問題34 (静岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直に立てたばね(ばね定数 \(k\))の上端に質量 \(M\) の板を取り付け静止させている状況で、その板の上方 \(h\) の高さから質量 \(m\) の小球を静かに落下させるというものです。小球と板の衝突が「弾性衝突」の場合と、「小球が粘土で板と一体となる(完全非弾性衝突)」場合のそれぞれについて、様々な物理量が問われています。重力加速度を \(g\) とします。
- ばね定数: \(k\)
- 板の質量: \(M\)
- 小球の質量: \(m\)
- 小球の落下開始高さ(板の上方から): \(h\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 衝突前の板は静止している(つり合いの状態)。
- I. 物体が板と弾性衝突をする場合について、
- (1) 衝突により小球がはね上がるために必要な、\(m\) と \(M\) の間にどのような関係が必要か。
- (2) 衝突後、板ははじめの位置より最大どれだけ下がるか。衝突は1度だけとする。
- II. 小球が粘土のようなもので、衝突後、板と一体となって運動する場合について、
- (3) 衝突の際、失われる力学的エネルギーはどれだけか。
- (4) 板ははじめの位置より最大どれだけ下がるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、「衝突現象」と「単振動」という物理の2つの重要なテーマが融合したものです。衝突の種類(弾性か完全非弾性か)によって、エネルギーの扱いやその後の運動が大きく変わる点に注意が必要です。
まず、どちらのケースにも共通する準備として、小球が板に衝突する直前の速さを、力学的エネルギー保存則を用いて求めます。その後、各衝突ケースについて、運動量保存則、反発係数の式、そして単振動のエネルギー保存則などを駆使して問題を解き進めていきます。
(準備) 衝突直前の小球の速さ \(v_0\)
具体的な解説と立式
質量 \(m\) の小球が板の上方 \(h\) の高さから静かに落下し、板に衝突する直前の速さを \(v_0\) とします。この落下過程では、重力のみが仕事をするため力学的エネルギーが保存されます。板の上面を高さの基準(\(y=0\))とすると、落下開始時の小球の位置エネルギーは \(mgh\)、運動エネルギーは \(0\) です。衝突直前の小球の位置エネルギーは \(0\)、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\) です。
したがって、力学的エネルギー保存則より、
$$mgh + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg(0) + \frac{1}{2}mv_0^2$$
これを \(v_0\) について解くと(\(v_0 > 0\))、
$$v_0 = \sqrt{2gh} \quad \cdots (*)$$
となります。この速さ \(v_0\) は下向きです。この結果は、I の弾性衝突の場合と II の一体となる場合の両方で使用します。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E_k + U_g = \text{一定}\)
I. 物体が板と弾性衝突をする場合
問(1)
思考の道筋とポイント
小球と板の弾性衝突を考えます。衝突は非常に短時間で起こるため、衝突の直前と直後で、小球と板からなる系全体の運動量は保存されると考えます(重力やばねの力による力積は無視できるため)。また、弾性衝突なので反発係数(はね返り係数)は \(e=1\) です。これらの2つの法則から、衝突後の小球と板のそれぞれの速度を求め、小球が「はね上がる」(=衝突後の速度が上向きになる)ための条件を導きます。速度の向きに注意して立式することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 衝突は瞬間的であり、その間、重力やばねの力による力積は無視できるため、小球と板の系全体の運動量は保存されます。
- 弾性衝突なので反発係数 \(e=1\) です。
- 速度の正の向きを明確に設定し(ここでは下向きを正とします)、はね上がる条件を衝突後の小球の速度の符号で表現します(上向きなら負)。
具体的な解説と立式
衝突直前の小球の速度は \(v_0\)(下向き、式(*)で与えられる)、板の速度は \(0\) です。
衝突直後の小球の速度を \(v\)、板の速度を \(V\) とします(ともに下向きを正と仮定します)。
運動量保存則より(下向きを正として):
$$mv_0 + M \cdot 0 = mv + MV \quad \cdots ①$$
弾性衝突 (\(e=1\)) なので、反発係数の式より:
$$e = 1 = -\frac{v – V}{v_0 – 0}$$
これを変形すると、
$$v_0 = -(v – V)$$
$$v_0 = V – v \quad \cdots ②$$
小球がはね上がるためには、衝突後の小球の速度 \(v\) が負 (\(v < 0\)) となる必要があります。
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v’_1 + m_2v’_2\)
- 反発係数の式 (1次元): \(e = -\displaystyle\frac{v’_1 – v’_2}{v_1 – v_2}\)
式①と式②を連立させて、衝突後の小球の速度 \(v\) を求めます。
式②より \(V = v_0 + v\) となります。これを式①に代入します。
$$mv_0 = mv + M(v_0 + v)$$
展開して \(v\) について整理します。
$$mv_0 = mv + Mv_0 + Mv$$
$$mv_0 – Mv_0 = mv + Mv$$
$$(m-M)v_0 = (m+M)v$$
よって、衝突後の小球の速度 \(v\) は、
$$v = \frac{m-M}{m+M}v_0$$
小球がはね上がるための条件は \(v < 0\) です。\(v_0 > 0\) (下向きの速さなので正)であり、分母の \(m+M\) も常に正です。したがって、この条件は分子の \(m-M\) が負であることを意味します。
$$m-M < 0$$
したがって、
$$m < M$$
小球と板がぶつかるとき、2つの物体全体の「運動の勢いの合計(運動量)」は、ぶつかる直前と直後で変わりません。また、「弾性衝突」というのは、エネルギーが失われない理想的なぶつかり方で、ぶつかった後の相対的な速さがぶつかる前の相対的な速さと同じになる(反発係数が1)という性質があります。これらの法則を使って式を2つ立て、衝突後の小球の速さを求めます。その速さが上向き(計算上は負の値、最初に下向きを正とした場合)になるための条件を、小球の質量 \(m\) と板の質量 \(M\) の関係として導き出します。
衝突により小球がはね上がるためには、\(m < M\) である必要があります。
これは、軽いボール(小球 \(m\))を重い壁や床(板 \(M\))にぶつけるとよくはね返るのに対し、重いボールを軽い板にぶつけても板の方が大きく動き、ボール自身はあまりはね返らないか、あるいはそのまま押し進んでしまうという日常的な経験則とも一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
まず、問(1)で用いた運動量保存則と反発係数の式から、衝突直後の板の速度 \(V\) を求めます。
衝突前の板は静止しており、この位置は板とばねの系における力のつり合いの位置です(重力 \(Mg\) とばねの初期の弾性力がつり合っている)。したがって、この位置が衝突後に板が開始する単振動の振動中心となります。
衝突によって板が下向きの速度 \(V\) を得るので、この \(V\) が単振動の最大速度 \(V_{\text{max}}\) に相当します(振動中心での速度だからです)。
単振動において、振動中心での運動エネルギー \(\frac{1}{2}MV^2\) が、振動の端(最も下がった位置)ではすべてばねの位置エネルギー(の増加分、振動中心を基準とする)\(\frac{1}{2}kA^2\) に変わります(ここで \(A\) は振幅)。このエネルギー保存の関係から振幅 \(A\) を求めれば、それが板がはじめの位置(振動中心)より最大どれだけ下がるか、という量になります。
この設問における重要なポイント
- 板は、衝突前のつり合いの位置(静止していた位置)を中心として単振動を行います。
- 衝突直後に板が得る速度 \(V\) が、この単振動における最大速度となります。
- 求める「最大どれだけ下がるか」は、この単振動の振幅 \(A\) に等しいです。
- 単振動のエネルギー保存則(A方式: 振動中心を位置エネルギーの基準として \(\frac{1}{2}M V_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}k A^2\))を利用できます。
具体的な解説と立式
問(1)の式② \(V = v_0 + v\) と、\(v = \displaystyle\frac{m-M}{m+M}v_0\) を用いて、衝突直後の板の速度 \(V\)(下向きを正)を求めます。
$$V = v_0 + \frac{m-M}{m+M}v_0 = \left(\frac{m+M+m-M}{m+M}\right)v_0$$
よって、
$$V = \frac{2m}{m+M}v_0 \quad \cdots ③$$
板は、衝突前のつり合いの位置(これが単振動の振動中心となります)で、下向きに初速度 \(V\) を持って運動を開始します。この \(V\) が単振動の最大速度 \(V_{\text{max}}\) に等しいです。
単振動の振幅を \(A\) とすると、振動中心での運動エネルギーが、振動の端(最も下がった位置)でのばねのポテンシャルエネルギー(振動中心を基準とした増加分)に等しくなることから、単振動のエネルギー保存則(A方式)より、
$$\frac{1}{2}MV^2 = \frac{1}{2}kA^2 \quad \cdots ④$$
この式から振幅 \(A\) を求めます。この \(A\) が、板がはじめの位置(振動中心)から最大どれだけ下がるか、という量に相当します。
使用した物理公式
- 衝突後の速度(問(1)の導出過程を利用)
- 単振動のエネルギー保存則(A方式): \(\frac{1}{2}Mv_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}kA^2\)
- または、最大速度と振幅・角振動数の関係: \(v_{\text{max}} = A\omega\) と角振動数 \(\omega = \sqrt{k/M}\)
まず、式③に式(*) \(v_0 = \sqrt{2gh}\) を代入して、衝突直後の板の速度 \(V\) を具体的に表します。
$$V = \frac{2m}{m+M}\sqrt{2gh}$$
次に、式④から振幅 \(A\) を求めます。両辺の \(\frac{1}{2}\) を消去し、\(A^2\) について解くと \(A^2 = \displaystyle\frac{M}{k}V^2\)。
振幅 \(A\) は正の値なので、
$$A = V\sqrt{\frac{M}{k}}$$
この式に上で求めた \(V\) を代入します。
$$A = \left(\frac{2m}{m+M}\sqrt{2gh}\right) \sqrt{\frac{M}{k}}$$
ルートの中をまとめると、
$$A = \frac{2m}{m+M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}}$$
まず、小球との衝突によって板がどれだけの速さで下向きに動き出すかを計算します(これは問(1)の計算の途中で出てきます)。板は最初、ばねの力と重力がつり合って静止していたので、この位置が「振動の中心」になります。衝突によって得た速さが、この振動における板の「最大の速さ」です。
単振動では、振動の中心で運動エネルギーが最大になり、振動の端(最も下がった位置や最も上がった位置)では運動エネルギーがゼロになり、その分がばねの位置エネルギーとして蓄えられます(振動中心を基準としたエネルギーの変化分)。この「最大の運動エネルギー」が「振動の端でのばねの位置エネルギーの増加分」と等しくなるというエネルギー保存の関係を使って、板がどれだけ下がるか(つまり振幅)を計算します。
衝突後、板ははじめの位置より最大 \(A = \displaystyle\frac{2m}{m+M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}}\) だけ下がります。
この結果を吟味してみましょう。もし \(m \ll M\)(小球が板に比べて非常に軽い)場合、分母の \(m+M \approx M\) と近似できるので、\(A \approx \frac{2m}{M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}} = 2m\sqrt{\frac{2gh}{Mk}}\) となります。この場合、板の沈み込みは小さいと予想され、式もその傾向を示しています。
「衝突は1度だけとする」という条件は、板がこの最大の沈み込みに達して上昇する過程で、先にはね上がった小球と再度衝突しない、といった複雑な状況を排除するためのものと考えられます。
II. 小球が粘土のようなもので、衝突後、板と一体となって運動する場合
問(3)
思考の道筋とポイント
小球が粘土で板と一体となる衝突は、完全非弾性衝突です。この種の衝突では、運動量は保存されますが、力学的エネルギー(特に運動エネルギー)は一般に保存されず、熱や物体の変形エネルギーなどに変わって減少します。
まず、運動量保存則を用いて、一体となった直後の小球と板の共通の速度を求めます。次に、衝突直前の系全体の運動エネルギーと、衝突直後の系全体の運動エネルギーを計算し、その差を取ることで失われた力学的エネルギーを算出します。衝突は瞬間的な現象なので、その間の位置エネルギーの変化は無視できると考えます。
この設問における重要なポイント
- 完全非弾性衝突では、運動エネルギーは保存されず、通常は減少します。
- 衝突の直前直後で、系全体の運動量は保存されます。
- 失われた力学的エネルギーは、(衝突前の全運動エネルギー)-(衝突後の全運動エネルギー)で計算されます(位置エネルギーの変化がないと仮定した場合)。
具体的な解説と立式
衝突直前の小球の速度は \(v_0\)(下向き、式(*)で与えられる)、板の速度は \(0\) です。
衝突後、小球と板は一体となり、その共通の速度を \(u\) とします(下向きを正と仮定)。
運動量保存則より(下向きを正として):
$$mv_0 + M \cdot 0 = (m+M)u \quad \cdots ⑤$$
衝突直前の系全体の運動エネルギー \(E_{k\text{前}}\) は、小球の運動エネルギーのみです(板は静止)。
$$E_{k\text{前}} = \frac{1}{2}mv_0^2$$
衝突直後の系全体の運動エネルギー \(E_{k\text{後}}\) は、一体となった物体(質量 \(m+M\))の運動エネルギーです。
$$E_{k\text{後}} = \frac{1}{2}(m+M)u^2$$
失われる力学的エネルギー \(\Delta E\) は、これらの運動エネルギーの差として計算されます。
$$\Delta E = E_{k\text{前}} – E_{k\text{後}} = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)u^2 \quad \cdots ⑥$$
