基本例題
基本例題39 人工衛星の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説しつつ、より深い物理的理解や計算の効率化に繋がる教育的価値の高い別解を補足しています。
- 設問(2)の周期の計算における別解
- 別解1: ケプラーの第3法則を用いた解法
- この別解の意義
- 惑星の運動に関する普遍的な法則(ケプラーの第3法則)が、人工衛星の運動にも同様に適用できることを確認できます。
- 具体的な周期の公式を代入して比を計算するよりも、法則を用いてより少ない計算量で答えを導出する経験ができます。
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「万有引力を向心力とする等速円運動」です。惑星や人工衛星の運動を解析する上での基本となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 2つの質点間に働く引力で、その大きさは \(F = G\displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\) で与えられます。
- 等速円運動の運動方程式: 物体が円運動を続けるためには、中心方向に向心力が必要です。運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) と表されます。
- 向心力: この問題では、地球が人工衛星を引く「万有引力」が「向心力」の役割を果たします。
- 周期と速さの関係: 周期 \(T\) は、円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ったもの、すなわち \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、人工衛星に働く万有引力が向心力となることを利用して運動方程式を立て、速さ \(v\) を求めます。その後、周期の定義式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v}\) を用いて周期 \(T\) を計算します。
- (2)では、軌道半径が変化することに注意します。「地表からの高さが \(R\)」なので、軌道半径は地球の中心から測って \(R+R=2R\) となります。この新しい軌道半径を用いて、(1)で導出した速さと周期の公式を適用し、それぞれが(1)の場合の何倍になるかを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
人工衛星は、地球との間に働く万有引力を向心力として、地球のまわりを等速円運動しています。この物理的な状況を運動方程式として立式することが第一歩です。未知数である人工衛星の質量 \(m\) は、計算の過程で両辺から消去されるため、最終的な答えには含まれないという点もポイントです。
この設問における重要なポイント
- 向心力は、地球と人工衛星の間の万有引力である。
- 軌道半径は、地球の半径 \(R\) に等しい。
- 運動方程式を立てることで、速さ \(v\) を求めることができる。
- 周期 \(T\) は、速さ \(v\) と軌道半径 \(R\) から計算できる。
具体的な解説と立式
人工衛星の質量を \(m\) とします。地球の表面すれすれを運動しているので、円運動の軌道半径は地球の半径 \(R\) に等しいです。
このとき、人工衛星に働く万有引力 \(F\) が向心力となり、その大きさは
$$ F = G\frac{Mm}{R^2} $$
と表せます。
一方、質量 \(m\) の物体が半径 \(R\) の円軌道を速さ \(v\) で等速円運動するときの向心力は、運動方程式 \(ma=F\) と向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{R}\) より、\(m\displaystyle\frac{v^2}{R}\) となります。
これらが等しいので、以下の運動方程式が成り立ちます。
$$ m\frac{v^2}{R} = G\frac{Mm}{R^2} \quad \cdots ① $$
この式を解くことで速さ \(v\) が求まります。
次に、周期 \(T\) は、人工衛星が軌道を1周するのにかかる時間です。軌道1周の長さ(円周)は \(2\pi R\) なので、速さ \(v\) で割ることで求められます。
$$ T = \frac{2\pi R}{v} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{m_1 m_2}{r^2}\)
- 等速円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
- 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
まず、式①から速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{R} &= G\frac{Mm}{R^2} \\[2.0ex]
\end{aligned}
$$
両辺を \(m\) で割り、\(R\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= G\frac{M}{R} \\[2.0ex]
\end{aligned}
$$
\(v > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{GM}{R}}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式②に代入して周期 \(T\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi R}{v} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi R}{\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi R \cdot \sqrt{\frac{R}{GM}}
\end{aligned}
$$
人工衛星が地球の周りを飛び続けられるのは、地球が引っぱる力(万有引力)と、円運動を続けるために必要な力(向心力)が釣り合っているような状態だからです。この力の関係を数式(運動方程式)で表します。この式を解くと、人工衛星の速さ \(v\) が計算できます。周期(1周にかかる時間)は、単純に「円1周の距離 ÷ 速さ」で計算できます。円1周の距離は「\(2 \times \pi \times \text{半径}R\)」なので、これを先ほど求めた速さ \(v\) で割れば周期 \(T\) が出てきます。
人工衛星の速さは \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\)、周期は \(T = 2\pi R \sqrt{\displaystyle\frac{R}{GM}}\) となります。この速さは、地表すれすれの円軌道を飛ぶ物体に必要な最低限の速さであり、「第一宇宙速度」と呼ばれます。結果が人工衛星自身の質量 \(m\) によらないことは、重い衛星も軽い衛星も同じ軌道ならば同じ速さで運動することを示しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
