360 オームの法則
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、導体中の自由電子の運動を単純なモデルで考えることにより、オームの法則や抵抗、ジュール熱といったマクロな電気的性質が、電子の電荷や質量、数密度といったミクロな物理量からどのように導かれるのかを理解する問題です。
- 導体の長さ: \(L\) [m]
- 導体の断面積: \(S\) [m²]
- 導体にかかる電圧: \(V\) [V]
- 電子の電荷: \(-e\) [C](\(e\)は電気素量で正の値)
- 電子の質量: \(m\) [kg]
- 単位体積あたりの自由電子の数: \(n\) [個/m³]
- 電子が衝突するまでの時間(平均自由時間): \(T\) [s]
- ① 導体中の電界の強さ \(E\)
- ② 電子が電界から受ける力の大きさ \(F\)
- ③ 電子の加速度の大きさ \(a\)
- ④ 自由電子の速度の最大値 \(v_{\text{最大}}\)
- ⑤ 自由電子の平均の速度 \(\bar{v}\)
- ⑥ 電流 \(I\) を表す基本式
- ⑦ ⑤を代入した電流 \(I\) の具体的な式
- ⑧ 導体の抵抗 \(R\)
- ⑨ 導体の抵抗率 \(\rho\)
- ⑩ 単位時間あたりに1個の電子が電界からもらうエネルギー \(\varepsilon\)
- ⑪ 単位時間あたりに全電子が電界からもらうエネルギー \(P\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「オームの法則のミクロな導出」です。導体中の自由電子の運動を単純なモデル(ドルーデモデル)で考えることにより、電界、電流、抵抗、抵抗率、ジュール熱といったマクロな物理量が、電子の電荷や質量、数密度といったミクロな量とどのよう関係しているのかを解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電界と電位の関係: 一様な電界中では、電位差 \(V\)、電界の強さ \(E\)、距離 \(d\) の間に \(V=Ed\) の関係が成り立ちます。
- 荷電粒子の運動: 電荷 \(q\) の粒子は、電界 \(E\) から力 \(F=qE\) を受け、運動方程式 \(ma=F\) に従って加速されます。
- 電流のミクロな定義: 電流 \(I\) は、導体の断面を単位時間に通過する電気量であり、電子の平均速度 \(\bar{v}\) を用いて \(I=enS\bar{v}\) と表されます。
- 仕事とエネルギー: 電界が電子にする仕事率(単位時間あたりのエネルギー)は、力と平均速度の積 \(P=F\bar{v}\) で計算できます。導体全体の消費電力は \(P=IV\) とも表されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、導体にかけられた電圧 \(V\) から、内部の電界 \(E\)、電子が受ける力 \(F\)、加速度 \(a\) を順に求めます(空欄①~③)。
- 次に、与えられたv-tグラフのモデルを用いて、電子の最大速度と平均速度を計算します(空欄④、⑤)。
- そして、電流のミクロな定義式に平均速度を代入して電流 \(I\) を求め、オームの法則と比較することで抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\) を導出します(空欄⑥~⑨)。
- 最後に、電子が電界から受ける仕事率を計算し、導体全体の消費電力を求めます(空欄⑩、⑪)。
空欄①
思考の道筋とポイント
導体中の電界の強さ \(E\) を求める問題です。長さ \(L\) の導体に電圧 \(V\) がかかっているとき、導体内部には一様な電界が生じると考えます。このとき、電界の強さ \(E\) と電位差(電圧) \(V\)、距離 \(L\) の間には基本的な関係式が成り立ちます。
この設問における重要なポイント
- 一様な電界: 導体内部の電界は、場所によらず一定の強さであると仮定します。
- 電界と電位の関係: 一様な電界 \(E\) の中で、電界の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差は \(V=Ed\) と表されます。この問題では距離が \(L\) なので、\(V=EL\) となります。
具体的な解説と立式
長さ \(L\) の導体の両端に電圧 \(V\) がかかっているので、導体内部には大きさ \(E\) の一様な電界が生じます。電界の強さ \(E\) と電位差 \(V\)、導体の長さ \(L\) の関係は次式で与えられます。
$$ V = EL $$
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差の関係: \(V = Ed\)
上記の式を \(E\) について解きます。
$$ E = \frac{V}{L} $$
電圧とは「電気的な坂の高さ」のようなもので、電界の強さは「坂の傾き」に相当します。長さ \(L\) の距離で高さ \(V\) の坂があれば、その傾きは \(V/L\) となります。
導体中の電界の強さは \(E = \displaystyle\frac{V}{L}\) [V/m] です。電圧 \(V\) が大きいほど、また導体が短い \(L\) ほど、内部の電界は強くなります。これは直感的にも妥当です。
空欄②
思考の道筋とポイント
自由電子が電界から受ける力の大きさ \(F\) を求める問題です。電荷を持つ粒子が電界中に置かれると、力を受けます。その力の大きさは、電荷の大きさと電界の強さの積で与えられます。
この設問における重要なポイント
- 電子の電荷: 電子の電荷は \(-e\) ですが、問題では力の「大きさ」が問われているため、正の値である電気素量 \(e\) を用います。
- 力の公式: 電荷 \(q\) の粒子が電界 \(E\) から受ける力の公式は \(F=qE\) です。
具体的な解説と立式
電気素量 \(e\) の大きさの電荷を持つ電子は、①で求めた電界 \(E\) から力を受けます。力の大きさ \(F\) は、電荷の大きさ \(e\) と電界の強さ \(E\) の積で表されます。
$$ F = eE $$
使用した物理公式
- 電界から受ける力: \(F = qE\)
上記で立てた式に、①で求めた \(E = \displaystyle\frac{V}{L}\) を代入します。
$$ F = e \times \frac{V}{L} = \frac{eV}{L} $$
電気を帯びた粒(電子)は、電気的な坂(電界)があると、坂を転がり落ちるような力(静電気力)を受けます。その力の大きさは、粒の電気量と坂の傾きの掛け算で決まります。
電子が受ける力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{eV}{L}\) [N] です。この力によって電子は加速されます。力の向きは、電子の電荷が負なので、電界の向きとは逆向きになります。
空欄③
思考の道筋とポイント
電子の加速度の大きさ \(a\) を求める問題です。物体が力を受けると、その方向に加速されます。この関係はニュートンの運動方程式で記述されます。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式: 質量 \(m\) の物体が力 \(F\) を受けて加速度 \(a\) で運動するときの関係式 \(ma=F\) を用います。
- 電子の質量: 加速される物体は電子なので、その質量 \(m\) を使います。
具体的な解説と立式
②で求めた力 \(F\) を受けた質量 \(m\) の電子は、運動方程式に従って加速されます。加速度の大きさを \(a\) とすると、以下の関係が成り立ちます。
$$ ma = F $$
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma = F\)
上記で立てた式を \(a\) について解き、②で求めた \(F = \displaystyle\frac{eV}{L}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{F}{m} \\[2.0ex]&= \frac{eV/L}{m} \\[2.0ex]&= \frac{eV}{mL}
\end{aligned}
$$
物体は、受けた力に比例し、その物体の質量(動きにくさ)に反比例する加速度で運動します。電子も同様に、電界から受けた力によって加速されます。
電子の加速度の大きさは \(a = \displaystyle\frac{eV}{mL}\) [m/s²] です。この加速度は、衝突して速度を失うまでの間、一定であるとモデルでは考えます。
空欄④
思考の道筋とポイント
自由電子の速度の最大値 \(v_{\text{最大}}\) を求める問題です。問題のv-tグラフのモデルでは、電子は衝突直後に速度が0になり、次の衝突までの時間 \(T\) の間、一定の加速度で加速され続けます。
この設問における重要なポイント
- 等加速度直線運動: 電子は一定の加速度 \(a\) で運動します。
- 初速度: 衝突直後の速度は \(0\) と考えます。
- 加速時間: 次の衝突までの時間 \(T\) だけ加速されます。
具体的な解説と立式
電子は、初速度 \(0\) から、③で求めた一定の加速度 \(a\) で時間 \(T\) だけ加速されます。時間 \(T\) 後の速度が最大値 \(v_{\text{最大}}\) となります。等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) を用いると、
$$ v_{\text{最大}} = 0 + aT $$
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の速度: \(v = v_0 + at\)
上記で立てた式に、③で求めた \(a = \displaystyle\frac{eV}{mL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{最大}} &= aT \\[2.0ex]&= \frac{eV}{mL} \times T \\[2.0ex]&= \frac{eVT}{mL}
\end{aligned}
$$
「速さ = 加速の度合い × 加速した時間」という関係です。衝突してから次の衝突までの \(T\) 秒間、一定の割合でどんどん速くなり、衝突直前に速さが最大になります。
自由電子の速度の最大値は \(v_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{eVT}{mL}\) [m/s] です。この速度は、衝突までの時間が長いほど、また加速度が大きいほど大きくなります。
空欄⑤
思考の道筋とポイント
自由電子の平均の速度 \(\bar{v}\) を求める問題です。v-tグラフを見ると、速度は \(0\) から \(v_{\text{最大}}\) まで直線的に(一定の割合で)増加しています。このような場合の平均速度は、簡単に計算できます。
この設問における重要なポイント
- v-tグラフの形状: 速度が時間に対して線形に増加する、原点を通る直線となっています。
- 平均速度の計算: 等加速度運動で速度が \(v_0\) から \(v\) に変化した場合、平均速度は \(\bar{v} = \displaystyle\frac{v_0 + v}{2}\) で求められます。
具体的な解説と立式
電子の速度は、時間 \(0\) で \(0\)、時間 \(T\) で \(v_{\text{最大}}\) となります。この間、速度は一定の割合で増加するため、平均の速度 \(\bar{v}\) は、初速度と最終速度の平均値として計算できます。
$$ \bar{v} = \frac{0 + v_{\text{最大}}}{2} $$
使用した物理公式
- 等加速度運動の平均速度: \(\bar{v} = \displaystyle\frac{v_0 + v}{2}\)
上記で立てた式に、④で求めた \(v_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{eVT}{mL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\bar{v} &= \frac{v_{\text{最大}}}{2} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} \times \frac{eVT}{mL} \\[2.0ex]&= \frac{eVT}{2mL}
\end{aligned}
$$
速度が0から最大値まで一定のペースで増えていくので、その間の平均の速さは、ちょうど最大値の半分になります。例えば、時速0kmから時速100kmまで一定の割合で加速した場合、平均の速さは時速50kmです。
自由電子の平均の速度は \(\bar{v} = \displaystyle\frac{eVT}{2mL}\) [m/s] です。この平均速度は、電子の流れの全体的な速さ(ドリフト速度)と見なすことができ、電流の大きさを決める重要な量です。
空欄⑥
思考の道筋とポイント
電流 \(I\) を、電子の平均速度 \(\bar{v}\) などを用いて表す問題です。電流の正体は電荷の流れであり、その大きさは「導体の断面を1秒間に通過する電気量」として定義されます。
この設問における重要なポイント
- 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\)(単位時間あたりの通過電気量)。
- 通過する電子の数: 1秒間に導体の断面を通過する電子の数を考えます。平均速度 \(\bar{v}\) で動く電子は、1秒間に距離 \(\bar{v}\) だけ進みます。したがって、断面積 \(S\) の断面を1秒間に通過する電子は、体積 \(S\bar{v}\) の中に含まれる電子です。
- 総電気量: 体積 \(S\bar{v}\) の中の電子数は \(n \times (S\bar{v})\) 個なので、その総電気量は \(e \times (nS\bar{v})\) となります。
具体的な解説と立式
電流 \(I\) は、導体の断面積 \(S\) を単位時間あたりに通過する電気量として定義されます。
単位体積あたりの自由電子の数は \(n\)、電子1個の電荷の大きさは \(e\)、電子の平均速度は \(\bar{v}\) です。
1秒間に断面積 \(S\) の面を通過する電子は、底面積 \(S\)、高さ \(\bar{v}\) の円柱の体積 \(S\bar{v}\) 内に含まれる電子です。
この体積内の電子の数は \(n \times S\bar{v}\) 個です。
したがって、1秒間に通過する総電気量、すなわち電流 \(I\) は、
$$ I = e \times (nS\bar{v}) = enS\bar{v} $$
使用した物理公式
- 電流のミクロな定義: \(I = enS\bar{v}\)
この設問は公式を導出・記述するものであり、具体的な計算はありません。
電流の大きさは、①電子1個の電気量、②電子の密度、③導線の断面積、④電子の平均速度、の4つの要素の掛け算で決まります。これらが多いほど、速いほど、太いほど、たくさんの電気が流れることになります。
電流を表す基本式は \(I = enS\bar{v}\) [A] です。この式は、ミクロな電子の運動とマクロな電流を結びつける非常に重要な関係式です。
空欄⑦
思考の道筋とポイント
⑥で導いた電流の式に、⑤で計算した具体的な平均速度 \(\bar{v}\) の値を代入する問題です。これにより、電流 \(I\) が、電圧 \(V\) や導体の材質・形状を決めるミクロな量(\(m, e, n, T, L, S\))でどのように表されるかがわかります。
この設問における重要なポイント
- 代入: ⑥の \(I = enS\bar{v}\) に、⑤の \(\bar{v} = \displaystyle\frac{eVT}{2mL}\) を代入します。
具体的な解説と立式
⑥で求めた電流の基本式 \(I = enS\bar{v}\) に、⑤で求めた平均速度 \(\bar{v}\) の具体的な表現を代入します。
$$ I = enS\bar{v} $$
使用した物理公式
- 空欄⑤と空欄⑥の結果
$$
\begin{aligned}
I &= enS \times \left( \frac{eVT}{2mL} \right) \\[2.0ex]&= \frac{e^2 n S T V}{2mL}
\end{aligned}
$$
模範解答の表記に合わせると、
$$ I = \frac{e^2 nTSV}{2mL} $$
⑥で作った電流のレシピ(\(I = enS\bar{v}\))に、⑤で計算した電子の平均の速さの具体的な値を当てはめて、最終的な電流の式を完成させます。
電流 \(I\) は \(I = \displaystyle\frac{e^2 nTSV}{2mL}\) [A] と表されます。この式をよく見ると、\(I\) は電圧 \(V\) に比例していることがわかります(\(I \propto V\))。これはまさにオームの法則が成り立つことをミクロな視点から示したものです。
空欄⑧
思考の道筋とポイント
導体の抵抗 \(R\) を求める問題です。オームの法則 \(V=RI\) を用いて、⑦で求めた \(I\) と \(V\) の関係式から抵抗 \(R\) を導出します。
この設問における重要なポイント
- オームの法則: 抵抗 \(R\) は、電圧 \(V\) と電流 \(I\) の比、\(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) で定義されます。
- 式の変形: ⑦で求めた式を \(V\) について解くか、直接 \(R = \displaystyle\frac{V}{I}\) を計算します。
具体的な解説と立式
オームの法則によれば、抵抗 \(R\)、電圧 \(V\)、電流 \(I\) の間には \(V=RI\) の関係があります。これを \(R\) について解くと、
$$ R = \frac{V}{I} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
上記で立てた式に、⑦で求めた \(I = \displaystyle\frac{e^2 nTSV}{2mL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{V}{\displaystyle\frac{e^2 nTSV}{2mL}} \\[2.0ex]&= V \times \frac{2mL}{e^2 nTSV} \\[2.0ex]&= \frac{2mL}{e^2 nTS}
\end{aligned}
$$
オームの法則によれば、抵抗は「電圧 ÷ 電流」で計算できます。⑦で求めた電流の式を使ってこの割り算を実行すると、抵抗がミクロな量でどのように表されるかがわかります。
導体の抵抗は \(R = \displaystyle\frac{2mL}{e^2 nTS}\) [Ω] です。この式から、抵抗は導体の長さ \(L\) に比例し、断面積 \(S\) に反比例する(\(R \propto \displaystyle\frac{L}{S}\))という、よく知られた性質が導かれます。
空欄⑨
思考の道筋とポイント
導体の抵抗率 \(\rho\) を求める問題です。抵抗 \(R\) は、導体の長さ \(L\) と断面積 \(S\) という形状に依存します。この形状依存性を分離した、物質固有の値を抵抗率 \(\rho\) といいます。関係式 \(R = \rho \displaystyle\frac{L}{S}\) を用います。
この設問における重要なポイント
- 抵抗と抵抗率の関係: \(R = \rho \displaystyle\frac{L}{S}\) という関係を使い、\(\rho\) について解きます。
- 物理的意味: 抵抗率は、その物質そのものの電気の流れにくさを表す量です。
具体的な解説と立式
抵抗 \(R\) と抵抗率 \(\rho\)、導体の長さ \(L\)、断面積 \(S\) の間には、以下の関係があります。
$$ R = \rho \frac{L}{S} $$
これを \(\rho\) について解くと、
$$ \rho = R \frac{S}{L} $$
使用した物理公式
- 抵抗と抵抗率の関係: \(R = \rho \displaystyle\frac{L}{S}\)
上記で立てた式に、⑧で求めた \(R = \displaystyle\frac{2mL}{e^2 nTS}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\rho &= \left( \frac{2mL}{e^2 nTS} \right) \times \frac{S}{L} \\[2.0ex]&= \frac{2m}{e^2 nT}
\end{aligned}
$$
抵抗の値は導線の長さや太さで変わってしまいますが、抵抗率はその物質固有の値です。⑧で求めた抵抗の式から、長さ \(L\) と断面積 \(S\) の影響を取り除くと、抵抗率が求まります。
抵抗率は \(\rho = \displaystyle\frac{2m}{e^2 nT}\) [Ω・m] です。この式には導体の形状に関する \(L\) や \(S\) が含まれておらず、電子の質量 \(m\)、電荷 \(e\)、数密度 \(n\)、衝突までの時間 \(T\) といった、物質の種類や状態で決まるミクロな量だけで表されています。これは抵抗率が物質固有の量であることと整合します。
