「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第11章】基本問題220~227

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基本問題

220 水の状態変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「物質の状態変化と熱量」です。氷が水、水蒸気へと状態を変えていく過程をグラフから読み取り、比熱や潜熱(融解熱、蒸発熱)を計算する、熱分野の総合的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 顕熱と比熱: 物質の温度を変化させるのに必要な熱量です。グラフの温度が上昇している傾いた部分に対応し、\(Q=mc\Delta T\) の式で計算します。
  2. 潜熱(融解熱・蒸発熱): 物質の状態を変化させるのに必要な熱量です。この間、温度は一定に保たれます。グラフの温度が一定の水平な部分に対応し、\(Q=mL\) の式で計算します。
  3. 加熱率と熱量の関係: 一定の割合(電力)で加熱する場合、加えた熱量\(Q\)は、加熱率(単位時間あたりの熱量)\(P\)と加熱時間\(\Delta t\)の積、\(Q=P\Delta t\)で計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、グラフの傾いている3つの部分(氷、水、水蒸気)について、それぞれ加熱時間と温度変化を読み取ります。加熱率から加えた熱量\(Q\)を計算し、\(Q=mc\Delta T\) を変形した \(c = \displaystyle\frac{Q}{m\Delta T}\) を用いて各状態の比熱を求めます。
  2. (2)では、グラフの水平な部分(0℃)の加熱時間を読み取り、融解に要した総熱量\(Q_{\text{融解}}\)を計算します。これを質量で割ることで、単位質量あたりの融解熱\(q_1\)を求めます。
  3. (3)では、グラフの水平な部分(100℃)の加熱時間を読み取り、蒸発に要した総熱量\(Q_{\text{蒸発}}\)を計算します。これを質量で割ることで、単位質量あたりの蒸発熱\(q_2\)を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
この問題は、与えられたグラフの各部分が物理的に何を意味しているかを正しく解釈することが出発点です。グラフの傾いている部分は温度が上昇している「顕熱」の領域、水平な部分は温度が一定で状態が変化している「潜熱」の領域に対応します。
加熱の割合が毎秒420Jと与えられているため、横軸の「加熱時間」を「加えた熱量」に変換できることがポイントです。各領域にかかった時間から熱量を算出し、それぞれの公式に当てはめていきます。
この設問における重要なポイント

  • グラフの傾斜部分は温度上昇(顕熱)、水平部分は状態変化(潜熱)に対応することを理解する。
  • 加えた熱量 \(Q\) は、加熱率 \(P=420 \text{ J/s}\) と加熱時間 \(\Delta t\) を用いて \(Q = P\Delta t\) で計算する。
  • 比熱の計算には \(Q=mc\Delta T\) を、潜熱の計算には \(Q=mL\) を使う。

具体的な解説と立式
質量 \(m=100 \text{ g}\)、加熱率 \(P=420 \text{ J/s}\) です。
比熱を求める公式は \(Q=mc\Delta T\) より、\(c = \displaystyle\frac{Q}{m\Delta T} = \displaystyle\frac{P\Delta t}{m\Delta T}\) となります。

氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\)
グラフの \(0 \sim 20 \text{ s}\) の区間。
加熱時間 \(\Delta t = 20 – 0 = 20 \text{ s}\)。
温度変化 \(\Delta T = 0 – (-40) = 40 \text{ K}\)。
$$ c_{\text{氷}} = \frac{420 \times 20}{100 \times 40} $$

水の比熱 \(c_{\text{水}}\)
グラフの \(100 \sim 200 \text{ s}\) の区間。
加熱時間 \(\Delta t = 200 – 100 = 100 \text{ s}\)。
温度変化 \(\Delta T = 100 – 0 = 100 \text{ K}\)。
$$ c_{\text{水}} = \frac{420 \times 100}{100 \times 100} $$

水蒸気の比熱 \(c_{\text{蒸気}}\)
グラフの \(740 \sim 760 \text{ s}\) の区間。
加熱時間 \(\Delta t = 760 – 740 = 20 \text{ s}\)。
温度変化 \(\Delta T = 140 – 100 = 40 \text{ K}\)。
$$ c_{\text{蒸気}} = \frac{420 \times 20}{100 \times 40} $$

使用した物理公式

  • 熱量と加熱率の関係: \(Q = P\Delta t\)
  • 熱量(比熱): \(Q = mc\Delta T\)
計算過程

氷の比熱の計算:
$$
\begin{aligned}
c_{\text{氷}} &= \frac{420 \times 20}{100 \times 40} = \frac{8400}{4000} \\[2.0ex]
&= 2.1 \text{ [J/(g・K)]}
\end{aligned}
$$
水の比熱の計算:
$$
\begin{aligned}
c_{\text{水}} &= \frac{420 \times 100}{100 \times 100} = \frac{42000}{10000} \\[2.0ex]
&= 4.2 \text{ [J/(g・K)]}
\end{aligned}
$$
水蒸気の比熱の計算:
$$
\begin{aligned}
c_{\text{蒸気}} &= \frac{420 \times 20}{100 \times 40} = \frac{8400}{4000} \\[2.0ex]
&= 2.1 \text{ [J/(g・K)]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

グラフの3つの「坂道」部分に注目します。それぞれの坂を上るのにかかった時間と、どれだけ温度が上がったかを読み取ります。
「かかった時間 × 毎秒420J」で、その坂を上るのに使った総熱量がわかります。
比熱は「1gを1K温めるのに必要な熱量」なので、「総熱量 ÷ 質量 ÷ 上がった温度」で計算できます。
これを氷、水、水蒸気の3つの坂道についてそれぞれ計算します。

結論と吟味

計算の結果、氷の比熱は \(2.1 \text{ J/(g・K)}\)、水の比熱は \(4.2 \text{ J/(g・K)}\)、水蒸気の比熱は \(2.1 \text{ J/(g・K)}\) となります。水の比熱がよく知られた値と一致していること、氷や水蒸気は水よりも温まりやすい(比熱が小さい)という事実とも合致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) 氷: \(2.1 \text{ J/(g・K)}\), 水: \(4.2 \text{ J/(g・K)}\), 水蒸気: \(2.1 \text{ J/(g・K)}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
0℃の氷がすべて0℃の水に変わる「融解」に対応する熱量を求めます。これはグラフの最初の水平部分(温度が0℃で一定)に相当します。この区間の加熱時間を読み取り、加熱率を掛けて、100gの氷を溶かすのに必要な総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) を計算します。問題で問われているのは1gあたりの熱量(融解熱 \(q_1\))なので、最後に質量100gで割ります。
この設問における重要なポイント

