Step 2
366 磁極の周りの磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「点磁極が作る磁界と、その磁界から他の磁極が受ける力」です。これは静電気におけるクーロンの法則と全く同じ考え方で解ける、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 磁気に関するクーロンの法則(点磁極が作る磁界): 点磁極がそのまわりにつくる磁界の強さは、磁気量の大きさに比例し、距離の2乗に反比例します。
- 磁界の定義: 磁界の強さ \(H\) は、その点に置いた単位N極(\(+1\) Wb)が受ける力の大きさとして定義されます。単位は [N/Wb] です。
- 磁界中の磁極が受ける力: 磁界の強さが \(H\) の場所に、磁気量 \(m’\) の磁極を置くと、その磁極は \(F = m’H\) の大きさの力を受けます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点磁極が作る磁界の強さの公式に、与えられた数値を代入して計算します。
- (2)では、(1)で求めた磁界の強さを利用し、磁界中の磁極が受ける力の公式に数値を代入して計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
N極という点磁極が、指定された距離の点につくる磁界の強さを計算する問題です。「磁気に関するクーロンの法則」から導かれる、点磁極がつくる磁界の強さの公式を正しく適用できるかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 磁気量 \(m\) の点磁極から距離 \(r\) の点につくる磁界の強さ \(H\) は、\(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\) で与えられる。
- 問題文の「S極の影響は無視してよい」という指示に従い、N極だけを磁界の源として考える。
具体的な解説と立式
問題文で与えられた値を整理します。
- 磁界を作るN極の磁気量: \(m = 2.0 \times 10^{-4} \text{ Wb}\)
- N極からの距離: \(r = 3.0 \text{ m}\)
- 比例定数: \(k_m = 6.3 \times 10^4 \text{ N} \cdot \text{m}^2/\text{Wb}^2\)
これらの値を、点磁極がつくる磁界の強さの公式に代入します。
$$ H = k_m \frac{m}{r^2} $$
使用した物理公式
- 点磁極が作る磁界の強さ: \(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\)
与えられた数値を公式に代入して、磁界の強さ \(H\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
H &= (6.3 \times 10^4) \times \frac{2.0 \times 10^{-4}}{3.0^2} \\[2.0ex]&= (6.3 \times 10^4) \times \frac{2.0 \times 10^{-4}}{9.0} \\[2.0ex]&= \frac{6.3 \times 2.0}{9.0} \times 10^{4-4} \\[2.0ex]&= \frac{12.6}{9.0} \times 10^0 \\[2.0ex]&= 1.4 \text{ [N/Wb]}
\end{aligned}
$$
磁石のN極が、3.0m離れた場所にどれくらいの強さの磁力空間(磁界)を作っているかを計算する問題です。これは公式「\(H = \text{比例定数} \times \frac{\text{磁石の強さ}}{\text{距離}^2}\)」に、問題文で与えられた数値をそのまま当てはめることで計算できます。
N極から3.0m離れた点の磁界の強さは \(1.4 \text{ N/Wb}\) です。計算は基本的な四則演算と指数計算であり、正しく実行できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた磁界の中に、別の磁極(S極)を置いたときに、そのS極が受ける力の大きさを求める問題です。磁界の定義から導かれる、磁界中の磁極が受ける力の公式 \(F=m’H\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 強さ \(H\) の磁界の中に磁気量 \(m’\) の磁極を置くと、大きさ \(F=m’H\) の力を受ける。
- 力の「大きさ」を問われているので、S極であっても磁気量の絶対値を用いる。
具体的な解説と立式
(1)で求めた磁界の強さ \(H\) と、問題文で与えられたS極の磁気量 \(m’\) を使います。
- 磁界の強さ: \(H = 1.4 \text{ N/Wb}\)
- S極の磁気量: \(m’ = 4.0 \times 10^{-4} \text{ Wb}\)
これらの値を、磁界中の磁極が受ける力の公式に代入します。
$$ F = m’H $$
使用した物理公式
- 磁界中の磁極が受ける力: \(F = mH\)
与えられた数値を公式に代入して、力の大きさ \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (4.0 \times 10^{-4}) \times 1.4 \\[2.0ex]&= 5.6 \times 10^{-4} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(1)で作られた強さ \(1.4\) の磁力空間(磁界)に、強さ \(4.0 \times 10^{-4}\) のS極を置いたら、どれくらいの力で引っ張られるかを計算する問題です。これは単純な掛け算「力の大きさ = S極の強さ × 磁界の強さ」で求めることができます。
S極が受ける力の大きさは \(5.6 \times 10^{-4} \text{ N}\) です。N極が作った磁界にS極を置いたので、この力は引力となります。力の大きさを正しく計算できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 磁気に関するクーロンの法則(場の考え方):
- 核心: この問題は、磁気力に関するクーロンの法則を「場」という考え方を通して二段階で理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 磁界を作る: まず、磁極 \(m\) が、そのまわりの空間に \(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\) という強さの「磁界(磁場)」を作ります。これは空間の性質の変化です。
- 磁界から力を受ける: 次に、その磁界 \(H\) が存在する点に、別の磁極 \(m’\) を置くと、その磁極は磁界から \(F = m’H\) という大きさの力を受けます。
- この「磁極 → 磁界 → 力」という二段階のプロセスが、電磁気学における「場」の考え方の基本です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 静電気力の問題: この問題の「磁極」を「電荷」、「磁界」を「電界」、「磁気量 \(m\)」を「電気量 \(q\)」、「比例定数 \(k_m\)」を「クーロン定数 \(k\)」と読み替えれば、点電荷が作る電界と、その電界から別の電荷が受ける力を求める問題に全く同じ考え方が適用できます。
- 磁界の合成問題: 2つ以上の磁極(例:N極とS極)が作る磁界を考える問題。各磁極が作る磁界をベクトルとして別々に計算し、ベクトル合成(作図や成分計算)して、ある点での最終的な磁界を求めます。
- 力のつり合い問題: 2つの磁極の間に第3の磁極を置き、その磁極が受ける力がつりあう(合力がゼロになる)位置を求める問題。それぞれの磁極から受ける力の大きさが等しくなる条件を式にします。
- 初見の問題での着眼点:
- 役割分担を明確にする: 問題文を読み、「どの磁極が磁界の『源』か」「どの磁極が力を『受ける』側か」をはっきり区別します。
- 問われている物理量を確認する: (1)では「磁界の強さ \(H\) [N/Wb]」、(2)では「力の大きさ \(F\) [N]」が問われています。求める物理量が何かによって、使う公式(\(H = k_m \frac{m}{r^2}\) なのか \(F=m’H\) なのか)が決まります。
- 公式と数値を対応させる: 公式に必要な \(k_m, m, r, m’\) などの記号と、問題文の具体的な数値を一つ一つ対応させて、代入ミスがないか確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 磁界の強さ(\(H\))と力の大きさ(\(F\))の混同:
- 誤解: (1)で磁界の強さを求めるところで、力の公式を考えてしまったり、(2)で力を求めるところで磁界の公式を使ってしまったりする。
- 対策: 単位に注目する癖をつけましょう。「[N/Wb]」は磁界の強さ、「[N]」は力の大きさを表します。自分が何を計算しているのかを単位で常に意識することが、混同を防ぐ最も効果的な方法です。
- 距離の2乗(\(r^2\))の計算ミス:
- 誤解: \(3.0^2\) を \(3.0 \times 2 = 6.0\) と計算してしまう。
- 対策: \(r^2\) は \(r \times r\) であることを徹底します。特に小数や指数を含む計算では、焦らずに筆算するか、式の形をしっかり見て計算することが重要です。
- 2つの公式を一度に使おうとする:
- 誤解: (2)の力を求める際に、(1)の結果を使わずに、いきなりクーロンの法則の力の式 \(F = k_m \displaystyle\frac{mm’}{r^2}\) を使おうとして、数値を代入し直して計算ミスをする。
- 対策: 問題は(1)→(2)と段階的に解くように作られています。(1)で求めた磁界 \(H\) を利用して、(2)は \(F=m’H\) というシンプルな計算で解くのが、出題者の意図に沿ったスマートな解法です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 点磁極の磁界公式 (\(H = k_m \displaystyle\frac{m}{r^2}\)):
- 選定理由: (1)では、磁極がその周囲の「空間」に及ぼす影響、すなわち「磁界の強さ」そのものが問われているため、この公式を選択します。これは、力を受ける相手がいなくても、磁極が存在するだけで決まる空間の性質を記述する式です。
- 適用根拠: 磁界の源が「点磁極」とみなせる場合に適用できる、磁気現象の基本法則です。
- 磁界から受ける力の公式 (\(F = m’H\)):
- 選定理由: (2)では、(1)で計算した磁界という「場」から、そこに置かれた磁極 \(m’\) が受ける「力」を問われています。この公式は、「場」を介して力が伝わるという現代物理学の考え方を最も直接的に表しています。
- 適用根拠: (1)で磁界の強さ \(H\) がすでに計算されているため、これを利用して力を求めるのが最も論理的で効率的な手順です。この式は、磁界の定義(\(H\) は単位磁極が受ける力)そのものから導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数計算は分離して行う: \( (6.3 \times 10^4) \times (2.0 \times 10^{-4}) \) のような計算では、まず数値部分(\(6.3 \times 2.0\))と指数部分(\(10^4 \times 10^{-4} = 10^{4-4} = 10^0 = 1\))に分けて計算すると、ミスが大幅に減ります。
- 有効数字を意識する: 問題文で与えられている数値(\(2.0, 3.0, 6.3, 4.0\))はすべて有効数字2桁です。計算途中では3桁程度で計算を進め、最終的な答えを2桁に丸めるのが基本です。この問題では、\(12.6 \div 9.0 = 1.4\) と割り切れるため、そのまま2桁で答えられます。
- 分数の形を丁寧にかく: 計算用紙に式を書くとき、\(\displaystyle\frac{A \times B}{C^2}\) のような分数の形を大きく、はっきりと書くことで、どこが分母でどこが分子かが明確になり、代入ミスや転記ミスを防げます。
- 簡単な暗算でも検算する: \(3.0^2=9.0\) や \(4.0 \times 1.4 = 5.6\) のような簡単な計算ほど、思い込みでミスをしがちです。計算が終わった後、もう一度落ち着いて見直す習慣をつけましょう。
367 直線電流がつくる磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「直線電流が作る磁界と地磁気の合成」です。小磁針が、もともと存在する地磁気と、導線に流した電流が新たに作った磁界の、2つの磁界を合わせた向きを指すことを利用して、未知の電流を求める問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 直線電流のまわりの磁界: 無限に長い直線電流がつくる磁界の強さは、電流の大きさに比例し、距離に反比例します。
- 右ねじの法則: 電流がつくる磁界の向きを決定する法則です。
- 磁界の重ね合わせの原理: ある点における磁界は、複数の原因(この場合は地磁気と電流)がそれぞれ単独でつくる磁界のベクトル和に等しくなります。
- 小磁針の性質: 小磁針のN極は、その場所における合成磁界の向きを指します。
- ベクトルの合成と三角比: 2つのベクトルを合成した結果(向きと大きさ)を、三角比を用いて分析します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、小磁針の位置に存在する2つの磁界、すなわち「地磁気」と「電流による磁界」の向きを特定します。
- 次に、小磁針が北から西へ30°振れたという事実から、2つの磁界ベクトルの関係を図で考え、三角比(タンジェント)を用いて、電流による磁界の強さを計算します。
- そして、直線電流がつくる磁界の強さの公式を用いて、求めた磁界の強さから逆算して電流の大きさを求めます。
- 最後に、電流による磁界の向きから、右ねじの法則を適用して電流の向きを決定します。
電流の強さと向き
思考の道筋とポイント
この問題は、小磁針が指す向きが、その点における「合成磁界」の向きと一致するという原理を利用して、未知の電流の強さと向きを特定するものです。小磁針の位置には、もともと存在する「北向きの地磁気」と、電流が新たに作った「東西向きの磁界」の2つが存在します。この2つのベクトルを合成した結果が「北から西へ30°」になった、という事実から逆算していきます。
この設問における重要なポイント
- 小磁針のN極は、合成磁界の向きを指す。
- 地磁気の水平成分 \(\vec{H}_0\) と、電流がつくる磁界 \(\vec{H}\) はベクトルとして合成される。
- 直交する2つのベクトル(地磁気と電流による磁界)の合成は、三角比(特にタンジェント)で扱うと便利である。
具体的な解説と立式
小磁針の位置には、以下の2つの磁界が互いに直交して存在しています。
- 地磁気の水平成分 \(\vec{H}_0\): 大きさは \(H_0 = 30 \text{ A/m}\) で、向きは常に「北」を向いています。
- 導線電流 \(I\) がつくる磁界 \(\vec{H}\): 導線が南北に張られているため、その下の点につくる磁界は右ねじの法則により「東」または「西」を向きます。
小磁針は、これら2つのベクトルを合成した磁界 \(\vec{H}_{\text{合成}}\) の向きを指します。
問題文より、小磁針は「北から西へ30°」の向きを指しました。これは、北向きのベクトル \(\vec{H}_0\) と、西向きのベクトル \(\vec{H}\) を合成した結果です。したがって、電流がつくる磁界 \(\vec{H}\) の向きは「西向き」であるとわかります。
このベクトル合成の関係を、\(\vec{H}_0\) を底辺、\(\vec{H}\) を高さとする直角三角形で考えると、三角比(タンジェント)を用いて以下の関係式を立てることができます。
$$ \tan 30^\circ = \frac{H}{H_0} \quad \cdots ① $$
また、電流 \(I\) がつくる磁界の強さ \(H\) は、直線電流の公式で与えられます。導線からの距離は \(r = 0.20 \text{ m}\) です。
$$ H = \frac{I}{2\pi r} \quad \cdots ② $$
次に、電流の向きを決定します。導線の下の位置で「西向き」の磁界 \(\vec{H}\) を作るためには、右ねじの法則を適用すると、電流 \(I\) は「北向き」に流れている必要があります。
使用した物理公式
- 直線電流がつくる磁界の強さ: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
- 磁界の重ね合わせの原理とベクトル合成
- 三角比: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{底辺}}\)
- 右ねじの法則
まず、式①から電流がつくる磁界の強さ \(H\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
H &= H_0 \tan 30^\circ \\[2.0ex]&= 30 \times \frac{1}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]&= 10\sqrt{3} \\[2.0ex]&\approx 10 \times 1.732 = 17.32 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
