問題10 (東大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電気双極子(ただし、A,Bの電荷が逆符号なので広義には電気双極子ではないが、類似の配置)が作る電場と電位、そしてその中での荷電粒子の運動を扱う、静電気学の総合問題です。後半では外部から一様な電場が加わる状況も考察します。
- A点: \(+Q\) [C] の点電荷
- B点: \(-Q\) [C] の点電荷
- AB間の距離: \(2l\) [m]
- O点: 線分ABの中点
- C点: Oから距離 \(L\) [m]、線分ABの垂直二等分線上
- M点: 線分OBの中点
- クーロンの法則の比例定数: \(k\) [N·m²/C²]
- 無限遠の電位: 0 [V]
- 小球P: 電荷 \(-q\) [C]、質量 \(m\) [kg]
- (1) O点、C点での電場の向きと強さ \(E_O, E_C\)。
- (2) O点、M点での電位 \(V_O, V_M\)。
- (3) PをMで放し、Oを通過する速さ \(v\)。
- (4) 外部一様電場の向きと強さ \(E_{\text{一様}}\)。
- (5) (4)の状況下で、PをCからMへ動かす外力の仕事 \(W_{\text{外}}\)。
- (6) (4)の状況下で、MでPを放しOで静止したときの \(L\) と \(l\) の関係。
- (コラムQ₁) (6)でPの速さが最大となる位置の求め方。
- (コラムQ₂) A,Bに\(+Q\)を固定し、OにPを置き、C方向にわずかにずらして放したときの単振動の周期。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は「静電気学」の根幹をなす「電場」と「電位」の概念、そしてそれらが荷電粒子に及ぼす「静電気力」と「電気的ポテンシャルエネルギー」を扱います。さらに、力学的エネルギー保存則や仕事とエネルギーの関係といった力学の知識も必要とされます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則
- 電場(電界): \(+1\)[C]の試験電荷が受ける力。点電荷 \(Q\) が作る電場の強さは \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\)。電場はベクトル量であり、重ね合わせの原理が成り立つ。
- 電位: \(+1\)[C]の試験電荷が持つ電気的ポテンシャルエネルギー。点電荷 \(Q\) が作る電位は \(V = k\frac{Q}{r}\)。電位はスカラー量であり、重ね合わせの原理が成り立つ。
- 静電気力と電気的ポテンシャルエネルギー: \(\vec{F} = q\vec{E}\), \(U = qV\)。
- 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\)。
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\) (静かに移動させる場合)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 電場の計算: 各点電荷が作る電場をベクトルとして合成します。
- (2) 電位の計算: 各点電荷が作る電位をスカラーとして合成します。
- (3) 荷電粒子の運動: 力学的エネルギー保存則を適用します。
- (4) 外部一様電場の決定: 元の力と合成後の力の条件から外部電場を求めます。
- (5) 外力の仕事の計算: 電気的ポテンシャルエネルギーの変化を計算します。
- (6) \(L\) と \(l\) の関係: 再び力学的エネルギー保存則を適用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
O点およびC点における電場を求めます。電場はベクトル量なので、各点電荷が作る電場をそれぞれ計算し、ベクトルとして合成します。O点では、A点の\(+Q\)からもB点の\(-Q\)からも右向きの電場が生じます。C点では、対称性から鉛直成分は打ち消し合い、水平成分のみが残ります。
この設問における重要なポイント
- 点電荷の作る電場の公式: \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\)。
- 電場の重ね合わせの原理(ベクトル和)。
- 対称性の利用。
具体的な解説と立式
O点での電場 \(E_O\):
A点の \(+Q\) がO点に作る電場 \(\vec{E}_{AO}\) は右向きで強さ \(E_{AO} = k\frac{Q}{l^2}\)。
B点の \(-Q\) がO点に作る電場 \(\vec{E}_{BO}\) も右向きで強さ \(E_{BO} = k\frac{Q}{l^2}\)。
合成電場 \(\vec{E}_O\) は右向きで、その強さ \(E_O\) は、
$$E_O = E_{AO} + E_{BO} \quad \cdots ①$$
C点での電場 \(E_C\):
AC = BC = \(\sqrt{l^2+L^2}\)。A点の \(+Q\) がC点に作る電場の強さを \(E_1\)、B点の \(-Q\) がC点に作る電場の強さも \(E_1\) とすると \(E_1 = k\frac{Q}{l^2+L^2}\)。
\(\vec{E}_{AC}\) と \(\vec{E}_{BC}\) のAB方向(右向き)成分を \(E_{1x}\) とする。AC と水平方向のなす角の余弦を \(\cos\alpha = \frac{l}{\sqrt{l^2+L^2}}\) とすると、\(E_{1x} = E_1 \cos\alpha\)。
C点での合成電場 \(\vec{E}_C\) は右向きで、その強さ \(E_C\) は、
$$E_C = 2 E_1 \cos\alpha = 2 \cdot k\frac{Q}{l^2+L^2} \cdot \frac{l}{\sqrt{l^2+L^2}} \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電場: \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせの原理
O点での電場:
式①より、\(E_O = k\frac{Q}{l^2} + k\frac{Q}{l^2} = \frac{2kQ}{l^2}\)。向きはAB方向(右向き)。
C点での電場:
式②より、\(E_C = \frac{2kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\)。向きはAB方向(右向き)。
O点では、二つの電荷からの電場が同じ向きに加算されます。C点では、二つの電荷からの電場の鉛直成分が打ち消しあい、水平成分が加算されます。
O点での電場の向きはAB方向(右向き)、強さは \(E_O = \displaystyle\frac{2kQ}{l^2}\) [N/C]。
C点での電場の向きはAB方向(右向き)、強さは \(E_C = \displaystyle\frac{2kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) [N/C]。
問(2)
思考の道筋とポイント
O点およびM点における電位を求めます。電位はスカラー量なので、各点電荷が作る電位を単純に足し合わせます。O点ではA, Bからの距離が等しいです。M点はOBの中点なので、A, Bからの距離をそれぞれ計算します。
この設問における重要なポイント
- 点電荷の作る電位の公式: \(V = k\frac{Q}{r}\) (\(Q\)の符号を含む)。
- 電位の重ね合わせの原理(スカラー和)。
具体的な解説と立式
O点での電位 \(V_O\):
A点の \(+Q\) が作る電位 \(V_{AO} = k\frac{+Q}{l}\)。B点の \(-Q\) が作る電位 \(V_{BO} = k\frac{-Q}{l}\)。
$$V_O = V_{AO} + V_{BO} \quad \cdots ③$$
M点での電位 \(V_M\):
AからMまでの距離 \(r_{AM} = l + l/2 = \frac{3}{2}l\)。BからMまでの距離 \(r_{BM} = l/2\)。
A点の \(+Q\) が作る電位 \(V_{AM} = k\frac{Q}{3l/2}\)。B点の \(-Q\) が作る電位 \(V_{BM} = k\frac{-Q}{l/2}\)。
$$V_M = V_{AM} + V_{BM} \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電位: \(V = k\frac{Q}{r}\)
O点での電位:
式③より、\(V_O = k\frac{Q}{l} + k\frac{-Q}{l} = 0 \text{ [V]}\)。
M点での電位:
式④より、\(V_M = k\frac{Q}{3l/2} + k\frac{-Q}{l/2} = \frac{2kQ}{3l} – \frac{2kQ}{l} = kQ\left(\frac{2-6}{3l}\right) = -\frac{4kQ}{3l} \text{ [V]}\)。
O点では、\(+Q\)と\(-Q\)からの距離が等しいため、それぞれの作る電位が打ち消しあい0Vとなります。M点では、各電荷からの距離に応じて電位を計算し、足し合わせます。
O点の電位は \(V_O = 0 \text{ V}\)。M点の電位は \(V_M = -\displaystyle\frac{4kQ}{3l} \text{ V}\)。
問(3)
思考の道筋とポイント
電荷 \(-q\)、質量 \(m\) の小球PをM点で静かに放し、PがO点を通るときの速さ \(v\) を力学的エネルギー保存則を用いて求めます。電気的ポテンシャルエネルギーは \(U = (-q)V\) です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + U = \text{一定}\)。
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = qV\)。
具体的な解説と立式
M点での力学的エネルギー \(E_M\): 初速0、電位 \(V_M\)。\(E_M = 0 + (-q)V_M\)。
O点での力学的エネルギー \(E_O\): 速さ \(v\)、電位 \(V_O\)。\(E_O = \frac{1}{2}mv^2 + (-q)V_O\)。
力学的エネルギー保存則 \(E_M = E_O\) より、
$$(-q)V_M = \frac{1}{2}mv^2 + (-q)V_O \quad \cdots ⑤$$
(2)の結果、\(V_M = -\frac{4kQ}{3l}\), \(V_O = 0\) を代入します。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 運動エネルギー: \(\frac{1}{2}mv^2\)
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = qV\)
式⑤に \(V_M, V_O\) を代入します。
$$(-q)\left(-\frac{4kQ}{3l}\right) = \frac{1}{2}mv^2 + (-q)(0)$$
$$\frac{4kqQ}{3l} = \frac{1}{2}mv^2$$
\(v^2\) について解くと、\(v^2 = \frac{8kqQ}{3ml}\)。
よって、\(v = \sqrt{\frac{8kqQ}{3ml}} = 2\sqrt{\frac{2kqQ}{3ml}}\)。
