Step 2
293 ヤングの実験
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ヤングの干渉実験における光路差の厳密な計算と近似」です。以前の類題では \(\sin\theta \approx \tan\theta\) という近似を用いましたが、本問では三平方の定理と近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\) を用いて、より丁寧に光路差を導出するプロセスを学習します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 三平方の定理: 2つのスリットからスクリーン上の点Pまでの経路長を、図形中の直角三角形を用いて厳密に計算するために使用します。
- 近似式の利用: 複雑な平方根の式を、問題文で与えられた近似式を用いて、扱いやすい一次式に変換します。この近似は、二項定理の初項をとることに相当します。
- 光路差の計算: 2つの光の経路長の差を計算します。近似計算によって、最終的にシンプルな形にまとまります。
- 干渉条件: 光路差が波長の整数倍(\(m\lambda\))のときに強め合う(明線)という、基本的な干渉条件を適用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、図に示された直角三角形に三平方の定理を適用し、経路長\(S_1P\)を厳密に立式します。
- (2)では、(1)で求めた式を変形し、与えられた近似式が使える形 \(\sqrt{1+y}\) にします。その後、実際に近似を適用して\(S_1P\)を簡単な式で表します。
- (3)では、(1)(2)と同様のプロセスで\(S_2P\)を近似計算し、光路差 \(S_2P – S_1P\) を求めます。
- (4)では、(3)で求めた光路差に強め合いの条件を適用し、明線ができる位置\(x\)を求めます。
- (5)では、(4)の結果から隣り合う明線の間隔\(\Delta x\)を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
スリット\(S_1\)からスクリーン上の点Pまでの距離\(S_1P\)を、図形情報から求める問題です。図に補助線を引いて直角三角形を作り、三平方の定理を適用することで、\(S_1P\)を\(L, d, x\)を用いて表します。
この設問における重要なポイント
- 図から計算に必要な直角三角形を正しく見つけ出す。
- 直角三角形の各辺の長さを、与えられた文字(\(L, d, x\))で正確に表現する。
- 三平方の定理を正しく適用する。
具体的な解説と立式
図のように、スリット\(S_1\)からスクリーンに垂線を引き、その足を\(H_1\)とします。すると、直角三角形\(\triangle S_1H_1P\)ができます。
この直角三角形の各辺の長さは以下のようになります。
- 底辺 \(S_1H_1\): スリットとスクリーンの距離なので、\(S_1H_1 = L\)。
- 高さ \(H_1P\): 点Pの座標は\(x\)、点\(S_1\)のy座標に相当する位置は\(d/2\)なので、その差は \(H_1P = x – \frac{d}{2}\)。
三平方の定理 \(a^2 + b^2 = c^2\) を\(\triangle S_1H_1P\)に適用すると、斜辺\(S_1P\)の長さは次のように求められます。
$$ (S_1P)^2 = (S_1H_1)^2 + (H_1P)^2 $$
$$ (S_1P)^2 = L^2 + (x – \frac{d}{2})^2 $$
したがって、\(S_1P\)は次のようになります。
$$ S_1P = \sqrt{L^2 + (x – \frac{d}{2})^2} $$
使用した物理公式
- 三平方の定理
この設問は、文字式を導出するものであり、具体的な数値計算は不要です。
スリット\(S_1\)から点Pまでのまっすぐな距離を求めます。そのために、図の中に直角三角形を作ります。\(S_1\)からスクリーンにまっすぐ垂線を引くと、底辺の長さが\(L\)、高さが「\(x\)から\(d/2\)を引いた長さ」の直角三角形ができます。この三角形に三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使うと、斜辺の長さ、すなわち\(S_1P\)の長さを式で表すことができます。
三平方の定理を用いて、\(S_1P\)の長さを \(L, d, x\) を用いて厳密に \(\sqrt{L^2 + (x – \frac{d}{2})^2}\) と表すことができました。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた\(S_1P\)の厳密な式を、問題文で与えられた近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\) が使える形に変形し、実際に近似計算を行う問題です。まず、平方根の中の\(L^2\)を外に出すことで、\(\sqrt{1+…}\) の形を作ります。
この設問における重要なポイント
- 式を変形して、指定された近似式が適用できる形を作り出す。
- 近似式における\(y\)が、自分の式ではどの部分に対応するのかを正確に見抜く。
- 近似を適用し、式を整理する。
具体的な解説と立式
(1)で求めた式は \(S_1P = \sqrt{L^2 + (x – \frac{d}{2})^2}\) です。
この式の平方根の中から\(L^2\)を括りだします。
$$ S_1P = \sqrt{L^2 \left\{ 1 + \frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2 \right\}} $$
$$ S_1P = L \sqrt{1 + \frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2} $$
この式は、問題文の \(S_1P = L\sqrt{1+ア}\) の形と一致します。したがって、空欄アに入る式は \(\frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2\) です。
次に、近似計算を行います。
