問題52 (立教大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直に置かれたシリンダー内で、ヒーターによって加熱される理想気体の状態変化を扱う熱力学の問題です。ピストンのつり合いや、シリンダーを逆さにした場合の変化、そして段階的な加熱によって気体がどのように振る舞うかを考察します。各設問を通して、理想気体の状態方程式、熱力学第一法則、定圧変化・定積変化の概念が問われます。
- シリンダーの断面積: \(S \text{ [m}^2\text{]}\)
- シリンダーの全長: \(L \text{ [m]}\)
- ピストンの質量: \(M \text{ [kg]}\)
- ピストンの厚さ: \(\displaystyle\frac{1}{9}L \text{ [m]}\)
- A室の気体: 単原子分子の理想気体、1mol
- 気体定数: \(R \text{ [J/(mol}\cdot\text{K)]}\)
- 大気圧: \(P_0 \text{ [Pa]}\)
- 重力加速度: \(g \text{ [m/s}^2\text{]}\)
- ピストンとシリンダーは断熱材でできている。
- シリンダーは鉛直に保たれている。
- A室の気体をヒーターで加熱できる。
- (1) 最初、シリンダーの底からピストンの下面までの高さが \(\displaystyle\frac{1}{2}L \text{ [m]}\) であったときの気体の温度 \(T_0\)(ア)。
- (2) ヒーターに \(t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流し、ピストンが \(\displaystyle\frac{1}{4}L \text{ [m]}\) 上昇したときの、ヒーターが発生したジュール熱 \(Q\)(イ)と、この間に気体がした仕事 \(W\)(ウ)。
- (3) シリンダーの上下を逆転し、気体の温度を \(T_0 \text{ [K]}\) にしたところ、ピストンの上面はシリンダーの上底から \(\displaystyle\frac{2}{3}L \text{ [m]}\) の位置で静止した。このときのピストンの質量 \(M\)(エ、\(\displaystyle\frac{P_0S}{g}\) の係数として)。
- (4) (3)の状態でヒーターに \(\displaystyle\frac{1}{3}t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流したときの、ピストンの上面からシリンダーの上底までの距離 \(l\)(オ、\(L\) の係数として)。
- (5) さらに、ヒーターに \(\displaystyle\frac{2}{3}t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流したときの、最終的な気体の温度 \(T_1\)(カ、\(T_0\) の係数として)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を攻略する鍵は、各状況におけるピストンにはたらく力のつり合いを正確に把握し、それによって定まる気体の圧力を求めることです。そして、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を軸に、温度、体積、圧力の関係を追跡します。加熱による変化では、それが定圧変化なのか定積変化なのかを見極め、単原子分子理想気体のモル比熱(定圧モル比熱 \(C_P = \frac{5}{2}R\)、定積モル比熱 \(C_V = \frac{3}{2}R\))を用いた熱量計算や、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{in}} – W_{\text{out}}\) の適用が重要になります。特に複数の段階を踏む変化では、各段階の初期条件と最終条件を丁寧に整理し、それぞれの過程でどの法則が適用できるかを慎重に判断しましょう。
問(1) ア
思考の道筋とポイント
ピストンが静止しているという事実は、ピストンにはたらく全ての力がつり合っていることを意味します。A室の気体がピストンを押し上げる力、大気圧がピストンを押し下げる力、そしてピストン自身の重力が下向きにはたらいています。これらの力のつり合いからA室の気体の圧力を求めます。求めた圧力と、与えられた体積(断面積 \(S\) × 高さ \(\frac{L}{2}\))、物質量 (1 mol) を理想気体の状態方程式に代入することで、気体の温度 \(T_0\) を導き出します。
この設問における重要なポイント
- ピストンにはたらく力のつり合いの式を正しく立てることが出発点です。
- 力のつり合いから導いた気体の圧力 \(P\) を用いて、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を適用します。
- A室の気体の体積は、断面積 \(S\) と高さ \(\displaystyle\frac{L}{2}\) から \(V_0 = S \cdot \displaystyle\frac{L}{2}\) となります。
具体的な解説と立式
A室の気体の圧力を \(P\) とします。ピストンにはたらく力は、鉛直上向きにA室の気体の圧力による力 \(PS\)、鉛直下向きに大気圧による力 \(P_0S\)、そしてピストンの重力 \(Mg\) です。ピストンは静止しているため、これらの力はつり合っています。したがって、力のつり合いの式は次のようになります。
$$PS = P_0S + Mg \quad \cdots ①$$
この式から、A室の気体の圧力 \(P\) は以下のように表されます。
$$P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S} \quad \cdots ②$$
このときのA室の気体の体積 \(V_0\) は、シリンダーの底からピストンの下面までの高さが \(\displaystyle\frac{L}{2}\) であることから、
$$V_0 = S \cdot \displaystyle\frac{L}{2}$$
気体は1molの単原子分子理想気体であり、その温度を \(T_0\) とすると、理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) (ここで \(n=1\)) より、
$$P V_0 = R T_0$$
この式に、求めた圧力 \(P\) (式②) と体積 \(V_0\) を代入すると、温度 \(T_0\) を求めるための関係式が得られます。
$$\left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) \left(S \cdot \displaystyle\frac{L}{2}\right) = RT_0 \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式③から \(T_0\) について解きます。
$$T_0 = \displaystyle\frac{\left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) S L}{2R}$$
ここで、括弧内の \(S\) を分配法則に従って計算すると、より整理された形になります。
$$T_0 = \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}$$
これが求める初期温度 \(T_0\) です。
ピストンが空中で静止しているのは、下から気体が支える力と、上から大気が押す力およびピストン自身の重さが釣り合っているためです。この釣り合いの関係から、まず気体の圧力がどれくらいかが分かります。次に、気体の圧力、体積(シリンダーの断面積に高さを掛けたもの)、そして気体の量(1molと決まっています)が分かれば、「理想気体の法則」という便利な関係式を使って、気体の温度を計算することができます。
最初の気体の温度 \(T_0\) は \(\displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R} \text{ [K]}\) となります。
この結果は、問題で与えられた物理量(\(P_0, S, M, g, L, R\))のみで表されており、単位も温度の単位であるケルビン(K)となるため、物理的に妥当です。例えば、もしピストンの質量 \(M\) がゼロであったと仮定すると、\(T_0 = \displaystyle\frac{P_0SL}{2R}\) となり、これはピストンの重さを無視した場合の温度を表しており、直感とも一致します。
問(2) イ, ウ
思考の道筋とポイント
ヒーターで気体を加熱すると、気体は膨張しピストンが \(\displaystyle\frac{L}{4}\) だけ上昇します。ピストンは「滑らかに動く」とされているため、ピストンが動いている間も、A室の気体の圧力は常に外部の力(大気圧とピストンの重力)とつり合った状態、すなわち問(1)で求めた圧力 \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) で一定であると考えられます。これは定圧変化です。
(イ) まず、定圧変化後の気体の温度を求めます。単原子分子理想気体の場合、定圧モル比熱は \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。これを用いて、気体が吸収した熱量(ヒーターが発生したジュール熱)\(Q\) を \(Q = nC_P \Delta T\) の式から計算します。
(ウ) 定圧変化において気体が外部にした仕事 \(W\) は、\(W = P\Delta V\) で計算できます。\(\Delta V\) は体積の変化量です。
この設問における重要なポイント
