413 ダイオードと整流
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、4つのダイオードを組み合わせたブリッジ回路(全波整流回路)における電流の向きを問う問題です。交流電源によって電流の向きが変化したときに、回路の各部分で電流がどのように流れるかを、ダイオードの基本的な性質に基づいて理解しているかが試されます。
この問題の核心は、ダイオードが持つ「整流作用」、すなわち電流を特定の方向にしか流さないという性質を正しく理解し、交流電源の各半周期において電流がたどる経路を正確に特定することです。
- 交流電源に接続されたブリッジ整流回路
- 回路素子: 4つのダイオード、1つの抵抗 \(R\)
- 抵抗 \(R\) に流れる電流の向きの選択肢: ア(上から下)、イ(下から上)
- 抵抗 \(R\) に流れる電流の向きは、ア、イのどちらか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ダイオードによる交流の全波整流」です。交流のままだと向きが周期的に変わってしまう電流を、常に一定の向きに流れるように変換する回路の動作を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ダイオードの整流作用: 電流をダイオードの記号の矢印の向きにしか通さない(順方向)、逆向きには通さない(逆方向)という性質。
- 交流電源の性質: 電源のプラス極とマイナス極が周期的に入れ替わり、回路に流れる電流の向きが変化する。
- 電流経路の分析: 回路の分岐点において、ダイオードの向きを考慮して電流がどちらの経路に進むかを判断する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 交流電源は時間とともに電流の向きを変えるため、2つの代表的な瞬間に分けて考えます。
- 交流電源から図の上向き(左の頂点から右の頂点へ)に電流を流そうとする半周期。
- 交流電源から図の下向き(右の頂点から左の頂点へ)に電流を流そうとする半周期。
これら2つのケースで、それぞれ抵抗 \(R\) に流れる電流の向きを調べ、両方のケースで共通しているかを確認します。
思考の道筋とポイント
この問題は、交流電源の向きが変化する2つの状況をそれぞれ考え、ダイオードの「一方通行」という性質を使って電流の通り道を特定することが全てです。複雑な計算は不要で、パズルを解くように電流の経路を追いかけることができれば正解にたどり着けます。
この設問における重要なポイント
- ダイオードは一方通行: 電流は、ダイオードの記号(▲が繋がったような形)の、三角形の頂点が指し示す方向にしか流れません。これを「順方向」と呼びます。逆向きには電流は流れません(「逆方向」)。
- 交流の2つの顔を考える: 交流電源は、ある瞬間は「左側がプラス・右側がマイナス」、次の瞬間は「右側がプラス・左側がマイナス」というように、極性が入れ替わります。この2つのパターンについて、それぞれ電流の経路を考えます。
- 経路を一つずつたどる: 電源のプラス側から出発した電流が、分岐点でどちらに進めるか(どちらのダイオードが順方向か)を判断し、ゴールであるマイナス側までたどります。
具体的な解説と立式
この問題は定性的な分析が中心であり、数式による立式はありません。交流電源の極性が反転する2つのケースについて、電流の経路を順に追跡します。
ケース1:交流電源の左側がプラス、右側がマイナスの場合
このとき、電流は電源の左側の頂点から流れ出します。
- 電流は左の頂点に到達します。ここには、上の頂点へ向かうダイオードと、下の頂点へ向かうダイオードがあります。
- 上の頂点へ向かうダイオードは順方向(電流が流れる向き)ですが、下の頂点へ向かうダイオードは逆方向(電流が流れない向き)です。
- したがって、電流は上の頂点へ向かうダイオードを通過します。
- 上の頂点に達した電流は、抵抗 \(R\) の上端に来ます。ここから抵抗 \(R\) を通って下の頂点へ向かいます。このとき、抵抗 \(R\) には上から下へ、つまりアの向きに電流が流れます。
- 下の頂点に達した電流は、右の頂点へ向かうダイオード(順方向)を通過し、電源のマイナス側である右の頂点に戻ります。(左の頂点へ向かうダイオードは逆方向なので流れません。)
ケース2:交流電源の右側がプラス、左側がマイナスの場合
このとき、電流は電源の右側の頂点から流れ出します。
- 電流は右の頂点に到達します。ここには、上の頂点へ向かうダイオードと、下の頂点へ向かうダイオードがあります。
- 上の頂点へ向かうダイオードは順方向ですが、下の頂点へ向かうダイオードは逆方向です。
- したがって、電流は上の頂点へ向かうダイオードを通過します。
- 上の頂点に達した電流は、ケース1と同様に抵抗 \(R\) の上端に来ます。そして抵抗 \(R\) を上から下へ、つまりアの向きに流れます。
- 下の頂点に達した電流は、左の頂点へ向かうダイオード(順方向)を通過し、電源のマイナス側である左の頂点に戻ります。(右の頂点へ向かうダイオードは逆方向なので流れません。)
以上の2つのケースから、交流電源の向きにかかわらず、抵抗 \(R\) には常にアの向きに電流が流れることがわかります。
使用した物理公式
- ダイオードの整流作用(物理原理)
この問題では、定量的な計算は必要ありません。
ダイオードは「電気の一方通行の道」だと考えてみましょう。交流電源は、道の入口と出口が定期的に入れ替わるようなものです。
- まず、電源の左側が「入口」、右側が「出口」の場合を考えます。電流(車)は左から出発し、通れる一方通行の道(ダイオード)を選んで進むと、抵抗 \(R\) の部分を上から下に通過し、右の出口にたどり着きます。
- 次に、電源の右側が「入口」、左側が「出口」の場合を考えます。今度は右から出発した電流が、やはり通れる一方通行の道を選んで進むと、不思議なことに、抵抗 \(R\) の部分は先ほどと全く同じく上から下に通過し、左の出口にたどり着きます。
このように、入口と出口が入れ替わっても、抵抗 \(R\) の部分だけは常に同じ向きに電流が流れる仕組みになっています。
抵抗 \(R\) に流れる電流の向きは、常にアの向きです。