空欄⑩
思考の道筋とポイント
単位時間あたりに1個の電子が電界からもらうエネルギー(仕事率) \(\varepsilon\) を求める問題です。仕事率は、力と速度の積で計算できます。ここでは、電子が受ける力 \(F\) と、電子の平均速度 \(\bar{v}\) を使います。
この設問における重要なポイント
- 仕事率の公式: 力 \(F\) を加えながら速度 \(v\) で動く物体に対する仕事率は \(P = Fv\) です。
- 平均速度の使用: 電子の速度は変動しますが、単位時間あたりの平均的なエネルギーを考えるので、平均速度 \(\bar{v}\) を用いるのが適切です。
具体的な解説と立式
単位時間あたりに力がする仕事、すなわち仕事率は、力と速度の積で与えられます。電子1個が電界から受ける力の大きさは \(F\)、電子の平均速度は \(\bar{v}\) なので、電子1個が単位時間あたりに電界からもらうエネルギー \(\varepsilon\) は、
$$ \varepsilon = F \bar{v} $$
使用した物理公式
- 仕事率: \(P = Fv\)
上記で立てた式に、②で求めた \(F = \displaystyle\frac{eV}{L}\) と ⑤で求めた \(\bar{v} = \displaystyle\frac{eVT}{2mL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\varepsilon &= \left( \frac{eV}{L} \right) \times \left( \frac{eVT}{2mL} \right) \\[2.0ex]&= \frac{e^2 V^2 T}{2mL^2}
\end{aligned}
$$
電界が電子を引っ張る力と、電子が実際に進む平均の速さを掛け合わせることで、電界が電子1個に対して1秒あたりにどれだけのエネルギーを与えているか(仕事をしているか)がわかります。
電子1個が単位時間あたりにもらうエネルギーは \(\varepsilon = \displaystyle\frac{e^2 V^2 T}{2mL^2}\) [J/s] です。このエネルギーは、電子がイオンと衝突することで熱エネルギーに変わり、導体が発熱する原因となります。
空欄⑪
思考の道筋とポイント
単位時間あたりに導体中の「全」自由電子が電界からもらうエネルギー \(P\) を求める問題です。これは導体全体の消費電力に相当します。⑩で求めた電子1個あたりのエネルギー \(\varepsilon\) に、導体内に存在する全自由電子の数を掛けることで求められます。
この設問における重要なポイント
- 全自由電子の数: 導体の体積は \(LS\)。単位体積あたりの電子数は \(n\)。したがって、導体内の全自由電子の数は \(N_{\text{全}} = nLS\) です。
- 総エネルギー: 全エネルギーは (1個あたりのエネルギー) × (総数) で計算します。
具体的な解説と立式
導体全体の消費電力 \(P\) は、電子1個あたりの仕事率 \(\varepsilon\) と、導体内の全電子数 \(N_{\text{全}}\) の積で与えられます。
導体の体積は \(V_{\text{導体}} = LS\) であり、単位体積あたりの電子数は \(n\) なので、全電子数は \(N_{\text{全}} = nLS\) です。
したがって、
$$ P = N_{\text{全}} \times \varepsilon = (nLS) \varepsilon $$
使用した物理公式
- 空欄⑩の結果
上記で立てた式に、⑩で求めた \(\varepsilon = \displaystyle\frac{e^2 V^2 T}{2mL^2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= (nLS) \times \left( \frac{e^2 V^2 T}{2mL^2} \right) \\[2.0ex]&= \frac{n L S e^2 V^2 T}{2mL^2} \\[2.0ex]&= \frac{e^2 n S T V^2}{2mL}
\end{aligned}
$$
模範解答の表記に合わせると、
$$ P = \frac{e^2 nTSV^2}{2mL} $$
電子1個が1秒あたりにもらうエネルギー(⑩の答え)に、導体の中にいる電子の総数を掛ければ、導体全体で1秒あたりに消費されるエネルギー(消費電力)がわかります。
思考の道筋とポイント
導体全体の消費電力 \(P\) は、マクロな公式 \(P=IV\) を用いても計算できます。このアプローチは、ミクロなモデルから導出した電流 \(I\) の式が、マクロな物理法則と整合しているかを確認する良い機会となります。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の公式: 導体に電圧 \(V\) をかけて電流 \(I\) が流れるとき、その消費電力は \(P=IV\) で与えられます。
- 電流Iの利用: ⑦で求めた電流 \(I\) の式を利用します。
具体的な解説と立式
マクロな電磁気学によれば、電圧 \(V\)、電流 \(I\) のときの消費電力 \(P\) は次式で与えられます。
$$ P = IV $$
使用した物理公式
- 消費電力: \(P = IV\)
上記で立てた式に、⑦で求めた \(I = \displaystyle\frac{e^2 nTSV}{2mL}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \left( \frac{e^2 nTSV}{2mL} \right) \times V \\[2.0ex]&= \frac{e^2 nTSV^2}{2mL}
\end{aligned}
$$
導体全体の消費電力は、単純に「流れる電流 × かけた電圧」で計算できます。⑦で求めた電流の式を使ってこの掛け算を実行します。
導体全体の消費電力は \(P = \displaystyle\frac{e^2 nTSV^2}{2mL}\) [J/s] です。この結果は、電子1個のエネルギーから計算した結果と完全に一致しました。これは、ここで用いた電子の運動モデルが、マクロな消費電力の法則と矛盾しないことを示しています。ミクロな視点とマクロな視点が繋がった瞬間です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電界中の荷電粒子の運動(ミクロな視点):
- 核心: この問題の根幹は、導体内の無数の自由電子が、電界から力を受けて加速し、陽イオンに衝突して減速するという運動を繰り返す、というミクロなモデルです。この一連のプロセスを物理法則で記述することが全ての出発点です。
- 理解のポイント:
- 電界の生成: 電圧 \(V\) と長さ \(L\) から電界 \(E = V/L\) が決まる。
- 力の発生: 電界 \(E\) から電子は力 \(F = eE\) を受ける。
- 加速運動: 力 \(F\) により電子は運動方程式 \(ma=F\) に従って加速する。
- 平均化: 衝突を繰り返すため、個々の電子の複雑な運動を「平均速度 \(\bar{v}\)」という量で代表させる。
- 電流と抵抗の定義(マクロな視点との接続):
- 核心: 上記のミクロな電子の運動(特に平均速度 \(\bar{v}\))を、我々が測定可能なマクロな量である「電流 \(I\)」に結びつけることが第二の核心です。
- 理解のポイント:
- 電流の定義: 電流 \(I\) は、ミクロな量を用いて \(I = enS\bar{v}\) と表される。この式がミクロとマクロの架け橋です。
- オームの法則: 導出された \(I\) と \(V\) の関係式から、抵抗 \(R = V/I\) や抵抗率 \(\rho = R(S/L)\) というマクロな量を定義・計算する。
- エネルギー: 電子が電界から得るエネルギー(仕事)が、導体全体の消費電力(ジュール熱)\(P=IV\) につながる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホール効果: 磁場中の導体を流れる電流を考える問題。電子は電界から受ける力に加えて、磁場からのローレンツ力も受ける。力のつり合いを考えることで、ホール電圧や荷電粒子の符号などを分析できる。
- 半導体中のキャリアの運動: 半導体では、電子(負電荷)と正孔(正電荷と見なせる)の2種類のキャリアが電流に寄与する。それぞれのキャリアについて同様のモデルを考え、電流を足し合わせる。
- プラズマや電解液中のイオンの運動: 気体や液体中の荷電粒子も、電界によって動かされる。粒子の種類や相互作用は異なるが、「電界→力→運動→電流」という基本的な思考フローは共通している。
- 初見の問題での着眼点:
- ミクロとマクロの対応関係を意識する: 問題で与えられているのはミクロな量(\(m, e, n\)など)か、マクロな量(\(V, I, R\)など)かを見極める。そして、どちらからどちらへと思考を進めるべきか(この問題のようにミクロからマクロを導くのか、逆か)を把握する。
- 運動のモデルを正確に読み取る: 問題文や図で、荷電粒子の運動がどのようにモデル化されているか(例:衝突で速度が0になる、等速直線運動と見なす、など)を正確に把握する。このモデルが立式の前提条件となる。
- 「平均」の意味を考える: 電子の速度は刻一刻と変化するが、電流や抵抗といった定常的な現象を扱う際は、時間平均された「平均速度」が重要になる。どの段階で平均の操作を行うかを見極める。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電荷の符号の扱い:
- 誤解: 電子の電荷は \(-e\) なので、力の計算で \(F=(-e)E\) とし、その後の計算で符号の扱いに混乱する。
- 対策: 問題で「力の大きさ」や「加速度の大きさ」が問われている場合は、最初から電荷の大きさ \(e\) を使って \(F=eE\) と立式するのが安全。力の向きは、電界の向きと逆であると別途理解しておけばよい。
- 最大速度と平均速度の混同:
- 誤解: 電流の式 \(I=enS\bar{v}\) に、平均速度 \(\bar{v}\) ではなく最大速度 \(v_{\text{最大}}\) を代入してしまう。
- 対策: 電流は、電子集団の「平均的」な流れによって生じるマクロな現象であることを常に意識する。v-tグラフを描いて、平均がどの値になるかを視覚的に確認する習慣をつける。この問題のモデルでは \(\bar{v} = v_{\text{最大}}/2\) であり、常に \(v_{\text{最大}}\) より小さい。
- 仕事率の計算での速度の選択:
- 誤解: ⑩で電子1個の仕事率を計算する際に、どの速度を使えばよいか迷う。
- 対策: 「単位時間あたりのエネルギー」とは、平均的な仕事率を指す。したがって、ここでも平均速度 \(\bar{v}\) を用いるのが妥当である。\(P = F\bar{v}\) と正しく立式する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- ピンボールマシン・モデル: 導体内部を、たくさんのピン(陽イオン)が固定されたピンボール台とイメージする。電子(ボール)は、電界という「台の傾き」によって一方向に加速されるが、すぐにピンにぶつかっては跳ね返され(速度を失い)、また加速される…という運動を繰り返す。このジグザグ運動全体として、ゆっくりと電界の逆向きに流れていく様子がドリフト速度(平均速度)のイメージである。
- v-tグラフの活用: 問題で与えられたv-tグラフは、このモデルを理解する上で最も重要な図。グラフの傾きが「加速度 \(a\)」、グラフの最高点が「最大速度 \(v_{\text{最大}}\)」、グラフと時間軸で囲まれた面積を時間で割ったものが「平均速度 \(\bar{v}\)」に対応することを視覚的に理解する。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 力の向きと運動の向き: 電界の向き(高電位→低電位)、電子が受ける力の向き(電界と逆向き)、電子の平均的な運動(ドリフト)の向き(力と同じ向き)、電流の向き(電子の運動と逆向き)を、一つの図に明確に描き分ける。これらの関係が混乱しないように整理することが重要。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電界と電位の関係 (\(E=V/L\)):
- 選定理由: マクロな操作である「電圧 \(V\) をかける」ことから、ミクロな電子に直接作用する「電界 \(E\)」を求めるために必要。
- 適用根拠: 一様な電界という理想的な状況下での、電位(電気的な位置エネルギー)と電界(電気的な力)の関係を定義する基本公式。
- 運動方程式 (\(ma=F\)):
- 選定理由: 電子が電界から受けた力 \(F\) によって、どのように運動が変化するのか(加速度 \(a\) が生じるのか)を記述するため。力学と電磁気学を結びつける法則。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。あらゆる物体の運動を支配する基本原理。
- 電流のミクロな定義 (\(I=enS\bar{v}\)):
- 選定理由: 電子のミクロな運動(平均速度 \(\bar{v}\))の結果として、どのようなマクロな現象(電流 \(I\))が現れるかを記述するため。この問題における「ミクロとマクロの架け橋」となる最重要公式。
- 適用根拠: 電流が「単位時間に断面を通過する電荷の量」であるという定義そのものを、電子の数と速度を用いて表現したもの。
- 抵抗と抵抗率の関係 (\(R=\rho L/S\)):
- 選定理由: 導体全体の電気の流れにくさ(抵抗 \(R\))から、物質固有の性質(抵抗率 \(\rho\))を分離して評価するため。
- 適用根拠: 抵抗が導体の長さに比例し、断面積に反比例するという実験事実を数式化したもの。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 電子1個の運動解析 (ミクロ):
- 戦略: 電圧から出発し、電子1個の運動を順に追う。
- フロー: ①電圧 \(V\) → ②電界 \(E=V/L\) → ③力 \(F=eE\) → ④加速度 \(a=F/m\) → ⑤最大速度 \(v_{\text{最大}}=aT\) → ⑥平均速度 \(\bar{v}=v_{\text{最大}}/2\)。
- 導体全体の性質導出 (マクロ):
- 戦略: 電子の平均的な振る舞いから、導体全体の電気的性質を導く。
- フロー: ①平均速度 \(\bar{v}\) → ②電流 \(I=enS\bar{v}\) → ③抵抗 \(R=V/I\) → ④抵抗率 \(\rho=R(S/L)\)。
- エネルギーの計算:
- 戦略: 電子が電界から得るエネルギーを計算し、導体全体に拡張する。
- フロー: ①電子1個の仕事率 \(\varepsilon = F\bar{v}\) → ②導体全体の仕事率(消費電力) \(P = (\text{全電子数}) \times \varepsilon\)。または、マクロな公式 \(P=IV\) で検算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように多くの物理量が関わる場合、途中で数値を代入する箇所はないが、後の設問で前の設問の結果を使うことが多い。例えば、⑧で抵抗 \(R\) を求める際に、\(I\) の式を丸ごと代入する。このとき、分数の割り算(逆数を掛ける)を丁寧に行う。
\(R = \displaystyle\frac{V}{I} = V \div \left( \frac{e^2 nTSV}{2mL} \right) = V \times \frac{2mL}{e^2 nTSV}\)
ここで、分子と分母の \(V\) を確実に約分するなど、慎重に式を整理する。 - 単位による検算: 例えば、⑨で抵抗率 \(\rho\) を求めた後、その単位を考えてみる。
\(\rho = \displaystyle\frac{2m}{e^2 nT}\) の単位は [kg] / ([C]²・[m⁻³]・[s]) となり、これが本当に [Ω・m] と等価なのかを検証するのは難しい。しかし、\(R=\rho L/S\) から \(\rho = RS/L\) なので、単位は [Ω]・[m²]/[m] = [Ω・m] となるはずだ、という確認はできる。 - 物理的な意味からの確認: 導出された式の物理的な意味を考える。例えば、⑨の抵抗率 \(\rho = \displaystyle\frac{2m}{e^2 nT}\) は、電子の質量 \(m\) が大きいほど(動きにくい)、数密度 \(n\) が小さいほど(電荷を運ぶ担い手が少ない)、衝突時間 \(T\) が短いほど(すぐに邪魔される)、抵抗率が大きくなることを示しており、物理的に直感的な結果となっている。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- ⑦ 電流: \(I = \displaystyle\frac{e^2 nTSV}{2mL}\)。この式は \(I \propto V\) を示しており、オームの法則と整合する。これはモデルの妥当性を示唆する。
- ⑧ 抵抗: \(R = \displaystyle\frac{2mL}{e^2 nTS}\)。この式は \(R \propto L\) かつ \(R \propto 1/S\) を示しており、抵抗に関する既知の法則と一致する。
- ⑨ 抵抗率: \(\rho = \displaystyle\frac{2m}{e^2 nT}\)。この式には形状に関する \(L, S\) が含まれていない。これは抵抗率が物質固有の量であるという事実と一致する。
- 別解との比較:
- ⑪ 消費電力: ミクロなアプローチ(全電子の仕事率の和)で求めた \(P = (nLS)\varepsilon\) と、マクロな公式 \(P=IV\) を使ったアプローチで求めた結果が完全に一致した。これは、①から⑩までの計算過程全体が自己無撞着であり、かつマクロな物理法則と整合していることの強力な証拠となる。異なる視点から同じ結論に至ることは、理解の正しさを裏付ける。
361 発熱量を最大にする抵抗
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、内部抵抗を持つ電池に外部抵抗を接続したときの、外部抵抗での消費電力(発熱量)に関する問題です。特に、消費電力が最大となる条件を求めることが核心となります。
- 電池の起電力: \(E\) [V]
- 電池の内部抵抗: \(r\) [Ω]
- 外部抵抗の抵抗値: \(R\) [Ω]
- (1) 1秒間に抵抗\(R\)で発生する熱量 \(Q\) [J]
- (2) 抵抗\(R\)で発生する熱量を最大にするための\(R\)の値
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この解説は、模範解答とは(2)の最大値を求めるアプローチが異なります。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- (2) 消費電力の最大値問題: 模範解答では、分母に相加・相乗平均の関係が使える形を無理やり作り出して最小値を求めています。本解説では、より汎用性が高く、物理的な意味も捉えやすい「微分を用いて最大値を求める方法」をメインの解法として採用します。
- なぜ異なるアプローチを取るのか
- 教育的配慮: 微分を用いて関数の最大・最小を求める方法は、数学で学習する基本的な手法であり、物理の様々な最適化問題に応用できるため有益であると判断しました。
- 物理的直感: 消費電力を抵抗\(R\)の関数とみなし、そのグラフの接線の傾きが0になる点が最大値を与える、という考え方は物理的にも直感的です。
- 汎用性: 相加・相乗平均の関係は、特定の形をした式にしか適用できませんが、微分はより広い範囲の関数に適用可能です。
- 結果への影響
- 最終的な答え(\(R=r\))は模範解答と一致しますが、そこに至るまでの計算過程と論理展開が異なります。模範解答で用いられている相加・相乗平均による解法は、別解として紹介します。
この問題のテーマは「電力の最大供給条件」です。電源(内部抵抗を持つ電池)から負荷(外部抵抗)へ、最も効率よく電力を供給するための条件を導き出します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則: 内部抵抗を含む回路全体にオームの法則を適用し、流れる電流を求めます。
- ジュール熱(消費電力): 抵抗で消費される電力(単位時間あたりの熱量)は、\(P = RI^2\) で計算されます。
- 関数の最大・最小問題: (2)では、消費電力を\(R\)の関数とみなし、その最大値を求めます。これには、微分法を用いるのが最も系統的で強力なアプローチです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回路に流れる電流\(I\)を、起電力\(E\)、内部抵抗\(r\)、外部抵抗\(R\)を用いて表します。次に、その電流\(I\)を使って、抵抗\(R\)で1秒間に発生する熱量(=消費電力)\(Q\)を計算します(問1)。
- 次に、(1)で求めた熱量\(Q\)を、可変の抵抗値\(R\)の関数と見なします。この関数が最大値をとる条件を、微分を用いて求めます(問2)。
問(1)
思考の道筋とポイント
1秒間に抵抗\(R\)で発生する熱量を求める問題です。熱量は消費電力と等価であり、消費電力は抵抗値と電流の2乗の積で計算できます。まずは回路に流れる電流を求めることが第一歩です。
