Step 2
264 動く音源の波長
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「動く音源によるドップラー効果の基本的な計算」です。音源の進行方向前方と後方で、それぞれ波長と振動数がどのように変化するかを、公式を用いて正確に計算する能力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の基本原理: 音源が動くと、進行方向前方では波が圧縮されて波長が短くなり、後方では波が引き伸ばされて波長が長くなります。
- 波長の公式(音源が動く場合): 観測される波長 \(\lambda’\) は、音源が近づく場合は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_S}{f}\)、遠ざかる場合は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_S}{f}\) となります。
- 波の基本式: 音速 \(V\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\) の間には、常に \(V = f\lambda\) の関係が成り立ちます。観測される振動数 \(f’\) は、変化した波長 \(\lambda’\) を用いて \(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\) から求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、音源Sが観測点Pに「近づく」状況を考え、波長が短くなる公式を適用して波長を求め、次に波の基本式から振動数を計算します。
- (2)では、音源Sが観測点Qから「遠ざかる」状況を考え、波長が長くなる公式を適用して波長を求め、次に波の基本式から振動数を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
音源Sは点Pに向かって動いているため、点Pにいる観測者にとっては音源が「近づいて」きます。このとき、音波は進行方向に圧縮され、波長は短くなり、振動数は高くなります。この物理現象を正しく理解し、対応する公式を使って波長と振動数を計算します。
この設問における重要なポイント
- 音源が観測者に近づく場合、波長は短くなる。
- 波長の公式: \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-v_S}{f}\)
- 観測される振動数は、波の基本式 \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_1}\) から求める。
具体的な解説と立式
点Pに伝わる音波の波長 \(\lambda_1\)
音源Sは速さ \(v_S = 20 \, \text{m/s}\) で点Pに近づいています。音速は \(V = 340 \, \text{m/s}\)、音源の振動数は \(f = 500 \, \text{Hz}\) です。
音源が近づく場合、波長は圧縮されて短くなるため、次の式を用います。
$$ \lambda_1 = \frac{V-v_S}{f} $$
点Pで観測される振動数 \(f_1\)
点Pで観測される振動数 \(f_1\) は、音速 \(V\) と、上で求めた波長 \(\lambda_1\) を用いて、波の基本式から計算できます。
$$ f_1 = \frac{V}{\lambda_1} $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の波長の式(音源が近づく場合): \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_S}{f}\)
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
波長 \(\lambda_1\) の計算:
与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_1 &= \frac{340 – 20}{500} \\[2.0ex]&= \frac{320}{500} \\[2.0ex]&= 0.640 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
振動数 \(f_1\) の計算:
計算した \(\lambda_1\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{340}{0.640} \\[2.0ex]&= 531.25 \, \text{[Hz]}
\end{aligned}
$$
問題で与えられた数値の有効数字は2桁または3桁ですが、解答の形式に合わせて有効数字3桁とし、531 [Hz] とします。
救急車が自分に向かってくると、サイレンの音は圧縮されて波長が短くなります。まず、この短くなった波長を計算します。次に、音の高さ(振動数)は「速さ ÷ 波長」で決まるので、この関係を使って、実際に聞こえる高い方の音の振動数を求めます。
点Pに伝わる音波の波長は \(0.640 \, \text{m}\)、観測される振動数は \(531 \, \text{Hz}\) です。音源が近づくことで、波長は静止時(\(340/500 = 0.68 \, \text{m}\))より短くなり、振動数は元の振動数(\(500 \, \text{Hz}\))より高くなっています。この結果は物理的な予測と一致しており、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
点Qは、音源Sの進行方向と反対側にあります。したがって、点Qにいる観測者にとっては音源が「遠ざかって」いきます。このとき、音波は進行方向後方に引き伸ばされ、波長は長くなり、振動数は低くなります。この物理現象に対応する公式を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 音源が観測者から遠ざかる場合、波長は長くなる。
- 波長の公式: \(\lambda_2 = \displaystyle\frac{V+v_S}{f}\)
- 観測される振動数は、波の基本式 \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_2}\) から求める。
具体的な解説と立式
点Qに伝わる音波の波長 \(\lambda_2\)
音源Sは点Qから速さ \(v_S = 20 \, \text{m/s}\) で遠ざかっています。
音源が遠ざかる場合、波長は引き伸ばされて長くなるため、次の式を用います。
$$ \lambda_2 = \frac{V+v_S}{f} $$
点Qで観測される振動数 \(f_2\)
点Qで観測される振動数 \(f_2\) は、音速 \(V\) と、上で求めた波長 \(\lambda_2\) を用いて、波の基本式から計算できます。
$$ f_2 = \frac{V}{\lambda_2} $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の波長の式(音源が遠ざかる場合): \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_S}{f}\)
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
波長 \(\lambda_2\) の計算:
与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_2 &= \frac{340 + 20}{500} \\[2.0ex]&= \frac{360}{500} \\[2.0ex]&= 0.720 \, \text{[m]}
\end{aligned}
$$
振動数 \(f_2\) の計算:
計算した \(\lambda_2\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{340}{0.720} \\[2.0ex]&= 472.22\dots \, \text{[Hz]}
\end{aligned}
$$
有効数字3桁とし、472 [Hz] とします。
救急車が自分から遠ざかっていくと、サイレンの音は間延びして波長が長くなります。まず、この長くなった波長を計算します。次に、「振動数 = 速さ ÷ 波長」の関係を使って、実際に聞こえる低い方の音の振動数を求めます。
点Qに伝わる音波の波長は \(0.720 \, \text{m}\)、観測される振動数は \(472 \, \text{Hz}\) です。音源が遠ざかることで、波長は静止時(\(0.68 \, \text{m}\))より長くなり、振動数は元の振動数(\(500 \, \text{Hz}\))より低くなっています。この結果は物理的な予測と一致しており、妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果による波長の変化:
- 核心: 音源が運動することで、音源の前方と後方で波の「波長」が変化することが、ドップラー効果の根本的な原因です。
- 理解のポイント:
- 前方(近づく場合): 波がぎゅっと「圧縮」され、波長は短くなります。公式: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_S}{f}\)。
- 後方(遠ざかる場合): 波がだらっと「伸長」され、波長は長くなります。公式: \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V+v_S}{f}\)。
- 波の基本式による振動数の決定:
- 核心: 観測者が聞く音の高さ(振動数 \(f’\))は、この変化した波長 \(\lambda’\) と、不変の音速 \(V\) によって、波の基本式 \(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\) から一意に決まります。
