「名問の森」徹底解説(31〜33問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題31 (円運動・単振動)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平方向に等加速度運動する電車内で、天井から糸で吊るされた小球Pの運動を扱うものです。電車という加速度系(非慣性系)における物体の運動が中心テーマとなります。車内の人が観測者となるため、慣性力を考慮する必要があります。慣性力と実際の重力を合わせた「見かけの重力」という概念を理解し、適用することが問題解決の鍵となります。

与えられた条件
  • 小球Pの質量: \(m\)
  • 糸の長さ: \(l\)
  • 小球Pは、糸が鉛直と角 \(\theta\) をなすAB間で振動する。(この \(\theta\) の解釈は解説内で詳述)
  • 小球Pの運動は車内の人が見るものとする。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 点Aの床からの高さ(問(4)において): \(h\)
問われていること
  1. (1) 電車の加速度の向きと大きさを求める。
  2. (2) 小球Pの速さの最大値と、そのときの糸の張力の最大値を求める。
  3. (3) 角 \(\theta\) が小さい場合の、小球Pの振動周期を求める。
  4. (4) 小球Pが点A(振動の一端)に来たときに糸を切った場合の、床に達するまでの軌跡、時間、速さを求める。
  5. (5) 特定の瞬間に電車が等速度運動に移行した場合の、その後の小球Pの振動が鉛直方向となす最大の角 \(\theta_m\) について、\(\cos\theta_m\) を求める。
    • (ア) Pが点Aにきたとき。
    • (イ) Pが点Bにきたとき。
    • (ウ) Pの速さが最大となったとき。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「見かけの重力」を用いた解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3) 振動周期の別解: 運動方程式から単振動の式を導出する解法
      • 主たる解法が、単振り子の周期の公式を応用するのに対し、別解では見かけの重力場における振り子の運動方程式を立て、微小角近似を用いて単振動の式を導出し、そこから周期を求めます。公式の成り立ちを理解する上で有益です。
    • 問(4) 糸が切れた後の運動の別解: 静止系(床)から見た運動の合成として解く解法
      • 主たる解法が、加速する電車内の観測者から見て「見かけの重力」による自由落下として運動を捉えるのに対し、別解では床で静止している観測者から見て、小球の運動を「水平方向の等加速度運動」と「鉛直方向の自由落下」という2つの単純な運動の合成として解析します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「見かけの力」という便利な概念を使わずに、より基本的な運動の合成という観点から同じ現象を記述することで、慣性系の運動法則への理解が深まります。また、観測者の立場を変えると、同じ運動がどのように異なって見えるかを体感できます。
    • 公式の導出過程の理解: 問(3)の別解は、単振り子の周期の公式がどのように導かれるか、その物理的背景を運動方程式から追体験することができます。
    • 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、非慣性系での一体的な運動として捉える方法と、慣性系で運動を成分に分解して捉える方法の両方を学ぶことで、思考の柔軟性が高まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題の中心となるのは、「慣性力」と、それによって生じる「見かけの重力」という考え方です。電車が加速度運動をすると、電車と共に運動する観測者から見ると、小球Pには電車の加速度と逆向きに \(m \times (\text{電車の加速度})\) という大きさの慣性力が働いているように見えます。この慣性力と、実際にPに働いている重力との合力を「見かけの重力」として捉えると、多くの状況がこの見かけの重力のもとでの振り子の運動として理解しやすくなります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 慣性力: 加速度\(\vec{a}\)で運動する観測者から質量\(m\)の物体を見ると、物体には実際の力に加えて、見かけの力\(-m\vec{a}\)(慣性力)がはたらいているように見えます。
  2. 見かけの重力: 非慣性系において、物体にはたらく重力と慣性力の合力。この見かけの重力の方向が、その非慣性系における実質的な「鉛直下向き」となります。
  3. 力学的エネルギー保存則: 「見かけの重力」の場においても、他に非保存力が仕事をしなければ、力学的エネルギー(運動エネルギーと、見かけの重力による位置エネルギーの和)は保存されます。
  4. 単振動: 振り子の振れ角が小さいとき、その運動は単振動とみなせ、周期の公式を適用できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、電車が加速することで小球にはたらく慣性力を考え、重力との合力である「見かけの重力」を定義します。
  2. 問(1)から(3)では、この「見かけの重力」のもとでの振り子の運動として問題を捉え直します。振動の中心は、糸が見かけの重力の方向と一致する点です。
  3. 問(4)では、糸が切れた後の運動を、見かけの重力による自由落下(あるいは静止系から見た運動の合成)として解析します。
  4. 問(5)では、電車が等速運動に移行すると慣性力が消え、通常の重力場での振り子運動に戻ることを考え、その瞬間の力学的エネルギーからその後の運動を予測します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球PがAB間で振動する際、その振動の中心となる点Cは、力がつり合う位置です。電車内の観測者から見ると、小球には重力、張力、そして慣性力がはたらいています。振動の中心では、張力が見かけの重力(重力と慣性力の合力)とつり合います。この力のつり合いの関係から、慣性力の向きと大きさを決定し、それによって電車の加速度を導き出します。
この設問における重要なポイント

  • 振動の中心は、力がつり合う位置です。
  • 慣性力は、電車の加速度と逆向きにはたらきます。その大きさは\(ma\)です。
  • 問題の図から、振動の中心Cは糸が鉛直から\(\theta/2\)だけ傾いた点であると解釈します。

