「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 30】Step 2

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Step 2

425 電子の比電荷

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、電子の基本的な物理量である「電気素量」と「質量」が、歴史的にどのように測定されてきたかに関する知識と、それらを用いた基本的な計算を問うものです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 比電荷:粒子の荷電の大きさを質量で割った値 (\(q/m\))。粒子の運動が電場や磁場から受ける影響の度合いを示す。
  2. 電気素量:電荷の最小単位 (\(e\))。すべての電気量はその整数倍となる。
  3. ミリカンの油滴実験:電場中での油滴の運動を観測し、電気素量 \(e\) の値を精密に測定した実験。
  4. トムソンの比電荷測定:陰極線(電子の流れ)が電場や磁場で曲がる様子から、電子の比電荷 \(e/m\) を測定した実験。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 空欄①, ②, ③は、物理学史に関する知識問題です。用語の定義、実験を行った科学者、その実験内容を正しく結びつけて解答します。
  2. 空欄④は、与えられた電気素量 \(e\) の値と比電荷 \(e/m\) の値を用いて、電子の質量 \(m\) を算出する計算問題です。

空欄①

思考の道筋とポイント
「帯電した粒子の電気量の大きさと質量との比」が何と呼ばれるかを問う、用語の定義に関する問題です。これは物理学における基本的な用語の知識が試されます。
この設問における重要なポイント

  • 物理用語の正確な定義を覚えているか。
  • 電気量 \(q\) と質量 \(m\) の比、すなわち \(q/m\) を指す言葉を知っているか。

具体的な解説と立式
問題文で問われている「電気量の大きさと質量との比」は、物理学で「比電荷(specific charge)」と呼ばれる量の定義そのものです。特に電子の場合、その電気量の大きさが電気素量 \(e\) であるため、比電荷は \(e/m\) と表されます。

使用した物理公式

この設問は用語の定義を問うものであり、公式は使用しません。

計算過程

この設問は知識を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

粒子の性質を表す指標の一つに、「質量の軽さに対して、どれだけ電気を持っているか」を示すものがあります。これを「比電荷」と呼びます。本文はこの言葉の定義をそのまま尋ねています。

結論と吟味

「電気量の大きさと質量との比」は比電荷の定義であるため、解答は「比電荷」となります。

解答 ① 比電荷

空欄②

思考の道筋とポイント
「油滴を帯電させて」「電子の電気量の大きさeの値を測定」した科学者の名前を問う問題です。これは物理学史上の非常に有名な実験であり、実験名とその功績者を知っているかが問われます。
この設問における重要なポイント

  • 「油滴の実験」で「電気素量 \(e\)」を測定したのが「ミリカン」であることを覚えているか。

具体的な解説と立式
微小な油滴を電場中に浮遊させ、その運動を精密に観測することで、油滴の持つ電気量が必ず特定の最小単位(電気素量 \(e\))の整数倍になることを発見し、その値 \(e\) を高い精度で求めたのは、アメリカの物理学者ミリカンです。この実験は「ミリカンの油滴実験」として知られています。

使用した物理公式

この設問は人名を問うものであり、公式は使用しません。

計算過程

この設問は知識を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

「電気には、それ以上分けられない最小の粒があるはずだ」と考え、油滴を使った賢い実験でその最小単位(電気素量)の大きさを突き止めた科学者がいます。その人の名前が「ミリカン」です。

結論と吟味

油滴の実験と電気素量の測定を結びつける人物はミリカンです。

解答 ② ミリカン

空欄③

思考の道筋とポイント
「電子の比電荷 \(e/m\) を測定」した科学者の名前を問う問題です。これは電子の発見と密接に関連する、物理学史上の重要な業績です。
この設問における重要なポイント

  • 陰極線の研究から「電子の比電荷 \(e/m\)」を測定したのが「トムソン」であることを覚えているか。

具体的な解説と立式
イギリスの物理学者J.J.トムソンは、真空放電管内の陰極線の正体が負の電荷を持つ粒子の流れであることを突き止め、これを「電子」と名付けました。彼は、陰極線が電場や磁場によって曲げられる度合いを測定することで、世界で初めて電子の比電荷 \(e/m\) の値を求めました。

使用した物理公式

この設問は人名を問うものであり、公式は使用しません。

計算過程

この設問は知識を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

ミリカンが電気の最小単位の大きさを測るより前に、別の科学者が「電気の粒(電子)は、その重さに対してどれくらいの電気量を持っているか」という比率(比電荷)を測ることに成功しました。その人が、電子の発見者でもある「トムソン」です。

結論と吟味

電子の比電荷の測定と結びつく人物はトムソンです。

解答 ③ トムソン

空欄④

思考の道筋とポイント
電子の電気素量 \(e\) と比電荷 \(e/m\) の値が与えられ、それらを用いて電子の質量 \(m\) を計算する問題です。比電荷の定義式を変形することで、質量を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • \(m = e \div (e/m)\) という関係を導き、正しく計算できるか。
  • 指数計算と有効数字の扱いに注意する。

