「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 22】Step3

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291 顕微鏡の原理

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、対物レンズと接眼レンズという2枚の凸レンズを組み合わせた顕微鏡の結像と倍率に関する典型的な問題です。レンズの公式を各レンズについて正しく適用し、それぞれのレンズが作る像の位置と大きさを順に求めていく能力が問われます。

与えられた条件
  • 対物レンズの焦点距離: \(f_1 = 2.0 \text{ cm}\)
  • 接眼レンズの焦点距離: \(f_2 = 3.0 \text{ cm}\)
  • 対物レンズが作る実像BB’の位置: 対物レンズの上方 \(18 \text{ cm}\)
  • 明視の距離: \(D = 27 \text{ cm}\) (接眼レンズが作る虚像CC’の位置)
  • 目の位置: 接眼レンズのすぐ上
問われていること
  • (1) 物体AA’を置く位置(対物レンズからの距離)。
  • (2) 実像BB’ができる位置(接眼レンズからの距離)。
  • (3) この顕微鏡の倍率。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「2枚のレンズによる結像(顕微鏡)」です。顕微鏡は、対物レンズで物体の倒立実像を作り、その実像を接眼レンズでさらに拡大した虚像として見る装置です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンズの公式: 物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)の関係式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を使います。虚像の場合は像距離\(b\)を負の値として扱います。
  2. レンズの倍率: 倍率\(m\)は \(m = \left| \displaystyle\frac{b}{a} \right|\) で計算されます。
  3. 顕微鏡の仕組み: 対物レンズが作った実像が、接眼レンズにとっての「物体」となる、という2段階のプロセスを理解することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、対物レンズに着目します。対物レンズが作る実像BB’の位置が分かっているので、レンズの公式を使って、元の物体AA’の位置を逆算します(問1)。
  2. 次に、接眼レンズに着目します。接眼レンズは実像BB’を物体として、最終的な虚像CC’を作ります。虚像CC’の位置(明視の距離)が分かっているので、レンズの公式を使い、接眼レンズにとっての物体であるBB’の位置を逆算します(問2)。
  3. 最後に、顕微鏡全体の倍率を計算します。全体の倍率は、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率の積で求められます(問3)。

問(1)

思考の道筋とポイント
対物レンズによる結像を考えます。物体AA’が対物レンズによって実像BB’を作る状況です。このうち、実像BB’の位置が与えられているので、レンズの公式を使って物体AA’の位置を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 着目するレンズ: 対物レンズ(焦点距離 \(f_1 = 2.0 \text{ cm}\))
  • 物体と像: 物体はAA’、像は実像BB’です。
  • 物体距離と像距離の定義:
    • 物体距離 \(a_1\): 対物レンズと物体AA’の距離(求める値)。
    • 像距離 \(b_1\): 対物レンズと実像BB’の距離。問題文より \(b_1 = 18 \text{ cm}\)。実像なので正の値です。

具体的な解説と立式
対物レンズについて、レンズの公式を適用します。

  • 物体距離: \(a_1\) [cm]
  • 像距離: \(b_1 = 18\) [cm]
  • 焦点距離: \(f_1 = 2.0\) [cm]

レンズの公式は以下の通りです。
$$ \frac{1}{a_1} + \frac{1}{b_1} = \frac{1}{f_1} $$
この式に、分かっている値を代入します。
$$ \frac{1}{a_1} + \frac{1}{18} = \frac{1}{2.0} $$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

上記で立てた式を\(a_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{a_1} &= \frac{1}{2.0} – \frac{1}{18} \\[2.0ex]&= \frac{9}{18} – \frac{1}{18} \\[2.0ex]&= \frac{8}{18} \\[2.0ex]&= \frac{4}{9}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ a_1 = \frac{9}{4} = 2.25 $$
有効数字を考慮すると、焦点距離が2.0cm(2桁)、距離が18cm(2桁)なので、答えも2桁で表すのが適切です。
$$ a_1 \approx 2.3 \text{ [cm]} $$

計算方法の平易な説明

顕微鏡の最初のレンズ(対物レンズ)に注目します。このレンズが、調べたい物体(AA’)の像(BB’)を、レンズから18cmの場所に作ることが分かっています。レンズの焦点距離も分かっているので、「レンズの公式」という方程式を使って、元の物体AA’がレンズからどれだけ離れた場所にあるべきかを逆算します。

結論と吟味

物体AA’を置く位置は、対物レンズの下方 \(2.3 \text{ cm}\) のところです。
物体距離 \(a_1 = 2.25 \text{ cm}\) は、焦点距離 \(f_1 = 2.0 \text{ cm}\) よりも長く、\(2f_1 = 4.0 \text{ cm}\) よりも短い範囲にあります。このとき、倒立の実像が \(b_1 > 2f_1\) の位置にできるので、\(b_1 = 18 \text{ cm}\) という条件と整合性がとれており、妥当な結果です。

