問題52 (新潟大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、20世紀初頭にアメリカの物理学者ミリカンが行った、電気素量(電子1個が持つ電気量の大きさ)を測定するための有名な実験、「ミリカンの油滴実験」を題材としています。油滴に働く重力、浮力、空気抵抗、そして電場からの静電気力という複数の力を考え、それらがつり合う条件から、油滴の半径や電荷、さらには電気素量の値を求めていく、力学と電磁気学の融合問題です。
- 油滴は半径 \(a\) の球形
- 油の密度: \(\rho\)
- 空気の密度: \(\rho_0\)
- 重力加速度: \(g\)
- 油滴が空気中を速さ \(v\) で動くときの空気抵抗: \(F_{\text{抵抗}} = kav\) (\(k\) は比例定数)
- 平行な極板の間隔: \(d\)
- (1) 極板間に電位差がないとき、一定の速さ \(v_g\) で落下した油滴の半径 \(a\) はいくらか。
- (2) 極板間に電位差 \(V_0\) を与え、電荷 \(-q\) を帯びた油滴が一定の速さ \(v_E\) で上昇したとき、電荷の大きさ \(q\) はいくらか。
- (3) 複数の測定データから、電気素量 \(e\) の値を有効数字3桁で求めよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 電荷の大きさqの別解: 代入法による解法
- 主たる解法が問(1)と問(2)のつり合いの式を引き算することで重力・浮力の項を消去するのに対し、別解では問(1)の式を「重力と浮力の合力」について整理し、それを問(2)の式に代入することで解を導きます。
- 問(3) 電気素量eの別解: 最小公倍数的な考え方による解法
- 主たる解法が「差」と「総和」を用いる統計的な手法であるのに対し、別解では各データを分数で近似し、その分母の最小公倍数から基本単位を推定するという、より数論的なアプローチを紹介します。
- 問(2) 電荷の大きさqの別解: 代入法による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的意味の明確化: 問(2)の別解では「落下時の空気抵抗が、実質的な重力(重力と浮力の合力)とつり合っている」という物理的意味を明確に意識しながら計算を進めることができます。
- 思考の柔軟性の養成: 問(3)の別解は、物理の問題を数学的な視点から解きほぐす一つの例です。このような異なる分野の考え方を応用する経験は、問題解決能力の幅を広げます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解く上で中心となるのは、物体が液体や気体中で一定の速度(終端速度)で運動しているとき、その物体に働く全ての力の合力がゼロになる、すなわち「力のつり合い」が成立しているという点です。
具体的には、以下の4つの力を正確に把握し、それぞれの状況に応じて力のつり合いの式を立てることが鍵となります。
- 重力: 常に鉛直下向きに働く力。
- 浮力: 空気の密度によって生じる、鉛直上向きの力。
- 空気抵抗: 油滴の運動を妨げる向きに働く力。落下時は上向き、上昇時は下向きになります。
- 静電気力: 電場から電荷が受ける力。電荷の符号と電場の向きによって力の向きが決まります。
問(1)と問(2)でそれぞれ力のつり合いの式を立て、それらを連立させることで未知数を消去し、問われている物理量を導出します。問(3)は物理的な計算というよりも、実験データから物理的な基本法則(電気量の量子性)を読み解くデータ解析の問題です。
問(1)
思考の道筋とポイント
油滴が「一定の速さ \(v_g\) で落下」している、という記述から、油滴は加速も減速もしていない、つまり加速度が0の状態であるとわかります。ニュートンの運動の法則 \(F=ma\) から、加速度 \(a=0\) ならば、物体に働く力の合力 \(F\) は0です。したがって、油滴に働くすべての力を図示し、鉛直上向きの力と鉛直下向きの力が等しいという「力のつり合い」の式を立てます。働く力は「重力(下向き)」、「浮力(上向き)」、そして落下運動を妨げる「空気抵抗(上向き)」の3つです。
この設問における重要なポイント
- 「一定の速さ」というキーワードから「力のつり合い」を連想する。
- 重力、浮力、空気抵抗の3つの力を正しく定式化し、向きを間違えずに力のつり合いの式を立てる。
具体的な解説と立式
まず、油滴に働く各力を、与えられた文字を使って数式で表します。
油滴は半径 \(a\) の球なので、その体積 \(V\) は \(V = \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3\) です。
1. 重力 \(W\): 油滴自身の重さです。鉛直下向きに働きます。
(質量) = (密度) \(\times\) (体積) なので、\(m = \rho V = \rho \cdot \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3\)。
よって、重力は \(W = mg = \rho \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g\)。
2. 浮力 \(F_{\text{浮力}}\): 油滴が押しのけた空気の重さに等しい力です。鉛直上向きに働きます。
押しのけた空気の体積は油滴の体積 \(V\) と等しく、その質量は \(\rho_0 V\)。