具体的な解説と立式
電子の質量 \(m\) は、電気素量 \(e\) と比電荷 \(e/m\) を用いて、次のように計算できます。
$$ m = \frac{e}{\left(\frac{e}{m}\right)} $$
問題文で与えられた値を代入します。
\(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ [C]}\)
\( \displaystyle\frac{e}{m} = 1.76 \times 10^{11} \text{ [C/kg]} \)

使用した物理公式

この設問では、比電荷の定義 \((\text{比電荷}) = e/m\) を変形して用います。

計算過程

与えられた値を代入して、質量 \(m\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{1.6 \times 10^{-19}}{1.76 \times 10^{11}} \\[2.0ex]
&= \frac{1.6}{1.76} \times \frac{10^{-19}}{10^{11}} \\[2.0ex]
&= 0.9090… \times 10^{-19-11} \\[2.0ex]
&= 0.9090… \times 10^{-30} \\[2.0ex]
&= 9.090… \times 10^{-31}
\end{aligned}
$$
与えられた数値の有効数字は、\(e\) が2桁、\(e/m\) が3桁です。計算結果は、有効数字の桁数がより少ない方に合わせるのが原則なので、2桁で答えます。したがって、小数点以下第2位を四捨五入します。
$$ m \approx 9.1 \times 10^{-31} \text{ [kg]} $$

計算方法の平易な説明

電子の「電気量」と、「質量1kgあたりの電気量(比電荷)」が分かっています。ここから電子の「質量」を求めるには、単純な割り算をすればOKです。
「質量」 = 「電気量」 ÷ 「質量1kgあたりの電気量」
という計算になります。

結論と吟味

計算結果は \(m \approx 9.1 \times 10^{-31} \text{ [kg]}\) となり、これは現在知られている電子の質量と一致する妥当な値です。

解答 ④ \(9.1 \times 10^{-31}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 電子の基本物理量に関する歴史的知識
    • 核心: この問題は計算よりも、現代物理学の基礎を築いた歴史的な実験とその結果に関する知識が中心です。特に、電子という粒子の性質を決定づけた2つの重要な測定値を正しく理解しているかが問われます。
    • 理解のポイント:
      • 電気素量 \(e\): ミリカンが油滴の実験で測定。全ての電荷の基本単位。
      • 比電荷 \(e/m\): トムソンが陰極線の実験で測定。電子の「動きやすさ」を示す指標。
      • 質量 \(m\): 上記2つの測定値を組み合わせることで、間接的に求められた。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • トムソンの実験の具体的な内容: 電子を電場と磁場に通し、それぞれの力(\(F_E=eE\), \(F_B=evB\))が釣り合う条件や、電場だけで曲げられる軌道を分析して比電荷を求める、といった計算問題。
    • ミリカンの実験の具体的な内容: 油滴に働く重力、浮力、空気抵抗、そして静電気力が釣り合う条件から、油滴の電荷を求める計算問題。
    • 他の粒子の比電荷: 陽子やα粒子など、電子以外の粒子の比電荷を比較したり計算したりする問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 知識問題か計算問題かを見極める: 問題文が物理学史上の事実や用語の定義を問うているのか、それとも具体的な数値を代入して計算を求めているのかを最初に判断します。
    2. キーワードと人名・業績を結びつける: 「油滴」→「ミリカン」→「電気素量 \(e\)」、「陰極線」→「トムソン」→「比電荷 \(e/m\)」という関連付けを瞬時に思い出せるようにしておきます。
    3. 計算問題では単位に注目する: 比電荷の単位が [C/kg] であることから、これを電気量 [C] で割れば、\( \frac{\text{[C]}}{\text{[C/kg]}} = \text{[kg]} \) となり、質量の単位が出てくることが分かります。単位を意識することで、どのような計算をすればよいかのヒントになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ミリカンとトムソンの業績の混同:
    • 誤解: どちらが電気素量を、どちらが比電荷を測定したのかを混同してしまう。
    • 対策: 「比電荷が先に、電気素量が後に測定された」という歴史的な順序で覚えるのが有効です。トムソンが電子の存在を提唱し、その性質(比電荷)を調べた後、ミリカンがその電子1個の電荷の大きさ(電気素量)を精密に測定した、というストーリーで記憶しましょう。
  • 指数の計算ミス:
    • 誤解: ④の計算で、\( 10^{-19} \div 10^{11} \) を \( 10^{-19-11} = 10^{-30} \) とするところを、\( 10^{-19+11} = 10^{-8} \) などと間違えてしまう。
    • 対策: 指数法則 \( a^m \div a^n = a^{m-n} \) を正確に適用する練習を繰り返します。特に負の指数が絡む計算は間違いやすいので、慎重に扱います。
  • 有効数字の扱い:
    • 誤解: ④の計算結果 \(9.090…\) を、どこで丸めてよいか分からなくなる。または、与えられた桁数よりも多く答えてしまう。
    • 対策: 割り算や掛け算では、与えられた数値の中で最も有効数字の桁数が少ないものに合わせる、というルールを徹底します。この問題では \(1.6\) が2桁なので、答えも2桁(\(9.1\))にします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 質量の導出式 (\( m = e / (e/m) \)):
    • 選定理由: この問題は、既知の2つの量 \(e\) と \(e/m\) から、未知の量 \(m\) を導出するものです。これらの3つの量をつなぐ関係式は、比電荷の定義式 \( (\text{比電荷}) = e/m \) しかありません。
    • 適用根拠: この定義式を、求めたい量である \(m\) について代数的に解くことで、\( m = e / (e/m) \) という計算式が論理的に導かれます。これは物理法則というよりは、定義式に基づいた単純な式変形です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の分離: ④の計算では、まず係数部分(\(1.6/1.76\))と指数部分(\(10^{-19}/10^{11}\))に分けて計算すると、思考が整理されミスが減ります。
  • 概算による検算: \(1.6/1.76\) は、だいたい \(1.6/1.6=1\) に近い値になるはずだと予測できます。計算結果が \(0.909…\) となったことで、大きくは外れていないと確認できます。また、指数の \( -30 \) というオーダーも、電子の質量が非常に小さいという知識と照らし合わせて、妥当性を確認します。
  • 単位の確認: 計算式の両辺で単位が合っているかを確認する(ディメンションチェック)のも有効な手段です。左辺は [kg]、右辺は [C] / [C/kg] = [kg] となり、式が正しそうだと判断できます。

