今回の問題
wave#16【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「音速と温度の関係、および反響音の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 音速と温度の関係:空気中の音速は、温度の1次関数として近似できること。
- 距離・速さ・時間の関係:物理学の基本である \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\) の関係式。
- 反響音(やまびこ):音が物体に反射して戻ってくる現象。音源や観測者が動いている場合は、その移動距離を考慮する必要がある。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、問題文で与えられた2つの温度と音速のデータから、音速が温度の1次関数であることを利用して、15℃における音速を計算します。
- (2)では、(1)で求めた音速を使い、汽笛が発せられてから反響音が聞こえるまでの4.0秒間に「音が進んだ距離」と「船が進んだ距離」の関係を考え、方程式を立てて岸壁までの距離を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
問題文の「一定の割合で温度とともに増し」という記述が最も重要です。これは、空気中の音の速さ\(V\)が、温度\(t\) [℃]の1次関数、すなわち \(V = at + b\) (\(a\), \(b\)は定数)の形で表せることを意味します。与えられている2つの条件、0℃で331 m/s、20℃で343 m/sをこの式に代入することで、定数\(a\)と\(b\)を決定し、15℃での音速を求めます。
この設問における重要なポイント
- 音速\(V\)と温度\(t\)の関係を1次関数 \(V = at + b\) としてモデル化する。
- 与えられた2点((t, V) = (0, 331) と (20, 343))を用いて、直線の式を特定する。
具体的な解説と立式
音の速さを \(V\) [m/s]、温度を \(t\) [℃] とすると、問題の条件から\(V\)は\(t\)の1次関数として表せます。
$$ V = at + b \quad \cdots ① $$
まず、\(t=0\)のとき\(V=331\)であることから、式①に代入すると、
$$ 331 = a \times 0 + b $$
これより、切片\(b\)が求まります。
$$ b = 331 $$
したがって、関係式は \(V = at + 331\) となります。
次に、この式に \(t=20\)のとき\(V=343\)であるという条件を代入して、傾き\(a\)を求めます。
$$ 343 = a \times 20 + 331 \quad \cdots ② $$
この方程式を解くことで、関係式が完全に決定されます。
この設問では、問題文の条件を数学的に表現した1次関数を利用します。
まず、式②を\(a\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
343 &= 20a + 331 \\[2.0ex]
20a &= 343 – 331 \\[2.0ex]
20a &= 12 \\[2.0ex]
a &= \displaystyle\frac{12}{20} = 0.6
\end{aligned}
$$
これにより、音速\(V\)と温度\(t\)の関係式は以下のように確定します。
$$ V = 0.6t + 331 \quad \cdots ③ $$
この式に、求めたい温度 \(t=15\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V &= 0.6 \times 15 + 331 \\[2.0ex]
&= 9 + 331 \\[2.0ex]
&= 340
\end{aligned}
$$
温度が0℃から20℃まで、20℃上がると、音の速さは331m/sから343m/sまで、12m/s速くなっています。これは、1℃上がるごとに \(12 \div 20 = 0.6\) m/sずつ速くなる計算です。
したがって、15℃のときの速さは、0℃のときの速さ331m/sに、15℃分の速さの増加量(\(0.6 \times 15 = 9\) m/s)を足し合わせることで求められます。
\(331 + 9 = 340\) m/sとなります。
15℃での音の速さは 340 m/s となります。この値は、0℃のときの331 m/sと20℃のときの343 m/sの間の妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問題文「反響音が聞こえた。そのときの岸壁までの距離L」という表現から、求めるべきは「反響音が聞こえた瞬間」の船と岸壁の距離であると解釈します。
汽笛を発した瞬間から反響音が聞こえるまでの4.0秒間に、音が進んだ総距離と、船が進んだ距離、そして「汽笛を発したときの距離」と「反響音を聞いたときの距離」の関係を整理して立式することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 求める距離\(L\)を「反響音が聞こえたとき」の距離と明確に定義する。
- 音源(船)が動いているため、「汽笛を発したときの距離」と「反響音を聞いたときの距離」は異なる。
- 音が往復する間に進んだ総距離を、2つの異なる視点から表現して等式を立てる。