この回路は「ブリッジ整流回路」または「全波整流回路」と呼ばれ、交流を直流(正確には脈流)に変換するために広く使われています。交流電源のプラスの半周期とマイナスの半周期の両方を利用して、負荷(この場合は抵抗 \(R\))に一方向の電流を供給できるのが特徴です。今回の解析結果は、この回路の基本的な機能と完全に一致しており、物理的に妥当な結論です。
思考の道筋とポイント
電流が「電位の高いところから低いところへ流れる」という電気回路の基本原理と、ダイオードが「アノード(矢印の根元)の電位がカソード(矢印の先端)より高いときにだけ電流を流す」という性質を用いて、より厳密に電流の経路を解析します。交流電源の極性が変わる2つのケースで、回路の各点の電位の高低を比較し、ON状態になるダイオードを特定します。
この設問における重要なポイント
- 電位と電流の関係: 電流は、必ず電位の高い点から低い点に向かって流れます。
- ダイオードがONになる条件: ダイオードは、アノード(▶の底辺側)の電位がカソード(▶の頂点側)の電位よりも高い状態(順方向バイアス)のときのみ、電流を流すことができます。
- 回路の頂点の電位比較: ブリッジ回路の4つの頂点(左、右、上、下)の電位の高低関係を、電源の極性に応じて考えます。
具体的な解説と立式
回路の頂点を、左をL、右をR、上をT、下をBと名付けます。電源はL点とR点の間に、抵抗はT点とB点の間に接続されています。
ケース1:L点の電位がR点より高い場合(\(V_L > V_R\))
L点(電源のプラス側)が最も電位が高く、R点(電源のマイナス側)が最も電位が低くなります。
- L点から: 電流は高電位のL点から流れ出します。
- ダイオードL→T: アノードLが高電位なので、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードL→B: カソードLが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はL点からT点へ向かいます。
- T点から: T点に到達した電流は、抵抗Rを通ってB点へ向かいます。
- T点からR点へ向かうダイオードは、カソードRが低電位なので順方向に見えますが、電流はまず抵抗を通ります。T点の電位はL点よりは低いですが、R点よりは高いはずです。
- 電流は抵抗 \(R\) を通り、T点からB点へ流れます。このとき、抵抗 \(R\) には上から下(アの向き)に電流が流れます。これにより、\(V_T > V_B\) であることが確定します。
- B点から: B点に到達した電流は、低電位のR点へ向かいます。
- ダイオードB→R: アノードBの電位は、カソードRの電位より高い(\(V_B > V_R\))ため、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードB→L: カソードLが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はB点からR点へ向かい、電源に戻ります。
- 経路のまとめ: L → T → (抵抗R) → B → R。このとき、抵抗 \(R\) にはアの向きに電流が流れます。
ケース2:R点の電位がL点より高い場合(\(V_R > V_L\))
R点(電源のプラス側)が最も電位が高く、L点(電源のマイナス側)が最も電位が低くなります。
- R点から: 電流は高電位のR点から流れ出します。
- ダイオードR→T: アノードRが高電位なので、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードR→B: カソードRが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はR点からT点へ向かいます。
- T点から: T点に到達した電流は、抵抗Rを通ってB点へ向かいます。
- 電流は抵抗 \(R\) を通り、T点からB点へ流れます。このとき、抵抗 \(R\) には上から下(アの向き)に電流が流れます。これにより、\(V_T > V_B\) であることが確定します。
- B点から: B点に到達した電流は、低電位のL点へ向かいます。
- ダイオードB→L: アノードBの電位は、カソードLの電位より高い(\(V_B > V_L\))ため、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードB→R: カソードRが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はB点からL点へ向かい、電源に戻ります。
- 経路のまとめ: R → T → (抵抗R) → B → L。このときも、抵抗 \(R\) にはアの向きに電流が流れます。
使用した物理公式
- 電位と電流の関係(オームの法則の基礎)
- ダイオードの動作原理(順方向・逆方向バイアス)
この問題では、定量的な計算は必要ありません。
電気の流れを、高い場所から低い場所へ流れる水に例えてみましょう。電源のプラス側が「水源(一番高い場所)」、マイナス側が「排水口(一番低い場所)」です。ダイオードは「逆流防止弁」で、決まった向きにしか水を流しません。
- 電源の左側が水源の場合、水は「左→上→抵抗→下→右」というルートで流れます。
- 電源の右側が水源の場合、水は「右→上→抵抗→下→左」というルートで流れます。
どちらのルートをたどっても、真ん中にある抵抗の部分では、必ず「上から下へ」水が流れることがわかります。これが、この回路が常に同じ向きの電流を作り出す仕組みです。
電位の高低関係から電流の経路を解析した結果、交流電源の極性にかかわらず、抵抗 \(R\) には常にアの向きに電流が流れることが確認できました。この方法は、電流の経路を直感的に追う方法と比べて、より電気回路の基本法則に忠実なアプローチであり、同じ結論を導き出します。これにより、解答の正しさがより強固に裏付けられます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ダイオードの整流作用:
- 核心: この問題の全ては、ダイオードが「電流を特定の向きにしか流さない」という一方通行の性質(整流作用)を持つことを理解しているかどうかにかかっています。ダイオードの記号(▲|)が示す矢印の向き(順方向)には電流を流しますが、その逆向き(逆方向)には電流を流しません。
- 理解のポイント: この性質により、複雑に見える回路でも、電流が実際に通れる経路は限定されます。交流電源の向きが変わるたびに、どのダイオードがON(導通)になり、どのダイオードがOFF(非導通)になるかを見極めることが解答への道筋です。