(衝突は瞬間的であるため、この間に重力やばねがする仕事は無視でき、位置エネルギーの変化はないものとして、運動エネルギーの減少分が失われた力学的エネルギーと考えます。)
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 運動エネルギー: \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)
まず、式⑤から、一体となった直後の共通の速度 \(u\) を求めます。
$$u = \frac{m}{m+M}v_0$$
次に、この \(u\) を式⑥に代入して、失われた力学的エネルギー \(\Delta E\) を計算します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m}{m+M}v_0\right)^2$$
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\frac{m^2}{(m+M)^2}v_0^2$$
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2$$
共通因子 \(\frac{1}{2}mv_0^2\) でくくりだします。
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{m+M}\right)$$
括弧の中を計算します。
$$1 – \frac{m}{m+M} = \frac{m+M-m}{m+M} = \frac{M}{m+M}$$
よって、
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}$$
最後に、式(*) \(v_0 = \sqrt{2gh}\) すなわち \(v_0^2 = 2gh\) を代入します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}m(2gh) \frac{M}{m+M}$$
$$\Delta E = \frac{mMgh}{m+M}$$
小球(粘土)と板がくっついて一体になるとき(これを物理では完全非弾性衝突といいます)、通常、運動エネルギーの一部が熱や物体の変形などに使われて失われます。ただし、ぶつかる直前と直後で、物体全体の「運動の勢いの合計(運動量)」は変わりません。
まず、運動量が変わらないという法則を使って、くっついた直後の全体の速さを計算します。
次に、くっつく前の全体の運動エネルギー(この場合は小球の運動エネルギーだけです、板は止まっているので)と、くっついた直後の全体の運動エネルギーを計算します。これらの差が、衝突によって失われたエネルギーということになります。
衝突の際、失われる力学的エネルギーは \(\Delta E = \displaystyle\frac{mMgh}{m+M}\) です。
この値は \(m, M, g, h\) が全て正なので、\(\Delta E > 0\) となり、必ずエネルギーが失われる(減少する)ことを示しています。これは完全非弾性衝突の一般的な特徴と一致します。
この失われたエネルギーは、主として衝突の際の粘土の変形や、それに伴うわずかな音、熱などに変換されたと考えられます。
問(4)
思考の道筋とポイント
小球と板が一体となった後、この新しい一つの物体(質量 \(M’ = m+M\))は鉛直ばね振り子として単振動を開始します。
まず重要なのは、この新しい系での力のつり合いの位置(つまり、新しい振動中心)を求めることです。これは、衝突前の板のみのつり合いの位置とは異なります(おもりが加わったため、より下にずれます)。
次に、一体となった直後(衝突直後)の物体の位置(これは衝突前の板の位置、これを基準 \(x=0\) と考えることができます)と、そのときの速度 \(u\)(問3の途中で求めたもの)を初期条件として、この新しい振動中心からの単振動の振幅を求めます。
板が「はじめの位置」(衝突前の板のつり合いの位置)より最大どれだけ下がるかは、新しい振動中心がはじめの位置からどれだけ下がっているかと、そこからの振幅の和で与えられます。
単振動のエネルギー保存則を用いるのが一般的です。
この設問における重要なポイント
- 一体となった後の物体の質量は \(M’ = m+M\) です。
- 力のつり合いの位置(単振動の振動中心)が、板のみのときから変化します。この新しい振動中心を正確に求める必要があります。
- 単振動のエネルギー保存則を用いる際、振動中心を基準とするか(A方式)、重力の位置エネルギーとばねの弾性エネルギーを個別に考えるか(B方式)で式の形が異なります。
- 求める量は「はじめの位置」(衝突前の板のつり合いの位置)からの最大の沈み込みです。
具体的な解説と立式
一体となった物体の質量を \(M’ = m+M\) とします。
この物体がばねにつながれているときの、新たな力のつり合いの位置を求めます。この位置では、ばねの弾性力と物体に働く重力の合計がつり合います。ばねの自然長の位置を基準として、新しいつり合いの位置でのばねの縮みを \(x_c\) とすると、力のつり合いの式は、
$$kx_c = M’g = (m+M)g$$
よって、新しい振動中心(つり合いの位置)は、ばねの自然長から \(x_c = \displaystyle\frac{(m+M)g}{k}\) だけ縮んだ位置です。
衝突前の板の位置(これを便宜上 \(x_{\text{はじめ}}=0\) とします)は、板のみの質量 \(M\) でつり合っていたので、ばねは自然長から \(d_{\text{初}} = \displaystyle\frac{Mg}{k}\) だけ縮んでいました。
したがって、新しい振動中心 \(x_c\) は、衝突前の板の位置 \(x_{\text{はじめ}}=0\) から測ると、\(D = x_c – d_{\text{初}}\) だけ下方にあります。
$$D = \frac{(m+M)g}{k} – \frac{Mg}{k} = \frac{mg}{k}$$
つまり、新しい振動中心は、衝突前の板の位置よりも \(D = mg/k\) だけ下です。
衝突直後、物体は \(x_{\text{はじめ}}=0\)(衝突前の板の位置)にあり、下向きに速さ \(u = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\) を持ちます。この位置は、新しい振動中心から見ると、\(D\) だけ上方にあります(つまり、新しい振動中心を原点 \(x’=0\) とすると、衝突直後の位置は \(x’=-D\))。
この新しい単振動の振幅を \(A_{\text{新}}\) とします。単振動のエネルギー保存則(A方式:新しい振動中心を位置エネルギーの基準とする)を用いると、衝突直後のエネルギーと、最も下がった点(速さ0、新しい振動中心からの変位 \(A_{\text{新}}\))でのエネルギーが等しくなります。
$$\frac{1}{2}M’u^2 + \frac{1}{2}k(-D)^2 = \frac{1}{2}M'(0)^2 + \frac{1}{2}kA_{\text{新}}^2$$
$$\frac{1}{2}(m+M)u^2 + \frac{1}{2}kD^2 = \frac{1}{2}kA_{\text{新}}^2 \quad \cdots ⑦$$
板が「はじめの位置」(衝突前の板の位置 \(x_{\text{はじめ}}=0\))より最大どれだけ下がるか、という量を \(x_{\text{max}}\) とすると、これは新しい振動中心までの距離 \(D\) と、そこからの振幅 \(A_{\text{新}}\) の和になります。
$$x_{\text{max}} = D + A_{\text{新}}$$
使用した物理公式
- 力のつり合い(振動中心の決定): \(kx_c = (m+M)g\)
- 単振動のエネルギー保存則 (A方式またはB方式)
- 運動量保存則(衝突直後の速度 \(u\) を求めるために使用): \(u = \frac{m}{m+M}\sqrt{2gh}\)
新しい振動中心までの、はじめの位置からの距離: \(D = \displaystyle\frac{mg}{k}\)
衝突直後の速さ: \(u = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0 = \frac{m}{m+M}\sqrt{2gh}\)
式⑦ \(\displaystyle\frac{1}{2}(m+M)u^2 + \frac{1}{2}kD^2 = \frac{1}{2}kA_{\text{新}}^2\) より、両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消去し、\(A_{\text{新}}^2\) について整理します。
$$kA_{\text{新}}^2 = (m+M)u^2 + kD^2$$
$$A_{\text{新}}^2 = \frac{m+M}{k}u^2 + D^2$$
ここに、\(u^2 = \left(\displaystyle\frac{m}{m+M}\right)^2 (2gh)\) と \(D^2 = \left(\displaystyle\frac{mg}{k}\right)^2\) を代入します。
$$A_{\text{新}}^2 = \frac{m+M}{k} \cdot \frac{m^2}{(m+M)^2} (2gh) + \left(\frac{mg}{k}\right)^2$$
$$A_{\text{新}}^2 = \frac{2m^2gh}{k(m+M)} + \frac{m^2g^2}{k^2}$$
\(A_{\text{新}}\) は正なので、
$$A_{\text{新}} = \sqrt{\frac{2m^2gh}{k(m+M)} + \frac{m^2g^2}{k^2}}$$
共通因子 \(\left(\displaystyle\frac{mg}{k}\right)^2\) でルートの中を整理すると、
$$A_{\text{新}}^2 = \left(\frac{mg}{k}\right)^2 \left( \frac{2m^2gh}{k(m+M)} \cdot \frac{k^2}{m^2g^2} + 1 \right) = \left(\frac{mg}{k}\right)^2 \left( 1 + \frac{2kh}{(m+M)g} \right)$$
よって、新しい振幅 \(A_{\text{新}}\) は、
$$A_{\text{新}} = \frac{mg}{k} \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}$$
求める最大の沈み込み \(x_{\text{max}}\) は \(D + A_{\text{新}}\) なので、
$$x_{\text{max}} = \frac{mg}{k} + \frac{mg}{k} \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}$$
$$x_{\text{max}} = \frac{mg}{k} \left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}\right)$$
これは模範解答の \(x\) の式と一致します。
小球(粘土)と板がくっついた後、それらは一体となってばねで振動します。このとき、物が重くなった(質量が \(M\) から \(m+M\) になった)ため、ばねがより縮んだ位置が新しい「つり合いの位置(振動の中心)」になります。この新しい振動の中心は、元の板だけのつり合いの位置よりも \(D = mg/k\) だけ下にあります。
衝突直後、板は元のつり合いの位置にあり、計算した速さ \(u\) で下向きに動き始めます。この状態から、新しい振動の中心に対してどれだけ大きく振れるか(これが新しい振幅 \(A_{\text{新}}\))をエネルギー保存の法則を使って計算します。
板がはじめの位置(元のつり合いの位置)から見て最も下に下がるのは、この新しい振動の中心までの距離 \(D\) に、そこからの振幅 \(A_{\text{新}}\) を加えた距離になります。
板ははじめの位置より最大 \(x_{\text{max}} = \displaystyle\frac{mg}{k} \left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}\right)\) だけ下がります。
この式は複雑に見えますが、各部分が物理的な意味を持っています。
もし \(h=0\)(小球を板の上に静かに乗せた場合、つまり衝突速度 \(v_0=0\)、よって \(u=0\))とすると、
\(x_{\text{max}} = \displaystyle\frac{mg}{k} (1 + \sqrt{1+0}) = \frac{2mg}{k}\)。
これは、質量 \(m\) の物体を静かに乗せた場合、新しいつり合いの位置は \(D=mg/k\) だけ下がり、その位置が振動の上端となって(静かに乗せて手を離すとそこから動き出すため)、つり合い位置を中心として振幅 \(D\) で単振動し、最も下がるのは \(2D\) だけ下がるという状況を示しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動量保存則: 衝突現象を扱う際の基本法則です。特に、外力の力積が無視できる衝突の直前直後で適用されます。
- 力学的エネルギー保存則: 小球の自由落下過程や、衝突後の板(または一体となった物体)の単振動の解析に不可欠です。保存力(この問題では重力とばねの弾性力)のみが仕事をする系で成り立ちます。
- 反発係数(はね返り係数): 衝突の種類(弾性か非弾性か)を定量的に扱うための指標です。弾性衝突では \(e=1\) となります。
- 単振動の特性:
- 鉛直ばね振り子では、重力の影響で振動中心がばねの自然長の位置からずれることを理解することが重要です。振動中心は、常に力がつり合う位置です。
- 振動中心での速さが最大となり、振動の端では速さがゼロになります。
- 単振動のエネルギー保存則には、振動中心を基準にする考え方(A方式)と、重力やばねの弾性エネルギーを個別に考える方法(B方式)があり、状況に応じて使い分けることが有効です。
- 完全非弾性衝突: 物体が一体となって運動する衝突です。運動量は保存されますが、運動エネルギーは一般に保存されず、熱や変形エネルギーとして失われます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
- 水平または鉛直なばね振り子への物体の衝突(弾性衝突、非弾性衝突、場合によっては斜め衝突など)。
- 振り子(単振り子や物理振り子)へのおもりの衝突。
- 複数の物体がばねを介して相互作用しながら運動する系。
- 落下してきた物体が床や台と衝突し、その後の運動を解析する問題。
- 初見の問題でどこに着目すればよいか:
- 現象の分解と段階分け: 問題のプロセスを時間的な段階(例:衝突前、衝突直後、衝突後の運動)に明確に区別し、各段階でどの物理法則が適用できるかを考えます。
- 衝突の種類の特定: 問題文から衝突が弾性か、非弾性か(一体となるか、反発係数が与えられているかなど)を正確に読み取り、適用すべき法則(運動量保存則、反発係数の式、エネルギー変化)を選択します。
- 保存則の適用条件の確認: 各段階や系全体で、運動量保存則や力学的エネルギー保存則が成り立つ条件を満たしているかを常に確認します。外力や非保存力の有無が重要です。
- 単振動の解析のポイント: ばねが関わる運動では単振動を疑います。その際、
- 振動中心の特定: 力のつり合いの位置を正確に求めます。鉛直方向の場合は重力の影響を忘れないようにします。
- 振幅の決定: 初期条件(初期位置と初速度)やエネルギー保存則から振幅を求めます。
- 周期・角振動数: 系の質量とばね定数から計算します。
- 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
