「名問の森」徹底解説(10〜12問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題10 (鹿児島大+名古屋市立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平面上に置かれた箱Qとその中に入れられた小物体Pの運動を扱います。箱に外力を加えた場合に、PとQが一体となって運動する条件や、PがQに対して滑る場合のそれぞれの加速度、そして相対運動について考察します。摩擦力(静止摩擦力と動摩擦力)の正しい理解と、運動方程式の適切な適用が鍵となります。

与えられた条件
  • 小物体P: 質量 \(m\)
  • 箱Q: 質量 \(M\)
  • PとQの間の静止摩擦係数: \(\mu_0\)
  • PとQの間の動摩擦係数: \(\mu\)
  • Qと水平面の間の動摩擦係数: \(\mu\)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 初期状態: 静止
問われていること

状況1: 外力 \(F=F_0\) を加え、P, Qは一体となって運動。

  1. (1) 加速度。
  2. (2) PがQから受けている摩擦力の大きさ。
  3. (3) P, Qが一体となって運動するための \(F_0\) の限界値 \(F_1\)。

状況2: 外力 \(F=F_2 (>F_1)\) を加え、PはQに対して滑って運動。

  1. (4) Pの加速度 \(a\) とQの加速度 \(A\)。
  2. (5) PがQの左端(初期位置から距離 \(l\))に達するまでの時間 \(t\)。

状況3: 外力なし、Qだけに右向きの初速 \(v_0\) を与える。

  1. (6) PがQの左端(初期位置から距離 \(l\))に達するための \(v_0\) の最小値。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念を正確に適用する必要があります。

  • ニュートンの運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\)。物体(または物体とみなせる系)の質量、加速度、およびその物体に働く力の合力の関係を示します。
  • 摩擦力:
    • 静止摩擦力: 物体が滑り出さないように働く力。大きさは外力に応じて \(0\) から最大値 \(f_{\text{max}} = \mu_0 N\) まで変化する(\(N\) は垂直抗力)。
    • 動摩擦力: 物体が滑っているときに働く一定の大きさの力 \(f’ = \mu N\)。向きは運動を妨げる向き。
  • 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに大きさが等しく向きが反対の力を及ぼす。
  • 相対運動: 一方の物体から見たもう一方の物体の運動。相対速度や相対加速度を考えることで、問題が単純化される場合があります。
  • 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の場合の速度、変位、時間の関係式。

問1

思考の道筋とポイント

PとQが一体となって運動する場合の加速度を求めます。この場合、PとQを一つの物体(系)とみなして考えることができます。この系全体の質量と、系全体に働く外力(水平右向きの力 \(F_0\) と、床からの動摩擦力)について運動方程式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • PとQを一体として扱う(両者の加速度は等しい)。
  • 系全体の質量は \(m+M\)。
  • 床からの垂直抗力を求め、それを用いて床からの動摩擦力を計算する。
  • 系全体に働く水平方向の外力は \(F_0\) と床からの動摩擦力。

具体的な解説と立式

PとQを一体と考えた系の質量は \(m+M\) です。
この系に働く鉛直方向の力は、重力 \((m+M)g\)(下向き)と床からの垂直抗力 \(N_{\text{床}}\)(上向き)です。鉛直方向には運動しない(つり合っている)ので、
$$N_{\text{床}} = (m+M)g \quad \cdots ①$$
床からの動摩擦力 \(f_{\text{床}}\) は、Qと水平面の間の動摩擦係数が \(\mu\) なので、
$$f_{\text{床}} = \mu N_{\text{床}} = \mu (m+M)g \quad \cdots ②$$
この動摩擦力は運動を妨げる向き(水平左向き)に働きます。
系全体に働く水平方向の力は、右向きに外力 \(F_0\)、左向きに動摩擦力 \(f_{\text{床}}\) です。
水平右向きを正とし、一体となった系の加速度を \(a_{\text{一体}}\) とすると、運動方程式は、
$$(m+M)a_{\text{一体}} = F_0 – f_{\text{床}} \quad \cdots ③$$
この式に②を代入して \(a_{\text{一体}}\) を求めます。設問ではこの加速度を \(a\) としているので、以下 \(a\) と表記します。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(m_{\text{全体}} a = F_{\text{合力}}\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
  • 力のつり合い(鉛直方向)
計算過程

式③に式②を代入します。
$$(m+M)a = F_0 – \mu (m+M)g$$
両辺を \((m+M)\) で割ると、加速度 \(a\) は、
$$a = \frac{F_0}{m+M} – \mu g$$

計算方法の平易な説明
  1. PとQは一緒に動くので、全体を一つの大きな物体(質量 \(m+M\))として考えます。
  2. この大きな物体には、水平右向きに力 \(F_0\) が加えられています。
  3. また、床との間には滑りを妨げる動摩擦力が働きます。まず、床がこの大きな物体を支える垂直抗力 \(N_{\text{床}}\) は、全体の重さ \((m+M)g\) と同じです。動摩擦力 \(f_{\text{床}}\) は \(\mu N_{\text{床}} = \mu (m+M)g\) となり、左向きに働きます。
  4. 水平方向の運動方程式「質量 × 加速度 = 力の合計(右向きをプラス)」を立てると、\((m+M)a = F_0 – \mu (m+M)g\) となります。
  5. この式を \(a\) について解けばOKです。
結論と吟味

PとQが一体となって運動するときの加速度 \(a\) は \(\displaystyle a = \frac{F_0}{m+M} – \mu g\) です。
この加速度が正であるためには、\(F_0 > \mu(m+M)g\) である必要があり、これは系全体が床からの動摩擦力に打ち勝って加速するための条件と一致します。

解答 (1) \(a = \displaystyle\frac{F_0}{m+M} – \mu g\)

問2

思考の道筋とポイント

PがQから受けている摩擦力の大きさ \(f\) を求めます。PとQは一体となって加速度 \(a\) で運動しているので、Pのみに注目して運動方程式を立てます。
Pを加速度 \(a\) で運動させている水平方向の力は、Qから受ける静止摩擦力 \(f\) のみです(PとQの間には滑りがないため静止摩擦力)。

この設問における重要なポイント

  • 注目する物体はPのみ。
  • Pの加速度は(1)で求めた \(a\)。
  • Pに働く水平方向の力は、Qからの静止摩擦力 \(f\) のみ(右向き)。

具体的な解説と立式

小物体P(質量 \(m\))に注目します。
Pは水平右向きに加速度 \(a\) で運動しています。
Pに働く水平方向の力は、箱Qの底面から受ける静止摩擦力 \(f\) のみです。この摩擦力がPをQと一緒に加速させています。
Pについての水平方向の運動方程式は、
$$ma = f \quad \cdots ④$$
ここに(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{F_0}{m+M} – \mu g\) を代入して \(f\) を求めます。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
計算過程

式④に \(a\) の値を代入します。
$$f = m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)$$

計算方法の平易な説明
  1. 今度は、小物体Pだけに注目します。Pも箱Qと一緒に加速度 \(a\) で右向きに動いています。
  2. Pが右向きに加速するためには、Pに対して右向きの力が働いているはずです。この力は、箱Qの底面がPを引っ張る摩擦力 \(f\) です(PとQは一体なので、これは静止摩擦力)。
  3. Pについての運動方程式「質量 × 加速度 = 力」は、\(ma = f\) となります。
  4. (1)で求めた \(a\) の式をここに代入すれば、摩擦力 \(f\) が \(F_0\) などで表せます。
結論と吟味

PがQから受けている摩擦力の大きさ \(f\) は \(\displaystyle f = m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)\) です。
この摩擦力 \(f\) がPを加速させています。\(F_0\) が大きくなると \(f\) も大きくなります。

解答 (2) \(f = m\left(\displaystyle\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)\)

問3

思考の道筋とポイント

PとQが一体となって運動するためには、PがQから受ける静止摩擦力 \(f\) が、PとQの間の最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}\) を超えてはいけません。
PがQから受ける垂直抗力を \(R\) とすると、\(R=mg\) です(Pの鉛直方向の力のつり合いより)。
したがって、最大静止摩擦力は \(f_{\text{max}} = \mu_0 R = \mu_0 mg\)。
条件 \(f \le f_{\text{max}}\) に、(2)で求めた \(f\) を代入し、\(F_0\) の限界値 \(F_1\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 一体となって運動する(滑らない)条件: 静止摩擦力 \(f \le\) 最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}\)。
  • PがQから受ける垂直抗力 \(R = mg\)。
  • 最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}} = \mu_0 R = \mu_0 mg\)。
  • (2)で求めた \(f\) を用いて \(F_0\) の条件を求める。

具体的な解説と立式

PとQが一体となって運動するためには、PとQの間で滑りが生じない、つまりPに働く静止摩擦力 \(f\) が最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}}\) 以下である必要があります。
PがQから受ける垂直抗力を \(R\) とすると、Pの鉛直方向の力のつり合いから \(R=mg\)。
よって、最大静止摩擦力は、
$$f_{\text{max}} = \mu_0 R = \mu_0 mg$$
滑らない条件は \(f \le f_{\text{max}}\) なので、
$$f \le \mu_0 mg \quad \cdots ⑤$$
(2)で求めた \(f = m\left(\displaystyle\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)\) をここに代入します。
$$m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right) \le \mu_0 mg$$
この不等式を \(F_0\) について解き、その上限値 \(F_1\) を求めます。

使用した物理公式

  • 滑らない条件: 静止摩擦力 \(\le\) 最大静止摩擦力
  • 最大静止摩擦力: \(f_{\text{max}} = \mu_0 N\)
計算過程

不等式 \(m\left(\displaystyle\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right) \le \mu_0 mg\) の両辺を \(m\) で割ります(\(m>0\) なので不等号の向きは変わらない)。
$$\frac{F_0}{m+M} – \mu g \le \mu_0 g$$
\(\mu g\) を右辺に移項します。
$$\frac{F_0}{m+M} \le \mu_0 g + \mu g$$
$$\frac{F_0}{m+M} \le (\mu_0 + \mu)g$$
両辺に \((m+M)\) を掛けます(\(m+M > 0\) なので不等号の向きは変わらない)。
$$F_0 \le (\mu_0 + \mu)(m+M)g$$
したがって、PとQが一体となって運動するための \(F_0\) の限界値 \(F_1\) は、
$$F_1 = (\mu_0 + \mu)(m+M)g$$

計算方法の平易な説明
  1. PとQが一緒に動くためには、PとQの間で滑りが起きてはいけません。
  2. PをQと一緒に動かしているのは、QからPへの静止摩擦力 \(f\) です。
  3. この静止摩擦力 \(f\) には限界があります。その限界の大きさ(最大静止摩擦力)は、PがQから受ける垂直抗力 \(R\)(これはPの重さ \(mg\) に等しい)と、PとQの間の静止摩擦係数 \(\mu_0\) を使って、\(\mu_0 R = \mu_0 mg\) と表せます。
  4. つまり、\(f\) が \(\mu_0 mg\) 以下であれば滑りません。\(f \le \mu_0 mg\)。
  5. (2)で求めた \(f = m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)\) をこの不等式に代入して、\(F_0\) について解きます。その \(F_0\) の最大値が \(F_1\) です。
結論と吟味

