問題10 (鹿児島大+名古屋市立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水平面上に置かれた箱Qとその中に入れられた小物体Pの運動を扱います。箱に外力を加えた場合に、PとQが一体となって運動する条件や、PがQに対して滑る場合のそれぞれの加速度、そして相対運動について考察します。摩擦力(静止摩擦力と動摩擦力)の正しい理解と、運動方程式の適切な適用が鍵となります。
- 小物体P: 質量 \(m\)
- 箱Q: 質量 \(M\)
- PとQの間の静止摩擦係数: \(\mu_0\)
- PとQの間の動摩擦係数: \(\mu\)
- Qと水平面の間の動摩擦係数: \(\mu\)
- 重力加速度: \(g\)
- 初期状態: 静止
状況\(1\): 外力 \(F=F_0\) を加え、P, Qは一体となって運動。
- (1) 加速度。
- (2) PがQから受けている摩擦力の大きさ。
- (3) P, Qが一体となって運動するための \(F_0\) の限界値 \(F_1\)。
状況\(2\): 外力 \(F=F_2 (>F_1)\) を加え、PはQに対して滑って運動。
- (4) Pの加速度 \(a\) とQの加速度 \(A\)。
- (5) PがQの左端(初期位置から距離 \(l\))に達するまでの時間 \(t\)。
状況\(3\): 外力なし、Qだけに右向きの初速 \(v_0\) を与える。
- (6) PがQの左端(初期位置から距離 \(l\))に達するための \(v_0\) の最小値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) 加速度Aの別解: PとQを一体として捉え、重心加速度の関係式を用いる解法
- 主たる解法がQ単独の運動方程式を立てるのに対し、別解ではPとQを一体の系とみなし、系全体の運動方程式と、PとQそれぞれの加速度から決まる重心加速度の関係式を連立させてQの加速度を導出します。
- 問(4) 加速度Aの別解: PとQを一体として捉え、重心加速度の関係式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「系で見る」視点と「個々で見る」視点の両方を学ぶことで、内力と外力の違いや作用・反作用の法則への理解が深まります。特に、滑りが生じている系では、各物体の運動が全体の運動(重心の運動)とどう関係しているかを明確に捉えることができます。
- 解法の選択肢の拡大: 問題によっては、系で見るよりも個別に見た方が考えやすい場合があります。複数のアプローチを知ることで、思考の柔軟性が養われ、最適な解法を選択する能力が高まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解くためには、以下の物理法則や概念を正確に適用する必要があります。
- ニュートンの運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\)。物体(または物体とみなせる系)の質量、加速度、およびその物体に働く力の合力の関係を示します。
- 摩擦力:
- 静止摩擦力: 物体が滑り出さないように働く力。大きさは外力に応じて \(0\) から最大値 \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\) まで変化する(\(N\) は垂直抗力)。
- 動摩擦力: 物体が滑っているときに働く一定の大きさの力 \(f’ = \mu N\)。向きは運動を妨げる向き。
- 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに大きさが等しく向きが反対の力を及ぼす。
- 相対運動: 一方の物体から見たもう一方の物体の運動。相対速度や相対加速度を考えることで、問題が単純化される場合があります。
問(1)
思考の道筋とポイント
PとQが一体となって運動する場合の加速度を求めます。この場合、PとQを一つの物体(系)とみなして考えることができます。この系全体の質量と、系全体に働く外力(水平右向きの力 \(F_0\) と、床からの動摩擦力)について運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- PとQを一体として扱う(両者の加速度は等しい)。
- 系全体の質量は \(m+M\)。
- 床からの垂直抗力を求め、それを用いて床からの動摩擦力を計算する。
- 系全体に働く水平方向の外力は \(F_0\) と床からの動摩擦力。
具体的な解説と立式
PとQを一体と考えた系の質量は \(m+M\) です。
この系に働く鉛直方向の力は、重力 \((m+M)g\)(下向き)と床からの垂直抗力 \(N_{\text{床}}\)(上向き)です。鉛直方向には運動しないので、
$$
\begin{aligned}
N_{\text{床}} &= (m+M)g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
床からの動摩擦力 \(f_{\text{床}}\) は、左向きに、
$$
\begin{aligned}
f_{\text{床}} &= \mu N_{\text{床}} \\[2.0ex]
&= \mu (m+M)g \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
