問題10 (東大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電気双極子が作る電場と電位、そしてその中での荷電粒子の運動を扱う、静電気学の総合問題です。後半では外部から一様な電場が加わる状況も考察します。
- A点: \(+Q\) [C] の点電荷
- B点: \(-Q\) [C] の点電荷
- AB間の距離: \(2l\) [m]
- O点: 線分ABの中点
- C点: Oから距離 \(L\) [m]、線分ABの垂直二等分線上
- M点: 線分OBの中点
- クーロンの法則の比例定数: \(k\) [N·m²/C²]
- 無限遠の電位: \(0\) [V]
- 小球P: 電荷 \(-q\) [C]、質量 \(m\) [kg]
- (1) O点、C点での電場の向きと強さ \(E_O, E_C\)。
- (2) O点、M点での電位 \(V_O, V_M\)。
- (3) PをMで放し、Oを通過する速さ \(v\)。
- (4) 外部一様電場の向きと強さ \(E_{\text{一様}}\)。
- (5) (4)の状況下で、PをCからMへ動かす外力の仕事 \(W_{\text{外}}\)。
- (6) (4)の状況下で、MでPを放しOで静止したときの \(L\) と \(l\) の関係。
- (コラムQ₁) (6)でPの速さが最大となる位置の求め方。
- (コラムQ₂) A,Bに\(+Q\)を固定し、OにPを置き、C方向にわずかにずらして放したときの単振動の周期。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(5) 外力の仕事の別解: 仕事の定義から直接計算する解法
- 主たる解法が、仕事とエネルギーの関係(\(W_{\text{外}} = \Delta U\))を用いて、始点と終点のポテンシャルエネルギーの差から仕事を計算するのに対し、別解では、仕事の定義(\(W = \int \vec{F} \cdot d\vec{r}\))に立ち返り、小球Pを動かすために必要な外力(=静電気力とつりあう力)を積分することで仕事を直接計算します。
- 問(6) Lとlの関係式の別解: 仕事とエネルギーの関係を利用する解法
- 主たる解法が、点電荷による電位と一様電場による電位を合成した「全電位」を用いて力学的エネルギー保存則を立式するのに対し、別解では、一様電場による力を「外力(非保存力)」とみなし、「外力がした仕事が、点電荷の電場中での力学的エネルギーの変化に等しい」という仕事とエネルギーの関係を用いて解きます。
- 問(5) 外力の仕事の別解: 仕事の定義から直接計算する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: (5)の別解は仕事の定義そのものを理解するのに役立ちます。(6)の別解は、同じ現象を「系全体のエネルギー保存」で捉える視点と、「系の一部(点電荷)のエネルギー変化と、外部からの仕事」で捉える視点の両方を学ぶことができ、エネルギー原理への理解が深まります。
- 解法の選択肢: 問題によっては、系を分離して仕事計算する方が見通しが良くなる場合もあり、解法の引き出しが増えます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、立式の表現は異なりますが、最終的に得られる方程式と答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は「静電気学」の根幹をなす「電場」と「電位」の概念、そしてそれらが荷電粒子に及ぼす「静電気力」と「電気的ポテンシャルエネルギー」を扱います。さらに、力学的エネルギー保存則や仕事とエネルギーの関係といった力学の知識も必要とされます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則
- 電場(電界): \(+1\)[C]の試験電荷が受ける力。点電荷 \(Q\) が作る電場の強さは \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\)。電場はベクトル量であり、重ね合わせの原理が成り立つ。
- 電位: \(+1\)[C]の試験電荷が持つ電気的ポテンシャルエネルギー。点電荷 \(Q\) が作る電位は \(V = k\frac{Q}{r}\)。電位はスカラー量であり、重ね合わせの原理が成り立つ。
- 静電気力と電気的ポテンシャルエネルギー: \(\vec{F} = q\vec{E}\), \(U = qV\)。
- 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\)。
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\) (静かに移動させる場合)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、各点電荷が作る電場をベクトルとして合成します。
- (2)では、各点電荷が作る電位をスカラーとして合成します。
- (3)では、力学的エネルギー保存則を適用します。
- (4)では、元の力と合成後の力の条件から外部電場を求めます。
- (5)では、電気的ポテンシャルエネルギーの変化を計算します。
- (6)では、再び力学的エネルギー保存則を適用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
O点およびC点における電場を求めます。電場はベクトル量なので、各点電荷が作る電場をそれぞれ計算し、ベクトルとして合成します。O点では、A点の\(+Q\)からもB点の\(-Q\)からも右向きの電場が生じます。C点では、対称性から鉛直成分は打ち消し合い、水平成分のみが残ります。
この設問における重要なポイント
- 点電荷の作る電場の公式: \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\)。
- 電場の重ね合わせの原理(ベクトル和)。
- 対称性の利用。
具体的な解説と立式
O点での電場 \(\vec{E}_O\):
A点の \(+Q\) がO点に作る電場 \(\vec{E}_{AO}\) は、向きが右向き(AB方向)で、強さは \(E_{AO} = k\frac{Q}{l^2}\) です。
B点の \(-Q\) がO点に作る電場 \(\vec{E}_{BO}\) も、向きが右向き(AB方向)で、強さは \(E_{BO} = k\frac{|-Q|}{l^2} = k\frac{Q}{l^2}\) です。
合成電場 \(\vec{E}_O\) はこれらのベクトル和なので、向きは右向き(AB方向)で、その強さ \(E_O\) は、
$$
\begin{aligned}
E_O &= E_{AO} + E_{BO}
\end{aligned}
$$
C点での電場 \(\vec{E}_C\):
A点からC点までの距離は \(r_{AC} = \sqrt{l^2+L^2}\)、B点からC点までの距離も \(r_{BC} = \sqrt{l^2+L^2}\) です。