- 理解のポイント: ドップラー効果の問題は、(1)まず波長の変化を求め、(2)次に波の基本式で振動数を求める、という2段階のプロセスで解くのが最も確実で物理的理解も深まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 観測者が動く場合: 観測者が動く場合は、波長は変化せず、観測者が波を横切る相対速度が変化します。このタイプの問題と混同しないように注意が必要です。
- 斜め方向のドップラー効果: 音源が観測者の真横を通過するような問題。この場合、音源の速度ベクトルを、観測者と音源を結ぶ直線方向の成分に分解して \(v_S\) として用いる必要があります。真横を通過する瞬間は、直線方向の速度成分が0になるため、ドップラー効果は起こりません。
- 風が吹いている場合: 媒質である空気が動いているので、音速 \(V\) そのものが変化します。風上へは \(V-w\)、風下へは \(V+w\) のように音速を補正してから、ドップラー効果の計算を行います。
- 初見の問題での着眼点:
- 音源と観測者の位置関係: まず、音源が観測者に「近づく」のか「遠ざかる」のかを正確に把握します。これが全ての計算の出発点です。
- 物理量の整理: 問題文から、音速 \(V\)、音源の速さ \(v_S\)、音源の振動数 \(f\) の値を正確に抜き出し、記号と数値を対応させます。
- 計算の2段階プロセスを意識: 「①波長を求める → ②振動数を求める」という流れを常に意識します。振動数を直接求める公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S}f\) も便利ですが、波長を一度経由することで、物理的なイメージが掴みやすくなり、応用問題にも強くなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 近づく場合と遠ざかる場合の公式の混同:
- 誤解: (1)と(2)で、分母の符号(\(V-v_S\) か \(V+v_S\) か)を逆にしてしまう。
- 対策: 「近づくと音は高くなる(振動数大→波長小)」「遠ざかると音は低くなる(振動数小→波長大)」という物理現象を常に念頭に置きます。波長を小さくするには分母を \(V-v_S\) に、波長を大きくするには分母を \(V+v_S\) にすればよい、と結果から逆算して公式を適用する習慣をつけるとミスが減ります。
- 有効数字の処理ミス:
- 誤解: 計算途中で四捨五入してしまい、最終的な答えに誤差が生じる。例えば、(1)で \(\lambda_1 = 0.64 \, \text{m}\) としてから \(f_1\) を計算すると、結果が微妙にずれる可能性があります。
- 対策: 計算途中では、できるだけ多くの桁数を保持するか、分数のまま計算を進めるのが理想です。最終的な答えを出す段階で、問題の指示や与えられた数値の有効数字に合わせて四捨五入します。
- 単位のつけ忘れ:
- 誤解: 波長に [Hz]、振動数に [m] といった単位の間違いや、単位のつけ忘れ。
- 対策: 答えを書く最後の瞬間に、「何を求めたのか?」を再確認し、波長なら [m]、振動数なら [Hz] と、正しい単位を記述する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波長の公式 (\(\lambda’ = \displaystyle\frac{V \mp v_S}{f}\)):
- 選定理由: (1)と(2)で、音源の運動によって変化した波長を直接計算するために使用します。これはドップラー効果の定義から導かれる関係式です。
- 適用根拠:
- (1) 点P(近づく場合): 1秒間に \(f\) 個の波が、音源が静止している場合より \(v_S\) だけ短い区間 \((V-v_S)\) に詰め込まれるため、波1個の長さ(波長)は \(\displaystyle\frac{V-v_S}{f}\) となります。
- (2) 点Q(遠ざかる場合): 1秒間に \(f\) 個の波が、音源が静止している場合より \(v_S\) だけ長い区間 \((V+v_S)\) に引き伸ばされるため、波1個の長さ(波長)は \(\displaystyle\frac{V+v_S}{f}\) となります。
- 波の基本式 (\(f’ = \displaystyle\frac{V}{\lambda’}\)):
- 選定理由: 計算した新しい波長 \(\lambda’\) をもとに、観測者が聞く振動数 \(f’\) を求めるために使用します。
- 適用根拠: 観測者にとって、音は常に音速 \(V\) で伝わってきます。その波の空間的なパターン(波長 \(\lambda’\))が分かれば、時間的なパターン(振動数 \(f’\))は、普遍的な関係式である \(V=f’\lambda’\) によって一意に決まります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 簡単な割り算でも油断しない: \(320 \div 500\) や \(360 \div 500\) といった計算は、小数点の位置を間違えやすいです。\(32 \div 50\) や \(3.6 \div 5\) のように、0を消して簡単な形にしてから計算するとミスが減ります。
- 電卓がない場合: \(340 \div 0.64\) のような計算は、\(34000 \div 64\) の筆算になります。計算スペースを十分に取り、落ち着いて計算しましょう。検算として、おおよその値を予測するのも有効です(例: \(300 \div 0.6 = 500\) なので、答えは500より少し大きいはず、など)。
- 問題文の数値をマークする: 計算に使う数値(\(V=340, v_S=20, f=500\))を問題文で丸で囲むなどして、代入ミスを防ぎます。特に似たような数値が多い問題では有効です。
265 ドップラー効果とうなり
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複数の動く音源によるドップラー効果と、観測者の位置による聞こえ方の違い」です。2つの音源からの音を、異なる位置にいる2人の観測者がそれぞれどのように聞くかを分析します。ドップラー効果の基本に加え、うなりの原理や、観測者の位置によって「近づく」「遠ざかる」の関係がどう変わるかを正確に把握する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果(音源が動く場合): 音源が観測者に近づくか遠ざかるかによって、観測される波長と振動数が変化します。
- 観測者の位置と相対運動: 音源の運動方向が同じでも、観測者の位置によって、音源が「近づいてくる」のか「遠ざかっていく」のかの関係性が変わります。
- うなりの原理: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に聞くと、音の強弱が周期的に変化する「うなり」が生じます。1秒あたりのうなりの回数は、2つの音の振動数の差の絶対値で与えられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- Iでは、観測者Aから見て2つの音源S1, S2がそれぞれ「近づいてくる」状況として、ドップラー効果を適用し、各振動数を求めます。その後、2つの振動数の差からうなりの回数を計算します。
- IIでは、観測者Bの位置から見たときのS1, S2との相対運動を考えます。S1は「遠ざかり」、S2は「近づく」状況になることを把握し、それぞれの振動数を求め、Iの場合と比較します。
I. 観測者Aについて
問(1)
思考の道筋とポイント
静止している観測者Aと、左向きに動く音源S1の関係を考えます。図から、観測者Aは音源S1の進行方向前方にいるため、音源S1は観測者Aに「近づいて」きます。したがって、音波は圧縮され、波長は短くなり、振動数は高くなります。
この設問における重要なポイント
- 音源が観測者に近づく場合、波長は短くなる。
- 波長の公式: \(\lambda_1 = \displaystyle\frac{V-v_1}{f}\)
- 観測される振動数は、波の基本式 \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{\lambda_1}\) から求める。
具体的な解説と立式
音源S1からの音の波長 \(\lambda_1\)
音源S1は速さ \(v_1\) で観測者Aに近づいています。音源が近づく場合、波長は圧縮されて短くなるため、次の式を用います。
$$ \lambda_1 = \frac{V-v_1}{f} $$
音源S1からの音の振動数 \(f_1\)
観測者Aが聞く振動数 \(f_1\) は、音速 \(V\) と波長 \(\lambda_1\) を用いて、波の基本式から計算できます。
$$ f_1 = \frac{V}{\lambda_1} $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の波長の式(音源が近づく場合): \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_S}{f}\)
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
振動数 \(f_1\) の計算:
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V}{\lambda_1} \\[2.0ex]&= \frac{V}{\displaystyle\frac{V-v_1}{f}} \\[2.0ex]&= \frac{V}{V-v_1}f
\end{aligned}
$$
音源S1は観測者Aに向かってくるので、音は圧縮されて波長が短くなります。そして、音は高く聞こえます。まず波長を求め、次に「振動数=速さ÷波長」の関係から、高く聞こえる音の振動数を計算します。