水平右向きを正とし、一体となった系の加速度を \(a\) とすると、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
(m+M)a &= F_0 – f_{\text{床}} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式: \(m_{\text{全体}} a = F_{\text{合力}}\)
- 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
- 力のつり合い(鉛直方向)
式③に式②を代入します。
$$
\begin{aligned}
(m+M)a &= F_0 – \mu (m+M)g
\end{aligned}
$$
両辺を \((m+M)\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{F_0}{m+M} – \mu g
\end{aligned}
$$
お盆(箱Q)の上におまんじゅう(物体P)が乗っているのを想像してください。お盆とおまんじゅうが滑らずに一緒に動くとき、これらは一つの塊と見なせます。この塊の質量は、お盆とおまんじゅうの合計です。この塊を力\(F_0\)で右に押し、床との摩擦が左向きにブレーキをかけます。運動方程式「全体の質量 × 加速度 = 押す力 – 床からのブレーキ力」を立てて、加速度を計算します。
PとQが一体となって運動するときの加速度 \(a\) は \(\displaystyle a = \frac{F_0}{m+M} – \mu g\) です。
この加速度が正であるためには、\(F_0 > \mu(m+M)g\) である必要があり、これは系全体が床からの動摩擦力に打ち勝って加速するための条件と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
PがQから受けている摩擦力の大きさ \(f\) を求めます。PとQは一体となって加速度 \(a\) で運動しているので、Pのみに注目して運動方程式を立てます。
Pを加速度 \(a\) で運動させている水平方向の力は、Qから受ける静止摩擦力 \(f\) のみです(PとQの間には滑りがないため静止摩擦力)。
この設問における重要なポイント
- 注目する物体はPのみ。
- Pの加速度は(1)で求めた \(a\)。
- Pに働く水平方向の力は、Qからの静止摩擦力 \(f\) のみ(右向き)。
具体的な解説と立式
小物体P(質量 \(m\))に注目します。
Pは水平右向きに加速度 \(a\) で運動しています。
Pに働く水平方向の力は、箱Qの底面から受ける静止摩擦力 \(f\) のみです。
Pについての水平方向の運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
ma &= f \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
ここに(1)で求めた \(a\) を代入して \(f\) を求めます。
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
式④に \(a\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)
\end{aligned}
$$
今度は、おまんじゅう(P)だけに注目します。お盆(Q)が加速するとき、おまんじゅうも同じように加速します。おまんじゅうを加速させている犯人は誰でしょう?それは、お盆の表面がおまんじゅうを「一緒に来いよ!」と引っ張る静止摩擦力です。おまんじゅうについての運動方程式「おまんじゅうの質量 × 加速度 = 静止摩擦力」を立てれば、この摩擦力の大きさがわかります。
PがQから受けている摩擦力の大きさ \(f\) は \(\displaystyle f = m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right)\) です。
この摩擦力 \(f\) がPを加速させています。\(F_0\) が大きくなると \(f\) も大きくなります。
問(3)
思考の道筋とポイント
PとQが一体となって運動するためには、PがQから受ける静止摩擦力 \(f\) が、PとQの間の最大静止摩擦力 \(f_{\text{最大}}\) を超えてはいけません。
PがQから受ける垂直抗力を \(R\) とすると、\(R=mg\) です(Pの鉛直方向の力のつり合いより)。
したがって、最大静止摩擦力は \(f_{\text{最大}} = \mu_0 R = \mu_0 mg\)。
条件 \(f \le f_{\text{最大}}\) に、(2)で求めた \(f\) を代入し、\(F_0\) の限界値 \(F_1\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 一体となって運動する(滑らない)条件: 静止摩擦力 \(f \le\) 最大静止摩擦力 \(f_{\text{最大}}\)。
- PがQから受ける垂直抗力 \(R = mg\)。
- 最大静止摩擦力 \(f_{\text{最大}} = \mu_0 R = \mu_0 mg\)。
- (2)で求めた \(f\) を用いて \(F_0\) の条件を求める。
具体的な解説と立式
PとQが一体となって運動するためには、Pに働く静止摩擦力 \(f\) が最大静止摩擦力 \(f_{\text{最大}}\) 以下である必要があります。
