232 縦波
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、x軸の正の向きに伝わる縦波について、ある時刻における媒質の密度分布を示したグラフ(ρ-xグラフ)から、媒質の変位と速度に関する情報を読み取る問題です。縦波の特性、特に「密度の変化」と「媒質の変位・速度」との間の位相関係を正しく理解しているかが問われます。
- 波の進行方向: x軸の正の向き
- グラフ: ある時刻の媒質の密度ρと位置xの関係を示すρ-xグラフ
- 媒質の状態:
- \(x=x_0, x=x_8\):密度が最大(密部)
- \(x=x_4\):密度が最小(疎部)
- 媒質の分割: \(x_0\)から\(x_8\)までの1波長分を8等分している。
- 縦波がないときの密度: \(\rho_0\)
- 解答の範囲: \(x_1, x_2, \dots, x_8\)の中から選ぶ。
- (1) x軸の正の向きに媒質が最も大きく変位している位置のx座標。
- (2) x軸の正の向きに媒質が最も速く動いている位置のx座標。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「縦波における媒質の密度・変位・速度の関係」です。与えられたρ-xグラフ(密度の空間分布)を、媒質の変位のグラフ(y-xグラフ)に変換し、そこから各点の運動状態を読み解くのが基本的なアプローチです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 縦波の密部と疎部: 密部では媒質が集まり、疎部では媒質が散らばっている。
- 密度と変位の関係: 媒質の変位\(y\)が0となるのは、密部と疎部の中心である。変位が最大・最小となるのは、密部と疎部の中間点である。
- 変位と速度の関係: 媒質の速度は、変位が0の点(単振動の中心)で最大となる。速度の向きは、波の進行方向から判断できる。
- 密度と速度の関係: 媒質の速度\(v_y\)は、密度変化\(\Delta \rho = \rho – \rho_0\)と常に同位相である。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、与えられたρ-xグラフから、各点の媒質がどのように変位しているかを考え、y-xグラフ(変位-位置グラフ)を作成します。このグラフから、変位が正で最大となる点を見つけます(問1)。
- 次に、y-xグラフ上で媒質の速度が最大となる点(変位が0の点)を特定します。そして、波がx軸正の向きに進むことを利用して、各点の速度の向きを判断し、問いに合う点を見つけます(問2)。
問(1)
思考の道筋とポイント
x軸の正の向きに媒質が最も大きく変位している位置を求める問題です。そのためには、まず密度のグラフ(ρ-xグラフ)を媒質の変位のグラフ(y-xグラフ)に変換する必要があります。縦波の各点における媒質の動きを正しくイメージし、y-xグラフを正確に描くことが核心となります。
この設問における重要なポイント
- 密部と疎部の変位: 密部(\(x_8\))と疎部(\(x_4\))の中心では、媒質は動けず変位は0(\(y=0\))です。
- 変位の向きの判断:
- 密部(例:\(x_8\))には、その両側から媒質が集まってきます。波は右に進むので、\(x_8\)の少し左側の媒質は右向き(正)に、少し右側の媒質は左向き(負)に変位しています。
- 疎部(例:\(x_4\))からは、その両側へ媒質が散っていきます。波は右に進むので、\(x_4\)の少し左側の媒質は左向き(負)に、少し右側の媒質は右向き(正)に変位しています。
- 変位の大きさ: 変位の大きさは、密部と疎部の中間点(この問題では\(x_2, x_6\))で最大になります。
具体的な解説と立式
媒質の変位を、x軸の正の向きを正として\(y\)で表します。与えられたρ-xグラフと上記のポイントから、y-xグラフを作成します。
- 密部(\(x_8\))と疎部(\(x_4\))では、変位はゼロです。
$$ y(x_4) = 0, \quad y(x_8) = 0 $$ - 密部と疎部の中間点である\(x_2\)と\(x_6\)で、変位の大きさは最大になります。
- \(x_2\)(\(x_0\)と\(x_4\)の間)では、媒質は\(x_0\)から離れ、\(x_4\)からも離れるように動くため、変位はx軸負の向きに最大となります。
- \(x_6\)(\(x_4\)と\(x_8\)の間)では、媒質は\(x_4\)から離れ、\(x_8\)に近づくように動くため、変位はx軸正の向きに最大となります。
- これらの点を滑らかにつなぐと、y-xグラフが得られます。このグラフから、「x軸の正の向きに媒質が最も大きく変位している」、すなわち変位\(y\)が正で最大となる位置は\(x_6\)であることがわかります。
使用した物理公式
- 縦波における密度と変位の関係(概念的理解)
この問題はグラフの解釈が主であり、具体的な数値計算はありません。y-xグラフを描き、その形状から判断します。
作成したy-xグラフにおいて、y座標が正で最大値をとる点のx座標を読み取ると、\(x_6\)となります。
縦波を「人の列」に例えてみましょう。「密部」は人がぎゅうぎゅうに混んでいる場所、「疎部」はスカスカな場所です。
- 混雑の中心(\(x_8\))やスカスカの中心(\(x_4\))にいる人は、前後から押されたり引かれたりして、結果的に元の位置から動けません(変位ゼロ)。
- 「x軸の正の向きに最も大きく変位している」とは、「右方向に最も押し出されている人」を探すことです。それは、スカスカな場所(\(x_4\))を通り過ぎて、次の混雑した場所(\(x_8\))に向かっている途中の人、つまり\(x_6\)の位置にいる人です。
媒質がx軸の正の向きに最も大きく変位している位置は\(x_6\)です。これは、ρ-xグラフをy-xグラフに正しく変換することで導かれます。y-xグラフは、ρ-xグラフのcos型に対して、-sin型となり、位相が\( \displaystyle\frac{\pi}{2} \)(90°)遅れている関係になります。
問(2)
思考の道筋とポイント
x軸の正の向きに媒質が最も速く動いている位置を求める問題です。媒質の各点は単振動をしていると見なせます。単振動では、速度は振動の中心(変位が0の位置)で最大になります。したがって、まず速度が最大になる候補点を挙げ、次にその速度の向きを判断します。
この設問における重要なポイント
- 速度が最大になる点: 媒質の速度は、変位が0の位置で最大になります。問(1)で作成したy-xグラフから、\(y=0\)となるのは\(x_4, x_8\)です。(\(x_0\)は解答範囲外)
- 速度の向きの判断(y-xグラフを用いる方法): 波はx軸の正の向きに進みます。したがって、ある点xの媒質の少し後の動きは、その点の少し左側の媒質の現在の動きと同じになります。y-xグラフ上で、ある点の左側のyの符号を見ることで、その点の速度の向き(正負)がわかります。
- 点xの左側で\(y>0\)なら、点xの媒質は正の向きに動きます。
- 点xの左側で\(y<0\)なら、点xの媒質は負の向きに動きます。
具体的な解説と立式
問(1)で作成したy-xグラフを用いて、速度が最大となる各点の速度の向きを調べます。
- 速度が最大となる候補点は、変位が0の\(x_4, x_8\)です。
- 各点の速度の向きを判断します。
- \(x_4\)の位置:\(x_4\)のすぐ左側では、y-xグラフは負の値をとります。したがって、\(x_4\)の媒質は負の向きに動きます。
- \(x_8\)の位置:\(x_8\)のすぐ左側では、y-xグラフは正の値をとります。したがって、\(x_8\)の媒質は正の向きに動きます。
- 以上の結果から、「x軸の正の向きに最も速く動いている」のは、速度が最大で、かつ向きが正である\(x_8\)の位置となります。
使用した物理公式
- y-xグラフと媒質の速度の関係
この問題もグラフの解釈が主であり、数値計算はありません。
- 速度最大点(\(y=0\))を特定:\(x_4, x_8\)。
- 各点の速度の向きを判断:
- \(v_y(x_4) < 0\)
- \(v_y(x_8) > 0\)
- 条件(速度が正で最大)に合う点を抽出:\(x_8\)。
波をサーフィンに例えます。y-xグラフが波の形です。波は右に進みます。サーファー(媒質)は波の斜面を上下に動きます。
- 速度が一番速くなるのは、波の高さがゼロの場所(\(x_4, x_8\))です。
- 「正の向きに動く」とは、波の斜面を駆け上がっている状態です。
- \(x_8\)の場所を見ると、そのすぐ左側は波が盛り上がって(\(y>0\))います。これから波を駆け上がるので、速度は上向き(正)です。
- \(x_4\)の場所を見ると、そのすぐ左側は谷(\(y<0\))になっています。これから谷に滑り落ちるので、速度は下向き(負)です。
したがって、正の向きに最も速いのは\(x_8\)です。
思考の道筋とポイント
y-xグラフを描かずに、縦波の物理的な性質から直接答えを導く方法です。縦波では、「媒質の速度\(v_y\)」と「密度の変化\(\Delta \rho = \rho – \rho_0\)」が同位相であるという重要な関係があります。これを利用すれば、ρ-xグラフから直接、速度に関する情報を読み取ることができます。
この設問における重要なポイント
- 速度と密度の関係: 媒質の速度\(v_y\)は、密度変化\(\Delta \rho\)に比例します。\(v_y \propto \Delta \rho\)。
- 速度が最大になる点: \(v_y\)が最大になるのは、\(|\Delta \rho|\)が最大になるときです。これは、密度が最大(最も密)または最小(最も疎)の点です。
- 速度の向き: \(v_y\)の向きは\(\Delta \rho\)の符号で決まります。
- \(\Delta \rho > 0\)(密部)のとき、\(v_y > 0\)(正の向き)。
- \(\Delta \rho < 0\)(疎部)のとき、\(v_y < 0\)(負の向き)。
具体的な解説と立式
この関係を用いて問(2)を解きます。(問(1)を解くには、変位と密度の位相が90°ずれることを使う必要があり、y-xグラフを描く方が直感的です)
- 媒質の速度が最大になるのは、密度が最大または最小の点です。解答範囲\(x_1, \dots, x_8\)の中で、それは\(x_4\)(疎部)と\(x_8\)(密部)です。
- 速度の向きを判断します。
- \(x_8\)は密部であり、\(\rho > \rho_0\)なので\(\Delta \rho > 0\)です。したがって、速度は正の向き(\(v_y > 0\))です。
- \(x_4\)は疎部であり、\(\rho < \rho_0\)なので\(\Delta \rho < 0\)です。したがって、速度は負の向き(\(v_y < 0\))です。
- 「x軸の正の向きに最も速く動いている」という条件を満たすのは、\(x_8\)です。
使用した物理公式
