104 板にのせたおもりのつりあい
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、剛体である板が静止し続けるための条件、すなわち「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」を正しく適用できるかを問う、静力学の基本的な問題です。
この問題の核心は、板に働くすべての力を正確に図示し、適切な回転軸を選んで力のモーメントのつり合いの式を立てることにあります。
- 板の重さ: \(12 \text{ N}\)(一様な板なので、重心は板の中央にかかる)
- おもりの重さ: \(24 \text{ N}\)
- 支柱Cの位置: 板の左端Aから \(0.20 \text{ m}\)
- 支柱Dの位置: 支柱Cから \(0.40 \text{ m}\)
- 板の全長: \(0.20 + 0.40 + 0.20 = 0.80 \text{ m}\)
- (1)でのおもりの位置: 支柱Dから左に \(0.10 \text{ m}\)
- (1) 板が受けているすべての力の図示と、支柱C, Dから受ける力の大きさ \(N_C, N_D\)。
- (2) おもりを右へ移動させたとき、板がひっくり返る位置。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法を主たる解説とします。それに加え、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的に有益な別解を提示します。
- 設問(1)の別解
- 別解1: C点を回転軸とした力のモーメントのつり合いによる解法
- 設問(2)の別解
- 別解1: 垂直抗力が0になる条件を代数的に解く方法
これらの別解が有益である理由は以下の通りです。
- 設問(1)の別解は、力のモーメントのつり合いを考える際に、回転軸をどこに選んでも同じ結論に至るという、物理法則の普遍性を示します。
- 設問(2)の別解は、「ひっくり返る」という物理現象を、垂直抗力が連続的に変化して0になるという数学的な視点から捉え直すもので、問題解決へのアプローチの多様性を学ぶことができます。
いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「剛体のつり合い条件」です。物体が回転せず、並進運動もしない状態を保つための条件を考えます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力の図示: 物体に働くすべての力(重力、垂直抗力など)を漏れなく図示します。
- 剛体のつり合い条件:
- 力のつり合い: 物体に働く力のベクトル和がゼロである(並進しない)。
- 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりの力のモーメントの和がゼロである(回転しない)。
- 作用点: 力が物体に働く位置を正確に把握します。特に、一様な剛体の重力は、その重心(中心)に働くと考えます。
- ひっくり返る条件: 板が支点から浮き上がる瞬間は、その支点からの垂直抗力が0になるときです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では板に働くすべての力を図示します。次に、未知数が2つ(\(N_C, N_D\))あるため、「鉛直方向の力のつり合い」と「任意の点のまわりの力のモーメントのつり合い」の2つの式を立てて、連立方程式として解きます。
- 次に、(2)では「板がひっくり返る」という条件を「支柱Cからの垂直抗力 \(N_C\) が0になる」と解釈します。この条件の下で、支柱Dを回転軸とした力のモーメントのつり合いを考え、おもりの位置を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
板が受けている力と、支柱C, Dからの垂直抗力 \(N_C, N_D\) を求める問題です。板は静止しているので、「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」が成り立っています。未知数が \(N_C, N_D\) の2つなので、式が2本必要です。
- 鉛直方向の力のつり合いの式を立てる。
- 力のモーメントのつり合いの式を立てる。
このとき、回転軸を未知の力が働く点(CまたはD)に選ぶと、その力のモーメントが0になり、式が簡単になるのがポイントです。ここでは模範解答に沿って、D点を回転軸に選びます。
この設問における重要なポイント
- 力の図示: 板に働く力は、鉛直下向きの「板の重力(12 N)」「おもりの重力(24 N)」と、鉛直上向きの「垂直抗力 \(N_C\)」「垂直抗力 \(N_D\)」の4つです。
- 重心の位置: 板は一様で全長 \(0.80 \text{ m}\) なので、その重心は中心、つまり左端Aから \(0.40 \text{ m}\) の位置です。これは支柱CとDのちょうど中点にあたります。
- 回転軸の選択: D点を回転軸に選ぶと、\(N_D\) の腕の長さが0になるため、力のモーメントの計算に \(N_D\) が現れず、\(N_C\) を直接求めることができます。