運動する軌道が変わった場合の問題です。基本的な物理法則は(1)と全く同じですが、物理量を正しく設定し直す必要があります。特に「軌道半径」がいくらになるかを正確に読み取ることが重要です。「地表からの高さが \(R\)」とあるため、地球の中心からの距離、すなわち軌道半径は \(R+R=2R\) となります。この新しい軌道半径を使って、(1)で導出した速さと周期の公式を適用し、比を計算します。
この設問における重要なポイント
- 軌道半径の正しい理解:「地表からの高さ \(h\)」の場合、軌道半径は \(r = R+h\)。今回は \(h=R\) なので \(r=2R\)。
- (1)で導出した公式を利用することで、計算の手間を省くことができる。
- 問われているのは具体的な値ではなく「何倍になるか」なので、元の速さ \(v\) や周期 \(T\) との比を計算する。
具体的な解説と立式
地表からの高さが \(R\) の場合、円軌道の半径 \(r’\) は、地球の中心からの距離なので、
$$ r’ = R + R = 2R $$
となります。
この新しい軌道での速さを \(v’\)、周期を \(T’\) とします。
(1)で求めた速さの公式 \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\) の軌道半径 \(R\) を \(r’=2R\) に置き換えることで、\(v’\) を求めることができます。
$$ v’ = \sqrt{\frac{GM}{2R}} \quad \cdots ③ $$
同様に、(1)で求めた周期の公式 \(T = 2\pi R \sqrt{\displaystyle\frac{R}{GM}}\) の軌道半径 \(R\) を \(r’=2R\) に置き換えることで、\(T’\) を求めることができます。
$$ T’ = 2\pi (2R) \sqrt{\frac{2R}{GM}} \quad \cdots ④ $$
問題では(1)の場合の何倍になるかを問われているので、比 \(\displaystyle\frac{v’}{v}\) と \(\displaystyle\frac{T’}{T}\) を計算します。
使用した物理公式
- (1)で導出した速さの公式: \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\)
- (1)で導出した周期の公式: \(T = 2\pi r \sqrt{\displaystyle\frac{r}{GM}}\)
速さの比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{v’}{v} &= \frac{\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{2R}}}{\sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{\left(\displaystyle\frac{GM}{2R}\right)}{\left(\displaystyle\frac{GM}{R}\right)}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{GM}{2R} \cdot \frac{R}{GM}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{1}{2}} = \frac{1}{\sqrt{2}} = \frac{\sqrt{2}}{2}
\end{aligned}
$$
したがって、速さは \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{2}\) 倍になります。
次に、周期の比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{T’}{T} &= \frac{2\pi (2R) \sqrt{\displaystyle\frac{2R}{GM}}}{2\pi R \sqrt{\displaystyle\frac{R}{GM}}} \\[2.0ex]
&= \frac{2R}{R} \cdot \frac{\sqrt{\displaystyle\frac{2R}{GM}}}{\sqrt{\displaystyle\frac{R}{GM}}} \\[2.0ex]
&= 2 \cdot \sqrt{\frac{\left(\displaystyle\frac{2R}{GM}\right)}{\left(\displaystyle\frac{R}{GM}\right)}} \\[2.0ex]
&= 2 \cdot \sqrt{\frac{2R}{GM} \cdot \frac{GM}{R}} \\[2.0ex]
&= 2 \cdot \sqrt{2} = 2\sqrt{2}
\end{aligned}
$$
したがって、周期は \(2\sqrt{2}\) 倍になります。
今度は、地上から \(R\) の高さ、つまり地球の中心から \(2R\) の距離を飛ぶ場合を考えます。(1)で使った計算式の「半径」の部分を、\(R\) から \(2R\) に変えてあげるだけでOKです。
速さは、(1)で求めた式の \(R\) を \(2R\) に変えて計算し、(1)の速さと比べます。
周期も同様に、(1)で求めた式の \(R\) を \(2R\) に変えて計算し、(1)の周期と比べます。
地球から遠ざかるほど、引っぱられる力が弱くなるので速さは遅くなります。また、回るコースの長さも長くなるので、1周にかかる時間は長くなります。
地表からの高さが \(R\) の軌道では、速さは(1)の \(\displaystyle\frac{\sqrt{2}}{2}\) 倍、周期は \(2\sqrt{2}\) 倍になります。
軌道半径が大きくなると、万有引力が弱まるため速さは遅くなります(\(v \propto \displaystyle\frac{1}{\sqrt{r}}\))。一方、周期は軌道半径が大きくなる効果(円周が長くなる)と速さが遅くなる効果の両方が影響し、長くなります(\(T \propto r\sqrt{r} = r^{3/2}\))。計算結果はこれらの物理的な考察と一致しており、妥当であると言えます。
思考の道筋とポイント
周期の比を求める問題では、ケプラーの第3法則を利用すると非常に見通しが良くなります。この法則は、同一の中心天体の周りを公転する天体について、「周期の2乗」と「軌道長半径の3乗」の比が一定であるというものです。円軌道の場合は、軌道長半径は軌道半径に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = k\) (\(k\) は中心天体にのみ依存する定数)
- (1)の軌道と(2)の軌道で、この比が等しいことを利用する。
具体的な解説と立式
(1)の軌道(地表すれすれ)の軌道半径を \(r_1 = R\)、周期を \(T_1 = T\) とします。
(2)の軌道(地表からの高さ \(R\))の軌道半径を \(r_2 = 2R\)、周期を \(T_2 = T’\) とします。
ケプラーの第3法則より、この2つの軌道について以下の関係が成り立ちます。