次に、この \(H\) の値を式②に代入して、電流 \(I\) の大きさを求めます。
$$ I = 2\pi r H $$
$$
\begin{aligned}
I &= 2 \times 3.14 \times 0.20 \times 17.32 \\[2.0ex]&= 1.256 \times 17.32 \\[2.0ex]&= 21.754… \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(22 \text{ A}\) となります。
方位磁針は、もともと北を指す「地磁気」と、電流が作った「磁力」の2つを合わせた方向を指します。地磁気は北向き、電流が作る磁力は導線の真下なので東西向きです。
実験の結果、方位磁針は「北から西へ30°」を指したので、電流は「西向き」の磁力を作ったとわかります。
この関係を直角三角形の図で考えると、「\(\tan 30^\circ = \frac{\text{電流が作った磁力}}{\text{地磁気の強さ}}\)」という式が成り立ちます。地磁気の強さは30 A/mとわかっているので、この式から、まず電流が作った磁力の強さを計算できます。
次に、その強さの磁力を作るにはどれくらいの電流が必要かを、直線電流の公式「\(H = \frac{I}{2\pi r}\)」を使って逆算します。
電流の向きは、西向きの磁力を作るように「右ねじの法則」で考えると「北向き」になります。
導線に流した電流の強さは \(22 \text{ A}\)、向きは北向きです。地磁気と電流による磁界のベクトル合成という考え方を用いて、観測された小磁針の振れ角から未知の電流を特定するという、物理的に一貫したプロセスで解答を導くことができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 磁界の重ね合わせの原理(ベクトル和):
- 核心: ある一点には、複数の原因(この場合は導線電流と地球)による磁界が同時に存在でき、その点での実際の磁界は、個々の磁界の「ベクトル和」として現れるという原理。
- 理解のポイント: 小磁針が、地磁気(北向き)でもなく、電流の磁界(東西向き)でもない、中間の「北から西へ30°」を向いた理由を説明する根幹の法則です。
- 小磁針と合成磁界の関係:
- 核心: 小磁針のN極は、その場所における「合成磁界」の向きを指す。
- 理解のポイント: これはこの問題の前提条件であり、観測結果(小磁針の向き)から、目に見えない合成磁界ベクトルの向きを特定するための鍵となります。
- 電流がつくる磁界の法則(直線電流と右ねじの法則):
- 核心: 無限に長い直線電流 \(I\) が距離 \(r\) の点につくる磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) であり、その向きは電流の向きに対して右ねじの法則に従うこと。
- 理解のポイント: 電流による磁界の「強さ」を計算し、またその「向き」を特定するための基本法則です。この問題では、磁界の強さと向きから逆に電流の強さと向きを推定するために使われます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電流の向きが逆の場合: もし電流が南向きに流れていれば、導線の下にできる磁界は東向きになります。その場合、小磁針は北から東のほうへ振れることになります。
- 小磁針の位置が異なる場合: 小磁針を導線の上に置いた場合、北向きの電流がつくる磁界は東向きになります。導線の西側に置けば磁界は下向き、東側に置けば上向きとなり、地磁気の水平成分とは合成できなくなります(伏角が変化する)。
- 地磁気を求める問題: 逆に、流す電流の大きさが既知で、小磁針の振れ角から地磁気の水平成分の強さを求める問題。同じく \(\tan\theta\) の関係式から解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 存在する磁界のリストアップと作図: まず、その点にどのような磁界が存在するかを全てリストアップします(地磁気、電流による磁界)。次に、それぞれの磁界がどちらを向いているかを、問題の設定(導線の向き、方位)から慎重に判断し、必ずベクトル図を描きます。
- ベクトルの関係を数式化する: 作図したベクトル図(この場合は直角三角形)を見て、辺の長さ(磁界の強さ)と角度の関係を、三角比を用いて数式に落とし込みます。直交する2ベクトルの合成では、タンジェントを使うのが最も簡単です。
- 未知数を逆算する: 立てた関係式と、磁界の公式を組み合わせ、求めたい物理量(この場合は電流 \(I\))について解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 磁界の向きの誤解:
- 誤解: 導線が南北に張られているからといって、電流がつくる磁界も南北方向だと勘違いする。
- 対策: 右ねじの法則を正確に適用する練習をします。電流の周りには、電流の向きに垂直な平面内で円を描くように磁界ができることを理解しましょう。導線の下では、磁界は水平な東西方向を向きます。
- 三角比の適用の誤り:
- 誤解: \(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{H}{H_0}\) の分母と分子を逆にして、\(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{H_0}{H}\) と間違えてしまう。
- 対策: ベクトル図をきちんと描くことが最も有効な対策です。図を見れば、角度 \(30^\circ\) に対する「対辺」が \(H\)、「底辺」が \(H_0\) であることが一目瞭然となり、タンジェントの定義(対辺/底辺)に従って正しく立式できます。
- 電流の向きの決定ミス:
- 誤解: 電流による磁界が西向きであることは分かっても、右ねじの法則を逆に適用できず、電流の向きを間違える。
- 対策: 実際に右手の親指を立てて、残りの4本の指が導線の下で「西向き」になるように親指の向きを探します。すると、親指は「北向き」になることが確認できます。この身体を使った確認作業が有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三角比の関係 (\(\tan\theta = \displaystyle\frac{H}{H_0}\)):
- 選定理由: この問題では、直交する2つのベクトル(地磁気 \(\vec{H}_0\) と電流による磁界 \(\vec{H}\))と、その合成ベクトルのなす角 \(\theta\) が与えられています。この3者の関係を最もシンプルに記述できるのが三角比であり、特に2つの力の成分の比を表すタンジェントが最適です。
- 適用根拠: ベクトル図を描いた結果、直角三角形が形成され、その辺の長さと角度の関係を分析するために適用します。これにより、未知の磁界 \(H\) の大きさを既知の量から計算できます。
- 直線電流の磁界公式 (\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)):
- 選定理由: 磁界の源が「長い直線導線」であり、その磁界の強さ \(H\) と電流 \(I\) の関係を知る必要があるため、この公式を選択します。
- 適用根拠: 三角比の関係から求めた磁界の強さ \(H\) の値を使って、その磁界を発生させるために必要な電流 \(I\) の大きさを逆算するために適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角比の値: \(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) のような基本的な三角比の値は正確に覚えておく必要があります。忘れた場合は、\(30^\circ, 60^\circ, 90^\circ\) の直角三角形の辺の比(\(1:2:\sqrt{3}\))を描いて確認します。
- 無理数の計算: \(H = 10\sqrt{3}\) のように、計算途中で無理数が出てきた場合、すぐに \(1.73\) などを代入して小数にするのではなく、式の最後まで記号のまま計算を進めるのがおすすめです。最後に一度だけ代入することで、計算の手間と丸め誤差を減らせます。
- 円周率 \(\pi\) の扱い: 問題文で \(\pi=3.14\) と指定されているので、計算の最終段階でこの値を代入します。計算の順序を工夫し、\(2 \times 0.20 = 0.4\) のように、先に計算しやすい部分をまとめておくとミスが減ります。
- 有効数字: 問題文の数値(\(0.20\)m, \(30\)A/m, \(30^\circ\))から、答えは有効数字2桁でまとめるのが適切です。計算結果が \(21.7…\) となったら、四捨五入して \(22\) とします。
368 円形電流がつくる磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「N回巻き円形コイルが作る磁界と、その磁界から磁極が受ける力」です。コイルが作る磁界の強さを計算し、その磁界が磁極に及ぼす力を考える、基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- N回巻き円形コイルの中心磁界: N回巻きの円形コイルがその中心につくる磁界の強さは、1回巻きの場合のN倍になります。
- 磁界中の磁極が受ける力: 磁界の強さが \(H\) の場所に、磁気量 \(m\) の磁極を置くと、その磁極は \(F = mH\) の大きさの力を受けます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、観測された力の大きさと磁極の磁気量から、コイルの中心に生じている磁界の強さ \(H\) を逆算します。
- 次に、その磁界の強さ \(H\) を作るために必要な電流 \(I\) の大きさを、N回巻き円形コイルの中心磁界の公式を用いて計算します。
電流の強さ
思考の道筋とポイント
この問題は、観測された事実(磁極が受けた力)から、その原因となった未知の量(電流の強さ)を逆算する問題です。二段階の思考プロセスで解くことができます。
- 力から磁界を求める: まず、磁極が受けた力 \(F\) とその磁気量 \(m\) から、その場所の磁界の強さ \(H\) を求めます。
- 磁界から電流を求める: 次に、その磁界 \(H\) を作り出したのがN回巻きの円形コイルであることから、コイルの中心磁界の公式を使って、電流 \(I\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 磁界中の磁極が受ける力の公式: \(F = mH\)
- N回巻き円形コイルの中心磁界の公式: \(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\)
具体的な解説と立式
問題文で与えられた値を整理します。
- コイルの半径: \(r = 2.0 \text{ m}\)
- 巻き数: \(N = 5\)
- 磁極の磁気量: \(m = 3.0 \times 10^{-2} \text{ Wb}\)
- 磁極が受けた力: \(F = 0.60 \text{ N}\)
Step 1: 力から磁界の強さ \(H\) を求める
磁極が受ける力の公式 \(F = mH\) を、\(H\) について解きます。
$$ H = \frac{F}{m} \quad \cdots ① $$
Step 2: 磁界の強さ \(H\) から電流 \(I\) を求める
5回巻き円形コイルの中心磁界の公式は、
$$ H = 5 \times \frac{I}{2r} \quad \cdots ② $$
この2つの式を組み合わせることで、未知の電流 \(I\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 磁界中の磁極が受ける力: \(F = mH\)
- N回巻き円形コイルの中心磁界: \(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\)
まず、式①を使って磁界の強さ \(H\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{0.60}{3.0 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{0.60}{0.030} \\[2.0ex]&= 20 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
次に、この \(H=20\) A/m という値を式②に代入し、電流 \(I\) について解きます。
$$ H = 5 \times \frac{I}{2r} $$
$$
\begin{aligned}
20 &= 5 \times \frac{I}{2 \times 2.0} \\[2.0ex]20 &= 5 \times \frac{I}{4.0} \\[2.0ex]20 &= \frac{5I}{4.0} \\[2.0ex]\end{aligned}
$$
両辺に \(4.0\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
80 &= 5I \\[2.0ex]I &= \frac{80}{5} \\[2.0ex]I &= 16 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
まず、コイルが作った磁力空間(磁界)の強さを計算します。これは「磁極が受けた力 ÷ 磁極の強さ」で求められます。\(0.60 \text{ N} \div (3.0 \times 10^{-2} \text{ Wb})\) を計算すると、磁界の強さは \(20 \text{ A/m}\) とわかります。
次に、この強さ \(20 \text{ A/m}\) の磁界を作るには、どれくらいの電流が必要かを計算します。5回巻きコイルが作る磁界の強さの公式「\(H = 5 \times \frac{I}{2r}\)」に、\(H=20\), \(r=2.0\) を当てはめて、\(I\) について解くと、答えが求まります。
導線に流した電流の強さは \(16 \text{ A}\) です。観測された力の大きさから、磁界の強さを特定し、さらにその磁界を発生させる原因である電流の強さを求めるという、物理法則に則った逆算のプロセスを正しく実行できました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 場の考え方による二段階プロセス:
- 核心: この問題は、電流と力の関係を「場」という概念を介して理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- 電流が磁界を作る: まず、円形コイルに流れる電流 \(I\) が、その中心に \(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\) という強さの「磁界(磁場)」という空間の性質を作り出します。
- 磁界が力を及ぼす: 次に、その磁界 \(H\) が存在する場所に置かれた磁極 \(m\) が、磁界から \(F = mH\) という大きさの力を受けます。
- この「電流 \(I\) → 磁界 \(H\) → 力 \(F\)」という因果関係の連鎖を、数式を使って順方向または逆方向にたどる能力が問われています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 順方向の問題: 電流 \(I\) の大きさが与えられていて、磁極が受ける力 \(F\) を求める問題。これは「電流→磁界→力」の順で計算する、より素直な問題です。
- 地磁気との合成問題: このコイルを鉛直に立てて南北方向に置いた場合、コイルが作る磁界(東西方向)と地磁気(北向き)が合成されます。中心に置いた小磁針の振れ角などから、電流や地磁気の強さを求める問題に応用されます。
- ソレノイドコイルの場合: 磁界の源が円形コイルではなく、無限に長いソレノイドコイルになるパターン。その場合、中心磁界の公式は \(H=nI\)(\(n\)は単位長さあたりの巻き数)に変わりますが、「磁界を作って力を及ぼす」という基本的な考え方は同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- 情報の整理と役割分担: 問題文から与えられている物理量(\(r, N, m, F\))をリストアップし、何が「原因(源)」で何が「結果」かを整理します。この問題では、力 \(F\) が結果、電流 \(I\) が根本的な原因です。
- 逆算思考のプロセスを立てる: 観測された「結果(力 \(F\))」から、その直接的な原因である「中間の場(磁界 \(H\))」を求め、さらにその場の原因である「根本的な源(電流 \(I\))」を求める、という逆算の思考プロセスを組み立てます。
- 適切な公式の選択: 各ステップで、どの物理量とどの物理量を結びつける必要があるかを考え、適切な公式(\(F=mH\) と \(H=N\frac{I}{2r}\))を選択します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 巻き数 \(N\) の扱いを間違える:
- 誤解: N回巻きの効果をどこに掛けるか混乱し、力の公式の方に掛けて \(F=NmH\) と間違えたり、あるいは巻き数を完全に忘れてしまったりする。