この設問における重要なポイント
- 回路全体の抵抗: 電池の内部抵抗\(r\)と外部抵抗\(R\)は直列に接続されていると見なせるため、回路全体の合成抵抗は \(R+r\) となります。
- 回路電流: 回路全体にオームの法則を適用して、流れる電流\(I\)を求めます。
- ジュール熱の公式: 抵抗\(R\)での消費電力(単位時間あたりのジュール熱)は \(P = RI^2\) で計算します。1秒間の熱量は、この電力の値そのものになります。
具体的な解説と立式
まず、回路に流れる電流の強さ \(I\) を求めます。起電力 \(E\)、回路全体の抵抗が \(R+r\) なので、オームの法則より、
$$ I = \frac{E}{R+r} \quad \cdots ① $$
次に、抵抗\(R\)で単位時間あたりに発生する熱量、すなわち消費電力 \(P_R\) を計算します。求める熱量 \(Q\) は、1秒間あたりの熱量なので \(Q=P_R\) です。
$$ Q = P_R = RI^2 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R_{\text{全}}}\)
- ジュール熱(消費電力): \(P = RI^2\)
②式に①式を代入して、\(Q\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q &= R \left( \frac{E}{R+r} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{RE^2}{(R+r)^2}
\end{aligned}
$$
まず、電池のパワー(起電力\(E\))を、回路全体の抵抗(外部抵抗\(R\)と内部抵抗\(r\)の合計)で割って、回路に流れる電流の大きさを計算します。次に、その電流を使って、抵抗\(R\)だけで消費される電力(熱量)を「\(R \times (\text{電流})^2\)」の公式で計算します。
1秒間に抵抗\(R\)で発生する熱量は \(Q = \displaystyle\frac{RE^2}{(R+r)^2}\) [J] です。この式は、外部抵抗\(R\)の値によって熱量\(Q\)が変化することを示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
抵抗\(R\)で発生する熱量\(Q\)を最大にするための\(R\)の値を求める問題です。(1)で求めた\(Q\)の式は、\(R\)を変数とする関数と見なせます。この関数 \(Q(R)\) の最大値を求めるには、微分法を用いるのが最も確実で汎用性の高い方法です。
この設問における重要なポイント
- 関数の最大値: ある関数が最大値(または最小値)をとるとき、その点での微分係数(グラフの接線の傾き)は0になります。
- 商の微分法: \(Q(R) = \displaystyle\frac{RE^2}{(R+r)^2}\) を\(R\)で微分するために、商の微分公式 \(\left(\displaystyle\frac{f}{g}\right)’ = \displaystyle\frac{f’g – fg’}{g^2}\) を用います。
具体的な解説と立式
(1)で求めた熱量 \(Q\) を \(R\) の関数 \(Q(R)\) と考えます。
$$ Q(R) = \frac{RE^2}{(R+r)^2} $$
この関数が最大値をとる条件は、\(Q(R)\) を \(R\) で微分した導関数 \(\displaystyle\frac{dQ}{dR}\) が0になるときです。
$$ \frac{dQ}{dR} = 0 $$
使用した物理公式
- 関数の最大・最小条件(微分法): \(\displaystyle\frac{df(x)}{dx} = 0\)
- 商の微分法
\(Q(R)\) を \(R\) で微分します。\(E^2\) は定数なので、前に出しておきます。
$$ Q(R) = E^2 \frac{R}{(R+r)^2} $$
商の微分法を用いて、
$$
\begin{aligned}
\frac{dQ}{dR} &= E^2 \frac{d}{dR} \left( \frac{R}{(R+r)^2} \right) \\[2.0ex]&= E^2 \frac{(R)'(R+r)^2 – R \{(R+r)^2\}’}{\{(R+r)^2\}^2} \\[2.0ex]&= E^2 \frac{1 \cdot (R+r)^2 – R \cdot 2(R+r) \cdot (R+r)’}{(R+r)^4} \\[2.0ex]&= E^2 \frac{(R+r)^2 – 2R(R+r)}{(R+r)^4}
\end{aligned}
$$
分子の共通因数 \((R+r)\) で約分すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{dQ}{dR} &= E^2 \frac{(R+r) – 2R}{(R+r)^3} \\[2.0ex]&= E^2 \frac{r-R}{(R+r)^3}
\end{aligned}
$$
\(\displaystyle\frac{dQ}{dR} = 0\) となる条件は、分子が0になるときなので、
$$ r-R = 0 $$
したがって、
$$ R = r $$
このとき、\(R<r\) で \(\displaystyle\frac{dQ}{dR}>0\) (増加)、\(R>r\) で \(\displaystyle\frac{dQ}{dR}<0\) (減少) となるため、\(R=r\) で \(Q\) は確かに最大値をとります。
抵抗\(R\)で発生する熱量\(Q\)を、横軸を\(R\)としたグラフに描くことを想像します。このグラフの山のてっぺん(最大値)を探すのが目的です。山のてっぺんでは、グラフの接線の傾きがちょうど0になります。この「傾きが0」という条件を、微分を使って数式にし、それを満たす\(R\)の値を求めます。
思考の道筋とポイント
模範解答で用いられている、相加・相乗平均の関係を利用する方法です。\(Q\)が最大になるのは、その逆数 \(\displaystyle\frac{1}{Q}\) が最小になるとき、という考え方で式を変形していきます。
この設問における重要なポイント
- 逆数を考える: \(Q\) の式は分子にも分母にも変数\(R\)があり扱いにくいため、逆数をとって \(\displaystyle\frac{1}{Q} = \frac{(R+r)^2}{RE^2}\) を考えます。
- 式変形: 分子を展開し、分母の\(R\)で各項を割ることで、相加・相乗平均の関係が適用できる形 \((x + \frac{c}{x})\) を作り出します。
- 相加・相乗平均の関係: 正の数 \(a, b\) について、\(\displaystyle\frac{a+b}{2} \ge \sqrt{ab}\) が常に成り立ちます。等号成立は \(a=b\) のときです。これを \(a+b \ge 2\sqrt{ab}\) の形で用います。
具体的な解説と立式
熱量 \(Q\) が最大となるとき、その逆数 \(\displaystyle\frac{1}{Q}\) は最小となります。
$$ \frac{1}{Q} = \frac{(R+r)^2}{RE^2} $$
この式を変形して、最小値を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{Q} &= \frac{1}{E^2} \frac{R^2 + 2Rr + r^2}{R} \\[2.0ex]&= \frac{1}{E^2} \left( R + 2r + \frac{r^2}{R} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{E^2} \left( R + \frac{r^2}{R} + 2r \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(R>0\) なので、\(R\) と \(\displaystyle\frac{r^2}{R}\) はともに正です。したがって、この2項に対して相加・相乗平均の関係を適用できます。
$$ R + \frac{r^2}{R} \ge 2\sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} = 2\sqrt{r^2} = 2r $$
この関係から、\(\left( R + \displaystyle\frac{r^2}{R} \right)\) の最小値は \(2r\) であることがわかります。
等号が成立するのは、
$$ R = \frac{r^2}{R} $$
すなわち \(R^2 = r^2\)。\(R>0, r>0\) より、
$$ R = r $$
のときです。
このとき、\(\displaystyle\frac{1}{Q}\) は最小値をとるので、\(Q\) は最大値をとります。
使用した物理公式
- 相加・相乗平均の関係
上記の議論により、\(R=r\) のときに \(Q\) が最大になることが示されました。
熱量\(Q\)の式を直接扱うのが難しいので、代わりに逆数 \(\displaystyle\frac{1}{Q}\) を考えます。\(Q\)が最大になるのは、\(\displaystyle\frac{1}{Q}\)が最小になるときです。この\(\displaystyle\frac{1}{Q}\)の式をうまく変形すると、「ある数+その逆数」のような形が出てきます。この形の式は、「ある数」とその「逆数の項」が等しくなったときに最小値をとる、という数学の性質(相加・相乗平均の関係)を使って、最小になる条件を求めます。
抵抗\(R\)で発生する熱量を最大にするには、\(R=r\) とすればよいことがわかります。これは「電力の最大供給条件」として知られる非常に重要な結果です。外部抵抗と電源の内部抵抗が等しいときに、電源から外部抵抗へ供給される電力が最大になります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 内部抵抗を含む回路のオームの法則:
- 核心: 電池は理想的な起電力源ではなく、内部に抵抗\(r\)を持つと考えるのが現実的なモデルです。回路を流れる電流を計算する際は、外部抵抗\(R\)だけでなく、この内部抵抗\(r\)も考慮に入れ、回路全体の抵抗を \(R+r\) としてオームの法則を適用することが第一の核心です。
- 理解のポイント: \(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) という式は、電池の起電力\(E\)が、外部抵抗\(R\)と内部抵抗\(r\)の両方で消費(電圧降下)されることを意味しています。
- 電力の最大供給条件:
- 核心: (2)で問われている「抵抗に発生する熱量を最大にしたい」という問いは、物理学・工学において「電力の最大供給条件」として知られる普遍的なテーマです。電源(内部抵抗\(r\))から負荷(外部抵抗\(R\))へ供給される電力が最大になるのは、外部抵抗と内部抵抗が等しくなるとき(\(R=r\))である、という結論が第二の核心です。
- 理解のポイント: この条件は、単に公式として暗記するのではなく、(1)で求めた電力の式 \(P(R) = \displaystyle\frac{RE^2}{(R+r)^2}\) から、微分法や相加・相乗平均の関係を用いて自力で導出できることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- インピーダンスマッチング: 交流回路において、電源から負荷へ最大電力を供給するためには、電源の内部インピーダンスと負荷のインピーダンスを整合させる(共役複素数の関係にする)必要があります。これは直流回路における本問題の考え方を交流に拡張したものです。
- 音響機器の接続: アンプ(電源)とスピーカー(負荷)を接続する際にも、インピーダンスを合わせることで効率よく音響エネルギーを伝達できます。
- アンテナと受信機: アンテナが受信した微弱な電波のエネルギーを、受信機に最大限伝えるためにも、インピーダンスマッチングの考え方が不可欠です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「〜を最大(最小)にしたい」という文言に注目する: このような最適化問題は、物理量を何かの変数(この問題では\(R\))の関数として表現し、その関数の最大・最小を求める問題に帰着します。
- 変数と定数を区別する: 問題の中で変化させる量(変数)と、固定された量(定数)を明確に区別します。この問題では\(R\)が変数で、\(E, r\)が定数です。
- 関数を立てる: 最大化(または最小化)したい物理量(この問題では熱量\(Q\))を、変数(\(R\))を使って数式で表現します。\(Q(R) = \dots\) の形を作ることがゴールです。
- 数学的ツールを適用する: 関数が立てられたら、微分法や相加・相乗平均の関係など、知っている数学的な手法を適用して最大・最小値を求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電流が最大になると電力が最大になるとの誤解:
- 誤解: 抵抗\(R\)での消費電力を最大にするには、回路に流れる電流\(I\)を最大にすればよいと考え、\(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) を最大にするために \(R=0\) と結論づけてしまう。
- 対策: 消費電力は \(P=RI^2\) であり、\(R\)と\(I\)の両方に依存することを理解する。\(R=0\) のとき、電流\(I\)は最大になりますが、肝心の電力消費場所である\(R\)が0なので、消費電力も \(P=0 \cdot I^2 = 0\) となってしまいます。逆に\(R\)を無限大にすると、電流\(I\)が0に近づくため、やはり電力は0になります。したがって、最大値はその中間にあるはずだと直感的に理解することが重要です。
- 相加・相乗平均の適用条件の誤り:
- 誤解: \(R + \displaystyle\frac{r^2}{R} + 2r\) の3項全体に相加・相乗平均を適用しようとするなど、適用範囲を間違える。
- 対策: 相加・相乗平均の関係は、正の数にしか適用できません。また、積が定数になるような項の組み合わせ(この場合は \(R\) と \(\displaystyle\frac{r^2}{R}\))を見つけて適用するのが定石です。定数項(\(2r\))は関係の外に出しておき、変数部分の最小値を求めてから最後に足し合わせる、という手順を正確に踏むことが大切です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- エネルギーの分配のイメージ: 電池が生み出す全電力 \(P_{\text{全}} = EI\) は、内部抵抗\(r\)での消費電力 \(P_r = rI^2\) と外部抵抗\(R\)での消費電力 \(P_R = RI^2\) に分配されます(\(EI = rI^2 + RI^2\))。\(R\)を変化させることは、このエネルギーの「分け前」を変えることに相当します。
- グラフによる可視化: 横軸に\(R\)、縦軸に消費電力\(P_R\)をとったグラフをイメージします。\(R=0\)で\(P_R=0\)、\(R \rightarrow \infty\)で\(P_R \rightarrow 0\) となることから、グラフは原点から立ち上がって山を描き、再び0に近づいていく形になります。この「山のてっぺん」がどこにあるのかを探すのがこの問題の本質です。微分は、この山のてっぺん(接線の傾きが0の点)を探すための強力なツールです。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 回路図の正確な描写: 電池の記号の隣に、内部抵抗\(r\)を小さな抵抗の記号で明示的に描き加えることが重要です。これにより、\(r\)と\(R\)が直列接続であることが視覚的に明確になり、回路全体の抵抗を正しく計算できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- オームの法則 (\(I = E/(R+r)\)):
- 選定理由: (1)で、回路の基本特性である電流を求めるため。全ての計算の出発点となる。
- 適用根拠: キルヒホッフの第二法則(電圧則)を、この単純な直列回路に適用した結果です。起電力\(E\)が、電圧降下\(RI\)と\(rI\)の和に等しい(\(E = RI + rI\))という物理法則に基づいています。
- 消費電力の公式 (\(P=RI^2\)):
- 選定理由: (1)で、問題で問われている「抵抗で発生する熱量(=電力)」を、計算した電流\(I\)から求めるため。
- 適用根拠: 抵抗に電流を流すとジュール熱が発生するという物理現象を定量的に表す基本公式。\(P=VI\) や \(P=V^2/R\) といった他の形式もありますが、この問題では電流\(I\)が先に求まるため、\(P=RI^2\) を使うのが最も自然です。
- 微分法 (\(dQ/dR = 0\)):
- 選定理由: (2)で、物理量(電力\(Q\))をある変数(抵抗\(R\))の関数とみなしたときの、その最大値を求めるため。
- 適用根拠: 関数の極値を求めるための、数学における標準的で強力な手法。物理現象の最適化問題を解く際に頻繁に用いられます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 熱量の計算:
- 戦略: 回路の基本法則に従い、電流を求め、電力に変換する。
- フロー: ①回路全体の抵抗を把握 (\(R+r\)) → ②オームの法則で電流を立式 (\(I=E/(R+r)\)) → ③消費電力の公式に代入 (\(Q=RI^2\)) → ④式を整理して結論を導く。
- (2) 最大値問題の解決:
- 戦略: (1)で得た熱量の式を\(R\)の関数とみなし、数学的な手法で最大値を求める。
- フロー(微分法): ①\(Q(R)\)を\(R\)で微分する (\(dQ/dR\)を計算) → ②導関数が0になる条件を求める (\(dQ/dR=0\)) → ③その条件を満たす\(R\)の値を解く (\(R=r\))。
- フロー(相加・相乗平均): ①\(Q(R)\)の逆数をとる (\(1/Q\)) → ②式を変形して「変数+変数の逆数」の形を作る → ③相加・相乗平均の関係を適用し、等号成立条件から\(R\)の値を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 微分計算の正確性: 商の微分 \(\left(\displaystyle\frac{f}{g}\right)’ = \displaystyle\frac{f’g – fg’}{g^2}\) や、合成関数の微分 \(\{(R+r)^2\}’ = 2(R+r)\) を正確に実行することが重要です。特に、分子の \(f’g – fg’\) の符号を間違えないように注意が必要です。
- 文字式の整理: 微分後の式 \(E^2 \displaystyle\frac{(R+r)^2 – 2R(R+r)}{(R+r)^4}\) を整理する際、すぐに展開するのではなく、共通因数 \((R+r)\) で約分することで、計算が大幅に簡略化されます。複雑な式ほど、約分や因数分解の機会を探す癖をつけることが有効です。
- 相加・相乗平均の変形: \(\displaystyle\frac{R^2+2Rr+r^2}{R}\) を \(\left(R + \displaystyle\frac{r^2}{R}\right) + 2r\) と変形する過程は、慣れていないと間違いやすいポイントです。各項を丁寧に割り算し、変数\(R\)を含む項と定数項に分けることを意識しましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 最大供給条件: \(R=r\) のとき、外部抵抗での消費電力 \(P_R = RI^2 = r(\frac{E}{2r})^2 = \frac{E^2}{4r}\) となります。一方、内部抵抗での消費電力は \(P_r = rI^2 = r(\frac{E}{2r})^2 = \frac{E^2}{4r}\) となり、両者は等しくなります。このとき、電池が発生する全電力 \(P_{\text{全}} = EI = E(\frac{E}{2r}) = \frac{E^2}{2r}\) のうち、ちょうど半分が外部抵抗で、残り半分が内部抵抗で消費されることがわかります。つまり、効率は50%です。この「効率50%のときに供給電力が最大になる」という事実は、この問題の物理的背景として重要です。
- 別解との比較:
- (2)の最大値問題は、「微分法」と「相加・相乗平均の関係」という全く異なる数学的アプローチで解くことができました。両者で同じ \(R=r\) という結論が得られたことは、計算の正しさと結論の普遍性を強く裏付けています。どちらの解法も理解し、使えるようにしておくことが応用力に繋がります。
362 回路の対称性
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、すべての抵抗値が等しい立方体の形をした電気回路の合成抵抗を求める、典型的な問題です。一見複雑に見えますが、回路が持つ高い「対称性」を利用することで、キルヒホッフの法則による複雑な連立方程式を解くことなく、問題をエレガントに解くことができます。
- 抵抗値: すべての辺の抵抗は \(r\) [Ω]
