I_2 = \frac{a+c}{b} I_1\) の関係を用いる。

具体的な解説と立式
導線XYを流れる電流 \(I_1\) が辺BC上に作る磁場の強さ \(H_{\text{BC,XY}}\) は、辺BCまでの距離が \(b+a\) なので、
$$H_{\text{BC,XY}} = \frac{I_1}{2\pi (b+a)}$$この磁場の向きは、右ねじの法則より紙面の手前から奥向きです。
導線MNを流れる電流 \(I_2\)(向きはM→N)が辺BC上に作る磁場の強さ \(H_{\text{BC,MN}}\) は、辺BCまでの距離が \(c\) なので、
$$H_{\text{BC,MN}} = \frac{I_2}{2\pi c}$$この磁場の向きは、右ねじの法則より紙面の奥から手前向きです。
これらの磁場は逆向きなので、合成磁場の強さ \(H_{\text{BC}}\) はその差の絶対値です。模範解答は「\(I_2\) による\(\bigodot\)向きの磁場が勝つので」としているため、\(H_{\text{BC,MN}} – H_{\text{BC,XY}}\) を計算します。
$$H_{\text{BC}} = H_{\text{BC,MN}} – H_{\text{BC,XY}} = \frac{I_2}{2\pi c} – \frac{I_1}{2\pi (b+a)} \quad \cdots ③’$$ここで、(3)の結果 \(I_2 = \frac{a+c}{b} I_1\) を代入します。
$$H_{\text{BC}} = \frac{\left(\frac{a+c}{b} I_1\right)}{2\pi c} – \frac{I_1}{2\pi (b+a)} = \frac{I_1}{2\pi} \left( \frac{a+c}{bc} – \frac{1}{b+a} \right)$$

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場の強さ: \(H = \frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場の重ね合わせ
  • (3)の結果: \(I_2 = \frac{a+c}{b} I_1\)
計算過程

$$H_{\text{BC}} = \frac{I_1}{2\pi} \left( \frac{(a+c)(b+a) – bc}{bc(b+a)} \right)$$$$H_{\text{BC}} = \frac{I_1}{2\pi} \left( \frac{ab+a^2+cb+ca – bc}{bc(b+a)} \right)$$$$H_{\text{BC}} = \frac{I_1}{2\pi} \frac{a^2+ab+ac}{bc(b+a)} = \frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(b+a)} I_1$$したがって、空欄(4)に入るのは \(I_1\) の係数部分であり、
$$\frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(b+a)}$$

計算方法の平易な説明

辺BC上では、導線XYからの電流\(I_1\)が作る磁場(紙面の手前から奥向き)と、導線MNからの電流\(I_2\)(\(I_2 = \frac{a+c}{b}I_1\)でM→N向き)が作る磁場(紙面の奥から手前向き)があります。これらは互いに反対向きです。
模範解答では、\(I_2\)による磁場の方が強いとして、その差を取ることで合成磁場\(H_{\text{BC}}\)を計算しています。
それぞれの磁場の強さを計算し、\(I_2\)を\(I_1\)で表した式を代入して整理すると、\(H_{\text{BC}} = \frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(a+b)} I_1\) となります。

結論と吟味

辺BC上での合成磁場の強さ \(H_{\text{BC}}\) の \(I_1\) に対する係数は \(\frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(a+b)}\) であり、向きは紙面の奥から手前向き(\(I_2\)による磁場が優勢)となります。

解答 (4) \(\frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(a+b)}\)

問5

思考の道筋とポイント
コイルに強さ \(i\) の電流を反時計回りに流したとき、コイル全体が受ける力を考えます。辺AD上の磁場は0なので、辺ADは力を受けません。
辺BCは、(4)で求めた合成磁場 \(H_{\text{BC}}\)(向きは紙面奥から手前)の中にあります。辺BCの長さは \(a\) で、電流 \(i\) がCからBの向き(図で左向き)に流れます。アンペールの力 \(F = i (\mu H_{\text{BC}}) a\) を受けます。

この設問における重要なポイント

  • アンペールの力の公式 \(F = IBl = I(\mu H)l\)。
  • 辺AD上の磁場が0であるため、辺ADは力を受けない。
  • 辺BCが受ける力を計算する。
  • 辺AB、CDが受ける力は、コイル全体を平行移動させる力としては相殺されると考える。

具体的な解説と立式
辺AD上の磁場は0なので、辺ADは力を受けません。
辺BC上での合成磁場の強さは \(H_{\text{BC}} = \frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(b+a)} I_1\) であり、向きは紙面の奥から手前向きです。
コイルを流れる電流 \(i\) は反時計回りなので、辺BCではCからBの向き(図で左向き)に電流が流れます。
辺BCが受ける力の大きさ \(F_{\text{BC}}\) は、
$$F_{\text{BC}} = i \cdot (\mu H_{\text{BC}}) \cdot a$$ここに \(H_{\text{BC}}\) の式を代入すると、$$F_{\text{BC}} = i \cdot \mu \cdot \left( \frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(b+a)} I_1 \right) \cdot a$$
$$F_{\text{BC}} = \frac{\mu a^2 i (a+b+c)}{2\pi bc(b+a)} I_1 \quad \cdots ④’$$問題文の形式 \((5) \times I_1\) と比較すると、その係数部分は、$$\frac{\mu a^2 i (a+b+c)}{2\pi bc(b+a)}$$

使用した物理公式

  • アンペールの力: \(F = I(\mu H)l\)
  • (4)の結果: \(H_{\text{BC}}\)
計算過程

辺BCが受ける力 \(F_{\text{BC}}\) は、(4)で用いた \(H_{\text{BC}}\) の \(I_1\) の係数部分を \(K = \frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(a+b)}\) とすると、\(H_{\text{BC}} = K I_1\) です。
$$F_{\text{BC}} = i (\mu K I_1) a = (\mu a i K) I_1$$したがって、空欄(5)に入るのは \(I_1\) の係数部分なので、$$\mu a i \frac{a(a+b+c)}{2\pi bc(a+b)} = \frac{\mu a^2 i (a+b+c)}{2\pi bc(a+b)}$$

