問題19 (静岡大+山口大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、平行平板コンデンサーに誘電体を挿入したり、金属板を挿入したりする際の電気容量、電圧、静電エネルギーの変化、そして外力や電池がする仕事について考察する問題です。スイッチSが開いている場合と閉じている場合で、コンデンサーの電気量や電圧がどのように変化(あるいは保存)するかがポイントとなります。
- はじめの状態のコンデンサー: 電気容量 \(C_0\)、極板間は空気(比誘電率1)。
- 電源: 起電力 \(V\) の電池。
- スイッチS: 充電に使われる。
- コンデンサーの極板: 1辺が長さ \(l\) の正方形。
- 極板間の電場: 一様とする。
- 誘電体D: コンデンサーと同形、比誘電率 \(\epsilon_r\)。
- 金属板M (Qで登場): 極板と同形、厚さ \(d/2\)。
- I. スイッチSを開き、誘電体Dを \(x\) だけ挿入する場合:
- 挿入後のコンデンサーの電気容量 \(C\) と電圧 \(V_1\)。
- 誘電体Dの挿入の際に外力がした仕事 \(W_1\)。
- II. スイッチSを閉じたまま、誘電体Dを \(x\) だけ挿入する場合:
- Dが挿入されていないL側と挿入されているR側での物理量の比:
- (ア) 電場
- (イ) 極板の電荷密度
- Dを \(x\) の位置からさらに \(\Delta x\) だけ押し込む間の諸量:
- (ア) 電池のした仕事 \(W_E\)
- (イ) 外力のした仕事 \(W_2\)
- (ウ) 誘電体に働く静電気力の大きさ \(F\)
- Dを完全に挿入した後Sを開き、Dを完全に引き出すときの外力の仕事 \(W_3\)。
- Dが挿入されていないL側と挿入されているR側での物理量の比:
- 【コラム】Q. はじめの状態からSを開き、金属板Mを完全に挿入後、\(y\) だけ引き出した状態からさらに \(\Delta y\) 引き出す間の外力の仕事 \(W\) と、Mに働く静電気力の大きさ \(F(y)\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問II(3)(イ) 極板の電荷密度の別解: 電場と誘電率の関係を用いる解法
- 主たる解法が各部分の電気量と面積から電荷密度を計算するのに対し、別解では電場の強さと物質の誘電率から直接電荷密度を導出します。
- 問II(4)(ウ) 誘電体に働く静電気力の大きさFの別解: エネルギー収支から力を導出する解法
- 主たる解法が仕事と力の関係式 \(W_2 = -F\Delta x\) を用いるのに対し、別解では微小変位の間のエネルギー保存則 (\(\Delta U = W_2 + W_E\)) と力のつり合い (\(W_2 = -F\Delta x\)) を組み合わせ、エネルギーの出入りから直接力を求めます。
- 問II(3)(イ) 極板の電荷密度の別解: 電場と誘電率の関係を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 別解を通じて、電荷密度が電場と誘電率という場の量で決まることや、力が系のエネルギー変化と密接に関係していることなど、より本質的な物理概念への理解が深まります。
- 思考の多角化: 同じ物理現象に対して、異なる法則や関係式からアプローチする経験は、問題解決能力と思考の柔軟性を養います。特に問II(4)(ウ)の別解は、エネルギーという統一的な視点から力学現象を捉える練習になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、平行平板コンデンサーに誘電体を挿入したり、金属板を挿入したりする際の電気容量、電圧、静電エネルギーの変化、そして外力や電池がする仕事について考察する問題です。スイッチSが開いている場合と閉じている場合で、コンデンサーの電気量や電圧がどのように変化(あるいは保存)するかがポイントとなります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気容量: \(C = \epsilon \displaystyle\frac{S}{d}\) (\(\epsilon\): 誘電率, \(S\): 極板面積, \(d\): 極板間隔)
- 真空の誘電率を \(\epsilon_0\)、比誘電率を \(\epsilon_r\) とすると、誘電体の誘電率は \(\epsilon = \epsilon_r \epsilon_0\)。
- コンデンサーの接続:
- 並列接続: 合成容量 \(C = C_1 + C_2\)、各コンデンサーの電圧は等しい。
- 直列接続: 合成容量 \(\displaystyle\frac{1}{C} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2}\)、各コンデンサーの電気量は等しい。
- コンデンサーに蓄えられる電気量: \(Q = CV\)
- コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{Q^2}{2C} = \frac{1}{2}QV\)
- スイッチの操作:
- スイッチを開いた後: コンデンサーは孤立し、蓄えられた電気量 \(Q\) は一定に保たれる。
- スイッチを閉じたまま: コンデンサーは電池に接続され、極板間の電圧 \(V\) は電池の起電力で一定に保たれる。
- 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則):
- 外力がした仕事 \(W_{\text{外}}\) は、系のエネルギー変化に影響する。
- 電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\) は、電池を通過した電気量を \(\Delta Q\) とすると \(W_{\text{電池}} = \Delta Q \cdot V\)。
- 一般的なエネルギー保存則: (系の静電エネルギーの変化 \(\Delta U\)) = (外力がした仕事 \(W_{\text{外}}\)) + (電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\))。ただし、静電気力による仕事はポテンシャルエネルギーの変化に繰り込まれている。より正確には、 (外力がした仕事 \(W_{\text{外}}\)) + (電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\)) = (系の静電エネルギーの変化 \(\Delta U\)) + (発生するジュール熱など)。この問題では「ゆっくり」操作するのでジュール熱は0と考える。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 誘電体を挿入する問題では、挿入部分と空気部分を別々のコンデンサーと考え、それらが並列接続されていると見なすのが定石です。
- 仕事や力を問われた場合は、エネルギー保存則を考えるか、\(W = -F\Delta x\) (力が保存力の場合、あるいは外力がポテンシャルエネルギーの変化に直接結びつく場合) や、力のつり合いの関係を利用します。
問I (1)
思考の道筋とポイント
スイッチSを開いてから誘電体を挿入するので、コンデンサーに蓄えられている電気量 \(Q_0\) は変化しません。 誘電体を挿入すると、コンデンサーの電気容量が変化します。
まず、はじめの状態(Sを閉じて充電完了した状態)での電気量 \(Q_0\) を求めます。次に、誘電体Dを \(x\) だけ挿入したときの全体の電気容量 \(C\) を、誘電体が挿入されていない部分(L側)と挿入されている部分(R側)の並列合成容量として求めます。 最後に、電気量保存の関係 \(Q_0 = CV_1\) から、挿入後の電圧 \(V_1\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- スイッチを開いた後は電気量が保存される。
- 誘電体挿入部分は、実質的に極板面積が \(lx\) で比誘電率 \(\epsilon_r\) の誘電体で満たされたコンデンサーと見なせる。
- 空気部分は、極板面積が \(l(l-x)\) のコンデンサーと見なせる。
- これら2つの部分は極板間隔 \(d\) と電圧が共通なので並列接続となる。
具体的な解説と立式
はじめの状態での電気容量を \(C_0\)、電気量を \(Q_0\) とします。
$$
\begin{aligned}
C_0 &= \frac{\epsilon_0 l^2}{d} \\[2.0ex]
Q_0 &= C_0 V
\end{aligned}
$$
誘電体を \(x\) だけ挿入したとき、コンデンサーは誘電体が挿入されていないL側と、挿入されているR側の2つのコンデンサーの並列接続とみなせます。それぞれの電気容量を \(C_L\), \(C_R\) とします。
L側の極板面積は \(S_L = l(l-x)\) なので、
$$
\begin{aligned}
C_L &= \frac{\epsilon_0 l(l-x)}{d}
\end{aligned}
$$
R側の極板面積は \(S_R = lx\) で、比誘電率 \(\epsilon_r\) の誘電体で満たされているので、
$$
\begin{aligned}
C_R &= \frac{\epsilon_r \epsilon_0 lx}{d}
\end{aligned}
$$
全体の電気容量 \(C\) はこれらの和となります。
$$
\begin{aligned}
C &= C_L + C_R
\end{aligned}
$$
スイッチSは開かれているので電気量 \(Q_0\) は保存されます。挿入後の電圧を \(V_1\) とすると、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
