Step 2
366 磁極の周りの磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「点磁極が作る磁界と、その磁界から他の磁極が受ける力」です。これは静電気におけるクーロンの法則と全く同じ考え方で解ける、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 磁気に関するクーロンの法則(点磁極が作る磁界): 点磁極がそのまわりにつくる磁界の強さは、磁気量の大きさに比例し、距離の2乗に反比例します。
- 磁界の定義: 磁界の強さ \(H\) は、その点に置いた単位N極(\(+1\) Wb)が受ける力の大きさとして定義されます。単位は [N/Wb] です。
- 磁界中の磁極が受ける力: 磁界の強さが \(H\) の場所に、磁気量 \(m’\) の磁極を置くと、その磁極は \(F = m’H\) の大きさの力を受けます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点磁極が作る磁界の強さの公式に、与えられた数値を代入して計算します。
- (2)では、(1)で求めた磁界の強さを利用し、磁界中の磁極が受ける力の公式に数値を代入して計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
N極という点磁極が、指定された距離の点につくる磁界の強さを計算する問題です。「磁気に関するクーロンの法則」から導かれる、点磁極がつくる磁界の強さの公式を正しく適用できるかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 磁気量 \(m\) の点磁極から距離 \(r\) の点につくる磁界の強さ \(H\) は、\(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\) で与えられる。
- 問題文の「S極の影響は無視してよい」という指示に従い、N極だけを磁界の源として考える。
具体的な解説と立式
問題文で与えられた値を整理します。
- 磁界を作るN極の磁気量: \(m = 2.0 \times 10^{-4} \text{ Wb}\)
- N極からの距離: \(r = 3.0 \text{ m}\)
- 比例定数: \(k_m = 6.3 \times 10^4 \text{ N} \cdot \text{m}^2/\text{Wb}^2\)
これらの値を、点磁極がつくる磁界の強さの公式に代入します。
$$ H = k_m \frac{m}{r^2} $$
使用した物理公式
- 点磁極が作る磁界の強さ: \(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\)
与えられた数値を公式に代入して、磁界の強さ \(H\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
H &= (6.3 \times 10^4) \times \frac{2.0 \times 10^{-4}}{3.0^2} \\[2.0ex]
&= (6.3 \times 10^4) \times \frac{2.0 \times 10^{-4}}{9.0} \\[2.0ex]
&= \frac{6.3 \times 2.0}{9.0} \times 10^{4-4} \\[2.0ex]
&= \frac{12.6}{9.0} \times 10^0 \\[2.0ex]
&= 1.4 \text{ [N/Wb]}
\end{aligned}
$$
磁石のN極が、3.0m離れた場所にどれくらいの強さの磁力空間(磁界)を作っているかを計算する問題です。これは公式「\(H = \text{比例定数} \times \frac{\text{磁石の強さ}}{\text{距離}^2}\)」に、問題文で与えられた数値をそのまま当てはめることで計算できます。
N極から3.0m離れた点の磁界の強さは \(1.4 \text{ N/Wb}\) です。計算は基本的な四則演算と指数計算であり、正しく実行できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた磁界の中に、別の磁極(S極)を置いたときに、そのS極が受ける力の大きさを求める問題です。磁界の定義から導かれる、磁界中の磁極が受ける力の公式 \(F=m’H\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 強さ \(H\) の磁界の中に磁気量 \(m’\) の磁極を置くと、大きさ \(F=m’H\) の力を受ける。
- 力の「大きさ」を問われているので、S極であっても磁気量の絶対値を用いる。
具体的な解説と立式
(1)で求めた磁界の強さ \(H\) と、問題文で与えられたS極の磁気量 \(m’\) を使います。
- 磁界の強さ: \(H = 1.4 \text{ N/Wb}\)