426 電界中の電子の運動

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「一様な電場中での荷電粒子の運動」です。電場に垂直に入射した荷電粒子が、放物線軌道を描く様子を解析する問題で、重力場での物体の斜方投射と全く同じ考え方で解くことができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の分解:粒子の運動を、力が働く方向(y軸)と働かない方向(x軸)に分解して、それぞれ独立に考えます。
  2. 静電気力:荷電粒子が電場から受ける力は \(F=qE\) で与えられます。電子は負電荷なので、力の向きは電場の向きと逆になります。
  3. 運動方程式:力が働くy軸方向の運動を記述するために、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を用います。
  4. 等速直線運動と等加速度直線運動の公式:x軸方向は等速直線運動、y軸方向は等加速度直線運動として、それぞれの公式を適用します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、電子がy軸方向に受ける静電気力を求め、運動方程式を立てて加速度を計算します。
  2. (2)では、電子がx軸方向に等速直線運動をすることに着目し、金属板を通り抜ける時間を求めます。
  3. (3), (4)では、電子がy軸方向に等加速度直線運動をすることから、(2)で求めた時間を使って、出口でのy方向の速度と移動距離を公式から導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
電場中にいる電子の加速度を求める問題です。まず、電子が電場から受ける力を求め、次にニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を適用して加速度を計算します。力の向きと加速度の向きを正しく判断することが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 電子の電荷は負(\(-e\))であるため、受ける力の向きは電場の向きと逆になる。
  • 運動方程式 \(ma=F\) を用いて、力から加速度を求める。

具体的な解説と立式
問題の図と設定より、電場は下向き(y軸の負の向き)です。電子の電気量は \(-e\) なので、電場から受ける静電気力 \( \vec{F} \) は、
$$ \vec{F} = (-e)\vec{E} $$
となり、力の向きは電場の向きとは逆、すなわち上向き(y軸の正の向き)となります。
力の大きさは \(F = eE\) です。
この力が働くy軸方向について運動方程式を立てます。加速度を \(a\) とすると、
$$ ma = F $$
したがって、
$$ ma = eE $$

使用した物理公式

  • 静電気力: \( F = qE \)
  • 運動方程式: \( ma = F \)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を \(a\) について解きます。
$$ a = \frac{eE}{m} $$
この加速度の向きは、力の向きと同じでy軸の正の向きです。

計算方法の平易な説明

電子はマイナスの電気を持っているので、プラスからマイナスへ向かう電場(この問題では下向き)とは逆向きの力、つまり上向きの力を受けます。この力によって電子は上向きに加速されます。その加速度の大きさは、物理の基本ルールである運動方程式 \(ma=F\)(力 \(F\) を質量 \(m\) で割る)から計算できます。

結論と吟味

電子の加速度は、y軸の正の向きに大きさ \( \displaystyle\frac{eE}{m} \) となります。これは一定の力による運動なので、加速度も一定です。

解答 (1) y軸の正の向きに \( \displaystyle\frac{eE}{m} \)

問(2)

思考の道筋とポイント
電子が長さ \(L\) の金属板の間を通り抜けるのに要する時間 \(t\) を求める問題です。電子の運動をx軸方向とy軸方向に分解して考えます。x軸方向には力が働かないため、電子は入射したときの速さ \(v_0\) のまま等速直線運動をします。
この設問における重要なポイント