解答 (1) \(2.3 \text{ cm}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
次に、接眼レンズによる結像を考えます。対物レンズが作った実像BB’が、接眼レンズにとっての「物体」となります。この物体BB’を接眼レンズで拡大し、虚像CC’として観察します。最終的な虚像CC’の位置が分かっているので、レンズの公式を使って物体BB’の位置を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 着目するレンズ: 接眼レンズ(焦点距離 \(f_2 = 3.0 \text{ cm}\))
  • 物体と像: 物体は実像BB’、像は虚像CC’です。
  • 物体距離と像距離の定義:
    • 物体距離 \(a_2\): 接眼レンズと物体BB’の距離(求める値)。
    • 像距離 \(b_2\): 接眼レンズと虚像CC’の距離。明視の距離なので \(27 \text{ cm}\)。虚像はレンズの前方(物体側)にできるので、像距離は負の値、つまり \(b_2 = -27 \text{ cm}\) として扱います。

具体的な解説と立式
接眼レンズについて、レンズの公式を適用します。

  • 物体距離: \(a_2\) [cm]
  • 像距離: \(b_2 = -27\) [cm] (虚像なので負)
  • 焦点距離: \(f_2 = 3.0\) [cm]

レンズの公式は以下の通りです。
$$ \frac{1}{a_2} + \frac{1}{b_2} = \frac{1}{f_2} $$
この式に、分かっている値を代入します。
$$ \frac{1}{a_2} + \frac{1}{-27} = \frac{1}{3.0} $$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

上記で立てた式を\(a_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{a_2} &= \frac{1}{3.0} – \frac{1}{-27} \\[2.0ex]&= \frac{1}{3.0} + \frac{1}{27} \\[2.0ex]&= \frac{9}{27} + \frac{1}{27} \\[2.0ex]&= \frac{10}{27}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ a_2 = \frac{27}{10} = 2.7 \text{ [cm]} $$

計算方法の平易な説明

次に、目をのぞく方のレンズ(接眼レンズ)に注目します。このレンズは、対物レンズが作った像(BB’)を、さらに拡大して見せてくれます。最終的に見える像(CC’)が、目から27cmの位置(明視の距離)に見えるように調整されていることが分かっています。この情報と接眼レンズの焦点距離を使って、「レンズの公式」で逆算し、BB’が接眼レンズからどれだけ離れた場所にあるべきかを計算します。

結論と吟味

実像BB’のできる位置は、接眼レンズの下方 \(2.7 \text{ cm}\) のところです。
物体距離 \(a_2 = 2.7 \text{ cm}\) は、接眼レンズの焦点距離 \(f_2 = 3.0 \text{ cm}\) よりも内側にあります。凸レンズでは、物体を焦点の内側に置くと正立の虚像ができます。これは、接眼レンズが拡大鏡として機能している状況と一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(2.7 \text{ cm}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
顕微鏡全体の倍率を求めます。全体の倍率\(M\)は、対物レンズによる倍率\(m_1\)と、接眼レンズによる倍率\(m_2\)の積で与えられます。
この設問における重要なポイント

  • 対物レンズの倍率\(m_1\): \(m_1 = \left| \displaystyle\frac{b_1}{a_1} \right|\)。(1)で求めた値を使います。
  • 接眼レンズの倍率\(m_2\): \(m_2 = \left| \displaystyle\frac{b_2}{a_2} \right|\)。(2)で求めた値を使います。
  • 全体の倍率\(M\): \(M = m_1 \times m_2\)。

具体的な解説と立式
全体の倍率\(M\)は、元の物体AA’の大きさと最終的な虚像CC’の大きさの比です。
$$ M = \frac{\text{CC’}}{\text{AA’}} $$
これは、各レンズの倍率の積として計算できます。
$$ M = \frac{\text{BB’}}{\text{AA’}} \times \frac{\text{CC’}}{\text{BB’}} = m_1 \times m_2 $$
ここで、\(m_1\)と\(m_2\)はそれぞれ対物レンズと接眼レンズの倍率です。
$$ m_1 = \left| \frac{b_1}{a_1} \right| \quad , \quad m_2 = \left| \frac{b_2}{a_2} \right| $$
したがって、全体の倍率\(M\)は次のように立式できます。
$$ M = \left| \frac{b_1}{a_1} \right| \times \left| \frac{b_2}{a_2} \right| $$

使用した物理公式

  • レンズの倍率: \(m = \left| \displaystyle\frac{b}{a} \right|\)
  • 合成倍率: \(M = m_1 m_2\)
計算過程

(1), (2)で求めた値と与えられた値を代入して計算します。

  • \(a_1 = 2.25\) cm
  • \(b_1 = 18\) cm
  • \(a_2 = 2.7\) cm
  • \(b_2 = -27\) cm

$$
\begin{aligned}
M &= \left| \frac{18}{2.25} \right| \times \left| \frac{-27}{2.7} \right| \\[2.0ex]&= \frac{18}{2.25} \times \frac{27}{2.7} \\[2.0ex]&= \frac{18}{9/4} \times 10 \\[2.0ex]&= \frac{18 \times 4}{9} \times 10 \\[2.0ex]&= (2 \times 4) \times 10 \\[2.0ex]&= 8 \times 10 \\[2.0ex]&= 80 \text{ [倍]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

