問題52 (新潟大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、20世紀初頭にアメリカの物理学者ミリカンが行った、電気素量(電子1個が持つ電気量の大きさ)を測定するための有名な実験、「ミリカンの油滴実験」を題材としています。油滴に働く重力、浮力、空気抵抗、そして電場からの静電気力という複数の力を考え、それらがつり合う条件から、油滴の半径や電荷、さらには電気素量の値を求めていく、力学と電磁気学の融合問題です。
- 油滴は半径 \(a\) の球形
- 油の密度: \(\rho\)
- 空気の密度: \(\rho_0\)
- 重力加速度: \(g\)
- 油滴が空気中を速さ \(v\) で動くときの空気抵抗: \(F_{\text{抵抗}} = kav\) (\(k\) は比例定数)
- 平行な極板の間隔: \(d\)
- (1) 極板間に電位差がないとき、一定の速さ \(v_g\) で落下した油滴の半径 \(a\) はいくらか。
- (2) 極板間に電位差 \(V_0\) を与え、電荷 \(-q\) を帯びた油滴が一定の速さ \(v_E\) で上昇したとき、電荷の大きさ \(q\) はいくらか。
- (3) 複数の測定データから、電気素量 \(e\) の値を有効数字3桁で求めよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは、物体が液体や気体中で一定の速度(終端速度)で運動しているとき、その物体に働く全ての力の合力がゼロになる、すなわち「力のつり合い」が成立しているという点です。
具体的には、以下の4つの力を正確に把握し、それぞれの状況に応じて力のつり合いの式を立てることが鍵となります。
- 重力: 常に鉛直下向きに働く力。
- 浮力: 空気の密度によって生じる、鉛直上向きの力。
- 空気抵抗: 油滴の運動を妨げる向きに働く力。落下時は上向き、上昇時は下向きになります。
- 静電気力: 電場から電荷が受ける力。電荷の符号と電場の向きによって力の向きが決まります。
問(1)と問(2)でそれぞれ力のつり合いの式を立て、それらを連立させることで未知数を消去し、問われている物理量を導出します。問(3)は物理的な計算というよりも、実験データから物理的な基本法則(電気量の量子性)を読み解くデータ解析の問題です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 【問(1)】 電場がない状態で油滴が等速落下する場面を考えます。油滴に働く「重力」「浮力」「空気抵抗」の3つの力のつり合いの式を立て、半径 \(a\) について解きます。
- 【問(2)】 次に、電場をかけた状態で油滴が等速上昇する場面を考えます。今度は「重力」「浮力」「空気抵抗」に「静電気力」を加えた4つの力のつり合いの式を立てます。ここで、問(1)で立てた式を利用して、計算を簡略化するのが賢明です。
- メインの解法(式同士の引き算): 問(2)のつり合いの式から問(1)のつり合いの式を引くことで、重力と浮力の項をまとめて消去し、簡潔な関係式を導きます。この方法は計算が非常にスムーズに進むため、おすすめです。
- 別解(代入法): 問(1)のつり合いの式を「重力と浮力の合力」について整理し、それを問(2)の式に代入する方法です。物理的な意味を一つ一つ確認しながら進めたい場合に有効です。
- 【問(3)】 実験データが電気素量 \(e\) の整数倍になっているという「電気量の量子性」を前提に、データを統計的に処理します。
- まず、データ間の差を計算し、\(e\) のおおよその値に見当をつけます。
- 次に見当をつけた値を用いて、各データが \(e\) の何倍(整数 \(n\))にあたるかを判断します。
- 最後に、全データの総和と \(n\) の総和の関係式を立てることで、測定誤差を平均化し、より精度の高い \(e\) の値を算出します。
問 (1)
思考の道筋とポイント
油滴が「一定の速さ \(v_g\) で落下」している、という記述から、油滴は加速も減速もしていない、つまり加速度が0の状態であるとわかります。ニュートンの運動の法則 \(F=ma\) から、加速度 \(a=0\) ならば、物体に働く力の合力 \(F\) は0です。したがって、油滴に働くすべての力を図示し、鉛直上向きの力と鉛直下向きの力が等しいという「力のつり合い」の式を立てます。働く力は「重力(下向き)」、「浮力(上向き)」、そして落下運動を妨げる「空気抵抗(上向き)」の3つです。
具体的な解説と立式
まず、油滴に働く各力を、与えられた文字を使って数式で表します。
油滴は半径 \(a\) の球なので、その体積 \(V\) は \(V = \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3\) です。
1. 重力 \(W\): 油滴自身の重さです。鉛直下向きに働きます。
(質量) = (密度) \(\times\) (体積) なので、\(m = \rho V = \rho \cdot \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3\)。
よって、重力は \(W = mg = \rho \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g\)。
2. 浮力 \(F_{\text{浮力}}\): 油滴が押しのけた空気の重さに等しい力です。鉛直上向きに働きます。
押しのけた空気の体積は油滴の体積 \(V\) と等しく、その質量は \(\rho_0 V\)。
