Step 2
402 交流
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「抵抗・コイル・コンデンサーの交流回路における振る舞い」です。3つの基本的な回路素子それぞれに同じ交流電圧をかけたとき、流れる電流がどのように異なるかを計算する問題です。各素子の特性を正しく理解しているかが問われます。
- オームの法則(実効値): 交流回路でも、電圧と電流の実効値の間には \(V_e = Z I_e\) という形のオームの法則が成り立ちます。ここで \(Z\) は抵抗やリアクタンス(交流における流れにくさ)を表します。
- 誘導リアクタンス: コイルの交流に対する流れにくさを表す量で、\(X_L = \omega L = 2\pi f L\) で計算されます。周波数 \(f\) や自己インダクタンス \(L\) が大きいほど、電流は流れにくくなります。
- 容量リアクタンス: コンデンサーの交流に対する流れにくさを表す量で、\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\) で計算されます。周波数 \(f\) や電気容量 \(C\) が大きいほど、電流は流れやすくなります(リアクタンスは小さくなります)。
- 角周波数と周波数の関係: 計算には角周波数 \(\omega\) が必要ですが、問題では周波数 \(f\) が与えられているため、\(\omega = 2\pi f\) の関係式を用いて変換します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 抵抗に流れる電流は、直流と同様にオームの法則 \(I_{Re} = V_e / R\) を用いて計算します。
- コイルに流れる電流は、まず誘導リアクタンス \(X_L\) を計算し、それを抵抗と見なしてオームの法則 \(I_{Le} = V_e / X_L\) を適用します。
- コンデンサーに流れる電流は、まず容量リアクタンス \(X_C\) を計算し、オームの法則 \(I_{Ce} = V_e / X_C\) を適用します。
抵抗に流れる電流
思考の道筋とポイント
抵抗に交流電圧をかけた場合、電流と電圧の関係は直流のときと全く同じオームの法則で記述できます。交流では電圧や電流の値が常に変動するため、その代表値として「実効値」を用います。
この設問における重要なポイント
- 抵抗におけるオームの法則(実効値): \(V_e = R I_{Re}\)
具体的な解説と立式
抵抗に流れる電流の実効値を \(I_{Re}\) とします。抵抗値 \(R\)、電圧の実効値 \(V_e\) が与えられているので、オームの法則を適用します。
$$ I_{Re} = \frac{V_e}{R} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = IR\)
与えられた値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{Re} &= \frac{100}{100} \\[2.0ex]&= 1.00 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
抵抗に流れる交流電流の計算は、中学校で習った直流のオームの法則と全く同じです。「電流 = 電圧 ÷ 抵抗」の式に、問題で与えられた電圧の実効値と抵抗値をそのまま代入するだけで計算できます。
抵抗に流れる電流の実効値は \(1.00 \text{ A}\) です。基本的な公式の適用であり、妥当な結果です。
コイルに流れる電流
思考の道筋とポイント
コイルは、流れる電流が変化すると、その変化を妨げる向きに電圧(誘導起電力)を発生させる性質があります。このため、常に電圧が変化する交流に対しては「流れにくさ」を示します。この流れにくさを「誘導リアクタンス \(X_L\)」と呼び、これを計算した上でオームの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 誘導リアクタンスの定義: \(X_L = \omega L = 2\pi f L\)
- コイルにおけるオームの法則(実効値): \(V_e = X_L I_{Le}\)
具体的な解説と立式
コイルに流れる電流の実効値を \(I_{Le}\) とします。まず、コイルの誘導リアクタンス \(X_L\) を計算します。
$$ X_L = 2\pi f L $$
次に、この \(X_L\) を抵抗値のように扱い、オームの法則を適用して \(I_{Le}\) を求めます。
$$ I_{Le} = \frac{V_e}{X_L} = \frac{V_e}{2\pi f L} $$
使用した物理公式
- 誘導リアクタンス: \(X_L = 2\pi f L\)
- オームの法則: \(V_e = X_L I_{Le}\)
与えられた値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{Le} &= \frac{100}{2 \times 3.14 \times 50 \times 30} \\[2.0ex]&= \frac{100}{9420} \\[2.0ex]&\approx 0.01061… \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(I_{Le} \approx 1.1 \times 10^{-2} \text{ A}\) となります。
コイルが交流をどれだけ流しにくいかを示す「誘導リアクタンス」という値をまず計算します。この値は、コイルの性能(\(L\))と交流の周波数(\(f\))が大きいほど大きくなります。計算したリアクタンスを抵抗値だと思って、オームの法則「電流 = 電圧 ÷ リアクタンス」に当てはめれば、電流が求まります。
コイルに流れる電流の実効値は \(1.1 \times 10^{-2} \text{ A}\) です。自己インダクタンス \(L=30 \text{ H}\) は非常に大きな値であるため、リアクタンスも極めて大きくなり、結果として非常に小さな電流しか流れないという結果は物理的に妥当です。
コンデンサーに流れる電流
思考の道筋とポイント
コンデンサーは、電圧をかけると電荷を蓄え(充電)、電圧が下がると電荷を放出(放電)します。交流電圧のように電圧が絶えず変化する場合、コンデンサーは充放電を繰り返すことで、結果的に電流が流れているように見えます。このときの「流れにくさ」を「容量リアクタンス \(X_C\)」と呼び、これを計算してオームの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 容量リアクタンスの定義: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
- コンデンサーにおけるオームの法則(実効値): \(V_e = X_C I_{Ce}\)
具体的な解説と立式
コンデンサーに流れる電流の実効値を \(I_{Ce}\) とします。オームの法則 \(I_{Ce} = V_e / X_C\) に、容量リアクタンスの定義式を代入すると、計算がより簡単になります。
$$ I_{Ce} = \frac{V_e}{X_C} = \frac{V_e}{\left(\frac{1}{2\pi f C}\right)} = 2\pi f C V_e $$
使用した物理公式
- 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
- オームの法則: \(V_e = X_C I_{Ce}\)
与えられた値を代入して計算します。電気容量 \(100 \text{ μF}\) は \(100 \times 10^{-6} \text{ F}\) です。
$$
\begin{aligned}
I_{Ce} &= 2 \times 3.14 \times 50 \times (100 \times 10^{-6}) \times 100 \\[2.0ex]&= (2 \times 50) \times 3.14 \times 100 \times 10^{-6} \times 100 \\[2.0ex]&= 100 \times 3.14 \times 100 \times 100 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 3.14 \times 10^2 \times 10^2 \times 10^2 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 3.14 \times 10^{(2+2+2-6)} \\[2.0ex]&= 3.14 \times 10^0 \\[2.0ex]&= 3.14 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(I_{Ce} \approx 3.1 \text{ A}\) となります。
コンデンサーが交流をどれだけ流しにくいかを示す「容量リアクタンス」を計算し、オームの法則に当てはめても良いですが、ここでは「流れやすさ」を直接計算しています。コンデンサーは、性能(\(C\))や周波数(\(f\))が大きいほど交流を流しやすくなります。この「流れやすさ」に電圧を掛けることで、電流を直接求めることができます。
コンデンサーに流れる電流の実効値は \(3.1 \text{ A}\) です。電気容量 \(C=100 \text{ μF}\) は比較的大きく、周波数も \(50 \text{ Hz}\) なので、リアクタンスは小さくなり、大きな電流が流れるという結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 交流回路における各素子の振る舞い:
- 核心: 抵抗、コイル、コンデンサーという3つの基本素子が、交流電源に対してそれぞれどのように振る舞うか、その「流れにくさ」の性質を理解することが全てです。
- 理解のポイント:
- 抵抗 (\(R\)): 周波数に関係なく、直流と同じようにオームの法則 \(I_{Re} = V_e/R\) に従います。
- コイル (\(L\)): 「誘導リアクタンス \(X_L = 2\pi f L\)」という流れにくさを持ちます。周波数 \(f\) が高いほど、また自己インダクタンス \(L\) が大きいほど、電流は流れにくくなります。
- コンデンサー (\(C\)): 「容量リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)」という流れにくさを持ちます。周波数 \(f\) が高いほど、また電気容量 \(C\) が大きいほど、電流は流れやすくなります(リアクタンスは小さくなります)。
- これらの「流れにくさ」(抵抗やリアクタンス)を計算し、オームの法則 \(I_e = V_e / (\text{流れにくさ})\) を適用することが、この問題の統一的な解法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列回路: この問題で計算した各素子のリアクタンスを使い、回路全体の合成抵抗である「インピーダンス」\(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) を求めて、回路全体に流れる電流 \(I_e = V_e/Z\) を計算する問題。
- RLC並列回路: この問題のように各素子に流れる電流を個別に計算した後、それらのベクトル和(フェーザ図で合成)をとって、電源から流れ出す全体の電流を求める問題。
- 共振回路: コイルのリアクタンス \(X_L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) が等しくなる「共振周波数」を求める問題。このとき、回路のインピーダンスが最小(直列の場合)または最大(並列の場合)になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の接続方法を確認: 問題が「直列」「並列」「それぞれ単独」のどれなのかを最初に確認します。この問題は「それぞれに」電圧をかけるので、3つの独立した回路として考えます。
- 与えられた値の種類と単位を確認: 電圧・電流が「実効値」か「最大値」か。周波数が \(f\) か角周波数 \(\omega\) か。特に、電気容量の単位が \(\mu\text{F}\) (マイクロファラッド) になっていないか注意し、計算前に \(10^{-6}\) を乗じて \(\text{F}\) (ファラッド) に直します。
- リアクタンスを先に計算する: コイルやコンデンサーが出てきたら、まずそのリアクタンス \(X_L, X_C\) を計算する、という手順を習慣づけると、思考が整理されます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- リアクタンスの公式の混同:
- 誤解: コイルのリアクタンスを \(1/(2\pi f L)\)、コンデンサーのリアクタンスを \(2\pi f C\) と、分母と分子を逆にして覚えてしまう。
- 対策: 物理的なイメージで覚えるのが効果的です。コイルは「急な変化を嫌う」ので、周波数が高い(変化が速い)ほど電流を通しにくい(\(X_L \propto f\))。コンデンサーは「溜めては流す」を繰り返すので、周波数が高いほど活発に働き、電流を通しやすい(\(X_C \propto 1/f\))。
- 単位の接頭辞の変換ミス:
- 誤解: 電気容量 \(100 \mu\text{F}\) を、\(100 \times 10^{-3} \text{F}\) (ミリと勘違い) や、そのまま \(100 \text{F}\) として計算してしまう。
- 対策: \(\mu\) (マイクロ) は \(10^{-6}\) であることを正確に覚える。計算を始める前に、与えられた数値をすべてSI基本単位(\(\Omega, \text{H}, \text{F}, \text{Hz}, \text{V}\))に変換するステップを必ず踏むようにします。
- \(2\pi\) の計算漏れ:
- 誤解: 角周波数 \(\omega = 2\pi f\) の \(2\pi\) を計算に入れ忘れて、\(X_L = fL\) などとしてしまう。
- 対策: リアクタンスの公式を声に出して「エックスエルは、にーパイエフエル」のように覚える。または、まず \(\omega = 2\pi f\) を計算してから、\(X_L = \omega L\), \(X_C = 1/(\omega C)\) に代入する、という2段階のプロセスを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則 (\(I_e = V_e / Z\)):
- 選定理由: 電圧と「流れにくさ」が分かっているときに、電流を求めるための最も基本的で直接的な関係式だからです。
- 適用根拠: 交流回路では電圧や電流が常に変動しますが、そのエネルギー的な平均効果を表す「実効値」を用いると、直流回路のオームの法則と全く同じ形式の式が成り立ちます。この便利な性質を利用することで、交流回路の計算をシンプルに扱うことができます。
- リアクタンスの公式 (\(X_L = 2\pi f L\), \(X_C = 1/(2\pi f C)\)):
- 選定理由: オームの法則を適用するためには、まずコイルやコンデンサーの「流れにくさ」を具体的な数値として求める必要があるため、これらの定義式を使用します。
- 適用根拠: これらの式は、電磁気学の基本法則(ファラデーの電磁誘導の法則やコンデンサーの基本式 \(Q=CV\))を、正弦波状に変化する交流に対して適用し、数学的に導出されたものです。コイルは電流の時間変化率に比例した電圧を生み、コンデンサーは電荷(電流の積分値)に比例した電圧を持つという物理的性質が、周波数 \(f\) に依存するリアクタンスという形で現れています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算の活用: コンデンサーの計算のように \(10^{-6}\) などが含まれる場合、\(2 \times 3.14 \times 50 \times 100 \times 10^{-6} \times 100\) をそのまま計算するのではなく、\(10\)のべき乗をまとめて最後に処理する習慣をつけましょう。
例:\((2 \times 50) \times 3.14 \times 100 \times 100 \times 10^{-6} = 100 \times 3.14 \times 10^4 \times 10^{-6} = 3.14 \times 10^2 \times 10^4 \times 10^{-6} = 3.14 \times 10^{2+4-6} = 3.14 \times 10^0 = 3.14\)。 - 計算の順序の工夫: 上記の例のように、\(2 \times 50 = 100\) のように、計算するとキリの良い数字になる組み合わせを先に行うと、計算全体が楽になります。
- 有効数字の確認: 問題文で与えられた数値(\(30\text{H}\), \(50\text{Hz}\) などは有効数字2桁)を確認し、最終的な答えを適切な桁数に丸める意識を持つことが大切です。この問題の解答例では、\(1.1 \times 10^{-2}\text{A}\) や \(3.1\text{A}\) のように有効数字2桁で答えられています。計算の途中では多めの桁数を残しておき、最後に丸めるのが基本です。
403 交流回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流回路の基本要素の総合問題」です。グラフから交流電源の特性(周期、最大値)を読み取り、それをもとに抵抗、コイル、コンデンサーそれぞれを接続した際のリアクタンス、電流、位相、消費電力といった基本的な物理量を網羅的に計算する問題です。
- 交流の基本: グラフから周期\(T\)、最大値\(V_0\)を読み取り、周波数\(f=1/T\)、角周波数\(\omega=2\pi f\)、実効値\(V_e = V_0/\sqrt{2}\)を計算できること。
- リアクタンス: コイルの誘導リアクタンス\(X_L = \omega L\)と、コンデンサーの容量リアクタンス\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)の定義を理解し、計算できること。
- オームの法則: 抵抗、コイル、コンデンサーのそれぞれについて、電圧と電流の最大値(または実効値)の関係(\(V_0 = R I_{R0}\), \(V_0 = X_L I_{L0}\), \(V_0 = X_C I_{C0}\))を適用できること。
- 位相関係: 電圧を基準としたとき、抵抗を流れる電流は同相、コイルを流れる電流は位相が\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーを流れる電流は位相が\(\pi/2\)進むという関係を理解していること。
- 消費電力: 交流回路で時間平均したときに電力を消費するのは抵抗のみであり、その平均消費電力は\(P = V_e I_e = R I_e^2\)で計算されること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(3)では、まず与えられた電圧のグラフから、交流電源の基本的なパラメータ(周波数、実効値、瞬時値の式)をすべて求めます。
- (4)〜(5)では、(1)〜(3)で求めた電源の特性を使い、各素子のリアクタンスと、そこに流れる電流の最大値をオームの法則を用いて計算します。
- (6)〜(7)では、交流回路における電圧と電流の位相関係の基本知識を基に、各素子を流れる電流の瞬時値を式で表現します。
- (8)では、平均消費電力の定義に基づき、各素子での消費電力を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
グラフから交流の周期 \(T\) を読み取り、周波数 \(f\) との関係式 \(f=1/T\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 周期 \(T\): グラフ上で波形が1回繰り返すのにかかる時間。
- 周波数 \(f\): 1秒あたりに波形が繰り返す回数。\(f=1/T\)。
具体的な解説と立式
与えられたグラフから、電圧の波形が1回振動して元に戻るまでの時間(周期 \(T\))を読み取ります。
$$ T = 0.020 \text{ [s]} $$
周波数 \(f\) は周期 \(T\) の逆数で与えられます。
$$ f = \frac{1}{T} $$
使用した物理公式
- 周波数と周期の関係: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{1}{0.020} \\[2.0ex]&= 50 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
グラフの横軸は時間を表しています。波が1回分振動するのにかかる時間が「周期」です。グラフを見ると、0秒から始まって0.020秒でちょうど1回分の波が終わっているので、周期は0.020秒です。「周波数」は1秒間に何回振動するかを表すので、周期の逆数を計算します。
交流の周波数は \(50 \text{ Hz}\) です。これは東日本の商用電源周波数と同じであり、妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
グラフから電圧の最大値(振幅)\(V_0\) を読み取り、実効値 \(V_e\) との関係式 \(V_e = V_0 / \sqrt{2}\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 最大値 \(V_0\): 交流電圧がとりうる最大の瞬時値。グラフの波の高さに相当。
- 実効値 \(V_e\): 交流が直流と同じ仕事をする場合の相当値。正弦波交流では \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)。
具体的な解説と立式
グラフの縦軸から、電圧の最大値 \(V_0\) を読み取ります。
$$ V_0 = 28 \text{ [V]} $$
正弦波交流における電圧の実効値 \(V_e\) は、最大値 \(V_0\) を \(\sqrt{2}\) で割ることで求められます。
$$ V_e = \frac{V_0}{\sqrt{2}} $$
使用した物理公式
- 最大値と実効値の関係: \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)
与えられた値を代入して計算します。問題文に指示はありませんが、模範解答に合わせて \(\sqrt{2} \approx 1.41\) として計算します。
$$
\begin{aligned}
V_e &= \frac{28}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]&= 14\sqrt{2} \\[2.0ex]&\approx 14 \times 1.41 \\[2.0ex]&= 19.74 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
これを四捨五入して有効数字2桁で表すと、約 \(20 \text{ V}\) となります。
交流電圧の「実効値」は、家庭用のコンセントが「100V」と言われるときの、その「100V」に相当する値です。グラフから読み取れる波のてっぺんの値(最大値)を \(\sqrt{2}\) (およそ1.41) で割ると、この実効値が計算できます。
電圧の実効値は約 \(20 \text{ V}\) です。最大値から実効値を求める基本的な計算であり、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
交流電圧の瞬時値 \(V\) を表す式 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) を作成します。これには最大値 \(V_0\) と角周波数 \(\omega\) が必要です。\(V_0\) はグラフから、\(\omega\) は(1)で求めた周波数 \(f\) から \(\omega = 2\pi f\) の関係式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 瞬時値の式: \(V = V_0 \sin(\omega t)\)
- 角周波数: \(\omega = 2\pi f\)
具体的な解説と立式
電圧の瞬時値の式は \(V = V_0 \sin(\omega t)\) で表されます。
グラフから最大値 \(V_0 = 28 \text{ V}\) です。
角周波数 \(\omega\) は、(1)で求めた周波数 \(f=50 \text{ Hz}\) を用いて計算します。
$$ \omega = 2\pi f $$
これらの値を瞬時値の式に代入します。
使用した物理公式
- 交流電圧の瞬時値: \(V = V_0 \sin(\omega t)\)
- 角周波数と周波数の関係: \(\omega = 2\pi f\)
まず角周波数 \(\omega\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= 2\pi \times 50 \\[2.0ex]&= 100\pi \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
これを \(V_0=28\) とともに式の形にまとめます。
$$ V = 28 \sin(100\pi t) $$
交流電圧の式を作るには、「波の高さ(最大値)」と「振動の速さ(角周波数)」が必要です。波の高さはグラフから28Vとわかります。振動の速さは、(1)で求めた周波数(1秒間の振動回数)を \(2\pi\) 倍することで求められます。これらをサインカーブの基本式に当てはめます。
電源電圧の式は \(V = 28 \sin(100\pi t) \text{ [V]}\) となります。グラフの情報を正しく数式に変換できました。
問(4)
思考の道筋とポイント
コイルとコンデンサーの交流に対する「流れにくさ」であるリアクタンスを計算します。コイルの誘導リアクタンスは \(X_L = \omega L\)、コンデンサーの容量リアクタンスは \(X_C = 1/(\omega C)\) で計算します。角周波数 \(\omega\) は(3)で求めた値を使います。
この設問における重要なポイント
- 誘導リアクタンス: \(X_L = \omega L\)
- 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
具体的な解説と立式
コイルの誘導リアクタンス \(X_L\) は、角周波数 \(\omega = 100\pi \text{ rad/s}\) と自己インダクタンス \(L=0.20 \text{ H}\) を用いて計算します。
$$ X_L = \omega L $$
コンデンサーの容量リアクタンス \(X_C\) は、角周波数 \(\omega = 100\pi \text{ rad/s}\) と電気容量 \(C=200 \text{ μF} = 200 \times 10^{-6} \text{ F}\) を用いて計算します。
$$ X_C = \frac{1}{\omega C} $$
使用した物理公式
- 誘導リアクタンス: \(X_L = \omega L\)
- 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
\(\pi=3.14\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
X_L &= 100\pi \times 0.20 \\[2.0ex]&= 20\pi \\[2.0ex]&= 20 \times 3.14 \\[2.0ex]&= 62.8 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(X_L \approx 63 \text{ Ω}\) です。
$$
\begin{aligned}
