282 光の屈折
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光ファイバーの原理である全反射を利用した光の伝播に関する問題です。屈折の法則と全反射の条件、そして光の速度に関する知識を組み合わせて解く必要があります。
この問題の核心は、異なる媒質の境界面で光がどのように振る舞うかを、幾何学的な関係を正しく把握しながら数式で表現することです。
- 中心部の円柱状ガラスの屈折率: \(n_1\)
- 周囲の円筒状ガラスの屈折率: \(n_2\)
- 条件: \(n_1 > n_2\)
- 空気の屈折率: \(1\)
- 真空中の光の速さ: \(c\)
- ガラス棒の長さ: \(L\)
- 空気中からガラス棒への入射角: \(\theta_0\) (\(\theta_0 > 0\))
- (1) 空気から円柱状ガラスに入射したときの屈折角を\(\theta_1\)とするときの、\(\sin\theta_1\)を\(n_1\), \(\theta_0\)で表した式。
- (2) 光線が円柱状ガラス(\(n_1\))と円筒状ガラス(\(n_2\))の境界面で全反射するための、\(\sin\theta_0\)が満たすべき条件。
- (3) 光線がガラス棒の長さ\(L\)を伝播するのにかかる時間。(\(\theta_1\)を用いずに表す)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の屈折と全反射」です。光が異なる媒質に入射する際の屈折の法則と、特定の条件下で光がすべて反射される全反射の現象を理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則: 光が異なる屈折率の媒質の境界面を通過する際に、入射角と屈折角の関係を表す法則です。
- 全反射: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が入射する際に、入射角がある一定の角度(臨界角)を超えると、光が屈折せずにすべて反射される現象です。
- 幾何学的な関係: 図から、屈折角\(\theta_1\)と、コア・クラッド境界面への入射角の関係を正しく導き出すことが重要です。
- 光の速さ: 屈折率\(n\)の媒質中での光の速さは \(v = \displaystyle\frac{c}{n}\) となることを利用します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、空気から円柱状ガラス(\(n_1\))への入射において屈折の法則を適用し、\(\sin\theta_1\)を求めます(問1)。
- 次に、円柱状ガラス(\(n_1\))から円筒状ガラス(\(n_2\))への境界面で全反射が起こる条件を考えます。このとき、境界面への入射角を\(\theta_1\)を用いて表し、全反射の条件式を立てます。これに(1)の結果を代入して\(\sin\theta_0\)の条件を導きます(問2)。
- 最後に、光が円柱状ガラスの中を進む実際の道のりを、ガラス棒の長さ\(L\)と屈折角\(\theta_1\)を用いて幾何学的に求め、媒質中の光の速さで割ることで時間を計算します(問3)。
問(1)
思考の道筋とポイント
空気中から円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))へ光が入射する場面を考えます。異なる媒質の境界面での光の進み方を記述する「屈折の法則」を適用します。
この設問における重要なポイント
- 登場する媒質: 空気(屈折率\(1\))と円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))。
- 入射角と屈折角: 空気側での入射角が\(\theta_0\)、ガラス側での屈折角が\(\theta_1\)です。
- 屈折の法則の適用: 「屈折率 \(\times\) その媒質での角度の\(\sin\)」が境界面を挟んで等しくなる、という関係を立式します。
具体的な解説と立式
空気(屈折率\(1\))から円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))へ光が入射します。
空気中での入射角は\(\theta_0\)、円柱状ガラス中での屈折角は\(\theta_1\)です。
屈折の法則より、次の関係が成り立ちます。
$$ 1 \cdot \sin\theta_0 = n_1 \sin\theta_1 $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
上記で立てた屈折の法則の式を \(\sin\theta_1\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
n_1 \sin\theta_1 &= \sin\theta_0 \\[2.0ex]
\sin\theta_1 &= \frac{\sin\theta_0}{n_1}
\end{aligned}
$$
光が空気中からガラスに入るとき、その進む向きが変わります。この曲がり方のルール(屈折の法則)は、それぞれの物質の「光の曲げやすさ(屈折率)」と「光の角度」を掛け合わせたものが、境目の前後で同じになる、というものです。この関係を数式にして、ガラスの中での光の角度(のサイン)を求めます。
空気から円柱状ガラスに入射した光の屈折角\(\theta_1\)について、\(\sin\theta_1 = \displaystyle\frac{\sin\theta_0}{n_1}\) が成り立ちます。これは屈折の法則を素直に適用した結果であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
次に、円柱状ガラス(コア、屈折率\(n_1\))と円筒状ガラス(クラッド、屈折率\(n_2\))の境界面で光が全反射する条件を考えます。全反射は、屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むときに、入射角がある一定の角度(臨界角)より大きい場合に起こります。
