問題116 (金沢工大+岩手大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つの電池と3つの抵抗を含む直流回路について、キルヒホッフの法則を用いて各部を流れる電流や消費電力を求める典型的な問題です。回路が少し複雑に見えるかもしれませんが、基本に忠実に法則を適用していけば大丈夫です。一つ一つのステップを丁寧に確認していきましょう。
- 電池 \(E_1\) の起電力: \(100\text{V}\)
- 電池 \(E_2\) の起電力: \(30\text{V}\)
- 抵抗 \(R_1\) の抵抗値: \(15\Omega\)
- 抵抗 \(R_2\) の抵抗値: \(20\Omega\)
- 抵抗 \(R_3\) の抵抗値: \(8\Omega\)
- 電池の内部抵抗は無視できる。
- 設問(1)において、\(E_1\) を流れる電流を図の矢印の向きに \(I_1\text{[A]}\)、\(R_1\) を流れる電流を図の矢印の向きに \(I_2\text{[A]}\) とするとされているが、本解説では模範解答の解法に合わせ、以下の電流設定を用います:
- \(E_1\) から出て \(R_3\) を流れる電流を \(I_1\)
- \(R_1\) を右向きに流れる電流を \(I_2\)
- \(R_2\) を右向きに流れる電流を \(I_1+I_2\)
- (1) 指定された2つの閉回路について、キルヒホッフの法則を記述すること。
- (ア) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)
- (イ) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_1 \rightarrow E_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)
- (2) \(E_1\), \(E_2\) を流れる電流の強さと、\(E_2\) を流れる電流の向き。
- (3) 3つの抵抗での消費電力の和 \(P\)。
- (4) \(E_1\) の供給電力 \(Q\)。
- (5) \(Q\) が \(P\) と一致しない理由。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- キルヒホッフの第1法則(電流則): 回路の分岐点では、流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は等しくなります。
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しくなります。
- オームの法則: 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるとき、その抵抗による電圧降下 \(V\) は \(V=RI\) で表されます。
- 電力の計算:
- 抵抗での消費電力: \(P = RI^2\)
- 電池の供給電力: \(P = EI\) (電流 \(I\) が電池の負極から正極へ流れる場合)
- 電池の吸収電力(充電): \(P = EI\) (電流 \(I\) が電池の正極から負極へ流れる場合)
問1 閉回路についてのキルヒホッフの法則
思考の道筋とポイント
キルヒホッフの第2法則を適用する際には、まず閉回路を一回りする向き(時計回りまたは反時計回り)を定めます。そして、その向きに沿って電位の変化を追跡します。
- 電池を通過するとき:負極から正極へ進むと電位は上昇(起電力 \(E\))、正極から負極へ進むと電位は下降(\(-E\) と考えます)。
- 抵抗を通過するとき:設定した電流の向きと同じ向きに進むと電位は下降(電圧降下 \(RI\))、電流の向きと逆向きに進むと電位は上昇(電圧上昇 \(-RI\)、あるいは電圧降下としては \(-RI\) と考えます)。
最終的に、一周したときの「起電力の総和(代数和)」と「電圧降下の総和(代数和)」が等しくなるという式を立てます。
本解説では、模範解答に合わせて以下の電流設定で進めます(これは問題文(1)の冒頭の電流指定とは異なる点に注意が必要です)。
- \(E_1\) から出て \(R_3\) を流れる電流(上向き)を \(I_1\)
- \(R_1\) を流れる電流(右向き)を \(I_2\)
- \(R_2\) を流れる電流(右向き)を \(I_1+I_2\)
この設問における重要なポイント
- 電流の仮定の向きと、閉回路をたどる向きの関係を正確に把握し、電圧の上昇・下降(または電圧降下)の符号を間違えないことが非常に重要です。
- 模範解答で採用されている電流 \(I_1, I_2\) が、回路図のどの部分を指し、どちら向きを正としているかを正確に理解して立式に臨みます。
具体的な解説と立式
模範解答に示されている式は、上記の電流設定に基づいています。
(ア) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)
この閉回路を時計回り(\(E_1\) の正極から出て \(R_2\)、\(R_3\) を経て \(E_1\) の負極に戻る向き)にたどるものとします。
- 電池 \(E_1\): 負極から正極へたどるので、起電力 \(E_1 = 100\text{V}\) の電位上昇。
- 抵抗 \(R_2\): 電流 \(I_1+I_2\) (右向き) と同じ向きにたどるので、電圧降下は \(R_2(I_1+I_2) = 20(I_1+I_2)\)。
- 抵抗 \(R_3\): 電流 \(I_1\) (上向き) と同じ向きにたどるので、電圧降下は \(R_3 I_1 = 8I_1\)。
キルヒホッフの第2法則(起電力の総和 = 電圧降下の総和)より、
$$100 = 20(I_1+I_2) + 8I_1 \quad \cdots ①$$
(イ) 閉回路 \(E_1 \rightarrow R_1 \rightarrow E_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\)
この閉回路を時計回り(\(E_1\) の正極から出て \(R_1\)、\(E_2\)、\(R_3\) を経て \(E_1\) の負極に戻る向き)にたどるものとします。
- 電池 \(E_1\): 負極から正極へたどるので、起電力 \(E_1 = 100\text{V}\) の電位上昇。
- 抵抗 \(R_1\): 電流 \(I_2\) (右向き) と同じ向きにたどるので、電圧降下は \(R_1 I_2 = 15I_2\)。しかし、模範解答の式ではこの項が \(-15I_2\) となっています。これは、起電力と電圧降下を左右の辺に分ける際に、\(15I_2\) の電圧降下を「\(-15I_2\)の電圧上昇」として起電力側(左辺)に加えたものを移項した、あるいは閉回路のたどり方や電流の解釈に特定の前提を置いた結果と考えられます。ここでは模範解答の式を尊重します。
- 電池 \(E_2\): 正極から負極へたどるので、\(E_2 = 30\text{V}\) の電位下降。起電力の総和に含める場合は \(-30\text{V}\) として扱います。
- 抵抗 \(R_3\): 電流 \(I_1\) (上向き) と同じ向きにたどるので、電圧降下は \(R_3 I_1 = 8I_1\)。
模範解答に示されるキルヒホッフの第2法則の式は、
$$100 – 30 = -15I_2 + 8I_1 \quad \cdots ②$$
(注釈: この式②は、模範解答の数値を導くためのものです。\(R_1\) に関する項 \(-15I_2\) は、電流 \(I_2\) (右向き) に対して、閉回路を時計回りに辿る際に \(R_1\) で電流と「逆向き」に \(15\Omega\) の抵抗を通過したときの電圧降下、と解釈するとこの符号になりますが、通常の時計回りのたどり方とは異なります。あるいは、\(15I_2\) の電圧上昇があったと解釈することもできます。ここでは、模範解答の式そのものを提示します。)
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): \(\Sigma E = \Sigma RI\) (起電力の代数和 = 電圧降下の代数和)
設問(1)は上記の式①と②を記述することが目的です。これらの式を連立させて解くことで、電流 \(I_1\) と \(I_2\) の値が求まります。
キルヒホッフの電圧則とは、回路の中をぐるっと一周したときに、電池が電圧を上げる分と、抵抗が電圧を下げる分が、最終的につり合っている(合計でゼロになる)というルールです。
- (ア)の式は、回路 \(E_1 \rightarrow R_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\) を一周したときの電圧の関係を表しています。\(E_1\) で \(100\text{V}\) 上がり、\(R_2\) と \(R_3\) でそれぞれ \(20(I_1+I_2)\text{V}\) と \(8I_1\text{V}\) 下がるので、つり合いの式が成り立ちます。
- (イ)の式は、回路 \(E_1 \rightarrow R_1 \rightarrow E_2 \rightarrow R_3 \rightarrow E_1\) を一周したときの電圧の関係です。\(E_1\) で \(100\text{V}\) 上がり、\(E_2\) では向きによって電圧が上がったり下がったりします(この場合は \(30\text{V}\) 下がる扱い)。\(R_1\) と \(R_3\) でも電圧が下がります(模範解答の式では \(R_1\) の扱いが特殊ですが、結果としてつり合いの式が成り立ちます)。
上記で示した式①および②が、設問(1)で記述を求められているキルヒホッフの法則の具体的な形となります。これらの式は、模範解答が(2)で電流値 \(I_1=5\text{A}\), \(I_2=-2\text{A}\) を導き出すために用いたものです。
(ア) \(100 = 20(I_1+I_2) + 8I_1\)
(イ) \(100-30 = -15I_2 + 8I_1\)
問2 電流の強さと向き
思考の道筋とポイント
問1で立てた連立方程式①と②を解くことで、電流 \(I_1\) および \(I_2\) の値を求めます。ここで \(I_1\) は \(E_1\) から出て \(R_3\) を流れる電流、\(I_2\) は \(R_1\) を右向きに流れると仮定した電流です。
計算の結果、もし \(I_2\) の値が負であれば、実際に \(R_1\) を流れる電流の向きは仮定した右向きとは逆の左向きであることを意味します。
\(E_1\) を流れる電流は \(I_1\) です。\(E_2\) を流れる電流は、模範解答の電流設定では \(I_2\) が \(E_2\) から供給される形になっているため、\(I_2\) の値とその符号から実際の向きを判断します。
この設問における重要なポイント
- 連立一次方程式を正確に解く数学的な計算力。
- 得られた電流の符号が物理的に何を意味するのか(仮定した向きと同じか逆か)を正しく解釈すること。
具体的な解説と立式
問1で得られた式を整理します。
式①より: \(100 = 20I_1 + 20I_2 + 8I_1\)
$$100 = 28I_1 + 20I_2 \quad \cdots ③$$
式②より:
$$70 = 8I_1 – 15I_2 \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 連立一次方程式の解法(加減法、代入法)
式③と式④を連立方程式として解きます。
式④を3倍します:
$$3 \times 70 = 3 \times (8I_1 – 15I_2)$$
$$210 = 24I_1 – 45I_2 \quad \cdots ⑤$$
式③を \(\displaystyle\frac{45}{20} = \displaystyle\frac{9}{4}\) 倍します (係数を合わせるため、ここでは別の方法として式③ \(\times 3\)、式④ \(\times 4\) で \(I_2\) の係数の絶対値を合わせる方法もよく用いられます。ここでは模範解答の解 \(I_1=5, I_2=-2\) に至る計算を示します。)
式③ \(\times 3\): \(300 = 84I_1 + 60I_2 \quad \cdots ⑥\)
式④ \(\times 4\): \(280 = 32I_1 – 60I_2 \quad \cdots ⑦\)
式⑥と式⑦を足し合わせると \(I_2\) の項が消えます:
$$(84I_1 + 60I_2) + (32I_1 – 60I_2) = 300 + 280$$
$$116I_1 = 580$$
$$I_1 = \frac{580}{116}$$
ここで、\(580 \div 116 = 5\) です。(\(116 \times 5 = (100+16)\times 5 = 500+80 = 580\))
よって、\(I_1 = 5\text{A}\)。
次に、\(I_1=5\text{A}\) を式④に代入して \(I_2\) を求めます:
$$70 = 8(5) – 15I_2$$
$$70 = 40 – 15I_2$$
$$15I_2 = 40 – 70$$
$$15I_2 = -30$$
$$I_2 = \frac{-30}{15} = -2\text{A}$$
結果として、\(I_1 = 5\text{A}\)、\(I_2 = -2\text{A}\) となります。
- \(E_1\) を流れる電流: \(I_1 = 5\text{A}\)。仮定した向き(\(E_1\) から流れ出す向き)に \(5\text{A}\)。
- \(E_2\) を流れる電流: \(I_2 = -2\text{A}\)。これは、仮定した向き(\(R_1\) を右向き、つまり \(E_2\) の正極から流れ出る向き)とは逆向きに \(2\text{A}\) であることを示します。したがって、実際には \(E_2\) の正極に \(2\text{A}\) の電流が流れ込む形となり、これは \(R_1\) を左向きに \(2\text{A}\) 流れることに相当します。設問では「\(E_2\) を流れる電流の向きは、図の左・右どちら向きか」と問われています。\(E_2\) の素子に対して左向きに \(2\text{A}\) の電流が流れることになります (正極から入り負極へ抜ける)。
問1で作った2つの式(方程式)を、数学の授業で習った「連立方程式」として解きます。具体的には、一方の式を何倍かして、もう一方の式と足したり引いたりすることで、まず \(I_1\) か \(I_2\) のどちらか一方を求めます。その後、求まった値を元の式に代入して、残りのもう一方を求めます。
計算の結果、\(I_1=5\text{A}\) となりました。これは電池 \(E_1\) から流れ出る電流です。
\(I_2=-2\text{A}\) となりました。これは抵抗 \(R_1\) を右向きに流れると仮定した電流ですが、マイナスが付いたので、実際には反対の「左向き」に \(2\text{A}\) 流れていることがわかります。
電池 \(E_2\) に流れる電流は、この \(R_1\) を流れる電流と同じなので、左向きに \(2\text{A}\) となります。
\(E_1\) を流れる電流は \(I_1 = 5\text{A}\) で、図の \(E_1\) から出る矢印の向きです。
\(E_2\) を流れる電流は、\(I_2 = -2\text{A}\) より、仮定した向き(\(E_2\) から出て右へ)とは逆向きに \(2\text{A}\) です。つまり、\(E_2\) の正極(右側)から電流が流れ込み、負極(左側)へと向かう「左向き」の電流 \(2\text{A}\) となります。これは電池 \(E_2\) が充電されている状態を意味します。
問3 3つの抵抗での消費電力の和 \(P\)
思考の道筋とポイント
各抵抗を実際に流れる電流の大きさを求め、抵抗における消費電力の公式 \(P=RI^2\) を用いてそれぞれの抵抗での消費電力を計算します。最後に、それらを合計して全体の消費電力を求めます。
- \(R_1\) を流れる電流 \(I_{R1}\): \(|I_2| = |-2\text{A}| = 2\text{A}\) (左向き)
- \(R_2\) を流れる電流 \(I_{R2}\): \(I_1+I_2 = 5\text{A} + (-2\text{A}) = 3\text{A}\) (右向き)
- \(R_3\) を流れる電流 \(I_{R3}\): \(I_1 = 5\text{A}\) (上向き)
この設問における重要なポイント
- 電力の計算 \(P=RI^2\) では、電流 \(I\) はその大きさ(絶対値)を用います。電流の向きは消費電力の大きさには影響しません。
- 各抵抗を流れる電流の値を、問2の結果から正確に把握することが大切です。
具体的な解説と立式
各抵抗での消費電力を \(P_{R1}, P_{R2}, P_{R3}\) とすると、
$$P_{R1} = R_1 I_{R1}^2 = R_1 (-I_2)^2 = R_1 I_2^2 \quad \cdots ⑧$$
(注: \(I_2 = -2\text{A}\) なので、\(I_{R1}=2\text{A}\)。したがって \(P_{R1}=R_1 (2)^2\))
$$P_{R2} = R_2 (I_1+I_2)^2 \quad \cdots ⑨$$
$$P_{R3} = R_3 I_1^2 \quad \cdots ⑩$$
求める消費電力の和 \(P\) は、
$$P = P_{R1} + P_{R2} + P_{R3} \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- 抵抗での消費電力: \(P = RI^2\)
各抵抗を流れる電流の大きさと抵抗値を用いて、消費電力を計算します。
- \(R_1\): \(I_{R1} = 2\text{A}\) (∵ \(I_2=-2\text{A}\) だから左向きに2A)
\(P_{R1} = 15\Omega \times (2\text{A})^2 = 15 \times 4 = 60\text{W}\) - \(R_2\): \(I_{R2} = I_1+I_2 = 5\text{A} + (-2\text{A}) = 3\text{A}\)
\(P_{R2} = 20\Omega \times (3\text{A})^2 = 20 \times 9 = 180\text{W}\) - \(R_3\): \(I_{R3} = I_1 = 5\text{A}\)
\(P_{R3} = 8\Omega \times (5\text{A})^2 = 8 \times 25 = 200\text{W}\)
これらの和を求めると、式⑪より、
\(P = P_{R1} + P_{R2} + P_{R3} = 60\text{W} + 180\text{W} + 200\text{W} = 440\text{W}\)。
それぞれの抵抗がどれくらいの電気エネルギーを熱として使っているか(消費電力)を計算します。消費電力は「抵抗の大きさ × (そこを流れる電流の大きさ)$^2$」という式で求められます。
- 抵抗\(R_1\)には \(2\text{A}\) の電流が流れるので、消費電力は \(15 \times 2^2 = 60\text{W}\)。
- 抵抗\(R_2\)には \(3\text{A}\) の電流が流れるので、消費電力は \(20 \times 3^2 = 180\text{W}\)。
- 抵抗\(R_3\)には \(5\text{A}\) の電流が流れるので、消費電力は \(8 \times 5^2 = 200\text{W}\)。
これら3つの抵抗での消費電力をすべて合計すると、\(60 + 180 + 200 = 440\text{W}\) となります。
3つの抵抗での消費電力の和 \(P\) は \(440\text{W}\) と計算できました。この電力は、抵抗で熱エネルギーとして消費されます。単位も仕事率(電力)の単位であるワット(W)で適切です。
問4 \(E_1\) の供給電力 \(Q\)
思考の道筋とポイント
電池 \(E_1\) が回路に供給する電力 \(Q\) は、その起電力 \(E_1\) と、\(E_1\) から流れ出る電流 \(I_1\) の積で与えられます。問2の結果より \(I_1=5\text{A}\) であり、これは \(E_1\) の正極から流れ出す向きの電流なので、\(E_1\) は電力を供給しています。
この設問における重要なポイント
- 電池の供給電力の公式 \(P_{\text{供給}} = EI\) を正しく適用すること。
- \(E_1\) を流れる電流 \(I_1\) の値を正確に用いること。
具体的な解説と立式
電池 \(E_1\) の供給電力 \(Q\) は、起電力 \(E_1\) と電流 \(I_1\) を用いて次のように表されます。
$$Q = E_1 I_1 \quad \cdots ⑫$$
ここで、\(E_1 = 100\text{V}\)、\(I_1 = 5\text{A}\) です。
使用した物理公式
- 電池の供給電力: \(P = EI\)
式⑫に与えられた値を代入して \(Q\) を計算します。
\(Q = (100\text{V}) \times (5\text{A}) = 500\text{W}\)。
電池\(E_1\)が回路全体にどれだけの電気エネルギーを送り出しているか(供給電力)を計算します。電池の供給電力は、「電池の電圧(起電力) × 電池から流れ出る電流」で求めることができます。
電池\(E_1\)の電圧は \(100\text{V}\) で、そこから流れ出る電流は \(5\text{A}\) なので、これらを掛け合わせると供給電力が \(100 \times 5 = 500\text{W}\) となります。
電池 \(E_1\) が供給する電力 \(Q\) は \(500\text{W}\) です。この値は、回路全体のエネルギー源の一つからの供給量を示しています。単位もワット(W)で適切です。
問5 \(Q\) が \(P\) と一致しない理由
思考の道筋とポイント
問3で計算した3つの抵抗での総消費電力 \(P=440\text{W}\) と、問4で計算した電池 \(E_1\) の供給電力 \(Q=500\text{W}\) を比較します。\(Q > P\) であり、一致していません。
この差額の電力 \(Q – P = 500\text{W} – 440\text{W} = 60\text{W}\) は、回路内のどこかで別の形でエネルギーが変換されていることを示唆しています。
回路にはもう一つの電池 \(E_2\) が存在します。問2の結果から、\(E_2\) にはその正極(右側)から負極(左側)へ向かって \(2\text{A}\) の電流が流れ込んでいることがわかっています。これは、\(E_2\) が電力を供給するのではなく、外部から電気エネルギーを受け取っている状態、つまり「充電」されている状態を意味します。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則の観点から、回路全体のエネルギーの収支を考えること。
- 電池が充電される際には、電気エネルギーが化学エネルギー(や熱エネルギー)に変換されることを理解すること。
具体的な解説と立式
電池 \(E_1\) が供給した電力 \(Q\) のうち、一部は3つの抵抗で消費電力 \(P\) として熱エネルギーに変わります。しかし、\(Q\) と \(P\) が一致しないということは、残りの電力が他の何かに使われていることを意味します。
電池 \(E_2\) には、その正極から負極の向きへ \(I_{E2} = 2\text{A}\) の電流が流れています。このとき、電池 \(E_2\) が吸収(充電によって消費)する電力 \(P_{E2,\text{吸収}}\) は、その起電力 \(E_2\) と流れ込む電流 \(I_{E2}\) の積で与えられます。
$$P_{E2,\text{吸収}} = E_2 I_{E2} \quad \cdots ⑬$$
ここで、\(E_2 = 30\text{V}\)、\(I_{E2} = 2\text{A}\) です。
使用した物理公式
- 電池の吸収電力(充電電力): \(P = EI\)
- エネルギー保存則
式⑬に値を代入して、電池 \(E_2\) が吸収する電力を計算します。
\(P_{E2,\text{吸収}} = (30\text{V}) \times (2\text{A}) = 60\text{W}\)。
この値 \(60\text{W}\) は、\(E_1\) の供給電力 \(Q\) と全抵抗での消費電力 \(P\) との差 \(Q-P = 500\text{W} – 440\text{W} = 60\text{W}\) と正確に一致します。
これは、エネルギー保存則が成り立っていることを示しており、\(E_1\) が供給した全電力 \(Q\) は、抵抗での消費電力 \(P\) と、電池 \(E_2\) が充電される際に吸収した電力 \(P_{E2,\text{吸収}}\) の和に等しい (\(Q = P + P_{E2,\text{吸収}}\)) ことを意味します。
電池\(E_1\)が \(500\text{W}\) の電力を供給しているのに、抵抗全体では \(440\text{W}\) しか消費されていないのはなぜか、という問題です。残りの \(500 – 440 = 60\text{W}\) の電力はどこへ行ったのでしょうか?