A点の \(+Q\) がC点に作る電場の強さを \(E_1\) とすると、\(E_1 = k\frac{Q}{r_{AC}^2} = k\frac{Q}{l^2+L^2}\) です。
B点の \(-Q\) がC点に作る電場の強さも同じく \(E_1\) です。
\(\vec{E}_{AC}\) と \(\vec{E}_{BC}\) のABに平行な成分(右向き成分)のみが残り、垂直な成分は打ち消し合います。ACと水平線のなす角を \(\theta\) とすると、\(\cos\theta = \frac{l}{r_{AC}} = \frac{l}{\sqrt{l^2+L^2}}\) です。
C点での合成電場 \(\vec{E}_C\) の強さ \(E_C\) は、
$$
\begin{aligned}
E_C &= E_1 \cos\theta + E_1 \cos\theta \\[2.0ex]
&= 2 E_1 \cos\theta
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電場: \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\)
- 電場の重ね合わせの原理
O点での電場:
$$
\begin{aligned}
E_O &= k\frac{Q}{l^2} + k\frac{Q}{l^2} \\[2.0ex]
&= \frac{2kQ}{l^2}
\end{aligned}
$$
向きはAB方向(右向き)です。
C点での電場:
$$
\begin{aligned}
E_C &= 2 \cdot \left(k\frac{Q}{l^2+L^2}\right) \cdot \left(\frac{l}{\sqrt{l^2+L^2}}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}
\end{aligned}
$$
向きはAB方向(右向き)です。
電場とは、そこに\(+1\)[C]の電荷を置いたときに受ける力のことで、矢印(ベクトル)で表します。O点では、Aのプラス電荷からは右向きに押され、Bのマイナス電荷からは右向きに引かれるので、2つの力が合わさって強い右向きの電場になります。C点では、Aからは右斜め上に、Bからは右斜め下に、同じ強さの力が働きます。このため、斜め上下の成分は打ち消し合い、右向きの成分だけが残ります。
O点での電場の向きはAB方向(右向き)、強さは \(E_O = \displaystyle\frac{2kQ}{l^2}\) [N/C]。
C点での電場の向きはAB方向(右向き)、強さは \(E_C = \displaystyle\frac{2kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) [N/C]。
C点の電場について、もし \(L \gg l\) ならば、\(E_C \approx \frac{2kQl}{L^3}\) となり、電気双極子の遠方での電場が距離の3乗に反比例するという既知の事実と整合します。
問(2)
思考の道筋とポイント
O点およびM点における電位を求めます。電位はスカラー量なので、各点電荷が作る電位を単純に足し合わせます。このとき、電荷の符号をそのまま使って計算します。O点ではA, Bからの距離が等しいです。M点はOBの中点なので、A, Bからの距離をそれぞれ計算します。
この設問における重要なポイント
- 点電荷の作る電位の公式: \(V = k\frac{Q}{r}\) (\(Q\)の符号を含む)。
- 電位の重ね合わせの原理(スカラー和)。
具体的な解説と立式
O点での電位 \(V_O\):
A点の \(+Q\) が作る電位は \(V_{AO} = k\frac{+Q}{l}\) です。
B点の \(-Q\) が作る電位は \(V_{BO} = k\frac{-Q}{l}\) です。
O点での電位 \(V_O\) はこれらの和(スカラー和)です。
$$
\begin{aligned}
V_O &= V_{AO} + V_{BO}
\end{aligned}
$$
M点での電位 \(V_M\):
M点はOBの中点なので、Oからの距離は \(l/2\) です。
A点からM点までの距離は \(r_{AM} = l + l/2 = \frac{3}{2}l\) です。
B点からM点までの距離は \(r_{BM} = l/2\) です。
A点の \(+Q\) が作る電位は \(V_{AM} = k\frac{+Q}{3l/2}\) です。
B点の \(-Q\) が作る電位は \(V_{BM} = k\frac{-Q}{l/2}\) です。
M点での電位 \(V_M\) はこれらの和です。
$$
\begin{aligned}
V_M &= V_{AM} + V_{BM}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 点電荷の作る電位: \(V = k\frac{Q}{r}\)
O点での電位:
$$
\begin{aligned}
V_O &= k\frac{Q}{l} + k\frac{-Q}{l} \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
M点での電位:
$$
\begin{aligned}
V_M &= k\frac{Q}{3l/2} + k\frac{-Q}{l/2} \\[2.0ex]
&= \frac{2kQ}{3l} – \frac{2kQ}{l} \\[2.0ex]
&= kQ\left(\frac{2}{3l} – \frac{2}{l}\right) \\[2.0ex]
&= kQ\left(\frac{2-6}{3l}\right) \\[2.0ex]
&= -\frac{4kQ}{3l}
\end{aligned}
$$
電位とは、その場所の電気的な「高さ」のようなものです。プラス電荷は高い山を、マイナス電荷は深い谷を作ります。O点は、プラスの山とマイナスの谷から同じ距離にあるため、ちょうど高さが0になります。M点は、プラスの山からは遠く、マイナスの谷には近いため、全体として高さがマイナス(谷底)になります。
O点の電位は \(V_O = 0 \text{ V}\)。M点の電位は \(V_M = -\displaystyle\frac{4kQ}{3l} \text{ V}\)。
ABの垂直二等分線上(O点やC点を含む)は、どこでも電位が0Vになることがわかります。これは電気双極子の重要な性質であり、結果は妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電荷 \(-q\)、質量 \(m\) の小球PをM点で静かに放し、PがO点を通るときの速さ \(v\) を力学的エネルギー保存則を用いて求めます。静電気力は保存力なので、運動エネルギーと電気的ポテンシャルエネルギーの和は一定に保たれます。電気的ポテンシャルエネルギーは \(U = qV\) で計算します。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + U = \text{一定}\)。
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = qV\)。