近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\) において、\(y\)に相当するのは \(\frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2\) です。
ヤングの実験の条件 \(d \ll L, x \ll L\) より、\(y\)の値は1に比べて非常に小さい(\(|y| \ll 1\))ため、この近似式を適用できます。
$$
\begin{aligned}
S_1P &= L \sqrt{1 + \frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2} \\
&\approx L \left\{ 1 + \frac{1}{2} \cdot \frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2 \right\} \\
&= L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x – \frac{d}{2})^2 \right\}
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 近似式: \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\) (ただし \(|y| \ll 1\))
この設問は、文字式を導出・変形するものであり、具体的な数値計算は不要です。
(1)で求めた式はルート(平方根)が入っていて複雑なので、簡単な式に「近似」します。そのために、問題文で与えられたお助けツール「\(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\)」を使います。まず、(1)の式を無理やり \(\sqrt{1+…}\) の形にするために、ルートの中から\(L^2\)を外に出します。すると、アの部分が特定できます。次に、このアの部分を\(y\)とみなして、お助けツールを適用します。すると、複雑だったルートの式が、簡単な足し算の式に変わります。
空欄アは \(\frac{1}{L^2}(x – \frac{d}{2})^2\) であり、近似後の\(S_1P\)は \(L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x – \frac{d}{2})^2 \right\}\) となります。複雑な平方根の計算を、簡単な一次式で近似する強力な手法を正しく適用できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)(2)と全く同じ手順で、もう一方の経路長\(S_2P\)を求め、最終的に光路差 \(S_2P – S_1P\) を計算する問題です。\(S_1P\)の計算における \(x – \frac{d}{2}\) の部分が、\(S_2P\)では \(x + \frac{d}{2}\) に変わるだけです。
この設問における重要なポイント
- 対称性を利用して、\(S_2P\)の近似式を素早く導出する。
- 2つの近似式の差を計算する。展開と整理を正確に行う。
具体的な解説と立式
\(S_2P\)の導出
(1)と同様に、\(\triangle S_2H_2P\)(\(H_2\)は\(S_2\)からスクリーンへの垂線の足)に三平方の定理を適用します。
底辺は\(L\)、高さは \(x – (-\frac{d}{2}) = x + \frac{d}{2}\) となります。
$$ S_2P = \sqrt{L^2 + (x + \frac{d}{2})^2} $$
(2)と同様に近似式を適用します。
$$
\begin{aligned}
S_2P &= L \sqrt{1 + \frac{1}{L^2}(x + \frac{d}{2})^2} \\
&\approx L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x + \frac{d}{2})^2 \right\}
\end{aligned}
$$
光路差 \(S_2P – S_1P\) の計算
上で求めた\(S_2P\)の近似式と、(2)で求めた\(S_1P\)の近似式の差を計算します。
$$ S_2P – S_1P \approx L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x + \frac{d}{2})^2 \right\} – L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x – \frac{d}{2})^2 \right\} $$
使用した物理公式
- 三平方の定理
- 近似式: \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\)
光路差の式を計算します。
$$
\begin{aligned}
S_2P – S_1P &\approx L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x + \frac{d}{2})^2 – 1 – \frac{1}{2L^2}(x – \frac{d}{2})^2 \right\} \\[2.0ex]
&= L \cdot \frac{1}{2L^2} \left\{ (x + \frac{d}{2})^2 – (x – \frac{d}{2})^2 \right\} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2L} \left\{ (x^2 + xd + \frac{d^2}{4}) – (x^2 – xd + \frac{d^2}{4}) \right\} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2L} (2xd) \\[2.0ex]
&= \frac{xd}{L}
\end{aligned}
$$