実は、回路中にあるもう一つの電池 \(E_2\) が、この余った電力を受け取って「充電」されているのです。電池 \(E_2\) は電圧が \(30\text{V}\) で、そこに \(2\text{A}\) の電流が流れ込んでいる(充電されている)ので、\(E_2\) が吸収している電力は \(30\text{V} \times 2\text{A} = 60\text{W}\) となります。
この \(60\text{W}\) が、供給電力と消費電力の差額とぴったり一致します。つまり、\(E_1\) が供給したエネルギーは、一部が抵抗で熱になり、残りが \(E_2\) の充電(化学エネルギーへの変換)に使われた、ということです。
\(Q\) (電池\(E_1\)の供給電力) が \(P\) (抵抗での消費電力の和) と一致しない理由は、電池 \(E_1\) が供給した電力の一部が、電池 \(E_2\) の充電(電気エネルギーが化学エネルギーや熱エネルギーに変換される過程)に使われているためです。このように、回路全体で見るとエネルギーは保存されています。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- キルヒホッフの法則:
- 第1法則(電流則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は等しい。この問題では、\(R_2\) を流れる電流を \(I_1+I_2\) と設定する際に暗黙的に活用されています。
- 第2法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の総和と電圧降下の総和は等しい(または電位差の代数和がゼロ)。これが複雑な回路の電流を求めるための最も強力な手段であり、この問題の中心的な法則でした。
- オームの法則 (\(V=RI\)): 抵抗における電圧と電流の関係を示す基本法則で、電圧降下の計算に用いられました。
- 電力の計算式:
- 抵抗での消費電力: \(P = RI^2\)。ジュール熱としてエネルギーが消費されることを表します。
- 電池の供給・吸収電力: \(P = EI\)。電池がエネルギーを供給するか、逆に充電などでエネルギーを吸収するかを示します。
- エネルギー保存則: 回路全体でエネルギーの出入りを考えると、供給された総エネルギーと消費・貯蔵された総エネルギーは等しくなります。本問の(5)はまさにこの法則の現れです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 複数の電源(電池)が複雑に接続された直流回路の問題。
- 電池の内部抵抗が無視できない場合の問題(内部抵抗も一つの抵抗として扱えば同様に解けます)。
- スイッチの開閉によって回路構成が変化する問題(それぞれの状態でキルヒホッフの法則を適用します)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 回路図の完全な理解: まず、回路の接続関係、電源の向き、抵抗の配置を正確に把握します。
- 電流の仮定と設定: 回路の各部分を流れる電流を未知数として設定します。向きは任意に仮定してよく、計算結果の符号で実際の向きが判明します。分岐則を考慮して未知数の数を減らす工夫も有効です(例:模範解答の \(I_1, I_2\) と \(I_1+I_2\))。
- 閉回路の選定: キルヒホッフの第2法則を適用するために、独立な閉回路を未知数の電流の数だけ選びます。どの閉回路を選んでも原理的には解けますが、計算がなるべく簡単になるような回路を選ぶと効率的です。
- 立式の正確性: 第2法則を適用する際、起電力の向き(電位を上げるか下げるか)と、抵抗をたどる向きと電流の向きの関係(電圧降下か上昇か)に細心の注意を払い、符号を間違えないようにします。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
- 電流の向きを仮定したら、その仮定に基づいて一貫して計算を進めること。
- 連立方程式を解く際の計算ミスに注意すること。
- 電池が複数ある場合、どちらが主に電力を供給し、どちらが充電される(あるいは両方が供給する)可能性があるのかを、電流の向きから判断すること。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- キルヒホッフの第2法則における符号ミス:
- 原因: 電池の起電力の向き、抵抗での電圧降下の向き(電流の向きと経路をたどる向きの関係)の判断を誤る。
- 対策:
- 閉回路をたどる向き(例:時計回り)を明確に決める。
- 電池は、たどる向きが負極→正極なら \(+E\)、正極→負極なら \(-E\) とする。
- 抵抗は、たどる向きが電流の向きと同じなら電圧降下 \(+RI\)(これを方程式の右辺に置くなどルールを決める)、逆なら電圧上昇 \(-RI\)(または電圧降下 \(-RI\))として扱う。一貫したルールを自分の中で確立することが大切です。
- 電流の向きの解釈ミス:
- 原因: 計算結果で電流が負の値になった場合、その物理的意味(仮定した向きと逆)を正しく捉えられない。
- 対策: 「負の値 = 仮定した向きとは逆向きに、その絶対値の大きさで流れる」と常に意識する。その後の電力計算などでは、電流の「大きさ(絶対値)」を用いることが多い点も注意。
- 連立方程式の計算ミス:
- 原因: 式の数が増えたり、係数が複雑になったりすると単純な計算ミスが起こりやすい。
- 対策: 途中計算を丁寧に見やすく書く。検算する時間があれば行う(例えば、求まった電流値を別の閉回路の式に代入して成り立つか確認するなど)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- 電流: 電気の粒の流れ。川の流れのように、分岐点では流れ込む量と流れ出す量が保存される(キルヒホッフ第1法則)。
- 電位: 電気的な高さ。電池は水を汲み上げるポンプのように電位を高くし(エネルギーを供給)、抵抗は滝や段差のように電位を低くする(エネルギーを消費)。
- キルヒホッフ第2法則: ある地点からスタートして回路を一周して同じ地点に戻ってきたとき、トータルの高さの変化(電位差)はゼロになる、というイメージ。
- 電池の充電: 通常、電池はエネルギーを供給しますが、逆向きに電流が流れ込むと、外部からエネルギーを蓄える「充電」状態になります。これは、ポンプで水を低いところから高いところへ無理やり押し上げるイメージにも似ています。
- 図示の有効性:
- 電流の矢印: 回路図に、仮定した電流の向きと記号(\(I_1, I_2\) など)を明確に書き込むことは、立式の第一歩です。
- 閉回路の明示: キルヒホッフの第2法則を適用する閉回路を、色ペンなどでなぞったり、たどる向きを矢印で示したりすると、どの素子をどのように通過するかが視覚的に分かりやすくなり、符号ミスを防ぐのに役立ちます。
- 電位の分布の概略図: 各点の電位の高低をイメージし、簡単な電位図(グラフのようなもの)を描いてみるのも、回路全体の理解を深めるのに役立つことがあります(特に複雑な場合)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの法則(第1法則、第2法則):
- 選定理由: 回路が抵抗の直列・並列接続だけでは簡単に解析できない場合(特に複数の電源が含まれる場合)の、最も基本的かつ普遍的な解析手法だからです。
- 適用根拠: 第1法則は電荷保存則に、第2法則はエネルギー保存則(電位が保存量であること)に基づいています。これらの根源的な法則が、どんな複雑な回路にも適用できる理由です。
- オームの法則 (\(V=RI\)):
- 選定理由: 抵抗という素子の基本的な性質(電圧と電流の比例関係)を表すため、抵抗が含まれる回路では必ずと言っていいほど使用します。
- 適用根拠: キルヒホッフの第2法則で「電圧降下」を計算する際に、\(RI\) の形で具体的に記述するために必要です。
- 電力の公式 (\(P=RI^2\), \(P=EI\)):
- 選定理由: 問題で消費電力や供給電力が問われているため、これらのエネルギー変換率を計算する公式を選びます。
- 適用根拠: \(P=RI^2\) は抵抗で単位時間あたりにジュール熱として失われるエネルギーを、\(P=EI\) は電池で単位時間あたりに変換される(供給または吸収される)エネルギーを表しています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【準備段階】
- 回路図を正確に読み取り、与えられた数値(起電力、抵抗値)を整理する。
- 何を求めるべきか(未知の電流、電力など)を明確にする。
- 【電流の設定】
- 回路の各部分を流れる電流に、向きを仮定して記号を割り当てる(例:\(I_1, I_2\))。
(模範解答では \(R_3\) に \(I_1\)、\(R_1\) に \(I_2\)(右向き)、\(R_2\) に \(I_1+I_2\)(右向き) と設定)
- 回路の各部分を流れる電流に、向きを仮定して記号を割り当てる(例:\(I_1, I_2\))。
- 【キルヒホッフの法則による立式】
- 独立な閉回路を、未知数の電流の数だけ選ぶ。
- 選んだ各閉回路について、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用し、電流に関する方程式を立てる。(本問(1)の式①、②がこれに相当)
- 必要に応じて、キルヒホッフの第1法則(電流則)も用いて電流間の関係式を作る(本問では \(I_1+I_2\) という設定に織り込まれている)。
- 【連立方程式の求解】
- 立式した連立一次方程式を、加減法や代入法などを用いて解き、各電流の値を求める。(本問(2)の前半)
- 電流の符号から、実際の電流の向きを判断する。(本問(2)の後半)
- 【各種物理量の計算】
- 求めた電流値を用いて、問題で要求されている消費電力や供給電力を計算する。(本問(3)、(4))
- 【結果の吟味・考察】
- 得られた結果が物理的に妥当か(例:エネルギー保存は成り立っているか)を考察する。(本問(5))
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 方程式の整理を丁寧に行う: 立式したキルヒホッフの法則の式は、まず各項を整理し、\(AI_1 + BI_2 = C\) のような標準的な形に直してから連立方程式を解き始めると、見通しが良くなり、ミスを減らせます。
- 符号の扱いに最大限の注意を払う:
- 電圧の上昇/下降、電流の向き、経路をたどる向きなど、符号が絡む要素が多いので、一つ一つ確認しながら計算を進めましょう。
- 特に、連立方程式を解く際の移項や、式全体にマイナスを掛ける操作などでの符号反転ミスに注意が必要です。
- 大きな数字や分数の計算は慎重に: 必要であれば、計算スペースを十分に取り、筆算などで確実に計算しましょう。
- 検算の習慣をつける(時間が許せば):
- 求まった電流値を、元の方程式(立式したもの)に代入してみて、等式が成り立つか確認する。
- あるいは、使わなかった別の閉回路で電圧則が成り立つか確認してみるのも良い検算方法です。
- 日頃の練習:
- 類似問題を数多くこなし、計算プロセスに習熟する。
- 計算過程を省略せずにノートに書く練習をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- 電流の向きと大きさ: 主要な電源からは電流が流れ出し、抵抗値の小さい経路には比較的大きな電流が流れるなど、大まかな傾向が計算結果と合っているか。極端に大きな電流値や小さな電流値が出た場合は、計算ミスを疑うきっかけになります。
- 電池の役割: この問題のように複数の電池がある場合、どちらが主に電力を供給し、どちらが充電される(あるいは両方供給する)のか、結果として妥当か考えてみましょう。\(E_1\) (100V) が \(E_2\) (30V) より起電力が大きいので、\(E_1\) が主電源となり \(E_2\) が充電されるという結果は、直感的にもあり得そうです。
- エネルギー保存の確認:
- 本問の(5)がまさにこれに当たります。供給された総電力と、消費(および充電などで吸収)された総電力が等しくなっているかを確認することは、解全体の妥当性を検証する強力な手段です。差がある場合は、計算ミスか、見落としているエネルギーの形態(例:内部抵抗での消費など、本問では無視)がないかを確認します。
- 単位の確認:
- 計算の最終結果だけでなく、途中の物理量の単位も意識しましょう。電流ならアンペア[A]、電圧ならボルト[V]、抵抗ならオーム[Ω]、電力ならワット[W]といった基本単位が正しく使われているか、常に確認する習慣が大切です。
- 極端な場合を考えてみる(思考実験):
- 例えば、ある抵抗値が非常に大きい(ほぼ断線)または非常に小さい(ほぼ短絡)としたら、回路の電流分布はどうなるはずか? それと計算方法の整合性は取れているか?などを考えてみることで、問題や公式への理解が深まることがあります(本問に直接適用する場面は少ないですが、一般的な物理の演習として有効です)。
問題117 (千葉工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、乾電池の内部抵抗に関する基本的な知識と、直流回路における合成抵抗や消費電力の計算を組み合わせた問題です。図1のグラフから乾電池の特性(起電力と内部抵抗)を読み取り、それを用いて図2の複雑な回路における電流や抵抗値を考察します。
- 乾電池K: 起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)。
- 図1: 乾電池Kに可変抵抗を接続したときの、回路を流れる電流 \(I\) と乾電池Kの両端間の電位差 \(V\) の関係を示すグラフ。
- グラフ上の点A: \((I, V) = (0.2\text{A}, 1.5\text{V})\)
- グラフ上の点B: \((I, V) = (1.2\text{A}, 1.0\text{V})\)
- 図2: 抵抗 \(10\Omega\)、\(R\Omega\)、\(12\Omega\) からなる回路。端子A, Bに乾電池Kを接続。
- 図2の条件: 乾電池Kを接続したとき、Aを流れる電流(乾電池から流れ出る電流)が \(0.20\text{A}\)。
- (1) 乾電池Kの起電力 \(E\)
- (2) 乾電池Kの内部抵抗 \(r\)
- (3) 回路を流れる電流が \(1.0\text{A}\) のときの乾電池Kの両端間の電位差 \(V\)
- (4) 図2の回路で、AB間の3つの抵抗での消費電力の和、および抵抗 \(R\) の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- 電池の端子電圧: \(V = E – rI\) (起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)、流れる電流 \(I\))
- オームの法則: \(V = IR\)
- 抵抗の合成:
- 直列接続: \(R_{\text{直列}} = R_1 + R_2 + \cdots\)
- 並列接続: \(\displaystyle\frac{1}{R_{\text{並列}}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} + \cdots\)
- 消費電力: \(P = VI = RI^2 = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
問題解決の全体戦略
まず、(1)と(2)では、図1のグラフから電池の基本特性である起電力 \(E\) と内部抵抗 \(r\) を求めます。これはグラフの切片と傾き、あるいは2点を通る直線の式から求めることができます。
(3)では、(1)(2)で得られた \(E\) と \(r\) を用いて、特定の電流値における端子電圧を計算します。
(4)では、まず図2の回路に乾電池Kを接続したときの状況を考えます。与えられた電流値 \(0.20\text{A}\) は、(1)(2)で求めた電池の特性と関連付けられます。このときの端子電圧を求め、AB間の消費電力を計算します。次に、AB間の合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) を用いて表し、消費電力と電流の関係、あるいは端子電圧と電流の関係から \(R_{\text{AB}}\) の値を特定し、最終的に \(R\) の値を求めます。
問1 乾電池Kの起電力 \(E\)
問2 乾電池Kの内部抵抗 \(r\)
思考の道筋とポイント (問1, 問2共通)
乾電池の両端間の電位差 \(V\) と回路を流れる電流 \(I\) の間には、\(V = E – rI\) という関係があります。ここで、\(E\) は起電力、\(r\) は内部抵抗です。この式は \(I\) を横軸、\(V\) を縦軸にとると、傾きが \(-r\) で、\(V\)切片(\(I=0\) のときの \(V\))が \(E\) となる直線を表します。
図1のグラフから2点の座標 \((I_1, V_1) = (0.2\text{A}, 1.5\text{V})\) と \((I_2, V_2) = (1.2\text{A}, 1.0\text{V})\) を読み取り、これらの点を通る直線の傾きと \(V\)切片を求めることで、\(r\) と \(E\) を決定します。
この設問における重要なポイント (問1, 問2共通)
- 電池の端子電圧の式 \(V=E-rI\) を理解している。
- グラフから直線の傾きと切片を読み取る(または計算する)方法を理解している。
- 傾きが内部抵抗の負の値 (\(-r\))、\(V\)切片が起電力 \(E\) に対応することを把握する。
具体的な解説と立式 (問1, 問2共通)
乾電池の端子電圧 \(V\)、起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)、電流 \(I\) の関係式は以下で与えられます。
$$V = E – rI \quad \cdots ①$$
この式は、\(V\) を \(I\) の関数とみると、傾き \(-r\)、\(V\) 切片 \(E\) の一次関数です。
図1のグラフから2点 \((0.2\text{A}, 1.5\text{V})\) と \((1.2\text{A}, 1.0\text{V})\) を読み取ります。
直線の傾きは \(\displaystyle\frac{\Delta V}{\Delta I}\) で計算できます。
$$\text{傾き} = \displaystyle\frac{1.0\text{V} – 1.5\text{V}}{1.2\text{A} – 0.2\text{A}} \quad \cdots ②$$
この傾きが \(-r\) に等しいので、
$$-r = \text{傾き} \quad \cdots ③$$
起電力 \(E\) は、\(I=0\) のときの \(V\) の値(\(V\)切片)です。式①の形から、グラフの直線を \(I=0\) まで延長したときの \(V\) の値が \(E\) となります。
または、求めた傾き \(-r\) とグラフ上の1点 \((I_A, V_A) = (0.2\text{A}, 1.5\text{V})\) を用いて、式①から \(E\) を求めることができます。
$$V_A = E – rI_A \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 電池の端子電圧: \(V = E – rI\)
- 直線の傾きの定義
まず、式②を用いてグラフの傾きを計算します。
$$\text{傾き} = \displaystyle\frac{1.0 – 1.5}{1.2 – 0.2} = \displaystyle\frac{-0.5}{1.0} = -0.50 \text{ V/A (または } \Omega \text{)}$$
次に、式③から内部抵抗 \(r\) を求めます。
$$-r = -0.50 \Omega$$$$r = 0.50 \Omega$$
これが問2の答えです。
次に、起電力 \(E\) を求めます。式④に \(V_A = 1.5\text{V}\)、\(I_A = 0.2\text{A}\)、そして求めた \(r = 0.50\Omega\) を代入します。
$$1.5\text{V} = E – (0.50\Omega \times 0.2\text{A})$$$$1.5 = E – 0.10$$$$E = 1.5 + 0.10 = 1.6 \text{ V}$$
これが問1の答えです。
【別解:直線の式を立てる方法】
グラフが2点 \((0.2, 1.5)\) と \((1.2, 1.0)\) を通る直線の式は、
$$V – 1.5 = \displaystyle\frac{1.0-1.5}{1.2-0.2}(I-0.2)$$$$V – 1.5 = \displaystyle\frac{-0.5}{1.0}(I-0.2)$$$$V – 1.5 = -0.5(I-0.2)$$$$V – 1.5 = -0.5I + 0.1$$$$V = -0.5I + 1.6 \quad \cdots ⑤$$
この式⑤と、電池の基本式 \(V = E – rI\) (式①) の係数を比較します。
$$E = 1.6 \text{V}$$$$r = 0.50 \Omega$$
電池には、電気を送り出す力(起電力 \(E\))と、電気の流れにくさ(内部抵抗 \(r\))があります。電池から電流 \(I\) が流れるとき、電池の両端の電圧 \(V\) は \(V = E – rI\) という式で表されます。これは、グラフにすると直線になります。
- 内部抵抗 \(r\) を求める: グラフの傾きが \(-r\) を表します。グラフから2点(例えば \(I=0.2\text{A}\) のとき \(V=1.5\text{V}\)、\(I=1.2\text{A}\) のとき \(V=1.0\text{V}\))を選び、傾きを計算します。傾きは \(\frac{(1.0-1.5)}{(1.2-0.2)} = -0.5\) となります。なので、\(-r = -0.5\) から \(r = 0.50\Omega\) です。