よって、浮力は \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g = \rho_0 \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g\)。
3. 空気抵抗 \(F_{\text{抵抗}}\): 油滴の運動を妨げる向き、つまり落下しているので鉛直上向きに働きます。問題文より、その大きさは \(F_{\text{抵抗}} = kav_g\)。
これらの力がつり合っているので、次の式が成り立ちます。
(上向きの力の合計) = (下向きの力の合計)
$$F_{\text{浮力}} + F_{\text{抵抗}} = W$$
$$ \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g = \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- 重力: \(W = mg = (\rho V)g\)
- 浮力: \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\)
- 空気抵抗: \(F_{\text{抵抗}} = kav_g\)
上記で立てた力のつり合いの式①を、求めたい半径 \(a\) について解きます。
まず、\(a\) を含む項をまとめるために、式を整理します。
$$kav_g = \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g – \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g$$
右辺を共通因数でくくります。
$$kav_g = (\rho – \rho_0) \frac{4}{3}\pi a^3 g$$
油滴の半径 \(a\) は0ではないので、両辺を \(a\) で割ることができます。
$$kv_g = (\rho – \rho_0) \frac{4}{3}\pi a^2 g$$
この式を \(a^2\) について整理します。
$$a^2 = \frac{kv_g}{(\rho – \rho_0) \frac{4}{3}\pi g} = \frac{3kv_g}{4\pi(\rho – \rho_0)g}$$
最後に、\(a\) は半径なので正の値をとります。したがって、両辺の正の平方根をとって \(a\) を求めます。
$$a = \sqrt{\frac{3kv_g}{4\pi(\rho – \rho_0)g}}$$
根号の外に出せるものは出して、解答の形に合わせます。
$$a = \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}}$$
油滴が一定の速さで落ちるとき、「下向きに引っ張る重力」と、「上向きに支えようとする浮力と空気抵抗の合計」がちょうど同じ大きさになっています。この関係を数式にして(これが力のつり合いの式です)、求めたい「半径 \(a\)」以外の文字をすべて定数だと思って、中学校で習う方程式を解くように \(a\) について式を変形していきます。最後に平方根をとることで、半径 \(a\) の大きさが計算できます。
油滴の半径 \(a\) は、\(a = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}}\) と表されます。この式から、油滴の落下速度 \(v_g\) を測定し、その他の物理定数が分かっていれば、直接見ることのできない微小な油滴の半径を計算できることがわかります。
問 (2)
思考の道筋とポイント
今度は電場をかけ、油滴が「一定の速さ \(v_E\) で上昇」しています。これも「一定の速さ」なので、力のつり合いが成り立っています。働く力は、問(1)の3つの力に「静電気力」が加わった4つです。各力の向きを正しく設定し、力のつり合いの式を立てることが第一歩です。
特に、空気抵抗は常に運動と逆向きに働くため、今回は上昇しているので「下向き」になる点に注意が必要です。静電気力は、電荷の符号と電場の向きから判断します。
そして、この新しいつり合いの式と、問(1)で立てた式①を見比べると、重力と浮力の項が共通して含まれています。2つの式を引き算すれば、この複雑な項を消去でき、計算が簡単になりそうです。
メインの解法: 式同士の引き算による方法
具体的な解説と立式
問(1)と同様に、まず油滴に働く各力を数式で表します。重力と浮力は問(1)と全く同じです。
1. 重力 \(W\): \( \rho \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g \) (下向き)
2. 浮力 \(F_{\text{浮力}}\): \( \rho_0 \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g \) (上向き)
3. 静電気力 \(F_{\text{静電気}}\):
油滴の電荷は \(-q\) (負電荷)です。上昇させるためには上向きの力が必要なので、上の極板が正(陽極)、下の極板が負(陰極)に帯電しているとわかります。つまり、電場は鉛直下向きです。
負の電荷は電場と逆向きに力を受けるので、静電気力は鉛直上向きになります。
極板間の電位差が \(V_0\)、間隔が \(d\) なので、電場の強さ \(E\) は \(E = \displaystyle\frac{V_0}{d}\)。