音源S1が近づくため、波長は \(\displaystyle\frac{V-v_1}{f}\) となり、振動数は \(\displaystyle\frac{V}{V-v_1}f\) となります。\(V > v_1\) より分母は \(V\) より小さく、振動数は \(f\) より大きくなるため、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
静止している観測者Aと、左向きに動く音源S2の関係を考えます。音源S2も観測者Aの方向へ動いているため、音源S2は観測者Aに「近づいて」きます。問(1)と同様に、波長は短くなり、振動数は高くなります。
この設問における重要なポイント
- 音源が観測者に近づく場合、波長は短くなる。
- 添え字を間違えないように、S2の速さ \(v_2\) を用いて計算する。
具体的な解説と立式
音源S2からの音の波長 \(\lambda_2\)
音源S2は速さ \(v_2\) で観測者Aに近づいています。問(1)と同様の考え方で、
$$ \lambda_2 = \frac{V-v_2}{f} $$
音源S2からの音の振動数 \(f_2\)
観測者Aが聞くS2からの音の振動数 \(f_2\) は、
$$ f_2 = \frac{V}{\lambda_2} $$
使用した物理公式
- ドップラー効果の波長の式(音源が近づく場合): \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_S}{f}\)
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
振動数 \(f_2\) の計算:
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V}{\lambda_2} \\[2.0ex]&= \frac{V}{\displaystyle\frac{V-v_2}{f}} \\[2.0ex]&= \frac{V}{V-v_2}f
\end{aligned}
$$
音源S2も観測者Aに向かってくるので、S1の場合と考え方は同じです。S2の速さを使って、同様に計算します。
音源S2が近づくため、波長は \(\displaystyle\frac{V-v_2}{f}\) となり、振動数は \(\displaystyle\frac{V}{V-v_2}f\) となります。結果は物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
観測者Aは、振動数 \(f_1\) の音と振動数 \(f_2\) の音を同時に聞きます。問題の条件から \(v_1 > v_2\) なので、\(f_1\) と \(f_2\) は異なる値となり、うなりが生じます。1秒あたりのうなりの回数 \(N_A\) は、2つの振動数の差の絶対値 \(|f_1 – f_2|\) で求められます。
この設問における重要なポイント
- うなりの公式: \(N = |f_A – f_B|\)
- 計算の前に、\(f_1\) と \(f_2\) の大小関係を比較する。
具体的な解説と立式
1秒あたりのうなりの回数 \(N_A\) は、
$$ N_A = |f_1 – f_2| $$
ここで、\(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V-v_1}f\), \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{V-v_2}f\) です。
問題の条件 \(v_1 > v_2 > 0\) より、\(V-v_1 < V-v_2\) となります。分母が小さいほど分数の値は大きくなるので、\(f_1 > f_2\) であることがわかります。
したがって、絶対値はそのまま外すことができます。
$$ N_A = f_1 – f_2 $$
使用した物理公式
- うなりの公式: \(N = |f_A – f_B|\)
$$
\begin{aligned}
N_A &= f_1 – f_2 \\[2.0ex]&= \frac{V}{V-v_1}f – \frac{V}{V-v_2}f \\[2.0ex]&= Vf \left( \frac{1}{V-v_1} – \frac{1}{V-v_2} \right) \\[2.0ex]&= Vf \left( \frac{(V-v_2) – (V-v_1)}{(V-v_1)(V-v_2)} \right) \\[2.0ex]&= Vf \left( \frac{V-v_2 – V+v_1}{(V-v_1)(V-v_2)} \right) \\[2.0ex]&= \frac{V(v_1-v_2)}{(V-v_1)(V-v_2)}f
\end{aligned}
$$
観測者Aには、S1からの「とても高い音」と、S2からの「少し高い音」が同時に届きます。この2つの音の高さの「ずれ」が、1秒間に「ワーンワーン」と聞こえる回数になります。計算は、2つの振動数を引き算するだけです。
うなりの回数が、2つの音源の速度差 \(v_1-v_2\) に比例するような形で表されました。もし \(v_1=v_2\) ならばうなりは生じず \(N_A=0\) となり、直感と一致します。結果は妥当です。
II. 観測者Bについて
問(4)
思考の道筋とポイント
観測者BはS1とS2の間にいます。この位置で聞こえる音の高さが、観測者Aが聞いた音の高さとどう違うかを考えます。ポイントは、観測者の位置が変わることで、音源との「近づく・遠ざかる」の関係が変化することです。
- S1とBの関係: 音源S1は左向きに動いているので、Bから見ると「遠ざかって」いきます。
- S2とBの関係: 音源S2も左向きに動いているので、Bから見ると「近づいて」きます。
この関係に基づいて、Bが聞く振動数 \(f_1’\) と \(f_2’\) を求め、Aが聞いた \(f_1\) と \(f_2\) と比較します。
この設問における重要なポイント
- 観測者の位置によって、ドップラー効果の状況(接近か後退か)が変わる。
- 遠ざかる場合は振動数が低くなり、近づく場合は振動数が高くなる。
具体的な解説と立式
観測者Bが聞くS1からの音の振動数 \(f_1’\)
音源S1は観測者Bから遠ざかるため、振動数は低くなります。
$$ f_1′ = \frac{V}{V+v_1}f $$
観測者Bが聞くS2からの音の振動数 \(f_2’\)
音源S2は観測者Bに近づくため、振動数は高くなります。
$$ f_2′ = \frac{V}{V-v_2}f $$
観測者Aが聞いた音との比較
- S1からの音: Aが聞いたのは \(f_1 = \displaystyle\frac{V}{V-v_1}f\)。Bが聞くのは \(f_1′ = \displaystyle\frac{V}{V+v_1}f\)。明らかに \(f_1 \neq f_1’\) です。
- S2からの音: Aが聞いたのは \(f_2 = \displaystyle\frac{V}{V-v_2}f\)。Bが聞くのも \(f_2′ = \displaystyle\frac{V}{V-v_2}f\)。よって \(f_2 = f_2’\) です。
したがって、観測者AとBで聞こえる音の高さが異なるのは、音源S1からの音です。その振動数は \(f_1’\) です。
使用した物理公式
- ドップラー効果の振動数の式(音源が動く場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S}f\)
上記の比較により、求める音源はS1であり、その振動数は \(f_1’\) であることがわかります。
$$ f_1′ = \frac{V}{V+v_1}f $$
Aさんにとっては、S1もS2も自分に向かってくるので、どちらの音も高く聞こえます。
一方、Bさんの位置に立つと、S1は自分から走り去っていくので音は低く聞こえ、S2は自分に向かってくるので音は高く聞こえます。
この二人の聞こえ方を比べると、S2からの音はどちらにとっても「近づいてくる」状況なので同じ高さに聞こえます。しかし、S1からの音は、Aさんには「近づく」高い音、Bさんには「遠ざかる」低い音に聞こえるため、異なっています。
観測者の位置によって音源との相対的な運動が変化し、聞こえる音が変わるというドップラー効果の本質を問う問題です。S1からの音の高さが異なり、その振動数は \(\displaystyle\frac{V}{V+v_1}f\) となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果における相対運動の重要性:
- 核心: ドップラー効果は、音源と観測者の「相対的な」運動(近づくか、遠ざかるか)によって決まります。音源の絶対的な運動方向だけではなく、観測者がどこにいるかが極めて重要です。
- 理解のポイント:
- 観測者A: 音源S1, S2の進行方向前方にいるため、両方の音源が「近づく」と観測します。
- 観測者B: S1とS2の間にいるため、S1は「遠ざかり」、S2は「近づく」と観測します。この位置関係の把握が問題の鍵です。
- うなりの発生条件と計算:
- 核心: 観測者が同時に聞く2つの音の振動数が異なるとき、うなりが生じます。
- 理解のポイント: 観測者Aは、速さの違うS1とS2が共に近づいてくるため、振動数が異なる2つの高い音(\(f_1, f_2\))を聞き、うなりを観測します。うなりの回数は振動数の差 \(|f_1 – f_2|\) で計算できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 観測者が動く場合: 観測者AまたはBが動いている場合、全ての計算に観測者の速度 \(v_O\) の効果(分子の \(V \mp v_O\))を考慮する必要があります。
- 音源が互いに逆向きに動く場合: 例えばS1が左向き、S2が右向きに動く場合、観測者A, Bから見た「接近・後退」の関係が変化します。
