「名問の森」徹底解説(31〜33問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題31 (円運動・単振動)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平方向に等加速度運動する電車内で、天井から糸で吊るされた小球Pの運動を扱うものです。電車という加速度系(非慣性系)における物体の運動が中心テーマとなります。車内の人が観測者となるため、慣性力を考慮する必要があります。慣性力と実際の重力を合わせた「見かけの重力」という概念を理解し、適用することが問題解決の鍵となります。

与えられた条件
  • 小球Pの質量: \(m\)
  • 糸の長さ: \(l\)
  • 小球Pは、糸が鉛直と角 \(\theta\) をなすAB間で振動する。(この \(\theta\) の解釈は解説内で詳述)
  • 小球Pの運動は車内の人が見るものとする。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 点Aの床からの高さ(問(4)において): \(h\)
問われていること
  1. (1) 電車の加速度の向きと大きさを求める。
  2. (2) 小球Pの速さの最大値と、そのときの糸の張力の最大値を求める。
  3. (3) 角 \(\theta\) が小さい場合の、小球Pの振動周期を求める。
  4. (4) 小球Pが点A(振動の一端)に来たときに糸を切った場合の、床に達するまでの軌跡、時間、速さを求める。
  5. (5) 特定の瞬間に電車が等速度運動に移行した場合の、その後の小球Pの振動が鉛直方向となす最大の角 \(\theta_m\) について、\(\cos\theta_m\) を求める。
    • (ア) Pが点Aにきたとき。
    • (イ) Pが点Bにきたとき。
    • (ウ) Pの速さが最大となったとき。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、「慣性力」と、それによって生じる「見かけの重力」という考え方です。電車が加速度運動をすると、電車と共に運動する観測者から見ると、小球Pには電車の加速度と逆向きに \(m \times (\text{電車の加速度})\) という大きさの慣性力が働いているように見えます。この慣性力と、実際にPに働いている重力との合力を「見かけの重力」として捉えると、多くの状況がこの見かけの重力のもとでの振り子の運動として理解しやすくなります。
各設問において、力のつり合い、運動方程式、エネルギー保存則などを適切に使い分けていきましょう。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球PがAB間で振動する際、その振動の中心となる点Cでは、糸の張力、重力、そして慣性力が特定の位置関係になります。この点Cは、見かけの力がつり合う位置(より正確には、見かけの重力が糸の張る方向と逆向きになる位置)です。問題の図や模範解答の記述から、振動の中心Cは糸が鉛直から \(\theta/2\) だけ傾いた位置であると解釈し、この位置での力のつり合いから慣性力の向きと大きさを決定し、電車の加速度を導き出します。

この設問における重要なポイント

  • 振動の中心は、見かけの力がつり合う位置です。
  • 慣性力は、電車の加速度と逆向きに働きます。その大きさは \(ma\)(\(m\):小球の質量、\(a\):電車の加速度の大きさ)です。
  • 模範解答の図解に基づき、振動中心Cは鉛直から \(\theta/2\) 傾いた点とします。

具体的な解説と立式
電車が加速度 \(\vec{a}_{\text{電車}}\) で運動していると、電車内の観測者からは、小球Pに重力 \(m\vec{g}\)(鉛直下向き)、糸の張力 \(\vec{S}\) の他に、見かけの力である慣性力 \(\vec{F}_{\text{慣性力}} = -m\vec{a}_{\text{電車}}\) が働いているように見えます。
振動の中心C(糸が鉛直から \(\theta/2\) 傾いた位置)では、これらの力がつり合っていると考えられます(厳密には、見かけの重力が糸の延長線方向を向き、張力と大きさが等しくなる)。
模範解答の図から、点Cで力がつり合うためには、慣性力は水平左向きに働く必要があります。したがって、電車の加速度 \(\vec{a}_{\text{電車}}\) は水平右向きです。電車の加速度の大きさを \(a\) とすると、慣性力の大きさは \(ma\) です。
点Cにおける力のつり合いを考えます。糸の張力を \(S_{\text{C}}\) とすると、
水平方向の力のつり合い:
$$S_{\text{C}} \sin\left(\frac{\theta}{2}\right) = ma \quad \cdots ①$$
鉛直方向の力のつり合い:
$$S_{\text{C}} \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = mg \quad \cdots ②$$
これらの式から \(a\) を求めます。

使用した物理公式

  • 慣性力: \(F_{\text{慣性力}} = ma\) (大きさ)
  • 力のつり合い: \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
計算過程

式①を式②で辺々割ることにより、\(S_{\text{C}}\) を消去します。
$$\frac{S_{\text{C}} \sin(\theta/2)}{S_{\text{C}} \cos(\theta/2)} = \frac{ma}{mg}$$
三角関数の関係 \(\displaystyle\frac{\sin\phi}{\cos\phi} = \tan\phi\) を用いると、
$$\tan\left(\frac{\theta}{2}\right) = \frac{a}{g}$$
この式を \(a\) について解くと、電車の加速度の大きさ \(a\) が求まります。
$$a = g \tan\left(\frac{\theta}{2}\right)$$

計算方法の平易な説明

電車が加速すると、電車の中の物は加速と反対の向きに「見かけの力(慣性力)」を感じます。振り子の場合、この慣性力と地球が引く力(重力)が合わさって、新しい「下」の方向(見かけの重力の方向)が決まります。振り子が安定して揺れる中心は、糸がこの新しい「下」の方向を向くところです。問題では、その中心が鉛直から \(\theta/2\) 傾いていると与えられているので、この傾きの角度と力の関係(具体的には、慣性力と重力の大きさの比が、傾きのタンジェントになる)を使って、電車の加速度を計算します。

結論と吟味

電車の加速度の向きは右向き、大きさは \(a = g \tan\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right)\) です。
この結果は、振り子の傾き \(\theta/2\) が大きいほど、電車の加速度 \(a\) も大きくなることを示しており、直感的な理解と一致します。例えば、\(\theta/2 = 45^\circ\) の場合、\(\tan(45^\circ)=1\) なので \(a=g\) となり、電車は重力加速度と同じ大きさで加速していることになります。

解答 (1) 向き: 右向き, 大きさ: \(g \tan\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right)\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小球Pの速さが最大になるのは、振動の中心である点Cです。また、単振り子と同様の考え方で、糸の張力が最大になるのもこの点Cであると考えられます。
この運動を、慣性力と重力を合わせた「見かけの重力」 \(m\vec{g}’\) のもとでの振り子運動と見なします。まず、この見かけの重力加速度 \(g’\) の大きさを求め、それを用いて力学的エネルギー保存則や円運動の運動方程式を適用します。点Aと点Bは、この振動の中心Cから見て角 \(\theta/2\) だけ変位した端点であると解釈します。

この設問における重要なポイント

  • 速さが最大になるのは振動中心C(見かけの重力場での「最下点」に相当)。
  • 張力が最大になるのも振動中心C。
  • 見かけの重力 \(mg’\) の下での力学的エネルギー保存則、または円運動の運動方程式(向心力または遠心力を考慮した力のつり合い)を考える。

具体的な解説と立式
まず、見かけの重力加速度 \(g’\) の大きさを求めます。
問(1)より、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と慣性力 \(ma = mg \tan(\theta/2)\)(水平左向き)は直交しています。三平方の定理より、見かけの重力 \(mg’\) の大きさは、
$$(mg’)^2 = (mg)^2 + (ma)^2$$
$$(mg’)^2 = (mg)^2 + \left(mg \tan\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)^2 = (mg)^2 \left(1 + \tan^2\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
三角関数の公式 \(1 + \tan^2\phi = \sec^2\phi = \displaystyle\frac{1}{\cos^2\phi}\) を用いると、
$$(mg’)^2 = (mg)^2 \frac{1}{\cos^2(\theta/2)}$$
よって、\(mg’ = \displaystyle\frac{mg}{\cos(\theta/2)}\) となり、見かけの重力加速度の大きさは、
$$g’ = \frac{g}{\cos(\theta/2)} \quad \cdots ③$$
となります。

小球Pが振動の端点(例えば点A、点Cから見て角 \(\theta/2\) だけ変位した一方の端)から中心点Cまで運動するとき、見かけの重力場での力学的エネルギーが保存されます。端点Aでの速さは0です。中心点Cでの速さを \(v_{\text{最大}}\) とします。
点Cを見かけの重力ポテンシャルエネルギーの基準(高さ0)とすると、端点Aの見かけの高さ \(h’_{\text{A}}\) は、糸の長さ \(l\) と点Cからの振れ角 \(\theta/2\) を用いて、
$$h’_{\text{A}} = l – l\cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
力学的エネルギー保存則より、
$$mg’ h’_{\text{A}} + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg'(0) + \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2$$
$$mg’ l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 \quad \cdots ④$$

次に、糸の張力が最大となる点Cでの力のつり合い(円運動の運動方程式)を考えます。
点Cで、小球は糸の長さ \(l\) を半径とする円運動の一部とみなせます。このとき、糸の張力を \(S_{\text{最大}}\) とします。張力の方向(糸の方向)は見かけの重力の方向と一致しています。
運動方程式の向心力成分(糸の張る方向を正)は、張力 \(S_{\text{最大}}\) から見かけの重力 \(mg’\) を引いたものになります。
$$S_{\text{最大}} – mg’ = m \frac{v_{\text{最大}}^2}{l} \quad \cdots ⑤$$
(または、観測者から見て、張力 \(S_{\text{最大}}\) が見かけの重力 \(mg’\) と遠心力 \(m v_{\text{最大}}^2/l\) の和とつり合っていると考えて \(S_{\text{最大}} = mg’ + m v_{\text{最大}}^2/l\) と立式しても同じです。)

使用した物理公式

  • 見かけの重力加速度: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)
  • 力学的エネルギー保存則(見かけの重力場)
  • 円運動の運動方程式(向心力): \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
計算過程

まず、\(v_{\text{最大}}\) の計算を行います。
式④ \(mg’ l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2\) より、\(v_{\text{最大}}^2\) について解きます。
$$v_{\text{最大}}^2 = 2g’l\left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
ここに式③ \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を代入します。
$$v_{\text{最大}}^2 = 2 \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) l \left(1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
$$v_{\text{最大}}^2 = 2gl \left(\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right) = 2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)$$
したがって、速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は(速さは正なので平方根をとる)、
$$v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}$$

次に、\(S_{\text{最大}}\) の計算を行います。
式⑤ \(S_{\text{最大}} = mg’ + m\displaystyle\frac{v_{\text{最大}}^2}{l}\) に、\(mg’ = \displaystyle\frac{mg}{\cos(\theta/2)}\) と上で求めた \(v_{\text{最大}}^2 = 2gl \left(\displaystyle\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right)\) を代入します。
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg}{\cos(\theta/2)} + m \frac{2gl \left(\frac{1 – \cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right)}{l}$$
式を整理します。
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg}{\cos(\theta/2)} + \frac{2mg(1 – \cos(\theta/2))}{\cos(\theta/2)}$$
共通の分母 \(\cos(\theta/2)\) でまとめると、
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg + 2mg(1 – \cos(\theta/2))}{\cos(\theta/2)}$$
$$S_{\text{最大}} = \frac{mg + 2mg – 2mg\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}$$
$$S_{\text{最大}} = \frac{3mg – 2mg\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}$$
\(mg\) でくくりだすと、
$$S_{\text{最大}} = mg \left(\frac{3 – 2\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right) = mg \left(\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)$$

計算方法の平易な説明

速さの最大値は、振り子が振動の中心(見かけの最下点)に来たときの速さです。これは、振り子が最も高い位置(振動の端)にあるときの「見かけの位置エネルギー」が、中心に来たときにすべて「運動エネルギー」に変わるというエネルギー保存の法則から計算できます。「見かけの位置エネルギー」は、「見かけの重力」と「見かけの高さ」を使って考えます。
糸の張力が最も大きくなるのも、この振動の中心です。このとき、糸は「見かけの重力」に加えて、振り子が円を描くように運動するために必要な力(向心力、あるいは観測者から見た遠心力の反作用と考えることもできる)も支えなければならないため、張力は大きくなります。

結論と吟味

Pの速さの最大値は \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl \left(\displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}\) です。
糸の張力の最大値は \(S_{\text{最大}} = mg \left(\displaystyle\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)\) です。
これらの結果は、模範解答と一致します。
もし \(\theta/2 = 0\)(電車が加速しておらず、振動もしていない静止状態)の場合、\(\cos(0)=1\) なので、\(v_{\text{最大}} = \sqrt{2gl(1-1)} = 0\)、\(S_{\text{最大}} = mg(3-2) = mg\) となり、物理的に妥当な結果(静止した振り子の状態)と一致します。
角度 \(\theta/2\) が大きくなる(つまり電車の加速度が大きくなる)と、\(\cos(\theta/2)\) は \(1\) より小さくなり、\(1/\cos(\theta/2)\) は \(1\) より大きくなるため、\(v_{\text{最大}}\) も \(S_{\text{最大}}\) も大きくなることが分かります。

解答 (2) 速さの最大値: \(\sqrt{2gl \left(\displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1\right)}\), 張力の最大値: \(mg \left(\displaystyle\frac{3}{\cos(\theta/2)} – 2\right)\)

問(3)

思考の道筋とポイント
角 \(\theta\) が小さいということは、振動の振幅角 \(\theta/2\) も小さいと考えられます。このような微小振動の場合、運動は単振動とみなすことができ、単振り子の周期の公式を応用できます。ただし、ここでの「重力加速度」に相当するものは、実際の重力加速度 \(g\) ではなく、問(2)で導入した「見かけの重力加速度 \(g’\)」を用いる必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 微小振動(問題文で「\(\theta\)が小さい場合」と指定)であれば、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi \sqrt{L/g_{\text{有効}}}\) が適用できます。
  • ここでの有効な重力加速度 \(g_{\text{有効}}\) は、見かけの重力加速度 \(g’\) です。

具体的な解説と立式
単振り子の周期の公式は \(T_0 = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{L}{g_0}}\) です(ここで \(L\) は振り子の長さ、\(g_0\) はその場の重力加速度)。
この問題では、振り子の長さは \(l\)、有効な重力加速度は見かけの重力加速度 \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) です(式③より)。
したがって、小球Pの振動周期 \(T\) は、
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{l}{g’}} \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 単振り子の周期: \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{L}{g_{\text{有効}}}}\)
  • 見かけの重力加速度: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)
計算過程

式⑥に \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を代入します。
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{l}{\left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right)}}$$
分母の分数を整理すると、
$$T = 2\pi \sqrt{\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}$$
「\(\theta\)が小さい場合」という条件は、この運動が単振動とみなせることを保証するためのものであり、通常、\(\cos(\theta/2)\) をさらに近似(例:\(\cos\phi \approx 1 – \phi^2/2\))する必要はありません。この形で解答します。

計算方法の平易な説明

振り子が小さく揺れるときの1往復にかかる時間(周期)は、基本的に糸の長さと「その場の重力の強さ」で決まります。この問題では、電車が加速しているため、「見かけの重力」が普通の重力とは異なり、その強さ(見かけの重力加速度 \(g’\))も \(g\) とは異なります。この「見かけの重力加速度 \(g’\)」を、周期の公式における \(g\) の代わりに使って周期を計算します。

結論と吟味

\(\theta\)が小さい場合のPの振動周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}\) です。
これは模範解答と一致します。
もし電車が加速していない場合(\(a=0\))、問(1)より \(\tan(\theta/2)=0\) なので \(\theta/2=0\)、よって \(\cos(\theta/2)=1\) となります。このとき \(g’=g\) となり、周期は \(T = 2\pi \sqrt{l/g}\) となって、通常の単振り子の周期と一致します。これは物理的に妥当です。
電車の加速度が大きくなるほど \(\theta/2\) は大きくなり、\(\cos(\theta/2)\) は小さくなる(ただし \(0 < \cos(\theta/2) \le 1\))ため、周期 \(T\) は短くなります。これは、見かけの重力が強くなるほど、振り子はより速く振動することに対応しており、直感的な理解とも一致します。