- 対策: 「コイルをN回巻くと、磁界がN倍に強まる」と物理的な意味で理解しましょう。したがって、巻き数 \(N\) は磁界の強さ \(H\) の公式に掛かる、と覚えるのが確実です。\(H = N \times (\text{1回巻きの磁界})\) という形が基本です。
- 磁界の強さ(\(H\))と力の大きさ(\(F\))の混同:
- 誤解: 2つの公式 \(F=mH\) と \(H=N\frac{I}{2r}\) を混同し、記号を正しく使い分けられない。
- 対策: 単位に注目する習慣をつけましょう。\(H\) の単位は [A/m] または [N/Wb]、\(F\) の単位は [N] です。物理量が違えば単位も違うことを意識すれば、混同を防げます。
- 半径 \(r\) と直径 \(2r\) の混同:
- 誤解: 円形コイルの公式の分母が \(2r\)(直径)であることを忘れ、半径 \(r\) だけで計算してしまう。
- 対策: 公式は毎回正確に書き出す癖をつけましょう。「円形コイルの磁界は直径に反比例する」とイメージで覚えておくのも有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 磁界から受ける力の公式 (\(F = mH\)):
- 選定理由: この問題では、まず観測された「力 \(F\)」と、力を受けている磁極の「磁気量 \(m\)」が分かっています。この2つの量から、その場所の「磁界の強さ \(H\)」を特定するために、この公式を選択するのが最も直接的です。
- 適用根拠: これは磁界 \(H\) の定義(単位磁極が受ける力)そのものであり、観測された力という現象から、その原因である場の性質を明らかにするための第一歩となります。
- N回巻き円形コイルの磁界公式 (\(H = N \displaystyle\frac{I}{2r}\)):
- 選定理由: 磁界の「源」が「N回巻きの円形コイル」であることが問題文で明記されているため、この特定の状況における磁界と電流の関係を表すこの公式を選択します。
- 適用根拠: 上のステップで求めた磁界の強さ \(H\) の値を使って、その磁界を発生させる根本的な原因である「電流 \(I\)」の大きさを逆算するために適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 二段階計算を意識する: この問題は一気に解こうとせず、「①力から磁界を求める」「②磁界から電流を求める」という2つのステップに明確に分けて計算を進めると、思考が整理されミスが減ります。
- 文字式で整理してから代入する:
- まず \(H = \displaystyle\frac{F}{m}\) と \(I = \displaystyle\frac{2rH}{N}\) の関係を立てる。
- これらを組み合わせて \(I = \displaystyle\frac{2rF}{Nm}\) という最終的な関係式を導く。
- この式に、\(r=2.0, F=0.60, N=5, m=3.0 \times 10^{-2}\) を一度に代入して計算する。
この方法なら、途中の計算結果の丸め誤差がなくなり、検算もしやすくなります。
- 指数計算の処理: 分母に \(3.0 \times 10^{-2}\) のような指数がある場合、計算間違いの元です。\(0.03\) と小数に直すか、あるいは \(10^{-2}\) を分子に移動させて \(10^2\) として扱うなど、自分が最もミスしにくい方法で慎重に処理しましょう。
- 単位の確認: 最終的に求めた \(I\) の単位が、電流の単位であるアンペア[A]になっているかを最後に確認する癖をつけることが、物理計算の基本です。
369 ソレノイドの磁界
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ソレノイドコイル内部の磁界」です。非常に長いソレノイド(コイル)に電流を流したときに、その内部にできる一様な磁界の強さを求める、公式の理解を問う基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ソレノイド内部の磁界: 非常に長いソレノイドの内部には、中心軸に平行で一様な磁界ができます。
- 磁界の強さの公式: ソレノイド内部の磁界の強さ \(H\) は、電流の強さ \(I\) と、「単位長さあたりの巻き数 \(n\)」に比例します。
- 単位長さあたりの巻き数 \(n\): 全体の巻き数 \(N\) を、コイルの全長 \(L\) で割ることで求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問題で与えられている全体の巻き数 \(N\) と長さ \(L\) から、公式で使う「単位長さあたりの巻き数 \(n\)」を定義します。
- 次に、ソレノイド内部の磁界の強さの公式 \(H=nI\) に、上で定義した \(n\) を代入して、与えられた記号で \(H\) を表します。
思考の道筋とポイント
この問題は、ソレノイドコイルの内部にできる磁界の強さを求める公式を、与えられた記号(全体の巻き数 \(N\) と長さ \(L\))を使って表現し直すことが目的です。公式 \(H=nI\) の \(n\) が何を意味するかを正確に理解しているかが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- ソレノイド内部の磁界の強さの公式は \(H = nI\) である。
- \(n\) は「単位長さ(1m)あたりの巻き数」であり、全体の巻き数 \(N\) とは異なる。
- 単位長さあたりの巻き数 \(n\) は、全体の巻き数 \(N\) を全体の長さ \(L\) で割ることで求められる (\(n = \displaystyle\frac{N}{L}\))。
具体的な解説と立式
ソレノイド内部の磁界の強さ \(H\) を求める公式は、単位長さあたりの巻き数を \(n\)、電流を \(I\) として、
$$ H = nI $$
と与えられます。
問題文では、全体の巻き数が \(N\)、全体の長さが \(L\) と与えられています。単位長さあたりの巻き数 \(n\) は、「全体の巻き数を全体の長さで割ったもの」なので、
$$ n = \frac{N}{L} $$
と表すことができます。
この \(n\) の表現を、磁界の強さの公式 \(H=nI\) に代入することで、求めたい式が得られます。
使用した物理公式
- ソレノイド内部の磁界の強さ: \(H = nI\)
- 単位長さあたりの巻き数の定義: \(n = \displaystyle\frac{N}{L}\)
\(H=nI\) の式に、\(n = \displaystyle\frac{N}{L}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
H &= n \times I \\[2.0ex]&= \left( \frac{N}{L} \right) \times I \\[2.0ex]&= \frac{NI}{L} \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
細長いコイル(ソレノイド)の中にできる磁力空間(磁界)の強さを求める問題です。
磁界の強さは、公式「\(H = (\text{1mあたりの巻き数}) \times (\text{電流})\)」で計算できます。
問題では、全体の巻き数 \(N\) と全体の長さ \(L\) が与えられているので、「1mあたりの巻き数」は \(n = \frac{N}{L}\) となります。
これを公式に当てはめると、\(H = \frac{N}{L} \times I = \frac{NI}{L}\) となります。
ソレノイド内部の磁界の強さは \(H = \displaystyle\frac{NI}{L}\) となります。これはソレノイドの磁界を表す基本公式そのものであり、正しく導出できました。この式は、コイルが密に巻かれているほど(\(N/L\) が大きいほど)、また大きな電流を流すほど、内部の磁界が強くなることを示しており、物理的な直感とも一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ソレノイド内部の磁界の公式:
- 核心: 「非常に長い」ソレノイドコイルの内部には、コイルの軸に平行な「一様な」磁界が形成され、その強さ \(H\) が「単位長さあたりの巻き数 \(n\)」と「電流 \(I\)」に比例する、という法則を理解していることが全てです。
- 理解のポイント:
- 公式の形: \(H = nI\)
- \(n\) の意味: \(n\) は「単位長さ(1m)あたりの巻き数」であり、全体の巻き数 \(N\) とは区別される。\(n = \displaystyle\frac{N}{L}\) の関係がある。
- 公式の書き換え: 上の関係を使うと、公式は \(H = \displaystyle\frac{NI}{L}\) とも書ける。問題で与えられる記号に応じて、この2つの形を使い分ける。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 具体的な数値計算問題: \(N, L, I\) に具体的な数値が与えられ、\(H\) の値を計算する問題。公式に代入するだけだが、\(n\) の計算を間違えないように注意が必要。
- 磁束密度を求める問題: ソレノイド内部の磁束密度 \(B\) を求める問題。\(B = \mu H\) の関係(\(\mu\) は透磁率)を使う。内部が真空や空気なら \(B = \mu_0 H = \mu_0 nI\) となる。
- 電磁誘導との融合問題: ソレノイドを貫く磁束 \(\Phi = BS\)(\(S\) は断面積)を計算させ、電流 \(I\) を時間的に変化させたときに、別のコイルに生じる誘導起電力を求める問題。
- アンペールの法則を問う問題: (発展)なぜ \(H=nI\) となるのかを、アンペールの法則 \(\oint \vec{H} \cdot d\vec{l} = (\text{内部の電流の総和})\) を使って証明させる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- コイルの形状を特定する: 問題文中の「非常に細長いコイル」「ソレノイド」といったキーワードから、ソレノイドの公式を使うべきだと判断する。円形コイルの公式と混同しないことが第一歩。
- 巻き数の種類を区別する: 問題で与えられている巻き数が、全体の巻き数 \(N\) [回] なのか、単位長さあたりの巻き数 \(n\) [回/m] なのかを、単位や文脈から正確に読み取る。
- 公式を正しく選択・変形する: 自分の覚えている公式(\(H=nI\) または \(H=\frac{NI}{L}\))と、問題で与えられた記号を照らし合わせ、必要なら \(n=N/L\) の関係を使って式を変形する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 円形コイルの公式との混同:
- 誤解: ソレノイドの問題なのに、円形コイルの公式 \(H = N\displaystyle\frac{I}{2r}\) を使ってしまう。
- 対策: コイルの形状と公式をセットで覚える。「ソレノイドは長さ \(L\) と巻き数密度 \(n\) が重要」「円形コイルは半径 \(r\) が重要」と、公式で使われる物理量を関連付けて記憶する。
- 巻き数 \(N\) と \(n\) の混同:
- 誤解: 公式 \(H=nI\) の \(n\) に、全体の巻き数 \(N\) をそのまま代入して \(H=NI\) と間違えてしまう。
- 対策: \(n\) は「密度」の概念(1mあたりにどれだけコイルが詰まっているか)であることを強く意識する。問題で \(N\) と \(L\) が与えられたら、まず \(n=N/L\) を計算する、という手順を徹底する。
- 公式の丸暗記による弊害:
- 誤解: 公式の形だけを覚えていて、なぜそうなるのかを理解していないため、少し応用されると手が出なくなる。
- 対策: ソレノイドの磁界は「たくさんの円形電流が作る磁界の重ね合わせ」の結果として生まれる、という物理的イメージを持つことが重要。内部では磁界が強め合い、外部では弱め合って、結果的に内部に一様な磁界ができる、というストーリーを理解しておくと応用力がつく。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ソレノイドの磁界公式 (\(H=nI\) または \(H=\displaystyle\frac{NI}{L}\)):
- 選定理由: 問題の対象が「非常に細長いコイル(ソレノイド)」であり、その「内部」の磁界を求めるため、この状況に特化した公式を選択します。
- 適用根拠: この公式は、大学物理で学ぶ「アンペールの法則」という、より基本的な法則から導出されます。ソレノイドという対称性の高い形状だからこそ、このようにシンプルな形で磁界を表現できます。無数の円形電流が作る磁界を重ね合わせた結果、内部では軸方向の成分が強め合い、半径方向の成分がほぼ打ち消し合うため、軸に平行な一様な磁界が形成される、という物理的背景に基づいています。
- \(n = N/L\) の関係式:
- 選定理由: 物理的に本質的なのは単位長さあたりの巻き数 \(n\) ですが、実際にコイルを作る際に設定しやすいのは全体の巻き数 \(N\) と長さ \(L\) です。そのため、測定しやすい量で公式を表現し直すために、この定義式が必要になります。
- 適用根拠: これは「単位あたり」の量を求めるための、ごく基本的な定義の式です。全体の量を全体の長さで割ることで、密度(この場合は線密度)を求めています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 記号の定義の確認: この問題は文字式を求めるだけなので、計算ミスは起こりにくいですが、記号の定義を間違えるという概念的なミスは起こりえます。\(N\) は総巻き数、\(L\) は全長、\(n\) は巻き数密度(\(N/L\))という定義を、問題を解く前に頭の中で再確認する習慣をつけましょう。
- 単位による検算: 公式 \(H=nI\) の単位が合っているかを確認するのも有効です。磁界 \(H\) の単位は [A/m]。右辺は \(n\)[回/m] \(\times\) \(I\)[A] であり、「回」は無次元なので、[A/m] となり、両辺の単位が一致していることがわかります。
- 公式の導出過程をイメージする: なぜ \(L\) が分母に来て \(N\) と \(I\) が分子に来るのかを、物理的なイメージで捉えておくと公式を忘れにくくなります。「巻き数が多いほど」「電流が強いほど」磁界は強くなり(分子)、「長さが長いほど」巻きがスカスカになるので磁界は弱くなる(分母)、というイメージです。
370 磁界の合成
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数の平行な直線電流が作る磁界の合成」です。それぞれの電流が作る磁界をベクトルとして正しく求め、それらを合成する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 直線電流のまわりの磁界: 無限に長い直線電流がつくる磁界の強さは、電流の大きさに比例し、距離に反比例します。
- 右ねじの法則: 電流がつくる磁界の向きを決定する法則です。電流の向きに右ねじを進めると、ねじが回転する向きが磁界の向きになります。
- 磁界の重ね合わせの原理: ある点における磁界は、複数の電流源がそれぞれ単独でつくる磁界のベクトル和に等しくなります。
- ベクトルの合成: 複数のベクトルを足し合わせる際は、図形的に(平行四辺形の法則など)または成分計算によって行います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、導線Aを流れる電流が点Pにつくる磁界 \(\vec{H}_A\) の大きさと向きを求めます。
- 次に、導線Bを流れる電流が点Pにつくる磁界 \(\vec{H}_B\) の大きさと向きを求めます。
- 最後に、2つの磁界ベクトル \(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_B\) を合成し、最終的な磁界 \(\vec{H}\) の大きさと向きを決定します。
点Pの磁界の強さと向き
思考の道筋とポイント
点Pにおける磁界は、導線Aによる磁界 \(\vec{H}_A\) と導線Bによる磁界 \(\vec{H}_B\) の「重ね合わせ」によって生じます。磁界はベクトル量なので、2つのベクトルを正しく図示し、合成する必要があります。図形の対称性(正三角形)を利用すると、計算が簡略化できます。
この設問における重要なポイント
- 磁界の重ね合わせの原理:\(\vec{H} = \vec{H}_A + \vec{H}_B\)。
- 直線電流がつくる磁界の強さの公式: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)。
- 右ねじの法則を用いて、各電流がつくる磁界の向きを正確に作図する。
- ベクトルの合成は、図形的な性質を利用して行う。
具体的な解説と立式
1. 各電流がつくる磁界の大きさと向き
- 導線Aによる磁界 \(\vec{H}_A\):
- 大きさ \(H_A\) は、\(I=6.28 \text{ A}\), \(r=0.50 \text{ m}\) なので、公式より
$$ H_A = \frac{I}{2\pi r} $$ - 向きは、右ねじの法則より、Aの電流(紙面の奥向き)のまわりにできる時計回りの磁界の、点Pにおける接線方向です。これは線分APに垂直で、図の右下向きとなります。
