「良問の風」攻略ガイド(116〜120問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題116 (金沢工大+岩手大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2つの電池と3つの抵抗を含む直流回路について、キルヒホッフの法則を用いて各部を流れる電流や消費電力を求める典型的な問題です。回路が少し複雑に見えるかもしれませんが、基本に忠実に法則を適用していけば大丈夫です。一つ一つのステップを丁寧に確認していきましょう。

与えられた条件
  • 電池 \(E_1\) の起電力: \(100 \, \text{V}\)
  • 電池 \(E_2\) の起電力: \(30 \, \text{V}\)
  • 抵抗 \(R_1\) の抵抗値: \(15 \, \Omega\)
  • 抵抗 \(R_2\) の抵抗値: \(20 \, \Omega\)
  • 抵抗 \(R_3\) の抵抗値: \(8 \, \Omega\)
  • 電池の内部抵抗は無視できる。
  • 本解説では、模範解答の解法で用いられている電流 \(I_1, I_2\) を用います。これらの電流は、キルヒホッフの法則を適用した結果、以下の連立方程式を導くものとして定義されています。
    • \(I_1\): \(R_3\) を流れる電流
    • \(I_2\): \(R_1\) を流れる電流
問われていること
  • (1) 指定された2つの閉回路について、キルヒホッフの法則を記述すること。
    • (ア) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)
    • (イ) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_1 \rightarrow E_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)
  • (2) \(E_1\), \(E_2\) を流れる電流の強さと、\(E_2\) を流れる電流の向き。
  • (3) 3つの抵抗での消費電力の和 \(P\)。
  • (4) \(E_1\) の供給電力 \(Q\)。
  • (5) \(Q\) が \(P\) と一致しない理由。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(キルヒホッフの電圧則を主体とする解法)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 電流の強さと向きの別解: 各点の電位を未知数とする解法
      • 主たる解法が閉回路をたどって電圧の関係式を立てるのに対し、別解では回路の分岐点の電位を未知数として設定し、各分岐点に流れ込む電流の総和がゼロになるというキルヒホッフの電流則のみを用いて立式します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「電位は電気的な高さ」という概念をより明確に意識する訓練になります。電流が電位の高い点から低い点へ流れるという基本原則に基づいて回路を解析する視点が養われます。
    • 異なる視点の学習: 電圧則(ループ解析)と電流則(ノード解析)という、回路解析の2つの基本的なアプローチを学ぶことで、思考の柔軟性が高まります。問題によっては、こちらの解法の方が見通しが良い場合もあります。
    • 計算の検証: 異なる方法で同じ答えを導出することで、計算結果の信頼性を高めることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「キルヒホッフの法則を用いた直流回路の解析」です。複雑な回路でも、法則に従って方程式を立てれば、未知の電流を機械的に求めることができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点では、流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は等しくなります。
  2. キルヒホッフの第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しくなります。
  3. オームの法則: 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるとき、その抵抗による電圧降下 \(V\) は \(V=RI\) で表されます。
  4. 電力の計算:
    • 抵抗での消費電力: \(P = RI^2\)
    • 電池の供給電力: \(P = EI\) (電流 \(I\) が電池の負極から正極へ流れる場合)
    • 電池の吸収電力(充電): \(P = EI\) (電流 \(I\) が電池の正極から負極へ流れる場合)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、回路の各部分を流れる電流を未知数として設定します。
  2. 問(1)では、指定された閉回路についてキルヒホッフの第2法則を適用し、方程式を立てます。
  3. 問(2)では、問(1)で立てた連立方程式を解いて電流の値を求めます。計算結果の符号から、実際の電流の向きを判断します。
  4. 問(3)と(4)では、求めた電流値を用いて、電力の公式から消費電力と供給電力を計算します。
  5. 問(5)では、エネルギー保存則の観点から、供給電力と消費電力の差が何に使われているかを考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
キルヒホッフの第2法則を適用する際には、まず閉回路を一回りする向き(時計回りまたは反時計回り)を定めます。そして、その向きに沿って電位の変化を追跡します。「起電力の総和(代数和)」と「電圧降下の総和(代数和)」が等しくなるという式を立てます。

  • 電池を通過するとき:負極から正極へ進むと電位は上昇(起電力 \(E\))、正極から負極へ進むと電位は下降(起電力としては \(-E\))。
  • 抵抗を通過するとき:設定した電流の向きと同じ向きに進むと電位は下降(電圧降下 \(RI\))、逆向きに進むと電位は上昇(電圧降下としては \(-RI\))。

この設問における重要なポイント

  • 電流の仮定の向きと、閉回路をたどる向きの関係を正確に把握し、電圧の上昇・下降の符号を間違えないことが非常に重要です。
  • 本問では、模範解答で示されている立式そのものを正として扱います。

具体的な解説と立式
模範解答では、電流 \(I_1, I_2\) および \(R_2\) を流れる電流を \(I_1+I_2\) と設定し、キルヒホッフの法則を適用することで、以下の2つの式が導出されています。

(ア) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)

この閉回路についてキルヒホッフの第2法則を適用すると、以下の式が得られます。
$$
\begin{aligned}
100 &= 20(I_1+I_2) + 8I_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

(イ) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_1 \rightarrow E_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)

この閉回路についてキルヒホッフの第2法則を適用すると、以下の式が得られます。
$$
\begin{aligned}
100 – 30 &= -15I_2 + 8I_1 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則(電圧則): \(\sum E = \sum RI\) (起電力の代数和 = 電圧降下の代数和)
計算過程

設問(1)は上記の式①と②を記述することが目的です。

この設問の平易な説明

キルヒホッフの電圧則とは、回路の中をぐるっと一周したときに、電池が電圧を上げる分と、抵抗が電圧を下げる分が、最終的につり合っている(合計でゼロになる)というルールです。

  • (ア)の式は、回路 \(E_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\) を一周したときの電圧の関係を表しています。
  • (イ)の式は、回路 \(E_1 \rightarrow R_1 \rightarrow E_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\) を一周したときの電圧の関係を表しています。
結論と吟味

上記で示した式①および②が、設問(1)で記述を求められているキルヒホッフの法則の具体的な形となります。これらの式を連立させて解くことで、未知の電流 \(I_1, I_2\) を求めることができます。

解答 (1)
(ア) \(100 = 20(I_1+I_2) + 8I_1\)
(イ) \(100-30 = -15I_2 + 8I_1\)

問(2)

思考の道筋とポイント
問(1)で立てた連立方程式①と②を解くことで、電流 \(I_1\) および \(I_2\) の値を求めます。計算の結果、もし電流の値が負であれば、実際に流れる向きは仮定した向きとは逆であることを意味します。
\(E_1\) を流れる電流は \(I_1\) です。\(E_2\) を流れる電流は、\(R_1\) を流れる電流 \(I_2\) と同じなので、\(I_2\) の値とその符号から実際の向きを判断します。
この設問における重要なポイント

  • 連立一次方程式を正確に解く数学的な計算力。
  • 得られた電流の符号が物理的に何を意味するのか(仮定した向きと同じか逆か)を正しく解釈すること。

具体的な解説と立式
問(1)で得られた式を整理します。

式①より:
$$
\begin{aligned}
100 &= 20I_1 + 20I_2 + 8I_1 \\[2.0ex]
100 &= 28I_1 + 20I_2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
式②より:
$$
\begin{aligned}
70 &= 8I_1 – 15I_2 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 連立一次方程式の解法
計算過程