解答 (3) \(2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l \cos(\theta/2)}{g}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
「Pが点Aにきたとき」というのは、振動の一方の端点に来たときを指すと解釈します。この瞬間、車内の観測者から見ると、Pの速さは0です。
糸を切ると、Pに働く力は重力 \(mg\)(鉛直下向き)と慣性力 \(ma = mg \tan(\theta/2)\)(水平左向き、問(1)より)の2つだけになります(空気抵抗は無視します)。
これらの合力は、問(2)で考えた「見かけの重力 \(m\vec{g}’\)\)」に他ならず、その方向と大きさは一定です。したがって、Pはこの合力の方向に初速度0で等加速度直線運動をします。つまり、車内の観測者からは、見かけの重力 \(m\vec{g}’\) のもとでの「自由落下」に見えるわけです。
軌跡は、この見かけの重力の方向に沿った直線となります。
床に達するまでの時間は、見かけの重力の方向への落下距離と、見かけの重力加速度 \(g’\) を使って計算します。床までの実際の高さ \(h\) と、見かけの重力の方向への落下距離の関係を正しく把握することが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 糸を切った瞬間のPの車内から見た速度は0(振動の端点であるため)。
  • 糸を切った後にPに働く力は、重力と慣性力のみ。これらの合力が「見かけの重力 \(m\vec{g}’\)\)」。
  • Pは、見かけの重力 \(m\vec{g}’\) の方向に、初速度0で等加速度直線運動(一種の自由落下)をする。
  • 軌跡は、見かけの重力の方向に沿った直線。
  • 床までの鉛直高さ \(h\) と、見かけの重力の方向への実質的な落下距離 \(L_{\text{落下}}\) の関係を幾何学的に捉える(模範解答の図が参考になります)。

具体的な解説と立式
車内の観測者から見ると、糸を切られた小球Pは、初速度0で、見かけの重力加速度 \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)(式③)の方向に落下します。
見かけの重力の方向は、鉛直下向きから水平左向きに \(\theta/2\) だけ傾いた方向です。

点Aの床からの高さは \(h\) です。Pが床に達するまでの、見かけの重力の方向への落下距離を \(L_{\text{落下}}\) とします。模範解答の図(Page 2 左上の図)を参照すると、床と点Aを通る水平線、そして点Aから床への垂線が作る直角三角形において、見かけの重力の方向が斜辺に相当し、鉛直方向の高さ \(h\) がその隣辺の一つ(角度 \(\theta/2\) に対する隣辺)に対応します。したがって、三角比の関係から、
$$L_{\text{落下}} = \frac{h}{\cos(\theta/2)} \quad \cdots ⑦$$
となります。

Pがこの距離 \(L_{\text{落下}}\) だけ落下するのにかかる時間を \(t_{\text{床}}\) とすると、初速度0の等加速度直線運動の公式 \(x = \frac{1}{2}a_{\text{有効}}t^2\) より、
$$L_{\text{落下}} = \frac{1}{2} g’ t_{\text{床}}^2 \quad \cdots ⑧$$
床に当たるときの速さ \(v_{\text{床}}\) は、等加速度直線運動の公式 \(v = a_{\text{有効}}t\) より(初速度0なので \(v=at\))、
$$v_{\text{床}} = g’ t_{\text{床}} \quad \cdots ⑨$$

軌跡の作図について:
(模範解答の図を参照し、点Aから見かけの重力の方向、すなわち鉛直方向から水平左向きに \(\theta/2\) だけ傾いた方向へ直線を描く)

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の公式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\), \(v = v_0 + at\)
  • 見かけの重力加速度: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\)
  • 三角比(落下距離の算出)
計算過程

まず、時間 \(t_{\text{床}}\) の計算を行います。
式⑧に式⑦を代入し、さらに \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を用います。
$$\frac{h}{\cos(\theta/2)} = \frac{1}{2} \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) t_{\text{床}}^2$$
両辺に \(\cos(\theta/2)\) を掛けます(\(\cos(\theta/2) \neq 0\) なので問題ありません)。
$$h = \frac{1}{2} g t_{\text{床}}^2$$
これを \(t_{\text{床}}\) について解きます(時間は正なので \(t_{\text{床}} > 0\))。
$$t_{\text{床}}^2 = \frac{2h}{g}$$
$$t_{\text{床}} = \sqrt{\frac{2h}{g}}$$

次に、速さ \(v_{\text{床}}\) の計算を行います。
式⑨に、上で求めた \(t_{\text{床}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) と、\(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) を代入します。
$$v_{\text{床}} = \left(\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right) \sqrt{\frac{2h}{g}}$$
\(g = \sqrt{g^2}\) を用いてルートの中に入れると、
$$v_{\text{床}} = \frac{1}{\cos(\theta/2)} \sqrt{\frac{2hg^2}{g}}$$
$$v_{\text{床}} = \frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}$$

計算方法の平易な説明

糸が切れると、おもりはもはや糸に引かれず、地球が引く力(重力)と電車が加速することによる「見かけの力(慣性力)」の二つだけを受けます。この二つの力を合わせたものが「見かけの重力」で、おもりはこの「見かけの重力」の方向にまっすぐ落ちていきます(初めの速さがゼロなので、まっすぐ進みます)。
床までの実際の高さは \(h\) ですが、おもりが落ちる方向は斜めなので、実際にその方向に進む距離は \(h\) よりも少し長くなります。この斜めの落下距離と「見かけの重力の強さ(見かけの重力加速度)」を使って、床に落ちるまでの時間と、そのときの速さを計算します。
面白いことに、落ちる時間は、もし電車が加速していなくても(つまり普通の自由落下でも)同じになります。これは、鉛直方向の動きだけを見ると、電車の加速の影響を受けないためです(模範解答の別解で示されています)。

結論と吟味

Pが床に達するまでの軌跡は、点Aから見て、鉛直方向に対し水平左向きに \(\theta/2\) だけ傾いた方向への直線です。
床に達するまでの時間は \(t_{\text{床}} = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\) です。
床に当たるときの速さは \(v_{\text{床}} = \displaystyle\frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}\) です。
これらの結果は模範解答と一致します。
特に、床に達するまでの時間は、電車の加速度 \(a\)(ひいては \(\theta/2\))に依存せず、通常の自由落下の時間と同じであるという点は重要です。これは、模範解答の【別解】で示されているように、運動を水平方向と鉛直方向に分解して考えるとより明確に理解できます。鉛直方向の運動だけを見れば、初速度0、加速度 \(g\) で \(h\) だけ落下する運動であり、その時間は \(t = \sqrt{2h/g}\) で与えられます。
一方、床に当たるときの速さは分母に \(\cos(\theta/2)\) を含むため、電車の加速度が大きい(つまり \(\theta/2\) が大きい)ほど、\(\cos(\theta/2)\) は小さくなり(ただし正)、速さは大きくなります。これは、慣性力によって水平方向にも加速されるため、全体の速さが増すことを意味しています。

解答 (4) 軌跡: (模範解答の図を参照し、点Aから見かけの重力の方向(鉛直に対し左へ \(\theta/2\) の傾き)へ直線を描く), 時間: \(\sqrt{\displaystyle\frac{2h}{g}}\), 速さ: \(\displaystyle\frac{\sqrt{2gh}}{\cos(\theta/2)}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
電車が等速度運動に入ると、加速度が0になるため、慣性力も0になります。つまり、小球Pは通常の重力 \(mg\) のみが働く慣性系(静止系と同じ物理法則が成り立つ系)での運動に戻ります。
その瞬間の小球Pの位置と速度(これは等速運動に移行した電車内の観測者から見た位置と速度であり、また地上の慣性系から見た速度から電車の速度を引いた相対速度でもあります)を初期条件として、その後の単振り子運動を考えます。
この後の運動では、力学的エネルギー保存則(通常の重力場におけるもの)が成り立ちます。最大の角 \(\theta_m\) に達したとき、Pの速さは0になります。

ここで、問(1)~(4)での振動の状況設定を再確認します。模範解答の解釈、特に(5)の(ア)(イ)の解答との整合性を考えると、小球Pは、鉛直から \(\theta/2\) だけ傾いた直線OCを中心として振動しているのではなく、振動の端点が点A(糸が鉛直な位置、鉛直からの角度0)と点B(糸が鉛直から角 \(\theta\) をなす位置)であると解釈するのが適切です。この場合、振動の中心Cは鉛直から \(\theta/2\) の角度をなす位置になります。この解釈で進めます。

この設問における重要なポイント

  • 電車が等速運動に移行すると、慣性力は消滅し、通常の重力場(慣性系)に戻ります。
  • 移行直前のPの位置と速度が、その後の単振り子運動の初期条件となります。
  • 通常の重力場における力学的エネルギー保存則を適用して、最大の振れ角 \(\theta_m\) を求めます。

具体的な解説と立式
電車が等速度運動に入ると、車内の観測者から見て慣性力がなくなり、通常の重力 \(mg\) の下での運動となります。この観測者は慣性系とみなせます。その後のPの運動は、支点Oを中心とする単振り子運動です。最大の振れ角を \(\theta_m\) とすると、その位置ではPの速さは0になります。
力学的エネルギー保存則を考えます。最下点(鉛直位置、糸の角度0)を重力による位置エネルギーの基準 \(U_{\text{重力}}=0\) とします。
ある瞬間のPの速さを \(v\)、糸の鉛直からの角度を \(\alpha\) とすると、そのときの力学的エネルギー \(E_{\text{力学}}\) は、
$$E_{\text{力学}} = \frac{1}{2}mv^2 + mgl(1-\cos\alpha)$$
この \(E_{\text{力学}}\) が保存されます。最大の角 \(\theta_m\) の位置では速さが0なので、そのときのエネルギーは \(mgl(1-\cos\theta_m)\) となります。

(ア) Pが点Aにきたとき。
点Aは振動の端であり、糸は鉛直な位置(鉛直からの角度0)にあります。このときのPの速さは0です(加速中の電車内から見て、振動の端なので)。
電車が等速運動に入ると慣性力は消えます。
初期条件:糸の角度 \(\alpha_{\text{はじめ}} = 0\)、速さ \(v_{\text{はじめ}} = 0\)。
このときの力学的エネルギー \(E_{\text{はじめ}}\) は、
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mgl(1-\cos 0) = mgl(1-1) = 0$$
これが保存されるので、最大の角 \(\theta_m\) のときのエネルギー \(E_{\text{あと}} = mgl(1-\cos\theta_m)\) と等しくなります。
$$mgl(1-\cos\theta_m) = 0$$
\(mgl \neq 0\) なので \(1-\cos\theta_m = 0\)、よって \(\cos\theta_m = 1\)。
(これは、\(\theta_m = 0\) を意味し、Pは鉛直位置で静止し続けることになります。)

(イ) Pが点Bにきたとき。
点Bは振動のもう一方の端であり、糸は鉛直から角 \(\theta\) をなす位置にあります。このときのPの速さは0です。
電車が等速運動に入ると慣性力は消えます。
初期条件:糸の角度 \(\alpha_{\text{はじめ}} = \theta\)、速さ \(v_{\text{はじめ}} = 0\)。
このときの力学的エネルギー \(E_{\text{はじめ}}\) は、
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mgl(1-\cos\theta) = mgl(1-\cos\theta)$$
これが保存されるので、最大の角 \(\theta_m\) のときのエネルギー \(E_{\text{あと}} = mgl(1-\cos\theta_m)\) と等しくなります。
$$mgl(1-\cos\theta_m) = mgl(1-\cos\theta)$$
よって、\(1-\cos\theta_m = 1-\cos\theta\)、すなわち \(\cos\theta_m = \cos\theta\)。
(これは、\(\theta_m = \theta\) を意味し、Pは振幅 \(\theta\) で振動を続けることになります。)

(ウ) Pの速さが最大となったとき。
加速中の電車内でPの速さが最大となるのは、振動の中心C(糸が鉛直から \(\theta/2\) の角度をなす位置)です。
このときのPの速さ \(v_{\text{最大}}\) は、問(2)で求めた \(v_{\text{最大}} = \sqrt{2g’l(1-\cos(\theta/2))}\) です。ここで \(g’ = \displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\) です。
電車が等速運動に移行した瞬間のPの位置は、糸が鉛直から \(\theta/2\) の角度をなし、速さは \(v_{\text{最大}}\) です。
このときの力学的エネルギー(通常の重力場、最下点基準) \(E_{\text{はじめ}}\) は、
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) \quad \cdots ⑩$$
これが、最大の角 \(\theta_m\) でのエネルギー \(E_{\text{あと}} = mgl(1-\cos\theta_m)\) と等しくなります。
$$\frac{1}{2}m v_{\text{最大}}^2 + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = mgl(1-\cos\theta_m)$$
ここに \(v_{\text{最大}}^2 = 2g’l(1-\cos(\theta/2)) = 2\left(\displaystyle\frac{g}{\cos(\theta/2)}\right)l(1-\cos(\theta/2))\) を代入します。
$$\frac{1}{2}m \left[2gl \frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right] + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = mgl(1-\cos\theta_m)$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則(通常の重力場)
  • 問(2)で求めた \(v_{\text{最大}}\) および \(g’\) の定義
計算過程

(ア) の計算:
上記の「具体的な解説と立式」セクションの通り、立式と簡単な変形により、
$$\cos\theta_m = 1$$

(イ) の計算:
上記の「具体的な解説と立式」セクションの通り、立式と簡単な変形により、
$$\cos\theta_m = \cos\theta$$

(ウ) の計算:
エネルギー保存の式
$$\frac{1}{2}m \left[2gl \frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)}\right] + mgl\left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = mgl(1-\cos\theta_m)$$
まず、両辺を \(mgl\) で割ります(\(m,g,l\) はいずれも0ではないと仮定)。
$$\frac{1-\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)} + \left(1-\cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right) = 1-\cos\theta_m$$
左辺を通分せずに展開すると、
$$\frac{1}{\cos(\theta/2)} – \frac{\cos(\theta/2)}{\cos(\theta/2)} + 1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = 1-\cos\theta_m$$
$$\frac{1}{\cos(\theta/2)} – 1 + 1 – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = 1-\cos\theta_m$$
整理すると、
$$\frac{1}{\cos(\theta/2)} – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right) = 1-\cos\theta_m$$
これを \(\cos\theta_m\) について解くと、
$$\cos\theta_m = 1 – \left(\frac{1}{\cos(\theta/2)} – \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)\right)$$
$$\cos\theta_m = 1 – \frac{1}{\cos(\theta/2)} + \cos\left(\frac{\theta}{2}\right)$$
これは模範解答の \( \cos\theta_m = 1 + \cos\frac{\theta}{2} – \frac{1}{\cos\frac{\theta}{2}} \) と同じ形です。
また、模範解答にある \( \cos\theta_m = 1 – \sin\frac{\theta}{2}\tan\frac{\theta}{2} \) とも等価であることを確認します。
\(1 + \cos\phi – \displaystyle\frac{1}{\cos\phi}\) と \(1 – \sin\phi\tan\phi = 1 – \sin\phi\displaystyle\frac{\sin\phi}{\cos\phi} = 1 – \displaystyle\frac{\sin^2\phi}{\cos\phi}\)
ここで \(\sin^2\phi = 1-\cos^2\phi\) を代入すると、
\(1 – \displaystyle\frac{1-\cos^2\phi}{\cos\phi} = 1 – \left(\displaystyle\frac{1}{\cos\phi} – \cos\phi\right) = 1 – \displaystyle\frac{1}{\cos\phi} + \cos\phi\)。
両者は一致します。

計算方法の平易な説明

電車が一定速度になると、それまでおもりにはたらいていた「慣性力」という見かけの力が消え、普通の重力だけの世界に戻ります。その瞬間に、おもりが持っていた「位置のエネルギー」と「運動のエネルギー」の合計(これが力学的エネルギーです)が、その後の普通の振り子運動の間ずっと保たれます(エネルギー保存の法則)。
振り子が一番高いところまで振れたとき(最大の角度 \(\theta_m\) に達したとき)、速さは一瞬ゼロになります。このときのエネルギー(位置のエネルギーのみ)が、電車が等速になった瞬間のエネルギーと等しい、という式を立てることで、\(\cos\theta_m\) を求めることができます。
(ア) 電車が等速になった瞬間に、おもりが真下でちょうど止まっていたら、そのまま動きません。
(イ) 電車が等速になった瞬間に、おもりが振動の端(角度 \(\theta\))でちょうど止まっていたら、そこが新たな振り子運動の端となり、同じ角度 \(\theta\) まで振れる運動を始めます。
(ウ) 電車が等速になった瞬間に、おもりが振動の中心(角度 \(\theta/2\))で最も速く動いていた場合、その運動エネルギーと、その高さでの位置エネルギーを使って、その後どれだけ高く(大きな角度まで)振れるかを計算します。