具体的な解説と立式
電車が加速度\(\vec{a}\)で運動していると、電車内の観測者からは、小球Pに重力\(m\vec{g}\)と慣性力\(\vec{F}_{\text{慣性}} = -m\vec{a}\)がはたらいているように見えます。
振動の中心C(糸が鉛直から\(\theta/2\)傾いた位置)では、糸の張力\(\vec{S_C}\)が、重力と慣性力の合力(見かけの重力)とつり合っています。
力のつり合いの図から、慣性力は水平左向きにはたらくことがわかります。したがって、電車の加速度の向きは水平右向きです。
加速度の大きさを\(a\)とすると、慣性力の大きさは\(ma\)です。
点Cにおける水平方向と鉛直方向の力のつり合いを考えます。
(右向きの力の和)=(左向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
S_C \sin\left(\frac{\theta}{2}\right) &= ma \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
S_C \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) &= mg \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\)
  • 力のつり合い
計算過程

式①を式②で辺々割ることにより、\(S_C\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{S_C \sin(\theta/2)}{S_C \cos(\theta/2)} &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]
\tan\left(\frac{\theta}{2}\right) &= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
この式を\(a\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
a &= g \tan\left(\frac{\theta}{2}\right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電車が加速すると、中の振り子は加速と反対の向きに傾いてつり合おうとします。この問題では、振り子はこの新しいつり合いの位置を中心にして揺れています。つり合いの位置では、糸が引く力と、地球が引く力(重力)、そして電車が加速することによる「見かけの力(慣性力)」の3つがぴったりと釣り合っています。この力の釣り合いの関係を図に描いて、三角比を使うと、電車の加速度を計算することができます。

結論と吟味

電車の加速度の向きは右向き、大きさは\(a = g \tan\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right)\)です。
この結果は、振り子の傾き\(\theta/2\)が大きいほど、電車の加速度\(a\)も大きくなることを示しており、直感的な理解と一致します。

解答 (1) 向き: 右向き, 大きさ: \(g \tan\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right)\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小球Pの運動を、慣性力と重力を合わせた「見かけの重力」\(m\vec{g}’\)のもとでの振り子運動と見なします。速さが最大になるのは、この見かけの重力場における「最下点」、すなわち振動の中心Cです。張力もこの点で最大になります。
まず、見かけの重力加速度\(g’\)の大きさを求め、それを用いて力学的エネルギー保存則を適用し、最大速度を計算します。次に、振動中心Cでの円運動の運動方程式を立てて、最大張力を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 速さが最大になるのは振動中心C(見かけの重力場での「最下点」)です。
  • 張力が最大になるのも振動中心Cです。
  • 見かけの重力\(mg’\)の下での力学的エネルギー保存則と、円運動の運動方程式を考えます。

具体的な解説と立式
まず、見かけの重力加速度\(g’\)の大きさを求めます。問(1)の力のつり合いの図から、
$$
\begin{aligned}
(mg’)^2 &= (mg)^2 + (ma)^2 \\[2.0ex]
&= (mg)^2 \left(1 + \tan^2\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) \\[2.0ex]
&= \frac{(mg)^2}{\cos^2(\theta/2)}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
g’ &= \frac{g}{\cos(\theta/2)} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
小球Pが振動の端点A(糸が鉛直な位置)から中心点C(角\(\theta/2\))まで運動するとき、見かけの重力場での力学的エネルギーが保存されます。端点Aでの速さは0です。中心点Cでの速さを\(v_{\text{最大}}\)とします。
点Cを見かけの重力ポテンシャルエネルギーの基準(高さ0)とすると、端点Aの見かけの高さ\(h’_{\text{A}}\)は、
$$
\begin{aligned}
h’_{\text{A}} &= l – l\cos(\theta/2)
\end{aligned}
$$
力学的エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
mg’ \cdot l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) &= \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
次に、張力が最大となる点Cでの円運動の運動方程式を立てます。張力を\(S_{\text{最大}}\)とすると、
$$
\begin{aligned}
m \frac{v_{\text{最大}}^2}{l} &= S_{\text{最大}} – mg’ \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 見かけの重力加速度
  • 力学的エネルギー保存則(見かけの重力場)
  • 円運動の運動方程式
計算過程

\(v_{\text{最大}}\)の計算:
式④から\(v_{\text{最大}}^2\)を求め、式③の\(g’\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}}^2 &= 2g’l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) \\[2.0ex]
&= 2 \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) l \left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) \\[2.0ex]
&= 2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \sqrt{2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}
\end{aligned}
$$
\(S_{\text{最大}}\)の計算:
式⑤から\(S_{\text{最大}} = mg’ + m\displaystyle\frac{v_{\text{最大}}^2}{l}\)。これに\(mg’ = \displaystyle\frac{mg}{\cos(\theta/2)}\)と\(v_{\text{最大}}^2\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
S_{\text{最大}} &= \frac{mg}{\cos(\theta/2)} + m \frac{2gl \left(\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right)}{l} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{\cos(\theta/2)} + \frac{2mg(1 – \cos(\theta/2))}{\cos(\theta/2)} \\[2.0ex]
&= \frac{mg + 2mg – 2mg\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)} \\[2.0ex]
&= mg \left(\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

速さの最大値は、振り子が振動の中心(見かけの最下点)に来たときの速さです。これは、振り子が最も高い位置(振動の端)にあるときの「見かけの位置エネルギー」が、中心に来たときにすべて「運動エネルギー」に変わるというエネルギー保存の法則から計算できます。「見かけの位置エネルギー」は、「見かけの重力」と「見かけの高さ」を使って考えます。
糸の張力が最も大きくなるのも、この振動の中心です。このとき、糸は「見かけの重力」に加えて、振り子が円を描くように運動するために必要な力(向心力)も支えなければならないため、張力は大きくなります。

