Step1
① 交流の周波数と角周波数
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流の基本量である周期と角周波数の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 周波数(\(f\))の定義: 1秒あたりの振動(波)の回数。単位はヘルツ(\(\text{Hz}\))。
- 周期(\(T\))の定義: 1回の振動にかかる時間。単位は秒(\(\text{s}\))。
- 角周波数(\(\omega\))の定義: \(2\pi\)秒(1周期分)あたりの位相の変化量。単位はラジアン毎秒(\(\text{rad/s}\))。
- 周波数、周期、角周波数の関係式。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた周波数(\(f\))から、周期(\(T\))を公式 \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\) を用いて計算する。
- 与えられた周波数(\(f\))から、角周波数(\(\omega\))を公式 \(\omega = 2\pi f\) を用いて計算する。
思考の道筋とポイント
この問題は、交流の性質を表す基本的な3つの量、周波数(\(f\))、周期(\(T\))、角周波数(\(\omega\))の相互関係を正しく理解しているかを問うています。それぞれの言葉の定義をしっかりと思い出すことが重要です。特に、周波数と周期が互いに逆数の関係にあること、そして角周波数が周波数を用いてどのように表されるかを把握していれば、公式に値を代入するだけで解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 周波数 \(f\) と周期 \(T\) の関係: 周期は1回の振動にかかる時間、周波数は1秒あたりの振動回数なので、互いに逆数の関係にあります。
$$ T = \displaystyle\frac{1}{f} $$ - 周波数 \(f\) と角周波数 \(\omega\) の関係: 1回の振動で位相は \(2\pi\) ラジアン進みます。1秒間に \(f\) 回振動するので、1秒間に進む位相(角周波数)は \(2\pi \times f\) となります。
$$ \omega = 2\pi f $$ - 周期 \(T\) と角周波数 \(\omega\) の関係: 上の2式から、\(f = 1/T\) を \(\omega = 2\pi f\) に代入することで導かれます。
$$ \omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T} $$
具体的な解説と立式
この問題では、与えられた周波数 \(f = 50\)\(\text{Hz}\) をもとに、周期 \(T\) と角周波数 \(\omega\) を計算します。
- 周期 \(T\) の計算
周期 \(T\) は周波数 \(f\) の逆数なので、以下の公式を用います。
$$ T = \displaystyle\frac{1}{f} \quad \cdots ① $$ - 角周波数 \(\omega\) の計算
角周波数 \(\omega\) は、周波数 \(f\) に \(2\pi\) を掛けることで求められます。
$$ \omega = 2\pi f \quad \cdots ② $$
問題で与えられた値 \(f=50\)\(\text{Hz}\) と \(\pi=3.14\) を、これらの式に代入して計算を進めます。
使用した物理公式
- 周期と周波数の関係式: \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\)
- 角周波数と周波数の関係式: \(\omega = 2\pi f\)
周期 \(T\) の計算
式①に \(f=50\)\(\text{Hz}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \displaystyle\frac{1}{50} \\[2.0ex]&= 0.020 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
問題文の「50Hz」が有効数字2桁であると考えられるため、解答も \(2.0 \times 10^{-2}\)\(\text{s}\) のように有効数字2桁で表します。
$$ T = 2.0 \times 10^{-2} \text{ [s]} $$
角周波数 \(\omega\) の計算
式②に \(f=50\)\(\text{Hz}\) と \(\pi=3.14\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\omega &= 2 \pi f \\[2.0ex]&= 2 \times 3.14 \times 50 \\[2.0ex]&= 100 \times 3.14 \\[2.0ex]&= 314 \text{ [rad/s]}
\end{aligned}
$$
これを有効数字2桁の形にすると、\(3.1 \times 10^2\)\(\text{rad/s}\) となります。
$$ \omega = 3.1 \times 10^2 \text{ [rad/s]} $$
- 周期の求め方:
周波数が「\(50\)\(\text{Hz}\)」というのは、「1秒間に50回の波がやってくる」という意味です。周期は「1回の波が来るのに何秒かかるか」なので、1秒を50回で割ってあげればOKです。
計算式は \(1 \div 50 = 0.02\) となり、答えは \(0.020\) 秒です。 - 角周波数の求め方:
角周波数は、波の勢いを「1秒間にどれくらいの角度進むか」で表したものです。1回の波で、位相という角度がぐるっと一周、つまり \(2\pi\) ラジアン(\(360^\circ\))進みます。
1秒間に50回波が来るので、1秒間で進む合計の角度は \(50 \times 2\pi\) となります。これが角周波数の計算式です。
\(\pi=3.14\) として計算すると、\(2 \times 3.14 \times 50 = 314\) となります。
② 交流の実効値
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流における最大値と実効値の相互変換」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 交流電圧・電流の最大値(\(V_0, I_0\))の定義: 交流の瞬時値がとりうる最大の大きさ。
- 交流電圧・電流の実効値(\(V_e, I_e\))の定義: 交流が直流と同じ仕事率(消費電力)を持つとした場合の、その直流の値。
- 最大値と実効値の関係式。
- 有効数字の考え方。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 電圧について、与えられた実効値(\(V_e\))から最大値(\(V_0\))を関係式 \(V_0 = \sqrt{2}V_e\) を用いて計算する。
- 電流について、与えられた最大値(\(I_0\))から実効値(\(I_e\))を関係式 \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\) を用いて計算する。
- 計算には、問題で指定されていなくても一般的に使われる \(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用い、与えられた数値の有効数字に合わせて解答を丸める。
思考の道筋とポイント
交流の電圧や電流は、時間とともに正弦波状に大きさと向きが変化します。そのため、その大きさを代表する値として「最大値」と「実効値」という2つの指標が用いられます。
「最大値」は、その名の通り、電圧や電流が瞬間的にとりうる最大の大きさです。一方、「実効値」は、その交流と同じ量の熱を発生させる(=同じ仕事をする)直流の電圧・電流の値に換算したものです。家庭用のコンセントが「100V」というのは、この実効値を指しています。
この問題では、片方の値が与えられ、もう片方を求めるという、基本的な変換計算を行います。最大値と実効値の関係式を正しく覚えて適用できるかが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 最大値と実効値の関係式: 交流が正弦波交流の場合、最大値と実効値の間には常に以下の関係が成り立ちます。
- 電圧: \(V_0 = \sqrt{2} V_e\) または \(V_e = \displaystyle\frac{V_0}{\sqrt{2}}\)
- 電流: \(I_0 = \sqrt{2} I_e\) または \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\)
- 覚え方として「最大値は実効値の\(\sqrt{2}\)倍」と記憶すると良いでしょう。
- 実効値の重要性: 交流回路の電力計算などでは、通常、実効値が用いられます。これは、直流回路の公式 \(P=IV=I^2R=\displaystyle\frac{V^2}{R}\) を、交流回路でも \(P=I_e V_e\) のように同じ形で扱えるようにするためです。
具体的な解説と立式
問題で与えられている値は以下の通りです。
- 電圧の実効値: \(V_e = 100\)\(\text{V}\)
- 電流の最大値: \(I_0 = 2.0\)\(\text{A}\)
これらを用いて、電圧の最大値 \(V_0\) と電流の実効値 \(I_e\) を求めます。
- 電圧の最大値 \(V_0\) の計算
実効値 \(V_e\) から最大値 \(V_0\) を求めるには、実効値を\(\sqrt{2}\)倍します。
$$ V_0 = \sqrt{2} V_e \quad \cdots ① $$ - 電流の実効値 \(I_e\) の計算
最大値 \(I_0\) から実効値 \(I_e\) を求めるには、最大値を\(\sqrt{2}\)で割ります。
$$ I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 電圧の最大値と実効値の関係: \(V_0 = \sqrt{2} V_e\)
- 電流の最大値と実効値の関係: \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\)
電圧の最大値 \(V_0\) の計算
式①に \(V_e = 100\)\(\text{V}\) を代入します。ここで \(\sqrt{2} \approx 1.41\) を用います。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \sqrt{2} \times 100 \\[2.0ex]&\approx 1.41 \times 100 \\[2.0ex]&= 141 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
与えられた電圧の実効値 \(100\)\(\text{V}\) は有効数字3桁と考えられるため、計算結果も3桁の \(141\)\(\text{V}\) とします。
電流の実効値 \(I_e\) の計算
式②に \(I_0 = 2.0\)\(\text{A}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_e &= \displaystyle\frac{2.0}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{2.0 \times \sqrt{2}}{\sqrt{2} \times \sqrt{2}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{2.0 \sqrt{2}}{2} \\[2.0ex]&= 1.0 \sqrt{2} \\[2.0ex]&\approx 1.0 \times 1.41 \\[2.0ex]&= 1.41 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
与えられた電流の最大値 \(2.0\)\(\text{A}\) は有効数字2桁です。したがって、計算結果の \(1.41\)\(\text{A}\) を有効数字2桁に丸めて、\(1.4\)\(\text{A}\) とします。
交流の「実効値」と「最大値」の関係は、いつも\(\sqrt{2}\)(およそ1.41)という数字でつながっています。
- 最大値を知りたいとき: 実効値を\(\sqrt{2}\)倍します。
今回の電圧は、実効値が\(100\)\(\text{V}\)なので、最大値は \(100 \times 1.41 = 141\)\(\text{V}\) となります。家庭のコンセントは、瞬間的には141Vもの電圧になっているのです。 - 実効値を知りたいとき: 最大値を\(\sqrt{2}\)で割ります。
今回の電流は、最大値が\(2.0\)\(\text{A}\)なので、実効値は \(2.0 \div 1.41 \approx 1.4\)\(\text{A}\) となります。これが、この交流が持つ「平均的な強さ」と言えます。
③ 変圧器
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「変圧器(トランス)の原理と計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 変圧器の原理(電磁誘導)。
- 1次コイルと2次コイルの電圧比と巻数比の関係式。
- 理想的な変圧器におけるエネルギー保存則(電力の関係)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から1次コイルと2次コイルの巻数、1次コイルの電圧を整理する。
- 変圧器の公式に値を代入して、2次コイルの電圧を求める。
思考の道筋とポイント
変圧器は、電磁誘導の法則を利用して交流電圧の大きさを変える装置です。1次コイルに交流電圧をかけると、コイルを貫く磁束が時間的に変化します。この磁束の変化が、共通の鉄心(コア)を通じて2次コイルにも伝わります。その結果、ファラデーの電磁誘導の法則により、2次コイルにも電圧(誘導起電力)が発生します。
このとき、理想的な変圧器では、コイル1巻きあたりに生じる誘導起電力は1次側と2次側で等しくなります。したがって、各コイルに生じる電圧の合計は、それぞれのコイルの巻数に比例することになります。この「電圧は巻数に比例する」という関係を理解することが、この問題を解くための最大のポイントです。
この設問における重要なポイント
- 電圧と巻数比の関係式: 1次コイルと2次コイルの電圧をそれぞれ \(V_1\), \(V_2\)、巻数を \(N_1\), \(N_2\) とすると、以下の関係が成り立ちます。電圧は巻数に比例します。
$$ \displaystyle\frac{V_1}{V_2} = \displaystyle\frac{N_1}{N_2} \quad \text{または} \quad V_1 : V_2 = N_1 : N_2 $$ - 電流と巻数比の関係式: 理想的な変圧器ではエネルギーは保存されるため、1次コイル側の電力 \(P_1 = V_1 I_1\) と2次コイル側の電力 \(P_2 = V_2 I_2\) は等しくなります。この \(V_1 I_1 = V_2 I_2\) と上記の電圧の式を組み合わせると、電流と巻数の間には以下の関係があることがわかります。電流は巻数に反比例します。
$$ \displaystyle\frac{I_1}{I_2} = \displaystyle\frac{N_2}{N_1} $$ - 変圧器の動作条件: 変圧器は磁束の変化を利用するため、交流でのみ機能します。直流電圧をかけても磁束が変化しないため、電磁誘導は起こらず、2次コイルに電圧は発生しません。
具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている値を整理します。
- 1次コイルの巻数: \(N_1 = 50\) 回
- 2次コイルの巻数: \(N_2 = 150\) 回
- 1次コイルの電圧: \(V_1 = 100\)\(\text{V}\)
求めたいのは、2次コイルの電圧 \(V_2\) です。
変圧器の電圧と巻数の関係式は以下の通りです。
$$ \displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \displaystyle\frac{N_2}{N_1} \quad \cdots ① $$
この式に、上記の値を代入して \(V_2\) を求めます。
使用した物理公式
- 変圧器の電圧と巻数比の関係式: \(\displaystyle\frac{V_2}{V_1} = \displaystyle\frac{N_2}{N_1}\)
式①を変形して \(V_2\) を求める式にします。
$$ V_2 = \displaystyle\frac{N_2}{N_1} V_1 $$
この式に、\(N_1 = 50\), \(N_2 = 150\), \(V_1 = 100\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= \displaystyle\frac{150}{50} \times 100 \\[2.0ex]&= 3 \times 100 \\[2.0ex]&= 300 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