$$ \frac{T_1^2}{r_1^3} = \frac{T_2^2}{r_2^3} $$
それぞれの値を代入すると、
$$ \frac{T^2}{R^3} = \frac{T’^2}{(2R)^3} \quad \cdots ⑤ $$
この式を \(T’\) について解くことで、周期の比を求めます。
使用した物理公式
- ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \text{一定}\)
式⑤を \(T’^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
T’^2 &= T^2 \cdot \frac{(2R)^3}{R^3} \\[2.0ex]
&= T^2 \cdot \frac{8R^3}{R^3} \\[2.0ex]
&= 8T^2 \\[2.0ex]
\end{aligned}
$$
\(T’ > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
T’ &= \sqrt{8} T = 2\sqrt{2} T
\end{aligned}
$$
したがって、周期は \(2\sqrt{2}\) 倍になります。
「ケプラーの第3法則」という便利な法則を使います。これは「(周期を2乗した値)を(軌道半径を3乗した値)で割ると、地球の周りを回るどの衛星でも同じ値になる」というルールです。このルールを使えば、(1)の軌道でのこの値と、(2)の軌道でのこの値がイコールになる、という簡単な式を立てることができます。あとはその式を解くだけで、周期が何倍になるかを計算できます。
周期は \(2\sqrt{2}\) 倍となり、主たる解法の結果と完全に一致します。ケプラーの法則を用いることで、複雑な平方根を含む周期の公式を直接比較するよりも、はるかに簡潔に計算を進めることができました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 万有引力と向心力の関係:
- 核心: この問題の根幹は、人工衛星が円運動を続けるための「向心力」の役割を、地球との間に働く「万有引力」が担っている、という一点に尽きます。この物理的状況を、数式で正しく表現することが全ての出発点です。
- 理解のポイント:
- 運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) (円運動に必要な力)
- 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) (力の具体的な形)
- これらを結びつけた \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) という式が、人工衛星や惑星の円運動を解析するための万能の基本式となります。
- 周期と速さの関係:
- 核心: 速さ \(v\) が分かれば、周期 \(T\) は円周の長さ \(2\pi r\) を速さで割るだけで求められます。
- 理解のポイント: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) という関係は、物理法則というよりは「周期」と「速さ」の定義そのものです。この関係式を使い、運動方程式から求めた速さ \(v\) を周期 \(T\) に変換します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ケプラーの法則を使う問題: 2つの天体(例:地球と火星)や、2つの異なる軌道(例:この問題の(2))の周期や軌道半径の「比」を問う問題。ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \text{一定}\) を使うと、面倒な定数を全て消去して極めて簡潔に計算できます。
- 力学的エネルギー保存則を使う問題: 人工衛星がある軌道から別の軌道へ移動する際に必要なエネルギーを問う問題や、楕円軌道上での速さの変化を問う問題。万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を導入し、\(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{r} = \text{一定}\) を利用します。
- 脱出速度(第二宇宙速度)を求める問題: 地球の重力を振り切って無限遠に飛び去るための最小初速度を求める問題。力学的エネルギーが0以上(\(E \ge 0\))になる条件から計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 軌道半径 \(r\) の特定: 問題文を注意深く読み、「中心からの距離」なのか「地表や天体表面からの高さ」なのかを絶対に間違えないこと。図を描いて、中心からの距離が \(r\) であることを常に確認します。
- 力の特定: 運動の原因となっている力は何かを考えます。惑星や衛星の運動であれば、それはほぼ常に「万有引力」です。
- 比を問う問題か、値を問う問題か: 「〜の何倍か?」と比を問われている場合は、文字式のまま比の形(分数)にして計算を進めると、多くの文字が約分されて計算が楽になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 軌道半径の取り違え:
- 誤解: (2)で「地表からの高さが \(R\)」とあるのに、軌道半径を \(R\) のまま計算してしまう。
- 対策: 「高さ」と「半径」は全くの別物です。必ず「軌道半径 \(r\) = 中心天体の半径 \(R\) + 表面からの高さ \(h\)」という関係を意識してください。この問題の(2)では \(r = R+R = 2R\) となります。
- 万有引力と重力 \(mg\) の混同:
- 誤解: 地上から離れた宇宙空間でも、人工衛星に働く力を安易に \(mg\) としてしまう。
- 対策: 重力加速度 \(g\) は、地表(\(r=R\))でのみ \(g = G\displaystyle\frac{M}{R^2}\) という関係が成り立つ特別な値です。宇宙空間での力は、必ず基本に立ち返り、万有引力の公式 \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) を使って計算する習慣をつけましょう。
- 公式の暗記ミス:
- 誤解: (1)で求めた速さの公式 \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\) の \(R\) を「地球の半径」という意味で固定的に覚えてしまい、(2)で軌道半径が \(2R\) になっても、式の分母を \(R\) のままにしてしまう。
- 対策: 公式は \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{r}}\) のように、一般的な「軌道半径 \(r\)」で覚えましょう。そして、問題ごとに「この場合の \(r\) は具体的に何か?」を考えることで、適用ミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 (\(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)):