M点での位置エネルギーがO点での運動エネルギーと位置エネルギーの和に等しくなります。各点の電位から位置エネルギーを計算し、エネルギー保存の式を立てて速さ \(v\) を求めます。
PがO点を通るときの速さは \(v = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2kqQ}{3ml}}\) [m/s] です。
問(4)
思考の道筋とポイント
C点での元の静電気力 \(\vec{F}_{\text{元}} = -q\vec{E}_C\)。一様な外部電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) による力 \(\vec{F}_{\text{一様}} = -q\vec{E}_{\text{一様}}\)。合成力 \(\vec{F}_{\text{合成}} = \vec{F}_{\text{元}} + \vec{F}_{\text{一様}}\)。条件 \(\vec{F}_{\text{合成}} = -\frac{1}{2}\vec{F}_{\text{元}}\) から \(\vec{E}_{\text{一様}}\) を求めます。\(\vec{E}_C\) は右向きなので \(\vec{F}_{\text{元}}\) は左向き。よって \(\vec{F}_{\text{合成}}\) は右向き。
この設問における重要なポイント
- 力のベクトル合成。
- 問題文の条件をベクトル方程式に正確に翻訳する。
具体的な解説と立式
元の静電気力 \(\vec{F}_{\text{元}} = -q\vec{E}_C\)。
合成された静電気力 \(\vec{F}_{\text{合成}} = \vec{F}_{\text{元}} + (-q\vec{E}_{\text{一様}})\)。
条件より \(\vec{F}_{\text{合成}} = -\frac{1}{2}\vec{F}_{\text{元}}\)。
よって、\(-\frac{1}{2}(-q\vec{E}_C) = -q\vec{E}_C -q\vec{E}_{\text{一様}}\)。
$$\frac{1}{2}q\vec{E}_C = -q(\vec{E}_C + \vec{E}_{\text{一様}})$$
$$-\frac{1}{2}\vec{E}_C = \vec{E}_C + \vec{E}_{\text{一様}}$$
$$\vec{E}_{\text{一様}} = -\frac{3}{2}\vec{E}_C$$
\(\vec{E}_C\) はAB方向(右向き)なので、\(\vec{E}_{\text{一様}}\) はBA方向(左向き)。
強さ \(E_{\text{一様}} = \frac{3}{2}E_C = \frac{3}{2} \cdot \frac{2kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}} = \frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\)。
使用した物理公式
- 静電気力: \(\vec{F} = q\vec{E}\)
- 力の重ね合わせ
上記、「具体的な解説と立式」の通りです。
元の力(左向き)と逆向き(右向き)で大きさが半分の力になるためには、一様電場による力が、元の力を打ち消してさらに右向きの力を加える必要があります。力の関係から一様電場を求めます。
一様な電場の向きはBAの向き(左向き)、強さは \(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) [N/C] です。
問(5)
思考の道筋とポイント
外力の仕事 \(W_{\text{外}}\) は、Pの電気的ポテンシャルエネルギーの変化 \(\Delta U_P = U_{P,M} – U_{P,C}\) に等しい。全電位 \(V_{\text{全}} = V_{\text{元}} + V_{\text{一様}}\) を用いて \(U_P = -qV_{\text{全}}\) を計算します。C点を基準に \(V_{C,\text{全}}=0\)。M点での全電位を求めます。
この設問における重要なポイント
- 外力の仕事(静かに移動)= 電気的ポテンシャルエネルギーの変化。
- 全体の電位は、元の電位と一様な外部電場による電位の重ね合わせ。
具体的な解説と立式
\(W_{\text{外}} = U_{P,M} – U_{P,C}\)。 \(V_{C,\text{全}} = 0\) (C点は元の電位0、一様電場の電位の基準もC点またはOC線上を0Vとする)。
したがって \(U_{P,C} = 0\)。
M点での元の電位 \(V_{M,\text{元}} = -\frac{4kQ}{3l}\)。
一様な外部電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) はBA方向(左向き)、強さ \(E_{\text{一様}}\)。C点を基準にすると、M点はC点から見てAB方向(右向き)に \(l/2\) の位置にあるため、M点の一様電場による電位 \(V_{M,\text{一様}} = E_{\text{一様}}\frac{l}{2}\)。
よって、M点での全電位 \(V_{M,\text{全}} = V_{M,\text{元}} + V_{M,\text{一様}} = -\frac{4kQ}{3l} + E_{\text{一様}}\frac{l}{2}\)。
外力の仕事は、$$W_{\text{外}} = U_{P,M} = (-q)V_{M,\text{全}} = (-q)\left(-\frac{4kQ}{3l} + E_{\text{一様}}\frac{l}{2}\right) \quad \cdots ⑥$$
\(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) を代入します。
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\)
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = qV\)
式⑥に \(E_{\text{一様}}\) を代入して整理します。
$$W_{\text{外}} = (-q)\left(-\frac{4kQ}{3l} + \frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}} \cdot \frac{l}{2}\right)$$$$= kqQ\left(\frac{4}{3l} – \frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}}\right)$$
外力がする仕事は、Pの電気的な位置エネルギーの変化に等しいです。C点とM点での全電位を求め、電荷\(-q\)を掛けて位置エネルギーを計算し、その差を取ります。
外力のした仕事は \(W_{\text{外}} = kqQ\left\{\displaystyle\frac{4}{3l} – \frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}}\right\}\) [J] です。
問(6)
思考の道筋とポイント
M点(初速0)からO点(最終速0)までの運動で力学的エネルギーが保存されるため、M点とO点での電気的ポテンシャルエネルギーが等しい、つまり全電位が等しい (\(V_{M,\text{全}} = V_{O,\text{全}}\)) ことが条件となります。O点は直線OC上にあるため、(5)の基準の取り方から \(V_{O,\text{全}} = 0\)。よって \(V_{M,\text{全}} = 0\) となります。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則の適用(始点・終点で運動エネルギー0)。
- 各点での全電位(元の電位+一様電場による電位)の計算。
具体的な解説と立式
M点とO点での力学的エネルギー保存より、\(V_{M,\text{全}} = V_{O,\text{全}}\)。
(5)の電位の基準(直線OC上を0V)を用いると \(V_{O,\text{全}} = 0\)。
よって、M点での全電位も0になる必要があります。
$$V_{M,\text{全}} = -\frac{4kQ}{3l} + E_{\text{一様}}\frac{l}{2} = 0$$
\(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) を代入します。
$$-\frac{4kQ}{3l} + \left(\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\right) \frac{l}{2} = 0 \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 電気的ポテンシャルエネルギー \(U=qV\)
式⑦より \(kQ\) を消去します(\(kQ \ne 0\))。
$$-\frac{4}{3l} + \frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}} = 0$$
$$\frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}} = \frac{4}{3l}$$
$$9l^3 = 8(l^2+L^2)^{3/2}$$
両辺を2乗すると、\(81l^6 = 64(l^2+L^2)^3\)。
$$(l^2+L^2)^3 = \frac{81}{64}l^6$$
両辺の立方根をとると、\(l^2+L^2 = \left(\frac{81}{64}\right)^{1/3} (l^6)^{1/3} = \frac{3^{4/3}}{2^2} l^2 = \frac{3^{4/3}}{4}l^2\)。
$$L^2 = \left(\frac{3^{4/3}}{4} – 1\right)l^2 = \left(\frac{3^{4/3}-4}{4}\right)l^2$$
$$L = \frac{1}{2}\sqrt{3^{4/3}-4} \cdot l$$
別解: 一様電場による仕事を分離して考える
思考の道筋とポイント
一様な電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) による力 \(-q\vec{E}_{\text{一様}}\) を保存力以外の力(外力のような扱い)と見なします。この力がする仕事が、元の点電荷が作る電場中での力学的エネルギーの変化に等しいと考えます。
M点からO点への移動で、一様電場による静電気力 \(\vec{F}_{\text{一様}} = -q\vec{E}_{\text{一様}}\) がする仕事 \(W_{\text{一様}}\) を計算します。
仕事とエネルギーの関係より、\(W_{\text{一様}} = \Delta K + \Delta U_{\text{元}}\)。
\(\Delta K = K_O – K_M = 0 – 0 = 0\)。
\(\Delta U_{\text{元}} = U_{P,O,\text{元}} – U_{P,M,\text{元}} = (-q)V_{O,\text{元}} – (-q)V_{M,\text{元}}\)。
したがって、\(W_{\text{一様}} = -q(V_{O,\text{元}} – V_{M,\text{元}})\)。
具体的な解説と立式