- 音源が観測者を追い越す場合: 観測者の前を音源が通過する前後で、ドップラー効果が「近づく」から「遠ざかる」に切り替わります。この切り替わりの前後で聞こえる振動数をそれぞれ計算する問題などがあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 図を丁寧に分析する: まず、図から音源と観測者の位置関係、および運動の向きを正確に読み取ります。矢印を書き込むなどして視覚化するのが有効です。
- 観測者ごとに状況を整理する: 観測者が複数いる場合は、一人ずつに注目し、その観測者から見た各音源の運動(接近か後退か)をリストアップします。
- Aから見たS1: 接近
- Aから見たS2: 接近
- Bから見たS1: 後退
- Bから見たS2: 接近
- 振動数の大小を予測する: 計算前に、各状況で振動数が元の \(f\) より高くなるか低くなるかを予測します。これにより、公式の符号選択ミスを防ぎ、計算結果を検算できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 観測者の位置を無視するミス:
- 誤解: 音源が2つとも左向きに動いているから、どの観測者にとっても同じように聞こえるだろうと早合点してしまう。
- 対策: 常に「観測者から見て」どう動いているかを考える癖をつけます。自分自身がその観測者の位置に立ったら、音源は自分に近づいてくるか、遠ざかっていくかをイメージすることが重要です。
- うなりの計算での大小関係のミス:
- 誤解: (3)で \(f_1\) と \(f_2\) の大小を考えずに、適当に \(f_2 – f_1\) などと計算してしまう。
- 対策: \(v_1 > v_2\) という条件から、分母の \(V-v_1\) と \(V-v_2\) の大小関係を考え、そこから \(f_1\) と \(f_2\) の大小関係を論理的に導き出してから引き算を実行します。速い方がより圧縮効果が強いので、振動数はより高くなる、と物理的に考えても良いでしょう。
- 文字式の通分ミス:
- 誤解: (3)のうなりの計算で、\((V-v_1)(V-v_2)\) で通分した後の分子の計算 \((V-v_2) – (V-v_1)\) で符号を間違える。
- 対策: カッコを省略せずに丁寧に書くことが鉄則です。\((V-v_2) – (V-v_1) = V-v_2 – V + v_1\) のように、分配法則を正確に適用します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の振動数の式 (\(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S}f\)):
- 選定理由: この問題では、音源が動き観測者が静止しているため、この公式が基本となります。波長を介さずに直接振動数を求めることができます。
- 適用根拠:
- 接近する場合(AとS1, AとS2, BとS2): 振動数が高くなる(\(f’ > f\))ように、分母が小さくなる \(V-v_S\) を選択します。
- 遠ざかる場合(BとS1): 振動数が低くなる(\(f’ < f\))ように、分母が大きくなる \(V+v_S\) を選択します。
この「結果から符号を判断する」思考法は、公式の丸暗記によるミスを防ぐのに非常に有効です。
- うなりの公式 (\(N = |f_A – f_B|\)):
- 選定理由: (3)で、観測者Aが聞く2つの異なる振動数 \(f_1, f_2\) によって生じる音の強弱の変化の頻度を求めるために使用します。
- 適用根拠: うなりは、波の重ね合わせによって振幅が周期的に変化する現象であり、その周期(の逆数である振動数)は、元の波の振動数の差で与えられることが数学的に証明されています。物理現象と公式が直結している典型例です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 共通因数を活用する: (3)のうなりの計算では、\(N_A = \displaystyle\frac{Vf}{V-v_1} – \frac{Vf}{V-v_2}\) のように、共通部分である \(Vf\) を先に括り出すと、計算の見通しが良くなり、ミスを減らせます。
- 速度の添え字に注意: \(v_1\) と \(v_2\) という似た記号が出てくるため、どちらの音源について計算しているのかを常に意識し、代入を間違えないようにします。
- 分数の大小比較: \(f_1\) と \(f_2\) の大小比較のように、分数の大小を比べるときは、分子が同じであれば「分母が小さい方が大きい」という基本ルールを落ち着いて適用します。焦ると逆の判断をしがちです。
266 観測者が動く場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「観測者が動く場合のドップラー効果の公式導出」です。音源が動く場合とは異なり、観測者が動く場合は「波長は変化しない」が「観測者が波を横切る相対速度が変化する」という、ドップラー効果のもう一つの側面を根本から理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波長不変の原理(音源静止): 音源が静止している限り、送り出される音の波長は空間のどこでも一定です。
- 観測者が波を横切る相対速度: 観測者が動くことで、波を1秒あたりに数える個数が変化します。これは、音に対する観測者の相対速度が音速\(V\)とは異なるためです。
- 振動数の定義: 観測される振動数とは、観測者の耳(または測定器)を1秒間に通過する波の数です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- ①では、音源が静止しているという事実から、波の基本式を用いて波長を求めます。
- ②では、\(t\)秒間に「波の先頭が進んだ距離」と「観測者が進んだ距離」の差を考え、観測者がその間に観測した波が存在する空間の長さを求めます。
- ③では、②で求めた「空間の長さ」を、①で求めた不変の「波長」で割ることで、観測者が\(t\)秒間に聞いた波の総数を計算します。
- ④では、③で求めた「波の総数」を時間\(t\)で割ることで、1秒あたりの波の数、すなわち観測される振動数を導出します。
空欄①〜④ ドップラー効果の公式導出
思考の道筋とポイント
この問題は、観測者が動く場合のドップラー効果を、公式の丸暗記ではなく物理的なイメージから導出するプロセスを穴埋め形式で問うものです。音源が動く場合(波長が変化)との違いを明確に意識することが重要です。今回は音源が静止しているので、空間に広がる波の模様(波長)はどこでも一定です。
最大のポイントは、観測者が音の波から「逃げながら」聞いているため、1秒あたりに聞く波の数が通常より少なくなる、という点を捉えることです。\(t\)秒間に観測者が「通り過ぎた」波の数を数える、というアプローチで考えます。
この設問における重要なポイント
- 音源が静止しているので、波長\(\lambda\)は\(V/f\)で一定である。
- 観測者が聞く波は、\(t\)秒間に波の先頭が進んだ距離と観測者自身が進んだ距離の「差」の区間に存在する波である。
- 観測される振動数\(f’\)は、\(t\)秒間に観測した波の数\(n\)を\(t\)で割ることで求められる(\(f’ = n/t\))。
具体的な解説と立式
空欄① 波長
音源Sは静止しています。したがって、送り出される音波の波長\(\lambda\)は、どこで観測しても変化しません。波の基本式\(V=f\lambda\)より、
$$ \lambda = \frac{V}{f} $$
これが空欄①の答えです。
空欄② 観測者が観測した波が存在する区間の長さ
時刻\(t=0\)に観測者Oが聞き始めた波の「先頭」は、時刻\(t\)には、Oがいた初期位置から\(x_1 = Vt\)の距離まで進んでいます。
一方、観測者O自身は、速さ\(v_O\)で\(t\)秒間遠ざかっているので、その位置は初期位置から\(x_2 = v_O t\)となります。
観測者Oがこの\(t\)秒間に観測した波は、この波の先頭\(x_1\)と観測者Oの現在位置\(x_2\)の間の空間に広がっている波です。その長さ\(L\)は、
$$ L = x_1 – x_2 = Vt – v_O t $$
これが空欄②の答えの元となる式です。
空欄③ 観測した波の数
長さ\(L\)の区間に、波長\(\lambda\)の波がいくつ入っているかを計算します。この波の数を\(n\)とすると、
$$ n = \frac{L}{\lambda} $$
これが空欄③の答えの元となる式です。
空欄④ 観測される振動数
観測される振動数\(f’\)とは、「1秒あたりに観測する波の数」のことです。
\(t\)秒間に\(n\)個の波を観測したので、1秒あたりでは、
$$ f’ = \frac{n}{t} $$
これが空欄④の答えの元となる式です。
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
- 等速直線運動の距離: \(x = vt\)
- 振動数の定義: \(f’ = (\text{波の数}) / (\text{時間})\)
①の計算:
立式より、答えは\(\displaystyle\frac{V}{f}\)です。
②の計算:
立式より、\(Vt – v_O t\)を整理します。
$$
\begin{aligned}
L &= Vt – v_O t \\[2.0ex]&= (V – v_O)t
\end{aligned}
$$
よって、答えは\((V – v_O)t\)です。
③の計算:
\(n = \displaystyle\frac{L}{\lambda}\)に、①と②の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{L}{\lambda} \\[2.0ex]&= \frac{(V-v_O)t}{\displaystyle\frac{V}{f}} \\[2.0ex]&= (V-v_O)t \times \frac{f}{V} \\[2.0ex]&= \frac{(V-v_O)ft}{V}