Q_0 &= C V_1
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電気容量: \(C = \epsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\), \(C = \epsilon_r \epsilon_0 \displaystyle\frac{S}{d}\)
- 並列コンデンサーの合成容量: \(C = C_1 + C_2\)
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
- 電気量保存の法則 (スイッチが開いている場合)
まず、全体の電気容量 \(C\) を \(C_0\) を用いて表します。
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{\epsilon_0 l(l-x)}{d} + \frac{\epsilon_r \epsilon_0 lx}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{l-x}{l} \left(\frac{\epsilon_0 l^2}{d}\right) + \frac{\epsilon_r x}{l} \left(\frac{\epsilon_0 l^2}{d}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{l-x}{l}C_0 + \frac{\epsilon_r x}{l}C_0 \\[2.0ex]
&= \frac{l-x+\epsilon_r x}{l}C_0 \\[2.0ex]
&= \frac{l+(\epsilon_r-1)x}{l}C_0
\end{aligned}
$$
次に、電圧 \(V_1\) を求めます。\(V_1 = \displaystyle\frac{Q_0}{C}\) に \(Q_0 = C_0 V\) と上記の \(C\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \frac{C_0 V}{\frac{l+(\epsilon_r-1)x}{l}C_0} \\[2.0ex]
&= \frac{l}{l+(\epsilon_r-1)x}V
\end{aligned}
$$
スイッチを開くとコンデンサーは電気を溜め込んだまま孤立します。この電気の量は変わりません。そこに誘電体を入れると、コンデンサーはより多くの電気を蓄えられる状態(容量が増加)になります。同じ量の電気なのに、器が大きくなったようなものなので、電気的な圧力(電圧)は下がります。どれくらい容量が増えて、どれくらい電圧が下がるかを計算します。
誘電体を挿入したときのコンデンサーの電気容量 \(C\) は \(C = \displaystyle\frac{l+(\epsilon_r-1)x}{l}C_0\) となります。
また、そのときの電圧 \(V_1\) は \(V_1 = \displaystyle\frac{l}{l+(\epsilon_r-1)x}V\) となります。
ここで、\(\epsilon_r > 1\) なので、\(x>0\) のとき \(l+(\epsilon_r-1)x > l\) となり、\(C > C_0\) かつ \(V_1 < V\) となります。誘電体を挿入すると容量は増加し、電気量一定なので電圧は減少するという物理的な性質と一致しています。
問I (2)
思考の道筋とポイント
スイッチSは開かれたままなので、電池からのエネルギー供給はありません。この状況で外力がした仕事 \(W_1\) は、コンデンサーの静電エネルギーの変化量に等しくなります。
初めの静電エネルギーを \(U_0\)、誘電体挿入後の静電エネルギーを \(U_1\) とすると、\(W_1 = U_1 – U_0\) となります。電気量が \(Q_0\) で一定なので、エネルギーの計算には \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) の形を用いると、電圧 \(V_1\) を使わずに計算できます。
この設問における重要なポイント
- スイッチが開いているため、電池は仕事をしない。
- 外力の仕事は、系の静電エネルギーの変化に等しい (\(W_1 = \Delta U\))。
- 誘電体は極板間に引き込まれる静電気力が働く。ゆっくり挿入するための外力は、この引き込む力に抗する向きに働き、結果として外力の仕事は負になる。
具体的な解説と立式
外力がした仕事 \(W_1\) は、コンデンサーの静電エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しいです。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= \Delta U = U_1 – U_0
\end{aligned}
$$
初めの状態の静電エネルギー \(U_0\) は、電気量 \(Q_0\)、容量 \(C_0\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
U_0 &= \frac{Q_0^2}{2C_0}
\end{aligned}
$$
誘電体を \(x\) だけ挿入した後の静電エネルギー \(U_1\) は、電気量 \(Q_0\)、容量 \(C\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
U_1 &= \frac{Q_0^2}{2C}
\end{aligned}
$$
したがって、外力のした仕事 \(W_1\) は次式で与えられます。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= \frac{Q_0^2}{2C} – \frac{Q_0^2}{2C_0}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\) (電池の仕事がない場合)
立式した \(W_1\) の式に、\(Q_0 = C_0 V\) と (1)で求めた \(C = \displaystyle\frac{l+(\epsilon_r-1)x}{l}C_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= \frac{(C_0 V)^2}{2 \left( \frac{l+(\epsilon_r-1)x}{l}C_0 \right)} – \frac{(C_0 V)^2}{2C_0} \\[2.0ex]
&= \frac{C_0^2 V^2 l}{2(l+(\epsilon_r-1)x)C_0} – \frac{1}{2}C_0 V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{l}{l+(\epsilon_r-1)x} \cdot \frac{1}{2}C_0 V^2 – \frac{1}{2}C_0 V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}C_0 V^2 \left( \frac{l}{l+(\epsilon_r-1)x} – 1 \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}C_0 V^2 \left( \frac{l – (l+(\epsilon_r-1)x)}{l+(\epsilon_r-1)x} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}C_0 V^2 \left( \frac{-(\epsilon_r-1)x}{l+(\epsilon_r-1)x} \right) \\[2.0ex]
&= -\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2 x}{2\{l+(\epsilon_r-1)x\}}
\end{aligned}
$$
外から加えた力がした仕事は、コンデンサーのエネルギーがどれだけ変化したかに等しくなります。今回は、誘電体を入れるとコンデンサーのエネルギーは実は減ります。これは、誘電体がコンデンサーの中に「引き込まれる」性質があるためで、系が自らエネルギーを放出して安定な状態になろうとするからです。外力は、この引き込まれる勢いを抑えながらゆっくり挿入するため、結果的に「負の仕事」をした(エネルギーを系から奪った)ことになります。
外力のした仕事 \(W_1\) は \(W_1 = -\displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2 x}{2\{l+(\epsilon_r-1)x\}}\) です。
\(\epsilon_r > 1\) かつ \(x > 0\) なので、\(W_1\) は負の値を取ります。
これは、静電エネルギーが \(U_0 = \displaystyle\frac{Q_0^2}{2C_0}\) から \(U_1 = \displaystyle\frac{Q_0^2}{2C}\) へと変化し、\(C > C_0\) であるため \(U_1 < U_0\) となることと一致します。静電エネルギーは減少し、その減少分が外部になされた仕事(\(-W_1\))に等しくなります。
問II (3)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じたままなので、コンデンサーのL側、R側ともに極板間の電圧は電池の起電力 \(V\) で一定に保たれています。
(ア) 電場: 電圧 \(V\) と極板間隔 \(d\) が両側で共通なので、一様な電場の公式 \(E=V/d\) から電場の比を求めます。
