問題31
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗値が電圧や電流によって変化する「非線形抵抗素子」である電球LとMを含む直流回路がテーマです。与えられたV-I特性曲線を読み解き、キルヒホッフの法則などの電気回路の基本法則と組み合わせて、各設問に答えていきます。グラフを用いて回路の動作点を視覚的に解析する手法をマスターすることが、この問題を攻略する鍵となります。
- 電球L: 100Vで使用すると80Wを消費する。
- 電球M: 100Vで使用すると40Wを消費する。
- V-I特性曲線: 図1に、電球LとMの電圧Vと電流Iの関係が示されている。
- 図1の点線: 電球Lの特性曲線の原点における接線。
- 抵抗の温度係数: \(\alpha = 2.5 \times 10^{-3} /^\circ\text{C}\)
- 室温: \(0^\circ\text{C}\)
- 図2の回路: 起電力 \(E=120\text{V}\) の電池(内部抵抗は無視)、抵抗 \(R=100\,\Omega\)
- (1) Lに電圧80VをかけたときのLの抵抗値と消費電力。
- (2) Lを電圧100Vで使用しているときのフィラメントの温度。
- (3) Lを図2のXY間に接続したときの、Lの電圧と消費電力。
- (4) 図3の回路(Lと100Ωの抵抗3本を並列)を図2のXY間に接続したときの、Lにかかる電圧。
- (5) LとMを並列にして図2のXY間に接続したときの、Lの消費電力と回路全体での消費電力。
- (コラムQ) LとMを直列にして図2のXY間に接続したときの、回路全体での消費電力。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題の最大のポイントは、電球のような非線形抵抗素子の扱いです。通常の抵抗のようにオームの法則 \(V=RI\) の \(R\) が一定だと考えてはいけません。電球にかかる電圧 \(V\) と電流 \(I\) の関係は、与えられたV-I特性曲線に支配されます。
回路に接続した場合、この電球の特性(V-I曲線)と、回路の構造から決まる制約(キルヒホッフの法則から導かれる負荷線)の両方を同時に満たす一点(動作点)で動作します。この動作点をグラフ上の「特性曲線と負荷線の交点」として見つけ出すことが、基本的な戦略となります。
問 (1)
思考の道筋とポイント
この設問は、V-I特性グラフの基本的な読み取り方を確認する問題です。まず、グラフから指定された電圧に対応する電流の値を正確に読み取ります。その後、オームの法則と電力の公式を用いて、抵抗値と消費電力を計算します。
この設問における重要なポイント
- V-I特性グラフ上で、指定された電圧値(横軸)から対応する電流値(縦軸)を正確に読み取る。
- 読み取った電圧と電流の値を用いて、基本的な公式(\(R=V/I\), \(P=VI\))に代入して計算する。
具体的な解説と立式
図1のV-I特性グラフで、電球Lの曲線に着目します。横軸(電圧 \(V\))が \(80\text{V}\) の点から真上に線をたどり、Lの曲線と交わる点を探します。その点の縦軸(電流 \(I\))の値を読み取ると、\(I=0.7\text{A}\) であることがわかります。
このときのLの抵抗値を \(R_L\)、消費電力を \(P_L\) とすると、それぞれの定義式は以下のようになります。
使用した物理公式
- 抵抗値(オームの法則): \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\)
- 消費電力: \(P = VI\)
$$ R_L = \frac{80\text{ [V]}}{0.7\text{ [A]}} \quad \cdots ① $$
$$ P_L = 80\text{ [V]} \times 0.7\text{ [A]} \quad \cdots ② $$
式①に値を代入して、抵抗値 \(R_L\) を求めます。
$$ R_L = \frac{80}{0.7} = \frac{800}{7} \approx 114.2… \, [\Omega] $$
問題の指示に従い、有効数字2桁で答えると、\(1.1 \times 10^2 \, \Omega\) となります。
次に、式②に値を代入して、消費電力 \(P_L\) を求めます。
$$ P_L = 80 \times 0.7 = 56 \, [\text{W}] $$
