Step1
① 陰極線
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「真空放電と陰極線の性質」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 気体放電と真空放電: 気圧によって放電の様子がどう変わるかの理解。
- 陰極線の定義: 真空放電において陰極から放出されるものの正体。
- 陰極線の性質: 直進性、負の電荷、電場・磁場による偏向など。
- トムソンの実験: 陰極線の比電荷を測定し、電子の存在を明らかにした歴史的意義。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文の流れ(気圧の減少に伴う放電現象の変化)を把握する。
- 前半はグロー放電、後半は陰極線に関する記述であることを理解する。
- 各空欄について、陰極線の発見からその性質の解明、そして電子の発見へと至る科学史的な流れに沿って、最も適切な語句を選択する。
思考の道筋とポイント
この問題は、19世紀末に行われた真空放電の実験と、それに伴う陰極線の発見、そして電子の発見へと至る一連の物理学の歴史をなぞる形式になっています。文章の流れを追いながら、各段階で明らかになった物理現象や陰極線の性質に関するキーワードを正確に当てはめていくことが求められます。
特に、気圧が比較的高い状態での「グロー放電」と、気圧が極めて低い状態(高真空)で観察される「陰極線」の現象を区別して理解することが重要です。後半は、陰極線がどのような性質を持つのか(直進性、電荷の有無とその符号)、そしてその正体が何であるかを明らかにしたトムソンの実験に関する知識が問われます。
この設問における重要なポイント
- 気体放電: 通常は電気を通さない気体に高電圧をかけると、気体分子が電離してプラズマ状態になり、電流が流れる現象。このとき光を放つことが多い。
- グロー放電: 数kPa程度の低圧の気体中で起こる放電。管全体がぼんやりと光る。ネオンサインはこの原理を利用している。
- 真空放電と陰極線: 気圧を10Pa以下まで下げた高真空のガラス管(クルックス管)で放電を行うと、気体の発光はほとんど見られなくなり、代わりに陰極(-極)から何かが放出され、陽極(+極)側のガラス壁に当たって蛍光を発する。この未知の放射線が陰極線と名付けられた。
- 陰極線の性質:
- 直進性: 陰極線の進路に物体を置くと、その影ができる。
- 負の電荷: 陰極線は電場の中で陽極(+極)側に曲げられる。このことから、負の電荷を持つ粒子の流れであることがわかる。
- 粒子性: 陰極線の経路上に軽い羽根車を置くと、羽根車が回転する。これは陰極線が運動エネルギーを持つ粒子であることを示唆する。
- トムソンの実験: J.J.トムソンは、陰極線が電場や磁場によって曲げられる度合いを精密に測定することで、陰極線を構成する粒子の比電荷(電荷\(e\)と質量\(m\)の比、\(\displaystyle\frac{e}{m}\))を求めた。
- 電子の発見: トムソンが測定した比電荷の値は、放電管内の気体の種類や電極の材質によらず常に一定であった。このことから、陰極線はあらゆる物質に共通に含まれる基本的な粒子から構成されていると結論づけ、この粒子を「電子」と名付けた。
具体的な解説と立式
この問題は物理法則の知識を問うもので、計算式を立てる必要はありません。文脈に沿って各空欄を埋めていきます。
- 空欄①: 「気体の圧力が数kPa程度」という条件は、グロー放電が起こる領域です。このとき、管内の気体全体が電離・励起され、光を放ちます。したがって、①には「発光」が入ります。
- 空欄②、③: 「10Pa以下の圧力」という高真空状態では、陰極から何かが放出されます。これは陰極(マイナス極)から出るため、②には「陰」が入り、この放射線そのものは「陰極線」と呼ばれます。よって③は「陰極線」です。
- 空欄④: 陰極線が「物体によって遮られ、影ができる」という性質は、光がまっすぐ進むのと同じように、陰極線がまっすぐ進む性質、すなわち「直進」性を示しています。
- 空欄⑤: 陰極線は、電場をかけると陽極(プラス極)の側に引き寄せられます。これは、陰極線がプラスの電気と引き合う、すなわち「負」の電荷を持っていることを意味します。
- 空欄⑥: 陰極線が曲げられる原因として「磁界」が挙げられています。電荷を持つ粒子は磁界だけでなく「電界」(または電場)によっても力を受けて進路が曲がります。
- 空欄⑦: トムソンは、陰極線が電場や磁場から受ける力を分析し、その構成粒子の電荷\(e\)と質量\(m\)の比である「比電荷」\(\displaystyle\frac{e}{m}\)を測定しました。
- 空欄⑧: トムソンの実験により、陰極線の正体は、あらゆる原子に含まれる負の電荷を持った普遍的な粒子であることが明らかになりました。この粒子は「電子」と名付けられました。したがって、陰極線は電子の流れです。
使用した物理公式
この問題では、計算に用いる公式はありませんが、以下の物理概念が背景にあります。
- 陰極線の正体:電子の流れ
- 陰極線の性質:直進性、負の電荷、粒子性
- 比電荷の概念:粒子の電荷と質量の比 \(\displaystyle\frac{e}{m}\)
この問題には計算過程はありません。上記の「具体的な解説と立式」で述べた、科学史の流れと物理概念の理解そのものが解答プロセスとなります。
- ① → 発光
- ② → 陰
- ③ → 陰極線
- ④ → 直進
- ⑤ → 負
- ⑥ → 電界
- ⑦ → 比電荷
- ⑧ → 電子
この問題は、科学者たちが「謎の光線」の正体を暴いていく推理物語のようなものです。
- ①: ガラス管に少しだけ空気を残して電気を流すと、ネオンサインのように管全体が光ります。これが「発光」です。
- ②, ③: もっと空気を抜いて真空に近づけると、今度はマイナス極からビームのようなものが出てきます。これを「陰」極から出る「陰極線」と名付けました。
- ④: このビームの通り道に物を置くと、くっきりとした影ができます。これはビームが光のように「直進」する証拠です。
- ⑤: ビームの横にプラスの電気を帯びた板を置くと、ビームはそちらに吸い寄せられました。つまり、ビーム自身は「負」の電気を持っているとわかります。
- ⑥: ビームは磁石(磁界)だけでなく、プラス・マイナスの板(電界)でも曲がることが確認されました。
- ⑦: トムソンという科学者が、この曲がり具合を精密に測定して、ビームを作っている粒子の「キャラクター情報」ともいえる「比電荷」(電荷と質量の比率)を突き止めました。
- ⑧: この比電荷は、実験の材料を何に変えても全く同じ値でした。ここから「この粒子は、あらゆる物質に含まれる共通の部品だ!」と結論づけられ、この粒子こそが「電子」であると発見されたのです。
② 電子に生じる加速度
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一様な電場中での荷電粒子の運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 一様な電場の式: 平行極板間の電圧\(V\)と距離\(d\)から電場の大きさ\(E\)を求める関係。
- 静電気力: 電荷\(q\)を持つ粒子が電場\(E\)から受ける力\(F\)の公式。
- 運動方程式: 物体の加速度\(a\)と、物体に働く力\(F\)の関係を示すニュートンの第二法則。
- 電荷の符号と力の向き: 正電荷と負電荷では、電場から受ける力の向きが逆になることの理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 図から平行極板間の電場の向きと大きさを求める。
- 電子の電荷が負であることに注意して、電子が受ける静電気力の向きと大きさを求める。
- 運動方程式を立てて、力の情報から加速度の大きさと向きを導出する。
思考の道筋とポイント
この問題は、荷電粒子が電場から受ける力を求め、それを運動方程式に適用するという、電磁気学と力学の融合問題の基本です。
最大のポイントは、電子が負の電荷を持つため、電場とは逆向きの力を受けるという点です。この点を正確に把握できれば、あとは基本的な公式を組み合わせるだけで解くことができます。
まず、電場の向きと大きさを確定させます。次に、その電場が電子にどのような力を及ぼすかを考え、最後に運動方程式 \(ma=F\) を使って加速度を求めます。加速度はベクトル量なので、「大きさと向き」の両方を答えることを忘れないようにしましょう。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場: 平行な極板間に電圧\(V\)をかけると、極板間には向きが一定で強さがどこでも同じ「一様な電場」ができます。電場の向きは電位の高い正極(+)から電位の低い負極(-)へ向かいます。その大きさ\(E\)は、電圧\(V\)と極板間の距離\(d\)を用いて \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\) と表されます。
- 静電気力: 電荷\(q\)を持つ粒子が、大きさ\(E\)の電場中に置かれると、静電気力\(F\)を受けます。力の大きさは \(F = |q|E\) です。力の向きは、電荷の符号によって決まります。
- 正電荷(\(q > 0\))の場合:力の向きは電場の向きと同じ。
- 負電荷(\(q < 0\))の場合:力の向きは電場の向きと逆。
電子の電気量は\(-e\)なので、負電荷です。
- 運動方程式: 質量\(m\)の物体に力\(F\)が働くと、物体には力の向きに加速度\(a\)が生じます。この関係は \(ma = F\) と表されます。力と加速度はベクトルなので、向きを考慮して立式する必要があります。
具体的な解説と立式
この問題では、電子に働く力と加速度を考えます。これらはベクトル量なので、向きを定めるために座標軸を設定します。ここでは、模範解答と同様に鉛直下向きを正とします。
- 電場の向きと大きさ
図より、上の極板が正(+)、下の極板が負(-)です。電場は電位の高い方から低い方へ向かうので、向きは「鉛直下向き」となります。
その大きさ\(E\)は、電圧が\(V\)、極板間距離が\(d\)なので、公式より次式で与えられます。
$$ E = \displaystyle\frac{V}{d} \quad \cdots ① $$ - 電子が受ける静電気力
電子の電荷は\(-e\)(負電荷)です。負電荷が受ける静電気力の向きは、電場の向きと逆になります。
電場は鉛直下向きなので、電子が受ける力\(F\)の向きは「鉛直上向き」です。
力の大きさは \(|(-e)E| = eE\) です。①を代入すると、力の大きさは \(e\displaystyle\frac{V}{d}\) となります。 - 運動方程式の立式
電子の質量を\(m\)、加速度を\(a\)として、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
座標軸は鉛直下向きを正としています。電子が受ける力は鉛直上向き(負の向き)なので、運動方程式における力は \(F = -eE\) となります。
これに①を代入して、運動方程式を立てます。
$$ ma = -eE = -e\left(\displaystyle\frac{V}{d}\right) \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 一様な電場の大きさ: \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\)
- 静電気力: \(F = qE\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
「具体的な解説と立式」で立てた運動方程式②を、加速度\(a\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
ma &= -e\displaystyle\frac{V}{d} \\[2.0ex]a &= -\displaystyle\frac{eV}{md}
\end{aligned}
$$
この計算結果が意味することを考えます。
- 加速度\(a\)が負の値になりました。
- 座標軸は鉛直下向きを正として設定しました。
- したがって、加速度の向きは、正の向き(鉛直下向き)とは逆の「鉛直上向き」であることがわかります。
- 加速度の大きさは、\(a\)の絶対値をとって \(\displaystyle\frac{eV}{md}\) となります。
この問題は、3つのステップで解くことができます。
- Step 1: 「電場」を調べる
プラスとマイナスの板の間には、目に見えない「力の場(電場)」ができています。電場の向きは、プラスからマイナスへ向かうルールなので、「下向き」です。強さは \(E = V/d\) で計算できます。 - Step 2: 「電子が受ける力」を調べる
電子はマイナスの電気を持っています。マイナスの電気は、電場の向きとは「逆向き」の力を受けます。電場が下向きなので、電子が受ける力は「上向き」になります。 - Step 3: 「運動方程式」で加速度を計算する
ニュートンの法則 \(ma=F\) を使います。今回は下向きをプラスとして計算してみましょう。電子に働く力は上向き(マイナス向き)なので、\(F\)にマイナスをつけて \(ma = -(\text{力の大きさ})\) とします。
これを計算すると、加速度\(a\)の答えにもマイナスがつきます。これは「加速度の向きは、最初に決めたプラスの向き(下向き)とは逆ですよ」という意味です。つまり、加速度は「上向き」だとわかります。大きさは計算で出てきた値の絶対値です。
③ 電子の比電荷と加速度
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一様な電場中での荷電粒子の運動に関する具体的な数値計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 一様な電場における静電気力の式: \(F = eE = e\displaystyle\frac{V}{d}\)
- 比電荷の利用: 加速度の式を比電荷 \(\displaystyle\frac{e}{m}\) を使って表現すること。
- 有効数字の処理: 計算結果を適切な桁数でまとめること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 電子が受ける静電気力と運動方程式から、加速度\(a\)を求める関係式を導出する。
- 導出した式を、問題で与えられている比電荷 \(\displaystyle\frac{e}{m}\) を用いて計算できる形に変形する。
- 各物理量に数値を代入し、加速度の大きさを計算する。
- 計算結果を有効数字2桁で整理する。
思考の道筋とポイント
この問題は、前問で導出した物理法則を元に、具体的な数値を代入して加速度を計算する演習です。
計算を効率的に進めるための最大のポイントは、加速度を求める式 \(a = \displaystyle\frac{eV}{md}\) を、比電荷 \(\displaystyle\frac{e}{m}\) の塊をそのまま使える形、すなわち \(a = \left(\displaystyle\frac{e}{m}\right)\displaystyle\frac{V}{d}\) へと変形することです。これにより、電子の電荷\(e\)や質量\(m\)の値を個別に使用する必要がなくなり、計算が大幅に簡略化されます。
また、物理の問題では、与えられた数値の有効数字を意識することが重要です。この問題では、電圧\(V\)が\(2.0 \times 10^2\)、距離\(d\)が\(0.10\)と、いずれも有効数字2桁で与えられているため、最終的な答えも有効数字2桁でまとめる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 加速度の公式の変形: 電子の加速度の大きさ\(a\)は、運動方程式 \(ma = eE\) と電場の式 \(E=\displaystyle\frac{V}{d}\) から \(a = \displaystyle\frac{eV}{md}\) と導かれます。この式を \(a = \left(\displaystyle\frac{e}{m}\right) \displaystyle\frac{V}{d}\) と変形することが、この問題を解く上での鍵となります。これにより、問題で与えられた比電荷の値を直接代入できます。
- 有効数字: 計算に用いる物理量のうち、最も有効数字の桁数が少ないものに、最終的な答えの桁数を合わせるのが原則です。
- 間隔 \(d = 0.10 \, \text{m}\) → 有効数字2桁