P, Qが一体となって運動するための \(F_0\) の限界値 \(F_1\) は \(F_1 = (\mu_0 + \mu)(m+M)g\) です。
この \(F_1\) は、系全体の質量 \((m+M)\) に比例し、またPとQ間の静止摩擦係数 \(\mu_0\) およびQと床間の動摩擦係数 \(\mu\) の和に比例するような形になっています。これは、\(F_0\) が大きいほど全体の加速度が大きくなり、Pを加速させるためにより大きな静止摩擦力が必要になること、また床との摩擦も考慮されていることを反映しています。

解答 (3) \(F_1 = (\mu_0 + \mu)(m+M)g\)

問4

思考の道筋とポイント

外力 \(F=F_2 (>F_1)\) で動かすと、Pは箱Qに対して滑って動きます。このとき、PとQの間の摩擦は動摩擦力となります。Pの加速度 \(a\) とQの加速度 \(A\) をそれぞれ求めます。(問題文の指定に合わせてPの加速度を \(a\)、Qの加速度を \(A\) とします。)
PとQそれぞれについて、働く力を図示し、運動方程式を立てます。
PとQの間に働く動摩擦力の大きさは \(\mu R = \mu mg\) であり、Pにとっては運動方向(右向き)に、Qにとっては反作用として逆向き(左向き)に働きます。
Qにはさらに床からの動摩擦力も働くことに注意します。

この設問における重要なポイント

  • PはQに対して滑るので、PとQの間には動摩擦力が働く。大きさは \(\mu mg\)。
  • Pに働く動摩擦力は右向き(QがPを右に引きずる)。
  • Qに働く動摩擦力(Pからの反作用)は左向き。
  • Qには床からの動摩擦力も働く(左向き)。
  • PとQそれぞれについて運動方程式を立てる。

具体的な解説と立式

水平右向きを正とします。
小物体P(質量 \(m\))について:
Pに働く水平方向の力は、Qからの動摩擦力のみです。PはQに対して左へ滑ろうとする(またはQがPを置いて右へ行こうとする)ので、QからPに働く動摩擦力は右向きで、その大きさは \(\mu R = \mu mg\)(\(R=mg\) はPに働く垂直抗力)。
Pの運動方程式:
$$ma = \mu mg \quad \cdots ⑥$$

箱Q(質量 \(M\))について:
Qに働く水平方向の力は、

  • 外力 \(F_2\) (右向き)
  • Pからの動摩擦力の反作用(左向き、大きさ \(\mu mg\))
  • 床からの動摩擦力 \(f’_{\text{床}}\) (左向き)

床からの垂直抗力 \(N_{\text{床}}\) は、PとQ全体の重さを支えるので \(N_{\text{床}} = (m+M)g\)。
よって、床からの動摩擦力は \(f’_{\text{床}} = \mu N_{\text{床}} = \mu (m+M)g\)。
Qの運動方程式:
$$MA = F_2 – \mu mg – \mu (m+M)g \quad \cdots ⑦$$
式⑥からPの加速度 \(a\) を、式⑦からQの加速度 \(A\) を求めます。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

Pの加速度 \(a\):
式⑥の両辺を \(m\) で割ると、
$$a = \mu g$$

Qの加速度 \(A\):
式⑦を変形します。
$$MA = F_2 – \mu mg – \mu mg – \mu Mg = F_2 – 2\mu mg – \mu Mg$$
$$MA = F_2 – \mu(2m+M)g$$
両辺を \(M\) で割ると、
$$A = \frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}$$

計算方法の平易な説明
  1. Pの加速度 \(a\):
    • PはQの上を滑っているので、PとQの間には動摩擦力が働きます。PがQに対して相対的に左に動こうとする(またはQがPを右に引きずろうとする)ので、Pに働く動摩擦力は右向きで、大きさは \(\mu \times (\text{Pへの垂直抗力}) = \mu mg\) です。
    • Pの運動方程式は \(ma = \mu mg\) となり、これを解くと \(a = \mu g\) です。
  2. Qの加速度 \(A\):
    • Qには、右向きに外力 \(F_2\) が働いています。
    • Pから受ける動摩擦力の反作用として、左向きに \(\mu mg\) の力が働きます。
    • さらに、床からも動摩擦力を受けます。床からの垂直抗力はPとQの合計の重さ \((m+M)g\) なので、床からの動摩擦力は左向きに \(\mu (m+M)g\) です。
    • Qの運動方程式は \(MA = F_2 – \mu mg – \mu (m+M)g\) となります。これを \(A\) について解きます。
結論と吟味

Pの加速度 \(a = \mu g\)、Qの加速度 \(A = \displaystyle\frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}\) です。
\(F_2 > F_1 = (\mu_0+\mu)(m+M)g\) であり、通常 \(\mu_0 \ge \mu\) なので、\(F_2\) は \(2\mu(m+M)g\) より大きいことが期待されます(これが \(A > a\) となる条件、つまりPがQに対して実際に左へ滑る条件に関わります)。
具体的には、PがQに対して左へ滑るためには \(a < A\) ではなく、Qから見たPの運動を考える必要がありますが、ここではそれぞれの床に対する加速度を求めました。

解答 (4) Pの加速度: \(\mu g\), Qの加速度: \(\displaystyle\frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}\)

問5

思考の道筋とポイント

PがQの左端に達するまでの時間を求めます。これは、Qに対するPの相対運動を考えると分かりやすいです。
Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) を求めます。床から見たPの加速度を \(a\)、Qの加速度を \(A\) とすると、Qから見たPの加速度(右向きを正とする)は \(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\) です。
PはQに対して初速度0で距離 \(l\) だけ(Qの左端に向かって)運動するので、等加速度運動の公式 \(x = \frac{1}{2}at^2\) を相対運動に適用します。

この設問における重要なポイント

  • Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\) を計算する。
  • PはQに対して初速度0で動き始める。
  • PがQの左端に達するとは、Qに対して距離 \(l\) だけ相対的に左へ移動すること。
  • 等加速度運動の公式 \(x = \frac{1}{2}at^2\) を相対運動に適用する。

具体的な解説と立式

Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) (Qから見てPが右向きに加速する度合い)は、
$$\alpha_{\text{PQ}} = a – A$$
ここに(4)で求めた \(a = \mu g\) と \(A = \displaystyle\frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}\) を代入します。
$$\alpha_{\text{PQ}} = \mu g – \frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}$$
$$\alpha_{\text{PQ}} = \frac{M\mu g – (F_2 – 2\mu mg – \mu Mg)}{M}$$
$$\alpha_{\text{PQ}} = \frac{M\mu g – F_2 + 2\mu mg + \mu Mg}{M} = \frac{2M\mu g + 2m\mu g – F_2}{M}$$
$$\alpha_{\text{PQ}} = \frac{2\mu(M+m)g – F_2}{M}$$
PはQの左端に向かって動くので、Qから見たPの運動は、この相対加速度の「大きさ」で左向きに加速する運動です。
相対加速度の大きさを \(|\alpha_{\text{PQ}}|\) とすると、\(|\alpha_{\text{PQ}}| = \displaystyle\frac{F_2 – 2\mu(M+m)g}{M}\) となります(\(F_2 > F_1 \ge 2\mu(M+m)g\) であれば、この値は正)。
PはQに対して初速度0で距離 \(l\) を進むので、かかる時間を \(t\) とすると、
$$l = \frac{1}{2} |\alpha_{\text{PQ}}| t^2 \quad \cdots ⑧$$
この式から \(t\) を求めます。

使用した物理公式

  • 相対加速度: \(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\)
  • 等加速度直線運動: \(x = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

まず、相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) の符号を検討します。PはQに対して左へ滑るので、Qから見たPの加速度は左向きです。右向きを正としているので \(\alpha_{\text{PQ}}\) は負になります。
\(\alpha_{\text{PQ}} = \displaystyle\frac{2\mu(M+m)g – F_2}{M}\)。
\(F_2 > F_1 = (\mu_0+\mu)(m+M)g\)。
もし \(\mu_0 \approx \mu\) なら \(F_1 \approx 2\mu(m+M)g\)。このとき \(F_2 > 2\mu(M+m)g\) なので、\(2\mu(M+m)g – F_2 < 0\) となり、\(\alpha_{\text{PQ}}\) は負です。これはPがQに対して左向きに加速することを示します。 その大きさは \(|\alpha_{\text{PQ}}| = \displaystyle\frac{F_2 – 2\mu(M+m)g}{M}\)。 式⑧から \(t^2 = \displaystyle\frac{2l}{|\alpha_{\text{PQ}}|}\)。 $$t^2 = \frac{2l}{\frac{F_2 – 2\mu(M+m)g}{M}} = \frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}$$ \(t>0\) なので、
$$t = \sqrt{\frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}}$$

計算方法の平易な説明
  1. PがQの左端に達するまでの時間は、Qから見たPの動きを考えると分かりやすいです。「相対運動」という考え方です。
  2. まず、Qから見たPの加速度(相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\))を計算します。これは、Pの加速度 \(a\) からQの加速度 \(A\) を引いたものです (\(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\))。 (4)で求めた値を使います。
  3. PはQに対して左に滑るので、この相対加速度は左向きになります。その大きさを \(|\alpha_{\text{PQ}}|\) とします。
  4. PはQに対して初めは止まっていた(相対初速度0)と考え、距離 \(l\) だけ左に動くのにかかる時間 \(t\) を、等加速度運動の公式 \(l = \frac{1}{2} |\alpha_{\text{PQ}}| t^2\) から求めます。
  5. この式を \(t\) について解けばOKです。
結論と吟味

PがQの左端に達するまでの時間 \(t\) は \(\displaystyle t = \sqrt{\frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}}\) です。
この時間が実数として存在するためには、平方根の中が正である必要があり、つまり \(F_2 > 2\mu(M+m)g\) である必要があります。これは、PがQに対して実際に滑り出すための条件(\(A > a\) とは少し異なるが、関連する条件)を反映しています。\(F_2 > F_1\) であり、\(F_1 = (\mu_0+\mu)(m+M)g\)。\(\mu_0 \ge \mu\) なので \(F_1 \ge 2\mu(m+M)g\) が一般に成り立ちます。したがって、\(F_2 > F_1\) であれば通常は根号内は正となります。

解答 (5) \(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}}\)

問6

思考の道筋とポイント

外力は加えず、静止状態から箱Qだけに右向きの初速 \(v_0\) を与えます。Pが \(l\) 離れた箱の左端に達するためには、\(v_0\) はいくら以上であるべきかを考えます。
この状況は、(4)で外力 \(F_2=0\) とした場合と似ています。Qに初速 \(v_0\) を与えると、Pは慣性でその場に留まろうとし、Qの底面に対して左向きに滑り始めます。
PとQの間には動摩擦力が働きます。
Pの加速度 \(a_P\)、Qの加速度 \(a_Q\) を求め、Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) を計算します。
Qに対するPの相対初速度は \(-v_0\)(Qから見てPは左向きに初速 \(v_0\) で動き出す)。
この相対初速度と相対加速度を使って、PがQに対して相対的に距離 \(l\) だけ左へ移動する(つまりQの左端に達する)条件を考えます。PがQの左端に達する「までに」Qに対して静止してしまわないような \(v_0\) の条件、あるいは、ちょうど左端に達するときに相対速度が0以上であるような条件を考えます。模範解答では、PがQの中で止まるまでに左へ進む相対距離 \(d\) を求め、\(d \ge l\) となる条件としています。