- 速度や変位、力の向き(符号)を、設定した座標軸の向きとともに明確に意識します。
- エネルギー保存則を用いる際、位置エネルギーの基準点をどこに取るかで式の形が変わることを理解し、一貫した基準で計算します(特にB方式の場合)。
- 「失われるエネルギー」を問われた場合は、衝突前後のエネルギーの差分として計算することを基本とします。
- 衝突が「瞬間的」であるという仮定は、運動量保存則を適用する上で重要です(外力の力積を無視できるため)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量保存則と力学的エネルギー保存則の混同・誤用:
- ありがちな誤解: どんな衝突でも力学的エネルギーが保存されると思い込む。運動量保存則が成り立たない状況で適用してしまう。
- 対策: それぞれの保存則が成り立つための「条件」を正確に記憶し、問題の状況(衝突の種類、外力の有無など)に応じて適切に使い分けます。弾性衝突でのみ運動エネルギーも保存されます。
- 鉛直ばね振り子の振動中心の誤り:
- ありがちな誤解: ばねの自然長の位置を常に振動中心としてしまう(重力を考慮し忘れる)。
- 対策: 鉛直ばね振り子では、必ず「力のつり合いの位置」を求め、そこを振動中心として考えます。おもりの質量が変われば、つり合いの位置も変わります。
- 単振動のエネルギー計算における基準点の曖昧さ:
- ありがちな誤解: A方式(振動中心を位置エネルギーの基準とする)とB方式(自然長や重力位置エネルギーの固定基準点を基準とする)を混同したり、変位 \(x\) の意味(振動中心からか、自然長からか)を曖昧にしたまま立式したりする。
- 対策: どちらの方式でエネルギーを考えているかを常に意識し、各エネルギー項の定義(特に位置エネルギーの基準点と変位の意味)を明確にします。B方式は項が多くなりがちなので、A方式が使える状況(振動中心が明確な場合)ではそちらが簡便なことが多いです。
- 衝突後の初速度の扱いの誤り:
- ありがちな誤解: 衝突によって速度が変化した後の値を、その後の単振動の初期速度として正しく使わない、あるいは衝突前の速度をそのまま使ってしまう。
- 対策: 衝突直後の速度を運動量保存則などから正確に求め、それを次の運動段階の「初期条件」として明確に引き継ぎます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- 小球が自由落下で速度を増しながら板に近づく様子。
- 板に衝突する瞬間:弾性衝突なら小球が跳ね上がり、板も動き出す。完全非弾性なら小球と板がくっついて一体となる。
- 衝突後に板(または板と小球)がばねによって上下に振動する様子。振動の中心がどこになるか、どれくらいの幅で振動するかをイメージします。
- エネルギーがどのように移り変わっていくか(位置エネルギー \(\rightarrow\) 運動エネルギー \(\rightarrow\) ばねの弾性エネルギー、そしてまた戻る、あるいは衝突で一部失われる)を追跡する。
- 図示の重要性:
- 各段階での力の図示(特に衝突時、つり合い時、振動の端)。
- エネルギー図(もしあれば)や、単振動の \(x-t\) グラフの概略を頭の中で描いてみることも、運動の全体像を捉えるのに役立ちます。
- 位置エネルギーの基準点や、変位の原点を図中に明記することで、立式の際の混乱を防ぎます。
- 図を描く際の注意点:
- ばねの「自然長の位置」「板のみのつり合いの位置」「板と小球一体でのつり合いの位置(新しい振動中心)」「振動の端」などを明確に区別して図示します。
- 速度ベクトルや力ベクトルを、各瞬間の状況に応じて描き加えます。
- 変位や座標軸の正の向きを図中に示します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: 短時間の「衝突」現象であり、その間は系に働く外力(重力、ばねの力)の力積が、内力(衝突力)の力積に比べて無視できるほど小さいと近似できるため、系全体の運動量が保存されると判断し適用しました。
- 反発係数の式(弾性衝突で \(e=1\)):
- 選定理由: 問題文に「弾性衝突をする場合」と明記されているため、反発係数 \(e=1\) の関係式を運動量保存則と組み合わせて使用しました。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由(小球の落下): 小球が高さ \(h\) から落下する間は、重力(保存力)のみが仕事をし、空気抵抗は無視できるため、力学的エネルギーが保存されると判断し適用しました。
- 選定理由(衝突後の単振動): 板(または板と小球)が単振動する際には、重力とばねの弾性力(いずれも保存力)のみが仕事をし、摩擦などがないため、力学的エネルギーが保存されると判断し適用しました。
- 単振動のエネルギーに関する式(A方式/B方式):
- 選定理由: 単振動の振幅や特定の点での速さなどを求める際に、運動方程式を直接解くよりもエネルギーの観点からアプローチする方が簡便な場合が多いため選択しました。振動中心が明確な場合はA方式が、そうでない場合や重力ポテンシャルを直接扱いたい場合はB方式が有効です。
- 公式の背景にある物理的な意味や導出過程、そして何よりも「その公式が成り立つための条件」を理解していると、様々な問題に対して適切な公式を自信を持って選択し、適用することができます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 現象の正確な把握: 問題文を注意深く読み、図を描いたり状況を思い浮かべたりして、何が起こっているのかを正確に理解します。
- 段階ごとの分析: 運動のプロセスを時間的な段階(例:衝突前の自由落下、衝突の瞬間、衝突後の単振動)に分けて、それぞれの段階で何が重要か、どの物理法則が適用できるかを考えます。
- 各段階での法則適用: 各段階で成り立つ適切な物理法則(エネルギー保存則、運動量保存則、単振動の運動方程式や性質など)を特定します。
- 座標軸と符号の明確化: 速度、変位、力などの向きを考慮するために、座標軸の正の向きを明確に定めます。
- 丁寧な立式: 選択した法則に基づいて、未知数と既知数を整理しながら具体的な数式を立てます。力の図示やエネルギーの状態図などが役立ちます。
- 慎重な計算実行: 複数の式が得られた場合は連立して解きます。代数計算は、符号や文字の書き間違いに注意しながら慎重に行います。
- 解の物理的な吟味: 得られた答えが物理的に妥当か(単位は正しいか、符号は状況に合っているか、極端な条件下で予想される振る舞いと一致するかなど)を必ず検討します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 符号の取り扱い: 速度、変位、力について、設定した座標軸の正方向に対して向きを常に意識し、式中の符号を間違えないようにします。特に反発係数の式では速度の符号が重要です。
- 質量の使い分け: 衝突前後の小球 \(m\) と板 \(M\)、そして一体となった場合 \(m+M\) など、各場面で運動方程式やエネルギーの式に用いる質量を正しく選択することが重要です。
- エネルギーの項の計上漏れや重複: 特にB方式で力学的エネルギー保存則を立てる際に、重力による位置エネルギーとばねの弾性エネルギーの両方を正しく考慮し、基準点の取り方と変位の定義を一貫させることが必要です。
- 平方根や2乗の計算: 運動エネルギーや単振動の振幅計算などで頻出します。落ち着いて正確に計算します。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 文字式のまま計算を進める: 可能な限り、具体的な数値を代入する前に文字式のまま計算を進めることで、途中の計算ミスを発見しやすくなったり、一般的な関係性が見えやすくなったりします。
- 単位(次元)を確認する習慣: 式の各項や最終的な答えの単位(次元)が物理的に正しいものになっているかを確認する習慣は、立式の誤りや計算ミスを発見するのに役立ちます。
- 図と数式を常に見比べ、対応を確認する: 図に描いた力の向きや大きさ、座標軸などが、立てた数式の各項と正しく対応しているかを確認しながら進めます。
- 複雑な計算は一度立ち止まる: 式が複雑になってきたら、一度計算を中断し、ここまでの論理の流れや各項の意味を見直すことも有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 計算ミスや立式の根本的な誤りの発見: 例えば、はね返るはずの小球の速度が下向きになったり、エネルギーが増加したりするなど、物理的にありえない結果が出た場合は、計算過程や立式のどこかに誤りがあると気づく重要なきっかけになります。
- 物理法則の深い理解の促進: 数式の背後にある物理的な意味や、法則が現象をどのように記述しているのかを考察することで、表面的な公式の暗記から一歩進んだ、本質的な理解へと繋がります。
- 応用力の養成: 「なぜこの結果になるのか?」「もし条件がこう変わったらどうなるだろうか?」と考える習慣は、未知の問題に対処する際の論理的思考力や洞察力を養います。
- 「解の吟味」を通じて具体的に何ができるか:
- 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、\(m=0\) や \(M \to \infty\)、\(h=0\)、ばね定数 \(k \to 0\) や \(k \to \infty\) などの極端な値を代入してみて、結果が直感的に理解できる簡単な状況に帰着するかどうか、あるいは物理的に意味のある振る舞いをするかを確認します。(例:問(1)で \(m<M\) がはね返る条件であることの直感的妥当性、問(3)で失われるエネルギーが常に正であること、など。)
- 既知の状況との比較: もし問題設定の一部が、以前に解いたことのある単純な既知の状況(例:固定されたばねへの衝突、単一の鉛直ばね振り子)と同じになれば、答えもそれに一致するはずです。
- 単位(次元)の一致確認: 答えとして得られた物理量の単位が、求められているものの単位と一致しているか、また、式を構成する各項の単位の整合性が取れているかを確認します。
問題35
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、滑らかな斜面上に置かれた、ばねと糸で連結された2物体(PとQ)の運動を扱います。初めに系全体はつり合いの位置にあり、そこからさらに引き伸ばされて運動を開始します。運動の途中で糸がゆるむという条件変化も含まれており、単振動の解析が中心となります。
- 物体Pの質量: \(m\)
- 物体Qの質量: \(M\)
- ばね定数: \(k\)
- 斜面は滑らか。
- 初期つり合い時: ばねは自然長から \(d\) だけ伸びている。このときのPの位置が原点 \(x=0\)。
- 座標軸: Pの初期つり合い位置を原点とし、斜面に沿って下向きを正とする。
- 運動開始条件: Pの位置が \(x=2d\) となるまでQを下に引き、静かに放す。
- 重力加速度: \(g\)
- (1) 斜面の傾角 \(\theta\) として、\(\sin\theta\) を求める。
- (2) Pが位置 \(x\) を通るときの加速度を \(a\)、糸の張力の大きさを \(S\) として、PとQそれぞれの運動方程式を立てる(答えに \(\theta\) を用いない)。
- (3) やがて糸がゆるみ始める。そのときのPの位置と速さを求める。
- (4) 放してからPが \(x=0\) へ戻るまでの時間 \(t_1\) と、糸がゆるむまでの時間 \(t_2\) を求める。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題の主なテーマは「連結された物体の単振動」および「単振動の途中で条件が変化する運動(糸のゆるみ)」です。斜面上での運動であるため、重力の斜面方向成分を考慮に入れる必要があります。
まず、初期のつり合い状態から斜面の傾斜を求め、次に運動方程式を立てて系の運動を解析します。糸がゆるむ条件や、単振動の性質、エネルギー保存則などが重要な鍵となります。
問(1)
思考の道筋とポイント
初めにPとQが一体となって静止している状態を考えます。このとき、PとQ全体に働く力は、斜面方向についてつり合っています。働く力は、PとQそれぞれの重力の斜面方向成分(下向き)と、ばねの弾性力(上向き)です。この力のつり合いから \(\sin\theta\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- PとQを一体の物体(質量 \(m+M\))として扱います。
- 静止しているので、斜面方向の力のつり合いの式を立てます。
- ばねは自然長から \(d\) だけ伸びているので、弾性力の大きさは \(kd\) で、向きは斜面上向きです。
- PとQの重力の斜面方向成分は、それぞれ \(mg\sin\theta\) と \(Mg\sin\theta\) で、ともに斜面下向きです。
具体的な解説と立式
おもりPと台Qを一体と見なすと、その合計質量は \((m+M)\) です。
この一体の物体に働く重力の斜面方向成分の合計は、斜面下向きに \((m+M)g\sin\theta\) です。
一方、ばねは自然長から \(d\) だけ伸びて静止しているので、ばねの弾性力はフックの法則より、斜面上向きに \(kd\) です。
初めの静止状態では、これらの力が斜面方向でつり合っているので、力のつり合いの式は、
$$kd = (m+M)g\sin\theta \quad \cdots ①$$
となります。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- フックの法則: \(F_{\text{弾性力}} = k \times (\text{変位})\)
- 重力の斜面方向成分: \((\text{質量}) \times g \sin\theta\)
式①から、\(\sin\theta\) を求めます。
両辺を \((m+M)g\) で割ると、
$$\sin\theta = \frac{kd}{(m+M)g}$$
最初、おもりPと物体Qは糸でつながれ、ばねに取り付けられて斜面上で止まっています。このとき、PとQ全体を斜面下向きに引っ張る「重力の斜面成分の合計」と、ばねが伸びてPとQ全体を斜め上向きに引っ張る「ばねの力(弾性力)」がちょうど等しくなってバランスが取れています。このバランスの式から、斜面の傾きに関わる \(\sin\theta\) を計算します。
斜面の傾角 \(\theta\) について、\(\sin\theta = \displaystyle\frac{kd}{(m+M)g}\) です。
この結果は、ばねの伸び \(d\) やばね定数 \(k\) が大きいほど、また全体の質量 \((m+M)\) や重力加速度 \(g\) が小さいほど、\(\sin\theta\) が大きくなる(つまり斜面の傾斜が急になる)必要があることを示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
PとQが糸でつながれて運動している状況を考えます。両者は糸でつながれているため、糸が張っている限り同じ加速度 \(a\) で運動します(斜面下向きを正)。
物体Pと物体Qそれぞれに働く力をすべて特定し、斜面方向について運動方程式を立てます。
Pの位置が \(x\) のとき、Pは初期のつり合い位置(\(x=0\)、ばねの伸び \(d\))からさらに \(x\) だけ下向きに変位しています。したがって、ばねの自然長からの総伸びは \((d+x)\) となります。問(1)で求めた \(\sin\theta\) の関係式を用いて、運動方程式中の \(g\sin\theta\) を消去し、\(\theta\) を含まない形にします。
この設問における重要なポイント
- PとQの加速度は共通で \(a\)(斜面下向きを正)。