- ピストンが滑らかに動くため、加熱中の気体の圧力は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) で一定(定圧変化)とみなします。
- ピストンが \(\displaystyle\frac{L}{4}\) 上昇した後の、A室の気体の高さを正しく計算し(元の高さ \(\displaystyle\frac{L}{2}\) と合わせて \(\displaystyle\frac{3L}{4}\))、体積を求めます。
- 単原子分子理想気体の定圧モル比熱 \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) を適用します。
- 気体がした仕事は \(W = P\Delta V\) で求められます。
具体的な解説と立式
(イ) ヒーターが発生したジュール熱 \(Q\)
加熱中、A室の気体の圧力 \(P\) は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) で一定です。
初めのA室の気体の高さを \(h_0 = \displaystyle\frac{L}{2}\) とします。ピストンが \(\displaystyle\frac{L}{4}\) 上昇したので、上昇後の高さ \(h_1\) は、
$$h_1 = h_0 + \displaystyle\frac{L}{4} = \displaystyle\frac{L}{2} + \displaystyle\frac{L}{4} = \displaystyle\frac{2L+L}{4} = \displaystyle\frac{3L}{4}$$
初めの体積は \(V_0 = Sh_0 = S\displaystyle\frac{L}{2}\)、上昇後の体積は \(V_1 = Sh_1 = S\displaystyle\frac{3L}{4}\) です。
初めの温度は \(T_0\) でした。上昇後の温度を \(T_1’\) とします。
定圧変化なので、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立ちます。
$$\displaystyle\frac{V_0}{T_0} = \displaystyle\frac{V_1}{T_1′}$$
この式から \(T_1’\) は次のように表されます。
$$T_1′ = T_0 \cdot \displaystyle\frac{V_1}{V_0} = T_0 \cdot \displaystyle\frac{S\frac{3L}{4}}{S\frac{L}{2}} = T_0 \cdot \displaystyle\frac{\frac{3}{4}}{\frac{1}{2}} = T_0 \cdot \displaystyle\frac{3}{4} \cdot 2 = \displaystyle\frac{3}{2}T_0$$
気体に加えられた熱量 \(Q\) は、定圧変化における熱量の公式 \(Q = nC_P \Delta T\) で与えられます。ここで \(n=1\)、単原子分子理想気体の定圧モル比熱は \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。温度変化 \(\Delta T = T_1′ – T_0\)。
$$Q = 1 \cdot \displaystyle\frac{5}{2}R (T_1′ – T_0) \quad \cdots ④$$
問(1)で求めた \(T_0 = \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}\) を用いて、\(Q\) を \(P_0, S, M, g, L, R\) で表すことを目指します。
(ウ) この間に気体がした仕事 \(W\)
定圧変化において気体が外部にした仕事 \(W\) は \(W = P\Delta V\) です。
体積の変化量 \(\Delta V\) は、
$$\Delta V = V_1 – V_0 = S\displaystyle\frac{3L}{4} – S\displaystyle\frac{L}{2} = S\left(\displaystyle\frac{3L}{4} – \displaystyle\frac{2L}{4}\right) = S\displaystyle\frac{L}{4}$$
圧力 \(P\) は \(P = P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) なので、仕事 \(W\) は、
$$W = \left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) \Delta V = \left(P_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) S\displaystyle\frac{L}{4} \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- シャルルの法則 (定圧変化): \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\)
- 定圧モル比熱 (単原子分子理想気体): \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
- 熱量 (定圧変化): \(Q = nC_P \Delta T\)
- 気体が外部にした仕事 (定圧変化): \(W = P\Delta V\)
(イ) ジュール熱 \(Q\) の計算
式④に \(T_1′ = \displaystyle\frac{3}{2}T_0\) を代入します。
$$Q = \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{3}{2}T_0 – T_0\right) = \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{1}{2}T_0\right) = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0$$
次に、この式に \(T_0 = \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}\) (問(1)の結果)を代入します。
$$Q = \displaystyle\frac{5}{4}R \left( \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R} \right)$$
\(R\) が約分されて、
$$Q = \displaystyle\frac{5(P_0S + Mg)L}{4 \cdot 2} = \displaystyle\frac{5(P_0S + Mg)L}{8}$$
これがヒーターが発生したジュール熱です。
(ウ) 気体がした仕事 \(W\) の計算
式⑤を展開します。
$$W = \left(P_0S + Mg\right)\displaystyle\frac{L}{4}$$
これが気体がした仕事です。
(イ) ヒーターで気体を温めると、気体は温度が上がって膨らもうとします。ピストンが自由に動けるので、気体の圧力は最初の状態と同じまま保たれます。体積がどれだけ増えたか(ピストンがどれだけ上がったか)が分かっているので、それを使って温度がどれだけ上昇したかが「シャルルの法則」から計算できます。単原子の理想気体の場合、圧力が一定のままで温度を上げるのに必要な熱量は、温度の上昇分に比例します。その比例定数が物質量 \(1 \text{mol} \times \text{定圧モル比熱 } \frac{5}{2}R\) です。
(ウ) 気体が膨らんでピストンを押し上げるとき、気体は外部に対して「仕事」をします。圧力が一定の場合、この仕事の量は「気体の圧力 × 体積が増えた量」で簡単に計算できます。
(イ) ヒーターが発生したジュール熱 \(Q\) は \(\displaystyle\frac{5(P_0S + Mg)L}{8} \text{ [J]}\) です。
(ウ) この間に気体がした仕事 \(W\) は \((P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{4} \text{ [J]}\) です。
これらの結果は物理的に妥当な単位と形式を持っています。熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) と照らし合わせてみましょう。
問(1)で \( (P_0S + Mg)L = 2RT_0 \) という関係があったので、これを使うと仕事 \(W\) は、
\(W = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{4} = \displaystyle\frac{1}{4}(P_0S+Mg)L = \displaystyle\frac{1}{4}(2RT_0) = \displaystyle\frac{1}{2}RT_0\)。
ジュール熱 \(Q\) は、\(T_0\) を使った表現では \(\displaystyle\frac{5}{4}RT_0\) でした。
よって、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
\(\Delta U = Q – W = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 – \displaystyle\frac{1}{2}RT_0 = \left(\displaystyle\frac{5}{4} – \displaystyle\frac{2}{4}\right)RT_0 = \displaystyle\frac{3}{4}RT_0\)。
