282 光の屈折
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光ファイバーの原理である全反射を利用した光の伝播に関する問題です。屈折の法則と全反射の条件、そして光の速度に関する知識を組み合わせて解く必要があります。
この問題の核心は、異なる媒質の境界面で光がどのように振る舞うかを、幾何学的な関係を正しく把握しながら数式で表現することです。
- 中心部の円柱状ガラスの屈折率: \(n_1\)
- 周囲の円筒状ガラスの屈折率: \(n_2\)
- 条件: \(n_1 > n_2\)
- 空気の屈折率: \(1\)
- 真空中の光の速さ: \(c\)
- ガラス棒の長さ: \(L\)
- 空気中からガラス棒への入射角: \(\theta_0\) (\(\theta_0 > 0\))
- (1) 空気から円柱状ガラスに入射したときの屈折角を\(\theta_1\)とするときの、\(\sin\theta_1\)を\(n_1\), \(\theta_0\)で表した式。
- (2) 光線が円柱状ガラス(\(n_1\))と円筒状ガラス(\(n_2\))の境界面で全反射するための、\(\sin\theta_0\)が満たすべき条件。
- (3) 光線がガラス棒の長さ\(L\)を伝播するのにかかる時間。(\(\theta_1\)を用いずに表す)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の屈折と全反射」です。光が異なる媒質に入射する際の屈折の法則と、特定の条件下で光がすべて反射される全反射の現象を理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則: 光が異なる屈折率の媒質の境界面を通過する際に、入射角と屈折角の関係を表す法則です。
- 全反射: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が入射する際に、入射角がある一定の角度(臨界角)を超えると、光が屈折せずにすべて反射される現象です。
- 幾何学的な関係: 図から、屈折角\(\theta_1\)と、コア・クラッド境界面への入射角の関係を正しく導き出すことが重要です。
- 光の速さ: 屈折率\(n\)の媒質中での光の速さは \(v = \displaystyle\frac{c}{n}\) となることを利用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、空気から円柱状ガラス(\(n_1\))への入射において屈折の法則を適用し、\(\sin\theta_1\)を求めます(問1)。
- 次に、円柱状ガラス(\(n_1\))から円筒状ガラス(\(n_2\))への境界面で全反射が起こる条件を考えます。このとき、境界面への入射角を\(\theta_1\)を用いて表し、全反射の条件式を立てます。これに(1)の結果を代入して\(\sin\theta_0\)の条件を導きます(問2)。
- 最後に、光が円柱状ガラスの中を進む実際の道のりを、ガラス棒の長さ\(L\)と屈折角\(\theta_1\)を用いて幾何学的に求め、媒質中の光の速さで割ることで時間を計算します(問3)。
問(1)
思考の道筋とポイント
空気中から円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))へ光が入射する場面を考えます。異なる媒質の境界面での光の進み方を記述する「屈折の法則」を適用します。
この設問における重要なポイント
- 登場する媒質: 空気(屈折率\(1\))と円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))。
- 入射角と屈折角: 空気側での入射角が\(\theta_0\)、ガラス側での屈折角が\(\theta_1\)です。
- 屈折の法則の適用: 「屈折率 \(\times\) その媒質での角度の\(\sin\)」が境界面を挟んで等しくなる、という関係を立式します。
具体的な解説と立式
空気(屈折率\(1\))から円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))へ光が入射します。
空気中での入射角は\(\theta_0\)、円柱状ガラス中での屈折角は\(\theta_1\)です。
屈折の法則より、次の関係が成り立ちます。
$$ 1 \cdot \sin\theta_0 = n_1 \sin\theta_1 $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
上記で立てた屈折の法則の式を \(\sin\theta_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
n_1 \sin\theta_1 &= \sin\theta_0 \\[2.0ex]\sin\theta_1 &= \frac{\sin\theta_0}{n_1}
\end{aligned}
$$
光が空気中からガラスに入るとき、その進む向きが変わります。この曲がり方のルール(屈折の法則)は、それぞれの物質の「光の曲げやすさ(屈折率)」と「光の角度」を掛け合わせたものが、境目の前後で同じになる、というものです。この関係を数式にして、ガラスの中での光の角度(のサイン)を求めます。
空気から円柱状ガラスに入射した光の屈折角\(\theta_1\)について、\(\sin\theta_1 = \displaystyle\frac{\sin\theta_0}{n_1}\) が成り立ちます。これは屈折の法則を素直に適用した結果であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
次に、円柱状ガラス(コア、屈折率\(n_1\))と円筒状ガラス(クラッド、屈折率\(n_2\))の境界面で光が全反射する条件を考えます。全反射は、屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むときに、入射角がある一定の角度(臨界角)より大きい場合に起こります。
この設問における重要なポイント
- 境界面への入射角: まず、コアとクラッドの境界面への光の入射角を求める必要があります。図の幾何学的関係から、この入射角は \(90^\circ – \theta_1\) となります。
- 全反射の条件: 屈折率\(n_1\)の媒質から\(n_2\)の媒質へ光が入射角\(\theta_{\text{入射}}\)で進むとき、全反射が起こる条件は \(\sin\theta_{\text{入射}} > \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\) です。これは、屈折角が\(90^\circ\)となる臨界角の条件 \(\sin\theta_c = \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\) から導かれます。