(イ) 電荷密度: 各部分の電気量を計算し、それぞれの面積で割ることで電荷密度を求め、その比を計算します。
この設問における重要なポイント
- スイッチを閉じたままなので、コンデンサー全体の電圧、およびL側・R側の電圧は \(V\) で一定。
- L側とR側は並列接続とみなせる。
- 電場は \(E=V/d\)。
- 電荷密度は \(\sigma=Q/S\)。
具体的な解説と立式
(ア) 電場
L側、R側ともに極板間の電圧は \(V\)、極板間隔は \(d\) で共通です。電場は一様なので、それぞれの電場の大きさ \(E_L, E_R\) は、
$$
\begin{aligned}
E_L &= \frac{V}{d} \\[2.0ex]
E_R &= \frac{V}{d}
\end{aligned}
$$
したがって、電場の比は \(E_L : E_R\) となります。
(イ) 極板の電荷密度
L側の電気容量は \(C_L = \displaystyle\frac{l-x}{l}C_0\)、面積は \(S_L = l(l-x)\) です。
L側の電気量 \(Q_L\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_L &= C_L V
\end{aligned}
$$
L側の電荷密度 \(\sigma_L\) は、
$$
\begin{aligned}
\sigma_L &= \frac{Q_L}{S_L}
\end{aligned}
$$
R側の電気容量は \(C_R = \displaystyle\frac{\epsilon_r x}{l}C_0\)、面積は \(S_R = lx\) です。
R側の電気量 \(Q_R\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_R &= C_R V
\end{aligned}
$$
R側の電荷密度 \(\sigma_R\) は、
$$
\begin{aligned}
\sigma_R &= \frac{Q_R}{S_R}
\end{aligned}
$$
したがって、電荷密度の比は \(\sigma_L : \sigma_R\) となります。
使用した物理公式
- 電場の一様性: \(E = V/d\)
- 電荷密度: \(\sigma = Q/S\)
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
(ア) 電場
\(E_L = V/d\), \(E_R = V/d\) より、
$$
\begin{aligned}
E_L : E_R &= 1:1
\end{aligned}
$$
(イ) 極板の電荷密度
$$
\begin{aligned}
\sigma_L &= \frac{C_L V}{S_L} = \frac{\left(\frac{l-x}{l}C_0\right) V}{l(l-x)} = \frac{C_0 V}{l^2} \\[2.0ex]
\sigma_R &= \frac{C_R V}{S_R} = \frac{\left(\frac{\epsilon_r x}{l}C_0\right) V}{lx} = \frac{\epsilon_r C_0 V}{l^2}
\end{aligned}
$$
したがって、比は、
$$
\begin{aligned}
\sigma_L : \sigma_R &= \frac{C_0 V}{l^2} : \frac{\epsilon_r C_0 V}{l^2} \\[2.0ex]
&= 1 : \epsilon_r
\end{aligned}
$$
(ア) スイッチが閉じているので、コンデンサーの左右どちらの部分も電池と同じ電圧\(V\)がかかっています。板の間の距離も同じなので、電場の強さも同じになります。(イ) 電荷密度は、単位面積あたりにどれだけ電気が集まっているかを表します。誘電体があるR側は、ないL側に比べて電気を蓄える能力が高いので、同じ電圧でも \(\epsilon_r\) 倍多くの電気が集まります。だから電荷密度も \(\epsilon_r\) 倍になります。
(ア) 電場の比は \(1:1\)。 電圧と極板間隔が等しいためです。
(イ) 極板の電荷密度の比は \(1:\epsilon_r\)。 誘電体の効果により、同じ電場(電圧)でもR側の方が多くの電荷を蓄えます。
思考の道筋とポイント
(イ)の電荷密度を、電場の強さと誘電率の関係から直接求めます。極板上の真電荷密度 \(\sigma\) と電場 \(E\) の間には、物質の誘電率 \(\epsilon\) を用いて \(\sigma = \epsilon E\) の関係があります。
この設問における重要なポイント
- 電場はL側、R側で等しい。
- 電荷密度は、その場所の電場と誘電率に比例する。
具体的な解説と立式
(ア)で求めたように、L側とR側の電場は等しく \(E_L = E_R = E = V/d\) です。
L側は空気なので、誘電率は \(\epsilon_0\)。電荷密度 \(\sigma_L\) は、
$$
\begin{aligned}
\sigma_L &= \epsilon_0 E
\end{aligned}
$$
R側は比誘電率 \(\epsilon_r\) の誘電体なので、誘電率は \(\epsilon_r \epsilon_0\)。電荷密度 \(\sigma_R\) は、
$$
\begin{aligned}
\sigma_R &= (\epsilon_r \epsilon_0) E
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電場と電荷密度の関係: \(\sigma = \epsilon E\)
電荷密度の比を求めると、
$$
\begin{aligned}
\sigma_L : \sigma_R &= (\epsilon_0 E) : (\epsilon_r \epsilon_0 E) \\[2.0ex]
&= 1 : \epsilon_r
\end{aligned}
$$
(イ)の別のアプローチです。電荷の集まり具合(電荷密度)は、その場所の電場の強さと、そこにある物質が電気をどれだけ通しやすいか(誘電率)で決まります。L側(空気)に比べてR側(誘電体)は \(\epsilon_r\) 倍電気を通しやすいので、同じ電場でも電荷密度は \(\epsilon_r\) 倍になります。
主たる解法と完全に一致します。この解法は、コンデンサーの容量や面積を具体的に計算する必要がなく、電場と物質の性質(誘電率)から直接的に結論を導けるため、より物理的本質に近く、計算も簡潔です。
問II (4) (ア)
思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じたまま誘電体Dを \(x\) の位置からさらに \(\Delta x\) だけ押し込みます。この間に電池がした仕事 \(W_E\) を求めます。
電池がした仕事は \(W_E = (\text{電池を通過した電気量}) \times (\text{電池の電圧})\) で計算できます。
まず、誘電体の挿入長が \(x\) のときの全電気量 \(Q(x)\) と、挿入長が \(x+\Delta x\) のときの全電気量 \(Q(x+\Delta x)\) を求め、その差 \(\Delta Q = Q(x+\Delta x) – Q(x)\) が電池を通過した電気量となります。電圧は常に \(V\) です。
この設問における重要なポイント
- スイッチが閉じているので電圧は \(V\) で一定。
- 誘電体をさらに挿入すると、コンデンサーの総電気容量 \(C(x)\) が増加する。
- 電気容量が増加すると、電圧 \(V\) が一定なので、蓄えられる総電気量 \(Q(x)=C(x)V\) も増加する。この増加分の電気が電池から供給される。
具体的な解説と立式
誘電体の挿入長が \(y\) のときのコンデンサー全体の電気容量 \(C(y)\) は、問I(1)の結果から、
$$
\begin{aligned}
C(y) &= \frac{l+(\epsilon_r-1)y}{l}C_0
\end{aligned}
$$
電圧は \(V\) で一定なので、蓄えられている総電気量 \(Q(y)\) は、
$$
\begin{aligned}
Q(y) &= C(y)V
\end{aligned}
$$
挿入長が \(x\) から \(x+\Delta x\) に変化したときに電池を通過した電気量 \(\Delta Q\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= Q(x+\Delta x) – Q(x) \\[2.0ex]
&= C(x+\Delta x)V – C(x)V \\[2.0ex]
&= (C(x+\Delta x) – C(x))V
\end{aligned}
$$
電池のした仕事 \(W_E\) は、
$$
\begin{aligned}
W_E &= \Delta Q \cdot V
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電気容量: \(C(y) = \displaystyle\frac{l+(\epsilon_r-1)y}{l}C_0\)
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\) (Vは一定)
- 電池のした仕事: \(W_E = \Delta Q \cdot V\)
まず、容量の変化 \(C(x+\Delta x) – C(x)\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
C(x+\Delta x) – C(x) &= \frac{l+(\epsilon_r-1)(x+\Delta x)}{l}C_0 – \frac{l+(\epsilon_r-1)x}{l}C_0 \\[2.0ex]
