189 加速中の列車内の単振り子
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、加速度運動する列車内につるされた振り子のつり合いと振動を扱う問題です。非慣性系における「慣性力」と「みかけの重力」という重要な概念の理解が問われます。
この問題の核心は、列車とともに運動する観測者の視点(非慣性系)に立つことで、複雑な現象を静止系(慣性系)におけるより単純な問題(力のつり合いや単振動)に置き換えて考える点にあります。
- 列車の加速度: \(a\) (水平方向)
- 小物体の質量: \(m\)
- 糸の長さ: \(l\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 小物体は鉛直方向から \(\theta\) 傾いて静止している。
- (1) \(\tan\theta\) の値。
- (2) 単振動の周期 \(T\) (\(\theta\) を用いずに表す)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法(非慣性系における力のつり合い)を主たる解法として解説します。それに加え、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的に有益な別解を提示します。
- 設問(1)の別解
- 別解1: 慣性系(地上の観測者)から見た運動方程式による解法
これらの別解が教育的に有益である理由は以下の通りです。
- 慣性力という「見かけの力」を導入する非慣性系の視点と、運動の法則 \(ma=F\) に忠実に従う慣性系の視点の両方を学ぶことで、物理現象を多角的に捉える力が養われます。
- どちらの視点でも同じ結論に至ることを確認することで、物理法則の普遍性への理解が深まります。
いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「加速する座標系(非慣性系)における振り子の運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 慣性力: 加速度運動する座標系(非慣性系)で物体の運動を考える際に導入する見かけの力。加速度と逆向きに、大きさ \(ma\) が働く。
- 非慣性系における力のつり合い: 列車内の観測者から見て物体が静止している場合、物体に働くすべての力(重力、張力、慣性力など)はつり合っている。
- みかけの重力: 非慣性系において、本来の重力と慣性力を合成したものを「みかけの重力」と考えることができる。この問題では、振り子はこのみかけの重力の方向に垂れ下がり、つり合う。
- 単振動の周期: 単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) を、みかけの重力加速度を用いて類推適用する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、列車内の観測者の視点に立ち、小物体に働く力を図示します。このとき、加速度と逆向きの「慣性力」を忘れずに加えます。
- (1)では、小物体が静止していることから、水平方向と鉛直方向の力のつり合いの式を立て、\(\tan\theta\) を求めます。
- (2)では、重力と慣性力の合力である「みかけの重力」を考え、その大きさに対応する「みかけの重力加速度 \(g’\)」を計算します。そして、単振り子の周期の公式の \(g\) を \(g’\) に置き換えて周期 \(T\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
\(\tan\theta\) の値を求める問題です。列車とともに運動する観測者(非慣性系)の視点で考えます。この観測者から見ると、小物体は静止して見えます。したがって、小物体に働くすべての力の合力はゼロ、つまり力がつり合っていると考えられます。このとき、通常の力(重力、張力)に加えて、列車の加速度に起因する「慣性力」を考慮することが不可欠です。
この設問における重要なポイント
- 慣性力の導入: 列車は水平右向きに加速度 \(a\) で運動しているため、小物体には水平左向きに大きさ \(ma\) の慣性力が働いているように見えます。
- 力の図示: 小物体に働く力は、鉛直下向きの「重力 \(mg\)」、糸に沿った向きの「張力 \(S\)」、水平左向きの「慣性力 \(ma\)」の3つです。
- 力の分解とつり合い: 3つの力がつり合っているため、これらを水平・鉛直方向に分解し、それぞれの方向でつり合いの式を立てます。張力 \(S\) を分解するのが一般的です。
具体的な解説と立式
列車とともに運動する観測者(非慣性系)から見ると、小物体は静止しています。このとき、小物体に働く力は以下の3つです。
- 重力: 鉛直下向きに \(mg\)
- 張力: 糸の方向に沿って \(S\)
- 慣性力: 列車の加速度 \(a\) と逆向き(水平左向き)に \(ma\)
これらの3力がつり合っているため、力のベクトル和はゼロとなります。
張力 \(S\) を鉛直成分 \(S\cos\theta\) と水平成分 \(S\sin\theta\) に分解して、各方向の力のつり合いを考えます。
鉛直方向の力のつり合いより、
$$ S\cos\theta – mg = 0 \quad \cdots ① $$
水平方向の力のつり合いより、
$$ S\sin\theta – ma = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 慣性力: \(F = ma\)
- 力のつり合い
式①より \(S\cos\theta = mg\)、式②より \(S\sin\theta = ma\) となります。
\(\tan\theta\) を求めるために、式②を式①で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{S\sin\theta}{S\cos\theta} &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]
\tan\theta &= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
加速する電車の中では、体が進行方向と反対側に押されるように感じます。これが「慣性力」です。振り子のおもりも同じように、進行方向と反対側(左向き)に慣性力を受けます。おもりは、地球が下に引く力(重力)と、この慣性力の両方を受けながら、糸に引っ張られて斜めの位置で静止します。このとき、力のつり合いの関係から、傾く角度 \(\theta\) のタンジェントは、列車の加速度 \(a\) を重力加速度 \(g\) で割ったものになります。
小物体が傾く角度 \(\theta\) の正接(タンジェント)は \(\displaystyle\frac{a}{g}\) となります。
この結果は、列車の加速度 \(a\) が大きいほど、また重力加速度 \(g\) が小さいほど、振り子の傾き \(\theta\) が大きくなることを示しており、直感と一致します。例えば、\(a=0\)(等速直線運動)のときは \(\tan\theta=0\) となり、振り子は鉛直に垂れ下がるので、結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
地上で静止している観測者(慣性系)の視点で考えます。この観測者から見ると、小物体は列車と同じく、水平右向きに加速度 \(a\) で運動しています。これは加速度運動なので、小物体に働く力の合力はゼロではありません。ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を立てて解析します。
この設問における重要なポイント
- 運動の様相: 小物体は静止しているのではなく、列車とともに水平右向きに加速度 \(a\) で運動している。
- 働く力: この観測者からは慣性力は見えません。小物体に働く力は、実在する力である「重力 \(mg\)」と「張力 \(S\)」の2つだけです。
- 運動方程式: 水平方向には加速度運動、鉛直方向には運動がない(つり合い)ため、それぞれの方向について運動方程式(またはつり合いの式)を立てます。
具体的な解説と立式
地上で静止している観測者から見ると、小物体は水平右向きに加速度 \(a\) で運動しています。小物体に働く力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、糸の張力 \(S\) の2つです。
張力 \(S\) を鉛直成分 \(S\cos\theta\) と水平成分 \(S\sin\theta\) に分解します。
鉛直方向には運動がないため、力はつり合っています。
$$ S\cos\theta – mg = 0 \quad \cdots ③ $$
水平方向には加速度 \(a\) で運動しているため、運動方程式を立てます。運動の向き(右向き)を正とすると、
$$ m a = S\sin\theta \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 力のつり合い
式③より \(S\cos\theta = mg\)、式④より \(S\sin\theta = ma\) となります。
\(\tan\theta\) を求めるために、式④を式③で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{S\sin\theta}{S\cos\theta} &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]
\tan\theta &= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
この計算過程は、非慣性系で考えた場合と全く同じになります。
地上から見ると、おもりは電車と一緒に右向きに加速しています。ニュートンの法則によれば、物体を加速させるには力が必要です。この加速を引き起こしている力は、糸が斜めになっていることによる「張力の水平成分」です。一方、鉛直方向には動かないので、「張力の鉛直成分」は「重力」とつり合っています。この2つの関係を数式にして解くと、非慣性系で考えた場合と同じ結果が得られます。
慣性系で運動方程式を立てて解いても、非慣性系で慣性力を考慮して力のつり合いを解いても、全く同じ \(\tan\theta = \displaystyle\frac{a}{g}\) という結果が得られました。これは、慣性力という概念が、非慣性系から見た運動をニュートンの法則と矛盾なく記述するための便利なツールであることを示しています。どちらの視点でも解けるようにしておくことが重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
単振動の周期 \(T\) を求める問題です。この問題は、(1)で考えた「みかけの重力」の概念を応用します。加速する列車内では、重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) の合力が、あたかも新しい重力(みかけの重力)のように振る舞います。振り子はこの「みかけの重力」の方向を基準にして振動します。したがって、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) に含まれる重力加速度 \(g\) を、「みかけの重力加速度 \(g’\)」に置き換えることで周期を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- みかけの重力: 鉛直下向きの重力 \(mg\) と水平左向きの慣性力 \(ma\) のベクトル和が「みかけの重力 \(mg’\)」となります。
- みかけの重力加速度 \(g’\) の計算: みかけの重力 \(mg’\) の大きさは、重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) を2辺とする長方形の対角線の長さに等しく、三平方の定理から求められます。
- 周期の公式の適用: 通常の単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) の \(g\) を、上で求めた \(g’\) に置き換えて計算します。
具体的な解説と立式
列車内の観測者から見ると、小物体には鉛直下向きの重力 \(mg\) と水平左向きの慣性力 \(ma\) が常に働いています。この2つの力の合力を「みかけの重力」と考え、その大きさを \(mg’\) とします。ここで \(g’\) は「みかけの重力加速度」です。
重力と慣性力は互いに直交しているので、三平方の定理より、みかけの重力 \(mg’\) の大きさは次のように求められます。
$$ (mg’)^2 = (mg)^2 + (ma)^2 \quad \cdots ⑤ $$
この式から、みかけの重力加速度 \(g’\) を求めます。
この振り子の単振動は、みかけの重力加速度 \(g’\) のもとでの単振り子の運動とみなせます。したがって、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) の \(g\) を \(g’\) に置き換えることで、周期 \(T\) を求めることができます。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- 単振り子の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\)