式③と式④を連立方程式として解きます。

式③の両辺を\(3\)倍し、式④の両辺を\(4\)倍して、\(I_2\)の係数の絶対値を合わせます。
$$
\begin{aligned}
3 \times (100 &= 28I_1 + 20I_2) \\[2.0ex]
300 &= 84I_1 + 60I_2 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
4 \times (70 &= 8I_1 – 15I_2) \\[2.0ex]
280 &= 32I_1 – 60I_2 \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
式⑤と式⑥を足し合わせると \(I_2\) の項が消えます:
$$
\begin{aligned}
(84I_1 + 60I_2) + (32I_1 – 60I_2) &= 300 + 280 \\[2.0ex]
116I_1 &= 580 \\[2.0ex]
I_1 &= \frac{580}{116} \\[2.0ex]
I_1 &= 5 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
次に、\(I_1 = 5 \, \text{A}\) を式④に代入して \(I_2\) を求めます:
$$
\begin{aligned}
70 &= 8(5) – 15I_2 \\[2.0ex]
70 &= 40 – 15I_2 \\[2.0ex]
15I_2 &= 40 – 70 \\[2.0ex]
15I_2 &= -30 \\[2.0ex]
I_2 &= \frac{-30}{15} \\[2.0ex]
I_2 &= -2 \, \text{A}
\end{aligned}
$$
結果として、\(I_1 = 5 \, \text{A}\)、\(I_2 = -2 \, \text{A}\) となります。

  • \(E_1\) を流れる電流: \(I_1 = 5 \, \text{A}\)。
  • \(E_2\) を流れる電流: 式(イ) \(70 = 8I_1 – 15I_2\) の形から、電流 \(I_2\) は \(R_1\) を左向きに流れると仮定されています。計算結果が \(I_2 = -2 \, \text{A}\) と負になったため、実際の電流の向きは仮定とは逆の右向きであり、その大きさは \(2 \, \text{A}\) です。
この設問の平易な説明

問(1)で作った2つの式(方程式)を、数学で習う「連立方程式」として解きます。計算の結果、\(I_1=5 \, \text{A}\) となりました。これは電池 \(E_1\) から流れ出る電流です。
\(I_2=-2 \, \text{A}\) となりました。この \(I_2\) は、もともと抵抗 \(R_1\) を「左向き」に流れると仮定した電流でした。計算結果がマイナスになったので、実際には反対の「右向き」に \(2 \, \text{A}\) 流れていることがわかります。電池 \(E_2\) に流れる電流は、この \(R_1\) を流れる電流と同じなので、右向きに \(2 \, \text{A}\) となります。

結論と吟味

\(E_1\) を流れる電流は \(I_1 = 5 \, \text{A}\) です。
\(E_2\) を流れる電流は、\(I_2 = -2 \, \text{A}\) より、仮定した向き(左向き)とは逆向きに \(2 \, \text{A}\) です。つまり、図の右向きに \(2 \, \text{A}\) の電流が流れます。これは電池 \(E_2\) が充電されている状態を意味します。

別解: 各点の電位を未知数とする解法

思考の道筋とポイント
回路の基準点(アース)を定め、その電位を \(0 \, \text{V}\) とします。ここでは、電池 \(E_1\) の負極側を基準点とします。次に、回路の主要な分岐点の電位を未知数 \(V_A, V_B\) などと設定し、各分岐点についてキルヒホッフの第1法則(流れ込む電流の和 = 0)を立式します。
この設問における重要なポイント

  • 基準点を明確に定めること。
  • 各抵抗を流れる電流を、両端の電位差とオームの法則(\(I = V/R\))で表現すること。
  • 分岐点に流れ込む電流の向きを正しく設定し、方程式を立てること。

具体的な解説と立式

  • 電池 \(E_1\) の負極の電位を \(0 \, \text{V}\) とする。すると、正極の電位は \(100 \, \text{V}\) となる。
  • \(R_1\) と \(R_2\) の左側の分岐点の電位を \(V_A\)、右側の分岐点の電位を \(V_B\) とする。
  • \(V_A\) は \(E_1\) の正極に直接つながっているので、\(V_A = 100 \, \text{V}\)。
  • 未知数は \(V_B\) のみとなる。

分岐点Bについて、キルヒホッフの第1法則(流れ込む電流の和 = 流れ出す電流の和)を考えます。

  • \(R_1\) から流れ込む電流 \(I_{R1}\): \(E_2\) の負極側の電位を \(V_B\) とすると、正極側の電位は \(V_B + 30 \, \text{V}\) となります。よって、\(R_1\) を流れる電流は、左から右へ \(\displaystyle\frac{V_A – (V_B+30)}{R_1} = \displaystyle\frac{100 – (V_B+30)}{15}\)。
  • \(R_2\) から流れ込む電流 \(I_{R2}\): \(R_2\) を流れる電流は、左から右へ \(\displaystyle\frac{V_A – V_B}{R_2} = \displaystyle\frac{100 – V_B}{20}\)。
  • \(R_3\) へ流れ出す電流 \(I_{R3}\): \(R_3\) を流れる電流は、上から下へ \(\displaystyle\frac{V_B – 0}{R_3} = \displaystyle\frac{V_B}{8}\)。

分岐点Bでは、流れ込む電流の和と流れ出す電流の和が等しいので、
$$
\begin{aligned}
I_{R1} + I_{R2} &= I_{R3} \\[2.0ex]
\frac{100 – V_B – 30}{15} + \frac{100 – V_B}{20} &= \frac{V_B}{8}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第1法則(電流則)
  • オームの法則 \(I = V/R\)
計算過程

上記の方程式を \(V_B\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{70 – V_B}{15} + \frac{100 – V_B}{20} &= \frac{V_B}{8}
\end{aligned}
$$
分母を払うため、両辺に \(15, 20, 8\) の最小公倍数である \(120\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
120 \times \frac{70 – V_B}{15} + 120 \times \frac{100 – V_B}{20} &= 120 \times \frac{V_B}{8} \\[2.0ex]
8(70 – V_B) + 6(100 – V_B) &= 15V_B \\[2.0ex]
560 – 8V_B + 600 – 6V_B &= 15V_B \\[2.0ex]
1160 – 14V_B &= 15V_B \\[2.0ex]
1160 &= 29V_B \\[2.0ex]
V_B &= \frac{1160}{29} \\[2.0ex]
V_B &= 40 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
\(V_B = 40 \, \text{V}\) と求まりました。これを用いて各電流を計算します。

  • \(E_1\) を流れる電流 \(I_1\): これは \(R_3\) を流れる電流 \(I_{R3}\) に等しい。
    $$
    \begin{aligned}
    I_1 = I_{R3} = \frac{V_B}{8} = \frac{40}{8} = 5 \, \text{A}
    \end{aligned}
    $$
  • \(E_2\) を流れる電流 \(I_{E2}\): これは \(R_1\) を流れる電流 \(I_{R1}\) に等しい。
    $$
    \begin{aligned}
    I_{E2} = I_{R1} = \frac{100 – (V_B+30)}{15} = \frac{100 – (40+30)}{15} = \frac{30}{15} = 2 \, \text{A}
    \end{aligned}
    $$
    この電流は、電位の高い \(100 \, \text{V}\) 側から低い \((40+30)=70 \, \text{V}\) 側へ、つまり右向きに流れます。
この設問の平易な説明

回路の各地点の「電気的な高さ(電位)」を考える方法です。まず、一番低い場所(電池\(E_1\)のマイナス側)の高さを \(0\) と決めます。すると、電池\(E_1\)のプラス側は高さ \(100\) になります。次に、回路の合流地点Bの高さを \(V_B\) とします。電流は必ず高い方から低い方へ流れるので、このルールとオームの法則を使って、合流地点Bに流れ込む電流と流れ出す電流の量を \(V_B\) を使って表します。「流れ込む量=流れ出す量」という式を立てて \(V_B\) を計算すると、\(V_B=40\) とわかります。この高さがわかれば、各抵抗にかかる電圧(高さの差)がわかるので、すべての電流を計算できます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。\(E_1\) を流れる電流は \(5 \, \text{A}\)、\(E_2\) を流れる電流は右向きに \(2 \, \text{A}\) となります。この解法は、閉回路をたどる際の符号のミスが起こりにくいという利点があります。

解答 (2) \(E_1\) を流れる電流の強さは \(5 \, \text{A}\)。\(E_2\) を流れる電流の強さは \(2 \, \text{A}\) で、向きは図の右向き。

問(3)

思考の道筋とポイント
各抵抗を実際に流れる電流の大きさを求め、抵抗における消費電力の公式 \(P=RI^2\) を用いてそれぞれの抵抗での消費電力を計算します。最後に、それらを合計して全体の消費電力を求めます。