この設問における重要なポイント
- 境界面への入射角: まず、コアとクラッドの境界面への光の入射角を求める必要があります。図の幾何学的関係から、この入射角は \(90^\circ – \theta_1\) となります。
- 全反射の条件: 屈折率\(n_1\)の媒質から\(n_2\)の媒質へ光が入射角\(\theta_{\text{入射}}\)で進むとき、全反射が起こる条件は \(\sin\theta_{\text{入射}} > \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\) です。これは、屈折角が\(90^\circ\)となる臨界角の条件 \(\sin\theta_c = \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\) から導かれます。
- 式の結合: (1)で求めた\(\sin\theta_1\)の関係式と、全反射の条件式を組み合わせて、\(\sin\theta_0\)に関する条件を導出します。
具体的な解説と立式
円柱状ガラス(コア)と円筒状ガラス(クラッド)の境界面に光が入射する角度を\(\theta_2\)とします。
図の三角形に着目すると、屈折角\(\theta_1\)と\(\theta_2\)の間には、
$$ \theta_2 = 90^\circ – \theta_1 $$
という関係があります。
光が全反射するためには、コアからクラッドへ向かう光の入射角\(\theta_2\)が臨界角\(\theta_c\)よりも大きくなければなりません。
$$ \theta_2 > \theta_c $$
両辺の\(\sin\)をとると、
$$ \sin\theta_2 > \sin\theta_c \quad \cdots ① $$
ここで、臨界角\(\theta_c\)は、屈折角が\(90^\circ\)になるときの入射角であり、屈折の法則から
$$ n_1 \sin\theta_c = n_2 \sin 90^\circ $$
より、
$$ \sin\theta_c = \frac{n_2}{n_1} \quad \cdots ② $$
が成り立ちます。
また、\(\sin\theta_2 = \sin(90^\circ – \theta_1) = \cos\theta_1\) です。
これを①、②に適用すると、全反射の条件は
$$ \cos\theta_1 > \frac{n_2}{n_1} \quad \cdots ③ $$
となります。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 全反射の条件
- 三角関数の相互関係: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\), \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\)
(1)で求めた \(\sin\theta_1 = \displaystyle\frac{\sin\theta_0}{n_1}\) と、三角関数の公式 \(\sin^2\theta_1 + \cos^2\theta_1 = 1\) を用いて、\(\cos\theta_1\)を\(\sin\theta_0\)で表します。
$$
\begin{aligned}
\cos^2\theta_1 &= 1 – \sin^2\theta_1 \\[2.0ex]
&= 1 – \left( \frac{\sin\theta_0}{n_1} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{n_1^2 – \sin^2\theta_0}{n_1^2}
\end{aligned}
$$
\(\theta_1\)は屈折角なので鋭角であり、\(\cos\theta_1 > 0\)です。したがって、
$$ \cos\theta_1 = \frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1} $$
この結果を、全反射の条件式③に代入します。
$$ \frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1} > \frac{n_2}{n_1} $$
両辺に\(n_1\)を掛けて、
$$ \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0} > n_2 $$
両辺は正なので、2乗しても大小関係は変わりません。
$$ n_1^2 – \sin^2\theta_0 > n_2^2 $$
この不等式を\(\sin\theta_0\)について解きます。
$$ n_1^2 – n_2^2 > \sin^2\theta_0 $$
\(\theta_0 > 0\)より\(\sin\theta_0 > 0\)なので、
$$ \sin\theta_0 < \sqrt{n_1^2 – n_2^2} $$
光がガラス棒の中をうまく伝わる(全反射する)ためには、コアとクラッドの境界面に、ある程度浅い角度で光が当たる必要があります。この「浅い角度」の条件を数式で表し、(1)で求めた「ガラスへの入り口での角度の関係」と組み合わせることで、ガラス棒に入射するときの最初の角度\(\theta_0\)が、どれくらい小さくなければならないかを計算します。
全反射が起こるためには、\(\sin\theta_0\)は\(\sqrt{n_1^2 – n_2^2}\)より小さくなければなりません。
この値は開口数(NA)と呼ばれ、光ファイバーがどれだけ広い角度からの光を取り込めるかを示す指標です。\(n_1\)と\(n_2\)の差が大きいほど、より広い角度の光を閉じ込められることが式からわかります。これは物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
