問題52 (立教大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直に置かれたシリンダー内で、ヒーターによって加熱される理想気体の状態変化を扱う熱力学の問題です。ピストンのつり合いや、シリンダーを逆さにした場合の変化、そして段階的な加熱によって気体がどのように振る舞うかを考察します。各設問を通して、理想気体の状態方程式、熱力学第一法則、定圧変化・定積変化の概念が問われます。
- シリンダーの断面積: \(S \text{ [m}^2\text{]}\)
- シリンダーの全長: \(L \text{ [m]}\)
- ピストンの質量: \(M \text{ [kg]}\)
- ピストンの厚さ: \(\displaystyle\frac{1}{9}L \text{ [m]}\)
- A室の気体: 単原子分子の理想気体、1mol
- 気体定数: \(R \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\)
- 大気圧: \(P_0 \text{ [Pa]}\)
- 重力加速度: \(g \text{ [m/s}^2\text{]}\)
- ピストンとシリンダーは断熱材でできている。
- シリンダーは鉛直に保たれている。
- A室の気体をヒーターで加熱できる。
- (1) 最初、シリンダーの底からピストンの下面までの高さが \(\displaystyle\frac{1}{2}L \text{ [m]}\) であったときの気体の温度 \(T_0\)(ア)。
- (2) ヒーターに \(t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流し、ピストンが \(\displaystyle\frac{1}{4}L \text{ [m]}\) 上昇したときの、ヒーターが発生したジュール熱 \(Q\)(イ)と、この間に気体がした仕事 \(W\)(ウ)。
- (3) シリンダーの上下を逆転し、気体の温度を \(T_0 \text{ [K]}\) にしたところ、ピストンの上面はシリンダーの上底から \(\displaystyle\frac{2}{3}L \text{ [m]}\) の位置で静止した。このときのピストンの質量 \(M\)(エ、\(\displaystyle\frac{P_0S}{g}\) の係数として)。
- (4) (3)の状態でヒーターに \(\displaystyle\frac{1}{3}t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流したときの、ピストンの上面からシリンダーの上底までの距離 \(l\)(オ、\(L\) の係数として)。
- (5) さらに、ヒーターに \(\displaystyle\frac{2}{3}t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流したときの、最終的な気体の温度 \(T_1\)(カ、\(T_0\) の係数として)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 熱量\(Q_2\)の別解: 熱力学第一法則を用いる解法
- 主たる解法が定圧モル比熱の公式\(Q_2 = nC_P \Delta T\)を直接用いるのに対し、別解では熱力学第一法則\(\Delta U_2 = Q_2 + W_2\)(\(W_2\)はされた仕事)を変形した\(Q_2 = \Delta U_2 – W_2 = \Delta U_2 + W’_2\)(\(W’_2\)はした仕事)を用いて計算します。
- 問(2) 熱量\(Q_2\)の別解: 熱力学第一法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理法則の基本からのアプローチ: 定圧モル比熱の公式を「暗記して使う」のではなく、より根源的な法則である熱力学第一法則と内部エネルギーの式から熱量を導出するプロセスを学ぶことができます。これにより、公式を忘れた場合でも対応できる応用力が身につきます。
- エネルギー分配の理解: 「加えられた熱量\(Q_2\)が、内部エネルギーの増加\(\Delta U_2\)と外部への仕事\(W’_2\)にどのように分配されるか」という、定圧変化におけるエネルギーの流れをより明確に意識することができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を攻略する鍵は、各状況におけるピストンにはたらく力のつり合いを正確に把握し、それによって定まる気体の圧力を求めることです。そして、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を軸に、温度、体積、圧力の関係を追跡します。加熱による変化では、それが定圧変化なのか定積変化なのかを見極め、単原子分子理想気体のモル比熱(定圧モル比熱 \(C_P = \frac{5}{2}R\)、定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\))を用いた熱量計算や、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{in}} – W_{\text{out}}\) の適用が重要になります。特に複数の段階を踏む変化では、各段階の初期条件と最終条件を丁寧に整理し、それぞれの過程でどの法則が適用できるかを慎重に判断しましょう。
問(1) ア
思考の道筋とポイント
ピストンが静止しているという事実は、ピストンにはたらく全ての力がつり合っていることを意味します。A室の気体がピストンを押し上げる力、大気圧がピストンを押し下げる力、そしてピストン自身の重力が下向きにはたらいています。これらの力のつり合いからA室の気体の圧力を求めます。求めた圧力と、与えられた体積(断面積 \(S\) × 高さ \(\frac{L}{2}\))、物質量 (1 mol) を理想気体の状態方程式に代入することで、気体の温度 \(T_0\) を導き出します。
この設問における重要なポイント
- ピストンにはたらく力のつり合いの式を正しく立てることが出発点です。
- 力のつり合いから導いた気体の圧力 \(P\) を用いて、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を適用します。
- A室の気体の体積は、断面積 \(S\) と高さ \(\displaystyle\frac{L}{2}\) から \(V_0 = S \cdot \displaystyle\frac{L}{2}\) となります。
具体的な解説と立式
A室の気体の圧力を \(P\) とします。ピストンにはたらく力は、鉛直上向きにA室の気体の圧力による力 \(PS\)、鉛直下向きに大気圧による力 \(P_0S\)、そしてピストンの重力 \(Mg\) です。ピストンは静止しているため、これらの力はつり合っています。したがって、力のつり合いの式は次のようになります。
$$
\begin{aligned}
PS &= P_0S + Mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式から、A室の気体の圧力 \(P\) は以下のように表されます。
$$
\begin{aligned}
P &= P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
このときのA室の気体の体積 \(V_0\) は、シリンダーの底からピストンの下面までの高さが \(\displaystyle\frac{L}{2}\) であることから、
$$
\begin{aligned}
V_0 &= S \cdot \displaystyle\frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
気体は1molの単原子分子理想気体であり、その温度を \(T_0\) とすると、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) (ここで \(n=1\)) より、
$$
\begin{aligned}
P V_0 &= R T_0
\end{aligned}
$$
この式に、求めた圧力 \(P\) (式②) と体積 \(V_0\) を代入すると、温度 \(T_0\) を求めるための関係式が得られます。
$$
\begin{aligned}
\left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) \left(S \cdot \displaystyle\frac{L}{2}\right) &= RT_0 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式③から \(T_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T_0 &= \displaystyle\frac{\left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) S L}{2R}
\end{aligned}
$$
ここで、括弧内の \(S\) を分配法則に従って計算すると、より整理された形になります。
$$
\begin{aligned}
T_0 &= \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}
\end{aligned}
$$
これが求める初期温度 \(T_0\) です。
ピストンが空中で静止しているのは、下から気体が支える力と、上から大気が押す力およびピストン自身の重さが釣り合っているためです。この釣り合いの関係から、まず気体の圧力がどれくらいかが分かります。次に、気体の圧力、体積(シリンダーの断面積に高さを掛けたもの)、そして気体の量(1molと決まっています)が分かれば、「理想気体の法則」という便利な関係式を使って、気体の温度を計算することができます。
最初の気体の温度 \(T_0\) は \(\displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R} \text{ [K]}\) となります。