まず、グラフを見て、電圧が80Vのとき、電球Lに流れる電流が0.7Aであることを確認します。
抵抗値を求めるには、オームの法則の公式「抵抗 = 電圧 ÷ 電流」を使い、\(80 \div 0.7\) を計算します。
消費電力を求めるには、公式「消費電力 = 電圧 × 電流」を使い、\(80 \times 0.7\) を計算します。
したがって、Lに電圧80Vをかけたとき、抵抗値は \(1.1 \times 10^2 \, \Omega\)、消費電力は \(56 \, \text{W}\) となります。得られた値の単位もそれぞれΩとWで適切です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
この問題は、抵抗値が温度によって変化する性質を利用して、フィラメントの高温時の温度を推定する問題です。
- 高温時の抵抗値 \(R_t\) の計算: まず、100Vで使用している現在の状態について、グラフから電圧と電流を読み取り、そのときの抵抗値 \(R_t\) を計算します。
- 低温(室温)時の抵抗値 \(R_0\) の計算: 次に、基準となる室温(0℃)での抵抗値 \(R_0\) を求めます。電流がほぼ0のとき(ジュール熱の発生が無視できるとき)が室温に対応すると考え、V-Iグラフの原点付近の傾きから \(R_0\) を求めます。図の点線は「原点における接線」なので、この直線の傾き(の逆数)が \(R_0\) になります。
- 温度の算出: 最後に、抵抗と温度の関係式 \(R_t = R_0(1 + \alpha t)\) を用いて、温度 \(t\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電球の抵抗は温度に依存し、\(R_t = R_0(1 + \alpha t)\) の関係に従う。
- V-Iグラフの原点における接線は、ジュール熱の影響が無視できる室温(\(0^\circ\text{C}\))での抵抗特性(オームの法則)を表すと解釈する。
具体的な解説と立式
まず、電球Lを電圧 \(V=100\text{V}\) で使用しているときの抵抗値 \(R_t\) を求めます。図1のグラフより、\(V=100\text{V}\) のとき、流れる電流は \(I=0.8\text{A}\) です。 よって、この高温時の抵抗値 \(R_t\) は、
$$ R_t = \frac{V}{I} \quad \cdots ① $$
次に、室温 \(0^\circ\text{C}\) での抵抗値 \(R_0\) を求めます。これは、図1の点線(原点における接線)から計算できます。この直線は、グラフの読みやすい点として、例えば点 (\(V=20\text{V}, I=1.0\text{A}\)) を通っています。 したがって、\(0^\circ\text{C}\) での抵抗値 \(R_0\) は、
$$ R_0 = \frac{20\text{ [V]}}{1.0\text{ [A]}} \quad \cdots ② $$
金属の抵抗値と温度の関係式に、これらの値を代入して温度 \(t\) を求めます。
使用した物理公式
- 抵抗の温度依存性: \(R_t = R_0(1+\alpha t)\)
$$ 125 = 20 (1 + 2.5 \times 10^{-3} \times t) \quad \cdots ③ $$
式①より、高温時の抵抗 \(R_t\) を計算します。
$$ R_t = \frac{100}{0.8} = 125 \, [\Omega] $$
式②より、\(0^\circ\text{C}\) での抵抗 \(R_0\) を計算します。
$$ R_0 = \frac{20}{1.0} = 20 \, [\Omega] $$
これらの値を式③に代入し、温度 \(t\) について解いていきます。
$$ \frac{125}{20} = 1 + 2.5 \times 10^{-3} t $$
$$ 6.25 = 1 + 2.5 \times 10^{-3} t $$
両辺から1を引きます。
$$ 5.25 = 2.5 \times 10^{-3} t $$
\(t\) について解きます。
$$ t = \frac{5.25}{2.5 \times 10^{-3}} = \frac{5.25}{0.0025} = \frac{52500}{25} = 2100 \, [^\circ\text{C}] $$
有効数字2桁で表すと、\(2.1 \times 10^3 \, ^\circ\text{C}\) となります。