- S極の磁気量: \(m’ = 4.0 \times 10^{-4} \text{ Wb}\)
これらの値を、磁界中の磁極が受ける力の公式に代入します。
$$ F = m’H $$
使用した物理公式
- 磁界中の磁極が受ける力: \(F = mH\)
与えられた数値を公式に代入して、力の大きさ \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (4.0 \times 10^{-4}) \times 1.4 \\[2.0ex]
&= 5.6 \times 10^{-4} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(1)で作られた強さ \(1.4\) の磁力空間(磁界)に、強さ \(4.0 \times 10^{-4}\) のS極を置いたら、どれくらいの力で引っ張られるかを計算する問題です。これは単純な掛け算「力の大きさ = S極の強さ × 磁界の強さ」で求めることができます。
S極が受ける力の大きさは \(5.6 \times 10^{-4} \text{ N}\) です。N極が作った磁界にS極を置いたので、この力は引力となります。力の大きさを正しく計算できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 磁気に関するクーロンの法則(場の考え方):
- 核心: この問題は、磁気力に関するクーロンの法則を「場」という考え方を通して二段階で理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 磁界を作る: まず、磁極 \(m\) が、そのまわりの空間に \(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\) という強さの「磁界(磁場)」を作ります。これは空間の性質の変化です。
- 磁界から力を受ける: 次に、その磁界 \(H\) が存在する点に、別の磁極 \(m’\) を置くと、その磁極は磁界から \(F = m’H\) という大きさの力を受けます。
- この「磁極 → 磁界 → 力」という二段階のプロセスが、電磁気学における「場」の考え方の基本です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 静電気力の問題: この問題の「磁極」を「電荷」、「磁界」を「電界」、「磁気量 \(m\)」を「電気量 \(q\)」、「比例定数 \(k_m\)」を「クーロン定数 \(k\)」と読み替えれば、点電荷が作る電界と、その電界から別の電荷が受ける力を求める問題に全く同じ考え方が適用できます。
- 磁界の合成問題: 2つ以上の磁極(例:N極とS極)が作る磁界を考える問題。各磁極が作る磁界をベクトルとして別々に計算し、ベクトル合成(作図や成分計算)して、ある点での最終的な磁界を求めます。
- 力のつり合い問題: 2つの磁極の間に第3の磁極を置き、その磁極が受ける力がつりあう(合力がゼロになる)位置を求める問題。それぞれの磁極から受ける力の大きさが等しくなる条件を式にします。
- 初見の問題での着眼点:
- 役割分担を明確にする: 問題文を読み、「どの磁極が磁界の『源』か」「どの磁極が力を『受ける』側か」をはっきり区別します。
- 問われている物理量を確認する: (1)では「磁界の強さ \(H\) [N/Wb]」、(2)では「力の大きさ \(F\) [N]」が問われています。求める物理量が何かによって、使う公式(\(H = k_m \frac{m}{r^2}\) なのか \(F=m’H\) なのか)が決まります。
- 公式と数値を対応させる: 公式に必要な \(k_m, m, r, m’\) などの記号と、問題文の具体的な数値を一つ一つ対応させて、代入ミスがないか確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 磁界の強さ(\(H\))と力の大きさ(\(F\))の混同:
- 誤解: (1)で磁界の強さを求めるところで、力の公式を考えてしまったり、(2)で力を求めるところで磁界の公式を使ってしまったりする。
- 対策: 単位に注目する癖をつけましょう。「[N/Wb]」は磁界の強さ、「[N]」は力の大きさを表します。自分が何を計算しているのかを単位で常に意識することが、混同を防ぐ最も効果的な方法です。
- 距離の2乗(\(r^2\))の計算ミス:
- 誤解: \(3.0^2\) を \(3.0 \times 2 = 6.0\) と計算してしまう。
- 対策: \(r^2\) は \(r \times r\) であることを徹底します。特に小数や指数を含む計算では、焦らずに筆算するか、式の形をしっかり見て計算することが重要です。
- 2つの公式を一度に使おうとする:
- 誤解: (2)の力を求める際に、(1)の結果を使わずに、いきなりクーロンの法則の力の式 \(F = k_m \displaystyle\frac{mm’}{r^2}\) を使おうとして、数値を代入し直して計算ミスをする。