この設問における重要なポイント

  • 外力 \(F_2=0\) として(4)の状況を考える。
  • PとQの間に働く動摩擦力は \(\mu mg\)。
  • PとQそれぞれの加速度を求める。
  • Qに対するPの相対初速度は \(-v_0\) (右向き正の場合)。
  • Qに対するPの相対加速度を求める。
  • PがQに対して相対的に距離 \(l\) を移動して左端に達する条件を、相対運動の等加速度運動の公式から求める。

具体的な解説と立式

水平右向きを正とします。外力 \(F=0\)。
小物体P(質量 \(m\))について:
Qが右に動こうとすると、PはQに対して左に滑るので、QからPには右向きの動摩擦力 \(\mu mg\) が働きます。
Pの運動方程式:
$$ma = \mu mg \quad \Rightarrow \quad a = \mu g \quad \cdots ⑨$$
(ここでPの加速度を \(a\) としました。)

箱Q(質量 \(M\))について:
Qに働く水平方向の力は、

  • Pからの動摩擦力の反作用(左向き、大きさ \(\mu mg\))
  • 床からの動摩擦力 \(f’_{\text{床}}\) (左向き)。床からの垂直抗力は \((m+M)g\) なので、\(f’_{\text{床}} = \mu (m+M)g\)。

Qの運動方程式:
$$MA = -\mu mg – \mu (m+M)g = -\mu(2m+M)g \quad \cdots ⑩$$
(ここでQの加速度を \(A\) としました。)
$$A = -\frac{\mu(2m+M)g}{M}$$

Qに対するPの相対運動:
相対初速度 (Qから見たPの初速度、右向き正): \(v_{\text{rel,初}} = v_{P,\text{初}} – v_{Q,\text{初}} = 0 – v_0 = -v_0\)。
相対加速度 (Qから見たPの加速度、右向き正):
$$\alpha_{\text{PQ}} = a – A = \mu g – \left(-\frac{\mu(2m+M)g}{M}\right)$$$$\alpha_{\text{PQ}} = \mu g + \frac{\mu(2m+M)g}{M} = \mu g \left(1 + \frac{2m+M}{M}\right) = \mu g \frac{M+2m+M}{M} = \frac{2\mu(M+m)g}{M}$$
PがQに対して相対的に左へ距離 \(l\) だけ進んで左端に達するとき、Qから見たPの変位は \(-l\) です。このときの相対速度を \(v_{\text{rel}}\) とすると、等加速度運動の公式 \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) を相対運動に適用します。
Pが左端に「達する」ためには、左端に達したときの相対速度が0以上であればよい、あるいは、相対的に止まるまでに進む左向きの距離 \(d\) が \(l\) 以上であればよいです。
ここでは、PがQに対して相対的に止まる(相対速度が0になる)までに進む左向きの距離を \(d\) とします。
$$0^2 – (v_{\text{rel,初}})^2 = 2 \alpha_{\text{PQ}} (-d)$$$$0^2 – (-v_0)^2 = 2 \left(\frac{2\mu(M+m)g}{M}\right) (-d)$$$$-v_0^2 = – \frac{4\mu(M+m)g}{M} d$$
$$d = \frac{M v_0^2}{4\mu(M+m)g} \quad \cdots ⑪$$
PがQの左端に達するためには、この \(d\) が \(l\) 以上である必要があります。
$$d \ge l \quad \cdots ⑫$$

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式
  • 動摩擦力
  • 相対速度、相対加速度
  • 等加速度直線運動: \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
計算過程

式⑪と⑫より、
$$\frac{M v_0^2}{4\mu(M+m)g} \ge l$$
この不等式を \(v_0\) について解きます (\(v_0 > 0\))。
$$v_0^2 \ge \frac{4\mu(M+m)gl}{M}$$
$$v_0 \ge \sqrt{\frac{4\mu(M+m)gl}{M}} = 2\sqrt{\frac{\mu(M+m)gl}{M}}$$

計算方法の平易な説明
  1. 箱Qだけに右向きの初速 \(v_0\) を与えると、中のPは慣性でその場にいようとするため、Qに対して左に滑り始めます。
  2. PにはQから右向きの動摩擦力 (\(\mu mg\)) が働き、QにはPからの反作用(左向き \(\mu mg\))と床からの動摩擦力(左向き \(\mu(M+m)g\))が働きます。
  3. それぞれの加速度 \(a\) (Pの加速度) と \(A\) (Qの加速度) を運動方程式から求めます。
  4. 次に、Qから見たPの動き(相対運動)を考えます。
    • Qから見たPの初めの相対速度は、Pの初速0からQの初速 \(v_0\) を引いたものなので、\(-v_0\) です(つまり左向きに \(v_0\))。
    • Qから見たPの相対加速度は、\(a – A\) で計算できます。これは右向きを正とした値です。
  5. PがQに対して左に動き、最終的にQに対して止まるときの移動距離 \(d\) を求めます。相対運動の公式 \((\text{終わりの相対速度})^2 – (\text{初めの相対速度})^2 = 2 \times (\text{相対加速度}) \times (\text{相対距離})\) を使います。終わりの相対速度は0です。
  6. この \(d\) が、Pが元々いた位置からQの左端までの距離 \(l\) 以上であれば、Pは左端に達することができます。\(d \ge l\) という条件から \(v_0\) の最小値を求めます。
結論と吟味

Pが \(l\) 離れた箱の左端に達するためには、初速 \(v_0\) は \(v_0 \ge 2\sqrt{\displaystyle\frac{\mu(M+m)gl}{M}}\) である必要があります。
\(v_0\) がこの値より小さいと、PはQの左端に達する前にQに対して静止してしまいます。この条件は、相対運動のエネルギーや運動量を考えると、Qが持つ初期運動エネルギーの一部が摩擦によって熱になり、残りでPを相対的に \(l\) だけ動かすのに十分でなければならない、というような見方もできます。

解答 (6) \(v_0 \ge 2\sqrt{\displaystyle\frac{\mu(M+m)gl}{M}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式の適用: 様々な状況(一体運動、相対運動、単独運動)において、注目物体を適切に選び、働く力を全て正確に図示して運動方程式を立てることが基本です。
  • 摩擦力の種類と向き: 静止摩擦力と動摩擦力の違いを理解し、状況に応じてどちらが働くか、その向きはどちらかを正しく判断する必要があります。特に動摩擦力は運動を妨げる向き(あるいは相対運動を妨げる向き)に働きます。
  • 作用・反作用の法則: 二つの物体が互いに力を及ぼし合うとき(特に摩擦力)、一方の物体が受ける力ともう一方の物体が受ける力は作用・反作用の関係にあり、大きさが等しく向きが反対です。
  • 相対運動の解析: 複数の物体が運動する場合、一方の物体から見た他方の物体の運動(相対速度、相対加速度)を考えることで、問題が簡潔になることがあります。特に「~に対して~する」という問いでは有効です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 重ねた物体の運動(上の物体が滑るか滑らないか)。
    • ベルトコンベア上の物体の運動。
    • 電車内での物体の運動(慣性力を考えるか、床から見た運動で考えるか)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 運動のパターンの識別: まず、物体が一体となって運動するのか、互いに滑りを生じるのか、問題文から読み取る。
    2. 力の図示の徹底: 各物体に働く力をすべて図示する。特に摩擦力の種類(静止か動か)と向き、作用・反作用の関係を明確にする。
    3. 運動方程式の立式対象: 個々の物体について立てるか、系全体で立てるか、あるいは相対運動で考えるかを状況に応じて判断する。
    4. 滑りの条件: 一体運動の限界は静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えるとき。滑っている間は動摩擦力が働く。
    5. 相対運動の利用: 「物体Aに対する物体Bの運動」を問われたら、まず相対加速度を求め、それをあたかも一つの物体の加速度のように扱って等加速度運動の公式を適用する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 摩擦力の向きの誤り: 特に相対運動が生じている場合、どちらの物体にどちら向きの動摩擦力が働くか混乱しやすい。
    • 対策: 「動摩擦力は相対的な動きを妨げる向き」と覚える。物体Aの上を物体Bが右に滑れば、Bには左向き、Aには右向きの動摩擦力が働く。
  • 一体運動と滑る運動の混同: 同じ外力でも、摩擦係数や質量によって一体で動くか滑るかが変わる。
    • 対策: まず一体運動すると仮定して必要な静止摩擦力を計算し、それが最大静止摩擦力を超えるかどうかで滑るか否かを判断する。超えれば動摩擦力で運動方程式を立て直す。
  • 相対加速度の符号: 相対加速度を計算する際、基準となる物体と注目する物体の加速度の符号(座標軸の正方向に対する向き)を正確に扱う。
    • 対策: どちらから見たどちらの運動かを明確にし、一貫した座標系で計算する。例えば「Qから見たPの加速度」なら \(a_P – a_Q\)。
  • 作用・反作用の適用漏れ: 箱の中の物体が箱を押す力(摩擦力や垂直抗力)の反作用を、箱が受ける力として運動方程式に含め忘れる。
    • 対策: 接触する物体間では必ず作用・反作用のペアの力が存在することを意識する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 電車の中で立っているとき、電車が急発進すると後ろに倒れそうになる(慣性)。これは、足元が前に動くのに対し、上半身が取り残されようとする相対的な動きと関連。
    • 机の上の本の上に消しゴムを置き、本をゆっくり引くときと急に引くときで消しゴムの動きがどう違うか(静止摩擦と動摩擦)。
    • (6)で箱Qに初速を与えたとき、Pが箱の中で「置いて行かれる」ように左端に向かう様子。
  • 図示の有効性:
    • 各物体ごとにフリーボディダイアグラムを描くのが基本。
    • 摩擦力は接触面に平行に、垂直抗力は接触面に垂直に描く。
    • 作用・反作用の関係にある力は、大きさが等しく向きが反対であることを意識して(別の物体に)描く。
    • 相対運動を考えるときは、基準となる物体(例:箱Q)を固定したかのように見なし、そこから見た他方の物体(P)の運動を図示する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(ma=F\)): 運動状態の変化(加速度)と力の関係を結びつける万能の法則。
  • 摩擦力の公式 (\(f \le \mu_0 N\), \(f’ = \mu N\)): 接触面間の相互作用の大きさを経験的にモデル化したもの。
  • 相対加速度 (\(a_{AB} = a_B – a_A\)): 観測者Aから見た物体Bの加速度。運動を別の視点から記述する際に有用。
  • 等加速度運動の公式: 相対運動であっても、相対加速度が一定であれば適用可能。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(3) 一体運動:
    1. 全体を系として加速度 \(a\) を求める。
    2. Pに注目し、静止摩擦力 \(f\) を \(ma\) から求める。
    3. \(f \le \mu_0 mg\) の条件から \(F_0\) の限界 \(F_1\) を出す。
  2. (4)-(5) PがQに対して滑る運動:
    1. PとQの間に動摩擦力 \(\mu mg\) が働く。
    2. P, Qそれぞれについて運動方程式を立て、\(a\) (Pの加速度), \(A\) (Qの加速度) を求める。
    3. 相対加速度 \(\alpha = a – A\) を計算。
    4. 相対距離 \(l\)、相対初速度0、相対加速度 \(|\alpha|\) で時間 \(t\) を \(l = \frac{1}{2}|\alpha|t^2\) から求める。
  3. (6) Qに初速、Pが左端に達する条件:
    1. 外力 \(F=0\) として(4)と同様に \(a\) (Pの加速度), \(A\) (Qの加速度) を計算。
    2. Qに対するPの相対初速度 \(-v_0\)、相対加速度 \(\alpha = a – A\) を求める。
    3. PがQに対して相対的に止まるまでの左向きの移動距離 \(d\) を \(0^2 – (-v_0)^2 = 2\alpha(-d)\) から計算。
    4. \(d \ge l\) となる \(v_0\) の条件を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の徹底: 運動方程式、相対速度、相対加速度を扱う際、設定した座標軸の正方向に対する向き(符号)を一貫して正しく用いる。
  • 作用・反作用の区別: PがQから受ける力と、QがPから受ける力(特に摩擦力)は大きさが同じで向きが逆。運動方程式を立てる物体が「受ける」力を選ぶ。
  • 文字の多さ: \(m, M, \mu, \mu_0, g, F_0, F_2, l, v_0\) など多くの文字が現れるので、混同しないように注意し、代入は慎重に。
  • 相対運動の理解: 「誰から見た」「何の」運動かを常に意識する。相対速度、相対変位、相対加速度の概念を正確に使う。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との比較:
    • (3) \(F_1\): \(m\) や \(M\) が大きいほど、\(\mu_0\) や \(\mu\) が大きいほど、一体で動ける限界の力 \(F_1\) は大きくなる。妥当か?
    • (4) \(a = \mu g\)。Pの加速度はPの質量によらない。Qの加速度 \(A\) は \(F_2\) が大きいほど、\(M\) が小さいほど大きくなる。妥当か?
    • (6) \(v_0\) の条件。Pを左端まで到達させるには、Qの初速がある程度大きくないといけない。\(l\) が大きいほど、\(\mu\) が小さいほど(滑りにくいのでPがQについていきやすい)、必要な \(v_0\) はどうなるか?式と照らし合わせる。
  • 極端な場合を考える:
    • もし \(\mu=0, \mu_0=0\) (摩擦が全くない) ならどうなるか? PはQと一緒に動けない((2)で \(f=0\) なら \(a=0\) となり矛盾。最初から滑る)。
    • もし \(M \gg m\) (箱が非常に重い) または \(m \gg M\) (中身が非常に重い) なら、各式はどうなるか。