- 式の結合: (1)で求めた\(\sin\theta_1\)の関係式と、全反射の条件式を組み合わせて、\(\sin\theta_0\)に関する条件を導出します。
具体的な解説と立式
円柱状ガラス(コア)と円筒状ガラス(クラッド)の境界面に光が入射する角度を\(\theta_2\)とします。
図の三角形に着目すると、屈折角\(\theta_1\)と\(\theta_2\)の間には、
$$ \theta_2 = 90^\circ – \theta_1 $$
という関係があります。
光が全反射するためには、コアからクラッドへ向かう光の入射角\(\theta_2\)が臨界角\(\theta_c\)よりも大きくなければなりません。
$$ \theta_2 > \theta_c $$
両辺の\(\sin\)をとると、
$$ \sin\theta_2 > \sin\theta_c \quad \cdots ① $$
ここで、臨界角\(\theta_c\)は、屈折角が\(90^\circ\)になるときの入射角であり、屈折の法則から
$$ n_1 \sin\theta_c = n_2 \sin 90^\circ $$
より、
$$ \sin\theta_c = \frac{n_2}{n_1} \quad \cdots ② $$
が成り立ちます。
また、\(\sin\theta_2 = \sin(90^\circ – \theta_1) = \cos\theta_1\) です。
これを①、②に適用すると、全反射の条件は
$$ \cos\theta_1 > \frac{n_2}{n_1} \quad \cdots ③ $$
となります。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 全反射の条件
- 三角関数の相互関係: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\), \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\)
(1)で求めた \(\sin\theta_1 = \displaystyle\frac{\sin\theta_0}{n_1}\) と、三角関数の公式 \(\sin^2\theta_1 + \cos^2\theta_1 = 1\) を用いて、\(\cos\theta_1\)を\(\sin\theta_0\)で表します。
$$
\begin{aligned}
\cos^2\theta_1 &= 1 – \sin^2\theta_1 \\[2.0ex]&= 1 – \left( \frac{\sin\theta_0}{n_1} \right)^2 \\[2.0ex]&= \frac{n_1^2 – \sin^2\theta_0}{n_1^2}
\end{aligned}
$$
\(\theta_1\)は屈折角なので鋭角であり、\(\cos\theta_1 > 0\)です。したがって、
$$ \cos\theta_1 = \frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1} $$
この結果を、全反射の条件式③に代入します。
$$ \frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1} > \frac{n_2}{n_1} $$
両辺に\(n_1\)を掛けて、
$$ \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0} > n_2 $$
両辺は正なので、2乗しても大小関係は変わりません。
$$ n_1^2 – \sin^2\theta_0 > n_2^2 $$
この不等式を\(\sin\theta_0\)について解きます。
$$ n_1^2 – n_2^2 > \sin^2\theta_0 $$
\(\theta_0 > 0\)より\(\sin\theta_0 > 0\)なので、
$$ \sin\theta_0 < \sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$
光がガラス棒の中をうまく伝わる(全反射する)ためには、コアとクラッドの境界面に、ある程度浅い角度で光が当たる必要があります。この「浅い角度」の条件を数式で表し、(1)で求めた「ガラスへの入り口での角度の関係」と組み合わせることで、ガラス棒に入射するときの最初の角度\(\theta_0\)が、どれくらい小さくなければならないかを計算します。
全反射が起こるためには、\(\sin\theta_0\)は\(\sqrt{n_1^2 – n_2^2}\)より小さくなければなりません。
この値は開口数(NA)と呼ばれ、光ファイバーがどれだけ広い角度からの光を取り込めるかを示す指標です。\(n_1\)と\(n_2\)の差が大きいほど、より広い角度の光を閉じ込められることが式からわかります。これは物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
光がガラス棒の始点から終点まで、長さ\(L\)の距離を伝播するのにかかる時間を求めます。光はまっすぐ進むのではなく、全反射を繰り返しながらジグザグに進みます。そのため、光が実際に進む道のりは、ガラス棒の長さ\(L\)よりも長くなります。
この設問における重要なポイント
- 光が進む速さ: 屈折率\(n_1\)の媒質中での光の速さは \(v_1 = \displaystyle\frac{c}{n_1}\) です。
- 光が進む距離: 光は屈折角\(\theta_1\)で斜めに進みます。ガラス棒の軸方向に\(L\)進む間に、光が実際に進む距離(光路長)は、図の直角三角形を考えると \(\displaystyle\frac{L}{\cos\theta_1}\) となります。
- 時間の計算: 時間は「距離 ÷ 速さ」で求められます。
- \(\theta_1\)の消去: 最終的に\(\theta_1\)を用いずに表す必要があるため、(1)の結果と(2)の計算途中で用いた\(\cos\theta_1\)の式を使って、\(\theta_1\)を消去します。
具体的な解説と立式
光が円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))の中を進む速さを\(v_1\)とします。
$$ v_1 = \frac{c}{n_1} \quad \cdots ① $$
光がガラス棒の軸方向に距離\(L\)を進む間に、実際に進むジグザグの道のりの長さを\(L_{\text{光路}}\)とします。
図より、光の進む向きとガラス棒の軸がなす角は\(\theta_1\)なので、幾何学的関係から、