計算方法の平易な説明

コイルのうち、辺ADは磁場が0なので力を受けません。辺BCは力を受けます。
辺BCには電流 \(i\) がCからBの向きに流れています。辺BCがある場所の磁場の強さは \(H_{\text{BC}}\) で、向きは紙面の奥から手前です。
電流と磁場は垂直なので、辺BCが受ける力の大きさは \(F = i \times (\mu H_{\text{BC}}) \times a\) となります。
ここに(4)で求めた \(H_{\text{BC}}\) の式(の \(I_1\) の係数部分)を使い、\(I_1\) を除いた部分が(5)の答えです。

結論と吟味

コイル全体が受ける力の大きさの \(I_1\) に対する係数は \(\frac{\mu a^2 i (a+b+c)}{2\pi bc(a+b)}\) です。

解答 (5) \(\frac{\mu a^2 i (a+b+c)}{2\pi bc(a+b)}\)

問6

思考の道筋とポイント
(5)で計算したコイル全体が受ける力の向きを答えます。これは辺BCが受ける力の向きです。
辺BCを流れる電流 \(i\) はCからBの向き(図で左向き)。
辺BC上の磁場 \(H_{\text{BC}}\) の向きは紙面の奥から手前向き
フレミングの左手の法則を適用します。

具体的な解説と立式
辺BC部分について考えます。
– 電流 \(i\) の向き: CからBへ(図の左向き)。
– 磁場 \(B_{\text{BC}} = \mu H_{\text{BC}}\) の向き: 紙面の奥から手前向き

フレミングの左手の法則を適用します。
– 中指(電流の向き): 左向き
– 人差し指(磁場の向き): 紙面手前向き
このとき、親指(力の向き)は下向き、つまり導線MNに近づく向きを指します。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
結論と吟味

力の向きはコイルが導線MNに近づく向きです。

解答 (6) MN

問7

思考の道筋とポイント
導線MNに流す電流の向きを変え、コイルの全体に働く力が0となるように電流 \(I_2’\) を調節します。このとき、導線XYの電流 \(I_1\) は元のままです。
コイルの辺ADと辺BCが受ける力の大きさが等しく、向きが反対になればコイル全体に働く力は0になります。
辺ADと辺BCを流れるコイルの電流 \(i\) の向きは互いに逆です(ADではA→D、BCではC→B)。
したがって、辺AD上の正味の磁場と辺BC上の正味の磁場の大きさが等しく、かつ向きが同じであれば、これらの辺が受ける力は大きさが等しく逆向きになり、つり合います。
模範解答の最終的な結果から、MNに流す電流 \(I_2’\) の向きはN→M(\(I_1\) と同じ向き)であると推測されます。

この設問における重要なポイント

  • コイル全体に働く力が0になるためには、辺ADが受ける力と辺BCが受ける力が大きさが等しく向きが反対になる必要がある。
  • コイルの辺ADとBCを流れる電流の向きは互いに逆であることに注意。
  • したがって、辺AD上の正味の磁場と辺BC上の正味の磁場の大きさが等しく、かつ向きが同じであればよい。
  • MNを流れる電流の向きと大きさを未知数として方程式を立てる。

具体的な解説と立式
コイル全体に働く力が0になるためには、辺ADが受ける力 \(F_{\text{AD}}\) と辺BCが受ける力 \(F_{\text{BC}}\) が、大きさが等しく向きが反対になる必要があります。
コイルの電流 \(i\) は、辺ADではA→Dの向き(図で右向き)、辺BCではC→Bの向き(図で左向き)に流れます。
力を受ける辺の長さはともに \(a\) です。
したがって、\(F_{\text{AD}} = i(\mu H_{\text{AD}})a\) と \(F_{\text{BC}} = i(\mu H_{\text{BC}})a\) の大きさが等しく、向きが反対になるためには、辺AD上の磁場 \(H_{\text{AD}}\) と辺BC上の磁場 \(H_{\text{BC}}\) の大きさが等しく、かつ、これらの磁場の向きが同じである必要があります。

導線XYの電流 \(I_1\) はX→Y(上向き)。これが作る磁場は常に紙面手前向き。
導線MNの電流を \(I_2’\) とし、その向きをN→M(上向き、\(I_1\) と同じ向き)と仮定します。このときMNが作る磁場も紙面手前向き。

辺AD上(XYからの距離 \(b\)、MNからの距離 \(a+c\))の磁場 \(H_{\text{AD}}\) は、
$$H_{\text{AD}} = \frac{I_1}{2\pi b} + \frac{I_2′}{2\pi(a+c)}$$辺BC上(XYからの距離 \(b+a\)、MNからの距離 \(c\))の磁場 \(H_{\text{BC}}\) は、$$H_{\text{BC}} = \frac{I_1}{2\pi(b+a)} + \frac{I_2′}{2\pi c}$$条件 \(H_{\text{AD}} = H_{\text{BC}}\) より、$$\frac{I_1}{2\pi b} + \frac{I_2′}{2\pi(a+c)} = \frac{I_1}{2\pi(b+a)} + \frac{I_2′}{2\pi c} \quad \cdots ⑤’$$
この式を \(I_2’\) について解き、\(I_1\) の何倍になるかを求めます。

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場の強さ: \(H = \frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場の重ね合わせ
  • 力のつり合い(条件から磁場の強さが等しいことを導く)
計算過程

式⑤’の両辺から \(2\pi\) を消去します。
$$\frac{I_1}{b} + \frac{I_2′}{a+c} = \frac{I_1}{b+a} + \frac{I_2′}{c}$$\(I_1\) の項と \(I_2’\) の項をそれぞれまとめます。$$I_1 \left(\frac{1}{b} – \frac{1}{b+a}\right) = I_2′ \left(\frac{1}{c} – \frac{1}{a+c}\right)$$$$I_1 \left(\frac{(b+a)-b}{b(b+a)}\right) = I_2′ \left(\frac{(a+c)-c}{c(a+c)}\right)$$$$I_1 \frac{a}{b(b+a)} = I_2′ \frac{a}{c(a+c)}$$両辺の \(a\) を消去すると(\(a \neq 0\))、$$\frac{I_1}{b(b+a)} = \frac{I_2′}{c(a+c)}$$よって、\(I_2’\) は \(I_1\) の何倍かを求めると、$$\frac{I_2′}{I_1} = \frac{c(a+c)}{b(b+a)}$$