- 電圧 \(V = 2.0 \times 10^2 \, \text{V}\) → 有効数字2桁
- 比電荷 \(\displaystyle\frac{e}{m} = 1.76 \times 10^{11} \, \text{C/kg}\) → 有効数字3桁
この場合、最も桁数が少ないのは2桁なので、計算結果は有効数字2桁で答えます。
具体的な解説と立式
電子(質量\(m\)、電気量の大きさ\(e\))が、電圧\(V\)、極板間距離\(d\)の一様な電場から受ける力の大きさ\(F\)は、
$$ F = eE = e\displaystyle\frac{V}{d} $$
となります。
電子の加速度の大きさを\(a\)とすると、運動方程式 \(ma=F\) は、
$$ ma = e\displaystyle\frac{V}{d} $$
と立てられます。
この式を加速度\(a\)について解くと、
$$ a = \displaystyle\frac{eV}{md} $$
となります。
ここで、問題で与えられている比電荷 \(\displaystyle\frac{e}{m}\) を用いるために、式を次のように変形します。
$$ a = \left(\displaystyle\frac{e}{m}\right)\displaystyle\frac{V}{d} \quad \cdots ① $$
この式に、与えられた数値を代入して加速度の大きさを求めます。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 一様な電場中の力の大きさ: \(F = eE = e\displaystyle\frac{V}{d}\)
- 加速度の大きさの式: \(a = \left(\displaystyle\frac{e}{m}\right)\displaystyle\frac{V}{d}\)
式①に、問題文で与えられた値、比電荷 \(\displaystyle\frac{e}{m} = 1.76 \times 10^{11} \, \text{C/kg}\)、電圧 \(V = 2.0 \times 10^2 \, \text{V}\)、間隔 \(d = 0.10 \, \text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= \left(\displaystyle\frac{e}{m}\right)\displaystyle\frac{V}{d} \\[2.0ex]&= (1.76 \times 10^{11}) \times \displaystyle\frac{2.0 \times 10^2}{0.10} \\[2.0ex]&= 1.76 \times 10^{11} \times \displaystyle\frac{2.0 \times 10^2}{1.0 \times 10^{-1}} \\[2.0ex]&= 1.76 \times 2.0 \times 10^{(11+2-(-1))} \\[2.0ex]&= 3.52 \times 10^{14}
\end{aligned}
$$
計算結果を有効数字2桁に丸めます。\(3.52\)の小数第2位の\(2\)は5未満なので切り捨てます。
したがって、加速度の大きさは \(3.5 \times 10^{14} \, \text{m/s}^2\) となります。
この問題は、公式に数字を当てはめて計算するだけですが、ちょっとした工夫で楽になります。
- まず、加速度を求めるための「設計図」となる式 \(a = \displaystyle\frac{eV}{md}\) を用意します。
- この式をよく見ると、\(\displaystyle\frac{e}{m}\) というパーツが含まれています。これは問題文で与えられている「比電荷」そのものです。
- なので、式を \(a = (\text{比電荷}) \times \displaystyle\frac{V}{d}\) という形に書き換えます。こうすると、値をまとめて代入できるので便利です。
- あとは、この「改造した設計図」に、問題文の数値をポンポンと代入していくだけです。
- 比電荷: \(1.76 \times 10^{11}\)
- 電圧 \(V\): \(2.0 \times 10^2\)
- 距離 \(d\): \(0.10\)
- これらを計算すると、\(3.52 \times 10^{14}\) となります。
- 最後に、問題で使われている数字が「\(2.0\)」や「\(0.10\)」のように2桁の精度なので、答えもそれに合わせて「約 \(3.5 \times 10^{14}\)」と整えて完成です。
④ ミリカンの実験
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ミリカンの実験における力のつり合い」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合いの条件: 物体が等速直線運動しているとき、合力はゼロである。
- 油滴に働く力の特定: 重力、静電気力、空気抵抗の3つの力を正しく認識すること。
- 各力の向きと大きさの公式: それぞれの力を文字式で表現できること。
- 一様な電場の公式: 電圧と極板間距離から電場の大きさを求める関係。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文の「一定の速さで上昇」という記述から、油滴に働く力がつり合っていることを見抜く。
- 油滴に働くすべての力(重力、空気抵抗、静電気力)を特定し、それぞれの向きを判断する。
- 各力の大きさを、与えられた文字(\(m, g, k, v, q, V, d\))を用いて表す。
- 「上向きの力の総和 = 下向きの力の総和」という力のつり合いの式を立てる。
思考の道筋とポイント
この問題は、ミリカンの油滴の実験をモデル化したものです。問題文の「一定の速さvで上昇した」という部分が最大のヒントです。速度が一定ということは、加速度がゼロであることを意味します。ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) によれば、加速度がゼロのとき、物体に働く力の合力 \(F\) もゼロとなります。つまり、油滴は「力のつり合い」の状態にあると判断できます。
したがって、解法のプロセスは、まず油滴に働くすべての力を探し出し、それらの力のベクトル和がゼロになる、という式を立てることになります。力を探し出す際には、その「向き」と「大きさ」をセットで正確に把握することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合い: 物体が等速直線運動しているとき、物体に働く力はつり合っています。鉛直方向の運動の場合、「上向きの力の総和」と「下向きの力の総和」が等しくなります。
- 油滴に働く3つの力:
- 重力: 常に鉛直下向きに働きます。大きさは \(mg\) です。
- 空気抵抗: 物体の運動を妨げる向きに働きます。油滴は「上昇」しているため、空気抵抗は鉛直下向きに働きます。大きさは問題文の指示通り \(kv\) です。
- 静電気力:
- 電場の向き: 図の電源を見ると、上の極板が正極、下の極板が負極に接続されています。電場は電位の高い正極から低い負極へ向かうため、向きは鉛直下向きです。
- 静電気力の向き: 油滴は、下向きに働く重力と空気抵抗に逆らって上昇しています。これは、上向きに力が働いていることを意味します。この上向きの力が静電気力です。
- (補足) 電場が下向きなのに、力が上向きということは、この油滴が持つ電荷\(q\)は負であることを意味します。しかし、高校物理では力の大きさを考える際に\(q\)を正の値(電気量の大きさ)として扱うことが多いため、ここでもその慣習に従います。力の大きさは \(qE\) となります。
具体的な解説と立式
油滴に働く力は、鉛直上向きの静電気力と、鉛直下向きの重力および空気抵抗の3つです。
油滴は一定の速さ \(v\) で上昇しているため、これらの力はつり合っています。
力のつり合いの条件は、「上向きの力の総和 = 下向きの力の総和」です。
- 上向きの力
- 静電気力 \(F_{\text{電}}\): 大きさは \(qE\) です。平行極板間の電場の大きさは \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\) なので、静電気力の大きさは次式で表せます。
$$ F_{\text{電}} = qE = q\displaystyle\frac{V}{d} $$
- 静電気力 \(F_{\text{電}}\): 大きさは \(qE\) です。平行極板間の電場の大きさは \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\) なので、静電気力の大きさは次式で表せます。
- 下向きの力
- 重力 \(F_{\text{重}}\): 大きさは \(mg\) です。
- 空気抵抗 \(F_{\text{抵}}\): 大きさは \(kv\) です。
したがって、下向きの力の総和は \(mg + kv\) となります。
力のつり合いの式は、以下のように立てられます。
$$ (\text{上向きの力}) = (\text{下向きの力の総和}) $$
$$ q\displaystyle\frac{V}{d} = mg + kv $$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(\sum F = 0\) (合力がゼロ)
- 重力: \(mg\)
- 空気抵抗: \(kv\) (問題の条件より)
- 一様な電場の大きさ: \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\)
- 静電気力の大きさ: \(F = qE\)
「具体的な解説と立式」で立てたつり合いの式
$$ q\displaystyle\frac{V}{d} = mg + kv $$
を、模範解答の形式に合わせるために移項します。
すべての項を右辺に移すと、
$$ 0 = mg + kv – q\displaystyle\frac{V}{d} $$
となり、左右を入れ替えることで模範解答と同じ式が得られます。
$$ mg + kv – q\displaystyle\frac{V}{d} = 0 $$
この式は、「下向きの力の和 – 上向きの力 = 0」を表しており、力のつり合いの式として正しいものです。
この問題は、油滴にかかる「上向きの力」と「下向きの力」が引き分け(つり合い)になっている状況を式にする問題です。
- まず、油滴を引っ張っている力をすべて見つけます。
- 下向きチーム: 地球が引く「重力」と、空気が邪魔する「空気抵抗」。
- 上向きチーム: 電気が引っぱる「静電気力」。
- 油滴は一定の速さで動いているので、これは綱引きでいう「引き分け」の状態です。
- つまり、「上向きチームの力 = 下向きチームの力の合計」という関係が成り立ちます。
- それぞれの力を公式に当てはめます。
- 上向きの力: \(q\displaystyle\frac{V}{d}\)
- 下向きの力の合計: \(mg + kv\)
- これらを等号で結べば、つり合いの式の完成です。
$$ q\displaystyle\frac{V}{d} = mg + kv $$
問題の解答は、この式のすべての項を片側に集めて「= 0」の形にしたものです。
⑤ 光量子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の粒子性(光量子仮説)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光子のエネルギーの公式: \(E=h\nu\) または \(E=\frac{hc}{\lambda}\)
- 光子の運動量の公式: \(p=\frac{h}{\lambda}\)
- 波の基本式: \(c=\nu\lambda\)
- 与えられた定数を用いた数値計算と有効数字の処理
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 光子のエネルギーを求める公式を選択し、数値を代入して計算する。
- 光子の運動量を求める公式を選択し、数値を代入して計算する。
- 計算結果を適切な有効数字でまとめる。
思考の道筋とポイント
この問題は、光が波の性質だけでなく、粒子としての性質も持つという「光の二重性」に関する計算問題です。ここでは光を「光子」という、エネルギーと運動量を持った粒子の集まりとして扱います。
この問題を解くためには、光子のエネルギーと運動量を計算するための2つの重要な公式、\(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) と \(p = \displaystyle\frac{h}{\lambda}\) を正しく記憶し、使えることが不可欠です。
公式さえ覚えていれば、あとは問題文で与えられたプランク定数\(h\)、光速\(c\)、波長\(\lambda\)の値を代入して、指数を含む計算を正確に行うだけです。計算ミス、特に指数の計算間違いに注意しましょう。
この設問における重要なポイント
- 光量子仮説: アインシュタインによって提唱された考え方で、光は、その振動数\(\nu\)に比例するエネルギー \(E=h\nu\) を持つ「光子(光量子)」という粒子の流れであるとします。
- 光子のエネルギー: 基本公式は \(E=h\nu\) です。しかし、問題では波長\(\lambda\)が与えられているため、波の基本式 \(c=\nu\lambda\) から得られる \(\nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\) の関係を使って、波長で表した公式 \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) を用いると計算がスムーズです。
- 光子の運動量: 光子は質量を持ちませんが、運動量は持ちます。その大きさ\(p\)は、ド・ブロイ波の考え方と同様に、波長\(\lambda\)を用いて \(p = \displaystyle\frac{h}{\lambda}\) と表されます。
- 有効数字: 問題で与えられている数値は、波長 \(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)(有効数字2桁)、プランク定数 \(h = 6.6 \times 10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\)(有効数字2桁)、光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)(有効数字2桁)です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁で表記します。
具体的な解説と立式
光子1個のエネルギーを\(E\)、運動量の大きさを\(p\)とします。
問題文で与えられている物理量は、波長\(\lambda\)、プランク定数\(h\)、光速\(c\)です。
- エネルギーの立式
光子のエネルギーの公式は \(E=h\nu\) です。波の基本式 \(c=\nu\lambda\) より、振動数\(\nu\)は \(\nu = \displaystyle\frac{c}{\lambda}\) と表せます。これをエネルギーの式に代入すると、波長\(\lambda\)を用いた式が得られます。
$$ E = h\nu = h\left(\displaystyle\frac{c}{\lambda}\right) = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \quad \cdots ① $$ - 運動量の立式
光子の運動量の公式は、波長\(\lambda\)とプランク定数\(h\)を用いて次のように表されます。
$$ p = \displaystyle\frac{h}{\lambda} \quad \cdots ② $$
これらの式に与えられた数値を代入して、エネルギーと運動量を計算します。
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E = h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
- 光子の運動量: \(p = \displaystyle\frac{h}{\lambda}\)
- 波の基本式: \(c = \nu\lambda\)
エネルギーの計算