光がガラス棒の始点から終点まで、長さ\(L\)の距離を伝播するのにかかる時間を求めます。光はまっすぐ進むのではなく、全反射を繰り返しながらジグザグに進みます。そのため、光が実際に進む道のりは、ガラス棒の長さ\(L\)よりも長くなります。
この設問における重要なポイント
- 光が進む速さ: 屈折率\(n_1\)の媒質中での光の速さは \(v_1 = \displaystyle\frac{c}{n_1}\) です。
- 光が進む距離: 光は屈折角\(\theta_1\)で斜めに進みます。ガラス棒の軸方向に\(L\)進む間に、光が実際に進む距離(光路長)は、図の直角三角形を考えると \(\displaystyle\frac{L}{\cos\theta_1}\) となります。
- 時間の計算: 時間は「距離 ÷ 速さ」で求められます。
- \(\theta_1\)の消去: 最終的に\(\theta_1\)を用いずに表す必要があるため、(1)の結果と(2)の計算途中で用いた\(\cos\theta_1\)の式を使って、\(\theta_1\)を消去します。
具体的な解説と立式
光が円柱状ガラス(屈折率\(n_1\))の中を進む速さを\(v_1\)とします。
$$ v_1 = \frac{c}{n_1} \quad \cdots ① $$
光がガラス棒の軸方向に距離\(L\)を進む間に、実際に進むジグザグの道のりの長さを\(L_{\text{光路}}\)とします。
図より、光の進む向きとガラス棒の軸がなす角は\(\theta_1\)なので、幾何学的関係から、
$$ L_{\text{光路}} = \frac{L}{\cos\theta_1} \quad \cdots ② $$
求める時間\(t\)は、この距離を速さで割ることで得られます。
$$ t = \frac{L_{\text{光路}}}{v_1} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 媒質中の光の速さ: \(v = \displaystyle\frac{c}{n}\)
- 時間 = 距離 / 速さ
まず、③に①と②を代入して、\(t\)を\(L, c, n_1, \theta_1\)で表します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{L/\cos\theta_1}{c/n_1} \\[2.0ex]
&= \frac{n_1 L}{c \cos\theta_1}
\end{aligned}
$$
次に、(2)の計算過程で求めた \(\cos\theta_1 = \displaystyle\frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1}\) を代入して、\(\theta_1\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
t &= \frac{n_1 L}{c \cdot \displaystyle\frac{\sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}{n_1}} \\[4.0ex]
&= \frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}
\end{aligned}
$$
光がガラス棒の端から端まで行くのにかかる時間を計算します。光は斜めにジグザグ進むので、まっすぐ進むより長い距離を移動します。この「実際に進む距離」を三角比を使って計算し、それを「ガラスの中での光の速さ」で割ることで、時間を求めます。最後に、答えの式に\(\theta_1\)が残らないように、(1)や(2)で使った関係式を使って変形します。
光がガラス棒を通過するのにかかる時間は \(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}\) です。
入射角\(\theta_0\)が大きくなると、分母の\(\sqrt{\cdots}\)の部分が小さくなるため、時間\(t\)は長くなります。これは、入射角が大きいほど光はよりジグザグに進み、道のりが長くなるという直感と一致しており、妥当な結果です。また、\(\theta_0 \to 0\) の極限では、光はまっすぐ進むので \(\cos\theta_1 \to 1\) となり、時間は \(t = \displaystyle\frac{n_1 L}{c}\) となります。導出した式で \(\sin\theta_0 \to 0\) とすると、\(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2}} = \frac{n_1 L}{c}\) となり、この極限とも一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則:
- 核心: 光が異なる屈折率を持つ媒質の境界面を通過する際に、その進行方向が変わる現象を定量的に記述する法則です。この問題では、(1)の空気→ガラス(コア)への入射と、(2)のガラス(コア)→ガラス(クラッド)への入射の両方の場面で基本法則として使われます。
- 理解のポイント: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) という式は、「屈折率\(n\)と、法線となす角\(\theta\)の正弦(\(\sin\theta\))の積が、境界面を挟んで一定に保たれる」ことを意味します。この法則を正しく適用できることが、この問題の出発点です。
- 全反射の条件:
- 核心: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が入射するとき、入射角がある特定の角度(臨界角)を超えると、光は屈折せずに100%反射されます。これが全反射です。(2)を解くための中心的な概念です。