- 腕の長さの計算: D点を基準として、各力の作用点までの距離(腕の長さ)を正確に計算します。
- \(N_C\): Dから左に \(0.40 \text{ m}\)
- 板の重力: Dから左に \(0.20 \text{ m}\)
- おもりの重力: Dから左に \(0.10 \text{ m}\)
具体的な解説と立式
板に働く力を図示し、支柱C, Dから受ける垂直抗力をそれぞれ \(N_C, N_D\) とします。
板は静止しているので、鉛直方向の力のつり合いと、任意の点のまわりの力のモーメントのつり合いが成り立ちます。
まず、D点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。時計回りのモーメントと反時計回りのモーメントがつり合うので、
$$ N_C \times 0.40 = 12 \times 0.20 + 24 \times 0.10 \quad \cdots ① $$
次に、鉛直方向の力のつり合いを考えます。上向きの力の和と下向きの力の和がつり合うので、
$$ N_C + N_D = 12 + 24 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 力のモーメントのつり合い
まず、式①を \(N_C\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0.40 N_C & = 2.4 + 2.4 \\[2.0ex]
0.40 N_C & = 4.8 \\[2.0ex]
N_C & = \frac{4.8}{0.40} \\[2.0ex]
& = 12 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式②に代入して \(N_D\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
12 + N_D & = 36 \\[2.0ex]
N_D & = 36 – 12 \\[2.0ex]
N_D & = 24 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
まず、シーソーのつり合いを考えます。支柱Dを指で支えるイメージです。このとき、板が回転しないためには、「反時計回りに回そうとする力(支柱Cが押し上げる力)」と「時計回りに回そうとする力(板自身の重さとおもりの重さ)」がつり合っている必要があります。この関係から、まず支柱Cが支える力 \(N_C\) を計算します。
次に、板全体が上下に動かないことから、「上向きの力の合計(\(N_C\) と \(N_D\))」と「下向きの力の合計(板とおもりの重さ)」がつり合っていると考えます。先ほど求めた \(N_C\) の値を使えば、残りの支柱Dが支える力 \(N_D\) も計算できます。
支柱Cから受ける力は \(12 \text{ N}\)、支柱Dから受ける力は \(24 \text{ N}\) です。
上向きの力の合計は \(N_C + N_D = 12 + 24 = 36 \text{ N}\) となります。これは、下向きの力の合計である板の重さとおもりの重さの和(\(12 + 24 = 36 \text{ N}\))と等しく、力のつり合いが満たされていることが確認できます。結果は妥当です。
思考の道筋とポイント
(1)を解くもう一つの方法として、C点を回転軸に選ぶアプローチがあります。この場合、力のモーメントの式に \(N_C\) が現れなくなり、\(N_D\) を直接求めることができます。物理法則はどの基準点を選んでも成り立つため、こちらも正しい解法です。
この設問における重要なポイント
- 回転軸の選択: C点を回転軸に選びます。
- 腕の長さの計算: C点を基準として、各力の作用点までの距離を計算します。
- 板の重力: Cから右に \(0.20 \text{ m}\)
- おもりの重力: Cから右に \(0.30 \text{ m}\)
- \(N_D\): Cから右に \(0.40 \text{ m}\)
具体的な解説と立式
C点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。時計回りのモーメントと反時計回りのモーメントがつり合うので、
$$ 12 \times 0.20 + 24 \times 0.30 = N_D \times 0.40 \quad \cdots ③ $$
鉛直方向の力のつり合いの式は、主たる解法と同じです。
$$ N_C + N_D = 12 + 24 \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 力のモーメントのつり合い
まず、式③を \(N_D\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2.4 + 7.2 & = 0.40 N_D \\[2.0ex]
9.6 & = 0.40 N_D \\[2.0ex]
N_D & = \frac{9.6}{0.40} \\[2.0ex]
