269 風がある場合のドップラー効果
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、音源が移動し、かつ風が吹いている状況でのドップラー効果を扱う問題です。ドップラー効果の基本的な公式の理解に加えて、風(媒質)の運動をどのように考慮するかが問われます。
この問題の核心は、ドップラー効果の公式における各物理量(音速、音源の速度、観測者の速度)の意味を正確に理解し、状況に応じて正しく適用することです。
- 音源Sの振動数: \(f\) [Hz]
- 音源Sの速さ: \(v\) [m/s](右向き)
- 観測者O1, O2: 静止
- 音速(空気に対する速さ): \(V\) [m/s]
- 風の速さ: \(v_w\) [m/s](右向き、O1からO2の向き)
- (1) 風が吹いていないときの、O1とO2が観測する振動数 \(f_1\), \(f_2\)。
- (2) 風が吹いているときの、O1とO2が観測する振動数 \(f’_1\), \(f’_2\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「風がある場合のドップラー効果」です。ドップラー効果の公式を、風という媒質の運動を考慮して応用する能力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の公式: 観測する振動数 \(f’\) は、\(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) で与えられます。ここで \(v_o\) は観測者の速度、\(v_s\) は音源の速度です。
- 速度の符号の規則: 公式を正しく使うためには、速度の符号の決め方が重要です。一般的に「音源から観測者へ向かう向き」を正とします。
- 風の影響の解釈: 風は音を伝える媒質(空気)そのものの動きです。したがって、地面で静止している観測者から見ると、音の伝わる速さが風の速さの分だけ変化します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)では風がない基本的な状況で、音源が遠ざかる場合(O1)と近づく場合(O2)の振動数を公式から求めます。
- 次に、(2)では風の影響を考えます。風の向きによって、O1とO2に伝わる音の速さがそれぞれどう変わるかを計算し、その「見かけの音速」を使ってドップラー効果の公式を適用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
風が吹いていない、最も基本的なドップラー効果の問題です。音源が観測者O1からは遠ざかり、観測者O2には近づいている点に注目します。それぞれの状況でドップラー効果の公式を適用し、観測される振動数を求めます。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果の公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を用います。
- 速度の符号の定義: 「音源から観測者へ向かう向き」を正とします。観測者O1, O2は静止しているので、\(v_o = 0\) です。
- 観測者O1について: 音源SはO1から遠ざかります。音源からO1へ向かう向きは「左向き」です。この向きを正とすると、音源Sの速度 \(v\)(右向き)は負の値、すなわち \(v_s = -v\) となります。
- 観測者O2について: 音源SはO2に近づきます。音源からO2へ向かう向きは「右向き」です。この向きを正とすると、音源Sの速度 \(v\)(右向き)は正の値、すなわち \(v_s = +v\) となります。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の一般式は、観測者が聞く振動数を \(f’\)、音源の振動数を \(f\)、音速を \(V\)、観測者の速度を \(v_o\)、音源の速度を \(v_s\) として、次のように表されます。
$$ f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f $$
観測者O1, O2は静止しているので、\(v_o = 0\) です。
観測者O1が観測する振動数 \(f_1\) を求めます。
音源SはO1から遠ざかるので、音源からO1へ向かう向き(左向き)を正とします。音源Sは右向きに速さ \(v\) で動いているため、その速度は \(v_s = -v\) となります。
したがって、\(f_1\) を求める式は以下のようになります。
$$ f_1 = \frac{V-0}{V-(-v)}f \quad \cdots ① $$
観測者O2が観測する振動数 \(f_2\) を求めます。
音源SはO2に近づくので、音源からO2へ向かう向き(右向き)を正とします。音源Sは右向きに速さ \(v\) で動いているため、その速度は \(v_s = +v\) となります。
したがって、\(f_2\) を求める式は以下のようになります。
$$ f_2 = \frac{V-0}{V-v}f \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式
式①より、\(f_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V}{V+v}f
\end{aligned}
$$
式②より、\(f_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{V-v}f
\end{aligned}
$$
救急車が遠ざかっていくとき(O1の状況)はサイレンの音が低く聞こえ、近づいてくるとき(O2の状況)は高く聞こえます。これは、遠ざかるときは音の波が引き伸ばされ、近づくときは押し縮められるためです。この現象を数式で表したのがドップラー効果の公式で、それぞれの状況に合わせて音源の速度の向き(プラスかマイナスか)を正しく設定して計算します。
観測者O1が観測する振動数は \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V+v}f\) [Hz]、観測者O2が観測する振動数は \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{V-v}f\) [Hz] です。
