問題10 運動方程式 (鹿児島大+名古屋市立大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(6)の別解: 非慣性系における仕事とエネルギーの定理を用いた解法
- 模範解答が加速度を求めて運動学の公式を用いるのに対し、別解では箱Qと共に動く観測者から見た「慣性力」と「仕事とエネルギーの関係」を用いて解きます。
- 設問(4)〜(6)の別解: 微積分を用いた体系的解法(相対運動の運動方程式)
- 個別の運動方程式から出発し、相対位置の2階微分方程式(相対運動の運動方程式)を導出・積分することで、速度と位置の時間変化を体系的に導きます。
- 設問(6)の別解: 非慣性系における仕事とエネルギーの定理を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 仕事とエネルギーの解法: 加速度や時間を経由せず、初速と移動距離の関係を直接結びつけることができるため、計算量が大幅に削減され、見通しが良くなります。
- 微積分の解法: 「公式に当てはめる」のではなく、運動方程式という原理から全ての物理量を導出するプロセスを経ることで、物理現象の因果関係を深く理解し、応用力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「摩擦のある面上での重ねられた物体の運動」です。物体が一体となって動く場合と、滑って別々に動く場合の両方を扱い、運動方程式や相対運動の考え方を問う良問です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: 物体の運動を決定する基本法則 \(ma = F\) です。複数の物体がある場合は、それぞれについて立式します。
- 摩擦力の性質: 滑っていないときは「静止摩擦力(\(f \le \mu_0 N\))」、滑っているときは「動摩擦力(\(f’ = \mu N\))」が働きます。
- 相対運動: 動いている物体の上での運動は、相対加速度や慣性力を用いて考えると理解しやすくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(3)では、PとQが一体化しているため、全体を一つの物体とみなして加速度を求め、その後P単体の運動方程式から静止摩擦力を求めます。
- (4)〜(6)では、PとQが滑り合うため、個別に運動方程式を立ててそれぞれの加速度を求めます。
- (5)(6)では、Qに対するPの相対運動(相対加速度)に着目して、時間や距離を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体Pと箱Qが一体となって運動しているため、これらを質量 \(M+m\) の一つの物体とみなすことができます。
この「合体した物体」に対して、水平方向の運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 一体化: PとQの間に滑りがないため、加速度は共通です。
- 外力の確認: 水平方向にはたらく力は、外力 \(F_0\) と、床からの動摩擦力です。
- 摩擦力の種類: 床と箱Qの間では滑りが起きているため、「動摩擦力」が働きます。
具体的な解説と立式
PとQを一体の物体(質量 \(M+m\))とみなします。
加速度を \(a\) とし、運動の向き(右向き)を正とします。
鉛直方向の力のつりあいより、床からの垂直抗力 \(N\) は重力の総和とつりあいます。
$$
\begin{aligned}
N &= (M+m)g
\end{aligned}
$$
床からの動摩擦力 \(f_{\text{床}}\) は、動摩擦係数が \(\mu\) なので、左向きに働きます。
$$
\begin{aligned}
f_{\text{床}} &= \mu N \\[2.0ex]
&= \mu(M+m)g
\end{aligned}
$$
水平方向について、運動方程式 \(Ma = F\) を立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{質量}) \times (\text{加速度}) &= (\text{運動方向の力}) – (\text{逆向きの力}) \\[2.0ex]
(M+m)a &= F_0 – f_{\text{床}}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 滑り摩擦力: \(f’ = \mu N\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
運動方程式に摩擦力の式を代入して \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(M+m)a &= F_0 – \mu(M+m)g \\[2.0ex]
a &= \frac{F_0 – \mu(M+m)g}{M+m} \\[2.0ex]
&= \frac{F_0}{M+m} – \mu g
\end{aligned}
$$
PとQがくっついて動いているので、まとめて一つの大きな荷物として考えました。
右に引っ張る力 \(F_0\) から、床との摩擦で邪魔される分を引き算して、正味の力を求めます。それを全体の質量で割ることで、加速度が求まります。
加速度 \(a = \frac{F_0}{M+m} – \mu g\) です。
引く力 \(F_0\) が大きければ加速度は大きくなり、摩擦係数 \(\mu\) が大きければ加速度は小さくなるため、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
今度は物体Pだけに注目します。
PはQと共に加速度 \(a\) で右へ加速しています。Pを加速させている力は何でしょうか?
