基本問題
73 斜面上の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「斜面上の運動における運動方程式の双方向的な応用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式 (\(ma=F\))
- 力の分解(重力の斜面平行・垂直成分)
- 座標軸の設定と、力や加速度のベクトルとしての扱い(符号)
- 三角比の利用 (\(\sin\theta\))
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、物体にはたらく力を図示し、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解します。
- 斜面に沿って上向きを正として、運動方程式を一つの基本式として立てます。
- (1)では、与えられた張力を式に代入して未知の加速度を求めます。
- (2)では、与えられた加速度を式に代入して未知の張力を求めます。
問(1) 糸の張力が40 Nのときの加速度
思考の道筋とポイント
斜面上の物体にはたらく力は、斜面に沿って上向きの「張力」と、下向きに滑り落とそうとする「重力の斜面平行成分」の2つです。この2つの力の綱引きによって、物体の加速度が決まります。
まず、重力の斜面平行成分の大きさを計算します。次に、それと張力の大きさを比較し、どちら向きに加速するかを大まかに予測します。
運動方程式を立てる際は、斜面に沿った方向を軸とし、どちらかの向きを「正」と決めます。ここでは斜面を上る向きを正とします。すると、上向きの力は正、下向きの力は負として扱え、これらの合力を運動方程式 \(ma=F\) の \(F\) に代入することで、加速度 \(a\) を計算できます。計算結果の \(a\) の符号が、実際の加速度の向きを示します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式 \(ma=F\) の \(F\) は、物体にはたらく力の「合力」である。
- 重力の斜面平行成分は \(mg\sin\theta\) で計算される。
- 計算された加速度の符号が、設定した正の向きに対する実際の運動方向を意味する。
具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、斜面に平行な方向では、上向きの張力 \(T\) と下向きの重力成分 \(mg\sin30^\circ\) です。(斜面に垂直な方向では、垂直抗力と重力の垂直成分がつり合っています。)
斜面に沿って上向きを正の向きとします。
このとき、斜面方向の合力 \(F\) は、
$$ F = T – mg\sin30^\circ $$
となります。したがって、運動方程式は以下のようになります。
$$ ma = T – mg\sin30^\circ \quad \cdots ① $$
この式に、\(m=5.0 \text{ kg}\), \(T=40 \text{ N}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) を代入して、加速度 \(a\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 力の分解(重力の斜面平行成分)
まず、運動方程式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
5.0 \times a &= 40 – 5.0 \times 9.8 \times \sin30^\circ \\[2.0ex]
5.0a &= 40 – 5.0 \times 9.8 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
5.0a &= 40 – 24.5 \\[2.0ex]
5.0a &= 15.5 \\[2.0ex]
a &= \frac{15.5}{5.0} \\[2.0ex]
a &= 3.1 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$
加速度 \(a\) が正の値となったので、向きは最初に設定した正の向き、すなわち「斜面方向上向き」です。
この物体は、斜面の上向きと下向きで綱引きをしています。
・上向きに引く力(張力): 40 N
・下向きに滑り落ちようとする力(重力の一部): \(5.0 \text{ kg} \times 9.8 \text{ m/s}^2 \times \sin30^\circ = 24.5 \text{ N}\)
綱引きの結果、上向きに \(40 – 24.5 = 15.5 \text{ N}\) の力で勝っていることがわかります。これが物体を加速させる正味の力(合力)です。
ニュートンの法則 \(F=ma\) に当てはめると、\(15.5 = 5.0 \times a\) となります。
これを解くと、加速度 \(a = 15.5 \div 5.0 = 3.1 \text{ m/s}^2\) と求まります。力の向きが上向きだったので、加速する向きも「斜面方向上向き」です。
物体の加速度は、斜面方向上向きに \(3.1 \text{ m/s}^2\) です。
上向きの張力 (40 N) が、下向きの重力成分 (24.5 N) よりも大きいため、物体が上向きに加速するという結果は物理的に妥当です。有効数字も2桁で適切に処理されています。
問(2) 加速度が斜面下方に 1.9 m/s² のときの張力
思考の道筋とポイント
この設問は、(1)で立てた運動方程式を再利用します。今回は加速度 \(a\) が与えられ、張力 \(T\) が未知数となっている点が異なります。
最大の注意点は、加速度の向きの扱いです。(1)と同様に「斜面方向上向き」を正と設定した場合、問題で与えられている「斜面下方 1.9 m/s²」の加速度は、負の値 \(a = -1.9 \text{ m/s}^2\) として運動方程式に代入しなければなりません。この符号の処理を正しく行い、方程式を \(T\) について解くことができれば、答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- (1)で立てた運動方程式を、未知数が変わってもそのまま利用できる。
- ベクトル量である加速度の向きを、座標軸の定義に従って正しく符号に反映させる。
具体的な解説と立式
(1)で立てた運動方程式をそのまま用います。
$$ ma = T – mg\sin30^\circ \quad \cdots ① $$
今回は、加速度が「斜面下向き」に \(1.9 \text{ m/s}^2\) と与えられています。斜面方向上向きを正としているので、運動方程式に代入する加速度は \(a = -1.9 \text{ m/s}^2\) となります。
この \(a\) の値と、\(m=5.0 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) を式①に代入し、未知の張力 \(T\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
運動方程式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
5.0 \times (-1.9) &= T – 5.0 \times 9.8 \times \sin30^\circ \\[2.0ex]
-9.5 &= T – 5.0 \times 9.8 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]
-9.5 &= T – 24.5 \\[2.0ex]
T &= 24.5 – 9.5 \\[2.0ex]
T &= 15 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
今度は、物体が「下向きに 1.9 m/s² で加速している」という結果から、その原因となった張力の大きさを逆算します。
下向きに滑り落ちようとする力は、(1)と同じで 24.5 N です。
物体が下向きに加速しているということは、上向きに引く張力 \(T\) が、この 24.5 N よりも弱いことを意味します。
綱引きの正味の力(合力)は、下向きに \(24.5 – T\) となります。
ニュートンの法則 \(F=ma\) に当てはめると、\(24.5 – T = 5.0 \times 1.9\) となります。(※こちらは下向きを正として考えた場合です)
\(24.5 – T = 9.5\) となり、これを解くと \(T = 24.5 – 9.5 = 15 \text{ N}\) と求まります。
糸の張力の大きさは \(15 \text{ N}\) です。
この張力の大きさ (15 N) は、重力の斜面平行成分 (24.5 N) よりも小さいです。そのため、物体が斜面下向きに加速するという問題の条件と一致しており、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の双方向性:
- 核心: この問題は、運動方程式 \(ma=F\) が、単に未知数を求める計算式ではなく、力と運動(加速度)の間の因果関係を示す法則であることを深く理解しているかを試しています。
- 理解のポイント:
- (1)では「力(原因)→ 運動(結果)」の向きで、既知の力 \(T\) から未知の加速度 \(a\) を求めます。
- (2)では「運動(結果)→ 力(原因)」の向きで、既知の加速度 \(a\) から、それを引き起こした未知の力 \(T\) を逆算します。
- このように、運動方程式はどちらの方向にも適用できる双方向的な関係式であることを理解することが核心です。
- 座標軸の設定とベクトルの符号化:
- 核心: 力や加速度といったベクトル量を、一次元の運動方程式で扱うためには、座標軸(正の向き)を設定し、各ベクトルの向きを「+」または「−」の符号で表現するプロセスが不可欠です。
- 理解のポイント: (2)で「斜面下向きの加速度」を、上向きを正とした座標系で \(a=-1.9\) と正しく符号化できるかが、この問題を解く上での最大の鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 摩擦力がはたらく場合: なめらかな斜面ではなく、動摩擦係数 \(\mu’\) が与えられている場合。運動方程式は \(ma = T – mg\sin\theta – \mu’N\) のように、動摩擦力の項が追加されます。(\(N=mg\cos\theta\))
- つりあいの条件を求める問題: 「物体が静止し続けるための張力 \(T\) の範囲は?」といった問題。\(a=0\) として力のつりあいを考え、静止摩擦力がはたらくことを考慮します。
- 2物体連結問題: 斜面上の物体Aと、滑車を介して鉛直に吊るされた物体Bが糸で繋がっている問題。物体Aと物体Bそれぞれについて運動方程式を立て、加速度 \(a\) と張力 \(T\) を連立して解きます。
- 初見の問題での着眼点:
- まず一般式を立てる: (1)と(2)で状況が異なりますが、物理法則は共通です。まず、加速度を \(a\)、張力を \(T\) として、文字式のまま運動方程式 \(ma = T – mg\sin\theta\) を立ててしまいます。
- 設問の情報を「代入」する: (1)では \(T=40\) を代入して \(a\) を解き、(2)では \(a=-1.9\) を代入して \(T\) を解く、というように、一般式を「テンプレート」として利用する考え方をします。
- 力の大きさの比較: 計算を始める前に、張力 \(T\) と重力の斜面平行成分 \(mg\sin\theta\) の大きさを比較し、物体がどちらに加速するかを大まかに予測する癖をつけると、計算結果の妥当性を判断しやすくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 加速度の符号ミス:
- 誤解: (2)で、加速度が「斜面下向き」と与えられているのに、\(a=1.9\) として運動方程式に代入してしまう。
- 対策: 最初に「斜面方向上向きを正とする」と宣言し、図にも書き込む。そして、問題文に出てくるすべてのベクトル量(力、加速度)について、その向きが正の向きと同じか逆かを常に確認し、符号を決定するプロセスを省略しないこと。
- 重力の斜面平行成分の計算ミス:
- 誤解: \(\sin30^\circ\) と \(\cos30^\circ\) を取り違える、または \(\sin30^\circ = 1/2\) という値を忘れてしまう。
- 対策: よく使われる角度(30°, 45°, 60°)の三角比の値は確実に暗記する。また、力の分解の図を正確に描くことで、どちらが \(\sin\) でどちらが \(\cos\) かをその場で判断できるようにしておく。
- 運動方程式の立式ミス:
- 誤解: 合力を考える際に、力の向きを無視して \(ma = T + mg\sin\theta\) のように足してしまう。
- 対策: フリーボディダイアグラムを描き、設定した座標軸の正の向きの矢印と、各力の矢印の向きを比較する。「同じ向きはプラス、逆向きはマイナス」というルールを機械的に適用する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma = T – mg\sin\theta\)):
- 選定理由: この問題は、力がつり合っていない状況で、力(張力)と運動(加速度)の間の関係性を問うています。この関係を記述できるのは運動方程式のみです。
- 適用根拠: 物体にはたらく斜面方向の力は、張力 \(T\) と重力の平行成分 \(mg\sin\theta\) の2つです。これらの合力 (\(T – mg\sin\theta\)) が、物体に加速度 \(a\) を生じさせる原因となります。運動方程式は、この「原因(合力)」と「結果(加速度)」の間の比例関係を \(ma = F_{\text{合力}}\) という形で定量的に結びつけてくれるため、この問題の物理現象を解明するための根幹的な法則として適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定数の先行計算: 複数の設問で共通して使う値は、最初に計算しておくと効率的でミスも減ります。この問題では、重力の斜面平行成分 \(mg\sin30^\circ = 5.0 \times 9.8 \times 0.5 = 24.5 \text{ N}\) を計算用紙の隅にメモしておくと良いでしょう。
- 一般式からのアプローチ:
- 一般式 \(ma = T – 24.5\) を立てる。
- (1) \(T=40\) を代入: \(5.0a = 40 – 24.5 \rightarrow 5.0a = 15.5 \rightarrow a=3.1\)
- (2) \(a=-1.9\) を代入: \(5.0(-1.9) = T – 24.5 \rightarrow -9.5 = T – 24.5 \rightarrow T=15\)
このように、最初に計算した定数を使って一般式を簡略化し、それを使い回すことで、計算プロセスが非常に明快になります。
- 答えの物理的吟味:
- (1) 張力(40 N) > 重力成分(24.5 N) なので、上向きに加速するはず。計算結果 \(a=3.1 > 0\) は妥当。
- (2) 下向きに加速しているので、張力 < 重力成分(24.5 N) のはず。計算結果 \(T=15\) N はこの条件を満たしており、妥当。
このような定性的なチェックを行うことで、大きな計算ミスに気づくことができます。
74 2物体の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「連結された2物体の運動(運動方程式の連立)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式 (\(ma=F\))
- 連結された物体の運動(加速度が等しい)
- 張力の性質(糸の両端で同じ大きさ)
- 作用・反作用の法則
- 複数の物体を一体とみなす考え方(別解)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、物体Aと物体B、それぞれにはたらく力をすべて図示します。
- 物体Aと物体B、それぞれについて運動方程式を立てます。このとき、両者の加速度 \(a\) と、糸の張力 \(T\) は共通の変数となります。
- 立てた2つの運動方程式を、\(a\) と \(T\) の連立方程式として解きます。
問(1) 加速度の大きさ a
思考の道筋とポイント
この問題のように複数の物体が連結されて運動する場合、それぞれの物体に注目して個別に運動方程式を立てるのが基本です。
・物体A: 右向きに力 \(F=8.0 \text{ N}\) で引かれますが、同時に糸によって左向きに張力 \(T\) で引かれます。したがって、Aにはたらく合力は \(F-T\) となります。
・物体B: 糸によって右向きに張力 \(T\) で引かれます。Bにはたらく力はこれだけです(水平方向)。
重要なのは、AとBは糸で繋がれているため、同じ加速度 \(a\) で運動するという点です。また、1本の軽い糸の張力は、どこでも同じ大きさ \(T\) です。
これにより、未知数が \(a\) と \(T\) の2つ、式が2つ(Aの運動方程式とBの運動方程式)となり、連立方程式を解くことで両方の値を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 連結された物体は、一体となって同じ加速度で運動する。
- 物体ごとに、はたらく力を正確に図示し、運動方程式を立てる。
- 張力は、物体Aを「引っぱる」力であり、物体Bを「引っぱる」力でもある。
具体的な解説と立式
物体Aの質量を \(m_A = 2.0 \text{ kg}\)、物体Bの質量を \(m_B = 3.0 \text{ kg}\) とします。
運動方向である右向きを正とします。
それぞれの物体にはたらく水平方向の力は以下の通りです。
・物体A: 右向きに引く力 \(F=8.0 \text{ N}\)、左向きに糸の張力 \(T\)。
・物体B: 右向きに糸の張力 \(T\)。
物体A、Bそれぞれについて、運動方程式を立てます。
物体A: $$ 2.0a = 8.0 – T \quad \cdots ① $$
物体B: $$ 3.0a = T \quad \cdots ② $$
この2式を連立して、まず加速度 \(a\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式②を式①に代入して \(T\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
2.0a &= 8.0 – (3.0a) \\[2.0ex]
2.0a + 3.0a &= 8.0 \\[2.0ex]
5.0a &= 8.0 \\[2.0ex]
a &= \frac{8.0}{5.0} \\[2.0ex]
a &= 1.6 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$
この問題は、2両編成の電車を先頭車両(A)から引っ張るイメージです。
先頭車両Aの運動方程式は、「(全体のエンジン力)-(後ろの車両Bを引っぱる力)=(Aの質量)×(加速度)」となります。
後ろの車両Bの運動方程式は、「(前の車両Aに引っぱられる力)=(Bの質量)×(加速度)」となります。
この2つの式を足し合わせると、間の「引っぱる力」が打ち消しあって、「(全体のエンジン力)=(全体の質量)×(加速度)」というシンプルな式になります。