具体的な解説と立式
M点での力学的エネルギーを \(E_M\)、O点での力学的エネルギーを \(E_O\) とします。
M点では静かに放すので初速は0、電位は \(V_M\) です。
$$
\begin{aligned}
E_M &= \frac{1}{2}m(0)^2 + (-q)V_M \\[2.0ex]
&= -qV_M
\end{aligned}
$$
O点では速さが \(v\)、電位は \(V_O\) です。
$$
\begin{aligned}
E_O &= \frac{1}{2}mv^2 + (-q)V_O
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則 \(E_M = E_O\) より、
$$
\begin{aligned}
-qV_M &= \frac{1}{2}mv^2 -qV_O
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 運動エネルギー: \(\frac{1}{2}mv^2\)
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = qV\)
(2)で求めた \(V_M = -\frac{4kQ}{3l}\) と \(V_O = 0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
-q\left(-\frac{4kQ}{3l}\right) &= \frac{1}{2}mv^2 -q(0) \\[2.0ex]
\frac{4kqQ}{3l} &= \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$
この式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{8kqQ}{3ml} \\[2.0ex]
v &= \sqrt{\frac{8kqQ}{3ml}} \\[2.0ex]
&= 2\sqrt{\frac{2kqQ}{3ml}}
\end{aligned}
$$
電気の世界での位置エネルギーは「電荷×電位」で決まります。小球Pは、電気的に低い位置(M点)から高い位置(O点)へ移動することで、位置エネルギーの差が運動エネルギーに変わります。このエネルギーの変換関係(エネルギー保存則)を使って、速さ\(v\)を計算します。
PがO点を通るときの速さは \(v = 2\sqrt{\displaystyle\frac{2kqQ}{3ml}}\) [m/s] です。根号の中が正の値であり、物理的に意味のある速さが得られます。M点の電位は負、Pの電荷も負なので、M点でのポテンシャルエネルギーは正です。O点ではポテンシャルエネルギーが0になるため、その差が運動エネルギーに変換されるという結果は妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
C点に置かれた小球P(-q)に働く力を考えます。元の電場 \(\vec{E}_C\) による力は \(\vec{F}_{\text{元}} = -q\vec{E}_C\) です。これに一様な外部電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) による力 \(\vec{F}_{\text{一様}} = -q\vec{E}_{\text{一様}}\) が加わり、合成された力 \(\vec{F}_{\text{合成}}\) が、元の力と向きが逆で大きさが半分になった、という条件 \(\vec{F}_{\text{合成}} = -\frac{1}{2}\vec{F}_{\text{元}}\) をベクトル方程式として解き、\(\vec{E}_{\text{一様}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 力のベクトル合成。
- 問題文の条件をベクトル方程式に正確に翻訳する。
具体的な解説と立式
元の静電気力は \(\vec{F}_{\text{元}} = -q\vec{E}_C\) です。
合成された静電気力は \(\vec{F}_{\text{合成}} = \vec{F}_{\text{元}} + (-q\vec{E}_{\text{一様}})\) です。
問題の条件は「向きが逆転し、大きさが半分になった」なので、
$$
\begin{aligned}
\vec{F}_{\text{合成}} &= -\frac{1}{2}\vec{F}_{\text{元}}
\end{aligned}
$$
これらの式を組み合わせると、
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2}\vec{F}_{\text{元}} &= \vec{F}_{\text{元}} -q\vec{E}_{\text{一様}}
\end{aligned}
$$
これを \(-q\vec{E}_{\text{一様}}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
-q\vec{E}_{\text{一様}} &= -\frac{3}{2}\vec{F}_{\text{元}} \\[2.0ex]
&= -\frac{3}{2}(-q\vec{E}_C) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2}q\vec{E}_C
\end{aligned}
$$
両辺を \(-q\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\vec{E}_{\text{一様}} &= -\frac{3}{2}\vec{E}_C
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 静電気力: \(\vec{F} = q\vec{E}\)
- 力の重ね合わせ
(1)で求めたように、\(\vec{E}_C\) はAB方向(右向き)です。
したがって、\(\vec{E}_{\text{一様}}\) は \(\vec{E}_C\) と逆向き、すなわちBA方向(左向き)となります。
その強さ \(E_{\text{一様}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{一様}} &= \frac{3}{2}E_C \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \cdot \frac{2kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}} \\[2.0ex]
&= \frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}
\end{aligned}
$$
小球Pはマイナスの電荷なので、元の電場(右向き)から左向きの力を受けていました。一様な電場を加えた結果、力が逆向き(右向き)で大きさが半分になったということは、一様な電場による力が、元の左向きの力を打ち消し、さらに右向きの力を加えたことを意味します。この力の関係から、加えた一様な電場の向きと強さを計算します。
