Step1
① 絶対屈折率
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の屈折と絶対屈折率」です。光が異なる媒質の境界面で進行方向を変える現象について、屈折の法則を用いて物質の光学的な特性である絶対屈折率を計算します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光の屈折現象の理解
- 屈折の法則
- 絶対屈折率の定義
- 入射角と屈折角の定義と、三角関数の計算
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、入射側の媒質(真空)と屈折側の媒質(ある物質)、および入射角と屈折角の値を読み取る。
- 真空から物質へ光が入射する場合の、絶対屈折率を求めるための屈折の法則の式を立てる。
- 式に具体的な角度の値を代入し、三角関数の値を計算する。
- 最終的な値を、問題で指定された有効数字に合わせて整理する。
思考の道筋とポイント
光が空気中から水中に進むとき、その進路が曲がるように、異なる物質の境界を通過する際に光は進行方向を変えます。この現象が「屈折」です。「絶対屈折率」とは、真空を基準(屈折率1)として、その物質がどれだけ光を曲げやすいか(正確には、光の速さがどれだけ遅くなるか)を示す指標です。
この問題では、屈折の法則を用いて、与えられた入射角と屈折角から、この物質の絶対屈折率を求めます。公式に値を代入するだけのシンプルな問題ですが、どの角度がどの変数に対応するのか、また真空の屈折率が1であることを正しく理解しているかがポイントとなります。
この設問における重要なポイント
- 屈折の法則: 媒質1から媒質2へ光が入射するとき、それぞれの絶対屈折率を \(n_1\), \(n_2\)、入射角を \(i\)、屈折角を \(r\) とすると、次の関係が常に成り立ちます。
$$ n_1 \sin i = n_2 \sin r $$ - 絶対屈折率: 真空の絶対屈折率は \(n=1\) と定義されます。ある物質の絶対屈折率 \(n\) は、真空からその物質へ光が入射するときの屈折率を指します。
- 真空から物質への入射: この問題では、媒質1が真空 (\(n_1=1\))、媒質2がある物質 (\(n_2=n\)) です。したがって、屈折の法則は \(1 \times \sin i = n \times \sin r\) となり、これを \(n\) について解くと次のようになります。
$$ n = \frac{\sin i}{\sin r} $$
具体的な解説と立式
問題文より、光は真空中からある物質に入射しています。
- 入射側の媒質:真空(絶対屈折率 \(n_1 = 1\))
- 屈折側の媒質:ある物質(求める絶対屈折率を \(n\) とする)
- 入射角:\(i = 60^\circ\)
- 屈折角:\(r = 30^\circ\)
屈折の法則 \(n_1 \sin i = n_2 \sin r\) にこれらの値を代入します。
$$ 1 \times \sin 60^\circ = n \times \sin 30^\circ $$
この式を、求める絶対屈折率 \(n\) について解くと、以下のようになります。
$$ n = \frac{\sin 60^\circ}{\sin 30^\circ} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin i = n_2 \sin r\)
- 絶対屈折率の計算式(真空からの入射の場合): \(n = \displaystyle\frac{\sin i}{\sin r}\)
式①に、三角関数の具体的な値を代入して計算します。
- \(\sin 60^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)
- \(\sin 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\)
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{\sin 60^\circ}{\sin 30^\circ} \\[2.0ex]&= \frac{\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}}{\displaystyle\frac{1}{2}} \\[2.0ex]&= \sqrt{3}
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.732\dots\) です。問題文で有効数字2桁で求めよと指示されているので、小数点以下第2位を四捨五入します。
$$ n \approx 1.7 $$
光が空気中から水の中に入るときのように、違う物質に入るときに曲がる度合いを「屈折率」という数字で表します。特に、何もない空間(真空)から物質に入るときの屈折率を「絶対屈折率」と呼びます。
- 公式の確認: 絶対屈折率 \(n\) は、\(n = \frac{\sin(\text{入射角})}{\sin(\text{屈折角})}\) という公式で計算できます。
- 値の代入: 問題文から、入射角は \(60^\circ\)、屈折角は \(30^\circ\) なので、これを公式に入れます。
\(n = \displaystyle\frac{\sin 60^\circ}{\sin 30^\circ}\) - 三角関数の計算: 数学で習ったように、\(\sin 60^\circ\) は \(\displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\)、\(\sin 30^\circ\) は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) です。
\(n = \displaystyle\frac{\sqrt{3}/2}{1/2} = \sqrt{3}\) - 最後の仕上げ: \(\sqrt{3}\) は「人並みにおごれや」で覚えるように、約 \(1.732\) です。問題で「有効数字2桁」と指定されているので、上から3桁目の「3」を四捨五入して、答えは \(1.7\) となります。
② 相対屈折率
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「相対屈折率」です。真空以外の媒質から別の媒質へ光が入射するときの屈折率の考え方を理解し、それぞれの絶対屈折率から相対屈折率を計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 絶対屈折率と相対屈折率の定義の違い
- 「Aに対するBの相対屈折率」という言葉の意味
- 相対屈折率を絶対屈折率の比で表す公式
- 有効数字の処理
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、入射側の媒質(水)と屈折側の媒質(ガラス)の絶対屈折率をそれぞれ特定する。
- 「水に対するガラスの相対屈折率」を求めるための公式を立てる。
- 公式に値を代入して計算する。
- 計算結果を適切な有効数字で丸める。
思考の道筋とポイント
前問で扱った「絶対屈折率」は、真空という共通の基準から見た各物質の屈折率でした。それに対して「相対屈折率」は、ある媒質(真空以外)を基準として、そこから別の媒質へ光が入射するときの屈折率を表します。
この問題のポイントは、「水に対するガラスの相対屈折率」という言葉を正しく数式に変換することです。これは「媒質1(水)から媒質2(ガラス)へ光が入射するときの屈折率」を意味し、記号では \(n_{12}\) や \(n_{\text{水→ガラス}}\) のように書かれます。この値は、それぞれの絶対屈折率の比を計算することで簡単に求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 絶対屈折率 (\(n\)): 真空を基準 (\(n=1\)) としたときの、各物質の屈折率。
- 相対屈折率 (\(n_{12}\)): 媒質1に対する媒質2の相対屈折率。これは、媒質1から媒質2へ光が入射するときの屈折率を意味します。
- 相対屈折率の公式: 媒質1(絶対屈折率 \(n_1\))から媒質2(絶対屈折率 \(n_2\))へ光が入射するときの相対屈折率 \(n_{12}\) は、次の式で与えられます。
$$ n_{12} = \frac{n_2}{n_1} $$ - この公式は、屈折の法則 \(n_1 \sin i = n_2 \sin r\) を変形した \(\displaystyle\frac{\sin i}{\sin r} = \frac{n_2}{n_1}\) の右辺に対応します。
具体的な解説と立式
問題文の情報を整理します。
- 入射側の媒質(媒質1): 水
- 屈折側の媒質(媒質2): ガラス
- 水の絶対屈折率: \(n_1 = 1.33\)