\(f_1\) の式の分母は \(V+v > V\) なので、\(f_1 < f\) となり、音が低くなるという物理現象と一致します。
\(f_2\) の式の分母は \(V-v < V\) なので、\(f_2 > f\) となり、音が高くなるという物理現象と一致します。
問(2)
思考の道筋とポイント
風が吹いている場合、音を伝える媒質(空気)自体が動いていることになります。このため、地面にいる観測者から見た音の伝わる速さが変化します。この「新しい音速」を求めて、(1)と同様にドップラー効果の公式を適用することが解法の鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 風による音速の変化: 音は空気に対して速さ \(V\) で伝わります。その空気が地面に対して速さ \(v_w\) で動いているため、地面に対する音の速さは、速度の合成によって求められます。
- O1への音の速さ: 音はSからO1へ、つまり左向きに進みます。風は右向き(速さ \(v_w\))なので、音の進行方向とは逆向きです。したがって、地面に対する音の速さは \(V_1 = V – v_w\) となります。
- O2への音の速さ: 音はSからO2へ、つまり右向きに進みます。風も右向きなので、音の進行方向と同じ向きです。したがって、地面に対する音の速さは \(V_2 = V + v_w\) となります。
- 公式の適用: この変化した音速 \(V_1\), \(V_2\) を、ドップラー効果の公式の \(V\) の部分に代入して計算します。速度の符号の考え方は(1)と全く同じです。
具体的な解説と立式
風が吹いている場合、地面に対する音の速さが変化します。
観測者O1に届く音は左向きに進むため、右向きの風に逆らうことになります。よって、O1に対する音速は \(V_1 = V – v_w\) です。
この音速 \(V_1\) を用いて、観測者O1が観測する振動数 \(f’_1\) を求めます。(1)と同様に、音源からO1へ向かう向き(左向き)を正とすると、\(v_s = -v\), \(v_o = 0\) です。
$$ f’_1 = \frac{V_1 – v_o}{V_1 – v_s}f = \frac{(V-v_w) – 0}{(V-v_w) – (-v)}f \quad \cdots ③ $$
観測者O2に届く音は右向きに進むため、右向きの風に乗ることになります。よって、O2に対する音速は \(V_2 = V + v_w\) です。
この音速 \(V_2\) を用いて、観測者O2が観測する振動数 \(f’_2\) を求めます。(1)と同様に、音源からO2へ向かう向き(右向き)を正とすると、\(v_s = +v\), \(v_o = 0\) です。
$$ f’_2 = \frac{V_2 – v_o}{V_2 – v_s}f = \frac{(V+v_w) – 0}{(V+v_w) – v}f \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式
- 速度の合成
式③より、\(f’_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f’_1 &= \frac{V-v_w}{V-v_w+v}f
\end{aligned}
$$
式④より、\(f’_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f’_2 &= \frac{V+v_w}{V+v_w-v}f
\end{aligned}
$$
風は「動く歩道」のようなものです。音は風という動く歩道の上を伝わります。O1にとっては、音は動く歩道を逆走する(向かい風)ので遅くなり、O2にとっては、音は動く歩道を順走する(追い風)ので速くなります。この風によって変化した「地面から見た音の速さ」を使って、(1)と同じように計算すれば、観測される振動数がわかります。
思考の道筋とポイント
ドップラー効果の公式が、本来「音を伝える媒質に対して静止した座標系」で成り立つ、という原理に立ち返る解法です。この問題では、風(空気)が媒質なので、「風と一緒に動く座標系」を考えます。この座標系から見ると、音はどの方向にも速さ \(V\) で伝わりますが、代わりに地面にいる音源Sと観測者O1, O2が動いて見えることになります。これらの「相対的な速度」を求めて公式に適用します。
この設問における重要なポイント
- 座標系の変換: 地面で静止した視点から、風と共に右向きに速さ \(v_w\) で動く「風の静止系」へと視点を移します。
- 相対速度の計算: この風の静止系から見た各物体の速度を求めます。
- 音源Sの速度: 地面で右向きに \(v\) なので、風の系からは \(v’_s = v – v_w\) (右向き)に見えます。
- 観測者O1, O2の速度: 地面で静止しているので、風の系からは \(v’_o = 0 – v_w = -v_w\) (左向き)に見えます。
- 公式の適用: この系では音速は常に \(V\) です。これらの相対速度 \(v’_s\), \(v’_o\) をドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v’_o}{V-v’_s}f\) に代入します。
具体的な解説と立式
風と共に動く座標系(媒質静止系)で考えます。この系では音速は常に \(V\) です。
この系から見た観測者と音源の速度は以下のようになります。
- 観測者O1, O2の速度: \(v’_o = -v_w\) (左向き)
- 音源Sの速度: \(v’_s = v – v_w\) (右向き)
観測者O1が観測する振動数 \(f’_1\) を求めます。
音はSからO1へ、つまり「左向き」に伝わります。この向きを正とします。
- 観測者O1の速度: 左向きに \(v_w\) なので、\(v’_{o1} = +v_w\)。
- 音源Sの速度: 右向きに \(v-v_w\) なので、\(v’_{s1} = -(v-v_w)\)。
ドップラー効果の公式に代入します。
$$ f’_1 = \frac{V-v’_{o1}}{V-v’_{s1}}f = \frac{V-v_w}{V – (-(v-v_w))}f \quad \cdots ⑤ $$
観測者O2が観測する振動数 \(f’_2\) を求めます。