一様な電場の向きはBAの向き(左向き)、強さは \(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) [N/C] です。負電荷が受ける力が右向きに変化するためには、左向きの一様電場が必要であり、結果の向きは妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
外力がする仕事 \(W_{\text{外}}\) は、小球Pを静かに動かす場合、Pの電気的ポテンシャルエネルギーの変化 \(\Delta U_P = U_{P,M} – U_{P,C}\) に等しくなります。このポテンシャルエネルギーは、元の点電荷によるものと、一様な外部電場によるものの両方を考慮した「全ポテンシャルエネルギー」です。したがって、まず各点での「全電位」を求めます。
この設問における重要なポイント
- 外力の仕事(静かに移動)= 電気的ポテンシャルエネルギーの変化。
- 全体の電位は、元の電位と一様な外部電場による電位の重ね合わせ。
具体的な解説と立式
外力の仕事は \(W_{\text{外}} = U_{P,M} – U_{P,C} = (-q)V_{M,\text{全}} – (-q)V_{C,\text{全}}\) です。
電位の基準をC点(または直線OC上)が0Vになるように取ります。
元の電場では、C点は垂直二等分線上にあるため \(V_{C,\text{元}} = 0\) です。
一様電場による電位も、基準面上であるC点では \(V_{C,\text{一様}} = 0\) とします。
よって、\(V_{C,\text{全}} = 0\) となり、\(U_{P,C} = 0\) です。
したがって、\(W_{\text{外}} = U_{P,M} = (-q)V_{M,\text{全}}\) となります。
M点での全電位 \(V_{M,\text{全}}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{M,\text{全}} &= V_{M,\text{元}} + V_{M,\text{一様}}
\end{aligned}
$$
ここで、\(V_{M,\text{元}}\) は(2)で求めた \(-\frac{4kQ}{3l}\) です。
一様電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) はBA方向(左向き)なので、電位はAB方向(右向き)に進むほど高くなります。M点は基準のOC線から右に \(l/2\) の位置にあるので、
$$
\begin{aligned}
V_{M,\text{一様}} &= E_{\text{一様}} \cdot \frac{l}{2}
\end{aligned}
$$
よって、外力の仕事は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{外}} &= (-q)\left(V_{M,\text{元}} + V_{M,\text{一様}}\right) \\[2.0ex]
&= (-q)\left(-\frac{4kQ}{3l} + E_{\text{一様}}\frac{l}{2}\right)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外}} = \Delta U\)
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = qV\)
- 一様電場中の電位差: \(V=Ed\)
(4)で求めた \(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{外}} &= (-q)\left(-\frac{4kQ}{3l} + \frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}} \cdot \frac{l}{2}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{4kqQ}{3l} – \frac{3kqQl^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}} \\[2.0ex]
&= kqQ\left(\frac{4}{3l} – \frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}}\right)
\end{aligned}
$$
外から力を加えて荷物を運ぶときの仕事は、運ぶ前と後での「位置エネルギーの差」で決まります。この問題では、電気的な位置エネルギーを考えます。電気的な位置エネルギーは「電荷×電位(電気的な高さ)」です。C点とM点の電位をそれぞれ計算し、その差から仕事量を求めます。ただし、電位は元の電荷によるものと、後から加えた一様な電場によるものの両方を足し合わせる必要があります。
外力のした仕事は \(W_{\text{外}} = kqQ\left\{\displaystyle\frac{4}{3l} – \frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}}\right\}\) [J] です。仕事の正負は \(L\) と \(l\) の関係によりますが、これは物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
仕事の定義 \(W = \int \vec{F} \cdot d\vec{r}\) に基づき、外力の仕事を直接計算します。小球Pを静かに動かすためには、外力 \(\vec{F}_{\text{外}}\) は常にその場での静電気力 \(\vec{F}_{\text{電}}\) とつりあっている必要があります。つまり \(\vec{F}_{\text{外}} = -\vec{F}_{\text{電}}\) です。この力をCからMまで積分することで仕事を求めます。この問題では、経路が複雑なため、ポテンシャルエネルギーの差から求める主たる解法がはるかに簡便です。
この設問における重要なポイント
- 仕事の定義: \(W = \int \vec{F} \cdot d\vec{r}\)。
- 静かに動かす外力: \(\vec{F}_{\text{外}} = -\vec{F}_{\text{電}}\)。
具体的な解説と立式
この解法は計算が非常に複雑になるため、ここでは立式の方針のみを示します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{外}} &= \int_C^M \vec{F}_{\text{外}} \cdot d\vec{r} = \int_C^M (-\vec{F}_{\text{電}}) \cdot d\vec{r}
\end{aligned}
$$