よって、浮力は \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g = \rho_0 \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g\)。
3. 空気抵抗 \(F_{\text{抵抗}}\): 油滴の運動を妨げる向き、つまり落下しているので鉛直上向きに働きます。問題文より、その大きさは \(F_{\text{抵抗}} = kav_g\)。
これらの力がつり合っているので、次の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力の合計}) &= (\text{下向きの力の合計}) \\[2.0ex]
F_{\text{浮力}} + F_{\text{抵抗}} &= W \\[2.0ex]
\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g &= \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- 重力: \(W = mg = (\rho V)g\)
- 浮力: \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\)
- 空気抵抗: \(F_{\text{抵抗}} = kav_g\)
上記で立てた力のつり合いの式①を、求めたい半径 \(a\) について解きます。
まず、\(a\) を含む項をまとめるために、式を整理します。
$$
\begin{aligned}
kav_g &= \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g – \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g
\end{aligned}
$$
右辺を共通因数でくくります。
$$
\begin{aligned}
kav_g &= (\rho – \rho_0) \frac{4}{3}\pi a^3 g
\end{aligned}
$$
油滴の半径 \(a\) は0ではないので、両辺を \(a\) で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
kv_g &= (\rho – \rho_0) \frac{4}{3}\pi a^2 g
\end{aligned}
$$
この式を \(a^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
a^2 &= \frac{kv_g}{(\rho – \rho_0) \frac{4}{3}\pi g} \\[2.0ex]
&= \frac{3kv_g}{4\pi(\rho – \rho_0)g}
\end{aligned}
$$
最後に、\(a\) は半径なので正の値をとります。したがって、両辺の正の平方根をとって \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \sqrt{\frac{3kv_g}{4\pi(\rho – \rho_0)g}}
\end{aligned}
$$
根号の外に出せるものは出して、解答の形に合わせます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}}
\end{aligned}
$$
小さなホコリが空気中をゆっくり落ちていく様子を想像してください。ホコリには下向きの重力がかかりますが、同時に空気からの浮力と、動きを邪魔する空気抵抗が上向きに働きます。やがてこの「下向きの力」と「上向きの力の合計」が釣り合うと、ホコリは一定の速さで落ちていきます。この問題の油滴も全く同じです。この力の釣り合いを数式にして、パズルのように式を変形していくと、油滴の半径\(a\)を計算する式が導き出せます。
油滴の半径 \(a\) は、\(a = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}}\) と表されます。この式から、油滴の落下速度 \(v_g\) を測定し、その他の物理定数が分かっていれば、直接見ることのできない微小な油滴の半径を計算できることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度は電場をかけ、油滴が「一定の速さ \(v_E\) で上昇」しています。これも「一定の速さ」なので、力のつり合いが成り立っています。働く力は、問(1)の3つの力に「静電気力」が加わった4つです。各力の向きを正しく設定し、力のつり合いの式を立てることが第一歩です。
特に、空気抵抗は常に運動と逆向きに働くため、今回は上昇しているので「下向き」になる点に注意が必要です。静電気力は、電荷の符号と電場の向きから判断します。
そして、この新しいつり合いの式と、問(1)で立てた式①を見比べると、重力と浮力の項が共通して含まれています。2つの式を引き算すれば、この複雑な項を消去でき、計算が簡単になりそうです。
この設問における重要なポイント
- 運動の向きが変わると、空気抵抗の向きも逆になる。
- 負電荷が受ける静電気力の向きは、電場の向きと逆である。
- 問(1)の式と連立させることで、複雑な項を消去する。
具体的な解説と立式
問(1)と同様に、まず油滴に働く各力を数式で表します。重力と浮力は問(1)と全く同じです。
1. 重力 \(W\): \( \rho \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g \) (下向き)