- 縦波における媒質の速度と密度変化の関係:\(v_y \propto \Delta \rho\)
計算はなく、物理法則の適用による判断のみです。
- 速度最大点を特定(ρが極値をとる点):\(x_4, x_8\)。
- 速度が正となる点を特定(\(\rho > \rho_0\)の点):\(x_8\)。
- 両方の条件を満たす点を抽出:\(x_8\)。
物理法則「混んでいる場所(密部)の媒質は波の進行方向に動き、すいている場所(疎部)の媒質は逆向きに動く」を使います。
- 最も速く動くのは、最も混んでいる場所(\(x_8\))か、最もすいている場所(\(x_4\))です。
- このうち、波の進行方向(正の向き)に動いているのは、混んでいる場所(\(x_8\))です。
- したがって、答えは\(x_8\)になります。
媒質がx軸の正の向きに最も速く動いている位置は\(x_8\)です。この解法は、y-xグラフを描く手間を省き、縦波の物理的性質から直接結論を導くことができるため、非常に強力です。メインの解法と合わせて理解しておくことが望ましいです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 縦波の密度と変位の関係(位相のズレ):
- 核心: 縦波の「密度」と「変位」は、単純な比例関係にはありません。密度の変化が最大となる点(密部・疎部)では、媒質の変位はゼロになります。逆に、変位の大きさが最大となる点では、密度は元の密度\(\rho_0\)に戻ります。この位相が\( \displaystyle\frac{\pi}{2} \)(90°)ずれている関係を理解することが、(1)を解くための最も重要な法則です。
- 理解のポイント: ρ-xグラフがcos型で与えられた場合、y-xグラフは-sin型になります。この変換を正しく行えるかが鍵です。密部には左右から媒質が集まり、疎部からは左右へ媒質が散っていく様子をイメージすることが、この関係を直感的に理解する助けになります。
- 縦波の変位と速度の関係(単振動モデル):
- 核心: 媒質の各点は、そのつり合いの位置を中心に単振動しています。単振動の物理法則に従い、速度は変位がゼロの点(振動の中心)で最大となり、変位が最大の点(振動の端)でゼロになります。これが(2)を解くための基本原理です。
- 理解のポイント: y-xグラフを描いた後、各点の速度を考える問題は、単振動の問題に帰着します。速度の「大きさ」は変位ゼロの点で最大となり、速度の「向き」は波の進行方向から判断します(「波形を少し進めてみる」方法が有効)。
- 縦波の密度と速度の関係(同位相):
- 核心: 縦波では、「媒質の速度\(v_y\)」と「密度の変化\(\Delta \rho = \rho – \rho_0\)」は同位相です。つまり、密部(\(\Delta \rho > 0\))では媒質は波の進行方向(\(v_y > 0\))に動き、疎部(\(\Delta \rho < 0\))では逆方向(\(v_y < 0\))に動きます。この法則は(2)を解くための強力な別解(ショートカット)となります。
- 理解のポイント: この関係を知っていれば、ρ-xグラフから直接、速度が最大かつ正の向きの点(=最も密な点)を瞬時に見抜くことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 横波への変換問題: 縦波のρ-xグラフやy-xグラフを、対応する横波のy-xグラフで表現させる問題。位相関係(密度と変位は90°ずれ、密度と速度は同位相)を理解していれば、機械的に変換できます。
- 音波の問題: 音波は縦波の代表例です。空気の圧力変化のグラフが、この問題の密度変化のグラフに相当します。圧力の高い点が密部、低い点が疎部です。
- 時刻変化を問う問題: 「この状態から\( \displaystyle\frac{1}{4} \)周期後の密度分布はどうなるか?」といった問題。波形全体を\( \displaystyle\frac{1}{4} \)波長分だけ進行方向にずらすことで解答できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 与えられたグラフの種類を特定する: まず、グラフが「変位(y-x)」なのか「密度(ρ-x)」なのかを明確に確認します。これが全ての出発点です。
- 波の進行方向を確認する: 進行方向が正か負かによって、媒質の速度の向きの判断が変わるため、絶対に見落とさないようにします。
- 問われている物理量を確認する: 「変位」を問われているのか、「速度」を問われているのかを正確に把握します。それぞれで注目すべき点が異なります(変位最大は密・疎の中間、速度最大は密・疎の中心)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 密度と変位を混同する:
- 誤解: 密度が最大の点(密部)で、変位も最大だと勘違いする。
- 対策: 「密部=媒質が集まってきて身動きが取れない点」とイメージし、変位はゼロであることを徹底しましょう。逆に、媒質が最も大きく動けるのは、密度が通常に戻る点(密部と疎部の中間)です。
- 速度の向きの判断ミス:
- 誤解: y-xグラフ上で、山の点(\(y\)が正で最大)で速度も正、谷の点(\(y\)が負で最大)で速度も負だと考えてしまう。
- 対策: 単振動の端では速度はゼロです。速度の向きは「波形を少しだけ進行方向にずらす」方法で判断するのが最も確実です。「ある点の少し未来の変位は、その点の少し手前(波がやってくる側)の現在の変位と同じ」という原理を使いましょう。
- ρ-xグラフから直接速度を判断する際のミス:
- 誤解: 密部(\(\rho\)が最大)で速度が正、疎部(\(\rho\)が最小)で速度が負、という関係を逆に覚えてしまう。
- 対策: 「密=進行方向へ押し出される」「疎=進行方向から取り残される」という因果関係で覚えましょう。波はエネルギーを進行方向に伝えるので、媒質が密になることで次の媒質を押し、波が伝わっていきます。この「押す」方向が速度の向きです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- ばねの列モデル: 媒質を、ばねで連結された多数のおもりと見なすイメージ。密部はばねが縮んだ部分、疎部はばねが伸びた部分です。
- 縮んだばねの中心(密部)では、左右から押されておもりは動けません(変位ゼロ)。
- 伸びたばねの中心(疎部)でも、左右に引かれておもりは動けません(変位ゼロ)。
- 変位が最大になるのは、ばねの伸び縮みがゼロ(自然長)の点、つまり密部と疎部の中間です。
- y-xグラフへの変換図: ρ-xグラフの下に、対応するy-xグラフを並べて描くのが最も有効な図解法です。
- ρ-xの極大・極小点から垂線を下ろし、y-xグラフのゼロ点と対応させます。
- ρ-xのゼロ点(\(\rho=\rho_0\))から垂線を下ろし、y-xグラフの極大・極小点と対応させます。
- この対応関係を一度自分で描いてみると、位相のズレが視覚的に理解できます。
- ばねの列モデル: 媒質を、ばねで連結された多数のおもりと見なすイメージ。密部はばねが縮んだ部分、疎部はばねが伸びた部分です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 軸のラベルを明確に: 縦軸が密度\(\rho\)なのか変位\(y\)なのかを必ず明記します。
- 位相関係を矢印で示す: ρ-xグラフの密部からy-xグラフの\(y=0\)の点へ、ρ-xグラフの\(\rho=\rho_0\)の点からy-xグラフの変位最大の点へ、それぞれ矢印を結んで対応関係を明示すると、思考が整理されます。
- 速度の向きを書き込む: y-xグラフを描いた後、各点(特に\(y=0\)の点)に速度の向きを示す矢印(上向き↑ or 下向き↓)を書き込むと、(2)の解答ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ρ-xグラフ → y-xグラフへの変換:
- 選定理由: (1)で問われている「変位」に関する情報を得るため。与えられているのは「密度」の情報なので、両者を結びつける変換が必要になります。
- 適用根拠: 縦波の物理的定義そのものです。密部・疎部では媒質が集合・拡散するため変位できずゼロになる、という原理に基づきます。
- y-xグラフと媒質の速度の関係:
- 選定理由: (2)で問われている「速度」を、(1)で作成したy-xグラフから導出するため。
- 適用根拠: 媒質の運動が単振動であるというモデルに基づいています。速度の向きは、「波は形を保ったまま進む」という波の基本性質から導かれます。
- (別解)\(v_y \propto \Delta \rho\) の関係式:
- 選定理由: (2)を、y-xグラフを経由せずに、ρ-xグラフから直接解くため。より迅速な解法として選択します。
- 適用根拠: これは波動の連続の式と運動方程式から導かれる、より高度な物理法則ですが、結果(同位相)は直感的なイメージ(密=押す、疎=引く)とも一致し、高校物理では結論を知識として用いることが許容されています。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 最大変位位置の特定:
- 戦略: ρ-xグラフをy-xグラフに変換し、グラフから読み取る。
- フロー: ①ρ-xグラフの密部(\(x_8\))と疎部(\(x_4\))を特定 → ②これらの点では変位\(y=0\)とプロット → ③密部と疎部の中間点(\(x_2, x_6\))で変位が最大になると判断 → ④\(x_6\)付近では媒質が右(正)に変位し、\(x_2\)付近では左(負)に変位すると判断 → ⑤y-xグラフを完成させ、\(y\)が正で最大となる\(x_6\)を解答とする。
- (2) 正の最大速度位置の特定:
- 戦略: y-xグラフ上で、変位がゼロの点の中から、速度が正の向きの点を探す。
- フロー: ①y-xグラフ上で変位\(y=0\)の点(\(x_4, x_8\))を速度最大の候補として特定 → ②波が右に進むので、各点の速度の向きを「少し左側の点の変位」で判断 → ③\(x_4\)では左側の\(y<0\)なので速度は負。\(x_8\)では左側の\(y>0\)なので速度は正。 → ④速度が正で最大となる\(x_8\)を解答とする。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題には数値計算はありませんが、「作図ミス」「判断ミス」が計算ミスに相当します。
- グラフ変換の定型化: ρ-xグラフからy-xグラフへの変換は、毎回ゼロから考えるのではなく、「cos型→-sin型」のようにパターンとして覚えておくと、ミスが減り、時間も短縮できます。ただし、なぜそうなるのかという物理的理由は必ず理解しておきましょう。
- チェックリストの作成: 問題を解いた後、以下の項目をセルフチェックする習慣をつけましょう。
- グラフの種類は正しく認識したか?