- まず、100Vのときの抵抗値をグラフから計算します(125Ω)。これはフィラメントが高温になっているときの抵抗値です。
- 次に、温度が0℃のときの抵抗値を計算します。これはグラフの点線から計算でき、20Ωです。
- 抵抗値が20Ωから125Ωに増えたのは、温度が上がったためです。この変化がどれくらいの温度上昇に対応するのかを、抵抗と温度の関係式を使って計算します。
Lのフィラメントの温度は \(2.1 \times 10^3 \, ^\circ\text{C}\) となります。電球のフィラメントは発光するために非常に高温になるため、この値は物理的に妥当な大きさです。
問 (3)
思考の道筋とポイント
ここからは、非線形素子を含む回路のグラフ解析が本番となります。
- 回路の関係式(負荷線)を立てる: キルヒホッフの第2法則を適用し、Lにかかる電圧 \(V\) と流れる電流 \(I\) の間に成り立つ関係式を導きます。この式はV-Iグラフ上で直線をなし、「負荷線」と呼ばれます。
- 交点(動作点)を見つける: Lは「特性曲線」に従う必要があり、かつ「負荷線」の条件も満たす必要があります。したがって、この2つの線が交わる点が、この回路で実際に実現する \(V\) と \(I\) の値(動作点)になります。
- 値を読み取り計算する: グラフから交点の座標を読み取り、問われている物理量を計算します。
この設問における重要なポイント
- 回路の動作点は、素子のV-I特性曲線と、回路が課す制約条件(負荷線)の交点として求められる。
- 負荷線は、キルヒホッフの法則から導出され、V-Iグラフ上にプロットすることで視覚的に解を求めることができる。
具体的な解説と立式
図2の回路について、キルヒホッフの第2法則を適用します。電源の起電力 \(E=120\text{V}\) は、抵抗 \(R=100\,\Omega\) での電圧降下 \(RI\) と、電球Lでの電圧降下 \(V\) の和に等しくなります。
$$ E = RI + V $$
値を代入すると、電球Lの電圧 \(V\) と電流 \(I\) が満たすべき関係式(負荷線)が得られます。
$$ 120 = 100 I + V \quad \cdots ① $$
この直線と、電球LのV-I特性曲線の交点が、求める動作点です。負荷線を描くために、グラフの切片を求めると便利です。
- V軸との交点 (I=0 の点): 式①で \(I=0\) とすると、\(V = 120\text{V}\)。よって、点 (120V, 0A) を通ります。
- I軸との交点 (V=0 の点): 式①で \(V=0\) とすると、\(120 = 100I\)、よって \(I = 1.2\text{A}\)。よって、点 (0V, 1.2A) を通ります。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則: \(E = \sum V_{\text{降下}}\)
V-Iグラフ(図1)に、上記の2点 (120V, 0A) と (0V, 1.2A) を結ぶ直線(負荷線)を描き入れます。
この直線と、電球Lの特性曲線との交点の座標をグラフから正確に読み取ります。交点は、
$$ V = 60 \text{ [V]}, \quad I = 0.6 \text{ [A]} $$
であることがわかります。
したがって、Lにかかる電圧は \(60\text{V}\) です。
Lの消費電力 \(P_L\) は、このときの電圧と電流を用いて計算します。
$$ P_L = V \times I = 60 \times 0.6 = 36 \text{ [W]} $$
- 回路図を見て、キルヒホッフの法則から「\(120 = 100 \times I + V\)」という関係式を立てます。
- この関係式は、V-Iグラフ上では直線になります。この直線をグラフに描き込みます。(V=120, I=0 の点と V=0, I=1.2 の点を結ぶと簡単です)
- 描いた直線とLの曲線が交わった点が、この回路でのLの実際の電圧と電流です。
- グラフから交点の値を読み取り(V=60V, I=0.6A)、消費電力を「電圧 × 電流」で計算します。
Lにかかる電圧は \(60\text{V}\)、そのときの消費電力は \(36\text{W}\) となります。負荷線がグラフの格子点上で特性曲線と交わっているため、正確に値を読み取ることができ、計算結果も明快です。
問 (4)
思考の道筋とポイント