- 回路の形状: 12個の抵抗が立方体の辺を構成
- 流入電流: 点Aに \(I\) [A] の電流が流れ込む
- (1) 各辺を流れる電流の大きさ
- (2) AG間の電圧 \(V_{AG}\)
- (3) AG間の合成抵抗 \(R_{AG}\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「対称性の高い電気回路の解析」です。キルヒホッフの法則を力ずくで適用すると計算が非常に煩雑になるため、回路の幾何学的な対称性に着目して、電流の流れや各点の電位の関係を直感的に捉えることが攻略の鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 回路の対称性: 回路の形が対称であれば、電流の分かれ方や各点の電位も対称になります。
- キルヒホッフの第一法則(電流保存則): 回路の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出す電流の和は等しくなります。
- オームの法則と電圧降下: 抵抗 \(r\) に電流 \(i\) が流れるとき、その抵抗の両端には \(V=ri\) の電圧降下が生じます。
- 等電位点の考え方: 対称性から、電位が等しくなる点を見つけることができれば、回路を大幅に簡略化できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回路の対称性から、点Aに流れ込んだ電流 \(I\) が各辺にどのように分かれていくかを考え、各辺の電流を求めます(問1)。
- 次に、AからGまで任意の経路を選び、各辺での電圧降下(\(ri\))を足し合わせることで、AG間の全体の電圧を計算します(問2)。
- 最後に、回路全体にオームの法則 \(V_{AG} = R_{AG} I\) を適用し、(2)で求めた電圧と全体の電流 \(I\) から、合成抵抗 \(R_{AG}\) を求めます(問3)。
問(1)
思考の道筋とポイント
各辺を流れる電流を求める問題です。この回路は、電流の入口Aと出口Gを結ぶ対角線に対して高い対称性を持っています。この対称性から、電流は各分岐点で均等に分かれていくと考えることができます。
この設問における重要なポイント
- A点の対称性: 点Aからは、B, D, Eの3方向へ同じ抵抗\(r\)が接続されています。Aから見たB, D, Eは幾何学的に全く等価なので、電流 \(I\) はこの3方向に均等に3等分されます。
- B, D, E点の対称性: 例えば点Bに到達した電流は、次にCとFの2方向へ分かれます。Bから先の回路の構造はC方向とF方向で対称です。したがって、B点に流れ込んだ電流は、BCとBFに均等に2等分されます。これはD点、E点でも同様です。
- 合流点の対称性: 出口Gには、C, F, Hの3点から電流が流れ込みます。入口Aと出口Gの役割を入れ替えても回路は対称なので、C, F, HからGへ流れ込む電流は等しくなります。
具体的な解説と立式
1. A点での分岐:
点Aに流れ込んだ電流 \(I\) は、等価な3つの辺AB, AD, AEに3等分されます。
$$ I_{AB} = I_{AD} = I_{AE} = \frac{I}{3} \quad \cdots ① $$
2. B, D, E点での分岐:
辺ABを流れてきた電流 \(I_{AB}\) は、点Bで等価な2つの辺BC, BFに2等分されます。
$$ I_{BC} = I_{BF} = \frac{I_{AB}}{2} = \frac{1}{2} \left( \frac{I}{3} \right) = \frac{I}{6} \quad \cdots ② $$
対称性から、他の点でも同様に分岐が起こります。
$$ I_{DC} = I_{DH} = \frac{I_{AD}}{2} = \frac{I}{6} $$
$$ I_{EF} = I_{EH} = \frac{I_{AE}}{2} = \frac{I}{6} $$
3. C, F, H点での合流:
点Cには、辺BCと辺DCから電流が流れ込み、辺CGへ流れていきます。キルヒホッフの第一法則より、
$$ I_{CG} = I_{BC} + I_{DC} = \frac{I}{6} + \frac{I}{6} = \frac{2I}{6} = \frac{I}{3} \quad \cdots ③ $$
対称性から、他の点でも同様に合流が起こります。
$$ I_{FG} = I_{BF} + I_{EF} = \frac{I}{6} + \frac{I}{6} = \frac{I}{3} $$
$$ I_{HG} = I_{DH} + I_{EH} = \frac{I}{6} + \frac{I}{6} = \frac{I}{3} $$
使用した物理公式
- 回路の対称性
- キルヒホッフの第一法則(電流保存則)
上記の立式の過程がそのまま計算過程となります。
この立方体の回路を、同じ太さの水道管が12本組み合わさったものだと想像します。Aから勢いよく水を流し込むと、最初の分岐点Aでは、同じ条件の3本のパイプ(AB, AD, AE)に水は均等に3等分されて流れます。次に、Bにたどり着いた水は、その先の同じ条件の2本のパイプ(BC, BF)に均等に2等分されます。このように、対称な場所では電流(水流)が均等に分かれる、という考え方で各部分の電流を計算していきます。
各辺を流れる電流は以下の2種類に分けられます。
- Aから出る辺 (AB, AD, AE) と Gに入る辺 (CG, FG, HG): \(\displaystyle\frac{I}{3}\) [A]
- 中間の辺 (BC, BF, DC, DH, EF, EH): \(\displaystyle\frac{I}{6}\) [A]
出口であるG点に流れ込む電流の合計は \(I_{CG} + I_{FG} + I_{HG} = \frac{I}{3} + \frac{I}{3} + \frac{I}{3} = I\) となり、入口Aから流れ込んだ全電流に等しくなります。これにより、計算が自己無撞着であることが確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
AG間の電圧 \(V_{AG}\) を求める問題です。2点間の電位差(電圧)は、その2点を結ぶ経路の選び方によらず一定です。したがって、(1)で電流を求めた辺の中から、計算しやすい経路を一つ選び、各辺での電圧降下(= 抵抗 × 電流)を足し合わせれば、全体の電圧が求まります。
この設問における重要なポイント
- 電位差の経路不変性: AからGへの電位差は、どの経路(例: A→D→H→G, A→B→C→G, A→E→F→Gなど)で計算しても同じ値になります。
- 電圧降下の計算: 各辺での電圧降下は、オームの法則 \(V_{\text{辺}} = r \times I_{\text{辺}}\) で計算します。
具体的な解説と立式
AからGへの経路として、例えば A→D→H→G を選びます。AG間の電圧 \(V_{AG}\) は、この経路上の各抵抗での電圧降下の和に等しくなります。
$$ V_{AG} = V_{AD} + V_{DH} + V_{HG} $$
(1)で求めた各辺の電流値 \(I_{AD} = \displaystyle\frac{I}{3}\), \(I_{DH} = \displaystyle\frac{I}{6}\), \(I_{HG} = \displaystyle\frac{I}{3}\) を用いて、各電圧降下を計算します。
$$ V_{AD} = r \times I_{AD} = r \frac{I}{3} $$
$$ V_{DH} = r \times I_{DH} = r \frac{I}{6} $$
$$ V_{HG} = r \times I_{HG} = r \frac{I}{3} $$
使用した物理公式
- オームの法則: \(V = RI\)
- キルヒホッフの第二法則(電圧則)の考え方
各電圧降下を足し合わせます。
$$
\begin{aligned}
V_{AG} &= r \frac{I}{3} + r \frac{I}{6} + r \frac{I}{3} \\[2.0ex]&= \left( \frac{1}{3} + \frac{1}{6} + \frac{1}{3} \right) rI \\[2.0ex]&= \left( \frac{2}{6} + \frac{1}{6} + \frac{2}{6} \right) rI \\[2.0ex]&= \frac{5}{6} rI
\end{aligned}
$$
A地点からG地点までの「電気的な高さの差」を求めるのが目的です。どの道を通って坂を下っても、最終的な高さの差は同じです。ここでは、A→D→H→Gという道を選び、それぞれの区間(AD, DH, HG)でどれだけ「高さ」が下がるかを計算し、それらをすべて合計します。
AG間の電圧は \(V_{AG} = \displaystyle\frac{5}{6}rI\) [V] です。
念のため、別の経路 A→B→C→G で計算しても同じ結果になるか確認してみましょう。
\(V_{AG} = V_{AB} + V_{BC} + V_{CG} = r I_{AB} + r I_{BC} + r I_{CG} = r(\frac{I}{3}) + r(\frac{I}{6}) + r(\frac{I}{3}) = \frac{5}{6}rI\)。
確かに同じ結果となり、計算の正しさが裏付けられました。
問(3)
思考の道筋とポイント
AG間の合成抵抗 \(R_{AG}\) を求める問題です。この複雑な回路全体を、抵抗値 \(R_{AG}\) の一個の抵抗と見なします。この仮想的な抵抗に、電流 \(I\) が流れて電圧 \(V_{AG}\) が生じていると考え、オームの法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 回路全体のオームの法則: 回路全体について、\(V_{\text{全}} = R_{\text{全}} I_{\text{全}}\) が成り立ちます。この問題では、\(V_{\text{全}} = V_{AG}\), \(R_{\text{全}} = R_{AG}\), \(I_{\text{全}} = I\) です。
具体的な解説と立式
AG間の電圧を \(V_{AG}\)、合成抵抗を \(R_{AG}\)、回路全体に流れる電流を \(I\) とすると、オームの法則より以下の関係が成り立ちます。
$$ V_{AG} = R_{AG} \times I $$
この式を \(R_{AG}\) について解きます。
$$ R_{AG} = \frac{V_{AG}}{I} $$
使用した物理公式
- オームの法則
(2)で求めた \(V_{AG} = \displaystyle\frac{5}{6}rI\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_{AG} &= \frac{\displaystyle\frac{5}{6}rI}{I} \\[2.0ex]&= \frac{5}{6}r
\end{aligned}
$$
この立方体の回路全体を一つのブラックボックスと考えます。この箱に \(I\) という電流を流し込んだら、入口と出口の電圧差が \(V_{AG}\) になった、という関係が(2)でわかりました。オームの法則「抵抗 = 電圧 ÷ 電流」を使って、この箱全体の抵抗値を計算します。
思考の道筋とポイント
(3)の合成抵抗は、対称性を利用して「等電位点」を見つけ、回路を簡略化することで、より直接的に求めることもできます。この方法は非常に強力で、対称性の本質的な理解につながります。
この設問における重要なポイント
- 等電位点の特定:
- 点Aから抵抗1つ分離れた点 (B, D, E) は、Aに対して幾何学的に等価なため、すべて同じ電位になります。
- 同様に、点Gから抵抗1つ分離れた点 (C, F, H) も、Gに対して等価なため、すべて同じ電位になります。
- 回路の簡略化: 電位が等しい点は、導線で結んでも回路に影響を与えません。したがって、B, D, Eを一つの点Pに、C, F, Hを一つの点Qにまとめることができます。
具体的な解説と立式
回路を以下の3つの部分に分けて考えます。
- A点から点P(B,D,E)まで: 3本の抵抗(AB, AD, AE)が並列に接続されています。この部分の合成抵抗 \(R_{AP}\) は、
$$ R_{AP} = \frac{r}{3} $$ - 点P(B,D,E)から点Q(C,F,H)まで: 6本の抵抗(BC, BF, DC, DH, EF, EH)が並列に接続されています。この部分の合成抵抗 \(R_{PQ}\) は、
$$ R_{PQ} = \frac{r}{6} $$ - 点Q(C,F,H)からG点まで: 3本の抵抗(CG, FG, HG)が並列に接続されています。この部分の合成抵抗 \(R_{QG}\) は、
$$ R_{QG} = \frac{r}{3} $$
全体の合成抵抗 \(R_{AG}\) は、これら3つの部分が直列に接続されたものと見なせるので、それらの和となります。
$$ R_{AG} = R_{AP} + R_{PQ} + R_{QG} $$
使用した物理公式
- 並列抵抗の合成: \(R_{\text{並列}} = \displaystyle\frac{R_0}{n}\) (同じ抵抗\(R_0\)がn本の場合)
- 直列抵抗の合成: \(R_{\text{直列}} = R_1 + R_2 + \dots\)
$$
\begin{aligned}
R_{AG} &= \frac{r}{3} + \frac{r}{6} + \frac{r}{3} \\[2.0ex]&= \frac{2r}{6} + \frac{r}{6} + \frac{2r}{6} \\[2.0ex]&= \frac{5r}{6}
\end{aligned}
$$
立方体の回路は複雑に見えますが、対称性のおかげで「電気的な高さが同じ地点」のグループ(B,D,EグループとC,F,Hグループ)が存在します。同じ高さの地点はひとまとめにしてしまえるので、複雑な立方体回路を、3つの単純な抵抗ブロックが直列につながった回路に書き換えることができます。あとは、各ブロックの抵抗値を計算し、最後に足し合わせるだけです。
合成抵抗は \(R_{AG} = \displaystyle\frac{5}{6}r\) [Ω] となり、(1)から(3)の順で解いた結果と完全に一致します。この等電位点を見つける方法は、合成抵抗を求める問題に対して非常に強力な解法です。また、この簡略化された回路から、各部分にかかる電圧の比が \(R_{AP}:R_{PQ}:R_{QG} = \frac{r}{3}:\frac{r}{6}:\frac{r}{3} = 2:1:2\) であることもわかり、電流分布の計算の妥当性も確認できます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回路の対称性の利用:
- 核心: この問題の最も重要な核心は、物理法則そのものよりも、それを適用する上での「対称性」という考え方です。一見して複雑な回路でも、幾何学的な対称性があれば、電流の分布や電位もまた対称になる、という原理を利用します。
- 理解のポイント:
- 電流の均等分岐: 対称な分岐点では、電流は等しく分かれる。 (例: A点から3方向へ \(I/3\) ずつ)
- 等電位点の存在: 対称な位置にある点は、電位が等しくなる。 (例: B, D, Eは同電位。C, F, Hも同電位)
- この対称性の原理を適用することで、本来は多数の変数を含む複雑な連立方程式(キルヒホッフの法則)を解く手間を省き、問題を劇的に簡略化できます。
- オームの法則とキルヒホッフの法則の基本:
- 核心: 対称性で問題を簡略化した後、最終的な計算を行うためには、電気回路の基本法則が必要です。
- 理解のポイント:
- 電流則(第一法則): 分岐点での電流の保存(\(I_{in} = I_{out}\))は、電流の分布を追跡する上で必須です。
- 電圧則(第二法則): 任意の閉路での電圧降下の和が0(または、2点間の電位差は経路によらない)という法則は、(2)でAG間の電圧を計算する際の論理的根拠となります。
- オームの法則: 各抵抗での電圧降下 (\(V=ri\)) や、回路全体の合成抵抗 (\(R_{AG} = V_{AG}/I\)) を計算する際の基本ツールです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 立方体の異なる2点間の合成抵抗: この問題では対角線AG間でしたが、同じ辺上の2点(例: AB間)や、同じ面の対角線上にある2点(例: AC間)の合成抵抗を求める問題もあります。それぞれ対称性の種類が異なるため、どこが等電位点になるか、あるいはどの辺の電流が等しくなるかを慎重に見極める必要があります。
- 正四面体や正八面体などの抵抗回路: 立方体以外の正多面体の頂点と辺に抵抗を配置した回路も、高い対称性を持っており、同様のアプローチで解くことができます。
- 無限に続く格子状の抵抗回路: 無限に広がる抵抗の網目(グリッド)の中心的な2点間の合成抵抗を求める問題。これも対称性を巧みに利用して解くことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- まず対称性を探す: 複雑な回路に遭遇したら、まず図形を回転させたり反転させたりして、対称性がないかを探します。特に、電流の入口と出口を結ぶ線や、その線に垂直な面に関する対称性が重要です。
- 等電位点を見つける: 対称性から、電位が等しくなりそうな点のグループを探します。「入口からの電気的な距離が同じ点」は、等電位である可能性が高いです。
- 回路を書き直す(リドロー): 等電位点を見つけたら、それらの点を一つの点にまとめて回路図を書き直してみます。多くの場合、複雑な立体回路が、単純な並列・直列の組み合わせに変換されます。
- 対称性が使えない場合はキルヒホッフの法則へ: どうしても対称性が見いだせない、あるいは対称性が低い回路の場合は、変数(未知の電流)を適切に設定し、キルヒホッフの法則に基づいて連立方程式を立てるという基本に立ち返ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 対称性の誤認:
- 誤解: 例えば、点Bから見て、その先のCとFはどちらもGへの経路の途中にあるから等価だろう、と安易に考えてしまう。
- 対策: 対称性は厳密に判断する必要があります。点A(入口)と点G(出口)を固定したとき、回路全体のどの部分とどの部分が入れ替え可能かを考えます。例えば、A-G軸周りに120度回転させると、B→D→E→Bと点が入れ替わり、回路は不変です。このような操作で移りあう点が等価な点です。
- 電流の計算ミス:
- 誤解: 分岐や合流を追っていくうちに、どの電流を足し合わせるのか、あるいは何等分するのかを混乱してしまう。
- 対策: 各分岐点・合流点で、キルヒホッフの第一法則が成り立っているかを常に確認しながら計算を進める。例えば、(1)の結論が出た後、G点に流れ込む電流の和が本当に\(I\)になるか検算する習慣をつける。
- 等電位点の接続ミス:
- 誤解: 等電位点を見つけて回路を書き直す際に、どの抵抗がどの点間に接続されるのかを間違えてしまう。
- 対策: 元の回路図の各抵抗の両端がどの頂点に繋がっているかを一つ一つ確認しながら、簡略化した図に丁寧にマッピングしていく。例えば、抵抗BCはBとCを繋いでいるので、簡略図では点P(B,D,E)と点Q(C,F,H)を繋ぐ6本のうちの1本になる、というように確認します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位による色分け(高さのイメージ): 回路図を立体的な地形図のようにイメージします。入口Aが最も電位が高く(標高が高い)、出口Gが最も低い。等電位点(B,D,EやC,F,H)は、同じ高さの「等高線」上にある点と見なせます。電圧降下は、坂道を下ることに相当します。このイメージを持つと、A→Gへの電圧降下が経路によらないことや、等電位点の意味が直感的に理解できます。
- 回路のリドロー(書き直し): 別解で示したように、等電位点を特定した後に回路図を平面に書き直す作業は、この問題の理解を深める上で非常に有効です。複雑な立体構造を、見慣れた直列・並列の図に変換することで、問題の本質が明確になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電流の矢印を書き込む: (1)で各辺の電流を求めたら、その大きさと向き(A→G方向)を回路図に矢印とともに書き込む。これにより、(2)で電圧降下を計算する際に、どの電流の値を使えばよいかが一目瞭然になります。
- 等電位点をマークする: 対称性から等電位だと判断した点(B,D,EやC,F,H)を、同じ色や記号でマークしておくと、思考が整理され、回路の簡略化の際にミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 対称性の原理:
- 選定理由: キルヒホッフの法則を直接適用すると、未知数が多く計算が破綻するため。問題を解くための最も効率的な「ショートカット」として、まず対称性の利用を考えます。
- 適用根拠: 「原因の対称性は結果の対称性に反映される」という物理学の普遍的な原理(キュリーの原理)に基づいています。回路の幾何学的対称性(原因)が、電流分布や電位の対称性(結果)を生み出します。
- キルヒホッフの法則:
- 選定理由: 対称性によって電流分布の大枠を掴んだ後、各分岐・合流点での電流の具体的な値を決定したり、2点間の電圧を計算したりするための、電気回路における最も基本的な法則として使用します。