式①に、\(h = 6.6 \times 10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\)、\(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)、\(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{6.0 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{6.6 \times 3.0}{6.0} \times 10^{-34+8-(-7)} \\[2.0ex]&= 3.3 \times 10^{-19}
\end{aligned}
$$
したがって、エネルギーは \(3.3 \times 10^{-19} \, \text{J}\) となります。
運動量の計算
式②に、\(h = 6.6 \times 10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\)、\(\lambda = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= \displaystyle\frac{h}{\lambda} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{6.6 \times 10^{-34}}{6.0 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]&= 1.1 \times 10^{-34-(-7)} \\[2.0ex]&= 1.1 \times 10^{-27}
\end{aligned}
$$
したがって、運動量の大きさは \(1.1 \times 10^{-27} \, \text{kg}\cdot\text{m/s}\) となります。
この問題は、光を「エネルギーと運動量を持った小さな粒(光子)」として考え、その値を公式を使って計算する問題です。
- エネルギーの求め方
- 使う公式は \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) です。「エイチ・シー・オーバー・ラムダ」と声に出して覚えると良いでしょう。
- 問題文にある \(h\), \(c\), \(\lambda\) の値を、この公式にそのまま代入します。
- 分数の計算と、\(10\)のうしろについている小さな数字(指数)の計算を落ち着いて行います。\(10\)の指数の計算は、掛け算なら足し算(\(10^A \times 10^B = 10^{A+B}\))、割り算なら引き算(\(10^A \div 10^B = 10^{A-B}\))になるルールを思い出しましょう。
- 運動量の求め方
- 使う公式は \(p = \displaystyle\frac{h}{\lambda}\) です。「エイチ・オーバー・ラムダ」と覚えます。
- こちらも、\(h\) と \(\lambda\) の値を代入して計算するだけです。
どちらの計算も、与えられた数字が有効数字2桁なので、答えも2桁で出すのがルールです。
⑥ 粒子性と波動性
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光やX線の粒子性と波動性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 粒子性の定義: エネルギーや運動量を持つ「つぶ」として振る舞う性質。衝突や個数の概念が重要。
- 波動性の定義: 回折や干渉など、波として空間に広がって伝わる性質。
- 光電効果、コンプトン効果のメカニズムの理解。
- X線の回折・干渉(ラウエ斑点、ブラッグの条件)のメカニズムの理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- リストアップされた4つの現象を一つずつ取り上げる。
- その現象を説明するために、「光を粒子と考える」のが適切か、「波と考える」のが適切かを判断する。
- 判断の根拠となるキーワード(例:「衝突」「干渉」)に着目する。
- 粒子性グループと波動性グループに分類する。
思考の道筋とポイント
この問題は、光やX線などのミクロな存在が、私たちの日常的な感覚では相容れない「粒子」と「波」という二つの性質を併せ持つこと(二重性)を、具体的な物理現象を通して理解しているかを問うています。
それぞれの現象が、どのようなモデル(粒子モデルか波動モデルか)で説明されるのかを正しく結びつけることができれば、正解にたどり着けます。大まかな判断基準として、「干渉」や「回折」という言葉が出てくれば波動性、「衝突」や「エネルギーの塊」といった概念で説明されるなら粒子性と考えると分かりやすいです。
この設問における重要なポイント
- 粒子性の証拠となる現象:
- 光電効果: 光のエネルギーが \(h\nu\) という「塊」として電子に与えられ、1対1で相互作用する。飛び出す電子のエネルギーが光の強さ(光子の数)ではなく、光子1個のエネルギー(振動数)で決まる点が、粒子性の強力な証拠です。
- コンプトン効果: X線(光子)と電子の衝突を、エネルギーと運動量を持つ粒子同士の弾性衝突(ビリヤードの玉の衝突のようなもの)として扱うことで、散乱後のX線の波長変化を説明できます。
- 波動性の証拠となる現象:
- ラウエ斑点: 結晶にX線を照射した際に現れる斑点模様。これは、結晶格子を一種の回折格子としてX線が回折・干渉した結果生じるもので、波に特有の現象です。
- ブラッグの条件: ラウエ斑点と同じく、結晶によるX線の干渉を扱うものです。結晶の格子面で反射した波が強め合う条件(\(2d\sin\theta = n\lambda\))を示しており、波長\(\lambda\)を含むことからも、波動性に基づいていることが明確です。
具体的な解説と立式
この問題は計算式を立てるのではなく、各物理現象の概念的な性質を吟味します。
- (1) 光電効果
金属に光を当てると電子が飛び出す現象です。このとき、飛び出す電子の運動エネルギーは、光の強さ(明るさ)にはよらず、光の振動数(色)によって決まります。これは、光が \(E=h\nu\) というエネルギーを持つ「光子」という粒であり、光子と電子が1対1で衝突すると考えなければ説明できません。したがって、光の粒子性が顕著に現れる現象です。 - (2) ラウエ斑点
結晶にX線を照射すると、特定の方向に斑点状の強いX線が観測される現象です。これは、規則正しく並んだ結晶中の原子によってX線が回折され、干渉し合うことで特定の方向の波だけが強められるために起こります。回折と干渉は、波に特有の性質です。したがって、X線の波動性が顕著に現れる現象です。 - (3) ブラッグの条件
ラウエ斑点と同様に、結晶によるX線の干渉を説明するものです。結晶の格子面で反射したX線(波)が、特定の角度で強め合う条件を \(2d\sin\theta = n\lambda\) という式で表します。この式自体が波の干渉条件であり、波長\(\lambda\)という波の性質を表す量を含んでいます。したがって、X線の波動性が顕著に現れる現象です。 - (4) コンプトン効果
物質中の電子にX線を当てると、散乱されたX線の波長が入射時より長くなる現象です。これは、X線をエネルギーと運動量を持つ粒子(光子)とみなし、電子との衝突によって光子がエネルギーの一部を電子に与えた結果、エネルギーが減少(波長が長く)すると考えることで説明できます。これは粒子同士の衝突モデルであり、X線の粒子性が顕著に現れる現象です。
使用した物理公式
この問題は概念の分類が主目的ですが、各現象は以下の公式と関連しています。
- 光電効果: \(K_{\text{最大}} = h\nu – W\)
- ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
- コンプトン効果: エネルギー保存則と運動量保存則
この問題には計算過程はありません。上記の「具体的な解説と立式」で述べた各物理現象の性質の吟味そのものが解答プロセスとなります。
- 粒子性に関係が深いもの: (1) 光電効果, (4) コンプトン効果
- 波動性に関係が深いもの: (2) ラウエ斑点, (3) ブラッグの条件
光やX線は、場面によって「波」と「粒」の顔を使い分ける、不思議な性質を持っています。どちらの顔を見せているかを見分けるゲームだと考えましょう。
- 「波」の顔を見せるのはどんなとき?
→ 波が重なり合って作る「しま模様(干渉縞)」や、障害物の後ろに回り込む「回折」がキーワードです。- (2)ラウエ斑点、(3)ブラッグの条件:これらは、結晶という原子の壁にX線が当たってできる美しい模様(干渉模様)の話です。だから波動性です。
- 「粒」の顔を見せるのはどんなとき?
→ 「1個、2個」と数えられたり、「衝突」したりするときです。ビリヤードの玉をイメージしましょう。- (1)光電効果:光の「粒」が金属の中の電子に「ガン!」とぶつかって、電子を外に弾き飛ばす現象です。粒1個のパワーが大事なので、粒子性です。
- (4)コンプトン効果:X線の「粒」が電子に「カツン!」とぶつかって、自分は少しパワーを失い、電子はどこかへ飛んでいく現象です。これも衝突なので、粒子性です。
⑦ 物質波
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「物質波(ド・ブロイ波)の波長の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ド・ブロイの物質波の概念: すべての物質は波の性質を持つ。
- 物質波の波長の公式: \(\lambda = \frac{h}{p} = \frac{h}{mv}\)
- 運動量の定義: \(p=mv\)
- 与えられた定数を用いた数値計算と有効数字の処理
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ド・ブロイ波の公式 \(\lambda = \frac{h}{mv}\) を確認する。
- 問題で与えられた電子の質量\(m\)、速さ\(v\)、プランク定数\(h\)を公式に代入する。
- 計算を実行し、有効数字を考慮して答えをまとめる。
思考の道筋とポイント
この問題は、ド・ブロイによって提唱された「物質波」の概念を理解しているか、そしてその波長を計算できるかを問うものです。光が粒子性を持つように、電子のような粒子もまた波動性を持つという考え方が物質波の出発点です。
この問題を解く鍵は、物質波の波長を求める公式 \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{mv}\) を正しく記憶しているかどうかに尽きます。公式さえ分かっていれば、あとは与えられた数値を代入し、指数を含む計算を正確に行うだけです。特に、分母が質量と速さの積(運動量)になっている点を間違えないようにしましょう。
この設問における重要なポイント
- 物質波(ド・ブロイ波): 1924年にフランスの物理学者ド・ブロイが提唱した概念。光が波動性と粒子性の二重性を持つことから類推し、電子や陽子などの粒子もまた波動性を持つと主張しました。運動量\(p\)を持つ粒子の物質波の波長\(\lambda\)は、プランク定数\(h\)を用いて \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\) で与えられます。
- 運動量\(p\): 質量\(m\)、速さ\(v\)の物体の運動量は \(p=mv\) で計算されます。したがって、物質波の波長の公式は \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{mv}\) とも書くことができます。
- 有効数字: 計算に用いる物理量の有効数字を確認します。
- 速さ \(v = 3.0 \times 10^6 \, \text{m/s}\) → 有効数字2桁
- 質量 \(m = 9.1 \times 10^{-31} \, \text{kg}\) → 有効数字2桁
- プランク定数 \(h = 6.6 \times 10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\) → 有効数字2桁
計算に用いる数値がすべて有効数字2桁なので、最終的な答えも有効数字2桁でまとめます。
具体的な解説と立式
ド・ブロイの物質波の考え方によれば、質量\(m\)、速さ\(v\)で運動する粒子は、波としての性質を持ちます。その波長\(\lambda\)は、粒子の運動量\(p=mv\)とプランク定数\(h\)を用いて、次のように表されます。
$$ \lambda = \frac{h}{p} = \frac{h}{mv} \quad \cdots ① $$
この問題では、電子の質量\(m\)、速さ\(v\)、そしてプランク定数\(h\)が与えられているので、この式①に数値を代入して波長\(\lambda\)を計算します。
使用した物理公式
- 物質波の波長: \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{mv}\)
式①に、問題文で与えられた値、\(h = 6.6 \times 10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\)、\(m = 9.1 \times 10^{-31} \, \text{kg}\)、\(v = 3.0 \times 10^6 \, \text{m/s}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{h}{mv} \\[2.0ex]&= \frac{6.6 \times 10^{-34}}{(9.1 \times 10^{-31}) \times (3.0 \times 10^6)} \\[2.0ex]&= \frac{6.6}{9.1 \times 3.0} \times \frac{10^{-34}}{10^{-31} \times 10^6} \\[2.0ex]&= \frac{6.6}{27.3} \times 10^{-34 – (-31) – 6} \\[2.0ex]&= 0.2417\dots \times 10^{-9} \\[2.0ex]&= 2.417\dots \times 10^{-10}
\end{aligned}
$$
計算結果を有効数字2桁に丸めます。\(2.417\dots\)の小数第2位の\(1\)は5未満なので切り捨てます。
したがって、物質波の波長は \(2.4 \times 10^{-10} \, \text{m}\) となります。
「動いているものは、実はすべて波でもある」というのがド・ブロイの考え方です。野球のボールだって波の性質を持っています(ただし、波長が短すぎて観測できません)。この問題は、電子が持つ「波」の長さを計算するものです。
- 使う公式はたった一つ、\(\lambda = \displaystyle\frac{h}{mv}\) です。「波長は、プランク定数\(h\)を運動量(質量\(m\)×速さ\(v\))で割ったもの」と覚えましょう。
- あとは、問題文に書かれている \(h\), \(m\), \(v\) の値を公式に当てはめて計算するだけです。
- 計算するときは、\(6.6\)や\(9.1\)などの普通の数字の部分と、\(10\)の右肩に乗っている小さな数字(指数)の部分を分けて計算するとミスが減ります。
- 指数の計算ルール(掛け算は足し算、割り算は引き算)を間違えないようにしましょう。
- 最後に、問題で使われている数字がだいたい2桁の精度(\(3.0, 9.1, 6.6\))なので、答えも2桁に整えて完成です。
例題
例題93 光電効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光電効果」です。光の粒子性を示す代表的な現象であり、アインシュタインの光電効果の式を正しく理解し、適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光量子仮説:光は \(E=h\nu\) のエネルギーを持つ光子という粒子の流れである。
- 仕事関数:電子を金属の表面から引き出すのに必要な最小のエネルギー。
- アインシュタインの光電効果の式:光子のエネルギーの一部が仕事関数として使われ、残りが光電子の運動エネルギーになる。
- 仕事とエネルギーの関係:物体の運動エネルギーの変化は、された仕事に等しい。特に、荷電粒子が電場から受ける仕事と運動エネルギーの関係が重要になる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、光電効果が起こる限界の条件(限界波長)から、仕事関数を求めます。
