無料でしっかり基礎固め!高校物理 問題演習「運動方程式と慣性力:エレベーターと小球」【高校物理対応】

問題の確認

dynamics#35

各設問の思考プロセス

この問題は、エレベーターと、その内部に吊るされたおもりという、2つの物体が連動して運動する状況を分析する力学の応用問題です。それぞれの物体について運動方程式を立てるだけでなく、糸を切った後の状況や、加速するエレベーター内という「非慣性系」からの観測(慣性力)についても考察します。

この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。

  • ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 各物体について、\(ma = F_{\text{合力}}\) の関係式を立てることが全ての基本となります。
  • 慣性力(見かけの力): 加速度運動する乗り物(非慣性系)の中で物体の運動を観測すると、実際の力に加えて、乗り物の加速度と逆向きに大きさ \((\text{物体の質量}) \times (\text{乗り物の加速度})\) の「慣性力」がはたらいているように見えます。設問(4)ではこの考え方を用いると便利です。

この問題を解くための手順は以下の通りです。

  1. (1) 運動方程式を立てる: 小球とエレベーター、それぞれを独立した物体とみなし、はたらく力をすべて図示して運動方程式を立てます。エレベーターにはたらく張力は、糸の反作用であることに注意します。
  2. (2) 力Fを求める: (1)で立てた2つの連立方程式から、張力\(T\)を消去することで、力\(F\)を求めます。
  3. (3) 張力の比を求める: まず、エレベーターが静止している場合(\(a=0\))の張力\(T_0\)を求めます。次に、(1)の式から加速中の張力\(T\)を\(m, a, g\)で表し、\(T_0\)との比を計算します。
  4. (4) 見かけの力を求める: 糸が切れた後の、エレベーター自身の新しい運動方程式を立てて、加速度\(b\)を求めます。そして、この加速度\(b\)で上昇するエレベーター内から見た小球にはたらく「見かけの力」(重力+慣性力)を計算します。

各設問の具体的な解説と解答

(1) エレベーターおよび小球について、それぞれの運動方程式を立てよ。

問われている内容の明確化
小球とエレベーター、それぞれについての運動方程式を、与えられた文字を使って記述します。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとします。

小球の運動方程式

  • 質量: \(m\), 加速度: \(a\)
  • はたらく力:
    • 糸の張力: 上向きに \(T\)。 (\(+T\))
    • 重力: 下向きに \(mg\)。 (\(-mg\))

運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) は、
$$ma = T – mg \quad \cdots ①$$

エレベーターの運動方程式

  • 質量: \(M\), 加速度: \(a\)
  • はたらく力:
    • 引き上げる力: 上向きに \(F\)。 (\(+F\))
    • 糸の張力の反作用: 小球が糸を介してエレベーターを下に引く力。下向きに \(T\)。 (\(-T\))
    • 重力: 下向きに \(Mg\)。 (\(-Mg\))

運動方程式 \(Ma = F_{\text{合力}}\) は、
$$Ma = F – T – Mg \quad \cdots ②$$

使用した物理公式: ニュートンの運動方程式
$$ma = F_{\text{合力}}$$
解答 (1):
小球: \(ma = T – mg\)
エレベーター: \(Ma = F – T – Mg\)

(2) エレベーターを引き上げる力の大きさ Fはいくらか。

問われている内容の明確化
(1)で立てた連立方程式を解いて、力 \(F\) を求めます。

具体的な解説と立式
(1)で立てた2つの式を足し合わせることで、内力である張力\(T\)を消去できます。
$$(ma) + (Ma) = (T – mg) + (F – T – Mg)$$
この式を \(F\) について解きます。

使用した物理法則: 運動方程式の連立

計算過程
$$
\begin{aligned}
(m+M)a &= T – mg + F – T – Mg \\[2.0ex](m+M)a &= F – (m+M)g
\end{aligned}
$$
この式を\(F\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
F &= (m+M)a + (m+M)g \\[2.0ex]&= (m+M)(a+g)
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

  • 小球とエレベーターを合わせた「全体(質量 \(m+M\))」として見る方法もあります。
  • この「全体」を、力\(F\)で上に引き上げ、全体には重力\((m+M)g\)が下向きにはたらいていると考えます。
  • したがって、全体についての運動方程式は「\((m+M)a = F – (m+M)g\)」となります。これを解くと同じ結果が得られます。
解答 (2):
\((m+M)(a+g)\)

(3) 小球をつるしている糸の張力の大きさ Tは、エレベーターが静止している場合と比べて、何倍になるか。

問われている内容の明確化
加速中の張力\(T\)と、静止時の張力\(T_{\text{静止}}\)の比 \(\displaystyle\frac{T}{T_{\text{静止}}}\) を求めます。

具体的な解説と立式
ステップ1: 静止時の張力 \(T_{\text{静止}}\) を求める
エレベーターが静止しているときは、加速度が0 (\(a=0\)) です。このとき、小球にはたらく力はつり合っています。上向きの張力と下向きの重力が等しいので、
$$T_{\text{静止}} = mg \quad \cdots ③$$