顕微鏡が全体で何倍に見えるかは、2段階の拡大率を掛け合わせることで計算できます。まず「対物レンズが物体を何倍に拡大したか」を計算し、次に「接眼レンズがその像をさらに何倍に拡大したか」を計算します。これら2つの倍率を掛け算したものが、顕微鏡全体の倍率になります。

結論と吟味

この顕微鏡の倍率は80倍です。
対物レンズの倍率は \(m_1 = 18 / 2.25 = 8\)倍、接眼レンズの倍率は \(m_2 = 27 / 2.7 = 10\)倍であり、これらの積として全体の倍率が求められています。計算結果は妥当です。

解答 (3) 80倍

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • レンズの公式(写像公式):
    • 核心: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) というこの式は、レンズによる結像を扱うすべての問題の基本です。物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)の3つのうち2つが分かれば、残りの1つを求めることができます。
    • 理解のポイント: この問題では、(1)では像距離\(b_1\)から物体距離\(a_1\)を、(2)では像距離\(b_2\)から物体距離\(a_2\)を求めるために、この公式を2回使います。特に、虚像の場合に像距離\(b\)を負の値として代入するルールを正確に理解しているかが重要です。
  • レンズの倍率と合成倍率:
    • 核心: 顕微鏡や望遠鏡のように複数のレンズを組み合わせた光学機器の全体の倍率は、各レンズの倍率の積で与えられます。(\(M = m_1 \times m_2\))
    • 理解のポイント: (3)では、対物レンズの倍率 \(m_1 = |b_1/a_1|\) と接眼レンズの倍率 \(m_2 = |b_2/a_2|\) をそれぞれ計算し、それらを掛け合わせることで全体の倍率を求めます。顕微鏡が「対物レンズが作った実像を、接眼レンズがさらに拡大する」という2段階の拡大装置であることを理解していれば、この計算方法の理屈も自然に分かります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ケプラー式望遠鏡: 顕微鏡と同様に、対物レンズと接眼レンズを組み合わせた装置です。遠方の物体を見るため、対物レンズに入射する光は平行光線とみなすことが多い点が異なりますが、対物レンズが作った実像を接眼レンズで拡大して虚像として見る、という基本原理は同じです。
    • レンズを2枚組み合わせた結像問題: 顕微鏡や望遠鏡という具体的な装置名がなくても、「レンズL1からx cmの位置に物体を置いた。L1からy cmの位置にレンズL2を置いた。最終的な像の位置と倍率を求めよ」といった形式の問題。1枚目のレンズが作る像が2枚目のレンズの物体になる、という流れを順に追って計算する点は全く同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズごとに情報を整理する: 複数のレンズがある場合、混乱しないように「対物レンズについて」「接眼レンズについて」と分けて、それぞれの焦点距離、物体距離、像距離を整理します。
    2. 光の経路を追う: まず物体から出た光が1枚目のレンズでどうなるか(像の位置、種類(実像/虚像)、向き)を考えます。次に、その像を2枚目のレンズの「物体」と見なして、2枚目のレンズによる結像を考えます。このステップ・バイ・ステップのアプローチが基本です。
    3. 虚像の扱いに注意する: レンズの公式で、虚像の像距離\(b\)は負の値として扱います。問題文で「虚像ができた」と明記されている場合や、凸レンズの焦点の内側に物体を置く場合は、このルールを適用し忘れないように注意が必要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 虚像の像距離の符号ミス:
    • 誤解: (2)で、接眼レンズが作る虚像の像距離を \(b_2 = 27\) cmと正の値で代入してしまう。
    • 対策: レンズの公式における符号のルールを徹底しましょう。「レンズの向こう側にできる実像は\(b>0\)、レンズの手前側にできる虚像は\(b<0\)」と覚えるのが基本です。明視の距離で見る虚像は、必ずレンズの手前側にあるので、像距離は負になります。
  • 物体距離と像距離の混同:
    • 誤解: 対物レンズの像距離\(b_1\)と接眼レンズの物体距離\(a_2\)の関係が分からなくなる。
    • 対策: 必ず図を描いてレンズと像の位置関係を視覚化しましょう。対物レンズと接眼レンズの間の距離を\(L\)とすると、\(L = b_1 + a_2\) の関係が成り立ちます。この問題では\(L\)は直接問われていませんが、この関係を意識することで、\(b_1\)と\(a_2\)が独立した値ではなく、互いに関連していることが理解できます。
  • 倍率計算での値の取り違え:
    • 誤解: (3)で、対物レンズの倍率を計算する際に、接眼レンズの物体・像距離を使ってしまうなど、どのレンズにどの値を使うべきか混乱する。
    • 対策: (1), (2)でレンズごとに情報を整理したメモを見ながら、慎重に値を代入しましょう。\(m_1 = |b_1/a_1|\), \(m_2 = |b_2/a_2|\) と、添字を付けて明確に区別して計算するのが安全です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 光路図の作図: レンズの問題では、光路図を描くことが現象理解の鍵です。