&= \frac{C_0}{l} \{ (l+(\epsilon_r-1)(x+\Delta x)) – (l+(\epsilon_r-1)x) \} \\[2.0ex]
&= \frac{C_0}{l} (\epsilon_r-1)\Delta x \\[2.0ex]
&= \frac{(\epsilon_r-1)C_0}{l}\Delta x
\end{aligned}
$$
次に \(\Delta Q\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= \left( \frac{(\epsilon_r-1)C_0}{l}\Delta x \right) V = \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V}{l}\Delta x
\end{aligned}
$$
最後に電池の仕事 \(W_E\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
W_E &= \left( \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V}{l}\Delta x \right) \cdot V \\[2.0ex]
&= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x
\end{aligned}
$$
誘電体をさらに押し込むと、コンデンサーはもっと電気を蓄えられるようになります(容量が増える)。スイッチが閉じているので、増えた分の電気は電池から供給されます。電池がした仕事は、この「供給した電気の量」に「電池の電圧」を掛けたものになります。
電池のした仕事 \(W_E\) は \(W_E = \displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x\) です。
\(\epsilon_r > 1\), \(C_0 > 0\), \(V^2 > 0\), \(l > 0\), \(\Delta x > 0\) なので、\(W_E > 0\) となります。これは、誘電体をさらに挿入することでコンデンサーの容量が増え、より多くの電荷を蓄えるために電池が正の仕事をした(エネルギーを供給した)ことを意味し、物理的に妥当です。
問II (4) (イ)
思考の道筋とポイント
外力のした仕事 \(W_2\) を求めます。この過程では、外力と電池の両方が仕事をし、コンデンサーの静電エネルギーが変化します。エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を用います。
(コンデンサーの静電エネルギーの変化 \(\Delta U\)) = (外力がした仕事 \(W_2\)) + (電池がした仕事 \(W_E\))
ここから \(W_2 = \Delta U – W_E\) として求めます。
電圧 \(V\) は一定なので、\(\Delta U = U(x+\Delta x) – U(x) = \displaystyle\frac{1}{2}(C(x+\Delta x)-C(x))V^2 = \frac{1}{2}\Delta C V^2\)。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: \(\Delta U = W_{\text{外}} + W_{\text{電池}}\)。
- 静電エネルギーの変化 \(\Delta U\) は \(\frac{1}{2}\Delta C V^2\) で計算できる(電圧一定のため)。
- \(W_E\) は(ア)で求めた値を使用する。
具体的な解説と立式
エネルギー保存則より、外力の仕事 \(W_2\) は、静電エネルギーの変化 \(\Delta U\) と電池の仕事 \(W_E\) を用いて次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
W_2 &= \Delta U – W_E
\end{aligned}
$$
電圧 \(V\) が一定なので、静電エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= U(x+\Delta x) – U(x) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}C(x+\Delta x)V^2 – \frac{1}{2}C(x)V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(C(x+\Delta x) – C(x))V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\Delta C V^2
\end{aligned}
$$
ここで \(\Delta C = C(x+\Delta x) – C(x)\) です。
使用した物理公式
- 静電エネルギーの変化 \(\Delta U = \frac{1}{2}\Delta C V^2\) (電圧一定時)
- エネルギー保存則: \(W_2 + W_E = \Delta U\)
まず、\(\Delta U\) を計算します。(ア)の計算過程で求めた \(\Delta C = \displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0}{l}\Delta x\) を用います。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \frac{1}{2} \left( \frac{(\epsilon_r-1)C_0}{l}\Delta x \right) V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x
\end{aligned}
$$
次に、\(W_2 = \Delta U – W_E\) に、この \(\Delta U\) と(ア)で求めた \(W_E = \displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
W_2 &= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x – \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x \\[2.0ex]
&= \left( \frac{1}{2} – 1 \right) \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x \\[2.0ex]
&= -\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x
\end{aligned}
$$
この操作では、外力と電池の両方がコンデンサーにエネルギーを供給したり奪ったりします。その結果、コンデンサーのエネルギーが変化します。エネルギー全体の収支を考えます。「コンデンサーのエネルギー増加分」は、「外力が与えたエネルギー」と「電池が与えたエネルギー」の合計です。電池が与えたエネルギーは(ア)でわかっているので、引き算をすれば外力がした仕事がわかります。計算すると、外力の仕事は負になります。これは、誘電体が引き込まれる力に逆らって、外力がブレーキをかけるように働いたことを意味します。
外力のした仕事 \(W_2\) は \(W_2 = -\displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x\) です。
\(\epsilon_r > 1\) なので、\(W_2\) は負の値を取ります。これは、誘電体が極板間に引き込まれる静電気力に抗して、外力がゆっくりと挿入するために負の仕事をしたことを意味します。
興味深いことに、電池が供給したエネルギー \(W_E\) のうち、半分がコンデンサーの静電エネルギー増加 \(\Delta U\) になり、残りの半分が外部への仕事(\(-W_2\))として放出された形になっています。(\(\Delta U = W_E/2\), \(W_2 = -W_E/2\))
問II (4) (ウ)
思考の道筋とポイント
誘電体に働く静電気力の大きさ \(F\) を求めます。
誘電体をゆっくりと挿入しているので、力のつり合いが成り立っていると考えられます。つまり、外力の大きさと静電気力の大きさは等しいです。
静電気力は誘電体を引き込む向き(挿入方向)に働きます。外力はこれとつりあうために挿入方向と逆向きに働くので、外力のした仕事 \(W_2\) は \(W_2 = -F \Delta x\) と表せます。この関係から \(F\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- ゆっくりとした操作なので、力のつり合いが近似的に成立する。
- 外力の大きさと静電気力の大きさは等しい (\(F_{\text{外}} = F_{\text{静電気力}}\))。
- 外力の仕事 \(W_2\) と静電気力 \(F\) の関係は \(W_2 = -F\Delta x\) (外力が静電気力に逆らって仕事をする場合)。
具体的な解説と立式
誘電体は極板間に引き込まれる向きに静電気力 \(F\) を受けます。ゆっくりと \(\Delta x\) だけ挿入するために加える外力の大きさも \(F\) であり、その向きは静電気力と逆向き(挿入方向と逆向き)です。
したがって、外力がした仕事 \(W_2\) は、力の大きさが \(F\)、変位が \(\Delta x\) で、力の向きと変位の向きが逆なので、
$$
\begin{aligned}
W_2 &= -F \Delta x
\end{aligned}