・全体のエンジン力: 8.0 N
・全体の質量: 2.0 kg + 3.0 kg = 5.0 kg
したがって、\(8.0 = 5.0 \times a\) となり、加速度 \(a = 8.0 \div 5.0 = 1.6 \text{ m/s}^2\) と求まります。
A, Bの加速度の大きさは \(1.6 \text{ m/s}^2\) です。
連立方程式を解くことで、未知数であった加速度と張力のうち、加速度を求めることができました。有効数字も適切です。
思考の道筋とポイント
加速度だけを求めたい場合、連結された物体AとBを、質量が \(m_A+m_B\) の一つの大きな物体(一体)とみなすことで、計算を簡略化できます。
この一体の物体にはたらく「外力」は、右向きの力 \(F=8.0 \text{ N}\) のみです。物体AとBの間ではたらく張力 \(T\) は、物体内部の力(内力)とみなされ、系全体の運動を考える際には相殺されるため、考慮する必要がありません。
したがって、全体の質量と、全体にはたらく外力を使って、一度に運動方程式を立てることができます。
この設問における重要なポイント
- 連結された物体を一つの系(一体)とみなすことができる。
- 系全体で運動方程式を立てる場合、系内部の力(内力)は無視し、外部から加えられる力(外力)のみを考える。
具体的な解説と立式
物体AとBを、質量 \(M = m_A + m_B\) の一つの物体とみなします。
この一体の物体にはたらく外力は、右向きの力 \(F=8.0 \text{ N}\) のみです。
したがって、系全体の運動方程式は、
$$ Ma = F $$
となります。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
$$
\begin{aligned}
(m_A + m_B)a &= F \\[2.0ex]
(2.0 + 3.0)a &= 8.0 \\[2.0ex]
5.0a &= 8.0 \\[2.0ex]
a &= \frac{8.0}{5.0} \\[2.0ex]
a &= 1.6 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$
この方法は、(1)で加速度のみを問われた場合に非常に有効です。
問(2) 糸の張力の大きさ T
思考の道筋とポイント
(1)で加速度 \(a\) が求まったので、これを(1)の途中で立てた運動方程式のいずれかに代入すれば、張力 \(T\) を求めることができます。
物体Bの運動方程式 \(m_B a = T\) の方が式がシンプルなので、こちらに代入するのが計算が楽です。
物理的に、張力 \(T\) は「物体B(質量3.0 kg)を、加速度 1.6 m/s² で動かすための力」と解釈できます。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式で求めた一方の解を、元の式に代入してもう一方の解を求める。
- どちらの物体の運動方程式を使っても、同じ張力の値が求まる(検算に使える)。
具体的な解説と立式
(1)で立てた物体Bの運動方程式②に、求めた加速度 \(a=1.6 \text{ m/s}^2\) を代入します。
$$ 3.0a = T \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
$$
\begin{aligned}
T &= 3.0 \times a \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 1.6 \\[2.0ex]
&= 4.8 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
念のため、物体Aの運動方程式① \(2.0a = 8.0 – T\) でも検算してみましょう。
\(T = 8.0 – 2.0a = 8.0 – 2.0 \times 1.6 = 8.0 – 3.2 = 4.8 \text{ N}\)。
どちらで計算しても同じ結果になります。
張力 \(T\) は、後ろの車両Bを引っ張るための力です。車両Bの質量は 3.0 kg、全体の加速度は 1.6 m/s² なので、Bをこの加速度で動かすために必要な力は、ニュートンの法則 \(F=ma\) から、\(T = 3.0 \text{ kg} \times 1.6 \text{ m/s}^2 = 4.8 \text{ N}\) と計算できます。
AB間の糸の張力の大きさは \(4.8 \text{ N}\) です。
この張力 (4.8 N) は、全体を引く力 (8.0 N) よりも小さいです。これは、8.0 N の力の一部が物体A自身を加速させるために使われ、残りの力が張力として物体Bを加速させるために伝わっている、と解釈でき、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の連立適用:
- 核心: 複数の物体が相互作用(この場合は糸で繋がれている)しながら運動するとき、それぞれの物体について個別に運動方程式を立て、それらを連立方程式として解くのが、力学における最も基本的かつ強力なアプローチです。
- 理解のポイント:
- 物体Aと物体Bは、糸で繋がれているため加速度 \(a\) が共通です。
- 1本の軽い糸が両端を引く力(張力 \(T\))は大きさが等しいです。
- これら2つの共通変数 \(a, T\) を持つ2つの運動方程式を立てることで、未知数を解くことができます。
- 「一体」とみなす考え方(内力と外力):
- 核心: 加速度を求めるだけであれば、連結された物体全体を質量が \(m_A+m_B\) の一つの物体(系)とみなすことができます。
- 理解のポイント: このとき、系全体を動かすのは外部から加えられた力(外力:この問題では8.0 Nの力)のみです。物体間で及ぼしあう張力は、系内部の力(内力)とみなされ、系全体の運動方程式を立てる際には考慮する必要がありません。これは、各物体の運動方程式を足し合わせると、内力の項(\(-T\) と \(+T\))が数学的に相殺されることに対応します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 接触した2物体の運動: 糸の代わりに、物体Aが物体Bを直接押す問題。張力 \(T\) が、AとBが互いに及ぼしあう垂直抗力 \(N\) に置き換わるだけで、立式や解法は全く同じです。
- 滑車を介した運動(アトウッドの器械など): 水平面上の物体と、滑車を介して鉛直に吊るされた物体が連結されている場合など。これも、各物体について運動方程式を立てて連立する典型問題です。
- 摩擦がある場合: 運動方程式に動摩擦力 \(f=\mu’N\) の項を追加します。例えば、物体Aにのみ摩擦がはたらくなら、Aの式は \(m_A a = F – T – f_A\) となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 何を問われているか?: (1)のように加速度だけを問われているなら、「一体」とみなす解法が最速です。(2)のように張力(内力)を問われているなら、個別の物体に注目して運動方程式を立てる必要があります。
- フリーボディダイアグラムの作成: 必ず物体Aと物体Bを別々に描き、それぞれにはたらく力をすべて矢印で図示する。特に、張力 \(T\) の向き(Aには左向き、Bには右向き)を間違えないように注意します。
- 未知数と式の数を確認する: 未知数が \(a, T\) の2つなので、独立した式が2つ必要だと認識する。それが「Aの運動方程式」と「Bの運動方程式」に対応します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 張力の向きの間違い:
- 誤解: 物体Aにはたらく張力を右向き、物体Bにはたらく張力を左向きなど、逆に描いてしまう。
- 対策: 張力は常に「糸が物体を引く」向きにはたらくと覚える。Aは糸に左に引かれ、Bは糸に右に引かれます。
- 内力と外力の混同:
- 誤解: 物体Bの運動方程式を立てる際に、直接はたらいていない外力 \(F=8.0 \text{ N}\) を含めてしまう(例: \(m_B a = F+T\))。
- 対策: フリーボディダイアグラムの原則を徹底する。「その物体に直接接触しているもの」と「重力」だけを考える。物体Bに直接はたらく水平方向の力は、糸の張力 \(T\) のみです。
- 作用・反作用の誤解:
- 誤解: 物体Aにはたらく張力と、物体Bにはたらく張力が「作用・反作用」の関係にあると考える。
- 対策: これは間違いです。作用・反作用は、2物体(例:Aと糸)が相互に及ぼしあう力のペアです。「糸がAを引く力」の反作用は「Aが糸を引く力」です。Aにはたらく張力とBにはたらく張力の大きさが等しいのは、「1本の軽い糸の両端では張力が等しい」という別の性質によるものです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: 複数の物体が絡む複雑な問題でも、個々の物体に分解して注目すれば、この基本法則が必ず成り立ちます。未知の力(内力)や運動状態(加速度)を特定するための、最も基本的なツールです。
- 適用根拠: 物体Aと物体Bは、それぞれが受けた合力に比例した加速度で運動します。AとBの運動は張力 \(T\) を介して関連付けられているため、それぞれの運動方程式を立てて連立させることで、この関連性を数学的に解き明かすことができます。
- 「一体」とみなす考え方(系の運動方程式):
- 選定理由: 加速度のように系全体で共通の物理量のみを求めたい場合に、計算を大幅に簡略化できるため。