& = 24 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式④に代入して \(N_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
N_C + 24 & = 36 \\[2.0ex]
N_C & = 36 – 24 \\[2.0ex]
N_C & = 12 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
今度は、支柱Cを指で支えるイメージでシーソーのつり合いを考えます。このとき、板が回転しないためには、「時計回りに回そうとする力(板自身の重さとおもりの重さ)」と「反時計回りに回そうとする力(支柱Dが押し上げる力)」がつり合っている必要があります。この関係から、まず支柱Dが支える力 \(N_D\) を計算します。あとは先ほどと同様に、上下の力のつり合いから \(N_C\) を求めます。
支柱Cから受ける力は \(12 \text{ N}\)、支柱Dから受ける力は \(24 \text{ N}\) となり、主たる解法と完全に一致した結果が得られました。回転軸をどこに選んでも物理的に同じ結論が導かれることが確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
おもりを右に移動させていくと、どこで板がひっくり返るかを問う問題です。「板がひっくり返る」という現象を物理的にどう捉えるかが鍵となります。
おもりを右に動かすと、支柱Cの負担は減り、支柱Dの負担が増えていきます。やがて、支柱Cが板を支える必要がなくなり、板がCから浮き上がる瞬間が訪れます。このとき、支柱Cからの垂直抗力 \(N_C\) は \(0\) になります。これが「ひっくり返る」瞬間の物理的な条件です。
この瞬間、板は支柱Dを回転軸として、時計回りに回転し始めます。したがって、この限界点では、D点のまわりで力のモーメントがつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント
- ひっくり返る条件: 支柱Cからの垂直抗力 \(N_C\) が \(0\) になること。
- 回転軸: 板がひっくり返る瞬間、その回転軸は支柱Dになります。
- モーメントのつり合い: D点を回転軸として、板の重力による反時計回りのモーメントと、おもりの重力による時計回りのモーメントがちょうどつり合う位置を探します。
具体的な解説と立式
板がひっくり返るのは、支柱Cからの垂直抗力 \(N_C\) が \(0\) になるときです。このとき、板は支柱Dを軸として回転しようとします。
おもりが支柱Dから右に \(x\) [m] の位置にあるときにひっくり返るとします。
この瞬間の、D点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。板の重力による反時計回りのモーメントと、おもりの重力による時計回りのモーメントがつり合うので、
$$ 12 \times 0.20 = 24 \times x $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつり合い
- 剛体がひっくり返る条件: 支点からの垂直抗力が0になる。
上記で立てた力のモーメントのつり合いの式を \(x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2.4 & = 24x \\[2.0ex]
x & = \frac{2.4}{24} \\[2.0ex]
& = 0.10 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これは支柱Dからの距離なので、答えは「Dより右に \(0.10 \text{ m}\) の所」となります。
板がD点を支点にして、シーソーのように傾く瞬間を考えます。左側には「板自身の重さ」が \(0.20 \text{ m}\) の距離で作用し、板を反時計回りに回そうとします。右側には「おもり」が \(x\) の距離で作用し、板を時計回りに回そうとします。この二つの「回そうとする力(モーメント)」がちょうどつり合うときの、おもりの位置 \(x\) を計算します。その位置より少しでもおもりが右に行くと、板は時計回りに傾き始めます。
板がひっくり返るのは、おもりがDより \(0.10 \text{ m}\) 右へ行った所です。
支柱Dは板の右端Bから \(0.20 \text{ m}\) 内側にあるため、この位置は板の上です。物理的に妥当な結果です。もし計算結果が \(x > 0.20 \text{ m}\) となった場合、おもりが板から落ちた後ということになり、問題設定としておかしいですが、今回はその範囲内に収まっています。
思考の道筋とポイント
主たる解法が「ひっくり返る瞬間」という特定の状態に注目したのに対し、この別解ではより一般的に、おもりの位置 \(x\) と垂直抗力 \(N_C\) の関係を数式で表し、その式から \(N_C=0\) となる \(x\) を求めるというアプローチを取ります。この方法では、おもりの移動に伴って垂直抗力がどのように変化するかがよく分かります。
この設問における重要なポイント