\end{aligned}
$$
よって、答えは\(\displaystyle\frac{(V-v_O)ft}{V}\)です。
④の計算:
\(f’ = \displaystyle\frac{n}{t}\)に、③の結果を代入します。
$$
\begin{aligned}
f’ &= \frac{n}{t} \\[2.0ex]&= \frac{\displaystyle\frac{(V-v_O)ft}{V}}{t} \\[2.0ex]&= \frac{(V-v_O)f}{V}
\end{aligned}
$$
よって、答えは\(\displaystyle\frac{(V-v_O)f}{V}\)です。
① 音源が止まっているので、波長は「速さ÷振動数」で普通に計算できます。
② \(t\)秒間で、音は\(Vt\)進みますが、観測者も\(v_O t\)だけ音から逃げてしまいます。観測者が聞いたのは、この「音の進んだ距離」と「自分が逃げた距離」の差の分だけです。
③ ②で求めた長さに、①で求めた波長の波が何個入るか、割り算で求めます。これが\(t\)秒間に聞いた波の数です。
④ ③で求めたのは\(t\)秒間での波の数なので、1秒あたりに聞こえる数(振動数)に直すために、時間\(t\)で割ります。
各空欄は以下の通りです。
① \(\displaystyle\frac{V}{f}\)
② \((V-v_O)t\)
③ \(\displaystyle\frac{(V-v_O)ft}{V}\)
④ \(\displaystyle\frac{(V-v_O)f}{V}\)
観測者が音源から遠ざかる場合、係数\(\displaystyle\frac{V-v_O}{V}\)は1より小さくなります。したがって、観測される振動数\(f’\)は元の振動数\(f\)よりも小さくなります(音が低く聞こえる)。これは、ホームから離れていく電車の警笛が低く聞こえるといった日常経験と一致しており、得られた結果は物理的に妥当であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 観測者の運動による相対速度の変化:
- 核心: 観測者が動く場合のドップラー効果は、「波長は変化せず、観測者が波を横切る相対速度が変化する」ことによって生じます。
- 理解のポイント:
- 音源が静止しているため、空間に広がる波の間隔(波長 \(\lambda = V/f\))はどこでも一定です。
- 観測者は、速さ \(V\) で向かってくる音の波から、速さ \(v_O\) で逃げています。そのため、観測者から見た音の相対的な速さは \(V – v_O\) となります。
- 観測者が1秒間に聞く波の数(振動数 \(f’\))は、この相対速度を使って \(f’ = \displaystyle\frac{V_{\text{相対}}}{\lambda} = \frac{V-v_O}{V/f} = \frac{V-v_O}{V}f\) と考えることができます。この問題は、この公式をより根本的な「\(t\)秒間に観測する波の数」から導出しています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 観測者が音源に近づく場合: この問題とは逆に、観測者が音源に近づく場合、音の波に向かっていく形になります。観測者から見た音の相対速度は \(V+v_O\) となり、1秒あたりに聞く波の数は増えます。その結果、振動数は \(f’ = \displaystyle\frac{V+v_O}{V}f\) となり、音は高く聞こえます。
- 音源と観測者の両方が動く場合: 「音源の運動による波長の変化」と「観測者の運動による相対速度の変化」の2つの効果を組み合わせることで、ドップラー効果の一般式 \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_O}{V \mp v_S}f\) が導出されます。この問題は、その分子 \(V \mp v_O\) の部分の導出過程を理解する上で非常に重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 誰が動いているか?: まず、音源と観測者のどちらが動いているのかを明確にします。
- 音源が動く → 波長が変化する
- 観測者が動く → 波長は不変、相対速度が変化する
- 近づくか、遠ざかるか?: 次に、両者の相対的な動き(接近 or 後退)を把握します。これにより、振動数が高くなるか低くなるかの見通しが立ちます。
- \(t\)秒後の図を描く: 公式の符号などで迷ったら、この問題のように「\(t=0\)の状況」と「\(t\)秒後の状況」の2つの図を描き、波の先頭の位置と観測者の位置を考える基本に立ち返ることが最も確実です。
- 誰が動いているか?: まず、音源と観測者のどちらが動いているのかを明確にします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 音源が動く場合との混同:
- 誤解: 観測者が動いているのに、音源が動く場合の公式(波長が変化する \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V \mp v_S}{f}\))を誤って適用してしまう。
- 対策: 問題を解き始める前に、「動いているのは誰か?」を指差し確認する習慣をつけます。「音源が静止」というキーワードを見たら、「波長は\(\lambda=V/f\)で一定」と頭を切り替えることが重要です。
- 繁分数の計算ミス:
- 誤解: (3)で \(n = \displaystyle\frac{(V-v_O)t}{V/f}\) のような繁分数の計算で、分母の \(f\) を分子にかけるのか分母にかけるのか混乱する。
- 対策: 「分母の逆数を掛ける」というルールを徹底します。\( \displaystyle\frac{A}{B/C} = A \times \frac{C}{B} \) という変形を、文字式でも落ち着いて実行できるように練習します。
- 物理量の意味の混同:
- 誤解: (3)で求めた「\(t\)秒間に観測する波の数 \(n\)」を、(4)で求める「1秒あたりの波の数(振動数) \(f’\)」と混同し、(3)の答えをそのまま(4)に書いてしまう。
- 対策: 単位を意識することが有効です。(3)の答えの単位は [個]、(4)の答えの単位は [個/s] すなわち [Hz] です。単位が違うということは、物理的な意味も違うということを常に意識しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波長の定義式 (\(\lambda = V/f\)):
- 選定理由: (1)で、音源が静止している場合に空間に広がる波の基本的な長さを求めるために使用します。
- 適用根拠: 音源が静止しているため、ドップラー効果による波長の圧縮・伸長は起こりません。したがって、波の最も基本的な関係式である \(V=f\lambda\) がそのまま適用できます。
- 観測した波の数 (\(n = \text{区間の長さ} / \text{波長}\)):
- 選定理由: (3)で、観測者が\(t\)秒間に「すれ違った」波の総数を計算するために使用します。
- 適用根拠: (2)で求めた、観測者が観測した波が存在する区間の長さ \(L = (V-v_O)t\) がわかっています。この区間に、(1)で求めた一定の波長 \(\lambda\) を持つ波がいくつ収まるかを計算するには、単純な割り算 \(n=L/\lambda\) を行えばよい、という論理に基づきます。
- 振動数の定義式 (\(f’ = n/t\)):
- 選定理由: (4)で、1秒あたりの現象に換算し、物理的な「振動数」を求めるために使用します。
- 適用根拠: 振動数とは、定義上「単位時間あたりの波の数」です。\(t\)秒間で\(n\)個の波を観測したという事実から、単位時間(1秒)あたりに換算するには、時間\(t\)で割るのが最も直接的で基本的な考え方です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: (3)や(4)の計算では、多くの文字が登場します。どの文字がどの物理量に対応しているかを常に意識し、代入や変形を丁寧に行います。
- 分数の扱いに習熟する: 物理では、この問題のように文字式の分数計算が頻繁に登場します。特に繁分数の計算は、ミスなく迅速にできるよう、数学の練習としても取り組むと良いでしょう。
- 極端な場合を考える(検算): 例えば、もし観測者が音と同じ速さで逃げたら(\(v_O = V\))、音に追いつかれることはないので、聞く波の数は0になるはずです。実際に(4)の答えの式に \(v_O=V\) を代入すると \(f’=0\) となり、式が正しいことを示唆しています。このように、極端な状況を代入して検算する癖をつけると、式の妥当性を確認できます。
267 反射体が動く場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「動く観測者と動く反射体によるドップラー効果」です。静止した音源からの音を、動いている観測者が聞く場合と、その動いている物体(車)で反射した音を、別の静止した観測者が聞く場合の2つのシナリオを扱います。反射体が動く場合、それを「動く観測者」と「動く音源」の2つの役割を持つものとして、段階的に考えることが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果(観測者が動く場合): 音源が静止していても、観測者が動くことで音に対する相対速度が変化し、観測される振動数が変わります。
- ドップラー効果(音源が動く場合): 音源が動くことで、波長が変化し、観測される振動数が変わります。