X_C &= \frac{1}{100\pi \times (200 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2 \times 10^4 \pi \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{0.02\pi} \\[2.0ex]&= \frac{1}{0.02 \times 3.14} \\[2.0ex]&= \frac{1}{0.0628} \\[2.0ex]&\approx 15.92… \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(X_C \approx 16 \text{ Ω}\) です。
コイルとコンデンサーが交流をどれだけ流しにくいかを示す「リアクタンス」を計算します。コイルの場合は、(3)で求めた角周波数とコイルの性能(\(L\))を掛け算します。コンデンサーの場合は、角周波数とコンデンサーの性能(\(C\))を掛け算したものの逆数をとります。
コイルのリアクタンスは約 \(63 \text{ Ω}\)、コンデンサーのリアクタンスは約 \(16 \text{ Ω}\) です。定義式に基づいた計算であり、妥当な結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
各素子に流れる電流の最大値 \(I_0\) を求めます。これは、電源電圧の最大値 \(V_0\) と、各素子の抵抗またはリアクタンスを用いて、オームの法則 \(I_0 = V_0 / Z\) (\(Z\) は抵抗やリアクタンス)を適用することで計算できます。
この設問における重要なポイント
- オームの法則(最大値): \(V_0 = Z I_0\)
- 抵抗の場合: \(I_{R0} = V_0 / R\)
- コイルの場合: \(I_{L0} = V_0 / X_L\)
- コンデンサーの場合: \(I_{C0} = V_0 / X_C\)
具体的な解説と立式
電圧の最大値は \(V_0 = 28 \text{ V}\) です。
抵抗を流れる電流の最大値 \(I_{R0}\) は、抵抗値 \(R=20 \text{ Ω}\) を用いて計算します。
$$ I_{R0} = \frac{V_0}{R} $$
コイルを流れる電流の最大値 \(I_{L0}\) は、(4)で求めたリアクタンス \(X_L \approx 63 \text{ Ω}\) を用いて計算します。
$$ I_{L0} = \frac{V_0}{X_L} $$
コンデンサーを流れる電流の最大値 \(I_{C0}\) は、(4)で求めたリアクタンス \(X_C \approx 16 \text{ Ω}\) を用いて計算します。
$$ I_{C0} = \frac{V_0}{X_C} $$
使用した物理公式
- オームの法則(最大値)
$$
\begin{aligned}
I_{R0} &= \frac{28}{20} \\[2.0ex]&= 1.4 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
I_{L0} &= \frac{28}{62.8} \\[2.0ex]&\approx 0.445… \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(I_{L0} \approx 0.45 \text{ A}\) です。
$$
\begin{aligned}
I_{C0} &= \frac{28}{15.9} \\[2.0ex]&\approx 1.76… \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(I_{C0} \approx 1.8 \text{ A}\) です。
(注:計算には丸める前の値 \(X_L=62.8, X_C=15.9\) を用いる方が精度が高い)
各部品に流れる電流の最大値を、オームの法則「電流 = 電圧 ÷ 流れにくさ」を使って計算します。電圧は最大値の28Vを、流れにくさはそれぞれの抵抗値や(4)で計算したリアクタンスの値を使います。
電流の最大値は、抵抗で \(1.4 \text{ A}\)、コイルで \(0.45 \text{ A}\)、コンデンサーで \(1.8 \text{ A}\) となります。
問(6)
思考の道筋とポイント
各素子における電圧と電流の位相関係について、基本的な知識を答える問題です。
この設問における重要なポイント
- 抵抗: 電圧と電流の位相は同じ(同相)。
- コイル: 電流の位相は、電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れる。
- コンデンサー: 電流の位相は、電圧の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進む。
具体的な解説と立式
これは交流回路の基本性質に関する知識問題であり、立式は不要です。
- 抵抗では、電圧が最大になるときに電流も最大になり、電圧が0のときに電流も0になります。つまり、位相はずれません(同相)。
- コイルでは、電流の変化を妨げる性質があるため、電流の変化が電圧の変化より遅れます。具体的には、電流の位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。
- コンデンサーでは、電圧をかけるとまず電流が流れ込んで充電が始まるため、電流の変化が電圧の変化より先行します。具体的には、電流の位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。
使用した物理公式なし(基本知識)
計算は不要です。
電圧と電流のピークのタイミングが、部品によって異なります。
- 抵抗:電圧と電流のピークは同時にやってきます。
- コイル:電流のピークは、電圧のピークより少し遅れてやってきます。
- コンデンサー:電流のピークは、電圧のピークより少し早くやってきます。
この「少し」のずれが、ちょうど90°(\(\pi/2\)ラジアン)に相当します。
各素子の位相関係を正しく記述できました。
問(7)
思考の道筋とポイント
各素子を流れる電流の瞬時値 \(I\) を式で表します。(3)で求めた電圧の式 \(V = 28 \sin(100\pi t)\) を基準に、(5)で求めた電流の最大値と(6)で確認した位相関係を組み合わせて、\(I = I_0 \sin(100\pi t + \phi)\) の形の式を作成します。
この設問における重要なポイント
- 抵抗の電流: \(I_R = I_{R0} \sin(\omega t)\)
- コイルの電流: \(I_L = I_{L0} \sin(\omega t – \displaystyle\frac{\pi}{2})\)
- コンデンサーの電流: \(I_C = I_{C0} \sin(\omega t + \displaystyle\frac{\pi}{2})\)
- 三角関数の公式: \(\sin(\theta – \pi/2) = -\cos\theta\), \(\sin(\theta + \pi/2) = \cos\theta\)
具体的な解説と立式
基準となる電圧の式は \(V = 28 \sin(100\pi t)\) です。角周波数は \(\omega = 100\pi\) です。
- 抵抗: 位相は同じなので、\(\phi=0\)。最大値は \(I_{R0}=1.4 \text{ A}\)。
$$ I_R = 1.4 \sin(100\pi t) $$ - コイル: 位相は \(\pi/2\) 遅れるので、\(\phi = -\pi/2\)。最大値は \(I_{L0}=0.45 \text{ A}\)。
$$ I_L = 0.45 \sin\left(100\pi t – \frac{\pi}{2}\right) = -0.45 \cos(100\pi t) $$ - コンデンサー: 位相は \(\pi/2\) 進むので、\(\phi = +\pi/2\)。最大値は \(I_{C0}=1.8 \text{ A}\)。
$$ I_C = 1.8 \sin\left(100\pi t + \frac{\pi}{2}\right) = 1.8 \cos(100\pi t) $$
使用した物理公式
- 交流電流の瞬時値の式
- 三角関数の加法定理(位相シフト)
立式が主であり、計算は不要です。
(3)で作った電圧の式をベースにします。電流の式を作るには、「最大値」と「位相のずれ」を反映させます。
- 抵抗:最大値は1.4Aで、ずれはないので、電圧の式のsinの中身はそのまま使います。
- コイル:最大値は0.45Aで、位相が\(\pi/2\)遅れるので、sinの中身から\(\pi/2\)を引きます。
- コンデンサー:最大値は1.8Aで、位相が\(\pi/2\)進むので、sinの中身に\(\pi/2\)を足します。
各素子を流れる電流の式を、最大値と位相関係を正しく反映させて記述できました。
問(8)
思考の道筋とポイント
各素子で消費される電力の「時間平均」を求めます。交流回路では、時間平均したときに電力を消費するのは抵抗のみです。コイルとコンデンサーは、エネルギーを蓄えたり放出したりするだけで、長期的には電力を消費しません。
この設問における重要なポイント
- 平均消費電力: \(P = V_e I_e \cos\phi\)。\(\phi\)は電圧と電流の位相差。
- 抵抗の消費電力: \(\phi=0\) なので \(P_R = V_e I_{Re} = R I_{Re}^2\)。
- コイル・コンデンサーの消費電力: \(\phi = \pm \pi/2\) なので \(\cos\phi=0\)。したがって \(P_L = P_C = 0\)。
具体的な解説と立式
- 抵抗:
平均消費電力 \(P_R\) は、電圧の実効値 \(V_e\) と電流の実効値 \(I_{Re}\) の積で求められます。
$$ P_R = V_e I_{Re} $$
ここで、\(V_e \approx 20 \text{ V}\) ((2)より)、\(I_{Re} = I_{R0}/\sqrt{2} = 1.4/\sqrt{2} \text{ A}\) です。
または、最大値を用いて \(P_R = \displaystyle\frac{1}{2}V_0 I_{R0}\) を用いても計算できます。 - コイルとコンデンサー:
理想的なコイルとコンデンサーはエネルギーを消費しません。1周期の間で電源から受け取ったエネルギーをすべて電源に返すため、時間平均した消費電力は0になります。
$$ P_L = 0 \text{ [W]} $$
$$ P_C = 0 \text{ [W]} $$
使用した物理公式
- 平均消費電力: \(P = V_e I_e\) (抵抗の場合)
抵抗の消費電力を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_R &= \frac{1}{2} V_0 I_{R0} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times 28 \times 1.4 \\[2.0ex]&= 14 \times 1.4 \\[2.0ex]&= 19.6 \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(P_R \approx 20 \text{ W}\) です。
長い時間で見たときに、実際に熱を発生させるなどして電気エネルギーを消費するのは抵抗だけです。コイルとコンデンサーは、電気エネルギーを一時的に蓄えて、また元に戻すだけなので、エネルギーを消費しません。抵抗の消費電力は、「電圧の実効値 × 電流の実効値」で計算できます。
抵抗の平均消費電力は \(20 \text{ W}\)、コイルとコンデンサーの平均消費電力は \(0 \text{ W}\) となります。これは交流回路における電力消費の基本であり、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 交流の基本パラメータと各素子の応答:
- 核心: この問題は、交流回路の基本を網羅的に理解しているかを試すものです。核心は、(A) グラフから交流の基本情報(\(V_0, T, f, \omega, V_e\))を正確に読み取り、計算できること、そして (B) その交流電源に対して、抵抗・コイル・コンデンサーがそれぞれどのように応答するか(リアクタンス、電流の大きさ、位相、消費電力)を体系的に理解していること、の2点に集約されます。
- 理解のポイント:
- 電源の特性: 交流の振る舞いは、その「大きさ(最大値\(V_0\), 実効値\(V_e\))」と「速さ(周期\(T\), 周波数\(f\), 角周波数\(\omega\))」で決まります。これらは互いに変換可能であり、自在に計算できる必要があります。
- 各素子の個性:
- 抵抗\(R\): 電圧と電流が常に比例関係(同位相)。電力を消費する唯一の素子。
- コイル\(L\): 電流の変化を妨げるため、電流の位相が電圧より\(\pi/2\)遅れる。エネルギーを消費しない。流れにくさ(リアクタンス\(X_L\))は周波数に比例する。
- コンデンサー\(C\): 電荷を溜めてから電圧が上がるため、電流の位相が電圧より\(\pi/2\)進む。エネルギーを消費しない。流れにくさ(リアクタンス\(X_C\))は周波数に反比例する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列・並列回路: この問題で求めた各素子のリアクタンスや電流の瞬時値を使って、それらを直列または並列に接続した回路全体のインピーダンス、電流、位相差、消費電力を求める問題。フェーザ図(ベクトル図)を描いて合成する計算が必要になります。
- 周波数を変化させる問題: 電源の周波数\(f\)を変えたときに、各素子のリアクタンスや流れる電流がどのように変化するかを問う問題。\(X_L \propto f\), \(X_C \propto 1/f\) の関係を理解しているかが鍵となります。
- 共振回路: RLC直列回路で、コイルのリアクタンス\(X_L\)とコンデンサーのリアクタンス\(X_C\)が等しくなり、電流が最大になる「共振周波数」を計算させる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- まずグラフを解読する: 交流回路の問題でグラフが与えられたら、設問を読む前に、まずグラフから読み取れるすべての情報(\(V_0, T\))を抜き出し、そこから計算できるもの(\(f, \omega, V_e\))をメモしておきます。これが全ての計算の土台となります。
- 値の種類を常に意識する: 計算の各段階で、自分が扱っているのが「最大値」なのか「実効値」なのかを常に意識します。「電流の式を求めよ」なら最大値が必要、「消費電力を求めよ」なら実効値が必要、というように目的によって使い分けます。
- 位相関係を図でイメージする: 電圧を基準(例:\(\sin\))としたとき、抵抗の電流は\(\sin\)、コイルの電流は\(\sin(\dots-\pi/2) = -\cos\)、コンデンサーの電流は\(\sin(\dots+\pi/2) = \cos\) となる関係を、頭の中で簡単な波形グラフやフェーザ図でイメージできると、式の形を間違えにくくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最大値と実効値の混同:
- 誤解: (2)で実効値を求めるときに最大値をそのまま答えたり、(5)で最大値を求めるところを実効値で計算したり、(8)で消費電力を最大値で計算(例: \(P=V_0 I_0\))してしまう。
- 対策: 「実効値は最大値の\(1/\sqrt{2}\)倍」「消費電力は実効値で計算」という2大ルールを徹底的に覚える。問題で何を問われているかを正確に把握し、適切な値を選択する訓練を積む。
- リアクタンスの計算ミス:
- 誤解: (4)で、\(X_L = \omega L\) と \(X_C = 1/(\omega C)\) の公式を混同する、または角周波数\(\omega\)ではなく周波数\(f\)を使ってしまう(\(2\pi\)を忘れる)。
- 対策: コイルは周波数が高いほど流れにくい(比例)、コンデンサーは周波数が高いほど流れやすい(反比例)という物理的イメージと公式を結びつける。また、\(\omega = 2\pi f\) の変換を計算の最初のステップとして必ず行う習慣をつける。
- 位相の進み・遅れの混同:
- 誤解: (6),(7)でコイルとコンデンサーの位相の進み・遅れを逆にしてしまう。
- 対策: 語呂合わせ(例:「コイルは遅れる」)や、物理的イメージ(コンデンサーはまず電流が流れて充電されるから電流が先(進む))で覚える。電圧を基準にしたときの電流の位相(抵抗:0, コイル:\(-\pi/2\), コンデンサー:\(+\pi/2\))をセットで記憶する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 実効値の定義 (\(V_e = V_0/\sqrt{2}\)):
- 選定理由: (2)で、グラフから読み取れる最大値と、回路のエネルギー的な性質を表す実効値を結びつけるために必要です。
- 適用根拠: 実効値は、交流が抵抗で消費する電力が、ある直流電圧・電流が消費する電力と等しくなるように定義された値です。正弦波交流の場合、瞬時電力 \(P(t) = V(t)I(t)\) を1周期にわたって平均すると、その平均値が実効値同士の積 \(P = V_e I_e\) に等しくなります。この関係から、数学的に \(V_e = V_0/\sqrt{2}\) が導かれます。
- 平均消費電力の公式 (\(P = V_e I_e \cos\phi\)):
- 選定理由: (8)で、時間平均した消費電力を求めるための最も一般的な公式です。
- 適用根拠: 瞬時電力 \(P(t) = V(t)I(t)\) を1周期で平均した結果がこの式になります。電圧と電流の位相差が \(\phi\) である場合、この平均値には \(\cos\phi\) という項(力率)が現れます。
- 抵抗では \(\phi=0\) なので \(\cos\phi=1\) となり、\(P_R = V_e I_{Re}\)。
- コイルやコンデンサーでは \(\phi=\pm\pi/2\) なので \(\cos\phi=0\) となり、\(P=0\)。
このことから、理想的なコイルとコンデンサーは電力を消費しないという重要な結論が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の接頭辞に注意: (4)のコンデンサーの計算で、\(200\mu\text{F}\) を \(200 \times 10^{-6}\text{F}\) に正確に変換することが計算の第一歩です。\(\mu\) (マイクロ) = \(10^{-6}\) を確実に覚えましょう。
- 分母分子の整理: (4)の \(X_C\) の計算のように、分母に複数の項がある場合は、まず分母だけを計算してから割り算を実行するとミスが減ります。
\(X_C = \displaystyle\frac{1}{100\pi \times 200 \times 10^{-6}} = \frac{1}{0.02\pi} = \frac{1}{0.0628}\) - 計算の途中では多めの桁数で: (5)のように、前の設問の計算結果(リアクタンス)を使って計算する場合、丸めた値(例: 63Ω)ではなく、丸める前の値(例: 62.8Ω)を使う方が最終的な答えの精度が高くなります。テストなどで指示がない限り、最後の答えを出す直前までは3〜4桁の有効数字を保って計算を進めるのが安全です。
- 三角関数の変換: (7)で電流の式を \(\cos\) で表現するのは、\(\sin(\theta \pm \pi/2)\) の変換公式を知っていると見通しが良くなるためです。この変換は必須ではありませんが、できると解答の選択肢に対応しやすくなります。
404 交流の発生
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流発電機の原理と交流電圧の性質」です。コイルが磁界中で回転することで生じる誘導起電力の時間変化を、数式とグラフで表現する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束が時間変化すると、誘導起電力が生じます。
- レンツの法則: 誘導電流の向きは、磁束の変化を妨げる向きになります。
- 交流電圧の最大値と実効値の関係: 正弦波交流では、\(V_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{\text{最大}}}{\sqrt{2}}\) の関係があります。
- 回転数と角周波数、周期の関係: 回転数\(f\)、角周波数\(\omega\)、周期\(T\)には、\(\omega = 2\pi f\)、\(T = \displaystyle\frac{1}{f}\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回転数が変わった後の交流電圧の「実効値」を、電圧が回転数に比例することを利用して求めます。
- 次に、実効値から電圧の「最大値」を計算します。
- 新しい回転数から、交流電圧の「周期」と「角周波数」を求めます。
- 最後に、問題文の初期条件(\(t=0\)でのコイルの向き)から誘導起電力の符号と波形を決定し、電圧の時間変化を表す式を立ててグラフを描きます。
思考の道筋とポイント
この問題は、与えられた初期条件(50Hz回転時の実効値)から、回転数を変更した(200Hz)ときの電圧の時間変化をグラフで表現することがゴールです。グラフを描くためには、電圧の「波形の種類(\(\sin\)か\(\cos\)か、符号はどうか)」、「最大値(振幅)」、「周期」の3つの要素を特定する必要があります。
- 最大値と周期の計算: まずは、回転数の変化が電圧の大きさと周期にどう影響するかを考えます。誘導起電力の最大値は回転数に比例し、周期は回転数に反比例することから、新しい最大値と周期を計算します。
- 波形の特定: 次に、最も重要なポイントである波形の特定です。これは、\(t=0\)のときのコイルの向きから、誘導起電力がどのように変化し始めるかを物理的に考察することで決定します。問題文の「\(\theta=0\)のときを時刻0とする」という定義に従うと、コイル面は磁場と平行であり、この瞬間にコイルの辺は磁場を垂直に横切るため、誘導起電力は最大となります。その符号をレンツの法則で決定し、波形を特定します。
この設問における重要なポイント
- 誘導起電力の最大値 \(V_{\text{最大}}\) は、角周波数 \(\omega\)(したがって回転数 \(f\))に比例する。
- 交流電圧の実効値 \(V_{\text{実効}}\) と最大値 \(V_{\text{最大}}\) の関係は \(V_{\text{最大}} = \sqrt{2} V_{\text{実効}}\)。
- \(t=0\) でのコイルの向き(コイル面が磁場と平行)から、磁束 \(\Phi\) を \(t\) の関数(\(\sin\)型)として正しく設定する。
- ファラデーの法則 \(V = -\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) を用いて、起電力の時間変化(\(-\cos\)型)を正しく導出する。
具体的な解説と立式
まず、回転数を毎秒200回にしたときの電圧の最大値 \(V_{\text{最大}}\) と周期 \(T\) を求めます。
1. 電圧の実効値と最大値の計算
誘導起電力の最大値は \(V_{\text{最大}} = NBS\omega = NBS(2\pi f)\) で与えられます。ここで \(N\) はコイルの巻き数、\(B\) は磁束密度、\(S\) はコイルの面積、\(f\) は回転数です。この式から、\(V_{\text{最大}}\) は回転数 \(f\) に比例することがわかります。
実効値 \(V_{\text{実効}}\) も最大値に比例するため(\(V_{\text{実効}} = V_{\text{最大}}/\sqrt{2}\))、回転数 \(f\) に比例します。
回転数が \(f_1 = 50\) Hz のときの実効値が \(V_{\text{実効},1} = 2.0\) mV。
回転数を \(f_2 = 200\) Hz にしたときの実効値を \(V_{\text{実効},2}\) とすると、比例関係から、
$$ V_{\text{実効},2} = V_{\text{実効},1} \times \frac{f_2}{f_1} $$
この \(V_{\text{実効},2}\) から、電圧の最大値 \(V_{\text{最大},2}\) を求めます。
$$ V_{\text{最大},2} = \sqrt{2} V_{\text{実効},2} $$
2. 周期 \(T\) と角周波数 \(\omega\) の計算
回転数が \(f_2 = 200\) Hz のときの周期 \(T_2\) と角周波数 \(\omega_2\) は、
$$ T_2 = \frac{1}{f_2} $$
$$ \omega_2 = 2\pi f_2 $$
3. 電圧の時間変化の式の導出
問題文より、\(t=0\) のとき \(\theta=0\) です。図から、このときコイルの面は磁場 \(B\) の向きと平行です。コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、コイルの面に垂直な方向の磁束密度成分と面積の積で表されます。コイル面の法線と磁場 \(B\) のなす角は \(90^\circ – \theta\) となるため、時刻 \(t\) における磁束 \(\Phi(t)\) は次のように表せます。(ここで \(\theta = \omega_2 t\))
$$ \Phi(t) = BS \cos(90^\circ – \omega_2 t) = BS \sin(\omega_2 t) $$
ファラデーの電磁誘導の法則により、Pに対するQの電位 \(V(t)\) は、誘導起電力として次のように与えられます。
$$ V(t) = – \frac{d\Phi(t)}{dt} $$
この式を計算することで、\(V(t)\) の具体的な形がわかります。
符号については、レンツの法則からも確認できます。\(t=0\) からごくわずかな時間が経過すると、コイルは反時計回りに回転し、コイルを貫く右向きの磁束は増加します。レンツの法則によれば、誘導電流はこの磁束の増加を妨げるため、左向きの磁場を作る向きに流れます。右ねじの法則から、電流は Q→P の向きに流れます。これは、P点の電位がQ点より高くなることを意味します。したがって、Pに対するQの電位 \(V(t) = V_Q – V_P\) は負となります。
使用した物理公式
- 交流電圧の最大値と実効値の関係: \(V_{\text{最大}} = \sqrt{2} V_{\text{実効}}\)
- 回転数と周期、角周波数の関係: \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\), \(\omega = 2\pi f\)
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = – \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
- 回転コイルの磁束: \(\Phi(t) = BS \sin(\omega t)\)
1. 実効値と最大値の計算
回転数を \(f_2 = 200\) Hz にしたときの実効値 \(V_{\text{実効},2}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{実効},2} &= 2.0 \text{ [mV]} \times \frac{200 \text{ [Hz]}}{50 \text{ [Hz]}} \\[2.0ex]&= 8.0 \text{ [mV]}
\end{aligned}
$$
したがって、電圧の最大値 \(V_{\text{最大},2}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{最大},2} &= \sqrt{2} \times V_{\text{実効},2} \\[2.0ex]&= \sqrt{2} \times 8.0 \\[2.0ex]&\approx 1.414 \times 8.0 \\[2.0ex]&= 11.312 \approx 11 \text{ [mV]}