- ガラスの絶対屈折率: \(n_2 = 1.50\)
求めるのは、「水に対するガラスの相対屈折率」\(n_{12}\) です。
相対屈折率の公式に、これらの値を代入して式を立てます。
$$ n_{12} = \frac{n_2}{n_1} = \frac{1.50}{1.33} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 相対屈折率の公式: \(n_{12} = \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\)
式①を計算します。
$$
\begin{aligned}
n_{12} &= \frac{1.50}{1.33} \\[2.0ex]&= 1.127819…
\end{aligned}
$$
問題で与えられている数値の有効数字は3桁(1.33と1.50)なので、計算結果も有効数字3桁に合わせます。したがって、小数点以下第3位を四捨五入します。
$$ n_{12} \approx 1.13 $$
「絶対屈折率」が、東京駅を基準にしたときの各駅の場所(例:品川駅は南へ○km)だとすると、「相対屈折率」は、ある駅を基準にしたときの別の駅の場所(例:品川駅から見た田町駅の場所)のようなものです。
この問題で聞かれている「水に対するガラスの相対屈折率」とは、「水の世界から見たとき、ガラスはどれくらい光を曲げやすいか?」ということです。
この計算は、それぞれの絶対屈折率の割り算で求められます。
- 公式: (行き先の絶対屈折率)÷(出発点の絶対屈折率)
- 計算: ガラスの屈折率(1.50)を、水の屈折率(1.33)で割ります。
\(1.50 \div 1.33 = 1.127…\) - 仕上げ: 問題の数字が3桁なので、答えも3桁にそろえて \(1.13\) とします。
答えが1より大きいので、光は水からガラスに入るとき、さらに曲がりやすくなる(光の速さが遅くなる)ことがわかります。
③ 物質中の光
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「屈折による光の速さ、波長、振動数の変化」です。光が媒質中に入ると、速さや波長は変化しますが、振動数は変化しないという重要な性質を理解し、それぞれの物理量を計算することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折における振動数の不変性
- 絶対屈折率と光速の関係式 \(n = c/v\)
- 絶対屈折率と波長の関係式 \(n = \lambda_0/\lambda\)
- 波の基本式 \(c = f\lambda_0\)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 真空中での情報から、まず光の振動数を計算する。この振動数はガラス中でも変わらない。
- (2) 絶対屈折率の定義式を用いて、ガラス中の光速を計算する。
- (3) 絶対屈折率のもう一つの定義式を用いて、ガラス中の波長を計算する。または、(1)と(2)の結果から波の基本式 \(v = f\lambda\) を使って計算する。
問(1)
思考の道筋とポイント
光が媒質を変えても(屈折しても)、その振動数は変化しない、という大原則を理解することが最も重要です。光の色は振動数で決まるため、例えば赤い光がガラスに入っても赤いままなのは、振動数が変わらないからです。
したがって、ガラス中の振動数を求めるには、まず真空中での振動数を計算すればよい、という方針を立てます。
真空中の光速 \(c\) と波長 \(\lambda_0\) が与えられているので、波の基本式 \(c = f\lambda_0\) を使って振動数 \(f\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 振動数の不変性: 光が媒質1から媒質2へ進むとき、振動数 \(f\) は変化しません。これは、境界面で波の数が途切れたり増えたりしないためです。
- 波の基本式(真空中): \(c = f \lambda_0\) (\(c\): 真空中の光速, \(f\): 振動数, \(\lambda_0\): 真空中の波長)
具体的な解説と立式
求める振動数を \(f\) [Hz] とします。屈折の前後で光の振動数は変化しないため、真空中の情報から振動数を求めれば、それがそのままガラス中の振動数となります。
真空中の光速を \(c\)、真空中の波長を \(\lambda_0\) とすると、波の基本式は以下の通りです。
$$ c = f \lambda_0 \quad \cdots ① $$
この式を \(f\) について解くと、
$$ f = \frac{c}{\lambda_0} \quad \cdots ② $$
となります。与えられた値は \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)、\(\lambda_0 = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) です。
使用した物理公式
- 屈折における振動数の不変性
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
式②に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{3.0 \times 10^8}{6.0 \times 10^{-7}} \\[2.0ex]&= \frac{3.0}{6.0} \times 10^{8 – (-7)} \\[2.0ex]&= 0.5 \times 10^{15} \\[2.0ex]&= 5.0 \times 10^{14} \, \text{Hz}
\end{aligned}
$$
光がガラスに入っても、色の正体である「振動数」は変わりません。なので、真空での振動数を計算すればOKです。
物理の基本公式「速さ = 振動数 × 波長」を使います。
「振動数 = 速さ ÷ 波長」に変形して、真空での値を代入します。
- 速さ: \(3.0 \times 10^8\)
- 波長: \(6.0 \times 10^{-7}\)
計算すると \( (3.0 \times 10^8) \div (6.0 \times 10^{-7}) = 0.5 \times 10^{15} = 5.0 \times 10^{14} \, \text{Hz}\) となります。
問(2)
思考の道筋とポイント
絶対屈折率 \(n\) は、真空中の光速 \(c\) と物質中の光速 \(v\) の比で定義されることを利用します。つまり、屈折率 \(n\) は「真空中に比べて光の速さが \(1/n\) 倍になる」ということを意味します。
この関係式 \(n = c/v\) から、物質中の光速 \(v\) を求めることができます。問題文から \(n\) と \(c\) の値は与えられているので、式を \(v\) について解いて代入するだけです。
この設問における重要なポイント
- 絶対屈折率と光速の関係: 物質の絶対屈折率 \(n\) は、真空中の光速 \(c\) をその物質中の光速 \(v\) で割った値に等しい。
$$ n = \frac{c}{v} $$ - この式は、屈折率が大きい物質ほど、光の速さが遅くなることを意味しています。
具体的な解説と立式
ガラス中の光速を \(v\) [m/s]、ガラスの絶対屈折率を \(n\)、真空中の光速を \(c\) とします。
絶対屈折率の定義式は以下の通りです。
$$ n = \frac{c}{v} \quad \cdots ③ $$
この式を \(v\) について解くと、
$$ v = \frac{c}{n} \quad \cdots ④ $$
となります。与えられた値は \(c = 3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\)、\(n = 2.0\) です。
使用した物理公式
- 絶対屈折率の定義: \(n = \displaystyle\frac{c}{v}\)
式④に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{3.0 \times 10^8}{2.0} \\[2.0ex]&= 1.5 \times 10^8 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
「絶対屈折率」とは、真空中に比べて光がどれだけ遅くなるか、という割合です。
屈折率が \(2.0\) ということは、光の速さが \(1/2.0\) になる、ということです。
真空中の光速は \(3.0 \times 10^8 \, \text{m/s}\) なので、ガラスの中では \( (3.0 \times 10^8) \div 2.0 = 1.5 \times 10^8 \, \text{m/s}\) になります。
問(3)
思考の道筋とポイント