結論と吟味

(ア) Pが点A(鉛直位置、速さ0)にきたとき、電車が等速運動に入ると、\(\cos\theta_m = 1\)。これは \(\theta_m = 0\) を意味し、Pは鉛直位置で静止し続けることになります。
(イ) Pが点B(鉛直から角 \(\theta\)、速さ0)にきたとき、電車が等速運動に入ると、\(\cos\theta_m = \cos\theta\)。これは \(\theta_m = \theta\) を意味し、Pは振幅 \(\theta\) で振動を続けることになります(ただし、元の振動中心とは異なる)。
(ウ) Pの速さが最大(位置は鉛直から角 \(\theta/2\))となったとき、電車が等速運動に入ると、\(\cos\theta_m = 1 + \cos(\displaystyle\frac{\theta}{2}) – \displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)}\)。
(ウ)の結果について、\(\cos\theta_m\) は \(1\) 以下でなければなりません。\(1 + \cos\phi – 1/\cos\phi \le 1\) とすると \(\cos\phi \le 1/\cos\phi\)。\(\phi = \theta/2\) は通常 \(0 \le \phi < \pi/2\) の範囲なので \(\cos\phi > 0\)。したがって \(\cos^2\phi \le 1\) となり、これは常に成り立ちます。よって \(\cos\theta_m \le 1\) は保証されます。
例えば、もし \(\theta/2 = 60^\circ\) (\(\theta=120^\circ\)) の場合、\(\cos(\theta/2) = 1/2\)。このとき \(\cos\theta_m = 1 + 1/2 – 1/(1/2) = 1 + 1/2 – 2 = -1/2\)。これは \(\theta_m = 120^\circ\) を意味し、物理的にあり得る値です。
もし \(\theta \to 0\) ならば、\(\theta/2 \to 0\)、\(\cos(\theta/2) \to 1\)。このとき \(\cos\theta_m \to 1+1-1 = 1\)、つまり \(\theta_m \to 0\)。これも、元々電車が加速していなければ(\(\theta=0\))、速さが最大となるのは静止しているときであり、その後も静止し続けるので妥当です。

解答 (5) (ア) \(\cos\theta_m = 1\), (イ) \(\cos\theta_m = \cos\theta\), (ウ) \(\cos\theta_m = 1 + \cos\left(\displaystyle\frac{\theta}{2}\right) – \displaystyle\frac{1}{\cos(\theta/2)}\)

【コラム】Q. 問題18, IIで、Pが最下点に達したときの糸の張力を求めよ。(★★)

思考の道筋とポイント
この設問は、本問題(#31)とは独立した、問題18(質量 \(M\) の箱の中の振り子)に関する追加の質問です。問題18のIIでは、糸が鉛直と角 \(\theta\) をなす位置Aまで小球P(質量 \(m\))を移し、全体が静止した状態からPを静かに放します。Pが最下点に達したときの糸の張力を求めます。
この系では、水平方向の外力がないため水平方向の運動量が保存され、摩擦がないため系全体の力学的エネルギーも保存されます。これらの保存則を用いて、Pが最下点に達したときのPと箱のそれぞれの速度を求めることができます(これは問題18(3)の内容です)。
糸の張力を求めるには、箱に乗った観測者からPの運動を見るのが有効です。この観測者から見ると、Pは円運動をしており、最下点では重力、張力、そして遠心力が働いていると考えられます。

この設問における重要なポイント

  • 問題18(3)で求められた、Pが最下点に達したときのPと箱の対地速度を利用します。
  • 箱に対するPの相対速度を計算します。これが円運動の速さとなります。
  • 箱に乗った観測者から見て、Pの円運動に関する力のつり合い(張力 \(T\)、重力 \(mg\)、遠心力 \(m v_{\text{相対}}^2/l\))を考えます。

具体的な解説と立式
Qの答えのPDFに示されているように、Pが最下点に達したときの箱に対するPの相対速度の大きさを \((v+V)\) とすると(ここで \(v\) はPの対地速度、\(V\) は箱の対地速度で、互いに逆向きに動くため相対速度の大きさは和となる)、その値は、
$$(v+V) = \sqrt{\frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta)} \quad \cdots (Q-1)$$
と与えられています(これは問題18の運動量保存則とエネルギー保存則から導かれます)。
箱に乗った観測者から見ると、小球Pは速さ \((v+V)\) で最下点を通過する円運動をしています。このとき、Pに働く力は、糸の張力 \(T\)(上向き)、重力 \(mg\)(下向き)、そして円運動による遠心力 \(m\displaystyle\frac{(v+V)^2}{l}\)(下向き)です。これらの力が鉛直方向につり合っていると考えます。
(Qの答えの解説にある通り、この瞬間の箱の水平加速度は0であるため、箱の上の観測者が感じる慣性力は水平方向にのみ働き、鉛直方向の力のつり合いには影響しません。)
力のつり合いの式は、
$$T – mg – m\frac{(v+V)^2}{l} = 0$$
よって、糸の張力 \(T\) は、
$$T = mg + m\frac{(v+V)^2}{l} \quad \cdots (Q-2)$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則 (問題18より)
  • 力学的エネルギー保存則 (問題18より)
  • 相対速度
  • 円運動における力のつり合い(遠心力を考慮)
計算過程

式(Q-1)で与えられた \((v+V)^2 = \displaystyle\frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta)\) を、式(Q-2)に代入します。
$$T = mg + m \cdot \frac{\left(\frac{2(m+M)}{M}gl(1-\cos\theta)\right)}{l}$$
分母分子の \(l\) が約分され、
$$T = mg + m \frac{2(m+M)g(1-\cos\theta)}{M}$$
共通因子 \(mg\) でくくりだすと、
$$T = mg \left( 1 + \frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right)$$
これがQの答えのPDFに記載されている最終結果と一致します。

計算方法の平易な説明

まず、おもりPと箱がそれぞれどれくらいの速さで動いているかを、エネルギー保存の法則と運動量保存の法則から求めます(これは問題18で既に計算されている情報、あるいはそれを組み合わせたPの箱に対する相対速度を用います)。
次に、箱に乗っている人から見ると、おもりPは円を描くように運動しています。この円運動の最も下の点でのPの速さ(箱から見た速さ)が重要になります。
最後に、この円運動に必要な力(糸の張力)を考えます。張力は、Pの重力と、Pが円運動することで生じる遠心力(箱に乗った人から見て、Pが外向きに引っ張られるように感じる力)を支える必要があるため、これらの力の和として計算されます。

結論と吟味

問題18, IIにおいて、Pが最下点に達したときの糸の張力 \(T\) は、
$$T = mg \left\{ 1 + \frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right\}$$
です。
この結果を吟味してみましょう。
もし、箱の質量 \(M\) が非常に大きい(\(M \to \infty\))場合を考えます。このとき、\(\displaystyle\frac{m+M}{M} = \frac{m/M + 1}{1} \to 1\)。
すると、\(T \to mg \{1 + 2(1)(1-\cos\theta)\} = mg \{1 + 2 – 2\cos\theta\} = mg(3-2\cos\theta)\)。
これは、床に固定された支点を持つ通常の単振り子が、角 \(\theta\) から放たれて最下点に来たときの張力と一致します。固定された振り子の場合、最下点での速さ \(v_0\) は力学的エネルギー保存則 \(\frac{1}{2}mv_0^2 = mgl(1-\cos\theta)\) より \(v_0^2 = 2gl(1-\cos\theta)\)。最下点での張力は \(T_0 = mg + mv_0^2/l = mg + m(2gl(1-\cos\theta))/l = mg(1+2(1-\cos\theta)) = mg(3-2\cos\theta)\)。
よって、\(M \to \infty\) の極限で既知の結果と一致するため、この結果は物理的に妥当であると言えます。

解答 (Q) \(mg \left\{ 1 + \displaystyle\frac{2(m+M)(1-\cos\theta)}{M} \right\}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 慣性力とその正確な扱い:
    • 加速度運動する座標系(非慣性系)で物体運動を記述する際には、座標系の加速度と逆向きに、大きさ \(ma\) の慣性力が働くものとして扱います。これが理解と適用の大前提です。
    • 慣性力を導入することで、非慣性系でもニュートンの運動法則や力のつり合いの考え方を形式的に適用できます。
  • 見かけの重力:
    • 非慣性系において、実際の重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」と定義できます。
    • この見かけの重力を用いると、あたかもその方向にだけ重力が働いているかのように問題を単純化して捉えられることがあります。特に振り子運動などでは有効な考え方です。
  • エネルギー保存則の適用:
    • 力学的エネルギー保存則は、保存力(重力、弾性力など)のみが仕事をする場合に成り立ちます。
    • 非慣性系でエネルギーを考える場合、慣性力がする仕事も考慮に入れるか、見かけの重力ポテンシャルエネルギーを定義して扱う必要があります。問(5)では、慣性力が消えた後の通常の力学的エネルギー保存則を適用しました。
  • 単振動の条件と周期:
    • 復元力が変位に比例する運動が単振動です。微小角での振り子運動はこれに該当します。
    • 単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi \sqrt{L/g_{\text{有効}}}\) の \(g_{\text{有効}}\) には、その場での実効的な重力加速度(本問では見かけの重力加速度 \(g’\))が入ります。
  • (【コラム】Qに関して) 運動量保存則:
    • 系全体に働く外力のベクトル和がゼロ(またはある特定の方向の成分がゼロ)の場合、その系全体の運動量(またはその方向の運動量成分)は保存されます。問題18の箱と小球の系では、水平方向の外力がないため水平方向の運動量が保存されました。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
    • 電車、エレベーター、自動車など、加速度運動する乗り物の中での物体の運動(振り子、斜面上の物体、ばねに繋がれた物体、物体の落下など)。
    • 回転する円盤上の物体の運動を考える際にも、遠心力やコリオリの力といった慣性力(発展的内容)が登場しますが、基本的な慣性力の考え方は共通です。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 観測者の立場を明確にする: まず、問題をどの座標系(静止した地面などの慣性系か、加速する乗り物などの非慣性系か)から見るかを意識的に選択します。非慣性系を選ぶ場合は、必ず慣性力の存在を念頭に置きます。
    2. 慣性力の正確な導入: 非慣性系を選んだ場合、慣性力の向き(座標系の加速度と逆向き)と大きさ(物体の質量 × 座標系の加速度)を正確に把握し、図に描き入れます。
    3. 力の図示と分解の徹底: 物体に働くすべての力(実際の力と慣性力)をもれなくベクトルとして図示し、必要に応じて適切な方向(水平・鉛直、斜面方向・斜面に垂直な方向など)に分解します。
    4. 運動の状態に応じた法則の適用:
      • 物体が(非慣性系で)静止している、または等速直線運動している \(\Rightarrow\) 力のつり合い(慣性力を含む)。
      • 物体が(非慣性系で)加速度運動している \(\Rightarrow\) 運動方程式(慣性力を含み、加速度は非慣性系に対する相対加速度)。
    5. エネルギーの視点の活用: 力学的エネルギー保存則や仕事とエネルギーの関係が使えないか検討します。非慣性系では、慣性力がする仕事や、見かけの重力によるポテンシャルエネルギーを考えることが有効な場合があります。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 「~に対して静止」「~から見て」といった言葉は、どの観測者(座標系)基準での話なのかを正確に捉える手がかりになります。
    • 振動の中心は、力がつり合う位置(非慣性系では見かけの力がつり合う位置、または見かけの重力の方向)です。
    • 「糸が切れる」「衝突する」などのイベントが発生した場合は、その前後で何が変化し(例:働く力)、何が保存されるか(例:エネルギー、運動量)を慎重に考えます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 慣性力の向きや大きさを間違える:
    • ありがちな誤解: 慣性力の向きを座標系の加速度と同じ向きにしてしまう。慣性力の大きさを \(mg\) のような別の力と混同してしまう。
    • 対策: 「慣性力は、観測している座標系の加速度と逆向きに、大きさは(物体の質量)×(座標系の加速度の大きさ)」という定義を徹底する。問題を解く際は必ず図を描き、慣性力の向きと大きさを明記する習慣をつける。
  • 力の分解における三角関数の適用の誤り:
    • ありがちな誤解: 水平方向の慣性力や鉛直方向の重力を、斜面に平行な成分と垂直な成分に分解する際に、\(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) を取り違える。
    • 対策: 時間をかけてでも丁寧に図を描き、角度の関係(錯角、同位角など)を正確に把握する。分解する力のベクトルを対角線とする長方形を描き、その辺が成分となるイメージを持つ。
  • 「見かけの重力」と「実際の重力+慣性力」の二重計上:
    • ありがちな誤解: 見かけの重力 \(m\vec{g}’\) を導入した後で、さらに慣性力 \(-m\vec{a}_{\text{電車}}\) を別に考慮してしまう。
    • 対策: 見かけの重力 \(m\vec{g}’\) は、あくまで実際の重力 \(m\vec{g}\) と慣性力 \(-m\vec{a}_{\text{電車}}\) のベクトル和を一つの力として扱っていることを理解する。どちらの考え方で立式するかを明確にし、混用しない。
  • エネルギー保存則の安易な適用:
    • ありがちな誤解: 慣性力のような力が仕事をする状況で、安易に「力学的エネルギー保存則」を(慣性力を考慮せずに)適用してしまう。
    • 対策: 力学的エネルギー保存則が成り立つのは「保存力のみが仕事をする場合」。慣性力が仕事をする場合は、その仕事もエネルギー収支に含めるか、前述の「見かけの重力ポテンシャルエネルギー」を導入して、その系でのエネルギー保存を考える必要があります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 電車が右向きにグッと加速する場面を想像してみてください。電車に乗っているあなたは、体が座席に押し付けられる(あるいは後ろに持っていかれる)ように左向きの力を感じます。これが慣性力です。
    • 天井から吊るされた小球も同様に左向きの慣性力を受けます。この慣性力と、地球が下に引く重力が合わさって、小球にとっては新しい「真下」の方向(見かけの重力の方向)ができます。
    • 振り子はこの新しい「真下」の方向を中心にして揺れます。
    • 糸がもし切れたら、小球はこの慣性力と重力だけを受けて運動します。初速度がなければ、これらの合力の方向にまっすぐ「落ちて」いくように見えます。
  • 図を描くことの威力:
    • 力の可視化: 物体に働くすべての力(向きと作用点)をベクトルで図示することで、力の全体像が把握でき、立式の誤りを減らせます。
    • 関係性の明確化: 力の分解、角度、長さなどの幾何学的な関係が明確になり、立式に必要な情報を整理できます。
    • 思考の補助: 複雑な状況でも、図に情報を書き込むことで頭の中が整理され、次のステップへの思考がスムーズになります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 着目物体を明確にし、その物体に働く力のみを描きます(作用・反作用の相手側の力は、別の物体について考えるときに描きます)。
    • 力のベクトルは、作用点から正しい向きに、おおよその相対的な大きさを意識して描きます。
    • 座標軸を設定する場合は、その向きを図中に明記します。
    • 角度や既知の寸法、未知の量などを適宜書き込み、図を見ただけで状況がある程度理解できるように工夫します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • なぜその公式を選び、適用できると判断したのか、その根拠を明確にする訓練の重要性:
    • 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
      • 選定・適用理由の例(問(1)の振動中心C): 「小球Pが振動の中心Cで見かけ上静止している(あるいは一定の速度で通過するが、その瞬間は加速度の特定の成分が0になる)」という状態を捉え、Cにおいて慣性力と重力の合力が張力とつり合う(または、見かけの重力と張力がつり合う)と判断し適用しました。
    • 運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\)):
      • 選定・適用理由の例(問(2)の張力計算、問(4)の落下運動): 小球Pが加速度運動をしている場合に、その加速度を生み出す原因となる力(合力)との関係を記述するために適用しました。非慣性系では合力に慣性力を含めます。
    • 力学的エネルギー保存則:
      • 選定・適用理由の例(問(2)の速さ計算、問(5)の振れ角計算): 摩擦や空気抵抗がなく、保存力(重力、慣性力をポテンシャルエネルギーとして扱える場合の見かけの重力)のみが関わる運動で、途中の詳細な力のやり取りを追わずに始状態と終状態の関係(速さや高さ)を知りたい場合に適用しました。
    • 単振り子の周期の公式:
      • 選定・適用理由の例(問(3)): 「\(\theta\)が小さい」という条件から、運動が単振動に近似できると判断し、単振り子の周期の公式を適用しました。ただし、重力加速度には見かけの重力加速度 \(g’\) を使用しました。
  • 公式選択の思考プロセスを磨く:
    • 公式を単に暗記するだけでなく、その公式が「どのような状況で」「どのような仮定のもとに」成り立つのかをセットで理解することが極めて重要です。「なぜ、今、この公式が使えるのか?」と常に自問自答する習慣が、誤用を防ぎ、応用力を飛躍的に高めます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題文と図の徹底読解: 与えられた条件、問われている物理量、そして現象の概略を正確に把握します。
  2. 観測者(座標系)の明確な設定: 慣性系で解くか、非慣性系で解くかを決定します。非慣性系なら慣性力を導入します。
  3. 着目物体の選定と力の図示: 運動を解析したい物体を決め、その物体に働く全ての力をベクトルで図示します(非慣性系なら慣性力も忘れずに)。
  4. 運動の種類の特定と座標軸の設定: 物体がどのような運動(静止、等速直線運動、等加速度運動、円運動、単振動など)をしている(あるいは、すると仮定できる)かを判断し、それに応じて適切な座標軸を設定し、力を成分分解します。
  5. 適切な物理法則の選択と立式: 特定した運動の種類と、求めたい物理量に応じて、最も適切な物理法則(力のつり合い、運動方程式、エネルギー保存則、運動量保存則など)を選び、数式で表現します。
  6. 数学的処理による求解: 立てた方程式(群)を、数学の知識を駆使して解き、未知数を求めます。
  7. 解の物理的な吟味: 得られた答えの単位、符号、大きさなどが物理的に妥当であるか、直感に合うかなどを検討します。極端な条件を代入してみるのも有効な手段です。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で、ミスを防ぐために特に注意すべきだった点:
    • 三角関数の選択ミス: 力の分解時における \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の取り違え。これは図を正確に描き、角度の関係をしっかり確認することで防ぎやすくなります。
    • 符号の扱い: 力の向き、加速度の向き、座標軸の向きを常に意識し、式中の符号を間違えないようにすることが重要です。特に慣性力の向きは間違いやすいポイントです。
    • 代数計算のケアレスミス: 多数の文字を含む式の変形、代入、整理、通分、約分などでの単純な計算間違い。一つ一つのステップを丁寧に行うことが求められます。
    • 単位の確認: 最終的な答えだけでなく、途中の主要な物理量の単位が正しいか意識することも、間違いの発見に繋がることがあります。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 途中式を省略せずに丁寧に書く: 計算の各ステップを省略せずに記述することで、間違いを発見しやすくなり、また、論理の流れも明確になります。見直しの際にも役立ちます。
    • 文字式の扱いに習熟する: 物理の問題では、数値を最後に代入することが多いため、文字式のまま計算を進める能力が不可欠です。展開、整理、因数分解、分数の計算などに日頃から慣れておきましょう。
    • 図と式を常に対応させながら考える: 図に描いた力のベクトルやその成分が、立式した数式の各項と正しく対応しているかを確認しながら進めることで、立式の誤りや符号ミスを減らすことができます。
    • 検算の習慣: 時間があれば、別の方法で解いてみたり、得られた答えを元の式に代入して矛盾がないか確認したりすることも有効です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 計算ミスや立式の根本的な誤りの発見: 例えば、張力が負になったり、エネルギーが負になったり(基準の取り方によるが、物理的にありえない状況)、明らかに大きすぎる・小さすぎる値が出た場合は、どこかに誤りがあると気づくきっかけになります。
    • 物理法則の深い理解: 数式の背後にある物理的な意味や、法則が現象をどのように記述しているのかを考察することで、表面的な理解から一歩進んだ学習ができます。
    • 応用力の養成: 「なぜこの結果になるのか?」を考える習慣は、未知の問題に対処する際の論理的思考力や洞察力を養います。
  • 「解の吟味」を通じて具体的に何ができるか:
    • 極端な条件での検証: 例えば、角度 \(\theta \to 0\) や \(\theta \to 90^\circ\)、質量 \(m \to 0\) や \(M \to \infty\) などの極端な値を代入してみて、結果が直感的に理解できる簡単な状況に帰着するかどうかを確認します。(例:問(2)や問(5)、【コラム】Qの結論などで実施しました。)
    • 既知の状況との比較: もし問題設定の一部が単純な既知の状況(例:通常の単振り子)と同じになれば、答えもそれに一致するはずです。
    • 単位(次元)の一致確認: 答えの物理量の単位が、求められているものの単位と一致しているか、また、式全体で単位の整合性が取れているかを確認します。
    • 無次元量や比の考察: 時には、答えが無次元の比率になったり、特定のパラメータに依存しない形になったりします(例:問(4)の落下時間)。その物理的な意味を考えることは非常に有益です。

