問題31 (円運動・単振動)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水平方向に等加速度運動する電車内で、天井から糸で吊るされた小球Pの運動を扱うものです。電車という加速度系(非慣性系)における物体の運動が中心テーマとなります。車内の人が観測者となるため、慣性力を考慮する必要があります。慣性力と実際の重力を合わせた「見かけの重力」という概念を理解し、適用することが問題解決の鍵となります。
- 小球Pの質量: \(m\)
- 糸の長さ: \(l\)
- 小球Pは、糸が鉛直と角 \(\theta\) をなすAB間で振動する。(この \(\theta\) の解釈は解説内で詳述)
- 小球Pの運動は車内の人が見るものとする。
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 点Aの床からの高さ(問(4)において): \(h\)
- (1) 電車の加速度の向きと大きさを求める。
- (2) 小球Pの速さの最大値と、そのときの糸の張力の最大値を求める。
- (3) 角 \(\theta\) が小さい場合の、小球Pの振動周期を求める。
- (4) 小球Pが点A(振動の一端)に来たときに糸を切った場合の、床に達するまでの軌跡、時間、速さを求める。
- (5) 特定の瞬間に電車が等速度運動に移行した場合の、その後の小球Pの振動が鉛直方向となす最大の角 \(\theta_m\) について、\(\cos\theta_m\) を求める。
- (ア) Pが点Aにきたとき。
- (イ) Pが点Bにきたとき。
- (ウ) Pの速さが最大となったとき。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは、「慣性力」と、それによって生じる「見かけの重力」という考え方です。電車が加速度運動をすると、電車と共に運動する観測者から見ると、小球Pには電車の加速度と逆向きに \(m \times (\text{電車の加速度})\) という大きさの慣性力が働いているように見えます。この慣性力と、実際にPに働いている重力との合力を「見かけの重力」として捉えると、多くの状況がこの見かけの重力のもとでの振り子の運動として理解しやすくなります。
各設問において、力のつり合い、運動方程式、エネルギー保存則などを適切に使い分けていきましょう。
問(1)
思考の道筋とポイント
小球PがAB間で振動する際、その振動の中心となる点Cでは、糸の張力、重力、そして慣性力が特定の位置関係になります。この点Cは、見かけの力がつり合う位置(より正確には、見かけの重力が糸の張る方向と逆向きになる位置)です。問題の図や模範解答の記述から、振動の中心Cは糸が鉛直から \(\theta/2\) だけ傾いた位置であると解釈し、この位置での力のつり合いから慣性力の向きと大きさを決定し、電車の加速度を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 振動の中心は、見かけの力がつり合う位置です。
- 慣性力は、電車の加速度と逆向きに働きます。その大きさは \(ma\)(\(m\):小球の質量、\(a\):電車の加速度の大きさ)です。
- 模範解答の図解に基づき、振動中心Cは鉛直から \(\theta/2\) 傾いた点とします。
具体的な解説と立式
電車が加速度 \(\vec{a}_{\text{電車}}\) で運動していると、電車内の観測者からは、小球Pに重力 \(m\vec{g}\)(鉛直下向き)、糸の張力 \(\vec{S}\) の他に、見かけの力である慣性力 \(\vec{F}_{\text{慣性力}} = -m\vec{a}_{\text{電車}}\) が働いているように見えます。
振動の中心C(糸が鉛直から \(\theta/2\) 傾いた位置)では、これらの力がつり合っていると考えられます(厳密には、見かけの重力が糸の延長線方向を向き、張力と大きさが等しくなる)。
模範解答の図から、点Cで力がつり合うためには、慣性力は水平左向きに働く必要があります。したがって、電車の加速度 \(\vec{a}_{\text{電車}}\) は水平右向きです。電車の加速度の大きさを \(a\) とすると、慣性力の大きさは \(ma\) です。
点Cにおける力のつり合いを考えます。糸の張力を \(S_{\text{C}}\) とすると、
水平方向の力のつり合い:
$$S_{\text{C}} \sin\left(\frac{\theta}{2}\right) = ma \quad \cdots ①$$
鉛直方向の力のつり合い:
$$S_{\text{C}} \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = mg \quad \cdots ②$$
これらの式から \(a\) を求めます。
使用した物理公式
- 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = ma\) (大きさ)
- 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
式①を式②で辺々割ることにより、\(S_{\text{C}}\) を消去します。
$$\frac{S_{\text{C}} \sin(\theta/2)}{S_{\text{C}} \cos(\theta/2)} = \frac{ma}{mg}$$
三角関数の関係 \(\displaystyle\frac{\sin\phi}{\cos\phi} = \tan\phi\) を用いると、
$$\tan\left(\frac{\theta}{2}\right) = \frac{a}{g}$$
この式を \(a\) について解くと、電車の加速度の大きさ \(a\) が求まります。
$$a = g \tan\left(\frac{\theta}{2}\right)$$
電車が加速すると、電車の中の物は加速と反対の向きに「見かけの力(慣性力)」を感じます。振り子の場合、この慣性力と地球が引く力(重力)が合わさって、新しい「下」の方向(見かけの重力の方向)が決まります。振り子が安定して揺れる中心は、糸がこの新しい「下」の方向を向くところです。問題では、その中心が鉛直から \(\theta/2\) 傾いていると与えられているので、この傾きの角度と力の関係(具体的には、慣性力と重力の大きさの比が、傾きのタンジェントになる)を使って、電車の加速度を計算します。
電車の加速度の向きは右向き、大きさは \(a = g \tan\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right)\) です。
この結果は、振り子の傾き \(\theta/2\) が大きいほど、電車の加速度 \(a\) も大きくなることを示しており、直感的な理解と一致します。例えば、\(\theta/2 = 45^\circ\) の場合、\(\tan(45^\circ)=1\) なので \(a=g\) となり、電車は重力加速度と同じ大きさで加速していることになります。
問(2)
思考の道筋とポイント
小球Pの速さが最大になるのは、振動の中心である点Cです。また、単振り子と同様の考え方で、糸の張力が最大になるのもこの点Cであると考えられます。
この運動を、慣性力と重力を合わせた「見かけの重力」 \(m\vec{g}’\) のもとでの振り子運動と見なします。まず、この見かけの重力加速度 \(g’\) の大きさを求め、それを用いて力学的エネルギー保存則や円運動の運動方程式を適用します。点Aと点Bは、この振動の中心Cから見て角 \(\theta/2\) だけ変位した端点であると解釈します。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になるのは振動中心C(見かけの重力場での「最下点」に相当)。
- 張力が最大になるのも振動中心C。
- 見かけの重力 \(mg’\) の下での力学的エネルギー保存則、または円運動の運動方程式(向心力または遠心力を考慮した力のつり合い)を考える。
具体的な解説と立式
まず、見かけの重力加速度 \(g’\) の大きさを求めます。
問(1)より、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と慣性力 \(ma = mg \tan(\theta/2)\)(水平左向き)は直交しています。三平方の定理より、見かけの重力 \(mg’\) の大きさは、
$$(mg’)^2 = (mg)^2 + (ma)^2$$