- 起電力 \(E\) を求める: 起電力 \(E\) は、電流 \(I\) が \(0\) のときの電圧 \(V\) の値です(グラフの \(V\)軸との交点)。求めた \(r\) の値とグラフ上の1点(例えば \(I=0.2\text{A}, V=1.5\text{V}\))を \(V = E – rI\) の式に代入して \(E\) を計算します。\(1.5 = E – 0.50 \times 0.2\) を解くと \(E = 1.6\text{V}\) となります。
乾電池Kの起電力 \(E\) は \(1.6\text{V}\)、内部抵抗 \(r\) は \(0.50\Omega\) です。これらの値は、一般的な乾電池の特性として妥当な範囲です。グラフが右下がりであることからも、内部抵抗が存在し、電流が増えるほど端子電圧が下がることが確認できます。
問3 乾電池Kの両端間の電位差
思考の道筋とポイント
問1、問2で求めた起電力 \(E\) と内部抵抗 \(r\) の値(または導出した \(V\) と \(I\) の関係式 \(V = -0.5I + 1.6\))を使って、\(I=1.0\text{A}\) のときの \(V\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 電池の端子電圧の式 \(V=E-rI\) を利用する。
- 既に求めた \(E\) と \(r\) の値、あるいは \(V\) と \(I\) の関係式を正しく用いる。
具体的な解説と立式
乾電池の端子電圧 \(V\) と電流 \(I\) の関係は、式⑤ \(V = -0.5I + 1.6\) で与えられています。
この式に \(I=1.0\text{A}\) を代入します。
$$V = -0.5 \times 1.0 + 1.6 \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- 電池の端子電圧: \(V = E – rI\) (またはグラフから導いた \(V-I\) 関係式)
式⑥を計算します。
$$V = -0.5 + 1.6$$$$V = 1.1 \text{ V}$$
電池の両端の電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) の間には、\(V = -0.5I + 1.6\) という関係があることが(1)(2)で分かりました(または \(E=1.6\text{V}, r=0.50\Omega\) なので \(V = 1.6 – 0.50 \times I\))。
この式に、電流 \(I=1.0\text{A}\) を代入すれば、そのときの電圧 \(V\) が求まります。
\(V = -0.5 \times 1.0 + 1.6 = -0.5 + 1.6 = 1.1\text{V}\)。
回路を流れる電流が \(1.0\text{A}\) のとき、乾電池Kの両端間の電位差は \(1.1\text{V}\) です。これは図1のグラフ上の点 \((1.0, 1.1)\) に対応し、グラフの直線関係と整合しています。
問4 消費電力の和と\(R\)
思考の道筋とポイント
まず、乾電池Kから \(I = 0.20\text{A}\) の電流が流れ出たときの、乾電池Kの端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) を求めます。これは(1)(2)で求めた電池の特性 \(V = E-rI\) (または \(V = -0.5I+1.6\))から計算できます。
AB間の3つの抵抗での消費電力の和は、この端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) と電流 \(I\) を用いて \(P = V_{\text{AB}}I\) で計算できます。
次に、抵抗 \(R\) を求めるために、図2のAB間の合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) を用いて表します。そして、オームの法則 \(V_{\text{AB}} = R_{\text{AB}}I\) を利用して \(R_{\text{AB}}\) の値を求め、そこから \(R\) を算出します。
この設問における重要なポイント
- 電池の特性 (\(V=E-rI\)) を使って、特定の電流が流れるときの端子電圧を求める。
- 回路全体の消費電力は、電池の端子電圧と回路全体を流れる電流の積で計算できる。
- 並列回路と直列回路の合成抵抗の計算方法を正しく適用する。
- オームの法則 \(V=RI\) を回路全体(または部分)に適用する。
具体的な解説と立式
乾電池Kを端子A, Bに接続し、Aから \(I = 0.20\text{A}\) の電流が流れたとします。この電流は乾電池Kから流れ出る電流です。
このときの乾電池Kの端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) は、式⑤ \(V = -0.5I + 1.6\) を用いて計算できます。
$$V_{\text{AB}} = -0.5 \times 0.20 + 1.6 \quad \cdots ⑦$$
AB間の3つの抵抗での消費電力の和 \(P_{\text{消費}}\) は、この端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) と電流 \(I\) を用いて、
$$P_{\text{消費}} = V_{\text{AB}}I \quad \cdots ⑧$$
次に、図2のAB間の合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を求めます。
上側の枝の抵抗は \(R_{\text{上}} = 10\Omega + R\)。
下側の枝の抵抗は \(R_{\text{下}} = 12\Omega\)。
これらが並列に接続されているので、合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) は、
$$\displaystyle\frac{1}{R_{\text{AB}}} = \frac{1}{R_{\text{上}}} + \frac{1}{R_{\text{下}}} = \frac{1}{10+R} + \frac{1}{12} \quad \cdots ⑨$$
また、オームの法則より、AB間の電圧 \(V_{\text{AB}}\)、電流 \(I\)、合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) の間には次の関係が成り立ちます。
$$V_{\text{AB}} = R_{\text{AB}}I \quad \cdots ⑩$$
式⑩から \(R_{\text{AB}}\) の値を求め、式⑨と等置することで \(R\) を求めます。
使用した物理公式
- 電池の端子電圧: \(V = E – rI\)
- 消費電力: \(P = VI\)
- 抵抗の合成(直列・並列)
- オームの法則: \(V = RI\)
まず、式⑦を用いて \(V_{\text{AB}}\) を計算します。
$$V_{\text{AB}} = -0.5 \times 0.20 + 1.6 = -0.10 + 1.6 = 1.5 \text{ V}$$
次に、式⑧を用いて消費電力 \(P_{\text{消費}}\) を計算します。
$$P_{\text{消費}} = 1.5\text{V} \times 0.20\text{A} = 0.30 \text{ W}$$
これがAB間の3つの抵抗での消費電力の和です。
次に \(R\) を求めます。式⑩から \(R_{\text{AB}}\) を求めます。
$$R_{\text{AB}} = \displaystyle\frac{V_{\text{AB}}}{I} = \frac{1.5\text{V}}{0.20\text{A}} = 7.5 \Omega$$
式⑨を変形して \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) で表します。
$$\displaystyle\frac{1}{R_{\text{AB}}} = \frac{12 + (10+R)}{12(10+R)} = \frac{22+R}{12(10+R)}$$
$$R_{\text{AB}} = \displaystyle\frac{12(10+R)}{22+R}$$
この \(R_{\text{AB}}\) が \(7.5\Omega\) に等しいので、
$$7.5 = \displaystyle\frac{12(10+R)}{22+R}$$
両辺に \((22+R)\) を掛けます。
$$7.5(22+R) = 12(10+R)$$
$$165 + 7.5R = 120 + 12R$$
定数項を左辺に、\(R\) の項を右辺にまとめます。
$$165 – 120 = 12R – 7.5R$$$$45 = 4.5R$$$$R = \displaystyle\frac{45}{4.5} = 10 \Omega$$
- AB間の電圧を求める: 電池から \(0.20\text{A}\) の電流が流れるとき、電池の端子電圧(これがAB間の電圧 \(V_{\text{AB}}\) になる)を計算します。\(V = -0.5I + 1.6\) の式に \(I=0.20\text{A}\) を代入すると、\(V_{\text{AB}} = 1.5\text{V}\) となります。
- 消費電力を求める: AB間の3つの抵抗全体での消費電力は、AB間の電圧 \(V_{\text{AB}}\) とそこを流れる電流 \(I\) を使って、\(P = V_{\text{AB}}I\) で計算できます。\(P = 1.5\text{V} \times 0.20\text{A} = 0.30\text{W}\) です。
- AB間の合成抵抗を求める(1): オームの法則 \(V_{\text{AB}} = R_{\text{AB}}I\) から、AB間の全体の抵抗 \(R_{\text{AB}}\) は \(R_{\text{AB}} = V_{\text{AB}}/I = 1.5\text{V} / 0.20\text{A} = 7.5\Omega\) となります。
- AB間の合成抵抗を求める(2): 図2の回路から、AB間の全体の抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) を使って式で表します。上の枝は \(10\Omega\) と \(R\) が直列なので \(10+R\)。下の枝は \(12\Omega\)。これらが並列なので、\(\frac{1}{R_{\text{AB}}} = \frac{1}{10+R} + \frac{1}{12}\)。これを整理すると \(R_{\text{AB}} = \frac{12(10+R)}{22+R}\) となります。
- \(R\)の値を求める: ステップ3で求めた \(R_{\text{AB}}=7.5\Omega\) とステップ4の式を等しいと置いて \(R\) について解きます。\(7.5 = \frac{12(10+R)}{22+R}\) を解くと \(R=10\Omega\) となります。
AB間の3つの抵抗での消費電力の和は \(0.30\text{W}\) です。また、抵抗 \(R\) の値は \(10\Omega\) です。これらの値は、基本的な回路法則と電池の特性から導出されました。単位もそれぞれワット[W]とオーム[\(\Omega\)]で適切です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電池の端子電圧と内部抵抗の関係 (\(V=E-rI\)): 乾電池のような実際の電源の振る舞いを理解する上で最も基本的な式です。グラフとの関連付け(\(V\)切片が\(E\)、傾きが\(-r\))をしっかり押さえることが重要です。
- オームの法則 (\(V=IR\)): 回路のどの部分にも適用できる普遍的な法則です。合成抵抗を考える際にも、個々の抵抗にかかる電圧や電流を考える際にも使います。
- 抵抗の合成(直列・並列): 複雑な回路の全抵抗を求めるための基本的な手法です。図2の回路では、直列部分と並列部分を正しく見抜く必要がありました。
- 電力の計算 (\(P=VI, P=RI^2\)): 回路で消費されるエネルギーの割合(電力)を計算する公式です。状況に応じて使いやすい形を選びます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 電池の内部抵抗が関わる問題全般(グラフの読み取り、回路計算)。
- 複雑な抵抗回路の合成抵抗を求める問題。
- 回路全体の消費電力や、特定の抵抗での消費電力を求める問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- グラフの情報: \(V-I\)グラフが与えられた場合、まず \(V=E-rI\) の関係を思い出し、グラフから \(E\) と \(r\) を読み取れないか検討します。切片や傾きに注目します。
- 回路の構造: 複雑な回路でも、直列部分と並列部分に分解して考えることが基本です。どこが直列でどこが並列かを図から正確に読み取ります。
- 既知の量と未知の量: 問題で何が与えられていて、何を求めるべきかを明確にします。一つの設問で得られた結果が、次の設問を解くための既知の量になることが多いです。
- 適用する法則の選択: 電圧、電流、抵抗の関係ならオームの法則。電池の特性なら \(V=E-rI\)。電力なら \(P=VI\) など、状況に応じて適切な公式を選びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- グラフの読み取りミス: 傾きや切片の値を読み間違えたり、軸の単位を見落としたりする。
- 対策: グラフの軸のラベル(物理量と単位)をしっかり確認する。傾きを計算する際は、2点の座標を正確に読み取り、計算ミスをしないように注意する。
- 内部抵抗 \(r\) と外部抵抗 \(R\) の混同: 電池の端子電圧の式 \(V=E-rI\) における \(r\) は内部抵抗であり、回路に接続された外部の抵抗 \(R\) とは区別する。
- 対策: 式の意味を正確に理解し、文字記号が何を表しているかを常に意識する。
- 合成抵抗の計算ミス: 特に並列接続の場合の逆数の和の計算や、その後の逆数に戻す操作を忘れやすい。
- 対策: 並列接続の公式 \(\frac{1}{R_{\text{並列}}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\) を正確に使い、計算過程を丁寧に書く。分数計算は慎重に。
- 電流と電圧の対応関係の誤り: オームの法則 \(V=RI\) や電力の公式 \(P=VI\) を使う際に、どの部分の電圧・電流・抵抗(または電力)について考えているのかが曖昧だと間違える。
- 対策: 回路図の特定の部分(例えばAB間全体、あるいは個々の抵抗)に着目し、その部分に対応する電圧、電流、抵抗(電力)の値を用いるように意識する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- \(V-I\)グラフ: 電池から大きな電流を取り出そうとすると(外部抵抗を小さくすると)、電池内部での電圧降下 (\(rI\)) が大きくなり、結果として電池の外に出てくる電圧(端子電圧 \(V\))が下がっていく様子をイメージする。\(I=0\) のときが、電池が最も元気な状態(起電力 \(E\))に対応する。
- 図2の回路: 電流がA点から入り、上の道(\(10\Omega\) と \(R\))と下の道(\(12\Omega\))に分かれて流れ、B点から出ていく様子を水の流れのようにイメージする。各道での流れにくさ(抵抗)に応じて電流が分配される。
- 図示の有効性:
- \(V-I\)グラフでは、切片が \(E\)、傾きが \(-r\) であることを書き込むと理解が深まる。
- 図2の回路では、各抵抗を流れる電流や各抵抗にかかる電圧を文字で置いて図に書き込み、関係式を立てる際に参照するとよい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=E-rI\): これは電池という電源のモデルを表す式。起電力 \(E\) という「理想的な電圧源」と、それと直列につながった内部抵抗 \(r\) が電池の内部にあると考える。電流 \(I\) が流れると内部抵抗 \(r\) で \(rI\) だけ電圧が下がるため、外に出てくる電圧 \(V\) は \(E-rI\) となる。
- 合成抵抗の公式: 回路全体を一つの抵抗とみなしたときに、その抵抗値がどうなるかを示すもの。電流の流れ方(一本道か分岐か)によって直列・並列の考え方を使い分ける。物理的には、同じ電流が流れるなら電圧降下は抵抗に比例(直列)、同じ電圧がかかるなら電流は抵抗に反比例(並列)という性質から導かれる。
- \(P=VI\): 電力の定義の一つ。単位時間に電荷 \(q\) が電位差 \(V\) のある区間を移動するときにする仕事(またはされる仕事)が \(qV\)。電流 \(I=q/t\) なので、電力(単位時間あたりの仕事)は \(VI\) となる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1)(2) 電池の特性決定:
- \(V=E-rI\) の関係を認識。
- グラフから2点の \((I,V)\) 座標を読み取る。
- 2点から直線の傾き \(-r\) と \(V\)切片 \(E\) を計算する(または連立方程式を解く)。
- (3) 特定電流時の端子電圧:
- 求めた \(E, r\) (または \(V-I\) 関係式) に指定された電流 \(I=1.0\text{A}\) を代入して \(V\) を計算。
- (4) 複雑な回路の解析:
- 指定された電流 \(I=0.20\text{A}\) が流れるときの電池の端子電圧 \(V_{\text{AB}}\) を \(V=E-rI\) から計算。
- AB間の消費電力 \(P_{\text{消費}}\) を \(V_{\text{AB}}I\) で計算。
- 図2のAB間の合成抵抗 \(R_{\text{AB}}\) を \(R\) を使って式で表す(直列・並列の合成)。
- オームの法則 \(V_{\text{AB}} = R_{\text{AB}}I\) から \(R_{\text{AB}}\) の数値を計算。
- 上記2つの \(R_{\text{AB}}\) の表現を等置し、\(R\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの読み取りと傾き計算: 座標の読み間違い、引き算の順序(\(\Delta V, \Delta I\) の対応)に注意。
- 有効数字: 問題文やグラフの数値の有効数字を意識し、最終的な答えも適切な桁数で出す(本問の模範解答は有効数字2桁)。
- 合成抵抗の計算(特に並列): \(\frac{1}{R_p} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\) の計算後、\(R_p\) を求める際に逆数を取るのを忘れない。通分計算も慎重に。
- 方程式の変形・整理: 特に分数や小数を含む方程式を解く際は、焦らず一段階ずつ丁寧に行う。検算も有効。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な値のオーダー感覚:
- 乾電池の起電力 \(E\) は \(1.5\text{V}\) 程度、内部抵抗 \(r\) は数Ω以下であることが多い。今回の \(E=1.6\text{V}, r=0.50\Omega\) は妥当。
- 抵抗値 \(R\) が負になったり、極端に大きな値になったりしないか確認する。
- グラフとの整合性: (3)で計算した値が、図1のグラフ上の点としてプロットできるか、直線関係から大きく外れていないかを確認する。
- 単位の確認: 計算結果の単位が、求めたい物理量の単位(電圧ならV、抵抗ならΩ、電力ならW)と一致しているか常に意識する。
問題118 (岡山大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、直流回路における電圧測定の方法と、電位差計を用いた電池の起電力測定に関するものです。大きく分けて3つの設問があります。
- 設問(1): 図1のように、内部抵抗を持つ電池に内部抵抗を持つ電圧計を接続したとき、電圧計が示す値を求めます。ここでは、電圧計を接続することによる回路への影響(分圧)を理解しているかが問われます。
- 設問(2): 図2の電位差計の回路で、既知の起電力を持つ標準電池 \(E_S\) を用い、検流計に電流が流れないように接点Cを調整したときの抵抗値 \(R_S\) を、回路を流れる電流 \(I\) などを用いて表します。電位差計の基本原理の理解が鍵となります。
- 設問(3): 設問(2)に続き、今度は測定したい電池D(起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\))を電位差計に接続し、同様に検流計に電流が流れない条件での抵抗値 \(R\) を用いて、電池Dの起電力 \(E\) を既知の量で表します。設問(2)の結果を利用して、電位差計による起電力測定の公式を導き出す流れになります。
- 図1:
- 電池D: 起電力 \(E\)[V]、内部抵抗 \(r\)[Ω]
- 電圧計V: 内部抵抗 \(r_V\)[Ω]
- 図2:
- 電池D: 起電力 \(E\)[V]、内部抵抗 \(r\)[Ω] (図1と同じもの)
- 電池 \(E_0\): (抵抗ABに電流を流すための電源)
- 抵抗AB: 太さが一様で、接点Cの位置でAC間の抵抗値が読み取れる。
- 検流計G: 電流が流れているかどうかを検出する。
- 標準電池 \(E_S\): 既知の起電力 \(E_S\)[V]
- スイッチS1, S2
- S1を開いたとき、抵抗ABに流れる電流を \(I\)[A] とする。
- (1) 図1において電圧計Vが示す値。
- (2) 図2において、S1を閉じ、S2を①に入れ、検流計Gに電流が流れないときのAC間の抵抗値 \(R_S\)。