  • 運動の分解:x軸方向には力が働かないため、等速直線運動とみなす。
  • x軸方向の速度は、入射時の速度 \(v_0\) で一定である。

具体的な解説と立式
電子はx軸方向に、速さ \(v_0\) の等速直線運動をします。金属板の長さは \(L\) なので、この距離を進むのに要する時間 \(t\) は、
$$ L = v_0 t $$
という関係式で表されます。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \( (\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間}) \)
計算過程

上の式を \(t\) について解きます。
$$ t = \frac{L}{v_0} $$

計算方法の平易な説明

電子は横方向(x方向)には、最初に飛び込んだ速さ \(v_0\) のまま、ずっと同じ速さで進みます。長さ \(L\) の区間をこの速さで通り抜けるのにかかる時間は、小学校で習う「時間=距離÷速さ」の公式で簡単に計算できます。

結論と吟味

時間は \( \displaystyle\frac{L}{v_0} \) となります。金属板が長いほど、また入射速度が遅いほど、通り抜けるのに時間がかかるという直感に合う結果です。

解答 (2) \( \displaystyle\frac{L}{v_0} \)

問(3)

思考の道筋とポイント
金属板の間を出るときの、電子のy軸方向の速さ \(v_y\) を求める問題です。y軸方向の運動は、初速度0、加速度 \(a\)((1)で計算済み)の等加速度直線運動です。金属板を通り抜ける時間 \(t\)((2)で計算済み)だけ加速された後の速度を、公式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • y軸方向の運動は、初速度0の等加速度直線運動である。
  • 等加速度直線運動の速度の公式 \(v = v_0 + at\) を使う。

具体的な解説と立式
y軸方向の運動について、初速度は \(v_{0y}=0\)、加速度は(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\) です。
等加速度直線運動の速度の公式 \(v_y = v_{0y} + at\) を用いると、
$$ v_y = 0 + at = at $$
この式に、(1)で求めた \(a\) と(2)で求めた \(t\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の公式: \( v = v_0 + at \)
計算過程

$$
\begin{aligned}
v_y &= at \\[2.0ex]
&= \left( \frac{eE}{m} \right) \left( \frac{L}{v_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{eEL}{mv_0}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子は縦方向(y方向)には、(1)で求めた一定の加速度で、時間とともにどんどん速くなっていきます。金属板を通り抜ける時間((2)で計算済み)だけ加速された後の縦方向の速さは、「速さ=加速度×時間」という公式で計算できます。

結論と吟味

y軸方向の速さ \(v_y\) は \( \displaystyle\frac{eEL}{mv_0} \) となります。電場が強いほど、また金属板の中にいる時間が長いほど、y方向の速度が大きくなるという妥当な結果です。

解答 (3) \( \displaystyle\frac{eEL}{mv_0} \)

問(4)

思考の道筋とポイント
金属板の間を出るまでに、電子がy軸方向に動いた距離を求める問題です。(3)と同様に、y軸方向の運動が初速度0の等加速度直線運動であることに着目し、変位の公式を用います。
この設問における重要なポイント

  • y軸方向の運動は、初速度0の等加速度直線運動である。
  • 等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を使う。

具体的な解説と立式
y軸方向の運動について、初速度は \(v_{0y}=0\)、加速度は \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\) です。
等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_{0y}t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) を用いると、
$$ y = 0 \cdot t + \frac{1}{2}at^2 = \frac{1}{2}at^2 $$
この式に、(1)で求めた \(a\) と(2)で求めた \(t\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の変位の公式: \( y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 \)
計算過程

$$
\begin{aligned}
y &= \frac{1}{2}at^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \left( \frac{eE}{m} \right) \left( \frac{L}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \frac{eE}{m} \frac{L^2}{v_0^2} \\[2.0ex]
&= \frac{eEL^2}{2mv_0^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

縦方向(y方向)に動いた距離を求めます。これも等加速度運動の公式で計算できます。初めは縦方向には動いていなかったので、「距離=1/2 × 加速度 × 時間の2乗」という公式が使えます。

結論と吟味

y軸方向に動いた距離は \( \displaystyle\frac{eEL^2}{2mv_0^2} \) となります。この軌道は \(y = \left( \frac{eE}{2mv_0^2} \right) x^2\) という形の放物線の一部であり、重力下での水平投射と同じ形の運動であることがわかります。