この問題は(3)の応用編です。XY間に接続される部分が複雑になりましたが、基本的な考え方は同じで、Lの電圧\(V\)と電流\(I\)に関する負荷線を導き、グラフで解きます。
- 回路の電流を整理する: XY間にかかる電圧を \(V\) とします。Lに流れる電流を \(I\)、3本の100Ω抵抗に流れる電流を \(i\) とし、それぞれの関係を整理します。
- 負荷線を導出する: 回路全体を流れる電流 \(I_{\text{全体}}\) を \(V\) と \(I\) で表し、キルヒホッフの第2法則に代入して、新しい負荷線の方程式を導きます。
- 交点を探す: 新しい負荷線をグラフに描き、Lの特性曲線との交点を見つけ、その電圧を読み取ります。
この設問における重要なポイント
- 並列回路の各部分にかかる電圧は等しい。
- 回路の分岐点では、流入する電流の和と流出する電流の和は等しい(キルヒホッフの第1法則)。
具体的な解説と立式
XY間にかかる電圧を \(V\) とします。この電圧は、Lと3本の100Ω抵抗に共通してかかります。
- Lを流れる電流を \(I\) とします。
- 100Ωの抵抗1本に流れる電流は、オームの法則より \(i = \displaystyle\frac{V}{100}\) です。3本合計では \(3i = \displaystyle\frac{3V}{100}\) の電流が流れます。
電源から出て外側の100Ω抵抗を流れる電流 \(I_{\text{全体}}\) は、キルヒホッフの第1法則より、これらの電流の和になります。
$$ I_{\text{全体}} = I + 3i = I + \frac{3V}{100} \quad \cdots ① $$
次に、回路全体のキルヒホッフの第2法則を適用します。
$$ 120 = 100 \cdot I_{\text{全体}} + V \quad \cdots ② $$
式②に式①を代入して、Lの電圧 \(V\) と電流 \(I\) に関する負荷線を求めます。
$$ 120 = 100 \left( I + \frac{3V}{100} \right) + V $$
$$ 120 = 100I + 3V + V $$
$$ 120 = 100I + 4V \quad \cdots ③ $$
この直線を描くために、切片を求めます。
- V軸との交点 (I=0 の点): \(120 = 4V\) より \(V = 30\text{V}\)。点 (30V, 0A) を通る。
- I軸との交点 (V=0 の点): \(120 = 100I\) より \(I = 1.2\text{A}\)。点 (0V, 1.2A) を通る。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第1法則(電流則): \(\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}\)
- キルヒホッフの第2法則(電圧則): \(E = \sum V_{\text{降下}}\)
V-Iグラフ上に、2点 (30V, 0A) と (0V, 1.2A) を結ぶ直線(負荷線)を描き入れます。
この直線と、電球Lの特性曲線との交点の座標をグラフから読み取ると、
$$ V = 20 \text{ [V]}, \quad I = 0.4 \text{ [A]} $$
であることがわかります。
問題で問われているのはLにかかる電圧なので、答えは \(20\text{V}\) です。
- (3)と同様に考えますが、今回はLと並列に抵抗が3本あります。
- 外の抵抗を流れる電流は、「Lの電流 \(I\)」+「抵抗3本分の電流(\(3 \times V/100\))」となります。
- これをキルヒホッフの法則の式に入れると、「\(120 = 100I + 4V\)」という負荷線の式が得られます。
- この直線をグラフに描き、Lの曲線との交点を読み取ります。交点の電圧が答えです。
Lにかかる電圧は \(20\text{V}\) となります。(3)の回路(60V)と比較してLにかかる電圧が大幅に低下しました。これは、Lと並列に抵抗を接続したことでXY間の合成抵抗が小さくなり、分圧の法則によりXY間にかかる電圧の割合が減少したためと解釈でき、物理的に妥当な結果です。
問 (5)
思考の道筋とポイント
この問題は、2つの非線形素子を組み合わせる問題です。最も系統的な解法は、組み合わせた部分を一つの「合成素子」と見なし、その特性を考えることです。