- 交流電源の周期的な極性反転:
- 核心: 交流電源は、時間とともにプラス極とマイナス極が入れ替わり、回路に流れる電流の向きが周期的に反転します。この問題では、電源の極性が反転する2つの代表的なケース(例えば、左側がプラスの半周期と、右側がプラスの半周期)をそれぞれ考える必要があります。
- 理解のポイント: この回路(ブリッジ整流回路)の巧妙な点は、電源の極性がどちらであっても、最終的に抵抗\(R\)には同じ向きの電流が流れるように設計されていることです。この「整流」の仕組みを理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 半波整流回路: ダイオードが1つだけ直列に接続された、最も単純な整流回路です。交流の半分の波形しか利用できず、抵抗には電流が流れる時間と流れない時間が交互に現れます。
- コンデンサを用いた平滑回路: 今回のブリッジ回路の出力側(抵抗\(R\)と並列)にコンデンサを接続した回路です。コンデンサの充放電作用により、脈流(波打つ直流)がより滑らかな直流に近づきます。コンデンサがどのように電圧の変動を抑えるかを問われます。
- ツェナーダイオード(定電圧ダイオード)を含む回路: 一定の逆方向電圧がかかると電流を流す特殊なダイオードを用いた回路です。電圧を一定に保つ「定電圧回路」の動作原理を問う問題に応用されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 電源の種類を特定する: まず、電源が直流か交流かを確認します。交流であれば、極性が反転する複数のケースを考える必要があります。
- ダイオードの向きを把握する: 回路図中のすべてのダイオードの向き(電流を流す方向)を正確に把握します。
- 電流の経路を追いかける: 電源のプラス側から出発し、分岐点ごとにダイオードの向きを確認しながら、電流が流れる経路を一本の線でたどってみます。流れない経路は無視します。
- 電位の高低を考える: より厳密に解析したい場合は、「電流は電位の高い方から低い方へ流れる」という原則に基づき、各点の電位の高低を比較して、ONになるダイオードを特定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ダイオードの向きの勘違い:
- 誤解: ダイオードの記号の向きを逆に解釈してしまい、電流が流れる方向を間違える。
- 対策: ダイオードの記号は、電流が流れる向きを示す矢印(▶)と、流れをせき止める壁(|)が組み合わさったものと覚えましょう。「矢印の向きに流れる」と単純に記憶するのが最も効果的です。
- 交流の一方の半周期しか考えない:
- 誤解: 交流電源の一つの向き(例えば左側がプラス)の場合だけを考えて、それで結論を出してしまう。
- 対策: 問題文に「交流」とあったら、必ず「向きが反転する」ことを思い出し、最低でも2つの異なる極性のケースについて電流の経路を検討する習慣をつけましょう。整流回路の問題では、両方のケースで負荷に流れる電流の向きがどうなるかを確認することが必須です。
- 電流の合流・分岐での混乱:
- 誤解: 回路の分岐点で、電流が複数のダイオードに分かれて流れると考えてしまう。
- 対策: 理想的なダイオードを扱う高校物理の範囲では、順方向のダイオードには電流が流れ、逆方向のダイオードには全く流れません。分岐点では、必ず「通れる道は一つだけ」という意識で経路を選択しましょう(この問題のブリッジ回路の場合)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電流経路の色分け: 交流電源の「左がプラスの半周期」のときの電流経路を赤色で、「右がプラスの半周期」のときの電流経路を青色で、それぞれ回路図に上書きしてみます。すると、抵抗\(R\)の部分だけは赤色の矢印と青色の矢印が同じ向きに重なることが視覚的に一目瞭然となり、全波整流の仕組みが直感的に理解できます。
- 水流モデル: 回路を水路、ダイオードを「逆流防止弁」、抵抗を「水車」に例えます。交流電源は、ポンプの吸い込み口と吐き出し口が定期的に入れ替わる装置です。ポンプの向きが変わっても、水路の設計(逆流防止弁の配置)によって、水車は常に同じ方向に回り続ける様子をイメージすると、物理現象を具体的に捉えられます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電流の矢印を書き込む: 思考のプロセスとして、自分で描いた回路図に、考えられる電流の経路を矢印で書き込んでいくのが最も確実です。
- ON/OFFの区別: 各ケースにおいて、電流が流れるダイオード(ON状態)には○をつけ、流れないダイオード(OFF状態)には×をつけるなど、記号で区別すると、思考が整理されミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ダイオードの整流作用(物理原理):
- 選定理由: この問題は、ダイオードという電子部品の最も基本的な機能そのものを問うています。したがって、その動作原理を直接適用することが唯一の解法となります。
- 適用根拠: ダイオードはp型半導体とn型半導体を接合して作られており、その界面(pn接合部)には空乏層と呼ばれる電位の障壁が存在します。順方向の電圧をかけるとこの障壁が低くなって電流が流れ、逆方向の電圧をかけると障壁が高くなって電流が流れない、という半導体物理の基本原理に基づいています。
- 電位の高低による解析(別解):
- 選定理由: 「電流は電位の高いところから低いところへ流れる」という、より普遍的な電気回路の法則に立ち返ることで、直感的な経路追跡の正しさを論理的に裏付けるため。
- 適用根拠: キルヒホッフの法則の基礎となる考え方であり、あらゆる電気回路に適用できる普遍的な原理です。ダイオードがONになる条件を「アノード電位 > カソード電位」と電位の言葉で定義し直すことで、この原理をダイオード回路にも適用できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 戦略: 交流電源の極性が反転する2つのケースを個別に分析し、いずれの場合も抵抗\(R\)に流れる電流の向きが同じであることを示す。
- フロー:
- ケース1の分析(例:電源の左側がプラス):