- 変数の設定: おもりの位置を未知数 \(x\) として設定する。ここでは、主たる解法との比較のため、おもりの位置を「支柱Dから右に \(x\) [m]」とする。
- 連立方程式の立式: 任意の \(x\) に対して成り立つ「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の式を立てる。回転軸は \(N_C\) が消えないようにC点を選ぶ。
- 関数の導出: 立てた連立方程式を解いて、\(N_C\) を \(x\) の関数として \(N_C(x)\) の形で表す。
- 条件の適用: \(N_C(x) = 0\) という方程式を解く。
具体的な解説と立式
おもりが支柱Dから右に \(x\) [m] の位置にあるとします。
まず、鉛直方向の力のつり合いの式を立てます。
$$ N_C + N_D – 12 – 24 = 0 \quad \cdots ⑤ $$
次に、C点を回転軸として、力のモーメントのつり合いを考えます。反時計回りを正とします。
- 板の重力によるモーメント: \(-12 \times 0.20\)
- おもりの重力によるモーメント: Cからおもりまでの距離は \(0.40+x\) なので、\(-24 \times (0.40+x)\)
- \(N_D\)によるモーメント: \(+N_D \times 0.40\)
つり合いの式は、
$$ N_D \times 0.40 – 12 \times 0.20 – 24 \times (0.40 + x) = 0 \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 力のモーメントのつり合い
まず、式⑥から \(N_D\) を \(x\) の関数として求めます。
$$
\begin{aligned}
0.40 N_D – 2.4 – 9.6 – 24x & = 0 \\[2.0ex]
0.40 N_D & = 12 + 24x \\[2.0ex]
N_D & = \frac{12 + 24x}{0.40} \\[2.0ex]
& = 30 + 60x
\end{aligned}
$$
この結果を式⑤に代入して、\(N_C\) を \(x\) の関数として求めます。
$$
\begin{aligned}
N_C + (30 + 60x) – 36 & = 0 \\[2.0ex]
N_C & = 6 – 60x
\end{aligned}
$$
この式が、おもりの位置 \(x\) と垂直抗力 \(N_C\) の関係を表しています。
ひっくり返る条件は \(N_C = 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
6 – 60x & = 0 \\[2.0ex]
60x & = 6 \\[2.0ex]
x & = \frac{6}{60} \\[2.0ex]
& = 0.10 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これは支柱Dからの距離なので、答えは「Dより右に \(0.10 \text{ m}\) の所」となります。
おもりの位置を「Dから右に \(x\) メートル」として、まず「支柱Cが支える力 \(N_C\) は \(x\) を使ってどう書けるか?」を計算します。計算すると「\(N_C = 6 – 60x\)」という関係が見つかります。これは、おもりを右に動かす(\(x\) を大きくする)ほど、Cが支える力は減っていくことを示しています。
「板がひっくり返る」のは「Cが支える力がゼロになる」ときなので、\(N_C=0\) となる \(x\) をこの式から求めます。すると、\(x=0.10\) メートルという答えが出てきます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この別解のアプローチは、おもりの位置と垂直抗力の関係を \(N_C = 6 – 60x\) という関数で明確に示せる点が優れています。例えば、おもりがD点にあるとき(\(x=0\))、\(N_C=6 \text{ N}\) であることなども分かります。物理現象を連続的な変化として捉える良い練習になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合い条件:
- 核心: 物体が静止し続けるためには、「力のつり合い(並進しない)」と「力のモーメントのつり合い(回転しない)」という2つの条件を同時に満たす必要があります。この問題は、この静力学の基本原理を適用する典型例です。
- 理解のポイント:
- 力のつり合い: 上向きの力の合計(支柱からの垂直抗力)と、下向きの力の合計(板とおもりの重力)が等しい、という式を立てます。(鉛直方向の力の和 = 0)
- 力のモーメントのつり合い: 任意の1点を回転軸として設定し、「時計回りに回そうとする力のモーメントの和」と「反時計回りに回そうとする力のモーメントの和」が等しい、という式を立てます。(力のモーメントの和 = 0) 未知の力が働く点を回転軸に選ぶと、その力の腕の長さが0になり、計算が簡単になるというテクニックが重要です。
- ひっくり返る瞬間の物理的条件:
- 核心: (2)で問われる「板がひっくり返る」とは、物理的には「板が片方の支点から浮き上がり、その支点からの垂直抗力が0になる瞬間」を指します。この条件を数式に置き換えることが、問題を解く鍵となります。
- 理解のポイント: おもりを右に動かすと、左側の支柱Cが受ける力 \(N_C\) は減少し、右側の支柱Dが受ける力 \(N_D\) は増大します。\(N_C\) がちょうど0になった瞬間が、D点を新たな回転軸として板が傾き始める限界点です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 梯子(はしご)のつり合い: 壁に立てかけた梯子が滑らない条件を考える問題。梯子の重力、壁からの垂直抗力と摩擦力、床からの垂直抗力と摩擦力を考え、力のつり合いとモーメントのつり合いを適用します。
- 荷物を吊るした棒のつり合い: 天井から糸で吊るされた棒や、壁に蝶番で取り付けられた棒のつり合い問題。張力や蝶番からの力を考慮して、同様につり合いの式を立てます。
- 複数の物体が乗ったシーソー: 複数の人や物が乗ったシーソーのつり合い。各々の重さと位置からモーメントを計算し、つり合いを考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示を徹底する: まず、対象となる物体(この問題では板)に働く力をすべて、作用点とともに正確に図示します。重力、垂直抗力、張力、摩擦力など、考えられる力を漏れなくリストアップします。
- 未知数の確認と立式の計画: 未知の力(この問題では \(N_C, N_D\))がいくつあるかを確認します。未知数が2つなら、つり合いの式が2本必要です。「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の2式を立てるのが基本戦略です。
- 最適な回転軸の選択: 力のモーメントを考える際、どこを回転軸に選ぶかで計算の複雑さが大きく変わります。未知の力が複数ある場合、そのうちの一つの作用点を回転軸に選ぶと、その力に関する項が消えて式が単純化されるため、非常に有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 腕の長さの計算ミス:
- 誤解: 回転軸から力の作用点までの「最短距離」である腕の長さを、図から読み間違える。特に、回転軸と作用点の位置関係を勘違いしやすいです。
- 対策: 必ず図を丁寧に描き、回転軸を明確にマークします。各力の作用点までの距離を、問題文の数値を元に一つ一つ慎重に計算し、図に書き込みましょう。例えば(1)でC点を回転軸にする場合、おもりまでの距離はC-D間が \(0.40 \text{ m}\)、D-おもり間が \(0.10 \text{ m}\) で、おもりはCとDの間にあるので、Cからおもりまでの距離は \(0.40 – 0.10 = 0.30 \text{ m}\) となります。このように、位置関係を正確に把握することが重要です。
- モーメントの向き(符号)の間違い:
- 誤解: 時計回りと反時計回りのモーメントを混同し、足すべきところを引いてしまう、あるいはその逆。
- 対策: 「時計回り=負、反時計回り=正」のように自分で符号のルールを決めて式を立てるか、「(反時計回りのモーメントの和)=(時計回りのモーメントの和)」という形で立式する習慣をつけましょう。後者の方が直感的でミスが少ないです。
- 「ひっくり返る」条件の誤解:
- 誤解: 板がひっくり返る条件を、おもりが支柱Dの真上に来たとき、あるいは板の端に来たとき、などと直感で判断してしまう。
- 対策: 「ひっくり返る=片方の支点からの垂直抗力が0になる」という物理的な定義に立ち返りましょう。この条件を数式に落とし込み、論理的に解くことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- シーソーのイメージ: 剛体のつり合い問題は、すべてシーソーの原理の応用と考えることができます。任意の点を「支点」と見なして、「どちら回りに、どれくらいの強さで回そうとしているか」をイメージすると、モーメントの概念が直感的に理解できます。
- 力の矢印の図示:
- 作用点を明確に: 重力は重心(一様な板なら中心)から、垂直抗力は支点から、というように力の作用点を正確に描きます。
- 腕の長さを書き込む: 回転軸を決めたら、各力の作用点までの腕の長さを図に明記します。これにより、立式時のミスを防ぎます。
- 回転の向きを矢印で示す: 各力が物体をどちら向きに回転させるかを、回転軸の周りに円弧状の矢印で書き込むと、モーメントの向きの判断ミスが減ります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- フリーボディダイアグラム(力の図示): 考察の対象となる物体(板)だけを抜き出して描き、それに働く力のみをすべて矢印で記入します。おもりが板に及ぼす力は描きますが、おもり自身に働く重力は(板の図には)描きません。
- 長さの比率: ある程度、図の長さの比率を正確に描くと、腕の長さの大小関係が視覚的にわかり、計算ミスに気づきやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式:
- 選定理由: 物体が静止しており、並進運動(上下左右への移動)をしていないという事実を数式で表現するため。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)より、物体に働く力の合力がゼロでなければ静止状態を保てない、という物理学の基本原理に基づきます。
- 力のモーメントのつり合いの式:
- 選定理由: 物体が静止しており、回転運動をしていないという事実を数式で表現するため。
- 適用根拠: 力のつり合いだけでは、物体の回転については何も言えません。例えば、物体の両端に逆向きで同じ大きさの力をかければ、力の合力はゼロですが物体は回転します(偶力)。回転しない条件として、このモーメントのつり合いが独立して必要になります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 垂直抗力の計算:
- 戦略: 未知数が \(N_C, N_D\) の2つなので、式を2本立てて連立方程式を解く。
- フロー: ①板に働く4つの力(板の重力、おもりの重力, \(N_C, N_D\))を図示 → ②計算を楽にするため、D点を回転軸に選択 → ③D点のまわりの力のモーメントのつり合いを立式 (\(N_C \times 0.40 = 12 \times 0.20 + 24 \times 0.10\)) → ④この式から \(N_C\) を計算 → ⑤鉛直方向の力のつり合いを立式 (\(N_C + N_D = 12 + 24\)) → ⑥求めた \(N_C\) を代入して \(N_D\) を計算。
- (2) ひっくり返る位置の計算:
- 戦略: 「ひっくり返る=\(N_C=0\)」という条件を使い、その瞬間の力のモーメントのつり合いを考える。
- フロー: ①「ひっくり返る」とは \(N_C=0\) になること、そのとき板はD点を軸に回転し始めることを理解する → ②おもりの位置をD点から右に \(x\) と設定 → ③D点のまわりの力のモーメントのつり合いを立式(反時計回りモーメント=時計回りモーメント) → ④板の重力によるモーメント (\(12 \times 0.20\)) とおもりの重力によるモーメント (\(24 \times x\)) がつり合う式を立てる → ⑤式を \(x\) について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 小数点の計算を避ける: この問題では \(0.40, 0.20\) など小数が出てきますが、両辺を10倍や100倍して整数で計算すると、計算ミスを減らせます。
- 例: \(N_C \times 0.40 = 12 \times 0.20 + 24 \times 0.10\) の両辺を100倍すると、\(40 N_C = 12 \times 20 + 24 \times 10 \rightarrow 40 N_C = 240 + 240 = 480 \rightarrow N_C = 12\)。
- 単位の確認: 計算結果が出たら、それが求められている物理量の単位(この場合は力の単位 [N] や長さの単位 [m])になっているかを確認する癖をつけましょう。
- 立式した式の見直し: 計算を始める前に、立てた式が物理的に正しいか(腕の長さは正しいか、モーメントの向きは正しいか)を再確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 垂直抗力: \(N_C=12 \text{ N}, N_D=24 \text{ N}\)。おもり(24 N)は板の重心(12 N)よりもD点に近い位置にあるため、D点の方がより大きな力を受けるはずだ、という直感と一致します。また、\(N_C+N_D=36 \text{ N}\) が、全荷重 \(12+24=36 \text{ N}\) と一致しており、計算が正しいことを裏付けています。
- (2) ひっくり返る位置: \(x=0.10 \text{ m}\)。これは板の右端(Dから \(0.20 \text{ m}\))よりも内側なので、おもりが板の上にある状態でひっくり返ることを意味しており、物理的に妥当です。もしおもりがもっと軽かったら、ひっくり返すためにはもっと右(より大きな \(x\))まで移動させる必要があるはずです。式 \(x = \displaystyle\frac{12 \times 0.20}{24}\) から、おもりの重さ(24 N)が分母にあるため、この直感とも一致します。
- 別解との比較:
- (1)では、D点を回転軸にしてもC点を回転軸にしても、全く同じ \(N_C, N_D\) の値が得られました。これは、力のモーメントのつり合いの法則が回転軸の選び方によらない普遍的なものであることを示しており、計算の正しさを強く裏付けます。
- (2)では、「ひっくり返る瞬間のモーメントのつり合い」から直接解く方法と、「\(N_C\) を \(x\) の関数として表し \(N_C=0\) を解く」方法の2つで同じ答えが得られました。異なるアプローチで同じ結論に至ることは、解答の信頼性を高めます。
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