- (2)では、アインシュタインの光電効果の式に、(1)で求めた仕事関数と与えられた波長の光子のエネルギーを代入します。
- (3)では、飛び出した電子が逆向きの電場によって止められる条件を、仕事とエネルギーの関係(またはエネルギー保存則)を用いて立式し、阻止電圧を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
金属板Cの仕事関数 \(W\) を求める問題です。問題文に「波長 \( \lambda_0 \) より長い波長の光では光電効果が起こらなかった」とあります。これは、波長 \( \lambda_0 \) が光電効果を起こすことができる限界の波長(限界波長)であることを意味します。限界波長に対応する光子のエネルギーが、電子を金属から引き出すのに必要な最小エネルギー、すなわち仕事関数 \(W\) に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 限界波長 \( \lambda_0 \) の光子のエネルギーが、仕事関数 \(W\) に等しい。
- 波長 \( \lambda \) と振動数 \( \nu \) の関係式 \( c = \nu \lambda \) を用いて、光子のエネルギーを波長で表す。
具体的な解説と立式
光子のエネルギー \(E\) は、振動数を \( \nu \)、プランク定数を \(h\) として \( E = h\nu \) と表されます。
また、光速を \(c\)、波長を \( \lambda \) とすると、\( c = \nu \lambda \) の関係があるので、振動数 \( \nu \) を消去してエネルギーを波長で表すことができます。
$$ E = h \nu = h \frac{c}{\lambda} $$
限界波長を \( \lambda_0 \) とすると、この波長の光子のエネルギーが仕事関数 \(W\) に等しくなります。
$$ W = h \frac{c}{\lambda_0} $$
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \( E = h\nu \)
- 波の基本式: \( c = \nu \lambda \)
- 仕事関数の定義: \( W = h\nu_0 = h \displaystyle\frac{c}{\lambda_0} \) (\( \nu_0 \): 限界振動数, \( \lambda_0 \): 限界波長)
この設問は、物理法則を文字式で表現するものであり、具体的な数値計算は不要です。立式したものがそのまま答えとなります。
光を金属に当てたとき、電子が飛び出す現象が光電効果です。ただし、どんな光でも良いわけではなく、電子を「引き抜く」ための最低限のエネルギーが必要です。この最低エネルギーを「仕事関数 \(W\)」と呼びます。問題文から、波長 \( \lambda_0 \) の光が、電子を引き抜けるギリギリの光だとわかります。したがって、波長 \( \lambda_0 \) の光が持つエネルギーが、そのまま仕事関数 \(W\) の値になります。光のエネルギーは「\(h \times c \div \lambda\)」で計算できるので、\( \lambda \) に \( \lambda_0 \) を代入すればOKです。
仕事関数 \(W\) は \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} \) と表されます。波長が \( \lambda_0 \) より長いと、エネルギー \( E = hc/\lambda \) は \(W\) より小さくなるため、電子をたたき出すことができず、光電効果が起こらないという問題文の記述と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
波長 \( \lambda \) (\( < \lambda_0 \)) の光を当てたときの、飛び出す電子の運動エネルギーの最大値 \(K_0\) を求める問題です。アインシュタインの光電効果の式を利用します。この式は、入射した光子1個のエネルギーが、電子1個を飛び出させるためにどのように使われるかを表すエネルギー保存則です。
この設問における重要なポイント
- アインシュタインの光電効果の式: \( (\text{光子のエネルギー}) = (\text{仕事関数}) + (\text{光電子の運動エネルギーの最大値}) \)
- 数式で表すと \( h\nu = W + K_0 \)。
- エネルギーと仕事関数を、波長 \( \lambda, \lambda_0 \) を用いて表現する。
具体的な解説と立式
アインシュタインの光電効果の式は、光電子の運動エネルギーの最大値を \(K_0\)、入射光の振動数を \( \nu \)、仕事関数を \(W\) として、次のように表されます。
$$ h\nu = W + K_0 $$
これを \(K_0\) について解くと、
$$ K_0 = h\nu – W $$
ここで、入射光の波長は \( \lambda \) なので、そのエネルギーは \( h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \) です。
また、(1)で求めたように、仕事関数は \( W = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} \) です。
これらの式を代入します。
$$ K_0 = \frac{hc}{\lambda} – \frac{hc}{\lambda_0} $$
使用した物理公式
- アインシュタインの光電効果の式: \( h\nu = W + K_0 \)
- 光子のエネルギー: \( E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \)
「具体的な解説と立式」で立てた式を整理します。
$$
\begin{aligned}
K_0 &= \frac{hc}{\lambda} – \frac{hc}{\lambda_0} \\[2.0ex]&= hc \left( \frac{1}{\lambda} – \frac{1}{\lambda_0} \right) \\[2.0ex]&= hc \left( \frac{\lambda_0 – \lambda}{\lambda \lambda_0} \right) \\[2.0ex]&= \frac{hc(\lambda_0 – \lambda)}{\lambda \lambda_0}
\end{aligned}
$$
光子が持っているエネルギー(\(E\))が、まず電子を金属から引き抜くための「通行料」(仕事関数 \(W\))として支払われます。そして、その残りのエネルギーが、飛び出す電子の「スピード」(運動エネルギー \(K_0\))になります。つまり、「\(K_0 = E – W\)」という関係です。(1)で \(W\) は求めました。光子のエネルギー \(E\) は \(hc/\lambda\) で計算できます。あとは、この引き算を実行して、式を整理すれば答えが求まります。
飛び出す電子の運動エネルギーの最大値 \(K_0\) は \( \displaystyle\frac{hc(\lambda_0 – \lambda)}{\lambda \lambda_0} \) となります。問題の条件より \( \lambda < \lambda_0 \) なので、\( \lambda_0 – \lambda > 0 \) となり、\(K_0\) は正の値をとります。これは、電子が運動エネルギーを持って飛び出すという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
飛び出した電子が陽極Pに到達できなくなるような電圧(阻止電圧)\(V_0\) を求める問題です。これは、電子が持つ最大の運動エネルギー \(K_0\) が、電場による静電気力に逆らう仕事によって、すべて失われる条件を考えます。仕事とエネルギーの関係、またはエネルギー保存則を用いて立式します。また、そのときの電位の高低を判断します。
この設問における重要なポイント
- 電子(負電荷)の運動を妨げるには、進行方向と逆向きの静電気力を及ぼす必要がある。
- 負電荷に働く静電気力の向きは、電場の向きと逆である。
- 電場は電位の高い方から低い方へ向かう。
- 仕事とエネルギーの関係: \( \Delta K = W_{\text{された仕事}} \)。
- 荷電粒子が電位差 \( \Delta V \) を移動するときに静電気力がする仕事は \( W = q \Delta V \)。
具体的な解説と立式
電子は陰極Cから飛び出し、陽極Pに向かいます。電流が流れなくなるのは、最もエネルギーの大きい電子(運動エネルギー \(K_0\))ですら、陽極Pに到達できなくなったときです。
電子の運動を妨げるためには、電子の進行方向(C→P)とは逆向き(P→C)に静電気力を及ぼす必要があります。電子の電荷は負(\(-e\))なので、静電気力の向きと電場の向きは逆になります。したがって、電場はC→Pの向きにかかっている必要があります。
電場は電位の高い方から低い方へ向かうので、陰極Cの電位が陽極Pの電位よりも高い状態、すなわち \( V_{\text{C}} > V_{\text{P}} \) となります。
このとき、PC間の電圧(電位差の大きさ)が \(V_0\) なので、\( V_0 = V_{\text{C}} – V_{\text{P}} \) となります。
次に、仕事とエネルギーの関係を考えます。電子が陰極Cを飛び出したときの運動エネルギーは \(K_0\)、陽極Pに到達する直前でちょうど止まったとすると、その運動エネルギーは 0 です。この間の運動エネルギーの変化 \( \Delta K \) は、
$$ \Delta K = K_{\text{終}} – K_{\text{始}} = 0 – K_0 = -K_0 $$
一方、電子がCからPへ移動する間に静電気力がする仕事 \(W_{\text{静電気力}}\) は、
$$ W_{\text{静電気力}} = (\text{電子の電荷}) \times (\text{終点と始点の電位差}) = (-e)(V_{\text{P}} – V_{\text{C}}) $$
ここで \( V_{\text{C}} – V_{\text{P}} = V_0 \) なので、\( V_{\text{P}} – V_{\text{C}} = -V_0 \) となり、
$$ W_{\text{静電気力}} = (-e)(-V_0) = eV_0 $$
仕事とエネルギーの関係 \( \Delta K = W_{\text{静電気力}} \) より、
$$ -K_0 = -eV_0 $$
ではなく、正しくは
$$ \Delta K = 0 – K_0 = -K_0 $$
静電気力が電子にする仕事は、電子の運動を妨げる負の仕事なので、\( W_{\text{静電気力}} = -eV_0 \) となります。
したがって、仕事とエネルギーの関係 \( \Delta K = W_{\text{静電気力}} \) より、
$$ -K_0 = -eV_0 $$
よって、
$$ K_0 = eV_0 $$
この式を \(V_0\) について解くと、
$$ V_0 = \frac{K_0}{e} $$
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \( \Delta K = W \)
- 静電気力がする仕事: \( W = qV \) (ここで \(V\) は始点と終点の電位差)
- エネルギー保存則: \( K_{\text{始}} + U_{\text{始}} = K_{\text{終}} + U_{\text{終}} \) (\(U=qV\) は静電ポテンシャルエネルギー)
「具体的な解説と立式」で立てた \( V_0 = \displaystyle\frac{K_0}{e} \) の式に、(2)で求めた \(K_0\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \frac{1}{e} \cdot K_0 \\[2.0ex]&= \frac{1}{e} \cdot \frac{hc(\lambda_0 – \lambda)}{\lambda \lambda_0} \\[2.0ex]&= \frac{hc(\lambda_0 – \lambda)}{e\lambda \lambda_0}
\end{aligned}
$$
また、電位の高低については、前述の通り、電子の運動を妨げるためには陰極Cの電位を陽極Pよりも高くする必要があるため、「Cのほうが電位が高い」となります。
飛び出してきた電子を電圧で止める、という問題です。電子はマイナスの電気を持っているので、進行方向の先にマイナスの電位(つまり、スタート地点より電位が低い場所)を作れば、反発して減速します。ギリギリ止められる電圧 \(V_0\) というのは、電子が持っている運動エネルギー \(K_0\) を、電気の力によるエネルギー \(eV_0\) でちょうど打ち消す、という状況です。つまり \( K_0 = eV_0 \) という関係が成り立ちます。この式を \(V_0\) について解き、(2)で求めた \(K_0\) を代入すればOKです。
電位の高さについては、電子(マイナス)を押し返すためには、ゴール地点(P)よりもスタート地点(C)の電位を高くして、「電気的な坂」を作る必要があります。よって、Cのほうが電位は高くなります。
阻止電圧 \(V_0\) は \( \displaystyle\frac{hc(\lambda_0 – \lambda)}{e\lambda \lambda_0} \) となります。また、このとき陰極Cの電位が陽極Pよりも高くなります。
\( \lambda < \lambda_0 \) より \(V_0 > 0\) となり、物理的に妥当な結果です。電子の運動を妨げる逆電圧をかけるという状況を正しくモデル化できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- アインシュタインの光電効果の式
- 核心: 光のエネルギーが電子にどのように受け渡されるかを示すエネルギー保存則、\( h\nu = W + K_0 \) を理解し、使いこなすことが全ての基本です。
- 理解のポイント:
- 光子のエネルギー: 入射する光は \(E=h\nu\)(または \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\))というエネルギーを持つ粒子の集まりとして扱います。
- 仕事関数: 電子を金属表面から引きずり出すために必要な最小エネルギー \(W\) です。これは金属の種類によって決まる固有の値です。
- 光電子の運動エネルギー: 光子のエネルギーから仕事関数を差し引いた残りが、飛び出す電子の運動エネルギーの最大値 \(K_0\) となります。
- 仕事とエネルギーの関係
- 核心: (3)のように、飛び出した荷電粒子が電場の中で運動する場合、その運動エネルギーの変化が静電気力にされた仕事に等しい(\( \Delta K = qV \))という関係を適用できることが重要です。
- 理解のポイント:
- 阻止電圧: 光電子の最大の運動エネルギー \(K_0\) を、逆向きの電場による仕事 \(eV_0\) でちょうど打ち消すときの電圧が阻止電圧 \(V_0\) です。すなわち \( K_0 = eV_0 \) が成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光電効果のグラフ問題: 光電効果の式は、グラフでその関係を問われることが非常に多いです。
- \(K_0-\nu\) グラフ(縦軸 \(K_0\)、横軸 \( \nu \)): \( K_0 = h\nu – W \) の関係から、グラフは傾きがプランク定数 \(h\)、縦軸切片が \(-W\) となる直線になります。
- \(V_0-\nu\) グラフ(縦軸 \(V_0\)、横軸 \( \nu \)): \( eV_0 = h\nu – W \) より \( V_0 = \displaystyle\frac{h}{e}\nu – \displaystyle\frac{W}{e} \) となり、グラフは傾きが \( \displaystyle\frac{h}{e} \)、縦軸切片が \( -\displaystyle\frac{W}{e} \) の直線になります。
- 光子の運動量: 光子はエネルギーだけでなく運動量 \( p = \displaystyle\frac{h}{\lambda} \) も持ちます。この性質が問われるコンプトン効果などの問題にも応用されます。