結論と吟味

速さの最大値は\(v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl \left(\displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}\)、張力の最大値は\(S_{\text{最大}} = mg \left(\displaystyle\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)\)です。
電車の加速度が大きいほど\(\theta/2\)は大きくなり、\(\cos(\theta/2)\)は小さくなるため、\(v_{\text{最大}}\)も\(S_{\text{最大}}\)も大きくなることが分かります。

解答 (2) 速さの最大値: \(\sqrt{2gl \left(\displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}\), 張力の最大値: \(mg \left(\displaystyle\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)\)

問(3)

思考の道筋とポイント
角\(\theta\)が小さいということは、振動の振幅角\(\theta/2\)も小さいと考えられます。このような微小振動の場合、運動は単振動とみなすことができ、単振り子の周期の公式を応用できます。ただし、ここでの「重力加速度」に相当するものは、実際の重力加速度\(g\)ではなく、「見かけの重力加速度\(g’\)」を用いる必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 微小振動であれば、単振り子の周期の公式\(T = 2\pi \sqrt{L/g_{\text{有効}}}\)が適用できます。
  • ここでの有効な重力加速度\(g_{\text{有効}}\)は、見かけの重力加速度\(g’\)です。

具体的な解説と立式
単振り子の周期の公式は\(T_0 = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{L}{g_0}}\)です。
この問題では、振り子の長さは\(l\)、有効な重力加速度は見かけの重力加速度\(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)です。
したがって、小球Pの振動周期\(T\)は、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{\frac{l}{g’}} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振り子の周期: \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{L}{g_{\text{有効}}}}\)
  • 見かけの重力加速度
計算過程

式⑥に\(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{\frac{l}{\left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right)}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

振り子が小さく揺れるときの1往復にかかる時間(周期)は、基本的に糸の長さと「その場の重力の強さ」で決まります。この問題では、電車が加速しているため、「見かけの重力」が普通の重力とは異なり、その強さ(見かけの重力加速度\(g’\))も\(g\)とは異なります。この「見かけの重力加速度\(g’\)」を、周期の公式における\(g\)の代わりに使って周期を計算します。

結論と吟味

\(\theta\)が小さい場合のPの振動周期は\(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}\)です。
電車が加速していない場合(\(\theta=0\))、\(\cos(\theta/2)=1\)となり、周期は\(T = 2\pi \sqrt{l/g}\)となって、通常の単振り子の周期と一致します。電車の加速度が大きくなるほど周期\(T\)は短くなります。これは、見かけの重力が強くなるほど、振り子はより速く振動することに対応しており、直感と一致します。

別解: 運動方程式から単振動の式を導出する解法

思考の道筋とポイント
見かけの重力場における振り子の運動方程式を立て、微小角近似を用いて単振動の式を導出し、そこから周期を求めます。これは周期の公式の導出過程をたどるもので、より根本的なアプローチです。
この設問における重要なポイント

  • 振動の中心Cからの変位角を\(\phi\)として、振り子の接線方向の運動方程式を立てます。
  • 復元力を見かけの重力\(mg’\)の成分から求めます。
  • \(\sin\phi \approx \phi\)という微小角近似を用います。

具体的な解説と立式
振動の中心Cからの変位角を\(\phi\)とします(\(\phi\)は\(\pm \theta/2\)の範囲で変化)。
振り子の接線方向にはたらく復元力\(F_{\text{復元}}\)は、見かけの重力\(mg’\)の接線成分です。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{復元}} &= -mg’\sin\phi
\end{aligned}
$$
接線方向の変位を\(x = l\phi\)とすると、運動方程式\(ma_t = F_{\text{復元}}\)は、
$$
\begin{aligned}
m\frac{d^2x}{dt^2} &= -mg’\sin\phi
\end{aligned}
$$
\(\phi\)が小さいとき、\(\sin\phi \approx \phi = x/l\)と近似できるので、
$$
\begin{aligned}
m\frac{d^2x}{dt^2} &= -mg’\frac{x}{l} \\[2.0ex]
\frac{d^2x}{dt^2} &= -\frac{g’}{l}x
\end{aligned}
$$
これは角振動数\(\Omega = \sqrt{g’/l}\)の単振動の式です。

使用した物理公式

  • 運動方程式
  • 単振動の定義式: \(a = -\Omega^2 x\)
  • 微小角近似: \(\sin\phi \approx \phi\)
計算過程

単振動の周期\(T\)は\(T = 2\pi/\Omega\)で与えられるので、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\sqrt{g’/l}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の式⑥と一致し、以降の計算も同じになります。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

周期の公式をそのまま使う代わりに、振り子の運動の基本ルールである「力=質量×加速度」の式から出発します。振り子を元の位置に戻そうとする力(復元力)は、「見かけの重力」の振り子の軌道に沿った成分です。振れ角が小さいとき、この復元力は振れ幅にほぼ比例するという性質があり、これが単振動を引き起こします。この関係から、1往復にかかる時間を計算することができます。

結論と吟味

運動方程式から出発することで、単振り子の周期の公式が、見かけの重力場においても同様の形で成り立つことを確認できました。

解答 (3) \(2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
Pが点A(振動の端点、速さ0)に来たときに糸を切ると、Pに働く力は重力\(mg\)と慣性力\(ma\)の2つだけになります。これらの合力は「見かけの重力\(m\vec{g}’\)\)」であり、その方向と大きさは一定です。したがって、Pはこの合力の方向に初速度0で等加速度直線運動をします。つまり、車内の観測者からは、見かけの重力のもとでの「自由落下」に見えます。
この設問における重要なポイント

