413 ダイオードと整流
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、4つのダイオードを組み合わせたブリッジ回路(全波整流回路)における電流の向きを問う問題です。交流電源によって電流の向きが変化したときに、回路の各部分で電流がどのように流れるかを、ダイオードの基本的な性質に基づいて理解しているかが試されます。
この問題の核心は、ダイオードが持つ「整流作用」、すなわち電流を特定の方向にしか流さないという性質を正しく理解し、交流電源の各半周期において電流がたどる経路を正確に特定することです。
- 交流電源に接続されたブリッジ整流回路
- 回路素子: 4つのダイオード、1つの抵抗 \(R\)
- 抵抗 \(R\) に流れる電流の向きの選択肢: ア(上から下)、イ(下から上)
- 抵抗 \(R\) に流れる電流の向きは、ア、イのどちらか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ダイオードによる交流の全波整流」です。交流のままだと向きが周期的に変わってしまう電流を、常に一定の向きに流れるように変換する回路の動作を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ダイオードの整流作用: 電流をダイオードの記号の矢印の向きにしか通さない(順方向)、逆向きには通さない(逆方向)という性質。
- 交流電源の性質: 電源のプラス極とマイナス極が周期的に入れ替わり、回路に流れる電流の向きが変化する。
- 電流経路の分析: 回路の分岐点において、ダイオードの向きを考慮して電流がどちらの経路に進むかを判断する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 交流電源は時間とともに電流の向きを変えるため、2つの代表的な瞬間に分けて考えます。
- 交流電源から図の上向き(左の頂点から右の頂点へ)に電流を流そうとする半周期。
- 交流電源から図の下向き(右の頂点から左の頂点へ)に電流を流そうとする半周期。
これら2つのケースで、それぞれ抵抗 \(R\) に流れる電流の向きを調べ、両方のケースで共通しているかを確認します。
思考の道筋とポイント
この問題は、交流電源の向きが変化する2つの状況をそれぞれ考え、ダイオードの「一方通行」という性質を使って電流の通り道を特定することが全てです。複雑な計算は不要で、パズルを解くように電流の経路を追いかけることができれば正解にたどり着けます。
この設問における重要なポイント
- ダイオードは一方通行: 電流は、ダイオードの記号(▲が繋がったような形)の、三角形の頂点が指し示す方向にしか流れません。これを「順方向」と呼びます。逆向きには電流は流れません(「逆方向」)。
- 交流の2つの顔を考える: 交流電源は、ある瞬間は「左側がプラス・右側がマイナス」、次の瞬間は「右側がプラス・左側がマイナス」というように、極性が入れ替わります。この2つのパターンについて、それぞれ電流の経路を考えます。
- 経路を一つずつたどる: 電源のプラス側から出発した電流が、分岐点でどちらに進めるか(どちらのダイオードが順方向か)を判断し、ゴールであるマイナス側までたどります。
具体的な解説と立式
この問題は定性的な分析が中心であり、数式による立式はありません。交流電源の極性が反転する2つのケースについて、電流の経路を順に追跡します。
ケース1:交流電源の左側がプラス、右側がマイナスの場合
このとき、電流は電源の左側の頂点から流れ出します。
- 電流は左の頂点に到達します。ここには、上の頂点へ向かうダイオードと、下の頂点へ向かうダイオードがあります。
- 上の頂点へ向かうダイオードは順方向(電流が流れる向き)ですが、下の頂点へ向かうダイオードは逆方向(電流が流れない向き)です。
- したがって、電流は上の頂点へ向かうダイオードを通過します。
- 上の頂点に達した電流は、抵抗 \(R\) の上端に来ます。ここから抵抗 \(R\) を通って下の頂点へ向かいます。このとき、抵抗 \(R\) には上から下へ、つまりアの向きに電流が流れます。
- 下の頂点に達した電流は、右の頂点へ向かうダイオード(順方向)を通過し、電源のマイナス側である右の頂点に戻ります。(左の頂点へ向かうダイオードは逆方向なので流れません。)
ケース2:交流電源の右側がプラス、左側がマイナスの場合
このとき、電流は電源の右側の頂点から流れ出します。
- 電流は右の頂点に到達します。ここには、上の頂点へ向かうダイオードと、下の頂点へ向かうダイオードがあります。
- 上の頂点へ向かうダイオードは順方向ですが、下の頂点へ向かうダイオードは逆方向です。
- したがって、電流は上の頂点へ向かうダイオードを通過します。
- 上の頂点に達した電流は、ケース1と同様に抵抗 \(R\) の上端に来ます。そして抵抗 \(R\) を上から下へ、つまりアの向きに流れます。
- 下の頂点に達した電流は、左の頂点へ向かうダイオード(順方向)を通過し、電源のマイナス側である左の頂点に戻ります。(右の頂点へ向かうダイオードは逆方向なので流れません。)
以上の2つのケースから、交流電源の向きにかかわらず、抵抗 \(R\) には常にアの向きに電流が流れることがわかります。
使用した物理公式
- ダイオードの整流作用(物理原理)
この問題では、定量的な計算は必要ありません。
ダイオードは「電気の一方通行の道」だと考えてみましょう。交流電源は、道の入口と出口が定期的に入れ替わるようなものです。
- まず、電源の左側が「入口」、右側が「出口」の場合を考えます。電流(車)は左から出発し、通れる一方通行の道(ダイオード)を選んで進むと、抵抗 \(R\) の部分を上から下に通過し、右の出口にたどり着きます。
- 次に、電源の右側が「入口」、左側が「出口」の場合を考えます。今度は右から出発した電流が、やはり通れる一方通行の道を選んで進むと、不思議なことに、抵抗 \(R\) の部分は先ほどと全く同じく上から下に通過し、左の出口にたどり着きます。
このように、入口と出口が入れ替わっても、抵抗 \(R\) の部分だけは常に同じ向きに電流が流れる仕組みになっています。
抵抗 \(R\) に流れる電流の向きは、常にアの向きです。
この回路は「ブリッジ整流回路」または「全波整流回路」と呼ばれ、交流を直流(正確には脈流)に変換するために広く使われています。交流電源のプラスの半周期とマイナスの半周期の両方を利用して、負荷(この場合は抵抗 \(R\))に一方向の電流を供給できるのが特徴です。今回の解析結果は、この回路の基本的な機能と完全に一致しており、物理的に妥当な結論です。
思考の道筋とポイント
電流が「電位の高いところから低いところへ流れる」という電気回路の基本原理と、ダイオードが「アノード(矢印の根元)の電位がカソード(矢印の先端)より高いときにだけ電流を流す」という性質を用いて、より厳密に電流の経路を解析します。交流電源の極性が変わる2つのケースで、回路の各点の電位の高低を比較し、ON状態になるダイオードを特定します。
この設問における重要なポイント
- 電位と電流の関係: 電流は、必ず電位の高い点から低い点に向かって流れます。
- ダイオードがONになる条件: ダイオードは、アノード(▶の底辺側)の電位がカソード(▶の頂点側)の電位よりも高い状態(順方向バイアス)のときのみ、電流を流すことができます。
- 回路の頂点の電位比較: ブリッジ回路の4つの頂点(左、右、上、下)の電位の高低関係を、電源の極性に応じて考えます。
具体的な解説と立式
回路の頂点を、左をL、右をR、上をT、下をBと名付けます。電源はL点とR点の間に、抵抗はT点とB点の間に接続されています。
ケース1:L点の電位がR点より高い場合(\(V_L > V_R\))
L点(電源のプラス側)が最も電位が高く、R点(電源のマイナス側)が最も電位が低くなります。
- L点から: 電流は高電位のL点から流れ出します。
- ダイオードL→T: アノードLが高電位なので、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードL→B: カソードLが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はL点からT点へ向かいます。
- T点から: T点に到達した電流は、抵抗Rを通ってB点へ向かいます。
- T点からR点へ向かうダイオードは、カソードRが低電位なので順方向に見えますが、電流はまず抵抗を通ります。T点の電位はL点よりは低いですが、R点よりは高いはずです。
- 電流は抵抗 \(R\) を通り、T点からB点へ流れます。このとき、抵抗 \(R\) には上から下(アの向き)に電流が流れます。これにより、\(V_T > V_B\) であることが確定します。
- B点から: B点に到達した電流は、低電位のR点へ向かいます。
- ダイオードB→R: アノードBの電位は、カソードRの電位より高い(\(V_B > V_R\))ため、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードB→L: カソードLが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はB点からR点へ向かい、電源に戻ります。
- 経路のまとめ: L → T → (抵抗R) → B → R。このとき、抵抗 \(R\) にはアの向きに電流が流れます。
ケース2:R点の電位がL点より高い場合(\(V_R > V_L\))
R点(電源のプラス側)が最も電位が高く、L点(電源のマイナス側)が最も電位が低くなります。
- R点から: 電流は高電位のR点から流れ出します。
- ダイオードR→T: アノードRが高電位なので、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードR→B: カソードRが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はR点からT点へ向かいます。
- T点から: T点に到達した電流は、抵抗Rを通ってB点へ向かいます。
- 電流は抵抗 \(R\) を通り、T点からB点へ流れます。このとき、抵抗 \(R\) には上から下(アの向き)に電流が流れます。これにより、\(V_T > V_B\) であることが確定します。
- B点から: B点に到達した電流は、低電位のL点へ向かいます。
- ダイオードB→L: アノードBの電位は、カソードLの電位より高い(\(V_B > V_L\))ため、順方向バイアスとなりON状態。電流は流れる。
- ダイオードB→R: カソードRが高電位なので、逆方向バイアスとなりOFF状態。電流は流れない。
よって、電流はB点からL点へ向かい、電源に戻ります。
- 経路のまとめ: R → T → (抵抗R) → B → L。このときも、抵抗 \(R\) にはアの向きに電流が流れます。
使用した物理公式
- 電位と電流の関係(オームの法則の基礎)
- ダイオードの動作原理(順方向・逆方向バイアス)
この問題では、定量的な計算は必要ありません。
電気の流れを、高い場所から低い場所へ流れる水に例えてみましょう。電源のプラス側が「水源(一番高い場所)」、マイナス側が「排水口(一番低い場所)」です。ダイオードは「逆流防止弁」で、決まった向きにしか水を流しません。
- 電源の左側が水源の場合、水は「左→上→抵抗→下→右」というルートで流れます。
- 電源の右側が水源の場合、水は「右→上→抵抗→下→左」というルートで流れます。
どちらのルートをたどっても、真ん中にある抵抗の部分では、必ず「上から下へ」水が流れることがわかります。これが、この回路が常に同じ向きの電流を作り出す仕組みです。
電位の高低関係から電流の経路を解析した結果、交流電源の極性にかかわらず、抵抗 \(R\) には常にアの向きに電流が流れることが確認できました。この方法は、電流の経路を直感的に追う方法と比べて、より電気回路の基本法則に忠実なアプローチであり、同じ結論を導き出します。これにより、解答の正しさがより強固に裏付けられます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ダイオードの整流作用:
- 核心: この問題の全ては、ダイオードが「電流を特定の向きにしか流さない」という一方通行の性質(整流作用)を持つことを理解しているかどうかにかかっています。ダイオードの記号(▲|)が示す矢印の向き(順方向)には電流を流しますが、その逆向き(逆方向)には電流を流しません。
- 理解のポイント: この性質により、複雑に見える回路でも、電流が実際に通れる経路は限定されます。交流電源の向きが変わるたびに、どのダイオードがON(導通)になり、どのダイオードがOFF(非導通)になるかを見極めることが解答への道筋です。
- 交流電源の周期的な極性反転:
- 核心: 交流電源は、時間とともにプラス極とマイナス極が入れ替わり、回路に流れる電流の向きが周期的に反転します。この問題では、電源の極性が反転する2つの代表的なケース(例えば、左側がプラスの半周期と、右側がプラスの半周期)をそれぞれ考える必要があります。
- 理解のポイント: この回路(ブリッジ整流回路)の巧妙な点は、電源の極性がどちらであっても、最終的に抵抗\(R\)には同じ向きの電流が流れるように設計されていることです。この「整流」の仕組みを理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 半波整流回路: ダイオードが1つだけ直列に接続された、最も単純な整流回路です。交流の半分の波形しか利用できず、抵抗には電流が流れる時間と流れない時間が交互に現れます。
- コンデンサを用いた平滑回路: 今回のブリッジ回路の出力側(抵抗\(R\)と並列)にコンデンサを接続した回路です。コンデンサの充放電作用により、脈流(波打つ直流)がより滑らかな直流に近づきます。コンデンサがどのように電圧の変動を抑えるかを問われます。
- ツェナーダイオード(定電圧ダイオード)を含む回路: 一定の逆方向電圧がかかると電流を流す特殊なダイオードを用いた回路です。電圧を一定に保つ「定電圧回路」の動作原理を問う問題に応用されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 電源の種類を特定する: まず、電源が直流か交流かを確認します。交流であれば、極性が反転する複数のケースを考える必要があります。
- ダイオードの向きを把握する: 回路図中のすべてのダイオードの向き(電流を流す方向)を正確に把握します。
- 電流の経路を追いかける: 電源のプラス側から出発し、分岐点ごとにダイオードの向きを確認しながら、電流が流れる経路を一本の線でたどってみます。流れない経路は無視します。
- 電位の高低を考える: より厳密に解析したい場合は、「電流は電位の高い方から低い方へ流れる」という原則に基づき、各点の電位の高低を比較して、ONになるダイオードを特定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ダイオードの向きの勘違い:
- 誤解: ダイオードの記号の向きを逆に解釈してしまい、電流が流れる方向を間違える。
- 対策: ダイオードの記号は、電流が流れる向きを示す矢印(▶)と、流れをせき止める壁(|)が組み合わさったものと覚えましょう。「矢印の向きに流れる」と単純に記憶するのが最も効果的です。
- 交流の一方の半周期しか考えない:
- 誤解: 交流電源の一つの向き(例えば左側がプラス)の場合だけを考えて、それで結論を出してしまう。
- 対策: 問題文に「交流」とあったら、必ず「向きが反転する」ことを思い出し、最低でも2つの異なる極性のケースについて電流の経路を検討する習慣をつけましょう。整流回路の問題では、両方のケースで負荷に流れる電流の向きがどうなるかを確認することが必須です。
- 電流の合流・分岐での混乱:
- 誤解: 回路の分岐点で、電流が複数のダイオードに分かれて流れると考えてしまう。
- 対策: 理想的なダイオードを扱う高校物理の範囲では、順方向のダイオードには電流が流れ、逆方向のダイオードには全く流れません。分岐点では、必ず「通れる道は一つだけ」という意識で経路を選択しましょう(この問題のブリッジ回路の場合)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電流経路の色分け: 交流電源の「左がプラスの半周期」のときの電流経路を赤色で、「右がプラスの半周期」のときの電流経路を青色で、それぞれ回路図に上書きしてみます。すると、抵抗\(R\)の部分だけは赤色の矢印と青色の矢印が同じ向きに重なることが視覚的に一目瞭然となり、全波整流の仕組みが直感的に理解できます。
- 水流モデル: 回路を水路、ダイオードを「逆流防止弁」、抵抗を「水車」に例えます。交流電源は、ポンプの吸い込み口と吐き出し口が定期的に入れ替わる装置です。ポンプの向きが変わっても、水路の設計(逆流防止弁の配置)によって、水車は常に同じ方向に回り続ける様子をイメージすると、物理現象を具体的に捉えられます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電流の矢印を書き込む: 思考のプロセスとして、自分で描いた回路図に、考えられる電流の経路を矢印で書き込んでいくのが最も確実です。
- ON/OFFの区別: 各ケースにおいて、電流が流れるダイオード(ON状態)には○をつけ、流れないダイオード(OFF状態)には×をつけるなど、記号で区別すると、思考が整理されミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ダイオードの整流作用(物理原理):
- 選定理由: この問題は、ダイオードという電子部品の最も基本的な機能そのものを問うています。したがって、その動作原理を直接適用することが唯一の解法となります。
- 適用根拠: ダイオードはp型半導体とn型半導体を接合して作られており、その界面(pn接合部)には空乏層と呼ばれる電位の障壁が存在します。順方向の電圧をかけるとこの障壁が低くなって電流が流れ、逆方向の電圧をかけると障壁が高くなって電流が流れない、という半導体物理の基本原理に基づいています。
- 電位の高低による解析(別解):
- 選定理由: 「電流は電位の高いところから低いところへ流れる」という、より普遍的な電気回路の法則に立ち返ることで、直感的な経路追跡の正しさを論理的に裏付けるため。
- 適用根拠: キルヒホッフの法則の基礎となる考え方であり、あらゆる電気回路に適用できる普遍的な原理です。ダイオードがONになる条件を「アノード電位 > カソード電位」と電位の言葉で定義し直すことで、この原理をダイオード回路にも適用できます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 戦略: 交流電源の極性が反転する2つのケースを個別に分析し、いずれの場合も抵抗\(R\)に流れる電流の向きが同じであることを示す。
- フロー:
- ケース1の分析(例:電源の左側がプラス):
- ① 電源のプラス極から電流が出発。
- ② 回路の分岐点で、ダイオードの向き(順方向か逆方向か)を判断し、電流が流れる経路を特定する。
- ③ 抵抗\(R\)を通過する際の電流の向き(アかイか)を確認する。
- ④ 電源のマイナス極に電流が戻るまでの経路を最後まで追跡する。
- ケース2の分析(例:電源の右側がプラス):
- ①〜④を、ケース1と同様の手順で実行する。
- 結論の導出:
- ① ケース1とケース2の結果を比較し、抵抗\(R\)に流れる電流の向きが両者で同じであることを確認する。
- ② その共通の向き(ア)を最終的な答えとする。
- ケース1の分析(例:電源の左側がプラス):
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題には定量的な計算はありませんが、思考のプロセスにおけるミスを防ぐためのテクニックは存在します。
- 指差し確認: 回路図の上を実際に指でなぞりながら、「ここから電流が来て、このダイオードは順方向だから通れる、こっちは逆方向だから通れない…」と声に出して確認することで、ケアレスミスを防ぎます。
- 図の単純化: もし回路が複雑に見えるなら、各ケースで電流が流れない部分(OFF状態のダイオードとその先の配線)を点線で描き直したり、消しゴムで消したりして、実際に電流が流れる有効な回路だけを抜き出して描いてみると、経路が非常にシンプルに見えるようになります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 答えは「アの向き」でした。これは、交流電源の向きが変わっても、抵抗には常に一方向の電流が流れることを意味します。この回路は「全波整流回路」として知られており、その目的はまさに交流を直流(脈流)に変換することです。したがって、得られた結果はこの回路の機能そのものを正しく示しており、物理的に完全に妥当です。もし答えが「アとイの両方」や「電流は流れない」などとなった場合、ダイオードの性質の理解や経路の追跡に誤りがあった可能性が高いと判断できます。
- 別解との比較:
- 「電流の経路を直感的に追う方法」と、「電位の高低に基づいて論理的に解析する方法」という2つの異なるアプローチを取りました。両者で「抵抗には常にアの向きに電流が流れる」という全く同じ結論が得られたことは、解析の正しさを強力に裏付けています。異なる視点から考えても同じ結論に至ることを確認するのは、物理の理解を深め、解答の信頼性を高める上で非常に有効な習慣です。
414 交流回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、交流回路における基本的な素子(抵抗、コイル、コンデンサー)の性質を問う問題です。前半の(1)では最も単純な抵抗回路を、後半の(2)(3)では未知の電子部品を接続した際の電圧と電流の関係から、その部品の正体と特性を突き止めていきます。
この問題の核心は、「電圧と電流の位相関係」と「実効値・最大値の関係」を正しく理解し、与えられたグラフ情報と数値を結びつけていく能力です。
- (1)
- 交流電源の電圧: \(V = V_0 \sin \omega t\) [V]
- 回路素子: 抵抗 \(R\) [Ω]
- (2), (3)
- 交流電源の電圧の実効値: \(V_{\text{e}} = 30\) [V]
- 周波数: \(f = 50\) [Hz]
- 電流のグラフ: 図2に示す通り。\(t=0\)で最大値 \(3\sqrt{2}\) [A] のcos型の波形。
- 円周率: \(\pi = 3.14\)
- (1) 抵抗を流れる電流 \(I\) と、抵抗の消費電力 \(P\) を \(t\) を用いた式で表すこと。
- (2) 電圧と電流の位相の関係、電子部品が何か、その抵抗値またはリアクタンスの値。
- (3) (2)で特定した部品の抵抗値、自己インダクタンス、または電気容量の値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流回路における各素子の特性分析」です。電圧と電流の関係から、回路素子を特定する逆問題的なアプローチが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則の交流回路への拡張: 電圧、電流、インピーダンス(抵抗やリアクタンス)の関係 (\(V=ZI\)) を、最大値または実効値で扱います。
- 電圧と電流の位相関係: 抵抗(同位相)、コイル(電流が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)遅れる)、コンデンサー(電流が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)進む)という各素子の特徴を理解していることが不可欠です。
- リアクタンス: コイルの誘導性リアクタンス \(X_L = \omega L\)、コンデンサーの容量性リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) の定義と計算方法。
- 実効値と最大値の関係: 正弦波交流において、実効値 \(V_{\text{e}}\) と最大値 \(V_0\) の間には \(V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}}\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず(1)では、抵抗のみの単純な回路について、オームの法則と電力の公式を適用して電流と電力を求めます。
- 次に(2)では、与えられた電圧の式 (\(\sin\)型) と電流のグラフ (cos型) を比較して位相差を読み取り、それに対応する電子部品を特定します。そして、電圧と電流の大きさ(最大値または実効値)から、オームの法則を用いてリアクタンスを計算します。
- 最後に(3)では、(2)で求めたリアクタンスの値と周波数を用いて、リアクタンスの公式から自己インダクタンスまたは電気容量を算出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗のみを接続した最も基本的な交流回路です。抵抗回路では、電圧と電流の間に位相のずれはなく、瞬間の電圧と電流は常にオームの法則 \(V=RI\) に従います。