  • グラフの0℃で水平な部分が融解に対応する。
  • 融解にかかった時間 \(\Delta t\) をグラフから正確に読み取る。
  • 総熱量 \(Q_{\text{融解}} = P\Delta t\) を計算し、質量 \(m\) で割って単位質量あたりの融解熱 \(q_1\) を求める。

具体的な解説と立式
融解熱を \(q_1\) [J/g] とします。
グラフより、融解は \(t=20 \text{ s}\) から始まり、\(t=100 \text{ s}\) で終了しています。
この間の加熱時間 \(\Delta t_{\text{融解}}\) は、
$$ \Delta t_{\text{融解}} = 100 – 20 = 80 \text{ s} $$
この間に加えられた総熱量 \(Q_{\text{融解}}\) は、
$$ Q_{\text{融解}} = P \Delta t_{\text{融解}} $$
これが質量 \(m=100 \text{ g}\) の氷を溶かすのに必要な熱量なので、1gあたりの融解熱 \(q_1\) は、
$$ q_1 = \frac{Q_{\text{融解}}}{m} = \frac{P \Delta t_{\text{融解}}}{m} $$

使用した物理公式

  • 熱量と加熱率の関係: \(Q = P\Delta t\)
  • 潜熱(融解熱): \(Q = mq\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
q_1 &= \frac{420 \times 80}{100} \\[2.0ex]
&= 4.2 \times 80 \\[2.0ex]
&= 336 \text{ [J/g]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、上から3桁目を四捨五入します。
$$ q_1 \approx 3.4 \times 10^2 \text{ [J/g]} $$

計算方法の平易な説明

グラフの最初の「平らな道」(0℃のところ)に注目します。この道を進むのにかかった時間は、20秒地点から100秒地点までの80秒間です。
この80秒間に与えられた総熱量は「\(420 \text{ J/s} \times 80 \text{ s} = 33600\) J」です。
この熱は、100gの氷をすべて溶かすために使われました。
問題は「1gあたり」の熱量を問うているので、総熱量を質量100gで割ります。
\(33600 \div 100 = 336\) J/g。これを有効数字2桁にすると \(3.4 \times 10^2\) J/g となります。

結論と吟味

計算の結果、水の融解熱は \(3.4 \times 10^2 \text{ J/g}\) となります。これは水の融解熱の一般的な値(約334 J/g)とほぼ一致しており、妥当な結果です。

解答 (2) \(3.4 \times 10^2 \text{ J/g}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
100℃の水がすべて100℃の水蒸気に変わる「蒸発」に対応する熱量を求めます。これはグラフの2番目の水平部分(温度が100℃で一定)に相当します。この区間の加熱時間を読み取り、加熱率を掛けて、100gの水を蒸発させるのに必要な総熱量 \(Q_{\text{蒸発}}\) を計算します。最後に質量100gで割り、1gあたりの熱量(蒸発熱 \(q_2\))を求めます。
この設問における重要なポイント

  • グラフの100℃で水平な部分が蒸発に対応する。
  • 蒸発にかかった時間 \(\Delta t\) をグラフから正確に読み取る。
  • 総熱量 \(Q_{\text{蒸発}} = P\Delta t\) を計算し、質量 \(m\) で割って単位質量あたりの蒸発熱 \(q_2\) を求める。

具体的な解説と立式
蒸発熱を \(q_2\) [J/g] とします。
グラフより、蒸発は \(t=200 \text{ s}\) から始まり、\(t=740 \text{ s}\) で終了しています。
この間の加熱時間 \(\Delta t_{\text{蒸発}}\) は、
$$ \Delta t_{\text{蒸発}} = 740 – 200 = 540 \text{ s} $$
この間に加えられた総熱量 \(Q_{\text{蒸発}}\) は、
$$ Q_{\text{蒸発}} = P \Delta t_{\text{蒸発}} $$
これが質量 \(m=100 \text{ g}\) の水を蒸発させるのに必要な熱量なので、1gあたりの蒸発熱 \(q_2\) は、
$$ q_2 = \frac{Q_{\text{蒸発}}}{m} = \frac{P \Delta t_{\text{蒸発}}}{m} $$

使用した物理公式

  • 熱量と加熱率の関係: \(Q = P\Delta t\)
  • 潜熱(蒸発熱): \(Q = mq\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
q_2 &= \frac{420 \times 540}{100} \\[2.0ex]
&= 4.2 \times 540 \\[2.0ex]
&= 2268 \text{ [J/g]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、上から3桁目を四捨五入します。
$$ q_2 \approx 2.3 \times 10^3 \text{ [J/g]} $$

計算方法の平易な説明

グラフの2番目の「平らな道」(100℃のところ)に注目します。この道は非常に長く、進むのにかかった時間は、200秒地点から740秒地点までの540秒間です。
この540秒間に与えられた総熱量は「\(420 \text{ J/s} \times 540 \text{ s} = 226800\) J」です。
この膨大な熱は、100gの水をすべて蒸発させるために使われました。
問題は「1gあたり」の熱量を問うているので、総熱量を質量100gで割ります。
\(226800 \div 100 = 2268\) J/g。これを有効数字2桁にすると \(2.3 \times 10^3\) J/g となります。

結論と吟味

計算の結果、水の蒸発熱は \(2.3 \times 10^3 \text{ J/g}\) となります。これは水の蒸発熱の一般的な値(約2260 J/g)とほぼ一致しており、妥当な結果です。また、融解熱 \(3.4 \times 10^2 \text{ J/g}\) と比較して、蒸発熱が非常に大きいことがグラフの水平部分の長さの違いからも直感的に理解できます。