音はSからO2へ、つまり「右向き」に伝わります。この向きを正とします。
- 観測者O2の速度: 左向きに \(v_w\) なので、\(v’_{o2} = -v_w\)。
- 音源Sの速度: 右向きに \(v-v_w\) なので、\(v’_{s2} = +(v-v_w)\)。
ドップラー効果の公式に代入します。
$$ f’_2 = \frac{V-v’_{o2}}{V-v’_{s2}}f = \frac{V-(-v_w)}{V – (v-v_w)}f \quad \cdots ⑥ $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式
- 相対速度
式⑤より、\(f’_1\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f’_1 &= \frac{V-v_w}{V+v-v_w}f
\end{aligned}
$$
式⑥より、\(f’_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f’_2 &= \frac{V+v_w}{V-v+v_w}f
\end{aligned}
$$
風船に乗って風と一緒に漂っている人から、この現象を見る方法です。この人にとっては、音はいつも通りの速さ \(V\) で聞こえます。その代わり、地面にいる音源や観測者が、風の速さの分だけ逆向きに動いているように見えます。この「風船から見た速度」を使ってドップラー効果の公式を適用すると、同じ答えが得られます。
観測者O1が観測する振動数は \(f’_1 = \displaystyle\frac{V-v_w}{V-v_w+v}f\) [Hz]、観測者O2が観測する振動数は \(f’_2 = \displaystyle\frac{V+v_w}{V+v_w-v}f\) [Hz] です。
これらの式で \(v_w = 0\) とおくと、(1)で求めた \(f_1\) と \(f_2\) の式にそれぞれ一致することから、計算結果が妥当であることが確認できます。
この別解で得られた結果は、メインの解法(地面に対する音速を補正する方法)で得られた結果と完全に一致します。これは、どちらの考え方も物理的に正しく、同じ現象を異なる視点から記述していることを示しています。この媒質静止系で考える方法は、より根本的な原理に基づいているため、複雑な設定の問題にも対応しやすい強力な考え方です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果の公式の適用:
- 核心: 観測される振動数 \(f’\) は、音源の振動数 \(f\)、音速 \(V\)、観測者の速度 \(v_o\)、音源の速度 \(v_s\) を用いて \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) と表されます。この公式を正しく使いこなすことが、この問題全体の基本です。
- 理解のポイント: この公式は単なる暗記ではなく、「観測者が1秒間に受け取る波の数」を数えることで導出されます。分母の \(V-v_s\) は音源の動きによる波長の伸縮を、分子の \(V-v_o\) は観測者の動きによる波の観測頻度の変化を表しています。
- 風(媒質の運動)の影響の解釈:
- 核心: ドップラー効果の公式における音速 \(V\) は、「媒質に対する音の速さ」です。風が吹いている場合、地面にいる観測者から見た音の速さは、この \(V\) に風の速度 \(v_w\) をベクトル的に足し合わせたものになります。これが(2)を解くための最も重要な法則です。
- 理解のポイント: この問題は2つの視点から解くことができます。
- 地面静止系(観測者の視点): 風の影響で音速が変化すると考えます。追い風なら \(V+v_w\)、向かい風なら \(V-v_w\) という「見かけの音速」を公式の \(V\) に代入します。これは直感的で分かりやすい方法です。
- 媒質静止系(風の視点): 風と一緒に動く座標系を考えます。この系では音速は常に \(V\) ですが、代わりに音源と観測者が風と逆向きに動いているように見えます。これらの「相対速度」を公式の \(v_s\) と \(v_o\) に代入します。より原理的な解法です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 観測者が動く場合: この問題では観測者は静止していましたが、観測者が動く問題でも全く同じ考え方が適用できます。公式の \(v_o\) に適切な符号で速度を代入します。
- 斜め方向のドップラー効果: 音源や観測者が、両者を結ぶ直線に対して斜めに動く場合です。このときは、速度ベクトルを直線方向の成分に分解し、その成分だけを公式に適用する必要があります。
- 反射板によるドップラー効果: 動く壁で音が反射する場合、2段階のドップラー効果として考えます。まず「壁が観測者」として振動数 \(f_1\) を計算し、次に「壁が新しい音源」となって振動数 \(f_1\) の音を出し、それを元の観測者が聞く、というステップで解きます。
- 初見の問題での着眼点:
- 誰が音源で、誰が観測者か?: まず、音を出すもの(音源)と聞くもの(観測者)を明確にします。
- 媒質は動いているか?: 風や水流など、媒質の運動があるかを確認します。あれば、その影響をどう扱うか(音速を補正するか、座標系を移すか)を決めます。
- 速度の向きと符号を定義する: 各設問ごとに「音源から観測者へ向かう向き」を正として、\(v_s\) と \(v_o\) の符号を慎重に決定します。図を描いて矢印で向きを確認するのが最も確実です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の符号の間違い:
- 誤解: \(v_s\) や \(v_o\) の符号を、座標軸の右向きを常に正とするなど、機械的に決めてしまう。
- 対策: ドップラー効果の公式における速度の符号は、常に「音源から観測者への向き」を基準に考えます。この向きと同じなら正、逆なら負です。観測者が2人いる場合は、それぞれについて基準の向きを設定し直す必要があります。
- 風の影響の扱い方の混同:
- 誤解: 風の速さ \(v_w\) を、音源や観測者の速度 \(v_s\), \(v_o\) に直接足し引きしてしまう。