この設問における重要なポイント
- オームの法則の適用: 交流回路であっても、抵抗にかかる電圧とその抵抗を流れる電流の関係は、どの瞬間においても \(V=RI\) が成り立ちます。
- 消費電力の計算: 電力は \(P=VI\) で計算できます。求めた電流 \(I\) の式を代入して計算します。
- 同位相: 抵抗回路では、電圧と電流の位相は同じです。電圧が \(\sin \omega t\) に比例するなら、電流も \(\sin \omega t\) に比例します。
具体的な解説と立式
抵抗を流れる電流 \(I\) は、オームの法則 \(V=RI\) より求めることができます。
$$ I = \displaystyle\frac{V}{R} \quad \cdots ① $$
抵抗での消費電力 \(P\) は、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の積で与えられます。
$$ P = VI \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V=RI\)
- 電力: \(P=VI\)
与えられた電圧 \(V = V_0 \sin \omega t\) を①式に代入して、電流 \(I\) を求めます。
$$
I = \displaystyle\frac{V_0 \sin \omega t}{R} = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t \text{ [A]}
$$
次に、この \(I\) と与えられた \(V\) を②式に代入して、消費電力 \(P\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P &= (V_0 \sin \omega t) \left( \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t \right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
抵抗だけの回路はシンプルです。電流は、その時々の電圧を抵抗値で割ったものになります。電力は、その時々の電圧と電流を掛け合わせることで計算できます。電圧がsinカーブで変化するので、電流も同じ形のsinカーブを描き、電力は常にプラスの値(熱としてエネルギーが消費される)で、sinの2乗のカーブを描きます。
電流は \(I = \displaystyle\frac{V_0}{R} \sin \omega t\) [A]、消費電力は \(P = \displaystyle\frac{V_0^2}{R} \sin^2 \omega t\) [W] となります。
電流の式を見ると、電圧と同じ \(\sin \omega t\) の形をしており、位相がずれていないことが確認できます。また、電力は \(\sin^2\) の形なので常に0以上となり、抵抗がエネルギーを消費する素子であることを示しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
未知の電子部品を接続したときの電圧と電流の関係を分析します。まず、電圧の式 \(V=V_0 \sin \omega t\) と、図2の電流のグラフを比較して、両者の位相差を求めます。その位相差の特徴から、電子部品が抵抗、コイル、コンデンサーのどれであるかを特定します。最後に、電圧と電流の大きさ(最大値または実効値)を使って、交流回路のオームの法則からリアクタンスを計算します。
この設問における重要なポイント
- 位相の比較: 電圧は \(V \propto \sin \omega t\) ( \(t=0\) で0から増加) です。一方、図2の電流は \(t=0\) で最大値をとるため、\(I \propto \cos \omega t\) と表せます。
- 三角関数の公式: \(\cos \theta = \sin(\theta + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) の関係を用いて、sinとcosの位相差を明確にします。
- 素子と位相差: 電流が電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む素子はコンデンサーです。
- 交流のオームの法則: 電圧と電流の最大値 \(V_0, I_0\) とリアクタンス \(Z\) の間には \(V_0 = Z I_0\) の関係が成り立ちます。
- 実効値と最大値: 電圧の実効値 \(V_{\text{e}}\) が与えられているので、最大値 \(V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}}\) に変換して使います。
具体的な解説と立式
1. 位相関係と電子部品の特定
電源電圧は \(V = V_0 \sin \omega t\) であり、\(t=0\) で \(V=0\) となるsin型です。
一方、図2の電流のグラフは、\(t=0\) で最大値 \(I_0 = 3\sqrt{2}\) [A] となっており、これはcos型のグラフです。したがって、電流は \(I = I_0 \cos \omega t\) と表せます。
三角関数の公式 \(\cos \omega t = \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) を用いると、電流の式は
$$ I = I_0 \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}) $$
と書き換えられます。電圧の位相 \(\omega t\) と電流の位相 \((\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\) を比較すると、電流の位相が電圧に対して \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) [rad] だけ進んでいることがわかります。
交流回路において、電流が電圧より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進む電子部品はコンデンサーです。
2. リアクタンスの計算
コンデンサーのリアクタンス(容量性リアクタンス)を \(X_C\) とすると、交流回路のオームの法則は次のように表せます。
$$ V_0 = X_C I_0 \quad \cdots ① $$
ここで、電圧の最大値 \(V_0\) と電流の最大値 \(I_0\) を求めます。
電圧の実効値は \(V_{\text{e}} = 30\) [V] なので、最大値 \(V_0\) は、
$$ V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}} = 30\sqrt{2} \text{ [V]} $$
電流の最大値 \(I_0\) は、図2のグラフから直接読み取れます。
$$ I_0 = 3\sqrt{2} \text{ [A]} $$
使用した物理公式
- 位相の比較(三角関数)
- コンデンサーの位相特性
- 交流回路のオームの法則: \(V_0 = Z I_0\)
- 実効値と最大値の関係: \(V_0 = \sqrt{2} V_{\text{e}}\)
上記で求めた \(V_0\) と \(I_0\) の値を①式に代入し、リアクタンス \(X_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
X_C &= \displaystyle\frac{V_0}{I_0} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{30\sqrt{2}}{3\sqrt{2}} \\[2.0ex]&= 10 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
まず、電圧と電流のグラフの形を比べます。電圧が0からスタートする「sinカーブ」なのに対し、電流はてっぺんからスタートする「cosカーブ」です。これは、電流の方が電圧よりタイミングが1/4周期分「進んでいる」ことを意味します。この性質を持つ部品は「コンデンサー」です。次に、コンデンサーの「流れにくさ(リアクタンス)」を求めます。これは、電圧の最大値を電流の最大値で割るという、中学校で習ったオームの法則に似た計算で求めることができます。
思考の道筋とポイント
交流回路のオームの法則は、最大値だけでなく実効値でも成り立ちます (\(V_{\text{e}} = Z I_{\text{e}}\))。与えられた電圧の実効値と、グラフから読み取れる電流の実効値を用いて、より直接的にリアクタンスを計算する方法です。
具体的な解説と立式
電圧の実効値は \(V_{\text{e}} = 30\) [V] です。
電流の最大値が \(I_0 = 3\sqrt{2}\) [A] なので、電流の実効値 \(I_{\text{e}}\) は、
$$ I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} = \displaystyle\frac{3\sqrt{2}}{\sqrt{2}} = 3 \text{ [A]} $$
リアクタンス \(X_C\) は、実効値を用いて次のように計算できます。
$$ X_C = \displaystyle\frac{V_{\text{e}}}{I_{\text{e}}} $$
$$
\begin{aligned}
X_C &= \displaystyle\frac{30}{3} \\[2.0ex]&= 10 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
この方法でも、最大値を用いた計算と全く同じ結果が得られます。
電圧に対して電流の位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) [rad] だけ進んでいる。電子部品はコンデンサーであり、そのリアクタンスは \(10\) [Ω] です。
位相の進みからコンデンサーと特定し、そのリアクタンスを計算する、という一連の流れは論理的に整合性がとれています。また、最大値と実効値のどちらを使っても同じ結果が得られることから、計算の妥当性が確認できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で電子部品がコンデンサーであり、そのリアクタンスが \(10\) [Ω] であることがわかりました。コンデンサーのリアクタンス \(X_C\)、角周波数 \(\omega\)、電気容量 \(C\) の間には \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) という関係があります。この式を利用して、電気容量 \(C\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 容量性リアクタンスの公式: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を使います。
- 角周波数と周波数の関係: 問題で与えられているのは周波数 \(f\) なので、\(\omega = 2\pi f\) の関係を使って角周波数 \(\omega\) に変換します。
具体的な解説と立式
コンデンサーの電気容量を \(C\) [F]、周波数を \(f\) [Hz] とすると、容量性リアクタンス \(X_C\) [Ω] は次の式で与えられます。
$$ X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C} $$
この式を \(C\) について解くと、
$$ C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f X_C} $$
となります。
使用した物理公式
- 容量性リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
与えられた値 \(f=50\) [Hz], \(\pi=3.14\) と、(2)で求めた \(X_C=10\) [Ω] を代入します。
$$
\begin{aligned}
C &= \displaystyle\frac{1}{2 \times 3.14 \times 50 \times 10} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{3140} \\[2.0ex]&\approx 0.00031847… \\[2.0ex]&\approx 3.18 \times 10^{-4} \text{ [F]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(3.2 \times 10^{-4}\) [F] となります。
コンデンサーの「流れにくさ(リアクタンス)」は、その性能である「電気容量」と、交流の振動の速さである「周波数」によって決まります。この関係を表す公式に、(2)で求めたリアクタンスの値と問題文の周波数の値を当てはめて、コンデンサーの電気容量を計算します。
電気容量は \(3.2 \times 10^{-4}\) [F] です。
(2)で特定した部品とリアクタンスの値から、公式を用いて一意に計算される値です。計算過程も単純な代入計算であり、妥当な結果と言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 素子ごとの電圧と電流の位相関係:
- 核心: 交流回路を理解する上で最も重要な概念です。①抵抗では電圧と電流は同位相、②コイルでは電圧が電流より\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)進む(電流が遅れる)、③コンデンサーでは電圧が電流より\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)遅れる(電流が進む)。この3つのルールが(2)の部品を特定する鍵となります。
- 理解のポイント: なぜそうなるのか、という微分・積分の関係(\(I=C\displaystyle\frac{dV}{dt}\), \(V=L\displaystyle\frac{dI}{dt}\))まで遡って理解すると、記憶が定着しやすくなります。
- 交流回路のオームの法則とリアクタンス:
- 核心: 直流の \(V=RI\) と同様に、交流でも電圧と電流の大きさの関係は \(V=ZI\) で表せます。\(Z\)はインピーダンスと呼ばれ、この問題のような単一素子の場合はリアクタンス(または抵抗)そのものです。
- 理解のポイント: この法則は、最大値(\(V_0 = ZI_0\))でも実効値(\(V_{\text{e}} = ZI_{\text{e}}\))でも成り立ちます。どちらを使っても計算できることを理解しておくと、問題に応じて柔軟な解法が選択できます。リアクタンス \(X_L = \omega L\) と \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) の公式は必須知識です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列回路: 抵抗、コイル、コンデンサーが直列に接続された回路。インピーダンスは \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\)、位相差は \(\tan\phi = \displaystyle\frac{X_L – X_C}{R}\) で計算します。各素子の性質を組み合わせる応用問題です。
- 共振回路: RLC直列回路で \(X_L = X_C\) となる特定の周波数(共振周波数)では、インピーダンスが最小(\(Z=R\))となり、電流が最大になります。この共振条件を問う問題は頻出です。
- V-Iグラフからの情報読み取り: 今回のように、電圧や電流のグラフが与えられ、そこから最大値、周期(→周波数)、位相差を読み取らせる問題は、様々な回路で応用されます。
- 初見の問題での着眼点:
- 位相関係を真っ先に確認する: 電圧と電流の式やグラフが与えられたら、まず両者の位相差を調べます。\(t=0\)での値や、ピーク(最大値)を迎える時刻を比較するのが有効です。これにより、回路の主要な性質(誘導性か容量性か)を大まかに掴めます。
- 最大値と実効値を区別する: 問題で与えられている値が最大値なのか実効値なのかを明確に区別します。必要に応じて \(\sqrt{2}\) 倍または \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{2}}\) 倍の変換を行います。
- 周波数と角周波数を使い分ける: リアクタンスの計算では角周波数 \(\omega\) が、最終的なLやCの計算では周波数 \(f\) が便利です。\(\omega = 2\pi f\) の関係を常に意識し、必要に応じて変換します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 位相の「進み」「遅れ」の混同:
- 誤解: 電流が電圧より「進む」のか「遅れる」のかを混同してしまう。特にコイルとコンデンサーの性質を逆に覚えてしまうミスが多いです。
- 対策: コンデンサー(Capacitor)は「C」で、電流(Current)の「C」と同じなので「電流が進む」と覚えるなど、語呂合わせを活用するのも一つの手です。また、電圧を基準に「コイルは電圧が進む」「コンデンサーは電流が進む」と覚えるのも有効です。
- 実効値と最大値の変換忘れ:
- 誤解: 電圧は実効値、電流はグラフから読み取った最大値、というように異なる種類の値を混ぜて \(V=ZI\) の式に代入してしまう。
- 対策: 計算に使う電圧と電流は、必ず「両方とも最大値」または「両方とも実効値」に揃える、というルールを徹底しましょう。計算を始める前に、使う値を \(V_0, I_0\) または \(V_{\text{e}}, I_{\text{e}}\) に統一するステップを設けるとミスが減ります。
- リアクタンスの公式の逆転:
- 誤解: コイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を逆に覚えてしまう。
- 対策: コイルは周波数が高いほど電流を妨げ(\(X_L \propto \omega\))、コンデンサーは周波数が高いほど電流を通しやすくなる(\(X_C \propto \displaystyle\frac{1}{\omega}\))という物理的なイメージと結びつけて覚えましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- ベクトル図(フェーザ図): 電圧と電流を回転するベクトルとして表現する図です。この問題の場合、電圧ベクトル\(V\)を基準にx軸正方向に描くと、電流ベクトル\(I\)はそこから \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) だけ進んだy軸正方向を向くベクトルとして描かれます。この図を描くことで、位相関係が一目瞭然となります。RLC回路など、より複雑な回路では特に有効なツールです。
- グラフの重ね描き: 電圧の \(\sin\) カーブと電流の \(\cos\) カーブを同じ時間軸上に描いてみます。電流の山の頂点が、電圧が0から立ち上がる点よりも時間的に早い(左側にある)ことを確認することで、「電流が進んでいる」ことを視覚的に理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 基準を明確に: ベクトル図を描く際は、どのベクトル(通常は抵抗にかかる電圧か、回路を流れる電流)を基準(x軸)にするかを最初に決めます。
- 回転方向の統一: 位相の進み・遅れは、反時計回りを「正」の回転方向として描くのが一般的です。このルールを統一することで、混乱を防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則 (\(V=ZI\)):
- 選定理由: (2)で、電圧と電流の大きさの関係から、回路の電気的な「流れにくさ」(リアクタンス)を定量的に求めるため。
- 適用根拠: 直流回路におけるオームの法則を、交流の振幅(最大値または実効値)に対して拡張した、交流回路解析の基本中の基本となる法則です。
- 位相関係 (\(I \propto \sin(\omega t + \frac{\pi}{2})\)):
- 選定理由: (2)で、未知の電子部品の正体を特定するため。電圧と電流のタイミングのずれ(位相差)は、部品の種類を決定づける最も重要な情報です。
- 適用根拠: 各素子の物理的性質(電荷を蓄える、磁場を発生させるなど)が、電圧と電流の間に微分・積分の関係を生み出し、結果として特定の位相差となって現れます。
- リアクタンスの定義式 (\(X_C = \frac{1}{2\pi f C}\)):
- 選定理由: (3)で、(2)で求めたリアクタンスという電気的特性と、部品の物理的な性能(電気容量\(C\))とを結びつけるため。
- 適用根拠: この式は、コンデンサーが交流電流をどれだけ妨げるかを示しており、その妨げ度合いが周波数\(f\)と電気容量\(C\)に依存するという物理法則を数式化したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 抵抗回路の解析:
- 戦略: オームの法則と電力公式を単純に適用する。
- フロー: ① \(V=RI\) を \(I\) について解く → ② \(V=V_0\sin\omega t\) を代入し \(I\) の式を求める → ③ \(P=VI\) に \(V\) と求めた \(I\) を代入し \(P\) の式を求める。
- (2) 未知部品の特定とリアクタンス計算:
- 戦略: 位相差から部品を特定し、オームの法則でリアクタンスを求める。
- フロー: ① 電圧の式(\(\sin\)型)と電流のグラフ(\(\cos\)型)を比較 → ② 位相差が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)の進みであることを確認し、部品をコンデンサーと特定 → ③ 電圧の実効値から最大値 \(V_0\) を計算 → ④ 電流のグラフから最大値 \(I_0\) を読み取る → ⑤ \(X_C = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\) でリアクタンスを計算。
- (3) 電気容量の計算:
- 戦略: リアクタンスの公式を逆算する。
- フロー: ① リアクタンスの公式 \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\) を \(C\) について解く → ② (2)で求めた \(X_C\) と問題文の \(f\), \(\pi\) を代入して \(C\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 計算の各段階で単位を意識しましょう。電圧[V]、電流[A]からリアクタンス[Ω]を、周波数[Hz]とリアクタンス[Ω]から電気容量[F]を求める、という流れと単位の一致を確認します。
- \(\sqrt{2}\) の扱い: 計算途中で \(\sqrt{2}\) が出てきても、すぐに \(1.41\) などと近似値を代入しないようにしましょう。今回の(2)のように、分母と分子でうまく約分されて消えることがよくあります。文字式のように最後まで残しておくのが得策です。
- 指数の計算: (3)のように \(10^{-4}\) といった指数が出てくる計算では、有効数字の部分(この場合は \(3.18…\))と指数の部分を分けて計算するとミスが減ります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) リアクタンス: \(10\) [Ω]という値は、一般的な抵抗値と比較しても極端に大きすぎたり小さすぎたりしない、妥当な範囲の値です。
- (3) 電気容量: \(3.2 \times 10^{-4} \text{ F} = 320 \times 10^{-6} \text{ F} = 320 \mu\text{F}\) (マイクロファラッド) となります。これは電子工作で使われるコンデンサーとしてはやや大きめですが、電源回路などでは十分にあり得る値であり、物理的に不自然ではありません。
- 別解との比較:
- (2)のリアクタンス計算では、「最大値を用いる方法」と「実効値を用いる方法」の2通りで計算しました。両者で全く同じ \(10\) [Ω] という結果が得られたことは、計算の正しさと、\(V_0=\sqrt{2}V_{\text{e}}\) という関係の理解が正しかったことを強く裏付けています。