\end{aligned}
$$
問題のグラフの目盛りを考慮し、有効数字2桁で \(V_{\text{最大},2} = 11\) mV とします。
2. 周期と角周波数の計算
周期 \(T_2\) は、
$$
\begin{aligned}
T_2 &= \frac{1}{200 \text{ [Hz]}} \\[2.0ex]&= 0.005 \text{ [s]} \\[2.0ex]&= 5.0 \text{ [ms]}
\end{aligned}
$$
角周波数 \(\omega_2\) は、
$$
\begin{aligned}
\omega_2 &= 2\pi \times 200 \text{ [Hz]} \\[2.0ex]&= 400\pi \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
3. 電圧の式の計算
立式した \(V(t) = – \displaystyle\frac{d\Phi(t)}{dt}\) に \(\Phi(t) = BS \sin(\omega_2 t)\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V(t) &= – \frac{d}{dt} \left( BS \sin(\omega_2 t) \right) \\[2.0ex]&= – BS \cdot (\omega_2 \cos(\omega_2 t)) \\[2.0ex]&= – BS\omega_2 \cos(\omega_2 t)
\end{aligned}
$$
ここで、電圧の最大値は \(V_{\text{最大},2} = BS\omega_2\) です。
したがって、Pに対するQの電位 \(V(t)\) は、
$$ V(t) = -V_{\text{最大},2} \cos(\omega_2 t) $$
数値を代入すると、
$$ V(t) = -11 \cos(400\pi t) \text{ [mV]} $$
となります。(ただし \(t\) の単位は秒)
まず、回転数が50回/秒から200回/秒へと4倍になったので、電圧の強さ(実効値)も4倍の \(2.0 \times 4 = 8.0\) mV になります。グラフに描くために必要な「電圧の最大値」は、この実効値を \(\sqrt{2}\) 倍(約1.41倍)して、\(8.0 \times 1.41 \approx 11\) mV となります。
次に、波の1サイクルの時間(周期)を計算します。200回/秒なので、1回の回転にかかる時間は \(1 \div 200 = 0.005\) 秒、つまり 5.0ミリ秒です。
最後に、グラフの形を決めます。\(t=0\) のとき、コイルの面は磁場と平行で、コイルの辺が磁場を最も速く垂直に横切るため、発生する電圧は最大になります。このとき、電流はQからPへ流れるので、Pに対するQの電位はマイナスになります。したがって、グラフは \(t=0\) でマイナスの最大値(\(-11\) mV)からスタートする、マイナスコサインカーブを描きます。
Pに対するQの電位 \(V\) は、最大値が \(11\) mV、周期が \(5.0\) ms のマイナスコサインカーブで変化します。数式で表すと \(V(t) = -11 \cos(400\pi t)\) [mV] となります(ただし \(t\) の単位は秒)。
この結果は、\(t=0\) で \(V=-11\) mV となり、物理的な考察(\(t=0\)で起電力が最大、かつPの電位がQより高い)と一致しており、妥当です。グラフは \(t=0\) で \(-11\) mV、\(t = T/4 = 1.25\) ms で 0 になり、\(t = T/2 = 2.5\) ms で最大値 \(+11\) mV に達します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ファラデーの電磁誘導の法則と磁束の定義:
- 核心: 交流電圧が発生する根本原理は、ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) です。しかし、この法則を正しく適用するためには、まずコイルを貫く磁束 \(\Phi\) を時刻 \(t\) の関数として正確に表現することが不可欠です。
- 理解のポイント:
- 問題の図と初期条件(\(t=0\)で\(\theta=0\))から、コイル面が磁場と平行、すなわち磁束が0の状態から始まると読み取ります。
- このため、磁束 \(\Phi\) は \(\sin\) 関数(\(\Phi(t) = BS \sin(\omega t)\))で表されます。これを微分することで、誘導起電力 \(V\) は \(-\cos\) 関数(\(V(t) = -BS\omega \cos(\omega t)\))になる、という一連の流れを理解することが最も重要です。
- 交流電圧のパラメータ間の関係:
- 核心: 交流電圧の特性(大きさ、周期)が、コイルの回転数とどのように関連しているかを理解していること。
- 理解のポイント:
- 電圧と回転数の比例関係: 誘導起電力の最大値 \(V_{\text{最大}}\) は角周波数 \(\omega\) に比例し、\(\omega = 2\pi f\) なので、結果的に回転数 \(f\) に比例します。実効値 \(V_{\text{実効}}\) も同様に \(f\) に比例します。
- 最大値と実効値の関係: 正弦波交流では常に \(V_{\text{最大}} = \sqrt{2} V_{\text{実効}}\) が成り立ちます。
- 周期と回転数の逆数関係: 周期 \(T\) は1回転にかかる時間なので、回転数 \(f\)(1秒あたりの回転数)とは \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\) の関係にあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 初期条件が異なる問題: 例えば、「\(t=0\)でコイル面が磁場に垂直な状態から回転を始める」場合。このときは磁束が最大から始まるので \(\Phi(t) = BS \cos(\omega t)\) となり、誘導起電力は \(V(t) = BS\omega \sin(\omega t)\) というサインカーブになります。
- 交流回路への接続: 発電した交流電源に抵抗だけでなく、コンデンサーやコイルを接続する問題。回路に流れる電流の位相が電圧に対して進んだり遅れたりする現象を考慮する必要があります。
- 消費電力の計算: 交流回路での消費電力を問う問題。抵抗での消費電力は \(P = V_{\text{実効}}I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{\text{実効}}^2}{R}\) で計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 初期条件(\(t=0\)の状態)を最優先で確認: まず、図と問題文から「\(t=0\)のときのコイルの向き」を特定します。これが磁束 \(\Phi\) を \(\sin\) で書くか \(\cos\) で書くかを決定する最重要ポイントです。「磁束0から始まるなら\(\sin\)」「磁束最大から始まるなら\(\cos\)」と判断します。
- 問われている値の種類を区別: 問題で与えられている電圧が「実効値」なのか「最大値」なのか、そして最終的にグラフに描くべき電圧の「最大値(振幅)」を明確に区別します。
- 電位の基準を確認: 「Pに対するQの電位(\(V_Q – V_P\))」なのか、その逆なのかを確認します。これにより、レンツの法則で求めた電流の向きから、最終的な電圧の符号(プラスかマイナスか)を正しく決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 磁束 \(\Phi\) の式の固定観念:
- 誤解: 交流発電の問題だからと、何も考えずに \(\Phi = BS \cos(\omega t)\) や \(V = V_{\text{最大}} \sin(\omega t)\) のように、いつも同じ式を暗記して使ってしまう。
- 対策: 公式を丸暗記するのではなく、「\(t=0\)のコイルの向き」から毎回、物理的に考察する習慣をつけます。「\(t=0\)で磁束はいくつか?」→「だから\(\Phi\)は\(\sin\)か\(\cos\)か?」→「それを微分するから\(V\)の形はこうなる」という思考プロセスを徹底します。
- 最大値と実効値の混同:
- 誤解: (1) 回転数を4倍にしたので、実効値が \(8.0\) mV になるが、これをグラフの振幅(最大値)として描いてしまう。(2) 問題で与えられた実効値 \(2.0\) mV を、最初の状態の最大値だと勘違いする。
- 対策: 「実効値」は平均的な能力を表す値、「最大値」は瞬間のピーク値、と役割を明確に区別します。グラフに描くのは必ず「最大値(振幅)」であることを強く意識し、計算の途中で「実効値→最大値」の変換(\(\sqrt{2}\)倍)を忘れないようにチェックリスト化します。
- 符号の決定ミス:
- 誤解: ファラデーの法則のマイナス符号 \(V = -d\Phi/dt\) を忘れたり、レンツの法則で電流の向きを逆に考えてしまい、グラフの上下が反転してしまう。
- 対策: 微分計算(\(V = -d\Phi/dt\))と、物理的な考察(レンツの法則)の両方で符号を確認する「ダブルチェック」を推奨します。レンツの法則では、「①磁束の変化(増加or減少)→ ②それを妨げる誘導磁場の向き → ③誘導磁場を作る電流の向き(右ねじ)→ ④電位の大小」というステップを一つずつ丁寧にたどります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V = -\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)):
- 選定理由: この問題の物理現象そのものを記述する根幹法則です。コイルが回転することで「磁束\(\Phi\)が時間変化」し、その結果として「電圧\(V\)が生じる」という因果関係を数式で結びつけるために使用します。
- 適用根拠: 磁束の時間的な「変化率」が誘導起電力の大きさに等しい、という物理法則に基づいています。数学的には、時間変化率を求める操作が「時間微分」に対応するため、この公式が適用されます。マイナス符号は、変化を妨げる向きに起電力が生じるというレンツの法則を内包しています。
- 磁束の式 (\(\Phi = BS \sin(\omega t)\)):
- 選定理由: ファラデーの法則を適用する大前提として、まず磁束\(\Phi\)自体を時間の関数として具体的に表現する必要があるためです。
- 適用根拠: 問題で定義された角度\(\theta\)(=\(\omega t\))と磁束の関係を幾何学的に考察した結果です。磁束は「コイルの面積\(S\) × コイル面に垂直な磁束密度の成分\(B_{\perp}\)」で計算されます。図から \(B_{\perp} = B \sin\theta\) となるため、\(\Phi = S \times (B \sin\theta) = BS \sin(\omega t)\) という式が導かれます。
- 電圧と回転数の比例関係 (\(V_{\text{実効}} \propto f\)):
- 選定理由: 回転数を変更した後の電圧を、微分などの複雑な計算をせずとも素早く求めるために使用します。
- 適用根拠: \(V_{\text{最大}} = BS\omega\) であり、かつ \(\omega = 2\pi f\) なので、\(V_{\text{最大}} = BS(2\pi f)\) となります。\(B, S\) が一定ならば、\(V_{\text{最大}}\) は \(f\) に正比例します。実効値 \(V_{\text{実効}}\) も最大値に比例するため、同様に \(f\) に比例すると言えます。この論理に基づき、単純な比例計算が許されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比例式の確実な立式: 「回転数が4倍だから電圧も4倍」と暗算で済ませず、「\(V_{\text{実効},2} = V_{\text{実効},1} \times \displaystyle\frac{f_2}{f_1} = 2.0 \times \displaystyle\frac{200}{50} = 8.0\) [mV]」のように、一度は式を書き下してミスを防ぎます。
- \(\sqrt{2}\) の近似計算: \(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用いる際、\(8.0 \times 1.41 = 11.28\) のように計算し、問題の有効数字(今回はグラフから2桁と判断)に合わせて \(11\) [mV] と適切に丸める練習をします。途中の計算では少し多めの桁で計算し、最後に丸めるのが基本です。
- 微分公式の再確認: \(\sin(\omega t)\) の微分が \(\omega \cos(\omega t)\)、\(\cos(\omega t)\) の微分が \(-\omega \sin(\omega t)\) であることを正確に適用します。特に、係数 \(\omega\) が外に出てくる「連鎖律(合成関数の微分)」を忘れないように注意が必要です。
- 単位の最終チェック: グラフを描き始める直前に、計算で求めた値の単位と、グラフの軸に指定されている単位を必ず見比べます。今回の場合、周期 \(T=0.005\) [s] を、横軸の単位 [ms] に合わせて \(5.0\) [ms] に変換する作業を忘れないようにします。
405 RLC直列回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC直列回路の解析」です。交流回路の基本的な3つの素子(抵抗、コイル、コンデンサー)が直列に接続されたときの、回路全体の電圧と電流の関係を、数式を用いて段階的に解き明かしていく問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 各素子のリアクタンス: コイルとコンデンサーが持つ、交流電流に対する「抵抗」のような性質。コイルは \(\omega L\)、コンデンサーは \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\) で表されます。
- 電圧と電流の位相関係: 各素子において、電圧と電流のタイミング(位相)がどのようにずれるか。抵抗は同位相、コイルは電圧が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進み、コンデンサーは電圧が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。
- キルヒホッフの第2法則: 直列回路において、各素子にかかる電圧の瞬時値の和は、電源電圧の瞬時値に等しくなります。\(V = V_R + V_L + V_C\)。
- 三角関数の合成: \(\sin\) と \(\cos\) が混在する電圧の式を、一つの \(\sin\) 関数にまとめるための数学的な手法です。
- インピーダンス: 回路全体としての、交流電流に対する「抵抗」のことで、抵抗とリアクタンスを合成して求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、電流 \(I = I_0 \sin(\omega t)\) を基準に、抵抗、コイル、コンデンサーそれぞれにかかる電圧の最大値と、位相のずれを求めます。
- 次に、各電圧の瞬時値を \(t\) の関数として表します。
- キルヒホッフの法則を用いて、各電圧の瞬時値をすべて足し合わせ、電源電圧 \(V\) の式を導出します。
- 最後に、三角関数の合成公式を用いて \(V\) の式を整理し、回路全体の電圧の最大値やインピーダンス、電流との位相差を求めます。
【空欄①, ②, ③】各素子の電圧の最大値
思考の道筋とポイント
交流回路におけるオームの法則に相当する関係式 \(V_{\text{最大}} = Z I_{\text{最大}}\) を、各素子に適用します。ここで \(Z\) は抵抗やリアクタンス、\(I_{\text{最大}}\) は電流の最大値 \(I_0\) です。各素子の交流に対する「抵抗」が何であるかを正確に理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗のインピーダンスは、抵抗値 \(R\) そのものである。
- コイルのリアクタンス(誘導性リアクタンス)は \(\omega L\) である。
- コンデンサーのリアクタンス(容量性リアクタンス)は \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\) である。
具体的な解説と立式
各素子にかかる電圧の最大値は、それぞれの抵抗またはリアクタンスと、電流の最大値 \(I_0\) の積で与えられます。
- 抵抗の電圧の最大値 \(V_{R0}\):
$$ V_{R0} = R I_0 $$ - コイルの電圧の最大値 \(V_{L0}\):
$$ V_{L0} = (\omega L) I_0 $$ - コンデンサーの電圧の最大値 \(V_{C0}\):
$$ V_{C0} = \left(\frac{1}{\omega C}\right) I_0 $$
使用した物理公式
- 交流におけるオームの法則: \(V_{\text{最大}} = Z I_{\text{最大}}\)
- 各素子のインピーダンス/リアクタンス: \(Z_R = R\), \(Z_L = \omega L\), \(Z_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
上記立式がそのまま解答となります。
各部品にかかる電圧のピーク値(最大値)は、その部品の「電流の通りにくさ」に「電流のピーク値」を掛け算することで求められます。抵抗の通りにくさは\(R\)、コイルは\(\omega L\)、コンデンサーは\(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\)です。
各素子の電圧の最大値は、それぞれ \(RI_0\), \(\omega L I_0\), \(\displaystyle\frac{I_0}{\omega C}\) となります。
【空欄④, ⑤, ⑥】各素子の電圧の位相
思考の道筋とポイント
基準となる電流 \(I = I_0 \sin(\omega t)\) に対して、各素子にかかる電圧の波形のタイミングがどれだけ進むか、あるいは遅れるかを答える問題です。これは各素子の物理的な特性に起因するもので、交流回路の基本知識として記憶しておくべき内容です。
この設問における重要なポイント
- 抵抗(R): 電圧と電流の位相は同じ(同位相)。
- コイル(L): 電圧の位相は、電流の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進む。
- コンデンサー(C): 電圧の位相は、電流の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れる。
具体的な解説と立式
- 抵抗 \(R\): 電圧と電流の間に位相差はありません。
- コイル \(L\): 電流の変化を妨げる性質(自己誘導)により、電圧のピークが電流のピークより先に現れます。その位相差は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。
- コンデンサー \(C\): 電荷をためる性質により、電圧が最大になるのは電流が流れ込んでから少し時間が経ってからです。そのため、電圧のピークは電流のピークより遅れます。その位相差は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) です。
- 抵抗は、電流が流れるとすぐに電圧が発生するので、タイミングはぴったり同じです。
- コイルは、電流を「流したくない」と抵抗するので、まず電圧をかけてから電流が流れ始めます。つまり電圧が先行します。
- コンデンサーは、まず電流が流れ込んで電荷がたまり、その結果として電圧が上がります。つまり電圧が遅れます。
電流 \(I\) に対して、電圧 \(V_R\) は同位相、\(V_L\) は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進み、\(V_C\) は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。
【空欄⑦, ⑧, ⑨】各素子の電圧の瞬時値
思考の道筋とポイント
これまでの結果(最大値と位相)を組み合わせて、各素子の電圧の瞬時値 \(V(t)\) を数式で表現します。一般式 \(V(t) = V_{\text{最大}} \sin(\omega t + \phi)\) に、各素子の \(V_{\text{最大}}\) と位相差 \(\phi\) を代入します。
この設問における重要なポイント
- \(V_R\) の位相差は 0。
- \(V_L\) の位相差は \(+\displaystyle\frac{\pi}{2}\)。
- \(V_C\) の位相差は \(-\displaystyle\frac{\pi}{2}\)。
- 三角関数の性質: \(\sin(x + \displaystyle\frac{\pi}{2}) = \cos(x)\), \(\sin(x – \displaystyle\frac{\pi}{2}) = -\cos(x)\)。
具体的な解説と立式
- 抵抗の電圧 \(V_R\):
$$
\begin{aligned}
V_R(t) &= V_{R0} \sin(\omega t + 0) \\[2.0ex]&= RI_0 \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$ - コイルの電圧 \(V_L\):
$$
\begin{aligned}
V_L(t) &= V_{L0} \sin\left(\omega t + \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= \omega L I_0 \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$ - コンデンサーの電圧 \(V_C\):
$$
\begin{aligned}
V_C(t) &= V_{C0} \sin\left(\omega t – \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= \frac{I_0}{\omega C} (-\cos(\omega t)) \\[2.0ex]&= -\frac{I_0}{\omega C} \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
各部品の電圧の時間変化は、「その部品の電圧の最大値」と「基準の波(\(\sin\))からのタイミングのズレ」を組み合わせて式にします。コイルとコンデンサーでは、タイミングのズレがちょうど90度なので、\(\sin\) が \(\cos\) に変わります。
各電圧の瞬時値は、最大値と位相の関係から正しく導出できました。
【空欄⑩, ⑪, ⑫, ⑬, ⑭】電源電圧とインピーダンス
思考の道筋とポイント
キルヒホッフの第2法則に基づき、3つの素子の電圧の瞬時値をすべて足し合わせることで、電源電圧 \(V\) を求めます。その結果得られる \(\sin\) と \(\cos\) の混じった式を、問題文で与えられた三角関数の合成公式を使って整理し、回路全体の特性(最大電圧、インピーダンス)を導き出します。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの第2法則: \(V = V_R + V_L + V_C\)。電圧は瞬時値の和であり、最大値の和ではない。
- 三角関数の合成: \(a \sin x + b \cos x = \sqrt{a^2+b^2} \sin(x+\theta)\)。
- インピーダンス \(Z\) は、回路全体の電圧と電流の最大値の関係 \(V_0 = Z I_0\) から定義される。
具体的な解説と立式
【⑩】電源電圧 \(V\) の導出
キルヒホッフの法則より、\(V(t) = V_R(t) + V_L(t) + V_C(t)\) です。これに ⑦, ⑧, ⑨ の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
V(t) &= RI_0 \sin(\omega t) + \omega L I_0 \cos(\omega t) – \frac{I_0}{\omega C} \cos(\omega t) \\[2.0ex]&= RI_0 \sin(\omega t) + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)I_0 \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
空欄の形に合わせるため \(I_0\) でくくると、
$$ V(t) = I_0 \left\{ R \sin(\omega t) + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right) \cos(\omega t) \right\} $$
【⑪, ⑫, ⑬, ⑭】三角関数の合成とインピーダンス
上記⑩の式に、\(a = R\), \(b = \omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) として三角関数の合成公式を適用します。
$$ V(t) = I_0 \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2} \sin(\omega t + \theta) $$
これが ⑪ の答えです。
この式の振幅(\(\sin\) の前の係数全体)が、電源電圧の最大値 \(V_0\) になります。
$$ V_0 = I_0 \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2} $$
これが ⑫ の答えです。
この式から、\(V_0\) は \(I_0\) に比例することがわかります。これが ⑬ の答えです。
オームの法則 \(V_0 = Z I_0\) と比較すると、回路全体のインピーダンス \(Z\) がわかります。
$$ Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2} $$
これが ⑭ の答えです。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則: \(V = V_R + V_L + V_C\)
- インピーダンスの定義: \(Z = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\)
3つの部品の電圧の波を全部足し合わせます。すると、\(\sin\) と \(\cos\) が混ざった複雑な波になります。これを「三角関数の合成」という魔法の杖で、きれいな一つの \(\sin\) の波にまとめ直します。まとめ直した波の高さが、電源電圧の最大値 \(V_0\) です。この \(V_0\) と電流の最大値 \(I_0\) の関係を調べると、回路全体の「通りにくさ=インピーダンス」がわかります。
各素子の電圧の和から、三角関数の合成を経て、回路全体の電圧の最大値とインピーダンスを正しく導出できました。
【空欄⑮, ⑯】位相差
思考の道筋とポイント
三角関数の合成公式 \(a \sin x + b \cos x = \sqrt{a^2+b^2} \sin(x+\theta)\) における位相角 \(\theta\) は、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{b}{a}\) で与えられます。これを用いて、電圧と電流の位相差を求めます。
この設問における重要なポイント