解答 (4) \( \displaystyle\frac{eEL^2}{2mv_0^2} \)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動の分解
    • 核心: 電子の二次元的な運動を、互いに直交する「力が働かない方向(x軸)」と「一定の力が働く方向(y軸)」に分けて考える、というアプローチがこの問題の全てです。
    • 理解のポイント:
      • x軸方向: 力がゼロなので、運動は単純な「等速直線運動」。\(x = v_0 t\) の関係式のみで記述できます。
      • y軸方向: 一定の力 \(F=eE\) が働くので、運動は「等加速度直線運動」。\(v_y = at\), \(y = \frac{1}{2}at^2\) などの公式が使えます。
      • 時間 \(t\) が、これら2つの独立した運動を結びつける唯一の架け橋となります。
  • 運動方程式と静電気力
    • 核心: y軸方向の運動を具体的に記述するために、まず静電気力の公式 \(F=qE\) で力の大きさを求め、それを運動方程式 \(ma=F\) に代入して加速度を決定する、という一連の流れを確実に実行できることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 重力下での水平投射: この問題は、重力 \(mg\) が働く空間で、物体を水平に初速 \(v_0\) で投げ出す「水平投射」と全く同じ数学的構造をしています。静電気力 \(eE\) が重力 \(mg\) に、電子の質量 \(m\) が物体の質量 \(m\) に対応します。このアナロジーを理解しておくと、見通しが良くなります。
    • 電場と磁場の両方が存在する領域: この問題の電場領域の後に、磁場領域が続く問題も頻出です。その場合、磁場中ではローレンツ力 \(F=evB\) を受けて等速円運動を始めるため、運動の種類が切り替わる点に注意が必要です。
    • 偏向電極とスクリーン: この問題の金属板を出た後に、さらに直進してスクリーンに到達する設定の問題(オシロスコープの原理問題)もよく出題されます。その場合は、金属板を出た後の運動が「等速直線運動」になることを利用して解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の設定: まず、問題で指定された座標軸(特に正の向き)を確認します。指定がなければ、入射方向をx軸、力が働く方向をy軸と自分で設定します。
    2. 力の分析: 荷電粒子に働く力を特定します。この問題ではy軸方向の静電気力のみです。力の向き(電場と電荷の符号から判断)を絶対に間違えないようにします。
    3. 運動の種類の特定: 各軸について、力が働くか否かを判断し、運動の種類(等速 or 等加速度)を決定します。
    4. 時間 \(t\) を求める: 多くの場合、まずx軸方向の運動(等速直線運動)から、特定の領域を通過する時間 \(t\) を求めることが、問題を解く第一歩となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 力の向きの勘違い:
    • 誤解: 電子は負電荷であることを見落とし、力の向きを電場の向きと同じ(下向き)にしてしまう。
    • 対策: 常に「電荷の符号は正か負か?」と自問する癖をつけます。正電荷なら力は電場と同じ向き、負電荷(電子など)なら力は電場と逆の向き、という基本を徹底します。
  • 運動の分解の混同:
    • 誤解: x方向にも加速度があると考えてしまったり、y方向の初速度を \(v_0\) と置いてしまう。
    • 対策: 運動をx, yに分解したら、それぞれの方向について完全に独立して考えます。「x方向の運動に関係するのはx方向の速度と距離だけ」「y方向の運動に関係するのはy方向の初速度、加速度、速度、距離だけ」と意識を切り分けることが重要です。
  • 公式の誤用:
    • 誤解: (4)の距離を求める際に、\(y=v_y t\) のように、等速直線運動の公式を誤って使ってしまう。
    • 対策: y軸方向は「加速している」ことを常に念頭に置き、必ず「等加速度直線運動の公式」を使うことを徹底します。公式を選ぶ前に、その運動が「等速」なのか「等加速度」なのかを必ず確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動方程式 (\(ma=eE\)):
    • 選定理由: (1)で「加速度」という、運動の変化の度合いを示す量を求めたいからです。運動の変化(加速度)とその原因(力)を結びつける唯一の法則が運動方程式です。
    • 適用根拠: 電場から受ける力 \(F=eE\) が一定であるため、それによって生じる加速度 \(a\) も一定となります。この関係を定量的に示すために運動方程式を用います。
  • 等速・等加速度直線運動の公式:
    • 選定理由: (2)以降では、時間、速度、距離といった具体的な運動の様子を問われています。運動の種類が「等速」あるいは「等加速度」と特定できれば、これらの量を計算するための便利な公式が用意されているため、それらを利用するのが最も効率的です。
    • 適用根拠: x軸方向には力が働かないので「等速直線運動」。y軸方向には一定の力が働くので「等加速度直線運動」。この運動の種類の判断が、公式選択の直接的な根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字のまま計算を進める: この問題は全て文字式で答えるため、計算ミスは起こりにくいですが、もし数値計算が必要な場合でも、できるだけ計算の最終段階まで文字のまま式変形を行うことが推奨されます。
  • 代入の確認: (3)や(4)の計算では、(1)で求めた \(a\) と(2)で求めた \(t\) を代入します。代入する式が正しいか、代入する場所を間違えていないか、一つ一つ確認しながら進めます。
  • 次元(単位)の確認: 計算結果の単位が、求められている物理量の単位と一致するかを確認する(次元解析)と、大きなミスを防げます。例えば(4)の距離の計算結果 \( \frac{eEL^2}{2mv_0^2} \) の単位を調べると、\( \frac{\text{[C]} \cdot \text{[V/m]} \cdot \text{[m]}^2}{\text{[kg]} \cdot \text{([m/s])}^2} \) となり、\(eV\) がエネルギー [J] の次元を持つことなどを利用して変形すると、最終的に [m] になることが確認できます。