$$(mg’)^2 = (mg)^2 + \left(mg \tan\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)^2 = (mg)^2 \left(1 + \tan^2\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
三角関数の公式 \(1 + \tan^2\phi = \sec^2\phi = \displaystyle\frac{1}{\cos^2\phi}\) を用いると、
$$(mg’)^2 = (mg)^2 \frac{1}{\cos^2(\theta/2)}$$
よって、\(mg’ = \displaystyle\frac{mg}{\cos(\theta/2)}\) となり、見かけの重力加速度の大きさは、
$$g’ = \frac{g}{\cos(\theta/2)} \quad \cdots ③$$
となります。
小球Pが振動の端点(例えば点A、点Cから見て角 \(\theta/2\) だけ変位した一方の端)から中心点Cまで運動するとき、見かけの重力場での力学的エネルギーが保存されます。端点Aでの速さは0です。中心点Cでの速さを \(v_{\text{最大}}\) とします。
点Cを見かけの重力ポテンシャルエネルギーの基準(高さ0)とすると、端点Aの見かけの高さ \(h’_{\text{A}}\) は、糸の長さ \(l\) と点Cからの振れ角 \(\theta/2\) を用いて、
$$h’_{\text{A}} = l – l\cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
力学的エネルギー保存則より、
$$mg’ h’_{\text{A}} + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg'(0) + \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2$$
$$mg’ l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 \quad \cdots ④$$
次に、糸の張力が最大となる点Cでの力のつり合い(円運動の運動方程式)を考えます。
点Cで、小球は糸の長さ \(l\) を半径とする円運動の一部とみなせます。このとき、糸の張力を \(S_{\text{最大}}\) とします。張力の方向(糸の方向)は見かけの重力の方向と一致しています。
運動方程式の向心力成分(糸の張る方向を正)は、張力 \(S_{\text{最大}}\) から見かけの重力 \(mg’\) を引いたものになります。
$$S_{\text{最大}} – mg’ = m \frac{v_{\text{最大}}^2}{l} \quad \cdots ⑤$$
(または、観測者から見て、張力 \(S_{\text{最大}}\) が見かけの重力 \(mg’\) と遠心力 \(m v_{\text{最大}}^2/l\) の和とつり合っていると考えて \(S_{\text{最大}} = mg’ + m v_{\text{最大}}^2/l\) と立式しても同じです。)
使用した物理公式
- 見かけの重力加速度: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)
- 力学的エネルギー保存則(見かけの重力場)
- 円運動の運動方程式(向心力): \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
まず、\(v_{\text{最大}}\) の計算を行います。
式④ \(mg’ l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2\) より、\(v_{\text{最大}}^2\) について解きます。
$$v_{\text{最大}}^2 = 2g’l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
ここに式③ \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を代入します。
$$v_{\text{最大}}^2 = 2 \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) l \left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
$$v_{\text{最大}}^2 = 2gl \left(\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right) = 2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)$$
したがって、速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は(速さは正なので平方根をとる)、
$$v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}$$
次に、\(S_{\text{最大}}\) の計算を行います。
式⑤ \(S_{\text{最大}} = mg’ + m\displaystyle\frac{v_{\text{最大}}^2}{l}\) に、\(mg’ = \displaystyle\frac{mg}{\cos(\theta/2)}\) と上で求めた \(v_{\text{最大}}^2 = 2gl \left(\displaystyle\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right)\) を代入します。
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg}{\cos(\theta/2)} + m \frac{2gl \left(\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right)}{l}$$
式を整理します。
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg}{\cos(\theta/2)} + \frac{2mg(1 – \cos(\theta/2))}{\cos(\theta/2)}$$
共通の分母 \(\cos(\theta/2)\) でまとめると、
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg + 2mg(1 – \cos(\theta/2))}{\cos(\theta/2)}$$
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg + 2mg – 2mg\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}$$
$$S_{\text{最大}} = \frac{3mg – 2mg\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}$$
\(mg\) でくくりだすと、
$$S_{\text{最大}} = mg \left(\frac{3 – 2\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right) = mg \left(\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)$$
速さの最大値は、振り子が振動の中心(見かけの最下点)に来たときの速さです。これは、振り子が最も高い位置(振動の端)にあるときの「見かけの位置エネルギー」が、中心に来たときにすべて「運動エネルギー」に変わるというエネルギー保存の法則から計算できます。「見かけの位置エネルギー」は、「見かけの重力」と「見かけの高さ」を使って考えます。
糸の張力が最も大きくなるのも、この振動の中心です。このとき、糸は「見かけの重力」に加えて、振り子が円を描くように運動するために必要な力(向心力、あるいは観測者から見た遠心力の反作用と考えることもできる)も支えなければならないため、張力は大きくなります。