- ① 電源のプラス極から電流が出発。
- ② 回路の分岐点で、ダイオードの向き(順方向か逆方向か)を判断し、電流が流れる経路を特定する。
- ③ 抵抗\(R\)を通過する際の電流の向き(アかイか)を確認する。
- ④ 電源のマイナス極に電流が戻るまでの経路を最後まで追跡する。
- ケース2の分析(例:電源の右側がプラス):
- ①〜④を、ケース1と同様の手順で実行する。
- 結論の導出:
- ① ケース1とケース2の結果を比較し、抵抗\(R\)に流れる電流の向きが両者で同じであることを確認する。
- ② その共通の向き(ア)を最終的な答えとする。
- ケース1の分析(例:電源の左側がプラス):
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題には定量的な計算はありませんが、思考のプロセスにおけるミスを防ぐためのテクニックは存在します。
- 指差し確認: 回路図の上を実際に指でなぞりながら、「ここから電流が来て、このダイオードは順方向だから通れる、こっちは逆方向だから通れない…」と声に出して確認することで、ケアレスミスを防ぎます。
- 図の単純化: もし回路が複雑に見えるなら、各ケースで電流が流れない部分(OFF状態のダイオードとその先の配線)を点線で描き直したり、消しゴムで消したりして、実際に電流が流れる有効な回路だけを抜き出して描いてみると、経路が非常にシンプルに見えるようになります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 答えは「アの向き」でした。これは、交流電源の向きが変わっても、抵抗には常に一方向の電流が流れることを意味します。この回路は「全波整流回路」として知られており、その目的はまさに交流を直流(脈流)に変換することです。したがって、得られた結果はこの回路の機能そのものを正しく示しており、物理的に完全に妥当です。もし答えが「アとイの両方」や「電流は流れない」などとなった場合、ダイオードの性質の理解や経路の追跡に誤りがあった可能性が高いと判断できます。
- 別解との比較:
- 「電流の経路を直感的に追う方法」と、「電位の高低に基づいて論理的に解析する方法」という2つの異なるアプローチを取りました。両者で「抵抗には常にアの向きに電流が流れる」という全く同じ結論が得られたことは、解析の正しさを強力に裏付けています。異なる視点から考えても同じ結論に至ることを確認するのは、物理の理解を深め、解答の信頼性を高める上で非常に有効な習慣です。
414 交流回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、交流回路における基本的な素子(抵抗、コイル、コンデンサー)の性質を問う問題です。前半の(1)では最も単純な抵抗回路を、後半の(2)(3)では未知の電子部品を接続した際の電圧と電流の関係から、その部品の正体と特性を突き止めていきます。
この問題の核心は、「電圧と電流の位相関係」と「実効値・最大値の関係」を正しく理解し、与えられたグラフ情報と数値を結びつけていく能力です。
- (1)
- 交流電源の電圧: \(V = V_0 \sin \omega t\) [V]
- 回路素子: 抵抗 \(R\) [Ω]
- (2), (3)
- 交流電源の電圧の実効値: \(V_{\text{e}} = 30\) [V]
- 周波数: \(f = 50\) [Hz]
- 電流のグラフ: 図2に示す通り。\(t=0\)で最大値 \(3\sqrt{2}\) [A] のcos型の波形。
- 円周率: \(\pi = 3.14\)
- (1) 抵抗を流れる電流 \(I\) と、抵抗の消費電力 \(P\) を \(t\) を用いた式で表すこと。
- (2) 電圧と電流の位相の関係、電子部品が何か、その抵抗値またはリアクタンスの値。
- (3) (2)で特定した部品の抵抗値、自己インダクタンス、または電気容量の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流回路における各素子の特性分析」です。電圧と電流の関係から、回路素子を特定する逆問題的なアプローチが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則の交流回路への拡張: 電圧、電流、インピーダンス(抵抗やリアクタンス)の関係 (\(V=ZI\)) を、最大値または実効値で扱います。
- 電圧と電流の位相関係: 抵抗(同位相)、コイル(電流が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)遅れる)、コンデンサー(電流が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)進む)という各素子の特徴を理解していることが不可欠です。
- リアクタンス: コイルの誘導性リアクタンス \(X_L = \omega L\)、コンデンサーの容量性リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) の定義と計算方法。
- 実効値と最大値の関係: 正弦波交流において、実効値 \(V_{\text{e}}\) と最大値 \(V_0\) の間には \(V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}}\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず(1)では、抵抗のみの単純な回路について、オームの法則と電力の公式を適用して電流と電力を求めます。
- 次に(2)では、与えられた電圧の式 (\(\sin\)型) と電流のグラフ (cos型) を比較して位相差を読み取り、それに対応する電子部品を特定します。そして、電圧と電流の大きさ(最大値または実効値)から、オームの法則を用いてリアクタンスを計算します。
- 最後に(3)では、(2)で求めたリアクタンスの値と周波数を用いて、リアクタンスの公式から自己インダクタンスまたは電気容量を算出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗のみを接続した最も基本的な交流回路です。抵抗回路では、電圧と電流の間に位相のずれはなく、瞬間の電圧と電流は常にオームの法則 \(V=RI\) に従います。