427 ミリカンの実験

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ミリカンの油滴の実験」です。この実験は、電場中での油滴の運動を観測することで、電荷がとびとびの値(量子化)を持つことを示し、その最小単位である電気素量 \(e\) を測定した、物理学史において非常に重要なものです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい:油滴が「一定の速さ」(終端速度)で運動しているとき、油滴に働く力の合力はゼロになります。
  2. 油滴に働く力:この実験では、重力、空気抵抗、そして電場による静電気力の3つの力を考えます。
  3. 電荷の量子性:全ての物体が持つ電気量は、電気素量 \(e\) と呼ばれる最小単位の整数倍になっている、という基本的な原理です。
  4. 実験データの分析:測定値の差を計算することで、データに隠された基本単位を見つけ出すという、科学的なデータ解析の手法が問われます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、油滴が「電圧なしで落下するとき」と「電圧をかけて上昇するとき」の2つの状況について、それぞれ力のつりあいの式を立てます。そして、その2つの式を連立させて、未知の物理量(質量 \(m\) や空気抵抗の係数 \(k\) の一部)を消去し、電気量 \(q\) を求めます。
  2. (2)では、与えられた測定値のリストから、隣り合う値の差を計算します。その差が、ある基本単位(電気素量 \(e\))の整数倍になっていることを見抜き、各測定値が \(e\) の何倍かを推定します。最後に、全てのデータを用いて平均値を計算し、より正確な \(e\) の値を決定します。

問(1)

思考の道筋とポイント
油滴の電気量 \(q\) を求める問題です。油滴は「一定の速さ」で運動しているため、力がつり合っている状態です。「電圧なしでの落下時」と「電圧ありでの上昇時」の2つのケースについて、それぞれ力のつりあいの式を立て、それらを連立させて解くことで \(q\) を導出します。
この設問における重要なポイント

  • 油滴に働く力は、重力、空気抵抗、静電気力の3つである。
  • 空気抵抗の向きは、常に油滴の運動方向と逆向きになる。
  • 「一定の速さ」という記述から、力のつりあいの式(合力=0)を立てる。

具体的な解説と立式
油滴の質量を \(m\)、電気量の大きさを \(q\)、重力加速度の大きさを \(g\) とします。鉛直上向きを正の向きとして、力のつりあいを考えます。

ケース1:電圧なしで落下(速さ \(v_1\))
油滴は下向きに運動しているので、空気抵抗は上向きに働きます。
働く力は、上向きの空気抵抗(大きさ \(kv_1\))と、下向きの重力(大きさ \(mg\))です。
力のつりあいの式は、
$$ kv_1 – mg = 0 \quad \cdots ① $$

ケース2:電圧ありで上昇(速さ \(v_2\))
油滴は上向きに運動しているので、空気抵抗は下向きに働きます。また、油滴が上昇するためには、静電気力が上向きに働く必要があります。
働く力は、上向きの静電気力(大きさ \(qE\))、下向きの重力(大きさ \(mg\))、そして下向きの空気抵抗(大きさ \(kv_2\))です。
力のつりあいの式は、
$$ qE – mg – kv_2 = 0 \quad \cdots ② $$
式①と②を連立して、\(mg\) を消去し、\(q\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \( \vec{F}_{\text{合力}} = 0 \)
  • 静電気力: \( F = qE \)
計算過程

式①より、\(mg = kv_1\) となります。これを式②に代入すると、
$$
\begin{aligned}
qE – (kv_1) – kv_2 &= 0 \\[2.0ex]
qE &= kv_1 + kv_2 \\[2.0ex]
qE &= k(v_1 + v_2)
\end{aligned}
$$
したがって、\(q\) について解くと、
$$ q = \frac{k(v_1 + v_2)}{E} $$

計算方法の平易な説明

油滴が一定の速さで動いているときは、「上向きの力の合計」と「下向きの力の合計」が等しくなっています。
・落ちるとき:上向きの力(空気抵抗) = 下向きの力(重力)
・上がるとき:上向きの力(電気の力) = 下向きの力(重力 + 空気抵抗)
この2つの式を見比べると、「重力」の部分が共通しています。そこで、1番目の式を使って「重力」を「空気抵抗」の式で表し、それを2番目の式に代入することで、電気の量 \(q\) を求めることができます。

結論と吟味

油滴の電気量の大きさ \(q\) は \( \displaystyle\frac{k(v_1 + v_2)}{E} \) となります。この式は、実験で測定可能な量(\(v_1, v_2, E\))と、油滴と空気の性質で決まる定数 \(k\) で表されており、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \( \displaystyle\frac{k(v_1 + v_2)}{E} \)