$$ L_{\text{光路}} = \frac{L}{\cos\theta_1} \quad \cdots ② $$
求める時間\(t\)は、この距離を速さで割ることで得られます。
$$ t = \frac{L_{\text{光路}}}{v_1} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 媒質中の光の速さ: \(v = \displaystyle\frac{c}{n}\)
- 時間 = 距離 / 速さ
まず、③に①と②を代入して、\(t\)を\(L, c, n_1, \theta_1\)で表します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{L/\cos\theta_1}{c/n_1} \\[2.0ex]&= \frac{n_1 L}{c \cos\theta_1}
\end{aligned}
$$
次に、(2)の計算過程で求めた \(\cos\theta_1 = \displaystyle\frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1}\) を代入して、\(\theta_1\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{n_1 L}{c \cdot \displaystyle\frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1}} \\[4.0ex]&= \frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}
\end{aligned}
$$
光がガラス棒の端から端まで行くのにかかる時間を計算します。光は斜めにジグザグ進むので、まっすぐ進むより長い距離を移動します。この「実際に進む距離」を三角比を使って計算し、それを「ガラスの中での光の速さ」で割ることで、時間を求めます。最後に、答えの式に\(\theta_1\)が残らないように、(1)や(2)で使った関係式を使って変形します。
光がガラス棒を通過するのにかかる時間は \(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}\) です。
入射角\(\theta_0\)が大きくなると、分母の\(\sqrt{\cdots}\)の部分が小さくなるため、時間\(t\)は長くなります。これは、入射角が大きいほど光はよりジグザグに進み、道のりが長くなるという直感と一致しており、妥当な結果です。また、\(\theta_0 \to 0\) の極限では、光はまっすぐ進むので \(\cos\theta_1 \to 1\) となり、時間は \(t = \displaystyle\frac{n_1 L}{c}\) となります。導出した式で \(\sin\theta_0 \to 0\) とすると、\(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2}} = \frac{n_1 L}{c}\) となり、この極限とも一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則:
- 核心: 光が異なる屈折率を持つ媒質の境界面を通過する際に、その進行方向が変わる現象を定量的に記述する法則です。この問題では、(1)の空気→ガラス(コア)への入射と、(2)のガラス(コア)→ガラス(クラッド)への入射の両方の場面で基本法則として使われます。
- 理解のポイント: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という式は、「屈折率\(n\)と、法線となす角\(\theta\)の正弦(\(\sin\theta\))の積が、境界面を挟んで一定に保たれる」ことを意味します。この法則を正しく適用できることが、この問題の出発点です。
- 全反射の条件:
- 核心: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が入射するとき、入射角がある特定の角度(臨界角)を超えると、光は屈折せずに100%反射されます。これが全反射です。(2)を解くための中心的な概念です。
- 理解のポイント: 全反射が起こる条件は、入射角を\(\theta_{\text{入射}}\)として \(\sin\theta_{\text{入射}} > \displaystyle\frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) と表されます。ここで \(\displaystyle\frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) は臨界角のサインに相当します。なぜこの条件になるのか(屈折の法則で屈折角が\(90^\circ\)を超えることはできない、という点から導出されること)を理解しておくことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水中から空気中を見る問題: 水中から水面を見上げたとき、ある範囲の外側が真っ暗に見える(全反射が起きている)現象の解析。臨界角の計算が直接問われます。
- プリズムによる光の屈折・分散: 三角形のガラス(プリズム)に光を入射させ、出射するまでの光の経路を追跡する問題。複数回の屈折や、プリズム内部での全反射が起こる条件を問われることがあります。
- 半円形レンズの問題: 光をレンズの中心や円周上の点に入射させ、屈折や全反射を考察する問題。入射角や屈折角を幾何学的に求める訓練になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 光の経路を図示する: まず、問題の状況に合わせて光がどのように進むか、おおよその経路を図に描き込みます。特に、境界面での法線と、入射角・屈折角を正確に図示することが第一歩です。
- 境界面ごとに現象を分析する: 光が通過する境界面が複数ある場合(この問題では「空気→コア」と「コア→クラッド」の2つ)、それぞれの境界面で何が起こるか(屈折か、全反射か)を一つずつ分けて考え、屈折の法則を適用します。
- 幾何学的な関係を見抜く: 図形の中から、角度に関する関係式(特に、直角三角形や錯角・同位角)を見つけ出すことが非常に重要です。この問題の(2)では、コア・クラッド境界面への入射角が \(90^\circ – \theta_1\) であることを見抜くのが鍵でした。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 入射角・屈折角の定義間違い:
- 誤解: 境界面そのものと光の進行方向がなす角を、入射角や屈折角としてしまう。