一方、単原子分子理想気体の内部エネルギーの変化は \(\Delta U = nC_V \Delta T = 1 \cdot \displaystyle\frac{3}{2}R (T_1′ – T_0)\) で計算できます。\(T_1′ = \displaystyle\frac{3}{2}T_0\) だったので、
\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}R \left(\displaystyle\frac{3}{2}T_0 – T_0\right) = \displaystyle\frac{3}{2}R \left(\displaystyle\frac{1}{2}T_0\right) = \displaystyle\frac{3}{4}RT_0\)。
両者の \(\Delta U\) が一致しており、計算結果の整合性が確認できました。
問(3) エ
思考の道筋とポイント
シリンダーの上下を逆転させると、ピストンにはたらく力の方向が変化します。大気圧はピストンの下面(もともと気体に接していた面)から上向きに作用し、A室の気体の圧力はピストンの上面(もともと大気に接していた面)から下向きに作用します。ピストンの重力も下向きです。ピストンが図2のように特定の位置で静止しているので、これらの力がつり合っています。このつり合いから、新しい気体の圧力 \(P’\) をピストンの質量 \(M\) を含む形で表します。
次に、この状態の気体の体積を図2から読み取ります(気体の長さ \(\frac{2}{3}L\)、断面積 \(S\))。温度は \(T_0\)(問(1)で求めた初期温度と同じ)と与えられています。これらの情報 \(P’, V’, T_0\) を理想気体の状態方程式に適用します。
この状態方程式と、問(1)で導いた \(T_0\) の定義式(式③: \((P_0S + Mg)L = 2RT_0\))を連立させることで、未知数であるピストンの質量 \(M\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- シリンダーを逆転させた際の力のつり合いを正しく理解し、立式することが重要です。
- 図2からA室の気体の長さが \(\displaystyle\frac{2}{3}L\) であることを読み取り、体積 \(V’ = S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L\) を計算します。
- この状態での気体の温度は、問(1)の初期温度 \(T_0\) と同じであることを用います。
- 二つの状態(問(1)の初期状態と、この逆転した状態)に関する状態方程式(または \(T_0\) の式)を連立させて \(M\) を解きます。
具体的な解説と立式
シリンダーを逆転させたときのA室の気体の圧力を \(P’\) とします。
このときピストンにはたらく力は、鉛直下向きにA室の気体の圧力による力 \(P’S\) とピストンの重力 \(Mg\)、そして鉛直上向きに大気圧による力 \(P_0S\) です。ピストンは静止しているので、これらの力はつり合っています。
$$P_0S = P’S + Mg$$
この式から、A室の気体の圧力 \(P’\) は以下のように表されます。
$$P’ = P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S} \quad \cdots ⑥$$
(この状態が成り立つためには、\(P_0S > Mg\)、つまり \(P’ > 0\) である必要があります。)
図2より、このときのA室の気体の長さは \(\displaystyle\frac{2}{3}L\) ですから、気体の体積 \(V’\) は、
$$V’ = S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L$$
このときの気体の温度は \(T_0\) と与えられているので、理想気体の状態方程式 \(P’V’ = nRT_0\) (ここで \(n=1\)) は、
$$P’ \left(S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L\right) = RT_0$$
この式に \(P’\) (式⑥) を代入すると、
$$\left(P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) S \displaystyle\frac{2}{3}L = RT_0 \quad \cdots ⑦$$
ここで、問(1)の式③より \(RT_0 = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{2}\) という関係があります。この関係を式⑦に用いて \(M\) について解きます。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式⑦の左辺を展開すると \((P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3}L\)。
式⑦に \(RT_0 = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{2}\) を代入すると、
$$(P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3}L = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{L}{2}$$
両辺に共通する \(L\) を消去します(\(L \neq 0\))。
$$(P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3} = (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{1}{2}$$
分母を払うために両辺に \(6\) を掛けます。
$$6 \cdot (P_0S – Mg)\displaystyle\frac{2}{3} = 6 \cdot (P_0S + Mg)\displaystyle\frac{1}{2}$$
$$4(P_0S – Mg) = 3(P_0S + Mg)$$
展開して整理します。
$$4P_0S – 4Mg = 3P_0S + 3Mg$$
\(P_0S\) の項を左辺に、\(Mg\) の項を右辺に集めます。
$$4P_0S – 3P_0S = 3Mg + 4Mg$$
$$P_0S = 7Mg$$
したがって、ピストンの質量 \(M\) は、
$$M = \displaystyle\frac{P_0S}{7g}$$
問題では \(M = \text{エ} \cdot \displaystyle\frac{P_0S}{g}\) の形で答えるように指示されているので、エに入る数値は \(\displaystyle\frac{1}{7}\) です。
シリンダーをさかさまにすると、ピストンにかかる力のバランスが変わります。今度は、下から大気が押し上げ、上からは気体が押さえつけ、さらにピストンの重さも下向きにかかります。この新しい力の釣り合いから、気体の圧力が(ピストンの重さ \(M\) を使って)表せます。気体の体積は図から読み取り、温度は最初の状態と同じ \(T_0\) と決められています。これらの情報を使って「理想気体の法則」の式を立てます。この式と、問(1)で \(T_0\) を求めたときの式を組み合わせることで、ピストンの重さ \(M\) を計算することができます。
ピストンの質量 \(M\) は \(\displaystyle\frac{1}{7}\frac{P_0S}{g} \text{ [kg]}\) となります。
この結果は、\(P_0, S, g\) といった基本的な物理量で構成されており、単位も質量 [kg] となり物理的に妥当です。\(\displaystyle\frac{P_0S}{g}\) は大気圧による力を重力加速度で割ったもので、ある基準となる質量と見なせます。ピストンの質量がその \(\displaystyle\frac{1}{7}\) であるという具体的な関係が導かれました。この結果は、\(P_0S > Mg\) という条件(\(P_0S > \frac{1}{7}P_0S\)、これは常に成り立つ)を満たしており、物理的に矛盾はありません。
問(4) オ
思考の道筋とポイント
(3)のシリンダーを逆転させた状態(気体の圧力 \(P’\)、温度 \(T_0\)、気体の長さ \(\frac{2}{3}L\))から、ヒーターで \(\displaystyle\frac{1}{3}t_1\) 秒間電流を流します。問(2)で、\(t_1\) 秒間の加熱で \(Q = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0\) のジュール熱が発生することが分かっています。ジュール熱は電流を流す時間に比例するので、\(\displaystyle\frac{1}{3}t_1\) 秒間では \(\displaystyle\frac{1}{3}Q\) の熱が発生します。
ピストンは滑らかに動くため、この加熱過程も定圧変化となり、圧力は(3)の状態で決まった \(P’ = P_0 – \displaystyle\frac{Mg}{S}\) のままです。
まず、加えられた熱量 \(\displaystyle\frac{1}{3}Q\) と定圧モル比熱 \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) を用いて、気体の温度が \(T_0\) からどれだけ上昇するかを計算し、加熱後の温度 \(T_2’\) を求めます。
次に、定圧変化なのでシャルルの法則(\(\frac{V}{T} = \text{一定}\))が適用できます。これを利用して、加熱後の気体の長さ(ピストンの上面からシリンダーの上底までの距離)\(l\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 加熱時間が \(t_1\) 秒の \(\displaystyle\frac{1}{3}\) なので、発生するジュール熱も \(Q\) の \(\displaystyle\frac{1}{3}\) となります。