解答 (3) \(2.3 \times 10^3 \text{ J/g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 加熱曲線(グラフ)の物理的解釈:
    • 核心: 氷を加熱したときの温度変化を示すグラフの各部分が、どの物理現象に対応しているかを理解することが全ての出発点です。
    • 理解のポイント:
      1. 傾斜部分(温度上昇): 加えられた熱が物質の温度上昇(顕熱)に使われている区間。氷、水、水蒸気の3つの状態に対応します。
      2. 水平部分(温度一定): 加えられた熱が状態変化(潜熱)だけに使われている区間。氷から水への融解(0℃)、水から水蒸気への蒸発(100℃)に対応します。
  • 熱量計算式の使い分け:
    • 核心: 上記のグラフ解釈に基づき、2種類の熱量計算式を適切な場面で使い分ける能力が問われます。
    • 理解のポイント:
      • 傾斜部分(温度上昇)では、比熱\(c\)を用いて \(Q=mc\Delta T\) を適用します。
      • 水平部分(状態変化)では、潜熱\(L\)(融解熱や蒸発熱)を用いて \(Q=mL\) を適用します。
  • 加熱率と熱量の関係:
    • 核心: 「毎秒420J」という加熱率(仕事率)\(P\)が与えられているため、グラフの横軸である時間\(\Delta t\)を、加えた熱量\(Q\)に変換できます。この関係式 \(Q = P\Delta t\) が、グラフと熱量計算を結びつける鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 逆計算問題: 物質の比熱や潜熱が既知の値として与えられ、グラフ中の未知の時間や温度を求めさせる問題。例えば、「水がすべて蒸発し終わるのは加熱開始から何秒後か?」など。
    • 加熱率を求める問題: 水の比熱(4.2 J/(g・K))など、信頼できる物理定数を使って、グラフから加熱率\(P\) [J/s] をまず計算させる問題。
    • 混合問題との融合: このグラフの途中の状態(例: 50℃の水100g)に、別の物体(例: -20℃の氷20g)を投入したときの最終的な状態を問う問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. グラフの全体像を把握: まず、グラフの各区間がどの状態(氷、氷と水、水、水と水蒸気、水蒸気)に対応するかをグラフ上に書き込みます。各区間の開始・終了時刻と温度もメモしておくと良いでしょう。
    2. 時間と熱量の変換キーを探す: 「毎秒〜J」「〜Wのヒーター」といった加熱率\(P\)に関する記述を見つけ出し、これが時間軸を熱量軸に変換するための最も重要な情報であることを認識します。
    3. 設問とグラフの対応付け: (1)の比熱は「傾斜部分」、(2)の融解熱は「0℃の水平部分」、(3)の蒸発熱は「100℃の水平部分」というように、設問がグラフのどの区間について問うているのかを正確に対応させます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 加熱時間の計算ミス:
    • 誤解: (2)の融解時間を計算する際に、終了時刻の100sをそのまま使ってしまう(正しくは \(100-20=80\)s)。(3)の蒸発時間も同様(正しくは \(740-200=540\)s)。
    • 対策: 加熱時間\(\Delta t\)は、必ず「区間の終了時刻 – 区間の開始時刻」で計算することを徹底しましょう。グラフの区切りに縦線を引いて、区間ごとの所要時間を書き込んでおくとミスを防げます。
  • 顕熱と潜熱の公式の混同:
    • 誤解: グラフの水平部分(状態変化)なのに、温度変化がないからと \(Q=mc\Delta T\) を使おうとして混乱する。
    • 対策: 「温度が変化するなら比熱、状態が変化するなら潜熱」という大原則を常に意識しましょう。グラフの傾きが0でないなら \(mc\Delta T\)、傾きが0なら \(mL\) と機械的に結びつけても良いでしょう。
  • 単位質量あたりの熱量を求め忘れる:
    • 誤解: (2)や(3)で、加熱時間から総熱量(例: \(420 \times 80 = 33600\) J)を計算しただけで満足してしまい、質量100gで割るのを忘れる。
    • 対策: 問題文で求められている物理量の単位を確認する癖をつけましょう。(2)(3)では単位が [J/g] となっており、「ジュールをグラムで割る」計算が必要であることが単位からわかります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱量と加熱率の関係 (\(Q = P\Delta t\)):
    • 選定理由: この問題では、熱量を直接与える代わりに「一定の割合で加熱した」という時間的な情報が与えられています。この時間情報をエネルギー(熱量)に変換するための、最も基本的な関係式です。
    • 適用根拠: 加熱率\(P\) [J/s] は、1秒あたりに供給されるエネルギー量を意味します。したがって、\(\Delta t\) 秒間加熱すれば、供給される総エネルギーは単純な掛け算で \(P \times \Delta t\) [J] となります。これは仕事率と仕事の関係(仕事 = 仕事率 × 時間)と同じ構造です。
  • 顕熱の式 (\(Q=mc\Delta T\)) と潜熱の式 (\(Q=mL\)):
    • 選定理由: 物質に熱を加えたときの結果は、温度上昇(顕熱)と状態変化(潜熱)の2通りがあり、それぞれをモデル化する異なる公式が必要です。
    • 適用根拠:
      • \(Q=mc\Delta T\): 状態変化がない区間では、加えられた熱\(Q\)は分子の運動エネルギーを増加させ、それが温度上昇\(\Delta T\)として観測されます。この関係を定義するのが比熱\(c\)です。
      • \(Q=mL\): 状態変化の区間では、加えられた熱\(Q\)は分子間力を断ち切るための位置エネルギーの変化に使われ、温度は変化しません。この関係を定義するのが潜熱\(L\)です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 計算しやすいように約分を活用する:
    • (1)の氷の比熱の計算: \(c_{\text{氷}} = \displaystyle\frac{420 \times 20}{100 \times 40}\)。まず分母と分子の0を2つずつ消して \(\displaystyle\frac{42 \times 2}{1 \times 40} = \frac{84}{40}\)。さらに4で割って \(\displaystyle\frac{21}{10} = 2.1\)。大きな数を掛ける前に、できるだけ約分するのがコツです。
  • 有効数字の処理は最後に:
    • (2)の融解熱: \(q_1 = \displaystyle\frac{420 \times 80}{100} = 336\) J/g。計算結果が出てから、問題の指示「有効数字2桁」に従い、3桁目の6を四捨五入して \(340\) J/g とし、科学的記数法で \(3.4 \times 10^2\) J/g と表記します。
    • (3)の蒸発熱: \(q_2 = \displaystyle\frac{420 \times 540}{100} = 2268\) J/g。同様に、3桁目の6を四捨五入して \(2300\) J/g とし、\(2.3 \times 10^3\) J/g と表記します。
  • グラフから物理的妥当性を確認する:
    • 水の比熱が氷や水蒸気の2倍であることは、グラフの傾きが水の区間だけ緩やか(温まりにくい)であることと対応しています。
    • 蒸発熱が融解熱よりずっと大きいことは、100℃の水平部分が0℃の水平部分よりずっと長い(蒸発に時間がかかる)ことと対応しています。計算結果がグラフの見た目と一致しているか確認するのも良い検算方法です。

221 水の状態変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説では、模範解答で採用されている「高温物体が失った熱量 = 低온物体が得た熱量」というアプローチを主たる解法として解説します。
それに加え、教育的に有益な別解として、以下の解法を提示します。