- 合成公式における \(a\) と \(b\) の対応を間違えないこと。
- 電流の位相が \(\omega t\)、電圧の位相が \(\omega t + \theta\) であることから、両者の関係(進み/遅れ)を正しく解釈すること。
具体的な解説と立式
【⑮】\(\tan\theta\) の計算
合成公式の \(a, b\) に対応するのは、⑩の式の \(\sin(\omega t)\) と \(\cos(\omega t)\) の係数です。
$$ a = R, \quad b = \omega L – \frac{1}{\omega C} $$
したがって、\(\tan\theta\) は、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{b}{a} \\[2.0ex]&= \frac{\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}}{R}
\end{aligned}
$$
【⑯】電流と電圧の位相関係
電流の式は \(I = I_0 \sin(\omega t)\) で、位相は \(\omega t\)。
電源電圧の式は \(V = V_0 \sin(\omega t + \theta)\) で、位相は \(\omega t + \theta\)。
電圧の位相の方が、電流の位相より \(\theta\) だけ大きいです。これは「電圧が電流より \(\theta\) 進んでいる」ことを意味します。
問題では「電流の位相は、電源の電圧Vの位相に対して」どうなっているかを問われているので、主語を電流にすると「電流は電圧より \(\theta\) 遅れている」ことになります。
電圧と電流のタイミングのズレ \(\theta\) は、合成公式から計算できます。電圧の波の位相が「\(\omega t + \theta\)」で、電流の波の位相が「\(\omega t\)」なので、電圧の方が \(\theta\) だけ進んでいます。逆に言えば、電流は電圧に対して \(\theta\) だけ遅れている、ということになります。
位相差 \(\tan\theta\) の式を正しく求め、電流と電圧の位相の進み・遅れの関係を正確に解釈できました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RLC直列回路における電圧と電流の関係性:
- 核心: この問題は、RLC直列回路の振る舞いを、3つの基本法則の組み合わせで解き明かすプロセスそのものです。
- 理解のポイント:
- 各素子の電圧と電流の関係: 抵抗、コイル、コンデンサーそれぞれで、電圧と電流の最大値の関係(\(V_{\text{最大}}=ZI_{\text{最大}}\))と位相差(同相、\(\pi/2\)進み、\(\pi/2\)遅れ)がどうなるかを理解することが第一歩です。
- キルヒホッフの第2法則: 回路全体の電源電圧は、各素子にかかる電圧の「瞬時値」の和(\(V = V_R + V_L + V_C\))で与えられます。位相が異なるため、最大値の単純な和(\(V_0 \neq V_{R0}+V_{L0}+V_{C0}\))にはならない点が極めて重要です。
- 三角関数の合成: 上記の瞬時値の和を計算すると、\(\sin\)と\(\cos\)が混在した式になります。これを一つの\(\sin\)関数にまとめる数学的な操作が、回路全体の電圧の最大値(振幅)と、電流に対する位相差を明らかにするための鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ベクトル図(フェーザ図)による解法: この問題は数式計算で解いていますが、電圧やインピーダンスをベクトルとして図示する「ベクトル図」を用いると、より直感的に解けます。電流を基準(右向きのベクトル)とし、\(V_R\)(同方向)、\(V_L\)(上向き)、\(V_C\)(下向き)のベクトルを合成することで、電源電圧\(V\)の大きさと位相角\(\theta\)を三平方の定理や三角比で求められます。
- 共振回路: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) となる特定の角周波数(共振角周波数)では、コイルとコンデンサーのリアクタンスが打ち消し合い、インピーダンスが最小(\(Z=R\))になります。このとき、電流が最大となり、電圧と電流の位相差は0になります。この「共振」現象を問う問題は頻出です。
- RLC並列回路: 各素子に加わる電圧が共通となり、回路全体の電流が各素子を流れる電流の瞬時値の和(\(I = I_R + I_L + I_C\))になる問題。この場合は電流のベクトル図を考えて解きます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の接続方法を確認: まず「直列」か「並列」かを確認します。直列なら「電流が共通」、並列なら「電圧が共通」という、解析の出発点が決まります。
- 基準を明確にする: 電流 \(I\) と電圧 \(V\) のどちらを基準(例: \(I=I_0\sin\omega t\))として考えるか決めます。問題で指定されていればそれに従います。
- 問われている物理量の種類を特定: 「最大値」「実効値」「瞬時値」のどれを問われているか。「インピーダンス」「リアクタンス」のどちらか。言葉の定義を正確に捉え、求めるべきゴールを明確にします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧の最大値の単純な足し算:
- 誤解: 電源電圧の最大値 \(V_0\) を、各素子の電圧の最大値の単純な和 \(V_0 = V_{R0} + V_{L0} + V_{C0}\) として計算してしまう。
- 対策: 電圧は位相を持つベクトル的な量であり、向きの異なるベクトルを足し算するイメージを持つことが重要です。スカラーのように数値をそのまま足すことはできません。必ず「瞬時値の和をとってから合成する」か、「ベクトル図で合成する」というルールを徹底します。
- 三角関数の合成ミス:
- 誤解: \(a \sin(\omega t) + b \cos(\omega t)\) を合成する際に、係数 \(a, b\) を取り違えたり、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{b}{a}\) の分子と分母を逆にしたりする。
- 対策: \(\sin\)の係数が\(a\)、\(\cos\)の係数が\(b\)であることを確認し、\(\tan\theta\) は「\(\cos\)の係数 / \(\sin\)の係数」ではなく「\(\sin\)の係数 / \(\cos\)の係数」の逆、つまり「\(\cos\)の係数 / \(\sin\)の係数」であると覚えるのではなく、加法定理 \(\sin(\omega t+\theta) = \sin(\omega t)\cos\theta + \cos(\omega t)\sin\theta\) と係数比較することで、\(a \propto \cos\theta\), \(b \propto \sin\theta\) となることを理解します。これにより \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \frac{b}{a}\) が自然に導けます。
- 位相の進み・遅れの解釈ミス:
- 誤解: 電圧が \(V = V_0 \sin(\omega t + \theta)\) となったとき、電流に対する電圧の位相は「\(\theta\)進み」ですが、問題で「電流は電圧に対してどうですか」と主語を逆に聞かれたときに、そのまま「\(\theta\)進み」と答えてしまう。
- 対策: 「AはBに対して〜」という日本語の主語と対象を正確に把握する癖をつけます。「電圧は電流に対して\(\theta\)進む」と「電流は電圧に対して\(\theta\)遅れる」は同じ事象を異なる視点から述べただけであり、等価であることを常に意識します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- リアクタンスの公式 (\(X_L = \omega L\), \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)):
- 選定理由: 抵抗\(R\)と同様に、コイルとコンデンサーが交流電流をどれだけ妨げるかを定量的に評価するために必要です。
- 適用根拠: コイルの電圧は \(V_L = L\displaystyle\frac{dI}{dt}\)、コンデンサーの電圧は \(V_C = \displaystyle\frac{Q}{C} = \displaystyle\frac{1}{C}\int I dt\) という基本法則に基づきます。これらに \(I=I_0\sin\omega t\) を代入して微分・積分を実行すると、電圧の最大値がそれぞれ \(\omega L I_0\), \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}I_0\) となります。このときの比例係数 \(V_{\text{最大}}/I_0\) がリアクタンスとして定義されます。
- インピーダンスの公式 (\(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C})^2}\)):
- 選定理由: 抵抗と2種類のリアクタンスという、性質の異なる3つの「妨げ」を、回路全体としての一つの「妨げ」にまとめるために必要です。
- 適用根拠: この公式は、キルヒホッフの法則に従って各電圧の瞬時値を足し合わせ、三角関数の合成を行った数学的な帰結です。合成後の電圧の最大値 \(V_0\) が \(I_0 \sqrt{R^2 + (\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C})^2}\) となることから、\(Z = \displaystyle\frac{V_0}{I_0}\) の定義に従ってこの式が導かれます。ベクトル図で考えれば、これは直交するベクトルを合成する際の三平方の定理そのものです。
- 三角関数の合成公式:
- 選定理由: 位相の異なる複数の正弦波(ここでは\(\sin\)と\(\cos\))の重ね合わせの結果を、物理的に解釈しやすい単一の正弦波(\(A\sin(\omega t + \phi)\)の形)に変換するために不可欠な数学的ツールです。
- 適用根拠: 高校数学で学ぶ加法定理 \(\sin(x+\theta) = \sin x \cos\theta + \cos x \sin\theta\) を逆向きに利用しています。\(a \sin x + b \cos x\) という形を、\(k\sin(x+\theta)\) の形に変形するために、係数比較から \(k\cos\theta = a\), \(k\sin\theta = b\) とおき、連立方程式を解くことで振幅\(k\)と位相角\(\theta\)を求めています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号のダブルチェック: \(V_C\) の瞬時値が \(-\cos\) になること、インピーダンスや位相差の計算で \((\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C})\) という引き算の項が現れることなど、プラスとマイナスが入れ替わりやすい箇所は特に注意深く確認します。
- 単位系の統一感: \(R\), \(\omega L\), \(\displaystyle\frac{1}{\omega C}\), \(Z\) は、すべて単位がオーム[\(\Omega\)]でなければならないことを意識します。これにより、例えば \(R + \omega L\) のような、次元の異なる量を足し合わせていないかといった基本的なミスを防げます。
- 問題の誘導に乗る: このような空欄補充問題は、前の答えを使って次の答えを導くように設計されています。例えば、⑦⑧⑨が正しくないと⑩以降は連鎖的に間違えます。各ステップを確実にこなし、計算結果を次のステップに正確に引き継ぐことが重要です。
- 文字式の丁寧な記述: \(\omega, L, C, R, I_0, t, \theta\) など多くの文字が登場するため、計算過程で書き間違えたり、読み間違えたりしないよう、大きく丁寧に書くことを心がけます。特に、角周波数 \(\omega\) とアルファベットの \(w\) を混同しないように注意します。
406 交流のベクトル表示
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流回路のベクトル(フェーザ)表示」です。RLC直列回路における電圧と電流の関係を、数式ではなくベクトル(フェーザ)を用いて図形的に解釈する手法を学びます。このベクトル表示は、複雑な交流回路の計算を直感的に理解する上で非常に強力なツールです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ベクトル(フェーザ)表示のルール: 交流の電圧や電流をベクトルで表現します。ベクトルの「長さ」が実効値(または最大値)を表し、ベクトルの「向き」が位相を表します。
- 位相関係のベクトルへの変換: 抵抗(同位相)、コイル(電圧が\(\pi/2\)進む)、コンデンサー(電圧が\(\pi/2\)遅れる)という位相関係を、基準ベクトルに対する向き(同方向、反時計回りに90°、時計回りに90°)に変換します。
- ベクトルの合成: 直列回路では、各素子にかかる電圧ベクトルの和が、電源電圧のベクトルに等しくなります(\(\vec{V} = \vec{V}_R + \vec{V}_L + \vec{V}_C\))。
- 三平方の定理と三角比: 合成された電圧ベクトルの大きさ(実効値)や、基準とのなす角(位相差)を、ベクトル図の幾何学的な関係から求めます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、基準となる電流ベクトルに対して、各素子の電圧ベクトルの位相関係から、それぞれのベクトルの向きを決定します。
- 次に、ベクトル図上で各電圧ベクトルを足し合わせ(合成し)、電源全体の電圧ベクトルを描きます。
- 最後に、描かれたベクトル図(直角三角形)に三平方の定理と三角比を適用して、回路全体のインピーダンスと位相差を導出します。
【空欄①, ②, ③】各素子の電圧の位相
思考の道筋とポイント
基準となる電流に対して、各素子にかかる電圧の位相がどれだけずれるかを答える問題です。これはRLC回路の最も基本的な特性であり、前問(405 交流回路)の知識の再確認となります。
この設問における重要なポイント
- 抵抗(R): 電圧と電流の位相は同じ(同位相)。
- コイル(L): 電圧の位相は、電流の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進む。
- コンデンサー(C): 電圧の位相は、電流の位相より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れる。
具体的な解説と立式
この設問は、交流回路における各素子の基本的な性質を問うものであり、特別な立式は不要です。
- ① 抵抗にかかる電圧 \(V_R\) は、電流 \(I\) と常に同じタイミングで変化します。
- ② コイルにかかる電圧 \(V_L\) は、電流の変化を妨げる性質から、電流より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 位相が進みます。
- ③ コンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) は、電荷がたまってから電圧が上がる性質から、電流より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 位相が遅れます。
- 抵抗:電流と電圧の波はぴったり重なります。
- コイル:電圧の波が、電流の波より1/4周期分だけ先に始まります。
- コンデンサー:電圧の波が、電流の波より1/4周期分だけ遅れて始まります。
電流を基準としたとき、抵抗の電圧は同位相、コイルの電圧は\(\pi/2\)進み、コンデンサーの電圧は\(\pi/2\)遅れます。
【空欄④, ⑤, ⑥】電圧ベクトルの向き
思考の道筋とポイント
①, ②, ③で確認した位相関係を、ベクトル図の「向き」に変換します。問題文の「電流の実効値のベクトル \(\vec{I}_{\text{実効}}\) を右向きに描く」「反時計回りを位相の進む向きとする」というルールに従います。
この設問における重要なポイント
- 基準ベクトル: 電流 \(\vec{I}_{\text{実効}}\) は右向き。
- 同位相: 基準と同じ向き。
- 位相が進む: 基準ベクトルから反時計回りに回転した向き。
- 位相が遅れる: 基準ベクトルから時計回りに回転した向き。
具体的な解説と立式
- ④ 抵抗の電圧 \(\vec{V}_{R\text{実効}}\) は電流と同位相なので、\(\vec{I}_{\text{実効}}\) と同じ右向きになります。
- ⑤ コイルの電圧 \(\vec{V}_{L\text{実効}}\) は電流より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 進むので、右向きの \(\vec{I}_{\text{実効}}\) から反時計回りに90°回転した、上向きになります。
- ⑥ コンデンサーの電圧 \(\vec{V}_{C\text{実効}}\) は電流より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) (90°) 遅れるので、右向きの \(\vec{I}_{\text{実効}}\) から時計回りに90°回転した、下向きになります。
基準となる右向きの矢印(電流)を考えます。
- タイミングが同じ電圧(抵抗)は、同じ右向きの矢印で描きます。
- タイミングが進む電圧(コイル)は、進む方向(反時計回り)に90度回して、上向きの矢印で描きます。
- タイミングが遅れる電圧(コンデンサー)は、遅れる方向(時計回り)に90度回して、下向きの矢印で描きます。
位相関係をベクトル図の向きに正しく変換できました。
【空欄⑦, ⑧, ⑨】ベクトル合成とインピーダンス
思考の道筋とポイント
ベクトル図上で、④, ⑤, ⑥で向きを定めた3つの電圧ベクトル \(\vec{V}_{R\text{実効}}\), \(\vec{V}_{L\text{実効}}\), \(\vec{V}_{C\text{実効}}\) を合成して、電源電圧のベクトル \(\vec{V}_{\text{実効}}\) を求めます。合成されたベクトルの大きさと向きを、図形的な関係(三平方の定理、三角比)を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- ベクトルの和: \(\vec{V}_{\text{実効}} = \vec{V}_{R\text{実効}} + \vec{V}_{L\text{実効}} + \vec{V}_{C\text{実効}}\)
- 各電圧ベクトルの大きさ(実効値): \(V_{R\text{実効}} = R I_{\text{実効}}\), \(V_{L\text{実効}} = \omega L I_{\text{実効}}\), \(V_{C\text{実効}} = \displaystyle\frac{1}{\omega C} I_{\text{実効}}\)
- 三平方の定理: 直角三角形の辺の長さの関係 \(c^2 = a^2 + b^2\) を利用する。
具体的な解説と立式
ベクトル図において、電源電圧 \(\vec{V}_{\text{実効}}\) は、\(\vec{V}_{R\text{実効}}\)(横成分)と、\(\vec{V}_{L\text{実効}}\) と \(\vec{V}_{C\text{実効}}\) の合成ベクトル(縦成分)の和として表されます。
図に示された直角三角形に三平方の定理を適用すると、\(\vec{V}_{\text{実効}}\) の大きさ \(V_{\text{実効}}\) は次のように求められます。
$$ V_{\text{実効}}^2 = V_{R\text{実効}}^2 + (V_{L\text{実効}} – V_{C\text{実効}})^2 $$
よって、
$$ V_{\text{実効}} = \sqrt{V_{R\text{実効}}^2 + (V_{L\text{実効}} – V_{C\text{実効}})^2} $$
ここに、各電圧の実効値の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{実効}} &= \sqrt{(R I_{\text{実効}})^2 + (\omega L I_{\text{実効}} – \frac{1}{\omega C} I_{\text{実効}})^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{I_{\text{実効}}^2 \left\{ R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2 \right\}} \\[2.0ex]&= I_{\text{実効}} \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2}
\end{aligned}
$$
この式から、\(V_{\text{実効}}\) は \(I_{\text{実効}}\) に比例することがわかります。これが ⑦ の答えです。
オームの法則のアナロジーである \(V_{\text{実効}} = Z I_{\text{実効}}\) と比較すると、インピーダンス \(Z\) が求まります。
$$ Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2} $$
これが ⑧ の答えです。
最後に、\(\vec{V}_{\text{実効}}\) と \(\vec{I}_{\text{実効}}\) のなす角 \(\theta\) について、図の直角三角形から \(\tan\theta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{\text{対辺}}{\text{底辺}} \\[2.0ex]&= \frac{V_{L\text{実効}} – V_{C\text{実効}}}{V_{R\text{実効}}} \\[2.0ex]&= \frac{\omega L I_{\text{実効}} – \displaystyle\frac{1}{\omega C} I_{\text{実効}}}{R I_{\text{実効}}} \\[2.0ex]&= \frac{\left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right) I_{\text{実効}}}{R I_{\text{実効}}} \\[2.0ex]&= \frac{\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}}{R}
\end{aligned}
$$
これが ⑨ の答えです。
使用した物理公式
- ベクトルの合成: \(\vec{V}_{\text{実効}} = \vec{V}_{R\text{実効}} + \vec{V}_{L\text{実効}} + \vec{V}_{C\text{実効}}\)
- 各電圧の実効値: \(V_{\text{実効}} = Z I_{\text{実効}}\)
- 三平方の定理
右向きの矢印(抵抗電圧)と、上下向きの矢印(コイル電圧とコンデンサー電圧の引き算)を合成して、斜め向きの矢印(電源電圧)を作ります。この斜めの矢印の長さは、直角三角形の斜辺の長さを求める三平方の定理で計算できます。計算すると、電源電圧の大きさは電流の大きさに比例することがわかります。このときの比例定数が、回路全体の抵抗であるインピーダンスになります。また、矢印の角度は、三角形の(縦の長さ)÷(横の長さ)で \(\tan\) を計算することで求められます。
ベクトル図を用いることで、三平方の定理と三角比という幾何学的な手法によって、インピーダンスや位相差が導出できました。これは前問で数式を合成して求めた結果と完全に一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 交流のベクトル(フェーザ)表示:
- 核心: 交流回路における電圧と電流の振幅(実効値や最大値)と位相の関係を、ベクトルの「長さ」と「向き」に対応させて図形的に表現するという考え方そのものが核心です。これにより、複雑な三角関数の計算を、直感的なベクトルの足し算に置き換えることができます。
- 理解のポイント:
- 基準の設定: 通常、直列回路では「電流」が共通なので、電流ベクトルを基準(例:水平右向き)に置きます。
- 位相差を角度に変換: 各素子の電圧と電流の位相差(同相、\(\pi/2\)進み、\(\pi/2\)遅れ)を、基準ベクトルからの角度(0°、反時計回りに90°、時計回りに90°)に変換します。
- ベクトルの合成: キルヒホッフの法則(瞬時値の和)が、ベクトル図上ではベクトルの和(矢印のつぎたし)に対応することを理解します。
- 幾何学の利用: 合成されたベクトルの大きさと角度を、三平方の定理や三角比を用いて求めます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC並列回路: 並列回路では「電圧」が共通なので、電圧ベクトルを基準(水平右向き)に置きます。各素子を流れる電流ベクトル(抵抗は同方向、コイルは90°遅れ、コンデンサーは90°進む)を描き、それらを合成して回路全体の電流ベクトルを求めます。
- 電力の計算(力率): ベクトル図において、電源電圧ベクトルと電流ベクトルのなす角\(\theta\)は、位相差を表します。この\(\theta\)を用いて、交流回路の消費電力は \(P = V_{\text{実効}} I_{\text{実効}} \cos\theta\) と計算できます。この \(\cos\theta\) を「力率」と呼び、ベクトル図から \(\cos\theta = \displaystyle\frac{R}{Z}\) と求められます。
- 任意の位相を持つ電源: 電源電圧が \(V = V_0 \sin(\omega t + \alpha)\) のように、基準からずれている場合でも、ベクトル図を用いることで相対的な関係を容易に把握できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「ベクトルで考えよ」という指示を見抜く: 問題文に「ベクトル図」「フェーザ図」といった直接的な言葉がなくても、「実効値」「位相差」を図形的に扱おうとしている場合は、ベクトル表示を用いると見通しが良くなることが多いです。
- 基準ベクトルを何にするか決定する: 直列回路なら「電流」、並列回路なら「電圧」を基準(水平右向き)に置くのが定石です。これを間違えると図が複雑になります。
- ベクトルの「長さ」と「向き」の意味を再確認: ベクトルの長さは何の物理量(実効値か最大値か)を表すのか、ベクトルの向きは何(位相)を表すのかを常に意識します。特に、電圧ベクトル図とインピーダンスのベクトル図は相似形になりますが、それぞれの辺が表す物理量は異なるので注意が必要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ベクトルの向きの間違い:
- 誤解: コイルとコンデンサーの電圧の位相の進み・遅れを混同し、ベクトル図で上向きと下向きを逆にしてしまう。
- 対策: 「コイル(L)は電圧が進む→反時計回り→上」「コンデンサー(C)は電圧が遅れる→時計回り→下」と、理由付けと共に機械的に覚えるのが有効です。”CIVIL”(CではIがVより進み、LではVがIより進む)のような語呂合わせも役立ちます。
- ベクトルの合成方法のミス:
- 誤解: 3つの電圧ベクトルを、向きを考えずに単純に長さの和としてしまう(\(V_{\text{実効}} = V_{R\text{実効}} + V_{L\text{実効}} + V_{C\text{実効}}\))。これは数式計算でのミスと同じです。