まず、式⑤からみかけの重力加速度 \(g’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(mg’)^2 &= m^2(g^2 + a^2) \\[2.0ex]
m^2 (g’)^2 &= m^2(g^2 + a^2)
\end{aligned}
$$
両辺を \(m^2\) で割ると、
$$ (g’)^2 = g^2 + a^2 $$
したがって、
$$ g’ = \sqrt{g^2 + a^2} $$
この \(g’\) を式⑥に代入して、周期 \(T\) を求めます。
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{l}{\sqrt{g^2 + a^2}}} $$
加速する電車の中では、おもりは「真下」ではなく「斜め後ろ」の方向を基準にして揺れます。この「斜め後ろ」方向への力の源が「みかけの重力」です。このみかけの重力は、本来の重力よりも大きくなります。単振り子の周期は、重力が強いほど短くなる(速く振れる)性質があります。したがって、みかけの重力加速度の大きさを計算し、それを周期の公式に当てはめることで、新しい周期を計算します。
単振動の周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{\sqrt{g^2 + a^2}}}\) となります。
この式は \(\theta\) を含んでおらず、問題の要求を満たしています。
分母に \(a^2\) の項があるため、加速度 \(a\) が大きいほど分母が大きくなり、周期 \(T\) は短くなります。これは、みかけの重力が大きくなることで、振り子がより速く振動することに対応しており、物理的に妥当な結果です。もし \(a=0\) ならば、\(g’ = g\) となり、通常の単振り子の周期 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) に一致します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 非慣性系における力のつり合い:
- 核心: (1)を解くための最も重要な法則です。加速度 \(a\) で運動する列車(非慣性系)に乗っている観測者から見ると、小物体は静止しています。このとき、小物体に働く実在の力(重力 \(mg\)、張力 \(S\))に加えて、見かけの力である「慣性力 \(ma\)」を考慮すると、これらの力のベクトル和がゼロになる、つまり力がつり合っていると考えられます。
- 理解のポイント: \(S\cos\theta = mg\) と \(S\sin\theta = ma\) という2つのつり合いの式は、この物理現象を直接的に表現したものです。加速する座標系での静止は、慣性力を導入することで静力学の問題として扱える、という点がポイントです。
- みかけの重力と単振動周期の類推適用:
- 核心: (2)を解くための核心概念です。非慣性系では、本来の重力と慣性力を合成したものを「みかけの重力」として扱うことができます。振り子はこのみかけの重力の方向につり合い、その周りで単振動します。この振動の周期は、通常の単振り子の周期公式 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) の重力加速度 \(g\) を「みかけの重力加速度 \(g’\)」に置き換えることで求められます。
- 理解のポイント: \(g’ = \sqrt{g^2 + a^2}\) という関係は、重力と慣性力のベクトル和から導かれます。複雑な状況下での振動も、基準となる「復元力」の源(この場合はみかけの重力)を正しく特定し、基本公式を応用することで解ける、という思考法を学び取ることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の物理現象: 上下方向に加速するエレベーター内では、鉛直上向きまたは下向きに慣性力が働きます。ばね振り子のつり合いの位置の変化や、単振り子の周期の変化(\(g\) が \(g+a\) や \(g-a\) に変わる)などを扱う問題は典型例です。
- 回転する円盤上の物体: 回転運動も加速度運動の一種なので、円盤とともに回転する観測者から見ると、物体には「遠心力」という慣性力が働きます。この遠心力と他の力とのつり合いを考える問題に応用できます。
- 液体を入れた容器の加速: 水平に加速する容器の中の水面は、この問題の糸と同様に傾きます。水面は、みかけの重力の方向と垂直(等ポテンシャル面)になるため、\(\tan\theta = a/g\) の関係が成り立ちます。
- 初見の問題での着眼点:
- 観測者の立場を明確にする: まず「地上から見るか(慣性系)」「乗り物と一緒の立場で見るか(非慣性系)」を決めます。非慣性系で考える方が、見かけ上物体が静止したり、より単純な運動になったりして、問題が簡単になる場合が多いです。
- 非慣性系なら「慣性力」を忘れずに図示: 非慣性系を選んだら、必ず加速度と逆向きに大きさ \(ma\) の慣性力を書き加えます。これが解析の出発点です。
- 力の分解と立式: 働く力をすべて図示したら、運動を解析しやすい方向(水平・鉛直や、斜面に平行・垂直など)に座標軸を設定し、斜めの力を分解して、各方向で「力のつり合い」または「運動方程式」を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の向きの間違い:
- 誤解: 慣性力の向きを、加速度と同じ向きにしてしまう。
- 対策: 慣性力は、あくまで加速度運動する座標系から見たときの「見かけの力」であり、その向きは「加速度と必ず逆向き」と機械的に覚えましょう。電車が右に発進すれば体は左に押される、という日常体験と結びつけると忘れにくくなります。
- 慣性系と非慣性系の混同:
- 誤解: 地上から見た運動方程式(慣性系)を考えているのに、慣性力を書き込んでしまう。
- 対策: 「慣性力は、非慣性系(加速する観測者)の視点でのみ登場する架空の力」と強く意識しましょう。「地上から見るなら運動方程式 \(ma=F\)」「乗り物から見るなら力のつり合い(慣性力込み)」と、視点を明確に区別し、一つの式に両方の考え方を混ぜないようにしましょう。
- みかけの重力加速度の計算ミス:
- 誤解: みかけの重力加速度 \(g’\) を、単純な足し算 \(g+a\) で計算してしまう。
- 対策: 力はベクトル量であることを常に意識しましょう。この問題では、重力(下向き)と慣性力(左向き)は直交しています。ベクトルの和は、矢印の合成(平行四辺形または三角形の作図)で考え、大きさは三平方の定理 \(\sqrt{g^2+a^2}\) で計算することを徹底しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 力のベクトル三角形: 小物体に働く「重力 \(mg\)」(下向き)、「慣性力 \(ma\)」(左向き)、「張力 \(S\)」(右上向き)の3力はつり合っているので、ベクトルの矢印を頭と尾でつなぐと、閉じた三角形(力の三角形)ができます。この図を描くと、辺の比から \(\tan\theta = (ma)/(mg) = a/g\) であることが一目でわかります。力の分解よりも直感的に理解できます。
- 「みかけの重力」のイメージ: 重力と慣性力の合力ベクトルを描き、これを「新しい重力」と見なします。列車内では、床や壁がこの「みかけの重力」の方向に対して「水平」「鉛直」として機能しているとイメージします。振り子はこの新しい鉛直線の周りで揺れる、と考えると、(2)の周期の問題がただの単振り子の問題に見えてきます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力の作用点を明確に: すべての力(重力、張力、慣性力)は小物体の中心(重心)から生えているように描きます。
- 角度の関係を正確に: 鉛直線と糸のなす角が \(\theta\) であることを明記します。これにより、張力を分解する際の \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の使い分けミスを防ぎます。
- 慣性系と非慣性系で図を分ける: 慣性系で解く場合と非慣性系で解く場合で、それぞれ別の力の図を描く習慣をつけると、思考の混同を防げます。慣性系の図には慣性力を描かない、非慣性系の図には必ず慣性力を描く、というルールを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由: (1)で、非慣性系から見て物体が「静止」しているという事実を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)を、慣性力という概念を導入することで非慣性系に拡張適用したものです。見かけ上、加速度がゼロの状況では、見かけの力も含めた合力がゼロになります。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (1)の別解で、慣性系から見て物体が「加速度運動」しているという事実を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則そのものです。力(原因)と加速度(結果)を結びつける、力学の最も基本的な法則です。
- 単振り子の周期の公式 (\(T = 2\pi\sqrt{l/g}\)):
- 選定理由: (2)で、振り子の振動周期を求めるため。これは、復元力が \(F = -Kx\) の形(単振動の条件)で表される運動の周期を計算する公式の、振り子バージョンです。
- 適用根拠: この問題では、通常の重力 \(g\) の代わりに、みかけの重力加速度 \(g’\) が復元力の源となっています。物理的な状況は同じ(単振動)なので、対応する物理量(\(g \rightarrow g’\))を置き換えることで公式を類推適用できる、という考え方に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) \(\tan\theta\) の計算:
- 戦略: 非慣性系に乗り、慣性力を導入して力のつり合いを考える。
- フロー: ①小物体に働く力(重力、張力、慣性力)を図示 → ②張力\(S\)を鉛直・水平成分に分解 → ③鉛直方向の力のつり合いを立式 (\(S\cos\theta = mg\)) → ④水平方向の力のつり合いを立式 (\(S\sin\theta = ma\)) → ⑤式④を式③で割り、\(\tan\theta\) を計算。
- (2) 周期 \(T\) の計算:
- 戦略: みかけの重力加速度 \(g’\) を求め、単振り子の周期の公式に適用する。
- フロー: ①重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) の合力(みかけの重力)の大きさを三平方の定理で計算 (\((mg’)^2 = (mg)^2 + (ma)^2\)) → ②式を \(g’\) について解き、みかけの重力加速度を求める (\(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\)) → ③単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) の \(g\) を \(g’\) で置き換える → ④式を整理して \(T\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題は比較的単純ですが、より複雑な問題では、すぐに数値を代入するのではなく、文字式のまま計算を進めることが有効です。(1)の計算では、\(S\) を消去するために辺々割り算をするなど、記号のまま操作することで見通しが良くなります。
- ベクトルの図を丁寧に描く: (2)で \(g’\) を求める際に、\(mg\) と \(ma\) のベクトル図をきちんと描けば、三平方の定理を使うことが自然に導かれ、\(g+a\) のような単純な和で計算してしまうミスを防げます。
- 単位や次元の確認: 最終的に得られた答えの次元(単位)が、求めたい物理量の次元と一致しているかを確認する習慣をつけましょう。例えば、(1)の \(\tan\theta\) は無次元量ですが、答えの \(a/g\) も (m/s²)/(m/s²) で無次元となり、整合性が取れています。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) \(\tan\theta = a/g\): もし加速度 \(a\) がゼロなら、\(\tan\theta=0\) となり、振り子は鉛直に垂れ下がります。もし重力 \(g\) がゼロ(無重力空間)なら、\(\tan\theta\) は無限大に発散し、振り子は水平になろうとします。これらの極端な状況を考えると、得られた式が物理的に妥当であることがわかります。
- (2) 周期 \(T\): もし加速度 \(a\) がゼロなら、\(g’ = \sqrt{g^2} = g\) となり、周期は \(T = 2\pi\sqrt{l/g}\) という静止時の単振り子の周期に一致します。加速度 \(a\) が増すほど、分母の \(\sqrt{g^2+a^2}\) は大きくなり、周期 \(T\) は短くなります。これも、みかけの重力が強くなるほど振り子の振動が速くなるという直感と一致しており、妥当です。
- 別解との比較:
- (1)は、非慣性系での「力のつり合い」と、慣性系での「運動方程式」という2つの異なるアプローチで解きました。両者で全く同じ結果が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。異なる視点から同じ結論を導けることを確認するのは、物理学習において非常に重要です。