- 合成特性曲線の作成: LとMを並列に接続したものを、一つの「合成電球」と考え、そのV-I特性曲線を作成します。「並列接続は電圧共通、電流は和」のルールに従い、同じ電圧でのLとMの電流を足し合わせてプロットします。
- 動作点を求める: この「合成特性曲線」と、(3)と同じ負荷線(\(120 = 100I + V\))との交点を探します。この交点が、並列部分にかかる電圧 \(V\) と、そこに流れ込む全電流 \(I_{\text{合成}}\) を与えます。
- Lの消費電力を計算: 交点の電圧 \(V\) が決まれば、その電圧におけるLの電流 \(I_L\) を元のLの特性曲線から読み取り、消費電力 \(P_L = V \times I_L\) を計算します。
- 全体の消費電力を計算: 回路全体の消費電力は、電池が供給する電力 \(P_{\text{全体}} = E \times I_{\text{合成}}\) で計算するのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 複数の非線形素子を含む回路は、それらをひとまとめにした「合成特性曲線」を考えることで、単純な問題に帰着させることができる。
- 並列接続の合成特性は、各素子の電流の和で求められる。
- 回路全体の消費電力は、電池の供給電力に等しい(エネルギー保存則)。
具体的な解説と立式
LとMの並列接続部分を一つの合成素子と見なします。この素子にかかる電圧を \(V\)、流れる電流を \(I_{\text{合成}}\) とします。並列接続なので、任意の電圧 \(V\) に対して、
$$ I_{\text{合成}}(V) = I_L(V) + I_M(V) \quad \cdots ① $$
が成り立ちます。 この関係を用いて、グラフ上に「L+M」の合成特性曲線を描きます。この合成素子をXY間に接続した回路の負荷線は、(3)と同様に、
$$ 120 = 100 I_{\text{合成}} + V \quad \cdots ② $$
となります。求める動作点は、グラフ上で合成特性曲線①と負荷線②の交点となります。
使用した物理公式
- 並列接続の性質: 電圧共通、電流は和
- キルヒホッフの第2法則
- 全体の消費電力 = 電池の供給電力: \(P_{\text{全体}} = EI\)
まず、グラフ上で合成特性曲線「L+M」を作成します。例えば、
- \(V=40\text{V}\) のとき、 \(I_L = 0.5\text{A}\), \(I_M = 0.3\text{A}\) となり、\(I_{\text{合成}} = 0.5+0.3=0.8\text{A}\)。点(40V, 0.8A)をプロットします。
同様に他の点もプロットして曲線を描き、負荷線 \(120 = 100I + V\) との交点を読み取ると、
$$ V = 40 \text{ [V]}, \quad I_{\text{合成}} = 0.8 \text{ [A]} $$
であることがわかります。
この結果、Lにかかる電圧は \(V=40\text{V}\) です。このときのLに流れる電流 \(I_L\) を、元の「L」の特性曲線から読み取ると、\(I_L = 0.5 \text{ [A]}\) です。
よって、Lの消費電力 \(P_L\) は、
$$ P_L = V \times I_L = 40 \times 0.5 = 20 \text{ [W]} $$
回路全体の消費電力 \(P_{\text{全体}}\) は、電池の供給電力に等しく、電池から流れ出る電流は \(I_{\text{合成}} = 0.8\text{A}\) ですから、
$$ P_{\text{全体}} = E \times I_{\text{合成}} = 120 \times 0.8 = 96 \text{ [W]} $$
別解1: エネルギー保存則による全体の消費電力の検算
思考の道筋とポイント
全体の消費電力は、回路の各部品での消費電力の合計に等しいはずです。このことを利用して、主たる解法で求めた全体の消費電力が正しいか検算します。
具体的な解説と立式
全体の消費電力 \(P_{\text{全体}}\)は、外側の抵抗\(R\)での消費電力 \(P_R\)、Lの消費電力 \(P_L\)、Mの消費電力 \(P_M\) の和です。
$$ P_{\text{全体}} = P_R + P_L + P_M $$
各値を求めます。
- \(P_R\): 外側の抵抗には合成電流 \(I_{\text{合成}}\) が流れるので、\(P_R = R \cdot (I_{\text{合成}})^2\)。