水平方向にはQから受ける摩擦力しかありません。PはQに対して静止しているので、これは「静止摩擦力」です。
この設問における重要なポイント
- 着眼物体の分離: Pだけの運動方程式を立てることで、内力であるP-Q間の摩擦力を顕在化させます。
- 摩擦力の向き: Pは右へ加速しているので、力(摩擦力)の向きも右向きでなければなりません。
具体的な解説と立式
物体P(質量 \(m\))に注目します。
Pの加速度は(1)で求めた \(a\) です。
Pにはたらく水平方向の力は、Qから受ける静止摩擦力 \(f\) のみです。
運動方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
ma &= f
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
(1)の結果を代入して \(f\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f &= m \left( \frac{F_0}{M+m} – \mu g \right) \\[2.0ex]
&= \frac{m F_0}{M+m} – \mu mg
\end{aligned}
$$
Pが右に加速できているのは、足元のQが摩擦力でPを右に引っ張ってくれているからです。
「Pの質量 \(\times\) 加速度」が必要な力の大きさなので、それがそのまま摩擦力の大きさになります。
\(f = m a\) なので、加速度が大きいほど大きな摩擦力が必要です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「一体となって運動する」ための条件は、PとQの間で滑りが生じないことです。
滑り出さないためには、静止摩擦力 \(f\) が「最大静止摩擦力」を超えない必要があります。
この設問における重要なポイント
- 滑りの条件: 静止摩擦力 \(f \le \mu_0 N_P\) (\(N_P\) はPが受ける垂直抗力)。
- 垂直抗力: Pの鉛直方向のつりあいより、\(N_P = mg\) です。
具体的な解説と立式
Pが滑り出さない条件は、静止摩擦力 \(f\) が最大静止摩擦力以下であることです。
PとQの間の静止摩擦係数を \(\mu_0\)、Pが受ける垂直抗力を \(R\) とすると、条件式は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
f &\le \mu_0 R
\end{aligned}
$$
ここで、Pの鉛直方向のつりあいより \(R = mg\) です。
使用した物理公式
- 最大静止摩擦力の条件: \(f \le \mu_0 N\)
(2)で求めた \(f\) を条件式に代入します。
$$
\begin{aligned}
m \left( \frac{F_0}{M+m} – \mu g \right) &\le \mu_0 mg
\end{aligned}
$$
両辺を \(m (>0)\) で割り、\(F_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{F_0}{M+m} – \mu g &\le \mu_0 g \\[2.0ex]
\frac{F_0}{M+m} &\le \mu_0 g + \mu g \\[2.0ex]
\frac{F_0}{M+m} &\le (\mu_0 + \mu) g \\[2.0ex]
F_0 &\le (\mu_0 + \mu)(M+m)g
\end{aligned}
$$
限界値 \(F_1\) は、この不等式の等号成立時の値です。
急発進しすぎると荷崩れするのと同じです。
引く力 \(F_0\) を大きくすると加速度が増し、必要な摩擦力 \(f\) も大きくなります。
その \(f\) が、摩擦の限界(最大静止摩擦力)を超えてしまうと、Pはズルッと滑り出します。そのギリギリの \(F_0\) を求めました。
\(F_1 = (\mu_0 + \mu)(M+m)g\) です。
摩擦係数 \(\mu_0, \mu\) が大きいほど、また質量が大きいほど、強く引いても滑りにくくなるため妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
\(F = F_2 > F_1\) となり、PはQに対して滑り始めました。
PとQは別々の加速度で運動します。それぞれの物体について運動方程式を立てます。
このとき、PとQの間には「動摩擦力」が働きます。作用・反作用の法則に注意して力の向きを決定します。
この設問における重要なポイント
- 摩擦力の向き:
- Pは慣性によりQに対して「遅れる(左へ滑る)」ため、Qから受ける動摩擦力は「右向き」です。
- QはPからその反作用として「左向き」の動摩擦力を受けます。
- 動摩擦力の大きさ: PとQの間の動摩擦係数は \(\mu\) なので、大きさは \(\mu mg\) です。