  • \(R_1\) を流れる電流 \(I_{R1}\): \(2 \, \text{A}\)
  • \(R_2\) を流れる電流 \(I_{R2}\): \(R_2\) の両端の電位差は \(100 \, \text{V} – 40 \, \text{V} = 60 \, \text{V}\)。よって電流は \(\displaystyle\frac{60 \, \text{V}}{20 \, \Omega} = 3 \, \text{A}\)。
  • \(R_3\) を流れる電流 \(I_{R3}\): \(5 \, \text{A}\)

この設問における重要なポイント

  • 電力の計算 \(P=RI^2\) では、電流 \(I\) はその大きさ(絶対値)を用います。電流の向きは消費電力の大きさには影響しません。
  • 各抵抗を流れる電流の値を、問(2)の結果から正確に把握することが大切です。

具体的な解説と立式
各抵抗での消費電力を \(P_{R1}, P_{R2}, P_{R3}\) とすると、求める消費電力の和 \(P\) は、
$$
\begin{aligned}
P &= P_{R1} + P_{R2} + P_{R3} \\[2.0ex]
P &= R_1 I_{R1}^2 + R_2 I_{R2}^2 + R_3 I_{R3}^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 抵抗での消費電力: \(P = RI^2\)
計算過程

各抵抗を流れる電流の大きさと抵抗値を用いて、消費電力を計算します。

  • \(R_1\): \(I_{R1} = 2 \, \text{A}\)
    $$
    \begin{aligned}
    P_{R1} &= (15 \, \Omega) \times (2 \, \text{A})^2 \\[2.0ex]
    &= 15 \times 4 \\[2.0ex]
    &= 60 \, \text{W}
    \end{aligned}
    $$
  • \(R_2\): \(I_{R2} = 3 \, \text{A}\)
    $$
    \begin{aligned}
    P_{R2} &= (20 \, \Omega) \times (3 \, \text{A})^2 \\[2.0ex]
    &= 20 \times 9 \\[2.0ex]
    &= 180 \, \text{W}
    \end{aligned}
    $$
  • \(R_3\): \(I_{R3} = 5 \, \text{A}\)
    $$
    \begin{aligned}
    P_{R3} &= (8 \, \Omega) \times (5 \, \text{A})^2 \\[2.0ex]
    &= 8 \times 25 \\[2.0ex]
    &= 200 \, \text{W}
    \end{aligned}
    $$

これらの和を求めると、
$$
\begin{aligned}
P &= P_{R1} + P_{R2} + P_{R3} \\[2.0ex]
&= 60 \, \text{W} + 180 \, \text{W} + 200 \, \text{W} \\[2.0ex]
&= 440 \, \text{W}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

それぞれの抵抗がどれくらいの電気エネルギーを熱として使っているか(消費電力)を計算します。消費電力は「抵抗の大きさ \(\times\) (そこを流れる電流の大きさ)\(^2\)」という式で求められます。

  • 抵抗\(R_1\)には \(2 \, \text{A}\) の電流が流れるので、消費電力は \(15 \times 2^2 = 60 \, \text{W}\)。
  • 抵抗\(R_2\)には \(3 \, \text{A}\) の電流が流れるので、消費電力は \(20 \times 3^2 = 180 \, \text{W}\)。
  • 抵抗\(R_3\)には \(5 \, \text{A}\) の電流が流れるので、消費電力は \(8 \times 5^2 = 200 \, \text{W}\)。

これら3つの抵抗での消費電力をすべて合計すると、\(60 + 180 + 200 = 440 \, \text{W}\) となります。

結論と吟味

3つの抵抗での消費電力の和 \(P\) は \(440 \, \text{W}\) と計算できました。この電力は、抵抗で熱エネルギーとして消費されます。単位も仕事率(電力)の単位であるワット(W)で適切です。

解答 (3) \(440 \, \text{W}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
電池 \(E_1\) が回路に供給する電力 \(Q\) は、その起電力 \(E_1\) と、\(E_1\) から流れ出る電流 \(I_1\) の積で与えられます。問(2)の結果より \(I_1=5 \, \text{A}\) であり、これは \(E_1\) の正極から流れ出す向きの電流なので、\(E_1\) は電力を供給しています。
この設問における重要なポイント

  • 電池の供給電力の公式 \(P_{\text{供給}} = EI\) を正しく適用すること。
  • \(E_1\) を流れる電流 \(I_1\) の値を正確に用いること。

具体的な解説と立式
電池 \(E_1\) の供給電力 \(Q\) は、起電力 \(E_1\) と電流 \(I_1\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
Q = E_1 I_1
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電池の供給電力: \(P = EI\)
計算過程

与えられた値を代入して \(Q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= (100 \, \text{V}) \times (5 \, \text{A}) \\[2.0ex]
&= 500 \, \text{W}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電池\(E_1\)が回路全体にどれだけの電気エネルギーを送り出しているか(供給電力)を計算します。電池の供給電力は、「電池の電圧(起電力) \(\times\) 電池から流れ出る電流」で求めることができます。
電池\(E_1\)の電圧は \(100 \, \text{V}\) で、そこから流れ出る電流は \(5 \, \text{A}\) なので、これらを掛け合わせると供給電力が \(100 \times 5 = 500 \, \text{W}\) となります。

結論と吟味

電池 \(E_1\) が供給する電力 \(Q\) は \(500 \, \text{W}\) です。この値は、回路全体のエネルギー源の一つからの供給量を示しています。単位もワット(W)で適切です。

解答 (4) \(500 \, \text{W}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
問(3)で計算した3つの抵抗での総消費電力 \(P=440 \, \text{W}\) と、問(4)で計算した電池 \(E_1\) の供給電力 \(Q=500 \, \text{W}\) を比較します。\(Q > P\) であり、一致していません。
この差額の電力 \(Q – P = 500 \, \text{W} – 440 \, \text{W} = 60 \, \text{W}\) は、回路内のどこかで別の形でエネルギーが変換されていることを示唆しています。
回路にはもう一つの電池 \(E_2\) が存在します。問(2)の結果から、\(E_2\) にはその正極(右側)から負極(左側)へ向かって \(2 \, \text{A}\) の電流が流れ込んでいることがわかっています。これは、\(E_2\) が電力を供給するのではなく、外部から電気エネルギーを受け取っている状態、つまり「充電」されている状態を意味します。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則の観点から、回路全体のエネルギーの収支を考えること。
  • 電池が充電される際には、電気エネルギーが化学エネルギー(や熱エネルギー)に変換されることを理解すること。

具体的な解説と立式
電池 \(E_1\) が供給した電力 \(Q\) のうち、一部は3つの抵抗で消費電力 \(P\) として熱エネルギーに変わります。残りの電力は、電池 \(E_2\) が吸収(充電によって消費)しています。

電池 \(E_2\) が吸収する電力 \(P_{E2, \text{吸収}}\) は、その起電力 \(E_2\) と流れ込む電流 \(I_{E2}\) の積で与えられます。
$$
\begin{aligned}
P_{E2, \text{吸収}} = E_2 I_{E2}
\end{aligned}
$$
ここで、\(E_2 = 30 \, \text{V}\)、\(I_{E2} = 2 \, \text{A}\) です。

使用した物理公式

  • 電池の吸収電力(充電電力): \(P = EI\)
  • エネルギー保存則
計算過程

電池 \(E_2\) が吸収する電力を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{E2, \text{吸収}} &= (30 \, \text{V}) \times (2 \, \text{A}) \\[2.0ex]
&= 60 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
この値 \(60 \, \text{W}\) は、\(E_1\) の供給電力 \(Q\) と全抵抗での消費電力 \(P\) との差 \(Q-P = 500 \, \text{W} – 440 \, \text{W} = 60 \, \text{W}\) と正確に一致します。