- 大きさ \(H_A\) は、\(I=6.28 \text{ A}\), \(r=0.50 \text{ m}\) なので、公式より
- 導線Bによる磁界 \(\vec{H}_B\):
- 電流の大きさと距離がAと同じなので、磁界の大きさも等しくなります。\(H_B = H_A\)。
- 向きは、右ねじの法則より、Bの電流(紙面の手前向き)のまわりにできる反時計回りの磁界の、点Pにおける接線方向です。これは線分BPに垂直で、図の左下向きとなります。
2. 磁界のベクトル合成
- 点A, B, Pは正三角形をなすので、\(\angle \text{APB} = 60^\circ\) です。
- \(\vec{H}_A\) はAPに垂直、\(\vec{H}_B\) はBPに垂直なので、2つの磁界ベクトル \(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_B\) のなす角は \(180^\circ – 60^\circ = 120^\circ\) となります。
- \(H_A = H_B\) なので、この2つのベクトルを合成すると、合成ベクトル \(\vec{H}\) は2つのベクトルのなす角を二等分する向き、すなわち線分ABの垂直二等分線に沿って、図の下向きになります。
- 合成磁界の大きさ \(H\) は、\(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_B\) の下向き成分を足し合わせることで求められます。下向き方向と各ベクトルとのなす角は \(60^\circ\) なので、
$$ H = H_A \cos 60^\circ + H_B \cos 60^\circ = 2 H_A \cos 60^\circ $$
\(\cos 60^\circ = 1/2\) なので、
$$ H = 2 H_A \times \frac{1}{2} = H_A $$
となり、合成磁界の大きさは、個々の磁界の大きさに等しいことがわかります。
使用した物理公式
- 直線電流がつくる磁界の強さ: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
- 磁界の重ね合わせの原理
- 右ねじの法則
- ベクトルの合成
まず、個々の磁界の強さ \(H_A\) を計算します。問題文より \(I=6.28 \text{ A}\), \(\pi=3.14\) なので、\(I = 2\pi\) となります。
$$
\begin{aligned}
H_A &= \frac{I}{2\pi r} \\[2.0ex]&= \frac{6.28}{2 \times 3.14 \times 0.50} \\[2.0ex]&= \frac{2 \times 3.14}{2 \times 3.14 \times 0.50} \\[2.0ex]&= \frac{1}{0.50} \\[2.0ex]&= 2.0 \text{ [A/m]}
\end{aligned}
$$
合成磁界の大きさ \(H\) は \(H_A\) と等しいので、
$$ H = H_A = 2.0 \text{ [A/m]} $$
点Pには、Aの電流とBの電流がそれぞれ磁力(磁界)を及ぼしています。Aの電流は紙面の奥へ向かうので、右ねじの法則から、P点に右下向きの磁力を作ります。Bの電流は紙面の手前へ向かうので、右ねじの法則から、P点に左下向きの磁力を作ります。この2つの磁力は、電流の大きさと距離が同じなので、強さも同じです。同じ強さの2つの力を、図のように合成すると、左右の成分は打ち消し合い、上下の成分だけが残ります。その結果、合成された力はちょうど真下を向きます。この特別な配置(正三角形)の場合、面白いことに、合成後の力の強さは、元の個々の力の強さと同じになります。したがって、まず個々の力の強さを公式で計算します。計算すると \(2.0 \text{ A/m}\) となるので、これが合成後の磁界の強さの答えになります。
合成磁界の強さは \(2.0 \text{ A/m}\)、向きは紙面に平行で図の下向きとなります。対称性の高い配置であるため、合成後の向きが綺麗な方向(真下)になること、またこの配置では大きさが元の磁界と等しくなるという結果は、ベクトル合成の計算から正しく導かれており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 磁界の重ね合わせの原理(ベクトル和):
- 核心: ある点における磁界は、複数の電流源(この場合は導線AとB)がそれぞれ単独でつくる磁界を「ベクトルとして」足し合わせたものになる、という原理です。
- 理解のポイント: この問題では、導線Aによる磁界 \(\vec{H}_A\) と導線Bによる磁界 \(\vec{H}_B\) を別々に求め、それらをベクトルとして合成することで最終的な答えにたどり着きます。単なる大きさの足し算ではない点が重要です。
- 直線電流がつくる磁界(アンペールの法則と右ねじの法則):
- 核心: 無限に長い直線電流 \(I\) が、距離 \(r\) の点につくる磁界の強さ \(H\) は \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) であり、その向きは右ねじの法則に従う、という電磁気学の基本法則です。
- 理解のポイント: この法則を使って、重ね合わせるべき個々の磁界ベクトル \(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_B\) の大きさと向きを正確に決定することが、問題解決の第一歩となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電流の向きが同じ場合: もしAとBの電流が両方とも紙面の奥向きだった場合、\(\vec{H}_A\) は右下向き、\(\vec{H}_B\) は右上向きとなり、合成磁界は水平右向きになります。
- 正方形の頂点に電流を配置する問題: 4本の電流が正方形の頂点にあり、中心の磁界を求める問題。対称性から、電流の向きの組み合わせによっては磁界がゼロになることもあります。
- 磁界がゼロになる点を求める問題: 2本の電流の間に、磁界が打ち消し合ってゼロになる点を探す問題。それぞれの電流がつくる磁界の大きさが等しく、向きが逆になる条件を考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- ベクトル図の作成を最優先する: 何よりもまず、各電流がつくる磁界のベクトルを、向きを正確に考慮して図に描き込むことが重要です。右ねじの法則を使い、各ベクトルがどの線分に垂直になるかを丁寧に作図します。
- 対称性を見抜く: 問題の配置(正三角形)や条件(電流の大きさが同じ)から、図形的な対称性がないかを探します。この問題では、\(H_A = H_B\) であることを見抜くのが計算簡略化の鍵です。
- ベクトルのなす角を正確に求める: 作図したベクトル図から、合成するベクトル同士のなす角を幾何学的に求めます。三角形の内角と、ベクトルが垂線であることの関係を落ち着いて考えれば、角度を特定できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 磁界の合成をスカラー和で行うミス:
- 誤解: \(H_A\) と \(H_B\) の大きさがどちらも \(2.0 \text{ A/m}\) だからといって、単純に \(2.0 + 2.0 = 4.0 \text{ A/m}\) と足してしまう。
- 対策: 「磁界はベクトル量」と常に意識し、合成する際は必ずベクトル和を考える癖をつけます。図を描いて、ベクトルの向きを考慮した合成を行うことを徹底します。
- 右ねじの法則の適用ミス:
- 誤解: 電流の向きと磁界の回転方向を混同したり、逆向きに考えてしまったりする。
- 対策: 電流が流れる導線をペンなどに見立て、実際に右手を握って向きを確認する習慣をつけましょう。特に、電流が紙面に垂直な場合は、上から見た図を想像して適用すると間違いが減ります。
- ベクトルのなす角の間違い:
- 誤解: \(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_B\) のなす角を、三角形の内角である \(60^\circ\) と勘違いしてしまう。
- 対策: ベクトルの始点を揃えて図を描き、その間の角度を測るのが基本です。この問題では、\(\vec{H}_A\) はAPに垂直、\(\vec{H}_B\) はBPに垂直であることから、幾何学的に \(120^\circ\) と求める必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 直線電流の磁界公式 (\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)):
- 選定理由: この問題における磁界の源は「直線電流」であるため、その影響(磁界の強さ)を計算するための最も基本的な公式として選択します。
- 適用根拠: ベクトル合成を行う前の準備段階として、個々の磁界ベクトル \(\vec{H}_A\) と \(\vec{H}_B\) の「大きさ」を定量的に求めるために使用します。
- ベクトルの図形的な合成:
- 選定理由: 合成すべき2つのベクトルの大きさが等しい(\(H_A=H_B\))という対称性があるため、余弦定理のような代数的な計算よりも、ひし形の対角線を考える図形的な解法の方が、はるかに直観的で計算も簡単になります。
- 適用根拠: \(H_A=H_B\) という条件から、合成ベクトルが2つのベクトルのなす角を二等分することが保証されます。これにより、成分分解が容易になり、\(H = 2H_A \cos 60^\circ = H_A\) というシンプルな結果を導き出せます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 数値設定の意図を読む: 問題文の \(I=6.28 \text{ A}\), \(\pi=3.14\) という設定に注目します。これは \(I = 2\pi\) を意味しており、計算を簡略化するための出題者からのヒントです。これに気づけば、\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r} = \frac{2\pi}{2\pi r} = \frac{1}{r}\) となり、\(H = \frac{1}{0.50} = 2.0\) という暗算レベルの計算で大きさが求まります。
- 作図を丁寧に行う: フリーハンドでも良いので、問題の図にベクトルを書き込むことが非常に重要です。特に、各ベクトルがどの線分に「垂直」であるかを明記し、角度の関係(\(60^\circ\) や \(120^\circ\))を書き込むことで、思考が整理され、立式のミスを防げます。
- 対称性のフル活用: \(H_A=H_B\) という対称性から、合成ベクトルが上下方向(y軸に平行)を向くことがすぐにわかります。これにより、水平方向(x軸方向)の成分は計算するまでもなくゼロであると判断でき、計算量を減らせます。
371 平行電流間にはたらく力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平行な直線電流間にはたらく力」です。一方の電流が作った磁界によって、もう一方の電流が力を受けるという、電磁気学の基本的な相互作用を段階的に理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 直線電流が作る磁界: 一方の電流が、もう一方の電流の位置に磁界を作ります。この磁界の強さは、アンペールの法則から導かれる公式で計算します。
- 右ねじの法則: 電流が作る磁界の向きを決定するために用います。
- 電流が磁界から受ける力: 電流が流れる導線が、外部の磁界(この場合はもう一方の電流が作った磁界)から受ける力です。力の大きさは公式で、向きはフレミングの左手の法則で決まります。
- 作用・反作用の法則: 導線PがQに力を及ぼすとき、QもまたPに、大きさが同じで向きが反対の力を及ぼします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 空欄①では、直線電流が作る磁界の強さの公式を適用します。
- 空欄②では、電流が磁界から受ける力の公式に、①で求めた磁界の強さを代入して計算します。
- 空欄③では、右ねじの法則で磁界の向きを、フレミングの左手の法則で力の向きを決定します。
- 空欄④では、③の結果と作用・反作用の法則から、2本の導線が互いに引き合うか、斥けあうかを判断します。
問(1) 空欄①について
思考の道筋とポイント
導線Pを流れる電流 \(I_1\) が、距離 \(d\) だけ離れた導線Qの位置につくる磁界の強さ \(H\) を求める問題です。無限に長い直線電流がつくる磁界の強さの公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 直線電流 \(I\) から距離 \(r\) だけ離れた点の磁界の強さ \(H\) は、\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられる。
具体的な解説と立式
磁界の源となる電流は導線Pを流れる \(I_1\)、磁界を求める点までの距離は \(d\) です。
したがって、直線電流がつくる磁界の強さの公式 \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) において、\(I\) を \(I_1\)、\(r\) を \(d\) に置き換えます。
$$ H = \frac{I_1}{2\pi d} $$
使用した物理公式
- 直線電流がつくる磁界の強さ: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
この設問は公式を記号で表すものであり、具体的な数値計算は不要です。
計算方法の平易な説明
導線Pに流れる電流が、導線Qのある場所にどれくらいの強さの磁力空間(磁界)を作るかを求める問題です。これは公式に、電流の大きさを \(I_1\)、距離を \(d\) として当てはめるだけで計算できます。
問(2) 空欄②について
思考の道筋とポイント
空欄①で求めた磁界 \(H\) の中に、電流 \(I_2\) が流れる導線Qが置かれている状況です。この導線Qの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさ \(F\) を求める問題です。電流が磁界から受ける力の公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- 強さ \(H\) の磁界中に、電流 \(I\) が流れる長さ \(l\) の導線を置くと、\(F = \mu_0 I H l\) の大きさの力を受ける(電流と磁界が垂直な場合)。
具体的な解説と立式
力を受けるのは、電流 \(I_2\) が流れる導線Qです。この導線Qは、導線Pが作った強さ \(H\) の磁界の中にあります。
電流が磁界から受ける力の大きさの公式は \(F = \mu_0 I’ H l\) です(ここで \(I’\) は力を受ける導線の電流)。
したがって、
$$ F = \mu_0 I_2 H l $$
この式に、空欄①で求めた \(H = \displaystyle\frac{I_1}{2\pi d}\) を代入します。
$$ F = \mu_0 I_2 \left( \frac{I_1}{2\pi d} \right) l $$
使用した物理公式
- 電流が磁界から受ける力: \(F = \mu_0 I H l\)
$$
\begin{aligned}
F &= \mu_0 I_2 H l \\[2.0ex]&= \mu_0 I_2 \left( \frac{I_1}{2\pi d} \right) l \\[2.0ex]&= \frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi d}
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
導線Pが作った磁力空間(磁界)から、導線Qがどれくらいの力を受けるかを計算します。力の大きさは、公式「\(F = (\text{透磁率}) \times (\text{Qを流れる電流}) \times (\text{磁界の強さ}) \times (\text{導線の長さ})\)」で求められます。この「磁界の強さ」に、先ほど①で求めた式を代入して整理します。
問(3) 空欄③について
思考の道筋とポイント
空欄②で求めた力の向きを決定する問題です。まず、導線Pが作る磁界の向きを「右ねじの法則」で特定し、次にその磁界の中で電流 \(I_2\) が受ける力の向きを「フレミングの左手の法則」で決定します。
この設問における重要なポイント
- 右ねじの法則:電流の向きに右ねじを進めると、ねじの回転方向が磁界の向き。
- フレミングの左手の法則:中指が電流、人差し指が磁界、親指が力の向き。
具体的な解説と立式
- 磁界の向きの特定: 導線Pには上向きに電流 \(I_1\) が流れています。右ねじの法則を適用すると、導線Pの右側にあるQの位置では、磁界は紙面の表から裏へ向かう向きになります。
- 力の向きの特定: この磁界の中で、導線Qには上向きに電流 \(I_2\) が流れています。フレミングの左手の法則を適用します。
- 電流(中指): 上向き
- 磁界(人差し指): 紙面の表から裏へ向かう向き
- 力(親指): 左向き
したがって、導線Qが受ける力は左向きです。
使用した物理公式
- 右ねじの法則
- フレミングの左手の法則
この設問は法則の適用を問うものであり、計算は不要です。
計算方法の平易な説明