  1. 設問(1)および(2)の別解
    • 別解: 「はじめの熱量の和 = あとの熱量の和」というエネルギー保存の考え方に基づく解法

この別解の意義は以下の通りです。

  • どの物体が熱を失い、どの物体が得たかを個別に判断する必要がなく、機械的に立式できるため、符号ミスなどのケアレスミスを減らすことができます。
  • 熱現象をより普遍的な「エネルギー保存則」の一例として捉える視点が得られ、物理の理解が深まります。

いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致することを申し添えます。

この問題のテーマは「状態変化を含む熱量の保存」です。温度変化(顕熱)と状態変化(潜熱)の両方が関わる、より複雑な熱量保存則の問題です。低温側(氷)が得る熱量を、2つのステップに分けて正しく計算できるかが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱量保存則: 外部と熱の出入りがない場合、「高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量」という関係が成り立ちます。
  2. 顕熱の計算 (\(Q=mc\Delta T\)): 物質の温度を変化させるのに必要な熱量です。
  3. 潜熱の計算 (\(Q=mL\)): 物質の状態を変化させるのに必要な熱量です。この問題では融解熱を扱います。
  4. 多段階の熱の吸収: 低温の固体が融解して液体になる場合、吸収する熱量は「温度上昇に必要な顕熱」と「融解に必要な潜熱」の和になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、高温の湯が失った熱量と、低温の氷が得た熱量が等しいという式を立てます。このとき、氷が得た熱量は「-10℃の氷→0℃の氷」の顕熱と「0℃の氷→0℃の水」の潜熱(融解熱)の合計であることを考慮し、未知数である氷の比熱\(c\)を求めます。
  2. (2)では、(1)と同様の熱量保存則の式を立てます。今回は氷の質量\(m\)が未知数です。(1)で求めた氷の比熱\(c\)の値を用いて、\(m\)についての方程式を解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
54℃の湯(高温側)と-10℃の氷(低温側)を混ぜ、最終的に0℃の水になる状況です。このとき、湯が失った熱量が、すべて氷に吸収されたと考えます。
ここでの最重要ポイントは、氷が吸収した熱量の内訳です。氷はただ温度が上がるだけでなく、途中で「融解」という状態変化を起こします。したがって、氷が得た熱量は、以下の2つの部分の合計として計算しなければなりません。

  1. -10℃の氷が0℃の氷になるまでの温度上昇に必要な熱量(顕熱)。
  2. 0℃の氷がすべて0℃の水になるための状態変化に必要な熱量(潜熱)。

この2つの合計と、湯が失った熱量が等しいという式を立て、未知数である氷の比熱\(c\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 低温側(氷)が得る熱量は、「顕熱+潜熱」の2段階で計算する。
  • 高温側(湯)が失う熱量は、54℃から0℃への温度低下分で計算する。
  • 「湯が失った熱量 = 氷が得た熱量(顕熱+潜熱)」という熱量保存則を立式する。

具体的な解説と立式
氷の比熱を \(c\) [J/(g・K)] とします。
熱量保存則「高温物体が失った熱量 = 低温物体が得た熱量」を立式します。

高温の湯が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\)
質量 \(m_{\text{湯}} = 65 \text{ g}\) の湯が、温度 \(T_{\text{湯}} = 54 \text{ ℃}\) から \(T_{\text{平衡}} = 0 \text{ ℃}\) に下がったので、失った熱量は、
$$ Q_{\text{失}} = m_{\text{湯}} c_{\text{水}} (T_{\text{湯}} – T_{\text{平衡}}) $$

低温の氷が得た熱量 \(Q_{\text{得}}\)
質量 \(m_{\text{氷}} = 42 \text{ g}\) の氷が得た熱量は、以下の2つの和です。
1. -10℃の氷が0℃の氷になるための顕熱 \(Q_1\):
$$ Q_1 = m_{\text{氷}} c \{0 – (-10)\} $$
2. 0℃の氷が0℃の水になるための潜熱(融解熱) \(Q_2\):
$$ Q_2 = m_{\text{氷}} L_{\text{融解}} $$
よって、氷が得た熱量の合計は、
$$ Q_{\text{得}} = Q_1 + Q_2 = m_{\text{氷}} c \times 10 + m_{\text{氷}} L_{\text{融解}} $$

熱量保存則
\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\) なので、以下の関係式が成り立ちます。
$$ m_{\text{湯}} c_{\text{水}} (T_{\text{湯}} – T_{\text{平衡}}) = m_{\text{氷}} c \times 10 + m_{\text{氷}} L_{\text{融解}} $$

使用した物理公式

  • 熱量(比熱): \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱量(潜熱): \(Q = mL\)
  • 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、数値を代入して \(c\) を求めます。
$$ 65 \times 4.2 \times (54 – 0) = 42 \times c \times 10 + 42 \times (3.3 \times 10^2) $$
各項を計算していきます。
$$
\begin{aligned}
65 \times 4.2 \times 54 &= 420c + 42 \times 330 \\[2.0ex]
14742 &= 420c + 13860 \\[2.0ex]
420c &= 14742 – 13860 \\[2.0ex]
420c &= 882 \\[2.0ex]
c &= \frac{882}{420} \\[2.0ex]
c &= 2.1 \text{ [J/(g・K)]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

お湯が放出した熱が、冷たい氷を溶かして0℃の水にするために使われます。
お湯が失った熱は「\(65\text{g} \times 4.2 \times (54 – 0)\text{℃}\)」。
氷が得た熱は、2段階に分かれます。まず-10℃から0℃まで温まるのに「\(42\text{g} \times c \times 10\text{℃}\)」、次に0℃の氷がすべて溶けて0℃の水になるのに「\(42\text{g} \times 330\)」。
「失った熱」と「得た熱の合計」をイコールで結んで、未知数である氷の比熱\(c\)について解きます。

結論と吟味

計算の結果、氷の比熱は \(2.1 \text{ J/(g・K)}\) となります。これは水の比熱 \(4.2 \text{ J/(g・K)}\) のちょうど半分であり、よく知られた値です。物理的に妥当な結果と言えます。

解答 (1) \(2.1 \text{ J/(g・K)}\)
別解: エネルギー総和の保存による解法

思考の道筋とポイント
「混ぜる前の熱エネルギーの総和」と「混ぜた後の熱エネルギーの総和」が等しい、という式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 熱エネルギーの基準温度を0℃の「水」の状態に定める。
  • はじめの状態(54℃の湯、-10℃の氷)と、あとの状態(全体が0℃の水)を正確に把握する。