- 対策: 風は「媒質の速度」であり、直接影響するのは「音速 \(V\)」です。地面静止系で考えるなら、\(V\) を \(V \pm v_w\) に補正します。媒質静止系で考えるなら、\(v_s\) を \(v_s \mp v_w\)、\(v_o\) を \(v_o \mp v_w\) に補正します。両方の操作を同時に行うと二重に補正することになり、間違いです。
- 公式の分母と分子の混同:
- 誤解: \(v_s\) と \(v_o\) のどちらが分母でどちらが分子だったか忘れてしまう。
- 対策: 「音源(Source)のsが下(分母)、観測者(Observer)のoが上(分子)」と覚えるのが一つの手です。また、物理的な意味として、音源が動くと波長が変わり(分母)、観測者が動くと単位時間に横切る波の数が変わる(分子)と理解しておくと、忘れにくくなります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波面の図: 音源Sから同心円状に広がる波面を描いてみましょう。Sが右に動くと、右側の波面は密になり(波長が短く)、左側の波面は疎になります(波長が長く)。この「波面の密度の違い」が振動数の違いとして観測される、というイメージを持つと理解が深まります。
- 風のイメージ: 風を「動く歩道」や「川の流れ」に例えると良いでしょう。音は、この流れに乗って進む船のようなものです。追い風(順流)なら速く、向かい風(逆流)なら遅く地面を進みます。このイメージは、音速を補正する考え方に直結します。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 速度の矢印: 音源S、観測者O1, O2、そして風 \(v_w\) の速度を、向きと大きさの関係がわかるように矢印で図に描き込みます。
- 音の伝播方向: 各観測者に対して、音がどちら向きに伝わっているかを矢印で示します。
- 符号の基準方向: 各設問(O1について、O2について)ごとに、「音源→観測者」の向きを正とする矢印を明記します。これにより、符号ミスを劇的に減らせます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式 (\(f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f\)):
- 選定理由: 音源や観測者が媒質に対して運動することで、観測される音の振動数が変化する現象を記述するための、唯一の基本公式だからです。
- 適用根拠: この公式は、(1)波源の運動による波長の伸縮(\( \lambda’ = \frac{V-v_s}{f} \))と、(2)観測者の運動による相対的な波の速度の変化(\( V’ = V-v_o \))という2つの効果を組み合わせ、観測振動数 \(f’ = \frac{V’}{\lambda’}\) を計算した結果です。
- 速度の合成則 (\(V_{\text{地面}} = V_{\text{空気}} + V_{\text{風}}\)):
- 選定理由: (2)で、地面に静止した観測者から見た音の速さを求める必要があるため。音の速さ \(V\) は空気(媒質)に対する速さであり、その空気が地面に対して動いている(風)ため、相対速度の概念を適用する必要があります。
- 適用根拠: ガリレイの速度変換則に基づき、静止系に対する物体の速度は、運動系に対する物体の速度と、静止系に対する運動系の速度のベクトル和で与えられるという、古典力学の基本原理を適用します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 風がない場合:
- 戦略: 基本的なドップラー効果の公式を、O1とO2のそれぞれに適用する。
- フロー(O1の場合): ①音源→O1の向き(左)を正と定義 → ②\(v_o=0\), \(v_s=-v\) を決定 → ③公式 \(f_1 = \frac{V-0}{V-(-v)}f\) に代入 → ④式を整理して完了。
- フロー(O2の場合): ①音源→O2の向き(右)を正と定義 → ②\(v_o=0\), \(v_s=+v\) を決定 → ③公式 \(f_2 = \frac{V-0}{V-v}f\) に代入 → ④式を整理して完了。
- (2) 風がある場合(音速補正法):
- 戦略: 風の影響で変化した「地面に対する音速」を求め、それを公式の \(V\) として用いる。
- フロー(O1の場合): ①O1への音速は向かい風なので \(V_1 = V-v_w\) → ②(1)と同じく \(v_o=0\), \(v_s=-v\) → ③公式 \(f’_1 = \frac{V_1-v_o}{V_1-v_s}f\) に代入 → ④\(f’_1 = \frac{V-v_w}{V-v_w+v}f\) を得て完了。
- フロー(O2の場合): ①O2への音速は追い風なので \(V_2 = V+v_w\) → ②(1)と同じく \(v_o=0\), \(v_s=+v\) → ③公式 \(f’_2 = \frac{V_2-v_o}{V_2-v_s}f\) に代入 → ④\(f’_2 = \frac{V+v_w}{V+v_w-v}f\) を得て完了。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: この問題は数値計算がありませんが、複雑な問題では、まず文字式のまま最終的な形まで整理することが重要です。途中で値を代入すると、式全体の構造が見えにくくなり、ミスをしやすくなります。
- 符号の確認を徹底する: 立式した後に、その式が物理的に妥当な結果を与えるか吟味する習慣をつけましょう。例えば、音源が近づく場合(O2)、最終的な振動数は元の \(f\) より大きくなるはずです。計算した式の形が \(f_2 = \frac{V}{V-v}f > f\) となっているかを確認します。
- 別解での検算: (2)は「音速を補正する方法」と「媒質静止系で考える方法」の2通りで解けます。もし時間があれば、両方のアプローチで計算し、結果が一致することを確認すれば、計算の信頼性は格段に向上します。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 振動数の変化: O1(遠ざかる)では \(f_1 < f\)、O2(近づく)では \(f_2 > f\) となり、日常経験(救急車のサイレン)と一致しており、妥当です。