導線Qがどちら向きに力を受けるかを調べます。まず、Pの電流がQの場所に作る磁力の向きを「右ねじの法則」で調べます。Pの電流は上向きなので、その右側にあるQの場所では、磁力は紙面の奥を向きます。次に、その磁力の中で、上向きに電流が流れるQがどちらに力を受けるかを「フレミングの左手の法則」で調べます。左手の中指を上、人差し指を奥に向けると、親指は左を向きます。これが力の向きです。
問(4) 空欄④について
思考の道筋とポイント
導線PとQの間にはたらく力全体の関係性を問う問題です。③で「QはPの方向に力を受ける」ことがわかりました。作用・反作用の法則により、PもQから同じ大きさで逆向きの力を受けるはずです。これを確かめ、2本の導線が互いに引き合うのか、斥けあうのかを結論づけます。
この設問における重要なポイント
- 作用・反作用の法則:PがQに及ぼす力と、QがPに及ぼす力は、大きさが等しく向きが反対。
- 平行な電流が同じ向きに流れるとき、互いに引き合う力がはたらく。
具体的な解説と立式
③より、導線Qは導線Pの方向(左向き)に力を受けます。
同様に、導線Pが受ける力を考えます。
- 磁界の向きの特定: 導線Qには上向きに電流 \(I_2\) が流れています。右ねじの法則を適用すると、導線Qの左側にあるPの位置では、磁界は紙面の裏から表へ向かう向きになります。
- 力の向きの特定: この磁界の中で、導線Pには上向きに電流 \(I_1\) が流れています。フレミングの左手の法則を適用します。
- 電流(中指): 上向き
- 磁界(人差し指): 紙面の裏から表へ向かう向き
- 力(親指): 右向き
したがって、導線Pは導線Qの方向(右向き)に力を受けます。
QはPに、PはQに、それぞれ互いに向かう向きの力を受けているので、この2本の導線は互いに「引き合う」ことになります。
使用した物理公式
- 作用・反作用の法則
- 右ねじの法則
- フレミングの左手の法則
この設問は法則の適用を問うものであり、計算は不要です。
計算方法の平易な説明
導線QがPの方に引かれることは、③でわかりました。今度は、PがQからどんな力を受けるか調べます。同じように法則を使うと、PはQの方(右向き)に引かれることがわかります。お互いが引っ張り合っているので、この力は「引き合う」力です。一般に、平行な電線に同じ向きの電流を流すと、必ず引き合う力が働きます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 場の考え方による力の相互作用:
- 核心: 2つの電流間にはたらく力は、「一方の電流が磁界を作り、その磁界からもう一方の電流が力を受ける」という二段階のプロセスで生じる、という「場」の考え方を理解することが最も重要です。
- 理解のポイント:
- 電流 \(I_1\) → 磁界 \(H\): 導線Pの電流 \(I_1\) が、導線Qの位置に磁界 \(H\) を作る。(空欄①)
- 磁界 \(H\) + 電流 \(I_2\) → 力 \(F\): その磁界 \(H\) の中で、導線Qの電流 \(I_2\) が力 \(F\) を受ける。(空欄②, ③)
この因果関係を正しく追うことが、問題全体の流れを把握する鍵です。
- 平行電流間の力の性質:
- 核心: 最終的に、平行な直線電流が「同じ向き」に流れる場合は互いに「引き合う力(引力)」が、「逆向き」に流れる場合は互いに「斥けあう力(斥力)」がはたらく、という法則。
- 理解のポイント: 空欄④で問われているのは、この法則そのものです。この問題は、右ねじの法則とフレミングの左手の法則を使って、この法則を自ら導出させる構成になっています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆向き電流の場合: もし電流 \(I_2\) が下向きだったら、フレミングの左手の法則を適用すると、Qが受ける力は「右向き」になります。結果として、2つの導線は互いに「斥けあう」ことになります。
- 3本以上の平行電流: 3本の導線が平行に並んでいるとき、中央の導線が両隣の導線から受ける力の合力を求める問題。それぞれの導線から受ける力をベクトルとして計算し、足し合わせます。
- 力のつり合い問題: 3本の導線を置き、中央の導線が受ける力がつりあう(ゼロになる)ための条件(電流の大きさや位置)を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 役割分担を明確にする: 「どちらの電流が磁界の『源』か」「どちらの電流が力を『受ける』側か」を設問ごとに明確に区別します。
- 法則を段階的に適用する: 焦って一度に解こうとせず、「①右ねじの法則で磁界の向きを決定」→「②フレミングの左手の法則で力の向きを決定」という手順を一つずつ丁寧に行います。
- 図にベクトルを書き込む: 磁界の向き(紙面の奥 or 手前)や、力の向き(左 or 右)を、問題の図に直接矢印で書き込むと、状況が視覚的に整理され、間違いが減ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 右ねじの法則とフレミングの左手の法則の混同:
- 誤解: 磁界の向きを求めたいのにフレミングの左手の法則を使ったり、力の向きを求めたいのに右ねじの法則を使ったりする。
- 対策: 「右ねじ → 磁界の向き」「左手 → 力の向き」と、役割を明確に分けて覚えましょう。「磁界がなければ力は発生しない」ので、必ず「右ねじが先、左手が後」という順番になります。
- 力の向きの判断ミス:
- 誤解: フレミングの左手の法則を適用する際に、指の向きを間違える。特に、磁界が紙面に垂直な場合に混乱しやすい。
- 対策: 実際に左手を使って、指の向きを一つずつ確認する練習を繰り返します。中指(電流)、人差し指(磁界)、親指(力)の対応を「電・磁・力」の語呂合わせで確実に覚えることが重要です。
- 「引き合う」と「斥けあう」の混同:
- 誤解: 力の向き(左向き、右向き)は分かっても、それが「引き合う」ことに相当するのか「斥けあう」ことに相当するのかを直感的に判断できない。
- 対策: 「互いに近づく向きなら引力」「互いに遠ざかる向きなら斥力」と定義に立ち返って考えます。図に力のベクトルを両方の導線について描き込み、矢印が内側を向いているか、外側を向いているかを確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 直線電流の磁界公式 (\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)):
- 選定理由: 空欄①では、まず「磁界の強さ」そのものが問われています。磁界の源が「直線電流」なので、この公式が直接的に適用されます。
- 適用根拠: これは、力の相互作用を「場」の考え方で捉える第一段階、「源が場を作る」プロセスを数式化したものです。
- 電流が磁界から受ける力の公式 (\(F = \mu_0 I H l\)):
- 選定理由: 空欄②では、磁界の中に置かれた電流が受ける「力」が問われています。この公式は、磁界と力の関係を直接結びつけます。
- 適用根拠: これは「場」の考え方の第二段階、「場が力を及ぼす」プロセスを数式化したものです。①で求めた \(H\) を利用することで、2つの電流間の相互作用を計算できます。
- 右ねじの法則とフレミングの左手の法則:
- 選定理由: 磁界や力はベクトル量であり、その「向き」を決定するためにこれらの法則が必要不可欠です。
- 適用根拠: 右ねじの法則は電流とそれが作る磁界の回転方向の関係性を、フレミングの左手の法則は電流・磁界・力の3つのベクトル間の右手系(幾何学的な向きの関係)を記述する、経験的に確立された法則です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 記号の添え字を意識する: \(I_1\) が磁界を作り、\(I_2\) が力を受ける、というように、どの電流がどの役割を果たしているかを、添え字に注意して式を立てることが重要です。\(F = \mu_0 I_2 H\) であり、\(H = \displaystyle\frac{I_1}{2\pi d}\) なので、代入すると \(F = \mu_0 I_2 (\frac{I_1}{2\pi d}) l\) となります。\(I_1\) と \(I_2\) を取り違えないように注意しましょう。
- 文字式の整理: この問題は文字式を完成させるだけなので、計算ミスは起こりにくいですが、分数の形をきれいに整理することが求められます。代入した結果、分母と分子がどのようになっているかを丁寧に見直しましょう。
- 法則の適用を一つずつ: 「磁界の向きは…」「電流の向きは…」「だから力の向きは…」というように、思考のプロセスを言葉にしながら、法則を一つずつ適用していくと、混乱せずに結論にたどり着けます。
372 ローレンツ力の導出
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「アンペールの力とローレンツ力の関係」です。導線全体が磁界から受ける力(アンペールの力)が、実は導線内部の個々の自由電子が受ける力(ローレンツ力)の総和であることを、数式を通して理解する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アンペールの力: 電流が流れる導線が磁界から受ける力。マクロな視点での力。
- ローレンツ力: 磁界中を運動する荷電粒子(この場合は自由電子)が受ける力。ミクロな視点での力。
- 電流のミクロな表現: マクロな量である電流 \(I\) を、ミクロな量(電子の電気量、数密度、速さなど)で表現する関係式。
- マクロとミクロの関係: 導線全体が受ける力は、内部の全電子が受ける力の合計である、という考え方。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 空欄①では、アンペールの力の公式をそのまま記述します。
- 空欄②では、電流をミクロな量で表現する公式を記述します。
- 空欄③では、導線の一部に含まれる自由電子の総数を、数密度と体積から計算します。
- 空欄④では、「電子1個が受ける力 = 導線全体が受ける力 ÷ 全電子数」という関係式を立て、①②③の結果を代入して計算し、ローレンツ力の式を導出します。
問(1) 空欄①について
思考の道筋とポイント
磁束密度 \(B\) の磁界中に、磁界と垂直に置かれた長さ \(l\) の導線に電流 \(I\) を流したとき、導線が受ける力の大きさ \(F\) を求める問題です。これはアンペールの力の公式そのものです。
この設問における重要なポイント
- 電流 \(I\) が流れる長さ \(l\) の導線が、磁束密度 \(B\) の磁界から受ける力の大きさ \(F\) は \(F = IBl\sin\theta\)。
- 今回は磁界と導線が垂直なので、\(\theta=90^\circ\) であり \(\sin 90^\circ = 1\)。
具体的な解説と立式
アンペールの力の公式 \(F = IBl\sin\theta\) において、磁界と導線は垂直なので \(\theta=90^\circ\) です。
したがって、力の大きさ \(F\) は次のように表せます。
$$ F = IBl $$
使用した物理公式
- アンペールの力: \(F = IBl\)
この設問は公式を記号で表すものであり、具体的な数値計算は不要です。
計算方法の平易な説明
磁場の中にある電線が受ける力の大きさを求める問題です。これは公式 \(F=IBl\) をそのまま当てはめることで答えが出ます。
問(2) 空欄②について
思考の道筋とポイント
電流の強さ \(I\) を、電流の担い手である自由電子の性質(電気量、数密度、速さ)と導線の形状(断面積)を用いて、ミクロな視点で表現する問題です。
この設問における重要なポイント
- 電流の定義は、単位時間あたりに断面を通過する電気量である。
- 自由電子の電気量は \(-e\) だが、電流の大きさ \(I\) は正の値なので、電気量の大きさ \(e\) を用いる。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、1秒間に導線の断面 \(S\) を通過する電気量の大きさです。
- 1秒間に通過する体積: 速さ \(v\) で移動する電子は、1秒間に \(v\) [m]進むので、断面積 \(S\) を1秒間に通過する電子は、体積 \(S \times v\) の中に含まれる電子です。
- 体積 \(Sv\) 内の電子の総数: 電子の数密度は \(n\) [個/m\(^3\)] なので、この体積の中には \(n \times (Sv)\) 個の電子が存在します。
- 1秒間に通過する総電気量: 電子1個の電気量の大きさは \(e\) なので、1秒間に断面を通過する総電気量の大きさ、すなわち電流 \(I\) は、
$$ I = e \times (nSv) = enSv $$
使用した物理公式
- 電流のミクロな表現: \(I = enSv\)
この設問は公式を記号で表すものであり、具体的な数値計算は不要です。
計算方法の平易な説明
電流の正体は電子の流れです。電流の強さを、電子の数や速さといったミクロな情報から計算する問題です。公式 \(I=enSv\) に、問題で与えられた記号を当てはめることで答えが出ます。
問(3) 空欄③について
思考の道筋とポイント
断面積 \(S\)、長さ \(l\) の導線部分に含まれる自由電子の総数を求める問題です。数密度(単位体積あたりの個数)と体積を掛けることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 総数 = (単位体積あたりの数) × (体積)
- 導線の体積は (断面積) × (長さ) で計算できる。
具体的な解説と立式
- 導線の体積 \(V_{\text{導線}}\): 断面積が \(S\)、長さが \(l\) なので、体積は \(V_{\text{導線}} = Sl\)。
- 電子の総数 \(N_{\text{電子}}\): 自由電子の数密度は \(n\) なので、この体積に含まれる電子の総数は、
$$ N_{\text{電子}} = n \times V_{\text{導線}} = nSl $$
使用した物理公式
- 個数 = 密度 × 体積
この設問は公式を記号で表すものであり、具体的な数値計算は不要です。
計算方法の平易な説明
導線の中にある電子の数を数える問題です。これは「1立方メートルあたりの電子の数(密度)× 導線の体積」で計算できます。導線の体積は「断面積 \(S\) × 長さ \(l\)」なので、答えは \(nSl\) となります。
問(4) 空欄④について
思考の道筋とポイント
自由電子1個が磁界から受ける力の大きさ \(f\)(ローレンツ力)を、①〜③の結果を使って導出する問題です。導線全体が受ける力 \(F\) は、内部の全電子が受ける力の合計であるという考え方に基づき、「\(f = F \div (\text{全電子数})\)」という関係から計算します。
この設問における重要なポイント
- マクロな力(アンペールの力)とミクロな力(ローレンツ力)の関係: \(F = N_{\text{電子}} \times f\)。
具体的な解説と立式
自由電子1個が受ける力の大きさ \(f\) は、導線全体が受ける力 \(F\) を、導線内の自由電子の総数 \(N_{\text{電子}}\) で割ることで求められます。
$$ f = \frac{F}{N_{\text{電子}}} $$
この式に、空欄①で求めた \(F=IBl\) と、空欄③で求めた \(N_{\text{電子}}=nSl\) を代入します。
$$ f = \frac{IBl}{nSl} $$
さらに、この式の \(I\) に、空欄②で求めた \(I=enSv\) を代入して整理します。
$$ f = \frac{(enSv)Bl}{nSl} $$
使用した物理公式
- アンペールの力: \(F = IBl\)
- 電流のミクロな表現: \(I = enSv\)
- 電子数の計算: \(N_{\text{電子}} = nSl\)
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{IBl}{nSl} \\[2.0ex]&= \frac{(enSv)Bl}{nSl} \\[2.0ex]&= \frac{enSvBl}{nSl}
\end{aligned}
$$
分母と分子の \(n, S, l\) を約分すると、
$$
\begin{aligned}
f &= evB
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
電子1個が受ける力を求めます。これは、「導線全体が受ける力 ÷ 導線の中の電子の全個数」で計算できます。①で求めた「導線全体が受ける力」の式と、③で求めた「電子の全個数」の式を、割り算の形にします。さらに、②で求めた電流の式も代入して、式を整理(約分)すると、きれいな形になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- マクロな現象とミクロな現象の接続:
- 核心: この問題の最も重要なポイントは、マクロな視点で観測される物理現象(導線が受けるアンペールの力や電流)が、実はミクロな視点での物理現象(個々の電子が受けるローレンツ力や電子の運動)の総和として現れている、という関係性を理解することです。
- 理解のポイント:
- アンペールの力 \(F\) は、無数の ローレンツ力 \(f\) の合計である (\(F = N_{\text{電子}} \times f\))。
- 電流 \(I\) は、無数の 電子の運動 の集まりである (\(I = enSv\))。