- 適用根拠: 各物体の運動方程式 (\(m_A a = F – T\) と \(m_B a = T\)) をベクトル的に足し合わせると、\((m_A+m_B)a = F\) となります。この操作では、向きが逆で大きさが等しい内力のペア(\(-T\) と \(+T\))が数学的に相殺されます。この「方程式の足し算」という数学的操作を、物理的に「AとBを一体とみなす」と解釈しているのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の解法:
- 加減法: \(m_A a = F – T\) と \(m_B a = T\) の両辺を足し合わせると、\(T\) が消去されて \((m_A+m_B)a = F\) となり、加速度 \(a\) がすぐに求まります。これは「一体」とみなす考え方と等価です。
- 代入法: \(T=m_B a\) をもう一方の式に代入しても解けます。どちらの方法でも解けるようにしておきましょう。
- 検算の徹底:
- (2)で張力 \(T\) を求めたら、それを物体Aの運動方程式 \(m_A a = F – T\) に代入して、(1)で求めた加速度 \(a\) と一致するかを確認する。\(2.0 \times 1.6 = 8.0 – 4.8\)、すなわち \(3.2 = 3.2\)。式が成り立つので、計算は正しいと確信できます。
- 物理的な妥当性の確認:
- 張力 \(T=4.8 \text{ N}\) は、外力 \(F=8.0 \text{ N}\) よりも小さい。OK。
- 張力 \(T\) は、物体B (3.0 kg) を加速させる力。外力 \(F\) は、AとBの全体 (5.0 kg) を加速させる力。力の配分は質量の比 \(m_A:m_B = 2:3\) になるわけではなく、張力は後ろの物体Bだけを動かす力である、という物理的意味を正しく理解しましょう。
75 2物体の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直方向に連結された2物体の運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式 (\(ma=F\))
- 連結された物体の運動(加速度が等しい)
- 張力の性質と、内力・外力の区別
- 複数の物体を一体とみなす考え方
- 不等式を用いた条件設定
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 物体AとBを一体とみなし、系全体にはたらく外力(引く力Fと全体の重力)から運動方程式を立てて加速度を求めます。
- (2) 加速度が求まった後、物体Bのみに着目して運動方程式を立て、未知数である張力Tを求めます。
- (3) (2)で求めた張力の式と、糸が切れる条件から不等式を立て、引く力Fの範囲を求めます。
問(1) A, Bの加速度の大きさ a
思考の道筋とポイント
この問題のように、連結された複数の物体が一体となって運動する場合、全体の加速度を求めるには、物体AとBを質量 \((m+M)\) の一つの大きな物体(系)とみなすのが最も効率的です。
この系全体にはたらく「外力」は、鉛直上向きに引く力 \(F\) と、鉛直下向きにはたらく全体の重力 \((m+M)g\) の2つです。物体AとBの間で及しあう張力 \(T\) は、系内部の力(内力)であるため、系全体の運動を考える際には考慮する必要がありません。
したがって、全体の質量と、全体にはたらく外力の合力を使って、運動方程式を立てることで加速度 \(a\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 連結された物体を一つの系(一体)とみなすことができる。
- 系全体の運動方程式では、内力(張力)は無視し、外力(引く力、重力)のみを考える。
- 連結された物体は、一体となって同じ加速度で運動する。
具体的な解説と立式
物体AとBを、質量が \((m+M)\) の一つの物体とみなします。
この一体の物体にはたらく力は、
・鉛直上向きの外力: \(F\)
・鉛直下向きの全体の重力: \((m+M)g\)
です。
鉛直上向きを正の向きとして、系全体の運動方程式を立てます。
$$ (m+M)a = F – (m+M)g \quad \cdots ① $$
この式を \(a\) について解きます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式①の両辺を \((m+M)\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{F – (m+M)g}{m+M} \\[2.0ex]
a &= \frac{F}{m+M} – g
\end{aligned}
$$
2つの荷物AとBをまとめて一つの大きな荷物として考えます。この大きな荷物の質量は \((m+M)\) です。
この荷物を持ち上げるために、上向きに \(F\) の力で引っ張りますが、同時に下向きに全体の重さ \((m+M)g\) がかかっています。
したがって、この荷物を加速させるための正味の力(合力)は、差し引きで \(F – (m+M)g\) となります。
ニュートンの法則 \((\text{質量}) \times (\text{加速度}) = (\text{合力})\) に当てはめると、\( (m+M)a = F – (m+M)g \) という式が成り立ちます。これを \(a\) について解けば答えが求まります。
A, Bの加速度の大きさは \(a = \displaystyle\frac{F}{m+M} – g\) です。
この式は、引く力 \(F\) が全体の重さ \((m+M)g\) より大きいときに \(a>0\) となり、物体が上昇することを示しています。これは物理的に妥当な結果です。
問(2) 糸が引く力の大きさ T
思考の道筋とポイント
張力 \(T\) は物体AとBの間にはたらく内力なので、(1)のように一体として考えては求めることができません。そこで、物体AかBのどちらか一方に注目し、その物体だけの運動方程式を立てる必要があります。
物体Bに着目するのが最もシンプルです。物体Bにはたらく力は、鉛直上向きの張力 \(T\) と、鉛直下向きの重力 \(Mg\) の2つだけです。この合力が、物体Bを(1)で求めた加速度 \(a\) で運動させていると考えます。
この設問における重要なポイント
- 内力(張力)を求めるには、個別の物体に着目して運動方程式を立てる必要がある。
- (1)で求めた加速度 \(a\) を利用する。
具体的な解説と立式
物体B(質量 \(M\))に着目します。
物体Bにはたらく力は、
・鉛直上向きの張力: \(T\)
・鉛直下向きの重力: \(Mg\)
です。
鉛直上向きを正として、物体Bについての運動方程式を立てます。
$$ Ma = T – Mg \quad \cdots ② $$
この式を \(T\) について解き、(1)で求めた \(a\) を代入します。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式②を \(T\) について解くと、
$$ T = Ma + Mg = M(a+g) $$
この式に、(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{F}{m+M} – g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= M \left( \left( \frac{F}{m+M} – g \right) + g \right) \\[2.0ex]
&= M \left( \frac{F}{m+M} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{M}{m+M}F
\end{aligned}
$$
糸の張力 \(T\) は、下の荷物Bを引っ張り上げるための力です。この力 \(T\) は、Bの重さ \(Mg\) を支えるだけでなく、さらにBを加速度 \(a\) で上向きに加速させる役割も担っています。
したがって、\(T = (\text{Bを支える力}) + (\text{Bを加速させる力}) = Mg + Ma\) となります。
ここに(1)で求めた加速度 \(a\) を代入して整理すると、張力 \(T\) は、全体を引く力 \(F\) のうち、\(\frac{M}{m+M}\) の割合を分担している、という形になります。
糸が引く力の大きさは \(T = \displaystyle\frac{M}{m+M}F\) です。
この式は、張力 \(T\) が引く力 \(F\) に比例することを示しています。また、分数の部分は常に1より小さいので、\(T < F\) となり、張力が全体の力より小さいという物理的に妥当な結果になっています。
問(3) 糸が切れないための F の範囲
思考の道筋とポイント
この設問は、(2)で導出した物理法則(張力Tの式)を、具体的な条件(糸が切れない条件)に適用する応用問題です。
糸が切れるのは「\(2Mg\) 以上の力がはたらいたとき」なので、逆に「切れない」ためには、糸にはたらく力、すなわち張力 \(T\) が \(2Mg\) よりも小さい(未満である)必要があります。
この条件を \(T < 2Mg\) という不等式で表し、(2)で求めた \(T\) の式を代入して、\(F\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- 問題文の条件を正しく不等式で表現する(「以上」の否定は「未満」)。
- 導出した物理式を用いて、変数の範囲を求める。
具体的な解説と立式
糸が切れないための条件は、張力 \(T\) が \(2Mg\) 未満であることです。
$$ T < 2Mg $$
この不等式に、(2)で求めた \(T = \displaystyle\frac{M}{m+M}F\) を代入します。
$$ \frac{M}{m+M}F < 2Mg \quad \cdots ③ $$