問題32 (山口大+東京学芸大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばね定数 \(k\) の軽いばねに接続された質量 \(m\) の小物体Aと、それに接触している質量 \(3m\) の物体Bの運動を扱います。初めにばねを自然長から \(d\) だけ縮めて静かに放すという状況設定です。物体AとBが一緒に運動する期間と、分離した後の物体Aの運動について考察します。

与えられた条件
  • ばね定数: \(k\)
  • 小物体Aの質量: \(m\)
  • 物体Bの質量: \(3m\)
  • ばねが自然長のときのAの位置: \(x=0\)
  • 初期条件: AにBを押しつけて、ばねを自然長から \(d\) だけ縮めた位置 (\(x=-d\)) で静かに放す。
  • 水平面は滑らか。
問われていること
  1. (1) AがBを押しながら運動する際、AがBを押す力の大きさ \(N\) をAの位置 \(x\) の関数として表す。
  2. (2) AとBが離れるときのAの位置 \(x_0\) および、離れた後のBの速さ \(u\) を求める。
  3. (3) 動き始めてからAとBが離れるまでの時間 \(t_0\) を求める。
  4. (4) Bを放したときを時刻 \(t=0\) として、Aの位置 \(x\) の時間変化を表すグラフを指定された図に描く。
  5. (5) \(t \ge t_0\) でのAの速度 \(v_A\) を時刻 \(t\) の関数として \(m, k, d\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、2物体が接触した状態でのばね振り子の運動と、分離後の単独のばね振り子の運動を段階的に解析していくものです。まずAとBが一体となって運動する期間について、各物体にはたらく力に着目して運動方程式を立てます。次に、AとBが離れる条件(AがBを押す力が0になる)を考え、その時の位置や速さ、時刻を求めます。分離後はAのみがばねにつながれて単振動するため、その運動の様子を記述していきます。単振動の基本的な性質(振動中心、振幅、周期、角振動数)や、力学的エネルギー保存則が重要な役割を果たします。

問(1)

思考の道筋とポイント
AとBが一体となって運動している間、両者の加速度は等しくなります。Aにはばねからの弾性力と、Bから押される力(\(N\)の反作用)が働きます。BにはAから押される力 \(N\) のみが働きます(水平面は滑らかで、ばねはAに接続)。それぞれの物体について運動方程式を立て、これらを連立させることでAがBを押す力 \(N\) を求めます。ばねの自然長の位置が \(x=0\) であり、初期状態でばねは縮んでいる(\(x=-d\))ため、位置 \(x\) が負の値であることに注意して弾性力の向きと大きさを考えます。

この設問における重要なポイント

  • AとBは一体として運動するため、加速度は共通です。
  • 物体Aには、ばねの弾性力と、BがAを押す力(\(N\) の反作用、左向き)が作用します。
  • 物体Bには、AがBを押す力(\(N\)、右向き)のみが作用します。
  • ばねの弾性力は \(F_{\text{ばね}}=-kx\) と表されます。ここで \(x\) は自然長からの変位です。初期状態では \(x=-d\) であり、ばねは縮んでいます。

具体的な解説と立式
AとBが一体となって運動しているとき、両者の加速度を \(a\)(右向きを正)とします。
小物体Aの位置を \(x\) とすると、ばねの弾性力は \(-kx\) です(\(x<0\) のとき右向き、\(x>0\) のとき左向き)。
AがBを押す力の大きさを \(N\) とします。作用・反作用の法則により、BがAを押す力の大きさも \(N\) であり、Aに対しては左向き(負の向き)に働きます。

物体Aについての運動方程式(右向きを正):
$$ma = -kx – N \quad \cdots ①$$
(弾性力 \(-kx\) と、Bから受ける力 \(-N\) の合力が \(ma\) となります。)

物体Bについての運動方程式(右向きを正):
Bに働く力はAが押す力 \(N\) のみで、これは右向き(正の向き)です。
$$(3m)a = N \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(m_{\text{物体}} a = F_{\text{合力}}\)
  • フックの法則 (弾性力): \(F_{\text{ばね}} = -kx\) (\(x\) は自然長からの変位)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

式②より、加速度 \(a\) は \(a = \displaystyle\frac{N}{3m}\) と表せます。これを式①に代入します。
$$m \left(\frac{N}{3m}\right) = -kx – N$$
両辺の \(m\) を約分し、式を整理します。
$$\frac{N}{3} = -kx – N$$
両辺に \(3\) を掛けて分母を払います。
$$N = -3kx – 3N$$
\(N\) の項を左辺に集めます。
$$N + 3N = -3kx$$
$$4N = -3kx$$
したがって、AがBを押す力の大きさ \(N\) は、
$$N = -\frac{3}{4}kx$$
となります。

計算方法の平易な説明

物体AとBは一緒に動いているので、そのときの加速度(スピードの変化の度合い)は同じです。
物体Aには、「ばねが元に戻ろうとして押す力(または引く力)」と「後ろの物体BがAを押し返す力」が働いています。
物体Bには、「前の物体AがBを押す力」だけが働いています。
それぞれの物体について、「質量 × 加速度 = 合力」という運動の基本法則(運動方程式)を立てます。これら2つの式をうまく組み合わせる(ここでは加速度を消去する)ことで、AがBを押す力 \(N\) が、Aの位置 \(x\) によってどのように変わるかを表す式を導き出すことができます。

結論と吟味

AがBを押す力 \(N\) は、Aの位置 \(x\) の関数として \(N = -\displaystyle\frac{3}{4}kx\) と表されます。
ここで、\(x\) はばねの自然長からの変位であり、初期状態 (\(x=-d\)) ではばねは縮んでいます。このとき、\(x<0\) なので、\(N = -\frac{3}{4}k(負の値)\) となり、\(N\) は正の値を取ります。これはAがBを右向き(\(x\)軸の正の向き)に押していることを意味し、物理的な状況と一致しています。 ばねが伸びて \(x>0\) になると、この式では \(N\) は負の値になりますが、実際にはAがBを押す力は接触が保たれている限り正でなければなりません。\(N<0\) はAがBを引くことを意味しますが、AとBは接触しているだけなので引くことはできません。このことから、\(N\)が0以下になろうとする瞬間にBはAから離れると考えられます。

解答 (1) \(N = -\displaystyle\frac{3}{4}kx\)

問(2)

思考の道筋とポイント
AとBが離れるのは、AがBを押す力 \(N\) が0になったときです。問(1)で求めた \(N = -\displaystyle\frac{3}{4}kx\) の式を使い、\(N=0\) となる \(x\)(これを \(x_0\) とします)を求めます。
離れた後のBの速さ \(u\) は、AとBが離れるまさにその瞬間のBの速さです。この瞬間までAとBは一体として運動していたので、この \(u\) は分離直前のAの速さでもあります。
この速さ \(u\) を求めるには、力学的エネルギー保存則を利用するのが便利です。初期状態 (\(x=-d\)、速さ0) から、分離する位置 \(x_0\) (速さ \(u\)) までのエネルギー変化を考えます。この間、AとBは一体(総質量 \(4m\))として運動します。

この設問における重要なポイント

  • 物体が離れる条件は、接触力(この場合はAがBを押す力 \(N\))が0になるときです。
  • \(N=0\) となった後、もし \(N\) が負になろうとする(つまりAがBを引き戻そうとする力が必要になる)状況なら、物体は実際に離れます。
  • AとBが離れるまでは、2物体は一体(総質量 \(m+3m=4m\))として運動し、この系の力学的エネルギー(運動エネルギーとばねの弾性エネルギーの和)は保存されます(水平面は滑らかで、摩擦や空気抵抗は無視できるため)。

具体的な解説と立式
AとBが離れるのは、AがBを押す力 \(N\) が0になるときです。問(1)の結果から、
$$N = -\frac{3}{4}kx_0 = 0 \quad \cdots ③$$
ここで \(x_0\) はAとBが離れるときのAの位置です。

次に、離れた後のBの速さ \(u\)(これはAとBが離れる瞬間の共通の速さ)を求めます。
動き始めの初期状態 (\(t=0\)) では、Aの位置は \(x=-d\)、速さは \(0\) です。このときの系の力学的エネルギー \(E_{\text{はじめ}}\) は、ばねの弾性エネルギーのみです。
$$E_{\text{はじめ}} = \frac{1}{2}k(-d)^2 + \frac{1}{2}(m+3m)(0)^2 = \frac{1}{2}kd^2$$
AとBが離れる瞬間のAの位置を \(x_0\)、そのときの速さを \(u\) とすると、このときの系の力学的エネルギー \(E_{\text{分離時}}\) は、ばねの弾性エネルギーとAとB全体の運動エネルギーの和です。
$$E_{\text{分離時}} = \frac{1}{2}kx_0^2 + \frac{1}{2}(m+3m)u^2 = \frac{1}{2}kx_0^2 + \frac{1}{2}(4m)u^2$$
力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{はじめ}} = E_{\text{分離時}}\) なので、
$$\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}kx_0^2 + \frac{1}{2}(4m)u^2 \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 物体が離れる条件: 接触力 \(N=0\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(E_k + E_p = \text{一定}\)
    • 運動エネルギー: \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)
    • ばねの弾性エネルギー: \(E_p = \frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

まず、AとBが離れるときのAの位置 \(x_0\) を求めます。
式③ \(-\displaystyle\frac{3}{4}kx_0 = 0\) において、ばね定数 \(k\) は0ではないので、
$$x_0 = 0$$
つまり、AとBはばねが自然長の位置にきたときに離れます。

次に、この \(x_0=0\) を用いて、離れた後のBの速さ \(u\) を求めます。式④に \(x_0=0\) を代入すると、
$$\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}k(0)^2 + \frac{1}{2}(4m)u^2$$
$$\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}(4m)u^2$$
両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消去し、\(u^2\) について解きます。
$$kd^2 = 4mu^2$$
$$u^2 = \frac{kd^2}{4m}$$
速さ \(u\) は正の値なので、
$$u = \sqrt{\frac{kd^2}{4m}} = \frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}}$$

計算方法の平易な説明

物体AとBが離れるのは、AがBを押す力がちょうどゼロになった瞬間です。問(1)でAがBを押す力を表す式を求めたので、その力が \(0\) になるようなAの位置を探します。
次に、離れる瞬間の速さを知るために、エネルギーの考え方を使います。最初にばねを縮めて手を放したとき、物体は「ばねが蓄えたエネルギー」だけを持っています(まだ動いていないので運動エネルギーはゼロ)。物体が動き出し、AとBが離れる瞬間には、物体は速さを持っており(運動エネルギー)、ばねもいくらか伸び縮みしているかもしれません(ばねのエネルギー)。摩擦がない場合、これらのエネルギーの合計は常に一定に保たれる(力学的エネルギー保存の法則)ので、この関係から離れる瞬間の速さを計算できます。

結論と吟味

AとBが離れるときのAの位置は \(x_0 = 0\)(つまり、ばねが自然長のとき)です。
そして、離れた後のBの速さ(これはAとBが離れる瞬間の共通の速さ)は \(u = \displaystyle\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}}\) です。
ばねが自然長の位置で離れるというのは直感的にも理解しやすいです。ばねが縮んでいる間は、ばねはAを右に押し、AはBを右に押します。ばねが自然長に戻った瞬間、ばねからAへの力は一瞬0になりますが、AとBは慣性で右に動こうとします。もしばねがさらに伸び始めると、ばねはAを左に引き始めます。このとき、AがBを押し続けることができなくなり(むしろBから引き離される形になる)、AとBの間には隙間ができ、力が働かなくなると考えられます。
模範解答にある「\(N=0\) だが、\(N=0\) になると必ず離れるとは限らない。式上で \(N=0\) から \(N<0\) になるとき離れるのである。」という記述は重要です。本問では \(N = -\frac{3}{4}kx\) であり、\(x=0\) のとき \(N=0\) です。\(x\) が \(0\) からわずかに正の領域(ばねが伸びる領域)に進むと、\(N\) は負の値を取ろうとします。これはAがBを左向きに引くことを意味しますが、AとBは接触しているだけで固定されていないため、引くことはできません。したがって、\(x=0\) で \(N=0\) となった瞬間にBはAから離れ、その後はAからの力を受けずに等速直線運動を続けることになります。