問(2)

思考の道筋とポイント
複数の電気量の測定値から、電気素量 \(e\) の存在を突き止め、その値を推定する問題です。これはミリカンの実験の思考過程を追体験するものです。もし電気量が \(e\) の整数倍(\(q=ne\))になっているならば、測定値どうしの差もまた \(e\) の整数倍になるはずです。この性質を利用して、データの背後にある基本単位 \(e\) を見つけ出します。
この設問における重要なポイント

  • 電荷の量子性(\(q=ne\))の考え方を用いる。
  • 測定値の差を計算することで、基本単位 \(e\) を推定する。
  • 全てのデータを用いて平均値を計算し、より信頼性の高い \(e\) の値を求める。

具体的な解説と立式
まず、与えられた測定値(単位: \( \times 10^{-19} \text{C} \))の隣り合う値の差を計算します。
$$ 8.05 – 4.86 = 3.19 $$
$$ 9.67 – 8.05 = 1.62 $$
$$ 11.25 – 9.67 = 1.58 $$
$$ 14.46 – 11.25 = 3.21 $$
$$ 16.02 – 14.46 = 1.56 $$
これらの差を見ると、約 \(1.6\) またはその2倍の約 \(3.2\) になっています。このことから、電荷の基本単位である電気素量 \(e\) は、およそ \(e \approx 1.6 \times 10^{-19} \text{C}\) であると強く推測されます。

次に、この推定値 \(e \approx 1.6 \times 10^{-19} \text{C}\) を用いて、各測定値が \(e\) の何倍になっているか(整数 \(n\) の値)を求めます。
$$ 4.86 \div 1.6 \approx 3.04 \rightarrow n=3 $$
$$ 8.05 \div 1.6 \approx 5.03 \rightarrow n=5 $$
$$ 9.67 \div 1.6 \approx 6.04 \rightarrow n=6 $$
$$ 11.25 \div 1.6 \approx 7.03 \rightarrow n=7 $$
$$ 14.46 \div 1.6 \approx 9.04 \rightarrow n=9 $$
$$ 16.02 \div 1.6 \approx 10.01 \rightarrow n=10 $$
よって、各測定値はそれぞれ \(3e, 5e, 6e, 7e, 9e, 10e\) に対応すると考えられます。

最後に、これらのデータ全体から最も確からしい \(e\) の値を求めるため、全測定値の合計を、対応する倍率の合計で割ります。
$$ e = \frac{(4.86 + 8.05 + 9.67 + 11.25 + 14.46 + 16.02) \times 10^{-19}}{3+5+6+7+9+10} $$

使用した物理公式

  • 電荷の量子性: \( q = ne \)
計算過程

$$
\begin{aligned}
e &= \frac{64.31 \times 10^{-19}}{40} \\[2.0ex]
&= 1.60775 \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
測定値の有効数字が3桁または4桁であるため、結果を有効数字3桁に丸めます。
$$ e \approx 1.61 \times 10^{-19} \text{ [C]} $$

計算方法の平易な説明

測定された電気の量は一見バラバラですが、実は「電気の最小ブロック(電気素量 \(e\))」がいくつか集まったものだと考えます。このブロック1個分の大きさを知るために、まず測定値の差を計算します。すると、差がだいたい1.6かその2倍の3.2になることから、ブロック1個の大きさは約1.6だと見当がつきます。次に、各測定値がブロック何個分に相当するか(3個、5個、…)を調べます。最後に、全ての測定値の合計(ブロックの総数分)を、ブロックの総数(3+5+…)で割ることで、ブロック1個分のより正確な大きさを計算します。

結論と吟味

各測定値は \(3e, 5e, 6e, 7e, 9e, 10e\) と表せ、電気素量の値は \(1.61 \times 10^{-19} \text{C}\) と求められます。これは、電荷が量子化されているという考え方と実験データが見事に一致することを示す、非常に説得力のある結果です。