- 選定理由: この式は、人工衛星の「運動(左辺)」と、その運動を引き起こす「原因である力(右辺)」を結びつける、力学の根幹をなす法則だからです。速さ \(v\) を求めるためには、この関係式を立てる以外に方法はありません。
- 適用根拠: 問題文に「一定の速さで運動する」とあり、これは「等速円運動」を意味します。そして、その運動を可能にしている力は、地球と衛星の間にはたらく「万有引力」以外に考えられません。したがって、円運動の運動方程式の力 \(F\) の部分に、万有引力の公式を適用するのは論理的に必然です。
- ケプラーの第3法則 (\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \text{一定}\)):
- 選定理由: (2)の別解で、2つの異なる軌道の周期の「比」を求めるために選択しました。
- 適用根拠: この法則は、運動方程式から導かれる \(T = 2\pi r \sqrt{\displaystyle\frac{r}{GM}}\) という関係を2乗して整理すると、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\) となり、右辺が定数になることから証明されます。つまり、この法則は運動方程式と等価な情報を含んでいます。特に「比」を計算する際には、定数部分 (\(\displaystyle\frac{4\pi^2}{GM}\)) を具体的に計算する必要がなくなり、非常に効率的です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の段階的な整理: 運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{R} = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) のような式では、まず両辺で共通している \(m\) を消し、次に \(R\) を一つ消す、というように、一度に多くの変形をせず、段階的に式を簡単にしていくとミスが減ります。
- 平方根の扱いに慣れる: (2)の比の計算のように、ルートの中に分数が入ったり、ルート同士の割り算が出てきたりする計算は頻出です。 \(\displaystyle\frac{\sqrt{A}}{\sqrt{B}} = \sqrt{\displaystyle\frac{A}{B}}\) のような指数法則をスムーズに使えるように練習しましょう。また、\(\sqrt{8} = \sqrt{4 \times 2} = 2\sqrt{2}\) のように、ルートの中を簡単にすることも忘れないようにしましょう。
- 比の計算は分数で: (2)で \(v’\) と \(v\) の比を求めるとき、それぞれの式を並べて眺めるのではなく、\(\displaystyle\frac{v’}{v}\) という分数の形に実際に書いてみましょう。そうすることで、どの項が約分されて消えるのかが一目瞭然になり、計算の見通しが立ちやすくなります。
- 次元解析で検算: 計算結果の物理的な単位(次元)が正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば、速さを求めたのに、計算結果の単位が時間の単位になっていたら、どこかで計算を間違えている証拠です。 \(v = \sqrt{\displaystyle\frac{GM}{R}}\) の次元がちゃんと速度の次元 \([\text{L}][\text{T}]^{-1}\) になっていることを確認するだけでも、大きなミスを防げます。
基本例題40 万有引力による位置エネルギー
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説では、模範解答で採用されている解法を主たる解法として解説しつつ、より深い物理的理解や計算の効率化に繋がる教育的価値の高い別解を補足しています。
- 設問(2)の別解
- 別解1: 地表付近の近似(重力一定、位置エネルギー\(mgh\))を用いた解法
- 設問(3)の別解
- 別解1: 脱出速度の定義(無限遠でエネルギーが0)から直接求める解法
これらの別解の意義は以下の通りです。
- 設問(2)の別解は、万有引力による位置エネルギーという一般的な概念が、地表付近という特殊な状況では、中学理科や高校物理の序盤で学習する位置エネルギー\(mgh\)に一致することを示し、物理概念の繋がりを深く理解する助けとなります。
- 設問(3)の別解は、設問(1)で求めた式の極限を計算するのではなく、「地球の重力を振り切る」という物理現象の条件(無限遠点での力学的エネルギーが0以上)から直接立式するアプローチです。これにより、脱出速度という概念の物理的本質をより明確に捉えることができます。
いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「万有引力による位置エネルギーと力学的エネルギー保存則」です。地球から大きく離れる物体の運動を扱う際に不可欠な考え方です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体に働く力が保存力(この場合は万有引力)のみの場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
- 万有引力による位置エネルギー: 質量 \(M\) の天体から距離 \(r\) の点にある質量 \(m\) の物体の位置エネルギーは \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で与えられます。基準点(\(U=0\))は無限遠点です。
- 重力加速度と万有引力の関係: 地表における重力加速度 \(g\) は、万有引力の法則から \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) という関係で表され、これを変形した \(GM = gR^2\) は頻繁に用いる重要な関係式です。
- 近似計算: ある値が他の値に比べて非常に小さい場合(例: \(h \ll R\))、その比(例: \(\displaystyle\frac{h}{R}\))を0とみなすことで、式を簡略化できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、打ち上げ時(地表)と最高到達点での力学的エネルギーが等しいという保存則を立式します。この際、問題文に \(G\) や \(M\) がないので、\(GM=gR^2\) の関係式を使ってこれらを消去し、\(v_0\) を求めます。
- (2)では、(1)で得られた \(v_0\) の式に対し、\(h\) が \(R\) に比べて十分に小さい(\(h \ll R\))という条件で近似計算を行い、式を簡略化します。
- (3)では、「地球にもどらなくなる」という条件を「最高到達点 \(h\) が無限遠(\(h \to \infty\))になる」と解釈し、(1)の式で \(h \to \infty\) の極限を考え、そのときの \(v_0\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