- この加熱過程も、ピストンが滑らかに動くため定圧変化(圧力は \(P’\) で一定)と考えます。
- 加熱後の温度 \(T_2’\) を計算し、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\) (あるいは断面積が一定なので \(\displaystyle\frac{l}{\text{長さ}} = \text{const}\))を用いて、新しい気体の長さ \(l\) を求めます。
具体的な解説と立式
問(2)より、\(t_1\) 秒間の加熱で発生したジュール熱は \(Q = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0\) でした。
したがって、\(\displaystyle\frac{1}{3}t_1\) 秒間の加熱で発生するジュール熱 \(Q_{\text{加熱}}\) は、
$$Q_{\text{加熱}} = \displaystyle\frac{1}{3}Q = \displaystyle\frac{1}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 \quad \cdots ⑧$$
この加熱は定圧変化(圧力 \(P’\))で行われます。加熱前の温度は \(T_0\) で、気体の長さは \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L\) でした。加熱後の温度を \(T_2’\) とします。
定圧変化で気体が吸収する熱量は \(Q_{\text{加熱}} = nC_P \Delta T = 1 \cdot C_P (T_2′ – T_0)\) です。単原子分子理想気体の定圧モル比熱は \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\) なので、
$$\displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{2}R (T_2′ – T_0) \quad \cdots ⑨$$
加熱後の気体の長さを \(l\) とします。定圧変化なので、シャルルの法則より、体積 \(V\) と絶対温度 \(T\) の間には \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) の関係があります。断面積 \(S\) は一定なので、\(\displaystyle\frac{Sl_0}{T_0} = \displaystyle\frac{Sl}{T_2′}\)、すなわち \(\displaystyle\frac{l_0}{T_0} = \displaystyle\frac{l}{T_2′}\) が成り立ちます。
ここから \(l\) を求める式は、
$$l = l_0 \cdot \displaystyle\frac{T_2′}{T_0} \quad \cdots ⑩$$
まず式⑨から \(T_2’\) を求め、それを式⑩に代入して \(l\) を計算します。
使用した物理公式
- ジュール熱と加熱時間の比例関係
- 定圧モル比熱 (単原子分子理想気体): \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
- 熱量 (定圧変化): \(Q = nC_P \Delta T\)
- シャルルの法則 (定圧変化): \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\) (断面積一定なので \(\displaystyle\frac{l}{\text{長さ}} = \text{const}\))
まず、式⑨から \(T_2’\) を求めます。
$$\displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{2}R (T_2′ – T_0)$$
両辺の \(\displaystyle\frac{5}{2}R\) で割ります(\(R \neq 0\))。
$$\left(\displaystyle\frac{5}{12}RT_0\right) \cdot \left(\displaystyle\frac{2}{5R}\right) = T_2′ – T_0$$
$$\displaystyle\frac{1}{6}T_0 = T_2′ – T_0$$
したがって、加熱後の温度 \(T_2’\) は、
$$T_2′ = T_0 + \displaystyle\frac{1}{6}T_0 = \displaystyle\frac{7}{6}T_0$$
次に、この \(T_2’\) を式⑩に代入して \(l\) を求めます。加熱前の長さは \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L\) でした。
$$l = \left(\displaystyle\frac{2}{3}L\right) \cdot \displaystyle\frac{\frac{7}{6}T_0}{T_0}$$
\(T_0\) が約分されて、
$$l = \displaystyle\frac{2}{3}L \cdot \displaystyle\frac{7}{6} = \displaystyle\frac{2 \cdot 7}{3 \cdot 6}L = \displaystyle\frac{14}{18}L = \displaystyle\frac{7}{9}L$$
問題では \(l = \text{オ} \cdot L\) の形で答えるように指示されているので、オに入る数値は \(\displaystyle\frac{7}{9}\) です。
シリンダーを逆さにした状態で、今度はヒーターのスイッチを \(t_1\) 秒間の \(1/3\) だけの時間入れます。すると、気体はまた温められて膨張し、ピストンが動きます(この場合は下がります)。このときも圧力は一定のままです。まず、発生する熱の量から気体の温度がどれだけ上がるかを計算します(熱量の式を使います)。次に、温度と体積(ここでは気体の長さ)は比例関係にある(シャルルの法則)ので、温度がどれだけ上がったかを使って、気体の長さがどれだけ伸びる(長くなる)かを計算します。
ヒーターに \(\displaystyle\frac{1}{3}t_1 \text{ [s]}\) 間電流を流したとき、ピストンの上面はシリンダーの上底から \(l = \displaystyle\frac{7}{9}L\) の所に静止します。
加熱前の気体の長さは \(\displaystyle\frac{2}{3}L = \displaystyle\frac{6}{9}L\) でしたので、加熱により気体が膨張し、ピストンが下がって気体の長さが \(\displaystyle\frac{7}{9}L\) になったことを示しており、物理的に妥当な結果です。
このとき、ピストンがシリンダーの下底に達していないか確認しておきましょう。シリンダーの全長が \(L\) で、ピストンの厚さが \(\displaystyle\frac{1}{9}L\) なので、もしピストンの上面がシリンダーの下底に達した場合、その位置は上底から \(L – \displaystyle\frac{1}{9}L = \displaystyle\frac{8}{9}L\) となります。現在の \(l = \displaystyle\frac{7}{9}L\) はまだ \(\displaystyle\frac{8}{9}L\) には達していないため、ピストンはまだシリンダーの途中にあり、定圧変化が継続していると考えて問題ありません。
問(5) カ
思考の道筋とポイント
(4)の状態から、さらにヒーターに \(\displaystyle\frac{2}{3}t_1\) 秒間電流を流します。この間に発生するジュール熱は \(\displaystyle\frac{2}{3}Q = \displaystyle\frac{2}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0\) です。
この加熱の過程で、ピストンがシリンダーの下底に達する可能性があります。ピストンが下底に達すると、それ以上体積は変化できなくなるため、それ以降の加熱は定積変化となります。したがって、この設問は2段階のプロセスで考える必要があります。
1. 定圧膨張の段階: (4)の終了時の状態(温度 \(T_2′ = \frac{7}{6}T_0\)、気体の長さ \(l_{\text{前}} = \frac{7}{9}L\))から、ピストンがシリンダーの下底に達するまでの定圧変化を考えます。ピストンが下底に達するときのA室の気体の長さは、シリンダー全長 \(L\) からピストンの厚さ \(\frac{1}{9}L\) を引いた \(l_{\text{底}} = L – \frac{1}{9}L = \frac{8}{9}L\) です。この下底に達したときの気体の温度を \(T”\) とし、この定圧膨張の間に気体が吸収した熱量を \(q_1\) とします。
2. 定積加熱の段階: ピストンが下底に達した後(温度 \(T”\)、気体の長さ \(l_{\text{底}} = \frac{8}{9}L\) で体積一定)、さらに加熱されて最終温度 \(T_1\) になるまでの定積変化を考えます。この設問の \(\frac{2}{3}t_1\) 秒間の加熱で供給される総熱量から \(q_1\) を引いた残りの熱量 \(q_2\) が、この定積加熱に使われます。\(q_2 = nC_V(T_1 – T”)\) の関係から最終温度 \(T_1\) を求めます。単原子分子理想気体の定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) です。
この設問における重要なポイント
- 加熱の途中で変化の種類が「定圧変化」から「定積変化」へ移行する点を見抜くことが最も重要です。