\(S_2P\)の長さも、\(S_1P\)と全く同じ方法で計算できます。違いは、高さが「\(x + d/2\)」になる点だけです。同じように近似計算をすると、\(S_2P\)の簡単な式が得られます。光路差は、この2つの式の引き算(\(S_2P – S_1P\))です。実際に引き算してみると、多くの項が打ち消し合って消えていき、最終的に \(\frac{xd}{L}\) という非常にシンプルな結果になります。
\(S_2P\)の近似式は \(L \left\{ 1 + \frac{1}{2L^2}(x + \frac{d}{2})^2 \right\}\) であり、光路差は \(\frac{xd}{L}\) となります。この光路差の表式は、\(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用いた簡易的な方法で得られる結果と一致しており、今回のより丁寧な計算の妥当性が確認できます。
問(4)
思考の道筋とポイント
光が強め合う(明線ができる)点の\(x\)座標を求める問題です。強め合いの条件は「光路差が波長の整数倍」です。(3)で求めた光路差の式をこれに適用します。
この設問における重要なポイント
- 強め合いの干渉条件(光路差 = \(m\lambda\))を正しく適用する。
- 原点Oの上下に対称に縞模様ができるため、位置\(x\)は正負両方の値をとることを考慮する。
具体的な解説と立式
光が強め合う条件は、2つの光の光路差が、波長\(\lambda\)の整数倍になるときです。
$$ S_2P – S_1P = m\lambda \quad (m = 0, \pm 1, \pm 2, \dots) $$
(3)で求めた光路差 \(\frac{xd}{L}\) を代入します。
$$ \frac{xd}{L} = m\lambda $$
この式を、求めたい\(x\)について解きます。
$$ x = \frac{m\lambda L}{d} $$
問題文では\(m\)を \(m=0, 1, 2, \dots\) と指定しているので、原点Oの上下にできる縞を表現するために、\(x\)座標は正負両方の値をとるとして、\(\pm\)をつけます。
$$ x = \pm \frac{m\lambda L}{d} \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
使用した物理公式
- 光の干渉条件(強め合い): 光路差 = \(m\lambda\)
この設問は、条件式を解いて文字式を導出するものであり、具体的な数値計算は不要です。
明るい線が見える条件は、「光の距離の差 = 波長の整数倍」です。(3)で計算した「距離の差」は \(\frac{xd}{L}\) でした。したがって、「\(\frac{xd}{L} = m\lambda\)」という式が成り立ちます。これを\(x\)について解けば、明るい線が現れる場所の座標がわかります。縞模様は中心Oの上側にも下側にもできるので、答えにはプラスマイナス(\(\pm\))をつけます。
強め合う点の\(x\)座標は \(x = \pm \frac{m\lambda L}{d}\) となります。\(m=0\)のとき\(x=0\)となり、スクリーン中央が明るくなることが示され、物理的に妥当な結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
隣り合う明るい縞(明線)の間隔\(\Delta x\)を求める問題です。(4)で求めた明線の位置の式を使い、\(m\)番目の明線の位置と\((m+1)\)番目の明線の位置の差を計算します。
この設問における重要なポイント
- 隣り合う縞の間隔は、次数が1違う縞の位置の差で計算できる。
具体的な解説と立式
(4)の結果より、\(m\)番目の明線の位置\(x_m\)は次のように表せます。(正の側のみ考えれば十分です)
$$ x_m = \frac{m\lambda L}{d} $$
同様に、その隣の\((m+1)\)番目の明線の位置\(x_{m+1}\)は、
$$ x_{m+1} = \frac{(m+1)\lambda L}{d} $$
隣り合う明線の間隔\(\Delta x\)は、これらの差として計算できます。
$$ \Delta x = x_{m+1} – x_m $$
使用した物理公式
- 明線の位置の式((4)の結果)
「具体的な解説と立式」で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= x_{m+1} – x_m \\[2.0ex]
&= \frac{(m+1)\lambda L}{d} – \frac{m\lambda L}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{(m+1 – m)\lambda L}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{\lambda L}{d}
\end{aligned}
$$
明るい縞の間隔を求めます。(4)で、\(m\)番目の明るい縞の位置がわかりました。その一つ隣、つまり\((m+1)\)番目の明るい縞の位置も同じ式で表せます。この2つの位置を引き算すれば、縞の間隔がわかります。計算すると、途中の\(m\)が消えて、間隔は場所によらず一定になることがわかります。
明線間隔\(\Delta x\)は \(\frac{\lambda L}{d}\) となります。この結果は、簡易的な方法で求めたヤングの実験の明線間隔と完全に一致し、計算の正しさが裏付けられます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光路差の導出(三平方の定理と近似計算):
- 核心: ヤングの実験における光路差を、より厳密な方法で導出するプロセスそのものがこの問題の核心です。この一連の流れを理解することが最重要となります。
- 理解のポイント:
- ステップ1: 三平方の定理で経路長 \(S_1P\), \(S_2P\) を正確に立式する。
- ステップ2: 近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\) が使えるように、\(L\)で括りだして式を変形する。
- ステップ3: 近似を適用して平方根を外し、経路長を簡単な多項式で表す。
- ステップ4: 経路長の差を計算し、最終的な光路差 \(\frac{xd}{L}\) を得る。この結果が簡易法と一致することの確認も重要。
- 強め合いの干渉条件:
- 核心: 導出した光路差に対して、基本的な干渉条件「光路差 = \(m\lambda\)」を適用することです。
- 理解のポイント:
- 光路差: (3)で求めた \(\frac{xd}{L}\) を用いる。
- 位相変化: この実験では、2つの光はスリットを通過するだけで、反射は起こらないため、位相の変化は考慮する必要がない。
- 強め合いの条件: したがって、光路差が波長の整数倍であれば、そのまま同位相で強め合う。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 近似を用いない問題: もし近似を用いずに干渉条件を問われたら、\(\sqrt{L^2 + (x + \frac{d}{2})^2} – \sqrt{L^2 + (x – \frac{d}{2})^2} = m\lambda\) という、解くのが困難な式になります。近似計算のありがたみを理解するための比較として出題されることがあります。
- 近似の次数を上げる問題: より精度の高い近似 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y – \frac{1}{8}y^2\) などを使って計算する問題。計算は複雑になりますが、基本的な考え方は同じです。
- 水中でのヤング実験: 装置全体が屈折率\(n\)の液体で満たされている場合。光路差は\(n\)倍の \(\frac{nxd}{L}\) となり、干渉条件は \(\frac{nxd}{L} = m\lambda\) となります。結果として、明線間隔は \(\frac{1}{n}\) 倍に狭まります。
- 初見の問題での着眼点:
- 導出方法の確認: 問題文が、簡易的な方法(\(\sin\theta \approx \tan\theta\))を想定しているのか、本問のような厳密な近似計算を求めているのかを読み取ります。「三平方の定理」「近似式」といったキーワードがあれば、本問のパターンです。
- 座標設定の確認: どこが原点で、どちらが正の向きかを正確に把握します。これにより、経路長を計算する際の辺の長さ(例: \(x – d/2\))の符号が正しく決まります。
- 近似の適用範囲: \(|y| \ll 1\) という条件が満たされているか(ヤングの実験では通常満たされます)を意識します。この条件が、なぜ \(d \ll L, x \ll L\) から言えるのかを理解しておくことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 近似式の適用ミス:
- 誤解: (2)で、\(S_1P = \sqrt{L^2 + (x – \frac{d}{2})^2}\) を、\(L + \sqrt{(x – \frac{d}{2})^2}\) のように、ルートを安易に分割してしまう。
- 対策: \(\sqrt{A+B} \neq \sqrt{A} + \sqrt{B}\) という数学の基本ルールを再確認しましょう。必ず、\(L^2\)で括りだして \(\sqrt{1+y}\) の形を作ってから近似を適用する、という手順を守ります。
- 光路差の計算ミス:
- 誤解: (3)の \(S_2P – S_1P\) の計算で、\((x + \frac{d}{2})^2 – (x – \frac{d}{2})^2\) の展開を間違える。
- 対策: \(A^2 – B^2 = (A+B)(A-B)\) の因数分解公式を使うと、より速く安全に計算できます。
\(A = x + d/2, B = x – d/2\) とすると、
\(A+B = 2x\)
\(A-B = d\)
よって、\((A+B)(A-B) = 2xd\) となり、計算ミスが減ります。
- \(m\)の扱いの混同:
- 誤解: (4)で、\(m\)は正の整数のみと考え、\(x\)が負になる場合を見落とす。
- 対策: 干渉縞はスクリーン中央Oに対して上下対称に現れることをイメージしましょう。したがって、位置\(x\)は正負両方の値をとるため、\(\pm\) をつけるか、\(m\)を \(0, \pm 1, \pm 2, \dots\) のように定義する必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三平方の定理:
- 選定理由: 2点間の直線距離を、その点の座標(直交成分)から計算するための、最も基本的で厳密な幾何学の法則だからです。光の経路長を正確に表現するために、まずこの定理から出発します。
- 適用根拠: 光が直進するという前提と、デカルト座標系における距離の定義そのものです。
- 近似式 \(\sqrt{1+y} \approx 1 + \frac{1}{2}y\):
- 選定理由: 三平方の定理で得られた平方根の式は、そのままでは差の計算が非常に困難です。そこで、物理的な条件(\(d \ll L, x \ll L\))を利用して、この複雑な式を扱いやすい多項式(一次式)に変換するために、この近似式が選ばれます。
- 適用根拠: この近似式は、関数 \(f(y) = (1+y)^{1/2}\) を \(y=0\) の周りでテイラー展開(高校範囲外)したときの一次までの項と一致します。高校物理では、これは二項定理 \((1+y)^\alpha \approx 1+\alpha y\) の特殊な場合として与えられます。\(|y| \ll 1\) のときに高次の項が無視できるほど小さくなるため、この近似が成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の整理を丁寧に行う: (2)や(3)の計算過程は、文字が多くて混乱しがちです。
\(S_2P – S_1P \approx \frac{1}{2L} \{ (x+\frac{d}{2})^2 – (x-\frac{d}{2})^2 \}\)
のように、共通の係数 \(\frac{1}{2L}\) を括りだしてから中括弧の中を計算するなど、式全体の見通しを良くする工夫をしましょう。 - 対称性を意識する: \(S_1P\)の計算で \(x – d/2\) が出てきたら、\(S_2P\)では \(x + d/2\) になるだろう、と予測できます。これにより、計算を省略したり、検算したりすることができます。