415 振動回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、コンデンサーの充電過程と、その後に形成されるLC振動回路の動作を二段階に分けて問う問題です。前半は直流回路におけるコンデンサーの性質、後半はLC回路におけるエネルギー保存と電気振動の周期性・時間変化を扱います。
この問題の核心は、異なる状況(直流定常状態とLC振動)における回路の性質を正しく理解し、それぞれの物理法則(コンデンサーの直列接続、エネルギー保存則、LC振動の公式)を適切に適用する能力です。
- 回路素子: 起電力\(E\)の電池、抵抗\(R\)、電気容量\(C\)と\(2C\)のコンデンサー、自己インダクタンス\(L\)のコイル、スイッチ\(S_1, S_2\)
- 初期条件: コンデンサーの初期電荷はゼロ。
- 操作1: \(S_1\)を閉じて十分に時間が経過。
- 操作2: \(S_1\)を開き、\(S_2\)を閉じる(この瞬間を\(t=0\)とする)。
- 電流の正の向き: 図中の矢印の向き。
- (前半) \(S_1\)を閉じて十分時間が経過した後の、コンデンサー\(2C\)の電気量。
- (後半) \(S_2\)を閉じた後の、コイルを流れる電流\(I\)の最大値、振動の周期、時刻\(t\)における電流\(I\)の式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この解説は、模範解答とは一部異なる方針で進めます。主な相違点は以下の通りです。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- (前半) コンデンサーの充電完了時の電気量: 模範解答ではコンデンサーの電圧比から求めていますが、本解説ではより汎用性の高い「合成容量」を用いる方法をメインの解法として採用します。電圧比を用いる方法は別解として扱います。
- (後半) LC振動の周期: 模範解答では固有振動数\(f\)を経由して周期\(T\)を求めていますが、本解説ではLC回路の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{LC}\) を直接適用します。固有振動数\(f\)を経由する方法は別解として扱います。
- なぜこの方針を取るか
- 合成容量の利用: 直列・並列接続されたコンデンサーの問題では、まず全体の合成容量を求めるアプローチが基本であり、より複雑な回路にも応用が効くため教育的価値が高いと判断しました。
- 周期公式の直接適用: LC振動の周期を問われた際に、\(T=2\pi\sqrt{LC}\) の公式を直接使うことは、思考のステップを短縮し、物理現象と公式の対応を明確にする上で有益です。
- 結果への影響
- 計算途中のアプローチは異なりますが、最終的に得られる物理的な結論(電気量、電流の最大値、周期、電流の式)は模範解答と一致します。
この問題のテーマは「コンデンサーの充電とLC電気振動」です。直流回路から交流(振動)回路へと切り替わる一連のプロセスを追うことで、電気回路の多面的な理解が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの直流特性: 直流回路で十分に時間が経過すると、コンデンサーは充電を完了し、電流を流さなくなる(断線とみなせる)。
- コンデンサーの直列接続: 直列接続されたコンデンサーでは、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しくなる。合成容量は \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\) で計算される。
- LC回路のエネルギー保存則: 回路内の抵抗が無視できるLC回路では、コンデンサーの静電エネルギーとコイルの磁気エネルギーの和は一定に保たれる。
- LC振動の周期: LC回路で起こる電気振動の周期は \(T = 2\pi\sqrt{LC}\) で与えられる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず前半部分について、\(S_1\)を閉じて十分時間が経過した状態(直流定常状態)を考えます。このときコンデンサー部分は断線とみなせるため、2つのコンデンサーに電源電圧\(E\)がかかります。合成容量を求めて全体の電気量を計算し、各コンデンサーの電気量を求めます。
- 次に後半部分について、\(S_1\)を開き\(S_2\)を閉じた瞬間のLC回路を考えます。コンデンサー\(2C\)に蓄えられていた静電エネルギーが、コイルの磁気エネルギーに変換される過程をエネルギー保存則で記述し、電流の最大値を求めます。
- LC振動の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{LC}\) を用いて周期を計算します。
- 最後に、初期条件(\(t=0\)で\(I=0\))と電流が流れ始める向きから、電流の時間変化の式を \(\sin\) 型で表現します。
問(前半) コンデンサー2Cの電気量
思考の道筋とポイント
スイッチ\(S_1\)を閉じて十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了し、コンデンサーを含む経路には電流が流れなくなります。このとき、抵抗\(R\)にも電流が流れないため、抵抗での電圧降下は0です。結果として、電源電圧\(E\)が、直列に接続された2つのコンデンサー\(C\)と\(2C\)にそのままかかることになります。
直列接続されたコンデンサーに蓄えられる電気量は等しいという性質を利用して解きます。ここでは、まず合成容量を求めて全体像を把握する方法で解説します。
この設問における重要なポイント
- 直流定常状態: 十分に時間が経過すると、コンデンサーは充電完了し、電流を流さない(回路のその部分が断線しているのと同じ)。
- 抵抗の電圧降下: 電流が0なので、オームの法則 \(V=RI\) より、抵抗\(R\)での電圧降下は0になる。
- コンデンサーの直列接続:
- 各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しい。
- 全体の電圧は、各コンデンサーの電圧の和に等しい。
- 合成容量 \(C_{\text{合成}}\) は \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\) で計算できる。
具体的な解説と立式
2つのコンデンサー\(C\)と\(2C\)は直列に接続されています。この部分の合成容量を \(C_{\text{合成}}\) とすると、
$$ \displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{C} + \displaystyle\frac{1}{2C} \quad \cdots ① $$
十分に時間が経過すると、コンデンサー部分には電流が流れず、抵抗\(R\)にも電流が流れないため、抵抗での電圧降下は0です。したがって、コンデンサーの合成部分全体には、電源電圧\(E\)がそのままかかります。
このとき、合成コンデンサーに蓄えられる全体の電気量を \(Q\) とすると、
$$ Q = C_{\text{合成}} E \quad \cdots ② $$
直列接続の場合、各コンデンサーに蓄えられる電気量は、全体で蓄えられる電気量と等しくなります。したがって、コンデンサー\(2C\)に蓄えられる電気量も \(Q\) となります。
使用した物理公式
- コンデンサーの合成容量(直列): \(\displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \displaystyle\frac{1}{C_1} + \displaystyle\frac{1}{C_2}\)
- 電気量と電圧の関係: \(Q=CV\)
まず①式から合成容量 \(C_{\text{合成}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{C_{\text{合成}}} &= \displaystyle\frac{2}{2C} + \displaystyle\frac{1}{2C} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{3}{2C}
\end{aligned}
$$
よって、合成容量は
$$ C_{\text{合成}} = \displaystyle\frac{2C}{3} $$
次に、この合成容量に電圧\(E\)がかかるときの全体の電気量\(Q\)を②式から求めます。
$$ Q = \left( \displaystyle\frac{2C}{3} \right) E = \displaystyle\frac{2CE}{3} $$
直列接続では、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しく、この\(Q\)に等しくなります。したがって、コンデンサー\(2C\)に蓄えられる電気量は \(\displaystyle\frac{2CE}{3}\) です。
スイッチを入れて十分待つと、2つのコンデンサーは満充電になります。このとき、2つのコンデンサーを合体させた「一つの大きなコンデンサー」と見なすことができます。この合体コンデンサーの性能(合成容量)を計算し、そこに電圧\(E\)がかかったときに蓄えられる全体の電気量を求めます。直列接続の場合、それぞれのコンデンサーに蓄えられる電気量は、この全体の電気量と同じになります。
思考の道筋とポイント
直列接続されたコンデンサーでは、蓄えられる電気量 \(Q\) が等しくなります。\(Q=CV\) の関係から、各コンデンサーにかかる電圧 \(V\) は電気容量 \(C\) に反比例します。この性質を利用して、電源電圧 \(E\) が2つのコンデンサーにどのように配分されるかを求め、そこからコンデンサー\(2C\)の電気量を計算します。
具体的な解説と立式
コンデンサー\(C\)と\(2C\)にかかる電圧をそれぞれ \(V_1, V_2\) とします。直列接続なので、蓄えられる電気量 \(Q_1, Q_2\) は等しく、これを \(Q\) とおきます。
$$ Q = C V_1 = 2C V_2 $$
この式から、電圧の比は
$$ V_1 : V_2 = 2C : C = 2 : 1 $$
となります。また、電圧の和は電源電圧\(E\)に等しいので、
$$ V_1 + V_2 = E $$
この2つの関係から、電圧 \(V_2\) は全体 \(E\) を \(2:1\) に分けたうちの \(1\) に相当します。
$$ V_2 = E \times \displaystyle\frac{1}{2+1} = \displaystyle\frac{E}{3} $$
コンデンサー\(2C\)に蓄えられる電気量 \(Q_2\) は、\(Q_2 = (2C)V_2\) で計算できます。
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= 2C \times V_2 \\[2.0ex]&= 2C \times \displaystyle\frac{E}{3} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{2CE}{3}
\end{aligned}
$$
この方法は模範解答と同じアプローチであり、合成容量を求める方法と同じ結果になります。
コンデンサー\(2C\)に蓄えられる電気量は \(\displaystyle\frac{2CE}{3}\) です。
2つの異なるアプローチ(合成容量、電圧配分)で同じ結果が得られたことから、解答の妥当性が確認できます。
問(後半) 電流の最大値、周期、電流の式
思考の道筋とポイント
\(S_1\)を開き\(S_2\)を閉じると、充電されたコンデンサー\(2C\)とコイル\(L\)からなるLC振動回路が形成されます。この回路では、コンデンサーの静電エネルギーとコイルの磁気エネルギーが互いに変換されながら振動します。抵抗がない理想的なLC回路なので、エネルギーの総和は保存されます。
電流の最大値は、コンデンサーの静電エネルギーがすべてコイルの磁気エネルギーに変換された瞬間に対応します。周期はLC振動の公式から直接求められます。電流の式は、振動の角周波数と最大値、そして初期条件から決定します。
この設問における重要なポイント
- LC回路の形成: スイッチの切り替えにより、コンデンサー\(2C\)とコイル\(L\)だけの閉回路ができる。
- エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2 + \displaystyle\frac{1}{2}LI^2 = \text{一定}\)。
- エネルギーの変換:
- 電流が0のとき(振動の端)、コンデンサーのエネルギーが最大。
- 電流が最大のとき、コイルのエネルギーが最大(コンデンサーのエネルギーは0)。
- LC振動の周期と角周波数: 周期は \(T=2\pi\sqrt{LC}\)、角周波数は \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\)。この問題の回路では、コンデンサーの電気容量が\(2C\)であることに注意。
- 初期条件: \(t=0\)で\(S_2\)を閉じる。コイルの電流は急に変化できないので \(I(0)=0\)。コンデンサーの電圧は最大。
具体的な解説と立式
1. 電流の最大値 \(I_0\)
\(t=0\)の瞬間、コンデンサー\(2C\)には電圧 \(V_2 = \displaystyle\frac{E}{3}\) がかかっており、蓄えられている静電エネルギー \(U_{E, \text{max}}\) は、
$$ U_{E, \text{max}} = \displaystyle\frac{1}{2}(2C)V_2^2 $$
このエネルギーがすべてコイルの磁気エネルギーに変換されたとき、電流は最大値 \(I_0\) になります。このときの磁気エネルギー \(U_{B, \text{max}}\) は、
$$ U_{B, \text{max}} = \displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2 $$
エネルギー保存則より \(U_{E, \text{max}} = U_{B, \text{max}}\) なので、
$$ \displaystyle\frac{1}{2}(2C)V_2^2 = \displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2 \quad \cdots ③ $$
2. 振動の周期 \(T\)
このLC回路の電気容量は \(2C\)、自己インダクタンスは \(L\) です。したがって、周期 \(T\) は公式より、
$$ T = 2\pi\sqrt{L(2C)} \quad \cdots ④ $$
3. 電流の式 \(I(t)\)
LC振動の角周波数を \(\omega\) とすると、
$$ \omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T} = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{L(2C)}} \quad \cdots ⑤ $$
電流の一般式は \(I(t) = I_0 \sin(\omega t + \alpha)\) と書けます。
初期条件を考えます。\(t=0\)でスイッチを閉じた直後、コイルの性質により電流は \(I(0)=0\) です。その後、コンデンサーの上側(正極)から図の矢印の向き(正の向き)に電流が流れ始めます。
\(I(0)=0\) であり、その後 \(I>0\) となるためには、\(I(t) = I_0 \sin(\omega t)\) の形である必要があります。
使用した物理公式
- 静電エネルギー: \(U_E = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
- 磁気エネルギー: \(U_B = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\)
- LC回路のエネルギー保存則
- LC振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{LC}\)
- LC振動の角周波数: \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\)
1. 電流の最大値 \(I_0\)
③式に \(V_2 = \displaystyle\frac{E}{3}\) を代入して \(I_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{1}{2}(2C)\left(\displaystyle\frac{E}{3}\right)^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2 \\[2.0ex]C \displaystyle\frac{E^2}{9} &= \displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2 \\[2.0ex]I_0^2 &= \displaystyle\frac{2CE^2}{9L} \\[2.0ex]I_0 &= \sqrt{\displaystyle\frac{2CE^2}{9L}} = \displaystyle\frac{E}{3}\sqrt{\displaystyle\frac{2C}{L}}
\end{aligned}
$$
2. 振動の周期 \(T\)
④式を計算します。
$$ T = 2\pi\sqrt{2LC} $$
3. 電流の式 \(I(t)\)
求めた \(I_0\) と \(\omega\) を \(I(t) = I_0 \sin(\omega t)\) に代入します。
角周波数 \(\omega\) は⑤式より \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2LC}}\) です。
よって、
$$ I(t) = \left( \displaystyle\frac{E}{3}\sqrt{\displaystyle\frac{2C}{L}} \right) \sin\left( \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2LC}} t \right) $$
コンデンサーを「充電済みのバネ」、コイルを「おもり」と考えると、LC回路は「バネ振り子」のようなものです。
- 電流の最大値: バネが蓄えたエネルギーがすべておもりの運動エネルギーに変わったときの速さに対応します。エネルギー保存の式を立てて計算します。
- 周期: バネ振り子の周期がバネの強さとおもりの質量で決まるように、LC振動の周期はコンデンサーの電気容量とコイルの自己インダクタンスで決まります。公式に値を当てはめるだけです。
- 電流の式: 振動の様子を三角関数で表します。今回は、振動の端(バネが一番縮んだ状態)からスタートするので、速度(電流)はsinカーブを描きます。
思考の道筋とポイント
LC回路の振動は、固有振動数 \(f = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) を持ちます。周期 \(T\) は振動数 \(f\) の逆数、すなわち \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\) で求められます。このアプローチは、まず振動の「1秒あたりの回数」を考え、そこから「1回あたりの時間」を導くものです。
具体的な解説と立式
このLC回路の電気容量は \(C’ = 2C\)、自己インダクタンスは \(L\) です。この回路の固有振動数を \(f\) とすると、
$$ f = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC’}} = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{L(2C)}} $$
周期 \(T\) は振動数 \(f\) の逆数なので、
$$ T = \displaystyle\frac{1}{f} $$
$$
\begin{aligned}
T &= \displaystyle\frac{1}{\left( \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{2LC}} \right)} \\[2.0ex]&= 2\pi\sqrt{2LC}
\end{aligned}
$$
この方法は模範解答と同じアプローチであり、周期の公式を直接用いた場合と同じ結果になります。
電流の最大値は \(\displaystyle\frac{E}{3}\sqrt{\displaystyle\frac{2C}{L}}\)、周期は \(2\pi\sqrt{2LC}\)、電流の式は \(I(t) = \displaystyle\frac{E}{3}\sqrt{\displaystyle\frac{2C}{L}} \sin\left(\displaystyle\frac{t}{\sqrt{2LC}}\right)\) です。
一連の計算は、LC振動回路の基本法則(エネルギー保存、周期公式)に則っており、論理的に一貫しています。初期条件から電流の式が \(\sin\) 型になることも物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの直列接続と定常状態:
- 核心: (前半) スイッチを閉じて十分時間が経った直流回路では、コンデンサーは充電を完了し電流を流しません(断線状態)。このとき、直列接続されたコンデンサーには同じ量の電気量が蓄えられます。この \(Q_1=Q_2\) という関係が、電圧の配分(\(V_1:V_2 = \frac{1}{C_1}:\frac{1}{C_2}\))や合成容量の計算の基礎となります。
- 理解のポイント: なぜ電気量が等しくなるのか?それは、コンデンサー間に孤立した導線部分があり、そこの電気量の合計が常にゼロでなければならないからです(電気量保存則)。
- LC回路におけるエネルギー保存則:
- 核心: (後半) 抵抗が無視できるLC回路では、コンデンサーに蓄えられた静電エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) と、コイルに蓄えられた磁気エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) の和が常に一定に保たれます。この法則が、電流や電圧の最大値を求める際の最も重要なツールとなります。
- 理解のポイント: これは力学における「力学的エネルギー保存則」に相当します。静電エネルギーが位置エネルギー、磁気エネルギーが運動エネルギーと対応しており、両者が互いに形を変えながら振動が続くというアナロジーで理解すると良いでしょう。
- LC振動の周期性:
- 核心: (後半) LC回路が示す電気振動の周期は、コイルの自己インダクタンス\(L\)とコンデンサーの電気容量\(C\)のみで決まり、\(T=2\pi\sqrt{LC}\) で与えられます。この公式は必ず覚えておくべき最重要公式の一つです。
- 理解のポイント: \(L\)が大きい(慣性が大きい)ほど、また\(C\)が大きい(容量が大きい)ほど、振動がゆっくりになる(周期が長くなる)という物理的イメージを持つと、公式を忘れにくくなります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンデンサーの並列接続からのLC振動: 今回は直列でしたが、並列に充電したコンデンサーをLC回路に接続するパターンもあります。その場合、各コンデンサーの電圧は等しくなりますが、電気量は異なります。
- RLC回路の減衰振動: 回路に抵抗\(R\)が含まれる場合、エネルギーがジュール熱として消費されるため、振動は時間とともに減衰します。エネルギー保存則は使えず、より高度な解析(微分方程式など)が必要になりますが、定性的な振る舞いを問われることがあります。
- スイッチの切り替えタイミングが異なる問題: 例えば、コイルの電流が最大になった瞬間にスイッチを切り替えるなど、初期条件が異なる問題。その場合は、その瞬間のエネルギー状態(\(U_E=0, U_B=\text{max}\))から次のステップを考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の状態を明確に区別する: 「直流回路での充電過程」と「LC振動回路」のように、問題が複数のフェーズに分かれている場合、それぞれのフェーズでどの物理法則が適用できるかを明確に区別します。