- 波の進行方向は考慮したか?
- 問われているのは変位か、速度か?
- 速度の向きの判断方法は正しかったか?
- (別解)密度と速度の関係は正しく適用できたか?
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 変位: \(x_6\)は疎部\(x_4\)と密部\(x_8\)の中間にあります。疎部から逃げ出し、密部に向かって押し寄せられる途中の点なので、変位が大きくなるのは物理的に妥当です。
- (2) 速度: \(x_8\)は最も密な点です。媒質が最も圧縮されているということは、そこから次の媒質を最も強く押す(=最も速く動く)状態にあると解釈でき、物理的直感と一致します。
- 別解との比較:
- (2)の答え\(x_8\)は、y-xグラフから速度の向きを判断する方法と、ρ-xグラフから直接「密部では速度が正」と判断する方法の、全く異なる2つのアプローチで一致しました。これは、解答の正しさを強力に裏付けています。どちらか一方の解法で自信がない場合でも、もう一方の解法で検算することができます。
233 波の反射と重ね合わせ
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、x軸上を伝わるパルス波が自由端で反射する際の波形を、指定された時刻において作図する問題です。波の進行、自由端反射の性質、そして重ね合わせの原理という、波の基本的な3つの要素を組み合わせて解く能力が問われます。
- 時刻\(t=0 \text{ s}\)における波形(y-xグラフ)
- 波の進行方向: x軸の正の向き
- 波の速さ: \(v = 1 \text{ m/s}\)
- 反射点の位置: \(x=0 \text{ m}\)
- 反射の種類: 自由端反射
- 時刻\(t=4 \text{ s}\)に観測される合成波の波形を描くこと。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「パルス波の自由端反射と重ね合わせの原理」です。入射波が壁で反射して反射波となり、入射波と反射波が重なり合って観測される合成波を求める、という一連のプロセスを正確に作図することが目標です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の進行: 波形は、その形を保ったまま、速さ\(v\)で進行方向に平行移動する。
- 自由端反射: 反射面で波の変位の向き(山や谷)は反転せず、進行方向だけが逆になる。作図上では、反射面に対して「線対称」な波が生成されると考えることができる。
- 重ね合わせの原理: 複数の波が同じ場所に出会ったとき、その点の実際の変位は、各波が単独で存在した場合の変位を足し合わせたもの(ベクトル和)になる。
- 作図法: 反射の問題は、反射面を越えて進む「仮想的な入射波」を考え、それを折り返して「反射波」を作図し、重ね合わせる方法が非常に有効である。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、反射がないと仮定して、入射波が\(4 \text{ s}\)後にどこまで進むかを計算し、その「仮想的な入射波」を作図します。
- 次に、自由端反射の法則に従い、反射面を越えた部分から「反射波」の形を作図します。
- 最後に、入射波と反射波を重ね合わせの原理に従って足し合わせ、観測される「合成波」の波形を完成させます。
時刻\(t=4 \text{ s}\)の波形の作図
思考の道筋とポイント
時刻\(t=4 \text{ s}\)の波形を求める問題です。波は進み、壁で反射し、入射波と反射波が重なり合います。この一連の現象をステップバイステップで正確に作図することが求められます。この問題を解く最も効率的で間違いの少ない方法は、反射波を仮想的に作図する「作図法」を用いることです。
この設問における重要なポイント
- 波の移動距離の計算: まず、\(4 \text{ s}\)間で波がどれだけ進むかを計算します。距離 = 速さ × 時間。
- 入射波の作図(仮想): 反射がないものとして、\(t=0 \text{ s}\)の波形を計算した距離だけ進行方向に平行移動させます。これを「仮想的な入射波」と呼びます。
- 反射波の作図: 自由端反射の場合、反射波は「仮想的な入射波」が反射面を越えた部分を、反射面(この場合はy軸)に対して線対称に折り返した形になります。
- 合成波の作図: 最終的に観測される波形は、反射面の手前(\(x<0\))にある「仮想的な入射波」と、作図した「反射波」を、重ね合わせの原理に従って足し合わせたものになります。
具体的な解説と立式
この問題は作図によって解きます。以下の3ステップで進めます。
ステップ1:\(t=4 \text{ s}\)における仮想的な入射波の作図
波は速さ\(v=1 \text{ m/s}\)でx軸正の向きに進みます。\(t=4 \text{ s}\)後の波の移動距離\(d\)は、
$$ d = v \times t = 1 \times 4 = 4 \text{ [m]} $$
したがって、\(t=0 \text{ s}\)の波形全体をx軸正の向きに\(4 \text{ m}\)だけ平行移動させます。これが、もし反射面がなかった場合に\(t=4 \text{ s}\)に存在するであろう「仮想的な入射波」です。この仮想的な入射波を点線で描きます。
ステップ2:\(t=4 \text{ s}\)における反射波の作図
自由端反射では、反射波は入射波の上下を反転させずに、左右だけを反転させた形になります。これは、作図上では、ステップ1で描いた「仮想的な入射波」のうち、反射面(\(x=0\))を越えて\(x>0\)の領域にはみ出した部分を、反射面(y軸)を対称軸として折り返す(線対称移動する)ことで得られます。この反射波を別の点線で描きます。
ステップ3:\(t=4 \text{ s}\)における合成波の作図
観測される波形(合成波)は、入射波と反射波の重ね合わせによって決まります。
- \(x<0\)の領域では、「仮想的な入射波(ステップ1)」と「反射波(ステップ2)」の両方が存在するため、これらの変位を各点で足し合わせます。
- \(x>0\)の領域には、波は存在しません。
この足し算を実行し、最終的な合成波の波形を実線で描きます。
使用した物理公式
- 波の進行: \(x(t) = x_0 + vt\)
- 自由端反射の法則(作図法)
- 重ね合わせの原理
作図による足し算の過程を、特徴的な点の変位で確認します。
ステップ1、2で作図した\(t=4 \text{ s}\)における仮想的な入射波(\(y_{\text{入}}\))と反射波(\(y_{\text{反}}\))の変位を各点で読み取り、重ね合わせの原理に従って合成波の変位(\(y_{\text{合}}\))を求めます。
\(x=-2 \text{ m}\)の点
仮想入射波の変位は \(y_{\text{入}} = -0.05 \text{ m}\)、反射波の変位は \(y_{\text{反}} = 0 \text{ m}\) です。したがって、合成波の変位は、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{合}} &= y_{\text{入}} + y_{\text{反}} \\[2.0ex]&= -0.05 + 0 \\[2.0ex]&= -0.05 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
\(x=-1 \text{ m}\)の点
仮想入射波の変位は \(y_{\text{入}} = 0 \text{ m}\)、反射波の変位は \(y_{\text{反}} = 0.05 \text{ m}\) です。したがって、合成波の変位は、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{合}} &= y_{\text{入}} + y_{\text{反}} \\[2.0ex]&= 0 + 0.05 \\[2.0ex]&= 0.05 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
\(x=0 \text{ m}\)の点(反射点)
仮想入射波の変位は \(y_{\text{入}} = 0.05 \text{ m}\)、反射波の変位は \(y_{\text{反}} = 0.05 \text{ m}\) です。したがって、合成波の変位は、
$$
\begin{aligned}
y_{\text{合}} &= y_{\text{入}} + y_{\text{反}} \\[2.0ex]&= 0.05 + 0.05 \\[2.0ex]&= 0.1 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
これらの点を結ぶと、最終的な合成波の波形が得られます。
- もし壁がなかったら、波は4秒で4m右に進みます。まず、その「もしも」の波(仮想的な入射波)を薄く描きます。
- 次に、壁の向こう側にはみ出した部分を、鏡に映すようにパタンと折り返して「反射波」を薄く描きます。自由端なので、上下はひっくり返しません。
- 最後に、壁の手前にある「もしもの入射波」と「反射波」の2つの波を、各場所で高さを足し算します。これが本当に見える波(合成波)なので、これを実線で濃く描いて完成です。
作図の結果、\(t=4 \text{ s}\)における合成波は、\(x=-2 \text{ m}\)で変位\(-0.05 \text{ m}\)、\(x=-1 \text{ m}\)で変位\(0.05 \text{ m}\)、\(x=0 \text{ m}\)で変位\(0.1 \text{ m}\)となる折れ線の波形となります。特に、反射点である\(x=0\)では、入射波と反射波が強め合い、変位が大きくなっています。これは、壁が自由に動ける自由端反射の特徴であり、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
「作図法の原理」をより直接的に理解するための方法です。波が壁に到達し、反射していく過程を時間ごとに追って\(t=4 \text{ s}\)の波形を求めます。この方法は物理現象に忠実ですが、作図がやや複雑になる場合があります。
この設問における重要なポイント
- 壁への到達時刻: 波の先端(\(t=0\)で\(x=-2 \text{ m}\))が壁(\(x=0\))に到達する時刻を計算します。
- 反射の進行: 壁に到達した部分から順に反射波が生成され、x軸負の向きに進んでいきます。
- 入射波と反射波の分離: \(t=4 \text{ s}\)の時点で、まだ壁に到達していない部分(入射波)と、すでに反射を終えた部分(反射波)を分けて考えます。
- 重ね合わせ: 両者が存在する領域で、変位を足し合わせます。
具体的な解説と立式
ステップ1:波が壁に到達するまでの動き
波の先端は\(t=0\)で\(x=-2 \text{ m}\)にあります。速さ\(1 \text{ m/s}\)で進むので、壁(\(x=0\))に到達するのは、
$$ t_{\text{到達}} = \frac{\text{距離}}{\text{速さ}} = \frac{0 – (-2)}{1} = 2 \text{ [s]} $$
時刻\(t=2 \text{ s}\)で、波の先端が壁に到達します。
ステップ2:\(t=2 \text{ s}\)から\(t=4 \text{ s}\)までの反射過程
\(t=2 \text{ s}\)から\(t=4 \text{ s}\)までの\(\Delta t = 2 \text{ s}\)の間に、反射が起こります。