- 因数分解公式の活用: 前述の通り、\(A^2-B^2 = (A+B)(A-B)\) は、この問題の光路差計算において非常に有効です。暗算で展開しようとせず、一度この公式を適用する癖をつけると、符号ミスなどを劇的に減らせます。
- 結果の物理的意味を考える: 最終的に得られた光路差 \(\frac{xd}{L}\) が、簡易的な方法の結果と一致することを確認する作業は、良い検算になります。もし結果が異なれば、途中の計算過程に間違いがあると気づくことができます。
294 回折格子
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「回折格子による光の干渉」です。ヤングの実験が2つのスリットによる干渉だったのに対し、回折格子は非常に多くのスリット(溝)による多光束の干渉を扱います。しかし、強め合う条件式はヤングの実験と全く同じ形になるため、基本的な考え方は共通しています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 格子定数: 単位長さあたりの溝の本数から、隣り合う溝の間隔(格子定数 \(d\))を計算します。
- 回折格子の干渉条件: 隣り合うスリットからの光の光路差が波長の整数倍になるとき、すべてのスリットからの光が強め合います。この条件は \(d \sin\theta = m\lambda\) と表され、ヤングの実験と同じ形です。
- 微小角の近似: 角度\(\theta\)が小さい場合、\(\sin\theta \approx \tan\theta\) という近似が成り立ち、スクリーン上の位置\(x\)と結びつけることができます。
- 白色光の回折: 白色光は様々な波長の光の混合光です。干渉条件式から、波長\(\lambda\)によって強め合う角度\(\theta\)が異なるため、光が波長ごとに分離(分光)されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、単位長さあたりの溝の本数から、溝1つあたりの間隔である格子定数\(d\)を計算します。
- (2)では、回折格子の干渉条件の式に、\(m=4\)(4次の明線)と与えられた数値を代入して、角度\(\theta\)を求めます。
- (3)では、微小角の近似を用いて、スクリーン中央付近での隣り合う明るい点の間隔を計算します。
- (4)では、白色光を用いた場合の0次と1次の回折光の色の見え方について、干渉条件式から考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
格子定数\(d\)を求める問題です。格子定数とは、回折格子に刻まれた隣り合う溝(スリット)の中心間の距離を指します。「1.0mmあたり250本」という情報から、1本あたりの間隔を計算します。単位の換算に注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 格子定数の定義を理解している(全長 ÷ 本数)。
- 単位をSI基本単位(メートル)に正しく変換できる。
具体的な解説と立式
格子定数\(d\)は、回折格子の単位長さあたりの溝の本数の逆数で与えられます。
問題文より、\(1.0 \text{ mm}\) の長さに250本の溝があるので、格子定数\(d\)は次のようになります。
$$ d = \frac{1.0 \text{ mm}}{250 \text{ 本}} $$
計算する前に、単位をメートルに変換します。
\(1.0 \text{ mm} = 1.0 \times 10^{-3} \text{ m}\)
したがって、
$$ d = \frac{1.0 \times 10^{-3} \text{ [m]}}{250} $$
使用した物理公式
- 格子定数の定義
「具体的な解説と立式」で立てた式を計算します。
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{1.0 \times 10^{-3}}{250} \\[2.0ex]
&= \frac{1.0 \times 10^{-3}}{2.5 \times 10^2} \\[2.0ex]
&= 0.4 \times 10^{-5} \\[2.0ex]
&= 4.0 \times 10^{-6} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
「格子定数」とは、溝1本あたりの幅(間隔)のことです。「1.0mmの長さに250本の溝がぎっしり詰まっている」ので、1本あたりの間隔を求めるには、全長を本数で割り算します。つまり、「\(1.0 \text{ mm} \div 250\text{ 本}\)」を計算します。計算しやすいように、1.0mmをメートルに直してから計算しましょう。
格子定数は \(4.0 \times 10^{-6} \text{ m}\) となります。これは \(4.0 \mu \text{m}\) であり、回折格子の格子定数として物理的に妥当な値です。
問(2)
思考の道筋とポイント
4次(\(m=4\))の明線が観測される角度\(\theta\)を求める問題です。回折格子の干渉条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) に、(1)で求めた格子定数\(d\)、与えられた波長\(\lambda\)、そして次数\(m=4\)を代入して、\(\sin\theta\)の値を求め、そこから角度\(\theta\)を算出します。
この設問における重要なポイント
- 回折格子の強め合いの条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) を正しく使える。
- 与えられた数値を正確に代入し、\(\sin\theta\) の値を計算できる。
- \(\sin\theta\) の値から、対応する角度\(\theta\)を求めることができる。
具体的な解説と立式
回折格子によって光が強め合う(明線ができる)条件は、隣り合うスリットからの光の光路差 \(d \sin\theta\) が、波長\(\lambda\)の整数倍になるときです。
$$ d \sin\theta = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
この問題では、4次(\(m=4\))の明線を考えます。したがって、条件式は次のようになります。