PがQから受ける垂直抗力を \(R\) とすると、Pの鉛直方向の力のつり合いから \(R=mg\)。
よって、最大静止摩擦力は、
$$
\begin{aligned}
f_{\text{最大}} &= \mu_0 R \\[2.0ex]
&= \mu_0 mg
\end{aligned}
$$
滑らない条件は \(f \le f_{\text{最大}}\) なので、
$$
\begin{aligned}
f &\le \mu_0 mg \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
(2)で求めた \(f\) をここに代入します。
$$
\begin{aligned}
m\left(\frac{F_0}{m+M} – \mu g\right) &\le \mu_0 mg
\end{aligned}
$$
この不等式を \(F_0\) について解き、その上限値 \(F_1\) を求めます。
使用した物理公式
- 滑らない条件: 静止摩擦力 \(\le\) 最大静止摩擦力
- 最大静止摩擦力: \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\)
上の不等式の両辺を \(m\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{F_0}{m+M} – \mu g &\le \mu_0 g \\[2.0ex]
\frac{F_0}{m+M} &\le \mu_0 g + \mu g \\[2.0ex]
\frac{F_0}{m+M} &\le (\mu_0 + \mu)g \\[2.0ex]
F_0 &\le (\mu_0 + \mu)(m+M)g
\end{aligned}
$$
したがって、PとQが一体となって運動するための \(F_0\) の限界値 \(F_1\) は、
$$
\begin{aligned}
F_1 &= (\mu_0 + \mu)(m+M)g
\end{aligned}
$$
お盆を勢いよく動かしすぎると、上のおまんじゅうは滑ってしまいますよね。滑らないでいられるのには限界があります。その限界は、お盆とおまんじゅうの間の「最大静止摩擦力」で決まります。この力は \(\mu_0 mg\) です。(2)で計算した、実際に働いている摩擦力 \(f\) が、この限界を超えなければOKです。この条件(\(f \le \mu_0 mg\))を満たすような、外から加える力 \(F_0\) の最大値を計算します。
P, Qが一体となって運動するための \(F_0\) の限界値 \(F_1\) は \(F_1 = (\mu_0 + \mu)(m+M)g\) です。
この \(F_1\) は、系全体の質量 \((m+M)\) に比例し、またPとQ間の静止摩擦係数 \(\mu_0\) およびQと床間の動摩擦係数 \(\mu\) の和に比例するような形になっています。
問(4)
思考の道筋とポイント
外力 \(F=F_2 (>F_1)\) で動かすと、Pは箱Qに対して滑って動きます。このとき、PとQの間の摩擦は動摩擦力となります。Pの加速度 \(a\) とQの加速度 \(A\) をそれぞれ求めます。
PとQそれぞれについて、働く力を図示し、運動方程式を立てます。
PとQの間に働く動摩擦力の大きさは \(\mu R = \mu mg\) であり、Pにとっては運動方向(右向き)に、Qにとっては反作用として逆向き(左向き)に働きます。
この設問における重要なポイント
- PはQに対して滑るので、PとQの間には動摩擦力が働く。大きさは \(\mu mg\)。
- Pに働く動摩擦力は右向き(QがPを右に引きずる)。
- Qに働く動摩擦力(Pからの反作用)は左向き。
- Qには床からの動摩擦力も働く(左向き)。
- PとQそれぞれについて運動方程式を立てる。
具体的な解説と立式
水平右向きを正とします。
- 小物体P(質量 \(m\))の運動方程式:
Pに働く水平方向の力は、Qからの右向きの動摩擦力 \(\mu mg\) のみです。
$$
\begin{aligned}
ma &= \mu mg \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$ - 箱Q(質量 \(M\))の運動方程式:
Qに働く水平方向の力は、外力 \(F_2\) (右向き)、Pからの動摩擦力の反作用(左向き、\(\mu mg\))、床からの動摩擦力 \(f’_{\text{床}}\) (左向き)です。床からの動摩擦力は \(f’_{\text{床}} = \mu (m+M)g\)。
$$
\begin{aligned}
MA &= F_2 – \mu mg – \mu (m+M)g \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
- 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
- 作用・反作用の法則
Pの加速度 \(a\):
式⑥の両辺を \(m\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
a &= \mu g
\end{aligned}
$$
Qの加速度 \(A\):
式⑦を整理します。
$$
\begin{aligned}
MA &= F_2 – \mu mg – \mu mg – \mu Mg \\[2.0ex]
&= F_2 – 2\mu mg – \mu Mg \\[2.0ex]