- 対策: 入射角・屈折角は、必ず「境界面に垂直な線(法線)」と「光の進行方向」とのなす角です。図を描く際には、まず法線を点線で描く習慣をつけましょう。
- 屈折の法則の \(n_1, n_2\) の混同:
- 誤解: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) の公式を暗記しているだけで、どちらの媒質が\(n_1\)でどちらが\(n_2\)かを問題の状況に合わせて正しく適用できない。
- 対策: 「(媒質Aの屈折率)× \(\sin\)(媒質Aでの角度) = (媒質Bの屈折率)× \(\sin\)(媒質Bでの角度)」というように、言葉で意味を理解しておきましょう。これにより、記号が変わっても混乱しなくなります。
- 全反射の条件式の誤用:
- 誤解: 全反射が起こる条件を、常に \(\sin\theta > \displaystyle\frac{1}{n}\) のように、片方の屈折率が空気(\(1\))であるかのように思い込んでしまう。
- 対策: 全反射の条件は、屈折率\(n_{\text{大}}\)の媒質から\(n_{\text{小}}\)の媒質へ入射する場合に \(\sin\theta_{\text{入射}} > \displaystyle\frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) となる、と一般形で覚えておくことが重要です。この問題の(2)のように、空気を含まない境界面で適用する場面は頻出です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光の経路の拡大図: 問題図は全体像を示していますが、特に(2)を考える際には、光がコア・クラッド境界面に入射する部分を拡大して描くと非常に有効です。法線、入射角 \(90^\circ – \theta_1\)、屈折角\(\theta_1\)の関係が明確になり、幾何学的な間違いを防げます。
- 臨界角のイメージ: コアからクラッドへ向かう光の入射角を徐々に大きくしていくイメージを持ちます。入射角が小さいときは、一部は反射し、一部はクラッドへ屈折して抜けていく。入射角が臨界角に達した瞬間に、屈折光が境界面を滑るように進む(\(90^\circ\))。それ以上入射角を大きくすると、光は外に抜けられなくなり、すべて反射される(全反射)。この連続的な変化をイメージできると、条件式の意味が深く理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 法線を必ず描く: 各境界面(空気-コア、コア-クラッド)に法線を点線で描き入れ、角度の基準を明確にします。
- 角度を正確に記入: どの角度が\(\theta_0\)、\(\theta_1\)、そして \(90^\circ – \theta_1\) なのかを、混同しないように図に書き込みます。
- 光路長と軸方向の長さの区別: (3)で、光が実際に進む距離 \(\displaystyle\frac{L}{\cos\theta_1}\) と、ガラス棒の長さ\(L\)を、図の上で明確に区別して描くことが、立式の助けになります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則 (\(n_a \sin\theta_a = n_b \sin\theta_b\)):
- 選定理由: (1)と(2)で、光が異なる媒質の境界面を通過する際の角度の変化を記述するため。これは光の屈折現象を扱う上での基本法則です。
- 適用根拠: 光の波動性から導かれる普遍的な法則であり、媒質の屈折率と光の角度の関係を唯一記述できる式だからです。
- 全反射の条件 (\(\sin\theta_{\text{入射}} > n_{\text{小}}/n_{\text{大}}\)):
- 選定理由: (2)で、光がクラッドへ漏れ出さずにコア内部を伝播する条件を数式で表現するため。
- 適用根拠: 屈折の法則において、屈折角のサインが1を超えることは物理的にあり得ない(\(\sin\theta_{\text{屈折}} \le 1\))という数学的な制約から導かれる物理的な条件です。
- 媒質中の光速 (\(v = c/n\)) と 時間の定義 (\(t = d/v\)):
- 選定理由: (3)で、光が特定の距離を進むのにかかる時間を計算するため。
- 適用根拠: 屈折率\(n\)は、真空中に対する光の速さの比として定義される物理量です。時間、距離、速さの関係は運動学の基本定義です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) \(\sin\theta_1\) の導出:
- 戦略: 空気→コアの境界面に屈折の法則を適用する。
- フロー: ①空気とコアの屈折率、入射角、屈折角を確認 → ②屈折の法則を立式 (\(1 \cdot \sin\theta_0 = n_1 \sin\theta_1\)) → ③式を\(\sin\theta_1\)について解く。
- (2) 全反射の条件の導出:
- 戦略: コア→クラッド境界面での全反射条件を立式し、(1)の結果を使って\(\theta_0\)の条件に変換する。
- フロー: ①コア・クラッド境界面への入射角を幾何学的に求める (\(90^\circ – \theta_1\)) → ②全反射の条件を立式 (\(\sin(90^\circ – \theta_1) > n_2/n_1\)) → ③\(\cos\theta_1 > n_2/n_1\) に変形 → ④\(\cos\theta_1\)を(1)の\(\sin\theta_1\)を使って\(\theta_0\)で表現する → ⑤不等式を\(\sin\theta_0\)について解く。
- (3) 時間の計算:
- 戦略: 光の実際の移動距離(光路長)と媒質中の速さを求め、時間=距離/速さを計算する。
- フロー: ①コア中の光速を求める (\(v_1 = c/n_1\)) → ②光路長を幾何学的に求める (\(L_{\text{光路}} = L/\cos\theta_1\)) → ③時間を立式 (\(t = L_{\text{光路}}/v_1\)) → ④(2)の計算途中の\(\cos\theta_1\)の式を代入し、\(\theta_1\)を消去する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、多くの物理量が文字で与えられている場合、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。特に(2)や(3)では、\(\cos\theta_1\)を具体的な数値にすることなく、\(\sin\theta_0\)や\(n_1, n_2\)を含む式のまま代入することで、見通しが良くなり、計算ミスが減ります。