物体が地球の重力に引かれながら上昇する運動です。働く力は万有引力のみなので、力学的エネルギー保存則が適用できます。始点(地表)と終点(最高到達点)の2つの状態でエネルギー保存の式を立てます。位置エネルギーは、地表を基準とする \(mgh\) ではなく、無限遠を基準とする万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を使う必要があります。
この設問における重要なポイント
- 始点(地表): 速度 \(v_0\), 地球中心からの距離 \(R\)。
- 終点(最高到達点): 速度 \(0\), 地球中心からの距離 \(R+h\)。
- 力学的エネルギー = (運動エネルギー) + (万有引力による位置エネルギー)。
- \(G, M\) を消去するために、関係式 \(GM = gR^2\) を利用する。
具体的な解説と立式
物体の質量を \(m\) とします。
打ち上げ時(地表)の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) は、運動エネルギーと万有引力による位置エネルギーの和です。地球の中心からの距離は \(R\) です。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right) $$
最高到達点(高さ \(h\))での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、速さが0になるので運動エネルギーは0です。地球の中心からの距離は \(R+h\) です。
$$ E_{\text{後}} = 0 + \left(-G\frac{Mm}{R+h}\right) $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 – G\frac{Mm}{R} = -G\frac{Mm}{R+h} \quad \cdots ① $$
この式を \(v_0\) について解きます。問題の指示に従い、途中で \(G, M\) を \(g, R\) で置き換える必要があります。地表での重力と万有引力の関係から、
$$ mg = G\frac{Mm}{R^2} $$
この両辺に \(R^2\) を掛けると、以下の重要な関係式が得られます。
$$ GM = gR^2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
- 重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\)
まず、式①を \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= G\frac{Mm}{R} – G\frac{Mm}{R+h} \\[2.0ex]
&= GMm \left( \frac{1}{R} – \frac{1}{R+h} \right) \\[2.0ex]
&= GMm \left( \frac{(R+h) – R}{R(R+h)} \right) \\[2.0ex]
&= GMm \frac{h}{R(R+h)}
\end{aligned}
$$
ここで、式②の関係 \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= (gR^2)m \frac{h}{R(R+h)} \\[2.0ex]
&= \frac{mgR^2h}{R(R+h)} \\[2.0ex]
&= \frac{mgRh}{R+h}
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、2を掛けて \(v_0^2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= \frac{2gRh}{R+h}
\end{aligned}
$$
\(v_0 > 0\) より、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{\frac{2gRh}{R+h}}
\end{aligned}
$$
物体が持つエネルギー(運動の勢い+高さによるエネルギー)は、打ち上げられた瞬間と、一番高く上がった瞬間で同じはずです(エネルギー保存則)。ただし、今回は宇宙規模の話なので、「高さによるエネルギー」には特別な公式 \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を使います。このエネルギー保存の式を立て、数式を整理していくと \(v_0\) の式が求まります。途中で、問題文で使って良いとされている文字(\(g, R, h\))だけにするために、\(GM = gR^2\) という変身呪文を使って \(G\) と \(M\) を消去します。
初速度 \(v_0\) は \(v_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{2gRh}{R+h}}\) と表されます。この式は、到達する高さ \(h\) が大きいほど、必要な初速度 \(v_0\) も大きくなることを示しており、直感と一致します。また、物体の質量 \(m\) が最終的な式に含まれていないことも重要です。これは、重い物体も軽い物体も、同じ高さまで上げるのに必要な初速度は同じであることを意味します。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた厳密な式を、\(h\) が \(R\) に比べて十分に小さい(\(h \ll R\))という条件下で近似する問題です。この条件は、数学的には \(\displaystyle\frac{h}{R}\) が0に非常に近い、つまり \(\displaystyle\frac{h}{R} \approx 0\) とみなせることを意味します。(1)の式を変形して \(\displaystyle\frac{h}{R}\) の項を作り出し、そこに近似を適用します。
この設問における重要なポイント
- 近似条件: \(h \ll R\) は \(\displaystyle\frac{h}{R} \approx 0\) と同等。
- (1)の式を変形し、近似が適用できる形にする。
具体的な解説と立式
(1)で求めた \(v_0\) の式は以下の通りです。
$$ v_0 = \sqrt{\frac{2gRh}{R+h}} $$
この式のルートの中の分母分子を \(R\) で割ることで、\(\displaystyle\frac{h}{R}\) の項を作り出します。
$$ v_0 = \sqrt{\frac{\displaystyle\frac{2gRh}{R}}{\displaystyle\frac{R+h}{R}}} = \sqrt{\frac{2gh}{1+\displaystyle\frac{h}{R}}} \quad \cdots ③ $$
ここで、\(h\) が \(R\) に比べて十分に小さい(\(h \ll R\))という条件から、\(\displaystyle\frac{h}{R} \approx 0\) と近似できます。
使用した物理公式
- (1)で導出した \(v_0\) の式
- 近似: \(x \ll 1\) のとき \(1+x \approx 1\)
式③に、近似 \(\displaystyle\frac{h}{R} \approx 0\) を適用します。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{\frac{2gh}{1+\displaystyle\frac{h}{R}}} \\[2.0ex]