- 物体Pに働く力(斜面方向): 重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\)(下向き)、ばねの弾性力 \(k(d+x)\)(上向き)、糸の張力 \(S\)(下向き)。
- 物体Qに働く力(斜面方向): 重力の斜面成分 \(Mg\sin\theta\)(下向き)、糸の張力 \(S\)(上向き)。
- 問(1)の結果 \(\sin\theta = \frac{kd}{(m+M)g}\) を利用して \(g\sin\theta = \frac{kd}{m+M}\) を代入する。
具体的な解説と立式
物体Pと物体Qの加速度を \(a\)(斜面下向きを正)とします。糸の張力の大きさを \(S\) とします。
Pの位置が \(x\) のとき、ばねの自然長からの総伸びは \((d+x)\) です。したがって、ばねの弾性力は斜面上向きに \(k(d+x)\) です。
また、問(1)より \(g\sin\theta = \displaystyle\frac{kd}{m+M}\) です。
物体Pの運動方程式(斜面下向きを正):
Pに働く力は、重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\)(下向き)、糸の張力 \(S\)(下向き)、ばねの弾性力 \(k(d+x)\)(上向き)です。
$$ma = mg\sin\theta + S – k(d+x)$$
ここに \(mg\sin\theta = m \cdot \displaystyle\frac{kd}{m+M}\) を代入すると、
$$ma = \frac{mkd}{m+M} + S – k(d+x) \quad \cdots ②’$$
(模範解答の形に合わせると: \(ma = S – kx – \frac{Mkd}{m+M}\))
物体Qの運動方程式(斜面下向きを正):
Qに働く力は、重力の斜面成分 \(Mg\sin\theta\)(下向き)、糸の張力 \(S\)(上向き)です。
$$Ma = Mg\sin\theta – S$$
ここに \(Mg\sin\theta = M \cdot \displaystyle\frac{kd}{m+M}\) を代入すると、
$$Ma = \frac{Mkd}{m+M} – S \quad \cdots ③’$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(m_{\text{物体}} a = F_{\text{合力}}\)
- 重力の斜面成分
- フックの法則(弾性力の向きと大きさに注意)
- 糸の張力
(この設問は運動方程式を立てるまでなので、計算はありません。模範解答の形に合わせるための式変形は上記「具体的な解説と立式」に含めました。)
式②’を模範解答の形 \(ma = S – kx – \frac{Mkd}{m+M}\) に変形するには、
\( \frac{mkd}{m+M} – kd = \frac{mkd – k(m+M)d}{m+M} = \frac{mkd – mkd – Mkd}{m+M} = -\frac{Mkd}{m+M} \)
を用いると、\( ma = S – kx – \frac{Mkd}{m+M} \) となります。
物体Pと物体Qが糸でつながれて一緒に動いているとき、それぞれの物体にどのような力が働いているかを考えます。そして、それぞれの物体について「質量 × 加速度 = 合力」という運動の基本法則(運動方程式)を立てます。
物体Pには、「重力の斜面方向の成分(下向き)」、「糸がPを下に引く力(張力)」、そして「ばねがPを上に引く力(弾性力)」が働いています。
物体Qには、「重力の斜面方向の成分(下向き)」と「糸がQを上に引く力(張力)」が働いています。
これらの力を、問題で与えられた文字(\(m, M, k, d, g, x, S, a\)など、ただし\(\theta\)は使わないように、問(1)の結果を利用して)で表して式にします。特に、ばねの力は「自然の長さからどれだけ伸びているか」で決まるので、Pの位置\(x\)と最初の伸び\(d\)を使って正確に表す必要があります。
物体Pの運動方程式: \(ma = S – kx – \displaystyle\frac{Mkd}{m+M}\)
物体Qの運動方程式: \(Ma = \displaystyle\frac{Mkd}{m+M} – S\)
これらの式は、PとQが糸で結ばれ一体となって運動している際の、任意の瞬間の加速度\(a\)、張力\(S\)、Pの位置\(x\)の関係を表しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
糸がゆるみ始めるのは、糸の張力 \(S\) が0になったときです。問(2)で立てたPとQの運動方程式から \(S=0\) となる条件を考え、そのときのPの位置を求めます。
模範解答では、先にPとQの運動方程式から加速度 \(a\) を消去して \(S\) を \(x\) の関数として表し、\(S=0\) となる \(x\) を求めています。
\(S=0\) となったとき、物体Qは糸から引かれなくなるので、重力の斜面成分のみで運動しようとします。一方、物体Pはばねの力と重力の斜面成分を受けます。この瞬間のPとQの速度はまだ共通です。
糸がゆるむ位置が特定できたら、運動開始位置 (\(x=2d\)、初速0) からその位置までの力学的エネルギー保存則(または単振動のエネルギー保存則)を用いて、その瞬間の速さを求めます。この間、PとQは一体として運動しています。この一体運動の振動中心は \(x=0\) (初期のつり合い位置) であり、振幅は \(2d\) です。
この設問における重要なポイント
- 糸がゆるむ条件は、張力 \(S=0\) です。
- \(S=0\) となるPの位置を、運動方程式から導きます。
- 糸がゆるむ瞬間までは、PとQは一体として単振動の一部を行います。そのときの振動中心は \(x=0\)、振幅は \(2d\) です。
- この単振動のエネルギー保存則(A方式: 振動中心 \(x=0\) をポテンシャルエネルギーの基準とする)を適用して速さを求めます。
具体的な解説と立式
まず、糸がゆるむ位置を求めます。糸がゆるむのは張力 \(S=0\) のときです。
問(2)で得られた運動方程式から \(S\) を \(x\) の関数として表します。
Qの運動方程式 \(Ma = \displaystyle\frac{Mkd}{m+M} – S\) より、\(S = \displaystyle\frac{Mkd}{m+M} – Ma\)。
PとQを一体とみなしたときの運動方程式は、\((m+M)a = -kx\) (問(2)の式②’と③’を足し合わせるか、外力の合力を考えれば導出できます)。
よって、加速度 \(a = -\displaystyle\frac{k}{m+M}x\)。
これを \(S\) の式に代入すると、
$$S = \frac{Mkd}{m+M} – M\left(-\frac{kx}{m+M}\right) = \frac{Mk(d+x)}{m+M}$$
糸がゆるむのは \(S=0\) のときなので、
$$\frac{Mk(d+x)}{m+M} = 0$$
\(M, k, m+M\) は0ではないので、\(d+x = 0\) となります。したがって、\(x = -d\)。
これが糸がゆるむPの位置です。この位置は、ばねが自然長になる位置です(初期つり合いで \(d\) 伸びていたので、そこから \(x=-d\) の位置は自然長の位置です)。
次に、この位置 \(x=-d\) でのP(およびQ)の速さ \(v\) を求めます。
PとQは一体となって、\(x=0\) を振動中心、振幅 \(A_0=2d\) の単振動をしています(\(x=2d\) で静かに放すので、ここが振動の端)。
単振動のエネルギー保存則(A方式:振動中心 \(x=0\) を、単振動の復元力によるポテンシャルエネルギーの基準とする。このポテンシャルエネルギーは \(\frac{1}{2}K X^2\) の形で、ここで \(K\) は実効的なばね定数、\(X\) は中心からの変位)を用います。
PとQ一体の運動方程式は \((m+M)a = -kx\) であったので、この単振動の実効的なばね定数は \(k\) とみなせます。
運動開始時(\(x=2d\)、速さ0)の(この単振動の)エネルギー \(E_{\text{開始}}\) は、
$$E_{\text{開始}} = \frac{1}{2}k(2d)^2 + \frac{1}{2}(m+M)(0)^2 = 2kd^2$$
糸がゆるむ位置(\(x=-d\)、速さ \(v\))でのエネルギー \(E_{\text{ゆるみ}}\) は、
$$E_{\text{ゆるみ}} = \frac{1}{2}k(-d)^2 + \frac{1}{2}(m+M)v^2 = \frac{1}{2}kd^2 + \frac{1}{2}(m+M)v^2$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{開始}} = E_{\text{ゆるみ}}\) より、
$$2kd^2 = \frac{1}{2}kd^2 + \frac{1}{2}(m+M)v^2 \quad \cdots ⑦$$
この式から速さ \(v\) を求めます。
使用した物理公式
- 糸がゆるむ条件: 張力 \(S=0\)
- 運動方程式
- 単振動のエネルギー保存則 (A方式: \(\frac{1}{2} (\text{質量}) v^2 + \frac{1}{2} (\text{実効的ばね定数}) (\text{中心からの変位})^2 = \text{一定}\))
糸がゆるむ位置 \(x\) の導出:
上記「具体的な解説と立式」で \(S=\displaystyle\frac{Mk}{m+M}(d+x)\) を導出し、\(S=0\) より \(x=-d\)。
糸がゆるむときの速さ \(v\) の導出:
式⑦ \(2kd^2 = \displaystyle\frac{1}{2}kd^2 + \frac{1}{2}(m+M)v^2\) を \(v\) について解きます。
両辺に2を掛けて整理します。
$$4kd^2 = kd^2 + (m+M)v^2$$
$$(m+M)v^2 = 4kd^2 – kd^2$$
$$(m+M)v^2 = 3kd^2$$
$$v^2 = \frac{3kd^2}{m+M}$$
速さ \(v\) は正なので(運動方向は上向き、\(x\)軸の負の向き)、
$$v = d\sqrt{\frac{3k}{m+M}}$$
糸がゆるみ始めるのは、糸の張りがちょうどなくなった(張力がゼロになった)ときです。このときの物体の位置を、まず運動の法則(運動方程式)から求めます。計算すると、これはばねがちょうど自然の長さに戻ったときであることがわかります。
次に、その瞬間の速さを求めます。物体が動き始めてから糸がゆるむ直前までは、PとQは一体となって規則的な振動運動(単振動)の一部をしています。この運動の間、エネルギーは保存されます(摩擦がないため)。動き始めのエネルギー(ばねのエネルギーだけ)と、糸がゆるむ瞬間のエネルギー(ばねのエネルギーと運動エネルギーの合計)が等しいという関係から、そのときの速さを計算します。
糸がゆるみ始めるPの位置は \(x = -d\) です。これは、ばねが自然長になった位置を意味します(初期つり合い \(x=0\) でばねは \(d\) 伸びていたので、そこから \(x=-d\) の位置は自然長の位置です)。
そのときの速さは \(v = d\sqrt{\displaystyle\frac{3k}{m+M}}\) です。
糸がゆるむ位置が \(x=-d\)(自然長)というのは、物体Qに働く力が重力の斜面成分のみとなり、Qの加速度が \(g\sin\theta\) となるとき、Pも同じ加速度 \(g\sin\theta\) であれば張力は0になる、という考え方からも導けます。Pの加速度が \(g\sin\theta\) のとき、Pに働く力は重力の斜面成分 \(mg\sin\theta\) のみである必要があり、そのためにはばねの力が0(ばねが自然長)でなければなりません。
問(4)
思考の道筋とポイント
PとQは、糸が張っている間、\(x=0\) を振動中心として振幅 \(A=2d\) の単振動を行います(\(x=2d\) で静かに放すので、ここが振動の端です)。
この単振動の角振動数 \(\omega\) は、全体の質量 \((m+M)\) とばね定数 \(k\) から \(\omega = \sqrt{\frac{k}{m+M}}\) となります。
周期 \(T = 2\pi/\omega = 2\pi\sqrt{\frac{m+M}{k}}\)。
\(t_1\): Pが \(x=0\) へ戻るまでの時間
物体は \(x=2d\)(振動の下端)から運動を始めます。\(x=0\) は振動の中心です。単振動において、振動の端から中心までの移動にかかる時間は周期の \(1/4\) です。
\(t_2\): 糸がゆるむまでの時間
糸がゆるむのは \(x=-d\) の位置です(問3より)。物体は \(x=2d\) から運動を開始します。
単振動の位置を表す式を \(x(t) = A\cos(\omega t + \phi_0)\) または \(A\sin(\omega t + \phi_0)\) の形で立て、初期条件と最終条件から時刻 \(t_2\) を求めます。
\(x=0\) が中心で、\(t=0\) で \(x=2d\)(端)なので、\(x(t) = 2d \cos(\omega t)\) と表せます。この式で \(x(t_2) = -d\) となる \(t_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- PとQの一体振動は、振動中心 \(x=0\)、振幅 \(A=2d\)。
- 角振動数 \(\omega = \sqrt{k/(m+M)}\)、周期 \(T = 2\pi/\omega\)。
- \(t_1\) は端から中心までの時間であり、\(T/4\) に相当します。
- \(t_2\) は端から特定の位置までの時間であり、単振動の位置と時間の関係式、または等速円運動との対応(位相)を考えて求めます。
具体的な解説と立式
PとQが一体となって行う単振動について:
振動中心: \(x_c = 0\)
振幅: \(A = 2d\) (\(x=2d\) で静かに放すので、ここが振動の端)
角振動数: \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m+M}}\)
周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega} = 2\pi\sqrt{\frac{m+M}{k}}\)
\(t_1\) の計算:
Pが \(x=2d\)(端)から \(x=0\)(中心)へ戻るまでの時間 \(t_1\) は、単振動の周期の \(1/4\) です。
$$t_1 = \frac{1}{4}T \quad \cdots ⑧$$
\(t_2\) の計算:
糸がゆるむのは \(x=-d\) の位置です。
時刻 \(t=0\) で \(x=2d\)(端)から運動を始めるとすると、時刻 \(t\) におけるPの位置 \(x(t)\) は、
$$x(t) = A \cos(\omega t) = 2d \cos(\omega t)$$
と表せます。(\(t=0\) で \(x=2d\) となるように位相を選んでいます。)
糸がゆるむ時刻を \(t_2\) とすると、\(x(t_2) = -d\) なので、
$$-d = 2d \cos(\omega t_2)$$
$$\cos(\omega t_2) = -\frac{1}{2} \quad \cdots ⑨$$
この式を満たす最小の正の \(t_2\) を求めます。
使用した物理公式
- 単振動の周期と角振動数
- 単振動の位置と時間の関係: \(x(t) = A \cos(\omega t)\) (初期条件による)