&= F_2 – \mu(2m+M)g
\end{aligned}
$$
両辺を \(M\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
A &= \frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}
\end{aligned}
$$
お盆を限界以上の力で押したので、おまんじゅうが滑り始めました。こうなると、お盆とおまんじゅうは別々の加速度で動きます。
おまんじゅうの加速度: おまんじゅうを右に動かす力は、お盆との間の「動摩擦力」だけです。この力は一定なので、加速度も一定になります。
お盆の加速度: お盆には、右向きに押す力\(F_2\)が働きますが、ブレーキとして「おまんじゅうからの動摩擦力」と「床からの動摩擦力」の\(2\)つが左向きに働きます。これらの力をすべて考慮して、お盆の運動方程式を立てて加速度を計算します。
Pの加速度 \(a = \mu g\)、Qの加速度 \(A = \displaystyle\frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}\) です。
\(F_2 > F_1\) なので、QはPよりも大きな加速度で運動し(\(A>a\))、PはQに対して左に滑っていくことが予想されます。
思考の道筋とポイント
PとQを一体の系とみなし、系全体の運動方程式を考えます。この系に働く外力は \(F_2\) と床からの動摩擦力です。この式と、P単独の運動方程式、そして「全体の運動は各部分の運動の平均である」という重心加速度の関係式を組み合わせることで、Qの加速度Aを導出します。
この設問における重要なポイント
- PとQを一体の系として扱う。
- P単独の運動方程式と、系全体の運動方程式を立てる。
- \(a_{\text{系}} = \frac{ma+MA}{m+M}\) の関係を利用する。
具体的な解説と立式
Pの加速度は \(a=\mu g\)。Qの加速度を\(A\)とします。
PとQを一体とみなした系の重心の加速度を \(a_G\) とすると、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
(m+M)a_G &= F_2 – \mu(m+M)g
\end{aligned}
$$
また、重心の加速度の定義から、
$$
\begin{aligned}
a_G &= \frac{ma+MA}{m+M}
\end{aligned}
$$
これらを組み合わせると、
$$
\begin{aligned}
ma+MA &= F_2 – \mu(m+M)g
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式
- 重心加速度の式
上の式に \(a=\mu g\) を代入して \(A\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m(\mu g) + MA &= F_2 – \mu(m+M)g \\[2.0ex]
MA &= F_2 – \mu mg – \mu(m+M)g \\[2.0ex]
MA &= F_2 – \mu mg – \mu mg – \mu Mg \\[2.0ex]
MA &= F_2 – 2\mu mg – \mu Mg \\[2.0ex]
MA &= F_2 – \mu(2m+M)g \\[2.0ex]
A &= \frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\}
\end{aligned}
$$
別の考え方として、PとQ全体の動きを考えます。全体の加速度は、Pの運動とQの運動を質量の重みをつけて平均したものです。全体の運動方程式(外力だけで決まる)と、この平均の関係式、そしてP単独の運動方程式を組み合わせることで、Qの加速度を計算することもできます。
結果は主たる解法と完全に一致します。
問(5)
思考の道筋とポイント
PがQの左端に達するまでの時間を求めます。これは、Qに対するPの相対運動を考えると分かりやすいです。
Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) を求めます。床から見たPの加速度を \(a\)、Qの加速度を \(A\) とすると、Qから見たPの加速度(右向きを正とする)は \(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\) です。
PはQに対して初速度\(0\)で距離 \(l\) だけ(Qの左端に向かって)運動するので、等加速度運動の公式 \(x = \frac{1}{2}at^2\) を相対運動に適用します。
この設問における重要なポイント
- Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\) を計算する。
- PはQに対して初速度\(0\)で動き始める。
- PがQの左端に達するとは、Qに対して距離 \(l\) だけ相対的に左へ移動すること。
- 等加速度運動の公式 \(x = \frac{1}{2}at^2\) を相対運動に適用する。
具体的な解説と立式
Qに対するPの相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) (右向きを正)は、
$$
\begin{aligned}
\alpha_{\text{PQ}} &= a – A