- 「十分な時間が経過」の解釈: この言葉は「直流定常状態」を意味し、「コンデンサーに電流は流れない」と読み替えるのが定石です。
- エネルギーの初期状態を把握する: LC振動を考える際は、\(t=0\)の瞬間にエネルギーがどの形でどれだけ蓄えられているか(コンデンサーの静電エネルギーか、コイルの磁気エネルギーか)を正確に把握することが出発点になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- コンデンサーの直列・並列の混同:
- 誤解: コンデンサーの合成容量の公式を、抵抗の合成抵抗の公式と混同してしまう。(直列なのに並列の式 \(C=C_1+C_2\) を使ってしまうなど)
- 対策: 「コンデンサーは抵抗の逆」と覚えましょう。直列なら逆数の和、並列ならただの和、と機械的に記憶するのが確実です。
- LC振動の周期公式のCやLの値を間違える:
- 誤解: 回路に複数のコンデンサーやコイルがある場合に、周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{LC}\) に代入する\(C\)や\(L\)の値を間違える。
- 対策: 振動に関与している部分だけを抜き出した回路図を自分で描いてみましょう。この問題では、振動しているのは「コンデンサー\(2C\)\)とコイル\(L\)」なので、公式の\(C\)には\(2C\)を代入する必要があります。
- 電流の式の \(\sin\) と \(\cos\) の選択ミス:
- 誤解: 初期条件を考慮せず、安易に \(I=I_0\sin\omega t\) と置いてしまう。
- 対策: 必ず \(t=0\) の状態を確認します。
- コンデンサーの電圧が最大(電荷が最大)から振動が始まる場合 → \(Q(t) = Q_0 \cos\omega t\), \(I(t) = I_0 \sin\omega t\) (電流は0から正の向きに増加)
- 電流が最大から振動が始まる場合 → \(I(t) = I_0 \cos\omega t\), \(Q(t) = Q_0 \sin\omega t\)
この関係を、単振動における「変位と速度」の関係と同じように理解しておきましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーのシーソー: 静電エネルギー\(U_E\)と磁気エネルギー\(U_B\)が乗ったシーソーをイメージします。片方が最大(一番上)のとき、もう片方はゼロ(一番下)です。このシーソーが往復運動するのがLC振動であり、その合計の高さ(全エネルギー)は常に一定に保たれます。
- 回路図の簡略化: スイッチが切り替わった後の回路図を、問題図とは別に自分で描いてみましょう。コンデンサー\(2C\)とコイル\(L\)だけが接続された単純な閉回路を描くことで、どの部品が振動に関わっているかが明確になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電荷の符号を書き込む: 充電完了後、コンデンサーのどちらの極板が正でどちらが負かを回路図に書き込みます。これにより、\(S_2\)を閉じた後に電流がどちらの向きに流れ始めるかを直感的に判断でき、\(\sin\)と\(\cos\)の選択ミスを防げます。
- エネルギーの時間変化グラフ: 横軸に時間、縦軸にエネルギーをとり、\(U_E\)(\(\cos^2\)の形)と\(U_B\)(\(\sin^2\)の形)のグラフを描いてみると、両者のエネルギー交換の様子が視覚的に理解できます。また、その和が常に一定であることも確認できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 合成容量の公式 (\(\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \dots\)):
- 選定理由: (前半) 複数のコンデンサーが接続された回路を、等価な一つのコンデンサーとして扱うことで、問題を単純化するため。
- 適用根拠: コンデンサーの直列接続における「電気量一定」と「電圧の和」という2つの物理法則を、一つの数式にまとめたものです。
- エネルギー保存則 (\(U_E + U_B = \text{一定}\)):
- 選定理由: (後半) 回路の状態(電圧や電流)が時間変化する中で、変化の前後(例えばエネルギーが全てコンデンサーにある状態と、全てコイルにある状態)を結びつける関係式を立てるため。
- 適用根拠: 電磁気学におけるエネルギー保存の原理。抵抗がなければ、エネルギーはジュール熱として失われることなく、形を変えるだけで保存されます。
- 周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{LC}\)):
- 選定理由: (後半) LC回路の振動の周期的な性質を、回路の物理的パラメータ(\(L, C\))と直接結びつけるため。
- 適用根拠: この公式は、LC回路の回路方程式(微分方程式)を解くことによって数学的に導出される厳密な解です。高校物理では、この結果を公式として利用します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (前半) 充電完了時の電気量:
- 戦略: 直流定常状態の回路を解析し、コンデンサー\(2C\)にかかる電圧または全体の電気量を求める。
- フロー(合成容量): ①コンデンサー\(C, 2C\)の合成容量を計算 → ②定常状態では電圧\(E\)が合成容量にかかると考え、全体の電気量\(Q=C_{\text{合成}}E\)を計算 → ③直列接続では各電気量は全体と等しいので、これが答え。
- フロー(電圧配分): ①直列接続では電気量が等しいことから、電圧は容量に反比例することを利用し、電圧比を求める → ②全体の電圧\(E\)を電圧比で配分し、コンデンサー\(2C\)の電圧\(V_2\)を求める → ③\(Q_2 = (2C)V_2\)を計算。
- (後半) LC振動の解析:
- 戦略: エネルギー保存則で最大値を、公式で周期を、初期条件で電流の式を求める。
- フロー: ①\(t=0\)でのコンデンサー\(2C\)の静電エネルギーを計算 → ②電流最大時のコイルの磁気エネルギーの式を立てる → ③エネルギー保存則で両者を等しいと置き、\(I_0\)を求める → ④周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{LC’}\) に \(C’=2C\) を代入して\(T\)を求める → ⑤初期条件(\(t=0\)で\(I=0\), その後\(I>0\))から電流が\(\sin\)型と判断し、\(I=I_0\sin(\omega t)\) に求めた値を代入する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (後半)の\(I_0\)の計算では、\(V_2 = \displaystyle\frac{E}{3}\) をすぐに代入するのではなく、まずは \(I_0 = V_2 \sqrt{\displaystyle\frac{2C}{L}}\) のように文字式の関係を導き、最後に代入すると見通しが良くなります。
- 平方根の計算: \(I_0\)を求める際に \(I_0^2\) から平方根をとりますが、ルートの中身が複雑な分数の場合、分子と分母を分けて \(\sqrt{\frac{A}{B}} = \frac{\sqrt{A}}{\sqrt{B}}\) のように考えると計算しやすくなります。特に、\(E^2\) や \(3^2=9\) のように、ルートの外に出せる項を見逃さないように注意しましょう。
- 公式の適用を再確認: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{LC}\) を使う際、この問題の\(C\)は\(2C\)である、というように、記号の置き換えを間違えていないか、代入する直前に再度確認する習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (前半) 電気量: \(Q_2 = \frac{2CE}{3}\) は、コンデンサー\(C\)の電気量 \(Q_1 = C V_1 = C \cdot \frac{2E}{3} = \frac{2CE}{3}\) と等しくなっており、直列接続の条件(\(Q_1=Q_2\))を満たしていることを確認できます。
- (後半) 電流の式: \(I(t)\) の式に \(t=0\) を代入すると \(\sin(0)=0\) なので \(I=0\) となり、初期条件と一致します。また、\(t\)がわずかに増加すると \(\sin\) は正の値になるので、電流が正の向きに流れ始めるという問題の状況とも一致します。
- 別解との比較:
- (前半)の電気量は「合成容量」と「電圧配分」の2つのアプローチで求め、同じ結果になりました。
- (後半)の周期は「周期の公式」と「固有振動数からの計算」の2つのアプローチで求め、同じ結果になりました。
- このように、異なる道筋をたどっても同じ結論に至ることは、それぞれの解法の正しさと、自身の物理理解の確かさを裏付ける強力な証拠となります。
416 交流
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電力輸送における送電ロスと電圧の関係について問う、非常に実践的で重要なテーマを扱っています。なぜ発電所から家庭に電気が送られる際に、超高電圧に変圧されるのか、その物理的な理由を計算によって明らかにします。
この問題の核心は、「送電電力が一定」という条件下で、送電電圧を変えたときに送電電流と電力損失がどのように変化するかを、電力の公式 \(P=VI\) とジュール熱の公式 \(P_{\text{ロス}}=RI^2\) を用いて定量的に理解することです。
- 発電所から送る電力の大きさは一定。
- 送電する電圧を10倍にする。
- 送電線の抵抗値は変化しない。
- (空欄①) 送電線を流れる電流は何倍になるか。
- (空欄②) 送電線で熱として失われる電力(電力損失)は何倍になるか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電力輸送と送電損失」です。日常生活にも深く関わる物理現象であり、電力の公式を正しく使い分けることが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電力の公式 \(P=VI\): 電力が電圧と電流の積で表されることを理解する。この問題では、発電所が送り出す電力 \(P_{\text{送電}}\) を考える際に使います。
- ジュール熱(電力損失)の公式 \(P_{\text{ロス}}=RI^2\): 送電線の抵抗によって熱として失われる電力が、抵抗値と電流の2乗に比例することを理解する。
- 問題文の条件整理: 「送電電力が一定」という条件を数式で \(P_{\text{送電}} = \text{一定}\) と表現し、これを基点に思考を進めることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず(空欄①)について、電圧を変える前と後で、送電電力が等しいという関係式を立てます。これにより、送電電圧と送電電流の間の関係が導かれ、電流が何倍になるかがわかります。
- 次に(空欄②)について、(空欄①)で求めた電流の変化を用いて、送電線の抵抗で発生する電力損失が何倍になるかを計算します。電力損失は電流の2乗に比例することから、変化の割合を求めます。
空欄①
思考の道筋とポイント
送電する電圧を10倍にしたとき、送電線を流れる電流が何倍になるかを求める問題です。ここでの最大のポイントは、問題文にある「発電所から同じ大きさの電力を送るとき」という条件です。つまり、送電電圧 \(V\) と送電電流 \(I\) の積である送電電力 \(P_{\text{送電}} = VI\) が、電圧を変える前後で一定に保たれる、ということです。
この設問における重要なポイント
- 送電電力は一定: \(P_{\text{送電}} = VI = \text{一定}\) という条件がすべての出発点です。
- 電圧と電流は反比例: 上記の条件から、送電電圧 \(V\) を大きくすると、送電電流 \(I\) は小さくならなければならない、という反比例の関係が導かれます。
具体的な解説と立式
送電電圧を10倍にする前の電圧を \(V\)、電流を \(I\) とします。このときの送電電力を \(P\) とすると、
$$ P = VI \quad \cdots ① $$
送電電圧を10倍にした後の電圧を \(V’\)、電流を \(I’\) とします。問題の条件より、
$$ V’ = 10V $$
送電電力は変わらないので、変化後の送電電力 \(P’\) は \(P\) に等しくなります。
$$ P’ = V’I’ = P \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電力: \(P=VI\)
①式と②式から、
$$ VI = V’I’ $$
この式に \(V’ = 10V\) を代入します。
$$ VI = (10V)I’ $$
両辺を \(V\) で割ると(\(V \neq 0\))、
$$ I = 10I’ $$
これを \(I’\) について解くと、
$$ I’ = \displaystyle\frac{1}{10}I $$
したがって、送電線を流れる電流は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になります。
発電所が送り出す電気エネルギーの総量(電力)は決まっています。電力は「電圧 × 電流」で計算されるので、この掛け算の結果を一定に保ったまま、電圧だけを10倍にするには、相方である電流を \(\displaystyle\frac{1}{10}\) にするしかありません。
送電する電圧を10倍にすると、送電線を流れる電流は \(\displaystyle\frac{1}{10}\) 倍になります。
送電電力が一定という条件下では、電圧と電流は反比例の関係にあるため、この結果は物理的に妥当です。
空欄②
思考の道筋とポイント
送電線の抵抗によって熱として失われる電力(電力損失)が何倍になるかを求める問題です。電力損失は、送電線の抵抗 \(r\) と、そこを流れる電流 \(I\) によって決まります。この電力損失は、ジュール熱の公式 \(P_{\text{ロス}} = rI^2\) で計算されます。送電線の抵抗値 \(r\) は変化しないので、電力損失が何倍になるかは、電流が何倍になるかだけで決まります。
この設問における重要なポイント
- 電力損失の公式: 送電線での損失は、\(P_{\text{ロス}} = rI^2\) で計算します。\(P=VI\) や \(P=\displaystyle\frac{V^2}{r}\) ではなく、電流 \(I\) を主体としたこの式を使うのがポイントです。なぜなら、送電線の両端にかかる電圧は不明であり、最も確実な変数は送電線を流れる電流 \(I\) だからです。
- 損失は電流の2乗に比例: 抵抗値 \(r\) が一定なので、電力損失は電流 \(I\) の2乗に比例します。
具体的な解説と立式
送電線の抵抗値を \(r\) とします。
電圧を10倍にする前の送電電流は \(I\) なので、このときの電力損失を \(P_{\text{ロス}}\) とすると、
$$ P_{\text{ロス}} = rI^2 \quad \cdots ③ $$
電圧を10倍にした後の送電電流は \(I’ = \displaystyle\frac{1}{10}I\) です。このときの電力損失を \(P’_{\text{ロス}}\) とすると、
$$ P’_{\text{ロス}} = r(I’)^2 \quad \cdots ④ $$
求めたいのは、電力損失が何倍になるか、つまり比 \(\displaystyle\frac{P’_{\text{ロス}}}{P_{\text{ロス}}}\) です。
使用した物理公式
- ジュール熱(電力損失): \(P = RI^2\)
④式に \(I’ = \displaystyle\frac{1}{10}I\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P’_{\text{ロス}} &= r\left(\displaystyle\frac{1}{10}I\right)^2 \\[2.0ex]&= r\left(\displaystyle\frac{1}{100}I^2\right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{100} (rI^2)
\end{aligned}
$$
③式より \(rI^2 = P_{\text{ロス}}\) なので、
$$ P’_{\text{ロス}} = \displaystyle\frac{1}{100} P_{\text{ロス}} $$
したがって、失われる電力は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍になります。
送電線で発生する熱(電力損失)は、流れる電流の「2乗」に比例します。(空欄①)で、電流が \(\displaystyle\frac{1}{10}\) になることがわかりました。したがって、電力損失は \((\displaystyle\frac{1}{10})^2 = \displaystyle\frac{1}{100}\) になります。つまり、電圧を10倍にするだけで、送電途中で無駄になる電力を100分の1にまで減らせる、ということです。
送電線で熱として失われる電力は \(\displaystyle\frac{1}{100}\) 倍になります。
これが、発電所から超高電圧で送電する最大の理由です。電圧を高くすればするほど、送電電流を小さくでき、送電ロスを電流の2乗で劇的に減らすことができるのです。この結果は、実際の電力輸送の基本原理と一致しており、物理的に極めて重要かつ妥当な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 送電電力の保存 (\(P=VI=\text{一定}\)):
- 核心: この問題の出発点です。発電所が送り出す電力(単位時間あたりのエネルギー)が一定であるという条件下では、送電電圧\(V\)と送電電流\(I\)の積は常に同じ値になります。この関係から、電圧を\(n\)倍にすると、電流は\(\displaystyle\frac{1}{n}\)倍になるという反比例の関係が導かれます。これが空欄①の答えを導くための法則です。
- 理解のポイント: 変圧器(トランス)は、理想的には電力を変えずに電圧と電流の比率を変換する装置です。「電力」という物理量が保存される、という視点が重要です。
- ジュール熱による電力損失 (\(P_{\text{ロス}}=rI^2\)):
- 核心: 送電線自体が持つ抵抗\(r\)によって、電気エネルギーの一部が熱(ジュール熱)に変わって失われます。この電力損失の大きさは、送電電流\(I\)の2乗に比例します。したがって、送電電流をわずかにでも減らすことができれば、電力損失を劇的に削減できます。これが空欄②の答えを導くための法則です。
- 理解のポイント: なぜ電力損失の計算に \(P=VI\) や \(P=\frac{V^2}{r}\) ではなく \(P=rI^2\) を使うのか。それは、送電線を流れる「電流\(I\)」が、送電線全体で共通の値であり、最も計算の基準にしやすいからです。送電線の両端にかかる電圧(電圧降下)は通常不明なため、この式が最も適しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 具体的な数値計算問題: 例えば「100万kWの電力を、50万Vで送電する。送電線の抵抗が20Ωのとき、電力損失は何kWか」といった、具体的な数値を代入して計算する問題。基本的な考え方は全く同じです。
- 変圧器(トランス)のコイルの巻数比との関連問題: 変圧器の電圧比はコイルの巻数比に等しい(\(\frac{V_1}{V_2} = \frac{N_1}{N_2}\))という関係と組み合わせて、必要な巻数比を求めさせる問題。
- 送電効率を問う問題: 送電効率は「\(\displaystyle\frac{\text{受け取る電力}}{\text{送る電力}} = \displaystyle\frac{P_{\text{送電}} – P_{\text{ロス}}}{P_{\text{送電}}}\)」で定義されます。電圧を上げると電力損失\(P_{\text{ロス}}\)が減るため、送電効率が向上することを計算させる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「送る電力」と「失われる電力」を区別する: 問題文で使われている「電力」という言葉が、発電所が送り出す電力(\(P=VI\))なのか、送電線で失われる電力(\(P=rI^2\))なのかを明確に区別します。これが最大のポイントです。
- 不変量(変わらないもの)は何かを探す: この問題では「送電電力」と「送電線の抵抗値」が不変量です。物理の問題では、変化の前後で何が保存されるか、何が一定に保たれるかを見抜くことが解法の鍵となります。
- 比を問われていることを意識する: 「何倍になるか」という問いは、変化前と変化後の量の比を求めることを意味します。具体的な数値を求める必要はなく、文字式のまま比を計算する方が簡単な場合が多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電力の公式の混同:
- 誤解: 電力損失を計算する際に、誤って \(P_{\text{ロス}}=VI\) や \(P_{\text{ロス}}=\displaystyle\frac{V^2}{r}\) を使ってしまう。
- 対策: \(V\)は送電電圧であり、送電線の両端にかかる電圧(電圧降下)ではありません。したがって、これらの公式は直接使えません。電力損失は「送電線を流れる電流\(I\)によって発生するジュール熱」なので、\(P_{\text{ロス}}=rI^2\) を使う、と強く意識しましょう。
- 電圧と電力損失の関係の勘違い:
- 誤解: 「電圧を10倍にしたら、電力損失も10倍や100倍になるのでは?」と直感的に考えてしまう。
- 対策: 電圧と電力損失は直接関係していません。両者をつなぐ仲介役が「電流」です。「電圧を上げる →(送電電力が一定なので)電流が減る →(電力損失は電流の2乗に比例するので)損失が激減する」という2段階の論理的なつながりを常に意識しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 水の流れのアナロジー: 電力を「一定量の水を運ぶ仕事」、電圧を「水圧」、電流を「水流の太さ」、送電線の抵抗を「パイプの摩擦」とイメージします。
- 同じ量の水を運ぶとき、水圧を高くすれば(高電圧)、細い水流で済みます(小電流)。
- パイプの摩擦によるエネルギー損失は、水流が太いほど(大電流)、激しくなります。
- したがって、水圧を上げて(昇圧)、水流を細くして(小電流化)送るのが、最もエネルギー効率が良い、とイメージできます。
- 簡単な回路図を描く: 発電所(電源)、変圧器、送電線(抵抗\(r\))、消費地(負荷)を簡単なブロック図で描いてみましょう。そして、各部分での電力(\(P_{\text{送電}}\)、\(P_{\text{ロス}}\)など)を書き込むことで、全体像を整理できます。
- 水の流れのアナロジー: 電力を「一定量の水を運ぶ仕事」、電圧を「水圧」、電流を「水流の太さ」、送電線の抵抗を「パイプの摩擦」とイメージします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電力の公式 (\(P=VI\)):
- 選定理由: (空欄①) 発電所が送り出す「仕事率」としての電力を表現するため。この電力は、エネルギー供給源の能力を示しており、送電の条件として与えられています。
- 適用根拠: 電力の定義そのものです。単位時間あたりに運ばれる電気エネルギーは、電位差(電圧)と電荷の流れ(電流)の積で与えられます。
- ジュール熱の公式 (\(P=rI^2\)):
- 選定理由: (空欄②) 送電線という「抵抗」で消費され、熱に変わってしまう「損失」としての電力を表現するため。
- 適用根拠: 導体中の自由電子が原子と衝突することで運動エネルギーが熱エネルギーに変換される現象(ジュール熱)を数式化したものです。この損失は、電流を運ぶ荷電粒子の運動によって生じるため、電流\(I\)を基準に記述するのが最も本質的です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (空欄①) 電流の変化:
- 戦略: 送電電力が一定であるという条件から、電圧と電流の関係式を立てる。