190 液体中の物体の単振動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、液体中の浮力を復元力とする物体の単振動を扱う問題です。ばね振り子の運動と非常によく似た性質を持つため、両者を対比させながら理解することが重要です。
この問題の核心は、物体が静止しているつり合いの位置からの変位 \(x\) に比例し、変位と逆向きの復元力(この場合は浮力の変化分)が働くことを見抜き、それを単振動の運動として解析する点にあります。
- 液体の密度: \(\rho\)
- 物体の断面積: \(S\)
- 静止時に液体に沈んでいる深さ: \(h\)
- 物体をさらに沈めた距離(単振動の振幅): \(d\)
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- 座標軸: 静止時の物体の底の位置を原点Oとし、鉛直下向きを正とする。
- (1) 物体の質量 \(m\)。
- (2) 振動中の物体の位置 \(x\) にはたらく力の合力 \(F\)。
- (3) 振動の周期 \(T\)。
- (4) 物体の速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説します。それに加え、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的に有益な別解を提示します。
- 設問(3)の別解
- 別解1: 運動方程式を用いた解法
- 設問(4)の別解
- 別解1: 単振動の公式 \(v_{\text{最大}} = A\omega\) を用いた解法
これらの別解が教育的に有益である理由は以下の通りです。
- 単振動の問題は、復元力から運動方程式を立てて解く方法と、ばね振り子との類推から解く方法、エネルギー保存則で解く方法など、複数のアプローチが存在します。これらを網羅的に学ぶことで、問題の条件に応じて最適な解法を選択する能力が養われます。
- 特に、運動方程式から角振動数 \(\omega\) を求める方法は、単振動の本質を理解する上で最も基本的かつ重要なアプローチです。
いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「浮力による単振動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 浮力(アルキメデスの原理): 液体中の物体が受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた液体の重さに等しい。式で表すと \(F_{\text{浮力}} = \rho V g\) となる(\(\rho\)は液体の密度、\(V\)は物体が液体中に沈んでいる部分の体積)。
- 力のつり合い: 物体が静止している状態では、物体に働く重力と浮力がつり合っている。
- 単振動の復元力: 物体をつり合いの位置からずらしたとき、つり合いの位置に戻そうとする力が働く。この力が変位 \(x\) に比例し、向きが逆(\(F = -Kx\))のとき、物体は単振動する。この \(K\) は「ばね定数」に相当する。
- 力学的エネルギー保存則: 復元力(保存力)のみが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、物体が静止している状態での「重力と浮力のつり合い」の式を立てて、質量 \(m\) を求めます。
- (2)では、つり合いの位置からさらに \(x\) だけ沈んだときの浮力を計算し、重力との合力を求めることで、復元力 \(F\) を \(x\) の関数として表します。
- (3)では、(2)で求めた復元力の式を \(F=-Kx\) の形と見なして、ばね定数に相当する \(K\) を特定し、ばね振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を用いて周期 \(T\) を計算します。
- (4)では、物体を \(d\) だけ沈めて静かにはなした瞬間と、振動の中心(つり合いの位置)を通過する瞬間の間で、力学的エネルギー保存則を適用して速さの最大値を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体の質量 \(m\) を求める問題です。物体は液体中に \(h\) だけ沈んで「静止」している、という記述が最大のヒントです。静止しているということは、力がつり合っている状態です。この物体に働く力は、鉛直下向きの「重力 \(mg\)」と、鉛直上向きの「浮力」の2つです。この2つの力がつり合っているという関係式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 働く力の特定: 物体に働く力は、重力と浮力の2つ。
- 浮力の計算: 浮力の大きさは、物体が押しのけた液体の重さに等しい。液体に沈んでいる部分の体積は、断面積 \(S\) × 深さ \(h\) で \(Sh\) となる。したがって、浮力の大きさは \(\rho (Sh) g\) と計算できる。
- 力のつり合い: 「重力 = 浮力」の関係式を立てる。
具体的な解説と立式
物体が静止しているとき、物体に働く力は鉛直下向きの重力 \(mg\) と、鉛直上向きの浮力 \(F_{\text{浮力}}\) です。
これらの力がつり合っているので、
$$ mg = F_{\text{浮力}} \quad \cdots ① $$
浮力の大きさは、アルキメデスの原理より、物体が押しのけた液体の重さに等しくなります。
液体に沈んでいる部分の体積は \(V = Sh\) なので、浮力は
$$ F_{\text{浮力}} = \rho (Sh) g \quad \cdots ② $$
となります。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 浮力: \(F_{\text{浮力}} = \rho V g\)
式②を式①に代入します。
$$ mg = \rho Shg $$
両辺を \(g\) で割ると、質量 \(m\) が求まります。
$$ m = \rho Sh $$
物体がプカプカと浮いて静止しているのは、地球が物体を下に引く力(重力)と、水が物体を上に押し上げる力(浮力)がちょうど同じ大きさだからです。浮力の大きさは、物体が沈んでいる部分の体積分の水の重さと同じです。この「重力=浮力」という関係を数式にして、物体の質量を計算します。
物体の質量は \(m = \rho Sh\) です。
この式は、物体の質量が、押しのけた液体の質量に等しいことを示しています。これは力のつり合いから導かれた当然の結果であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
振動中の物体にはたらく力の合力 \(F\) を求める問題です。座標軸は、つり合いの位置Oを原点(\(x=0\))とし、鉛直下向きが正と定められています。位置 \(x\) にあるとき、物体はつり合いの位置からさらに \(x\) だけ沈んでいるので、水面下の深さは \(h+x\) となります。このときの浮力を計算し、常に一定である重力との合力を求めます。
この設問における重要なポイント
- 位置 \(x\) での浮力: 物体が沈んでいる深さは \(h+x\) なので、このときの浮力は \(\rho S(h+x)g\) となる。
- 合力の計算: 合力 \(F\) は、物体に働くすべての力のベクトル和です。鉛直下向きを正としているので、下向きの重力は \(+mg\)、上向きの浮力は \(-\rho S(h+x)g\) として計算します。
- (1)の結果の利用: 計算の途中で現れる \(mg\) を、(1)で求めた \(\rho Shg\) で置き換える。
具体的な解説と立式
物体の底が位置 \(x\) にあるとき、物体が液体に沈んでいる深さは \(h+x\) です。
このとき物体に働く浮力 \(F’_{\text{浮力}}\) は、鉛直上向きに
$$ F’_{\text{浮力}} = \rho S(h+x)g $$
となります。
一方、重力は鉛直下向きに常に \(mg\) です。
鉛直下向きを正として、力の合力 \(F\) を求めると、
$$ F = mg – F’_{\text{浮力}} $$
$$ F = mg – \rho S(h+x)g \quad \cdots ③ $$
ここで、(1)の結果 \(m = \rho Sh\) を用いて \(mg = \rho Shg\) を代入します。
使用した物理公式
- 浮力: \(F_{\text{浮力}} = \rho V g\)
式③に \(mg = \rho Shg\) を代入して計算を進めます。
$$
\begin{aligned}
F &= (\rho Shg) – \rho S(h+x)g \\[2.0ex]
&= \rho Shg – \rho Shg – \rho Sgx \\[2.0ex]
&= -\rho Sgx
\end{aligned}
$$
物体がつり合いの位置から \(x\) だけ下に沈むと、その分だけ浮力が増加します。この増えた分の浮力が、物体を上向き(つり合いの位置)に押し戻そうとする力になります。力の合力は、この「増えた分の浮力」と等しく、向きが反対(上向き)になります。計算すると、この力は変位 \(x\) に比例することがわかります。
力の合力は \(F = -\rho Sgx\) となります。
この式は、\(F = -Kx\) の形をしています。これは、力の合力が変位 \(x\) に比例し、向きが常に原点(つり合いの位置)を向く「復元力」であることを示しています。したがって、この物体が単振動をすることが理論的に裏付けられました。\(x>0\)(つり合いの位置より下)のとき \(F<0\)(力は上向き)、\(x<0\)(つり合いの位置より上)のとき \(F>0\)(力は下向き)となり、符号の関係も正しいです。
問(3)
思考の道筋とポイント
単振動の周期 \(T\) を求める問題です。(2)で求めた復元力の式 \(F = -\rho Sgx\) を、単振動の復元力の一般式 \(F = -Kx\) と比較することで、この振動における「ばね定数」に相当する量 \(K\) を見つけ出します。そして、ばね振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) に、(1)で求めた質量 \(m\) と、ここで見つけた \(K\) を代入して周期を計算します。
この設問における重要なポイント
- ばね定数 \(K\) の特定: \(F = -\rho Sgx\) と \(F = -Kx\) を比較して、\(K = \rho Sg\) と特定する。
- 周期の公式の適用: ばね振り子の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) を用いる。
- (1)の結果の利用: 公式に \(m = \rho Sh\) を代入する。
具体的な解説と立式
(2)で求めた力の合力の式
$$ F = -(\rho Sg)x $$
は、単振動の復元力の式 \(F = -Kx\) と同じ形をしています。
両式を比較することで、この単振動のばね定数に相当する \(K\) は、
$$ K = \rho Sg \quad \cdots ④ $$
であることがわかります。
単振動の周期 \(T\) は、質量 \(m\) とばね定数 \(K\) を用いて、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \quad \cdots ⑤ $$
と表されます。
使用した物理公式
- 単振動の復元力: \(F = -Kx\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
式⑤に、(1)で求めた \(m = \rho Sh\) と、式④の \(K = \rho Sg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{\rho Sh}{\rho Sg}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{h}{g}}
\end{aligned}
$$
この物体の振動は、まるで「見えないばね」で振動しているかのように振る舞います。この「浮力ばね」の強さ(ばね定数)は、(2)の結果からわかります。あとは、物体の質量とこのばねの強さを使って、ばね振り子の周期を計算する公式に当てはめれば、周期が計算できます。
周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{h}{g}}\) となります。
興味深いことに、周期は液体の密度 \(\rho\) や物体の断面積 \(S\) には依存せず、つり合い時に沈んでいる深さ \(h\) と重力加速度 \(g\) だけで決まることがわかります。これは、質量 \(m\) とばね定数 \(K\) の両方に \(\rho S\) が含まれており、周期の計算の際に打ち消し合うためです。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
運動方程式 \(ma=F\) を用いて角振動数 \(\omega\) を直接求め、周期の公式 \(T=2\pi/\omega\) から周期を計算する方法です。これは単振動を解析する上で最も基本的なアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式の立式: \(ma = F\) に、(1)で求めた \(m\) と(2)で求めた \(F\) を代入する。