一様な電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) はBA方向(左向き)、強さは \(E_{\text{一様}}\)。
小球Pの電荷は \(-q\) なので、一様電場から受ける力 \(\vec{F}_{\text{一様}}\) はAB方向(右向き)、大きさ \(F_{\text{一様}} = qE_{\text{一様}}\)。
PがM点からO点へ移動する際の変位は、AB方向(右向き)を正とすると、M(\(x=l/2\))からO(\(x=0\))への移動なので、変位は \(-l/2\)。
よって、一様電場による静電気力がする仕事 \(W_{\text{一様}}\) は、
$$W_{\text{一様}} = F_{\text{一様}} \times (-\frac{l}{2}) = (qE_{\text{一様}})(-\frac{l}{2}) = -\frac{1}{2}qE_{\text{一様}}l$$
(これは模範解答のLECTURE(6)別解の \(-qE \times \frac{l}{2}\) と一致。Eは\(E_{\text{一様}}\)の大きさ)
元の点電荷による電位を用いると、
\(V_{O,\text{元}} = 0\)、\(V_{M,\text{元}} = -\frac{4kQ}{3l}\)。
仕事とエネルギーの関係から、
$$-\frac{1}{2}qE_{\text{一様}}l = (0 + (-q)V_{O,\text{元}}) – (0 + (-q)V_{M,\text{元}})$$$$-\frac{1}{2}qE_{\text{一様}}l = -q(V_{O,\text{元}} – V_{M,\text{元}})$$$$\frac{1}{2}E_{\text{一様}}l = V_{O,\text{元}} – V_{M,\text{元}} = 0 – \left(-\frac{4kQ}{3l}\right) = \frac{4kQ}{3l}$$
$$E_{\text{一様}}\frac{l}{2} = \frac{4kQ}{3l}$$
この式は、メイン解法の \(V_{M,\text{全}}=0\) から得られる \(-V_{M,\text{元}} = V_{M,\text{一様}}\) すなわち \(\frac{4kQ}{3l} = E_{\text{一様}}\frac{l}{2}\) と同じです。
したがって、この後の計算もメイン解法と同様になり、同じ結果が得られます。
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{非保存力}} = \Delta (\text{力学的エネルギー})\)
- 一様電場中の仕事: \(W = Fx = qEx\)
上記、「具体的な解説と立式」で示したように、メイン解法と同じ式 \(\displaystyle E_{\text{一様}}\frac{l}{2} = \frac{4kQ}{3l}\) が導かれます。
これに \(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) を代入すると、
$$\left(\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\right) \frac{l}{2} = \frac{4kQ}{3l}$$
この式はメイン解法の式⑦と同じであり、以降の計算も同様です。
$$L = \frac{1}{2}\sqrt{3^{4/3}-4} \cdot l$$
M点とO点では運動エネルギーが0なので、MからOへ移動する間に一様な外部電場がした仕事が、元の点電荷による電気的ポテンシャルエネルギーの変化に等しくなります。この関係から \(L\) と \(l\) の式を導きます。
別解を用いても、メインの解法と同じ結果 \(L = \displaystyle\frac{1}{2}\sqrt{3^{4/3}-4} \cdot l\) が得られます。
【コラム】Q₁. (6)において、Pの速さが最大となる位置を求めたい。解法(考え方)を20字以内で述べよ。
具体的な解説と立式
Pの速さが最大となるのは、Pに働く合電気力が0になる位置です。あるいは、電気的ポテンシャルエネルギーが最小となる位置です(Pの電荷が負なので、全電位が最大となる位置)。
解法:力のつり合い位置(Pに働く合力が0の位置)を求めます。
【コラム】Q₂. A点とB点にそれぞれ+Qの点電荷を固定し、O点に小球P(-q[C], m[kg])を置く。PをOからCの方向にわずかにずらして放すと、PはOを中心として単振動を始める。その周期Tを求めよ。
思考の道筋とポイント
PがOからC方向(これをy軸とする)に微小変位 \(y\) だけずれたとき、Pに働く復元力を求めます。この力が \(-Ky\) の形(Kは正の定数)で表されれば、Pは単振動し、その周期は \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) で与えられます。
A(\(-l,0\)), B(\(l,0\)) の\(+Q\)がP(\(0,y\))に及ぼすクーロン力の合力のy成分を計算し、\(y \ll l\) の近似を用います。
この設問における重要なポイント
- 単振動の条件: 復元力 \(F = -Kx\)。
- クーロン力と力の合成(ベクトル和)。
- 微小変位による近似。
具体的な解説と立式
Oを原点、OC方向をy軸正の向きとします。Pの座標を \((0, y)\)。Aは(\(-l, 0\))、Bは(\(l, 0\))に\(+Q\)の電荷があります。
PとA(またはB)との距離 \(r = \sqrt{l^2+y^2}\)。
PがAから受ける力\(f_A\)のy成分(O向き、Pは\(-q\)なので引力ではなく斥力だが、電荷の符号は\(q\)に含めて考える。Qの解答図ではPの電荷を\(-q\)と明記し、クーロン力の大きさは\(|q_1q_2|\)で計算し、向きは別途考えている。ここではQの解答図に合わせてPの電荷を\(-q\)とし、力を考える。)
Qの解答図の軸設定では、Pの電荷を\(-q\)、Qの電荷を\(+Q\)とし、Pが受ける力を\(f\)。合力Fを求めている。これに従う。
A(\(l,0\))、B(\(-l,0\))の位置に\(+Q\)。P(\(-q\))がy軸上の変位\(y\)の点にあるとする(Qの解答図のxをyに読み替え)。
AからPへの力の大きさは \(f = k\frac{Q|-q|}{l^2+y^2} = \frac{kqQ}{l^2+y^2}\)。この力はPからAへ向かう向き(引力)。
この力のy成分は \(-f \sin\theta = -f \frac{y}{\sqrt{l^2+y^2}}\) (\(\theta\)はAPとx軸のなす角)。
Bからも同様の力が働き、合力のy成分 \(F_y\) は、
$$F_y = -2 \cdot \frac{kqQ}{l^2+y^2} \cdot \frac{y}{\sqrt{l^2+y^2}} = -\frac{2kqQy}{(l^2+y^2)^{3/2}}$$
\(y \ll l\) のとき、分母の \(l^2+y^2 \approx l^2\)。
$$F_y \approx -\frac{2kqQy}{(l^2)^{3/2}} = -\frac{2kqQy}{l^3} = -\left(\frac{2kqQ}{l^3}\right)y$$
これは \(F_y = -Ky\) の形なので、Pは単振動します。ばね定数に相当する \(K = \displaystyle\frac{2kqQ}{l^3}\)。
周期 \(T\) は、$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} = 2\pi\sqrt{\frac{m l^3}{2kqQ}} = 2\pi l \sqrt{\frac{ml}{2kqQ}}$$
使用した物理公式
- クーロンの力: \(F = k\frac{|q_1q_2|}{r^2}\)
- 力のベクトル合成
- 単振動の条件: \(F = -Kx\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
- 近似: \(y \ll l \implies l^2+y^2 \approx l^2\)
上記、「具体的な解説と立式」の通りです。
小球PをOからCの方向に少しずらすと、A点とB点の正電荷から引力を受け、O点に戻ろうとする力が働きます。この復元力が変位にほぼ比例する場合(ずれが小さいとき)、Pは単振動をします。その比例定数(ばね定数のようなもの)を \(K\) とすると、周期は \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) で計算できます。
周期 \(T = 2\pi l \sqrt{\displaystyle\frac{ml}{2kqQ}}\) [s] です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と電位の基本概念と重ね合わせの原理:
- 核心: 電場は力に関連するベクトル量、電位はエネルギーに関連するスカラー量。複数の電荷源がある場合、それぞれの効果を重ね合わせる。
- 理解のポイント: 点電荷がつくる電場 \(E = k|Q|/r^2\) と電位 \(V = kQ/r\) の公式、およびその向きや符号の扱いを正確に。
- 静電気力と電気的ポテンシャルエネルギー:
- 核心: 電荷 \(q\) の粒子は電場 \(\vec{E}\) から力 \(\vec{F}=q\vec{E}\) を受け、電位 \(V\) の点でポテンシャルエネルギー \(U=qV\) を持つ。
- 理解のポイント: 電荷の符号によって力やエネルギーの符号が変わることに注意。
- 力学的エネルギー保存則と仕事:
- 核心: 静電気力は保存力なので、力学的エネルギーが保存される。外力が仕事をするときは、その仕事がエネルギー変化に等しい。
- 理解のポイント: \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\)。静かに動かす外力の仕事 \(W_{\text{外}} = \Delta U\)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 電気双極子(または類似の電荷対)が作る電場・電位の解析。
- 複数の電荷による電場・電位の重ね合わせが複雑になる配置での計算。
- 一様電場と点電荷の電場が共存する中での荷電粒子の運動や力のつり合い。
- 保存力場でのエネルギー保存則や仕事とエネルギーの関係を用いた問題全般。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 電荷配置と対称性の確認: 図をよく見て、電荷の符号、位置関係、対称性がないかを確認する(対称性があれば計算が楽になる)。
- 問われている物理量の種類: 電場(ベクトル)か電位(スカラー)か、力かエネルギーかを明確にし、適切な公式と思い出す。
- 基準点の確認: 電位やポテンシャルエネルギーは基準点(通常無限遠)が必要なので、問題文の指示を確認する。
- 力の図示とベクトル演算: 電場や力を扱う場合は、必ずベクトル図を描き、成分分解や合成を正確に行う。
- エネルギー保存則の適用条件: 保存力のみが仕事をするか、外力や非保存力が関わるかを見極める。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 電場と力の向きは、試験電荷(または考えている粒子)の電荷の符号に依存する。
- 電位はスカラーなので、向きを気にする必要はないが、各電荷の符号は計算に含める。