この結果は、問題で与えられた物理量(\(P_0, S, M, g, L, R\))のみで表されており、単位も温度の単位であるケルビン(K)となるため、物理的に妥当です。例えば、もしピストンの質量 \(M\) がゼロであったと仮定すると、\(T_0 = \displaystyle\frac{P_0SL}{2R}\) となり、これはピストンの重さを無視した場合の温度を表しており、直感とも一致します。
問(2) イ, ウ
思考の道筋とポイント
ヒーターで気体を加熱すると、気体は膨張しピストンが \(\displaystyle\frac{L}{4}\) だけ上昇します。ピストンは「滑らかに動く」とされているため、ピストンが動いている間も、A室の気体の圧力は常に外部の力(大気圧とピストンの重力)とつり合った状態、すなわち問(1)で求めた圧力 \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) で一定であると考えられます。これは定圧変化です。
(イ) まず、定圧変化後の気体の温度を求めます。単原子分子理想気体の場合、定圧モル比熱は \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。これを用いて、気体が吸収した熱量(ヒーターが発生したジュール熱)\(Q\) を \(Q = nC_P \Delta T\) の式から計算します。
(ウ) 定圧変化において気体が外部にした仕事 \(W\) は、\(W = P\Delta V\) で計算できます。\(\Delta V\) は体積の変化量です。
この設問における重要なポイント
- ピストンが滑らかに動くため、加熱中の気体の圧力は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) で一定(定圧変化)とみなします。
- ピストンが \(\displaystyle\frac{L}{4}\) 上昇した後の、A室の気体の高さを正しく計算し(元の高さ \(\displaystyle\frac{L}{2}\) と合わせて \(\displaystyle\frac{3L}{4}\))、体積を求めます。
- 単原子分子理想気体の定圧モル比熱 \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) を適用します。
- 気体がした仕事は \(W = P\Delta V\) で求められます。
具体的な解説と立式
(イ) ヒーターが発生したジュール熱 \(Q\)
加熱中、A室の気体の圧力 \(P\) は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) で一定です。
初めのA室の気体の高さを \(h_0 = \displaystyle\frac{L}{2}\) とします。ピストンが \(\displaystyle\frac{L}{4}\) 上昇したので、上昇後の高さ \(h_1\) は、
$$
\begin{aligned}
h_1 &= h_0 + \displaystyle\frac{L}{4} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{L}{2} + \displaystyle\frac{L}{4} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2L+L}{4} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{3L}{4}
\end{aligned}
$$
初めの体積は \(V_0 = Sh_0 = S\displaystyle\frac{L}{2}\)、上昇後の体積は \(V_1 = Sh_1 = S\displaystyle\frac{3L}{4}\) です。
初めの温度は \(T_0\) でした。上昇後の温度を \(T_1’\) とします。
定圧変化なので、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{V_0}{T_0} &= \displaystyle\frac{V_1}{T_1′}
\end{aligned}
$$
この式から \(T_1’\) は次のように表されます。
$$
\begin{aligned}
T_1′ &= T_0 \cdot \displaystyle\frac{V_1}{V_0} \\[2.0ex]
&= T_0 \cdot \displaystyle\frac{S\frac{3L}{4}}{S\frac{L}{2}} \\[2.0ex]
&= T_0 \cdot \displaystyle\frac{\frac{3}{4}}{\frac{1}{2}} \\[2.0ex]
&= T_0 \cdot \displaystyle\frac{3}{4} \cdot 2 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{3}{2}T_0
\end{aligned}
$$
気体に加えられた熱量 \(Q\) は、定圧変化における熱量の公式 \(Q = nC_P \Delta T\) で与えられます。ここで \(n=1\)、単原子分子理想気体の定圧モル比熱は \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。温度変化 \(\Delta T = T_1′ – T_0\)。
$$
\begin{aligned}
Q &= 1 \cdot \displaystyle\frac{5}{2}R (T_1′ – T_0) \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
問(1)で求めた \(T_0 = \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}\) を用いて、\(Q\) を \(P_0, S, M, g, L, R\) で表すことを目指します。
(ウ) この間に気体がした仕事 \(W\)
定圧変化において気体が外部にした仕事 \(W\) は \(W = P\Delta V\) です。
体積の変化量 \(\Delta V\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= V_1 – V_0 \\[2.0ex]
&= S\displaystyle\frac{3L}{4} – S\displaystyle\frac{L}{2} \\[2.0ex]
&= S\left(\displaystyle\frac{3L}{4} – \displaystyle\frac{2L}{4}\right) \\[2.0ex]
&= S\displaystyle\frac{L}{4}
\end{aligned}
$$
圧力 \(P\) は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) なので、仕事 \(W\) は、
$$
\begin{aligned}
W &= \left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) \Delta V \\[2.0ex]
&= \left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) S\displaystyle\frac{L}{4} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- シャルルの法則 (定圧変化): \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\)
- 定圧モル比熱 (単原子分子理想気体): \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
- 熱量 (定圧変化): \(Q = nC_P \Delta T\)
- 気体が外部にした仕事 (定圧変化): \(W = P\Delta V\)
(イ) ジュール熱 \(Q\) の計算
式④に \(T_1′ = \displaystyle\frac{3}{2}T_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{3}{2}T_0 – T_0\right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{1}{2}T_0\right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{4}RT_0
\end{aligned}
$$
次に、この式に \(T_0 = \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}\) (問(1)の結果)を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \displaystyle\frac{5}{4}R \left( \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R} \right)
\end{aligned}
$$
\(R\) が約分されて、
$$
\begin{aligned}
Q &= \displaystyle\frac{5(P_0S + Mg)L}{4 \cdot 2} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5(P_0S + Mg)L}{8}
\end{aligned}
$$
これがヒーターが発生したジュール熱です。
(ウ) 気体がした仕事 \(W\) の計算
式⑤を展開します。
$$
\begin{aligned}
W &= \left(P_0S + Mg\right)\displaystyle\frac{L}{4}
\end{aligned}
$$
これが気体がした仕事です。
(イ) ヒーターで気体を温めると、気体は温度が上がって膨らもうとします。ピストンが自由に動けるので、気体の圧力は最初の状態と同じまま保たれます。体積がどれだけ増えたか(ピストンがどれだけ上がったか)が分かっているので、それを使って温度がどれだけ上昇したかが「シャルルの法則」から計算できます。単原子の理想気体の場合、圧力が一定のままで温度を上げるのに必要な熱量は、温度の上昇分に比例します。その比例定数が物質量 \(1 \text{mol} \times \text{定圧モル比熱 } \frac{5}{2}R\) です。