計算方法の平易な説明

コイル全体に働く力を0にするには、コイルの辺ADが受ける力と辺BCが受ける力が、大きさが同じで向きが反対になればOKです。コイルの辺ADと辺BCでは電流の向きが反対なので、これらの辺が同じ強さ・同じ向きの磁場を受ければ、結果として受ける力は反対向きで同じ大きさになります。
そこで、辺AD上の磁場の強さと辺BC上の磁場の強さが等しくなるように、導線MNに流す電流 \(I_2’\) の大きさを調整します。
導線XYの電流 \(I_1\) と導線MNの新しい電流 \(I_2’\) がそれぞれ作る磁場を足し合わせて(この場合、MNの電流の向きをXYと同じN→Mと仮定すると、両方の磁場は強め合います)、AD上とBC上でその強さが等しくなる条件を式にします。
\(\frac{I_1}{2\pi b} + \frac{I_2′}{2\pi(a+c)} = \frac{I_1}{2\pi(b+a)} + \frac{I_2′}{2\pi c}\)
この式を解いて \(I_2’\) が \(I_1\) の何倍になるかを求めると、\(\frac{c(a+c)}{b(b+a)}\) 倍となります。

結論と吟味

コイルの全体に働く力が0となるときのMNの電流の強さは \(I_1\) の \(\frac{c(a+c)}{b(b+a)}\) 倍です。

解答 (7) \(\frac{c(a+c)}{b(b+a)}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 直線電流が作る磁場の計算: \(H = I/(2\pi r)\) を用いて、各導線がコイルの各辺の位置に作る磁場の大きさを正確に計算すること。
  • 磁場の向きの決定: 右ねじの法則を用いて、各電流が作る磁場の向きを正しく把握すること。
  • 磁場の重ね合わせ: 複数の電流源がある場合、ある点での磁場は各電流が作る磁場のベクトル和で与えられる。特に、磁場を0にする条件や、合成磁場を求める際に重要。
  • 電流が磁場から受ける力(アンペールの力): \(F = IBl = I(\mu H)l\)。コイルの各辺が磁場から受ける力を計算する際に用いる。力の向きはフレミングの左手の法則で決定する。
  • 力のつり合い: コイル全体に働く力が0になるという条件は、コイルの各部分が受ける力のベクトル和が0になることを意味する。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 複数の平行な直線電流間に働く力を扱う問題。
    • コイルが磁場から受けるトルク(力のモーメント)を考える問題。
    • 電磁誘導でコイルに誘導起電力が生じ、その結果流れる電流が磁場から力を受けるような複合的な問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の源となる磁場は何か: どの電流が作る磁場によって力が生じているのかを明確にする。
    2. 力を受けるのはどの部分か: コイルの特定の辺か、コイル全体か。
    3. 距離と方向: 磁場や力を計算する上で、電流からの距離と、電流・磁場・力の相対的な方向関係が最も重要。図を丁寧に描いて把握する。
    4. 対称性の利用: コイルの形状や電流の配置に対称性があれば、特定の力が打ち消しあったり、計算が簡略化されたりすることがある。
    5. 条件の整理: 「磁場が0」「力が0」といった条件を数式でどのように表現できるかを考える。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 距離 \(r\) の取り違え: 磁場を計算する際に、どの導線からどの点(または辺)までの距離なのかを正確に把握しないと間違える。
    • 対策: 図に長さを書き込み、慎重に距離を特定する。
  • 磁場の向き、力の向きの誤り: 右ねじの法則やフレミングの左手の法則の適用ミス。
    • 対策: 法則を適用する際は、指の向きを一つ一つ確認する。図を描いて視覚的に確認することも有効。
  • 重ね合わせの際の符号ミス: 磁場や力が同じ向きか反対向きかを判断し、足し算するか引き算するかを間違える。
    • 対策: 各ベクトルを図示し、向きを明確にしてから計算する。
  • 透磁率 \(\mu\) の扱い: 磁場の強さ \(H\) と磁束密度 \(B\) の関係 \(B=\mu H\) を忘れたり、不必要に使ったりする。力が関わる場合は \(B\) が必要になることが多い。
    • 対策: 問題文で問われているのが \(H\) なのか \(B\) なのか、また力 \(F=IBl\) の \(B\) なのかを意識する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 導線XYとMNがそれぞれコイルの位置に磁場を作る。
    • コイルに電流を流すと、その電流が周囲の磁場(XYとMNが作った磁場の合成磁場)から力を受ける。
    • コイルの各辺が受ける力をベクトル的に合成したものが、コイル全体が受ける力となる。
  • 図示の有効性:
    • 問題の図に、各電流の向き、それによって生じる磁場の向き(特にコイルの辺の位置で)、コイルの電流の向き、そして各辺が受ける力の向きを丁寧に書き込むことが極めて重要。
    • 特に、距離関係(\(b, c, a\) など)を図中に明確に示し、計算ミスを防ぐ。
    • 模範解答の図は、磁場の向きや力の向きを理解する助けになるが、自分で一度描いてみることが理解を深める。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = I/(2\pi r)\): 無限長直線電流が作る磁場を求める場合の基本公式。
  • 重ね合わせの原理: 複数の磁場源がある場合、ある点での磁場はそれぞれの磁場のベクトル和となる。これは電磁気学の線形性に基づく普遍的な原理。
  • \(F = i(\mu H)l\): 電流 \(i\) が流れる長さ \(l\) の導線が磁場(磁束密度 \(\mu H\))から受ける力。電流、磁場、長さが互いに垂直な場合の基本的な形。
  • 力のつり合い (\(\Sigma F = 0\)): コイル全体に働く力が0になるという条件は、物理における平衡状態の基本。これを数式で表現することが問題を解く鍵。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(3) AD上の磁場と \(I_2\) の決定:
    1. XYがADに作る磁場 \(H_1\) を計算。
    2. MNがADに作る磁場が \(H_1\) と逆向きで同じ大きさになるよう、\(I_2\) の向きと大きさを決定。
  2. (4) BC上の合成磁場:
    1. XYがBCに作る磁場を計算。
    2. MNがBCに作る磁場を計算((3)で求めた \(I_2\) を使用)。
    3. 向きを考慮して合成磁場 \(H_{\text{BC}}\) を計算。
  3. (5)-(6) コイルが受ける力(AD上の磁場0の条件):
    1. AD上の磁場が0なので、ADは力を受けない。
    2. BCが受ける力を \(F=i(\mu H_{\text{BC}})a\) で計算。これがコイル全体の力。
    3. 力の向きをフレミングの左手の法則で決定。
  4. (7) コイル全体の力が0になる条件:
    1. ADが受ける力とBCが受ける力が大きさが等しく逆向きになる条件を考える。
    2. そのためには、AD上の磁場とBC上の磁場の大きさが等しく、向きが同じになる必要がある。
    3. MNの電流を新たな \(I_2’\) (向きも考慮)として、\(H_{\text{AD}} = H_{\text{BC}}\) の式を立てて \(I_2’/I_1\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 距離の足し算・引き算: \(b, a, c\) の関係から、各辺と各導線との距離を正確に求める(例:XYからBCまでは \(b+a\)、MNからADまでは \(a+c\))。
  • 通分と約分: 磁場の重ね合わせや比を計算する際に、複雑な分数の計算が出てくるので慎重に行う。
  • 文字の置き換え: \(I_2\) を \(I_1\) で表した式を代入する際など、正確に置き換える。
  • 符号の扱い: 力の向きや磁場の向きを正負で表す場合、座標軸の取り方と合わせて一貫性を持たせる。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な状況の再確認:
    • (2)でMNに流す電流の向きが、本当にXYの作る磁場を打ち消す向きになっているか、右ねじの法則で再確認。
    • (6)でコイルが受ける力の向きは、各電流と磁場の向きから直感的に妥当か。
    • (7)でコイルに働く力が0になる条件として、2つの辺が受ける力がつり合う状況をイメージできるか。
  • 極端な場合を考える:
      • もし \(a \rightarrow 0\)(コイルの幅が非常に小さい)ならどうなるか?
      • もし \(b\) や \(c\) が非常に大きい(導線がコイルから遠い)ならどうなるか?