- 対策: ベクトルは「矢印」であることを強く意識し、必ず矢印の足し算(始点と終点をつなぐ)を行います。特に、コイルとコンデンサーの電圧は互いに逆向きなので、まずこれらのベクトルの大きさの「引き算」を行ってから、抵抗のベクトルと合成するという手順を徹底します。
- \(\tan\theta\) の分子・分母の混同:
- 誤解: ベクトル図を描いた後、\(\tan\theta\) を計算する際に、直角三角形の「底辺」と「高さ」を取り違えてしまう。
- 対策: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{高さ}}{\text{底辺}}\) という基本に立ち返ります。ベクトル図では、高さがリアクタンス成分(\(V_{L\text{実効}} – V_{C\text{実効}}\))、底辺が抵抗成分(\(V_{R\text{実効}}\))に対応することを、図と照らし合わせながら確実に確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ベクトルによる表現:
- 選定理由: 正弦波交流 \(A\sin(\omega t + \phi)\) は、振幅\(A\)と位相\(\phi\)という2つのパラメータで決まります。これは、ベクトルの「大きさ」と「向き」という2つの要素と自然に対応付けができます。この対応付けを利用することで、三角関数の面倒な和の計算を、幾何学的なベクトルの合成に置き換えることができ、計算の見通しが格段に良くなります。
- 適用根拠: 回転するベクトル(フェーザ)の射影(影)が正弦波運動を描くという数学的な事実に根差しています。複数の正弦波の和は、対応する複数の回転ベクトルを合成したベクトルの射影と一致します。交流回路では角周波数\(\omega\)が共通なので、各ベクトルの相対的な角度関係は変化しません。そのため、ある瞬間のベクトル図を描くだけで、回路全体の振幅と位相の関係を静的に解析できます。
- 三平方の定理:
- 選定理由: ベクトル図上で、抵抗成分のベクトルとリアクタンス成分のベクトルは常に直交します。この直角三角形の斜辺の長さ(合成ベクトルの大きさ)を求めるために、三平方の定理が最も直接的で強力なツールとなります。
- 適用根拠: ユークリッド幾何学の基本的な定理であり、直交する2つの成分から合成ベクトルの大きさを求める際の普遍的な法則です。電圧ベクトル図(辺の長さが\(V_{R\text{実効}}\), \(V_{L\text{実効}}-V_{C\text{実効}}\))にも、インピーダンスのベクトル図(辺の長さが\(R\), \(X_L-X_C\))にも同様に適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図を大きく丁寧に描く: ベクトル図を解法の中心に据える場合、図そのものが思考の道具となります。フリーハンドでも良いので、各ベクトルが何を表しているか(\(\vec{V}_{R\text{実効}}\)など)を明記し、直角や角度\(\theta\)をはっきりと描き込むことで、ケアレスミスを防ぎます。
- 辺の長さの対応を確認: 三平方の定理や\(\tan\theta\)を計算する際、図の各辺の長さがどの物理量(例: \(V_{R\text{実効}}\) なのか \(R I_{\text{実効}}\) なのか)に対応しているかを、一つ一つ指差し確認しながら式を立てます。
- 最終結果の吟味: 例えば、もしコンデンサーがなくRL回路であれば、\(\tan\theta = \omega L / R > 0\) となり、電圧は必ず電流より進むはずです。RC回路であれば \(\tan\theta = -1/(\omega CR) < 0\) となり、電圧は必ず遅れます。計算結果がこうした物理的な直感と合っているかを確認する癖をつけると、符号ミスなどに気づきやすくなります。
- 数式解との連携: ベクトル図で求めた結果(インピーダンスや位相差の式)が、前問のように三角関数の合成で求めた結果と一致することを知っておくと、両方の解法を使いこなすことで検算ができ、理解が深まります。
407 直列共振回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC直列回路における電気共振」です。交流回路に特定の周波数の電圧を加えたとき、コイルとコンデンサーの働きが打ち消し合って電流が非常に大きくなる「共振」という現象について、その条件と具体的な周波数を計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 抵抗での消費電力: 抵抗で消費される電力は、流れる電流の実効値の2乗に比例します (\(P = R I_{\text{実効}}^2\))。
- RLC直列回路のインピーダンス: 回路全体の電流の流れにくさを表すインピーダンスは \(Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\) で与えられます。
- 直列共振: インピーダンスが最小になるとき、回路には最大の電流が流れます。この現象を直列共振といい、その条件はコイルとコンデンサーのリアクタンスが等しくなる \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) です。
- 角周波数と周波数の関係: 角周波数\(\omega\) [rad/s] と周波数\(f\) [Hz] の間には、\(\omega = 2\pi f\) の関係があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、抵抗での消費電力が最大になる条件を考えます。これは、回路を流れる電流の実効値が最大になる条件と同じです。
- 次に、電流が最大になる条件を考えます。これは、回路のインピーダンスが最小になる条件と同じです。
- インピーダンスの式から、それが最小となる条件(共振条件)を導き、そのときの角周波数(共振角周波数)を求めます。
- 最後に、共振角周波数を周波数に変換し、与えられた数値を代入して具体的な値を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題のゴールは、「抵抗Rで消費される電力が最大になる周波数」を求めることです。このゴールから逆算して、必要な条件を段階的に考えていきます。
- 電力最大 → 電流最大: 抵抗での消費電力 \(P\) は、電流の実効値を \(I_{\text{実効}}\) とすると \(P = R I_{\text{実効}}^2\) と表せます。抵抗値 \(R\) は一定なので、\(P\) を最大にするには \(I_{\text{実効}}\) を最大にすればよい、ということに気づくのが第一歩です。
- 電流最大 → インピーダンス最小: 電流の実効値は、電源電圧の実効値を \(V_{\text{実効}}\)、回路全体のインピーダンスを \(Z\) とすると、オームの法則と同様に \(I_{\text{実効}} = \displaystyle\frac{V_{\text{実効}}}{Z}\) と表せます。電源電圧は一定と考えられるので、\(I_{\text{実効}}\) を最大にするには、分母の \(Z\) を最小にすればよい、という論理に進みます。
- インピーダンス最小 → 共振条件: インピーダンスの式 \(Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\) を見ると、\(R, L, C\) は定数で、周波数(角周波数\(\omega\))によって値が変わるのは \(\left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2\) の部分だけです。この項は2乗なので0以上の値しかとらず、\(Z\) が最小になるのはこの項が0になるときです。これが、この問題の核心である「共振条件」\(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C} = 0\) です。
- 共振条件 → 周波数の計算: 共振条件の式を解いて周波数を求め、数値を代入して最終的な答えを得ます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗での消費電力は、流れる電流の実効値の2乗に比例する。
- RLC直列回路の電流が最大になるのは、インピーダンスが最小になるときである。
- インピーダンスが最小になる条件は \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) であり、これを「直列共振」という。
- 共振周波数は \(L\) と \(C\) の値のみで決まり、その公式は \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) である。
具体的な解説と立式
抵抗Rで消費される電力 \(P\) は、回路を流れる電流の実効値を \(I_{\text{実効}}\) とすると、次式で与えられます。
$$ P = R I_{\text{実効}}^2 $$
抵抗値 \(R\) は一定であるため、消費電力 \(P\) が最大になるのは、電流の実効値 \(I_{\text{実効}}\) が最大になるときです。
電源電圧の実効値を \(V_{\text{実効}}\)、回路のインピーダンスを \(Z\) とすると、電流の実効値はオームの法則と同様に、
$$ I_{\text{実効}} = \frac{V_{\text{実効}}}{Z} $$
と表せます。ここで、インピーダンス \(Z\) は、
$$ Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2} $$
です。電源電圧 \(V_{\text{実効}}\) は一定なので、\(I_{\text{実効}}\) が最大になるのは、分母のインピーダンス \(Z\) が最小になるときです。
\(Z\) の式において、\(R, L, C\) は定数であり、角周波数 \(\omega\) を変化させます。\(Z\) が最小値をとるのは、\(\left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2\) の項が最小値0をとるときです。したがって、その条件は、
$$ \omega L – \frac{1}{\omega C} = 0 $$
となります。この状態を直列共振と呼びます。このときの角周波数(共振角周波数)を \(\omega_0\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\omega_0 L &= \frac{1}{\omega_0 C} \\[2.0ex]\omega_0^2 &= \frac{1}{LC} \\[2.0ex]\omega_0 &= \frac{1}{\sqrt{LC}}
\end{aligned}
$$
となります。求めるのは周波数 \(f_0\) なので、\(\omega_0 = 2\pi f_0\) の関係を用いて、
$$ f_0 = \frac{\omega_0}{2\pi} = \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} $$
と表せます。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P = R I_{\text{実効}}^2\)
- RLC直列回路のインピーダンス: \(Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C}\right)^2}\)
- 直列共振条件: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
- 共振周波数: \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\)
与えられた値を共振周波数の公式に代入します。
\(L = 25 \text{ [mH]} = 25 \times 10^{-3} \text{ [H]}\)
\(C = 2.5 \text{ [μF]} = 2.5 \times 10^{-6} \text{ [F]}\)
\(\pi = 3.14\)
$$
\begin{aligned}
f_0 &= \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2 \times 3.14 \times \sqrt{(25 \times 10^{-3}) \times (2.5 \times 10^{-6})}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{6.28 \times \sqrt{62.5 \times 10^{-9}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{6.28 \times \sqrt{6.25 \times 10^{-8}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{6.28 \times (2.5 \times 10^{-4})} \\[2.0ex]&= \frac{1}{15.7 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]&= \frac{10000}{15.7} \\[2.0ex]&\approx 636.94… \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(6.4 \times 10^2\) [Hz] となります。
抵抗で使われる電力が一番大きくなるのは、回路に一番たくさん電流が流れるときです。電流が一番たくさん流れるのは、回路全体の「電流の流れにくさ(インピーダンス)」が一番小さくなるときです。RLC回路のインピーダンスは、コイルとコンデンサーの働きがちょうど打ち消し合うときに最小になります。この特別な状態を「共振」と呼びます。
共振が起こる周波数は、\(L\)と\(C\)の値だけで決まり、公式 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) で計算できます。この公式に問題で与えられた \(L\) と \(C\) の値を代入して、電卓や筆算で慎重に計算します。
抵抗での消費電力が最大になる周波数、すなわち共振周波数は \(6.4 \times 10^2\) Hz です。このとき、回路は直列共振状態にあり、インピーダンスがその回路でとりうる最小値(\(Z=R\))となります。その結果、電流が最大となり、抵抗での消費電力も最大となる、という物理的な流れと計算結果が一致しており、妥当な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RLC直列回路の共振条件:
- 核心: この問題の全ては「直列共振」という現象の理解に集約されます。RLC直列回路において、電源の角周波数\(\omega\)を変化させると、ある特定の角周波数\(\omega_0\)でコイルの誘導性リアクタンス\(\omega_0 L\)とコンデンサーの容量性リアクタンス\(\displaystyle\frac{1}{\omega_0 C}\)が大きさが等しくなり、互いの働きを打ち消し合う、という物理現象が核心です。
- 理解のポイント:
- 共振条件: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
- 共振時のインピーダンス: このとき、インピーダンス \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C})^2}\) の根号の中の第2項が0になり、\(Z\)は最小値 \(Z=R\) をとります。
- 共振時の電流: インピーダンスが最小になるため、電流 \(I_{\text{実効}} = V_{\text{実効}}/Z\) は最大値をとります。
- 共振時の消費電力: 抵抗での消費電力 \(P = R I_{\text{実効}}^2\) も、電流が最大になるため、最大値をとります。
- この「消費電力が最大」→「電流が最大」→「インピーダンスが最小」→「\(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)」という論理の流れを完全に理解することが最重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 共振曲線: 横軸に周波数、縦軸に電流をとったグラフ(共振曲線)を描かせる、あるいは読み取らせる問題。共振周波数でピークを持つ山形のグラフになります。抵抗\(R\)が小さいほど、ピークは鋭く高くなります(共振の鋭さQが高い)。
- 並列共振回路: RLC素子が並列に接続された回路。この場合、共振周波数でインピーダンスが「最大」になり、回路全体に流れる電流が「最小」になります。ラジオの同調回路などはこちらの原理を利用しています。
- 共振時の各素子の電圧: 直列共振時、コイルにかかる電圧\(V_L\)とコンデンサーにかかる電圧\(V_C\)は、大きさが等しく逆位相(\(V_L = -V_C\))になります。しかし、それぞれの電圧の大きさは電源電圧よりはるかに大きくなることがあり、これを「電圧の拡大作用」と呼びます。この現象に関する計算問題も考えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「最大・最小」のキーワードを探す: 問題文に「消費電力が最大」「電流が最大」「インピーダンスが最小」などのキーワードがあれば、それは「共振」を問う問題である可能性が極めて高いです。
- 回路の接続方法を確認: 「直列」か「並列」かを確認します。直列共振と並列共振では、インピーダンスや電流が最大になるか最小になるかの振る舞いが逆になるため、この区別は非常に重要です。
- 抵抗\(R\)の役割を理解する: 共振周波数の値 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) は、抵抗\(R\)の値にはよりません。しかし、共振時の電流の「大きさ」や共振曲線の「鋭さ」は\(R\)に依存します。問題が何を問うているかによって、\(R\)を考慮する必要があるかどうかが変わります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 角周波数\(\omega\)と周波数\(f\)の混同:
- 誤解: 共振条件 \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) で計算した角周波数\(\omega\)の値を、そのまま周波数\(f\)の答えとしてしまう。
- 対策: \(\omega\)は「角周波数」で単位は[rad/s]、\(f\)は「周波数」で単位は[Hz]であることを常に意識します。両者の間には常に \(\omega = 2\pi f\) の関係があることを忘れないようにし、計算の最後に必ず \(2\pi\) で割る操作を確認します。
- 単位の接頭語(プレフィックス)の計算ミス:
- 誤解: \(L=25\) [mH] の「m(ミリ)」を \(10^{-2}\) としたり、\(C=2.5\) [μF] の「μ(マイクロ)」を \(10^{-3}\) としたり、指数計算を間違える。
- 対策: 「m(ミリ) = \(10^{-3}\)」「μ(マイクロ) = \(10^{-6}\)」「n(ナノ) = \(10^{-9}\)」「p(ピコ) = \(10^{-12}\)」といった主要な接頭語は正確に暗記します。計算時には、\(25 \times 10^{-3}\) のように、必ず基本単位[H], [F]に直してから式に代入する癖をつけます。
- 平方根の計算ミス:
- 誤解: \(\sqrt{25 \times 10^{-3} \times 2.5 \times 10^{-6}}\) のような計算で、指数の部分を \(\sqrt{10^{-9}}\) のように奇数乗のまま扱おうとして混乱する。
- 対策: 平方根の中の指数は必ず偶数になるように調整します。例えば、\(\sqrt{62.5 \times 10^{-9}} = \sqrt{6.25 \times 10^{-8}}\) のように、位取りを変更して指数を偶数に直してから平方根を計算します。これにより、\(\sqrt{10^{-8}} = 10^{-4}\) のように簡単に計算できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 共振周波数の公式 (\(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\)):
- 選定理由: RLC直列回路で消費電力が最大になる周波数を直接求めるための、最も効率的な公式です。
- 適用根拠: この公式は、物理的な一連の論理的ステップを凝縮したものです。
- 物理的要請: 「消費電力の最大化」
- 電気的条件: 上記は「電流の最大化」と同義 (\(P=RI^2\))。
- 回路的条件: 上記は「インピーダンスの最小化」と同義 (\(I=V/Z\))。
- 数学的条件: \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C})^2}\) を最小化するには、\((\omega L – \displaystyle\frac{1}{\omega C})^2 = 0\) が必要。
- 共振条件の導出: \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
- 公式化: この\(\omega\)に関する方程式を解き、\(f=\omega/2\pi\)の関係を使うと、最終的にこの公式が導出されます。
このように、公式は単なる暗記項目ではなく、複数の物理法則と数学的処理の最終結果であることを理解することが重要です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の分離: \( \sqrt{25 \times 2.5 \times 10^{-3} \times 10^{-6}} \) のように、数値部分と指数部分を分けて考えると整理しやすくなります。
- 有効数字の意識: 問題文で与えられている数値(\(L=25\), \(C=2.5\), \(\pi=3.14\))の有効数字を確認し、最終的な答えを適切な桁数に丸めます。今回は2桁または3桁と考えられるので、解答の \(6.4 \times 10^2\) [Hz](2桁)は妥当です。
- 概算による検算: 計算を実行する前に、おおよその値を予測します。例えば、\(LC \approx 25 \times 2.5 \times 10^{-9} = 62.5 \times 10^{-9} \approx 64 \times 10^{-9}\)。すると \(\sqrt{LC} \approx \sqrt{64 \times 10^{-9}} = \sqrt{0.64 \times 10^{-7}}\) ではなく、\(\sqrt{LC} \approx \sqrt{64 \times 10^{-9}} = \sqrt{6.4 \times 10^{-8}}\) ともできず、\(\sqrt{LC} \approx \sqrt{62.5 \times 10^{-9}} = \sqrt{6.25 \times 10^{-8}} = 2.5 \times 10^{-4}\)。\(2\pi \approx 6.28\) なので、\(f_0 \approx \displaystyle\frac{1}{6.28 \times 2.5 \times 10^{-4}} = \displaystyle\frac{10000}{15.7} \approx \frac{10000}{16} = 625\) [Hz]。この概算値と、詳細な計算結果(636.94… Hz)が大きくずれていないかを確認することで、桁の大きな間違いを発見できます。
- 電卓の活用と注意: もし電卓が使用可能であれば、ルートや逆数の計算に活用します。ただし、括弧の付け方や指数の入力方法(例: `2.5 E -6`)を間違えないように注意が必要です。入力した式が意図通りか、一度確認する癖をつけましょう。
408 RLC並列回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC並列回路の解析」です。直列回路とは対照的に、各素子に共通の電圧がかかる並列回路において、回路全体を流れる電流やインピーダンスがどのように決まるかを理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 並列回路の特性: 各素子にかかる電圧の瞬時値は、すべて電源電圧に等しくなります。
- キルヒホッフの第1法則: 回路全体を流れる電流の瞬時値は、各素子を流れる電流の瞬時値の和に等しくなります (\(I = I_R + I_L + I_C\))。
- 電圧を基準とした位相関係: 電圧を基準 (\(V=V_0\sin\omega t\)) としたとき、抵抗を流れる電流は同位相、コイルを流れる電流は\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーを流れる電流は\(\pi/2\)進みます。
- 三角関数の合成: 複数の電流の和を、一つの\(\sin\)関数にまとめるために用います。
- アドミタンス: インピーダンスの逆数 \(Y = 1/Z\) のことで、交流の「流れやすさ」を表します。並列回路ではインピーダンスよりアドミタンスの方が計算が単純になる場合があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、並列回路の特性(電圧が共通)を利用し、各素子についてオームの法則を適用して、流れる電流の最大値と位相を求め、瞬時値を式で表します。
- (2)では、キルヒホッフの第1法則に従って(1)で求めた3つの電流の瞬時値を足し合わせます。
- 三角関数の合成公式を用いて、回路全体を流れる電流の最大値 \(I_0\) を求め、インピーダンスの定義 \(Z=V_0/I_0\) から \(1/Z\) を導出します。
設問(1) 各素子を流れる電流
思考の道筋とポイント
並列回路であるため、抵抗、コイル、コンデンサーのすべてに電源電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) がかかります。この共通の電圧を基準として、各素子に流れる電流の最大値と位相のずれを考え、それぞれの電流の瞬時値を数式で表現します。
この設問における重要なポイント
- 並列回路では、各素子にかかる電圧が共通で \(V = V_0 \sin(\omega t)\) となる。
- 電圧を基準としたとき、電流の位相は、抵抗では同相、コイルでは\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーでは\(\pi/2\)進む。
- 各素子を流れる電流の最大値は \(I_{\text{最大}} = V_0 / Z_{\text{素子}}\) で計算できる。
具体的な解説と立式
各素子にかかる電圧は \(V = V_0 \sin(\omega t)\) です。
- 抵抗を流れる電流 \(I_R\)
電流の最大値は \(I_{R0} = \displaystyle\frac{V_0}{R}\)。位相は電圧と同じです。
$$ I_R(t) = I_{R0} \sin(\omega t) = \frac{V_0}{R} \sin(\omega t) $$ - コイルを流れる電流 \(I_L\)
電流の最大値は \(I_{L0} = \displaystyle\frac{V_0}{X_L} = \frac{V_0}{\omega L}\)。位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます。
$$
\begin{aligned}
I_L(t) &= I_{L0} \sin\left(\omega t – \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= -\frac{V_0}{\omega L} \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$ - コンデンサーを流れる電流 \(I_C\)