(ウ) 気体が膨らんでピストンを押し上げるとき、気体は外部に対して「仕事」をします。圧力が一定の場合、この仕事の量は「気体の圧力 × 体積が増えた量」で簡単に計算できます。
(イ) ヒーターが発生したジュール熱 \(Q\) は \(\displaystyle\frac{5(P_0S + Mg)L}{8} \text{ [J]}\) です。
(ウ) この間に気体がした仕事 \(W\) は \((P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{4} \text{ [J]}\) です。
これらの結果は物理的に妥当な単位と形式を持っています。熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) と照らし合わせてみましょう。
問(1)で \( (P_0S + Mg)L = 2RT_0 \) という関係があったので、これを使うと仕事 \(W\) は、
\(W = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{4} = \displaystyle\frac{1}{4}(P_0S+Mg)L = \displaystyle\frac{1}{4}(2RT_0) = \displaystyle\frac{1}{2}RT_0\)。
ジュール熱 \(Q\) は、\(T_0\) を使った表現では \(\displaystyle\frac{5}{4}RT_0\) でした。
よって、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
\(\Delta U = Q – W = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 – \displaystyle\frac{1}{2}RT_0 = \left(\displaystyle\frac{5}{4} – \displaystyle\frac{2}{4}\right)RT_0 = \displaystyle\frac{3}{4}RT_0\)。
一方、単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化は \(\Delta U = nC_V \Delta T = 1 \cdot \displaystyle\frac{3}{2}R (T_1′ – T_0)\) で計算できます。\(T_1′ = \displaystyle\frac{3}{2}T_0\) だったので、
\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}R \left(\displaystyle\frac{3}{2}T_0 – T_0\right) = \displaystyle\frac{3}{2}R \left(\displaystyle\frac{1}{2}T_0\right) = \displaystyle\frac{3}{4}RT_0\)。
両者の \(\Delta U\) が一致しており、計算結果の整合性が確認できました。
問(3) エ
思考の道筋とポイント
シリンダーの上下を逆転させると、ピストンにはたらく力の方向が変化します。大気圧はピストンの下面(もともと気体に接していた面)から上向きに作用し、A室の気体の圧力はピストンの上面(もともと大気に接していた面)から下向きに作用します。ピストンの重力も下向きです。ピストンが図2のように特定の位置で静止しているので、これらの力がつり合っています。このつり合いから、新しい気体の圧力 \(P’\) をピストンの質量 \(M\) を含む形で表します。
次に、この状態の気体の体積を図2から読み取ります(気体の長さ \(\frac{2}{3}L\)、断面積 \(S\))。温度は \(T_0\)(問(1)で求めた初期温度と同じ)と与えられています。これらの情報 \(P’, V’, T_0\) を理想気体の状態方程式に適用します。
この状態方程式と、問(1)で導いた \(T_0\) の定義式(式③: \((P_0S + Mg)L = 2RT_0\))を連立させることで、未知数であるピストンの質量 \(M\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- シリンダーを逆転させた際の力のつり合いを正しく理解し、立式することが重要です。
- 図2からA室の気体の長さが \(\displaystyle\frac{2}{3}L\) であることを読み取り、体積 \(V’ = S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L\) を計算します。
- この状態での気体の温度は、問(1)の初期温度 \(T_0\) と同じであることを用います。
- 二つの状態(問(1)の初期状態と、この逆転した状態)に関する状態方程式(または \(T_0\) の式)を連立させて \(M\) を解きます。
具体的な解説と立式
シリンダーを逆転させたときのA室の気体の圧力を \(P’\) とします。
このときピストンにはたらく力は、鉛直下向きにA室の気体の圧力による力 \(P’S\) とピストンの重力 \(Mg\)、そして鉛直上向きに大気圧による力 \(P_0S\) です。ピストンは静止しているので、これらの力はつり合っています。
$$
\begin{aligned}
P_0S &= P’S + Mg
\end{aligned}
$$
この式から、A室の気体の圧力 \(P’\) は以下のように表されます。
$$
P’ = P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S} \quad \cdots ⑥
$$
(この状態が成り立つためには、\(P_0S > Mg\)、つまり \(P’ > 0\) である必要があります。)
図2より、このときのA室の気体の長さは \(\displaystyle\frac{2}{3}L\) ですから、気体の体積 \(V’\) は、
$$
V’ = S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L
$$
このときの気体の温度は \(T_0\) と与えられているので、理想気体の状態方程式 \(P’V’ = nRT_0\) (ここで \(n=1\)) は、
$$
P’ \left(S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L\right) = RT_0
$$
この式に \(P’\) (式⑥) を代入すると、
$$
\left(P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) S \displaystyle\frac{2}{3}L = RT_0 \quad \cdots ⑦
$$
ここで、問(1)の式③より \(RT_0 = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{2}\) という関係があります。この関係を式⑦に用いて \(M\) について解きます。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式⑦の左辺を展開すると \((P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3}L\)。
式⑦に \(RT_0 = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{2}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
(P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3}L &= (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{2}
\end{aligned}
$$
両辺に共通する \(L\) を消去します(\(L \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
(P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3} &= (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{1}{2}
\end{aligned}
$$
分母を払うために両辺に \(6\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
6 \cdot (P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3} &= 6 \cdot (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{1}{2} \\[2.0ex]
4(P_0S – Mg) &= 3(P_0S + Mg)
\end{aligned}
$$
展開して整理します。
$$
\begin{aligned}
4P_0S – 4Mg &= 3P_0S + 3Mg
\end{aligned}
$$
\(P_0S\) の項を左辺に、\(Mg\) の項を右辺に集めます。
$$
\begin{aligned}
4P_0S – 3P_0S &= 3Mg + 4Mg \\[2.0ex]
P_0S &= 7Mg
\end{aligned}
$$
したがって、ピストンの質量 \(M\) は、
$$
\begin{aligned}
M &= \displaystyle\frac{P_0S}{7g}
\end{aligned}
$$
問題では \(M = \text{エ} \cdot \displaystyle\frac{P_0S}{g}\) の形で答えるように指示されているので、エに入る数値は \(\displaystyle\frac{1}{7}\) です。