  • 糸を切った瞬間のPの車内から見た速度は0です。
  • 糸を切った後にPに働く力は、重力と慣性力のみ。これらの合力が「見かけの重力\(m\vec{g}’\)\)」。
  • Pは、見かけの重力\(m\vec{g}’\)の方向に、初速度0で等加速度直線運動をします。
  • 床までの鉛直高さ\(h\)と、見かけの重力の方向への実質的な落下距離の関係を幾何学的に捉えます。

具体的な解説と立式
車内の観測者から見ると、糸を切られた小球Pは、初速度0で、見かけの重力加速度\(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)の方向に落下します。
見かけの重力の方向は、鉛直下向きから水平左向きに\(\theta/2\)だけ傾いた方向です。
点Aの床からの高さは\(h\)です。Pが床に達するまでの、見かけの重力の方向への落下距離を\(L_{\text{落下}}\)とすると、幾何学的関係から、
$$
\begin{aligned}
L_{\text{落下}} &= \frac{h}{\cos(\theta/2)} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
Pがこの距離を落下するのにかかる時間を\(t\)とすると、等加速度運動の公式より、
$$
\begin{aligned}
L_{\text{落下}} &= \frac{1}{2} g’ t^2 \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
床に当たるときの速さ\(v\)は、
$$
\begin{aligned}
v &= g’ t \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式
  • 見かけの重力加速度
計算過程

時間の計算:
式⑧に式⑦と\(g’\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{h}{\cos(\theta/2)} &= \frac{1}{2} \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) t^2
\end{aligned}
$$
両辺に\(\cos(\theta/2)\)を掛けて整理すると、
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1}{2} g t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{2h}{g} \\[2.0ex]
t &= \sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
速さの計算:
式⑨に、求めた\(t\)と\(g’\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) \sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

糸が切れると、おもりはもはや糸に引かれず、地球が引く力(重力)と電車が加速することによる「見かけの力(慣性力)」の二つだけを受けます。この二つの力を合わせたものが「見かけの重力」で、おもりはこの「見かけの重力」の方向にまっすぐ落ちていきます。
床までの実際の高さは\(h\)ですが、おもりが落ちる方向は斜めなので、実際にその方向に進む距離は\(h\)よりも少し長くなります。この斜めの落下距離と「見かけの重力の強さ」を使って、床に落ちるまでの時間と、そのときの速さを計算します。

結論と吟味

軌跡は、点Aから見て、鉛直方向に対し水平左向きに\(\theta/2\)だけ傾いた方向への直線です。
床に達するまでの時間は\(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\)です。
床に当たるときの速さは\(v = \displaystyle\frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}\)です。
床に達するまでの時間は、通常の自由落下の時間と同じであるという点が重要です。

別解: 静止系(床)から見た運動の合成として解く解法

思考の道筋とポイント
床で静止している観測者から見ます。糸が切れる瞬間、Pは電車と同じ速度(これを\(V\)とする)で水平右向きに運動しています。糸が切れた後、Pは水平方向には電車の加速度\(a\)で等加速度運動し、鉛直方向には重力加速度\(g\)で自由落下します。この2つの運動の合成としてPの運動を解析します。
この設問における重要なポイント

  • 静止系から見ると、糸が切れた後のPの運動は、水平方向の等加速度運動と鉛直方向の自由落下の合成運動です。
  • 鉛直方向の運動だけで、床に達するまでの時間を求めることができます。
  • 床に達したときの水平方向と鉛直方向の速度をそれぞれ求め、三平方の定理で全体の速さを合成します。

具体的な解説と立式
時間の計算:
鉛直方向の運動に着目します。初速度の鉛直成分は0で、加速度は\(g\)。落下距離は\(h\)です。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1}{2}gt^2
\end{aligned}
$$
速さの計算:
時間\(t\)後の速度の鉛直成分\(v_y\)は、
$$
\begin{aligned}
v_y &= gt
\end{aligned}
$$
水平方向の運動に着目します。糸が切れる瞬間のPの水平速度を0と見なして(電車に対する相対速度が0)、その後の水平方向の加速度は電車の加速度\(a\)と同じです。時間\(t\)後の速度の水平成分\(v_x\)は、
$$
\begin{aligned}
v_x &= at
\end{aligned}
$$
床に達したときの速さ\(v\)は、\(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)で求められます。

使用した物理公式

  • 自由落下: \(h = \frac{1}{2}gt^2\)
  • 等加速度運動: \(v = at\)
  • 速度の合成(三平方の定理)
計算過程

時間の計算:
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{2h}{g} \\[2.0ex]
t &= \sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の結果と一致します。

速さの計算:
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{(at)^2 + (gt)^2} \\[2.0ex]
&= t\sqrt{a^2+g^2}
\end{aligned}
$$
ここに\(a = g\tan(\theta/2)\)と\(t = \sqrt{2h/g}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{2h}{g}} \sqrt{(g\tan(\theta/2))^2 + g^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2h}{g}} \cdot g \sqrt{\tan^2(\theta/2) + 1} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2hg} \cdot \sqrt{\frac{1}{\cos^2(\theta/2)}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}
\end{aligned}
$$
これも主たる解法の結果と一致します。

この設問の平易な説明

電車の中ではなく、動かない地面からおもりの動きを見てみましょう。糸が切れた後、おもりは上下方向には普通の自由落下をします。このことから、床に落ちるまでの時間は簡単に計算できます。一方、おもりは左右方向には、電車と同じ加速度で動き続けます。床に落ちた瞬間の、この左右方向の速さと上下方向の速さをそれぞれ計算し、それらを合成(三平方の定理)することで、最終的な速さが求まります。