- 対策: 問題は(1)→(2)と段階的に解くように作られています。(1)で求めた磁界 \(H\) を利用して、(2)は \(F=m’H\) というシンプルな計算で解くのが、出題者の意図に沿ったスマートな解法です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 点磁極の磁界公式 (\(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\)):
- 選定理由: (1)では、磁極がその周囲の「空間」に及ぼす影響、すなわち「磁界の強さ」そのものが問われているため、この公式を選択します。これは、力を受ける相手がいなくても、磁極が存在するだけで決まる空間の性質を記述する式です。
- 適用根拠: 磁界の源が「点磁極」とみなせる場合に適用できる、磁気現象の基本法則です。
- 磁界から受ける力の公式 (\(F = m’H\)):
- 選定理由: (2)では、(1)で計算した磁界という「場」から、そこに置かれた磁極 \(m’\) が受ける「力」を問われています。この公式は、「場」を介して力が伝わるという現代物理学の考え方を最も直接的に表しています。
- 適用根拠: (1)で磁界の強さ \(H\) がすでに計算されているため、これを利用して力を求めるのが最も論理的で効率的な手順です。この式は、磁界の定義(\(H\) は単位磁極が受ける力)そのものから導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算は分離して行う: \( (6.3 \times 10^4) \times (2.0 \times 10^{-4}) \) のような計算では、まず数値部分(\(6.3 \times 2.0\))と指数部分(\(10^4 \times 10^{-4} = 10^{4-4} = 10^0 = 1\))に分けて計算すると、ミスが大幅に減ります。
- 有効数字を意識する: 問題文で与えられている数値(\(2.0, 3.0, 6.3, 4.0\))はすべて有効数字2桁です。計算途中では3桁程度で計算を進め、最終的な答えを2桁に丸めるのが基本です。この問題では、\(12.6 \div 9.0 = 1.4\) と割り切れるため、そのまま2桁で答えられます。
- 分数の形を丁寧にかく: 計算用紙に式を書くとき、\(\displaystyle\frac{A \times B}{C^2}\) のような分数の形を大きく、はっきりと書くことで、どこが分母でどこが分子かが明確になり、代入ミスや転記ミスを防げます。
- 簡単な暗算でも検算する: \(3.0^2=9.0\) や \(4.0 \times 1.4 = 5.6\) のような簡単な計算ほど、思い込みでミスをしがちです。計算が終わった後、もう一度落ち着いて見直す習慣をつけましょう。
367 直線電流がつくる磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「直線電流が作る磁界と地磁気の合成」です。小磁針が、もともと存在する地磁気と、導線に流した電流が新たに作った磁界の、2つの磁界を合わせた向きを指すことを利用して、未知の電流を求める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 直線電流のまわりの磁界: 無限に長い直線電流がつくる磁界の強さは、電流の大きさに比例し、距離に反比例します。
- 右ねじの法則: 電流がつくる磁界の向きを決定する法則です。
- 磁界の重ね合わせの原理: ある点における磁界は、複数の原因(この場合は地磁気と電流)がそれぞれ単独でつくる磁界のベクトル和に等しくなります。
- 小磁針の性質: 小磁針のN極は、その場所における合成磁界の向きを指します。
- ベクトルの合成と三角比: 2つのベクトルを合成した結果(向きと大きさ)を、三角比を用いて分析します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小磁針の位置に存在する2つの磁界、すなわち「地磁気」と「電流による磁界」の向きを特定します。
- 次に、小磁針が北から西へ30°振れたという事実から、2つの磁界ベクトルの関係を図で考え、三角比(タンジェント)を用いて、電流による磁界の強さを計算します。
- そして、直線電流がつくる磁界の強さの公式を用いて、求めた磁界の強さから逆算して電流の大きさを求めます。
- 最後に、電流による磁界の向きから、右ねじの法則を適用して電流の向きを決定します。
電流の強さと向き
思考の道筋とポイント
この問題は、小磁針が指す向きが、その点における「合成磁界」の向きと一致するという原理を利用して、未知の電流の強さと向きを特定するものです。小磁針の位置には、もともと存在する「北向きの地磁気」と、電流が新たに作った「東西向きの磁界」の2つが存在します。この2つのベクトルを合成した結果が「北から西へ30°」になった、という事実から逆算していきます。