Pの速さの最大値は \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl \left(\displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}\) です。
糸の張力の最大値は \(S_{\text{最大}} = mg \left(\displaystyle\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)\) です。
これらの結果は、模範解答と一致します。
もし \(\theta/2 = 0\)(電車が加速しておらず、振動もしていない静止状態)の場合、\(\cos(0)=1\) なので、\(v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl(1-1)} = 0\)、\(S_{\text{最大}} = mg(3-2) = mg\) となり、物理的に妥当な結果(静止した振り子の状態)と一致します。
角度 \(\theta/2\) が大きくなる(つまり電車の加速度が大きくなる)と、\(\cos(\theta/2)\) は \(1\) より小さくなり、\(1/\cos(\theta/2)\) は \(1\) より大きくなるため、\(v_{\text{最大}}\) も \(S_{\text{最大}}\) も大きくなることが分かります。
問(3)
思考の道筋とポイント
角 \(\theta\) が小さいということは、振動の振幅角 \(\theta/2\) も小さいと考えられます。このような微小振動の場合、運動は単振動とみなすことができ、単振り子の周期の公式を応用できます。ただし、ここでの「重力加速度」に相当するものは、実際の重力加速度 \(g\) ではなく、問(2)で導入した「見かけの重力加速度 \(g’\)」を用いる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 微小振動(問題文で「\(\theta\)が小さい場合」と指定)であれば、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi \sqrt{L/g_{\text{有効}}}\) が適用できます。
- ここでの有効な重力加速度 \(g_{\text{有効}}\) は、見かけの重力加速度 \(g’\) です。
具体的な解説と立式
単振り子の周期の公式は \(T_0 = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{L}{g_0}}\) です(ここで \(L\) は振り子の長さ、\(g_0\) はその場の重力加速度)。
この問題では、振り子の長さは \(l\)、有効な重力加速度は見かけの重力加速度 \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) です(式③より)。
したがって、小球Pの振動周期 \(T\) は、
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{l}{g’}} \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{L}{g_{\text{有効}}}}\)
- 見かけの重力加速度: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)
式⑥に \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を代入します。
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{l}{\left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right)}}$$
分母の分数を整理すると、
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}$$
「\(\theta\)が小さい場合」という条件は、この運動が単振動とみなせることを保証するためのものであり、通常、\(\cos(\theta/2)\) をさらに近似(例:\(\cos\phi \approx 1 – \phi^2/2\))する必要はありません。この形で解答します。
振り子が小さく揺れるときの1往復にかかる時間(周期)は、基本的に糸の長さと「その場の重力の強さ」で決まります。この問題では、電車が加速しているため、「見かけの重力」が普通の重力とは異なり、その強さ(見かけの重力加速度 \(g’\))も \(g\) とは異なります。この「見かけの重力加速度 \(g’\)」を、周期の公式における \(g\) の代わりに使って周期を計算します。
\(\theta\)が小さい場合のPの振動周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}\) です。
これは模範解答と一致します。
もし電車が加速していない場合(\(a=0\))、問(1)より \(\tan(\theta/2)=0\) なので \(\theta/2=0\)、よって \(\cos(\theta/2)=1\) となります。このとき \(g’=g\) となり、周期は \(T = 2\pi \sqrt{l/g}\) となって、通常の単振り子の周期と一致します。これは物理的に妥当です。
電車の加速度が大きくなるほど \(\theta/2\) は大きくなり、\(\cos(\theta/2)\) は小さくなる(ただし \(0 < \cos(\theta/2) \le 1\))ため、周期 \(T\) は短くなります。これは、見かけの重力が強くなるほど、振り子はより速く振動することに対応しており、直感的な理解とも一致します。
問(4)
思考の道筋とポイント
「Pが点Aにきたとき」というのは、振動の一方の端点に来たときを指すと解釈します。この瞬間、車内の観測者から見ると、Pの速さは0です。
糸を切ると、Pに働く力は重力 \(mg\)(鉛直下向き)と慣性力 \(ma = mg \tan(\theta/2)\)(水平左向き、問(1)より)の2つだけになります(空気抵抗は無視します)。
これらの合力は、問(2)で考えた「見かけの重力 \(m\vec{g}’\)\)」に他ならず、その方向と大きさは一定です。したがって、Pはこの合力の方向に初速度0で等加速度直線運動をします。つまり、車内の観測者からは、見かけの重力 \(m\vec{g}’\) のもとでの「自由落下」に見えるわけです。
軌跡は、この見かけの重力の方向に沿った直線となります。
床に達するまでの時間は、見かけの重力の方向への落下距離と、見かけの重力加速度 \(g’\) を使って計算します。床までの実際の高さ \(h\) と、見かけの重力の方向への落下距離の関係を正しく把握することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 糸を切った瞬間のPの車内から見た速度は0(振動の端点であるため)。
- 糸を切った後にPに働く力は、重力と慣性力のみ。これらの合力が「見かけの重力 \(m\vec{g}’\)\)」。
- Pは、見かけの重力 \(m\vec{g}’\) の方向に、初速度0で等加速度直線運動(一種の自由落下)をする。
- 軌跡は、見かけの重力の方向に沿った直線。
- 床までの鉛直高さ \(h\) と、見かけの重力の方向への実質的な落下距離 \(L_{\text{落下}}\) の関係を幾何学的に捉える(模範解答の図が参考になります)。
具体的な解説と立式
車内の観測者から見ると、糸を切られた小球Pは、初速度0で、見かけの重力加速度 \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)(式③)の方向に落下します。
見かけの重力の方向は、鉛直下向きから水平左向きに \(\theta/2\) だけ傾いた方向です。
点Aの床からの高さは \(h\) です。Pが床に達するまでの、見かけの重力の方向への落下距離を \(L_{\text{落下}}\) とします。模範解答の図(Page 2 左上の図)を参照すると、床と点Aを通る水平線、そして点Aから床への垂線が作る直角三角形において、見かけの重力の方向が斜辺に相当し、鉛直方向の高さ \(h\) がその隣辺の一つ(角度 \(\theta/2\) に対する隣辺)に対応します。したがって、三角比の関係から、
$$L_{\text{落下}} = \frac{h}{\cos(\theta/2)} \quad \cdots ⑦$$
となります。