- フロー: ①変化前の送電電力を \(P=VI\) とおく → ②変化後の電圧を \(V’=10V\)、電流を \(I’\) とし、送電電力を \(P’=V’I’\) とおく → ③\(P=P’\) より \(VI = V’I’\) を立式 → ④\(V’=10V\) を代入し、\(I’\) が \(I\) の何倍になるかを解く。
- (空欄②) 電力損失の変化:
- 戦略: 電流の変化が電力損失にどう影響するかを、ジュール熱の公式を用いて計算する。
- フロー: ①変化前の電力損失を \(P_{\text{ロス}}=rI^2\) とおく → ②変化後の電流 \(I’=\frac{1}{10}I\) を用い、変化後の電力損失を \(P’_{\text{ロス}}=r(I’)^2\) とおく → ③\(I’\)を代入して \(P’_{\text{ロス}}\) を \(P_{\text{ロス}}\) で表し、何倍になるかを求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字を使って比を考える: この問題のように「〜倍になるか」を問う問題では、具体的な数値を無理に設定せず、\(V, I, r\) などの文字を使って計算を進めるのが最も確実で早いです。
- 変化前と変化後を明確に区別する: 電圧\(V\)と\(V’\)、電流\(I\)と\(I’\)のように、ダッシュ(’)をつけるなどして、変化の前の量と後の量を明確に区別して記述することで、混乱を防ぎます。
- 2乗の計算を忘れない: 電力損失は電流の「2乗」に比例します。電流が\(\frac{1}{10}\)倍になったからといって、損失も\(\frac{1}{10}\)倍、と早合点しないように注意しましょう。\((\frac{1}{10})^2 = \frac{1}{100}\) という計算を確実に行うことが重要です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 「電圧を10倍にすると、電力損失は100分の1になる」という結果は、非常に劇的な効果を示しています。これは、私たちが日常生活で使う電気が、発電所から非常に高い電圧(例:50万ボルト)で送られてくる理由を明確に説明しています。もしこの効果が小さければ、長距離の送電は現実的ではないかもしれません。得られた結果が、現実世界の技術の根拠となっていることを理解することで、解答の妥当性を確信できます。
- 極端なケースを考えてみる:
- もし電圧を100倍にしたらどうなるか?電流は\(\frac{1}{100}\)倍になり、電力損失は\((\frac{1}{100})^2 = \frac{1}{10000}\)倍、つまり1万分の1になります。このように、電圧を上げれば上げるほど、損失が急激に減っていく関係が成り立っていることを確認することで、法則への理解が深まります。
417 LC並列回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この解説は、模範解答とは一部異なる方針で進めます。主な相違点は以下の通りです。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- (1) コイル・コンデンサーの電流の導出: 模範解答では、最大値を求めてから位相をずらす方法を取っていますが、本解説ではより本質的で応用範囲の広い「微分・積分の関係」を用いる方法をメインの解法として採用します。最大値と位相差の公式を用いる方法は別解として扱います。
- (3) インピーダンスの導出: 模範解答では \(I_0\) と \(V_0\) の関係式から求めていますが、本解説ではより一般的な並列回路のインピーダンスの公式(アドミタンスの逆数)を用いて導出する方法を別解として追加し、解説の多角性を高めます。
- なぜこの方針を取るか
- 微分・積分の利用: 電圧と電流の関係 \(V=L\frac{dI}{dt}\) や \(I=\frac{dQ}{dt}=C\frac{dV}{dt}\) は、コイルとコンデンサーの動作を記述する最も基本的な法則です。この関係から電流の式を導出する経験は、表面的な公式暗記から脱却し、物理現象への深い理解を促す上で非常に教育的価値が高いと判断しました。
- アドミタンスの導入: 並列回路の合成インピーダンスを求める際には、各素子の「通りやすさ」であるアドミタンス(インピーダンスの逆数)の和を考えるのが定石です。この考え方を紹介することで、より複雑な並列回路問題にも対応できる応用力を養うことを目指します。
- 結果への影響
- 計算途中のアプローチは異なりますが、最終的に得られる物理的な結論(各電流の式、インピーダンス、共振時の電流など)は模範解答と一致します。
この問題は、コイルとコンデンサーを並列に接続した「LC並列回路」の性質を問う問題です。各素子を流れる電流の導出から、回路全体のインピーダンス、そして並列共振という特有の現象まで、段階的に理解を深めていく構成になっています。
この問題の核心は、並列回路の特性(各素子にかかる電圧が等しい)を理解した上で、コイルとコンデンサーで電流の位相が正反対になることを把握し、それらがどのように合成(打ち消し合い)されるかを分析することです。
- 図1: LC並列回路
- 交流電源の電圧: \(V = V_0 \sin \omega t\)
- 回路素子: 自己インダクタンス\(L\)のコイル、電気容量\(C\)のコンデンサー
- 図2: RLC並列回路
- (5)で追加: 抵抗値\(R\)の抵抗
- (5)の条件: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)(共振条件)
- (1) コイルを流れる電流 \(I_L\) とコンデンサーを流れる電流 \(I_C\) の瞬時値の式。
- (2) 電源を流れる電流 \(I\) の瞬時値の式。
- (3) 電流の最大値 \(I_0\) と電圧の最大値 \(V_0\) の関係式、および回路のインピーダンス \(Z\)。
- (4) \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) のときの電源を流れる電流 \(I\)。
- (5) 図2の回路で \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) のときの、コンデンサーにかかる電圧の瞬時値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「LC並列回路と並列共振」です。直列回路とは異なる並列回路の電流の合成やインピーダンスの考え方を学ぶことが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 並列回路の電圧: 並列に接続された各素子にかかる電圧は、すべて電源電圧に等しい。
- キルヒホッフの電流則: 回路の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出す電流の和は等しい。この問題では、電源から流れる電流 \(I\) は、コイルの電流 \(I_L\) とコンデンサーの電流 \(I_C\) の和 (\(I = I_L + I_C\)) となります。
- コイル・コンデンサーの電圧・電流関係:
- コイル: \(V = L\displaystyle\frac{dI_L}{dt}\)
- コンデンサー: \(I_C = \displaystyle\frac{dQ}{dt} = C\displaystyle\frac{dV}{dt}\)
- 並列共振: LC並列回路で \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) となるとき、コイルとコンデンサーを流れる電流が互いに打ち消し合い、電源から流れ出す電流が0になる現象。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、並列回路の性質からコイルとコンデンサーに電源電圧 \(V\) がかかることを利用し、それぞれの電圧・電流関係式(微分・積分)から \(I_L\) と \(I_C\) を求めます。
- (2)では、キルヒホッフの法則に従い、(1)で求めた \(I_L\) と \(I_C\) を単純に足し合わせて、電源を流れる電流 \(I\) を求めます。
- (3)では、(2)で求めた \(I\) の式の振幅部分から \(I_0\) と \(V_0\) の関係を導き、インピーダンス \(Z = \frac{V_0}{I_0}\) を計算します。
- (4)では、(2)の電流の式に共振条件 \(\omega L = \frac{1}{\omega C}\) を代入し、電流がどうなるかを見ます。
- (5)では、(4)の結果を利用して、抵抗を追加した並列共振回路がどのように振る舞うかを考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
コイルとコンデンサーは並列に接続されているため、両者にかかる電圧は等しく、電源電圧 \(V = V_0 \sin \omega t\) となります。この電圧 \(V\) をもとに、コイルとコンデンサーそれぞれの性質を表す基本法則を適用して、電流 \(I_L\) と \(I_C\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 並列回路の電圧: コイルにかかる電圧も、コンデンサーにかかる電圧も、ともに \(V = V_0 \sin \omega t\) である。
- コイルの性質: 電圧と電流の関係は \(V = L\displaystyle\frac{dI_L}{dt}\)。この微分方程式を解く(積分する)ことで \(I_L\) を求める。
- コンデンサーの性質: 電流と電圧の関係は \(I_C = C\displaystyle\frac{dV}{dt}\)。この式に \(V\) を代入し、微分することで \(I_C\) を求める。
具体的な解説と立式
コンデンサーの電流 \(I_C\)
コンデンサーを流れる電流 \(I_C\) は、\(I_C = C\displaystyle\frac{dV}{dt}\) で与えられます。
$$
\begin{aligned}
I_C &= C\displaystyle\frac{d}{dt}(V_0 \sin \omega t) \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
コイルの電流 \(I_L\)
コイルにかかる電圧と電流の関係は \(V = L\displaystyle\frac{dI_L}{dt}\) です。これを変形すると、
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{dI_L}{dt} &= \displaystyle\frac{V}{L} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{V_0}{L} \sin \omega t
\end{aligned}
$$
この両辺を \(t\) で積分して \(I_L\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_L &= \int \left( \displaystyle\frac{V_0}{L} \sin \omega t \right) dt \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
(ただし、交流電流の平均値は0であるため、積分定数は0とします。)
使用した物理公式
- コンデンサーの電流: \(I_C = C\displaystyle\frac{dV}{dt}\)
- コイルの電圧: \(V = L\displaystyle\frac{dI_L}{dt}\)
- 三角関数の微分・積分
①式を計算して \(I_C\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_C &= C \cdot V_0 \cdot (\cos \omega t) \cdot \omega \\[2.0ex]&= \omega C V_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
②式を計算して \(I_L\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_L &= \displaystyle\frac{V_0}{L} \int \sin \omega t \, dt \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{V_0}{L} \left( -\displaystyle\frac{1}{\omega} \cos \omega t \right) \\[2.0ex]&= -\displaystyle\frac{V_0}{\omega L} \cos \omega t
\end{aligned}
$$
- コンデンサー: コンデンサーを流れる電流は、電圧の変化率(グラフの傾き)に比例します。電圧が \(\sin\) カーブなので、その傾きは \(\cos\) カーブになります。
- コイル: コイルに発生する電圧は、電流の変化率に比例します。逆に、電流を求めるには電圧を「積分」する必要があります。\(\sin\) を積分すると \(-\cos\) になります。
思考の道筋とポイント
コイルとコンデンサーのリアクタンス \(X_L = \omega L\), \(X_C = \frac{1}{\omega C}\) を用いて、まず電流の最大値(振幅)を求めます。その後、コイルでは電流が電圧より位相が \(\frac{\pi}{2}\) 遅れ、コンデンサーでは \(\frac{\pi}{2}\) 進むという性質を利用して、瞬時値を求めます。
具体的な解説と立式
電流の最大値は、オームの法則 \(I_0 = \frac{V_0}{X}\) で求められます。
コイルを流れる電流の最大値 \(I_{L0}\) は、
$$ I_{L0} = \displaystyle\frac{V_0}{X_L} = \displaystyle\frac{V_0}{\omega L} $$
コンデンサーを流れる電流の最大値 \(I_{C0}\) は、
$$ I_{C0} = \displaystyle\frac{V_0}{X_C} = \displaystyle\frac{V_0}{1/(\omega C)} = \omega C V_0 $$
電圧 \(V = V_0 \sin \omega t\) に対して、
- \(I_L\) は位相が \(\frac{\pi}{2}\) 遅れるので、\(I_L = I_{L0} \sin(\omega t – \frac{\pi}{2})\)。
- \(I_C\) は位相が \(\frac{\pi}{2}\) 進むので、\(I_C = I_{C0} \sin(\omega t + \frac{\pi}{2})\)。
三角関数の公式 \(\sin(\theta – \frac{\pi}{2}) = – \cos\theta\) と \(\sin(\theta + \frac{\pi}{2}) = \cos\theta\) を用いて変形します。
$$
\begin{aligned}
I_L &= \displaystyle\frac{V_0}{\omega L} \sin(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2}) \\[2.0ex]&= -\displaystyle\frac{V_0}{\omega L} \cos \omega t
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
I_C &= \omega C V_0 \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2}) \\[2.0ex]&= \omega C V_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
この方法は模範解答と同じアプローチであり、微分・積分を用いた方法と同じ結果になります。
コイルの電流は \(I_L = -\displaystyle\frac{V_0}{\omega L} \cos \omega t\)、コンデンサーの電流は \(I_C = \omega C V_0 \cos \omega t\) となります。
\(I_L\) と \(I_C\) がともに \(\cos\) 型の関数で、符号が逆であることから、2つの電流は位相が \(\pi\) (180°) ずれていることがわかります。これは並列回路の重要な特徴です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電源から流れ出す電流 \(I\) は、キルヒホッフの第一法則(電流則)により、コイルに流れる電流 \(I_L\) とコンデンサーに流れる電流 \(I_C\) の和となります。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの電流則: \(I = I_L + I_C\)。並列回路では、各枝路の電流の瞬時値の和が全体の電流の瞬時値になります。
具体的な解説と立式
(1)で求めた \(I_L\) と \(I_C\) の式を足し合わせます。
$$ I = I_L + I_C \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第一法則
$$
\begin{aligned}
I &= \left( -\displaystyle\frac{V_0}{\omega L} \cos \omega t \right) + \left( \omega C V_0 \cos \omega t \right) \\[2.0ex]&= \left( \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right) V_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
電源を流れる電流は \(I = \left( \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right) V_0 \cos \omega t\) となります。
コイルとコンデンサーの電流が互いに打ち消し合う形で合成されることが、この式から明確にわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた電流 \(I\) の瞬時値の式から、電流の最大値 \(I_0\)(振幅)を読み取ります。インピーダンス \(Z\) は、定義に従い \(Z = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\) で計算します。
この設問における重要なポイント
- 最大値(振幅): \(A \cos \omega t\) という形の振動の最大値(振幅)は \(|A|\) です。
- インピーダンスの定義: \(Z = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\)。電圧の最大値と電流の最大値の比です。
具体的な解説と立式
(2)で求めた電流の式 \(I = \left( \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right) V_0 \cos \omega t\) より、電流の最大値 \(I_0\) は、
$$ I_0 = \left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right| V_0 \quad \cdots ④ $$
(電流の最大値は正の値なので、絶対値をつけます。)
インピーダンス \(Z\) は、この関係を \(Z = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\) の形に変形して求めます。
$$ Z = \displaystyle\frac{V_0}{I_0} \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- インピーダンスの定義
④式が \(I_0\) と \(V_0\) の関係式です。
次に、⑤式に④式の関係を代入して \(Z\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Z &= \displaystyle\frac{V_0}{I_0} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{V_0}{\left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right| V_0} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{\left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right|}
\end{aligned}
$$
分母分子に \(\omega L\) を掛けて整理すると、
$$
\begin{aligned}
Z &= \displaystyle\frac{\omega L}{\left| \omega L \left( \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right) \right|} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{\omega L}{\left| \omega^2 LC – 1 \right|}
\end{aligned}
$$
模範解答の形に合わせるなら、絶対値の中身の符号を反転させても値は変わらないので、
$$ Z = \displaystyle\frac{\omega L}{\left| 1 – \omega^2 LC \right|} $$
となります。
思考の道筋とポイント
並列回路では、インピーダンスの逆数であるアドミタンス \(Y\) を用いると計算が簡単になる場合があります。アドミタンスは「電流の流れやすさ」を表し、並列回路の合成アドミタンスは各部分のアドミタンスの和で与えられます(複素数表現)。高校範囲では、電流のベクトル和を考えることに相当します。
具体的な解説と立式
コイルのアドミタンス \(Y_L\)、コンデンサーのアドミタンス \(Y_C\) は、それぞれのリアクタンスの逆数です。
$$ Y_L = \displaystyle\frac{1}{X_L} = \displaystyle\frac{1}{\omega L} $$
$$ Y_C = \displaystyle\frac{1}{X_C} = \omega C $$
\(I_L\) と \(I_C\) は位相が \(\pi\) ずれているため、回路全体のアドミタンス \(Y\) の大きさは、それぞれの大きさの差の絶対値となります。
$$ Y = |Y_C – Y_L| = \left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right| $$
回路全体のインピーダンス \(Z\) は、合成アドミタンス \(Y\) の逆数なので、
$$ Z = \displaystyle\frac{1}{Y} = \displaystyle\frac{1}{\left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right|} $$
これはメインの解法と同じ結果を与えます。
電流の最大値の関係は \(I_0 = \left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right| V_0\)、インピーダンスは \(Z = \displaystyle\frac{1}{\left| \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right|}\) です。
インピーダンスの式を見ると、分母が \(0\) になり得ることがわかります。これはインピーダンスが無限大になる、特殊な状況(並列共振)が存在することを示唆しています。
問(4)
思考の道筋とポイント
条件 \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) は、コイルのリアクタンスとコンデンサーのリアクタンスが等しくなる「共振条件」です。この条件を(2)で求めた電流 \(I\) の式に代入するだけで、答えが求まります。
この設問における重要なポイント
- 並列共振: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) のとき、LC並列回路は並列共振の状態になります。
具体的な解説と立式