この設問における重要なポイント
- 小磁針のN極は、合成磁界の向きを指す。
- 地磁気の水平成分 \(\vec{H}_0\) と、電流がつくる磁界 \(\vec{H}\) はベクトルとして合成される。
- 直交する2つのベクトル(地磁気と電流による磁界)の合成は、三角比(特にタンジェント)で扱うと便利である。
具体的な解説と立式
小磁針の位置には、以下の2つの磁界が互いに直交して存在しています。
- 地磁気の水平成分 \(\vec{H}_0\): 大きさは \(H_0 = 30 \text{ A/m}\) で、向きは常に「北」を向いています。
- 導線電流 \(I\) がつくる磁界 \(\vec{H}\): 導線が南北に張られているため、その下の点につくる磁界は右ねじの法則により「東」または「西」を向きます。
小磁針は、これら2つのベクトルを合成した磁界 \(\vec{H}_{\text{合成}}\) の向きを指します。
問題文より、小磁針は「北から西へ30°」の向きを指しました。これは、北向きのベクトル \(\vec{H}_0\) と、西向きのベクトル \(\vec{H}\) を合成した結果です。したがって、電流がつくる磁界 \(\vec{H}\) の向きは「西向き」であるとわかります。
このベクトル合成の関係を、\(\vec{H}_0\) を底辺、\(\vec{H}\) を高さとする直角三角形で考えると、三角比(タンジェント)を用いて以下の関係式を立てることができます。
$$ \tan 30^\circ = \frac{H}{H_0} \quad \cdots ① $$
また、電流 \(I\) がつくる磁界の強さ \(H\) は、直線電流の公式で与えられます。導線からの距離は \(r = 0.20 \text{ m}\) です。
$$ H = \frac{I}{2\pi r} \quad \cdots ② $$
次に、電流の向きを決定します。導線の下の位置で「西向き」の磁界 \(\vec{H}\) を作るためには、右ねじの法則を適用すると、電流 \(I\) は「北向き」に流れている必要があります。
使用した物理公式
- 直線電流がつくる磁界の強さ: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
- 磁界の重ね合わせの原理とベクトル合成
- 三角比: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{底辺}}\)
- 右ねじの法則
まず、式①から電流がつくる磁界の強さ \(H\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
H &= H_0 \tan 30^\circ \\[2.0ex]
&= 30 \times \frac{1}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]
&= 10\sqrt{3} \\[2.0ex]
&\approx 10 \times 1.732 = 17.32 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
次に、この \(H\) の値を式②に代入して、電流 \(I\) の大きさを求めます。
$$ I = 2\pi r H $$
$$
\begin{aligned}
I &= 2 \times 3.14 \times 0.20 \times 17.32 \\[2.0ex]
&= 1.256 \times 17.32 \\[2.0ex]
&= 21.754… \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(22 \text{ A}\) となります。
方位磁針は、もともと北を指す「地磁気」と、電流が作った「磁力」の2つを合わせた方向を指します。地磁気は北向き、電流が作る磁力は導線の真下なので東西向きです。
実験の結果、方位磁針は「北から西へ30°」を指したので、電流は「西向き」の磁力を作ったとわかります。
この関係を直角三角形の図で考えると、「\(\tan 30^\circ = \frac{\text{電流が作った磁力}}{\text{地磁気の強さ}}\)」という式が成り立ちます。地磁気の強さは30 A/mとわかっているので、この式から、まず電流が作った磁力の強さを計算できます。
次に、その強さの磁力を作るにはどれくらいの電流が必要かを、直線電流の公式「\(H = \frac{I}{2\pi r}\)」を使って逆算します。
電流の向きは、西向きの磁力を作るように「右ねじの法則」で考えると「北向き」になります。
導線に流した電流の強さは \(22 \text{ A}\)、向きは北向きです。地磁気と電流による磁界のベクトル合成という考え方を用いて、観測された小磁針の振れ角から未知の電流を特定するという、物理的に一貫したプロセスで解答を導くことができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 磁界の重ね合わせの原理(ベクトル和):