$$ d \sin\theta = 4\lambda $$
この式を \(\sin\theta\) について解くと、
$$ \sin\theta = \frac{4\lambda}{d} $$
この式に、(1)で求めた\(d\)と、問題文で与えられた\(\lambda\)の値を代入します。
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件(強め合い): \(d \sin\theta = m\lambda\)
与えられた値を代入して \(\sin\theta\) を計算します。
代入する値は、
格子定数: \(d = 4.0 \times 10^{-6} \text{ m}\)
波長: \(\lambda = 5.0 \times 10^{-7} \text{ m}\)
次数: \(m=4\)
これらの値を \(\sin\theta\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\sin\theta &= \frac{4 \times (5.0 \times 10^{-7})}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]
&= \frac{20 \times 10^{-7}}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]
&= 5.0 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&= 0.5
\end{aligned}
$$
\(\sin\theta = 0.5\) となる角度\(\theta\)は、\(30^\circ\)です。
明るい線が見える方向の角度\(\theta\)を求めるには、公式「\(d \sin\theta = m\lambda\)」を使います。この問題では4番目の明るい線なので、\(m=4\)です。この式に、(1)で求めた\(d\)の値と、問題文にある\(\lambda\)の値を代入して、\(\sin\theta\)を計算します。計算すると\(\sin\theta = 0.5\)となるので、これを満たす角度\(\theta\)は\(30^\circ\)だとわかります。
4次の明線が観測される角度は\(30^\circ\)です。計算結果も妥当であり、干渉条件を正しく適用できました。
問(3)
思考の道筋とポイント
スクリーン中央O付近での、隣り合う明るい点の間隔を求める問題です。「中央O付近」という記述から、角度\(\theta\)が非常に小さいとみなし、近似式 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を使うことができます。ヤングの実験と同様に、\(\tan\theta\)をスクリーン上の位置\(x\)と距離\(L\)で表し、干渉条件式と組み合わせることで、明線の間隔を求めます。
この設問における重要なポイント
- 微小角の近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を適用する。
- \(\tan\theta = x/L\) の関係を用いる。
- 隣り合う明線の間隔は、次数が1違う明線の位置の差で計算できる。
具体的な解説と立式
スクリーン中央O付近では、角度\(\theta\)が非常に小さいと考えられるため、近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) が成り立ちます。
また、スクリーン上の中心Oから距離\(x_m\)にある\(m\)次の明線について、\(\tan\theta = \frac{x_m}{L}\) と表せます。
これらを干渉条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) に適用すると、
$$ d \sin\theta \approx d \tan\theta = d \frac{x_m}{L} $$
よって、
$$ d \frac{x_m}{L} = m\lambda $$
この式を\(x_m\)について解くと、\(m\)次の明線の位置は、
$$ x_m = \frac{m\lambda L}{d} $$
隣り合う明るい点の間隔\(\Delta x\)は、\(m\)次の明線と\((m+1)\)次の明線の位置の差で求められます。
$$ \Delta x = x_{m+1} – x_m = \frac{(m+1)\lambda L}{d} – \frac{m\lambda L}{d} = \frac{\lambda L}{d} $$
この式に、与えられた数値を代入して\(\Delta x\)を計算します。
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件: \(d \sin\theta = m\lambda\)
- 微小角の近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
- 幾何学的関係: \(\tan\theta = x/L\)
与えられた値を代入して \(\Delta x\) を計算します。
代入する値は、
波長: \(\lambda = 5.0 \times 10^{-7} \text{ m}\)
スクリーンまでの距離: \(L = 2.0 \text{ m}\)
格子定数: \(d = 4.0 \times 10^{-6} \text{ m}\)
これらの値を \(\Delta x\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= \frac{\lambda L}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{(5.0 \times 10^{-7}) \times 2.0}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]
&= \frac{10 \times 10^{-7}}{4.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]