(2)で求めた電流の式は、
$$ I = \left( \omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right) V_0 \cos \omega t $$
ここに、条件 \(\omega C = \displaystyle\frac{1}{\omega L}\) を代入します。
使用した物理公式
- (2)で導出した電流の式
$$
\begin{aligned}
I &= \left( \displaystyle\frac{1}{\omega L} – \displaystyle\frac{1}{\omega L} \right) V_0 \cos \omega t \\[2.0ex]&= 0 \times V_0 \cos \omega t \\[2.0ex]&= 0
\end{aligned}
$$
電源を流れる電流は \(0\) になります。
これは、コイルを流れる電流 \(I_L\) とコンデンサーを流れる電流 \(I_C\) が、大きさが等しく向きが正反対になるため、互いに完全に打ち消し合ってしまうからです。この結果、電源から見ると、LC並列部分は電流を全く流さない「断線」状態のように見えます。これが並列共振の最も重要な特徴です。
問(5)
思考の道筋とポイント
図2の回路は、抵抗 \(R\) と、図1のLC並列回路が、電源に対して直列に接続された形になっています。
(4)で見たように、共振条件 \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) が満たされるとき、LC並列部分のインピーダンスは無限大になり、電流を全く通しません。この性質を利用して、回路全体がどのように振る舞うかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 並列共振時のLC部分の振る舞い: (4)の結果から、LC並列部分は電流を全く流さない(インピーダンス無限大)。
- 直列回路の電流: 回路の一部にインピーダンスが無限大の部分があれば、回路全体に電流は流れない。
- 抵抗での電圧降下: 電流が流れなければ、抵抗 \(R\) での電圧降下は \(V_R = RI = 0\) となる。
具体的な解説と立式
共振条件 \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) が成り立っているため、(4)よりLC並列部分には電流が流れません。
図2の回路全体を見ると、抵抗\(R\)とLC並列部分が直列になっています。LC並列部分が電流を全く通さないので、回路全体を流れる電流も \(0\) となります。
したがって、抵抗 \(R\) を流れる電流も \(0\) です。
抵抗 \(R\) での電圧降下 \(V_R\) は、オームの法則より、
$$ V_R = R \times 0 = 0 $$
キルヒホッフの第二法則(電圧則)を考えると、電源電圧 \(V\) は、抵抗での電圧降下 \(V_R\) と、LC並列部分にかかる電圧 \(V_{LC}\) の和に等しくなります。
$$ V = V_R + V_{LC} $$
コンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) は、並列接続なので \(V_{LC}\) に等しいです。
$$ V_C = V_{LC} $$
使用した物理公式
- 並列共振の性質
- オームの法則: \(V=RI\)
- キルヒホッフの第二法則
$$
\begin{aligned}
V &= 0 + V_{LC} \\[2.0ex]V_{LC} &= V
\end{aligned}
$$
したがって、コンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) は、
$$
\begin{aligned}
V_C &= V_{LC} \\[2.0ex]&= V \\[2.0ex]&= V_0 \sin \omega t
\end{aligned}
$$
コンデンサーにかかる電圧の瞬時値は \(V_0 \sin \omega t\) となります。
並列共振によってLC部分が電流を堰き止める「ダム」のような役割を果たすため、抵抗には全く電流が流れず、電圧もかかりません。その結果、電源の電圧がすべてLC部分(つまりコンデンサー)にかかることになります。この現象は、特定の周波数の信号だけを遮断するフィルタ(バンドストップフィルタ)として応用されています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 並列回路の電圧共通性:
- 核心: 並列に接続された素子には、どの瞬間においても同じ電圧がかかります。この問題では、コイルとコンデンサーに常に電源電圧 \(V = V_0 \sin \omega t\) がかかる、という点がすべての解析の出発点です。
- 理解のポイント: 直列回路では「電流が共通」、並列回路では「電圧が共通」という基本原則を、常に意識することが重要です。
- キルヒホッフの電流則(電流の合成):
- 核心: 回路の合流点・分岐点では、電流が足し合わされます。並列回路において、電源から流れ出す全電流 \(I\) は、各枝路を流れる電流 \(I_L, I_C\) の和 (\(I = I_L + I_C\)) で与えられます。
- 理解のポイント: この「和」は、瞬時値の代数的な和です。\(I_L\) と \(I_C\) は位相が逆なので、実際には打ち消し合う形になります。これは、力学で逆向きの2つの力を合成するのと同じです。
- 並列共振:
- 核心: 特定の周波数(共振周波数 \(\omega_0 = \frac{1}{\sqrt{LC}}\))において、コイルのリアクタンスとコンデンサーのリアクタンスが等しくなり(\(\omega_0 L = \frac{1}{\omega_0 C}\))、コイルを流れる電流とコンデンサーを流れる電流の振幅が等しくなります。この2つの電流は位相が正反対であるため、互いに完全に打ち消し合い、電源から流れ出す電流が \(0\) になります。
- 理解のポイント: 並列共振時、回路は外部(電源)から見ると「インピーダンスが無限大」の状態になります。これは、直列共振時に「インピーダンスが最小」になるのとは対照的な現象であり、両者の違いを明確に理解しておく必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC並列回路: 抵抗、コイル、コンデンサーが3つ並列に接続された回路。電源電流は \(I = I_R + I_L + I_C\) となりますが、\(I_L\)と\(I_C\)が逆位相、\(I_R\)がそれらと\(\frac{\pi}{2}\)ずれた位相になるため、電流の合成にはベクトル図(フェーザ図)を用いた幾何学的な計算が必要になります。
- フィルタ回路: 並列共振回路は、共振周波数の信号電流だけを通さない「バンドストップフィルタ(ノッチフィルタ)」として機能します。特定の周波数のノイズを除去する回路などに応用されます。このフィルタ特性を問う問題が出ることがあります。
- アンテナの同調回路: ラジオのアンテナ回路は、LC並列回路の一種の応用です。特定の放送局の周波数で共振させ、その周波数の信号だけを強く受信する仕組みを理解する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- まず回路の接続形態を確認: 直列か、並列か、あるいはその組み合わせか。これにより、電圧・電流のどちらが共通かを判断します。
- 各位相関係を思い出す: 電圧を基準(\(\sin\))としたとき、抵抗の電流は\(\sin\)、コンデンサーの電流は\(\cos\)、コイルの電流は\(-\cos\)になる、という関係を即座に思い出せるようにしておきます。
- 電流の合成はベクトル和(瞬時値の和): 並列回路の全電流を求める際は、各電流の最大値を単純に足すのではなく、位相を考慮した瞬時値の和(またはベクトル和)で計算することを徹底します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 並列回路のインピーダンスの計算ミス:
- 誤解: 直列回路のインピーダンスの公式 \(Z = \sqrt{R^2 + (X_L-X_C)^2}\) を、並列回路にも適用しようとしてしまう。
- 対策: 並列回路のインピーダンスは、直列回路ほど単純ではありません。原則として、各枝路の電流を求めて合成し、\(Z = \frac{V_0}{I_0}\) の定義から求める、という手順を踏むのが最も安全です。または、アドミタンス(インピーダンスの逆数)の考え方を使うのが定石です。
- 並列共振と直列共振の混同:
- 誤解: 並列共振なのに、インピーダンスが最小(直列共振の性質)になると勘違いする。
- 対策: 「直列共振はインピーダンス最小で電流最大」「並列共振はインピーダンス無限大で電流ゼロ」と、対比させて明確に覚えましょう。直列は「通りやすい」、並列は「通さない」とイメージすると良いです。
- 絶対値の付け忘れ:
- 誤解: (3)で電流の最大値 \(I_0\) やインピーダンス \(Z\) を求める際に、絶対値を付け忘れる。
- 対策: 電流の最大値(振幅)やインピーダンスは、物理的に必ず正の値です。式の中に引き算(例: \(\omega C – \frac{1}{\omega L}\))が含まれる場合、その結果が負になる可能性があるので、必ず絶対値をつける習慣をつけましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電流のベクトル図(フェーザ図): この問題では、電圧ベクトル\(V\)を基準(x軸正方向)に取ると、コンデンサーの電流ベクトル\(I_C\)はy軸正方向、コイルの電流ベクトル\(I_L\)はy軸負方向を向きます。電源電流\(I\)のベクトルは、この2つのベクトルの和になります。この図を描けば、\(I_L\)と\(I_C\)が打ち消し合うこと、共振時に和がゼロになることが一目瞭然です。
- エネルギーのキャッチボール: 並列共振時、電源からのエネルギー供給はゼロになりますが、コイルとコンデンサーの間ではエネルギーのやり取り(キャッチボール)が続いています。コンデンサーの静電エネルギーがコイルの磁気エネルギーに、そしてまたその逆へ、とエネルギーが往復しているイメージを持つと、なぜ電源電流がゼロでも振動が維持されるのかが理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 基準ベクトル: 電圧共通の並列回路では、電圧ベクトルを基準(x軸)に描くのが定石です。
- ベクトルの長さ: 各電流ベクトルの長さは、電流の最大値(\(I_{L0}, I_{C0}\))に比例するように描くと、大小関係が視覚的にわかりやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 微分・積分の関係式 (\(I_C=C\frac{dV}{dt}\), \(V=L\frac{dI_L}{dt}\)):
- 選定理由: (1)で、電圧の瞬時値から電流の瞬時値を直接導出するため。これはコイルとコンデンサーの物理的な動作を最も根源的に記述する法則です。
- 適用根拠: コンデンサーの電荷 \(Q=CV\) と電流 \(I=\frac{dQ}{dt}\) の定義、およびコイルの自己誘導の法則(ファラデーの電磁誘導の法則)に基づいています。
- キルヒホッフの電流則 (\(I = I_L + I_C\)):
- 選定理由: (2)で、並列回路の各部分を流れる電流と、回路全体を流れる電流とを結びつけるため。
- 適用根拠: 電荷保存則に基づいています。回路のどの点においても、電荷が湧き出したり消えたりすることはないため、流れ込む電流と流れ出す電流の総和は常に等しくなります。
- インピーダンスの定義 (\(Z = V_0 / I_0\)):
- 選定理由: (3)で、回路全体の「交流に対する流れにくさ」を定量的に評価するため。
- 適用根拠: オームの法則を交流回路の振幅に対して拡張したもので、回路全体の特性を一個の数値で代表させるための定義です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 各枝路の電流:
- 戦略: 電圧共通の性質を使い、各素子の基本法則を適用する。
- フロー: ①コンデンサーについて \(I_C = C\frac{dV}{dt}\) を計算。→ ②コイルについて \(V=L\frac{dI_L}{dt}\) を積分して \(I_L\) を計算。
- (2) 全体の電流:
- 戦略: キルヒホッフの法則で(1)の結果を合成する。
- フロー: ①\(I = I_L + I_C\) の式に、(1)で求めた瞬時値の式を代入して整理する。
- (3) インピーダンス:
- 戦略: (2)で求めた電流の式の振幅から、定義に従い計算する。
- フロー: ①\(I\)の式の振幅部分を \(I_0\) とおく。→ ②\(I_0\) と \(V_0\) の関係式を立てる。→ ③\(Z = \frac{V_0}{I_0}\) を計算する。
- (4) 並列共振:
- 戦略: 共振条件を(2)の電流の式に代入する。
- フロー: ①\(I\)の式の係数 \(\left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)\) に、\(\omega C = \frac{1}{\omega L}\) を代入し、係数が0になることを示す。
- (5) 抵抗追加時の共振:
- 戦略: (4)の結果(LC部分が電流を通さない)を使い、回路全体を分析する。
- フロー: ①LC部分のインピーダンスが無限大なので、回路全体の電流が0と判断。→ ②抵抗での電圧降下 \(V_R=RI=0\) を計算。→ ③キルヒホッフの電圧則 \(V = V_R + V_C\) より、\(V_C=V\) を導く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の微分・積分: \(\sin \omega t\) を微分すると \(\omega \cos \omega t\)、積分すると \(-\frac{1}{\omega}\cos \omega t\) となる計算を正確に行うことが必須です。特に係数 \(\omega\) の扱いに注意しましょう。
- 符号の扱い: コイルの電流を求めるときのマイナス符号を見落とさないように注意が必要です。この符号が、コンデンサーの電流と打ち消し合うための重要な要素となります。
- 絶対値の処理: インピーダンスの最終的な表現では、\(\omega^2 LC – 1\) の部分が負になることもあるため、絶対値記号を忘れないようにしましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 直列共振との比較:
- (4)で、並列共振時に電流が0(インピーダンス無限大)になるという結果が得られました。これは、直列共振時に電流が最大(インピーダンス最小)になる現象と好対照です。なぜこのような違いが生まれるのか(直列は電圧の打ち消し合い、並列は電流の打ち消し合い)を考察することで、物理現象への理解が深まります。
- (5)の物理的意味:
- 並列共振回路が「特定の周波数の電流をせき止めるフィルタ」として機能するという結果は、物理的に何を意味するか考えてみましょう。これは、特定の周波数の信号だけを選択的に通したり(直列共振)、遮断したり(並列共振)する技術の基本であり、ラジオの同調などに応用されています。得られた答えが、具体的な技術にどう結びつくかを考えることで、学習の意義を実感できます。
418 直列共振回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗、コイル、コンデンサーを直列に接続した「RLC直列回路」における「直列共振」という現象をテーマにしています。電源の周波数を変化させたときに、回路の応答(電流や各部の電圧)がどのように変わるかを問う、交流回路の集大成とも言える問題です。
この問題の核心は、「抵抗にかかる電圧が最大になった」という条件が、回路が「共振状態」にあることを意味すると見抜けるかどうかです。共振状態の性質を理解していれば、各設問は基本的な公式を適用するだけで解くことができます。
- RLC直列回路
- 電源電圧の最大値: \(V_0\)
- 周波数を \(f_0\) にしたとき、抵抗にかかる電圧の実効値が最大になった。
- (1) 共振周波数 \(f_0\) を求めること。
- (2) 共振時の回路を流れる電流の実効値 \(I_{\text{e}}\) を求めること。
- (3) 共振時のコイルとコンデンサーにかかる電圧の実効値 \(V_{Le}, V_{Ce}\) を求めること。
- (4) コイルとコンデンサーにかかる電圧の位相差を求めること。
- (5) コイルとコンデンサーにかかる電圧の和(瞬時値の和)を求めること。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC直列回路の共振」です。共振時に回路がどのような特性を示すかを、インピーダンス、電流、電圧、位相の観点から多角的に理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- RLC直列回路のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \frac{1}{\omega C})^2}\)。この式がすべての基本です。
- 直列共振の条件: 回路のインピーダンス \(Z\) が最小になるとき、回路には最大の電流が流れます。これは、リアクタンス成分が打ち消し合う \(\omega L = \frac{1}{\omega C}\) のときに起こります。
- 共振時の回路の性質: 共振時、インピーダンスは \(Z=R\) となり、回路は純粋な抵抗回路のように振る舞います。このとき、電源電圧と電流は同位相になります。
- 実効値と最大値の関係: \(V_0 = \sqrt{2}V_{\text{e}}\), \(I_0 = \sqrt{2}I_{\text{e}}\)。
- 各素子にかかる電圧: \(V_R = RI\), \(V_L = X_L I\), \(V_C = X_C I\)。これらは実効値でも最大値でも成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「抵抗にかかる電圧が最大」という条件を物理的に解釈します。これは回路電流が最大になることを意味し、すなわちインピーダンスが最小になる「共振条件」に他なりません。共振条件の式から \(f_0\) を求めます。
- (2)では、共振時のインピーダンスが \(Z=R\) となることを利用し、オームの法則から電流の実効値を計算します。
- (3)では、(2)で求めた電流の実効値と、各素子のリアクタンスを用いて、コイルとコンデンサーにかかる電圧の実効値を計算します。
- (4)(5)では、直列回路の電流共通の性質と、コイル・コンデンサーの電圧の位相関係(コイルが進み、コンデンサーが遅れる)から、両者の位相差と瞬時値の和を考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
「抵抗にかかる電圧の実効値が最大になった」という条件を解釈することが第一歩です。抵抗にかかる電圧 \(V_{Re}\) は、オームの法則より \(V_{Re} = R I_{\text{e}}\) です。抵抗値 \(R\) は一定なので、\(V_{Re}\) が最大になるのは、回路を流れる電流の実効値 \(I_{\text{e}}\) が最大になるときです。
電流 \(I_{\text{e}}\) は、\(I_{\text{e}} = \frac{V_{\text{e}}}{Z}\) で与えられます。電源電圧の実効値 \(V_{\text{e}}\) は一定なので、\(I_{\text{e}}\) が最大になるのは、回路のインピーダンス \(Z\) が最小になるときです。
インピーダンス \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \frac{1}{\omega C})^2}\) が最小になるのは、根号の中の第2項が0になるとき、すなわち \(\omega L – \frac{1}{\omega C} = 0\) のときです。これが共振条件です。
この設問における重要なポイント
- 条件の言い換え: 「抵抗電圧が最大」 → 「電流が最大」 → 「インピーダンスが最小」 → 「共振状態」。
- 共振条件: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)。このときの角周波数が共振角周波数 \(\omega_0\)、周波数が共振周波数 \(f_0\) です。
- 角周波数と周波数の関係: \(\omega = 2\pi f\)。
具体的な解説と立式
上記より、抵抗にかかる電圧が最大になるときの角周波数を \(\omega_0\) とすると、共振条件が成り立ちます。
$$ \omega_0 L = \displaystyle\frac{1}{\omega_0 C} $$
この式を \(\omega_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega_0^2 &= \displaystyle\frac{1}{LC} \\[2.0ex]\omega_0 &= \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}
\end{aligned}
$$
求めたいのは周波数 \(f_0\) なので、\(\omega_0 = 2\pi f_0\) の関係を使って変換します。
$$ 2\pi f_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}} $$
使用した物理公式
- RLC直列回路のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \frac{1}{\omega C})^2}\)
- 共振条件: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
- 角周波数と周波数の関係: \(\omega = 2\pi f\)
$$
\begin{aligned}
f_0 &= \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}
\end{aligned}
$$
共振周波数 \(f_0\) は \(\displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) です。これはRLC直列回路における最も重要な公式の一つであり、正しく導出できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
共振時 (\(f=f_0\)) の回路を流れる電流の実効値 \(I_{\text{e}}\) を求めます。共振時には、インピーダンス \(Z\) が最小値 \(Z=R\) となります。このときの回路は、まるで抵抗 \(R\) だけが接続されているかのように振る舞います。
この設問における重要なポイント
- 共振時のインピーダンス: \(Z=R\)。
- オームの法則: \(I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{V_{\text{e}}}{Z}\)。
- 実効値と最大値の関係: 問題で与えられているのは電圧の最大値 \(V_0\) なので、実効値 \(V_{\text{e}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\) に変換する必要があります。
具体的な解説と立式
共振時、インピーダンスは \(Z=R\) となります。
回路を流れる電流の実効値 \(I_{\text{e}}\) は、オームの法則より、
$$ I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{V_{\text{e}}}{Z} $$
これを共振時の条件で書き換えると、
$$ I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{V_{\text{e}}}{R} $$
電源電圧の実効値 \(V_{\text{e}}\) は、最大値 \(V_0\) を用いて次のように表せます。
$$ V_{\text{e}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}} $$
これを代入して \(I_{\text{e}}\) を求めます。
使用した物理公式
- 共振時のインピーダンス: \(Z=R\)
- オームの法則: \(I_{\text{e}} = V_{\text{e}}/Z\)
- 実効値と最大値の関係: \(V_{\text{e}} = V_0/\sqrt{2}\)