- 核心: ある一点には、複数の原因(この場合は導線電流と地球)による磁界が同時に存在でき、その点での実際の磁界は、個々の磁界の「ベクトル和」として現れるという原理。
- 理解のポイント: 小磁針が、地磁気(北向き)でもなく、電流の磁界(東西向き)でもない、中間の「北から西へ30°」を向いた理由を説明する根幹の法則です。
- 小磁針と合成磁界の関係:
- 核心: 小磁針のN極は、その場所における「合成磁界」の向きを指す。
- 理解のポイント: これはこの問題の前提条件であり、観測結果(小磁針の向き)から、目に見えない合成磁界ベクトルの向きを特定するための鍵となります。
- 電流がつくる磁界の法則(直線電流と右ねじの法則):
- 核心: 無限に長い直線電流 \(I\) が距離 \(r\) の点につくる磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) であり、その向きは電流の向きに対して右ねじの法則に従うこと。
- 理解のポイント: 電流による磁界の「強さ」を計算し、またその「向き」を特定するための基本法則です。この問題では、磁界の強さと向きから逆に電流の強さと向きを推定するために使われます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電流の向きが逆の場合: もし電流が南向きに流れていれば、導線の下にできる磁界は東向きになります。その場合、小磁針は北から東のほうへ振れることになります。
- 小磁針の位置が異なる場合: 小磁針を導線の上に置いた場合、北向きの電流がつくる磁界は東向きになります。導線の西側に置けば磁界は下向き、東側に置けば上向きとなり、地磁気の水平成分とは合成できなくなります(伏角が変化する)。
- 地磁気を求める問題: 逆に、流す電流の大きさが既知で、小磁針の振れ角から地磁気の水平成分の強さを求める問題。同じく \(\tan\theta\) の関係式から解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 存在する磁界のリストアップと作図: まず、その点にどのような磁界が存在するかを全てリストアップします(地磁気、電流による磁界)。次に、それぞれの磁界がどちらを向いているかを、問題の設定(導線の向き、方位)から慎重に判断し、必ずベクトル図を描きます。
- ベクトルの関係を数式化する: 作図したベクトル図(この場合は直角三角形)を見て、辺の長さ(磁界の強さ)と角度の関係を、三角比を用いて数式に落とし込みます。直交する2ベクトルの合成では、タンジェントを使うのが最も簡単です。
- 未知数を逆算する: 立てた関係式と、磁界の公式を組み合わせ、求めたい物理量(この場合は電流 \(I\))について解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 磁界の向きの誤解:
- 誤解: 導線が南北に張られているからといって、電流がつくる磁界も南北方向だと勘違いする。
- 対策: 右ねじの法則を正確に適用する練習をします。電流の周りには、電流の向きに垂直な平面内で円を描くように磁界ができることを理解しましょう。導線の下では、磁界は水平な東西方向を向きます。
- 三角比の適用の誤り:
- 誤解: \(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{H}{H_0}\) の分母と分子を逆にして、\(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{H_0}{H}\) と間違えてしまう。
- 対策: ベクトル図をきちんと描くことが最も有効な対策です。図を見れば、角度 \(30^\circ\) に対する「対辺」が \(H\)、「底辺」が \(H_0\) であることが一目瞭然となり、タンジェントの定義(対辺/底辺)に従って正しく立式できます。
- 電流の向きの決定ミス:
- 誤解: 電流による磁界が西向きであることは分かっても、右ねじの法則を逆に適用できず、電流の向きを間違える。
- 対策: 実際に右手の親指を立てて、残りの4本の指が導線の下で「西向き」になるように親指の向きを探します。すると、親指は「北向き」になることが確認できます。この身体を使った確認作業が有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三角比の関係 (\(\tan\theta = \displaystyle\frac{H}{H_0}\)):
- 選定理由: この問題では、直交する2つのベクトル(地磁気 \(\vec{H}_0\) と電流による磁界 \(\vec{H}\))と、その合成ベクトルのなす角 \(\theta\) が与えられています。この3者の関係を最もシンプルに記述できるのが三角比であり、特に2つの力の成分の比を表すタンジェントが最適です。