- 距離の計算(特に三平方の定理)を正確に行う。
- 一様電場が加わった場合は、元の電場/電位と一様電場による電場/電位をそれぞれ計算し、重ね合わせる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電場と電位の混同:
- 現象: 電場をスカラー和したり、電位の向きを考えたりする。
- 対策: 電場はベクトル(強さと向き)、電位はスカラー(基準からのエネルギーレベル)と定義を明確に区別する。
- 電荷の符号の扱い:
- 現象: 電場や力の向き、電位や位置エネルギーの符号を間違える。
- 対策: \(F=qE\), \(U=qV\) の \(q\) には符号を含めて考える。電場の向きは正電荷が受ける力の向き。
- 距離 \(r\) の計算ミス:
- 現象: 特に\(r^2\)や\(r^3\)が絡む計算での距離の誤り。
- 対策: 図を正確に描き、幾何学的な関係を正しく使う。
- ベクトル合成のミス:
- 現象: 電場の合成で、大きさをそのまま足し引きする。
- 対策: 必ず成分分解するか、ベクトル作図で平行四辺形の法則などを用いる。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 電気力線(Aから出てBへ入る。C点付近ではABに平行な成分が強そう)。
- 等電位線(ABの垂直二等分線は0Vの等電位線)。
- 力のベクトル図(特にC点や、一様電場が加わった場合)。
- ポテンシャルの「谷」や「山」のイメージ(荷電粒子がどちらへ動きたがるか)。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- ベクトルの始点、向き、相対的な長さを意識する。
- 対称性を活用できるような図の描き方。
- 距離や角度を正確に(または分かりやすく)記入する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\) (点電荷の電場):
- 選定理由: 点電荷が作る電場の基本だから。
- 適用根拠: 対象が点電荷であること。
- \(V = k\frac{Q}{r}\) (点電荷の電位):
- 選定理由: 点電荷が作る電位の基本だから。
- 適用根拠: 対象が点電荷であり、無限遠を電位の基準としていること。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: 荷電粒子が静電気力という保存力のみを受けて運動するため。
- 適用根拠: 系に働く非保存力が仕事をしない(または外力の仕事が0の自由運動)。
- \(W_{\text{外}} = \Delta U\) (外力の仕事):
- 選定理由: 荷電粒子を「静かに」動かす(運動エネルギー変化なし)外力の仕事を求めるため。
- 適用根拠: エネルギーと仕事の関係で、運動エネルギーの変化がない場合。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題設定(電荷配置、問われている点)を図で正確に把握する。
- 電場を求めるか、電位を求めるかによって、ベクトル和かスカラー和かの方針を立てる。
- 各点電荷からの距離を正確に計算する。
- 基本公式に代入し、重ね合わせる。
- 荷電粒子の運動では、まず働く力を分析し、エネルギー保存則が使えるか判断する。
- 初期状態と最終状態を明確にし、エネルギーの式を立てる。
- 外部電場が加わった場合は、それによる力や電位を元のものに重ね合わせる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認: 電荷、力、電位、エネルギーの符号に細心の注意を払う。
- ベクトル演算: 成分分解、合成を丁寧に行う。角度の設定を間違えない。
- 距離の計算: 特に平方根や3/2乗などが絡む場合、慎重に。
- 単位: 基本的にSI単位系で計算するが、問題で与えられた単位も確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 電場・力の向き: 電荷の配置から予想される向きと計算結果が一致するか。
- 電位の符号・大小: 電荷の配置から、ある点の電位が高そうか低そうか、0Vになりそうかなどを大まかに予測し、結果と比べる。
- エネルギーの正負: 運動エネルギーは常に正。ポテンシャルエネルギーの符号と物理的意味。
- 特殊なケースでの検証: 例えば \(L \to 0\) や \(L \to \infty\) の極限で、式が妥当な振る舞いをするか確認する。
問題11 (岡山大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、点電荷間に働く静電気力(クーロン力)と、それに伴う荷電粒子の運動を扱います。前半は一方の粒子が固定されている場合、後半は両方の粒子が運動可能な場合について、力学的エネルギー保存則や運動量保存則を適用して解いていく問題です。
- 粒子A: 質量 \(m\)[kg]、電荷 \(+q\)[C]、初速度 \(v_0\)[m/s] (x軸正方向、Bから十分離れた位置)
- 粒子B: 質量 \(M\)[kg]、電荷 \(+Q\)[C]、初期状態ではx軸上の点Pに静止
- クーロン定数: \(k\)[N·m²/C²]
- その他: 重力や粒子の大きさは無視、真空中の運動
- B固定時:
- (1) AB間の最小距離 \(r_0\)
- (2) AB間距離が \(2r_0\) のときのAの速さ \(v\)
- (3) Aの最大加速度 \(a_{\text{max}}\)
- B自由時:
- (4) 最接近時のAの速度 \(u\) とAB間距離 \(r_1\)
- (5) 十分時間経過後のAの速度 \(v_A\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は「静電気学」における「クーロン力と電位(電気的ポテンシャルエネルギー)」および「力学」における「エネルギー保存則」と「運動量保存則」の融合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: \(F = k\frac{|q_1q_2|}{r^2}\)。同符号の電荷間には斥力が働きます。
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = k\frac{q_1q_2}{r}\)(無限遠を基準)。
- 力学的エネルギー保存則: 外力や非保存力が仕事をしない場合、系全体の力学的エネルギーは保存されます。
- 運動量保存則: 系に働く外力の合力が0の場合、系全体の運動量の和は保存されます。
- 運動方程式: \(ma = F\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- B固定の場合 (1)-(3): 粒子Aの力学的エネルギー保存則を利用します。最接近時はAの速度が0。加速度最大は力が最大(距離最小)のとき。
- B自由の場合 (4)-(5): 粒子AとBからなる系全体で運動量保存則と力学的エネルギー保存則を利用します。最接近時は相対速度0(同じ速度)。十分時間経過後はポテンシャルエネルギー0。
問(1)
思考の道筋とポイント
粒子Bが固定されているため、粒子Aの力学的エネルギーが保存されます。初期状態(無限遠、速度\(v_0\)、ポテンシャルエネルギー0)と最接近状態(速度0、距離\(r_0\)、ポテンシャルエネルギー\(k\frac{qQ}{r_0}\))でエネルギー保存則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則の適用。
- 無限遠での電気的ポテンシャルエネルギーは0。
- 最接近時(B固定の場合)の粒子Aの速度は0。
具体的な解説と立式
初期状態の力学的エネルギー \(E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + 0\)。
最接近時(距離 \(r_0\))の力学的エネルギー \(E_{\text{後}} = 0 + k\frac{qQ}{r_0}\)。
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = k\frac{qQ}{r_0} \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = k\frac{q_1q_2}{r}\)
式①を \(r_0\) について解くと、
$$r_0 = \frac{kqQ}{\frac{1}{2}mv_0^2} = \frac{2kqQ}{mv_0^2}$$
無限遠でのAの運動エネルギーが、最接近した点でのAの電気的ポテンシャルエネルギーに等しくなる、というエネルギー保存の式を立てて \(r_0\) を求めます。
AB間の距離の最小値は \(r_0 = \displaystyle\frac{2kqQ}{mv_0^2}\) [m] です。初速度が大きいほど、より近づけることを示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
AB間の距離が \(2r_0\) のときの粒子Aの速さ \(v\) を求めます。同様に力学的エネルギー保存則を用います。初期状態のエネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\)。距離 \(2r_0\) での運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv^2\)、ポテンシャルエネルギーは \(k\frac{qQ}{2r_0}\) です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則の適用。
- (1)で求めた \(r_0\) の関係 (\(k\frac{qQ}{r_0} = \frac{1}{2}mv_0^2\)) を利用する。
具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則より、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + k\frac{qQ}{2r_0} \quad \cdots ②$$
(1)より \(k\frac{qQ}{r_0} = \frac{1}{2}mv_0^2\) なので、\(k\frac{qQ}{2r_0} = \frac{1}{2} \left(\frac{1}{2}mv_0^2\right) = \frac{1}{4}mv_0^2\)。
これを式②に代入します。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
式②に \(k\displaystyle\frac{qQ}{2r_0} = \frac{1}{4}mv_0^2\) を代入すると、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{4}mv_0^2$$
両辺を \(\frac{1}{2}m\) で割ると、
$$v_0^2 = v^2 + \frac{1}{2}v_0^2$$
$$v^2 = v_0^2 – \frac{1}{2}v_0^2 = \frac{1}{2}v_0^2$$
\(v \ge 0\) なので、$$v = \frac{v_0}{\sqrt{2}}$$
無限遠でのAの運動エネルギーが、距離\(2r_0\)でのAの運動エネルギーと電気的ポテンシャルエネルギーの和に等しい、というエネルギー保存の式を立てます。\(r_0\)でのポテンシャルエネルギーが初期運動エネルギーに等しいことを利用すると計算が簡単になります。