この2つの対応関係を数式で結びつけることが、この問題の核心です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果: 導体に電流と磁場をかけると、ローレンツ力によって電子が偏り、導体の側面に電位差が生じる現象。この問題で導出したローレンツ力 \(f=evB\) と、電子が作る電場からの静電気力 \(eE\) がつりあう、という考え方に応用されます。
- 導体棒の電磁誘導: 磁場中を運動する導体棒の中にいる電子がローレンツ力を受けて移動し、棒の両端に電位差(誘導起電力)が生じる問題。これもミクロな視点ではローレンツ力が原因です。
- キャリアが正電荷の場合: もし電流の担い手が正電荷(ホールなど)の場合でも、電気量を \(+q\) と置き換えれば、全く同じ論理で \(f=qvB\) が導出できます。
- 初見の問題での着眼点:
- マクロな量とミクロな量の対応付け: 問題文に出てくる物理量を「マクロな量(\(I, F\))」と「ミクロな量(\(e, n, v, f\))」に分類します。
- 関係式を立てる: それぞれの視点での関係式を立てます。マクロな視点では \(F=IBl\)、ミクロな視点では \(I=enSv\) や \(N_{\text{電子}}=nSl\) です。
- 「総和」の関係で結びつける: 「マクロな力はミクロな力の総和である」という考え方、すなわち \(F = N_{\text{電子}} \times f\) という関係式を使って、マクロとミクロの世界を結びつけます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- アンペールの力とローレンツ力の混同:
- 誤解: どちらも磁場から受ける力であるため、どちらの公式をどの場面で使えばよいか混乱する。
- 対策: 「アンペールの力 \(F=IBl\)」は導線という「かたまり」が受ける力、「ローレンツ力 \(f=qvB\)」は電子やイオンといった「一粒の荷電粒子」が受ける力、と主語を明確に区別して覚えます。
- 記号の定義の混乱:
- 誤解: \(n\)(数密度)と \(N\)(総数)、\(v\)(電子の速さ)と \(V\)(体積)など、似た記号の意味を取り違える。
- 対策: 各記号の単位に注目します。\(n\) は [個/m\(^3\)]、\(N\) は [個]、\(v\) は [m/s]、\(V\) は [m\(^3\)] と、単位を見ればその物理的な意味が明確になります。
- 代入と約分の計算ミス:
- 誤解: \(f = \displaystyle\frac{IBl}{nSl}\) に \(I=enSv\) を代入する際に、文字が多くて混乱し、約分を間違える。
- 対策: 分数の線を長く引き、どの文字が分母で分子かをはっきりさせます。一つずつ、同じ文字を消していく作業を丁寧に行うことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- アンペールの力の公式 (\(F=IBl\)):
- 選定理由: 空欄①では、マクロな視点での「導線が受ける力」が問われているため、電流 \(I\) を使って力を表すこの公式が直接的に対応します。
- 適用根拠: これは実験的に確立された、電流と磁場と力の関係を表す基本法則です。
- 電流のミクロな表現 (\(I=enSv\)):
- 選定理由: 空欄②では、マクロな量である「電流 \(I\)」を、ミクロな電子の運動の言葉で表現することが求められているため、この公式を選択します。
- 適用根拠: 電流の定義(単位時間に断面を通過する電気量)から論理的に導出される関係式であり、マクロとミクロを結びつける重要な橋渡しとなります。
- 力の総和の関係 (\(f = F / N_{\text{電子}}\)):
- 選定理由: 空欄④では、ミクロな「電子1個が受ける力 \(f\)」を導出することが目的です。そのために、マクロな「全体の力 \(F\)」とミクロな「構成要素の数 \(N_{\text{電子}}\)」を結びつけるこの関係式が、論理の根幹となります。
- 適用根拠: これは「全体の量は、個々の量の総和である」という、ごく自然な考え方に基づいています。この関係式に、①、②、③で準備した各パーツを代入することで、ローレンツ力の公式が導出されるという、美しい論理構成になっています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の扱いに慣れる: この問題はすべて文字式の計算です。分数の計算や約分を、数字の計算と同じように正確に行う練習が重要です。
- 単位を意識する: 例えば、空欄③で電子の総数を求めるとき、「数密度 [個/m\(^3\)] × 体積 [m\(^3\)] = 総数 [個]」というように、単位の計算が合っているかを確認すると、立式ミスを防げます。
- 論理の流れを追う: なぜこの順番で空欄が設定されているのか、という出題者の意図を考えることが有効です。①マクロな力 → ②マクロな電流のミクロな表現 → ③ミクロな粒子の総数 → ④マクロな力とミクロな力の関係、という流れを意識することで、各設問で何をすべきかが明確になります。
373 導線が磁界から受ける力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「一様な磁場中で電流が受ける力(アンペールの力)」です。特に、電流の向きと磁場の向きが斜めに交わる場合の、力の大きさと向きの求め方が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アンペールの力: 電流が流れる導線が磁場から受ける力のことです。
- 力の大きさの公式: 力の大きさ \(F\) は、電流 \(I\)、磁束密度 \(B\)、導線の長さ \(l\)、そして電流と磁場のなす角 \(\theta\) を用いて \(F=IBl\sin\theta\) と表されます。
- 力の向き(フレミングの左手の法則): 力の向きは、電流・磁場・力の関係を示すフレミングの左手の法則によって決まります。
- 有効成分の考え方: 力の発生に寄与するのは、磁場に対して垂直な成分のみである、という考え方が重要です。公式の \(\sin\theta\) はこの有効成分を抽出する役割を担っています。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、力の大きさを公式 \(F=IBl\sin\theta\) に与えられた数値を代入して計算します。
- 次に、力の向きをフレミングの左手の法則を用いて決定します。
力の大きさと向き
思考の道筋とポイント
磁場中で電流が流れる導線は力を受けます。この力の大きさと向きを、アンペールの力の公式とフレミングの左手の法則を用いて求める、基本的な問題です。電流と磁場が斜めに交わっているため、公式の \(\sin\theta\) の項を正しく扱うことがポイントになります。
この設問における重要なポイント
- 力の大きさの公式は \(F=IBl\sin\theta\)。
- \(\theta\) は、電流の向きと磁場の向きがなす角である。
- 力の向きは、フレミングの左手の法則で決定する。
具体的な解説と立式
力の大きさの計算
問題で与えられた値を整理します。
- 電流: \(I = 2.0 \text{ A}\)
- 磁束密度: \(B = 5.0 \times 10^{-6} \text{ T}\)
- 導体の長さ: \(l = 3.0 \text{ m}\)
- 電流と磁場のなす角: \(\theta = 30^\circ\)
これらの値を、アンペールの力の公式 \(F=IBl\sin\theta\) に代入します。
$$ F = IBl\sin\theta $$
力の向きの決定
フレミングの左手の法則を、図に示された向きに適用します。
- 電流(中指): 図の右斜め上向き
- 磁場(人差し指): 図の右向き
- 力(親指): 上の2つの向きに指を合わせると、親指は紙面の表から裏へ向かう向きになります。
したがって、力の向きは「紙面に垂直に表から裏に向かう向き」となります。
使用した物理公式
- アンペールの力: \(F=IBl\sin\theta\)
- フレミングの左手の法則
与えられた数値を公式に代入して、力の大きさ \(F\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= (2.0) \times (5.0 \times 10^{-6}) \times (3.0) \times \sin 30^\circ \\[2.0ex]&= (2.0 \times 5.0 \times 3.0) \times 10^{-6} \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 30.0 \times 10^{-6} \times 0.5 \\[2.0ex]&= 15 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 1.5 \times 10^{-5} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
磁場の中で斜めに置かれた電線が受ける力の大きさと向きを求める問題です。力の大きさは公式 \(F=IBl\sin\theta\) で計算できます。ここで、\(I\)は電流、\(B\)は磁場の強さ、\(l\)は電線の長さ、\(\theta\)は電線と磁場のなす角度です。問題文の数値をこの式に当てはめて計算します。力の向きは「フレミングの左手の法則」で決まります。左手の中指を電流の向き(右斜め上)、人差し指を磁場の向き(右)に合わせると、親指は紙面の奥を向きます。これが力の向きです。
力の大きさは \(1.5 \times 10^{-5} \text{ N}\)、向きは紙面に垂直に表から裏に向かう向きとなります。公式と法則を正しく適用し、計算も正確に行うことができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- アンペールの力の公式 (\(F=IBl\sin\theta\)):
- 核心: 磁場中を流れる電流が受ける力の大きさを決定する、最も重要な公式です。この公式の各要素が何を意味しているかを正確に理解することが核心となります。
- 理解のポイント:
- 力の大きさは、電流の強さ \(I\)、磁束密度 \(B\)、導線の長さ \(l\) にそれぞれ比例します。
- \(\sin\theta\) の項が最も重要で、これは電流と磁場がなす角 \(\theta\) によって力の大きさが変わることを示しています。力が最大になるのは、電流と磁場が垂直に交わるとき(\(\sin 90^\circ = 1\))であり、平行なときは力はゼロになります(\(\sin 0^\circ = 0\))。
- フレミングの左手の法則:
- 核心: 力の「向き」を決定するための法則です。電流、磁場、力の3つのベクトルが互いにどのような向きの関係にあるかを示します。
- 理解のポイント: 大きさを計算する公式と、向きを決定する法則は、セットで使いこなす必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 力のモーメント(トルク)を求める問題: 長方形のコイルが磁場から受ける力を考える場合。コイルの各辺が受ける力を計算し、それらがコイルを回転させようとする力のモーメントを求めます。これはモーターの原理につながります。
- 導線が受ける力のつり合い: 導線が磁場から受ける力と、重力や張力などがつりあう状況を考える問題。力のベクトル図を描き、つり合いの式を立てます。
- ローレンツ力との関係: (発展)導線が受けるアンペールの力は、導線内部の無数の荷電粒子(電子など)がそれぞれ受けるローレンツ力の総和である、というミクロな視点からの問題。
- 初見の問題での着眼点:
- ベクトルを図示する: まず、電流 \(I\) の向きと磁場 \(B\) の向きを、問題の図にベクトル(矢印)として描き込みます。
- なす角 \(\theta\) を特定する: 描き込んだ2つのベクトルの始点をそろえ、それらがなす角 \(\theta\) が何度になるかを正確に読み取ります。
- 公式の適用: \(F=IBl\sin\theta\) の公式に、問題文の数値を一つずつ慎重に代入します。
- 向きの決定: 最後に、フレミングの左手の法則を使って、力の向きを決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(\sin\theta\) の項を忘れる、または \(\cos\theta\) と間違える:
- 誤解: 電流と磁場が斜めに交わっているのに、\(F=IBl\) で計算してしまったり、うっかり \(F=IBl\cos\theta\) と間違えたりする。
- 対策: 力の発生に寄与するのは、磁場に対して「垂直な成分」であると覚えるのが有効です。電流の磁場に垂直な成分は \(I\sin\theta\)、導線の磁場に垂直な有効長は \(l\sin\theta\) となり、いずれにせよ \(\sin\theta\) が掛かると理解できます。
- 角度 \(\theta\) の取り間違い:
- 誤解: 図に描かれている他の角度(例えば、導線と垂直線のなす角など)を、公式の \(\theta\) として誤って代入してしまう。
- 対策: \(\theta\) は常に「電流 \(I\) の向きのベクトル」と「磁場 \(B\) の向きのベクトル」が直接なす角である、と定義に立ち返って確認する癖をつけましょう。
- フレミングの左手の法則の適用ミス:
- 誤解: 中指・人差し指・親指の割り当てを間違える、あるいは右手の法則と混同してしまう。
- 対策: 「電・磁・力(でん・じ・りょく)」の語呂合わせで、中指(電流)・人差し指(磁界)・親指(力)の対応を確実に覚えます。実際に左手を使って、問題の図に合わせて指の向きを確認する練習を繰り返すことが最も効果的です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- アンペールの力の公式 (\(F=IBl\sin\theta\)):
- 選定理由: 問題が「磁場中の電流が受ける力」を問うているため、この物理現象を直接記述するこの公式を選択します。
- 適用根拠: これは、電流と磁場の相互作用に関する数多くの実験結果から導かれた、電磁気学の基本法則です。公式に含まれる各項(\(I, B, l, \sin\theta\))は、それぞれが力の大きさにどう影響するかという物理的な意味を持っています。特に \(\sin\theta\) の項は、ベクトルである電流と磁場の外積(ベクトル積)に由来しており、2つのベクトルが作る平行四辺形の面積に対応し、互いに垂直な成分が最も強く影響しあうことを数学的に表現しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算の順序を工夫する: \(2.0 \times 5.0 \times 10^{-6} \times 3.0 \times \sin 30^\circ\) のような計算では、掛け算の順序を工夫します。まず \(2.0 \times 5.0 = 10\) を計算し、次に \(10 \times 3.0 = 30\)、最後に \(\sin 30^\circ = 0.5\) を掛けて \(30 \times 0.5 = 15\) と、計算しやすい順序で進めるとミスが減ります。指数 \(10^{-6}\) は最後に組み合わせます。
- 三角比の値の確認: \(\sin 30^\circ = 1/2 = 0.5\) という基本的な三角比の値は、正確に覚えておく必要があります。もし不安なら、単位円や直角三角形を描いて確認しましょう。
- 有効数字の確認: 問題文で与えられた数値(\(5.0, 3.0, 2.0\))はすべて有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも \(1.5 \times 10^{-5}\) のように有効数字2桁で表現するのが適切です。
- 単位による検算: 磁束密度 \(B\) の単位テスラ[T]は、[N/(A・m)]と等価です。したがって、\(F=IBl\) の単位は [A] \(\times\) [N/(A・m)] \(\times\) [m] = [N] となり、正しく力の単位になっていることが確認できます。これは計算の大きな間違いを防ぐのに役立ちます。
374 導線が磁界から受ける力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電磁力と重力のつり合い」です。導線が磁場から受ける力(電磁力)と、導線自身の重力、そして支持する糸の張力の3つの力がつりあって静止している状況を分析する、力学と電磁気学の融合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止しているとき、その物体にはたらく力の合力はゼロになります。ベクトルで考えると、力のベクトル図が閉じた多角形(この場合は三角形)を形成します。
- アンペールの力: 電流が流れる導線が磁場から受ける力。力の大きさは \(F=IBl\)、向きはフレミングの左手の法則で決まります。
- 重力: 質量を持つ物体が地球から受ける力。大きさは \(mg\)、向きは鉛直下向きです。
- 三角比: 力のつり合いをベクトル図で考えたとき、力の大きさを関係づけるために三角比(特にタンジェント)が有効です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、導線BCにはたらく「重力」「張力」「電磁力」の3つの力のつり合いを考えます。力のベクトル図を描き、三角比を用いて電磁力の大きさを求めます。
- (2)では、(1)で求めた電磁力の大きさを、アンペールの力の公式 \(F=IBl\) に代入して、未知の磁束密度 \(B\) の大きさを計算します。また、力の向きからフレミングの左手の法則を適用して、磁場の向きを決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