\end{aligned}
$$
PはQの左端に向かって動くので、Qから見たPの運動は、左向きに大きさ \(|\alpha_{\text{PQ}}|\) の加速度で進む運動です。
PはQに対して初速度\(0\)で距離 \(l\) を進むので、かかる時間を \(t\) とすると、
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{1}{2} |\alpha_{\text{PQ}}| t^2 \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 相対加速度: \(\alpha_{\text{PQ}} = a – A\)
- 等加速度直線運動: \(x = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\)
まず、相対加速度 \(\alpha_{\text{PQ}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\alpha_{\text{PQ}} &= a – A \\[2.0ex]
&= \mu g – \frac{1}{M}\{F_2 – \mu(2m+M)g\} \\[2.0ex]
&= \frac{M\mu g – (F_2 – 2\mu mg – \mu Mg)}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{M\mu g – F_2 + 2\mu mg + \mu Mg}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu(M+m)g – F_2}{M}
\end{aligned}
$$
\(F_2 > F_1\) であり、\(F_1 \ge 2\mu(m+M)g\) が通常成り立つため、\(\alpha_{\text{PQ}}\) は負です。これはPがQに対して左向きに加速することを示します。
その大きさは \(|\alpha_{\text{PQ}}| = \displaystyle\frac{F_2 – 2\mu(M+m)g}{M}\)。
式⑧から \(t^2 = \displaystyle\frac{2l}{|\alpha_{\text{PQ}}|}\)。
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{2l}{\frac{F_2 – 2\mu(M+m)g}{M}} \\[2.0ex]
&= \frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}
\end{aligned}
$$
\(t>0\) なので、
$$
\begin{aligned}
t &= \sqrt{\frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}}
\end{aligned}
$$
お盆の上の端までおまんじゅうが滑る時間を考えます。これは、お盆に乗っている人から見たおまんじゅうの動き(相対運動)を考えると簡単です。まず、お盆から見たおまんじゅうの加速度(相対加速度)を計算します。これは、おまんじゅうの加速度からお盆の加速度を引き算すれば求まります。おまんじゅうは、お盆に対して最初は止まっていたので、あとは等加速度運動の公式「距離 = \(1/2\) × 加速度 × 時間の\(2\)乗」を使って、距離\(l\)だけ動くのにかかる時間を計算します。
PがQの左端に達するまでの時間 \(t\) は \(\displaystyle t = \sqrt{\frac{2Ml}{F_2 – 2\mu(M+m)g}}\) です。
この時間が実数として存在するためには、平方根の中が正である必要があり、これはPがQに対して実際に滑り出すための条件を反映しています。
問(6)
思考の道筋とポイント
外力は加えず、静止状態から箱Qだけに右向きの初速 \(v_0\) を与えます。Pが \(l\) 離れた箱の左端に達するためには、\(v_0\) はいくら以上であるべきかを考えます。
この状況は、(4)で外力 \(F_2=0\) とした場合と似ています。Qに初速 \(v_0\) を与えると、Pは慣性でその場に留まろうとし、Qの底面に対して左向きに滑り始めます。
PとQそれぞれの加速度を求め、Qに対するPの相対加速度を計算します。
Qに対するPの相対初速度は \(-v_0\) です。PがQの中で止まるまでに左へ進む相対距離 \(d\) を求め、\(d \ge l\) となる条件として \(v_0\) の最小値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 外力 \(F_2=0\) として(4)の状況を考える。
- PとQそれぞれの加速度を求める。
- Qに対するPの相対初速度は \(-v_0\) (右向き正の場合)。
- Qに対するPの相対加速度を求める。
- PがQに対して相対的に止まるまでの移動距離が \(l\) 以上である条件を考える。
具体的な解説と立式
水平右向きを正とします。外力 \(F=0\)。
- Pの加速度 \(a\):
Qが右に動くとPはQに対して左に滑るので、Pには右向きの動摩擦力 \(\mu mg\) が働きます。
$$
\begin{aligned}