ここで \(\vec{F}_{\text{電}} = (-q)(\vec{E}_{\text{元}} + \vec{E}_{\text{一様}})\) であり、\(\vec{E}_{\text{元}}\) は場所によって変化します。この積分を実行することは高校範囲を超えますが、ポテンシャル \(U\) が \(\vec{F}_{\text{電}} = -\nabla U\) と書けることから、この積分が \(U_M – U_C\) に等しくなることが示され、主たる解法と一致します。
仕事の定義から直接計算することも原理的には可能ですが、ポテンシャルエネルギーが定義されている保存力場では、始点と終点のエネルギー差を考える方が圧倒的に簡単です。
問(6)
思考の道筋とポイント
M点で静かに放した小球Pが、O点で一瞬静止した、という条件から力学的エネルギー保存則を適用します。始点(M点)と終点(O点)でともに運動エネルギーが0なので、始点と終点での電気的ポテンシャルエネルギーが等しいことになります。つまり、M点とO点での全電位が等しい (\(V_{M,\text{全}} = V_{O,\text{全}}\)) という条件から、\(L\) と \(l\) の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則の適用(始点・終点で運動エネルギー0)。
- 各点での全電位(元の電位+一様電場による電位)の計算。
具体的な解説と立式
M点とO点での力学的エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m(0)^2 + (-q)V_{M,\text{全}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + (-q)V_{O,\text{全}}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
V_{M,\text{全}} &= V_{O,\text{全}}
\end{aligned}
$$
(5)と同様に、電位の基準を直線OC上が0Vになるように取ると、O点は基準線上にあるため \(V_{O,\text{全}} = 0\) です。
よって、M点での全電位も0になる必要があります。
$$
\begin{aligned}
V_{M,\text{全}} &= V_{M,\text{元}} + V_{M,\text{一様}} = 0
\end{aligned}
$$
(5)で計算した各項を代入すると、
$$
\begin{aligned}
-\frac{4kQ}{3l} + E_{\text{一様}}\frac{l}{2} &= 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 電気的ポテンシャルエネルギー \(U=qV\)
上式に(4)で求めた \(E_{\text{一様}} = \displaystyle\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
-\frac{4kQ}{3l} + \left(\frac{3kQl}{(l^2+L^2)^{3/2}}\right) \frac{l}{2} &= 0
\end{aligned}
$$
\(kQ \ne 0\) なので、両辺を \(kQ\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
-\frac{4}{3l} + \frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}} &= 0 \\[2.0ex]
\frac{3l^2}{2(l^2+L^2)^{3/2}} &= \frac{4}{3l}
\end{aligned}
$$
式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
9l^3 &= 8(l^2+L^2)^{3/2}
\end{aligned}
$$
両辺を2乗すると、
$$
\begin{aligned}
81l^6 &= 64(l^2+L^2)^3
\end{aligned}
$$
両辺の立方根をとると、
$$
\begin{aligned}
(81)^{1/3} l^2 &= 4(l^2+L^2) \\[2.0ex]
3^{4/3} l^2 &= 4l^2 + 4L^2
\end{aligned}
$$
\(L^2\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
4L^2 &= (3^{4/3}-4)l^2 \\[2.0ex]
L^2 &= \frac{3^{4/3}-4}{4}l^2 \\[2.0ex]
L &= \frac{\sqrt{3^{4/3}-4}}{2} l
\end{aligned}
$$
小球PがM点からスタートしてO点で止まったということは、M点とO点の電気的な「高さ(電位)」が全く同じだった、ということを意味します。もし高さに差があれば、その差の分だけ運動エネルギーに変わってしまうからです。この「M点とO点の電位が等しい」という条件を使って、装置の寸法である\(L\)と\(l\)の関係を求めます。
\(L\) と \(l\) の関係は \(L = \displaystyle\frac{\sqrt{3^{4/3}-4}}{2} l\) となります。\(3^{4/3} = \sqrt[3]{81}\) であり、\(4^3=64, 5^3=125\) なので \(4 < 3^{4/3} < 5\) です。したがって根号の中は正であり、実数解が存在します。この結果は、一様電場の強さが\(L\)に依存することから導かれる、幾何学的な条件です。
思考の道筋とポイント
一様な電場 \(\vec{E}_{\text{一様}}\) による力 \(-q\vec{E}_{\text{一様}}\) を保存力以外の力(外力のような扱い)と見なします。この力がする仕事が、元の点電荷が作る電場中での力学的エネルギーの変化に等しいと考えます。「仕事とエネルギーの関係 \(W_{\text{非保存力}} = \Delta (\text{力学的エネルギー})\)」を適用します。
この設問における重要なポイント
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{非保存力}} = \Delta K + \Delta U_{\text{保存力}}\)。
- 系を「小球Pと点電荷A,B」とし、一様電場を「外部の力」として分離して考える。
具体的な解説と立式
M点からO点への移動で、運動エネルギーの変化は \(\Delta K = K_O – K_M = 0 – 0 = 0\) です。
元の点電荷によるポテンシャルエネルギーの変化は \(\Delta U_{\text{元}} = U_{P,O,\text{元}} – U_{P,M,\text{元}} = (-q)V_{O,\text{元}} – (-q)V_{M,\text{元}}\) です。