この不等式を \(F\) について解きます。
使用した物理公式
- (2)で導出した張力の式
不等式③の両辺を \(M\) で割ります(質量 \(M\) は正なので、不等号の向きは変わりません)。
$$ \frac{1}{m+M}F < 2g $$
次に、両辺に \((m+M)\) を掛けます(質量は正なので、不等号の向きは変わりません)。
$$ F < 2(m+M)g $$
糸が切れないようにするには、糸にかかる力 \(T\) が限界値 \(2Mg\) を超えなければよい、ということです。
(2)の結果から、糸にかかる力 \(T\) は、持ち上げる力 \(F\) が大きいほど強くなることがわかっています。
そこで、\(T\) がちょうど限界値 \(2Mg\) になるときの \(F\) の値を計算し、実際の \(F\) はそれより小さくなければならない、と考えます。
\(\displaystyle\frac{M}{m+M}F = 2Mg\) を解くと、\(F = 2(m+M)g\) となります。
したがって、糸が切れないためには、\(F\) はこの限界値より小さくなければならないので、\(F < 2(m+M)g\) となります。
糸が切れないようにするには、\(F < 2(m+M)g\) の範囲で力を加える必要があります。
引く力 \(F\) が大きくなるほど加速度 \(a\) が増し、それに伴って張力 \(T\) も増大します。したがって、\(F\) に上限値が存在するという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の階層的適用:
- 核心: この問題は、複数の物体からなる「系」に対して、異なる視点から運動方程式を適用する能力を試しています。
- 理解のポイント:
- マクロな視点(一体とみなす): (1)のように系全体の加速度を求める際は、AとBを一体とみなし、系外部から加わる力(外力)のみで運動方程式を立てると効率的です。
- ミクロな視点(個別にみる): (2)のように物体間で及ぼしあう力(内力である張力)を求める際は、系を構成する個々の物体に注目し、それぞれについて運動方程式を立てる必要があります。
この視点の切り替えが、連結体問題を解く上での核心となります。
- 物理法則の応用と条件設定:
- 核心: (3)は、(1)と(2)で導出した物理法則(加速度や張力の公式)を、「糸が切れない」という具体的な物理的制約条件(不等式)に応用する問題です。
- 理解のポイント: 物理法則を導出するだけでなく、それを使って未来の現象を予測したり、特定の条件を満たすための範囲を求めたりすることが、物理学の重要な役割の一つです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水平面での連結問題: 前の問題と同様、水平方向に連結された物体を引く問題。重力を考慮しなくてよいため、よりシンプルな練習になります。
- 滑車を介した運動(アトウッドの器械): 2つの物体が滑車を介して鉛直に吊るされている問題。それぞれの物体について運動方程式(例: \(m_1a = T – m_1g\), \(m_2a = m_2g – T\))を立てて連立します。
- エレベーター内の連結問題: この問題の状況が、さらに加速するエレベーターの中で起こる場合。見かけの重力加速度 \(g’ = g+a_{\text{エレベーター}}\) を使って同様に解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- まず「一体」で加速度を求める: 設問の順番に関わらず、まず系全体を一体とみなして加速度 \(a\) を求めるのが定石です。これにより、後の計算の見通しが良くなります。
- 内力を求めるには「切り離す」: 張力や接触力を求めたい場合は、その力がはたらいている物体を系から切り離し、単独の物体としてフリーボディダイアグラムを描きます。
- 最もシンプルな物体に注目する: 張力 \(T\) を求める際、物体Aと物体Bのどちらに着目しても解けますが、はたらく力が少ない物体B(張力と重力のみ)に着目する方が、立式も計算も簡単になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 内力と外力の混同:
- 誤解: 物体Bの運動方程式を立てる際に、直接はたらいていない外力 \(F\) を式に入れてしまう。
- 対策: フリーボディダイアグラムを物体ごとに丁寧に描く習慣をつける。「その物体に直接はたらく力」だけをリストアップする。物体Bに直接はたらく上向きの力は張力 \(T\) のみです。
- 重力の扱い:
- 誤解: 物体Aの運動方程式に、物体Bの重力 \(Mg\) を含めてしまう。または、一体とみなしたときの重力を \(mg\) や \(Mg\) のどちらか一方だけにしてしまう。
- 対策: 重力はそれぞれの物体に個別にはたらきます。Aには \(mg\)、Bには \(Mg\) がはたらきます。一体とみなす場合は、全体の質量 \((m+M)\) に対する重力 \((m+M)g\) を考えます。
- 不等式の条件設定ミス:
- 誤解: (3)で「\(2Mg\) 以上の力がはたらくと切れる」という条件を、\(T \le 2Mg\) や \(T > 2Mg\) のように誤って不等式にしてしまう。
- 対策: 「A以上」の否定は「A未満」であることを正確に理解する。「切れない」ためには、張力 \(T\) が限界値 \(2Mg\) に達してはいけないので、\(T < 2Mg\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式(一体) (\((m+M)a = F – (m+M)g\)):
- 選定理由: 系全体の運動状態(加速度 \(a\))と、それを引き起こす外部からの力(外力 \(F, (m+M)g\))の関係を最もシンプルに記述できるため。
- 適用根拠: これは、個々の物体の運動方程式をすべて足し合わせたものと数学的に等価です。足し合わせる過程で、向きが逆で大きさが等しい内力のペア(Aにはたらく\(-T\)とBにはたらく\(+T\))は相殺されます。この数学的な操作を物理的に解釈したのが「一体とみなす」という考え方です。
- 運動方程式(個別) (\(Ma = T – Mg\)):
- 選定理由: 系内部の力(内力である張力 \(T\))の大きさを特定するため。内力は系全体の運動方程式からは消えてしまうため、個別の物体に注目する必要があります。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則は、個々の物体すべてに対して独立に成り立ちます。物体Bの運動(加速度 \(a\))は、物体Bに直接はたらく力の合力(\(T-Mg\))によって引き起こされる、という因果関係をこの式は正しく表現しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の計算に慣れる: この問題はすべて文字式で計算します。分数の計算や移項、代入といった代数計算を正確に行う練習になります。焦らず、一行ずつ丁寧に式変形を行いましょう。
- 検算: (2)で求めた張力 \(T\) と(1)で求めた加速度 \(a\) を、使わなかった方の物体Aの運動方程式 \(ma = F – T – mg\) に代入して、等式が成り立つかを確認する。これが非常に強力な検算になります。
- 物理的な吟味(極端な状況を考える):
- もし \(m=0\) なら? → \(a = F/M – g\), \(T = F\)。これは、質量Mの物体を直接Fで引く状況と一致し、正しい。
- もし \(F=(m+M)g\)(全体の重さと等しい力)で引いたら? → \(a=0\)。このとき \(T = M(0+g) = Mg\)。これは、全体が静止(または等速運動)している状況と一致し、正しい。
このような思考実験は、導出した式の物理的な妥当性を確認するのに役立ちます。
76 2物体の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「作用・反作用の法則と運動量保存則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式 (\(ma=F\))
- 作用・反作用の法則
- 等加速度直線運動の公式 (\(v = v_0 + at\))
- 運動量保存則(別解)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 大人の運動に着目し、与えられた質量と加速度から、運動方程式を用いて子どもが大人を押した力を求めます。
- (2) 作用・反作用の法則により、大人が子どもを押す力(反作用)の大きさを求め、子どもの運動方程式を立てて加速度を計算します。
- (3) 大人、子どもそれぞれについて、等加速度直線運動の公式を用いて、力を加えられた後の速さを求めます。
問(1) 子どもが大人を押した力 F
思考の道筋とポイント
この設問では、子どもが大人を押した力 \(F\) を求めます。この力を直接知ることはできませんが、この力を受けた「大人」の運動の情報(質量と加速度)が与えられています。
力が物体の運動(加速度)を引き起こす関係を表すのが運動方程式 \(ma=F\) です。したがって、大人の質量 \(m_{\text{大人}}\) と大人の加速度 \(a_{\text{大人}}\) をこの式に代入することで、大人にはたらいた力、すなわち子どもが大人を押した力 \(F\) を計算することができます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式 \(ma=F\) を用いて、運動の状態から力の大きさを逆算する。
- 注目する物体(この場合は大人)にはたらく力と、その物体の運動状態を正しく対応させる。
具体的な解説と立式