- 反射波の生成: この2秒間に壁に到達する入射波の部分は、\(t=0\)の波形では\(x=-4 \text{ m}\)から\(x=-2 \text{ m}\)の部分に相当します。
- 反射波の伝播: この部分が自由端反射(上下反転なし、左右反転あり)して、x軸負の向きに速さ\(1 \text{ m/s}\)で進みます。\(t=4 \text{ s}\)の時点では、反射波の先端は壁から\(1 \text{ m/s} \times 2 \text{ s} = 2 \text{ m}\)だけ離れた\(x=-2 \text{ m}\)の位置にあります。
ステップ3:\(t=4 \text{ s}\)における入射波の残りの部分
\(t=4 \text{ s}\)の時点で、まだ壁に到達していない入射波の部分は、\(t=0\)の波形で\(x < -4 \text{ m}\)にあった部分です。この部分は、単純に\(4 \text{ m}\)だけ右に進んでいます。
ステップ4:合成波の作図
ステップ2で求めた反射波と、ステップ3で求めた入射波の残りの部分を重ね合わせると、メインの解法で得られたものと全く同じ合成波が得られます。
- まず、波の先頭が壁に着くのが2秒後だとわかります。
- 問題は4秒後なので、壁に着いてからさらに2秒間の出来事を考えます。
- この2秒間で、波の一部が壁に吸い込まれ、鏡写しになって(自由端反射)壁から出てきます。これが「反射波」です。
- 一方、まだ壁に到達していない波の残りの部分は、そのまま進み続けます。これが「入射波」です。
- 4秒後の瞬間には、この「入射波」と「反射波」が重なっているので、2つの波の高さを足し算して、最終的な波の形を求めます。
この方法でも、メインの解法と同じ結果が得られます。物理的な過程を一つ一つ追跡するため、なぜ「作図法」が成り立つのかを理解するのに役立ちます。しかし、作図の手間は増えるため、試験などではメインの解法(仮想的な波を考える方法)が推奨されます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の独立性と重ね合わせの原理:
- 核心: 複数の波が出会っても、互いに影響を与えずに通り過ぎ(波の独立性)、重なり合った点の変位は各波の変位のベクトル和になる(重ね合わせの原理)。この問題では、入射波と反射波という2つの波の足し算によって、観測される合成波が決定されます。これが現象を理解する上での最も根幹となる法則です。
- 理解のポイント: 作図問題では、各波を別々のものとして描き、最後に機械的に足し算するという手順が、この原理を具体化したものです。
- 反射の法則(自由端・固定端):
- 核心: 波が境界で反射する際のルールを理解すること。この問題は「自由端反射」であり、波の山谷は反転せず、進行方向のみが逆になります。作図上では、反射面に対して「線対称」に折り返す操作に対応します。
- 理解のポイント: 自由端反射は「壁が波に合わせて自由に動ける」状態です。入射波が壁を押し上げようとすると、壁は素直に押し上げられ、その動きが反射波となって返っていきます。だから山は山のまま反射します。これと対比して、固定端反射(山が谷になって返る、作図上は点対称)のルールも必ずセットで覚えておきましょう。
- 作図法(仮想波を用いる方法):
- 核心: 反射の問題を解くための、最も強力で実践的なテクニックです。反射を「壁の向こう側に仮想的な波源があり、そこから壁を透過してくる波」と見なす考え方です。
- 理解のポイント: ①反射がないものとして入射波を進める(仮想的な入射波)、②壁を越えた部分を反射の法則に従って折り返す(反射波)、③壁の手前で入射波と反射波を重ねる(合成波)、という3ステップの手順を完全にマスターすることが、この種の作図問題を解く鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 固定端反射: この問題の「自由端」が「固定端」に変わっただけの問題。作図法のステップ②で、波を「線対称」ではなく「点対称」に折り返す点だけが異なります。
- 連続波(正弦波など)の反射: パルス波ではなく、連続的な波が反射する問題。定常波(定在波)が生成される過程を問われます。作図法は全く同じように適用でき、入射波と反射波を重ねることで、節や腹の位置を特定できます。
- 透過を伴う反射: 屈折率の異なる媒質の境界での反射と透過。入射波の一部が反射し、一部が透過する問題。反射波の作図は同じですが、透過波も考える必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 反射の種類を最優先で確認する: 「自由端」か「固定端」か。この一言で作図のルールが根本的に変わるため、絶対に見落とさないようにします。
- 時刻と速さから移動距離を計算する: まず「波が何メートル進むのか」を確定させます。これが作図の第一歩です。
- 反射面の位置を確認する: 反射面が\(x=0\)なのか、他の座標なのかを確認します。折り返しの基準となる軸を間違えないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 自由端と固定端のルールの混同:
- 誤解: 自由端反射なのに、波の上下を反転させてしまう(固定端と間違える)。
- 対策: 「自由=反転しない」「固定=反転する」と明確に覚えましょう。「自由端は腹、固定端は節」という定常波との関連で覚えるのも有効です。
- 重ね合わせの際の計算ミス:
- 誤解: 入射波と反射波の足し算を、特定の一点だけで行い、他の部分の形状を適当に描いてしまう。
- 対策: 波形が折れ線で与えられている場合、その角となる点(特徴的な点)をいくつか選び、それぞれの点で丁寧に足し算を実行します。その後、それらの点を直線で結ぶことで、正確な合成波の形が得られます。
- 仮想的な入射波と実際の入射波の混同:
- 誤解: 作図のステップ③で、仮想的な入射波全体と反射波を重ねてしまう。
- 対策: 重ね合わせを行うのは、波が実際に存在する領域(この問題では\(x<0\))のみです。仮想的な入射波のうち、反射面を越えた部分は、あくまで反射波を作るための「下書き」であり、実際の波ではありません。作図の際は、仮想的な波は点線で、最終的な合成波は実線で描くなど、明確に区別しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 鏡のイメージ: 反射面を「鏡」と見なすイメージが非常に有効です。
- 自由端反射: 普通の鏡。鏡の向こうに、左右対称な「像」としての波が見える。この像が反射波の正体です。
- 固定端反射: 上下も左右も反転する不思議な鏡。鏡の向こうに、点対称な「像」が見える。
- 作図の3ステップを色分けする:
- 仮想的な入射波を「青の点線」で描く。
- 反射波を「赤の点線」で描く。
- 合成波を「黒の実線」で描く。
このように色分けすることで、どの波を足し合わせているのかが視覚的に明確になり、ミスを防げます。
- 鏡のイメージ: 反射面を「鏡」と見なすイメージが非常に有効です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 目盛りを正確に: x軸、y軸の目盛りを正確に描き、波形の特徴的な点の座標をプロットすることで、作図の精度が上がります。
- 補助線を活用する: 重ね合わせの計算をする際に、各点の変位の値を縦方向に補助線で示し、その長さを足し合わせるように作図すると、視覚的に計算しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波の進行距離の式 (\(d=vt\)):
- 選定理由: 指定された時間後に、波形がどこまで移動しているかを特定するため。作図の最初のステップとして必須の計算です。
- 適用根拠: 速さが一定の運動における、距離、速さ、時間の基本的な関係式です。
- 重ね合わせの原理 (\(y_{\text{合}} = y_{\text{入}} + y_{\text{反}}\)):
- 選定理由: 入射波と反射波が同時に存在する領域で、実際に観測される変位を決定するため。
- 適用根拠: 線形な系(変位が小さい場合の波など)で広く成り立つ物理学の基本原理です。波の変位を表す波動方程式が線形微分方程式であることに由来します。
- 自由端反射の作図法(線対称):
- 選定理由: 反射波の形状を、仮想的な入射波から簡単かつ正確に導出するための、確立された手法だからです。
- 適用根拠: これは、境界条件(自由端では変位の空間微分がゼロ)を満たす波動方程式の解が、このような対称性を持つことに基づいています。高校物理では、この数学的背景よりも、結果としての作図ルールを使いこなすことが重視されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (全体) 合成波の作図:
- 戦略: 仮想波を用いた作図法により、入射波と反射波を個別に描き、最後に重ね合わせる。
- フロー:
- 移動距離計算: \(d = vt = 1 \times 4 = 4 \text{ m}\) を計算。
- 仮想入射波の作図: \(t=0\)の波形を右に\(4 \text{ m}\)平行移動させ、点線で描く。
- 反射波の作図: 仮想入射波の\(x>0\)の部分を、y軸に対して線対称に折り返し、別の点線で描く。
- 合成波の作図: \(x<0\)の領域で、仮想入射波と反射波の変位を各点で足し算する。特徴的な点(\(x=-2, -1, 0\)など)で計算し、それらを結んで実線で描く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの読み取りを慎重に: 元の波形や、作図途中の波形の座標と変位を正確に読み取ることが、計算ミスの防止につながります。特に、直線の傾きや切片を読み間違えないように注意しましょう。
- 分数のまま計算する: 座標や変位が分数になる場合、途中で小数に直さず、分数のまま計算を進めた方が正確な結果を得られることが多いです。
- 作図の丁寧さ: フリーハンドで描く場合でも、定規を使うなどして直線をきれいに描き、座標軸との交点などを明確にすることで、視覚的な勘違いによるミスを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 自由端の動き: 自由端(\(x=0\))は、波の振動に対して最も自由に動ける点(定常波の「腹」になる点)です。したがって、合成波の変位が大きくなるのは自然です。今回の結果では、\(x=0\)で変位が\(0.1 \text{ m}\)となっており、妥当な結果と言えます。
- 波のエネルギー: 反射後も波の振幅(山の高さや谷の深さ)が大きく変わっていないことから、エネルギーが保存されている様子がうかがえます。
- 別解との比較:
- この問題では、メインの「作図法」と、別解の「時系列で追う方法」があります。両方のアプローチで同じ結果が得られることを確認できれば、解答の正しさに対する信頼性は格段に向上します。試験本番では一つの方法で解き、見直しの際に別のアプローチで検算する、という使い方が有効です。
234 定在波
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、両端を固定したウェーブマシンに生じる定在波について、その基本的な性質(周期、波長、振動数)を読み取り、定在波を構成する2つの進行波の様子を考察する問題です。定在波の時系列変化の理解と、それを進行波の重ね合わせとして分析する能力が問われます。
- 媒質の長さ: \(L\)
- 境界条件: 両端固定
- 定在波の時間変化:
- 時刻 0: 波形1(振幅最大)
- 時刻 \(t_0\): 波形2(変位ゼロ)
- 時刻 \(2t_0\): 波形3(振幅が逆向きに最大)
- 時刻 \(3t_0\): 波形4(変位ゼロ)
- 時刻 \(4t_0\): 初めて波形1に戻る