- ピストンがシリンダーの下底に達するときのA室の気体の最大の長さ(\(L – \frac{1}{9}L = \frac{8}{9}L\))を正しく把握します。
- 各段階(定圧膨張、定積加熱)で吸収される熱量と温度変化の関係を、適切なモル比熱(\(C_P\) または \(C_V\))を用いて計算します。
具体的な解説と立式
この設問(5)でヒーターから供給される総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) は、\(\displaystyle\frac{2}{3}t_1\) 秒間の加熱なので、
$$Q_{\text{供給}} = \displaystyle\frac{2}{3}Q = \displaystyle\frac{2}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0$$
ステップ1: ピストンが下底に達するまでの定圧膨張
(4)の終了時の状態は、温度 \(T_2′ = \displaystyle\frac{7}{6}T_0\)、A室の気体の長さ \(l_{\text{前}} = \displaystyle\frac{7}{9}L\)。圧力は \(P’\) で一定です。
ピストンがシリンダーの下底に達すると、A室の気体の長さは \(l_{\text{底}} = L – \displaystyle\frac{1}{9}L = \displaystyle\frac{8}{9}L\) となります。
このときの温度を \(T”\) とすると、定圧変化なのでシャルルの法則 \(\displaystyle\frac{l_{\text{前}}}{T_2′} = \displaystyle\frac{l_{\text{底}}}{T”}\) より、
$$T” = T_2′ \cdot \displaystyle\frac{l_{\text{底}}}{l_{\text{前}}} \quad \cdots ⑪$$
この定圧膨張の間に気体が吸収した熱量 \(q_1\) は \(q_1 = nC_P(T” – T_2′)\)。ここで \(n=1, C_P=\frac{5}{2}R\)。
$$q_1 = \displaystyle\frac{5}{2}R (T” – T_2′) \quad \cdots ⑫$$
ステップ2: ピストンが下底に達した後の定積加熱
ピストンが下底に達した後、さらに供給される熱量 \(q_2\) は、この設問で供給された総熱量 \(Q_{\text{供給}}\) から \(q_1\) を引いたものです。
$$q_2 = Q_{\text{供給}} – q_1 \quad \cdots ⑬$$
この \(q_2\) の熱は、体積一定(A室の気体の長さ \(l_{\text{底}} = \frac{8}{9}L\) で固定)のまま気体の温度を \(T”\) から最終温度 \(T_1\) まで上昇させるのに使われます(定積変化)。
単原子分子理想気体の定積モル比熱は \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\) です。
$$q_2 = nC_V(T_1 – T”) = 1 \cdot \displaystyle\frac{3}{2}R (T_1 – T”) \quad \cdots ⑭$$
式⑬と⑭から \(T_1\) を求めます。
使用した物理公式
- シャルルの法則 (定圧変化): \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{const}\) (または \(\displaystyle\frac{l}{\text{長さ}} = \text{const}\))
- 熱量 (定圧変化): \(Q = nC_P \Delta T\) (ここで \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\))
- 熱量 (定積変化): \(Q = nC_V \Delta T\) (ここで \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\))
まず、式⑪を用いて \(T”\) を計算します。 \(T_2′ = \displaystyle\frac{7}{6}T_0\), \(l_{\text{前}} = \displaystyle\frac{7}{9}L\), \(l_{\text{底}} = \displaystyle\frac{8}{9}L\)。
$$T” = \left(\displaystyle\frac{7}{6}T_0\right) \cdot \displaystyle\frac{\frac{8}{9}L}{\frac{7}{9}L} = \displaystyle\frac{7}{6}T_0 \cdot \displaystyle\frac{8}{7} = \displaystyle\frac{8}{6}T_0 = \displaystyle\frac{4}{3}T_0$$
次に、式⑫を用いて \(q_1\) を計算します。
$$q_1 = \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{4}{3}T_0 – \displaystyle\frac{7}{6}T_0\right) = \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{8}{6}T_0 – \displaystyle\frac{7}{6}T_0\right) = \displaystyle\frac{5}{2}R \left(\displaystyle\frac{1}{6}T_0\right) = \displaystyle\frac{5}{12}RT_0$$
次に、式⑬を用いて \(q_2\) を計算します。 \(Q_{\text{供給}} = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0\)。
$$q_2 = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0 – \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 – \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{12}RT_0$$
最後に、この \(q_2\) と \(T” = \displaystyle\frac{4}{3}T_0\) を式⑭に代入して \(T_1\) を求めます。
$$\displaystyle\frac{5}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{3}{2}R \left(T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0\right)$$
両辺の \(R\) を消去し、\(\displaystyle\frac{3}{2}\) で両辺を割ると(つまり \(\displaystyle\frac{2}{3}\) を掛けると)、
$$\left(\displaystyle\frac{5}{12}T_0\right) \cdot \displaystyle\frac{2}{3} = T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0$$
$$\displaystyle\frac{10}{36}T_0 = T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0$$
$$\displaystyle\frac{5}{18}T_0 = T_1 – \displaystyle\frac{4}{3}T_0$$
\(T_1\) について解くと、
$$T_1 = \displaystyle\frac{5}{18}T_0 + \displaystyle\frac{4}{3}T_0 = \displaystyle\frac{5}{18}T_0 + \displaystyle\frac{4 \cdot 6}{3 \cdot 6}T_0 = \displaystyle\frac{5}{18}T_0 + \displaystyle\frac{24}{18}T_0 = \displaystyle\frac{5+24}{18}T_0 = \displaystyle\frac{29}{18}T_0$$
問題では \(T_1 = \text{カ} \cdot T_0\) の形で答えるように指示されているので、カに入る数値は \(\displaystyle\frac{29}{18}\) です。
さらにヒーターで気体を温め続けると、ピストンはどんどん下がり(気体の長さは長くなり)、やがてシリンダーの底にぶつかってしまいます。この問題では、この「底にぶつかる」という出来事が、加熱の途中で起こります。
1. ピストンが底にぶつかるまで: まず、ピストンが動き始めてから底にぶつかるまでの間は、圧力が一定のまま体積が増え、温度も上がります。いつものように、どれだけ温度が上がったら底にぶつかるかを計算し、その間にどれだけの熱が使われたかも計算します。
2. ピストンが底にぶつかった後: ピストンが底にぶつかると、もう気体はそれ以上膨らむことができません(体積が一定になります)。この状態で、残りの熱(この設問で加える予定だった総熱量から、ステップ1で使った熱量を引いたもの)を加えると、今度は体積が変わらないまま圧力と温度が上がっていきます。この2段階目の温度上昇を計算し、最終的な気体の温度を求めます。
最終的な気体の温度 \(T_1\) は \(\displaystyle\frac{29}{18}T_0 \text{ [K]}\) となります。