2. 浮力 \(F_{\text{浮力}}\): \( \rho_0 \displaystyle\frac{4}{3}\pi a^3 g \) (上向き)
3. 静電気力 \(F_{\text{静電気}}\):
油滴の電荷は \(-q\) (負電荷)です。上昇させるためには上向きの力が必要なので、上の極板が正(陽極)、下の極板が負(陰極)に帯電しているとわかります。つまり、電場は鉛直下向きです。
負の電荷は電場と逆向きに力を受けるので、静電気力は鉛直上向きになります。
極板間の電位差が \(V_0\)、間隔が \(d\) なので、電場の強さ \(E\) は \(E = \displaystyle\frac{V_0}{d}\)。
よって、静電気力の大きさは \(F_{\text{静電気}} = qE = q\displaystyle\frac{V_0}{d}\)。
4. 空気抵抗 \(F’_{\text{抵抗}}\):
油滴は速さ \(v_E\) で上昇しているので、空気抵抗は鉛直下向きに働きます。
その大きさは \(F’_{\text{抵抗}} = kav_E\)。
これらの4つの力がつり合っているので、次の式が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
(\text{上向きの力の合計}) &= (\text{下向きの力の合計}) \\[2.0ex]
F_{\text{静電気}} + F_{\text{浮力}} &= W + F’_{\text{抵抗}} \\[2.0ex]
q\frac{V_0}{d} + \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g &= \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_E \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
この式②と、問(1)で立てた式①を連立して \(q\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g &= \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- 静電気力: \(F = qE = q\displaystyle\frac{V_0}{d}\)
- 空気抵抗: \(F_{\text{抵抗}} = kav_E\)
式②から式①を引くことで、計算を簡略化します。
(式②の左辺) – (式①の左辺) = (式②の右辺) – (式①の右辺)
左辺の計算:
\( \left(q\displaystyle\frac{V_0}{d} + \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g\right) – \left(\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g\right) = q\displaystyle\frac{V_0}{d} – kav_g \)
右辺の計算:
\( \left(\rho \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_E\right) – \left(\rho \frac{4}{3}\pi a^3 g\right) = kav_E \)
したがって、引き算の結果は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
q\frac{V_0}{d} – kav_g &= kav_E
\end{aligned}
$$
この式を、求めたい電荷 \(q\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
q\frac{V_0}{d} &= kav_g + kav_E \\[2.0ex]
q\frac{V_0}{d} &= ka(v_g + v_E) \\[2.0ex]
q &= \frac{kad(v_g + v_E)}{V_0} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
この式にはまだ未知数である半径 \(a\) が含まれています。そこで、問(1)で求めた \(a\) の結果をこの式に代入します。
\(a = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}}\) を③に代入して、
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{kd(v_g + v_E)}{V_0} \left( \frac{1}{2}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho – \rho_0)g}} \right)
\end{aligned}
$$
これを整理して、最終的な答えとなります。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{kd(v_g+v_E)}{2V_0}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho-\rho_0)g}}
\end{aligned}
$$
今度は、落下している油滴に下から風(電場)を当てて、上に浮かび上がらせる状況です。油滴には、もともと働いていた3つの力に加えて、上向きの「風の力(静電気力)」が加わります。また、油滴が上昇するので、空気抵抗は今度は下向きに働きます。この4つの力が釣り合っている状態を数式にします。ここで賢い方法があります。先ほどの「電場なし」の式と今回の「電場あり」の式を比べると、重力と浮力の部分は全く同じです。そこで、式全体を引き算すると、この面倒な部分が消えて、とてもスッキリした式になります。あとは、その式から電荷qを計算するだけです。