ステップ2: 加速中の張力 \(T\) を求める
小球の運動方程式(式①)を \(T\) について解きます。
$$T = ma + mg = m(a+g) \quad \cdots ④$$

ステップ3: 比を計算する
求める倍率は \(\displaystyle\frac{T}{T_{\text{静止}}}\) です。

計算過程
$$
\begin{aligned}
\frac{T}{T_{\text{静止}}} &= \frac{m(a+g)}{mg} \\[2.0ex]&= \frac{a+g}{g} \\[2.0ex]&= 1 + \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$

解答 (3):
\(\displaystyle \frac{a+g}{g}\) 倍 (または \(1+\frac{a}{g}\) 倍)

(4) このとき、エレベーターの中の人が小球の運動を観測すると、小球にはたらいているように見える力の大きさはいくらか。

問われている内容の明確化
糸が切れた後、加速度 \(b\) で上昇するエレベーター内から観測したときに、小球にはたらいているように見える「見かけの力」の大きさを求めます。

具体的な解説と立式
ステップ1: 糸が切れた後のエレベーターの加速度 \(b\) を求める
糸が切れると、張力 \(T\) が0になります。引き上げる力 \(F\) は変わらないので、エレベーターの新しい運動方程式は、
$$Mb = F – Mg$$
となります。ここに、(2)で求めた \(F = (m+M)(a+g)\) を代入します。
$$Mb = (m+M)(a+g) – Mg$$
この式から、新しい加速度 \(b\) を求めます。

ステップ2: 見かけの力を計算する
加速度 \(b\) で上向きに運動するエレベーター内から小球を観測すると、小球にはたらく力は以下のようになります。

  • 重力: 下向きに \(mg\)
  • 慣性力: エレベーターの加速度と逆向き(下向き)に、大きさ \(mb\)

したがって、見かけの力(合力) \(F_{\text{見かけ}}\) は、これら2つの下向きの力の和になります。
$$F_{\text{見かけ}} = mg + mb = m(g+b)$$

使用した物理公式:

  1. 運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\)
  2. 慣性力 \(F_{\text{慣性}} = -ma_0\) (\(a_0\)は観測者の加速度)

計算過程
まず、加速度 \(b\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
b &= \frac{(m+M)(a+g) – Mg}{M} \\[2.0ex]&= \frac{Ma + Mg + ma + mg – Mg}{M} \\[2.0ex]&= \frac{Ma + ma + mg}{M} \\[2.0ex]&= a + \frac{m(a+g)}{M}
\end{aligned}
$$
次に見かけの力 \(F_{\text{見かけ}}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{見かけ}} &= m(g+b) \\[2.0ex]&= m\left(g + a + \frac{m(a+g)}{M}\right) \\[2.0ex]&= m(a+g) + \frac{m^2(a+g)}{M} \\[2.0ex]&= m(a+g) \left(1 + \frac{m}{M}\right) \\[2.0ex]&= m(a+g) \left(\frac{M+m}{M}\right) \\[2.0ex]&= \frac{m(M+m)(a+g)}{M}
\end{aligned}
$$

解答 (4):
\(\displaystyle \frac{m(M+m)(a+g)}{M}\)

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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則

  • 運動方程式の立式: 力学の基本。考察の対象となる物体(または物体群)を明確にし、それにはたらく力をすべて見つけ出し、\(ma=F_{\text{合力}}\)の形にまとめることができなければならない。
  • 作用・反作用の法則: エレベーターが糸から受ける力は、小球が糸から受ける張力\(T\)の反作用である。大きさが等しく向きが逆になる。
  • 非慣性系と慣性力: 加速している乗り物(非慣性系)の中から物体の運動を見ると、実際にはたらいている力に加えて、乗り物の加速度と逆向きに「慣性力」という見かけの力がはたらいているように観測される。

類似の問題を解く上でのヒントや注意点

  • 物体ごとに考える: 複数の物体が登場する場合、まずそれぞれの物体に個別にはたらく力を図示し、それぞれの運動方程式を立てるのが基本。
  • 系全体で考える: 加速度だけを求めたい場合など、複数の物体を一つの「系」と見なして、系全体にはたらく外力で運動方程式を立てると、張力などの内力を考えずに済むため計算が楽になることがある。
  • 見かけの重力: (4)のような非慣性系での運動は、「見かけの重力加速度」(\(g’ = g+a\))を考えると、静止した系での自由落下と同じように扱えるため、見通しが良くなる。

よくある誤解や間違いやすいポイント

  • 張力の反作用の見落とし: (1)でエレベーターの運動方程式を立てる際に、小球を引く糸の張力\(T\)の反作用(糸がエレベーターを下に引く力)を忘れがち。
  • 糸を切った後の力の変化: 糸を切ると張力\(T\)は瞬時に0になるが、エレベーターを上に引く力\(F\)は「変えないで」とあるので一定である。どの力が変化して、どの力が変化しないかを問題文から正確に読み取ることが重要。
  • 慣性力の向き: 慣性力は、観測者が乗っている乗り物の加速度と「必ず逆向き」にはたらく。これを混同しないように注意が必要。

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