この問題には2つの解法が考えられます。
一つは、絶対屈折率と波長の関係式 \(n = \lambda_0 / \lambda\) を使う方法です。光の速さが \(1/n\) 倍になるのと同様に、波長も \(1/n\) 倍になります。
もう一つは、(1)で求めた振動数 \(f\) と(2)で求めたガラス中の光速 \(v\) を使い、波の基本式 \(v = f\lambda\) から \(\lambda\) を計算する方法です。
どちらの方法でも解けることを理解しておくと、物理の理解が深まります。
この設問における重要なポイント
- 絶対屈折率と波長の関係: 物質の絶対屈折率 \(n\) は、真空中の波長 \(\lambda_0\) をその物質中の波長 \(\lambda\) で割った値に等しい。
$$ n = \frac{\lambda_0}{\lambda} $$ - この式は、屈折率が大きい物質ほど、光の波長が短くなることを意味しています。
- 波の基本式(物質中): \(v = f \lambda\)
具体的な解説と立式
ガラス中の波長を \(\lambda\) [m]、真空中の波長を \(\lambda_0\)、ガラスの絶対屈折率を \(n\) とします。
絶対屈折率と波長の関係式は以下の通りです。
$$ n = \frac{\lambda_0}{\lambda} \quad \cdots ⑤ $$
この式を \(\lambda\) について解くと、
$$ \lambda = \frac{\lambda_0}{n} \quad \cdots ⑥ $$
となります。与えられた値は \(\lambda_0 = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)、\(n = 2.0\) です。
使用した物理公式
- 絶対屈折率と波長の関係: \(n = \displaystyle\frac{\lambda_0}{\lambda}\)
式⑥に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{6.0 \times 10^{-7}}{2.0} \\[2.0ex]&= 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
光がガラスに入ると、速さが遅くなるのと同様に、波長も短くなります。
どれくらい短くなるかというと、これも「屈折率」で決まります。屈折率が \(2.0\) なら、波長も \(1/2.0\) になります。
真空での波長は \(6.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) なので、ガラスの中では \( (6.0 \times 10^{-7}) \div 2.0 = 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\) になります。
(1)で求めた振動数 \(f = 5.0 \times 10^{14} \, \text{Hz}\) と、(2)で求めたガラス中の光速 \(v = 1.5 \times 10^8 \, \text{m/s}\) を使います。
波の基本式 \(v = f\lambda\) を \(\lambda\) について解くと \(\lambda = \displaystyle\frac{v}{f}\) となります。
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{v}{f} \\[2.0ex]&= \frac{1.5 \times 10^8}{5.0 \times 10^{14}} \\[2.0ex]&= \frac{1.5}{5.0} \times 10^{8-14} \\[2.0ex]&= 0.3 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&= 3.0 \times 10^{-7} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
こちらで計算しても、同じ答えが得られます。
④ 全反射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「全反射と臨界角」です。光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進む際に起こる全反射という現象と、その現象が起こり始める角度である臨界角の求め方を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光の全反射現象の理解
- 臨界角の定義(屈折角が90°になる時の入射角)
- 屈折の法則
- 屈折率が「大きい」媒質から「小さい」媒質へ光が進むときにのみ全反射が起こりうること
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 臨界角の定義に従い、屈折角を90°とおく。
- 屈折の法則の式を立て、入射側と屈折側の媒質の屈折率、および屈折角の値を代入する。
- そのときの入射角(臨界角)を求める方程式を解く。
思考の道筋とポイント
水中のダイバーが水面を見上げたとき、ある角度より斜めを見ると水面が鏡のようにキラキラと光って水中が映って見えることがあります。これが「全反射」という現象です。
全反射は、光が屈折率の大きい媒質(例:水やガラス)から小さい媒質(例:空気や真空)へ進むときにのみ起こりうる現象です。この問題では、物質(\(n=2.0\))から真空(\(n=1.0\))へ光が進むので、全反射が起こる可能性があります。
「臨界角」とは、この全反射が起こるか起こらないかの境界となる入射角のことです。物理学では、この境界を「屈折角がちょうど90°になる(屈折した光が境界面に沿って進む)ときの入射角」と定義しています。この定義に従って屈折の法則に値を代入すれば、臨界角を計算することができます。
この設問における重要なポイント
- 全反射: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が入射するとき、入射角がある角度(臨界角)を超えると、光は屈折せずにすべて境界面で反射される現象。
- 臨界角 (\(i_0\)): 全反射が起こり始める角度。屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角として定義される。
- 屈折の法則: 媒質1から媒質2へ光が入射するとき、それぞれの絶対屈折率を \(n_1\), \(n_2\)、入射角を \(i\)、屈折角を \(r\) とすると、次の関係が成り立つ。
$$ n_1 \sin i = n_2 \sin r $$ - 臨界角の公式: 上記の法則に \(i = i_0\), \(r = 90^\circ\) を代入すると、\(n_1 \sin i_0 = n_2 \sin 90^\circ\)。\(\sin 90^\circ = 1\) なので、次の関係式が得られる。
$$ \sin i_0 = \frac{n_2}{n_1} \quad (\text{ただし } n_1 > n_2) $$
具体的な解説と立式
問題の状況を整理します。
- 入射側の媒質(媒質1): ある物質。絶対屈折率 \(n_1 = 2.0\)。
- 屈折側の媒質(媒質2): 真空。絶対屈折率 \(n_2 = 1\)。
- 求める角度: 臨界角 \(i_0\)。
臨界角の定義より、入射角が \(i_0\) のとき、屈折角は \(r = 90^\circ\) となります。
これらの値を屈折の法則 \(n_1 \sin i = n_2 \sin r\) に代入します。
$$ 2.0 \times \sin i_0 = 1 \times \sin 90^\circ \quad \cdots ① $$
この式を解くことで、臨界角 \(i_0\) を求めることができます。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin i = n_2 \sin r\)
- 臨界角の条件: 屈折角 \(r = 90^\circ\)
式①を計算します。\(\sin 90^\circ = 1\) なので、
$$
\begin{aligned}
2.0 \times \sin i_0 &= 1 \times 1 \\[2.0ex]\sin i_0 &= \frac{1}{2.0} \\[2.0ex]\sin i_0 &= 0.5
\end{aligned}
$$
\(\sin i_0 = 0.5\) となる角度 \(i_0\) は、\(0^\circ < i_0 < 90^\circ\) の範囲で考えると、
$$ i_0 = 30^\circ $$
となります。
「臨界角」とは、全反射が起こるかどうかのギリギリの角度のことです。物理の世界では、この「ギリギリの状態」を「光が境界面に沿って進む(屈折角が90°になる)」とき、と決めています。