よって、静電気力の大きさは \(F_{\text{静電気}} = qE = q\displaystyle\frac{V_0}{d}\)。
4. 空気抵抗 \(F’_{\text{抵抗}}\):
油滴は速さ \(v_E\) で上昇しているので、空気抵抗は鉛直下向きに働きます。
その大きさは \(F’_{\text{抵抗}} = kav_E\)。
これらの4つの力がつり合っているので、次の式が成り立ちます。
(上向きの力の合計) = (下向きの力の合計)
$$F_{\text{静電気}} + F_{\text{浮力}} = W + F’_{\text{抵抗}}$$
$$ q\frac{V_0}{d} + \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g = \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_E \quad \cdots ②$$
この式②と、問(1)で立てた式①を連立して \(q\) を求めます。
$$\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g = \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- 静電気力: \(F = qE = q\displaystyle\frac{V_0}{d}\)
- 空気抵抗: \(F_{\text{抵抗}} = kav_E\)
式②から式①を引くことで、計算を簡略化します。
(式②の左辺) – (式①の左辺) = (式②の右辺) – (式①の右辺)
左辺の計算:
\( \left(q\displaystyle\frac{V_0}{d} + \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g\right) – \left(\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g\right) = q\displaystyle\frac{V_0}{d} – kav_g \)
右辺の計算:
\( \left(\rho \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_E\right) – \left(\rho \frac{4}{3}\pi a^3 g\right) = kav_E \)
したがって、引き算の結果は次のようになります。
$$q\frac{V_0}{d} – kav_g = kav_E$$
この式を、求めたい電荷 \(q\) について整理します。
$$q\frac{V_0}{d} = kav_g + kav_E$$
$$q\frac{V_0}{d} = ka(v_g + v_E)$$
$$q = \frac{kad(v_g + v_E)}{V_0} \quad \cdots ③$$
この式にはまだ未知数である半径 \(a\) が含まれています。そこで、問(1)で求めた \(a\) の結果をこの式に代入します。
\(a = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}}\) を③に代入して、
$$q = \frac{kd(v_g + v_E)}{V_0} \left( \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}} \right)$$
これを整理して、最終的な答えとなります。
$$q = \frac{kd(v_g+v_E)}{2V_0}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho-\rho_0)g}}$$
電場をかけたときの力のつり合いの式と、かけないときの力のつり合いの式、2つの式を立てます。この2つの式をよく見ると、油滴の「重さ」や「体積」に関連する複雑な部分が共通しています。そこで、一方の式からもう一方の式を丸ごと引き算すると、この共通部分がごっそり消えて、式がとてもシンプルになります。残った式から、求めたい電荷 \(q\) を計算し、最後に問(1)で求めた半径 \(a\) の式を代入すれば答えにたどり着きます。
油滴の電荷の大きさ \(q\) が、測定可能な物理量(落下速度 \(v_g\)、上昇速度 \(v_E\)、電位差 \(V_0\) など)と定数を用いて表されました。この関係式により、実験で得られた値から未知の電荷 \(q\) を決定することができます。
別解1: 重力と浮力の合力を置き換える方法
具体的な解説と立式
問(1)の力のつり合いの式①は、「重力と浮力の合力(油滴に実質的に働く下向きの力)」が「落下時の空気抵抗」と等しいことを示しています。この関係を利用して、問(2)の力のつり合いの式②を簡単にすることができます。具体的には、式②に出てくる「重力と浮力の合力」の項を、式①から得られる「\(kav_g\)」という項で置き換えてしまうのです。
問(1)で立てた力のつり合いの式①を変形します。
$$\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g = \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g \quad \cdots ①$$
移項すると、重力と浮力の合力(正味の重力)が得られます。
$$\rho \frac{4}{3}\pi a^3 g – \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g = kav_g \quad \cdots ①’$$