- 反射体の2段階処理: 動く反射体は、(1)まず音波を受ける「動く観測者」として振る舞い、(2)次にその受けた音を再放射する「動く音源」として振る舞います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、音源Sが静止し、観測者O1が音源に「近づく」状況を考え、ドップラー効果の公式を適用して振動数を求めます。
- (2)では、反射音の伝わるプロセスを2段階に分けます。
- S→車: 静止音源Sから出た音を、車が「動く観測者」として受け取る。このとき車が観測する振動数は、(1)で求めた\(f_1\)と同じです。
- 車→O2: 次に、車を「振動数\(f_1\)の音を出しながら動く音源」とみなし、この音源が静止観測者O2に「近づく」状況を考え、ドップラー効果を適用します。
問(1)
思考の道筋とポイント
静止している音源Sと、音源Sに近づく観測者O1の関係を考えます。音源が静止しているので、空間に広がる音の波長は一定です。しかし、観測者O1が音の波に向かって進むため、1秒あたりに聞く波の数が増え、振動数は高くなります。
この設問における重要なポイント
- 音源が静止し、観測者が近づく場合、振動数は高くなる。
- ドップラー効果の公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V}f\)。ここで、音源に向かう向きを正とすると、観測者の速度は\(v_O\)となるが、公式の\(v_O\)は音源から遠ざかる向きを正として定義されているため、近づく場合は\(v_O\)に負の値を代入する、と解釈するのが一般的。
- 物理的な意味から「振動数が高くなる」ように分子を\(V+v_O\)と考える方が直感的で間違いが少ない。
具体的な解説と立式
音源Sは静止しており、観測者O1は速さ\(v_O = 20 \, \text{m/s}\)で音源Sに近づいています。
観測者が音源に近づく場合、観測される振動数\(f_1\)は元の振動数\(f = 680 \, \text{Hz}\)より高くなります。
ドップラー効果の公式を用いると、
$$ f_1 = \frac{V+v_O}{V}f $$
となります。ここで、\(V = 340 \, \text{m/s}\)です。
使用した物理公式
- ドップラー効果の振動数の式(観測者が動く場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_O}{V}f\)
与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{340 + 20}{340} \times 680 \\[2.0ex]&= \frac{360}{340} \times 680 \\[2.0ex]&= 360 \times \frac{680}{340} \\[2.0ex]&= 360 \times 2 \\[2.0ex]&= 720 \, \text{[Hz]}
\end{aligned}
$$
(模範解答の\(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V}f\)という表記は、\(v_O\)を「音の進行方向と逆向き」を正としているため、近づく場合は\(v_O = -20\)を代入することになり、結果的に\(V-(-20)\)で同じ式になります。)
観測者O1が乗る車が音の波に向かって突っ込んでいくので、1秒間に耳を通り過ぎる波の数が多くなります。そのため、音は高く聞こえます。公式では、分子が\(V+v_O\)となる組み合わせを選んで計算します。
観測者O1が音源に近づくため、振動数は元の\(680 \, \text{Hz}\)より高くなるはずです。計算結果の\(720 \, \text{Hz}\)はこの予測と一致しており、妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
静止している観測者O2が聞く「車からの反射音」の振動数を求めます。これは、2段階のドップラー効果として考えます。
Step 1: 音源S → 車
まず、静止している音源Sから出た音を、車が「動く観測者」として聞きます。この状況は、問(1)と全く同じです。したがって、車が受け取る(そして反射する元となる)音の振動数は、(1)で求めた\(f_1 = 720 \, \text{Hz}\)です。
Step 2: 車 → 観測者O2
次に、この車を「振動数\(f_1 = 720 \, \text{Hz}\)の音を出しながら、速さ\(v_S = 20 \, \text{m/s}\)で観測者O2に近づく新しい音源」とみなします。観測者O2は静止しています。音源が観測者に近づく場合のドップラー効果を適用します。
この設問における重要なポイント
- 動く反射体は、「動く観測者」と「動く音源」の2つの役割を兼ねる。
- Step 1で求めた振動数を、Step 2の「新しい音源の振動数」として用いる。
具体的な解説と立式
観測者O2が聞く反射音の振動数を\(f_2\)とします。
Step 2の状況、すなわち、振動数\(f_1\)の音源(車)が速さ\(v_S = 20 \, \text{m/s}\)で静止観測者O2に近づく場合を考えます。
音源が観測者に近づく場合、観測される振動数\(f_2\)は、音源の振動数\(f_1\)より高くなります。
ドップラー効果の公式を用いると、
$$ f_2 = \frac{V}{V-v_S}f_1 $$
となります。
使用した物理公式
- ドップラー効果の振動数の式(音源が動く場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S}f\)
\(f_1 = 720 \, \text{Hz}\)と、与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{340}{340 – 20} \times 720 \\[2.0ex]&= \frac{340}{320} \times 720 \\[2.0ex]&= \frac{17}{16} \times 720 \\[2.0ex]&= 17 \times \frac{720}{16} \\[2.0ex]&= 17 \times 45 \\[2.0ex]&= 765 \, \text{[Hz]}
\end{aligned}
$$
この問題は2段階ロケット方式で考えます。
1段目:まず、車自身が聞く音の高さを計算します。これは(1)で計算した\(720 \, \text{Hz}\)です。
2段目:次に、車がこの\(720 \, \text{Hz}\)の音を出しながら、観測者O2に向かって走っていると考えます。音源が近づいてくるので、O2にはさらに高い音として聞こえます。この2段階目のドップラー効果を計算します。
車からの反射音は、2回のドップラー効果(観測者が動く効果+音源が動く効果)を受けるため、元の振動数\(680 \, \text{Hz}\)や、車が直接聞く振動数\(720 \, \text{Hz}\)よりもさらに高い\(765 \, \text{Hz}\)となりました。これは物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 動く反射体の2段階ドップラー効果:
- 核心: この問題の最も重要なポイントは、動いている物体(車)による音の反射を、2つの連続したドップラー効果としてモデル化することです。
- 理解のポイント:
- 第1段階 (S→車): 反射体を「動く観測者」とみなします。静止音源Sからの音を、速さ\(v_O\)で近づく観測者(車)が聞く状況です。ここで振動数は \(f \rightarrow f_1\) に変化します。
- 第2段階 (車→O2): 次に、反射体を「動く音源」とみなします。この音源は、第1段階で受け取った振動数\(f_1\)の音を出しながら、速さ\(v_S\)で静止観測者O2に近づきます。ここで振動数はさらに \(f_1 \rightarrow f_2\) に変化します。
- この「観測者としての効果」と「音源としての効果」が連続して起こることが、動く反射体の問題の鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 反射体が遠ざかる場合: もし車が音源Sから遠ざかる向きに動いていれば、第1段階(S→車)では振動数は低くなり、第2段階(車→O2)でも音源が遠ざかるため、さらに振動数が低くなります。
- 音源も動いている場合: 静止しているSの代わりに、音源も動いている場合、第1段階の計算(S→車)で、音源と観測者(車)の両方が動く場合のドップラー効果を適用する必要があります。
- 反射音のうなり: (2)で求めた反射音\(f_2\)と、観測者O2がSから聞く直接音(この場合はドップラー効果なしで\(f=680\,\text{Hz}\))との間でうなりが生じます。その回数を求める問題も頻出です。うなりは \(N = |f_2 – f|\) で計算できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場人物と運動状態の整理: まず、音源、観測者、反射体の3者がそれぞれ「静止」しているか「運動」しているかをリストアップします。
- 音の経路を図示する: (2)のような反射の問題では、必ず「S→車」「車→O2」のように音の伝わる経路を矢印で図に書き込みます。
- 各経路でドップラー効果を判断: 書き込んだ各経路について、「誰が音源で誰が観測者か」「近づくか遠ざかるか」を判断し、適用すべき公式を選択します。
- 中間結果を明確にする: 第1段階で計算した振動数(この問題の\(f_1\))を、第2段階の計算で「音源の出す音の振動数」として使うことを明確に意識します。この中間結果を混同しないことが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 反射を1回のドップラー効果で済ませてしまう:
- 誤解: (2)で、音源Sと観測者O2の間に動く車があるからといって、SとO2の間のドップラー効果として一度に計算しようとする。