- 適用根拠: それぞれ電荷保存則(第一法則)とエネルギー保存則(第二法則)という、物理学の根幹をなす保存則に基づいています。
- オームの法則:
- 選定理由: 電流と抵抗値から電圧降下を計算したり、全体の電圧と電流から合成抵抗を求めたりと、電気回路の3つの基本量(V, I, R)を相互に変換するための必須ツールとして使用します。
- 適用根拠: 多くの導体で実験的に成り立つ、電圧と電流の比例関係を記述した基本法則です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 電流分布の決定:
- 戦略: 回路の対称性に着目し、電流が均等に分岐・合流すると仮定して計算する。
- フロー: ①入口Aでの3等分を計算 → ②中間点(B,D,E)での2等分を計算 → ③合流点(C,F,H)での合流を計算 → ④出口Gでの合流が全電流\(I\)になるか検算。
- (2) 全体電圧の計算:
- 戦略: 任意の経路を選び、各部分の電圧降下を足し合わせる。
- フロー: ①計算しやすい経路を選択 (例: A→D→H→G) → ②各辺の電流値を(1)の結果から引用 → ③各辺の電圧降下をオームの法則で計算 (\(ri\)) → ④選んだ経路上の電圧降下をすべて合計する。
- (3) 合成抵抗の計算:
- 戦略: 回路全体を一つの抵抗とみなし、オームの法則を適用する。
- フロー: ①回路全体のオームの法則 (\(V_{AG} = R_{AG} I\)) を立てる → ②(2)で求めた\(V_{AG}\)を代入 → ③式を\(R_{AG}\)について解く。
- (別解フロー): ①等電位点を見つける (B,D,EとC,F,H) → ②回路を3つの並列抵抗ブロックに簡略化 → ③各ブロックの合成抵抗を計算 (\(r/3, r/6, r/3\)) → ④それらを直列合成して全体の抵抗を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算を丁寧に: この問題は分数の足し算が頻出します。特に(2)の電圧計算では \(\frac{1}{3} + \frac{1}{6} + \frac{1}{3}\) のような計算が出てくるため、通分を正確に行うことが重要です。
- 文字と数字の分離: \(V_{AG} = (\frac{1}{3} + \frac{1}{6} + \frac{1}{3})rI\) のように、数値部分(係数)と文字部分 (\(rI\)) を分けて計算すると、見通しが良くなり、計算ミスを減らせます。
- 検算の習慣: (2)で経路を一つ選んで電圧を計算した後、時間があれば別の経路でも計算してみて、同じ結果になるか確認する。別解の「等電位点」アプローチで(3)を解いた場合、(1)〜(3)の順で解いた結果と一致するかを確認する。複数の方法で同じ答えが出れば、その答えは非常に確からしいと言えます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 電流: 最も太い電流が\(I/3\)、最も細い電流が\(I/6\)と、全電流\(I\)より小さくなっており、物理的に妥当です。
- (3) 合成抵抗: \(R_{AG} = \frac{5}{6}r \approx 0.83r\)。12本もの抵抗を組み合わせた結果、1本の抵抗\(r\)よりも抵抗値が小さくなっています。これは、電流が複数の経路に分かれる(並列接続の要素を含む)ため、全体として流れやすくなっていることを意味し、直感的に妥当な結果です。もし合成抵抗が\(r\)より大きくなったら、計算ミスを疑うべきです。
- 別解との比較:
- この問題では、「電流分布を追う方法」と「等電位点で回路を簡略化する方法」という2つの異なるアプローチで合成抵抗を求めることができました。両者で得られた結果が \(\frac{5}{6}r\) で完全に一致したことは、それぞれの解法の正しさと、物理的な理解の確かさを強力に裏付けます。対称性の高い問題では、このように複数の視点からアプローチできることが多く、良い検証手段となります。
363 テスター
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一つの電流計を基にして、抵抗器を組み合わせることで「電流計」「電圧計」「抵抗計(テスター)」という3つの異なる測定器を構成する原理を問う問題です。それぞれの測定器の内部構造と測定原理を正しく理解しているかが試されます。
- 基本となる電流計Ⓐ:
- 内部抵抗 \(r_A = 5.0\) [Ω]
- 最大測定電流(フルスケール電流) \(I_A = 10\) [mA] = \(1.0 \times 10^{-2}\) [A]
- 追加する抵抗器: \(R_1\), \(R_2\)
- 目標とする測定範囲:
- 電流計として: 最大 \(I_{\text{max}} = 10\) [A]
- 電圧計として: 最大 \(V_{\text{max}} = 10\) [V]
- 抵抗計として: 内部電源(電池)を用いて測定
- 回路の構成:
- 端子Aは共通端子
- スイッチSは端子Bを選択するときのみ入る
- (1) 電流、電圧、抵抗値を測定するために、共通端子Aとペアで用いるべき端子はそれぞれB, C, Dのうちどれか。
- (2) 共通端子Aに付けるべき極性(⊕または⊖)はどちらか。
- (3) 抵抗値 \(R_1\) と \(R_2\) をそれぞれ求めよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「測定器の原理と回路構成」です。電流計、電圧計、抵抗計がそれぞれどのような原理で動作し、どのような回路構造を持つのかを理解することが不可欠です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流計の拡大(分流器): 小さな電流しか測れない電流計で大きな電流を測るには、電流計に並列に抵抗(分流器)を接続し、電流を分流させます。
- 電圧計の構成(倍率器): 電流計で電圧を測るには、電流計に直列に大きな抵抗(倍率器)を接続し、大きな電圧がかかっても電流計には僅かな電流しか流れないようにします。
- 抵抗計の構成: 内部電源と電流計、抵抗を組み合わせ、未知抵抗を接続したときに流れる電流の値から抵抗値を読み取ります。
- キルヒホッフの法則: 並列回路では各部分の電圧が等しく、直列回路では各部分の電流が等しいという法則は、計算の基本となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、電流計・電圧計・抵抗計のそれぞれの理想的な接続方法と、この問題の回路図を照らし合わせ、どの端子を使えば目的の機能が実現できるかを判断します(問1)。
- 次に、電流計や電圧計の一般的な使い方と、抵抗計モードでの電池の向きから、共通端子Aの極性を決定します(問2)。
- 最後に、電流計モードと電圧計モードそれぞれについて、回路に流れる電流や電圧の関係から、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)の値を計算します(問3)。
問(1)
思考の道筋とポイント
電流・電圧・抵抗の各測定モードにおいて、共通端子Aとどの端子(B, C, D)をペアで使うべきかを判断する問題です。それぞれの測定器の基本構成を理解しているかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 電流測定(大きな電流): 元の電流計Ⓐ(最大10mA)で大きな電流(最大10A)を測るには、電流を分流させる必要があります。つまり、電流計Ⓐに抵抗を「並列」に接続します。この並列抵抗を「分流器」と呼びます。
- 電圧測定: 電流計Ⓐで電圧を測るには、測定したい2点間に接続した際に、電流計Ⓐにフルスケール電流(10mA)が流れるように抵抗を「直列」に接続します。この直列抵抗を「倍率器」と呼びます。
- 抵抗測定: 未知の抵抗値を測るには、回路に「内部電源(電池)」を含んでいる必要があります。
具体的な解説と立式
1. 電流測定:
A端子とB端子を用いると、スイッチSが入り、抵抗\(R_1\)が電流計Ⓐに「並列」に接続されます。これにより、A-B間に流れ込んだ電流はⒶと\(R_1\)に分流します。これは分流器の構成そのものです。したがって、電流測定にはB端子を用います。
2. 電圧測定:
A端子とC端子を用いると、電流計Ⓐと抵抗\(R_2\)が「直列」に接続された回路になります。このA-C間に電圧をかけると、Ⓐと\(R_2\)に同じ電流が流れます。これは倍率器を用いた電圧計の構成そのものです。したがって、電圧測定にはC端子を用います。
3. 抵抗測定:
A端子とD端子を用いると、回路に内部の電池が含まれます。このA-D間に未知の抵抗を接続し、流れる電流を電流計Ⓐで読み取ることで抵抗値を測定します。したがって、抵抗測定にはD端子を用います。
使用した物理公式
- 分流器(電流計)の原理
- 倍率器(電圧計)の原理
- 抵抗計の原理
この設問は原理の理解を問うものであり、計算はありません。
- 電流計: 大量の水(大電流)を測るために、本流(電流計Ⓐ)の脇にバイパス(抵抗\(R_1\))を作って、ほとんどの水をそちらに流すイメージです。このバイパスを作るのがB端子です。
- 電圧計: 高い水圧(高電圧)を測るために、細い管(電流計Ⓐ)の前に、水の勢いを弱めるための障害物(抵抗\(R_2\))を直列に入れるイメージです。この構成になるのがC端子です。
- 抵抗計: 測定対象の「水の流れにくさ(抵抗)」を調べるために、ポンプ(電池)で水を流してみて、その流量をメーター(電流計Ⓐ)で測るイメージです。このポンプが内蔵されているのがD端子です。
電流測定にはB端子、電圧測定にはC端子、抵抗測定にはD端子をそれぞれA端子とペアで用います。これはテスター(回路計)の基本的な構造です。
問(2)
思考の道筋とポイント
共通端子Aに付けるべき極性(⊕または⊖)を決定する問題です。電流計や電圧計は、一般に電流が⊕端子から入り、⊖端子から出ていくように接続します。
この設問における重要なポイント
- 電流計の極性: 電流計の針が正の方向に振れるためには、電流が⊕端子から内部に流れ込む必要があります。
- 回路図の電池の向き: 抵抗計モード(D端子使用時)の内部電池の向きがヒントになります。電池は、正極(長い線)から負極(短い線)へ向かって電流を流し出します。
具体的な解説と立式
抵抗計として使用する場合(A端子とD端子を用いる場合)を考えます。
回路図を見ると、D端子側には電池の正極が接続されています。したがって、A-D間に未知の抵抗を接続すると、電池はD端子から電流を流し出し、未知抵抗を通り、A端子を通って電流計Ⓐに右向きに流れ込みます。
電流計Ⓐの針を正しく振らせるためには、電流が流れ込む側の端子を⊕にする必要があります。
したがって、A端子には⊕の記号をつけるべきです。
この極性は、電流計モードや電圧計モードで使用する際も共通です。測定時には、電流がA端子(⊕)から入るように回路に接続します。
使用した物理公式
- 電流計の接続方法
- 電池の極性と電流の向き
この設問は原理の理解を問うものであり、計算はありません。
測定器にはプラスとマイナスの端子があり、電流がプラスから入ってマイナスから出ていくように繋ぐのがルールです。この回路では、抵抗を測るモードのときに内蔵されている電池が、A端子に電流を流し込む向きになっています。したがって、A端子が電流の入口、すなわちプラス(⊕)端子となります。
A端子は⊕、もう一方の端子(B, C, D)が⊖として機能します。これは一般的なテスターの共通(COM)端子が⊖で、測定対象に応じて切り替える端子が⊕である構成とは逆ですが、問題の設定としては論理的に成立します。
問(3)
思考の道筋とポイント
抵抗値\(R_1\)と\(R_2\)を求める問題です。電流計モードと電圧計モード、それぞれの最大測定条件(フルスケール条件)において、回路に流れる電流や電圧の関係式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント
- 電流計モード(分流器): A-B間に最大電流10Aが流れたとき、電流計Ⓐにはちょうどフルスケール電流10mAが流れるようにします。このとき、Ⓐと\(R_1\)は並列接続なので、両端の電圧が等しくなります。
- 電圧計モード(倍率器): A-C間に最大電圧10Vがかかったとき、電流計Ⓐにはちょうどフルスケール電流10mAが流れるようにします。このとき、Ⓐと\(R_2\)は直列接続なので、回路全体にオームの法則を適用します。
具体的な解説と立式
抵抗 \(R_1\) の計算(電流計モード)
A-B間に最大測定電流 \(I_{\text{max}} = 10\) [A] が流れるとき、電流計Ⓐにはフルスケール電流 \(I_A = 10 \text{ mA} = 1.0 \times 10^{-2}\) [A] が流れます。
キルヒホッフの第一法則より、抵抗\(R_1\)に流れる電流 \(I_1\) は、
$$ I_1 = I_{\text{max}} – I_A \quad \cdots ① $$
電流計Ⓐと抵抗\(R_1\)は並列接続なので、両端にかかる電圧は等しくなります。
$$ r_A I_A = R_1 I_1 \quad \cdots ② $$
抵抗 \(R_2\) の計算(電圧計モード)
A-C間に最大測定電圧 \(V_{\text{max}} = 10\) [V] がかかるとき、回路にはフルスケール電流 \(I_A = 10 \text{ mA} = 1.0 \times 10^{-2}\) [A] が流れます。
電流計Ⓐと抵抗\(R_2\)は直列接続なので、回路全体の抵抗は \(r_A + R_2\) です。
オームの法則を回路全体に適用すると、
$$ V_{\text{max}} = (r_A + R_2) I_A \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第一法則(電流則)
- オームの法則
\(R_1\) の計算
②式より \(R_1 = \displaystyle\frac{r_A I_A}{I_1}\) とし、①式を代入します。
$$
\begin{aligned}
R_1 &= \frac{r_A I_A}{I_{\text{max}} – I_A} \\[2.0ex]&= \frac{5.0 \times (1.0 \times 10^{-2})}{10 – (1.0 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]&= \frac{5.0 \times 10^{-2}}{10 – 0.01} \\[2.0ex]&= \frac{5.0 \times 10^{-2}}{9.99} \\[2.0ex]&\approx 0.005005\dots
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(R_1 = 5.0 \times 10^{-3}\) [Ω] となります。
\(R_2\) の計算
③式を \(R_2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
r_A + R_2 &= \frac{V_{\text{max}}}{I_A} \\[2.0ex]R_2 &= \frac{V_{\text{max}}}{I_A} – r_A \\[2.0ex]&= \frac{10}{1.0 \times 10^{-2}} – 5.0 \\[2.0ex]&= 10 \times 10^2 – 5.0 \\[2.0ex]&= 1000 – 5.0 \\[2.0ex]&= 995
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(R_2 = 1.0 \times 10^3\) [Ω] となります。
- \(R_1\)の計算: 大電流10Aを流したとき、本流の電流計Ⓐには10mAだけ流し、残りの大部分をバイパス\(R_1\)に流します。このとき、本流とバイパスの「電圧(流れにくさ×流量)」が等しくなるように、バイパスの抵抗\(R_1\)の値を決めます。
- \(R_2\)の計算: 高電圧10Vをかけたとき、回路全体に10mAの電流が流れるようにします。オームの法則「全体の抵抗 = 電圧 ÷ 電流」で回路全体の目標抵抗値を計算し、そこから電流計Ⓐの内部抵抗を引いた残りが、追加すべき抵抗\(R_2\)の値になります。
分流器の抵抗 \(R_1\) は \(5.0 \times 10^{-3}\) Ω、倍率器の抵抗 \(R_2\) は \(1.0 \times 10^3\) Ω です。
分流器の抵抗値は、電流計の内部抵抗 \(r_A=5.0\) Ωより非常に小さく、倍率器の抵抗値は非常に大きくなっています。これは、分流器は電流を積極的にバイパスさせるために「流れやすく」、倍率器は電流を制限するために「流れにくく」する必要があるという、それぞれの役割と一致しており、物理的に妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 分流器の原理(並列回路の電圧一定):
- 核心: 大きな電流を測定可能にする「電流計の測定範囲拡大」の原理です。元の電流計Ⓐに抵抗\(R_1\)を並列に接続し、測定したい大電流の大部分を\(R_1\)に流します。このとき、Ⓐと\(R_1\)にかかる電圧が等しい(\(r_A I_A = R_1 I_1\))という関係が、分流器の抵抗値\(R_1\)を決定するための最も重要な法則です。
- 理解のポイント: 電流を分けるので「分流器」。並列接続なので電圧が等しい。
- 倍率器の原理(直列回路のオームの法則):
- 核心: 大きな電圧を測定可能にする「電圧計の構成」の原理です。元の電流計Ⓐに抵抗\(R_2\)を直列に接続し、大きな電圧がかかっても、回路全体に流れる電流が電流計の最大値(フルスケール電流)を超えないようにします。このとき、回路全体にオームの法則を適用する(\(V_{\text{max}} = (r_A+R_2)I_A\))ことが、倍率器の抵抗値\(R_2\)を決定するための核心部分です。
- 理解のポイント: 測定できる電圧の倍率を上げるので「倍率器」。直列接続なので電流が等しい。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電圧計の内部抵抗が測定に与える影響: 理想的な電圧計の内部抵抗は無限大ですが、現実の電圧計(本問の構成)は有限の内部抵抗を持ちます。これを回路に接続すると、測定対象の回路の電流分布が変化し、測定値に誤差(測定誤差)が生じる問題を考察する。
- 電流計の内部抵抗が測定に与える影響: 理想的な電流計の内部抵抗はゼロですが、現実の電流計は有限の抵抗を持ちます。これを回路に直列に挿入すると、回路全体の抵抗が増加し、測定したい電流そのものが小さくなってしまう問題を考察する。
- ホイートストンブリッジ: 抵抗計の別の形態として、4つの抵抗をひし形に配置したホイートストンブリッジ回路がある。検流計(感度の良い電流計)の振れがゼロになる平衡条件を利用して、未知抵抗を精密に測定する原理を問う問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 測定器の「中身」を意識する: 「電圧計」「電流計」と書かれていても、それはブラックボックスではありません。その中身は「内部抵抗を持つ電流計」と「抵抗器」の組み合わせであることを常に念頭に置き、回路図を内部構造まで含めて描くことが第一歩です。
- 「最大測定値(フルスケール)」の意味を捉える: 「最大10Aまで測れる電流計」「最大10Vまで測れる電圧計」という記述は、「全体で10Aの電流が流れたとき(または10Vの電圧がかかったとき)、中核部品である電流計Ⓐには、その能力の限界である10mAの電流が流れる」という条件に読み替えることが重要です。このフルスケール条件が、抵抗値を決定する方程式を立てる鍵となります。
- 並列か直列かを見極める: 回路図から、追加された抵抗が元の電流計に対して並列接続(分流器)なのか、直列接続(倍率器)なのかを正確に判断します。これにより、適用すべき法則(並列なら電圧一定、直列なら電流一定)が決まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 分流器と倍率器の混同:
- 誤解: 電流計の改造に直列抵抗を、電圧計の改造に並列抵抗を使ってしまう。
- 対策: それぞれの目的を明確に理解する。「大電流を測る=電流を分けたい→並列(分流器)」「大電圧を測る=電流を制限したい→直列(倍率器)」と、目的と接続方法をセットで記憶しましょう。
- 分流器の電流計算ミス:
- 誤解: \(r_A I_A = R_1 I_{\text{max}}\) のように、抵抗\(R_1\)に流れる電流として、全体の電流\(I_{\text{max}}\)をそのまま使ってしまう。
- 対策: 必ずキルヒホッフの第一法則に立ち返る。全体の電流 \(I_{\text{max}}\) は、電流計Ⓐに流れる \(I_A\) と、抵抗\(R_1\)に流れる \(I_1\) の和である(\(I_{\text{max}} = I_A + I_1\))。したがって、\(I_1 = I_{\text{max}} – I_A\) となります。この一手間を惜しまないことが重要です。
- 単位の換算ミス:
- 誤解: 電流計のフルスケール電流 10mA を、10A や 0.1A などと間違えて計算してしまう。