- 角振動数 \(\omega\) の特定: 得られた加速度 \(a\) の式を、単振動の加速度の一般式 \(a = -\omega^2 x\) と比較して、\(\omega\) を求める。
- 周期の計算: \(T = 2\pi/\omega\) の関係式を用いて周期 \(T\) を計算する。
具体的な解説と立式
物体の運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
左辺の \(m\) には(1)の結果 \(m=\rho Sh\) を、右辺の \(F\) には(2)の結果 \(F = -\rho Sgx\) を代入します。
$$ (\rho Sh) a = -\rho Sgx $$
この式を加速度 \(a\) について解き、単振動の定義式 \(a = -\omega^2 x\) と比較します。
周期 \(T\) と角振動数 \(\omega\) の間には、
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} \quad \cdots ⑥ $$
という関係があります。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 単振動の加速度: \(a = -\omega^2 x\)
- 周期と角振動数の関係: \(T = 2\pi/\omega\)
運動方程式から加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(\rho Sh) a &= -\rho Sgx \\[2.0ex]
a &= -\frac{\rho Sg}{\rho Sh}x \\[2.0ex]
a &= -\frac{g}{h}x
\end{aligned}
$$
この式を \(a = -\omega^2 x\) と比較すると、
$$ \omega^2 = \frac{g}{h} $$
よって、角振動数 \(\omega\) は、
$$ \omega = \sqrt{\frac{g}{h}} $$
これを式⑥に代入して、周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi \frac{1}{\sqrt{g/h}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{h}{g}}
\end{aligned}
$$
運動方程式から直接計算しても、ばね振り子との類推で計算しても、同じ周期 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{h}{g}}\) が得られました。これにより、計算の正しさが確認できます。
問(4)
思考の道筋とポイント
物体の速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) を求める問題です。単振動において、速さが最大になるのは振動の中心(つり合いの位置、\(x=0\))を通過するときです。この問題では、復元力(重力と浮力の合力)以外の外力や非保存力(空気抵抗など)は働かないため、力学的エネルギーは保存されます。そこで、振動の端(\(x=d\))と振動の中心(\(x=0\))の2点で力学的エネルギー保存則の式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 速さが最大になる位置: 振動の中心(\(x=0\))。このとき、変位がゼロなので位置エネルギーはゼロ。
- 単振動の位置エネルギー: ばね振り子と同様に、単振動の位置エネルギーは \(U = \frac{1}{2}Kx^2\) と表せる。ここで \(K\) は(3)で求めた \(K=\rho Sg\)。
- 力学的エネルギー保存則: 「(振動の端でのエネルギー)=(振動の中心でのエネルギー)」の式を立てる。振動の端(\(x=d\))では速さがゼロなので運動エネルギーはゼロ。
具体的な解説と立式
この単振動では力学的エネルギーが保存されます。
単振動のエネルギーは、運動エネルギー \(E_k = \frac{1}{2}mv^2\) と、復元力による位置エネルギー \(U = \frac{1}{2}Kx^2\) の和です。
ここで、ばね定数に相当する \(K\) は(3)より \(K=\rho Sg\) です。
物体を距離 \(d\) だけ沈めて静かにはなした瞬間(振動の端、\(x=d\))の力学的エネルギー \(E_1\) は、速さが \(v=0\) なので、
$$ E_1 = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}Kd^2 $$
$$ E_1 = \frac{1}{2}Kd^2 $$
振動の中心(\(x=0\))を通過する瞬間の力学的エネルギー \(E_2\) は、速さが最大値 \(v_{\text{最大}}\) であり、位置エネルギーがゼロなので、
$$ E_2 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 + \frac{1}{2}K(0)^2 $$
$$ E_2 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_1 = E_2\) より、
$$ \frac{1}{2}Kd^2 = \frac{1}{2}mv_{\text{最大}}^2 \quad \cdots ⑦ $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 単振動の位置エネルギー: \(U = \frac{1}{2}Kx^2\)
式⑦を \(v_{\text{最大}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}}^2 &= \frac{K}{m}d^2 \\[2.0ex]
v_{\text{最大}} &= \sqrt{\frac{K}{m}} d
\end{aligned}
$$
ここに、\(m = \rho Sh\) と \(K = \rho Sg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= \sqrt{\frac{\rho Sg}{\rho Sh}} d \\[2.0ex]
&= d\sqrt{\frac{g}{h}}
\end{aligned}
$$
物体を一番下まで押し込んだとき、物体は「位置エネルギー」を最大に蓄えています。手をはなすと、この位置エネルギーが「運動エネルギー」に変換され、物体は加速します。ちょうど真ん中のつり合いの位置に来たとき、全ての位置エネルギーが運動エネルギーに変わり、速さが最大になります。このエネルギーの変換の様子を数式(エネルギー保存則)で表して、最大の速さを計算します。
速さの最大値は \(v_{\text{最大}} = d\sqrt{\displaystyle\frac{g}{h}}\) です。
振幅 \(d\) が大きいほど、また周期が短い(\(\sqrt{g/h}\) が大きい)ほど、最大速度が大きくなるという結果であり、直感と一致しています。
思考の道筋とポイント
単振動の速さの最大値は、振幅 \(A\) と角振動数 \(\omega\) を用いて \(v_{\text{最大}} = A\omega\) と表されることを利用する、より直接的な解法です。
この設問における重要なポイント
- 振幅 \(A\) の特定: 物体を \(d\) だけ沈めて静かにはなしているので、この振動の振幅は \(A=d\) である。
- 角振動数 \(\omega\) の特定: (3)の別解(運動方程式)の考察から、\(\omega = \sqrt{g/h}\) であることがわかっている。
- 公式の適用: \(v_{\text{最大}} = A\omega\) に値を代入する。
具体的な解説と立式
単振動における速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\) は、振幅を \(A\)、角振動数を \(\omega\) として、
$$ v_{\text{最大}} = A\omega $$
と表されます。
この問題では、物体を距離 \(d\) だけ沈めてから静かにはなしているので、振幅は \(A=d\) です。
また、(3)の運動方程式を用いた解法から、角振動数は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{g}{h}}\) であることがわかっています。
使用した物理公式
- 単振動の最大速度: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
これらの値を公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= d \times \sqrt{\frac{g}{h}} \\[2.0ex]
&= d\sqrt{\frac{g}{h}}
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則を用いた解法と全く同じ結果が得られました。単振動の公式を覚えていれば、こちらの解法の方が計算は遥かに簡潔です。どちらの方法でも解けるようにしておくことが望ましいです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合いとアルキメデスの原理:
- 核心: (1)を解くための基本法則です。物体が静止している状態では、鉛直下向きの「重力」と、鉛直上向きの「浮力」がつり合っています。浮力の大きさは、アルキメデスの原理「物体が押しのけた流体の重さに等しい(\(F_{\text{浮力}} = \rho V g\))」から計算します。
- 理解のポイント: \(mg = \rho Shg\) というつり合いの式は、この物理現象を直接的に表現したものです。浮力が関わる問題の第一歩は、つり合い条件を正しく立式することです。
- 単振動の復元力(\(F=-Kx\)):
- 核心: (2)と(3)を解くための核心概念です。物体をつり合いの位置から変位 \(x\) だけずらすと、浮力が変化します。この「浮力の変化分」が、物体をつり合いの位置に戻そうとする「復元力」として働きます。この復元力が \(F = -(\rho Sg)x\) となり、変位 \(x\) に比例し逆を向くため、物体は単振動することがわかります。
- 理解のポイント: この問題は、ばね定数 \(K\) が \(\rho Sg\) に相当する「ばね振り子」と全く同じように扱うことができます。この類推ができるかどうかが、問題をスムーズに解く鍵となります。
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: (4)を解くための重要な法則です。復元力(この場合は重力と浮力の合力)は保存力なので、物体の運動エネルギーと、単振動の位置エネルギー(\(U = \frac{1}{2}Kx^2\))の和は、振動中に一定に保たれます。
- 理解のポイント: 振動の端(速さゼロ、位置エネルギー最大)と振動の中心(速さ最大、位置エネルギーゼロ)でエネルギー保存則を立式することで、最大速度などを効率的に求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- U字管内の液体振動: U字管に入れた液体を一方に押し下げてはなすと、液面はつり合いの位置を中心に単振動します。この場合、左右の液面差によって生じる液体の重さの差が復元力となります。
- 気体の断熱変化とピストン: シリンダーに閉じ込めた気体をピストンで少し押し込んで離すと、ピストンは単振動します。この場合、圧力の変化による力の差が復元力となります。
- 電気振動(LC回路): コイルとコンデンサーをつないだ回路では、コンデンサーの電荷が単振動のように変化します。これは、力学的な単振動と数学的に全く同じ方程式で記述されるため、類推が可能です。
- 初見の問題での着眼点:
- つり合いの位置を探す: まず、物体に働く力がすべてつり合う「安定した静止位置」を見つけます。ここが単振動の中心(原点)になります。
- つり合いの位置からの変位 \(x\) を定義する: つり合いの位置を原点として、そこからのずれを文字 \(x\) で置きます。
- 変位 \(x\) のときの合力を計算する: 物体が位置 \(x\) にあるときに働くすべての力を図示し、その合力 \(F\) を計算します。
- \(F=-Kx\) の形になっているか確認する: 計算した合力 \(F\) が、\(F = -(\text{正の定数}) \times x\) という形になっていれば、その運動は単振動であると断定できます。この「正の定数」がばね定数 \(K\) に相当します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力の合力の計算ミス:
- 誤解: (2)で力の合力を求めるときに、重力 \(mg\) と、位置 \(x\) での浮力 \(\rho S(h+x)g\) だけで考えてしまい、符号や計算を間違える。
- 対策: 必ず「つり合いの式(\(mg = \rho Shg\))」を最初に立て、それを代入して消去する、という手順を踏みましょう。そうすることで、合力が \(F = -\rho Sgx\) というシンプルな形に整理され、復元力であることが明確になります。「復元力=浮力の変化分」と覚えておくのも有効です。
- 周期の公式の混同:
- 誤解: 単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) と、ばね振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を混同して使ってしまう。