AB間の距離が \(2r_0\) のときのAの速さは \(v = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) [m/s] です。これは \(v_0\) より小さく、\(r_0\)での速度0より大きいため妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
粒子Aの加速度が最大になるのは、クーロン力が最大になる、つまりAB間の距離が最小(\(r=r_0\))のときです。運動方程式 \(ma=F\) とクーロン力の式 \(F = k\frac{qQ}{r^2}\) を用います。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式: \(ma=F\)。
- クーロン力の法則。
- 力が最大となるのは距離が最小のとき。
具体的な解説と立式
粒子Aが受けるクーロン力の大きさ \(F = k\frac{qQ}{r^2}\)。
加速度 \(a = F/m = \frac{kqQ}{mr^2}\)。
\(a\) が最大となるのは \(r\) が最小、つまり \(r=r_0\) のときです。
$$a_{\text{max}} = \frac{kqQ}{mr_0^2} \quad \cdots ③$$
(1)で求めた \(r_0 = \displaystyle\frac{2kqQ}{mv_0^2}\) を代入します。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- クーロン力: \(F = k\frac{qQ}{r^2}\)
\(r_0^2 = \left(\displaystyle\frac{2kqQ}{mv_0^2}\right)^2 = \displaystyle\frac{4k^2q^2Q^2}{m^2v_0^4}\)。
これを式③に代入すると、
$$a_{\text{max}} = \frac{kqQ}{m \cdot \frac{4k^2q^2Q^2}{m^2v_0^4}} = \frac{kqQ}{m} \cdot \frac{m^2v_0^4}{4k^2q^2Q^2} = \frac{mv_0^4}{4kqQ}$$
加速度が最大になるのは、力が最大のとき、つまり距離が最小(\(r_0\))のときです。このときの力を \(F_{\text{max}} = k\frac{qQ}{r_0^2}\) とし、\(a_{\text{max}} = F_{\text{max}}/m\) で計算します。(1)で求めた\(r_0\)を代入します。
Aの加速度の大きさの最大値は \(a_{\text{max}} = \displaystyle\frac{mv_0^4}{4kqQ}\) [m/s²] です。
問(4)
思考の道筋とポイント
粒子Bも自由に動ける場合、系全体の運動量と力学的エネルギーが保存されます。最接近時、AとBの速度は等しく \(u\) となります。これらの保存則から \(u\) と最接近距離 \(r_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則の適用。
- 力学的エネルギー保存則の適用(系全体)。
- 最接近時、2つの粒子の速度は等しい。
具体的な解説と立式
初期状態: Aの速度 \(v_0\)、Bの速度0。ポテンシャルエネルギー0。
最接近時: A, B共に速度 \(u\)、距離 \(r_1\)。ポテンシャルエネルギー \(k\frac{qQ}{r_1}\)。
運動量保存則:
$$mv_0 = (m+M)u \quad \cdots ④$$
力学的エネルギー保存則:
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}(m+M)u^2 + k\frac{qQ}{r_1} \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 力学的エネルギー保存則
式④より、\(u = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\)。
これを式⑤に代入して \(r_1\) を求めます。
$$k\frac{qQ}{r_1} = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)u^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m}{m+M}v_0\right)^2$$
$$k\frac{qQ}{r_1} = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{m+M}\right) = \frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}$$
よって、$$r_1 = \frac{kqQ}{\frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}} = \frac{2kqQ(m+M)}{mMv_0^2}$$
最も近づくとき、AとBは同じ速度 \(u\) になります。運動量保存則から \(u\) が求まります。次に、初めのエネルギーと最も近づいたときのエネルギー(運動エネルギーの和+位置エネルギー)が等しいというエネルギー保存則から距離 \(r_1\) を求めます。
AがBに最も近づいたときのAの速度は \(u = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\)、AB間の距離は \(r_1 = \displaystyle\frac{2kqQ(m+M)}{mMv_0^2}\) です。\(r_1 = r_0 (1+m/M)\) となり、\(r_1 > r_0\) です。
問(5)
思考の道筋とポイント
十分に時間がたった後、AとBは再び十分に離れるため、電気的ポテンシャルエネルギーは0とみなせます。運動量保存則と力学的エネルギー保存則(運動エネルギーのみ)を連立させてAの最終速度 \(v_A\) を求めます。これは1次元弾性衝突の問題と等価です。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則の適用。
- 力学的エネルギー保存則の適用(ポテンシャルエネルギー0)。
- 連立方程式を解く。
具体的な解説と立式
初期状態: Aの速度 \(v_0\)、Bの速度0。
最終状態: Aの速度 \(v_A\)、Bの速度 \(v_B\)。
運動量保存則:
$$mv_0 = mv_A + Mv_B \quad \cdots ⑥$$
力学的エネルギー保存則:
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv_A^2 + \frac{1}{2}Mv_B^2 \quad \cdots ⑦$$
式⑥から \(v_B = \displaystyle\frac{m(v_0-v_A)}{M}\) を式⑦に代入し \(v_A\) について解きます。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 力学的エネルギー保存則
式⑦の両辺を2倍し、\(m\) で割ると(\(m \ne 0\) の場合)、\(v_0^2 = v_A^2 + \frac{M}{m}v_B^2\)。
式⑥から \(v_B = \frac{m}{M}(v_0-v_A)\) を代入すると、
$$v_0^2 = v_A^2 + \frac{M}{m} \left(\frac{m}{M}(v_0-v_A)\right)^2 = v_A^2 + \frac{m}{M}(v_0-v_A)^2$$
両辺に \(M\) を掛けて整理すると、
$$Mv_0^2 = Mv_A^2 + m(v_0-v_A)^2 = Mv_A^2 + m(v_0^2 – 2v_0v_A + v_A^2)$$
$$(M+m)v_A^2 – 2mv_0v_A + (m-M)v_0^2 = 0$$
この2次方程式の解は \(v_A = v_0\) と \(v_A = \displaystyle\frac{m-M}{m+M}v_0\) です。
\(v_A = v_0\) は相互作用がなかった場合(または初期状態)に対応するため不適。
よって、求める速度は \(v_A = \displaystyle\frac{m-M}{m+M}v_0\)。
別解: 弾性衝突(反発係数 \(e=1\))として扱う
思考の道筋とポイント
これは1次元弾性衝突 (\(e=1\)) と同じ数学的状況です。運動量保存則と反発係数の式を連立します。
具体的な解説と立式
運動量保存則:
$$mv_0 = mv_A + Mv_B \quad \cdots (⑥)$$
反発係数の式 (\(e=1\)):
$$v_B – v_A = -1(0 – v_0) = v_0 \quad \cdots (⑧)$$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 反発係数の式 (\(e=1\))
式⑧より \(v_B = v_A + v_0\)。これを式⑥に代入します。
$$mv_0 = mv_A + M(v_A+v_0)$$
$$mv_0 = (m+M)v_A + Mv_0$$
$$(m+M)v_A = (m-M)v_0$$
$$v_A = \frac{m-M}{m+M}v_0$$
十分時間が経つと粒子間の位置エネルギーは0になるため、運動量保存則と運動エネルギー保存則を連立して解きます。これは反発係数1の弾性衝突と同じ計算になります。
十分に時間がたった後のAの速度は \(v_A = \displaystyle\frac{m-M}{m+M}v_0\) [m/s] です。この結果は\(m\)と\(M\)の大小関係によって\(v_A\)の符号(向き)が決まることを示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: 静電気力のような保存力のみが仕事をする場合、系の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和は一定に保たれる。
- 理解のポイント: 初期状態と注目する状態とでこの法則を立式し、未知数を求める。電気的ポテンシャルエネルギー \(U = k\frac{q_1q_2}{r}\) の形を正確に使う。
- 運動量保存則:
- 核心: 系に外力が働かない(または外力の合力が0の)場合、系の全運動量は一定に保たれる。
- 理解のポイント: 複数の物体が相互作用する場合(衝突や分裂など)に特に有効。ベクトル量であることに注意。本問では1次元なのでスカラー的に扱える。
- クーロンの法則と運動方程式:
- 核心: 荷電粒子間に働く静電気力 \(F = k\frac{|q_1q_2|}{r^2}\) が、粒子の運動を引き起こす(または変化させる)原因となる。加速度は運動方程式 \(ma=F\) から求まる。
- 理解のポイント: 力は距離の2乗に反比例するため、加速度も距離によって変化する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 万有引力による天体の運動(エネルギー保存則、面積速度一定など)。
- 荷電粒子の衝突や散乱の問題。
- 分子間力によるポテンシャルエネルギーを考慮した粒子の運動。
- クーロン力以外の保存力が働く場合のエネルギー保存則。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 保存量の特定: 問題の状況で、力学的エネルギーや運動量が保存されるかどうかをまず判断する。外力や非保存力の有無が鍵。