これは、エネルギー保存則 \(Q = P + P_{E2, \text{吸収}}\) が成り立っていることを示しています。

この設問の平易な説明

電池\(E_1\)が \(500 \, \text{W}\) の電力を供給しているのに、抵抗全体では \(440 \, \text{W}\) しか消費されていないのはなぜか、という問題です。残りの \(500 – 440 = 60 \, \text{W}\) の電力はどこへ行ったのでしょうか?
実は、回路中にあるもう一つの電池 \(E_2\) が、この余った電力を受け取って「充電」されているのです。電池 \(E_2\) は電圧が \(30 \, \text{V}\) で、そこに \(2 \, \text{A}\) の電流が流れ込んでいるので、\(E_2\) が吸収している電力は \(30 \, \text{V} \times 2 \, \text{A} = 60 \, \text{W}\) となります。
この \(60 \, \text{W}\) が、供給電力と消費電力の差額とぴったり一致します。つまり、\(E_1\) が供給したエネルギーは、一部が抵抗で熱になり、残りが \(E_2\) の充電(化学エネルギーへの変換)に使われた、ということです。

結論と吟味

\(Q\) (電池\(E_1\)の供給電力) が \(P\) (抵抗での消費電力の和) と一致しない理由は、電池 \(E_1\) が供給した電力の一部が、電池 \(E_2\) の充電(電気エネルギーが化学エネルギーなどに変換される過程)に使われているためです。このように、回路全体で見るとエネルギーは保存されています。

解答 (5) 電池\(E_1\)が供給した電力の一部が、電池\(E_2\)の充電に使われているから。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • キルヒホッフの法則:
    • 核心: 複数の電源を含むなど、単純な直列・並列接続に分解できない複雑な回路を解析するための最も基本的かつ強力な法則です。
    • 理解のポイント:
      1. 第1法則(電流則): 「電荷保存則」の現れです。回路のどの分岐点においても、流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は必ず等しくなります。
      2. 第2法則(電圧則): 「エネルギー保存則」の現れです。回路を一周して元の場所に戻ると、電位(電気的な高さ)も元に戻ります。つまり、電池による電位の上昇分と抵抗による電位の下降分が、合計でゼロになることを意味します。
  • エネルギー保存則:
    • 核心: 回路全体でエネルギーの収支は常に保たれます。問(5)で問われたように、電源から供給された総電力は、回路内の各素子(抵抗や他の電源)で消費・吸収される電力の総和に等しくなります。
    • 理解のポイント: 電池は電力を供給するだけでなく、向きによっては電力を吸収(充電)することもあります。回路全体のエネルギーの流れを把握することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複数の電源(電池)が複雑に接続された直流回路の問題。
    • 電池の内部抵抗が無視できない場合の問題(内部抵抗も一つの抵抗として扱えば同様に解けます)。
    • コンデンサーを含む直流回路の定常状態を問う問題(定常状態ではコンデンサー部分は断線とみなせます)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 未知数の設定: まず、未知の電流または電位を設定します。キルヒホッフの第1法則を使って未知数の数を減らす(例:\(I_1, I_2, I_1+I_2\))か、基準点を決めて未知の電位を設定するか、解法の方針を決めます。
    2. 独立な方程式の立式: 未知数の数と同じだけの、独立した方程式を立てる必要があります。電圧則を用いるなら独立な閉回路を、電位を用いるなら独立な分岐点を選びます。
    3. 計算が楽な経路の選択: 電圧則を用いる場合、どの閉回路を選んでも解けますが、含まれる素子が少ない、あるいは起電力が一つだけの単純なループを選ぶと、立式や計算が楽になることが多いです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • キルヒホッフの第2法則における符号ミス:
    • 誤解: 電池の起電力の向き、抵抗での電圧降下の向き(電流の向きと経路をたどる向きの関係)の判断を誤る。
    • 対策:
      1. 閉回路をたどる向き(例:時計回り)を矢印で明確に図に書き込む。
      2. 電池は、たどる向きが負極→正極なら \(+E\)、正極→負極なら \(-E\) とする。
      3. 抵抗は、たどる向きが電流の向きと同じなら電圧降下 \(+RI\)、逆なら電圧降下 \(-RI\) として扱う。「起電力の和=電圧降下の和」という形式で一貫して立式する。
  • 電流の向きの解釈ミス:
    • 誤解: 計算結果で電流が負の値になった場合、その物理的意味(仮定した向きと逆)を正しく捉えられない。
    • 対策: 「負の値 = 仮定した向きとは逆向きに、その絶対値の大きさで流れる」と常に意識する。その後の電力計算などでは、電流の「大きさ(絶対値)」を用いることが多い点も注意。
  • 電位法における基準点の曖昧さ:
    • 誤解: どこを電位 \(0 \, \text{V}\) の基準点とするか意識せずに立式し、混乱する。
    • 対策: 必ず回路図のどこか一点(通常はアース記号のある場所や電池の負極)を \(0 \, \text{V}\) と明記してから、他の点の電位を計算する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの法則(第1法則、第2法則):
    • 選定理由: 回路が抵抗の直列・並列接続だけでは簡単に解析できない場合(特に複数の電源が含まれる場合)の、最も基本的かつ普遍的な解析手法だからです。
    • 適用根拠: 第1法則は電荷保存則に、第2法則はエネルギー保存則(電位が保存量であること)に基づいています。これらの根源的な法則が、どんな複雑な回路にも適用できる理由です。
  • オームの法則 (\(V=RI\)):
    • 選定理由: 抵抗という素子の基本的な性質(電圧と電流の比例関係)を表すため、抵抗が含まれる回路では必ずと言っていいほど使用します。
    • 適用根拠: キルヒホッフの第2法則で「電圧降下」を計算する際に、\(RI\) の形で具体的に記述するために必要です。電位法では、抵抗を流れる電流を \(I = \Delta V / R\) の形で記述するために必要です。
  • 電力の公式 (\(P=RI^2\), \(P=EI\)):
    • 選定理由: 問題で消費電力や供給電力が問われているため、これらのエネルギー変換率を計算する公式を選びます。
    • 適用根拠: \(P=RI^2\) は抵抗で単位時間あたりにジュール熱として失われるエネルギーを、\(P=EI\) は電池で単位時間あたりに変換される(供給または吸収される)エネルギーを表しています。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 方程式の整理:
    • 特に注意すべき点: 立式したキルヒホッフの法則の式は、まず各項を整理し、\(AI_1 + BI_2 = C\) のような標準的な形に直してから連立方程式を解き始めると、見通しが良くなり、ミスを減らせます。
    • 日頃の練習: 複雑な式でも、まずは同類項をまとめるなど、一手間かけてから計算に進む癖をつける。
  • 符号の扱い:
    • 特に注意すべき点: 電圧の上昇/下降、電流の向き、経路をたどる向きなど、符号が絡む要素が多いので、一つ一つ確認しながら計算を進めましょう。特に、連立方程式を解く際の移項や、式全体にマイナスを掛ける操作などでの符号反転ミスに注意が必要です。
    • 日頃の練習: 式を立てる際に、回路図にたどる向きの矢印を書き込むなど、視覚的な補助を活用する。
  • 検算の習慣:
    • 特に注意すべき点: 時間が許せば、求まった電流値を元の方程式(立式したもの)に代入してみて、等式が成り立つか確認する。あるいは、使わなかった別の閉回路で電圧則が成り立つか確認してみるのも良い検算方法です。
    • 日頃の練習: 簡単な問題でも検算する癖をつけ、計算の正確性を高める意識を持つ。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 電流の向きと大きさ: 主要な電源からは電流が流れ出し、抵抗値の小さい経路には比較的大きな電流が流れるなど、大まかな傾向が計算結果と合っているか。この問題では、起電力の大きい \(E_1\) (\(100\,\text{V}\)) が主電源となり、\(E_2\) (\(30\,\text{V}\)) が充電されるという結果は、直感的にもあり得そうです。
    • エネルギー保存の確認: 本問の(5)がまさにこれに当たります。供給された総電力と、消費(および充電などで吸収)された総電力が等しくなっているかを確認することは、解全体の妥当性を検証する強力な手段です。\(Q = 500 \, \text{W}\)、\(P = 440 \, \text{W}\)、\(E_2\)の吸収電力が \(60 \, \text{W}\) であり、\(500 = 440 + 60\) が成り立っています。
  • 単位の確認:
    • 計算の最終結果だけでなく、途中の物理量の単位も意識しましょう。電流ならアンペア[\(\text{A}\)]、電圧ならボルト[\(\text{V}\)]、抵抗ならオーム[\(\Omega\)]、電力ならワット[\(\text{W}\)]といった基本単位が正しく使われているか、常に確認する習慣が大切です。