シリンダーをさかさまにすると、ピストンにかかる力のバランスが変わります。今度は、下から大気が押し上げ、上からは気体が押さえつけ、さらにピストンの重さも下向きにかかります。この新しい力の釣り合いから、気体の圧力が(ピストンの重さ \(M\) を使って)表せます。気体の体積は図から読み取り、温度は最初の状態と同じ \(T_0\) と決められています。これらの情報を使って「理想気体の法則」の式を立てます。この式と、問(1)で \(T_0\) を求めたときの式を組み合わせることで、ピストンの重さ \(M\) を計算することができます。
ピストンの質量 \(M\) は \(\displaystyle\frac{1}{7}\frac{P_0S}{g} \text{ [kg]}\) となります。
この結果は、\(P_0, S, g\) といった基本的な物理量で構成されており、単位も質量 [kg] となり物理的に妥当です。\(\displaystyle\frac{P_0S}{g}\) は大気圧による力を重力加速度で割ったもので、ある基準となる質量と見なせます。ピストンの質量がその \(\displaystyle\frac{1}{7}\) であるという具体的な関係が導かれました。この結果は、\(P_0S > Mg\) という条件(\(P_0S > \frac{1}{7}P_0S\)、これは常に成り立つ)を満たしており、物理的に矛盾はありません。
問(4) オ
思考の道筋とポイント
(3)のシリンダーを逆転させた状態(気体の圧力 \(P’\)、温度 \(T_0\)、気体の長さ \(\frac{2}{3}L\))から、ヒーターで \(\displaystyle\frac{1}{3}t_1\) 秒間電流を流します。問(2)で、\(t_1\) 秒間の加熱で \(Q = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0\) のジュール熱が発生することが分かっています。ジュール熱は電流を流す時間に比例するので、\(\displaystyle\frac{1}{3}t_1\) 秒間では \(\displaystyle\frac{1}{3}Q\) の熱が発生します。
ピストンは滑らかに動くため、この加熱過程も定圧変化となり、圧力は(3)の状態で決まった \(P’ = P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\) のままです。
まず、加えられた熱量 \(\displaystyle\frac{1}{3}Q\) と定圧モル比熱 \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) を用いて、気体の温度が \(T_0\) からどれだけ上昇するかを計算し、加熱後の温度 \(T_2’\) を求めます。
次に、定圧変化なのでシャルルの法則(\(\frac{V}{T} = \text{一定}\))が適用できます。これを利用して、加熱後の気体の長さ(ピストンの上面からシリンダーの上底までの距離)\(l\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 加熱時間が \(t_1\) 秒の \(\displaystyle\frac{1}{3}\) なので、発生するジュール熱も \(Q\) の \(\displaystyle\frac{1}{3}\) となります。
- この加熱過程も、ピストンが滑らかに動くため定圧変化(圧力は \(P’\) で一定)と考えます。
- 加熱後の温度 \(T_2’\) を計算し、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\) (あるいは断面積が一定なので \(\displaystyle\frac{l}{\text{長さ}} = \text{const}\))を用いて、新しい気体の長さ \(l\) を求めます。
具体的な解説と立式
問(2)より、\(t_1\) 秒間の加熱で発生したジュール熱は \(Q = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0\) でした。
したがって、\(\displaystyle\frac{1}{3}t_1\) 秒間の加熱で発生するジュール熱 \(Q_{\text{加熱}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{加熱}} &= \displaystyle\frac{1}{3}Q \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
この加熱は定圧変化(圧力 \(P’\))で行われます。加熱前の温度は \(T_0\) で、気体の長さは \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L\) でした。加熱後の温度を \(T_2’\) とします。
定圧変化で気体が吸収する熱量は \(Q_{\text{加熱}} = nC_P \Delta T = 1 \cdot C_P (T_2′ – T_0)\) です。単原子分子理想気体の定圧モル比熱は \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) なので、
$$
\displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{2}R (T_2′ – T_0) \quad \cdots ⑨
$$
加熱後の気体の長さを \(l\) とします。定圧変化なので、シャルルの法則より、体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の間には \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) の関係があります。断面積 \(S\) は一定なので、\(\displaystyle\frac{Sl_0}{T_0} = \displaystyle\frac{Sl}{T_2′}\)、すなわち \(\displaystyle\frac{l_0}{T_0} = \displaystyle\frac{l}{T_2′}\) が成り立ちます。
ここから \(l\) を求める式は、
$$
l = l_0 \cdot \displaystyle\frac{T_2′}{T_0} \quad \cdots ⑩
$$
まず式⑨から \(T_2’\) を求め、それを式⑩に代入して \(l\) を計算します。
使用した物理公式
- ジュール熱と加熱時間の比例関係
- 定圧モル比熱 (単原子分子理想気体): \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
- 熱量 (定圧変化): \(Q = nC_P \Delta T\)
- シャルルの法則 (定圧変化): \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\) (断面積一定なので \(\displaystyle\frac{l}{\text{長さ}} = \text{const}\))
まず、式⑨から \(T_2’\) を求めます。
$$
\displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{2}R (T_2′ – T_0)
$$
両辺の \(\displaystyle\frac{5}{2}R\) で割ります(\(R \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\left(\displaystyle\frac{5}{12}RT_0\right) \cdot \left(\displaystyle\frac{2}{5R}\right) &= T_2′ – T_0 \\[2.0ex]
\displaystyle\frac{1}{6}T_0 &= T_2′ – T_0
\end{aligned}
$$
したがって、加熱後の温度 \(T_2’\) は、
$$
\begin{aligned}
T_2′ &= T_0 + \displaystyle\frac{1}{6}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{7}{6}T_0
\end{aligned}
$$
次に、この \(T_2’\) を式⑩に代入して \(l\) を求めます。加熱前の長さは \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L\) でした。
$$
\begin{aligned}
l &= \left(\displaystyle\frac{2}{3}L\right) \cdot \displaystyle\frac{\frac{7}{6}T_0}{T_0}
\end{aligned}
$$
\(T_0\) が約分されて、
$$
\begin{aligned}
l &= \displaystyle\frac{2}{3}L \cdot \displaystyle\frac{7}{6} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2 \cdot 7}{3 \cdot 6}L \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{14}{18}L \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{7}{9}L
\end{aligned}
$$
問題では \(l = \text{オ} \cdot L\) の形で答えるように指示されているので、オに入る数値は \(\displaystyle\frac{7}{9}\) です。
シリンダーを逆さにした状態で、今度はヒーターのスイッチを \(t_1\) 秒間の \(1/3\) だけの時間入れます。すると、気体はまた温められて膨張し、ピストンが動きます(この場合は下がります)。このときも圧力は一定のままです。まず、発生する熱の量から気体の温度がどれだけ上がるかを計算します(熱量の式を使います)。次に、温度と体積(ここでは気体の長さ)は比例関係にある(シャルルの法則)ので、温度がどれだけ上がったかを使って、気体の長さがどれだけ伸びる(長くなる)かを計算します。