- (2) 風の影響: O1(向かい風)とO2(追い風)を比較してみましょう。\(f’_1 = \frac{V-v_w}{(V+v)-v_w}f\) と \(f’_2 = \frac{V+v_w}{(V-v)+v_w}f\) を見ると、風は音速と音源・観測者の相対速度の両方に影響を与えていることがわかります。\(v_w=0\) を代入すると(1)の答えに戻ることから、矛盾がないことが確認できます。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし \(v=0\) なら(音源が静止): (1)の式は \(f_1=f_2=f\) となり、ドップラー効果が起きないという正しい結果になります。(2)の式も \(f’_1=f’_2=f\) となり、風が吹いていても音源と観測者が共に静止していれば振動数は変わらない、という正しい結果になります。
- もし \(v_w=V\) なら(音速と同じ速さの風): O1(向かい風)への音速は \(V-V=0\) となり、音が伝わらなくなります。\(f’_1\) の式を見ると分母・分子が0になり不定形ですが、物理的には音が届かないので観測不能です。O2(追い風)への音速は \(2V\) となります。このように極端な状況を考えることで、式の物理的な意味をより深く理解できます。
270 反射体がある場合のドップラー効果
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、反射板が介在するドップラー効果を扱います。反射音は、音源から出た音が一度反射板に到達し、そこで反射されてから観測者に届くという、2つのプロセスを経て生じます。
この問題の核心は、この2つのプロセスをそれぞれ独立したドップラー効果として捉え、段階的に計算することです。
- 音源Sの振動数: \(f_0\) [Hz]
- 音速: \(V\) [m/s]
- (1) OとRは静止、SはRに向かって(右向きに)速さ \(v\) [m/s] で運動。
- (2) Oは右向きに速さ \(v\) [m/s]、Rは右向きに速さ \(r\) [m/s]、Sは右向きに速さ \(v\) [m/s] で運動。
- (1) Oが聞く反射音の振動数 \(f’\)。
- (2) Oが聞く反射音の振動数 \(f_2\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この解説は、模範解答とは一部異なる方針で進めます。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- (1) 反射音の解法: 模範解答では「鏡像」という考え方を用いていますが、これは直感的でない場合があるため、本解説ではより汎用性の高い「2段階のドップラー効果」として解く方法をメインに据えます。鏡像による解法は別解として紹介します。
- (2) 速度の符号の定義: 模範解答では、速度の符号の扱いが不明確です。本解説では「音源から観測者へ向かう向きを正とする」という一貫したルールを適用し、立式の過程をより明確にします。
- なぜこの方針を取るのか
- 「2段階ドップラー効果」は、反射板が動く場合や観測者の位置が異なる場合など、より複雑な設定にも対応できる普遍的な解法であり、教育的価値が高いと判断しました。
- 速度の符号ルールを明確にすることで、ドップラー効果の問題で最も間違いやすいポイントを克服し、学習者が論理的に立式できるようになることを目指します。
- 結果への影響
- (1)の答えは模範解答と一致しますが、立式の過程が異なります。
- (2)の答えと立式は、符号の定義を厳密に行った結果、模範解答と一致しますが、本解説ではその思考プロセスをより詳細に記述しています。
この問題のテーマは「反射板によるドップラー効果」です。この現象は、2段階のドップラー効果としてモデル化できます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 2段階ドップラー効果: 反射音の問題は、(Step 1)「Sが音源、Rが観測者」としてRが聞く振動数を計算し、(Step 2)「Rが新しい音源、Oが観測者」としてOが聞く最終的な振動数を計算する、という2段階で考えます。
- 速度の符号の規則: 各ステップで「音源から観測者へ向かう向き」を正とし、各物体の速度の符号を慎重に決定します。
- 反射板の役割: 反射板は、音を観測すると同時に、観測したその振動数で音を出す新しい音源として振る舞います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、(1)の状況で、Step 1として反射板Rが観測する振動数 \(f_1\) を求めます。次に、Step 2として、振動数 \(f_1\) の音を出す音源Rから、静止している観測者Oが聞く振動数 \(f’\) を計算します。
- 次に、(2)のより複雑な状況でも同様に、Step 1(S→R)とStep 2(R→O)の2段階で計算を進めます。すべての物体が動いているため、各ステップで速度の符号を正確に設定することが極めて重要になります。
問(1)
思考の道筋とポイント
OとRが静止し、Sのみが動く基本的な状況です。反射音の問題を「2段階のドップラー効果」として解く手順をここで確立します。
この設問における重要なポイント
- Step 1: S → R のドップラー効果
- 音源: S(右向きに速さ \(v\))
- 観測者: R(静止)
- 音はSからRへ、つまり「右向き」に進みます。この向きを正とします。
- Rが観測する振動数 \(f_1\) を計算します。
- Step 2: R → O のドップラー効果
- 音源: R(静止、振動数 \(f_1\) の音を出す)
- 観測者: O(静止)
- 音はRからOへ、つまり「左向き」に進みます。
- このステップでは、音源も観測者も静止しているため、ドップラー効果は起こりません。したがって、Oが聞く振動数 \(f’\) は \(f_1\) と同じになります。
具体的な解説と立式
この問題を2段階のドップラー効果として考えます。
Step 1: 音源Sから出て、反射板Rに届く音
この段階では、Sが音源、Rが観測者です。
- 音源Sの速度 \(v_s\): 音は右向き(S→R)に進むので、右向きを正とします。Sは右向きに速さ \(v\) で動くので、\(v_s = +v\)。