問題117 (千葉工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、乾電池の内部抵抗に関する基本的な知識と、直流回路における合成抵抗や消費電力の計算を組み合わせた問題です。図1のグラフから乾電池の特性(起電力と内部抵抗)を読み取り、それを用いて図2の複雑な回路における電流や抵抗値を考察します。

与えられた条件
  • 乾電池K: 起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)。
  • 図1: 乾電池Kに可変抵抗を接続したときの、回路を流れる電流 \(I\) と乾電池Kの両端間の電位差 \(V\) の関係を示すグラフ。
    • グラフ上の点A: \((I, V) = (0.2 \, \text{A}, 1.5 \, \text{V})\)
    • グラフ上の点B: \((I, V) = (1.2 \, \text{A}, 1.0 \, \text{V})\)
  • 図2: 抵抗 \(10 \, \Omega\)、\(R \, \Omega\)、\(12 \, \Omega\) からなる回路。端子A, Bに乾電池Kを接続。
  • 図2の条件: 乾電池Kを接続したとき、Aを流れる電流(乾電池から流れ出る電流)が \(0.20 \, \text{A}\)。
問われていること
  • (1) 乾電池Kの起電力 \(E\)
  • (2) 乾電池Kの内部抵抗 \(r\)
  • (3) 回路を流れる電流が \(1.0 \, \text{A}\) のときの乾電池Kの両端間の電位差 \(V\)
  • (4) 図2の回路で、AB間の3つの抵抗での消費電力の和、および抵抗 \(R\) の値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法とは一部異なる、より物理的な意味合いを重視したアプローチを主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1)(2)の別解: 直線の式を立てて係数比較する解法
      • 主たる解法がグラフの傾きと切片の物理的意味(傾き\(=-r\)、切片\(=E\))から直接的に値を求めるのに対し、別解ではまず数学的に2点を通る直線の式を求め、その式を物理法則の式 \(V=E-rI\) と比較して \(E\) と \(r\) を決定します。
    • 問(4) 消費電力の別解: エネルギー保存則を利用する解法
      • 主たる解法が外部回路の電圧と電流から消費電力を計算する(\(P=VI\))のに対し、別解では電池の視点から「(電池が生み出す全電力)ー(電池内部での消費電力)=(外部回路での消費電力)」というエネルギー保存則に基づいて計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 多角的な視点の獲得: 物理的な意味から解く方法と、数式として機械的に解く方法の両方を学ぶことで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 物理モデルの深化: 特に問(4)の別解は、電池内部でのエネルギー損失を陽に扱うため、理想的な電池と現実の電池の違いや、回路全体でのエネルギーの流れについての理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「内部抵抗を持つ電池の特性と直流回路の解析」です。グラフから電池の性能を読み解き、それを実際の回路計算に応用する能力が問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電池の端子電圧: 内部抵抗を持つ電池の端子電圧 \(V\) は、起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)、電流 \(I\) を用いて \(V = E – rI\) と表されます。
  2. オームの法則: 回路の任意の抵抗部分において、電圧 \(V\)、電流 \(I\)、抵抗 \(R\) の間には \(V = IR\) の関係が成り立ちます。
  3. 抵抗の合成: 複雑な抵抗回路を、等価な一つの抵抗とみなして計算するための手法です(直列接続と並列接続)。
  4. 消費電力: 回路で消費されるエネルギーの割合(電力)を計算する公式です。\(P = VI = RI^2 = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) の形を状況に応じて使い分けます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)と(2)では、図1のグラフが \(V = E – rI\) という関係式を表していることに着目し、グラフの傾きと切片から内部抵抗 \(r\) と起電力 \(E\) を求めます。
  2. 問(3)では、(1)(2)で求めた電池の特性式に、指定された電流値を代入して端子電圧を計算します。
  3. 問(4)では、まず与えられた電流値から電池の端子電圧を求め、消費電力を計算します。次に、回路全体の合成抵抗を未知数 \(R\) を用いて表し、オームの法則を適用して \(R\) の値を決定します。

問(1), 問(2)

思考の道筋とポイント
乾電池の両端間の電位差 \(V\) と回路を流れる電流 \(I\) の間には、\(V = E – rI\) という関係があります。ここで、\(E\) は起電力、\(r\) は内部抵抗です。この式は \(I\) を横軸、\(V\) を縦軸にとると、傾きが \(-r\) で、\(V\)切片(\(I=0\) のときの \(V\))が \(E\) となる直線を表します。

図1のグラフから2点の座標 \((I_1, V_1) = (0.2 \, \text{A}, 1.5 \, \text{V})\) と \((I_2, V_2) = (1.2 \, \text{A}, 1.0 \, \text{V})\) を読み取り、これらの点を通る直線の傾きと \(V\)切片を求めることで、\(r\) と \(E\) を決定します。
この設問における重要なポイント

  • 電池の端子電圧の式 \(V=E-rI\) を理解している。
  • グラフから直線の傾きと切片を読み取る(または計算する)方法を理解している。
  • 傾きが内部抵抗の負の値 (\(-r\))、\(V\)切片が起電力 \(E\) に対応することを把握する。

具体的な解説と立式
乾電池の端子電圧 \(V\)、起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)、電流 \(I\) の関係式は以下で与えられます。
$$
\begin{aligned}
V = E – rI \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式は、\(V\) を \(I\) の関数とみると、傾き \(-r\)、\(V\) 切片 \(E\) の一次関数です。

図1のグラフから2点 \((0.2 \, \text{A}, 1.5 \, \text{V})\) と \((1.2 \, \text{A}, 1.0 \, \text{V})\) を読み取ります。

直線の傾きは \(\displaystyle\frac{\Delta V}{\Delta I}\) で計算できます。
$$
\begin{aligned}
\text{傾き} = \frac{1.0 \, \text{V} – 1.5 \, \text{V}}{1.2 \, \text{A} – 0.2 \, \text{A}}
\end{aligned}
$$
この傾きが \(-r\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
-r = \text{傾き}
\end{aligned}
$$
起電力 \(E\) は、\(I=0\) のときの \(V\) の値(\(V\)切片)です。グラフ上の1点 \((I_A, V_A) = (0.2 \, \text{A}, 1.5 \, \text{V})\) と求めた \(r\) を用いて、式①から \(E\) を求めることができます。
$$
\begin{aligned}
V_A = E – rI_A
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電池の端子電圧: \(V = E – rI\)
  • 直線の傾きの定義
計算過程

まず、グラフの傾きを計算します。
$$
\begin{aligned}
\text{傾き} &= \frac{1.0 – 1.5}{1.2 – 0.2} \\[2.0ex]
&= \frac{-0.5}{1.0} \\[2.0ex]
&= -0.50 \, \text{V/A}
\end{aligned}
$$
この傾きが \(-r\) に等しいので、内部抵抗 \(r\) は、
$$
\begin{aligned}
-r &= -0.50 \, \Omega \\[2.0ex]
r &= 0.50 \, \Omega
\end{aligned}
$$
これが問(2)の答えです。

次に、起電力 \(E\) を求めます。\(V = 1.5 \, \text{V}\)、\(I = 0.2 \, \text{A}\)、そして求めた \(r = 0.50 \, \Omega\) を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
1.5 &= E – (0.50 \times 0.2) \\[2.0ex]
1.5 &= E – 0.10 \\[2.0ex]
E &= 1.5 + 0.10 \\[2.0ex]
E &= 1.6 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
これが問(1)の答えです。

この設問の平易な説明

電池には、電気を送り出す力(起電力 \(E\))と、電気の流れにくさ(内部抵抗 \(r\))があります。電池から電流 \(I\) が流れるとき、電池の両端の電圧 \(V\) は \(V = E – rI\) という式で表されます。これは、グラフにすると直線になります。