問題11 エネルギー保存則

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、糸で結ばれた小球Pと物体Qの運動を、エネルギー保存則を用いて解析するものです。Qは一部が滑らかで一部が粗い斜面上を運動します。Qの運動に伴いPも上下運動するため、系全体の力学的エネルギーの変化を考える必要があります。特に、摩擦力が働く区間では、その仕事の分だけ力学的エネルギーが保存しない点に注意が必要です。

与えられた条件
  • 小球P: 質量 \(m\)
  • 小物体Q: 質量 \(3m\)
  • 糸と滑車: 質量は無視でき、滑車は滑らかに回転。糸は伸び縮みしない。
  • 斜面: 傾角 \(30^\circ\)。点Aより上側は滑らか、点Aより下側は粗い。
  • 動摩擦係数: Qと斜面の粗い部分との間で \(\mu_k = \frac{1}{\sqrt{3}}\)。
  • 初期条件: Pに鉛直下向きの初速 \(v_0\) を与えると、Qも初速 \(v_0\) で点Aから斜面を上向きに動き出す。
  • 重力加速度: \(g\)。
問われていること
  1. (1) Qが達する最高点Bと点Aとの距離 \(l\)。
  2. (2) Qがやがて下へ滑り点Cで止まったときの、AC間の距離 \(L\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は「エネルギー保存則を用いて答えよ」と指定されているため、運動方程式ではなく、力学的エネルギーの変化に着目して解き進めます。系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は、非保存力(この問題では動摩擦力)が仕事をしない場合は保存されます。非保存力が仕事をする場合は、その仕事の分だけ力学的エネルギーが変化します(仕事とエネルギーの関係)。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力学的エネルギー保存則: 外力や非保存力(摩擦力など)が仕事をしない場合、系全体の力学的エネルギーは一定に保たれる。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則の拡張): 系全体の力学的エネルギーの変化量は、非保存力がした仕事に等しい (\(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\))。
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)。
  • 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)。基準面の取り方に注意。
  • 動摩擦力がする仕事: \(W_{\text{摩擦}} = -f_k \times (\text{滑った距離})\)。動摩擦力 \(f_k = \mu_k N\)(\(N\)は垂直抗力)。仕事は常に負。

問1

思考の道筋とポイント

Qが点Aから滑らかな斜面を距離 \(l\) だけ上り、最高点Bに達して一瞬静止するまでの運動を考えます。この間、小球Pも距離 \(l\) だけ鉛直下向きに運動します。PとQからなる系全体について、力学的エネルギー保存則を適用します。
初期状態ではPとQはそれぞれ速さ \(v_0\) を持ちます。最終状態ではPとQは共に静止します。
位置エネルギーの変化を考えるため、基準面を設定します。例えば、Pの初期位置の高さを0、Qの初期位置(点A)の斜面上の高さを0とします。

この設問における重要なポイント

  • PとQを一つの系として考える。
  • AからBの区間は滑らかなので、系全体の力学的エネルギーは保存される。
  • 初期状態: Pの速さ \(v_0\) (下向き)、Qの速さ \(v_0\) (斜面上がり)。
  • 最終状態: PとQの速さは0。
  • Pの鉛直方向の変位は \(l\) (下向き)。Qの鉛直方向の高さの変化は \(l\sin30^\circ\) (上向き)。
  • 位置エネルギーの基準を明確に設定する。

具体的な解説と立式

PとQからなる系全体の力学的エネルギーを考えます。
初期状態(QがAにあるとき、Pは対応する高さ)と、最終状態(QがBに達したとき、Pはさらに \(l\) だけ下がった位置)での力学的エネルギーは等しくなります。

基準面の取り方:

  • Qの位置エネルギーの基準を点Aを通る水平面とします。
  • Pの位置エネルギーの基準をQが点AにあるときのPの高さとします。

初期状態のエネルギー \(E_{\text{初}}\):

  • Pの運動エネルギー: \(\frac{1}{2}mv_0^2\)
  • Pの位置エネルギー: \(0\) (基準なので)
  • Qの運動エネルギー: \(\frac{1}{2}(3m)v_0^2\)
  • Qの位置エネルギー: \(0\) (基準なので)

よって、\(E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}(3m)v_0^2 = 2mv_0^2\)。

最終状態のエネルギー \(E_{\text{後}}\)(QがBに達し、PとQが一瞬静止したとき):

  • Pの運動エネルギー: \(0\)
  • Pの位置エネルギー: Qが距離 \(l\) だけ斜面を上がると、Pは距離 \(l\) だけ下がるので、\(mg(-l) = -mgl\)。
  • Qの運動エネルギー: \(0\)
  • Qの位置エネルギー: Qは斜面に沿って距離 \(l\) だけ上がるので、鉛直方向には \(l\sin30^\circ = l \cdot \frac{1}{2} = \frac{l}{2}\) だけ上がる。よって、\( (3m)g\left(\frac{l}{2}\right) = \frac{3}{2}mgl\)。

よって、\(E_{\text{後}} = -mgl + \frac{3}{2}mgl = \frac{1}{2}mgl\)。

力学的エネルギー保存則より \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) なので、
$$2mv_0^2 = \frac{1}{2}mgl \quad \cdots ①$$
この式から距離 \(l\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(E_{\text{力学・初}} = E_{\text{力学・後}}\)
計算過程

式① \(2mv_0^2 = \displaystyle\frac{1}{2}mgl\) の両辺から \(m\) を消去し、\(l\) について解きます。
$$2v_0^2 = \frac{1}{2}gl$$
両辺に2を掛けて、
$$4v_0^2 = gl$$
$$l = \frac{4v_0^2}{g}$$

計算方法の平易な説明
  1. Qが斜面を滑らかな部分(AからB)を上がっていくとき、Pは下に下がります。この間、摩擦がないので、PとQ全体のエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの合計)は変わりません。
  2. はじめの状態(QがA、Pが対応位置)のエネルギーを計算します。
    • PとQはそれぞれ速さ \(v_0\) を持っているので、運動エネルギーはPが \(\frac{1}{2}mv_0^2\)、Qが \(\frac{1}{2}(3m)v_0^2\) です。
    • 位置エネルギーは、この状態を基準(高さ0)とします。
  3. 終わりの状態(QがBで止まり、Pも止まる)のエネルギーを計算します。
    • PとQは止まるので、運動エネルギーはどちらも0です。
    • Qが斜面に沿って距離 \(l\) だけ上がると、高さは \(l\sin30^\circ = l/2\) だけ上がります。Qの位置エネルギーは \((3m)g(l/2)\) です。
    • Pは距離 \(l\) だけ下がるので、Pの位置エネルギーは \(mg(-l) = -mgl\) です。
  4. 「はじめのエネルギーの合計 = 終わりのエネルギーの合計」という式を立てて、\(l\) について解きます。
結論と吟味

Qの達する最高点Bと点Aとの距離 \(l\) は \(\displaystyle\frac{4v_0^2}{g}\) です。
この距離は初速 \(v_0\) の2乗に比例し、重力加速度 \(g\) に反比例します。これは物理的な直感とも一致し、初速が大きいほど、または重力が弱いほど遠くまで進むことを示しています。

解答 (1) \(l = \displaystyle\frac{4v_0^2}{g}\)

問2

思考の道筋とポイント

Qはやがて下へ滑り、点Aを通過して粗い斜面上の点Cで止まります。AC間の距離を \(L\) とします。
まず、Qが最高点Bから滑り降りて点Aに戻ったときの速さを考えます。A-B間は滑らかなので、力学的エネルギー保存則から、QがAに戻ったときの速さは、最初にAを通過したときと同じ \(v_0\) になります(Pも対応する位置で速さ \(v_0\))。
次に、Qが点Aを速さ \(v_0\) で通過し、粗い斜面上の点Cまで距離 \(L\) を滑って止まるまでの運動を考えます。この区間では動摩擦力がQに働き、その分だけPとQからなる系全体の力学的エネルギーが失われます。
仕事とエネルギーの関係(変化した力学的エネルギー = 非保存力のした仕事)を用います。

この設問における重要なポイント

  • QがBからAに戻ったとき、QとPの速さは再び \(v_0\) になる(力学的エネルギー保存のため)。
  • QがAからCへ運動する区間では、動摩擦力が仕事をする。
  • 動摩擦力の大きさ \(f_k = \mu_k N_Q\)。Qに働く垂直抗力 \(N_Q = 3mg\cos30^\circ\)。
  • 系全体の力学的エネルギーの変化が、動摩擦力のした仕事に等しい。
  • 初期状態: QがA、Pが対応位置、速さ \(v_0\)。最終状態: QがC、Pが対応位置、速さ0。

具体的な解説と立式

Qが最高点Bから滑り降り、点Aを通過するときの速さは、力学的エネルギー保存則により、最初にAを上向きに通過したときと同じ \(v_0\) です。このときPも速さ \(v_0\) で上向きに運動しています。