- 状態の設定: 「無限遠」「最接近時」「十分時間が経過した後」など、特徴的な状態を明確に設定し、各状態での物理量(速度、位置、エネルギー)を定義する。
- 最接近の条件:
- 一方が固定されている場合:相対速度が0、つまり動く粒子の速度が0になる。
- 両方が動ける場合:相対速度が0、つまり両方の粒子の速度が等しくなる。
- 相互作用の終了: 「十分時間が経過した後」は、粒子間の距離が再び無限大になり、ポテンシャルエネルギーが0になると考える。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- ポテンシャルエネルギーの基準点は無限遠にとることが多いが、問題で指定されていればそれに従う。
- エネルギー保存則と運動量保存則は、それぞれ独立した情報を提供するため、未知数が2つの場合はこれらを連立させて解くことが多い。
- (5)の別解のように、弾性衝突の知識(反発係数\(e=1\))が使える場面もあることを見抜けると計算が簡略化できる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ポテンシャルエネルギーの符号:
- 現象: \(U = k\frac{q_1q_2}{r}\) において、電荷\(q_1, q_2\)の符号を含めて計算するのを忘れ、斥力の場合でも負のポテンシャルエネルギーとしてしまうことがある。
- 対策: \(q_1, q_2\)が同符号なら\(U>0\)(斥力ポテンシャル)、異符号なら\(U<0\)(引力ポテンシャル)となることを常に確認する。
- 最接近時の速度の扱い (B固定 vs B自由):
- 現象: Bが固定されている場合の最接近(Aの速度0)と、Bも動ける場合の最接近(AとBの速度が等しい)を混同する。
- 対策: 問題の条件(固定か自由か)を正確に読み取り、それぞれの物理的状況を正しく理解する。
- エネルギー保存則と運動量保存則の適用範囲:
- 現象: 外力が働いているのに運動量保存則を使ったり、非保存力が仕事をしているのに力学的エネルギー保存則を使ったりする。
- 対策: 各保存則が成り立つための条件(外力なし、非保存力の仕事なし)を常に確認する。
- 連立方程式の解の吟味:
- 現象: (5)のように2次方程式の解が2つ出てきた場合に、物理的に妥当な解を選び損ねる。
- 対策: 各解が問題のどの物理的状況に対応するのかを考察する(例: 衝突前か後か、相互作用がない場合かなど)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- エネルギーのグラフ: ポテンシャルエネルギー \(U(r) = k\frac{qQ}{r}\) のグラフ(斥力なので\(r\)が小さいほど\(U\)が大きい双曲線状)と、全力学的エネルギー(一定値の水平線)を描き、運動可能範囲や折り返し点(最接近点)を視覚的に理解する。
- 粒子の運動のタイムライン: AがBに近づき、斥力を受けて減速し、最接近し、その後遠ざかっていく一連の動きを時間軸に沿ってイメージする。Bが動ける場合はBも動き出す様子を追う。
- 重心の運動: Bが自由に動ける場合、系全体の重心は等速直線運動をする(外力がないため)。重心系で考えると、2体問題が1体問題に帰着できる場合もある(高校範囲を超えることが多いが、イメージとして)。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 初期状態と最終状態: エネルギー保存則や運動量保存則を適用する際には、どの状態とどの状態を比較しているのかを図で明確にする。
- 速度ベクトル: 運動量を扱う際には、各粒子の速度ベクトルを矢印で示す。
- 力: 加速度を考える際には、粒子に働く力を図示する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則 (\(K+U=\text{一定}\)):
- 選定理由: 粒子間に働く力が静電気力(保存力)のみであり、系のエネルギー状態の変化(速さや距離)を追跡するため。
- 適用根拠: 外力や非保存力が仕事をしない、またはその影響が無視できる系であること。
- 運動量保存則 (\(\sum \vec{p} = \text{一定}\)):
- 選定理由: 複数の粒子が相互作用する系で、系全体にかかる外力が0(または特定方向で0)の場合に、全体の運動の変化を解析するため。特に衝突や分裂、合体などの現象で有効。
- 適用根拠: ニュートンの運動の法則(作用・反作用の法則)から導かれる、閉鎖系(または特定方向で閉鎖系とみなせる系)における普遍的な保存則。
- クーロン力 (\(F = k\frac{|q_1q_2|}{r^2}\)) と運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: 荷電粒子の加速度を求めるために、その粒子に働く静電気力を特定し、運動の法則と結びつけるため。
- 適用根拠: 点電荷間の相互作用がクーロン力で記述され、物体の運動がニュートンの運動方程式で記述されるという基本原理。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の状況分析: 粒子Bが固定か自由かを確認。働く力は何か(保存力か)。
- 適切な保存則の選択:
- B固定なら、Aの力学的エネルギー保存。
- B自由なら、AとBの系全体の運動量保存と力学的エネルギー保存。
- 初期状態と注目する状態の設定: 無限遠、最接近時、特定距離、十分時間経過後など、各状態での物理量(速度、距離、エネルギー)を定義する。
- 保存則の立式: 設定した状態間で保存則の等式を立てる。
- 連立方程式の解法: 未知数が複数ある場合は、立てた式を連立させて解く。
- 加速度の計算: 必要なら、クーロン力を求め、運動方程式を適用する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認: 電荷の符号、ポテンシャルエネルギーの符号、速度の向き(1次元の場合)などに注意する。
- 単位: クーロン定数\(k\)の単位に含まれるものと整合性を取る。基本はSI単位系。
- エネルギーの項の確認: 運動エネルギー (\(\frac{1}{2}mv^2\)) とポテンシャルエネルギー (\(k\frac{qQ}{r}\)) の形を正確に。特に運動エネルギーの \(1/2\) を忘れない。
- 連立方程式の解: 2次方程式の解が複数出る場合、物理的に妥当な方を選ぶ。代入ミスや計算ミスに注意。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理量のオーダーと符号:
- 距離(\(r_0, r_1\))は正の値か。
- 速度は実数か。エネルギーの関係から速さの上限・下限がないか。
- (5)の\(v_A\)の符号は、\(m\)と\(M\)の大小関係によって物理的な意味(前進か後退か)と整合しているか。
- 極端な条件での振る舞い:
- 例えば、\(M \to \infty\)(Bが非常に重い)の場合、(4)(5)の結果がB固定の場合の結果に近づくか検討する。(\(u \to 0\), \(r_1 \to r_0\), \(v_A \to -v_0\)(Bが壁の場合の弾性衝突)となるか? \(v_A = \frac{m-M}{m+M}v_0 \approx \frac{-M}{M}v_0 = -v_0\) となり、跳ね返る結果と合う。)
- \(qQ \to 0\)(電荷が小さい)なら、相互作用が弱くなり、\(r_0 \to 0\), \(r_1 \to 0\)(ただし、衝突として扱えるかによる)、\(v_A \to v_0\) となるはず。
- 保存則が満たされているかの再確認: 得られた解が、元の保存則の式を実際に満たしているか検算するのも有効。
問題12 (熊本大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な電場と重力場の中で、糸につるされた荷電小球のつり合い、仕事、円運動、単振動といった力学的な現象を考察するものです。複数の力が働く状況での力の分析とエネルギーの考え方が中心となります。
- 一様な電場: 水平右向き(+x方向)、大きさ\(E\)
- 小球: 質量\(m\)、正電荷\(Q\)
- 糸: 長さ\(l\)、一端は原点Oに固定
- 重力加速度: \(g\)
- (1) つり合いの位置A: 鉛直方向と60°の角度
- (2) 移動の終点B: Oの鉛直下方
- (1) 電場\(E\)の大きさを\(m, g, Q\)で表す。
- (2) AからBへの移動に必要な仕事\(W\)を\(m, g, l\)で表す。
- (3) Bから放した後の運動について、
- (ア) A通過時の速さ\(v_A\)と張力\(S_A\)。
- (イ) 最高点の座標。
- (4) A周りでの微小振動の周期\(T\)。
- (5) xy平面内での一回転に必要なAでの最小初速\(v_{\text{min}}\)。
- (コラムQ) 原点Oに別の正電荷を置いた場合の影響。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は「荷電粒子の力学」に分類され、特に「一様電場中の荷電粒子の運動」と「円運動・単振動」の知識を融合させたものです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止している場合、働く力のベクトル和は0。
- 静電気力: 電場\(E\)中の電荷\(Q\)が受ける力 \(F_e = QE\)。
- 重力: 質量\(m\)の物体が受ける力 \(F_g = mg\)。
- 仕事とエネルギー: 外力がした仕事は力学的エネルギーの変化に等しい。保存力のみが仕事をする場合は力学的エネルギーが保存される。
- 円運動: 向心力 \(F_c = mv^2/r\)。
- 単振動: 復元力が変位に比例する場合 (\(F = -kx\)) に起こる。周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\)。
- 見かけの重力 (合力): 重力と静電気力の合力を考え、それを「見かけの重力」として扱うと問題を単純化できる場合がある。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 力のつり合い: 働く力のベクトル和が0となる条件から解きます。
- (2) 仕事の計算: 位置エネルギーの変化として計算します。「見かけの重力」を用いる方法も有効です。
- (3) エネルギー保存則と円運動: 「見かけの重力」のもとでの振り子運動とみなし、エネルギー保存則と円運動の運動方程式を適用します。
- (4) 単振動: つり合いの位置Aを最低点とする「見かけの重力」による単振り子とみなし、周期を求めます。
- (5) 円運動の条件: 「見かけの重力」のもとでの円運動で、最高点で糸がたるまない条件から初速を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球は点Aで静止しており、力のつり合いの状態にあります。小球に働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、静電気力 \(QE\)(水平右向き)、糸の張力 \(T_A\)(糸OAの向き)の3つです。これらのベクトル和が0となる条件から \(E\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合い条件: \(\sum \vec{F} = 0\)。
- 働く力の特定: 重力、静電気力、張力。
- 力の分解、または力の三角形の利用。
具体的な解説と立式