- 適用根拠: ベクトル図を描いた結果、直角三角形が形成され、その辺の長さと角度の関係を分析するために適用します。これにより、未知の磁界 \(H\) の大きさを既知の量から計算できます。
- 直線電流の磁界公式 (\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)):
- 選定理由: 磁界の源が「長い直線導線」であり、その磁界の強さ \(H\) と電流 \(I\) の関係を知る必要があるため、この公式を選択します。
- 適用根拠: 三角比の関係から求めた磁界の強さ \(H\) の値を使って、その磁界を発生させるために必要な電流 \(I\) の大きさを逆算するために適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角比の値: \(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) のような基本的な三角比の値は正確に覚えておく必要があります。忘れた場合は、\(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の直角三角形の辺の比(\(1:2:\sqrt{3}\))を描いて確認します。
- 無理数の計算: \(H = 10\sqrt{3}\) のように、計算途中で無理数が出てきた場合、すぐに \(1.73\) などを代入して小数にするのではなく、式の最後まで記号のまま計算を進めるのがおすすめです。最後に一度だけ代入することで、計算の手間と丸め誤差を減らせます。
- 円周率 \(\pi\) の扱い: 問題文で \(\pi=3.14\) と指定されているので、計算の最終段階でこの値を代入します。計算の順序を工夫し、\(2 \times 0.20 = 0.4\) のように、先に計算しやすい部分をまとめておくとミスが減ります。
- 有効数字: 問題文の数値(\(0.20\)m, \(30\)A/m, \(30^\circ\))から、答えは有効数字2桁でまとめるのが適切です。計算結果が \(21.7…\) となったら、四捨五入して \(22\) とします。
368 円形電流がつくる磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「N回巻き円形コイルが作る磁界と、その磁界から磁極が受ける力」です。コイルが作る磁界の強さを計算し、その磁界が磁極に及ぼす力を考える、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- N回巻き円形コイルの中心磁界: N回巻きの円形コイルがその中心につくる磁界の強さは、1回巻きの場合のN倍になります。
- 磁界中の磁極が受ける力: 磁界の強さが \(H\) の場所に、磁気量 \(m\) の磁極を置くと、その磁極は \(F = mH\) の大きさの力を受けます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、観測された力の大きさと磁極の磁気量から、コイルの中心に生じている磁界の強さ \(H\) を逆算します。
- 次に、その磁界の強さ \(H\) を作るために必要な電流 \(I\) の大きさを、N回巻き円形コイルの中心磁界の公式を用いて計算します。
電流の強さ
思考の道筋とポイント
この問題は、観測された事実(磁極が受けた力)から、その原因となった未知の量(電流の強さ)を逆算する問題です。二段階の思考プロセスで解くことができます。
- 力から磁界を求める: まず、磁極が受けた力 \(F\) とその磁気量 \(m\) から、その場所の磁界の強さ \(H\) を求めます。
- 磁界から電流を求める: 次に、その磁界 \(H\) を作り出したのがN回巻きの円形コイルであることから、コイルの中心磁界の公式を使って、電流 \(I\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 磁界中の磁極が受ける力の公式: \(F = mH\)
- N回巻き円形コイルの中心磁界の公式: \(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\)
具体的な解説と立式
問題文で与えられた値を整理します。
- コイルの半径: \(r = 2.0 \text{ m}\)
- 巻き数: \(N = 5\)
- 磁極の磁気量: \(m = 3.0 \times 10^{-2} \text{ Wb}\)
- 磁極が受けた力: \(F = 0.60 \text{ N}\)
Step 1: 力から磁界の強さ \(H\) を求める
磁極が受ける力の公式 \(F = mH\) を、\(H\) について解きます。
$$ H = \frac{F}{m} \quad \cdots ① $$