したがって、2次コイルの電圧は \(300\)\(\text{V}\) となります。
変圧器は、コイルの「巻数の比率」を使って電圧を変化させる便利な道具だと考えてください。
- 巻数比をチェック: 1次コイルは50回巻き、2次コイルは150回巻きです。巻数が \(150 \div 50 = 3\) 倍になっています。
- 電圧を計算: 変圧器では、電圧も巻数と同じ比率で変化します。つまり、電圧も3倍になります。
- 答え: 元の電圧が \(100\)\(\text{V}\) なので、変化後の電圧は \(100\)\(\text{V}\) \(\times 3 = 300\)\(\text{V}\) となります。
このように、「巻数が何倍になったか」を考えれば、電圧がどうなるか簡単に計算できます。
④ 抵抗と交流
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「抵抗のみを含む交流回路の基本的な計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 交流回路におけるオームの法則(実効値を用いる)。
- 抵抗における電圧と電流の位相関係。
- 実効値の概念。
- 有効数字の扱い。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた電圧の実効値と抵抗値から、オームの法則を用いて電流の実効値を計算する。
- 抵抗という回路素子の基本的な性質から、電圧と電流の位相差を判断する。
思考の道筋とポイント
この問題は、交流回路の最も基本的な要素である「抵抗」の働きを問うています。交流回路と聞くと難しく感じるかもしれませんが、回路素子が抵抗のみの場合は、直流回路とほとんど同じように考えることができます。
ポイントは2つです。1つ目は、直流のオームの法則 \(V=RI\) が、交流では実効値を用いて \(V_e = R I_e\) という全く同じ形で成り立つことです。2つ目は、抵抗における電圧と電流の「位相」の関係です。抵抗では、電圧の変化と電流の変化のタイミングは完全に一致します。つまり、電圧の波と電流の波にズレはなく、「同位相」となります。この2点を押さえていれば、簡単に解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 交流におけるオームの法則: 抵抗 \(R\) にかかる電圧の実効値を \(V_e\)、流れる電流の実効値を \(I_e\) とすると、直流回路と同様に以下の関係が成り立ちます。
$$ V_e = R I_e $$ - 抵抗における電圧と電流の位相: 抵抗を流れる電流の向きと大きさは、その瞬間の電圧の向きと大きさに常に比例します(\(v=Ri\))。そのため、電圧の波形(サインカーブ)と電流の波形は、山の頂点や谷の底がぴったりと重なります。この状態を「同位相」といい、位相のズレ(位相差)は \(0\) rad です。
具体的な解説と立式
問題で与えられている値は以下の通りです。
- 抵抗値: \(R = 20\)\(\Omega\)
- 電圧の実効値: \(V_e = 100\)\(\text{V}\)
この条件で、電流の実効値 \(I_e\) と、電圧と電流の位相差を求めます。
- 電流の実効値 \(I_e\) の計算
交流回路におけるオームの法則 \(V_e = R I_e\) を用います。この式を \(I_e\) について解くと、以下のようになります。
$$ I_e = \displaystyle\frac{V_e}{R} \quad \cdots ① $$ - 位相差の判断
回路素子が抵抗のみの場合、電圧と電流の位相は常に等しくなります(同位相)。したがって、両者の位相の差は \(0\) です。
使用した物理公式
- 交流回路におけるオームの法則(実効値): \(V_e = R I_e\)
- 抵抗における電圧と電流の位相関係: 位相差は \(0\)
電流の実効値 \(I_e\) の計算
式①に \(V_e = 100\)\(\text{V}\)、\(R = 20\)\(\Omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I_e &= \displaystyle\frac{100}{20} \\[2.0ex]&= 5.0 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(20\)\(\Omega\) が有効数字2桁、\(100\)\(\text{V}\) が有効数字3桁であるため、計算結果は有効数字の桁数が少ない方に合わせて2桁で表し、\(5.0\)\(\text{A}\) とします。
位相差
抵抗のみの回路なので、電圧と電流は同位相です。したがって、位相差は \(0\)\(\text{rad}\) となります。
- 電流の計算方法:
交流回路でも、相手が「抵抗」だけなら、中学校で習ったオームの法則(電流=電圧÷抵抗)がそのまま使えます。ただし、電圧も電流も「実効値」という値を使うのがルールです。
今回は電圧が \(100\)\(\text{V}\)、抵抗が \(20\)\(\Omega\) なので、電流は \(100 \div 20 = 5.0\)\(\text{A}\) となります。 - 位相差の考え方:
「位相」とは、波のタイミングのことです。抵抗はとても素直な部品で、電圧がかかったら、その大きさに比例した電流を「すぐに」流します。電圧の波と電流の波にタイミングのズレは一切生じません。そのため、位相差は「ゼロ」となります。
⑤ コイルのリアクタンス
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コイルを含む交流回路の性質(リアクタンスと位相差)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 自己インダクタンス(\(L\))の定義: コイルが電流の変化を妨げようとする性質の度合い。
- 誘導リアクタンス(\(X_L\))の定義: 交流回路において、コイルが示す電気抵抗に似た働き。
- 誘導リアクタンスの計算式: \(X_L = \omega L = 2\pi f L\)。
- コイルにおける電圧と電流の位相関係。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた自己インダクタンス(\(L\))と周波数(\(f\))から、誘導リアクタンス(\(X_L\))を公式を用いて計算する。
- コイルという回路素子の基本的な性質から、電圧と電流の位相差を判断する。
思考の道筋とポイント
交流回路におけるコイルの役割を理解することが重要です。コイルは、内部を流れる電流が変化すると、その変化を妨げる向きに誘導起電力を生じます(自己誘導)。この「電流の変化への抵抗」が、交流回路における「リアクタンス」として現れます。リアクタンスは抵抗(\(\Omega\))と同じ単位を持ちますが、エネルギーを消費しない点で抵抗とは異なります。
また、この「変化を妨げる」性質のために、コイルにかかる電圧と流れる電流のタイミングにはズレが生じます。具体的には、電圧の波が先にやってきて、それを追いかけるように電流の波が流れます。このタイミングのズレが「位相差」です。コイルの場合、この位相差は常に\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad (90°) となり、電流が電圧より遅れます。
この設問における重要なポイント
- 誘導リアクタンス(\(X_L\)): コイルの交流に対する「通りにくさ」を表す量です。角周波数\(\omega\)(または周波数\(f\))と自己インダクタンス\(L\)に比例します。
$$ X_L = \omega L = 2\pi f L $$
周波数が高いほど、電流の変化が激しくなるため、コイルの妨害作用(リアクタンス)も大きくなります。 - コイルにおける電圧と電流の位相: コイルを流れる電流\(I\)は、コイルにかかる電圧\(V\)に対して、位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad (90°) 遅れます。これは、レンツの法則により、電流を増やそうとするとそれを妨げる向きに、減らそうとするとそれを維持する向きに電圧が生じるためです。
- 単位の確認: 自己インダクタンスはヘンリー(\(\text{H}\))、周波数はヘルツ(\(\text{Hz}\))、リアクタンスはオーム(\(\Omega\))です。
具体的な解説と立式
問題で与えられている値は以下の通りです。
- 自己インダクタンス: \(L = 5.0\)\(\text{H}\)
- 周波数: \(f = 50\)\(\text{Hz}\)
- 円周率: \(\pi = 3.14\)
この条件で、コイルのリアクタンス \(X_L\) と、電圧に対する電流の位相差を求めます。
- リアクタンス \(X_L\) の計算
誘導リアクタンスの公式に、与えられた値を代入します。
$$ X_L = 2\pi f L \quad \cdots ① $$ - 位相差の判断
回路素子がコイルの場合、電圧に対して電流の位相は\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad 遅れる、という物理的な性質に基づき判断します。
使用した物理公式
- 誘導リアクタンス: \(X_L = 2\pi f L\)
- コイルにおける電圧と電流の位相関係: 電流は電圧に対し位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad 遅れる。
リアクタンス \(X_L\) の計算
式①に \(L = 5.0\)\(\text{H}\)、\(f = 50\)\(\text{Hz}\)、\(\pi = 3.14\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
X_L &= 2 \times 3.14 \times 50 \times 5.0 \\[2.0ex]&= (2 \times 50) \times 3.14 \times 5.0 \\[2.0ex]&= 100 \times 3.14 \times 5.0 \\[2.0ex]&= 314 \times 5.0 \\[2.0ex]&= 1570 \text{ [}\Omega\text{]}
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(5.0\)\(\text{H}\) と \(50\)\(\text{Hz}\) が有効数字2桁であるため、計算結果の \(1570\)\(\Omega\) を有効数字2桁に丸めます。
$$ X_L \approx 1.6 \times 10^3 \text{ [}\Omega\text{]} $$
位相差
コイルのみの回路なので、電流は電圧に対して位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)\(\text{rad}\)だけ遅れます。
- リアクタンス(通りにくさ)の計算方法:
コイルの「通りにくさ」は、2つの要素で決まります。一つは交流の周波数(変化の速さ)、もう一つはコイル自体の性質(自己インダクタンス)です。
計算式は \(X_L = 2 \times \pi \times (\text{周波数}) \times (\text{自己インダクタンス})\) です。
これに数字を入れると、\(2 \times 3.14 \times 50 \times 5.0 = 1570\)\(\Omega\) となります。これを整えると \(1.6 \times 10^3\)\(\Omega\) です。 - 位相差(タイミングのズレ)の考え方:
コイルは「あまのじゃく」な性質を持っていて、電流の変化にいつも「待った!」をかけます。このため、電圧が「行け!」と指示を出しても、電流はワンテンポ遅れて流れ始めます。この「ワンテンポの遅れ」が、物理ではちょうど\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)ラジアン(角度で言うと90度)に相当します。
したがって、答えは「電流は電圧より\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)ラジアン遅れる」となります。
⑥ コンデンサーのリアクタンス
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーを含む交流回路の性質(リアクタンスと位相差)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気容量(\(C\))の定義: コンデンサーがどれだけ電荷を蓄えられるかを示す量。
- 容量リアクタンス(\(X_C\))の定義: 交流回路において、コンデンサーが示す電気抵抗に似た働き。
- 容量リアクタンスの計算式: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)。
- コンデンサーにおける電圧と電流の位相関係。
- 単位の接頭語(μ: マイクロ)の理解。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた電気容量(\(C\))と周波数(\(f\))から、容量リアクタンス(\(X_C\))を公式を用いて計算する。
- コンデンサーの物理的な性質から、電圧と電流の位相差を判断する。
思考の道筋とポイント
この問題は、交流回路におけるコンデンサーの役割を問うています。コンデンサーは、2枚の電極間に電荷を蓄えたり放出したりする素子です。交流電圧をかけると、電圧の向きが絶えず変わるため、コンデンサーは充放電を繰り返します。この充放電の際に電流が流れます。
コンデンサーの交流に対する「通りにくさ」が「容量リアクタンス」です。コイルとは対照的に、周波数が高いほど、また電気容量が大きいほど、コンデンサーは頻繁に、そして大量に充放電できるため、電流は流れやすくなります(リアクタンスは小さくなります)。
また、コンデンサーの性質上、電圧と電流のタイミングにはズレが生じます。コンデンサーでは、まず電流が流れて電荷が蓄積し、その結果として電圧が上昇します。つまり、電流の波が電圧の波よりも先にやってきます。この位相差は常に\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad (90°) となり、電流が電圧より進みます。
この設問における重要なポイント
- 容量リアクタンス(\(X_C\)): コンデンサーの交流に対する「通りにくさ」を表す量です。角周波数\(\omega\)(または周波数\(f\))と電気容量\(C\)に反比例します。
$$ X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C} $$
周波数が高いほど、コンデンサーは頻繁に充放電を繰り返すため、電流が流れやすくなり、リアクタンスは小さくなります。 - コンデンサーにおける電圧と電流の位相: コンデンサーを流れる電流\(I\)は、コンデンサーにかかる電圧\(V\)に対して、位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad (90°) 進みます。これは、まず電流によって電荷が運ばれてきて、その蓄積した電荷量に応じて電圧が決まる、というコンデンサーの動作原理に基づきます。
- 単位の接頭語: 問題文の「μF」はマイクロファラドと読みます。\(1 \mu\text{F} = 10^{-6} \text{F}\) です。
具体的な解説と立式
問題で与えられている値は以下の通りです。
- 電気容量: \(C = 2.0 \mu\text{F} = 2.0 \times 10^{-6} \text{F}\)
- 周波数: \(f = 50\)\(\text{Hz}\)
- 円周率: \(\pi = 3.14\)
この条件で、コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) と、電圧に対する電流の位相差を求めます。
- リアクタンス \(X_C\) の計算
容量リアクタンスの公式に、与えられた値を代入します。
$$ X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C} \quad \cdots ① $$ - 位相差の判断
回路素子がコンデンサーの場合、電圧に対して電流の位相は\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad 進む、という物理的な性質に基づき判断します。
使用した物理公式
- 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
- コンデンサーにおける電圧と電流の位相関係: 電流は電圧に対し位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) rad 進む。
リアクタンス \(X_C\) の計算
式①に \(C = 2.0 \times 10^{-6}\)\(\text{F}\)、\(f = 50\)\(\text{Hz}\)、\(\pi = 3.14\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