結論と吟味

静止系から運動を成分に分解して考えても、同じ結果が得られます。特に、落下時間が電車の加速度によらないという点が、このアプローチではより直感的に理解できます。

解答 (4) 軌跡: (点Aから見かけの重力の方向(鉛直に対し左へ\(\theta/2\)の傾き)へ直線を描く), 時間: \(\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\), 速さ: \(\displaystyle\frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
電車が等速度運動に入ると、加速度が0になるため、慣性力も0になります。つまり、小球Pは通常の重力\(mg\)のみが働く慣性系での運動に戻ります。その瞬間の小球Pの位置と速度を初期条件として、その後の単振り子運動を考えます。この後の運動では、力学的エネルギー保存則(通常の重力場におけるもの)が成り立ちます。最大の角\(\theta_m\)に達したとき、Pの速さは0になります。
この設問における重要なポイント

  • 電車が等速運動に移行すると、慣性力は消滅し、通常の重力場に戻ります。
  • 移行直前のPの位置と速度が、その後の単振り子運動の初期条件となります。
  • 通常の重力場における力学的エネルギー保存則を適用して、最大の振れ角\(\theta_m\)を求めます。

具体的な解説と立式
電車が等速運動に入ると、車内の観測者から見て慣性力がなくなり、通常の重力\(mg\)の下での運動となります。最大の振れ角を\(\theta_m\)とすると、その位置ではPの速さは0になります。
力学的エネルギー保存則を考えます。最下点(鉛直位置)を位置エネルギーの基準とします。
ある瞬間のPの速さを\(v\)、糸の鉛直からの角度を\(\alpha\)とすると、そのときの力学的エネルギー\(E\)は、
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}mv^2 + mgl(1-\cos\alpha)
\end{aligned}
$$
この\(E\)が保存されます。最大の角\(\theta_m\)の位置では速さが0なので、そのときのエネルギーは\(mgl(1-\cos\theta_m)\)となります。

(ア) Pが点Aにきたとき。
点Aは鉛直位置(角度0)で、振動の端なので速さ0です。
初期条件:角度\(\alpha_{\text{初}} = 0\)、速さ\(v_{\text{初}} = 0\)。
このときの力学的エネルギー\(E_{\text{初}}\)は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= \frac{1}{2}m(0)^2 + mgl(1-\cos 0) = 0
\end{aligned}
$$
これが保存されるので、
$$
\begin{aligned}
mgl(1-\cos\theta_m) &= 0
\end{aligned}
$$
よって、\(\cos\theta_m = 1\)。

(イ) Pが点Bにきたとき。
点Bは振動のもう一方の端で、角度\(\theta\)、速さ0です。
初期条件:角度\(\alpha_{\text{初}} = \theta\)、速さ\(v_{\text{初}} = 0\)。
このときの力学的エネルギー\(E_{\text{初}}\)は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= mgl(1-\cos\theta)
\end{aligned}
$$
これが保存されるので、
$$
\begin{aligned}
mgl(1-\cos\theta_m) &= mgl(1-\cos\theta)
\end{aligned}
$$
よって、\(\cos\theta_m = \cos\theta\)。

(ウ) Pの速さが最大となったとき。
速さが最大となるのは振動の中心C(角度\(\theta/2\))です。このときの速さ\(v_{\text{最大}}\)は問(2)で求めています。
初期条件:角度\(\alpha_{\text{初}} = \theta/2\)、速さ\(v_{\text{初}} = v_{\text{最大}}\)。
このときの力学的エネルギー\(E_{\text{初}}\)は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{初}} &= \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)
\end{aligned}
$$
これが\(mgl(1-\cos\theta_m)\)と等しくなります。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則(通常の重力場)
計算過程

(ア)の計算:
$$
\begin{aligned}
\cos\theta_m &= 1
\end{aligned}
$$
(イ)の計算:
$$
\begin{aligned}
\cos\theta_m &= \cos\theta
\end{aligned}
$$
(ウ)の計算:
エネルギー保存の式に\(v_{\text{最大}}^2 = 2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)\)を代入し、両辺を\(mgl\)で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \frac{2gl \left(\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right)}{gl} + \left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) &= 1-\cos\theta_m \\[2.0ex]
\frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)} + 1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right) &= 1-\cos\theta_m \\[2.0ex]
\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1 + 1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) &= 1-\cos\theta_m \\[2.0ex]
\cos\theta_m &= 1 – \frac{1}{\cos(\theta/2)} + \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電車が一定速度になると、それまでおもりにはたらいていた「慣性力」という見かけの力が消え、普通の重力だけの世界に戻ります。その瞬間に、おもりが持っていた「位置のエネルギー」と「運動のエネルギー」の合計が、その後の普通の振り子運動の間ずっと保たれます。
振り子が一番高いところまで振れたとき、速さは一瞬ゼロになります。このときのエネルギーが、電車が等速になった瞬間のエネルギーと等しい、という式を立てることで、最大の振れ角を計算できます。

結論と吟味

(ア) \(\cos\theta_m = 1\)。Pは鉛直位置で静止します。
(イ) \(\cos\theta_m = \cos\theta\)。Pは振幅\(\theta\)で振動を続けます。
(ウ) \(\cos\theta_m = 1 + \cos(\displaystyle\frac{\theta}{2}) – \displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)}\)。
これらの結果は、移行する瞬間の力学的エネルギーがその後の運動を決定するという、物理法則の基本的な帰結を示しています。

解答 (5) (ア) \(\cos\theta_m = 1\), (イ) \(\cos\theta_m = \cos\theta\), (ウ) \(\cos\theta_m = 1 + \cos\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right) – \displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)}\)

【コラム】Q. 問題18, IIで、Pが最下点に達したときの糸の張力を求めよ。(★★)