具体的な解説と立式
物体Pについて:
加速度を \(a\)(右向き正)とします。
水平方向の力は、Qから受ける右向きの動摩擦力 \(\mu mg\) です。
$$
\begin{aligned}
ma &= \mu mg \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
箱Qについて:
加速度を \(A\)(右向き正)とします。
水平方向の力は以下の3つです。
- 外力 \(F_2\)(右向き)
- 床からの動摩擦力 \(f_{\text{床}}\)(左向き)。大きさは \(\mu(M+m)g\) です(垂直抗力は \(P+Q\) の重さを支えるため)。
- Pから受ける動摩擦力 \(f’\)(左向き)。作用・反作用より大きさは \(\mu mg\) です。
運動方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
MA &= F_2 – f_{\text{床}} – f’ \\[2.0ex]
MA &= F_2 – \mu(M+m)g – \mu mg \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
- 作用・反作用の法則
式①より、Pの加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \mu g
\end{aligned}
$$
式②より、Qの加速度 \(A\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
MA &= F_2 – \mu Mg – \mu mg – \mu mg \\[2.0ex]
MA &= F_2 – \mu Mg – 2\mu mg \\[2.0ex]
A &= \frac{F_2 – \mu(M+2m)g}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{F_2}{M} – \frac{\mu(M+2m)g}{M}
\end{aligned}
$$
滑ってしまったので、PとQは別々の物体として扱います。
Pは摩擦で必死に右へ引っ張られますが、Qと同じ加速度にはなれません。
Qは外力で引かれますが、床との摩擦に加え、上のPを引きずるための摩擦も負担となり、その分加速しにくくなります。
\(F_2\) が大きいので \(A\) は大きくなります。一方、Pの加速度 \(a\) は摩擦係数だけで決まり一定です。\(A > a\) となり、Pは置いていかれます。
問(5)
思考の道筋とポイント
PがQの左端に達するまでの時間を求めます。
PとQは共に右へ動いていますが、Qの方が速いため、Qから見るとPは左へ動いていきます。
「相対運動」として考えるのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 相対加速度: Qに対するPの加速度 \(\alpha = a – A\) を求めます。
- 相対変位: PはQの左端(距離 \(l\))に達するので、相対変位は \(-l\) です(左向きを負とした場合)。
具体的な解説と立式
Qに対するPの相対加速度を \(\alpha\) とします。右向きを正とします。
$$
\begin{aligned}
\alpha &= a – A
\end{aligned}
$$
Pは初速度 \(0\) から相対加速度 \(\alpha\) で運動し、相対変位が \(-l\) になるまでの時間 \(t\) を求めます。
等加速度運動の公式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2} a t^2\) を用います。
$$
\begin{aligned}
-l &= 0 \cdot t + \frac{1}{2} \alpha t^2 \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 相対加速度: \(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\)
- 等加速度運動の変位: \(x = v_0 t + \frac{1}{2} a t^2\)
まず \(\alpha\) を計算します。(4)の結果を用います。
$$
\begin{aligned}
\alpha &= \mu g – \frac{F_2 – \mu(M+2m)g}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu Mg – \{ F_2 – \mu Mg – 2\mu mg \}}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu Mg + 2\mu mg – F_2}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu(M+m)g – F_2}{M}