X_C &= \displaystyle\frac{1}{2 \times 3.14 \times 50 \times (2.0 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{(2 \times 50) \times 3.14 \times 2.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{100 \times 6.28 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{6.28 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{10^4}{6.28} \\[2.0ex]&\approx 0.1592… \times 10^4 \\[2.0ex]&\approx 1592 \text{ [}\Omega\text{]}
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(2.0\)\(\mu\text{F}\) と \(50\)\(\text{Hz}\) が有効数字2桁であるため、計算結果の \(1592\)\(\Omega\) を有効数字2桁に丸めます。
$$ X_C \approx 1.6 \times 10^3 \text{ [}\Omega\text{]} $$
位相差
コンデンサーのみの回路なので、電流は電圧に対して位相が\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)\(\text{rad}\)だけ進みます。
- リアクタンス(通りにくさ)の計算方法:
コンデンサーの「通りにくさ」は、コイルとは逆の関係になります。周波数が高いほど、また電気を溜める容量が大きいほど、交流電流は「通りやすく」なります(通りにくさは小さくなります)。
計算式は \(X_C = 1 \div (2 \times \pi \times \text{周波数} \times \text{電気容量})\) です。
これに数字を入れると、\(1 \div (2 \times 3.14 \times 50 \times 2.0 \times 10^{-6}) \approx 1592\)\(\Omega\) となります。これを整えると \(1.6 \times 10^3\)\(\Omega\) です。 - 位相差(タイミングのズレ)の考え方:
コンデンサーは「せっかち」な性質を持っています。まず急いで電流を流し込んで電荷を溜め、その結果として電圧がじわじわと上がっていきます。つまり、電流の波のピークが、電圧の波のピークよりも先に来ます。
この「タイミングの先行」が、物理ではちょうど\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)ラジアン(角度で言うと90度)に相当します。
したがって、答えは「電流は電圧より\(\displaystyle\frac{\pi}{2}\)ラジアン進む」となります。
⑦ RLC直列回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC直列回路における各部の電圧、電源電圧、消費電力の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 交流回路におけるオームの法則(実効値とリアクタンス、インピーダンス)。
- 各素子(R, L, C)における電圧と電流の位相関係。
- 電圧のベクトル和(ベクトル図または三平方の定理)。
- 交流回路の消費電力は抵抗でのみ生じること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各素子についてオームの法則を適用し、それぞれの電圧の実効値を求める。
- 各素子の電圧の位相関係を考慮し、ベクトル和(三平方の定理)を用いて電源電圧を求める。
- 抵抗で消費される電力を公式から計算する。
R, L, Cそれぞれにかかる電圧の実効値
思考の道筋とポイント
RLC直列回路では、すべての素子に同じ大きさの電流(実効値 \(I_e\))が流れます。各素子にかかる電圧は、直流のオームの法則 \(V=RI\) と非常によく似た形で計算できます。抵抗Rについては \(V_{Re} = R I_e\)、コイルLについては抵抗の代わりにリアクタンス \(X_L\) を用いて \(V_{Le} = X_L I_e\)、コンデンサーCについてはリアクタンス \(X_C\) を用いて \(V_{Ce} = X_C I_e\) となります。問題文で与えられた値を正確に代入することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 直列回路の特性: 回路のどの部分を流れる電流も共通です。
- 交流のオームの法則:
- 抵抗: \(V_{Re} = R I_e\)
- コイル: \(V_{Le} = X_L I_e\)
- コンデンサー: \(V_{Ce} = X_C I_e\)
- これらの電圧はあくまで「実効値」であり、単純な算数の足し算で電源電圧にはならないことに注意が必要です。なぜなら、各電圧の位相(波のタイミング)が異なるためです。
具体的な解説と立式
問題文で与えられた値は、抵抗値 \(R=2.0\,\Omega\)、コイルのリアクタンス \(X_L=4.5\,\Omega\)、コンデンサーのリアクタンス \(X_C=3.0\,\Omega\)、電流の実効値 \(I_e=2.0\,\text{A}\) です。
- 抵抗Rにかかる電圧 \(V_{Re}\)
$$ V_{Re} = R I_e \quad \cdots ① $$ - コイルLにかかる電圧 \(V_{Le}\)
$$ V_{Le} = X_L I_e \quad \cdots ② $$ - コンデンサーCにかかる電圧 \(V_{Ce}\)
$$ V_{Ce} = X_C I_e \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 交流におけるオームの法則(各素子): \(V_{Re} = R I_e\), \(V_{Le} = X_L I_e\), \(V_{Ce} = X_C I_e\)
- 式①に \(R=2.0\,\Omega\), \(I_e=2.0\,\text{A}\) を代入します。
$$ V_{Re} = 2.0 \times 2.0 = 4.0 \text{ [V]} $$ - 式②に \(X_L=4.5\,\Omega\), \(I_e=2.0\,\text{A}\) を代入します。
$$ V_{Le} = 4.5 \times 2.0 = 9.0 \text{ [V]} $$ - 式③に \(X_C=3.0\,\Omega\), \(I_e=2.0\,\text{A}\) を代入します。
$$ V_{Ce} = 3.0 \times 2.0 = 6.0 \text{ [V]} $$
各部品にかかる電圧は、直流のオームの法則と同じように「(通りにくさ)×(電流)」で計算できます。
- 抵抗の電圧: \(2.0\,\Omega \times 2.0\,\text{A} = 4.0\,\text{V}\)
- コイルの電圧: \(4.5\,\Omega \times 2.0\,\text{A} = 9.0\,\text{V}\)
- コンデンサーの電圧: \(3.0\,\Omega \times 2.0\,\text{A} = 6.0\,\text{V}\)
電源の電圧の実効値
思考の道筋とポイント
RLC直列回路の電源電圧 \(V_e\) は、各素子の電圧 \(V_{Re}, V_{Le}, V_{Ce}\) の単純な和にはなりません。これは、各電圧の位相(波のタイミング)が異なるためです。この関係は、電圧のベクトル図で考えると理解しやすくなります。
- 抵抗の電圧 \(V_{Re}\) は電流 \(I_e\) と同位相です(これを基準の横向きベクトルとします)。
- コイルの電圧 \(V_{Le}\) は電流より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます(上向きベクトル)。
- コンデンサーの電圧 \(V_{Ce}\) は電流より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れます(下向きベクトル)。
電源電圧 \(V_e\) は、これら3つのベクトルを合成したものです。上向きの \(V_{Le}\) と下向きの \(V_{Ce}\) は互いに打ち消し合うので、まずその差を計算します。最終的に、横向きの \(V_{Re}\) と、縦方向の合成電圧 \(V_{Le} – V_{Ce}\) を、三平方の定理を使って合成します。
この設問における重要なポイント
- 電圧のベクトル和: 電源電圧 \(V_e\) は、抵抗の電圧 \(V_{Re}\) と、コイルとコンデンサーの電圧の差 \(V_{Le} – V_{Ce}\) を2辺とする直角三角形の斜辺の長さに等しくなります。
$$ V_e = \sqrt{V_{Re}^2 + (V_{Le} – V_{Ce})^2} $$ - インピーダンス: 回路全体の「通りにくさ」をインピーダンス \(Z\) といい、\(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) で表されます。これを使えば \(V_e = Z I_e\) としても計算できますが、この問題では各電圧から求める方が直接的です。
具体的な解説と立式
各電圧の位相関係を考慮すると、電源電圧 \(V_e\) は以下の式で求められます。
$$ V_e = \sqrt{V_{Re}^2 + (V_{Le} – V_{Ce})^2} \quad \cdots ④ $$
ここに、先ほど求めた \(V_{Re}=4.0\,\text{V}\), \(V_{Le}=9.0\,\text{V}\), \(V_{Ce}=6.0\,\text{V}\) を代入します。
使用した物理公式
- RLC直列回路の電圧の合成式: \(V_e = \sqrt{V_{Re}^2 + (V_{Le} – V_{Ce})^2}\)
式④に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_e &= \sqrt{4.0^2 + (9.0 – 6.0)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{16 + (3.0)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{16 + 9.0} \\[2.0ex]&= \sqrt{25} \\[2.0ex]&= 5.0 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
交流回路の電圧の足し算は、普通の足し算ではなく「ベクトル」という矢印を使った特別な足し算をします。
- 抵抗の電圧(4.0V)は「横向き」の矢印です。
- コイルの電圧(9.0V)は「上向き」の矢印です。
- コンデンサーの電圧(6.0V)は「下向き」の矢印です。
上向きと下向きの矢印は反対方向なので、差し引きすると \(9.0 – 6.0 = 3.0\)\(\text{V}\) の「上向き」の矢印が残ります。
最後に、横向きの4.0Vと上向きの3.0Vを合成します。これは、縦3、横4の直角三角形の斜辺の長さを求めるのと同じで、答えは5になります(三平方の定理)。だから電源電圧は \(5.0\)\(\text{V}\) です。
回路の消費電力の時間平均
思考の道筋とポイント
交流回路において、エネルギーを熱として消費するのは抵抗のみです。コイルとコンデンサーは、電源との間でエネルギーを蓄えたり放出したりするだけで、時間平均するとエネルギーを消費しません(理想的な場合)。したがって、回路全体の消費電力は、抵抗Rだけで消費される電力を計算すれば求まります。
電力の計算には \(P = V I\), \(P = R I^2\), \(P = V^2/R\) の3つの公式があります。この問題では、抵抗値 \(R\) と電流の実効値 \(I_e\) が直接与えられているので、\(P = R I_e^2\) を使うのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の発生源: 交流回路で時間平均して電力を消費するのは抵抗だけです。
- 電力の公式(実効値を使用): 抵抗での消費電力は、以下のいずれかの式で計算できます。
- \(P = V_{Re} I_e\)
- \(P = R I_e^2\)
- \(P = \displaystyle\frac{V_{Re}^2}{R}\)
- 注意点として、回路全体の電圧 \(V_e\) を使って \(P = V_e I_e\) とは計算できません。これは、電圧と電流の位相がずれている(力率が1でない)ためです。
具体的な解説と立式
回路の消費電力 \(P\) は抵抗での消費電力に等しいので、抵抗値 \(R\) と電流の実効値 \(I_e\) を用いて次のように立式できます。
$$ P = R I_e^2 \quad \cdots ⑤ $$
使用した物理公式
- 抵抗での消費電力: \(P = R I_e^2\)
式⑤に \(R=2.0\,\Omega\), \(I_e=2.0\,\text{A}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= 2.0 \times (2.0)^2 \\[2.0ex]&= 2.0 \times 4.0 \\[2.0ex]&= 8.0 \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
回路で実際に熱となってエネルギーを消費しているのは、抵抗だけです。コイルやコンデンサーは電力を消費しません。電力は「抵抗値 × (電流の2乗)」で計算できるので、\(2.0\,\Omega \times (2.0\,\text{A})^2 = 2.0 \times 4.0 = 8.0\)\(\text{W}\) となります。
思考の道筋とポイント
消費電力は、抵抗にかかる電圧 \(V_{Re}\) と抵抗値 \(R\) を使っても計算できます。公式 \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を利用します。最初の設問で \(V_{Re} = 4.0\,\text{V}\) と計算済みなので、この値を使います。
具体的な解説と立式
抵抗にかかる電圧 \(V_{Re}\) と抵抗値 \(R\) を用いると、消費電力 \(P\) は次のように立式できます。
$$ P = \displaystyle\frac{V_{Re}^2}{R} \quad \cdots ⑥ $$
計算過程
式⑥に \(V_{Re}=4.0\,\text{V}\), \(R=2.0\,\Omega\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \displaystyle\frac{4.0^2}{2.0} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{16}{2.0} \\[2.0ex]&= 8.0 \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
メインの解法と同じ結果が得られました。
⑧ 共振周波数
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「LC振動回路の共振周波数の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- LC振動回路の概念(コンデンサーとコイル間のエネルギーのやり取り)。
- 共振の条件: コイルの誘導リアクタンスとコンデンサーの容量リアクタンスが等しくなること。
- 共振周波数の公式。
- 単位の接頭語(m: ミリ、μ: マイクロ)の正しい変換。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた自己インダクタンス(\(L\))と電気容量(\(C\))の値を、接頭語を考慮してSI基本単位(H, F)に変換する。
- 共振周波数の公式に、変換した値を代入して計算する。
- 計算結果を問題の有効数字に合わせて整理する。
思考の道筋とポイント
コイル(L)とコンデンサー(C)を接続した回路は「LC振動回路」と呼ばれ、特定の周波数で電気的な振動(共振)を起こします。これは、コンデンサーに蓄えられた静電エネルギーと、コイルに蓄えられた磁気エネルギーが、互いに変換されながら行き来することで生じます。
この回路が最も効率よく振動する周波数が「共振周波数」です。共振が起こる条件は、コイルのリアクタンス(\(X_L = \omega L\))とコンデンサーのリアクタンス(\(X_C = 1/\omega C\))が等しくなることです。この条件から、共振周波数を求める有名な公式が導かれます。この問題は、その公式を正しく記憶し、単位変換を間違えずに適用できるかを確認するものです。
この設問における重要なポイント
- 共振条件: 交流回路において、コイルとコンデンサーのリアクタンスが等しくなると共振が起こります。
$$ X_L = X_C $$ - 共振角周波数(\(\omega_0\)): 上の条件式 \(\omega L = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を\(\omega\)について解くと、共振時の角周波数\(\omega_0\)が求まります。
$$ \omega_0 = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{LC}} $$ - 共振周波数(\(f_0\)): 角周波数と周波数の関係 \(\omega = 2\pi f\) を用いると、共振周波数\(f_0\)の公式が得られます。