油滴の電荷の大きさ \(q\) が、測定可能な物理量(落下速度 \(v_g\)、上昇速度 \(v_E\)、電位差 \(V_0\) など)と定数を用いて表されました。この関係式により、実験で得られた値から未知の電荷 \(q\) を決定することができます。
思考の道筋とポイント
問(1)の力のつり合いの式は、「重力と浮力の合力(油滴に実質的に働く下向きの力)」が「落下時の空気抵抗」と等しいことを示しています。この関係を利用して、問(2)の力のつり合いの式②を簡単にすることができます。具体的には、式②に出てくる「重力と浮力の合力」の項を、式①から得られる「\(kav_g\)」という項で置き換えてしまうのです。
この設問における重要なポイント
- 物理的な意味を考えながら、式を整理・代入する。
- 「重力と浮力の合力」という塊で式を捉える。
具体的な解説と立式
問(1)で立てた力のつり合いの式①を変形します。
$$
\begin{aligned}
\rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_g &= \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
移項すると、重力と浮力の合力(正味の重力)が得られます。
$$
\begin{aligned}
\rho \frac{4}{3}\pi a^3 g – \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g &= kav_g \quad \cdots ①’
\end{aligned}
$$
次に、問(2)で立てた力のつり合いの式②を、この合力の形が見えるように変形します。
$$
\begin{aligned}
q\frac{V_0}{d} + \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g &= \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g + kav_E \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
移項すると、
$$
\begin{aligned}
q\frac{V_0}{d} &= \left( \rho \frac{4}{3}\pi a^3 g – \rho_0 \frac{4}{3}\pi a^3 g \right) + kav_E \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
式②’の右辺にある括弧の部分に、式①’の関係 \(kav_g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
q\frac{V_0}{d} &= (kav_g) + kav_E
\end{aligned}
$$
右辺を共通因数 \(ka\) でくくります。
$$
\begin{aligned}
q\frac{V_0}{d} &= ka(v_g + v_E)
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法で得られた中間式③と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{kad(v_g + v_E)}{V_0} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
したがって、この後の計算も主たる解法と全く同じになります。問(1)で求めた \(a\) の結果を代入して、
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{kd(v_g+v_E)}{2V_0}\sqrt{\frac{3kv_g}{\pi(\rho-\rho_0)g}}
\end{aligned}
$$
別の考え方です。まず、「電場がないとき、油滴を下に引く正味の力(重力マイナス浮力)は、落下時の空気抵抗と等しい」という関係に注目します。次に、「電場があるとき」の力のつり合いの式を立て、その式の中に出てくる「油滴を下に引く正味の力」の部分を、先ほどの「落下時の空気抵抗」で置き換えます。こうすることで、重力や浮力の複雑な式を何度も書く手間が省け、メインの解法と同じように式が簡単になり、答えを導くことができます。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。これは、異なる計算手順でも、物理的に正しい考察に基づっていれば同じ結論に至ることを示しています。どちらの方法でも解けるようにしておくと、問題解決の視野が広がります。
問(3)
思考の道筋とポイント
この問題は、実験で得られた複数の電荷の測定値から、その基本単位である「電気素量 \(e\)」を推定する、データ解析の問題です。ミリカンの発見の核心は、どんな帯電体の持つ電気量も、ある最小単位(電気素量 \(e\))の整数倍になっている、という「電気量の量子性」です。つまり、測定された電荷 \(q\) は、\(q = ne\)(\(n\) は整数)という関係を満たすはずです。
この仮説が正しければ、測定値どうしの差もまた、\(e\) の整数倍になるはずです。そこで、まずデータ間の差を計算して、\(e\) のおおよその値に見当をつけます。