- (3) 図2において、S2を②に入れ、検流計Gに電流が流れないときのAC間の抵抗値を \(R\) としたとき、電池Dの起電力 \(E\) を \(E_S, R_S, R\) で表した式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- オームの法則: 抵抗 \(R\) の両端の電圧 \(V\) と、流れる電流 \(I\) の関係 \(V=RI\)。
- キルヒホッフの法則: 特に第二法則(電圧則)は、閉回路における電位の関係を示します。
- 電池の端子電圧: 電池が電流を供給しているとき、その端子間の電圧 \(V\) は、起電力 \(E\) と内部抵抗 \(r\)、電流 \(I\) を用いて \(V = E – rI\) と表されます。電流が流れていなければ \(V=E\) です。
- 電位差計の原理: 検流計に電流が流れないという条件は、検流計が接続されている2点間の電位差が0であること、つまりその2点の電位が等しいことを意味します。これを利用して、未知の電圧や起電力を精密に測定します。
問1
思考の道筋とポイント
図1の回路について考えます。電池D、その内部抵抗 \(r\)、そして内部抵抗 \(r_V\) を持つ電圧計Vが実質的に一つの閉回路を形成しています。この回路に流れる電流を \(i\) とします。
電圧計が示す値 \(V\) は、電圧計の両端の電位差です。これはオームの法則により \(V = r_V i\) と表すことができます。
また、電池Dの端子電圧もこの \(V\) に等しくなります。電池の起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)、そして回路に流れる電流 \(i\) の間には \(V = E – ri\) という関係があります。
これら2つの \(V\) に関する式を連立させ、電流 \(i\) を消去することで、電圧計の指示値 \(V\) を \(E, r, r_V\) を用いて表します。
この設問における重要なポイント
- 回路を流れる電流を \(i\) とおく。
- 電圧計の指示値 \(V\) は、\(V = r_V i\) である。
- 電池の端子電圧も \(V\) であり、\(V = E – ri\) である。
- 上記2式から \(i\) を消去する。
具体的な解説と立式
図1の回路において、電池Dから電圧計Vを通って流れる電流を \(i\) とします。
電圧計Vが示す値は、電圧計自身の両端の電位差です。電圧計の内部抵抗が \(r_V\) なので、オームの法則より、
$$V = r_V i \quad \cdots ①$$
ここで、電圧計の指示値を \(V\) としています(問題文の空欄(1)に相当)。
一方、電池Dの端子間に電圧計Vが接続されているので、電池Dの端子電圧も \(V\) です。電池の起電力が \(E\)、内部抵抗が \(r\) なので、端子電圧 \(V\) は次のように表されます。
$$V = E – ri \quad \cdots ②$$
式①と②から電流 \(i\) を消去して \(V\) を求めます。
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- 電池の端子電圧 (放電時): \(V = E – rI\)
式①を \(i\) について解くと、
$$i = \displaystyle\frac{V}{r_V} \quad \cdots ③$$
この式③を式②に代入します。
$$V = E – r \left( \displaystyle\frac{V}{r_V} \right)$$
この式を \(V\) について整理します。まず、右辺の第2項を左辺に移項します。
$$V + r \displaystyle\frac{V}{r_V} = E$$
左辺を \(V\) でくくります。
$$V \left( 1 + \displaystyle\frac{r}{r_V} \right) = E$$
括弧の中を通分します。 \(1 + \displaystyle\frac{r}{r_V} = \displaystyle\frac{r_V}{r_V} + \displaystyle\frac{r}{r_V} = \displaystyle\frac{r_V+r}{r_V}\)。
$$V \left( \displaystyle\frac{r_V+r}{r_V} \right) = E$$
最後に、両辺に \(\displaystyle\frac{r_V}{r_V+r}\) を掛けて \(V\) を求めます。
$$V = \displaystyle\frac{r_V}{r_V+r} E \quad \cdots ④$$
- 回路に流れる電流を \(i\) とします。
- 電圧計が示す電圧 \(V\) は、電圧計の内部抵抗 \(r_V\) と電流 \(i\) を使って \(V = r_V i\) と書けます。
- 同じ電圧 \(V\) は、電池の性質から \(V = E – ri\) とも書けます(\(E\) は起電力、\(r\) は内部抵抗)。
- 最初の式から \(i = V/r_V\) となるので、これを二番目の式に代入すると \(V = E – r(V/r_V)\) となります。
- この式を \(V\) について解くと、\(V = \displaystyle\frac{r_V}{r_V+r}E\) が得られます。これは、電池の起電力 \(E\) が、電圧計の内部抵抗 \(r_V\) と電池の内部抵抗 \(r\) の和に対して、\(r_V\) の割合で分圧されることを意味しています。
電圧計Vが示す値は \(V = \displaystyle\frac{r_V}{r_V+r}E\) [V] です。
この結果は、電池の起電力 \(E\) が、電池の内部抵抗 \(r\) と電圧計の内部抵抗 \(r_V\) との直列回路において、\(r_V\) にかかる分圧として現れることを示しています。
もし電圧計の内部抵抗 \(r_V\) が電池の内部抵抗 \(r\) に比べて非常に大きければ(\(r_V \gg r\))、\(r_V+r \approx r_V\) となり、\(V \approx E\) となります。これは、高性能な電圧計ほど起電力に近い値を示すという事実に合致します。
問2
思考の道筋とポイント
図2の回路は「電位差計」と呼ばれる装置の原理を示しています。
スイッチS1を閉じ、S2を①に入れると、標準電池 \(E_S\) が検流計Gを介して抵抗ABのAC部分に接続されます。
「検流計Gに電流が流れない」という条件が最も重要です。これは、検流計Gの両端の電位が等しいことを意味します。具体的には、標準電池 \(E_S\) の正極(スイッチS2の①側端子)の電位と、抵抗線上の点Cの電位が等しくなります。
標準電池 \(E_S\) の回路部分には電流が流れていないので、その両端の電位差は起電力 \(E_S\) そのものです。
一方、抵抗ABには電池 \(E_0\) によって電流 \(I\) が流れています(問題文で「S1を開いたとき、ABに流れる電流を \(I\)[A]とする」とあり、この \(I\) がS1を閉じた後もABを流れる主電流であると解釈します。検流計部分に電流が分岐しないため、この解釈が成り立ちます)。AC間の抵抗値が \(R_S\) なので、オームの法則によりAC間の電位降下は \(R_S I\) となります。
これらの電位差が等しい(\(E_S = R_S I\))という関係式を立て、\(R_S\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- 検流計Gに電流が流れない \(\iff\) Gの両端の電位が等しい。
- 標準電池 \(E_S\) に電流が流れないため、その端子電圧は起電力 \(E_S\) に等しい。
- 抵抗ABには電流 \(I\) が流れており、AC間の抵抗は \(R_S\)。したがってAC間の電位降下は \(V_{\text{AC}} = R_S I\)。
- 電位差計の釣り合い条件から \(E_S = V_{\text{AC}}\)。
具体的な解説と立式
スイッチS1を閉じ、S2を①に入れた状態を考えます。
検流計Gに電流が流れないという条件は、検流計の接続点(標準電池 \(E_S\) の正極側と点C)の電位が等しいことを意味します。
このとき、標準電池 \(E_S\) を含む閉回路には電流が流れません。したがって、標準電池 \(E_S\) の端子電圧は、その起電力 \(E_S\) に等しくなります。
抵抗ABには、電池 \(E_0\) によって電流 \(I\) が流れています。設問の指示より、この電流はS1が開いているときも閉じているとき(ただしGに電流が流れない場合)も \(I\) で一定であるとします。
AC間の抵抗値が \(R_S\) なので、オームの法則によりAC間の電位降下 \(V_{\text{AC}}\) は、
$$V_{\text{AC}} = R_S I \quad \cdots ⑤$$
検流計Gに電流が流れないという釣り合いの条件から、標準電池の起電力 \(E_S\) がAC間の電位降下 \(V_{\text{AC}}\) に等しくなります。
$$E_S = V_{\text{AC}} \quad \cdots ⑥$$
したがって、式⑤と⑥より、
$$E_S = R_S I \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- 電位差計の釣り合い条件: (測定対象の電圧) = (抵抗線部分の電圧降下)
- 電池の端子電圧 (電流0のとき): \(V = E\)
式⑦ (\(E_S = R_S I\)) を \(R_S\) について解きます。
電流 \(I\) は0ではない(\(E_0\) によって流れている)ので、両辺を \(I\) で割ることができます。
$$R_S = \displaystyle\frac{E_S}{I} \quad \cdots ⑧$$
- 電位差計の基本的な使い方です。スイッチS2を①にし、標準電池 \(E_S\) をつなぎます。
- 検流計Gの針が0を指すように、接点Cの位置を調整します。これは、C点の電位が、\(E_S\) のプラス側の電位とちょうど同じになったことを意味します。
- このとき、\(E_S\) には電流が流れていないので、\(E_S\) の両端の電圧は起電力 \(E_S\) そのものです。
- 一方、抵抗線ABには、上の大きな電池 \(E_0\) から常に電流 \(I\) が流れています。AC間の抵抗が \(R_S\) なので、A点とC点の間の電圧(電位差)は、オームの法則から \(R_S \times I\) となります。
- 検流計の針が0を指すのは、\(E_S\) と \(R_S I\) が等しくなったときなので、\(E_S = R_S I\) という式が成り立ちます。
- これを \(R_S\) について解くと、\(R_S = E_S / I\) が得られます。
AC間の抵抗値 \(R_S\) は、\(R_S = \displaystyle\frac{E_S}{I}\) [Ω] となります。
この式は、既知の起電力 \(E_S\) と、抵抗ABを流れる電流 \(I\) (これは \(E_0\) とAB全体の抵抗で決まる一定値)が分かれば、釣り合いの位置の抵抗値 \(R_S\) が一意に決まることを示しています。電流 \(I\) はこの時点では未知数ですが、次の設問(3)でこの \(I\) を消去する形で最終的な答えを導きます。
問3
思考の道筋とポイント
次に、スイッチS2を②に入れます。これにより、標準電池 \(E_S\) の代わりに、起電力 \(E\) と内部抵抗 \(r\) を持つ電池Dが検流計Gを介して抵抗ABのAC部分に接続されます。
再び検流計Gに電流が流れないように接点Cの位置を調整すると、そのときのAC間の抵抗値が \(R\) であったとされています。
ここでも設問(2)と全く同じ論理展開が適用できます。
「検流計Gに電流が流れない」ので、電池D(およびその内部抵抗 \(r\))には電流が流れません。したがって、電池Dの端子電圧は、その起電力 \(E\) そのものになります(内部抵抗 \(r\) による電圧降下は \(r \times 0 = 0\) です)。
この起電力 \(E\) が、抵抗ABのAC部分(抵抗値 \(R\))の電位降下に等しくなります。抵抗ABを流れる電流は、設問(2)のときと同じ \(I\) です(電源 \(E_0\) と抵抗AB全体の条件は変わっていないため)。
したがって、AC間の電位降下は \(RI\) となります。
よって、釣り合いの条件から \(E = RI\) という関係式が成り立ちます。
設問(2)で得られた \(R_S = E_S/I\) (つまり \(I = E_S/R_S\))の関係を用いて、この電流 \(I\) を消去することで、起電力 \(E\) を \(E_S, R_S, R\) で表します。
この設問における重要なポイント
- 検流計Gに電流が流れない \(\iff\) Gの両端の電位が等しい。
- 電池Dに電流が流れないため、その端子電圧は起電力 \(E\) に等しい(内部抵抗 \(r\) の影響なし)。
- 抵抗ABには電流 \(I\) が流れており、新たなAC間の抵抗は \(R\)。したがってAC間の電位降下は \(V’_{\text{AC}} = R I\)。
- 電位差計の釣り合い条件から \(E = V’_{\text{AC}}\)。
- (2)の結果 \(I = E_S/R_S\) を利用して \(I\) を消去する。
具体的な解説と立式
スイッチS2を②に入れ、再び検流計Gに電流が流れないようにCの位置を調整した状態を考えます。このときのAC間の抵抗値は \(R\) です。
検流計Gに電流が流れないため、電池D(起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\))には電流が流れません。したがって、電池Dの端子電圧は、その起電力 \(E\) に等しくなります(\(E – r \times 0 = E\))。
抵抗ABには、設問(2)のときと同じ電流 \(I\) が流れています。新たなAC間の抵抗値が \(R\) なので、オームの法則によりAC間の電位降下 \(V’_{\text{AC}}\) は、
$$V’_{\text{AC}} = R I \quad \cdots ⑨$$
検流計Gに電流が流れないという釣り合いの条件から、電池Dの起電力 \(E\) がAC間の電位降下 \(V’_{\text{AC}}\) に等しくなります。
$$E = V’_{\text{AC}} \quad \cdots ⑩$$
したがって、式⑨と⑩より、
$$E = R I \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- 電位差計の釣り合い条件: (測定対象の電圧) = (抵抗線部分の電圧降下)
- 電池の端子電圧 (電流0のとき): \(V = E\)
設問(2)の解答である式⑧ (\(R_S = \displaystyle\frac{E_S}{I}\)) より、電流 \(I\) は次のように表すことができます。
$$I = \displaystyle\frac{E_S}{R_S} \quad \cdots ⑫$$
この電流 \(I\) の表式を、式⑪ (\(E = RI\)) に代入します。
$$E = R \left( \displaystyle\frac{E_S}{R_S} \right)$$
これを整理すると、未知の起電力 \(E\) は次のように表されます。
$$E = \displaystyle\frac{R}{R_S} E_S \quad \cdots ⑬$$
- 今度はスイッチS2を②に切り替えて、起電力を測定したい電池D(起電力 \(E\))を接続します。
- 再び検流計Gの針が0になるように接点Cを調整します。このときのAC間の抵抗が \(R\) です。
- 検流計に電流が流れないということは、電池Dにも電流が流れていないので、電池Dの端子間の電圧は起電力 \(E\) そのものです。
- この電圧 \(E\) が、抵抗線ABのAC間の電圧 \(R \times I\) と等しくなっています(\(I\) は(2)のときと同じ電流)。
- したがって、\(E = RI\) という式が成り立ちます。
- (2)で \(R_S = E_S/I\) だったので、\(I = E_S/R_S\) です。これを \(E=RI\) の \(I\) に代入すると、\(E = R \times (E_S/R_S)\) となり、整理すると \(E = \displaystyle\frac{R}{R_S}E_S\) が得られます。
電池Dの起電力 \(E\) は、\(E = \displaystyle\frac{R}{R_S} E_S\) [V] と表すことができます。
この式は、電位差計を用いて未知の起電力を測定する際の基本的な関係式です。既知である標準電池の起電力 \(E_S\) と、それぞれの電池に対して検流計が0を示したときの抵抗線の抵抗値(または長さに比例するので長さそのもの) \(R_S\) および \(R\) を用いることで、未知の起電力 \(E\) を精密に求めることができることを示しています。
抵抗線ABが太さが一様であるため、AC間の抵抗はその長さに比例します。つまり、\(R_S \propto l_S\)、\(R \propto l\) (ここで \(l_S, l\) はそれぞれの場合のAC間の長さ)と書けるので、\(E = \displaystyle\frac{l}{l_S}E_S\) とも表せます。実際に実験では長さを測定することが多いです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- オームの法則 (\(V=RI\)): 回路計算の基本中の基本です。各抵抗部分での電圧と電流の関係を記述するために不可欠です。(1)の電圧計の読み取り、(2)(3)での抵抗線上の電位降下の計算に使用しました。
- 電池の端子電圧 (\(V = E – rI\)): 電池の内部抵抗の影響を理解する上で重要です。(1)では電圧計を流れる電流による内部抵抗での電圧降下を考慮しました。(2)(3)の電位差計では、測定対象の電池に電流が流れない(\(I_{\text{電池}}=0\))ため、端子電圧がそのまま起電力 \(E\) に等しくなる(\(V=E\))という点が極めて重要でした。
- 電位差計の原理(検流計の電流ゼロ): これが(2)と(3)の核心です。「検流計に電流が流れない」という条件は、「検流計の両端の電位が等しい」ことを意味し、これにより「測定したい電圧(または起電力)が、抵抗線の一部分の電位降下に等しい」という関係式を立てることができます。この原理により、測定対象から電流を取り出すことなく、その起電力を正確に測定できます。
- キルヒホッフの法則: 直接的に「キルヒホッフの法則より」と明記せずとも、(1)の \(E = V+ri\) のような関係式はキルヒホッフの第二法則(電圧則)に基づいています。複雑な回路ではより意識的な適用が必要になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 内部抵抗を持つ電池や測定器(電圧計、電流計)の内部抵抗が結果に影響を与えるタイプの問題。
- ホイートストンブリッジ回路のように、検流計(または電流計)の指示がゼロになる条件を利用して、未知の抵抗値や電圧を精密に測定する問題。
- 複数の電源や抵抗が組み合わされた直流回路で、各部分の電流や電圧を求める問題(キルヒホッフの法則が活躍)。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 「検流計に電流が流れない」「電圧計の読み」などのキーワード: これらは特定の物理状態や測定条件を示唆しており、適用すべき法則や考え方を選ぶヒントになります。
- 回路図の正確な読解: 電流がどのように分岐・合流するのか、各素子がどのように接続されているのか(直列・並列)、電位の基準点はどこかなどを把握することが第一歩です。
- 条件の整理: 何が既知で何が未知か、特別な条件(スイッチの開閉、電流ゼロなど)はないか、を明確にします。
- 電位の追跡: 特に電位差計やブリッジ回路では、回路上の各点の電位を意識し、電位差の関係式を立てることが有効です。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 電位差計: 「検流計に電流ゼロ」 \(\rightarrow\) 「検流計両端の電位差ゼロ」 \(\rightarrow\) 「比較する二つの部分の電位差が等しい」。この思考の流れを確実に押さえる。
- 内部抵抗: 電池や測定器の内部抵抗は、それに電流が流れるときにのみ影響します。電流がゼロなら、電圧降下もゼロです。この区別が重要。
- 電流 \(I\) の設定: (2)と(3)で抵抗ABを流れる電流 \(I\) は、電源 \(E_0\) と抵抗ABの全抵抗で決まるものであり、検流計の枝路の条件が変わっても(Gに電流が流れない限りは)共通であると考えるのが標準的な解釈です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 起電力と端子電圧の混同:
- 電池に電流が流れているときは、端子電圧 \(V = E – rI\) (放電時)。流れていなければ \(V=E\)。(1)では前者、(2)(3)の測定対象電池については後者が適用されました。
- 対策: 電池から電流が出入りしているか否かを常に確認する。
- 電圧計・電流計の理想的な特性と現実的な特性の区別:
- 理想的な電圧計は内部抵抗無限大、理想的な電流計は内部抵抗ゼロ。しかし、問題で内部抵抗が与えられている場合は、それを考慮に入れる必要があります。(1)がその例です。
- 対策: 問題文を注意深く読み、測定器の内部抵抗が無視できるのか、考慮すべきなのかを判断する。
- 「検流計に電流が流れない」ことの解釈:
- これは単に「その枝路に電流がない」だけでなく、数学的には「その枝路の両端の電位が等しい」という等式を立てるための非常に強力な条件です。
- 対策: この条件を見たら、すぐに「電位差が等しい部分」を探す癖をつける。
- 文字の混同・計算ミス:
- \(E, E_S, E_0\) や \(r, R, R_S, r_V\) など多くの記号が出てくるため、定義を正確に把握し、式変形の際に丁寧に扱う必要があります。