$$ f_0 = \displaystyle\frac{\omega_0}{2\pi} = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} $$ - 単位の接頭語: 計算前に、与えられた値をSI基本単位に直すことが重要です。
- m(ミリ): \(10^{-3}\)倍。 \(2.0\,\text{mH} = 2.0 \times 10^{-3}\,\text{H}\)
- μ(マイクロ): \(10^{-6}\)倍。 \(0.20\,\mu\text{F} = 0.20 \times 10^{-6}\,\text{F}\)
具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている値をSI基本単位に変換して整理します。
- 自己インダクタンス: \(L = 2.0\,\text{mH} = 2.0 \times 10^{-3}\,\text{H}\)
- 電気容量: \(C = 0.20\,\mu\text{F} = 0.20 \times 10^{-6}\,\text{F}\)
- 円周率: \(\pi = 3.14\)
求めたいのは共振周波数 \(f\) です。共振周波数の公式は以下の通りです。
$$ f = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} \quad \cdots ① $$
この式に、上記の値を代入して \(f\) を求めます。
使用した物理公式
- 共振周波数の公式: \(f = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\)
まず、式①のルートの中身である \(LC\) の値を計算します。
$$
\begin{aligned}
LC &= (2.0 \times 10^{-3}) \times (0.20 \times 10^{-6}) \\[2.0ex]&= 0.40 \times 10^{-9} \\[2.0ex]&= 4.0 \times 10^{-10}
\end{aligned}
$$
次に、この平方根 \(\sqrt{LC}\) を計算します。
$$
\sqrt{LC} = \sqrt{4.0 \times 10^{-10}} = 2.0 \times 10^{-5}
$$
最後に、これらの結果を式①に代入して \(f\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f &= \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2 \times 3.14 \times (2.0 \times 10^{-5})} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{12.56 \times 10^{-5}} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{10^5}{12.56} \\[2.0ex]&\approx 0.0796… \times 10^5 \\[2.0ex]&\approx 7960 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(2.0\,\text{mH}\), \(0.20\,\mu\text{F}\) は有効数字2桁なので、計算結果を有効数字2桁に丸めます。
$$ f \approx 8.0 \times 10^3 \text{ [Hz]} $$
コイルとコンデンサーをつないだ回路には、ブランコのように、最も揺れやすい「固有のタイミング(周波数)」があります。これを共振周波数といい、決まった公式で計算できます。
- 単位をそろえる: まず、\(2.0\,\text{mH}\) を \(2.0 \times 10^{-3}\,\text{H}\) に、\(0.20\,\mu\text{F}\) を \(0.20 \times 10^{-6}\,\text{F}\) に直します。
- LとCを掛ける: \( (2.0 \times 10^{-3}) \times (0.20 \times 10^{-6}) = 4.0 \times 10^{-10} \)
- 平方根をとる: \(\sqrt{4.0 \times 10^{-10}} = 2.0 \times 10^{-5}\)
- 公式に代入: 共振周波数の公式は \(f = 1 \div (2 \times \pi \times \sqrt{LC})\) です。
\(1 \div (2 \times 3.14 \times 2.0 \times 10^{-5}) \approx 1 \div (12.56 \times 10^{-5}) \approx 7960\,\text{Hz}\) - 答えを整える: 有効数字2桁にすると、約 \(8000\,\text{Hz}\)、つまり \(8.0 \times 10^3\,\text{Hz}\) となります。
⑨ 電波の波長
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波の基本式を用いた電波の波長の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の基本式: 速さ = 周波数 × 波長
- 電波(電磁波)の速さは光速に等しいこと。
- 単位の接頭語(k: キロ)の理解。
- 指数計算。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた周波数の単位を kHz から Hz に変換する。
- 波の基本式 \(c = f\lambda\) を波長 \(\lambda\) について解く。
- 式に数値を代入して波長を計算する。
思考の道筋とポイント
この問題は、物理学における最も基本的な関係式の一つである「波の基本式」を、電波という具体的な対象に適用する問題です。電波も光の一種(電磁波)であり、その速さは光速 \(c\) で与えられます。
計算の第一歩として、周波数の単位 `kHz` (キロヘルツ) を `Hz` (ヘルツ) に正しく変換することが重要です。`k` (キロ) は \(10^3\) を意味します。この単位変換ができれば、あとは公式に値を代入するだけですが、\(10\) のべき乗を含む指数計算を正確に行う必要があります。
この設問における重要なポイント
- 波の基本式: 波の速さ \(v\)、周波数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、\(v = f\lambda\) という関係が常に成り立ちます。電波の場合、速さは光速 \(c\) を用いるので、以下の式となります。
$$ c = f\lambda $$ - 単位の接頭語: 物理計算では、計算前に単位を基本単位(この場合はHz)に揃えるのが原則です。`k` (キロ) は \(10^3\) (1000倍) を意味します。
- 電波の速さ: 真空中の電波の速さ(光速)は、約 \(3.0 \times 10^8\)\(\text{m/s}\) という定数であり、物理学における非常に重要な値です。
具体的な解説と立式
まず、問題文で与えられている値を整理します。
- 電波の伝わる速さ: \(c = 3.0 \times 10^8\)\(\text{m/s}\)
- 周波数: \(f = 1200\,\text{kHz}\)
次に、周波数の単位をSI基本単位であるヘルツ(Hz)に変換します。`k` (キロ) は \(10^3\) を意味するので、
$$ f = 1200 \times 10^3 \text{ [Hz]} $$
波の基本式 \(c = f\lambda\) を、求めたい波長 \(\lambda\) について解くと、以下のようになります。
$$ \lambda = \displaystyle\frac{c}{f} \quad \cdots ① $$
この式に、上記の値を代入して計算を進めます。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(c = f\lambda\)
式①に \(c = 3.0 \times 10^8\)\(\text{m/s}\) と \(f = 1200 \times 10^3\)\(\text{Hz}\) を代入します。
計算しやすいように、\(1200 \times 10^3\) を指数形式で整理します。
\(1200 \times 10^3 = (1.2 \times 10^3) \times 10^3 = 1.2 \times 10^6\)\(\text{Hz}\)
これを式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \displaystyle\frac{3.0 \times 10^8}{1.2 \times 10^6} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{3.0}{1.2} \times 10^{8-6} \\[2.0ex]&= 2.5 \times 10^2 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
したがって、電波の波長は \(2.5 \times 10^2\)\(\text{m}\) (250 m) となります。
波の速さ、周波数、波長の関係は「速さ=周波数×波長」というシンプルな式で表せます。これは、算数の「き・は・じ(距離・速さ・時間)」の関係と似ています。
今回は波長を知りたいので、「波長=速さ÷周波数」を計算します。
- 単位をそろえる: 計算の前に、単位をそろえるのがお約束です。周波数が「1200 kHz」なので、k(キロ)を1000倍に直して「1200 × 1000 = 1,200,000 Hz」とします。
- 割り算をする: 電波の速さ \(3.0 \times 10^8\) (3億) m/s を、周波数 1,200,000 Hz (\(1.2 \times 10^6\) Hz) で割ります。
\( (3.0 \times 10^8) \div (1.2 \times 10^6) = 2.5 \times 10^2 = 250 \) - 答え: 答えは 250 m です。AMラジオなどで使われるこの周波数の電波は、波の1つ1つが250mもの長さを持っていることがわかります。
例題
例題90 交流回路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC直列交流回路の基本計算」です。交流回路における各素子の振る舞いを理解し、基本的な公式を適用して回路全体の特性を求める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 交流の基本式: 電流や電圧の瞬時値を表す式 \(I = I_0 \sin(\omega t)\) から、最大値 \(I_0\) と角周波数 \(\omega\) を読み取る能力。また、角周波数 \(\omega\) と周波数 \(f\) の関係式 \(\omega = 2\pi f\) を理解していること。
- 各素子のオームの法則: 抵抗 \(R\)、コイル \(L\)、コンデンサー \(C\) のそれぞれについて、電圧と電流の最大値の関係(\(V_{R0} = R I_0\), \(V_{L0} = X_L I_0\), \(V_{C0} = X_C I_0\))を適用できること。ここで \(X_L\), \(X_C\) はリアクタンスです。
- リアクタンスの定義: コイルの誘導リアクタンス \(X_L = \omega L\) と、コンデンサーの容量リアクタンス \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) の定義を理解し、自己インダクタンス \(L\) や電気容量 \(C\) を計算できること。
- 電圧のベクトル和(フェーザ図): RLC直列回路では、各素子にかかる電圧の位相が異なります。そのため、電源電圧は各電圧のベクトル和で求められます。特に、その最大値の関係式 \(V_0 = \sqrt{V_{R0}^2 + (V_{L0} – V_{C0})^2}\) を導き、利用できることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず問題で与えられた電流の式から、電流の最大値 \(I_0\) と角周波数 \(\omega\) を読み取ります。次に、\(\omega = 2\pi f\) の関係から周波数 \(f\) を、オームの法則 \(V_{R0} = R I_0\) から抵抗値 \(R\) を求めます。
- (2)では、コイルとコンデンサーそれぞれにオームの法則を適用し、リアクタンス \(X_L\) と \(X_C\) を計算します。
- (3)では、(1), (2)で求めた \(\omega\), \(X_L\), \(X_C\) を用いて、リアクタンスの定義式から \(L\) と \(C\) の値を計算します。
- (4), (5)では、各素子の電圧の最大値の位相関係を考慮したベクトル図(フェーザ図)を描き、三平方の定理を用いて電源電圧の最大値 \(V_0\) と位相差 \(\tan\theta\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
与えられた電流の瞬時値の式 \(I = 8.0 \sin(100\pi t)\) と、交流電流の一般式 \(I = I_0 \sin(\omega t)\) を比較することから始めます。これにより、電流の最大値 \(I_0\) と角周波数 \(\omega\) が特定できます。角周波数がわかれば周波数 \(f\) が、電流の最大値がわかれば抵抗にかかる電圧の最大値 \(V_{R0}\) からオームの法則を用いて抵抗値 \(R\) が求められます。
この設問における重要なポイント
- 交流電流の一般式は \(I = I_0 \sin(\omega t)\) であり、\(I_0\) は電流の最大値、\(\omega\) は角周波数を表す。
- 角周波数 \(\omega\) と周波数 \(f\) の間には、\(\omega = 2\pi f\) の関係がある。
- 抵抗における電圧と電流の最大値の間には、直流と同様のオームの法則 \(V_{R0} = R I_0\) が成り立つ。
具体的な解説と立式
問題で与えられた電流の式は \(I = 8.0 \sin(100\pi t)\) です。
これを一般式 \(I = I_0 \sin(\omega t)\) と比較すると、電流の最大値 \(I_0\) と角周波数 \(\omega\) が次のように読み取れます。
$$ I_0 = 8.0 \text{ [A]} \quad \cdots ① $$
$$ \omega = 100\pi \text{ [rad/s]} \quad \cdots ② $$
周波数 \(f\) は、角周波数 \(\omega\) との関係式 \(\omega = 2\pi f\) を用いて求めます。
$$ f = \frac{\omega}{2\pi} \quad \cdots ③ $$
抵抗値 \(R\) は、抵抗におけるオームの法則 \(V_{R0} = R I_0\) を用いて求めます。抵抗にかかる電圧の最大値 \(V_{R0} = 32 \text{ V}\) が与えられています。
$$ R = \frac{V_{R0}}{I_0} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 交流電流の瞬時値: \(I = I_0 \sin(\omega t)\)
- 角周波数と周波数の関係: \(\omega = 2\pi f\)
- オームの法則: \(V = IR\)
まず、周波数 \(f\) を計算します。式③に②の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{100\pi}{2\pi} \\[2.0ex]&= 50 \text{ [Hz]}
\end{aligned}
$$
次に、抵抗値 \(R\) を計算します。式④に①と問題文の \(V_{R0}\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{32}{8.0} \\[2.0ex]&= 4.0 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
交流電流を表す式の「\(\sin\) の前の数字」が電流の最大値、「\(t\) の前の数字」が角周波数(振動の速さ)を表します。角周波数を \(2\pi\) で割ると、1秒あたりの振動の回数である周波数が求まります。抵抗値は、直流のときと同じようにオームの法則「抵抗値 = 電圧 ÷ 電流」で計算できます。ここでは、電圧も電流も最大値を使って計算します。
交流の周波数は \(50 \text{ Hz}\)、抵抗Rの抵抗値は \(4.0 \text{ Ω}\) です。これは日本の商用電源の周波数(東日本)と同じであり、現実的な値です。計算は基本的な公式の適用であり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
コイルとコンデンサーの「電気の流れにくさ」を表す量がリアクタンス \(X_L\) と \(X_C\) です。これらも抵抗と同様に、オームの法則(電圧の最大値 = リアクタンス × 電流の最大値)が成り立ちます。RLC直列回路では、すべての素子に同じ電流が流れるため、(1)で求めた電流の最大値 \(I_0\) を共通で使うことができます。