具体的な解説と立式
求める「反響音が聞こえたとき」の岸壁までの距離を \(L\) [m] とします。
船の速さを \(v_{\text{船}} = 10\) m/s、音の速さを \(V = 340\) m/s、反響音が聞こえるまでの時間を \(t = 4.0\) s とします。
この \(t=4.0\) 秒の間に、船は岸壁に向かって \(D_{\text{船}} = v_{\text{船}} \times t = 10 \times 4.0 = 40\) m 進みます。
したがって、汽笛を発した瞬間の岸壁までの距離は、反響音を聞いたときの距離 \(L\) よりも40m長い、すなわち \(L + 40\) [m] であったと分かります。
音が進んだ総距離を考えます。
音は、行き(汽笛発射から岸壁まで)に \(L+40\) m、帰り(岸壁から船まで)に \(L\) m 進んでいます。
よって、音が進んだ総距離 \(D_{\text{音}}\) は、
$$ D_{\text{音}} = (L + 40) + L = 2L + 40 $$
一方、この総距離は、音が速さ \(V=340\) m/s で \(t=4.0\) s の間に進んだ距離 \(V \times t\) とも等しくなります。
$$ D_{\text{音}} = V \times t = 340 \times 4.0 = 1360 $$
以上から、次の方程式が成り立ちます。
$$ 2L + 40 = 1360 \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 距離 = 速さ × 時間
式④を \(L\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
2L + 40 &= 1360 \\[2.0ex]
2L &= 1360 – 40 \\[2.0ex]
2L &= 1320 \\[2.0ex]
L &= \displaystyle\frac{1320}{2} = 660
\end{aligned}
$$
4.0秒の間に、音は合計で \(340 \times 4.0 = 1360\) m 進みます。船は \(10 \times 4.0 = 40\) m 進みます。
求めたいのは「音が聞こえたとき」の船と岸壁の距離 \(L\) です。
音が出た4.0秒前、船は今より40m後ろにいたので、そのときの岸壁までの距離は \(L+40\) mでした。
音は、行きに \(L+40\) m、帰りに \(L\) m進んだことになります。
したがって、音が進んだ合計距離は \((L+40) + L = 2L+40\) mです。
これが1360mと等しいので、\(2L+40 = 1360\) という式が立てられます。これを解くと、\(2L = 1320\)、よって \(L = 660\) m と求まります。
反響音が聞こえたときの岸壁までの距離は 660 m です。
このとき、汽笛を発したときの距離は \(660 + 40 = 700\) m であったことになります。
音の往路にかかる時間は \(700 \div 340\) 秒、復路にかかる時間は \(660 \div 340\) 秒です。
合計時間は \(\displaystyle\frac{700}{340} + \displaystyle\frac{660}{340} = \displaystyle\frac{1360}{340} = 4.0\) 秒となり、問題の条件と一致します。
思考の道筋とポイント
問題文の「そのとき」を「汽笛を発したとき」と解釈し、その距離を \(L_0\) として求めるアプローチも考えられます。音の総移動距離と船の移動距離の関係から立式します。
具体的な解説と立式
汽笛を発したときの岸壁までの距離を \(L_0\) [m] とします。
音が岸壁まで進み、反射して船に戻ってくるまでの総移動距離は \(D_{\text{音}} = V \times t = 340 \times 4.0 = 1360\) m。
この間に船が進む距離は \(D_{\text{船}} = v_{\text{船}} \times t = 10 \times 4.0 = 40\) m。
音は行きに \(L_0\) 進み、帰りは船が40m近づいてきているので、\(L_0 – 40\) の距離を進むことになります。
音の総移動距離は、これらの和なので \(L_0 + (L_0 – 40) = 2L_0 – 40\)。
よって、以下の等式が成り立ちます。
$$ 1360 = 2L_0 – 40 \quad \cdots ⑤ $$
式⑤を解きます。
$$
\begin{aligned}
2L_0 &= 1360 + 40 \\[2.0ex]
2L_0 &= 1400 \\[2.0ex]
L_0 &= 700
\end{aligned}
$$
この解釈では、汽笛を発したときの距離は 700 m となります。問題文は「そのときの距離L」を問うており、模範解答は 660 m であることから、出題者は「反響音が聞こえたときの距離」を意図していたと考えられます。この別解で求めた「汽笛を発したときの距離」700 m から、船の移動距離 40 m を引くと、\(700 – 40 = 660\) m となり、メインの解法で求めた「反響音が聞こえたときの距離」と一致します。どちらのアプローチでも、物理的な関係を正しく捉えれば同じ結論に至ります。
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