- 対策: 「反射」という言葉を見たら、機械的に「2段階で計算する」と反応できるように訓練します。反射体は音を中継するリレー選手のようなものだとイメージし、バトンタッチ(音の吸収・再放射)の前後で2回計算することを徹底します。
- (2)の計算で元の振動数\(f\)を使ってしまう:
- 誤解: (2)の第2段階(車→O2)の計算で、音源である車の出す振動数を、(1)で求めた\(f_1\)ではなく、大元の音源Sの振動数\(f\)を誤って使ってしまう。(\(f_2 = \frac{V}{V-v_S}f\) としてしまうミス)
- 対策: 車はあくまで「自分が聞いた音(\(f_1\))をそのままオウム返しする」と理解します。車自身は\(f\)の音源ではなく、\(f_1\)の音を出す新しいスピーカーになった、と考えることが重要です。
- 速度の記号の混同:
- 誤解: (1)では観測者として動くので速度を\(v_O\)とし、(2)では音源として動くので速度を\(v_S\)としますが、どちらも車の速さ\(20\,\text{m/s}\)です。これを混同したり、違う値を入れてしまったりする。
- 対策: 物理的な役割(観測者か音源か)に応じて記号を使い分ける意識を持ちつつ、その値は同じ「車の速さ」であることを確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 観測者が動く場合の公式 (\(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_O}{V}f\)):
- 選定理由: (1)の「S→車」の段階で、音源が静止し観測者(車)が動いているため、この公式を選択します。
- 適用根拠: 観測者が音波に向かっていく(近づく)ため、1秒あたりに通過する波の数が増加します。振動数が高くなるように、分子が\(V+v_O\)となる符号を選びます。
- 音源が動く場合の公式 (\(f’ = \displaystyle\frac{V}{V \mp v_S}f\)):
- 選定理由: (2)の「車→O2」の段階で、音源(車)が動き観測者が静止しているため、この公式を選択します。
- 適用根拠: 音源(車)が観測者に近づきながら音を出すため、波長が圧縮され、結果的に振動数が高くなります。振動数が高くなるように、分母が\(V-v_S\)となる符号を選びます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算しやすい形に変形する: (1)の計算 \( \frac{360}{340} \times 680 \) は、先に \( \frac{680}{340} = 2 \) を計算してから \(360 \times 2\) とする方が圧倒的に簡単です。掛け算や割り算の順序を工夫するだけで、計算ミスは劇的に減ります。
- (2)の計算: \( \frac{340}{320} \times 720 \) も同様に、まず \( \frac{340}{320} = \frac{17}{16} \) と約分し、次に \( \frac{720}{16} = 45 \) を計算してから、最後に \(17 \times 45\) を筆算するなど、計算しやすいステップに分解することが重要です。
- 答えの桁数と妥当性の確認: 計算結果が出たら、元の振動数と比較して「高くなっているか」「低くなっているか」が物理的な予測と合っているかを確認します。また、\(765\,\text{Hz}\)のようなキリの悪い数値になった場合、計算ミスを疑って一度見直す慎重さも大切です。
268 風が吹いてる場合のドップラー効果
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「風が吹いている場合のドップラー効果」です。風は音を伝える媒質(空気)そのものの動きであるため、音速が変化するという点が最大のポイントです。この補正された音速を正しく用いて、ドップラー効果の計算を行う必要があります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 風と音速の関係: 風が吹くと、音の速さは風の速さの分だけ変化します。音の進行方向と風の向きが同じなら足し算、逆なら引き算になります。
- ドップラー効果(観測者が動く場合): 観測者が動くことで、音に対する相対速度が変化し、観測される振動数が変わります。
- 媒質に対する速度: ドップラー効果の公式に出てくる速度(音速\(V\)、音源の速さ\(v_S\)、観測者の速さ\(v_O\))は、すべて「媒質(空気)に対する速度」であるという基本原則の理解が重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、無風時の音速に風速を加え、観測者Oに届く音の実際の速さ(地面に対する速さ)を求めます。
- (2)では、(1)で求めた「風がある場合の音速」をドップラー効果の公式に適用し、観測者Oが聞く音の振動数を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
風が吹いている場合、音は風に流されて速さが変わります。音の進行方向と風の向きが同じ「追い風」なのか、逆の「向かい風」なのかを判断し、音速を補正します。この問題では、音はSからOへ(右向きに)進み、風も右向きに吹いているため、追い風の状況です。
この設問における重要なポイント
- 音は媒質(空気)の振動であり、その媒質自身が動く(風が吹く)と、音の速さも変化する。
- 追い風の場合、音速は「無風時の音速 + 風速」となる。
- 向かい風の場合、音速は「無風時の音速 – 風速」となる。
具体的な解説と立式
無風時の音速を\(V_0 = 340 \, \text{m/s}\)、風速を\(w = 10 \, \text{m/s}\)とします。
音は音源Sから観測者Oへ、つまり右向きに進みます。風も右向きに吹いているため、これは「追い風」です。
したがって、観測者Oに届く音の速さ(地面に対する速さ)を\(V’\)とすると、
$$ V’ = V_0 + w $$
となります。
使用した物理公式
- 風がある場合の音速: \(V’ = V_0 \pm w\)
与えられた数値を代入します。
$$
\begin{aligned}
V’ &= 340 + 10 \\[2.0ex]&= 350 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
流れるプールでボールを投げると、流れに乗ってボールは速く進みます。それと同じで、音も風という空気の流れに乗ることで速くなります。この問題では、音の進む向きと風の向きが同じなので、単純に速さを足し算します。
追い風によって音速が\(340 \, \text{m/s}\)から\(350 \, \text{m/s}\)に増加しました。これは物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
風が吹いている状況で、動いている観測者Oが聞く音の振動数を求めます。ここで重要なのは、ドップラー効果の公式に現れるすべての速度は「媒質(空気)に対する速度」であるという点です。
- 音速: (1)で求めた\(V’ = 350 \, \text{m/s}\)は地面に対する音速です。しかし、ドップラー効果の公式で使う音速は「媒質に対する音速」なので、無風時の\(V_0 = 340 \, \text{m/s}\)を用います。
- 観測者の速度: 観測者Oは地面に対して右向きに\(20 \, \text{m/s}\)で動いています。風(媒質)も右向きに\(10 \, \text{m/s}\)で動いています。観測者の「媒質に対する速度」は、両者の速度の差になります。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果の公式の速度は、すべて「媒質(空気)に対する速度」で考える。
- 観測者は音源から遠ざかっているため、振動数は低くなる。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の公式は、媒質(空気)中で音源と観測者がどう動くかを記述したものです。
- 媒質に対する音速 \(V\): 音は媒質である空気中を、どの方向にも速さ\(V_0 = 340 \, \text{m/s}\)で伝わります。公式に使う音速はこれです。
- 媒質に対する観測者の速度 \(v_O’\): 観測者Oは地面に対し右向きに\(20 \, \text{m/s}\)、媒質(風)も地面に対し右向きに\(10 \, \text{m/s}\)で動いています。観測者の媒質に対する速度は、相対速度として計算します。同じ向きなので、
\(v_O’ = 20 – 10 = 10 \, \text{m/s}\)
となります。観測者は音源から遠ざかる向きに、媒質に対して\(10 \, \text{m/s}\)で動いていることになります。
観測者が音源から遠ざかる場合のドップラー効果の公式を適用します。
$$ f_1 = \frac{V – v_O’}{V}f $$
ここで、\(V = V_0 = 340 \, \text{m/s}\), \(v_O’ = 10 \, \text{m/s}\), \(f = 700 \, \text{Hz}\)です。
【模範解答の方針に沿った解説】
模範解答では、ドップラー効果の公式を「地面に対する速度」で書き換えた、より応用的な形式を用いています。
$$ f_1 = \frac{(V_0+w) – v_{O,\text{地面}}}{(V_0+w)} f = \frac{V’ – v_{O,\text{地面}}}{V’} f $$
この公式は、音源が静止している場合に限り成り立ちます。
ここで、\(V’ = 350 \, \text{m/s}\), \(v_{O,\text{地面}} = 20 \, \text{m/s}\)を代入します。
$$ f_1 = \frac{350 – 20}{350}f $$
この方法でも同じ結果が得られますが、物理的な意味(媒質に対する速度)を理解する上では、前者の方法がより本質的です。