- 三角方程式の解法
\(t_1\) の計算:
式⑧に周期 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m+M}{k}}\) を代入します。
$$t_1 = \frac{1}{4} \left(2\pi\sqrt{\frac{m+M}{k}}\right) = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m+M}{k}}$$
\(t_2\) の計算:
式⑨ \(\cos(\omega t_2) = -\displaystyle\frac{1}{2}\) を満たす \(\omega t_2\) の値は、物体が \(x=2d\) から動き出し、初めて \(x=-d\) に達するまでの間を考えると、\(0 \le \omega t \le \pi\) の範囲で考えます(\(x=2d \cos(\omega t)\) なので、\(\omega t = 0\) で \(x=2d\)、\(\omega t = \pi/2\) で \(x=0\)、\(\omega t = \pi\) で \(x=-2d\))。
\(\cos \phi = -1/2\) となるのは、\(\phi = 2\pi/3, 4\pi/3, \dots\) です。
物体が \(x=2d\) から出発して最初に \(x=-d\) に達するのは、速度が負(上向き)のとき、つまり \(x\) が減少している区間です。
\(\omega t_2\) は \(\pi/2\) より大きく \(\pi\) より小さい範囲にあるはずです。この範囲で \(\cos(\omega t_2) = -1/2\) となるのは、
$$\omega t_2 = \frac{2}{3}\pi$$
したがって、
$$t_2 = \frac{2\pi}{3\omega}$$
ここに \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m+M}}\) を代入すると、
$$t_2 = \frac{2\pi}{3}\sqrt{\frac{m+M}{k}}$$
これは周期 \(T\) を用いると \(t_2 = \displaystyle\frac{1}{3}T\) です。
PとQが一体となって振動している間の運動を考えます。
\(t_1\)(Pが原点 \(x=0\) に戻る時間):
物体は一番下の端(\(x=2d\))から動き始めます。原点 \(x=0\) はこの振動の中心です。単振動では、端から中心まで動くのにかかる時間は、1回の完全な振動にかかる時間(周期)のちょうど \(1/4\) になります。
\(t_2\)(糸がゆるむ時間):
糸がゆるむのは、Pの位置が \(x=-d\)(ばねが自然長になる位置)になったときです。物体が一番下の端 (\(x=2d\)) からこの特定の位置 (\(x=-d\)) まで動くのにかかる時間を求めます。これは、単振動の運動の様子を三角関数(コサイン)で表し、その式が \(x=-d\) となるような時刻 \(t_2\) を見つけることで計算できます。あるいは、単振動を円運動の影と見立てて、対応する円運動がどれだけの角度回転したか(位相が進んだか)から時間を求めることもできます(模範解答の図はこの考え方です)。
放してからPが \(x=0\) へ戻るまでの時間 \(t_1\) は \(t_1 = \displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m+M}{k}}\) です。
糸がゆるむまでの時間 \(t_2\) は \(t_2 = \displaystyle\frac{2\pi}{3}\sqrt{\frac{m+M}{k}}\) です。
\(t_1\) は周期 \(T\) の \(1/4\) であり、振動の端から中心までの時間に相当するので妥当です。
\(t_2\) は周期 \(T\) の \(1/3\) です。\(x=2d\) (端) から \(x=0\) (中心) まで \(T/4\)。さらに \(x=0\) から \(x=-d\) まで動きます。\(x(t) = 2d \cos(\omega t)\) で \(x=-d\) となるのは \(\cos(\omega t) = -1/2\)。対応する円運動では、\(x\) 軸正方向から測った位相角が \(2\pi/3\) (120度) のときです。したがって、\(t_2 = (2\pi/3)/\omega = (1/3)T\)。これは模範解答の図とも整合し、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 斜面上の力のつり合いと運動方程式: 重力の斜面成分を正しく扱い、ばねの弾性力、糸の張力との関係を運動方程式や力のつり合いの式にまとめる能力が基本となります。
- 単振動の条件とパラメータの特定: 運動方程式が \(a = -\omega^2 x’\) (\(x’\) は振動中心からの変位)の形になること、つまり復元力が変位に比例することを確認し、振動中心、振幅、角振動数 \(\omega = \sqrt{K_{\text{実効}}/\text{質量}}\)、周期 \(T=2\pi/\omega\) を正しく特定することが求められます。
- ばねの伸びと弾性力の基準点の明確化: ばねの弾性力は常に「自然長からの変位」に比例します。問題で与えられた座標 \(x\) と、ばねの自然長からの伸び(または縮み)との関係を正確に把握することが極めて重要です。
- 糸がゆるむ条件 (\(S=0\)): 連結された物体において、糸の張力が0になる瞬間に糸はゆるみ、それ以降は物体が別々の運動をする可能性があるという物理的状況の変化を捉えることが重要です。
- 力学的エネルギー保存則: 滑らかな斜面上の単振動では、保存力(重力と弾性力)のみが仕事をするため、系の力学的エネルギーが保存されます。これを利用して、特定の点での速さなどを求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
- 複数の物体がばねや糸で連結されて振動する系(水平面、鉛直方向、斜面など)。
- 振動の途中で、物体の連結が切れたり(糸がゆるむ、物体が分離するなど)、質量が変化したりする問題。
- 単振動の特定の状態(特定の位置、特定の速度など)に達するまでの時間を問う問題。
- 初見の問題でどこに着目すればよいか:
- つり合いの位置の特定: まず、系全体または各部分が静止できる力のつり合いの位置がどこかを見つけます。これが単振動の振動中心となることが多いです。
- 復元力の形の確認: 振動中心からの変位に対して、復元力がどのような形で働くかを確認します。線形 (\(-Kx’\) 型) なら単振動です。
- 運動の段階分け: 条件が変化する点(糸がゆるむ、衝突、分離など)で運動のフェーズを区切り、各フェーズでの運動法則を考えます。
- 初期条件の正確な把握: 各フェーズの運動を開始するときの物体の位置と速度を正確に把握し、それを単振動の式やエネルギー保存則に適用します。
- 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
- 座標軸の取り方(原点、正の向き)を明確にし、力や変位の符号に一貫性を持たせます。
- ばねの「自然長からの伸び/縮み」と、設定した「座標」との関係を混同しないように注意します(例:本問では初期つり合い位置が原点 \(x=0\) で、そこでの伸びが \(d\)、一般の位置 \(x\) での自然長からの伸びは \(d+x\))。
- 「糸がゆるむ」とは、張力 \(S=0\) であり、その後 \(S<0\)(糸が圧縮する力)にはならないという物理的な制約を理解しておくことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ばねの力の基準点の誤り:
- ありがちな誤解: ばねの弾性力を、振動中心からの変位ではなく、座標の原点からの距離や、つり合いでの伸び \(d\) のみを考慮して計算してしまう。
- 対策: 弾性力は常に「自然長からの変位」に比例することを徹底します。つり合いの位置での伸び(本問では \(d\))と、そこからの変位(本問では \(x\))を区別し、自然長からの総変位(本問では \(d+x\))を正しく把握します。
- 単振動の振動中心の誤認:
- ありがちな誤解: 特に斜面上の問題や複数の力が関わる場合、力のつり合い位置を正しく特定できず、誤った振動中心で考えてしまう。
- 対策: 必ず、振動する物体(または系全体)に働く全ての力を図示し、それらの合力が0になる位置を丁寧に計算して振動中心を求めます。
- 時間の計算での単純な比例計算の誤り:
- ありがちな誤解: 単振動は等速運動ではないにもかかわらず、距離が半分だからといって時間も半分になる、といった単純な比例計算をしてしまう。(模範解答のPoint & Hintにも指摘あり)
- 対策: 単振動の位置と時間の関係式 \(x(t) = A\cos(\omega t + \phi_0)\) などを用いるか、単振動が等速円運動の正射影であることを利用して、対応する等速円運動の回転角(位相)から時間を求めます。
- 糸がゆるんだ後の運動の誤解:
- ありがちな誤解: 糸がゆるんだ後も、物体PとQが同じ運動を続ける(あるいは同じ加速度を持つ)と誤解してしまう。
- 対策: 糸の張力が0になったら、PとQはそれぞれ独立した力(Pはばねの力と重力の斜面成分、Qは重力の斜面成分のみ)を受けて運動すると考え、それぞれの物体について改めて運動を解析する必要があります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- PとQが一体となって斜面を上下にゆらゆらと振動する様子。
- ばねが最も伸びた状態(下端 \(x=2d\))から、縮みながら上昇し、やがて自然長 (\(x=-d\)) に達すると糸がたるみ、Pはばねに引かれてさらに上昇し、Qは重力の斜面成分だけで滑り降りようとする(ただし、この問題では糸がゆるんだ瞬間の解析までが中心)。
- 振動の中心 (\(x=0\)) を通過するときに速さが最大になる様子。
- 図示の重要性:
- 各物体に働く力をベクトルで正確に図示すること。特に、ばねの弾性力(自然長からの伸びに応じた向きと大きさ)、重力の斜面成分、糸の張力の向きが重要です。
- ばねの自然長の位置、つり合いの位置(本問では \(x=0\))、運動の端(本問では \(x=2d\) でリリース)、糸がゆるむ位置(本問では \(x=-d\))などを一直線上に模式的に描くことで、変位の関係が明確になります。
- 単振動の時間を求める際に、対応する等速円運動の図(位相円)を描くと、角度(位相)と時間の関係が視覚的に理解しやすくなります(模範解答の図も参照)。
- 図を描く際の注意点:
- 座標軸の向き(本問では斜面下向きが正)と原点の位置(初期つり合い位置)を明確にします。
- ばねの伸びは常に「自然長」を基準に考えます。問題文中の \(d\)(初期つり合いでの伸び)と \(x\)(つり合い位置からの変位)を区別し、自然長からの総伸び (\(d+x\)) を正しく把握します。
- 力のベクトルは作用点から描き、向きを正確に示します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合い (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由(問1): 「全体が静止しているとき」という記述から、PとQを一体とみなした系に働く力の合力が0であると判断し、斜面方向の力のつり合いの式を立てて \(\sin\theta\) を求めました。
- 運動方程式 (\(ma = \sum F\)):
- 選定理由(問2): 物体PとQが加速度運動をしている状況で、それぞれの物体に働く力と加速度の関係を記述するために適用しました。
- 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{M_{\text{eff}}/K_{\text{eff}}}\)):
- 選定理由(問4): PとQが一体となって運動する際の運動方程式を整理すると、全体の合力が \(-(kx)\) となり、復元力が変位 \(x\) に比例する形 (\(a = -\omega^2 x\)) になるため、単振動であると判断し、その周期を公式から求めました。
- 単振動のエネルギー保存則 (\(\frac{1}{2} M_{\text{eff}}v^2 + \frac{1}{2} K_{\text{eff}}x’^2 = E_0\)):
- 選定理由(問3): 糸がゆるむ瞬間までの運動は、保存力(重力の斜面成分と弾性力)のみが仕事をする単振動(の一部)であるため、力学的エネルギーが保存されると判断し、速さを求めるために適用しました。
- 単振動の位置と時間の関係式 (\(x(t)=A\cos\omega t\) など):
- 選定理由(問4): 特定の位置に到達するまでの時間を求めるために、単振動の運動が時間とともにどのように変化するかを表すこの関係式を用いました。初期条件(\(t=0\) で端、\(v=0\))からコサイン型を選択しました。
- 各公式が成り立つための前提条件(例:運動量保存なら外力の力積が無視できる、エネルギー保存なら保存力のみが仕事をするなど)を常に意識することが、物理法則を正しく適用するための鍵です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 初期状態の分析(力のつり合い): まず、問題の基準となる初期の静止状態での力のつり合いを考え、斜面の傾斜角に関する情報を導き出します。
- 運動方程式の立式: 次に、物体が運動している一般の状況で、各物体に働く力を全て考慮して運動方程式を立てます。この際、座標軸の取り方、力の向き、ばねの伸びの基準(自然長から)に注意します。
- 一体運動の解析(単振動): 複数の物体が一体となって運動する場合、それらを一つの系とみなし、系全体の運動方程式から単振動の特性(振動中心、角振動数、周期)を特定します。
- 条件変化点(糸のゆるみ)の特定: 運動の途中で条件が変わる場合(本問では糸がゆるむ)、その条件(張力 \(S=0\))が成立する瞬間の物体の状態(位置、速度など)を、それまでの運動の法則から導き出します。
- エネルギー保存則の活用: 特に速さを求めたい場合や、振動の振幅と最大速度の関係を考える際に、力学的エネルギー保存則は強力なツールとなります。適用区間とエネルギーの種類(運動エネルギー、位置エネルギー、弾性エネルギー)を明確にします。
- 時間の計算: 単振動の周期と位相の関係、あるいは位置と時間の関係式を用いて、特定の位置に到達するまでの時間を計算します。等速円運動との対応を考えると見通しが良くなることがあります。
- 結果の物理的な吟味: 得られた答えが物理的に妥当か(単位、符号、極端な条件下での振る舞いなど)を確認します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 文字の多さと混同: \(m, M, k, d, g, x, S, a, \theta, \omega, T\) など多くの文字が登場するため、それぞれの物理的な意味を正確に把握し、代入ミスや式の書き間違いをしないように注意が必要です。
- \(\sin\theta\) の置換: 問(1)で求めた \(\sin\theta\) の関係式を、問(2)以降の運動方程式に正しく代入し、式を整理する際の計算。
- 単振動の式の位相や初期条件の扱い: 特に問(4)で時間を求める際に、\(x(t)\) の三角関数の形を初期条件に合わせて正しく設定し、三角方程式を解く際の角度(位相)の範囲に注意が必要です。
- 平方根や分数の計算: 周期や速さ、エネルギーの計算で頻出します。落ち着いて正確に行います。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 物理量を定義する文字の意味を常に明確にする: どの文字が何を表しているのかを問題の文脈で常に意識します。