- \(P_L\): 主たる解法で計算済み。
- \(P_M\): Mにかかる電圧も\(V=40\text{V}\)なので、グラフからそのときの電流\(I_M\)を読み取り、\(P_M = V \cdot I_M\)を計算します。
- 外の抵抗\(R\)での消費電力: \(P_R = 100 \times (0.8)^2 = 100 \times 0.64 = 64 \text{W}\)
- Lの消費電力: \(P_L = 20 \text{W}\)(計算済み)
- Mの消費電力: グラフから\(V=40\text{V}\)のとき\(I_M=0.3\text{A}\)。よって \(P_M = V \cdot I_M = 40 \times 0.3 = 12 \text{W}\)
これらを合計します。
$$ P_{\text{全体}} = 64 + 20 + 12 = 96 \text{ [W]} $$
電池の供給電力から計算した値と完全に一致しており、計算の正しさが確認できます。
- LとMを並列につないだものを1つの部品と考え、そのV-Iグラフを作ります。同じ電圧での電流を足し算して新しいグラフ(L+M)を描きます。
- この新しいグラフと、(3)で使った直線(負荷線)との交点を探します。交点の座標は (V=40V, I=0.8A) となります。
- Lの消費電力は、Lにかかる電圧40Vのときの電流(元のLグラフから読み取り0.5A)を使って「40V × 0.5A」で計算します。
- 回路全体の消費電力は、電池が供給する電力と同じです。「電池の電圧120V × 交点の合計電流0.8A」で計算するのが簡単です。
【コラム】Q. LとMを直列にして、XY間に連結して使用するとき、回路全体での消費電力はいくらか。
思考の道筋とポイント
この問題も(5)と考え方は似ていますが、今度は「直列接続」です。合成特性曲線の作り方が変わります。
- 合成特性曲線の作成: LとMを直列に接続したものを一つの「合成素子」と考えます。「直列接続は電流共通、電圧は和」のルールに従い、同じ電流を流したときのLとMの電圧を足し合わせてプロットします。
- 動作点を求める: この「直列合成の特性曲線」と、同じ負荷線(\(120 = 100I + V\))との交点を探します。交点が、回路に流れる電流 \(I\) と直列部分にかかる電圧 \(V_{\text{合成}}\) を与えます。
- 全体の消費電力を計算: 回路全体の消費電力は、電池の供給電力に等しいので、\(P_{\text{全体}} = E \times I\) で計算します。
具体的な解説と立式
LとMの直列接続部分を一つの合成素子と見なします。この素子を流れる電流を \(I\)、かかる電圧を \(V_{\text{合成}}\) とします。直列接続なので、任意の電流 \(I\) に対して、
$$ V_{\text{合成}}(I) = V_L(I) + V_M(I) \quad \cdots ① $$
が成り立ちます。この関係を用いて、グラフ上に「L+M (直列)」の合成特性曲線を描きます。この回路の負荷線は、これまでと同様に、
$$ 120 = 100 I + V_{\text{合成}} \quad \cdots ② $$
となります。求める動作点は、グラフ上で合成特性曲線①と負荷線②の交点です。
使用した物理公式
- 直列接続の性質: 電流共通、電圧は和
- キルヒホッフの第2法則
- 全体の消費電力 = 電池の供給電力: \(P_{\text{全体}} = EI\)
まず、グラフ上で直列の合成特性曲線を作成します。例えば、
- \(I=0.3\text{A}\) のとき、 \(V_L \approx 28\text{V}\), \(V_M = 40\text{V}\) となり、\(V_{\text{合成}} \approx 68\text{V}\)。点(68V, 0.3A)をプロットします。
- \(I=0.35\text{A}\) のとき、 \(V_L \approx 33\text{V}\), \(V_M \approx 52\text{V}\) となり、\(V_{\text{合成}} \approx 85\text{V}\)。点(85V, 0.35A)をプロットします。
これらの点を結んで曲線を描き、負荷線 \(120 = 100I + V\) との交点を読み取ると、
$$ I \approx 0.35 \text{ [A]}, \quad V_{\text{合成}} \approx 85 \text{ [V]} $$