      1. 対物レンズに対して、物体AA’から出る「①光軸に平行な光(レンズ通過後、焦点を通る)」「②レンズの中心を通る光(直進する)」の2本の光線を描き、交点に実像BB’ができる様子を作図します。
      2. 次に、このBB’を新たな物体とみなし、接眼レンズに対して同様に光路図を描きます。BB’から出る光線が接眼レンズを通過後、広がっていく(発散する)様子と、その光線を逆向きに延長した交点に虚像CC’ができる様子を描くことで、顕微鏡の原理が視覚的に理解できます。
    • 2段階の拡大プロセス: 「小さな物体AA’が、対物レンズによって少し大きな倒立実像BB’になる(第1段階の拡大)。その実像BB’を、接眼レンズ(虫眼鏡)がさらに大きく拡大して、巨大な倒立虚像CC’として見る(第2段階の拡大)。」というストーリーをイメージすることが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • レンズの公式 (\(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)):
    • 選定理由: (1)と(2)で、レンズによる結像の位置関係を定量的に求めるため。これは薄レンズにおける結像を扱うための基本法則です。
    • 適用根拠: 光の屈折の法則を、球面という形状のレンズに適用し、光線が光軸の近くを通る(近軸光線)という近似を用いることで導出される関係式です。高校物理のレンズの問題では、この公式がすべての計算の出発点となります。
  • 倍率の公式 (\(m = |b/a|\)):
    • 選定理由: (3)で、像が物体に対してどれだけ拡大されたかを計算するため。
    • 適用根拠: 光路図における物体と像の三角形の相似関係から導かれます。物体とレンズ、像とレンズがつくる2つの直角三角形が相似であることから、高さの比(倍率)が底辺の比(像距離/物体距離)に等しくなります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 対物レンズの物体距離の計算:
    • 戦略: 対物レンズに着目し、レンズの公式を適用する。
    • フロー: ①対物レンズの\(f_1, b_1\)の値を確認 → ②レンズの公式 \(\frac{1}{a_1} + \frac{1}{b_1} = \frac{1}{f_1}\) を立式 → ③数値を代入し、\(a_1\)について解く。
  2. (2) 接眼レンズの物体距離の計算:
    • 戦略: 接眼レンズに着目し、レンズの公式を適用する。
    • フロー: ①接眼レンズの\(f_2, b_2\)の値を確認(\(b_2\)は虚像なので負の値!) → ②レンズの公式 \(\frac{1}{a_2} + \frac{1}{b_2} = \frac{1}{f_2}\) を立式 → ③数値を代入し、\(a_2\)について解く。
  3. (3) 全体の倍率の計算:
    • 戦略: 対物レンズと接眼レンズ、それぞれの倍率を計算し、掛け合わせる。
    • フロー: ①対物レンズの倍率 \(m_1 = |b_1/a_1|\) を計算 → ②接眼レンズの倍率 \(m_2 = |b_2/a_2|\) を計算 → ③全体の倍率 \(M = m_1 \times m_2\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の計算を丁寧に行う: レンズの公式は逆数の和であるため、分数の計算が頻出します。通分や、最後の逆数を取る計算(例: \(\frac{1}{a} = \frac{4}{9}\) から \(a = \frac{9}{4}\))でミスをしないように、途中式を省略せず丁寧に書きましょう。
  • 小数と分数の変換: \(2.25 = 9/4\) のように、計算の途中で小数を分数に直すと、計算が楽になったり、約分が見つけやすくなったりすることがあります。臨機応変に使い分けるのが良いでしょう。
  • 有効数字の確認: 問題文で与えられた数値の有効数字(この問題では2桁)を確認し、最終的な答えの桁数を合わせるように意識しましょう。ただし、計算途中では多めの桁数(この場合は2.25)を保持し、最後に四捨五入するのが基本です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 結像条件との照らし合わせ:
    • (1) 対物レンズ: 物体距離 \(a_1 \approx 2.3 \text{ cm}\) は、焦点距離 \(f_1 = 2.0 \text{ cm}\) の外側です。凸レンズで焦点の外側に物体を置くと、倒立実像ができます。これは顕微鏡の対物レンズの役割と一致しており、妥当です。
    • (2) 接眼レンズ: 物体(実像BB’)距離 \(a_2 = 2.7 \text{ cm}\) は、焦点距離 \(f_2 = 3.0 \text{ cm}\) の内側です。凸レンズで焦点の内側に物体を置くと、正立虚像ができます。これは接眼レンズ(拡大鏡)の役割と一致しており、妥当です。
  • 倍率のオーダー感: 80倍という倍率は、顕微鏡の倍率として現実的な範囲の値です。もし計算結果が0.5倍や10000倍のような極端な値になった場合は、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。