- 屈折の法則を使う: \((\text{入射側の屈折率}) \times \sin(\text{入射角}) = (\text{屈折側の屈折率}) \times \sin(\text{屈折角})\) という公式を使います。
- 値を代入する:
- 入射側の屈折率: \(2.0\)
- 屈折側の屈折率: \(1\) (真空なので)
- 入射角: 求める臨界角 \(i_0\)
- 屈折角: \(90^\circ\) (臨界角の定義)
これを公式に入れると、\(2.0 \times \sin i_0 = 1 \times \sin 90^\circ\) となります。
- 計算する: \(\sin 90^\circ\) は \(1\) なので、式は \(2.0 \times \sin i_0 = 1\) となります。
これを解くと、\(\sin i_0 = 1 \div 2.0 = 0.5\)。 - 角度を求める: サインが \(0.5\) になる角度は \(30^\circ\) です。これが答えです。
⑤ 光の分散
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の分散と屈折率」です。プリズムによって白色光が虹色に分かれる現象(分散)の原理を、光の波長と屈折率、そして媒質中の光速の関係から理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光の分散現象
- 可視光線の波長と色の関係(赤が長く、紫が短い)
- 屈折率と光の波長の関係
- 屈折率と媒質中の光速の関係
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 図から、どの色の光が最も大きく曲げられているか(屈折率が大きいか)を読み取る。
- 光の色の順番と波長の大小関係を対応させる。
- 上記の2点から、「波長」と「屈折率」の関係を導き出し、空欄①を埋める。
- 「屈折率」と「媒質中の光速」の関係式から、空欄②を埋める。
思考の道筋とポイント
プリズムに白色光を通すと、虹のように色が分かれる現象を「光の分散」といいます。これは、プリズムのガラスという媒質の屈折率が、光の色(波長)によってわずかに異なるために起こります。
まず、図を観察すると、紫色の光が最も大きく曲がり、赤色の光が最も曲がりにくいことがわかります。光が大きく曲がるということは、それだけ屈折率が大きいことを意味します。
次に、可視光線の波長は、赤色が最も長く、紫に近づくにつれて短くなるという知識が必要です。
これらの事実を組み合わせることで、「波長が短い光ほど、屈折率が大きくなる」という関係が導けます。これが空欄①の答えの根拠です。
さらに、屈折率 \(n\) は、真空中の光速 \(c\) と媒質中の光速 \(v\) を用いて \(n=c/v\) と定義されます。この式から、屈折率が大きいほど、その媒質中での光の速さは遅くなることがわかります。これが空欄②の答えの根拠となります。
この設問における重要なポイント
- 光の分散: 媒質の屈折率が光の波長によって異なるために、色が分かれる現象。
- 波長と色の関係: 波長は、赤 > 橙 > 黄 > 緑 > 青 > 藍 > 紫 の順に短くなる。
- 屈折率と波長の関係: 一般に、物質の屈折率は、光の波長が短いほど大きくなる。(\(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\))
- 屈折率と光速の関係: 物質中の光速 \(v\) は、その物質の絶対屈折率 \(n\) と真空中の光速 \(c\) を用いて \(v = c/n\) と表される。つまり、屈折率が大きいほど光速は遅くなる。
具体的な解説と立式
この問題は、物理法則の定性的な理解を問うものであり、具体的な立式や計算は不要です。論理的な流れを追って考えます。
- 図の観察: プリズムを通過した光は、紫がいちばん大きく曲がり、赤がいちばん小さく曲がっている。
- 屈折率の大小: 光が大きく曲がるほど、屈折率は大きい。したがって、プリズムの屈折率は、赤色光に対するものより紫色光に対するものの方が大きい (\(n_{\text{赤}} < n_{\text{紫}}\))。
- 波長の大小: 可視光線の波長は、赤色が最も長く、紫色が最も短い (\(\lambda_{\text{赤}} > \lambda_{\text{紫}}\))。
- 結論1(空欄①): 上記2と3から、「波長が短いほど、屈折率は大きい」という関係が導ける。よって、空欄①には「大きく」が入る。
- 光速との関係(空欄②): 物質中の光速 \(v\) と屈折率 \(n\) の関係は \(v = c/n\) (\(c\)は真空中の光速で定数)で与えられる。この式は、\(v\) と \(n\) が反比例の関係にあることを示している。
- 結論2(空欄②): 屈折率 \(n\) が大きいほど、光速 \(v\) は小さくなる(遅くなる)。結論1と合わせると、「波長が短いほど、屈折率が大きく、光の速さが遅い(小さい)」となる。よって、空欄②には「遅く(小さく)」が入る。
使用した物理公式
- 屈折率と光速の関係: \(n = \displaystyle\frac{c}{v}\)
- 光の分散の性質: 波長が短いほど屈折率は大きい。
この問題は知識を問うものであり、計算過程はありません。
プリズムを通った光が虹色に分かれる理由を考える問題です。
- 曲がり方を見る: 図を見ると、紫の光が一番グイッと曲がり、赤の光は少ししか曲がっていません。物理では、「大きく曲がる」=「屈折率が大きい」と考えます。
- 波長の長さを知る: 虹の色の順番「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」で、波長は赤が一番長く、紫が一番短いです。
- ①を考える: 「波長が短い(紫)ほど、大きく曲がる(屈折率が大きい)」という関係がわかります。なので、①の答えは「大きく」です。
- ②を考える: 「屈折率」は、光にとっての「進みにくさ」の指標のようなものです。屈折率が大きいほど、光は進みにくくなり、スピードが遅くなります。
- 結論: 「波長が短い(紫)ほど、屈折率が大きく、その結果スピードが遅く(小さく)なる」となります。なので、②の答えは「遅く(小さく)」です。
⑥ 光の性質
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「光の性質と日常現象」です。身の回りで起こる様々な光の現象が、物理学のどの基本原理(反射、屈折、偏光、散乱、分散)に基づいているかを正しく結びつけることが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 反射: 光が物体の表面で跳ね返る現象。全反射も含まれる。
- 屈折: 光が異なる媒質の境界面で進行方向を変える現象。
- 偏光: 光の振動方向が特定の方向に偏る現象。
- 散乱: 光が微粒子に当たって四方八方に広がる現象。特に、波長が短い光ほど強く散乱される「レイリー散乱」が重要。
- 分散: 媒質の屈折率が光の波長(色)によって異なるため、色が分かれる現象。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各現象((1)~(6))を一つずつ取り上げる。
- その現象が起こる物理的なメカニズムを簡潔に説明する。
- メカニズムの中心となる物理法則を、選択肢((ア)~(オ))から選ぶ。
問(1) 晴れた日の空は青く見える。
思考の道筋とポイント
太陽の光は様々な色の光が混ざった白色光ですが、なぜ空は青く見えるのでしょうか。これは、太陽光が地球の大気を通過する際に、大気中の微粒子(窒素や酸素の分子)によって進路を曲げられることが原因です。このとき、光の色(波長)によって曲げられやすさが異なるため、特定の色が空全体に広がって見えます。この現象を何と呼ぶかが問われています。
この設問における重要なポイント
- 散乱: 光が空気中の微粒子などに当たって、四方八方に広がる現象。
- レイリー散乱: 粒子の大きさが光の波長よりずっと小さい場合の散乱。波長の短い光(青や紫)ほど、波長の長い光(赤や橙)よりもはるかに強く散乱されるという特徴がある。
具体的な解説と立式
太陽光が大気中を進むとき、大気中の微粒子によって光は散乱されます。このとき、波長の短い青い光は、波長の長い赤い光に比べてはるかに強く散乱されます。散乱された青い光が空のあらゆる方向から私たちの目に届くため、空全体が青く見えます。この現象の根幹は「散乱」です。
問(2) 水中の物体は浮き上がって見える。
思考の道筋とポイント
プールや川の底が、実際よりも浅く見える現象の原理を考えます。これは、水中の物体から出た光が、水面を通過して空気中に出てくるときに、その進路が曲げられるために起こります。私たちの脳は、光がまっすぐ進んできたと認識するため、実際の物体の位置とは違う場所に像が見えます。この光が曲がる現象が何かが問われています。
この設問における重要なポイント
- 屈折: 光が、屈折率の異なる媒質の境界面を通過するときに、進行方向を変える現象。