この設問における重要なポイント
- オームの法則の適用: 交流回路であっても、抵抗にかかる電圧とその抵抗を流れる電流の関係は、どの瞬間においても \(V=RI\) が成り立ちます。
- 消費電力の計算: 電力は \(P=VI\) で計算できます。求めた電流 \(I\) の式を代入して計算します。
- 同位相: 抵抗回路では、電圧と電流の位相は同じです。電圧が \(\sin \omega t\) に比例するなら、電流も \(\sin \omega t\) に比例します。
具体的な解説と立式
抵抗を流れる電流 \(I\) は、オームの法則 \(V=RI\) より求めることができます。
$$ I = \displaystyle\frac{V}{R} \quad \cdots ① $$
抵抗での消費電力 \(P\) は、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積で与えられます。
$$ P = VI \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 電力: \(P=VI\)
与えられた電圧 \(V = V_0 \sin \omega t\) を①式に代入して、電流 \(I\) を求めます。
$$
I = \displaystyle\frac{V_0 \sin \omega t}{R} = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t \text{ [A]}
$$
次に、この \(I\) と与えられた \(V\) を②式に代入して、消費電力 \(P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P &= (V_0 \sin \omega t) \left( \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t \right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
抵抗だけの回路はシンプルです。電流は、その時々の電圧を抵抗値で割ったものになります。電力は、その時々の電圧と電流を掛け合わせることで計算できます。電圧がsinカーブで変化するので、電流も同じ形のsinカーブを描き、電力は常にプラスの値(熱としてエネルギーが消費される)で、sinの2乗のカーブを描きます。
電流は \(I = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t\) [A]、消費電力は \(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) [W] となります。
電流の式を見ると、電圧と同じ \(\sin \omega t\) の形をしており、位相がずれていないことが確認できます。また、電力は \(\sin^2\) の形なので常に0以上となり、抵抗がエネルギーを消費する素子であることを示しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
未知の電子部品を接続したときの電圧と電流の関係を分析します。まず、電圧の式 \(V=V_0 \sin \omega t\) と、図2の電流のグラフを比較して、両者の位相差を求めます。その位相差の特徴から、電子部品が抵抗、コイル、コンデンサーのどれであるかを特定します。最後に、電圧と電流の大きさ(最大値または実効値)を使って、交流回路のオームの法則からリアクタンスを計算します。
この設問における重要なポイント
- 位相の比較: 電圧は \(V \propto \sin \omega t\) ( \(t=0\) で0から増加) です。一方、図2の電流は \(t=0\) で最大値をとるため、\(I \propto \cos \omega t\) と表せます。
- 三角関数の公式: \(\cos \theta = \sin(\theta + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) の関係を用いて、sinとcosの位相差を明確にします。
- 素子と位相差: 電流が電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む素子はコンデンサーです。
- 交流のオームの法則: 電圧と電流の最大値 \(V_0, I_0\) とリアクタンス \(Z\) の間には \(V_0 = Z I_0\) の関係が成り立ちます。
- 実効値と最大値: 電圧の実効値 \(V_{\text{e}}\) が与えられているので、最大値 \(V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}}\) に変換して使います。
具体的な解説と立式
1. 位相関係と電子部品の特定
電源電圧は \(V = V_0 \sin \omega t\) であり、\(t=0\) で \(V=0\) となるsin型です。
一方、図2の電流のグラフは、\(t=0\) で最大値 \(I_0 = 3\sqrt{2}\) [A] となっており、これはcos型のグラフです。したがって、電流は \(I = I_0 \cos \omega t\) と表せます。
三角関数の公式 \(\cos \omega t = \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) を用いると、電流の式は
$$ I = I_0 \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}) $$
と書き換えられます。電圧の位相 \(\omega t\) と電流の位相 \((\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) を比較すると、電流の位相が電圧に対して \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) [rad] だけ進んでいることがわかります。
交流回路において、電流が電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む電子部品はコンデンサーです。
2. リアクタンスの計算