次に、QがAを速さ \(v_0\) で下向きに通過し、距離 \(L\) だけ滑って点Cで止まるまでの運動を考えます。
この間のPとQからなる系全体の力学的エネルギーの変化を考えます。
初期状態(QがA、Pが対応する位置、速さ \(v_0\))の力学的エネルギー \(E’_{\text{初}}\):
基準面を、QがAにあるときのQの高さ、およびそのときのPの高さとします。
$$E’_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}(3m)v_0^2 + mg(0) + (3m)g(0) = 2mv_0^2$$
最終状態(QがC、Pが対応する位置、静止)の力学的エネルギー \(E’_{\text{後}}\):
Qは斜面に沿って \(L\) だけ下がるので、鉛直方向には \(L\sin30^\circ = L/2\) だけ下がります。
Pは距離 \(L\) だけ上がるので、鉛直方向には \(L\) だけ上がります。
$$E’_{\text{後}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}(3m)(0)^2 + mgL + (3m)g(-L/2) = mgL – \frac{3}{2}mgL = -\frac{1}{2}mgL$$
この間にQに働く動摩擦力 \(f_k\) は、
斜面に垂直な方向の力のつり合いより、Qに働く垂直抗力 \(N_Q\) は、
$$N_Q = 3mg\cos30^\circ = 3mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2}$$
よって、動摩擦力 \(f_k\) は、
$$f_k = \mu_k N_Q = \frac{1}{\sqrt{3}} \cdot 3mg \frac{\sqrt{3}}{2} = \frac{3}{2}mg$$
動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\) は、Qが距離 \(L\) だけ滑るので、
$$W_{\text{摩擦}} = -f_k L = -\frac{3}{2}mgL$$
仕事とエネルギーの関係 \(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\) より、\(E’_{\text{後}} – E’_{\text{初}} = W_{\text{摩擦}}\)。
$$-\frac{1}{2}mgL – 2mv_0^2 = -\frac{3}{2}mgL \quad \cdots ②$$
この式から距離 \(L\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
  • 仕事とエネルギーの関係: \(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\)
  • 動摩擦力: \(f_k = \mu_k N\)
計算過程

式② \(-\displaystyle\frac{1}{2}mgL – 2mv_0^2 = -\frac{3}{2}mgL\) を \(L\) について解きます。
両辺に \(2/m\) を掛けると(\(m \neq 0\))、
$$-gL – 4v_0^2 = -3gL$$
\(gL\) の項をまとめると、
$$3gL – gL = 4v_0^2$$
$$2gL = 4v_0^2$$
$$L = \frac{4v_0^2}{2g} = \frac{2v_0^2}{g}$$

計算方法の平易な説明
  1. まず、Qが一番高い点Bから滑り落ちてきて、再び点Aを通るときの速さを考えます。行き(A→B)も帰り(B→A)も斜面は滑らかなので、エネルギーは保存されます。だから、QがAに戻ってきたときの速さは、最初と同じ \(v_0\) です。Pも同じ速さ \(v_0\) です。
  2. 次に、QがAから粗い斜面を距離 \(L\) だけ滑り降りてCで止まるまでを考えます。この間、Pは距離 \(L\) だけ上に上がります。
  3. この運動の前後で、PとQ全体のエネルギーがどれだけ変わったかを計算します。
    • はじめ(QがAで速さ \(v_0\)、Pが対応位置で速さ \(v_0\))の運動エネルギーは \(2mv_0^2\)。位置エネルギーはこの状態を基準(0)とします。
    • おわり(QがCで止まり、Pも止まる)の運動エネルギーは0。Qは高さ \(L\sin30^\circ = L/2\) だけ下がり、Pは高さ \(L\) だけ上がります。なので、全体の終わりの位置エネルギーは \(mgL – (3m)g(L/2) = -mgL/2\)。
  4. エネルギーの変化 (\(E_{\text{後}} – E_{\text{初}}\)) は、摩擦力がした仕事に等しくなります。
    • Qに働く動摩擦力の大きさは、垂直抗力 \((3m)g\cos30^\circ\) に動摩擦係数 \(1/\sqrt{3}\) を掛けて \(\frac{3}{2}mg\)。
    • 摩擦力がした仕事は、力の向きと反対に \(L\) だけ動くので、\(-\frac{3}{2}mgL\)。
  5. \((-\frac{1}{2}mgL) – (2mv_0^2) = -\frac{3}{2}mgL\) という式を立てて、\(L\) について解きます。
結論と吟味

AC間の距離 \(L\) は \(\displaystyle\frac{2v_0^2}{g}\) です。
(1)で求めた \(l = 4v_0^2/g\) と比較すると、\(L = l/2\) となります。つまり、摩擦のある面を滑り降りて止まるまでの距離は、滑らかな面を初速 \(v_0\) で上がって止まるまでの距離の半分になっています。これは摩擦によってエネルギーが失われるため、進む距離が短くなることを示しており、定性的には妥当です。

解答 (2) \(L = \displaystyle\frac{2v_0^2}{g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則: 滑らかな面での運動など、非保存力(摩擦力や空気抵抗など)の仕事が無視できる場合、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存されます。本問題では、PとQを一体の系として扱うことが重要です。
  • 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則の拡張): 非保存力(特に動摩擦力)が仕事をする場合、系全体の力学的エネルギーの変化量は、その非保存力がした仕事に等しくなります。(\(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\))。摩擦熱としてエネルギーが失われる場合、\(E_{\text{力学・初}} = E_{\text{力学・後}} + (\text{摩擦熱})\) の形で表すこともできます。
  • 系のエネルギー: 複数の物体が連結されて運動する場合、各物体の運動エネルギーと位置エネルギーを足し合わせたものが、系全体の力学的エネルギーとなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • ばねを含む系の力学的エネルギー保存(弾性エネルギーも考慮に入れる)。
    • 衝突と力学的エネルギー(非弾性衝突では力学的エネルギーは保存しないが、運動量は保存する)。
    • 振り子や円運動など、高さと速さが変化する運動でのエネルギー解析。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. エネルギー保存則が使えるか判断: まず、系に働く非保存力(摩擦力、空気抵抗、人が加える力など)の有無を確認する。指定があればそれに従う。
    2. 系の設定: 複数の物体が関係する場合、どの範囲を「系」としてエネルギーを考えるか明確にする(通常は相互に力を及ぼしあう物体群全体)。
    3. 初期状態と最終状態の特定: エネルギーを比較する「前」と「後」の状態を明確に定義する(速さ、高さなど)。
    4. 位置エネルギーの基準面: 計算を簡単にするために、適切な位置エネルギーの基準面(高さ0の面)を設定する。基準面は途中で変えない。
    5. 各エネルギーの計算: 各状態における各物体の運動エネルギーと位置エネルギーを正確に計算する。
    6. 非保存力の仕事の計算: 摩擦力が働く場合は、その力の大きさと移動距離から仕事(負の値)を計算する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 単独の物体でエネルギー保存則を適用してしまう: 複数の物体が糸などで連結されて力を及ぼし合っている場合、個々の物体の力学的エネルギーは保存しないことが多い(張力が仕事をするため)。系全体で考える必要がある。
    • 対策: 糸で繋がれた物体群は、一つの系として扱う癖をつける。張力は系の内力となり、全体のエネルギー変化を考える際には陽に計算しなくて済むことが多い。
  • 位置エネルギーの基準の不統一または変化: 計算の途中で位置エネルギーの基準面を変えてしまうと、矛盾が生じる。
    • 対策: 問題を解き始める前に基準面を明確に定め、最後までそれを使い続ける。
  • 摩擦力の仕事の符号: 動摩擦力は常に運動を妨げる向きに働くため、その仕事は常に負(力学的エネルギーを減少させる)。
    • 対策: 摩擦熱=\(f_k \times d\) を「失われるエネルギー」として扱うか、仕事 \(W = -f_k \times d\) として力学的エネルギー変化の式に組み込む。
  • Qの高さ変化の計算ミス: 斜面に沿った距離と鉛直方向の高さの変換 (\(h = l\sin\theta\)) を正確に行う。
    • 対策: 図を描いて三角比の関係を確認する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • Pが下がりQが上がる(またはその逆)一連の動きを追う。
    • Qが最高点で一瞬止まる様子。
    • QがA点を通過する際の速さの対称性(行きと帰りで同じ速さになること)。
    • 粗い面でQが減速し、やがて止まる様子。
    • エネルギーが運動エネルギーから位置エネルギーへ、またその逆へ、そして摩擦熱へと変換されていく流れをイメージする。
  • 図示の有効性:
    • 初期状態と最終状態の図をそれぞれ描き、各物体の速さ、高さ(基準面からの)を明記する。
    • 力の働く様子(特に摩擦力)を図示し、仕事の計算に役立てる。
    • 位置エネルギーの基準面を図中に破線などで示すと分かりやすい。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則: 運動方程式を時間で積分すると得られる法則の一つ。力が保存力のみの場合に非常に強力なツールとなる。本問のように「エネルギー保存則を用いて」と指定がある場合はこれに従う。
  • 仕事とエネルギーの関係: 非保存力が働く場合のより一般的な法則。力学的エネルギーの変化が非保存力の仕事に等しいという関係は、摩擦がある場合の必須の考え方。
  • 運動エネルギー \(K=\frac{1}{2}mv^2\): 物体の運動状態を表すエネルギー。
  • 位置エネルギー \(U_g=mgh\): 物体の高さ(基準面からの)によって決まるエネルギー。保存力(重力)に関連。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) Qの最高到達点Bまでの距離 \(l\):
    1. 系(P+Q)の初期状態(QがA)と最終状態(QがB、P,Q静止)を設定。
    2. 位置エネルギーの基準面を設定。
    3. 初期の運動エネルギー、位置エネルギーを計算。
    4. 最終の運動エネルギー(0)、位置エネルギーを \(l\) を使って計算。
    5. 力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) を立式し、\(l\) について解く。
  2. (2) AC間の距離 \(L\):
    1. QがAに戻ったときの速さが \(v_0\) であることを確認(エネルギー保存より)。
    2. 系(P+Q)の初期状態(QがA、速さ \(v_0\))と最終状態(QがC、P,Q静止)を設定。
    3. 初期の運動エネルギー、位置エネルギーを計算。
    4. 最終の運動エネルギー(0)、位置エネルギーを \(L\) を使って計算。
    5. Qに働く動摩擦力の大きさを計算 (\(f_k = \mu_k N_Q\)、\(N_Q = 3mg\cos30^\circ\))。
    6. 動摩擦力がする仕事 \(W_{\text{摩擦}} = -f_k L\) を計算。
    7. 仕事とエネルギーの関係 \(E_{\text{後}} – E_{\text{初}} = W_{\text{摩擦}}\) を立式し、\(L\) について解く。
      (あるいは、\(E_{\text{初}} = E_{\text{後}} + (\text{摩擦によって失われたエネルギー})\) の形でも良い。)