- 定在波の腹の数: 3つ
- (1) 定在波の腹における媒質の振動数 \(f\)。
- (2) 定在波を構成する2つの進行波の速さ \(v\)。
- (3) 時刻 \(5t_0\) における、右に進む波と左に進む波の波形。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「定在波の性質と進行波への分解」です。与えられた定在波の連続写真から、周期や波長といった基本量を読み取り、さらにその定在波がどのような進行波からできているのかを解明していきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定在波の周期と媒質の単振動: 定在波の各点は、その場で単振動を繰り返しています。媒質が1回振動して元の状態に戻る時間が周期\(T\)です。
- 定在波の波形と波長の関係: 定在波の腹と腹(または節と節)の間隔は、元の進行波の波長の半分(\(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\))です。
- 波の基本式: 進行波の速さ\(v\)、振動数\(f\)、波長\(\lambda\)の間には、\(v=f\lambda\)の関係が成り立ちます。
- 定在波と進行波の関係: 定在波は、振幅、波長、速さが等しく、進行方向が逆向きの2つの進行波が重なり合うことで生じます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、定在波の振動の様子から周期\(T\)を特定し、振動数\(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)を計算します。
- (2)では、定在波の波形から波長\(\lambda\)を求め、(1)で得た\(f\)と組み合わせて、波の基本式\(v=f\lambda\)から速さ\(v\)を計算します。
- (3)では、まず基準となる時刻(例:時刻\(4t_0\))の定在波を2つの進行波に分解します。次に、その進行波を\(t_0\)時間だけそれぞれ進めることで、時刻\(5t_0\)の波形を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
定在波の腹における媒質の振動数\(f\)を求める問題です。振動数を求めるには、まず周期\(T\)を知る必要があります。問題文の「時刻0で波形1となり、時刻\(4t_0\)に初めて波形1に戻った」という記述が、周期を決定するための鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 周期の定義: 媒質が1回振動して、元の位置に同じ向きの速度で戻ってくるまでの時間です。
- グラフからの周期の読み取り: 時刻0(波形1)で媒質の変位は最大です。ここから振動が始まり、時刻\(2t_0\)(波形3)で逆向きの変位最大となり、時刻\(4t_0\)で再び元の変位最大(波形1)に戻ります。これが1周期分の運動です。
具体的な解説と立式
問題文より、定在波は時刻0から時刻\(4t_0\)の間に1回の振動を完了します。したがって、この定在波の周期\(T\)は、
$$ T = 4t_0 $$
振動数\(f\)は周期\(T\)の逆数なので、次の関係式が成り立ちます。
$$ f = \frac{1}{T} $$
使用した物理公式
- 振動数と周期の関係: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)
上記で立てた式に\(T=4t_0\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
f &= \frac{1}{4t_0}
\end{aligned}
$$
ウェーブマシンの媒質が1回「ブルン」と揺れて元に戻るのにかかる時間が周期です。問題文から、その時間は\(4t_0\)秒だとわかります。振動数は「1秒間に何回ブルンと揺れるか」なので、周期の逆数を計算します。
定在波の腹の部分での媒質の振動数は \(\displaystyle\frac{1}{4t_0}\) です。これは定在波上のすべての点(節を除く)で共通の振動数です。
問(2)
思考の道筋とポイント
定在波を構成する2つの進行波の速さ\(v\)を求める問題です。波の速さは、基本式 \(v=f\lambda\) を用いて計算できます。振動数\(f\)は(1)で求めたので、次に波長\(\lambda\)を図から読み取る必要があります。
この設問における重要なポイント
- 波長の読み取り: 定在波の図を見ると、長さ\(L\)の区間に3つの腹が存在します。腹と腹の間隔は、進行波の波長の半分、つまり \(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\) です。
- 長さ\(L\)と波長\(\lambda\)の関係: 図には腹が3つ、つまり\(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\)の長さが3つ分含まれています。したがって、\(L = 3 \times \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) という関係が成り立ちます。
具体的な解説と立式
まず、図の波形1から波長\(\lambda\)を求めます。長さ\(L\)の区間に3つの腹があるので、
$$ L = 3 \times \frac{\lambda}{2} $$
この式を\(\lambda\)について解くと、
$$ \lambda = \frac{2}{3}L \quad \cdots ① $$
次に、波の基本式 \(v=f\lambda\) を用います。(1)で求めた \(f = \displaystyle\frac{1}{4t_0}\) と、式①を代入します。
$$ v = f\lambda \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 定在波の波長の関係
- 波の基本式: \(v=f\lambda\)
式②に、\(f = \displaystyle\frac{1}{4t_0}\) と \(\lambda = \displaystyle\frac{2}{3}L\) を代入して\(v\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= f\lambda \\[2.0ex]&= \left( \frac{1}{4t_0} \right) \times \left( \frac{2}{3}L \right) \\[2.0ex]&= \frac{2L}{12t_0} \\[2.0ex]&= \frac{L}{6t_0}
\end{aligned}
$$
波の速さは「振動数 × 波長」で計算できます。振動数は(1)で求めました。波長は、図を見ると「波1.5個分」が長さ\(L\)にぴったり収まっているので、波1個分の長さ(波長)は\(L\)の\(\displaystyle\frac{2}{3}\)倍だとわかります。これらを掛け合わせることで、速さが求まります。
進行波の速さは \(\displaystyle\frac{L}{6t_0}\) です。この速さは、右に進む波も左に進む波も共通です。
問(3)
思考の道筋とポイント
時刻\(5t_0\)における、右に進む波と左に進む波のそれぞれの波形を特定する問題です。定在波は2つの進行波の重ね合わせでできているため、まず基準となる時刻の進行波の形を特定し、そこから時間発展させて考えます。
この設問における重要なポイント
- 進行波への分解: 定在波の変位が最大になる瞬間(時刻0や\(4t_0\))、媒質の速度はすべての点で0になります。これは、右に進む波と左に進む波が完全に重なり合い、互いの媒質の速度を打ち消し合っている状態を意味します。このとき、2つの進行波は全く同じ波形をしており、その振幅は定在波の振幅の半分になります。
- 時間発展: 時刻\(4t_0\)から\(5t_0\)へは、\(t_0\)時間だけ経過します。周期は\(T=4t_0\)なので、これは\(\displaystyle\frac{1}{4}\)周期に相当します。波は\(\displaystyle\frac{1}{4}\)周期の間に\(\displaystyle\frac{1}{4}\)波長(\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\))だけ進みます。
具体的な解説と立式
ステップ1:基準となる時刻(\(4t_0\))の進行波の特定
時刻\(4t_0\)の定在波は波形1であり、変位が最大です。この瞬間、右に進む波と左に進む波は、どちらも波形1と同じ形で、振幅が半分の波になっています。選択肢の図で言えば、両方の波が①の形をしています。
ステップ2:時刻\(4t_0\)から\(5t_0\)への時間発展
\(t_0\)時間(\(\displaystyle\frac{1}{4}\)周期)だけ、それぞれの波を進めます。
- 右に進む波: 時刻\(4t_0\)に①の形だった波が、右に\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\)だけ進みます。①は山から始まるcos型の波なので、右に\(\displaystyle\frac{1}{4}\)波長進むと、谷から始まる-sin型の波になります。これは選択肢②の形です。
- 左に進む波: 時刻\(4t_0\)に①の形だった波が、左に\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\)だけ進みます。①は山から始まるcos型の波なので、左に\(\displaystyle\frac{1}{4}\)波長進むと、山に向かうsin型の波になります。これは選択肢④の形です。
使用した物理公式
- 定在波と進行波の分解・合成の原理
この問題は作図的な考察が主であり、数値計算はありません。
- 時刻\(4t_0\)の進行波の形を特定 → 右に進む波も左に進む波も①の形。
- 右に進む波を\(\displaystyle\frac{T}{4}\)(\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\))だけ右に進める → ②の形になる。
- 左に進む波を\(\displaystyle\frac{T}{4}\)(\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\))だけ左に進める → ④の形になる。
- まず、定在波が一番大きく膨らんだ瞬間(時刻\(4t_0\))をスタート地点と考えます。このとき、定在波を作っている「右に進む波」と「左に進む波」は、どちらも選択肢①の形をしています。
- ここから\(t_0\)秒後(時刻\(5t_0\))の様子を知りたいのですが、\(t_0\)秒は波が1回振動する時間のちょうど4分の1です。
- 「右に進む波」は、①の形から4分の1周期分だけ右に進みます。すると、波の形は②に変わります。
- 「左に進む波」は、①の形から4分の1周期分だけ左に進みます。すると、波の形は④に変わります。
時刻\(5t_0\)において、右に進む波の波形は②、左に進む波の波形は④です。
この結果が妥当か確認してみましょう。時刻\(5t_0\)は、周期\(T=4t_0\)で考えると、変位が最大だった時刻\(4t_0\)から\(\displaystyle\frac{T}{4}\)だけ経過した時刻です。したがって、定在波の変位は全体で0になるはずです(波形2や4と同じ)。実際に、②の波(-sin型)と④の波(sin型)を重ね合わせると、すべての点で変位が打ち消し合い、合成波の変位は0になります。これは物理的な状況と一致しており、妥当な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定在波の周期的運動の理解:
- 核心: 定在波は進行しない波ですが、その媒質は周期的に振動しています。問題文の「時刻0で波形1、時刻\(4t_0\)に初めて波形1に戻る」という記述から、媒質の単振動の周期が\(T=4t_0\)であると読み取ることが、(1)を解くための最も重要なポイントです。
- 理解のポイント: 定在波の図は「スナップショット」の連続です。変位が最大 → ゼロ → 逆向きに最大 → ゼロ → 元の最大、という一連の流れが1周期に対応することを理解しましょう。
- 定在波の空間的構造(波長)の理解:
- 核心: 定在波の波形には、全く振動しない「節」と、最も大きく振動する「腹」が交互に並びます。この「腹と腹の間隔」が、元の進行波の波長の半分(\(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\))に相当するという関係が、(2)を解くための鍵です。
- 理解のポイント: 図から「長さ\(L\)の中に腹がいくつあるか」を数え、\(L = (\text{腹の数}) \times \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) という関係式を立てるのが定石です。
- 定在波と進行波の関係:
- 核心: 定在波は、振幅・波長・速さが等しく逆向きに進む2つの進行波の重ね合わせとして説明できます。特に、定在波の変位が最大になる瞬間は、2つの進行波が完全に重なり合った(同位相の)状態であり、定在波の変位がゼロになる瞬間は、2つの進行波が互いに逆位相で打ち消し合った状態です。この関係を理解することが、(3)を解くための核心です。
- 理解のポイント: (3)のような問題を解くには、まず「定在波の変位が最大の瞬間」に着目し、そこから2つの進行波を時間発展させるのが最も簡単なアプローチです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 気柱の共鳴: 開管や閉管に生じる定常波の問題。両端固定の弦は両端が閉管の気柱に、両端自由の弦は両端が開管の気柱に相当します。腹と節の位置関係や、波長の求め方は全く同じ考え方が使えます。
- 進行波からの定在波作図: 2つの進行波の波形が与えられ、それらを重ね合わせて定在波の特定の時刻の波形や、節・腹の位置を求める問題。この問題とは逆のプロセスを問われます。
- 異なる振動モード: この問題は腹が3つの「3倍振動」ですが、腹が1つの「基本振動」や、腹が2つの「2倍振動」など、異なるモードの問題が出題されます。どのモードでも、\(L = n \times \displaystyle\frac{\lambda}{2}\)(nは腹の数)という関係は共通です。
- 初見の問題での着眼点:
- 境界条件を確認する: 「両端固定」なのか「両端自由」なのか、あるいは「一端固定、一端自由」なのか。これにより、端が節になるか腹になるかが決まり、波長の計算に影響します。
- 腹の数を数える: 図から腹(または節)の数を正確に数えることが、波長を決定する上で不可欠です。
- 周期を読み取る: 時間変化を示す図や記述から、1回の振動にかかる時間(周期)を正確に読み取ります。「初めて元に戻る」という言葉が周期決定のキーワードです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 波長\(\lambda\)の誤認:
- 誤解: 定在波の「山一つ」の長さを波長\(\lambda\)だと勘違いしてしまう。
- 対策: 定在波の「山一つ」(腹一つ)の長さは、波長の半分(\(\displaystyle\frac{\lambda}{2}\))です。必ず「腹2つ分で1波長」と覚えましょう。図に進行波の波形を重ねて描いてみると、この関係が視覚的に理解できます。
- 周期\(T\)の誤認:
- 誤解: 変位が最大の状態(波形1)から、逆向きに最大の状態(波形3)になるまでを1周期だと勘違いする。
- 対策: これは半周期(\(\displaystyle\frac{T}{2}\))です。1周期は、元の状態に「速度の向きまで含めて」戻るまでの時間です。変位が最大の状態からなら、次に同じ変位最大の状態に戻るまでが1周期です。
- 進行波への分解方法の間違い:
- 誤解: 定在波の変位がゼロの瞬間(波形2など)に、進行波も変位がゼロだと考えてしまう。
- 対策: 定在波の変位がゼロの瞬間は、2つの進行波が「互いに打ち消し合っている」状態です。つまり、一方の波が山なら、もう一方の波は谷になっており、変位はゼロではありません。分解の基準にするのは、考えやすい「変位が最大の瞬間」にしましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 進行波の重ね合わせアニメーション: 頭の中で、右に進む波と左に進む波を同時に動かし、その合成結果が定在波の振動になる様子をイメージします。
- 2つの波の山と山が重なると、定在波の腹は最大変位に。
- 山と谷が重なると、定在波の変位はゼロに。
- 谷と谷が重なると、定在波の腹は逆向きの最大変位に。
- (3)の分解・時間発展の図示:
- 時刻\(4t_0\)の定在波(実線)を描く。
- その上に、振幅が半分の進行波(右向き用と左向き用)を2つ、全く同じ位置に点線で描く。
- 右向き用の点線を右に\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\)ずらした波形を描く。これが答えの一つ。
- 左向き用の点線を左に\(\displaystyle\frac{\lambda}{4}\)ずらした波形を描く。これがもう一つの答え。
この手順を図で追うことで、論理的な流れが明確になります。
- 進行波の重ね合わせアニメーション: 頭の中で、右に進む波と左に進む波を同時に動かし、その合成結果が定在波の振動になる様子をイメージします。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 腹と節を明記する: 定在波の図には、どこが腹(Antinode)でどこが節(Node)なのかを書き込むと、思考が整理されます。
- 波長を書き込む: 図の中に「\(\lambda/2\)」の長さを明記すると、波長計算のミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 振動数と周期の関係 (\(f=1/T\)):
- 選定理由: (1)で、時間的な情報(周期)から振動数を求めるため。これは振動・波動における最も基本的な定義式です。
- 適用根拠: 振動数は「単位時間あたりの振動回数」、周期は「1回の振動あたりの時間」であり、両者が逆数の関係にあるのは定義そのものです。
- 波の基本式 (\(v=f\lambda\)):
- 選定理由: (2)で、進行波の速さを求めるため。速さ、振動数、波長という3つの基本量を結びつける唯一の公式です。
- 適用根拠: 波が1周期(\(T\))の間に1波長(\(\lambda\))進むという事実に基づいています。\(v = \displaystyle\frac{\lambda}{T} = \lambda \times \frac{1}{T} = f\lambda\) という関係から導かれます。
- 定在波の波長公式 (\(L=n\frac{\lambda}{2}\)):
- 選定理由: (2)で、図の空間的な情報(長さ\(L\)と腹の数)から、未知の物理量である波長\(\lambda\)を求めるため。
- 適用根拠: 両端が節となる定在波が成立するための境界条件から導かれます。長さ\(L\)の間に、波長の半分が整数個ぴったり収まらなければならない、という幾何学的な制約を数式化したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 振動数の計算:
- 戦略: 時間変化の図から周期\(T\)を読み取り、公式で\(f\)に変換する。
- フロー: ①図の系列から「1回の振動」が\(4t_0\)かかると判断 → ②周期 \(T=4t_0\) を確定 → ③公式 \(f=1/T\) に代入し、\(f = \displaystyle\frac{1}{4t_0}\) を得る。
- (2) 速さの計算:
- 戦略: 空間的な図から波長\(\lambda\)を求め、(1)の結果と合わせて基本式に代入する。
- フロー: ①図から腹の数が3つと判断 → ②公式 \(L=n\frac{\lambda}{2}\) に \(n=3\) を代入し、\(L=3\frac{\lambda}{2}\) → ③式を\(\lambda\)について解き、\(\lambda=\frac{2}{3}L\) を得る → ④基本式 \(v=f\lambda\) に(1)と③の結果を代入し、\(v = \frac{L}{6t_0}\) を計算する。
- (3) 進行波の特定:
- 戦略: 定在波の変位が最大の瞬間を基準に2つの進行波に分解し、指定された時間だけ進める。
- フロー: ①基準時刻を\(t=4t_0\)(波形1)に設定 → ②このとき、右に進む波も左に進む波も、波形1と相似で振幅が半分の波(選択肢①の形)と判断 → ③経過時間 \(t_0 = T/4\) なので、波は\(\lambda/4\)進むと判断 → ④右に進む波は①を右に\(\lambda/4\)進め、②の形になる。左に進む波は①を左に\(\lambda/4\)進め、④の形になる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の計算を丁寧に: この問題は文字式が多いため、分数の計算などでケアレスミスが起きやすいです。特に(2)の計算では、\(f\)と\(\lambda\)を代入した後の約分を慎重に行いましょう。
- 物理量の関係性を意識する: 例えば、弦の長さを長くすれば波長は長くなり、速さが一定なら振動数は低くなるはず、といった物理量間の関係を頭に入れておくと、計算結果が直感に反していないか検算できます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3)の重ね合わせによる検算: (3)で求めた2つの進行波(②と④)を実際に重ね合わせてみましょう。②は-sin型、④はsin型なので、足し合わせると全ての点で変位がゼロになります。これは、時刻\(5t_0\)(=\(4t_0+t_0\))の定在波の形が、時刻\(t_0\)と同じく変位ゼロ(波形2)になるという事実と一致しており、解答の妥当性を裏付けています。
- 単位(次元)の確認: (2)で求めた速さ \(v = \displaystyle\frac{L}{6t_0}\) の単位(次元)を確認します。\(L\)は長さ[m]、\(t_0\)は時間[s]なので、[m/s]となり、確かに速さの単位になっています。このような次元解析は、計算ミスを発見する有効な手段です。
235 定在波
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、逆向きに進む2つの正弦波が重なり合って生じる定在波について、特定の時刻における波形(合成波)の作図、節の位置の特定、そして合成波の変位が常に0になる時刻を求める問題です。進行波の重ね合わせとしての定在波の性質を、空間的・時間的の両面から深く理解しているかが問われます。
- 波A:
- 振幅: \(A_A = 1.0 \text{ cm}\)
- 波長: \(\lambda_A = 4.0 \text{ cm}\)
- 速さ: \(v_A = 20 \text{ cm/s}\)