- 光電効果のグラフ問題: 光電効果の式は、グラフでその関係を問われることが非常に多いです。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の特定: 「光を金属に照射」「電子が飛び出す」「仕事関数」「限界波長」といったキーワードから、光電効果の問題であると即座に判断します。
- エネルギーの関係式を立てる: まずは基本の \( h\nu = W + K_0 \) を書き出します。問題で与えられているのが波長 \( \lambda \) なのか振動数 \( \nu \) なのかを確認し、\( \nu = c/\lambda \) を使って式を変換します。
- 電場中の運動か否か: (3)のように電圧がかかっている場合は、光電効果の式に加えて、仕事とエネルギーの関係(\( K_0 = eV_0 \))を連立させることを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 波長とエネルギーの反比例関係の誤解:
- 誤解: 波長が長いほどエネルギーが大きいと勘違いしてしまう。
- 対策: \( E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \) の式を常に意識し、エネルギー \(E\) と波長 \( \lambda \) は「反比例」の関係にあることを徹底します。「波長が長い=エネルギーが小さい」「波長が短い=エネルギーが大きい」と覚えておきましょう。
- 阻止電圧における電位の高低の混同:
- 誤解: (3)で、電子を止めるためにどちらの電位を高くすればよいか分からなくなる。
- 対策: 電子は負(マイナス)の電荷を持つ粒子です。これを減速・反発させるには、進行方向の電位を進行元より低くする(=進行元を高くする)必要があります。電気的な「坂」を上らせるイメージを持つと分かりやすいです。したがって、陰極Cの電位を陽極Pより高くします。
- 仕事関数の値の扱い:
- 誤解: 入射光の波長 \( \lambda \) を変えたら、仕事関数 \(W\) も変わると思ってしまう。
- 対策: 仕事関数 \(W\) は、その金属に固有の定数です。入射光のエネルギーがいくらであっても、金属板を変えない限り \(W\) の値は一定であることを肝に銘じましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- アインシュタインの光電効果の式 (\( h\nu = W + K_0 \)):
- 選定理由: この問題は「光電効果」という現象そのものを扱っており、この式はその根幹をなすエネルギー保存則だからです。(1), (2)は、この式を直接的、あるいはその限界条件として適用する問題です。
- 適用根拠:
- (1) 限界波長 \( \lambda_0 \) では、飛び出す電子の運動エネルギーがゼロ \( K_0=0 \) となる特別な場合と考え、\( h\nu_0 = W \) を適用します。
- (2) 一般の波長 \( \lambda \) の光では、光子のエネルギー \(h\nu\) が \(W\) と \(K_0\) に分配されると考え、\( h\nu = W + K_0 \) を \(K_0\) について解きます。
- 仕事とエネルギーの関係 (\( K_0 = eV_0 \)):
- 選定理由: (3)では、光電効果で飛び出した電子が、その後の電場によって運動を妨げられる、という別の物理過程が加わります。運動エネルギーの変化と、静電気力がした仕事を結びつけるこの関係式が最適です。
- 適用根拠: 「電圧 \(V_0\) をかけたら電流が流れなくなった」という記述は、「運動エネルギーが最大の電子が、静電気力による仕事でエネルギーを全て失った」と解釈できます。電子の運動エネルギーの減少分 \(K_0\) が、静電気力にされた仕事 \(eV_0\) に等しい、という等式を立てます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の区別を徹底する: \( \lambda \) と \( \lambda_0 \) のように、添字のあるなしで意味が全く異なる文字が登場します。\( \lambda_0 \) は「限界」波長、\( \lambda \) は「入射光」の波長という物理的な意味を常に意識し、式の中で混同しないように注意深く扱います。
- 分数の通分計算: (2)の \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda} – \displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} \) のような計算では、共通因数 \(hc\) でくくってから通分すると、計算が少し楽になり、ミスも減らせます。\( hc(\displaystyle\frac{1}{\lambda} – \displaystyle\frac{1}{\lambda_0}) = hc(\displaystyle\frac{\lambda_0 – \lambda}{\lambda \lambda_0}) \) のように、段階を踏んで計算します。
- 限界条件での検算: 得られた結果が物理的に妥当かを確認する癖をつけましょう。例えば、(2)で求めた \( K_0 = \displaystyle\frac{hc(\lambda_0 – \lambda)}{\lambda \lambda_0} \) の式に、限界条件である \( \lambda = \lambda_0 \) を代入してみます。すると \( K_0 = 0 \) となり、正しく「限界波長のときは運動エネルギーゼロで飛び出す」という状況を再現できていることが確認できます。
例題94 電界中の荷電粒子の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電場中での荷電粒子の運動」です。特に、一様な電場で加速された後、別の電場で軌道を曲げられる(偏向される)という、ブラウン管式オシロスコープの基本原理を扱っています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事とエネルギーの関係:荷電粒子が電位差のある領域を通過する際に、静電気力がする仕事と運動エネルギーの変化を結びつけます。
- 運動の分解:粒子の運動を、互いに直交する2方向(この問題ではx軸とy軸)に分けて考えます。一方の運動がもう一方に影響しないという、運動の独立性を利用します。
- 運動方程式:力が働く方向(y軸方向)の運動を記述するために、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を用います。
- 等加速度直線運動の公式:一定の力が働くy軸方向の運動は、等加速度直線運動として公式で扱うことができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、加速領域(HA間)で電子が得る運動エネルギーを計算します。
- (2), (3)では、偏向領域(CD間)での電場と、それによって電子に生じる加速度を求めます。
- (4)では、運動をx, y方向に分解し、電子が偏向領域を通過する時間を利用して、出口でのy方向の速度と変位を計算します。
- (5)では、偏向領域を出た後の無電場空間での運動(等速直線運動)を考え、スクリーンに到達するまでの時間を求めます。
- (6)では、偏向領域内での変位と、その後の空間での変位を合計して、スクリーン上での最終的な変位を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
ヒーターHから出て初速度0だった電子が、HA間の加速電圧 \(V_0\) によって加速され、速さ \(v_0\) を得ます。この過程では、静電気力が電子にした仕事が、すべて電子の運動エネルギーの増加に変わります。この仕事とエネルギーの関係から \(v_0\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 仕事と運動エネルギーの関係:\( (\text{後の運動エネルギー}) – (\text{前の運動エネルギー}) = (\text{された仕事}) \)。
- 電荷 \(q\) の粒子が電位差 \(V\) で加速されるときにされる仕事は \(W = qV\)。電子の電荷は \(-e\) ですが、仕事の大きさは \(eV_0\) となります。
具体的な解説と立式
電子の質量を \(m\)、電気量の大きさを \(e\) とします。初速度は0なので、初めの運動エネルギーは0です。Aを出た直後の速さを \(v_0\) とすると、後の運動エネルギーは \( \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 \) です。
この間に静電気力がした仕事は \(W = eV_0\) です。
仕事と運動エネルギーの関係より、次の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 – 0 = eV_0 $$
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \( \Delta K = W \)
- 静電気力がする仕事: \( W = qV \)
「具体的な解説と立式」で立てた式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= eV_0 \\[2.0ex]v_0^2 &= \frac{2eV_0}{m} \\[2.0ex]v_0 &= \sqrt{\frac{2eV_0}{m}}
\end{aligned}
$$
速さは正の値なので、正の平方根をとります。
電子が電圧 \(V_0\) によって加速されるとき、電気的な位置エネルギー \(eV_0\) をもらって、それがすべて運動エネルギー \( \frac{1}{2}mv_0^2 \) に変わります。この「エネルギーの変換」の式を立てて、速さ \(v_0\) について解くだけです。
Aを出た直後の電子の速さは \( \sqrt{\displaystyle\frac{2eV_0}{m}} \) となります。加速電圧 \(V_0\) が大きいほど、また、粒子の質量 \(m\) が小さいほど速くなるという、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
平行な電極板C, D間にできる電場の強さ \(E\) を求める問題です。平行極板間の電場は一様であり、その強さ \(E\) は、極板間の電位差 \(V\) と距離 \(d\) を用いて表すことができます。
この設問における重要なポイント
- 一様な電場と電位差の関係式 \(V = Ed\) を利用する。
具体的な解説と立式
平行な電極板C, D間の距離は \(d\)、電位差は \(V\) です。このとき、電場の強さ \(E\) との間には次の関係が成り立ちます。
$$ V = Ed $$
使用した物理公式
- 一様な電場と電位差の関係: \( V = Ed \)
上の式を \(E\) について解きます。
$$ E = \frac{V}{d} $$
平行な板の間にできる電場の強さ \(E\) は、単純に「電圧 \(V\) ÷ 板の間の距離 \(d\)」で計算できます。これは公式として覚えておくべき重要な関係です。
電場の強さ \(E\) は \( \displaystyle\frac{V}{d} \) となります。電位差 \(V\) が大きいほど、また、極板間距離 \(d\) が狭いほど電場が強くなるという、直感とも一致する結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電極板CD間で、電子がy軸方向に受ける加速度 \(a\) を求める問題です。電子は電場から力を受け、その力によって加速されます。ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) を立てて、加速度 \(a\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 荷電粒子が電場から受ける力の公式 \(F = qE\) を使う。
- 運動方程式 \(ma=F\) を立てる。
具体的な解説と立式
電子は電気量 \(-e\) を持つので、電場 \(E\) から受ける力の大きさ \(F\) は \(F = eE\) となります。
力の向きは、電場の向きと逆です。電場は電位の高いCから低いDへ向かう(y軸の負の向き)ので、電子が受ける力はy軸の正の向きとなります。
y軸方向の運動方程式を立てると、
$$ ma = F $$
ここに \(F=eE\) を代入すると、
$$ ma = eE $$
さらに、(2)で求めた \(E = \displaystyle\frac{V}{d}\) を代入します。
$$ ma = e \frac{V}{d} $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \( ma = F \)
- 静電気力: \( F = qE \)
「具体的な解説と立式」で立てた式を \(a\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
ma &= \frac{eV}{d} \\[2.0ex]a &= \frac{eV}{md}
\end{aligned}
$$
電子が電場から受ける力 \(F\) をまず求めます(\(F = eE\))。次に、物理の基本である運動方程式 \(ma=F\) に、この力を代入します。あとは、(2)で求めた \(E\) の式も使って、加速度 \(a\) について解けばOKです。
加速度 \(a\) は \( \displaystyle\frac{eV}{md} \) となります。この加速度は一定値なので、CD間での電子のy軸方向の運動は、等加速度直線運動となります。
問(4)
思考の道筋とポイント
電子が電極板CD間を通過した直後の、y軸方向の速度 \(v_y\) とy軸方向の変位 \(y_1\) を求める問題です。電子の運動をx軸方向とy軸方向に分解して考えます。x軸方向には力が働かないため等速直線運動、y軸方向には(3)で求めた一定の加速度 \(a\) で等加速度直線運動をします。
この設問における重要なポイント
- 運動の分解:x方向は力なし(等速)、y方向は一定の力あり(等加速度)。
- 両方向の運動は、時間 \(t\) を介して関連付けられる。
- 等加速度直線運動の公式:\( v = v_0 + at \), \( y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 \)。
具体的な解説と立式
まず、電子が電極板CD間(長さ \(l\))を通過する時間 \(t_1\) を求めます。x軸方向には速さ \(v_0\) の等速直線運動をするので、
$$ l = v_0 t_1 $$
この式から \(t_1\) が求まります。
$$ t_1 = \frac{l}{v_0} $$
次に、y軸方向の運動を考えます。初速度は0で、加速度 \(a\) の等加速度直線運動なので、時間 \(t_1\) 後のy軸方向の速度 \(v_y\) は、
$$ v_y = a t_1 $$
また、y軸方向の変位 \(y_1\) は、
$$ y_1 = \frac{1}{2} a t_1^2 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \( x = vt \)
- 等加速度直線運動: \( v = v_0 + at \), \( y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2 \)
まず \(t_1\) に(1)の結果を代入します。
$$ t_1 = \frac{l}{v_0} = l \sqrt{\frac{m}{2eV_0}} $$
この \(t_1\) と、(3)で求めた \(a\) を \(v_y\) と \(y_1\) の式に代入して計算します。
y軸方向の速度 \(v_y\):
$$
\begin{aligned}
v_y &= a t_1 = \frac{eV}{md} \cdot \frac{l}{v_0} \\[2.0ex]&= \frac{eVl}{md} \cdot \sqrt{\frac{m}{2eV_0}} \\[2.0ex]&= \frac{Vl}{d} \sqrt{\frac{e^2 m}{m^2 \cdot 2eV_0}} \\[2.0ex]&= \frac{Vl}{d} \sqrt{\frac{e}{2mV_0}}
\end{aligned}