Pがこの距離 \(L_{\text{落下}}\) だけ落下するのにかかる時間を \(t_{\text{床}}\) とすると、初速度0の等加速度直線運動の公式 \(x = \frac{1}{2}a_{\text{有効}}t^2\) より、
$$L_{\text{落下}} = \frac{1}{2} g’ t_{\text{床}}^2 \quad \cdots ⑧$$
床に当たるときの速さ \(v_{\text{床}}\) は、等加速度直線運動の公式 \(v = a_{\text{有効}}t\) より(初速度0なので \(v=at\))、
$$v_{\text{床}} = g’ t_{\text{床}} \quad \cdots ⑨$$
軌跡の作図について:
(模範解答の図を参照し、点Aから見かけの重力の方向、すなわち鉛直方向から水平左向きに \(\theta/2\) だけ傾いた方向へ直線を描く)
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\), \(v = v_0 + at\)
- 見かけの重力加速度: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)
- 三角比(落下距離の算出)
まず、時間 \(t_{\text{床}}\) の計算を行います。
式⑧に式⑦を代入し、さらに \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を用います。
$$\frac{h}{\cos(\theta/2)} = \frac{1}{2} \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) t_{\text{床}}^2$$
両辺に \(\cos(\theta/2)\) を掛けます(\(\cos(\theta/2) \neq 0\) なので問題ありません)。
$$h = \frac{1}{2} g t_{\text{床}}^2$$
これを \(t_{\text{床}}\) について解きます(時間は正なので \(t_{\text{床}} > 0\))。
$$t_{\text{床}}^2 = \frac{2h}{g}$$
$$t_{\text{床}} = \sqrt{\frac{2h}{g}}$$
次に、速さ \(v_{\text{床}}\) の計算を行います。
式⑨に、上で求めた \(t_{\text{床}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) と、\(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を代入します。
$$v_{\text{床}} = \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) \sqrt{\frac{2h}{g}}$$
\(g = \sqrt{g^2}\) を用いてルートの中に入れると、
$$v_{\text{床}} = \frac{1}{\cos(\theta/2)} \sqrt{\frac{2hg^2}{g}}$$
$$v_{\text{床}} = \frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}$$
糸が切れると、おもりはもはや糸に引かれず、地球が引く力(重力)と電車が加速することによる「見かけの力(慣性力)」の二つだけを受けます。この二つの力を合わせたものが「見かけの重力」で、おもりはこの「見かけの重力」の方向にまっすぐ落ちていきます(初めの速さがゼロなので、まっすぐ進みます)。
床までの実際の高さは \(h\) ですが、おもりが落ちる方向は斜めなので、実際にその方向に進む距離は \(h\) よりも少し長くなります。この斜めの落下距離と「見かけの重力の強さ(見かけの重力加速度)」を使って、床に落ちるまでの時間と、そのときの速さを計算します。
面白いことに、落ちる時間は、もし電車が加速していなくても(つまり普通の自由落下でも)同じになります。これは、鉛直方向の動きだけを見ると、電車の加速の影響を受けないためです(模範解答の別解で示されています)。
Pが床に達するまでの軌跡は、点Aから見て、鉛直方向に対し水平左向きに \(\theta/2\) だけ傾いた方向への直線です。
床に達するまでの時間は \(t_{\text{床}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) です。
床に当たるときの速さは \(v_{\text{床}} = \displaystyle\frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}\) です。
これらの結果は模範解答と一致します。
特に、床に達するまでの時間は、電車の加速度 \(a\)(ひいては \(\theta/2\))に依存せず、通常の自由落下の時間と同じであるという点は重要です。これは、模範解答の【別解】で示されているように、運動を水平方向と鉛直方向に分解して考えるとより明確に理解できます。鉛直方向の運動だけを見れば、初速度0、加速度 \(g\) で \(h\) だけ落下する運動であり、その時間は \(t = \sqrt{2h/g}\) で与えられます。
一方、床に当たるときの速さは分母に \(\cos(\theta/2)\) を含むため、電車の加速度が大きい(つまり \(\theta/2\) が大きい)ほど、\(\cos(\theta/2)\) は小さくなり(ただし正)、速さは大きくなります。これは、慣性力によって水平方向にも加速されるため、全体の速さが増すことを意味しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
電車が等速度運動に入ると、加速度が0になるため、慣性力も0になります。つまり、小球Pは通常の重力 \(mg\) のみが働く慣性系(静止系と同じ物理法則が成り立つ系)での運動に戻ります。
その瞬間の小球Pの位置と速度(これは等速運動に移行した電車内の観測者から見た位置と速度であり、また地上の慣性系から見た速度から電車の速度を引いた相対速度でもあります)を初期条件として、その後の単振り子運動を考えます。
この後の運動では、力学的エネルギー保存則(通常の重力場におけるもの)が成り立ちます。最大の角 \(\theta_m\) に達したとき、Pの速さは0になります。
ここで、問(1)~(4)での振動の状況設定を再確認します。模範解答の解釈、特に(5)の(ア)(イ)の解答との整合性を考えると、小球Pは、鉛直から \(\theta/2\) だけ傾いた直線OCを中心として振動しているのではなく、振動の端点が点A(糸が鉛直な位置、鉛直からの角度0)と点B(糸が鉛直から角 \(\theta\) をなす位置)であると解釈するのが適切です。この場合、振動の中心Cは鉛直から \(\theta/2\) の角度をなす位置になります。この解釈で進めます。
この設問における重要なポイント
- 電車が等速運動に移行すると、慣性力は消滅し、通常の重力場(慣性系)に戻ります。
- 移行直前のPの位置と速度が、その後の単振り子運動の初期条件となります。
- 通常の重力場における力学的エネルギー保存則を適用して、最大の振れ角 \(\theta_m\) を求めます。
具体的な解説と立式
電車が等速度運動に入ると、車内の観測者から見て慣性力がなくなり、通常の重力 \(mg\) の下での運動となります。この観測者は慣性系とみなせます。その後のPの運動は、支点Oを中心とする単振り子運動です。最大の振れ角を \(\theta_m\) とすると、その位置ではPの速さは0になります。
力学的エネルギー保存則を考えます。最下点(鉛直位置、糸の角度0)を重力による位置エネルギーの基準 \(U_{\text{重力}}=0\) とします。
ある瞬間のPの速さを \(v\)、糸の鉛直からの角度を \(\alpha\) とすると、そのときの力学的エネルギー \(E_{\text{力学}}\) は、
$$E_{\text{力学}} = \frac{1}{2}mv^2 + mgl(1-\cos\alpha)$$
この \(E_{\text{力学}}\) が保存されます。最大の角 \(\theta_m\) の位置では速さが0なので、そのときのエネルギーは \(mgl(1-\cos\theta_m)\) となります。
(ア) Pが点Aにきたとき。
点Aは振動の端であり、糸は鉛直な位置(鉛直からの角度0)にあります。このときのPの速さは0です(加速中の電車内から見て、振動の端なので)。