解答 (2) 位置: \(x=0\), 速さ: \(\displaystyle\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
AとBが離れるまで(つまり、初期位置 \(x=-d\) から分離位置 \(x_0=0\) まで)の間、AとBは一体となって運動します。この一体となった物体の質量は \(m+3m=4m\) です。この運動は、ばね振り子の単振動の一部です。
水平ばね振り子の場合、力のつり合いの位置(振動中心)はばねの自然長の位置、すなわち \(x=0\) です。
静かに放した初期位置 \(x=-d\) は、この単振動の振幅の一方の端(最も縮んだ位置)です。そして、分離位置である \(x_0=0\) は、この単振動の振動中心です。
単振動において、振動の端から振動中心まで運動するのにかかる時間は、周期の \(1/4\) です。
したがって、まずはAとBが一体となっているときの単振動の周期 \(T\) を求め、その \(1/4\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • AとBが離れるまでは、2物体は一体(総質量 \(M_{\text{一体}} = 4m\))として単振動を行います。
  • この単振動の振動中心は \(x=0\)(ばねの自然長の位置)です。
  • 初期位置 \(x=-d\) は、この単振動の振幅の端です(振幅は \(d\))。
  • 分離位置 \(x_0=0\) は、この単振動の振動中心です。
  • 単振動において、振動の端から振動中心までの移動にかかる時間は、周期の \(1/4\) です。

具体的な解説と立式
AとBが一体となっているときの質量は \(M_{\text{一体}} = m+3m = 4m\) です。ばね定数は \(k\) です。
このときの単振動の周期を \(T\) とすると、周期の公式より、
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{M_{\text{一体}}}{k}} = 2\pi\sqrt{\frac{4m}{k}} \quad \cdots ⑤$$
動き始めてからAとBが離れるまでの時間 \(t_0\) は、振動の端 (\(x=-d\)) から振動中心 (\(x=0\)) までの時間なので、周期 \(T\) の \(1/4\) に等しくなります。
$$t_0 = \frac{1}{4}T \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{\text{質量}}{\text{ばね定数}}}\)
計算過程

まず、周期 \(T\) を計算します。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{4m}{k}} = 2\pi \cdot 2\sqrt{\frac{m}{k}} = 4\pi\sqrt{\frac{m}{k}}$$
次に、この周期 \(T\) を用いて、分離までの時間 \(t_0\) を計算します。式⑥に \(T\) の値を代入します。
$$t_0 = \frac{1}{4} \left(4\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right)$$
$$t_0 = \pi\sqrt{\frac{m}{k}}$$

計算方法の平易な説明

物体AとBが離れるまでは、それらはくっついて一つの大きな物体(質量 \(4m\))として、ばねによって振動します。この振動は「単振動」と呼ばれる規則的な往復運動です。
最初に手を放した位置(ばねが一番縮んだ位置)から、ばねが自然の長さに戻る位置(ここでAとBは離れます)までは、この単振動がちょうど1往復するのにかかる時間(周期)の \(1/4\) に相当します。
まず、この「一体となった物体」の単振動の周期を計算し、それを4で割れば、求める時間 \(t_0\) が得られます。

結論と吟味

動き始めてからAとBが離れるまでの時間は \(t_0 = \pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) です。
この時間は、最初にばねをどれだけ縮めたか (\(d\)) には依存しないという結果になりました。これは単振動の周期が振幅によらない(等時性)という性質から来ています。振動の端から中心までの時間は常に周期の \(1/4\) です。

解答 (3) \(\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
Aの位置 \(x\) の時間変化のグラフを描くには、時刻 \(t_0\)(AとBが離れる時刻)を境にして、Aの運動がどのように変わるかを考慮する必要があります。

1. 区間 \(0 \le t \le t_0\) (AとBが一体で運動):
この区間では、AとBは一体(質量 \(4m\))として単振動します。振動中心は \(x=0\)、振幅は \(d\) です。\(t=0\) で \(x=-d\) から始まるので、\(x(t) = -d \cos(\omega_1 t)\) の形です。(\(\omega_1 = \frac{1}{2}\sqrt{k/m}\))
2. 区間 \(t \ge t_0\) (Aのみが単独で運動):
この区間では、A(質量 \(m\))のみがばねにつながれて単振動します。振動中心は \(x=0\) です。\(t=t_0\) で \(x=0\), \(v_A=u=\frac{d}{2}\sqrt{k/m}\) が初期条件です。この新しい単振動の角振動数は \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\)、周期は \(T’=2t_0\)、振幅は \(A’ = d/2\) となります。\(x(t) = A’ \sin(\omega_2 (t-t_0))\) の形です。

グラフの横軸・縦軸の目盛りを参考に、これらの特徴点を滑らかに繋ぎます。

この設問における重要なポイント

  • 分離時刻 \(t_0\) を境に、Aの単振動のパラメータ(特に質量が \(4m \to m\) に変わることで周期と角振動数が変わる)が変化することを明確に区別します。
  • 各区間での単振動の振幅、周期、初期位相を正しく把握します。
  • \(0 \le t \le t_0\): 周期 \(T=4t_0\)、振幅 \(d\)。\(x(t) = -d \cos\left(\frac{2\pi}{4t_0}t\right) = -d \cos\left(\frac{\pi}{2t_0}t\right)\)。
  • \(t \ge t_0\): 周期 \(T’=2t_0\)、振幅 \(A’=d/2\)。\(x(t) = \frac{d}{2} \sin\left(\frac{2\pi}{2t_0}(t-t_0)\right) = \frac{d}{2} \sin\left(\frac{\pi}{t_0}(t-t_0)\right)\)。

具体的な解説と立式 (グラフ描画のための準備まとめ)
区間 1: \(0 \le t \le t_0\)
角振動数 \(\omega_1 = \sqrt{k/(4m)} = \frac{1}{2}\sqrt{k/m}\). \(t_0 = \pi\sqrt{m/k}\) を使うと、\(\omega_1 = \pi/(2t_0)\).
位置の式: $$x(t) = -d \cos\left(\frac{\pi}{2t_0}t\right)$$
この区間のグラフは、\(t=0\) で \(x=-d\) から始まり、\(t=t_0\) で \(x=0\) となるコサインカーブの \(1/4\) 周期分です。

区間 2: \(t \ge t_0\)
角振動数 \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\). \(t_0 = \pi\sqrt{m/k}\) を使うと、\(\omega_2 = \pi/t_0\).
振幅 \(A’ = d/2\).
位置の式 (時刻 \(t_0\) を基準とした \(t’ = t-t_0\) を使うと \(x(t’) = A’ \sin(\omega_2 t’)\)):
$$x(t) = \frac{d}{2} \sin\left(\frac{\pi}{t_0}(t-t_0)\right)$$
この区間のグラフは、\(t=t_0\) で \(x=0\) から始まり、周期 \(2t_0\)、振幅 \(d/2\) のサインカーブとなります。
具体的には、

  • \(t=t_0\) で \(x=0\)
  • \(t = t_0 + \frac{T’}{4} = t_0 + \frac{2t_0}{4} = \frac{3}{2}t_0\) で \(x = A’ = \frac{d}{2}\) (最初の山)
  • \(t = t_0 + \frac{T’}{2} = t_0 + t_0 = 2t_0\) で \(x = 0\)
  • \(t = t_0 + \frac{3T’}{4} = t_0 + \frac{3 \cdot 2t_0}{4} = \frac{5}{2}t_0\) で \(x = -A’ = -\frac{d}{2}\) (最初の谷)
  • \(t = t_0 + T’ = t_0 + 2t_0 = 3t_0\) で \(x = 0\)

使用した物理公式

  • 単振動の位置の一般式: \(x(t) = A \cos(\omega t + \phi_0)\) または \(A \sin(\omega t + \phi_0)\)
  • 角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m_{\text{振動質量}}}\)
  • 周期: \(T = 2\pi/\omega\)
  • 振幅と最大速度の関係: \(v_{\text{max}} = A\omega\) (振幅を求める際に使用)
計算過程

(グラフ描画なので、具体的な数値計算ではなく、上記の特徴点をプロットして滑らかに結ぶ作業になります。)

計算方法の平易な説明

グラフは2つの部分に分かれます。
前半(\(t=0\) から \(t=t_0\) まで): AとBが一緒に振動します。\(t=0\)で \(x=-d\)(一番縮んだところ)からスタートし、\(t=t_0\) で \(x=0\)(ばねが自然の長さのところ)まで動きます。これはコサインカーブの一部のような形になります。
後半(\(t=t_0\) 以降): Bが離れ、Aだけが振動します。\(t=t_0\) で \(x=0\) からスタートし、今度は振幅が \(d/2\) と小さくなり、周期も短くなります(周期 \(2t_0\))。これはサインカーブのような形になります。\(t=3t_0/2\) で \(x=d/2\) に、\(t=2t_0\) で \(x=0\) に、\(t=5t_0/2\) で \(x=-d/2\) に、\(t=3t_0\) で \(x=0\) になります。
これらの点を滑らかにつなぐと、Aの位置の時間変化のグラフが完成します。

結論と吟味

グラフは、\(t=0\)で\(x=-d\)、\(t=t_0\)で\(x=0\)となり、そこから振幅\(d/2\)、周期\(2t_0\)の単振動に移行します。\(t=(3/2)t_0\)で\(x=d/2\)、\(t=2t_0\)で\(x=0\)、\(t=(5/2)t_0\)で\(x=-d/2\)、\(t=3t_0\)で\(x=0\)となる点を滑らかに結んだグラフとなります。(模範解答の図(図b)と一致することを確認。)

解答 (4) (模範解答の図bを参照し、上記の指示に従って曲線を描く)

問(5)

思考の道筋とポイント
\(t \ge t_0\) におけるAの速度 \(v_A(t)\) を求めます。問(4)のグラフを描く準備段階で、この期間のAの位置 \(x(t)\) の式は \(x(t) = \displaystyle\frac{d}{2} \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}(t-t_0)\right)\) であると分かりました。
速度 \(v_A(t)\) は、この位置 \(x(t)\) を時刻 \(t\) で微分することで得られます。
あるいは、\(t \ge t_0\) の単振動では、\(t=t_0\) のときに \(x=0\)(振動中心)で速度が \(u\)(問2で求めた値、これがこの単振動の最大速度 \(v_{\text{max}}’\) になる)であることと、角振動数が \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\) であることを利用して、速度の式を \(v_A(t’) = u \cos(\omega_2 t’)\) の形(ただし \(t’ = t-t_0\))で直接立てることもできます。

この設問における重要なポイント

  • 単振動における速度は、位置の時刻微分 (\(v = dx/dt\)) で与えられます。
  • \(t \ge t_0\) におけるAの単振動の角振動数は \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\) です。
  • \(t=t_0\) におけるAの速度 \(u\) が、この区間の単振動の最大速度(振幅×角振動数)となります。

具体的な解説と立式
\(t \ge t_0\) において、Aの位置 \(x(t)\) は次のように表されます(問4の準備より)。
$$x(t) = \frac{d}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right)$$
ここで、\(\omega_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) であり、\(t_0 = \pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) です。
速度 \(v_A(t)\) は、この \(x(t)\) を \(t\) で微分することにより求められます。
$$v_A(t) = \frac{d}{dt} \left[ \frac{d}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right) \right]$$
合成関数の微分法を用いると、\(\sin\) の中身 \(\omega_2 (t-t_0)\) を \(t\) で微分したものは \(\omega_2\) なので、
$$v_A(t) = \frac{d}{2} \cdot \cos\left(\omega_2 (t-t_0)\right) \cdot \omega_2$$
$$v_A(t) = \frac{d\omega_2}{2} \cos\left(\omega_2 (t-t_0)\right) \quad \cdots ⑦$$
ここで、\(\omega_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) と \(t_0 = \pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 速度の定義: \(v = dx/dt\)
  • 三角関数の微分: \(\frac{d}{d\theta}(\sin \theta) = \cos \theta\)
  • 合成関数の微分法
  • 角振動数: \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\)
  • 分離時の速さ (問2の結果): \(u = \frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}}\)
計算過程

式⑦に \(\omega_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) を代入します。
$$v_A(t) = \frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}(t-t_0)\right)$$
次に、\(t_0 = \pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) を \((t-t_0)\) の項に代入します。
$$v_A(t) = \frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t – \sqrt{\frac{k}{m}} \cdot \pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right)$$
$$v_A(t) = \frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t – \pi\right)$$
三角関数の性質 \(\cos(\alpha – \pi) = \cos(\pi – \alpha) = -\cos\alpha\) を用いると、
$$v_A(t) = -\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)$$

計算方法の平易な説明

物体Aの速度は、その位置が時間とともにどれだけ速く変化するか、という割合です。数学的には、位置を表す式を時間で「微分」するという操作で求められます。
問(4)で \(t \ge t_0\) におけるAの位置の式(サインカーブで表される)を準備したので、これを微分します。サインカーブを微分するとコサインカーブになります。
別の考え方として、Aは \(t=t_0\) のときに \(x=0\)(振動の中心)を速さ \(u\)(これがこの振動での最大速度)で通過します。振動の中心で速度が最大になるような単振動の速度は、コサインの形で表されるので、その形に \(u\) や振動の周期(角振動数)を当てはめて式を作ることもできます。

結論と吟味

\(t \ge t_0\) でのAの速度は \(v_A(t) = -\displaystyle\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)\) です。
この結果を吟味してみましょう。
分離の瞬間 \(t=t_0\) を代入してみると、
\(t_0 = \pi\sqrt{m/k}\) なので、\(\sqrt{k/m}t_0 = \pi\)。
$$v_A(t_0) = -\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right) = -\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos(\pi)$$
\(\cos(\pi) = -1\) なので、
$$v_A(t_0) = -\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} (-1) = \frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}}$$
これは問(2)で求めた分離時の速さ \(u\) と一致しており、物理的に妥当です(\(t=t_0\) で \(x=0\) を右向きにこの速さで通過する)。
また、この単振動の周期は \(T’ = 2\pi\sqrt{m/k} = 2t_0\) です。
\(t = t_0 + T’/4 = t_0 + t_0/2 = (3/2)t_0\) のとき、Aは \(x=d/2\)(右端)に達し、速度は0になるはずです。
\(\sqrt{k/m} \cdot (3/2)t_0 = \sqrt{k/m} \cdot (3/2)\pi\sqrt{m/k} = (3/2)\pi\)。
$$v_A\left(\frac{3}{2}t_0\right) = -\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\frac{3}{2}\pi\right)$$
\(\cos((3/2)\pi) = 0\) なので、\(v_A((3/2)t_0) = 0\)。これも妥当です。

解答 (5) \(-\displaystyle\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)\)

【コラム】Q. \(t \ge t_0\) でのAの加速度 \(a_A\) を時刻 \(t\) の関数として \(m, k, d\) を用いて表せ。

思考の道筋とポイント
設問は「\(t \ge t_0\) でのAの加速度」を求めるものです。この期間では、物体A(質量 \(m\))のみがばねにつながれて単振動を行います。
Aの加速度を求める方法は主に2つ考えられます。
1. 単振動の基本的な関係式 \(a(t) = -\omega^2 x(t)\) を利用する方法。このためには、\(t \ge t_0\) におけるAの位置 \(x(t)\) と、A単独の単振動の角振動数 \(\omega_2\) が必要です。
2. 問(5)で求めたAの速度 \(v_A(t)\) を時刻 \(t\) で微分する (\(a_A(t) = dv_A(t)/dt\)) 方法。

この設問における重要なポイント

  • \(t \ge t_0\) の期間では、Aは質量 \(m\)、ばね定数 \(k\) の系で単振動します。
  • この単振動の角振動数は \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\) です。
  • \(t \ge t_0\) におけるAの位置は \(x(t) = \frac{d}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right)\) です(問4の準備段階で導出)。
  • 単振動の加速度は \(a(t) = -\omega_2^2 x(t)\) または \(a(t) = dv_A(t)/dt\) で求めることができます。

具体的な解説と立式
\(t \ge t_0\) におけるAの単振動の角振動数は \(\omega_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) です。
また、このときのAの位置 \(x(t)\) は、\(t=t_0\) で \(x=0\)、速度 \(u=\frac{d}{2}\sqrt{k/m}\) であったことから、
$$x(t) = \frac{d}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right)$$
と表されます。
単振動の加速度の一般式 \(a(t) = -\omega^2 x(t)\) を用いると、Aの加速度 \(a_A(t)\) は、
$$a_A(t) = -\omega_2^2 x(t) = -\omega_2^2 \left[ \frac{d}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right) \right] \quad \cdots (Q-1)$$
あるいは、問(5)で求めた速度の表現 \(v_A(t) = \displaystyle\frac{d\omega_2}{2} \cos\left(\omega_2 (t-t_0)\right)\) (これは \(v_A(t) = -\frac{d}{2}\sqrt{\frac{k}{m}} \cos(\sqrt{\frac{k}{m}}t)\) と等価な、位相をずらした表現)を \(t\) で微分します。
$$a_A(t) = \frac{d}{dt} \left[ \frac{d\omega_2}{2} \cos\left(\omega_2 (t-t_0)\right) \right]$$
合成関数の微分法を用いると、
$$a_A(t) = \frac{d\omega_2}{2} \left(-\sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right)\right) \cdot \omega_2 = -\frac{d\omega_2^2}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right) \quad \cdots (Q-2)$$
式(Q-1)と式(Q-2)は同じ形をしています。