$$
この式から、静電気力の大きさ \(F\) を求めることができます。
$$
\begin{aligned}
F &= -\frac{W_2}{\Delta x}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事の定義: \(W = Fx\cos\theta\)
- 力のつり合い (ゆっくり動かす場合)
(4)(イ)で求めた \(W_2 = -\displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= -\frac{-\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x}{\Delta x} \\[2.0ex]
&= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}
\end{aligned}
$$
外力がした仕事は、「力の大きさ」と「動いた距離」から計算できます。今回は、誘電体が引き込まれる力に逆らって外力が働いているので、仕事は \(W_2 = -F \Delta x\) と表せます。この関係式と、(イ)で求めた仕事 \(W_2\) の値を使えば、力の大きさ \(F\) を逆算できます。
誘電体に働く静電気力の大きさ \(F\) は \(F = \displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\) です。
この力 \(F\) は \(x\) に依存しない定数です。 これは、誘電体を挿入する際に働く静電気力が、挿入されている長さに依らず一定であることを示しています(端の効果を無視すれば)。
\(\epsilon_r > 1\) なので \(F > 0\) であり、静電気力は誘電体を引き込む向きに働くことが確認できます。
思考の道筋とポイント
微小変位 \(\Delta x\) の間のエネルギー保存則 \(\Delta U = W_2 + W_E\) を力の言葉で書き換えて \(F\) を求めます。
静電気力を \(F\) とすると、ゆっくり動かすための外力は \(-F\) (挿入方向を正とする) なので、外力の仕事は \(W_2 = -F\Delta x\)。これをエネルギー保存則に代入し、\(F\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則が基本となる。
- 静電気力がした仕事 \(F\Delta x\) は、電池が供給したエネルギーとコンデンサーのエネルギー増加分の差に等しい。
具体的な解説と立式
エネルギー保存則は、
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= W_2 + W_E
\end{aligned}
$$
静電気力の大きさを \(F\) とすると、力のつり合いから外力の大きさも \(F\) であり、向きは逆です。よって外力の仕事は \(W_2 = -F\Delta x\)。これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= -F\Delta x + W_E
\end{aligned}
$$
この式を \(F\) について整理すると、静電気力がした仕事 \(F\Delta x\) は、
$$
\begin{aligned}
F\Delta x &= W_E – \Delta U
\end{aligned}
$$
この式は「静電気力がした仕事は、電池が供給したエネルギーから、コンデンサーの静電エネルギーの増加分を差し引いたものに等しい」というエネルギー収支を表しています。
使用した物理公式
- エネルギー保存則: \(\Delta U = W_2 + W_E\)
- 仕事の定義
(ア)で求めた \(W_E = \displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x\) と、(イ)の計算過程で求めた \(\Delta U = \displaystyle\frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F\Delta x &= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x – \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x \\[2.0ex]
&= \left(1 – \frac{1}{2}\right) \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{l}\Delta x \\[2.0ex]
&= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}\Delta x
\end{aligned}
$$
両辺を \(\Delta x\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{(\epsilon_r-1)C_0 V^2}{2l}
\end{aligned}
$$
別の考え方です。電池から供給されたエネルギー(\(W_E\))は、二つのことに使われます。一つはコンデンサー自身のエネルギーを増やすこと(\(\Delta U\))、もう一つは誘電体を引き込む力(\(F\))が仕事(\(F\Delta x\))をすることです。つまり、\(W_E = \Delta U + F\Delta x\) というエネルギーの分配の式が成り立ちます。この式から力 \(F\) を計算することもできます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、仕事と力の関係を直接使うのではなく、エネルギー全体の収支から力を導出するものであり、物理現象をより深く理解する助けになります。
問II (5)
思考の道筋とポイント
Dを完全に挿入した状態 (\(x=l\)) でスイッチSを開きます。その後、Dを極板間から完全に引き出す (\(x=0\) にする) ときに外力がする仕事 \(W_3\) を求めます。
スイッチSを開いた後は、コンデンサーの電気量が一定に保たれます。 外力がする仕事は、この過程でのコンデンサーの静電エネルギーの変化に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- D完全挿入時は \(x=l\)。スイッチが閉じている間に完全挿入されるので、そのときの電圧は \(V\)。
- Sを開いた後は電気量 \(Q_T\) が保存される。
- Dを引き抜くと容量は \(C_0\) に戻る。
- 外力の仕事 \(W_3\) は静電エネルギーの変化 \(\Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\)。
- 引き出す際は、誘電体を引き込む静電気力に抗して外力が正の仕事をする。
具体的な解説と立式
Dを完全に挿入したとき (\(x=l\))、スイッチSは閉じているので電圧は \(V\) です。このときの電気容量を \(C_T\)、電気量を \(Q_T\)、静電エネルギーを \(U_T\) とします。
$$
\begin{aligned}
C_T &= \epsilon_r C_0 \\[2.0ex]
Q_T &= C_T V \\[2.0ex]
U_T &= \frac{1}{2}C_T V^2
\end{aligned}
$$
次にスイッチSを開くと、電気量は \(Q_T\) で一定に保たれます。
その後、誘電体Dを完全に引き抜くと、電気容量は \(C_0\) に戻ります。このときの静電エネルギーを \(U_{\text{後}}\) とすると、
$$
\begin{aligned}
U_{\text{後}} &= \frac{Q_T^2}{2C_0}
\end{aligned}
$$
外力がする仕事 \(W_3\) は、静電エネルギーの変化に等しいので、
$$
\begin{aligned}
W_3 &= U_{\text{後}} – U_T
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 電気容量 (完全挿入時): \(C = \epsilon_r C_0\)
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
- 静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{Q^2}{2C}\)
- 電気量保存の法則 (スイッチを開いた後)
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\)
まず、\(Q_T\) と \(U_T\) を \(C_0, V\) で表します。
$$
\begin{aligned}
Q_T &= (\epsilon_r C_0) V = \epsilon_r C_0 V \\[2.0ex]
U_T &= \frac{1}{2}(\epsilon_r C_0)V^2
\end{aligned}
$$
次に、\(U_{\text{後}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
U_{\text{後}} &= \frac{(\epsilon_r C_0 V)^2}{2C_0} = \frac{\epsilon_r^2 C_0^2 V^2}{2C_0} = \frac{1}{2}\epsilon_r^2 C_0 V^2
\end{aligned}
$$