- 対策: 「復元力が \(F=-Kx\) の形になる運動は、すべて『ばね振り子型』」と覚えましょう。この問題は浮力が復元力なので、ばね振り子の公式を使います。文字 \(l\)(長さ)が登場する単振り子とは全く別物です。
- エネルギー保存則での位置エネルギーの誤り:
- 誤解: (4)で力学的エネルギー保存則を考える際に、重力による位置エネルギー \(mgh\) を別に考えてしまい、式が複雑になる。
- 対策: 単振動のエネルギーを考えるときは、「つり合いの位置を基準とした復元力による位置エネルギー \(U = \frac{1}{2}Kx^2\)」だけを考えれば、重力や元の浮力の影響はすべて含まれています。この考え方を使うと、式が非常にシンプルになります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 「浮力ばね」のイメージ: 物体と液体の間に、つり合いの位置で自然長になる「見えないばね」が存在するとイメージします。物体を押し込むとばねが縮んで押し返し、引き上げるとばねが伸びて引き戻す。この「ばね」の強さ(ばね定数)が \(K=\rho Sg\) に相当します。このイメージを持つことで、周期やエネルギーの計算が、既習のばね振り子の問題と全く同じであると直感的に理解できます。
- 力の変化を図示する: 「つり合いの状態」「下に \(x\) だけずれた状態」「上に \(x\) だけずれた状態」の3つの図を描き、それぞれの場合の重力と浮力の矢印の長さを描き分けます。重力は常に一定ですが、浮力は沈むほど長くなる(大きくなる)ことを図で確認すると、なぜ復元力が生じるのかが視覚的に理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 座標軸の向きを明確に: 問題文で「鉛直下向きにx軸」と指定されているので、図にもその向きを矢印で明記します。これにより、力の符号のミスを防ぎます。
- 基準点(原点)を明確に: どこが \(x=0\) の位置なのか(つり合いの物体の底の位置)を図に示します。変位 \(x\) はこの基準点からの距離であることを意識します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由: (1)で、物体が「静止」しているという物理状態を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則に基づき、加速度がゼロの物体に働く合力はゼロであるという普遍的な原理を適用します。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (3)の別解で、物体の運動(加速度)と力(原因)の関係を直接記述するため。単振動であることを証明し、角振動数を求める最も基本的な方法です。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則そのものです。ここから \(a = -\omega^2 x\) の形を導くことが、単振動の解析の王道です。
- ばね振り子の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
- 選定理由: (3)で、復元力が \(F=-Kx\) の形であることがわかったため。この形の力によって生じる単振動の周期を計算するための専用公式です。
- 適用根拠: 運動方程式 \(ma=-Kx\) を解くと、周期がこの式になることが数学的に証明されています。その結果を公式として利用します。
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (4)で、振動中の任意の2点間での速さと位置の関係を調べるため。特に「最大値」を問う問題に有効です。
- 適用根拠: 働く力が保存力(復元力)のみであるため、エネルギーの総和が保存されるという物理法則を適用します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 質量の計算:
- 戦略: 静止時の力のつり合いを利用する。
- フロー: ①物体に働く力(重力、浮力)を図示 → ②浮力を計算 (\(F_{\text{浮力}}=\rho Shg\)) → ③力のつり合いを立式 (\(mg = \rho Shg\)) → ④式を \(m\) について解く。
- (2) 合力の計算:
- 戦略: つり合いの位置からの変位 \(x\) のときの力を考え、合力を求める。
- フロー: ①位置 \(x\) での浮力を計算 (\(F’_{\text{浮力}}=\rho S(h+x)g\)) → ②合力を立式 (\(F = mg – F’_{\text{浮力}}\)) → ③(1)のつり合いの関係式を代入して式を整理し、\(F = -\rho Sgx\) を導く。
- (3) 周期の計算:
- 戦略: ばね振り子との類推により、周期の公式を適用する。
- フロー: ①(2)の結果からばね定数 \(K\) を特定 (\(K=\rho Sg\)) → ②周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) に、\(m=\rho Sh\) と \(K\) を代入 → ③式を整理して計算。
- (4) 最大速度の計算:
- 戦略: 振動の端と中心で、力学的エネルギー保存則を適用する。
- フロー: ①単振動の位置エネルギーの式 \(U=\frac{1}{2}Kx^2\) を準備 → ②振動の端(\(x=d\))でのエネルギー(位置エネルギーのみ)と、中心(\(x=0\))でのエネルギー(運動エネルギーのみ)を立式 → ③エネルギー保存則の式を立て、\(v_{\text{最大}}\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、途中の計算結果が後の設問で必要になる場合、最後まで文字式のまま計算を進めることで、約分などにより最終的な式がきれいになります。例えば、(3)の周期の計算では \(\rho\) と \(S\) がきれいに消去されます。
- 物理量の対応関係を意識する: この問題は「ばね振り子」と対応させて考えることができます。\(K \leftrightarrow \rho Sg\) の対応関係を意識することで、ばね振り子で覚えた公式(周期、エネルギー、最大速度など)をそのまま流用でき、計算ミスを減らせます。
- 単位の確認: (3)で求めた周期の式の右辺 \(\sqrt{h/g}\) の単位は \(\sqrt{\text{m} / (\text{m/s}^2)} = \sqrt{\text{s}^2} = \text{s}\) となり、周期の単位と一致します。このように単位を確認(次元解析)する習慣は、間違いの発見に役立ちます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 周期 \(T = 2\pi\sqrt{h/g}\): 周期が \(\rho\) や \(S\) によらないという結果は一見不思議ですが、質量 \(m\) もばね定数 \(K\) も \(\rho S\) に比例するため、比を取ると打ち消し合う、と考えると納得できます。また、重力 \(g\) が大きいほど周期が短くなる(速く振動する)という関係も直感に合っています。
- (4) 最大速度 \(v_{\text{最大}} = d\sqrt{g/h}\): 振幅 \(d\) が大きいほど、蓄えられる位置エネルギーが大きくなるので、最大速度も大きくなるはずです。式は \(v_{\text{最大}}\) が \(d\) に比例することを示しており、妥当です。また、\(h\) が小さい(=周期が短い、ばねが強い)ほど、速く振動するので最大速度も大きくなる、という関係も式と一致しています。
- 別解との比較:
- (3)の周期は、「ばね振り子との類推」と「運動方程式」の2つのアプローチで求められました。(4)の最大速度は、「エネルギー保存則」と「単振動の公式 \(v_{\text{最大}}=A\omega\)」で求められました。それぞれ全く同じ結果が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。
191 ゴムひもによる小球の運動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ゴムひもにつながれた小球の落下運動を扱う問題で、自由落下と単振動が組み合わさった複合的な運動を解析します。
この問題の核心は、小球の位置によって運動の性質が変化する点にあります。ゴムひもがゆるんでいる区間(\(x \le L\))では「自由落下」、ゴムひもが伸びている区間(\(x > L\))では「ばね(ゴムひも)の弾性力と重力による単振動」となります。それぞれの区間で適切な物理法則(エネルギー保存則や単振動の理論)を適用し、運動をつなぎ合わせていく能力が問われます。
- ゴムひもの自然の長さ: \(L\)
- 小球の質量: \(m\)
- ばね定数: \(k\) (\(x>L\)のとき)
- 座標軸: 屋根の位置を原点とし、鉛直下向きを正とする。
- 小球は \(x=0\) から静かにはなされる。
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- (ア) \(x=L\) での速さ \(v_L\)。
- (イ) 張力と重力がつりあう位置 \(x_1\)。
- (ウ) \(x=x_1\) での速さ \(v_1\)。
- (エ) 最下点の位置 \(x_2\)。
- (オ) \(x_1\) を通過してから最下点を経て再び \(x_1\) に戻るまでの時間。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説します。それに加え、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的に有益な別解を提示します。
- 設問(ウ)の別解
- 別解1: 単振動のエネルギー保存則を用いた解法
- 設問(エ)の別解
- 別解1: 単振動のエネルギー保存則を用いた解法
これらの別解が教育的に有益である理由は以下の通りです。
- この問題は、自由落下と単振動という2つの運動が組み合わさっています。模範解答は、各区間で力学的エネルギー保存則を丁寧に適用する正攻法で解いています。
- 一方で、\(x>L\) の領域が「単振動」であることを見抜けば、単振動のエネルギー保存則(つり合いの位置を基準とする位置エネルギー \(U=\frac{1}{2}k(\text{変位})^2\) を用いる方法)といった、より洗練されたアプローチが可能です。
- これらの別解を学ぶことで、複雑な問題設定の中から本質(単振動)を見抜き、問題をよりシンプルにモデル化して解く力を養うことができます。
いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「自由落下と単振動の接続」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 自由落下: \(x \le L\) の区間では、小球に働く力は重力のみ。等加速度直線運動の公式や、力学的エネルギー保存則が適用できる。
- 力のつり合い: \(x > L\) の区間で、ゴムひもの弾性力と重力がつりあう点が、単振動の中心となる。
- 単振動: \(x > L\) の区間では、小球はつり合いの位置を中心として単振動する。運動方程式や単振動の周期・エネルギーの公式が利用できる。
- 力学的エネルギー保存則: 各区間、あるいは区間をまたいでエネルギー保存則を適用する。特に、ゴムひもの弾性エネルギー \(U = \frac{1}{2}k(\text{伸び})^2\) の扱いに注意が必要。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、\(x=0\) から \(x=L\) までの自由落下について、力学的エネルギー保存則を適用します。
- (イ)では、\(x=x_1\) の位置で働く「重力」と「弾性力」の力のつり合いの式を立てます。
- (ウ)と(エ)では、ゴムひもが伸び始める \(x=L\) の瞬間と、それぞれの位置(\(x=x_1\), \(x=x_2\))との間で、重力と弾性力による力学的エネルギー保存則を適用します。
- (オ)では、\(x>L\) の運動が \(x=x_1\) を中心とする単振動であることを見抜き、求める時間が単振動の半周期に相当することから計算します。
(ア)
思考の道筋とポイント
\(x=L\) の位置での小球の速さを求める問題です。\(x=0\) から \(x=L\) までの区間では、ゴムひもはゆるんでおり、小球に力を及ぼしません。したがって、この区間の小球の運動は、重力のみが働く「自由落下」となります。初めの位置(\(x=0\))と \(x=L\) の位置とで、力学的エネルギー保存則を立てるのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 運動の特定: \(0 \le x \le L\) の区間は自由落下である。
- エネルギー保存則の適用: 重力のみが仕事をするので、力学的エネルギー(運動エネルギー+重力による位置エネルギー)は保存される。
- 位置エネルギーの基準: 屋根の位置(\(x=0\))を重力による位置エネルギーの基準(\(U_g=0\))とすると、位置 \(x\) での位置エネルギーは \(-mgx\) となる。
具体的な解説と立式
小球をはなした \(x=0\) の点と、ゴムひもが伸び始める直前の \(x=L\) の点で、力学的エネルギー保存則を考えます。