\end{aligned}
$$
ここで、\(F_2 > F_1 = (\mu_0+\mu)(M+m)g\) であり、一般に \(\mu_0 \ge \mu\) なので \(F_2 > 2\mu(M+m)g\) となり、\(\alpha < 0\) です。これはPがQに対して左へ加速することを意味します。
式③より \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-l &= \frac{1}{2} \alpha t^2 \\[2.0ex]
t^2 &= \frac{-2l}{\alpha} \\[2.0ex]
&= \frac{-2l}{\frac{2\mu(M+m)g – F_2}{M}} \\[2.0ex]
&= \frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
t &= \sqrt{\frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}}
\end{aligned}
$$
Qに乗っている人から見ると、Pは後ろ(左)へ滑っていきます。
その「滑っていく加速度(相対加速度)」を求め、距離 \(l\) だけ滑るのにかかる時間を計算しました。
分母のルート内が正である必要がありますが、\(F_2\) が十分大きいという条件から保証されています。距離 \(l\) が長いほど時間がかかるのも妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
状況が変わります。外力はなく、Qに初速 \(v_0\) を与えます。
Pは最初止まっていますが、動いているQから摩擦を受けて動き出します。
PがQの左端に達するためには、PがQから落ちる前に、QとPの速度が一致してしまってはいけません(一度速度が一致すると、それ以降は摩擦がなくなり滑らなくなるため)。
あるいは、相対速度が \(0\) になる瞬間の相対移動距離が \(l\) 以上であればよいといえます。
この設問における重要なポイント
- 力の向きの再確認:
- Qは右へ動くので、床から左向きの摩擦を受けます。また、Pを右へ引きずるので、Pから左向きの反作用を受けます。
- PはQから右向きの摩擦を受け、右へ加速します。
- 相対運動: Qの方が速いので、PはQに対して左へ滑ります。
具体的な解説と立式
運動方程式の樹立:
右向きを正とします。
Pの運動方程式:
$$
\begin{aligned}
ma &= \mu mg \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
Qの運動方程式(外力なし、摩擦は全て左向き):
$$
\begin{aligned}
MA &= – \mu(M+m)g – \mu mg \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
相対運動の検討:
相対加速度 \(\alpha = a – A\) を求め、相対初速度 \(v_{\text{相対初}} = 0 – v_0 = -v_0\) からの運動を考えます。
Pが左端に達する条件は、相対速度が \(0\) になる(滑りが止まる)までの相対変位 \(x_{\text{相対}}\) の大きさが \(l\) 以上であることです。
$$
\begin{aligned}
|x_{\text{相対}}| &\ge l
\end{aligned}
$$
等加速度運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) の相対運動版を用います。
停止時(相対速度 \(0\))の変位 \(x\) は以下の式を満たします。
$$
\begin{aligned}
0^2 – (-v_0)^2 &= 2 \alpha x \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 相対加速度: \(\alpha = a – A\)
- 等加速度運動: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
式④より \(a = \mu g\)。
式⑤より \(A = -\frac{\mu(M+2m)g}{M}\)。
相対加速度 \(\alpha\) は、
$$
\begin{aligned}
\alpha &= \mu g – \left( – \frac{\mu(M+2m)g}{M} \right) \\[2.0ex]
&= \mu g \left( 1 + \frac{M+2m}{M} \right) \\[2.0ex]
&= \mu g \frac{M + M + 2m}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu(M+m)g}{M}