- 観測者Rの速度 \(v_o\): Rは静止しているので、\(v_o = 0\)。
したがって、反射板Rが受け取る音の振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_0 = \frac{V-0}{V-v}f_0 \quad \cdots ① $$
Step 2: 反射板Rで反射され、観測者Oに届く音
この段階では、Rが振動数 \(f_1\) の音を出す音源、Oが観測者です。
- 音源Rの速度 \(v_s\): Rは静止しているので、\(v_s = 0\)。
- 観測者Oの速度 \(v_o\): Oは静止しているので、\(v_o = 0\)。
音はRからOへ、つまり左向きに進みます。この向きを正とします。
Oが聞く反射音の振動数 \(f’\) は、
$$ f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_1 = \frac{V-0}{V-0}f_1 = f_1 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式
式①と②より、\(f_1\) を消去して \(f’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f’ &= f_1 \\[2.0ex]
&= \frac{V}{V-v}f_0
\end{aligned}
$$
反射音を聞く、というのは2ステップの伝言ゲームのようなものです。まず、動いているSさんから静止しているRさんに声が伝わります(ステップ1)。このとき、Sさんが近づいてくるので、Rさんには少し高い声に聞こえます。次に、Rさんは聞いたままの高さの声で、静止しているOさんに伝えます(ステップ2)。RさんとOさんは動いていないので、声の高さは変わりません。結果として、Oさんが聞く反射音は、Rさんが聞いた高い声と同じ高さになります。
観測者Oが聞く反射音の振動数は \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v}f_0\) [Hz] です。
音源Sが反射板Rに近づいているため、反射音の振動数は元の振動数 \(f_0\) より高くなるはずです。\(V-v < V\) なので、\(f’ > f_0\) となり、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
模範解答で用いられている方法です。反射板Rを平面鏡とみなし、その鏡に対して音源Sと対称な位置に「鏡像S’」を考えます。観測者Oが聞く反射音は、この鏡像S’から直接やってくる音と同じである、と考える方法です。
この設問における重要なポイント
- 鏡像の運動: 音源Sが反射板Rに速さ \(v\) で近づくとき、鏡像S’も鏡(反射板R)に速さ \(v\) で近づきます。つまり、鏡像S’は観測者Oに向かって(左向きに)速さ \(v\) で動いているように見えます。
- 鏡像を音源としたドップラー効果:
- 音源: 鏡像S’(左向きに速さ \(v\))
- 観測者: O(静止)
- 音はS’からOへ、つまり「左向き」に進みます。この向きを正とします。
- Oが聞く振動数 \(f’\) を計算します。
具体的な解説と立式
反射板Rに関する音源Sの鏡像をS’とします。観測者Oが聞く反射音は、この鏡像S’が音源となって発する音と等価です。
Sが右向きに速さ \(v\) で動くとき、鏡像S’は左向きに速さ \(v\) で動きます。
この状況で、S’を音源、Oを観測者としてドップラー効果を考えます。
- 音源S’の速度 \(v_s\): 音は左向き(S’→O)に進むので、左向きを正とします。S’は左向きに速さ \(v\) で動くので、\(v_s = +v\)。
- 観測者Oの速度 \(v_o\): Oは静止しているので、\(v_o = 0\)。
したがって、Oが聞く振動数 \(f’\) は、
$$ f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_0 = \frac{V-0}{V-v}f_0 $$
この解法でも、\(f’ = \displaystyle\frac{V}{V-v}f_0\) [Hz] という同じ結果が得られます。鏡像の考え方は、特に反射板と観測者が静止している場合に計算を1ステップで済ませられる便利な方法です。しかし、反射板や観測者が動く複雑な場合には適用が難しくなるため、2段階で考える方法を基本とするのが安全です。
問(2)
思考の道筋とポイント
音源S、観測者O、反射板Rのすべてが動く、より一般化された状況です。しかし、基本的な考え方は(1)と同じ「2段階のドップラー効果」です。各ステップで、音の進行方向を基準に速度の符号を一つ一つ慎重に設定することが、正解への唯一の道です。
この設問における重要なポイント
- Step 1: S → R のドップラー効果
- 音源: S(右向きに速さ \(v\))
- 観測者: R(右向きに速さ \(r\))
- 音はSからRへ、つまり「右向き」に進みます。この向きを正とします。
- Rが観測する振動数 \(f_1\) を計算します。
- Step 2: R → O のドップラー効果
- 音源: R(右向きに速さ \(r\)、振動数 \(f_1\) の音を出す)
- 観測者: O(右向きに速さ \(v\))
- 音はRからOへ、つまり「左向き」に進みます。この向きを正とします。
- Oが聞く最終的な振動数 \(f_2\) を計算します。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、2段階のドップラー効果として考えます。
Step 1: 音源Sから出て、反射板Rに届く音
この段階では、Sが音源、Rが観測者です。
- 音の進行方向: S→R(右向き)。したがって、右向きを正とします。
- 音源Sの速度 \(v_s\): 右向きに速さ \(v\) なので、\(v_s = +v\)。
- 観測者Rの速度 \(v_o\): 右向きに速さ \(r\) なので、\(v_o = +r\)。
したがって、反射板Rが受け取る音の振動数 \(f_1\) は、
$$ f_1 = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_0 = \frac{V-r}{V-v}f_0 \quad \cdots ③ $$