ヒーターに \(\displaystyle\frac{1}{3}t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流したとき、ピストンの上面はシリンダーの上底から \(l = \displaystyle\frac{7}{9}L\) の所に静止します。
加熱前の気体の長さは \(\displaystyle\frac{2}{3}L = \displaystyle\frac{6}{9}L\) でしたので、加熱により気体が膨張し、ピストンが下がって気体の長さが \(\displaystyle\frac{7}{9}L\) になったことを示しており、物理的に妥当な結果です。
このとき、ピストンがシリンダーの下底に達していないか確認しておきましょう。シリンダーの全長が \(L\) で、ピストンの厚さが \(\displaystyle\frac{1}{9}L\) なので、もしピストンの上面がシリンダーの下底に達した場合、その位置は上底から \(L – \displaystyle\frac{1}{9}L = \displaystyle\frac{8}{9}L\) となります。現在の \(l = \displaystyle\frac{7}{9}L\) はまだ \(\displaystyle\frac{8}{9}L\) には達していないため、ピストンはまだシリンダーの途中にあり、定圧変化が継続していると考えて問題ありません。
問(5) カ
思考の道筋とポイント
(4)の状態から、さらにヒーターに \(\displaystyle\frac{2}{3}t_1\) 秒間電流を流します。この間に発生するジュール熱は \(\displaystyle\frac{2}{3}Q = \displaystyle\frac{2}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0\) です。
この加熱の過程で、ピストンがシリンダーの下底に達する可能性があります。ピストンが下底に達すると、それ以上体積は変化できなくなるため、それ以降の加熱は定積変化となります。したがって、この設問は2段階のプロセスで考える必要があります。
- 定圧膨張の段階: (4)の終了時の状態(温度 \(T_2′ = \frac{7}{6}T_0\)、気体の長さ \(l_{\text{前}} = \frac{7}{9}L\))から、ピストンがシリンダーの下底に達するまでの定圧変化を考えます。ピストンが下底に達するときのA室の気体の長さは、シリンダー全長 \(L\) からピストンの厚さ \(\frac{1}{9}L\) を引いた \(l_{\text{底}} = L – \frac{1}{9}L = \frac{8}{9}L\) です。この下底に達したときの気体の温度を \(T”\) とし、この定圧膨張の間に気体が吸収した熱量を \(q_1\) とします。
- 定積加熱の段階: ピストンが下底に達した後(温度 \(T”\)、気体の長さ \(l_{\text{底}} = \frac{8}{9}L\) で体積一定)、さらに加熱されて最終温度 \(T_1\) になるまでの定積変化を考えます。この設問の \(\frac{2}{3}t_1\) 秒間の加熱で供給される総熱量から \(q_1\) を引いた残りの熱量 \(q_2\) が、この定積加熱に使われます。\(q_2 = nC_V(T_1 – T”)\) の関係から最終温度 \(T_1\) を求めます。単原子分子理想気体の定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) です。
この設問における重要なポイント
- 加熱の途中で変化の種類が「定圧変化」から「定積変化」へ移行する点を見抜くことが最も重要です。
- ピストンがシリンダーの下底に達するときのA室の気体の最大の長さ(\(L – \frac{1}{9}L = \frac{8}{9}L\))を正しく把握します。
- 各段階(定圧膨張、定積加熱)で吸収される熱量と温度変化の関係を、適切なモル比熱(\(C_P\) または \(C_V\))を用いて計算します。
具体的な解説と立式
この設問(5)でヒーターから供給される総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) は、\(\displaystyle\frac{2}{3}t_1\) 秒間の加熱なので、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{供給}} &= \displaystyle\frac{2}{3}Q \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{2}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{6}RT_0
\end{aligned}
$$
ステップ1: ピストンが下底に達するまでの定圧膨張
(4)の終了時の状態は、温度 \(T_2′ = \displaystyle\frac{7}{6}T_0\)、A室の気体の長さ \(l_{\text{前}} = \displaystyle\frac{7}{9}L\)。圧力は \(P’\) で一定です。
ピストンがシリンダーの下底に達すると、A室の気体の長さは \(l_{\text{底}} = L – \displaystyle\frac{1}{9}L = \displaystyle\frac{8}{9}L\) となります。
このときの温度を \(T”\) とすると、定圧変化なのでシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{l_{\text{前}}}{T_2′} = \displaystyle\frac{l_{\text{底}}}{T”}\) より、
$$
T” = T_2′ \cdot \displaystyle\frac{l_{\text{底}}}{l_{\text{前}}} \quad \cdots ⑪
$$
この定圧膨張の間に気体が吸収した熱量 \(q_1\) は \(q_1 = nC_P(T” – T_2′)\)。ここで \(n=1, C_P=\frac{5}{2}R\)。
$$
q_1 = \displaystyle\frac{5}{2}R (T” – T_2′) \quad \cdots ⑫
$$
ステップ2: ピストンが下底に達した後の定積加熱
ピストンが下底に達した後、さらに供給される熱量 \(q_2\) は、この設問で供給された総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) から \(q_1\) を引いたものです。
$$
q_2 = Q_{\text{供給}} – q_1 \quad \cdots ⑬
$$
この \(q_2\) の熱は、体積一定(A室の気体の長さ \(l_{\text{底}} = \frac{8}{9}L\) で固定)のまま気体の温度を \(T”\) から最終温度 \(T_1\) まで上昇させるのに使われます(定積変化)。
単原子分子理想気体の定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) です。
$$
q_2 = nC_V(T_1 – T”) = 1 \cdot \displaystyle\frac{3}{2}R (T_1 – T”) \quad \cdots ⑭
$$
式⑬と⑭から \(T_1\) を求めます。
使用した物理公式
- シャルルの法則 (定圧変化): \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\) (または \(\displaystyle\frac{l}{\text{長さ}} = \text{const}\))
- 熱量 (定圧変化): \(Q = nC_P \Delta T\) (ここで \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\))
- 熱量 (定積変化): \(Q = nC_V \Delta T\) (ここで \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\))
まず、式⑪を用いて \(T”\) を計算します。 \(T_2′ = \displaystyle\frac{7}{6}T_0\), \(l_{\text{前}} = \displaystyle\frac{7}{9}L\), \(l_{\text{底}} = \displaystyle\frac{8}{9}L\)。
$$
\begin{aligned}
T” &= \left(\displaystyle\frac{7}{6}T_0\right) \cdot \displaystyle\frac{\frac{8}{9}L}{\frac{7}{9}L} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{7}{6}T_0 \cdot \displaystyle\frac{8}{7} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{8}{6}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{4}{3}T_0
\end{aligned}
$$
次に、式⑫を用いて \(q_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
q_1 &= \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{4}{3}T_0 – \displaystyle\frac{7}{6}T_0\right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{8}{6}T_0 – \displaystyle\frac{7}{6}T_0\right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{1}{6}T_0\right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{12}RT_0