&\approx \sqrt{\frac{2gh}{1+0}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
(1)で求めた式は、どんな高さ \(h\) でも使える正確な式です。しかし、もし \(h\) が地球の半径 \(R\)(約6400km)に比べて、例えば数mや数kmといったごくわずかな高さであれば、式をもっと簡単な形にできます。(1)の式の分母にある \(R+h\) は、\(h\) がとても小さいので、ほとんど \(R\) と同じとみなせます。この「だいたい同じ」という考え方(近似)を使って計算すると、よく知られた \(v_0 = \sqrt{2gh}\) というシンプルな式が出てきます。
\(h \ll R\) のとき、\(v_0 \approx \sqrt{2gh}\) となります。この式は、地表付近で重力が一定 \(mg\) であるとして力学的エネルギー保存則(\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 = mgh\))を立てた場合の結果と完全に一致します。これは、広域で適用できる万有引力の法則が、局所的(地表付近)な範囲では、我々が慣れ親しんだ単純な重力の法則に帰着することを示しており、物理的に非常に重要な結果です。
思考の道筋とポイント
\(h\) が \(R\) に比べて十分に小さい場合、物体が運動する範囲は地表付近に限られます。この範囲では、重力は常に一定の大きさ \(mg\) であると近似できます。この近似のもとで、地表を基準とした位置エネルギー \(mgh\) を用いて力学的エネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント
- 近似: 地表付近では重力は一定で、その大きさは \(mg\)。
- 位置エネルギーは、地表を基準として \(U=mgh\) と表せる。
- 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + 0 = 0 + mgh\)
具体的な解説と立式
\(h \ll R\) の条件下では、物体に働く重力は常に一定値 \(mg\) とみなせます。
このとき、力学的エネルギー保存則は、地表を位置エネルギーの基準(\(U=0\))として、以下のように立てられます。
始点(地表)のエネルギー: \(E_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + 0\)
終点(高さ \(h\))のエネルギー: \(E_{\text{後}} = 0 + mgh\)
エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = mgh \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則(地表付近): \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mgh = \text{一定}\)
式④を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= mgh \\[2.0ex]
v_0^2 &= 2gh \\[2.0ex]
v_0 &= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$
ボールを真上に投げるような、ごく身近な運動を考えます。このとき、重さはどこでも同じ \(mg\) と考えますし、高さ \(h\) のエネルギーは \(mgh\) と習いました。このいつものルールを使ってエネルギー保存の式「打ち上げ時の運動エネルギー = 最高点での位置エネルギー」を立てると、一発で答えが求まります。
結果は \(v_0 = \sqrt{2gh}\) となり、主たる解法の結果と一致します。この別解は、万有引力という一般的な法則が、地表付近という限定的な状況で、より単純な法則(\(U=mgh\))にどのように対応するかを明確に示しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
「地球上にもどらなくなる」とは、物体が地球の重力を振り切って無限の彼方へ飛び去ることを意味します。これは、最高到達点の高さ \(h\) が無限大(\(h \to \infty\))になることに相当します。したがって、(1)で求めた式で \(h \to \infty\) の極限を考えます。このときの速さ \(v_0\) は「脱出速度」または「第二宇宙速度」と呼ばれます。
この設問における重要なポイント
- 物理的条件の解釈: 「もどらなくなる」 \(\iff\) 「無限遠に到達する」 \(\iff\) \(h \to \infty\)。
- (1)の式を変形し、\(h \to \infty\) の極限が計算できる形にする。
具体的な解説と立式
(1)で求めた \(v_0\) の式は以下の通りです。
$$ v_0 = \sqrt{\frac{2gRh}{R+h}} $$
このままでは \(h \to \infty\) とすると \(\displaystyle\frac{\infty}{\infty}\) の不定形になってしまうため、式の分母分子を \(h\) で割ります。
$$ v_0 = \sqrt{\frac{\displaystyle\frac{2gRh}{h}}{\displaystyle\frac{R+h}{h}}} = \sqrt{\frac{2gR}{\displaystyle\frac{R}{h}+1}} \quad \cdots ⑤ $$
ここで、「地球にもどらなくなる」条件、すなわち \(h \to \infty\) を考えます。このとき、\(\displaystyle\frac{R}{h} \to 0\) となります。
使用した物理公式
- (1)で導出した \(v_0\) の式
- 極限の考え方: \(h \to \infty\) のとき \(\displaystyle\frac{C}{h} \to 0\) (\(C\) は定数)
式⑤に、極限 \(h \to \infty\) を適用します。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \lim_{h \to \infty} \sqrt{\frac{2gR}{\displaystyle\frac{R}{h}+1}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2gR}{0+1}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gR}
\end{aligned}
$$
したがって、\(v_0\) は \(\sqrt{2gR}\) 以上であればよいことになります。
地球に戻ってこない、ということは、無限に遠くまで飛んでいけるということです。これは、(1)で求めた式の高さ \(h\) が無限大になる場合を考えればよいことになります。ただし、式のまま \(h\) を無限大にすると計算できないので、式を少し変形してから \(h\) を無限大にします。すると、答えが求まります。この速さは「脱出速度」と呼ばれ、ロケットが地球の引力を振り切るために必要なスピードです。