$$
y軸方向の変位 \(y_1\):
$$
\begin{aligned}
y_1 &= \frac{1}{2} a t_1^2 = \frac{1}{2} \left( \frac{eV}{md} \right) \left( \frac{l}{v_0} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{eVl^2}{2md} \cdot \frac{1}{v_0^2} \\[2.0ex]&= \frac{eVl^2}{2md} \cdot \frac{m}{2eV_0} \\[2.0ex]&= \frac{Vl^2}{4dV_0}
\end{aligned}
$$
この問題は、川を斜めに進む船の問題と似ています。x方向(川の流れの方向)には一定の速さ \(v_0\) で進み、y方向(岸に向かう方向)にはエンジンで加速 \(a\) していきます。
1. まず、x方向に距離 \(l\) を進むのにかかる時間 \(t_1\) を計算します(時間 = 距離 ÷ 速さ)。
2. 次に、その時間 \(t_1\) の間に、y方向にどれだけ加速されたか(速度 \(v_y\))と、どれだけ進んだか(変位 \(y_1\))を、等加速度運動の公式を使って計算します。
出口でのy軸方向の速度 \(v_y\) は \( \displaystyle\frac{Vl}{d} \sqrt{\displaystyle\frac{e}{2mV_0}} \)、変位 \(y_1\) は \( \displaystyle\frac{Vl^2}{4dV_0} \) となります。計算過程は複雑ですが、一つ一つの物理法則を丁寧にあてはめていくことで導出できます。
問(5)
思考の道筋とポイント
電極板CD間を出た後、スクリーンSに衝突するまでの時間を求める問題です。CD間を出ると、電場はなくなります。したがって、電子はx軸方向、y軸方向ともに力を受けず、等速直線運動をします。x軸方向の運動に着目して時間を求めます。
この設問における重要なポイント
- 図を正しく読み取る:スクリーンまでの水平距離は、電極板の中心から測って \(L\) である。
- 電場のない空間では、荷電粒子は等速直線運動をする。
- x軸方向の速度は、最初から最後まで \(v_0\) で一定である。
具体的な解説と立式
電極板の出口のx座標は \(x=l\) です。図より、スクリーンSのx座標は \(x = \displaystyle\frac{l}{2} + L\) です。
したがって、電極板の出口からスクリーンまでのx軸方向の距離は、
$$ \left(\frac{l}{2} + L\right) – l = L – \frac{l}{2} $$
となります。この区間を、電子はx軸方向に速さ \(v_0\) の等速直線運動をします。
求める時間を \(t_2\) とすると、
$$ L – \frac{l}{2} = v_0 t_2 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \( x = vt \)
上の式を \(t_2\) について解き、(1)で求めた \(v_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{L – \frac{l}{2}}{v_0} \\[2.0ex]&= \left( L – \frac{l}{2} \right) \sqrt{\frac{m}{2eV_0}} \\[2.0ex]&= \frac{2L-l}{2} \sqrt{\frac{m}{2eV_0}}
\end{aligned}
$$
電極板を抜けた後は、電子はまっすぐ進むだけです。スクリーンまでのx方向の残りの距離をまず正しく求めます。図から、それは \(L – l/2\) です。x方向の速さは \(v_0\) のまま変わらないので、かかる時間は単純に「時間 = 距離 ÷ 速さ」で計算できます。
スクリーンに衝突するまでの時間は \( \displaystyle\frac{2L-l}{2} \sqrt{\displaystyle\frac{m}{2eV_0}} \) となります。図の設定を正しく読み取ることが重要でした。
問(6)
思考の道筋とポイント
初め(y=0)からスクリーンに衝突するまでの、y軸方向の全変位 \(y\) を求める問題です。この全変位 \(y\) は、電極板CD間での変位 \(y_1\) と、CD間を出てからスクリーンに到達するまでの変位 \(y_2\) の和で表されます。
この設問における重要なポイント
- 全変位は、各区間の変位の和で求められる。
- CD間を出た後のy軸方向の運動は、(4)で求めた速度 \(v_y\) での等速直線運動である。
具体的な解説と立式
全変位 \(y\) は、
$$ y = y_1 + y_2 $$
と表せます。\(y_1\) は(4)で求めました。
CD間を出てからスクリーンまでの変位 \(y_2\) を求めます。この区間では、電子はy軸方向に速さ \(v_y\) の等速直線運動をします。かかる時間は(5)で求めた \(t_2\) です。したがって、
$$ y_2 = v_y t_2 $$
よって、全変位 \(y\) は、
$$ y = y_1 + v_y t_2 $$
使用した物理公式
- 等速直線運動: \( y = vt \)
(4)と(5)で求めた \(y_1\), \(v_y\), \(t_2\) を代入して \(y\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
y &= y_1 + v_y t_2 \\[2.0ex]&= \frac{Vl^2}{4dV_0} + \left( \frac{Vl}{d} \sqrt{\frac{e}{2mV_0}} \right) \left( \frac{2L-l}{2} \sqrt{\frac{m}{2eV_0}} \right) \\[2.0ex]&= \frac{Vl^2}{4dV_0} + \frac{Vl(2L-l)}{2d} \sqrt{\frac{em}{4emV_0^2}} \\[2.0ex]&= \frac{Vl^2}{4dV_0} + \frac{Vl(2L-l)}{2d} \cdot \frac{1}{2V_0} \\[2.0ex]&= \frac{Vl^2}{4dV_0} + \frac{Vl(2L-l)}{4dV_0} \\[2.0ex]&= \frac{Vl^2 + 2VlL – Vl^2}{4dV_0} \\[2.0ex]&= \frac{2VlL}{4dV_0} \\[2.0ex]&= \frac{VlL}{2dV_0}
\end{aligned}
$$
y方向のトータルの移動距離を求めます。これは2つのパートに分かれます。
1. 電極板の中で曲げられた距離 \(y_1\)((4)で計算済み)。
2. 電極板を飛び出した後、まっすぐ進んでスクリーンに当たるまでの間にy方向に進んだ距離 \(y_2\)。
\(y_2\) は「y方向の速さ \(v_y\) × スクリーンまでの時間 \(t_2\)」で計算できます。最後に \(y_1\) と \(y_2\) を足し合わせれば、最終的なy方向の変位が求まります。
全変位 \(y\) は \( \displaystyle\frac{VlL}{2dV_0} \) となります。偏向電圧 \(V\) や電極板の中心からスクリーンまでの距離 \(L\) が大きいほど、y方向の変位が大きくなるという物理的に妥当な結果です。計算途中で \(l^2\) の項が相殺され、きれいな形にまとまります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 仕事とエネルギーの関係
- 核心: (1)の加速過程で、静電気力がした仕事 \(eV_0\) がそのまま運動エネルギー \( \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 \) に変換されるという関係を立式できることが出発点です。
- 理解のポイント: これはエネルギー保存則の一つの表現であり、電位差のある空間を荷電粒子が移動する際の速度変化を求める基本的な手法です。
- 運動の分解と独立性
- 核心: 荷電粒子の二次元運動を、力が働かないx軸方向(等速直線運動)と、一定の力が働くy軸方向(等加速度直線運動)に分けて考えることができる、という点が最も重要です。
- 理解のポイント:
- x方向: 速度 \(v_0\) は常に一定。 \(x = v_0 t\) の関係だけを考えます。
- y方向: 加速度 \(a\) が一定。 \(v_y = at\), \(y = \displaystyle\frac{1}{2}at^2\) の公式を適用します。
- 時間 \(t\) が両方の運動を結びつける共通のパラメータとなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射とのアナロジー: この問題は、重力下での斜方投射と全く同じ考え方で解くことができます。x軸方向が水平投射の水平方向、y軸方向が鉛直方向に対応します。重力加速度 \(g\) が、電場による加速度 \(a = \displaystyle\frac{eE}{m}\) に置き換わっただけです。
- 磁場中での運動との組み合わせ: この問題の後に、ローレンツ力を受ける磁場領域が続く問題も頻出です。その場合、磁場中では等速円運動(または、らせん運動)に切り替わるため、運動の種類を正しく見極める必要があります。
- 幾何学的な解法: (6)の結果は、電子が偏向電極の中心 \(x=l/2\) から、まっすぐスクリーンに向かって飛んだかのような軌道になっていることを示唆します(見かけ上の出発点が \(x=l/2\))。この幾何学的な性質を知っていると、検算や別の視点からのアプローチが可能になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 図の座標と距離を正確に把握する: まず、原点の位置、各部の長さ(\(l, d\))、そして特に \(L\) のような距離がどこからどこまでを指しているのかを絶対に間違えないように確認します。
- 運動のフェーズを区切る: 運動の性質が変わる点で問題を区切ります。この問題では「加速領域(HA間)」「偏向領域(CD間)」「無電場領域(CD出口〜S)」の3つのフェーズに分けられます。
- 各フェーズでの運動の種類を特定する: 各フェーズで、x方向とy方向にどのような力が働くか(または働かないか)を考え、運動の種類(等速、等加速度など)を判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 距離 \(L\) の定義の誤読:
- 誤解: (5), (6)で、距離 \(L\) を電極板の出口からスクリーンまでの距離だと勘違いしてしまう。
- 対策: 問題文と図を注意深く照合し、記号がどの部分の物理量を表しているかを正確に把握する癖をつけます。特に複雑な図では、距離や長さを図に書き込んで確認することが有効です。
- 運動の分解の混同:
- 誤解: x方向にも加速度 \(a\) があると考えてしまったり、y方向の初速度を \(v_0\) と置いてしまう。
- 対策: 運動を分解したら、それぞれの方向について独立して考えることを徹底します。「x方向の力は?」「y方向の力は?」と自問し、それぞれの運動方程式や運動の公式を別々に適用します。
- 計算過程での文字の混同:
- 誤解: 加速電圧 \(V_0\) と偏向電圧 \(V\) を式の中で取り違える。
- 対策: \(V_0\) は初速 \(v_0\) を決めるための電圧、\(V\) はy方向の加速度 \(a\) を決めるための電圧、という物理的な役割を明確に意識します。計算中も、自分がどの物理量を扱っているのかを常に確認しながら進めます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 仕事とエネルギーの関係 (\( \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 = eV_0 \)):
- 選定理由: (1)は「電圧で加速された後の速さ」を問う典型的な状況です。運動方程式を立てて時間で積分することも可能ですが、始点と終点の状態だけが分かっていればよいので、仕事とエネルギーの関係(エネルギー保存則)を用いるのが最も簡潔で合理的です。
- 適用根拠: 保存力である静電気力のみが仕事をするため、その仕事が運動エネルギーの増加に等しい、という関係が直接使えます。
- 運動方程式 (\( ma = eE \)) と等加速度運動の公式:
- 選定理由: (3)以降は、偏向領域内での「運動の途中経過」(時間、速度、変位)を問われています。このような運動のダイナミクスを追跡するには、運動方程式が基本となります。
- 適用根拠: CD間の電場は一様なので、電子に働く力も一定です。力が一定ならば加速度も一定となり、高校物理で習う「等加速度直線運動の公式」が適用できる、という論理的な流れになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 代入は最後に行う: (4)や(6)のように計算が複雑になる場合、最初から \(v_0\) や \(a\) に具体的な式を代入すると、式が非常に煩雑になり、計算ミスを誘発します。まずは \(v_0, a, t_1, t_2\) などの文字のまま計算を進め、できるだけ式を整理してから、最後にまとめて代入するのが賢明です。
- 平方根の計算: \( \sqrt{A} \times \sqrt{B} = \sqrt{AB} \) や \( \sqrt{A} / \sqrt{B} = \sqrt{A/B} \) といった平方根の計算ルールを正確に使いこなすことが求められます。(6)の計算では、\( \sqrt{\dots} \times \sqrt{\dots} \) の中でうまく約分できることに気づけるかがポイントです。
- 分数の整理: (6)の最終段階のように、分母が同じ分数の足し算が出てきたら、通分して分子を整理します。その際、\( Vl(2L-l) = 2VlL – Vl^2 \) のように、分配法則を正確に適用し、符号ミスに注意します。最終的に項が消去されてきれいな形になることが多いので、それを信じて計算を進めることも大切です。
例題95 ブラッグの条件・物質波
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「物質波(ド・ブロイ波)」と「電子線の回折(ブラッグの条件)」です。電圧で加速された電子が持つ波としての性質と、その波が結晶格子によって干渉を起こす現象を結びつけて考える、現代物理学の基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 仕事とエネルギーの関係:電子が電場で加速される際に、静電気力がする仕事が運動エネルギーに変わるという関係です。
- ド・ブロイ波長:運動する全ての物体は波の性質を併せ持ち、その波長は運動量に反比例するという考え方です。
- ブラッグの条件:結晶格子によるX線や電子線の回折で、特定の方向に強い反射(干渉による強め合い)が起こるための条件式です。
- 図の読解力:問題の図から、ブラッグの条件に用いる角度 \( \theta \) を正しく読み取ることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず仕事とエネルギーの関係式を用いて、加速された電子の速さ \(v\) を求めます。次に、その速さから運動量を計算し、ド・ブロイ波長の公式に代入して波長 \( \lambda \) を求めます。
- (2)では、ブラッグの条件式 \( 2d \sin\theta = n\lambda \) を立てます。問題文の条件と図から読み取れる角度を代入し、(1)で求めた波長 \( \lambda \) を用いて、格子面の間隔 \(d\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
加速電圧 \(V\) で加速された電子線の波長 \( \lambda \) を求める問題です。この問題は2つのステップで考えます。第一に、電子が電圧 \(V\) によってどれだけの速さ(運動量)を得るのかを、仕事とエネルギーの関係から求めます。第二に、その運動量を持つ電子が、物質波としてどれだけの波長を持つのかを、ド・ブロイの式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 仕事と運動エネルギーの関係:\( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 = eV \)