ma &= \mu mg \quad \Rightarrow \quad a = \mu g \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$ - Qの加速度 \(A\):
QにはPからの反作用(左向き \(\mu mg\))と床からの動摩擦力(左向き \(\mu(m+M)g\))が働きます。
$$
\begin{aligned}
MA &= -\mu mg – \mu (m+M)g \\[2.0ex]
&= -\mu(2m+M)g \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$ - Qに対するPの相対運動:
相対初速度: \(v_{\text{rel,初}} = 0 – v_0 = -v_0\)。
相対加速度:
$$
\begin{aligned}
\alpha_{\text{PQ}} &= a – A \\[2.0ex]
&= \mu g – \left(-\frac{\mu(2m+M)g}{M}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu(M+m)g}{M}
\end{aligned}
$$
PがQに対して相対的に止まる(相対速度が\(0\)になる)までに進む左向きの距離を \(d\) とします。Qから見たPの変位は \(-d\) です。
$$
\begin{aligned}
0^2 – (v_{\text{rel,初}})^2 &= 2 \alpha_{\text{PQ}} (-d) \\[2.0ex]
0^2 – (-v_0)^2 &= 2 \left(\frac{2\mu(M+m)g}{M}\right) (-d) \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
PがQの左端に達するためには、\(d \ge l\) である必要があります。
使用した物理公式
- ニュートンの運動方程式
- 動摩擦力
- 相対速度、相対加速度
- 等加速度直線運動: \(v^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
式⑪から \(d\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-v_0^2 &= – \frac{4\mu(M+m)g}{M} d \\[2.0ex]
d &= \frac{M v_0^2}{4\mu(M+m)g}
\end{aligned}
$$
\(d \ge l\) の条件より、
$$
\begin{aligned}
\frac{M v_0^2}{4\mu(M+m)g} &\ge l \\[2.0ex]
v_0^2 &\ge \frac{4\mu(M+m)gl}{M}
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v_0 &\ge 2\sqrt{\frac{\mu(M+m)gl}{M}}
\end{aligned}
$$
テーブルクロス引きを想像してください。テーブルクロス(箱Q)を素早く引くと、上の食器(物体P)はその場に残ろうとしますよね。この問題も同じで、箱Qに初速を与えると、Pは取り残されて箱に対して左に滑り始めます。Pが箱の左端にぶつかるためには、Qの初速がある程度大きくないといけません。この問題を解くには、やはりQの視点からPの動き(相対運動)を見るのが便利です。Qから見ると、Pは初速\(v_0\)で左向きに飛び出し、やがて摩擦によって減速して止まります。この止まるまでに進む距離が、左端までの距離\(l\)以上であれば、Pは左端に到達できます。この条件から、必要な初速\(v_0\)の最小値が計算できます。
Pが \(l\) 離れた箱の左端に達するためには、初速 \(v_0\) は \(v_0 \ge 2\sqrt{\displaystyle\frac{\mu(M+m)gl}{M}}\) である必要があります。
\(v_0\) がこの値より小さいと、PはQの左端に達する前にQに対して静止してしまいます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の適用:
- 核心: 様々な状況(一体運動、相対運動、単独運動)において、注目物体を適切に選び、働く力を全て正確に図示して運動方程式を立てることが基本です。
- 理解のポイント: この法則を使いこなす鍵は、「注目物体を正しく選ぶ」ことと、「働く力をすべて見つけ出す」ことの\(2\)点に尽きます。
- 摩擦力の種類と向き:
- 核心: 静止摩擦力と動摩擦力の違いを理解し、状況に応じてどちらが働くか、その向きはどちらかを正しく判断する必要があります。特に動摩擦力は運動を妨げる向き(あるいは相対運動を妨げる向き)に働きます。
- 理解のポイント: 静止摩擦力は滑りを防ぐために必要な分だけ働き、上限があります。動摩擦力は滑っている間、一定の大きさで働きます。
- 作用・反作用の法則:
- 核心: 二つの物体が互いに力を及ぼし合うとき(特に摩擦力)、一方の物体が受ける力ともう一方の物体が受ける力は作用・反作用の関係にあり、大きさが等しく向きが反対です。
- 理解のポイント: 作用・反作用の力は、異なる物体に働きます。一つの物体に働く力のつり合いや運動方程式の中に、作用・反作用のペアが同時に現れることはありません。
- 相対運動の解析:
- 核心: 複数の物体が運動する場合、一方の物体から見た他方の物体の運動(相対速度、相対加速度)を考えることで、問題が簡潔になることがあります。特に「~に対して~する」という問いでは有効です。