コンデンサーのリアクタンス(容量性リアクタンス)を \(X_C\) とすると、交流回路のオームの法則は次のように表せます。
$$ V_0 = X_C I_0 \quad \cdots ① $$
ここで、電圧の最大値 \(V_0\) と電流の最大値 \(I_0\) を求めます。
電圧の実効値は \(V_{\text{e}} = 30\) [V] なので、最大値 \(V_0\) は、
$$ V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}} = 30\sqrt{2} \text{ [V]} $$
電流の最大値 \(I_0\) は、図2のグラフから直接読み取れます。
$$ I_0 = 3\sqrt{2} \text{ [A]} $$
使用した物理公式
- 位相の比較(三角関数)
- コンデンサーの位相特性
- 交流回路のオームの法則: \(V_0 = Z I_0\)
- 実効値と最大値の関係: \(V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}}\)
上記で求めた \(V_0\) と \(I_0\) の値を①式に代入し、リアクタンス \(X_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
X_C &= \displaystyle\frac{V_0}{I_0} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{30\sqrt{2}}{3\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= 10 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
まず、電圧と電流のグラフの形を比べます。電圧が0からスタートする「sinカーブ」なのに対し、電流はてっぺんからスタートする「cosカーブ」です。これは、電流の方が電圧よりタイミングが1/4周期分「進んでいる」ことを意味します。この性質を持つ部品は「コンデンサー」です。次に、コンデンサーの「流れにくさ(リアクタンス)」を求めます。これは、電圧の最大値を電流の最大値で割るという、中学校で習ったオームの法則に似た計算で求めることができます。
思考の道筋とポイント
交流回路のオームの法則は、最大値だけでなく実効値でも成り立ちます (\(V_{\text{e}} = Z I_{\text{e}}\))。与えられた電圧の実効値と、グラフから読み取れる電流の実効値を用いて、より直接的にリアクタンスを計算する方法です。
具体的な解説と立式
電圧の実効値は \(V_{\text{e}} = 30\) [V] です。
電流の最大値が \(I_0 = 3\sqrt{2}\) [A] なので、電流の実効値 \(I_{\text{e}}\) は、
$$ I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{3\sqrt{2}}{\sqrt{2}} = 3 \text{ [A]} $$
リアクタンス \(X_C\) は、実効値を用いて次のように計算できます。
$$ X_C = \displaystyle\frac{V_{\text{e}}}{I_{\text{e}}} $$
$$
\begin{aligned}
X_C &= \displaystyle\frac{30}{3} \\[2.0ex]
&= 10 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
この方法でも、最大値を用いた計算と全く同じ結果が得られます。
電圧に対して電流の位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) [rad] だけ進んでいる。電子部品はコンデンサーであり、そのリアクタンスは \(10\) [Ω] です。
位相の進みからコンデンサーと特定し、そのリアクタンスを計算する、という一連の流れは論理的に整合性がとれています。また、最大値と実効値のどちらを使っても同じ結果が得られることから、計算の妥当性が確認できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で電子部品がコンデンサーであり、そのリアクタンスが \(10\) [Ω] であることがわかりました。コンデンサーのリアクタンス \(X_C\)、角周波数 \(\omega\)、電気容量 \(C\) の間には \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) という関係があります。この式を利用して、電気容量 \(C\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 容量性リアクタンスの公式: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を使います。
- 角周波数と周波数の関係: 問題で与えられているのは周波数 \(f\) なので、\(\omega = 2\pi f\) の関係を使って角周波数 \(\omega\) に変換します。
具体的な解説と立式
コンデンサーの電気容量を \(C\) [F]、周波数を \(f\) [Hz] とすると、容量性リアクタンス \(X_C\) [Ω] は次の式で与えられます。
$$ X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C} $$
この式を \(C\) について解くと、
$$ C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f X_C} $$
となります。
使用した物理公式
- 容量性リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
与えられた値 \(f=50\) [Hz], \(\pi=3.14\) と、(2)で求めた \(X_C=10\) [Ω] を代入します。
$$
\begin{aligned}
C &= \displaystyle\frac{1}{2 \times 3.14 \times 50 \times 10} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1}{3140} \\[2.0ex]