この設問における重要なポイント
- コイルにおけるオームの法則: \(V_{L0} = X_L I_0\)
- コンデンサーにおけるオームの法則: \(V_{C0} = X_C I_0\)
- 直列回路では、各素子を流れる電流(の最大値)は共通である。
具体的な解説と立式
コイルLとコンデンサーCに流れる電流の最大値は、直列回路なので抵抗Rを流れる電流の最大値 \(I_0 = 8.0 \text{ A}\) と等しくなります。
コイルのリアクタンス \(X_L\) は、コイルにかかる電圧の最大値 \(V_{L0} = 72 \text{ V}\) を用いて、オームの法則から求めます。
$$ X_L = \frac{V_{L0}}{I_0} $$
同様に、コンデンサーのリアクタンス \(X_C\) は、コンデンサーにかかる電圧の最大値 \(V_{C0} = 48 \text{ V}\) を用いて求めます。
$$ X_C = \frac{V_{C0}}{I_0} $$
使用した物理公式
- リアクタンスに関するオームの法則: \(V_0 = X I_0\)
\(I_0 = 8.0 \text{ A}\) を代入して、\(X_L\) と \(X_C\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
X_L &= \frac{72}{8.0} \\[2.0ex]&= 9.0 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
X_C &= \frac{48}{8.0} \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
コイルやコンデンサーにも、抵抗と同じようにオームの法則が使えます。ただし、抵抗値の代わりに「リアクタンス」という値を使います。計算方法は「リアクタンス = 電圧 ÷ 電流」となり、抵抗の計算と全く同じです。問題文で与えられている電圧の最大値と、(1)でわかった電流の最大値を使って、それぞれ計算します。
コイルのリアクタンスは \(9.0 \text{ Ω}\)、コンデンサーのリアクタンスは \(6.0 \text{ Ω}\) です。基本的な法則を適用して得られた妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で求めたリアクタンス \(X_L\), \(X_C\) は、素子の性質である自己インダクタンス \(L\) や電気容量 \(C\)、そして交流の角周波数 \(\omega\) によって決まります。それぞれの定義式 \(X_L = \omega L\) と \(X_C = 1/(\omega C)\) を変形することで、\(L\) と \(C\) の値を求めることができます。角周波数 \(\omega\) は(1)で求めた値を使います。
この設問における重要なポイント
- 誘導リアクタンスの定義式: \(X_L = \omega L\)
- 容量リアクタンスの定義式: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\)
具体的な解説と立式
自己インダクタンス \(L\) は、誘導リアクタンスの定義式 \(X_L = \omega L\) を変形して求めます。
$$ L = \frac{X_L}{\omega} $$
電気容量 \(C\) は、容量リアクタンスの定義式 \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) を変形して求めます。
$$ C = \frac{1}{\omega X_C} $$
計算には、(1)で求めた \(\omega = 100\pi \text{ [rad/s]}\) と、(2)で求めた \(X_L = 9.0 \text{ Ω}\), \(X_C = 6.0 \text{ Ω}\) を用います。
使用した物理公式
- 誘導リアクタンス: \(X_L = \omega L = 2\pi f L\)
- 容量リアクタンス: \(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C} = \displaystyle\frac{1}{2\pi f C}\)
自己インダクタンス \(L\) を計算します。問題の指示に従い、\(\pi = 3.14\) を用います。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{9.0}{100\pi} \\[2.0ex]&= \frac{9.0}{100 \times 3.14} \\[2.0ex]&= \frac{9.0}{314} \\[2.0ex]&\approx 0.02866… \text{ [H]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(L \approx 2.9 \times 10^{-2} \text{ H}\) となります。
次に、電気容量 \(C\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{1}{100\pi \times 6.0} \\[2.0ex]&= \frac{1}{600\pi} \\[2.0ex]&= \frac{1}{600 \times 3.14} \\[2.0ex]&= \frac{1}{1884} \\[2.0ex]&\approx 0.0005307… \text{ [F]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(C \approx 5.3 \times 10^{-4} \text{ F}\) となります。
リアクタンスという値は、コイルの性能を表す「自己インダクタンス \(L\)」やコンデンサーの性能を表す「電気容量 \(C\)」と、交流の速さ(角周波数 \(\omega\))から決まります。この関係式を逆算することで、リアクタンスと角周波数の値から \(L\) と \(C\) を求めることができます。
自己インダクタンスは \(2.9 \times 10^{-2} \text{ H}\)、電気容量は \(5.3 \times 10^{-4} \text{ F}\) です。定義式に基づいた計算であり、模範解答とも一致しています。
問(4)
思考の道筋とポイント
RLC直列回路の電源電圧は、各素子にかかる電圧の単純な和にはなりません。これは、各電圧の位相(値が最大になるタイミング)が異なるためです。電流を基準に考えると、抵抗の電圧 \(V_R\) は同位相、コイルの電圧 \(V_L\) は \(\pi/2\) (90°) 進み、コンデンサーの電圧 \(V_C\) は \(\pi/2\) (90°) 遅れます。この位相関係をベクトル図(フェーザ図)で表現し、ベクトルとして合成することで電源電圧を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電圧の位相関係: 電流を基準に、\(V_L\) は \(\pi/2\) 進み、\(V_C\) は \(\pi/2\) 遅れる。\(V_R\) は同相。
- ベクトル和: \(V_L\) と \(V_C\) は互いに逆向きのベクトルのため、合成すると \(V_{L0} – V_{C0}\) となる(大きさは \(|V_{L0} – V_{C0}|\))。
- 三平方の定理: 電源電圧の最大値 \(V_0\) は、\(V_{R0}\) と \((V_{L0} – V_{C0})\) を2辺とする直角三角形の斜辺の長さに相当する。
具体的な解説と立式
各素子の電圧の最大値 \(V_{R0}\), \(V_{L0}\), \(V_{C0}\) の関係をベクトル図で考えます。電流の位相を基準(横軸の正の向き)とすると、
- \(V_{R0}\) は電流と同相なので、横軸の正の向き。
- \(V_{L0}\) は電流より位相が \(\pi/2\) 進むので、縦軸の正の向き。
- \(V_{C0}\) は電流より位相が \(\pi/2\) 遅れるので、縦軸の負の向き。
となります。
電源電圧の最大値 \(V_0\) は、これらのベクトル和の大きさです。\(V_{L0}\) と \(V_{C0}\) は一直線上で逆向きなので、それらの合成ベクトルの大きさは \(V_{L0} – V_{C0}\) となります(\(V_{L0} > V_{C0}\) のため)。
したがって、\(V_0\) は、横軸成分が \(V_{R0}\)、縦軸成分が \((V_{L0} – V_{C0})\) のベクトルの大きさとなり、三平方の定理から次のように求められます。
$$ V_0 = \sqrt{V_{R0}^2 + (V_{L0} – V_{C0})^2} $$
使用した物理公式
- RLC直列回路における電圧のベクトル和: \(V_0 = \sqrt{V_{R0}^2 + (V_{L0} – V_{C0})^2}\)
与えられた値を代入して \(V_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \sqrt{32^2 + (72 – 48)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{32^2 + 24^2}
\end{aligned}
$$
ここで、\(32 = 8 \times 4\)、\(24 = 8 \times 3\) であることに気づくと、計算が簡単になります。
$$
\begin{aligned}
V_0 &= \sqrt{(8 \times 4)^2 + (8 \times 3)^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{8^2 \times 4^2 + 8^2 \times 3^2} \\[2.0ex]&= \sqrt{8^2 (4^2 + 3^2)} \\[2.0ex]&= 8 \sqrt{16 + 9} \\[2.0ex]&= 8 \sqrt{25} \\[2.0ex]&= 8 \times 5 \\[2.0ex]&= 40 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
交流回路では、各部品にかかる電圧のピークのタイミングがずれています。このため、全体の電圧は単純な足し算では求まりません。タイミングのずれを「矢印の向き」で表したベクトル図を使って考えます。抵抗の電圧を横向きの矢印、コイルとコンデンサーの電圧を縦向き(互いに逆向き)の矢印で表し、それらを合成した最終的な矢印の長さが、電源電圧の最大値になります。これは、直角三角形の斜辺の長さを求める計算(三平方の定理)と同じです。
電源電圧の最大値は \(40 \text{ V}\) です。電圧のベクトル和という交流回路の核心的な概念を正しく適用して得られた結果です。計算の工夫により、3:4:5の直角三角形の性質を利用して簡単に求めることができました。
問(5)
思考の道筋とポイント
電源の電圧 \(V\) に対する電流 \(I\) の位相の遅れ \(\theta\) は、(4)で用いた電圧のベクトル図から幾何学的に求めることができます。\(\tan\theta\) は、ベクトル図における「縦軸成分 / 横軸成分」で定義されます。この回路では、電圧が電流よりも位相が進んでいるため、電流は電圧よりも位相が遅れます。
この設問における重要なポイント
- 位相差 \(\theta\) は、電源電圧ベクトルと電流ベクトル(基準)のなす角である。
- 電圧のベクトル図から、\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{電圧の縦軸成分}}{\text{電圧の横軸成分}}\) で求められる。
- この回路では、縦軸成分が \(V_{L0} – V_{C0}\)、横軸成分が \(V_{R0}\) に対応する。
具体的な解説と立式
(4)で考えた電圧のベクトル図において、電源電圧 \(V_0\) のベクトルが、基準である電流(横軸)となす角が位相差 \(\theta\) です。
この直角三角形において、\(\tan\theta\) は(対辺)/(底辺)で与えられます。
- 対辺(縦軸成分): \(V_{L0} – V_{C0}\)
- 底辺(横軸成分): \(V_{R0}\)
したがって、\(\tan\theta\) は次式で計算できます。
$$ \tan\theta = \frac{V_{L0} – V_{C0}}{V_{R0}} $$
この式は、各項を \(I_0\) で割ることで、リアクタンスと抵抗を用いた式 \(\tan\theta = \displaystyle\frac{X_L – X_C}{R}\) と等価になります。どちらを使っても同じ結果が得られます。
使用した物理公式
- RLC直列回路の位相差: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{V_{L0} – V_{C0}}{V_{R0}} = \displaystyle\frac{X_L – X_C}{R}\)
各電圧の最大値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{72 – 48}{32} \\[2.0ex]&= \frac{24}{32} \\[2.0ex]&= \frac{3}{4} \\[2.0ex]&= 0.75
\end{aligned}
$$
(4)で描いた電圧のベクトル図(直角三角形)を考えます。電源電圧の矢印が、基準の横軸からどれだけ傾いているかが位相のずれ \(\theta\) です。この傾きの度合いを表す \(\tan\theta\) は、三角形の「縦の長さ ÷ 横の長さ」で計算できます。
\(\tan\theta = 0.75\) となります。\(V_{L0} > V_{C0}\) であるため、回路全体としては誘導性(コイルの性質が強い)です。誘導性の回路では電圧の位相が電流より進む(逆に言えば、電流の位相が電圧より遅れる)ため、\(\theta > 0\) となり、\(\tan\theta\) が正の値になるという結果と一致しており、物理的に妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 交流の基本表現と各素子の振る舞い:
- 核心: RLC直列回路の問題を解くための全ての要素が詰まっています。電流の瞬時値の式 \(I = I_0 \sin(\omega t)\) から最大値 \(I_0\) と角周波数 \(\omega\) を読み取ること、そして各素子(抵抗R, コイルL, コンデンサーC)が交流に対してどのように振る舞うかを理解することが根幹となります。
- 理解のポイント:
- オームの法則の拡張: 直流の \(V=RI\) と同様に、交流でも各素子について電圧と電流の最大値の関係式が成り立ちます。
- 抵抗: \(V_{R0} = R I_0\)
- コイル: \(V_{L0} = X_L I_0\) (\(X_L = \omega L\) は誘導リアクタンス)
- コンデンサー: \(V_{C0} = X_C I_0\) (\(X_C = \displaystyle\frac{1}{\omega C}\) は容量リアクタンス)
- リアクタンスの本質: コイルとコンデンサーの「交流の流れにくさ」を表す量です。角周波数 \(\omega\)(交流の速さ)に依存するのが特徴です。
- オームの法則の拡張: 直流の \(V=RI\) と同様に、交流でも各素子について電圧と電流の最大値の関係式が成り立ちます。
- 電圧のベクトル和(フェーザ図):
- 核心: 直列回路では電流は共通ですが、各素子にかかる電圧の位相(タイミング)がずれます。そのため、電源電圧は各電圧の単純な足し算ではなく、「ベクトル和」で求めなければなりません。
- 理解のポイント:
- 位相関係: 電流を基準にすると、抵抗の電圧 \(V_R\) は同相、コイルの電圧 \(V_L\) は \(\pi/2\) (90°) 進み、コンデンサーの電圧 \(V_C\) は \(\pi/2\) (90°) 遅れます。
- 幾何学的合成: この位相関係をベクトル図(フェーザ図)で表すと、\(V_{R0}\) と \((V_{L0} – V_{C0})\) が直交する関係になります。ここから三平方の定理を用いて、電源電圧の最大値 \(V_0 = \sqrt{V_{R0}^2 + (V_{L0} – V_{C0})^2}\) が導かれます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RLC直列共振: 回路のインピーダンスが最小(\(Z=R\))となり、電流が最大になる「共振」現象を扱う問題。共振条件 \(X_L = X_C\) から共振周波数 \(f_0 = \displaystyle\frac{1}{2\pi\sqrt{LC}}\) を求めるのが典型です。
- 電力の計算: 回路で消費される電力 \(P\) を求める問題。実効値 \(I_e, V_e\) を用いて \(P = R I_e^2 = V_e I_e \cos\theta\) で計算します。最大値と実効値の関係(\(I_e = I_0/\sqrt{2}\))の理解が必須です。
- RLC並列回路: 各素子にかかる電圧が共通になる回路。今度は電流のベクトル和を考える必要があり、フェーザ図の描き方が直列回路とは異なります。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の接続方法を確認: まず「直列」か「並列」かを確認します。直列なら「電流共通、電圧はベクトル和」、並列なら「電圧共通、電流はベクトル和」という基本方針が決まります。