大人の質量を \(M=80 \text{ kg}\)、大人の加速度を \(A=0.25 \text{ m/s}^2\) とします。
大人は、子どもから力 \(F\) を受けて加速します。水平方向にはたらく力はこれだけなので、これが合力となります。
大人の運動について運動方程式を立てます。
$$ MA = F \quad \cdots ① $$
この式に数値を代入して \(F\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式①に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= 80 \times 0.25 \\[2.0ex]
&= 20 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
子どもが大人を押した力を知りたいのですが、その力は直接測れません。しかし、その力を受けた大人が、どれくらいの加速度で動き出したかは分かっています。ニュートンの法則 \(F=ma\) を使えば、物体の質量と加速度が分かれば、その物体に加えられた力が計算できます。
大人の質量は 80 kg、加速度は 0.25 m/s² なので、加えられた力 \(F\) は、\(F = 80 \times 0.25 = 20 \text{ N}\) となります。
子どもが大人を押した力の大きさは \(20 \text{ N}\) です。
与えられた情報から運動方程式を用いて力を求める、基本的な計算であり、妥当な結果です。
問(2) 子どもの加速度の大きさ a
思考の道筋とポイント
この設問では、子どもの加速度を求めます。そのためには、子どもにはたらいた力を知る必要があります。ここで鍵となるのが「作用・反作用の法則」です。
(1)で求めた「子どもが大人を押す力 \(F\)」の反作用として、「大人が子どもを押し返す力」が子どもにはたらきます。作用・反作用の法則によれば、この2つの力の大きさは等しく、向きは逆です。
したがって、子どもには、大人とは反対向きに、同じ大きさ \(F=20 \text{ N}\) の力がはたらきます。この力と子どもの質量を使って、子どもの運動方程式を立てれば、加速度 \(a\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 作用・反作用の法則:AがBに及ぼす力と、BがAに及ぼす力は、大きさが等しく向きが逆である。
- 同じ大きさの力でも、質量が小さい物体ほど大きな加速度が生じる。
具体的な解説と立式
子どもの質量を \(m=40 \text{ kg}\)、子どもの加速度を \(a\) とします。
作用・反作用の法則により、子どもは大人から、(1)で求めた力 \(F\) と同じ大きさで逆向きの力を受けます。
子どもにはたらく水平方向の力はこの力 \(F\) のみなので、これが合力となります。
子どもの運動について運動方程式を立てます。
$$ ma = F \quad \cdots ② $$
この式に、\(m=40 \text{ kg}\) と (1)で求めた \(F=20 \text{ N}\) を代入して \(a\) を求めます。
使用した物理公式
- 作用・反作用の法則
- 運動方程式: \(ma = F\)
式②に数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
40 \times a &= 20 \\[2.0ex]
a &= \frac{20}{40} \\[2.0ex]
a &= 0.50 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$
子どもが大人を押すと、同時に大人も子どもを同じ力で押し返します。これが作用・反作用の法則です。(1)で子どもが大人を押す力は 20 N と分かったので、大人も子どもを 20 N の力で押し返していることになります。
この 20 N の力を受けた子どもの加速度を、ニュートンの法則 \(F=ma\) で計算します。
子どもの質量は 40 kg なので、\(20 = 40 \times a\) となります。
これを解くと、加速度 \(a = 20 \div 40 = 0.50 \text{ m/s}^2\) と求まります。
子どもの加速度の大きさは \(0.50 \text{ m/s}^2\) です。
子どもは大人と同じ大きさの力を受けますが、質量が半分 (40 kg) であるため、加速度は2倍 (0.50 m/s²) になっています。これは運動方程式 \(a=F/m\) が示す通り、加速度と質量が反比例の関係にあることと一致しており、物理的に妥当です。
問(3) 等速直線運動しているときの大人の速さ V, 子どもの速さ v
思考の道筋とポイント
大人と子どもは、押している \(0.60 \text{ s}\) の間だけ等加速度直線運動をし、その後は力がはたらかなくなるため、その瞬間の速さのまま等速直線運動を続けます。
したがって、\(0.60 \text{ s}\) 後の速さを求めれば、それが等速直線運動の速さになります。
初速度はともにゼロなので、等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を、大人と子どもそれぞれに適用して計算します。
この設問における重要なポイント
- 力がはたらいている間だけ加速し、力がなくなると等速直線運動になる。
- 等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を正しく適用する。
具体的な解説と立式
大人と子どもは、ともに初速度 \(v_0=0\) から、時間 \(t=0.60 \text{ s}\) の間、一定の加速度で運動します。
\(t\) 秒後の速さを求める公式は、
$$ v = v_0 + at $$
です。
・大人の速さ \(V\): 初速度 \(v_0=0\), 加速度 \(A=0.25 \text{ m/s}^2\), 時間 \(t=0.60 \text{ s}\)
・子どもの速さ \(v\): 初速度 \(v_0=0\), 加速度 \(a=0.50 \text{ m/s}^2\), 時間 \(t=0.60 \text{ s}\)
として、それぞれ計算します。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の公式: \(v = v_0 + at\)
大人の速さ \(V\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= 0 + 0.25 \times 0.60 \\[2.0ex]
&= 0.15 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
子どもの速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= 0 + 0.50 \times 0.60 \\[2.0ex]
&= 0.30 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
速さは「加速度 × 時間」で計算できます(初めは止まっていたので)。
・大人の速さ: 加速度 0.25 m/s² で 0.60 秒間加速したので、速さは \(0.25 \times 0.60 = 0.15 \text{ m/s}\) となります。
・子どもの速さ: 加速度 0.50 m/s² で 0.60 秒間加速したので、速さは \(0.50 \times 0.60 = 0.30 \text{ m/s}\) となります。
押すのをやめた後は、氷の上で摩擦がないので、この速さのままずっと滑り続けます。
大人の速さは \(0.15 \text{ m/s}\)、子どもの速さは \(0.30 \text{ m/s}\) です。
子どもは大人よりも加速度が2倍大きいため、同じ時間加速した後の速さも2倍になっています。これは物理的に妥当な結果です。
また、この結果は運動量保存則 (\(MV + mv = 0\)) を満たしているか確認できます。
\(80 \times 0.15 + 40 \times (-0.30) = 12 – 12 = 0\)。
(子どもの速度は大人と逆向きなのでマイナス)
運動量保存則が成り立っており、計算が正しいことが裏付けられます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則):
- 核心: 「子どもが大人を押す力」と「大人が子どもを押す力」は、大きさが等しく、向きが逆であるという法則です。これが、(1)で求めた力を(2)の計算に使うための論理的な根拠となります。
- 理解のポイント: 日常感覚では「軽い子どもが重い大人を押しても、同じ力で押し返されるはずがない」と感じがちですが、物理法則はこれを否定します。力の大きさは常にペアで等しく、運動の結果(加速度)の違いは、質量の違いによって生じます (\(a=F/m\))。
- 運動量保存則:
- 核心: この問題は、2物体が「内力」(互いに押し合う力)のみを及ぼしあって運動状態を変化させる典型例です。「なめらかな氷の上」なので水平方向の外力はゼロであり、系全体の運動量の合計は、押す前後で変化しないという法則が成り立ちます。
- 理解のポイント: 作用・反作用の法則は、運動量保存則が成り立つための根拠となっています。この法則を知っていると、(2)や(3)を別解で解いたり、計算結果を検算したりすることができ、問題全体をより高い視点から理解できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分裂問題: 静止した物体が2つ(またはそれ以上)に分裂する問題(例:ロケットの切り離し、砲弾の発射)。これらはすべて、運動量保存則が中心的な役割を果たします。
- 衝突問題: 2物体が衝突する前後で、運動量の合計が保存されることを利用する問題。衝突の瞬間に働く力(撃力)は内力とみなせます。