屋根の位置 \(x=0\) を重力による位置エネルギーの基準とします。
– \(x=0\) での力学的エネルギー \(E_0\):
静かにはなすので速さは \(v_0=0\)。位置エネルギーも基準なので \(U_g=0\)。
$$ E_0 = \frac{1}{2}m(0)^2 + 0 $$
$$ E_0 = 0 $$
– \(x=L\) での力学的エネルギー \(E_L\):
速さを \(v_L\) とすると、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_L^2\)。位置エネルギーは \(-mgL\)。
$$ E_L = \frac{1}{2}mv_L^2 – mgL $$
力学的エネルギー保存則 \(E_0 = E_L\) より、
$$ 0 = \frac{1}{2}mv_L^2 – mgL \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\) (基準からの高さh)
式①を \(v_L\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_L^2 &= mgL \\[2.0ex]
v_L^2 &= 2gL
\end{aligned}
$$
\(v_L > 0\) なので、
$$ v_L = \sqrt{2gL} $$
屋根からゴムが伸びきる直前までは、小球はただの自由落下をします。高さ \(L\) だけ落下したときの速さを求める問題と同じです。失った位置エネルギーが、すべて運動エネルギーに変わった、というエネルギー保存の関係から速さを計算します。
\(x=L\) での速さは \(\sqrt{2gL}\) です。これは、高さ \(L\) から物体を自由落下させたときの速さの公式と一致しており、物理的に妥当な結果です。
(イ)
思考の道筋とポイント
張力(弾性力)と重力がつりあう位置 \(x_1\) を求める問題です。\(x_1 > L\) なので、この位置ではゴムひもは伸びて弾性力が働いています。つり合いの位置では、鉛直上向きの弾性力と、鉛直下向きの重力が等しい大きさになります。この力のつり合いの式を立てます。
この設問における重要なポイント
- ゴムひもの伸び: 位置 \(x_1\) でのゴムひもの伸びは、自然の長さ \(L\) からの増加分なので、\(x_1 – L\) となる。
- 弾性力の計算: 弾性力の大きさは、フックの法則 \(F=kx\) より、\(k(x_1 – L)\) となる。
- 力のつり合い: 「弾性力 = 重力」の関係式を立てる。
具体的な解説と立式
位置 \(x_1\) において、小球に働く力は以下の2つです。
– 重力: 鉛直下向きに \(mg\)
– 弾性力: 鉛直上向きに \(k(x_1 – L)\)
これらの力がつり合っているので、
$$ mg – k(x_1 – L) = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- フックの法則: \(F=kx\)
- 力のつり合い
式②を \(x_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
k(x_1 – L) &= mg \\[2.0ex]
x_1 – L &= \frac{mg}{k} \\[2.0ex]
x_1 &= \frac{mg}{k} + L
\end{aligned}
$$
ゴムひもにぶら下がったおもりが静止する位置を求めるのと同じです。ゴムが伸びて、その「元に戻ろうとする力(弾性力)」が、おもりを下に引く「重力」とちょうど同じ大きさになった点でつり合います。この関係を数式にして、つり合いの位置 \(x_1\) を計算します。
つり合いの位置は \(x_1 = \displaystyle\frac{mg}{k} + L\) です。
この位置は、ゴムひもが自然長から \(\displaystyle\frac{mg}{k}\) だけ伸びた点に対応します。これは、ばね定数 \(k\) のばねに質量 \(m\) のおもりをつるしたときのつり合いの伸びと同じであり、妥当な結果です。
(ウ)
思考の道筋とポイント
つり合いの位置 \(x_1\) での速さ \(v_1\) を求める問題です。\(x > L\) の区間では、重力と弾性力の両方が仕事をするため、これらの力を合わせた力学的エネルギーが保存されます。ゴムひもが伸び始める \(x=L\) の瞬間と、つり合いの位置 \(x=x_1\) を通過する瞬間の2点で、力学的エネルギー保存則を立てます。
この設問における重要なポイント
- 保存されるエネルギー: 運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性力による位置エネルギーの和が保存される。
- 弾性エネルギー: ゴムひもの伸びが \(x’ = x-L\) のとき、弾性エネルギーは \(U_e = \frac{1}{2}k(x-L)^2\) と表される。
- エネルギー保存則の立式: 「\(x=L\) でのエネルギー」=「\(x=x_1\) でのエネルギー」の式を立てる。
具体的な解説と立式
\(x=L\) と \(x=x_1\) の間で、力学的エネルギー保存則を考えます。屋根の位置 \(x=0\) を重力による位置エネルギーの基準とします。
– \(x=L\) での力学的エネルギー \(E_L\):
速さは(ア)で求めた \(v_L = \sqrt{2gL}\)。ゴムは伸びていないので弾性エネルギーは0。
$$ E_L = \frac{1}{2}mv_L^2 – mgL + 0 $$
ここに \(v_L^2 = 2gL\) を代入すると、
$$ E_L = \frac{1}{2}m(2gL) – mgL $$
$$ E_L = 0 $$
– \(x=x_1\) での力学的エネルギー \(E_1\):
速さを \(v_1\)、ゴムの伸びを \(x_1 – L\) とする。
$$ E_1 = \frac{1}{2}mv_1^2 – mgx_1 + \frac{1}{2}k(x_1 – L)^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_L = E_1\) より、
$$ 0 = \frac{1}{2}mv_1^2 – mgx_1 + \frac{1}{2}k(x_1 – L)^2 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 弾性力による位置エネルギー: \(U_e = \frac{1}{2}kx^2\)
式③に(イ)の結果 \(x_1 = \frac{mg}{k} + L\) と、つり合いの条件 \(mg = k(x_1-L)\) を代入して \(v_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_1^2 &= mgx_1 – \frac{1}{2}k(x_1 – L)^2 \\[2.0ex]
&= mg\left(\frac{mg}{k} + L\right) – \frac{1}{2}k\left(\frac{mg}{k}\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{(mg)^2}{k} + mgL – \frac{1}{2}\frac{(mg)^2}{k} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\frac{(mg)^2}{k} + mgL
\end{aligned}
$$
両辺に \(\frac{2}{m}\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
v_1^2 &= \frac{(mg)^2}{mk} + 2gL \\[2.0ex]
&= \frac{m g^2}{k} + 2gL
\end{aligned}
$$
よって、
$$ v_1 = \sqrt{2gL + \frac{mg^2}{k}} $$
これは模範解答の \( \sqrt{g(2L + \frac{mg}{k})} \) と同じです。
ゴムが伸び始めてから、つり合いの位置までの運動を考えます。この間、重力は小球を加速させようとし、ゴムの弾性力は減速させようとします。これらのエネルギーのやり取りを、エネルギー保存則という形で数式にし、つり合いの位置での速さを計算します。
つり合いの位置での速さは \(v_1 = \sqrt{2gL + \frac{mg^2}{k}}\) となります。
この速さは、ゴムが伸び始める瞬間の速さ \(v_L = \sqrt{2gL}\) よりも大きくなっています。これは、\(x=L\) から \(x=x_1\) までの区間では、下向きの重力が上向きの弾性力よりも常に大きいため、小球は加速し続けるからです。結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
\(x>L\) の区間は、\(x=x_1\) を中心とする単振動とみなせます。この単振動のエネルギー保存則を用いると、計算が簡潔になる場合があります。単振動のエネルギーは、運動エネルギーと、つり合いの位置からの変位に依存する弾性エネルギーの和で表されます。
この設問における重要なポイント
- 単振動のエネルギー: \(E_{\text{単振動}} = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}k(\text{変位})^2\)。ここで「変位」は振動中心 \(x_1\) からの距離 \(x-x_1\) である。
- エネルギー保存則の立式: \(x>L\) の区間でこのエネルギーは保存されるので、「\(x=L\) での単振動のエネルギー」=「\(x=x_1\) での単振動のエネルギー」の式を立てる。
具体的な解説と立式
\(x>L\) の区間での運動を、\(x=x_1\) を中心とする単振動として捉え、その力学的エネルギー保存則を考えます。
単振動のエネルギーは \(E = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}k(x-x_1)^2\) で表されます。
– \(x=L\) での単振動のエネルギー:
速さは \(v_L = \sqrt{2gL}\)。中心からの変位は \(L-x_1\)。
$$ E_L’ = \frac{1}{2}mv_L^2 + \frac{1}{2}k(L-x_1)^2 $$
– \(x=x_1\) での単振動のエネルギー:
速さは \(v_1\)。中心からの変位は \(x_1-x_1=0\)。
$$ E_1′ = \frac{1}{2}mv_1^2 + \frac{1}{2}k(0)^2 $$
$$ E_1′ = \frac{1}{2}mv_1^2 $$
エネルギー保存則 \(E_L’ = E_1’\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_L^2 + \frac{1}{2}k(L-x_1)^2 = \frac{1}{2}mv_1^2 \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 単振動における力学的エネルギー保存則
式④に \(v_L^2 = 2gL\) と、(イ)の結果から \(L-x_1 = -\frac{mg}{k}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m(2gL) + \frac{1}{2}k\left(-\frac{mg}{k}\right)^2 &= \frac{1}{2}mv_1^2 \\[2.0ex]
mgL + \frac{1}{2}k\frac{(mg)^2}{k^2} &= \frac{1}{2}mv_1^2 \\[2.0ex]
mgL + \frac{(mg)^2}{2k} &= \frac{1}{2}mv_1^2
\end{aligned}
$$
両辺に \(\frac{2}{m}\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
2gL + \frac{mg^2}{k} &= v_1^2
\end{aligned}
$$
よって、
$$ v_1 = \sqrt{2gL + \frac{mg^2}{k}} $$
メインの解法と同じ結果が得られました。単振動のエネルギー保存則を用いると、重力による位置エネルギーを陽に扱わなくて済むため、立式がシンプルになる利点があります。
(エ)
思考の道筋とポイント
最下点の位置 \(x_2\) を求める問題です。最下点では、小球の速さは一瞬ゼロになります。ここでも力学的エネルギー保存則が有効です。ゴムひもが伸び始める \(x=L\) の瞬間と、最下点 \(x=x_2\) の2点で、力学的エネルギー保存則を立てます。
この設問における重要なポイント
- 最下点での速さ: \(v_2 = 0\)。
- エネルギー保存則の立式: 「\(x=L\) でのエネルギー」=「\(x=x_2\) でのエネルギー」の式を立てる。
- 二次方程式の解: \(x_2\) に関する二次方程式が得られるので、解の公式を用いて解く。物理的に意味のある解(\(x_2 > L\))を選択する。
具体的な解説と立式
\(x=L\) と最下点 \(x=x_2\) の間で、力学的エネルギー保存則を考えます。
– \(x=L\) での力学的エネルギー \(E_L\): (ウ)の考察より \(E_L = 0\)。
– \(x=x_2\) での力学的エネルギー \(E_2\):
速さは \(v_2=0\)。ゴムの伸びは \(x_2 – L\)。