小球に働く力は重力 \(mg\)(鉛直下向き)、静電気力 \(QE\)(水平右向き)、糸の張力 \(T_A\) です。
点Aで力がつり合っているので、水平方向と鉛直方向の力の成分の和はそれぞれ0です。
糸が鉛直方向となす角が60°なので、張力の水平成分は \(T_A \sin 60^\circ\)(左向き)、鉛直成分は \(T_A \cos 60^\circ\)(上向き)です。
水平方向のつり合い:
$$QE – T_A \sin 60^\circ = 0 \quad \cdots ①$$
鉛直方向のつり合い:
$$T_A \cos 60^\circ – mg = 0 \quad \cdots ②$$
式②より \(T_A = \frac{mg}{\cos 60^\circ}\)。これを式①に代入すると、
$$QE – \left(\frac{mg}{\cos 60^\circ}\right) \sin 60^\circ = 0$$
したがって、
$$QE = mg \tan 60^\circ$$
- 力のつり合い: \(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)
- 静電気力: \(F_e = QE\)
\(QE = mg \tan 60^\circ\) において、\(\tan 60^\circ = \sqrt{3}\) なので、
$$QE = mg\sqrt{3}$$
\(E\) について解くと、
$$E = \frac{\sqrt{3}mg}{Q}$$
小球に働く3つの力(重力、静電気力、張力)のつり合いを考えます。水平方向と鉛直方向でそれぞれ力のつり合いの式を立てるか、重力と静電気力の合力が張力とつり合う(逆向きで同じ大きさ)ことを利用します。力のベクトル図で考えると、\(\tan 60^\circ = \frac{QE}{mg}\) の関係が成り立ちます。
電場の強さ \(E\) は \(E = \displaystyle\frac{\sqrt{3}mg}{Q}\) です。
問(2)
思考の道筋とポイント
点Aから点Bまで小球をゆっくり移動させたときに要した仕事 \(W\) は、小球の位置エネルギーの変化に等しいです。位置エネルギーは重力によるもの \(U_g\) と静電気力によるもの \(U_e\) の和です。各点の座標を定め、位置エネルギーを計算します。「見かけの重力」を用いる別解も有効です。
この設問における重要なポイント
- 「ゆっくり移動」は外力の仕事が位置エネルギーの変化に等しいことを意味する。
- 位置エネルギーは \(U_g = mgy\) と \(U_e = -QEx\) (O点を電位の基準とした場合)の和。
具体的な解説と立式
原点Oを基準とします。
点Aの座標: \(x_A = l\sin 60^\circ = l\frac{\sqrt{3}}{2}\), \(y_A = -l\cos 60^\circ = -l\frac{1}{2}\)。
点Bの座標: \(x_B = 0\), \(y_B = -l\)。
位置エネルギー \(U(x,y) = mgy – QEx\) (O点を基準 \(U_g=0, U_e=0\) とする)。
\(U_A = mg(-\frac{l}{2}) – QE(l\frac{\sqrt{3}}{2})\)。(1)より \(QE = \sqrt{3}mg\) を代入すると、
\(U_A = -\frac{1}{2}mgl – (\sqrt{3}mg)(l\frac{\sqrt{3}}{2}) = -\frac{1}{2}mgl – \frac{3}{2}mgl = -2mgl\)。
\(U_B = mg(-l) – QE(0) = -mgl\)。
外力の仕事 \(W = U_B – U_A\)。
$$W = (-mgl) – (-2mgl) \quad \cdots ④$$
- 仕事と位置エネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\)
- 重力ポテンシャルエネルギー: \(U_g = mgy\)
- 静電気力によるポテンシャルエネルギー: \(U_e = -QEx\)
式④より、
$$W = -mgl + 2mgl = mgl$$
別解: 「見かけの重力」を利用
思考の道筋とポイント
重力 \(mg\) と静電気力 \(QE=\sqrt{3}mg\) の合力 \(F_{\text{合力}}\) は、大きさ \(2mg\) で、向きはAOの逆向きです。これを見かけの重力 \(mg’\) (\(g’=2g\)) とします。A点はこの見かけの重力場での「最低点」の一つとみなせます。B点はA点から見て、見かけの重力の方向に \(h’ = l – l\cos 60^\circ = l/2\) だけ「持ち上げられた」位置に相当します。
具体的な解説と立式
仕事 \(W\) は、
$$W = (\text{見かけの重力}) \times (\text{見かけの高さ}) = (mg’) \times h’ = (2mg) \times \frac{l}{2} \quad \cdots ⑤$$
式⑤より、
$$W = (2mg) \times \frac{l}{2} = mgl$$
A点とB点での位置エネルギー(重力によるものと電気によるもの)の差を計算します。または、重力と電気の力の合力を「見かけの重力」と考え、この見かけの重力に逆らって物体を動かす仕事として計算します。
要した仕事 \(W\) は \(mgl\) [J] です。
問(3) (ア)
思考の道筋とポイント
点Bで静かに放された小球が点Aに達するまでの運動は、「見かけの重力」 \(F_{\text{合力}} = 2mg\)(実効的な重力加速度 \(g’ = 2g\))のもとでの振り子運動とみなせます。点Aは実効的な「最低点」です。力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 「見かけの重力」 \(g’ = 2g\) の利用。
- 力学的エネルギー保存則(見かけの重力ポテンシャルエネルギー)。
- 円運動の運動方程式。
具体的な解説と立式
見かけの重力加速度 \(g’ = 2g\)。点Aを基準(\(h’=0\))としたとき、点Bの見かけの高さ \(h’_B = l(1-\cos 60^\circ) = l/2\)。
点Bでの初速は0。点Aでの速さを \(v_A\) とします。
力学的エネルギー保存則より:
$$mg’h’_B + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg’ \cdot 0 + \frac{1}{2}mv_A^2$$
$$m(2g)\left(\frac{l}{2}\right) = \frac{1}{2}mv_A^2 \quad \cdots ⑥$$
点Aでの糸の張力 \(S_A\)。点Aでは、張力 \(S_A\) が見かけの重力 \(mg’\) と向心力 \(m\frac{v_A^2}{l}\) の合力とつり合う。
$$S_A – mg’ = m\frac{v_A^2}{l}$$
$$S_A – 2mg = m\frac{v_A^2}{l} \quad \cdots ⑦$$
- 力学的エネルギー保存則
- 円運動の運動方程式
速さ \(v_A\): 式⑥より \(mgl = \frac{1}{2}mv_A^2\)。よって \(v_A^2 = 2gl\)。したがって、\(v_A = \sqrt{2gl}\)。
糸の張力 \(S_A\): 式⑦に \(v_A^2 = 2gl\) を代入。\(S_A – 2mg = m\frac{2gl}{l} = 2mg\)。よって \(S_A = 4mg\)。
見かけの重力(大きさ \(2mg\))のもとでの振り子運動と考えます。B点からA点への落下では、見かけの重力による位置エネルギーが運動エネルギーに変わります。点Aでは、糸の張力が見かけの重力と円運動に必要な向心力を供給します。
小球が点Aを通過するときの速さは \(v_A = \sqrt{2gl}\)、糸の張力は \(S_A = 4mg\) です。
問(3) (イ)
思考の道筋とポイント
見かけの重力の方向(AOの逆向き)を実効的な鉛直方向とみなすと、運動はこの実効的な鉛直線(直線OA)に関して対称になります。最高点CはOAに対してBと対称な位置まで達します。
この設問における重要なポイント
- 見かけの重力場中での運動の対称性。
- 角度の関係から最高点の座標を計算する。
具体的な解説と立式
直線OAが見かけの鉛直方向です。OAはy軸負方向から60°x軸正方向に傾いています。最高点Cは、OAに対してBと対称な位置、すなわち \(\angle AOC = 60^\circ\) となります。
OAがx軸正方向となす角は30°です。OCがx軸正方向となす角は、LECTUREの図に従うと30°です。
点Cの座標 \((x_C, y_C)\) は、
$$x_C = l\cos 30^\circ$$
$$y_C = l\sin 30^\circ$$
- 運動の対称性、座標計算
\(x_C = l \cos 30^\circ = l \cdot \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)
\(y_C = l \sin 30^\circ = l \cdot \displaystyle\frac{1}{2}\)
よって、Cの座標は \( \left( \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}l, \displaystyle\frac{1}{2}l \right) \)。
見かけの重力の方向に対して運動は対称的になります。つり合いの位置Aを通る直線OAを軸として、Bと対称な位置Cまで小球は上がります。この幾何学的な関係からCの座標を求めます。
最高点に達したときの座標は \( \left( \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}l, \displaystyle\frac{1}{2}l \right) \) です。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Aは実効的な重力加速度 \(g’ = 2g\) のもとでの安定なつり合いの位置です。この周りでの微小振動は、長さ \(l\)、実効的な重力加速度 \(g’\) の単振り子の運動とみなせ、周期は \(T = 2\pi\sqrt{l/g’}\) です。
この設問における重要なポイント
- つり合いの位置を中心とした微小振動は単振動。
- 単振り子の周期の公式: \(T = 2\pi\sqrt{l/g_{\text{eff}}}\)。
具体的な解説と立式
実効的な重力加速度 \(g’ = 2g\)。単振り子の周期の公式より、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} = 2\pi\sqrt{\frac{l}{2g}} \quad \cdots ⑧$$
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\)
- 見かけの重力加速度 \(g’ = 2g\)
式⑧がそのまま答えとなります。
つり合いの位置Aの周りでの小さな揺れは、単振り子と同じように考えられます。ただし、実効的な重力加速度が \(2g\) になっているので、周期の公式の \(g\) を \(2g\) に置き換えます。
小球の振動周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{2g}}\) です。
問(5)
思考の道筋とポイント