各段階での温度変化を追うと、\(T_0 \rightarrow T_2′(\frac{7}{6}T_0 \approx 1.167T_0) \rightarrow T”(\frac{4}{3}T_0 \approx 1.333T_0) \rightarrow T_1(\frac{29}{18}T_0 \approx 1.611T_0)\) と、順調に温度が上昇していることがわかります。これは物理的に妥当な結果です。
別解1: 熱力学第一法則の利用
(3)の最初の状態(シリンダー逆転直後、温度 \(T_0\)、気体の長さ \(\frac{2}{3}L\)、圧力 \(P’\))から、(5)の最終状態(温度 \(T_1\)、気体の長さ \(\frac{8}{9}L\)(下底に達しているため))までの全体のエネルギー変化を一気に考える方法です。
思考の道筋とポイント
(3)の初期状態から(5)の最終状態までの変化を一つのプロセスと捉え、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{全}} – W_{\text{全}}\) を適用します。
\(\Delta U\) は \(U_{\text{最終}} – U_{\text{初期}} = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\) です。
\(Q_{\text{全}}\) は、(4)での加熱量と(5)での加熱量の合計です。
\(W_{\text{全}}\) は、ピストンが圧力 \(P’\) のもとで気体の長さが \(\frac{2}{3}L\) から \(\frac{8}{9}L\) になるまでにした仕事です(ピストンが下底に達した後は仕事はしません)。
具体的な解説と立式
初状態((3)のシリンダー逆転直後):
温度 \(T_0\), 気体の体積 \(V_{\text{初}} = S \cdot \displaystyle\frac{2}{3}L\)。
このときの内部エネルギー \(U_{\text{初}} = \displaystyle\frac{3}{2}RT_0\)。
終状態((5)の加熱終了後):
温度 \(T_1\), 気体の体積 \(V_{\text{後}} = S \cdot \displaystyle\frac{8}{9}L\) (ピストンが下底に達しているため)。
このときの内部エネルギー \(U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{3}{2}RT_1\)。
内部エネルギーの変化 \(\Delta U\):
$$\Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{初}} = \displaystyle\frac{3}{2}RT_1 – \displaystyle\frac{3}{2}RT_0 = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) \quad \cdots (別解1-1)$$
この間に気体に加えられた総熱量 \(Q_{\text{全}}\):
(4)での加熱量 \(Q_{(4)} = \displaystyle\frac{1}{3}Q = \displaystyle\frac{1}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{12}RT_0\)。
(5)での加熱量 \(Q_{(5)} = \displaystyle\frac{2}{3}Q = \displaystyle\frac{2}{3} \cdot \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 = \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{6}RT_0\)。
したがって、総熱量 \(Q_{\text{全}}\) は、
$$Q_{\text{全}} = Q_{(4)} + Q_{(5)} = \displaystyle\frac{5}{12}RT_0 + \displaystyle\frac{10}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{15}{12}RT_0 = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 \quad \cdots (別解1-2)$$
(これは元の \(Q\) と同じ値です)
気体がした全仕事 \(W_{\text{全}}\):
ピストンは、気体の長さが \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L\) から \(l_{\text{底}} = \displaystyle\frac{8}{9}L\) になるまで、圧力 \(P’\) のもとで膨張します。ピストンが下底に達した後は体積が変化しないため、仕事はしません。
(3)の状態方程式 \(P’S\displaystyle\frac{2}{3}L = RT_0\) より、\(P’S = \displaystyle\frac{RT_0}{\frac{2}{3}L} = \displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\)。
仕事 \(W_{\text{全}}\) は、
$$W_{\text{全}} = P'(V_{\text{後}} – V_{\text{初}}) = P’S(l_{\text{底}} – l_0) \quad \cdots (別解1-3)$$
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{全}} – W_{\text{全}}\) にこれらの式を代入して \(T_1\) を求めます。
計算過程
まず、(別解1-3)の \(W_{\text{全}}\) を計算します。
\(P’S = \displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\), \(l_0 = \displaystyle\frac{2}{3}L = \displaystyle\frac{6}{9}L\), \(l_{\text{底}} = \displaystyle\frac{8}{9}L\)。
$$W_{\text{全}} = \left(\displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\right) \left(\displaystyle\frac{8}{9}L – \displaystyle\frac{6}{9}L\right) = \left(\displaystyle\frac{3RT_0}{2L}\right) \left(\displaystyle\frac{2}{9}L\right)$$
\(L\) が約分され、
$$W_{\text{全}} = \displaystyle\frac{3 \cdot 2}{2 \cdot 9}RT_0 = \displaystyle\frac{6}{18}RT_0 = \displaystyle\frac{1}{3}RT_0$$
次に、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q_{\text{全}} – W_{\text{全}}\) に値を代入します。
(別解1-1) \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\)
(別解1-2) \(Q_{\text{全}} = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0\)
$$W_{\text{全}} = \displaystyle\frac{1}{3}RT_0$$
$$\displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) = \displaystyle\frac{5}{4}RT_0 – \displaystyle\frac{1}{3}RT_0$$
両辺の \(R\) を消去します(\(R \neq 0\))。
$$\displaystyle\frac{3}{2}(T_1 – T_0) = \left(\displaystyle\frac{5}{4} – \displaystyle\frac{1}{3}\right)T_0$$
右辺の括弧内を計算します。
$$\displaystyle\frac{5}{4} – \displaystyle\frac{1}{3} = \displaystyle\frac{15}{12} – \displaystyle\frac{4}{12} = \displaystyle\frac{11}{12}$$
よって、
$$\displaystyle\frac{3}{2}(T_1 – T_0) = \displaystyle\frac{11}{12}T_0$$
両辺に \(\displaystyle\frac{2}{3}\) を掛けて \(T_1 – T_0\) を求めます。
$$T_1 – T_0 = \displaystyle\frac{11}{12}T_0 \cdot \displaystyle\frac{2}{3} = \displaystyle\frac{11 \cdot 2}{12 \cdot 3}T_0 = \displaystyle\frac{22}{36}T_0 = \displaystyle\frac{11}{18}T_0$$
したがって、\(T_1\) は、
$$T_1 = T_0 + \displaystyle\frac{11}{18}T_0 = \displaystyle\frac{18T_0 + 11T_0}{18} = \displaystyle\frac{29}{18}T_0$$
結論と吟味