電流の最大値は \(I_{C0} = \displaystyle\frac{V_0}{X_C} = \frac{V_0}{1/\omega C} = \omega C V_0\)。位相は電圧より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。
$$
\begin{aligned}
I_C(t) &= I_{C0} \sin\left(\omega t + \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= \omega C V_0 \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- オームの法則: \(I_{\text{最大}} = V_{\text{最大}} / Z\)
- リアクタンス: \(X_L = \omega L\), \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
- 電圧基準での位相関係
3つの部品に同じ電圧の波がかかっています。各部品の「電流の通りにくさ」(抵抗やリアクタンス)を使って、オームの法則から流れる電流の波の「高さ(最大値)」を計算します。次に、各部品の性質に応じて、電流の波の「タイミングのズレ(位相)」を考えます。抵抗はズレなし、コイルは電流が遅れ、コンデンサーは電流が進みます。これらを組み合わせて数式にします。
各素子に流れる電流の瞬時値を、最大値と位相関係から正しく導出できました。特に、直列回路とは電圧と電流の役割が逆転している点に注意が必要です。
設問(2) インピーダンスの逆数
思考の道筋とポイント
回路全体を流れる電流 \(I\) は、キルヒホッフの第1法則により、各素子を流れる電流の瞬時値の和で与えられます。 (1)で求めた3つの電流の式を足し合わせ、三角関数の合成公式を用いて \(I = I_0 \sin(\omega t + \theta)\) の形に整理します。この \(I_0\) が回路全体を流れる電流の最大値です。インピーダンス \(Z\) は \(Z = V_0 / I_0\) で定義されるため、求めたい \(1/Z\) は \(I_0 / V_0\) となります。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの第1法則: \(I = I_R + I_L + I_C\)
- 三角関数の合成: \(a \sin x + b \cos x = \sqrt{a^2+b^2} \sin(x+\theta)\)
- インピーダンスの定義: \(Z = V_0 / I_0\), よって \(1/Z = I_0 / V_0\)
具体的な解説と立式
回路全体を流れる電流 \(I(t)\) は、
$$ I(t) = I_R(t) + I_L(t) + I_C(t) $$
(1)の結果を代入すると、
$$
\begin{aligned}
I(t) &= \frac{V_0}{R} \sin(\omega t) – \frac{V_0}{\omega L} \cos(\omega t) + \omega C V_0 \cos(\omega t) \\[2.0ex]&= \frac{V_0}{R} \sin(\omega t) + \left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)V_0 \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
この式に、\(a = \displaystyle\frac{V_0}{R}\), \(b = \left(\omega C – \displaystyle\frac{1}{\omega L}\right)V_0\) として三角関数の合成公式を適用します。
$$ I(t) = \sqrt{\left(\frac{V_0}{R}\right)^2 + \left\{\left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)V_0\right\}^2} \sin(\omega t + \theta) $$
電流の最大値 \(I_0\) は、この式の振幅部分なので、
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \sqrt{\frac{V_0^2}{R^2} + \left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)^2 V_0^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{V_0^2 \left\{ \left(\frac{1}{R}\right)^2 + \left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)^2 \right\}} \\[2.0ex]&= V_0 \sqrt{\left(\frac{1}{R}\right)^2 + \left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)^2}
\end{aligned}
$$
インピーダンス \(Z\) の定義は \(Z = V_0 / I_0\) なので、その逆数 \(1/Z\) は、
$$ \frac{1}{Z} = \frac{I_0}{V_0} $$
となります。したがって、
$$ \frac{1}{Z} = \sqrt{\left(\frac{1}{R}\right)^2 + \left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)^2} $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第1法則: \(I = I_R + I_L + I_C\)
- インピーダンスの定義: \(Z = V_0 / I_0\)
3つの部品を流れる電流の波をすべて足し合わせると、回路全体を流れる電流の波ができます。この全体の波の高さ(最大値 \(I_0\))を、三角関数の合成を使って計算します。インピーダンス \(Z\) は「電圧の最大値 \(V_0\) ÷ 電流の最大値 \(I_0\)」で定義されるので、求めたい \(1/Z\) は「電流の最大値 \(I_0\) ÷ 電圧の最大値 \(V_0\)」となります。先ほど計算した \(I_0\) の式を \(V_0\) で割ることで、答えが求まります。
RLC並列回路のインピーダンスの逆数 \(1/Z\) を求めることができました。この \(1/Z\) はアドミタンスと呼ばれ、各素子のアドミタンス(\(1/R\), \(1/X_L\), \(1/X_C\))をベクトル的に合成した形になっており、直列回路のインピーダンスの式と美しい対比が見られます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RLC並列回路における電流と電圧の関係性:
- 核心: この問題は、RLC並列回路の振る舞いを、直列回路との対比で理解することが核心です。直列回路が「電流共通」であったのに対し、並列回路は「電圧共通」が出発点となります。
- 理解のポイント:
- 電圧共通: 各素子にかかる電圧は、すべて電源電圧 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) に等しい。これが解析の基準となります。
- キルヒホッフの第1法則: 回路全体を流れる電流は、各素子を流れる電流の「瞬時値」の和(\(I = I_R + I_L + I_C\))で与えられます。直列回路の電圧と同様、位相が異なるため、電流の最大値の単純な和にはなりません。
- 電圧基準での位相: 電圧を基準にすると、電流の位相は抵抗で同相、コイルで\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーで\(\pi/2\)進みます。これは直列回路で電流を基準にしたときの電圧の位相関係とちょうど逆の役割になっています。
- 三角関数の合成: 各電流の瞬時値の和を、一つの\(\sin\)関数にまとめることで、回路全体の電流の最大値と位相差を求めます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ベクトル図(フェーザ図)による解法: 並列回路では、電圧ベクトル\(\vec{V}\)を基準(右向き)に置きます。各電流ベクトル(\(\vec{I}_R\)は同方向、\(\vec{I}_L\)は90°遅れて下向き、\(\vec{I}_C\)は90°進んで上向き)を描き、それらを合成して回路全体の電流ベクトル\(\vec{I}\)を求めます。この方が数式計算より直感的です。
- 並列共振: \(\omega C = \displaystyle\frac{1}{\omega L}\) となる共振周波数では、コイルとコンデンサーを流れる電流が打ち消し合い、回路全体を流れる電流が最小(\(I = I_R\))になります。このとき、回路全体のインピーダンスは最大になります。ラジオの同調回路はこちらの原理で特定の周波数を選局します。
- アドミタンスによる解法: インピーダンスの逆数であるアドミタンス \(Y = 1/Z\) を用いると、並列回路の計算が非常に見通し良くなります。各素子のアドミタンスを \(Y_R = 1/R\), \(Y_L = 1/(\omega L)\), \(Y_C = \omega C\) とし、これらをベクトル的に合成することで、回路全体のアドミタンス \(Y = \sqrt{(1/R)^2 + (\omega C – 1/(\omega L))^2}\) が求まります。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の接続方法を最優先で確認: 「並列」か「直列」か。この確認がすべてのアプローチを決定します。「並列」と見たら、即座に「電圧が共通」「電流は和をとる」という思考に切り替えます。
- 基準を電圧に設定: 並列回路では、何も考えずに「電圧」を基準(\(V=V_0\sin\omega t\))として解析を始めます。
- インピーダンスの逆数を問う意図を汲む: (2)で \(Z\) ではなく \(1/Z\) を問われているのは、並列回路では \(1/Z\) の方が、各要素の「流れやすさ(アドミタンス)」の合成として、直列回路のインピーダンスと対比的な美しい形で表現できるからです。この出題形式自体が、並列回路の性質を理解しているかを試しています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 直列回路の知識との混同:
- 誤解: 並列回路なのに、直列回路のインピーダンス公式 \(Z = \sqrt{R^2 + (\omega L – 1/(\omega C))^2}\) を使おうとしたり、電圧を基準にしているのに電流の位相を「コイルで進む、コンデンサーで遅れる」と勘違いしたりする。
- 対策: 「直列は電流共通、電圧は和」「並列は電圧共通、電流は和」という大原則を最初に確認し、思考を固定します。また、「電圧基準か、電流基準か」で位相の進み・遅れの主語が変わることを明確に意識します。「CIVIL」の語呂合わせ(CではIがVより進み、LではVがIより進む)は、基準がどちらでも使えるので便利です。
- 電流の最大値の単純な足し算:
- 誤解: 回路全体の電流の最大値 \(I_0\) を、各素子の電流の最大値の単純な和 \(I_0 = I_{R0} + I_{L0} + I_{C0}\) として計算してしまう。
- 対策: 直列回路の電圧と同様、電流も位相を持つベクトル的な量です。必ず「瞬時値の和をとってから合成する」か、「ベクトル図で合成する」というルールを徹底します。
- インピーダンスの計算方法:
- 誤解: 各素子のインピーダンスの逆数を単純に足し合わせて、全体のインピーダンスの逆数 \(1/Z = 1/R + 1/X_L + 1/X_C\) と計算してしまう。これは直流抵抗の並列合成と同じ考え方ですが、交流では位相を考慮しないといけないため間違いです。
- 対策: インピーダンスやアドミタンスはベクトル量(複素数)であることを理解し、スカラーのように扱わないことを徹底します。必ず三角関数の合成かベクトル図の合成を経由して計算します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの第1法則 (\(I = I_R + I_L + I_C\)):
- 選定理由: 並列回路の根幹をなす法則です。回路の分岐点に流れ込む電流と流れ出す電流の総和は等しいという「電荷量保存則」の現れであり、回路全体の電流を各部分の電流から求めるための出発点となります。
- 適用根拠: 各素子は並列に接続されているため、電源から出た電流は3つの経路に分流します。したがって、ある瞬間の全体電流は、その瞬間に各経路を流れている電流の代数和に等しくなります。
- インピーダンスの逆数 (\(1/Z\)) の形:
- 選定理由: (2)の最終的な答えの形 \( \frac{1}{Z} = \sqrt{\left(\frac{1}{R}\right)^2 + \left(\omega C – \frac{1}{\omega L}\right)^2} \) は、直列回路のインピーダンスの公式 \( Z = \sqrt{R^2 + \left(\omega L – \frac{1}{\omega C}\right)^2} \) と非常に似た構造をしています。
- 適用根拠: この美しい対称性(双対性)は、並列回路では「流れやすさ」であるアドミタンス \(Y=1/Z\) を考える方が自然であることを示唆しています。抵抗の「流れやすさ」は \(1/R\)、コイルの「流れやすさ」は \(1/(\omega L)\)、コンデンサーの「流れやすさ」は \(\omega C\) であり、これらをベクトル的に合成したものが回路全体の「流れやすさ」になる、と解釈できます。この問題は、この物理的な洞察に至ることを促しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認: コイルを流れる電流 \(I_L\) が \(-\cos\) になること、全体の電流を合成する際に \((\omega C – 1/(\omega L))\) という引き算の項が現れることなど、符号が間違いやすい箇所を重点的にチェックします。
- 基準の明確化: 計算の各段階で「今、基準にしているのは電圧か?電流か?」を自問自答します。これにより、位相の進み・遅れの判断ミスを防ぎます。
- 分数の扱いに注意: \(1/R\) や \(1/(\omega L)\) など、逆数が多く登場します。分数の足し算や、分母と分子の取り違えに注意し、式を丁寧に書くことが重要です。
- 直列回路との比較: 計算結果が出たら、直列回路の公式と見比べてみます。\(R \leftrightarrow 1/R\), \(L \leftrightarrow C\) のような入れ替えで似た形になっているかを確認することで、大きな間違いがないかを検算できます(厳密な双対性)。
409 並列共振回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「LC並列回路における電気共振」です。コイルとコンデンサーのみで構成される並列回路に特定の周波数の電圧を加えたとき、それぞれの素子を流れる電流が互いに打ち消し合い、回路全体としては電流が流れなくなる「並列共振」という現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 並列回路の特性: 各素子にかかる電圧は、すべて電源電圧に等しくなります。
- リアクタンス: コイル (\(X_L = \omega L\)) とコンデンサー (\(X_C = 1/(\omega C)\)) が持つ、交流電流に対する流れにくさ。
- 並列共振: コイルとコンデンサーのリアクタンスが等しくなる (\(\omega L = 1/(\omega C)\)) 特別な状態。このとき、回路全体のインピーダンスが無限大(理想的な場合)となり、電源から電流が流れ込まなくなります。
- キルヒホッフの第1法則: 回路の分岐点において、流れ込む電流と流れ出す電流の和は等しくなります (\(I = I_L + I_C\))。
- 電圧と電流の位相関係: 電圧を基準としたとき、コイルを流れる電流は\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーを流れる電流は\(\pi/2\)進みます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、LC回路の共振周波数の公式 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) を用いて、具体的な値を計算します。
- (2)では、(1)で求めた共振周波数から共振角周波数を計算し、各リアクタンスを求めます。
- (3)では、並列回路では各素子に電源電圧がそのままかかることを利用し、オームの法則から各電流の実効値を計算します。
- (4)では、(3)で求めた実効値から最大値を求め、電圧を基準とした位相のずれを考慮して、各電流の瞬時値の式を立てます。
- (5)では、キルヒホッフの第1法則に基づき、(4)で求めた2つの電流の瞬時値を足し合わせます。
設問(1) 共振周波数
思考の道筋とポイント
LC回路が共振する周波数 \(f_0\) を求める問題です。共振周波数は、コイルのインダクタンス \(L\) とコンデンサーの電気容量 \(C\) のみによって決まります。公式 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) に与えられた値を代入して計算します。
この設問における重要なポイント
- LC回路の共振周波数の公式を正しく覚えているか。
- 単位の接頭語(μ: マイクロ = \(10^{-6}\))を正しく処理できるか。
- 平方根や指数の計算を正確に行えるか。
具体的な解説と立式
LC回路の共振周波数 \(f_0\) は、以下の公式で与えられます。
$$ f_0 = \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} $$
この公式に、\(L=0.040\) [H], \(C=4.0\) [μF] \( = 4.0 \times 10^{-6}\) [F], \(\pi=3.14\) を代入して計算します。
使用した物理公式
- 共振周波数: \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\)
$$
\begin{aligned}
f_0 &= \frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2 \times 3.14 \times \sqrt{0.040 \times (4.0 \times 10^{-6})}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{6.28 \times \sqrt{4.0 \times 10^{-2} \times 4.0 \times 10^{-6}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{6.28 \times \sqrt{16 \times 10^{-8}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{6.28 \times (4.0 \times 10^{-4})} \\[2.0ex]&= \frac{1}{25.12 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]&= \frac{10000}{25.12} \\[2.0ex]&\approx 398.08… \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(4.0 \times 10^2\) [Hz] となります。
LC回路が最も「共振」しやすい周波数を計算します。これは、ブランコが最も揺れやすい周期のようなもので、LとCの値によって決まります。公式 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) に、問題で与えられたLとCの値を代入して、慎重に計算します。特に、ルートの中の \(10\) の何乗という部分の計算を間違えないように注意が必要です。
計算の結果、共振周波数は \(4.0 \times 10^2\) Hz と求められました。
設問(2) リアクタンス
思考の道筋とポイント
共振周波数における、コイルとコンデンサーのリアクタンスをそれぞれ求めます。共振状態では、定義上、コイルのリアクタンス \(X_L\) とコンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 共振条件は \(\omega_0 L = \displaystyle\frac{1}{\omega_0 C}\) である。
- 角周波数と周波数の関係は \(\omega = 2\pi f\) である。
具体的な解説と立式
まず、(1)で求めた共振周波数 \(f_0\) から、共振角周波数 \(\omega_0\) を求めます。
$$ \omega_0 = 2\pi f_0 $$
次に、コイルのリアクタンス \(X_L\) を計算します。
$$ X_L = \omega_0 L $$
共振状態なので、コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は \(X_L\) と等しくなります。
$$ X_C = \frac{1}{\omega_0 C} = X_L $$
使用した物理公式
- 角周波数: \(\omega = 2\pi f\)
- リアクタンス: \(X_L = \omega L\), \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
$$
\begin{aligned}
\omega_0 &= 2\pi f_0 \\[2.0ex]&= 2\pi \times (398.08…) \\[2.0ex]&\approx 2500 \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
(模範解答の計算過程 \( \omega_0 = 2\pi \times \frac{1.0 \times 10^4}{8.0\pi} = 2.5 \times 10^3 \) を用いるとより正確です。)
コイルのリアクタンス \(X_L\) は、
$$
\begin{aligned}
X_L &= \omega_0 L \\[2.0ex]&= (2.5 \times 10^3) \times 0.040 \\[2.0ex]&= 2.5 \times 10^3 \times 4.0 \times 10^{-2} \\[2.0ex]&= 10 \times 10^1 \\[2.0ex]&= 100 = 1.0 \times 10^2 \text{ [}\Omega\text{]}
\end{aligned}
$$
共振しているので、コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) も \(1.0 \times 10^2 \, \Omega\) となります。
共振しているとき、コイルの「流れにくさ」とコンデンサーの「流れにくさ」は、ちょうど同じ値になります。まず(1)で求めた周波数から角周波数\(\omega\)を計算し、それを使ってコイルのリアクタンス \(X_L = \omega L\) を計算します。コンデンサーのリアクタンスも同じ値です。
共振時、コイルとコンデンサーのリアクタンスはともに \(1.0 \times 10^2 \, \Omega\) となります。
設問(3) 電流の実効値
思考の道筋とポイント
並列回路なので、コイルとコンデンサーにはそれぞれ電源電圧の実効値 \(V_{\text{実効}} = 6.0\) V がかかります。各素子についてオームの法則を適用し、流れる電流の実効値を求めます。
この設問における重要なポイント
- 並列回路では、各素子にかかる電圧は等しい。
- オームの法則: \(I_{\text{実効}} = V_{\text{実効}} / Z\) (Zは各素子のリアクタンス)
具体的な解説と立式
- コイルを流れる電流の実効値 \(I_{L\text{実効}}\):
$$ I_{L\text{実効}} = \frac{V_{\text{実効}}}{X_L} $$ - コンデンサーを流れる電流の実効値 \(I_{C\text{実効}}\):
$$ I_{C\text{実効}} = \frac{V_{\text{実効}}}{X_C} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = V/Z\)
$$
\begin{aligned}
I_{L\text{実効}} &= \frac{6.0 \text{ [V]}}{1.0 \times 10^2 \text{ [}\Omega\text{]}} \\[2.0ex]&= 6.0 \times 10^{-2} \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
\(X_L = X_C\) なので、\(I_{C\text{実効}}\) も同じ値になります。
$$ I_{C\text{実効}} = 6.0 \times 10^{-2} \text{ [A]} $$
コイルとコンデンサーには、それぞれ6.0Vの電圧がかかっています。それぞれの「流れにくさ」(リアクタンス)は(2)で100Ωと計算しました。オームの法則「電流 = 電圧 ÷ 抵抗」を使って、それぞれに流れる電流を計算します。
コイルとコンデンサーを流れる電流の実効値は、ともに \(6.0 \times 10^{-2}\) A となります。
設問(4) 電流の瞬時値
思考の道筋とポイント
電圧の瞬時値 \(V = 6.0\sqrt{2} \sin(2\pi f_0 t)\) を基準として、各電流の瞬時値の式を立てます。電流の最大値は実効値の \(\sqrt{2}\) 倍、位相は電圧に対してコイルが\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーが\(\pi/2\)進むことを用います。
この設問における重要なポイント
- 最大値と実効値の関係: \(I_{\text{最大}} = \sqrt{2} I_{\text{実効}}\)
- 電圧基準での位相関係: コイル電流は\(\pi/2\)遅れ、コンデンサー電流は\(\pi/2\)進む。
具体的な解説と立式
電圧の式から、電圧の最大値は \(V_0 = 6.0\sqrt{2}\) V、角周波数は \(\omega_0 = 2\pi f_0 \approx 2.5 \times 10^3\) rad/s です。
(3)より、電流の実効値はともに \(6.0 \times 10^{-2}\) A なので、電流の最大値は、
$$ I_{\text{最大}} = \sqrt{2} \times (6.0 \times 10^{-2}) = 0.060\sqrt{2} \text{ [A]} $$
- コイルを流れる電流 \(I_L\):
$$
\begin{aligned}
I_L(t) &= I_{\text{最大}} \sin\left(\omega_0 t – \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= -0.060\sqrt{2} \cos(\omega_0 t) \\[2.0ex]&= -0.060\sqrt{2} \cos(2.5 \times 10^3 t)
\end{aligned}
$$ - コンデンサーを流れる電流 \(I_C\):
$$
\begin{aligned}
I_C(t) &= I_{\text{最大}} \sin\left(\omega_0 t + \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]&= 0.060\sqrt{2} \cos(\omega_0 t) \\[2.0ex]&= 0.060\sqrt{2} \cos(2.5 \times 10^3 t)
\end{aligned}
$$