最後に、\(W_3 = U_{\text{後}} – U_T\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W_3 &= \frac{1}{2}\epsilon_r^2 C_0 V^2 – \frac{1}{2}\epsilon_r C_0 V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\epsilon_r C_0 V^2 (\epsilon_r – 1) \\[2.0ex]
&= \frac{\epsilon_r(\epsilon_r-1)}{2}C_0 V^2
\end{aligned}
$$
まず、誘電体が完全に入った状態でスイッチを開きます。これでコンデンサーに溜まった電気の量 \(Q_T\) は固定されます。次に、この電気の量を保ったまま誘電体を引き抜きます。誘電体がなくなると電気を蓄える能力(容量)が下がるので、同じ電気の量でもエネルギーは高くなります(\(U=Q^2/2C\)でCが減るため)。このエネルギーの増加分が、外力が引き抜くためにした仕事に相当します。
外力のする仕事 \(W_3\) は \(W_3 = \displaystyle\frac{\epsilon_r(\epsilon_r-1)}{2}C_0 V^2\) です。
\(\epsilon_r > 1\) なので、\(\epsilon_r-1 > 0\)。したがって \(W_3 > 0\) となり、外力は正の仕事をします。 これは、誘電体が引き込まれる静電気力に抗して、外力が誘電体を引き出すために仕事をするという物理的な状況と一致しています。
【コラム】Q. はじめの状態からSを開き 極板と同形で厚さ \(\frac{d}{2}\) の金属板Mを完全に挿入する。そしてMをゆっくりと引き出す。引き出した距離が \(y\) から \(y+\Delta y\) となるまでの間に外力のする仕事 \(W\) を調べ、Mに働く静電気力の大きさ \(F\) を \(y\) の関数として表せ。 \(\Delta y\) は微小量なので近似せよ。
思考の道筋とポイント
この問題では、誘電体の代わりに導体である金属板を扱います。スイッチSははじめの状態(充電後)に開かれるため、コンデンサーの電気量 \(Q_0 = C_0V\) は一定に保たれます。
外力のする仕事 \(W\) は、この微小な引き出し過程における静電エネルギーの変化に等しくなります。 また、静電気力の大きさ \(F\) は、\(W = F_{\text{外}}\Delta y\) と \(F_{\text{外}}=F_{\text{静}}\) (ゆっくり引き出すため) の関係から求めることができます。
この設問における重要なポイント
- スイッチを開いた後は電気量 \(Q_0\) が保存される。
- 金属板(導体)挿入の効果: 金属板の厚さを \(t\) とすると、その部分の電気容量は極板間隔が \(d-t\) になったかのように振る舞う。\(C’ = \epsilon_0 S / (d-t)\)。ここでは \(t=d/2\)。
- 外力の仕事 \(W = \Delta U\)。
- \(W = F \Delta y\) から力 \(F\) を求める(\(F\) は外力の大きさであり、ゆっくり操作なので静電気力の大きさに等しい)。
- 微小量 \(\Delta y\) を含む式の近似計算。
具体的な解説と立式
はじめの電気量 \(Q_0 = C_0 V\) は保存されます。ここで \(C_0 = \displaystyle\frac{\epsilon_0 l^2}{d}\)。
金属板Mが \(y\) だけ引き出された状態(\(l-y\) だけ挿入されている状態)を考えます。
引き出されたL側の容量 \(C_L(y)\) は、
$$
\begin{aligned}
C_L(y) &= \frac{\epsilon_0 ly}{d}
\end{aligned}
$$
金属板が残っているR側の容量 \(C_R(y)\) は、極板間隔が実質的に \(d – d/2 = d/2\) となるので、
$$
\begin{aligned}
C_R(y) &= \frac{\epsilon_0 l(l-y)}{d/2} = \frac{2\epsilon_0 l(l-y)}{d}
\end{aligned}
$$
全体の電気容量 \(C(y)\) は、並列合成なので、
$$
\begin{aligned}
C(y) &= C_L(y) + C_R(y)
\end{aligned}
$$
このときの静電エネルギー \(U(y)\) は、
$$
\begin{aligned}
U(y) &= \frac{Q_0^2}{2C(y)}
\end{aligned}
$$
外力のする仕事 \(W\) は、静電エネルギーの変化に等しいです。
$$
\begin{aligned}
W &= U(y+\Delta y) – U(y)
\end{aligned}
$$
静電気力の大きさ \(F\) は、\(W = F \Delta y\) の関係から求められます。
使用した物理公式
- 金属板挿入時のコンデンサー容量: \(C’ = \epsilon_0 S / (d-t)\)
- 並列コンデンサーの合成容量
- 電気量保存、静電エネルギー \(U=Q^2/(2C)\)
- 仕事とエネルギーの関係 \(W=\Delta U\)
- 微小仕事 \(W = F \Delta y\)
まず、\(C(y)\) を \(C_0\) を用いて表します。
$$
\begin{aligned}
C(y) &= \frac{y}{l} \left(\frac{\epsilon_0 l^2}{d}\right) + \frac{2(l-y)}{l} \left(\frac{\epsilon_0 l^2}{d}\right) \\[2.0ex]
&= \left(\frac{y + 2l – 2y}{l}\right)C_0 = \frac{2l-y}{l}C_0
\end{aligned}
$$
次に、\(U(y)\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
U(y) &= \frac{(C_0V)^2}{2 \frac{2l-y}{l}C_0} = \frac{l C_0 V^2}{2(2l-y)}
\end{aligned}
$$
外力の仕事 \(W\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
W &= U(y+\Delta y) – U(y) \\[2.0ex]
&= \frac{l C_0 V^2}{2(2l-(y+\Delta y))} – \frac{l C_0 V^2}{2(2l-y)} \\[2.0ex]
&= \frac{l C_0 V^2}{2} \left( \frac{1}{2l-y-\Delta y} – \frac{1}{2l-y} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{l C_0 V^2}{2} \left( \frac{(2l-y) – (2l-y-\Delta y)}{(2l-y-\Delta y)(2l-y)} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{l C_0 V^2}{2} \frac{\Delta y}{(2l-y-\Delta y)(2l-y)}
\end{aligned}
$$
\(\Delta y\) は微小量なので、分母の \(2l-y-\Delta y \approx 2l-y\) と近似します。
$$
\begin{aligned}
W &\approx \frac{l C_0 V^2 \Delta y}{2(2l-y)^2}
\end{aligned}
$$
最後に、静電気力の大きさ \(F\) を求めます。\(W = F \Delta y\) より、
$$
\begin{aligned}
F &= \frac{W}{\Delta y} \approx \frac{l C_0 V^2}{2(2l-y)^2}
\end{aligned}
$$
今度は誘電体の代わりに金属板を扱います。金属板をコンデンサーに入れると、その厚みの分だけ実質的に極板の間隔が狭くなったのと同じ効果があり、容量が増えます。スイッチを開いて電気の量を一定にした後、この金属板を少し引き抜くときの仕事と力を考えます。流れは誘電体の時と同じです。まず、金属板が途中まで入っているときの容量を計算し、それを使ってエネルギーを計算します。少し引き抜いたときのエネルギーの変化が、外力がした仕事になります。そして、仕事と距離の関係から、金属板に働く力を求めることができます。
引き出した距離が \(y\) から \(y+\Delta y\) となるまでの間に外力のする仕事 \(W\) は \(W \approx \displaystyle\frac{lC_0V^2}{2(2l-y)^2}\Delta y\) です。
Mに働く静電気力の大きさ \(F\) は \(y\) の関数として \(F(y) = \displaystyle\frac{lC_0V^2}{2(2l-y)^2}\) と表されます。
\(W > 0\) であり、外力は正の仕事をします。これは金属板が極板間に引き込まれる力に抗して引き出すためです。
静電気力 \(F(y)\) は、引き出されるほど(\(y\) が大きくなるほど)、分母の \((2l-y)\) が小さくなるため、力は大きくなります。\(y=0\) (完全挿入) のとき \(F = \displaystyle\frac{C_0V^2}{8l}\)、\(y=l\) (完全引き出し直前) のとき \(F = \displaystyle\frac{C_0V^2}{2l}\) となり、引き出すほど大きな力が必要になることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの基本特性:
- 核心:電気容量 \(C\) は、極板の形状、面積 \(S\)、間隔 \(d\)、そして極板間の物質の誘電率 \(\epsilon\) で決まる (\(C = \epsilon S/d\))。蓄えられる電気量 \(Q\) は \(CV\) で、静電エネルギー \(U\) は \(\frac{1}{2}CV^2 = \frac{Q^2}{2C}\) で与えられる。
- 理解のポイント:これらの関係式を確実に覚え、それぞれの文字が何を表すかを正確に理解することが出発点です。
- 誘電体・導体の挿入効果:
- 核心:誘電体を挿入すると電気容量は比誘電率 \(\epsilon_r\) 倍に増加する。導体(金属板)を厚さ \(t\) で挿入すると、極板間隔が \(d-t\) に減少したのと同じ効果をもたらし、容量が増加する。
- 理解のポイント:なぜ容量が増えるのかを、誘電分極や導体内の電場ゼロといった微視的な現象と結びつけて理解することが重要です。
- スイッチの開閉に伴う条件変化:
- 核心:
- スイッチを開いた後:コンデンサーは孤立回路となり、蓄えられた電気量 \(Q\) が保存される。
- スイッチを閉じたまま(電池に接続):コンデンサーの電圧 \(V\) が電池の起電力で一定に保たれる。
- 理解のポイント:この2つの条件の違いを明確に区別し、問題設定に応じて正しく適用することが極めて重要です。
- 核心:
- 並列接続の考え方:
- 核心:誘電体や金属板を部分的に挿入した場合、挿入部分と非挿入部分は同じ電圧がかかる並列接続されたコンデンサーとみなせる。 合成容量は各部分の容量の和 \(C = C_1 + C_2\)。
- 理解のポイント:なぜ並列と見なせるのか(電位差が共通)を図から読み取れるようにしましょう。
- エネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係):
- 核心:(系のエネルギー変化 \(\Delta U\)) = (外力がした仕事 \(W_{\text{外}}\)) + (電池がした仕事 \(W_{\text{電池}}\)) (ただし、熱の発生など他のエネルギー変化がない場合)。
- 理解のポイント:仕事の正負、エネルギーの出入りを正確に捉え、立式できるように訓練しましょう。特に電池の仕事は \(W_{\text{電池}} = (\text{通過電気量}) \times (\text{電圧})\) です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 極板間距離を変化させる場合(電気量一定または電圧一定)。
- 複数の誘電体を層状または並列に挿入する場合。
- コンデンサーを接続したまま、あるいは切り離した後に、他のコンデンサーや抵抗と接続する場合の電荷の移動やエネルギー変化。
- 誘電体や導体に働く力を、エネルギーの空間微分(大学範囲)や仮想仕事の原理(高校範囲ではエネルギー保存から間接的に)から求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- スイッチの状態を確認: まず「開いている」か「閉じている」か。これにより電気量保存か電圧一定かが決まります。
- 系の変化を特定: 何(誘電体、導体、極板間距離、接続)がどのように変化するのか。
- 電気容量の変化を計算: 変化後の各部分の電気容量を求め、必要なら合成容量を計算します。
- \(Q, C, V, U\) の関係式を適用: 保存される量(\(Q\) または \(V\))と変化した容量 \(C\) から、他の量(\(V\) または \(Q\)、そして \(U\))を求めます。
- 仕事が問われたらエネルギー保存則: \(\Delta U = W_{\text{外}} + W_{\text{電池}}\) を基本に立式します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチが開いているのに電圧が一定だと勘違いする:
- 誤解:スイッチを開くとコンデンサーは孤立するが、電圧が電池の電圧のまま変化しないと誤解する。
- 対策:スイッチを開いたら「電気量 \(Q\) が保存される」と肝に銘じる。 電圧は \(V=Q/C\) の関係で、容量 \(C\) が変化すれば \(V\) も変化します。
- 仕事の正負の判断ミス:
- 誤解:外力がした仕事や電池がした仕事の符号を逆に考えてしまう。特に、誘電体が引き込まれる際の「外力の仕事」など。
- 対策:エネルギー保存則 \(\Delta U = W_{\text{外}} + W_{\text{電池}}\) を基本とし、各項の意味(\(W_{\text{外}} > 0\) なら外部からエネルギーが加わった、\(W_{\text{電池}} > 0\) なら電池がエネルギーを供給した)を正確に理解する。力の向きと変位の向きから仕事の符号を判断する場合は、\(W = Fx\cos\theta\) を丁寧に適用する。
- 並列・直列の判断ミス:
- 誤解:部分的に誘電体を挿入した場合などに、それを直列接続と誤認する。
- 対策:コンデンサーのどの部分が同じ電位にあるかを図で確認する。この問題のように極板間に部分的に異なる物質を挟む場合は、通常は並列接続として扱います。
- エネルギー保存則の適用範囲の誤解:
- 誤解:電池が接続されている場合に \(W_{\text{電池}}\) の項を忘れて \(\Delta U = W_{\text{外}}\) としてしまう。
- 対策:エネルギーの出入りを全て考慮する。電池は電荷を供給(あるいは回収)することで仕事をする重要な要素です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C = \epsilon S/d\) (電気容量の基本式):
- 選定理由:コンデンサーの幾何学的形状と物質から電気容量を決定するため。
- 適用根拠:平行平板コンデンサーであり、極板面積 \(S\)、極板間隔 \(d\)、誘電率 \(\epsilon\) が与えられている(または求められる)場合。
- \(Q=CV\) (電気量・容量・電圧の関係式):
- 選定理由:これら3つの量のうち2つが分かっているときに残りの1つを求めるため。
- 適用根拠:コンデンサーの基本的な定義式であり、常に成り立つ。
- \(U = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{Q^2}{2C}\) (静電エネルギーの式):
- 選定理由:コンデンサーに蓄えられるエネルギーを計算するため、またはエネルギー変化から仕事を求めるため。
- 適用根拠:状況に応じて、\(V\) と \(C\) が分かっているか(電圧一定)、\(Q\) と \(C\) が分かっているか(電気量一定)で使い分けると便利。
- 並列合成容量 \(C=C_1+C_2\):
- 選定理由:複数のコンデンサー部分が並列に接続されていると見なせる場合の全体の容量を求めるため。
- 適用根拠:各部分コンデンサーにかかる電圧が等しい場合。
- \(\Delta U = W_{\text{外}} + W_{\text{電池}}\) (エネルギー保存則):
- 選定理由:外力や電池が関わるエネルギーの収支を計算し、未知の仕事やエネルギー変化を求めるため。
- 適用根拠:エネルギーが他の形態(熱など)に変わらない限り、一般的に成り立つ。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算:
- 特に注意すべき点:電気容量やエネルギーの式は分数を含むことが多い。通分、約分、逆数の扱いを慎重に行う。
- 日頃の練習:複雑な分数式でも、一つ一つの項を丁寧に扱い、計算過程を省略せずに書く習慣をつける。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点:\(C_0, V, l, x, \epsilon_r\) など多くの文字が登場する。計算過程で式が複雑にならないよう、共通因数でくくるなど、整理しながら進める。
- 日頃の練習:最終的な答えの形を予想しながら、どの変数をまとめておくべきか考える。
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点:特に仕事やエネルギー変化、力の向きに関わる符号は、物理的な意味と照らし合わせながら慎重に確認する。\(W_1\) や \(W_2\) が負になる物理的理由を考える。
- 日頃の練習:エネルギーが増加したのか減少したのか、仕事はされたのかしたのかを、立式と同時に言葉で確認する癖をつける。
- 近似計算の妥当性:
- 特に注意すべき点:Qの問題のように \(\Delta y\) が微小という条件がある場合、どの項が無視できて、どの項が残るのかを正しく判断する(例:\((A-\Delta y) \approx A\) とできるか、\((A-\Delta y)^{-1} \approx A^{-1}(1+\Delta y/A)\) と展開する必要があるか)。
- 日頃の練習:微小量を含む計算では、\((\Delta y)^2\) などの高次の項は無視できるという原則を理解し、適用する練習をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 符号: 仕事 \(W\) の符号が、エネルギーを与えたのか奪ったのか、力の向きと変位の向きの関係と整合しているか。例えば、誘電体を引き抜く仕事 \(W_3\) は正になったが、これは引き込む力に逆らって仕事をするので妥当。
- 極端な場合: 例えば \(\epsilon_r=1\)(誘電体が空気と同じ)なら、挿入しても何も変わらないはず。\(W_1, W_2, F\) などが0になるか確認。\(x=0\) や \(x=l\) を代入して、既知の状況と一致するか確認。
- 依存性: 例えば、静電気力 \(F\) が \(x\) によらない定数になった (問II(4)(ウ))。 これは物理的にどういう状況を意味するか考える。
- 物理現象との整合性:
- 誘電体を挿入すると容量は増えるはず。\(C > C_0\) か?