別解である熱力学第一法則をプロセス全体に適用する方法でも、最終的な気体の温度 \(T_1\) は \(\displaystyle\frac{29}{18}T_0 \text{ [K]}\) となり、本解説で段階的に計算した結果と一致します。このことは、計算の正しさをお互いに裏付けるものです。全体のエネルギー収支で考えることで、途中の複雑な状態変化の詳細を追わずに最終結果を得られる場合があり、有効な検算手段ともなります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ピストンにはたらく力のつり合い: ピストンが静止しているか、ゆっくり動いている場合、ピストンに作用する力の合力はゼロです。この法則を用いて、気体の圧力を決定するのが多くの設問の出発点でした。
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)): 気体の圧力 \(P\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\)、絶対温度 \(T\) の間の普遍的な関係を示すこの式は、状態変化を記述する上で常に中心的な役割を果たしました。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q_{\text{in}} – W_{\text{out}}\)): 気体の内部エネルギーの変化 (\(\Delta U\))、気体が吸収した熱量 (\(Q_{\text{in}}\))、気体が外部にした仕事 (\(W_{\text{out}}\)) の間のエネルギー保存則です。特に複雑な過程や、全体のエネルギー収支を考える際に強力なツールとなります。
- 単原子分子理想気体の性質:
- 内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- 定積モル比熱: \(C_V = \displaystyle\frac{3}{2}R\)
- 定圧モル比熱: \(C_P = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
これらの具体的な値を正しく使い分けることが、熱量や内部エネルギー変化の計算に不可欠でした。
- 熱力学的な過程の理解(定圧変化、定積変化):
- 定圧変化: ピストンが自由に動ける状態で加熱または冷却される場合、圧力は一定に保たれます。このとき、気体がする仕事は \(W=P\Delta V\)、気体が吸収する熱は \(Q=nC_P\Delta T\) で計算されます。
- 定積変化: ピストンが固定されているなど、体積が変化しない状態で加熱または冷却される場合です。このとき、気体がする仕事は \(W=0\) であり、気体が吸収する熱は \(Q=nC_V\Delta T\)(これは内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しい)となります。設問(5)では、途中で定圧変化から定積変化へと移行する点を見抜く洞察力が求められました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか。
- 鉛直または水平に置かれたシリンダー内で、ピストンによって閉じ込められた気体の状態変化を扱う問題全般。
- ピストンにばねが取り付けられている場合(力のつり合いにばねの弾性力が加わる)。
- U字管内の液体柱によって隔てられた気体の圧力平衡や状態変化の問題。
- 複数の部屋に仕切られた気体が、熱を通す壁や可動な壁(ピストン)を通じて相互作用する複合的な問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか。
- 境界条件(ピストンの動き)の確認: ピストンが「滑らかに動く」のか、「固定されている」のか、「ゆっくり動く(準静的過程)」のか、といった記述は、定圧、定積、断熱などの変化の種類を判断する上で非常に重要です。
- 力のつり合いの徹底: ピストンが静止している、またはゆっくり動いている場合は、必ずピストンにはたらく全ての力を図示し、力のつり合いの式を立てて気体の圧力を決定します。これが熱力学の問題を解く上での基本姿勢です。
- 気体の種類の確認: 単原子分子か、二原子分子か、あるいは理想気体か実在気体か(高校物理ではほぼ理想気体)によって、モル比熱の値や内部エネルギーの表式が変わるため、問題文を注意深く読み取ります。
- 熱の授受に関する記述の確認: 「ヒーターで加熱」「断熱材」「熱を通す壁」など、熱の移動に関する手がかりを見逃さないようにします。
- 状態量の変化の把握: どの状態量(圧力 \(P\)、体積 \(V\)、温度 \(T\)、物質量 \(n\))が変化し、どれが一定に保たれるのか、そして最終的に何を問われているのかを明確に整理します。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か。
- 図を丁寧に描き、力や状態変化のプロセスを視覚的に整理することが、思考を助け、ミスを防ぎます。
- 特に設問(5)のような複数の段階を経る変化では、各段階の始点と終点の状態量を明確にし、P-V図などを活用すると状況を整理しやすくなります(必須ではありませんが有効です)。
- 「ピストンの厚さ」のような細かい条件が、気体の体積を計算する際に影響を与えることがあるので、問題文の隅々まで注意深く読みましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 圧力の取り扱いの誤り:
- 現象: 気体の内部の圧力、外部の大気圧、ピストンにかかる正味の力などを混同したり、力のつり合いの式を立てる際に力の向きを間違えたりする。
- 対策: 必ずピストン(または力のつり合いを考える対象)に働く全ての力をベクトル図で示し、それぞれの力の大きさと向きを確認しながら立式する習慣をつける。
- 仕事の符号や定義の混同:
- 現象: 気体が「する仕事」なのか、気体が「される仕事」なのか、また熱力学第一法則における仕事 \(W\) の符号の定義(系が外部にする仕事を正とするか、外部からされる仕事を正とするか)で混乱する。
- 対策: 教科書や参考書で熱力学第一法則の各項の定義(特に仕事の符号)を明確に確認し、一貫した定義で使用する。この解説では、気体が外部にした仕事を \(W_{\text{out}}\) とし、これを正としています。
- モル比熱の使い分けミス (\(C_P\) と \(C_V\)):
- 現象: 定圧変化なのに定積モル比熱 \(C_V\) を使ってしまう、あるいはその逆。
- 対策: 「定圧変化なら \(C_P = C_V + R\): 気体は膨張(または収縮)して仕事をするため、同じ温度上昇でもより多くの熱が必要」、「定積変化なら \(C_V\): 気体は仕事をしないため、加えられた熱は全て内部エネルギーの増加になる」という物理的意味を理解し、変化の種類に応じて正しく選択する。
- 体積計算における幾何学的要素の見落とし:
- 現象: シリンダーの全長、ピストンの厚さ、ピストンの位置関係などから、実際に気体が占めている部分の体積(特に高さや長さ)を正確に求める際に、単純な引き算などで誤る。
- 対策: 問題文の図をよく観察し、必要であれば自分で簡単な模式図を描き起こして、どの部分が気体の体積に対応するのかを慎重に判断する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化と図解の有効性:
- 力のつり合いの図示: 各設問でピストンが静止している状態について、ピストンに働くすべての力(下から支える気体の力、上から押す大気圧の力、ピストンの重力など)を矢印で明確に図示し、それぞれの力の大きさを書き込むことで、力のつり合いの式を直感的に、かつ正確に立てる助けとなりました。
- 状態変化プロセスの図示 (P-V図の活用): 特に設問(5)のように、定圧変化の後に定積変化が起こるような複合的なプロセスでは、P-V図(圧力-体積図)を描くことが非常に有効です。P-V図上に状態点 ( \(P_0, V_0, T_0\) など) をプロットし、変化の経路を矢印で示すことで、どの状態からどの状態へ、どのような種類の変化(定圧なら水平線、定積なら垂直線)を経て移行したのかが一目瞭然になります。また、P-V図上で変化の経路とV軸で囲まれた面積が、気体がした仕事を表すことも視覚的に理解できます(今回の問題では必須ではありませんでしたが)。
- シリンダーとピストンの模式図の活用: 問題文に与えられている図1、図2を元に、各状態(初期状態、ピストン上昇後、シリンダー逆転後、各加熱段階後)における気体の長さ(高さ)やピストンの位置関係を、具体的な数値(例:\(\frac{1}{2}L\), \(\frac{2}{3}L\), \(\frac{7}{9}L\), \(\frac{8}{9}L\) など)と共に自分で描き起こすことで、体積計算の誤りを大幅に減らすことができます。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 力のベクトルを描く際は、作用点(力が働く点)、力の向き、そして相対的な力の大きさをできるだけ正確に表現する(力のつり合いを考えるなら、合力がゼロになるように)。
- P-V図を描く場合は、軸のラベル(P軸、V軸)と単位を明記し、変化の種類(定圧、定積、等温、断熱など)を線種や補助線で区別し、変化の方向を矢印で明確に示す。
- 重要な状態(初期状態、中間状態、最終状態)の圧力、体積、温度の値を、分かっていれば図中や図の近くに書き込むと、状況整理に役立ちます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: 気体の圧力、体積、温度、物質量というマクロな状態量の間の関係を記述する基本的な式であり、これらのうち一部が既知で他を求めたい場合に常に候補となります。
- 適用根拠: 問題文で「理想気体」と明示されているため、この方程式が高い精度で成り立つと仮定できます。
- 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 選定理由: ピストンが「静止している」あるいは「ゆっくりと動いていて、常に力のつり合いが近似的に成り立っている(準静的過程)」と解釈できる状況で使用します。