使用した物理公式

  • 単振動の加速度: \(a(t) = -\omega^2 x(t)\) または \(a(t) = dv(t)/dt\)
  • 角振動数: \(\omega_2 = \sqrt{k/m}\)
  • 単振動の位置 (問4準備より): \(x(t) = \frac{d}{2} \sin\left(\omega_2 (t-t_0)\right)\)
  • 三角関数の微分: \(\frac{d}{d\theta}(\cos \theta) = -\sin \theta\)
計算過程

\(\omega_2 = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) なので、\(\omega_2^2 = \displaystyle\frac{k}{m}\) です。
これを式(Q-2)(または式(Q-1))に代入します。
$$a_A(t) = -\frac{d}{2} \left(\frac{k}{m}\right) \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}(t-t_0)\right)$$
ここで、\(t_0 = \pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) を代入します。
$$a_A(t) = -\frac{kd}{2m} \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t – \sqrt{\frac{k}{m}}\pi\sqrt{\frac{m}{k}}\right)$$
$$a_A(t) = -\frac{kd}{2m} \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t – \pi\right)$$
三角関数の性質 \(\sin(\alpha – \pi) = -\sin\alpha\) を用いると、
$$a_A(t) = -\frac{kd}{2m} \left(-\sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)\right)$$
$$a_A(t) = \frac{kd}{2m} \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)$$
これは、模範解答のQの答えと一致します。

計算方法の平易な説明

物体Aが単独で振動しているとき (\(t \ge t_0\)) の加速度を求めます。
加速度は、速度が時間とともにどれだけ変化するか、という割合です。問(5)でこの期間のAの速度を表す式を求めたので、それを数学の「微分」という操作で変化の割合を計算すると、加速度の式が得られます。
別の方法としては、単振動では加速度が「振動の中心からの位置(変位)」に比例するという性質 (\(a = -\omega^2 x\)) があります。この期間のAの位置を表す式と、振動の勢いを表す角振動数 \(\omega_2\) を使って、この関係式から加速度を求めることもできます。

結論と吟味

\(t \ge t_0\) でのAの加速度は \(a_A(t) = \displaystyle\frac{kd}{2m} \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)\) です。
この結果を吟味してみましょう。
分離の瞬間 \(t=t_0 = \pi\sqrt{m/k}\) を代入すると、\(\sqrt{k/m}t_0 = \pi\)。
$$a_A(t_0) = \frac{kd}{2m} \sin(\pi) = 0$$
これは、\(t=t_0\) でAの位置が \(x=0\)(振動中心)であるため、加速度が0になるという単振動の性質と一致しており、妥当です。
時刻 \(t = t_0 + T’/4 = (3/2)t_0 = (3/2)\pi\sqrt{m/k}\) のとき、Aは \(x=d/2\)(右端、最大の変位)に達します。このとき加速度は負の向き(左向き)に最大値をとるはずです。
\(\sqrt{k/m} \cdot (3/2)t_0 = (3/2)\pi\)。
$$a_A\left(\frac{3}{2}t_0\right) = \frac{kd}{2m} \sin\left(\frac{3}{2}\pi\right) = \frac{kd}{2m} (-1) = -\frac{kd}{2m}$$
この加速度の大きさ \(\frac{kd}{2m}\) は、振幅 \(A’=d/2\) と角振動数 \(\omega_2=\sqrt{k/m}\) を用いて \(A’\omega_2^2 = (d/2)(k/m) = kd/(2m)\) と計算される最大加速度の大きさと一致し、向きも変位と反対(左向き)なので妥当です。

解答 (Q) \(a_A(t) = \displaystyle\frac{kd}{2m} \sin\left(\sqrt{\frac{k}{m}}t\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式の適用: 接触する複数の物体(AとB)それぞれについて、また一体とみなした物体について、運動方程式を正しく立てることが基本です。力の図示が鍵となります。
  • 単振動の理解: ばね振り子の運動が単振動であること、その振動中心、振幅、周期、角振動数の関係を理解し、適切に計算できることが求められます。特に、質量が変わると周期や角振動数が変わる点に注意が必要です。
  • 物体が離れる条件: 接触している物体が離れるのは、互いに及ぼし合う垂直抗力(ここではAがBを押す力 \(N\))が0になるときである、という物理的条件を理解しているかが問われます。
  • 力学的エネルギー保存則: 滑らかな水平面上でのばね振り子の運動では、系の力学的エネルギー(運動エネルギー+弾性エネルギー)が保存されます。これを利用して、特定の瞬間の速さや振幅を求めることができます。
  • 作用・反作用の法則: AがBを押す力とBがAを押す力は作用・反作用の関係にあり、大きさが等しく向きが反対です。これを運動方程式に正しく反映させる必要があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
    • 複数の物体が接触したまま運動する問題(例:重ねた物体、連結された物体)。
    • 途中で物体が分離したり、合体したりする問題。
    • 単振動の途中で質量やばね定数が変化する問題。
    • 単振動の初期条件から運動を記述する問題。
  • 初見の問題でどこに着目すればよいか:
    1. 運動の段階分け: 物体の運動状態が変化するポイント(接触、分離、衝突など)を見極め、それぞれの段階でどのような法則が適用できるかを考えます。
    2. 力の図示の徹底: 各物体に働く力をすべて正確に図示し、特に接触力や内力に注意します。
    3. 保存則の確認: 運動量保存則や力学的エネルギー保存則が成り立つ条件を満たしているかを確認し、使える場合は積極的に利用します。
    4. 単振動のパラメータの特定: 単振動が含まれる場合、その振動中心、振幅、角振動数(または周期)を正確に求めます。これらは初期条件や系の物理的特性(質量、ばね定数)から決まります。
    5. 分離・合体の条件: 物体が離れるのは接触力が0になるとき、合体する場合はその直前直後で運動量保存則が成り立つことが多いです(非弾性衝突など)。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 変数の定義(特に \(x\) の正負の向き、原点の位置)を明確にし、式中で一貫して使用する。
    • 分離するまでは一体の物体として扱えるが、分離後は個別の物体として運動を追う必要がある。
    • 単振動の運動を時間で記述する際には、初期位相の決定が重要になる。\(t=0\) での物体の位置と速度から判断する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 作用・反作用の力の混同: AがBに及ぼす力と、BがAに及ぼす力を同じ物体に働く力として数えてしまう。
    • 対策: 必ず着目物体を一つに定め、その物体「が」受ける力のみを図示し、運動方程式を立てる。
  • 分離条件の誤解: \(N=0\) だけでなく、\(N\) が負になろうとする変化の方向も考慮に入れる必要がある場合がある(本問では \(x=0\) で正から負への変化点なので明確)。
    • 対策: 接触力は常に押し合う方向にしか働かない(引くことはない)という基本を思い出す。
  • 単振動のパラメータ変更の見落とし: 物体が分離して質量が変わった後も、分離前の周期や角振動数を使い続けてしまう。
    • 対策: 運動の段階が変わったら、質量、ばね定数など、単振動のパラメータを規定する物理量に変化がないか必ず確認する。
  • 力学的エネルギー保存則の適用範囲: 非保存力(摩擦など)が働く場合には適用できない。また、適用する系(単体か複数か)を明確にする。
    • 対策: 保存則が成り立つ条件を常に意識する。本問では滑らかな水平面なので適用可能。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • ばねが縮んだ状態から物体AとBが一緒に押し出され、加速していく様子。
    • ばねが自然長に戻るにつれてAがBを押す力が弱まっていき、ついに0になってBがスッと離れていく様子。
    • 離れた後、Bは等速で進み、Aは残されたばねと単独で振動を続ける様子。
  • 図示の重要性:
    • 各物体に働く力をベクトルで正確に図示することが、運動方程式を正しく立てるための第一歩。
    • 単振動の \(x-t\) グラフや \(v-t\) グラフを描くことで、運動の全体像や特徴(周期、振幅、位相)を視覚的に捉えることができる。
  • 図を描く際の注意点:
    • 力の矢印は、作用点を明確にし、向きと相対的な大きさを考慮して描く。
    • 座標軸の向き(正負)を明示する。
    • グラフを描く際は、横軸(時間)と縦軸(位置や速度)のスケールや目盛りに注意し、特徴的な点(端、中心、変曲点など)を正確にプロットする。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(ma=F\)): なぜ使う? \(\rightarrow\) 物体の加速度と力の関係を知りたいから。どの物体に? \(\rightarrow\) AとBそれぞれ、または一体として。どんな力が? \(\rightarrow\) 弾性力、接触力。
  • 力学的エネルギー保存則: なぜ使う? \(\rightarrow\) 速さや変位の関係を、途中の力を介さずに知りたいから。条件は? \(\rightarrow\) 保存力(弾性力)のみが仕事をする(摩擦なし)。
  • 単振動の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/k}\), \(x=A\cos(\omega t+\phi)\)など): なぜ使う? \(\rightarrow\) ばね振り子の運動だから。条件は? \(\rightarrow\) 復元力が変位に比例。パラメータは? \(\rightarrow\) 質量、ばね定数、初期条件。
  • 公式の適用条件を常に意識し、「なぜこの公式がこの場面で使えるのか?」を自問自答する訓練が重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況分析: 問題文を読み解き、初期条件、変化のポイント(分離など)、最終的に求めるものを把握。
  2. モデル化: 物理法則を適用できるように、現象を単純化(例:質点、剛体、理想ばね)。
  3. 法則選択: 状況に応じて最適な物理法則を選択(運動方程式、エネルギー保存、単振動の性質など)。
  4. 立式: 選択した法則に基づき、具体的な数式を立てる。座標系、力の向き、符号に注意。
  5. 計算実行: 立てた式を数学的に解く。文字計算に習熟する。
  6. 結果の検証: 得られた答えが物理的に妥当か(単位、符号、極端な場合の挙動など)を吟味する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 注意すべき点:
    • 符号ミス(特に弾性力 \(-kx\) や力の向き)。
    • 質量の取り違え(一体のとき \(4m\)、分離後Aのみのとき \(m\))。
    • 平方根や2乗の計算ミス。
    • 三角関数の位相の扱いや微分。
  • 意識と工夫:
    • 途中式を丁寧に、論理飛躍なく記述する。
    • 単位を常に意識し、次元が合っているか確認する。
    • 図と式を照らし合わせ、物理的な意味と数式が対応しているか確認する。
    • 極端な値を代入したり、別の角度から検算したりする。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 重要性: 計算ミスやモデル化の誤りを発見するだけでなく、物理現象への洞察を深めるために不可欠です。
  • 吟味の視点:
    • 単位は正しいか? (例:速さなら \[m/s]、力なら \[N])
    • 極端な場合を考える: もし \(d=0\) なら? もし \(k\) が非常に大きい/小さいなら? もし \(m\) が非常に大きい/小さいなら? 結果が直感と合うか、または既知の簡単なケースに帰着するか?
    • 物理的な意味を考える: 例えば、分離時刻 \(t_0\) が \(d\) に依存しないのはなぜか? \(\rightarrow\) 単振動の周期が振幅によらないから。分離後の振幅が \(d/2\) になるのはなぜか? \(\rightarrow\) エネルギー保存から導かれる。
    • グラフの整合性: \(x-t\) グラフの接線の傾きが \(v-t\) グラフの値と一致するか、など。

問題33 (東工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、鉛直に立てたばね(ばね定数 \(k\))の上端に質量 \(M\) の板を取り付け静止させている状況で、その板の上方 \(h\) の高さから質量 \(m\) の小球を静かに落下させるというものです。小球と板の衝突が「弾性衝突」の場合と、「小球が粘土で板と一体となる(完全非弾性衝突)」場合のそれぞれについて、様々な物理量が問われています。重力加速度を \(g\) とします。

与えられた条件
  • ばね定数: \(k\)
  • 板の質量: \(M\)
  • 小球の質量: \(m\)
  • 小球の落下開始高さ(板の上方から): \(h\)
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 衝突前の板は静止している(つり合いの状態)。
問われていること
  1. I. 物体が板と弾性衝突をする場合について、
    • (1) 衝突により小球がはね上がるために必要な、\(m\) と \(M\) の間にどのような関係が必要か。
    • (2) 衝突後、板ははじめの位置より最大どれだけ下がるか。衝突は1度だけとする。
  2. II. 小球が粘土のようなもので、衝突後、板と一体となって運動する場合について、
    • (3) 衝突の際、失われる力学的エネルギーはどれだけか。
    • (4) 板ははじめの位置より最大どれだけ下がるか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、「衝突現象」と「単振動」という物理の2つの重要なテーマが融合したものです。衝突の種類(弾性か完全非弾性か)によって、エネルギーの扱いやその後の運動が大きく変わる点に注意が必要です。
まず、どちらのケースにも共通する準備として、小球が板に衝突する直前の速さを、力学的エネルギー保存則を用いて求めます。その後、各衝突ケースについて、運動量保存則、反発係数の式、そして単振動のエネルギー保存則などを駆使して問題を解き進めていきます。

(準備) 衝突直前の小球の速さ \(v_0\)

具体的な解説と立式
質量 \(m\) の小球が板の上方 \(h\) の高さから静かに落下し、板に衝突する直前の速さを \(v_0\) とします。この落下過程では、重力のみが仕事をするため力学的エネルギーが保存されます。板の上面を高さの基準(\(y=0\))とすると、落下開始時の小球の位置エネルギーは \(mgh\)、運動エネルギーは \(0\) です。衝突直前の小球の位置エネルギーは \(0\)、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\) です。
したがって、力学的エネルギー保存則より、
$$mgh + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg(0) + \frac{1}{2}mv_0^2$$
これを \(v_0\) について解くと(\(v_0 > 0\))、
$$v_0 = \sqrt{2gh} \quad \cdots (*)$$
となります。この速さ \(v_0\) は下向きです。この結果は、I の弾性衝突の場合と II の一体となる場合の両方で使用します。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(E_k + U_g = \text{一定}\)

I. 物体が板と弾性衝突をする場合

問(1)

思考の道筋とポイント
小球と板の弾性衝突を考えます。衝突は非常に短時間で起こるため、衝突の直前と直後で、小球と板からなる系全体の運動量は保存されると考えます(重力やばねの力による力積は無視できるため)。また、弾性衝突なので反発係数(はね返り係数)は \(e=1\) です。これらの2つの法則から、衝突後の小球と板のそれぞれの速度を求め、小球が「はね上がる」(=衝突後の速度が上向きになる)ための条件を導きます。速度の向きに注意して立式することが重要です。

この設問における重要なポイント

  • 衝突は瞬間的であり、その間、重力やばねの力による力積は無視できるため、小球と板の系全体の運動量は保存されます。
  • 弾性衝突なので反発係数 \(e=1\) です。
  • 速度の正の向きを明確に設定し(ここでは下向きを正とします)、はね上がる条件を衝突後の小球の速度の符号で表現します(上向きなら負)。

具体的な解説と立式
衝突直前の小球の速度は \(v_0\)(下向き、式(*)で与えられる)、板の速度は \(0\) です。
衝突直後の小球の速度を \(v\)、板の速度を \(V\) とします(ともに下向きを正と仮定します)。

運動量保存則より(下向きを正として):
$$mv_0 + M \cdot 0 = mv + MV \quad \cdots ①$$
弾性衝突 (\(e=1\)) なので、反発係数の式より:
$$e = 1 = -\frac{v – V}{v_0 – 0}$$
これを変形すると、
$$v_0 = -(v – V)$$
$$v_0 = V – v \quad \cdots ②$$
小球がはね上がるためには、衝突後の小球の速度 \(v\) が負 (\(v < 0\)) となる必要があります。

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v’_1 + m_2v’_2\)
  • 反発係数の式 (1次元): \(e = -\displaystyle\frac{v’_1 – v’_2}{v_1 – v_2}\)
計算過程

式①と式②を連立させて、衝突後の小球の速度 \(v\) を求めます。
式②より \(V = v_0 + v\) となります。これを式①に代入します。
$$mv_0 = mv + M(v_0 + v)$$
展開して \(v\) について整理します。
$$mv_0 = mv + Mv_0 + Mv$$
$$mv_0 – Mv_0 = mv + Mv$$
$$(m-M)v_0 = (m+M)v$$
よって、衝突後の小球の速度 \(v\) は、
$$v = \frac{m-M}{m+M}v_0$$
小球がはね上がるための条件は \(v < 0\) です。\(v_0 > 0\) (下向きの速さなので正)であり、分母の \(m+M\) も常に正です。したがって、この条件は分子の \(m-M\) が負であることを意味します。
$$m-M < 0$$
したがって、
$$m < M$$