    このような極限を考えると、式の形が妥当かどうかの一つの目安になることがある。

  • 模範解答の論理の追跡: 特に複雑な問題では、模範解答がどのようなステップで結論に至っているかを丁寧に追い、自分の考え方との違いを明確にする。

問題125 (茨城大+京都府立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中を運動する導体棒内に誘導起電力が発生するメカニズムを、導体棒内部の自由電子の運動に着目して段階的に理解することを目的としています。具体的には、自由電子が受けるローレンツ力、それによる電荷の偏り、その結果生じる電場、そして最終的に導体棒の両端間に現れる電位差(誘導起電力)を考察します。

与えられた条件
  • 一様な磁場: 磁束密度の大きさ \(B\) [T](または [Wb/m²])
  • 導体棒: 長さ \(l\) [m]、CDと名付けられています。
  • 導体棒の運動: 速度 \(v\) [m/s]で、棒自身(長さ方向)および磁場に対して垂直な方向に運動します。
  • 自由電子: 電荷 \(-e\) [C] を持つ(ただし、力の大きさを計算する際には電気素量 \(e\) ( \(e > 0\) ) を用います)。
問われていること

問題文中の空欄 (1) から (10) に適切な語句や数式を当てはめることです。

  1. (1) 自由電子が受けるローレンツ力の大きさ \(f\) [N]
  2. (2) ローレンツ力の向き
  3. (3) 負に帯電する導体棒の端
  4. (4) 正に帯電する導体棒の端
  5. (5) 導体棒内に生じた電場から自由電子が受ける力の大きさ \(F\) [N]
  6. (6) 電場から自由電子が受ける力の向きとローレンツ力との関係
  7. (7) 電子の移動がやがて終わり、電場の強さが一定になったときの電場の強さ \(E\) [V/m]
  8. (8) 電位が高い方の端
  9. (9) 電位が低い方の端
  10. (10) 導体棒CD間に生じる電位差(誘導起電力) \(V\) [V]

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導」であり、特に「ローレンツ力に基づく誘導起電力の発生」について扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • ローレンツ力: 荷電粒子が磁場中を運動する際に受ける力。その大きさは \(f = |q|vB\sin\theta\)、向きはフレミングの左手の法則(または電荷の符号を考慮した右ねじの法則)で決まります。
  • 電場と静電気力: 電荷の存在によって空間に電場 \(E\) が生じ、その電場内にある別の荷電粒子は静電気力 \(F = qE\) を受けます。
  • 力のつりあい: 導体棒内部の自由電子の移動は、ローレンツ力と静電気力がつりあうことで定常状態に至ります。
  • 電位と電場の関係: 一様な電場 \(E\) 中の2点間の距離が \(d\) であるとき、その電位差は \(V = Ed\) と表されます。

問題を解くための全体的な戦略と手順は以下の通りです。

  1. 導体棒の運動に伴い、内部の自由電子が磁場から受けるローレンツ力の大きさと向きを特定します。
  2. ローレンツ力によって自由電子が導体棒の一端に偏って集積し、結果として導体棒の両端がそれぞれ正と負に帯電するプロセスを理解します。
  3. この電荷の偏りによって導体棒内部に生じる電場の向き、およびこの電場から自由電子が受ける静電気力の大きさと向きを特定します。
  4. 自由電子の移動が停止する条件(ローレンツ力と静電気力のつりあい)を考え、そのときの電場の強さを導出します。
  5. 導体棒の両端間に生じる電位差、すなわち誘導起電力を、得られた電場の強さと導体棒の長さを用いて計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
導体棒が磁場中を速度 \(v\) で運動するとき、導体棒内部の自由電子も同じ速度 \(v\) で磁場を横切って運動していると考えられます。磁場中を運動する荷電粒子はローレンツ力を受けます。自由電子の電荷の大きさは \(e\)、速度の大きさは \(v\)、磁束密度の大きさは \(B\) です。問題文より、速度 \(v\) は磁場 \(B\) に対して垂直であるため、ローレンツ力の大きさを求める公式を適用します。

この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式 \(f = |q|vB\sin\theta\) を理解している。
  • 速度と磁場のなす角 \(\theta\) が \(90^\circ\) であることを読み取る。
  • 自由電子の電荷の大きさは \(e\) である。

具体的な解説と立式
自由電子(電荷 \(-e\)、電気量 \(e\))が磁束密度 \(B\) の磁場中を磁場と垂直な方向に速度 \(v\) で運動するとき、受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は、ローレンツ力の公式 \(f = |q|vB\sin\theta\) において、\(|q|=e\)、\(\theta=90^\circ\) (\(\sin 90^\circ = 1\)) を代入することで得られます。
$$f = evB \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(f = |q|vB\sin\theta\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した式①が、そのままローレンツ力の大きさを表す式となります。
$$f = evB$$
この設問では、これ以上の計算は必要ありません。