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • エネルギーの項の符号: 位置エネルギーは基準面より下なら負、摩擦の仕事は常に負(力学的エネルギーを減らす)。
  • 質量の確認: Pの質量 \(m\) とQの質量 \(3m\) を混同しない。運動エネルギーや位置エネルギーの計算で正しい質量を用いる。
  • 三角関数の値: \(\sin30^\circ = 1/2\), \(\cos30^\circ = \sqrt{3}/2\) を正確に使う。
  • 単位の統一: この問題では単位の具体的な数値計算はないが、一貫した単位系で考えることが基本。
  • 代数計算の正確さ: 式を整理し、未知数について解く過程での計算ミスを防ぐ。特に分数の計算や符号の扱いに注意。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との整合性:
    • (1) \(l\) の結果: \(v_0\) が大きいほど \(l\) は大きくなるか? \(g\) が大きいほど \(l\) は小さくなるか?(\(l = 4v_0^2/g\) なので、直感と一致)
    • (2) \(L\) の結果: 摩擦があるため、同じ初速 \(v_0\) で滑らかな面を上がる距離 \(l\)(の半分、対称性を考慮するとA点から最高点までが \(l/2\))よりも、粗い面を滑り降りて止まる距離 \(L\) はどうなるか?(\(L=2v_0^2/g = l/2\)。つまり、A点から同じエネルギーでスタートした場合、上に上がる距離と下に摩擦ありで下がる距離が同じになっている。これは面白い結果。)
    • もし摩擦係数が非常に大きければ \(L\) は小さくなるはず。式に \(\mu_k\) が入っているので、その依存性を見る(今回は \(\mu_k=1/\sqrt{3}\) で固定)。
  • 極端な場合を考える:
    • もし \(v_0 = 0\) なら、\(l=0, L=0\)。当然の結果。
    • もし摩擦がなかったら (\(\mu_k = 0\))、(2)のQは止まらずにどこまでも滑り降りる(またはPが地面に着くなど別の条件で止まる)。式が発散するか、別の意味を持つか。

問題12 (京都工繊大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、3つのおもりA, B, Cが1本の糸で結ばれ、2つの固定された滑らかなくぎP, Qにかかっている系のつり合いと運動を扱います。特に、エネルギー保存則を用いて、おもりの位置や仕事、速さを求めることが中心となります。幾何学的な関係から糸の長さや高さの変化を捉えること、そして系全体のエネルギーを考えることが重要です。

与えられた条件
  • おもりA, B, C: すべて同じ質量 \(m\)。
  • 糸とくぎ: 長さ6aの1本の糸の両端にA, C、中央にBが取り付けられ、水平線上に固定された滑らかなくぎP, Qに掛けられている。
  • くぎP, Q間の距離: \(2a\)。
  • 重力加速度: \(g\)。
問われていること
  1. (1) 3つのおもりがつり合って静止しているとき、Bは水平線PQよりどれだけ下がっているか (\(x\))。
  2. (2) Bを手でつまんでPQの中点まで持ち上げる。このとき手のした仕事 \(W\)。
  3. (3) (2)の状態でBを静かに放すと、おもりは動き始める。Bは水平線PQより最大どれだけ下がるか (\(y_{\text{max}}\))。
  4. Q: (3)の運動で、Bがつり合い位置((1)で求めた位置)を通過するときのBの速さ \(v_B\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、複数の物体が糸と滑らかなくぎ(滑車と同様に考える)で連結された系のつり合いと運動を、エネルギー保存則を中心に扱います。物体の位置変化に伴うポテンシャルエネルギーの変化と、運動エネルギーの変化を正確に捉え、系全体の力学的エネルギー保存則、あるいは仕事とエネルギーの関係を適用することが求められます。特に、複数の物体が連動して動く際の各物体の変位や速度の関係を幾何学的に把握することが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力のつり合い: 静止している物体(系)に働く力のベクトル和は0。
  • 仕事とエネルギーの関係: 外力がした仕事は、系全体の力学的エネルギーの変化に等しい(保存力以外の外力がない場合)。あるいは、非保存力が仕事をする場合は、その分だけ力学的エネルギーが変化する。
  • 力学的エネルギー保存則: 系に働く非保存力(摩擦力など)の仕事が0の場合、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は保存される。
  • 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)。
  • 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)。基準面の取り方が重要。
  • 糸の性質: 伸び縮みせず、質量が無視できる。張力は糸に沿って働く。滑らかなくぎや滑車では、糸の張力の大きさは変わらない。

問1

思考の道筋とポイント

3つのおもりがつり合って静止している状態を考えます。
まず、おもりA(またはC)に働く力のつり合いから、糸の張力 \(T\) を求めます。
次に、おもりBに働く力のつり合いを考えます。Bには重力 \(mg\) と、2本の糸からの張力 \(T\) (それぞれくぎP, QからBへ向かう方向) が働きます。BがPQより距離 \(x\) だけ下がっているとき、糸の張力の鉛直成分の合力がBの重力とつり合います。幾何学的な関係から、張力の鉛直成分を \(x\) とくぎ間の半分の距離 \(a\) で表します。

この設問における重要なポイント

  • おもりA, C のつり合いから糸の張力 \(T\) が決まる (\(T=mg\))。
  • おもりBの鉛直方向の力のつり合いを考える。
  • 糸と鉛直線がなす角 \(\theta\) を用い、\(2T\cos\theta = mg\) の形にする。
  • \(\cos\theta\) を \(x\) と \(a\) で表す (\(\cos\theta = x / \sqrt{a^2+x^2}\))。

具体的な解説と立式

おもりAは糸で吊り下げられて静止しているので、糸の張力を \(T\) とすると、力のつり合いより、
$$T = mg \quad \cdots ①$$
おもりCについても同様に、張力は \(mg\) です。滑らかなくぎP, Qを介しているので、糸BPおよび糸BQの張力も \(T=mg\) です。

おもりBは、水平線PQより距離 \(x\) だけ下がっているとします。くぎPから水平線PQの中点までの距離は \(a\) (PQ = \(2a\) より)。
糸BPと鉛直線がなす角を \(\theta\) とすると、Bに働く力の鉛直方向のつり合いは、
$$2T\cos\theta = mg \quad \cdots ②$$
ここで、\(\cos\theta\) を \(x\) と \(a\) で表します。直角三角形(底辺 \(a\)、高さ \(x\)、斜辺 \(\sqrt{a^2+x^2}\))を考えると、
$$\cos\theta = \frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}} \quad \cdots ③$$
式①、③を式②に代入して \(x\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F_y = 0\)
  • 三角比
計算過程

式① \(T=mg\) と式③ \(\cos\theta = \frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}}\) を式②に代入します。
$$2(mg) \frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}} = mg$$
\(mg \neq 0\) なので両辺を \(mg\) で割ると、
$$2 \frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}} = 1$$
$$2x = \sqrt{a^2+x^2}$$
両辺を2乗します(両辺とも正なので同値性は保たれる)。
$$(2x)^2 = (\sqrt{a^2+x^2})^2$$
$$4x^2 = a^2+x^2$$
$$3x^2 = a^2$$
$$x^2 = \frac{a^2}{3}$$
\(x>0\) なので、
$$x = \frac{a}{\sqrt{3}}$$

計算方法の平易な説明
  1. まず、おもりA (またはC) はぶら下がって止まっているので、Aを上に引っ張る糸の力(張力 \(T\))はAの重さ \(mg\) と同じです。つまり \(T=mg\)。
  2. 次に、真ん中のおもりBに注目します。Bは、Pからの糸とQからの糸の2本で引っ張られています。これらの糸の張力も \(T=mg\) です。B自身の重さも \(mg\) です。
  3. BがPQより \(x\) だけ下がっているとき、糸が鉛直方向となす角度を \(\theta\) とします。Bが止まっているためには、2本の糸の張力の「上向き成分」の合計が、Bの重さ \(mg\) とつり合っている必要があります。
  4. 張力の上向き成分はそれぞれ \(T\cos\theta = mg\cos\theta\) なので、\(2mg\cos\theta = mg\) という式が成り立ちます。
  5. 図から、\(\cos\theta\) は \(x\) と \(a\) を使って \(\frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}}\) と表せます。
  6. これらを代入して \(x\) について解くと、\(x = a/\sqrt{3}\) が求まります。
結論と吟味

Bは水平線PQより \(\displaystyle x = \frac{a}{\sqrt{3}}\) だけ下がっています。
このとき、糸BP (BQ) と鉛直線のなす角 \(\theta\) は \(\cos\theta = \frac{x}{\sqrt{a^2+x^2}} = \frac{a/\sqrt{3}}{\sqrt{a^2+(a/\sqrt{3})^2}} = \frac{a/\sqrt{3}}{\sqrt{4a^2/3}} = \frac{a/\sqrt{3}}{2a/\sqrt{3}} = 1/2\)。よって \(\theta = 60^\circ\) となります。
これは、Bに働く3つの力(張力T, 張力T, 重力mg)の大きさがすべて等しいため、それらがベクトル的に和が0になるためには、各力のなす角度が適切に配置される必要があり、この場合は2つの張力の合力が鉛直上向きにmgとなり、それぞれの張力が鉛直線と60°をなす状態に対応します。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{a}{\sqrt{3}}\)

問2

思考の道筋とポイント

Bを手でつまんでPQの中点まで持ち上げる(つまり、Bのy座標を0にする)ときの、手のした仕事を求めます。
手がした仕事は、系全体の力学的エネルギーの変化に等しいと考えられます(ゆっくり持ち上げる場合、運動エネルギーの変化は0とみなせる)。ここでは、位置エネルギーの変化のみを考えます。
初期状態(Bがつり合い位置)と最終状態(BがPQの中点)での、おもりA, B, Cそれぞれの位置エネルギーを計算し、その変化量を合計します。
Bが持ち上げられると、糸の長さの束縛からAとCの位置が変化します。具体的には、糸PB (およびQB) の長さが短くなった分だけ、糸PA (およびQC) の長さが長くなり、AとCは下に下がります。

この設問における重要なポイント

  • 手がした仕事 \(W_{\text{手}} = \Delta U_{\text{系}}\) (系の位置エネルギーの変化量)。
  • Bの鉛直位置の変化に伴うAとCの鉛直位置の変化を、糸の長さの束縛条件から求める。
  • 位置エネルギーの基準面を適切に設定する。

具体的な解説と立式

位置エネルギーの基準を水平線PQとします。
初期状態(つり合い位置):

  • Bのy座標: \(y_{B1} = -x = -\frac{a}{\sqrt{3}}\)。Bの位置エネルギー \(U_{B1} = -mg\frac{a}{\sqrt{3}}\)。
  • 糸BPの長さ: \(L_{BP1} = \sqrt{a^2+x^2} = \sqrt{a^2+(a/\sqrt{3})^2} = \frac{2a}{\sqrt{3}}\)。

最終状態(BがPQの中点):