\end{aligned}
$$
式⑥に代入して、停止までの相対変位 \(x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-v_0^2 &= 2 \left( \frac{2\mu(M+m)g}{M} \right) x \\[2.0ex]
x &= \frac{-M v_0^2}{4\mu(M+m)g}
\end{aligned}
$$
Pは左へ滑るので \(x\) は負です。移動距離 \(d = |x|\) は、
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{M v_0^2}{4\mu(M+m)g}
\end{aligned}
$$
これが \(l\) 以上であればよいので、
$$
\begin{aligned}
\frac{M v_0^2}{4\mu(M+m)g} &\ge l \\[2.0ex]
v_0^2 &\ge \frac{4\mu(M+m)gl}{M}
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
v_0 &\ge 2 \sqrt{\frac{\mu(M+m)gl}{M}}
\end{aligned}
$$
Qを勢いよく滑らせると、Pは慣性でその場に留まろうとするため、Qの上を後ろへ滑っていきます。
しかし摩擦があるので、Pも徐々に加速し、Qは減速します。やがて二つの速度が同じになると滑りは止まります。
滑りが止まる前に、PがQの後ろ端から落ちてしまえば「左端に達した」ことになります。そのために必要な最初の勢い(初速)を計算しました。
必要な初速 \(v_0\) は、箱の長さ \(l\) や摩擦係数 \(\mu\) が大きいほど大きくなります。滑りにくい、あるいは距離が長いと、より速く動かさないと端まで届かないため、直感と一致します。
思考の道筋とポイント
設問(6)を、箱Qと共に動く観測者(非慣性系)の視点で解きます。
この視点では、物体Pには実際の力(摩擦力)に加えて「慣性力」が働いているように見えます。
「運動エネルギーの変化 = 仕事の総和」というエネルギー原理を用いることで、加速度や時間を経由せずに一発で答えを導けます。
この設問における重要なポイント
- 慣性力: Qは左向きに加速度 \(A\)(大きさ \(|A|\))で減速しています。よって、Q上の観測者から見ると、Pには右向きに慣性力 \(m|A|\) が働きます。
- 仕事の符号: PはQに対して左へ距離 \(l\) 動きます。Pに働く力(摩擦力と慣性力)は共に右向きなので、これらの力は負の仕事をします。あるいは、「失った運動エネルギー = 阻害する力がした仕事」と考えます。
具体的な解説と立式
Qの加速度 \(A\) はメイン解法と同様に求めます(左向き)。
$$
\begin{aligned}
|A| &= \frac{\mu(M+2m)g}{M}
\end{aligned}
$$
Q上の観測者から見たPの運動を考えます。
- 相対初速度: 大きさ \(v_0\)(左向き)
- 相対終速度: \(0\)(ギリギリ端で止まる場合)
- Pに働く力(右向き):
- 動摩擦力 \(f = \mu mg\)
- 慣性力 \(F_{\text{慣性}} = m|A|\)
Pが距離 \(l\) だけ滑り切るためには、初めの運動エネルギーが、滑る間に摩擦力と慣性力がする「ブレーキの仕事」以上であればよいです。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} m v_0^2 &\ge (f + F_{\text{慣性}}) \times l
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの定理: \(\Delta K = W\)
- 慣性力: \(F_{\text{inert}} = -ma_{\text{系}}\)
力を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} m v_0^2 &\ge \left( \mu mg + m \frac{\mu(M+2m)g}{M} \right) l \\[2.0ex]
\frac{1}{2} v_0^2 &\ge \mu g \left( 1 + \frac{M+2m}{M} \right) l \\[2.0ex]
\frac{1}{2} v_0^2 &\ge \mu g \left( \frac{M + M + 2m}{M} \right) l \\[2.0ex]
v_0^2 &\ge 2 \mu g \frac{2(M+m)}{M} l \\[2.0ex]
v_0^2 &\ge \frac{4\mu(M+m)gl}{M}
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