- 虚像: 水中の物体から出た光が水面で屈折し、その光の延長線が交わる点にできる見かけ上の像。
具体的な解説と立式
水中の物体から出た光は、水と空気の境界面で屈折して私たちの目に届きます。目は、光が直進してきたと認識するため、屈折した光線を逆向きに延長した線が交わる点に、物体の虚像が見えます。この虚像は、実際の物体の位置よりも浅い場所にあるため、物体が浮き上がって見えるのです。この現象の根幹は「屈折」です。
問(3) 朝日や夕日は赤く見える。
思考の道筋とポイント
空が青く見える理由と表裏一体の現象です。朝日や夕日は、太陽が地平線近くにあるため、太陽光が私たちの目に届くまでに通過する大気の層が、昼間に比べて非常に長くなります。この長い距離を通過する間に、光がどのように変化するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 散乱: (1)と同様に、光が大気中の微粒子によって散乱される現象が原因。
- 光の減衰: 長い距離を進む間に、散乱されやすい光は途中で弱まってしまい、観測者まで届きにくくなる。
具体的な解説と立式
朝日や夕日の光は、大気中を長い距離にわたって進んできます。その間に、波長の短い青い光はほとんど散乱されてしまい、私たちの目には届きません。一方で、散乱されにくい波長の長い赤い光は、大気を通り抜けて目に届きやすくなります。その結果、太陽が赤く見えるのです。この現象も「散乱」が主な原因です。
問(4) 胃カメラは細いガラス繊維を使っている。
思考の道筋とポイント
胃カメラなどに使われる光ファイバーは、曲がりくねった細いガラス繊維の中を光が伝わっていきます。光がなぜ壁を突き抜けずに、繊維に沿って進むことができるのか、その原理を考えます。
この設問における重要なポイント
- 全反射: 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ、臨界角より大きい角度で入射すると、光は屈折せずにすべて境界面で反射される現象。
- 光ファイバー: 中心部(コア)を屈折率の低い物質(クラッド)で覆った二重構造になっており、コアとクラッドの境界面で全反射を繰り返すことで光を伝える。
具体的な解説と立式
光ファイバーは、屈折率の大きいガラス(コア)の周りを、屈折率の小さい物質(クラッド)で覆っています。コアの中を進む光が、クラッドとの境界面に浅い角度で入射すると、全反射が起こります。この全反射を繰り返すことで、光はエネルギーをほとんど失うことなく、曲がった繊維の先まで伝わります。この現象の根幹は「反射」(特に全反射)です。
問(5) 雨上がりに虹が見られる。
思考の道筋とポイント
雨上がりに太陽を背にして空を見ると、虹が見えることがあります。これは、空気中に浮かんだたくさんの小さな水滴が、太陽の光を色の成分に分けているために起こります。プリズムが白色光を虹色に分けるのと同じ原理です。この、色によって光の進路が変わる現象を何と呼ぶかが問われています。
この設問における重要なポイント
- 分散: 媒質の屈折率が、光の波長(色)によって異なる現象。
- 虹の原理: 太陽光が水滴に入るときと出るときに屈折・分散し、水滴内部で1回反射することで、特定の色が特定の角度で観測者の目に届く。
具体的な解説と立式
太陽光(白色光)が空気中の水滴に入射すると、水滴の屈折率が光の色(波長)によってわずかに違うため、屈折する角度が色ごとに異なり、光が色の帯に分かれます。この現象が「分散」です。水滴内で反射した後、水滴から出るときにさらに分散が起こり、七色のアーチとなって見えます。
問(6) 特殊なサングラスは目に入る反射光を減らす。
思考の道筋とポイント
釣りやスキーで使う特殊なサングラスは、水面や雪面からのギラギラした反射光を効果的にカットします。これは、反射した光がある特殊な性質を持つことと、それを選択的に遮るフィルターをサングラスが備えているためです。光の波としての性質のうち、振動方向に関する現象が問われています。
この設問における重要なポイント
- 偏光: 光は進行方向と垂直な面内で振動する横波だが、その振動方向が特定の方向に偏る現象。
- 反射による偏光: 水面などで反射した光は、水平方向に振動する成分が強くなる性質がある。
- 偏光板: 特定の振動方向の光だけを通過させるフィルター。
具体的な解説と立式
水面やガラス面で反射した光は、その振動方向が水平な方向に偏る性質があります。この状態を「偏光」といいます。偏光サングラスには、この水平方向の振動の光だけをカットする「偏光板」というフィルターが使われています。これにより、ギラつきの原因である反射光を減らし、視界をクリアにすることができます。この現象の根幹は「偏光」です。
⑦ 光の反射
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「平面鏡による像と見える範囲」です。平面鏡に映る像の位置を作図し、鏡の大きさによってどの像が見えるのかを判断する方法を理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光の直進性
- 光の反射の法則
- 平面鏡による虚像の作図方法(物体と像は鏡面に対して線対称)
- 鏡を通して物体が見える条件の理解
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各物体(ア、イ、ウ)について、平面鏡に対する像の位置(ア’、イ’、ウ’)を作図する。
- 観測者の点Aと各像(ア’、イ’、ウ’)を直線で結ぶ。
- その直線が、実際に存在する鏡の部分を通過するかどうかを確認する。
- 直線が鏡を通過する物体を、見えるものとしてすべて選び出す。
思考の道筋とポイント
平面鏡で物を見るとき、私たちは鏡の向こう側に物体の「像」があるように感じます。この像は、物体から出た光が鏡で反射し、その反射光が目に入ることで認識されます。私たちの脳は光がまっすぐ進んできたと錯覚するため、反射光を逆向きに延長した線が交わる点に像が見えるのです。
この問題のポイントは、この「像が見える」という現象を、「観測者の目と像を結んだ直線が、鏡の反射面を通過する」ことと幾何学的に置き換えて考えることです。
まず、各物体の像の位置を正確に作図します。平面鏡の像は、鏡の面に対して物体と線対称の位置にできます。次に、観測点Aとそれぞれの像を結び、その線が鏡の範囲内を通るかどうかをチェックします。この作図によって、物理的な光の反射を、より簡単な直線の問題として解くことができます。
この設問における重要なポイント
- 平面鏡の像: 平面鏡によってできる像は、鏡面に対して物体と線対称な位置にできる「虚像」である。
- 見える条件: 観測者が鏡を通して物体の像を見ることができるのは、「観測者の目」と「物体の像」を結ぶ直線が、鏡の反射面と交わるときに限られる。
- 作図の手順:
- 各物体について、鏡面を対称の軸として、点対称ならぬ「線対称」な位置に像を描く。
- 観測点と各像を直線で結ぶ。
- その直線が鏡の物理的な範囲を通過するかどうかを判定する。
具体的な解説と立式
この問題は作図によって解くため、計算式は不要です。以下の手順で作図を行います。
- 像の位置の決定:
- 物体ア、イ、ウのそれぞれについて、平面鏡の鏡面を対称の軸として、線対称な位置に像ア’、イ’、ウ’をプロットします。
- 例えば、物体アは鏡から上に1マス離れているので、像ア’は鏡から下に1マス離れた位置になります。横の位置は同じです。
- 同様に、イ’、ウ’の位置も決定します。
- 視線の確認:
- 観測点Aと像ア’を直線で結びます。この直線は鏡の範囲を通過します。したがって、物体アの像はAから見えます。
- 観測点Aと像イ’を直線で結びます。この直線も鏡の範囲を通過します。したがって、物体イの像もAから見えます。
- 観測点Aと像ウ’を直線で結びます。この直線は鏡の範囲を通過しません(鏡の右端よりも右側を通る)。したがって、物体ウの像はAから見えません。
- 結論:
- 以上の作図から、観測者Aが見ることができるのは、物体アと物体イの像です。
使用した物理公式
- 光の反射の法則(作図法として利用)
- 平面鏡の像の性質(鏡面に対して線対称)
この問題には計算過程はありません。上記「具体的な解説と立式」で述べた作図プロセスそのものが解答プロセスとなります。
鏡に映るものが見えるかどうかを調べる、簡単な作図の問題です。
- 鏡の世界の物体を描く: まず、ア、イ、ウのそれぞれが鏡に映った姿(像)を、鏡の向こう側に描きます。描き方は簡単で、鏡を折り目として紙を折ったときに重なる位置です。これをア’、イ’、ウ’とします。
- 見えるかチェック: 次に、自分の目(点A)から、鏡の向こうの像(ア’、イ’、ウ’)に向かって、ものさしで直線を引いてみます。
- 判定:
- Aからア’に引いた直線は、ちゃんと鏡の上を通ります。→ アは見える!
- Aからイ’に引いた直線も、ちゃんと鏡の上を通ります。→ イも見える!
- Aからウ’に引いた直線は、残念ながら鏡から外れた場所を通ってしまいます。→ ウは見えない!