- 人が動く台車やボート: 人が台車の上を歩いたり、ボートから飛び降りたりする問題。人と台車(ボート)を一つの系として考え、運動量保存則を適用します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「静止状態から」「内力によって」「複数の物体が動き出す」というキーワードに注目する。このパターンを見たら、即座に「作用・反作用」と「運動量保存則」を連想します。
- 時間区間を区別する: 問題文の「押されている0.60秒の間」と「その後」で、運動の種類が「等加速度運動」から「等速運動」に変わることを明確に区別します。どの時間区間の話をしているのかを常に意識することが重要です。
- 誰に注目しているか: (1)では大人、(2)では子ども、(3)では両方と、設問ごとに注目する対象が異なります。運動方程式を立てる際は、必ず「誰についての式か」を明確にしましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 作用・反作用の力の大きさに関する誤解:
- 誤解: 「重い大人を動かすのだから、子どもが押す力の方が、押し返される力より大きいはずだ」と考えてしまう。
- 対策: 作用・反作用の法則は「力の大きさは常に等しい」と結論付けていることを徹底する。加速度の違いは、あくまで質量の違いから生じる (\(a=F/m\)) ことを理解し、力の大きさと運動の結果を切り離して考える。
- 運動量保存則の誤用:
- 誤解: 摩擦のある床の上など、外力がはたらく状況で運動量保存則を使おうとする。
- 対策: 運動量保存則が成り立つのは「系に外力がはたらかない(または外力の合力がゼロの)場合」という条件を正確に覚える。この問題の「なめらかで水平な氷の上」という設定が、この条件を満たすための重要な伏線であることに気づくことが大切です。
- 運動方程式の主語の混同:
- 誤解: (1)の大人の運動方程式に、子どもの質量(40 kg)を使ってしまう。
- 対策: 式を立てる前に「大人について」「子どもについて」と主語を明記する習慣をつける。\(m_{\text{大人}}a_{\text{大人}} = F_{\text{大人にはたらく力}}\) のように、添字をつけて物理量を区別するのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: (1)と(2)では、それぞれ「力」と「加速度」という具体的な物理量を求めることが要求されています。これらを直接結びつける基本法則が運動方程式です。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則は、個々の物体に対して常に成り立ちます。(1)では大人の運動(結果)から力(原因)を、(2)では子どもにはたらく力(原因)から運動(結果)を求めるという、因果関係をたどるために適用します。
- 作用・反作用の法則:
- 選定理由: (1)で求めた「子ども→大人」の力と、(2)で必要な「大人→子ども」の力を結びつけるために不可欠な法則です。2物体間の相互作用を扱う問題では、この法則がなければ解き進められません。
- 適用根拠: ニュートンの第三法則は、力が常にペアで存在することを示す普遍的な法則です。この法則により、直接情報がない「子どもにはたらく力」の大きさを特定できます。
- 等加速度直線運動の公式 (\(v=v_0+at\)):
- 選定理由: (3)では、一定の力がはたらいた結果としての「速さ」を求める必要があります。加速度が一定の運動における、時間と速さの関係を記述する運動学の公式としてこれを選択します。
- 適用根拠: 「加速度が0.25 m/s²の等加速度直線運動をし」と問題文に明記されているため、この公式を適用することが論理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 物理量の整理: 計算を始める前に、大人と子どもそれぞれの質量、加速度、時間、速さを、\(M, A, t, V\) や \(m, a, t, v\) のように記号で整理しておくと、代入ミスや混乱を防げます。
- 運動量保存則による検算: (3)で求めた速さ \(V, v\) を使って、運動量保存が成り立っているかを確認しましょう。初めの運動量はゼロです。後の運動量は、向きを考慮すると \(MV + m(-v)\) となります。\(80 \times 0.15 – 40 \times 0.30 = 12 – 12 = 0\)。合計がゼロになるので、計算が正しいことの強力な裏付けになります。
- 有効数字の意識: 問題文の数値(40, 80, 0.60, 0.25)はすべて有効数字2桁です。したがって、(2)の答えを \(0.5 \text{ m/s}^2\) ではなく \(0.50 \text{ m/s}^2\) と、(3)の答えを \(0.3 \text{ m/s}\) ではなく \(0.30 \text{ m/s}\) と表記する意識が重要です。
77 2物体の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「滑車を介して連結された2物体の運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式 (\(ma=F\))
- 連結された物体の運動(加速度の大きさが等しい)
- 張力の性質(糸の両端で同じ大きさ)
- 複数の物体を一体とみなす考え方(別解)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、運動の情報が揃っているおもりBに着目し、その運動方程式を立てて未知数である張力Tを求めます。
- (2)では、物体Aに着目し、(1)で求めた張力Tと、与えられた加速度aを用いて運動方程式を立て、未知数である質量Mを求めます。
問(1) おもりBが降下中の糸の張力の大きさ T
思考の道筋とポイント
この設問では、糸の張力 \(T\) を求めます。張力は物体AとBの両方にはたらいていますが、運動の情報がより多く与えられているのはおもりBです。おもりBの質量 \(m\)、加速度 \(a\)、そして重力加速度 \(g\) が分かっています。
おもりBにはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、鉛直上向きの張力 \(T\) の2つです。この2つの力の合力が、おもりBを加速度 \(a\) で降下させていると考え、運動方程式を立てることで、未知数である張力 \(T\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 注目する物体(おもりB)を明確にし、その物体にはたらく力だけを考える。
- おもりBは下に加速しているので、重力 \(mg\) の方が張力 \(T\) よりも大きい。
- 運動方向である下向きを正として運動方程式を立てると、計算が直感的になる。
具体的な解説と立式
おもりB(質量 \(m=2.0 \text{ kg}\))に着目します。
おもりBにはたらく力は、
・鉛直下向きの重力: \(mg\)
・鉛直上向きの張力: \(T\)
です。
おもりBは鉛直下向きに加速度 \(a=5.6 \text{ m/s}^2\) で運動します。
運動方向である鉛直下向きを正として、おもりBの運動方程式を立てます。
$$ ma = mg – T \quad \cdots ① $$
この式を、求めたい張力 \(T\) について解きます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 重力の大きさ: \(W = mg\)
式①を \(T\) について変形します。
$$
\begin{aligned}
T &= mg – ma \\[2.0ex]
&= m(g-a)
\end{aligned}
$$
この式に、\(m=2.0 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(a=5.6 \text{ m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2.0 \times (9.8 – 5.6) \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 4.2 \\[2.0ex]
&= 8.4 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
おもりBを下に引っ張る「アクセル」の役割をしているのが重力 (\(mg\)) です。一方、糸が上に引っ張る張力 \(T\) は「ブレーキ」の役割をしています。このアクセルとブレーキの差額が、実際におもりBを加速させる正味の力(合力)になります。
ニュートンの法則 \(F=ma\) に当てはめると、「(合力)=(質量)×(加速度)」なので、「\(mg – T = ma\)」という式が成り立ちます。
求めたいのは張力 \(T\) なので、式を変形すると \(T = mg – ma\) となります。
・重力 \(mg\) は \(2.0 \times 9.8 = 19.6 \text{ N}\)
・加速に必要な力 \(ma\) は \(2.0 \times 5.6 = 11.2 \text{ N}\)
したがって、張力 \(T\) は \(19.6 – 11.2 = 8.4 \text{ N}\) と計算できます。
糸の張力の大きさは \(8.4 \text{ N}\) です。
おもりBの重力は \(mg = 19.6 \text{ N}\) であり、張力 \(T=8.4 \text{ N}\) はこれより小さいです。そのため、おもりBが下向きに加速するという状況と一致しており、物理的に妥当な結果です。
問(2) 物体Aの質量 M
思考の道筋とポイント