v_0 &\ge 2 \sqrt{\frac{\mu(M+m)gl}{M}}
\end{aligned}
$$
Qに乗っている人から見ると、Pが猛スピード \(v_0\) で後ろへ飛んでいくように見えます。
しかし、摩擦力と、急ブレーキによる慣性力(電車で体が前のめりになる力とは逆向きの力)がPを引き止めようとします。
Pが持っているエネルギーが、これらの引き止める力に打ち勝って距離 \(l\) を進めるかどうかを計算しました。
メイン解法と全く同じ結果が、より少ない計算量で得られました。エネルギーの視点は非常に強力です。
思考の道筋とポイント
設問(4)〜(6)は、PがQ上を滑るという共通の現象を扱っています。
個別の運動方程式から出発し、相対位置 \(X(t)\) に関する微分方程式を立てて積分することで、全ての挙動を一括して導出します。
この設問における重要なポイント
- 相対位置の定義: \(X(t) = x_P(t) – x_Q(t)\) と定義します。
- 微分方程式: \(\frac{d^2 X}{dt^2} = \frac{d^2 x_P}{dt^2} – \frac{d^2 x_Q}{dt^2} = a – A\) となり、相対加速度が定数であることを利用します。
具体的な解説と立式
PとQの運動方程式(右向き正)は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
m \frac{d^2 x_P}{dt^2} &= f_P \\[2.0ex]
M \frac{d^2 x_Q}{dt^2} &= F_{\text{外力}} – f_{\text{床}} – f_Q
\end{aligned}
$$
ここで \(f_P, f_Q\) はP, Qに働く摩擦力です。
相対加速度 \(\alpha = \frac{d^2 X}{dt^2}\) は定数となるため、これを積分して速度と位置を求めます。
初期条件(\(t=0\)):
- 相対位置 \(X(0) = 0\)
- 相対速度 \(V(0) = v_{\text{相対初}}\)
2回積分すると、等加速度運動の一般解が得られます。
$$
\begin{aligned}
\frac{dX}{dt} &= \alpha t + v_{\text{相対初}} \\[2.0ex]
X(t) &= \frac{1}{2} \alpha t^2 + v_{\text{相対初}} t
\end{aligned}
$$
また、時間を消去した関係式(エネルギー積分の形)も導かれます。
$$
\begin{aligned}
V^2 – v_{\text{相対初}}^2 &= 2 \alpha X
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 運動方程式の微分形: \(m \frac{d^2 x}{dt^2} = F\)
- 積分の基本公式
設問(5)への適用:
外力 \(F_2\) があり、初速 \(0\) なので、\(v_{\text{相対初}} = 0\) です。
相対加速度 \(\alpha\) は負の値(\(P\)が遅れる)として求まります(計算はメイン解法(5)参照)。
\(X(t) = -l\) となる時刻 \(t\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-l &= \frac{1}{2} \alpha t^2 \\[2.0ex]
t &= \sqrt{\frac{-2l}{\alpha}}
\end{aligned}
$$
これに \(\alpha = \frac{2\mu(M+m)g – F_2}{M}\) を代入すれば、(5)の答えが得られます。
設問(6)への適用:
外力なし、Qに初速 \(v_0\) なので、\(v_{\text{相対初}} = 0 – v_0 = -v_0\) です。
相対加速度 \(\alpha\) は正の値(\(P\)が追いつこうとする)として求まります(計算はメイン解法(6)参照)。
相対速度 \(V=0\) となる瞬間の変位 \(X\) が、\(X \le -l\) (大きさで \(l\) 以上)であればよいです。
$$
\begin{aligned}
0^2 – (-v_0)^2 &= 2 \alpha X \\[2.0ex]
X &= \frac{-v_0^2}{2\alpha}
\end{aligned}
$$
条件 \(X \le -l\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{-v_0^2}{2\alpha} &\le -l \\[2.0ex]
v_0^2 &\ge 2 \alpha l
\end{aligned}
$$
これに \(\alpha = \frac{2\mu(M+m)g}{M}\) を代入すれば、(6)の答えが得られます。