電車が等速運動に入ると慣性力は消えます。
初期条件:糸の角度 \(\alpha_{\text{はじめ}} = 0\)、速さ \(v_{\text{はじめ}} = 0\)。
このときの力学的エネルギー \(E_{\text{はじめ}}\) は、
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mgl(1-\cos 0) = mgl(1-1) = 0$$
これが保存されるので、最大の角 \(\theta_m\) のときのエネルギー \(E_{\text{あと}} = mgl(1-\cos\theta_m)\) と等しくなります。
$$mgl(1-\cos\theta_m) = 0$$
\(mgl \neq 0\) なので \(1-\cos\theta_m = 0\)、よって \(\cos\theta_m = 1\)。
(これは、\(\theta_m = 0\) を意味し、Pは鉛直位置で静止し続けることになります。)
(イ) Pが点Bにきたとき。
点Bは振動のもう一方の端であり、糸は鉛直から角 \(\theta\) をなす位置にあります。このときのPの速さは0です。
電車が等速運動に入ると慣性力は消えます。
初期条件:糸の角度 \(\alpha_{\text{はじめ}} = \theta\)、速さ \(v_{\text{はじめ}} = 0\)。
このときの力学的エネルギー \(E_{\text{はじめ}}\) は、
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mgl(1-\cos\theta) = mgl(1-\cos\theta)$$
これが保存されるので、最大の角 \(\theta_m\) のときのエネルギー \(E_{\text{あと}} = mgl(1-\cos\theta_m)\) と等しくなります。
$$mgl(1-\cos\theta_m) = mgl(1-\cos\theta)$$
よって、\(1-\cos\theta_m = 1-\cos\theta\)、すなわち \(\cos\theta_m = \cos\theta\)。
(これは、\(\theta_m = \theta\) を意味し、Pは振幅 \(\theta\) で振動を続けることになります。)
(ウ) Pの速さが最大となったとき。
加速中の電車内でPの速さが最大となるのは、振動の中心C(糸が鉛直から \(\theta/2\) の角度をなす位置)です。
このときのPの速さ \(v_{\text{最大}}\) は、問(2)で求めた \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2g’l(1-\cos(\theta/2))}\) です。ここで \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) です。
電車が等速運動に移行した瞬間のPの位置は、糸が鉛直から \(\theta/2\) の角度をなし、速さは \(v_{\text{最大}}\) です。
このときの力学的エネルギー(通常の重力場、最下点基準) \(E_{\text{はじめ}}\) は、
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) \quad \cdots ⑩$$
これが、最大の角 \(\theta_m\) でのエネルギー \(E_{\text{あと}} = mgl(1-\cos\theta_m)\) と等しくなります。
$$\frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = mgl(1-\cos\theta_m)$$
ここに \(v_{\text{最大}}^2 = 2g’l(1-\cos(\theta/2)) = 2\left(\displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right)l(1-\cos(\theta/2))\) を代入します。
$$\frac{1}{2}m \left[2gl \frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right] + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = mgl(1-\cos\theta_m)$$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則(通常の重力場)
- 問(2)で求めた \(v_{\text{最大}}\) および \(g’\) の定義
(ア) の計算:
上記の「具体的な解説と立式」セクションの通り、立式と簡単な変形により、
$$\cos\theta_m = 1$$
(イ) の計算:
上記の「具体的な解説と立式」セクションの通り、立式と簡単な変形により、
$$\cos\theta_m = \cos\theta$$
(ウ) の計算:
エネルギー保存の式
$$\frac{1}{2}m \left[2gl \frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right] + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = mgl(1-\cos\theta_m)$$
まず、両辺を \(mgl\) で割ります(\(m,g,l\) はいずれも0ではないと仮定)。
$$\frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)} + \left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = 1-\cos\theta_m$$
左辺を通分せずに展開すると、
$$\frac{1}{\cos(\theta/2)} – \frac{\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)} + 1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = 1-\cos\theta_m$$
$$\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1 + 1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = 1-\cos\theta_m$$
整理すると、
$$\frac{1}{\cos(\theta/2)} – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = 1-\cos\theta_m$$
これを \(\cos\theta_m\) について解くと、
$$\cos\theta_m = 1 – \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
$$\cos\theta_m = 1 – \frac{1}{\cos(\theta/2)} + \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)$$
これは模範解答の \( \cos\theta_m = 1 + \cos\frac{\theta}{2} – \frac{1}{\cos\frac{\theta}{2}} \) と同じ形です。
また、模範解答にある \( \cos\theta_m = 1 – \sin\frac{\theta}{2}\tan\frac{\theta}{2} \) とも等価であることを確認します。
\(1 + \cos\phi – \displaystyle\frac{1}{\cos\phi}\) と \(1 – \sin\phi\tan\phi = 1 – \sin\phi\displaystyle\frac{\sin\phi}{\cos\phi} = 1 – \displaystyle\frac{\sin^2\phi}{\cos\phi}\)
ここで \(\sin^2\phi = 1-\cos^2\phi\) を代入すると、
\(1 – \displaystyle\frac{1-\cos^2\phi}{\cos\phi} = 1 – \left(\displaystyle\frac{1}{\cos\phi} – \cos\phi\right) = 1 – \displaystyle\frac{1}{\cos\phi} + \cos\phi\)。