であることがわかります。
回路全体の消費電力 \(P_{\text{全体}}\) は、電池の供給電力に等しく、回路に流れる電流は \(I = 0.35\text{A}\) ですから、
$$ P_{\text{全体}} = E \times I = 120 \times 0.35 = 42 \text{ [W]} $$
- 今度はLとMを「直列」につないだものを一個の部品として考え、そのV-Iグラフを作ります。
- 同じ電流(例えば0.3A)のときのLの電圧とMの電圧をグラフから読み取り、それらを足し算して合成電圧を求めます。これを繰り返し、新しい「L+M(直列)」グラフを描きます。
- この新しいグラフと、いつもの直線(負荷線)との交点を探します。
- 交点の電流を読み取ると約0.35Aです。これが回路全体を流れる電流になります。
- 回路全体の消費電力は「電池の電圧120V × 回路を流れる電流0.35A」で計算できます。
LとMを直列に接続したときの回路全体の消費電力は \(42\text{W}\) となります。(5)の並列接続の場合(96W)よりも消費電力が小さいことがわかります。これは、直列接続にすると合成抵抗が大きくなり、回路全体に流れる電流が制限されるためであり、定性的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 非線形抵抗とV-I特性曲線
- 核心:抵抗値が電圧や電流によって一定ではない素子(電球など)の振る舞いは、V-I特性曲線によって記述されます。
- 理解のポイント:電球の場合、電圧・電流が大きくなるほどジュール熱でフィラメントの温度が上がり、抵抗値が増加します。そのため、グラフは原点を通る直線にはなりません。
- キルヒホッフの法則と負荷線
- 核心:回路の動作点(実際に実現する電圧・電流)は、素子自体の特性(V-I曲線)と、回路が課す制約(負荷線)の、両方を満たすただ一点に決まります。
- 理解のポイント:負荷線とは、キルヒホッフの法則から導かれる、非線形素子にかかる電圧\(V\)と電流\(I\)の関係式のことです。これをグラフに描くことで、連立方程式を視覚的に解くことができます。
- 合成抵抗(特性)の考え方
- 核心:複数の素子からなる部分回路も、一つの「合成素子」と見なし、そのV-I特性(合成特性曲線)を考えることで、複雑な回路を単純化できます。
- 理解のポイント:
- 並列接続:電圧が共通なので、各素子の電流を足し合わせます。(グラフを縦方向に足すイメージ)
- 直列接続:電流が共通なので、各素子の電圧を足し合わせます。(グラフを横方向に足すイメージ)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- ダイオードやツェナーダイオードなど、他の非線形素子を含む電気回路の問題。
- 電池の内部抵抗が無視できない問題。(負荷線の式が変わるだけで、考え方は同じです)
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 非線形素子の存在確認: 問題にV-I特性グラフが与えられていたら、グラフ解析法を使う可能性が高いです。
- \(V, I\) の設定: その非線形素子にかかる電圧を\(V\)、流れる電流を\(I\)と置きます。
- 負荷線の導出: キルヒホッフの法則を使い、回路の他の部分との関係から、\(V\)と\(I\)だけの関係式(負荷線の方程式)を立てることを目指します。
- 交点探索: 導出した負荷線をグラフに描き込み、特性曲線との交点を探します。
- 合成特性の検討: 複数の非線形素子が組み合わさっている場合、それらをひとまとめにした「合成特性曲線」を描くことを検討します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電球の抵抗値を一定だと誤解する
- 現象:「100Vで80W」という情報から抵抗値を計算し、どの電圧でもその値が使えると勘違いしてしまう。
- 対策:V-I特性が「曲線」で与えられた時点で、抵抗値は電圧や電流によって変わる「変数」であると認識することが重要です。
- 負荷線のプロットミス
- 現象:負荷線の方程式をグラフに描く際に、切片や傾きを計算ミスする。
- 対策:最も確実な方法は、計算が簡単な2点、V軸との交点(\(I=0\)の点)とI軸との交点(\(V=0\)の点)を求めて、その2点を直線で結ぶことです。
- 合成特性曲線の作り方の混同
- 現象:並列接続なのに電圧を足したり、直列接続なのに電流を足したりしてしまう。