計算方法の平易な説明

荷電粒子が磁場から受ける力(ローレンツ力)の大きさは、基本的に「電気量」「速さ」「磁場の強さ」に比例します。速さと磁場が垂直な場合は、これらの積で \(f = evB\) とシンプルに表せます。

結論と吟味

自由電子が受けるローレンツ力の大きさ \(f\) は \(evB\) [N] です。これは基本的な公式であり、問題の条件にも合致しています。

解答 (1) \(evB\)

問(2)

思考の道筋とポイント
ローレンツ力の向きはフレミングの左手の法則によって決定されます。ただし、フレミングの左手の法則で電流の向きとして用いるのは「正の電荷の運動方向」です。自由電子は負の電荷を持っているので、電子の運動方向と逆向きを電流の向きと考えるか、あるいは電子の運動方向を電流の向きとして法則を適用し、最終的に力の向きを逆向きにする必要があります。問題の図と「棒自身にも磁場にも直角方向に速度 \(v\) で動かす」という記述から、各ベクトルの向きを正確に捉えることが重要です。

この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則を正しく適用できる。
  • 自由電子が負電荷であるため、力の向きの解釈に注意が必要。
  • 問題図から、速度、磁場、導体棒の方向を正確に読み取る(ここでは、問題文の「互いに直角」という記述を優先する)。

具体的な解説と立式
問題文には「磁束密度 \(B\) の一様な磁場(磁界)に垂直に置かれた長さ \(l\) の1本の導体棒CDを、棒自身にも磁場にも直角方向に速度 \(v\) で動かしてみる」とあります。これは、導体棒の長さ方向(CD方向)、速度 \(v\) の方向、磁場 \(B\) の方向が互いに直交している状況を示しています。
図において、導体棒CDは縦方向に置かれ、速度 \(v\) は右向きです。
ローレンツ力のベクトル積の定義 \(\vec{f_L} = q(\vec{v} \times \vec{B})\) で考えます。ここで \(q = -e\) です。
図で \(v\) は右向き、棒は上下。\(\vec{v} \times \vec{B}\) の結果が棒の上下方向(CまたはDの向き)になるためには、\(\vec{B}\) は紙面の表裏方向である必要があります。
仮に \(\vec{B}\) が紙面手前向きだとすると、\(\vec{v}\) (右向き) から \(\vec{B}\) (手前向き) へ右ねじを回すと、ねじは上向き (Cの方向) に進みます。
したがって、\(\vec{v} \times \vec{B}\) はCの方向を向きます。
電子が受けるローレンツ力 \(\vec{f_L}\) は \(-e(\vec{v} \times \vec{B})\) なので、\(\vec{v} \times \vec{B}\) とは逆向き、つまりDの方向(CからDへ向かう向き)になります。
これは模範解答の「CからDの向き」と一致します。

$$\text{ローレンツ力の向きは、フレミングの左手の法則と電子の電荷の符号を考慮して、CからDの向き。} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式/法則

  • ローレンツ力: \(\vec{f_L} = q(\vec{v} \times \vec{B})\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

向きを特定する問題なので、数値計算はありません。上記の考察が結論となります。

計算方法の平易な説明

フレミングの左手の法則を使う方法:
1. 中指を「電流の向き」に合わせます。電子の運動を考える場合、電流の向きは「電子の運動と逆向き」とします。ここでは、電子がCからDへ力を受けて動くと仮定して、電流の向きをDからCの向きと設定します。
2. 人差し指を「磁場の向き」に合わせます。ここでは、結果的にCからDへ力が働くように、磁場の向きを紙面手前向きと解釈します。
3. 親指が「力の向き」を示します。この場合、電子の速度を右向き、磁場を手前向きとすると、正電荷なら上(C方向)に力を受けます。電子は負電荷なので、その逆の下(D方向)、つまりCからDの向きに力を受けます。

結論と吟味

自由電子が受けるローレンツ力の向きは、CからDの向きです。この向きの妥当性は、後に誘導起電力の極性と整合することで確認できます(C端が高電位、D端が低電位)。

解答 (2) CからDの向き

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めたローレンツ力の向きに自由電子が移動します。自由電子は負の電荷を持っているので、電子が集まった側の端が負に帯電します。

この設問における重要なポイント

  • 自由電子は負の電荷を持っている。
  • ローレンツ力によって電子が特定の端に移動・蓄積する。

具体的な解説と立式
ローレンツ力は自由電子をCからDの向きに移動させます。自由電子は負の電荷 \((-e)\) を持っているため、電子が蓄積されたD端は負に帯電します。
$$\text{D端が負に帯電する。} \quad \cdots ③$$

計算過程

物理的な現象の理解に基づくもので、計算はありません。

計算方法の平易な説明

マイナスの電気を持った電子が、ローレンツ力によってD端の方向に集められます。そのため、D端にはマイナスの電気が過剰になり、負に帯電します。

結論と吟味

導体棒のD端が負に帯電します。

解答 (3) D

問(4)

思考の道筋とポイント
自由電子が一方の端(D端)に偏ると、もう一方の端(C端)では電子が不足した状態になります。導体棒全体としては電気的に中性だったので、電子が不足した側は相対的に正の電荷を帯びることになります。

この設問における重要なポイント

  • 導体棒は初期状態では電気的に中性である。
  • 電子の移動により、電子が去った側は正に帯電する。

具体的な解説と立式
自由電子がD端に移動することにより、C端では自由電子が不足します。もともと導体棒は電気的に中性であったため、負の電荷を持つ電子が不足すると、C端は相対的に正に帯電します。
$$\text{C端が正に帯電する。} \quad \cdots ④$$

計算過程

物理的な現象の理解に基づくもので、計算はありません。

計算方法の平易な説明

D端にマイナスの電子が集まると、反対側のC端では電子がいなくなります。もともとプラスとマイナスの電気が釣り合っていたところからマイナスの電気が減るので、C端はプラスの電気を帯びることになります。

結論と吟味

導体棒のC端が正に帯電します。

解答 (4) C

問(5)