次に、そのおおよその値を使って、各データが \(e\) の何倍(整数 \(n\))に相当するかを判断します。
最後に、個々のデータには測定誤差が含まれているため、それらの影響をなるべく小さくして、より信頼性の高い \(e\) の値を求める工夫をします。その方法が「全データの合計をとる」ことです。測定値の合計 \( \sum q_i \) が、\(e\) の倍数の合計 \( \sum n_i \) に \(e\) を掛けたものに等しい(\( \sum q_i = (\sum n_i) e \))という関係式を立て、これを解くことで、誤差が平均化された \(e\) の値を算出します。
この設問における重要なポイント
- 電気量の量子性 (\(q=ne\)) を前提としてデータを解釈する。
- データ間の差をとることで、基本単位 \(e\) の見当をつける。
- 全データの総和をとることで、測定誤差を平均化し、精度を高める。
具体的な解説と立式
ステップA: 電気素量 \(e\) のおおよその値を推定する
与えられたデータを小さい順に並べ替えます。
データ: 4.9, 6.5, 9.7, 11.3, 14.5, 17.6 (単位は全て \(\times 10^{-19}\) C)
隣り合う値の差を計算します。
- \(6.5 – 4.9 = 1.6\)
- \(9.7 – 6.5 = 3.2\)
- \(11.3 – 9.7 = 1.6\)
- \(14.5 – 11.3 = 3.2\)
- \(17.6 – 14.5 = 3.1\)
差の値は、1.6 や 3.2 (= 2 \(\times\) 1.6)、3.1 (3.2に近い) となっています。これらの差は全て、約 1.6 の整数倍になっていると考えられます。このことから、電気素量 \(e\) のおおよその値は \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C であると見当をつけることができます。
ステップB: 各データの整数倍 \(n\) を決定し、総和を計算する
推定した \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) C を用いて、各データ \(q_i\) が \(e\) の何倍 (\(n_i\)) にあたるかを求めます。
- \(4.9 \div 1.6 \approx 3.06 \rightarrow n_1 = 3\)
- \(6.5 \div 1.6 \approx 4.06 \rightarrow n_2 = 4\)
- \(9.7 \div 1.6 \approx 6.06 \rightarrow n_3 = 6\)
- \(11.3 \div 1.6 \approx 7.06 \rightarrow n_4 = 7\)
- \(14.5 \div 1.6 \approx 9.06 \rightarrow n_5 = 9\)
- \(17.6 \div 1.6 \approx 11.0 \rightarrow n_6 = 11\)
次に、測定値の総和 \( \sum q_i \) と、整数倍 \(n\) の総和 \( \sum n_i \) を計算します。
- \( \sum q_i = (4.9 + 6.5 + 9.7 + 11.3 + 14.5 + 17.6) \times 10^{-19} = 64.5 \times 10^{-19} \) [C]
- \( \sum n_i = 3 + 4 + 6 + 7 + 9 + 11 = 40 \)
ステップC: 全データの総和から \(e\) を算出する
「測定値の総和は、\(e\) と整数倍の総和の積に等しい」という関係式を立てます。
$$
\begin{aligned}
\sum q_i &= (\sum n_i) \times e \\[2.0ex]
64.5 \times 10^{-19} &= 40 e \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
使用した物理公式/概念
- 電気量の量子性: \(q = ne\) (\(n\)は整数)
- 統計処理(総和による平均化)
式④を \(e\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{64.5 \times 10^{-19}}{40} \\[2.0ex]
&= 1.6125 \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
問題文で有効数字3桁まで求めよと指定されているので、小数点第4位を四捨五入します。
$$
\begin{aligned}
e &\approx 1.61 \times 10^{-19} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
お店で買い物をして、レシートの金額が「490円、650円、970円…」となっているのを想像してください。これらの金額の差額を計算すると「160円、320円…」となります。ここから、「このお店の商品は、何か1個160円のものの整数倍の値段になっているのではないか?」と推理できます。この問題も同じで、測定された電気量の差を取ることで、電気の最小単位(電気素量e)が約1.6だと見当をつけます。次に、レシートの合計金額(6450円)が、買った商品の合計個数(40個)に単価(e)を掛けたものになるはずだ、という関係を使って、より正確な単価eを計算します。この方法なら、個々の測定の小さな誤差が平均化されて、より信頼できる値が得られます。