- 図を有効活用する: 力の分解や変位の関係などを図に描き込み、視覚的に確認しながら立式や計算を進めます。
- 複雑な計算は段階的に、整理しながら行う: 一度に多くの変形をしようとせず、各ステップで何をしているのかを確認しながら、式を整理していくことが大切です。
- 時間の計算では、周期 \(T\)、角振動数 \(\omega\)、位相 \(\phi\) の関係を正確に使う: \(t = (\text{位相角})/\omega\) や、\((\text{位相角}) = (\text{角度})/360^\circ \times 2\pi\) といった関係を正しく適用します。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 計算ミスや立式の誤りを発見する手がかりになります。
- 物理法則が現象をどのように記述しているかについての理解を深めます。
- 単に答えを出すだけでなく、「なぜそうなるのか」を考えることで、論理的思考力や応用力が養われます。
- 「解の吟味」を通じて具体的に何ができるか:
- 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、\(m \to 0\)(おもりPが非常に軽い)、\(M \to 0\)(台Qが非常に軽い)、ばね定数 \(k\) が非常に大きい(硬いばね)/非常に小さい(柔らかいばね)、初期の伸び \(d \to 0\) などの極端な値を代入してみて、結果が物理的に予想される振る舞いや既知の簡単なケースに帰着するかどうかを確認します。
- 単位(次元)の一致確認: 答えとして得られた物理量の単位が正しいか、また式を構成する各項の単位の整合性が取れているかを確認します。
- 物理的な意味の再考: 例えば、問(4)で \(t_1\) と \(t_2\) の大小関係(\(t_1 = T/4\), \(t_2 = T/3\) なので \(t_1 < t_2\))が、運動の軌跡(\(x=0\) は中心、\(x=-d\) は中心よりさらに進んだ位置)と整合しているかなどを考えます。
- 糸がゆるむ条件 \(x=-d\) の意味: これがばねの自然長の位置に相当することを理解し、そのときPとQがなぜ分離するのかを力の観点から再確認します。
問題36 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ゴムひもを用いた鉛直方向の振動系を扱います。ゴムひもはばねと似ていますが、「ゆるむと力を生じない」という特性が重要です。仕事、エネルギー、単振動の概念を複合的に用いて解析します。
- おもりの質量: \(m\)
- ゴムひもX, Y: 自然長 \(l\)、同じ弾性定数(ばね定数に相当、これを \(k\) とおく)
- 初期静止状態: Xの長さ \(l+a\)(つまりXの伸びが \(a\))。このときYは自然長 \(l\) であり、張力は発生していないと解釈される。
- ゴムひもの特性: 伸びに比例する弾性力、ゆるむと力なし。
- 重力加速度: \(g\)
- (1) 図の静止状態から、Yの下端をゆっくりと距離\(b\)だけ引き下げる。これに必要な仕事\(W_1\)を求める。
- (2) 図の静止状態から、Yの下端を急に距離\(b\)だけ引き下げる。これに必要な仕事\(W_2\)を求める。
- (3) 図の静止状態から、Yの下端を急に距離\(b\)だけ引き下げ、下端をその位置に固定した。おもりのその後の運動を記述する。
- (4) 図の静止状態に戻し、Yの下端をその位置(おもりが静止しているときのYの下端の位置)に固定し、おもりをつり合い位置の上下に小さく振動させる。この振動の周期 \(T\) を求め、つり合い位置から上方向への振幅\(A_1\)と下方向への振幅\(A_2\)の比 \(\frac{A_1}{A_2}\) を求める。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は「ゴムひもの弾性力」と「単振動」および「仕事とエネルギー」が中心テーマです。ゴムひもが「ゆるむ」という条件が、通常のばねの問題とは異なる状況を生み出す可能性があります。
まず、初期の静止状態での力のつり合いから、ゴムひもの弾性定数(ばね定数に相当)を求めます。これが全ての設問の基礎となります。
(準備) ゴムひもの弾性定数 \(k\) の決定
具体的な解説と立式
初期の静止状態では、おもり \(m\) には重力 \(mg\)(下向き)とゴムひもXの弾性力 \(F_X\)(上向き)が働いてつり合っています。ゴムひもXの伸びは \(a\) なので、その弾性力は \(ka\) です。
力のつり合いより、
$$ka = mg \quad \cdots (*)$$
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
- フックの法則: \(F_{\text{弾性力}} = k \times (\text{伸び})\)
式(*)から、ゴムひもの弾性定数 \(k\) は、
$$k = \frac{mg}{a}$$
と表せます。
問(1)
思考の道筋とポイント
「ゆっくりと」引き下げるので、各瞬間でおもり \(m\) は力のつり合いを保っていると考えられます。Yの下端を \(b\) だけ引き下げると、おもり \(m\) もある距離だけ下がり、XとYの両方が伸びます。最終的なつり合い状態でのXとYの伸びを求め、始状態と終状態での系のポテンシャルエネルギー(弾性エネルギーと重力ポテンシャルエネルギー)の変化を計算し、それが外力のした仕事 \(W_1\) に等しいと考えます。
この設問における重要なポイント
- 「ゆっくり」なので、おもりは常に力のつり合いを保ちながら移動し、運動エネルギーの変化は無視できます。
- 外力のする仕事 \(W_1\) は、系のポテンシャルエネルギーの変化量に等しい (\(W_1 = \Delta U_{\text{弾性X}} + \Delta U_{\text{弾性Y}} + \Delta U_{\text{重力}}\))。
- おもりが下がった距離と、Yの下端が下がった距離 \(b\)、そしてXとYそれぞれの伸びの関係を正確に把握する必要があります。
具体的な解説と立式
おもりが初期のつり合い位置から \(x\) だけ下がったとします(下向きを正)。
このとき、ゴムひもXの総伸びは \((a+x)\) となります。ゴムひもYは、その下端がおもりの初期位置から測って \(l+b\) 下方の位置に固定され、おもりが \(x\) 下がるので、Yの長さは \((l+b)-x\) となります。したがって、Yの自然長 \(l\) からの伸びは \((b-x)\) です。
最終的なつり合い状態では、おもりにはたらく力はつり合っているので、上向きのXの弾性力 \(k(a+x)\) と、下向きの重力 \(mg\) およびYの弾性力 \(k(b-x)\) との間には次の関係が成り立ちます。
$$k(a+x) = mg + k(b-x)$$
ここで、初期のつり合い条件 \(ka=mg\) を用います。
仕事 \(W_1\) は、系のポテンシャルエネルギーの変化に等しくなります。
初期状態(おもりの位置を基準 \(y=0\) とする):
Xの弾性エネルギー: \(U_{X\text{初}} = \frac{1}{2}ka^2\)
Yの弾性エネルギー: \(U_{Y\text{初}} = 0\) (Yは自然長)
重力ポテンシャルエネルギー: \(U_{g\text{初}} = 0\) (基準)
最終状態(おもりが \(x\) 下がった位置):
Xの弾性エネルギー: \(U_{X\text{後}} = \frac{1}{2}k(a+x)^2\)
Yの弾性エネルギー: \(U_{Y\text{後}} = \frac{1}{2}k(b-x)^2\)
重力ポテンシャルエネルギー: \(U_{g\text{後}} = -mgx\)
したがって、仕事 \(W_1\) は、
$$W_1 = (U_{X\text{後}} – U_{X\text{初}}) + (U_{Y\text{後}} – U_{Y\text{初}}) + (U_{g\text{後}} – U_{g\text{初}}) \quad \cdots ①$$
別解1: モデル解答の考え方
おもりとゴムひもXを一つの「ばね振り子系」とみなし、ゴムひもYを別途考えます。
おもり+Xの系は、初期のつり合い位置(\(ka=mg\)が成り立つ位置)が単振動の中心です。おもりが最終的に \(x = b/2\) だけ下に変位すると(後述の計算過程参照)、その単振動の位置エネルギー(つり合い位置を基準としたもの)は \(\frac{1}{2}k(b/2)^2\) だけ増加します。
一方、ゴムひもYは、最終的に \(b/2\) だけ伸ばされます。Yは最初自然長だったので、Yに蓄えられる弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}k(b/2)^2\) です。
外力がした仕事 \(W_1\) は、これらのポテンシャルエネルギーの増加の合計と考えられます。
$$W_1 = \frac{1}{2}k\left(\frac{b}{2}\right)^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{b}{2}\right)^2 \quad \cdots ①_{\text{別解}}$$
- 力のつり合い
- フックの法則
- 弾性エネルギー: \(U_s = \frac{1}{2}k \times (\text{伸び})^2\)
- 重力ポテンシャルエネルギー: \(U_g = mgy\)
- 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外力}} = \Delta (\text{系のポテンシャルエネルギー})\)
- (別解)単振動の位置エネルギー: \(U_{\text{単振動}} = \frac{1}{2}k x’^2\) (\(x’\) は振動中心からの変位)
まず、おもりの最終的な下がり \(x\) を求めます。力のつり合いの式 \(k(a+x) = mg + k(b-x)\) に \(ka=mg\) を代入すると、
$$ka+kx = ka + k(b-x)$$
$$kx = kb – kx$$
$$2kx = kb$$
よっておもりの下がる距離は、
$$x = \frac{b}{2}$$
このとき、Xの追加の伸びは \(b/2\)、Yの伸びは \(b – b/2 = b/2\) です。
次に、この結果を用いて仕事 \(W_1\) を式①から計算します。
Xの弾性エネルギー変化:
$$\Delta U_X = \frac{1}{2}k\left(a+\frac{b}{2}\right)^2 – \frac{1}{2}ka^2 = \frac{1}{2}k\left(a^2 + ab + \frac{b^2}{4}\right) – \frac{1}{2}ka^2 = \frac{1}{2}kab + \frac{1}{8}kb^2$$
Yの弾性エネルギー変化:
$$\Delta U_Y = \frac{1}{2}k\left(\frac{b}{2}\right)^2 = \frac{1}{8}kb^2$$
おもりの重力ポテンシャルエネルギー変化(\(mg=ka\) を使用):
$$\Delta U_g = -mg\left(\frac{b}{2}\right) = -ka\left(\frac{b}{2}\right) = -\frac{1}{2}kab$$
これらを合計すると、
$$W_1 = \left(\frac{1}{2}kab + \frac{1}{8}kb^2\right) + \frac{1}{8}kb^2 – \frac{1}{2}kab = \frac{1}{4}kb^2$$
ゴムひもの弾性定数 \(k = \frac{mg}{a}\) (準備で求めた式(*))を代入すると、
$$W_1 = \frac{1}{4}\left(\frac{mg}{a}\right)b^2 = \frac{mgb^2}{4a}$$
別解の計算過程:
式①\(_{\text{別解}}\) \(W_1 = \frac{1}{2}k\left(\frac{b}{2}\right)^2 + \frac{1}{2}k\left(\frac{b}{2}\right)^2\) より、
$$W_1 = \frac{1}{8}kb^2 + \frac{1}{8}kb^2 = \frac{1}{4}kb^2$$
これに \(k = \frac{mg}{a}\) を代入すると、
$$W_1 = \frac{mgb^2}{4a}$$
となり、同じ結果が得られます。
ゴムひもYの端を「ゆっくりと」下に引くとき、おもりは常に力のバランスが取れた状態で少しずつ下がっていきます。この操作に必要な仕事は、系の「位置エネルギー」がどれだけ増えたかに等しくなります。「位置エネルギー」には、ゴムひもXとYが伸びることで蓄えられる「弾性エネルギー」と、おもりの高さが変わることによる「重力の位置エネルギー」の2種類があります。
まず、最終的におもりがどれだけ下がり、各ゴムひもがどれだけ伸びるかを力のつり合いから計算します。その後、それぞれのエネルギーが最初と最後でどれだけ変化したかを計算し、それらを合計することで必要な仕事が求まります。
別解では、おもりとゴムひもXを一体と見たときの「単振動の位置エネルギー」の増加と、ゴムひもYの「弾性エネルギー」の増加の合計として仕事を考えています。
Yの下端をゆっくりと距離\(b\)だけ引き下げるのに必要な仕事 \(W_1\) は、\(W_1 = \displaystyle\frac{1}{4}kb^2 = \frac{mgb^2}{4a}\) です。
仕事が \(b^2\) に比例し、弾性定数 \(k\) に比例する(硬いゴムほど仕事が大きい)、そして初期の伸び \(a\) に反比例する(初期の伸びが小さいほど \(k\) が大きく、結果として仕事が大きくなる)という関係は物理的に妥当と考えられます。
問(2)
思考の道筋とポイント
「急に」引き下げる場合、おもり \(m\) は慣性のため、その瞬間にはまだ動いていない(位置も速度も変わらない)と考えます。変化するのはゴムひもYの伸びだけです。Yの下端が \(b\) だけ引き下げられるので、Yは \(b\) だけ伸びます。このYの変形に必要な仕事が \(W_2\) となります。
この設問における重要なポイント
- 「急に」操作する場合、おもりは元の位置にとどまろうとします(慣性)。
- ゴムひもYだけが瞬間的に \(b\) 伸びると考えます。
- 必要な仕事 \(W_2\) は、ゴムひもYを \(b\) だけ伸ばすのに必要なエネルギー、つまりYに蓄えられた弾性エネルギーに等しいです。
具体的な解説と立式
Yの下端を「急に」距離 \(b\) だけ引き下げると、おもり \(m\) はその瞬間にはまだ元の静止位置(Xの伸びが \(a\)、Yは自然長)にとどまっています。
この操作によって、ゴムひもYの下端が \(b\) だけ引き下げられるので、Yは瞬間的に \(b\) だけ伸ばされたことになります。
このとき、外力がした仕事 \(W_2\) は、ゴムひもYに蓄えられた弾性エネルギーに等しくなります。
Yの伸びが \(b\) なので、その弾性エネルギー \(U_Y\) は、
$$U_Y = \frac{1}{2}kb^2$$
したがって、必要な仕事 \(W_2\) は、
$$W_2 = \frac{1}{2}kb^2 \quad \cdots ②$$
- 弾性エネルギー: \(U_s = \frac{1}{2}k \times (\text{伸び})^2\)
- 仕事とエネルギーの関係 (この場合は弾性エネルギーの増加分が仕事)
式②に、準備で求めた弾性定数 \(k = \displaystyle\frac{mg}{a}\) (式(*))を代入すると、