- 対策: 各記号が何を表すのかを常に意識する。複雑な計算は一度紙に書き出して確認する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- (1) 電圧計の接続: 電池の起電力 \(E\) という「電圧の源」が、内部抵抗 \(r\) と電圧計の抵抗 \(r_V\) という「抵抗の山」に分配されるイメージ。電流が流れることで、各抵抗で「電圧の降下」が起こる。
- (2)(3) 電位差計: 抵抗線ABを「電位の滑り台」とイメージします。A点を一番上として、B点に向かって電位が連続的に下がっていきます。接点Cを動かすことは、滑り台の途中の「ある高さ(電位)」を選ぶことに相当します。検流計に電流が流れないのは、測定したい電池の「高さ(起電力)」と、C点の「高さ(A点からの電位降下)」がぴったり一致したときです。
- 図示の有効性:
- 回路図に、電流の向き(仮定でも良い)を矢印で書き込む。
- 各点の電位を文字で置いたり、電位の高低を意識したりする(例:電池の+極側は-極側より電位が高い)。
- 電位差計の問題では、抵抗線上のA点、C点、B点の位置関係と、それぞれの電位の関係を図に補助的に書き込むと理解しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=RI\) (オームの法則):
- 選定理由: 抵抗があり、そこに電流が流れ、その両端の電位差を考える場面では必ず登場する基本法則。
- 適用根拠: (1)では電圧計自体が一つの抵抗とみなせる。(2)(3)では抵抗線ABのAC部分が抵抗。
- \(V = E – rI\) (電池の端子電圧):
- 選定理由: 電池に内部抵抗があり、かつ電池から電流が取り出されている状況で、電池が外部に供給できる実際の電圧を知りたい場合。
- 適用根拠: (1)では電池Dから電流 \(i\) が流れ出ている。
- \(V_{\text{端子}} = E\) (電流ゼロの場合の電池の端子電圧):
- 選定理由: 電池に電流が流れていない(\(I=0\))場合、内部抵抗による電圧降下 (\(rI\)) もゼロになるため。
- 適用根拠: (2)(3)の電位差計の釣り合い条件では、標準電池 \(E_S\) や被測定電池 \(E\) には電流が流れない。
- 検流計の電流ゼロ \(\rightarrow\) 電位差が等しい:
- 選定理由: 電位差計やホイートストンブリッジの核心原理。
- 適用根拠: 問題文で「Gに電流が流れないように」と明示的に指示されている。これにより、\(E_S = R_S I\) や \(E = RI\) といった等式が導かれる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電圧計の指示値:
- 回路を流れる電流を \(i\) とおく。
- 電圧計の指示値 \(V\) について、オームの法則から \(V = r_V i\)。
- 電池の端子電圧も \(V\) なので、\(V = E – ri\)。
- 上記2式を連立し、\(i\) を消去して \(V\) を \(E, r, r_V\) で表す。
- (2) 標準電池での釣り合い:
- 抵抗ABを流れる電流を \(I\) とする(問題設定)。
- 検流計Gに電流が流れない条件では、標準電池 \(E_S\) の起電力が、抵抗ABのAC間の電位降下 \(R_S I\) に等しい。
- したがって、\(E_S = R_S I\)。これを \(R_S\) について解く。
- (3) 未知電池での釣り合いと \(E\) の導出:
- 同様に、検流計Gに電流が流れない条件では、未知電池Dの起電力 \(E\) が、抵抗ABの新たなAC間の電位降下 \(RI\) に等しい(電池Dに電流は流れないので内部抵抗は影響しない)。
- したがって、\(E = RI\)。
- (2)で得た関係 (\(I = E_S/R_S\)) をここに代入し、\(I\) を消去して \(E\) を \(E_S, R_S, R\) で表す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 丁寧な式変形:
- (1)の \(V = E – r(V/r_V)\) から \(V\) を求める計算では、移項、通分、括り出しなどの各ステップを焦らず正確に行う。
- 分数の計算(特に(3)で \(I\) を代入する部分)は、分子・分母を間違えないように注意する。
- 記号の確認: 多くの物理量記号が登場するため、それぞれの意味を混同しないように、定義を明確にしておく。
- 単位の整合性: 今回は全て電気に関する量なので比較的単純だが、異なる種類の単位が混在する問題では、計算結果の単位が物理的に正しいものになっているかを確認する習慣をつける。
- 代入のタイミング: (3)では、先に \(E=RI\) と \(E_S=R_S I\) という関係を導き、その後で \(I\) を消去するという手順が模範解答の流れ。途中で具体的な数値を代入するのではなく、まずは文字式のまま最後まで計算し、最後に値を代入する(もしあれば)方が、見通しが良く、間違いも減らせることが多い。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- (1) \(V = \displaystyle\frac{r_V}{r_V+r}E\):
- もし電圧計の内部抵抗 \(r_V\) が無限大(理想的な電圧計)なら、\(V=E\) となり、起電力そのものを指す。これは正しい。
- もし \(r_V\) が \(r\) に比べて非常に小さいなら、\(V\) は \(E\) よりかなり小さくなる。これも、電流が多く流れて内部降下が大きくなるため妥当。
- \(r_V > 0, r \ge 0\) なので、\(0 \le \displaystyle\frac{r_V}{r_V+r} \le 1\) であり、\(V \le E\) となるのも物理的に正しい(電圧計の指示が起電力を超えることはない)。
- (3) \(E = \displaystyle\frac{R}{R_S}E_S\):
- \(R\) と \(R_S\) は同じ次元(抵抗、または長さに比例)なので、その比は無次元。したがって、\(E\) は \(E_S\) と同じ次元(電圧)となり、次元的に正しい。
- もし \(R > R_S\) ならば \(E > E_S\)、\(R < R_S\) ならば \(E < E_S\) となる。これは、より大きな起電力は、より長い抵抗線部分と釣り合うという直感と一致する。
- (1) \(V = \displaystyle\frac{r_V}{r_V+r}E\):
- 極端な場合の考察:
- (1)で \(r=0\) (理想的な電池) なら \(V=E\)。これも正しい。
- 式の対称性や構造の確認:
- (3)の式は、\(E/R = E_S/R_S (=I)\) と変形でき、起電力とそれに対応する抵抗(または長さ)の比が一定(電流 \(I\) に等しい)という、より本質的な関係を示している。
問題119 (大阪工大+日本大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、特殊な電圧-電流特性を持つ電球Lと、それを含む直流回路に関する問題です。電球Lは、通常の抵抗とは異なり、電圧と電流が単純な比例関係(オームの法則)に従いません。その特性は図1のグラフで与えられています。
スイッチSの開閉や回路構成の変更によって、電球Lにかかる電圧や流れる電流、消費電力などがどのように変化するかを、グラフと回路の法則を組み合わせて解き明かしていく必要があります。
- 図1: 電球Lの電圧(\(V\))と電流(\(I\))の特性曲線。
- 図2:
- 直流電源: 100[V] (内部抵抗は無視できるものとする)
- 電球L
- スイッチS
- 抵抗1: 50[Ω]
- 抵抗2: 100[Ω]
- (1) スイッチSが開いている状態での、電球Lにかかる電圧 \(V_L\)。
- (2) スイッチSが開いている状態での、電球Lを流れる電流 \(I_L\)。
- (3) スイッチSが開いている状態での、電球Lの消費電力 \(P_L\)。
- (4) スイッチSが閉じている状態での、電球Lの抵抗値 \(R_L\)。
- (5) スイッチSが閉じている状態での、100[Ω]の抵抗を流れる電流 \(I_{100\Omega}\)。
- (6) 50[Ω]の抵抗を電球Lに取り替え、2つのLを並列にし、スイッチSを閉じたときの回路全体での消費電力 \(P_{\text{全体}}\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- キルヒホッフの法則: 特に第二法則(電圧則)を用いて、回路における電圧の関係式を立てます。
- 非線形抵抗の扱: 電球Lのような電圧と電流が比例しない素子(非線形抵抗)は、オームの法則 \(V=RI\) の \(R\) が一定ではありません。そのため、与えられた特性曲線(図1)と、回路から導かれる電圧と電流の関係式(ロードライン)との交点から、実際の動作点を求めます。
- 直流回路の電流・電圧の分配: 直列接続や並列接続における電流と電圧の基本的な関係を理解していることが前提となります。
- 電力の計算: 消費電力は \(P=VI\) で計算します。
問1, 問2, 問3
思考の道筋とポイント
(1), (2) 電球Lにかかる電圧と電流(Sが開いているとき)
まず、スイッチSが開いている状態の回路を考えます。このとき、電球Lと100[Ω]の抵抗は直列に接続され、100[V]の直流電源につながっています。
電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。直列接続なので、100[Ω]の抵抗にも同じ電流 \(I_L\) が流れます。
キルヒホッフの第二法則(電圧則)をこの閉回路に適用すると、電源の電圧 100[V] は、電球Lでの電圧降下 \(V_L\) と100[Ω]の抵抗での電圧降下 \(100 \times I_L\) の和に等しくなります。
これにより、\(100 = V_L + 100 I_L\) という関係式が得られます。この式は、横軸を \(V_L\)、縦軸を \(I_L\) としたグラフ上では直線を表します。この直線を「ロードライン」あるいは「負荷線」と呼びます。
電球Lが実際にどのような電圧・電流で動作するかは、このロードラインと、図1で与えられた電球Lの電圧-電流特性曲線との交点によって決まります。グラフ上でこの交点を正確に読み取ることが求められます。
(3) 電球Lの消費電力(Sが開いているとき)
(1)と(2)で求めた電球Lにかかる電圧 \(V_L\) と流れる電流 \(I_L\) を用いて、電球Lの消費電力 \(P_L\) を \(P_L = V_L I_L\) の式から計算します。
この設問における重要なポイント
- (1), (2):
- スイッチSが開いている場合、電球Lと100[Ω]抵抗は直列接続。
- キルヒホッフの第二法則から、\(100 = V_L + 100 I_L\) の関係式(ロードライン)を導く。
- このロードラインと図1の特性曲線の交点をグラフから読み取る。
- (3):
- 消費電力の公式 \(P_L = V_L I_L\) を使用する。
具体的な解説と立式
(1), (2) 電球Lにかかる電圧 \(V_L\) と電流 \(I_L\)
スイッチSが開いているとき、電球Lと100[Ω]の抵抗は直列接続です。電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。100[Ω]の抵抗を流れる電流も \(I_L\) です。
キルヒホッフの第二法則より、
$$100 = V_L + 100 I_L \quad \cdots ①$$
この式①がロードラインを表します。この直線と図1の特性曲線の交点が、電球Lの動作点 (\(V_L, I_L\)) です。
直線①を図1のグラフ(横軸が電圧 \(V\)、縦軸が電流 \(I\))に描くために、2つの点を求めます。
- もし \(I_L = 0\text{ A}\) ならば、式①より \(V_L = 100\text{ V}\) となります。グラフ上の点 (100, 0) を通ります。
- もし \(V_L = 0\text{ V}\) ならば、式①より \(100 I_L = 100\) となるため \(I_L = 1\text{ A}\) です。グラフ上の点 (0, 1) を通ります。
これらの2点を結ぶ直線を引きます。(模範解答の図の赤線①に相当します。)
この直線と電球Lの特性曲線との交点をグラフから読み取ります。
(3) 電球Lの消費電力 \(P_L\)
電球Lの消費電力 \(P_L\) は、その電圧 \(V_L\) と電流 \(I_L\) の積で与えられます。
$$P_L = V_L I_L \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第二法則(電圧則)
- 電力の式: \(P = VI\)
(1), (2) グラフの読み取り
(模範解答の図を参照し、赤線①と特性曲線の交点を読み取る)
交点の座標から、
電球Lにかかる電圧 \(V_L = 40 \text{ [V]}\)
電球Lを流れる電流 \(I_L = 0.6 \text{ [A]}\)
(3) 消費電力の計算
式②に \(V_L = 40 \text{ V}\) と \(I_L = 0.6 \text{ A}\) を代入します。
$$P_L = (40 \text{ V}) \times (0.6 \text{ A}) = 24 \text{ W}$$
- (1), (2): スイッチが開いていると、電球と100Ωの抵抗がまっすぐにつながっています(直列)。電源の100Vが、電球にかかる電圧 \(V_L\) と100Ωの抵抗にかかる電圧 \(100 \times I_L\) に分けられます。この関係 \(100 = V_L + 100 I_L\) をグラフ(図1)に直線として描き、電球の特性曲線との交わる点を探します。その交点が、電球が実際に動作するときの電圧と電流です。グラフから読むと、電圧は40V、電流は0.6Aになります。
- (3): 電球が消費する電力は、「電圧 × 電流」で計算できます。(1)と(2)で求めた40Vと0.6Aを掛けると、\(40 \times 0.6 = 24\)ワットになります。
スイッチSが開いているとき、
(1) 電球Lにかかる電圧は 40 [V]。
(2) 電球Lを流れる電流は 0.6 [A]。
(3) 電球Lの消費電力は 24 [W]。
これらの値は、回路の制約(ロードライン)と電球自体の特性(特性曲線)が釣り合う点で決まります。
問4, 問5
思考の道筋とポイント
(4), (5) 電球Lの抵抗値と100Ω抵抗を流れる電流(Sが閉じているとき)
次に、スイッチSが閉じている状態の回路を考えます。このとき、電球Lと50[Ω]の抵抗は並列に接続され、この並列部分全体が100[Ω]の抵抗と直列になって100[V]の電源につながっています。
電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。並列接続なので、50[Ω]の抵抗にも同じ電圧 \(V_L\) がかかります。したがって、50[Ω]の抵抗を流れる電流 \(I_{50\Omega}\) はオームの法則から \(I_{50\Omega} = V_L / 50\) となります。
100[Ω]の抵抗には、電球Lを流れる電流 \(I_L\) と50[Ω]の抵抗を流れる電流 \(I_{50\Omega}\) の合計が流れます(キルヒホッフの第一法則)。つまり、100[Ω]の抵抗を流れる電流 \(I_{100\Omega}\) は \(I_{100\Omega} = I_L + V_L/50\) となります。これが(5)の答えとなります。
キルヒホッフの第二法則を回路全体に適用すると、電源電圧 100[V] は、並列部分の電圧降下 \(V_L\) と、100[Ω]の抵抗での電圧降下 \(100 \times I_{100\Omega}\) の和に等しくなります。
これにより、\(100 = V_L + 100 (I_L + V_L/50)\) という関係式が得られます。この式を整理すると、\(100 = 3V_L + 100I_L\) というロードラインの方程式が導かれます。
この新しいロードラインと図1の特性曲線との交点をグラフから読み取り、そのときの \(V_L\) と \(I_L\) を求めます。
(4)では、この動作点における電球Lの抵抗値 \(R_L\) を \(R_L = V_L / I_L\) から計算します。
この設問における重要なポイント
- (4), (5):
- スイッチSが閉じている場合、電球Lと50[Ω]抵抗は並列、その合成が100[Ω]抵抗と直列。
- 電球Lと50[Ω]抵抗にかかる電圧は等しく \(V_L\)。
- 100[Ω]抵抗を流れる電流は \(I_L + V_L/50\)。
- キルヒホッフの第二法則から、\(100 = V_L + 100(I_L + V_L/50)\)、整理して \(100 = 3V_L + 100I_L\) のロードラインを導く。
- このロードラインと図1の特性曲線の交点をグラフから読み取る。
- (4) 抵抗値 \(R_L = V_L / I_L\) を計算。
- (5) 100[Ω]抵抗を流れる電流 \(I_L + V_L/50\) を計算。
具体的な解説と立式
(4), (5) 電球Lの抵抗値 \(R_L\) と100[Ω]抵抗を流れる電流 \(I_{100\Omega}\)
スイッチSが閉じているとき、電球Lと50[Ω]の抵抗は並列接続です。この並列部分全体が100[Ω]の抵抗と直列になっています。
電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。
50[Ω]の抵抗にかかる電圧も \(V_L\) であり、流れる電流 \(I_{50\Omega}\) は、
$$I_{50\Omega} = \displaystyle\frac{V_L}{50} \quad \cdots ③$$100[Ω]の抵抗を流れる電流 \(I_{100\Omega}\) は、\(I_L\) と \(I_{50\Omega}\) の和なので、$$I_{100\Omega} = I_L + I_{50\Omega} = I_L + \displaystyle\frac{V_L}{50} \quad \cdots ④$$キルヒホッフの第二法則より、$$100 = V_L + 100 \times I_{100\Omega}$$式④を代入すると、$$100 = V_L + 100 \left(I_L + \displaystyle\frac{V_L}{50}\right)$$$$100 = V_L + 100 I_L + 2V_L$$$$100 = 3V_L + 100 I_L \quad \cdots ⑤$$
この式⑤が新しいロードラインを表します。この直線と図1の特性曲線の交点が、この状態での電球Lの動作点 (\(V_L, I_L\)) です。
直線⑤を図1のグラフに描くために、2つの点を求めます。
- もし \(I_L = 0\text{ A}\) ならば、式⑤より \(3V_L = 100\) となるので \(V_L = 100/3 \approx 33.3\text{ V}\) です。グラフ上の点 (33.3, 0) を通ります。
- もし \(V_L = 0\text{ V}\) ならば、式⑤より \(100 I_L = 100\) となるため \(I_L = 1\text{ A}\) です。グラフ上の点 (0, 1) を通ります。
これらの2点を結ぶ直線を引きます。(模範解答の図の赤線②に相当します。)
この直線と電球Lの特性曲線との交点をグラフから読み取ります。
読み取った \(V_L, I_L\) を用いて、(4)の電球Lの抵抗値 \(R_L\) は次のように計算されます。
$$R_L = \displaystyle\frac{V_L}{I_L} \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第一法則(電流則)
- キルヒホッフの第二法則(電圧則)
- オームの法則: \(V=RI\) (50Ω抵抗、100Ω抵抗、および電球の動作点での抵抗値計算に使用)
グラフの読み取り
(模範解答の図を参照し、赤線②と特性曲線の交点を読み取る)
交点の座標から、
電球Lにかかる電圧 \(V_L = 20 \text{ [V]}\)
電球Lを流れる電流 \(I_L = 0.4 \text{ [A]}\)
(4) 電球Lの抵抗値 \(R_L\) の計算
式⑥に \(V_L = 20 \text{ V}\) と \(I_L = 0.4 \text{ A}\) を代入します。
$$R_L = \displaystyle\frac{20 \text{ V}}{0.4 \text{ A}} = \displaystyle\frac{200}{4} \Omega = 50 \Omega$$
(5) 100[Ω]抵抗を流れる電流 \(I_{100\Omega}\) の計算
式④に \(V_L = 20 \text{ V}\) と \(I_L = 0.4 \text{ A}\) を代入します。
$$I_{100\Omega} = I_L + \displaystyle\frac{V_L}{50} = 0.4 \text{ A} + \displaystyle\frac{20 \text{ V}}{50 \Omega} = 0.4 \text{ A} + 0.4 \text{ A} = 0.8 \text{ A}$$
- (4), (5): スイッチを閉じると、電球と50Ωの抵抗が並列になり、それらが100Ωの抵抗と直列になります。電球にかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。50Ωの抵抗にも同じ \(V_L\) がかかり、電流は \(V_L/50\) です。100Ωの抵抗には \(I_L\) と \(V_L/50\) を合わせた電流が流れます。これらの関係から \(100 = 3V_L + 100I_L\) という式を作り、これをグラフに直線として描いて特性曲線との交点を探します。交点は \(V_L=20\text{V}, I_L=0.4\text{A}\) です。