電気素量 \(e\) の値として \(1.61 \times 10^{-19}\) C が得られました。これは現在知られている値 \(1.602 \times 10^{-19}\) C に非常に近く、この実験とデータ解析方法の妥当性を示しています。もし、例えば \(4.9 \times 10^{-19} = 3e\) という一つのデータだけで計算すると、有効数字も2桁までしか取れず、精度が低くなります。複数のデータを統計的に処理することの重要性がわかります。
思考の道筋とポイント
各測定値 \(q_i\) がすべて \(q_i = n_i e\) という関係を満たすならば、\(e = q_i / n_i\) となります。つまり、\(e\) はすべての測定値 \(q_i\) の「公約数」のような存在です。この考え方を発展させ、各測定値の比をとることで、基本単位を推定します。
この設問における重要なポイント
- 測定値の比は、整数の比になるはずである。
- 各測定値を簡単な整数比で近似し、その比から基本単位を逆算する。
具体的な解説と立式
まず、最も小さい測定値 4.9 を基準に、他の測定値との比を計算します。
- \(6.5 / 4.9 \approx 1.32 \approx 4/3\)
- \(9.7 / 4.9 \approx 1.98 \approx 2 = 6/3\)
- \(11.3 / 4.9 \approx 2.31 \approx 7/3\)
- \(14.5 / 4.9 \approx 2.96 \approx 3 = 9/3\)
- \(17.6 / 4.9 \approx 3.59 \approx 11/3\)
これらの比が、すべて分母を3とする簡単な分数で近似できることがわかります。これは、\(4.9\) が基本単位 \(e\) の3倍(\(3e\))に相当し、他の測定値が \(4e, 6e, 7e, 9e, 11e\) になっていることを強く示唆しています。
この仮説に基づき、\(4.9 \times 10^{-19} \approx 3e\) として \(e\) を計算してみます。
$$
\begin{aligned}
e &\approx \frac{4.9 \times 10^{-19}}{3} \\[2.0ex]
&\approx 1.633… \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
同様に、他のデータからも計算します。
$$
\begin{aligned}
e &\approx \frac{6.5 \times 10^{-19}}{4} = 1.625 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
e &\approx \frac{9.7 \times 10^{-19}}{6} \approx 1.617 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
e &\approx \frac{11.3 \times 10^{-19}}{7} \approx 1.614 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
e &\approx \frac{14.5 \times 10^{-19}}{9} \approx 1.611 \times 10^{-19} \\[2.0ex]
e &\approx \frac{17.6 \times 10^{-19}}{11} = 1.600 \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
これらの値は、測定値が大きくなるほど \(1.61 \times 10^{-19}\) に近づいていく傾向が見られます。これは、相対的な測定誤差が小さくなるためと考えられます。主たる解法(総和を用いる方法)は、これらの値を適切に平均化する操作に相当し、より客観的な値を与えます。
別の推理方法です。測定された電気量を、一番小さい「4.9」を基準にして比べてみます。すると、他の値はだいたい「4.9の \(4/3\) 倍」「4.9の \(6/3\) 倍」「4.9の \(7/3\) 倍」…というように、分母が3のきれいな分数倍になっていることがわかります。これは、基準にした「4.9」が、実は最小単位の3個分だった、ということを意味します。この発見から、最小単位eは「4.9÷3」で約1.63だと推定できます。他のデータからも同様に計算し、それらの結果を総合的に判断することで、より確からしい値を求めることができます。
このアプローチは、どの整数比 \(n\) を採用するかによって結果が多少ばらつく可能性がありますが、データの構造を理解し、電気素量の見当をつける上で非常に有効な方法です。主たる解法である総和法が、なぜ信頼性の高い方法であるかを補強する知見を与えてくれます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い:
- 核心: 物体が等速直線運動(または静止)しているとき、その物体に働く力のベクトル和はゼロになる(\(\sum \vec{F} = 0\))。これが問(1)と問(2)を解くための大原則です。
- 理解のポイント:
- 「一定の速さ」「やがて一定の速さになった」という言葉は、加速度がゼロ、つまり力がつり合っている状態を意味する。
- 働く力をすべて(重力、浮力、抵抗力、静電気力など)見つけ出し、図に描くことが第一歩。
- 上向きの力の合計と下向きの力の合計が等しい、という式を立てる。
- 電気量の量子性:
- 核心: 全ての電荷は、電気素量 \(e\) の整数倍の値しかとらない (\(q=ne\))。これは問(3)のデータ解析の根底にある物理的な大前提です。