292 レンズの組み合わせ

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、凸レンズと凹レンズという2種類のレンズを組み合わせたときの結像について問う問題です。1枚目のレンズが作る像が、2枚目のレンズにとっての「物体」として働くという、複合レンズ系の基本を理解しているかが試されます。特に、凹レンズの結像や虚物体の扱いがポイントとなります。

与えられた条件
  • レンズL₁: 凸レンズ、焦点距離 \(f_1 = 20 \text{ cm}\)
  • 物体AA’の位置: L₁の左方 \(40 \text{ cm}\)
  • レンズL₂: 凹レンズ、焦点距離 \(f_2 = -30 \text{ cm}\)
  • L₁とL₂の間の距離: \(30 \text{ cm}\)
問われていること
  • (1) L₁による像BB’とL₁との距離。
  • (2) L₁による像BB’の倍率。
  • (3) L₁とL₂による像CC’の種類と位置。
  • (4) L₁とL₂による像CC’の総合倍率。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「凸レンズと凹レンズによる結像」です。まず凸レンズによってできる実像の位置と倍率を求め、次にその実像を凹レンズにとっての物体とみなして、最終的な像を求めるという2段階のプロセスで解いていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンズの公式: 物体距離\(a\)、像距離\(b\)、焦点距離\(f\)の関係式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) を使います。凹レンズの焦点距離や虚像の像距離は負の値として扱います。
  2. 虚物体: 1枚目のレンズが作る実像が、2枚目のレンズの後方にできる場合、この実像は2枚目のレンズにとって「虚物体」となります。虚物体の物体距離は負の値として扱います。
  3. レンズの倍率と合成倍率: 各レンズの倍率は \(m = \left| \displaystyle\frac{b}{a} \right|\) で計算され、全体の倍率は各レンズの倍率の積 \(M = m_1 \times m_2\) で求められます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、レンズL₁のみを考え、物体AA’からできる像BB’の位置と倍率をレンズの公式を用いて計算します(問1, 問2)。
  2. 次に、レンズL₂を置いた状況を考えます。L₁が作った像BB’がL₂にとっての物体となります。BB’とL₂の位置関係を調べ、L₂についてのレンズの公式を適用して、最終的な像CC’の種類と位置を求めます(問3)。
  3. 最後に、L₁の倍率とL₂の倍率をそれぞれ計算し、それらを掛け合わせて総合倍率を求めます(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
まず、1枚目のレンズL₁(凸レンズ)による結像だけを考えます。物体AA’の位置とL₁の焦点距離が分かっているので、レンズの公式を使って像BB’の位置を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 着目するレンズ: L₁(凸レンズ、焦点距離 \(f_1 = 20 \text{ cm}\))
  • 物体距離 \(a_1\): L₁と物体AA’の距離。\(a_1 = 40 \text{ cm}\)。
  • 像距離 \(b_1\): L₁と像BB’の距離(求める値)。

具体的な解説と立式
レンズL₁について、レンズの公式を適用します。

  • 物体距離: \(a_1 = 40\) [cm]
  • 焦点距離: \(f_1 = 20\) [cm]
  • 像距離: \(b_1\) [cm]

レンズの公式は以下の通りです。
$$ \frac{1}{a_1} + \frac{1}{b_1} = \frac{1}{f_1} $$
この式に、分かっている値を代入します。
$$ \frac{1}{40} + \frac{1}{b_1} = \frac{1}{20} $$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

上記で立てた式を\(b_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b_1} &= \frac{1}{20} – \frac{1}{40} \\[2.0ex]&= \frac{2}{40} – \frac{1}{40} \\[2.0ex]&= \frac{1}{40}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ b_1 = 40 \text{ [cm]} $$

計算方法の平易な説明

最初の凸レンズL₁に注目します。このレンズの左40cmの位置に物体を置いたとき、どこに像ができるかを「レンズの公式」を使って計算します。

結論と吟味

L₁による像BB’は、L₁の右方40cmの位置にできます。
物体距離 \(a_1 = 40 \text{ cm}\) は、焦点距離 \(f_1 = 20 \text{ cm}\) のちょうど2倍の位置(\(2f_1\))です。このとき、像はレンズの反対側の \(2f_1\) の位置に、物体と同じ大きさの倒立実像ができることが知られています。計算結果 \(b_1 = 40 \text{ cm}\) はこの知識と一致しており、妥当です。

解答 (1) 40cm

問(2)

思考の道筋とポイント
問(1)に引き続き、レンズL₁による像BB’の倍率を求めます。倍率の公式に、物体距離と像距離を代入して計算します。
この設問における重要なポイント

  • 倍率の公式: \(m_1 = \left| \displaystyle\frac{b_1}{a_1} \right|\)
  • 物体距離 \(a_1 = 40 \text{ cm}\)
  • 像距離 \(b_1 = 40 \text{ cm}\) (問1の結果)