- 進行方向: x軸の正の向き
- 波B:
- 振幅: \(A_B = 1.0 \text{ cm}\)
- 波長: \(\lambda_B = 4.0 \text{ cm}\)
- 速さ: \(v_B = 20 \text{ cm/s}\)
- 進行方向: x軸の負の向き
- 時刻\(t=0 \text{ s}\)における波A(実線)と波B(破線)の波形が図で与えられている。
- 周期を\(T\)、\(m=0, 1, 2, \dots\)とする。
- (1) 時刻 \(t = \displaystyle\frac{3}{4}T\) における合成波を描き、節の位置を \(x \ge 0\) の範囲で一般式で表すこと。
- (2) 合成波の変位が、xの値に関係なく0になる時刻を一般式で表すこと。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「進行波の重ね合わせによる定在波の形成」です。2つの進行波をそれぞれ時間発展させ、それらを足し合わせることで定在波の様子を分析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の進行: 波は形を保ったまま、\(d=vt\)だけ進行方向に平行移動する。
- 重ね合わせの原理: ある点での合成波の変位は、各波の変位の和で与えられる。
- 定在波の節と腹: 節は全く振動しない点、腹は最も大きく振動する点である。
- 周期と波長の関係: 波の基本式 \(v=f\lambda\) と \(f=1/T\) から、周期 \(T = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\) が導かれる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、まず周期\(T\)を計算し、\(t = \displaystyle\frac{3}{4}T\) という時刻を具体的な秒数に直すか、波が進む距離(\(\displaystyle\frac{3}{4}\lambda\))を計算します。そして、波Aと波Bをそれぞれ進ませて作図し、重ね合わせの原理で合成波を描きます。節の位置は、合成波の変位が常に0になる点をグラフから読み取ります。
- (2)では、合成波の変位が常に0になる条件、すなわち「波Aの山と波Bの谷が重なる」または「波Aの谷と波Bの山が重なる」状況を考えます。\(t=0\)の状態から、そのような状態になるまでの最短時間を求め、その後は半周期ごとに同じ状況が繰り返されることを利用して一般式を立てます。
問(1)
思考の道筋とポイント
時刻 \(t = \displaystyle\frac{3}{4}T\) における合成波の作図と、節の位置の特定が求められています。まず、波Aと波Bをそれぞれ\(\displaystyle\frac{3}{4}\)周期分だけ進ませ、その結果を重ね合わせます。
この設問における重要なポイント
- 波が進む距離: 1周期(\(T\))で1波長(\(\lambda\))進むので、\(\displaystyle\frac{3}{4}\)周期(\(\displaystyle\frac{3}{4}T\))では\(\displaystyle\frac{3}{4}\)波長(\(\displaystyle\frac{3}{4}\lambda\))進みます。
- 波形の移動:
- 波A(右向き): \(t=0\)の波形を右に\(\displaystyle\frac{3}{4}\lambda\)だけ平行移動させます。
- 波B(左向き): \(t=0\)の波形を左に\(\displaystyle\frac{3}{4}\lambda\)だけ平行移動させます。
- 重ね合わせ: 移動後の2つの波の変位を、各x座標で足し合わせます。
- 節の特定: 合成波の変位が0になる点が節です。グラフからそのx座標を読み取り、規則性を見つけて一般式で表します。
具体的な解説と立式
ステップ1:波が進む距離の計算
波長\(\lambda = 4.0 \text{ cm}\)なので、\(\displaystyle\frac{3}{4}T\)の間に波が進む距離\(d\)は、
$$ d = \frac{3}{4}\lambda = \frac{3}{4} \times 4.0 = 3.0 \text{ [cm]} $$
ステップ2:各波形の移動と合成波の作図
- 波A:\(t=0\)の波形(実線)を右に\(3.0 \text{ cm}\)進めます。
- 波B:\(t=0\)の波形(破線)を左に\(3.0 \text{ cm}\)進めます。
- 合成波:移動後の2つの波を重ね合わせます。例えば、\(x=1.5 \text{ cm}\)の点に着目すると、移動後の波Aの変位は-1.0cm、波Bの変位は+1.0cmとなり、合成波の変位は0cmになります。他の点でも同様に計算し、各点を結ぶと合成波が描けます。作図すると、\(t=0\)の波形と比べ、腹と節の位置は同じで、振幅が逆向きになった波形(cos型が-cos型になった形)になります。
ステップ3:節の位置の特定
作図した合成波、または\(t=0\)の時点での定在波の節の位置をグラフから読み取ります。\(t=0\)で波Aと波Bの変位が常に逆符号になる点が節です。
グラフから、\(x \ge 0\)の範囲で節となるのは、
$$ x = 1.5, 3.5, 5.5, 7.5, \dots \text{ [cm]} $$
これは初項が1.5、公差が2.0の等差数列です。\(m=0, 1, 2, \dots\)を用いて一般式で表すと、
$$ x = 1.5 + 2.0m \text{ [cm]} $$
使用した物理公式
- 波の進行と周期・波長の関係
- 重ね合わせの原理
計算は波の進行距離を求める部分のみです。主となるのは作図とグラフの読み取りです。
- 進行距離: \(d = \displaystyle\frac{3}{4}\lambda = 3.0 \text{ cm}\)
- 節の位置の読み取り: \(x = 1.5, 3.5, 5.5, \dots\)
- 一般式化: 初項1.5, 公差2.0より \(x = 1.5 + 2.0m\)
(1) 波を\(\displaystyle\frac{3}{4}\)周期分だけ動かします。これは、波が波長の\(\displaystyle\frac{3}{4}\)だけ進むのと同じです。波長は4.0cmなので、3.0cm進みます。波Aを右に3.0cm、波Bを左に3.0cmずらして、2つの波を足し算すると、合成波が描けます。節は、全く揺れない場所のことです。グラフで、合成波の高さが常にゼロになる場所を探し、その位置を数式で表します。
節の位置は \(x = 1.5 + 2.0m \text{ [cm]}\) (\(m=0, 1, 2, \dots\)) です。節と節の間隔は\(2.0 \text{ cm}\)であり、これは波長の半分(\(\lambda/2 = 4.0/2 = 2.0 \text{ cm}\))と一致しており、定在波の性質として妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
合成波の変位が、xの値に関係なく0になる時刻を求める問題です。これは、定在波のすべての点が同時に変位0になる瞬間、つまり、媒質の振動の速度が最大になる瞬間を指します。この状態は、一方の波の山と他方の波の谷が、すべての場所でぴったり重なり合うときに実現します。
この設問における重要なポイント
- 変位が0になる条件: 波Aの山と波Bの谷(または波Aの谷と波Bの山)が重なるとき。
- 最短時間の計算: \(t=0\)の状態から、この条件が初めて満たされるまでの時間を計算します。
- 周期性: 一度この状態が実現すると、その後は半周期(\(\displaystyle\frac{T}{2}\))ごとに同じ状態が繰り返されます。
具体的な解説と立式
ステップ1:最短時間の計算
\(t=0\)のグラフを見ると、波Aの山は\(x=2.0, 6.0, \dots\)に、波Bの谷は\(x=1.0, 5.0, \dots\)にあります。
例えば、\(x=2.0 \text{ cm}\)にあるAの山と、\(x=5.0 \text{ cm}\)にあるBの谷が、ちょうど中間点の\(x=3.5 \text{ cm}\)で出会うときを考えます。
- Aの山が\(x=3.5 \text{ cm}\)まで進む距離: \(d_A = 3.5 – 2.0 = 1.5 \text{ cm}\)
- Bの谷が\(x=3.5 \text{ cm}\)まで進む距離: \(d_B = 5.0 – 3.5 = 1.5 \text{ cm}\)
両方の波が\(1.5 \text{ cm}\)進むのにかかる時間\(t_1\)は、速さ\(v=20 \text{ cm/s}\)なので、
$$ t_1 = \frac{d}{v} = \frac{1.5}{20} = 0.075 \text{ [s]} $$
これが、変位が0になる最初の時刻です。
ステップ2:周期性の考慮
定在波の変位が0になる状態は、半周期ごとに繰り返されます。まず、周期\(T\)を計算します。
$$ T = \frac{\lambda}{v} = \frac{4.0}{20} = 0.20 \text{ [s]} $$
半周期は \(\displaystyle\frac{T}{2} = 0.10 \text{ s}\) です。
したがって、変位が0になる時刻は、最初の時刻\(t_1=0.075 \text{ s}\)に、半周期の整数倍を加えたものになります。
\(m=0, 1, 2, \dots\)を用いて一般式で表すと、
$$ t = 0.075 + 0.10m \text{ [s]} $$
使用した物理公式
- 時間・距離・速さの関係: \(t = \displaystyle\frac{d}{v}\)
- 周期・波長・速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{\lambda}{v}\)
- 最初の時刻を求める。
- Aの山(\(x=2.0\))とBの谷(\(x=5.0\))が出会う点を考える。
- 中間点は\(x=3.5\)。移動距離は\(1.5 \text{ cm}\)。
- 時間 \(t_1 = \displaystyle\frac{1.5}{20} = 0.075 \text{ s}\)。
- 周期性を求める。
- 周期 \(T = \displaystyle\frac{4.0}{20} = 0.20 \text{ s}\)。
- 半周期は \(0.10 \text{ s}\)。
- 一般式を立てる。
- \(t = t_1 + m \times \displaystyle\frac{T}{2} = 0.075 + 0.10m\)。
(2) 合成した波が、場所によらずぺしゃんこ(高さゼロ)になる時刻を求めます。これは、波Aの山と波Bの谷がぴったり重なるときです。
- まず、一番近い山と谷を探します。\(t=0\)で、Aの山は\(x=2.0\)に、Bの谷は\(x=5.0\)にあります。
- この2つが真ん中の\(x=3.5\)で出会うまでの時間を計算します。どちらも1.5cm進む必要があるので、かかる時間は \(1.5 \div 20 = 0.075\) 秒です。
- この「ぺしゃんこ」の状態は、この後、半周期ごとに何度もやってきます。周期は \(4.0 \div 20 = 0.20\) 秒なので、半周期は0.10秒です。
- よって、求める時刻は「最初の0.075秒」+「0.10秒の繰り返し」となります。
合成波の変位がxの値に関係なく0になる時刻は \(t = 0.075 + 0.10m \text{ [s]}\) (\(m=0, 1, 2, \dots\)) です。