両者は一致します。
電車が一定速度になると、それまでおもりにはたらいていた「慣性力」という見かけの力が消え、普通の重力だけの世界に戻ります。その瞬間に、おもりが持っていた「位置のエネルギー」と「運動のエネルギー」の合計(これが力学的エネルギーです)が、その後の普通の振り子運動の間ずっと保たれます(エネルギー保存の法則)。
振り子が一番高いところまで振れたとき(最大の角度 \(\theta_m\) に達したとき)、速さは一瞬ゼロになります。このときのエネルギー(位置のエネルギーのみ)が、電車が等速になった瞬間のエネルギーと等しい、という式を立てることで、\(\cos\theta_m\) を求めることができます。
(ア) 電車が等速になった瞬間に、おもりが真下でちょうど止まっていたら、そのまま動きません。
(イ) 電車が等速になった瞬間に、おもりが振動の端(角度 \(\theta\))でちょうど止まっていたら、そこが新たな振り子運動の端となり、同じ角度 \(\theta\) まで振れる運動を始めます。
(ウ) 電車が等速になった瞬間に、おもりが振動の中心(角度 \(\theta/2\))で最も速く動いていた場合、その運動エネルギーと、その高さでの位置エネルギーを使って、その後どれだけ高く(大きな角度まで)振れるかを計算します。
(ア) Pが点A(鉛直位置、速さ0)にきたとき、電車が等速運動に入ると、\(\cos\theta_m = 1\)。これは \(\theta_m = 0\) を意味し、Pは鉛直位置で静止し続けることになります。
(イ) Pが点B(鉛直から角 \(\theta\)、速さ0)にきたとき、電車が等速運動に入ると、\(\cos\theta_m = \cos\theta\)。これは \(\theta_m = \theta\) を意味し、Pは振幅 \(\theta\) で振動を続けることになります(ただし、元の振動中心とは異なる)。
(ウ) Pの速さが最大(位置は鉛直から角 \(\theta/2\))となったとき、電車が等速運動に入ると、\(\cos\theta_m = 1 + \cos(\displaystyle\frac{\theta}{2}) – \displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)}\)。
(ウ)の結果について、\(\cos\theta_m\) は \(1\) 以下でなければなりません。\(1 + \cos\phi – 1/\cos\phi \le 1\) とすると \(\cos\phi \le 1/\cos\phi\)。\(\phi = \theta/2\) は通常 \(0 \le \phi < \pi/2\) の範囲なので \(\cos\phi > 0\)。したがって \(\cos^2\phi \le 1\) となり、これは常に成り立ちます。よって \(\cos\theta_m \le 1\) は保証されます。
例えば、もし \(\theta/2 = 60^\circ\) (\(\theta=120^\circ\)) の場合、\(\cos(\theta/2) = 1/2\)。このとき \(\cos\theta_m = 1 + 1/2 – 1/(1/2) = 1 + 1/2 – 2 = -1/2\)。これは \(\theta_m = 120^\circ\) を意味し、物理的にあり得る値です。
もし \(\theta \to 0\) ならば、\(\theta/2 \to 0\)、\(\cos(\theta/2) \to 1\)。このとき \(\cos\theta_m \to 1+1-1 = 1\)、つまり \(\theta_m \to 0\)。これも、元々電車が加速していなければ(\(\theta=0\))、速さが最大となるのは静止しているときであり、その後も静止し続けるので妥当です。
【コラム】Q. 問題18, IIで、Pが最下点に達したときの糸の張力を求めよ。(★★)
思考の道筋とポイント
この設問は、本問題(#31)とは独立した、問題18(質量 \(M\) の箱の中の振り子)に関する追加の質問です。問題18のIIでは、糸が鉛直と角 \(\theta\) をなす位置Aまで小球P(質量 \(m\))を移し、全体が静止した状態からPを静かに放します。Pが最下点に達したときの糸の張力を求めます。
この系では、水平方向の外力がないため水平方向の運動量が保存され、摩擦がないため系全体の力学的エネルギーも保存されます。これらの保存則を用いて、Pが最下点に達したときのPと箱のそれぞれの速度を求めることができます(これは問題18(3)の内容です)。
糸の張力を求めるには、箱に乗った観測者からPの運動を見るのが有効です。この観測者から見ると、Pは円運動をしており、最下点では重力、張力、そして遠心力が働いていると考えられます。
この設問における重要なポイント
- 問題18(3)で求められた、Pが最下点に達したときのPと箱の対地速度を利用します。
- 箱に対するPの相対速度を計算します。これが円運動の速さとなります。
- 箱に乗った観測者から見て、Pの円運動に関する力のつり合い(張力 \(T\)、重力 \(mg\)、遠心力 \(m v_{\text{相対}}^2/l\))を考えます。
具体的な解説と立式
Qの答えのPDFに示されているように、Pが最下点に達したときの箱に対するPの相対速度の大きさを \((v+V)\) とすると(ここで \(v\) はPの対地速度、\(V\) は箱の対地速度で、互いに逆向きに動くため相対速度の大きさは和となる)、その値は、
$$(v+V) = \sqrt{\frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta)} \quad \cdots (Q-1)$$
と与えられています(これは問題18の運動量保存則とエネルギー保存則から導かれます)。
箱に乗った観測者から見ると、小球Pは速さ \((v+V)\) で最下点を通過する円運動をしています。このとき、Pに働く力は、糸の張力 \(T\)(上向き)、重力 \(mg\)(下向き)、そして円運動による遠心力 \(m\displaystyle\frac{(v+V)^2}{l}\)(下向き)です。これらの力が鉛直方向につり合っていると考えます。
(Qの答えの解説にある通り、この瞬間の箱の水平加速度は0であるため、箱の上の観測者が感じる慣性力は水平方向にのみ働き、鉛直方向の力のつり合いには影響しません。)
力のつり合いの式は、
$$T – mg – m\frac{(v+V)^2}{l} = 0$$
よって、糸の張力 \(T\) は、
$$T = mg + m\frac{(v+V)^2}{l} \quad \cdots (Q-2)$$
使用した物理公式
- 運動量保存則 (問題18より)
- 力学的エネルギー保存則 (問題18より)
- 相対速度
- 円運動における力のつり合い(遠心力を考慮)
式(Q-1)で与えられた \((v+V)^2 = \displaystyle\frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta)\) を、式(Q-2)に代入します。
$$T = mg + m \cdot \frac{\left(\frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta)\right)}{l}$$
分母分子の \(l\) が約分され、
$$T = mg + m \frac{2(m+M)g(1-\cos\theta)}{M}$$
共通因子 \(mg\) でくくりだすと、
$$T = mg \left( 1 + \frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right)$$
これがQの答えのPDFに記載されている最終結果と一致します。
まず、おもりPと箱がそれぞれどれくらいの速さで動いているかを、エネルギー保存の法則と運動量保存の法則から求めます(これは問題18で既に計算されている情報、あるいはそれを組み合わせたPの箱に対する相対速度を用います)。
次に、箱に乗っている人から見ると、おもりPは円を描くように運動しています。この円運動の最も下の点でのPの速さ(箱から見た速さ)が重要になります。
最後に、この円運動に必要な力(糸の張力)を考えます。張力は、Pの重力と、Pが円運動することで生じる遠心力(箱に乗った人から見て、Pが外向きに引っ張られるように感じる力)を支える必要があるため、これらの力の和として計算されます。