\end{aligned}
$$
次に、式⑬を用いて \(q_2\) を計算します。 \(Q_{\text{供給}} = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0\)。
$$
\begin{aligned}
q_2 &= \displaystyle\frac{5}{6}RT_0 – \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 – \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{12}RT_0
\end{aligned}
$$
最後に、この \(q_2\) と \(T” = \displaystyle\frac{4}{3}T_0\) を式⑭に代入して \(T_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{5}{12}RT_0 &= \displaystyle\frac{3}{2}R \left(T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0\right)
\end{aligned}
$$
両辺の \(R\) を消去し、\(\displaystyle\frac{3}{2}\) で両辺を割ると(つまり \(\displaystyle\frac{2}{3}\) を掛けると)、
$$
\begin{aligned}
\left(\displaystyle\frac{5}{12}T_0\right) \cdot \displaystyle\frac{2}{3} &= T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0 \\[2.0ex]
\displaystyle\frac{10}{36}T_0 &= T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0 \\[2.0ex]
\displaystyle\frac{5}{18}T_0 &= T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0
\end{aligned}
$$
\(T_1\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
T_1 &= \displaystyle\frac{5}{18}T_0 + \displaystyle\frac{4}{3}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{18}T_0 + \displaystyle\frac{4 \cdot 6}{3 \cdot 6}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{18}T_0 + \displaystyle\frac{24}{18}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5+24}{18}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{29}{18}T_0
\end{aligned}
$$
問題では \(T_1 = \text{カ} \cdot T_0\) の形で答えるように指示されているので、カに入る数値は \(\displaystyle\frac{29}{18}\) です。
さらにヒーターで気体を温め続けると、ピストンはどんどん下がり(気体の長さは長くなり)、やがてシリンダーの底にぶつかってしまいます。この問題では、この「底にぶつかる」という出来事が、加熱の途中で起こります。
- ピストンが底にぶつかるまで: まず、ピストンが動き始めてから底にぶつかるまでの間は、圧力が一定のまま体積が増え、温度も上がります。いつものように、どれだけ温度が上がったら底にぶつかるかを計算し、その間にどれだけの熱が使われたかも計算します。
- ピストンが底にぶつかった後: ピストンが底にぶつかると、もう気体はそれ以上膨らむことができません(体積が一定になります)。この状態で、残りの熱(この設問で加える予定だった総熱量から、ステップ1で使った熱量を引いたもの)を加えると、今度は体積が変わらないまま圧力と温度が上がっていきます。この2段階目の温度上昇を計算し、最終的な気体の温度を求めます。
最終的な気体の温度 \(T_1\) は \(\displaystyle\frac{29}{18}T_0 \text{ [K]}\) となります。
各段階での温度変化を追うと、\(T_0 \rightarrow T_2′(\frac{7}{6}T_0 \approx 1.167T_0) \rightarrow T”(\frac{4}{3}T_0 \approx 1.333T_0) \rightarrow T_1(\frac{29}{18}T_0 \approx 1.611T_0)\) と、順調に温度が上昇していることがわかります。これは物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
(3)の最初の状態(シリンダー逆転直後、温度 \(T_0\)、気体の長さ \(\frac{2}{3}L\)、圧力 \(P’\))から、(5)の最終状態(温度 \(T_1\)、気体の長さ \(\frac{8}{9}L\)(下底に達しているため))までの全体のエネルギー変化を一気に考える方法です。
この設問における重要なポイント
- プロセス全体のエネルギー収支: 始状態と終状態を明確にし、その間の\(\Delta U\), \(Q\), \(W\)をそれぞれ計算して熱力学第一法則に代入します。
- 仕事の計算区間: 仕事が行われるのは体積が変化する区間のみであることに注意します。
具体的な解説と立式
初状態((3)のシリンダー逆転直後):
温度 \(T_0\), 気体の体積 \(V_{\text{初}} = S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L\)。
このときの内部エネルギー \(U_{\text{初}} = \displaystyle\frac{3}{2}RT_0\)。
終状態((5)の加熱終了後):
温度 \(T_1\), 気体の体積 \(V_{\text{後}} = S \cdot \displaystyle\frac{8}{9}L\) (ピストンが下底に達しているため)。
このときの内部エネルギー \(U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{3}{2}RT_1\)。
内部エネルギーの変化 \(\Delta U\):
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= U_{\text{後}} – U_{\text{初}} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{3}{2}RT_1 – \displaystyle\frac{3}{2}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) \quad \cdots (別解1-1)
\end{aligned}
$$
この間に気体に加えられた総熱量 \(Q_{\text{全}}\):
(4)での加熱量 \(Q_{(4)} = \displaystyle\frac{1}{3}Q = \displaystyle\frac{1}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{12}RT_0\)。
(5)での加熱量 \(Q_{(5)} = \displaystyle\frac{2}{3}Q = \displaystyle\frac{2}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0\)。
したがって、総熱量 \(Q_{\text{全}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{全}} &= Q_{(4)} + Q_{(5)} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 + \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{15}{12}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 \quad \cdots (別解1-2)
\end{aligned}
$$
(これは元の \(Q\) と同じ値です)
気体がした全仕事 \(W_{\text{全}}\):
ピストンは、気体の長さが \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L\) から \(l_{\text{底}} = \displaystyle\frac{8}{9}L\) になるまで、圧力 \(P’\) のもとで膨張します。ピストンが下底に達した後は体積が変化しないため、仕事はしません。
(3)の状態方程式 \(P’S\displaystyle\frac{2}{3}L = RT_0\) より、\(P’S = \displaystyle\frac{RT_0}{\frac{2}{3}L} = \displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\)。
仕事 \(W_{\text{全}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{全}} &= P'(V_{\text{後}} – V_{\text{初}}) \\[2.0ex]
&= P’S(l_{\text{底}} – l_0) \quad \cdots (別解1-3)
\end{aligned}
$$
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{全}} – W_{\text{全}}\) にこれらの式を代入して \(T_1\) を求めます。