- 適用根拠: ニュートンの運動の第一法則(慣性の法則)または第二法則で加速度がゼロの場合に相当します。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q_{\text{in}} – W_{\text{out}}\)):
- 選定理由: 熱の出入り (\(Q_{\text{in}}\))、仕事のやり取り (\(W_{\text{out}}\))、そしてそれに伴う内部エネルギーの変化 (\(\Delta U\)) が関わる熱力学的なプロセス全般をエネルギー保存の観点から記述する際に用います。
- 適用根拠: エネルギー保存則という物理学の普遍的な法則の、熱現象を含む系への拡張です。
- 熱量計算式 (\(Q = nC\Delta T\)):
- 選定理由: 気体に熱が加えられた(あるいは奪われた)結果、温度変化が生じる場合に、その熱量と温度変化の関係を求めるために使用します。
- 適用根拠: モル比熱 \(C\)(定積モル比熱 \(C_V\) または定圧モル比熱 \(C_P\))が、その条件下での熱の吸収しやすさを表す物質固有の量であるという実験的事実に基づいています。
- 仕事の計算式 (\(W = P\Delta V\) for 定圧変化):
- 選定理由: 気体の体積が \(\Delta V\) だけ変化し、その間、圧力が一定値 \(P\) に保たれている場合に、気体が外部にした仕事を計算するために使用します。
- 適用根拠: 仕事の一般的な定義 \(dW = P dV\) を、\(P\) が一定であるという条件下で積分した結果です。
- 公式選択の思考プロセス:
- 常に「この公式が成り立つための前提条件は何か?」を自問自答し、問題の状況がその条件を満たしているかを確認する習慣が重要です。例えば、\(PV^\gamma = \text{一定}\)(ポアソンの法則)は断熱変化でしか使えません。このように、各公式の適用範囲と限界を正しく理解することで、誤用を防ぎ、適切な法則を選択できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題文の精読と状況把握: まず、問題文全体を注意深く読み、シリンダーやピストンの設定、気体の種類、初期条件、そして各設問で何が問われているのかを正確に把握します。必要に応じて、与えられた図に情報を書き込んだり、自分で簡単な状況図を描いたりします。
- 着目する物理現象の特定と法則の選択:
- ピストンが静止していれば、「力のつり合い」を考えます。
- 気体の状態量(\(P, V, T, n\))の関係が問われたり、変化したりする場合は、「理想気体の状態方程式」が基本となります。
- 熱の出入りや仕事が関わる場合は、「熱力学第一法則」や「熱量・仕事の計算式」を適用します。
- 変化の種類(定圧、定積、等温、断熱)を判断し、それに応じた公式(モル比熱の値など)を選択します。
- 記号の定義と立式: 問題文で使われている記号を確認し、必要であれば自分で新たな記号(例:変化後の温度 \(T’\) など)を定義します。そして、選択した物理法則をこれらの記号を用いて数式で表現します。このとき、未知数と既知数を明確に意識します。
- 方程式の変形と計算実行: 立てた方程式(多くの場合、連立方程式)を、求める未知数について解きます。文字計算が主になるので、計算ミスをしないよう、途中式を丁寧に書き、整理しながら慎重に進めます。分数の計算や式の展開・因数分解なども正確に行います。
- 数値代入と最終解答の確認: (エ) (オ) (カ) のように数値(または係数)で答える場合は、最後に具体的な値を代入します。得られた答えの単位が正しいか、物理的に妥当な範囲の値であるか(例:絶対温度が負にならないか)などを確認します。
- (あれば)別解の検討: 特に複雑な問題では、別のアプローチ(例:設問(5)での熱力学第一法則の全体適用)で解けないか考えてみることも、理解を深め、検算する上で有効です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 分数の四則演算: \(\displaystyle\frac{L}{2}, \displaystyle\frac{L}{4}, \displaystyle\frac{1}{9}L, \displaystyle\frac{2}{3}L\) など、多くの分数を含む計算がありました。特に、これらの足し算、引き算、割り算(比の計算)では、通分や約分を正確に行う必要がありました。設問(5)の \(T_1\) の計算のように、複数のステップを経る計算では、途中の小さなミスが最終結果に大きく影響します。
- 多文字の代数計算: \(P_0, S, M, g, L, R, T_0\) といった多くの物理量を表す文字を同時に扱いました。式の展開、整理、共通因数での括りだし、特定の文字についての式の書き換え(例:\(RT_0\) を他の文字で表現)などを、混同せずに正確に行う集中力が求められました。
- 連立方程式の処理: 設問(3)でピストンの質量 \(M\) を求める際に、二つの異なる状態(初期状態とシリンダー逆転状態)に関する式を実質的に連立させて解きましたが、このような複数の式から未知数を消去していく過程は、計算ミスの温床となりやすいです。
- 符号の取り扱い: 力のつり合いの式を立てる際の力の向き(正負)、温度変化 \(\Delta T = T_{\text{後}} – T_{\text{初}}\) の計算順序など、符号が結果に影響する場面では特に注意が必要でした。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 途中式を省略せずに丁寧に書く: 計算の各ステップを省略せずに、論理の流れがわかるように丁寧に記述する習慣をつけましょう。これにより、どこで間違えたかを見つけやすくなり、また、複雑な計算でも思考が整理されます。
- 単位の一貫性を常に意識する: 計算の各段階で、物理量の単位が正しく扱われているかを確認する癖をつけると、立式の誤りや、ありえない計算結果に早期に気づくことができます。
- 文字式の計算に習熟する: 物理の問題では、具体的な数値を代入する前に、文字式のまま計算を進めることが非常に多いです。文字式の展開、整理、因数分解、分数の計算、平方根の扱いなどに日頃から慣れておくことが、計算ミスを減らし、思考の負担を軽減するために不可欠です。
- 図と式を常に対応させながら考える: 図に描いた力のベクトルやその成分、あるいはP-V図上の状態点や変化の経路と、立式した数式の各項が正しく対応しているかを確認しながら進めることで、立式の誤りや符号ミスを防ぐことができます。
- 検算の習慣をつける: 時間が許せば、得られた答えを元の条件式に代入して矛盾がないか確認したり、異なるアプローチで同じ問題を解いてみて結果が一致するかを確かめたりする(別解の検討)ことは、計算ミスを発見する上で非常に有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 単位の確認: 求めるべき物理量の単位と、得られた結果の単位が一致しているか。例えば、温度を求めているのに単位がエネルギーの [J] になっていたら、明らかに計算過程か立式に誤りがあります。
- 符号の物理的意味の確認: 絶対温度が負の値になる、質量が負になる、といった物理的にありえない結果になっていないか。また、仕事の符号が気体の膨張・収縮と対応しているかなどを確認します。
- 値のオーダー(桁数)の感覚: あまりにも現実離れした大きな値や小さな値になっていないか。これは問題設定にもよりますが、極端な値が出た場合は計算を見直すきっかけになります。
- 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、設問(1)で求めた温度 \(T_0 = \displaystyle\frac{(P_0S + Mg)L}{2R}\) について、もしピストンの質量 \(M\) がゼロ (\(M=0\)) だったらどうなるかを考えてみます。このとき \(T_0 = \displaystyle\frac{P_0SL}{2R}\) となり、これはピストンの重さがかからない状況での温度を表しており、直感的に妥当です。また、設問(3)で求めたピストンの質量 \(M = \displaystyle\frac{P_0S}{7g}\) は、\(P_0S\)(大気圧による力)や \(g\)(重力加速度)といった物理量と関連付けられており、意味のある形をしています。
- 既知の物理法則との整合性の確認: 例えば、定圧変化で気体を加熱すれば温度が上昇し、体積も膨張するはずです(シャルルの法則)。設問(4)で加熱後の温度 \(T_2′ = \frac{7}{6}T_0\) が加熱前の \(T_0\) より大きくなり、気体の長さも \(l = \frac{7}{9}L\) が加熱前の \(\frac{2}{3}L = \frac{6}{9}L\) より長くなったことは、この法則と整合しています。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや立式の根本的な誤りの発見: 吟味の過程で矛盾点が見つかれば、それは計算ミスや、物理法則の適用の誤りなど、解答に至るプロセスのどこかに問題があったことを示す重要なサインです。
- 物理法則・概念のより深い理解: 単に数式を操作して答えを出すだけでなく、その数式が持つ物理的な意味や、背後にある法則の働きをより深く理解することができます。なぜそのような結果になるのかを考えることで、知識が定着し、応用力が養われます。
- 論理的思考力と洞察力の向上: 解の妥当性を多角的に検討する習慣は、論理的に思考を進める訓練となり、物理現象に対する直感や洞察力を磨くことにも繋がります。
- 問題解決への自信: 自分の出した答えが物理的に妥当であることを確認できれば、その解答に対する自信が深まります。
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