- 三角関数の公式の習熟: \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\) や \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) といった基本的な三角関数の公式を、素早く正確に使えることが必須です。特に後者は、\(\sin\)と\(\cos\)を相互に変換する際の重要なツールとなります。
- 根号(ルート)の取り扱い: \(\cos\theta_1 = \sqrt{1-\sin^2\theta_1}\) のように根号を外す際には、\(\cos\theta_1\)の符号を必ず確認する習慣をつけましょう。この問題では\(\theta_1\)は鋭角なので正ですが、問題によっては負になる可能性も考慮する必要があります。また、不等式の両辺を2乗する際は、両辺が正であることを確認してから行うのが原則です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 全反射の条件: もしコアとクラッドの屈折率の差がない (\(n_1 \approx n_2\)) としたら、\(\sqrt{n_1^2 – n_2^2} \approx 0\) となり、全反射が起こるためには \(\sin\theta_0\)がほぼ0、つまり光をほぼまっすぐ入射させる必要があることがわかります。逆に屈折率の差が大きいほど、より大きな\(\theta_0\)(広い角度)でも光を閉じ込められることを示しており、直感と一致します。
- (3) 時間: 入射角\(\theta_0\)が0に近づくと、光はまっすぐ進むので、光路長は\(L\)に近づき、時間は \(t \to n_1 L/c\) となるはずです。導出した式 \(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}\) で \(\sin\theta_0 \to 0\) とすると、\(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c n_1} = \frac{n_1 L}{c}\) となり、物理的に正しい極限の振る舞いをしていることが確認できます。
- 条件の確認:
- 問題文には \(n_1 > n_2\) という条件があります。この条件があるからこそ、コアからクラッドへの全反射が起こり得ます。もし \(n_1 < n_2\) であれば全反射は起こらないため、この問題設定自体が成り立ちません。このように、与えられた条件がなぜ必要なのかを考えることも、理解を深める上で有効です。
283 虹の原理
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、虹が見える原理を、水滴中での光の屈折と反射という観点から幾何学的に解析する問題です。屈折の法則、反射の法則、そして図形的な性質を組み合わせて、入射光と出射光のなす角度を求めることが中心となります。
- 球(水滴)の空気に対する屈折率: \(n\) (\(1 < n < 2\))
- 入射光線LAと半径OAのなす角: \(\theta_1\)
- 屈折光線ABと半径OAのなす角: \(\theta_2\)
- 入射光線LAと、1回反射して出ていく光線CMのなす角: \(\theta_s\)
- 光の分散: 屈折率は光の色によって異なる。赤色光で最も小さく、紫色光で最も大きい。
- (1) \(\theta_1\), \(\theta_2\), \(n\) の間に成り立つ関係式。
- (2) \(\theta_s\) を \(\theta_1\), \(\theta_2\) のみを用いて表した式。
- (3) 同じ入射角\(\theta_1\)に対して、赤色光と紫色光ではどちらの\(\theta_s\)が大きいか。また、虹の外側(上側)に見えるのは赤と紫のどちらか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の屈折・反射と分散(虹の原理)」です。水滴を球体とみなし、光がどのように進むかを幾何学的に追跡します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則: 空気と水滴の境界面で光が屈折する際の法則です。
- 反射の法則: 水滴の内部で光が反射する際の法則(入射角=反射角)です。
- 図形の性質: 特に、二等辺三角形の性質や、平行線の錯角・同位角、多角形の外角の定理などを駆使して角度の関係を導き出します。
- 光の分散: 屈折率が光の色(波長)によって異なる現象です。これにより、色が分かれて虹が見えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、点Aで空気に入射する光が水滴に屈折して入る際に、屈折の法則を適用します(問1)。
- 次に、光が点Aで屈折し、点Bで反射し、点Cで再び屈折して出ていくまでの光の進行方向の変化を、幾何学的に追跡します。最終的に入射光と出射光のなす角\(\theta_s\)を求めます(問2)。
- 最後に、屈折率が色によって違うこと(分散)が、\(\theta_s\)にどのような影響を与えるかを考察し、虹の色の並びを決定します(問3)。
問(1)
思考の道筋とポイント
光が空気中から球(水滴)に入射する点Aでの屈折現象に着目します。異なる媒質の境界面なので、屈折の法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 入射角と屈折角の特定: 問題文と図から、入射角と屈折角を正しく特定します。球の境界面での法線は、球の中心Oと境界面上の点Aを結ぶ半径OAとなります。
- 入射角: 入射光線LAと法線OAがなす角なので、\(\theta_1\)です。
- 屈折角: 屈折光線ABと法線OAがなす角なので、\(\theta_2\)です。
- 媒質の屈折率: 空気側の屈折率は1、水滴側の屈折率は\(n\)です。
具体的な解説と立式
点Aにおいて、光は空気(屈折率1)から水滴(屈折率\(n\))へと入射します。
境界面(球面)に対する法線は、その点と中心Oを結んだ直線OAです。
したがって、
- 入射角は、入射光線LAと法線OAのなす角であり、\(\theta_1\)。
- 屈折角は、屈折光線ABと法線OAのなす角であり、\(\theta_2\)。
となります。
屈折の法則を適用すると、以下の関係式が成り立ちます。
$$ 1 \cdot \sin\theta_1 = n \sin\theta_2 $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
立式したものがそのまま答えとなります。
$$ \sin\theta_1 = n \sin\theta_2 $$
光が空気から水滴に入るとき、その進路が曲がります。この曲がり方のルール(屈折の法則)を、空気と水滴の屈折率、そして入射角と屈折角を使って数式で表します。