まず、(別解1-3)の \(W_{\text{全}}\) を計算します。
\(P’S = \displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\), \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L = \displaystyle\frac{6}{9}L\), \(l_{\text{底}} = \displaystyle\frac{8}{9}L\)。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{全}} &= \left(\displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\right) \left(\displaystyle\frac{8}{9}L – \displaystyle\frac{6}{9}L\right) \\[2.0ex]
&= \left(\displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\right) \left(\displaystyle\frac{2}{9}L\right)
\end{aligned}
$$
\(L\) が約分され、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{全}} &= \displaystyle\frac{3 \cdot 2}{2 \cdot 9}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{6}{18}RT_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1}{3}RT_0
\end{aligned}
$$
次に、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{全}} – W_{\text{全}}\) に値を代入します。
(別解1-1) \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\)
(別解1-2) \(Q_{\text{全}} = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0\)
$$
W_{\text{全}} = \displaystyle\frac{1}{3}RT_0
$$
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) &= \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 – \displaystyle\frac{1}{3}RT_0
\end{aligned}
$$
両辺の \(R\) を消去します(\(R \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{3}{2}(T_1 – T_0) &= \left(\displaystyle\frac{5}{4} – \displaystyle\frac{1}{3}\right)T_0
\end{aligned}
$$
右辺の括弧内を計算します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{5}{4} – \displaystyle\frac{1}{3} &= \displaystyle\frac{15}{12} – \displaystyle\frac{4}{12} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{11}{12}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{3}{2}(T_1 – T_0) &= \displaystyle\frac{11}{12}T_0
\end{aligned}
$$
両辺に \(\displaystyle\frac{2}{3}\) を掛けて \(T_1 – T_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T_1 – T_0 &= \displaystyle\frac{11}{12}T_0 \cdot \displaystyle\frac{2}{3} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{11 \cdot 2}{12 \cdot 3}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{22}{36}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{11}{18}T_0
\end{aligned}
$$
したがって、\(T_1\) は、
$$
\begin{aligned}
T_1 &= T_0 + \displaystyle\frac{11}{18}T_0 \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{18T_0 + 11T_0}{18} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{29}{18}T_0
\end{aligned}
$$
別解である熱力学第一法則をプロセス全体に適用する方法でも、最終的な気体の温度 \(T_1\) は \(\displaystyle\frac{29}{18}T_0 \text{ [K]}\) となり、本解説で段階的に計算した結果と一致します。このことは、計算の正しさをお互いに裏付けるものです。全体のエネルギー収支で考えることで、途中の複雑な状態変化の詳細を追わずに最終結果を得られる場合があり、有効な検算手段ともなります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式と力のつり合いの連立:
- 核心: この問題のように、ピストンが動く状況では、気体の状態(圧力、体積、温度)と、ピストンにはたらく力学的な条件(力のつり合い)が密接に関連しています。したがって、問題を解く鍵は、熱力学の法則である「状態方程式」と、力学の法則である「力のつり合いの式」を連立させて解くことにあります。
- 理解のポイント:
- 状態方程式を立てる: 考察する全ての状態(初期状態、動き出す瞬間、膨張後、圧縮後など)について、\(PV=nRT\)を適用します。
- 力のつり合いを考える: ピストンが「動き始める瞬間」や「ゆっくり動いている」ときは、力がつり合っていると考えます。ピストンにはたらく力(気体の圧力による力、大気圧による力、重力)をすべて図示し、つり合いの式を立てます。
- 連立して解く: これら2種類の式を連立させることで、未知の圧力や温度を、与えられた量で表すことができます。
- 熱力学第一法則と各状態変化の性質:
- 核心: 気体のエネルギー収支を計算する上で、熱力学第一法則(\(\Delta U = Q + W_{\text{on}}\))が基本となります。さらに、各状態変化(定積、定圧、断熱)の特性(何がゼロになるか、\(Q\)や\(W\)の計算式は何か)を正確に適用することが求められます。
- 理解のポイント:
- 定積変化 (問1): \(V\)が一定なので\(W=0\)。したがって\(\Delta U = Q\)。加えられた熱はすべて内部エネルギーの増加に使われます。
- 定圧変化 (問2): \(P\)が一定。加えられた熱\(Q\)は、内部エネルギーの増加\(\Delta U\)と、外部への仕事\(W’_{\text{by}}\)の両方に使われます。
- 断熱変化 (問3): \(Q=0\)。したがって\(\Delta U = W_{\text{on}}\)。外部からされた仕事はすべて内部エネルギーの増加に使われます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- U字管内の液体と気体: U字管の一方を封じ、気体を閉じ込めて加熱する問題。力のつり合いが、液面の高さの差による圧力(\(\rho h g\))で決まります。
- ばね付きピストン: ピストンがばねで固定されている問題。力のつり合いに、ばねの弾性力(\(kx\))が加わります。
- 熱気球: 熱気球の浮力と重力のつり合いを考える問題。本質的には、ピストンの重力のかわりに内部空気の重力を、大気圧のかわりに浮力を考える点で類似しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 過程を区切って考える: 問題文を読み、「ピストンが動き出すまで」「動き出してから」「ヒーターを切ってから」のように、物理現象が切り替わる点で過程を明確に区切ることが第一歩です。
- 各過程の性質を特定する: 区切った各過程が、定積・定圧・等温・断熱のどれに当たるかを特定します。
- 「ストッパーで固定」「体積一定」→ 定積変化
- 「ピストンが自由に動く」「なめらかに動く」→ 定圧変化(外部の圧力が一定の場合)
- 「ゆっくり温度を保ちながら」→ 等温変化
- 「断熱材」「急激に」→ 断熱変化
- 未知の文字は自分で設定する: この問題ではピストンの断面積\(S\)が与えられていませんが、計算に必要です。このような場合は、自分で文字を設定して立式を進めましょう。正しく解けば、これらの文字は最終的に答えから消去されるはずです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ピストンが動き出す条件の誤解:
- 誤解: 加熱を始めた瞬間から定圧変化が始まると勘違いする。
- 対策: ストッパーがある場合、まず内部の圧力が上昇してストッパーから離れるための条件(力のつり合い)を満たす必要があります。この段階までは体積が一定であることを見落とさないようにしましょう。
- 内部エネルギーの公式の適用:
- 誤解: \(\Delta U = nC_V \Delta T\)は定積変化のときしか使えないと勘違いする。
- 対策: 理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まるため、この公式はあらゆる状態変化で成り立ちます。これは熱力学で最も重要な知識の一つです。