- 理解のポイント: 相対運動を考えることは、観測者がその物体と一緒に動く座標系に移ることを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 重ねた物体の運動(上の物体が滑るか滑らないか)。
- ベルトコンベア上の物体の運動。
- 電車内での物体の運動(慣性力を考えるか、床から見た運動で考えるか)。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動のパターンの識別: まず、物体が一体となって運動するのか、互いに滑りを生じるのか、問題文から読み取る。
- 力の図示の徹底: 各物体に働く力をすべて図示する。特に摩擦力の種類(静止か動か)と向き、作用・反作用の関係を明確にする。
- 運動方程式の立式対象: 個々の物体について立てるか、系全体で立てるか、あるいは相対運動で考えるかを状況に応じて判断する。
- 滑りの条件: 一体運動の限界は静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えるとき。滑っている間は動摩擦力が働く。
- 相対運動の利用: 「物体Aに対する物体Bの運動」を問われたら、まず相対加速度を求め、それをあたかも一つの物体の加速度のように扱って等加速度運動の公式を適用する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 摩擦力の向きの誤り:
- 誤解: 特に相対運動が生じている場合、どちらの物体にどちら向きの動摩擦力が働くか混乱しやすい。
- 対策: 「動摩擦力は相対的な動きを妨げる向き」と覚える。物体Aの上を物体Bが右に滑れば、Bには左向き、Aには右向きの動摩擦力が働く。
- 一体運動と滑る運動の混同:
- 誤解: 同じ外力でも、摩擦係数や質量によって一体で動くか滑るかが変わる。
- 対策: まず一体運動すると仮定して必要な静止摩擦力を計算し、それが最大静止摩擦力を超えるかどうかで滑るか否かを判断する。超えれば動摩擦力で運動方程式を立て直す。
- 相対加速度の符号:
- 誤解: 相対加速度を計算する際、基準となる物体と注目する物体の加速度の符号(座標軸の正方向に対する向き)を正確に扱えない。
- 対策: どちらから見たどちらの運動かを明確にし、一貫した座標系で計算する。例えば「Qから見たPの加速度」なら \(a_P – a_Q\)。
- 作用・反作用の適用漏れ:
- 誤解: 箱の中の物体が箱を押す力(摩擦力や垂直抗力)の反作用を、箱が受ける力として運動方程式に含め忘れる。
- 対策: 接触する物体間では必ず作用・反作用のペアの力が存在することを意識する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: 運動状態の変化(加速度)と力の関係を結びつける万能の法則。
- 適用根拠: 力が働いている物体の加速度を知りたい、あるいは加速度から力を知りたいという、動力学のあらゆる場面で適用される。
- 摩擦力の公式 (\(f \le \mu_0 N\), \(f’ = \mu N\)):
- 選定理由: 接触面間の相互作用の大きさを定量的に扱うため。
- 適用根拠: 実験的に得られた法則であり、滑りの有無やその際の抵抗力をモデル化する際に用いる。
- 相対加速度 (\(a_{AB} = a_B – a_A\)):
- 選定理由: 観測者自身が加速している場合の、そこから見た物体の運動を記述するため。
- 適用根拠: ガリレイの相対性原理に基づき、加速度が一定であれば、相対運動も等加速度運動として扱える。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の徹底:
- 特に注意すべき点: 運動方程式、相対速度、相対加速度を扱う際、設定した座標軸の正方向に対する向き(符号)を一貫して正しく用いる。
- 日頃の練習: 式を立てる前に、必ず図に座標軸の正の向きを矢印で明記する。
- 作用・反作用の区別:
- 特に注意すべき点: PがQから受ける力と、QがPから受ける力(特に摩擦力)は大きさが同じで向きが逆。運動方程式を立てる物体が「受ける」力を選ぶ。
- 日頃の練習: フリーボディダイアグラムを物体ごとに丁寧に描くことで、力の作用・反作用を明確に区別する。
- 文字の多さ:
- 特に注意すべき点: \(m, M, \mu, \mu_0, g, F_0, F_2, l, v_0\) など多くの文字が現れるので、混同しないように注意し、代入は慎重に。
- 日頃の練習: 複雑な式を代入する際は、一度別の文字(例: \(f_{\text{床}}\))で置いておき、最後にまとめて代入すると見通しが良くなることがある。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な直感との比較:
- (3) \(F_1\): \(m\) や \(M\) が大きいほど、\(\mu_0\) や \(\mu\) が大きいほど、一体で動ける限界の力 \(F_1\) は大きくなる。これは直感に合うか?(合う)
- (4) \(a = \mu g\)。Pの加速度はPの質量によらない。Qの加速度 \(A\) は \(F_2\) が大きいほど、\(M\) が小さいほど大きくなる。これも直感に合うか?(合う)
- (6) \(v_0\) の条件。Pを左端まで到達させるには、Qの初速がある程度大きくないといけない。\(l\) が大きいほど、\(\mu\) が小さいほど(滑りにくいのでPがQについていきやすい)、必要な \(v_0\) はどうなるか?式と照らし合わせる。