具体的な解説と立式
レンズL₁による倍率\(m_1\)は、物体距離\(a_1\)と像距離\(b_1\)を用いて次のように表されます。
$$ m_1 = \left| \frac{b_1}{a_1} \right| $$

使用した物理公式

  • レンズの倍率: \(m = \left| \displaystyle\frac{b}{a} \right|\)
計算過程

\(a_1=40\), \(b_1=40\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m_1 &= \left| \frac{40}{40} \right| \\[2.0ex]&= 1.0 \text{ [倍]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

凸レンズL₁が物体をどれくらいの大きさに写すか(倍率)を計算します。倍率は「像までの距離」を「物体までの距離」で割ることで求められます。

結論と吟味

L₁による倍率は1.0倍です。これは、問(1)の吟味で述べた通り、物体が焦点距離の2倍の位置にあるとき、像は同じ大きさになるという事実と一致します。

解答 (2) 1.0倍

問(3)

思考の道筋とポイント
次に、レンズL₂(凹レンズ)を置いたときの最終的な像CC’について考えます。L₁が作った実像BB’が、L₂にとっての「物体」となります。この物体の位置を正しく設定し、L₂についてのレンズの公式を適用します。
この設問における重要なポイント

  • L₂にとっての物体: L₁が作った実像BB’です。
  • L₂にとっての物体距離\(a_2\): L₂からBB’までの距離です。
    • L₁とL₂の距離は30cm。
    • L₁とBB’の距離は40cm(問1の結果)。
    • したがって、BB’はL₂よりも10cm右側(後方)にあります。
    • このように、レンズの後方に物体がある場合、これを「虚物体」と呼び、物体距離は負の値として扱います。よって、\(a_2 = -10 \text{ cm}\)。
  • L₂の焦点距離\(f_2\): 凹レンズなので、焦点距離は負の値です。\(f_2 = -30 \text{ cm}\)。

具体的な解説と立式
レンズL₂について、レンズの公式を適用します。

  • 物体距離: \(a_2 = -10\) [cm] (虚物体なので負)
  • 焦点距離: \(f_2 = -30\) [cm] (凹レンズなので負)
  • 像距離: \(b_2\) [cm]

レンズの公式は以下の通りです。
$$ \frac{1}{a_2} + \frac{1}{b_2} = \frac{1}{f_2} $$
この式に、分かっている値を代入します。
$$ \frac{1}{-10} + \frac{1}{b_2} = \frac{1}{-30} $$

使用した物理公式

  • レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)
計算過程

上記で立てた式を\(b_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{b_2} &= \frac{1}{-30} – \frac{1}{-10} \\[2.0ex]&= -\frac{1}{30} + \frac{1}{10} \\[2.0ex]&= -\frac{1}{30} + \frac{3}{30} \\[2.0ex]&= \frac{2}{30} \\[2.0ex]&= \frac{1}{15}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ b_2 = 15 \text{ [cm]} $$
\(b_2\)が正の値なので、できる像は「実像」です。
位置は、L₂の右方15cmのところです。

計算方法の平易な説明

次に凹レンズL₂を置きます。L₁が作った像BB’は、L₂の後ろ側にできています。このように、レンズを通り過ぎた先に集まろうとしている光を物体とみなす場合を「虚物体」と呼び、物体までの距離をマイナスで扱います。この虚物体と、凹レンズの焦点距離(これもマイナス)を使って「レンズの公式」を解くと、最終的な像CC’がどこにできるかが分かります。

結論と吟味

像CC’の種類は実像、位置はL₂の右方15cmです。
凹レンズは通常、実物体から虚像を作りますが、今回のように虚物体(レンズに向かって収束してくる光)が焦点の内側にある場合(\(|a_2|=10 < |f_2|=30\))、実像を作ることができます。これは物理的に正しい現象です。

解答 (3) 像の種類:実像、像の位置:L₂の右方15cm

問(4)

思考の道筋とポイント
L₁とL₂による総合倍率を求めます。これは、L₁の倍率\(m_1\)とL₂の倍率\(m_2\)の積で計算できます。
この設問における重要なポイント

  • L₁の倍率\(m_1\): 問(2)より \(m_1 = 1.0\)。
  • L₂の倍率\(m_2\): \(m_2 = \left| \displaystyle\frac{b_2}{a_2} \right|\)。問(3)で使った値、\(a_2 = -10 \text{ cm}\), \(b_2 = 15 \text{ cm}\) を使います。
  • 総合倍率\(M\): \(M = m_1 \times m_2\)。

具体的な解説と立式
総合倍率\(M\)は、各レンズの倍率の積で与えられます。
$$ M = m_1 \times m_2 = \left| \frac{b_1}{a_1} \right| \times \left| \frac{b_2}{a_2} \right| $$

使用した物理公式

  • レンズの倍率: \(m = \left| \displaystyle\frac{b}{a} \right|\)
  • 合成倍率: \(M = m_1 m_2\)
計算過程