$$ E_2 = \frac{1}{2}m(0)^2 – mgx_2 + \frac{1}{2}k(x_2 – L)^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_L = E_2\) より、
$$ 0 = -mgx_2 + \frac{1}{2}k(x_2 – L)^2 \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
式⑤を \(x_2\) について整理します。
$$ \frac{1}{2}k(x_2 – L)^2 – mgx_2 = 0 $$
ここで \(x_2 = (x_2-L) + L\) と変形して代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}k(x_2 – L)^2 – mg\{(x_2-L) + L\} &= 0 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}k(x_2 – L)^2 – mg(x_2-L) – mgL &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を2倍して、
$$ k(x_2 – L)^2 – 2mg(x_2-L) – 2mgL = 0 $$
これは \(X = x_2 – L\) とおくと、\(kX^2 – 2mgX – 2mgL = 0\) という \(X\) に関する二次方程式です。解の公式より、
$$
\begin{aligned}
X &= \frac{-(-2mg) \pm \sqrt{(-2mg)^2 – 4k(-2mgL)}}{2k} \\[2.0ex]
&= \frac{2mg \pm \sqrt{4(mg)^2 + 8kmgL}}{2k} \\[2.0ex]
&= \frac{2mg \pm 2\sqrt{(mg)^2 + 2kmgL}}{2k} \\[2.0ex]
&= \frac{mg \pm \sqrt{(mg)^2 + 2kmgL}}{k}
\end{aligned}
$$
物理的に、伸び \(X = x_2 – L\) は正の値なので、正の符号を選びます。
$$
\begin{aligned}
x_2 – L &= \frac{mg + \sqrt{(mg)^2 + 2kmgL}}{k} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{k}\left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kL}{mg}}\right)
\end{aligned}
$$
よって、
$$ x_2 = L + \frac{mg}{k}\left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kL}{mg}}\right) $$
小球が一番下まで落ちたとき、速さは一瞬ゼロになります。この運動でもエネルギーは保存されるので、「ゴムが伸び始める瞬間のエネルギー」と「最下点でのエネルギー」は等しくなります。この関係を数式にすると、最下点の位置に関する二次方程式が得られます。これを解くことで、最下点の位置がわかります。
最下点の位置は \(x_2 = L + \displaystyle\frac{mg}{k}\left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kL}{mg}}\right)\) です。
この位置は、つり合いの位置 \(x_1 = L + \frac{mg}{k}\) よりも下にあることがわかります。また、\(x_2 – x_1 = \frac{mg}{k}\sqrt{1 + \frac{2kL}{mg}}\) であり、これが単振動の振幅になります。
思考の道筋とポイント
(ウ)の別解と同様に、\(x>L\) の区間を \(x=x_1\) 中心の単振動とみなし、そのエネルギー保存則を適用します。\(x=L\) の点と最下点 \(x=x_2\) の点でエネルギー保存則を立てます。
この設問における重要なポイント
- 単振動のエネルギー: \(E_{\text{単振動}} = \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}k(x-x_1)^2\)。
- 最下点での条件: 速さ \(v_2=0\)。エネルギーは位置エネルギーのみで、\(\frac{1}{2}k(x_2-x_1)^2\)。
- エネルギー保存則の立式: 「\(x=L\) での単振動のエネルギー」=「\(x=x_2\) での単振動のエネルギー」の式を立てる。
具体的な解説と立式
\(x>L\) の区間での単振動のエネルギー保存則を考えます。
– \(x=L\) での単振動のエネルギー \(E_L’\):
(ウ)の別解より、
$$ E_L’ = \frac{1}{2}mv_L^2 + \frac{1}{2}k(L-x_1)^2 $$
– 最下点 \(x=x_2\) での単振動のエネルギー \(E_2’\):
速さは \(v_2=0\)。中心からの変位は \(x_2-x_1\)。
$$ E_2′ = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}k(x_2-x_1)^2 $$
$$ E_2′ = \frac{1}{2}k(x_2-x_1)^2 $$
エネルギー保存則 \(E_L’ = E_2’\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_L^2 + \frac{1}{2}k(L-x_1)^2 = \frac{1}{2}k(x_2-x_1)^2 \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 単振動における力学的エネルギー保存則
式⑥の両辺を \(\frac{1}{2}\) で割り、\(v_L^2 = 2gL\) と \(L-x_1 = -\frac{mg}{k}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m(2gL) + k\left(-\frac{mg}{k}\right)^2 &= k(x_2-x_1)^2 \\[2.0ex]
2mgL + k\frac{(mg)^2}{k^2} &= k(x_2-x_1)^2 \\[2.0ex]
2mgL + \frac{(mg)^2}{k} &= k(x_2-x_1)^2 \\[2.0ex]
(x_2-x_1)^2 &= \frac{2mgL}{k} + \frac{(mg)^2}{k^2}
\end{aligned}
$$
最下点はつり合いの位置より下なので \(x_2-x_1 > 0\)。よって、
$$
\begin{aligned}
x_2-x_1 &= \sqrt{\frac{2mgLk + (mg)^2}{k^2}} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{(mg)^2 + 2mgLk}}{k}
\end{aligned}
$$
\(x_1 = L + \frac{mg}{k}\) を代入して \(x_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
x_2 &= x_1 + \frac{\sqrt{(mg)^2 + 2mgLk}}{k} \\[2.0ex]
&= L + \frac{mg}{k} + \frac{\sqrt{(mg)^2 + 2mgLk}}{k} \\[2.0ex]
&= L + \frac{mg + \sqrt{(mg)^2 + 2mgLk}}{k} \\[2.0ex]
&= L + \frac{mg}{k}\left(1 + \sqrt{1 + \frac{2kL}{mg}}\right)
\end{aligned}
$$
メインの解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、単振動の振幅(中心からの最大の変位)を直接計算していることに相当します。
(オ)
思考の道筋とポイント
\(x_1\) を通過してから最下点を経て再び \(x_1\) に戻るまでの時間を求める問題です。\(x>L\) の領域での小球の運動を考えます。この領域では、小球に働く合力は \(F = mg – k(x-L)\) です。(イ)で求めたつり合いの位置 \(x_1\) を使うと、この力は \(F = -k(x-x_1)\) と変形できます。これは、\(x=x_1\) を中心とする、ばね定数 \(k\) の単振動であることを示しています。求める時間は、振動の中心 \(x_1\) から最下点 \(x_2\) まで行き、再び中心 \(x_1\) に戻ってくる時間です。これは単振動のちょうど半周期分に相当します。
この設問における重要なポイント
- 運動の特定: \(x>L\) の領域は、\(x=x_1\) を中心とする単振動である。
- 求める時間: 振動の中心 → 端 → 中心の往復なので、半周期 (\(T/2\)) にあたる。
- 周期の計算: ばね定数 \(k\)、質量 \(m\) の単振動の周期の公式 \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\) を用いる。
具体的な解説と立式
\(x>L\) の領域で、小球に働く合力 \(F\) は、
$$ F = mg – k(x-L) $$
ここで、つり合いの条件 \(mg = k(x_1-L)\) を使うと、\(mg – kx_1 + kL = 0\) なので \(mg+kL = kx_1\)。
$$
\begin{aligned}
F &= mg – kx + kL \\[2.0ex]
&= (mg+kL) – kx \\[2.0ex]
&= kx_1 – kx \\[2.0ex]
&= -k(x-x_1)
\end{aligned}
$$
この式は、変位を \(X = x-x_1\) とおくと \(F = -kX\) となり、\(x=x_1\) を中心とするばね定数 \(k\) の単振動であることを示しています。
求める時間は、この単振動の中心 \(x_1\) から端点(最下点 \(x_2\))まで行き、再び中心 \(x_1\) に戻ってくる時間なので、周期 \(T\) の半分です。
単振動の周期は、
$$ T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
よって、求める時間 \(t\) は、
$$ t = \frac{T}{2} $$
$$ t = \pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
使用した物理公式
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\)
上記の立式で計算は完了しています。
$$ t = \pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
ゴムひもが伸びている間、小球の運動は「つり合いの位置」を中心とした単なるばね振り子の運動と同じです。問題で問われている時間は、この単振動の「中心」から「端」まで行って、また「中心」に戻ってくる時間です。これは、ちょうど単振動の1周期の半分にあたります。ばね振り子の周期の公式を使えば、簡単に計算できます。
時間は \(\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) となります。
この時間は、単振動の振幅(\(x_2-x_1\))や、どこから運動が始まったか(\(x=L\)での速さ)には依存せず、小球の質量 \(m\) とゴムのばね定数 \(k\) だけで決まります。これは単振動の周期の性質と一致しており、妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動区間の分割と適切な法則の適用:
- 核心: この問題は、単一の法則で最後まで解けるわけではありません。小球の位置によって運動の性質が劇的に変わるため、「どこでどの法則を使うか」を見極めることが最も重要です。
- 区間1(\(0 \le x \le L\)): 自由落下
- 働く力は重力のみ。等加速度直線運動の公式や、重力による力学的エネルギー保存則を適用します。(設問ア)
- 区間2(\(x > L\)): 単振動
- 働く力は重力と弾性力。この2力の合力が、つり合いの位置 \(x_1\) を中心とする復元力 \(F=-k(x-x_1)\) となります。この区間では、単振動の理論(周期の公式、エネルギー保存則など)を適用します。(設問イ、ウ、エ、オ)
- 区間1(\(0 \le x \le L\)): 自由落下
- 理解のポイント: 複雑に見える運動も、性質の異なる単純な運動(自由落下、単振動)の組み合わせとして分解して考えることが、解析の鍵です。
- 核心: この問題は、単一の法則で最後まで解けるわけではありません。小球の位置によって運動の性質が劇的に変わるため、「どこでどの法則を使うか」を見極めることが最も重要です。
- エネルギー保存則の柔軟な活用:
- 核心: 運動区間をまたいでエネルギーの関係を追跡する上で、エネルギー保存則は極めて強力なツールです。
- 重力による位置エネルギー: 基準点を定め、高低差を考慮します。
- 弾性力による位置エネルギー: 「ばねの伸び」が基準です。\(x>L\) の区間では、伸びは \(x-L\) なので、エネルギーは \(\frac{1}{2}k(x-L)^2\) となります。