- 理解のポイント: 全反射が起こる条件は、入射角を\(\theta_{\text{入射}}\)として \(\sin\theta_{\text{入射}} > \displaystyle\frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) と表されます。ここで \(\displaystyle\frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) は臨界角のサインに相当します。なぜこの条件になるのか(屈折の法則で屈折角が\(90^\circ\)を超えることはできない、という点から導出されること)を理解しておくことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水中から空気中を見る問題: 水中から水面を見上げたとき、ある範囲の外側が真っ暗に見える(全反射が起きている)現象の解析。臨界角の計算が直接問われます。
- プリズムによる光の屈折・分散: 三角形のガラス(プリズム)に光を入射させ、出射するまでの光の経路を追跡する問題。複数回の屈折や、プリズム内部での全反射が起こる条件を問われることがあります。
- 半円形レンズの問題: 光をレンズの中心や円周上の点に入射させ、屈折や全反射を考察する問題。入射角や屈折角を幾何学的に求める訓練になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 光の経路を図示する: まず、問題の状況に合わせて光がどのように進むか、おおよその経路を図に描き込みます。特に、境界面での法線と、入射角・屈折角を正確に図示することが第一歩です。
- 境界面ごとに現象を分析する: 光が通過する境界面が複数ある場合(この問題では「空気→コア」と「コア→クラッド」の2つ)、それぞれの境界面で何が起こるか(屈折か、全反射か)を一つずつ分けて考え、屈折の法則を適用します。
- 幾何学的な関係を見抜く: 図形の中から、角度に関する関係式(特に、直角三角形や錯角・同位角)を見つけ出すことが非常に重要です。この問題の(2)では、コア・クラッド境界面への入射角が \(90^\circ – \theta_1\) であることを見抜くのが鍵でした。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 入射角・屈折角の定義間違い:
- 誤解: 境界面そのものと光の進行方向がなす角を、入射角や屈折角としてしまう。
- 対策: 入射角・屈折角は、必ず「境界面に垂直な線(法線)」と「光の進行方向」とのなす角です。図を描く際には、まず法線を点線で描く習慣をつけましょう。
- 屈折の法則の \(n_1, n_2\) の混同:
- 誤解: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) の公式を暗記しているだけで、どちらの媒質が\(n_1\)でどちらが\(n_2\)かを問題の状況に合わせて正しく適用できない。
- 対策: 「(媒質Aの屈折率)× \(\sin\)(媒質Aでの角度) = (媒質Bの屈折率)× \(\sin\)(媒質Bでの角度)」というように、言葉で意味を理解しておきましょう。これにより、記号が変わっても混乱しなくなります。
- 全反射の条件式の誤用:
- 誤解: 全反射が起こる条件を、常に \(\sin\theta > \displaystyle\frac{1}{n}\) のように、片方の屈折率が空気(\(1\))であるかのように思い込んでしまう。
- 対策: 全反射の条件は、屈折率\(n_{\text{大}}\)の媒質から\(n_{\text{小}}\)の媒質へ入射する場合に \(\sin\theta_{\text{入射}} > \displaystyle\frac{n_{\text{小}}}{n_{\text{大}}}\) となる、と一般形で覚えておくことが重要です。この問題の(2)のように、空気を含まない境界面で適用する場面は頻出です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光の経路の拡大図: 問題図は全体像を示していますが、特に(2)を考える際には、光がコア・クラッド境界面に入射する部分を拡大して描くと非常に有効です。法線、入射角 \(90^\circ – \theta_1\)、屈折角\(\theta_1\)の関係が明確になり、幾何学的な間違いを防げます。
- 臨界角のイメージ: コアからクラッドへ向かう光の入射角を徐々に大きくしていくイメージを持ちます。入射角が小さいときは、一部は反射し、一部はクラッドへ屈折して抜けていく。入射角が臨界角に達した瞬間に、屈折光が境界面を滑るように進む(\(90^\circ\))。それ以上入射角を大きくすると、光は外に抜けられなくなり、すべて反射される(全反射)。この連続的な変化をイメージできると、条件式の意味が深く理解できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 法線を必ず描く: 各境界面(空気-コア、コア-クラッド)に法線を点線で描き入れ、角度の基準を明確にします。
- 角度を正確に記入: どの角度が\(\theta_0\)、\(\theta_1\)、そして \(90^\circ – \theta_1\) なのかを、混同しないように図に書き込みます。
- 光路長と軸方向の長さの区別: (3)で、光が実際に進む距離 \(\displaystyle\frac{L}{\cos\theta_1}\) と、ガラス棒の長さ\(L\)を、図の上で明確に区別して描くことが、立式の助けになります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則 (\(n_a \sin\theta_a = n_b \sin\theta_b\)):
- 選定理由: (1)と(2)で、光が異なる媒質の境界面を通過する際の角度の変化を記述するため。これは光の屈折現象を扱う上での基本法則です。