一様電場による静電気力 \(\vec{F}_{\text{一様}} = -q\vec{E}_{\text{一様}}\) がする仕事 \(W_{\text{一様}}\) を計算します。\(\vec{E}_{\text{一様}}\) は左向きなので、\(\vec{F}_{\text{一様}}\) は右向きで大きさ \(qE_{\text{一様}}\) です。MからOへの変位は左向きに \(l/2\) なので、仕事は負になります。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{一様}} &= (qE_{\text{一様}}) \times (-\frac{l}{2}) = -\frac{1}{2}qE_{\text{一様}}l
\end{aligned}
$$
仕事とエネルギーの関係より、\(W_{\text{一様}} = \Delta K + \Delta U_{\text{元}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2}qE_{\text{一様}}l &= 0 + \left( (-q)V_{O,\text{元}} – (-q)V_{M,\text{元}} \right)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{非保存力}} = \Delta (\text{力学的エネルギー})\)
- 一様電場中の仕事: \(W = Fx = qEx\)
上式を整理し、(2)の結果 \(V_{O,\text{元}} = 0\), \(V_{M,\text{元}} = -\frac{4kQ}{3l}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2}qE_{\text{一様}}l &= -q(V_{O,\text{元}} – V_{M,\text{元}}) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}E_{\text{一様}}l &= V_{O,\text{元}} – V_{M,\text{元}} \\[2.0ex]
\frac{1}{2}E_{\text{一様}}l &= 0 – \left(-\frac{4kQ}{3l}\right) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}E_{\text{一様}}l &= \frac{4kQ}{3l}
\end{aligned}
$$
この式は、メイン解法の \(V_{M,\text{全}}=0\) から得られる \(-V_{M,\text{元}} = V_{M,\text{一様}}\) すなわち \(\frac{4kQ}{3l} = E_{\text{一様}}\frac{l}{2}\) と全く同じです。したがって、この後の計算もメイン解法と同様になり、同じ結果が得られます。
M点からO点へ移動する間に、小球Pは2種類の力(点電荷からの力と、一様な電場からの力)から仕事をされます。運動エネルギーは始めも終わりも0なので、これらの力がした仕事の合計が0になるはずです。この「仕事の合計が0」という条件から、\(L\)と\(l\)の関係を求めます。
別解を用いても、メインの解法と同じ結果 \(L = \displaystyle\frac{\sqrt{3^{4/3}-4}}{2} l\) が得られます。これは、エネルギー保存則が、どの力を「内部の力(ポテンシャル)」とみなし、どの力を「外部の力(仕事)」とみなすかによって、異なる表現(力学的エネルギー保存則 or 仕事とエネルギーの関係)ができることを示しています。
【コラム】Q₁. (6)において、Pの速さが最大となる位置を求めたい。解法(考え方)を20字以内で述べよ。
思考の道筋とポイント
小球Pの速さが最大になるのは、運動エネルギーが最大になるときです。力学的エネルギーが保存される系では、運動エネルギーが最大になるのは、ポテンシャルエネルギーが最小になるときです。また、力学的には、加速度が0になる点、すなわち合力が0になる点で速さは最大値をとります。
この設問における重要なポイント
- 速さ最大 \(\Leftrightarrow\) 運動エネルギー最大 \(\Leftrightarrow\) ポテンシャルエネルギー最小 \(\Leftrightarrow\) 合力0。
具体的な解説と立式
解法1:力の観点
小球Pに働く合電気力が0になる位置を求めます。この位置で加速度が0となり、それまで加速してきた小球の速さは最大となります。
解法2:エネルギーの観点
小球Pの電気的ポテンシャルエネルギー \(U_P = -qV_{\text{全}}\) が最小となる位置を求めます。Pの電荷が負なので、これは全電位 \(V_{\text{全}}\) が最大となる位置を求めることと同じです。
使用した物理公式
- 運動と力の関係
- エネルギー保存則
解法を述べる問題なので、計算は不要です。
ボールを坂道で転がしたとき、一番速くなるのは坂の一番低い点です。これと同じで、電気の世界でも、小球は電気的な「坂道」(ポテンシャルの勾配)を下っていきます。速さが最大になるのは、この電気的な坂道が最も低くなった点(ポテンシャルエネルギーが最小の点)です。これは、力がつり合う点(坂が平らになる点)に相当します。
どちらの解法も物理的に正しく、同じ位置を導き出します。
【コラム】Q₂. A点とB点にそれぞれ+Qの点電荷を固定し、O点に小球P(-q[C], m[kg])を置く。PをOからCの方向にわずかにずらして放すと、PはOを中心として単振動を始める。その周期Tを求めよ。
思考の道筋とポイント
PがOからC方向(これをy軸とする)に微小変位 \(y\) だけずれたとき、Pに働く復元力を求めます。この力が \(-Ky\) の形(Kは正の定数)で表されれば、Pは単振動し、その周期は \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) で与えられます。A(\(-l,0\)), B(\(l,0\)) の\(+Q\)がP(\(0,y\))に及ぼすクーロン力の合力のy成分を計算し、\(y \ll l\) の近似を用います。
この設問における重要なポイント
- 単振動の条件: 復元力 \(F = -Kx\)。
- クーロン力と力の合成(ベクトル和)。
- 微小変位による近似。
具体的な解説と立式
Oを原点、OC方向をy軸正の向きとします。Pの座標を \((0, y)\)。Aは(\(-l, 0\))、Bは(\(l, 0\))に\(+Q\)の電荷があります。
Pの電荷は\(-q\)なので、A, Bの\(+Q\)から引力を受けます。
PとA(またはB)との距離は \(r = \sqrt{l^2+y^2}\) です。
AからPが受ける力の大きさは \(f = k\frac{Q|-q|}{r^2} = \frac{kqQ}{l^2+y^2}\) で、向きはPからAへ向かう向きです。
この力のy成分は、O点向き(y軸負の向き)で、大きさは \(f \sin\theta = f \frac{y}{r} = f \frac{y}{\sqrt{l^2+y^2}}\) です(\(\theta\)はAPとx軸のなす角)。
Bからも同様の力が働き、x成分は打ち消し合います。合力のy成分 \(F_y\) は、
$$
\begin{aligned}
F_y &= -2 \cdot f \sin\theta \\[2.0ex]