使用した物理公式
- ドップラー効果の振動数の式(観測者が動く場合): \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_O}{V}f\)
模範解答の方針に従って計算します。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{350 – 20}{350} \times 700 \\[2.0ex]&= \frac{330}{350} \times 700 \\[2.0ex]&= 330 \times \frac{700}{350} \\[2.0ex]&= 330 \times 2 \\[2.0ex]&= 660 \, \text{[Hz]}
\end{aligned}
$$
風が吹いているので、音の速さも観測者の速さも、風を基準(静止した空気)に考え直す必要があります。しかし、この問題(音源が静止)に限っては、地面を基準にしたまま「風で速くなった音速\(350 \, \text{m/s}\)」と「地面に対する観測者の速さ\(20 \, \text{m/s}\)」を使って、観測者が遠ざかる場合のドップラー効果の計算をしても同じ答えになります。
観測者は音源から遠ざかっているので、振動数は元の\(700 \, \text{Hz}\)より低くなるはずです。計算結果の\(660 \, \text{Hz}\)はこの予測と一致しており、妥当です。風がない場合(\(f’ = \frac{340-20}{340} \times 700 \approx 659 \, \text{Hz}\))と比べると、追い風によって振動数の低下が少し抑えられていることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 風による音速の変化:
- 核心: 風は音を伝える「媒質」そのものの運動です。そのため、地面にいる観測者から見ると、音の伝わる速さ(音速)が風の速さの分だけ変化します。
- 理解のポイント:
- 追い風: 音の進行方向と風向きが同じ場合、地面に対する音速は \(V’ = V_0 + w\) となります。(\(V_0\): 無風時の音速, \(w\): 風速)
- 向かい風: 音の進行方向と風向きが逆の場合、地面に対する音速は \(V’ = V_0 – w\) となります。
- ドップラー効果の速度は「媒質」基準:
- 核心: ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V \mp v_O}{V \mp v_S}f\) に出てくる全ての速度 \(V, v_O, v_S\) は、本来「媒質(空気)に対する速度」です。
- 理解のポイント:
- \(V\): 媒質中を音が伝わる速さ(無風時の音速 \(V_0\))
- \(v_O\): 媒質に対する観測者の速さ
- \(v_S\): 媒質に対する音源の速さ
- この原則に立ち返れば、どんなに複雑な設定(風、音源・観測者の運動)でも、各速度を正しく求めて代入することで対応できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 音源も動く場合: この問題では音源Sが静止していましたが、もし音源Sも動いている場合、模範解答で使われたような「地面基準の速度で計算する」方法は使えません。必ず「媒質に対する速度」の原則に立ち返る必要があります。
- 例:音源Sが地面に対し速さ\(v_{S,\text{地}}\)で動く場合、媒質に対する音源の速さは \(v_S = v_{S,\text{地}} – w\) となります(風と同じ向きの場合)。
- 風向きが斜めの場合: 風が音の進行方向に対して斜めに吹いている場合、風速を音の進行方向の成分に分解して \(w_{\text{成分}}\) を求め、音速を \(V’ = V_0 \pm w_{\text{成分}}\) のように補正します。
- 反射板と風: 風が吹いている状況で反射板の問題が出た場合も、全ての速度を「媒質基準」で考えれば解くことができます。計算は複雑になりますが、原則は同じです。
- 音源も動く場合: この問題では音源Sが静止していましたが、もし音源Sも動いている場合、模範解答で使われたような「地面基準の速度で計算する」方法は使えません。必ず「媒質に対する速度」の原則に立ち返る必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「風」という単語に反応する: 問題文に「風」が出てきたら、まず音速が変わることを疑います。
- 音の進行方向と風向きを確認: 追い風か向かい風か、あるいは無関係な横風かを確認します。
- 基準を「媒質」に統一する: ドップラー効果の計算を始める前に、問題で与えられた全ての速度(地面に対する速度)を、「媒質(風)に対する速度」に変換する作業を最初に行います。これが最も安全で確実なアプローチです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 音速の補正忘れ:
- 誤解: 風が吹いているのに、無風時の音速 \(340\,\text{m/s}\) をそのまま(2)の計算で使ってしまう。
- 対策: (1)でわざわざ風がある場合の音速を計算させているのは、(2)でそれを使うためだ、という問題作成者の意図を読み取ることが重要です。設問間の関連性を意識しましょう。
- 媒質基準の考え方の混乱:
- 誤解: 模範解答のように地面基準の速度で計算できるのは「音源が静止している」という特殊な場合のみであることを理解せず、音源が動く場合にも同じように計算して間違える。
- 対策: 「ドップラー効果の速度は、すべて媒質基準」という大原則を徹底して覚えることが最も安全です。模範解答の解法は、あくまで音源静止時の便利なショートカットと捉え、なぜそれでうまくいくのかを理解した上で使うようにしましょう。
- 観測者の速度の扱いのミス:
- 誤解: (2)で、観測者の速度として地面に対する速さ \(20\,\text{m/s}\) をそのまま使ってしまう。(\(f_1 = \frac{350-20}{350} \times 700\) としてしまうのは、結果的に正しいが、これは地面基準のショートカット解法)
- 対策: 原則通り、「媒質に対する観測者の速度」を \(v_O’ = 20 – 10 = 10\,\text{m/s}\) と求め、「媒質に対する音速」である \(V_0=340\,\text{m/s}\) を使って \(f_1 = \frac{340-10}{340} \times 700\) と立式する練習をすることが、応用力を高める上で推奨されます。
- 【注記】 模範解答の \(f’=\frac{V-v_O}{V}f\) という式は、\(V\)と\(v_O\)が共に「媒質に対する速度」である場合にのみ成り立ちます。模範解答では\(V\)に地面に対する音速\(350\)、\(v_O\)に地面に対する観測者の速さ\(20\)を代入しており、これは厳密には正しくありません。しかし、音源が静止している場合に限り、\(f’=\frac{V_0+w-v_{O,地}}{V_0+w-v_{S,地}}f\)という一般式で\(v_{S,地}=0\)とすると、\(f’=\frac{V_0+w-v_{O,地}}{V_0+w}f\)となり、この式に値を代入すると \(\frac{340+10-20}{340+10}f = \frac{330}{350}f\) となり、模範解答の計算と一致します。このショートカットは非常に混乱を招きやすいため、原則に立ち返ることが推奨されます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 音速の合成 (\(V’ = V_0 + w\)):
- 選定理由: (1)で、地面に対する音の速さを求めるために使用します。
- 適用根拠: 音は媒質(空気)に乗って伝わる波です。その媒質自身が動いている(風)ので、地面から見れば、音の速さは媒質の速さ(風速)の分だけ足し合わされます。これは「速度の合成」の基本的な考え方です。
- ドップラー効果の公式(媒質基準) (\(f’ = \displaystyle\frac{V_0 \mp v_{O,\text{媒質}}}{V_0 \mp v_{S,\text{媒質}}}f\)):
- 選定理由: (2)で、風が吹く中でのドップラー効果を最も正確に、かつ応用が効く形で解くための基本公式です。
- 適用根拠: ドップラー効果という物理現象は、音を伝える媒質の中で、音源と観測者がどのように動くかによって決まります。したがって、全ての速度を媒質基準に変換してから公式を適用するのが、最も物理的に正しいアプローチです。この問題では音源が静止しているので \(v_{S,\text{媒質}} = 0 – w = -w\)、観測者は遠ざかるので \(v_{O,\text{媒質}} = v_{O,\text{地}} – w\) となり、\(f’ = \displaystyle\frac{V_0 – (v_{O,\text{地}}-w)}{V_0 – (-w)}f = \frac{V_0+w-v_{O,\text{地}}}{V_0+w}f\) となり、結果的に模範解答のショートカットと同じ式が導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算の順序: (2)の計算 \( \frac{330}{350} \times 700 \) は、先に \( \frac{700}{350} = 2 \) を計算してから \(330 \times 2\) とするのが最も簡単です。分数の掛け算では、約分を先に行うことで計算が楽になることが多いです。
- 物理量の明確化: \(V_0, V’, w, v_O, v_O’\) など、似たような記号がたくさん出てきます。計算を始める前に、それぞれの記号が何を意味するのか(無風時の音速、地面に対する音速、風速、地面に対する観測者の速さ、媒質に対する観測者の速さ)を自分の中で整理してから立式に進むと、混乱を防げます。