- 対策: 計算を始める前に、すべての単位を基本単位(この場合はA, V, Ω)に統一する習慣をつける。\(10 \text{ mA} = 10 \times 10^{-3} \text{ A} = 1.0 \times 10^{-2} \text{ A}\) と、最初に書き出しておくとミスが減ります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 水の流れのアナロジー:
- 分流器: 太い川(大電流)の流量を測りたいが、持っている流量計(電流計Ⓐ)は細い水路用。そこで、川の横に巨大なバイパス水路(分流器\(R_1\))を掘り、ほとんどの水をそちらに流す。本流とバイパスの「水位差(電圧)」は同じになる。本流のわずかな流量を測って、全体の流量を推定するイメージ。
- 倍率器: ダムの高い水圧(高電圧)を測りたい。流量計(電流計Ⓐ)を直接繋ぐと壊れてしまうので、その手前に非常に流れにくい、長くて細いパイプ(倍率器\(R_2\))を直列に繋ぐ。これにより、全体の水の流れ(電流)が微量に抑えられ、安全に測定できるイメージ。
- 水の流れのアナロジー:
- 図を描く際に注意すべき点:
- 機能ごとの回路図を書き出す: (3)を解く際に、頭の中だけで考えず、「電流計モードの回路図」と「電圧計モードの回路図」をそれぞれ別に描き出す。その図に、フルスケール条件での電流値(例: 10A, 10mA)や電圧値を書き込むことで、立式すべき関係が一目瞭然になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 並列回路の電圧則 (\(V_1=V_2\)):
- 選定理由: (3)の電流計モード(分流器)の計算で、2つの並列な経路(Ⓐと\(R_1\))の関係を記述するため。
- 適用根拠: キルヒホッフの第二法則より、並列部分の両端の電位差は共通であるという、並列回路の最も基本的な性質。
- 直列回路のオームの法則 (\(V = (R_1+R_2)I\)):
- 選定理由: (3)の電圧計モード(倍率器)の計算で、回路全体にかかる電圧と流れる電流の関係を記述するため。
- 適用根拠: 直列回路では、全体の電圧降下が各部分の電圧降下の和に等しい(\(V = V_1 + V_2\))というキルヒホッフの第二法則と、オームの法則を組み合わせたもの。
- キルヒホッフの第一法則 (\(I_{\text{in}} = I_{\text{out}}\)):
- 選定理由: (3)の電流計モードで、分流器\(R_1\)に流れる電流を、全体の電流と電流計Ⓐを流れる電流から求めるため。
- 適用根拠: 電荷保存則に基づく、電気回路における最も基本的な法則の一つ。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 機能の特定:
- 戦略: 測定器の基本原理と回路図を照合する。
- フロー: ①電流計=分流器=並列接続 → B端子。②電圧計=倍率器=直列接続 → C端子。③抵抗計=内部電源が必要 → D端子。
- (2) 極性の決定:
- 戦略: 電流計の動作原理と、抵抗計モードでの電池の向きから判断する。
- フロー: ①抵抗計モードで電池が作る電流の向きを確認 → ②電流はDからAへ流れる → ③電流計には電流が流れ込む側を⊕とするルール → ④A端子は⊕。
- (3) 抵抗値の計算:
- 戦略: 各モードのフルスケール条件で方程式を立てる。
- フロー(\(R_1\)): ①電流計モードの回路図を描く → ②並列なⒶと\(R_1\)の電圧が等しい式 (\(r_A I_A = R_1 I_1\)) を立てる → ③\(I_1 = I_{\text{max}} – I_A\) を代入して\(R_1\)を解く。
- フロー(\(R_2\)): ①電圧計モードの回路図を描く → ②直列回路全体のオームの法則 (\(V_{\text{max}} = (r_A+R_2)I_A\)) を立てる → ③式を\(R_2\)について解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似計算のタイミング: (3)の\(R_1\)の計算で、\(10 – 0.01 = 9.99\) となります。ここで、\(10 – 0.01 \approx 10\) と近似することも可能ですが、問題の有効数字(2桁)を考えると、まずは正確な値で計算し、最後の段階で四捨五入するのが最も安全です。\(5.0 \times 10^{-2} / 9.99 \approx 5.0 \times 10^{-3}\) となります。
- 大きな数と小さな数の計算: \(R_1\)の計算では、\(I_{\text{max}}=10\)A に比べて \(I_A=0.01\)A は非常に小さいです。このような場合、引き算 (\(10 – 0.01\)) で有効数字が減らないように注意が必要です。\(R_2\)の計算では、\(1000 – 5.0 = 995\) となり、有効数字の桁の扱いに注意して \(1.0 \times 10^3\) と丸めます。
- 最終チェック: 求めた抵抗値のオーダー(大きさ)が物理的に妥当かを確認する。分流器\(R_1\)は元の内部抵抗\(r_A\)よりずっと小さく(\(5.0 \times 10^{-3} \ll 5.0\))、倍率器\(R_2\)はずっと大きい(\(1.0 \times 10^3 \gg 5.0\))。このオーダーの確認は、大きな計算ミスを発見するのに役立ちます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 分流比: 電流計モードでは、電流は抵抗の逆比に分流します。\(I_A : I_1 = R_1 : r_A \approx 5.0 \times 10^{-3} : 5.0 = 1 : 1000\)。つまり、電流計Ⓐには全体の約1/1001、抵抗\(R_1\)には約1000/1001が流れます。全電流10Aのとき、Ⓐには \(10 \times \frac{1}{1001} \approx 0.00999 \text{ A} = 9.99 \text{ mA}\) が流れ、これはフルスケール10mAとほぼ一致します。
- 分圧比: 電圧計モードでは、電圧は抵抗の比に分圧されます。\(V_A : V_2 = r_A : R_2 = 5.0 : 995 = 1 : 199\)。全体で10Vの電圧がかかるとき、電流計Ⓐには \(10 \text{ V} \times \frac{1}{200} = 0.05 \text{ V}\) の電圧がかかります。このとき流れる電流は \(I = V_A/r_A = 0.05/5.0 = 0.01 \text{ A} = 10 \text{ mA}\) となり、フルスケール条件と一致します。
- 設計思想の理解: この問題を通じて、なぜ分流器は低抵抗で、倍率器は高抵抗でなければならないのか、その理由を定量的に説明できるようになることが重要です。これは、単に問題を解く以上の、測定器の設計思想そのものを理解することに繋がります。
364 コンデンサーを含む回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗とコンデンサーを含む直流回路(RC回路)における、スイッチの切り替えに伴う過渡現象と定常状態を扱う問題です。コンデンサーの性質、特に「スイッチ操作直後」と「十分時間が経過した後」での振る舞いを正確に理解しているかが問われます。
- スイッチ: \(S_1\), \(S_2\)
- コンデンサー: \(C_1\), \(C_2\)(ともに電気容量 \(C\) [F])
- 抵抗: \(R_1\) (\(R\) [Ω]), \(R_2\) (\(2R\) [Ω]), \(r\) (\(r\) [Ω])
- 電池: 起電力 \(V\) [V]
- 初期条件: 初め、コンデンサーに電荷はなかった(\(Q=0\))。
- (1) \(S_1\)を閉じた直後の、抵抗\(r\)を流れる電流の強さ。
- (2) \(S_1\)を閉じて十分時間が経過した後の、\(C_1\)の電気量。
- (3) その後、\(S_1\)を開き、\(S_2\)を閉じて十分時間が経過した後の、\(C_2\)のエネルギー。
- (4) さらにその後、\(S_2\)を開き\(S_1\)を閉じ、十分後、\(S_1\)を開き\(S_2\)を閉じる、という操作を無限に繰り返した後の、\(C_2\)の電気量。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「RC回路のスイッチ操作」です。コンデンサーの2つの重要な状態、「スイッチ操作直後」と「十分時間が経過した後(定常状態)」での振る舞いを使い分けることが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- スイッチ操作直後のコンデンサー: 電圧は急に変化できないため、電圧が0のコンデンサーは「導線(ショート)」と見なせます。電圧が\(V_0\)に充電されているコンデンサーは、起電力\(V_0\)の「電池」と見なせます。
- 十分時間が経過した後のコンデンサー: 充電が完了し、電流が流れ込まなくなるため、「断線(オープン)」と見なせます。
- キルヒホッフの法則: 回路が複雑な場合でも、電圧則(第二法則)を適用することで各部分の電圧・電流の関係を立式できます。
- 電気量保存則: 回路の一部が孤立している場合、その部分の総電気量は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、\(S_1\)を閉じた「直後」のコンデンサーの性質(導線と見なせる)を使い、回路の合成抵抗を求めて電流を計算します。
- (2)では、「十分時間が経過した後」のコンデンサーの性質(断線と見なせる)を使い、定常状態での\(C_1\)の電圧を求めて電気量を計算します。
- (3)では、(2)の状態から\(S_2\)を閉じた後の回路を考えます。電荷の移動が完了した後の2つのコンデンサーの電圧を、電気量保存則を用いて求め、エネルギーを計算します。
- (4)では、操作を繰り返すことで\(C_2\)の電位が最終的にどこに収束するかを考え、そのときの電気量を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチ\(S_1\)を閉じた「直後」に抵抗\(r\)を流れる電流を求める問題です。この瞬間のコンデンサーの振る舞いが最大のポイントです。
この設問における重要なポイント
- スイッチ直後のコンデンサー: 初期状態でコンデンサー\(C_1\)の電荷は0なので、その両端の電圧も0です。コンデンサーの電圧は瞬間的には変化できないため、スイッチを閉じた直後も\(C_1\)の電圧は0のままです。電圧が0の回路素子は「導線(ショート)」と見なすことができます。
- 回路の簡略化: \(C_1\)を導線と見なすと、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)が並列接続された回路として考えることができます。
具体的な解説と立式
スイッチ\(S_1\)を閉じた直後、コンデンサー\(C_1\)にはまだ電荷が蓄えられていないため、その両端の電位差は0です。したがって、\(C_1\)は単なる導線と見なせます。
このとき、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)は並列接続となります。その合成抵抗を\(R_{12}\)とすると、
$$ \frac{1}{R_{12}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} = \frac{1}{R} + \frac{1}{2R} = \frac{3}{2R} $$
よって、
$$ R_{12} = \frac{2R}{3} $$
この合成抵抗\(R_{12}\)と抵抗\(r\)は直列に接続されているので、回路全体の合成抵抗\(R_0\)は、
$$ R_0 = r + R_{12} = r + \frac{2R}{3} = \frac{3r+2R}{3} $$
したがって、抵抗\(r\)を流れる電流、すなわち回路全体を流れる電流\(I\)は、オームの法則より、
$$ I = \frac{V}{R_0} $$
使用した物理公式
- コンデンサーのスイッチ直後の性質
- 抵抗の並列・直列合成
- オームの法則
上記で立てた式に\(R_0\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V}{\displaystyle\frac{3r+2R}{3}} \\[2.0ex]&= \frac{3V}{3r+2R}
\end{aligned}
$$
スイッチを入れた瞬間、空っぽのコンデンサーは電流を素通りさせるただの電線のように振る舞います。そのため、回路は\(R_1\)と\(R_2\)が並列につながったものと見なせます。この並列部分の抵抗を計算し、それと\(r\)を足して回路全体の抵抗を求め、最後にオームの法則「電流 = 電圧 ÷ 全抵抗」で答えを計算します。
\(S_1\)を閉じた直後に\(r\)を流れる電流の強さは \(\displaystyle\frac{3V}{3r+2R}\) [A] です。この電流によって\(C_1\)の充電が開始されます。
問(2)
思考の道筋とポイント
\(S_1\)を閉じてから「十分に時間が経過した後」に\(C_1\)に蓄えられる電気量を求める問題です。この定常状態でのコンデンサーの振る舞いがポイントです。
この設問における重要なポイント
- 十分時間経過後のコンデンサー: 充電が完了すると、コンデンサーにはそれ以上電流が流れ込まなくなります。したがって、コンデンサーが接続されている部分は「断線(オープン)」と見なすことができます。
- 定常電流: \(C_1\)への電流が0になるため、抵抗\(R_2\)にも電流は流れません。したがって、定常状態では、電池、抵抗\(r\)、抵抗\(R_1\)が直列につながった閉回路にのみ電流が流れます。
- コンデンサーの電圧: \(C_1\)の両端の電圧は、並列に接続されている抵抗\(R_1\)の両端の電圧に等しくなります。
具体的な解説と立式
十分に時間が経過すると、コンデンサー\(C_1\)への充電が完了し、電流は流れ込まなくなります。このとき、\(C_1\)を含む枝は断線していると見なせます。
その結果、抵抗\(R_2\)にも電流は流れなくなります。
回路には、電池\(V\)、抵抗\(r\)、抵抗\(R_1\)からなる直列回路にのみ、定常電流\(I’\)が流れます。
$$ I’ = \frac{V}{r+R_1} = \frac{V}{r+R} $$
コンデンサー\(C_1\)の両端の電圧\(V_1\)は、並列接続された抵抗\(R_1\)の両端の電圧に等しくなります。
$$ V_1 = R_1 I’ = R \times \frac{V}{r+R} = \frac{RV}{r+R} $$
したがって、\(C_1\)に蓄えられる電気量\(Q_1\)は、\(Q=CV\)の公式より、
$$ Q_1 = C V_1 $$
使用した物理公式
- コンデンサーの定常状態での性質
- オームの法則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
上記で立てた式に\(V_1\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C \times \frac{RV}{r+R} \\[2.0ex]&= \frac{CRV}{r+R}
\end{aligned}
$$
時間が経ってコンデンサーが満充電になると、コンデンサーの枝には電流が流れなくなります。その結果、電流は\(r\)と\(R_1\)を通るルートだけを流れます。このときの\(R_1\)にかかる電圧を計算し、それがそのままコンデンサー\(C_1\)の電圧になるので、\(Q=CV\)の公式で電気量を求めます。
\(C_1\)に蓄えられた電気量は \(\displaystyle\frac{CRV}{r+R}\) [C] です。この電気量が、次の(3)の操作の初期状態となります。
問(3)
思考の道筋とポイント
\(S_1\)を開き、\(S_2\)を閉じて十分時間が経過した後の、\(C_2\)の静電エネルギーを求める問題です。\(S_1\)を開くことで電池が回路から切り離され、\(C_1\)と\(C_2\)だけで閉回路が形成されます。
この設問における重要なポイント
- 電気量保存則: スイッチ\(S_2\)を閉じる前後で、\(C_1\)と\(C_2\)からなる孤立した部分の総電気量は保存されます。
- 最終状態: 十分時間が経過すると、電荷の移動が完了し、\(C_1\)と\(C_2\)の電圧は等しくなります。この最終的な電圧を\(V_2\)とします。
- 静電エネルギー: コンデンサーに蓄えられるエネルギーは \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) で計算します。
具体的な解説と立式
\(S_1\)を開き\(S_2\)を閉じる直前、\(C_1\)には(2)で求めた電気量 \(Q_1 = \displaystyle\frac{CRV}{r+R}\) が蓄えられており、\(C_2\)の電気量は0です。
\(S_2\)を閉じると、\(C_1\)から\(C_2\)へ電荷が移動します。このとき、\(C_1\)と\(C_2\)で構成される回路は外部から孤立しているため、電気量保存則が成り立ちます。
移動後の\(C_1\), \(C_2\)の電気量をそれぞれ \(Q_1’\), \(Q_2’\) とすると、
$$ Q_1′ + Q_2′ = Q_1 + 0 = \frac{CRV}{r+R} \quad \cdots ① $$
十分に時間が経過すると、電荷移動が終わり、両者の電圧は等しくなります。この電圧を\(V_2\)とすると、
$$ V_2 = \frac{Q_1′}{C} = \frac{Q_2′}{C} $$
これから \(Q_1′ = Q_2’\) であることがわかります。これを①式に代入すると、
$$ 2Q_2′ = \frac{CRV}{r+R} \quad \rightarrow \quad Q_2′ = \frac{CRV}{2(r+R)} $$
したがって、最終的な電圧\(V_2\)は、
$$ V_2 = \frac{Q_2′}{C} = \frac{RV}{2(r+R)} $$
\(C_2\)に蓄えられる静電エネルギー\(U_2\)は、
$$ U_2 = \frac{1}{2} C V_2^2 $$
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
- 静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
上記で立てた式に\(V_2\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
U_2 &= \frac{1}{2} C \left( \frac{RV}{2(r+R)} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{1}{2} C \frac{R^2 V^2}{4(r+R)^2} \\[2.0ex]&= \frac{CR^2 V^2}{8(r+R)^2}
\end{aligned}
$$
充電済みのコンデンサー\(C_1\)を、空のコンデンサー\(C_2\)に繋ぐと、電荷が分け与えられます。最終的には、2つのコンデンサーの電圧(電気的な高さ)が同じになるまで電荷が移動します。もともと\(C_1\)が持っていた電気量を2つのコンデンサーで分け合うと考え、最終的な電圧を求め、エネルギーの公式に代入します。
\(C_2\)に蓄えられたエネルギーは \(\displaystyle\frac{CR^2 V^2}{8(r+R)^2}\) [J] です。この操作で、元のエネルギーの一部が電荷移動の際の抵抗でのジュール熱として失われていることにも注意が必要です。
問(4)
思考の道筋とポイント
\(S_1\)で\(C_1\)を充電し、\(S_2\)で\(C_2\)に電荷を分け与える、という操作を無限に繰り返したとき、\(C_2\)に蓄えられる最終的な電気量を求める問題です。
この設問における重要なポイント
- 操作の繰り返し: この操作は、電池を使って\(C_1\)を常に一定の電圧 \(V_1 = \displaystyle\frac{RV}{r+R}\) に充電し、その\(C_1\)を\(C_2\)に接続する、という操作の繰り返しです。
- 最終状態の考察: \(C_1\)を\(C_2\)に接続すると、両者の電圧が等しくなるまで電荷が移動します。この操作を無限に繰り返すと、\(C_2\)の電圧は、充電源である\(C_1\)の電圧 \(V_1\) に限りなく近づいていきます。
- 極限値: 無限回操作後の\(C_2\)の電圧は、\(C_1\)が充電される定常状態の電圧\(V_1\)に等しくなります。
具体的な解説と立式
この操作を無限に繰り返すと考えます。
1. \(S_1\)を閉じると、\(C_1\)は常に電圧 \(V_1 = \displaystyle\frac{RV}{r+R}\) まで充電されます。
2. \(S_2\)を閉じると、電圧\(V_1\)の\(C_1\)が、その時点での電圧\(V_{C2}\)の\(C_2\)に接続されます。電荷が移動し、両者の電圧は等しくなります。この新しい電圧は、\(V_1\)と\(V_{C2}\)の間の値になります。
3. 再び\(S_1\)を閉じると、\(C_1\)の電圧はまた\(V_1\)に戻ります。
4. 再び\(S_2\)を閉じると、電圧\(V_1\)の\(C_1\)が、前回より少し電圧の上がった\(C_2\)に接続されます。
この操作を繰り返すたびに、\(C_2\)の電圧は\(V_1\)に少しずつ近づいていきます。無限回繰り返した極限では、\(C_2\)の電圧は\(V_1\)に収束します。