入射角\(\theta_1\)、屈折角\(\theta_2\)、屈折率\(n\)の間には、\(\sin\theta_1 = n \sin\theta_2\)という関係が成り立ちます。これは屈折の法則を正しく適用した結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
入射光線LAと出射光線CMのなす角\(\theta_s\)を求めます。これは、光が点A、B、Cを経る間に、進行方向がどれだけ変わったかの合計(偏角)を計算することに相当します。各点(Aでの屈折、Bでの反射、Cでの屈折)で光の進行方向がどれだけ曲がるかを考え、それらを足し合わせる方法が有効です。
この設問における重要なポイント
- 幾何学的関係の利用: 図に示された角度の関係を最大限に利用します。特に、\(\triangle \text{OAB}\)や\(\triangle \text{OBC}\)が二等辺三角形であることに注目します。
- 偏角の計算:
- 点A(屈折): 光の進行方向は \(\theta_1 – \theta_2\) だけ曲がります。
- 点B(反射): \(\triangle \text{OAB}\)はOA=OB(半径)の二等辺三角形なので、\(\angle \text{OBA} = \angle \text{OAB} = \theta_2\)。反射の法則より、反射角も\(\theta_2\)となるため、光の進行方向は \(180^\circ – 2\theta_2\) だけ曲がります。
- 点C(屈折): 点Aでの屈折と逆のプロセスです。光の進行方向は \(\theta_1 – \theta_2\) だけ曲がります。
- 全体の角度変化: \(\theta_s\)は、入射光と出射光のなす角です。これは、光の進行方向が合計でどれだけ変わったかとは少し異なります。図形全体を見て角度を求めるのが確実です。
具体的な解説と立式
入射光線LAに平行な補助線OSと、出射光線CMに平行な補助線OTを考えます。求める角度\(\theta_s\)は、\(\angle \text{SOT}\)に等しくなります。
\(\angle \text{SOT}\)は、中心Oのまわりの角度の関係から求めることができます。
中心Oのまわりの角度の合計は\(360^\circ\)です。
$$ \angle \text{SOT} + \angle \text{SOA} + \angle \text{AOB} + \angle \text{BOC} + \angle \text{COT} = 360^\circ $$
ここで、各角度を\(\theta_1, \theta_2\)で表します。
- \(\angle \text{SOA}\): LA // OS なので、錯角より \(\angle \text{SOA} = \theta_1\)。
- \(\angle \text{COT}\): CM // OT なので、錯角より \(\angle \text{COT} = \theta_1\)。
- \(\angle \text{AOB}\): \(\triangle \text{OAB}\)は二等辺三角形なので、\(\angle \text{OAB} = \angle \text{OBA} = \theta_2\)。よって、\(\angle \text{AOB} = 180^\circ – 2\theta_2\)。
- \(\angle \text{BOC}\): \(\triangle \text{OBC}\)も同様に二等辺三角形です。\(\angle \text{OBC} = \angle \text{OCB} = \theta_2\)。よって、\(\angle \text{BOC} = 180^\circ – 2\theta_2\)。
これらの関係を上の式に代入します。
$$ \theta_s + \theta_1 + (180^\circ – 2\theta_2) + (180^\circ – 2\theta_2) + \theta_1 = 360^\circ $$
使用した物理公式
- 反射の法則
- 図形の性質(二等辺三角形、平行線の錯角)
上記で立てた角度の関係式を\(\theta_s\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\theta_s + 2\theta_1 + 360^\circ – 4\theta_2 &= 360^\circ \\[2.0ex]\theta_s + 2\theta_1 – 4\theta_2 &= 0 \\[2.0ex]\theta_s &= 4\theta_2 – 2\theta_1
\end{aligned}
$$
光が入ってくる方向と出ていく方向がなす角度\(\theta_s\)を求めます。水滴の中心Oの周りの角度は全部で360°です。この360°を、\(\theta_s\)と、光の経路から決まるいくつかのパーツ(\(\angle \text{AOB}\)など)に分割します。それぞれのパーツの角度を\(\theta_1\)と\(\theta_2\)を使って表し、「パーツの角度の合計 = 360°」という式を立てて、\(\theta_s\)を計算します。
入射光と出射光のなす角は \(\theta_s = 4\theta_2 – 2\theta_1\) と表されます。この角度は、太陽を背にして虹を見るとき、どのくらいの角度を見上げればよいかに対応します。
問(3)
思考の道筋とポイント
光の分散、つまり屈折率\(n\)が色によって異なるという性質が、\(\theta_s\)にどう影響するかを考えます。赤色光と紫色光で、どちらの\(\theta_s\)が大きくなるかを比較します。
この設問における重要なポイント
- 屈折率と色の関係: \(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\) です。
- (1)の関係式の利用: \(\sin\theta_1 = n \sin\theta_2\) より、\(\sin\theta_2 = \displaystyle\frac{\sin\theta_1}{n}\) となります。
- \(\theta_2\)の比較: 同じ入射角\(\theta_1\)に対して、屈折率\(n\)が小さい赤色光の方が、\(\sin\theta_2\)が大きくなります。角度が鋭角の範囲では、\(\sin\theta\)が大きいほど\(\theta\)も大きいので、\(\theta_{2, \text{赤}} > \theta_{2, \text{紫}}\) となります。
- \(\theta_s\)の比較: (2)で求めた \(\theta_s = 4\theta_2 – 2\theta_1\) の式を使って、\(\theta_2\)が大きい赤色光の方が\(\theta_s\)も大きくなることを示します。
- 虹の色の並び: 虹は、仰角\(\theta_s\)が大きいものが外側(上側)に見えます。