- Sを開いて誘電体を挿入すると \(Q\) 一定なので \(U=Q^2/(2C)\) は \(C\) が増えると \(U\) は減るはず。\(W_1 = \Delta U < 0\) か?
- Sを閉じて誘電体を挿入すると \(V\) 一定なので \(U=(1/2)CV^2\) は \(C\) が増えると \(U\) は増えるはず。\(\Delta U > 0\) か?
- これらの吟味を行うことで、計算ミスや立式の誤りを発見できる可能性が高まる。
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問題20 (東京大+慶應大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、3枚の平行極板 L, M, N からなるコンデンサーに関する問題です。中央の極板Mが移動することにより、各部分の電気容量が変化し、それに伴い電荷や電位、さらにはスイッチ操作による電流などが変化する様子を考察します。スイッチの開閉と極板の移動という操作が組み合わさることで、電気量保存則や電位の考え方を的確に使う能力が試されます。
- 3枚の同形の極板 L, M, N を平行に配置。
- 極板LとNは間隔 \(2a\) を保って固定。
- 極板MはL, Nと平行を保って移動可能。位置座標を \(x\) (\(-a < x < a\))。LとNの中央が原点 \(x=0\)。
- 2個の起電力 \(V_0\) の電池が図のように接続。
- 初期状態: 極板Mを \(x=0\) に置き、スイッチSを閉じる。このときのLM間およびMN間の電気容量をそれぞれ \(C_0\) とする。
- 操作: 次にSを開いた後、Mを位置 \(x\) まで静かに移動させる。
- \(x=0\) でSを閉じたとき、極板Mがもつ電荷 \(Q_M\)。
- Mが位置 \(x\) にあるとき、LM間の電気容量 \(C_1\) およびMN間の電気容量 \(C_2\)。
- Mが位置 \(x\) にあるとき(Sは開いている)、極板Nのもつ電荷 \(Q_N\) を求め、これを \(x\) の関数として図示。
- アース電位を0として、Mが位置 \(x\) にあるとき(Sは開いている)のMの電位 \(V_M\) を求め、これを \(x\) の関数として図示。
- Mが位置 \(x\) にあるとき、Sを再び閉じる。Sを通る電気量(正とする)とその向き。必要なら \(x>0, x<0\) で場合分け。
- Mを \(x=0\) に戻しSを開く。そしてMを一定の速さ \(v\) で右へ動かすとき、Nに流入する電流 \(I\)。
- 【コラム】Q. 問(1)~(4)の状況で、\(x(>0)\) の位置でMに加えている外力の大きさと向き。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(3) 極板Nの電荷QNの別解: 並列コンデンサーとみなす解法
- 主たる解法が極板Mの電位VMを未知数として電気量保存則から解くのに対し、別解ではLM間とMN間のコンデンサーが並列接続されているとみなし、合成容量を用いて解きます。
- 【コラム】Q. 外力の別解: エネルギー保存則から力を導出する解法
- 主たる解法が極板間引力の公式 F=(1/2)QE を用いるのに対し、別解では系の静電エネルギーU(x)をxの関数として求め、その変化量から外力の仕事と力を導出します。
- 問(3) 極板Nの電荷QNの別解: 並列コンデンサーとみなす解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの抽象化: 複雑な配置のコンデンサーを等価な並列回路とみなす視点や、力がエネルギーの空間的な変化率で与えられるという物理学の普遍的な原理(ポテンシャルと力の関係)に触れることができ、理解が深まります。
- 計算の効率化: 特に問(3)の別解は、Mの電位を陽に求めずに直接電荷を計算できるため、見通しが良くなる場合があります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題の核心は、多極板コンデンサーにおける電位と電荷の分布、そして電気量保存則の適用です。特にスイッチが開いている場合は、孤立した導体(この場合は極板M)の総電荷が保存されることが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気容量: 平行平板コンデンサーの電気容量は \(C = \epsilon \displaystyle\frac{S}{d}\)(\(\epsilon\): 誘電率, \(S\): 極板面積, \(d\): 極板間隔)。極板間が空気なら誘電率は真空の誘電率 \(\epsilon_0\)。
- コンデンサーの電荷と電圧: \(Q=CV\)。極板の電荷の符号に注意。
- スイッチの操作:
- Sが閉じているとき: Mはアースに接続されるので、Mの電位は0。
- Sが開いているとき: Mは電気的に孤立するので、Mの総電荷は保存される。
- 電位の考え方: アース点の電位は0。電池は一定の電位差 \(V_0\) を供給する。
- 電気量保存則: 電気的に孤立した導体部分の総電荷は変化しない。
- 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\) または \(I = \displaystyle\frac{dQ}{dt}\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、初期状態(\(x=0\), Sが閉じている)での各部の電位と電荷を確定させます。
- Sを開いた後は、極板Mの総電荷が保存されることを利用します。
- 極板Mの位置 \(x\) によって変化する各部分の電気容量を求めます。
- 電位を未知数として設定し、電荷と容量の関係式、および電気量保存則から連立方程式を立てて解く「電位法」が有効です。
- 電流を求める際は、電荷の時間変化率を考えます。