計算方法の平易な説明

小球と板がぶつかるとき、2つの物体の「運動の勢いの合計(運動量)」はぶつかる前後で変わりません(運動量保存則)。また、「弾性衝突」というのは、エネルギーが失われない理想的なぶつかり方で、ぶつかった後の相対的な速さがぶつかる前の相対的な速さと同じになる(反発係数が1)という性質があります。これらの法則を使って式を2つ立て、衝突後の小球の速さを求めます。その速さが上向き(計算上は負の値、最初に下向きを正とした場合)になるための条件を、小球の質量 \(m\) と板の質量 \(M\) の関係として導き出します。

結論と吟味

衝突により小球がはね上がるためには、\(m < M\) である必要があります。
これは、軽いボール(小球 \(m\))を重い壁や床(板 \(M\))にぶつけるとよくはね返るのに対し、重いボールを軽い板にぶつけても板の方が大きく動き、ボール自身はあまりはね返らないか、あるいはそのまま押し進んでしまうという日常的な経験則とも一致しています。

解答 (1) \(m < M\)

問(2)

思考の道筋とポイント
まず、問(1)で用いた運動量保存則と反発係数の式から、衝突直後の板の速度 \(V\) を求めます。
衝突前の板は静止しており、この位置は板とばねの系における力のつり合いの位置です(重力 \(Mg\) とばねの初期の弾性力がつり合っている)。したがって、この位置が衝突後に板が開始する単振動の振動中心となります。
衝突によって板が下向きの速度 \(V\) を得るので、この \(V\) が単振動の最大速度 \(V_{\text{max}}\) に相当します(振動中心での速度だからです)。
単振動において、振動中心での運動エネルギー \(\frac{1}{2}MV^2\) が、振動の端(最も下がった位置)ではすべてばねの位置エネルギー(の増加分、振動中心を基準とする)\(\frac{1}{2}kA^2\) に変わります(ここで \(A\) は振幅)。このエネルギー保存の関係から振幅 \(A\) を求めれば、それが板がはじめの位置(振動中心)より最大どれだけ下がるか、という量になります。

この設問における重要なポイント

  • 板は、衝突前のつり合いの位置(静止していた位置)を中心として単振動を行います。
  • 衝突直後に板が得る速度 \(V\) が、この単振動における最大速度となります。
  • 求める「最大どれだけ下がるか」は、この単振動の振幅 \(A\) に等しいです。
  • 単振動のエネルギー保存則(A方式: 振動中心を位置エネルギーの基準として \(\frac{1}{2}M V_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}k A^2\))を利用できます。

具体的な解説と立式
問(1)の式② \(V = v_0 + v\) と、\(v = \displaystyle\frac{m-M}{m+M}v_0\) を用いて、衝突直後の板の速度 \(V\)(下向きを正)を求めます。
$$V = v_0 + \frac{m-M}{m+M}v_0 = \left(\frac{m+M+m-M}{m+M}\right)v_0$$
よって、
$$V = \frac{2m}{m+M}v_0 \quad \cdots ③$$
板は、衝突前のつり合いの位置(これが単振動の振動中心となります)で、下向きに初速度 \(V\) を持って運動を開始します。この \(V\) が単振動の最大速度 \(V_{\text{max}}\) に等しいです。
単振動の振幅を \(A\) とすると、振動中心での運動エネルギーが、振動の端(最も下がった位置)でのばねのポテンシャルエネルギー(振動中心を基準とした増加分)に等しくなることから、単振動のエネルギー保存則(A方式)より、
$$\frac{1}{2}MV^2 = \frac{1}{2}kA^2 \quad \cdots ④$$
この式から振幅 \(A\) を求めます。この \(A\) が、板がはじめの位置(振動中心)から最大どれだけ下がるか、という量に相当します。

使用した物理公式

  • 衝突後の速度(問(1)の導出過程を利用)
  • 単振動のエネルギー保存則(A方式): \(\frac{1}{2}Mv_{\text{max}}^2 = \frac{1}{2}kA^2\)
  • または、最大速度と振幅・角振動数の関係: \(v_{\text{max}} = A\omega\) と角振動数 \(\omega = \sqrt{k/M}\)
計算過程

まず、式③に式(*) \(v_0 = \sqrt{2gh}\) を代入して、衝突直後の板の速度 \(V\) を具体的に表します。
$$V = \frac{2m}{m+M}\sqrt{2gh}$$
次に、式④から振幅 \(A\) を求めます。両辺の \(\frac{1}{2}\) を消去し、\(A^2\) について解くと \(A^2 = \displaystyle\frac{M}{k}V^2\)。
振幅 \(A\) は正の値なので、
$$A = V\sqrt{\frac{M}{k}}$$
この式に上で求めた \(V\) を代入します。
$$A = \left(\frac{2m}{m+M}\sqrt{2gh}\right) \sqrt{\frac{M}{k}}$$
ルートの中をまとめると、
$$A = \frac{2m}{m+M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}}$$

計算方法の平易な説明

まず、小球との衝突によって板がどれだけの速さで下向きに動き出すかを計算します(これは問(1)の計算の途中で出てきます)。板は最初、ばねの力と重力がつり合って静止していたので、この位置が「振動の中心」になります。衝突によって得た速さが、この振動における板の「最大の速さ」です。
単振動では、振動の中心で運動エネルギーが最大になり、振動の端(最も下がった位置や最も上がった位置)では運動エネルギーがゼロになり、その分がばねの位置エネルギーとして蓄えられます(振動中心を基準としたエネルギーの変化分)。この「最大の運動エネルギー」が「振動の端でのばねの位置エネルギーの増加分」と等しくなるというエネルギー保存の関係を使って、板がどれだけ下がるか(つまり振幅)を計算します。

結論と吟味

衝突後、板ははじめの位置より最大 \(A = \displaystyle\frac{2m}{m+M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}}\) だけ下がります。
この結果を吟味してみましょう。もし \(m \ll M\)(小球が板に比べて非常に軽い)場合、分母の \(m+M \approx M\) と近似できるので、\(A \approx \frac{2m}{M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}} = 2m\sqrt{\frac{2gh}{Mk}}\) となります。この場合、板の沈み込みは小さいと予想され、式もその傾向を示しています。
もし \(m = M\) の場合(問(1)の条件では小球ははね上がりませんが、板は動きます)、\(A = \frac{2m}{2m}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}} = \sqrt{\frac{2Mgh}{k}}\) となります(\(M\) を \(m\) に置き換えても同じです)。
「衝突は1度だけとする」という条件は、板がこの最大の沈み込みに達して上昇する過程で、先にはね上がった小球と再度衝突しない、といった複雑な状況を排除するためのものと考えられます。ここでは、最初の衝突直後の板の運動の最大の沈み込みを問われていると解釈します。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2m}{m+M}\sqrt{\frac{2Mgh}{k}}\)

II. 小球が粘土のようなもので、衝突後、板と一体となって運動する場合

問(3)

思考の道筋とポイント
小球が粘土で板と一体となる衝突は、完全非弾性衝突です。この種の衝突では、運動量は保存されますが、力学的エネルギー(特に運動エネルギー)は一般に保存されず、熱や物体の変形エネルギーなどに変わって減少します。
まず、運動量保存則を用いて、一体となった直後の小球と板の共通の速度を求めます。次に、衝突直前の系全体の運動エネルギーと、衝突直後の系全体の運動エネルギーを計算し、その差を取ることで失われた力学的エネルギーを算出します。衝突は瞬間的な現象なので、その間の位置エネルギーの変化は無視できると考えます。

この設問における重要なポイント

  • 完全非弾性衝突では、運動エネルギーは保存されず、通常は減少します。
  • 衝突の直前直後で、系全体の運動量は保存されます。
  • 失われた力学的エネルギーは、(衝突前の全運動エネルギー)-(衝突後の全運動エネルギー)で計算されます(位置エネルギーの変化がないと仮定した場合)。

具体的な解説と立式
衝突直前の小球の速度は \(v_0\)(下向き、式(*)で与えられる)、板の速度は \(0\) です。
衝突後、小球と板は一体となり、その共通の速度を \(u\) とします(下向きを正と仮定)。
運動量保存則より(下向きを正として):
$$mv_0 + M \cdot 0 = (m+M)u \quad \cdots ⑤$$
衝突直前の系全体の運動エネルギー \(E_{k\text{前}}\) は、小球の運動エネルギーのみです(板は静止)。
$$E_{k\text{前}} = \frac{1}{2}mv_0^2$$
衝突直後の系全体の運動エネルギー \(E_{k\text{後}}\) は、一体となった物体(質量 \(m+M\))の運動エネルギーです。
$$E_{k\text{後}} = \frac{1}{2}(m+M)u^2$$
失われる力学的エネルギー \(\Delta E\) は、これらの運動エネルギーの差として計算されます。
$$\Delta E = E_{k\text{前}} – E_{k\text{後}} = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)u^2 \quad \cdots ⑥$$
(衝突は瞬間的であるため、この間に重力やばねがする仕事は無視でき、位置エネルギーの変化はないものとして、運動エネルギーの減少分が失われた力学的エネルギーと考えます。)

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 運動エネルギー: \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

まず、式⑤から、一体となった直後の共通の速度 \(u\) を求めます。
$$u = \frac{m}{m+M}v_0$$
次に、この \(u\) を式⑥に代入して、失われた力学的エネルギー \(\Delta E\) を計算します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\left(\frac{m}{m+M}v_0\right)^2$$
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}(m+M)\frac{m^2}{(m+M)^2}v_0^2$$
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{2}\frac{m^2}{m+M}v_0^2$$
共通因子 \(\frac{1}{2}mv_0^2\) でくくりだします。
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 \left(1 – \frac{m}{m+M}\right)$$
括弧の中を計算します。
$$1 – \frac{m}{m+M} = \frac{m+M-m}{m+M} = \frac{M}{m+M}$$
よって、
$$\Delta E = \frac{1}{2}mv_0^2 \frac{M}{m+M}$$
最後に、式(*) \(v_0 = \sqrt{2gh}\) すなわち \(v_0^2 = 2gh\) を代入します。
$$\Delta E = \frac{1}{2}m(2gh) \frac{M}{m+M}$$
$$\Delta E = \frac{mMgh}{m+M}$$

計算方法の平易な説明

小球(粘土)と板がくっついて一体になるとき(これを物理では完全非弾性衝突といいます)、通常、運動エネルギーの一部が熱や物体の変形などに使われて失われます。ただし、ぶつかる直前と直後で、物体全体の「運動の勢いの合計(運動量)」は変わりません。
まず、運動量が変わらないという法則を使って、くっついた直後の全体の速さを計算します。
次に、くっつく前の全体の運動エネルギー(この場合は小球の運動エネルギーだけです、板は止まっているので)と、くっついた直後の全体の運動エネルギーを計算します。これらの差が、衝突によって失われたエネルギーということになります。

結論と吟味

衝突の際、失われる力学的エネルギーは \(\Delta E = \displaystyle\frac{mMgh}{m+M}\) です。
この値は \(m, M, g, h\) が全て正なので、\(\Delta E > 0\) となり、必ずエネルギーが失われる(減少する)ことを示しています。これは完全非弾性衝突の一般的な特徴と一致します。
もし \(M=0\)(板がない、という仮想的な状況)なら \(\Delta E=0\)、もし \(m=0\)(小球がない)なら \(\Delta E=0\) となり、衝突によるエネルギー損失がない状況(そもそも衝突が意味をなさない状況)に対応します。
この失われたエネルギーは、主として衝突の際の粘土の変形や、それに伴うわずかな音、熱などに変換されたと考えられます。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{mMgh}{m+M}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小球と板が一体となった後、この新しい一つの物体(質量 \(M’ = m+M\))は鉛直ばね振り子として単振動を開始します。
まず重要なのは、この新しい系での力のつり合いの位置(つまり、新しい振動中心)を求めることです。これは、衝突前の板のみのつり合いの位置とは異なります(おもりが加わったため、より下にずれます)。
次に、一体となった直後(衝突直後)の物体の位置(これは衝突前の板の位置、これを基準 \(x=0\) と考えることができます)と、そのときの速度 \(u\)(問3の途中で求めたもの)を初期条件として、この新しい振動中心からの単振動の振幅を求めます。
板が「はじめの位置」(衝突前の板のつり合いの位置)より最大どれだけ下がるかは、新しい振動中心がはじめの位置からどれだけ下がっているかと、そこからの振幅の和で与えられます。
単振動のエネルギー保存則を用いるのが一般的です。模範解答ではA方式(振動中心基準のエネルギー)とB方式(重力ポテンシャルと弾性エネルギーを個別に考慮)の両方が示唆されています。

この設問における重要なポイント

  • 一体となった後の物体の質量は \(M’ = m+M\) です。
  • 力のつり合いの位置(単振動の振動中心)が、板のみのときから変化します。この新しい振動中心を正確に求める必要があります。
  • 単振動のエネルギー保存則を用いる際、振動中心を基準とするか(A方式)、重力の位置エネルギーとばねの弾性エネルギーを個別に考えるか(B方式)で式の形が異なります。
  • 求める量は「はじめの位置」(衝突前の板のつり合いの位置)からの最大の沈み込みです。

具体的な解説と立式
一体となった物体の質量を \(M’ = m+M\) とします。
この物体がばねにつながれているときの、新たな力のつり合いの位置を求めます。この位置では、ばねの弾性力と物体に働く重力の合計がつり合います。ばねの自然長の位置を基準として、新しいつり合いの位置でのばねの縮みを \(x_c\) とすると、力のつり合いの式は、
$$kx_c = M’g = (m+M)g$$
よって、新しい振動中心(つり合いの位置)は、ばねの自然長から \(x_c = \displaystyle\frac{(m+M)g}{k}\) だけ縮んだ位置です。

衝突前の板の位置(これを便宜上 \(x_{\text{はじめ}}=0\) とします)は、板のみの質量 \(M\) でつり合っていたので、ばねは自然長から \(d_{\text{初}} = \displaystyle\frac{Mg}{k}\) だけ縮んでいました。
したがって、新しい振動中心 \(x_c\) は、衝突前の板の位置 \(x_{\text{はじめ}}=0\) から測ると、\(D = x_c – d_{\text{初}}\) だけ下方にあります。
$$D = \frac{(m+M)g}{k} – \frac{Mg}{k} = \frac{mg}{k}$$
つまり、新しい振動中心は、衝突前の板の位置よりも \(D = mg/k\) だけ下です。

衝突直後、物体は \(x_{\text{はじめ}}=0\)(衝突前の板の位置)にあり、下向きに速さ \(u = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0\) を持ちます。この位置は、新しい振動中心から見ると、\(D\) だけ上方にあります(つまり、新しい振動中心を原点 \(x’=0\) とすると、衝突直後の位置は \(x’=-D\))。
この新しい単振動の振幅を \(A_{\text{新}}\) とします。単振動のエネルギー保存則(A方式:新しい振動中心を位置エネルギーの基準とする)を用いると、衝突直後のエネルギーと、最も下がった点(速さ0、新しい振動中心からの変位 \(A_{\text{新}}\))でのエネルギーが等しくなります。
$$\frac{1}{2}M’u^2 + \frac{1}{2}k(-D)^2 = \frac{1}{2}M'(0)^2 + \frac{1}{2}kA_{\text{新}}^2$$
$$\frac{1}{2}(m+M)u^2 + \frac{1}{2}kD^2 = \frac{1}{2}kA_{\text{新}}^2 \quad \cdots ⑦$$
板が「はじめの位置」(衝突前の板の位置 \(x_{\text{はじめ}}=0\))より最大どれだけ下がるか、という量を \(x_{\text{max}}\) とすると、これは新しい振動中心までの距離 \(D\) と、そこからの振幅 \(A_{\text{新}}\) の和になります。
$$x_{\text{max}} = D + A_{\text{新}}$$
(模範解答では、はじめの位置からの下がり量を直接 \(x\) とおき、\(x-D\) を新しい振動中心からの振幅として立式しています: \(\frac{1}{2}(m+M)u^2+\frac{1}{2}kD^2 = \frac{1}{2}k(x-D)^2\)。これは、\(A_{\text{新}} = x-D\) とおけば上記の考え方と同じです。)

使用した物理公式

  • 力のつり合い(振動中心の決定): \(kx_c = (m+M)g\)
  • 単振動のエネルギー保存則 (A方式またはB方式)
  • 運動量保存則(衝突直後の速度 \(u\) を求めるために使用): \(u = \frac{m}{m+M}\sqrt{2gh}\)
計算過程