地球にもどらなくなるための最小の初速度(脱出速度)は \(v_0 = \sqrt{2gR}\) です。この値は、地球の質量や半径から決まる定数であり、物体の質量にはよりません。この結果は、(1)の式において \(h\) が無限大になるという極限を正しく計算したものであり、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
「地球にもどらなくなる」ための最小の初速度とは、物体が無限遠にちょうど到達したときに、その速さが0になるような初速度のことです。このとき、無限遠点での力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は0になります。万有引力は保存力なので、打ち上げ時の力学的エネルギーも0になるはずです。この条件から直接 \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 脱出条件: 無限遠での力学的エネルギーが0。
- エネルギー保存則より、打ち上げ時の力学的エネルギーも0。
- 打ち上げ時のエネルギー: \(E_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right)\)。
具体的な解説と立式
物体が地球の重力を振り切って無限遠に到達するための条件は、その力学的エネルギーが0以上であることです。\(E \ge 0\)。
求めるのはそのための最小の初速度なので、力学的エネルギーがちょうど0になる場合を考えます。
無限遠点では、位置エネルギーの定義から \(U_{\infty} = 0\) であり、ちょうど到達したときの運動エネルギーも \(K_{\infty} = 0\) です。したがって、無限遠点での力学的エネルギーは \(E_{\infty} = K_{\infty} + U_{\infty} = 0\) です。
力学的エネルギー保存則により、打ち上げ時の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) も0でなければなりません。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right) = 0 \quad \cdots ⑥ $$
この式を \(v_0\) について解きます。先ほどと同様に、\(GM=gR^2\) の関係式を用います。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 脱出の条件: \(E_{\text{力学的}} \ge 0\)
- 重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\)
式⑥を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= G\frac{Mm}{R}
\end{aligned}
$$
ここで \(GM = gR^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= \frac{(gR^2)m}{R} \\[2.0ex]
&= mgR
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(v_0^2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= 2gR \\[2.0ex]
v_0 &= \sqrt{2gR}
\end{aligned}
$$
これが最小の速さなので、\(v_0\) は \(\sqrt{2gR}\) 以上であればよいことになります。
地球の引力を振り切る、というのは、エネルギーの観点から見ると「マイナスの位置エネルギーを打ち消して、全体のエネルギーを0以上にする」ということです。打ち上げ時の運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) が、地表でのマイナスの位置エネルギー \(G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) をちょうど打ち消す(合計が0になる)ときの速さ \(v_0\) を求めれば、それが脱出に必要な最低速度になります。
結果は \(v_0 = \sqrt{2gR}\) となり、主たる解法の結果と完全に一致します。この別解は、(1)の式を経由せずに、脱出速度の物理的な定義から直接答えを導いており、概念の理解を深める上で非常に有効です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則(万有引力版):
- 核心: 物体に働く力が万有引力(保存力)のみであるため、運動のどの時点においても「運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)」と「万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)」の和が一定に保たれる、という法則が全ての設問の基礎となります。
- 理解のポイント:
- エネルギー保存の式: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{r} = \text{一定}\)
- この式を、運動の始点と終点の2つの状態で立てることが、問題を解くための具体的な第一歩です。
- 重力加速度 \(g\) と万有引力の関係式:
- 核心: 問題文で \(G\) や \(M\) が与えられていない場合、これらを \(g\) と \(R\) を用いて消去する必要があります。そのための変換式が \(GM = gR^2\) です。
- 理解のポイント: この式は、地表での物体に働く力について、「万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)」と「重力 \(mg\)」が等しいという物理的な事実から導かれます。これは単なる数学的な置き換えではなく、物理的な意味を持つ重要な関係式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 人工衛星の軌道変更: ある円軌道から別の円軌道へ移るために必要なエネルギーを求める問題。それぞれの軌道での力学的エネルギーを計算し、その差を求めます。
- 楕円軌道上の運動: 惑星や彗星の楕円軌道を考える問題。近日点(最も近い点)と遠日点(最も遠い点)で力学的エネルギー保存則と面積速度一定の法則(角運動量保存則)を連立させて解きます。
- 天体の合体・分裂: 2つの天体が衝突して合体する、あるいはロケットが燃料を噴射するなどの非保存的な過程を含む問題。合体・分裂の前後ではエネルギーは保存しませんが、運動量は保存します。
- 初見の問題での着眼点:
- 働く力の確認: 物体に働く力は何か? 万有引力だけか? それ以外の力(空気抵抗、噴射力など)は働いているか? これにより、力学的エネルギー保存則が使えるかどうかを判断します。
- エネルギーの基準点: 万有引力による位置エネルギーは、無限遠を基準(\(U=0\))に取ります。地表を基準にしてはいけません(地表付近の近似問題を除く)。
- 近似の条件: 問題文に「〜に比べて十分に小さい」「〜とみなせる」といった近似を示唆する言葉がないかを確認します。あれば、どの項を0とみなせるかを考え、計算を簡略化します。