この設問では、物体Aの質量 \(M\) を求めます。物体Aの運動に着目し、運動方程式を立てる必要があります。
物体Aは、糸によって水平右向きに張力 \(T\) で引かれています。なめらかな水平面上にあるため、水平方向の力はこれだけです。この張力 \(T\) が、物体Aを加速度 \(a\) で運動させている原因となります。
物体AとBは糸で繋がれているため、両者の加速度の大きさは等しく \(a=5.6 \text{ m/s}^2\) です。また、(1)で張力 \(T\) の大きさを求めました。
したがって、物体Aについて運動方程式を立てることで、未知数である質量 \(M\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 連結された物体の加速度の大きさは等しい。
- 1本の軽い糸の張力の大きさはどこでも等しい。
- 物体Aを水平方向に動かす力は、張力 \(T\) のみである。
具体的な解説と立式
物体A(質量 \(M\))に着目します。
物体Aにはたらく水平方向の力は、右向きの張力 \(T\) のみです。
物体Aは、おもりBと同じ大きさの加速度 \(a=5.6 \text{ m/s}^2\) で水平右向きに運動します。
水平右向きを正として、物体Aの運動方程式を立てます。
$$ Ma = T \quad \cdots ② $$
この式を、求めたい質量 \(M\) について解きます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
式②を \(M\) について変形します。
$$ M = \frac{T}{a} $$
この式に、(1)で求めた \(T=8.4 \text{ N}\) と、与えられた \(a=5.6 \text{ m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
M &= \frac{8.4}{5.6} \\[2.0ex]
&= \frac{84}{56} \\[2.0ex]
&= \frac{3 \times 28}{2 \times 28} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} \\[2.0ex]
&= 1.5 \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
物体Aを動かしている力の正体は、糸が右向きに引っぱる張力 \(T\) です。(1)で、この力の大きさは 8.4 N であることがわかりました。
この 8.4 N の力によって、物体Aは 5.6 m/s² の加速度で運動しています。
ニュートンの法則 \(F=ma\) を質量について変形すると \(m=F/a\) となります。
したがって、物体Aの質量 \(M\) は、力 \(T\) を加速度 \(a\) で割ることで、\(M = 8.4 \div 5.6 = 1.5 \text{ kg}\) と計算できます。
物体Aの質量は \(1.5 \text{ kg}\) です。
(1)で求めた張力と、問題で与えられた加速度を用いて、運動方程式から未知の質量を求めることができました。計算結果も妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式の連立適用:
- 核心: 水平運動する物体Aと鉛直運動する物体Bという、異なる状況にある2物体が「糸」を介して連動しています。この系の運動を解明する核心は、それぞれの物体について個別に運動方程式を立て、それらを連立させて解くというアプローチです。
- 理解のポイント: 2つの運動方程式は、糸によって生じる2つの「拘束条件」によって結びつけられます。
- 加速度の大きさが等しい: 糸が伸び縮みしないため、Aが動く速さとBが動く速さは常に等しく、したがって加速度の大きさも等しくなります。
- 張力の大きさが等しい: 1本の軽い糸が両端を引く張力の大きさは等しくなります。
- 個別の物体への注目:
- 核心: 問題を解く上で、どの物体に注目すれば、どの未知数が最も効率的に求まるかを見極める戦略的思考が重要です。
- 理解のポイント: (1)では、質量と加速度が既知であるおもりBに注目することで、未知数である張力Tを直接求めることができます。(2)では、その張力Tを使って、今度は物体Aに注目することで、未知の質量Mを求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- アトウッドの器械: 両方のおもりが鉛直に吊るされている滑車の問題。それぞれの運動方程式は \(m_1a = T – m_1g\), \(m_2a = m_2g – T\) (ただし \(m_2 > m_1\)) となります。
- 斜面上の連結問題: 物体Aが水平面ではなく、斜面上にあるパターン。Aの運動方程式が \(Ma = T – Mg\sin\theta\) のように変わりますが、基本的な解法は同じです。
- 摩擦がある場合: 水平面や斜面に摩擦がある場合。運動方程式に動摩擦力の項 (\(-\mu’N\)) を追加する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体ごとに分解する: 連結された物体を見たら、まず個々の物体に分解し、それぞれについてフリーボディダイアグラムを描きます。
- 座標軸を個別に設定する: 物体Aは水平方向、物体Bは鉛直方向と、運動の方向が異なります。それぞれの運動方向に合わせて、個別に座標軸(正の向き)を設定します。
- 未知数と既知数を整理する: 問題文で与えられている量(\(m, a, g\))と、求めたい量(\(T, M\))を明確にし、どの物体の運動方程式を立てれば、どの未知数が求まるかを見通します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 張力と重力の混同:
- 誤解: おもりBの運動方程式を立てる際、加速しているので \(T > mg\) と勘違いしたり、\(ma = mg + T\) のように符号を間違えたりする。
- 対策: 運動方向を正として、力の向きを符号で機械的に処理する。Bは下に加速しているので、下向きの力(重力)が上向きの力(張力)より大きいはず、という物理的な直感を働かせる。\(mg – T\) が合力となります。
- 物体Aにはたらく力の誤認:
- 誤解: 物体Aの運動方程式に、おもりBの重力 \(mg\) を直接入れてしまう。
- 対策: フリーボディダイアグラムの原則を徹底する。物体Aに水平方向にはたらく力は、直接接触している「糸」からの張力 \(T\) のみである。おもりBの重力は、張力 \(T\) を介して間接的にAに影響を与えています。
- 加速度の向きと大きさの混同:
- 誤解: 物体Aは右向き、物体Bは下向きに運動するため、加速度が異なると考えてしまう。
- 対策: 加速度はベクトル量であり、向きは異なるが、糸で繋がれているため「大きさ」は等しい、と正確に理解する。運動方程式では、それぞれの座標系で加速度の大きさ \(a\) を共通の変数として用います。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: この問題は、力がつり合っていない(加速度運動している)2つの物体の力と運動の関係を問うています。この関係を記述する基本法則は運動方程式しかありません。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則は、個々の物体に対して独立に成り立ちます。物体Aと物体Bは、それぞれが受けた合力に比例した加速度で運動します。両者の運動は張力 \(T\) と共通の加速度の大きさ \(a\) を介して関連付けられているため、それぞれの運動方程式を立てることで、この物理系全体を解明できます。
- 個別の物体への注目:
- 選定理由: (1)ではB、(2)ではAと、特定の物体に注目しています。これは、その時点で既知の情報が最も多く、未知数が最も少ない物体を選ぶという、問題解決における合理的な戦略です。
- 適用根拠: (1)ではBの質量と加速度が既知なので、Bの運動方程式 (\(ma = mg – T\)) を立てれば未知数は \(T\) のみです。(2)では(1)で求めた \(T\) と加速度 \(a\) が既知なので、Aの運動方程式 (\(Ma = T\)) を立てれば未知数は \(M\) のみとなります。このように、情報を連鎖させて未知数を一つずつ解決していきます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 立式を丁寧に行う:
- おもりBについて: \(ma = mg – T\)
- 物体Aについて: \(Ma = T\)
のように、まず文字式で関係を明確に記述してから、数値を代入する。
- 単位の確認: 質量は[kg]、加速度は[m/s²]、力は[N]であることを常に意識する。\(M = T/a\) の計算で、[N] / [m/s²] = [kg・m/s²] / [m/s²] = [kg] となり、質量の単位が正しく出てくることを確認する。
- 「一体」とみなす考え方による検算:
- (2)で \(M=1.5\) kg と求まった後、AとBを一体とみなして加速度を計算してみる。
- 全体の質量は \(M+m = 1.5 + 2.0 = 3.5\) kg。
- 系全体を動かす外力は、おもりBの重力 \(mg = 2.0 \times 9.8 = 19.6\) N のみ。
- 運動方程式は \((M+m)a = mg\)。
- \(a = \displaystyle\frac{mg}{M+m} = \frac{19.6}{3.5} = 5.6\) m/s²。
- これは問題文で与えられた加速度と一致するため、計算が正しいと確信できます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]