- 理解のポイント:
- 電気量は連続的な値ではなく、とびとびの値をとる。
- 測定された電荷の差も、必ず \(e\) の整数倍になる。
- この性質を利用することで、測定データから基本単位である \(e\) の値を推定できる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 雨滴やスカイダイバーの落下など、空気抵抗を受けて終端速度に達する問題全般。
- 電場や磁場の中で荷電粒子が運動する問題(ローレンツ力など)。
- 実験データを統計的に処理して、物理定数や法則性を導き出すタイプの問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動状態の把握: 「一定の速さ」「静止していた」「等速で」といったキーワードに注目し、力のつり合いが使えるのか、運動方程式を立てるべきなのかを判断します。
- 力の図示: 物体に働く力を「もれなく」「向きを正しく」すべて矢印で描き出すこと。これが最も重要です。特に、運動の向きによって変化する抵抗力の向きに注意します。
- 複数条件の連立: 問(1)と問(2)のように、異なる条件下での状況が与えられた場合、それぞれで立てた式を連立させて未知数を消去できないか、と考えます。
- データ解析: 問(3)のように数値データが並んでいたら、「平均を取る」「差を取る」「比を取る」などして、データに隠された規則性(ここでは整数倍の関係)を見つけ出す姿勢が大切です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の向きの間違い:
- 誤解: 空気抵抗を常に下向き、あるいは上向きと固定して考えてしまう。静電気力の向きを電荷の符号や電場の向きと関連付けられない。
- 対策: 空気抵抗は「常に速度と逆向き」、静電気力は「正電荷は電場と同じ向き、負電荷は電場と逆向き」という原則を徹底する。必ず力の図を描いて確認する癖をつける。
- 浮力の考慮漏れ:
- 誤解: 空気中の運動なので、浮力は小さいだろうと勝手に無視してしまう。
- 対策: 問題文に空気の密度 \(\rho_0\) が与えられている場合は、必ず浮力を考慮に入れる必要があります。与えられていない場合でも、考慮すべきか常に意識することが大切です。
- 問(3)のデータ処理方法の誤り:
- 誤解: 測定値の単純な算術平均を計算してしまう。(例: \( (4.9 + … + 17.6) / 6 \) )
- 対策: この問題のデータは「とびとびの値」をとるはずだ、という物理的背景(電気量の量子性)を理解することが重要です。単純な平均ではなく、「基本単位の整数倍」という構造を見つけ出すための操作(差を取る、総和を取る)が必要だと認識すること。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 \( \sum \vec{F} = 0 \):
- 選定理由: 問題文に「一定の速さ」とあるため、加速度が0であることが確定します。運動方程式 \( \sum \vec{F} = m\vec{a} \) に \( \vec{a}=0 \) を代入した特別な場合が、力のつり合いの式です。
- 適用根拠: 慣性の法則に基づき、力がつり合っている物体は静止し続けるか、等速直線運動を続けます。
- 関係式 \( \sum q_i = (\sum n_i) e \):
- 選定理由: 測定誤差の影響を最小化し、最も確からしい \(e\) の値を統計的に導出するためです。
- 適用根拠: 電気量の量子性という物理法則が成り立っているという仮定と、多数の測定を行えば偶然誤差は平均化されるという統計学の原理に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位と文字の区別:
- 特に注意すべき点: \(\rho\) (ロー)と \(p\) (ピー)、\(v_g\) と \(v_E\) など、似た文字や添え字を丁寧に見分け、書き分ける。
- 日頃の練習: 式を書くときに、意識して文字の形を変える(例: vは筆記体にするなど)。
- 式変形の丁寧さ:
- 特に注意すべき点: 分数や根号(ルート)を含む複雑な式の変形は、一行一行、焦らずに行う。
- 日頃の練習: 複雑な計算ほど、途中式を省略せずにノートに書く習慣をつける。
- 賢い消去法:
- 特に注意すべき点: 問(2)のメインの解法のように、式同士の足し算や引き算で複雑な項が消える場合は積極的に利用する。これにより、計算が楽になるだけでなく、ミスも減らせる。
- 日頃の練習: 複数の式を立てた場合、すぐに代入するのではなく、式全体を眺めて、より簡単な消去法がないか探す癖をつける。
- 概算の活用:
- 特に注意すべき点: 問(3)で \(e \approx 1.6 \times 10^{-19}\) と見当をつけたように、本格的な計算の前に大まかな値を予想しておくと、計算結果が大きくずれた場合に間違いに気づきやすくなります。
- 日頃の練習: 計算問題に取り組む際、答えを出す前に「だいたいこれくらいの値になるはず」と予測する習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 物理的な直感との比較:
- 問(1)の関係式 \(kv_g \propto a^2g\) から、落下速度 \(v_g\) は半径 \(a\) の2乗に比例します。これは「大きい粒の方が(ずっと)速く落ちる」という感覚と合っています。