(4) このときの電球の抵抗は \(R_L = V_L/I_L = 20\text{V}/0.4\text{A} = 50\Omega\) です。
(5) 100Ωの抵抗を流れる電流は \(I_L + V_L/50 = 0.4\text{A} + 20\text{V}/50\Omega = 0.8\text{A}\) です。
スイッチSが閉じているとき、
(4) 電球Lの抵抗値は 50 [Ω]。
(5) 100[Ω]の抵抗を流れる電流は 0.8 [A]。
電球Lの抵抗値は、動作する電圧・電流によって変わる非線形素子の特徴を示しています。Sが開いているとき(問1,2)は \(40\text{V}/0.6\text{A} \approx 66.7\Omega\) でしたが、Sを閉じることで動作点が変わり、抵抗値も変化しました。
問6
思考の道筋とポイント
(6) 回路全体の消費電力(50ΩをLに置き換え、2つのLを並列、Sは閉)
最後に、図2の回路の50[Ω]の抵抗を、もう一つの同じ電球Lに取り替えます。そしてスイッチSを閉じます。この結果、2つの同じ電球Lが並列に接続され、その並列部分全体が100[Ω]の抵抗と直列になって100[V]の電源につながっている回路構成になります。
各電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。2つの電球は同じ特性を持ち、並列に接続されているため、それぞれにかかる電圧は等しく \(V_L\)、流れる電流も等しく \(I_L\) となります。
100[Ω]の抵抗には、2つの電球Lを流れる電流の合計、つまり \(2I_L\) が流れます。
キルヒホッフの第二法則を回路全体に適用すると、電源電圧 100[V] は、並列部分(各電球L)の電圧降下 \(V_L\) と、100[Ω]の抵抗での電圧降下 \(100 \times (2I_L)\) の和に等しくなります。
これにより、\(100 = V_L + 200 I_L\) というロードラインの方程式が導かれます。
この新しいロードラインと図1の特性曲線との交点をグラフから読み取り、そのときの各電球の動作点 (\(V_L, I_L\)) を求めます。
回路全体での消費電力 \(P_{\text{全体}}\) は、電源が供給する電力に等しくなります。これは、電源電圧(100[V])と、電源から流れ出る全電流(この場合は \(2I_L\))の積で計算できます。つまり、\(P_{\text{全体}} = 100 \times (2I_L)\) となります。
この設問における重要なポイント
- (6):
- 2つの同じ電球Lが並列、その合成が100[Ω]抵抗と直列。スイッチSは閉じている。
- 各電球Lにかかる電圧は等しく \(V_L\)、流れる電流も等しく \(I_L\)。
- 100[Ω]抵抗を流れる電流は \(2I_L\)。
- キルヒホッフの第二法則から、\(100 = V_L + 100(2I_L)\)、整理して \(100 = V_L + 200I_L\) のロードラインを導く。
- このロードラインと図1の特性曲線の交点をグラフから読み取る。
- 回路全体の消費電力 \(P_{\text{全体}} = (\text{電源電圧}) \times (\text{全電流}) = 100 \times (2I_L)\) を計算。
具体的な解説と立式
(6) 回路全体での消費電力 \(P_{\text{全体}}\)
50[Ω]の抵抗を電球Lに取り替えるので、2つの電球Lが並列接続され、それが100[Ω]の抵抗と直列になります。スイッチSは閉じています。
各電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) とします。
100[Ω]の抵抗を流れる電流 \(I’_{100\Omega}\) は、2つの電球の電流の和なので、
$$I’_{100\Omega} = I_L + I_L = 2I_L \quad \cdots ⑦$$キルヒホッフの第二法則より、$$100 = V_L + 100 \times I’_{100\Omega}$$式⑦を代入すると、$$100 = V_L + 100 (2I_L)$$
$$100 = V_L + 200 I_L \quad \cdots ⑧$$
この式⑧がこの場合のロードラインを表します。この直線と図1の特性曲線の交点が、各電球Lの動作点 (\(V_L, I_L\)) です。
直線⑧を図1のグラフに描くために、2つの点を求めます。
- もし \(I_L = 0\text{ A}\) ならば、式⑧より \(V_L = 100\text{ V}\) となります。グラフ上の点 (100, 0) を通ります。
- もし \(V_L = 0\text{ V}\) ならば、式⑧より \(200 I_L = 100\) となるため \(I_L = 0.5\text{ A}\) です。グラフ上の点 (0, 0.5) を通ります。
これらの2点を結ぶ直線を引きます。(模範解答の図の赤線③に相当します。)
この直線と電球Lの特性曲線との交点をグラフから読み取ります。
回路全体の消費電力 \(P_{\text{全体}}\) は、電源が供給する電力であり、電源電圧と全電流の積です。全電流は \(I’_{100\Omega} = 2I_L\) です。
$$P_{\text{全体}} = 100 \times (2I_L) \quad \cdots ⑨$$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第一法則(電流則)
- キルヒホッフの第二法則(電圧則)
- 電力の式: \(P = VI\)
グラフの読み取り
(模範解答の図を参照し、赤線③と特性曲線の交点を読み取る)
交点の座標から、
各電球Lにかかる電圧 \(V_L = 20 \text{ [V]}\)
各電球Lを流れる電流 \(I_L = 0.4 \text{ [A]}\)
(注: 模範解答ではこの交点も \(V=20, I=0.4\) となっています。異なるロードラインですが、たまたま同じ動作点になっているようです。)
(6) 回路全体の消費電力 \(P_{\text{全体}}\) の計算
式⑨に \(I_L = 0.4 \text{ A}\) を代入します。
$$P_{\text{全体}} = 100 \text{ V} \times (2 \times 0.4 \text{ A}) = 100 \text{ V} \times 0.8 \text{ A} = 80 \text{ W}$$
- (6): 50Ωの抵抗の代わりに、もう1個同じ電球Lを置きます。すると、2つの電球Lが並列になり、それら全体が100Ωの抵抗と直列につながります。各電球の電圧を \(V_L\)、電流を \(I_L\) とすると、100Ωの抵抗には \(2I_L\) の電流が流れます。ここから \(100 = V_L + 200I_L\) という式を作り、グラフに直線として描いて特性曲線との交点を探します。交点は \(V_L=20\text{V}, I_L=0.4\text{A}\) です。回路全体で消費される電力は、電源が供給する電力で、\(100\text{V} \times (\text{全電流 } 2I_L)\) です。\(2I_L = 0.8\text{A}\) なので、\(100\text{V} \times 0.8\text{A} = 80\)ワットです。
(6) 回路全体での消費電力は 80 [W]。
この値は、各素子の消費電力の合計とも一致するはずです。各電球Lの消費電力は \(P_L = V_L I_L = 20\text{V} \times 0.4\text{A} = 8\text{W}\)。2つあるので \(2 \times 8\text{W} = 16\text{W}\)。100Ωの抵抗の消費電力は \(P_{100\Omega} = R(I’_{100\Omega})^2 = 100\Omega \times (0.8\text{A})^2 = 100 \times 0.64 = 64\text{W}\)。合計すると \(16\text{W} + 64\text{W} = 80\text{W}\) となり、電源が供給する電力と一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 非線形抵抗の取り扱い(特性曲線とロードラインの交点): 電球Lのように電圧と電流が比例しない素子(オームの法則が \(R=\text{一定}\) で成り立たない)の場合、その動作点(実際に観測される電圧と電流)は、素子の特性を示すグラフ(特性曲線)と、その素子が接続されている外部回路の条件を示す関係式(ロードライン、通常は直線)との交点として求められます。これがこの問題全体を貫く最も重要な考え方です。
- キルヒホッフの法則:
- 第二法則(電圧則): 任意の閉回路において、起電力の代数和と電圧降下の代数和は等しい。これを用いて、各回路条件におけるロードラインの方程式を導出しました。
- 第一法則(電流則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出す電流の和は等しい。(5)や(6)で並列部分の電流を考える際に適用しました。
- 電力の計算 (\(P=VI\)): 素子が消費する電力(または電源が供給する電力)を計算する基本的な式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- ダイオードやトランジスタなど、他の非線形な特性を持つ電子部品を含む回路の解析問題。
- 特性グラフが与えられ、それと回路方程式を連立させて動作点を求める形式の問題全般。
- スイッチの切り替えなどによって回路構成が変化し、それに伴って素子の動作点や回路全体の特性がどう変わるかを考察する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 非線形素子の特定: まず、回路内にオームの法則に単純に従わない素子(特性グラフが与えられている、など)があるかどうかを確認します。
- 回路構成の把握: スイッチの状態(開いているか閉じているか)や、各素子の接続関係(直列か並列か)を正確に読み取ります。
- ロードラインの導出: 非線形素子にかかる電圧を \(V\)、流れる電流を \(I\) として、キルヒホッフの法則などを用いて、外部回路から \(V\) と \(I\) の間に成り立つ関係式(これがロードラインの方程式)を導き出します。
- グラフとの交点: 導出したロードライン(通常は直線)を、与えられた特性曲線と同じグラフ上に描き、その交点を読み取ります。この交点がその素子の動作点です。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- ロードラインを描く際は、\(V\)軸切片(\(I=0\) のときの \(V\))と\(I\)軸切片(\(V=0\) のときの \(I\))の2点を求めると、直線を引きやすいです。
- グラフの読み取りは、目盛りに注意し、できるだけ正確に行う必要があります。交点が格子点上にない場合でも、最も近いと思われる値を読み取ります。
- 電球の「抵抗値」を問われた場合、それはその瞬間の動作点における \(V/I\) であり、一定の値ではないことを理解しておくことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電球を通常のオーム抵抗と誤認する: 電球の抵抗値は電圧や電流によって変化するため、特定の抵抗値を固定して計算を進めると誤りになります。
- 対策: 問題文に「電球」とあったり、電圧-電流特性のグラフが与えられたりした場合は、非線形抵抗であることを常に意識する。
- ロードラインの式の導出ミス: キルヒホッフの法則の適用を間違えたり、代数計算でミスをしたりすると、誤ったロードラインを描くことになり、結果として間違った動作点を読み取ってしまいます。
- 対策: 回路図を丁寧に見て、電圧降下や電流の分岐・合流を正確に数式に落とし込む。計算過程も一つ一つ確認する。
- グラフの読み取りの不正確さ: 特に交点が格子点上にない場合、読み取りに誤差が生じやすいです。
- 対策: 定規を当てるなどして、できるだけ丁寧に読み取る。問題作成者は通常、ある程度読み取りやすい交点になるように配慮していることが多いです。
- 回路構成の誤解: スイッチの開閉によって回路のトポロジー(接続状態)が変わるため、それぞれの状態で回路がどうなっているかを正確に把握する必要があります。
- 対策: スイッチの状態ごとに、電流が実際に流れる経路を指でなぞってみるなどして、直列・並列の関係を明確にする。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象のイメージ化:
- ロードラインと特性曲線の交点: 「回路側が電球に対して要求する電圧と電流の関係(ロードライン)」と「電球自体の電圧と電流の性質(特性曲線)」という2つの条件が同時に満たされる点が、実際に電球が光るときの状態(動作点)である、というイメージを持つことが重要です。2つのグラフの「せめぎ合い」で動作点が決まるような感覚です。
- スイッチ操作による動作点の移動: スイッチを操作すると回路の条件が変わるため、ロードラインが変化します。その結果、特性曲線との交点も移動し、電球の明るさ(消費電力)や色味(電圧による)が変わる、といった現象につながります。
- 図示の有効性:
- 与えられた回路図に、電流の向きや電圧のかかり方、特に \(V_L\) や \(I_L\) などの変数を書き込むと、立式の助けになります。
- ロードラインを図1の特性曲線グラフ上に実際に描画することが、動作点を視覚的に理解し、正確に読み取るために不可欠です。模範解答で示されているように、異なる回路条件に対応する複数のロードラインを区別して描くと良いでしょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの第二法則(電圧則): 閉回路におけるエネルギー保存(電位の観点から)を記述する、電気回路の最も基本的な法則の一つです。これを用いることで、外部回路が非線形素子(この場合は電球L)に課す電圧と電流の関係(ロードライン)を導き出すことができます。
- \(P=VI\) (電力の基本式): ある素子の両端の電圧 \(V\) と、そこを流れる電流 \(I\) が分かっていれば、その素子が消費する(あるいは供給する)電力 \(P\) はこの式で計算できます。オームの法則に従う抵抗であれば \(P=I^2R=V^2/R\) も使えますが、電球のような非線形素子の場合は、その瞬間の \(V\) と \(I\) を使って \(P=VI\) で計算するのが最も確実です。
- \(R=V/I\) (抵抗の定義): これはオームの法則そのものではなく、ある瞬間の電圧とその瞬間の電流の比を「その瞬間の抵抗値」と定義するものです。電球のように抵抗値が変化する素子に対しても、特定の動作点における抵抗値をこのように定義して求めることができます(問4)。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 回路状態の特定: スイッチの開閉状態を確認し、現在の回路がどのような接続になっているかを正確に把握します。
- 変数設定: 電球Lにかかる電圧を \(V_L\)、流れる電流を \(I_L\) と定義します。
- ロードライン方程式の立式: キルヒホッフの法則(主に電圧則、必要なら電流則も)を用いて、\(V_L\) と \(I_L\) の間に成り立つ関係式を導出します。これがロードラインの方程式となります。
- (1) S開: \(100 = V_L + 100 I_L\)
- (4) S閉 (Lと50Ω並列): \(100 = 3V_L + 100 I_L\)
- (6) S閉 (LとL並列): \(100 = V_L + 200 I_L\)
- 特性曲線との連立(グラフ読取): ステップ3で導出したロードライン(直線)を、図1の電球Lの特性曲線グラフ上に描き、両者の交点の座標 (\(V_L, I_L\)) を読み取ります。
- 設問に応じた物理量の計算: ステップ4で読み取った \(V_L, I_L\) の値を用いて、問題で要求されている物理量(消費電力、抵抗値、回路の他の部分を流れる電流、回路全体の消費電力など)を計算します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- ロードライン方程式の導出時の計算ミス: 特に並列回路が含まれる場合(問4, 問6)は、電流の分配やその後の式の整理でミスが起こりやすいです。各項を丁寧に扱い、符号や係数に注意しましょう。
- グラフの読み取り精度: 目盛りの単位を確認し、交点の座標をできるだけ正確に読み取るよう心がけます。定規などを使うと良いでしょう。
- 単位の取り扱い: 電圧は[V]、電流は[A]、電力は[W]、抵抗は[Ω]といった基本的な単位を常に意識し、計算結果の単位が正しいか確認する習慣をつけましょう。
- 単純計算の油断: \(P=VI\) や \(R=V/I\) のような簡単な計算でも、数値の代入ミスや計算ミスがないように注意します。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との整合性:
- 読み取った電圧 \(V_L\) や電流 \(I_L\) の値が、図1の特性曲線の概形から大きく外れていないか(例えば、電圧が非常に高いのに電流が極端に小さい、など)。
- スイッチの状態を変えたときに、電球の明るさ(消費電力)がどのように変化しそうか、大まかな見当をつけてみる。例えば、(1)の状態から(4)のスイッチを閉じた状態にすると、電球Lと並列に50Ωの抵抗が入るため、並列部分の合成抵抗は電球L単独より小さくなる傾向があります。これにより回路全体の抵抗が変化し、電球Lの動作点も変わります。今回の結果では、\(V_L\) は40Vから20Vに下がり、\(I_L\) は0.6Aから0.4Aに減少しました。これは、並列相手が増えたことで電圧が分配されにくくなったと解釈できます。
- 特に非線形素子の場合の注意点:
- 動作点が変われば抵抗値も変わる、ということを常に念頭に置く。問(4)で求めた抵抗値 \(50\Omega\) は、あくまで \(V_L=20\text{V}, I_L=0.4\text{A}\) のときの値であり、他の電圧・電流では異なる値になります。
- 特性曲線の傾きが場所によって異なることは、抵抗値が電圧(または電流)に依存して変化することを示しています。
- エネルギー保存の確認: 問(6)のように回路全体の消費電力を求めた場合、それは各素子(2つの電球Lと100Ω抵抗)の消費電力の和と一致するはずです。このような検算を行うことで、計算の確からしさを高めることができます。
問題120 (愛知工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗とコンデンサーを含む直流回路に関するもので、スイッチの操作によって回路の状態が変化し、それに伴う電流やコンデンサーの電荷、発生するジュール熱などを考察する問題です。特に、スイッチを操作した直後と、十分に時間が経過した後のコンデンサーの振る舞いの違いを正確に理解することが求められます。
- 電源E: 起電力 \(V\) (内部抵抗は無視できる)
- 抵抗: \(R_1 = R\), \(R_2 = 2R\), \(R_3 = 3R\)
- コンデンサー: \(C_1 = C\), \(C_2 = 3C\)
- スイッチS
- 初期状態: スイッチSは開いており、コンデンサー \(C_1, C_2\) には電荷は蓄えられていない。
- (1) スイッチSを閉じた直後に抵抗 \(R_1\) を流れる電流 \(I_0\)。
- (2) スイッチSを閉じて十分に時間がたった後、抵抗 \(R_1\) を流れる電流。
- (3) スイッチSを閉じて十分に時間がたった後、コンデンサー \(C_1\) に蓄えられている電荷。
- (4) 次に、スイッチSを開く。その直後に抵抗 \(R_3\) を流れる電流 \(i_0\)。また、その後 \(R_3\) で発生するジュール熱 \(J\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。
- オームの法則: \(V=IR\)
- キルヒホッフの法則:
- 第一法則(電流則): 回路の分岐点に流れ込む電流の総和と流れ出す電流の総和は等しい。
- 第二法則(電圧則): 任意の閉回路において、電位の代数和は0である(起電力の総和と電圧降下の総和は等しい)。
- コンデンサーの性質:
- スイッチ操作直後(電荷が蓄えられていない場合): コンデンサーの両端の電位差は0 (\(Q=0\) より \(V_C = Q/C = 0\))。このため、電流をよく通し、導線(短絡状態)とみなせます。
- 直流定常状態(十分に時間が経過した後): コンデンサーは完全に充電され、直流電流をそれ以上通さなくなります。このため、コンデンサーを含む枝は開放状態(断線しているのと同じ)とみなせます。
- 合成抵抗・合成容量の計算:
- 抵抗の直列接続: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b + \dots\)
- 抵抗の並列接続: \(\displaystyle\frac{1}{R_{\text{並列}}} = \frac{1}{R_a} + \frac{1}{R_b} + \dots\)
- コンデンサーの直列接続: \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \frac{1}{C_a} + \frac{1}{C_b} + \dots\) (各コンデンサーに蓄えられる電荷の量は等しい)
- コンデンサーの並列接続: \(C_{\text{並列}} = C_a + C_b + \dots\) (各コンデンサーにかかる電圧は等しい)
- コンデンサーの電荷と静電エネルギー:
- 電荷: \(Q=CV\)
- 静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\)
- エネルギー保存則とジュール熱: コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーが放電によって抵抗で消費される場合、そのエネルギーはジュール熱に変換されます。抵抗が複数ある場合、エネルギーは各抵抗の特性に応じて分配されます。