  • Bのy座標: \(y_{B2} = 0\)。Bの位置エネルギー \(U_{B2} = 0\)。
  • 糸BPの長さ: \(L_{BP2} = a\)。

AとCの高さの変化: Bが上に \(\Delta y_B = \frac{a}{\sqrt{3}}\) だけ移動すると、糸PBの長さは \(\frac{2a}{\sqrt{3}}\) から \(a\) に短くなります。その差 \(\Delta L_P = \frac{2a}{\sqrt{3}} – a\) だけ、糸APが長くなる(Aが下がる)。
Aの下降距離 \(\Delta h_A = \frac{2a}{\sqrt{3}} – a = a\left(\frac{2}{\sqrt{3}}-1\right)\)。
Cも同様に \(\Delta h_C = a\left(\frac{2}{\sqrt{3}}-1\right)\) だけ下がる。
位置エネルギーの変化を考えるにあたり、AとCの初期の高さを \(h_{A0}\), \(h_{C0}\) とすると、
\(\Delta U_A = mg(h_{A0} – \Delta h_A) – mgh_{A0} = -mg\Delta h_A\)。
\(\Delta U_C = mg(h_{C0} – \Delta h_C) – mgh_{C0} = -mg\Delta h_C\)。
Bの位置エネルギー変化 \(\Delta U_B = U_{B2} – U_{B1} = 0 – (-mg\frac{a}{\sqrt{3}}) = mg\frac{a}{\sqrt{3}}\)。

手のした仕事 \(W_{\text{手}}\) は、系全体の位置エネルギーの変化量に等しい。
$$W_{\text{手}} = \Delta U_A + \Delta U_B + \Delta U_C$$
$$W_{\text{手}} = mg\frac{a}{\sqrt{3}} – 2mg \cdot a\left(\frac{2}{\sqrt{3}}-1\right) \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{外力}} = \Delta U_{\text{系}}\) (静かに動かす場合)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
  • 糸の長さの束縛条件
計算過程

式④を計算します。
$$W_{\text{手}} = mg\frac{a}{\sqrt{3}} – \frac{4mga}{\sqrt{3}} + 2mga$$
$$W_{\text{手}} = -\frac{3mga}{\sqrt{3}} + 2mga$$
$$W_{\text{手}} = -\sqrt{3}mga + 2mga$$
$$W_{\text{手}} = mga(2-\sqrt{3})$$

計算方法の平易な説明
  1. 手がした仕事は、おもりA, B, C全体の「位置エネルギー」がどれだけ増えたかと同じです(ゆっくり持ち上げるので運動エネルギーは考えません)。
  2. はじめの状態(Bがつり合い位置)と、おわりの状態(BがPQの中点)での各おもりの高さを比べ、位置エネルギーの変化を計算します。PQのラインを高さの基準(0)とします。
    • Bは、はじめ \(x=a/\sqrt{3}\) だけ低い位置にいたのが、高さ0まで持ち上げられます。なので、Bの位置エネルギーは \(mg(a/\sqrt{3})\) だけ増えます。
    • Bが持ち上げられると、PとBをつなぐ糸、QとBをつなぐ糸が短くなります。その短くなった分だけ、AとCをつなぐ糸が長くなり、AとCは下に下がります。
      はじめのPBの長さは \(2a/\sqrt{3}\)、おわりのPBの長さは \(a\) です。なので、AとCはそれぞれ \((2a/\sqrt{3}) – a\) だけ下に下がります。
    • AとCの位置エネルギーはそれぞれ \(mg \times (\text{下がった距離})\) だけ減ります(マイナスになります)。
  3. A, B, C 全体の位置エネルギーの変化を合計したものが、手のした仕事です。
結論と吟味

手のした仕事は \(W_{\text{手}} = mga(2-\sqrt{3})\) です。
\(2-\sqrt{3} \approx 2 – 1.732 = 0.268 > 0\) なので、仕事は正の値となり、手がエネルギーを供給したことを意味します。これはBを持ち上げ、AとCを(結果的に)下げる操作ですが、全体としては位置エネルギーが増加したことを示します。

解答 (2) \(mga(2-\sqrt{3})\)

問3

思考の道筋とポイント

(2)の状態でBを静かに放すと、おもりは動き始めます。Bが水平線PQより最大どれだけ下がるかを求めます。
この運動では、系全体に働く力は重力と糸の張力のみであり、くぎP, Qは滑らかなので、系全体の力学的エネルギーは保存されます。
初期状態(BがPQの中点、A,Cが対応する位置、すべて静止)と、Bが最大距離 \(y\) だけ下がった最終状態(このときもA,B,Cは一瞬静止する)の力学的エネルギーを比較します。

この設問における重要なポイント

  • 系(A+B+C)の力学的エネルギー保存則を適用する。
  • 初期状態: BはPQの中点 (\(y_B=0\))、A,Cは対応する高さ、全て静止。
  • 最終状態: Bは最大距離 \(y\) だけPQより下 (\(y_B=-y\))、A,Cは対応する高さ、全て一瞬静止。
  • Bの下降に伴うAとCの上昇距離を、糸の長さの束縛条件から求める。

具体的な解説と立式

位置エネルギーの基準を水平線PQとします。AとCの初期高さ(BがPQ中点にあるとき)を基準 \(h_{AC,0}=0\) とします。

初期状態(BがPQの中点、静かに放す直前):

  • Bのy座標: \(y_{B,\text{初}} = 0\)。Bの位置エネルギー \(U_{B,\text{初}} = 0\)。
  • 糸PBの長さ: \(L_{PB,\text{初}} = a\)。
  • AとCの位置エネルギー \(U_{A,\text{初}} = 0, U_{C,\text{初}} = 0\)。
  • 初期運動エネルギーは \(K_{\text{初}} = 0\) (すべて静止)。
  • よって、\(E_{\text{初}} = 0\)。

最終状態(BがPQより \(y\) だけ下がり、一瞬静止したとき):

  • Bのy座標: \(y_{B,\text{後}} = -y\)。Bの位置エネルギー \(U_{B,\text{後}} = -mgy\)。
  • 糸PBの長さ: \(L_{PB,\text{後}} = \sqrt{a^2+y^2}\)。
  • BがPQ中点から \(y\) 下がると、糸PBの長さは \(a\) から \(\sqrt{a^2+y^2}\) に変化します。このとき、Aは糸の長さが \((L_{PB,\text{後}} – L_{PB,\text{初}}) = \sqrt{a^2+y^2} – a\) だけ短くなった分だけ上昇します。
  • AとCの最終的な高さは、初期の高さを0とすると、\(h_{AC,\text{後}} = \sqrt{a^2+y^2} – a\)。
  • Aの位置エネルギー \(U_{A,\text{後}} = mg(\sqrt{a^2+y^2} – a)\)。Cも同様。
  • 最終運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = 0\)。
  • 最終位置エネルギー \(U_{\text{後}} = U_{A,\text{後}} + U_{B,\text{後}} + U_{C,\text{後}} = 2mg(\sqrt{a^2+y^2} – a) – mgy\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$0 = 2mg(\sqrt{a^2+y^2} – a) – mgy \quad \cdots ⑤$$
この式から \(y\) (\(y>0\)) を求めます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(E_{\text{力学・初}} = E_{\text{力学・後}}\)
  • 運動エネルギー、重力による位置エネルギー
  • 糸の長さの束縛条件
計算過程

式⑤の両辺を \(mg\) で割ると(\(mg \neq 0\))、
$$0 = 2(\sqrt{a^2+y^2} – a) – y$$
$$y + 2a = 2\sqrt{a^2+y^2}$$
両辺を2乗します(両辺とも正であることを確認。\(y>0\) なので左辺は正。右辺も正)。
$$(y+2a)^2 = (2\sqrt{a^2+y^2})^2$$
$$y^2 + 4ay + 4a^2 = 4(a^2+y^2)$$
$$y^2 + 4ay + 4a^2 = 4a^2 + 4y^2$$
$$3y^2 – 4ay = 0$$
$$y(3y – 4a) = 0$$
\(y>0\) なので(Bは下がるため)、
$$3y – 4a = 0$$
$$y = \frac{4}{3}a$$

計算方法の平易な説明
  1. BをPQの中点で静かに放すと、Bは下に落ち始め、AとCは上に上がり始めます。
  2. この運動の間、摩擦がないので、A, B, C全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの合計)は変わりません。
  3. はじめの状態(BがPQの中点、全部止まっている)の全体の力学的エネルギーを計算します。
    • 運動エネルギーは全部0です。
    • 位置エネルギーは、PQラインをBの高さの基準(0)とし、このときのAとCの高さを基準(0)とします。なので、はじめの位置エネルギーの合計は0です。
  4. Bが一番下まで \(y\) だけ下がったとき、A, B, Cは一瞬止まります。
    • 運動エネルギーはまた全部0です。
    • Bの位置エネルギーは \(-mgy\) です(基準より \(y\) 下がったので)。
    • Bが \(y\) 下がると、PからBまでの糸の長さは \(a\) から \(\sqrt{a^2+y^2}\) になります。その差の分だけAとCは上に上がるので、AとCの位置エネルギーはそれぞれ \(mg(\sqrt{a^2+y^2}-a)\) だけ増えます。
  5. 「はじめのエネルギー = おわりのエネルギー」という式を立てて、\(y\) について解きます。途中で2乗したりして、\(y \neq 0\) の解を求めます。
結論と吟味

Bは水平線PQより最大 \(\displaystyle\frac{4}{3}a\) だけ下がります。
これは、つり合いの位置 \(x = a/\sqrt{3} \approx 0.577a\) よりも深く下がっている (\(4a/3 \approx 1.333a\)) ことを示しています。これは、つり合い位置を通り越して振動するような運動(単振動ではないが)の一部であり、エネルギーが保存されていれば、放した位置(ポテンシャルエネルギーが高い)から最もポテンシャルエネルギーが低い位置(つり合い点より下)まで運動し、そこで運動エネルギーが0になって折り返す、という現象と整合します。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{4}{3}a\)

Q

思考の道筋とポイント

(3)の運動で、Bが(1)で求めたつり合い位置(PQより \(x=a/\sqrt{3}\) 下がった位置)を通過するときのBの速さ \(v\) を求めます。
初期状態は(3)と同じく、BがPQの中点で静止している状態です。最終状態は、Bがつり合い位置を通過する瞬間です。このとき、A, B, Cは運動エネルギーを持ちます。
系全体の力学的エネルギー保存則を適用します。AとCの速さ \(u\) は、Bの速さ \(v\) と糸の束縛条件から関連付けられます。つり合い位置では、糸BP (BQ) と鉛直線がなす角は \(60^\circ\) でした。このときのBの速度 \(v\) (鉛直下向き) の糸方向成分が、A (またはC) の速度 \(u\) (鉛直上向き) に等しくなります。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則を適用。
  • 初期状態: BはPQの中点、全て静止。
  • 最終状態: Bはつり合い位置 (\(y = -a/\sqrt{3}\))、Bの速さ \(v\)、A,Cの速さ \(u\)。
  • 速度の関係: \(u = v \cos60^\circ = v/2\)。
  • 各状態での位置エネルギーと運動エネルギーを計算する。

具体的な解説と立式

位置エネルギーの基準を水平線PQとします。AとCの初期高さ(BがPQ中点にあるとき)を基準 \(h_{AC,0}=0\) とします。

初期状態(BがPQの中点、静止):

  • \(U_{B,\text{初}} = 0\)。 \(U_{A,\text{初}} = 0\)。 \(U_{C,\text{初}} = 0\)。
  • \(K_{B,\text{初}} = 0\)。 \(K_{A,\text{初}} = 0\)。 \(K_{C,\text{初}} = 0\)。
  • \(E_{\text{初}} = 0\)。

最終状態(Bがつり合い位置 \(y_B = -a/\sqrt{3}\) を通過、速さ \(v\)):