具体的な解説と立式
基準を「0℃の水」の状態とします。

はじめの状態の熱エネルギーの総和 \(E_{\text{はじめ}}\)
・54℃の湯: 0℃の水より \(65 \times 4.2 \times (54-0)\) だけエネルギーが高い。
・-10℃の氷: 0℃の水よりエネルギーが低い。まず0℃の氷にするのに \(42 \times c \times 10\) のエネルギーが必要で、さらに0℃の水にするのに \(42 \times (3.3 \times 10^2)\) のエネルギーが必要。よって、0℃の水より \(-(42 \times c \times 10 + 42 \times (3.3 \times 10^2))\) だけエネルギーが低い。
$$ E_{\text{はじめ}} = 65 \times 4.2 \times 54 – (42 \times c \times 10 + 42 \times (3.3 \times 10^2)) $$

あとの状態の熱エネルギーの総和 \(E_{\text{あと}}\)
全体が0℃の水になったので、基準と同じ状態です。
$$ E_{\text{あと}} = 0 $$

エネルギー保存則
\(E_{\text{はじめ}} = E_{\text{あと}}\) なので、
$$ 65 \times 4.2 \times 54 – (42 \times c \times 10 + 42 \times (3.3 \times 10^2)) = 0 $$
これを移項すると、主たる解法と同じ式になります。

結論と吟味

計算結果は \(2.1 \text{ J/(g・K)}\) となり、主たる解法の結果と一致します。

解答 (1) \(2.1 \text{ J/(g・K)}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)と全く同じ状況で、未知数が氷の質量\(m\)に変わった問題です。熱量保存則の立て方は(1)と全く同じです。(1)で求めた氷の比熱 \(c=2.1 \text{ J/(g・K)}\) を用いて、質量\(m\)についての方程式を解きます。
この設問における重要なポイント

  • (1)と同様に、氷が得る熱量は「顕熱+潜熱」の和で計算する。
  • (1)で求めた氷の比熱 \(c=2.1 \text{ J/(g・K)}\) を用いる。
  • 未知数が質量\(m\)であることに注意して立式し、方程式を解く。

具体的な解説と立式
氷の質量を \(m\) [g] とします。
(1)と同様に、熱量保存則「湯が失った熱量 = 氷が得た熱量」を立式します。

高温の湯が失った熱量 \(Q’_{\text{失}}\)
$$ Q’_{\text{失}} = 93 \times 4.2 \times (60 – 0) $$

低温の氷が得た熱量 \(Q’_{\text{得}}\)
1. -20℃の氷が0℃の氷になるための顕熱 \(Q’_1\):
$$ Q’_1 = m \times 2.1 \times \{0 – (-20)\} $$
2. 0℃の氷が0℃の水になるための潜熱(融解熱) \(Q’_2\):
$$ Q’_2 = m \times (3.3 \times 10^2) $$
よって、氷が得た熱量の合計は、
$$ Q’_{\text{得}} = m \times 2.1 \times 20 + m \times 330 = m(2.1 \times 20 + 330) $$

熱量保存則
\(Q’_{\text{失}} = Q’_{\text{得}}\) なので、
$$ 93 \times 4.2 \times 60 = m(2.1 \times 20 + 330) $$

使用した物理公式

  • 熱量(比熱): \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱量(潜熱): \(Q = mL\)
  • 熱量保存則: \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を \(m\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
93 \times 4.2 \times 60 &= m(42 + 330) \\[2.0ex]
23436 &= m \times 372 \\[2.0ex]
m &= \frac{23436}{372} \\[2.0ex]
m &= 63 \text{ [g]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(1)と同じように、お湯が失った熱と氷が得た熱の釣り合いを考えます。
お湯が失った熱は「\(93\text{g} \times 4.2 \times 60\text{℃}\)」。
氷が得た熱は、-20℃から0℃への温度上昇分「\(m \times 2.1 \times 20\text{℃}\)」と、0℃での融解分「\(m \times 330\)」の合計です。
これらをイコールで結び、未知数である氷の質量\(m\)について解きます。

結論と吟味

計算の結果、氷の質量は \(63 \text{ g}\) となります。(1)で求めた比熱を正しく用い、同様の熱量保存則を適用することで答えを導くことができました。

解答 (2) \(63 \text{ g}\)
別解: エネルギー総和の保存による解法

思考の道筋とポイント
(1)の別解と同様に、「はじめのエネルギー総和 = あとのエネルギー総和」で立式します。
具体的な解説と立式
基準を「0℃の水」の状態とします。

はじめの状態の熱エネルギーの総和 \(E’_{\text{はじめ}}\)
・60℃の湯: \(93 \times 4.2 \times (60-0)\)
・-20℃の氷: \(-(m \times 2.1 \times 20 + m \times 330)\)
$$ E’_{\text{はじめ}} = 93 \times 4.2 \times 60 – m(2.1 \times 20 + 330) $$

あとの状態の熱エネルギーの総和 \(E’_{\text{あと}}\)
$$ E’_{\text{あと}} = 0 $$

エネルギー保存則
\(E’_{\text{はじめ}} = E’_{\text{あと}}\) より、
$$ 93 \times 4.2 \times 60 – m(2.1 \times 20 + 330) = 0 $$
これを移項すると、主たる解法と同じ式になります。