各値を代入して計算します。

  • \(m_1 = 1.0\)
  • \(a_2 = -10\) cm
  • \(b_2 = 15\) cm

$$
\begin{aligned}
m_2 &= \left| \frac{15}{-10} \right| = 1.5 \\[2.0ex]M &= m_1 \times m_2 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 1.5 \\[2.0ex]&= 1.5 \text{ [倍]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

全体の倍率は、L₁の倍率とL₂の倍率を掛け合わせることで求められます。L₁の倍率は(2)で1.0倍と分かっています。L₂の倍率を(3)で求めた距離の値を使って計算し、二つを掛け算します。

結論と吟味

総合倍率は1.5倍です。L₁で等倍、L₂で1.5倍に拡大された結果であり、計算は妥当です。元の物体AA’は上向き、L₁による実像BB’は倒立(下向き)、L₂による実像CC’はBB’に対して正立なので(符号付き倍率が\(+1.5\)のため)、元のAA’に対しては倒立(下向き)となります。

解答 (4) 1.5倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • レンズの公式(写像公式):
    • 核心: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) という式は、凸レンズ・凹レンズを問わず、薄レンズによる結像を扱うすべての問題の基本です。この公式を、各レンズについて段階的に適用することが問題解決の鍵となります。
    • 理解のポイント: この問題では、(1)で凸レンズに、(3)で凹レンズに適用します。特に、凹レンズの焦点距離\(f\)を負の値として扱うこと、そして「虚物体」の物体距離\(a\)を負の値として扱うこと、この2つの符号ルールを正確に使いこなせるかが試されます。
  • 複合レンズ系の考え方:
    • 核心: 複数のレンズがある場合、「1枚目のレンズが作る像」が「2枚目のレンズにとっての物体」として機能するという連鎖的な考え方が非常に重要です。
    • 理解のポイント: この問題では、L₁が作る実像BB’の位置をまず確定させ、その位置とL₂の位置関係から、L₂にとっての物体距離\(a_2\)を正しく設定することが(3)を解くための決定的なステップになります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 顕微鏡・望遠鏡: 2枚の凸レンズを組み合わせた光学機器。原理は本問と同じで、1枚目のレンズ(対物レンズ)が作った実像を、2枚目のレンズ(接眼レンズ)で拡大して見る、という流れで計算します。
    • ガリレイ式望遠鏡: 凸レンズ(対物)と凹レンズ(接眼)を組み合わせた望遠鏡。正立像が見えるのが特徴で、本問と同様に凹レンズの結像を考える良い練習になります。
    • 虚物体を扱う様々な問題: 例えば、凹レンズの前に、別の凸レンズによって収束する光が入射するような状況。この収束光が凹レンズにとっての虚物体となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. レンズごとに情報を整理する: 混乱を避けるため、まず1枚目のレンズL₁について、物体距離、像距離、焦点距離を整理し、像の位置を求めます。次に、2枚目のレンズL₂について同様に情報を整理します。
    2. 図を描いて位置関係を把握する: レンズと像の位置関係を把握するために、光軸を示す直線を一本描き、各レンズの位置、1枚目のレンズが作る像の位置を書き込みます。これにより、2枚目のレンズにとっての物体距離が正(実物体)か負(虚物体)かを視覚的に判断できます。
    3. 符号ルールを再確認する: 計算を始める前に、凸レンズのfは正、凹レンズのfは負、実像のbは正、虚像のbは負、実物体のaは正、虚物体のaは負、という符号ルールを頭の中で再確認する習慣をつけましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 虚物体の物体距離の符号ミス:
    • 誤解: (3)で、L₂にとっての物体距離を\(a_2 = 10\) cmと正の値で計算してしまう。これは最も多い間違いです。
    • 対策: 「物体」とは、レンズに入射する光が集まろうとしている点(または、そこから発散しているように見える点)です。L₁が作る実像BB’はL₂の後方にあるため、L₁を通過した光はBB’に「集まろうとしながら」L₂に入射します。このように、レンズに向かって収束してくる光束の収束点が物体の場合は「虚物体」となり、物体距離は負になります。図を描いて、像の位置がレンズの前か後かを確認するのが最も確実な対策です。
  • 凹レンズの焦点距離の符号ミス:
    • 誤解: (3)で、凹レンズの焦点距離を\(f_2 = 30\) cmと正の値で計算してしまう。
    • 対策: 「凸レンズは正、凹レンズは負」という焦点距離の符号ルールは基本中の基本です。問題を解き始める前に、レンズの種類を確認し、焦点距離の符号を明確にしておきましょう。
  • 総合倍率の計算での混乱:
    • 誤解: 総合倍率を、\(M = |(b_1+b_2)/(a_1+a_2)|\) のように、距離を足し算して計算しようとする。
    • 対策: 総合倍率は、各レンズの倍率の「積」で求められる(\(M = m_1 \times m_2\))ということを明確に覚えておきましょう。これは、拡大のプロセスが連鎖的に(掛け算で)起こるためです。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 光路図の作図: この問題の状況を正確に作図することが、特に虚物体の理解に役立ちます。