「見かけの重力」が作用する方向を「鉛直下向き」としたときの鉛直面内円運動と考えます。最高点D(AのOに関する点対称の位置)で糸がたるまない条件(張力 \(\ge 0\)、最小速度では張力0)から、Dでの最小速度 \(v_D = \sqrt{g’l}\) を求め、AとDの間のエネルギー保存則からAでの初速 \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 見かけの重力場中での鉛直面内円運動。
- 円運動を続けるための最高点での条件。
- 力学的エネルギー保存則。
具体的な解説と立式
見かけの重力加速度 \(g’ = 2g\)。円運動の最高点をDとします。
最高点Dでの最小速度 \(v_D\) は、\(m\frac{v_D^2}{l} = mg’\) より \(v_D^2 = g’l = 2gl \quad \cdots ⑨\)。
点A(初速 \(v_0\)、見かけの高さ0)と点D(速さ \(v_D\)、見かけの高さ \(2l\))の間でエネルギー保存則を立てると、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 + mg’ \cdot 0 = \frac{1}{2}mv_D^2 + mg’ \cdot (2l) \quad \cdots ⑩$$
- 円運動の条件(最高点での最小速度)
- 力学的エネルギー保存則
式⑩に \(v_D^2 = 2gl\) と \(g’ = 2g\) を代入します。
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}m(2gl) + m(2g)(2l)$$$$\frac{1}{2}mv_0^2 = mgl + 4mgl = 5mgl$$
$$v_0^2 = 10gl$$
\(v_0 > 0\) なので、\(v_0 = \sqrt{10gl}\)。
見かけの重力(大きさ \(2mg\))のもとで円運動をするには、一番高い点Dで糸がたるまない速さが必要です。この速さは \(\sqrt{g’l} = \sqrt{2gl}\) です。点Aで与えるべき初速 \(v_0\) は、AからDまでのエネルギー保存の式から求めます。
必要な初速の最小値は \(v_0 = \sqrt{10gl}\) です。
【コラム】Q. 原点Oに正の点電荷が置いてある場合、上の設問の中で答えの変わらないものはどれか。また、変わるものについては新しい答えを求めよ。クーロン定数を\(k\)とする。
具体的な解説と立式
原点Oに置かれた正の点電荷を \(Q_O\) とします。小球Pの電荷は \(+Q\) なので、PはOから斥力 \(f = k\frac{Q_O Q}{l^2}\) を糸の方向に沿って常に受けます。
- (1) 電場E: クーロン力\(f\)は糸に沿うためつり合いの角度に影響せず、\(E\)は変わらない。
- (2) 仕事W (A→B): \(f\)は保存力で、A,BはOから等距離なので\(f\)によるポテンシャルエネルギーはA,Bで同じ。よって\(W\)は変わらない。
- (3)(ア) 速さ\(v_A\): エネルギー保存において、\(f\)によるポテンシャルエネルギーの項がA,Bで同じなので、\(v_A\)は変わらない。
張力\(S_A\): \(S_A – mg’ – f = m\frac{v_A^2}{l}\) (円運動中心向きを正、\(f\)は中心から遠ざかる向きなので負として扱うか、\(S_A = mg’ + m\frac{v_A^2}{l} + f\)とすべき。Qの解答に従うと、張力はクーロン力の分だけ増すので \(S_A = 4mg + k\frac{Q_OQ}{l^2}\))。張力は変わる。 \(S_A = 4mg + k\frac{Q_OQ}{l^2}\) - (3)(イ) 最高点Cの座標: エネルギーの関係が変わらないため、最高点の幾何学的な位置は変わらない。
- (4) 周期T: \(f\)は常に糸の方向(中心力)なので、振り子の復元力には直接寄与しません。よって周期は変わらない。
- (5) 最小初速\(v_{\text{min}}\): 最高点Dでの円運動の条件が \(m\frac{v_D^2}{l} = mg’ – f\) (ただし\(mg’ > f\))。エネルギー保存則と合わせて解くと、\(v_0 = \sqrt{10gl – \frac{kQ_OQ}{ml}}\) (\(2mg > f\) のとき)。もし \(f \ge 2mg\) なら \(v_0 = \sqrt{8gl}\)。最小初速は変わる。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い:
- 核心: 物体が静止しているとき、働く力のベクトル和は0。
- 理解のポイント: 各力を図示し、成分分解するかベクトル和を考える。
- 仕事とエネルギー(力学的エネルギー保存則):
- 核心: 保存力のみが仕事をする場合、系の力学的エネルギーは保存される。
- 理解のポイント: 位置エネルギー(重力、静電気力)を正しく定義する。
- 見かけの重力:
- 核心: 複数の定常的な力の合力を一つの「見かけの重力」として扱うと単純化できる。
- 理解のポイント: 大きさと向きを正しく求め、それに基づく運動を考える。
- 円運動のダイナミクス:
- 核心: 円運動には向心力 \(mv^2/r\) が必要。
- 理解のポイント: 向心力の源泉となる力を特定する。
- 単振動:
- 核心: 復元力が変位に比例 (\(F=-kx\)) するときに起こる。周期 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\)。
- 理解のポイント: つり合い点からの微小変位に対する復元力を求める。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 一様な場(電場、磁場、重力以外の慣性力場など)と他の力が複合的に働く問題。
- つり合い点周りの微小振動。
- 束縛された物体の円運動やエネルギー保存。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 物体に働く力を全て図示し、特定する。
- 力の性質(保存力か非保存力か、定力か変力か)を分類する。
- 運動の種類(静止、直線運動、円運動、単振動など)を判断する。
- 適用可能な保存則(エネルギー、運動量)があるか検討する。
- 「見かけの重力」の考え方が使えないか検討する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 位置エネルギーの基準点を明確にする。
- 「ゆっくり移動」は運動エネルギー変化なしと解釈。
- 円運動の最高点・最低点での力の関係。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の分解方向の誤り:
- 現象: 角度の取り方を間違え、\(\sin\) と \(\cos\) を逆にする。
- 対策: 必ず図を描き、角度と辺の関係を明確にする。
- 「見かけの重力」の扱いの誤解:
- 現象: 大きさや向きを誤る。位置エネルギーの基準が曖昧になる。
- 対策: 合力のベクトル和として正確に求め、その向きを新たな「鉛直」と定義する。
- 円運動の最高点での条件の誤り:
- 現象: 最高点で速さが0になると誤解する。張力の条件を見落とす。
- 対策: 最高点で円運動を維持するには一定の速さが必要。張力 \(S \ge 0\)。
- 単振動の周期の公式の誤用:
- 現象: \(g\) の部分に実効的な \(g_{\text{eff}}\) を入れるべきところを \(g\) のまま使う。
- 対策: 復元力の形から \(K\) を求めるか、\(g_{\text{eff}}\) を正しく特定する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 力のベクトル図(つり合い、円運動の各点)。
- 見かけの重力の図示とその方向を基準とした運動のイメージ。
- エネルギー変換の様子(位置エネルギーと運動エネルギー)。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 座標軸、角度、力の作用点と向きを明確に。
- 「見かけ」と「実際」を区別して考える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合い条件 (\(\sum \vec{F} = 0\)):
- 選定理由: 物体が静止している状態を記述するため。
- 適用根拠: ニュートンの運動の法則で加速度が0の場合。
- 仕事とエネルギーの原理 (\(W_{\text{外}} = \Delta U\)):
- 選定理由: 外力が「ゆっくり」仕事をして位置エネルギーが変化する状況のため。
- 適用根拠: 運動エネルギーの変化がない場合。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: 保存力のみが仕事をする系の運動状態の変化を追跡するため。
- 適用根拠: 非保存力の仕事が0であること。
- 円運動の運動方程式:
- 選定理由: 円軌道運動時の力の半径方向成分と運動状態の関係を記述するため。
- 適用根拠: 各瞬間において向心加速度 \(v^2/l\) が生じている。
- 単振り子の周期 (\(T = 2\pi\sqrt{l/g_{\text{eff}}}\)):
- 選定理由: つり合い位置周りの微小振動の周期を求めるため。
- 適用根拠: 復元力が変位に比例する単振動の条件を満たすこと。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) つり合い: 力の図示、水平・鉛直成分でつり合い式を立てて\(E\)を求める。
- (2) 仕事: A,B点の座標から各位置エネルギーを計算し差を取る。または見かけの重力と高さで仕事 \(mg’h’\) を計算。
- (3) エネルギー保存と円運動: (ア) B→Aのエネルギー保存で見かけの重力ポテンシャルを使い\(v_A\)算出。Aで円運動方程式から\(S_A\)算出。(イ) 見かけの重力場での対称性から最高点Cの座標決定。
- (4) 単振動: 見かけの重力加速度 \(g’\) を用い、単振り子の周期公式適用。
- (5) 円運動の条件: 見かけの重力場での最高点Dで糸がたるまない条件 (\(v_D = \sqrt{g’l}\)) とA→Dのエネルギー保存を連立。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の値: \(\sin 60^\circ, \cos 60^\circ, \tan 60^\circ\) などを正確に。
- 力の分解: 角度の取り方に注意し、\(\sin, \cos\) を間違えない。
- 符号: 位置エネルギー、仕事、力の向きの符号に注意。
- 「見かけの重力」の導入: 大きさと向きを正しく設定。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (1) \(E\) の依存性: \(Q\) が大きいほど小さい \(E\) で同じ角度になるかなど、物理的に妥当か。
- (2) 仕事 \(W\) の符号: AからBへの移動で外力が正の仕事をするのは妥当か。
- (3)(ア) \(v_A, S_A\) の値: \(v_A\) が実数か、\(S_A\) が正か。
- (4) 周期 \(T\): 見かけの重力加速度が大きくなると周期は短くなるか。
- (5) \(v_{\text{min}}\): 通常の円運動の \(\sqrt{5gl}\) と比較してどうか。
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