次に、問(2)で立てた力のつり合いの式②を、この合力の形が見えるように変形します。
$$q\frac{V_0}{d} + \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g = \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_E \quad \cdots ②$$
移項すると、
$$q\frac{V_0}{d} = \left( \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g – \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g \right) + kav_E \quad \cdots ②’$$
式②’の右辺にある括弧の部分に、式①’の関係 \(kav_g\) を代入します。
$$q\frac{V_0}{d} = (kav_g) + kav_E$$
右辺を共通因数 \(ka\) でくくります。
$$q\frac{V_0}{d} = ka(v_g + v_E)$$
この式は、メインの解法で得られた中間式③と全く同じです。
$$q = \frac{kad(v_g + v_E)}{V_0} \quad \cdots ③$$
したがって、この後の計算もメインの解法と全く同じになります。問(1)で求めた \(a\) の結果を代入して、
$$q = \frac{kd(v_g+v_E)}{2V_0}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho-\rho_0)g}}$$
この解き方では、まず「電場がないとき、油滴を下に引く正味の力(重力マイナス浮力)は、落下時の空気抵抗と等しい」という関係に着目します。次に、「電場があるとき」の力のつり合いの式を立て、その式の中に出てくる「油滴を下に引く正味の力」の部分を、先ほどの「落下時の空気抵抗」で置き換えます。これにより、メインの解法と同じように式が簡単になり、答えを導くことができます。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。これは、異なる計算手順でも、物理的に正しい考察に基づっていれば同じ結論に至ることを示しています。どちらの方法でも解けるようにしておくと、問題解決の視野が広がります。
問 (3)
思考の道筋とポイント
この問題は、実験で得られた複数の電荷の測定値から、その基本単位である「電気素量 \(e\)」を推定する、データ解析の問題です。ミリカンの発見の核心は、どんな帯電体の持つ電気量も、ある最小単位(電気素量 \(e\))の整数倍になっている、という「電気量の量子性」です。つまり、測定された電荷 \(q\) は、\(q = ne\)(\(n\) は整数)という関係を満たすはずです。
この仮説が正しければ、測定値どうしの差もまた、\(e\) の整数倍になるはずです。そこで、まずデータ間の差を計算して、\(e\) のおおよその値に見当をつけます。
次に、そのおおよその値を使って、各データが \(e\) の何倍(整数 \(n\))に相当するかを判断します。
最後に、個々のデータには測定誤差が含まれているため、それらの影響をなるべく小さくして、より信頼性の高い \(e\) の値を求める工夫をします。その方法が「全データの合計をとる」ことです。測定値の合計 \( \sum q_i \) が、\(e\) の倍数の合計 \( \sum n_i \) に \(e\) を掛けたものに等しい(\( \sum q_i = (\sum n_i) e \))という関係式を立て、これを解くことで、誤差が平均化された \(e\) の値を算出します。
具体的な解説と立式
ステップA: 電気素量 \(e\) のおおよその値を推定する
与えられたデータを小さい順に並べ替えます。
データ: 4.9, 6.5, 9.7, 11.3, 14.5, 17.6 (単位は全て \(\times 10^{-19}\) C)
隣り合う値の差を計算します。
- \(6.5 – 4.9 = 1.6\)
- \(9.7 – 6.5 = 3.2\)
- \(11.3 – 9.7 = 1.6\)
- \(14.5 – 11.3 = 3.2\)
- \(17.6 – 14.5 = 3.1\)
差の値は、1.6 や 3.2 (= 2 \(\times\) 1.6)、3.1 (3.2に近い) となっています。これらの差は全て、約 1.6 の整数倍になっていると考えられます。このことから、電気素量 \(e\) のおおよその値は \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C であると見当をつけることができます。
ステップB: 各データの整数倍 \(n\) を決定し、総和を計算する
推定した \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C を用いて、各データ \(q_i\) が \(e\) の何倍 (\(n_i\)) にあたるかを求めます。
- \(4.9 \div 1.6 \approx 3.06 \rightarrow n_1 = 3\)
- \(6.5 \div 1.6 \approx 4.06 \rightarrow n_2 = 4\)
- \(9.7 \div 1.6 \approx 6.06 \rightarrow n_3 = 6\)