- 仕事と熱量の計算式の混同:
- 誤解: 定圧変化の熱量を\(nC_V\Delta T\)で計算したり、仕事と熱量を混同したりする。
- 対策: 各状態変化について、\(Q\)と\(W\)の計算式を正確に覚え、使い分けることが重要です。
- \(W’_{\text{by}}\) (した仕事): 定圧なら\(P\Delta V\)、定積なら0、断熱なら\(-\Delta U\)。
- \(Q\) (吸収熱): 定圧なら\(nC_P\Delta T\)、定積なら\(nC_V\Delta T\)、断熱なら0。
- ポアソンの法則の指数の間違い:
- 誤解: \(PV^\gamma=\text{一定}\)の\(\gamma\)の値を間違える。あるいは、\(TV^{\gamma-1}\)や\(P^{1-\gamma}T^\gamma\)の形をうろ覚えで使って間違える。
- 対策: 単原子分子なら\(\gamma = 5/3\)、二原子分子なら\(\gamma=7/5\)となることを覚えましょう。自信がなければ、基本の\(PV^\gamma=\text{一定}\)と状態方程式\(PV=nRT\)から、他の形の式をその場で導出できるように練習しておくのが安全です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 状態方程式 \(PV=nRT\):
- 選定理由: 気体の状態(P, V, T)が変化する問題であり、これらの変数を関係づける基本法則だからです。
- 適用根拠: 問題文に「理想気体」と明記されているため。
- 力のつり合いの式:
- 選定理由: ピストンという「物体」の運動状態(静止、ゆっくり動く)が記述されており、その原因である「力」を解析する必要があるため。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則で加速度が0の場合に相当します。
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\):
- 選定理由: 気体のエネルギー収支(内部エネルギー、熱、仕事の関係)を問われているため。
- 適用根拠: エネルギー保存則という物理学の普遍的な法則に基づいています。
- ポアソンの法則 \(PV^\gamma = \text{一定}\):
- 選定理由: 「断熱変化」という特定の過程における状態量の関係を直接計算するため。
- 適用根拠: 熱力学第一法則と状態方程式から導出される、断熱変化に特化した法則です。問題文で与えられている場合は、積極的に利用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 状態量を整理する:
- 特に注意すべき点: 状態0, 1, 2, 3と多くの状態が登場するため、それぞれの状態でのP, V, Tがどうなっているかを混同しやすいです。
- 日頃の練習: 各状態について、\(P_0, V_0, T_0\), \(P_1, V_1, T_1\)… のように、変数を添え字で明確に区別して書き出す癖をつけましょう。簡単なP-Vグラフを自分で描いて、各状態をプロットするのも有効です。
- 文字式の代入を丁寧に行う:
- 特に注意すべき点: この問題は、前の設問の結果を次の設問で使う形式です。例えば、(2)で\(T_2\)を求める際に、(1)で求めた\(T_1\)の式を代入するなど、代入が複雑になりがちです。
- 日頃の練習: 複雑な代入を行う際は、一行で済ませようとせず、\(T_1 = \dots\) の関係を明記した上で、次の行で代入を実行するなど、途中式を丁寧に書くことを心がけましょう。
- 最終的な答えの形を確認する:
- 特に注意すべき点: 問題で与えられていない文字(自分で設定した\(S\)など)が、最終的な答えに残っていないかを確認します。
- 日頃の練習: 計算の最終段階で、答えに含めるべき文字(問題文で与えられた\(n, M, L, T_0, R, g\)など)と、消去すべき文字を意識する習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) \(T_1 > T_0\), \(Q_1 > 0\): 加熱しているので、温度が上昇し、熱を吸収しているのは当然です。
- (2) \(T_2 > T_1\), \(W_2 > 0\), \(Q_2 > 0\): 定圧下で加熱を続けているので、さらに温度が上昇し、膨張して仕事をし、熱を吸収するのは妥当です。
- (3) \(T_3 > T_2\), \(W_3 > 0\): 断熱「圧縮」なので、仕事をされて温度が上昇するのは物理的に正しいです。もし計算結果が\(T_3 < T_2\)になったら、どこかで符号ミスをしている可能性が高いです。
- エネルギー収支の確認:
- 例えば問(2)の定圧変化では、加えた熱量\(Q_2\)が、内部エネルギーの増加\(\Delta U_2\)と気体がした仕事\(W_2\)に分配されます。
- \(\Delta U_2 = nC_V(T_2-T_1) = n\frac{3}{2}R(\frac{1}{2}T_1) = \frac{3}{4}nRT_1\)。
- \(W_2 = \frac{1}{2}nRT_1\)。
- \(Q_2 = \Delta U_2 + W_2 = \frac{3}{4}nRT_1 + \frac{1}{2}nRT_1 = \frac{5}{4}nRT_1\)。
- これは、\(Q_2 = nC_P(T_2-T_1) = n\frac{5}{2}R(\frac{1}{2}T_1) = \frac{5}{4}nRT_1\)という直接計算の結果と一致します。このように、異なるアプローチで計算した結果が一致することを確認するのは、非常に有効な検算方法です。
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問題53 (横浜市立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、シリンダー内に封入された1モルの単原子分子理想気体が経験する1サイクルの状態変化を、V-Tグラフ(体積V 対 絶対温度Tグラフ)を用いて解析するものです。グラフから各状態の物理量を特定し、P-Vグラフ(圧力P 対 体積Vグラフ)へ変換するスキル、そしてサイクル全体の熱の吸収量や熱効率を計算する能力が問われます。特に、V-Tグラフ上で原点を通る直線が示す物理的な意味(定圧変化)を正確に捉えることが、問題を解き進める上での重要な鍵となります。
- 封入された気体: 1モルの単原子分子理想気体 (\(n=1\))
- 状態変化: A → B → C → D → A の1サイクル
- 状態A: 温度 \(T_A = T_0\), 体積 \(V_A = V_0\)
- グラフの種類: 横軸が絶対温度 \(T\), 縦軸が体積 \(V\)
- 気体定数: \(R\)
- V-Tグラフから読み取れる情報:
- A→B: 体積 \(V_0\) 一定のまま、温度が \(T_0\) から \(4T_0\) へ変化
- B→C: 体積が \(V_0\) から \(2V_0\) へ、温度が \(4T_0\) から \(T_C\) (未知) へ変化。グラフの線分BCの延長は原点を通る。
- C→D: 体積 \(2V_0\) 一定のまま、温度が \(T_C\) から \(T_D\) (未知) へ変化
- D→A: 体積が \(2V_0\) から \(V_0\) へ、温度が \(T_D\) から \(T_0\) へ変化。グラフの線分DAの延長は原点を通る。
- (1) 状態Aにおける圧力。状態CとDにおける圧力と温度。
- (2) この状態変化を、縦軸に圧力、横軸に体積をとったグラフ(P-Vグラフ)に表すこと。
- (3) 1サイクルの間に、気体が真に吸収した熱量の総和 \(Q_{IN}\)(冷却過程で放出する熱量は含めない)。
- (4) 1サイクルにおける(熱)効率。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) 熱効率の別解: 放出した熱量を用いる解法
- 主たる解法が熱効率の定義式 \(e = \frac{W}{Q_{IN}}\) を直接用いるのに対し、別解では、熱効率のもう一つの表現である \(e = 1 – \frac{Q_{OUT}}{Q_{IN}}\) を用いて計算します。これには、まず冷却過程で放出される熱量の総和 \(Q_{OUT}\) を計算する必要があります。
- 問(4) 熱効率の別解: 放出した熱量を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 公式の多角的理解: 熱効率を定義通り「(仕事)÷(吸収熱)」で計算する方法と、「1 – (放出熱)÷(吸収熱)」で計算する方法の両方を学ぶことで、熱効率という概念への理解が深まります。後者は、熱機関が「吸収した熱の一部を仕事に変え、残りを低温部に捨てる」という本質的な働きを数式で表現しています。
- 検算手法の習得: 異なる二つのアプローチで同じ答えが導出されることを確認することで、計算の正確性を検証する強力な手段(検算)を身につけることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解くための基本的なアプローチは、まず与えられたV-Tグラフから各状態変化(A→B, B→C, C→D, D→A)がどのような種類(定積、定圧、等温、断熱など)に該当するかを特定することです。特に、V-Tグラフ上で原点を通る直線は、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を \(V = \frac{nR}{P}T\) と変形することで、傾き \(\frac{nR}{P}\) が一定、すなわち圧力が一定である「定圧変化」を表すことを見抜くことが重要です。
各状態の圧力・体積・温度が明らかになれば、P-Vグラフへの変換、各過程での熱の出入り(単原子分子理想気体の定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\)、定圧モル比熱 \(C_P = \frac{5}{2}R\) を使用)、1サイクルでの仕事(P-Vグラフで囲まれた面積)、そして熱効率の計算へと進むことができます。