問1
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じた直後の状態を考えます。初期条件として、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) には電荷が蓄えられていません。このとき、コンデンサーにかかる電圧はゼロ (\(V_C = Q/C = 0\)) であり、電圧降下が生じないため、コンデンサー部分は導線(短絡状態)と等価であるとみなすことができます。
この等価回路において、抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) は並列接続になります。まず、この並列部分の合成抵抗 \(R_{23}\) を計算します。
次に、この合成抵抗 \(R_{23}\) と抵抗 \(R_1\) が直列に接続されているとみなし、回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全}}\) を求めます。
最後に、オームの法則 \(I = V/R\) を用いて、電源から流れ出す電流、すなわち抵抗 \(R_1\) を流れる電流 \(I_0\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じた直後、電荷のないコンデンサーは導線(短絡)として扱う。
- \(R_2\) と \(R_3\) が並列接続となる。
- \(R_1\) と \(R_2//R_3\)(\(R_2\)と\(R_3\)の並列合成抵抗)が直列接続となる。
- 回路全体の合成抵抗を求め、オームの法則を適用する。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じた直後では、コンデンサー \(C_1, C_2\) には電荷が蓄えられていないため、これらの両端の電位差は0です。したがって、コンデンサーは導線とみなせます。
このとき、抵抗 \(R_2\) と抵抗 \(R_3\) は並列接続になります。その合成抵抗を \(R_{23}\) とすると、
$$\displaystyle\frac{1}{R_{23}} = \frac{1}{R_2} + \frac{1}{R_3}$$与えられた値 \(R_2 = 2R\), \(R_3 = 3R\) を代入すると、$$\displaystyle\frac{1}{R_{23}} = \frac{1}{2R} + \frac{1}{3R} = \frac{3}{6R} + \frac{2}{6R} = \frac{5}{6R}$$よって、$$R_{23} = \displaystyle\frac{6R}{5} \quad \cdots ①$$次に、抵抗 \(R_1\) はこの \(R_{23}\) と直列に接続されているので、回路全体の合成抵抗 \(R_{\text{全}}\) は、$$R_{\text{全}} = R_1 + R_{23}$$与えられた値 \(R_1 = R\) と式①を代入すると、$$R_{\text{全}} = R + \displaystyle\frac{6R}{5} = \frac{5R}{5} + \frac{6R}{5} = \frac{11R}{5} \quad \cdots ②$$したがって、スイッチSを閉じた直後に抵抗 \(R_1\) を流れる電流 \(I_0\) は、オームの法則より、$$I_0 = \displaystyle\frac{V}{R_{\text{全}}} \quad \cdots ③$$
- 抵抗の並列接続: \(\displaystyle\frac{1}{R_{\text{並列}}} = \frac{1}{R_a} + \frac{1}{R_b}\)
- 抵抗の直列接続: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
式③に式②で求めた \(R_{\text{全}} = \displaystyle\frac{11R}{5}\) を代入します。
$$I_0 = \displaystyle\frac{V}{\displaystyle\frac{11R}{5}} = V \times \displaystyle\frac{5}{11R}$$
したがって、$$I_0 = \displaystyle\frac{5V}{11R} \quad \cdots ④$$
- スイッチを閉じた瞬間、コンデンサーはまだ空っぽなので、電気をスムーズに通します。このため、コンデンサー部分はただの導線(ショートした状態)として考えます。
- すると、回路は \(R_2\) (2R) と \(R_3\) (3R) が並列につながり、それら全体が \(R_1\) (R) と直列につながっていると見ることができます。
- まず、\(R_2\) と \(R_3\) の並列部分の合成抵抗を計算します。和分の積で \(\displaystyle\frac{2R \times 3R}{2R + 3R} = \frac{6R^2}{5R} = \frac{6R}{5}\) となります。
- 次に、この \(\frac{6R}{5}\) と \(R_1=R\) が直列なので、回路全体の抵抗は \(R + \frac{6R}{5} = \frac{11R}{5}\) となります。
- 最後に、オームの法則を使って、電源電圧 \(V\) を全体の抵抗 \(\frac{11R}{5}\) で割ると、\(R_1\) を流れる電流 \(I_0\) が求まります。\(I_0 = V / (\frac{11R}{5}) = \frac{5V}{11R}\) です。
スイッチSを閉じた直後に抵抗 \(R_1\) を流れる電流 \(I_0\) は \(\displaystyle\frac{5V}{11R}\) です。これは、コンデンサーがまだ充電されておらず、回路の抵抗成分のみによって電流が決まる初期状態を示しています。
問2
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じて十分に時間が経過すると、回路は定常状態に達します。直流回路において、コンデンサーは十分に時間が経つと充電が完了し、それ以上電流を流さなくなります。つまり、コンデンサーを含む経路は開放(断線した状態)とみなすことができます。
この状態では、抵抗 \(R_3\)、コンデンサー \(C_1\)、コンデンサー \(C_2\) からなる回路の右側の枝には電流が流れません。
したがって、電流は電源E、抵抗 \(R_1\)、抵抗 \(R_2\) を通る閉ループのみを流れることになります。このとき、\(R_1\) と \(R_2\) は直列に接続されていると考えられます。
この直列回路の合成抵抗を求め、オームの法則を用いて抵抗 \(R_1\) を流れる電流を計算します。
この設問における重要なポイント
- 十分に時間が経過した後、コンデンサーは直流電流を通さない(開放状態)。
- 電流は \(R_1\) と \(R_2\) のみを通る。\(R_3\) には電流が流れない。
- \(R_1\) と \(R_2\) が直列接続となる。
- 回路全体の合成抵抗を求め、オームの法則を適用する。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じて十分に時間が経過すると、コンデンサー \(C_1, C_2\) は充電を完了し、直流電流を流さなくなります(開放状態)。
そのため、抵抗 \(R_3\) およびコンデンサー \(C_1, C_2\) を含む枝には電流が流れません。
電流は電源E、抵抗 \(R_1\)、抵抗 \(R_2\) をこの順に流れる閉回路を形成します。このとき、\(R_1\) と \(R_2\) は直列接続です。
回路全体の合成抵抗 \(R’_{\text{全}}\) は、
$$R’_{\text{全}} = R_1 + R_2$$与えられた値 \(R_1 = R\), \(R_2 = 2R\) を代入すると、$$R’_{\text{全}} = R + 2R = 3R \quad \cdots ⑤$$このとき抵抗 \(R_1\) を流れる電流を \(I_1\) とすると、オームの法則より、$$I_1 = \displaystyle\frac{V}{R’_{\text{全}}} \quad \cdots ⑥$$
- 抵抗の直列接続: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
式⑥に式⑤で求めた \(R’_{\text{全}} = 3R\) を代入します。
$$I_1 = \displaystyle\frac{V}{3R} \quad \cdots ⑦$$
- スイッチを閉じてから十分に時間がたつと、コンデンサーは電気で満タンになり、もう電気を流さなくなります。このとき、コンデンサーがある部分は断線しているのと同じように考えます。
- すると、電流は \(R_3\) やコンデンサーの方には流れず、電源 → \(R_1\) → \(R_2\) → 電源というルートだけを流れます。
- このルートでは、\(R_1 (=R)\) と \(R_2 (=2R)\) が直列につながっているので、合成抵抗は \(R + 2R = 3R\) です。
- オームの法則から、\(R_1\) を流れる電流 \(I_1\) は \(V / (3R)\) となります。
スイッチSを閉じて十分に時間がたった後、抵抗 \(R_1\) を流れる電流は \(\displaystyle\frac{V}{3R}\) です。
問1で求めたスイッチON直後の電流 \(I_0 = \frac{5V}{11R} \approx 0.455 \frac{V}{R}\) と比較すると、十分に時間が経過した後の電流 \(I_1 = \frac{V}{3R} \approx 0.333 \frac{V}{R}\) は小さくなっています。これは、充電が進むにつれてコンデンサーへの電流が減少し、最終的にはコンデンサーの枝には電流が流れなくなるため、実質的に電流が流れる経路の抵抗値が変化した(ように見える)ことを反映しています。
問3
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じて十分に時間が経過した定常状態(問2と同じ状態)を考えます。
このとき、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) には電荷が蓄えられています。これら2つのコンデンサーは直列に接続されています。
抵抗 \(R_3\) には電流が流れていないため、\(R_3\) の両端の電位差は \(V_{R3} = R_3 \times 0 = 0\) です。これは、\(R_3\) の両端が等電位であることを意味します。
したがって、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) の直列回路全体にかかる電圧(これを \(V_C\) とします)は、抵抗 \(R_2\) の両端の電位差 \(V_{R2}\) に等しくなります。
まず、問2で求めた電流 \(I_1\) を用いて \(R_2\) にかかる電圧 \(V_{R2}\) を計算します。これが \(V_C\) となります。
次に、コンデンサー \(C_1 (=C)\) と \(C_2 (=3C)\) の直列合成容量 \(C_{\text{合成}}\) を求めます。
コンデンサーの直列接続では、各コンデンサーに蓄えられる電荷の量は等しく、その量は合成容量 \(C_{\text{合成}}\) に電圧 \(V_C\) がかかったときに蓄えられる全電荷量に等しくなります。これを用いてコンデンサー \(C_1\) の電荷 \(Q_1\) を \(Q_1 = C_{\text{合成}} V_C\) として計算します。
この設問における重要なポイント
- 十分に時間が経過した後、\(R_3\) には電流が流れないため、\(R_3\) の両端は等電位。
- コンデンサー \(C_1, C_2\) の直列部分にかかる電圧は、\(R_2\) にかかる電圧に等しい。
- \(C_1, C_2\) の直列合成容量を計算する。
- 直列コンデンサーに蓄えられる電荷は等しく、\(Q = C_{\text{合成}}V_{\text{全体}}\) で計算できる。
具体的な解説と立式
スイッチSを閉じて十分に時間が経過した状態では、抵抗 \(R_3\) には電流が流れません。よって \(R_3\) での電圧降下は0です。
このとき、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) の直列接続部分にかかる電圧 \(V_C\) は、抵抗 \(R_2\) の両端の電位差 \(V_{R2}\) に等しくなります。
抵抗 \(R_2\) を流れる電流は、問2で求めた \(I_1 = \displaystyle\frac{V}{3R}\) です。よって、
$$V_C = V_{R2} = I_1 R_2 = \left(\displaystyle\frac{V}{3R}\right) (2R) = \displaystyle\frac{2}{3}V \quad \cdots ⑧$$次に、コンデンサー \(C_1 (=C)\) と \(C_2 (=3C)\) の直列合成容量 \(C_{\text{合成}}\) を計算します。$$\displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} = \frac{1}{C} + \frac{1}{3C} = \frac{3}{3C} + \frac{1}{3C} = \frac{4}{3C}$$よって、$$C_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{3}{4}C \quad \cdots ⑨$$コンデンサーが直列に接続されている場合、各コンデンサーに蓄えられる電気量の大きさ \(Q_1, Q_2\) は等しく、これは合成コンデンサーに蓄えられる全電荷 \(Q_{\text{全}}\) に等しいです。$$Q_1 = Q_2 = Q_{\text{全}} = C_{\text{合成}} V_C \quad \cdots ⑩$$
- オームの法則: \(V=IR\)
- コンデンサーの直列接続: \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{直列}}} = \frac{1}{C_a} + \frac{1}{C_b}\)
- コンデンサーの電荷: \(Q=CV\)
式⑩に、式⑨の \(C_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{3}{4}C\) と式⑧の \(V_C = \displaystyle\frac{2}{3}V\) を代入します。
$$Q_1 = \left(\displaystyle\frac{3}{4}C\right) \times \left(\displaystyle\frac{2}{3}V\right) = \displaystyle\frac{3 \times 2}{4 \times 3}CV = \displaystyle\frac{6}{12}CV$$
したがって、$$Q_1 = \displaystyle\frac{1}{2}CV \quad \cdots ⑪$$
- 十分に時間が経ったとき、電流は \(R_1 \rightarrow R_2\) の経路のみを流れます。この電流は (2) で求めた \(\frac{V}{3R}\) です。
- コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) が直列につながった部分には、\(R_2\) と同じ電圧がかかります(なぜなら \(R_3\) には電流が流れず電圧降下がないから)。\(R_2\) にかかる電圧は \(V_{R2} = (\text{電流}) \times R_2 = (\frac{V}{3R}) \times (2R) = \frac{2}{3}V\) です。
- 次に、\(C_1 (=C)\) と \(C_2 (=3C)\) の直列合成容量を求めます。公式を使うと \(\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \frac{1}{C} + \frac{1}{3C} = \frac{4}{3C}\) なので、\(C_{\text{合成}} = \frac{3}{4}C\) です。
- コンデンサーが直列のとき、それぞれのコンデンサーにたまる電気の量は同じです。これは、合成コンデンサーにたまる電気の量と同じなので、\(Q_1 = C_{\text{合成}} \times (\text{コンデンサー部分の電圧}) = (\frac{3}{4}C) \times (\frac{2}{3}V) = \frac{1}{2}CV\) となります。
スイッチSを閉じて十分に時間がたった後、コンデンサー \(C_1\) に蓄えられている電荷は \(\displaystyle\frac{1}{2}CV\) です。このとき、コンデンサー \(C_2\) にも同じ量の電荷が蓄えられています。また、\(C_1\) の電圧は \(V_1 = Q_1/C_1 = (\frac{1}{2}CV)/C = \frac{1}{2}V\)、\(C_2\) の電圧は \(V_2 = Q_1/C_2 = (\frac{1}{2}CV)/(3C) = \frac{1}{6}V\) となり、\(V_1+V_2 = \frac{1}{2}V + \frac{1}{6}V = \frac{3+1}{6}V = \frac{4}{6}V = \frac{2}{3}V\) となり、コンデンサー部分の総電圧 \(V_C\) と一致します。
問4
思考の道筋とポイント
次に、スイッチSを開きます。Sが開かれると、電源Eは回路から切り離されます。この瞬間、コンデンサー \(C_1\) と \(C_2\) は直列に接続されたままであり、それぞれに電荷が蓄えられ、その合成コンデンサーとしては電圧 \(V_C = \displaystyle\frac{2}{3}V\)(問3の状況から)を保持しています。これらのコンデンサーは、今度は電源のように振る舞い、抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) を含む閉回路を通して放電を開始します。
直後の電流 \(i_0\):
Sを開いた直後では、コンデンサーの電圧は急には変化できません。したがって、合成容量 \(C_{\text{合成}} = \frac{3}{4}C\) のコンデンサーが、電圧 \(V_C = \frac{2}{3}V\) を持って放電を開始すると考えます。
放電回路は、このコンデンサー群と、抵抗 \(R_2\) および \(R_3\) の直列接続から構成されます。なぜなら、電流は \(C_1 \rightarrow C_2 \rightarrow R_3 \rightarrow R_2 \rightarrow C_1\) のように流れる(あるいはその逆向き)と考えられるためです(模範解答の図もこれを支持しています)。
放電回路の全抵抗 \(R_{\text{放電}}\) は \(R_2 + R_3\) となります。
Sを開いた直後に \(R_3\) を流れる電流 \(i_0\) は、この放電回路に流れる初期電流であり、オームの法則と同様に、\(i_0 = \frac{(\text{コンデンサーの初期電圧})}{(\text{放電回路の全抵抗})}\) で計算できます。
\(R_3\) で発生するジュール熱 \(J\):
コンデンサー群に蓄えられていた初期の総静電エネルギー \(U_{\text{初}}\) が、放電によって抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) でジュール熱として完全に消費されます。抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) は直列に接続されているため、同じ電流が流れます。したがって、各抵抗で消費される電力の比は抵抗値の比に等しく (\(P=I^2R\))、結果として消費される総ジュール熱の比も抵抗値の比 \(R_2 : R_3\) になります。
まず \(U_{\text{初}}\) を計算し、そのエネルギーが \(R_2\) と \(R_3\) にどのように分配されるかを考え、\(R_3\) で消費されるジュール熱 \(J\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- Sを開くと電源が切り離され、コンデンサーが放電を開始する。
- 放電直後のコンデンサーの電圧は、Sを開く直前の電圧に等しい (\(V_C = \frac{2}{3}V\))。
- 放電回路は、\(C_1, C_2\)の直列合成コンデンサーと、\(R_2, R_3\)の直列抵抗からなる。
- S開直後の電流 \(i_0 = V_C / (R_2+R_3)\)。
- コンデンサーの初期静電エネルギー \(U_{\text{初}}\) が \(R_2\) と \(R_3\) でジュール熱として消費される。
- 直列抵抗でのエネルギー消費の分配は、抵抗値の比に比例する。
具体的な解説と立式
スイッチSを開くと、電源Eは回路から切り離されます。
Sを開く直前、コンデンサー \(C_1, C_2\) の直列合成部分には電圧 \(V_C = \displaystyle\frac{2}{3}V\)(式⑧より)がかかっており、合成容量は \(C_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{3}{4}C\)(式⑨より)です。
Sを開いた直後、このコンデンサー群が抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) を通して放電します。\(R_2\) と \(R_3\) はこの放電回路において直列に接続されているとみなせます。
放電回路の全抵抗 \(R_{\text{放電}}\) は、