導線BC部分が磁界から受ける力(電磁力)の大きさを求める問題です。導線BCは、重力、2本の糸の張力の合力、そして電磁力の3つの力を受けて、傾いた状態で静止しています。この「力のつり合い」の関係を利用します。
この設問における重要なポイント
- 静止している物体にはたらく力はつりあっている(合力がゼロ)。
- はたらく力は「重力(鉛直下向き)」「張力(糸の方向)」「電磁力(水平方向)」の3つである。
- 3つの力のつり合いをベクトル図で考えると、直角三角形が描ける。
- 三角比(特にタンジェント)を用いると、重力と電磁力の関係がわかる。
具体的な解説と立式
導線BCにはたらく力は以下の通りです。
- 重力 \(\vec{W}\): 大きさは \(mg\)、向きは鉛直下向き。
- 電磁力 \(\vec{F}\): 磁場は鉛直方向、電流は水平方向(B→C)なので、フレミングの左手の法則から、力の向きは水平方向(手前または奥)になります。
- 張力 \(\vec{T}_{\text{合計}}\): 2本の糸による張力の合力。回路全体が鉛直から30°手前に傾いているので、張力の合力は、鉛直から30°奥向きの方向を向きます。
これら3つの力がつりあっているので、ベクトル図を描くと閉じた三角形になります。
特に、重力(鉛直下向き)と電磁力(水平方向)は直交しているので、力のベクトル図は直角三角形になります。
張力の合力と鉛直方向のなす角が \(30^\circ\) なので、力のつり合いの図から、以下の関係が成り立ちます。
$$ \tan 30^\circ = \frac{F}{mg} $$
この式を \(F\) について解くと、
$$ F = mg \tan 30^\circ $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 三角比: \(\tan\theta = \displaystyle\frac{\text{対辺}}{\text{底辺}}\)
与えられた値を代入して、電磁力 \(F\) の大きさを計算します。
- 質量: \(m = 5.0 \text{ g} = 5.0 \times 10^{-3} \text{ kg}\)
- 重力加速度: \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\)
- 角度: \(\tan 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}} \approx \frac{1}{1.732}\)
$$
\begin{aligned}
F &= (5.0 \times 10^{-3}) \times 9.8 \times \tan 30^\circ \\[2.0ex]&= (5.0 \times 10^{-3}) \times 9.8 \times \frac{1}{\sqrt{3}} \\[2.0ex]&= 49 \times 10^{-3} \times \frac{1}{1.732} \\[2.0ex]&\approx 2.829… \times 10^{-2} \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(2.8 \times 10^{-2} \text{ N}\) となります。
導線BCは、地球に引かれる力(重力)、糸に引かれる力(張力)、磁場から押される力(電磁力)の3つがちょうど釣り合って、斜め30°の角度で止まっています。この3つの力の関係を図に描くと、直角三角形ができます。この三角形の辺の長さの比(三角比)を使うと、「\(\tan 30^\circ = \frac{\text{電磁力}}{\text{重力}}\)」という関係がわかります。重力の大きさは「質量×重力加速度」で計算できるので、この式を使って電磁力の大きさを求めることができます。
BC部分が磁界から受ける力の大きさは \(2.8 \times 10^{-2} \text{ N}\) です。力のつり合いという力学的なアプローチから、電磁力の大きさを正しく求めることができました。
問(2)
思考の道筋とポイント
磁束密度の大きさと向きを求める問題です。大きさについては、(1)で求めた電磁力 \(F\) の値を、アンペールの力の公式 \(F=IBl\) に代入して逆算します。向きについては、電磁力の向きと電流の向きから、フレミングの左手の法則を適用して決定します。
この設問における重要なポイント
- アンペールの力の公式: \(F=IBl\)。
- フレミングの左手の法則を適用して、未知の磁場の向きを特定する。
具体的な解説と立式
磁束密度の大きさ \(B\) の計算
(1)で求めた電磁力の大きさ \(F\) と、問題文で与えられた電流 \(I\)、導線BCの長さ \(l\) を使います。
- 電磁力: \(F \approx 2.82 \times 10^{-2} \text{ N}\) (有効数字を考慮し、丸める前の値を使う)
- 電流: \(I = 4.0 \text{ A}\)
- 導線の長さ: \(l = 5.0 \text{ cm} = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\)
磁場は鉛直方向、電流は水平方向なので、両者は垂直に交わっています。したがって、アンペールの力の公式は \(F=IBl\) となります。これを \(B\) について解くと、
$$ B = \frac{F}{Il} $$
磁束密度の向きの決定
導線が「手前に」傾いたことから、電磁力 \(\vec{F}\) は水平手前向きに働いていることがわかります。この情報と電流の向きから、フレミングの左手の法則を適用します。
- 力の向き(親指): 水平手前向き
- 電流の向き(中指): BからCの向き(図の右向き)
- 磁場の向き(人差し指): 上の2つの向きに指を合わせると、人差し指は鉛直上向きになります。
したがって、磁束密度の向きは鉛直上向きです。
使用した物理公式
- アンペールの力: \(F=IBl\)
- フレミングの左手の法則
$$
\begin{aligned}
B &= \frac{F}{Il} \\[2.0ex]&= \frac{2.82 \times 10^{-2}}{4.0 \times (5.0 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]&= \frac{2.82 \times 10^{-2}}{20 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]&= \frac{2.82}{20} \\[2.0ex]&= 0.141 \text{ [T]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、四捨五入して \(0.14 \text{ T}\) となります。
(1)で計算した電磁力の大きさを、力の公式 \(F=IBl\) に当てはめて、磁場の強さ \(B\) を逆算します。
向きについては、導線が「手前」に押されたという事実を使います。フレミングの左手の法則で、親指(力の向き)を手前、中指(電流の向き)を右に向けると、人差し指(磁場の向き)は上を向きます。したがって、磁場の向きは鉛直上向きです。
磁束密度の大きさは \(0.14 \text{ T}\)、向きは鉛直上向きです。力のつり合いから求めた電磁力を元に、電磁気学の法則を適用して、未知の磁場を特定することができました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のつり合い:
- 核心: この問題は、電磁気学の問題であると同時に、力学の「力のつり合い」の問題です。静止している導線BCにはたらく「重力」「(糸の)張力」「電磁力」の3つの力がベクトル的に足し合わさってゼロになる、という力学の基本原理を理解していることが全ての出発点です。
- 理解のポイント: 3つの力のベクトル図を描くと、閉じた三角形になる。特に、重力(鉛直)と電磁力(水平)が直交するため、力の関係を三角比で簡単に表現できることを見抜くのが重要です。
- アンペールの力 (\(F=IBl\)):
- 核心: 電流が流れる導線が磁場から受ける力の大きさを計算するための、電磁気学の基本法則です。
- 理解のポイント: (1)で力学的に求めた電磁力の大きさと、この公式を結びつけることで、未知の磁束密度 \(B\) を求めることができます。力学と電磁気学の橋渡しをする重要な法則です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電磁ブランコ: この問題のように、導線をブランコ状につるし、電磁力で振らせる問題。振れの最大の角度やつり合いの位置を問われます。
- 斜面上の導体: 斜面上に置かれた導体に電流を流し、磁場からの力と重力の斜面方向成分、摩擦力がつりあう状況を考える問題。
- ばね付き導体: 導体をばねでつるし、電磁力によってばねがどれだけ伸び縮みするかを問う問題。電磁力と弾性力がつりあいます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力のリストアップと作図: まず、対象となる物体(この場合は導線BC)にはたらく力を全てリストアップします(重力、張力、電磁力、接触していれば垂直抗力や摩擦力など)。そして、それらの力の向きをできるだけ正確に図に描き込みます。
- 力のつり合いの式を立てる: 作図した力のベクトル図を見て、力のつり合いの式を立てます。直交する2方向に成分分解する方法と、力の三角形を描いて三角比を用いる方法があります。この問題のように3つの力で、うち2つが直交している場合は、三角比が圧倒的に簡単です。
- 電磁力の公式と結びつける: 力学的に求めた電磁力の値を、アンペールの力の公式 \(F=IBl\) と結びつけ、未知の物理量(この場合は \(B\))を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いの立て間違い:
- 誤解: 3つの力の関係を正しく図示できず、\(\sin\) と \(\cos\), \(\tan\) のどれを使えばよいか混乱する。
- 対策: 必ず力のベクトル図を描く癖をつけます。重力(鉛直下向き)を基準に、電磁力(水平)を描き、張力がその2つの合力とつりあう(逆向きで同じ大きさ)ことを図で確認します。図を見れば、張力と鉛直線のなす角が \(30^\circ\) であり、\(\tan 30^\circ = \frac{F}{mg}\) の関係が一目瞭然となります。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: 質量の \(5.0 \text{ g}\) を \(5.0 \text{ kg}\) のまま、あるいは長さの \(5.0 \text{ cm}\) を \(5.0 \text{ m}\) のまま計算してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、全ての物理量をSI基本単位(kg, m, s, Aなど)に変換する習慣を徹底します。問題用紙の余白に \(m = 5.0 \times 10^{-3} \text{ kg}\), \(l = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) と書き出してから計算を始めるとミスが減ります。
- フレミングの左手の法則の適用ミス:
- 誤解: (2)で磁場の向きを決定する際に、力の向きや電流の向きを間違えて法則を適用してしまう。
- 対策: 「導線が手前に傾いた」という事実から、電磁力は「水平手前向き」であることを確定させます。電流の向きはB→Cなので「右向き」。この2つの向きから、フレミングの左手の法則を使って「上向き」の磁場を導き出します。一つ一つのベクトルの向きを言葉で確認しながら適用することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いと三角比 (\(F = mg \tan\theta\)):
- 選定理由: (1)では、電磁力の大きさを、力学的なつり合いの状態から求める必要があります。物体が静止しているという情報から「力のつり合い」を選択し、3つの力のベクトル図が直角三角形になることから、辺の比を表す「三角比」が最も効率的な計算手段となります。
- 適用根拠: 重力と電磁力が直交しているため、張力を含めた3つの力のベクトルは閉じた直角三角形を形成します。この幾何学的な関係を数式に翻訳したものが \(F = mg \tan\theta\) です。
- アンペールの力の公式 (\(B = F/Il\)):
- 選定理由: (2)では、(1)で求めた電磁力 \(F\) の原因である「磁束密度 \(B\)」を求める必要があります。電磁力と、その原因である電流・磁場を結びつけるのがアンペールの力の公式です。
- 適用根拠: 導線に流れる電流 \(I\) とその長さ \(l\)、そして導線が受ける力 \(F\) が分かっているため、この公式を \(B\) について解くことで、未知の磁束密度を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の徹底: 計算前に、\(5.0 \text{ g} = 5.0 \times 10^{-3} \text{ kg}\)、\(5.0 \text{ cm} = 5.0 \times 10^{-2} \text{ m}\) のように、必ずSI単位系に直してから式に代入する。
- 計算途中の値の保持: (1)で求めた \(F\) の値を(2)で使う際、丸めた値(\(2.8 \times 10^{-2}\))ではなく、より桁数の多い値(\(2.82…\times 10^{-2}\))を使って計算すると、最終的な答えの精度が上がります。
- 指数計算の分離: \(B = \displaystyle\frac{2.82 \times 10^{-2}}{4.0 \times 5.0 \times 10^{-2}}\) のような計算では、まず指数部分 \(10^{-2}\) を分母分子で約分して消去します。その後、数値部分 \(2.82 \div (4.0 \times 5.0)\) を計算することで、計算がシンプルになりミスを防げます。
- 物理的な状況の再確認: 計算結果が出たら、それが物理的に妥当か考えます。例えば、もし磁場の向きが「鉛直下向き」と出てしまったら、フレミングの法則を適用すると力の向きが「水平奥向き」になり、導線が奥に振れるはずなので、問題の状況と矛盾することに気づけます。
375 磁界中での荷電粒子の運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「磁場中の荷電粒子の運動(サイクロトロン運動)」です。ローレンツ力を向心力とする等速円運動の半径や周期の性質を深く理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力。常に運動方向と垂直に働き、向心力となる。
- フレミングの左手の法則: ローレンツ力の向きを決定する法則。
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)。この問題では \(F_{\text{向心力}} = qvB\)。
- 等速円運動の周期: 一周するのにかかる時間。\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)。
- サイクロトロン周期の性質: 円運動の周期 \(T\) が、粒子の速さ \(v\) や半径 \(r\) によらないという重要な性質。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、荷電粒子の運動の向き(時計回り)と力の向き(中心向き)から、フレミングの左手の法則を用いて磁場の向きを決定します。
- (2)では、円運動の運動方程式を立て、半径 \(r\) について解きます。
- (3)では、周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) に(2)で求めた半径 \(r\) を代入し、周期 \(T\) が速さ \(v\) に依存しないことを示します。
- (4)では、軌道を変えるために磁束密度をどう変化させるかを考え、そのときの新しい周期と運動時間を計算し、元の周期と比較します。
問(1)
思考の道筋とポイント
荷電粒子が図のような軌道で円運動をしたという事実から、磁場の向きを特定する問題です。円運動をするためには、常に円の中心Oに向かう力(向心力)が必要です。この力の正体がローレンツ力であることから、フレミングの左手の法則を適用して磁場の向きを導き出します。
この設問における重要なポイント
- 円運動の向心力は、常に円の中心を向く。
- 磁場中で荷電粒子が受ける力(ローレンツ力)が、この運動の向心力となっている。
- フレミングの左手の法則を適用する。正電荷(\(q>0\))の場合、速度 \(\vec{v}\) の向きが電流の向きとみなせる。
具体的な解説と立式
図から、荷電粒子は点Aで下向きに飛び込み、時計回りに円運動をしています。点Aにおいて、円運動の中心は左側(点O)にあります。したがって、点Aにいる粒子には、常に左向き(中心向き)の力が働いています。
この力はローレンツ力なので、フレミングの左手の法則を適用します。
- 力の向き(親指): 円の中心方向、すなわち点Aでは左向き。
- 電流の向き(中指): 荷電粒子は正電荷なので、速度の向きと同じ。点Aでは下向き。
これらの向きに左手の指を合わせると、人差し指(磁場の向き)は、紙面の表から裏へ向かう向きになります。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