&= 2.5 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&= 0.25 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
ヤングの実験と同じように、明るい点の間隔を求めます。スクリーンの中央付近では、角度\(\theta\)が小さいので \(\sin\theta\) は \(\tan\theta\) とほぼ同じとみなせます。また、\(\tan\theta\) は図形から \(x/L\) と表せます。これらを公式 \(d \sin\theta = m\lambda\) に当てはめると、明るい点の間隔\(\Delta x\)は \(\frac{\lambda L}{d}\) で計算できることがわかります。この式に、問題文や(1)で求めた数値を代入して計算します。
スクリーン中央付近での明るい点の間隔は \(0.25 \text{ m}\) となります。これは \(25 \text{ cm}\) であり、実験装置のスケールから考えて妥当な値です。
問(4)
思考の道筋とポイント
回折格子に白色光を当てたときに見える光の色について答える問題です。白色光が様々な色の光(つまり、様々な波長の光)の集まりであることを理解し、干渉条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) が波長\(\lambda\)にどう依存するかを考察します。
この設問における重要なポイント
- 白色光は、様々な波長の光が混ざったものである。
- 0次(\(m=0\))の回折光の特徴を理解する。
- 1次(\(m=1\))の回折光が、波長によって分光されることを理解する。
- 可視光の波長の大小関係(赤色 > 紫色)を知っている。
具体的な解説と立式
0次の回折光 (\(m=0\))
干渉条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) に \(m=0\) を代入すると、
$$ d \sin\theta = 0 \cdot \lambda = 0 $$
$$ \sin\theta = 0 \quad \rightarrow \quad \theta = 0^\circ $$
これは、波長\(\lambda\)の値に関わらず、すべての色の光が\(\theta=0\)、つまり回折格子の正面(中央O)に集まることを意味します。様々な色の光が混ざると白色に見えるため、0次の回折光は白色になります。
1次の回折光 (\(m=1\))
\(m=1\) のときの干渉条件は、
$$ d \sin\theta = \lambda $$
この式を \(\sin\theta\) について解くと、
$$ \sin\theta = \frac{\lambda}{d} $$
この式から、回折される角度\(\theta\)は、波長\(\lambda\)に依存することがわかります。
可視光の波長は、赤色が最も長く、紫色が最も短いです。(\(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{紫}}\))
したがって、
- 波長が長い赤色の光ほど、\(\sin\theta\)が大きくなり、より大きな角度\(\theta\)で回折されます(中央から遠い位置に見える)。
- 波長が短い紫色の光ほど、\(\sin\theta\)が小さくなり、より小さな角度\(\theta\)で回折されます(中央に近い位置に見える)。
よって、1次の回折光を見たとき、スクリーンの中央に近いのは紫色の光です。
使用した物理公式
- 回折格子の干渉条件: \(d \sin\theta = m\lambda\)
この設問は、定性的な考察を問うものであり、具体的な計算は不要です。
白色光は虹の色の光がすべて混ざったものです。
- 0次(真ん中)の光: 公式 \(d \sin\theta = m\lambda\) で \(m=0\) とすると、波長\(\lambda\)に関係なく\(\theta=0\)となります。つまり、すべての色の光が真ん中の一点に集まります。色が全部混ざるので、光は白く見えます。
- 1次(真ん中の隣)の光: \(m=1\) の場合、公式は \(d \sin\theta = \lambda\) となります。これを見ると、波長\(\lambda\)が短いほど、角度\(\theta\)も小さくなることがわかります。虹の七色では、紫が一番波長が短く、赤が一番長いです。したがって、角度が一番小さい、つまり真ん中に一番近い場所に見えるのは紫色の光です。
0次の回脱光は白色、1次の回折光で中央に近いのは紫色、という結果が得られました。これは回折格子が光を波長ごとに分ける「分光」作用を持つことを示しており、物理的に正しい現象です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回折格子の干渉条件 (\(d \sin\theta = m\lambda\)):
- 核心: 回折格子の問題を解く上での絶対的な基礎となる公式です。隣り合うスリット(溝)を通過した光の経路差(\(d \sin\theta\))が、波長の整数倍(\(m\lambda\))になるときに、すべてのスリットからの光が強め合う(明線となる)という原理を数式化したものです。
- 理解のポイント:
- \(d\): 格子定数(隣り合うスリットの間隔)。
- \(\theta\): 入射方向に対する回折光の角度。
- \(m\): 次数と呼ばれる整数(\(m=0\)が中央の0次光、\(m=1\)が1次光、…)。
- \(\lambda\): 光の波長。
この式の各文字が何を意味し、どのように求められるかを理解することが全てです。
- 格子定数の計算:
- 核心: 問題文で与えられる「単位長さあたりの溝の本数」から、格子定数\(d\)を正しく計算できること。
- 理解のポイント: 格子定数\(d\)は「溝1本あたりの間隔」なので、「全長 ÷ 本数」で計算します。単位換算(特にmm→m)を忘れないことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 観測できる最大次数を求める問題: 干渉条件 \(d \sin\theta = m\lambda\) において、\(\sin\theta\) の最大値は1です(\(\theta=90^\circ\)のとき)。したがって、観測可能な最大の次数\(m_{\text{max}}\)は、\(d \sin 90^\circ \ge m_{\text{max}}\lambda\)、すなわち \(m_{\text{max}} \le d/\lambda\) を満たす最大の整数として求められます。