「加速度を積分すると速度、速度を積分すると位置」という数学的な関係を使えば、どんな複雑な運動も統一的に扱えます。
ここでは「相手から見た自分」の動き(相対運動)の方程式を作り、それを積分することで、時間や距離の公式を自力で作り出しました。
公式を暗記していなくても、運動方程式と微積分さえあれば、全ての答えを導き出せることが確認できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 一体化と分離の判断基準
- 核心: 複数の物体が同じ加速度で動くときは「一体化」して一つの物体とみなし、滑りが生じて別々の加速度で動くときは「分離」して個別の運動方程式を立てるという、系(システム)の捉え方の切り替えが最大のポイントです。
- 理解のポイント:
- 一体化: 未知数が加速度 \(a\) 一つになるため計算が楽になります。内力(P-Q間の摩擦)は無視できます。
- 分離: 内力(摩擦力)を求める場合や、加速度が異なるときに必須です。
- 摩擦力の種類の見極め
- 核心: 「滑っているか否か」で摩擦力の種類が決定的に変わります。滑っていなければ「静止摩擦力(\(f \le \mu_0 N\))」、滑っていれば「動摩擦力(\(f’ = \mu N\))」です。
- 理解のポイント:
- 静止摩擦力: 未知数として扱い、運動方程式から逆算して求めます。公式 \(f=\mu N\) は使えません。
- 動摩擦力: 公式 \(f’=\mu N\) で値が確定します。
- 相対運動と慣性力の視点
- 核心: 動いている物体(箱Q)の上に乗っている物体(P)の運動を考える際、地上から見るよりも、箱Qと共に動く観測者から見た「相対運動」として捉える方が、直感的に理解しやすく計算も単純化されます。
- 理解のポイント:
- 慣性力: 加速している観測者から見ると、加速度と逆向きに \(ma\) の力が働いているように見えます。これを導入することで、非慣性系でも運動方程式(力のつりあい)が成立します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 親亀・子亀問題(板の上の物体): 今回のように箱の中に物体がある場合や、長い板の上に人が乗っている場合など、上下に重なった物体の運動は全て同じアプローチ(一体化or分離)で解けます。
- ベルトコンベア上の物体: ベルトが動く(箱Qに相当)問題でも、摩擦力の向きや相対運動の考え方は全く同じです。
- 電車内の慣性力: 電車が急ブレーキをかけたときの乗客の動きは、設問(6)のPの動きと物理的に等価です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「滑る・滑らない」の境界: 問題文に「滑り出した」「一体となって」というキーワードがないか探します。境界条件は常に \(f = \mu_0 N\) です。
- 摩擦力の向き: 「物体がどちらに置いていかれるか(慣性)」をイメージします。置いていかれる方向と逆に摩擦力が働きます。
- 解法の選択:
- 「加速度」や「時間」を問われたら \(\rightarrow\) 運動方程式と等加速度運動の公式(基本)。
- 「距離」や「速さ」だけを問われたら \(\rightarrow\) 仕事とエネルギーの定理(最速)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 摩擦力の公式の誤用:
- 誤解: 静止摩擦力を求めるときに、反射的に \(f = \mu_0 N\) や \(f = \mu N\) と書いてしまう。
- 対策: 静止摩擦力は「耐えている力」なので、状況によって \(0\) から最大値まで変化します。必ず \(ma=F\) の式から \(f\) を逆算する癖をつけましょう。\(f = \mu_0 N\) は「滑り出す直前」だけの特殊ケースです。
- 作用・反作用の忘れ:
- 誤解: Pの運動方程式には摩擦力を書くが、Qの運動方程式でその反作用(Pから受ける摩擦力)を書き忘れる。
- 対策: 接触面には必ずペアの力が働きます。図を描く際、接触面に「\(\leftrightarrow\)」のようなマークを入れ、両方の物体に矢印を描き込む習慣をつけましょう。
- 相対加速度の符号ミス:
- 誤解: 相対加速度 \(\alpha = a – A\) なのか \(A – a\) なのか混乱し、符号を逆にしてしまう。
- 対策: 「誰から(Q)、誰を(P)見るのか」を明確にします。「相手(Q)の加速度を引き算する」と覚えましょう。また、計算結果が「Pが置いていかれる(負になるはず)」といった物理的直感と一致するか必ず確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 問(6)での公式選択(運動方程式 vs エネルギー保存則):