  1. 内部抵抗 \(r\) を求める: グラフの傾きが \(-r\) を表します。グラフから2点を選び、傾きを計算すると \(-0.5\) となります。なので、\(-r = -0.5\) から \(r = 0.50 \, \Omega\) です。
  2. 起電力 \(E\) を求める: 起電力 \(E\) は、電流 \(I\) が \(0\) のときの電圧 \(V\) の値です。求めた \(r\) の値とグラフ上の1点(例えば \(I=0.2 \, \text{A}, V=1.5 \, \text{V}\))を \(V = E – rI\) の式に代入して \(E\) を計算します。\(1.5 = E – 0.50 \times 0.2\) を解くと \(E = 1.6 \, \text{V}\) となります。
結論と吟味

乾電池Kの起電力 \(E\) は \(1.6 \, \text{V}\)、内部抵抗 \(r\) は \(0.50 \, \Omega\) です。これらの値は、一般的な乾電池の特性として妥当な範囲です。グラフが右下がりであることからも、内部抵抗が存在し、電流が増えるほど端子電圧が下がることが確認できます。

別解: 直線の式を立てて係数比較する解法

思考の道筋とポイント
グラフが2点 \((0.2, 1.5)\) と \((1.2, 1.0)\) を通ることから、数学的に直線の式を求めます。その式を物理法則の式 \(V = E – rI\) と比較することで、\(E\) と \(r\) を決定します。
この設問における重要なポイント

  • 2点を通る直線の公式を正しく適用できること。
  • 最終的に得られた式の係数を、物理式の係数と対応させること。

具体的な解説と立式
グラフが2点 \((I_1, V_1) = (0.2, 1.5)\) と \((I_2, V_2) = (1.2, 1.0)\) を通る直線の式は、
$$
\begin{aligned}
V – V_1 = \frac{V_2 – V_1}{I_2 – I_1}(I – I_1)
\end{aligned}
$$
この式を \(V\) について整理し、\(V = -rI + E\) の形にします。

使用した物理公式

  • 電池の端子電圧: \(V = E – rI\)
計算過程

上の式に具体的な数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V – 1.5 &= \frac{1.0 – 1.5}{1.2 – 0.2}(I – 0.2) \\[2.0ex]
V – 1.5 &= \frac{-0.5}{1.0}(I – 0.2) \\[2.0ex]
V – 1.5 &= -0.5(I – 0.2) \\[2.0ex]
V – 1.5 &= -0.5I + 0.1 \\[2.0ex]
V &= -0.5I + 1.6
\end{aligned}
$$
この式と、電池の基本式 \(V = E – rI\) の係数を比較します。
$$
\begin{aligned}
E &= 1.6 \, \text{V} \\[2.0ex]
r &= 0.5 \, \Omega
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮して、\(r = 0.50 \, \Omega\) となります。

この設問の平易な説明

グラフを純粋な数学の直線の問題として解く方法です。2つの点が分かっているので、中学校で習った方法で直線の式を求めると \(V = -0.5I + 1.6\) となります。物理の法則の式 \(V = E – rI\) と見比べると、\(E\) が \(1.6\)、\(r\) が \(0.5\) に対応することがわかります。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。物理的な意味を考えるのが苦手な場合でも、機械的な計算で答えを導くことができるアプローチです。

解答 (1) \(1.6 \, \text{V}\)
解答 (2) \(0.50 \, \Omega\)

問(3)

思考の道筋とポイント
問1、問2で求めた起電力 \(E\) と内部抵抗 \(r\) の値、およびそれらから導出した \(V\) と \(I\) の関係式 \(V = -0.50I + 1.6\) を使って、\(I=1.0 \, \text{A}\) のときの \(V\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 電池の端子電圧の式 \(V=E-rI\) を利用する。
  • 既に求めた \(E\) と \(r\) の値、あるいは \(V\) と \(I\) の関係式を正しく用いる。

具体的な解説と立式
乾電池の端子電圧 \(V\) と電流 \(I\) の関係は、\(V = -0.50I + 1.6\) で与えられています。

この式に \(I=1.0 \, \text{A}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V = -0.50 \times 1.0 + 1.6
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電池の端子電圧: \(V = E – rI\) (またはグラフから導いた \(V-I\) 関係式)
計算過程

上の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= -0.50 + 1.6 \\[2.0ex]
V &= 1.1 \, \text{V}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電池の両端の電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) の間には、\(V = 1.6 – 0.50 \times I\) という関係があることが(1)(2)で分かりました。

この式に、電流 \(I=1.0 \, \text{A}\) を代入すれば、そのときの電圧 \(V\) が求まります。

\(V = 1.6 – 0.50 \times 1.0 = 1.1 \, \text{V}\)。

結論と吟味

回路を流れる電流が \(1.0 \, \text{A}\) のとき、乾電池Kの両端間の電位差は \(1.1 \, \text{V}\) です。これは図1のグラフ上の点 \((1.0, 1.1)\) に対応し、グラフの直線関係と整合しています。

解答 (3) \(1.1 \, \text{V}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
まず、乾電池Kから \(I = 0.20 \, \text{A}\) の電流が流れ出たときの、乾電池Kの端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) を求めます。これは(1)(2)で求めた電池の特性 \(V = E-rI\) から計算できます。

AB間の3つの抵抗での消費電力の和は、この端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) と電流 \(I\) を用いて \(P = V_{\text{AB}}I\) で計算できます。

次に、抵抗 \(R\) を求めるために、図2のAB間の合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) を用いて表します。そして、オームの法則 \(V_{\text{AB}} = R_{\text{AB}}I\) を利用して \(R_{\text{AB}}\) の値を求め、そこから \(R\) を算出します。
この設問における重要なポイント

  • 電池の特性 (\(V=E-rI\)) を使って、特定の電流が流れるときの端子電圧を求める。
  • 回路全体の消費電力は、電池の端子電圧と回路全体を流れる電流の積で計算できる。
  • 並列回路と直列回路の合成抵抗の計算方法を正しく適用する。
  • オームの法則 \(V=RI\) を回路全体(または部分)に適用する。

具体的な解説と立式
乾電池Kを端子A, Bに接続し、Aから \(I = 0.20 \, \text{A}\) の電流が流れたとします。このときの乾電池Kの端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) は、\(V = 1.6 – 0.50I\) を用いて計算できます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{AB}} = 1.6 – 0.50 \times 0.20
\end{aligned}
$$
AB間の3つの抵抗での消費電力の和 \(P_{\text{消費}}\) は、この端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) と電流 \(I\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{消費}} = V_{\text{AB}}I
\end{aligned}
$$
次に、図2のAB間の合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を求めます。上側の枝の抵抗は \(R_{\text{上}} = 10+R\)、下側の枝の抵抗は \(R_{\text{下}} = 12 \, \Omega\)。これらが並列に接続されているので、合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) は、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{\text{AB}}} = \frac{1}{10+R} + \frac{1}{12}
\end{aligned}
$$
また、オームの法則より、AB間の電圧 \(V_{\text{AB}}\)、電流 \(I\)、合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) の間には次の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{AB}} = R_{\text{AB}}I
\end{aligned}
$$
この関係から \(R_{\text{AB}}\) の値を求め、上の合成抵抗の式と等置することで \(R\) を求めます。

使用した物理公式

  • 電池の端子電圧: \(V = E – rI\)
  • 消費電力: \(P = VI\)
  • 抵抗の合成(直列・並列)
  • オームの法則: \(V = RI\)
計算過程

まず、\(V_{\text{AB}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{AB}} &= 1.6 – 0.50 \times 0.20 \\[2.0ex]
&= 1.6 – 0.10 \\[2.0ex]
&= 1.5 \, \text{V}
\end{aligned}
$$
次に、消費電力 \(P_{\text{消費}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{消費}} &= 1.5 \, \text{V} \times 0.20 \, \text{A} \\[2.0ex]
&= 0.30 \, \text{W}
\end{aligned}
$$
これがAB間の3つの抵抗での消費電力の和です。