電流の波の形を数式で表します。波の高さ(最大値)は、(3)で求めた実効値に\(\sqrt{2}\)を掛けて求めます。タイミングのズレは、コイルは電圧より90°遅れ、コンデンサーは90°進むので、これを数式に反映させます。
コイルとコンデンサーを流れる電流は、大きさが等しく、位相がちょうど逆(一方が\(\cos\)で他方が\(-\cos\))になることが式からわかります。
設問(5) 電源を流れる電流
思考の道筋とポイント
電源から流れ出す電流 \(I\) は、キルヒホッフの第1法則により、コイルを流れる電流 \(I_L\) とコンデンサーを流れる電流 \(I_C\) の瞬時値の和に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの第1法則: \(I = I_L + I_C\)
具体的な解説と立式
(4)で求めた瞬時値の式を足し合わせます。
$$ I(t) = I_L(t) + I_C(t) $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第1法則
$$
\begin{aligned}
I(t) &= \left( -0.060\sqrt{2} \cos(2.5 \times 10^3 t) \right) + \left( 0.060\sqrt{2} \cos(2.5 \times 10^3 t) \right) \\[2.0ex]&= 0 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
電源から出た電流は、コイルとコンデンサーの2方向に分かれます。この2つの電流を足し合わせると、回路全体を流れる電流がわかります。(4)の結果を見ると、2つの電流は大きさが同じで向きが正反対の波なので、足し合わせるといつでも0になります。
並列共振時、電源から流れ出す電流は0になります。これは、コイルとコンデンサーの間で電流が行ったり来たりするだけで、外部の電源から電流を供給してもらう必要がなくなるためです。この現象は並列共振の最も重要な特徴であり、結果は妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- LC並列回路の共振:
- 核心: この問題は、抵抗を含まない理想的なLC並列回路における「並列共振」の振る舞いを理解することが核心です。直列共振とは対照的に、並列共振では回路全体のインピーダンスが無限大になり、電源から見たときに電流が流れなくなるという特異な現象が起こります。
- 理解のポイント:
- 電圧共通: 並列回路なので、コイルとコンデンサーには同じ電源電圧がかかります。
- 電流の位相: 電圧を基準にすると、コイルを流れる電流\(I_L\)は位相が\(\pi/2\)遅れ、コンデンサーを流れる電流\(I_C\)は位相が\(\pi/2\)進みます。つまり、\(I_L\)と\(I_C\)は互いに位相が\(\pi\)(180°)ずれています。
- 共振条件: 共振周波数では、コイルとコンデンサーのリアクタンスが等しく(\(X_L = X_C\))、結果としてそれぞれの素子を流れる電流の大きさ(実効値や最大値)も等しくなります(\(|I_L| = |I_C|\))。
- 電流の打ち消し: \(I_L\)と\(I_C\)は、大きさが等しく位相がちょうど逆なので、キルヒホッフの第1法則(\(I = I_L + I_C\))に従って瞬時値を足し合わせると、常に0になります。これが、電源から電流が流れなくなる理由です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC並列共振回路: 実際にはコイルに内部抵抗があったり、抵抗器が並列に接続されたりします。この場合、共振周波数でも抵抗には電流が流れるため、電源を流れる電流は0にはならず、最小値(\(I=I_R\))をとります。インピーダンスは最大値をとります。
- 同調回路: ラジオやテレビが特定の放送局の電波(特定の周波数)だけを受信するのは、この並列共振の原理を利用しています。アンテナが受信した様々な周波数の信号のうち、同調回路の共振周波数に一致するものだけが大きな電圧を発生させ、他はフィルタリングされます。
- エネルギーのやり取り: 並列共振時、電源からのエネルギー供給は止まりますが、コイルの磁気エネルギーとコンデンサーの電気エネルギーが、互いに変換されながら回路内を振動し続けます。このエネルギー振動に関する問題も考えられます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路構成の確認: まず、抵抗が含まれているかいないか、LCのみの理想的な回路かを確認します。これにより、(5)の答えが厳密に0になるのか、それとも最小値をとるだけなのかが変わってきます。
- 共振のキーワード: 問題文に「共振」という言葉があれば、まず共振条件 \(\omega L = 1/(\omega C)\) を念頭に置きます。
- 設問の誘導を追う: この問題のように、(1)で共振周波数を求めさせ、(2)でリアクタンス、(3)で各電流、と段階的に計算させる問題では、前の設問の結果を次の設問で使うことが前提になっています。各ステップを丁寧に進めることが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 直列共振との混同:
- 誤解: 並列共振なのに、直列共振のイメージ(インピーダンスが最小、電流が最大)で考えてしまう。
- 対策: 「直列共振はショート(短絡)に近い状態」「並列共振はオープン(開放)に近い状態」というイメージを持つと良いです。直列ではインピーダンスが小さくなり電流が流れやすく、並列ではインピーダンスが大きくなり電流が流れにくくなると、対比で覚えます。
- 電流の瞬時値の和の計算ミス:
- 誤解: (5)で、電流の実効値の和 \(I_{L\text{実効}} + I_{C\text{実効}}\) を計算してしまい、0にならないと混乱する。
- 対策: キルヒホッフの法則は、常に「瞬時値」の和に適用されることを徹底します。位相が異なる量を足し合わせる際は、必ず \(t\) を含んだ関数の形で足し算を行うか、ベクトル図で合成する必要があります。実効値のような大きさだけのスカラー量を単純に足すことはできません。
- 位相関係の暗記ミス:
- 誤解: 電圧を基準にしたときのコイル電流とコンデンサー電流の位相の進み・遅れを逆にしてしまい、(4)の式の符号を間違える。
- 対策: 「コイルは電流の変化を嫌うので、電圧をかけてから電流が流れ始める→電流が遅れる」「コンデンサーは電荷をためてから電圧が上がるので、まず電流が流れ込む→電流が進む」という物理的な理由付けで覚えるか、”CIVIL”の語呂合わせを確実に使えるようにします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 共振周波数の公式 (\(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\)):
- 選定理由: コイルとコンデンサーのリアクタンスが等しくなるという、共振の物理的条件から導かれる最も基本的な関係式です。この周波数を求めることが、共振回路の解析の第一歩となります。
- 適用根拠: 共振の定義 \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を\(\omega\)について解き、\(f = \omega/2\pi\) の関係を使って周波数に変換したものです。この公式は、直列共振でも並列共振でも共通です。
- キルヒホッフの第1法則 (\(I = I_L + I_C\)):
- 選定理由: (5)で電源を流れる電流を求めるために必須の法則です。並列回路では、電流が分岐・合流するため、この法則が解析の中心となります。
- 適用根拠: これは物理学の基本法則である「電荷量保存則」の回路における表現です。ある一点に流れ込む電荷の量と流れ出す電荷の量は等しくなければならず、その時間変化率である電流についても同様の和の法則が成り立ちます。共振時に \(I_L = -I_C\) となることから \(I=0\) が導かれるのは、この法則に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算の途中結果の活用: (1)で求めた \(f_0\) を使って(2)で \(\omega_0\) を計算し、その \(\omega_0\) を使ってリアクタンスを計算する、というように、前の計算結果をうまく利用します。ただし、丸めた値を使うと誤差が大きくなることがあるため、可能であれば分数や\(\pi\)を含んだ形のまま計算を進め、最後にまとめて数値計算するのが理想です。
- 指数の扱いの習熟: \(10^{-2}\) や \(10^{-6}\) といった指数計算、特に掛け算(指数の足し算)と平方根(指数を半分にする)の操作に習熟することが、この種の問題では不可欠です。
- 物理的な意味の確認: (2)で \(X_L\) と \(X_C\) の値が一致しなかった場合、(1)の共振周波数の計算が間違っている可能性が高いと気づくことができます。(3)で \(I_{L\text{実効}}\) と \(I_{C\text{実効}}\) の値が異なった場合も同様です。このように、計算の各ステップで物理的に期待される結果と照らし合わせることで、ミスを早期に発見できます。
- 単位の確認: 計算結果の単位が、求められている物理量の単位([Hz], [\(\Omega\)], [A]など)と一致しているかを最後に確認する癖をつけましょう。
410 振動回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「LC振動回路」です。充電されたコンデンサーとコイルを接続すると、コンデンサーの電気エネルギーとコイルの磁気エネルギーが互いに変換されながら、電流や電圧が周期的に変化する「電気振動」という現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- LC回路のエネルギー保存則: 回路に抵抗がない場合、コンデンサーに蓄えられる静電エネルギーと、コイルに蓄えられる磁気エネルギーの和は一定に保たれます。
- 電気振動の角周波数: 電気振動の角周波数\(\omega\)は、回路の自己インダクタンス\(L\)と電気容量\(C\)のみで決まり、\(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) で与えられます。これはLC回路の共振角周波数と同じです。
- コンデンサーのエネルギー: 電気容量\(C\)のコンデンサーに電圧\(V\)がかかっているとき、蓄えられるエネルギーは \(U_C = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) です。
- コイルのエネルギー: 自己インダクタンス\(L\)のコイルに電流\(I\)が流れているとき、蓄えられるエネルギーは \(U_L = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) です。
- 初期条件の考察: スイッチを閉じた直後(\(t=0\))の回路の状態(電圧、電流)を正しく把握し、それによって振動の波形(\(\sin\)型か\(\cos\)型か、符号はどうか)を決定します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、LC振動回路の角周波数\(\omega\)を公式から計算します。
- 次に、エネルギー保存則を用いて、電流の最大値\(I_0\)を求めます。具体的には、「コンデンサーのエネルギーが最大(=初期状態)のとき」と「コイルのエネルギーが最大(=電流が最大)のとき」のエネルギーが等しい、という式を立てます。
- 最後に、\(t=0\)のときの初期条件を考えます。スイッチを閉じた直後は電流が0であり、その後、コンデンサーからコイルに向かって正の向きに電流が流れ始めることから、電流の時間変化が\(\sin\)型であると判断し、式を完成させます。
思考の道筋とポイント
この問題のゴールは、LC振動回路を流れる電流の瞬時値 \(I(t)\) を式で表すことです。そのためには、「振幅(最大値\(I_0\))」、「角周波数\(\omega\)」、「波形(\(\sin\)か\(\cos\)か、符号はどうか)」の3つの要素を決定する必要があります。
- 角周波数\(\omega\)の決定: LC振動回路の振動の速さ(角周波数)は、回路の\(L\)と\(C\)の値だけで決まります。公式 \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) を使って、まず\(\omega\)を計算します。
- 最大値\(I_0\)の決定: 回路内のエネルギーの総量は常に一定です。最初にコンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーが、すべてコイルの磁気エネルギーに変換されたとき、電流は最大になります。このエネルギー保存則から、電流の最大値\(I_0\)を計算します。
- 波形の決定: \(t=0\)の瞬間の状態を考えます。スイッチS₂を閉じた直後、コンデンサーの電圧は最大(12V)ですが、コイルは電流の変化を妨げるため、回路を流れる電流はまだ0です。その後、コンデンサーが放電を始め、A→Bの向き(正の向き)に電流が流れ出します。つまり、\(t=0\)で電流は0であり、その後正の方向に増加していくので、この動きは\(\sin\)カーブで表せます。
この設問における重要なポイント
- LC振動回路の角周波数は \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\)。
- エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 = \frac{1}{2}CV_{\text{最大}}^2\)。
- \(t=0\)の初期条件: コンデンサーの電圧が最大、電流は0。
- 電流の向き: コンデンサーの正極から負極へ向かう向きに電流が流れ始める。
具体的な解説と立式
1. 角周波数 \(\omega\) の計算
LC振動回路の角周波数\(\omega\)は、
$$ \omega = \frac{1}{\sqrt{LC}} $$
で与えられます。
2. 電流の最大値 \(I_0\) の計算
エネルギー保存則を考えます。
スイッチS₁を閉じてコンデンサーを充電した直後、コンデンサーにかかる電圧の最大値は電源電圧に等しく \(V_0 = 12\) Vです。このとき、コンデンサーに蓄えられている静電エネルギーが回路の全エネルギーとなります。
$$ E_{\text{全}} = \frac{1}{2}CV_0^2 $$
このエネルギーがすべてコイルの磁気エネルギーに変換されたとき、電流は最大値 \(I_0\) になります。
$$ E_{\text{全}} = \frac{1}{2}LI_0^2 $$
エネルギー保存則より、この2つのエネルギーは等しいので、
$$ \frac{1}{2}LI_0^2 = \frac{1}{2}CV_0^2 $$
この式を \(I_0\) について解きます。
3. 電流の瞬時値 \(I(t)\) の式の決定
\(t=0\)でスイッチS₂を閉じます。
- 初期電流: コイルは急な電流の変化を妨げるため、\(t=0\)での電流は \(I(0)=0\) です。
- 初期の電流の変化: コンデンサーの上側が正極、下側が負極に充電されているため、放電が始まると電流はA→Bの向きに流れます。問題文よりこの向きは正なので、電流は0から正の方向に増加していきます。
この2つの条件を満たす三角関数は \(\sin(\omega t)\) です。したがって、電流の瞬時値は \(I(t) = I_0 \sin(\omega t)\) と表せます。
使用した物理公式
- LC振動回路の角周波数: \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\)
- エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2 + \frac{1}{2C}Q^2 = \text{一定}\) (または \(\displaystyle\frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2 = \frac{1}{2}CV_{\text{最大}}^2\))
1. 角周波数の計算
\(L=0.050\) [H], \(C=5.0\) [μF] \( = 5.0 \times 10^{-6}\) [F] を代入します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= \frac{1}{\sqrt{0.050 \times (5.0 \times 10^{-6})}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{\sqrt{5.0 \times 10^{-2} \times 5.0 \times 10^{-6}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{\sqrt{25 \times 10^{-8}}} \\[2.0ex]&= \frac{1}{5.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]&= \frac{10000}{5.0} \\[2.0ex]&= 2000 = 2.0 \times 10^3 \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
2. 電流の最大値の計算
エネルギー保存則の式から \(I_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}LI_0^2 &= \frac{1}{2}CV_0^2 \\[2.0ex]I_0^2 &= \frac{C}{L}V_0^2 \\[2.0ex]I_0 &= \sqrt{\frac{C}{L}} V_0
\end{aligned}
$$
値を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \sqrt{\frac{5.0 \times 10^{-6}}{0.050}} \times 12 \\[2.0ex]&= \sqrt{\frac{5.0 \times 10^{-6}}{5.0 \times 10^{-2}}} \times 12 \\[2.0ex]&= \sqrt{1.0 \times 10^{-4}} \times 12 \\[2.0ex]&= (1.0 \times 10^{-2}) \times 12 \\[2.0ex]&= 0.12 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
3. 電流の式の完成
求めた \(\omega\) と \(I_0\) を \(I(t) = I_0 \sin(\omega t)\) に代入します。
$$ I(t) = 0.12 \sin(2.0 \times 10^3 t) \text{ [A]} $$
この回路は、コンデンサーとコイルの間でエネルギーのキャッチボールをする電気のブランコのようなものです。
まず、ブランコの揺れる速さ(角周波数\(\omega\))を、LとCの値から公式 \(\omega = 1/\sqrt{LC}\) で計算します。
次に、ブランコの振れの大きさ(電流の最大値\(I_0\))を計算します。これはエネルギーの考え方を使います。最初にコンデンサーが持っていた電気エネルギーが、すべてコイルの磁気エネルギーに変わったときが、電流が最大になるときです。このエネルギーの等式を解いて \(I_0\) を求めます。
最後に、ブランコの動きの形を決めます。\(t=0\)でスイッチを入れた瞬間は、電流は0です。そこから正の向きに流れ始めるので、動きはサインカーブになります。これらを組み合わせて最終的な式を立てます。
LC振動回路を流れる電流は、最大値が 0.12 A、角周波数が \(2.0 \times 10^3\) rad/s の正弦波で変化することがわかりました。初期条件(\(t=0\)で\(I=0\)、その後\(I>0\))から\(\sin\)型と判断したことも妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- LC回路におけるエネルギー保存則:
- 核心: 抵抗がない理想的なLC回路では、外部とのエネルギーのやり取りがない限り、回路全体のエネルギー(コンデンサーの静電エネルギーとコイルの磁気エネルギーの和)は常に一定に保たれる、というエネルギー保存則が最も重要な物理法則です。
- 理解のポイント:
- エネルギーの形態: エネルギーは、コンデンサーの電場に静電エネルギー \(U_C = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2C}Q^2\) として、またコイルの磁場に磁気エネルギー \(U_L = \frac{1}{2}LI^2\) として蓄えられます。
- エネルギーの変換: 回路が振動している間、この二つのエネルギーは互いに変換され続けます。コンデンサーの電圧が最大(電荷が最大)のときは静電エネルギーが最大で磁気エネルギーは0です。逆に、電流が最大のときは磁気エネルギーが最大で静電エネルギーは0です。
- 最大値の関係: このエネルギーの最大値同士が等しいという関係式 \(\displaystyle\frac{1}{2}CV_{\text{最大}}^2 = \frac{1}{2}LI_{\text{最大}}^2\) を用いることで、電圧の最大値と電流の最大値を結びつけることができます。これがこの問題の計算の鍵です。
- 電気振動の固有角周波数:
- 核心: LC回路が示す電気振動の周期や角周波数は、初期状態(最初にどれだけ充電したか)によらず、回路の構成要素である\(L\)と\(C\)の値だけで決まる「固有」の値であるということです。
- 理解のポイント:
- 公式: その角周波数は \(\omega = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}}\) で与えられます。これは力学における単振動の固有角周波数 \(\omega = \sqrt{k/m}\) と非常によく似た形をしており、\(L\)が質量(慣性)、\(1/C\)がばね定数(復元力)に相当するアナロジーが成り立ちます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 任意の時刻の電圧や電流を求める問題: 例えば、「電流が最大値の半分になるときのコンデンサーの電圧はいくらか」といった問題。この場合は、エネルギー保存則の一般式 \( \displaystyle\frac{1}{2}LI^2 + \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}CV_0^2 \) に、\(I = I_0/2\) を代入して \(V\) を解くことで求められます。
- 初期条件が異なる問題: 例えば、「\(t=0\)でコンデンサーの電荷が0で、コイルに最大電流が流れている状態からスタートする」場合。このとき、電流の式は \(I(t) = I_0 \cos(\omega t)\) のように\(\cos\)型になります。
- RLC振動回路(減衰振動): 回路に抵抗\(R\)が含まれる場合。エネルギーが抵抗でジュール熱として消費されていくため、振動の振幅は時間とともに指数関数的に減少する「減衰振動」となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路に抵抗\(R\)があるか確認: まず、抵抗\(R\)の有無をチェックします。\(R=0\)ならエネルギー保存則が使え、きれいな単振動になります。\(R>0\)ならエネルギーは保存せず、減衰振動を考慮する必要があります。
- \(t=0\)の初期状態を把握する: スイッチを操作する直前と直後の状態を正確に把握します。「コンデンサーが最大まで充電されている」→ \(V=V_0, I=0\)。「コイルに定常電流が流れている」→ \(I=I_0, V_C=0\)。この初期状態が、振動の式を\(\sin\)で書くか\(\cos\)で書くかを決定します。
- エネルギーの流れをイメージする: \(t=0\)から時間が少し経ったときに、エネルギーがどちらからどちらへ移動するか(コンデンサーからコイルか、その逆か)を考えます。これにより、電流や電圧の変化の向き(増加か減少か、符号は正か負か)がわかり、式の形を決定する助けになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギー保存則の式の立て間違い:
- 誤解: 電流の最大値と電圧の最大値の関係を、\(LI_0 = CV_0\) のように、2乗や係数の1/2を忘れて立ててしまう。
- 対策: エネルギーの公式 \(U_L = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\), \(U_C = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を正確に覚えることが基本です。「エネルギー」を扱っているという意識を持ち、単位がジュールになることを確認するのも有効です。
- 初期条件の誤認:
- 誤解: \(t=0\)でスイッチを入れた瞬間、すぐに最大電流が流れると考えてしまう。あるいは、電流の向きを逆に考えてしまう。
- 対策: コイルの性質「電流は急に変化できない(直前の値を保つ)」を思い出します。スイッチを入れる直前の電流が0なら、入れた直後も0です。また、電流の向きは「電位の高い方から低い方へ」という原則に従って判断します。充電されたコンデンサーのどちらの極が正で電位が高いかを図から読み取ることが重要です。
- \(\sin\)と\(\cos\)の選択ミス:
- 誤解: LC振動だからと、何も考えずに \(I=I_0\sin\omega t\) と決めつけてしまう。
- 対策: 必ず\(t=0\)の初期値をチェックする習慣をつけます。「\(t=0\)で値が0、その後増加→\(\sin\)」「\(t=0\)で値が最大、その後減少→\(\cos\)」「\(t=0\)で値が0、その後減少→\(-\sin\)」「\(t=0\)で値が最小、その後増加→\(-\cos\)」という対応関係を理解しておきます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則 (\(\frac{1}{2}LI_0^2 = \frac{1}{2}CV_0^2\)):
- 選定理由: この問題では、振動の「振幅」(最大値)を求める必要があります。エネルギーは振幅の2乗に比例する量であり、回路の異なる状態(コンデンサーエネルギー最大時とコイルエネルギー最大時)の振幅を結びつけることができる唯一の法則がエネルギー保存則だからです。
- 適用根拠: 回路にエネルギーを散逸させる要素(抵抗)がないという理想的な状況が前提です。この前提のもと、エネルギーは形態を変えるだけで、その総量は不変であるという物理学の大原則が適用できます。
- 角周波数の公式 (\(\omega = 1/\sqrt{LC}\)):
- 選定理由: 振動の「周期性」(速さ)を決定するために必要です。
- 適用根拠: この公式は、LC回路の回路方程式(キルヒホッフの第2法則を適用して得られる微分方程式 \(L\frac{dI}{dt} + \frac{Q}{C} = 0\))を解くことで導出されます。この方程式が、力学における単振動の運動方程式 \(m\frac{d^2x}{dt^2} + kx = 0\) と全く同じ数学的構造を持つため、その解(角周波数)も同じ形 \(\omega = \sqrt{k/m}\) に対応する \(\omega = \sqrt{(1/C)/L} = 1/\sqrt{LC}\) となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の接頭語の変換: [μF] → [F] への変換 (\(5.0 \times 10^{-6}\)) を忘れないように、計算の最初に必ずチェックします。
- 平方根の計算: \(I_0 = V_0 \sqrt{C/L}\) のように、先に文字式で整理してから数値を代入すると、計算が楽になることが多いです。ルートの中の指数計算は、特に慎重に行います。