Step 2: 磁界の強さ \(H\) から電流 \(I\) を求める
5回巻き円形コイルの中心磁界の公式は、
$$ H = 5 \times \frac{I}{2r} \quad \cdots ② $$
この2つの式を組み合わせることで、未知の電流 \(I\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 磁界中の磁極が受ける力: \(F = mH\)
- N回巻き円形コイルの中心磁界: \(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\)
まず、式①を使って磁界の強さ \(H\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{0.60}{3.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= \frac{0.60}{0.030} \\[2.0ex]
&= 20 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
次に、この \(H=20\) A/m という値を式②に代入し、電流 \(I\) について解きます。
$$ H = 5 \times \frac{I}{2r} $$
$$
\begin{aligned}
20 &= 5 \times \frac{I}{2 \times 2.0} \\[2.0ex]
20 &= 5 \times \frac{I}{4.0} \\[2.0ex]
20 &= \frac{5I}{4.0} \\[2.0ex]
\end{aligned}
$$
両辺に \(4.0\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
80 &= 5I \\[2.0ex]
I &= \frac{80}{5} \\[2.0ex]
I &= 16 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
まず、コイルが作った磁力空間(磁界)の強さを計算します。これは「磁極が受けた力 ÷ 磁極の強さ」で求められます。\(0.60 \text{ N} \div (3.0 \times 10^{-2} \text{ Wb})\) を計算すると、磁界の強さは \(20 \text{ A/m}\) とわかります。
次に、この強さ \(20 \text{ A/m}\) の磁界を作るには、どれくらいの電流が必要かを計算します。5回巻きコイルが作る磁界の強さの公式「\(H = 5 \times \frac{I}{2r}\)」に、\(H=20\), \(r=2.0\) を当てはめて、\(I\) について解くと、答えが求まります。
導線に流した電流の強さは \(16 \text{ A}\) です。観測された力の大きさから、磁界の強さを特定し、さらにその磁界を発生させる原因である電流の強さを求めるという、物理法則に則った逆算のプロセスを正しく実行できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 場の考え方による二段階プロセス:
- 核心: この問題は、電流と力の関係を「場」という概念を介して理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 電流が磁界を作る: まず、円形コイルに流れる電流 \(I\) が、その中心に \(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\) という強さの「磁界(磁場)」という空間の性質を作り出します。
- 磁界が力を及ぼす: 次に、その磁界 \(H\) が存在する場所に置かれた磁極 \(m\) が、磁界から \(F = mH\) という大きさの力を受けます。
- この「電流 \(I\) → 磁界 \(H\) → 力 \(F\)」という因果関係の連鎖を、数式を使って順方向または逆方向にたどる能力が問われています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 順方向の問題: 電流 \(I\) の大きさが与えられていて、磁極が受ける力 \(F\) を求める問題。これは「電流→磁界→力」の順で計算する、より素直な問題です。
- 地磁気との合成問題: このコイルを鉛直に立てて南北方向に置いた場合、コイルが作る磁界(東西方向)と地磁気(北向き)が合成されます。中心に置いた小磁針の振れ角などから、電流や地磁気の強さを求める問題に応用されます。
- ソレノイドコイルの場合: 磁界の源が円形コイルではなく、無限に長いソレノイドコイルになるパターン。その場合、中心磁界の公式は \(H=nI\)(\(n\)は単位長さあたりの巻き数)に変わりますが、「磁界を作って力を及ぼす」という基本的な考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 情報の整理と役割分担: 問題文から与えられている物理量(\(r, N, m, F\))をリストアップし、何が「原因(源)」で何が「結果」かを整理します。この問題では、力 \(F\) が結果、電流 \(I\) が根本的な原因です。