- ド・ブロイ波長(物質波の波長)の公式:\( \lambda = \displaystyle\frac{h}{p} = \frac{h}{mv} \)
具体的な解説と立式
電子の質量を \(m\)、電気量の大きさを \(e\)、加速後の速さを \(v\) とします。
初速度0の電子が電圧 \(V\) で加速されるとき、静電気力からされる仕事 \(eV\) がすべて運動エネルギーに変わります。
$$ \frac{1}{2}mv^2 = eV \quad \cdots ① $$
また、運動量 \(p=mv\) を持つ電子の物質波としての波長 \( \lambda \) は、プランク定数 \(h\) を用いて次のように表されます。
$$ \lambda = \frac{h}{mv} \quad \cdots ② $$
式①から速さ \(v\) を求め、式②に代入することで波長 \( \lambda \) を計算します。
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \( \Delta K = W \)
- ド・ブロイ波長: \( \lambda = \displaystyle\frac{h}{p} = \frac{h}{mv} \)
まず、式①から速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= eV \\[2.0ex]v^2 &= \frac{2eV}{m} \\[2.0ex]v &= \sqrt{\frac{2eV}{m}}
\end{aligned}
$$
次に、この \(v\) を式②に代入して \( \lambda \) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{h}{mv} \\[2.0ex]&= \frac{h}{m \sqrt{\frac{2eV}{m}}} \\[2.0ex]&= \frac{h}{\sqrt{m^2 \cdot \frac{2eV}{m}}} \\[2.0ex]&= \frac{h}{\sqrt{2meV}}
\end{aligned}
$$
電子を電圧で加速すると、スピードが上がります。このスピードアップは、電気がした仕事の分だけ運動エネルギーが増える、というエネルギーのルールから計算できます。次に、動いている電子は「波」としての顔も持っています。その波の長さ(波長)は、電子の勢い(運動量)が強いほど短くなるという関係(ド・ブロイの式)があります。この2つのルールを組み合わせることで、加速電圧から直接、電子の波長を計算することができます。
加速電圧 \(V\) で加速した電子線の波長 \( \lambda \) は \( \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2meV}} \) となります。この結果は、加速電圧 \(V\) が大きいほど電子の運動エネルギーが大きくなり、その結果として物質波の波長は短くなることを示しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
結晶の格子面の間隔 \(d\) を求める問題です。「結晶」「干渉」「格子面」というキーワードが出てきたら、ブラッグの条件を適用することを考えます。ブラッグの条件式に必要な各物理量(\(n, \theta, \lambda\))を問題文や図から特定し、\(d\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- ブラッグの条件式:\( 2d \sin\theta = n\lambda \)
- 角度 \( \theta \) の定義:\( \theta \) は、入射(または反射)する波の進行方向と「格子面」とがなす角である。
- 図の読解:図では電子線が格子面に対して垂直に入射しているため、\( \theta = 90^\circ \) となる。
具体的な解説と立式
結晶による電子線の干渉(回折)では、特定の条件を満たすときに波が強め合います。この条件はブラッグの条件と呼ばれ、次の式で与えられます。
$$ 2d \sin\theta = n\lambda $$
ここで、\(d\) は格子面の間隔、\( \theta \) は電子線の入射方向と格子面とのなす角、\(n\) は次数(整数)、\( \lambda \) は電子線の波長です。
問題文より、次数は \(n=1\) です。
図から、電子線は格子面(図で水平に並んだ原子の層)に対して垂直に入射しています。したがって、入射角 \( \theta \) は \(90^\circ\) です。
これらの値をブラッグの条件式に代入します。
$$ 2d \sin 90^\circ = 1 \cdot \lambda $$
使用した物理公式
- ブラッグの条件: \( 2d \sin\theta = n\lambda \)
「具体的な解説と立式」で立てた式を \(d\) について解き、(1)で求めた \( \lambda \) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2d \sin 90^\circ &= \lambda \\[2.0ex]2d \cdot 1 &= \lambda \\[2.0ex]d &= \frac{\lambda}{2}
\end{aligned}
$$
この式に、(1)の結果 \( \lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2meV}} \) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{1}{2} \cdot \frac{h}{\sqrt{2meV}} \\[2.0ex]&= \frac{h}{2\sqrt{2meV}}
\end{aligned}
$$
結晶に波を当てると、原子の層で反射した波同士が干渉します。このとき、波が強め合うための「おまじない」がブラッグの条件式です。この式に、問題文で与えられた「次数 \(n=1\)」と、図から読み取れる「角度 \( \theta=90^\circ \)」を代入します。すると、格子面の間隔 \(d\) と波長 \( \lambda \) の関係がわかります。最後に、(1)で求めた \( \lambda \) の具体的な式を入れれば、\(d\) が計算できます。
結晶の格子面の間隔 \(d\) は \( \displaystyle\frac{h}{2\sqrt{2meV}} \) となります。この場合、\( \lambda = 2d \) という関係が成り立っています。これは、隣り合う格子面で反射した電子線の経路差(往復で \(2d\))が、ちょうど1波長分に等しくなり、波が強め合っていることを意味します。物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ド・ブロイ波(物質波)の概念
- 核心: 電子のような粒子も波の性質を持つという、粒子と波動の二重性を理解することが最も重要です。その波長は \( \lambda = \displaystyle\frac{h}{p} \) で与えられ、運動量 \(p\) が大きいほど波長は短くなります。
- 理解のポイント:
- (1)では、まず電子の運動量を求め、それをド・ブロイ波長の式に代入するという2段階の思考が必要です。
- 電子の運動量は、加速電圧 \(V\) から直接求めるのではなく、\( \frac{1}{2}mv^2 = eV \) というエネルギーの関係式を経由して求めます。
- ブラッグの条件
- 核心: 結晶格子による波の回折・干渉現象を説明する \( 2d \sin\theta = n\lambda \) という関係式を正しく適用できることが鍵となります。
- 理解のポイント:
- この式は、隣り合う格子面で反射された波が、経路差 \(2d\sin\theta\) を生じ、それが波長の整数倍になるときに強め合う、という物理的意味を持っています。
- 特に、角度 \( \theta \) が「入射線と格子面のなす角」であることを正確に覚えておく必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- X線の回折: ブラッグの条件は、もともとX線の結晶回折で発見されたものです。電子線の代わりにX線が与えられた場合も、全く同じように考えます。ただし、X線の場合はエネルギーが \(E=h\nu\) や \(E=hc/\lambda\) で与えられるため、波長の求め方が異なります。
- 異なる角度での入射: この問題では \( \theta=90^\circ \) という特殊な状況でしたが、斜めに入射する問題も頻出です。その場合も、図から \( \theta \) を正しく読み取り、\( \sin\theta \) の値を計算に含めるだけです。
- 運動エネルギーから波長を求める問題: 加速電圧ではなく、電子の運動エネルギー \(K\) が直接与えられる場合もあります。その際は、\( K = \displaystyle\frac{p^2}{2m} \) の関係から運動量 \( p = \sqrt{2mK} \) を求め、\( \lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2mK}} \) として計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 粒子の種類と運動状態を確認: まず、問題で扱っているのが電子なのか、陽子なのか、あるいは光子(X線)なのかを確認します。次に、それがどのように運動しているか(電圧で加速、エネルギーが与えられているなど)を把握します。
- 波長を求める: (1)のように、粒子の運動状態からド・ブロイ波長 \( \lambda \) を計算します。これは、回折現象を考える上での基本パラメータとなります。
- 回折・干渉の条件式を適用: 「結晶」「格子」「干渉」「回折」といったキーワードがあれば、ブラッグの条件 \( 2d \sin\theta = n\lambda \) を書き出します。
- 図と問題文からパラメータを代入: 式に必要な \(n\) と \( \theta \) の値を、問題文や図から慎重に読み取って代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ブラッグの条件の角度 \( \theta \) の誤解:
- 誤解: 反射の法則(入射角=反射角)と同じように、法線からの角度だと勘違いしてしまう。
- 対策: ブラッグの条件で使う \( \theta \) は、あくまで「波の進行方向と格子面(反射面)とのなす角」であると、図と共に明確に記憶します。法線からの角度 \( \phi \) を使うと、\( \sin\theta = \cos\phi \) の関係になるので注意が必要です。
- 運動量とエネルギーの関係式の混同:
- 誤解: 光子のエネルギーと運動量の関係 \( E=pc \) を、電子のような質量のある粒子に適用してしまう。
- 対策: 粒子を「光子(質量0)」と「質量のある粒子(電子など)」に明確に区別する習慣をつけます。
- 光子: \( E = h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \), \( p = \displaystyle\frac{h}{\lambda} \) → \( E=pc \)
- 質量のある粒子: \( E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 = \frac{p^2}{2m} \), \( p=mv \)
- 計算ミス(平方根の扱い):
- 誤解: (1)の計算で、\( \displaystyle\frac{h}{m\sqrt{\frac{2eV}{m}}} \) を \( \displaystyle\frac{h}{\sqrt{m \cdot \frac{2eV}{m}}} \) のように、\(m\) を根号の中に正しく入れられずに間違える。
- 対策: \( A\sqrt{B} = \sqrt{A^2 B} \) という、係数を根号の中に入れる際の基本ルールを再確認します。焦らず、一つ一つ丁寧に式変形を行うことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ド・ブロイ波長の式 (\( \lambda = h/p \)):
- 選定理由: この問題は、電子という「粒子」が結晶という「波の性質を調べる道具」によって干渉を起こす現象を扱っています。したがって、粒子の運動と波の性質を結びつけるド・ブロイ波長の式が不可欠です。
- 適用根拠: 「電子線」という言葉自体が、電子の波動性に着目していることを示唆しています。その波長を求めなければ、干渉の条件を考えることができないため、この公式を選択します。
- ブラッグの条件 (\( 2d \sin\theta = n\lambda \)):
- 選定理由: 「結晶格子による干渉」を扱う問題における、唯一の定量的な法則だからです。
- 適用根拠: 問題文に「結晶原子に照射」「強い干渉が観測された」とあることから、これは結晶格子による波の強め合いの干渉(回折)であると判断できます。この現象を記述する法則がブラッグの条件です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位系の確認: 問題で与えられている物理量の単位([V], [kg], [C], [J·s])を確認し、全てが基本的な単位系(SI単位系)で揃っていることを意識します。これにより、計算結果の単位も自動的に基本単位([m])で得られることが保証されます。
- 文字式の整理: (1)の \( \lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2meV}} \) のように、最終的な答えはできるだけシンプルな形で表現します。途中で出てきた \(v\) などを残さず、問題で与えられた文字(\(h, m, e, V\))だけで表現することを心がけます。
- \( \sin 90^\circ = 1 \) の適用: (2)では \( \sin 90^\circ \) が出てきます。\( \sin 90^\circ = 1 \), \( \cos 90^\circ = 0 \) といった基本的な三角関数の値は、瞬時に正確に使えるようにしておく必要があります。
例題96 コンプトン効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンプトン効果」です。X線を粒子(光子)とみなし、電子との衝突を粒子同士の弾性衝突として扱うことで、光の粒子性を証明した重要な現象です。運動量保存則とエネルギー保存則を正しく立式できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光子の粒子性:光は、エネルギー \(E\) と運動量 \(p\) を持つ粒子(光子)の流れとして考えることができる。
- 光子のエネルギーと運動量:波長 \( \lambda \) の光子のエネルギーは \(E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)、運動量の大きさは \(p = \displaystyle\frac{h}{\lambda}\) で与えられる。
- 運動量保存則:衝突の前後で、系全体の運動量の和は保存される。運動量はベクトル量であるため、成分に分解して考える必要がある。
- エネルギー保存則:衝突の前後で、系全体のエネルギーの和は保存される。エネルギーはスカラー量である。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、衝突現象に運動量保存則を適用します。運動量をベクトルとして扱い、入射方向(x軸)とそれに垂直な方向(y軸)に分解して、それぞれの方向で保存則の式を立てます。
- (3)では、衝突現象にエネルギー保存則を適用します。衝突前後の光子と電子のエネルギーの和が等しいとして式を立てます。
問(1)
思考の道筋とポイント
X線の入射方向(以降、x軸方向とする)に関する運動量保存則を立てる問題です。衝突前の系全体の運動量のx成分と、衝突後の系全体の運動量のx成分が等しい、という式を作ります。そのためには、衝突前後の光子と電子、それぞれの運動量のx成分を正しく求める必要があります。
この設問における重要なポイント
- 光子の運動量の大きさは \(p = \displaystyle\frac{h}{\lambda}\)。
- 運動量はベクトルであり、成分分解が必要。角度 \( \alpha \) の方向へ大きさ \(p\) の運動量を持つ物体の、基準方向の成分は \(p\cos\alpha\)。