$$W_2 = \frac{1}{2}\left(\frac{mg}{a}\right)b^2 = \frac{mgb^2}{2a}$$
ゴムひもYの端を「急に」下に引く場合、おもりはその急な動きにすぐにはついていけず、一瞬だけ元の位置にとどまっていると考えます。このとき、仕事をするのはゴムひもYを \(b\) だけ伸ばすためだけです。ゴムひもを伸ばすのに必要なエネルギー(弾性エネルギー)が、このときにした仕事と等しくなります。
Yの下端を急に距離\(b\)だけ引き下げるのに必要な仕事 \(W_2\) は、\(W_2 = \displaystyle\frac{1}{2}kb^2 = \frac{mgb^2}{2a}\) です。
問(1)のゆっくり引き下げた場合の仕事 \(W_1 = \frac{1}{4}kb^2\) と比較すると、\(W_2 = 2W_1\) となっています。「急に」引き下げた方が2倍の仕事が必要になるというのは、ゆっくり引き下げた場合はおもりも動き、系全体のエネルギー変化が外力の仕事になるのに対し、急な操作ではおもりが動かないため、Yの変形エネルギーのみに仕事が費やされる(そしてその変形量が同じでも、力のつり合いを経ないため異なる結果になる)という違いを反映しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
Yの下端を急に \(b\) だけ引き下げて固定した瞬間、おもり \(m\) はまだ元の静止位置(Xの伸び \(a\))にあり、初速度は0です。この状態から運動を開始します。
おもりには、ゴムひもXからの上向きの弾性力、重力(下向き)、そして下に固定されたゴムひもYからの弾性力(Yが伸びていれば下向き)が働きます。これらの力の合力が復元力となり、単振動をすると考えられます。
まず、この新しい系での力のつり合いの位置(新しい振動中心)を求めます。次に、運動開始位置がこの新しい振動中心からどれだけずれているか(これが振幅)を求め、周期とともに運動を記述します。
この設問における重要なポイント
- 運動開始時(\(t=0\)): おもりは初期の静止位置(Xの伸び \(a\))にあり、速度は0。
- Yの下端は、おもりの初期静止位置から測って \(l+b\) 下方の位置に固定されている(Yの自然長は \(l\))。
- おもりが動くとXの伸びもYの伸びも変化します。
- XとYの両方がおもりに力を及ぼすため、実効的なばね定数は \(k_X + k_Y = 2k\) となります(サンドイッチ型ばねの考え方)。
- 新しいつり合いの位置(振動中心)を求める。
- 初期位置が振動の端となるので、振動中心と初期位置の差が振幅となる。
具体的な解説と立式
おもりの初期静止位置を基準(\(y=0\))とし、鉛直下向きを \(y\) 軸の正とします。
運動開始の瞬間、おもりは \(y=0\) にあり、初速度は \(0\) です。
おもりが位置 \(y\) にあるとき、
ゴムひもXの伸びは \((a+y)\) なので、Xからの弾性力は上向きに \(k(a+y)\)。
ゴムひもYについて。Yの自然長は \(l\)。Yの下端は、おもりの初期位置(\(y=0\))から測って \(l+b\) 下方の位置に固定されています。おもりの位置が \(y\) のとき、Yの上端(おもり)は \(y\) にあります。よって、Yの現在の長さは \((l+b) – y\) です。したがって、Yの伸びは \(( (l+b) – y ) – l = b-y\) です。Yからの弾性力は、Yが伸びていれば(つまり \(b-y > 0\) なら)下向きに \(k(b-y)\) です。
おもりにはたらく力の合力 \(F_{\text{合力}}\)(下向きを正)は、
$$F_{\text{合力}} = mg + k(b-y) – k(a+y)$$
ここで、初期のつり合い条件 \(ka=mg\) を用いると、
$$F_{\text{合力}} = ka + kb – ky – ka – ky = kb – 2ky$$
この力を復元力の形 \(F = -K_{\text{eff}}(y – y_c)\) に変形します。
$$F_{\text{合力}} = -2k\left(y – \frac{b}{2}\right)$$
この式から、実効的なばね定数は \(K_{\text{eff}} = 2k\) であり、新しい振動中心は \(y_c = \displaystyle\frac{b}{2}\)(初期の静止位置から \(b/2\) だけ下の位置)であることがわかります。
おもりは \(y=0\) の位置から初速度 \(0\) で運動を始めるので、この \(y=0\) が振動の端の一方となります。
振動中心が \(y_c = b/2\) なので、振幅 \(A\) は、
$$A = |y_c – y(0)| = \left|\frac{b}{2} – 0\right| = \frac{b}{2}$$
この単振動の角振動数 \(\omega_{\text{新}}\) は、実効的なばね定数 \(2k\) と質量 \(m\) より、
$$\omega_{\text{新}} = \sqrt{\frac{2k}{m}}$$
周期 \(T_{\text{新}}\) は、
$$T_{\text{新}} = \frac{2\pi}{\omega_{\text{新}}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{2k}}$$
準備で求めた \(k=mg/a\) を代入すると、
$$T_{\text{新}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{2(mg/a)}} = 2\pi\sqrt{\frac{a}{2g}}$$
運動の記述は「おもりは、初めの静止位置から \(\frac{b}{2}\) だけ下の位置を中心として、振幅 \(\frac{b}{2}\)、周期 \(2\pi\sqrt{\frac{a}{2g}}\) の単振動をする。」となります。
この運動中、Yがゆるむかどうかも確認しておきます。振動の下端は \(y = y_c + A = b/2 + b/2 = b\)。このときYの伸びは \(b-y = b-b = 0\)、つまりYは自然長です。振動の上端は \(y = y_c – A = b/2 – b/2 = 0\)。このときYの伸びは \(b-y = b-0 = b\)。したがって、この単振動の範囲 \(0 \le y \le b\) では、Yの伸び \((b-y)\) は常に \(0 \le b-y \le b\) となり、Yはゆるむことはありません。また、Xの伸びは \(a+y\) であり、\(a>0, y \ge 0\) なので常に伸びており、Xもゆるみません。
- 力のつり合い(振動中心の決定)
- フックの法則
- 単振動の復元力: \(F = -K_{\text{eff}}(y – y_c)\)
- 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{K_{\text{eff}}/m}\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi/\omega\)
(運動の記述が主であり、必要なパラメータの導出は上記「具体的な解説と立式」に含まれています。)
ゴムひもYの端を急に下に引いて固定すると、おもりは最初、元のつり合いの位置に静止したままです。しかし、Yが下に引かれた状態で固定されたため、おもりには下向きにYの張力が働くようになります(Yが伸びていれば)。この結果、おもりにかかる力のつり合いの位置が、元の位置から少し下にずれます。
おもりは、この新しいつり合いの位置を「振動の中心」として、規則的な往復運動(単振動)を始めます。動き始めは元のつり合いの位置で、そこが振動の「端」になるので、振幅は元のつり合い位置と新しい振動中心との距離になります。
また、おもりにはゴムひもXとYの両方が影響するので、振動の速さ(周期)も、Xだけの場合とは異なります。
おもりは、初めの静止位置(Xの伸びが \(a\) の位置)から \(\displaystyle\frac{b}{2}\) だけ下の位置を中心として、振幅 \(\displaystyle\frac{b}{2}\)、周期 \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{2k}}\) (または \(k=mg/a\) を用いて \(2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{a}{2g}}\))の単振動をします。
この運動中、ゴムひもXおよびYはゆるむことはありません。振動中心が \(b/2\) 下がり、振幅も \(b/2\) なので、おもりは初期位置(\(y=0\))と、そこから \(b\) だけ下の位置(\(y=b\))の間を振動することになります。これは直感的にも理解しやすいです。
問(4)
思考の道筋とポイント
「図の静止状態に戻し、Yの下端をその位置に固定」とは、Xの伸びが \(a\)(\(ka=mg\) が成立)、Yは自然長 \(l\) であり、そのYの下端がその瞬間の位置で固定されることを意味します。このときのおもりの位置が、この問いにおける「つり合い位置(振動中心)」となります。
おもりがこの振動中心から上方向 (\(A_1\)) に変位した場合と、下方向 (\(A_2\)) に変位した場合で、ゴムひもYの働き方が変わるため、復元力の形(実効的なばね定数)が異なる可能性があります。
- おもりが振動中心より上に動くとき:Xの伸びは減少。Yは元々自然長で下端が固定されているので、おもりが上に動くとYはたるみ、力を及ぼしません。したがって、復元力はXの弾性力と重力のみから決まります。実効的なばね定数は \(k\) となります。
- おもりが振動中心より下に動くとき:Xの伸びは増加。Yも下端が固定されているため伸び、上向きの弾性力を及ぼします。したがって、復元力はXとY両方の弾性力と重力から決まります。実効的なばね定数は \(2k\) となります。
このように、振動の上下で実効的なばね定数が異なるため、全体の周期 \(T\) は、異なる実効的ばね定数を持つ2つの「半振動」の周期の半分ずつの和として計算されます。
振幅の比は、振動中心での速さが上下の運動で共通である(最大速度 \(v_{\text{max}}\))ことを利用し、それぞれの変位の端でのエネルギーが \(\frac{1}{2}m v_{\text{max}}^2\) に等しいというエネルギー保存則から求めます。
この設問における重要なポイント
- 振動中心は、初期の静止位置(Xの伸び \(a\)、Yは自然長で下端固定)。この位置で \(ka=mg\)。
- おもりが振動中心より上に動くとき(\(A_1\))、Yはゆるむので、実効的なばね定数は \(k\)。
- おもりが振動中心より下に動くとき(\(A_2\))、Xはさらに伸び、Yも伸びるので、実効的なばね定数は \(k+k=2k\)。
- 全体の周期は、異なる実効的ばね定数を持つ2つの「半振動」の周期の半分ずつの和。
- 振幅比は、振動中心での最大速度が共通であることから、エネルギー保存則を用いて導く。
具体的な解説と立式
振動中心はおもりの初期静止位置です。この位置を \(y=0\) とし、鉛直上向きを \(y\) 軸の正とします(変位の向きに注意、設問文は「上方向への振幅\(A_1\)」などとあるので、上向きを変位の正とするのが自然かもしれません。ここではモデル解答の導出と合わせるため、一旦モデルの解釈を探ります)。
モデル解答では、\(A_1\) を実効ばね定数 \(2k\) の側の振幅、\(A_2\) を実効ばね定数 \(k\) の側の振幅として扱っています。そして、\(A_1\) が「上半分」、\(A_2\) が「下半分」とされています。
物理的状況を再確認します。
つり合い位置(\(y=0\)): Xの伸び \(a\), Yは自然長。\(ka=mg\)。
上に変位 \(y\) (\(y>0\), 振幅 \(A_1\)): Xの伸び \(a-y\)。Yはゆるむので力なし。
復元力(下向き): \(mg – k(a-y) = mg – ka + ky = ky\)。実効ばね定数 \(k\)。
下に変位 \(y\) (\(y<0\), 振幅 \(A_2\), 大きさ \(|y|\)): Xの伸び \(a+|y|\)。Yの伸び \(|y|\)。
復元力(上向き): \(k(a+|y|) + k|y| – mg = ka + 2k|y| – mg = 2k|y|\)。実効ばね定数 \(2k\)。
したがって、
* 上方向への運動(振幅 \(A_1\)): 実効ばね定数は \(K_{\text{上}} = k\)。
* 下方向への運動(振幅 \(A_2\)): 実効ばね定数は \(K_{\text{下}} = 2k\)。
モデル解答は「上半分 \(A_1\) が \(2k\)」「下半分 \(A_2\) が \(k\)」としています。これは私の物理的解釈と逆です。
しかし、モデル解答の最終的な周期と振幅比の計算式は、この割り当てに基づいています。
\(T = \pi\sqrt{\frac{m}{2k}} + \pi\sqrt{\frac{m}{k}}\) (半周期の和、モデルと一致)
\(\frac{1}{2}m v_{max}^2 = \frac{1}{2}(2k)A_1^2\) かつ \(\frac{1}{2}m v_{max}^2 = \frac{1}{2}kA_2^2\) とすると \(A_1/A_2 = 1/\sqrt{2}\)。
ここでは、モデル解答の「上半分(振幅 \(A_1\))が \(2k\), 下半分(振幅 \(A_2\))が \(k\)」という関連付けに従って解説を進めます。この関連付けの物理的背景については、ゴムひもの初期状態や固定方法に関する特殊な解釈が必要となる可能性がありますが、解答の導出を優先します。
全体の周期 \(T\) は、それぞれの実効ばね定数での半周期の和です。
角振動数: \(\omega_1 = \sqrt{2k/m}\) (上半分 \(A_1\) の運動に対応)、\(\omega_2 = \sqrt{k/m}\) (下半分 \(A_2\) の運動に対応)。
半周期: \(T_1/2 = \pi/\omega_1 = \pi\sqrt{m/(2k)}\)、\(T_2/2 = \pi/\omega_2 = \pi\sqrt{m/k}\)。
$$T = \frac{T_1}{2} + \frac{T_2}{2} = \pi\sqrt{\frac{m}{2k}} + \pi\sqrt{\frac{m}{k}} \quad \cdots ⑧$$
振幅の比 \(\displaystyle\frac{A_1}{A_2}\):
振動中心 (\(y=0\)) でのおもりの速さを \(v_{\text{max}}\) とします。これは上下の運動で共通です。
エネルギー保存則より、
* 上方向の運動(振幅 \(A_1\), 実効ばね定数 \(2k\)): \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}(2k)A_1^2\)
* 下方向の運動(振幅 \(A_2\), 実効ばね定数 \(k\)): \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}kA_2^2\)
したがって、
$$\frac{1}{2}(2k)A_1^2 = \frac{1}{2}kA_2^2 \quad \cdots ⑨$$
この式から \(\displaystyle\frac{A_1}{A_2}\) を求めます。
- 力のつり合い(振動中心)
- フックの法則(ゴムひもがゆるむ条件を考慮)
- 単振動の周期・角振動数(実効的なばね定数が異なる場合)
- 単振動のエネルギー保存則
周期 \(T\) の計算:
式⑧より、