$$
\begin{aligned}
I_{\text{e}} &= \displaystyle\frac{1}{R} \cdot V_{\text{e}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{R} \cdot \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}
\end{aligned}
$$
電流の実効値は \(\displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) です。共振時にはコイルとコンデンサーのリアクタンスが打ち消し合い、電流の大きさが抵抗のみによって決まるという、共振回路の性質を正しく反映した結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
共振時のコイルにかかる電圧の実効値 \(V_{Le}\) と、コンデンサーにかかる電圧の実効値 \(V_{Ce}\) を求めます。各素子にかかる電圧は、その素子のリアクタンスと、そこを流れる電流(この場合は回路全体の電流 \(I_{\text{e}}\))の積で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 各素子でのオームの法則: \(V_{Le} = X_L I_{\text{e}}\), \(V_{Ce} = X_C I_{\text{e}}\)。
- リアクタンスの計算: \(X_L = \omega_0 L\), \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega_0 C}\)。
- 共振条件の利用: \(\omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) の関係を利用して、リアクタンスを \(L, C, R\) だけで表します。
具体的な解説と立式
コイルにかかる電圧の実効値 \(V_{Le}\) は、
$$ V_{Le} = X_L I_{\text{e}} $$
リアクタンス \(X_L\) は \(X_L = \omega_0 L\) なので、
$$ V_{Le} = (\omega_0 L) I_{\text{e}} $$
コンデンサーにかかる電圧の実効値 \(V_{Ce}\) は、
$$ V_{Ce} = X_C I_{\text{e}} $$
リアクタンス \(X_C\) は \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega_0 C}\) なので、
$$ V_{Ce} = \left(\displaystyle\frac{1}{\omega_0 C}\right) I_{\text{e}} $$
共振条件より \(\omega_0 L = \displaystyle\frac{1}{\omega_0 C}\) なので、\(V_{Le} = V_{Ce}\) となることが予想できます。
ここに、\(\omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) と、(2)で求めた \(I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R}\) を代入します。
使用した物理公式
- リアクタンス: \(X_L = \omega L\), \(X_C = 1/(\omega C)\)
- オームの法則
コイルの電圧 \(V_{Le}\)
$$
\begin{aligned}
V_{Le} &= (\omega_0 L) I_{\text{e}} \\[2.0ex]&= \left( \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}} \cdot L \right) \cdot \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R} \\[2.0ex]&= \sqrt{\displaystyle\frac{L}{C}} \cdot \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}R} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{R}\sqrt{\displaystyle\frac{L}{2C}} V_0
\end{aligned}
$$
コンデンサーの電圧 \(V_{Ce}\)
共振時は \(X_L = X_C\) なので、\(V_{Le} = V_{Ce}\) です。したがって、
$$ V_{Ce} = \displaystyle\frac{1}{R}\sqrt{\displaystyle\frac{L}{2C}} V_0 $$
(同様に計算しても \(\frac{1}{\omega_0 C} = \frac{1}{(\frac{1}{\sqrt{LC}})C} = \sqrt{\frac{L}{C}}\) となり、同じ結果が得られます。)
コイルとコンデンサーにかかる電圧の実効値は、ともに \(\displaystyle\frac{1}{R}\sqrt{\displaystyle\frac{L}{2C}} V_0\) です。
共振時には両者の電圧の大きさが等しくなるという重要な性質が確認できました。また、この電圧は電源電圧より大きくなることもあり(\(Q\)値が高い場合)、共振の鋭さを表す指標となります。
問(4)
思考の道筋とポイント
コイルにかかる電圧 \(V_L\) とコンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) の位相差を問う問題です。RLC直列回路では、すべての素子に同じ電流 \(I\) が流れます。この共通の電流を基準として、各電圧の位相を考えます。
この設問における重要なポイント
- 電流が共通: 直列回路なので、\(I\) が位相の基準となります。
- コイルの電圧の位相: コイルの電圧 \(V_L\) は、電流 \(I\) より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。
- コンデンサーの電圧の位相: コンデンサーの電圧 \(V_C\) は、電流 \(I\) より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。
具体的な解説と立式
電流の位相を基準(0)とします。
- コイルの電圧 \(V_L\) の位相は \(+\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。
- コンデンサーの電圧 \(V_C\) の位相は \(-\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。
したがって、両者の位相の差は、
$$
\begin{aligned}
(\text{位相差}) &= \left(+\displaystyle\frac{\pi}{2}\right) – \left(-\displaystyle\frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= \pi
\end{aligned}
$$
位相差は \(\pi\) [rad] です。これは、コイルの電圧とコンデンサーの電圧が、常に互いに逆向き(位相が180°ずれている)であることを意味します。この性質は周波数によらず、RLC直列回路で常に成り立ちます。
問(5)
思考の道筋とポイント
コイルとコンデンサーにかかる電圧の「和」を求めます。これは、瞬時値の和 \(v_L(t) + v_C(t)\) を意味します。(3)と(4)の結果を利用します。
この設問における重要なポイント
- 電圧の大きさが等しい: (3)より、共振時には \(V_{Le} = V_{Ce}\) です。したがって、電圧の最大値も等しく \(V_{L0} = V_{C0}\) となります。
- 位相が逆: (4)より、\(v_L(t)\) と \(v_C(t)\) の位相差は \(\pi\) です。
具体的な解説と立式
共通の電流を \(I(t) = I_0 \sin \omega_0 t\) とおきます。
このとき、各電圧の瞬時値は、
$$ v_L(t) = V_{L0} \sin(\omega_0 t + \displaystyle\frac{\pi}{2}) $$
$$ v_C(t) = V_{C0} \sin(\omega_0 t – \displaystyle\frac{\pi}{2}) $$
三角関数の公式を用いて変形すると、
$$ v_L(t) = V_{L0} \cos \omega_0 t $$
$$ v_C(t) = -V_{C0} \cos \omega_0 t $$
共振時は電圧の振幅が等しいので、\(V_{L0} = V_{C0}\) です。
したがって、電圧の和は、
$$
\begin{aligned}
v_L(t) + v_C(t) &= V_{L0} \cos \omega_0 t – V_{L0} \cos \omega_0 t \\[2.0ex]&= 0
\end{aligned}
$$
コイルとコンデンサーにかかる電圧の和は、常に \(0\) です。
共振時には、大きさが等しく向きが正反対の電圧がコイルとコンデンサーにそれぞれかかっているため、それらの和は常に0になります。この結果、キルヒホッフの第二法則 \(V = V_R + V_L + V_C\) は \(V = V_R + 0\) となり、電源電圧がすべて抵抗にかかる、という共振時のもう一つの重要な性質が導かれます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RLC直列回路のインピーダンス:
- 核心: 回路全体の交流に対する「流れにくさ」を表すインピーダンスが \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \frac{1}{\omega C})^2}\) で与えられること。この式がRLC直列回路のすべての性質(電流の大きさ、位相差など)を決定する最も基本的な法則です。
- 理解のポイント: \(R, X_L, X_C\) を三辺とする直角三角形(インピーダンスのベクトル図)をイメージすると、この公式は三平方の定理として直感的に理解できます。
- 直列共振の条件と性質:
- 核心: コイルの誘導性リアクタンス \(\omega L\) とコンデンサーの容量性リアクタンス \(\frac{1}{\omega C}\) が等しくなる(\(\omega L = \frac{1}{\omega C}\))とき、回路は「共振」状態になります。このとき、リアクタンス成分が完全に打ち消し合い、インピーダンスは最小値 \(Z=R\) となります。
- 理解のポイント: インピーダンスが最小になるため、回路に流れる電流は最大になります。また、回路は純粋な抵抗回路のように振る舞うため、電源電圧と電流の位相は一致(同位相)します。この「インピーダンス最小」「電流最大」「電圧・電流が同位相」という3点セットが直列共振の最も重要な特徴です。
- 電圧の位相関係:
- 核心: 直列回路では電流が共通であるため、電流を基準に各素子の電圧の位相を考えます。コイルの電圧は電流より\(\frac{\pi}{2}\)進み、コンデンサーの電圧は電流より\(\frac{\pi}{2}\)遅れます。この結果、コイルの電圧とコンデンサーの電圧は常に逆位相(位相差\(\pi\))になります。
- 理解のポイント: 共振時は、この逆位相の2つの電圧の大きさが等しくなるため、瞬時値の和は常に0になります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 共振曲線: 横軸に周波数、縦軸に電流をとったグラフ(共振曲線)を扱った問題。共振周波数で電流がピークになることや、抵抗\(R\)が小さいほどピークが鋭くなる(Q値が高い)ことを理解しているかが問われます。
- RLC並列回路との比較: 直列共振(インピーダンス最小)と並列共振(インピーダンス最大)の性質を対比させて、両者の違いを問う問題。
- フィルタ回路: RLC直列回路は、共振周波数付近の信号だけをよく通す「バンドパスフィルタ」として機能します。このフィルタとしての特性を問う問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「〜が最大になった」という条件に注目: 問題文に「電流が最大」「抵抗の電圧が最大」「消費電力が最大」などの記述があれば、それはすべて「直列共振」を意味するキーワードです。まず共振条件 \(\omega L = \frac{1}{\omega C}\) を立てることから始めます。
- 実効値か最大値かを確認: 問題で与えられている値や問われている値が、実効値なのか最大値なのかを常に明確に区別します。必要に応じて \(\sqrt{2}\) の変換を行います。
- ベクトル図(フェーザ図)を描く: RLC回路の問題では、電圧と電流の関係をベクトル図で描くと、位相関係や大きさの関係が視覚的に整理され、非常に有効です。特に、インピーダンスや回路全体の電圧と電流の位相差を求める際に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- インピーダンスの公式の根号忘れ:
- 誤解: \(Z = R + (\omega L – \frac{1}{\omega C})\) のように、インピーダンスを単純な代数和で計算してしまう。
- 対策: インピーダンスはベクトル(フェーザ)の合成であり、その大きさは三平方の定理で計算される、と覚えましょう。必ず \(Z = \sqrt{R^2 + (\dots)^2}\) の形になることを徹底します。
- 共振条件の勘違い:
- 誤解: 共振時に \(V_L=0, V_C=0\) になると勘違いする。
- 対策: 共振時に0になるのは、電圧の「和」(\(v_L+v_C\))です。各素子には、(3)で計算したように非常に大きな電圧がかかっている可能性があります。打ち消し合って和が0になるだけで、個々の電圧が0になるわけではありません。
- 電圧の和を実効値で計算するミス:
- 誤解: (5)で電圧の和を問われた際に、実効値の和 \(V_{Le}+V_{Ce}\) を計算してしまう。
- 対策: 電圧や電流の「和」や「差」を考えるときは、必ず「瞬時値」で計算するのが鉄則です。位相が異なる量を、スカラーである実効値や最大値で単純に足し引きすることはできません。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電圧のベクトル図(フェーザ図):
- 直列回路なので、電流ベクトル\(I\)を基準(x軸正方向)に描きます。
- 抵抗の電圧\(V_R\)は\(I\)と同相なので、x軸正方向。
- コイルの電圧\(V_L\)は\(I\)より\(\frac{\pi}{2}\)進むので、y軸正方向。
- コンデンサーの電圧\(V_C\)は\(I\)より\(\frac{\pi}{2}\)遅れるので、y軸負方向。
- 共振時は \(V_L\) と \(V_C\) のベクトルの長さが等しくなり、互いに打ち消し合います。その結果、合成電圧(電源電圧\(V\))は\(V_R\)と一致し、電流\(I\)と同相になることが一目瞭然です。
- ブランコのアナロジー:
- RLC回路の共振は、ブランコをタイミングよく押すことに例えられます。電源の周波数(押す周期)がブランコの固有振動数と一致すると、ほんの小さな力(抵抗\(R\)が小さい)でも振れ(電流)が非常に大きくなります。コイルとコンデンサーがエネルギーをやり取りするのがブランコの往復運動、抵抗が空気抵抗や摩擦に相当します。
- 電圧のベクトル図(フェーザ図):
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 共振条件 (\(\omega L = 1/\omega C\)):
- 選定理由: (1)で、「抵抗電圧最大」という現象を数式で表現するため。これはインピーダンスが最小になる条件であり、リアクタンス成分が0になることを意味します。
- 適用根拠: インピーダンスの定義式 \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \frac{1}{\omega C})^2}\) において、\(Z\)を最小化するという数学的な条件から導かれます。
- オームの法則 (\(I_e = V_e/Z\)):
- 選定理由: (2)で、回路全体の電圧とインピーダンスから、回路を流れる電流の大きさを決定するため。
- 適用根拠: 交流回路における電圧と電流の大きさの関係を規定する基本法則です。共振時は \(Z=R\) となるため、式が単純化されます。
- 各素子の電圧公式 (\(V_{Le}=X_L I_e, V_{Ce}=X_C I_e\)):
- 選定理由: (3)で、回路全体を流れる電流から、各部分にかかる電圧を計算するため。
- 適用根拠: 各素子単体で見たときのオームの法則です。直列回路では電流が共通なので、この関係を使って各部の電圧を求めることができます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 共振周波数:
- 戦略: 「抵抗電圧最大」=「電流最大」=「インピーダンス最小」=「共振」という論理の流れを構築する。
- フロー: ①インピーダンスZの公式を書く → ②Zが最小になる条件は \(\omega L – \frac{1}{\omega C} = 0\) であることを示す → ③この式を\(\omega_0\)について解く → ④\(\omega_0 = 2\pi f_0\) の関係から\(f_0\)を求める。
- (2) 電流の実効値:
- 戦略: 共振時のインピーダンスが\(Z=R\)であることを利用する。
- フロー: ①共振時は\(Z=R\) → ②オームの法則 \(I_{\text{e}} = V_{\text{e}}/Z\) に代入 → ③\(V_{\text{e}} = V_0/\sqrt{2}\) に変換して最終的な値を求める。
- (3) 各電圧の実効値:
- 戦略: (2)で求めた電流を使い、各素子のオームの法則を適用する。
- フロー: ①\(V_{Le} = (\omega_0 L) I_{\text{e}}\) と \(V_{Ce} = (\frac{1}{\omega_0 C}) I_{\text{e}}\) を立式 → ②\(\omega_0\) と \(I_{\text{e}}\) に具体的な式を代入して計算。
- (4) 位相差:
- 戦略: 電流を基準として、コイル電圧とコンデンサー電圧の位相を比較する。
- フロー: ①\(V_L\)は\(I\)より\(\frac{\pi}{2}\)進む → ②\(V_C\)は\(I\)より\(\frac{\pi}{2}\)遅れる → ③両者の差を計算する。
- (5) 電圧の和:
- 戦略: (3)と(4)の結果(大きさが等しく、位相が逆)を使い、瞬時値の和を考える。
- フロー: ①\(v_L(t)\)と\(v_C(t)\)を、共通の電流 \(I(t)\) を使って表現する → ②振幅が等しく位相が逆であることを利用して和を計算し、0になることを示す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の整理: (3)の計算では、\(\omega_0 = \frac{1}{\sqrt{LC}}\) を使って \(\omega_0 L = \sqrt{\frac{L}{C}}\) のように、式を簡単な形に変形してから代入すると、計算が楽になりミスが減ります。
- 実効値と最大値の混同に注意: 計算の最初から最後まで、実効値で統一するのか、最大値で統一するのかを意識しましょう。特に、電源電圧が最大値\(V_0\)で与えられているのに、実効値\(I_{\text{e}}\)を求める場面では変換が必要です。
- 単位の次元解析: 例えば、\(\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) の単位が本当に[Hz]=[1/s]になるかを確認する(\(L\)の単位[H]は[V・s/A]、\(C\)の単位[F]は[A・s/V]なので、\(LC\)の単位は[\(s^2\)]となり、\(\sqrt{LC}\)の単位は[s]になる)など、単位の次元を追うことで、公式の覚え間違いなどをチェックできます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (5)の結果の吟味:
- \(v_L + v_C = 0\) という結果は、キルヒホッフの第二法則 \(V = V_R + v_L + v_C\) に代入すると \(V=V_R\) となります。これは、「共振時には、電源電圧はすべて抵抗にかかる」という、直列共振のもう一つの重要な性質と一致します。このように、ある設問の答えが、別の角度から見た物理法則と矛盾しないかを確認することは、解答の妥当性を検証する上で非常に有効です。
- 物理的直感との比較:
- コイルとコンデンサーは、エネルギーを蓄えたり放出したりする性質を持ちますが、そのタイミングが正反対です。一方がエネルギーを欲しがっている(充電/磁場形成)とき、もう一方はエネルギーを放出している(放電/磁場消滅)。共振とは、このエネルギーのやり取りが外部の助け(電源)なしで、2つの素子間で完全に自己完結する理想的な状態です。そのため、外部から見るとこの2つの素子の存在が消えたかのように見え、回路には抵抗しか存在しないように振る舞う、という直感と計算結果が一致します。
419 交流回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この解説は、模範解答とは一部異なる方針で進めます。主な相違点は以下の通りです。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- (4) 自己インダクタンスLの導出: 模範解答では、キルヒホッフの法則を用いて \(V_L = V – V_1\) として求めていますが、本解説ではより直接的な「ブリッジの平衡条件」である \(v_L(t) = v_{R2}(t)\) を用いる方法をメインの解法として採用します。模範解答のアプローチは別解として扱います。
- なぜこの方針を取るか
- 平衡条件の直接利用: 「P2P3間の電位差が0」という条件は、物理的には「コイルにかかる電圧と抵抗R2にかかる電圧が常に等しい」(\(v_L=v_{R2}\))、かつ「抵抗R1にかかる電圧とコンデンサーにかかる電圧が常に等しい」(\(v_{R1}=v_C\))ことを意味します。この本質的な条件を直接用いて解くことは、交流ブリッジ回路の動作原理への深い理解に繋がり、教育的価値が高いと判断しました。
- 結果への影響
- 計算途中のアプローチは異なりますが、最終的に得られる物理的な結論は模範解答と一致します。
この問題は、抵抗、コイル、コンデンサーを組み合わせた「交流ブリッジ回路」を扱っています。特に「P2P3間の電位差が0Vであった」という条件が与えられており、これは回路が「平衡状態」にあることを示しています。この平衡条件を手がかりに、回路の各部の電流や電圧、さらには未知の素子の値を解き明かしていく問題です。
この問題の核心は、交流ブリッジ回路の平衡条件を正しく理解し、それを各素子の電圧と電流の関係式(オームの法則、微分・積分の関係)と組み合わせて、未知数を解いていく能力です。
- 回路構成: 交流ブリッジ回路
- 上の枝路: コイル\(L\) (P1-P2間)と抵抗\(R_1\) (P2-P4間)が直列
- 下の枝路: 抵抗\(R_2\) (P1-P3間)とコンデンサー\(C\) (P3-P4間)が直列
- P2-P4間を流れる電流: \(I = I_0 \sin \omega t\)
- 平衡条件: P2-P3間の電位差が0V (\(V_{P2} = V_{P3}\))
- (1) 抵抗\(R_1\)で消費される電力の時間平均 \(\bar{P}\)。
- (2) P3-P4間を流れる電流 \(I’\) の瞬時値。
- (3) P4に対するP1の電位 \(V\) の瞬時値。
- (4) コイルの自己インダクタンス \(L\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流ブリッジ回路の平衡」です。直流のホイートストンブリッジの考え方を、位相を考慮して交流回路に拡張したものです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 交流ブリッジの平衡条件: P2とP3の電位が等しいことから、P1から見たP2とP3の電位降下が等しく(\(v_L = v_{R2}\))、かつP4から見たP2とP3の電位降下も等しくなります(\(v_{R1} = v_C\))。