具体的な解説と立式
(1)で求めた関係式 \(\sin\theta_1 = n \sin\theta_2\) を変形すると、
$$ \sin\theta_2 = \frac{\sin\theta_1}{n} $$
となります。
問題の条件より、屈折率は赤色光が最も小さく、紫色光が最も大きいため、\(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\) です。 同じ入射角\(\theta_1\)で比較すると、分母の\(n\)が小さい赤色光の方が、\(\sin\theta_2\)の値は大きくなります。 $$ \sin\theta_{2, \text{赤}} > \sin\theta_{2, \text{紫}} $$
\(\theta_2\)は鋭角なので、この大小関係は角度\(\theta_2\)自体の大小関係と同じになります。
$$ \theta_{2, \text{赤}} > \theta_{2, \text{紫}} $$
次に、この結果を(2)で求めた \(\theta_s = 4\theta_2 – 2\theta_1\) に適用します。
\(\theta_1\)は共通で、\(\theta_2\)が大きいほど\(\theta_s\)も大きくなるので、
$$ \theta_{s, \text{赤}} > \theta_{s, \text{紫}} $$
となります。
虹は、太陽光がやってくる方向と逆側に見え、仰角\(\theta_s\)が大きい光ほど、虹のアーチの外側(上側)に見えます。したがって、\(\theta_s\)が大きい赤色光が虹の外側になります。
使用した物理公式
- (1), (2)で導出した関係式
上記は論理的な比較であり、具体的な計算はありません。
赤色と紫色では、水滴の中での光の曲がり方(屈折率)が少し違います。赤色の方が曲がりにくい(屈折率が小さい)です。この違いが、最終的に水滴から出てくる光の角度\(\theta_s\)にどう影響するかを調べます。(1)と(2)の式を使うと、「赤色の方が\(\theta_s\)が大きくなる」ことがわかります。空を見上げる角度が大きいものが虹の外側に見えるので、虹の外側は赤色になります。
同じ\(\theta_1\)に対して、\(\theta_s\)が大きいのは赤色光です。
虹の外側に見えるのは赤色光です。
これは、私たちが普段目にする虹の色の並び(外側が赤、内側が紫)と一致しており、物理的に妥当な結論です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則と反射の法則:
- 核心: この問題は、光が水滴という媒質に出入りし、内部で反射する現象を扱っています。点Aと点Cでの「屈折」、点Bでの「反射」という、光の基本的な性質を記述する法則が解析の根幹をなします。
- 理解のポイント: (1)では屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) を、(2)では反射の法則(入射角=反射角)を、図形の性質と組み合わせて使うことが求められます。これらの法則を、球のような曲面を持つ境界面に対しても正しく適用できるかが鍵です。
- 光の分散:
- 核心: 媒質の屈折率\(n\)が、光の色(波長)によってわずかに異なる現象です。このわずかな差が、水滴から出てくる光の角度\(\theta_s\)に色の違いを生み出し、虹として観測される原因となります。
- 理解のポイント: (3)では、\(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\) という事実から出発し、それが(1)で求めた\(\theta_2\)にどう影響し、最終的に(2)で求めた\(\theta_s\)にどう影響するかを、論理的に連鎖させて考える能力が問われます。物理法則が連動して一つの現象を説明する好例です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- プリズムによる光の分散: 三角プリズムに白色光を入射させると、屈折率の違いによって色が分かれる現象。各境界面で屈折の法則を適用し、色ごとの出射角の違いを計算する問題は、本質的に同じ考え方を使います。
- 副虹(ふくにじ)の原理: 水滴内で2回反射する光によって生じる虹。光の経路がより複雑になり、角度計算も難しくなりますが、屈折と反射の法則を繰り返し適用する点は同じです。色の並びが主虹と逆になることを導出する問題は良い演習になります。
- レンズの球面収差・色収差: レンズの形状や、屈折率が色で違うことにより、光が一点に集まらない現象。本問のように、入射位置や光の色によって光路がどう変わるかを幾何学的に解析する点で共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 法線を正確に描く: 曲面(球面)での屈折・反射を考える場合、法線はその点と曲率中心(この問題では球の中心O)を結ぶ直線になります。これを最初に描くことで、入射角・屈折角・反射角を正しく定義できます。
- 図形の中から二等辺三角形を探す: 球や円が絡む問題では、半径が等しいことを利用して二等辺三角形を見つけるのが定石です。(\(\triangle \text{OAB}\), \(\triangle \text{OBC}\)) これにより、未知の角度を既知の角度で表現できます。
- 光の進行方向の変化(偏角)を追う: 複数回の屈折・反射がある場合、各点で光の進行方向がどれだけ曲がるか(偏角)を計算し、それらを足し合わせることで、全体の方向変化を求めることができます。これは(2)の別解にもつながる考え方です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 入射角・屈折角の誤認:
- 誤解: (1)で、入射光線LAと水平線のなす角を入射角と勘違いする。
- 対策: 角度は必ず「光線」と「法線」のなす角です。球の法線は「中心と境界面上の点を結ぶ半径」であることを徹底しましょう。
- 角度計算における図形の誤読:
- 誤解: (2)で、\(\angle \text{AOB}\) などを求める際に、安易に錯角や同位角を使ってしまい、二等辺三角形の性質を見落とす。
- 対策: 複雑な図形では、分かっている辺の長さ(この場合は半径OA=OB=OC)や角度の情報を丁寧に図に書き込み、どの三角形に着目すれば角度が求まるかを冷静に分析する習慣をつけましょう。
- 分散の因果関係の混同:
- 誤解: (3)で、\(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\) という条件から、結論として \(\theta_{s, \text{赤}} < \theta_{s, \text{紫}}\) と直感で判断してしまう。