\(m=0\)のとき \(t=0.075 \text{ s}\)。これは周期\(T=0.20 \text{ s}\)の\(\displaystyle\frac{3}{8}T\)に相当します。\(t=0\)は腹の変位が最大(cos型)なので、そこから\(\displaystyle\frac{T}{4}\)後に変位が0になり、さらに\(\displaystyle\frac{T}{8}\)後に速度が最大になる、という描像とは少しずれますが、これは\(t=0\)の波Aと波Bの位相がずれているためです。計算結果は物理的に妥当です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重ね合わせの原理の具体的な適用:
- 核心: この問題は、定在波を「逆向きに進む2つの進行波の重ね合わせ」という基本原理に立ち返って分析させるものです。合成波の作図(1)も、変位がゼロになる時刻の計算(2)も、すべてはこの原理に基づいています。
- 理解のポイント: 定在波を一つの静的な波形として捉えるだけでなく、常に2つの進行波がダイナミックに干渉しあっている結果としてイメージすることが重要です。
- 波の時間発展と空間移動の関係:
- 核心: 波は「形を保ったまま、速さ\(v\)で進む」という性質を持ちます。時間\(t\)が経過すると、波形は距離\(d=vt\)だけ平行移動します。また、時間と周期、距離と波長は比例関係にあり、\(\displaystyle\frac{t}{T} = \frac{d}{\lambda}\)が成り立ちます。(1)で\(t=\frac{3}{4}T\)のときに波が\(\frac{3}{4}\lambda\)進むと判断する場面で、この関係が使われています。
- 理解のポイント: 時間的な変化を空間的な移動に変換して考える能力は、波動の問題を解く上で不可欠です。
- 定在波の節と腹の定義:
- 核心: (1)で問われる「節」とは、2つの波が常に互いに打ち消し合い、合成波の変位がいつでもゼロになる点です。逆に「腹」は、2つの波が強め合ったり弱め合ったりして、最も大きく振動する点です。
- 理解のポイント: 節の位置は、2つの進行波の位相差が常に\(\pi\)(180°)である点、腹の位置は位相差が常に0である点、と理解することもできます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- うなり: 振動数がわずかに異なる2つの音波を重ね合わせる問題。空間的な定在波に対し、うなりは時間的な強弱の変化であり、一種の時間的な定在波と見なせます。重ね合わせの原理を適用する点で共通しています。
- ヤングの実験(光の干渉): 2つの光源からの光波がスクリーン上で干渉し、明暗の縞模様を作る問題。2つの波の「経路差」によって位相差が決まり、強め合う点(明線)と弱め合う点(暗線)ができる原理は、定在波の腹と節の形成原理と本質的に同じです。
- 位相をずらした波の重ね合わせ: \(t=0\)で山と山が重なっていない(位相がずれている)状態から始まる定在波の問題。この問題がまさにそのパターンであり、より一般性の高い設定です。
- 初見の問題での着眼点:
- \(t=0\)の位相関係を把握する: まず、与えられた図で2つの波がどのような位置関係にあるかを確認します。山と山が重なっているのか(同位相)、山と谷が重なっているのか(逆位相)、あるいはこの問題のように中途半端にずれているのか。これが全ての考察の出発点になります。
- 問われているのは「空間」か「時間」か: (1)の「節の位置」は空間的な問いであり、(2)の「変位が0になる時刻」は時間的な問いです。何を求められているのかを明確に区別し、適切なアプローチを選択します。
- 対称性を利用する: (2)で「Aの山とBの谷が出会う」状況を考える際、その出会いの場所は必ず2つの点の「中間点」になります(速さが同じため)。このような対称性を利用すると、計算が簡略化できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(t=0\)を定在波の腹が最大変位の瞬間と誤解する:
- 誤解: 定在波の問題では、\(t=0\)で腹の変位が最大になっている設定が多いですが、この問題はそうではありません。\(t=0\)の図をよく見ると、合成波の振幅は最大になっていません。
- 対策: 必ず与えられた図を素直に解釈し、思い込みで判断しないこと。\(t=0\)の合成波を実際に描いてみると、振幅が最大でないことが確認できます。
- 節の位置を\(x=\lambda/4, 3\lambda/4, \dots\)と暗記で解こうとする:
- 誤解: \(y=\sin kx\)と\(y=\sin(-kx)\)の合成など、最も単純な定在波の節の位置の公式を、この問題にそのまま適用しようとする。
- 対策: 節の位置の公式は、\(t=0\)での2つの波の位相関係に依存します。この問題のように位相がずれている場合は、公式は使えません。必ず「重ね合わせた結果、変位が0になる点」という定義に立ち返り、グラフから直接読み取るか、数式で解く必要があります。
- (2)で最初の時刻だけ求めて満足してしまう:
- 誤解: 「時刻を求めよ」という問いに対し、最初に条件を満たす時刻(\(0.075 \text{ s}\))だけを答えてしまう。
- 対策: 問題文に「\(m=0, 1, 2, \dots\)とする」といった記述がある場合、それは一般式で答えることを示唆しています。波動現象の周期性を考慮し、半周期ごとに同じ状態が繰り返されることを見抜いて、一般項(\(+0.10m\))を付け加えるのを忘れないようにしましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波形のスライド作図: 透明なシート2枚にそれぞれ波Aと波Bを描き、それを物理的に逆方向へスライドさせて重ねるイメージ。
- (1)では、波Aのシートを右に3.0cm、波Bのシートを左に3.0cmスライドさせ、重なった形を観察します。
- (2)では、2つのシートを少しずつ逆方向へスライドさせ、初めて「山の真下に谷が来る」瞬間を探します。
- 特徴的な点の追跡: (2)を解く際に、Aの山(例:\(x=2.0\))とBの谷(例:\(x=5.0\))に印をつけ、それらが時間とともにどう動くかを追跡するイメージ。「点と点が出会うまでの時間」という、より単純な一次元の運動問題に帰着させることができます。
- 波形のスライド作図: 透明なシート2枚にそれぞれ波Aと波Bを描き、それを物理的に逆方向へスライドさせて重ねるイメージ。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 波の進行方向を矢印で明記する: 作図の際に、移動後の波Aと波Bのそれぞれに進行方向を示す矢印を書き込むと、どちらをどちらに進ませたかが明確になり、混乱を防げます。
- 合成波は色を変える: 入射波A、Bを黒の点線で、最終的な合成波を赤の実線で描くなど、明確に区別することで、何が問われている答えなのかを一目瞭然にします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 波の進行距離の式 (\(d=\frac{3}{4}\lambda\)):
- 選定理由: (1)で、\(t=\frac{3}{4}T\)という時間的情報から、波形をどれだけ移動させればよいかという空間的情報を得るために使用します。
- 適用根拠: 波は1周期\(T\)で1波長\(\lambda\)進むという、波の定義そのものに基づいています。時間と距離は比例するため、\(\frac{3}{4}\)の時間であれば\(\frac{3}{4}\)の距離を進みます。
- 時間・距離・速さの関係 (\(t=d/v\)):
- 選定理由: (2)で、特定の現象(山と谷が出会う)が起こるまでに波が進むべき「距離」が分かったとき、それに要する「時間」を計算するために使用します。
- 適用根拠: 等速直線運動における最も基本的な関係式です。
- 周期の公式 (\(T=\lambda/v\)) と半周期の利用:
- 選定理由: (2)で、現象が繰り返される時間間隔を求めるために使用します。定在波では、変位がゼロになる状態は半周期ごとに訪れるという性質があります。
- 適用根拠: 周期性は波動全般における極めて重要な性質です。特に定在波の「腹が最大変位→ゼロ→逆向き最大→ゼロ」というサイクルは\(T/4\)ずつ進むため、ゼロになる状態は\(T/2\)の間隔で現れます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 合成波の作図と節の特定:
- 戦略: 指定された時間だけ各波を進め、重ね合わせ、グラフから節を読み取る。
- フロー: ①進む距離 \(d = \frac{3}{4}\lambda = 3.0 \text{ cm}\) を計算 → ②波Aを右に3.0cm、波Bを左に3.0cmずらして作図 → ③2つの波の変位を各点で足し合わせて合成波を描く → ④合成波の変位が0になる点をグラフから読み取り (\(x=1.5, 3.5, \dots\)) → ⑤規則性を見つけて一般式 \(x=1.5+2.0m\) を立てる。
- (2) 変位が0になる時刻の特定:
- 戦略: まず最短時間を求め、そこに周期性を加える。
- フロー: ①Aの山とBの谷が出会う状況を考える → ②出会う場所(中間点)と、そこまでの移動距離(\(d=1.5 \text{ cm}\))を特定 → ③最短時間 \(t_1 = d/v = 1.5/20 = 0.075 \text{ s}\) を計算 → ④現象が繰り返す時間間隔(半周期)を計算 (\(T=\lambda/v=0.20 \text{ s}\), \(\frac{T}{2}=0.10 \text{ s}\)) → ⑤最短時間に周期性を加えて一般式 \(t=0.075+0.10m\) を立てる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の統一: この問題ではcmとsで単位が統一されていますが、問題によってはmとcmが混在することもあります。計算を始める前に、全ての物理量の単位が揃っているか確認する習慣をつけましょう。
- 小数の計算を正確に: \(1.5/20\)のような小数の割り算は、筆算などで慎重に行うか、\(\frac{1.5}{20} = \frac{3/2}{20} = \frac{3}{40} = 0.075\) のように分数に直してから計算するとミスが減ります。
- 一般式の確認: (1), (2)で求めた一般式に、\(m=0, 1, 2\)を代入してみて、具体的な値が自分の読み取りや計算と一致するかを検算する癖をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- (1)と(2)の関連性を考える: (1)で求めた節(\(x=1.5, 3.5, \dots\))は、(2)で求めた時刻(変位が全体で0になる時刻)だけでなく、全ての時刻で変位が0のはずです。これは、節の定義そのものです。
- \(t=0\)の状態との比較: (2)で求めた最初の時刻 \(t=0.075 \text{ s}\) は、周期 \(T=0.20 \text{ s}\) の \(\frac{3}{8}T\) です。これは \(\frac{T}{4}\) と \(\frac{T}{2}\) のちょうど中間の時刻であり、定在波の振幅が最大の状態からゼロに向かう途中の、ある特定の瞬間に対応します。このように、求めた時刻が1周期の中でどのあたりに位置するのかを大まかに把握することで、結果の妥当性を感じ取ることができます。
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