- 運動量保存則(x成分): \( (\text{衝突前のx成分の和}) = (\text{衝突後のx成分の和}) \)。
具体的な解説と立式
X線の入射方向をx軸の正の向きとします。
衝突前の運動量のx成分の和を考えます。
- 入射X線(光子): 運動量の大きさは \( \displaystyle\frac{h}{\lambda} \)。向きはx軸正の向きなので、x成分は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda} \)。
- 電子: 静止しているので運動量は0。x成分も0。
よって、衝突前の運動量のx成分の和は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda} \) です。
次に、衝突後の運動量のx成分の和を考えます。
- 散乱X線(光子): 運動量の大きさは \( \displaystyle\frac{h}{\lambda’} \)。x軸となす角は \( \theta’ \) なので、x成分は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda’}\cos\theta’ \)。
- 電子: 運動量の大きさは \(mv\)。x軸となす角は \( \theta \) なので、x成分は \(mv\cos\theta\)。
よって、衝突後の運動量のx成分の和は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda’}\cos\theta’ + mv\cos\theta \) です。
運動量保存則より、「衝突前の和」=「衝突後の和」なので、
$$ \frac{h}{\lambda} = \frac{h}{\lambda’}\cos\theta’ + mv\cos\theta $$
使用した物理公式
- 光子の運動量: \( p = \displaystyle\frac{h}{\lambda} \)
- 運動量保存則
この設問は法則を文字式で表現するものであり、具体的な計算は不要です。
ビリヤードの玉の衝突と同じように、X線(光子)と電子の衝突を考えます。運動量保存則とは、「衝突の前後で、全体の勢いの合計は変わらない」というルールです。今回は、特にx方向(X線の入射方向)の勢いに注目します。衝突前はX線だけがx方向に勢いを持っています。衝突後は、斜めに飛び散ったX線と電子が勢いを分け合います。それぞれのx方向の勢いの成分を足したものが、衝突前の勢いと等しくなる、という式を立てます。
X線の入射方向に関する運動量保存則は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda} = \frac{h}{\lambda’}\cos\theta’ + mv\cos\theta \) と表されます。各項が運動量のx成分を表しており、正しく立式できています。
問(2)
思考の道筋とポイント
X線の入射方向に垂直な方向(以降、y軸方向とする)に関する運動量保存則を立てる問題です。(1)と同様に、衝突前後の運動量のy成分の和が等しいという式を作ります。y軸の正の向きを定め、各運動量成分の符号に注意することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 運動量の成分分解:角度 \( \alpha \) の方向へ大きさ \(p\) の運動量を持つ物体の、垂直方向の成分は \(p\sin\alpha\)。
- 衝突前のy方向の運動量はゼロである。
- 衝突後のy方向の運動量の和もゼロになる。
具体的な解説と立式
X線の入射方向に垂直で、散乱後のX線が向かう側をy軸の正の向きとします。
衝突前の運動量のy成分の和を考えます。
- 入射X線(光子): x軸方向にしか運動していないので、y成分は0。
- 電子: 静止しているので運動量は0。y成分も0。
よって、衝突前の運動量のy成分の和は 0 です。
次に、衝突後の運動量のy成分の和を考えます。
- 散乱X線(光子): 運動量の大きさは \( \displaystyle\frac{h}{\lambda’} \)。y軸正の向きに角度 \( \theta’ \) で進むので、y成分は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda’}\sin\theta’ \)。
- 電子: 運動量の大きさは \(mv\)。y軸負の向きに角度 \( \theta \) で進むので、y成分は \( -mv\sin\theta \)。
よって、衝突後の運動量のy成分の和は \( \displaystyle\frac{h}{\lambda’}\sin\theta’ – mv\sin\theta \) です。
運動量保存則より、「衝突前の和」=「衝突後の和」なので、
$$ 0 = \frac{h}{\lambda’}\sin\theta’ – mv\sin\theta $$
使用した物理公式
- 光子の運動量: \( p = \displaystyle\frac{h}{\lambda} \)
- 運動量保存則
この設問は法則を文字式で表現するものであり、具体的な計算は不要です。
(1)のy方向(上下方向)バージョンです。衝突前、X線は真横に進んでいるので、上下方向の勢いはゼロです。衝突後、X線は斜め上に、電子は斜め下に飛び出します。このとき、X線の「上向きの勢い」と電子の「下向きの勢い」は、大きさが等しく向きが逆なので、合計するとゼロになるはずです。これを式で表します。
X線の入射方向に垂直な方向に関する運動量保存則は \( 0 = \displaystyle\frac{h}{\lambda’}\sin\theta’ – mv\sin\theta \) と表されます。散乱X線のy成分と電子のy成分の和が0になるという、物理的に正しい関係式です。
問(3)
思考の道筋とポイント
衝突前後のエネルギー保存則を立てる問題です。運動量とは異なり、エネルギーは向きを持たないスカラー量です。衝突前の系の全エネルギーと、衝突後の系の全エネルギーが等しい、という式を作ります。
この設問における重要なポイント
- 光子のエネルギーは \( E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \)。
- 電子の運動エネルギーは \( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \)。
- エネルギー保存則:\( (\text{衝突前のエネルギーの和}) = (\text{衝突後のエネルギーの和}) \)。
具体的な解説と立式
衝突前の系の全エネルギーを考えます。
- 入射X線(光子): エネルギーは \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \)。
- 電子: 静止しているので運動エネルギーは0。
よって、衝突前のエネルギーの和は \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \) です。
次に、衝突後の系の全エネルギーを考えます。
- 散乱X線(光子): 波長が \( \lambda’ \) になったので、エネルギーは \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda’} \)。
- 電子: 速さ \(v\) で運動しているので、運動エネルギーは \( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \)。
よって、衝突後のエネルギーの和は \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda’} + \frac{1}{2}mv^2 \) です。
エネルギー保存則より、「衝突前の和」=「衝突後の和」なので、
$$ \frac{hc}{\lambda} = \frac{hc}{\lambda’} + \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \( E = \displaystyle\frac{hc}{\lambda} \)
- 運動エネルギー: \( K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \)
- エネルギー保存則
この設問は法則を文字式で表現するものであり、具体的な計算は不要です。
衝突によって、エネルギーの総量は変わらない、というルールを式にします。衝突前は、入射したX線が全てのエネルギーを持っています。衝突後、そのエネルギーは、散乱されて少しエネルギーが減ったX線と、たたき出されて動き出した電子の運動エネルギーの2つに分け与えられます。この「分配」の様子を等式で表します。
エネルギー保存則は \( \displaystyle\frac{hc}{\lambda} = \frac{hc}{\lambda’} + \frac{1}{2}mv^2 \) と表されます。この式から、電子が運動エネルギー \( \frac{1}{2}mv^2 > 0 \) を得た分、光子のエネルギーは \( \frac{hc}{\lambda} > \frac{hc}{\lambda’} \) となり、減少することがわかります。エネルギーが減少すると波長は長くなる(\( \lambda’ > \lambda \))ので、コンプトン効果の性質と一致する妥当な式です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光子の粒子性(エネルギーと運動量)
- 核心: コンプトン効果は、光を単なる波ではなく、エネルギー \(E=hc/\lambda\) と運動量 \(p=h/\lambda\) を持つ「粒子(光子)」として扱わないと説明できない現象です。この光子の物理量を正しく理解し、式に組み込むことが全ての土台となります。
- 理解のポイント: 光子のエネルギーと運動量は、どちらも波長 \( \lambda \) だけで決まることを押さえておきましょう。
- 保存則の適用
- 核心: X線(光子)と電子の衝突を、2つの粒子による「弾性衝突」とみなし、運動量保存則とエネルギー保存則を適用することがこの問題の全てです。
- 理解のポイント:
- 運動量保存則: 運動量はベクトル量なので、必ず成分に分解して考えます。通常は入射方向(x軸)とそれに垂直な方向(y軸)の2つの式を立てます。
- エネルギー保存則: エネルギーはスカラー量なので、向きを気にする必要はなく、単純に衝突前後の総和が等しいという1本の式を立てるだけです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンプトン波長の導出: この問題で立てた3本の式(運動量保存則2本、エネルギー保存則1本)を連立させて \(v, \theta\) を消去すると、散乱による波長の変化 \( \Delta\lambda = \lambda’ – \lambda \) を散乱角 \( \theta’ \) だけで表す「コンプトン効果の式」\( \Delta\lambda = \displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta’) \) を導出できます。この導出過程そのものが問題になることもあります。
- 光電効果との比較: 光電効果は、光子がそのエネルギーの全てを電子に与えて消滅する現象です。一方、コンプトン効果は、光子がエネルギーと運動量の一部を電子に与えて、自身も散乱されて生き残る現象です。この違いを明確に理解しておくことが重要です。
- 逆コンプトン散乱: 高エネルギーの電子に低エネルギーの光子が衝突し、光子がエネルギーを得て高エネルギーになる(波長が短くなる)現象もあります。これも同じ保存則で考えることができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の特定: 「X線(またはγ線)の散乱」「電子をたたき出す」といったキーワードから、コンプ-トン効果の問題であると判断します。
- 座標軸の設定: X線の入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と、自分で座標軸を設定します。これにより、運動量の成分分解が容易になります。
- 衝突前後の状態を図示: 問題の図に、各粒子の運動量ベクトル(\(p=h/\lambda\), \(p’=h/\lambda’\), \(p_e=mv\))を書き込み、角度も明記します。これにより、成分分解の際の符号ミスなどを防げます。
- 保存則を機械的に立式: 「x方向の運動量保存」「y方向の運動量保存」「エネルギー保存」の3本の式を、一つずつ丁寧に立てていきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 運動量とエネルギーの式の混同:
- 誤解: 光子の運動量を \(hc/\lambda\) としたり、エネルギーを \(h/\lambda\) と書いてしまう。
- 対策: エネルギーは \(E\) [J]、運動量は \(p\) [kg·m/s] と単位が全く違うことを意識します。プランク定数 \(h\) [J·s] と光速 \(c\) [m/s] の単位を考えれば、\(hc/\lambda\) がエネルギーの次元、\(h/\lambda\) が運動量の次元を持つことが確認できます。
- 運動量の成分分解のミス:
- 誤解: (2)で、電子の運動量のy成分を \(+mv\sin\theta\) としてしまい、符号を間違える。
- 対策: 最初にy軸の正の向きを自分で明確に定めることが重要です。図に矢印でy軸を書き込み、それと逆向きの成分にはマイナスをつける、というルールを徹底します。
- エネルギー保存則での運動量の使用:
- 誤解: (3)のエネルギー保存則の式に、運動量の項(\(h/\lambda\) など)を誤って入れてしまう。
- 対策: 「運動量保存則」と「エネルギー保存則」は全く別の法則であることを強く意識します。立式する際に、「これは運動量の式か?エネルギーの式か?」と自問自答し、それぞれの物理量を正しく使うようにします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則とエネルギー保存則:
- 選定理由: この問題は、外力が働かない系での2粒子衝突という、物理学における最も基本的なモデルの一つです。このような孤立した系での衝突現象を記述する普遍的な法則が、運動量保存則とエネルギー保存則だからです。
- 適用根拠:
- 運動量保存則: X線(光子)と電子からなる系には、衝突の前後で外部から力が加わっていないため、系全体の運動量は保存されます。
- エネルギー保存則: 衝突は弾性衝突であり、熱エネルギーの発生などがないため、運動エネルギーと光子のエネルギーの和は保存されます。(静止エネルギーを考慮するとより厳密ですが、高校範囲ではこの形で扱います)
- 光子の運動量・エネルギーの公式 (\(p=h/\lambda, E=hc/\lambda\)):
- 選定理由: コンプトン効果は、光の波動性だけでは説明できず、粒子性を導入する必要があります。光を粒子として扱うための、運動量とエネルギーの定義式がこれらだからです。
- 適用根拠: 散乱によってX線の波長が変化する(エネルギーが変わる)という実験事実を説明するためには、光子がエネルギーと運動量を持つ実体のある粒子として電子と相互作用した、と考える必要があります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の区別: \( \lambda \) と \( \lambda’ \)、\( \theta \) と \( \theta’ \) のように、プライム(’)の有無で衝突前と後を区別する記号が出てきます。立式の際にこれらを混同しないよう、細心の注意を払います。
- 三角関数の適用: \( \cos \) と \( \sin \) の使い分けを間違えないようにします。基準となる軸に「くっつく」側の成分が \( \cos \)、離れている側の成分が \( \sin \) と覚えると間違いにくいです。
- 立式の確認: 立てた3本の式が、それぞれ物理的に正しい意味を持っているかを見直します。
- (1)の式:右辺の2つの項は、どちらもx方向の運動量成分か?
- (2)の式:右辺の2つの項は、y方向の運動量成分で、互いに逆向き(符号が異なる)になっているか?
- (3)の式:全ての項がエネルギーの次元を持っているか?
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