- 各素子の電圧・電流関係: 抵抗(\(v=Ri\))、コンデンサー(\(i=C\frac{dv}{dt}\))、コイル(\(v=L\frac{di}{dt}\))の基本関係式を使いこなすことが必須です。
- キルヒホッフの法則: 回路の任意のループにおける電圧の和は0(電圧則)、任意の分岐点における電流の和は0(電流則)です。
- 平均消費電力: 抵抗で消費される電力の平均値は \(\bar{P} = R I_{\text{e}}^2 = \frac{1}{2} R I_0^2\) で計算されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられた電流\(I\)が抵抗\(R_1\)を流れる電流であることから、その実効値を求め、平均消費電力の公式に代入します。
- (2)では、平衡条件の一つ \(v_{R1} = v_C\) を利用します。まず\(v_{R1}\)を求め、それが\(v_C\)に等しいことから、コンデンサーの基本式 \(I’ = I_C = C\frac{dv_C}{dt}\) を用いて\(I’\)を計算します。
- (3)では、キルヒホッフの電圧則を用い、電源電圧\(V\)が下側の枝路の電圧の和 \(v_{R2} + v_C\) に等しいことから求めます。
- (4)では、もう一つの平衡条件 \(v_L = v_{R2}\) を利用します。コイルの基本式 \(v_L = L\frac{dI}{dt}\) と、(2)(3)の結果から得られる\(v_{R2}\)を等しいとおき、\(L\)を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
抵抗\(R_1\)で消費される電力の時間平均\(\bar{P}\)を求める問題です。平均消費電力は、抵抗値と、そこを流れる電流の「実効値」の2乗の積で与えられます。問題文より、抵抗\(R_1\)を流れる電流の瞬時値は \(I = I_0 \sin \omega t\) なので、まずこの電流の実効値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 平均消費電力の公式: \(\bar{P} = R_1 I_{\text{e}}^2\)。
- 実効値と最大値の関係: 正弦波電流 \(I = I_0 \sin \omega t\) の実効値 \(I_{\text{e}}\) は、最大値 \(I_0\) を用いて \(I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\) と表される。
具体的な解説と立式
抵抗\(R_1\)を流れる電流の実効値を \(I_{\text{e}}\) とすると、平均消費電力 \(\bar{P}\) は、
$$ \bar{P} = R_1 I_{\text{e}}^2 $$
電流の瞬時値が \(I = I_0 \sin \omega t\) なので、その実効値 \(I_{\text{e}}\) は、
$$ I_{\text{e}} = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} $$
これらの式を組み合わせて \(\bar{P}\) を求めます。
使用した物理公式
- 平均消費電力: \(\bar{P} = R I_{\text{e}}^2\)
- 実効値と最大値の関係: \(I_{\text{e}} = I_0 / \sqrt{2}\)
$$
\begin{aligned}
\bar{P} &= R_1 \left( \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} \right)^2 \\[2.0ex]&= R_1 \left( \displaystyle\frac{I_0^2}{2} \right) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} R_1 I_0^2
\end{aligned}
$$
抵抗\(R_1\)で消費される電力の時間平均は \(\displaystyle\frac{1}{2} R_1 I_0^2\) [W] です。これは平均電力の基本的な計算であり、正しく求められました。
問(2)
思考の道筋とポイント
P3からP4へ流れる電流 \(I’\) は、コンデンサー\(C\)を流れる電流\(I_C\)のことです。ブリッジの平衡条件「P2P3間の電位差が0」から、抵抗\(R_1\)にかかる電圧\(v_{R1}\)とコンデンサー\(C\)にかかる電圧\(v_C\)は常に等しくなります。この関係を利用して\(v_C\)を求め、コンデンサーの基本式 \(I_C = C\frac{dv_C}{dt}\) から\(I’\)を導出します。
この設問における重要なポイント
- ブリッジの平衡条件: \(v_{R1}(t) = v_C(t)\)。
- 抵抗の電圧: \(v_{R1}(t) = R_1 I(t)\)。
- コンデンサーの電流: \(I'(t) = I_C(t) = C\displaystyle\frac{dv_C(t)}{dt}\)。
具体的な解説と立式
まず、抵抗\(R_1\)にかかる電圧 \(v_{R1}\) を求めます。
$$ v_{R1}(t) = R_1 I(t) = R_1 I_0 \sin \omega t $$
平衡条件より、コンデンサーにかかる電圧 \(v_C\) はこれに等しいです。
$$ v_C(t) = v_{R1}(t) = R_1 I_0 \sin \omega t $$
コンデンサーを流れる電流 \(I'(t)\) は、
$$ I'(t) = C\displaystyle\frac{d v_C(t)}{dt} $$
この式に \(v_C(t)\) を代入して計算します。
使用した物理公式
- オームの法則: \(v=Ri\)
- コンデンサーの電流と電圧の関係: \(i=C\frac{dv}{dt}\)
- 交流ブリッジの平衡条件
$$
\begin{aligned}
I'(t) &= C \displaystyle\frac{d}{dt} (R_1 I_0 \sin \omega t) \\[2.0ex]&= C R_1 I_0 \cdot (\omega \cos \omega t) \\[2.0ex]&= \omega C R_1 I_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
P3からP4へ流れる電流は \(I’ = \omega C R_1 I_0 \cos \omega t\) [A] です。抵抗\(R_1\)を流れる電流\(I\)が\(\sin\)型であるのに対し、コンデンサーを流れる電流\(I’\)が\(\cos\)型となり、位相が\(\frac{\pi}{2}\)進んでいることがわかります。これはコンデンサーの性質と一致しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
P4に対するP1の電位\(V\)とは、電源電圧の瞬時値のことです。これは、キルヒホッフの電圧則を用いて、上側の枝路の電圧の和 (\(v_L + v_{R1}\)) または下側の枝路の電圧の和 (\(v_{R2} + v_C\)) として求めることができます。ここでは、計算に必要な要素が揃っている下側の枝路で計算します。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの電圧則: \(V = v_{R2} + v_C\)。
- 各部の電圧: \(v_C = v_{R1} = R_1 I_0 \sin \omega t\)。また、\(v_{R2} = R_2 I’\) であり、\(I’\)は(2)で求めたものを使います。
具体的な解説と立式
電源電圧\(V\)は、下側の枝路の電圧の和に等しいです。
$$ V(t) = v_{R2}(t) + v_C(t) $$
ここで、\(v_C(t)\)は(2)の考察より、
$$ v_C(t) = R_1 I_0 \sin \omega t $$
また、\(v_{R2}(t)\)は抵抗\(R_2\)を流れる電流\(I'(t)\)から求められます。
$$ v_{R2}(t) = R_2 I'(t) $$
(2)の結果 \(I'(t) = \omega C R_1 I_0 \cos \omega t\) を代入すると、
$$ v_{R2}(t) = R_2 (\omega C R_1 I_0 \cos \omega t) = \omega C R_1 R_2 I_0 \cos \omega t $$
これらの電圧を足し合わせます。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第二法則
- オームの法則
$$
\begin{aligned}
V(t) &= v_{R2}(t) + v_C(t) \\[2.0ex]&= (\omega C R_1 R_2 I_0 \cos \omega t) + (R_1 I_0 \sin \omega t) \\[2.0ex]&= R_1 I_0 (\sin \omega t + \omega C R_2 \cos \omega t)
\end{aligned}
$$
P4に対するP1の電位は \(V = R_1 I_0 (\sin \omega t + \omega C R_2 \cos \omega t)\) [V] です。電源電圧が\(\sin\)成分と\(\cos\)成分の和で表されており、電流\(I\)とは位相がずれていることがわかります。これは回路にリアクタンス成分(L, C)が含まれているためです。
問(4)
思考の道筋とポイント
コイルの自己インダクタンス\(L\)を求めます。ブリッジの平衡条件のもう一つ、「コイルにかかる電圧\(v_L\)と抵抗\(R_2\)にかかる電圧\(v_{R2}\)が常に等しい」(\(v_L = v_{R2}\)) を利用します。\(v_L\)をコイルの基本式 \(v_L = L\frac{dI}{dt}\) から求め、(3)の途中で計算した\(v_{R2}\)と等しいとおくことで、\(L\)に関する方程式を立てます。
この設問における重要なポイント
- ブリッジの平衡条件: \(v_L(t) = v_{R2}(t)\)。
- コイルの電圧: \(v_L(t) = L\displaystyle\frac{dI(t)}{dt}\)。
- 抵抗R2の電圧: \(v_{R2}(t) = \omega C R_1 R_2 I_0 \cos \omega t\)。
具体的な解説と立式
コイルにかかる電圧\(v_L\)を計算します。コイルを流れる電流は\(I = I_0 \sin \omega t\)なので、
$$ v_L(t) = L\displaystyle\frac{dI}{dt} = L \displaystyle\frac{d}{dt}(I_0 \sin \omega t) $$
一方、(3)で求めた抵抗\(R_2\)にかかる電圧は、
$$ v_{R2}(t) = \omega C R_1 R_2 I_0 \cos \omega t $$
平衡条件 \(v_L(t) = v_{R2}(t)\) より、これらを等しいとおきます。
使用した物理公式
- コイルの電圧と電流の関係: \(v=L\frac{di}{dt}\)
- 交流ブリッジの平衡条件
まず\(v_L(t)\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_L(t) &= L (I_0 \cdot \omega \cos \omega t) \\[2.0ex]&= \omega L I_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
次に、平衡条件の式を立てます。
$$ \omega L I_0 \cos \omega t = \omega C R_1 R_2 I_0 \cos \omega t $$
この式は常に成り立つので、両辺を \(\omega I_0 \cos \omega t\) で割ることができます。
$$ L = C R_1 R_2 $$
思考の道筋とポイント
(3)で求めた電源電圧 \(V\) は、上側の枝路の電圧の和 \(v_L + v_{R1}\) にも等しいはずです。この関係 \(V = v_L + v_{R1}\) を \(v_L\) について解き、それをコイルの基本式から求めた \(v_L\) と比較します。
具体的な解説と立式
キルヒホッフの電圧則より、
$$ v_L(t) = V(t) – v_{R1}(t) $$
(3)で求めた \(V(t)\) と、\(v_{R1}(t) = R_1 I_0 \sin \omega t\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_L(t) &= R_1 I_0 (\sin \omega t + \omega C R_2 \cos \omega t) – R_1 I_0 \sin \omega t \\[2.0ex]&= \omega C R_1 R_2 I_0 \cos \omega t
\end{aligned}
$$
一方、コイルの基本式からは、
$$ v_L(t) = \omega L I_0 \cos \omega t $$
この2つの \(v_L(t)\) の表式が等しいので、係数を比較して \(L = C R_1 R_2\) が得られます。
自己インダクタンスは \(L = C R_1 R_2\) [H] です。この \(L/R_1 = CR_2\) という関係は、交流ブリッジの平衡条件として知られており、物理的に正しい結果です。2つの異なるアプローチで同じ結果が得られることからも、解答の妥当性が確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 交流ブリッジの平衡条件:
- 核心: 「P2P3間の電位差が0」という条件は、この問題の全てを解くための鍵です。これは、物理的に2つの重要な関係式が同時に成り立つことを意味します。
- P1から見て: P1-P2間の電圧降下とP1-P3間の電圧降下が等しい。すなわち、コイルの電圧と抵抗\(R_2\)の電圧が常に等しい (\(v_L(t) = v_{R2}(t)\))。
- P4から見て: P2-P4間の電圧降下とP3-P4間の電圧降下が等しい。すなわち、抵抗\(R_1\)の電圧とコンデンサーの電圧が常に等しい (\(v_{R1}(t) = v_C(t)\))。
- 理解のポイント: 直流のホイートストンブリッジでは抵抗の比 (\(R_L:R_1 = R_2:R_C\)) でしたが、交流ではインピーダンスの大きさと位相の両方が釣り合う必要があります。この問題では、その条件が \(L=CR_1R_2\) という形に帰着します。
- 核心: 「P2P3間の電位差が0」という条件は、この問題の全てを解くための鍵です。これは、物理的に2つの重要な関係式が同時に成り立つことを意味します。
- 各素子の電圧と電流の瞬時値の関係:
- 核心: ブリッジの平衡条件を数式に落とし込むためには、各素子の電圧と電流の関係を「瞬時値」で正しく表現できなければなりません。
- 抵抗: \(v(t) = R i(t)\) (同位相)
- コイル: \(v(t) = L\frac{di(t)}{dt}\) (電圧が電流より\(\frac{\pi}{2}\)進む)
- コンデンサー: \(i(t) = C\frac{dv(t)}{dt}\) (電流が電圧より\(\frac{\pi}{2}\)進む)
- 理解のポイント: 特に、微分・積分の関係を使いこなすことが、この問題のような複雑な回路を本質から理解する上で不可欠です。
- 核心: ブリッジの平衡条件を数式に落とし込むためには、各素子の電圧と電流の関係を「瞬時値」で正しく表現できなければなりません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- インピーダンスブリッジ: 各枝路が抵抗だけでなく、より複雑なインピーダンス(RL直列など)で構成されているブリッジ回路。平衡条件は複素数を用いて \(\dot{Z}_1 \dot{Z}_4 = \dot{Z}_2 \dot{Z}_3\) と表され、大きさの条件と位相の条件の2つを同時に満たす必要があります。
- ブリッジの不平衡状態: P2-P3間に検流計(電流計)を接続し、そこに流れる電流が0になるように素子の値を調整する問題。本質的には平衡条件を求める問題と同じです。
- 未知のインピーダンス測定: 既知の抵抗やコンデンサーを用いてブリッジを組み、平衡条件を成立させることで、未知のコイルのLや抵抗成分を測定する、といったより実践的な問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「ブリッジ」と「平衡」というキーワードを探す: 回路図がひし形(ブリッジ型)であり、「電位差が0」「検流計の振れが0」といった記述があれば、それはブリッジの平衡問題です。
- 平衡条件を書き出す: まず、どの素子間の電圧が等しくなるのかを明確にします。\(v_{P1-P2} = v_{P1-P3}\) と \(v_{P2-P4} = v_{P3-P4}\) の2つの等式を立てるのが基本です。
- 既知の電流・電圧から出発する: この問題では電流\(I\)が与えられていたので、この\(I\)が関わる部分(\(v_{R1}\)や\(v_L\))から計算を始めるのが定石です。与えられた情報を起点に、平衡条件を使って未知の量へと計算を進めていきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 平衡条件の誤解:
- 誤解: P2P3間の電位差が0だからといって、P2やP3を流れる電流が0になるわけではない。また、コイルと抵抗\(R_1\)、コンデンサーと抵抗\(R_2\)のインピーダンスがそれぞれ等しいわけでもない。
- 対策: 平衡条件はあくまで「電圧」に関する条件です。\(v_L = v_{R2}\) と \(v_{R1} = v_C\) という2つの等式に忠実に従いましょう。
- 瞬時値と実効値(最大値)の混同:
- 誤解: 電圧の和や差を考える際に、実効値や最大値をそのまま足し引きしてしまう。例えば、\(V = V_{R2e} + V_{Ce}\) のように計算してしまう。
- 対策: 位相が異なる量の和・差は、必ず「瞬時値」(\(v(t)\))で計算するか、「ベクトル図(フェーザ図)」で幾何学的に合成する必要があります。代数的な和が許されるのは瞬時値だけ、と肝に銘じましょう。
- 微分・積分の計算ミス:
- 誤解: \(\sin\omega t\) を微分した際に係数\(\omega\)を付け忘れる、あるいは符号を間違える。
- 対策: \( ( \sin\omega t )’ = \omega\cos\omega t \), \( ( \cos\omega t )’ = -\omega\sin\omega t \) という基本的な微分公式を正確に使いこなせるように練習しておくことが不可欠です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位の地図: 回路図を地形図のようにイメージします。P4を基準の高さ(0V)とすると、P1は電源によって周期的に高さが変動する山です。P2とP3は、その山の途中にある中継点です。平衡条件とは、この2つの中継点P2とP3が、どの瞬間においても常に同じ高さにある状態を意味します。
- ベクトル図(フェーザ図):
- この問題では、複数の電流・電圧が登場するため、ベクトル図を描くと関係が非常に明確になります。
- 例えば、電流\(I\)を基準(x軸)に取ると、\(v_{R1}\)はx軸方向、\(v_L\)はy軸正方向を向きます。
- 一方、\(v_C\)は\(v_{R1}\)と等しいのでx軸方向、\(v_{R2}\)は\(v_L\)と等しいのでy軸正方向を向きます。
- このことから、電流\(I’\)(\(v_C\)に対して\(\frac{\pi}{2}\)進む)はy軸正方向を向くことがわかります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 基準を明確に: 複数の電流が流れる回路では、どの電流または電圧を基準に考えるかを最初に決めると思考が整理されます。
- 電位の矢印: 電圧(電位差)を考える際は、どちらの点を基準にしているかを明確にするため、矢印(例: P1→P2)で向きを示すと誤解が減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 平均電力の公式 (\(\bar{P} = \frac{1}{2}RI_0^2\)):
- 選定理由: (1)で、時間的に変動する消費電力の「平均値」を求めるため。
- 適用根拠: 瞬時電力 \(p(t) = R(I_0\sin\omega t)^2\) を一周期にわたって積分し、周期で割ることで数学的に導出されます。\(\sin^2\)の平均値が\(\frac{1}{2}\)になることがポイントです。
- ブリッジの平衡条件 (\(v_L=v_{R2}, v_{R1}=v_C\)):
- 選定理由: (2)と(4)で、未知の電流\(I’\)や自己インダクタンス\(L\)を、既知の情報と結びつけるため。この問題で与えられた最も強力な制約条件です。
- 適用根拠: P2とP3の電位が等しい (\(V_{P2}=V_{P3}\)) という条件を、キルヒホッフの電圧則を用いて書き換えたものです。\(V_{P1}-V_{P2} = V_{P1}-V_{P3}\) など。
- キルヒホッフの電圧則 (\(V = v_{R2}+v_C\)):
- 選定理由: (3)で、回路の部分的な電圧(枝路の電圧)から、全体の電圧(電源電圧)を求めるため。
- 適用根拠: エネルギー保存則の電位表現です。回路を一周したときの電位の上がり下がりは、合計でゼロになるという普遍的な法則です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 平均電力:
- 戦略: 電流の最大値から実効値を求め、公式に代入する。
- フロー: ①\(I=I_0\sin\omega t\)から実効値\(I_e = I_0/\sqrt{2}\)を求める → ②\(\bar{P}=R_1 I_e^2\)に代入して計算。
- (2) 電流\(I’\):
- 戦略: 平衡条件\(v_C=v_{R1}\)を利用する。
- フロー: ①\(v_{R1} = R_1 I\)を計算 → ②\(v_C = v_{R1}\)とする → ③\(I’ = C\frac{dv_C}{dt}\)を計算。
- (3) 電源電圧\(V\):
- 戦略: 下側枝路の電圧の和を計算する。
- フロー: ①\(v_{R2} = R_2 I’\)を計算 → ②\(V = v_{R2} + v_C\)に、求めた\(v_{R2}\)と\(v_C\)を代入。
- (4) 自己インダクタンス\(L\):
- 戦略: 平衡条件\(v_L=v_{R2}\)を利用する。
- フロー: ①\(v_L = L\frac{dI}{dt}\)を計算 → ②\(v_L = v_{R2}\)の等式を立てる → ③両辺の係数を比較して\(L\)を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字と添え字の区別: \(R_1, R_2, I, I’, V, v_L, v_C \dots\)など多くの記号が登場します。どの記号がどの部分の物理量を表すのか、常に意識しながら丁寧に式を書きましょう。
- 微分を正確に: \(\sin\omega t\)の微分は\(\omega\cos\omega t\)。係数\(\omega\)を忘れるミスは頻発します。微分操作を行うたびに、係数を確認する癖をつけましょう。
- 代入は慎重に: (3)や(4)のように、前の設問の結果を代入する場面では、代入する式が正しいか、どの式を代入すべきかを再確認してから計算を進めましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 次元(単位)の確認:
- (4)で得られた結果 \(L=CR_1R_2\) の単位を検証してみましょう。右辺の単位は [F]・[Ω]・[Ω] です。ここで、[F]=[A・s/V], [Ω]=[V/A] なので、[F]・[Ω]・[Ω] = [A・s/V]・[V/A]・[Ω] = [s]・[Ω] となります。一方、\(L\)の単位[H]は、\(V=L\frac{dI}{dt}\)から[V・s/A]=[Ω・s]です。両辺の単位が一致しており、式の形が妥当であることがわかります。
- 別解との比較:
- (4)は「平衡条件\(v_L=v_{R2}\)から求める方法」と「キルヒホッフの法則\(V=v_L+v_{R1}\)から求める方法」の2通りで解くことができ、いずれも同じ結果に至ります。異なる物理法則から出発して同じ結論が得られたことは、解答の正しさを強力に裏付けます。
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