- 「脱出」「無限遠」という言葉: これらの言葉が出てきたら、それは「力学的エネルギー \(\ge 0\)」という条件、あるいは「\(h \to \infty\)」という極限計算を示唆しています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位置エネルギーの符号ミス:
- 誤解: 万有引力による位置エネルギー \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) のマイナス符号を忘れてしまう。
- 対策: 万有引力は引力なので、無限遠(基準点)から物体を引き寄せる際に引力が仕事をします。その結果、物体の位置エネルギーは基準点より低くなるため、必ず負の値になります。常に「万有引力ポテンシャルは井戸型」というイメージを持ち、符号がマイナスであることを意識しましょう。
- \(mgh\) との混同:
- 誤解: 地球から大きく離れる運動なのに、位置エネルギーを \(mgh\) で計算してしまう。
- 対策: \(mgh\) は、重力 \(mg\) が一定とみなせる地表付近でのみ成り立つ「近似式」です。宇宙規模の運動では、距離によって重力が変化するため、必ず万有引力による位置エネルギーの厳密な式 \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を使わなければならない、と肝に銘じましょう。
- 近似計算の誤り:
- 誤解: (2)で \(v_0 = \sqrt{\displaystyle\frac{2gRh}{R+h}}\) の \(h\) をいきなり0としてしまい、\(v_0=0\) という誤った結論を導く。
- 対策: 近似は「足し算・引き算」において微小な項を無視するために使います。\(R+h \approx R\) のように使います。式の主要な部分(この場合は分子の \(h\))を0にしてはいけません。近似を使う前には、必ず式を \(\displaystyle\frac{h}{R}\) のような「比」の形に変形し、「\(1 + \displaystyle\frac{h}{R} \approx 1\)」のように適用する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: この問題は、物体の速さと位置(高さ)の関係を問うています。力学において、速さと位置の関係を直接結びつける法則は、力学的エネルギー保存則か、仕事とエネルギーの関係です。今回は、働く力が保存力である万有引力のみなので、力学的エネルギー保存則が最も直接的で強力なツールとなります。
- 適用根拠: 運動の前後で、物体の質量や地球の質量、万有引力定数は変化しません。変化するのは速さ \(v\) と位置 \(r\) のみです。エネルギー保存則は、これら変化する量と不変量を結びつけ、未知数を求めるための方程式を与えてくれます。
- 近似式 \(v_0 = \sqrt{2gh}\):
- 選定理由: (2)では、\(h \ll R\) という特殊な条件下での振る舞いを問われています。このような場合、一般的な厳密式をそのまま使うのではなく、条件を反映したより単純な物理モデル(この場合は重力一定モデル)を考えることで、物理的洞察が深まります。
- 適用根拠: \(h \ll R\) ということは、運動が地表のごく狭い範囲に限定されることを意味します。その範囲では、地球の中心からの距離の変化は全体から見れば無視できるほど小さく、結果として重力の大きさもほぼ一定とみなせます。この「重力一定」という物理的近似が、位置エネルギーを \(mgh\) と単純化することを正当化し、結果として \(v_0 = \sqrt{2gh}\) という簡潔な関係式を導きます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の通分: (1)の \( \displaystyle\frac{1}{R} – \displaystyle\frac{1}{R+h} \) のような分数の引き算は頻出です。焦らず、丁寧に分母を揃えて通分しましょう。 \(\displaystyle\frac{(R+h) – R}{R(R+h)} = \displaystyle\frac{h}{R(R+h)}\) と、分子が単純な \(h\) になることを見越せると計算がスムーズです。
- 文字の置き換えのタイミング: \(GM = gR^2\) の置き換えは、式がある程度整理されてから行うと見通しが良くなります。最初から代入すると式が複雑に見えることがあります。この問題では、\(v_0^2\) の式が \(G, M, m, R, h\) で表されてから代入するのが効果的です。
- 極限計算の準備: (3)のように極限を求める場合、不定形(\(\displaystyle\frac{\infty}{\infty}\) や \(\infty – \infty\))を避けるための式変形が必須です。基本は「分母の最高次の項で、分母分子を割る」ことです。この問題では、\(h \to \infty\) なので、分母分子を \(h\) で割ることで、\(\displaystyle\frac{R}{h}\) という「0に収束する項」を作り出すのが定石です。
- 単位の確認: 最終的に求めた \(\sqrt{2gR}\) の単位が速度の単位になっているかを確認しましょう。\(g\) の単位は \([\text{m/s}^2]\)、\(R\) の単位は \([\text{m}]\) なので、\(gR\) の単位は \([\text{m}^2/\text{s}^2]\) です。その平方根を取ると \([\text{m/s}]\) となり、確かに速度の単位になっています。このような検算がミスを防ぎます。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]
基本問題
197 ケプラーの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ケプラーの法則の正確な理解」です。惑星の運動を記述する3つの基本的な法則の内容が問われています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ケプラーの第一法則(だ円軌道の法則): 惑星は、太陽を一つの焦点とするだ円軌道上を運動します。
- ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則): 惑星と太陽とを結ぶ線分が単位時間に掃く面積(面積速度)は、軌道上のどこでも一定です。これは、物理的には「角運動量保存則」に対応します。
- ケプラーの第三法則(調和の法則): 惑星の公転周期 \(T\) の2乗は、軌道だ円の半長軸 \(a\) の3乗に比例します。この法則は、同じ中心天体(この場合は太陽)の周りを公転するすべての惑星に共通して成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、ケプラーの第三法則の数学的な表現を正しく答えます。
- (イ)、(ウ)では、ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則)を、図に示された各点(A, B, P)に適用します。