思考の道筋とポイント
C端が正に、D端が負に帯電することにより、導体棒CD内部には電場 \(E\) が生じます。この電場中に存在する自由電子は、静電気力(クーロン力)を受けます。その力の大きさは、電子の電気量の大きさと電場の強さの積で与えられます。

この設問における重要なポイント

  • 電荷の偏りによって電場が生じることを理解している。
  • 電場中の荷電粒子が受ける力の公式 \(F = |q|E\) を理解している。

具体的な解説と立式
C端が正、D端が負に帯電した結果、導体棒内にはC端からD端の向きに一様な電場 \(E\) [V/m] が生じます。
この電場 \(E\) の中に置かれた自由電子(電荷 \(-e\)、電気量 \(e\))が受ける静電気力の大きさ \(F\) は、
$$F = eE \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F = |q|E\)
計算過程

上記「具体的な解説と立式」で示した式⑤が、そのまま静電気力の大きさを表す式となります。
$$F = eE$$
この設問では、これ以上の計算は必要ありません。

計算方法の平易な説明

導体棒の中に電場 \(E\) ができると、電気を持った粒子(ここでは電子)はその電場から力を受けます。力の大きさは、電子の電気量の大きさ \(e\) と電場の強さ \(E\) を掛け合わせた \(eE\) で計算できます。

結論と吟味

自由電子が電場から受ける静電気力の大きさ \(F\) は \(eE\) [N] です。

解答 (5) \(eE\)

問(6)

思考の道筋とポイント
電場の向きは正電荷から負電荷へ向かう向き(C端からD端の向き)です。自由電子は負の電荷を持っているので、電場とは逆向きに静電気力を受けます。この静電気力の向きと、(2)で求めたローレンツ力の向きを比較します。

この設問における重要なポイント

  • 電場の向き(正電荷から負電荷へ)。
  • 負電荷が電場から受ける力は電場と逆向き。
  • ローレンツ力の向きを覚えている。

具体的な解説と立式
導体棒内に生じる電場の向きは、正に帯電したC端から負に帯電したD端の向きです。
自由電子は負の電荷 \(-e\) を持つため、この電場 \(E\) から受ける静電気力の向きは、電場の向きとは反対、すなわちD端からC端の向きになります。
一方、(2)で求めたローレンツ力の向きはCからDの向きでした。
したがって、自由電子が電場から受ける静電気力の向きは、ローレンツ力とは反対向き(逆向き)です。
$$\text{静電気力の向きはローレンツ力と反対向き(逆向き)。} \quad \cdots ⑥$$

計算過程

向きを特定する問題なので、数値計算はありません。上記の考察が結論となります。

計算方法の平易な説明

電場はC端(プラス)からD端(マイナス)へ向かってかかっています。電子はマイナスの電気を持っているので、この電場とは反対向き、つまりD端からC端の向きに力を受けます。これは、電子をD端へ追いやった最初の力(ローレンツ力)とはちょうど反対向きの力になります。

結論と吟味

電場から自由電子が受ける力の向きは、ローレンツ力と反対向きです。この反対向きの力が存在することで、やがて電子の移動が止まり、力のつり合い状態が実現します。

解答 (6) 反対 (または 逆)

問(7)

思考の道筋とポイント
自由電子の移動は、電子が受けるローレンツ力 \(f\) と、蓄積された電荷による電場からの静電気力 \(F\) がつりあうまで続きます。力がつり合ったとき、電子にはたらく合力はゼロとなり、それ以上の電子の偏りは生じなくなり、電場の強さも一定になります。この力のつりあいの条件から電場の強さ \(E\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 定常状態では、自由電子にはたらくローレンツ力と静電気力がつりあっている。
  • それぞれの力の大きさを表す式 ( \(f=evB\), \(F=eE\) ) を用いる。

具体的な解説と立式
自由電子の移動が終わり、定常状態になると、自由電子にはたらくローレンツ力 \(f\) (CからDの向き)と静電気力 \(F\) (DからCの向き)の大きさが等しくなります。
$$f = F$$式① ( \(f=evB\) ) と式⑤ ( \(F=eE\) ) を代入すると、$$evB = eE \quad \cdots ⑦’$$
この式から、電場の強さ \(E\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(f=F\)
  • ローレンツ力: \(f=evB\)
  • 電場中の荷電粒子が受ける力: \(F=eE\)
計算過程

式⑦’ \(evB = eE\) の両辺を \(e\) ( \(e \neq 0\) ) で割ると、
$$E = vB \quad \cdots ⑦$$

計算方法の平易な説明

電子がD端へ移動しようとする力(ローレンツ力 \(evB\))と、D端にたまったマイナスの電気とC端にたまったプラスの電気が作る電場によって電子がC端へ引き戻されようとする力(静電気力 \(eE\))が等しくなると、電子の移動は止まります。この「力が等しい」という条件 \(evB = eE\) から、電場の強さ \(E\) を求めると \(E = vB\) となります。

結論と吟味

電子の移動が止まったときの電場の強さ \(E\) は \(vB\) [V/m] です。この結果は、誘導起電力の公式を導く上で重要な中間ステップとなります。

解答 (7) \(vB\)

問(8)

思考の道筋とポイント
電場の向きは、電位の高い方から低い方へ向かいます。(4)でC端が正に帯電し、(3)でD端が負に帯電することを明らかにしました。また、(5)や(6)の解説で、電場はC端からD端の向きに生じるとしました。これらの情報から電位の高い端を判断します。

この設問における重要なポイント

  • 正に帯電した方が電位が高い。
  • 電場は電位の高い方から低い方へ向かう。

具体的な解説と立式
導体棒内にはC端(正に帯電)からD端(負に帯電)の向きに電場が生じています。電場は電位の高い点から低い点へ向かって定義されるため、正に帯電しているC端の方が、負に帯電しているD端よりも電位が高くなります。
$$\text{C端の方が電位が高い。} \quad \cdots ⑧$$

計算過程

物理的な現象の理解に基づくもので、計算はありません。

計算方法の平易な説明

一般に、電気がプラスに帯電している方が電位(電気的な高さのようなもの)が高く、マイナスに帯電している方が電位が低くなります。この問題ではC端がプラス、D端がマイナスになっているので、C端の方が電位が高いです。

結論と吟味

C端が電位の高い端となります。

解答 (8) C

問(9)