思考の道筋とポイント
この設問は、問題18(質量\(M\)の箱の中の振り子)に関する追加の質問です。Pが最下点に達したときの糸の張力を求めます。この系では、水平方向の運動量が保存され、力学的エネルギーも保存されます。これらの保存則を用いて、Pが最下点に達したときのPと箱のそれぞれの速度を求めることができます。糸の張力を求めるには、箱に乗った観測者からPの運動を見るのが有効です。
この設問における重要なポイント

  • 問題18の結果である、Pが最下点に達したときのPと箱の対地速度を利用します。
  • 箱に対するPの相対速度を計算します。これが円運動の速さとなります。
  • 箱に乗った観測者から見て、Pの円運動に関する力のつり合い(張力、重力、遠心力)を考えます。

具体的な解説と立式
Pが最下点に達したときの箱に対するPの相対速度の大きさを\((v+V)\)とすると、その値は問題18の結果より、
$$
\begin{aligned}
(v+V)^2 &= \frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta) \quad \cdots (Q-1)
\end{aligned}
$$
箱に乗った観測者から見ると、小球Pは速さ\((v+V)\)で最下点を通過する円運動をしています。このとき、Pに働く力は、糸の張力\(T\)、重力\(mg\)、そして円運動による遠心力\(m\displaystyle\frac{(v+V)^2}{l}\)です。
力のつり合いの式は、
$$
\begin{aligned}
T &= mg + m\frac{(v+V)^2}{l} \quad \cdots (Q-2)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則・力学的エネルギー保存則 (問題18より)
  • 円運動における力のつり合い(遠心力を考慮)
計算過程

式(Q-1)を式(Q-2)に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= mg + m \cdot \frac{1}{l} \left( \frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta) \right) \\[2.0ex]
&= mg + \frac{2mg(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \\[2.0ex]
&= mg \left( 1 + \frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、おもりPと箱がそれぞれどれくらいの速さで動いているかを、エネルギー保存の法則と運動量保存の法則から求めます。次に、箱に乗っている人から見ると、おもりPは円を描くように運動しています。この円運動の最も下の点でのPの速さ(箱から見た速さ)が重要になります。
最後に、この円運動に必要な力(糸の張力)を考えます。張力は、Pの重力と、Pが円運動することで生じる遠心力(箱に乗った人から見て、Pが外向きに引っ張られるように感じる力)を支える必要があるため、これらの力の和として計算されます。

結論と吟味

張力\(T\)は\(mg \left\{ 1 + \displaystyle\frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right\}\)です。
もし箱の質量\(M\)が非常に大きい場合(\(M \to \infty\))、\(\frac{m+M}{M} \to 1\)となり、\(T \to mg \{1 + 2(1-\cos\theta)\} = mg(3-2\cos\theta)\)。これは、床に固定された単振り子の最下点での張力と一致し、物理的に妥当です。