結論と吟味

計算結果は \(63 \text{ g}\) となり、主たる解法の結果と一致します。

解答 (2) \(63 \text{ g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 状態変化を含む熱量保存則:
    • 核心: この問題の核心は、低温側(氷)が熱を得るプロセスが、単なる温度上昇だけでなく、「状態変化(融解)」を伴う点です。したがって、氷が得た熱量を計算する際には、2つの異なる種類の熱を足し合わせる必要があります。
    • 理解のポイント:
      1. 顕熱: 氷の温度を-10℃から融点である0℃まで上昇させるための熱。\(Q_1 = mc\Delta T\) で計算します。
      2. 潜熱(融解熱): 0℃の氷をすべて0℃の水に状態変化させるための熱。\(Q_2 = mL\) で計算します。
      3. 熱量保存: 高温の湯が失った熱量 \(Q_{\text{失}}\) が、氷が得たこれらの熱量の合計 \(Q_{\text{得}} = Q_1 + Q_2\) に等しい、という式を立てます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 最終温度が0℃以外の場合: 最終的に氷がすべて溶けて、さらに温度が上昇する場合(例: 最終温度が10℃)。この場合、氷側が得る熱量は「-10℃氷→0℃氷(顕熱)」+「0℃氷→0℃水(潜熱)」+「0℃水→10℃水(顕熱)」の3段階の合計になります。
    • 氷が一部しか溶けない場合: 湯の熱量が足りず、氷が一部だけ溶けて、最終的に0℃で氷と水が共存する状態になる問題。この場合、湯が失った熱量は「氷の温度上昇」と「溶けた分の氷の融解熱」に使われます。溶けた氷の質量を未知数として解くことになります。
    • 凝固が起こる場合: 0℃の水に-20℃の氷を入れるなど、水が凍る(凝固)現象が起こる問題。この場合、水は凝固熱を「放出」する側になり、高温側(熱を失う側)の計算に含める必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 最終状態の特定: 問題文から最終的な温度と状態を正確に読み取ります。「すべてとけて0℃の水になった」という記述が、低温側が得る熱量の計算範囲を決める最重要情報です。
    2. 熱の移動経路を図示する: 高温側(湯)と低温側(氷)の温度変化を図で描いてみましょう。湯は \(54 \rightarrow 0\)℃ と温度が下がるだけですが、氷は \(-10 \rightarrow 0\)℃ と温度が上がった後、0℃のまま融解するという2段階のプロセスを経ることが視覚的に理解できます。
    3. 熱量計の有無: 「熱容量の無視できる水熱量計」という記述を確認し、容器の熱容量を計算に含めないことを明確にします。もし熱容量が与えられていれば、低温側が得る熱量に加える必要があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 潜熱(融解熱)の計算漏れ:
    • 誤解: 氷が得た熱量を、-10℃から0℃への温度上昇分の顕熱 \(mc\Delta T\) だけで計算してしまい、状態変化に必要な融解熱 \(mL\) を足し忘れる。
    • 対策: 「氷がとけて水になった」という記述を見たら、必ず「状態変化=潜熱が必要」と条件反射で連想する癖をつけましょう。低温側の熱量計算は多段階になることが多いと心構えをしておくことが重要です。
  • 温度変化 \(\Delta T\) の計算での符号ミス:
    • 誤解: -10℃から0℃への温度変化を計算する際に、\(0 – 10 = -10\) K のように、負号の扱いを間違えてしまう。
    • 対策: 温度変化は常に「後の温度 – 前の温度」で計算します。この場合、\(0 – (-10) = 10\) K となります。負の温度が関わる計算では、符号ミスに細心の注意を払いましょう。
  • (2)で(1)の結果の使い間違い:
    • 誤解: (2)を解く際に、(1)で求めた氷の比熱 \(c=2.1\) を使うべきところで、水の比熱 \(4.2\) を間違えて使ってしまう。
    • 対策: 設問が(1), (2)と続く場合、(1)の結果を(2)で使う可能性が高いと常に意識しましょう。計算に使う物理定数が「氷」のものか「水」のものかを、\(c_{\text{氷}}\), \(c_{\text{水}}\) のように下付き文字などで明確に区別しながら立式すると、代入ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱量保存則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)):
    • 選定理由: 「熱容量の無視できる水熱量計」という記述から、系が外部から断熱されている(孤立している)とみなせます。このような孤立系での熱のやりとりを記述する基本法則がエネルギー保存則(熱量保存則)だからです。
    • 適用根拠: 高温の湯が失ったエネルギーは、外部に逃げることなく、すべて低温の氷に吸収されます。氷はそのエネルギーを使って、自身の温度を上げ(分子の運動エネルギーの増加)、さらに分子の結合を解き(分子間の位置エネルギーの増加)、状態を変化させます。このエネルギーの収支がゼロになるという物理的状況を数式で表現したものがこの法則です。
  • 顕熱の式 (\(Q=mc\Delta T\)) と潜熱の式 (\(Q=mL\)):
    • 選定理由: 低温側の氷が経験する物理現象が「温度上昇」と「状態変化」という質的に異なる2種類あるため、それぞれに対応する公式を使い分ける必要があります。
    • 適用根拠:
      • \(Q=mc\Delta T\): -10℃から0℃の間は、氷という状態のまま、加えられた熱が分子の熱運動を活発にし、それが温度上昇\(\Delta T\)として観測されます。この関係を定義するのが比熱\(c\)です。
      • \(Q=mL\): 0℃に達すると、加えられた熱は分子の運動エネルギーを増やすのではなく、氷の結晶構造(分子間の束縛)を壊すために使われます。このため温度は上がらず、状態だけが変化します。この関係を定義するのが融解熱\(L\)です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因数でまとめる:
    • (1)の氷が得た熱量: \(42 \times c \times 10 + 42 \times 330\) は、共通因数 \(42\) でくくって \(42(10c + 330)\) とすると、式が整理されます。
    • (2)の氷が得た熱量: \(m \times 2.1 \times 20 + m \times 330\) は、必ず共通因数 \(m\) でくくって \(m(2.1 \times 20 + 330)\) とすることで、未知数\(m\)についての方程式として解きやすくなります。
  • 大きな数の計算を避ける工夫:
    • (1)の式: \(65 \times 4.2 \times 54 = 420c + 42 \times 330\)。左辺を計算すると \(14742\)、右辺の第2項は \(13860\) となり、大きな数になります。
    • 移項して \(420c = 14742 – 13860 = 882\)。ここから \(c = 882/420\)。両辺を10で割って \(88.2/42\)。ここで \(88.2 = 2 \times 42 + 4.2\) であることに気づけば、\(c = 2 + 4.2/42 = 2 + 0.1 = 2.1\) と暗算に近い形で計算できます。筆算に頼る前に、約分や関係性を見抜く練習をすると計算力が向上します。
  • 別解による検算:
    • 主たる解法で解いた後、時間があれば別解(エネルギー総和の保存)で解き直してみましょう。特に、この問題のように計算が複雑な場合、検算は非常に有効です。同じ答えになれば、計算が正しいことの強力な裏付けになります。

222 熱膨張

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「熱膨張(線膨張)」です。物体の温度が上昇すると、その長さ、面積、体積が増加する現象のうち、長さの変化である線膨張について、基本的な公式を理解し、適用できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 線膨張: 物体の温度が上昇すると、その長さに比例して長さが伸びる現象です。
  2. 線膨張の公式: 0℃のときの長さを \(l_0\)、温度が \(t\) [℃] のときの長さを \(l\) とすると、\(l = l_0(1 + \alpha t)\) という関係が成り立ちます。ここで \(\alpha\) が線膨張率です。
  3. 伸びの量の公式: 上の式を変形すると、伸びの量 \(\Delta l = l – l_0\) は、\(\Delta l = l_0 \alpha t\) と表せます。こちらの方が計算しやすい場合が多いです。
  4. 単位の統一: 計算に用いる物理量の単位をそろえることが重要です。特に、長さの単位が m と cm で混在しているため、どちらかに統一する必要があります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 伸びの量の公式 \(\Delta l = l_0 \alpha t\) を、求めたい物理量である線膨張率 \(\alpha\) について解きます。
  2. 与えられた数値を代入して計算しますが、その際に長さの単位をメートル(m)に統一します。