したがって、最終的に\(C_2\)にかかる電圧 \(V_{2,\infty}\) は、
$$ V_{2,\infty} = V_1 = \frac{RV}{r+R} $$
このときの\(C_2\)に蓄えられる電気量 \(Q_{2,\infty}\) は、
$$ Q_{2,\infty} = C V_{2,\infty} $$
使用した物理公式
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
上記で立てた式に\(V_{2,\infty}\)の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_{2,\infty} &= C \times \frac{RV}{r+R} \\[2.0ex]&= \frac{CRV}{r+R}
\end{aligned}
$$
この操作は、電圧\(V_1\)の「充電器」(\(C_1\))を使って、別のバッテリー(\(C_2\))を何度も充電するようなものです。充電を繰り返せば、バッテリー\(C_2\)の電圧は、充電器\(C_1\)の電圧\(V_1\)と最終的に同じになります。したがって、無限回操作後の\(C_2\)の電気量は、電圧\(V_1\)で充電されたときの電気量と同じになります。
無限回操作後に\(C_2\)に蓄えられる電気量は \(\displaystyle\frac{CRV}{r+R}\) [C] です。これは、(2)で求めた\(C_1\)の定常状態での電気量と全く同じです。これは、\(C_1\)が\(C_2\)にとっての「電池」の役割を果たし、最終的に\(C_2\)を自分と同じ電位まで充電するため、と解釈できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの過渡状態と定常状態の理解:
- 核心: この問題は、コンデンサーが回路の「状態」によって振る舞いを変えることを理解しているかが全てです。
- 理解のポイント:
- スイッチ操作直後(過渡状態): 電荷が0のコンデンサーは、まだ電圧を発生できないため、単なる「導線(ショート回路)」として扱います。これにより、その瞬間の電流を計算できます。(問1)
- 十分時間が経過した後(定常状態): コンデンサーの充電が完了(または放電が完了)し、電流が流れ込まなくなるため、「断線(オープン回路)」として扱います。これにより、定常状態での電圧や電気量を計算できます。(問2)
- 電気量保存則:
- 核心: 電池から切り離された「孤立部分」において、電荷の移動が起きても、その部分の総電気量は変わらないという法則です。
- 理解のポイント: (3)で\(S_1\)を開き\(S_2\)を閉じたとき、\(C_1\)と\(C_2\)の上側プレート(および下側プレート)の組は、回路の他の部分から電気的に孤立します。したがって、\(C_1\)が持っていた電荷を\(C_1\)と\(C_2\)で分け合う、という状況を数式(\(Q_{\text{初}} = Q_{\text{終}}\))で表現するために、この法則が不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- CR直列回路の時定数: スイッチを入れてから定常状態に達するまでの、電流やコンデンサーの電圧が時間的にどう変化するかを問う問題。\(I(t) = I_0 e^{-t/CR}\) のような指数関数的な変化を扱う。
- コイルを含む回路(LR回路、LCR回路): コイルは「電流の変化を妨げる」性質を持つため、コンデンサーとは逆の振る舞いをします。スイッチ直後には電流を流さず「断線」のように、十分時間経過後には電圧降下がなくなり「導線」のように振る舞います。これらの性質をコンデンサーと比較しながら理解することが重要です。
- 交流回路におけるコンデンサー: 交流回路では、コンデンサーは充放電を絶えず繰り返し、電流を妨げる「リアクタンス」として機能します。
- 初見の問題での着眼点:
- 時間スケールを特定する: 問題文が「スイッチを入れた直後」なのか、「十分に時間が経過した後」なのかをまず確認します。これにより、コンデンサーを「導線」と見るか「断線」と見るかが決まります。
- 回路の「孤立部分」を探す: スイッチ操作によって、回路の一部が電池などから切り離されていないかを確認します。もし孤立部分があれば、電気量保存則が使える可能性が高いです。
- 状態変化の前後を整理する: スイッチ操作を伴う問題では、「操作前の状態(電圧、電気量)」が「操作後の初期条件」になります。各ステップの状態を丁寧に図示し、情報を整理することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- スイッチ直後の扱い:
- 誤解: スイッチを入れた直後から、コンデンサーを「断線」として扱ってしまい、電流が流れないと勘違いする。
- 対策: 「直後」と「十分後」の振る舞いは真逆であると強く意識する。空のコンデンサーは、最初は勢いよく電流を吸い込む(=導線のように振る舞う)とイメージしましょう。
- 電気量保存則の適用範囲:
- 誤解: 電池に繋がっている状態の回路で、電気量保存則を使おうとしてしまう。
- 対策: 電気量保存則が使えるのは、外部との電荷のやり取りがない「孤立部分」だけです。電池に繋がっている間は、電池が電荷を供給(または吸収)するため、回路全体の電気量は保存されません。必ず、回路が部分的に孤立していることを確認してから適用しましょう。
- (3)の最終電圧の誤解:
- 誤解: \(C_1\)と\(C_2\)の容量が同じだから、電気量も均等に半分ずつ分けられると考え、\(Q_1′ = Q_2′ = Q_1/2\) と早合点する。
- 対策: 最終的に等しくなるのは「電圧」であり、「電気量」ではありません。\(V_1′ = V_2’\) という条件から出発し、\(Q=CV\)の関係を使って \(Q_1’/C_1 = Q_2’/C_2\) と立式するのが正攻法です。この問題ではたまたま\(C_1=C_2=C\)なので結果的に電気量も等しくなりますが、容量が異なる場合はそうならないため、常に電圧が等しくなる、と覚えておくことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 水槽とパイプのアナロジー:
- コンデンサーを「水槽」、抵抗を「細いパイプ」、電池を「ポンプ」、スイッチを「バルブ」とイメージします。
- (1) 直後: 空の水槽(\(C_1\))にポンプ(\(V\))から水を流し込む瞬間。水槽はまだ水圧(電圧)がないので、水は抵抗なく流れ込もうとし、水路(抵抗)の太さだけで流量(電流)が決まる。
- (2) 十分後: 水槽(\(C_1\))が満杯になり、ポンプの水圧と水槽の水圧が釣り合って、水の流れ(電流)が止まる。
- (3) \(S_2\)を閉じる: 満杯の水槽(\(C_1\))を、隣の空の水槽(\(C_2\))にパイプで繋ぐ。水が移動し、最終的に二つの水槽の水位(電圧)が同じになる。
- 状態遷移図: 各操作((1)→(2)→(3)→(4))の前後で、回路図と各コンデンサーの電気量・電圧を書き出した図を作成する。状態がどのように変化していくかを視覚的に追跡することで、複雑な思考を整理できます。
- 水槽とパイプのアナロジー:
- 図を描く際に注意すべき点:
- 「直後」と「十分後」の等価回路を描く: (1)では\(C_1\)を導線に、(2)では\(C_1\)の枝を断線に書き換えた「等価回路図」を描くことで、その瞬間の回路構造が明確になり、計算ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- コンデンサーの等価的扱い(導線/断線):
- 選定理由: 複雑なRC回路を、特定の瞬間において単純な抵抗回路として解析するため。
- 適用根拠: コンデンサーの基本特性 \(i = C \frac{dV}{dt}\) に基づく。直後は\(V\)が変化しようとするので\(i\)が流れ(導線的)、十分後は\(V\)が一定になるので\(i=0\)(断線的)となる。
- 電気量保存則:
- 選定理由: (3)のように、電池から切り離された閉回路内での電荷の再配分を計算するため。エネルギー保存則は抵抗で熱が発生するため使えないが、電荷は行き場がないため保存される。
- 適用根拠: 物理学の基本法則である電荷保存則を、回路の孤立部分に適用したもの。
- キルヒホッフの電圧則:
- 選定理由: (2)の定常状態など、回路の各部分の電圧を決定するため。
- 適用根拠: エネルギー保存則に基づく、電気回路における普遍的な法則。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) \(S_1\)閉成直後:
- 戦略: \(C_1\)を導線とみなし、単純な抵抗回路として解く。
- フロー: ①\(C_1\)を導線に置き換えた等価回路を描く → ②\(R_1\)と\(R_2\)の並列合成抵抗を計算 → ③\(r\)との直列合成で全抵抗を計算 → ④オームの法則で全電流\(I\)を求める。
- (2) \(S_1\)閉成十分後:
- 戦略: \(C_1\)を断線とみなし、定常電流と\(C_1\)の電圧を求める。
- フロー: ①\(C_1\)の枝を断線させた等価回路を描く → ②\(r\)と\(R_1\)の直列回路に流れる定常電流\(I’\)を計算 → ③\(R_1\)にかかる電圧\(V_1=R_1 I’\)を計算 → ④\(Q_1=CV_1\)で電気量を求める。
- (3) \(S_2\)閉成十分後:
- 戦略: 電気量保存則と最終電圧が等しい条件で解く。
- フロー: ①初期総電荷 \(Q_{\text{初}} = Q_1\) を確認 → ②電気量保存則 (\(Q_1’+Q_2′ = Q_{\text{初}}\)) を立てる → ③最終電圧が等しい条件 (\(Q_1’/C = Q_2’/C\)) を立てる → ④連立して最終電圧\(V_2\)を求め、エネルギーを計算。
- (4) 無限回操作後:
- 戦略: \(C_2\)の電圧が、充電源である\(C_1\)の定常電圧に収束することを見抜く。
- フロー: ①無限回操作後の\(C_2\)の電圧は、\(C_1\)の充電電圧\(V_1\)に等しくなると考える → ②\(Q_{2,\infty} = C V_1\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 合成抵抗の計算: 並列合成の公式 \(\frac{1}{R_{12}} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2}\) を使った後、逆数を取るのを忘れないように注意する。
- 文字式の整理: 式が複雑になりがちなので、各ステップで得られた結果(例: (2)の\(V_1\))を、後の計算で代入しやすいように整理しておく。
- 極限の考え方: (4)では、漸化式を立てて極限を求めることも可能ですが、物理的に「最終的にどこに落ち着くか」を考察する方が速く、直感的です。充電を繰り返せば、充電器の電圧に等しくなる、という物理的描像を持つことが重要です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- エネルギーの保存/非保存: (3)の操作では、電気量は保存されますが、静電エネルギーは保存されません。操作前のエネルギー \(U_{\text{初}} = \frac{1}{2}CV_1^2\) と、操作後の総エネルギー \(U_{\text{終}} = \frac{1}{2}CV_2^2 + \frac{1}{2}CV_2^2 = CV_2^2\) を比較すると、\(U_{\text{終}} < U_{\text{初}}\) となっています。この差額は、電荷が移動する際に抵抗で発生したジュール熱に変わった、と解釈できます。
- 極限値の妥当性: (4)で得られた最終的な電気量 \(\frac{CRV}{r+R}\) は、(2)で求めた\(C_1\)の電気量と一致します。これは、\(C_1\)が\(C_2\)を充電する「電池」の役割を果たし、最終的に\(C_2\)の電位を自分自身の充電電位まで引き上げる、という物理モデルと整合しており、妥当な結果です。
365 ダイオードを含む回路
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ダイオードとコンデンサーを含む直流回路について、スイッチ操作に伴う過渡現象と定常状態を分析する問題です。ダイオードという電圧によって性質が変わる非線形素子の扱いと、コンデンサーの時間的な振る舞いを正確に理解し、キルヒホッフの法則を適用する能力が問われます。
- 電池: 内部抵抗の無視できる起電力 \(E\)
- 抵抗: 抵抗値 \(R\)
- コンデンサー: 電気容量 \(C\)、初期電荷は \(0\)
- ダイオードD: 点aに対する点bの電位を \(V_D\)、電流を \(I_D\) としたときの特性が図2で与えられる。
- \(V_D \le V_0\) のとき、\(I_D = 0\)
- \(V_D > V_0\) のとき、グラフの傾きは \(\displaystyle\frac{1}{r}\)
- (1) スイッチを閉じた直後の抵抗Rを流れる電流 \(I\)。
- (2) \(E<V_0\) のとき、十分時間経過後のダイオードの電圧 \(V_D\) とコンデンサーの電気量 \(Q\)。
- (3) \(E>V_0\) のとき、十分時間経過後のダイオードの電圧 \(V_D\)。
- (4) (3)の状態からスイッチを開いた直後の電流 \(I_D\) と、さらに十分時間経過後の電気量 \(Q’\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ダイオードとコンデンサーを含む直流回路の過渡現象と定常状態」です。ダイオードという非線形素子の振る舞いを、コンデンサーの時間変化と組み合わせて理解する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの性質: スイッチ操作の直後(電圧は変化しない)と、十分に時間が経過した後(直流電流を流さない)の振る舞いを区別して考えます。
- ダイオードのI-V特性: 問題で与えられたグラフを正しく読み取り、電圧\(V_D\)の値に応じて電流\(I_D\)がどうなるかを判断し、必要に応じて数式で表現します。
- キルヒホッフの法則: 回路における電圧と電流の関係を記述するための最も基本的な法則です。
- 並列接続の理解: 回路図から、コンデンサーCとダイオードDが並列に接続されており、両端の電圧が常に等しいこと(\(V_C = V_D\))を把握することが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、各設問が「スイッチ操作直後」なのか「十分時間経過後」なのかを判断します。
- 次に、その時間的状況におけるコンデンサーとダイオードの状態(電圧、電流)を特定します。
- 最後に、キルヒホッフの法則を用いて回路方程式を立て、未知数を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた直後の過渡現象を考えます。コンデンサーの重要な性質「電圧は急には変化できない」を用いることが出発点です。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの初期状態: スイッチを閉じる直前、コンデンサーに電荷はなかったので、その両端の電圧は \(0 \text{ V}\) です。コンデンサーの電圧は連続的にしか変化できないため、閉じた直後の電圧も \(0 \text{ V}\) のままです。
- 並列部分の電圧: コンデンサーCとダイオードDは並列接続なので、Cの電圧が \(0 \text{ V}\) ならば、ダイオードの両端の電圧 \(V_D\) も \(0 \text{ V}\) です。
- ダイオードの状態: \(V_D = 0\) は、図2のグラフで \(V_D < V_0\) の範囲に含まれます。したがって、ダイオードには電流が流れません (\(I_D = 0\))。
- 電流の経路: ダイオードに電流が流れないため、抵抗Rを流れる電流 \(I\) はすべてコンデンサーCの側へ流れます。
具体的な解説と立式
スイッチを閉じた直後、コンデンサーの電圧 \(V_C\) は \(0\) です。
このとき、電流は電池E、抵抗R、コンデンサーCを通る閉回路を流れると考えることができます。
この閉回路について、キルヒホッフの第2法則を適用します。電池の起電力 \(E\) が、抵抗Rでの電圧降下 \(RI\) とコンデンサーでの電圧降下 \(V_C\) の和に等しくなります。
$$ E = RI + V_C $$
ここに、スイッチ直後の条件である \(V_C = 0\) を適用します。
$$ E = RI + 0 $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則
- コンデンサーの過渡特性
上記で立てた式を \(I\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
E &= RI \\[2.0ex]I &= \frac{E}{R}
\end{aligned}
$$
スイッチを入れた瞬間、空っぽのコンデンサーは電流を素通りさせるただの導線のように振る舞います。また、ダイオードにはまだ電圧がかかっていないので電流は流れません。そのため、回路は電池Eと抵抗Rだけが繋がった単純な回路と見なせます。オームの法則から、電流は \(I = E/R\) となります。
スイッチを閉じた直後にRを流れる電流 \(I\) は \(\displaystyle\frac{E}{R}\) です。これは、コンデンサーが短絡状態として扱える過渡現象の初期段階における基本的な結果であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
スイッチを閉じてから十分に時間が経過した後の「定常状態」を考えます。このとき、コンデンサーの充電は完了しています。条件として \(E < V_0\) が与えられている点が重要です。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの定常状態: 十分に時間が経過すると、コンデンサーの充電が完了し、コンデンサーの経路には直流電流が流れなくなります。
- 電流の経路: コンデンサーに電流が流れないため、抵抗Rを流れる電流 \(I’\) があるとすれば、それはすべてダイオードDに流れます (\(I_D = I’\))。
- キルヒホッフの法則: 電池E、抵抗R、ダイオードDからなる閉回路にキルヒホッフの第2法則を適用すると、\(E = RI’ + V_D\) となります。
- ダイオードの状態決定: 上式より \(V_D = E – RI’\) であり、\(I’ \ge 0\) なので \(V_D\) は \(E\) 以下になります。問題の条件 \(E < V_0\) と合わせると、\(V_D \le E < V_0\) となります。図2のグラフから、\(V_D < V_0\) の場合、ダイオードには電流が流れないので \(I_D = 0\) です。
- 回路の状態の確定: \(I_D = 0\) ということは、\(I’ = 0\) を意味します。これにより、抵抗Rでの電圧降下は \(RI’ = 0\) となります。
具体的な解説と立式
十分に時間が経過すると、コンデンサーCへの電流は \(0\) になります。
抵抗Rを流れる電流を \(I’\)、ダイオードを流れる電流を \(I_D\) とすると、電流の分岐点から \(I’ = I_D\) です。
電池E、抵抗R、ダイオードDを含む閉回路について、キルヒホッフの第2法則を立てると、
$$ E = RI’ + V_D $$
ここで、\(V_D = E – RI’\) より \(V_D \le E\) です。
問題の条件 \(E < V_0\) と合わせると、\(V_D < V_0\) となります。
図2のグラフより、\(V_D < V_0\) のとき \(I_D = 0\) です。
したがって、\(I’ = I_D = 0\) となり、回路全体に電流は流れません。
この結果をキルヒホッフの法則の式に代入すると、
$$ E = R \cdot 0 + V_D $$
これにより、ダイオードの電圧 \(V_D\) が求まります。
また、コンデンサーCとダイオードDは並列なので、コンデンサーの電圧 \(V_C\) は \(V_D\) に等しくなります。
$$ V_C = V_D $$
コンデンサーの電気量 \(Q\) は、公式 \(Q=CV\) を用いて計算します。
$$ Q = C V_C $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則
- コンデンサーの定常特性
- \(Q=CV\)
ダイオードの電圧 \(V_D\) を求めます。
$$ V_D = E $$
コンデンサーの電気量 \(Q\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q &= C V_C \\[2.0ex]&= C E
\end{aligned}
$$
十分時間が経つと、コンデンサーは満充電で電流を止めます。このとき、もしダイオードに電流が流れるとすると、ダイオードにかかる電圧は電池の電圧Eより小さくなります。しかし、E自体がダイオードをONにする電圧\(V_0\)より小さいので、結局ダイオードにも電流は流れません。結果、回路全体に電流が流れなくなり、抵抗での電圧降下は0。ダイオードとコンデンサーには電池の電圧Eがそのままかかります。