      1. まずL₁と物体AA’を描き、実像BB’の位置を決定します。AA’から出てL₁の中心を通る光線と、AA’から出てL₁の焦点を通る光線(レンズ通過後は光軸に平行に進む)を描くと、交点としてBB’が作図できます。
      2. 次にL₂を配置します。L₁を通過した光線が、L₂によってどのように曲げられるかを描きます。例えば、L₂がなければBB’に集まるはずだった光線が、L₂に入射した時点で屈折し、手前のCC’に集まる様子を描くことで、虚物体から実像ができるプロセスが視覚的に理解できます。
    • 虚物体のイメージ: 虚物体とは「そこに実体はないが、光がその点を目指して集まってきている状態」とイメージすると良いでしょう。レンズは、その光が目的地に到達する「前」に横から介入して、光の進路を変えてしまう、というイメージです。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • レンズの公式 (\(\displaystyle\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\)):
    • 選定理由: (1)と(3)で、レンズによる結像の位置を計算するため。これは、物体、像、焦点の3者の位置関係を記述する唯一の基本公式です。
    • 適用根拠: この公式は、凸レンズ、凹レンズ、実物体、虚物体、実像、虚像のすべての場合に、符号ルールさえ守れば統一的に適用できる非常に強力なツールです。
  • 倍率の公式 (\(m = |b/a|\)) と合成倍率 (\(M = m_1 m_2\)):
    • 選定理由: (2)と(4)で、像の大きさが物体の何倍になるかを計算するため。
    • 適用根拠: 倍率の公式は三角形の相似から、合成倍率の公式は倍率の定義(\(M = \frac{\text{最終像}}{\text{元物体}} = \frac{\text{中間像}}{\text{元物体}} \times \frac{\text{最終像}}{\text{中間像}}\))から導かれます。これらの公式を選択することで、段階的な拡大・縮小のプロセスを定量的に評価できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) L₁による像の位置計算:
    • 戦略: L₁についてレンズの公式を適用。
    • フロー: ①\(a_1=40, f_1=20\) を確認 → ②\(\frac{1}{40} + \frac{1}{b_1} = \frac{1}{20}\) を立式 → ③\(b_1\)を計算。
  2. (2) L₁による倍率計算:
    • 戦略: L₁の倍率公式を適用。
    • フロー: ①\(a_1=40, b_1=40\) を確認 → ②\(m_1 = |b_1/a_1|\) を計算。
  3. (3) L₂による像の位置計算:
    • 戦略: L₂についてレンズの公式を適用。虚物体の扱いに注意。
    • フロー: ①L₁とL₂の位置関係から、L₂の物体距離\(a_2\)を求める(\(a_2 = 30 – b_1 = 30 – 40 = -10\)、虚物体)。 → ②L₂の焦点距離\(f_2\)を確認(\(f_2=-30\)、凹レンズ)。 → ③\(\frac{1}{-10} + \frac{1}{b_2} = \frac{1}{-30}\) を立式 → ④\(b_2\)を計算し、符号から像の種類(実像/虚像)を判断。
  4. (4) 総合倍率の計算:
    • 戦略: L₁とL₂の倍率の積を計算。
    • フロー: ①\(m_1\)は(2)で計算済み。 → ②L₂の倍率 \(m_2 = |b_2/a_2|\) を計算。 → ③総合倍率 \(M = m_1 \times m_2\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認を徹底する: この問題の最大の落とし穴は符号です。計算を始める前に、各物理量(\(f_1, f_2, a_1, a_2\))の符号が正しいか、必ず確認しましょう。特に、虚物体と凹レンズの焦点距離は負になることを忘れないでください。
  • 分数の計算: レンズの公式では、\(\frac{1}{-10}\) のような負の数を含む分数の計算が出てきます。通分や移項の際に符号を間違えないよう、慎重に計算を進めましょう。
  • 単位の一貫性: この問題ではすべての長さが[cm]で与えられているため問題ありませんが、[m]と[cm]が混在する問題では、計算前に単位を統一することが不可欠です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 結像の定性的な理解との比較:
    • L₁: 物体は焦点距離の2倍の位置 (\(a_1=2f_1\)) にあるので、像も焦点距離の2倍の位置 (\(b_1=2f_1\)) に、同じ大きさの倒立実像ができるはずです。計算結果の \(b_1=40\text{ cm}\), \(m_1=1.0\) はこれと完全に一致します。
    • L₂: 凹レンズは、光を発散させるレンズです。しかし、焦点よりも内側に虚物体(収束光)がある場合、光の発散が収束に打ち勝てず、結果として実像を結びます。計算結果が実像となったことは、この定性的な理解と一致します。
  • 作図による確認: 時間があれば、フリーハンドで光路図を描いてみましょう。計算結果と作図結果がおおよそ一致するかどうかを確認することで、大きな間違いがないかをチェックできます。特に、像がどのあたりにできるか、実像か虚像か、といった点は作図によっても確認できます。
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