解答 (2) 測定値の電気量: \(3e, 5e, 6e, 7e, 9e, 10e\), 電気素量: \(1.61 \times 10^{-19} \text{C}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつりあい
    • 核心: この実験の物理的解析の根幹は、油滴が「一定の速さ」で運動している点にあります。これは、油滴に働く全ての力のベクトル和がゼロ、すなわち「力がつり合っている」状態を意味します。
    • 理解のポイント:
      • 落下時: 下向きの重力と、上向きの空気抵抗がつりあう。
      • 上昇時: 上向きの静電気力と、下向きの重力および空気抵抗の和がつりあう。
      • この2つの状況でつりあいの式を立て、連立させることが解法の鍵です。
  • 電荷の量子性
    • 核心: (2)で問われているのは、ミリカンの実験が明らかにした最も重要な物理的発見、すなわち「全ての電荷は電気素量 \(e\) の整数倍である」という原理です。
    • 理解のポイント: この原理があるからこそ、一見バラバラに見える測定値の差を取ることで、その背後にある共通の基本単位 \(e\) をあぶり出すことができるのです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 終端速度の問題: 空気抵抗や粘性抵抗を受けながら落下する物体の運動は、やがて力がつりあって一定の速さ(終端速度)に達します。この終端速度を求める問題は、(1)の落下時のつりあいの式と同じ考え方で解くことができます。
    • 未知の物理量を求める問題: (1)では \(q\) を求めましたが、逆に \(q\) と \(e\) が既知で、油滴の半径や質量 \(m\) を求める問題も考えられます。その場合は、重力 \(mg\) を球の体積と密度で表したり(\(mg = \frac{4}{3}\pi r^3 \rho g\))、ストークスの法則(\(kv\) の \(k\) が半径に比例する)を用いたりします。
    • 統計的なデータ処理: (2)のように、複数の測定値から最も確からしい値を求める手法は、他の物理実験の問題でも応用されます。誤差を減らすために平均値を取る、という考え方は科学の基本です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の状態を把握する: まず、物体が「加速している」のか「等速運動している」のかを問題文から読み取ります。「一定の速さ」「終端速度」といった言葉があれば、力のつりあいを考えます。
    2. 働く力を全て図示する: 対象となる物体(この場合は油滴)に働く力を、向きと大きさを意識しながら全て矢印で書き出します。重力、空気抵抗、静電気力、浮力など、考えられる力を漏れなくリストアップします。
    3. 座標軸を設定し、つりあいの式を立てる: 鉛直上向きなどを正として座標軸を定め、力の各成分の和がゼロになるようにつりあいの式を立てます。
    4. 実験データの規則性を探る: (2)のようなデータが与えられたら、まずは差を取ってみる、比を取ってみるなど、データ間に隠された規則性や共通の単位がないかを探る、というアプローチを試みます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 空気抵抗の向きの間違い:
    • 誤解: (1)の上昇時に、空気抵抗の向きを落下時と同じ上向きにしてしまう。
    • 対策: 空気抵抗は、常に「物体の運動を妨げる向き」に働く、という基本を徹底します。物体が下に動いていれば上向きに、上に動いていれば下向きに働きます。
  • 力のつりあいの式の立て間違い:
    • 誤解: (1)の上昇時に、\(qE + mg – kv_2 = 0\) のように、力の向き(符号)を間違えて式を立ててしまう。
    • 対策: 最初に「上向きを正」などと座標軸の向きを明確に定めてから、各力のベクトルがその向きに沿っているか逆らっているかで、プラス・マイナスの符号を機械的に割り振るようにすると、ミスが減ります。
  • データ解析の方法が分からない:
    • 誤解: (2)で、測定値の平均をいきなり取ってしまったり、どうして差を計算するのかが理解できない。
    • 対策: 「電荷は \(e\) の整数倍」という仮説をまず立てます。すると、測定値 \(q_A = n_A e\), \(q_B = n_B e\) の差は \(q_A – q_B = (n_A – n_B)e\) となり、差もまた \(e\) の整数倍になるはずです。この論理を理解することで、差を計算する操作の意味が分かります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあいの式 (\( \sum F = 0 \)):
    • 選定理由: (1)の問題文に「一定の速さ \(v_1\) で落下」「一定の速さ \(v_2\) で上昇」とあります。速度が一定ということは、加速度がゼロであることを意味します。
    • 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \( \sum F = ma \) において、加速度 \(a=0\) なので、力の合力はゼロ \( \sum F = 0 \) となります。これが、力のつりあいの式を選択する直接的な論理的根拠です。
  • 電荷の量子性の仮定 (\( q=ne \)):
    • 選定理由: (2)では、一見無関係に見える測定値の集まりから、共通の物理法則を導き出すことが求められています。このような場合に、背後にある物理モデル(仮説)を立ててデータを解釈する必要があります。
    • 適用根拠: 電荷が連続的な値ではなく、とびとびの基本単位を持つという「電荷の量子性」は、現代物理学の根幹をなす考え方です。この仮説を適用することで、実験データが持つ意味(各測定値が \(e\) の何倍か)を初めて解明できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 連立方程式の処理: (1)では、2つのつりあいの式から未知数 \(mg\) を消去します。\(mg = kv_1\) をもう一方の式に代入するという、基本的な連立方程式の解法を確実に行います。
  • データ差の計算: (2)では、隣り合う数値の引き算を複数回行います。単純な計算ですが、焦るとミスをしやすいので、一つ一つ丁寧に行い、検算します。
  • 平均値の計算: (2)の最後の平均値計算では、分子の足し算と分母の足し算をそれぞれ正確に行います。電卓が使えない場合は、筆算で慎重に計算し、桁を間違えないように注意します。
  • 有効数字: 最終的な答えを出す際には、問題文で与えられた数値の有効数字を確認し、それに合わせて結果を丸めることを忘れないようにします。
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