  • Bの位置エネルギー \(U_{B,\text{後}} = mg(-a/\sqrt{3}) = -mga/\sqrt{3}\)。
  • Bの運動エネルギー \(K_{B,\text{後}} = \frac{1}{2}mv^2\)。
  • BがPQ中点から \(a/\sqrt{3}\) 下がると、糸PBの長さは \(a\) から \(\sqrt{a^2+(a/\sqrt{3})^2} = 2a/\sqrt{3}\) に変化。
    AとCは、糸の長さの差 \((2a/\sqrt{3}) – a = a(2/\sqrt{3}-1)\) だけ上昇する。
  • A, Cの位置エネルギー \(U_{A,\text{後}} = U_{C,\text{後}} = mg \cdot a(2/\sqrt{3}-1)\)。
  • A, C の速さを \(u\) とする。糸の束縛条件より、Bの速度 \(v\) の糸BP方向の成分が \(u\) に等しい。
    つり合い位置では糸BPと鉛直線のなす角は \(60^\circ\)。よって、\(v\) の糸BP方向の成分は \(v\cos60^\circ\)。
    $$u = v\cos60^\circ = v/2$$
  • A, C の運動エネルギー \(K_{A,\text{後}} = K_{C,\text{後}} = \frac{1}{2}mu^2 = \frac{1}{2}m(v/2)^2 = \frac{1}{8}mv^2\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$0 = -mg\frac{a}{\sqrt{3}} + 2mg a\left(\frac{2}{\sqrt{3}}-1\right) + \frac{1}{2}mv^2 + 2\left(\frac{1}{8}mv^2\right) \quad \cdots {(Q-1)}$$
この式から \(v\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 運動エネルギー、重力による位置エネルギー
  • 糸の束縛条件による速度の関係
計算過程

式(Q-1)を整理します。
$$0 = -mg\frac{a}{\sqrt{3}} + mg\frac{4a}{\sqrt{3}} – 2mga + \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{4}mv^2$$
$$0 = mg\frac{3a}{\sqrt{3}} – 2mga + \frac{3}{4}mv^2$$
$$0 = \sqrt{3}mga – 2mga + \frac{3}{4}mv^2$$
$$mga(2-\sqrt{3}) = \frac{3}{4}mv^2$$
両辺の \(m\) を消去し、\(v^2\) について解くと、
$$v^2 = \frac{4ga}{3}(2-\sqrt{3})$$
$$v = \sqrt{\frac{4ga}{3}(2-\sqrt{3})} = 2\sqrt{\frac{ga(2-\sqrt{3})}{3}}$$
ここで、\( ( \sqrt{3}-1 )^2 = 3 – 2\sqrt{3} + 1 = 4 – 2\sqrt{3} = 2(2-\sqrt{3}) \) を利用すると、
\( 2-\sqrt{3} = \frac{(\sqrt{3}-1)^2}{2} \)
$$v^2 = \frac{4ga}{3} \cdot \frac{(\sqrt{3}-1)^2}{2} = \frac{2ga}{3}(\sqrt{3}-1)^2$$
$$v = (\sqrt{3}-1)\sqrt{\frac{2ga}{3}}$$

計算方法の平易な説明
  1. BをPQの中点で静かに放したとき(はじめのエネルギー)と、Bがつり合いの位置(PQから \(a/\sqrt{3}\) 下がった位置)を通過するとき(おわりのエネルギー)とで、全体の力学的エネルギーが変わらないことを使います。
  2. はじめの運動エネルギーは0、位置エネルギーも基準をうまく取れば0とできます。
  3. おわりの状態では、Bは速さ \(v\) を持ち、AとCは速さ \(u\) を持ちます。糸のつながりから、\(u = v/2\) の関係があります(つり合い位置では糸と鉛直線のなす角が60°なので)。
  4. おわりの位置エネルギーは、Bが \(a/\sqrt{3}\) 下がり、AとCがそれぞれ \((2a/\sqrt{3})-a\) 上がった分を計算します。
  5. 「はじめのエネルギー = おわりのエネルギー」の式に、運動エネルギーと位置エネルギーの具体的な値を代入し、\(v\) について解きます。
結論と吟味

つり合い位置でのBの速さは \(v = (\sqrt{3}-1)\sqrt{\displaystyle\frac{2ga}{3}}\) です。
この速さは、つり合い位置で運動エネルギーが最大になるわけではなく(最も低い位置ではないため)、エネルギーが運動エネルギーと位置エネルギーに分配された結果です。

解答 Q \((\sqrt{3}-1)\sqrt{\displaystyle\frac{2ga}{3}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合い: 静止している物体(系)では、働く力のベクトル和がゼロになります。特に、複数の力が働く場合、各方向の成分に分解してつり合いを考えます。
  • 力学的エネルギー保存則: 保存力(重力など)のみが仕事をする系では、運動エネルギーと位置エネルギーの和である力学的エネルギーは一定に保たれます。本問題では、3つのおもりからなる系全体でこの法則を適用します。
  • 仕事とエネルギーの関係: 外力が仕事をする場合、その仕事の分だけ系の力学的エネルギーが変化します。問(2)の手がした仕事は、系の位置エネルギーの増加分に等しくなります。
  • 糸による束縛条件: 糸で繋がれた物体群では、糸の長さが一定であるという束縛条件から、各物体の変位や速度の間に関係が生まれます。これを正しく見抜くことが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 複数の物体が滑車や糸で連結された複雑な系の運動エネルギーと位置エネルギー。
    • 振り子の運動や、曲面上の運動など、高さと速さが変化する運動全般。
    • 非保存力が働く場合の仕事とエネルギーの関係。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 保存則の適用の可否: まず、系に働く力を確認し、摩擦や空気抵抗などの非保存力の仕事が無視できるか、あるいは問われているかを確認する。
    2. 系の設定: エネルギーを考える対象となる「系」を明確にする(通常、相互作用しあう物体全体)。
    3. 初期状態と最終状態の定義: エネルギーを比較する2つの状態を明確に定める(それぞれの状態での各物体の速さ、高さなど)。
    4. 位置エネルギーの基準点: 計算を簡略化できるように、位置エネルギーの基準(高さ0の点または面)を一つ定める。
    5. 束縛条件の利用: 糸で繋がれている場合など、各物体の運動(変位、速度)が独立でなく、互いに関係付けられる条件(束縛条件)を見つけ出し、未知数を減らす。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 系の取り方の誤り: 連結された物体群の問題で、個々の物体のエネルギー保存だけで解こうとしてしまう。
    • 対策: 糸の張力などは内力として扱い、系全体のエネルギーで考えることで、張力の仕事を陽に計算しなくて済む場合が多い。
  • 位置エネルギーの計算ミス: 高さの変化の符号、基準点からの距離の計算、複数の物体の位置エネルギーの総和の計算ミス。
    • 対策: 各物体の高さ(変位)を、基準点から見て正負を明確にして計算する。図を描いて幾何学的な関係を正確に把握する。
  • 速度の関連付けの誤り(束縛条件): 糸で繋がれた物体の速度が常に同じとは限らない。糸の方向への速度成分が等しくなるなど、状況に応じた正しい関係を見抜く必要がある。
    • 対策: 微小時間 \(\Delta t\) の間に各物体がどれだけ変位し、それによって糸の長さがどう変わるかを考えることで、速度の関係を導出する。
  • 仕事の計算における力の向きと変位の向き: 手がした仕事は、手の力の向きと変位の向きが同じなら正。
    • 対策: 仕事の定義 \(W = Fs\cos\phi\) を常に意識する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • おもりBが上下すると、おもりAとCがそれに連動して上下する様子を具体的に想像する。
    • Bが最も下に下がったとき、全ての運動が一瞬止まること。
    • つり合い位置を中心に振動するような運動(この場合は複雑だが)をイメージし、つり合い位置で速さが最大になるわけではない場合もあることを理解する(Qではつり合い位置での速さを求めている)。
  • 図示の有効性:
    • 初期状態と最終状態の図をそれぞれ描き、各物体の位置(高さ)、糸の長さ、角度などを明確に記入する。
    • 位置エネルギーの基準面を図中に示す。
    • 速度ベクトルを図示し、その成分分解や関係性を考える(特にQ)。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い (問1): 静止状態では、合力が0であるという基本原理。ベクトル和が0。
  • 仕事と位置エネルギーの関係 (問2): 保存力(重力)に抗して物体をゆっくり動かす場合、外力がする仕事は位置エネルギーの増加分に等しい。\(W_{\text{外力}} = \Delta U\)。
  • 力学的エネルギー保存則 (問3, Q): 系に働く非保存力の仕事が0のとき、運動エネルギーと位置エネルギーの総和が保存されるという強力な法則。運動方程式を積分した結果の一つ。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) つり合い位置:
    1. A, Cのつり合いから \(T=mg\)。
    2. Bの鉛直方向の力のつり合い \(2T\cos\theta = mg\)。
    3. 幾何学的関係から \(\cos\theta\) を \(x, a\) で表し、代入して \(x\) を解く。
  2. (2) 手の仕事:
    1. 初期状態(つり合い位置)と最終状態(BがPQ中点)の各おもりの位置(高さ)を計算。
    2. 各状態での系全体の位置エネルギーを計算。
    3. 仕事 \(W = U_{\text{後}} – U_{\text{初}}\)。
  3. (3) Bの最大下降距離:
    1. 初期状態(BがPQ中点、静止)と最終状態(Bが最大下降点 \(y\)、静止)を設定。
    2. 初期の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) (主に位置エネルギー)。
    3. 最終の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) (主に位置エネルギー、\(y\) を用いて表す)。
    4. \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) から \(y\) を解く。
  4. Q. つり合い位置でのBの速さ:
    1. 初期状態(BがPQ中点、静止)と最終状態(Bがつり合い位置、速さ \(v\)、A,Cは速さ \(u\))を設定。
    2. 速度の束縛条件 \(u = v\cos\theta_{\text{つりあい}}\) を見つける。
    3. 初期の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\)。
    4. 最終の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) (運動エネルギーと位置エネルギーを含む)。
    5. \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) から \(v\) を解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 幾何学的関係の正確な把握: 糸の長さ、おもりの高さの変化などを、ピタゴラスの定理や三角比を使って正確に数式化する。特にルートの計算や2乗の展開。
  • エネルギーの項の漏れや重複がないか確認: 系全体を考える場合、すべてのおもりの運動エネルギーと位置エネルギーを考慮する。
  • 基準点の明確化: 位置エネルギーの基準点はどこに取っても良いが、一度決めたら変えない。計算が楽になるように選ぶ。
  • 代数計算の丁寧さ: 特に(3)やQのように複数の項やルートが出てくる場合、整理や式の変形を慎重に行う。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との比較:
    • (1) \(x\) の値が \(a\) と比較して妥当な範囲か。
    • (2) 手がした仕事が正の値になっているか(エネルギーを与えたので)。
    • (3) Bの最大下降距離 \(y\) が、つり合い位置 \(x\) よりも大きいか(振動の中心を越えて下がるはず)。\(y=4a/3 \approx 1.33a\), \(x=a/\sqrt{3} \approx 0.58a\)。なので \(y > x\)。
    • Q: Bの速さが実数として求まるか。
  • 単位の確認: 距離は[m]、仕事やエネルギーは[J]、速さは[m/s]など、物理量として正しい単位になっているか。

 

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