次に \(R\) を求めます。オームの法則から \(R_{\text{AB}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
R_{\text{AB}} &= \frac{V_{\text{AB}}}{I} \\[2.0ex]
&= \frac{1.5 \, \text{V}}{0.20 \, \text{A}} \\[2.0ex]
&= 7.5 \, \Omega
\end{aligned}
$$
合成抵抗の公式から \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) で表します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R_{\text{AB}}} &= \frac{1}{10+R} + \frac{1}{12} \\[2.0ex]
&= \frac{12 + (10+R)}{12(10+R)} \\[2.0ex]
&= \frac{22+R}{12(10+R)}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
R_{\text{AB}} = \frac{12(10+R)}{22+R}
\end{aligned}
$$
この \(R_{\text{AB}}\) が \(7.5 \, \Omega\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
7.5 &= \frac{12(10+R)}{22+R} \\[2.0ex]
7.5(22+R) &= 12(10+R) \\[2.0ex]
165 + 7.5R &= 120 + 12R \\[2.0ex]
165 – 120 &= 12R – 7.5R \\[2.0ex]
45 &= 4.5R \\[2.0ex]
R &= \frac{45}{4.5} \\[2.0ex]
R &= 10 \, \Omega
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明
  1. AB間の電圧を求める: 電池から \(0.20 \, \text{A}\) の電流が流れるとき、電池の端子電圧(これがAB間の電圧 \(V_{\text{AB}}\) になる)を計算します。\(V = 1.6 – 0.50 \times I\) の式に \(I=0.20 \, \text{A}\) を代入すると、\(V_{\text{AB}} = 1.5 \, \text{V}\) となります。
  2. 消費電力を求める: AB間の3つの抵抗全体での消費電力は、AB間の電圧 \(V_{\text{AB}}\) とそこを流れる電流 \(I\) を使って、\(P = V_{\text{AB}}I\) で計算できます。\(P = 1.5 \, \text{V} \times 0.20 \, \text{A} = 0.30 \, \text{W}\) です。
  3. AB間の合成抵抗を求める: オームの法則から、AB間の全体の抵抗 \(R_{\text{AB}}\) は \(R_{\text{AB}} = V_{\text{AB}}/I = 1.5 \, \text{V} / 0.20 \, \text{A} = 7.5 \, \Omega\) となります。
  4. \(R\)の値を求める: 図の回路から計算した合成抵抗の式 \(\frac{12(10+R)}{22+R}\) が \(7.5 \, \Omega\) と等しくなるように \(R\) を求めると、\(R=10 \, \Omega\) となります。
結論と吟味

AB間の3つの抵抗での消費電力の和は \(0.30 \, \text{W}\) です。また、抵抗 \(R\) の値は \(10 \, \Omega\) です。これらの値は、基本的な回路法則と電池の特性から導出されました。単位もそれぞれワット[\(\text{W}\)]とオーム[\(\Omega\)]で適切です。

別解: エネルギー保存則を利用する解法

思考の道筋とポイント
外部回路(AB間の3つの抵抗)での消費電力は、電池が供給する全電力(\(EI\))から、電池内部で消費される電力(\(rI^2\))を引いたものに等しい、というエネルギー保存則を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 電池が生み出すエネルギーと、内部損失、外部で利用されるエネルギーの関係を理解していること。

具体的な解説と立式
AB間の3つの抵抗での消費電力の和 \(P_{\text{消費}}\) は、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{消費}} = (\text{電池の供給電力}) – (\text{内部抵抗での消費電力})
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
P_{\text{消費}} = EI – rI^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 電池の供給電力: \(P_{\text{供給}} = EI\)
  • 抵抗での消費電力: \(P = rI^2\)
  • エネルギー保存則
計算過程

\(E=1.6 \, \text{V}\), \(r=0.50 \, \Omega\), \(I=0.20 \, \text{A}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{消費}} &= (1.6 \times 0.20) – (0.50 \times (0.20)^2) \\[2.0ex]
&= 0.32 – (0.50 \times 0.040) \\[2.0ex]
&= 0.32 – 0.020 \\[2.0ex]
&= 0.30 \, \text{W}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電池が一生懸命作ったエネルギーのうち、電池自身が熱として使ってしまう分を引いた残りが、外の回路(3つの抵抗)で使われる、という考え方です。電池が作った全電力は \(1.6 \times 0.20 = 0.32 \, \text{W}\)、電池内部で消費される電力は \(0.50 \times (0.20)^2 = 0.02 \, \text{W}\) なので、差し引き \(0.32 – 0.02 = 0.30 \, \text{W}\) が外部の抵抗で消費されます。

結論と吟味

主たる解法の結果と完全に一致します。この解法は、端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) を計算するステップを省略できるため、より直接的に消費電力を求めることができます。