&\approx 0.00031847… \\[2.0ex]
&\approx 3.18 \times 10^{-4} \text{ [F]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(3.2 \times 10^{-4}\) [F] となります。
コンデンサーの「流れにくさ(リアクタンス)」は、その性能である「電気容量」と、交流の振動の速さである「周波数」によって決まります。この関係を表す公式に、(2)で求めたリアクタンスの値と問題文の周波数の値を当てはめて、コンデンサーの電気容量を計算します。
電気容量は \(3.2 \times 10^{-4}\) [F] です。
(2)で特定した部品とリアクタンスの値から、公式を用いて一意に計算される値です。計算過程も単純な代入計算であり、妥当な結果と言えます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 素子ごとの電圧と電流の位相関係:
- 核心: 交流回路を理解する上で最も重要な概念です。①抵抗では電圧と電流は同位相、②コイルでは電圧が電流より\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)進む(電流が遅れる)、③コンデンサーでは電圧が電流より\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)遅れる(電流が進む)。この3つのルールが(2)の部品を特定する鍵となります。
- 理解のポイント: なぜそうなるのか、という微分・積分の関係(\(I=C\displaystyle\frac{dV}{dt}\), \(V=L\displaystyle\frac{dI}{dt}\))まで遡って理解すると、記憶が定着しやすくなります。
- 交流回路のオームの法則とリアクタンス:
- 核心: 直流の \(V=RI\) と同様に、交流でも電圧と電流の大きさの関係は \(V=ZI\) で表せます。\(Z\)はインピーダンスと呼ばれ、この問題のような単一素子の場合はリアクタンス(または抵抗)そのものです。
- 理解のポイント: この法則は、最大値(\(V_0 = ZI_0\))でも実効値(\(V_{\text{e}} = ZI_{\text{e}}\))でも成り立ちます。どちらを使っても計算できることを理解しておくと、問題に応じて柔軟な解法が選択できます。リアクタンス \(X_L = \omega L\) と \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) の公式は必須知識です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列回路: 抵抗、コイル、コンデンサーが直列に接続された回路。インピーダンスは \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\)、位相差は \(\tan\phi = \displaystyle\frac{X_L – X_C}{R}\) で計算します。各素子の性質を組み合わせる応用問題です。
- 共振回路: RLC直列回路で \(X_L = X_C\) となる特定の周波数(共振周波数)では、インピーダンスが最小(\(Z=R\))となり、電流が最大になります。この共振条件を問う問題は頻出です。
- V-Iグラフからの情報読み取り: 今回のように、電圧や電流のグラフが与えられ、そこから最大値、周期(→周波数)、位相差を読み取らせる問題は、様々な回路で応用されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 位相関係を真っ先に確認する: 電圧と電流の式やグラフが与えられたら、まず両者の位相差を調べます。\(t=0\)での値や、ピーク(最大値)を迎える時刻を比較するのが有効です。これにより、回路の主要な性質(誘導性か容量性か)を大まかに掴めます。
- 最大値と実効値を区別する: 問題で与えられている値が最大値なのか実効値なのかを明確に区別します。必要に応じて \(\sqrt{2}\) 倍または \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍の変換を行います。
- 周波数と角周波数を使い分ける: リアクタンスの計算では角周波数 \(\omega\) が、最終的なLやCの計算では周波数 \(f\) が便利です。\(\omega = 2\pi f\) の関係を常に意識し、必要に応じて変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位相の「進み」「遅れ」の混同:
- 誤解: 電流が電圧より「進む」のか「遅れる」のかを混同してしまう。特にコイルとコンデンサーの性質を逆に覚えてしまうミスが多いです。
- 対策: コンデンサー(Capacitor)は「C」で、電流(Current)の「C」と同じなので「電流が進む」と覚えるなど、語呂合わせを活用するのも一つの手です。また、電圧を基準に「コイルは電圧が進む」「コンデンサーは電流が進む」と覚えるのも有効です。
- 実効値と最大値の変換忘れ:
- 誤解: 電圧は実効値、電流はグラフから読み取った最大値、というように異なる種類の値を混ぜて \(V=ZI\) の式に代入してしまう。
- 対策: 計算に使う電圧と電流は、必ず「両方とも最大値」または「両方とも実効値」に揃える、というルールを徹底しましょう。計算を始める前に、使う値を \(V_0, I_0\) または \(V_{\text{e}}, I_{\text{e}}\) に統一するステップを設けるとミスが減ります。
- リアクタンスの公式の逆転:
- 誤解: コイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を逆に覚えてしまう。