したがって、見えるのはアとイの2つです。
例題
例題59 フィゾーの光速測定
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「フィゾーの実験による光速測定の原理」です。一見複雑に見える実験ですが、光が一定の速さで進むという基本性質と、周期的な回転運動を結びつけることで、光速や距離を求める巧妙な仕組みを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光の速さと距離、時間の関係: 基本的な関係式 \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\) を光の運動に適用します。
- 回転運動の周期と回転数: 歯車の回転運動を扱うため、1秒あたりの回転数 \(f\) と1回転にかかる時間(周期) \(T\) の関係 \(T = 1/f\) を理解していることが重要です。
- 「光が再び観測される条件」と「歯車の回転」の同期: この実験の核心部分です。「光が往復する時間」と「歯車が特定の角度だけ回転する時間」が一致するという条件を立式します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 光が歯車と平面鏡を往復する時間 \(\Delta t_{\text{光}}\) を、距離 \(L\) と光速 \(c\) を用いて表します。
- 「初めて最も明るくなる」という条件から、その間に歯車が回転すべき時間 \(\Delta t_{\text{歯車}}\) を、歯の数 \(N\) と回転数 \(f\) を用いて求めます。
- \(\Delta t_{\text{光}} = \Delta t_{\text{歯車}}\) という等式を立てて、未知の距離 \(L\) を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題の核心は、「光が往復する時間」と「歯車が特定の角度だけ回転する時間」が等しくなる条件を見つけることです。「初めて最も明るくなる」とは、往路で光が通過した「隙間」の位置に、復路で光が戻ってきたときに、ちょうど「隣の隙間」が来ている状態を指します。この物理的な状況を正確に数式に変換することが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 光の往復距離は \(2L\) です。
- 歯車の歯が \(N\) 個の場合、隙間も \(N\) 個あり、1回転で \(N\) 回、光が通過できるタイミングがあります。
- 「隙間」から「次の隙間」まで回転するのにかかる時間を正しく計算することが重要です。
具体的な解説と立式
歯車と平面鏡の間の距離を \(L \text{ [m]}\)、光速を \(c \text{ [m/s]}\) とします。
光がこの距離を往復するのにかかる時間 \(\Delta t_{\text{光}}\) は、進む距離が \(2L\) なので、次のように表せます。
$$ \Delta t_{\text{光}} = \frac{2L}{c} \quad \cdots ① $$
次に、歯車の回転について考えます。歯の数は \(N=1000\) 個、回転数は \(f=30\) 回/s です。
歯と隙間は交互に並んでおり、その幅は等しいと考えられます。したがって、歯が1000個なので、隙間も1000個あります。
光が往路である隙間を通過した後、復路で再び観測されるためには、光が戻ってきたときに、元の隙間の位置に別の隙間が来ている必要があります。
問題文の「初めて最も明るくなる」という条件は、往路で光が通過した隙間の「隣の隙間」が、光が戻ってくるタイミングでちょうど同じ位置に来たときを指します。
歯車が「歯1つ+隙間1つ」分だけ回転すると、ある隙間の位置が隣の隙間の位置に移動します。歯車には歯と隙間のペアが \(N=1000\) 組あるので、この回転は全周の \(1/N\) 回転に相当します。
歯車の1回転にかかる時間(周期)は \(T = 1/f\) です。
したがって、歯車が \(1/N\) 回転するのにかかる時間 \(\Delta t_{\text{歯車}}\) は、
$$ \Delta t_{\text{歯車}} = T \times \frac{1}{N} = \frac{1}{f} \times \frac{1}{N} = \frac{1}{Nf} \quad \cdots ② $$
光が再び観測される条件は、これらの時間が等しくなることなので、①式と②式から次の関係が成り立ちます。
$$ \frac{2L}{c} = \frac{1}{Nf} $$
使用した物理公式
- 速さ・距離・時間の関係: \((\text{距離}) = (\text{速さ}) \times (\text{時間})\)
- 回転運動の周期と回転数: \(T = \displaystyle\frac{1}{f}\)
「具体的な解説と立式」で立てた式に、与えられた値を代入して \(L\) を求めます。
与えられた値は、\(N=1000\)、\(f=30\) 回/s、\(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) です。
まず、歯車が \(1/N\) 回転する時間 \(\Delta t_{\text{歯車}}\) を計算します。
$$ \Delta t_{\text{歯車}} = \frac{1}{1000 \times 30} = \frac{1}{3.0 \times 10^4} \text{ [s]} $$
この時間と光の往復時間が等しいので、
$$
\begin{aligned}
\frac{2L}{3.0 \times 10^8} &= \frac{1}{3.0 \times 10^4} \\[2.0ex]2L &= \frac{3.0 \times 10^8}{3.0 \times 10^4} \\[2.0ex]2L &= 1.0 \times 10^4 \\[2.0ex]L &= \frac{1.0 \times 10^4}{2} \\[2.0ex]L &= 0.50 \times 10^4 \\[2.0ex]L &= 5.0 \times 10^3 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
この実験は、光の「旅時間」と、歯車の「回転時間」を比べることで成り立っています。
まず、光が鏡まで行って帰ってくる「旅時間」を計算します。これは「往復距離 \(2L\) ÷ 光の速さ \(c\)」です。
次に、光が再び通り抜けられるための、歯車の最小の回転時間を考えます。これは、歯車がちょうど「ひと山とひと谷」分だけ回転する時間です。歯は1000個あり、1秒間に30回転するので、1秒間に \(1000 \times 30 = 30000\) 回「山と谷のペア」が通過します。つまり、「山と谷のペア」1つが通過する時間は \(1/30000\) 秒です。
この二つの時間がぴったり同じになれば良いので、「\(2L/c = 1/30000\)」という式を立てて、\(L\) を計算します。
歯車と平面鏡の間の距離は \(5.0 \times 10^3 \text{ m}\)、つまり 5 km と計算されました。フィゾーの実験は、このような数kmのスケールで実際に行われた歴史があり、計算結果は物理的に妥当な値です。
この問題を解く上でのポイントは、問題文の「初めて最も明るくなり」という条件を、「歯車が \(1/N\) 回転する」と正しく解釈できるかという点です。もし「歯車が歯1つ分、つまり \(1/(2N)\) 回転する」と誤解すると、答えが半分になってしまうため注意が必要です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 二つの事象の「時間」の同期:
- 核心: この問題は、一見すると光速という高度なテーマを扱っていますが、その本質は「光が往復する時間」と「歯車が特定の角度だけ回転する時間」という、全く異なる二つの物理現象の時間が等しくなる、という条件(同期)を見抜くことにあります。
- 理解のポイント:
- 光の運動: 光は一定の速さ \(c\) で進むため、距離 \(2L\) を往復する時間 \(\Delta t_{\text{光}}\) は \(\Delta t_{\text{光}} = \displaystyle\frac{2L}{c}\) という単純な式で表せます。
- 歯車の回転: 歯車は一定の回転数 \(f\) で回るため、ある隙間が隣の隙間の位置に来るまでの時間 \(\Delta t_{\text{歯車}}\) を計算できます。
- 同期条件: 「再び明るく見える」という観測結果を、「\(\Delta t_{\text{光}}\) と \(\Delta t_{\text{歯車}}\) が等しくなった」という物理的な条件に翻訳することが、問題を解くための最大の鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 回転鏡を用いた光速測定(フーコーの実験): 歯車の代わりに回転する鏡を使い、光が往復する間に鏡が回転することで生じる反射光の角度のズレから光速を求める問題。これも「光の往復時間」と「鏡の回転時間」を同期させる考え方を使います。
- ストロボスコープと回転体: 高速で点滅する光(ストロボ)を回転する物体に当てると、点滅の周期と回転の周期が一致したときに物体が止まって見える現象。これも二つの周期的な運動の同期を利用します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「何」と「何」の時間が等しいのか?: 問題文中の「〜したときに、ちょうど〜になった」という表現を探し、どの二つの事象が同期しているのかを特定します。この問題では、「光が往復を終えたとき」と「歯車が隣の隙間まで回転したとき」です。
- 距離は「往復」か「片道」か?: 光や音波などが関わる問題では、移動距離が片道分の \(L\) なのか、往復分の \(2L\) なのかを正確に把握することが極めて重要です。図を描いて光の経路をなぞると間違いがありません。
- 「初めて」という条件の意味を考える: 「初めて明るくなる」「初めて暗くなる」といった条件は、通常、事象が起こるための最小時間(または最小回転角)を指します。この問題では、歯車が \(1/N\) 回転したときが該当します。「2回目に明るくなる」という設問であれば、歯車が \(2/N\) 回転したときを考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 歯車の回転時間の計算ミス:
- 誤解: 「歯が1つ動く時間」と「隙間が1つ動く時間」を混同してしまう。光が通過するのは「隙間」です。
- 対策: 図を描いて考えましょう。歯が \(N\) 個あれば、隙間も \(N\) 個あります。したがって、「歯と隙間のペア」が \(N\) 組あると考えるのが分かりやすいです。ある隙間の位置に「隣の隙間」が来るのは、歯車が \(1/N\) 回転したときです。1回転にかかる時間は周期 \(T = 1/f\) なので、求める時間は \(T/N = 1/(Nf)\) となります。
- 往復距離の考慮漏れ:
- 誤解: 光が進む距離を片道の \(L\) だけで計算してしまい、\(\Delta t_{\text{光}} = L/c\) と立式してしまう。
- 対策: 実験装置の図をよく見て、光の経路を指でなぞる癖をつけましょう。「光源 → 歯車 → 平面鏡 → (反射) → 歯車 → 観測者」という光の旅路をイメージし、歯車と鏡の間を「往復」していることを確実に認識します。
- 回転数 \(f\) と周期 \(T\) の混同:
- 誤解: 回転数 \(f\) [回/s] を、そのまま時間として扱ってしまう。
- 対策: 単位を常に意識することが最も有効です。\(f\) は1秒あたりの回転数(frequency)、\(T\) は1回転にかかる時間(period)であり、\(T = 1/f\) という逆数の関係にあることを徹底して覚えましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 時間 = 距離 / 速さ (\(\Delta t = \displaystyle\frac{2L}{c}\)):
- 選定理由: 問題の核心である「光の往復時間」を数式で表現するために不可欠です。これは速さの定義そのものです。
- 適用根拠: 光は一定の速さ \(c\) で進むと仮定できるため、この単純な関係式が使えます。問題の状況から、光は距離 \(L\) を「往復」するため、移動距離は \(2L\) となります。この物理的な状況を正確に式に反映させます。
- 事象の発生時間 = 周期 × 発生頻度の逆数 (\(\Delta t_{\text{歯車}} = T \times \displaystyle\frac{1}{N} = \displaystyle\frac{1}{Nf}\)):
- 選定理由: 連続的な回転運動の中から、「初めて明るくなる」という特定の離散的な事象が起こるまでの時間を計算するために必要です。
- 適用根拠: 「初めて明るくなる」という条件は、物理的に「歯車が、ある隙間の位置に隣の隙間が来るまで回転する」ことに対応します。歯車には隙間が \(N\) 個あり、それらが等間隔で配置されているため、この回転は1回転の \(1/N\) に相当します。1回転の時間(周期 \(T\))にこの割合 \(1/N\) を掛けることで、目的の時間を導き出せます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一と確認: 回転数が「毎秒 (回/s, Hz)」で与えられているか、「毎分 (rpm)」で与えられているかを必ず確認します。もし「毎分」なら、計算前に60で割って「毎秒」に直す必要があります。
- 指数計算の徹底: \(10^8 / 10^4 = 10^{8-4} = 10^4\) のような指数法則は、物理計算で頻出します。焦らず、慎重に計算する習慣をつけましょう。
- 文字式で整理してから代入:
- いきなり数値を代入すると、式が複雑になりがちです。まず \(L, c, N, f\) といった文字を使って、求める量(今回は \(L\))について式を解いてしまうのがおすすめです。
$$ \frac{2L}{c} = \frac{1}{Nf} $$
この式を \(L\) について整理すると、
$$ L = \frac{c}{2Nf} $$
となります。この形にしてから最後に数値を代入すると、計算の見通しが格段に良くなり、ケアレスミスを減らせます。
$$ L = \frac{3.0 \times 10^8}{2 \times 1000 \times 30} = \frac{3.0 \times 10^8}{6.0 \times 10^4} = 0.50 \times 10^4 = 5.0 \times 10^3 \text{ [m]} $$
- いきなり数値を代入すると、式が複雑になりがちです。まず \(L, c, N, f\) といった文字を使って、求める量(今回は \(L\))について式を解いてしまうのがおすすめです。
例題60 光線の経路
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「プリズム内での光の屈折と全反射」です。光が異なる媒質の境界面でどのように振る舞うかを、幾何学的な考察を交えて解き明かす問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則: 光が異なる媒質間を透過する際の、進行方向の変化を記述する法則です。
- 全反射の条件と臨界角: 屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ光が進む際、入射角がある角度(臨界角)を超えると光がすべて反射される現象です。
- 反射の法則: 光が反射する際の、入射角と反射角の関係を記述する法則です。
- 図形(三角形)の幾何学的性質を用いた角度計算: 物理法則を適用するために必要な入射角などを、図形の性質から正確に求めるスキルです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 光がプリズムの各面に到達するたびに、その面での入射角を幾何学的に求めます。
- プリズムから空気へ光が出ようとする面(CA面、BC面)では、まず臨界角を計算し、入射角と比較して「全反射」が起こるか「屈折」して透過するかを判断します。
- 全反射する場合は反射の法則を、屈折する場合は屈折の法則を適用して、光の進む向きを決定します。
- これらのステップを順に追い、最終的な光の経路を作図します。
思考の道筋とポイント
この問題は、光がプリズムの各面でどのように振る舞うかを、一つずつ順を追って丁寧に考えていくことが重要です。特に、入射角や反射角といった角度を、プリズムの形状(三角形の角)から正確に求める幾何学的な能力が試されます。屈折の法則と全反射の条件という物理法則を、幾何学と組み合わせて適用することが解法の鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 入射角・屈折角・反射角は、すべて境界面の「法線」とのなす角であると定義されます。
- 全反射は、屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むときにのみ起こりうる現象です。
- プリズムから空気へ光が進むときの臨界角 \(i_0\) は、プリズムの屈折率を \(n\) として、\(\sin i_0 = \displaystyle\frac{1}{n}\) で与えられます。
- 境界面への入射角 \(i\) が臨界角 \(i_0\) より大きい場合 (\(i > i_0\))、光は屈折せず全て反射(全反射)します。
具体的な解説と立式
光の経路を、プリズムに入射してから各面でどうなるか、ステップごとに追っていきます。
Step 1: AB面への入射
光線はプリズムのAB面に垂直に入射します。このとき、境界面の法線と光線のなす角(入射角)は \(0^\circ\) です。屈折の法則より、屈折角も \(0^\circ\) となり、光は屈折せずに直進します。
Step 2: CA面での入射と全反射の判定
直進した光は、次にCA面に達します。この点(点Pとする)での入射角 \(i_1\) を求めます。
光の進行方向はAB面に垂直、すなわちBC面に平行です。三角形の錯角の関係から、光の進行方向とCA面のなす角は、プリズムの角 \(\angle C\) に等しく \(30^\circ\) です。
入射角は法線とのなす角なので、
$$ i_1 = 90^\circ – 30^\circ = 60^\circ $$
次に、この光が全反射するかどうかを判定します。プリズム(屈折率 \(n=\sqrt{2}\))から空気(屈折率 \(1\))へ光が進むときの臨界角を \(i_0\) とすると、屈折の法則において屈折角が \(90^\circ\) となる条件から、
$$ n \sin i_0 = 1 \sin 90^\circ $$
が成り立ちます。
ここで、入射角 \(i_1 = 60^\circ\) と臨界角 \(i_0\) を比較します。後述の計算により \(i_0=45^\circ\) なので、\(i_1 > i_0\) が成立します。したがって、光はCA面で全反射します。
反射の法則により、反射角も入射角と等しく \(60^\circ\) となります。
Step 3: BC面での入射角の計算
全反射した光は、BC面上の点Qに達します。この点での入射角 \(i_2\) を求めます。
\(\triangle PQC\) に着目します。CA面での反射光とCA面のなす角は \(90^\circ – (\text{反射角} 60^\circ) = 30^\circ\) です。つまり \(\angle CPQ = 30^\circ\) です。
また、プリズムの角から \(\angle PCQ = \angle C = 30^\circ\) です。
したがって、\(\triangle PQC\) は二等辺三角形となり、\(\angle PQC = 180^\circ – (30^\circ + 30^\circ) = 120^\circ\) となります。
BC面での入射角 \(i_2\) は、BC面の法線と光線PQのなす角です。光線PQとBC面のなす角は \(180^\circ – \angle PQC = 180^\circ – 120^\circ = 60^\circ\) なので、
$$ i_2 = 90^\circ – 60^\circ = 30^\circ $$
となります。
Step 4: BC面での屈折