- スペクトルの重なりを問う問題: 例えば、白色光を当てたとき、2次のスペクトル(\(m=2\))の赤色光と、3次のスペクトル(\(m=3\))の紫色光のどちらがより大きな角度で回折されるか、といった問題。それぞれの条件式 \(d \sin\theta_1 = 2\lambda_{\text{赤}}\) と \(d \sin\theta_2 = 3\lambda_{\text{紫}}\) を立て、\(\sin\theta\) の値を比較します。
- 斜め入射の問題: 光が回折格子に垂直ではなく、角度\(\alpha\)で斜めに入射する場合。光路差の式が \(d(\sin\theta – \sin\alpha) = m\lambda\) のように変化します。図を描いて光路差を正しく計算する必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 格子定数\(d\)の計算: まず、問題文の情報(例: 1mmに500本)から、格子定数\(d\)をSI単位(m)で計算します。これが全ての計算の基礎になります。
- 干渉条件式の立式: 基本公式 \(d \sin\theta = m\lambda\) を書き出します。
- 変数の特定: 問題文で与えられているのは \(d, \lambda, m, L, x, \theta\) のうちどれで、何を求めるのかを明確にします。
- 近似の要否判断: 「中央付近」「間隔を求めよ」といった記述があれば、\(\sin\theta \approx \tan\theta = x/L\) の近似を使う可能性が高いと判断します。一方、(2)のように角度そのものを問われたり、角度が大きい場合は近似は使えません。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 格子定数\(d\)の計算ミス:
- 誤解: (1)で、\(d = 250 / (1.0 \times 10^{-3})\) のように、分子と分母を逆にしてしまう。または、単位換算を忘れる。
- 対策: 「1mmに250本」→「1本の間隔は?」と日本語で意味を考えれば、「\(1\text{mm} \div 250\text{本}\)」という正しい立式ができます。単位換算は計算の最初に必ず行う癖をつけましょう。
- ヤングの実験との混同:
- 誤解: 回折格子の明線間隔を、ヤングの実験の公式 \(\Delta x = \frac{\lambda L}{d}\) を暗記してそのまま使おうとする。
- 対策: (3)のように、\(\theta\)が小さいという近似が使える場合に限り、結果的に同じ式になります。しかし、(2)のように\(\theta\)が大きい(\(30^\circ\))場合にはこの式は使えません。公式を丸暗記するのではなく、基本の干渉条件 \(d \sin\theta = m\lambda\) から出発し、必要に応じて近似を適用する、という思考プロセスを身につけることが重要です。
- 白色光の色の順番:
- 誤解: (4)で、波長の長い赤色の方が中央に近いと勘違いする。
- 対策: 条件式 \(\sin\theta = m\lambda/d\) を見れば、「\(\lambda\)が大きいほど\(\theta\)も大きい」という関係は一目瞭然です。虹の色の順番(赤橙黄緑青藍紫)と、赤が長波長側、紫が短波長側であるという基本的な知識を再確認しておきましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 格子定数の定義式 (\(d = (\text{全長}) / (\text{本数})\)):
- 選定理由: 干渉条件式 \(d \sin\theta = m\lambda\) を使うためには、まずパラメータである格子定数\(d\)を決定する必要があります。問題文には「単位長さあたりの本数」が与えられているため、その逆数をとることで\(d\)を求めるのが最も直接的な方法です。
- 適用根拠: これは格子定数という物理量の定義そのものです。
- 回折格子の干渉条件式 (\(d \sin\theta = m\lambda\)):
- 選定理由: 回折格子による光の干渉という現象を記述する、中心的な物理法則だからです。明線の方向\(\theta\)を求めたり、スクリーン上の位置を計算したりするすべての議論の出発点となります。
- 適用根拠: この式は、隣り合うスリットから来る波の光路差が波長の整数倍になるという、波の重ね合わせの原理(干渉の条件)を幾何学的に表現したものです。多数のスリットがあっても、隣同士の条件さえ満たせば、すべての波が強め合うことになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 指数の計算: (1)や(2)のように、\(10^{-3}\) や \(10^{-6}\) といった指数が頻出します。割り算の際の指数の処理(例: \(10^{-3} / 10^2 = 10^{-5}\))や、掛け算の際の処理を正確に行いましょう。
- 分母と分子の確認: (2)の \(\sin\theta = \frac{4\lambda}{d}\) のような計算では、どの数値を分子に、どの数値を分母に代入するかを、式をよく見て確認しましょう。焦ると間違いやすいポイントです。
- 三角関数の値: (2)で \(\sin\theta = 0.5\) となったとき、即座に \(\theta=30^\circ\) と変換できるように、基本的な三角関数の値(\(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\)など)は確実に覚えておきましょう。
- 近似の判断: 問題文に「中央付近」「間隔」とあれば近似計算、(2)のように具体的な角度を問われれば厳密計算、というように、問題の要求に応じて計算方法を切り替える意識を持つことが大切です。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]