Step 2: 反射板Rで反射され、観測者Oに届く音
この段階では、Rが振動数 \(f_1\) の音を出す音源、Oが観測者です。
- 音の進行方向: R→O(左向き)。したがって、左向きを正とします。
- 音源Rの速度 \(v_s\): 右向きに速さ \(r\) なので、\(v_s = -r\)。
- 観測者Oの速度 \(v_o\): 右向きに速さ \(v\) なので、\(v_o = -v\)。
Oが聞く反射音の振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V-v_o}{V-v_s}f_1 = \frac{V-(-v)}{V-(-r)}f_1 = \frac{V+v}{V+r}f_1 \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の公式
式③と④より、\(f_1\) を消去して \(f_2\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V+v}{V+r} \times f_1 \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{V+r} \times \frac{V-r}{V-v}f_0 \\[2.0ex]
&= \frac{(V+v)(V-r)}{(V-v)(V+r)}f_0
\end{aligned}
$$
全員が動いている複雑な状況ですが、やることは同じです。まず、動いているSさんから動いているRさんへ声が伝わるときの声の変化を計算します(ステップ1)。次に、その変化した声で、動いているRさんから動いているOさんへ声が伝わるときの、さらなる声の変化を計算します(ステップ2)。それぞれのステップで、音が進む向きを基準に、全員の速度のプラス・マイナスを間違えないように設定することが重要です。
観測者Oが聞く反射音の振動数は \(f_2 = \displaystyle\frac{(V+v)(V-r)}{(V-v)(V+r)}f_0\) [Hz] です。
この式は複雑ですが、(1)の状況(\(r=0\), Oは静止)を代入してみましょう。Oは静止しているので、Step2の観測者速度は \(v_o=0\) となります。
Step1: \(f_1 = \frac{V-0}{V-v}f_0 = \frac{V}{V-v}f_0\)
Step2: \(f_2 = \frac{V-0}{V-0}f_1 = f_1\)
よって、\(f_2 = \frac{V}{V-v}f_0\) となり、(1)の答えと一致します。このように、簡単な場合に立ち返って検算することで、複雑な式の妥当性を確認できます。(注:問題文(2)のOの速さは\(v\)なので、(1)の状況にするにはOの速さも0にする必要があります。その場合、\(f_2 = \frac{(V+0)(V-0)}{(V-v)(V+0)}f_0 = \frac{V}{V-v}f_0\) となり、やはり(1)の答えと一致します。)
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 2段階ドップラー効果のモデル化:
- 核心: 反射板が介在する問題は、一見複雑に見えますが、本質的には2つの単純なドップラー効果の組み合わせです。
- Step 1: 音源 → 反射板: まず、元の音源(S)から出た音が、動く観測者としての反射板(R)にどう聞こえるかを計算します。
- Step 2: 反射板 → 観測者: 次に、反射板(R)が観測したその振動数で音を出す「新しい音源」となり、その音を最終的な観測者(O)がどう聞くかを計算します。
この2段階の考え方を適用できるかどうかが、この問題の最大の鍵です。
- 理解のポイント: 反射板は、音をただ跳ね返すだけでなく、「一度受信して、その受信した周波数で再送信する」という能動的な役割を担っていると考えると、このモデル化が理解しやすくなります。
- 核心: 反射板が介在する問題は、一見複雑に見えますが、本質的には2つの単純なドップラー効果の組み合わせです。
- 一貫した速度の符号ルールの適用:
- 核心: ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_o}{V-v_s}f\) を使う上で、最も重要なのが速度の符号です。各ステップごとに「音源から観測者へ向かう向き」を正と定め、その基準に従って \(v_s\) と \(v_o\) の符号を機械的に決定します。
- 理解のポイント: (2)のStep 2(R→O)では、音は左に進むので「左向きが正」となります。したがって、右向きに動くRとOの速度は、このステップでは両方とも負の値(\(v_s = -r\), \(v_o = -v\))として代入されます。この符号の切り替えを正確に行うことが、正解への必須条件です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 観測者が音源と反射板の間にいる場合: この問題ではO-S-Rの順でしたが、S-O-Rの順に観測者がいる場合でも、2段階の考え方は全く同じです。Step 2(R→O)で、音の進行方向(左向き)と観測者Oの運動方向の関係から、符号を正しく設定すれば解けます。
- 風が吹いている場合: もしこの状況で風が吹いていたら、各ステップの音速 \(V\) を風速で補正(\(V \pm v_w\))します。Step 1(S→R)とStep 2(R→O)で音の進行方向が逆になるため、風による補正の仕方も逆になる点に注意が必要です。
- うなり: 観測者が、音源からの直接音と反射音を同時に聞くことで「うなり」が生じる問題。この場合、(A)直接音の振動数 \(f_{\text{直}}\) と (B)反射音の振動数 \(f_{\text{反}}\) をそれぞれ計算し、うなりの振動数 \(f_{\text{うなり}} = |f_{\text{直}} – f_{\text{反}}|\) を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 音の経路を図示する: 音が「S → R → O」という経路をたどることを矢印で図に描き込みます。
- ステップごとに分解する: 複雑な問題ほど、問題を「Step 1: S→R」と「Step 2: R→O」の2つの単純な問題に分割します。