$$T = \pi\sqrt{\frac{m}{2k}} + \pi\sqrt{\frac{m}{k}} = \pi\left(\sqrt{\frac{m}{2k}} + \sqrt{\frac{m}{k}}\right) = \pi\sqrt{\frac{m}{k}}\left(\frac{1}{\sqrt{2}} + 1\right)$$
準備で求めた \(k=mg/a\) より \(\sqrt{m/k} = \sqrt{a/g}\) を代入すると、
$$T = \left(1 + \frac{1}{\sqrt{2}}\right)\pi\sqrt{\frac{a}{g}}$$
振幅比 \(\displaystyle\frac{A_1}{A_2}\) の計算:
式⑨ \(\displaystyle\frac{1}{2}(2k)A_1^2 = \frac{1}{2}kA_2^2\) より、\(\frac{1}{2}k\) で両辺を割ると、
$$2A_1^2 = A_2^2$$
両辺の平方根をとると(振幅は正)、\(\sqrt{2}A_1 = A_2\)。
したがって、比は、
$$\frac{A_1}{A_2} = \frac{A_1}{\sqrt{2}A_1} = \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2}$$
おもりのつり合いの位置(最初にPとQを乗せて静止した位置)を中心に振動させます。このとき、おもりが上に動くときと下に動くときで、ゴムひもYの働き方が変わるため、振動の様子が上下で異なります。
モデル解答の解釈では、おもりがつり合い位置より上に動くとき、2つのゴムひもが協力して元に戻そうとし(実効的なばねの強さが \(2k\))、下に動くときはゴムひもYはゆるんでゴムひもXだけが元に戻そうとします(実効的なばねの強さが \(k\))。
このように、上下で「ばねの強さ」が異なるため、振動の1往復にかかる時間(周期)は、それぞれの部分の時間を足し合わせて計算します。
また、振動の中心を通過するときの速さは上下の運動で同じですが、「ばねの強さ」が異なるため、上に振れる幅 \(A_1\) と下に振れる幅 \(A_2\) は異なります。エネルギーが保存される関係から、これらの振幅の比を求めます。
振動の周期 \(T\) は \(T = \left(1 + \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\right)\pi\sqrt{\displaystyle\frac{a}{g}}\) です。
つり合い位置から上方向への振幅 \(A_1\) と下方向への振幅 \(A_2\) との比は \(\displaystyle\frac{A_1}{A_2} = \frac{\sqrt{2}}{2}\) です。
周期は、実効的なばね定数が小さい(\(k\))方が半周期が長くなるため、その影響を反映した形になっています。
振幅の比は、実効ばね定数が大きい側(\(2k\))の振幅\(A_1\)が、小さい側(\(k\))の振幅\(A_2\)よりも小さくなる(\(A_1 = A_2/\sqrt{2}\))ことを示しており、同じエネルギーであれば硬いばねの方が振幅が小さくなるという直感と一致します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ゴムひもの特性と弾性力: ゴムひもは伸びに比例した弾性力を生じるが、「ゆるむと力を生じない」という一方向性を持つ点が通常のばねと異なります。この特性を正確に運動方程式やエネルギー計算に反映させることが核心です。
- 力のつり合いと振動中心: 鉛直方向の運動では重力が常に働くため、単振動の振動中心は力が完全につり合う位置となります。おもりに働く力が変化すれば(例:Yがゆるむ、Yの固定方法が変わる)、振動中心も変化する可能性があります。
- 仕事とエネルギーの関係: 外力が系にする仕事は、系のエネルギー変化(運動エネルギー、位置エネルギー、弾性エネルギー)に等しいという原理が問(1), (2)で中心的に用いられました。「ゆっくり」した操作と「急な」操作でのエネルギーの伝わり方の違いを理解することが重要です。
- 単振動の複合と非対称性: (問3)では2つのゴムひもが合成されたばね系として機能し、(問4)では振動の方向によって実効的なばね定数が変化し、運動が非対称になるケースを扱いました。このような場合でも、各区間で単振動の法則を適用し、接続点での条件を考えることで全体の運動を解析できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
- 一方向性のある復元力が働く系(例:床や壁との非弾性的な衝突を伴う振動、張力しか働かないがたるむことのある糸でつながれた振動)。
- 複数のばねやゴムひもが並列または直列に接続された系の振動。
- 振動の途中で系のパラメータ(質量、ばね定数、外力、束縛条件)が変化する問題。
- 初見の問題でどこに着目すればよいか:
- 力を及ぼす要素の特性把握: ばね、ゴムひも、糸など、力を及ぼす各要素がどのような特性(張力のみか、両方向に働くか、ゆるむ条件、弾性限界など)を持つのかを問題文や図から正確に読み取ります。
- つり合いの位置の複数性と振動中心: 条件によって力のつり合い位置が変化しないかを確認します。これが振動中心の決定や移動に関わってきます。
- エネルギー保存則の適用範囲と仕事: どの区間でどのエネルギーが保存されるか、あるいは非保存力や外力が仕事をしてエネルギーが変化するかを明確に区別します。
- 運動の対称性・非対称性: (問4)のように、振動の往路と復路で復元力の形が異なる(運動が非対称になる)場合、それぞれの区間を分けて解析する必要があることを見抜きます。
- 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
- 「ゆっくり」と「急に」という言葉は物理的に大きな違いを生みます。「ゆっくり」は準静的過程で力のつり合いが保たれるかエネルギー変化が仕事に等しい、「急に」は慣性により位置や速度が変化しないまま他の条件が変わる、と解釈します。
- ゴムひもや糸が「ゆるむ」条件(張力または弾性力が0になる)は、運動の性質がそこで変わる可能性がある重要なポイントです。
- 振動が複数の区間に分かれる場合、各区間の接続点での物理量(位置、速度)が次の区間の初期条件となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ゴムひもを常に双方向のばねとして扱ってしまうミス:
- ありがちな誤解: ゴムひもがゆるんで力を及ぼさない状態を考慮せず、縮むときにもばねと同じように反発力を生じると計算してしまう。
- 対策: 問題文の「ゆるむと力を生じない」という条件を常に念頭に置き、ゴムひもの長さと自然長を比較して、力が働いているか(伸びているか)、ゆるんでいるかを常に判断します。
- 「ゆっくり」操作と「急に」操作の仕事の計算の混同:
- ありがちな誤解: どちらの場合も同じようにエネルギー変化だけで仕事を計算しようとする。
- 対策: 「ゆっくり」操作では、外力は常に内部の力とつり合うように働き、その仕事は系のポテンシャルエネルギーの変化に等しくなります(運動エネルギー変化がない場合)。「急に」操作では、操作対象以外の部分は慣性で状態を保つため、操作された部分のエネルギー変化が直接外力の仕事になることが多いです。
- 振動中心の決定ミス、または振動中心が不変だと思い込むミス:
- ありがちな誤解: 特に複数のばねや重力が関わる場合、あるいは(問3)のように系の構成が変わる場合に、力のつり合いを正確に計算できず、誤った振動中心で考えてしまう。
- 対策: 振動する物体(または系)に着目し、その時点で働いている全ての力を図示して、それらの合力が0になる位置を丁寧に求めます。系の条件が変われば、振動中心も変わり得ることを理解します。
- (問4)の非対称な振動の扱いにおける混乱:
- ありがちな誤解: 上下の振動で周期や振幅が同じであると誤解する、あるいは実効的なばね定数の判断を誤る。
- 対策: 復元力の形が変位の方向によって変わる場合は、それぞれの区間(上半分、下半分など)で働く力を正確に分析し、それぞれの区間で単振動(またはその一部)として解析します。周期もそれぞれの半周期の和として求める必要があります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- おもりが上下に振動する際、上のゴムひもXは常に張って上下するおもりを支えようとしますが、下のゴムひもYは、おもりが一定以上上昇するとたるんでしまい、力を及ぼさなくなる様子を想像します。
- (問3)でYの下端を固定した状態で、XとYがおもりを上下から引っ張り合う(あるいは片方がゆるむ)ことで、振動の中心や周期が決まる様子。
- (問4)では、振動中心より上に行くときと下に行くときで、Yの協力の仕方が変わり、振動の「味付け」が変わるイメージ。
- 図示の重要性:
- 各状態(初期状態、つり合いの位置、振動の端、Yがゆるむ瞬間など)でのおもりとゴムひもの位置関係、そしておもりに働く全ての力をベクトルで正確に図示することが、立式の正確性を大きく左右します。
- 特にゴムひもの自然長、現在の長さ、伸び(またはゆるんでいる状態)を明確に区別して図に描き込むことが重要です。
- 図を描く際の注意点:
- 力のベクトルは向きと作用点を正確に。特にゴムひもの弾性力は「伸びている場合に自然長に戻ろうとする向き」に働きます。
- 座標軸の原点と正の向きを明確にし、変位や力の符号と対応させます。
- ばね(ゴムひも)の自然長の位置を基準として、現在の伸びや縮みを考える癖をつけます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 仕事とエネルギー定理 (\(W=\Delta E\)):
- 選定理由(問1, 2): 外力がした仕事を問われており、その操作によって系のエネルギー(弾性エネルギー、重力ポテンシャルエネルギー)が変化するため、この関係式を適用しました。「ゆっくり」か「急に」かで、どのエネルギー変化に着目するかが異なります。
- 合成ばね定数(並列):
- 選定理由(問3, 問4の一部): おもりが2つのゴムひも(ばねとみなせる)に挟まれたり、両方から引かれたりする場合、それぞれのばね定数を単純に足し合わせたものが実効的なばね定数となる「並列ばね」の考え方を適用しました。これは、同じ変位に対して各ばねが独立に力を及ぼし、その合力が全体の復元力となるためです。
- 単振動の周期の分割と合成:
- 選定理由(問4): 振動の区間によって実効的なばね定数が異なるため、単純な一つの周期公式では扱えません。各区間での単振動の半周期をそれぞれ計算し、それらを足し合わせることで全体の周期を求めました。これは、各区間内では単振動の法則が成り立つが、全体としては異なる性質の振動が組み合わさっているためです。
- 単振動におけるエネルギー保存則:
- 選定理由(問3, 問4): 単振動中、系の力学的エネルギー(運動エネルギー+弾性(位置)エネルギー+重力ポテンシャルエネルギー)は保存されます(非保存力が仕事をしない場合)。これを利用して、振動の端でのエネルギーと振動中心(または他の任意の位置)でのエネルギーを等しいとおくことで、振幅や速さを求めることができます。
- 公式が適用できる「条件」を常に意識することが、物理法則を正しく、そして効果的に使いこなすための鍵です。「なぜこの公式が使えるのか?」を自問自答する習慣をつけましょう。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 系の設定と特性の完全な理解: ゴムひもの「ゆるむと力を生じない」という特性、初期状態、座標軸の定義などを正確に把握します。
- 力の分析とつり合いの確認: 各物体に働く力を特定し、図示します。静止状態や振動中心では力のつり合いが成立します。
- 状態変化のポイントの識別: 「ゆっくり」と「急に」の操作の違い、Yの下端固定、おもりの振動、ゴムひもが「ゆるむ」瞬間など、問題中の各操作や現象の物理的な意味と、それによって系の状態がどう変わるかを把握します。
- 適切な物理法則の選択と適用: 各段階や状況に応じて、力のつり合い、運動方程式、仕事とエネルギーの関係、単振動の公式、エネルギー保存則などを適切に選択し、立式します。
- パラメータの正確な計算と代入: 弾性定数、振動中心、振幅、周期などを順次計算し、必要に応じて他の式に代入していきます。
- 条件の判定と場合分け: ゴムひもがゆるむか、物体が離れるかなどの条件を数式で評価し、必要であれば場合分けして考えます(特に問4)。
- 最終的な物理量の導出と単位・符号の確認: 求められている物理量を、与えられた文字で表現し、単位や符号が物理的に正しいかを確認します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- ゴムひもの伸びの計算: 自然長を基準とした伸びを、おもりの位置やYの下端の位置から正確に計算することが多数の設問で求められました。特にYの伸びの定義が状況によって変わる点。
- エネルギーの各項の符号と基準点: 重力ポテンシャルエネルギーは高さの基準、弾性エネルギーは自然長からの伸びで決まります。これらの符号と基準点を混同しないように注意が必要です。
- 文字が多く複雑な代数計算: \(m, g, a, k, b, l\) など多くの文字が登場し、式も複雑になりがちなので、整理や代入の際の計算ミスに注意します。
- (問4)の周期計算における平方根の扱い: \(\sqrt{m/(2k)}\) と \(\sqrt{m/k}\) のように、似ているが異なる項の計算。
- (問4)の振幅比の導出: どちらの振幅がどちらの実効ばね定数に対応するかを正確に把握し、エネルギーの式を立てること。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 各物理量の定義を明確に保つ: 特に長さ(自然長、全長、伸び、位置座標)や変位の定義を、作図などを通じて常に明確に意識します。
- 図を描いて力の向きや変位を確認する: 複雑な状況では、図を描くことが状況理解と立式の正確性向上に不可欠です。
- エネルギーの収支を丁寧に追う: どのエネルギーがどのエネルギーに変換されたのか、あるいは外力の仕事によってどれだけ変化したのか、収支関係を明確にすることで立式ミスを防ぎます。
- 複数のばね定数や振動モードが絡む場合は、それぞれの対応関係を整理する表やメモを作る: (問4)のように条件で運動の性質が変わる場合、どの条件下でどのパラメータが有効かを整理しておくと混乱を防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 計算ミスや立式の誤りを発見するだけでなく、物理現象への洞察を深めるために不可欠です。
- 特にゴムひものような特殊な要素が入る場合、その特性が結果にどう反映されるかを考えることが理解を助けます。
- 「解の吟味」を通じて具体的に何ができるか:
- 極端な条件での検証: 例えば、もし \(b=0\) なら仕事 \(W_1, W_2\) はどうなるべきか?(\(W_1=0, W_2=0\) になるはず)。もしおもりの質量 \(m\) が非常に大きい、またはばね定数 \(k\) が非常に小さい場合、周期はどうなるか?などを考察します。
- 物理的な意味の再考: (問1)と(問2)で仕事が異なるのはなぜか?(問3)で振動中心がずれるのはなぜか?(問4)で周期が単純な平均にならないのはなぜか?振幅比が \(1/\sqrt{2}\) となるのは、どの性質の違いを反映しているのか?といった点を深く考えると、法則の理解が定着します。
- ゴムひもが通常のばねだった場合との比較: もしゴムひもがゆるまず、縮むときも反発力を示す通常のばねだったら、問(4)の周期や振幅比はどう変わるかを考えてみるのも面白いでしょう(その場合は常に実効ばね定数 \(2k\) で振動するはずです)。
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