$$R_{\text{放電}} = R_2 + R_3 = 2R + 3R = 5R \quad \cdots ⑫$$Sを開いた直後に流れる電流 \(i_0\)(これは \(R_3\) を流れる電流であり、\(R_2\) を流れる電流でもある)は、$$i_0 = \displaystyle\frac{V_C}{R_{\text{放電}}} = \displaystyle\frac{\frac{2}{3}V}{5R} \quad \cdots ⑬$$
次に、その後 \(R_3\) で発生するジュール熱 \(J\) を求めます。
Sを開いた瞬間にコンデンサー群に蓄えられている総静電エネルギー \(U_{\text{初}}\) は、
$$U_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}C_{\text{合成}}V_C^2 = \displaystyle\frac{1}{2}\left(\displaystyle\frac{3}{4}C\right)\left(\displaystyle\frac{2}{3}V\right)^2 \quad \cdots ⑭$$
このエネルギーが、放電によって抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) でジュール熱としてすべて消費されます。抵抗 \(R_2\) と \(R_3\) は直列なので、流れる電流は常に等しいです。したがって、発生するジュール熱の合計はそれぞれの抵抗値に比例して分配されます。
\(R_3\) で発生するジュール熱 \(J\) は、
$$J = U_{\text{初}} \times \displaystyle\frac{R_3}{R_2+R_3} \quad \cdots ⑮$$
- オームの法則: \(I=V/R\)
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \frac{1}{2}CV^2\)
- エネルギー保存則
- 直列抵抗における電力・エネルギー消費の分配
電流 \(i_0\) の計算:
式⑬より、
$$i_0 = \displaystyle\frac{2V}{3 \times 5R} = \displaystyle\frac{2V}{15R} \quad \cdots ⑯$$
ジュール熱 \(J\) の計算:
まず、式⑭から \(U_{\text{初}}\) を計算します。
$$U_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2} \cdot \displaystyle\frac{3}{4}C \cdot \displaystyle\frac{4}{9}V^2 = \displaystyle\frac{12}{72}CV^2 = \displaystyle\frac{1}{6}CV^2 \quad \cdots ⑰$$次に、式⑮に \(U_{\text{初}}\)(式⑰)、\(R_2=2R\)、\(R_3=3R\) を代入します。$$J = \left(\displaystyle\frac{1}{6}CV^2\right) \times \displaystyle\frac{3R}{2R+3R} = \left(\displaystyle\frac{1}{6}CV^2\right) \times \displaystyle\frac{3R}{5R} = \left(\displaystyle\frac{1}{6}CV^2\right) \times \displaystyle\frac{3}{5}$$
したがって、$$J = \displaystyle\frac{3}{30}CV^2 = \displaystyle\frac{1}{10}CV^2 \quad \cdots ⑱$$
- 直後の電流 \(i_0\): スイッチSを開けると、電池は回路から外れます。コンデンサーに蓄えられていた電気が、\(R_2\) と \(R_3\) を通って流れ出します(放電)。Sを開ける直前のコンデンサー部分の電圧は \(V_C = \frac{2}{3}V\) でした。放電するときの抵抗は \(R_2 (=2R)\) と \(R_3 (=3R)\) が直列になるので、合計 \(5R\) です。流れ始める電流 \(i_0\) は、オームの法則のように \((\text{電圧}) / (\text{抵抗})\) で計算でき、\(i_0 = (\frac{2}{3}V) / (5R) = \frac{2V}{15R}\) となります。
- \(R_3\) でのジュール熱 \(J\): まず、コンデンサー全体に蓄えられていたエネルギー \(U_{\text{初}}\) を計算します。合成容量 \(C_{\text{合成}} = \frac{3}{4}C\)、電圧 \(V_C = \frac{2}{3}V\) だったので、エネルギーは \(U_{\text{初}} = \frac{1}{2}C_{\text{合成}}V_C^2 = \frac{1}{6}CV^2\) です。この全エネルギーが、放電によって \(R_2\) と \(R_3\) で熱として消費されます。\(R_2\) と \(R_3\) は直列なので、消費されるエネルギーの量はそれぞれの抵抗値に比例します。\(R_2:R_3 = 2R:3R = 2:3\) ですから、\(R_3\) で消費される熱は全体の \(\frac{3}{2+3} = \frac{3}{5}\) です。よって、\(J = (\frac{1}{6}CV^2) \times \frac{3}{5} = \frac{1}{10}CV^2\) となります。
スイッチSを開いた直後、抵抗 \(R_3\) を流れる電流 \(i_0\) は \(\displaystyle\frac{2V}{15R}\) です。
その後 \(R_3\) で発生するジュール熱 \(J\) は \(\displaystyle\frac{1}{10}CV^2\) です。
電流の向きについて補足すると、Sを閉じて充電されたとき、コンデンサー \(C_1\) の上側の極板(回路図で \(R_3\) につながる側)は電源の正極側につながる \(R_1\) を経由して充電されるため、正に帯電すると考えられます(\(R_2\) の上側の電位が高いため)。したがって、Sを開いて放電するとき、電流 \(i_0\) は \(R_3\) を上から下に流れる向きになります。
ジュール熱はエネルギーであり、必ず正の値となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの過渡現象と定常状態の挙動:
- スイッチ操作直後(電荷ゼロの場合): コンデンサーは導線(短絡)とみなせる。これは \(V_C = Q/C = 0\) であるため。
- 直流定常状態(十分時間経過後): コンデンサーは電流を通さない(開放)。充電が完了し、電流の流れが止まるため。
- キルヒホッフの法則: 回路が複雑になっても、電流や電圧の関係を正確に記述するための基本法則。
- 合成抵抗と合成容量: 複数の抵抗やコンデンサーがある場合、回路を単純化して解析するために必要。
- 直列抵抗: \(R_{\text{直列}} = R_a + R_b + \dots\)
- 並列抵抗: \(1/R_{\text{並列}} = 1/R_a + 1/R_b + \dots\)
- 直列コンデンサー: \(1/C_{\text{直列}} = 1/C_a + 1/C_b + \dots\) (電荷は各コンデンサーで等しい)
- 並列コンデンサー: \(C_{\text{並列}} = C_a + C_b + \dots\) (電圧は各コンデンサーで等しい)
- コンデンサーの電荷と静電エネルギー: \(Q=CV\), \(U=\frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\)。
- エネルギー保存則(ジュール熱): コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーが、放電時に抵抗でジュール熱として消費される。その際、エネルギーは抵抗値に応じて分配される(直列接続の場合)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- RC回路、RL回路、RLC回路など、スイッチ操作を伴う過渡現象を扱う問題全般。
- 複数のコンデンサーや抵抗が複雑に接続された回路の定常解析。
- コンデンサーの充電・放電エネルギーに関する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 時間スケール: 「スイッチ操作直後」なのか、「十分時間が経過した後」なのかを明確に区別する。これによりコンデンサーの扱い方が決まる。
- コンデンサーの状態:
- 直後: 電荷がなければ短絡。電荷があればその電圧を持つ電圧源(電圧は急変しない)。
- 十分後(直流): 開放(電流ゼロ)。
- 回路の単純化: その時間スケールでのコンデンサーの扱いに基づいて、等価回路を描き直すと見通しが良くなる。模範解答の図もこれを補助している。
- 保存則: 電荷保存則(孤立部分)、エネルギー保存則を意識する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- コンデンサーの直列・並列の合成容量の計算式を間違えない。特に直列は抵抗の並列と同じ形(逆数の和の逆数)。
- 直列コンデンサーでは蓄えられる電荷が等しく、並列コンデンサーではかかる電圧が等しい。
- 放電時のエネルギー分配は、抵抗が直列なら抵抗値に比例、並列なら抵抗値の逆数に比例する(電流が共通なら \(P=I^2R\)、電圧が共通なら \(P=V^2/R\) のため)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチ操作直後のコンデンサーの扱い: 初期電荷がゼロの場合は短絡とみなせるが、既に充電されている場合は、その電圧を保持したまま(電圧は連続的にしか変化できない)なので、電圧源のように振る舞う点に注意。
- 対策: 問題文の初期条件(コンデンサーの電荷の有無)をしっかり確認する。Sを開くような場合は、開く直前の状態が次の初期状態になる。
- 定常状態での電流経路の誤認: コンデンサーが開放になることで、電流が流れなくなる部分を正確に見極めることが重要。
- 対策: コンデンサーを含む枝を回路から物理的に取り除いた(断線させた)等価回路を考えてみると、電流経路が明確になる。
- コンデンサーの直列接続における電圧分配: 電圧は電気容量の逆数に比例して分配される(\(Q=C_1V_1=C_2V_2\) より、\(V_1:V_2 = 1/C_1:1/C_2\))。単純に容量比ではない。
- 対策: まず各コンデンサーに蓄えられる電荷Qが等しいことを利用し、\(Q=C_{\text{合成}}V_{\text{全体}}\) からQを求め、その後 \(V_1=Q/C_1, V_2=Q/C_2\) と計算するのが安全。
- ジュール熱の計算でのエネルギー分配の混同: 放電回路が複雑な場合、どの部分のエネルギーを計算しているのか、分配比の根拠(直列か並列か)は正しいかを慎重に確認する。
- 対策: エネルギー保存則を常に念頭に置き、回路全体で失われるエネルギーと、各抵抗で消費されるエネルギーの関係を明確にする。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 充電過程のイメージ: 空の容器(コンデンサー)に水(電荷)がホース(導線)から流れ込み、徐々に水位(電圧)が上がっていく様子。最初は勢いよく水が流れ込む(電流が大きい)が、水位が上がるにつれて流れ込む勢いが弱まり(電流が減少)、やがて満杯になると水の流れが止まる(電流ゼロ)。
- 定常状態のイメージ: 容器が水で満たされ、水の流れが完全に止まった状態。
- 放電過程のイメージ: 水が溜まった容器の栓を抜くと、水が勢いよく流れ出し、水位が下がるにつれて流れ出す勢いも弱まっていく様子。
- 等価回路図の活用: 各状態(スイッチON直後、十分時間経過後、スイッチOFF直後)に応じて、コンデンサーを短絡(導線)や開放(断線)に置き換えたり、電圧源として扱ったりした等価回路図を描くことで、問題が格段に理解しやすくなります。模範解答の図も、この等価的な状況を視覚的に示しています。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 回路の接続関係(直列、並列)を正確に反映させる。
- 電流の向きや、電圧の高低(極性)を仮定して(あるいは分かっているならその通りに)矢印や記号で書き込むと、キルヒホッフの法則を適用する際に符号のミスを防ぎやすくなります。
- 複雑な回路は、注目する部分や時間スケールに応じて、単純化した等価回路を別に描くと、思考が整理されます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- コンデンサーの短絡/開放モデルの適用:
- 選定理由: スイッチ操作直後(\(t=0\))や直流定常状態(\(t \rightarrow \infty\))といった極限状態を考えることで、微分方程式を解かずに回路の挙動を(少なくともその瞬間や最終状態について)知ることができるため。
- 適用根拠: \(t=0\)で\(Q=0\)ならば\(V_C=Q/C=0\)(短絡と等価)。\(t \rightarrow \infty\)で直流ならばコンデンサーへの電荷の流入(電流)が止まる\(I_C=dQ/dt=0\)(開放と等価)。
- 合成抵抗/合成容量の公式:
- 選定理由: 複数の抵抗やコンデンサーを、あたかも一つの抵抗やコンデンサーであるかのように等価的に扱うことで、回路全体の見通しを良くし、計算を簡略化するため。
- 適用根拠: それぞれの接続方法(直列・並列)における電圧と電流(または電荷)の基本的な関係から導かれる数学的な規則。
- \(Q=CV\) および \(U=\frac{1}{2}CV^2\):
- 選定理由: コンデンサーの最も基本的な性質である「電荷を蓄える能力(電気容量)」と「エネルギーを蓄える能力」を定量的に表すため。
- 適用根拠: コンデンサーの定義そのものであり、平行平板コンデンサーなどを例に静電場と電位の概念から導出される。
- エネルギー保存則とジュール熱の分配(\(R_3\) での消費):
- 選定理由: 放電現象において、コンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが最終的にどこでどのように消費されるかを明らかにするため。
- 適用根拠: エネルギーは保存されるという普遍的な法則。抵抗におけるエネルギー消費はジュール熱として現れる。放電回路が抵抗の直列である場合、各抵抗を流れる電流は常に等しいため、単位時間あたりの消費電力 \(P=I^2R\) は抵抗値 \(R\) に比例する。したがって、全放電時間を通じて消費される総ジュール熱も抵抗値 \(R\) に比例して分配される。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) S閉直後の \(R_1\) の電流 \(I_0\):
- コンデンサーを短絡とみなす。
- \(R_2\) と \(R_3\) の並列合成抵抗 \(R_{23}\) を計算する。
- \(R_1\) と \(R_{23}\) の直列合成抵抗 \(R_{\text{全}}\) を計算する。
- オームの法則 \(I_0 = V/R_{\text{全}}\) を適用する。
- (2) S閉十分後の \(R_1\) の電流 \(I_1\):
- コンデンサーを開放とみなす(\(R_3, C_1, C_2\) の枝に電流なし)。
- 電流は \(R_1, R_2\) のみを流れる。\(R_1\) と \(R_2\) の直列合成抵抗 \(R’_{\text{全}}\) を計算する。
- オームの法則 \(I_1 = V/R’_{\text{全}}\) を適用する。
- (3) S閉十分後の \(C_1\) の電荷 \(Q_1\):
- (2)で求めた \(I_1\) を用いて、\(R_2\) の電圧降下 \(V_{R2}\) を計算する。これがコンデンサー部分の総電圧 \(V_C\) に等しい。
- \(C_1\) と \(C_2\) の直列合成容量 \(C_{\text{合成}}\) を計算する。
- \(C_1\) に蓄えられる電荷 \(Q_1\) は、\(Q_1 = C_{\text{合成}} V_C\) で計算する(直列なので各コンデンサーの電荷は等しい)。
- (4) S開直後の \(R_3\) の電流 \(i_0\) と \(R_3\) のジュール熱 \(J\):
- Sを開くと電源は切り離され、コンデンサーが放電を開始する。
- 放電直前のコンデンサーの電圧 \(V_C\)((3)の \(V_C = V_{R2}\))と合成容量 \(C_{\text{合成}}\) を確認。
- 放電回路は \(C_{\text{合成}}\) と、\(R_2, R_3\) の直列抵抗 \(R_{\text{放電}} = R_2+R_3\) からなる。
- S開直後の電流 \(i_0 = V_C / R_{\text{放電}}\) を計算する。
- コンデンサーの初期静電エネルギー \(U_{\text{初}} = \frac{1}{2}C_{\text{合成}}V_C^2\) を計算する。
- \(U_{\text{初}}\) が \(R_2\) と \(R_3\) に抵抗値の比で分配されて消費されるため、\(R_3\) でのジュール熱 \(J = U_{\text{初}} \times \frac{R_3}{R_2+R_3}\) を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 合成抵抗・合成容量の計算式の混同: 特に、抵抗の並列接続の式とコンデンサーの直列接続の式は形が似ている(逆数の和の逆数をとる)ので注意が必要です。抵抗の直列とコンデンサーの並列は単純な和です。
- 対策: それぞれの公式を正確に覚え、適用する際に間違いないか確認する。
- 分数の計算: この問題では抵抗値や容量の比率、計算結果が分数になることが多いです。通分、約分、逆数をとる計算などを丁寧に行いましょう。
- 対策: 途中式を省略せず、一つ一つのステップを確実に実行する。
- 単位の確認と一貫性: 電圧は[V]、電流は[A]、抵抗は[Ω]、電気容量は[F]、電荷は[C]、エネルギーは[J]など、基本的な単位を常に意識し、計算結果の単位が物理的に正しいものになっているかを確認する習慣が大切です(この問題では文字式なので直接的な単位ミスは起こりにくいですが、数値計算の場合は特に重要)。
- エネルギー分配の比率の誤り: (4)のジュール熱の計算で、\(R_3/(R_2+R_3)\) なのか \(R_2/(R_2+R_3)\) なのか、あるいは他の比率なのか、何を求めているのかを明確にし、正しい比率を用いること。
- 対策: 直列接続では電流が共通なので \(P=I^2R\) から電力・エネルギーはRに比例。並列接続では電圧が共通なので \(P=V^2/R\) から電力・エネルギーは1/Rに比例、と原理から考える。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の検討:
- 計算結果が物理的にありえない値(例: 電流や電荷、エネルギーが負になる、ただし向きを定義した電流が負になるのはあり得る)になっていないか確認する。
- スイッチを閉じた直後の電流 \(I_0\) と、十分に時間が経過した後の電流 \(I_1\) の関係性はどうなっているか。一般にコンデンサーへの充電電流は時間とともに減少する傾向がありますが、回路全体の構成によって電源から流れ出す電流がどう変化するかは一概には言えません。この問題では \(I_0 = \frac{5V}{11R}\) (\(\approx 0.455 \frac{V}{R}\))、\(I_1 = \frac{V}{3R}\) (\(\approx 0.333 \frac{V}{R}\)) であり、\(I_0 > I_1\) となっています。これは、直後はコンデンサーが短絡として働き \(R_2//R_3\) の経路があるのに対し、十分後はコンデンサーの枝が開放されるため、電流の流れるパターンが変わるためです。
- コンデンサーの電圧が、単純なRC直列充電の場合に電源電圧を超えることはありませんが、複雑な回路では各部の電圧関係を正しく評価する必要があります。
- 極端な場合を想定した検証 (思考実験):
- 例えば、もし抵抗 \(R_3\) が非常に大きかったら(\(R_3 \rightarrow \infty\))、(1)の計算では \(R_2\) のみが並列相手として残り(実際は \(R_3\) がないと \(R_2\) のみがぶら下がる形になるが、コンデンサー短絡なので \(R_2\) のみが \(R_1\) と直列)、(2)や(3)の定常状態では \(R_3\) があってもなくても結果は変わりません。(4)の放電では \(R_3\) が大きいと電流は小さく、ジュール熱の分配も変わります。
- もしコンデンサー \(C_2\) の容量が非常に小さかったら(\(C_2 \rightarrow 0\))、直列合成容量はほぼ \(C_2\) に支配されて0に近づき、電荷はほとんど蓄えられなくなります。計算式がそのような傾向を示すか確認できます。
- エネルギー保存則による検算: (4)のジュール熱の計算では、\(R_2\) で発生するジュール熱 \(J_{R2}\) も計算し、\(J_{R2} + J_{R3}\) がコンデンサーに蓄えられていた初期の総静電エネルギー \(U_{\text{初}}\) と一致するかどうかを確認することで、計算の妥当性を検証できます。
(\(J_{R2} = U_{\text{初}} \times \frac{R_2}{R_2+R_3} = \frac{1}{6}CV^2 \times \frac{2R}{5R} = \frac{1}{15}CV^2\)。よって \(J_{R2}+J = \frac{1}{15}CV^2 + \frac{1}{10}CV^2 = (\frac{2+3}{30})CV^2 = \frac{5}{30}CV^2 = \frac{1}{6}CV^2 = U_{\text{初}}\)。一致します。)
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