問題18, IIにおいて、Pが最下点に達したときの糸の張力 \(T\) は、
$$T = mg \left\{ 1 + \frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right\}$$
です。
この結果を吟味してみましょう。
もし、箱の質量 \(M\) が非常に大きい(\(M \to \infty\))場合を考えます。このとき、\(\displaystyle\frac{m+M}{M} = \frac{m/M + 1}{1} \to 1\)。
すると、\(T \to mg \{1 + 2(1)(1-\cos\theta)\} = mg \{1 + 2 – 2\cos\theta\} = mg(3-2\cos\theta)\)。
これは、床に固定された支点を持つ通常の単振り子が、角 \(\theta\) から放たれて最下点に来たときの張力と一致します。固定された振り子の場合、最下点での速さ \(v_0\) は力学的エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = mgl(1-\cos\theta)\) より \(v_0^2 = 2gl(1-\cos\theta)\)。最下点での張力は \(T_0 = mg + mv_0^2/l = mg + m(2gl(1-\cos\theta))/l = mg(1+2(1-\cos\theta)) = mg(3-2\cos\theta)\)。
よって、\(M \to \infty\) の極限で既知の結果と一致するため、この結果は物理的に妥当であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力とその正確な扱い:
- 加速度運動する座標系(非慣性系)で物体運動を記述する際には、座標系の加速度と逆向きに、大きさ \(ma\) の慣性力が働くものとして扱います。これが理解と適用の大前提です。
- 慣性力を導入することで、非慣性系でもニュートンの運動法則や力のつり合いの考え方を形式的に適用できます。
- 見かけの重力:
- 非慣性系において、実際の重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」と定義できます。
- この見かけの重力を用いると、あたかもその方向にだけ重力が働いているかのように問題を単純化して捉えられることがあります。特に振り子運動などでは有効な考え方です。
- エネルギー保存則の適用:
- 力学的エネルギー保存則は、保存力(重力、弾性力など)のみが仕事をする場合に成り立ちます。
- 非慣性系でエネルギーを考える場合、慣性力がする仕事も考慮に入れるか、見かけの重力ポテンシャルエネルギーを定義して扱う必要があります。問(5)では、慣性力が消えた後の通常の力学的エネルギー保存則を適用しました。
- 単振動の条件と周期:
- 復元力が変位に比例する運動が単振動です。微小角での振り子運動はこれに該当します。
- 単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi \sqrt{L/g_{\text{有効}}}\) の \(g_{\text{有効}}\) には、その場での実効的な重力加速度(本問では見かけの重力加速度 \(g’\))が入ります。
- (【コラム】Qに関して) 運動量保存則:
- 系全体に働く外力のベクトル和がゼロ(またはある特定の方向の成分がゼロ)の場合、その系全体の運動量(またはその方向の運動量成分)は保存されます。問題18の箱と小球の系では、水平方向の外力がないため水平方向の運動量が保存されました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
- 電車、エレベーター、自動車など、加速度運動する乗り物の中での物体の運動(振り子、斜面上の物体、ばねに繋がれた物体、物体の落下など)。
- 回転する円盤上の物体の運動を考える際にも、遠心力やコリオリの力といった慣性力(発展的内容)が登場しますが、基本的な慣性力の考え方は共通です。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 観測者の立場を明確にする: まず、問題をどの座標系(静止した地面などの慣性系か、加速する乗り物などの非慣性系か)から見るかを意識的に選択します。非慣性系を選ぶ場合は、必ず慣性力の存在を念頭に置きます。
- 慣性力の正確な導入: 非慣性系を選んだ場合、慣性力の向き(座標系の加速度と逆向き)と大きさ(物体の質量 × 座標系の加速度)を正確に把握し、図に描き入れます。
- 力の図示と分解の徹底: 物体に働くすべての力(実際の力と慣性力)をもれなくベクトルとして図示し、必要に応じて適切な方向(水平・鉛直、斜面方向・斜面に垂直な方向など)に分解します。
- 運動の状態に応じた法則の適用:
- 物体が(非慣性系で)静止している、または等速直線運動している \(\Rightarrow\) 力のつり合い(慣性力を含む)。
- 物体が(非慣性系で)加速度運動している \(\Rightarrow\) 運動方程式(慣性力を含み、加速度は非慣性系に対する相対加速度)。
- エネルギーの視点の活用: 力学的エネルギー保存則や仕事とエネルギーの関係が使えないか検討します。非慣性系では、慣性力がする仕事や、見かけの重力によるポテンシャルエネルギーを考えることが有効な場合があります。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
- 「~に対して静止」「~から見て」といった言葉は、どの観測者(座標系)基準での話なのかを正確に捉える手がかりになります。
- 振動の中心は、力がつり合う位置(非慣性系では見かけの力がつり合う位置、または見かけの重力の方向)です。
- 「糸が切れる」「衝突する」などのイベントが発生した場合は、その前後で何が変化し(例:働く力)、何が保存されるか(例:エネルギー、運動量)を慎重に考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の向きや大きさを間違える:
- ありがちな誤解: 慣性力の向きを座標系の加速度と同じ向きにしてしまう。慣性力の大きさを \(mg\) のような別の力と混同してしまう。
- 対策: 「慣性力は、観測している座標系の加速度と逆向きに、大きさは(物体の質量)×(座標系の加速度の大きさ)」という定義を徹底する。問題を解く際は必ず図を描き、慣性力の向きと大きさを明記する習慣をつける。
- 力の分解における三角関数の適用の誤り:
- ありがちな誤解: 水平方向の慣性力や鉛直方向の重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する際に、\(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を取り違える。
- 対策: 時間をかけてでも丁寧に図を描き、角度の関係(錯角、同位角など)を正確に把握する。分解する力のベクトルを対角線とする長方形を描き、その辺が成分となるイメージを持つ。
- 「見かけの重力」と「実際の重力+慣性力」の二重計上:
- ありがちな誤解: 見かけの重力 \(m\vec{g}’\) を導入した後で、さらに慣性力 \(-m\vec{a}_{\text{電車}}\) を別に考慮してしまう。
- 対策: 見かけの重力 \(m\vec{g}’\) は、あくまで実際の重力 \(m\vec{g}\) と慣性力 \(-m\vec{a}_{\text{電車}}\) のベクトル和を一つの力として扱っていることを理解する。どちらの考え方で立式するかを明確にし、混用しない。
- エネルギー保存則の安易な適用:
- ありがちな誤解: 慣性力のような力が仕事をする状況で、安易に「力学的エネルギー保存則」を(慣性力を考慮せずに)適用してしまう。
- 対策: 力学的エネルギー保存則が成り立つのは「保存力のみが仕事をする場合」。慣性力が仕事をする場合は、その仕事もエネルギー収支に含めるか、前述の「見かけの重力ポテンシャルエネルギー」を導入して、その系でのエネルギー保存を考える必要があります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- 電車が右向きにグッと加速する場面を想像してみてください。電車に乗っているあなたは、体が座席に押し付けられる(あるいは後ろに持っていかれる)ように左向きの力を感じます。これが慣性力です。