- 極端な場合を考える:
- もし \(\mu=0, \mu_0=0\) (摩擦が全くない) ならどうなるか? PはQと一緒に動けない((2)で \(f=0\) なら \(a=0\) となり矛盾。最初から滑る)。
- もし \(M \gg m\) (箱が非常に重い) または \(m \gg M\) (中身が非常に重い) なら、各式はどうなるか。例えば \(M \to \infty\) なら \(A \to -\mu g\) となり、Qは床との摩擦だけで減速する。
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問題11 エネルギー保存則
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、糸で結ばれた小球Pと物体Qの運動を、エネルギー保存則を用いて解析するものです。Qは一部が滑らかで一部が粗い斜面上を運動します。Qの運動に伴いPも上下運動するため、系全体の力学的エネルギーの変化を考える必要があります。特に、摩擦力が働く区間では、その仕事の分だけ力学的エネルギーが保存しない点に注意が必要です。
- 小球P: 質量 \(m\)
- 小物体Q: 質量 \(3m\)
- 糸と滑車: 質量は無視でき、滑車は滑らかに回転。糸は伸び縮みしない。
- 斜面: 傾角 \(30^\circ\)。点Aより上側は滑らか、点Aより下側は粗い。
- 動摩擦係数: Qと斜面の粗い部分との間で \(\mu_k = \frac{1}{\sqrt{3}}\)。
- 初期条件: Pに鉛直下向きの初速 \(v_0\) を与えると、Qも初速 \(v_0\) で点Aから斜面を上向きに動き出す。
- 重力加速度: \(g\)。
- (1) Qが達する最高点Bと点Aとの距離 \(l\)。
- (2) Qがやがて下へ滑り点Cで止まったときの、AC間の距離 \(L\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、問題の指示通りエネルギー保存則を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 距離\(l\)の別解1: 「失われたエネルギー=現れたエネルギー」で考える解法
- 主たる解法が「はじめのエネルギー=あとのエネルギー」という形式で立式するのに対し、別解では運動エネルギーの変化と位置エネルギーの変化を分けて考え、「減少したエネルギーの総和=増加したエネルギーの総和」という、エネルギーの変換に着目した視点で立式します。
- 問(1) 距離\(l\)の別解2: 運動方程式を用いる解法
- エネルギー保存則ではなく、PとQそれぞれについて運動方程式を立て、加速度を求めます。その加速度を用いて、等加速度直線運動の公式から最高点までの距離を計算します。
- 問(1) 距離\(l\)の別解1: 「失われたエネルギー=現れたエネルギー」で考える解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: エネルギー保存則を単なる等式としてではなく、「ある形のエネルギーが別の形のエネルギーに変換される」という物理的なプロセスとして捉える視点(別解1)や、運動方程式を積分するとエネルギー保存則が導かれるという力学の体系的な理解(別解2)が深まります。
- 解法の選択肢の拡大: 問題で解法が指定されていない場合、運動方程式とエネルギー保存則のどちらが効率的か判断する力が養われます。一般に、途中の時間や力を問わない問題ではエネルギー保存則が有効です。
- 検算能力の向上: 同じ答えを異なる方法で導出する経験は、計算ミスを発見するための強力な検算ツールとなり得ます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は「エネルギー保存則を用いて答えよ」と指定されているため、運動方程式ではなく、力学的エネルギーの変化に着目して解き進めます。系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は、非保存力(この問題では動摩擦力)が仕事をしない場合は保存されます。非保存力が仕事をする場合は、その仕事の分だけ力学的エネルギーが変化します(仕事とエネルギーの関係)。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 外力や非保存力(摩擦力など)が仕事をしない場合、系全体の力学的エネルギーは一定に保たれる。
- 仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則の拡張): 系全体の力学的エネルギーの変化量は、非保存力がした仕事に等しい (\(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\))。
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2\)。
- 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)。基準面の取り方に注意。
- 動摩擦力がする仕事: \(W_{\text{摩擦}} = -f_k \times (\text{滑った距離})\)。動摩擦力 \(f_k = \mu_k N\)(\(N\)は垂直抗力)。仕事は常に負。