思考の道筋とポイント
(8)の考察から、相対的に電位が低い端を判断します。D端は負に帯電しています。

この設問における重要なポイント

  • 負に帯電した方が電位が低い。
  • 電場の向きと電位の関係を理解している。

具体的な解説と立式
C端が高電位であるため、相対的にD端が低電位となります。D端は負に帯電しており、電場の終点となっていることからも、D端が低電位であることが分かります。
$$\text{D端の方が電位が低い。} \quad \cdots ⑨$$

計算過程

物理的な現象の理解に基づくもので、計算はありません。

計算方法の平易な説明

C端が電位が高いので、もう一方のD端が電位が低い端ということになります。D端はマイナスに帯電しているので、やはり電位は低いです。

結論と吟味

D端が電位の低い端となります。

解答 (9) D

問(10)

思考の道筋とポイント
導体棒CD間に生じる電位差 \(V\) は、誘導起電力と呼ばれます。導体棒内部には強さ \(E\) の一様な電場が、長さ \(l\) にわたって存在すると考えられます。このとき、電位差 \(V\) は電場の強さ \(E\) と距離 \(l\) の積で表されます。(7)で求めた \(E=vB\) の関係を用います。

この設問における重要なポイント

  • 一様な電場と電位差の関係 \(V=Ed\) を理解している(ここでは \(d=l\))。
  • (7)で求めた電場の強さ \(E=vB\) を用いる。

具体的な解説と立式
導体棒CD間に生じる電位差(誘導起電力)を \(V\) とします。導体棒内の電場は一様でその強さは \(E\) であり、C端とD端の間の距離は導体棒の長さ \(l\) です。
したがって、電位差 \(V\) は、
$$V = El \quad \cdots ⑩’$$
ここで、(7)で求めた電場の強さ \(E = vB\) (式⑦)を代入します。

使用した物理公式

  • 一様な電場と電位差の関係: \(V = Ed\)
  • 力のつり合いから導かれた電場の強さ: \(E = vB\)
計算過程

式⑩’ に式⑦(\(E=vB\))を代入すると、
$$V = (vB)l$$
$$V = vBl \quad \cdots ⑩$$

計算方法の平易な説明

電場の強さが \(E\) で、その電場が一様に広がっている距離が \(l\) のとき、その間の電位差(電圧)は \(V = El\) と計算できます。この問題では、(7)で電場の強さが \(E=vB\) と分かったので、これを代入すると、電位差 \(V\) は \(vB \times l\)、つまり \(vBl\) となります。これが導体棒に生じる誘導起電力です。

結論と吟味

導体棒CD間に生じる誘導起電力の大きさ \(V\) は \(vBl\) [V] です。これは電磁誘導における非常に重要な公式であり、ローレンツ力から出発してミクロな視点で導出することができました。この導体棒は、起電力が \(vBl\) でC端が正極、D端が負極の電池と等価であると考えることができます。