- 各ステップで役割と符号を再定義する: ステップごとに「誰が音源か」「誰が観測者か」「どちら向きが正か」を明確に定義し直します。これを怠ると、符号ミスにつながります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 符号設定の基準が曖昧になる:
- 誤解: 問題全体で「右向きを正」のように固定した座標軸で考えてしまい、ドップラー効果の公式にそのまま代入してしまう。
- 対策: ドップラー効果の公式は、それ自体が相対的な関係を表す式です。必ず「音の進行方向を正」というルールを、ステップごとに適用する習慣を徹底しましょう。
- 反射板をただの壁と考えてしまう:
- 誤解: 反射板が動いているのに、Step 2で反射板を静止した音源として扱ってしまう。
- 対策: 反射板は「観測者」であり、かつ「音源」でもあります。Step 2では、Step 1で計算した振動数 \(f_1\) の音を出しながら、自身の速度で運動する「動く音源」として扱わなければなりません。
- 鏡像の考え方の誤用:
- 誤解: 反射板や観測者が動いている複雑な状況(問2など)で、安易に鏡像の考え方を使おうとして混乱する。
- 対策: 鏡像による解法は、(1)のように反射板と観測者が静止している場合に有効なショートカットです。物体が複雑に動く場合は、遠回りに見えても「2段階ドップラー効果」で解く方が確実で、間違いがありません。原則として2段階で解き、検算や簡単なケースでのみ鏡像法を使う、と心得ましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 伝言ゲームのイメージ: 「Sさん → Rさん → Oさん」という3人の伝言ゲームを想像します。Sさんが動いていれば、Rさんには違う高さの声に聞こえます。次にRさんが動いていれば、Oさんにはさらに違う高さの声に聞こえます。この「声の変化が2回起こる」というイメージが、2段階ドップラー効果のモデルに直結します。
- ステップごとの図: 1枚の図に全てを書き込むのではなく、
- 「Step 1: S→R」の状況図(S, Rの速度、音の進行方向、正の向きを記入)
- 「Step 2: R→O」の状況図(R, Oの速度、音の進行方向、正の向きを記入)
と、2枚の図に分けて描くと、思考が整理され、符号ミスを防ぐことができます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式 (\(f’ = \frac{V-v_o}{V-v_s}f\)):
- 選定理由: 音源と観測者の相対運動によって振動数が変化する現象を記述する、物理学の基本法則だからです。この問題は、この法則を2回適用することで解けるように設計されています。
- 適用根拠: 反射という物理現象を、「音の吸収と再放出」と見なすことで、ドップラー効果の公式が適用可能な2つの独立した事象に分解できる、というモデル化に基づいています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 反射音の計算(基本):
- 戦略: 2段階ドップラー効果を適用する。
- フロー: ①【Step1: S→R】音の向き(右)を正とし、\(v_s=+v, v_o=0\) で \(f_1\) を計算 → ②【Step2: R→O】音の向き(左)を正とし、\(v_s=0, v_o=0\) で \(f’\) を計算 → ③ \(f’ = f_1\) となるので、\(f_1\) の式を代入して完了。
- (2) 反射音の計算(応用):
- 戦略: 同じく2段階ドップラー効果を適用。符号設定を慎重に行う。
- フロー: ①【Step1: S→R】音の向き(右)を正とし、\(v_s=+v, v_o=+r\) で \(f_1\) を立式 → ②【Step2: R→O】音の向き(左)を正とし、\(v_s=-r, v_o=-v\) で \(f_2\) を \(f_1\) を用いて立式 → ③ ②の式に①の式を代入し、\(f_1\) を消去して整理する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算を進める: (2)の計算では、\(f_1\) と \(f_2\) の式をまず文字式のまま立て、最後に代入して整理します。これにより、計算の見通しが良くなります。
\(f_2 = \displaystyle\frac{V+v}{V+r}f_1\) と \(f_1 = \displaystyle\frac{V-r}{V-v}f_0\) という関係を明確にしてから、代入を実行することで、ケアレスミスを防げます。 - 分数の扱いに注意: 最終的な答えは分数が入れ子になる形です。\( \frac{A}{B} \times \frac{C}{D} = \frac{AC}{BD} \) という基本的な計算を落ち着いて行いましょう。
- 検算の習慣: (2)で得られた複雑な式に、(1)の条件(\(r=0\), Oの速度も0)を代入してみて、(1)の答えと一致するかどうかを確認する(これを「縮退の確認」といいます)のは、非常に有効な検算方法です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 振動数: \(f’ = \frac{V}{V-v}f_0\)。分母が \(V\) より小さいので、\(f’ > f_0\) となります。音源Sが反射板に近づいているので、反射音が高くなるのは物理的に妥当です。
- (2) 振動数: \(f_2 = \frac{(V+v)(V-r)}{(V-v)(V+r)}f_0\)。この式は複雑ですが、各項が物理的にどう影響するか考えてみましょう。例えば、もし反射板Rの速度 \(r\) が非常に大きくなると、分母の \(V+r\) が大きくなり、分子の \(V-r\) は小さく(負に大きく)なるため、\(f_2\) は小さくなる傾向があります。これは、反射板が猛スピードで遠ざかっていくため、音が低くなるという直感と一致します。
- 別解との比較:
- (1)は「2段階ドップラー効果」と「鏡像」の2つのアプローチで解けました。両者で全く同じ結果が得られたことは、計算の正しさと物理モデルの妥当性を裏付けています。異なる視点から同じ結論に至る経験は、物理の深い理解につながります。
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