- \(11.3 \div 1.6 \approx 7.06 \rightarrow n_4 = 7\)
- \(14.5 \div 1.6 \approx 9.06 \rightarrow n_5 = 9\)
- \(17.6 \div 1.6 \approx 11.0 \rightarrow n_6 = 11\)
次に、測定値の総和 \( \sum q_i \) と、整数倍 \(n\) の総和 \( \sum n_i \) を計算します。
- \( \sum q_i = (4.9 + 6.5 + 9.7 + 11.3 + 14.5 + 17.6) \times 10^{-19} = 64.5 \times 10^{-19} \) [C]
- \( \sum n_i = 3 + 4 + 6 + 7 + 9 + 11 = 40 \)
ステップC: 全データの総和から \(e\) を算出する
「測定値の総和は、\(e\) と整数倍の総和の積に等しい」という関係式を立てます。
$$\sum q_i = (\sum n_i) \times e$$
$$64.5 \times 10^{-19} = 40 e \quad \cdots ④$$
使用した物理公式/概念
- 電気量の量子性: \(q = ne\) (\(n\)は整数)
- 統計処理(総和による平均化)
式④を \(e\) について解きます。
$$e = \frac{64.5 \times 10^{-19}}{40}$$
$$e = 1.6125 \times 10^{-19}$$
問題文で有効数字3桁まで求めよと指定されているので、小数点第4位を四捨五入します。
$$e \approx 1.61 \times 10^{-19} \text{ [C]}$$
これは統計的なデータ処理です。まず、データ同士の差を取ることで、全てのデータの基本単位となっている「電気素量 \(e\)」のおおよその大きさを見つけます。次に、そのおおよその値を使って、それぞれのデータが基本単位の何個分に相当するか(整数 \(n\))を判断します。最後に、全データの合計(\(q\)の合計)が、基本単位の個数の合計(\(n\)の合計)に \(e\) を掛けたものと等しくなるはずだ、という式を立てて、より正確な \(e\) の値を求めます。この方法は、個々の測定に含まれる誤差を平均化して、より信頼できる結果を得るための賢い工夫です。
電気素量 \(e\) の値として \(1.61 \times 10^{-19}\) C が得られました。これは現在知られている値 \(1.602 \times 10^{-19}\) C に非常に近く、この実験とデータ解析方法の妥当性を示しています。もし、例えば \(4.9 \times 10^{-19} = 3e\) という一つのデータだけで計算すると、有効数字も2桁までしか取れず、精度が低くなります。複数のデータを統計的に処理することの重要性がわかります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い: 物体が等速直線運動(または静止)しているとき、その物体に働く力のベクトル和はゼロになる(\(\sum \vec{F} = 0\))。これが問(1)と問(2)を解くための大原則です。
- 各力の公式:
- 重力: \(W=mg\)
- 浮力: \(F = \rho_{\text{流体}}Vg\) (物体の体積 \(V\) に等しい体積の流体の重さ)
- 空気抵抗: \(F = kav\) (問題で与えられたストークス型の抵抗)
- 静電気力: \(F = qE\) (一様な電場中では \(E=V/d\))
- 電気量の量子性: 全ての電荷は、電気素量 \(e\) の整数倍の値しかとらない (\(q=ne\))。これは問(3)のデータ解析の根底にある物理的な大前提です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 雨滴やスカイダイバーの落下など、空気抵抗を受けて終端速度に達する問題全般。
- 電場や磁場の中で荷電粒子が運動する問題(ローレンツ力など)。
- 実験データを統計的に処理して、物理定数や法則性を導き出すタイプの問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 運動状態の把握: 「一定の速さ」「静止していた」「等速で」といったキーワードに注目し、力のつり合いが使えるのか、運動方程式を立てるべきなのかを判断します。
- 力の図示: 物体に働く力を「もれなく」「向きを正しく」すべて矢印で描き出すこと。これが最も重要です。特に、運動の向きによって変化する抵抗力の向きに注意します。
- 複数条件の連立: 問(1)と問(2)のように、異なる条件下での状況が与えられた場合、それぞれで立てた式を連立させて未知数を消去できないか、と考えます。
- データ解析: 問(3)のように数値データが並んでいたら、「平均を取る」「差を取る」「比を取る」などして、データに隠された規則性(ここでは整数倍の関係)を見つけ出す姿勢が大切です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の向きの間違い:
- 現象: 空気抵抗を常に下向き、あるいは上向きと固定して考えてしまう。静電気力の向きを電荷の符号や電場の向きと関連付けられない。
- 対策: 空気抵抗は「常に速度と逆向き」、静電気力は「正電荷は電場と同じ向き、負電荷は電場と逆向き」という原則を徹底する。必ず力の図を描いて確認する癖をつける。
- 浮力の考慮漏れ:
- 現象: 空気中の運動なので、浮力は小さいだろうと勝手に無視してしまう。
- 対策: 問題文に空気の密度 \(\rho_0\) が与えられている場合は、必ず浮力を考慮に入れる必要があります。与えられていない場合でも、考慮すべきか常に意識することが大切です。
- 問(3)のデータ処理方法の誤り:
- 現象: 測定値の単純な算術平均を計算してしまう。(例: \( (4.9 + … + 17.6) / 6 \) )
- 対策: この問題のデータは「とびとびの値」をとるはずだ、という物理的背景(電気量の量子性)を理解することが重要です。単純な平均ではなく、「基本単位の整数倍」という構造を見つけ出すための操作(差を取る、総和を取る)が必要だと認識すること。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 力のベクトル図: 小さな円(油滴)を描き、その中心から働く全ての力(重力、浮力、抵抗力、静電気力)を、向きと大きさのバランスがわかるように矢印で描くことが極めて有効です。模範解答の図も大変参考になります。
- 状況比較図: 問(1)の「電場なし・落下時」の力の図と、問(2)の「電場あり・上昇時」の力の図を並べて描くと、何が変化したのか(静電気力の追加、抵抗力の向きの逆転)が一目瞭然となり、思考が整理されます。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 矢印の始点を物体の中心(または作用点)にそろえる。
- 力の名種類を文字で明記する(\(W, F_{\text{浮力}}\) など)。
- つり合いの状態を表すなら、上向きの矢印の長さの合計と、下向きの矢印の長さの合計が等しくなるように描くと、視覚的に理解が深まります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 \( \sum \vec{F} = 0 \):
- 選定理由: 問題文に「一定の速さ」とあるため、加速度が0であることが確定します。運動方程式 \( \sum \vec{F} = m\vec{a} \) に \( \vec{a}=0 \) を代入した特別な場合が、力のつり合いの式です。
- 適用根拠: 慣性の法則に基づき、力がつり合っている物体は静止し続けるか、等速直線運動を続けます。
- 関係式 \( \sum q_i = (\sum n_i) e \):
- 選定理由: 測定誤差の影響を最小化し、最も確からしい \(e\) の値を統計的に導出するためです。
- 適用根拠: 電気量の量子性という物理法則が成り立っているという仮定と、多数の測定を行えば偶然誤差は平均化されるという統計学の原理に基づいています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【状況把握】 問題文を読み、油滴の運動状態(等速落下 or 等速上昇)と、そのときに働く力を特定する。
- 【図解】 働く力をすべてベクトル図で表現する。向きと種類を明確にする。
- 【立式】 「上向きの力の和 = 下向きの力の和」として、力のつり合いの式を立てる(問(1)と問(2)でそれぞれ)。
- 【連立・計算】 立てた2つの式を連立し、未知数を消去しながら、問われている物理量(\(a\) や \(q\))を求める。
- 【代入】 前の設問で得た結果(例: 問(1)の\(a\))を、後の設問の式に代入して最終的な答えを導く。
- 【データ解析】 (問3) データの差から基本単位を推定 → 各データが基本単位の何倍か決定 → 全体の和を取って平均化し、最終的な値を算出、という手順を踏む。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位と文字の区別: \(\rho\) (ロー)と \(p\) (ピー)、\(v_g\) と \(v_E\) など、似た文字や添え字を丁寧に見分け、書き分ける。
- 式変形の丁寧さ: 分数や根号(ルート)を含む複雑な式の変形は、一行一行、焦らずに行う。
- 賢い消去法: 問(2)のメインの解法のように、式同士の足し算や引き算で複雑な項が消える場合は積極的に利用する。これにより、計算が楽になるだけでなく、ミスも減らせる。
- 概算の活用: 問(3)で \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) と見当をつけたように、本格的な計算の前に大まかな値を予想しておくと、計算結果が大きくずれた場合に間違いに気づきやすくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との比較:
- 問(1)の関係式 \(kv_g \propto a^2g\) から、落下速度 \(v_g\) は半径 \(a\) の2乗に比例します。これは「大きい粒の方が(ずっと)速く落ちる」という感覚と合っています。
- 問(2)で求めた \(q\) は、\(v_g+v_E\) に比例します。速く動かすためには、より大きな静電気力、つまりより大きな電荷が必要だというのは理にかなっています。
- 既知の値との比較:
- 問(3)で求めた \(e = 1.61 \times 10^{-19}\) C は、教科書などで知っている電気素量の値 \(1.60 \times 10^{-19}\) C と非常に近い値です。このことから、自分の計算結果が妥当であると自信を持つことができます。
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