- 逆算思考のプロセスを立てる: 観測された「結果(力 \(F\))」から、その直接的な原因である「中間の場(磁界 \(H\))」を求め、さらにその場の原因である「根本的な源(電流 \(I\))」を求める、という逆算の思考プロセスを組み立てます。
- 適切な公式の選択: 各ステップで、どの物理量とどの物理量を結びつける必要があるかを考え、適切な公式(\(F=mH\) と \(H=N\frac{I}{2r}\))を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 巻き数 \(N\) の扱いを間違える:
- 誤解: N回巻きの効果をどこに掛けるか混乱し、力の公式の方に掛けて \(F=NmH\) と間違えたり、あるいは巻き数を完全に忘れてしまったりする。
- 対策: 「コイルをN回巻くと、磁界がN倍に強まる」と物理的な意味で理解しましょう。したがって、巻き数 \(N\) は磁界の強さ \(H\) の公式に掛かる、と覚えるのが確実です。\(H = N \times (\text{1回巻きの磁界})\) という形が基本です。
- 磁界の強さ(\(H\))と力の大きさ(\(F\))の混同:
- 誤解: 2つの公式 \(F=mH\) と \(H=N\frac{I}{2r}\) を混同し、記号を正しく使い分けられない。
- 対策: 単位に注目する習慣をつけましょう。\(H\) の単位は [A/m] または [N/Wb]、\(F\) の単位は [N] です。物理量が違えば単位も違うことを意識すれば、混同を防げます。
- 半径 \(r\) と直径 \(2r\) の混同:
- 誤解: 円形コイルの公式の分母が \(2r\)(直径)であることを忘れ、半径 \(r\) だけで計算してしまう。
- 対策: 公式は毎回正確に書き出す癖をつけましょう。「円形コイルの磁界は直径に反比例する」とイメージで覚えておくのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 磁界から受ける力の公式 (\(F = mH\)):
- 選定理由: この問題では、まず観測された「力 \(F\)」と、力を受けている磁極の「磁気量 \(m\)」が分かっています。この2つの量から、その場所の「磁界の強さ \(H\)」を特定するために、この公式を選択するのが最も直接的です。
- 適用根拠: これは磁界 \(H\) の定義(単位磁極が受ける力)そのものであり、観測された力という現象から、その原因である場の性質を明らかにするための第一歩となります。
- N回巻き円形コイルの磁界公式 (\(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\)):
- 選定理由: 磁界の「源」が「N回巻きの円形コイル」であることが問題文で明記されているため、この特定の状況における磁界と電流の関係を表すこの公式を選択します。
- 適用根拠: 上のステップで求めた磁界の強さ \(H\) の値を使って、その磁界を発生させる根本的な原因である「電流 \(I\)」の大きさを逆算するために適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 二段階計算を意識する: この問題は一気に解こうとせず、「①力から磁界を求める」「②磁界から電流を求める」という2つのステップに明確に分けて計算を進めると、思考が整理されミスが減ります。
- 文字式で整理してから代入する:
- まず \(H = \displaystyle\frac{F}{m}\) と \(I = \displaystyle\frac{2rH}{N}\) の関係を立てる。
- これらを組み合わせて \(I = \displaystyle\frac{2rF}{Nm}\) という最終的な関係式を導く。
- この式に、\(r=2.0, F=0.60, N=5, m=3.0 \times 10^{-2}\) を一度に代入して計算する。
この方法なら、途中の計算結果の丸め誤差がなくなり、検算もしやすくなります。
- 指数計算の処理: 分母に \(3.0 \times 10^{-2}\) のような指数がある場合、計算間違いの元です。\(0.03\) と小数に直すか、あるいは \(10^{-2}\) を分子に移動させて \(10^2\) として扱うなど、自分が最もミスしにくい方法で慎重に処理しましょう。
- 単位の確認: 最終的に求めた \(I\) の単位が、電流の単位であるアンペア[A]になっているかを最後に確認する癖をつけることが、物理計算の基本です。
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