- 与えられた式の情報を読み取る: \(I = I_0 \sin(\omega t)\) のような式が与えられたら、真っ先に \(I_0\) と \(\omega\) の値を抜き出します。これが全ての計算の出発点になります。
- 電圧の位相関係を把握する: \(V_{L0}\) と \(V_{C0}\) の大小関係を比較します。\(V_{L0} > V_{C0}\) なら回路は「誘導性」(電圧が電流より進む)、\(V_{L0} < V_{C0}\) なら「容量性」(電圧が電流より遅れる)と判断できます。これが位相差 \(\theta\) の符号に直結します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧の最大値を単純に足してしまう:
- 誤解: 電源電圧の最大値を \(V_0 = V_{R0} + V_{L0} + V_{C0}\) のように、スカラーの和で計算してしまう。
- 対策: 「交流回路の和はベクトル和」と肝に銘じる。特に直列回路では、電圧の位相差を考慮したフェーザ図を描き、三平方の定理で合成することを徹底する。\(V_L\) と \(V_C\) が180°逆位相であるため、まずこの2つを引き算する(\(V_{L0} – V_{C0}\))のが第一歩です。
- リアクタンスの公式の混同:
- 誤解: コイルのリアクタンスを \(1/(\omega L)\)、コンデンサーのリアクタンスを \(\omega C\) と逆に覚えてしまう。
- 対策: 物理的なイメージで覚えるのが有効です。コイルは「急な変化を嫌う」ので、周波数が高い(変化が速い)ほど電流を通しにくい(\(X_L \propto \omega\))。コンデンサーは「溜めては流す」を繰り返すので、周波数が高いほど活発に働き、電流を通しやすい(\(X_C \propto 1/\omega\))。
- 最大値と実効値の混同:
- 誤解: この問題では問われていませんが、電力計算の際に最大値 \(I_0, V_0\) を使ってしまうミスが非常に多いです。
- 対策: 「瞬時値、最大値、実効値」の3つの値を常に区別する意識を持つ。特に「電力=実効値で計算」と強くインプットしておくことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電圧のベクトル和の式 (\(V_0 = \sqrt{V_{R0}^2 + (V_{L0} – V_{C0})^2}\)):
- 選定理由: (4)で、複数の素子からなる回路全体の電圧を求めるために使用します。各素子の電圧の位相が異なるため、単純な和では求められないからです。
- 適用根拠: この公式は、フェーザ図という物理モデルを数学的に表現したものです。電流を基準(実数軸)に取ると、\(V_R\) は実数、\(V_L\) は正の虚数、\(V_C\) は負の虚数として扱えます。電源電圧 \(V\) はこれらの複素数としての和 \(V = V_R + j(V_L – V_C)\) となり、その大きさ(絶対値)を求める操作が、まさにこの公式の形(\(\sqrt{\text{実部}^2 + \text{虚部}^2}\))に対応します。高校物理では複素数を使いませんが、背景にある論理は同じです。
- 位相差の式 (\(\tan\theta = \displaystyle\frac{V_{L0} – V_{C0}}{V_{R0}}\)):
- 選定理由: (5)で、電源電圧と電流の位相のずれを定量的に示すために使用します。
- 適用根拠: これもフェーザ図から導かれる幾何学的な関係です。電圧のベクトル図において、\(\tan\theta\) は「縦成分 / 横成分」に等しくなります。縦成分がリアクタンスによる電圧(\(V_{L0} – V_{C0}\))、横成分が抵抗による電圧(\(V_{R0}\))であるため、この式が成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比の利用による暗算: (4)の \(V_0 = \sqrt{32^2 + 24^2}\) のような計算では、各項を二乗する前に、共通因数でくくり出す習慣をつけると劇的に楽になります。\(32\) と \(24\) の最大公約数が \(8\) であることに気づけば、\(V_0 = \sqrt{(8 \times 4)^2 + (8 \times 3)^2} = 8\sqrt{4^2 + 3^2}\) と変形できます。\(3:4:5\) の有名な直角三角形の辺の比が使えるため、\(8 \times 5 = 40\) と暗算レベルで答えが出せます。
- 分数の約分: (5)の \(\tan\theta = 24/32\) も同様です。すぐに \(3/4\) と約分することで、\(0.75\) という小数への変換も容易になります。大きな数での割り算を避けることがミス防止に繋がります。
- \(\pi\) の計算: (3)のように \(\pi=3.14\) を代入する計算は、後回しにするのが鉄則です。まず \(L = 9.0/(100\pi)\) のように文字式のまま整理し、最後の最後に数値を代入することで、途中の計算が煩雑になるのを防ぎます。
- 有効数字の確認: 問題文や解答の形式から、有効数字が何桁求められているかを確認する癖をつけましょう。この問題では2桁で答える必要があり、(3)の計算では \(0.0286…\) を \(2.9 \times 10^{-2}\) と正しく丸める必要があります。
例題91 交流のベクトル表示
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RLC直列回路とフェーザ図(ベクトル図)」です。各素子にかかる電圧の位相関係をベクトルとして視覚的に捉え、回路全体の電圧や位相差を幾何学的に解く手法が問われます。特に、この問題では「実効値」をベースに計算を進める点がポイントです。
- 実効値と最大値の関係: 交流の電圧や電流の大きさを表す実効値と、瞬時値の振幅である最大値の関係(\(V_0 = \sqrt{2}V_e\), \(I_0 = \sqrt{2}I_e\))を理解していること。
- 各素子のオームの法則(実効値): 抵抗、コイル、コンデンサーのそれぞれについて、電圧と電流の「実効値」の間にもオームの法則(\(V_{Re} = R I_e\), \(V_{Le} = X_L I_e\), \(V_{Ce} = X_C I_e\))が成り立つこと。
- 電圧のベクトル和(フェーザ図): RLC直列回路では、各素子にかかる電圧の位相が異なるため、電源電圧は各電圧のベクトル和で求められます。この関係を視覚的に表したものがフェーザ図です。
- 位相差の表現: 電源電圧と電流の位相のずれ \(\theta\) をフェーザ図から読み取り、電流の瞬時値を \(I = I_0 \sin(\omega t – \theta)\) のように正しく表現できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、与えられたリアクタンスと電流の実効値を用いて、オームの法則からコイルとコンデンサーにかかる電圧の実効値を計算します。
- (2)では、各電圧の実効値の関係をフェーザ図で表現します。この図に描かれる直角三角形の幾何学的な関係(三角比や三平方の定理)を利用して、位相差 \(\theta\) と抵抗にかかる電圧の実効値 \(V_{Re}\) を求めます。
- (3)では、電源電圧の式から角周波数 \(\omega\) を読み取ります。電流の実効値から最大値を計算し、(2)で求めた位相差 \(\theta\) を用いて、電流の瞬時値を表す式を完成させます。
問(1)
思考の道筋とポイント
コイルLとコンデンサーCにかかる電圧の実効値 \(V_{Le}\), \(V_{Ce}\) を求める問題です。それぞれのリアクタンス \(X_L\), \(X_C\) と、回路に流れる電流の実効値 \(I_e\) が与えられています。交流回路においても、各素子についてオームの法則が成り立つことを利用します。
この設問における重要なポイント
- コイルのオームの法則(実効値): \(V_{Le} = X_L I_e\)
- コンデンサーのオームの法則(実効値): \(V_{Ce} = X_C I_e\)
- RLC直列回路では、すべての素子に流れる電流(の実効値)は共通である。
具体的な解説と立式
コイルLにかかる電圧の実効値 \(V_{Le}\) は、コイルのリアクタンス \(X_L = 20 \text{ Ω}\) と電流の実効値 \(I_e = 2.0 \text{ A}\) の積で求められます。
$$ V_{Le} = X_L I_e $$
同様に、コンデンサーCにかかる電圧の実効値 \(V_{Ce}\) は、コンデンサーのリアクタンス \(X_C = 15 \text{ Ω}\) と電流の実効値 \(I_e = 2.0 \text{ A}\) の積で求められます。
$$ V_{Ce} = X_C I_e $$
使用した物理公式
- オームの法則(実効値): \(V_e = Z I_e\) (Zはインピーダンスやリアクタンス)
それぞれの値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{Le} &= 20 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 40 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
V_{Ce} &= 15 \times 2.0 \\[2.0ex]&= 30 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
コイルとコンデンサーにかかる電圧は、直流回路のオームの法則「電圧 = 抵抗 × 電流」と全く同じ形で計算できます。ただし、抵抗の代わりに「リアクタンス」という、それぞれの素子の交流に対する流れにくさを表す値を使います。
コイルにかかる電圧の実効値は \(40 \text{ V}\)、コンデンサーにかかる電圧の実効値は \(30 \text{ V}\) です。基本的な公式を適用したものであり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
電圧のベクトル図(フェーザ図)を描き、そこから位相差 \(\theta\) と抵抗の電圧 \(V_{Re}\) を求める問題です。RLC直列回路の各電圧の位相関係を正しく図に表現し、幾何学的に解く能力が試されます。
この設問における重要なポイント
- フェーザ図の描き方:共通の電流 \(I_e\) を基準(右向き)に描く。
- 抵抗の電圧 \(V_{Re}\) は電流と同相なので、右向き。
- コイルの電圧 \(V_{Le}\) は電流より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進むので、上向き。
- コンデンサーの電圧 \(V_{Ce}\) は電流より位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れるので、下向き。
- ベクトル和:電源電圧 \(V_e\) は、これら3つの電圧ベクトルの和である。
- 幾何学的関係:フェーザ図に現れる直角三角形に注目し、三角比や三平方の定理を適用する。
具体的な解説と立式
まず、各電圧ベクトルの関係を図示します。共通に流れる電流 \(I_e\) のベクトルを基準として水平右向きに描きます。
- \(V_{Re}\) のベクトルは \(I_e\) と同相なので、水平右向き。
- \(V_{Le}\) のベクトルは \(I_e\) より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進むので、真上向き。大きさは(1)より \(40 \text{ V}\)。
- \(V_{Ce}\) のベクトルは \(I_e\) より \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 遅れるので、真下向き。大きさは(1)より \(30 \text{ V}\)。
電源電圧 \(V_e\) はこれらのベクトル和です。まず、互いに逆向きの \(V_{Le}\) と \(V_{Ce}\) を合成すると、そのベクトルは上向きで大きさは \(V_{Le} – V_{Ce}\) となります。
この合成ベクトルと \(V_{Re}\) のベクトルをさらに合成すると、電源電圧 \(V_e\) のベクトルが得られます。このとき、\(V_{Re}\), \(V_{Le} – V_{Ce}\), \(V_e\) の3つのベクトルで直角三角形が形成されます。
この直角三角形において、
- 斜辺の長さが \(V_e = 20 \text{ V}\)
- 高さが \(V_{Le} – V_{Ce}\)
- 底辺の長さが \(V_{Re}\)
となります。電源電圧 \(V_e\) に対する電流の位相の遅れ \(\theta\) は、この三角形の \(V_e\) と \(V_{Re}\) のなす角に相当します。
図の幾何学的関係から、
$$ \sin\theta = \frac{V_{Le} – V_{Ce}}{V_e} $$
また、\(V_{Re}\) はこの直角三角形の底辺なので、
$$ V_{Re} = V_e \cos\theta $$
または、三平方の定理 \(V_e^2 = V_{Re}^2 + (V_{Le} – V_{Ce})^2\) からも求められます。
使用した物理公式
- 電圧のベクトル和(フェーザ図)
- 三角比 (\(\sin\theta\), \(\cos\theta\))
まず、コイルとコンデンサーの電圧の差を計算します。
\(V_{Le} – V_{Ce} = 40 – 30 = 10 \text{ V}\)
この値を使って、位相差 \(\theta\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\sin\theta &= \frac{10}{20} \\[2.0ex]&= 0.50
\end{aligned}
$$
\(\sin\theta = 0.50\) となる \(\theta\) は、\(\theta = \displaystyle\frac{\pi}{6} \text{ [rad]}\) です。
次に、抵抗にかかる電圧の実効値 \(V_{Re}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
V_{Re} &= V_e \cos\theta \\[2.0ex]&= 20 \times \cos\left(\frac{\pi}{6}\right) \\[2.0ex]&= 20 \times \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]&= 10\sqrt{3}
\end{aligned}
$$
\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似値を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_{Re} &\approx 10 \times 1.73 \\[2.0ex]&= 17.3 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(V_{Re} \approx 17 \text{ V}\) となります。
各部品にかかる電圧の「タイミングのずれ」を矢印の向きで表した図(ベクトル図)を描きます。抵抗の電圧は右向き、コイルは上向き、コンデンサーは下向きです。これらをすべて足し合わせると、電源電圧の矢印になります。この過程でできる直角三角形の辺の長さや角度を、三角比を使って計算することで、位相のずれや抵抗の電圧がわかります。
位相の遅れは \(\displaystyle\frac{\pi}{6} \text{ rad}\)、抵抗にかかる電圧の実効値は \(17 \text{ V}\) です。\(V_{Le} > V_{Ce}\) であるため、回路は誘導性(コイルの性質が強い)となり、電圧の位相が電流より進む(電流が遅れる)という結果は物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電流の瞬時値 \(I\) を時刻 \(t\) の関数として表す問題です。交流の式を立てるには、「最大値 \(I_0\)」「角周波数 \(\omega\)」「位相差 \(\theta\)」の3つの要素が必要です。電源電圧の式から \(\omega\) を、電流の実効値から \(I_0\) を、そして(2)で求めた位相差 \(\theta\) を用いて式を組み立てます。
この設問における重要なポイント
- 交流の一般式:電圧が \(V = V_0 \sin(\omega t)\) のとき、位相が \(\theta\) 遅れる電流は \(I = I_0 \sin(\omega t – \theta)\) と表される。
- 最大値と実効値の関係:\(I_0 = \sqrt{2} I_e\)。
- 角周波数は回路で共通である。
具体的な解説と立式
与えられた電源電圧の式は \(V = 20\sqrt{2} \sin(100\pi t)\) です。
これを一般式 \(V = V_0 \sin(\omega t)\) と比較すると、角周波数 \(\omega\) が読み取れます。
$$ \omega = 100\pi \text{ [rad/s]} $$