BC面では、入射角 \(i_2 = 30^\circ\) でプリズムから空気中へ光が出ます。この入射角は臨界角 \(i_0 = 45^\circ\) より小さいので、光は屈折して空気中へ透過します。
空気中への屈折角を \(r\) として、屈折の法則を適用します。
$$ n \sin i_2 = 1 \sin r $$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)
- 全反射の条件: \(i > i_0\), ここで \(\sin i_0 = \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\) (\(n_1 > n_2\))
- 反射の法則: 入射角 = 反射角
臨界角の計算:
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2} \sin i_0 &= 1 \times \sin 90^\circ \\[2.0ex]\sqrt{2} \sin i_0 &= 1 \\[2.0ex]\sin i_0 &= \frac{1}{\sqrt{2}}
\end{aligned}
$$
よって、臨界角は \(i_0 = 45^\circ\) です。
BC面での屈折角の計算:
「具体的な解説と立式」で立てた式に、\(n=\sqrt{2}\), \(i_2=30^\circ\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2} \sin 30^\circ &= 1 \times \sin r \\[2.0ex]\sqrt{2} \times \frac{1}{2} &= \sin r \\[2.0ex]\sin r &= \frac{\sqrt{2}}{2}
\end{aligned}
$$
よって、屈折角は \(r = 45^\circ\) となります。
光がプリズムの中をどう進むか、一つずつ順番に追いかけていきます。
- AB面 (入り口): 光は面にまっすぐ(垂直に)入るので、曲がらずにそのまま直進します。
- CA面 (斜めの面): 次に斜めのCA面にぶつかります。ここで光が「外に出る」か「内部で反射するか」を調べる必要があります。そのための判定基準が「臨界角」です。計算すると臨界角は \(45^\circ\) ですが、実際の光の入射角は \(60^\circ\) でした。入射角が臨界角より大きいので、光は外に出られず、鏡のようにすべて反射(全反射)します。
- BC面 (底の面): 全反射した光は、プリズムの底であるBC面にぶつかります。ここでも、三角形の角度の関係を使って、光がどの角度でぶつかるか(入射角)を計算すると \(30^\circ\) になります。
- 空気中へ (出口): 今度の入射角 \(30^\circ\) は臨界角 \(45^\circ\) より小さいので、光は外に出られます。「屈折の法則」というルールを使って計算すると、光は \(45^\circ\) の角度で空気中に飛び出していくことがわかります。
これらのステップを絵に描いてつなげると、光の最終的な経路が完成します。
光はAB面に垂直に入射後、CA面で入射角 \(60^\circ\) で全反射し、BC面に入射角 \(30^\circ\) で達し、最終的に屈折角 \(45^\circ\) で空気中に出ていきます。
各ステップでの角度計算、特に三角形の性質を利用した幾何学的な考察が正確であることが、正しい経路を作図するための鍵となります。全反射の条件と屈折の法則を適切な場面で正しく適用できました。結果は物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則と全反射:
- 核心: 光が異なる媒質の境界面を通過するときの振る舞いを記述する、二つの基本法則を理解し、使い分けることが全てです。
- 理解のポイント:
- 屈折の法則 (\(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)): 光が境界面を「透過する」場合に、その進行方向がどのように変わるかを決定します。
- 全反射: 屈折率が大きい媒質から小さい媒質へ光が進むとき、入射角がある一定の角度(臨界角)を超えると、光は透過せずに100%反射されます。この「透過するか、全反射するか」の判断が、この種の問題の最初の関門です。
- 幾何学による角度決定:
- 核心: 物理法則を適用するためには、まず光が各面にどの角度で入射するか(入射角)を正確に知る必要があります。これは、プリズムの形状(三角形の角の大きさ)や、錯角・同位角といった図形の性質を使って計算します。物理と数学(幾何学)の融合問題と言えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光ファイバー: 全反射を繰り返し利用して、光をケーブル内に閉じ込めて遠くまで伝送する技術の原理を問う問題。
- 水中の物体: プールや水槽の底にある物体が、実際よりも浅く見える現象。これは水面での光の屈折によって起こります。
- 異なる形状のプリズム: 正三角形や直角二等辺三角形のプリズムなど、形状が変わっても、光の経路を追跡する基本的な考え方は全く同じです。
- 初見の問題での着眼点:
- まず法線を引く: 光が境界面に当たる点を見つけたら、何よりも先にその点に「法線」(境界面に垂直な線)を引く。入射角や屈折角は、すべてこの法線とのなす角です。これを怠ると全てが狂います。
- 角度を徹底的に追跡する: 図形の中に、分かっている角度(プリズムの角など)を全て書き込みます。そして、平行線の錯角・同位角、三角形の内角の和(\(180^\circ\))などの幾何知識を駆使して、光線の入射角を一つずつ特定していきます。
- 「全反射チェック」を習慣にする: 光が「屈折率の大きい媒質」から「小さい媒質」へ進む場面(この問題ではプリズム→空気)に遭遇したら、必ず「全反射は起こらないか?」と自問自答する癖をつけます。そのために、まず臨界角を計算しておくのが最も確実な手順です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 入射角の定義を間違える:
- 誤解: 入射角を、光線と「境界面」とのなす角だと勘違いしてしまう。
- 対策: 「角度は、常に法線から測る」と機械的に覚える。問題を解き始める前に、図に法線を書き込むことを儀式のように行うことで、このミスは防げます。
- 臨界角の公式の混同:
- 誤解: プリズム(屈折率 \(n\))から空気(屈折率 \(1\))への臨界角 \(i_0\) を求める式を、\(\sin i_0 = n\) のように間違えてしまう。
- 対策: 公式を丸暗記するのではなく、屈折の法則から毎回導く習慣をつけましょう。臨界角とは、屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角のことなので、\(n \sin i_0 = 1 \sin 90^\circ\) という基本式を立てれば、自然と \(\sin i_0 = 1/n\) が導かれます。
- 幾何学的な角度計算のミス:
- 誤解: 全反射した後の光の進行方向を考える際に、角度の計算で混乱する。
- 対策: 大きく、正確な図を自分で描くことが最大の対策です。計算で求めた角度は、その都度図に書き込んでいくと、次のステップでどの角度情報を使えばよいかが視覚的に分かりやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則 (\(n_1 \sin \theta_1 = n_2 \sin \theta_2\)):
- 選定理由: 光が異なる媒質の境界面を「透過する」際の、進行方向の変化を記述する唯一の基本法則だからです。
- 適用根拠: この問題では、BC面で光がプリズムから空気へ「透過」することが分かったため、この法則を適用して空気中での屈折角を求めます。
- 全反射の条件 (\(i > i_0\), ここで \(\sin i_0 = \displaystyle\frac{n_2}{n_1}\)):
- 選定理由: 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進む際に、「透過するか、反射するか」という光の運命を決定するための判断基準だからです。
– 適用根拠: CA面とBC面は、どちらもプリズム(大)から空気(小)へ光が出ようとする境界面です。したがって、これらの面では屈折の法則をいきなり適用するのではなく、まず全反射の条件をチェックする必要があります。入射角 \(i\) を計算し、臨界角 \(i_0\) と比較することで、光が次にどう振る舞うか(全反射か屈折か)が決定されます。
- 反射の法則 (入射角 = 反射角):
- 選定理由: 全反射が起こると判断された場合に、反射後の光の進路を決定するための法則だからです。
- 適用根拠: CA面で入射角が臨界角より大きいことが判明し、全反射が起こることが確定しました。そのため、この法則を適用して反射光がどちらの方向に進むかを正確に決定します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 丁寧な作図: この種の問題は、作図の丁寧さが正解に直結します。フリーハンドでも良いので、問題用紙の余白に大きく図を描き直し、法線、角度、光の経路を丁寧に書き込むことで、状況を視覚的に把握し、幾何学的なミスを劇的に減らせます。
- 角度のメモ: 計算で求めた角度(入射角、反射角、屈折角など)は、その都度、自分で描いた図の中に書き込んでいきましょう。これにより、思考が整理され、次のステップの計算が楽になります。
- 三角関数の基本値の確認: \(\sin 30^\circ = 1/2\), \(\sin 45^\circ = 1/\sqrt{2}\), \(\sin 60^\circ = \sqrt{3}/2\) といった基本的な三角関数の値は、物理の様々な分野で使います。計算間違いしないよう、常に意識しましょう。
- 思考のステップ化: 「(1) 入射点に法線を引く → (2) 幾何学的に入射角を求める → (3) (必要なら)臨界角を計算し、全反射か屈折かを判定 → (4) 適切な法則(反射or屈折)を適用して次の光の進路を決定」という一連の流れを、常に意識して解くようにしましょう。
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