- 問(2)で求めた \(q\) は、\(v_g+v_E\) に比例します。速く動かすためには、より大きな静電気力、つまりより大きな電荷が必要だというのは理にかなっています。
- 既知の値との比較:
- 問(3)で求めた \(e = 1.61 \times 10^{-19}\) C は、教科書などで知っている電気素量の値 \(1.60 \times 10^{-19}\) C と非常に近い値です。このことから、自分の計算結果が妥当であると自信を持つことができます。
- 物理的な直感との比較:
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問題53 (金沢大+甲南大+静岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、イオンの質量を精密に測定する装置「質量分析器」の原理を扱っています。質量分析器は、大きく分けて2つの部分から構成されています。
- 速度選択器 (XY間): 電場と磁場が同時にかかった空間で、特定の速さを持つイオンだけをまっすぐ通過させる部分。
- 質量分離部 (P3以降): 磁場のみがかかった空間で、イオンを円運動させ、その軌道の大きさ(半径)から質量を特定する部分。
このように、電磁気学における荷電粒子の運動に関する重要な法則を組み合わせた、総合的な問題です。
- 真空中で運動する、質量 \(M\)、電荷 \(Q\) の陽イオンを考える。
- 速度選択器:
- 磁束密度 \(B_1\) の一様な磁場(紙面の表から裏向き)。
- 強さ \(E\) の一様な電場。
- イオンはこの領域を直進し、スリットP3を通過する。
- 質量分離部:
- スリットP3を通過後、磁束密度 \(B_2\) の一様な磁場(紙面の表から裏向き)に入る。
- イオンは半円の軌道を描き、スリットP3からの距離が \(D\) である点P4で検出される。
- (1) 速度選択器において、XYどちらの極板が陽極か。また、P3を通過するイオンの速さ \(v\) はいくらか。もし負電荷の粒子を用いた場合、陽極はどちらになるか。
- (2) イオンの質量 \(M\) を、与えられた物理量 \(Q, E, B_1, B_2, D\) を用いて表せ。
- (3) 6種類の異なるイオン (\(^{1}\text{H}^+\), \(^{2}\text{H}^+\), \(^{3}\text{H}^+\), \(^{3}\text{He}^{2+}\), \(^{4}\text{He}^+\), \(^{4}\text{He}^{2+}\)) を同時に入射させたとき、検出位置 \(D\) が一致するイオンの組み合わせはどれか。
- (4) ある元素の1価の陽イオン(同位体を2種類もつ)で実験したところ、\(D\) が \(22.0\) cm と \(23.3\) cm の2点で検出された。一方の同位体の質量数が35であるとき、もう一方の同位体の質量数と、その存在比率(%)を求めよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) 質量数と存在比率の別解: 物理法則と連立方程式に基づく解法
- 主たる解法が比例式と1変数の方程式で解くのに対し、別解では問(2)で導出した物理公式から出発し、存在比率を2変数の連立方程式として解きます。
- 問(4) 質量数と存在比率の別解: 物理法則と連立方程式に基づく解法
- 上記の別解が有益である理由
- 論理的思考の深化: 「比例関係」という結果だけを利用するのではなく、その根拠となる物理法則(\(M = \frac{QB_1B_2D}{2E}\))から論理を展開する思考プロセスを学べます。
- 数学的アプローチの多様性: 存在比率の問題を、より体系的な連立方程式として捉え直すことで、数学的な問題解決能力を高めます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「電磁場中の荷電粒子の運動」です。ローレンツ力と静電気力を正確に理解し、運動の状況に応じて力のつりあいや運動方程式を立てることが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力。大きさは \(f = |Q|vB\sin\theta\)。向きはフレミングの左手の法則に従う。
- 静電気力: 電場中の荷電粒子が受ける力。大きさは \(F = |Q|E\)。向きは、正電荷なら電場と同じ向き、負電荷なら逆向き。
- 力のつりあい: 物体が直進(等速直線運動)するとき、物体にはたらく力のベクトル和はゼロになる。
- 円運動の運動方程式: 物体が円運動するとき、向心力 \(F\) と質量 \(m\)、速さ \(v\)、半径 \(R\) の間には \(m\frac{v^2}{R} = F\) の関係が成り立つ。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、速度選択器内での力のつりあいを考えます。陽イオンにはたらくローレンツ力と静電気力の向きを決定し、つりあいの式から速さ \(v\) を求めます。
- 問(2)では、質量分離部での円運動を考えます。ローレンツ力が向心力となるとして円運動の運動方程式を立て、問(1)の結果と \(D=2R\) の関係を用いて質量 \(M\) を導出します。
- 問(3)では、問(2)で得られた式を分析し、検出位置 \(D\) がイオンのどの物理量に依存するかを明らかにします。各イオンの質量と電荷の比 \(M/Q\) を計算し、比較します。
- 問(4)では、問(2)の結果から導かれる質量 \(M\) と検出位置 \(D\) の比例関係を利用して未知の同位体の質量数を求め、次に原子量の定義を用いて存在比率を計算します。