この設問は法則の適用を問うものであり、計算は不要です。
荷電粒子が円を描いて運動するのは、磁場から常に円の中心に向かって力を受けているからです。点Aの位置では、円の中心Oは左側にあります。つまり、粒子は左向きの力を受けています。ここで「フレミングの左手の法則」を使います。左手の親指を力の向き(左向き)、中指を粒子の進む向き(下向き)に合わせると、人差し指が向く方向が磁場の向きになります。実際にやってみると、人差し指は紙面の奥側を向きます。
磁場の向きは、紙面に垂直に表から裏へ向かう向きです。この向きの磁場が存在すれば、下向きに進む正電荷は左向きの力を受け、図のような時計回りの円運動をすることになり、物理的に矛盾はありません。
問(2)
思考の道筋とポイント
荷電粒子がする等速円運動の半径 \(r\) を求める問題です。荷電粒子が磁場から受ける「ローレンツ力」が、円運動を維持するための「向心力」として働いている、という力学的な関係を運動方程式として立式し、半径 \(r\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
- 向心力の正体はローレンツ力であり、その大きさは \(F = qvB\) (速度と磁場が垂直なため)。
具体的な解説と立式
質量 \(m\)、速さ \(v\) の粒子が半径 \(r\) の円運動をするときの向心力の大きさは \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) です。
一方、電荷 \(q\) の粒子が速さ \(v\) で磁束密度 \(B\) の磁場に垂直に進入したときに受けるローレンツ力の大きさは \(F = qvB\) です。
このローレンツ力が向心力として働くので、以下の運動方程式が成り立ちます。
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
- ローレンツ力の大きさ: \(F = qvB\)
上記で立てた運動方程式を、半径 \(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= qvB \\[2.0ex]\end{aligned}
$$
両辺を \(v\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{mv}{r} &= qB \\[2.0ex]\end{aligned}
$$
これを \(r\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{mv}{qB} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
粒子が円運動を続けるためには、外側に飛び出そうとする勢い(慣性)と、磁場が中心に引っ張る力(ローレンツ力)が常につり合っている必要があります。この「つり合いの式」が円運動の運動方程式です。この式を立てて、求めたい半径 \(r\) について整理すると、答えが導き出せます。
円運動の半径は \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) となります。この式は、粒子の運動量 \(mv\) が大きいほど半径が大きく(曲がりにくく)なり、電荷 \(q\) や磁場の強さ \(B\) が大きいほど半径が小さく(曲がりやすく)なることを示しており、物理的な直感と一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
荷電粒子が円運動する周期 \(T\) と、その速さ \(v\) の関係を問う問題です。周期の定義式に、(2)で求めた半径 \(r\) の式を代入することで、周期 \(T\) がどのような物理量で決まるかを明らかにします。
この設問における重要なポイント
- 周期の定義: \(T = \displaystyle\frac{\text{円周の長さ}}{\text{速さ}} = \frac{2\pi r}{v}\)
- サイクロトロン周期の重要な性質:周期は速さ \(v\) や半径 \(r\) に依存しない。
具体的な解説と立式
等速円運動の周期 \(T\) は、円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで求められます。
$$ T = \frac{2\pi r}{v} $$
この式に、(2)で求めた半径 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) を代入します。
$$ T = \frac{2\pi}{v} \left( \frac{mv}{qB} \right) $$
式を整理すると、
$$ T = \frac{2\pi m}{qB} $$
この結果の式には、速さ \(v\) が含まれていません。したがって、周期 \(T\) と速さ \(v\) は無関係です。
使用した物理公式
- 等速円運動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
- 円運動の半径: \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\)
上記の立式と式変形が計算過程となります。
周期(円を一周するのにかかる時間)を計算します。周期は「円周の長さ ÷ 速さ」です。ここに(2)で求めた半径の式を代入して整理すると、速さ \(v\) の文字が式から消えてしまいます。これは、速い粒子は大きな円を描き、遅い粒子は小さな円を描くため、結果的に一周にかかる時間は速さに関係なくなる、ということを意味します。
周期 \(T\) は速さ \(v\) に依存しないため、関係は「無関係」となります。これはサイクロトロン運動の最も重要な特徴の一つです。
問(4)
思考の道筋とポイント
点Aを通過した粒子が、円運動の中心Oに到達するように磁束密度を変化させる問題です。まず、軌道がどう変わるかを考え、そのために磁束密度をどう変える必要があるかを(2)の半径の式から導きます。次に、変化後の周期を計算し、AからOまでの運動時間(半周分)を求め、元の周期と比較します。
この設問における重要なポイント
- AからOへの運動は、AOを直径とする円運動であり、その軌道は半円である。
- 半径の式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) から、半径と磁束密度の関係を読み取る。
- 周期の式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) から、周期と磁束密度の関係を読み取る。
具体的な解説と立式
1. 磁束密度の変化
- 元の円運動の半径は \(r\) でした。
- 点Aから中心Oに到達するということは、AOを直径とする新しい円軌道を描くことを意味します。したがって、新しい軌道の半径 \(r’\) は、元の半径の半分、すなわち \(r’ = \displaystyle\frac{r}{2}\) になります。
- 半径の公式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) より、半径 \(r\) は磁束密度 \(B\) に反比例します。
- 半径を \(1/2\) にするためには、磁束密度を2倍にする必要があります。新しい磁束密度を \(B’\) とすると、\(B’ = 2B\)。
2. 運動時間の計算
- 元の周期を \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) とします。
- 変化後の新しい周期 \(T’\) は、磁束密度が \(B’ = 2B\) になるので、
$$ T’ = \frac{2\pi m}{qB’} = \frac{2\pi m}{q(2B)} = \frac{1}{2} \left( \frac{2\pi m}{qB} \right) = \frac{1}{2}T $$
周期は元の半分になります。 - 粒子がAからOまで運動するのに要する時間 \(t\) は、新しい円軌道の半周(1/2周)分です。
$$ t = \frac{1}{2} T’ $$ - この \(t\) を、変化前の周期 \(T\) を使って表します。
$$ t = \frac{1}{2} \left( \frac{1}{2}T \right) = \frac{1}{4}T $$
使用した物理公式
- 円運動の半径: \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\)
- 等速円運動の周期: \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\)
- 軌道半径を \(r’ = r/2\) にするため、磁束密度を \(B’ = 2B\) にする。
- 変化後の周期 \(T’\) は \(T’ = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB’} = \frac{2\pi m}{q(2B)} = \frac{1}{2} T\)。
- AからOまでの運動時間は、半周期分なので、\(t = \displaystyle\frac{1}{2} T’ = \frac{1}{2} (\frac{1}{2} T) = \frac{1}{4} T\)。
粒子が円の中心Oにたどり着くには、円の半径をちょうど半分にする必要があります。半径の公式から、半径を半分にするには磁場の強さを2倍にすればよいことがわかります。
次に、時間を考えます。周期の公式から、磁場の強さを2倍にすると、一周にかかる時間は半分になります。
AからOまでは、新しい小さな円の半周です。したがって、かかる時間は「新しい周期の半分」です。
もとの周期を \(T\) とすると、新しい周期は \(T/2\)。その半分なので、かかる時間は \((T/2) \div 2 = T/4\)。
よって、かかる時間はもとの周期の \(1/4\) 倍です。
AからOまで運動するのに要した時間は、変化前の周期の \(1/4\) 倍です。軌道の変化とそれに伴う周期の変化を正しく計算することで、解答を導くことができました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ローレンツ力と円運動の関係:
- 核心: 磁場に垂直に入射した荷電粒子が受けるローレンツ力 \(F=qvB\) が、常に進行方向と垂直に働くため、向心力として機能し、結果として粒子は「等速円運動」をする、という一連の物理現象を理解することが全てです。
- 理解のポイント:
- 力の向き: フレミングの左手の法則で決まる。
- 運動の種類: ローレンツ力は仕事をしないため、運動エネルギーは変化せず、速さが一定の「等速」円運動となる。
- 力学との接続: このローレンツ力が、力学で学ぶ円運動の「向心力」そのものである。
- サイクロトロン周期の不変性:
- 核心: 磁場中での荷電粒子の円運動の周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) は、粒子の速さ \(v\) や軌道半径 \(r\) には依存しない、という極めて重要な性質。
- 理解のポイント: (3)で直接問われているこの性質は、速い粒子ほど大きな円を描くため、結果的に一周にかかる時間は同じになる、という物理的描像と結びつけて理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- サイクロトロン: この問題の原理を応用した粒子加速器。半円運動の周期が速さによらないことを利用して、電場で加速と磁場で偏向を繰り返す問題。
- 質量分析器: イオンを加速・偏向させ、その軌道の半径から質量を特定する装置。\(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) の式を利用して、同位体の分離などを考えます。
- 斜め入射: 磁場に対して斜めに粒子が入射する場合。速度を磁場に平行な成分と垂直な成分に分解します。粒子は垂直成分によって円運動を、平行成分によって等速直線運動をするため、全体として「らせん運動」をします。周期は垂直成分のみで決まります。
- 初見の問題での着眼点:
- 荷電粒子の符号を確認: まず、粒子の電荷が正か負かを確認します。負電荷の場合、フレミングの左手の法則で「電流」の向きを考える際に、速度 \(\vec{v}\) とは逆向きにする必要があります。
- 運動方程式を立てる: 「ローレンツ力=向心力」という関係は、この種のほぼ全ての問題で中心となる式です。迷ったらまず \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\) を立てることから始めます。
- 半径と周期の公式を導出・活用する: 運動方程式から、半径 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) と周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) の2つの公式を導き、問題に応じて使い分けます。特に周期が \(v, r\) に依らないことは頻繁に利用されます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- フレミングの法則の適用ミス:
- 誤解: 負電荷(電子など)の運動なのに、速度の向きをそのまま電流の向きとしてフレミングの左手の法則を適用してしまう。
- 対策: 「電流の定義は正電荷の流れ」であることを徹底します。負電荷の場合は、速度と逆向きを電流の向きと考えます。
- 周期と速さの関係の誤解:
- 誤解: (3)で、速い粒子ほど早く一周するだろうと直感的に考え、「周期は速さに反比例する」と間違えてしまう。
- 対策: 必ず \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) に \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) を代入する計算を実行し、\(v\) が消えることを自分の手で確認します。「速い粒子は、その分だけ遠回り(大きな円)をするので、結局時間は同じ」という物理イメージを持つことも有効です。
- (4)の軌道の解釈ミス:
- 誤解: 点Aから中心Oへの運動を、1/4円の運動と勘違いしてしまう。
- 対策: 図をよく見て、運動の始点と終点を確認します。AからOへの運動は、線分AOを「直径」とする新しい円軌道を描くことになります。したがって、運動するのは「半円」であり、かかる時間は新しい周期の「半分」です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 円運動の運動方程式 (\(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\)):
- 選定理由: 粒子が「円運動」をしているという事実から、その運動を支配する力学法則として選択します。
- 適用根拠: (2)で、観測される運動(半径 \(r\)、速さ \(v\))と、その原因である力(ローレンツ力)とを結びつけるための方程式として適用します。これにより、未知数である半径 \(r\) を他の物理量で表すことが可能になります。
- 周期の公式 (\(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)):
- 選定理由: (3)と(4)で運動の「時間」が問われているため、周期を計算する必要があります。これは等速円運動における周期の定義式です。
- 適用根拠: この定義式に、運動方程式から導かれた半径 \(r\) の式を代入することで、周期が \(m, q, B\) のみで決まるという重要な性質(サイクロトロンの原理)を導き出すことができます。
- 半径と周期の公式の使い分け:
- 選定理由: (4)では、まず軌道を変えるために \(B\) をどう変えるか(半径の変化)を考え、次にかかる時間(周期の変化)を考えます。
- 適用根拠: 軌道の「形」や「大きさ」に関する問いには半径の公式 \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) を、運動の「時間」に関する問いには周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) を使う、というように、それぞれの公式が持つ物理的な意味に応じて使い分けることが論理的な思考法です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の扱いに慣れる: この問題はすべて文字式の計算です。特に、周期の式を導出する際の \(r\) の代入と \(v\) の約分は、落ち着いて正確に行う必要があります。
- 変化前と変化後の区別: (4)のように条件が変化する問題では、変化前の物理量(\(r, B, T\))と変化後の物理量(\(r’, B’, T’\))を、プライム記号(’)などをつけて明確に区別して記述すると、混乱を防げます。
- 比で考える: (4)では、\(t\) を \(T\) の何倍かで答えることが求められています。\(t = \frac{1}{2}T’\) と \(T’ = \frac{1}{2}T\) のように、変化後の量を変化前の量の何倍かで表現していくと、最終的な比の計算が容易になります。
- 結果の物理的意味の吟味: 周期が速さによらない、磁場を強くすると周期が短くなる(速く一周する)といった結果が、自分の物理的な直感と合っているかを確認する癖をつけると、大きな間違いに気づきやすくなります。
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