新しい振動中心までの、はじめの位置からの距離: \(D = \displaystyle\frac{mg}{k}\)
衝突直後の速さ: \(u = \displaystyle\frac{m}{m+M}v_0 = \frac{m}{m+M}\sqrt{2gh}\)
式⑦ \(\displaystyle\frac{1}{2}(m+M)u^2 + \frac{1}{2}kD^2 = \frac{1}{2}kA_{\text{新}}^2\) より、両辺の \(\displaystyle\frac{1}{2}\) を消去し、\(A_{\text{新}}^2\) について整理します。
$$kA_{\text{新}}^2 = (m+M)u^2 + kD^2$$
$$A_{\text{新}}^2 = \frac{m+M}{k}u^2 + D^2$$
ここに、\(u^2 = \left(\displaystyle\frac{m}{m+M}\right)^2 (2gh)\) と \(D^2 = \left(\displaystyle\frac{mg}{k}\right)^2\) を代入します。
$$A_{\text{新}}^2 = \frac{m+M}{k} \cdot \frac{m^2}{(m+M)^2} (2gh) + \left(\frac{mg}{k}\right)^2$$
$$A_{\text{新}}^2 = \frac{2m^2gh}{k(m+M)} + \frac{m^2g^2}{k^2}$$
\(A_{\text{新}}\) は正なので、
$$A_{\text{新}} = \sqrt{\frac{2m^2gh}{k(m+M)} + \frac{m^2g^2}{k^2}}$$
共通因子 \(\left(\displaystyle\frac{mg}{k}\right)^2\) でルートの中を整理すると、
$$A_{\text{新}}^2 = \left(\frac{mg}{k}\right)^2 \left( \frac{2m^2gh}{k(m+M)} \cdot \frac{k^2}{m^2g^2} + 1 \right) = \left(\frac{mg}{k}\right)^2 \left( 1 + \frac{2kh}{(m+M)g} \right)$$
よって、新しい振幅 \(A_{\text{新}}\) は、
$$A_{\text{新}} = \frac{mg}{k} \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}$$
求める最大の沈み込み \(x_{\text{max}}\) は、新しい振動中心までの距離 \(D\) と、そこからの振幅 \(A_{\text{新}}\) の和なので、
$$x_{\text{max}} = D + A_{\text{新}} = \frac{mg}{k} + \frac{mg}{k} \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}$$
$$x_{\text{max}} = \frac{mg}{k} \left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}\right)$$
これは模範解答の \(x\) の式と一致します。

計算方法の平易な説明

小球(粘土)と板がくっついた後、それらは一体となってばねで振動します。このとき、物が重くなった(質量が \(M\) から \(m+M\) になった)ため、ばねがより縮んだ位置が新しい「つり合いの位置(振動の中心)」になります。この新しい振動の中心は、元の板だけのつり合いの位置よりも \(D = mg/k\) だけ下にあります。
衝突直後、板は元のつり合いの位置にあり、計算した速さ \(u\) で下向きに動き始めます。この状態から、新しい振動の中心に対してどれだけ大きく振れるか(これが新しい振幅 \(A_{\text{新}}\))をエネルギー保存の法則を使って計算します。
板がはじめの位置(元のつり合いの位置)から見て最も下に下がるのは、この新しい振動の中心までの距離 \(D\) に、そこからの振幅 \(A_{\text{新}}\) を加えた距離になります。

結論と吟味

板ははじめの位置より最大 \(x_{\text{max}} = \displaystyle\frac{mg}{k} \left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}\right)\) だけ下がります。
この式は複雑に見えますが、各部分が物理的な意味を持っています。
もし \(h=0\)(小球を板の上に静かに乗せた場合、つまり衝突速度 \(v_0=0\)、よって \(u=0\))とすると、
$$x_{\text{max}} = \frac{mg}{k} \left(1 + \sqrt{1 + 0}\right) = \frac{2mg}{k}$$
これは、質量 \(m\) の物体を静かに乗せた場合、新しいつり合いの位置は \(D=mg/k\) だけ下がり、その位置が振動の上端となって、つり合い位置を中心として振幅 \(D\) で単振動し、最も下がるのは \(2D\) だけ下がるという状況を示しています。(「静かに乗せて手を離した場合」の運動の最下点。)もし、ただ静かに乗せてつり合わせるだけなら、下がる距離は \(D=mg/k\) です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{mg}{k} \left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kh}{(m+M)g}}\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量保存則: 衝突現象を扱う際の基本法則です。特に、外力の力積が無視できる衝突の直前直後で適用されます。
  • 力学的エネルギー保存則: 小球の自由落下過程や、衝突後の板(または一体となった物体)の単振動の解析に不可欠です。保存力(この問題では重力とばねの弾性力)のみが仕事をする系で成り立ちます。
  • 反発係数(はね返り係数): 衝突の種類(弾性か非弾性か)を定量的に扱うための指標です。弾性衝突では \(e=1\) となります。
  • 単振動の特性:
    • 鉛直ばね振り子では、重力の影響で振動中心がばねの自然長の位置からずれることを理解することが重要です。振動中心は、常に力がつり合う位置です。
    • 振動中心での速さが最大となり、振動の端では速さがゼロになります。
    • 単振動のエネルギー保存則には、振動中心を基準にする考え方(A方式)と、重力やばねの弾性エネルギーを個別に考える方法(B方式)があり、状況に応じて使い分けることが有効です。
  • 完全非弾性衝突: 物体が一体となって運動する衝突です。運動量は保存されますが、運動エネルギーは一般に保存されず、熱や変形エネルギーとして失われます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方が応用できる類似問題のパターン:
    • 水平または鉛直なばね振り子への物体の衝突(弾性衝突、非弾性衝突、場合によっては斜め衝突など)。
    • 振り子(単振り子や物理振り子)へのおもりの衝突。
    • 複数の物体がばねを介して相互作用しながら運動する系。
    • 落下してきた物体が床や台と衝突し、その後の運動を解析する問題。
  • 初見の問題でどこに着目すればよいか:
    1. 現象の分解と段階分け: 問題のプロセスを時間的な段階(例:衝突前、衝突直後、衝突後の運動)に明確に区別し、各段階でどの物理法則が適用できるかを考えます。
    2. 衝突の種類の特定: 問題文から衝突が弾性か、非弾性か(一体となるか、反発係数が与えられているかなど)を正確に読み取り、適用すべき法則(運動量保存則、反発係数の式、エネルギー変化)を選択します。
    3. 保存則の適用条件の確認: 各段階や系全体で、運動量保存則や力学的エネルギー保存則が成り立つ条件を満たしているかを常に確認します。外力や非保存力の有無が重要です。
    4. 単振動の解析のポイント: ばねが関わる運動では単振動を疑います。その際、
      • 振動中心の特定: 力のつり合いの位置を正確に求めます。鉛直方向の場合は重力の影響を忘れないようにします。
      • 振幅の決定: 初期条件(初期位置と初速度)やエネルギー保存則から振幅を求めます。
      • 周期・角振動数: 系の質量とばね定数から計算します。
  • 問題解決のヒントや特に注意すべき点:
    • 速度や変位、力の向き(符号)を、設定した座標軸の向きとともに明確に意識します。
    • エネルギー保存則を用いる際、位置エネルギーの基準点をどこに取るかで式の形が変わることを理解し、一貫した基準で計算します(特にB方式の場合)。
    • 「失われるエネルギー」を問われた場合は、衝突前後のエネルギーの差分として計算することを基本とします。
    • 衝突が「瞬間的」であるという仮定は、運動量保存則を適用する上で重要です(外力の力積を無視できるため)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量保存則と力学的エネルギー保存則の混同・誤用:
    • ありがちな誤解: どんな衝突でも力学的エネルギーが保存されると思い込む。運動量保存則が成り立たない状況で適用してしまう。
    • 対策: それぞれの保存則が成り立つための「条件」を正確に記憶し、問題の状況(衝突の種類、外力の有無など)に応じて適切に使い分けます。弾性衝突でのみ運動エネルギーも保存されます。
  • 鉛直ばね振り子の振動中心の誤り:
    • ありがちな誤解: ばねの自然長の位置を常に振動中心としてしまう(重力を考慮し忘れる)。
    • 対策: 鉛直ばね振り子では、必ず「力のつり合いの位置」を求め、そこを振動中心として考えます。おもりの質量が変われば、つり合いの位置も変わります。
  • 単振動のエネルギー計算における基準点の曖昧さ:
    • ありがちな誤解: A方式(振動中心を位置エネルギーの基準とする)とB方式(自然長や重力位置エネルギーの固定基準点を基準とする)を混同したり、変位 \(x\) の意味(振動中心からか、自然長からか)を曖昧にしたまま立式したりする。
    • 対策: どちらの方式でエネルギーを考えているかを常に意識し、各エネルギー項の定義(特に位置エネルギーの基準点と変位の意味)を明確にします。B方式は項が多くなりがちなので、A方式が使える状況(振動中心が明確な場合)ではそちらが簡便なことが多いです。
  • 衝突後の初速度の扱いの誤り:
    • ありがちな誤解: 衝突によって速度が変化した後の値を、その後の単振動の初期速度として正しく使わない、あるいは衝突前の速度をそのまま使ってしまう。
    • 対策: 衝突直後の速度を運動量保存則などから正確に求め、それを次の運動段階の「初期条件」として明確に引き継ぎます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 小球が自由落下で速度を増しながら板に近づく様子。
    • 板に衝突する瞬間:弾性衝突なら小球が跳ね上がり、板も動き出す。完全非弾性なら小J球と板がくっついて一体となる。
    • 衝突後に板(または板と小球)がばねによって上下に振動する様子。振動の中心がどこになるか、どれくらいの幅で振動するかをイメージします。
    • エネルギーがどのように移り変わっていくか(位置エネルギー \(\rightarrow\) 運動エネルギー \(\rightarrow\) ばねの弾性エネルギー、そしてまた戻る、あるいは衝突で一部失われる)を追跡する。
  • 図示の重要性:
    • 各段階(落下前、衝突直前、衝突直後、単振動中など)での力の図示。特に、ばねの自然長の位置、つり合いの位置(板のみの場合と板+小球の場合)、振動の端の位置などを区別して描くことが理解を助けます。
    • エネルギー図(もしあれば)や、単振動の \(x-t\) グラフの概略を頭の中で描いてみることも、運動の全体像を捉えるのに役立ちます。
    • 位置エネルギーの基準点や、変位の原点を図中に明記することで、立式の際の混乱を防ぎます。
  • 図を描く際の注意点:
    • ばねの「自然長の位置」「板のみのつり合いの位置」「板と小球一体でのつり合いの位置(新しい振動中心)」「振動の端」などを明確に区別して図示します。
    • 速度ベクトルや力ベクトルを、各瞬間の状況に応じて描き加えます。
    • 変位や座標軸の正の向きを図中に示します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動量保存則:
    • 選定理由: 短時間の「衝突」現象であり、その間は系に働く外力(重力、ばねの力)の力積が、内力(衝突力)の力積に比べて無視できるほど小さいと近似できるため、系全体の運動量が保存されると判断し適用しました。
  • 反発係数の式(弾性衝突で \(e=1\)):
    • 選定理由: 問題文に「弾性衝突をする場合」と明記されているため、反発係数 \(e=1\) の関係式を運動量保存則と組み合わせて使用しました。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由(小球の落下): 小球が高さ \(h\) から落下する間は、重力(保存力)のみが仕事をし、空気抵抗は無視できるため、力学的エネルギーが保存されると判断し適用しました。
    • 選定理由(衝突後の単振動): 板(または板と小球)が単振動する際には、重力とばねの弾性力(いずれも保存力)のみが仕事をし、摩擦などがないため、力学的エネルギーが保存されると判断し適用しました。
  • 単振動のエネルギーに関する式(A方式/B方式):
    • 選定理由: 単振動の振幅や特定の点での速さなどを求める際に、運動方程式を直接解くよりもエネルギーの観点からアプローチする方が簡便な場合が多いため選択しました。振動中心が明確な場合はA方式が、そうでない場合や重力ポテンシャルを直接扱いたい場合はB方式が有効です。
  • 公式の背景にある物理的な意味や導出過程、そして何よりも「その公式が成り立つための条件」を理解していると、様々な問題に対して適切な公式を自信を持って選択し、適用することができます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 現象の正確な把握: 問題文を注意深く読み、図を描いたり状況を思い浮かべたりして、何が起こっているのかを正確に理解します。
  2. 段階ごとの分析: 運動のプロセスを時間的な段階(例:衝突前の自由落下、衝突の瞬間、衝突後の単振動)に分けて、それぞれの段階で何が重要か、どの物理法則が適用できるかを考えます。
  3. 各段階での法則適用: 各段階で成り立つ適切な物理法則(エネルギー保存則、運動量保存則、単振動の運動方程式や性質など)を特定します。
  4. 座標軸と符号の明確化: 速度、変位、力などの向きを考慮するために、座標軸の正の向きを明確に定めます。
  5. 丁寧な立式: 選択した法則に基づいて、未知数と既知数を整理しながら具体的な数式を立てます。力の図示やエネルギーの状態図などが役立ちます。
  6. 慎重な計算実行: 複数の式が得られた場合は連立して解きます。代数計算は、符号や文字の書き間違いに注意しながら慎重に行います。
  7. 解の物理的な吟味: 得られた答えが物理的に妥当か(単位は正しいか、符号は状況に合っているか、極端な条件下で予想される振る舞いと一致するかなど)を必ず検討します。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 符号の取り扱い: 速度、変位、力について、設定した座標軸の正方向に対して向きを常に意識し、式中の符号を間違えないようにします。特に反発係数の式では速度の符号が重要です。
    • 質量の使い分け: 衝突前後の小球 \(m\) と板 \(M\)、そして一体となった場合 \(m+M\) など、各場面で運動方程式やエネルギーの式に用いる質量を正しく選択することが重要です。
    • エネルギーの項の計上漏れや重複: 特にB方式で力学的エネルギー保存則を立てる際に、重力による位置エネルギーとばねの弾性エネルギーの両方を正しく考慮し、基準点の取り方と変位の定義を一貫させることが必要です。
    • 平方根や2乗の計算: 運動エネルギーや単振動の振幅計算などで頻出します。落ち着いて正確に計算します。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 文字式のまま計算を進める: 可能な限り、具体的な数値を代入する前に文字式のまま計算を進めることで、途中の計算ミスを発見しやすくなったり、一般的な関係性が見えやすくなったりします。
    • 単位(次元)を確認する習慣: 式の各項や最終的な答えの単位(次元)が物理的に正しいものになっているかを確認する習慣は、立式の誤りや計算ミスを発見するのに役立ちます。
    • 図と数式を常に見比べ、対応を確認する: 図に描いた力の向きや大きさ、座標軸などが、立てた数式の各項と正しく対応しているかを常に確認しながら進めます。
    • 複雑な計算は一度立ち止まる: 式が複雑になってきたら、一度計算を中断し、ここまでの論理の流れや各項の意味を見直すことも有効です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 計算ミスや立式の根本的な誤りの発見: 例えば、はね返るはずの小球の速度が下向きになったり、エネルギーが増加したりするなど、物理的にありえない結果が出た場合は、計算過程や立式のどこかに誤りがあると気づく重要なきっかけになります。
    • 物理法則の深い理解の促進: 数式の背後にある物理的な意味や、法則が現象をどのように記述しているのかを考察することで、表面的な公式の暗記から一歩進んだ、本質的な理解へと繋がります。
    • 応用力の養成: 「なぜこの結果になるのか?」「もし条件がこう変わったらどうなるだろうか?」と考える習慣は、未知の問題に対処する際の論理的思考力や洞察力を養います。
  • 「解の吟味」を通じて具体的に何ができるか:
    • 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、\(m=0\) や \(M \to \infty\)、\(h=0\)、ばね定数 \(k \to 0\) や \(k \to \infty\) などの極端な値を代入してみて、結果が直感的に理解できる簡単な状況に帰着するかどうか、あるいは物理的に意味のある振る舞いをするかを確認します。(例:問(1)で \(m<M\) がはね返る条件であることの直感的妥当性、問(3)で失われるエネルギーが常に正であること、など。)
    • 既知の状況との比較: もし問題設定の一部が、以前に解いたことのある単純な既知の状況(例:固定されたばねへの衝突、単一の鉛直ばね振り子)と同じになれば、答えもそれに一致するはずです。
    • 単位(次元)の一致確認: 答えとして得られた物理量の単位が、求められているものの単位と一致しているか、また、式を構成する各項の単位の整合性が取れているかを確認します。
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