次に、電流の最大値 \(I_0\) を計算します。電流の実効値は \(I_e = 2.0 \text{ A}\) なので、最大値と実効値の関係式 \(I_0 = \sqrt{2} I_e\) を用います。
$$ I_0 = \sqrt{2} I_e $$
(2)より、電流は電圧に対して位相が \(\theta = \displaystyle\frac{\pi}{6}\) 遅れることがわかっています。
したがって、電流の瞬時値 \(I\) を表す式は次のようになります。
$$ I = I_0 \sin(\omega t – \theta) $$
使用した物理公式
- 交流の瞬時値を表す式: \(I = I_0 \sin(\omega t + \phi)\)
- 最大値と実効値の関係: \(I_0 = \sqrt{2} I_e\)
まず、電流の最大値 \(I_0\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_0 &= \sqrt{2} \times 2.0 \\[2.0ex]&= 2.0\sqrt{2} \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
求めた \(I_0\), \(\omega\), \(\theta\) を電流の式に代入します。
$$ I = 2.0\sqrt{2} \sin\left(100\pi t – \frac{\pi}{6}\right) $$
電流を式で表すには、「振幅の大きさ(最大値)」「振動の速さ(角周波数)」「スタートのタイミング(位相)」の3つを決めます。
- 最大値は、問題で与えられた実効値に \(\sqrt{2}\) を掛けて求めます。
- 角周波数は、電源電圧の式の中にある \(t\) の前の数字をそのまま使います。
- 位相は、(2)で求めた「タイミングのずれ」です。電流は電圧より遅れるので、角度からその分を引きます。
電流の瞬時値を表す式は \(I = 2.0\sqrt{2} \sin\left(100\pi t – \displaystyle\frac{\pi}{6}\right)\) となります。これまでの設問で求めた値を正しく組み合わせることで導出できました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 実効値ベースの計算とフェーザ図の活用:
- 核心: この問題は、交流回路の計算が「最大値」だけでなく「実効値」をベースにしても全く同じように行えることを示しています。オームの法則も、電圧のベクトル和も、すべて実効値で成り立ちます。この理解と、電圧・電流の位相関係を視覚化する「フェーザ図(ベクトル図)」を自在に描いて利用できることが、この問題の核心です。
- 理解のポイント:
- 実効値の便利さ: 実効値を使えば、交流回路の電力計算などが直流と同じ形式で行えるため、実用上非常に重要です。
- フェーザ図の威力: RLC回路の複雑な位相関係を、単なる直角三角形の幾何学問題に置き換えてくれる強力なツールです。電流を基準に、\(V_{Re}\)(同相→横)、\(V_{Le}\)(進み→上)、\(V_{Ce}\)(遅れ→下)の向きを正しく描けることが全ての基本です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- インピーダンスの計算: 回路全体の交流に対する抵抗であるインピーダンス \(Z\) を求める問題。\(Z = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}\) や \(Z = V_e / I_e\) から計算できます。この問題でも、まず \(R = V_{Re}/I_e\) で抵抗値を求めれば、インピーダンスの公式で検算が可能です。
- 力率 \(\cos\theta\) の計算: 回路の効率を示す力率 \(\cos\theta\) を求める問題。フェーザ図から \(\cos\theta = V_{Re}/V_e\) や、インピーダンスを用いて \(\cos\theta = R/Z\) で計算します。
- 電圧や電流が未知の場合: 例えば電源電圧と各素子の値から電流を求めるなど、逆の計算を要求される問題。まずインピーダンスZを計算し、\(I_e = V_e/Z\) で電流を求めるのが定石です。
- 初見の問題での着眼点:
- 値の種類を確認: 問題文で与えられている電圧・電流が「最大値」なのか「実効値」なのかを最初に確認します。これを混同すると全ての計算が台無しになります。
- フェーザ図をまず描く: RLC直列回路の問題を見たら、まずラフなフェーザ図を描いてみましょう。\(V_{Le}\) と \(V_{Ce}\) のどちらが大きいかを確認し、回路が「誘導性」(\(V_{Le} > V_{Ce}\))か「容量性」(\(V_{Le} < V_{Ce}\))かを把握します。これにより、位相差の符号や計算の見通しが立ちます。
- 直角三角形を探す: フェーザ図の中に直角三角形を見つけ、どの辺が電源電圧 \(V_e\)、抵抗の電圧 \(V_{Re}\)、リアクタンスの電圧の差 \(V_{Le}-V_{Ce}\) に対応するかを明確にします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最大値と実効値の混同:
- 誤解: (3)で電流の最大値 \(I_0\) を求める際に、実効値 \(I_e=2.0\text{ A}\) をそのまま式の振幅として使ってしまう。
- 対策: 「式で表せ」と言われたら最大値と角周波数が必要、「電力を求めよ」なら実効値が必要、と目的別に値を使い分ける意識を持つこと。\(I_0 = \sqrt{2} I_e\) の関係を徹底的に覚えます。
- 位相差の符号ミス:
- 誤解: (3)で電流の式を立てる際、\(I = I_0 \sin(\omega t + \theta)\) のように、位相差の符号をプラスにしてしまう。
- 対策: フェーザ図で「電圧ベクトルが電流ベクトルより進んでいる(反時計回り側にある)」ことを確認します。これは「電流が電圧より遅れている」ことを意味するので、電流の式の位相はマイナス(\(-\theta\))になると論理的に理解します。
- 三角比の選択ミス:
- 誤解: (2)で \(\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta\) のどれを使えばよいか混乱する。
- 対策: フェーザ図の直角三角形で「既知の辺」と「求めたい辺」の関係を見ます。\(\theta\) を求めるには、既知の辺である \(V_e\) (斜辺) と \(V_{Le}-V_{Ce}\) (対辺) を使うので \(\sin\theta\)。\(V_{Re}\) (底辺) を求めるには、既知の \(V_e\) (斜辺) と求めた \(\theta\) を使うので \(\cos\theta\) を選択します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則(実効値版) (\(V_e = X I_e\)):
- 選定理由: (1)でリアクタンスと電流の実効値から電圧の実効値を求めるために、最も直接的な公式だからです。
- 適用根拠: 交流電圧・電流は時間的に正負に振動しますが、そのエネルギー的な平均効果を表すのが「実効値」です。この実効値同士の関係は、直流のオームの法則と全く同じ形で成り立つという非常に便利な性質があります。この性質を利用することで、複雑な交流回路をシンプルに扱うことができます。
- \(\sin\theta = (V_{Le}-V_{Ce})/V_e\):
- 選定理由: (2)で位相差 \(\theta\) を求めるためです。この式は、既知の値である \(V_e\), \(V_{Le}\), \(V_{Ce}\) のみを使って \(\theta\) を直接求めることができるため、最も効率的です。
- 適用根拠: この式はフェーザ図という物理モデルから直接導かれる幾何学的な関係です。フェーザ図において、\(\theta\) は電源電圧ベクトル \(V_e\) と電流ベクトル(\(V_{Re}\) と同方向)のなす角です。この角を持つ直角三角形の「対辺」が \(V_{Le}-V_{Ce}\)、「斜辺」が \(V_e\) に対応するため、三角比の定義そのものからこの式が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(\sqrt{3}\) の近似値: (2)の \(V_{Re}\) の計算で \(10\sqrt{3}\) が出てきます。\(\sqrt{2} \approx 1.41\), \(\sqrt{3} \approx 1.73\) は物理計算で頻出するので、覚えておくと計算が速く正確になります。
- 単位の確認: 位相差 \(\theta\) を求める際、問題文で答えの単位が「rad(ラジアン)」か「°(度)」かを必ず確認しましょう。(2)ではrad指定なので、\(30^\circ\) ではなく \(\pi/6\) と答える必要があります。
- フェーザ図による検算: 計算結果が妥当かを図で確認する習慣をつけましょう。例えば、(2)で計算した \(V_{Re} \approx 17.3 \text{ V}\) と、\(V_{Le}-V_{Ce} = 10 \text{ V}\) を使って三平方の定理で検算します。\( \sqrt{17.3^2 + 10^2} \approx \sqrt{299.3 + 100} = \sqrt{399.3} \approx 20 \text{ V} \)。これは電源電圧 \(V_e\) とほぼ一致し、計算が正しいことの裏付けになります。
例題92 電気振動と単振動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電気振動と単振動の類推(アナロジー)」です。LC回路で電荷や電流が周期的に変化する「電気振動」と、ばね振り子が往復運動する「単振動」が、物理現象としては全く異なりながら、それを記述する数式が驚くほど似ていることを対比させる問題です。
- 物理量の定義: 電流は電荷の時間変化率(\(I = \Delta Q / \Delta t\))、速度は変位の時間変化率(\(v = \Delta x / \Delta t\))として定義されること。
- エネルギー保存則: 外部とのエネルギーのやり取りがない場合、系全体のエネルギーは保存されます。LC回路では「電磁エネルギー」が、ばね振り子では「力学的エネルギー」が保存されます。
- 回路方程式と運動方程式: 電気振動の振る舞いはキルヒホッフの第二法則で、単振動の振る舞いはニュートンの運動方程式で記述されます。
- 周期の公式: 電気振動と単振動の周期を表す公式の構造的な類似性。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)から(4)にかけて、問題の指示に従い、電気振動(図1)と単振動(図2)のそれぞれについて、物理量の定義、エネルギー保存則、運動を記述する方程式、周期の公式を立てていきます。
- (5)では、(1)から(4)で立てた数式のペアを比較し、どの物理量がどの物理量に対応しているのか(アナロジー)を明らかにします。
問(1)
思考の道筋とポイント
電流 \(I\) と速度 \(v\) の定義を問う問題です。電流は「単位時間あたりに導線を通過する電荷の量」、速度は「単位時間あたりの物体の位置の変化量」として定義されます。これらの定義を数式で表現します。
この設問における重要なポイント
- 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\)
- 速度の定義: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、微小時間 \(\Delta t\) の間にコンデンサーの電気量が \(\Delta Q\) 変化したときの、電荷の時間変化率として定義されます。
$$ I = \frac{\Delta Q}{\Delta t} $$
速度 \(v\) は、微小時間 \(\Delta t\) の間におもりの変位が \(\Delta x\) 変化したときの、変位の時間変化率として定義されます。
$$ v = \frac{\Delta x}{\Delta t} $$
(注:厳密には、図の \(I>0\) の向きは \(Q\) が減少する向きなので \(I = -\Delta Q/\Delta t\) ですが、ここでは量的な関係の類似性を見るため、大きさの関係として定義式を記述します。)
使用した物理公式
- 電流の定義
- 速度の定義
この設問は定義を記述するものであり、具体的な計算は不要です。
電流とは「電気の流れる勢い」のことで、電荷がどれだけ速く移動するかを表します。一方、速度とは「モノが動く速さ」のことで、位置がどれだけ速く変わるかを表します。どちらも「変化量 ÷ かかった時間」という形で計算される、基本的な物理量の定義です。
電流は \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\)、速度は \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) と表されます。これは物理量の定義そのものであり、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
図1のLC回路と図2のばね振り子において、エネルギー保存則を立式する問題です。どちらの系も、エネルギーの損失がない理想的な状況を考えているため、全体のエネルギーは一定に保たれます。それぞれの系に存在するエネルギーの種類を正しく理解し、その総和が一定であることを示します。
この設問における重要なポイント
- LC回路のエネルギー: コンデンサーの静電エネルギー \(U_C = \displaystyle\frac{1}{2C}Q^2\) と、コイルの磁気エネルギー \(U_L = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) の和。
- ばね振り子のエネルギー: ばねの弾性エネルギー \(U_k = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) と、おもりの運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の和。
具体的な解説と立式
図1のLC回路では、抵抗がないためエネルギーは消費されず、静電エネルギーと磁気エネルギーの和である電磁エネルギーが保存されます。
$$ \frac{1}{2C}Q^2 + \frac{1}{2}LI^2 = \text{一定} $$
図2のばね振り子では、摩擦がないためエネルギーは失われず、弾性エネルギーと運動エネルギーの和である力学的エネルギーが保存されます。
$$ \frac{1}{2}kx^2 + \frac{1}{2}mv^2 = \text{一定} $$
使用した物理公式
- 静電エネルギー: \(U_C = \displaystyle\frac{1}{2C}Q^2\)
- 磁気エネルギー: \(U_L = \displaystyle\frac{1}{2}LI^2\)
- 弾性エネルギー: \(U_k = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
この設問は法則を記述するものであり、具体的な計算は不要です。
図1の回路では、コンデンサーに蓄えられた電気のエネルギーと、コイルに蓄えられた磁気のエネルギーが互いに移り変わり、その合計量は常に同じです。図2の振り子では、ばねに蓄えられた伸び縮みのエネルギーと、おもりの運動のエネルギーが互いに移り変わり、その合計量は常に同じです。どちらも「エネルギー保存の法則」を表しています。
それぞれの系のエネルギー保存則を正しく立式できました。式の形が非常によく似ていることが見て取れます。
問(3)
思考の道筋とポイント
図1の回路の状態を記述する方程式(回路方程式)と、図2のおもりの運動を記述する方程式(運動方程式)を立てる問題です。図1ではキルヒホッフの第二法則を、図2ではニュートンの運動方程式を適用します。
この設問における重要なポイント
- キルヒホッフの第二法則: 閉回路を一周したときの電位の上がり下がりの合計はゼロ。
- コンデンサーの電位差: \(V_C = \displaystyle\frac{Q}{C}\)
- コイルに生じる誘導起電力: \(V_L = -L\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
- 加速度の定義: \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\)
- ばねの復元力: \(F = -kx\)
具体的な解説と立式
図1のLC回路において、キルヒホッフの第二法則を適用します。回路を時計回りに一周すると、コンデンサーで電位が \(\displaystyle\frac{Q}{C}\) 上がり、コイルで誘導起電力 \(V_L = -L\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) が生じます。一周して電位が元に戻るので、電位差の和は0です。
$$ \frac{Q}{C} + \left(-L\frac{\Delta I}{\Delta t}\right) = 0 $$
これを整理すると、
$$ \frac{Q}{C} = L\frac{\Delta I}{\Delta t} $$