- 式の次元チェック: 例えばエネルギー保存の式を立てた後、両辺の単位がジュールになっているか、\(I_0 = V_0 \sqrt{C/L}\) の右辺の単位が本当にアンペアになるかなどを確認する(次元解析)と、式の立て間違いを発見しやすくなります。
- 物理的直感との照らし合わせ: \(L\)が大きい(慣性が大きい)ほど、また\(C\)が大きい(容量が大きい)ほど、振動はゆっくりになるはずなので、角周波数\(\omega\)は小さくなるはずだ、と物理的に予測できます。計算結果がこの直感と合っているかを確認するのも有効です。
411 変圧器
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「変圧器(トランス)の原理」です。相互誘導を利用して交流電圧を変化させる変圧器の基本的な性質を理解し、電圧、電流、電力の関係を計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 変圧器の電圧と巻数の関係: 1次コイルと2次コイルの電圧の比は、それぞれの巻数の比に等しくなります。
- オームの法則: 2次側に接続された抵抗について、電圧、電流、抵抗値の関係を求めます。
- 電力の計算: 消費電力は、電圧と電流の積で計算できます。
- エネルギー保存則(理想的な変圧器): エネルギー損失がない理想的な変圧器では、1次側で供給される電力と2次側で消費される電力は等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず変圧器の公式を用いて2次側の電圧を求め、次にオームの法則を使って2次側の電流を計算します。
- (2)では、(1)で求めた2次側の電圧と電流を用いて、2次側の消費電力を計算します。
- (3)では、エネルギー保存則(1次側の電力 = 2次側の電力)を利用して、1次側の電流を求めます。
設問(1) 2次側の電流
思考の道筋とポイント
2次側の電流を求めるには、まず2次側の電圧を知る必要があります。変圧器の最も基本的な公式である「電圧と巻数の関係」を用いて、1次側の情報(電圧100V, 巻数200回)と巻数比から、2次側の電圧を計算します。その後、2次回路にオームの法則を適用して電流を求めます。
この設問における重要なポイント
- 変圧器の電圧比と巻数比の関係式: \(V_1 : V_2 = N_1 : N_2\)
- オームの法則: \(I = V/R\)
具体的な解説と立式
1次コイルの電圧を \(V_1\)、巻数を \(N_1\)、2次コイルの電圧を \(V_2\)、巻数を \(N_2\) とします。
問題文より、\(V_1 = 100\) [V], \(N_1 = 200\) [回], \(N_2 = 1000\) [回] です。
電圧と巻数の関係式は、
$$ V_1 : V_2 = N_1 : N_2 $$
この比例式に値を代入して、2次側の電圧 \(V_2\) を求めます。
次に、2次側には抵抗値 \(R = 100 \, \Omega\) の抵抗が接続されているので、オームの法則を用いて2次側を流れる電流 \(I_2\) を求めます。
$$ I_2 = \frac{V_2}{R} $$
使用した物理公式
- 変圧器の電圧と巻数の関係: \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \frac{N_2}{N_1}\)
- オームの法則: \(V=RI\)
まず、2次側の電圧 \(V_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
100 : V_2 &= 200 : 1000 \\[2.0ex]200 \times V_2 &= 100 \times 1000 \\[2.0ex]V_2 &= \frac{100 \times 1000}{200} \\[2.0ex]V_2 &= 500 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
次に、この電圧 \(V_2\) を用いて2次側の電流 \(I_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= \frac{V_2}{R} \\[2.0ex]&= \frac{500 \text{ [V]}}{100 \text{ [}\Omega\text{]}} \\[2.0ex]&= 5.00 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
まず、変圧器で電圧が何倍になるかを計算します。巻数が200回から1000回へと5倍になっているので、電圧も5倍になります。1次側が100Vなので、2次側の電圧は \(100 \times 5 = 500\)V です。
次に、この500Vの電圧が100Ωの抵抗にかかっているので、オームの法則「電流 = 電圧 ÷ 抵抗」を使って、\(500 \div 100 = 5.00\)A と電流を計算します。
2次側の電圧は500Vに昇圧され、その結果流れる電流は5.00Aとなります。
設問(2) 2次側の消費電力
思考の道筋とポイント
2次側で消費される電力を求めます。電力は「電圧 × 電流」で計算できます。(1)で求めた2次側の電圧と電流の値を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 電力の公式: \(P = VI\)
具体的な解説と立式
2次側の消費電力を \(P_2\) とすると、2次側の電圧 \(V_2\) と電流 \(I_2\) の積で与えられます。
$$ P_2 = V_2 I_2 $$
使用した物理公式
- 電力: \(P=VI\)
(1)で求めた \(V_2 = 500\) V, \(I_2 = 5.00\) A を代入します。
$$
\begin{aligned}
P_2 &= 500 \text{ [V]} \times 5.00 \text{ [A]} \\[2.0ex]&= 2500 \text{ [W]} \\[2.0ex]&= 2.50 \times 10^3 \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
電力は、電圧と電流を掛け算するだけで求まります。(1)で計算した2次側の電圧500Vと電流5.00Aを掛けて、\(500 \times 5.00 = 2500\)W となります。
2次側の抵抗では、2.50 × 10³ W の電力が消費されます。
設問(3) 1次側の電流
思考の道筋とポイント
理想的な変圧器ではエネルギー損失がないため、1次側が供給する電力と2次側が消費する電力は等しくなります。この「電力の保存則」を利用して、1次側の電流を求めます。
この設問における重要なポイント
- 理想的な変圧器では、1次側の電力と2次側の電力が等しい: \(P_1 = P_2\)
- 電力の関係式: \(V_1 I_1 = V_2 I_2\)
具体的な解説と立式
エネルギー損失がない理想的な変圧器なので、1次側の電力 \(P_1\) と2次側の電力 \(P_2\) は等しくなります。
$$ P_1 = P_2 $$
それぞれの電力を電圧と電流の積で表すと、
$$ V_1 I_1 = V_2 I_2 $$
この式に、既知の値である \(V_1, V_2, I_2\) を代入して、1次側の電流 \(I_1\) を求めます。
使用した物理公式
- エネルギー保存則: \(P_1 = P_2\)
\(V_1 I_1 = P_2\) の関係に、\(V_1 = 100\) V と (2)で求めた \(P_2 = 2500\) W を代入します。
$$
\begin{aligned}
100 \text{ [V]} \times I_1 &= 2500 \text{ [W]} \\[2.0ex]I_1 &= \frac{2500}{100} \\[2.0ex]&= 25.0 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
エネルギーは保存されるので、1次側が送り込む電力と2次側が消費する電力は同じです。(2)で2次側の消費電力は2500Wとわかっています。1次側の電圧は100Vなので、「電力 = 電圧 × 電流」の関係から、1次側の電流は \(2500 \div 100 = 25.0\)A と計算できます。
1次側の電流は25.0Aと求められました。この結果から、電圧を100Vから500Vへと5倍にすると、電流は25.0Aから5.00Aへと1/5になっていることがわかります。これは、理想的な変圧器における電流と巻数の関係 \(I_1 : I_2 = N_2 : N_1\) とも一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想的な変圧器における3つの基本法則:
- 核心: 変圧器の問題は、3つの重要な関係式を理解し、それらを組み合わせて解くことに尽きます。
- 理解のポイント:
- 電圧と巻数比の関係: 電圧は巻数に比例して変化します。
$$ \frac{V_2}{V_1} = \frac{N_2}{N_1} $$
これは、1次コイルと2次コイルで磁束の時間変化が共通であることから導かれます。電圧を上げたい(昇圧)なら2次側の巻数を多くし、下げたい(降圧)なら少なくします。 - 電流と巻数比の関係: 電流は巻数に反比例して変化します。
$$ \frac{I_2}{I_1} = \frac{N_1}{N_2} $$
これは次に示すエネルギー保存則から導かれます。電圧を上げると電流は減り、電圧を下げると電流は増えます。 - 電力の保存: エネルギー損失がない理想的な変圧器では、1次側が供給する電力と2次側が消費する電力が等しくなります。
$$ P_1 = P_2 \quad \text{すなわち} \quad V_1 I_1 = V_2 I_2 $$
この電力保存の関係が、上記の電流と巻数比の関係式の根拠となります。
- 電圧と巻数比の関係: 電圧は巻数に比例して変化します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 変圧器の効率を考慮する問題: 実際の変圧器では、鉄心の渦電流やコイルのジュール熱によりエネルギー損失が生じます。効率が\(\eta\)(例: 90%なら\(\eta=0.9\))の変圧器では、電力の関係は \(P_2 = \eta P_1\) となります。この場合、1次側の電流を求めるには \(V_1 I_1 = P_2 / \eta\) として計算する必要があります。
- 2次側が複雑な回路: 2次側に抵抗だけでなく、コイルやコンデンサーを含むRLC回路が接続されている問題。この場合、2次側の回路全体のインピーダンス\(Z_2\)をまず求め、\(I_2 = V_2 / Z_2\) として2次電流を計算します。消費電力は抵抗部分でしか生じないので、\(P_2 = R I_2^2\) で計算します。
- 送電の問題: 発電所から遠方の消費地へ送電する際に、送電線の抵抗による電力損失 \(P_{\text{損失}} = R_{\text{送電線}} I_{\text{送電}}^2\) を減らすため、変圧器で高電圧・低電流にして送電する、という応用問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「理想的な変圧器」か確認: 問題文に「エネルギー損失はないものとする」「理想的な変圧器」などの記述があるかを確認します。これがあれば、\(P_1 = P_2\) が使えます。もし「効率95%」などの記述があれば、\(P_2 = 0.95 P_1\) を使う必要があります。
- 与えられている情報を整理: \(V_1, N_1, V_2, N_2, I_1, I_2, R\) のうち、どの値が与えられていて、どの値を求めるべきかを明確に整理します。
- 解法のステップを組み立てる: 例えば、\(I_1\)を求めたい場合、直接求める公式 \(I_1 = I_2 \times (N_2/N_1)\) を使うルートと、まず\(P_2\)を計算し、\(P_1=P_2\)から \(I_1 = P_1/V_1\) で求めるルートがあります。どちらのルートが手持ちの情報で計算しやすいかを考えます。この問題は後者のルートで解くように誘導されています。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧と電流の比例・反比例の混同:
- 誤解: 電圧も電流も巻数に比例する、と勘違いしてしまう。
- 対策: 「電圧を上げると、その分電流は小さくなる」という物理的なイメージを強く持ちます。高電圧で送電する理由も、電流を小さくして送電ロスを減らすためです。電圧と電流はトレードオフの関係にある、と覚えることで混同を防ぎます。
- 公式の分子・分母の逆転:
- 誤解: \(V_2/V_1 = N_1/N_2\) や \(I_2/I_1 = N_2/N_1\) のように、添字の1と2の関係を逆にしてしまう。
- 対策: 「2次側/1次側」の比で式を統一して覚えるのが有効です。\(V_2/V_1 = N_2/N_1\)(電圧はそのまま)、\(I_2/I_1 = N_1/N_2\)(電流は逆)のように、基準を揃えて記憶します。
- 電力計算での電圧・電流の組み合わせミス:
- 誤解: 1次側の電力を計算するのに、\(P_1 = V_2 I_1\) のように、1次側と2次側の値を混ぜて使ってしまう。
- 対策: 電力計算 \(P=VI\) は、必ず同じ側の電圧と電流のペア(\(P_1=V_1I_1\), \(P_2=V_2I_2\))で行うことを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電圧と巻数比の公式 (\(V_2/V_1 = N_2/N_1\)):
- 選定理由: (1)で2次側の電圧を求めるために必須の、変圧器の基本原理を表す公式です。
- 適用根拠: ファラデーの電磁誘導の法則に基づいています。1次コイルと2次コイルは同じ鉄心を共有しているため、鉄心を通る磁束\(\Phi\)とその時間変化 \(d\Phi/dt\) は共通です。1巻きあたりの誘導起電力は \(d\Phi/dt\) で等しく、各コイルの全電圧は巻数に比例します。したがって、\(V_1 \propto N_1\), \(V_2 \propto N_2\) となり、この比例式が導かれます。
- 電力保存の法則 (\(V_1 I_1 = V_2 I_2\)):
- 選定理由: (3)で1次側の電流を求めるために使用します。2次側の情報から、直接関係のない1次側の情報を導き出すための橋渡しとなる重要な法則です。
- 適用根拠: これはエネルギー保存則の現れです。「理想的な変圧器」という問題設定(エネルギー損失が0)が、この公式を使うための絶対条件です。1次側から単位時間あたりに供給されるエネルギー(電力\(P_1\))が、すべてそのまま2次側に伝わり、そこで消費されるエネルギー(電力\(P_2\))になる、という物理的な要請に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比例式の計算: \(100 : V_2 = 200 : 1000\) のような比例式は、「内項の積 = 外項の積」(\(200 V_2 = 100 \times 1000\)) を使って確実に解きます。暗算で「5倍だから…」と済ませると、簡単な比でない場合にミスをしやすくなります。
- ゼロの数の確認: \(100, 200, 1000, 500\) のようにゼロが多い計算では、桁を間違えやすいです。\(10^n\) の指数表記(例: \(1 \times 10^2, 2 \times 10^2, 1 \times 10^3\))を使って計算すると、ミスを減らせます。
- 有効数字の扱い: 問題文の数値(100V, 200回, 1000回, 100Ω)が3桁で与えられているように見えるため、解答も \(5.00\)A, \(2.50 \times 10^3\)W, \(25.0\)A のように3桁で表現するのが適切です。計算の最終段階で有効数字を意識する癖をつけましょう。
- 一貫性のチェック: (3)で求めた \(I_1=25.0\)A を使って、電流比 \(I_2/I_1 = 5.00/25.0 = 1/5\) と、巻数比 \(N_1/N_2 = 200/1000 = 1/5\) が一致することを確認する、といった検算が有効です。
412 電磁波の種類と波長
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電磁波のスペクトル」です。様々な種類の電磁波を、その性質の指標である「波長」の長さに基づいて正しく順序立てる知識が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電磁波の分類: 電磁波は、波長(あるいは周波数)によって性質が異なり、波長の長い方から「電波」「赤外線」「可視光線」「紫外線」「X線」「ガンマ(γ)線」の順に大別されます。
- 波長と周波数・エネルギーの関係: 電磁波の速さは真空中では一定(光速 \(c\))なので、波長 \(\lambda\) と周波数 \(f\) には \(c = f\lambda\) の関係があります。つまり、波長が長いほど周波数は低くなります。また、光子1個のエネルギー \(E\) は周波数に比例する(\(E=hf\), \(h\)はプランク定数)ため、波長が長いほどエネルギーは小さくなります。
- 各分類内の順序: 同じ分類の中でも、用途などによってさらに細かく分けられ、波長の大小関係が存在します。例えば、「電波」の中ではAMラジオとテレビの電波、「光」の中では赤外線・可視光線・紫外線の順序を理解しておく必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、与えられた選択肢を「電波」「光」「X線・γ線」といった大まかなグループに分類します。
- 次に、各グループ内で波長の長いものから順に並べます。
- 最後に、グループ間の順序(電波→光→X線・γ線)に従って、全体を統合し、最終的な答えを導き出します。
思考の道筋とポイント
この問題は、電磁波スペクトルに関する基本的な知識を問うものです。丸暗記するのではなく、電磁波全体の連続的なつながり(スペクトル)をイメージし、それぞれの電磁波がどの位置にあるかを把握することが重要です。
ステップ1:大まかなグループ分け
与えられた電磁波を、波長の長さで大まかに3つのグループに分類します。
- 電波グループ(波長が比較的長い):
- (ウ) AMラジオの電波
- (エ) UHFテレビの電波
- 光グループ(波長が中間):
- (キ) 赤外線
- (オ) 可視光線
- (カ) 紫外線
- X線・γ線グループ(波長が短い):
- (イ) 波長の長いX線
- (ア) 波長の短いγ線
一般的に、波長は 電波 > 光 > X線・γ線 の順に短くなります。
ステップ2:各グループ内での順序付け
- 電波グループ: AMラジオで使われる電波は「中波(MW)」、UHFテレビで使われる電波は「極超短波(UHF)」と呼ばれます。波長は、中波の方が極超短波より長いです。したがって、波長の長い順は (ウ) > (エ) となります。
- 光グループ: 私たちが「光」として認識している可視光線は、虹の色の順(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)に波長が短くなります。「赤」よりも波長が長い光が「赤外線」、「紫」よりも波長が短い光が「紫外線」です。したがって、波長の長い順は (キ)赤外線 > (オ)可視光線 > (カ)紫外線 となります。
- X線・γ線グループ: 一般に、γ線はX線よりも波長が短く、エネルギーが高い電磁波です。問題文でも「波長の長いX線」と「波長の短いγ線」と示されていることから、その大小関係は明確です。したがって、波長の長い順は (イ) > (ア) となります。
ステップ3:全体の統合
ステップ1とステップ2の結果をすべて統合すると、波長の長いものから順に以下のようになります。
(ウ) → (エ) → (キ) → (オ) → (カ) → (イ) → (ア)
この設問における重要なポイント
- 電磁波の波長の基本的な順序:電波 > 赤外線 > 可視光線 > 紫外線 > X線 > γ線。
- 電波の内部での順序:AMラジオ(中波) > テレビ(極超短波)。
- 光の内部での順序:赤外線 > 可視光線(赤→紫) > 紫外線。
- 波長が長い ⇔ 周波数が低い ⇔ エネルギーが小さい、という関係性を理解すること。
具体的な解説と立式
この問題は知識を問うものであり、計算や立式は不要です。上記の思考プロセスに従って、電磁波の種類を波長の順に並べ替えます。
(参考)
- 光速と波長、周波数の関係: \(c = f\lambda\)
- 光子のエネルギー: \(E = hf = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
計算は不要です。
電磁波を「波の長さ」で背比べさせ、背の高い(波長の長い)順に並べるイメージです。
- まず、大まかに「電波チーム」「光チーム」「放射線チーム」に分けます。背の高さは「電波 > 光 > 放射線」の順です。
- 次に、各チーム内で背比べをします。
- 「電波チーム」内では、AMラジオくんの方がテレビくんより背が高いです。
- 「光チーム」内では、目に見えない赤外線くんが一番背が高く、次に見える光くん(可視光線)、そして目に見えない紫外線くん、の順になります。「赤の外側が赤外線、紫の外側が紫外線」と覚えると便利です。
- 「放射線チーム」内では、X線くんの方がγ線くんより背が高いです。
- 最後に、チームの順序とチーム内の順序を組み合わせて、全員を背の高い順に並べます。
以上の考察から、電磁波を波長の長いものから順に並べると、「(ウ) AMラジオの電波、(エ) UHFテレビの電波、(キ) 赤外線、(オ) 可視光線、(カ) 紫外線、(イ) 波長の長いX線、(ア) 波長の短いγ線」となります。これは電磁波スペクトルの基本的な順序であり、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電磁波スペクトルの連続性:
- 核心: 電波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線といった様々な名前で呼ばれる電磁波は、それぞれが独立した別物なのではなく、波長(あるいは周波数・エネルギー)が連続的に変化する一つの大きな家族(スペクトル)である、という概念を理解することが最も重要です。
- 理解のポイント:
- 指標は波長: この連続的なスペクトル上での「住所」を示す最も基本的な指標が「波長」です。
- 境界は便宜的: 各電磁波の間の境界は、人間の利用目的や性質の違いによって便宜的に付けられたものであり、明確な切れ目があるわけではありません。
- 基本的な順序: このスペクトル上での大まかな並び順(波長の長い方から、電波 → 赤外線 → 可視光線 → 紫外線 → X線 → γ線)を記憶していることが、この種の問題を解く上での絶対的な基礎知識となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 周波数やエネルギーの大きさ順に並べ替える問題: 波長と周波数・エネルギーは反比例の関係(\(f \propto 1/\lambda\), \(E \propto 1/\lambda\))にあるため、波長の長い順は、周波数の低い順、エネルギーの小さい順と同じになります。逆に、波長の短い順は、周波数の高い順、エネルギーの大きい順となります。
- 各電磁波の性質や用途を問う問題:
- 電波: 通信(ラジオ、テレビ、携帯電話、Wi-Fi)、電子レンジ
- 赤外線: 暖房器具、リモコン、サーモグラフィー(熱感知)
- 可視光線: 人間の目が見る光、照明
- 紫外線: 殺菌、日焼け、ビタミンD生成
- X線: レントゲン写真、CTスキャン、結晶構造解析
- γ線: がん治療、非破壊検査
- 具体的な波長の値: 主要な電磁波のおおよその波長の桁を問われることもあります。(例: 可視光線は約400 nm〜800 nm)
- 初見の問題での着眼点:
- 並べる基準を確認: 問題が「波長の長い順」なのか「周波数の高い順」なのか「エネルギーの大きい順」なのかを最初に確認します。これを間違えると答えが全く逆になります。
- 身近なものから考える: 「ラジオとテレビ」「赤と紫」など、日常生活で馴染みのあるものから順序を確定させていくと、考えやすくなります。
- 語源やイメージを活用する: 「赤外線」は「赤の外側」、「紫外線」は「紫の外側」という名前の由来を考えると、可視光線との位置関係が明確になります。また、「γ線やX線は体に悪い→エネルギーが高い→波長が短い」といったイメージも記憶の助けになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 波長と周波数の関係の混同:
- 誤解: 波長が長いものほど周波数も高い、と勘違いしてしまう。
- 対策: 波の基本式 \(v=f\lambda\) を思い出します。電磁波の速さ\(v\)は一定(光速\(c\))なので、\(f\)と\(\lambda\)は反比例の関係にあります。片方が大きければ、もう片方は必ず小さくなります。「長い波は、ゆったりとした(周波数が低い)波」というイメージを持つと良いでしょう。
- 可視光線の両端の混同:
- 誤解: 赤と紫のどちらが波長が長いかを混同し、赤外線と紫外線の位置関係を逆にしてしまう。
- 対策: 虹の色の順番「せき・とう・おう・りょく・せい・らん・し」は、波長の長い順になっています。「赤」が最も波長が長く、「紫」が最も短い、と覚えます。これにより、「赤の外側=赤外線」は可視光線より波長が長く、「紫の外側=紫外線」は可視光線より波長が短い、と正しく判断できます。
- 電波の種類の混同:
- 誤解: AMラジオ、FMラジオ、テレビ、携帯電話などの電波の波長の大小関係がわからなくなる。
- 対策: 一般的に、周波数帯が低い(波長が長い)順に、AMラジオ(中波)、FMラジオ(超短波 VHF)、テレビ(VHF/UHF)、携帯電話・Wi-Fi(UHF/マイクロ波)となっています。全てを厳密に覚える必要はありませんが、「AMラジオは比較的波長が長い」と覚えておくと、多くの問題に対応できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- この問題は物理法則や公式を直接使うものではありませんが、背景にある法則を理解することが重要です。
- 電磁波の発生源と波長の関係:
- 論理: 一般に、電磁波を発生させる「アンテナ」の役割を果たすもののサイズが小さいほど、発生する電磁波の波長は短くなる傾向があります。
- 具体例:
- 電波: 電気回路(LC振動回路など)の電流の振動によって発生します。回路のサイズが比較的大きいため、波長も長くなります。
- 赤外線・可視光線・紫外線: 原子内の電子のエネルギー準位の遷移によって発生します。原子という非常に小さいスケールでの現象なので、波長は短くなります。
- X線: 加速した電子を金属に衝突させた際や、原子の内側の電子殻の遷移で発生します。よりエネルギーの高い現象なので、波長はさらに短くなります。
- γ線: 原子核のエネルギー準位の遷移(原子核崩壊)という、さらにスケールが小さくエネルギーが高い現象で発生するため、波長は最も短くなります。
- このように、電磁波の発生メカニズムとスケールの大小関係を理解すると、波長の順序をより論理的に捉えることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は知識問題であり、計算ミスは発生しません。しかし、思考のプロセスにおける「ケアレスミス」を防ぐためのテクニックは存在します。
- 書き出して整理する: 頭の中だけで考えず、問題用紙の余白に与えられた選択肢を書き出し、グループ分けをしたり、大小関係を矢印で結んだりして、視覚的に整理すると思考がまとまりやすくなります。
- 指差し確認: 最終的な答えを書く前に、自分で整理したメモと問題の選択肢を一つ一つ指で追いながら、「(ウ)は一番長い、次は(エ)、その次は(キ)…」と確認することで、転記ミスや順番の間違いを防ぐことができます。
- 語呂合わせの活用: 「電(波)赤(外線)可(視光線)紫(外線)エッ(クス線)ガ(ンマ線)」のような、覚えやすい語呂合わせを一つ作っておくと、試験本番で迷ったときに役立ちます。
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