- 適用根拠: 光の波動性から導かれる普遍的な法則であり、媒質の屈折率と光の角度の関係を唯一記述できる式だからです。
- 全反射の条件 (\(\sin\theta_{\text{入射}} > n_{\text{小}}/n_{\text{大}}\)):
- 選定理由: (2)で、光がクラッドへ漏れ出さずにコア内部を伝播する条件を数式で表現するため。
- 適用根拠: 屈折の法則において、屈折角のサインが1を超えることは物理的にあり得ない(\(\sin\theta_{\text{屈折}} \le 1\))という数学的な制約から導かれる物理的な条件です。
- 媒質中の光速 (\(v = c/n\)) と 時間の定義 (\(t = d/v\)):
- 選定理由: (3)で、光が特定の距離を進むのにかかる時間を計算するため。
- 適用根拠: 屈折率\(n\)は、真空中に対する光の速さの比として定義される物理量です。時間、距離、速さの関係は運動学の基本定義です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) \(\sin\theta_1\) の導出:
- 戦略: 空気→コアの境界面に屈折の法則を適用する。
- フロー: ①空気とコアの屈折率、入射角、屈折角を確認 → ②屈折の法則を立式 (\(1 \cdot \sin\theta_0 = n_1 \sin\theta_1\)) → ③式を\(\sin\theta_1\)について解く。
- (2) 全反射の条件の導出:
- 戦略: コア→クラッド境界面での全反射条件を立式し、(1)の結果を使って\(\theta_0\)の条件に変換する。
- フロー: ①コア・クラッド境界面への入射角を幾何学的に求める (\(90^\circ – \theta_1\)) → ②全反射の条件を立式 (\(\sin(90^\circ – \theta_1) > n_2/n_1\)) → ③\(\cos\theta_1 > n_2/n_1\) に変形 → ④\(\cos\theta_1\)を(1)の\(\sin\theta_1\)を使って\(\theta_0\)で表現する → ⑤不等式を\(\sin\theta_0\)について解く。
- (3) 時間の計算:
- 戦略: 光の実際の移動距離(光路長)と媒質中の速さを求め、時間=距離/速さを計算する。
- フロー: ①コア中の光速を求める (\(v_1 = c/n_1\)) → ②光路長を幾何学的に求める (\(L_{\text{光路}} = L/\cos\theta_1\)) → ③時間を立式 (\(t = L_{\text{光路}}/v_1\)) → ④(2)の計算途中の\(\cos\theta_1\)の式を代入し、\(\theta_1\)を消去する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題のように、多くの物理量が文字で与えられている場合、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。特に(2)や(3)では、\(\cos\theta_1\)を具体的な数値にすることなく、\(\sin\theta_0\)や\(n_1, n_2\)を含む式のまま代入することで、見通しが良くなり、計算ミスが減ります。
- 三角関数の公式の習熟: \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\) や \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) といった基本的な三角関数の公式を、素早く正確に使えることが必須です。特に後者は、\(\sin\)と\(\cos\)を相互に変換する際の重要なツールとなります。
- 根号(ルート)の取り扱い: \(\cos\theta_1 = \sqrt{1-\sin^2\theta_1}\) のように根号を外す際には、\(\cos\theta_1\)の符号を必ず確認する習慣をつけましょう。この問題では\(\theta_1\)は鋭角なので正ですが、問題によっては負になる可能性も考慮する必要があります。また、不等式の両辺を2乗する際は、両辺が正であることを確認してから行うのが原則です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 全反射の条件: もしコアとクラッドの屈折率の差がない (\(n_1 \approx n_2\)) としたら、\(\sqrt{n_1^2 – n_2^2} \approx 0\) となり、全反射が起こるためには \(\sin\theta_0\)がほぼ0、つまり光をほぼまっすぐ入射させる必要があることがわかります。逆に屈折率の差が大きいほど、より大きな\(\theta_0\)(広い角度)でも光を閉じ込められることを示しており、直感と一致します。
- (3) 時間: 入射角\(\theta_0\)が0に近づくと、光はまっすぐ進むので、光路長は\(L\)に近づき、時間は \(t \to n_1 L/c\) となるはずです。導出した式 \(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c \sqrt{n_1^2 – \sin^2\theta_0}}\) で \(\sin\theta_0 \to 0\) とすると、\(t = \displaystyle\frac{n_1^2 L}{c n_1} = \frac{n_1 L}{c}\) となり、物理的に正しい極限の振る舞いをしていることが確認できます。
- 条件の確認:
- 問題文には \(n_1 > n_2\) という条件があります。この条件があるからこそ、コアからクラッドへの全反射が起こり得ます。もし \(n_1 < n_2\) であれば全反射は起こらないため、この問題設定自体が成り立ちません。このように、与えられた条件がなぜ必要なのかを考えることも、理解を深める上で有効です。
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