- 対策:「並列=電圧共通、電流が和」「直列=電流共通、電圧が和」という基本原則を、作図の際に常に意識しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 負荷線の図示: キルヒホッフの法則から導いた数式を、グラフという視覚情報に変換することで、解への道筋が一目瞭然になります。
- 合成特性曲線の作図: (5)やQのように複雑な接続の場合でも、元のグラフから和をとってフリーハンドで新しい曲線を描いてみることで、「だいたいこの辺りに交点が来るな」と見通しを立てることができます。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- グラフの目盛りの単位と大きさを最初に確認する。
- 負荷線を描く際は、計算した切片の点を正確にプロットする。
- 合成特性曲線を描く際は、いくつかの代表的な点(格子点の近くなど、読みやすい点)で和を計算し、それらの点を滑らかに結ぶように心がける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
- 選定理由:閉じた電気回路における電圧の関係を記述する、最も基本的で普遍的な法則だからです。
- 適用根拠:この問題の回路はすべて、電源と抵抗素子からなる閉回路を構成しているため、無条件で適用できます。
- 抵抗の温度依存性の式 \(R_t = R_0(1+\alpha t)\)
- 選定理由:抵抗値の変化と温度を結びつける問題設定だからです。
- 適用根拠:(2)でフィラメントの「温度」が問われ、かつ「抵抗の温度係数 \(\alpha\)」が具体的に与えられているため、この公式の使用が必須であると判断できます。
- 合成抵抗(特性)の考え方
- 選定理由:複数の素子からなる部分を、単一の素子として扱い問題を単純化できる、強力な手法だからです。
- 適用根拠:(5)ではLとMが「並列接続」、Qでは「直列接続」という明確な接続形態をとっているため、それぞれのルールに従って合成特性を考えることができます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の分類: 非線形素子(電球)を含む回路であると認識する。
- 変数の設定: 非線形素子にかかる電圧を \(V\)、流れる電流を \(I\) とおく。
- 制約式の立式: キルヒホッフの法則を使い、回路の構造から \(V\) と \(I\) が満たすべき関係式(負荷線)を導出する。
- 解法の決定: 「負荷線の方程式」と「素子のV-I特性曲線」の2つの条件を満たす点が答えであると判断し、グラフ上で交点を求める方針を立てる。
- グラフ操作: グラフに負荷線や合成特性曲線を描き込み、交点の座標を正確に読み取る。
- 最終計算: 読み取った \(V, I\) の値を用いて、問われている物理量を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの読み取りは慎重に: 急いで読み取ると、0.1Aのずれなどが簡単に生じます。1目盛りがいくつなのかを最初に確認し、指や定規を当てて正確に読み取る習慣をつけましょう。
- 有効数字の確認: 問題文の冒頭に「有効数字2桁で答えよ」とあるのを見落とさないこと。 計算の途中では少し多めの桁で計算し、最後に指定された桁数に丸めるのが鉄則です。
- 単位を意識する: 計算結果に正しい単位(V, A, Ω, W, ℃)を付けることを忘れないようにしましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 定性的な変化の確認:
- (4)では、(3)に比べて並列に抵抗が増えた結果、Lにかかる電圧が \(60\text{V} \to 20\text{V}\) に下がりました。これは「並列部分の合成抵抗が下がり、分圧が小さくなった」という物理的な直感と一致します。
- (5)とQを比較すると、並列接続(96W)の方が直列接続(42W)より全体の消費電力が大きくなっています。これも「並列にすると合成抵抗が小さくなり、回路に大きな電流が流れる」という直感と一致します。
- 別解による検算:
- (5)で見たように、全体の消費電力を「電池の供給電力」と「各素子の消費電力の和」の2通りで計算し、一致することを確認するのは、非常に有効な検算方法です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]