&= -2 \cdot \frac{kqQ}{l^2+y^2} \cdot \frac{y}{\sqrt{l^2+y^2}} \\[2.0ex]
&= -\frac{2kqQy}{(l^2+y^2)^{3/2}}
\end{aligned}
$$
ここで、\(y \ll l\) の近似を用いると、分母の \(l^2+y^2 \approx l^2\) となります。
$$
\begin{aligned}
F_y &\approx -\frac{2kqQy}{(l^2)^{3/2}} \\[2.0ex]
&= -\frac{2kqQy}{l^3} \\[2.0ex]
&= -\left(\frac{2kqQ}{l^3}\right)y
\end{aligned}
$$
これは復元力の形 \(F_y = -Ky\) をしており、比例定数(ばね定数に相当) \(K = \displaystyle\frac{2kqQ}{l^3}\) です。
したがって、Pは単振動し、その周期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- クーロンの力: \(F = k\frac{|q_1q_2|}{r^2}\)
- 力のベクトル合成
- 単振動の条件: \(F = -Kx\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
- 近似: \(y \ll l \)なので \( l^2+y^2 \approx l^2\)
周期の式に \(K\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{2kqQ/l^3}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{ml^3}{2kqQ}} \\[2.0ex]
&= 2\pi l \sqrt{\frac{ml}{2kqQ}}
\end{aligned}
$$
小球PをOからCの方向に少しずらすと、A点とB点の正電荷から引力を受け、O点に戻ろうとする力が働きます。この「戻ろうとする力(復元力)」が、ずらした距離にほぼ比例する場合(ずれが小さいとき)、Pはばねにつながれたおもりのように振動(単振動)します。その比例定数(ばね定数のようなもの)を計算し、周期の公式に当てはめて計算します。
周期 \(T = 2\pi l \sqrt{\displaystyle\frac{ml}{2kqQ}}\) [s] です。次元を確認すると、右辺の根号の中は \([M][L]^3 / ( [M L^3 T^{-2} C^{-2}] [C]^2 ) = [T^2]\) となり、根号全体で[T]の次元を持つため、周期の次元と一致しており、妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と電位の基本概念と重ね合わせの原理:
- 核心: 電場は力に関連するベクトル量、電位はエネルギーに関連するスカラー量。複数の電荷源がある場合、それぞれの効果を重ね合わせる。
- 理解のポイント: 点電荷がつくる電場 \(E = k|Q|/r^2\) と電位 \(V = kQ/r\) の公式、およびその向きや符号の扱いを正確に理解することが全ての出発点です。
- 静電気力と電気的ポテンシャルエネルギー:
- 核心: 電荷 \(q\) の粒子は電場 \(\vec{E}\) から力 \(\vec{F}=q\vec{E}\) を受け、電位 \(V\) の点でポテンシャルエネルギー \(U=qV\) を持つ。
- 理解のポイント: 電荷の符号によって力やエネルギーの符号が変わることに注意が必要です。負電荷は電場と逆向きに力を受け、電位が低いほどポテンシャルエネルギーは高くなります。
- 力学的エネルギー保存則と仕事:
- 核心: 静電気力は保存力なので、静電気力のみが仕事をする場合、力学的エネルギーが保存される。外力が仕事をするときは、その仕事がエネルギー変化に等しい。
- 理解のポイント: \(\frac{1}{2}mv^2 + qV = \text{一定}\)。静かに動かす外力の仕事 \(W_{\text{外}} = \Delta U\)。これらの関係式を状況に応じて使い分けることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電気双極子(または類似の電荷対)が作る電場・電位の解析問題。
- 複数の電荷による電場・電位の重ね合わせが複雑になる配置での計算問題。
- 一様電場と点電荷の電場が共存する中での荷電粒子の運動や力のつり合いを問う問題。
- 保存力場でのエネルギー保存則や仕事とエネルギーの関係を用いた問題全般。
- 初見の問題での着眼点:
- 電荷配置と対称性の確認: まず図をよく見て、電荷の符号、位置関係、対称性がないかを確認します(対称性があれば計算が大幅に楽になる)。
- 問われている物理量の種類: 電場(ベクトル)か電位(スカラー)か、力かエネルギーかを明確にし、適切な公式と思い出すことが第一歩です。
- 基準点の確認: 電位やポテンシャルエネルギーは基準点(通常無限遠)が必要なので、問題文の指示を確認します。一様電場が加わった場合は、どこを基準にするかで計算のしやすさが変わります。
- 力の図示とベクトル演算: 電場や力を扱う場合は、必ずベクトル図を描き、成分分解や合成を正確に行います。
- エネルギー保存則の適用条件: 保存力のみが仕事をするか、外力や非保存力が関わるかを見極め、適切なエネルギーの式(エネルギー保存則か、仕事とエネルギーの関係か)を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電場と電位の混同:
- 誤解: 電場をスカラー和したり、電位の向きを考えたりする。
- 対策: 電場はベクトル(強さと向き)、電位はスカラー(基準からのエネルギーレベル)と定義を明確に区別します。
- 電荷の符号の扱い:
- 誤解: 電場や力の向き、電位や位置エネルギーの符号を間違える。
- 対策: \(F=qE\), \(U=qV\) の \(q\) には符号を含めて考える習慣をつけます。電場の向きは「正電荷が受ける力の向き」と定義されています。
- 距離 \(r\) の計算ミス:
- 誤解: 特に\(r^2\)や\(r^3\)が絡む計算での距離の誤り。
- 対策: 図を正確に描き、三平方の定理などを用いて幾何学的な関係を正しく使うことが基本です。
- ベクトル合成のミス:
- 誤解: 電場の合成で、大きさをそのまま足し引きする。
- 対策: 必ず成分分解するか、ベクトル作図で平行四辺形の法則などを用います。対称性があれば積極的に利用します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E = k\frac{|Q|}{r^2}\) (点電荷の電場):
- 選定理由: 点電荷が作る「力」の場である電場を計算するため。
- 適用根拠: 対象が点電荷であること。
- \(V = k\frac{Q}{r}\) (点電荷の電位):
- 選定理由: 点電荷が作る「エネルギー」の場である電位を計算するため。