- 天井から吊るされた小球も同様に左向きの慣性力を受けます。この慣性力と、地球が下に引く重力が合わさって、小球にとっては新しい「真下」の方向(見かけの重力の方向)ができます。
- 振り子はこの新しい「真下」の方向を中心にして揺れます。
- 糸がもし切れたら、小球はこの慣性力と重力だけを受けて運動します。初速度がなければ、これらの合力の方向にまっすぐ「落ちて」いくように見えます。
- 図を描くことの威力:
- 力の可視化: 物体に働くすべての力(向きと作用点)をベクトルで図示することで、力の全体像が把握でき、立式の誤りを減らせます。
- 関係性の明確化: 力の分解、角度、長さなどの幾何学的な関係が明確になり、立式に必要な情報を整理できます。
- 思考の補助: 複雑な状況でも、図に情報を書き込むことで頭の中が整理され、次のステップへの思考がスムーズになります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 着目物体を明確にし、その物体に働く力のみを描きます(作用・反作用の相手側の力は、別の物体について考えるときに描きます)。
- 力のベクトルは、作用点から正しい向きに、おおよその相対的な大きさを意識して描きます。
- 座標軸を設定する場合は、その向きを図中に明記します。
- 角度や既知の寸法、未知の量などを適宜書き込み、図を見ただけで状況がある程度理解できるように工夫します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- なぜその公式を選び、適用できると判断したのか、その根拠を明確にする訓練の重要性:
- 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 選定・適用理由の例(問(1)の振動中心C): 「小球Pが振動の中心Cで見かけ上静止している(あるいは一定の速度で通過するが、その瞬間は加速度の特定の成分が0になる)」という状態を捉え、Cにおいて慣性力と重力の合力が張力とつり合う(または、見かけの重力と張力がつり合う)と判断し適用しました。
- 運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\)):
- 選定・適用理由の例(問(2)の張力計算、問(4)の落下運動): 小球Pが加速度運動をしている場合に、その加速度を生み出す原因となる力(合力)との関係を記述するために適用しました。非慣性系では合力に慣性力を含めます。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定・適用理由の例(問(2)の速さ計算、問(5)の振れ角計算): 摩擦や空気抵抗がなく、保存力(重力、慣性力をポテンシャルエネルギーとして扱える場合の見かけの重力)のみが関わる運動で、途中の詳細な力のやり取りを追わずに始状態と終状態の関係(速さや高さ)を知りたい場合に適用しました。
- 単振り子の周期の公式:
- 選定・適用理由の例(問(3)): 「\(\theta\)が小さい」という条件から、運動が単振動に近似できると判断し、単振り子の周期の公式を適用しました。ただし、重力加速度には見かけの重力加速度 \(g’\) を使用しました。
- 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 公式選択の思考プロセスを磨く:
- 公式を単に暗記するだけでなく、その公式が「どのような状況で」「どのような仮定のもとに」成り立つのかをセットで理解することが極めて重要です。「なぜ、今、この公式が使えるのか?」と常に自問自答する習慣が、誤用を防ぎ、応用力を飛躍的に高めます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題文と図の徹底読解: 与えられた条件、問われている物理量、そして現象の概略を正確に把握します。
- 観測者(座標系)の明確な設定: 慣性系で解くか、非慣性系で解くかを決定します。非慣性系なら慣性力を導入します。
- 着目物体の選定と力の図示: 運動を解析したい物体を決め、その物体に働く全ての力をベクトルで図示します(非慣性系なら慣性力も忘れずに)。
- 運動の種類の特定と座標軸の設定: 物体がどのような運動(静止、等速直線運動、等加速度運動、円運動、単振動など)をしている(あるいは、すると仮定できる)かを判断し、それに応じて適切な座標軸を設定し、力を成分分解します。
- 適切な物理法則の選択と立式: 特定した運動の種類と、求めたい物理量に応じて、最も適切な物理法則(力のつり合い、運動方程式、エネルギー保存則、運動量保存則など)を選び、数式で表現します。
- 数学的処理による求解: 立てた方程式(群)を、数学の知識を駆使して解き、未知数を求めます。
- 解の物理的な吟味: 得られた答えの単位、符号、大きさなどが物理的に妥当であるか、直感に合うかなどを検討します。極端な条件を代入してみるのも有効な手段です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で、ミスを防ぐために特に注意すべきだった点:
- 三角関数の選択ミス: 力の分解時における \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の取り違え。これは図を正確に描き、角度の関係をしっかり確認することで防ぎやすくなります。
- 符号の扱い: 力の向き、加速度の向き、座標軸の向きを常に意識し、式中の符号を間違えないようにすることが重要です。特に慣性力の向きは間違いやすいポイントです。
- 代数計算のケアレスミス: 多数の文字を含む式の変形、代入、整理、通分、約分などでの単純な計算間違い。一つ一つのステップを丁寧に行うことが求められます。
- 単位の確認: 最終的な答えだけでなく、途中の主要な物理量の単位が正しいか意識することも、間違いの発見に繋がることがあります。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 途中式を省略せずに丁寧に書く: 計算の各ステップを省略せずに記述することで、間違いを発見しやすくなり、また、論理の流れも明確になります。見直しの際にも役立ちます。
- 文字式の扱いに習熟する: 物理の問題では、数値を最後に代入することが多いため、文字式のまま計算を進める能力が不可欠です。展開、整理、因数分解、分数の計算などに日頃から慣れておきましょう。
- 図と式を常に対応させながら考える: 図に描いた力のベクトルやその成分が、立式した数式の各項と正しく対応しているかを確認しながら進めることで、立式の誤りや符号ミスを減らすことができます。
- 検算の習慣: 時間があれば、別の方法で解いてみたり、得られた答えを元の式に代入して矛盾がないか確認したりすることも有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 計算ミスや立式の根本的な誤りの発見: 例えば、張力が負になったり、エネルギーが負になったり(基準の取り方によるが、物理的にありえない状況)、明らかに大きすぎる・小さすぎる値が出た場合は、どこかに誤りがあると気づくきっかけになります。
- 物理法則の深い理解: 数式の背後にある物理的な意味や、法則が現象をどのように記述しているのかを考察することで、表面的な理解から一歩進んだ学習ができます。
- 応用力の養成: 「なぜこの結果になるのか?」を考える習慣は、未知の問題に対処する際の論理的思考力や洞察力を養います。
- 「解の吟味」を通じて具体的に何ができるか:
- 極端な条件での検証: 例えば、角度 \(\theta \to 0\) や \(\theta \to 90^\circ\)、質量 \(m \to 0\) や \(M \to \infty\) などの極端な値を代入してみて、結果が直感的に理解できる簡単な状況に帰着するかどうかを確認します。(例:問(2)や問(5)、【コラム】Qの結論などで実施しました。)
- 既知の状況との比較: もし問題設定の一部が単純な既知の状況(例:通常の単振り子)と同じになれば、答えもそれに一致するはずです。
- 単位(次元)の一致確認: 答えの物理量の単位が、求められているものの単位と一致しているか、また、式全体で単位の整合性が取れているかを確認します。
- 無次元量や比の考察: 時には、答えが無次元の比率になったり、特定のパラメータに依存しない形になったりします(例:問(4)の落下時間)。その物理的な意味を考えることは非常に有益です。
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