- 選定理由: メイン解法(運動方程式)は、加速度 \(\rightarrow\) 時間 \(\rightarrow\) 距離 と手順を踏むため、現象を時系列で追うのに適しています。一方、別解(エネルギー保存則)は、途中経過を飛ばして「初め」と「終わり」の状態だけを結びつけるため、計算が圧倒的に速いです。
- 適用根拠: 摩擦熱が発生する非保存系ですが、「仕事とエネルギーの定理(\(W = \Delta K\))」は摩擦力の仕事を含めることで成立するため、問題なく適用可能です。
- 問(5)での公式選択(相対運動):
- 選定理由: 地上から見ると、PもQも動いており、PがQの端に着く条件(\(x_P = x_Q – l\))を解くのは連立方程式が複雑になります。相対運動なら「止まっているQの上をPが動く」という単純な問題に帰着できます。
- 適用根拠: ガリレイ変換の原理により、等加速度運動する座標系(慣性系でなくても加速度一定なら可)においても、相対加速度を用いれば運動の法則は同じ形式で記述できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の次元確認(ディメンションチェック):
- 答えが出たら、単位(次元)を確認しましょう。例えば加速度 \(a\) の答えに \(g\)(加速度の次元)が含まれていれば、その係数は無次元(質量割る質量など)であるはずです。\(\frac{F_0}{M+m}\) も \([\text{N}]/[\text{kg}] = [\text{m}/\text{s}^2]\) で正しい次元です。
- 極限的なケースでの検算:
- もし \(\mu = 0\) (ツルツル)だったら? 問(1)の加速度は \(F_0/(M+m)\) となり、単に力 \(F_0\) で質量 \(M+m\) を引く式と一致します。
- もし \(M\) が非常に大きかったら? 問(4)のQの加速度 \(A\) は \(0\) に近づき、重い箱は動かないという直感と合致します。
- 塊(かたまり)での計算:
- \(M+m\) や \(\mu g\) といった共通のパーツを、計算の途中では \(M_{\text{全}}\) や \(k\) などの文字で置き換えて計算し、最後に元に戻すと、式がスッキリして書き写しミスが減ります。特に分数の通分などで威力を発揮します。
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問題11 エネルギー保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)(2)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 模範解答がエネルギーの収支のみに着目するのに対し、別解ではニュートンの運動方程式から加速度を求め、それを時間で積分することで速度と位置の関数を導出し、運動の全容を記述します。
- 設問(2)の別解: 最高点Bを始点とするエネルギー保存則
- 模範解答が「点Aに戻った状態」を始点として立式しているのに対し、別解では最高点Bから停止点Cまでを一括して立式します。これにより、中間状態(点A)の速度計算を省略できます。
- 設問(1)(2)の別解: 微積分を用いた体系的解法(運動方程式の積分)
- 上記の別解が有益である理由
- 微積分の解法: 力の釣り合いと運動の因果関係(力 \(\to\) 加速度 \(\to\) 速度 \(\to\) 変位)を直接的に追うことで、現象のメカニズムをより深く理解できます。
- B始点の解法: 計算過程を短縮し、計算ミスのリスクを減らすことができる実戦的なテクニックです。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「連結物体のエネルギー保存則」です。滑らかな斜面と粗い斜面が混在する状況で、系全体のエネルギー収支を正しく立式できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 系全体のエネルギー保存: 糸でつながれた物体群では、個別の物体ではなく、系全体でエネルギーの保存を考えます。
- 非保存力の仕事: 摩擦力が働く場合、その仕事は熱エネルギーとして失われます。「力学的エネルギーの変化 = 非保存力の仕事」の関係を用います。
- 運動の対称性: 保存力のみが働く区間では、行きと帰りで同じ位置での速さは等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、摩擦のない区間での運動なので、力学的エネルギー保存則を用いて移動距離を求めます。
- (2)では、摩擦のある区間を含むため、摩擦熱によるエネルギー損失を考慮したエネルギー保存則(仕事とエネルギーの関係)を立式します。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
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