- 対策: 必ず数式に基づいて論理的に追跡することが重要です。「\(n\)が小さい → \(\sin\theta_2\)は大きい → \(\theta_2\)は大きい → \(\theta_s = 4\theta_2 – 2\theta_1\) は大きい」というように、ステップバイステップで影響を追跡しましょう。直感に反する結果が出ることも物理ではよくあります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光の経路のステップごとの図示: 複雑な光路を一度に考えるのではなく、(A)空気→水滴、(B)水滴内反射、(C)水滴→空気、とステップを分けて、それぞれの点で何が起きているかを図示すると理解が深まります。
- 偏角のベクトル的イメージ: 光の進行方向をベクトルと考え、各点でどれだけ回転するかをイメージします。点Aで\(\theta_1 – \theta_2\)回転、点Bで\(180^\circ – 2\theta_2\)回転、点Cで\(\theta_1 – \theta_2\)回転。これらの回転の合計が、入射光に対する出射光の総回転角(偏角)になります。この考え方は(2)の別解として有効です。
- 虹の観察者視点のイメージ: 太陽を背にしたとき、無数の水滴から様々な角度\(\theta_s\)で光がやってくるイメージを持ちます。その中で、特定の角度(\(\theta_s\)が極大値をとる角度、約42°)の光が最も強く目に届くため、その角度に虹が見えます。そして、その角度が色によってわずかに違うため、色が分かれて見える、という全体像を掴むと、この問題の意義が理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則 (\(\sin\theta_1 = n \sin\theta_2\)):
- 選定理由: (1)で、光が媒質の境界を通過する際の角度変化を記述するため。光の屈折を扱う唯一の基本法則です。
- 適用根拠: 媒質の性質(屈折率)と光の幾何学的な経路(角度)を結びつける、光の波動性に基づいた普遍的な原理です。
- 反射の法則 (入射角 = 反射角):
- 選定理由: (2)で、光が水滴内部で反射する際の角度変化を記述するため。
- 適用根拠: 屈折と同様に、光の基本的な性質の一つです。これにより、\(\triangle \text{OBC}\)の角度を決定できます。
- 図形の角度の関係式:
- 選定理由: (2)で、屈折・反射の法則だけでは解けず、光路全体の角度の関係を明らかにする必要があるため。
- 適用根拠: ユークリッド幾何学の公理(三角形の内角の和、平行線の性質など)に基づいています。物理現象を解くために数学的なツールを適切に選択・適用する典型例です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 屈折の法則の適用:
- 戦略: 点Aでの屈折現象に注目する。
- フロー: ①法線(OA)を基準に入射角(\(\theta_1\))と屈折角(\(\theta_2\))を特定 → ②空気(n=1)と水滴(n)の屈折率を確認 → ③屈折の法則を立式 (\(1 \cdot \sin\theta_1 = n \sin\theta_2\))。
- (2) 全体角度の導出:
- 戦略: 中心Oの周りの角度の和が360°であることに着目し、各パーツの角度を\(\theta_1, \theta_2\)で表す。
- フロー: ①\(\triangle \text{OAB}\), \(\triangle \text{OBC}\)が二等辺三角形であることを見抜く → ②\(\angle \text{AOB}\), \(\angle \text{BOC}\)を\(\theta_2\)で表す → ③平行線の錯角から\(\angle \text{SOA}\), \(\angle \text{COT}\)を\(\theta_1\)で表す → ④中心角の和の式を立て、\(\theta_s\)について解く。
- (3) 光の分散の影響の考察:
- 戦略: \(n\)の違いが\(\theta_2\)に与える影響を調べ、それが\(\theta_s\)にどう伝播するかを論理的に追う。
- フロー: ①\(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\) を確認 → ②(1)の式から、\(n\)が小さいほど\(\theta_2\)が大きくなることを導く (\(\theta_{2, \text{赤}} > \theta_{2, \text{紫}}\)) → ③(2)の式から、\(\theta_2\)が大きいほど\(\theta_s\)が大きくなることを導く (\(\theta_{s, \text{赤}} > \theta_{s, \text{紫}}\)) → ④仰角\(\theta_s\)が大きい方が外側なので、外側は赤と結論づける。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 丁寧な作図と情報の書き込み: この問題は計算自体は単純ですが、図形的な考察が大部分を占めます。フリーハンドでも良いので、問題図を自分で描き写し、分かっている角度や辺の情報をすべて書き込むことが、関係性を見抜く上で非常に有効です。
- 文字式の整理: (2)の角度の和の式を立てた後、\(\theta_s = \dots\) の形に整理する際に、移項の符号ミスや、同類項のまとめ間違いに注意が必要です。落ち着いて、一つ一つの項を確認しながら計算を進めましょう。
- 論理の連鎖を確認する: (3)のような定性的な問いでは、「AだからB、BだからC」という論理の連鎖が重要です。各ステップの根拠(どの式を使ったか、どの物理法則か)を明確にしながら思考を進めることで、飛躍や誤りを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 虹の色の並び: 最終的に得られた「外側が赤、内側が紫」という結論は、日常の観測事実と一致します。このように、自分の知っている現象と理論的な結論が一致することを確認するのは、最も強力な妥当性の吟味方法の一つです。もし逆の結論が出たら、計算過程のどこかに間違いがあると疑うべきです。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし屈折がなかったら (\(n=1\)) どうなるか? (1)より\(\theta_1 = \theta_2\)。(2)の式に代入すると \(\theta_s = 4\theta_1 – 2\theta_1 = 2\theta_1\)。これは、光が直進し、点Bで反射して出ていく場合の角度に相当し、図形的にも妥当な結果となります。このように、単純なケースを代入して式の妥当性をチェックするのも有効な手法です。
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