解答 (Q) \(mg \left\{ 1 + \displaystyle\frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right\}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 慣性力と見かけの重力:
    • 核心: この問題は、電車という加速度運動する基準系(非慣性系)における振り子の運動を扱います。核心となるのは、電車内の観測者から見ると、物体にはたらく実際の力に加えて、見かけの力である「慣性力」を考慮する必要があるという点です。さらに、この慣性力と本来の重力をベクトル的に合成した「見かけの重力」という概念を導入することで、複雑な現象を、あたかも重力の向きと大きさが変わっただけの世界での、単純な振り子の運動として捉え直すことができます。
    • 理解のポイント:
      1. 非慣性系の設定: 問題文が「車内の人が見る」と指定しているため、観測者は電車と共に加速度運動をしています。この観測者の視点(非慣性系)で物理法則を立てるのが基本方針です。
      2. 慣性力の導入: 電車の加速度を\(\vec{a}\)とすると、小球にはその加速度と真逆の向きに、大きさ\(ma\)の慣性力がはたらいているように見えます。
      3. 「見かけの重力」への統合: 鉛直下向きの重力\(m\vec{g}\)と、水平方向の慣性力\(-m\vec{a}\)を合成した力\(m\vec{g}’ = m\vec{g} – m\vec{a}\)を「見かけの重力」と定義します。この問題の振り子運動は、すべてこの「見かけの重力」のもとでの現象として統一的に記述できます。
      4. 物理法則の書き換え: 「見かけの重力」の場では、振動の中心、力学的エネルギー保存則、単振動の周期といった概念が、重力加速度\(g\)を「見かけの重力加速度\(g’\)」に置き換えるだけで、そのまま適用できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 回転する円盤上の振り子や物体: この場合、遠心力が慣性力として働き、重力と合成されて「見かけの重力」が円盤の中心から見て斜め外向きになります。
    • エレベーター内の物理現象: 上下方向に加速するエレベーターの中では、慣性力も鉛直方向にはたらくため、「見かけの重力加速度」が\(g \pm a\)に変化します。
    • 斜面を滑り降りる台車の中の振り子: 慣性力と重力の両方が斜めの方向を向くため、ベクトル合成が少し複雑になりますが、「見かけの重力」の考え方は同様に有効です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 観測者をどこに置くか?: 問題が非慣性系での運動を問うている場合、素直にその非慣性系に観測者を置き、慣性力を導入するのが最も簡単な解法になることが多いです。
    2. 振動の中心を見つける: 振り子やばねの振動問題では、まず「力のつり合いの位置」を探すのが定石です。非慣性系では、慣性力を含めたすべての力(=見かけの重力)がつり合う点が振動の中心となります。
    3. 運動の「イベント」に注目する: 「糸が切れる」「等速運動に移行する」など、物理的な条件が変化する瞬間(イベント)が問題の鍵となります。その瞬間の物体の位置と速度を正確に把握し、それが次の運動の初期条件になることを意識しましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 慣性力の向きの間違い:
    • 誤解: 慣性力の向きを、観測者(電車)の加速度と同じ向きだと勘違いしてしまう。
    • 対策: 慣性力は、常に観測者の加速度と「真逆」にはたらくと覚えましょう。右向きに加速する電車なら、慣性力は左向きです。
  • 振動の中心の誤解:
    • 誤解: 電車内でも、振り子の振動の中心は鉛直真下だと考えてしまう。
    • 対策: 振動の中心は、必ず「力のつり合いの位置」です。加速中の電車内では、重力と慣性力がはたらくため、つり合いの位置は鉛直方向から傾きます。この「見かけの重力」の方向が、新しい基準となります。
  • エネルギー保存則の誤用:
    • 誤解: 加速中の電車内で、通常の重力による位置エネルギー\(mgh\)だけでエネルギー保存則を立ててしまう。
    • 対策: 非慣性系でエネルギー保存を考える場合は、「見かけの重力」による位置エネルギー\(mg’h’\)を使わなければなりません。あるいは、静止系から見て、慣性力がした仕事(非保存力)を考慮する必要がありますが、前者の「見かけの重力」モデルの方がはるかに簡単です。
  • 等速運動への移行の解釈ミス:
    • 誤解: 電車が等速運動に入っても、慣性力が働き続けると考えてしまう。
    • 対策: 慣性力は、観測者が「加速度」運動しているときにだけ現れる見かけの力です。電車が等速運動(加速度0)に入れば、慣性力は瞬時に消滅し、通常の重力だけの世界に戻ることを正しく理解しましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 見かけの重力 (\(m\vec{g}’ = m\vec{g} – m\vec{a}\)):
    • 選定理由: 常に一定の大きさ・向きではたらく2つの力(重力と慣性力)を、ベクトル的に合成して1つの力と見なすことで、問題を大幅に単純化できるためです。
    • 適用根拠: 電車の加速度が一定であるため、慣性力も一定です。重力ももちろん一定なので、これらの合力である「見かけの重力」も一定の力となります。これにより、あたかも重力の向きと大きさが変わっただけの新しい環境として、その後の物理現象を記述できます。
  • 力学的エネルギー保存則(見かけの重力場):
    • 選定理由: 振動の端点(速さ0)と中心点(速さ最大)など、2点間の速さの関係を、途中の運動を追うことなく直接求めることができるためです。
    • 適用根拠: 「見かけの重力」も、重力と同様に保存力として扱うことができます。糸の張力は仕事をしないため、見かけの重力場において力学的エネルギーが保存されます。
  • 単振り子の周期の公式 (\(T = 2\pi\sqrt{l/g’}\)):
    • 選定理由: 振れ角が小さい場合の振り子の運動は、単振動とみなせるという物理的な近似を利用するためです。運動方程式を解かずに周期を求めることができます。
    • 適用根拠: 見かけの重力場においても、微小な振れ角に対しては復元力が見かけの重力の成分として変位に比例します。したがって、単振動の周期の公式が、\(g\)を\(g’\)に置き換えるだけでそのまま適用できます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 三角関数の扱い:
    • 特に注意すべき点: この問題では、振動の全振れ角\(\theta\)と、つり合いの位置までの角度\(\theta/2\)が混在します。どちらの角度を使っているのかを常に意識しないと、計算ミスにつながります。
    • 日頃の練習: 図を描く際に、どの角度が\(\theta\)で、どの角度が\(\theta/2\)なのかを明確に書き込みましょう。力のつり合いを考えるときは\(\theta/2\)、振動の端点を考えるときは\(\theta\)や0、というように、状況に応じて使う角度を正しく選択する訓練が必要です。
  • 見かけの重力\(g’\)の計算:
    • 特に注意すべき点: \(g’ = g/\cos(\theta/2)\)という関係を導出する際に、三平方の定理や三角関数の公式を正確に使う必要があります。
    • 日頃の練習: 慣性力と重力のベクトル図を描き、そこから見かけの重力の大きさと向きを求める練習をしましょう。図形的に理解することで、公式を暗記するよりもミスが減ります。
  • エネルギー保存則での高さの計算:
    • 特に注意すべき点: 見かけの重力場でのエネルギー保存則を使う場合、「高さ」も見かけの重力の方向を基準に考える必要があります。つまり、つり合いの位置Cからの「見かけの高さ」\(h’ = l(1-\cos(\text{振れ角}))\)を正しく計算することが重要です。
    • 日頃の練習: 通常の単振り子で、高さが\(l(1-\cos\phi)\)と表されることを図形的に理解しておけば、見かけの重力場でも同じ考え方が適用できることがスムーズに理解できます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 加速度\(a\): \(a = g\tan(\theta/2)\)。電車の加速度が大きいほど、振り子のつり合いの傾きが大きくなる。直感と一致します。
    • (2) 最大速度と最大張力: 加速度が大きい(\(\theta\)大)ほど、\(\cos(\theta/2)\)が小さくなり、\(v_{\text{最大}}\)も\(S_{\text{最大}}\)も大きくなる。より激しい振動になるため、妥当です。
    • (3) 周期\(T\): 加速度が大きい(\(\theta\)大)ほど、\(\cos(\theta/2)\)が小さくなり、周期は短くなる。見かけの重力が強くなるほど、振り子が素早く振動するイメージと一致します。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし電車が加速しなかったら(\(a=0\))?:
      • この場合、\(\tan(\theta/2)=0\)なので\(\theta=0\)。つまり、振動は起こりません。
      • (2)の式で\(\theta \to 0\)とすると、\(\cos(\theta/2) \to 1\)なので、\(v_{\text{最大}} \to 0\)、\(S_{\text{最大}} \to mg(3-2)=mg\)。これは静止した振り子の状態と一致します。
      • (3)の式で\(\theta \to 0\)とすると、周期は\(T \to 2\pi\sqrt{l/g}\)となり、通常の単振り子の周期と一致します。
    • このように、加速度がないという単純な状況を代入してみることで、得られた複雑な式の正しさを検証することができます。
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問題32 (山口大+東京学芸大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばね定数 \(k\) の軽いばねに接続された質量 \(m\) の小物体Aと、それに接触している質量 \(3m\) の物体Bの運動を扱います。初めにばねを自然長から \(d\) だけ縮めて静かに放すという状況設定です。物体AとBが一緒に運動する期間と、分離した後の物体Aの運動について考察します。