思考の道筋とポイント
物体の長さが温度によって変化する現象「熱膨張」を扱う問題です。特に、長さという1次元の変化なので「線膨張」と呼ばれます。
伸びの量 \(\Delta l\) は、元の長さ \(l_0\) と温度変化 \(\Delta T\)(この問題では基準が0℃なので \(t\) と同じ)に比例するという関係 \(\Delta l = l_0 \alpha \Delta T\) を使うのが最も直接的です。この比例定数 \(\alpha\) が、物質の種類によって決まる「線膨張率」です。
この問題を解く上で最も注意すべき点は、単位の扱いです。元のレールの長さが「m」、伸びが「cm」で与えられているため、計算の前にどちらかの単位に統一する必要があります。通常はSI基本単位であるメートル(m)にそろえます。
この設問における重要なポイント

  • 線膨張による伸びの量の公式 \(\Delta l = l_0 \alpha t\) を正しく適用する。
  • 単位換算(cm → m)を忘れずに行う。
  • 温度変化は、セルシウス度(℃)で計算してもケルビン(K)で計算しても同じ値になるため、この問題では \(t=50\)℃ をそのまま使える。

具体的な解説と立式
0℃のときのレールの長さを \(l_0\)、温度が \(t\) [℃] のときの長さを \(l\) とすると、線膨張の公式は以下のように表されます。
$$ l = l_0(1 + \alpha t) $$
ここで、レールの伸びの量 \(\Delta l\) は \(l – l_0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\Delta l &= l – l_0 \\[2.0ex]
&= l_0(1 + \alpha t) – l_0 \\[2.0ex]
&= l_0 \alpha t
\end{aligned}
$$
この問題では、線膨張率 \(\alpha\) を求めたいので、この式を \(\alpha\) について解きます。
$$ \alpha = \frac{\Delta l}{l_0 t} $$

使用した物理公式

  • 線膨張による長さの変化: \(\Delta l = l_0 \alpha t\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、与えられた数値を代入します。
その際、長さの単位をメートル(m)に統一します。
・元の長さ: \(l_0 = 20 \text{ m}\)
・温度変化: \(t = 50 – 0 = 50 \text{ ℃} = 50 \text{ K}\)
・伸びの量: \(\Delta l = 1.2 \text{ cm} = 1.2 \times 10^{-2} \text{ m}\)

これらの値を式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\alpha &= \frac{1.2 \times 10^{-2}}{20 \times 50} \\[2.0ex]
&= \frac{1.2 \times 10^{-2}}{1000} \\[2.0ex]
&= \frac{1.2 \times 10^{-2}}{10^3} \\[2.0ex]
&= 1.2 \times 10^{-2} \times 10^{-3} \\[2.0ex]
&= 1.2 \times 10^{-5} \text{ [/K]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「線膨張率」とは、「元の長さが1mの物体を、1℃(1K)温度を上げたときに、何m伸びるか」という割合のことです。
今回の問題では、「20mのレールを50℃上げたときに1.2cm伸びた」という事実が与えられています。ここから、基準となる「1mあたり、1℃あたり」の伸びを計算します。
ステップ1:まず、伸びを「1mあたり」に換算します。20mで1.2cm伸びたので、1mあたりではその20分の1、つまり \(1.2 \text{ cm} \div 20 = 0.06 \text{ cm}\) 伸びることになります。
ステップ2:次に、この「1mあたり0.06cmの伸び」は50℃上げた結果なので、これを「1℃あたり」に換算します。\(0.06 \text{ cm} \div 50 = 0.0012 \text{ cm}\) となります。
ステップ3:これで「1mのレールを1℃上げると0.0012cm伸びる」ことがわかりました。最後に、単位をmに直します。\(0.0012 \text{ cm} = 0.000012 \text{ m}\) です。
したがって、線膨張率は \(0.000012 \text{ /K}\)、科学的な表記にすると \(1.2 \times 10^{-5} \text{ /K}\) となります。

結論と吟味

計算の結果、鉄の線膨張率は \(1.2 \times 10^{-5} \text{ /K}\) となります。これは鉄の線膨張率として一般的に知られている値であり、物理的に妥当な結果です。単位換算を正しく行い、公式を適切に適用することができました。