(注:模範解答の \(-L\frac{\Delta I}{\Delta t}\) は、コイルの両端の電位差を \(V_{\text{コイル}} = -V_L = L\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と考え、コンデンサーの電位差とつり合う、と解釈したものです。ここでは、電流の向きと起電力の向きの関係から、模範解答の形に合わせます。電流が増加する向きと逆向きに起電力が生じるため、コンデンサーの電圧とコイルの起電力がつりあうと考えると \(\frac{Q}{C} = -L\frac{\Delta I}{\Delta t}\) となります。)
図2のばね振り子では、おもりにはたらく力はばねの復元力 \(F = -kx\) のみです。ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) に、加速度 \(a = \displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t}\) を代入します。
$$ m\frac{\Delta v}{\Delta t} = -kx $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第二法則
- ニュートンの運動方程式
この設問は法則を記述するものであり、具体的な計算は不要です。
図1の回路では、「コンデンサーが押し出そうとする電圧」と「コイルが発生させる逆向きの電圧」が常につり合っている、という関係式を立てます。図2の振り子では、おもりにはたらく「ばねが引き戻そうとする力」によって、おもりの速度が変化する(加速度が生じる)、という運動の基本法則(運動方程式)を立てます。
回路方程式と運動方程式を正しく立式できました。ここでも、式の形が非常によく似ていることがわかります。
問(4)
思考の道筋とポイント
電気振動と単振動の周期の公式を記述する問題です。これらの公式は、それぞれの運動方程式を解くことで導出されますが、ここでは結果を公式として記述します。
この設問における重要なポイント
- 電気振動の周期の公式: \(T = 2\pi\sqrt{LC}\)
- ばね振り子の周期の公式: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\)
具体的な解説と立式
電気振動の周期 \(T\) は、自己インダクタンス \(L\) と電気容量 \(C\) を用いて次のように表されます。
$$ T = 2\pi\sqrt{LC} $$
水平ばね振り子の周期 \(T’\) は、おもりの質量 \(m\) とばね定数 \(k\) を用いて次のように表されます。
$$ T’ = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
使用した物理公式
- 電気振動の周期
- 単振動の周期
この設問は公式を記述するものであり、具体的な計算は不要です。
周期とは、1回の振動にかかる時間のことです。電気振動では、コイルの性質 \(L\) とコンデンサーの性質 \(C\) が大きいほど、振動はゆっくり(周期は長く)なります。ばね振り子では、おもりの質量 \(m\) が大きく、ばねの強さ \(k\) が小さいほど、振動はゆっくり(周期は長く)なります。
それぞれの周期の公式を正しく記述できました。平方根の中の物理量の構成が似ていることがわかります。
問(5)
思考の道筋とポイント
これまでの設問で立てた数式のペアを比較し、電気振動の物理量と単振動の物理量がどのように対応しているかを答える問題です。式の形が同じになるように、変数(時間的に変化する量)と定数(系に固有の量)をそれぞれ対応させていきます。
この設問における重要なポイント
- 変数の対応:\(Q \leftrightarrow x\), \(I \leftrightarrow v\)
- 定数の対応:\(L \leftrightarrow m\), \(C \leftrightarrow \displaystyle\frac{1}{k}\)
具体的な解説と立式
(1)から(4)で立てた式を比較します。
- 定義式の比較 ((1)より)
\(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\) と \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
この比較から、電荷 \(Q\) が変位 \(x\) に、電流 \(I\) が速度 \(v\) に対応することがわかります。
\(Q \leftrightarrow x\), \(I \leftrightarrow v\) - エネルギー保存則の比較 ((2)より)
\(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2 + \displaystyle\frac{1}{2C}Q^2 = \text{一定}\) と \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\)
\(I \leftrightarrow v\), \(Q \leftrightarrow x\) の対応を当てはめると、
コイルの項 \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) が運動エネルギーの項 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) に、
コンデンサーの項 \(\displaystyle\frac{1}{2C}Q^2\) が弾性エネルギーの項 \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) に対応します。
これにより、自己インダクタンス \(L\) が質量 \(m\) に、電気容量 \(C\) の逆数 \(\displaystyle\frac{1}{C}\) がばね定数 \(k\) に対応することがわかります。
\(L \leftrightarrow m\), \(\displaystyle\frac{1}{C} \leftrightarrow k\) (すなわち \(C \leftrightarrow \displaystyle\frac{1}{k}\)) - 方程式の比較 ((3)より)
\(-L\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} = \displaystyle\frac{1}{C}Q\) と \(m\displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t} = -kx\)
この比較からも、\(L \leftrightarrow m\), \(I \leftrightarrow v\), \(\displaystyle\frac{1}{C} \leftrightarrow k\), \(Q \leftrightarrow x\) という対応関係が確認できます。 - 周期の公式の比較 ((4)より)
\(T = 2\pi\sqrt{LC}\) と \(T’ = 2\pi\sqrt{m \cdot \displaystyle\frac{1}{k}}\)
この比較からも、\(L \leftrightarrow m\), \(C \leftrightarrow \displaystyle\frac{1}{k}\) という対応関係が確認できます。
以上の考察をまとめると、以下の対応関係が得られます。
使用した物理公式なし(これまでの結果の比較考察)
この設問は物理量の対応関係を考察するものであり、具体的な計算は不要です。
これまで見てきたように、電気振動とばね振り子の数式は、文字を入れ替えると同じ形になります。
- 電荷 \(Q\) は、ばねの伸び縮み \(x\) の役割をします。
- 電流 \(I\) は、おもりの速度 \(v\) の役割をします。
- コイルの性質 \(L\)(電流の変化しにくさ)は、おもりの質量 \(m\)(動きにくさ、慣性)の役割をします。
- コンデンサーの性質 \(C\) の逆数 \(\displaystyle\frac{1}{C}\)(電圧のためやすさの逆数)は、ばねの硬さ \(k\) の役割をします。
このように、全く異なる現象が数式の上で同じ構造を持つことを「アナロジー(類推)」と呼びます。
電気振動と単振動の物理量の対応関係を、複数の数式の比較から導き出すことができました。
\(Q\) は \(x\) に、\(I\) は \(v\) に、\(L\) は \(m\) に、\(C\) は \(\displaystyle\frac{1}{k}\) に対応します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気振動と単振動のアナロジー(類推):
- 核心: この問題の根幹は、LC回路における「電気振動」と、ばね振り子の「単振動」という、全く異なる物理現象が、数学的には全く同じ構造の方程式で記述されるという「アナロジー」を理解することです。
- 理解のポイント: このアナロジーは、特に以下の2つの側面で顕著に現れます。
- エネルギー保存則の対応:
- 電気振動: 電磁エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}LI^2\) (磁気) + \(\displaystyle\frac{1}{2C}Q^2\) (静電) = 一定
- 単振動: 力学的エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) (運動) + \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) (弾性) = 一定
エネルギーの形態が「運動的なエネルギー」と「位置的なエネルギー」の間で移り変わる構造が全く同じです。
- 運動方程式(回路方程式)の対応:
- 電気振動: \(L\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} = -\frac{1}{C}Q\) (電流の変化は、電荷に比例する電圧で決まる)
- 単振動: \(m\displaystyle\frac{\Delta v}{\Delta t} = -kx\) (速度の変化は、変位に比例する力で決まる)
物理量の「変化率」が、別の物理量の「現在の値」に比例するという、振動現象に共通の数学的構造を持っています。
- エネルギー保存則の対応:
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 減衰振動とのアナロジー: 抵抗\(R\)を含むRLC回路と、空気抵抗などの抵抗力(例: \(-bv\))を受けるばね振り子の比較。どちらもエネルギーが時間とともに失われ、振幅が小さくなっていく「減衰振動」となり、抵抗\(R\)が抵抗力の係数\(b\)に対応します。
- 強制振動・共振とのアナロジー: 交流電源を接続したRLC回路と、周期的な外力を加えたばね振り子の比較。どちらも特定の周波数(共振周波数)で振幅が極端に大きくなる「共振」という現象を示します。
- 具体的な数値計算: 最大電荷\(Q_0\)や最大電流\(I_0\)が与えられ、周期や角振動数を計算する問題。エネルギー保存則 \(\displaystyle\frac{1}{2C}Q_0^2 = \displaystyle\frac{1}{2}LI_0^2\) を利用すると、最大値同士の関係を簡単に導けます。
- 初見の問題での着眼点:
- 「アナロジー」「類推」「対応」のキーワードを探す: 問題文にこれらの言葉があれば、この問題と同じ思考法を使うと判断します。
- 2つの系の式を並べて書く: 電気系と力学系の「エネルギー保存則」と「運動方程式(回路方程式)」を、必ず上下に並べて記述します。視覚的に比較することで、対応関係が一目瞭然になります。
- 変数と定数を区別する: \(Q, I, x, v\) のような時間的に変化する「変数」と、\(L, C, m, k\) のような系に固有の「定数」を意識して対応させます。変数は変数に、定数は定数に対応します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(C\) と \(k\) の対応ミス:
- 誤解: 電気容量\(C\)とばね定数\(k\)を安易に対応させてしまう(\(C \leftrightarrow k\))。
- 対策: エネルギーの式を比較する癖をつけること。\(\displaystyle\frac{1}{2C}Q^2\) と \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を見比べ、\(Q\)と\(x\)が対応するのだから、その係数である「\(\displaystyle\frac{1}{C}\)」と「\(k\)」が対応する、と論理的に導きます。したがって、正しい対応は \(C \leftrightarrow \displaystyle\frac{1}{k}\) となります。
- 方程式の符号の混乱:
- 誤解: (3)の回路方程式や運動方程式で、マイナス符号を付け忘れたり、付ける場所を間違えたりする。
- 対策: 物理的な意味を考えること。運動方程式では、ばねの力は変位と「逆向き」にはたらく「復元力」なので \(F=-kx\)。回路方程式では、コイルの誘導起電力は電流の変化を「妨げる向き」に生じるため、コンデンサーの電圧とつりあう関係からマイナス符号が現れます。常に「変化を妨げる」「元に戻そうとする」という振動の本質を思い出すことが重要です。
- 物理的意味の軽視:
- 誤解: 単なる数式の文字の置き換えパズルとして解いてしまい、なぜそうなるのかを理解しない。
- 対策: 各物理量がなぜ対応するのか、その物理的な役割を考えること。
- \(L\)(自己インダクタンス)は「電流の変化しにくさ」→ 電磁的な慣性。
- \(m\)(質量)は「速度の変化しにくさ」→ 力学的な慣性。だから \(L \leftrightarrow m\)。
- \(\displaystyle\frac{1}{C}\) は「電荷をためたときの電圧の上がりやすさ」→ 電気的な硬さ。
- \(k\) は「変位させたときの力の強さ」→ 力学的な硬さ。だから \(\displaystyle\frac{1}{C} \leftrightarrow k\)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- エネルギー保存則:
- 選定理由: (2)で、系の状態をエネルギーの観点から記述するために使用します。この法則は、振動現象においてエネルギーが異なる形態(例:静電エネルギーと磁気エネルギー)の間でどのようにやり取りされるかを示してくれます。
- 適用根拠: 問題文に「抵抗がない」「なめらかな水平面」といった記述があることから、エネルギーが外部に逃げない「保存系」であると判断できます。物理学の最も基本的な法則の一つであるエネルギー保存則は、このような理想的な系を記述する上で非常に強力なツールとなります。
- 回路方程式 / 運動方程式:
- 選定理由: (3)で、系のダイナミクス(時間変化)を電圧や力の観点から記述するために使用します。これらの式は、物理量が時間的にどのように変化するかを直接示すため、振動の周期などを数学的に導出する出発点となります。
- 適用根拠: LC回路の振る舞いは、電磁気学の基本法則であるキルヒホッフの法則によって支配されています。同様に、力学的な物体の運動は、ニュートンの運動法則によって支配されています。それぞれの系に最も基本的な法則を適用することで、現象を数学的にモデル化できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題は直接的な数値計算を伴いませんが、アナロジーを正確に行うための思考テクニックが重要です。
- 並べて書く習慣: アナロジーを考える際は、対応する2つの式(エネルギー保存則や運動方程式)を必ず紙の上下に並べて書きましょう。視覚的に比較することで、どの項がどの項に対応するかが直感的にわかり、ミスを劇的に減らせます。
- 係数を丸で囲む: 対応する変数(例: \(Q\)と\(x\)、\(I\)と\(v\))を見つけたら、その係数部分をそれぞれ丸で囲んで比較します。
\(\displaystyle\frac{1}{2}\boxed{L}I^2 + \frac{1}{2}\boxed{\frac{1}{C}}Q^2 = \text{一定}\)
\(\displaystyle\frac{1}{2}\boxed{m}v^2 + \frac{1}{2}\boxed{k}x^2 = \text{一定}\)
このように可視化することで、\(L \leftrightarrow m\) や \(\displaystyle\frac{1}{C} \leftrightarrow k\) といった対応関係を間違えにくくなります。 - 周期の公式の変形: 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{LC}\) と \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{k}}\) を比較する際は、後者を \(T=2\pi\sqrt{m \cdot \left(\displaystyle\frac{1}{k}\right)}\) と変形する一手間を惜しまないこと。これにより、\(L \leftrightarrow m\), \(C \leftrightarrow \displaystyle\frac{1}{k}\) の対応が周期の公式からも矛盾なく確認できます。
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