解答 (10) \(vBl\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力: 荷電粒子が磁場中で運動する際に受ける力 \(f = |q|vB\sin\theta\)。向きの決定にはフレミングの左手の法則(または電荷の符号を考慮した右ねじの法則)を用います。これが誘導起電力発生の最初の引き金です。
  • 静電気力と電場: ローレンツ力による電荷の偏りが導体内部に電場 \(E\) を形成し、この電場が他の自由電子に静電気力 \(F = qE\) を及ぼします。
  • 力のつりあい: 最終的に自由電子の巨視的な移動が止まるのは、ローレンツ力と静電気力がつりあうためです (\(evB = eE\))。このつりあい条件から内部電場が決定されます。
  • 電位差と電場の関係: 導体棒の両端間に生じる電位差(誘導起電力) \(V\) は、内部の一様な電場 \(E\) と導体棒の長さ \(l\) を用いて \(V = El\) と表されます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • ホール効果: 磁場中の導体や半導体に電流を流した際に、電流と磁場の両方に垂直な方向に電位差が生じる現象。本問と考え方が酷似しています。
    • サイクロトロンや質量分析器など、磁場中で荷電粒子が運動する装置の動作原理。
    • 発電機の基本的な原理(導体が磁場を横切ることによる起電力の発生)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 運動する荷電粒子の特定: まず、磁場中でどの荷電粒子がどのような運動をしているのかを把握します。
    2. ローレンツ力の分析: その荷電粒子が受けるローレンツ力の大きさと向きを正確に求めます。電荷の符号(正か負か)に特に注意します。
    3. 電荷の偏りと電場の発生: ローレンツ力によって電荷の分布に変化が生じ、結果として電場が発生する流れを追います。
    4. 力のつりあい(定常状態): 時間が十分に経過した後の状態を問われている場合、何らかの力がつり合っていることが多いです。どの力がつり合っているのかを見抜きます。
    5. 電位差の計算: 最終的に電位差を問われた場合は、電場と距離の関係 \(V=Ed\) を利用することが多いです。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 図を描いて、速度、磁場、力の向きなどをベクトルで明確に図示することが理解を助けます。
    • フレミングの法則は便利ですが、適用する際に電流の向き(正電荷の運動方向)と電子の運動方向を混同しないように注意が必要です。電子の場合は、力の向きが逆になることを常に意識しましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子の電荷の符号の扱いミス:
    • ローレンツ力や静電気力の「向き」を考える際に、電子の電荷が負 (\(-e\)) であることを見落とし、正電荷の場合と同じ向きに力を設定してしまうミス。
    • 対策: 「フレミングの左手の法則は電流(正電荷の移動)の向きで定義されている」と常に意識し、電子の場合は力の向きを逆にする、または \(\vec{F} = q(\vec{v} \times \vec{B})\) の \(q\) に \(-e\) を代入して考える習慣をつける。
  • フレミングの右手の法則との混同:
    • ローレンツ力(原因)を考えるべき場面で、誘導起電力や誘導電流の向き(結果)を求めるフレミングの右手の法則を誤って使ってしまう。
    • 対策: 「左手は力(ローレンツ力、電磁力)、右手は起電力・電流」と明確に区別して覚える。本問は「なぜ起電力が生じるのか」というメカニズムをローレンツ力から説明しているので、左手が主役です。
  • 電場の向きと電位の高低の誤解:
    • 電場はC→D向きなのに、D端を高電位としてしまうなど。
    • 対策: 「電場は電位の高い方から低い方へ向かう」「正電荷が集まる方が高電位、負電荷が集まる方が低電位」という基本を再確認する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 導体棒という「電車」が右に動くとき、乗客である「自由電子」も一緒に右に動いている。
    • そこに磁場という「横風」が吹いていて、電子は横風に流されて(ローレンツ力)、電車の片側(D端)に寄ってしまう。
    • 片側に寄った電子のせいで、電車内に「混雑(D端が負)」と「閑散(C端が正)」の場所ができ、そのせいで「押し戻す力(静電気力)」が発生する。
    • 最終的に「横風に流される力」と「押し戻す力」が釣り合って、電子の偏りが止まる。このときの「混雑」と「閑散」の差が電位差。
  • 図示の有効性:
    • 問題の図に、段階を追って以下の情報を書き込むと非常に有効です。
      1. 電子の速度 \(\vec{v}\) の向き、磁場 \(\vec{B}\) の向き。
      2. ローレンツ力 \(\vec{f}\) の向き(電子が受ける力として)。
      3. 電子の移動方向と、それによるC端・D端の帯電の様子(⊕、⊖の記号)。
      4. 結果として生じる電場 \(\vec{E}\) の向き。
      5. 電場から電子が受ける静電気力 \(\vec{F}\) の向き。
    • 特に、力のつり合いがイメージしやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(f = evB\):
    • 選定理由: 磁場中を運動する荷電粒子(電子)が受ける力を知りたいから。
    • 適用根拠: 問題条件で \(v \perp B\) が明示されているため、\(\sin\theta = 1\) となり、このシンプルな形で適用可能。
  • \(F = eE\):
    • 選定理由: 電荷の偏りによって生じた電場 \(E\) から、電子が受ける力を知りたいから。
    • 適用根拠: 電場が存在すれば、その中の荷電粒子は必ず力を受けるという基本法則。
  • 力のつりあい (\(f=F\)):
    • 選定理由: 「電子の移動はやがて終わり」という記述から、最終的に電子にはたらく合力がゼロになる定常状態を考える必要があると判断できるため。
    • 適用根拠: 運動状態が変化しなくなった(移動が止まった)ということは、力がつり合っている証拠。
  • \(V = El\):
    • 選定理由: 導体棒の両端間の電位差を求めたいから。
    • 適用根拠: 導体棒内に一様な電場 \(E\) が長さ \(l\) にわたって存在すると考えられるため、この関係式が適用可能。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 原因(外部操作): 導体棒が速度 \(v\) で磁場 \(B\) 中を運動する。
  2. 直接的影響(力): 内部の自由電子がローレンツ力 \(f=evB\) を受ける(向きはC→D)。
  3. 結果1(電荷分布の変化): ローレンツ力により電子がD端に移動し、D端が負に、C端が正に帯電する。
  4. 結果2(新たな力の発生): 電荷の偏りにより導体棒内に電場 \(E\) が生じ(向きはC→D)、電子は静電気力 \(F=eE\) を受ける(向きはD→C、ローレンツ力と逆向き)。
  5. 定常状態の条件: 電子の移動が止まるのは、ローレンツ力と静電気力がつりあうとき。すなわち \(f=F \Rightarrow evB = eE\)。
  6. 内部状態の確定: つりあい条件から、内部電場の強さが \(E=vB\) と決まる。
  7. 最終的な結果(誘導起電力): 確定した電場 \(E\) と導体棒の長さ \(l\) から、電位差(誘導起電力) \(V=El=vBl\) が生じる。C端が高電位、D端が低電位。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 本問特有の注意点:
    • 記号が多い(\(e, v, B, l, f, F, E, V\))ので、どの記号が何を表すか、混乱しないように一つ一つ確認しながら進める。
    • 力の「大きさ」と「向き」を分けて考える。(1)では大きさ、(2)では向き。(5)では大きさ、(6)では向き。
    • 電荷 \(e\) は正の値(電気素量)として扱っているので、電子の電荷 \(-e\) との区別を明確に。力の向きを考えるときに重要。
  • 日頃の練習:
    • 単位を常に意識する癖をつける([N]、[V/m]、[V]など)。立式がおかしい場合、単位の次元が合わないことで気づけることがある。
    • 簡単な図でも良いので、状況を図示しながら考える。特にベクトルの向きは図で確認する。
    • 公式を丸暗記するだけでなく、その公式がどのような状況で成り立つのか、導出過程を理解しておくことで、応用の幅が広がり、ケアレスミスも減らせる。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との整合性:
    • 最終的に得られた誘導起電力 \(V=vBl\) は、導体棒の速度 \(v\)、磁束密度 \(B\)、長さ \(l\) が大きいほど大きくなる。これは直感的に妥当か?(例:速く動かせばたくさん磁力線を切るから起電力は大きくなりそう、など)
    • C端が高電位、D端が低電位という結果は、フレミングの右手の法則(親指: \(v\)、人差し指: \(B\)(手前)、中指: 起電力(C→Dに電流を流そうとする、つまりCが高電位))とも一致しており、妥当性が高い。
  • 極端な場合を考える:
    • もし \(v=0\) なら、ローレンツ力は発生せず、起電力も0。式 \(V=vBl\) は \(V=0\) となり正しい。
    • もし \(B=0\) なら、同様に起電力は0。式も \(V=0\) となり正しい。
  • 単位の確認:
    • \(E=vB\) の単位: 右辺は \([\text{m/s}] \cdot [\text{T}] = [\text{m/s}] \cdot [\text{N/(A}\cdot\text{m)}] = [\text{N/(A}\cdot\text{s)}]\)。ここで \([\text{A}\cdot\text{s}] = [\text{C}]\) なので、\([\text{N/C}]\) となり、これは電場の単位 \([\text{V/m}]\) と等しい。
    • \(V=El\) の単位: 右辺は \([\text{V/m}] \cdot [\text{m}] = [\text{V}]\) となり、電位差の単位と一致する。
    • \(V=vBl\) の単位: 右辺は \([\text{m/s}] \cdot [\text{T}] \cdot [\text{m}] = [\text{m}^2\text{/s}] \cdot [\text{Wb/m}^2] = [\text{Wb/s}]\)。\([\text{Wb}]\)は磁束の単位で、\([\text{Wb/s}]\)は誘導起電力の単位\([\text{V}]\)と等しい(ファラデーの電磁誘導の法則 \(\Delta \Phi / \Delta t\) より)。
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