十分に時間が経過した後のダイオードの電圧 \(V_D\) は \(E\)、コンデンサーの電気量 \(Q\) は \(CE\) です。\(E < V_0\) という条件の下で、ダイオードがオフのままであるという結果は物理的に整合性が取れています。
問(3)
思考の道筋とポイント
問(2)と同様に十分に時間が経過した後の定常状態を考えますが、今度は \(E > V_0\) という条件です。これにより、ダイオードがONの状態になることが予想されます。求めるのはダイオードの電圧 \(V_D\) です。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの定常状態: 十分に時間が経過するため、コンデンサーへの電流は \(0\) です。
- 電流の経路: 抵抗Rを流れる電流はすべてダイオードDに流れます。この電流を \(I_D\) とします。
- ダイオードの状態: \(E > V_0\) なので、ダイオードには電流が流れると考えられます。したがって、ダイオードの電圧 \(V_D\) は \(V_0\) より大きいと仮定し、図2のグラフの \(V_D > V_0\) の部分に対応する関係式を用います。
- 連立方程式: 「キルヒホッフの第2法則」と「ダイオードの特性式」の2つを連立させて解きます。
具体的な解説と立式
十分に時間が経過すると、コンデンサーCへの電流は \(0\) になります。
抵抗RとダイオードDには同じ電流 \(I_D\) が流れます。
電池E、抵抗R、ダイオードDを含む閉回路について、キルヒホッフの第2法則を立てると、
$$ E = R I_D + V_D \quad \cdots ① $$
次に、\(E > V_0\) の条件から、ダイオードには電流が流れていると考えられ、\(V_D > V_0\) となります。図2のグラフから、このときのダイオードの特性は傾き \(\displaystyle\frac{1}{r}\) の直線で表されるので、その関係式は、
$$ I_D = \frac{1}{r} (V_D – V_0) \quad \cdots ② $$
①と②の連立方程式を解くことで、\(V_D\) を求めます。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則
- ダイオードのI-V特性
式②を式①に代入して \(I_D\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
E &= R \left( \frac{1}{r} (V_D – V_0) \right) + V_D \\[2.0ex]E &= \frac{R}{r} (V_D – V_0) + V_D
\end{aligned}
$$
この式を \(V_D\) について解きます。まず、両辺に \(r\) を掛けます。
$$
\begin{aligned}
rE &= R(V_D – V_0) + rV_D \\[2.0ex]rE &= R V_D – R V_0 + rV_D \\[2.0ex]rE + R V_0 &= (R+r)V_D
\end{aligned}
$$
最後に、この式を \(V_D\) について解きます。
$$ V_D = \frac{rE + RV_0}{R+r} $$
十分時間が経つと、コンデンサーは電流を止めます。電池の電圧EがダイオードをONにするのに十分大きいので、電流は電池→抵抗→ダイオードの経路で流れ続けます。このとき、ダイオードは「電圧\(V_0\)の電池」と「抵抗r」が直列につながったものと見なせます。この回路でキルヒホッフの法則を使い、ダイオードにかかる電圧を計算します。
十分に時間が経過した後のダイオードの電圧 \(V_D\) は \(\displaystyle\frac{rE + RV_0}{R+r}\) です。この式は、\(E\) と \(V_0\) を抵抗 \(r\) と \(R\) で内分する形になっており、物理的に妥当な形式です。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)の定常状態からスイッチを開く、という操作を考えます。スイッチを開いた「直後」と、そこからさらに「十分に時間が経過した後」の2つの状態について問われています。
この設問における重要なポイント
- スイッチを開いた直後:
- コンデンサーの電圧は急に変化しないため、スイッチを開く直前の電圧を維持します。
- スイッチを開くと、電池Eと抵抗Rは回路から切り離され、コンデンサーCとダイオードDのみの閉回路ができます。
- 開く直前の電圧は、(3)で求めた定常状態のダイオード電圧 \(V_D\) に等しく、これが開いた直後のCとDの電圧になります。
- この直後の電圧を使って、ダイオードの特性式から電流 \(I_D\) を求めます。
- 十分に時間が経過した後:
- コンデンサーCに蓄えられた電荷が、ダイオードDを通して放電されます。
- 放電が進むにつれて、CとDの電圧は減少していきます。
- 図2のグラフより、電圧が \(V_0\) まで低下すると、ダイオードに流れる電流 \(I_D\) が \(0\) になります。
- 電流が流れなくなると、それ以上放電は起こらず、その状態が最終的な定常状態となります。
具体的な解説と立式
スイッチを開いた直後:
スイッチを開く直前のコンデンサーの電圧は、(3)で求めたダイオードの電圧 \(V_D\) に等しいです。
$$ V_{C, \text{前}} = V_D = \frac{rE + RV_0}{R+r} $$
スイッチを開いた直後、コンデンサーの電圧は変化しないので、ダイオードにかかる電圧 \(V_{D, \text{後}}\) もこれに等しくなります。
$$ V_{D, \text{後}} = V_{C, \text{前}} = \frac{rE + RV_0}{R+r} $$
この電圧は \(V_0\) より大きい((3)の計算過程から明らか)ので、ダイオードには電流が流れます。求める電流 \(I_D\) は、ダイオードの特性式から計算できます。
$$ I_D = \frac{1}{r} (V_{D, \text{後}} – V_0) $$
十分に時間が経過した後:
コンデンサーからの放電により、ダイオードの電圧 \(V_D\) は低下します。電流が流れなくなるのは \(I_D = 0\) のときであり、図2からそのときの電圧は \(V_D = V_0\) です。
これが最終的なコンデンサーの電圧 \(V_C’\) となります。
$$ V_C’ = V_0 $$
このときのコンデンサーの電気量 \(Q’\) は、公式 \(Q=CV\) を用いて計算します。
$$ Q’ = C V_C’ $$
使用した物理公式
- コンデンサーの過渡特性
- ダイオードのI-V特性
- \(Q=CV\)
スイッチを開いた直後の電流 \(I_D\):
直後の電圧 \(V_{D, \text{後}}\) を特性式に代入します。
$$
\begin{aligned}
I_D &= \frac{1}{r} \left( \frac{rE + RV_0}{R+r} – V_0 \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{r} \left( \frac{rE + RV_0 – V_0(R+r)}{R+r} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{r} \left( \frac{rE + RV_0 – RV_0 – rV_0}{R+r} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{r} \left( \frac{r(E – V_0)}{R+r} \right) \\[2.0ex]&= \frac{E – V_0}{R+r}
\end{aligned}
$$
十分に時間が経過した後の電気量 \(Q’\):
最終的なコンデンサーの電圧は \(V_0\) なので、
$$ Q’ = C V_0 $$
- 直後: スイッチを切ると、コンデンサーが新しい電池の役割をします。切る直前の電圧を保ったまま、ダイオードに電流を流し始めます。このときの電流は、(3)の定常状態で流れていた電流とは異なる値になります。
- 十分後: コンデンサーの放電が進み、電圧が下がっていきます。ダイオードがONでいられるギリギリの電圧 \(V_0\) まで電圧が下がると、ダイオードは電流を止めます。そこで放電がストップし、コンデンサーには電圧 \(V_0\) に相当する電荷が残ります。
スイッチを開いた直後の電流 \(I_D\) は \(\displaystyle\frac{E – V_0}{R+r}\)、十分に時間が経過した後の電気量 \(Q’\) は \(CV_0\) です。
直後の電流は、(3)の定常状態での電流 \(I_{D, \text{定常}} = \frac{E-V_D}{R}\) とは異なる値になります。スイッチを開くことで、回路構成がCとDのみに変化するためです。最終的に放電が \(V_0\) で止まるというのも、ダイオードの特性から導かれる妥当な結論です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの過渡現象と定常状態の理解:
- 核心: コンデンサーの振る舞いは時間スケールによって全く異なります。①スイッチ操作の「直後」では、コンデンサーの電圧は変化できず、直前の電圧を維持します(電圧の連続性)。特に、電荷ゼロから始まる場合は電圧ゼロ、すなわち「短絡(ショート)」状態と見なせます。②「十分に時間が経過した後」の定常状態では、コンデンサーは充電を完了し、直流電流を流さなくなります。すなわち「開放」状態と見なせます。この2つの状態を的確に使い分けることが、この問題の全設問を解く上での大前提です。
- 非線形素子(ダイオード)の特性の読解と適用:
- 核心: ダイオードは、かかる電圧 \(V_D\) によって電気的性質が変化する「非線形」な素子です。この問題では、その性質が \(I_D-V_D\) グラフで与えられています。問題を解くには、回路の他の部分から決まる \(V_D\) の値が、しきい値電圧 \(V_0\) より大きいか小さいかを判断し、グラフの適切な部分(\(I_D=0\) の領域か、\(I_D = \frac{1}{r}(V_D-V_0)\) の直線領域か)を選択して立式する必要があります。
- キルヒホッフの法則の適用:
- 核心: どんなに複雑な回路でも、電圧と電流の関係を支配するのはキルヒホッフの法則です。特に第2法則(電圧則)は、回路内の任意の閉ループにおいて「起電力の和=電圧降下の和」という関係を立てるための普遍的なツールです。コンデンサーやダイオードを含む回路でも、それぞれの素子の両端の電圧を一つの「電圧降下」と見なして式を立てます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コイルを含む直流回路: コイル(インダクタ)はコンデンサーと対照的な振る舞いをします。スイッチを入れた直後は電流の変化を妨げるため「開放」状態(電流ゼロ)、十分時間経過後は単なる導線「短絡」状態(電圧ゼロ)と見なせます。この性質を理解すれば、本問と同様の思考プロセスで解くことができます。
- 複数のコンデンサーや抵抗を含むRC回路: スイッチの切り替えによって充放電の経路や時定数が変わる問題。どの部分が定常状態になり、どの部分が過渡状態にあるのかを正確に把握することが鍵です。
- ツェナーダイオードなど他の非線形素子を含む回路: ダイオード以外の素子でも、I-V特性グラフが与えられていれば、本問と全く同じアプローチが通用します。グラフのどの領域で動作しているかを判断し、対応する数式をキルヒホッフの法則と連立させます。
- 初見の問題での着眼点:
- 時間スケールを特定する: 問題文が「スイッチを入れた直後」なのか「十分時間が経過した後」なのか、あるいはその両方を問うているのかを最初に確認します。
- 素子の状態を仮定する: ダイオードのような非線形素子がある場合、「今はON(電流が流れる)だろうか、OFF(電流が流れない)だろうか」と仮説を立てます。
- 仮定に基づいて計算を進める: 立てた仮説のもとで回路方程式を解き、電流や電圧を求めます。
- 仮定の妥当性を検証する: 計算結果が、最初に立てた仮説と矛盾しないかを確認します。(例:「OFFと仮定して計算したら、ダイオードの電圧がしきい値を超えてしまった」→仮説が誤り。ONとして再計算する。)
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- コンデンサーの電圧を常にゼロと考える:
- 誤解: スイッチを入れた直後はコンデンサーが短絡状態だから、いつでも電圧はゼロだと思い込む。
- 対策: 電圧がゼロなのは、あくまで「電荷が蓄えられていない状態からスイッチを入れた直後」です。本問の(4)のように、すでに充電された状態からスイッチ操作をする場合、直後の電圧は「操作直前の電圧」に等しくなります。常に「直前の状態は何か?」を意識する癖をつけましょう。
- ダイオードの特性式の扱い:
- 誤解: \(E > V_0\) だからといって、ダイオードの電圧 \(V_D\) が \(E\) になると勘違いする。あるいは、特性式 \(I_D = \frac{1}{r}(V_D-V_0)\) をいつでも使えると思い込む。
- 対策: ダイオードの電圧 \(V_D\) は、回路全体のバランスによって決まる未知数です。\(E\) はあくまで電源の電圧です。また、特性式が使えるのは \(V_D > V_0\) が満たされるときだけです。必ずキルヒホッフの法則と連立させ、回路全体で \(V_D\) と \(I_D\) の値を決定する必要があります。
- スイッチを開いた後の回路構成の誤認:
- 誤解: (4)でスイッチを開いた後も、電池Eや抵抗Rが回路に残っていると考えてしまう。
- 対策: スイッチ操作によって回路のトポロジー(接続構造)がどう変化したかを、必ず図で再確認しましょう。(4)では、EとRが完全に切り離され、「CとDだけの閉回路」になることを明確に認識することが第一歩です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位の図(ポテンシャル図): 回路を一周するように、各点での電位をグラフに描くイメージを持つと非常に有効です。電池で電位が \(E\) だけ上がり、抵抗 \(R\) で \(RI\) だけ下がり、ダイオード \(D\) で \(V_D\) だけ下がる、というように電位の変化を追跡します。これにより、キルヒホッフの第2法則が「一周して元の電位に戻る」という直感的なイメージと結びつきます。
- ダイオードのモデル化:
- OFF状態 (\(V_D < V_0\)): 回路が切れている「開放」状態としてイメージ。
- ON状態 (\(V_D > V_0\)): 「逆向きの電圧 \(V_0\) の電池」と「内部抵抗 \(r\)」が直列につながった部品としてイメージします。こう考えると、(3)の回路は、起電力 \(E\) の電池に、抵抗 \(R\)、抵抗 \(r\)、起電力 \(V_0\) の電池(逆向き)が直列接続されたものと等価になり、計算の見通しが良くなります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電流の経路を矢印で明記する: 各状態で電流がどこを流れるのか(あるいは流れないのか)を、色ペンなどで明確に図に書き込むと、思考が整理されます。
- 電圧の向きを明確に: 各素子のどちら側が電位が高いかを「+」「-」で書き込むと、キルヒホッフの法則を立てる際の符号ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの第2法則 (\(\sum E = \sum RI\)):
- 選定理由: 回路内の電圧関係を記述する、最も基本的で強力な法則だから。未知の電流や電圧を求める際の出発点となります。
- 適用根拠: エネルギー保存則の電気回路における表現です。電荷が回路を一周して得るエネルギーと失うエネルギーが等しいことを意味します。
- コンデンサーの公式 (\(Q=CV\)):
- 選定理由: コンデンサーの電圧と蓄えられている電気量を結びつける定義式だから。(2)や(4)で電気量を問われた際に必須となります。
- 適用根拠: コンデンサーの基本性質を定義する式です。
- ダイオードの特性式 (\(I_D = f(V_D)\)):
- 選定理由: ダイオードという特殊な素子の振る舞いを記述するために、問題文で与えられた特別なルールだから。
- 適用根拠: この問題に固有の実験的な法則です。キルヒホッフの法則のような普遍的な法則と、この個別具体的なルールを組み合わせることで、問題が解けます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) スイッチ直後:
- 戦略: コンデンサーの電圧ゼロ(短絡)を利用。
- フロー: ① \(t=0\) で \(V_C=0\) と判断 → ② Cと並列のDも \(V_D=0\) → ③ 図2より \(I_D=0\) → ④ E, R, Cのループでキルヒホッフ則を立てる (\(E=RI+V_C\)) → ⑤ \(V_C=0\) を代入して \(I\) を解く。
- (2) 十分時間後 (\(E<V_0\)):
- 戦略: コンデンサー電流ゼロ(開放)とダイオードOFFを利用。
- フロー: ①十分時間後でコンデンサー電流ゼロ → ②電流はE→R→Dのループを流れると仮定しキルヒホッフ則 (\(E=RI’+V_D\)) → ③この式から \(V_D \le E\) → ④条件 \(E<V_0\) と合わせ \(V_D < V_0\) を確定 → ⑤図2より \(I_D=0\) (\(I’=0\)) → ⑥キルヒホッフ則に \(I’=0\) を代入し \(V_D\) を決定 → ⑦ \(Q=CV_C=CV_D\) で \(Q\) を計算。
- (3) 十分時間後 (\(E>V_0\)):
- 戦略: コンデンサー電流ゼロとダイオードONを利用。
- フロー: ①十分時間後でコンデンサー電流ゼロ → ②電流はE→R→Dのループを流れると判断 → ③キルヒホッフ則 (\(E=RI_D+V_D\)) とダイオード特性式 (\(I_D=\frac{1}{r}(V_D-V_0)\)) を連立 → ④ \(I_D\) を消去して \(V_D\) について解く。
- (4) スイッチ開放後:
- 戦略: 電圧の連続性を利用し、CとDのみの回路を考える。
- フロー: [直後] ①開く直前の \(V_D\) ((3)の結果) を求める → ②電圧の連続性から、開いた直後の \(V_D\) も同じ値 → ③この \(V_D\) をダイオード特性式に代入し \(I_D\) を計算。 [十分後] ④CからDへ放電し \(V_D\) が低下 → ⑤ \(I_D=0\) となるのは \(V_D=V_0\) のとき → ⑥放電が停止し、最終電圧は \(V_0\) → ⑦ \(Q’=CV_0\) で \(Q’\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (3)や(4)の計算では、途中で \(I_D\) を求めたりせず、最終的に求めたい量((3)なら \(V_D\))が得られるように、文字式のまま代入・消去を進めるのが得策です。これにより、計算の見通しが良くなり、間違いが減ります。
- 連立方程式の解法: (3)では、①式を \(I_D\) について解いて②式に代入するよりも、②式を①式に代入して \(I_D\) を消去する方が、分数の計算が後になり、計算が楽になります。どちらの変数を消去すれば楽になるか、一瞬考える癖をつけましょう。
- 単位と次元の確認: 最終的に得られた答えの次元が、求められている物理量の次元と一致しているかを確認します。例えば(3)で求めた \(V_D\) の答えは、\(rE\) も \(RV_0\) も \(R+r\) も、すべて同じ次元の項で構成されており、全体として電圧の次元になっていることが確認できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 電圧 \(V_D\): 求めた \(V_D = \displaystyle\frac{rE + RV_0}{R+r}\) は、\(E\) と \(V_0\) の値を、抵抗 \(R\) と \(r\) で「重み付け平均」した形(内分点の公式と同じ形)になっています。これは物理的に非常に妥当な形です。例えば、もし \(R\) が非常に大きければ、\(V_D\) は \(V_0\) に近づきます(電流が流れにくいため)。もし \(r\) が非常に大きければ、\(V_D\) は \(E\) に近づきます(ダイオードが電流を流しにくいため)。
- (4) 電流 \(I_D\): 求めた \(I_D = \displaystyle\frac{E – V_0}{R+r}\) は、(3)の定常状態で流れていた電流 \(I_{D, \text{定常}} = \frac{E-V_D}{R}\) とは異なります。スイッチを開くことで抵抗Rがなくなるので、電流値が変わるのは当然です。この違いを認識できているかは、理解度を測る良い指標になります。
- (4) 電気量 \(Q’\): 最終的にコンデンサーに電荷 \(Q’=CV_0\) が残る、という結果は重要です。これは、ダイオードが電流を一方通行にする「整流作用」を持つために起こる現象です。もしダイオードがただの抵抗だったら、電荷はゼロになるまで放電し続けます。ダイオードならではの現象だと理解することが大切です。
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