与えられた条件
  • ばね定数: \(k\)
  • 小物体Aの質量: \(m\)
  • 物体Bの質量: \(3m\)
  • ばねが自然長のときのAの位置: \(x=0\)
  • 初期条件: AにBを押しつけて、ばねを自然長から \(d\) だけ縮めた位置 (\(x=-d\)) で静かに放す。
  • 水平面は滑らか。
問われていること
  1. (1) AがBを押しながら運動する際、AがBを押す力の大きさ \(N\) をAの位置 \(x\) の関数として表す。
  2. (2) AとBが離れるときのAの位置 \(x_0\) および、離れた後のBの速さ \(u\) を求める。
  3. (3) 動き始めてからAとBが離れるまでの時間 \(t_0\) を求める。
  4. (4) Bを放したときを時刻 \(t=0\) として、Aの位置 \(x\) の時間変化を表すグラフを指定された図に描く。
  5. (5) \(t \ge t_0\) でのAの速度 \(v_A\) を時刻 \(t\) の関数として \(m, k, d\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) AがBを押す力\(N\)の別解: 系全体で考える解法
      • 主たる解法が、AとBそれぞれの運動方程式を立てて連立するのに対し、別解ではまずAとBを一体の系と見なして全体の加速度を求め、その結果を物体Bの運動方程式に適用して力\(N\)を導出します。
    • 問(2) Bの速さ\(u\)の別解: 単振動の最大速度の公式を用いる解法
      • 主たる解法が、力学的エネルギー保存則から速さを求めるのに対し、別解ではAとBの一体運動を単振動と捉え、振動中心での速さが最大速度\(v_{\text{max}} = A\omega\)(Aは振幅、\(\omega\)は角振動数)となる性質を利用して速さを求めます。
    • 問(3) 分離までの時間\(t_0\)の別解: 単振動の位置の式を解く解法
      • 主たる解法が、分離までの運動が単振動の1/4周期であるという性質を利用するのに対し、別解では単振動の位置を表す三角関数の式を立て、分離位置\(x=0\)となる時刻を直接計算して求めます。
    • 問(5) Aの速度\(v_A\)の別解: 位置の式を微分する解法
      • 主たる解法が、単振動の速度の一般式(コサイン関数)を直接用いるのに対し、別解ではまず分離後のAの位置を表す式(サイン関数)を立て、それを時間で微分するという速度の定義に忠実な方法で求めます。
    • コラムQ Aの加速度\(a_A\)の別解: 速度の式を微分する解法
      • 主たる解法が、単振動の加速度の性質(\(a = -\omega^2 x\))を利用するのに対し、別解では問(5)で求めた速度の式をさらに時間で微分するという加速度の定義に忠実な方法で求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「個々の物体」で見る視点と「系全体」で見る視点の違いや、単振動を「エネルギー保存」「周期性」「三角関数」といった複数の側面から捉えることで、物理モデルへの理解が深まります。
    • 解法の選択肢: 同じ物理量(速さ、時間など)を求めるのに、力学的アプローチと運動学的アプローチの両方が可能であることを学び、問題に応じて最適な解法を選択する戦略的な思考力が養われます。
    • 数学と物理の連携: 微分積分と物理現象(位置・速度・加速度の関係)の対応を具体的に確認することで、数学を物理の言語として活用する能力が高まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題は、2物体が接触した状態でのばね振り子の運動と、分離後の単独のばね振り子の運動を段階的に解析していくものです。まずAとBが一体となって運動する期間について、各物体にはたらく力に着目して運動方程式を立てます。次に、AとBが離れる条件(AがBを押す力が0になる)を考え、その時の位置や速さ、時刻を求めます。分離後はAのみがばねにつながれて単振動するため、その運動の様子を記述していきます。単振動の基本的な性質(振動中心、振幅、周期、角振動数)や、力学的エネルギー保存則が重要な役割を果たします。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 各物体にはたらく力を正確に把握し、運動の法則を適用します。
  2. 単振動: ばね振り子の運動は、振動中心のまわりの単振動となります。その周期、角振動数、振幅、エネルギーなどの性質を理解していることが重要です。
  3. 力学的エネルギー保存則: 滑らかな水平面上での運動なので、ばねの弾性力以外の外力が仕事をせず、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと弾性エネルギーの和)は保存されます。
  4. 物体が離れる条件: 接触している2物体が離れるのは、互いに及ぼし合う力(垂直抗力)が0になるときです。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、AとBが一体となって運動する期間について、各物体にはたらく力に着目して運動方程式を立てます。
  2. AとBが離れる条件(AがBを押す力が0になる)を考え、その時の位置や速さ、時刻を求めます。
  3. 分離後はAのみがばねにつながれて単振動するため、その運動の様子を、分離の瞬間を初期条件として記述していきます。

問(1)

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