- 対策: コイルは周波数が高いほど電流を妨げ(\(X_L \propto \omega\))、コンデンサーは周波数が高いほど電流を通しやすくなる(\(X_C \propto \displaystyle\frac{1}{\omega}\))という物理的なイメージと結びつけて覚えましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- ベクトル図(フェーザ図): 電圧と電流を回転するベクトルとして表現する図です。この問題の場合、電圧ベクトル\(V\)を基準にx軸正方向に描くと、電流ベクトル\(I\)はそこから \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) だけ進んだy軸正方向を向くベクトルとして描かれます。この図を描くことで、位相関係が一目瞭然となります。RLC回路など、より複雑な回路では特に有効なツールです。
- グラフの重ね描き: 電圧の \(\sin\) カーブと電流の \(\cos\) カーブを同じ時間軸上に描いてみます。電流の山の頂点が、電圧が0から立ち上がる点よりも時間的に早い(左側にある)ことを確認することで、「電流が進んでいる」ことを視覚的に理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 基準を明確に: ベクトル図を描く際は、どのベクトル(通常は抵抗にかかる電圧か、回路を流れる電流)を基準(x軸)にするかを最初に決めます。
- 回転方向の統一: 位相の進み・遅れは、反時計回りを「正」の回転方向として描くのが一般的です。このルールを統一することで、混乱を防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則 (\(V=ZI\)):
- 選定理由: (2)で、電圧と電流の大きさの関係から、回路の電気的な「流れにくさ」(リアクタンス)を定量的に求めるため。
- 適用根拠: 直流回路におけるオームの法則を、交流の振幅(最大値または実効値)に対して拡張した、交流回路解析の基本中の基本となる法則です。
- 位相関係 (\(I \propto \sin(\omega t + \frac{\pi}{2})\)):
- 選定理由: (2)で、未知の電子部品の正体を特定するため。電圧と電流のタイミングのずれ(位相差)は、部品の種類を決定づける最も重要な情報です。
- 適用根拠: 各素子の物理的性質(電荷を蓄える、磁場を発生させるなど)が、電圧と電流の間に微分・積分の関係を生み出し、結果として特定の位相差となって現れます。
- リアクタンスの定義式 (\(X_C = \frac{1}{2\pi f C}\)):
- 選定理由: (3)で、(2)で求めたリアクタンスという電気的特性と、部品の物理的な性能(電気容量\(C\))とを結びつけるため。
- 適用根拠: この式は、コンデンサーが交流電流をどれだけ妨げるかを示しており、その妨げ度合いが周波数\(f\)と電気容量\(C\)に依存するという物理法則を数式化したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 抵抗回路の解析:
- 戦略: オームの法則と電力公式を単純に適用する。
- フロー: ① \(V=RI\) を \(I\) について解く → ② \(V=V_0\sin\omega t\) を代入し \(I\) の式を求める → ③ \(P=VI\) に \(V\) と求めた \(I\) を代入し \(P\) の式を求める。
- (2) 未知部品の特定とリアクタンス計算:
- 戦略: 位相差から部品を特定し、オームの法則でリアクタンスを求める。
- フロー: ① 電圧の式(\(\sin\)型)と電流のグラフ(\(\cos\)型)を比較 → ② 位相差が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)の進みであることを確認し、部品をコンデンサーと特定 → ③ 電圧の実効値から最大値 \(V_0\) を計算 → ④ 電流のグラフから最大値 \(I_0\) を読み取る → ⑤ \(X_C = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\) でリアクタンスを計算。
- (3) 電気容量の計算:
- 戦略: リアクタンスの公式を逆算する。
- フロー: ① リアクタンスの公式 \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\) を \(C\) について解く → ② (2)で求めた \(X_C\) と問題文の \(f\), \(\pi\) を代入して \(C\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 計算の各段階で単位を意識しましょう。電圧[V]、電流[A]からリアクタンス[Ω]を、周波数[Hz]とリアクタンス[Ω]から電気容量[F]を求める、という流れと単位の一致を確認します。
- \(\sqrt{2}\) の扱い: 計算途中で \(\sqrt{2}\) が出てきても、すぐに \(1.41\) などと近似値を代入しないようにしましょう。今回の(2)のように、分母と分子でうまく約分されて消えることがよくあります。文字式のように最後まで残しておくのが得策です。
- 指数の計算: (3)のように \(10^{-4}\) といった指数が出てくる計算では、有効数字の部分(この場合は \(3.18…\))と指数の部分を分けて計算するとミスが減ります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) リアクタンス: \(10\) [Ω]という値は、一般的な抵抗値と比較しても極端に大きすぎたり小さすぎたりしない、妥当な範囲の値です。
- (3) 電気容量: \(3.2 \times 10^{-4} \text{ F} = 320 \times 10^{-6} \text{ F} = 320 \mu\text{F}\) (マイクロファラッド) となります。これは電子工作で使われるコンデンサーとしてはやや大きめですが、電源回路などでは十分にあり得る値であり、物理的に不自然ではありません。
- 別解との比較:
- (2)のリアクタンス計算では、「最大値を用いる方法」と「実効値を用いる方法」の2通りで計算しました。両者で全く同じ \(10\) [Ω] という結果が得られたことは、計算の正しさと、\(V_0=\sqrt{2}V_{\text{e}}\) という関係の理解が正しかったことを強く裏付けています。
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