- 理解のポイント: 設問(ウ)や(エ)のように、異なる種類の位置エネルギー(重力と弾性力)が同時に変化する場合でも、それらの総和と運動エネルギーを足したものが保存される、という法則を正しく立式できるかが問われます。
- 核心: 運動区間をまたいでエネルギーの関係を追跡する上で、エネルギー保存則は極めて強力なツールです。
- 単振動の中心の見極め:
- 核心: \(x>L\) の区間での運動は単振動ですが、その中心はゴムひもの自然長の端(\(x=L\))ではありません。力がつりあう点、すなわち「重力=弾性力」となる位置 \(x_1\) が振動の中心です。
- 理解のポイント: この「つり合いの中心」を正しく特定できると、(オ)のように問題を「半周期」として簡潔に解けたり、(ウ)(エ)を「単振動のエネルギー保存則」で解く別解が拓けたりします。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 床に置かれたばねと物体の衝突: 上から落下してきた物体が、床に置かれたばねに衝突し、ばねを押し縮めて跳ね返る運動。自由落下→単振動(一部)→放物運動、と運動が切り替わります。
- 斜面とばね: 斜面を滑り降りてきた物体が、斜面の下端にあるばねに衝突する運動。等加速度直線運動と単振動の組み合わせです。
- 振り子と釘: 振り子の支点の下に釘があり、糸が途中で引っかかって振り子の長さが変わる問題。円運動の半径や周期が途中で変化します。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動が切り替わる点を探す: まず、物体に働く力が変化する点や、運動の拘束条件が変わる点(この問題では \(x=L\))を特定します。
- 各区間での運動の種類を特定する: 分割した各区間で、物体がどのような運動(等速、等加速度、円運動、単振動など)をするのかを判断します。
- 接続点での物理量をつなぐ: 運動が切り替わる点での「速さ」や「位置」は、前の区間の終点と次の区間の始点で共通です。エネルギー保存則などを用いて、これらの物理量を計算し、運動をつなぎ合わせていきます。
- 単振動の中心を常に意識する: 単振動が含まれる場合、その「つり合いの中心」はどこかを必ず計算します。これにより、運動の全体像が把握しやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 弾性エネルギーの計算での「伸び」の間違い:
- 誤解: 弾性エネルギーを \(\frac{1}{2}kx^2\) と計算してしまう。
- 対策: ばねやゴムの弾性エネルギーは、常に「自然長からの伸びまたは縮み」を基準に計算します。この問題では、自然長が \(L\) なので、位置 \(x\) での伸びは \(x-L\) です。したがって、弾性エネルギーは \(\frac{1}{2}k(x-L)^2\) となります。座標の原点と自然長の位置が違う場合は特に注意が必要です。
- 単振動の中心の誤認:
- 誤解: ゴムひもが伸び始める \(x=L\) の点を、単振動の中心だと勘違いしてしまう。
- 対策: 単振動の中心は、必ず「力のつり合い」の位置です。重力が働く系では、ばねの自然長の位置とつり合いの位置は一致しません。必ず、働く力をすべて書き出し、それらがつり合う位置を計算で求める習慣をつけましょう。
- エネルギー保存則の立式ミス:
- 誤解: 重力による位置エネルギーと弾性力による位置エネルギーの一方、あるいは両方を式に入れ忘れる。または、基準点の取り方を間違える。
- 対策: エネルギー保存則を立てる際は、①運動エネルギー、②重力による位置エネルギー、③弾性力による位置エネルギー、の3つの項を常にチェックリストのように確認しましょう。また、位置エネルギーの基準点は、計算が楽になるように自分で設定して良いですが、一度決めたら最後まで変えないことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーのグラフ: 横軸に位置 \(x\)、縦軸にエネルギーをとったグラフをイメージすると、現象の理解が深まります。
- \(0 \le x \le L\): 運動エネルギーが増加し、重力位置エネルギーが減少する直線的な関係。
- \(x > L\): 運動エネルギー、重力位置エネルギー、弾性位置エネルギー(\(x\) の二次関数)が複雑にやり取りされる。弾性位置エネルギーは \(x=L\) を頂点とする放物線、重力位置エネルギーは右下がりの直線。これらの和であるポテンシャルの合計は、つり合いの位置 \(x_1\) で最小値をとる谷型の曲線を描きます。小球はこのポテンシャルの谷間を往復運動します。
- 運動のフェーズ分け図: \(x=0\)(スタート)、\(x=L\)(単振動開始)、\(x=x_1\)(つり合い/速さ最大)、\(x=x_2\)(最下点/折り返し)の4つの特徴的な点を一直線上に描き、それぞれの点での速さや働く力、エネルギーの状態をメモすると、思考が整理されます。
- エネルギーのグラフ: 横軸に位置 \(x\)、縦軸にエネルギーをとったグラフをイメージすると、現象の理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力のベクトル: 各フェーズで、小球に働く力のベクトル(重力、弾性力)を正確に描きましょう。特に \(x>L\) の区間では、重力(一定)と弾性力(伸びに比例して増大)の長さの関係がどう変化するかを描くと、つり合いの位置や復元力の意味が視覚的に理解できます。
- 座標と長さの区別: 座標 \(x\) と、長さ \(L\)、伸び \(x-L\) の関係を図で明確に区別して描くことが、立式ミスを防ぐ上で非常に重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (ア)(ウ)(エ)で、運動の始点と終点の「速さ」と「位置」の関係を知りたいから。非保存力が働かない系では、途中の経過を問わず始点と終点の状態だけで関係式を立てられるため、非常に強力です。
- 適用根拠: 働く力が重力と弾性力のみであり、これらはどちらも保存力だからです。
- 力のつり合いの式 (\(\sum F = 0\)):
- 選定理由: (イ)で、単振動の「中心位置」という特別な点を特定するため。
- 適用根拠: 振動の中心とは、定義上、復元力がゼロになる点、すなわち力がつり合っている点だからです。
- 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
- 選定理由: (オ)で、単振動の一部分(半周期)にかかる時間を求めるため。
- 適用根拠: (オ)の考察で、\(x>L\) の運動が \(F=-k(x-x_1)\) という復元力に従う単振動であることが証明されたからです。この形の運動であれば、質量 \(m\) とばね定数 \(k\) から周期が一意に決まるという物理法則を適用します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (ア) \(x=L\)での速さ:
- 戦略: \(x=0 \rightarrow L\) の自由落下でエネルギー保存則。
- フロー: ①\(x=0\)と\(x=L\)のエネルギーを定義 → ②\(E_0 = E_L\) を立式 → ③\(v_L\)について解く。
- (イ) つり合い点の位置:
- 戦略: \(x=x_1\) での力のつり合い。
- フロー: ①\(x=x_1\)での弾性力を定義 (\(k(x_1-L)\)) → ②\(mg = k(x_1-L)\) を立式 → ③\(x_1\)について解く。
- (ウ) つり合い点での速さ:
- 戦略: \(x=L \rightarrow x_1\) でエネルギー保存則。
- フロー: ①\(x=L\)と\(x=x_1\)のエネルギー(運動、重力、弾性)を定義 → ②\(E_L = E_1\) を立式 → ③(ア)(イ)の結果を代入し、\(v_1\)について解く。
- (エ) 最下点の位置:
- 戦略: \(x=L \rightarrow x_2\) でエネルギー保存則。
- フロー: ①\(x=L\)と\(x=x_2\)のエネルギーを定義(\(v_2=0\)) → ②\(E_L = E_2\) を立式 → ③\(x_2\)に関する二次方程式を解く。
- (オ) 時間:
- 戦略: \(x>L\) の運動が単振動であることを見抜き、半周期を計算。
- フロー: ①\(x>L\)での合力を計算し、\(F=-k(x-x_1)\)の形に変形 → ②運動が\(x=x_1\)中心の単振動であることを確認 → ③求める時間が半周期 \(T/2\) であることを判断 → ④周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) から時間を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (ウ)や(エ)の計算では、(ア)や(イ)で求めた \(v_L\) や \(x_1\) の具体的な式をすぐに代入するのではなく、記号のまま計算を進め、最後の最後に代入する方が見通しが良くなることがあります。特に、模範解答のように \(E_L=0\) であることを利用すると、その後の計算が大幅に簡略化されます。
- 二次方程式の解の吟味: (エ)で二次方程式を解くと、解が2つ出てきます。物理的な条件(この場合は \(x_2 > L\))に合う解はどちらかを必ず吟味する習慣をつけましょう。
- 別解による検算: この問題のように複数の解法が存在する場合、時間があれば別のアプローチで解いてみて、同じ答えになるかを確認(検算)するのが理想的です。例えば、(エ)を単振動の振幅の計算から求める別解で検算することができます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (イ) \(x_1\): \(x_1 = L + mg/k\) は、自然長の位置 \(L\) よりも \(mg/k\) だけ下にあり、物理的に妥当です。
- (ウ) \(v_1\): \(v_1^2 = v_L^2 + (\text{正の値})\) となっており、\(x=L\)から\(x=x_1\)まで加速していることと矛盾しません。
- (エ) \(x_2\): \(x_2\) はつり合いの位置 \(x_1\) を中心として、\(x=L\) の位置と対称な点ではありません。なぜなら、単振動は \(x=L\) から初速 \(v_L\) を持って開始されるからです。エネルギー保存則から導かれた結果が、より複雑な形になるのは自然です。
- (オ) 時間: 周期が振幅によらないという単振動の「等時性」という性質が、この結果に現れています。
- 別解との比較:
- (ウ)や(エ)を、模範解答のように区間ごとのエネルギー保存則で解く方法と、別解で示した「単振動のエネルギー保存則」で解く方法を比較してみましょう。後者の方が、つり合いの位置を基準にするため、重力による位置エネルギーを考慮する必要がなくなり、計算がシンプルになる場合があります。どちらの視点も理解することで、問題解決の引き出しが増えます。
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192 糸でつながれた2物体の単振動
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばねと糸でつながれた2つの物体が一体となって行う単振動を扱う問題です。複数の物体が連動する系の力学と、単振動の理論を組み合わせた応用問題です。
この問題の核心は、糸がたるまない限り、2つのおもりを質量 \(3m\) の「一体の物体」とみなして全体の単振動を考えられる点と、糸の張力という「内力」を考える際には、2つのおもりを別々の物体として扱い、それぞれの運動方程式を立てる必要がある点です。この「全体を見る視点」と「個々を見る視点」の使い分けが問われます。
- おもりの質量: \(m\) と \(2m\)
- ばね定数: \(k\)
- 2つのおもりはつりあいの位置から \(d\) だけ引き下げられ、\(t=0\) で静かにはなされる。
- 糸はたるまない状態で単振動する。
- 座標軸: つりあいの位置を原点Oとし、鉛直下向きを正とする変位 \(x\)。
- 重力加速度の大きさ: \(g\)
- (1) 単振動の周期 \(T\) と速さの最大値 \(v_{\text{最大}}\)。
- (2) 時刻 \(t\) での変位 \(x\) を表す式と、そのグラフ。
- (3) 変位が \(x\) のときの糸の張力の大きさ \(S\)。
- (4) 糸がたるむことなく単振動できる振幅 \(d\) の最大値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説します。それに加え、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的に有益な別解を提示します。
- 設問(3)の別解
- 別解1: 2物体を一体とみなす運動方程式による解法
この別解が教育的に有益である理由は以下の通りです。
- 模範解答は、2つのおもりを別々に捉え、それぞれの運動方程式を立てて連立することで張力 \(S\) を求めています。これは内力を求める際の基本に忠実な方法です。
- 一方、別解では、まず2物体を一体とみなして全体の運動(加速度)を求め、その結果を使って下のおもり(質量 \(m\))の運動方程式から張力 \(S\) を求める、という2段階のアプローチを取ります。
- この別解を学ぶことで、複数の物体が連動する問題において、「まず全体を見て、次に個々を見る」という、より見通しの良い戦略的な解法を習得できます。
いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。