- 適用根拠: 対象が点電荷であり、無限遠を電位の基準としていること。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: 荷電粒子が静電気力という保存力のみを受けて運動するため、その速さを求めるのに有効。
- 適用根拠: 系に働く非保存力が仕事をしない(または外力の仕事が0の自由運動)。
- \(W_{\text{外}} = \Delta U\) (外力の仕事):
- 選定理由: 荷電粒子を「静かに」動かす(運動エネルギー変化なし)外力の仕事を求めるため。
- 適用根拠: エネルギーと仕事の関係で、運動エネルギーの変化がない場合。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 電荷、力、電位、エネルギーの符号に細心の注意を払う。特に \(U=qV\) で \(q\) と \(V\) が共に負の場合など。
- 日頃の練習: 式を立てるたびに、各項の符号が物理的に正しいか(斥力か引力か、ポテンシャルは高いか低いか)を自問する習慣をつける。
- ベクトル演算:
- 特に注意すべき点: 成分分解、合成を丁寧に行う。角度の設定を間違えない。
- 日頃の練習: 複雑な配置でも、必ず座標軸を設定し、各ベクトルを成分表示して計算する練習をする。
- 距離の計算:
- 特に注意すべき点: 特に平方根や3/2乗などが絡む場合、慎重に計算する。
- 日頃の練習: 複雑な幾何学的配置の問題を複数解き、距離や角度を素早く正確に求める訓練をする。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 電場・力の向き: 電荷の配置から予想される向きと計算結果が一致するか(例:C点では右向きになるはず)。
- (2) 電位の符号・大小: 電荷の配置から、ある点の電位が高そうか低そうか、0Vになりそうかなどを大まかに予測し、結果と比べる(例:垂直二等分線上は0Vになるはず)。
- (3) エネルギーの正負: 運動エネルギーは常に正。ポテンシャルエネルギーの符号と物理的意味(束縛されているかなど)を考える。
- (6) \(L\)と\(l\)の関係: 得られた関係式が物理的に意味のある解を持つか(例:根号の中が正になるか)を確認する。
- 特殊なケースでの検証:
- 例えば \(L \to 0\) や \(L \to \infty\) の極限で、式が妥当な振る舞いをするか確認する。
- (1)のC点の電場で \(L \to 0\) とすると \(E_C \to \frac{2kQ}{l^2}\) となり、O点の電場に一致する。
- (1)のC点の電場で \(L \to \infty\) とすると \(E_C \to 0\) となり、無限遠で電場がゼロになることと一致する。
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問題11 (岡山大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、点電荷間に働く静電気力(クーロン力)と、それに伴う荷電粒子の運動を扱います。前半は一方の粒子が固定されている場合、後半は両方の粒子が運動可能な場合について、力学的エネルギー保存則や運動量保存則を適用して解いていく問題です。
- 粒子A: 質量 \(m\)[kg]、電荷 \(+q\)[C]、初速度 \(v_0\)[m/s] (x軸正方向、Bから十分離れた位置)
- 粒子B: 質量 \(M\)[kg]、電荷 \(+Q\)[C]、初期状態ではx軸上の点Pに静止
- クーロン定数: \(k\)[N·m²/C²]
- その他: 重力や粒子の大きさは無視、真空中の運動
- B固定時:
- (1) AB間の最小距離 \(r_0\)
- (2) AB間距離が \(2r_0\) のときのAの速さ \(v\)
- (3) Aの最大加速度 \(a_{\text{max}}\)
- B自由時:
- (4) 最接近時のAの速度 \(u\) とAB間距離 \(r_1\)
- (5) 十分時間経過後のAの速度 \(v_A\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) 最接近距離\(r_1\)の別解: 相対運動のエネルギー保存則を利用する解法
- 主たる解法が、実験室系における2粒子の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和が保存されることから立式するのに対し、別解では、2体系のエネルギーを「重心運動のエネルギー」と「相対運動のエネルギー」に分離し、後者のエネルギー保存則から立式します。
- 問(5) 十分時間経過後のAの速度\(v_A\)の別解: 弾性衝突モデルを利用する解法
- 主たる解法が、運動量保存則と力学的エネルギー保存則を連立させて解くのに対し、別解では、この現象を反発係数\(e=1\)の「弾性衝突」とみなし、運動量保存則と反発係数の式を連立させて解きます。
- 問(4) 最接近距離\(r_1\)の別解: 相対運動のエネルギー保存則を利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: (4)の別解は、2体問題を重心運動と相対運動に分離して考えるという、大学物理にもつながる重要な視点を提供します。全体のエネルギーの一部だけが粒子間の距離を変化させるために使われる、という本質的な理解が深まります。(5)の別解は、保存力による相互作用と弾性衝突が数学的に等価であることを示し、物理法則の普遍性への洞察を促します。
- 計算の効率化: (4)の別解では換算質量を用いることで立式が簡潔になり、(5)の別解ではエネルギーの2乗計算を避けられるため、いずれも計算プロセスを大幅に簡略化できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は「静電気学」における「クーロン力と電位(電気的ポテンシャルエネルギー)」および「力学」における「エネルギー保存則」と「運動量保存則」の融合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- クーロンの法則: \(F = k\frac{|q_1q_2|}{r^2}\)。同符号の電荷間には斥力が働きます。
- 電気的ポテンシャルエネルギー: \(U = k\frac{q_1q_2}{r}\)(無限遠を基準)。
- 力学的エネルギー保存則: 外力や非保存力が仕事をしない場合、系全体の力学的エネルギーは保存されます。
- 運動量保存則: 系に働く外力の合力が0の場合、系全体の運動量の和は保存されます。
- 運動方程式: \(ma = F\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- B固定の場合 (1)-(3): 粒子Aの力学的エネルギー保存則を利用します。最接近時はAの速度が0になります。加速度が最大になるのは、クーロン力が最大、すなわち距離が最小のときです。
- B自由の場合 (4)-(5): 粒子AとBからなる系全体で運動量保存則と力学的エネルギー保存則を利用します。最接近時は相対速度が0(同じ速度)になります。十分時間が経過した後は、粒子間の距離が無限大になるため、ポテンシャルエネルギーは0とみなせます。