解答 1.2×10⁻⁵ /K

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 線熱膨張の法則:
    • 核心: 物体は温度が上がると長くなる(膨張する)という現象です。その「伸びの量 \(\Delta l\)」は、「元の長さ \(l_0\)」と「温度の上昇分 \(t\)」の両方に比例するという、非常にシンプルな法則に基づいています。
    • 理解のポイント: この比例関係を数式で表したものが、伸びの公式 \(\Delta l = l_0 \alpha t\) です。この式の比例定数 \(\alpha\) が「線膨張率」であり、物質の種類によって決まる「1mあたり、1Kあたりの伸びやすさ」を表す物性値です。
  • 線膨張の公式:
    • 核心: 熱膨張を扱うための基本的な公式を正しく理解し、使い分けることが重要です。
    • 理解のポイント:
      1. 後の長さを求める公式: \(l = l_0(1 + \alpha t)\)。0℃のときの長さ \(l_0\) を基準に、\(t\)℃のときの長さ \(l\) を直接計算します。
      2. 伸びの量を求める公式: \(\Delta l = l_0 \alpha t\)。上の式を変形したもので、伸びの量 \(\Delta l\) が与えられている場合に、より直接的に計算できます。本問ではこちらを使うのが効率的です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 面膨張・体膨張: 板の面積や、球の体積が温度によって変化する問題。それぞれ、面積の膨張率 \(\beta\)、体積の膨張率 \(\gamma\) を用いて、\(\Delta S = S_0 \beta t\)、\(\Delta V = V_0 \gamma t\) と同様の形で立式します。多くの場合、\(\beta \approx 2\alpha\)、\(\gamma \approx 3\alpha\) という近似関係が利用できます。
    • 基準温度が0℃でない場合: 例えば、20℃で長さ \(l_1\) だった物体が、80℃でどれだけ伸びるか、という問題。この場合、温度変化は \(\Delta t = 80 – 20 = 60\) K となり、伸びの量は \(\Delta l = l_1 \alpha \Delta t\) で計算します(高校物理では、基準の長さに \(l_1\) を使っても \(l_0\) を使っても結果に大差ない近似を用いることが多いです)。
    • 熱応力: レールや橋など、両端が固定されていて熱膨張が妨げられる場合に、部材内部にどれだけの力(応力)が発生するかを問う問題。ヤング率の知識と組み合わせて解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位のチェックを最優先: まず、問題文中の長さの単位が揃っているかを確認します。m, cm, mm などが混在している場合は、計算を始める前に必ず一つの単位(通常はm)に統一します。
    2. 与えられているのは「後の長さ」か「伸び」か: 問題文が「長さが〜になった」と書いているのか、「長さが〜伸びた」と書いているのかを正確に区別します。これにより、\(l = l_0(1+\alpha t)\) と \(\Delta l = l_0 \alpha t\) のどちらの公式を使うのが適切か判断できます。
    3. 基準温度の確認: 問題文の「0℃のとき」という記述から、基準温度が0℃であることを確認します。これにより、温度変化 \(t\) をそのまま公式に代入できることがわかります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: 元の長さ 20 m と、伸び 1.2 cm を、単位を揃えずにそのまま計算式に入れてしまう。これは最も多い致命的なミスです。
    • 対策: 計算を始める前に、すべての物理量をSI基本単位(長さならメートル)に変換する、というルールを自分の中で徹底しましょう。\(1.2 \text{ cm} = 1.2 \times 10^{-2} \text{ m}\) という変換を、機械的に、かつ正確に行うことが不可欠です。
  • 公式の選択ミス:
    • 誤解: 伸びの量 \(\Delta l\) が与えられているのに、\(l = l_0(1+\alpha t)\) の公式を使おうとして、\(l = 20 + 1.2 = 21.2\) のように、不必要な計算をして混乱してしまう。
    • 対策: 問題で与えられている情報と、求めたい量を明確にし、最もシンプルな形で関係づけられる公式を選択しましょう。この問題では「伸び \(\Delta l\)」が主役なので、\(\Delta l\) が直接式に含まれる \(\Delta l = l_0 \alpha t\) を使うのが賢明です。
  • 温度変化の誤解:
    • 誤解: 温度が℃で与えられているため、Kに変換しようとして \(50 + 273 = 323\) K のように絶対温度を計算してしまう。
    • 対策: 熱膨張の公式で使う \(t\) は「温度変化」の大きさです。温度「変化」の幅は、セルシウス度(℃)で測ってもケルビン(K)で測っても同じ値になります(例: 50℃の上昇は50Kの上昇と同じ)。したがって、基準が0℃の場合は、℃の値をそのままKの値として使って問題ありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 伸びの量の式 (\(\Delta l = l_0 \alpha t\)):
    • 選定理由: この問題では、具体的な「伸びの量 \(\Delta l\)」が与えられており、求めたいのは「線膨張率 \(\alpha\)」です。この公式は、\(\Delta l\), \(l_0\), \(\alpha\), \(t\) という4つの物理量を最も直接的に結びつけているため、選択するのが最も論理的です。
    • 適用根拠: この公式は、物理学における実験事実を数式で表現したものです。実験的に、物体の熱による伸びの量 \(\Delta l\) は、元の長さ \(l_0\) が長いほど大きくなり、また、温度の上昇幅 \(t\) が大きいほど大きくなる、という比例関係 (\(\Delta l \propto l_0 t\)) が確認されています。この比例関係を等式にするための比例定数が、物質固有の性質である「線膨張率 \(\alpha\)」です。したがって、この公式を適用することは、実験事実に基づいた論理的なアプローチと言えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数計算をマスターする:
    • \(\alpha = \displaystyle\frac{1.2 \times 10^{-2}}{20 \times 50} = \frac{1.2 \times 10^{-2}}{1000}\) となった後、\(1000 = 10^3\) と指数で表現します。
    • 分数の指数計算は、指数の引き算になるので、\(\alpha = 1.2 \times 10^{-2-3} = 1.2 \times 10^{-5}\) となります。この指数法則をスムーズに使えるように練習しましょう。
  • 単位から式を検証する:
    • \(\alpha = \displaystyle\frac{\Delta l}{l_0 t}\) という式を立てた後、単位だけで検算してみましょう。
    • 右辺の単位は \(\displaystyle\frac{[\text{m}]}{[\text{m}] \times [\text{K}]}\) となります。[m]が約分されて、[/K](または K⁻¹)が残ります。これは線膨張率の単位と一致するため、立てた式が正しそうだと確認できます。
  • 単位換算リストを作る:
    • 1 cm = 10⁻² m
    • 1 mm = 10⁻³ m
    • 1 km = 10³ m

    といった、よく使う長さの単位換算を一覧にしておき、いつでも参照できるようにしておくと、ケアレスミスを防げます。

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223 熱と仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「力学的エネルギーと熱エネルギーの変換」です。弾丸が持つ運動エネルギーが、壁との摩擦や抵抗によってすべて熱エネルギーに変わり、弾丸自身の温度を上昇させるという現象を扱います。エネルギー保存則の重要な一例です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動エネルギー: 質量\(m\)、速さ\(v\)の物体が持つエネルギーで、\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) で計算されます。
  2. エネルギー保存則(力学的エネルギーと熱): この問題では、「弾丸の力学的エネルギーがすべて弾丸の温度上昇に使われた」という条件から、失われた運動エネルギーがそのまま発生した熱量\(Q\)に等しいと考えます (\(K=Q\))。
  3. 熱量の計算式(比熱): 発生した熱量\(Q\)による弾丸の温度上昇\(\Delta T\)は、\(Q = mc\Delta T\) の関係式で計算されます。
  4. 単位の整合性: 物理公式を使用する際は、各物理量の単位を適切にそろえる必要があります。特に、運動エネルギーの計算では質量をkg、熱量の計算では比熱の単位に合わせてgを使うなど、注意が必要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、弾丸が壁に撃ちこまれる直前に持っていた運動エネルギー\(K\)を計算します。このとき、質量の単位をgからkgに変換します。
  2. この運動エネルギー\(K\)がすべて熱量\(Q\)に変換されたとして、\(Q=K\)の関係から発生した熱量\(Q\)を求めます。
  3. 次に、熱量の式\(Q = mc\Delta T\)を用いて、弾丸の温度上昇\(\Delta T\)を計算します。このとき、比熱の単位がJ/(g・K)なので、質量はgのまま計算します。

発生した熱量Qと温度上昇ΔT

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