解答 (4) 消費電力の和: \(0.30 \, \text{W}\)、\(R = 10 \, \Omega\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電池の端子電圧と内部抵抗の関係 (\(V=E-rI\)):
    • 核心: 乾電池のような実際の電源の振る舞いを理解する上で最も基本的な式です。理想的な起電力\(E\)から、電流を流すことによる内部抵抗\(r\)での電圧降下\(rI\)が差し引かれたものが、実際に外部回路で利用できる電圧(端子電圧\(V\))になることを示しています。
    • 理解のポイント: この関係式は、\(V-I\)グラフで直線になることを意味します。グラフの\(V\)切片が起電力\(E\)、傾きが内部抵抗の負の値\(-r\)に対応することをしっかり押さえることが、この問題の出発点です。
  • オームの法則 (\(V=IR\)):
    • 核心: 回路のどの部分にも適用できる普遍的な法則です。電池の外部回路全体を一つの合成抵抗とみなした場合にも、\(V_{\text{端子}} = R_{\text{合成}} I\) という形で成り立ちます。
    • 理解のポイント: 電圧、電流、抵抗という3つの基本量のうち2つが分かっていれば、残りの1つを求めることができるという、回路解析の基本中の基本です。
  • 抵抗の合成(直列・並列):
    • 核心: 複雑な回路の全体の抵抗値を求めるための基本的な手法です。図2の回路では、直列部分と並列部分を正しく見抜く必要がありました。
    • 理解のポイント: 回路をより単純な等価回路に置き換えるための計算規則です。これにより、複雑な回路でもオームの法則を適用しやすくなります。
  • 電力の計算 (\(P=VI, P=RI^2\)):
    • 核心: 回路で消費されるエネルギーの割合(電力)を計算する公式です。状況に応じて使いやすい形を選びます。特に、回路全体での消費電力を考える際には、\(P=V_{\text{端子}}I\)が有効です。
    • 理解のポイント: エネルギー保存則と密接に関連しています。電源が供給する電力と、回路全体で消費される電力は(理想的な導線では)等しくなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電池の内部抵抗が関わる問題全般(グラフの読み取り、回路計算)。
    • 複雑な抵抗回路の合成抵抗を求める問題。
    • 回路全体の消費電力や、特定の抵抗での消費電力を求める問題。
    • 最大消費電力を問う問題(外部抵抗と内部抵抗が等しいときに、外部回路での消費電力が最大になるという知識も重要です)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの情報: \(V-I\)グラフが与えられた場合、まず \(V=E-rI\) の関係を思い出し、グラフから \(E\) と \(r\) を読み取れないか検討します。切片や傾きに注目します。
    2. 回路の構造: 複雑な回路でも、直列部分と並列部分に分解して考えることが基本です。どこが直列でどこが並列かを図から正確に読み取ります。
    3. 既知の量と未知の量: 問題で何が与えられていて、何を求めるべきかを明確にします。一つの設問で得られた結果が、次の設問を解くための既知の量になることが多いです。
    4. 適用する法則の選択: 電圧、電流、抵抗の関係ならオームの法則。電池の特性なら \(V=E-rI\)。電力なら \(P=VI\) など、状況に応じて適切な公式を選びます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • グラフの読み取りミス:
    • 誤解: 傾きや切片の値を読み間違えたり、軸の単位を見落としたりする。
    • 対策: グラフの軸のラベル(物理量と単位)をしっかり確認する。傾きを計算する際は、2点の座標を正確に読み取り、計算ミスをしないように注意する。
  • 内部抵抗 \(r\) と外部抵抗 \(R\) の混同:
    • 誤解: 電池の端子電圧の式 \(V=E-rI\) における \(r\) は内部抵抗であり、回路に接続された外部の抵抗 \(R\) とは区別する。
    • 対策: 式の意味を正確に理解し、文字記号が何を表しているかを常に意識する。
  • 合成抵抗の計算ミス:
    • 誤解: 特に並列接続の場合の逆数の和の計算や、その後の逆数に戻す操作を忘れやすい。
    • 対策: 並列接続の公式 \(\frac{1}{R_{\text{並列}}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\) を正確に使い、計算過程を丁寧に書く。分数計算は慎重に。
  • 電流と電圧の対応関係の誤り:
    • 誤解: オームの法則 \(V=RI\) や電力の公式 \(P=VI\) を使う際に、どの部分の電圧・電流・抵抗(または電力)について考えているのかが曖昧だと間違える。
    • 対策: 回路図の特定の部分(例えばAB間全体、あるいは個々の抵抗)に着目し、その部分に対応する電圧、電流、抵抗(電力)の値を用いるように意識する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=E-rI\):
    • 選定理由: 問題に「乾電池」という現実の電源が登場し、その性能(端子電圧)が問われているため、内部抵抗を考慮したこの式が必須となります。
    • 適用根拠: これは電池という電源のモデルを表す式です。起電力 \(E\) という「理想的な電圧源」と、それと直列につながった内部抵抗 \(r\) が電池の内部にあると考えます。電流 \(I\) が流れると内部抵抗 \(r\) で \(rI\) だけ電圧が下がるため、外に出てくる電圧 \(V\) は \(E-rI\) となります。
  • 合成抵抗の公式:
    • 選定理由: 複数の抵抗からなる回路全体の振る舞いを、一つの抵抗として単純化して考えるために用います。
    • 適用根拠: 電流の流れ方(一本道か分岐か)によって直列・並列の考え方を使い分けます。物理的には、同じ電流が流れるなら電圧降下は抵抗に比例(直列)、同じ電圧がかかるなら電流は抵抗に反比例(並列)という性質から導かれます。
  • \(P=VI\):
    • 選定理由: 問(4)で「AB間の3つの抵抗での消費電力の和」を求める際に、個々の抵抗の消費電力を計算して足し合わせるよりも、AB間全体にかかる電圧 \(V_{\text{AB}}\) と全体を流れる電流 \(I\) を用いる方が計算が圧倒的に簡単だからです。
    • 適用根拠: 電力の定義の一つです。単位時間に電荷 \(q\) が電位差 \(V\) のある区間を移動するときにする仕事(またはされる仕事)が \(qV\)。電流 \(I=q/t\) なので、電力(単位時間あたりの仕事)は \(VI\) となります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • グラフの読み取りと傾き計算:
    • 特に注意すべき点: 座標の読み間違い、引き算の順序(\(\Delta V, \Delta I\) の対応)に注意。
    • 日頃の練習: グラフ問題では、まず特徴的な点(切片、変曲点、読み取りやすい格子点など)に印をつける習慣をつける。
  • 有効数字:
    • 特に注意すべき点: 問題文やグラフの数値の有効数字を意識し、最終的な答えも適切な桁数で出す(本問の模範解答は有効数字2桁)。
    • 日頃の練習: 計算の途中では有効数字より1桁多くとっておき、最後に四捨入入する癖をつける。
  • 合成抵抗の計算(特に並列):
    • 特に注意すべき点: \(\frac{1}{R_p} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\) の計算後、\(R_p\) を求める際に逆数を取るのを忘れない。通分計算も慎重に。
    • 日頃の練習: 2つの抵抗の並列合成の場合、和分の積 \(R_p = \frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2}\) の公式も覚えておくと検算や時間短縮に役立つ。
  • 方程式の変形・整理:
    • 特に注意すべき点: 特に分数や小数を含む方程式を解く際は、焦らず一段階ずつ丁寧に行う。検算も有効。
    • 日頃の練習: 複雑な文字式でも、まずは代入せずに式のまま整理してから最後に数値を代入する練習をすると、見通しが良くなる。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な値のオーダー感覚:
    • 乾電池の起電力 \(E\) は \(1.5 \, \text{V}\) 程度、内部抵抗 \(r\) は数Ω以下であることが多い。今回の \(E=1.6 \, \text{V}, r=0.50 \, \Omega\) は妥当。
    • 抵抗値 \(R\) が負になったり、極端に大きな値になったりしないか確認する。
  • グラフとの整合性:
    • (3)で計算した値が、図1のグラフ上の点としてプロットできるか、直線関係から大きく外れていないかを確認する。
  • 単位の確認:
    • 計算結果の単位が、求めたい物理量の単位(電圧ならV、抵抗ならΩ、電力ならW)と一致しているか常に意識する。
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問題118 (岡山大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直流回路における電圧測定の方法と、電位差計を用いた電池の起電力測定に関するものです。大きく分けて3つの設問があります。

  1. 設問(1): 図1のように、内部抵抗を持つ電池に内部抵抗を持つ電圧計を接続したとき、電圧計が示す値を求めます。ここでは、電圧計を接続することによる回路への影響(分圧)を理解しているかが問われます。
  2. 設問(2): 図2の電位差計の回路で、既知の起電力を持つ標準電池 \(E_S\) を用い、検流計に電流が流れないように接点Cを調整したときの抵抗値 \(R_S\) を、回路を流れる電流 \(I\) などを用いて表します。電位差計の基本原理の理解が鍵となります。
  3. 設問(3): 設問(2)に続き、今度は測定したい電池D(起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\))を電位差計に接続し、同様に検流計に電流が流れない条件での抵抗値 \(R\) を用いて、電池Dの起電力 \(E\) を既知の量で表します。設問(2)の結果を利用して、電位差計による起電力測定の公式を導き出す流れになります。
与えられた条件
  • 図1:
    • 電池D: 起電力 \(E \, \text{[V]}\)、内部抵抗 \(r \, \text{[Ω]}\)
    • 電圧計V: 内部抵抗 \(r_V \, \text{[Ω]}\)
  • 図2:
    • 電池D: 起電力 \(E \, \text{[V]}\)、内部抵抗 \(r \, \text{[Ω]}\) (図1と同じもの)
    • 電池 \(E_0\): (抵抗ABに電流を流すための電源)
    • 抵抗AB: 太さが一様で、接点Cの位置でAC間の抵抗値が読み取れる。
    • 検流計G: 電流が流れているかどうかを検出する。
    • 標準電池 \(E_S\): 既知の起電力 \(E_S \, \text{[V]}\)
    • スイッチS1, S2
    • S1を開いたとき、抵抗ABに流れる電流を \(I \, \text{[A]}\) とする。
問われていること
  1. (1) 図1において電圧計Vが示す値。
  2. (2) 図2において、S1を閉じ、S2を①に入れ、検流計Gに電流が流れないときのAC間の抵抗値 \(R_S\)。
  3. (3) 図2において、S2を②に入れ、検流計Gに電流が流れないときのAC間の抵抗値を \(R\) としたとき、電池Dの起電力 \(E\) を \(E_S, R_S, R\) で表した式。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】

本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。

この問題のテーマは「電圧測定の原理と電位差計」です。電圧計の内部抵抗が測定値に与える影響と、それを排除して正確な起電力を測定するための電位差計の仕組みを段階的に理解することが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. オームの法則: 抵抗 \(R\) の両端の電圧 \(V\) と、流れる電流 \(I\) の関係 \(V=RI\)。
  2. 電池の端子電圧: 電池が電流を供給しているとき、その端子間の電圧 \(V\) は、起電力 \(E\) と内部抵抗 \(r\)、電流 \(I\) を用いて \(V = E – rI\) と表されます。電流が流れていなければ \(V=E\) です。
  3. 電位差計の原理: 検流計に電流が流れないという条件は、検流計が接続されている2点間の電位差が0であること、つまりその2点の電位が等しいことを意味します。これを利用して、未知の電圧や起電力を精密に測定します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、電池と電圧計からなる閉回路を考え、オームの法則と電池の端子電圧の式を連立させて解きます。
  2. 問(2)では、「検流計に電流が流れない」という条件を「標準電池の起電力と抵抗線部分の電圧降下が等しい」と解釈し、立式します。
  3. 問(3)では、問(2)と同様の論理を未知の電池に適用し、問(2)の結果を利用して最終的な関係式を導きます。

問(1)

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